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エンパイアウォー⑤～是と否

作者：結衣謙太郎

●謎との合戦
「戦争、始まっちゃったね」
　猟兵たちの前でそう語る水島・可奈（少女自由に夢幻を掴め・f01117）。
「サムライエンパイアでこの前まで合戦があったのは知ってるかな？　寛永三方ヶ原の戦いという。あれに参加した人は、なんかこう、人の名前が書かれたものを手に入れたと思うんだ。武田信玄とか書かれてたの。あれ、私達は『第六天魔軍将図』と呼ぶことにしたんだけど――あれに書いてある人数って、8人なんだよね」
　つまり、あと7人将がいるわけである。これの対策をしていかないといけない、が――敵の方が早かった。
「武田信玄以外の『第六天魔軍将』達がサムライエンパイアを征服しようと攻勢をかけてきた。もちろん家光様含む幕府軍は兵力を招集。ざっと10万くらいかな？　あと兵装とか色々。幕府の全力とか言ってた」

　だが、これを黙って見ている敵でもない。
「信長軍の攻撃で人がなんやかんやで減らされていくだろうから、それに対応していくのが猟兵の仕事というわけ」

　が――。
「物資が高すぎる……」
　可奈はがーんとした顔でそう言う。
「全国の商人から兵糧などの補給物資を買おうかと思ったら、値段が青天井で満足に揃えられないみたい……魔軍将の一人、大悪災『日野富子』が買い占めたもんだから……」
　そこで、神君家康公が有事のためにと残しておいた徳川埋蔵金がある。これを使うために、盗掘防止用に用意された謎を解いてほしいというのが依頼だ。
「場所はとある洞窟。ここにこんな感じの文字が2つの岩に彫られていて、答えを叫べば道が開けるらしい」
　可奈は文字が書かれたメモを配布した。そこにはこうあった。

『だくがわ』
『とふずい』
『のわれば』
『はこらく』

『否否否是』
『是否否否』
『否否是否』
『否否是否』

「是とか否とか……どう解けばいいんだろうねこれ……とにかく、頼んだよっ」
　可奈は悩みつつも猟兵たちを送り出す準備に入った。

第1章 冒険 『神君家康公の謎かけ』

POW   :    総当たりなど、力任せの方法で謎の答えを出して、埋蔵金を手に入れます。 SPD   :    素早く謎の答えを導き出し、埋蔵金を手に入れます。 WIZ   :    明晰な頭脳や、知性の閃きで、謎の答えを導き出して、埋蔵金を手に入れます。 👑3 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

●というわけで現地です
「なるほどね」
　青景・黒影（くるりくらり・f00707）は現地となる洞窟で2つの石碑を見比べながら頷いた。
「『だくがわ』
　『とふずい』
　『のわれば』
　『はこらく』
　この意味をなさない４つの単語を、是の所だけ抜き出すと『わ、と、れ、ら』になるね。此れだけだとまだ意味不明だから、並び替えてみようか」
　黒影はメモにさらさらと字を書き、それをアナグラムする。
「この文字を使って意味が成立する言葉はひとつ。『とらわれ』だね。ってことで答えは『とらわれ（囚われ）（捕らわれ）』だと思うんだけどどうかな？」

　……シーン。
　何も起こらない。
「あ、あれ？　うーん……自信あったんだけどな……やっぱり他の12文字も関係してくるのかなぁ……」
　この類の暗号で1文字も無駄な文字がないのはよくあることだ。ただ単に抜き出すのは少し違うのかもしれない。
「うーん……」
　頭を抱え悩みながら『是』と『否』の書かれた石碑に触る、と。
「……ん？」
　黒影は何やら16マスのすぐそばに窪みみたいなのを見つけた。そこに手を入れてみると。

