エンパイアウォー①~災禍をそそぐ者
――往かねばならぬ。
林を進む、山を進む。舞い上がる土埃の中、彼らは前へと進み往く。
当代の将軍より命を受け、激励と共に送り出された此の身。来たる安寧を掴む為とあらば、我が身など捧げるに惜しくはない。
往かねばならぬ、往かねばならぬ。
彼らの進み往く先、十丈ほど離れた場所に『石』が墜ちる。粉塵が巻き起こり、焼けるような熱風が顔を打つ。
焼け焦げた臭いが鼻をつき、乾いた空気が彼らの瞳を傷めつける。喉元にせり上がるものを、必死に堪えながら。震える足を動かして、彼らは進む。
今は未だ、木々の中であるが故に。上空で嗤う災厄も、我らへの狙いが定め切れていないのだろう――嗚呼、けれども。
もうすぐ、山を抜ける。開けた地が、広がった空が。我らの道先には控えている。
いかねばならぬ、いかねばならぬ。
喩え、あの空より迫り来る災いに身を晒そうとも。
我らは、足を止めてはならぬのだ。
●災禍をそそぐ者
「かの島国にて『織田信長』なる者の動きが感知された。皆、多かれ少なかれ聞き及んでいるだろう」
鳴守・猛(雷仔・f15310)は、集まった猟兵達へと声を掛けながら地図を広げた。
其れには、将軍より示された進軍の道筋が簡易ながらに記載されている。
「当代の将軍は、この『織田信長』の根城となる島原へ進軍の令を出した。信長の防護に対抗出来得る者たちを向かわせるのだと、聞いている。彼らが無事に辿りつけば勝ちの目も見えてくるのだろう……が、それは敵軍も承知の様だ」
武骨な指が示したのは、人里から少し離れた山間の地。将軍の膝元である『武蔵』の地から、さほど遠くない場所だ。
「此の地にて『風魔小太郎』が妨害を仕掛けてくるとの予知があった。あちらも、早いうちに此方の『勝ち』を摘み取ってしまえとの腹積もりなのだろう」
彼の者の姿を、そして此度に猛威を奮う術を予知にて垣間見た者は多い。
『隕石落とし』なる風魔の忍法。配下の災厄達を隕石へと変化させ、人々へと叩きつける壮大な力業。最早災害とも言うべきその威力は、数多の命を瞬く間に摘み取っていくだろう。
「進軍する彼らに、その隕石を回避する術はない。だが、彼らはその災厄を前にしても止まらない――止まれない、のだろう」
大きすぎる畏れが、彼らの心には満ちていた。同時に、我が責務を果たさんとする義の心も。
成すべき使命と、強大な恐怖との板挟み。磨耗した精神が正常な思考を食い潰し、彼らは強迫観念に捕らわれていた。
即ち、《進み続けるべきだ》と。
そのような特攻とも言えぬ捨て身の進軍を、敵が見逃す筈もない。結果は目に見えている――否、視えていた。
雷鳴を写す金の瞳が、僅かに細められる。とつとつと予知を語る、その声は、低い。
「降り注ぐ禍つ星に、人々は焼かれ、吹き飛ばされ、押し潰される。……被害は、拡がるばかりだ」
凄惨な光景であった。飛来する星々、燃え盛る地上、飛び散る肉の欠片。彼らの助けに応える者は無く、絶えず悲痛な声が響き渡っていた。――嗚呼、なればこそ。
此度は、我ら猟兵の出番に相違ない。
「隕石を撃ち落とす、砕く、軌道をずらす。護りに自信のあるものは、前に出て盾となるのも良いだろう。……もしくは、歩みを止めぬ彼らを押し止めるも、手ではあるやもしれん」
やり方は各々に任せよう、と猛は地図を仕舞いながら口にする。
隕石の迎撃に成功すれば、敵は変化を解かれて魑魅魍魎の姿を取り戻すだろう。そうなれば、いつも通りの戦である。
「準備の出来た者から送り届けよう――どうか、頼む」
そうして彼らは、グリモアの光に包まれて。
――凶星降り注ぐ戦場へと、降り立った。
瀬ノ尾
こんにちは、瀬ノ尾(せのお)と申します。
お目通し有難うございます。
此度はサムライエンパイアでの戦争、その一頁です。
=============================
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
=============================
●集団戦『暴走する式』
術者の制御を離れた式の成れの果て、魑魅魍魎となった呪式の群れです。
10体前後の式が風魔忍法によって隕石の弾丸となり、進軍する人々へ向けて降り注いでいます。
目標となる彼らが山を進み、狙いを付け難かった為に、幸いにもまだ隕石直撃の被害は出ていません。
しかし、彼らは今にも山を抜けようとしています。『隕石落とし』は容赦なく彼らへと向けられるでしょう。
隕石への対処の仕方、ならびに被害減少の為の手段は皆様にお任せします。
隕石の対応後は、変化を解いた敵との戦闘に移行します。
また、グループ参加の際は【お相手のID】もしくは【グループ名】をご記入下さいませ。
それでは、どうぞ宜しくお願いいたします。
第1章 集団戦
『暴走する式』
|
POW : 魔弾呪式
【幾つもの呪力弾】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD : 分裂呪式
レベル×1体の、【一つ目の中】に1と刻印された戦闘用【自身と同じ姿の暴力する式】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
WIZ : 憑依呪式
無機物と合体し、自身の身長の2倍のロボに変形する。特に【武器や殺傷力のあるもの】と合体した時に最大の効果を発揮する。
イラスト:灰色月夜
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
冴島・類
往かねば…ならぬ、ね
惜しいよ、僕は君ら1人ずつ
全部の命が
だけど
己よりと願うものがあるから
懸けるのなら
止めさせない
君らの命を、此処でなど
到着次第
進軍する隊列の前へ
少し、待って
樹々の影が途切れれば
狙いは真っ直ぐ君達だろう
ただ足を止めろってわけじゃない
無策に駆けず
いくなら猟兵の側を
破片や攻撃に巻き込まれないよう動いてくれ
先へ行く為に
落ちる星は
此方が
天見上げ落ちてくる軌道を見切り
その先で庇うように
全力の破魔の力込めた薙ぎ払いの衝撃で削り
削りきれぬ分は力抜き立ち
糸車で受け返す
分裂した敵には瓜江と連携し
フェイント交え引きつけ
合体を防ぎ割入り
数字小さいものから狙い斬る
死なせて堪るか
何度割れても
受けてみせる
ハロルド・セネット
この地のために、彼らのために、隕石を除こう
空より降る隕石へ向けてユーベルコードを撃つ
身から溢れ出る灼熱の炎をぶつけ隕石を充分に熱したのち、冷気の炎で包み急速に冷やす
脆くなるだろう隕石を力一杯砕く
従えている死霊に剣を持たせているから、それで攻撃させる
もし破片が飛散したなら炎で宙を撫でるように払い、燃やす
変化が解け現れた式へユーベルコードで攻撃
数がいるようなので広範囲に冷たい火を燃焼させ凍らせ足止めし、そこを死霊に斬ってもらおう
この世界に縁はないが、手助けさせてもらうよ
ハロルドは死者を操るけれど、死者が作られるのは好きじゃないんだ
(アドリブ、絡み、OK)
星が降る、災が降る。
空より来たる凶星の熱を肌に受けながら、冴島・類(公孫樹・f13398)はその瞳に人々の姿を捉えていた。足縺れながらも止まることなく、何かに追われるように駆け続ける彼等。使命に駆られた力無き一団の、その先頭の影を見る。
「往かねば……ならぬ、ね」
ぽつりと。落とされた声に、色はなく。
表情を削げ落とした鶸萌黄の瞳は、ただ静かに駆け往く人々を見つめていた。
惜しいと、思う。彼ら一人ずつ、全部の命が。
今にも消えゆかんとする其れ等を目前にしながら、むざむざ取り零す事を類は良しとしなかった。
ましてや、人の型を得た“今”であれば尚の事。手を伸ばす事すら出来ずにいた嘗てを想起して、彼は十指に結んだ繋ぎの赤糸をくっと握り締める。繋がった糸の先、背にした箱の中の“半身”が、カタリと小さな音を立てていた。
「このままでは、人死にが出てしまうのだろうね」
カラン、と。ランタンの揺れる音を響かせながら降り立ったのは、ハロルド・セネット(閑の灯火・f20446)だった。綺麗に整えた薄金の髪を揺らして、愛らしい形をした少年が古びた洋灯を手に立っている。
「ハロルドは死者を操るけれど、死者が作られるのは好きじゃないんだ」
言葉が音となって紡がれる度に、ランタンに座する“炎”がゆらゆらと揺らめいて。己を持った少年霊を操り、ハロルドは前に立つ類と並ぶように歩み出る。
星降る空の下。
徒人とは在り方を大きく違える二つの影が、山を駆ける人々へと足先を向けていた。
「――この世界に、縁はないが」
初めて訪れる日が、いくさの最中とは。揶揄の言葉を溢す炎を、少年霊は表情を変えぬまま携えている。
嗚呼、とんだ縁となってしまった――けれども。其れは、死に往く彼らを見捨てる理由にはなるまいて。
「まだ間に合うと言うならば。ハロルドも、手助けさせてもらうよ」
この地のために、彼らのために。落つる厄災を、除こうではないか。
◆
往かねばならぬ。往かねばならぬ。
彼等は託された。将軍の命を、未来に待つ平穏を。故郷に生きる、かけがえのない人々を守る為にも、彼等は立ち止まる事を許されない。何よりも彼等自身の心が、赦さない。
彼等は山を駆ける。降り注ぐ凶星の熱を感じて、迫る死の恐怖に精神を蝕まれながら。それしか知らぬ人形の様に、ただ足を動かしている。
駆けて、駆けて、駆けて――。
「――少し、待って」
山往く彼等の、其の前に。進路を塞ぐ様にして、黄朽葉の色を纏う影が立っていた。
若き少年の様な姿をして、けれどその見目に似つかわしくなく、大人びた印象を伴う青年であった。
青年の穏やかな声が、張り詰めた彼等の耳にすっと入り込んでくる。
「……君、は」
彼等の中の一人、先頭の者が声を掛ける。青年の持つ、浮世離れした雰囲気に呑まれてだろうか。気付けば、彼等の足は止まっていた。
大きな箱を背にして佇む青年、類は懐より一枚の符を取り出した。幕府より賜わった『天下自在符』――己が、彼等の味方であると示すに十分なものだ。
幾人かが短く息を呑む。同時に、僅かばかりの安堵の色が彼等の瞳に浮き出ていた。将軍と同じ様に力持つ『猟兵』が、此の場に来てくれるとは。
話を聞く理性を取り戻した彼等の様子を見て、類は軽く息を吐く。符を仕舞いながら、彼は視線を空へと移していた。生い茂る樹々の向こう、今にも次の星を降らさんとしている、あの災厄在りし空へ。
「この樹々の影が途切れれば、狙いは真っ直ぐ君達だろう。……このままでは、あの星々に穿たれてしまう」
それはあなた方も分かっている事だろう、と。今ばかりは感情を映さぬ類の瞳が、生き急ぐ彼等へと再び向けられる。凪いだ鶸萌黄の眼差しに晒されて、彼等はこくりと喉を鳴らした。
