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エンパイアウォー④~烏の窟

#サムライエンパイア #戦争 #エンパイアウォー

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 富士は駿河の国にあり。
 白く気高き孤高の山は、うねる樹々の荒波に護られている。
 星の明かりも見えぬ薄暗い木立の向こう、呻る風音に紛れ、か細い啼き声が聞こえてくる。

『きゅ~……きゅぅぅ……』

 もの悲しく響くそれは、消えゆく命の聲。
 ただ失われゆくだけの、儚い音色。

 シャン、シャン、シャン。

 規則正しく鳴り響く。
 錫杖を穿つ重々しい音が、硬い岩の窟に響めいている。
 小さないのちの終わりを覗く虚ろな二対の眼が、暗闇の中で鈍く輝いていた。


 寛永三方ヶ原の戦いに勝利し、手に入れた『第六天魔軍将図』。そこに記された八名のうち、猟兵達が三方ヶ原で討ち取った武田信玄以外の『第六天魔軍将』が、サムライエンパイアを征服せんと一大攻勢をかけてきた。
 徳川幕府軍は諸藩からの援軍もあわせ、十万の兵を招集。織田信長を撃破すべく動き出した。

 ――わんわんさんの頭頂部から背中へ滑り降りた葵絲・ふるる(フェアリーのシンフォニア・f02234)が、ぱっちんと小さな手を合わせ猟兵達を見た。
「なんかね~、富士の樹海に隠された儀式場で、ヘンな顔した天狗さんが小さな竜を殺そうとしてるんだよね」
 ヘンな顔した天狗さんもとい烏天狗は、魔軍将の侵略渡来人『コルテス』配下のオブリビオンだ。
 コルテスは太陽神ケツァルコアトルの力を使って富士山を噴火させるため、『太陽神の儀式』を行っているらしい。
「富士山が噴火すると、東海・甲信越・関東地域が壊滅的な状態になっちゃうから、徳川幕府軍は全軍の二割以上の軍勢を、災害救助とか復興支援の為に残さないと……」
 織田信長が島原に築き上げた『魔空安土城』の強固な防護を打ち砕くには、首塚の一族と、それを補佐する一万の兵が必要だ。
「兵が二割以上も減っちゃうのは、ちょっとまずいと思うんだよね。
 だから皆にヘンな顔した天狗さんの儀式を止めてもらって、富士山の噴火自体を阻止してほしいんだ」
 烏天狗がいるのは、富士の樹海のどこかにある溶岩洞窟。そこで子どもの竜を使って儀式を行っているようだ。
「竜の子どもはだいぶ弱ってるみたい。はやく儀式場を見つけないと、危ないかも」
 猟兵達が富士の樹海を探索するのは夜になる。
 当然、周囲は暗く足場も悪い。
 何かしらの対策を講じ、効率よく樹海を探索しなければならないだろう。
「儀式ってね。その子を殺して、その血を聖杯に注ぐんだって。
 ……そんなの絶対に見たくないよね?
 だからぱぱっとみつけて、ささっとやっつけてきて!」
 ふるるが言うほど簡単にいくとは思えないが、わんわんさんもふんふんと鼻を鳴らし猟兵達を応援してくれている。
「烏天狗がいる儀式場は、幾つも蝋燭が点いていてそれなりに明るそうだよ。
 でもすごく寒くて滑りやすい場所だから、気を付けてね」
 よ~し! と勢いよく立ち上がったふるるが、猟兵達ににこりと笑う。
「私はみんなを送り出すしかできないけど、ここで吉報を待ってるから」
 ふるるはそう言うと、両掌を捧げるように開いた。
 まっすぐに視線を交わした猟兵達の頬を、グリモアの淡い光が照らし出す――。


珠樹聖
 こんにちは、珠樹聖(たまき・ひじり)です。
 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

●注意事項
 お友達と合わせての描写をご希望の方、互いに【お相手様の呼称とキャラクターID】、或いは【チーム名】をご記載ください。
 プレイングの自動キャンセル期限は『三日』となっております。極力タイミングを合わせてご参加ください。

 以上、皆様のご武運をお祈りいたします。
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第1章 ボス戦 『鴉天狗』

POW   :    錫杖術
単純で重い【錫杖】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    大風起こし
【団扇から大風】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    天狗火
レベル×1個の【天狗火】の炎を放つ。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は式神・白雪童子です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ウィリアム・バークリー
火山噴火などという大地の異変を起こすには、やはり大地を巡る竜脈の要、竜穴で儀式をするのが理に叶うでしょう。
魔法剣『スプラッシュ』を地に刺して、周囲の地脈の流れを読み取り、異常な部分を見つけだしてそこへ急行します。
ただの地脈の淀みなら応急処置を施して次へ。すぐに本命に当たるとは思ってません。

探索を進めて儀式場を発見出来たら、「全力魔法」、氷の「属性攻撃」、「高速詠唱」でIcicle Edgeを烏天狗に射出。
間違っても小竜に当てないように。
烏天狗の攻撃はActive Ice Wallを幾重もの盾にして防ぎます。防御が終わったらこちらの番。
氷塊と氷槍全てを「念動力」で束ね、怒濤の勢いで叩き付けます。


