夏だ! 水着だ! ふらぺっちだ!
●その名はセイレーン号
スペースシップワールド、そこは巨大な宇宙船に居住空間を設けて人々が生活する世界。
それだけ聞くと、まるで窮屈な暮らしを強いられているかのような印象を受けるかも知れないが、実際の所は他の大多数の世界のそれと変わらぬ快適な住環境が設けられている。
いや、それどころか。船によっては観光地さながらの環境を完璧に再現してみせるものもあるという。
例えば――大盛況のうちに幕を下ろした先の水着コンテストの会場となった『ヘブンズピーチ号』のような、完全にリゾートに特化したものだとか。
暦の上では夏の終わりにあたる今、一隻のリゾート船が一日限りのやすらぎのひとときを猟兵たちにもたらすべく、様々な準備を進めていた。
広がるは碧い海、浜辺にはその海を一望できる潮風にも強いコンクリートの建物。その内装は小洒落たカフェの様相を呈しており、コーヒーや紅茶といった定番の内容が並ぶメニューには、こんな一際目立つPOPが貼られていた。
『ふらぺっち あります』
●水着コンテストお疲れさまでした
サムライエンパイアの大戦も佳境に入り、グリモアベースを行き交う猟兵たちは皆その足取りも慌ただしい。
そんな中、緊迫した雰囲気をものともせずに白いシャツの胸元をはだけた水着姿という出で立ちをしたニコ・ベルクシュタイン(虹の未来視・f00324)が、何やら飲み物らしきものを片手に足を止めてくれた猟兵たちへと話しかけた。
「ご多忙の所恐れ入る。戦争もいよいよ大詰めとなったが、皆も些か疲れてきてしまっている頃なのではないだろうかと思ってな」
若しくは、まだ戦慣れしておらず多くの強敵の予知に二の足を踏んでしまっている者もいるやも知れぬなとニコは続ける。
「……斯く言う俺も、戦続きでちと参ってしまった。そこでだ、一日限りの息抜きをご紹介しようと思う」
そう言ってかざした掌の上には虹色に輝く星型のグリモアが現れ、空間の一角に海辺と――何かの建物らしき光景を投影した。
「この船は、所謂『コンセプトカフェ』の形式を取っている商業船にて。時期と提携先とに応じて様々な環境に内装を変え、スペースシップワールドの人々を楽しませている」
そこまで言ってニコは、手にしていた飲み物――フローズンドリンクのようなものの上に、もりもりホイップクリームが盛られた贅沢なものだ――をストローでひと口啜る。
キンと来るほど冷たかったのだろうか、こめかみを押さえながら一瞬無言になったニコが空いた片手で大丈夫だとジェスチャーしながら、手にした飲み物を軽く掲げてみせた。
「――俺が皆を転送する期間、いや、その日限り。このコンセプトカフェシップ『セイレーン号』が、スペースシップワールドを救った英雄たる猟兵たちのために海辺でも楽しめるハイクオリティなカフェを運営してくれるというのだ」
よもやまさか、ニコが猟兵たちに予知の説明をしながら飲んでいるその飲み物も供されるのだろうか。集まる視線を感じたニコは皆まで言うなとばかりに一つ頷くと、メニュー画面らしき映像を投影する。
既視感にどよめく猟兵もいたとかいないとか。世界は広いので、そういうこともあるだろう。多分、きっと。
「暑いのでな、基本的にはアイスの飲み物をお勧めするが、店内は冷房が効いているので敢えてのホットでも構わない。勿論、飲食関係なく店の外に広がる海で存分に遊んでも構わない。とにかく一日、気兼ねなく羽根を伸ばして来て貰えれば幸いだ」
そう語るニコと、話を聞く猟兵たちの周りを、こうしている今も張り詰めた気配で他の猟兵たちが行き交う。
だが、決して息抜きをしてはいけないということはなく。そんな皆の期待に応えられればと、ニコが星の煌めきでリゾートシップへの道を開く。
「念の為聞くが、学生の身分にある者は夏休みの宿題は終わらせてあるだろうな?」
ぶるっ。一部の猟兵が肩を震わせた気がした。
「食っちゃ寝を繰り返し、腹回りがたゆんたゆんになったという者は居るまいな?」
びくっ。一部の猟兵の顔が青ざめた気がした。
「――宿題のラストスパートをしても良いし、浜辺でトレーニングに励んでも良い。必要とあらば、声を掛けてくれれば手伝おう」
ずぞぞぞ。とあるカフェで『ふらぺっち』と呼ばれる良く冷えた飲み物を飲み干しながら、ニコはいい笑顔で猟兵たちを送り出した。
かやぬま
●ご注意
このシナリオは【日常】の章のみでオブリビオンとの戦闘が発生しないため、獲得EXP・WPが少なめとなります。
●ご案内
はじめまして、お世話になっております。かやぬまです。
今回は初心者様でも楽しめる、一章完結の日常シナリオをお届けします。
舞台はスペースシップワールドのリゾート船『セイレーン号』、内部には海と砂浜、そして浜辺に建つお洒落なカフェがございます。
カフェのイチオシは『ふらぺっち』なるスイートな飲み物です。えっ、UDCアースで見た? いやあ気のせいですよ!
フラグメントのPOW、SPD、WIZの項目にとらわれず、出来そうなことはご自由に指定して頂いて大丈夫です。
水着をお持ちの方はイラストで表示設定にしておいて下さればこちらで拝見します。
水着コンテスト不参加で水着がない…という方でも、水着の指定をして頂ければそれを踏まえて良きようにしますので遠慮なくどうぞ!
(カフェの中で海を眺めてのんびりするなどの場合は無理に水着を着なくてもOKです)
グリモア猟兵のニコは、プレイング内でご指定頂いた場合のみお邪魔します。何かに付き合わせたいなどございましたら、便利に使ってやって下さいませ。
ペアやグループでご参加の場合は【(お相手のお名前+ID)】や【(グループ名)】を合言葉として文頭にご記載頂けると迷子防止になります。
その他、ご参加の際にMSページにも一度お目通し下さいますと幸いです。
●プレイング受付期間
恐れ入りますが、プレイングは「8/25(日)8:31~8/27(火)23:59」の間に送信下さったものを執筆させて頂く形で承らせて下さい。
期間外に頂戴したものは泣く泣くお見送りすることとなりますので、何卒ご協力の程をお願い申し上げます。
それでは、素敵なひと時になりますよう! 頑張りますので、よろしくお願い致します!
第1章 日常
『猟兵達の夏休み』
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POW : 海で思いっきり遊ぶ
SPD : 釣りや素潜りに勤しむ
WIZ : 砂浜でセンスを発揮する
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
アゼリア・リーンフィールド
水着は準備していないので、サマードレスとつばの広い帽子装備で参加します。
ふらぺっち、ですか。うふふ、美味しそうです!
冷たい飲み物を片手に波打ち際をお散歩、一度やってみたかったんですよね。よってテイクアウトしましょう。
もちろん飲み終えたごみは持ち帰りますよ!
あっ、もしかしてふらぺっちとは注文に長い詠唱が必要なたぐいの飲み物なのでは……!?
不安なので事前に確認しておきたいのですが……ニコさんを捕まえて質問しましょう。
すでに飲んでいらっしゃったということはご存じということですから間違いは無いはずです!
あ、あとおススメのサイドメニューなるものはございますか? 片手で歩きながら食べられるような物とか。
◎
佐久・ララ
ララも水着とひまわり持って遊びにきたなのー
ぺっち、大人気なのー
ララも飲んでみたいーけど、どうやって頼めばいいのか、よくわからないなの
だからニコちゃまにお声掛けする、なの
「ニコちゃまー
ララ、こういうおみせ、はじめてー、なの
いっしょにオーダー、おねがいしていい、なの?」
了承貰ったらいっしょに並ぶーなの
メニューには色んなぺっち……何をどうお願いしたらいいー?なのー
「ララ、ニコちゃまのオススメをいただいてみたいーなの」
ってニコちゃまにお見繕ってもらう、なの
買えたらお店の人にもニコちゃまにもお礼なの
ひまわりプレゼントするなの!
ニコちゃまにお見繕って貰ったぺっち、すごくひえひえーのうまうまーなの♪
杜鬼・カイト
◎
水着は男物
男だからね。当たり前じゃない?(普段の女装は棚上げ)
-----
へぇ「ふらぺっち」ちょっと気になるかも
UDCで似たようなの見たけど、あの時は温かい飲み物にしたんだっけ
冷たくて甘いのがどんな感じかな~
それにしてもメニューみてると迷っちゃう…そうだ!
ニコくんってこういう飲み物に詳しそうだし、ニコくんにおススメ聞けばいいんだ!
おススメのふらぺっちの味と、トッピングとかアレンジの方法も!
オレ「和」な感じの味がいい。抹茶とかほうじ茶とか
美味しいトッピング教えて欲しい
どれもおススメ。なんて曖昧なこと言われたら、面倒だし全部頼んじゃう
注文した分は無駄にしない
「ニコくん…飲めるよね?飲めるでしょ?」
●ふらぺっち堪能ツアー(ガイド同行)
リゾート船『セイレーン号』は、その名の通り神話伝承に語り継がれる半人半魚の女性の姿をモチーフとしたエンブレムを旗に染め抜き、船内の随所に掲げていた。
海辺のカフェの軒先にもばさりと広げられた旗を見やりながら、洒落た建物を前にして佇む三つの人影――ん、んん、人? ちょっと明らかにネコチャンっぽいシルエットもありますね――は、一体どうしたのだろうか。
「『ふらぺっち』、ですか。うふふ、美味しそうです!」
一人目、その艶髪の色は桜の花の如し。純白のサマードレスを身に纏い、つば広の帽子で日焼け対策もバッチリな可憐なる少女の名はアゼリア・リーンフィールド(空に爆ぜた星の花弁・f19275)。
「冷たい飲み物を片手に波打ち際をお散歩、一度やってみたかったんですよね」
カフェの入り口から程ない所に広がる海と砂浜に目を向けて、アゼリアがほわんと頬に手を当てて優雅なサマーバケーションに思いを馳せる。一瞬、アゼリアの周囲に花が舞った気がした。
――いや、気のせいではない、本当に「舞った」のだ。何を隠そうアゼリアはそのものズバリ花の女神、挨拶代わりのエフェクトに花を散らせる程度造作もないというもの。
という訳で、きらめく夏の思い出のためにふらぺっちなる飲み物を求めてカフェの前にやってきたアゼリアなのであった。テイクアウトで、もちろんごみは持ち帰りますよと拳をぐぐっとしながら。
「へぇ、『ふらぺっち』。ちょっと気になるかも」
二人目、そんなアゼリアの横に並び立つのは、カモフラ柄のサーフパンツに黒い半袖の上着姿が眩しい杜鬼・カイト(アイビーの蔦・f12063)。蒼紅の双眼は見るものを惹きつけ、その惜しげもなく晒された上半身が隠されていたならば美少女かと見紛えたに違いない。
水着は正統派男子路線で来ましたか! 正直ちょっとびっくりしました!
「男だからね。当たり前じゃない?」
普段の女装は完全に棚に上げて、カイトがふふんと誰ともなしに胸を張る。おお……金のチェーンネックレスが陽光を受けてキラリと光る……! クソックソッ、可愛いと格好良いが両立するとかずるいぞ!
(「UDCで似たようなの見たけど、あの時は温かい飲み物にしたんだっけ」)
そうですね、あの時は確かほうじ茶ラテのカスタマイズで攻めてましたねカイトさん。もしかして、冷たくて甘い系には普段あまり手を出されない感じですかね?
「それにしても、メニュー見てると迷っちゃう……」
カイトはカフェの外に出されていた看板に書かれているメニューに良く目を通すべく、両膝に手を置きつつ上半身を屈める。すると、頬に何かが触れたではないか。何だろう、視界には揺れる黄色いものが――。
「ぺっち、大人気なのー。ララも飲んでみたいーけど、どうやって頼めばいいのか、よくわからないなの」
三人目。アゼリアやカイトのほぼ足元で満開のひまわりの花束を抱えて、黒いつぶらな瞳でカフェを見上げるのは佐久・ララ(ハナサカ・f17010)だ。
普段はいかにも魔法使い然とした黒いワンピースに三角帽子といった出で立ちのララも、海の装いに相応しく同じ黒でもツーピースの愛らしい水着姿をしていた。チラリと覗くおへそとか特に可愛いですね!
身長、25.5cm。柔らかい乳白色の毛皮に包まれた身体に手足の肉球は、ララが他ならぬケットシーたる種族であることを示していた。そう、端的に言えば、二足歩行する超絶可愛いネコチャンなのだ!