遠からぬ未来を指摘され、理解する。否、理解はとうにしていた。けれども。
「……だが、我々は先に進まなければならない。あの地へ、島原に在る『魔空安土城』へ行く為に」
その為には、この道を行かねばならぬのだと彼等は言う。迂回路を探す時間もなく、上空に在る敵の目を掻い潜る策もなく。かと言って足を止めてしまえば、降り注ぐ星にいつか焼き尽くされてしまうだろう。
それはならない。送り出してくれた人々の期待に酬いる為にも、立ち止まる事は出来ないのだ。
焦りを滲ませた男の声を聞きながら、類は静かに瞳を閉じる。
営みの為にと、人の為にと歩みを止めぬ者達。
己よりと願うものがあるから、駆けるのだと――懸けるのだと。
嗚呼、ならば。尚更に、其れを止めさせる訳にはいかない。
彼等の鼓動を、愛しき命を、此処でなど。
再び開く、その瞳には決意が灯る。類が示すべきは、道だ。
彼等が生き残り、その使命を果たす為の――道標を。
「ただ足を止めろってわけじゃない。無策に駆けず、いくなら僕たち猟兵の側を」
常よりも固い声色で紡がれる言葉は、しかし惑う人々の心へすとんと入り込んでくる。
赤糸を結んだ指を、類は樹々の先へと向ける。あの開けた地より始まる地獄を、我ら猟兵が切り開いて往こうと。必ず、守り切るからと。
「破片や攻撃に巻き込まれないよう、動いてくれ。皆で、先へ行く為に」
カタリと、類が背にした箱から音が鳴る。赤糸で繋がった『瓜江』を感じながら、類は天上に浮かぶ星々へと対峙する。もう、この眼前で焼けゆく縁を見ぬ為にも――。
「――落ちる星は、此方が」
◆
類が人々へ束の間の静止を促している間。ハロルドは、先行して星々の下へと駆けていた。
一人戦場に現れた幼な子の姿を、敵はどうやら見逃さずにいてくれたらしい。
自らに向けられたであろう隕石を見とめて、ハロルドはゆらりとその身を揺らす。彼の動きに合わせて、古びたランタンが微かに軋んだ音を立てていた。
「ほら、ちゃんとこちらへ落ちてきたよ。……それでは、一つでも多く減らしておこうか」
少年霊がランタンの口を開け、空へ向ける様にして其れを掲げる。ゴウ、と音立てて迫る凶星に、しかし臆する素振りも見せず。ハロルドは、己自身を燃やす事に注力する。
くっと、炎が力を込めるかのように一度小さく纏まって――半瞬の後、ぽつぽつと彼等の周りに炎が顕れる。
赤と青、対局の熱を持つ二色の炎。四海充ち満ちる地獄の極炎を。
「降り注ぐ式とやらは、どちらの炎がお好みかな?」
まずは、赤。全てを融かす灼熱の炎、身から溢れ出る其れを――放つ。
ゆうに百を超える灼熱の火の玉たちが、振り落ちる星へと正面から向けられる。
炎が、迫り来る隕石を覆う様に包み込む。燃える星はその大きさを増していき、見目にはより強大な脅威と化したかの様にも感じられた。
嗚呼、だが。地獄の炎は、落つる星をも焼き尽くすだろう。
「――さて、準備はいいね」
次いで放たれる絶氷の炎。先のそれとは色を変える極炎を、ハロルドは燃え盛る流星へ差し向ける。極限にまで熱された星は急速に冷やされて――ピシリと、その表面が罅割れていく。
その割れを認めるや否や、ハロルドはすぐ様に少年霊へと指示を下す。剣を手にした華奢な少年が、大きな星を前にその身を晒していた。
剣先で突くように、構える。自らの限界まで熱され、冷やされて、脆くなったその石の境目を――穿つ。
ピシリ、ピシリと。剣の先から罅が蜘蛛の巣のように広がって――。
「……ああ、上出来だ」
砕け、散る。響く轟音と、飛び荒ぶ破片の中。少年霊は顔色一つ変えずにその場に立っていた。飛散する破片が人の身へと至らぬよう、ハロルドは炎を宙で踊らせて石の欠片を呑み込んでいく。既に脆くなっていた破片は、炎に撫でられて見る見る間に炭となっていった。
『――――!!』
石の外殻を壊されて、炎の中から黒い靄が顕れる。
隕石の核とされていた呪いの式、魑魅魍魎の一つ目がハロルドの前に姿を現していた。
ぎょろりと、一つ目がハロルドの姿を捉える。その見目よりも、放たれる異様な呪力の圧に身を撫でられて、ハロルドはふるりと炎を揺らしていた。
変化を解かれた式は、敵たる猟兵を屠るべく体を震わせる。
瞬きの間に小さく、別れていくそれは分裂の呪式だ。
「数を増やすか、でたれば――、おや」
再び炎を放とうとするハロルドの頭上を、影が覆う。
追撃の意図で放たれた二発目の星。目前の式を相手取りながらの対処はさすがに骨が折れそうだと、ハロルドは嘆息零しながらも算段を付けようと、して。
「――此方は、お任せを」
穏やかな声が、響く。視線だけを滑らせれば、軍の人々を連れた類の姿がそこにあった。
類は、天を見上げて星の軌道を見定める。まっすぐに落ちてくる凶星の、その狙いを予測する。
一歩、踏み出す。背後に控えた人々を庇うように、前へ。
握った黒白の柄。清廉な輝きを持つ白銀の刃を、揮う。
己が持ち得る破魔の力、その全てを籠めた一閃を。
其は只の一刀に非ず。彼の短刀は風を呼び、迫り来る凶星へ衝撃波となって放たれる。
しかし、それでも。落ち続ける星の、その威力を殺しきる事は敵わずに。
差し迫る星が、類を、人々を押し潰さんと、降り注いで――。
「――廻り、お還り」
力を、抜く。接触の、その間際。その身を押し潰そうとする圧の最中に、短刀の柄から手を離す類の姿を、彼等は垣間見た。
強大な星を前にして、諦めを覚えたのだろうか。せめてもと身を呈して、我らを守ろうとしたのだろうか――いいや。いいや、そうではない。
彼等は見る。あの星が類に触れたと、認識したその瞬間に。彼がずっと背にしていた箱から、勢い良く飛び出した影がある。
其れは、濡羽の髪を靡かせて。半身たる宿神が受けた衝撃を、そのまま返すように圧を放つ。
刹那。同等の力をぶつけられた凶星がひとときの間、静止して――轟音と共に、砕けていった。
箱より現れた絡繰人形は、地に落ちようとしていた『枯れ尾花』を寸での所で掴み取り。そのまま、ふらり蹌踉めく類を支えるようにして寄り添っていった。
『瓜江』から短刀を受け取り、類はふらついた身体に力を入れる。受けた衝撃の反動はあれど、此処で倒れるわけにはいかない。
砕けた隕石の中から、その核であった式が正体を現していく。大きな一つ目は小さく分裂していき、その目に数字の書かれた多数の式へ姿を変えていく。
分裂した式たちが、彼等を襲おうと一斉に飛び掛かる。類はともかく、その後ろに控えるのは力を持たぬ徒人たちだ。なんとか彼等を庇おうと、類は赤糸を手繰って『瓜江』を動かし――。
「それ、しばし凍ってもらおう」
――吹き荒れる、凍火。広範囲に放たれた冷たい炎は、ハロルドのものだ。
冷ややかな絶氷の火が、分裂した式たちを瞬く間に飲み込んでいく。全てを凍らす事は出来ずとも、しばしの足止めが出来れば――ほら、彼が斬ってくれるだろう。
ハロルドの操る少年霊が、剣を振って凍った式たちを屠っていく。体勢を立て直した類もまた、其れに倣うようにして『瓜江』と共に式へ帳を下ろしていた。
凍りの炎より逃れた個体を見逃さず、再び合体しようとする素振りを見せたものから斬り捨てていく。
「ほら、ハロルドたちは大丈夫だ。あなた方は先に進むといい」
散らばった式たちを処理しながら、ハロルドは山より出てきたばかりの彼等へ声を掛ける。これより先も、星は落ちてくるだろうが――此方にも、仲間はいる。後より来たる猟兵たちが、彼等の道行きを守ってくれるだろう。
しばし停止していた彼等は、掛けられた声に弾かれた様にして足を動かし始めた。
一見して華奢な少年の見目であるハロルドが奮闘する姿に、勇気付けられるものもいただろう。足早な彼等の瞳からは、先の様な自棄が鳴りを潜めている。
走り往く彼等から死の影が薄まるのを確認して、ハロルドは再び炎を燃やし始めていた。
せっかく出来た縁だ。元より人に友好的であるハロルドが、彼等を守るためにと此の身を燃やすに些かの躊躇いもない。
遠くなる彼等の姿を認めてから、類は視線を再び空に投げかけた。天に座する災厄は、彼等を屠るべく未だ凶星を備えているだろう。
「――死なせて、堪るか」
何度割れても、受けてみせる。
かつて祀られるのみであった鏡は、その為の姿≪ちから≫を既に得ているのだから。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
霧島・クロト
――さぁ、ド派手な野球の時間と行こうじゃねェの
【高速詠唱】で【七天の氷製】。指定武器は『凍滅の顎』。
向こうが数なら物量弾幕で押し返すって話だ。
【視力】【暗視】辺り使用して攻撃対象(隕石群)を確認。
全銃口に氷の【属性攻撃】【マヒ攻撃】【鎧砕き】【呪殺弾】を込めた
【全力魔法】――氷の魔弾による全力の弾幕で迎撃してやるよ。
その後恐らく式が出現するだろうから、
魔弾の構成内容は変えずに、【フェイント】【2回攻撃】を活かしながら集団をなるべく素早く狩り取る方向で行くかァ。
防御面は動きを【見切り】ながら【オーラ防御】辺りでいなす感じで。
「なァに、隕石だっても空中で凍らされちゃ冷えるだろ?」
※アドリブ・連携可
伊美砂・アクアノート
【POW 羅漢銭・無影撃】
おいおい、勇気と蛮勇は違うぜ?
ま、オレも他人に説教できるほど利口じゃ無いが…
―――伏せな! 流れ弾や、飛び散った破片までは面倒見れねェぞ!
【早業18、投擲10、スナイパー10、2回攻撃10】
全身に隠し持ったコインを、指先で弾いて撃ち出す
・・・いやはや、拙者も無茶だとは思うのでゴザルが
ニンゲン、無理を通さねばならぬ時があるのである
―――某の射撃半径は40mほど 其れ程に長くは御座らん
他に猟兵が居るようなら、撃ち漏らしの隕石を狙って逸らす
『暴走する式』については、集団戦を考慮してコイン投げ継続
接近されたら手持ち武器で応戦
・・・気負うなよ諸君、みんな生きて帰ろうじゃないのさ
花盛・乙女
隕石落としとは豪快な名前だが、その実は大筒の乱れ撃ちのようなものか。
いいだろう。
エンパイアの危機に立たねば刀が廃る。
花盛乙女、推して参る。
攻撃は最大の防御、という言葉があったな。
此度の戦いはそれを活かそう。
「怪力」「ジャンプ」「カウンター」を用いて落ちてくる隕石に向かう。
【黒椿】と【乙女】の二振りでもってその隕石を断つ。
岩石ならば無意味だが、弾が式なら滅べば煙と消えよう。
斬り、消える前に敵を足場とし次の標的へ「ジャンプ」。
私の視線は言わば死線。
間合い関係なく視界に入る敵を十把一絡げに切り捨てる。
これが【鬼吹雪】、遠を無に帰す鬼の吹雪だ。
この羅刹女の元へ落ちた不運を呪うがいい!