冴島・類
富士が噴火…
脳裏に焼きつく赤が脚を駆らせる
火の海に、させて堪るか

他の猟兵との協力歓迎

探索時は灯を持参、歩きやすい履物で
手元以外は暗視を活用
樹海内には鹿、鳥など野生動物がいれば
動物会話で洞窟を知らないか方角を問うなど手掛り探り

洞窟見つけ次第持参の灯は消し
可能な限り忍び足で近づき
会敵次第、瓜江手繰り
フェイントと残像交えた動きで接近させ注意を引き
自身は竜の子の元へ
解放、保護したい

大丈夫かい、おいで

もし、すぐに解放できぬ状況なら
その子に攻撃いかぬよう
かばえるような布陣に

保護と避難優先することで
敵の攻撃を受ければ
瓜江を近くに戻し、血で封を解き
風巻の風刃で錫杖持つ手を狙わせ落とせたら

血も炎も、溢れさせない


月代・十六夜
【韋駄天足】と【スカイステッパー】の【ジャンプ】を組み合わせて木々を足場に高速跳躍、これで足場の悪さは問題ない。

視界が聞かねぇのは辛いが、【指鳴】での【聞き耳】ソナーを使えば周囲の把握に問題はねぇな。
ある程度まで近づけばそのまま【聞き耳】で仔竜の鳴き声とか錫杖の音も聞き取れるだろ。

見つけたら光の結晶を真上に投げはなって周囲の猟兵に合図を送ると同時に着地。

光に気づいたであろう相手に【フェイント】超低空ジャンプで【虚張盗勢】、相手の錫杖を盗みにかかる。

あとは成功すれば良し、失敗してもステッパーで【空中戦】をして【時間稼ぎ】に徹するぜ。
相手の風は【聞き耳】と【野生の勘】で軌道を予測して避けていく。



 ――富士が噴火する。
 脳裏に焼き付く赤が、冴島・類(公孫樹・f13398)を走らせていた。
「火の海に、させて堪るか」
 呟くようにそう零しながら、暗い樹海をひた走る。
 ゆらゆらと揺れる灯が木々の影をうねらせ、まるで竜の子に忍び寄る魔の手のようだ。
 暗闇を観る橄欖石の眼が、闇に爛々と輝く双眸とぴたりと重なる。
 獲物を狙う夜鳥の視線は鋭く、その力強さに感が働いた。
 急く心と足を止め、類はそれに問いかける。
「ねえ君、この樹海のどこかにある洞窟を知らないかい?」
『洞窟か……たくさんあるが』
「たくさん……それじゃあ、何か不審な物音がする場所とか」
「――例えば錫杖の音とか、仔竜の鳴き声とかな」
「え?」
 ふと視線を上げれば、いつの間にか枝に足をかけしゃがみ込む男の姿がある。
 視界が利かない月代・十六夜(韋駄天足・f10620)は、物音と話し声に釣られて、動物と話す類の姿を見つけたようだった。
「俺はそいつと話せねぇから、聞いてみてくれよ」
 十六夜の言葉にこくりと頷き、類が夜鳥へ視線を戻す。
「錫杖の音とか、仔竜の鳴き声が聞こえる洞窟を知らないかな?」
『それなら、向こうだ。血と烏の匂いで臭くて敵わん』
 ばさりと羽を広げ、夜を支配する鳥が一声啼いた。
 あらぬ方へぐるりと向いた嘴の先には、深い闇が広がるばかりだ。
「向こうか……とりあえず行ってみるとするか。
 悪いけど、先に行くぜ」
 類の返事を待つことなく、十六夜は枝を蹴り付け夜空へと飛び上がる。
 その背を見送った類は、夜鳥に礼を言って再び駆けだした。

 一歩、二歩、枝を蹴るたび十六夜の体は夜に染みてゆく。
「……音がするな」
 夜の樹海は静かなようでいて、様々な音に溢れている。
 しかし十六夜の耳が捉えたのは、この深い森に相応しくない、けばけばしい金属音だった。
 近づけば近づくほどに耳障りな音は大きくなってゆく。
 洞窟の中で反響しているのだろう。
 音の合間に、か細い獣の声がする。
 十六夜は速度を上げ洞窟へ近づいていった。
 冷気漂うその洞窟を見下ろし、僅かに舌を打つ。
「中は随分寒そうだな」
 愛用のコートの前を合わせ、十六夜は取り出した光の結晶を空へ向かって放り投げた。
 ――それと同時に、地面へ着地する。
 十六夜は迷うことなく、一人洞窟の中へと突っ込んでいった。

 夜空にきらりと光が舞う。
 それを視界に認め、ウィリアム・バークリー(ホーリーウィッシュ/氷の魔法騎士・f01788)は地面に突き立てていたスプラッシュを引き抜いた。
「向こうに何かあるようですね。他の猟兵の合図……でしょうか」
 ウィリアムはすぐさま光の消えた方へと駆けだした。