そして、ララがカフェを見上げてきょとんとした顔をしながら呟いた一言に、この場に集った三人の胸中が集約されていた。
――『ふらぺっち』とは、どうやって注文すれば良いのだろうか?
「そうですね……もしかして『ふらぺっち』とは注文に長い詠唱が必要なたぐいの飲み物なのでは……!?」
今度は両手で頬を包み、なんということでしょうという顔をするアゼリア。これは不安だ、事前に確認しておきたい。
「だからララ、ニコちゃまにお声掛けする、なの」
「……そうだ! ニコくんってこういう飲み物に詳しそうだし、ニコくんにおススメ聞けばいいんだ!」
「ええ、グリモアベースで既に飲んでいらっしゃったということは……ご存じということですから間違いは無いはずです!」
ララが絶妙なタイミングでカフェの前を通りかかったニコ・ベルクシュタイン(虹の未来視・f00324)の方に目線をやれば、カイトとアゼリアも良き所に来たと言わんばかりに同じ方を向いた。
とてとてと走り寄ってくる人影――いやネコ影に気付いたニコは思わず顔を緩ませ、片膝をついて目線を合わせる。
「ニコちゃまー」
「佐久か、楽しんでおられるかな?」
「ララ、こういうおみせ、はじめてー、なの」
「……佐久よ、その言い回しだと若干いかがわしいお店と勘違いしてしまうぞ」
それは勘違いする側の問題では、というのはさておき。よくわからないなの、と高いスルー力を見せつつララは大きな瞳でニコを見つめながら言った。
「いっしょにオーダー、おねがいしていい、なの?」
可愛いネコチャンにこてんと小首を傾げながら頼まれては、誰も断れまい。そして更に、アゼリアとカイトが何というかこうすごい圧でわたしのもオレのもと迫ってきたのだからますますだ。
「そ、そうか。カフェのオーダーで迷われていたのだな」
「うん、おススメの『ふらぺっち』の味と……トッピングとかアレンジの方法も!」
「あ、あとおススメのサイドメニューなるものはございますか?」
はいニコ確保ー。両サイドをカイトとアゼリアが固め、ララが背中というかふくらはぎ付近をてしてし押して、ニコもろともにカフェの中にいよいよ突入していく。
元々、自分が転送した猟兵たちが楽しめているだろうかと見回りに来ていたニコだったので力になれるのならば一向に構わなかったのだが、まさかふらぺっちガイドをすることになろうとは。
「皆……『ふらぺっち』は、そんなに怖いものではないぞ……」
ニコの呟きは、果たして三人に届いたであろうか。
「色んなぺっち……何をどうお願いしたらいいー? なのー」
入り口入ってすぐの注文カウンターに並んだララたち三人は、ずらり並んだ『ふらぺっち』の種類に思わず呆然としてしまう。それを見たニコがそっと呟いた。
「通常の『ふらぺっち』だけでもこれだけの種類があるからな、確かに迷うのも無理からぬ事やも知れぬ」
それにうんうんと頷きながら、ララとカイトがそれぞれの希望を述べる。
「ララ、ニコちゃまのオススメをいただいてみたいーなの」
「オレ「和」な感じの味がいい。抹茶とかほうじ茶とか」
かたやお任せ、かたや和風をご所望。成程と顎に手をやりつつ、ニコがひとつ唸る。
「お勧めは……そうだな、折角だから季節限定のものなどどうだろう。今は桃の『ふらぺっち』を出してくれているのだが、此の機を逃すと次の機会は無いやも知れぬ」
「そんなー、なの……!」
次は無い(かも知れない)という言葉の重みに思わず息を呑むララ。次いでニコはカイトの要望に応えるべく思案を巡らせる。
「カイトは……そうだな、抹茶の『ふらぺっち』をベースに、ミルクを豆乳に変更の上チョコレートソースを加えてみては如何か」
「それって美味しい?」
「ドリンク部分がより円やかな味わいになるな、あとチョコソースの甘さと抹茶のほろ苦さとが絶妙かと思う次第」
ふぅん、とオッドアイの瞳を少し細めながらカイトが改めて『ふらぺっち』のリストを眺める。ニコのことだから選びきれずどれもお勧めだとか言うと思ったが、意外とはっきり指定をしてくるではないか。
そうしたら全部頼んで、片っ端から飲ませてやろうと思っていたのに。内心で舌を出しつつも、確かに教えられたカスタマイズは美味しそうだったので、じゃあそれでとにっこり笑顔で聞き入れた。
順番が近づくにつれて、フードメニューが並ぶショーケースも良く見えるようになってきた。そこでニコがアゼリアに向けて指である一点を示しながら声を掛ける。
「アゼリアは……食べ歩きに適したフードがご所望だったな」
「え、ええ! 『ふらぺっち』のお供に、一緒に海岸に行きたいなと……」
ならば、とニコがショーケースの下部に並んでいた巻き物状の何かに指先を定めて言った。
「此の『サラダラップ』が良いかも知れない、イメージとしては……春巻のような形状でな。色々な物が巻いてあるが、『ふらぺっち』と一緒に食べるならばあまり味が濃すぎない此方が良いだろうか」
「生ハムにモッツァレラチーズですか、明らかに美味しそうです!」
ではフードはそれで良いかな、と微笑んだニコは、アゼリアについでにと問うた。
「して、肝心の『ふらぺっち』の味はどうなさるのかな?」
「はっ……」
ニコさん、お任せしてよろしいですか? 承知した。――そんなアイコンタクトが、二人の間で交わされたとか何とか。
そうして遂に三人の番が来た。時折ニコが手伝いながら、各々『ふらぺっち』を注文していく。
「ありがとうございます、それでは左隣りのカウンターでお待ち下さいませ!」
「こちらこそ、ありがとうなの……あっ」
よいしょ、よいしょ。ララが懸命に手を伸ばして注文カウンターの向こうにいる店員さんに渡そうとしているのは、抱えていたひまわりの花。しかしいかんせんカウンターの高さは人間サイズに合わせて作られており、ケットシーに優しくない。
それを察したニコが一言失礼、と断りながらそっとララの身体を抱え上げれば、丁度良い高さになったララがお礼にと店員さんにひまわりの花を一輪プレゼント。これには店員さんも思わずほっこりだ。
再び地に降ろされたララは、ニコにもお礼のひまわりの花を差し出した。
「ニコちゃまも、ありがとうなのー」
「どういたしまして、お心遣いを有難う」
かくして無事に注文を終えた三人は、桃や抹茶や何だかすごい原型を留めない程に魔改造された各種『ふらぺっち』を手に、波打ち際に繰り出したり、カフェ内の席を確保してその場で堪能したりと思い思いに『セイレーン号』でのひと時を満喫した。
「ニコちゃまにお見繕って貰ったぺっち、すごくひえひえーのうまうまーなの♪」
ご機嫌でお耳をぴこぴこさせながら桃の『ふらぺっち』を飲むララの姿に、それは良かったと微笑むニコ。
カイトはと言えば、豆乳チェンジチョコソース追加のみならず、チョコチップまで追加したご様子。
そして――。
「きゃっ……!」
『ふらぺっち』とフードで両手が塞がっていたアゼリアのつば広帽子を、いたずらな風さんが飛ばしてしまう。
誰か、誰か拾ってあげてー!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
狭筵・桜人
【五百雀さん f15207】
はいこれ手付かずの宿題でーす。
海を見ながら紙の山と戯れるなんて贅沢ですよね。ね?
いやぁ持つべきは宿題を手伝ってくれる優しい先輩ですねえ。
書き写すだけのやつとか腐るほどありますからね!
This is a penです。大田さんのぶんもあります。
うわ本当に書き写してる……。
まあまあせっかくカフェにいるんですし
飲食代は持ちますから。
私だって副業とはいえこれでも猟兵なので
ひとりぶんの飲食代くらいどうってことはないです!
フンフン、これとこれと……うん??
気を遣われるとそれはそれで負けた気が……
じゃ、じゃあ休憩時間もあげますよ!
むしろ休ませる気無かったのかって?そうですけど。
◎
五百雀・斗真
【桜人君 f15055】
お、桜人君。こんなに宿題たまってたんだね
海を見ながら宿題は確かに特別感があって
贅沢…かもしれないけれど
いやでも、違うような
と、考えてる場合じゃないか
早速、宿題を始めよう
大田さんの分もあるの?
書き写すの出来るかな?
(桜人君からペンを受け取り、書き写しを頑張る大田さん)
ん、大丈夫みたいだね
僕も今日中に終われるように頑張ろう
桜人君、奢ってくれるの?嬉しいな♪
でもいいの?僕、結構食べる方だよ?
例えば…これとこれと後この列を全部とか
(チラっと桜人君を見て)
冗談だよ、そんなに頼まないよ
ふらぺっちとピザをお願いします
休ませる気なかったって、そんな鬼のような事を(汗
休憩貰えてよかった
◎
●夏の終わりの総決算
どさどさどさっ、と景気の良い音を立てて、テーブルの一席にたくさんの紙やノートが雪崩れるようにぶち撒かれた。
「はいこれ手付かずの宿題でーす」
中身がほぼ空になったスクールバッグを片手に、にっこりいい笑顔を浮かべる狭筵・桜人(不実の標・f15055)は、同席していた五百雀・斗真(人間のUDCエージェント・f15207)が一瞬目を丸くして驚く様を見ては満足げに席に着く。
二人が確保した席はすぐそばの海を一望できる特等席だ。だが、桜人がこれから向き合わなくてはならないのは景色ではなく宿題の山。期日は今週明けの新学期初日の登校日だが、いやコレ本当に間に合うんですかね……?
「お、桜人君。こんなに宿題たまってたんだね」
UDCアースの今どきの学生さんはてっきり電子媒体で宿題も提出するものかと思いきや、その辺は存外アナログのままらしい。無造作に散らばる紙とノートをひとまず整理しながら、斗真がその量に改めて嘆息する。
(「これ、もしかしてほとんど手付かずなんじゃないかな」)
そんな思いが脳裏をよぎるも、そこは敢えて聞かないことにした。純然たる事実として、手付かずの宿題が目の前にある。そして今日の自分は、幾度となく戦場を共に駆けた戦友でもある桜人の助っ人としてやってきたのだから。
外は燦々と照りつける太陽に、煌めく碧い海。それがたとえイミテーションであっても、絶景には変わりがない。
「海を見ながら紙の山と戯れるなんて贅沢ですよね。ね?」
「う、うん。海を見ながら宿題は確かに特別感があって贅沢……かもしれないけれど」
ある程度紙束の仕分けを終えた桜人が、それはもう圧しかないいい笑顔で攻める。いやでも何か違うような気がする、と訝しみながらも斗真がテーブルいっぱいに広がる宿題の山と向き合えば、あれこれ考えている時間さえ惜しいことに気付く。
「……早速、宿題を始めよう」
「いやぁ、持つべきは宿題を手伝ってくれる優しい先輩ですねえ」
大丈夫? なんやかんやで結局全部斗真さんにやらせちゃう腹積もりじゃないですよね? 桜人さんも頑張って下さいね!
桜人より少しばかり年上で、生き方次第では大学というものに通っていたかも知れない斗真は、久々の座学に自然と背筋を伸ばしながら何気なく手近にあった紙に手を伸ばす。
「これは……英語の課題かな?」
「それは……ええ、英語ですね。それはもうよりどりみどりですよ、書き写すだけのやつとか腐るほどありますからね!」
どうしてこんなになるまで溜め込んでしまったのか、最早それは問うても詮無きこと。言うまい、言うまい。
そこで斗真の背中からおもむろに同居している薄墨色の触手形UDC『大田さん』が、興味深げににゅるりとその姿を現した。
「わ、大田さん!」
普段はよく斗真の言うことを聞いて勝手な行動は取ることがない大田さんが、自主的に表に出てきたことに驚く斗真。にゅるにゅると、まるで宿題を眺めるかのように蠢く太田さんに向けて、桜人が動じることなくペンケースから一本のシャープペンシルを取り出した。
「『This is a pen』です、大田さんの分もあります」
「大田さんの分もあるの? 書き写し……出来るかな?」
指でくるりと器用にペン回しをひとつ披露して、桜人が伸びてきた大田さんの触手にシャーペンを絡ませる。宿主である斗真でさえも未知数な、大田さんの勉学に関する適性は如何に――!?
