エンパイアウォー⑳~日野富子は激怒した。
●日野富子は激怒した。
日野富子は激怒した。
必ず、かの衣冠禽獣の将を除かなければならぬと決意した。
「金、金、アタシの金……!」
財に物言わせてドドーンと造らせた絶佳なる花の御所は富子の憎悪に歪む美貌をバリバリと引き立てている。富子自慢の広さを誇る豪邸は、天皇の御所の広さにだって勝っちゃった! 綺麗に咲き誇る花々は富子の人望の現れなのよ、……と胸を張り。ふんぞり返る一瞬だけ得意満面、悪意を引っ込めて。けれど、すぐにまたムカツクことを思い出して怒り狂う。
「ああムカツク! ああああムカツク!」
声放つ悪意は胸の内に渦巻くドロドロの感情を隠すこともなく面に出し、敵を待っていた。富子自慢のゴージャスハウス、嘗ては燃やされてしまったその場所で――。
●絶対に舐めてはいけない強敵戦
「情勢に詳しい皆様は既にご存知かもしれませんが、猟兵の皆様のご活躍により、日野富子の所在が掴めたようでございます」
決戦を挑みましょう、と少年は語る。
「日野富子は、将軍の跡継ぎ争いから『応仁の乱』を引き起こし、室町幕府を事実上支配した女性です。莫大な資産を背景に権力を拡大した彼女は欲望のままに人々を苦しめ、サムライエンパイアを壊滅寸前まで追い込みました。今は……とても、怒っていらっしゃるようですね」
「戦場は、京都の『花の御所』となります。足利将軍家の邸宅だった場所だそうです」
有り余る私財を投入して作り上げた新築の豪華絢爛な御所にて、彼女は待っている。そう説明した少年は、ふと猟兵に確認するような眼を向けた。
「麗しい女性ですが、敵は強者でございます。出現すれば即座に先制のユーベルコードを放ってくることでしょう。敵の先制攻撃への対策はお忘れなきように。また、防ぐだけでなく攻撃もしっかりとお願いいたします。防ぐ意思と攻めの姿勢、どちらも欠けてはならないもの……、備えてくださいませ」
対策なければ苦戦は必須、油断は禁物です、と付け足して少年――ルベル・ノウフィル(星守の杖・f05873)は頭を下げる。
「敵は、もう一度申しますが……とても怒っていらっしゃるようです。激情というのは冷静な判断力を失わせることもある一方で予想外の力を発揮させることもあるものですから、決して、敵がちょっと可愛いかもしれない、ですとか、げきおこぷんぷんだとか、舐めてかかることはありませんように」
ルベルはそう言ってぺこりと頭を下げた。
「それでは、どうぞよろしくお願いいたします」
remo
おはようございます。remoです。
初めましての方も、そうでない方もどうぞよろしくお願いいたします。
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
シナリオの難易度は「普通」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
大悪災『日野富子』は、先制攻撃を行います。
これは、『猟兵が使うユーベルコードと同じ能力(POW・SPD・WIZ)のユーベルコード』による攻撃となります。
彼女を攻撃する為には、この先制攻撃を『どうやって防いで、反撃に繋げるか』の作戦や行動が重要となります。
対抗策を用意せず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、先制攻撃で撃破され、敵にダメージを与える事はできないでしょう。
対抗策を用意した場合も、それが不十分であれば、苦戦や失敗となる危険性があるので注意してください。
それでは、よろしくお願いいたします。
第1章 ボス戦
『大悪災『日野富子』』
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POW : アタシの前に立つんじゃねぇ!
【憎悪の籠った視線】が命中した対象を燃やす。放たれた【爆発する紫の】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD : アタシのジャマをするな!
自身の【爪】が輝く間、【長く伸びる強固な爪】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
WIZ : 誰かアイツをぶっ殺せよ!
自身が【苛立ち】を感じると、レベル×1体の【応仁の乱で飛び交った火矢の怨霊】が召喚される。応仁の乱で飛び交った火矢の怨霊は苛立ちを与えた対象を追跡し、攻撃する。
イラスト:みそじ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
アンコ・パッフェルベル
五衣唐衣裳。ムロマチ頃の裳唐衣でしょうか。
ヘイアンのものより襲(かさね)は少なくても富無くば着れぬ一品に変わりなしです。
おしゃれを知る同士、立場が無ければお話したい所ですけど。
…自在鞭を赤光刃へ。複雑に空を切り赤い軌跡を物質化させ変則的な武器受けに。
多分バリバリ壊されますから盾も構え盾受けとの二重…
最悪私の身をもって三重に。肉を切らせてってやつです。
何処かで爪が止まればその時に呼んでおいた金毛吼が割って入るでしょう。
吼、紫金鈴を。(吼が放った三つ揃いの鈴を掴み)
…いえ。攻撃はもうおしまいですよ。(第二の鈴。黒煙を放ち輝きを奪い)
焼き討ちです。(早業、吼と合わせ第一の鈴を鳴らしダブル火炎放射)
●日野富子はぼっちで座って2時間待ってた。
転送の光を抜ければ、御所だった。
「五衣唐衣裳。ムロマチ頃の裳唐衣でしょうか」
凄まじい形相の敵が真正面に座っていた。アンコ・パッフェルベル(想い溢れるストライダー・f00516)は、ぽつりと呟く。ファッションを愛する少女は富子の全身から溢れる負のオーラよりも衣装に目を留めていた。
「猟兵!」
ガタッと立ち上がる富子。ずっと立っていたら疲れるから座っていたのだ。
「お待たせです」
「悪びれずに言いやがって……! 何分待ってたと思うんだ……!」
「2時間くらいです?」
「ああムカツク!」
富子がヒステリックに声をあげてギリギリと爪を伸ばしていく。ギラギラ輝く爪は骸の海から蘇った富子のお気に入りの紫色が薄くたなびきたる春色。けれど山際少しあかりてナゴンっぽいでしょ、と見せびらかす相手はいなかった。なんということでしょう、今この御所には富子と猟兵しかおりません。嘗ての御所にはあんなに人がいっぱいいたのに劇的なビフォーアフターであった。
「クソッ、アタシの寿命が減る……! どいつもコイツも役に立たねえ!」
「お付きの人とかは、一緒に蘇ってくれなかったんです?」
思わず尋ねてしまったのはふわり赤紫の光から現れた一人目はアンコ。赤紫の瞳をぱっちりあけてツインテールを揺らし。オシャレ好きの冒険家の赤縁眼鏡の奥で煌く瞳は炎揺らめく宝石に似て美しい。
「ああああムカツク!」
富子が様々な過去を思い出して地団太踏む。
「旦那も息子も甥っ子もー! 猟兵もー!」
「最後のは……いえ、はい」
「ぶっ殺す!!」
富子がぐつぐつ煮え滾った醜い感情を爪に乗せてどんどん伸ばしている。
(ヘイアンのものより襲(かさね)は少なくても富無くば着れぬ一品に変わりなしです。おしゃれを知る同士、立場が無ければお話したい所ですけど)
とても会話できる相手ではなかった。否、若干会話っぽいことができた。きっとファッションに関心を示したのが富子にも伝わったのかもしれない。この娘ちょっと見る目あるじゃない、と。
「その結果が今の会話です!?」
「問答無用!」
敵は先制を撃ってくる。
(もともとお話できるとは思っていなかったですけど)
それを見越して備えていたアンコは手の内でトリックスターは自在に形を変えてケーキナイフとサーバーの双剣になる。赤光刃・ダブルウェディングと呼ばれる双剣は繊細な薔薇模様に空を切り赤い軌跡を物質化させれば飴細工のように煌めいてバリバリ音を立てる。
「アタシのジャマをするな!」
両手をぶんぶん振ってバリバリと赤の軌跡を破砕する富子。その姿はちょっと猫が後ろ立ちして爪とぎするのにも似て。
「覚悟はしていましたが、壊されて行きますね!」
続く爪撃に対抗するべくヘルヴォルの盾を構えながらアンコはそっと心の中で付け足した。
(しかも、敵がぼっちだから防御性能が上がりませんです!)
なんということだろう、この盾は敵の数だけ性能が上がるのだ。富子が嫌われ者なばっかりに。
「今なんかムカツクこと考えたなあああああ!!」
怨念がそのまま指先から迸るかのように富子のネイルが伸び――伸びて、止まった。盾はしっかりと爪撃を受け止めた。
「追い詰めた!」
「いえ――、」
ギリギリと力を拮抗させながら至近で2人の瞳が合う。赤紫色の瞳は生命力に満ち溢れて煌いて――富子はハッとした。
(コイツ、全然焦りがない!?)
「吼来来!」
アンコが可憐な声を放つ。
すると、颯爽と金色の獣姿が割り込んだ。みやびやかな体毛を誇る金毛吼。しかも太上老君が八卦炉で丹念につくりあげた(かもしれない)紫金鈴を有している。
「吼、紫金鈴を」
吼が放った三つ揃いの鈴を掴みアンコが至近で囁いた。
「攻撃はもうおしまいですよ」
「なっ!?」
限界まで目を見開く富子。
第二の鈴がリンと鳴る。
振った周囲から濛々と溢れ出る黒煙が富子の全身を包み込み、爪の輝きを奪っていくではないか!