 ウィリアムがたどり着くよりも先に、類は持参した灯を消し、洞窟へ侵入していた。
 息が白い。類は足音を殺し、瓜江の糸を繰る。
 ――物音がする。誰かが争う、激しい打音。
 状況を考えれば、恐らく先に向かった十六夜が相手をしているはずだ。
 紡ぐ赤い糸の先、濡れ羽色の髪を持つ絡繰人形が闇に潜むように佇んでいる。
(さあ……やるべき事を、果たしましょうか)
 覗き込んだ洞窟の中、淡い蝋燭の光が中で蠢く者達の姿を照らし出す。
「――盗ったっ!!」
 十六夜が素早い動きで烏天狗の錫杖を狙う。
 烏の細い指がするりと団扇を振り放ち、巻き起こる大風に十六夜の体がぐらりと傾いだ。
「くそっ、すばしっこいやつだな!」
 重い風の衝撃に痛みを堪えながら、十六夜は壁を蹴り付け再び烏天狗へ迫る。
 烏天狗がふわりと団扇を振り上げた瞬間、十六夜は捻るように身を仰け反らせた。
「危ねぇな、その団扇も盗っちまった方がいいか?」
 胸の先を鋭く風が吹き抜ける。
 烏天狗を揶揄うように、十六夜は素早い動きで跳躍を繰り返した。
「大丈夫かい、おいで」
『きゅ、きゅぅぅぅ……』
 自らを囮に敵を引き付ける十六夜の影で、類は地面にへばりつく小さな竜の子の元へ駆け寄った。
 灯された蝋燭の明かりの中心で、竜の子は小さな小さな鳴声をあげながら助けを求めるように類を見る。
 吐き出す息は小刻みに震え、真っ白になっている。長くこの場にいることで、寒さによっても体力を奪われているようだった。
「動けそうにもない……かな?」
 移動が不可能と見るや、類はすぐさま敵から庇うよう竜に背を向けた。
(少しずつでも移動できればいいけれど……)
『きゅぅぅ……きゅぅぅぅ……』
 シャンと錫杖が鳴るたびに、竜は背を震わせ顎を地面へ擦り付ける。
「――Icicle Edge!」
 空を裂くように、薄暗い洞窟の只中を幾つもの氷柱が駆けてゆく。
 烏の羽が散り、闇を撫でるようにひらりひらりと宙を舞い飛んだ。
 シャンと錫杖が鳴り、浮かび上がった無数の炎の玉が洞窟の入り口へ向かって飛んでいく。
「あああっ!!」
 悲鳴と共に、ウィリアムが地面を叩くように膝を突いた。
 くすぶる炎に身を焼かれながら、震える手でスプラッシュを握りしめる。
「あなた達の思うようには、させません……!」
 立ち上がったウィリアムの灰色の瞳には、強い意志が宿っていた。

苦戦 🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

落浜・語
なんと言うか、凄く胸くそ悪い。
そんな悪趣味なのは早いとこと見つけて、阻止しますかね。

寒くて滑りやすい、なら川沿いとかだろうか。もしくは洞窟のなかとか?
とりあえずはカラスに協力してもらって上空から【第六感】も頼りつつ【情報収集】
それなりに明るいなら、空から特定できないだろうか。
見つけられないようなら、引き続き空からカラスに探してもらいつつ、自分は洞窟のありそうなところを探す。

見つけたならば【存在感】を消して近付き、奏剣で【フェイント】いれつつ攻撃。子竜の保護を最優先に。状況次第で、その方が安全ならカラスに子竜を預ける。


ヘザー・デストリュクシオン
戦争とかどうでもいいの。わたしはただ強い人と壊しあいたいだけだから。
でも、壊しあいたくない、生きていたい子が殺されるのは嫌かな。
テングってきっと強いのよね?
早く見つけて、たくさん楽しく壊しあいたいの!

わたしは猫の目で夜目が利くから、野生の勘で足場の悪いところは避けて通るの。他の猟兵にも声をかけて注意するの。
血の匂いを追って追跡でテングの居場所を探すの。
見つけたらリボンを解いて素早さを上げて、木に登って上から奇襲、ダッシュやスライディング、ジャンプで素早く立ち回ってかく乱して注意を引きつけるの。
攻撃されても気にせず動けなくなるまで戦い続けるの。
壊しあうのは楽しいし、傷付くのも気持ちいいから、ね。



 広がる夜の森は鬱蒼として、深い闇一色に塗り込められている。
 落浜・語(ヤドリガミのアマチュア噺家・f03558)は大ガラスの背に乗り、樹海を見下ろしていた。
「なんと言うか、凄く胸くそ悪い」
 烏天狗は洞窟内で『太陽神の儀式』を行い、捕らえた小さな竜を殺しその血を捧げるのだという。
「そんな悪趣味なのは早いとこと見つけて、阻止しますかね」
 首筋にぽんと手を乗せると、応えるように啼いた大ガラスの瞳孔がすぅっと小さくなる。
 視線の先で、きらりと何かが煌めいた。
 ほんの一瞬の出来事ではあったけれど、おそらく誰か――他の猟兵からの合図だろう。
 闇の中へ沈み込む光を追って、語は大ガラスと共に樹海へ飛び込んだ。