かりかり、さらさら。
「うわ本当に書き写してる……」
「ん、大丈夫みたいだね」
まさか本当に書き写しをこなしてしまうとは! 決してドン引きとは言わないがさすがに驚愕する桜人に、さすがは僕の大田さんと言わんばかりに満足げな顔をする斗真。UDCの無限の可能性を拝見しました……。
「僕も今日中に終われるように頑張ろう」
これは負けてはいられないと、斗真もまたペンを走らせ始める。一方の桜人は――財布を取り出して席を立つ。
「桜人くん?」
「まあまあせっかくカフェにいるんですし、飲食代は持ちますから」
何か食べません? と目線で続けた桜人に、斗真がぱああと表情をほころばせる。
「桜人君、奢ってくれるの? 嬉しいな♪」
ええっ!? 桜人さんが!? あの、何でも経費で落とそうとあの手この手を尽くす桜人さんが……奢り!? 斗真さんこれ逃げた方がいいんじゃ……!?
「でもいいの? 僕、結構食べる方だよ?」
「私だって副業とはいえこれでも猟兵なので。ひとりぶんの飲食代くらいどうってことはないです!」
そんな、他愛のない会話を交わしながら一旦席を離れ注文カウンターに向かう二人。フードメニューが並ぶショーケースの前で立ち止まると、斗真が目をキラキラさせながらビシッと指を差す。
「例えば……これとこれと」
「フンフン、これとこれと……うん?」
ひとつ、ふたつ。そして指先は棚の下へと向かい。
「後、この列を全部とか」
「ちょっと待って下さい五百雀さん、この列全部って同じメニューの味違いばかりですよ!? 飽きません!?」
ツッコミどころそこかなあ、と思いつつ斗真がクスッと笑い、桜人の方を見て両手を振った。
「冗談だよ、そんなに頼まないよ。『ふらぺっち』とピザをお願いします」
最終的に斗真が指差したフードメニューは、四角いデニッシュにも似た小さなピザだった。それと噂の『ふらぺっち』を一緒に頼んで、桜人君は何にする? と声を掛けた。
なんやかんやで無事無難な量の注文を済ませ、二人は席に戻ってくる。再び、現実と向き合う時がやってきたのだ。
だが、今はお供に美味しい飲食物がある。程よく空調の効いた快適空間で、いよいよ宿題の山を崩す作業の再開だ。
(「気を遣われると、それはそれで負けた気が……」)
本当は、斗真は本当にたくさん食べたかったのだろう。何しろ斗真は大田さんの分まで食べねばならぬのだから。けれども人ひとり分の無難な量に留めたのは、ひとえに桜人に気を遣ったからに他ならないのだろう。
よって桜人は、スクエアピザをはむっと齧る斗真に向けて、このままでは気が済まぬとひとつサービスをすることにした。
「……五百雀さん、休憩時間もあげますよ!」
「……『あげます』って、それはつまり」
最初は休憩時間さえも与えないつもりだった、ということだろうか。斗真の背後からうねる大田さんが、器用にシャーペンを紙の上に走らせてこんな文言を書いた。
『やすませるき なかったの』
「……そうですけど」
「そんな鬼のようなことを」
正直に打ち明ける桜人に、本気で汗をひと筋垂らしながら斗真が返す。だが、休憩時間をもらえるということは事実だ。斗真は大田さんの触手をそっと撫でながら微笑んだ。
「休憩、貰えてよかったね」
いやあしかし高校生の勉強科目って本当に多くて死にそうになりますね! むしろ社会人の方が楽なんじゃないか説まであります!
結局、桜人自身も参加して二人と一体が力を合わせた結果、カフェ閉店時間ギリギリで宿題の山は片付いたとか何とか。お疲れさまです!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
榎・うさみっち
【クロウ兄貴(f04599)と!】
※水着コンの水着姿
兄貴~!ちょっとお腹空かない!?
あのカフェで何か飲み食いしようぜ!
…おや?あそこに見えるのは
おうおう、ニコ君じゃないか~(ぺちぺち
そうだ!ビーチバレーしようぜー!
負けた方がカフェで奢りな!
ちなみに兄貴&俺vsニコだ!
そりゃおめー、筋肉量的にバランス取ったんだよ
審判は【やきゅみっち】の皆さんにお願い
大丈夫、公平だよ☆
試合中はニコの目の前で残像レベルの
素早い動きでフェイント!うさみっち千手観音!
今だ兄貴ー!とスッと避けてアタック決めてもらう!
キャー兄貴格好いいー!
カフェでは抹茶ふらぺっちクリーム増し増し注文!
ぷはー汗かいたあとの一杯はたまらんぜ!
杜鬼・クロウ
さみっち◆f01902
◎
黒地に紫のライン入りスイムパンツ
黒パーカー
確かに腹すいてきたなって奇遇だな、ニコ(手ひら
…筋肉ポーズは要らねェよ(白目
ビーチバレーか!腕が鳴るぜ(初心者同然だが指鳴らし
ンー?さみっちがいねェと勝てねェか(挑発
一人勝ちしたら誰かサンの好感度うなぎ上りだぜきっと
やきゅみっち便利だな
ルールは把握
手加減無し
さみっちと連携
スパイクばしばし決める(姑息
絶妙なレシーブでニコを翻弄
さみっちとハイタッチ
精密機械に砂入っちまうと大変だろ?
さみっち、今だ!
カフェへ
俺はふらぺっちって飲んだコトねェンだよなァ
甘いモン苦手だし
種類多くて
どんなカスタマイズしたらイイ?お前達に任せるわ
…今のは呪文か?
●仁義なきビーチバレー
リゾート船にしてコンセプトカフェシップ、その名も『セイレーン号』。本当の海辺さながらの船内に、夏を全力でエンジョイする二人の猟兵が降り立った。
「兄貴~! ちょっとお腹空かない!?」
「確かに腹すいてきたな……」
――彼らは、開幕から腹ペコだった。
片方はその体躯こそものすごくちっちゃいが、幼児体型にジャストフィットする青いボーダーのグレコ水着にその役割を果たしているのか甚だ疑問視されるウサちゃん柄の浮き輪をはめて、キメッキメのサングラス姿でトロピカルジュースの氷をカランと鳴らしながらぶーんぶーんと空を舞う榎・うさみっち(うさみっちゆたんぽは世界を救う・f01902)。
もう片方は背丈にしておよそ180cmに及ぼうか、引き締まった上半身は黒いパーカーを羽織ることにより一層肌が露出した部分を引き立て、組み合わせられた黒地に紫の差し色であるラインが一本入ったスイムパンツが小洒落ている成人男性、杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)。顔面を始めとした身体のいたる所を飾るピアスなどの装飾品が陽光に煌めく。
そんな二人に朗報じゃ、そこにカフェがあるじゃろ?
「あっ、あのカフェで何か飲み食いしようぜ!」
そして、そのカフェから先程グリモアベースで転送を請け負った猟兵が出てきたじゃろ?
「……おや? あそこに見えるのは……」
「ん? って奇遇だな、ニコ」
グリモア猟兵――ニコはカフェでのひと仕事を終えて再び浜辺の見回りにと店外へと出てきた所であった。そんなニコもうさみっちとクロウの気配にすぐ気付き、片手を挙げて挨拶しながら近付いてきた。
「うさみよ、クロウとご一緒していたのだな。楽しんでいるか?」
「おうおう、ニコ君じゃないか~」
言葉を交わしながら、ちっちゃなお手手でニコの逞しい胸板をぺちぺちするうさみっち。それを無造作につまんでポイッと放り投げると、ニコはクロウの方に向き直りおもむろに挨拶代わりのサイドチェストをキメる。
「ふんッ……! クロウは大丈夫か、うさみがご迷惑などかけてはいないだろうか」
「……その筋肉ポーズの方がご迷惑っつーかだなァ」
ニコよお前のそういうとこだぞ、と言いたげに内心で白目をむくクロウ。もちろん本当に白目をむいたりはしない、イケメンが白目なんかむく訳ないじゃないですか!
そこで一度はぶん投げられながらも、決して懲りないうさみっちが飛んで戻ってくる。その手には――どこから手に入れたのか、人間が使うサイズのビーチバレーのボールが掲げられていた。
うさみっちさん、さっきまで飲んでたトロピカルジュースは何処へ? あいつは置いてきた、この戦いにはついてこれそうもない? アッハイわかりました。
「なあニコ、ビーチバレーしようぜー! 負けた方がカフェで奢りな!」
「何だ唐突に、俺は賭け事は好かぬぞ」
「ちなみに兄貴&俺vsニコだ!」
「うさみよ、人の話を聞こうか」
残念ながらこれは提案ではない、決定事項なのだ。故に、うさみっちはニコの反駁も制止も聞かぬ。しかも、クロウまで追撃をしてくるものだから性質が悪い。
「ビーチバレーか! 腕が鳴るぜ」
「クロウ、お前まで……!」
愕然とした顔つきになるニコは、実はクロウがビーチバレーに関しては初心者同然であるということに気付かない。自信満々で指を鳴らしてうさみっちの提案に乗るものだから、すっかり騙されてしまったのだ。
「……だが、体格差を鑑みてもその人数配分は納得が行かぬ」
「そりゃおめー、筋肉量的にバランス取ったんだよ」
「ンー? さみっちがいねェと勝てねェか」
「……!」
実質二対一という圧倒的不利な条件は何とかならないか。そう思うもかなりの正論をうさみっちから叩き返され、更にはクロウからの熱い挑発と来ては、さすがのニコもぐぬっとなってしまう。
「決まりだな! 審判は【こんとんのやきゅみっちファイターズ】の皆さんにお願いするぜ!」
「ふざけろ、圧倒的うさみ贔屓ではないか!」
「大丈夫、公平だよ☆」
サングラスを上げて覗いたジト目でウインクひとつ、ああ全然大丈夫じゃない。ずらりと並んだやきゅみっちファイターズの面々を眺めて、コイツら便利だなと感心するクロウ。
――ザンッ! ザザンッ!!
日頃グラウンドの整備などをこなしている手腕を遺憾なく発揮して、たちまち波打ち際にビーチバレーのコートを作り上げるファイターズの皆さん。今ここに、男と男の意地と誇りを賭けた決戦の火蓋が切って落とされようとしていた!
「解せぬ……スポーツマンシップの欠片も無い……」
「――一人勝ちしたら、誰かサンの好感度うなぎ上りだぜ、きっと」
この期に及んでまだぶつくさ言い続けるニコを黙らせたのは、すれ違いざまにクロウが囁いた一言だった。ここで言う誰かサンが一体誰を示すのかは、皆様のご想像にお任せしましょう。
さあ、そんなこんなで始まってしまいました仁義なきビーチバレー勝負! パッと見だけなら男と男のタイマン勝負に見えるが、クロウサイドには地味にぶんぶん飛び回って残像まで起こすレベルの高速移動でニコを翻弄するうさみっちの姿が!
「喰らえ必殺! うさみっち千手観音!」
「は……!?」
両手を広げたまま、ぐるんぐるんと円を描くように舞い踊るうさみっちの姿は――確かに、千手観音のそれに見えなくもなかった。それ以上に、うさみっち千手観音という言葉の強さがニコを圧倒した。
その隙を突いてうさみっちがすかさずトスをして横に逸れクロウへとボールを譲れば、高々と上がったボールは砂浜を蹴って舞い上がったクロウの鋭いスパイクによって、咄嗟に腕を伸ばしたニコを嘲笑うかのように砂浜にめり込んだ。
「キャー兄貴格好いいー!」
クロウとうさみっちがイエーイとハイタッチを交わす。掌のサイズの差がすごい。
「クソが、手加減というものを知らぬのか!」
「ハッ、手加減された所で満足すンのかよ! ――さみっち、今だ!」
言葉の応酬と共に、的確なレシーブがクロウから繰り出され、今度はうさみっちが何とたれ耳でビターンと打ち返す。おい審判今のは反則ではないのか、いやセーフです、ふざけろ。飛び交う怒号、ニコ早くしろよーとせっつく声が響き――。
「……参りました」
「分かればいいのだよニコ君~。あっ、俺の『ふらぺっち』はいつもの奴な!」
「精密機械に砂入っちまうと大変だろ? 早々に降参して正解だったな」
実質二対一でこてんぱんにのされたニコが、ぐぬぬという顔で渋々財布からカードを取り出しながらカフェへと向かう。うさみっちはもう既に心に決めた注文があるようだが、クロウはどうするのだろうか。
「俺は『ふらぺっち』って飲んだコトねェんだよなァ、甘いモン苦手だし、種類多くて」
「そうか……では、エスプレッソを使った『ふらぺっち』が良いかも知れないな」
ふむ、と少し考え込んだニコだったが、すぐにある一つの答えにたどり着き、任せてくれるかと言い残して注文カウンターへと向かった。
その様子を遠巻きに見ていたクロウが耳に挟んだのは、何やらカタカナ語の羅列のような――呪文めいた文言だった。
「……今のは、呪文か?」
思わず顔の辺りを飛んでいたうさみっちの方を見て問うたクロウに、うさみっちはドヤみっちになって応えた。
「抹茶の『ふらぺっち』にホイップクリームをマシマシしているのだ! あと、兄貴のは裏メニューだな!」
「マジか」
裏メニュー、何と甘美な響きだろう。ひと汗かいた後の一杯は、きっとたまらないことだろう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
六道銭・千里
◎【ふぁるこん:見守り役】
海、海か~
最近サムライエンパイアで面倒なんばっか連れて行かれとったからなぁ…
まぁ合間に少し休ませてもらおうか
水着は海パンにボタン外したシャツ、後は日除けの麦わら帽でええやろ
泳ぐんは疲れるし、中で飲んで一日過ごすってのもな
ってことで釣り、楽しもうか
釣竿はレンタルで、餌はゴカイやな
こう波の動き音を聞きながらぼーっと眺めて過ごす…
これが楽しいもんでな
っとニコや、おーい!一緒にこれ(釣竿を軽く上げて)軽く勝負せんか?
