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涙の日を歌って

#アルダワ魔法学園

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#アルダワ魔法学園


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 その少女は闇に沈んでいた。
 髪、角、翼――そしてドレス。痛々しいほどの純白を身に纏う少女は、茨が巻き付いた腕を伸ばし、指先に炎を点した。
 ほんのりと照らされた暗く暖かな世界の中で、炎が揺れる。その内に幻視した『光』を眺め、ほうとため息を吐いた。
「なんて綺麗なの、なんて美しいの。――ああ、素敵。この満たされた気持ちは、きっと希望と言うのだわ」
 うっとりと眇められた菫色の瞳は、砂糖菓子のように甘くあまく蕩けていた。
「ねえ、聞いて」
 歌うように、少女が言葉を紡ぐ。
「わたしには『わたし』が無いの。なくしてしまったのよ、世界にとられてしまったの。それはとてもむごたらしい、おぞましい事だわ。だから私は、世界が嫌い」
 壊れたレコードが同じフレーズを歌い続けるように、嫌い、嫌いと繰り返す。
「でも、わたしは知っているの。人の心は、思いは、どんな光よりも眩くて、どんな宝石よりも美しい」
 だからね、愛しているの。少女は傍らに座らせた人形を抱き上げると、ぎゅっと抱きしめた。
「わたしが誰かの思い出を大切に出来るのなら、それはきっと希望に包まれた、素晴らしいことだわ。永遠に、一緒に生きられる」
 そして少女はおもむろに立ち上がると、先ほどまで座っていた場所に人形を置いた。
「そうね、そうよ。『人』はきっと待っているはずよ。なら迎えに行かなくちゃ」
 頭上に戴いた茨の冠が、燃える。重く淀んだ空気にふわりとスカートを揺らし、少女は部屋を出た。


「人の思いとは、眩いもの。眩しいほどに輝いて、惹きつけて。そして離れがたい」
 難しいものですねと呟いて、水標・悠里(魂喰らいの鬼・f18274)はそっと瞳を伏せた。
「お集まりいただきありがとうございます。今回は時間がありません」
 そして悠里は青白く輝く蝶――グリモアを指先に止まらせると、空間に幾つもの光景を映し出した。
「今宵、オブリビオンがアルダワ魔法学園を襲撃します。皆様には彼らを退け、守って頂きたいのです」
 今回標的となったのは、巨大な学園内にある教室棟の一つだ。襲撃される教室棟にはまだ多数の学生が存在しており、少し離れれば宿舎も存在している。オブリビオンの攻勢が学園中に広がる前に、出鼻をくじく必要がある。
「今から向かえば、丁度オブリビオンが襲来するタイミングで到着できます。残念ながら教室棟が戦場となることは必至です。居合わせた学生たちも突然の出来事に混乱するでしょうが、危機を脱する力は十分に備えています。猟兵の皆さんから的確な指示があれば、力となってくれるでしょう」
 ここで悠里は映像を切り替え、一つの姿を映し出した。
「そして、敵についてなのですが――いま学園を襲撃しているのは『螺子式ディーヴァ』という機械人形のオブリビオンです」
 薄い金属の板を貼り合わせて人型を作り、破れたドレスを纏った機械人形。胸にある蓋がぱかりと開き、内蔵された円盤を露出させている。
『螺子式ディーヴァ』はこの狂った円盤から様々な音色を奏で、猟兵たちの肉体だけでなく精神を苛むだろう。調子外れの音色は軋み、どこか狂おしく、内に眠る様々な『心』を呼び起こす。
「『螺子式ディーヴァ』以外にも強力なオブリビオンの存在を感知致しました。詳細は不明ですが、オブリビオンを倒していけば、いずれ出会う事になりましょう」
 ひらり。
 蝶が指先から飛び立つ。導くように猟兵たちの視線の先を舞うと、瞬くように翅をゆらめかせ、光のゲートを呼び出した。
「今回襲撃したオブリビオンは『人』に対してなにか執着がある様子。全て討ち果たして、平穏な学園を取り戻してください。どうか心を見失わぬよう、――お気を付けて」
 憂う瞳をそのままに、悠里は猟兵たちに勝利と無事を願うのだった。


水平彼方
 初めまして、もしくは再びでしょうか。水平彼方です。数あるシナリオの中から目に留めていただき、ありがとうございます。
 三本目はアルダワ魔法学園。皆様には押し寄せる災魔を打ち払って頂きたいと思います。

 第一章/集団戦『螺子式ディーヴァ』
 第二章/集団戦『葬彩花』
 第三章/ボス戦『心喰の亡我竜』※特殊ルールあり。

●第一章、第二章
 追加OPを投稿致します。
 教室棟での戦闘になります。屋内を想定しておりますが、狭さは気にせずのびのびと戦ってください。
 第一章において学生たちは的確な指示があれば、第二章でも引き続き戦力となるでしょう。
 第一章で猟兵たちから何もなければ、彼らは猟兵たちに事を任せ身を隠すことに専念します。

●第三章
 追加OPを投稿致します。
 第三章冒頭で『必ず』『あなたの大切なひと/もの』について問いかけます。その答えをプレイングに記載してください。
 回答によって敵が強化・弱体することはございません。
 キャラクターの思いを思いっきりぶつけてください!

●プレイングについて
 今回はRP・心情重視の判定を行います。
 各フラグメントの【POW】【SPD】【WIZ】行動の参考にお使いください。
 プレイングについてはマスターページにてご案内させて頂いております。そちらを参照ください。

●シナリオ運用について
 OP公開後、マスターページおよびTwitterにて受付開始日を告知致します。
 告知以前に頂いたプレイングは場合によってはお返しさせて頂きます。
 なるべく全てのプレイングを採用させて頂くつもりです。内容によってはお返しさせて頂きます。

 それでは、皆様のプレイングを心よりお待ち申し上げます。
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第1章 集団戦 『螺子式ディーヴァ』

POW   :    楽シキ歌
【狂った円盤から】【楽しい記憶を呼び起こす音色を対象に放ち】【動きを一時的に封じる幸せな夢に捕らえる事】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
SPD   :    哀シキ歌
【狂った円盤から出鱈目な衝撃波の慟哭】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    愛シキ歌
【狂った円盤】から【愛しい記憶を呼び起こす音色】を放ち、【幸せな夢に捕らえる事】により対象の動きを一時的に封じる。

イラスト:たま

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●Encore
 ――ギギ、ギ。
 円盤が軋み、悲鳴を上げる。
 ――ギ、ィイ、イイイ。
 狂った円盤が、歌を歌う。

 胸に埋められた円盤に、どんな願いが刻まれたのか忘れてしまった。
 それはとても美しく、澄んだ歌声だったはずなのに忘れてしまった。

 旋律も、言葉も、なにもかもが滅茶苦茶だ。聞くに堪えない騒音が流れるだけ。それでも人形には歌うことしか出来ない。

 もし人形に『心』があるのなら、狂った音色に胸を痛めたのだろうか。
 しかしそれは、所詮ひとの夢。そうだったらいいのに、という願いの形。

 狂った『歌声』は、狂った思いを繰り返し奏で続ける。それが歌姫の存在する、唯一の理由であるが為に。

 ――ギギ、ギ、ギイィ。

「災魔が現われた!」
 歌声に気づいた学生が、叫び声を上げた。次いで上がったのは悲鳴と逃げ惑う足音。
 
 おやおやどうして観客は椅子を蹴飛ばし、方々へと逃げていく。
 その後ろ姿を追いかけ、歌姫はゆっくりと足を進めた。
●Announce
 只今よりプレイングの受付を開始致します。
【プレイング受付期間 7/15 23:59まで】
ソラスティベル・グラスラン
学園が襲われるなんて……くっ
急ぎましょう!オブリビオンが相手では皆さんが危ない!

全速力で教室棟の前に飛び込み、皆さんを守ります
二人以上でチームを組んで当たってください!
決して一人で闘わないでください、怪我人がいれば護り後退を!

信を置く相棒の大斧と盾を構え、【盾受け・オーラ防御・かばう】
無辜の民を襲い世界に害を成すならば、【勇気】を持って立ち向かうのみっ!

音色に呼び起こされる楽しい記憶…
過去に辿った冒険の軌跡、邪悪を討った後の人々の笑顔

気合一喝!これがわたしの【勇者理論】!!(状態異常力重視)
……貴方の歌は素敵です、ですが楽しむことはできません
今まさに、命の危機に陥る人々が待っているのですから!


エンティ・シェア
大人しく地下に籠もってくれてりゃいいのに
ほら下がれ下がれ。まずは自衛しろ
バリケードでも作れ。話はそっからだ
一旦は、学生連中が体勢を整えられるまでの時間稼ぎからしようかね
餌時で豹の幼体を適当に呼んで、群がらせる
一瞬で蹴散らされるのも困るし、ある程度合体させておく

ヒットアンドアウェイ戦法を念頭に
遠距離で殴る手段があるやつは挙手しろ
生憎、俺はそう言うのは苦手なんだ
あんたらに攻撃が行かねーよう撹乱することなら出来るから、後方から援護しちゃくれねーか

学生にどの程度火力が見込めるかは知らんが…
まぁ、被弾を俺が全部請け負えばなんとかなるだろ
衝撃波は気合で避けろ
怪我の治療とかは要らんぞ
この血は、あとで使うんだ


サフィリア・ラズワルド
POWを選択

生徒達には逃げるように伝えて敵と向かい合います。

私の楽しい記憶は施設にいた頃のもの、仲間達がいて施設の人がいて、“何も知らない”実験体の私達が一緒に笑っていた頃の記憶、こんな形だけど施設の人にまた会えた、今まで育ててくれてありがとう、色んな事を教えてくれてありがとう、でも世界を知った私が貴方達と笑い合えるのはこれが最後

『貴方達がどんな思いで実験をしていたのかは知らない、でもこれだけはわかる、あれはいけないことだったって』

ペンダントを竜騎士の槍に変えて【グラウンドクラッシャー】を敵に叩き込みます。

アドリブ協力、歓迎です。


アテナ・アイリス
学生たちには、【鼓舞】、【誘惑】、【存在感】をつかって、避難するように指示する。
【武器受け】【かばう】【2回攻撃】【盾受け】【属性攻撃】を使って、「アーパスブレード」で仲間と連携しながら、攻撃していく。
夢に捕らえた仲間がいれば、UC「リフレッシュ」を使って、状態異常を治すようにする。
夢は人から与えられるものじゃなくて、自分でかなえるのなのよ!