「戦争とかどうでもいいの。わたしはただ強い人と壊しあいたいだけだから」
 ヘザー・デストリュクシオン(白猫兎の破壊者・f16748)は目を輝かせ、夜の樹海をするすると猫のようにすり抜けてゆく。
「テングってきっと強いのよね?
 早く見つけて、たくさん楽しく壊しあいたいの!」
 金の眼が爛と輝く。
 どこからか流れてくる血の香りにすんと鼻を鳴らし、ヘザーは小首を傾げた。
「これも違う……あ、でも少し変わった匂いがする?」
 木立をすり抜け香る風に、ヘザーは誘われるように駆け出した。
 暗くうねるこの樹海の先に何かがあると、本能が嗅ぎ取っている。
「見つけた」
 シャンと響く錫杖の音。
 ヘザーの兎耳がぴくりとはねた。
 より深い闇を纏った洞窟の入り口、その奥から地面を穿つ錫杖の音が響いてくる。
 今にも消えそうな仔竜の鳴声に、ヘザーの瞳孔が細く締まってゆく。
 首元に結わえられたリボンを指先で摘まみ、するりとほどく。
 青いリボンがひらひらと風に流され夜空に舞った。

 寒い、とても寒い洞窟だった。
 白い息を吐きながら奥へ進んでいくと、争い合う激しい物音が聞こえてくる。
 ――誰かいる。
 滑りかけた足を無理矢理に堪え、語は気配を消して密かに近づいてゆく。
 奏剣を手に隙を窺っていると、戦っていた猟兵の体が光に包まれ、舌打ちと共に消えてしまった。時間切れだ。
 団扇を下ろした烏天狗の視線が、再び竜の子へ向かう。
 錫杖を握り締め、烏天狗が地を穿つ。

 ――シャン、シャン。

(あれが竜を縛っているのか? それとも、弱らせている?)
 か細い鳴き声を上げ始めた仔竜を一瞥し、語は地面を蹴り付け烏天狗へと肉薄する。
 まっすぐに突っ込んでくる切先に、烏天狗は即座に錫杖を傾けた。
「くっ……」
 ゴキンと固い音がして、奏剣の切先が逸れる。
 崩れ傾く態勢を利用して、語は仔竜と烏天狗の間に割り込んだ。
 勢いを殺すため踏み締めた足の裏で、がりがりと岩の削れる音がする。
 奏剣を横薙ぎに振り切れば、烏天狗は距離を取るように飛び退いた。
『急にいなくなったと思えば、また……』
 カロンと高下駄の音が鳴る。
 蝋燭の炎に照らされた艶やかな烏の羽根が、動きに合わせてゆらりと揺れた。
 その背目掛け、大ガラスが突っ込んでいく。
 タイミングを合わせ、語もまた奏剣を手に向かっていった。
 烏天狗が団扇を振り抜いた瞬間、強烈な風が語と大ガラスを襲う。
 吹き飛ばされ、背中から壁に打ち付けられる。
 よろめき立ち上がる語の瞳の中で、蝋燭の炎が揺らめいた。
『往ね』
 扇を振り上げた烏天狗の真後ろに、小さな影が一つ。
 気配を殺し迫るヘザーの顔に、愉しげな笑みが浮かんだ。
 カンと高く下駄の音を打ち鳴らし、烏天狗が鋭い爪の一撃を躱す。
「見つかっちゃった? だってここ、隠れるところなんてないんだもの!」
 続け様に放った爪の一撃が、振り上げられた団扇とがしりと噛み合った。
 ヘザーはすぐさま跳ね飛び、強烈な勢いで放たれた風から身を躱す。
「たくさん楽しく壊しあおう?」
 壁を蹴り付け、素早く烏天狗の足を払う。
 烏天狗はひらりと宙返り、軽やかな下駄の音を洞窟内に響かせた。
 尚もじゃれつくように爪が一閃する。
 ぶつりと切れた烏の羽根先が、ヘザーの頬を優しく撫でてゆく。
『また増えたか、邪魔をするでない』
 至近距離で巻き起こされた大風が、躱す間もなくヘザーを襲う。
 勢いのまま天井へ打ち付けられ、どさりと地面へと転がり落ちる。
 痛みに歯を食いしばるヘザーの顔には、清々しいほどの笑みが浮かんでいる。
 ごろりと一回転して素早く身を起こすと、ヘザーは再び烏天狗目掛け突っ込んでいく。

 壊しあうのは楽しい。
 傷付くのも気持ちいい。

 痛みを負って尚躊躇なく向かうその様は、烏天狗にとって『厄介なモノ』に映ったかもしれない。
 語が体勢を立て直し、再び仔竜を背に庇う。
 大ガラスと共に向かい来る二人に、烏天狗もまた大きく団扇を振り上げた。

苦戦 🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

ヨナルデ・パズトーリ
『動物使い』で呼んだ『動物と話す』事で情報を集め敵の痕跡を『野生の勘』に
より『見切り』『追跡』

敵発見後『暗殺』技能を活かし『目立たない』様に
気配を消し潜み隙を伺う

UC発動後すぐ『怪力』の『鎧無視攻撃』で子竜を
持つ手に『先制攻撃』

間髪入れず『高速詠唱』で『呪詛』のこもった
『全力魔法』をぶち込み更に『怪力』により振る
われる斧の『鎧無視攻撃』の『なぎ払い』

炎は自身の権能の夜の風と煙を
混ぜた『属性攻撃』を『高速詠唱』で放ち威力を弱め『火炎耐性』と『激痛耐性』で耐える

さっさとその手を放せ
そして、骸の海に還るが良いっ!