チリン。と。
鈴音は、もう一度。
「焼き討ちです」
少女の聲も、重なって。
大きな金毛吼に跨った少女が宣告すれば、豪火が富子に襲い掛かる。悲鳴が御所に響き渡る中、少女は初撃の成功という戦果を手に後退する。
「"猟兵は群れで戦う生き物"、その強さをあなたはこれから知るでしょう」
――来た時同様、ぽつりと呟きを置いて。
成功
🔵🔵🔴
アンノット・リアルハート
貴女、お金しか頼るものがないのね
駄目とは言わないけど、少し可哀そう
戦闘は基本的に【メタルハート・ベーゼン】を【操縦】して行います
相手の視線に当たらないよう常に【ダッシュ】で富子の周囲を旋回しながら【ノイギーア・シャッテン】を床に突き刺し、大量の塵を巻き上げて目くらまししましょう
塵で相手の視界を塞ぐことが出来たらベーゼンを自動操縦で富子の正面に回るように設定して、私はベーゼンから飛び降りる
富子が誰も乗っていないベーゼンを燃やせばその明かりで彼女の影が浮かび上がるはず、その影に向かって【スナイパー】でノイギーアを投擲
命中したらそのままユーベルコードを発動、召喚ドラゴンの追撃で決定打を与えます
●夢
アンノット・リアルハート(忘国虚肯のお姫さま・f00851)が御所に着くと、富子が燃え盛る憎悪を向けてくる。
「貴女、お金しか頼るものがないのね。駄目とは言わないけど、少し可哀そう」
「可哀そうだって!?」
向けた視線の先に猟兵の姿が無い事に気付いた富子はぎょっとして周囲を捜す。
「私は、お金よりも……」
「!」
声は後ろから。
長い髪を振り乱して振り返れば一瞬銀色の改造箒に乗る銀髪の娘が眼に入る。改造箒のメタルハート・ベーゼンは王国に伝わる空飛ぶ箒を魔改造したものだ。すい、と空間を泳ぐようにして箒が視線を逃れていく。髪を飾るリボンを繊細に靡かせて。
「それがアンタのお宝ってワケ!?」
富子が必死に飛翔するアンノットを目で追いかけ、びくりと肩を震わせた。飛翔しながらアンノットが勢いよく槍を床に突き刺していると気付いたのだ。ぐるぐると旋回しながら部屋を破壊していけば、大量の塵が巻き上げられる。
「いつの間にかアタシのハウスが塵まみれに!?」
視界を塞がれた富子は塵を嫌がり袖で口元を隠していた。塵に隠れながらアンノットは眉を下げていた。優しげな紫の瞳はぱちりと瞬き、手に持っていた槍をそっと撫でる。槍は、ノイギーア・シャッテン。王国の守護竜ノイギーアの影だ。
「もちろん、大切な宝物だけど、それだけじゃない」
細い指はべーゼンを自動操縦モードに設定していた。視界の朧な中、アンノットは体重を感じさせない動作でベーゼンから飛び降りた。
塵を巻き上げてベーゼンが富子に迫る。
「ハッ! わかった! わかったわ! ハイワカッター!!」
自らに迫る質量と空気の動きを感じ取った富子が勝利を確信する。視界を奪い、接近してくるのだと。爛々とした視線を前方に向ければ銀色の弾丸めいてベーゼンが姿を現した。富子の頭より少し上の高さから。
「アタシの前に立つんじゃねぇ、死ね! ――無人っ!?」
ぼう、と炎が燃え上がり爆発する。紫色の花火のように。
(私にもわかったよ)
炎の明かりが富子の影を浮かび上がらせていた。
アンノットは塵の中で富子に気取られることなくノイギーアをすいと構え、渾身で投げた。低く。まっすぐ、まっすぐに。銀の娘の心根をあらわしたかのように真っ直ぐに跳ぶ槍はベーゼンを避けたばかりの富子の足元目掛けて刃を閃かせる。
「ッ!?」
高めの位置から迫るベーゼンに気を取られていた富子は足元の高さからのもう一撃にギョッとした様子で避けようとし――間に合わなかった。
「キャアッ!」
足が血に染まる。
「ノイギーア、お願い」
塵の中から、ついぞ捉えきれなかったアンノットの声がする。
「――グルル!!」
ユーベルコードは発動された。
「アアアアアッ!?」
槍が王国の守護竜としての姿に変じて獰猛に牙を剥く。これが決定打となり、富子はガクリと膝をついた。真新しい床が槍による穴でボコボコになり、塵は未だおさまらず、足元には血だまりができて。
「もう時間。あとは後続に任せるね」
アンノットは一人で深追いすることはなかった。一撃を確かに加えたことを確認して安堵しながら、優しい瞳は過去を想う。
その王国で人々は皆、眠りについていた。
お城の奥には、お姫様。
髪を飾るリボンがふわりと揺れる。隙間なく刺繍されているのは、たくさんの名前だ。
「友達がたくさんできたの」
忘国で眠る姿を思い出す。
(元々私は彼女の代替え品として生まれた存在、私という個人は望まれていなかった)
だけど、アンノットには「私だけの宝物」がたくさん出来ていた。
「私は、お金よりも、モノよりも、心が温かくなるものを知ってる」
塵の中、やはり姿は捉えさせぬまま。
声はそう言って微笑むようだった。
成功
🔵🔵🔴
フィロメーラ・アステール
「うおおー! 富子、あたしを殴ってみろ!」
政治の事はわからないが、邪悪に対しては敏感!
聖なる力で疾走だ!
敵は矢っぽいのを飛ばしてくる!
矢ば形状的に小回りが利きにくい!
細やかな【空中戦】で迎え撃つぞ!
【ダッシュ】で加速! 【スライディング】ですり抜けも可能!
【破魔】の力と【火炎耐性】を併せた【オーラ防御】を纏う!
放つ聖なるオーラで怨霊を浄化する攻防一体の構え!
さらに【念動力】で【グラップル】することでキャッチ!
【敵を盾にする】とか【投擲】しての迎撃もできる!
【武器改造】して聖属性に変えるのもアリかな?
隙ができたら【紲星満ちて集いし灯光】だ!
聖なる光の【全力魔法】に【気合い】を乗せて攻撃するぞ!
●走れフィロメーラ
塵っぽい御所に猟兵の三番手が飛んでくる。
「聖なる力で疾走だ!」
現れたのは、フィロメーラ・アステール(SSR妖精:流れ星フィロ・f07828)。星くずの妖精フィロメーラはハイテンションなラッキーフェアリーだ。
フィロメーラには政治がわからぬ。フィロメーラは、星くずの妖精である。踊りを踊り、ノリと勢いで支援して来た。けれどもけれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。
今日未明、フィロメーラはグリモアベースを出発し、世界を越え塵を越え、エンパイアの花の御所にやって来た。
「うおおー! 富子、あたしを殴ってみろ!」
「イラッ!」
富子が青筋を立てて火矢の怨霊を大量に召喚した。
「誰かアイツをぶっ殺せよ!」
怨霊の火矢がビュンビュンと飛んでいく。
「なぜ殺すのだ!」
フィロメーラはうろちょろと小回りを利かせて矢を避けた。まだ日は沈まぬ!
「ちょこまかしやがって……! アタシがイラッとしたら黙って死ねよ!」
「乱心か!」
すいすい、くるり。観客がいたら大喝采ものの空中矢くぐりショーを魅せながらフィロメーラが聖なるオーラを全身に纏ってキラキラする。
「説明しよう!」
ショータイムさながらに華麗に飛び回りながらみんなのフィロメーラちゃんが説明する。
「破魔の力と火炎耐性を併せたオーラ防御を纏う! 放つ聖なるオーラで怨霊を浄化する攻防一体の構え!」
「コピペかよ!!」
なんということだ! こんなに可愛くてちいさな女の子だというのにフィロメーラには全く攻撃が当たる気配がない。成功度が今日一番の高さを誇っていた。3人分くらい余裕でカバーして成功しちゃうくらいのダイス目だ。攻防一体の構え、恐るべし……!
「ムカツクやつだ! アンタなんかにはアタシの気持ちはわかんねえ!」
富子は悔しく、じだんだ踏んだ。
「さらに! キャッチもできるんだぜ」
一見なにも考えていないようでいて確りと練り込まれたパーフェクトフィロメーラの華麗なる矢キャッチ。これには怨霊の火矢もびっくりだ。
「だが、本番はこれからだ……」
小さなフェアリーが凄みすら見せていた。
「まだ日は沈んでいないからっ!」
言いながらヒュルリと風のように舞うフィロメーラは自分を追いかける火矢を引き連れて鮮やかに富子の眼前に飛び、カクリと唐突に角度を変えて背後に廻り込む。小回り最高だ。
「はあああああっ!?」
ひゅーん! フィロメーラを追いかけていた火矢がフィロメーラの直前の角度変更についていけずに富子本人に降り注ぐ!
「敵を盾にすると一石二鳥なんだ!」
「アタシを盾にすんな! ああああ!!」
富子はすでに隙だらけであった。あとはもう、ただ、わけのわからぬ大きな力に引き摺られてフィロメーラは空中を走った。
「光輝の縁を知るもの、集まれー!」
元気いっぱいに声をあげれば可愛らしい光精がたくさん現れ、富子に一斉に飛び掛かる。
「あっ、ちょっやめアタシに群がるな!」
フィロメーラはひんひん言いながら光精に髪や着物をひっぱられている富子を見てニコニコと手を振った。
どっと光精の間に、歓声が起こった。
「万歳、フィロメーラちゃん万歳」
「あと何人と遊ぶんだー? がんばってなー!」
富子は、ひどく赤面した。
大成功
🔵🔵🔵
シノギ・リンダリンダリンダ
良い絢爛さです
金目のものを見繕って略奪していればきっと相手もやってくるでしょう
ありがとうございます。私のためにこんなに貯め込んでいただいて
ちょうど広い保管庫が欲しかったんですよ
しかし、私がやってきたのでもう貴女は用はないですよ?
今までお疲れ様でした
挑発をして先制を受けます
激情は理性を失わせ、力を上げます
その単調な動きは見切りでかわし、当たっても略奪のためにはこの程度の覚悟ないわけありません。激痛耐性もあります
それを防いだら、宝箱から【這い寄る金貨】を出し、3900枚のコイン虫が日野富子に襲い掛かります
よかったですね、お金ですよ?
六文銭所じゃありませんよ?
