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エンパイアウォー④~たいようのないしあわせなせかい

#サムライエンパイア #戦争 #エンパイアウォー

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●てんまおうのもと、みなでしあわせになりましょう
「うふふっ……」
 キィ……と鳴く小さな竜の喉元に短刀を当てながら、小さく笑う赤い着物の少女。
「だいじょうぶよ、あなたはこれからいけにえになるのだから」
 しかし、既に樹海の数か所から気配が消えている。儀式を邪魔して回っている輩がいるのだろうか。
「だいじょうぶよ。じゃまをするなら、みんなしあわせなゆめをみせてあげるから」
 くすっと少女は笑い、短刀をスッと横に引いた。

 さあ、じゃまをするつもりならここにきなさい?
 あなたたちにも、のぶながさまのもたらすすばらしいせかいをおしえてあげるから。

●富士山の噴火を阻止せよ!!
「アステカの神とアステカ征服の立役者……何だこの組み合わせは」
 頭痛がするのか眉間にしわを寄せこめかみを押さえながら、グリモア猟兵藤崎・美雪が呟く。
「ああ、皆すまない。ちょっと……ナンダコレと言いたくなるような予知をグリモアが齎したのでな。例によって飲み物片手に聞いてほしい」
 猟兵の好みの飲み物を振る舞いながら、美雪はグリモアの予知を語り始める。

「第六天魔王が召喚した魔軍将が一、侵略渡来人『コルテス』が、富士の樹海で太陽神ケツァルコアトルの力を借りて富士山を噴火させようとしている。皆にはそれを阻止してもらいたい。」
 アステカ帝国征服の立役者であるコルテスと、アステカの太陽神ケツァルコアトル。第六天魔王に召喚されたとは言え、この組み合わせはナンダコレと一部の猟兵が頭を抱えるが……引き起こされる事態は極めて深刻。
「もともと富士山は噴火すると関東一円に甚大な被害を齎すと言うが、今回儀式で起こされようとしている噴火は、それを遥かに上回る規模になるだろう。被害も計り知れない」
 もしこの儀式が完遂され富士山が噴火した場合、東海道・中山道・甲州街道一帯……『東海・関東甲信越・関東地方全域』が甚大な被害を蒙り、混乱状態に陥る。そうなると幕府は全軍の2割を復興支援のために残さなければいけなくなる。
「最悪、儀式を優先して見捨てるという選択肢もあるらしいが……民心にも関わる故、これは最後の手段だろう。できれば取りたくないだろうな」
 そこまで一気に話すと、美雪はふぅ、とため息をついた。
「少し大変だが、噴火させるための儀式を阻止し、富士山の噴火を止めてもらいたい。頼めるだろうか」
 頭を下げる美雪に、猟兵らはそれぞれの思いを胸に頷いた。

「まず、皆には実際に儀式を行っているオブリビオンを探してもらいたい。」
 美雪が語るところによると、儀式を行うオブリビオンは『樹海が切れ、山の縁が見える』場所にいるらしい。
「明らかに我々を誘っているようにも見えるが、だからと言って放ってもおけないだろう。あえて乗ってやろうじゃないか」
 既に儀式が数か所で潰され、コルテス側も焦っているかもしれないが、だからこそ油断はできない、と美雪は告げる。
「儀式を行っているオブリビオンは、『縁姫』と名乗る市松人形風の少女だ。だが、人々を幸せな未来予想図の中に囚え洗脳してくるという恐ろしい力を持っている……我々猟兵ですら洗脳されるかもしれない」
 洗脳されぬよう強い意志を持ってかかってほしい、と美雪は強い口調で警告した。

「UDCアースには富士山が噴火した記録が数例残っているが、いずれも甚大な被害が生じているとのことだ。中には大気圏まで舞いあがった火山灰が太陽を遮り、数日間暗闇に包んだ例もある」
 そして、今回の儀式で引き起こされる噴火は、それを遥かに上回る規模になる。
「民衆のためにも、何より幕府軍のためにも、必ず阻止してくれ。頼んだ」
 美雪はグリモアから無数の音符を展開しゲートを開くと、猟兵たちを富士の樹海へと案内した。


北瀬沙希
 北瀬沙希(きたせ・さき)と申します。
 よろしくお願い致します。

 富士山噴火を阻止するためには、猟兵の皆様の力がまだまだ必要です。
 もう少し、お力をお貸し下さいませ。

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 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