妾の好敵手にして伴侶であったもの、それと同じ名を持つ者の子に手を出した事を後悔してな!


コノハ・ライゼ
穴だらけって聞くからネ
他猟兵と情報共有しつつ【黒管】呼んで散開させ『情報収集』してくよ
血痕、足跡等の痕跡あれば『追跡』
付近じゃ鳴き声、錫杖の音に、蝋燭の燃える匂いも流れ出てるかもネ
何より「獲物」の匂いくらい嗅ぎ分けて見せるさ

洞窟内の滑りやすい場所は一時的に【彩雨】で凍らせ凸凹つけようか

敵は視認次第『高速詠唱』で彩雨撃ち込み先ずは儀式を止め
子竜との間に『かばう』よう割り入るネ
敵の炎はその動き読み『見切り』『カウンター』で彩雨の針ぶつけ相殺試み
『2回攻撃』で素早く針を集めた氷の盾を形成、消し損ねた焔を防ぐヨ
隙見て『マヒ攻撃』乗せた針もプレゼント

子を使うとか胸糞悪いンだよネ
とことん邪魔したい気分なの



 森の動物達と話し終えた様子のヨナルデ・パズトーリ(テスカトリポカにしてケツァルペトラトル・f16451)に、コノハ・ライゼ(空々・f03130)が声をかける。
「何かイイ情報は手に入った?
 樹海はあちこち穴だらけって聞くからネ」
「お主の言うとおり、そちこち穴だらけだそうじゃ。ここから北の方に比較的大きな洞窟があると言っておるぞ」
「北側ねぇ……それじゃ、そっちを重点的に探してみるヨ」
 小さな管狐がぽむぽむと跳ねて、闇に溶けるように消えてゆく。
 自身もまた血痕や足跡が残ってはいないかと、暗い樹海の土に視線を巡らせた。
 ほどなく、樹海を駆けていた黒い管狐の鼻がぴくりと動く。感覚を共有するコノハもまた、その独特の匂いにすぐに気がついた。
「見つけたヨ」
 管狐を通して感じる匂いと物音に、コノハは僅かに目を眇める。
「烏天狗って美味しいのカシラ」
「……さてはお主、悪食じゃな」
 ちらりと横目で視線を重ね合い、ヨナルデとコノハは烏天狗のいる洞窟へと急ぎ向かった。

 気配を殺し、ヨナルデがささやかながら突き出た岩陰に身を潜ませる。
 その傍らを通り抜け、コノハは滴る彩雨で滑る足下をでこぼこのカチカチに凍らせた。
 格段に歩きやすくなった洞窟を、軽快な靴音を鳴らしながらまっすぐに通り抜けていく。洞窟の奥には、目当てのご飯――錫杖を振るう烏天狗の姿があった。もちろんその足下には、守るべき小さな竜の姿もある。
『……邪魔をするでない』
「それは無理な相談だよネ」
 間髪容れず放たれた彩雨が、蔓延る闇と炎の色を映し、烏天狗目掛けて襲いかかる。
 地面に穿ちかけた錫杖を振り上げ、烏天狗は水晶の針の何本かを打ち払い、軽やかに飛び退く。
 その隙を逃すことなく、コノハは烏天狗と仔竜の間に身を滑り込ませた。
「だいたい、子を使うとか胸糞悪いンだよネ。
 とことん邪魔したい気分なの」
 突き立てられた蝋の中心で、地面にへばりついていた小さな竜が震える頭を上げる。
『きゅぅぅ、きゅぅぅぅ……』
「ハイハイ、そこでイイコにしててネ」
 仔竜を庇い立つコノハを虚ろな双眸で捉えながら、烏天狗は手を振り上げた。
 次々に浮かび上がる幾つもの炎の玉に、コノハが身構える。