そういえばニコ、宿題に日記あるんやけど…これどう書くべきやろうな?(戦争の日々を思い出し遠い目をしつつ)
月影・このは
◎【ふぁるこん:水泳役】
(海パン装備)
サムライエンパイアでは戦争中ですが、えぇ、こう休息も大丈夫ですよね
動力的にも感情に左右される以上休暇というのは大事でして…
そも、夏の間オーバヒート状態で働いてないのですが
まぁオーバーヒートでのダメージは深刻ですから
こう冷却とか大事だと
ということで泳ぎます千里さん見守りお願いしますね
ぶくぶくぶくぶく…(浮かずに沈んでいく)
(その後無事水底を歩いて戻ってくると体育座りで波を眺めている)
ヘスティア・イクテュス
◎【ふぁるこん:ダイエット中】
つまり泳ぎたいのよね?このは(長台詞を聞いて)
さて、そんなわたしは千里監視の下運動中よ…
夏、運動低下、美味しいご飯、後は察して…
違うのよ戦争で動く予定だったのよ…
暑さが気力を…あと、カジノとか面白い小説見つけて忙しかったのよ!
ニコ、頑張るわたしにふらぺっち持ってきてくれてもいいのよ?いいのよ?
●チーム:ふぁるこんの海のひと時
その日、月影・このは(製造番号:RS-518-8-13-TUKIKAGE・f19303)は普段の金属装甲やボディスーツの全てをパージして、少年らしい海パン一丁で『セイレーン号』が生み出した波打ち際に仁王立ちしていた。
「――サムライエンパイアでは戦争中ですが、えぇ、こう休息も大丈夫ですよね。動力的にも感情に左右される以上、休暇というのは大事でして……」
もっともらしいこのはの演説めいた台詞を、少しばかり離れた所から準備運動をしながらヘスティア・イクテュス(SkyFish団船長・f04572)が半ば右から左へと聞き流していた。
「そも、夏の間オーバーヒート状態で働いてないのですが、まぁオーバーヒートでのダメージは深刻ですから、こう冷却とか大事だと」
「つまり泳ぎたいのよね? このは」
「はい」
一言で済む話を大仰に、と思いながらも一応聞き届ける優しさでもって、しかし端的にまとめてやるヘスティア。そんなヘスティアの出で立ちは黒地に青緑が爽やかな、ミドルカットの競泳水着だ。ゴーグルも完備であり、泳ぐ気満々に見えたが。
「待たせてすまんなぁ二人共、準備ええで」
二人のさらに向こう側から、クーラーボックスと釣り竿を携えた青年――六道銭・千里(冥府への水先案内人・f05038)がやって来た。黒いシンプルなサーフパンツに組み合わせるのはボタンを留めずに胸元を見せたスタイルのアロハシャツ。加えて日除けの麦わら帽子まで被っているものだから、千里は千里で完全なるバカンスモードだ。
だが、千里が今回担っている役割は重大だった。このはの水泳を、そしてヘスティアの減量トレーニングを、その目で監視――いや、見守るという使命を背負っていたのだから!
「はい! ということで対ヴィラン用量産型戦闘ロボ・518号、これより海水浴を開始します!」
このはは元気良く自らをコードネームで呼称すると、千里に見守りを頼んでざぶざぶと波を蹴っていざ海へ――。
「「沈んどるやないかーーーーーーーーーーーーーい!!!」」
千里のみならずヘスティアまでもが一字一句違わぬツッコミを入れる中、このはは海に浮くことなくそのままぶくぶくと文字通り沈んでいった。一応ね……ヤドリガミだけど、ウォーマシンを自称するだけあって……身体は鋼で出来ていた状態だからね……。
「……ま、まぁ、このはなら海底を歩いてしれっと戻ってくるでしょう……」
「せやなぁ……そいじゃそっちも始めてええで」
そう言いながら千里がどさりとクーラーボックスを砂浜に下ろし、何か蠢くモノが入ったタッパーを取り出した。
「千里は泳がないの?」
「泳ぐんは疲れるし、せやかて建物ん中で飲んで一日過ごすってのもな」
じゃん、と千里が慣れた手付きで釣り糸の先の針に引っ掛けた餌――ゴカイと呼ばれる多毛類の一種を掲げて見せた。
「ちょっと!!! 気持ち悪いもの見せないでくれる!!?」
やめなよ男子ー、女子にゴカイは基本的にアウトですよー。へらりと笑う千里に背を向け、ヘスティアは今見てしまったモノのことを忘れようとおもむろに、そう、本当に唐突にスクワットを始めた。
膝を前に突き出さないように気を付けながら腰を落とす。背筋はピンと伸ばして丸まらないように。姿勢が大事なスクワットのフォームが崩れないように見守るのもまた、千里の仕事の一つであった。
そんな千里が釣り竿を振って糸を海へと放りつつ、片手のスマートフォンでとあるアプリを起動させた。何かのタイマーのような画面と、その下に表示された「スタート」のボタンを確認すると、ひとつタップしてタイマーを動かす。
「ヘスティア、フライングやで。今からカウント始めるさかい――」
「えっ!? あっ、待って! あ――」
『スリー、トゥー、ワン……ワークアウト』
無慈悲なる電子音声が響き渡り、ヘスティアが慌ててスクワットを再開する。説明しよう! これは20秒の間可能な限りスクワットを続け、その後10秒の休憩を置いてまた20秒スクワットをするという運動を繰り返し、それを合計8セット約4分間行うという地味にキツいトレーニングなのだ!
ちなみにこのタイマーを使った運動は他のワークでも使えるので、是非己の肉体を虐め抜きたい諸氏には挑戦して貰いたい。
そこへ、カフェから出てきて千里とヘスティアの姿を確認したニコが片手を挙げながら近付いてきた。
「……タ○タタイマーを使うとは本格的ではないか、しかしどうしてヘスティアが筋トレを?」
「ニコ! ……夏、運動低下、美味しいご飯、後は察して……」
「ああ……」
今年の夏は一際暑かったからね、しょうがないね。ヘスティアの言葉通り諸々を察したニコはそれ以上を追求しなかった。
――しなかったのに、ヘスティアの方から暴露してきた。
「違うのよ、戦争で動く予定だったのよ……」
「まあ、報告書を拝見したが幾つか頑張って居られたのではないか」
「本当はもっと頑張る予定だったのよ……暑さが気力を……」
「其れは理解出来る、特に女性は汗をかくと色々と大変だろうに」
「あと、カジノとか……面白い小説見つけて、忙しかったのよ!」
「済まない、俺の理解を返してはくれまいか!」
問答の果てに、色々と台無しな事実が発覚した。何だ其の多忙の理由はという顔でニコが呆れた声を上げてしまう。そんなこと言わないでとヘスティアがスクワットを続けながら、最後の力を振り絞って、懇願した。
「ニコ……頑張るわたしに『ふらぺっち』持ってきてくれてもいいのよ?」
「……」
ニコは黙ってヘスティアに背を向けた。
「いいのよ???」
「ダイエット中に『ふらぺっち』など言語道断、ブラックコーヒーならば幾らでもご馳走してやる」
「そんなー!!」
「ヘスティアー、これ終わったら次アレやで。これに海の水入れてダンベルにしてローイングなー」
釣り糸を垂らしつつ、千里が掲げてみせたのはウォーターダンベルと呼ばれる器具だった。ほう、と嘆息しつつニコは千里の横に並んで腰を下ろした。
千里が釣り糸を放ってからそこそこの時間が経つが、今の所動く気配はない。だが、千里の顔に焦りはない。
「――調子は如何かな?」
ニコが問いかけると、千里は釣り糸から目を離さずに返す。その横顔は、とても穏やかだった。
「こう、波の音を聞きながらぼーっと眺めて過ごす……これが楽しいもんでな」
「はは、六道銭は釣りをするのに向いている性格なのだな」
楽しんで居られるようで何より。そうニコが言ったところで、千里が突然ニコに向けてもう一本の釣り竿を突きつけたではないか。
「一緒にこれ、軽く勝負せんか?」
ニッと笑う千里に、勝負事はもう疲れたと言いながら釣り竿を受け取ることで返事とするニコ。活きの良いゴカイに若干手間取りつつも、何とか準備を整えて釣り竿を振った。
時折当たりが来ては互いを讃え、バラしてしまっては肩を叩き合う。ゆったりとした時が過ぎていき、二人の隣には本当に海底を歩いて戻ってきたこのはが、いつの間にかちょーんと体育座りをして波を眺めていた。
「そういえばニコ、俺、宿題に日記あるんやけど……」
「ほう、六道銭もまだ学生であったか。何かお困りかな?」
千里は、一際遠い目になって呟いた。
「これ……どう書くべきやろうな?」
思い出されるのは、幾多の強敵を相手に仲間たちと大立ち回りを繰り広げた夏の日々。文字通り戦に明け暮れる、戦士の夏であった。
「……じ、自己鍛錬に励んだ……など」
「せやなぁ……」
ざざーん、ざざーん。波の音だけが、慰めるように響いていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
満月・双葉
◎
…僕は泳げないんです。すぐ冷えるし。
カエルのマスコットさん、代わりに泳いできてください。鮫に食べられないようにね…(逆に鮫を食べそうだけど…)
さて、僕はテイクアウトした桃のふらぺっちでも飲みながら釣りでもしましょうか。
どうせ水着といえど見せる胸部もありませんから遠慮なくライフジャケットを身につけて…と。
ベルクシュタインさん(釣れたての魚を鷲掴みにして見せつつ)捌いてください。解剖図を自由研究として学校に提出するので。(まがお)
ぁ、もちろんその後に美味しくも頂きますよ?
ぁぁ、おかえりなさいカエルのマスコットさん…やけに満足気ですが…何を食べてた帰って来たんですか…?
木常野・都月
まだ水着をもっていないので、レンタル屋で海パンを借りたい。
本当は、尻尾で股を隠せばいいと思うんだが駄目らしい。
ヒトとしての経験が浅いから分からないが、海パンはヒトにとって大事なようだ。
まずは、ふらぺっちを飲む。
普段、喫茶店でふらぺっち飲みながらヒトを観察している。だからふらぺっちは知っている。
限定の白桃あるかな…
今日は泳ぐ練習もしたい。急いでふらぺっちを飲むと頭がキィンとして尻尾が倍になったけど気にしない気にしない痛い。
狐の姿では泳ぎ慣れているが…妖狐の体で泳いだ事はないんだ。迷惑かけないよう人が少ない拓けた浅瀬で練習する。
…なんか狐掻きになっている気がするけれど…細かい事はいいか。
●訳あって、泳げません
「……僕は泳げないんです、すぐ冷えるし」
満月・双葉(神出鬼没な星のカケラ・f01681)の理由は如何なる事情か、そこは深堀りしないでおこう。ご本人が泳げないと言っているのだから、無理強いする訳にも行かない。
だが、折角海に来たのだ。それらしいことのひとつもしておきたい。
「カエルのマスコットさん、代わりに泳いで来てください」
合点承知とばかりに、常に双葉に付き従っているカエルのマスコットが片手を挙げて元気良く海にざっぱーんしていく。
……あれ、カエルって海水に入ると色々とアウトなのでは? 大丈夫?
「鮫に食べられないようにね……」
心配するのそこですか双葉さん!? い、いや、普通のカエルさんじゃないことを鑑みれば一般常識なんてポイーでいいのかも知れませんが!