――星が、降ってくる。
天上に嗤う厄災が、人々を潰さんと狙い定めている。
「『隕石落とし』とは豪快な名前だが、その実は大筒の乱れ撃ちのようなものか」
カチャリと、どどめ色の鞘から刃を抜きながら花盛・乙女(羅刹女・f00399)は空を仰ぎ見ていた。
頭上に控える星々は、今にも降り注がんと圧を放ちながら燃え盛っている。
「ははっ、随分とデケェ弾もあったもんだなァ」
隣に立つ霧島・クロト(機巧魔術の凍滅機人・f02330)もまた、バイザー越しに天上に浮かぶ凶星を見る。スマートな黒のジャケットを纏い、手には得物である大振りの拳銃を握り締めて。
場に到着してすぐに、尾を引いて落ち行く流星を視認した。軌道を見るに、おそらく既に山を抜けた一団を狙って放たれたものだろう。それでも敵が攻撃を止める気配を見せぬということは、軍の者達も未だ無事であるらしい。
ならば、自分たちの為すべきは一つである。
一人でも多くを救い、次へと送り届ける為に。
「――さぁ、ド派手な野球の時間と行こうじゃねェの」
ひやりとした冷気が、クロトの手にした銃口から漏れ出していく。
銃身に宿る精霊の力、自身の魔力と馴染みの良い氷の属性を、あの燃え盛る星を穿つ為に活性化させていく。
「いいだろう、エンパイアの危機に立たねば刀が廃る」
相棒である悪刀の切っ先を、空へと向けながら。乙女は鋭い眼差しで星々を見据えていた。
向かいから吹き荒れる不吉な風を受けて、桜の小袖がはためいている。
刀を、構える。チリンと、鞘に付けられた鈴が風に揺られて軽やかな音を鳴らしていた。
「――花盛乙女、推して参る」
◆
同刻、道半ばにて。一目散に駆け往く集団の前に、小綺麗な身なりの女が姿を現していた。
「――おいおい、勇気と蛮勇は違うぜ?」
両サイドに結ばれた赤いリボンを揺らして、伊美砂・アクアノート(さいはての水香・f00329)が彼等を呼び止める。その足取りと同じく軽快に掛けられた声色に、道往く彼等もまた瞬時に理解した。この女人もまた、味方≪猟兵≫であると。
先に彼等を導いた者達によって、その恐慌は僅かながらに治った様であったが――それでも、焦る気持ちを抑えきれはしなかったのだろう。早くも疲弊の色を滲ませる彼等の様子に、やれやれとアクアノートは肩をすくめて見せる。
こうも降り掛かり続ける災厄を前にしては仕方ないか……と、密やかに嘆息を零しながら。アクアノートは、頭上の星々を警戒しながらも言葉を続けていく。
「ま、オレも他人に説教できるほど利口じゃ無いが……」
言い掛けた、刹那。
藍の瞳に、星が映る。尾を引く流星群は、間違いなく“此方”を目掛けて落ちてきている。
ひっと。思わず足を止めた誰かが、息を呑んでいた。
すぐ様に女が取り出す得物は、きらりと輝く複数のコイン。
陽の光を受けて煌めく其れを、アクアノートは瞬く間に宙に浮かしていく。
「――伏せな! 流れ弾や、飛び散った破片までは面倒見れねェぞ!」
声と共に放たれる金の弾丸。果たして何処に隠し持っていたのかと思う程のコインを、アクアノートは指先で弾いて撃ち出していく。
――羅漢銭・無影撃。
普段から慣れ親しんでいるのだろう、コインを扱う彼女の手捌きは目にも止まらぬ程の早業で。ただ指から射出されている様にしか見えぬ金の弾は、遥か空より降り落ちる凶星へと真っ直ぐに飛んでいくでは無いか。
とは言え、アクアノートの射撃はその精度こそあれども、一つ一つが小さな弾である為に威力は然程高くは無い。降り落ちる岩の外殻を傷つけ、軌道を逸らすのが精一杯といったところだろうか。
「……いやはや、拙者も無茶だと思うのでゴザルが」
汗が、滲む。陽に当たらぬが故の透き通る様な肌の上を、一筋の水が流れていった。
それでも、彼女は金貨を撃ち続ける。己の射程距離は40mほど、せめてその範囲に入った物を逃さぬ様に。少しでも、前へ往かんとする彼等から遠ざける様に。
「ニンゲン、無理を通さねばならぬ時があるのである」
落ちる、燃え盛るあの厄災が。
カン、とブーツの踵を鳴らして。アクアノートは進軍する人々の前へ立つ。指先の動きは止めぬまま、ただひたすらに星を撃ち続けながら。
威力を殺せ、勢いを殺せ。少しずつでも、僅かながらでも。そうすれば――ほら。
「――我が二振りにて、斬る!」
――勝ちの目が、必ず見えてくる。
空に靡く一結びの黒髪。禍々しい片角を生やした女が、落ち来る星へと翔けている。
飛翔と見紛う跳躍をもって、乙女は迫り来る隕石へと突撃する。
ぐっと握り締めるは、赤黒い気を放つ『黒椿』。そして、自らと同じ名を冠する小太刀の『乙女』。左右に構えた其れを、接敵の間際に――振り抜く。
其れは、アクアノートの金弾が撃ち抜いた外郭の割れ目へと入り込み。強大に思えた凶つ星が、その二振りによって真っ二つに両断されていた。
「追撃するぜ、避けろよ!」
続いて響く声は、クロトのもの。二つに割れた隕石へ、そして其れを追う様にして放たれている流星群へ狙いを定める。氷を司る彼の魔術回路が、内に巡る魔力に反応を示していた。
標的を見据えたままに、得物を掲げる。サイボーグであるこ此の身だからこそ扱える愛銃『凍滅の顎』。その銃口が、顎門を開いた獣が如き威圧を放って獲物へと向けられている。
「――北天に座す七天よ、我が許に冷たき加護の刃を授けよ」
低く、紡がれた詠唱の言葉。猟兵として目醒めた故に得た力の一つ。氷の機械魔術によって己の獲物を増やす術だ。
――顕現する。一つ、二つ、十、二十……四十を超える、氷司る拳銃が。
星降らせるあの厄災が、数で押してくると言うのなら。此方もまた、物量弾幕で押し返してしまえばいい。念力によって宙に浮く大量の得物、その全ての銃口が星々へと向けられる。
複数の武器、複数の獲物。なれども、クロトの演算デバイスをもってすれば其れらを同時処理する事も難しくは無い。
「攻撃対象、確認――放て!」
発砲、轟音。夥しい数の弾丸が、一斉に放たれる。
氷の魔力、足止めの力、必ず屠ると言う呪い。鎧をも砕く鋭い弾丸に、其れら全てを乗せて。
クロトの全力の魔力を籠めた氷の魔弾が、燃えゆく星々へと放たれていく。
遥か空より降り落ちる凶星は、なるほど恐ろしい威力なのであろう。くわえて、あの隕石は着弾と共に爆発する性質を持つのだと言う――で、あるならば。
「なァに。隕石だっても、空中で凍らされちゃ冷えるだろ?」
落ちる前に、穿つ。
氷の魔弾をもってすれば、その炎も、爆発も、防ぎきれるだろうと。
放たれた弾丸に、追従する金の影。アクアノートもまた、息を整えて直して再び射撃姿勢へと移行していた。
空中で凍る星を、撃つ。ひとたび凍ったが故に脆さを増したその隕石の中央を、鋭い弾道を描く金のコインが撃ち抜いていく。
「ただの射撃技術、されども侮る事なかれ。彼等を護る狭量くらいは、持ち得ている心積りで御座る」
二種の雨霰。逆向きに降る弾丸の豪雨を軽やかに避けながら、乙女は空を翔けていた。
一つを斬る。二つを斬る。斬り捨てた其れらを足場として、また新たな獲物目掛けて跳躍する。息もつかぬ勢いで刀を揮う羅刹の女は、攻めの姿勢を崩さぬままに翔けている。
古来より紡がれる「攻撃は最大の防御」との言葉に倣うように、乙女は刀を揮い続ける。何せ、此度は人々を護る戦いである――其れ故に。
この刃で、斬れるだけを斬り捨てる。先を往かんとする彼等の活路を、斬り開く為に。
やがて、落ちる星の外殻その全てが切り払われて。中より出でるは、おどろおどろしい雰囲気を放つ一つ目の式。既に術者の手を離れ、無差別に呪いを放出するだけとなった物の怪だ。
「――姿を現したか、魑魅魍魎の類ども」
乙女の赤い瞳が、其れ等の姿を捉える。
構え直す『黒椿』。柄握る手に、ぐっと力を込めて。乙女は靄のような式の前へと躍り出る。
彼女の視線は、言わば死線。視界に入る敵あらば、十把一絡げに切り捨てて見せよう。
「この羅刹女の元へ落ちた不運を、呪うがいい!」
間合いは、既に意味を無さぬ。此は、遠を無に帰す鬼吹雪。
舞うように振るわれた一刀が、無数の剣閃となって――放たれる。
「『花盛流剣技』――鬼の吹雪で、乱れ散れ!」
空に靡く黒の髪、禍々しくも圧を放つ『黒椿』の一閃。
刹那、ひとときの静寂が場を支配する――束の間。両断された式の、断末魔が響くまで。
『――――!!!!』
ぱっくりと、目玉から裂けた魍魎たち。劈く高音は、彼等の痛みを訴えるものだろうか。
其れでも、災厄の端くれである故か。すぐには消滅とならぬその影を――弾の雨が、撃ち抜いていく。
弾に籠めた魔力はそのままに、本体である『凍滅の顎』を握ったクロトが一つ一つの式を狙い撃つ。弱った個体から、素早く、確実にその命を刈り取って。
『――――!!』
彼の弾に対抗するように、式の幾つかから放たれる魔弾の呪式。数多もの呪力弾が、クロトを、後ろに控える人々を狙い澄まして放たれていく。
「なかなかにしつけェなァ。その怨念ごと、凍らせてやるよ」
予測、回避。自らを狙う弾道を読みきって、クロトは最小限の動きで弾を避けていく。
カウンターとばかりに放たれた氷の魔弾が、式の一つを見事に穿ち。ぱきりぱきりも、その身を凍りつかせていた。
「まったく、最期まで気ィ抜けねェな!」
人々を狙う呪詛の弾丸、其れが彼等へ到達する間際に――アクアノートの放ったコインが、呪弾を相殺するように撃ち抜いた。
しばしの、平穏。次の星が降るまでに、彼等はまた進まねばならぬのだろう。
その重責からくる疲弊を思いながら、アクアノートは惑いながらも進軍を開始しようとしている彼等へ視線を向ける。
「……気負うなよ、諸君」
にっと、淑女らしからぬ笑みを浮かべて。見目にはたおやかな女人に見えるアクアノートは、統一性のない雰囲気を伴ったままに声を掛ける。
言葉こそ変われど、声音こそ変われど。彼女がそこに意図するものは、最初から変わらない。
「――みんなで生きて、帰ろうじゃないのさ」
はっと。誰かが、息を呑む。
やがて駆け往く彼等の背を見守りながら。
猟兵たちは未だ数を減らさぬ星々へ挑むべく得物を取っていった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
キトリ・フローエ
きらきら光る星、綺麗よね
でも、それは願いや祈りを運ぶもの
決してひとを傷つけるものであってはならないはずよ
それに、命を賭けて前に進もうとする人達をここで倒れさせたりしないわ
あたし達が絶対に、守ってみせる
ベル、あなたならきっと出来るはず
空を翔けながら手にした杖に祈りを込めてスナイパーで狙いを定め
一緒にいる皆と息を合わせて、全力籠めた空色の花嵐で範囲攻撃
偽物のお星さまの輝きなんてこの世界にはいらないの
目に見える星は全部撃ち落としてあげる
正体を表したらもう一度空色の花嵐で攻撃
二倍になったらあたしよりずっとずっと大きいでしょうけれど
それでも、もう星じゃないただのオブリビオンなんて
ちっとも怖くないんだから
ジュジュ・ブランロジエ
●*
メボンゴ=からくり人形名
隕石を相手にするのは流石に初めてだよ
でも私達ならできる!
行くよ、メボンゴ!
早業&二回攻撃で手数を増やし
風属性を付与し勢いを増した衝撃波(メボンゴから出る)をぶつけて隕石を砕くか軌道を逸らす
式戦
白薔薇舞刃(花弁に変えるのはメボンゴ以外の武器)を二回攻撃&光属性付与
逆効果なら付与中止
式からの攻撃はメボンゴによる武器受けで対処
その際、衝撃波を出して衝撃緩和
受け止めるより受け流したい
一応オーラ防御も重ねておく
呪詛には耐性あるけど保険にね
式が無機物と合体する時にボールペンを投擲して邪魔してみる
ペンと合体したらいいな
まあ、どんなロボになってもやることは変わらないけどね!
アンジュ・グリィ
●*
ほぅ……厄介事には首を突っ込んではいけないと
重々承知ではあるが、やはり厄介事にも首を突っ込みたくなるのよな。
あの隕石をどうにかすればよいのだろう?