 烏天狗が手を振り下ろさんとしたその時、闇に紛れ現れたヨナルデの黒曜石の戦斧が、有らん限りの力でもって振り下ろされた。
「骸の海に還るが良いっ!」
『クッ……!』
 片翼を圧し折られた烏天狗の動きが乱れ、数多の炎の玉が乱れ飛ぶ。
「この程度、妾にとって痛くも痒くもないわっ!」
 飛び交う炎の中、ヨナルデの身を包み込むように爆風が巻き起こる。いくつもの炎の玉を浴びながらも、ヨナルデは懸命に攻撃を凌ぐ。
「あらら」
 規則性なく飛び交う炎の玉に彩雨の針ぶつけて爆散させると、コノハは整然と地面へ突き立てられた氷の針で、地面に落ち燃え広がる炎から竜の子を守った。
 高下駄を打ち鳴らし、烏天狗が忌々しげにヨナルデへ視線を向ける。
『まったく、喧しい……。
 疎ましき存在よ』
「妾の好敵手にして伴侶であったもの、それと同じ名を持つ者の子に手を出した事を後悔するがいい!」
 どっと地を蹴り、重々しい黒曜石の斧を両の手で強く握り締める。
 肉迫するヨナルデの斧が、渾身の力でもって横薙ぎに振り抜かれた。
「こっちも忘れないでよネ」
『うぐっ』
 ヨナルデの斧を退き躱し着地した烏天狗の背に、コノハの放った水晶の針がずぶりと深く突き刺さる。
『おのれ……おのれ、猟兵ども!
 我らがコルテス様の邪魔をするでないわ!』
 洞窟内を焼き尽くさんばかりに生まれ出された炎の玉が、上下左右あらゆる方向から二人目掛け放たれる。
 爆ぜる炎の中、身を挺し竜を守ったコノハが膝をつく。
 風から放たれ荒く息をついたヨナルデの体を、柔らかな光が包み込んでいく。
「仕留め損ねたか。無念じゃ……」
「残念、味見する前に時間切れみたいネ」
 体から針を引き抜いた烏天狗が、尚忌々しげに錫杖を地に穿ち、消えゆく二人をギロリと睨む。
 仔竜の鳴き声が響く中、二人は光の粒となりその世界から姿を消した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アース・ゼノビア
【愉】
各★遵守
飛行

★飛行共通
地上組をロストしない範囲で暗視や双眼鏡を用い
予め地図で目星つけた洞穴を手分けし索敵
敵陣を見つけたら飛行一名が目的地到着時に照明弾を発射
他は地上組上空へ合流し照明弾を確認したら伊織の時津風で全員移動

潜行時
俺は後方につけ崩落や足場また罠がないか注視

戦闘時は常時オーラ防御
拠点防御の風壁維持と回復に徹し
敵炎や大風の衝撃が子竜>仲間に及ばないよう風向き風量を制御
特に大風には先制攻撃全力魔法カウンターで衝撃に備える