「さあ、ここは私たちに任せてもらっていいわよ。早く逃げなさい。」
「機械人形なら、普通に戦ってもわたしの相手では無さそうね。」
「なにこの音は。許せないぐらいひどいわね。」
「世界樹よ、夢から覚ましてあげて!」

アドリブ・連携好きです。




「学園が襲われるなんて……くっ!」
ソラスティベル・グラスラン(暁と空の勇者・f05892)は全速力で走る。大切な学び舎が災魔によって戦場へと変わったことに、彼女は誰よりも憤りを感じていた。
雷の竜の名を冠する巨大斧の柄を手にきつく握りしめ、教室棟へと急ぐ。
「急ぎましょう! オブリビオンが相手では皆さんが危ない!」
 二段飛ばしに階段を上って、跳ね上がるスカートの裾に構いやしないで。ごめんなさい、『廊下は走らない』なんて校則は今だけは咎めないで、と心の隅で教師達へ願いながら、ソラスティベルは飛ぶように校舎内を走る。
 音の鳴る方へ、オブリビオンの歌声が聞こえる方へ。


「こちら側は安全。走らないで、逃げて」
 最前線にて、サフィリア・ラズワルド(ドラゴン擬き・f08950)は冷静な口調で学生たちを誘導する。
 そこから少し後方に控えたアテナ・アイリス(才色兼備な勇者見届け人・f16989)は手にした【アーパスブレード】を振るい、敵を斬っていく。透き通った刀身は、螺子式ディーヴァの胸を的確に捉えた。
「さあ、ここは私たちに任せてもらっていいわよ。早く逃げなさい」
 アテナは自らの勇姿を見せ、学生たちを奮い立たせながら避難を呼びかける。混乱の中、凜と立つその姿は憧れとして学生たちの目を奪う。
 きらり。
 戦場の端で何かが輝いた。
 未踏の深海、或いは星海の青。
 どこか心を引きつけて止まない青い光を放ちながら、サフィリアが首から提げたラピスラズリのペンダントを竜騎士の槍へと変化させた。
 柄を握りしめ、サフィリアは敵目がけて飛び出した。二頭の竜が絡み合う刀身から光が零れ落ちる。それを受けて長い銀の髪が、彗星の尾のように輝いた。
「――どいて」
 横に薙いだ槍が、螺子式ディーヴァをまとめて屠った。

 ――あんな風に戦えたらいいのに。
 
「急いで。いつまでも安全とは限らない」
「でも」
「危険な思いはさせたくないわ、万が一があってはいけないもの」
 危険は承知の上だ。分かっていると言い聞かせても、手足の震えはごまかせない。
「やっぱり、逃げよう」
 残ったうちの一人が諦めて、友人の制服を引っ張った。
 もう一度だけ、その姿を目に焼き付けようと顔を上げようとした。
「皆さん、無事ですか!?」
 追いついたソラスティベルは学生たちの無事を確認しながら、合間を通り前線へと立つ。けが人はいるものの、大事に至ることはなかった。
「僕たちは無事だよ、けど……」
 言葉尻をすぼめながら、前線の猟兵たちを振り返る。
「大人しく地下に籠もってくれてりゃいいのに……。ったく、しょうがねーな」
 エンティ・シェア(欠片・f00526)は押し寄せる螺子式ディーヴァを不愉快そうに睨み付け、炎の色をした前髪を掻き上げる。学生たちは自分たちのことかと肩をふるわせたが、エンティの視線が更に先――災魔の機械人形を見ていたことから、彼らに向けられたのだと分かった。
「ここは戦場になる、それでも残りたいのか」
 うまく言葉が出ない、代わりに力強く頷いて返事をした。残った学生達は恐怖を飲み込みながらも、真っ直ぐにエンティを見つめ返す。
「……ほら下がれ下がれ」
 追い返すように手を振るエンティ。学生たちは、やはりか、と足下に視線を落とした。
「まずは自衛しろ。バリケードでも作れ。話はそっからだ」
「それって……」
 問いかけにあえて答えることなく、エンティは『餌時(ゴハンノジカン)』で豹の幼体を召喚。ころころと転がり出た小さな体は、主の一声で集まり、融合して大きな体を作り上げる。
「戦うのなら体制を整えろ、もし衝撃波が飛んできたら気合いで避けろ。俺たちはその時間を稼ぐから慌てるんじゃねーぞ。失敗ナシの一発勝負だ、出来るか?」
「エンティさん……! それじゃあ皆さん、二人以上でチームを組んで当たってください! 決して一人では戦わないでください、怪我人がいれば護り後退を!」
 ソラスティベルとエンティの指示によって、学生たちは机や椅子寄せ集めてバリケードを築き上げる。
 アテナは学生たちの行動を見て、軽く目を見張った。残れば学生達に危険が及ぶ。しかしすぐに前を向くと【アーパスブレード】を握り直す。
「ここに残るのなら、私のやることは一つ」
 小さな勇者たちを守る、その勇気が実を結ぶ瞬間を見届けるために。
 

 アテナは刀身を返しそのまま人形の腕を弾き返すと、心臓部目がけて斬る。一体、二体と的確に急所を狙い、ガラクタに変えていく。
「サフィリアさん、右よ」
「分かった」
 敵の位置、数。そして負傷具合を見ながらアテナは的確に指示を出し、仲間を助ける。自らも戦地に身を置きながら、常に仲間のサポートも怠らない。それがアテナの考える『戦う方法』だった。
「一人の力で勝てないのなら、最高のタイミング、最高の攻撃で乗り越える」
 その為の目は、曇らせてはいけない。戦女神の慧眼はめくるめく変わる戦況を読み取り、最小の力での勝利を導く。
「でも機械人形なら、普通に戦ってもわたしの相手では無さそうね」
 機能を停止した人形を脇へ押しやりながら、アテナは余裕を滲ませて笑う。
「ですが、残った学生たちを考えれば油断は禁物です」
「その前に全部倒してしまえば問題ない」
 表情を引き締めるソラスティベルに、サフィリアが事も無げに返す。
「なるほど。シンプルで的を射ている、嫌いじゃねーな」
 言葉を交わしながらも、次々と人形をガラクタへと変えながら戦線を維持する四人。しかし深追いせず、バリケードから一定の距離を保ちながら進んでは後退を繰り返す。
 
「バリケードが完成しました!」
「遠距離で殴る手段がある奴は挙手しろ」
「それなら、俺たちが!」
 手を上げた学生の他にも四、五名がバリケードから顔を出す。ガジェットを手に持つ者、元素の魔法を操る者。精霊を召喚する者――。
「生憎、俺はそういうのが苦手なんだ。あんたらに攻撃が行かねーよう錯乱することなら出来るから、後方から援護しちゃくれねーか」
「私達、回復できます」
 ケットシーがぴょこんと顔を出し、杖を掲げた。
「私達より、皆さんの傷を最優先にしてください!」
 はい、と元気のいい返事と共に、彼らは再びバリケードの陰へと戻っていった。
「大見得を切ったわね」
「大人しくしてくれりゃそれでいい。まぁ、被弾を俺が全部請け負えばなんとかなるだろ」
 アテナのからかうような言葉に、エンティは表情を変えずそう答えた。元より誰にも、学生たちを人形の攻勢に晒すつもりなどない。
「その言葉に、『私達』が抜けています。行きましょう。無辜の民を襲い世界に害をなすならば、【勇気】を持って立ち向かうのみっ!」
「一人で格好をつけるだなんてさせないわ。私の見せ場も残しておいてもらわないと」
 頼もしい言葉に笑みだけ返すと、エンティはすぐに前を向いた。
「敵、左から来る」
 サフィリアの声に再び武器を構え、敵の中へと走る猟兵達。それに併走するように、学生たちの放った弾丸や魔法が飛ぶ。
 しかし今度は螺子式ディーヴァの『歌声』の方が早かった。
 ――ギィ、ギギギ。
「なにこの音は。許せないぐらいひどいわね。皆、耳を……!」
 塞いで、と続くはずの言葉は歪な歌声に重なり、消えた。
 

 サフィリアは、懐かしい光景を見た。
 それはまだサフィリアが幼い頃、施設で生活し、実験体として生きていた頃のものだった。
 ――仲間達がいて施設の人がいて、“何も知らない”実験体の私達が一緒に笑っていた頃の記憶。
 世界を知る前のサフィリアを形作っていた、今も輝く純粋な記憶の一欠片。その一ページ。
 ”No.002”と、誰かが懐かしい名前でサフィリアを呼んだ。
「こんな形だけど施設の人にまた会えた」
 再会が嬉しい。それはあの頃が楽しかったから。今も楽しいことがあるけれど、あの頃も楽しかったから。
「今まで育ててくれてありがとう、色んな事を教えてくれてありがとう」
 でも世界を知った私が貴方達と笑い合えるのはこれが最後。
「貴方達がどんな思いで実験をしていたのかは知らない、でもこれだけはわかる、あれはいけないことだったって」
 だから、もうこの夢から醒める時間。
 ありがとう、楽しかった。言いたかったその一言をもう一度口にすると、世界に亀裂が走った。
 