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 詳細はオープニングの通り。
 リプレイは捜索よりはボス戦重視になると思います。

 なお、今回は冒頭の導入文はございません。
 プレイングはオープニング公開後すぐ受付開始となります。

●本シナリオのリプレイ返却について
 今回はボスを捜索していただくため「全員一括してお返し」させていただきます。
 そのため、4人以上ご参加いただいた段階で執筆を開始し、完了次第お返しさせていただきます。
 プレイング受付締切日時は北瀬のマスターページで告知致しますので、送信前にご確認をお願い致します。

 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 ボス戦 『行く末の予祝者『縁姫』』

POW   :    しあわせになりましょう
【過去を否定し悩みを消し去る舞扇】【現在を捨てる覚悟をさせる市松人形】【未来を定める幸福の手鞠】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
SPD   :    幸福はここにあります
無敵の【それぞれが思う思考停止を誘う幸福な風景】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。
WIZ   :    私を守る優しい人達
【縁姫を愛した親類縁者】の霊を召喚する。これは【全ての苦痛を遠ざける優しい手】や【全ての敵を退ける力強い刀】で攻撃する能力を持つ。

イラスト:宇治野ぬえ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠アカネ・リアーブルです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

有澤・頼
「さてと、始めようか。儀式は止める。そして、サムライエンパイアの危機を救うんだ。」

とはいえ、儀式を行っているオブリビオンを探さなきゃね。ヒントを頼りにして地図を見て当てはまるところに行ってみよう。

戦闘は敵の洗脳に注意しなきゃね。幸せな未来予想図ね…そんなこと考えたことはないよ。

「忍び足」で背後から近づいて
「咎力封じ」を使用して敵のユーベルコードを封じてみるよ。そして、ぶっすりと刺す。
「呪詛」を込めてね。相手が苦しむようにね。あとは、スパッと斬っちゃおうかな…?

「言ったでしょ?私は幸せな未来なんて考えたことないって。」


真宮・響
探索は不得手な分、探索用の装備はしっかり用意。

儀式の場所は樹海と山の境目辺りにあるというから樹海はそう深く分け入らなくて大丈夫だろうか。儀式に使う器具の引きずった跡や敵の足跡を重点的に探す。霊脈や魔力の乱れとかは専門外だからせめて【歌唱】で音の反響を試してみるか。儀式場に使えるような洞窟なら音が響くはずだ。

後、ブレイズランスを掲げて赤熱する光を見せることで皆がはぐれないようにするよ。

敵に対しては普段使う気配消しの戦法を封印して、【二回攻撃】【串刺し】と【武器受け】【カウンター】で近接に対応し、【槍投げ】で遠距離に対応。赫灼のグロリアで味方を鼓舞し、堂々と立ち回ることで敵の精神攻撃に対抗する。


真宮・奏
戦闘は上手く立ち回れる自信があるんですが、探索はまったく苦手です!!でもやれることはやりましょう。

探索苦手な分、探索用装備はしっかり用意。

生贄を使う儀式ですから、霊脈や魔力の乱れは凄いはず。二本のルーンソードに【属性攻撃】で水と風を纏わせて【衝撃波】波紋の乱れや空気の乱れを探ります。儀式場を見つけたら、飛び込みますよ!!あ、飛び込む前に自分への鼓舞も込めて、蒼の戦乙女を発動、【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【拠点防御】で防御態勢を取りますよ。

敵の精神攻撃には、同じ戦場にいる響母さんと瞬兄さんを心の支えに踏ん張ります。2人がいる限り、挫けません!!強い意志を持って【属性攻撃】【二回攻撃】を。


神城・瞬
大災害は防がないと・・・とはいえ、探索はまったく不得手です。(樹海を見て溜息)まあ、やれることはやりましょう。

探索は不得手な分、装備はしっかり用意。

あれだけ大掛かりな儀式、霊脈や魔力の乱れが激しいでしょう。【範囲攻撃】【誘導弾】を地面に撃って霊脈の乱れを確認し、同じ【誘導弾】を空中に放って魔力の乱れをみます。樹海から出て著しい魔力の乱れと血の匂いで儀式場を特定。