回復は音羽と分担
子竜や仲間に重篤な負傷がないよう
白縫の書で逐次フォローする

子竜には出来る限り医術でも止血を
もう大丈夫
大人しくしててな…いい子だ
すぐ帰してあげるからね。


花表・音羽
【愉】
全★遵守

★共通
竜保護叶えば皆で背・入口側に保護
特に無差別や炎警戒し、盾に
敵や聖杯に近付けぬよう注意し戦闘

◇探
第六感で気配探る
動物と話す技能で現地の子から情報伺う
等し急ぎ場所特定

◇戦
初手は竜危険なら最優先で祈織
以降は竜≧深手限定で回復
アース様と協力し疲労負担分散

守備も竜をかばう事を最優先に
オーラ防御と見切りで痛手防止
守り抜く覚悟と激痛耐性で心身を強く

火は水
風は吹返す風
の属性・範囲攻撃でなぎ払い被害軽減

上記危険ない時のみ敵攻撃
衝撃波で武器落とし狙い
落ちれば念動力で更に遠くへ飛ばすよう

此の地も、誰の命も、渡しはしません
消え去るべきは魔の謀
皆で共に、穏やかな朝陽こそを迎えましょう――ね、小竜様


呉羽・伊織
【愉】全★遵守
★共通
竜声
錫杖音
下駄跡
血や蝋の痕や灯や臭
等に注意し手分け探索
適宜地図&木に手早く印付け迷子防止

■探
地図通し世界知識提供
暗視
追跡
聞き耳
第六感
で情報収集
動物使いで獣の力も拝借
進み易い経路案内頼む

特定時は先行者の元へ全員巻込テレポ
不発なら飛翔誘導や情報頼り急行

■戦
間隙突き早業で竜保護へ
UC届く範囲到達or確保出来りゃ
竜共々即最後衛の元へテレポ
不発なら身を挺し護り送る

自行動は残像とフェイント交え欺く
敵攻撃は動作探り見切りで危険回避
但し竜護る為なら激痛耐性耐久覚悟
攻撃は目潰しや利手部位破壊狙う

うわ良かったなお前、姐御の子守唄とか超貴重だぞ

だから未だ
此処で眠るなよチビ助

今眠りに沈むのは奴のみ


花川・小町
【愉】全★遵守
★共通
・準備
照明
防寒具
滑止め靴
方位磁石
地図(世界知識で予め儀式出来そうな広さの洞窟に目星付け標す)
全員装備

・フェイント組
代わる代わる動き本命の一手読めぬよう連携翻弄

■探
暗視と追跡で痕を
第六感で声や音や気配を
急ぎ情報収集

■戦
常にUC使用
竜保護の為、敵牽制し隙を引出す
早業フェイントで惑わしつつ氷属性攻撃で手足凍結や目潰し阻害
消耗は生命力吸収で補う

耐久はオーラ防御・火炎・激痛耐性でも強化
見切りで攻撃探り読み
炎は水、風は風の属性攻撃でなぎ払い威力殺す
竜危険なら武器受け護衛

小竜ちゃんには後でゆっくり子守唄でも――でも今は寝ないで、ね

貴方を泣かす最低な輩を寝かし付けるまで、もう少し待っていて


千家・菊里
【愉】全★遵守
★共通
・洞窟内
足場や壁が脆い所に注意し極力避けて行動
地形破壊で崩壊危機あらば、寒さ活かし氷属性攻撃飛ばし氷結補強
但し炎での融解も考慮&注意し、手透き者が駄目元試行

◆探
動物使い・動物と話す力で現地生物にも協力依頼
己も第六感・聞き耳で現場探る

◆戦
竜保護の隙作るべく、また仲間の孤立阻止すべく敵牽制専念
武器やUCにマヒ・気絶攻撃・生命力吸収付加
早業による2回攻撃やフェイント加え欺きつつ捕縛と阻害に注力

一瞬でも阻害叶えば錫杖や団扇の武器落としも狙いに

防御は竜最優先
火炎・激痛耐性とオーラ防御で盾に

さて、悪い子は寝る時間ですね――そして良い子には、穏やかな夜明けを

悪い夢を、現にはさせませんとも


重松・八雲
【愉】全★遵守
★共通
・介入
照明消し物陰伝いに忍び一斉奇襲
猶予ない気配なら急行

◆探
UC飛翔し空担当
双眼鏡と暗視で視界補強
野生の勘・第六感・聞き耳で観察
動物と話す力で獣にも情報伺う
特定時は高速飛翔で急ぎ時津風の拠に

◆戦
常時UC
牽制の隙見て伊織と共に動き援護
オーラ防止と火炎激痛耐性で防御補強
見切りと武器受けで急所防ぎ
竜と伊織かばう位置意識
不発時や孤立危険時は怪力で抱え高速飛翔し仲間の元へ

基本は怪力で殴り気絶攻撃や
武器落としと鎧砕きで攻守低下等狙う
敵が竜に迫れば反対に吹き飛ばし
炎や風も強く武器奮い吹き飛ばしで打消試す

この子もこの国も終わらせぬとも!
日ノ本――陽の下には民の笑顔を!
そしてこの子の安息を!



 眼下に広がる樹々の海を見下ろしながら、重松・八雲(児爺・f14006)は双眼鏡を覗き込んだ。
「真っ暗じゃのう。まあ地上よりは見易かろう」
 暗視によって確保された視覚の中、地上から探る仲間達を見失わぬよう飛ぶ位置を調整する。
 儀式を行えそうな大きさの洞窟は、あらかじめ呉羽・伊織(翳・f03578)が目星をつけて地図に記し、既に六人全員の手に渡っていた。

 ざわりと不穏に揺れる樹の影から、千家・菊里(隠逸花・f02716)と伊織が呼び寄せた動物達が顔を覗かせる。
 菊里と花表・音羽(夢現・f15192)が彼らと話し、比較的足場の良い道程での案内を頼む。
「ここも違うみたいね」
 花川・小町(花遊・f03026)は照明で手元の地図を照らし、ハズレの洞窟に目印をつけていく。
 近くにある洞窟から順に確認していると、伊織がはっと視線を上げた。
 次の瞬間、そう遠くない北側の空が明るく輝いた。
「おっ、もう爺サンが見つけたみたいだな」
 どこからともなく現れた鳥達が、ばさりと大きな翼を広げる。
 忽ちのうちに五人は、八雲の元へテレポートした。
「よう、爺サン。ここか?」
「うむ、恐らくは」
「間違いないようですね」
 くぐもった錫杖の音を聞き取り、暗い洞窟の奥へ視線を送っていた音羽がうなずく。
「さてさて、それでは行きましょうか」
「ああ。仔竜の声が聞こえない……急いだ方がいいかもしれない」
 六人は頷き合うと、手にしていた灯を消して速やかに洞窟へ入っていった。