「世界樹よ、夢から覚ましてあげて!」
 螺子式ディーヴァの歌声によって夢に囚われたサフィリアを目覚めさせるべく、アテナは『リフレッシュ』でサフィリアの眠りを払う。
「ぼさっとするな!」
 今にも泣きそうな表情で眠りに落ちが二人へ回復魔法をかける学生たちを叱咤しながら、エンティは狂った歌声を一身に受ける。
「大見得を切ったのは、あんたもだろう!」
 後方で膝を突くソラスティベルに吼えながら、エンティは再び豹をけしかける。しなやかな足が人形の頭を捉え、爪が円盤を引っ掻き、刻まれた音符を破壊する。バキン、と音を立てて砕けた円盤が床に落ちた。
「……そう、楽しい夢でした」
 そしてソラスティベルが再び言葉を紡いだのは同時だった。
 夢で巡ったのは、彼女が歩んだ冒険の軌跡。
 迷宮を踏破し、常闇の世界で微かに灯る希望と出会った。不思議な妖怪を追いかけ、銀河を巡る決戦に挑んだ。
 他にも、沢山ある。両の手では数え切れないほどの経験が、ソラスティベルを強くした。
「邪悪を討った後の人々の笑顔は、何物にも代えがたいものでした」
 緩く頭を振り太陽の色をした髪を震わせ、夢の名残を振り払う。開いた深緑の瞳は、確かな意志の力を宿し輝いていた。
 いつだってそう、この斧と盾、そして仲間と歩んできた。掌に握りしめた思いは、力となってソラスティベルの体を力で満たす。
「勇気で攻め! 気合で守り! 根性で進む! 一分の隙も無い、完璧な作戦ではないですか! 前に進み続ける――これが私の【勇者理論】です!」
 気合一喝! 勢いそのままに床を蹴ると、【サンダラー】を振りかぶり螺子式ディーヴァへと叩きつける。
 そして。
「夢で出会えたことには感謝する。けど――」
 サフィリアの【ドラゴンランス】が、機械人形の頭部を打ち砕く。
「それも、私が最後です」
 ラピスラズリの刀身は金属の体を粘土のように叩き潰すと、重い音と共に廊下の床へと沈み込んだ。
 最後の一音、掠れた音を残して螺子式ディーヴァは瓦礫へと変わり果てた。その輪郭が解けていくと、徐々に骸の海へと還っていく。
「……貴方の歌は素敵です、ですが楽しむことはできません。今まさに、命の危機に陥る人々が待っているのですから!」
 サフィリアはそう言って、後ろの学生達を振り返る。猟兵たちが武器を降ろしたの見るやいなや、バリケードから飛び出して駆け寄ってきていた。
「その傷、私達を庇ってくれたからですね」
 ケットシーの少年はしゅんと髭をしおらせながら杖を掲げ、可愛らしい祈りの歌を紡ぐ。
「俺の怪我の治療とかは要らんぞ。この血は、あとで使うんだ。他の怪我人を診てやれ」
 少年の背を他の三人の方へと押しやりながら、エンティは窓の外を見た。
「他も上手くやってるといいが」
 蒸気の雲の端が切れ、空には満月が浮かんでいた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

迎・青

音楽は、かなしいとかつらいとかじゃなくて
しあわせできらきらだって、おしえてもらったんだよぅ

(音色を聴き、旅団の仲間と一緒にいる夢を見る。会いたいと探している「おねーちゃん」の姿も、そこにある
…それは、間違いなく、幸せ。だけど「本当の事」じゃないんだ
ボクはまだ「おねーちゃん」を知らないんだから)

「あうあう…コワくない、よぅ!」
周囲の猟兵と協力、学生たちの安全確保に努める
戦える学生には、可能な範囲で協力してもらう(【鼓舞】使用)
【生まれながらの光】使用で、周囲の猟兵や学生を治療
治療とサポートを重視するが、自分や付近の誰かに危機が迫った時は、杖から光を放ち攻撃(【属性攻撃】)


トリテレイア・ゼロナイン


逃がすのであれ、戦うのであれ、先ずは急な襲撃に浮足立った学生達を落ち着かせねばなりません
騎士として助太刀いたしましょう

自らを●ハッキングし、聴覚センサーに常に不協和音を響かせるようにすることで音色に捕らわれることを防止しつつ、音色に捕らわれた学生達をUCの隠し腕で回収・保護

無事な学生達の中のシンフォニアを中心にパーティを組み音色に飲まれぬよう歌声で対抗しつつ反撃するよう指示

自分は学生達を●かばうため前に出て●怪力で振るう剣や●シールドバッシュ・UCでディーヴァを破壊してゆきます

…災魔になる前はこの歌姫達も人々に安らぎを与える存在だったのでしょうか…
そうであるならば、誰にとっても悲しいことです


ヴォルフガング・ディーツェ
螺仕掛けの歌姫、か…
悪いが、キミの命は生徒達とは比べるべくもない

世界に仇なす者、散るが良い

・戦闘
生徒達には悪いけど経験だと思って共に戦って貰おう

無理はさせず、3~4人チームになって貰い遠距離から魔術戦を仕掛けて貰う

もし歌姫の旋律で具合が悪くなる子がいたら、他のメンバーがフォローして後方に下がって!
大丈夫、慌てなくて構わないからね

オレ自身は前衛
風の魔力を纏わせた魔銃の零距離射撃と蹴り技主体の体術で、相手の音を生徒達には届かせないように立ち回ろう

呼び起こされる記憶はいつものもの
側で笑う妹、養い子達の笑顔
それはこの百年、何度夢見たか分からない記憶だ

足を止めるには、弱い
お返しにUCで胸の円盤を抉ろうか




 同時刻、教室棟。
 別方向より歌声を辿る猟兵たちは、すれ違う学生達を分け入って廊下を進んでいた。
 何度目かの角を曲がると、歌が大きくなる。
「おっと」
 ふらりとよろめいた学生をとっさに受け止め、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)はゆっくりと安全な場所へと横たえた。一緒に逃げてきた学生達が青ざめて駆け寄ってくるのを見ると、自分の後ろへ下がるように片手で指し示した。
「こっちだよ。大丈夫、慌てなくて構わないからね」
 ヴォルフガング・ディーツェ(咎狼・f09192)は逃げる学生達を見かけると、声をかけ自らの方へと誘導した。思うように逃げられない学生達は、トリテレイアが『腰部稼働装甲格納型 隠し腕(打突用スパイク装備)(ワイヤード・サブ・アーム)』を器用に操り、曲がり角へと保護していく。
 さて。
 逃がすのであれ、戦うのであれ、先ずは急な襲撃に浮き足立った学生達を落ち着かせねばならない。
 トリテレイアは記憶にある騎士の姿をメモリから呼び起こすと、繰り返しそうしたように彼らの行いを『模倣』する。
 起動時に唯一残っていた、陳腐な騎士道物語群。それはトリテレイアにとって、明確な道を示した大切な記憶(メモリ)だった。
「怪我はありませんか?」
「……は、はい。僕は軽傷です、大丈夫」
 傷を見て、迎・青(アオイトリ・f01507)は『生まれながらの光』ですかさず回復する。小さな傷でも癒えればほっとしたのだろう。血色のよくなった顔を見て、青もまたぎこちなく笑い返した。
「これでもう、あんしんですよぅ」
「あ、ありがとう」
「無事で何よりです。私――トリテレイアは安心致しました」
 表情と呼べる者がないトリテレイアは、仕草で示すように胸に手を当て、ゆっくりと頭を下げた。
「皆様にお願いがございます。どうか私達にお力を貸して頂けないでしょうか」
「やらせてください!」
 集まった学生達は、猟兵たちの提案に力強く頷いて答えた。
「それじゃあ、お願いするね。危険になるけど、オレ達も全力でフォローするよ。
 けど、守って欲しい約束があるんだ。絶対に無理はしないこと。三、四人でチームになって行動すること。この中に魔法とか、遠距離から攻撃できる子は居るかな?」
 柔らかく問いかける声に、はいっ、と幾つも手が上がる。
「シンフォニアの方が居ればそれぞれのチームに分かれてください。オブリビオン――災魔の歌声に呑まれぬよう、皆さんの歌声で対抗して頂きたいのです」
「みんなで力を合わせれば、きっとできますよぅ!」
 ヴォルフガングとトリテレイアが学生達をまとめ上げ、青は一度恐怖に呑まれた彼らを励ましていく。
 その背後に、狂った歌声がだんだんと近づいてきていた。
「皆のことは、オレ達が絶対に守るから」
 任せて。そう言い残すと、ヴォルフガングは先行して飛び出した。赤い瞳が捉えたのは、月光を受けて冷たく光る黄金の機械人形たち。
 学生達へと向けていた表情とは裏腹に、敵を見る眼光は鋭く固い。
「螺仕掛けの歌姫、か……。悪いが、キミの命は生徒達とは比べるべくもない」
 ピューイ。
 ヴォルフガングが獣を誘う口笛一つ鳴らせば、【這い穿つ終焉】が擬態を解き本来の姿の一つである魔銃へと変貌する。風の魔力を纏わせ照準を合わせて引き金を引けば、こちら側へ伸ばされた腕を吹き飛ばす。
「世界に仇なす者、散るが良い」
 再び銃声。人間でいう眉間を貫通した弾丸によって、機械人形の頭部は砕け散り機能を停止した。
『音声認識プログラム展開。収集した音声波形データのスキャン開始……、完了(コンプリート)』
 トリテレイアは自ら聴覚システムをハッキング。聴覚センサーに常に不協和音を響かせるようにすることで音色に捕らわれることを防止するためだ。
「これよりこの身は盾となり、守護の誓いを果たさん」
 戦いの幕はまだ上がったばかり。猟兵たちは学園と学生達を守るため、それぞれの得物を握り狂った歌姫へと向けた。
 

 銃弾が穿つ。魔法が爆ぜる。歪な歌声を掻き消すように、拙い祈りの歌が満ち満ちる。
 平穏なはずの学び舎に、似つかわしくない音が響く。
「我が身を一時捧げよう、終幕に向けて、ね」
 胎に収めた呪いを、愛おしげに唇に乗せる。ヴォルフガングが『魔狼傀儡(マーナガルム)』によって四肢と尾を、獰猛な魔獣のものへと変えた。
「その歌声を、あの子達に聞かせるわけにはいかないからね」
 獣の足が床を蹴る。瞬きほどの時間でヴォルフガングは機械人形の群れへと近づくと、銃口を人形の胸へと押し当てる。
 ダァン!
 圧縮された暴風が音盤を砕く。次いで近くに居た人形を蹴り飛ばし、獰猛な爪が金属の肌を裂く。
「こちらは私が」
 ヴォルフガングから離れた人形は、トリテレイアが【重質量大型シールド】で吹き飛ばす。
「あうあう……コワくない、よぅ! みんなであわせて。いち、にの……さんっ!」
 青が合図をすれば学生達は魔力を集め、一つの魔法として完成させる。
 轟音と共に魔方陣から雷が落ち、一体を倒すことに成功する。
「やった……! えっ」
 もうもうと上がる煙の向こう側から、軋む足音が聞こえてくる。
 違う、これは足音ではない。
「――っ!」
 一番近くに居たヴォルフガングが真っ先に反応した。うっすら晴れた煙の中へと入ると、構えた【這い穿つ終焉】が何かにぶつかった。金属同士がぶつかり合う音だと認識した瞬間、魔銃が吼える。金属片となった人形が、雨となって降り注ぐ。
 ――ギィ。
 音に反応したヴォルフガングが振り返り様に、頭部を蹴り飛ばす。
「危ない!」
 青が叫ぶ。しかし既に、歌姫達のコーラスは始まっていた。
 ――ギギギギギ、ギ、イイ!
 狂った円盤が回る。いち、に、さん。ワルツのリズムで歌を奏でる。
 銃口が人形を捉えた――。
 