動かない所を、【力いっぱい殴り】ましょう
●シノギ・リンダリンダリンダはかく語りき
絢爛豪華な花の御所に海賊がやってきた!
「良い絢爛さです。金目のものを見繕って略奪していればきっと相手もやってくるでしょう」
桜色の髪を可憐に靡かせ、キャプテンジャケットを翻しシノギ・リンダリンダリンダ(ロイヤルドレッドノート船長・f03214が4人目と言いながら富子に礼をする。
「ありがとうございます。私のためにこんなに貯め込んでいただいて。ちょうど広い保管庫が欲しかったんですよ」
「何……だと……!!」
富子に衝撃が走る。こいつは今までの猟兵と何か違う。そう、きっと金が好きだ。そんな匂いがするのだ。
「しかし、私がやってきたのでもう貴女は用はないですよ? 今までお疲れ様でした」
「アタシの御所を奪う気か!」
富子が眼を剥く。視線の先でシノギは壺を検分していた。
「この壺はなかなか。良いご趣味です。少し塵がついていますね、扱いは慎重にしてください価値が下がりますよ」
シノギはひょいと壺を取り丁寧に塵を払う。高く売れそうだ。
「この御所はしゃにむにーのお宝保管庫にしましょうか」
そうしましょうそれがいい、と呟き、シノギはふと眉を寄せる。
「床に傷がこんなに。焦げもありますし、改修費用だけは富子さんに出してもらいましょうね」
「何……だと……!!」
こいつはなんとしても倒さねばならない! 富子は苛立ちMAXで金切り声をあげた。
「誰かアイツをぶっ殺せよ!」
怨霊火矢がゴウゴウと燃え上がりシノギに向かって飛んでいく!
すう、とシノギの瞳が細まった。
「――激情は理性を失わせ、力を上げます」
「っ!?」
ブーツの踵が硬質に鳴る。
カツ、と鳴る音一つ、左脚を後ろに引いて右脚を軸にシノギが廻る。小柄な身体の傍をひゅんと火矢が通り過ぎていった。
ひゅん、ひゅんと矢が続く。
「単調すぎませんか」
動きを完全に見切りながらシノギは部屋の隅に壺を置いた。
「まったく……壺は壊さないでくださいね」
「その壺はそもそもアタシのなんだ!」
「そんな貴女にはこれです」
シノギがうんうんと頷きながら袖の下を差しだした。差し出されたそれは、冒険の海やダンジョンで海賊達の心を惹きつけて止まない四角い箱――宝箱だ。
「その箱がなんだって――」
見守る視線の中でパカッと宝箱が蓋を開いた。
じゃらじゃら、ざらざら。
「こ、これはっ!」
なんと宝箱から黄金に煌めくクリーピングコインが大量に飛び出した! 黄金が波のように押し寄せて富子の全身を覆ってしまう。わさわさと。
「あぁ羨ましい。金貨に溺れて楽しそうですね?」
それはユーベルコードの技なのだとシノギの声が物語る。
「3900枚です。貴女との戦いを経て、コイン虫も今後もっと増えることでしょう。ご馳走様です」
にょきっ、カサカサッと虫のような手足を動かしてコインたちが富子の動きを封じていく。
「ギャアアアアアッ!!?」
コインの隙間から垣間見えた海賊の目は虹色の彩に煌めいていた。その美しさに状況を忘れて富子は一瞬、見惚れてしまう。黄金の隙間から、虹の宝石がふわりと笑む。
「よかったですね、お金ですよ? 六文銭所じゃありませんよ?」
気付けば、至近にその色があった。
キャプテンジャケットを翻し、桜色の髪を靡かせて。
肉薄したシノギが黄金の隙間から渾身の拳を叩きつける。彼女の攻撃は、ただ一度。どすり、と重い音を立てて富子が床に崩れ落ちる。
「まだ終わらないみたいですけどね」
パンパンと手を払い、シノギは冷静に敵を見下ろした。そして、ふとコインに声をかける。
「これこれ、共食いはいけませんよ」
帰り際に元気を持て余してかガジガジと互いを齧るコイン虫。帰ったら餌をやらなければ。シノギはそう思いながら御所を改めて検分するのであった。
大成功
🔵🔵🔵
レジーナ・ドミナトリクス
この絢爛ぶりなら調度品も高価なものが揃っているはず。
その財産への執着、利用させて貰いましょう。
敵の視線は屏風や掛軸を盾に遮り、身代わりに焼かせて【挑発】します。
手近にないときはコートを犠牲に、凌ぎきれない威力はフォース【オーラで防御】して逃げ回ります。
同時に香水『Hymenopus』による思考麻痺の効果も期待します。
冷静を欠いてきたら【片利矯聲】で暗示をかけます。
「またひとつ燃えてしまいましたね。
ああ、気を荒げては綺麗なお召し物も汚れてしまいますよ。
『これ以上私財を傷物にしてはいけない』のではなくて?
そうでしょう?」
一瞬でも躊躇すれば、“身代わり”の帳ごとフォースセイバーで刺し貫きます。
●インプリンティング・トーン
(この絢爛ぶりなら調度品も高価なものが揃っているはず。その財産への執着、利用させて貰いましょう)
軍用コートをはためかせ、レジーナ・ドミナトリクス(密獄の女王・f12121)が御所に現れた。ふわり、フローラルブーケが御所の芳香と共演するように漂った。
軍人らしさを感じさせる洗練された仕草でレジーナが一礼する。
その、誠実そうな顔。
「アンタみたいなタイプはイライラするんだ、アタシが金を吸い上げたから国が乱れたとか清廉潔白な顔でご注進するんだろ?」
富子が憎悪の篭った視線を放つ。豪奢な金髪を背に舞わせ、レジーナは屏風の後ろに身を隠した。念のためにとフォースで身を守りながら。
「あっ!」
ごう、と屏風が炎をあげて燃えていく。
「アタシのお気に入りの屏風!」
悲鳴をあげる富子。屏風はとっても高かったのだ。屏風の後ろからレジーナがスタイルの良い体を魅せ、首をかしげてみせる。さらさらとした金髪が動きにあわせて流麗に流れた。
蠱惑的な唇が言葉を紡ぐ。
「燃えてしまいましたね」
「よくも!」
富子はギラギラとした眼をレジーナに向ける。今度こそ、と放たれた熱視線はポーンと前に投げられた掛け軸に命中した。
「ああああ!!」
「またひとつ燃えてしまいましたね」
めらめらと燃える掛け軸。
「アタシの掛け軸が!!」
「ああ、気を荒げては綺麗なお召し物も汚れてしまいますよ。『これ以上私財を傷物にしてはいけない』のではなくて?」
レジーナが帳を盾のように前に出す。
家財が燃える匂いに交じり、芳香が漂っていた。ひそやかにやわらかに漂う香りは、気付かぬうちに富子の思考を麻痺させていた。
「そうでしょう?」
「……」
レジーナの青い瞳がじっと富子を視ていた。
(あれ?)
富子がぼんやりとした思考の中、動きを止めてしまう。
猟兵の言うことがもっともに思えたのだ。大切な私財を、これ以上――、
躊躇しているとふわふわと脳が痺れるようだった。夢を見ているように。そういえば、さっきから好い薫りがする――、
「あっ……」
富子が気付く。
腹から背に刃が貫いていた。
「あ、あぁ……っ」
ぽたぽたと血が床を濡らす。貫いているのは、フォースセイバーだった。覗き込むようにした猟兵の瞳は快楽に耀いていた。唇が笑みに歪む。
「財産への執着が貴女の敗因、ね」
耳元で囁く吐息は熱かった。
インプリンティング・トーン。
身に纏う香水による思考麻痺と、富子の性質を十二分に理解し、暗示効果を高めるデモンストレーション。
――密獄の女王による計算されつくした戦いの一幕だった。
レジーナはフォースセイバーを音もなく引き抜き、軍用コートの裾を摘まんできびきびと一礼をして見せた。貫く一瞬に垣間見せたそれと違い、礼をするレジーナは成熟し清廉な軍人といった風情。白い手袋には汚れひとつない。血の染みもない。
全身からは、やさしい薫りを漂わせていた。
(この女は、舐めてはいけない奴だった……!!)
富子が臍を噛む。
空気をさやかに振るわせて、レジーナは微笑んだ。
「それでは、失礼します」
自分の役目は終わったと、軍人は踵を返す――、清らかな顔の内側で先ほど肉を貫いた余韻を愉しみながら。
成功
🔵🔵🔴
ステラ・エヴァンズ
【WIZ】
この方が日野富子様…金銭を用いての兵糧攻め、お見事でございました
しかしながらオブリビオンである以上、須く還っていただきます
先制攻撃に対し水を纏わせた衝撃波で広範囲に攻撃を
それはもうその場がびちゃびちゃになるくらい
火消しと勢いを削ぐのが目的です
そうしましたならば見切りながら回避をし、無理な者はなぎ払って切り伏せます
ひとしきり殲滅しましたらこちらの番、事前準備は済ませてあります
少し距離を取ってなるべく水場でない場所へ移動
雷を纏わせた精霊彗星を敵に向かって墜としましょうか
周囲は水浸し、建物の中なので逃げ場はないかと
私財で建てたとの事ですから…建物も壊れてしまっても問題はありませんでしょう?