逆に鮫を食べそうだけど……などと思いながら双葉が口をつけたのは、あらかじめテイクアウトで買い求めていた桃の『ふらぺっち』に刺さったストローである。期間限定フレーバーをチョイスするとはさすが双葉さん、抜かりない。
「……釣りでもしましょうか」
ここ『セイレーン号』には、マリンリゾートを満喫するためのお助けショップも出店している。水泳用具や釣り道具など、揃わないものはないと言っても過言ではない充実ぶりだ。
そこで釣り道具一式を借りてきた双葉は、ライフジャケットを身に着けて準備を始めた。ええっ、折角素敵な水着着てるのにライフジャケット装着しちゃうんですか!? いや安全面では完璧ですが!
「どうせ水着といえど、見せる胸部もありませんから」
はい、カメラ目線で切ないお返事ありがとうございました! でもオレンジ色のスポーティな水着、似合ってますよ!
一方その頃、双葉と入れ違いになるようによろずレンタルショップの軒先でたどたどしくお金を払ってサーフパンツを借り受けたのは、木常野・都月(妖狐の精霊術士・f21384)だった。
ピンと立った両耳にふさふさの尻尾が、都月が他ならぬ妖狐たる種族であることを如実に物語っていた。今、都月の尻尾は人間の文化の一つである「金銭と物品を交換する」行為を成し遂げたことの喜びで元気良く左右に揺れていた。
(「これが……水着。尻尾で股を隠せばいいと思うんだが……」)
尻尾が生えていない人類の方が多いからね、仕方ないね!
そんな訳で、無事水着をレンタルすることに成功した都月は早速――。
「お客様、こちらで着替えられては困ります……!」
「更衣室にご案内します!」
慌ててカウンターを乗り越えて飛び出してきた店員さんたちに、簡易更衣室へと丁重に案内されていった。
(「海パンは、ヒトにとって大事なもののようだ」)
また一つ学んだ都月さんでした。何事も経験ですからね!
どったんばったんしたものの、何とか無事に海の装いを整えた都月。真っ先に海に向かうかと思いきや、何とカフェへと入っていくではないか。
「まずは、『ふらぺっち』を飲む」
人間の姿を取るようになってまだ日が浅い都月だが、そんな日々でも喫茶店で『ふらぺっち』を飲みながらヒトを観察することに余念がない。よって、数少ない知識にうちの一つとして『ふらぺっち』はしっかりと刻み込まれていたのだ。
「限定の白桃、あるかな……」
会計カウンターに行って、メニューを指差し、これください。ヒトとして学ぶことはまだまだ多い都月だが、こと『ふらぺっち』の注文に関しては何ら問題がないようで。
無事に桃の『ふらぺっち』を受け取って一口吸えば、キンと冷えたフローズンと果肉が太いストローを通って口の中に広がる。美味しい。でも今日は『ふらぺっち』を堪能するだけでなく泳ぎの練習もしたい。
ならば急がねば、と気が急いた都月は思わずずぞぞと勢い良く『ふらぺっち』を一気に飲んでしまう。ああっお客様、そんなに急いで冷たいものを飲むと――。
頭がキィンとする。あまりのことに、ふさふさの尻尾がぶわわと膨らんで倍くらいの大きさになる。でも気にしない、気にしない――。
「……痛い」
――気にせずにはいられなかった。こめかみを揉んで何とか痛みを散らそうとする都月だった。
「ベルクシュタインさん、この魚を捌いてください」
「ど、どうした。藪から棒に」
双葉がちょうど活きの良いブリを釣り上げた所に、通りかかったニコが突然のお願いをされて困惑した。釣れたてのブリは鷲掴みにされてどどんとニコの前に突き出されている。
「解剖図を自由研究として学校に提出するので」
「……其れならば、手ずから捌いた方が勉強になるのでは?」
端的に言うと、宿題を代わりにやってくれと言われているようなものだと判断したニコがやんわりと諭すが。
「ぁ、もちろんその後に美味しくも頂きますよ?」
「そういう問題では無くてだな……」
片手で軽く顔を覆って目眩を堪えるニコは、妥協案として横で捌くのを手伝うという提案をした。さすがにまったく捌いたことがない魚を下ろせというのは難しかろうと思い――ふと、ある疑問を口にした。
「……双葉よ、其の魔眼で捌く事は出来ぬのか」
「……」
お前は魔眼を何だと思っているのか、ニコは大根で思い切り殴られたそうな。
人の気配がほとんどない、浅瀬であれば迷惑をかけることもないだろう。そう判断してやって来た丁度良い場所に都月は恐る恐る足を踏み入れる。
狐の姿では泳ぎ慣れているが、妖狐であるこの姿ではまだ泳いだことがない。実質人間の身体なので、一応それに適した泳法があるのだが、この場では誰もそれを教えてくれない。
「……なんか狐掻きになっている気がするけれど……」
まあ、前に進んでいるのだから、細かいことはいいか。そう思った都月がふと顔を上げると、何とそこにはカエルが――そう、カエルがいるではないか!
突然のカエルとの遭遇にあわあわする都月に、カエルはまるでリピートアフターミーと言わんばかりに、手足を器用に動かしてすいすいと泳ぎ始めた。
――そう、平泳ぎである!
「よ、良く分からないけれど……真似をすればいいのか……」
カエルの動きを良く見ながら、同じように手足を伸び縮みさせてみればどうだろう。狐掻きよりも遥かに速く進んでいくではないか。
そうか、こうすればいいのか。また一つ学んだ都月は、その後延々と平泳ぎの練習に明け暮れたという。カエルの姿は、いつの間にか消えていた。
「ぁぁ、おかえりなさいカエルのマスコットさん……」
レンタルショップの軒先を借りて、ニコの指導の元でブリを捌いていた双葉の元に、カエルのマスコットが帰ってきた。
「やけに満足気ですが……何を食べて帰って来たんですか……?」
物は食べてはいないが、充実したひと時を過ごしたカエルのマスコットさんは、えへんと胸を張るばかりだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
出水宮・カガリ
ステラ(f04503)と
水着は…まあ、いいのを作って貰ったので、それで
絶対にふらぺっちを飲むという、断固とした意志を感じる
強い、こういう時のステラは、何なら戦闘中よりも強いと思う
本当に、甘味で命を繋いでいるのではないか、この流星剣
他の客も、びっくりするのでは
まあ、うん、面白そうなので
カガリも、飲みに行こう、行こう
ふらぺちー…の種類は、よくわからないので
ステラの同じのか、めにゅーでその横にあるものを
(お任せ)
幸せそうに甘味を頬張るステラを見るのは、悪い気はしないんだがな
一口交換か?構わないぞ、ほら
…かんせつ、きす、とは。カガリは特に気にしないが…
それとも、したいのか?
ステラが望むなら、そのように
ステラ・アルゲン
カガリ(f04556)と
水着は男物を
下に女性水着を一応着ているが……まぁ人が多そうだしな
あの姿はまだ着慣れてないしな
それより、ふらぺっちだ……!
なぁあれは甘い飲み物だな? そうなんだろ!!
カガリ、カガリ。私もあれが飲みたい!
あれを飲みに行こう(カガリの腕を強く引っ張る)
えっ、甘いものは命の次に大事だろ?
私はいちごの甘いものが欲しいな
ホイップクリームも多めにして欲しい
甘い、おいしい、幸せ……!
おいしいか、カガリ?
カガリは何の味を頼んだんだ?
一口くれるだろうか。私のもあげるからさ
……よく考えたらこれって間接キスになるのか?
いやまぁちょっと気になって……
キスがしたいとかじゃ……できるならしたいけど
●それは、ふらぺっちよりも甘く
出水宮・カガリ(荒城の城門・f04556)。優雅な紋様が縫われた、さながらサムライエンパイア風と言うべき羽織物を肩に掛けたその姿は、すれ違う人々全てが思わず振り返ってしまう程の美しさであり。惜しげもなく晒す肢体に無数と刻み込まれた傷跡は城門たるカガリの不落たる証にして誇りであった。
ステラ・アルゲン(流星の騎士・f04503)。今日は男物の水着を身に纏っているが、去る水着コンテストでは可憐な乙女としての一面も垣間見せたという。人目が多い場であることやまだ慣れていないという事情から慣れた男装の水着でやって来たが、ラッシュガードのジッパーにキラリと光る星の金具が流星剣たるステラに良く似合っている。
「それより、『ふらぺっち』だ……!」
「……絶対に『ふらぺっち』を飲むという、断固とした意志を感じる」
そんな美男美女カップルであるカガリとステラもまた『ふらぺっち』を求めてカフェへとやって来ていた。ぐぐっと拳を握り締めて、互いの眩いばかりに魅力的な水着姿をなお差し置いてでも、ステラが『ふらぺっち』への熱い情熱を向けるのに、カガリは思わず感嘆の声を上げた。
「なぁ、あれは甘い飲み物だな? そうなんだろ!!」
ステラの青い双眸が煌めく。眩しい、色々な意味で眩しい。カガリが紫眼を細めれば、ステラが更に畳み掛ける!
「カガリ、カガリ。私もあれが飲みたい! あれを飲みに行こう!」
ぐいぐい、驚くほどの強い力で腕を引かれてカガリは仰天したが、多分もっと仰天したのは周囲のお客さんたちであろう。注文カウンターへと引っ張られながら、カガリは痛感した。
――強い。こういう時のステラは、何なら戦闘中よりも強いと思う。
「本当に、甘味で命を繋いでいるのではないか、この流星剣」
「えっ、甘いものは命の次に大事だろ?」
口をついたふとした疑問を、一言で、あっさりと片付けられた。カガリは一度カフェの天井を仰ぐと、すぐに気を取り直してステラの手を取った。
「まあ、うん、面白そうなので。カガリも、飲みに行こう、行こう」
最初はまるで答えは聞いてない状態だったステラだったが、きちんと婚約者からの同意を得られて喜びもひとしおというもの。程なくして回ってきた注文の順番に、嬉々としてメニューに飛び付いた。
ずらり並ぶは、いろんな種類の『ふらぺっち』。ステラの少し後ろからそれを見たカガリには、その種類の違いが今ひとつ分からない。
一方のステラは、心に決めた『ふらぺっち』がいた。赤い果肉が鮮やかな、とびきり甘いいちごの『ふらぺっち』だ。それを指差しながら、ステラは心を存分に弾ませながらカスタマイズしていく。
「ホイップクリームを多めにして欲しい!」
「かしこまりました、カップの蓋が閉まらないくらいに盛っちゃいますね!」
店員さんもこれにはノリノリでホイップマシマシのオーダーをキッチンへと飛ばす。
「お連れ様は、いかがなさいますか?」
「えっ」
元気良く話を振られたカガリが一瞬怯むも、うろたえていては城門としての名がすたるとどっしり構えて――。
「では、いちごの横にあるものを」
いちごの『ふらぺっち』の右横に並んでいたものの上に、そっと指を置いたのだった。
――店内の奥まった席は、背の低いテーブルとゆったりとした一人掛けのソファがそれを挟むように置かれた、落ち着いた一角だった。
『セイレーン号』に広がる碧い海を一望することも出来る最高の席を確保することに成功したカガリとステラは、席に着いて互いに注文した『ふらぺっち』を一口堪能する。
「甘い、おいしい、幸せ……!」
ほわわん、と。まるで本当に周りに花が咲くかのような笑顔を綻ばせて、ステラがいちご味の『ふらぺっち』に感動する。そんな、幸せそうに甘味を頬張るステラを見るのは、カガリとしても決して悪い気はしないのだが。
「おいしいか、カガリ?」
不意に問われてカガリが我に返れば、そういえば何の味を頼んだのかと聞かれる。
はて、これは何の味だろう。白くて、それはもう真っ白で、まるでステラの髪の色のようだと思って。
甘いのは間違いない。だが、具体的には何味だろうか。指差しで頼んでしまったカガリには皆目見当がつかない。
「一口、くれるだろうか。私のもあげるからさ」
「一口交換か? 構わないぞ、ほら」
それはさも当然のように。互いの『ふらぺっち』を互いに差し出すようにして、一口飲み合う。程なくしてステラが声を上げる。
「……バニラ、だな! それも甘くておいしいな!」
「ばにら、ばにら。成程……」
しばらく片手を頬に当てて口内に広がるまろやかな甘さにほんわりしていたステラが、突然何かに気付いた様子で顔を赤らめたものだから、カガリはどうしたと身を乗り出す。
「……よく考えたら、これって間接キスになるのか?」
「……かんせつ、キス、とは」
ステラはたまに不思議なことを言う、とカガリは思う。それとも、自分が知らぬだけなのか。取り敢えず言えるのは、眼前の赤面するステラは可愛い、ということに尽きた。
「いやまぁちょっと気になって……」
「カガリは、特に気にしないが……」
かんせつ云々が何を示すのかは分からないが、多分キスの一種なのだろう。キスの一つや二つ、お安い御用だというのに。
「それとも、したいのか?」
「いやその、キスがしたいとかじゃ……」
先程までの大はしゃぎっぷりは何処へやら、途端にしおらしくなってしまったステラが、しかし小声で返してきた。
「……できるなら、したいけど」
幸い、確保したこの席はほとんど死角となって他の客の目には非常に付きづらい場所にあった。これも何かの采配であろうか。ちょっと双方が身を乗り出した程度、せいぜい海でも眺めている程度にしか捉えられまい。
「ステラが望むなら、そのように」
「……っ!」
元々身を乗り出してたカガリが、目線でステラを促せば。一度周囲を念の為にと見回し確認したステラもまたその身を乗り出して、テーブル越しにそっと口付けを交わした。
ほんの一瞬。名残惜しいけれど、とても甘い口付けを。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
セツ・イサリビ
※可能であればニコさんをお誘いして
カフェで。だって外は暑いから
あれが噂のふらぺっちか
呪文を唱えると甘い飲み物が出てくるという伝説の
だがしかし、俺は呪文を知らぬ
移り変わりの激しい人の世で生きるには、まだまだ未熟か
そうだ、慣れていそうなひとに頼めばいい(名案
「そこの、背の高い眼鏡の(ニコさん)」
慣れた仕草、相当の手練れとみる
ここの呪文を教えてほしい
サイズは大きめで
甘さはそんなに甘くないほうがいい
モカ…それはどんな? ならばそれも追加で
チョコチップを入れられると聞いた
ホイップは大盛りにしたい、あれはいいものだ
つまり、呪文にすると?