 しかしヴォルフガングの視界に写ったのは、愛おしい過去たちだった。
「ああ、夢か」
 ぬるま湯に浸かるような、羊水に満たされていた頃のような安堵感には覚えがあった。ヴォルフガングは魔銃を下ろすと、それぞれの姿を視線で追う。
 側で笑う妹、養い子達の笑顔。それはこの百年、何度夢見たか分からない記憶だった。
 思い出す度に、胸の内が温かくなる。まだ自分が魔性に堕ちきっていないと、安堵する。
 胎の内が温かいもので満たされる、刹那の至福。
「けど、俺の足を止めるには弱い」
 また夢で会おうね。それまで暫しさようなら。


 ぼんやりとした光の中、青は旅団の仲間と一緒にいた。
「あれ?」
 そこには会いたいと探している『おねーちゃん』の姿もあった。
「おねーちゃん!」
 探し求めた姿を認め、青は思わず叫ぶ。会いたかった、話がしたかった。寂しさが押しとどめていた感情が堰を切って溢れ出す。
 それは、間違いなく、青の幸せ。
「だけど『本当の事』じゃないんだ。ボクはまだ『おねーちゃん』を知らないんだから。
 知らないはずの少女が、青に向かって笑いかける。
「ごめんね、ボクはおねーちゃんをさがしに行かなきゃいけないんだ」
 バイバイ、と手を振って見知らぬ少女に背を向けた。会いたい人は、目が覚めたら会いに行こう。
「またね」
 首から提げたペンダントをぎゅっと握りしめ、青は夢の中で瞳を閉じた。
 
「ボクは……音楽は、かなしいとかつらいとかじゃなくて、しあわせできらきらだって、おしえてもらったんだよぅ」
「迎様! ああ、目が覚めて何よりです」
 学生達を盾で庇いながら、トリテレイアは青を支えていたワイヤーで背中を押す。青は杖を握り直すと、人形達の方へと向き直る。
「トリテレイアさん、ありがとう。ヴォルフガングさんは?」
「最近眠りが浅くてね、もうとっくに目が覚めたよ。歌にも飽きた頃だし、お引き取り願おうか」
 青の『生まれながらの光』によって、傷が癒えていく。軽くなった体でもう一度敵に飛び込めば、カタカタと揺れる人形達へと続けざまに弾丸を食らわせた。
「ボクは、ボクのちからでおねーちゃんにあいに行くよぅ!」
 青が杖から光を放つ。光に触れた人形達は、糸が切れたように音を立てて崩れた。
 狂った合唱はまだ続く。残った螺子式ディーヴァたちを、トリテレイアの剣が圧壊させ、ヴォルフガングが纏めて一蹴する。
 子守歌はもう要らない。歌を止めないなら、お返しにその円盤を抉ろうか。
「夢など、お前の歌を借りずにも何度だって見られる」
 まだ動ける人形の足を払い、そのまま首を掴んで床に引き倒す。これが、最後の一体。
「終演の時間だ」
 零距離から放たれた弾丸が、胸の円盤を撃ち砕いた。
 きらきらと、砕けた円盤が光を反射する。足下に散らばった一つを摘まむと、トリテレイアはアイセンサーの高さに持ち上げる。
「……災魔になる前はこの歌姫達も人々に安らぎを与える存在だったのでしょうか」
 自らの存在を歪め、災いとなった人形達。もしそうであるならば、誰にとっても悲しい結末だった。
 トリテレイアもまた、造られた存在。誰かの思いが形になった『戦う機械(ウォーマシン)』だ。
 鋼鉄がじりじりと灼けるもどかしさを記憶しながら、機械騎士は欠片を砕いた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

四王天・燦
焔(f04438)と学園防衛組

扉を神鳴で斬って参上。
「後方で無差別攻撃に備えろ。落ち着き次第、攻撃術式展開!」
学生を鼓舞し立ち直らせる。
机の上を跳び前線に出て四王稲荷符を撒き、呪詛の範囲攻撃でディーヴァ達の気を引くぜ

音色に幼い頃の光景―ススキの園で姉妹の姿を見失い泣きじゃくったところに焔の手を引いた姉貴が来て(以下略)を幻視したら…神鳴の刃を掴み微細な電撃属性攻撃を浴び現実に戻る

「文化祭前に来ちゃう慌てんぼうの歌姫さんにはお帰り願うぜ。全員一斉砲火!」
学生に魔術弾や火球の掃射を指示。
焔の炎と合体した超絶フォックスファイアでディーヴァを焼却

教室棟への大ダメージは災魔がやったと学生と口裏合わせだ…


四王天・焔
燦お姉ちゃん(f04448)と一緒に参加。
アドリブ等歓迎
WIZ判定の行動

■心情
学生さん達が沢山いる場所が戦場になるなんて
皆に被害を出さない様に頑張るよ。

■行動
フォックスファイアを使用して戦うね。
【属性攻撃】で炎属性を強化し、【範囲攻撃】で纏めて敵を狙い、
【全力魔法】で攻撃していくね。
【部位破壊】で狂った円盤を優先的に狙ってみるね。

敵の愛シキ歌に対しては
【狂気耐性】や【呪詛耐性】などで
耐える事にするね。
後は、燦お姉ちゃんと一緒に
互いに背中合わせに立って、互いの死角をカバー。
その後は、燦お姉ちゃんとフォックスファイアの
融合合体さえて、巨大な狐火で攻撃したいな。


西条・霧華
「下がっていて下さい。私が敵を抑えます。」

生徒の許に敵が向かわない様に囮を務めつつ戦います

前衛適正を持った生徒にはそれ以外の生徒を護りつつの後退を
遠距離適正を持った生徒には引き射ちによる援護をお願いします
また、回復能力を持った生徒が居れば後詰として負傷者の救護をお願いします
何れの場合も死傷者が出ない様に注意を払い、少しでも危なそうなら避難を優先して貰います

【残像】を纏い、【破魔】と【鎧砕き】の力を籠めた[籠釣瓶妙法村正]にて『幻想華』
ただ倒して回るだけでなく、敵の戦線を眩惑する事で敵の『哀シキ歌』を誘発
同士討ちを狙ってみます

敵の攻撃は【武器受け】しつつ【オーラ防御】と【覚悟】を以て受け止めます


ラルマ・ドゥルーヴ


災魔から遠い位置にいる学生たちには避難を指示
それでも、逃げられない者、退かぬ者だっているだろうな
ならば背に庇いながら共に戦うよう鼓舞しよう

逃げろなどと言われても納得出来ないよな
お前たちだって戦うために武器を取ることを選んだのだから
援護してくれ、安心しろ、何せ私たちは転校生だぞ
格好良いところを見せてやる

【虎嘯風生】で喚んだユゼに暴れさせ、槍による近接戦で敵を引きつけよう
とは言え庇う相手がいる以上、持久戦は避けたくてな
ユゼの攻撃で敵に隙が出来たなら【力溜め】で一撃を強化
確実に数を減らすとしよう

守りや回復は生憎考えていない
何せいつもの一人旅とは違って仲間がいるもので
信じているよ、よろしく頼んだ


出水宮・カガリ


音が鳴る円盤…何だったかな、話には聞いたことがあるような
蓄音機…とも違うのか
「ひと」に込められた思いも、元の姿も擦り消えてしまった、なれの果て
器物に宿った思いから生じた身としては、全く他人事では無いのだが

残っている学生に、少しばかり手伝いを頼もうか
【追想城壁】で狂った音を遮断
カガリの壁は、カガリが脅威と認めるならば、音すら拒絶し阻む
音の止んだ城壁内の人形を、学生達に頼んで壊して貰おう
【籠絡の鉄柵】で人形を囲ったり絡めたりする援護はするぞ
カガリは壁しかできんのでな、お前達の手でとどめを