敵の精神攻撃に対して自分の鼓舞も兼ねて月読の騎士を発動。響母さんと奏を心の支えに、騎士のように華麗に飛び回りながら、【誘導弾】【鎧無視攻撃】【マヒ攻撃】【目潰し】【部位破壊】【武器落とし】で攻撃します。2人を護る為なら何だって出来ます。


明智・珠稀
ふふ、誘われたら全力で乗る明智です。
相手の情報を信じ向かおうじゃありませんか、ふふ!
(【第六感】を駆使し儀式場を探す)

■戦闘
「のぶながさまのもたらす世界、というのはそんなに素敵なものなのでしょうか、ふふ」
興味がありそうな雰囲気を出しつつ
妖刀を手に【先制攻撃】にて【2回攻撃】で手数を増やした斬激を

敵の攻撃はオーラシールドによる防御を
「私は今、幸福ですよ。貴女のような愛らしい方に傷つけていただけるのですから、ふふ!」
【激痛耐性】なド変態

「貴女の思う幸福と、私の願う幸福は別物です…!」
UC【青薔薇吐息】にて刀を鋭い花弁に変え、
敵や霊を攻撃
「貴女の思う幸福な世界へお還りください…!」

※アドリブ歓迎!


ヘザー・デストリュクシオン
幸せ?見せてほしいの。わたしの幸せは戦場で壊しあって死ぬことよ!
楽しく壊しあおう?

猫の嗅覚と野生の勘で竜の血の匂いをたどって追跡するの。
見つけたら首元のリボンを解いて素早さを上げてものかげから奇襲、スライディングやダッシュ、ジャンプで素早く動いて攻撃、注意を引き付けて他の猟兵が攻撃しやすいようにするの。
ケガをしても気にせず動けなくなるまで壊しあうの。
「幸福な風景」は両親と妹と普通の家族のように仲よくしているところ。
一瞬動けなくなる。でももうみんないない。いたとしても、わたしたちは普通じゃなかった。どうしたって幸せになんかなれないの。だから動ける。
ほら、早くわたしを壊して幸せにしてよ、うそつき。



●動機はそれぞれ、目的は同じ
「さてと、始めようか」
 地図を片手に気合を入れるのは、有澤・頼(面影を探す者・f02198)。
「儀式は止める。そして、サムライエンパイアの危機を救うんだ」
「ふふ、誘われたら全力で乗る明智です」
 明智・珠稀(和吸血鬼、妖刀添え・f00992)も、誘っている様子の敵を空想し、やる気は十分。
「相手の情報を信じ向かおうじゃありませんか、ふふ!」
「幸せ? 見せてほしいの。わたしの幸せは戦場で壊しあって死ぬことよ!」
 楽しく壊しあおう? とヘザー・デストリュクシオン(白猫兎の破壊者・f16748)は屈託のない笑顔でまだ見ぬ敵に宣告する、

 一方、目の前に広がる樹海を見て、神城・瞬(清光の月・f06558)は大きくため息をついていた。
「大災害は防がないと……とはいえ、探索はまったく不得手です」
「戦闘は上手く立ち回れる自信があるんですが、探索はまったく苦手です!!」
 瞬の義妹の真宮・奏(絢爛の星・f03210)は、義兄の横で頭を抱えている。
「まあ、アタシら3人そろって探索は不得手な分、探索用の装備はしっかり用意してきているから」
 奏の母で瞬の義母でもある真宮・響(赫灼の炎・f00434)が他の猟兵に装備の入ったリュックを手に下げ、見せる。不得手な分、必要と思われる装備は用意してきたつもりだ。

 こうして6人になった猟兵の一団は、富士の樹海に踏み入った。

●富士の樹海外縁部を大捜索
 富士の樹海で儀式場の捜索を始める頼ら6人だったが、儀式場の捜索は困難を極めた。
 如何せん、樹海の複数の場所で同じような儀式が行われているため、グリモア猟兵が指示した儀式場を探すだけで一苦労なのだ。

 手始めに奏や瞬が霊力や魔力の探査を試みるが、他の儀式場のそれをも拾ってしまい、今回の目的地を特定するには至らない。
「樹海のあらゆる場所で乱れていますね」
「反応した場所が多すぎます……」
「血の匂いもあちらこちらからするの」
 ヘザーも小竜の血の匂いを辿ろうとするが、それもやはり他の儀式場で利用されている竜の血の匂いも拾ってしまい、確証を得るには至らない。
「この中では私の第六感も働きません……」
 第六感に頼って探そうとした珠稀は、そのノイズの多さに端正な顔をしかめる。この樹海は危険が多すぎる。