「今のを頼む」
あとはミルクを頼めるか
これのために(ふところから猫にゃー
荒谷・つかさ
水着(黒のさらし&褌)で参加
ふらぺっち。
まさか、この世界にもあるなんてね。
ここのかふぇも呪文が必要なのよね?
でも、今日の私は前とは一味違うわ。
そう……今の私には【超★筋肉黙示録】があるのよ。(どどんっ)
無敵の筋肉力があれば、呪文が相手だろうと大体何とかなるはず……!
……
…………
………………
筋肉は……無力だったわ……(ぷすぷす)
(全くもって何ともなりませんでした)
(むしろどうしてなんとかなると思ったのか)
(超★筋肉黙示録、【日常】に敗北)
筋肉でなんとかするのは諦めて、店員さんのオススメを言われた通りに注文
カフェの中でのんびりして過ごすわ
このふらぺっち……なんだか少し、塩辛いわね……(敗北の味)
●ふらぺっちを攻略せよ!
今回集った猟兵たちのお目当ての大半が『ふらぺっち』であることに、ニコは正直驚きを隠せずにいた。ならばなるべくカフェに待機して、注文に困る者が現れたら即座に手助けできるようにするべきかと店内を見回す。
そこでふと、すらりとした体躯の青年と……肩にお行儀良く乗っている黒いものは、猫だろうか。それと、黒いさらしに褌という誠に漢前な出で立ちの女性の姿を注文カウンターから少し離れた所で目撃した。
「ご注文お決まりの方からお伺いしまーす」
という店員さんの声掛けでも動かないあたり、恐らく注文を決めかねているのだろう。
(「あれが噂の『ふらぺっち』か、呪文を唱えると甘い飲み物が出てくるという、伝説の」)
カウンターの上部に掲げられた、恐らく店員さんが描いたと思われるイラストを眺めながら、セツ・イサリビ(Chat noir・f16632)はほうと嘆息しながら肩に器用に乗った黒猫――ポウをひと撫でした。
一見普通の青年に見えるセツは、その実文字通り悠久の時を生きてきた「神」である。そんな神様からも「伝説」と称される『ふらぺっち』、もはやただの飲料という概念を超越してしまっているのかも知れない。
様子見にと、先立って注文する人の子らの様子を観察すれば、皆口々にセツが聞いたこともない単語の羅列で店員さんと会話をしているではないか。何だ、何なのだこれは。このような呪文めいたもの、とんと分からぬ。
「……移り変わりの激しい人の世で生きるには、まだまだ未熟か」
普通の人間と神たるセツとでは、流れる時の速さがまずもって異なる。そしてセツは改めて、人間の営みの在りようの変化の激しさを思い知るのだった。
そんなセツとポウから少し離れた所で、およそ喫茶店で放つ気配ではない尋常ならざるオーラを漂わせるのは荒谷・つかさ(風剣と炎拳の羅刹巫女・f02032)。これより繰り広げられるはただの飲食物の注文にあらず、そう――死合いである。
(「『ふらぺっち』。まさか、この世界にもあるなんてね」)
かつてUDCアースで縁があったと言えばあった『ふらぺっち』だが、つかさはその時敢えて呪文を回避して漢らしくブラックコーヒー無限おかわりで攻めたのだった。
だか、今日という今日は。遂に『ふらぺっち』と対峙する。するったらするのだ。決意を込めてキッと注文カウンターを見据えれば、店員さんが圧に負けてヒエッとなる。
「ここのかふぇも呪文が必要なのよね? でも、今日の私は前とは一味違うわ」
これには隣のセツも思わずつかさの方を見る。先立って呪文のお手本を披露してもらえるならばそれは僥倖と、つかさを見守ることにしたのだが。
「そう……今の私には【超★筋肉黙示録】があるのよ!」
「……黙示録」
仮にも神の一柱として名を連ねるセツの前で、かの聖典を紐解くとは。しかし――筋肉? セツがポウと真顔で互いを見やっている間にも、今や身に纏ったオーラの圧が最高潮に達したつかさが、ずんずんと注文カウンターに突き進む。
「無敵の筋肉力があれば、呪文が相手だろうと大体何とかなるはず……!」
つかさが携えるは、筋肉こそが最強であると理論付ける分厚い書物が一冊。多分、それで物理的に敵を殴るのが一番手っ取り早そうである。
だが――このカウンター越しに繰り広げられる攻防は、申し訳ないが物理で何とかなるものでは、ないのだ……!
「……」
「い、いらっしゃいませ!」
「……」
「今日も暑いですね! 店内は空調が効いていますけれど、冷たい『ふらぺっち』などいかがですか?」
常人ならば余裕で卒倒してしまうであろうつかさの圧に、しかし百戦錬磨の店員さんは辛うじて踏みとどまり、何とか注文を聞き出そうとする。
「……ぺっち」
つかさが、絞り出すように声を発する。その表情を見ればどうだろう、脂汗で大変なことになっているではないか。
「ぺっち……『ふらぺっち』ですね、お客様!?」
一転、店員さんが攻勢に出た。こくこくと頷くばかりのつかさは、ここに至るまで一切の筋肉を行使していない。それが意味するものは。
――無力。
【超★筋肉黙示録】の弱点は、その能力に少しでも疑念を抱いてしまった瞬間に、びっくりするほど弱体化してしまうことにある。今、つかさはがくりと注文カウンターの前で膝から崩れ落ち、慌てて飛び出してきた店員さんに抱え上げられていた。
「お客様、とびきりおススメの『ふらぺっち』をご用意致します! どうぞこちらへ!」
慣れた手付きの店員さんにずるずると引きずられていくつかさは、口から煙を吐きながらぼんやりと呟いた。
「筋肉は……無力だったわ……」
事の一部始終を見守っていたニコが、そしてセツが、それを見送りながら言った。
「全く以て何ともならなかったな……」
「むしろ、どうして何とかなると思ったのだろう」
冷静沈着な感想を述べあった二人の視線が交差する。そしてセツにはすぐに分かった。――この者は手練だと。
眼前で繰り広げられた悲劇を繰り返さぬためにも、慣れた者がいるのならばそれに頼めば良いのだ。
「そこの、背の高い眼鏡の」
「ああ、貴方は――」
ニコが少し緊張した面持ちでセツの呼び掛けに応じた。もちろん猟兵に貴賤などないが、やはり神様から声が掛かるというのは誰しも身が引き締まるものではなかろうか。
「先程から、あの少女に何時助け舟を出そうかと様子を見守っていたな」
「……自力で乗り越えてくれる事を祈っていたのだが」
そっと首を振るニコに、セツは単刀直入に切り出した。
「相当の手練と見た、俺にここの呪文を教えて欲しい」
「心得た、俺で良ければ……力になろう」
こうして、二人の男と一匹のネコチャンが注文カウンターへと歩を進めることとなった。
まずは、ベースになる『ふらぺっち』とそのサイズを決めなければならない。ニコがどうすると問いかければ、セツが希望を述べた。
「サイズは大きめで、甘さはそんなに甘くないほうがいい」
「成程、ではダークモカチップの『ふらぺっち』が丁度良いだろうか。他と比べて甘さが控えめなのでな」
「モカ……それはどんな?」
「平たく言えば、チョコレートのシロップの部分を示す。ほろ苦いコーヒーと良く合っている」
先程とは打って変わって、知的な男性二人が真剣に『ふらぺっち』談義を繰り広げている様は実に様になっており、つかさを引き渡して戻ってきた店員さんはそれをただ見守るばかり。
「ほう、ならばそれで行こう。カスタマイズでチョコチップを入れられると聞いたのだが」
「それは良かった、丁度この『ふらぺっち』には、初めからチョコチップが入っている」
勿論、増量も出来るぞというニコに、セツはひとつ頷くと増量の旨を伝えた。
「折角だから、増量分のチョコチップはホイップの上に乗せて貰おう。……他にご希望はあるかな?」
「そのホイップだが、大盛りにしたい。あれはいいものだ」
そう言ったセツは、眼鏡の奥の紫眼を輝かせていた。カップの蓋が閉まらないなと、ニコも笑った。
「では――」
『グランデサイズダークモカチップふらぺっち、アドホイップアドチョコチップ』。
「今のを頼む」
「かしこまりました!」
何と、ホイップもチョコチップも無料で増量が出来るという。ではお会計をと言いかける店員さんを軽く手で制して、セツがもう一つ注文をした。
そういえば、先程まで肩に器用に乗っていた黒猫ポウの姿がない。どうしたことだろうか。
「あとは、ミルクを頼めるか。――これのために」
「にゃー」
何と、いつの間にかセツの懐の中に移動していたのだ。主人が注文に行くのに邪魔にならぬようにと配慮したのだろうか、良く出来たネコチャンである。
ここでニコが大丈夫かとセツとポウの顔を交互に眺める。
「猫には、人間が飲むミルクは身体に悪いと伺った事がある。お身体に障るのでは――」
「大丈夫だ、ポウは神の権能で何でも好き嫌いせず良く飲み良く食べる」
「ええ……」
「かしこまりました、では少し温めてお出ししますね」
神とはかくも万能なのかと嘆息するニコを尻目に、人肌程度に温める所まで心得た店員さんによって、滞りなく注文は完了したのだった。
「この『ふらぺっち』……なんだか少し、塩辛いわね……」
おかしいなあ、つかささんに出されたおススメの『ふらぺっち』は、キャラメル味にマシュマロを乗せた季節限定の……。
ああ! 砕いたビスケットにちょっと塩気があるから、それですかね!