…悲しい「もの」よ。せめて「ひと」の手で、終わらせてやろうな




 外へと逃げる者もいれば、どこか人目につきにくい場所に隠れる者もいる。
 夜の校舎に響き渡ったのは歌声だけではない。逃げる学生達の悲鳴が、あちこちから上がっていた。その内の一つ、講堂の扉を開けると、西条・霧華(幻想のリナリア・f03198)は迷わず【籠釣瓶妙法村正】を抜刀した。
「下がっていて下さい。私が敵を抑えます」
「今のうちに避難するんだ」
 背後から人形を切り捨てると、身を寄せ合う学生達から注意を逸らすべく、残像を身に纏い敵の視界に飛び込む。続いてラルマ・ドゥルーヴ(砂礫・f19535)は別の扉を指し示し、学生達を促した。
「何人かが、足を怪我していて……」
 年長の一人が視線を向けた先には、足を投げ出すように蹲る学生達がいた。どうやら怪我人を置いていくわけにも行かず、講堂に立て籠もったようだ。
「それなら、カガリに任せて貰おう。カガリの壁は、カガリが脅威と認めるならば、音すら拒絶し阻む」
 出水宮・カガリ(荒城の城門・f04556)は安心させるように微笑みかける。僅かな変化だったが、転校生だということと穏やかな佇まいは、学生達の浮き足だった気分を落ち着けさせるには十分だった。
「あのっ! 私達も、戦わせてください!」
 そう自ら申し出た学生達に、猟兵たちは笑顔で頷く。
「逃げろなどと言われても納得出来ないよな。お前たちだって戦うために武器を取ることを選んだのだから」
 学生達を背に庇い、ラルマは学生達を励ます。
「援護してくれ、安心しろ、何せ私たちは転校生だぞ。格好良いところを見せてやる」
「前衛適正を持った生徒にはそれ以外の生徒を護りを、遠距離適正を持った生徒には引き射ちによる援護をお願いします。また、回復能力を持った生徒が居れば後詰めとして負傷者の救護をお願いします」
 ラルマの鼓舞と霧華の指示により、学生達は動き始めた。互いに助け合いながら陣形を整えると、
「来た」
 カガリの視線の先で、扉を少し開いた。その指先は黄金色をしており、とても人とは思えない金属的な輝きを放っていた。
「――でぇやああっ!」
 開かれるより早く、紅雷を纏う刃が螺子式ディーヴァごと両断した。
「間に合った!」
「燦お姉ちゃん、扉を壊しちゃダメだよー」
 四王天・燦(月夜の翼・f04448)が壊した扉を見なかったことにして、妹である四王天・焔(妖の薔薇・f04438)が姉の強引な方法を諫めていた。
「緊急事態故、致し方なしだぜ、焔。――と、このすぐ後ろにも敵が来てる。戦うのなら準備はいいか?」
 時間は無い。猟兵たちは互いの位置を確認し合うと、すぐさま配置につく。固唾を呑んで扉を見つめる学生達に、カガリはゆっくりと頷いた。
「安心して、戦うといい。カガリは、必ず守る」
「後方で無差別攻撃に備えろ。落ち着き次第、攻撃術式展開!」
 言うやいなや燦はまばらに残る机の上を飛び、四王稲荷符をばらまいた。螺子式ディーヴァの体に張り付いた呪符から呪詛がにじみだし、体を侵食する。
「焔も頑張りますよ!」
 自身の魔力で炎を強化すると、指先を真横に滑らせる。小さな狐火が一列に並び、焔の合図で四散する。
「今回は食べちゃ駄目だぞ、ユゼ。腹を壊すぞ。行こう、燦に続け!」
 ラルマは『虎嘯風生(ロア)』によって、自身の倍の身の丈がある虎『ユゼ』を召喚しその背に騎乗する。入り口に群がる人形へと走ると、鋭い牙が手足をもぎ、円盤を踏みつけて破壊する。
「私も助太刀します」
 刃は戦う時に抜くもの。そして今がその時だ。霧華は一度は納めた【籠釣瓶妙法村正】を抜き放ち、目にも留まらぬ速さで斬る。敵を幻惑させることで同士討ちを試みたが、歌姫達の反応は僅かなものだった。
 観客達へと歌を。歌を、ウタを。
「人以外には目もくれませんか」
 霧華は冷静に敵を分析すると、ユゼに群がる人形へ刃を逆袈裟に走らせる。
「ユゼばかり見てないで、私の方もみて」
 その様子に主たるラルマは黙っていない。ユゼの攻撃により隙が出来た人形から、力を溜めドラゴンランスを振り上げ両断する。続けざまに十文字に薙ぐと、手足を切り落とした。
 ――ギイィ、ィイ。
 楽譜の原形を留めていない、的外れな音符の羅列。最早歌とは思えない音が、カガリとその後ろに集まった学生達へと捧げられた。
「されど亡都の扉は此処に在り」
 歌声が届くよりも早く、カガリの『追想城壁(ロストウォール)』が展開。城壁の幻影が歌声を相殺する。
「音が鳴る円盤……何だったかな、話には聞いたことがあるような。蓄音機……とも違うのか」
 城壁を維持するカガリは、螺子式ディーヴァをみて、ううんと首を捻った。近づいてくる螺子式ディーヴァを紫水晶の瞳が捉える。ああ、あれだ。カガリは指で胸の円盤を指し示すと、【籠絡の鉄柵】がとぐろを巻くように細い身体を締め付けた。頭のない黒い魚骨が、藻掻くほどに絡みつく。
 完全に動きを封じた事を確認すると、城壁の内へ引き倒す。音の止んだ人形を一瞥すると、カガリは学生達の方へ振り返る。
「カガリは壁しかできんのでな、お前達の手でとどめを」
「は、はい! いっけえええ!」
 学生達はタイミングを揃えると、一斉に攻撃を放つ。一撃は弱くとも雨のように浴びせれば、オブリビオンといえど耐えきれない。
「やった!」
 崩れ落ちガラクタと成り果てた姿を見て、カガリの胸からすっと何かが引いていくのを感じた。
(『ひと』に込められた思いも、元の姿も擦り消えてしまった、なれの果て。器物に宿った思いから生じた身としては、全く他人事では無いのだが)」
 もしかしたら、という思いが胸の内に居座って渦を巻く。形容しがたい感情が、外へ溢れ出そうと繊手を伸ばす。
 だがその感情を掬い上げて結論を出すのは今では無い。今はまだ心の内にしまって戦いに集中しよう。
「頑張ったね、その調子だ」
 守るべきものを確かめて、カガリは再び前を向く。
 学生達の奮戦に猟兵たちも触発され、攻勢をかける。勢いに乗った猟兵たちは、戦いの流れを我が物とした。
 

「……数が多い」
「敵がどんどん湧いてくる……けど、無尽蔵ではないはず」
「それもそうだ!」
 数の多さに顔をしかめた霧華の隣で、ラルマはユゼと共に敵を屠り、豪快に放り投げる。亡骸に押しつぶされた螺子式ディーヴァを、狐火が燃やし尽くす。
「焔にお任せだよーっ!」
「やるじゃん焔!」
「えへへ、燦お姉ちゃんに褒められちゃった」
 燦に褒められた事がよほど嬉しかったのか、尻尾と耳がぴこぴこと揺れる。これは調子に乗りすぎているかと思ったが、妹の嬉しそうな姿に燦も満更ではない様子で、釣られて笑った顔はどこか締まりが無い。
「(姉妹ってああいうものなのかな)」
 ラルマは仲の良い姉妹を見てふと考える。気ままな一人旅が長いせいか、常に傍に居る家族とはともすれば忘れがちな存在だった。
 今のラルマにとって大切なものとは何だろう。オブリビオンから学園を守るために学び舎で戦う、一人の転校生。後ろに控える学生達を、無事に学園生活へと戻すことだ。
 ちらりと後ろを振り返り、ラルマは笑顔を曇らせる。
「(長期戦になればなるほど疲労するのは私たちじゃない)」
 カガリの城壁に守られた中、学生達も攻め手を緩ませない。しかし、倒してもまだ敵が現れるという状況に、表情が曇り始める。
「早めにケリを付けた方がいいな」
「そうだね。彼らの疲労を思えば、決着は急いだ方がいいだろう」
 一番近くに居るカガリは常に学生達に被害が及ばぬよう、【籠絡の鉄柵】で足止めする。そこへ学生達が一斉に攻撃を放つ。
「ユゼ」
 名前を呼べば、ユゼは答えるようにがるる、と鳴いた。
「誰かに背中を預けて、守りの心配もしないで。いつもなら考えられないのに、何でこんなに心強いんだろう」
 戦場のただ中にいるというのに、ラルマは笑っていた。どこからともなく力が湧いてきて、体が勝手に前へと進む。
「ねえ、ユゼ。仲間が一緒にいるって、こういうことなんだ」
 私達も行こう、皆と一緒に戦いたい。
 ラルマは握りしめた槍を構え、ユゼを走らせる。その顎が人形の腹に食いつくと、ラルマは背中を蹴って飛び降りた。
「はああぁあ――!」
 鋭く突き立てたドラゴンランスが貫いた。飛び散った破片が肌を裂いても、流れる血は癒やしの歌で拭われる。
「今の私は守りや回復は生憎考えていない。何せいつもの一人旅とは違って仲間がいるもので、ね」
 そうしてラルマは、再び前戦へと力強く飛び出していった。

 
「さあさあこっちだ! 観客に歌の一つ聞かせてはくれないか!」
 景気づけの【四王稲荷符】に、燦が更に挑発を乗せる。
「(こっちを見た!)」
 軋む歯車の音と共に、人形の首が一斉に燦を見た。
 ――ギギ、ギィ、ギ、ギ。
 円盤が回る。人形が歌う。
「あ、くっ……」
 頭が揺れる、視界が回る。あまりの違和感にうめき声を上げ、乱暴に髪をひっつかんでなんとか堪えようとする。
 音色に誘われるように、燦は懐かしい光景の中へと降り立った。
「あれ……?」
 一面に広がるススキの園で、泣きじゃくる幼い姿。
「ひっ、えぐっ、おねえちゃん。どこ……」
 そうだ。あの日燦は姉妹の姿を追いかけて、霧中でこのススキの中に飛び込んだ。優に背丈以上もある黄金の茎は、風に流れてざあざあと揺れた。
 それが恐ろしい化け物に見えて、心細くて仕方が無くて。ただ只管に泣いていた。
「確かそこに、焔の手を引いた姉貴が来て――」
 そうだ、焔はさっきまでどこに居た。
 燦と同じ、魔法学園の教室で、一緒に戦っていたではないか。
「……はは、お姉ちゃんがこんな所でのんびりしてちゃいけないな」
 駄目な姿をこれ以上妹にみせるわけにはいかない。姉としてのプライドは、意地でも守り通す。
 燦は僅かに抜いた【神鳴】の刃を掴むと、纏った雷が未熟な使い手の指を焼いた。
 
「――いっつ!」
「燦おねえちゃん! よかったぁー……」
 夢から醒めた燦を、焔がぎゅっと抱きしめる。歌が響く中、焔はずっと燦の手を握り耐えていた。
 焔の居る場所は、愛する人はここにいる。だから惑わされなんてしない。
「……焔、いっぱい心配したよ」
「ごめん、心配かけて。皆は?」
「皆は大丈夫。燦お姉ちゃんだけだよ」
「それはそれは、なんだか悔しいなあ」
 おどけて笑う燦の傷を、学生達の回復魔法が癒やしていく。ありがとうと手を振れば、学生達は安堵したのか元気の良く手を振って返してくれた。
「さあ、やられた分は反撃だ。焔、合わせられる?」
「もちろん、大丈夫だよ」
 姉妹は互いの死角を補い合うように背中合わせに立つ。
「さあて、皆様お立ち会い! 舞台に明かりは必須だろう?」
「焔達がみんなみんな、照らしてあげるよ!」
 二つの炎が合わさり、一面に燃え広がる。
「さあ、皆構えるんだ。……悲しい『もの』よ。せめて『ひと』の手で、終わらせてやろうな」
 更なる増援の気配はなく、人形の数は残り少ない。時が来たとカガリは告げる。
「準備はいいか? 文化祭前に来ちゃう慌てんぼうの歌姫さんにはお帰り願うぜ。全員一斉砲火!」
 燦のかけ声に合わせて、学生達は魔術弾や火球を掃射。広範囲を焼いた攻撃は、多くの人形を巻き込んで燃え上がった。