●泡沫の星巫女が一幕
「この方が日野富子様……」
ステラ・エヴァンズ(泡沫の星巫女・f01935)が御所の主殿に転送されると、そこには日野富子が待っていた。先駆けの猟兵による傷を表面上は綺麗に隠し、継戦を可能としながらも内面ではダメージが確実に蓄積されている。
「新手の猟兵……!」
富子が敵意を溢れさせる。
現れた猟兵は繊細に編まれた艶やかな髪を揺らし、深窓の姫君と言った風情でやわらかで儚げな空気を纏っていた。背筋は真っ直ぐに伸びていた。戦場で血と炎に塗れるよりは舞や花を愛でているほうが似合いそうな可憐な女性。
「金銭を用いての兵糧攻め、お見事でございました」
ステラが慎ましやかに礼をする。楚々とした声が兵糧攻めの手際を認めれば、富子も悪い気はしないようだった。
「ふ、ふん! あれくらい」
当然、と澄ました顔をして、けれど頬がぴくぴくと嬉しそうに震えている。
「しかしながらオブリビオンである以上、須く還っていただきます」
「イラッ」
一瞬の喜びが瞬時に不快に塗り替えられる。
濡れ羽色の髪に憎悪が滾る。苛立ちが空気を介してステラに伝わる。琥珀色の瞳には敵が召喚した火矢が映っていた。
「怨霊、でございますね」
淑やかな声がそれに気づいて空気を震わせる。
ぶわり、と炎が膨れ上がる。幾つもの流星が燃えながら落ちるが如く矢がステラに集中し、襲い掛かる。
(勝った!)
富子が内心で喝采し、次の瞬間驚きに目を瞠る。
「水!?」
水のないはずの空間に透明な水が溢れていた。たっぷりとした水量が涼やかな音を立てながら津波のようにざぶりざぶりと走り、四方を水に浸していく。
水に勢いを削がれて火矢が一本また一本と消えていく。かろうじて水を掻い潜った二本がステラに迫るも星を散りばめた和ドレスを優美に翻し、ステラは僅か一歩分横に移動することでそれを避けた。同時に天津星を軽く薙げば軽い手応えと共にもう一本が叩き落され、濡れた床上で炎を消されていく。そして、蘇った富子が趣味を取り入れて作った室の濡縁からふわりと庭に降り立った。
気付けば、室内はボロボロになっていた。
蘇った富子が財に物言わせて新旧の匠の技合わせた(場所によっては猟兵が齎したという外世界の知識まで活かされている)絢爛の室内。床には穴が開き、焦げて、矢の残骸が何本も落ちて水浸し。
戦巫女の瞳が敵を視る。
透明感のある琥珀色の輝きは、今、最初の印象を覆し凛とした一本のしたたかな芯を見せていた。
「こちらの番、でございます」
楚々とした声は遊戯に興じるかのようで、しかし真剣であった。その身は庭にあった。可憐に咲き誇る花々に囲まれ、ステラは玲瓏とした声で祝詞を唱える。
「星の源 根源を織り成すもの」
優艶とした指先が空気を愛でるかのように揺れて、視線は水に塗れた富子を見ている。
「我が声に応え……墜ちろ!」
雷を纏わせた精霊彗星が高潔なる巫女の聲に応え、敵へと奔る。
「――!!」
(逃げ場はありませんでしょう?)
そのために水浸しにしたのだ。
そう瞳が告げていた。
「そ、そのためにィッ!!」
「はい」
応える声は淑やかに。
可憐な姫君は、しかし強かな意思を湛えていた。
背筋は、ぴんと伸びていた。
柔らかさの中に間違いなく強さがあった。隠していたわけではない。ずっと見えていた。ただ、花のようにあえかな立ち居振る舞いと楚々とした声、優しい眼差しに、富子は見誤ったのだ。
「クソッ……」
雷撃に全身を灼かれながら富子が舌打ちをする。
「私財で建てたとの事ですから……建物も壊れてしまっても問題はありませんでしょう?」
「ああああ!」
一層ボロボロになった建物にひときわ大きな悲鳴が響く。花に囲まれながらステラは優美に一礼した。
成功
🔵🔵🔴
花房・英
色んな意味で勝てる気がしねぇ。
やるからには、一撃だけでもなんとかしたいけど…。
Rosa multifloraを忍ばせて、無銘を目につくように手に持つ。
日野富子のいる場所に着いたら、その場にある調度品をさっと見る。襖とかでもいい、一瞬でも盾に使えるもん。
相手の先手は取れないんだ。無銘を投げつけると見せかけて、後は炎に巻かれようが目に付いたもんを盾にする。
『エレクトロレギオン』を展開でき次第展開。俺が出来る全力の早さで。
機械兵器で隙間なく自分を覆い後は敵に突貫。視界は機械兵器と共有。
俺のこと、機械兵器ごと燃やしに来るだろ。
突貫しながら、Rosa multifloraを足元から敵に伸ばす。
疾れ!
●Belles roses ont des épines
(色んな意味で勝てる気がしねぇ。やるからには、一撃だけでもなんとかしたいけど……)
視界の隅で紫陽花に似た彩の花が揺れた。
花房・英(サイボーグのグールドライバー・f18794)は直前の猟兵と入れ替わるように庭に現れていた。手には、目立つように護身用ナイフが携えられている。名を無銘という。小さなナイフだ。
「昔っからそうだ! どいつもこいつも、アタシに逆らいやがって……」
敵の聲が聞こえる。
端正な面持ちが敵の苛立ちを感じ取る。
(花は、巻き込みたくないな)
英は内心でそう思いながら建物の中へと足を踏み入れた。
「猟兵ッ!」
カッと目を見開いて富子が火矢の怨霊を召喚していた。
「忍んだつもりか? アタシにはわかるんだよ!」
ギラギラとした憎しみを受け止め、英は首を振りながら無銘を投げつけた。別に、忍んでいない、と内心では否定しつつ、わざわざ言ってやることもないと無言で。
敵がナイフに気を取られた一瞬で、アンニュイな少年は黙々と襖を投げた。ついでに目に付いた壺も投げた。英は淡々と畳をひっくり返して盾にした。投げた調度品と畳が燃えていくと、富子は何かトラウマを刺激されたような顔を一瞬だけ見せた。先に挑んだ猟兵が何かしたのかもしれなかった。
「ウッ、またアタシの手でアタシの財を燃やさせる……! クソッ」
ムカツク、ムカツク、と鼻息荒く喚き散らす富子に英の眸がふと揺れる。
「どいつもコイツも、殺す、だっけ」
ぽつりと呟いた声は富子に聴こえたようだった。
「徳川も、猟兵も、信長の野郎も! ぶっ殺す!」
「そう、か」
信じるものが自分だけという感覚は英にもある。
(あいつだけは信じていい気がするけどな)
家主を思い、少年の瞳には一瞬だけ温かな色が宿る。そして、
(忍んでたわけじゃないが、忍ばせてはいる)
――花を。
そう思いながら、もちろん英は無言であった。わざわざ敵に教えてやる必要はないのだ。背の高い少年は用心深かった。決して、話すのが面倒だとか、それだけの理由ではない。
いつの間にかその周囲には機械兵器が展開されている。『エレクトロレギオン』。そのユーベルコードは多くの猟兵が識る技だ。扱う猟兵は多い。基本といっていいその技は、基本だからこそ使い手のセンスが顕れる。
不愛想な少年は何気ない面持ちであったが、その展開は速さを尊び最大限急いで為されていた。故に、富子が気付いた時少年の身体は既に(いつの間にか)機械兵器で覆われていた。全身、隙間なく。
「なっ、ナッ!?」
その絡繰りは何か、と富子が驚愕する中、英は無言で敵に突貫する。今は、仕事の時間なのだ。
「燃えろおぉぉぉッ!!?」
得体の知れない突進に白皙に恐怖を滲ませて富子が叫び、火矢が再び召喚されていく。しかし、それが放たれることはなかった。
「――疾れ!」
「キャッ!?」
ガクリと何かに絡めとられ、富子が集中を乱された。放たれようとしていた火矢が消えていく。先駆けの猟兵により一度負傷した足が再び傷を開き、夥しい血が溢れる。
柔肌を傷つけているのは、持主の意思に呼応して自在に咲き誇る美しい野バラ。英が転送されてからずっと忍ばせていた――Rosa multifloraだった。
一撃が綺麗に入り、少年は紫水晶のような瞳に幽かな安堵を浮かべる。作戦はうまくいった。家主に報告書を見せても大丈夫だろう、……と、心の中で思いながら。
成功
🔵🔵🔴
ジュジュ・ブランロジエ
アドリブ&連携歓迎
メボンゴ=からくり人形名
火矢の怨霊の視認と同時に早業で対処
怨霊の勢いを削ぐために氷属性付与した衝撃波(メボンゴから出る)を二回攻撃
範囲攻撃で自身を囲むように衝撃波の及ぶ範囲を広げる
突破されたら早業でオーラ防御を展開
さすがに強いなぁ
それも破られたら奥の手の武器受け
メボンゴガード!
被弾しても痛みを気合いで耐え、なんとしても一矢報いたい
さあ、今度は私のショーを観てもらおうか
光属性付与した白薔薇舞刃を二回攻撃
折角の美貌なんだし怨霊よりも花のほうがきっと似合うよ、なんてね
花弁の刃の嵐に紛れて隠し持ったナイフを投擲
どこにあたってもいい
少しでもダメージを
後に続く他の猟兵のためになるように
●メボンゴ・ショータイム!