 儀式場を特定する決定打となったのは、頼が用意した地図と響の推理。
「儀式の場所は樹海と山の境目辺りにあるというから、樹海はそう深く分け入らなくて大丈夫だろう」
「それなら地図を見て絞り込もうか」
 富士の樹海周辺の地図を取り出した頼は、改めて現在の自分たちの居場所を確認。響が持っていたコンパスで方角を確かめながら、皆で樹海外縁部を目指す。
 外縁部に出た珠稀達は、外縁に沿うように移動しながら、再び第六感や匂い、霊力や魔力による探査を再開。頼は常に地図で現在地を確認し続け、響は儀式用具の引きずった跡や敵の足跡がないか重点的に探した。

 やがて、地道な捜索が実を結び、霊力や魔力が濃く反応した方角と竜の血の匂いが漂って来る方角が一致するようになる。
 その方角を重点的に捜索した結果、何らかの大きな物体を引き摺ったような跡を発見。慎重に跡を辿ると、ぽっかりと空いた洞窟の入り口に行きついた。
「私の勘が、この中だと囁いていますね」
「血の匂いが濃くなってるの」
 珠稀が洞窟の中に目をこらし、ヘザーが顔をしかめる。
「私が先に見てきますね」
 奏が蒼の戦乙女姿に変身して身体能力を強化し、エレメンタル・シールドを片手に洞窟内へ突入する寸前、珠稀の第六感に何かが引っかかる。
「!! 奏さん、お待ちを……!!」
 珠稀がすぐに警告も発するも間に合わない。突入した奏が目にしたのは、市松人形姿のオブリビオン……ではなく、刀を持った霊が奏目がけて刀を袈裟に振り下ろす光景だった。
「きゃあっ!!」
 防御態勢で突入したとはいえ、突然振り下ろされた不意の一撃は躱せず、奏は斬られた勢いで後方へと吹き飛ばされ、地面を転がった。

●しあわせなせかいへの誘い
「奏、大丈夫ですか?」
「いたたた……大丈夫です」
 瞬に身体を支えられ、起き上がる奏。傍らに落ちた奏のエレメンタル・シールドには、刀傷がくっきりと刻まれていた。斬られる寸前に咄嗟に掲げたらしく、奏自身は無傷だ。
「……しくじったね。待ち伏せされている可能性を考えておくべきだったよ」
 舌打ちひとつする響。ようやく縁姫が待ち伏せしている可能性に思い至ったのだ。

 グリモア猟兵はこう言っていた。「明らかに我々を誘っているように見える」と。つまり、縁姫は最初から儀式阻止のために誰かが来ることを察している。そして縁姫は、霊力や魔力の探査のために使用された誘導弾や衝撃波の魔力を感知したことで、邪魔者が訪れたことを確信していた。
 故に事前に縁姫に縁ある人物の霊を召喚し、刀を持った霊に侵入者の迎撃を命じ、待機させていたのだ。そこに奏が飛び込み、斬られる形となった。
 樹海は広大なため、積極的な捜索はどうしても必要となる。だが、積極的に捜索するなら、相手に気づかれる可能性も確り考え、対策を立てておく方が良かったのかもしれない。もし奏以外が無防備に突入していたら、一撃で戦闘不能になりかねない程の深手を負っていただろう。

「ほおら、やっぱりきた」
 光届かぬ洞窟の奥から、女の子の声が響く。
「あなたたちね。ぎしきをじゃましに来たのは」
 右手で小竜の首を掴み、左手に小刀を手にし、洞窟の奥からゆらりと姿を見せたのは、赤い着物を纏った市松人形風の女の子……『縁姫』。
「ねえ、あなたたちは、のぶながさまのもたらすすばらしいせかい、みたくないの?」
「のぶながさまのもたらす世界、というのはそんなに素敵なものなのでしょうか、ふふ」
 興味があるような雰囲気を醸し出しつつ、珠稀が縁姫に迫ろうとするが、縁姫はひらりと躱す。
「ええ、とおってもすてきよ」