 霧華は扉の近くまで踏み込むと、【籠釣瓶妙法村正】で敵を斬り伏す。草体と略体、二種の倶利伽羅の彫刻が炎の光に照らされ浮かび上がる。
 妖しくも美しい刃を見て、暫し瞑目する。
 ――何のために刀を振るう。
「それは護るため」
 ――何のために護る。
「それが、私だからです」
 霧華を突き動かすのは願いであり、呪い。一刀のもとに全てを斬り伏せ、ただ叶える道。
 それは『ひと』かと問われれば、霧華は何と答えるだろうか。
「今は、何とも。ただこの道を歩むだけ」
 ゆっくりと瞳を開き、眼前の敵を確と見据える。
「鬻ぐは不肖の殺人剣……。それでも、私は……」
 未だ彷徨う華は、『断ち切れぬ想い』故に『幸福の再来』へと未だ至れず。霧中を歩む道程に導はない。
 『それでも』。守るためにと願った思いは偽りなく、呪いのように霧華を突き動かした。
 一切合切、ただ無明の内に夢幻の如く。我が妙法確と見よ、華落つる如く散れ。
 縮地法に勁力の瞬発を乗せた変幻自在の疾走により、敵を眩惑させる。反撃すら往なす理合の居合抜刀術、霧華の剣。
「幻想華(リナリア)!」
 終幕はただ静かに、瞬きより速く訪れた。

 学生達の元に霧華が戻ると、入り口近くで燦が額に青筋を浮かべながら、扉だったものの残骸を指で突っついていた。
「どうしよう、この扉……。ねえ、災魔がやったって口裏合わせちゃだめかな……」
「お姉ちゃん。焔は素直に謝った方が良いと思うな」
 破片を寄せ集めてせめて形だけでも戻そうとするも、壊れたものは元には戻らない。せめて切断面を偽装しようとするが、それが成功するかはまだ誰にも分からない。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
【呪業縛血】
学園に来るのも久々だ
しかし、知り合い同士に交友があるってのは不思議だな
縁は異なもの……で、合ってるよな、鷲生?
ふは、そうだったな、ともかくこいつらの処理からだ
……急にどうしたマダム?何でもないなら構わんが

幾らヤドリガミでもお嬢さんに傷はつけられん
前衛が多いこともある
私は後方支援に努めよう
呪詛を乗せた【愛しき従属者】、175匹の黒蛇だ
前衛の攻撃範囲を避けて盾になれ
物のついでだ、耳障りな円盤も叩き壊せ!

歌は好きだが、これは耳障りなだけだな
楽しい記憶など数える程にしかない
金色の髪の、紫の瞳の――
いいや、どうでも良い話か
全て呪詛で食い潰せば良かろう
この私が囚われるわけには行くまいよ!


ヘンリエッタ・モリアーティ
【呪業縛血】

ああ、私の相棒は本当に恵まれているな
今日は「私(マダム)」として同行させてもらうよ
……ニル、よかったね。いいや、なんとなく言って見ただけだよ
(今はもう、ひとりぼっちの君じゃないのをわかっているだろうか)

【対人論証】でお相手しようか
ああ、実は耳がよくってね。こういうのは困るなぁ
だけれど歌うというのなら敢えて聞いてあげるよ、それはアーティストへの礼儀だ
思い出すには苦しい記憶か
愛しい人を死なせてしまったけれど、だからなんだというのか
悪いなあ、過去の円盤
もう未来で愛の在処を手に入れたよ

君の友人は強い人が多い
――彼が、何を考えているかはわかるよ
相棒だからね
学ぶ事が多そうだ、ニル。私も君もね。


穂結・神楽耶
【呪業縛血】
ニルズヘッグ様(f01811)・マダム様(f07026)・鷲生様(f05845)

思ったより早い再会になってしまいましたね。
縁は異なもの味なもの、ですが背を預けるのに不足ありません。
どうぞよろしくお願いします。

僭越ながら前衛を預からせて頂きますね。
避難される学生様方と後衛の皆様を庇える位置取りにてお相手致します。
建物と前衛に気を払いつつ、炎による『範囲攻撃』を。
迅速に片を付けましょう。

皆様、音楽はお好きですか?
この曲はわたくしの好みではなくって。
穏やかなわらべ歌をくださいな。
もっとも──この愛しい記憶より美しいものを奏でられたらの話ですが!


鷲生・嵯泉
【呪業縛血】にて
思いの外早い再会が、こんな事ゆえになろうとはな
まあ、猟兵の仕事場なんぞ広い様で狭い
重なる事も珍しく無かろう
……合ってはいるが
暢気に話していられる場合では無いぞ

学生達は巻き込まん様に下がらせ
烈戒怒涛にて底上げた上で最前へ出る
見切りと戦闘知識、武器受けで攻撃は弾いて後ろへは決して通さん
カウンターでの怪力を乗せた範囲攻撃で叩き斬ってくれる
後顧の憂いが無いのは遣り易いものだな

好みか…然程詳しくないから直ぐには浮かばんな
だが此れが奏でる音は聞くに堪えんと云い切れる
不快な記憶を思い出す……以前に此れと同型の別個体群との対峙
あれと同じ真似を仕出かそうと云うのなら、其の前に木端微塵にしてくれる




「学園に来るのも久々だ」
 ニルズヘッグ・ニヴルヘイム(世界竜・f01811)は記憶の中の学園を脳裏に思い描きながら、ひとつひとつを照らし合わせていく。懐かしむにはまだ早く、差異など無いに等しいだろう。あるとすれば同行する仲間が居るということだった。
 ただそれだけのことだったが、ニルズヘッグは彼らと学園を訪れたという事に、不思議と感慨深く思えてならなかった。
「思いの外早い再会が、こんな事ゆえになろうとはな」
「ええ本当に、もっと未来のことだと思っておりました」
「いつ会えるか分からないというのも、人生の醍醐味かもしれないね。今日は「私(マダム)」として同行させてもらうよ」
 鷲生・嵯泉(烈志・f05845)、穂結・神楽耶(思惟の刃・f15297)。そしてヘンリエッタことマダム・モリアーティ(犯罪王・f07026)。一人を起点として複雑に絡み合う縁が結ばれ、こうして四人は魔法学園で会することとなった。
「しかし、知り合い同士に交友があるってのは不思議だな」
「まあ、猟兵の仕事場なんぞ広い様で狭い。重なる事も珍しく無かろう」
「縁は異なもの……で、合ってるよな、鷲生?」
「……合ってはいるが。暢気に話していられる場合では無いぞ」
 嵯泉の変わらぬ表情と態度にどこか安心したニルズヘッグは、こみ上げる笑いを抑えきれない。ああよかった安心した、変わらないものがここにある。
「ふは、そうだったな、ともかくこいつらの処理からだ」
 ニルズヘッグは視線の先にきらりと光る姿を見て、注意を促した。
「縁は異なもの味なもの、ですが背を預けるのに不足ありません。どうぞよろしくお願いします」
 神楽耶は一人一人の目を見てから一礼すると、くるりと背を向け走り出す。小さな背中を追って嵯泉も次いで戦場へと向かった。
 二人を見送るニルズヘッグの瞳がいつになく嬉しそうに眇められているのを見て、マダムは相棒の心中を推し量る。
 偶然の出会いが重なり合い、いつしか他人に対して感情を持ち惹かれ合った。『また次も』と願いこうして会する程に、今では強く結ばれている。
(「ああ、私の相棒は本当に恵まれているな」)
 孤独と呪詛で埋められた世界にありながら、愛と希望を見出して、輝きに満ちていると彼は言う。
「……ニル、よかったね」
「……急にどうしたマダム?」
「いいや、なんとなく言って見ただけだよ」
「何でもないなら構わんが」
 さあ行こうか、と促す声にマダムは鷹揚に頷いた。
「(今はもう、ひとりぼっちの君じゃないのをわかっているだろうか)」
 先を歩く相棒の背中に向けた言葉は、声には出さず。数ある友人の一人としてか、積み上げたプロファイルデータが導き出した答えだろうか。
 犯罪王は真意を黙したまま、夜の校舎を進んでいった。


「焦らないで、ここはわたくし達が守ります!」
 神楽耶が声を張り上げ、学生達に避難を促す。何人かが心配そうに猟兵たちを振り返ったが、嵯泉が首を横に振り彼らの背中を押した。
「ここは下がるんだ。必ず守る、だからここに隠れていなさい」
 最終ラインをニルズヘッグに任せ、嵯泉は己を縛る封印を解く。
「――縛を解く。是を以って約を成せ」
 『烈戒怒涛(レッカイドトウ)』により現れた剣精を纏い、剣を抜く。それを見た神楽耶もまた『朱殷再燃(シュアンサイネン)』により、自らを炎に焼かれ続ける無名の神霊へと変えた。
 命を削りながら剣劇は研ぎ澄まされ、炎の神霊は純度は増していく。痛みを吸い上げて、痛みを与えるために。
「僭越ながら前衛を預からせて頂きますね。参りましょう、鷲生様」
 炎と剣豪。その進む先には螺子式ディーヴァの群れ。戦端は二人によって開かれた。
 神楽耶は避難する学生と後衛を務めるニルズヘッグを庇える位置に移動すると、機械人形の前に立ちはだかる。纏った炎が爆ぜ、飛び散った火の粉が膨れ上がると人の手ほどの大きさとなる。
「燃え盛れ、我が悔悟──」
 神楽耶の声と共に、炎が舞う。彼女が敵と定めたものに真っ直ぐと飛び、燃え上がる。
 その身を炎で焼かれながら、なお歩みを止めない人形たち。嵯泉が攻撃を剣で受け止めると、円盤が回る瞬間を見切り、並外れた膂力でもってカウンターを叩き込む。
 それでも僅かに円盤は回り、軋む音がマダムの脳に極大のノイズとなって響く。
「ああ、実は耳がよくってね。こういうのは困るなぁ。――頼むよ、動くのも面倒だ」
 つい、と張り巡らされた糸は血の赤の色。細く鋭く、おぞましい三対の蜘蛛の足がマダムの背後で蠢いた。
 その巣にかかったものは、存在全てが王の知識となる。
 『対人論証(ジェノサイド・スパイダー)』。犯罪王『マダム・モリアーティ』のユーベルコードはその本質を現したかのように、貪欲に獲物へと足を伸ばす。
「だけれど歌うというのなら敢えて聞いてあげるよ、それはアーティストへの礼儀だ。感想は拍手喝采とは限らないがね」
 ぐしゃりと音を立てて、蜘蛛足の爪が人形を踏みつけた。
「幾らヤドリガミでもお嬢さんに傷はつけられん」
「ニル、そのお嬢さんの中に、勿論私は入っているんだろうね」
「勿論だとも、マダム」
 どちらかと言えば悪徳教授は、自身の力で全てを解決してしまいそうだが……などと考えてしまったとは、口が裂けても言えまい。その後を考えるだけで恐ろしいというものだ。
 ニルズヘッグは『愛しき従属者(グラーバグ・オーヴニル)』で、呪詛を乗せた175匹の黒蛇を召喚する。
「蹴散らせ」
 ニルズヘッグの号令に、黒蛇たちは味方の攻撃範囲の外側で盾となるべく展開する。
「物のついでだ、耳障りな円盤も叩き潰せ!」
 近づいてきた人形には黒蛇が足下から這い上がり、呪詛によって心臓部の歯車を停止させた。
「後顧の憂いが無いのは遣り易いものだな」
「迅速に片を付けましょう」
 四人は人形の群れを蹂躙し、片っ端から物言わぬ鉄くずへと変えていった。
 ――ギ。
 黒蛇の呪詛に蝕まれた螺子式ディーヴァが、最後の一音を紡いだ。
 