「サムライエンパイアの人々の幸せを壊すような真似はさせない! ……よろしく、メボンゴ」
ジュジュ・ブランロジエ(白薔薇の人形遣い・f01079)が戦場に駆けつけた。手には白いドレスの淑女人形、白兎のメボンゴが抱かれている。
出現した猟兵目掛けて富子が炎の矢を撃ち放つ。怨念満ち溢れる邪悪な矢が迫る中、ジュジュの瞳には一点の曇りもない。未来への希望を宿して輝く瞳が前を見て、溌溂と相棒の名を取り入れた技名を叫ぶ。
「食らえ、メボンゴ波ァ!」
ジュジュが独特のネーミングセンスを発揮した瞬間、兎の耳がやわらかく揺れて、メボンゴが氷の衝撃波を波状に広げ放った。ジュジュを囲むようにしながら氷の衝撃波は徐々に範囲を広げていく。
「クソッ、どいつもこいつも、厄介な!」
富子がイライラしながら炎矢を差し向ける。
「誰かアイツをぶっ殺せよ!」
氷と炎が激しくぶつかり合い、水蒸気が上がる。ジュジュはメボンゴ波を強めながら護りのオーラを巡らせた。
「メボンゴ、頑張ろうね! ふぁいとー!」
『いっぱーい!』
白兎の声を裏声で自分があてて一人芝居しながら、その足が一歩だけ後ろに下がる。圧されているのだ。
「さすがに強いなぁ」
明るい陽射しに煌めく若葉のような瞳は、しかし確りと前を見ている。
(でも、ちゃんと見えてる)
敵の攻撃は、ちゃんと見えているのだ。
「メボンゴガードっ!」
奥の手の必殺技とばかりにメボンゴを前に出す。ジュジュ・ブランロジエは独特のネーミングセンスを持っていた。メボンゴ砲にメボンゴ爆弾、メボンゴスーパーアタック、果てはメボンゴガードと多種多様な技に独特の名前を付け、メボンゴワールドを展開する。それがジュジュという人形遣いなのだ。
「メボンゴってなんだよ!」
富子が吠えている。
『はーい!』
裏声を使ってジュジュはメボンゴを喋らせた。兎の耳がひょこりとしてとても愛らしい。だが――、戦い自体は緊迫の局面を見せていた。
「ああああ! ムカツク」
富子がメボンゴを狙うようにと矢を集中させていた。
全力のオーラを纏わせてジュジュがそれを迎え撃つ。矢がオーラの護りを少しずつ突破していく。怨念が強い! 徐々にオーラを越えて矢が迫る。白い兎を斬り裂こうと――、
「負けない!」
ジュジュはオーラを全力で練った。
「守る……!!」
自分というよりは前に出した相棒を守るのだ。その想いがジュジュの力と為る。オーラの護りを何十も破り集中した火矢は、真っ白な可愛い兎に届きそうな紙一重で勢いを殺されて落ちた。
「守り、切った……!」
は、と息をつき。
「さあ、今度は私のショーを観てもらおうか」
(ご覧あれ)
ジュジュがショータイムとばかりに手を広げた。
「華麗なる、イリュージョンを!」
明るく朗らかな声に合わせて白薔薇が舞う。ちらちらひらり。舞う純白の花弁はここが戦場であることを一瞬忘れさせるほど美しい。
「薔薇!? どこから、クッ――痛い!?」
富子の視界に舞い狂う白薔薇が己の肌に触れた瞬間に凶器としての牙を剥くのが見えた。ざくりと肌が斬り裂かれ、鮮やかに血が噴いて着物が赤く染まっていく。
「折角の美貌なんだし怨霊よりも花のほうがきっと似合うよ、なんてね」
茶目っ気交じりな言葉の裏で、ジュジュは真剣だった。
(少しでもダメージを。後に続く他の猟兵のためになるように)
――どこにあたってもいい!
花弁に紛れるようにジュジュがナイフを全力で投擲する。ナイフは弾丸めいて一直線に飛んでいった。
白薔薇の影から銀色が光る。
「何!?」
富子が背筋を凍らせた。
(避け切れない!)
咄嗟に爪で受け止めようとしてか、手が伸ばされて――、
「ギャアアッ!」
ナイフは深々と掌を貫いた。
(入った!)
メボンゴ、と名を呼んでジュジュは相棒を優しく撫でた。真っ白な兎は無事だ。天真爛漫な少女は勝利を分かち合うように、相棒を大切にぎゅっと抱きしめて次の猟兵と交代した。
成功
🔵🔵🔴
出水宮・カガリ
【壁槍】まる(f09171)と
美しく蘇った屋敷、美しく蘇った女
それなのに、憤怒に縛られてしまうのは何故なのか…
生前からなのか、死後に何か『結ばれて』しまったのか…いずれにせよ、ちょっと悲しいな
ん、心得た、まる
戦の怨霊なぞ、恐れるものではない
オブリビオンであるなら、ものは壊す、ひとは潰す
まるを含めて【籠絡の鉄柵】で周囲を囲って、結界としよう(【不落の傷跡】・オーラ防御、破魔)
十分に怨霊を引き付けたら、【追想城壁】で一掃
その後も城壁を維持してまるの先制攻撃分も引き受けよう
女もまさか立ち止まってはいまい、見失う前に頼むぞ、まる
マレーク・グランシャール
【壁槍】カガリ(f04556)と
喚き散らす女を笑って受け止めてやるのも男の度量だとは思うが
こういう面倒な女は相手をしないに限る
敵が先制攻撃しかけてきたら一旦カガリの後ろへ待避
怨霊供を相手し奉じて貰うのは、カガリ、お前に頼んだぞ
見た物全てに苛立ちを爆発させてくるならいっそ見えなくなればいい
俺は【水晶竜鱗】で自身を透明化させたらカガリが敵の目を惹き付けてくれている間に背後へと回ろう
忍び足も得意だ、音も無いままダッシュすれば急速接近することが出来よう
真後ろに回ったら捨て身の一撃として【魔槍雷帝】を背中から串刺し
貫いたら電撃で敵をマヒさせる
俺の一撃で倒れずとも、煩い女を一時黙らせることは出来よう
●其の楽園に塙火舞い
(美しく蘇った屋敷、美しく蘇った女。それなのに、憤怒に縛られてしまうのは何故なのか……)
出水宮・カガリ(荒城の城門・f04556)が怒り狂う女を目に呟いた。
「生前からなのか、死後に何か『結ばれて』しまったのか……いずれにせよ、ちょっと悲しいな」
金髪をいつものように見つめ、マレーク・グランシャール(黒曜飢竜・f09171)が無表情に声を返した。
「喚き散らす女を笑って受け止めてやるのも男の度量だとは思うが、こういう面倒な女は相手をしないに限る」
「ん、心得た、まる。戦の怨霊なぞ、恐れるものではない」
素直に頷くカガリへとマレークが信頼の眼差しを向けている。
「面倒な女だって……!?」
富子が燃料を注がれて爆発していた。
「昔っからそうだ! 旦那も息子も、アタシからそう言って煙たがって! ああムカツク!」
ガリガリと頭を掻きむしり、富子はヒステリックに喚き散らした。
「誰かアイツらをぶっ殺せよ!」
火矢の怨霊が召喚される。それは、応仁の乱で飛び交った火矢なのだという。
(かつて在った『もの』か)
カガリが前に出る。
さらり、と背で金髪が揺れる。マレークはカガリの後ろへ待避しながら見慣れた背中へと声をかけた。
「カガリ、お前に頼んだぞ」
背後からの声にカガリはコクリと頷いた。
「怨霊であろうが、ものであろうが、カガリが通さんと言ったら、通さんのだ」
信頼を背に感じる。
いつもいなくなる前提で話す。まるは、
「――カガリが守るのだ」
瞳は昂然と前を視る。迫る火矢を。その後ろの女(ひと)を。
――オブリビオンであるなら、ものは壊す、ひとは潰す。
ひゅん、ひゅんと流星の如く火矢が降る。それは、ものであり怨霊なのだという。
「通さん」
敵の火矢に対抗してカガリが結界を張る。宙をスイと泳ぐ頭の無い黒い魚骨、『籠絡の鉄柵』。その正体はカガリの一部である鉄柵だ。
盾が、マレークを護っていた。
見慣れた鉄門と背中と金髪。猟兵に成り立ての頃からずっとマレークを守り続けてくれた最愛の盾だ。
その金色は、盾であると同時にマレークを導く光でもある。
(見た物全てに苛立ちを爆発させてくるならいっそ見えなくなればいい)
カガリが敵の目を惹き付けてくれている間にマレークがユーベルコードを発動させていた。水晶の鱗が光を弾き、マレークの全身が透明になっていく。透明な身体となったマレークが目指すは、敵の背後だ。
『都は無く、人は亡く。儚き栄華は荒城と成り果てた』
駆けるマレークの耳にはカガリの声が届いていた。
普段より大きな声での詠唱は、やはりマレークの隠密を助けてくれている。
透明化のユーベルコード自体は物音を消す力まではなかった。だが、マレークは忍び足の心得がある男だ。そして、カガリが派手に目を引いてくれている。結果、隠密は成功した。透明の身体となったマレークは足音を忍ばせ、気配を殺したまま素早く駆けて敵の背後へと廻り込む。一歩、一歩進むごとに反動として大きく体力を削られながら。
「されど、亡都の扉は此処に在り」
ゆらり、と城壁の幻影が現れる。蘇った亡霊が財を注ぎ込んで好みに整えた絢爛豪華を見下ろすように。追想の城壁は富子と火矢怨霊を睥睨し、ひとの意思を消すように聳え立ち――全ての火を消してしまう。
「女もまさか立ち止まってはいまい、見失う前に頼むぞ、まる」
呟く声は小さかった。敵に作戦がバレてしまってはまるに危険が及ぶからだ。だが、声が届かなくとも気持ちは伝わっていた。
――頼んだぞ、とマレークが言い。
頼むぞ、とカガリが言う。
敵が目の前にいる。マレークは完全に背後を取っていた。
目の前に黒い髪がある。とても長い髪だった。透明化の代償で疲労を自覚しながら、息を殺し――、マレークは魔槍を女へ繰り出した。無防備な背から腹に抜けて雷帝が突き抜け、女が硬直する。
ふと気づいた。
目立たぬように幻影か何かで表面を繕っているが、女の身体は傷だらけだった。猟兵達によるダメージが蓄積している……。