 ――わたしたちにとっては、だけど

 縁姫の包帯に隠れた顔がにこり、と笑った気がする。
「……やっぱり、そうだよね」
 肩を竦めたのは頼。そもそもオブリビオンの語る「素晴らしい世界」がオブリビオン以外に幸福を齎すとは限らないのだ。
「御託なんてどうでもいいの、はやく壊し合おう?」
 待ちくたびれたかのようなヘザーの一言に、縁姫もうなずく
「そうね。あなたたちにいっぱいいっぱい、しあわせをみせてあげたいもの」

 ――そして、あなたたちをしあわせのおりにとじこめるの

 それが、縁姫の宣戦布告となった。

●家族の絆でまやかしに立ち向かう
 宣戦布告と同時に真っ先に動いたのはヘザー。首元のリボンを解くと風のように消え、次に現れた時には物陰から白猫の爪を閃かせ、時にはジャンプして上空から急所を狙い、縁姫を翻弄する。
 その隙に頼は背後に回り込み、珠稀は妖刀【閃天紫花】で真っ先に縁姫に斬りつけ、返す刀でさらに着物の裾を斬り裂いた。

 一方、響、奏、瞬は縁姫の正面に陣取っていた。
「ねえあなた、さっきはいたかったかしら? いたかったわよね?」
 滑るように奏の前に移動した縁姫は、あえて霊に斬られた奏を挑発し、揺さぶる。
「痛かったですよ!」
「それなら、いたみのしらないしあわせなせかいをみせてあげる」
 縁姫は彼女の思う奏の幸福を創造し、目の前で見せた。

 奏が見たのは、奏と瞬、そして響の3人が武器を捨て、地に伏した風景。
 ――戦い敗れ、死の安寧に囚われたそれぞれの姿。

 これが縁姫の考える幸せと言うのか。奏の顔が青ざめる。
「奏、惑わされるんじゃない!」
 すかさず響が一喝、のち赫灼のグロリアを高らかに歌い上げながら味方を鼓舞し始めた。
「!!」
 母に一喝され奏は正気を取り戻すが、おそらく奏が見た一瞬で響も瞬も同じ風景を見たのだろうか、2人とも若干顔は青ざめていたが、心が折れるほどではない。その間に縁姫は親類縁者の霊を多数召喚し、苦痛を遠ざける優しい手で己を守らせる。
「私は響母さんと奏を守るためなら何だってできますから」
 月読の紋が入った銀の鎧を着た騎士に変身し、二杖の威力を強化した瞬が、縁姫の周囲を飛び回りながら、動きを鈍らせるために誘導弾を縁姫と霊たちに立て続けに撃ち出す。縁姫が掴んでいた小竜が誘導弾に吹き飛ばされた隙に、水と風の魔力を纏ったブレイズセイバーを手にした奏が縁姫を守る霊を斬り裂き、次々と消滅させて行く。
「私も響母さんと瞬兄さんの2人がいる限り、挫けません!」
「アタシも奏と瞬の成長を見届けるのが生きがいだからね」
 ブレイズランスを片手に堂々と立ち回り、霊を屠る母の姿は、瞬と奏に、そして他の猟兵にも勇気を与えていた。少なくとも、瞬と奏が惑わされることはないだろう。

●しあわせなせかいを否定する
「うふふ、あなたにもしあわせ、みせてあげるわ」
 縁姫の前に回り込んだヘザーの目の前に広がったのは、ヘザーと両親と妹が普通の家族のように仲良くしている光景。
「あ……」
 それまで風のように動いていたヘザーの動きが刹那の間だけ凍りつくが、すぐに目の前の光景を打ち消すように首を振る。
「両親も妹も、みんなもういない」
 幸福と思われし光景を見せられても、それを現実にするにはピースが足りない。
「いたとしても、わたしたちは普通じゃなかった」
 ヘザーは家族から『酷い虐待を受けて育った』から、今も暴力でしか快楽を見出せない。
「どうしたって幸せになんかなれないの」
 他に快楽を得る術を見出せず幸せになれないのなら、今をこわして楽しむしかないじゃない?

 ――ねえ、誰か教えてよ
 ――戦闘以外に、暴力以外に楽しいこと、ってあるの?

 ヘザーの声なき叫びに、応える者はいない。縁姫ですら答えない。
「うそつき」
 縁姫の見せた幻覚を振り払ったヘザーの顔に浮かぶのは、狂気の笑み。
「ほら、はやくわたしを壊して幸せにしてよ!」

 こわして。
 コワシテ。
 わたしを……壊して!!