 僅かに揺らぐ視界の中に見えたのは、金色の髪の、紫の瞳の――
 楽しい記憶など数える程にしかないというのに、その色はどの場面にも存在していた。


 ニルズヘッグの動きが僅かに止まった。
 戦場の全てを見ていたマダムがそれに気づき、湧き上がる不快感に顔を歪ませた。
「思い出すには苦しい記憶か」
 愛しい人を死なせてしまったけれど、だからなんだというのか。人形如きが相棒の何を語る。
「だが悪いなあ、過去の円盤」
 彼はもう未来で愛の在処を手に入れたよ。

 如何に神楽耶と嵯泉が優れた戦士だったとしても、数ある敵の攻撃全てを防げるわけではない。
 幾らか回った円盤が歌う。直ちに炎が燃やし、剣で砕こうとも、鳴ってしまった音は消えることは無い。
「皆様、音楽はお好きですか?」
 狂った歌声に耐えながら、神楽耶は問いかける。
「この曲はわたくしの好みではなくって。他によい曲は無いものかと思いましたの」
「好みか……然程詳しくないから直ぐには浮かばんな。だが此れが奏でる音は聞くに堪えんと云い切れる。歌は好きだが、これは耳障りなだけだな」
 不快をもたらす歌に嵯泉は思い当たりがあった。過去の依頼で、同じく螺子式ディーヴァの別個体群と対峙した時のことだ。いつ聞いても、この歌は不快だ。
「あれと同じ真似を仕出かそうと云うのなら、其の前に木っ端微塵にしてくれる」
「同感です。お聴かせ願えるのなら、穏やかなわらべ歌をくださいな」
 何度も乞うたわらべ歌。今は神楽耶が誰かに聴かせるわらべ歌。
「もっとも――この愛しい記憶より美しいものを奏でられたらの話ですが!」
 神楽耶の炎が燃え上がる。人形をくべて、音を焦がして。
 ――ッ!
 音にならない悲鳴と共に、人形の歌は止んだ。
 
 記憶に咲く笑顔は、どんな形だっただろう。
 いいや、どうでも良い話か。
 ニルズヘッグは体勢を立て直すと、夢をみせた歌姫に向けて笑った。
「全て呪詛で食い潰せば良かろう。この私が囚われるわけには行くまいよ!」
 従者達の呪詛が、歌姫の喉を締め上げる。とうとうその歌声は、微かな呻きを最後に消えた。

「君の友人は強い人が多い」
 相棒たるニルズヘッグの友人達を見てマダムは嘆息する。
 呆れるほどの前向きさと力強さで、道を切り開いていく。孤独であろうと、過去を振り返ろうと、必ず彼らは前へと進む。それはマダムにはない輝きだった。
 新たに加わった分析結果(プロファイル)を閲覧しながら、やがてページを閉じる。
 過去を垣間見たであろうニルズヘッグの表情をもう一度だけ思い出し、脳内に浮かんだ結論をすぐさま消した。
 ――彼が、何を考えているかはわかるよ
 相棒だからね、と理由を付けた。付き合いが長いということは、色々と知りすぎるという事でもある。
「学ぶ事が多そうだ、ニル。私も君もね」
 蛇の呪詛にのたうち回る人形を、暴虐なる蜘蛛が踏み潰した。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『葬彩花』

POW   :    寄生準備
【自爆により催眠効果のある花粉】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    養分吸収
【花弁から放たれる極彩色の炎】が命中した対象を燃やす。放たれた【周囲の生気を消費して燃え続ける】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
WIZ   :    捕食行動
【花弁】が命中した対象を爆破し、更に互いを【絡みつく茨】で繋ぐ。

イラスト:まつもとけーた

👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 歌が止んだ。
 歌姫は物言わぬ鉄くずへと返り、学園に静寂が戻る。
 猟兵たちの声に応じ、教室棟に残った学生達も多い。彼らは負傷者の傷や戦闘の疲れを癒やす。猟兵たちは次なる襲撃に備え、周囲へ警戒の目を光らせた。
「ねえ、あんなものあったっけ」
 学生の一人が、視線の先を指差す。その先には、赤く輝く『何か』が宙に漂っていた。
「学園内にあんな色をした明りは無かったはず」
 上級生の言葉に、一同に緊張が走る。
 学生達のいう『あるはずが無いもの』が存在する教室棟。そして今、普段迷宮に閉じ込められている災魔が学園を襲撃する異常事態。
 
 つまり、あれは。
「災魔」
 誰かが呟いた言葉に反応するように、ちかちかと瞬いた後閃光を放った。
 その言葉に反応し、すぐさま猟兵たちは戦闘態勢を整える。
 月明かりの中目を凝らせば、目に見えたのは歪な形をした植物だった。
 
 羽のように存在する二色の葉、棘に覆われた――最早人の腕に見える花弁。球根の様な部分は脈動するように明滅を繰り返している。
 そして、その体を、血管のように走る葉脈がおぞましさを増していた。
 
 葉、花弁、そして根。これらの構造を持つものを、花と呼んだだろうか。
 人のパーツを花に象った様な、不気味な災魔。死体を食らう『葬彩花』。
 
 最下部にある繊手が、誰かを呼ぶようにひらひらと『手を振った』。
 その背に庇う学生達が、ひくりと喉を震わせた。
 
 さあ、次なる敵が現われた。助けを求める声が聞こえるだろう。
 その手で守るべきものを守るために、再び武器を取り戦う時だ。

【プレイング受付期間 7/25(木)8:31~7/27(土)23:59】
ソラスティベル・グラスラン
あれは球根?いえ、蕾でしょうか
何やら赤く、禍々しい気配……いいえ、考えるのは後です
今は皆さんを守らなければ!

【勇気】を漲らせ、突撃します!
【範囲攻撃】の大斧で花を全て薙ぎ払い
生徒の皆さんには近づけさせませんよ!

…?花が少し、膨張しているような……
―――何かが、マズい気がします!

猛烈な嫌な予感に従い、皆さんに退避を!
皆さん下がって!わたしの後ろにッ!!
爆発から【かばう】、【オーラ防御】で花粉を遮断
即座に飛び散る花粉を焼き払う、津波の如き橙の大火!
これぞ偉大なる祖竜の力、一族の誇り!【黄昏竜の息吹】です!

くっ……こんなものを解き放つとは、なんたる非道!
何者ですか!勇気無き者よ、姿を現しなさいっ!!


エンティ・シェア
死体を喰うとは悪食な…って言いたいとこだが、
あれが花ってんなら、死体は立派な養分かね
生憎と呼ばれる手に心当たりはねーんでな
他を当たってくれや

前は任せていいから後ろの警戒は怠るな
得意分野があるなら活かせ
死ぬ前に逃げろ。俺からは以上だ
それが出来るやつだけ参戦しろ。自信がねーなら避難しろ
加わるからにゃ、死なせねーよ

引き続き、役目は撹乱
猟兵なり学生なりが仕留めてくれることを期待してライオンライドで引っ掻き回す
多少燃やされるのは覚悟の上だ
燃やせるもんなら燃やしてみろよ
自爆されるのが心底面倒だから、その前に仕留めたいな
催眠状態の奴がいりゃ殴ってでも目を覚まさせるし、俺にもそれで構わん
治療とかは学生に任せた




 更なる敵の出現に備えて、エンティは学生達に引き続き指示を出していた。
「前は任せていいから後ろの警戒は怠るな、得意分野があるなら活かせ。死ぬ前に逃げろ」
 俺からは以上だ、と締めくくったエンティに、学生達はしっかりと頷いて返した。
 先の螺子式ディーヴァとの戦いを見て、学生達はエンティを――猟兵たちを信頼している。
「それが出来るやつだけ参戦しろ。自信がねーなら避難しろ。加わるからにゃ、死なせねーよ」
 口は悪いが、向けられた言葉には嘘偽りは無い。守り抜くという固く熱い意志が、緑の瞳の中で燃えていた。