「は、」
口をはくはくとさせた女は、喉奥から血を吐いた。
「――ァッ!」
電撃が全身を駆け抜ける。雷帝はその名の通り気高き光を迸らせ、苛烈に悪災を誅罰した。
カガリが傍に駆け寄ってくる。
敵の反撃あらば盾にならんと油断なく敵を視ながら。
(まる、怪我はなさそうだ)
命を削ったり流血前提の戦い方をすることの多い男の無事に、カガリはそっと息を吐く。
(そんな心配そうな顔をするな)
マレークはカガリに向けて無表情に頷いてみせた。
――2人の仕事は終わったのだ、と。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ジャハル・アルムリフ
凄まじいまでの欲望
小揺るぎもしない意志
上手く飼い慣らせば別の道もあったろうものを
源は激情
ならば躊躇も容赦もしないだろう
であれば――挑める
少々派手すぎぬか
掛けた声は挑発で合図
放たれた炎へと真っ向、駆ける
一瞬のうち、焼かれ裂かれようと防御と耐性で凌ぎながら
衝撃波を伴わせた【竜墜】にて爆発を貫き
怪力を乗せて床を蹴り、そのまま加速し前進
視線である以上は、敵は直線上
視界が爛れているなら怒りの声を頼りに
炎を抜けた一瞬に、力任せの一撃を叩き込む
怒り続ければ疲弊しように
疾うに終わったはずの過去となっても
未だ財を求めるか
貴様は、随分と人間らしいな
●竜
(凄まじいまでの欲望、小揺るぎもしない意志)
女は、負傷していた。
蘇ってからの傷。猟兵達に因る傷だ。
女は、其れを身の内に全て隠していた。
表面上は蘇る前と変わらず、戦闘能力にも翳りなく。
だが、ダメージは確実に身の内にて痛みを募らせているだろう。怨讐が渦巻き心火が全身を奮い立たせて燃えている。
(上手く飼い慣らせば別の道もあったろうものを)
ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)はそう思う。
師父が診ればなんと表したであろうか。なんと評したであろうか。きっと――その価値もない。ジャハルは、そう思った。
(源は激情。ならば、躊躇も容赦もしないだろう)
(であれば――挑める)
黒瑪瑙の瞳がス、と眇められる。
「少々派手すぎぬか」
竜は、嘶いた。
女が視線を向ける。癇癪を起し、何事かを喚き散らしながら。騒々しい声、師父に聞かせる価値のないものだ――ジャハルは駆けた。
ゴウ、と熱気が全身を包む。炎だ。炎が全身を覆い、殺意を肌に喰いこませて外を焦がし内を灼こうとしていた。
あつい、と感じる。
だが、それだけだ。
竜には、耐性があった。耐性が何のために在るかというと、耐えるためだ。竜は無表情に嗤った。静かに、牙を剥くように。炎を押しとどめるようにオーラが身を護っていた。
あつい、と思う。
それは――戦いの熱だ。
殺意が爆発する。
其れにより、ジャハルを殺そうと言うのだ。
星宿す片角が煌めいた。
爆炎の中、涼やかに。清らかに。
脚に力を入れ、ジャハルはまた一つ床を蹴る。
ダン、と。
蹴れば全身に歓びが走る――躍動。
世界が速度を持って後ろへ流れる。爆炎が邪魔だ、と思った。無粋な炎だ。だが、あつさは悪くない。
敵が喚いていた。癇癪を起した女の寄声は真っ直ぐ、前にある。ジャハルを吸い込むように怒りの発信源が待っている。
だから、炎を駆け抜けてジャハルは拳を振るいあげた。
「――ひ、ぅ」
女の喉が言葉にならない音を吐いていた。肺から喉へ空気が漏れた、そんな音だ。ジャハルは拳を叩きつけた。自身を殺そうとする敵の起こした爆発ごと。貫く。
『墜ちろ』
竜の呪詛が純然たる暴力となって肉にめり込み、奥の堅い何かに当たって砕いた。骨か。勢い余って肉の身体が宙に浮き、後ろへ流れていく。いけないな、獲物が逃げていく――ジャハルは下へ押し付けるように拳の角度を変えた。地へ。叩きつければ盛大に音がして、派手に床が抉れて壊れる。それだけの重さと衝撃を備えた一撃だった。その名を竜墜という。
「怒り続ければ疲弊しように」
女が倒れていた。
ジャハルは其れを見る。
なんといったのだったか。何か、師父の言葉が思い出された気がした。師父は、さらりとして水のようだった。
「疾うに終わったはずの過去となっても、未だ財を求めるか」
女はまだ生きていた。
否。
死んだのだ、この女は。
死んだのに、生き返った。それがこの女だった。
生き返って、喚き散らしていたのだ。求め続けているのだ。
ほっそりとした指が動いた。
爪は長かった。
大切に丁寧に手入れした爪だ。
女だ。
「貴様は、随分と人間らしいな」
竜は、最終的にそう評した。
そして、女に背を向けたのだった。
俗。
(そういったものだった)
ジャハルは、そう思った。師父とは真逆のものである。
成功
🔵🔵🔴
セルマ・エンフィールド
屋敷のことを誇った一瞬だけ笑顔に……多少の怒りがあっても自分の資産を傷つけることには抵抗がありそうですね。ならばそれを利用させてもらうだけです。
屋敷内の物や柱を敵の伸びる爪の盾にすることで敵の攻撃を予測、見切り回避またはフィンブルヴェトでの武器受けで連続攻撃を凌ぎつつ、屋敷内を逃げ回り接近されないように。攻撃回数は上がっても足が速くなるわけではありません。ナイフの投擲で気を散らしながらならなんとかなるでしょう。
逃げて時間を稼ぎ敵を焦らして大振りの攻撃を誘ったらその一瞬の隙に身を低くして接近、爪の間合いよりも近い零距離でクイックドロウした2丁のデリンジャーによる【絶対零度の射手】を叩きこみます。
●蒼穹の射手
女が倒れている。
敵だ。
(屋敷のことを誇った一瞬だけ笑顔に……)
銀髪の少女は周囲を探る。今回は戦術勝負だ。
(多少の怒りがあっても自分の資産を傷つけることには抵抗がありそうですね。ならばそれを利用させてもらうだけです)
セルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)は遠距離からの狙撃に定評のある射手である。柱に身を潜め、セルマは愛用の銃フィンブルヴェトを構え――、撃つ前に隣の柱へと移動した。
「そこッ!」
敵の怒号と柱が砕かれる音。倒れていた女が爪を伸ばしたのだ。砕けた柱を見て女は一瞬真っ青になり、次いで真っ赤になった。
「あっ、アタシの、アタシの……よくも!」
(ご自分で壊したのですが)
セルマは軽く肩を竦めた。身を隠した柱には先ほどよりも低い威力で爪が走る。なんといっても新築だ。壊したくないのだろう。
(それにしても、よく伸びる爪ですね)
音もなくセルマが逃げていく。
「黙って捕まれよ!」
血を吐きながら富子が立ち上がる。立ち上がる一瞬、ナイフが飛んできて爪が一振りされた。カラン、とナイフが落ちる。
「鬼ごっこ? 面倒だ! さっさと捕まって大人しく命乞いしてみせろよ、そうしたら――アタシが殺してやるからな……!」
爪を煌々と輝かせて。掌からはボタリと血が落ちた。隠し、塞いでいた傷が開いたのか。
異常に伸びた爪が猟兵の気配を辿るようにして追いかけてくる。そこにいるだろう、逃さない、捕まえてみせる――そう言いながら。
(落ち着いて狙撃ができませんね)
セルマは冷静に退避ポイントを見定め、移動していった。
柱から柱へ、庭の木へ。門が見えた。あの門をくぐり、誰かが尋ねることはあるのだろうか? 豪奢な建物は嘗てと違い、蘇った富子只一人だけの満足にすぎない場所だった。セルマは爪を逃れ、屋根にあがった。屋根の傾斜をのぼり棟板金に軽く手をかけ、ふと目を遣れば軒先に爪がかかっている。敵がのぼってくる。
「追い詰めた……ッ」
鬼のような形相で満身創痍の富子が屋根をのぼってくる。のぼり、立ち上がった。
「やっと! やっと!」
狂気が女の全身を彩っていた。
頭上で雲が流れていく。風は敵に向けて流れていた。上位置を取りながらセルマは追い詰められた狙撃手が慌てるように立ち上がろうとし、
「――ぁ、」
小さく声をあげてバランスを崩してみせた。よろけて、屋根から転げ落ちそうになり、咄嗟に手をついて。追い詰められた小鳥のように。
「アタシが今、殺してやる!」
女が狂喜乱舞して爪を大きく振りかざした。
「はい」
(私が今、倒してあげます)
両手で勢いよく屋根を押し、セルマはクラウチングスタートを切るように屋根を下へ駆けおりる。優れた体幹と身体能力により為された猛進は、転げ落ちるように見えて決してセーブを失うことなく敵の懐に低く潜り込んだ。
富子から見れば、敵が転げ落ちて自分に衝突してきたようにも思えたかもしれない。だが、セルマの四肢は意思通りの動きを見せて――己のスカートの中を両手が探り、隠していたデリンジャーを2丁、眼にも止まらぬ速度で抜いて零距離で敵に撃ち込んだ。
乾いた銃声が蒼穹に響き渡る。
敵は、何が起こったかを理解できないようだった。銃口がいつ自分に向けられたのか、どこから武器が出たのかもわからない。
ただ、気付いたら富子は屋根を転げ落ちて庭に倒れていた。
傷口からは血が溢れることはなかった。
氷の弾丸により、肉も血も凍結されていた。
「作戦は、成功です」
――蒼穹を背負うようにして標的を見下ろす静かな少女は、絶対零度の射手と呼ばれている。
成功
🔵🔵🔴
エレクメトール・ナザーリフ
随分感情的な人ですね
戦場で状況把握を怠ると足元掬われますよ?