はて、どうしたものか。
そうだ。爆発させればよい。
ちりりと燃える舌から炎を吹き出し狙い打ち。
一直線に向かってくるものだから狙いやすくてよい。
さあ、反らした隕石をどうしてくれよう。
おぞましい姿になってしまった。
ならば、もうやることは一つ。
お前も燃えてしまえ。いな、この口で燃やしてやろう。
お前は激しく、そっちのお前は緩やかに。
怨んでもいいさ。
お前の顔を覚える事が出来ないのだから。
星が、流れていく。
鮮やかな尾を引く流星の影を見とめて、キトリ・フローエ(星導・f02354)はその大きな瞳をぱちりと瞬かせた。
「きらきら光る、星。綺麗よね」
キトリの脳裏に蘇るのは、いつか見た星降る光景だ。
温かなカップを手に仰ぎ見た、空を流れるたくさんの星の雨。
深いくろの天幕が、幾つもの光の筋で埋め尽くされて。夢中で空を見上げていたあの夜を、きっと忘れることはないだろう。
星は、好きだ。
まだ己が何であるかも分からなかったハジマリの頃、空に輝くあの星に導かれるようにして旅をした。ひとりぼっちのキトリを、ずっと見守っていてくれた、光。
そして、もう一人ではない今だって。大切な人たちと過ごした楽しい夜も、あの星々はずっと瞬いてくれていたから。
「――、でも」
キトリは、星が好きだ。――だから、こそに。
「星は、願いや祈りを運ぶもの。決して、ひとを傷つけるものであってはならないはずよ」
流れ落ちるあの凶星を、嗤いながら人々を屠るあの厄災を。キトリは決して赦さない。
偽物の星の輝きなど、この世界にはいらないものだ。
その愛らしくも勝気な瞳に、決意の光を宿しながら。キトリは、相棒を手に空へ舞う。
――目に見えるあの凶星を、全部撃ち落とす為に。
「……星降らせるとはまた、面妖な呪いよな」
ほぅ、と。息吐く唇の間から、赤く燃ゆる舌を覗かせて。アンジュ・グリィ(したきり・f19074)もまた星流れる空の下にいた。ふわりと夜空の翅を羽ばたかせて浮かぶ妖精の隣で、枯れた翼を持つ女が佇んでいる。
「厄介事には首を突っ込んではいけないと、重々承知ではあるが」
開かれた黒の瞳には、此方へと駆け往く人々の姿が映る。この星降る最中を進み続け、恐怖を押し殺し乍らに足を動かす人の姿が。
託された使命を、守るべき生を胸に走る人の子達。そのような者達の命が、無為に摘まれてしまうと云うのは――ひどく、口惜しい事のように思えたから。
「……やはり。少しばかりは、首を突っ込みたくなるのよな」
ひそやかに言葉を吐く、その度に。アンジュの口からは、火の粉がちろちろと零れ出していた。
「うん。困っている人がいると聞いたからには、見過ごせないものね」
からからと、楽しげな音を立てながら白兎の人形が現れる。彼女らに並ぶようにして降り立ったのは、ジュジュ・ブランロジエ(白薔薇の人形遣い・f01079)とその相棒の『メボンゴ』だった。
「今までいろんなオブリビオンと対峙してきたけれど、隕石を相手にするのはさすがに初めてだよ」
ふうむ、と口元に手を当ててしばし考え込むジュジュと、彼女の手繰る糸によって似たようなポーズを取るメボンゴの姿。フリルに包まれた愛らしい白兎の仕草は、この戦場においても心和ませるものだった。
相手は空を翔るお星さま。降り注ぐ隕石をどうこうするなんて、一人ではきっとお手上げだ――でも。
≪私達≫なら、きっと出来る!
「行くよ、メボンゴ!」
強大な脅威を目前にして、それでも真っ直ぐとした眼差しを向けるグリーンの瞳。鮮やかな其れに不安の色はなく、ただただ希望の道筋を信じて輝いている。
ジュジュの明るい声と共に、メボンゴが宙へと躍り出る。
ふわりと、彼女達の周囲に巻き起こる風の力。真白のドレスがひらひらとはためいて、まるで風に揺れる花のようだ。
向かい来る星は、もうすぐそこまで迫っている。人々の笑顔を摘み取ってしまう、厄災の星が。
「そんなこと、させないから!」
吹き荒れる風の魔力を掻き集めて、その全てをメボンゴに注ぎ込む。一点集中の衝撃波で、あの星を迎え撃とうではないか。
集中して魔力を籠めるジュジュの傍らに、ひらりと舞う星空がある。
紫紺の翅を羽ばたかせて、キトリもまたジュジュの隣に並んでいた。煌めくアイオライトの視線の先に、燃え盛る凶星の姿を捉えながら。キトリは、きゅっと花蔦絡む杖を握り締める。
「命を賭けて前に進もうとする人達を、ここで倒させたりしないわ」
ベル、と。キトリは杖に変じた精霊の名を呼びかける。可憐な花を咲かせる相棒は、彼女の声に応える様に仄かな光を放っていた。
ゴウゴウと燃える炎は、全てを屠らんと降り落ちてくる星は――小さなキトリには、とても大きなモノに感じられて。今にも、ぺしゃんと押し潰されてしまうかもしれなくて。
けれど、けれども。
「……あなたならきっと、出来るはず」
あなたとあたし。一緒に居て、出来ないことなんて――きっと、ない!
空を、翔ける。星に立ち向かうようにして佇むジュジュとメボンゴの、ちょうど真上になる位置で。己の全身全霊を籠めた祈りの力を捧げて、キトリはベルを天高く掲げている。
「――あたし達が絶対に、守ってみせる!」
巻き起こるは、空色の嵐。落つる星を押し戻すかのような勢いで放たれる、煌めく青白の花弁と吹き荒れる風の衝撃波。キトリとジュジュ、そして其々の相棒の力を籠めた嵐の渦が、迫り来る星を押し留めんと其の炎ごと覆い隠していく。
「っ! もう、少し……!」
風を放ち続ける白兎が、カタカタと音を立てている。もう少しだけ頑張って、と。送る魔力にめいっぱいの激励を籠めながら、ジュジュはメボンゴと繋がった糸を手繰り続けていく。
星を相殺するべく放たれる風、その余波を受けて、肩で切り揃えられたジュジュの艶やかな髪が激しく靡いていた。
舞い散る花弁、叩きつけられる鋭い風。其れは、流星の勢いを確実に殺し始めていた。
目に見えて緩やかになった星を眺めながら、アンジュがちろりと舌を出す。
あの隕石をどうにかすればよいのだろう、と。女の昏い瞳が、花嵐に呑まれてなお炎絶やさぬ凶星を見つめる。はて、さて。己に在るのは、非力な此の身ひとつである。あの強大な災厄を前にして、どうしたものか。あの、全てを燃やさんと身を包む炎を、前にして。
「――そうだ、そうだな。全て、燃やし尽くしてしまえばよい」
あの星が、自ら燃えていると云うのなら。少しだけ、此の息を吹き込んでやればよい。
薄く開いた唇の、その隙間より舌が出る。ちょきんと切られた、彼の時よりこの内に燃え続ける獄炎。この舌で、この口で。私からも、炎を贈ってあげような。
ふっと、息吐くように出された地獄の炎。此方へ落ちる星に向けて一直線に、その炎は放たれる。花嵐に押し止められて、勢いを殺した星が――女の炎に、包まれていく。
落つる勢いを花弁の渦に止められ、外殻を鋭き風に傷付けられて。
トドメとばかりに放たれた炎が――星を、壊していく。
ぱきり、ぱきりと剥がれゆく岩の肌。やがて完全に勢いをなくし、ズドンと力無く垂直に落ちた隕石の中から――姿表すは、禍々しき一つ目の式。
一人も屠る事ならずに止められた事実に、怒りを示しているのだろうか。ふるふると身を震わせながら分裂を始める黒い其れは、全てが血走った眼で彼女たちを睨みつけていた。
「ああ……随分と。おぞましい姿になってしまったな」
ならば、もうやることは一つだと。嘯くアンジュの口から、息と共に火の粉が吐き出されていく。
「お前も、燃えてしまえ――いな。この口で、燃やしてやろう」
ふぅ、と。臓腑より吐き出される息と共に、揺らめく炎がその顎門を開けている。
もう、お前を守る岩はないね……ならば、あとはただただ燃えるだけ。
お前は激しく、そっちのお前は緩やかに。
女の炎に絡め取られた異形の式が、ぎぃぎぃと歪な声を上げていた。
「地面に落ちてきてくれたなら、こっちのものだね。――メボンゴ、もう一回行くよ!」
ジュジュの号令と共に、白兎が跳ねる様にして式の元へと向かっていく。
その背を追いかける様にして、ジュジュもまた武器を構える。取り出したるは金の弓、そのレプリカ。
ぐっと、弓を引き絞る。メボンゴと相対する式へ狙い定めて、指の先に力を込めて――。
「さぁ、ご覧あれ。白薔薇の華麗なるイリュージョンを!」
引き絞った金の弓。レプリカである其れが、彼女の指の先からはらはらとその形を崩していく。
弓が姿を変えるは白い薔薇。ふわりと巻き起こる花弁が、式を見る間に包み込んでいく!
白薔薇の花弁は、その一つ一つが淡い光を帯びていて。柔らかな色あいの其れに触れる度に、式が苦しそうに呻いていた。
『――――!!』
苦し紛れに放たれる呪いの弾丸。けれど、其れはメボンゴから放たれる衝撃波によって相殺される。主人を守ろうと、その小柄な身体を駆使して奮闘するメボンゴの姿は実に頼もしいものだった。
そして、小柄な影はもう一つ。
「もう一度行くわ、ベル! あなたの花を、見せてあげて!」
凛と響く鈴鳴りの声。同時に、きらきらと煌めく空色の花嵐が再び場に吹き荒れる。
それでも、また易々と呑み込まれてなるものかと云う矜恃であろうか。
巻き起こる花の嵐を前にして、式が徐ろに動きを変える。ただ風に嬲られるのを良しとせず、あの花に対抗出来る様にと――暴走を始めた式は、無作為に周囲の木々を取り込んでいくではないか。
見る見る間に図体を大きくする魑魅魍魎の姿、それはキトリよりずっとずっと大きくて。小さなキトリは、きっと一息で呑み込まれてしまうかもしれなかった――けれど、それでも。
「もう星じゃないただのオブリビオンなんて、ちっとも怖くないんだから……っ!」
迫り来る脅威から、決して目を逸らさずに。相棒の花々と共に、キトリはオブリビオンに立ち向かう。
ぐわりと、周囲の物体を取り込みながら目を見開く式の姿。其れは襲い来る花弁をも呑み込んでやろうと、可憐な少女ごと食う様に顎門を開いて――。
「ただ合体なんて、させてあげるもんか――それっ!」
軽やかな声音は、ジュジュのもの。声と共にその手から放たれたのは、なんと手持ちのボールペンだ。
無機物と合体するというのなら、其れを妨害してやろうと。未だ増幅を続ける式へと投げ入れた其れは、仄かに輝きを示していて――その禍々しい力と相反する、光の力を備えるものだ。
『――――!!』
これはたまったものではない、と。混ざった彼にとっての“不純物”に反応して思わず動きを止める魍魎の姿。そうして止まってしまったなら、ほら。
花と、炎が。立ち止まる式を呑み込んでしまおうと、息吐く間も無くその姿を包み込んでいいく。
『――――!!!!』
「ああ……苦しそうな声を、しているな」
暴れる式を舐めるように蠢く炎。その中に見える一つ目と、アンジュの視線が交わる。
此方を恨めしげに睨むその眼光に晒されて。アンジュは、ほぅと小さく息を吐いていた。
「怨んでもいいさ。お前の顔を覚える事は――出来ないのだから」
やがて。炎が、花が、崩れ行く式の全てを呑み込んで。
束の間訪れた静寂に、誰かがほっと息を吐く。今の流星は、あの人々の元へ届くことなく、その目論みごと無事に砕くことが出来た、と。
――けれど。空に浮かぶ星は、まだその数を控えている。
あの星々を穿つため。そして、進み往く人々を護るために。
彼女たちは、再び降り落ちる流星の元へと、翔けゆくのだ。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
矢来・夕立
●*
空が見える高所。山道を抜ける手前で待機。
隕石が見え次第、落下軌道上に割り込む。
…といっても空は飛べないんで、飛べるヤツを使います。
『幸守』『禍喰』を足場にする。
間合いに入った隕石を【竜檀】で叩き斬る。
割ったあとに『封泉』を設置。爆破。以上、繰り返し。
適当に地上へ降ります。
…風魔忍法の次は式ですか。普通に降りるのやめた。
上空からまず一匹《暗殺》。
《敵を盾にして》、《だまし討ち》
斬ったり刺したり投げたりします。
オレには、隕石に対応できる力強さはありません。
策を弄したところで砕ける星は片手程度でしょうね。
だからって何もしないんじゃオレが風魔の忍びに負けたみたいじゃないですか。
負けませんから。
――星降るその光景を、静かに睨む影がある。
山道を抜ける手前、よりいっとうに高い背をした木の上に、其れは居た。
肩に掛けた月の羽織を、吹きゆく風に遊ばせながら。空により近い其の場所で、矢来・夕立(影・f14904)は今にも降り注がんとする星を、見据えていた。
ジャケットを除いた黒揃えのスーツに袖を通し、常よりも大人びた印象を其の身に纏わせながら。しかし、硝子越しに星を見遣るその瞳には、珍しくもあからさまな≪色≫が宿っていた。