 ヘザーは喚きながら白猫の爪を振りかざし、自身が傷つくことも厭わずに縁姫を斬り裂き、追い詰める。
 ――その顔に愉悦を貼りつかせながら。

●考えられない「幸せな未来」
 背後からこっそり忍び寄った頼に対しても、縁姫は「幸せな光景」を見せようとする。
 縁姫の魔力を浴びた頼が、心の間隙を揺らがされ、止まる。

 しかし、頼の目に見えるのは……暗闇。

 ――何も見えない
 ――幸せな未来予想図なんて、持っていないから。

「おかしいわ、まっくら」
 首を傾げる縁姫を前に、頼は首の一振りで幻覚を振り切り冷たく言い放つ。
「幸せな未来予想図ね……そんなこと考えたことはないよ」
 頼が思い出すは実験体だった過去。親友2人と実験施設を脱走したものの、追っ手に追いつかれ、親友のひとりが頼たちを庇って命を落としたこと。それはずっと頼の心に楔として刺さり、疵として残っている。

 ――だから、幸せな未来は考えたことがないんだ。

「あなたもひとつやふたつ、ほしいものはあるでしょう?」
「言ったでしょ? 私は幸せな未来なんて考えたことないって」
 幸せな光景を見せられず戸惑う縁姫に、頼は手枷と猿轡、拘束ロープを立て続けに放ち、縁姫の見せる暗闇の未来を完全に断ち切った。間髪入れずに友斬に呪詛を込め、縁姫の腕を斬る。
「ああああああっ!!」
 幸せを否定するような呪詛に侵された縁姫の悲鳴が、洞窟内に木霊した。

●それぞれの幸福を求めて
「みんな、しあわせはほしくないのね」
「ふふふ」
 理解できぬとばかりに首を傾げる縁姫に笑いかけるのは……珠稀。
「私は今、幸福ですよ?」
「え?」
「なぜなら、貴女のような愛らしい方に傷つけていただけるのですから、ふふ!」
 縁姫が見れば、珠稀はオーラシールドで身を護りつつ、縁姫を守る刀持つ霊に何度も斬られている。ド変態である故か、痛みへの耐性は本物だ。
「それがあなたのしあわせなのかしら」
「貴女にヒトの幸福はわからないでしょう」
「そうかしら?」
 理解できぬ、とばかりに首を傾げる縁姫に、珠稀は優雅に笑いながら鋭く突き付ける。
「何故なら、貴女の思う幸福と、私の願う幸福は別物ですから……!」

 オブリビオンの願う幸福と、猟兵が願う幸福。
 それは双方が不倶戴天の敵である限り、交わることはないのかもしれない。

●終焉
「さて、そろそろ……」
「アンタを倒して儀式を止めるよ!」
 珠稀の言の葉を引き取るかのような響の一喝と共に、ブレイズランスが縁姫の腕を貫き。
「まやかしの幸せではなく、本当の幸せを!」
 奏のブレイズセイバーが着物を斬り裂き。
「響母さんと奏の幸せのためにも」
 瞬の誘導弾が両脚を撃ち抜き。
(「ずっと親友のことを背負っていくためにも」)
 頼が無言のまま呪詛を込めた友斬で胴を袈裟に斬り。
「うそつきさん、バイバイ」
 ヘザーの白猫の爪が瞬く間に髪を断ち切り、そして。
「今度は敵ではなく、人同士として会いたいですね、ふふ」
 珠稀の刀が変換された青薔薇の花びらの鋭い花弁が、縁姫を守る霊を消滅させるとともに縁姫自身をも斬り裂き、その身を地に伏せさせた。

「こんかいはざんねん。だけど、またよみがえるから」
 不吉な一言を残し、縁姫は消滅する。
 だがどこかで縁が繋がる限り、いつかまたこの世界で見えることになるのかもしれない。

 その後、ヘザーたち全員で洞窟の最奥にあった儀式道具一式を叩き壊し、無用の長物へと変化させる。
 かくして猟兵たちは、富士山噴火の儀式のひとつを阻止することに成功した。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年08月08日
宿敵 『行く末の予祝者『縁姫』』 を撃破!


挿絵イラスト