閃光弾と艶消し塗料を詰めた特殊弾を用意
【第六感】【見切り】で極力致命傷を回避する
爪攻撃に合わせて【早業】で閃光弾を放ち
【クイックドロウ】で特殊弾を爪に当て輝きを奪う
反撃は《幻影舞踏》で吊り天井、落とし穴、串刺しトラップ等
あらゆる罠を想像し周囲の衾や床、天井と同化させる
準備が整い次第射撃で牽制しつつ誘い込み罠を発動する
そしてこのコードの真の目的は相手に躊躇させることです
天井が突如落ちてくるかもしれない
手前の床に大穴が空くのかも
横の衾に串刺しにされるのでは?
一瞬でも戸惑えば銃撃出来ますし
変わらず向かってくれば罠に嵌めた上で銃撃するだけです
●The main battlefield is
「随分感情的な人ですね。戦場で状況把握を怠ると足元掬われますよ?」
言いながらエレクメトール・ナザーリフはピリリとした殺気を愉しんでいた。くしゃり、癖のある銀髪を軽く指で弄んで。
「黙れ! 黙ってヘイコラ従え!」
どいつもコイツもアタシに歯向かいやがって、と青筋を立てながら日野富子が血塗れの身体で向かってくる。
「すでに大分消耗しているみたいですが、タフですね」
ニシシ、と笑う猟兵少女には全く敵を恐れる気持ちがない――戦闘に慣れている。
「ああムカツク!」
敵の爪がギラリと輝き、伸びていく。それを見ながらエレクメトールは閃光弾を放った。口に咥えた棒キャンディーをちろりと舐める舌が動いて笑う。ちらり、覗く八重歯。カツリ、音を立ててキャンディーを甘く噛み。
「ムカツかないようにしてやりますよ」
間髪入れずに死神の銃の引き金が引かれる。指の腹に感じるいつもの感覚。ゴシックロックに仕立て直した迷彩服を纏う少女エレクメトールは硝煙に気持ちよく目を細めた。
鮮烈な光が眩く視覚を奪う中、銃声はもう一度。敵が悲鳴をあげた。爪を抑えて衝撃に大きく仰け反り、たたらを踏む。
「爪、が!?」
爪が輝きを失っていた。
「艶消し塗料を詰めた特殊弾ですよ!」
ニシシ、と笑いながらエレクメトールはユーベルコードを発動する。畳みかけるような攻勢。銃だ。銃が撃ちたいのだ。撃てればそれでいい。少女は嗤った。甘味が舌を支配する。硝煙の世界に味わう今日のフレーバーはバタースコッチサンデーだ。銀の髪がご機嫌に揺れる。
「さぁ、一緒に舞い踊りましょう?」
幻の影が少女の声に誘われるように舞踏する。エレクメトールが想像し、創造するのはありとあらゆる罠だった。戦場に違和感なく馴染む仕掛け罠。
(相性が良すぎてボーナスステージですよ)
エレクメトールは機嫌よく目を細めた。戦場に罠を同化させ、射撃で牽制しつつ後退すれば激情に支配された敵が猪突猛進にすんなりと罠にかかって悲鳴をあげる。ニシシ、と少女は愉しく笑った。
「クソッ、罠か!ふざけやがって!」
「立派な御所ですね、ここは? 罠が仕掛けやすくて驚きました、ニシシ」
網に絡め取られて吊り上げられそうになった生け捕り富子が憤懣やるかたないと言った顔で網を破壊し、抜け出した瞬間に天井が降ってくる。圧殺しようと迫る質量を這々の体で避けた目の前に槍が交差する。
「いつ仕掛けたッ! ここはアタシのハウスなのに!」
「ニシシ!」
小柄の少女猟兵の青い瞳が上から見下ろすして物語る。
――私は猟兵ですよ? 愚問ですね、と。
「クソッ……!!」
富子がヒィヒィ言いながら罠を乗り越えていく。銀髪の少女猟兵が奥へ奥へと退いていく。追うたびに罠が牙を剥く。自分の豪邸が猟兵の手により四方八方から富子に牙を剥く。こんなのはおかしい、と富子は思った。疑心暗鬼で追う足を鈍らせて周囲を探る。次は、次はどこから来るんだ、と。
――天井が突如落ちてくるかもしれない。
――手前の床に大穴が空くのかも。横の衾に串刺しにされるのでは?
「ンッン~♪ もう終わりですか?」
(相性が良すぎましたね)
「それが狙いだったんです、よ」
銀のエクストリガーが狩猟者の笑みを浮かべる。
「そして、教えてあげますね」
エレクメトールはもう一度目を細めた。手には手に馴染む銃がある。
――タァ……ン!
「銃はコードよりも強し」
Death 13、ナンバリングされた銃は狙い違わず敵を穿ち、作戦を成功で飾った。
銃声がいつものように戦場の空気を震わせる。
「名言ですね、これ」
ペロリ、キャンディをまたひと舐めしてエレクメトールはニコリと微笑んだ。
大成功
🔵🔵🔵
ルーナ・ユーディコット
激情に飲まれてる人をこうして客観的に観ると恐ろしいね
救いがないとさえ思える
……憎悪で戦う私は、どうすればいいだろう
外套で体を覆って走りこめば視線で燃やせるものは外套に……なるかな
透視を持っているという話は聞かないから、おそらくそうなるはず
爆風で外套が吹き飛ばされるか、火力の強さに脱ぎ捨てることになるかはわからないけれど、視線の初撃を外套を的にしたものに出来たなら自分に直撃するよりは余裕をもって攻勢に転じれると思う
だからそれに賭ける
我ながら、捨て身が過ぎるかな
でも強者に無傷で一矢報いれないだろうし
あの激情に私は真っ向から向かい合わなければいけないと思う
激情の儘振るう刃は人か獣か
それを確かめる
●『恐れぬ者』
ビリビリとした空気を肌で感じる。
妄執。妄念。執着。 執念。忿怒。憤怒。痛憤。敵意。旧怨。殺意。積怨。怨毒。
(激情に飲まれてる人をこうして客観的に観ると恐ろしいね。救いがないとさえ思える)
(……憎悪で戦う私は、どうすればいいだろう)
ルーナは外套で体を覆って走りこむ。視線が注がれ、外套が火炎をあげ、全身が燃え上がる。とても着たままではいられない、外も中身も諸共に燃やされてしまう。
(我ながら、捨て身が過ぎるかな)
無我夢中で外套を掴み上げた。掴んだ指が火傷を負う。熱い、痛い。けれど引っ込めては全部燃えてしまう。
(脱がなきゃ、脱がなきゃ)
指が鋭い痛みを訴えて、けれど白の指輪が力をくれる。ルーナは炎をあげる外套を引きちぎらんばかりに脱ぎ捨てた。最初から無傷で済むとは思っていなかった。外套の炎が燃え移って服が燃えている。ルーナは前へ床を転がった。燻ぶる炎を必死に擦り、消していく。脳が警鐘を鳴らす。――敵が視線で追いかけてくる、と思った。だから、敵に向かって転がり、最後は跳ね起きた。
「はっ……」
視線が向けられてしまう。心臓がバクバクと暴れていた。無我夢中で跳んだ。避けた。そう思った。
「――コ、……ス!」
敵が何かを言っていた。世界の音が遠い。聞いている暇がない。ルーナは身一つ弾丸と化したように突っ込んだ。足は止めなかった。止められない。
(あの激情に私は真っ向から向かい合わなければいけない)
そう思うのだ。
「――ンデ、……ラ い!?」
敵が愕然としていた。それがわかった。ルーナは瞳に力を入れ、前を視た。視界がクリアだった。意識は明瞭だ。神経は研ぎ澄まされていた。もう、燃えてもきっと気にならない。スイッチが入っている。ルーナはそう思った。
「なんで、」
敵が眼を見開いている。
ルーナの体から青い炎が噴き出していた。
「止まらない!?」
炎を脱ぎ捨て、代わりに内からの炎を迸らせて壊狼が流星の如く疾駆する。首飾りが揺れた。
「――なんで、止まるとおもうの」
金色が爛々と敵を視る。
短い白髪が少し焦げていた。頬には煤がついて汚れて、全身の所々を焦がして少女は抜刀する。
(激情の儘振るう刃は人か獣か。それを確かめる)
握るだけでビリビリとした痛みが脳にダメージを伝える。常人であればすぐに手を放して座り込んでしまうだろう痛み。
けれど、ルーナは常人ではないのだ。
『慣れている』。
(確かめる――私はそうしないといけないと思う)
『覚悟の上だ』。
ルーナが息を吸う。吐く。心が。全身の筋肉が前へ進めといっていた。
『捨て身だ』。
少女の気配が其れを伝える。
「この一撃、この戦いで燃え尽きるとしても」
死を厭わない捨身の心が力となる。炎が強まっていく。ルーナは獣のように跳んだ。吠えた。
「刃と輝きを失うとしても“私は恐れない”!」
誓いの言葉は高らかに。覚悟は獣を星にした。空を流れ、闇を裂き、『止まる事を許しはしない』。
覚悟を力に変え、ルーナは敵に刃をたたきつけた。
斬りつけた刹那、敵の形相が目に付いた。
目を限界まで見開き、苦しそうに息を吐き、吸おうと開いた口の中で唾液の糸を引きながら舌が何かを紡ごうとし、けれど音は出ぬまま、誰かに何かを理解されることなく敵が沈黙する。
――その表情をルーナは決して忘れないだろう。
苦戦
🔵🔴🔴
ジャック・スペード
怒りを顕にすることも大切だとは思うが
――お前のソレは少し遣り過ぎに見える
そんなに怒って居て、疲れはしないのか
女心を解さない当機が彼女の機嫌を取るのは難しいだろうな
大人しく怨霊からの攻撃に備えておこう
火矢の追跡は学習力を活かし動きをよく観察する事で見切る
其れが敵わなければ刀での武器受けを試みよう