「違うわよ……これは、敗北の味よ……」
大体のことは筋肉で解決してきたつかささん、夏の終わりに切ない思い出を胸に刻んでしまいましたね……。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リオン・リエーブル
◎
ニコさんとお話したいなー
沖合に浮かべたでっかい浮き輪の上に
マグロみたいにねそべってるよ
水着着てサングラスして手足伸ばして
波間に揺られてゆーらゆーら
ふらぺっちがずぞぞーって鳴る
おかわりが欲しいけど、店まで行くのめんどくさい
ニコさんに届けて欲しいなぁ
おおニコさんどーもどーも
わざわざ悪いねぇこんな沖合まで
おにーさん疲れちゃってさ
今はマグロな気分なんだよね
戦争なんもしてないけど
五杯目のふらぺっちを一口
甘いの続きで飽きちゃった
浮輪に仕込んだ試験管の中身をどばーっとふらぺっちに
ちょっと混ぜて飲もう
……八丁味噌味のふらぺっちって、結構コアなマニア向けだよね
初対面なのに付き合わせてごめんねー
ちょっと元気出た
●カスタマイズは八丁味噌
その美男子――リオン・リエーブル(おとぼけ錬金術師・f21392)は、白地に金糸のアクセントが良く似合うサーフパンツを身に着けて、その長身をもしっかりと受け止める大きな浮き輪に身を委ねていた。
波に揺られるまま、今やリオンは沖合のただ中。その手には、テイクアウトしてきた大人気フレーバー・桃の『ふらぺっち』があった。だが、それももうすぐ飲み干されようとしていた。
「『ふらぺっち』は存外儚いものだねえ、もうなくなってしまったよ」
ずぞぞ、と最後の一口を吸い上げて、リオンは傍らに浮かぶ人影に向けて話し掛ける。人影――ニコはライフガードチューブに自らが掴まる形で沖合に留まりながら、良くまあ頭痛も起こさずに速飲みが出来るなと感心の視線をリオンに向けていた。
「常温の飲み物を飲むかのようだったな……あっという間に飲み終えてしまうとは」
「うん、美味しかった。おかわりが欲しいけど……」
そう言って、リオンはかけていたサングラスを片手で上にずらすと琥珀色の瞳を悪戯っぽく陽光に煌めかせる。それを美しいを息を呑む者も多かろうが、今のニコには嫌な予感しか感じられなかった。
「店まで行くのめんどくさいなー、ニコさんに届けて欲しいなぁー」
「クッ……! 此れで五杯目だぞ! そろそろ摂取カロリーの事も鑑みては如何か!」
「へーきへーき、永遠の22歳は体型も永遠なのさ」
そいじゃよろしくね、と浮き輪の上で手をひらひらさせるリオンの様子はまさに問答無用、ニコはニコで遠泳もまあ良いトレーニングになるかと割り切って、空になった『ふらぺっち』のカップを片手に海辺のカフェへと泳ぎ出す。
(「……しまった、次は何のフレーバーをご希望か確認するのを忘れた」)
あっという間に中間地点まで泳いでみせた所でニコがふと次の注文についてのことに思い至るが、今更引き返してもかえってリオンを待たせて迷惑になってしまう。ここは己の感性の見せ所だとそのままカフェへと突き進んだ。
ゆーらゆーら。のんびりと沖に浮かぶリオンの姿は、元々の端正な顔立ちに加えて海辺仕様にとその美しい緑の長髪を高く結い上げ非常に艶っぽい――のだが。
「……待たせたな、エスプレッソの『ふらぺっち』だ。そろそろほろ苦い風味が恋しかろうと思ってな」
「おお、ニコさんどーもどーも! わざわざ悪いねぇ、こんな沖合まで」
「いや、君も楽しければ俺も其れなりに楽しい故、お気になさらず」
『ふらぺっち』が溶けぬよう、それはもう最短で最速で真っ直ぐに一直線にリオンの待つ沖合までざばざば泳いできたニコである。普段から鍛えておいて本当に良かったなどと思ったとか何とか。
『ふらぺっち』を受け取るや、早速一口それを啜って堪能するリオンが、ああ美味しいとますますそのすらりと伸びた肢体を浮き輪に委ねる。その様を見たニコが言おうと思って黙っていたことを、リオン自らが言ってのけたのはその時だった。
「いやあ、おにーさん疲れちゃってさ。今はマグロな気分なんだよね、戦争なんもしてないけど」
マグロ。言い得て妙であった。水揚げされたマグロのようだ――とはとても失礼で言えなかったのだが、本人がそう言うのならばとニコは頷く他なかった。
「人には其々事情があるだろう、疲れている時は遠慮無く気分転換を図って良いと思うよ」
其の為に、今日の此の日を用意したのだから。猟兵たちが思い思いに英気を養ってくれれば、ニコとしては満足なのだから。
サングラス越しにニコを一瞥したリオンは、大仰に背伸びをするとニコ曰く「ほろ苦い」風味の『ふらぺっち』を高々と掲げた。
「うん、確かに今までのと比べるとほろ苦いね。でも、甘いの続きで飽きちゃった」
「な……っ!?」
ニコは、己が目を疑った。『ふらぺっち』の蓋をぱかりと開けるや、リオンはおもむろに浮き輪に仕込んだ試験管を一本抜き取ると、中身をどばーっとその中にぶち込んだではないか!
浮き輪に? 試験管? いや待てツッコむ所は其処ではない、今――何を入れた? ニコが呆然と海に浮かぶ中、謎の物体が混入した『ふらぺっち』が、軽く混ぜられ何だかすごい色になりながらリオンの口に吸い込まれていく。
「……八丁味噌味の『ふらぺっち』って、結構コアなマニア向けだよね」
「コアなマニアでも、八丁味噌をカスタマイズする者はそうそう居らん」
――リオン・リエーブル。職業、ウィザードにして王子様。そして、錬金術師。料理は得意なはずなのに、どうしてこうなった。思わず顔を覆うニコに、リオンはあははと笑いながら言った。
「初対面なのに付き合わせてごめんねー、ちょっと元気出た」
その声に、その言葉に。ニコは今までのアレソレを全て吹き飛ばされた気がした。
「そうか、……ならば、良かった」
また何時でも声を掛けて欲しい、そう言ってニコは見回りを再開すべく片手を挙げて挨拶ひとつ、再び岸辺へと泳いで行った。
「あ、最後に岸まで運んでもらおうと思ってたのに……」
まあ、何とかなるか。リオンは再びマグロ状態となり、恐らく今年は見納めになるであろう夏の青空を見上げた。
大成功
🔵🔵🔵
鵜飼・章
日傘をさして水着で遊びに
わあすごい既視感
でも宇宙だと呪文が微妙に違ったりするのかな…
いつもの呪文が通じなかったらどうしよう
せっかくだし新境地を開拓してみよう
達人のニコさんに助けを求めに行く
ニコさん的にこの夏一押しのふらぺっちって?
教えてもらった呪文を唱えれば
おいしいふらぺっちが出てくる筈だ
買えたらニコさんにお礼を言いに
それにしても良い筋肉だね
僕普段は絵本を描いてるんだけど
少し絵のモデルしてみない?
スケブ持ってきたんだ
ふらぺっち奢るからお願いします
うんキレてるよ
大胸筋がまるで眼鏡だ
肩にふらぺっち乗ってるね
よっ星羽王!
パラソルの下でふらぺっちを飲みながら優雅な一時を
描けた絵はニコさんに一枚あげるね
真守・有栖
◎
ふらぺっち。ふらぺっち?ふらぺっち!
なかなかのねーみんぐせんすじゃないのっ
とっても良い響きね!褒めてあげるわ!
えぇ、さっそく注文よ
店員さん!ばにらくりーむふらぺっちに……(ちら、とメモ確認)
しとらすなくだものおにく
みるくをぶれべ?しろっぷをまっしろなもかもかを追加で!
そーしーてー?
うるふで!ありすで!めるへんな!感じでお願いするわ!
この私のように!おおかみのように!頼んだわよ!
おめめはきらきら。しっぽをゆらゆら。
そわそわ。わふわふ。
できたのね!?
わぅう……とっっっても素敵で美味しそうでわふわふじゃないの!
えぇ、これを飲まずにこの夏は終われないわっ
うん!すっっっごく美味しくて美味しいわ!!!
喜羽・紗羅
◎
本当に星羽ここにあるの……? って、あれはまさか
抹茶ふらぺっちグランデ(なにやら じゅもんを となえている)一つ!
あと(あわせわざで なにか たべるみたいだ)!
や、戦争でもう全身筋肉痛よ、やんなっちゃう!
宿題……そうだ、宿題しに来たんだった
――俺はお暇するぜ
手伝ってよ!
無理だよ!
分身した鬼婆裟羅はリゾート船で釣りを楽しむ
簡単な仕掛けで浮き釣りならあるだろ
堤防でも船の上でもどこでもいい、リゾートだし
何だ棒を振り回して、あれは、まさか――!
カフェの店内で紗羅は宿題を続ける
うーん終わんない……てか英語とかいいじゃん
猟兵なんだから大体何とかなるわよ出来なくても!
そうよね!?
そう言って近くの猟兵に絡む
●登場人物、全部で何人?
『――私、この戦争が終わったら星羽珈琲店で抹茶ラテを飲むの』
かつて、そう盛大に死亡フラグを立てながらも見事勝利を収め、また自らも予知にて戦場へと猟兵を導き、あらゆる手腕で鬼神の如き活躍を見せた一人の少女猟兵がいた。
名を、喜羽・紗羅(伐折羅の鬼・f17665)という。紗羅は今日、首元の網目デザインがほんのりくノ一を思わせる黒いビキニでそのしなやかな身体を惜しげもなく見せつけながら、夏を満喫すべくここ『セイレーン号』に降り立ったのだ。
「本当に星羽、ここにあるの……? って、あれはまさか」
うーん惜しい、今紗羅さんの眼前にあるのは、言わば星羽のようで星羽でない少し星羽なカフェです。それでも『ふらぺっち』が何を指すかをふんわり察した紗羅が、意気揚々とカフェへと突撃していく。
そんな紗羅の様子を、紺色の日傘を差した青年が見送る。青年――鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)もまた、黒地に青紫のラインが入ったハーフスパッツタイプの水着に爽やかな水色の半袖シャツを羽織り、その白い肌が焼けてしまわぬよう日傘を携えて『セイレーン号』でのバカンス、そして『ふらぺっち』を堪能しにやって来たのだ。
章が紗羅を見送ったその視線をカフェの全景が見渡せる位置へと向ければ――。
「わあ、すごい既視感」
カフェだけ見れば、そう、UDCアースのどこぞで見たことがあるような。神様にも認知される程の『ふらぺっち』は、世界さえ超えてしまったのだろうか。章の背後に一瞬壮大なる宇宙の景色が広がった、気がした。
「でも宇宙だと呪文が微妙に違ったりするのかな……いつもの呪文が通じなかったらどうしよう」
油断はならない、似て非なる全く別の店舗である可能性も捨てきれないのだから。先の女の子は一人で突撃していったけれど、とカフェの入り口を見やりながら章もまた意を決して日傘を畳み足を踏み出せば。
「鵜飼、良く来てくれた。君も『ふらぺっち』を飲みに?」
入り口の自動ドアが店内からやって来た人影に反応して音もなく開いた。そうして章に声を掛けたのは、ちょうど店内で何かをやり遂げた顔で一息ついていたニコであった。
だが新たな客人の気配に、即座に気持ちを切り替えて店員さんでもないのに来店客を出迎えるその姿は、まさに。
「……達人だ、達人がいる」
「……何のお話だろうか?」
よし、このやたら『ふらぺっち』に情熱を注いでいそうな青年男性の助力を得て、新境地の開拓と行こうではないか。怪訝な顔をするニコに、章がまあまあとうやむやにしながら連れ立って店内へと入っていく。
注文カウンターにはちょっとした列が出来ていたが、その分呪文――注文を考える暇があるとも言えた。
「ニコさん的にこの夏一押しの『ふらぺっち』って?」
「一押し、とな。ふむ……」
章に問われたニコが腕を組んで思案する。ここで期間限定のフレーバーに走るのは容易いが、相手は鵜飼・章。大学時代は呪文も駆使してかの星羽珈琲店で優雅に過ごしていた経歴の持ち主である。
(「此処は……取って置きの、あのカスタマイズを披露する時だろうか」)
呪文の使い手たる章が納得する、そしてニコ自身が胸を張って勧められる『ふらぺっち』。幾度となく注文して、呪文も暗唱できるまでに至った『ふらぺっち』を、今こそ召喚する時か――!
「『ふらぺっち』。『ふらぺっち』? 『ふらぺっち』!」
その時。列の前方、注文カウンターの真正面から、それはもううっきうきでわっふわふな少女の声が聞こえてきた。声の主、真守・有栖(月喰の巫女・f15177)は列に並んでいる最中に先んじて手渡されたメニューを片手にご機嫌で店員さんに話し掛けていた。
「なかなかのねーみんぐせんすじゃないのっ、とっても良い響きね! 褒めてあげるわ!」
「あ、ありがとうございます……?」
自分の手柄でもないのに褒められるのはちょっとこそばゆいなあと、頬をかきながらそれでも店員さんは笑顔で返す。だが、眼前の少女はただカフェ自慢の『ふらぺっち』を褒めに来ただけではないだろう。さあ来いとその時を待つ。
「えぇ、さっそく注文よ。店員さん!」
朗々とよく響く有栖の声は、少し後ろで並んでいた章とニコの耳にもしっかりバッチリ届いていた。大丈夫かなあと思わず固唾を呑んで見守ってしまう二人をよそに、有栖は続ける。
「ばにらくりーむふらぺっちに……」
(「!」)
ニコがハッとした顔をする。これは――注文がのっけからぶっ被った時の顔だ! 有栖がここでチラと手元のメモを確認したため一瞬言葉が途切れたが、すぐに注文は再開される。
「しとらすなくだものおにく、みるくを……ぶれべ? しろっぷをまっしろなもかもかを追加で!」
(「真守……其れは、あの時の……!」)
「ニコさん?」
何故かいきなり打ち震えだしたニコの様子を訝しんだ章が、ほぼ同じ背丈のニコの顔を覗き込む。アッいけません! グッドルッキングな猟兵と猟兵の顔が近い!