「……随分と、派手に暴れるものですね」
ぽつりと、誰にともなく呟きが落とされる。声音に滲む侮蔑の響きは、隠し切れぬ敵意の現れだろうか――最も、此度に至っては其の殺意を隠そうともしていない様子であったが。
空を睨む、其の瞳に新たな星が映る。
遥か天上に座する彼の姿に、未だこの刃は届かない――ならば。あの高みにて嗤う『風魔』の手足、地へと降り落ちる隕石を砕き、其の中身を切り裂いて。
最凶の名を謳う≪伝説の忍び≫とやらを、引き摺り下ろしてやろうではないか。
音もなく、翔ける。
放たれた隕石の落下軌道を予測して、割り込むように≪道≫を作る。
未だ人の身を逸脱せぬ己では、あの化生共のように空翔ぶ術はないものの。なれば、飛べるモノを足場とすれば事足りると――ひらり、宙に舞うは黒い蝙蝠の式紙だ。
幸を守り、禍を喰らう。厄災と成り果てた『風魔』を狩るにはうってつけだろうと、空羽ばたく其れらを踏み付けながら、夕立は重さを感じさせぬ動きで空を翔けていく。
地へと向かう隕石へ、瞬く間に距離を詰める黒の影。強大な星の姿に比べれば至極小さな其の影は、しかし微塵も臆する事なく厄災へと接近していく。
手には朱黒の刃金を構え、瞳に迸る殺意を滲ませて。
接敵する。視認する。
炎燃ゆる岩肌の、脆くあろう箇所を目掛けて、揮う――竜檀≪リョウダン≫の、刃。
「はい、真っ二つ」
岩をも両断する一閃。其れが放たれると同時に、一枚の式がはためく赤い裏地の羽織から飛び出した。
ふわりと風に浮く千代紙風船。愛らしい見目の其れを置き土産とばかりに星へ差し向ける。
トン、と。叩き斬った岩を足場にして再び跳躍する。ふわふわと風に舞いながら浮かぶ『封泉』に視線を滑らせて、空いた手の指先を徐ろに其方へ向けて。
「――“ばぁん”」
爆発、する。その真価を発揮した『封泉』の爆破によって、元より砕かれた隕石が粉々になって散らばっていく。
あとはその繰り返し。『風魔』の落とす星を、斬り、爆破して、粉砕する。一つでも多くを屠ってやろうと刃を揮うその様は、まだ直には見ぬ『シノビ』の鼻を明かしてやろうとでも言うような奮迅であった。
「……とは言っても、そろそろ限界ですか」
三つほど砕いて、四つ目の星を叩き斬った頃。流石に痺れを覚え始めた腕を振りながら、夕立は再び『封泉』を設置する。爆破の風に煽られながら、そろそろ地上に降りようかと降下の姿勢に入りかけた――その瞳に、割れた岩より湧き出でた魑魅魍魎の姿が映り込む。
ぎょろりと、大きな一つ目を動かして此方を見遣る黒々しい式。
……風魔忍法とやらの次は、式の使役とは。やけにカンに触る敵もいたものだ。
ふう、と。降下の風を頰に受けながら、夕立は短く息を吐く。
それはごく自然な動作であった。言葉の通りに息をする、我が身が宙にあるとは言え至極に簡単な反復作業である。
息をする。息をするように、刀を握る。溢す言葉は、実にいつも通りのものであった。
「――よし、殺そう」
ぽいと、再び放られた『封泉』の式紙。一つ目の眼前で爆発したそれは、視界を覆う粉塵を巻き起こす。
視覚を奪ってさえしまえば――暴走する式の一つや二つ。音も無く屠る事など、朝飯前だ。
――ひとつ。
上空から降りざまに、砂埃に紛れてその刃を突き立てる。岩に比べれば随分と柔らかいその身を、躊躇いなく切り裂いた。
――ふたつ。
自身と同存在の断末魔を聞き取ったのだろう。見えぬながらに此方へ反応を示した一匹が放つ呪弾を、切った魍魎を盾にする事で防ぐ。そのまま骸を投げつけてやれば、ぎぃと言う歪な鳴き声を上げて呆気なく押し潰されていた。
――みっつ。
振り返りざまに、『雷花』を揮う。今にも背後から襲い掛からんとしていた式の目玉に、朱混じりの刃が突き刺さっていた。……嗚呼、後でちゃんと手入れをしてやらないと。
溜息混じりに、もう一閃。放たれた呪弾を切り裂いて、頭上より此方を押し潰さんと現れた式を、両断する。
――これで、よっつ。
「『隕石落とし』だなんて、確かに凄い術ですよ」
パッパッと洋装に付着した砂埃を払いながら、式の残骸の中で夕立はぽつりと独りごちる。
まぁそんな目立つ忍法があってたまるかとか、そういった話は抜きにして。今の自分には到底届かない力だと、夕立は風魔の術をそう評価していた。
幾ら策を弄したところで、己が屠れる星は片手程度。まだ多くを降らそうとするあの厄災が……端的に言えば、気に食わない。
「――だからって。何もしないんじゃ、オレが風魔の忍びに負けたみたいじゃないですか」
瞳に滲む対抗心。滅多に表情を動かさぬ彼ではあるが、むすりと引き結んだ口が如実にその心境をあらわしていた。
即ち――負けませんから、と。
刃握る手に、力を込める。あの矢鱈カンに触る存在だけは、直に叩き斬ってやろうと心に決めながら。
夕立は、再び星砕きに備えて駆けていった。
成功
🔵🔵🔴
鎧坂・灯理
【紫晶】
はは、人間なんて皆バカな物ですよ星見水晶殿。
命よりもプライドを重視する。
ちなみに。
今あなたの隣に立っている猟兵(わたし)はその代表です。
――だから私は、彼らに手を貸したいのさ。
隕石は皆、ミス・輝夜が粉砕してくれるだろう。
破片と残党が彼らに降り注がぬよう、私がUCで天井を作る。
最初から念動力で空中に行き、足下に敷く形で展開すれば、
残党とも天井の上で戦えるだろうさ。
意志が硬いことには自信がある。
思念の迷宮を薄く伸ばして空中に敷けば、見えない天井の出来上がりだ。
『朱雀』を高威力の銃に変型させて撃ちこんでやる。
大きくなっていいのか?まだ光は降っているぞ!
よしてください、私はただの馬鹿ですよ。
輝夜・星灯
【紫晶】
狂気に飲まれて己の役目以上の強迫観念を負う民衆、か
ヒトを救う為に逃げるべきだと判断出来ないのは、愚かしいよ。それとも、ヒトの義を負って死にたいの?
愚かな民を救えるほど、私は出来た『カミ』じゃない
とはいえ生憎だけれど、隕石にもいい思い出はなくてね
正直腹が立って仕方がないんだ
……仕事は、こなすさ。けれども少々手荒にゆくよ。
堕ちる星には、降る星を。
裁きの灯火をあげようか――〝高天原の瞬き〟
呪いの隕石など逃がしはしない。撃ち漏らしたなら、直接手を下してやろう。
必要なら破魔の刀身強化も視野に
これは失礼なことを…済まないね、鎧坂女史。
――貴女、自分で思うよりもお優しいヒトだよ。
私よりずっと、ね
降り注ぐ流星。空を流れゆく数多の光が、硝子玉の瞳に映り込む。
きらきらとした輝きを、その瞼の裏に閉じ込めるようにして。空仰ぐ輝夜・星灯(迷子の星宙・f07903)は、ぱちりと一つ瞬いた。
うだるような夏の暑さの中、流れゆく星々の光。
それは人の形を得たあの日とは違えども――何かと、縁があるものだと。短く吐かれた息は、口元を覆うくろに吸い込まれて音となる事なく消えていく。
再び開く、その瞳に空はなく。星灯の視線は、地を走る人々へ向けられていた。
恐怖に飲まれ、狂気に飲まれ。己の役目以上の強迫観念を背負い込み、愚直にも走り続ける民衆へ。
すぅと、透き通った彼女の瞳が細められる。前へ前へと突き動かされるように進む彼等の姿を、その水晶に映しながら。
「ヒトを救う為に逃げるべきだと判断出来ないのは、愚かしいよ」
ぽつりと。零された言葉に滲む色は、どこか冷ややかなもので。
細められた眼差しが、そのまま走る彼等の姿を射抜く。此方側へと走る彼等は、徐々にその輪郭をはっきりとさせて。その内の一人と、視線が交わったような、気がした。
救う為に駆けるというのであれば。やはり、彼等は堅実に進むべきなのだ。
そう時間を与えられぬ戦とはいえ、無駄に命を消費する事を誰が良しとするわけもない。
如何に“命を賭して城を落とせ”との命が、あったとしても。城より遥かに遠いこの地での犠牲は、何の価値も得られないだろう。
それを分からぬ程に、愚かしいのかと――愚かしくなってしまったのかと。
憔悴の色を浮かべる、その顔を見る。無力さを噛み締めて、恐怖に震えながら。それでも愚直に駆ける、彼等を見る。
――ああ、それとも。
「ヒトの義を負って、死にたいの?」
紡いだ問いは、ヒトに届く事なく空に溶けていく。
益々持って愚蒙であると。軽くかぶりをふった、その銀糸がさらさらと揺れていた。
かつて人に祀られていた我が身と言えど。己は、愚かな民を救えるほどに出来た『カミ』ではない。
冷ややかな水晶の瞳が、もう一度瞬いて――刹那。星灯の愁いとも忿懣ともつかぬ吐息を、傍に立つ“ヒト”の声が攫っていった。
「はは、人間なんて皆バカな物ですよ。星見水晶殿」
女人にしては低く、掠れた声音で笑声を零しながら。鎧坂・灯理(不退転・f14037)もまた、その鋭い眼差しを駆け行く人々へと向けていた。
「命よりもプライドを重視する、そういう生き物です。――ちなみに」
硝子越しの紫は、ひどく苛烈さを感じさせるもので。
強い意志を灯したその瞳を、今度は――傍らの“カミ”を捉えるように滑らせていく。
「今あなたの隣に立っている猟兵≪わたし≫は、その代表です」
にぃと。口角を上げて宣うヒトの視線が、カミを射抜く。
「――だから私は、彼らに手を貸したいのさ」
どこか獰猛な印象を抱かせる灯理の笑みに、星灯は微かに瞠目して。
ふっ、と。冷ややかであった硝子玉の色を、僅かながらに和ませた。
「これは失礼なことを……済まないね、鎧坂女史」
「いいえ? 何も謝られる事など無いでしょう。こちらにも受ける理由がない」
意思も感情も個々の物。他者が口を出す道理はなく、また己にその意志もない。
刻々と近付く星を、そして人々の姿を視認しながら。灯理は、思念を足元に集中させていく。
右手に嵌めた銀の指環が、流星の輝きを受けてきらりと光を放っていた。
――さぁ、星砕きの時間と参ろうか。
◆
「――さて」
地を駆ける人々の対処を灯理に任せ、星灯は今にも此方へ降り注がんとする星々の姿をみる。
彼等への釈然とせぬ思いは変わらずとも、彼女の苛立ちはそれだけを因としない。
星灯にとって、隕石との縁は浅いものではなく。むしろ人の身を得る前であった彼方より、深く結びついた事象ではあるのだろう。……だからこそ、だろうか。この状況下、全てにおいて。
――正直、腹が立って仕方ない。
「……仕事は、こなすさ」
けれども、少々手荒にゆくよ。
すぅと、静かに息を吸う。腹の底に渦巻く憤りを感じさせぬ所作で、けれどもその瞳には確かに色を滲ませて。星見水晶は、遥か遠くの空を見る。
降り注ぐ凶星の、その向こう。とおくとおく、宙より届く星光を。
堕ちる星には、降る星を。裁きの灯火をあげようか。
蒼穹≪ソラ≫は、全てをお見通し。
「――高天原の瞬き≪ラサルハグェ≫」
刹那――星が、降り注ぐ。
それは、厄災の星にあらず。そのさらに頭上に輝く星々の光が、眩い矢となって降り注いでいく。
呪いの隕石、その一つ一つを狙い撃つようにして。天上より放たれる光の矢が、凶星を撃ち落としていく。
星が砕ける。砕けた石の、その中から。核となった異形が、徐々にその姿を現していく。
星灯は、その様を静かに見つめ乍ら。
その手に黒曜の刀を携えて――水晶は、星の成れの果てを見据えていた。
◆
「なるほど。聞いていた通りの――良い、技ですね」
その紫眼に笑みを滲ませて。灯理は、降り注ぐ光矢の群れを視界の端に捉えていた。
先に星灯と別れた彼女は、念動力によって宙を浮きながら駆けていた。そうすれば、すぐに目的の集団とかち合うからだ。
――程なくして、灯理は進軍する人々の真上に到着する。
駆け行く彼等は、軍の者とは言え何の超常的な力も持たぬ徒人だ。突如として宙に現れた人影に驚いて、先頭の者が思わずといった風に足を止めていた。
ひぃ、と。誰かが頼りない声を上げている。
さて、此方は己が受け持った領分だ。
手早く済ませて、来たる災厄の迎撃に移るが吉と思われる。故に。
「しばしの間、お待ちください。心配せずとも、此方にあなた方を害する意図はない」
端的に、告げる。幸いにも、逃げ出そうとする素振りを見せるものはいなかった。
それでも、不安をありありと顔に滲ませる彼等へ向けて――にぃと、灯理は口の端を上げてみせる。
「先に往きたいと、そうお思いなのでしょう。であれば利用すべきだ。我々のような得体の知れぬ者の力でも、何でもね」
返答を待たず――そもそも求めていなかっただろうが――灯理は、彼等の頭上で念動力を展開させていく。
念動奇術・弐ノ型『地下牢迷宮』。彼女の足元を起点として尽くし出される不可視の迷宮。