損傷は火炎・激痛耐性で堪えるさ
武器受けに成功したら、怨霊へ氷の斬撃を広範囲に放ちカウンター
――さあ、道を開けて貰おうか
打ち漏らしはマヒの弾丸で牽制しながら富子へ接近し
怪力とグラップルで彼女を捕らえれば、捨て身の一撃を行おう
ハインリヒ、今日の獲物が此処にいるぞ
――怒りに染まった其の魂ごと、彼女を喰らい尽くせ
●氷の一刀
御所を見守る空を白い雲が流れていた。
場所は、サムライエンパイア。季節は夏。
「怒りを顕にすることも大切だとは思うが――お前のソレは少し遣り過ぎに見える」
ジャック・スペードが金の双眼を明滅させ、敵を見る。機械の男には同じ文言を繰り返して怒り狂うヒトが見えていた。ムカツク、ぶっ殺す、と。
(女心を解さない当機が彼女の機嫌を取るのは難しいだろうな)
ジャックはヒトの心をそれなりに解するウォーマシンだ。状況によっては、普通の人間よりもこころを感じ取り理解する力は高いかもしれない。
だが、感情に支配されすぎる性質の女の相手はさすがに難しい、そう思いながらジャックはふと想定外に気付く。
女が輝きを宿している。滑らかな腕の先、指の先に妖しい光が満ちて伸びていく。
「爪か」
ジャックは襲い掛かる爪を淡々と見切り、白縹に煌めく刀で受け止めた。刀身に彫り込まれた絢爛たる天竺葵が爪明かりに照らされて輝く。涙淵の金色柄が芒と照らすは骸の海へと到る道だ。本来は炎への対策を想定していたのだが、と軽く頭を振りながらも、機械の声は落ち着いていた。弘法にも筆の誤り、ジャック・スペードとて時に見誤ることもあるのだ。
「しかし、対処できれば問題はない」
落ち着いた声を放ちながらジャックは軽く一歩退いた。刀で受け止めていた爪がさらに伸びたのだ。黒色ボディに軽く傷が入る。ニタリ、と女が嗤った。整った顔立ちに浮かべる笑顔は、ジャックの目にはヒトの子供のようにも見えた。だが、子供とはくらべものにならぬ邪気がある。
「は、ハハハ! は」
女が勢いを増して爪を振るう。一撃、二撃、三撃。揮うたびに爪が少しずつ伸び、受けようと備えた射程よりも放たれる射程が若干長い。
(しまったな)
ジャックは冷静に原因を理解した。原因は二点だ。敵が想定外の爪撃を繰り出してきた点。もう一つは、純粋なユーベルコードの相性だ。
だが。
「止めたぞ」
ダークヒーローは、想定外にも慣れている。ジャックにとっては慌てる要素は一つもなかった。想定外の事が起きたのならば、その場で冷静に対処すればいい。それだけの能力をジャックは有しているのだ。
――冷静な判断力と対応力こそが、このジャック・スペードの持ち味である。
「クソッ」
受け止めた刀が氷を纏い、爪を凍らせていく。
「な、なんだ!? 氷が!」
敵が動揺して爪を引こうとする。ジャックは無言で凍結を加速させた。
「――さあ、道を開けて貰おうか」
「ク、クソッ」
氷漬けの爪を途中で無理に割り、富子が逃れようとする。
「逃がさない」
ぎしり、と黒の鋼手が敵を捉えた。逃れようとする腕をがっしりと掴み、恐るべき怪力が振りほどく事を許さない。
放せ、放せと女が金切り声をあげて狂乱している。ジャックは淡々とユーベルコードを発動させた。
「ハインリヒ、今日の獲物が此処にいるぞ」
――怒りに染まった其の魂ごと、彼女を喰らい尽くせ。
「あああああああああっ!!!」
腕が銀色に変色し、形を変えていく。生き物の竜のような形状に変わっていく。
ハインリヒと呼ばれた暴食に狂いし機械竜は、ガパリと大口を開いて敵に噛みついた。暴食に狂った銀の竜、機械仕掛けの躰が訴える。もっと寄越せ、もっと、と。
いやだ、と女が叫んだ。
頭を振り、逃れようと必死でもがく敵。――日野富子。
ジャック・スペードは学習能力に定評のあるウォーマシンだ。敵に最適な行動を選択する彼は必要な場面ではいくらでも慈悲を見せ、敵に敬意を惜しまない。だが、此度はそれが不要なのだと彼は理解していた。
「喰らえ、ハインリヒ」
魂ごと食らわんと竜は食らいつく。激痛に身を捩る女を機械の両手は決して逃がすことはない。巨大な全身でがっしりと抱きつくようにし、拘束して食らわせる。金色の双眸は煌々と輝いていた。
全身から伝わる意思は、一つ。
『決して、逃さない』。
「いやああああああああああああ!!!」
声なき声が確固とした意思を伝えるとまた一つ絶叫が響き渡る。御所を見下ろす青空の雲は中で何が起きているのかを全く気に留めた様子もなく悠々と流れていく。
――やがて、戦場は静かになった。
苦戦
🔵🔴🔴
ヘンペル・トリックボックス
そうカッカするもんじゃないですよ、レディ。小皺が増えます(ぐいぐい煽る)
数には数で対抗といきましょう。富子さんのレベルが幾つなのか判別できませんが、私の5倍を超えないことを祈ります。
敵のUC発動に合わせてUC発動。手持ちの水行符で式神たちに【破魔】と水【属性攻撃】力を付与し、火矢を迎え撃つとしましょう。
私自身は式群に紛れ【目立たない】ように接敵、火行符の威力を木行符で相乗させ、【範囲攻撃】化した爆炎による炎【属性攻撃】を叩き込みます。
憎しみの焔は強力ですが、転じて己が身をも焼き滅ぼします。……えぇ、よく知っておりますとも。厭というほど、ね。
●その日、日野富子は激怒していた。
「は、……はぁ、」
日野富子は、満身創痍であった。
「ハァ、ハァ」
息が荒かった。
だが、日野富子には怒りがあった。蘇った肉体の限界を超える情念があった。
生きていた頃からそうであったのかは、わからない。
ただ、蘇りし今、富子はどうしようもなく『 』であった。
「……だから、」
だから、ぶっ殺す。
女は、敵は、日野富子は。そう言った。
「いやはや、近頃の淑女はパワフルですねぇ」
戦場に穏やかな聲が降る。
白い鳥がふわりと舞う。
最後にその戦場たる御所に現れたのは、どこかチグハグで胡散臭い雰囲気を携えた紳士人形の男。
ヘンペル・トリックボックス(仰天紳士・f00441)と名乗った紳士はおもむろに脱いだシルクハットの中から鳩を出す。パタパタ、と鳩が庭へ抜けて空へと飛んでいく。
「そうカッカするもんじゃないですよ、レディ。小皺が増えます」
シルクハットをかぶり直して紳士が胡散臭い笑みを浮かべると、『レディ』は全身から血を噴かんばかりに絶叫した。
「誰か――、」
後半は言葉にならない不明瞭な音が並んだ。怨念が渦巻き、蘇りて再び死に向かおうとしている女は最後の輝きを放っていた。躰の限界を激情が超える。
「うへぇ、数が多すぎませんかねえ」
勘弁カンベン、とヘンペルは嘯いてシルクハットの鍔を下げた。その下の瞳は恐ろしく冷静な光を宿している。
「対抗しましょう、えぇ」
ヘンペル・トリックボックスに早業や先制はない。彼にあるものは戦闘知識である。敵の初撃に合わせて発動させたユーベルコードは式神を喚ぶ。単純に攻撃手段としてユーベルコードを発動させたのでは対策とはならないが、敵の初撃に合わせて発動する対抗撃として宣言すればそれは立派な対策である。賽は十分な成功度を持って応えた。
「集いて唸れや獣の式。散れや羽ばたけ禽の式――、舌に耳を撃ち季節を転じて冬と施与」
黒色の水行符が涼気で御所を清めるようにしながら火矢怨霊を迎え撃つ。
紙片に仮初の命を吹き込み使役する、陰陽道の術が一。統率には相応の集中力が必要だが、繊細な手品を得手とする紳士にとっては容易いものだ。火は次々と打ち消されていった。
術者ヘンペルは陰陽師であった。気配を殺し、密やかに次の印を結びて符を放つ。赤の火行符がひらり舞い、続く青の木行符で威力を増す。
「見よ子田の佳く廻る様を」
――陽風水 よいむなや。紳士人形はスッと目を細める。火勢増す。
『燃えよ』。
符が敵を囲み、力を解き放つ。
ドォ……ン! と、空気が鳴る。爆音だ。
「な、――」
言葉を発する暇も与えず爆炎が起こる。広い御所中を震撼させる大爆発。
其れを物ともせず、男は静謐を共として佇んでいた。
「憎しみの焔は強力ですが、転じて己が身をも焼き滅ぼします」
蓄積した負傷と駄目押しの痛撃により敵が完全に沈黙する。
「……えぇ、よく知っておりますとも。厭というほど、ね」
そう小さく微笑んで、紳士人形は白手袋に覆われた指先で頬を掻いた。
「――……、」
静寂。
静謐な瞳が其れを臨む。
もはや、表面を取り繕うこともなく全身が本来の傷を剥き出しにしてグズグズの醜い傷を全身に負い、衣装を焦がし血塗れにした『女だったもの』の死体を晒していた。瞳はじっとそれを見届けた。声なき断末魔が再生される前にヘンペルはふと瞳を伏せた。
「さてはて、これにて決着、ですね」
敵の撃破を確認して紳士人形は優雅に一礼した。ステッキをクルリと廻せば弔いの一輪がふわり、ゆっくりと可憐に舞い降りて物言わぬ死体を慰めてくれる。
――この日、日野富子という悪災の女は討伐されたのであった。
大成功
🔵🔵🔵