『回った』。
　16マスに書かれた是と否、その16マス自体が回ったのだ。まるで金庫のダイヤルのように。
「んー……？　これなんで回るんだ？」

『回る』。
　これは重大なヒントかもしれない。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

●つまり答えは
「ははぁ、なるほどね、否と是の方は回る、と」
　エンティ・シェア（欠片・f00526）は黒影が見つけたヒントを反芻するようにつぶやく。
「あからさまにとくがわばくふが入ってる！残りの文字『いずれらわこだのは』を適当に並べ替えたらなんとかならないかなこれ」
　甘甘・ききん（可哀想な　人の振りをする狐・f17353）が文字そのものに注目している中、皆の意識は回転する否と是に向いていた。
「是の文字を抜き出す、というのは正しいと思います。回転する是と否、これがカギなのでしょうね」
「否は読まず、是を読む、で、ダイヤル式に回る……右まわりか。なら、右まわりで是になる四文字ずつを区切って、意味をなすように……」
　有栖川・夏介（白兎の夢はみない・f06470）と大神・零児（人狼の妖剣士・f01283）が回転する是と否に意味を見出す。そう、是は4文字、これを回転させると……
「とりあえず『是』の部分を読んでみるよ！　右から『われらと』だね。ぐるぐる回すって言っていたから、是非の文字を右回りに90度回転かな？」
　フォルセティ・ソルレスティア（星海の王子様・f05803）が是と否のマスを回転させる。零児の人狼戦士団がそれの読み上げを聞いて石碑の下の地面にメモをする。
「これがアナグラムの可能性は？　先ほどの方みたいに」
「いや、アナグラムではなく右から左に、『是』の場所の文字を読む、そして『是』『否』が書かれた板は時計回りに90度ずつ回転させて繰り返す、これを繰り返すんじゃないかな。法則のある、舞のように」
　ファル・ファーリア（漂泊の舞手・f06089）がアナグラムの疑問に一度待ったをかける。なにはともあれ、やってみないと始まらない。
「とりあえず『是』の部分を読んでみる感じでやってみるわね。最初のを右上から左下に読むと『われらと』になるのよね。で、是非の文字を右回りに90度回転させて読み直すと……」
　フィオリナ・ソルレスティア（サイバープリンセス・f00964）が回転させた是と否の位置と文字を見比べる。
「今度は『くがわの』になるわね。これで『われらとくがわの』になるわ」
「だからとくがわばくふがあからさまに入ってるじゃん！　残りをアナグラムすれば――」
「はいはい、アナグラムしなくても答え出るだろうからおとなしく見てなさいね」
　フィオリナがききんの入れた茶々に待ったをかけるのは普段からフォルセティで慣れているからだろうか。
「同じこと繰り返すと――」
　今度は180度回った状態になる。文字は右上から「ばくふは」。
「で、最後か」
　270度回った状態。右上から文字は「いずこだ」。
「これで一周したでしょうか。
　……おや、これは」
　抜き出してメモされた文字を夏介はまじまじと見つめる。
「われらとくがわのばくふはいずこだ――我ら徳川の幕府は何処だ、と読めるような」
「んー？　ははーん、時計回りにして『是』の文字の部分を拾っていけば、全部の文字が拾えるわけか。なるほど、よく出来ているね。もしこれで違っていたらもう私はお手上げだね。もういっそ兵糧を持参するほうが早いのではとすら思えてきたよ」
　エンティが感心に満ちた言葉を出しながら期待を寄せる。
「強引な並び替えでもあと一歩だったな……」
　ききんがそっぽを向きながらつぶやく。実際こういう暗号――回転グリル式暗号はその性質上、アナグラムとしても読める場合が多い。とくにこのようにすべてのマスを1つずつ使う場合だと顕著だ。
（まだこの解が正しいと決まったわけではないが……是と否の回転の仕組みに気が付けなかったら、この答えには辿りつけなかっただろうな……）
　夏介はふとそう思う。実際黒影がこれを見つけなかったらミスリードにやられていたのかもしれないのだから。ミスリードは神君家康公のお茶目か、あるいは盗掘防止用か。それは神君家康公にしかわからない。
「すいませーん、サムライエンパイアの歴史や政治情勢には疎いんだけど……誰か分かる人はいませんかー？」
　ファムが手を上げて質問する中、残りの6人が1つうなずくと、せーの、で叫ぶ。

「「「「「「答えは『江戸』！」」」」」」

　その叫びが洞窟にこだまする。と、次の瞬間、地響きと天井からの落石が起こる。なんだなんだ、と猟兵たちが辺りを見渡すと、そこには――
「ま、眩しい！」
　――そう、眩しいほどの黄金の山。小判や金をはじめとして様々な黄金が、これが開いたために地響きが起きたのであろう岩の扉の向こうに積まれていた。思わず駆け寄る猟兵たち。
「わーい、徳川埋蔵金がザックザクだー。山吹色のお菓子じゃなかったけど。
これでみんなに補給ができるね！」
「賄賂するわけじゃないんだから。それにしても徳川埋蔵金やはりすごいわね。とにかく急いで物資の補給にあてないと」
　ソルレスティア姉弟がその黄金に見とれている。
「そうだな、じゃあまず兵達の英気を養ってあげられるものを用意して貰おうか。皆、神経をすり減らしての行軍だ――労うくらいはバチも当たらないだろう」
「そうですね、では埋蔵金を運び出さないと」
　エンティと夏介が使い道を考えながら運ぼうとしている中、ききんが猟兵たちの前に立つと胸を張る。
「それではこの埋蔵金はわたしが責任を持ってお運びさせていただきます！」
　全員がそろって大丈夫かこいつに任せて、という顔をした。それにききんはふふん、と笑うと答える。
「大丈夫です、九割位は無事にお届け致しますので是非是非ご安心を！」
「「「「「着服する気満々じゃないか（ですよね）（だよね）（じゃない）！」」」」」
　ききんが黄金を手に取ろうとする前に零児の人狼戦士団がききんに一撃与えて気絶させる。その隙に他の猟兵たちは手分けして真面目に黄金を運び始める。
「ううっ、なにもわるいことしてないのにどうして……」
「しようとしてたよね、キミ」
　ファルが頭を抱えるききんをやんわりと説教する。
「たった1割じゃん！　1割でいいのに何で！」
「その1割が大きいんだよ」
　そう、これだけ多くの黄金があれば、その1割なんてどれだけの価値になろうか。
「それでも、それでもぉ～……」
　手を伸ばそうとした瞬間、人狼戦士団がききんを睨む。零児は周辺の警戒も頼んでいた。まさにききんは警戒対象だ。
「それにさ、よく考えてみてよ」
　ファルはききんの眼を見ると呟くように言う。ききんが思わず目をそらす、が。
「猟兵の給料、言い値だったよね？　じゃあ、いくらでも組織から出してもらえるんじゃない？」
「そうかその手があったか！」
　ききんが水を得た魚のように飛び跳ねる。そう、言い値ならもしかしたら着服しようとしてた量よりも多い分を取れる――かもしれない。
「じゃあさっそくわたしもてつだ――」
「はい、おとなしくしてようね」
「なんでー！」
　ききんの足をファルが掴む。こいつを自由にさせるとろくでもないことが起きると感じたからだ。
　その様子を――他の猟兵たちは苦笑交じりに見ていたという。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2019年08月08日