灯理の化け物染みた意志をもって作り出される其れが、瞬く間に人々を覆って形作られていった。
これで、人々は束の間の安全領域を得るだろう。
降り注ぐ星も、瓦礫も――この、禍々しい式の姿も。目にする事がなくなったのだから。
砕けた星の、その中に潜んでいたのろう。黒々とした一つ目の式が、灯理の姿を認めて勢いよく降りてくる。
隕石であった時ほどの威力はなく、しかし明確な殺意を持って此方へ来たる敵の姿。
それを視認するや否や、灯理はすぐ様に得物を展開させる。手首につけた腕輪が、瞬く間にその形を変型させて。形作られるは狙撃銃、抱える程の大きさとなったそれを、灯理は危うげなく『的』へと向ける。
覗くスコープ、合致する照準。トリガーに添えた指を――引く。
ひとときの、事であった。
式の中心、目玉を撃ち抜いた射線。耐えきれずに弾けるその様を確認してから、灯理は間を置く事なく次の『的』へと照準を向ける。
在ろう事か、次の個体は屠られた一体の肉片を取り込もうとしているようだった。自らの仲間であったモノを喰い、見る間に大きくなっていくその姿に、ほぅと灯理は小さく息を漏らす。利用出来るものとなれば仲間の亡骸であろうと利用する、その姿勢は良い――だが。
「大きくなっていいのか? まだ光は降っているぞ!」
――より大きくなった的を、あの星が見逃すはずもない。
天上から、光が降る。身を貫いた光の矢、合わせるようにして灯理もまた引き金を引く。
それでも尚、人を屠るべく足掻こうとする式を――黒曜の一刀が、斬り裂いた。
「済まないね、仕留めきれぬモノがいたか」
言葉を溢す星灯の目の端に、光の矢から逃れようと惑う別の個体が入り込む。
撃ち漏らしがあったか――ならば、直接手を下してやろうと。
刃に籠める破魔の力。女の身には大きく思える黒曜の大太刀を、彼女は軽やかに閃かせて。
一息に間を詰めた、その勢いのままに。最後の一匹を――両断する。
そうすれば、完全に力を失ったのだろう。
パタリと迷宮の上に転がった式は、残滓となって徐々にその形を崩していった。
◆
「お疲れ様、鎧坂女子――貴女、自分で思うよりもお優しいヒトだよ」
念の迷宮を解除され、戸惑いながらも再び歩を進める人々の姿。
水晶の瞳に彼等を映しながら、星灯はそっと言葉を続けていく。
「私よりずっと、ね」
星灯の言葉を受けて、灯理はぱちりと一つ瞬いた。二つの視線が、束の間に交差する。
一呼吸だけ、間をおいて。灯理は、くっと可笑しそうに喉を鳴らしてみせた。
「よしてください、私はただの馬鹿ですよ」
煌めく星々の光の下。
そうして、ヒトはカミに答えたのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ジャック・スペード
●*
此の身はヒトを護る為に在る
1人でも多くの命を繋げるよう尽力しよう
俺は前に出て道往く彼等の盾と成る
隕石はスナイパーの技を活かして誘導弾で撃ち落とし
取り零しは怪力とグラップルで受け止めよう
其れでも間に合わない場合は、此の身を盾として進軍する彼等を庇う
衝撃は激痛耐性で堪えてみせる
粘液で自己強化した後、変化解いた敵と対峙
ロボットの仕組みは理解しているつもりだ
電気纏う弾丸を零距離射撃で撃ち込もう
機械仕掛けの其の身に、電撃はよく効くだろう
数が多ければマヒの銃弾で範囲攻撃を
彼等を護る理由は戦争に勝つ為ではない
ひとつひとつの命は勝利よりも尊く重い
だからこそ俺は覚悟をもって
彼等を生かす為に此の身を使い潰そう
エンジ・カラカ
●*
アァ……賢い君、賢い君、星が降るそうダ。
流れ星がたーくさん降ってくるらしい。
相棒の拷問器具の賢い君、君と共に迎え撃つ。
でもどーやって?
星ってどーやって捕まえるンだろうなァ……。
うんうん、そうかそうかソレがイイ。
君の思うように。君のやりたいように。
捕まえた星の軌道をずらす。
助ける?助けたわけじゃ無いサ。
コレは星が命を宿して襲い来る様を眺めたかっただけなンだ。
アァ……これこれ。行こう行こう。
たーっくさんいるなァ……。
コレは支援に徹する。
とどめは味方任せ。
先制攻撃を仕掛けて敵サンの足止め。
アッチもコッチも星だらけ
星はこんな風に人を襲うンだなァ……。
遊ぼう遊ぼう
もっと遊ぼう
狭筵・桜人
普通の人間に隕石を止めろと言われてもって感じですよねえ。
まあせっかくですし、ちょっと火遊びしましょうか。
エレクトロレギオンを召喚、と。
ではざっくり100体捨てようと思います。
はいこちら自家用品で作れちゃう白い粉末状の化合物です。
自家製爆薬ってやつですねえ。良い子は真似しちゃダメですよ。
密閉容器に入れたこいつをレギオンに大量【運搬】させてー……
火の点いた星にぶつけます。
出来る限り高く。離れてお願いしますね!
星が落ちる前にでっかい花火を打ち上げましょう。
……地上で爆発するよりマシかなって……ね?
残機で式をどうにかこうにかします。
合体してくれると砲撃が当てやすくなっていいですね。はい【一斉発射】。
きらきら、きらきら。
尾を引いて流れる数多の星。
落ちては焼いて、焼かれては落ちて。さほど遠くない空の下、幾度も繰り返し流れている。
「アァ……賢い君、賢い君。星が降るそうダ」
その流星の様を眺めながら、エンジ・カラカ(六月・f06959)はカラカラと嘯いた。
金の瞳がうっそりと弧を描いて、黒狼はまるで誰ぞに話し掛けるかのように言葉を紡ぐ。
「流れ星がたーくさん降ってくっるらしい。君ならアレを、捕まえられるかイ?」
賢い君、と。繰り返し言葉を向けるのは、懐より取り出した相棒――拷問器具の、賢い君。ひそやかな毒を孕んだ君へ、エンジは語り続けている。
宵闇に溶ける濡羽の髪が、首を傾げる動きに合わせてゆらゆらと揺れていた。
でも、どーやって?
星って、どーやって捕まえるンだろうなァ。
「……うんうん、そうかそうか。ソレがイイ」
君の思うように、君のやりたいように。
賢い君。囀る君の言う通り、やるといい。
満足いったように頷くエンジの、その頭上でまた星が落ちる。
それは、彼等より前方の地に落ちようとして――さらに上。空より降る光の矢に穿たれて、その形を崩していった。
「わぁ。やってますねえ、星落とし」
遠見をするように手をかざしながら、狭筵・桜人(不実の標・f15055)は感嘆まじりの息を吐く。あちらでもまた、同僚たちが奮闘しているのだろう。
落とされる星の数は多く、けれどそのどれもが穿たれ、押し止められて。確認する限りでは、大概のそれが砕かれているようだった。
落ちる星の軌跡は、徐々に桜人たちがいる方へと近づいている――つまり。標的である軍の人々が、着実に此方へ進んできているという事なのだろう。どうやら、皆の働きは順調なようだ。
しかし、と桜人は思う。普通のオブリビオンであるならばともかく、よりによって隕石が相手とは。
「こちらは普通の人間なんですが……隕石を止めろと言われてもって感じですよねえ」
「確かに、隕石となると強大な脅威だな――だが」
ごちるような桜人の言葉に反応を示したのはジャック・スペード(J♠️・f16475)だった。彼もまた、その双眼に落ちる星を写しながら。睨むようにして、かの災厄を見据えている。
「此の身はヒトを護る為に在る。一人でも多くの命を繋げるよう、尽力しよう」
ジャックは、手にした銀のリボルバーを握り締める。幾多の戦場を共にした相棒は、すっかりと彼の手に馴染んでいるようだった。
ジャックの傍らで、桜人はふうと短く嘆息する。巨躯な彼の隣では、男子高校生にしては中〜小柄な部類である桜人はより一層に華奢な印象を見せていた。
「まあ、せっかくですし――ちょっと火遊び、しましょうか」
とん、と。桜人は爪先で軽く地面を叩く。
途端に展開される召喚の術式。
瞬く間に現れるのは小型の戦闘用機械兵器、エレクトロレギオンだ。
展開された召喚式からぞくぞくと現れていく機械兵器。50、100――否、200はあるだろうか。それを見て、ジャックはふむと小さく言葉を溢す。
「なかなかの数だな、それで止めるのか?」
「ええ、まあざっくり100体ほど捨て……もとい、使おうかと」
にこりと。笑みを浮かべて返す桜人の手には、何やら密閉容器が抱えられていた。
「もちろん、これだけでは威力不足ですからね。少し手を加えておきます」
「ああ、何か策が……」
と。そこで半ば反射的に稼働したジャックのアイセンサーが、妙な反応を感知して小さな警告音を示す。この反応は――。
「……爆薬、か?」
「ンッフフ、バレました?」
すごいですねえ、なんて呑気に溢す桜人。
彼が手にした容器に入っているのは、白い粉末状の加工物――即ち、自家製爆薬とかいう代物だった。なんと自家用品でさっくり作れてしまう優れモノ、良い子は絶対に真似しちゃいけないぞ。
「まあ、これしきで全部を撃ち落とすなんてのは難しいでしょうけど。少しは彼等への負担も減るかなー、と思いまして」
にこにこと変わらぬ笑みを貼り付ける桜人に、ジャックはしばし思考する。
ただの少年が危険物を持参している事には驚いたが……そもそも、この場にいるものは全て猟兵として戦う者たちだ。この少年もまた、彼なりに戦の心得があるのだろう。
「……了解した。では、此方は任せよう。俺は道往く彼等の元へ向かう」
「はいはい、了解しました。そちらもお気をつけてくださいね」
ひらひらと緩く手を振る春色の少年に、どこか毒気を抜かれながら。ジャックは前方へと移動を開始する。彼等の位置する場所より少しだけ向こうに、守るべき人々の集団がその姿を現していた。
「俺も、アッチに行こうかなァ。あまり遠くからじゃツマラナイって、賢い君も言ってるンだ」
手を振る桜人の横を、エンジもまた軽やかな足取りで通り過ぎていく。
賢い君、と先程から男が指すのは、おそらく手にした拷問器具の事だろう。射程距離の問題だろうか、と桜人は首を傾げながらもそのまま見送った。ひょろりと背の高い男が、さらに大柄な鉄の男を追いかけるようにして歩みを進めていく。
「さてさて……では、お仕事と参りますか」
さっそく、と言わんばかりに落ち始めた星を見ながら、桜人はレギオンの一群を呼び寄せる。
民の元へ進んだ彼等が辿り着くまでに、予め幾つかを破壊しておけば吉だろう。
ぽいぽいとレギオンに乗せる密閉容器、もとい簡易爆発物。これを今からどうするか? なんて多分小学生でもわかる問題だ。教育上、あまりよろしくない光景ではあるけれど。
「はい、準備できましたね。それぞれ出来る限り高く、離れたところでお願いしますね!」
星が落ちてくる、その前に。でっかい花火を打ち上げてしまいましょう。
宙へ浮き始めるレギオンの群れを確認してから、桜人はそそくさと退散の姿勢を取る。
ちゃっかりと両の手で耳を塞ぎながら。桜人は、声を出さずに口の動きだけで呟いた。
――では、いってらっしゃい。
◆
――ドォォン、と。
背後で響き渡る轟音に思わずその動きを止める。
進軍する人々とちょうど合流を果たしたところ、何事だと振り返れば……空落ちる星が、次々と爆破されているではないか。
この威力であれば、なるほどセンサーにも引っ掛かる筈である。
「それでも全部――とはいかないか」
燃える星の幾つかは砕かれながらも、中には逃れたものもあるらしい。
此方へ、すなわち人々へと真っ直ぐに落ちてくる隕石の影を見とめて、ジャックはすぐ様に彼等の前へと陣を取った。
すかさず向けた銃口、ウォーマシンの規格に合わせたリボルバーから弾丸が放たれていく。
「――ッ、撃ち漏らしたか!」
放たれた誘導弾、それは落ちる隕石の外殻を確かに撃ち抜いた――けれども。
罅割れた岩肌、しかしその軌道を逸らす事こそ叶わずに。身を崩しながらも此方へ飛来する星の影に、ジャックは舌打ちのようなノイズを溢す。
ここまで近くに来てしまっては、下手に爆破させると後ろの人々へ瓦礫が言ってしまう可能性がある。ならば――此の身で、受け止めるまで。
リボルバーを仕舞う。ガギ、と力に比例して軋みを上げるアームパーツ。
軌道を計算し、着弾点へと身を滑らす。衝突まで三、二、イチ。
――衝撃。舞い散る火花、ひしゃげる腕の痛覚信号が、システムに叩きつけられている。
スパークする思考の中、信号を遮断することで何とかシャットダウンを避ける。
「ッ、チェネル!」
咄嗟に呼ぶ友の名前。灰色の意志持つ外套である彼が、粘液となってジャックの損傷箇所を覆っていく。
再び籠められる力、それは受けた傷に比例して大きくなるもの。友より貸し与えられた力を駆使して、ジャックは隕石を掴み取り――地へと、叩き付ける!