 シャン、シャン……シャン。

 重々しく、叩きつけるような錫杖の音が響く。
 洞窟内のあちこちで水の滴る音が反響していた。
 最後尾についたアース・ゼノビア(蒼翼の楯・f14634)は仲間を守るため、危うげな洞窟内の環境に注視する。
 幸いなことに洞窟内が破壊された痕跡はないが、炎に舐られたのか氷柱が融けだしていた。
 かなり滑りやすい状態ではあるが、恐らく彼らの気の張り様を思えば重大な事態にまではならないだろう。
 奥へ奥へと向かっていくと、仄かな明かりが菊里の視界に入る。
 それは微かな空気の流れに震え、不安定に揺らぐ蝋燭の炎だった。
 鼻先をくすぐるように、溶け出した蝋の独特な香りがする。
 その中に違う匂いを感じた刹那、菊里と小町は地を蹴り先を争うように突っ込んでいった。
 儀式場の中には、黒い影が佇んでいた。
 その足元には小さな竜が力なく横たわっている。
 ――蝋燭の炎に照らされながら、黒々とした液体がゆっくりと地面に広がっていく。
 烏天狗が錫杖を大きく振り上げる。
 シャラリと響く引き攣れた金属の音が響く。
 錫杖の先を仔竜の首に突き立てる、刹那――。
「ほんっと最低ね!」
「させません」
 小町の振るう薙刀が衝撃波を放つ。
 その衝撃に一瞬揺らいだ烏天狗の錫杖に、菊里の妖刀がゴギンと荒々しく喰らい付く。
『またお主らか。疾く往ね!』
 周囲を埋め尽くさんばかりに生み出された幾つもの天狗火が、彼らを焼き尽くさんと次々襲い掛かる。
「お断りいたします」
 降り注ぐ天狗火の中、ひらりと一片の花びらが舞い込んだ。
 場違いなまでに優雅に舞い飛んだ藤の花びらが、ころりと仔竜の体の上に零れ落ち、たちどころに傷を癒してゆく。
「上出来じゃねーの?」
 天狗火をその身を挺し受け止めた伊織が、ふっと口の端を引き上げた。
 なだれるように飛び込んできた鳥達が、伊織と仔竜を一瞬にしてアースの元へと転移させた。
『なっ……! おのれ、おのれ、赦さぬ!!』
 振り上げた団扇が大風を巻き起こす。
 仔竜を背に庇い立つ伊織の前に、八相の構えを取った音羽が重なるように立ち塞がった。
 さらにそれを庇うように、八雲がその身に守護のオーラを纏い金剛を手に身構える。
 極力威力を削がんと、アースもまた自身の周囲に防陣を敷く。
 天狗火の炎を纏った菊里の体を、打ち付けるような大風が壁際まで押しやった。
 その傍ら、吹き飛ばされた小町が強かに背を打ち付ける。
 大風の吹き荒ぶ只中を、烏天狗は仔竜を奪い返さんとまっすぐに駆け抜けていく。
「この子もこの国も終わらせぬとも!」
 僅かに威力を弱めた風をその巨躯で防ぎ切り、八雲は金剛を拳に巻き付けた。
「日ノ本――陽の下には民の笑顔を!
 そしてこの子の安息を!」
 一直線に向かい来る烏天狗目掛け、思い切り拳を叩きつける。
 錫杖の音が響くと同時、ドンッと大きく空気が震える。
 足場を押し潰す力圧が伝播し、周囲の者達の肌をびりびりと震わせた。
 体勢を立て直した菊里が、烏天狗の背目掛け七星七縛符を放つ。
 びたびたと纏わりつくように張り付いた護符が、烏天狗のユーベルコードを制した。
 その瞬間、菊里は目を細め、うっすらと笑みを浮かべる。
「さて、悪い子は寝る時間ですね――そして良い子には、穏やかな夜明けを」
『……クッ!』
「そうね、もう寝る時間だわ」
 取って代わるように放たれた衝撃波が、僅かに動揺しながらも、飛び退かんとした烏天狗の足を凍てつかせる。
「小竜ちゃんには後でゆっくり子守唄でも――でも今は寝ないで、ね。
 貴方を泣かす最低な輩を寝かし付けるまで、もう少し待っていて」
「うわ良かったなお前、姐御の子守唄とか超貴重だぞ。
 だから未だ此処で眠るなよチビ助。
 今眠りに沈むのはあいつだけでいい」
『クルル……』
 アースの手当てを受け傷を癒された小さな竜は、つぶらな目を瞬き、大人しく成り行きを見守っている。
「もう大丈夫。
 大人しくしててな……いい子だ。
 すぐ帰してあげるからね」
「悪い夢を、現にはさせませんとも」
 菊里の振り抜いた妖刀が、烏天狗の手から団扇を叩き落とす。
 急ぎ手を伸ばす烏天狗の元から攫うように、音羽が念動力で団扇を弾き飛ばしてしまう。
「此の地も、誰の命も、渡しはしません。
 消え去るべきは魔の謀。
 皆で共に、穏やかな朝陽こそを迎えましょう――ね、小竜様」
 烏天狗が目を剥き、錫杖を振り上げる。
 音羽の衝撃波を受け止めた錫杖を支える片腕が、菊里の刃で鮮やかに斬り飛ばされた。
 背後から放たれた小町の衝撃波が羽根を拉げ、正面から叩き込まれた八雲の拳で嘴が減り込む。
「よっし、これで終わりっと」
 仔竜を守るように立っていた伊織が素早く地を蹴り、一瞬にして懐へと飛び込んだ。
 身を翻すように、一薙ぎ。
 てんっと地を打った烏の頭が、ごろりと一回りして暗い天井を仰ぎ見る。
「お疲れさま」
『クルルル……』
 アースは笑顔で振り向くと、ぽんと仔竜の頭に手を乗せる。
 小さな竜はのどを鳴らし、心地好さそうに目を閉じた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年08月09日


挿絵イラスト