そう、有栖がカスタマイズした『ふらぺっち』は、かつてここではない別の世界の珈琲店でいつも笑顔の女性店員さんがおススメしてくれたもの。
報告書を作成するにあたってニコもまたそのカスタマイズを知り、実際試して以来すっかり病みつきになってしまったという一品だった。
章にも是非、と満を持して頼もうと思っていたそれを、先に完璧に頼まれてしまった。ニコの胸中は嬉しさ半分冷や汗半分と言ったところか、自分が好きな味を人様も楽しんでいる様は素直に嬉しいが、折角おススメをと引き受けたからにはネタ被りは避けたい。
「そーしーてー?」
有栖オンステージはまだまだ続く! 両の掌を組み合わせれば右の頬にそれを当て、あざといポーズ――さしずめ艶狼と言うべきか――を取りながら店員さんにダメ押しをする!
「うるふで! ありすで! めるへんな! 感じでお願いするわ!」
そこでくるりと一回転、銀の尻尾がふわりと揺れた。
「この私のように! おおかみのように! 頼んだわよ!」
「は、はいっ! かしこまりました! おおかみのように、ですね!」
豊かなお胸に片手を当てて、カウンター前でビシッと決めれば店員さんも思わず承知してしまう。結局、一部始終を見守ることとなった形の章とニコの二人は、ご機嫌で受け取りカウンターへと向かっていく有栖を目線で見送りながら、進んだ列に足を踏み出す。
「……凄い呪文だったね、これはますますニコさんの呪文が楽しみだね」
「……そ、そうだな。取って置きを披露する故、期待していて欲しいな」
ああ、男って馬鹿だ。何故無駄に意地を張ってしまうのか。ネタ被りなどあってはならぬと、もう一つの取って置きの呪文を必死に思い出しながらニコが一度天を仰ぐ。洒落たシーリングファンがゆっくりと回っていた。
「抹茶『ふらぺっち』、グランデ一つ! アドチョコレートチップにアドチョコソースで!」
「お客様、かつての限定フレーバーに近づけてきましたね……? 承りました!」
「あと、抹茶シフォンケーキも一緒にお願いね!」
「抹茶尽くしですね……ごゆっくりおくつろぎ下さい!」
気付けば今度は紗羅の快活な声が聞こえてきた。どうやら抹茶まみれになるご様子。ラテの予定が『ふらぺっち』になったのは、やはり皆がこぞって注文していたからだろうか。それともこの暑さを受けてのことだろうか。
店員さんに抹茶ラバーと認定されながら、トレイに緑色の『ふらぺっち』とシフォンケーキを乗せた紗羅が確保しておいた席に着こうと列を見た時、次に順番を控えていた章とニコの二人と偶然目が合った。
「喜羽、お疲れ様だ。楽しんでおられるかな?」
「や、戦争でもう全身筋肉痛よ。やんなっちゃう!」
トレイを持ったまま肩を竦める紗羅に、何の悪気もなくニコが問うたのはその時だった。
「して、喜羽は学校の宿題などは抱えていたりするのだろうか」
紗羅が、固まった。章が、そっと瞳を閉じた。
「宿題……そうだ、宿題しに来たんだった……」
「此れは思い付きの提案なのだが、例えば【オルタナティブ・ダブル】で鬼婆娑羅殿に助力を願うというのは」
ニコが本当に思い付きで意見した時、それは発動した。ぶぉん、と音がしたような錯覚と共に、紗羅が文字通り二人になったのだあ。おお、と嘆息する章とニコを、そして紗羅をも置いて、もう一人の紗羅――鬼婆娑羅は片手を挙げてそそくさとカフェの出口へと。
『――俺は、お暇するぜ』
「ちょ、手伝ってよ!!」
『無理に決まってんだろ! 今時の寺子屋のうんたらなんか知るか!』
見た目はそっくり、中身は無頼漢。もう一人の紗羅こと『鬼婆娑羅』は、こと勉学方面において、力になることは出来なかったようだ。
まあ期待はしてなかったけど……と肩を落としながらすごすごと席に戻る紗羅を今度こそ見送って、次はいよいよ章の番だ。
「じゃあニコさん、よろしくね」
「承った……」
笑顔の章とは対照的に、緊張した面持ちのニコ。正直に言うと、今まさに唱えようとしている呪文は若干うろ覚えだった。しかも、出てくるものはベースとなる『ふらぺっち』の原型をまるで留めていない。果たして、章は受け入れてくれるだろうか。
「……ごほん。バニラクリーム『ふらぺっち』に、リストレットをダブルで追加。バニラシロップをモカシロップに、ノンファットミルクとブレベに変更を。ホイップクリームは無し、チョコレートソースを追加でお願いする」
「ニコさん、それは……!」
顔に一筋汗を垂らしながら、それでも何とか言い切ったニコの呪文めいた注文は――章も察した通り、バニラの『ふらぺっち』でありながらもはやバニラ味などどこかへすっ飛んでいってしまっているカスタマイズであった。
店員さんはと言えば、レジに注文をものすごい速さで叩き込んでいる。そして、最後に確認をと顔を上げてこう言った。
「サイズは、いかがなさいますか?」
――一方その頃。自由になる身を得た鬼婆娑羅が嬉々として向かったのは、何でもレンタルしてくれる便利な出店だった。他の猟兵も利用したそのお店で釣り道具一式を借り受けた鬼婆娑羅は、カフェ付近に設けられたお誂え向きの堤防にやってきた。
ボートを出してもらい沖で釣りをするのも良かったが、今のこの身では術者本人である紗羅から遠く離れることはできない。よって、堤防にどっかと腰を下ろしてウキ釣りを堪能することと相成ったのだ。
『リゾート、ってヤツだしな。釣れりゃあどこでもいいんだよ』
かつて鬼婆娑羅が生身の人間として生きていた頃も、こうして釣りを楽しんでいたのだろうか。どうしても切った張ったの人生ばかりが連想される存在ではあるが、なかなかどうしてこれは趣深い。
『……ん?』
じっと海面を見つめていた鬼婆娑羅の視界の端に、何やらチラチラと気になるものが。
『何だ棒を振り回して、あれは、まさか――!』
いやいやいやいや、 これは棒を振り回して惑星を救うアレソレじゃないんで! アッほらヒットしてますよ! 引いて引いて!
有栖が注文した「うるふでありすでめるへんな感じの『ふらぺっち』」は、提供されるまでに若干の時間を必要としていた。
そわそわ、わふわふ。しかし有栖は一向に待ち時間を気にせず、おめめきらきらのしっぽゆらゆらでその時を待つ。そして――。
「バニラクリーム『ふらぺっち』シトラス果肉追加ブレベ変更ホワイトモカ変更でお待ちのお客様、大変お待たせ致しました!」
「できたのね!?」
バニラの白とシトラス果肉の薄桃色が絶妙な色合いを醸し出すそれは、あの日星羽珈琲店で初めて見た『ふらぺっち』そのものであり。美しくもワイルドに盛られたホイップクリームが特にメルヘンかつワイルドで実に良いではないか。
手渡された『ふらぺっち』をそっと受け取ると、ひんやりした感触が伝わってくる。
「わぅう……とっっっても素敵で美味しそうでわふわふじゃないの! えぇ、これを飲まずにこの夏は終われないわっ!」
そう、まるで不思議の国から飛び出てきたようなカラーリングとモチーフに彩られた素敵な水着を身に纏っても、それだけでは有栖の夏は終わらない。『ふらぺっち』を飲んでこそ、ひと夏の思い出は完成するのだから。
うきうきわふわふで尻尾を揺らしながら、有栖が客席へと向かう。その先には、机いっぱいに勉強道具を広げて夏休みの宿題と戦う紗羅の姿があった。
そう、学生さんの夏は……宿題を片付けずには……終わらないんです……!
「うーん終わんない……てか英語とかいいじゃん猟兵なんだから大体何とかなるわよ出来なくても!」
はいここまでノンブレスです。紗羅さんがいよいよ切羽詰まって来てますねえ! でも確かに猟兵やってると言語の壁とか関係ないんですよねえ!
「そうよね!?」
「わうっ!!?」
誰でもいい、同意して欲しかった。後に紗羅さんはこう供述しており――ではなくて。たまたま通りかかった有栖の腕をがっしと捕まえて、紗羅は英語の勉強がいかに無意味かを滔々と語るのであった。
ちなみにカタカナ語を(ほぼ)つかわない有栖さんは、うんうんと深く頷いて同意していたそうですよ!
「ニコさん、どうもありがとう。すごく甘くて、すごく美味しい」
「其れは良かった、お力になれたのならば何よりだ」
何とか窮地というか何というか、個人的な危機的状況を乗り切り章の期待に応えることに成功したニコは、カフェの外に設置されていたパラソルの下で安堵の表情を浮かべていた。
そんなニコを見やって、章がふと呟く。
「……それにしても、良い筋肉だね」
「あ、改めて言われると照れてしまうな。だが、有難う。鵜飼の水着も良く似合っているよ」
面映いといった体で軽くくせっ毛を掻きながら、お礼と賛辞を返すニコ。それに頷きながら、章は何やら大振りな紙のようなものを取り出した。何だろうとニコが目を凝らしてみれば、いわゆるスケッチブックというもののようだと分かる。
「僕、普段は絵本を描いてるんだけど」
「何と、其れは驚いた」
「少し、絵のモデルしてみない? スケブ持ってきたんだ」
「待とうか鵜飼、絵本の作風と俺とでは到底、その……何だ、種別というか」
「ジャンル?」
「そう、其れだ。ジャンルが異なるのではなかろうか」
少なくともニコが知る範囲では、絵本とは一般的にふわふわというか、ほんわかというか、そういう作風をしているものだと認識していた。しかし、そこに自分のような体躯をした存在が紛れ込むというのはいかがなものだろう。そう思ったのだ。
「大丈夫。人体デッサンも絵を描く上では大事なことだから、心配無用だ」
「そう……なのか」
恐るべし、技能「言いくるめ」。そこにはまんまと章の術中にはまっていくニコの姿が!
「さっきの『ふらぺっち』、奢るからお願いします」
「……どんなポーズから始めようか」
はいニコ買収ー。今日からお前はチョロシュタインだ!
――挨拶代わりのフロントダブルバイセップス!
「うんキレてるよー」
――得意なのかな? サイドチェスト!
「大胸筋がまるで眼鏡だ」
ノリノリのキレッキレでポーズをキメるニコとスケッチブックとを交互に見つつ、サラサラと筆を走らせながらも章が口走るのは決して暑さに敗北してどうかしてしまった訳ではない、立派な筋肉への賛辞であった。
――まだまだ続くよバックダブルバイセップス!
「肩に『ふらぺっち』乗ってるねー」
――はい、モストマスキュラー!!
「よっ、星羽王!」
すいっと最後の一筆を滑らせて、章が締めの掛け声を口にすると、ニコもふうと身体から力を抜いて座り込んだ。
「はは、星羽王は過ぎたお言葉だ。だが、良ければまたご一緒しよう」
そして傍らに置かれた『ふらぺっち』をゆっくり啜っていると、同じく『ふらぺっち』を飲みながら章がスケッチブックのページを一枚切り離してニコに差し出した。
「はい、一枚あげるね。モデル、ありがとう」
「! ……此れは」
驚いた。これが、絵本作家の筆によるものとは。そこには――実物よりかなり盛られた、筋骨隆々とした写実的な褐色肌の眼鏡の青年が描かれていたのだから。
柔らかい笑みを浮かべる章に、ニコは少しはにかんで言った。
「――有難う。家に帰れば同居人が額縁を持っているので、其れに入れて大事に飾らせて貰うよ」
パラソルの下で、あるいは冷房の効いたカフェの中で、海のただ中で、そして浜辺で。それぞれが『ふらぺっち』と過ごすひと時は、どれもが優雅で。
「うん! すっっっごく美味しくて、美味しいわ!!!」」
ただ、その一言に全てが集約されるのであった。
大成功
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