「――無事か」
訪れた静寂。その最中に、後方に控えた人々へジャックは視線を向けながら問い掛ける。
「あ、ああ……」
「あんた、あんたこそ大丈夫か。その……」
腕は、と。今は粘液で覆われているものの、大破した瞬間を目に捉えていたのだろう。機械の身である彼へ、人々は心配そうな眼差しを向けていた。
その視線を受けて、ジャックはゆるりとかぶりを振る。
「アンタたちを生かす為なら。此の身など、幾らでも使い潰そう」
それは、決して戦争に勝つ為という理由ではなく。
ただ、彼等一つ一つの命は、勝利よりも尊く重いものだと。ジャックは、そう考えていたから。
其れらを守り切る為ならば。傷を受ける覚悟など、とうに出来ている。
潰れた左腕をそのままに、今一度右手に取るリボルバー。
ジャックはその銃口を、目前の星へと突きつけて――完全に、破壊した。
◆
落ちる星は、未だその影を絶やさず。鉄の彼が防いだものとはまた別の方角から、凶星はやってくる。
「賢い君、できるよなァ」
ジャックと同じようにして、エンジもまた人々の前に出ていた。さらりと撫ぜる『賢い君』、その『鱗片』『毒性の宝石』『赤い糸』が放たれて。爆発によって勢いの衰えた星を、捕まえていく。
ひとたび捕まえてさえ仕舞えば此方のもの。ぐいと力を込めて、君は星の軌道をずらすだろう。そうすれば、彼の凶星は人々へと届く事なく、彼等の前方へと落ちていく。
今し方エンジが落としたそれで、ひとまずの流星は打ち止めとなったようだった。
「た、助かった……」
ぽつりと、人々の誰かが言葉を溢す。目前で星を目の前にして、しかしこうして命永らえた事に心底安堵したと。そういった声音であった。
その呟きを耳にして、エンジはこてりと首をかしげる。
助ける? いいや、そうじゃあない。助けたわけじゃ無いサ。
『賢い君』の目的は、意思は、そうではない。
「コレは、星が命を宿して襲い来る様を眺めたかっただけなンだ」
「い、いのち……?」
呆然と呟く人を一瞥して、けれどエンジはすぐ様に興味を失ったように瞳を逸らす。
視線を滑らした先、落ちた星から出でる“ソレ“こそを、彼と彼の相棒は待っていたのだから。
ソレは、落ちた星其々から姿を現した。ずずず、と這い出る黒い影。真っ赤に充血した瞳を持った、げにも恐ろしき一つ目の化生。
風魔の忍法によって隕石の核とさていた過去の厄災。暴走する式の一群だ。
「アァ……これこれ」
うそりと笑みを浮かべる三日月の瞳。『賢い君』も、存分にはしゃいでいるようだった。
「行こう行こう。たーっくさんいるなァ……」
蠢く式に向けて放たれる赤い糸。ぐるぐると式を捕捉したそれは、もれなく滲む毒に侵されるだろう。
「あ、間に合いましたか」
動き鈍らせた其れを、駆けつけた桜人のレギオンが捕捉する。すかさず放たれる複数の弾丸が、のたうつ式へと叩き込まれていった。
「――先の爆発は、なかなかの威力だったな」
「おっと。見られてました?」
掛けられた無機質な低い声。ジャックの言葉に、桜人はやや気まずげな表情を浮かべてみせる。やや態とらしくも見えるのは、染み付いた虚のせいだろうか。
「地上で爆発するよりかはマシかなって……ね?」
「ああ、違いない」
ともあれ、あの爆発の下で無事であって良かったと。そう告げるジャックに、桜人はほっと安堵の息を吐いた。ああ、どこぞの上司のようにガミガミと怒鳴るタイプでなくて良かった。
そうこうとしている間にも、式は動きをみせている。
今度の個体は周囲の無機物――砕けた岩や木々などを取り込んで、徐々にその形を大きくしていった。他存在を取り込み自己を強化する憑依呪式だ。
「アァ、星はこんな風に人を襲うンだなァ……」
嘯きながら、エンジは再び『賢い君』より攻撃の手を放つ。素早く与えられた一撃は、式の行動を着実に阻害していた。
「ああ、大きくなってくれると砲撃が当てやすくていいですね――では、はい」
残るレギオンたちによる一斉発射。数を減らしたと言っても、まだ百弱はあるその機械兵器が、巨大化した式へ一斉に弾の雨を降らしていく。
「無機物も取り込んだ、か。ならば電撃も良く効くだろう」
拘束と弾丸によって足止めされた式に、狙い定めて。リボルバーに装填したのは、電気纏う弾丸だ。至近距離から放たれるそれが、式に直接叩き込まれて――バリバリと、強烈な音が式の内側より響き渡っていく。
響く轟音、巻き起こる土煙。
砂塵の中から、やがて姿を現した式は――力無く、地に横たわっているものだった。
ふぅ、と。ひとまず脅威を脱したと桜人は息を吐く。
しかしながら――未だ、星は天にあるのだ。
立ち止まっている時間はない、と。頭上より感じる圧を肌に受けながら、皆がそう感じていた。
再び空を翔ける凶星の姿を見とめて、皆の間に緊張が走る――ただ、一匹の黒狼を除いて。
嗚呼、嗚呼。アッチもコッチも、星だらけ。
「遊ぼう、遊ぼう。もっと遊ぼう」
カラカラと言葉を零しながら、エンジは『賢い君』を手に嘯いた。
ハロゥ、ハロゥ。お星さま。
幾らでも遊ぼう、飽きるまで。
『賢い君』だって、まだ遊びたがっているのだから。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
シン・バントライン
死地へと赴く足取りを、その恐怖を、体の震えを、それを上回る高揚と狂気を、知っている。
「勝ち目の見えない敵など…花見でもしておいて頂ければ良いのですが」
UC展開。
宝珠を放り投げて牡丹の花弁に変える。
花弁を集めて網のようにし、落ちてくる隕石を受け止め速度を落とす。そのまま巻き込むように攻撃。
敵が正体を現したら花弁で視界を邪魔し、煙幕のように姿を隠しながら剣で攻撃。
まずは武器を壊し変形後の攻撃力を削る。
剣が届かなければ敵に向かって投擲しトドメを狙う。
それさえ届かなければ、その剣も花になる。
皆が正義を主張すると必ず戦争が起きるから、一番悪いのは正義なのではないかと思う。
でも、この戦場に正義は無い。
星が降る。地を駆ける人々を追う様にして、星が降る。
空に浮かぶ厄災は、力無き民を屠らんとして。其の身を燃やしながら狙い定めている様だった。
此の地に降り立ったシン・バントライン(逆光の愛・f04752)は、顔を覆う黒布越しに星を見る。そして、その下に居る人々を。
進み往く彼等は、誰もが疲弊の色を滲ませていた。其れは、ただ足を動かし続けている事のみに起因するものでは無いのだろう。
猟兵の助けを借り乍らとはいえど、降り掛かる脅威は一向に衰えを見せず。あの燃える星が飛来するたびに、彼らの顔は強張りを増していく。
恐ろしいのだ。怖ろしいのだ。――嗚呼、それでも。
彼等は止まる事を選ばない。留まる事を良しとしない。
肩に圧し掛かる使命が、託された希望が。彼等の心を擦り切れさせながら、其の身を酷使させているのだろう。
「勝ち目の見えない敵など……花見でもしておいて頂ければ、良いのですが」
ふ、と。シンは息を吐く。臓腑の底に溜まったものを、吐き捨てるようにして。
彼等の顔は、あの表情は。シンにとって見覚えのあるものであった。
脳裏を過ぎる光景がある。幾度の夜を越えても、決して癒えることのない傷がある。
其処に“自らの墓穴”があると分かりながらも進み往く、あの恐怖を。この男は知っていた。
死地へと赴く足取りを。その恐怖を。体の震えを。
そして――其れを上回る、高揚と狂気を。男は、どうしようもなく知っている。
どうにか命永らえた此の身。進み続けようと決意できた数多の縁は、シンにとって幸いなものであったのだろうか――嗚呼、けれど。
少なくとも。道往く彼等にとっては、間違いなく≪幸い≫だ。
落ち来る星を見据えながら。男は、一つの宝珠を外套の袖より取り出した。
妖しげな光を帯びたその珠を――シンは、ぽぉんと放り投げてゆく。
――東風不爲吹愁去、春日偏能惹恨長。
「……我が心を、春嵐と成す」
放られる宝珠。静かに宣う彼の声と共に、妖しく輝く其れが――瞬く間に、花と為る。
赤。赤。赤。
舞い散る花弁は、赤き牡丹のものであり。まるで燃え揺らめく炎の様相でもあった。
彼にとっては浅からぬ縁をもった花が、迫る星を迎える様に咲き誇っていく。
ぶわりと広がる花弁の渦。シンがつい、と指を動かせば、花弁の嵐は其れに倣うようにして動きの向きを変えていく。
指し示すは、あの星へ。
彼の人々から、今ばかりは死を遠ざけてやらんとするように。シンの操る牡丹の花が、渦巻く勢いのままに星へ衝突する。
一つ一つは柔き花弁なれども。重なり連なりあって、其れは縄の様になって飛来する凶星を押し止めていく。
ぐるりぐるりと、花弁が星を包み込み。その流れを捻りながら――落つる星の軌道を変えていく。
ドォン、と。やがて地へと落ちゆく其れは、人々の駆ける場所よりも程遠くへと。何を押し潰す事もなく、平たい地面の上へと墜落していった。
「さて……これで終わりでは、ないのでしょう」
もうもうと昇る土煙。その中に現れる影を睨む様にして、シンは一歩前に出る。
するりと、自然な動作で抜かれた剣。鈍く光る刀身が、真直ぐに目玉動かす式へと向けられる。鞘に付けられた菱形に連なる武器飾りが、動きに合わせてしゃらりと音を立てていた。
向ける剣の先、再び起こる花の嵐。
先程はひとところに集めた其れらを、今度は視界を覆う様に広げていく。
其れはさながら花の煙幕となり。黒布に覆われたシンの姿を、彼の異形の瞳から隠すように蠢いている。
薄く広がった花弁に紛れて――シンは、ひそやかに前へ出た。
赤く舞う花弁の中、鈍く光る其の刃先を滑らせる。
狙うは式の力の源たる中央、目玉の中心へ。
ふるりと身を震わせる式の姿。放たれた呪いの弾は、けれど花弁に紛れる男に当たる事もなく。 顔の横を掠める其れとすれ違いざまに――シンは、手にした剣を投げ込んだ。
『――――!!』
さくりと刺さる鈍色の剣。其れは式の目玉へと突き刺さり――刹那。その刀身が、ぶわりと赤き花弁へ変化する。
突き立てられたその傷口から、花弁が彼の式の内に入り込み渦巻いて。
そして――ばぁん、と。次の瞬間、暴走する式は、内から呆気なく弾けゆく。
ひらひらと舞う赤の花弁は、まるで異形が撒き散らす血の様で。
その最中に佇みながら、シンは一つ嘆息を溢す。
争いは無くならぬ。諍いは絶えず続けられる。
其れは彼の故郷と遠く離れた此の地でさえ、変わらずに起きるものであった。
皆が正義を主張すると、必ず戦争が起きるから。一番悪いのは正義なのではないかと、嘗ての戦を思い返してシンは思考する。
されども。今この戦場に――正義は、無く。
ただ、憂いの息を吐く男だけが。星降る空の下に、在ったのだった。
大成功
🔵🔵🔵
境・花世
綾(f01786)と
故郷も知らずさ迷うだけの生だけど
この世界に咲く花をきれいだと、
もう少し見ていたいと想ったんだ
――なにひとつ、欠けさせやしないよ
進軍の道筋、平地に出る前の境界線に
レプリカクラフトで薄く長い鉄塀を
ほんの一時でいい、進軍を止めてみせよう
近くは催眠術、遠くは杪春を扇ぐ風で
重ねて彼等の足を止めさせながら
隕石の墜落音はまるで終末みたいで
だけどおんなじ気持ちの誰かが沢山いるから、
この世界は終わったりしないって
きみの隣で、信じてる
青磁の眸と真直ぐに視線交われば
どこか晴れやかに笑みが零れる
わたしがこの世界をすきな理由、もうひとつあったよ
隕石の音が止んだなら戦場へ
ふたりで、共に、行こう
都槻・綾
f11024/かよさん
往くが使命と思しきも
逝くは虚しき道違え
生くこそ『進む』誠なれ
――えぇ
何一つ散らさせはしません
微笑み首肯
かよさんと並び立ち
進軍の足止めを以て凶事から人々を護る
広範囲に届くよう
降星の禍々しい気にも消されぬ、朗とした聲で高速詠唱
馨遙にて
邁進する彼らを眠りへと誘おう
注がれし隕石の爆音の所為で
直ぐに目が醒めるとしても
恐怖と責務の狭間で見失いかけた心や
「生きる」為の眼差しも
確りと取り戻して欲しい
大丈夫
此処で終わらせやしませんよ
あなたが「好き」という理由も何れお尋ねする為にも
――さぁ
参りましょうか
戦庭へ駆ける美しく頼もしい花姿へ
添える術は鳥葬
穢れを洗い流す水の羽搏きで
降り積む災禍を濯ぐ
数多の星が降っていた。
数多の猟兵達が、その尽くを墜としていた。
共に戦場に降り立った味方を、信じていた。からこそに。
薄紅と青磁。淡きいろを瞳に宿す二つの影は、災禍を注がれし人々の元へ行く。
地を駆け往く彼等の元へ――心欠け逝く、彼等の元へ。
「……、わたしは」
嫋やかな春を滲ませた末広を、その白い指先で握りしめ乍ら。境・花世(*葬・f11024)は、言葉を紡ぐ。
とつと、息に紛れるようにして零れ落ちた小さな声。ともすれば、風に攫われてしまうやも知れぬ微かな音。其の音を、されど隣駆ける者――都槻・綾(夜宵の森・f01786)は、言の葉として拾い上げていた。
駆ける疾さは其の儘に。けれど滑らせた青磁のひとみが、華を観る。
薄紅の華は、遠く、前を見据え乍ら。其れでいて、何処かうつし世ならぬものを、その華のうらに見ているようだった。
花世は、おもう。
彼女は、未だ生まれ落ちた故郷も知らず。数多の縁を置き捨てて、たださ迷い続けるばかりの生を永らえ乍ら。
それでも――この欠けた瞳に、焼き付いた景色がある。
「この世界に咲く花を、きれいだと」
凛と咲く、その様に息を呑んだ。
「もう少し見ていたいと、想ったんだ」
虚ろな此の身が、此のこころが。
喩えただのひと時であろうとも……満たされたと想える、景色があった。
喪ったとさえも実感できぬ虚を抱えて、なお。そう感じさせてくれるものがあるのなら。
此の身を賭すに躊躇う理由なんて、欠片もある筈がない。
「――なにひとつ、欠けさせやしないよ」
ぴたりと。其の場に止まる影二つ。
此方へ駆ける人々の姿を前にしながら、二人は空を仰ぎ見る。
天翔ける星は、その殆どを砕かれて。其れでも落ち来る星があった。
きらめく最期の凶ツ星、厄災を乗せた流星群。其れ等は、道往く人々に帳を下ろさんと降り注いでいる。
「――往くが使命と、思しきも」
凛と、響く。不思議と耳心地良い聲に、薄紅もまた視線のみを其方へと向ける。
「逝くは虚しき道違え。生くこそ『進む』誠なれ」
滑らせた青磁、交わる視線。
隣立つ花世に向けて、綾はにこりと微笑みを向けていた。
「――えぇ。何一つ、散らさせはしません」
首肯と共に紡がれた返しの言葉。其れを受ければ、花世はぱちりと一つ瞬いて。
――にっ、と。咲き誇る八重牡丹の下。仄かに赤く色付いた口の端を、上げてみせた。
行こう、と。口の開閉のみで言葉なく告げる、其の顔に迷いはなく。
空翔ける星の落つる場所へ、未だ人々は辿り着いてはおらず。
ならば、止められぬのだと言う其の足を――止めてみせようではないか。
ひらり、舞うは春形見。手にした扇の先で、花世は視線の先に線を引く。
駆け往く彼等の道先へ、彼の星が未だ届かぬ場所へ。
すぅと引かれた横薙ぎ、其の線の先に――くろがねの境界が、顕れる。
其れは、薄く長い鉄の塀。突如として前方に出現した鉄塀に驚いて、進軍する彼等の足も思わずといった風にたたらを踏む。
「お願いだ。少しの間だけ、其処に居て」
――せめて、あの星が落ちるまで。
花世の言葉に続くようにして、今度は綾が前に出る。
背に刺さる厄災の気配を感じ乍ら、然し惑う様な所作をおくびにも出さずに。
「神の世、現し臣、涯てなる海も――」
朗とした聲が、響く。降星の禍々しき気を、攘うかの様に。
「――夢路に遥か花薫れ、」
耳朶を打つ、夢路導く宿神の聲。何処か長閑さえ覚える其れは、波打つばかりであった心に安堵を齎して。人々を束の間の眠りへと、誘うだろう。
はらりと、薄紅の花弁が落ちて。花世が、其のたおやかな指先で“杪春”を操る。
風に乗せて漂う香。甘やかな花の香りが、さらに深き眠りを与えるようにして彼等を包む。厄災に晒されて、使命に押し潰されて。へしゃげた心が、ひとときの安らぎに潤いを取り戻す。
――嗚呼、それでも。
降り落ちる星の音が、彼等の背後で轟いていく。
空気に、地に響く轟音が。鼓膜を痛いほどに震わせて。
きっとひと時の眠りは醒めてしまうだろう、と。宵の髪を揺らせながら、綾は予感する。
それでも、喩えそうだとしても。
恐怖と責務の狭間で見失いかけた心を。『生きる』為の眼差しを。
人々が取り戻すことを願い乍ら、綾は静かに前を向く。
「まるで終末みたいだ」と。煽られる風に紅の髪を靡かせながら、花世は溢す。
だけど。だけどね。
おんなじ気持ちの誰かがたくさんいるから、この世界は終わったりしないって。
「……信じてる」
きみの隣で、信じてる。
ぽつり呟く華と、再び交わる青磁の視線。
「――ええ、大丈夫」
此処で終わらせやしませんよ、と。
言葉紡ぐ綾もまた、此の地に縁深きものである故に――そして。
まだ、未だ。この空の器は、満たされていないのだから。虚ろ満たす『彩り』が喪われる事を、青磁は良しとしないだろう。
生を途絶えた彼の続きを、未だ。己は目にしていないのだ。
そうして仄かに微笑う中庸の君に、華は晴れやかな笑みを溢すだろう。
「わたしがこの世界をすきな理由、もうひとつあったよ」
おや、と瞬く若葉の瞳。次いで、彼の香炉もまた――くすりと。息を零して、笑ってみせた。
「それは、また。益々もって、終わらせられませんね」
あなたが『好き』という理由。其れを、何れお尋ねする為にも。
「――さぁ、参りましょうか」
「うん、行こう。――ふたりで、共に」
戦庭へと一番に駆け往くは、薄紅散らす花の君。
星より出でた厄災の元へ、花世はかろやかに駆けていく。
こわいものなんて、なんにもないとでも云う様に。花舞う扇を携えて、花世は禍々しき化生、式の成れの果てへと向かい往く。
其の美しくも頼もしい花姿へ添えるようにして、綾が贈るは鳥葬≪ヨミシルベ≫。
穢れを洗い流す水の羽搏きを、此の手より飛び立つ彼等へ託して征こう。
時の歪みに彷徨いし御魂へ、航逝く路を標さむ、と。
「降り積む災禍を――濯ぎましょう」
舞い散る花が。羽搏く鳥が。
空より墜ちた星、その正体となる厄災を送るだろう。
すべてが還る骸の海へ、其の過去の残滓を葬るだろう。
白き鳥の群れが空を翔け。
薄紅の花弁を啄み乍ら、星降りの暗雲を晴らしゆく。
その彩りは、きっと。
一時の眠りより目覚めた人々の瞳に。
ひどく鮮烈に、焼き付くものだった。
◆
いかねばならぬ。いかねばならぬ。
その思いを胸に、駆けて来た。それだけを思うようにして、欠けて来た。
嗚呼、けれども。同じく将軍の命を受けていたであろう、彼等は言っていた。
殺させやしないと。守り抜くのだと。生き延びるべきだと。命を繋げるべきだと。
我らを――生かして、みせると。
天上に嗤う厄災は、いつしかその姿を潜め。
降り落ちる星は、遠くに響くのみとなっていた。
であるならば。我らはやはり、いかねばならぬ。
往かねばならぬ。けれども――逝かずとも、良いのだと。
潰されかけて、いたのだ。
途方も無い厄災を前にして、どうにもならぬと云う諦めが身を支配して。
それでも、ただ逃げる事は許されなかった。赦せなかった。
将軍の想いを、故郷の人々の希望を。託されたものを放り投げて、背を向けることだけは。決して赦してはならぬと、誰もが心に刻んでいたのだ。
故に――果てるならば、進み果てようと。我らは、駆けていた。
嗚呼、だが。
往かねばならぬ、往かねばならぬ。
我らは何としても、前へ往こう。
身を賭してあの凶星を砕いてくれた、彼等に恥じぬように進んで行こう。
いかねばならぬ、いかねばならぬ。
――生かねば、ならぬ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