「あれは球根? いえ、蕾でしょうか」
 ソラスティベルの視線の先で、見知らぬ花が闇の中でぼんやりと光を放つ。
 植物にしては異様な、赤く禍々しい気配。
「くっ……こんなものを解き放つとは、なんたる非道!
 何者ですか!勇気無き者よ、姿を現しなさいっ!!」
 床に大斧を突き立て仁王立ちする少女の声に、応えるものは無かった。
「死体を喰うとは悪食な……って言いたいとこだが、あれが花ってんなら、死体は立派な養分かね」
 悪趣味なオブリビオンもいたもんだ、とエンティは心の内で吐き捨てた。
「どちらかといえば……いいえ、考えるのは後です。今は皆さんを守らなければ!」
「そうだな」
 じろりと睨み付けた視線の先で、黒い繊手がゆらりと揺れる。
「生憎と呼ばれる手に心当たりはねーんでな。他を当たってくれや――来いッ!」
 エンティの声に応えて、身の丈三メートル以上はある巨大なライオンが姿を現した。黄金のたてがみを震わせ主に騎乗を促すと、その背にひらりと跨がった。
「倒すのは任せて良いか?」
「お任せ下さい!」
 ソラスティベルは【サンダラー】を再び握りしめると、漲る勇気を力に変え勢いよく突撃した。
「はああぁぁぁぁぁっ!」
 裂帛の気合と共に、大斧の刃が嵐のように葬彩花をなぎ払う。
 それを見たエンティは、無言のままライオンのたてがみを掴む。
 巨大な足がしなやかに床を蹴ると、猛スピードで敵中へと突っ込んでいく。
 少しでも被害を減らすために、エンティは学生達に気が向かないよう敵の注意を引き引っかき回す。
 多少燃やされるのは覚悟の上だ。
「燃やせるもんなら燃やしてみろよ」
 言葉が通じるか分からない。だが、言わずにはいられない。
 俺を見ろ、傷つけられるものならやってみな。
 花弁から放たれる極彩色の炎を躱しながら、縦横無尽に戦場を駆け抜けた。炎が飛んだ後、隙を狙ってソラスティベルが花を刈り取る。
「まだまだっ!」
 一気に切り裂かれた花が散る。仲間の危機を感じ取ったのか、花弁が不穏に赤く光り始めた。
「……? 花が少し、膨張しているような……」
 僅かに膨らんだシルエット。それは気のせいでは無く、確実に大きさを増している。
「(――何かが、マズい気がします!)」
「させるか!」
 脳内を過ぎる予感に、ソラスティベルの背筋が寒くなる。危険を察知したエンティが走る。明滅する球根目がけて、ライオンの鋭い爪が振り下ろされた。
「皆さん下がって!わたしの後ろにッ!!」
 叫んだ瞬間、赤い光が視界を埋め尽くした。
 爆音と共に吹き付ける熱風を、炎のオーラが壁となり遮断する。
「エンティさん!」
 その影から仲間を呼びながらソラスティベルは叫んだ。しかしすぐさま眼前を睨め付けると、大きく息を吐き出した。
 炎の壁は爆風と散布された花粉から身を守るためでは無い。
 空間に散った害あるものを、焼き尽くす為に。ソラスティベルは肺一杯に息を吸い込むと、熱い炎の吐息を吐き出した。
 闇を鮮やかに染め上げる夕焼け色。ソラスティベルが纏う、もう一つの空の色。
 津波の如く押し寄せた橙色の大火が、撒き散った花粉を燃やし尽くす。
「これぞ偉大なる祖竜の力、一族の誇り!『黄昏竜の息吹』です!」
 そうして一粒残らず炎が飲み込んだ後、ソラスティベルは頭を抱えるエンティの元へと走った。
「しっかりしてください、エンティさんに回復を!」
 些か乱暴に頬を叩くと、ぼんやりとしたエンティの瞳が次第に晴れる。届けられた癒やしの力と共に、火傷も消えていった。
「悪い、助かった」
「これでおあいこです」
「……次はしくじらねーよ」
「それは心強いです! さあ、あともう一息です」
 エンティは立ち上がると、ライオンの背を撫でて労ったあと再びその背に跨がった。
「今度は爆発させねーよ」
「お任せ下さい。わたしが守る限り、生徒の皆さんには近づけさせませんよ!」
 互いに声を掛け合いながら、二人は前戦へと走る。
 疾駆する黄金の獣が、花弁を手折りながら進む。お前達の花を毟ったのは俺だと言わんばかりに、エンティは笑う。
 狭い空間の中、極彩色の炎に照らされた赤色が刹那に浮かび上がる。
「そんなに俺が燃やしたいか! だが……足りないな」
 ひとつ、ふたつと花が切り刻まれる。踏みつけられてなじられる。
「わたし達を止めるには、火力不足です!」
 更にソラスティベルの『黄昏竜の息吹(ドラゴンブレス)』が、今度は葬彩花を焼き払うべく吹き荒れる。
 天井が、床が、壁が。黄昏色に塗りつぶされる。
 輝く黄金色の獣が、勝利の雄叫びを上げた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

出水宮・カガリ

なに、なに。怖いことは何も無いとも。
カガリは城門のヤドリガミ。此度も守り切ってみせよう。
ただし、相変わらず攻撃の火力に不安が残るのでな。助力があると頼もしいぞ。
(学生も立派に頼りにしている、と信頼してみせて)

あれは、どこにも触れてはいけないものだ
そのくせ、攻撃を飛ばしてくる…ならば
仲間の邪魔にならない程度に、学生と味方を囲う形で【籠絡の鉄柵】を大型化させ展開する
その上で【駕砲城壁】を
この柵より内側は、立ち入り禁止、だぞ(オーラ防御・【不落の傷跡】)
反射だけで倒しきれなければ、追撃を頼もう
校舎が破壊されてしまうのは、ものとしては心が痛むのだが…
事が片付いたら、修理を手伝わせてもらおうかな


西条・霧華
「ある意味では、さっきの人形よりも気を付けなければいけませんね。」

生徒の許に敵が向かわない様に囮を務めつつ戦います

遠距離攻撃可能な生徒には遠距離からの援護を
回復技能を持った生徒には後詰として負傷者の救護を
それ以外の生徒には前述した生徒の補佐と、遮蔽物の作成や選定を
それぞれお願いします
また炎に直接触れない様に遮蔽物を盾にして貰う以外に、延焼した炎にも近づかない様に警告します
安全が最優先です

【残像】を纏い、【破魔】と【鎧砕き】の力を籠めた[籠釣瓶妙法村正]にて『幻想華』
可能な限り、生徒達の方へ攻撃が向かわない様な軌道を心掛けます

敵の攻撃は【武器受け】しつつ【オーラ防御】と【覚悟】を以て受け止めます




 花が爆ぜた。
「ある意味では、さっきの人形よりも気を付けなければいけませんね」
 咄嗟にオーラを纏い受け止めた霧華が、厳しい表情で語る。元より少々の傷など覚悟の上だ。それに今は学生達が懸命に癒やしの力を霧華へと届けている。
 そんな思いを嘲るかのように、花は何かを待つように漂いゆらゆらと『手』を揺らしている。異様な光景に、学生達は怯え小さな悲鳴を上げた。
「なに、なに。怖いことは何も無いとも。カガリは城門のヤドリガミ。此度も守り切ってみせよう」
 それを見たカガリは、優しく声をかけた。先ほどの爆発にも動じること無く立っているカガリを見て、幾らか落ち着きを取り戻したようだ。何人かが声を掛け合い、励ましている。
「ただし、相変わらず攻撃の火力に不安が残るのでな。助力があると頼もしいぞ」
「さっきも出来たんだし、今度だってきっとできる」
「私達に出来ることをやろう」
「此度も頼りにしています。では、私は前へ出ます」
 霧華は【籠釣瓶妙法村正】に手を添えると、颯爽と駆けだし敵へと向かう。
「――はぁっ!」
 抜刀と同時に、葬彩花を一刀のもとに斬り伏せる。自爆の余地さえ与えない見事な一撃だった。
 その後方で、カガリは冷静に敵を分析する。
「次はあの花を狙うんだ」
「はいっ」
 カガリは学生達を導きながら、降りかかる炎を盾のように展開したオーラで防ぐ。氷の魔法が花弁を凍らせ、ガジェットの砲弾が幾重にも貫いた。
 遠距離から攻撃できるものは援護を、回復ができるものは負傷者の支援を。
「炎に直接触れない様に、遮蔽物を盾にしたほうがいいでしょう」
「カガリが防ぐけど、その方が皆も安心できるかな」
 迫り来る攻撃を直視するよりは、身を潜められる物陰があった方がいい。だが、時間は無い。寄せ集めた机の影に、頭を低くしていられるくらいだろう。
「延焼した炎にも近づかないでください」
 霧華は敵との位置関係を計算し、生徒達へと攻撃が向かわないように注意しながら次の目標へと接近する。不規則な軌跡は敵の攻撃を見誤らせ、眩惑させる。そして。
「幻想華(リナリア)!」
 霧華の剣が、葬彩花を斬る。一拍遅れて崩れ落ちた体は、真っ二つに裂けた。
 
「(あれは、どこにも触れてはいけないものだ。そのくせ、攻撃を飛ばしてくる……ならば)」
 敵の攻撃を分析していたカガリは、【籠絡の鉄柵】を大型化。霧華と学生達を囲う形で展開する。
「これなるは我が砲門。我が外に敵がある限り、砲弾が尽きる事はなし。駕砲城壁(ロアードウォール)」
 詠唱と共にカガリの体と【籠絡の鉄柵】が性質を変える。
 飛来した極彩色の炎がカガリの体に触れると、光弾へと変わる。
「反撃せよ。砲を撃て。我が外の脅威を駆逐せよ!」
 炎を放った葬彩花めがけて、光弾が打ち返される。球根部分を貫通すると一度跳ねるように身を震わせ、光を失い沈黙した。
 代償としてカガリは身じろぎ一つとることができない。だが守れるのなら、そのくらい些末なことだった。
 恐怖に震えながらも、猟兵たちの声に応えてくれた学生達。共に戦う猟兵を。
「カガリは守る」
 幻想の城壁の外で花が爆ぜる。しかしカガリは眉一つ動かさずその光景を見ていた。
 滅びた黄金都市の城門が崩れ去ろうとも。託された思いを守る、鉄門扉のヤドリガミ。
「この柵より内側は、立ち入り禁止、だぞ」
 その爆発ごと自らの力に変え、変換した光弾を打ち返す。
「お願い」
「お任せを」
 討ち取るに至らなかった敵を、霧華に託す。霧華は残像を纏い、城壁の外へと走る。
 ――キィン
 澄んだ鋼の音と共に、花が裂いた。


「被害は少なく済ませるつもりだったが……」
「敵の攻撃から皆様をお守りするので、手一杯でした」
 脅威を追い払った後、二人は爆発によって破損した校舎を見て居たたまれなくなった。
 教室の形を残しているのは幸いだろう。だが扉は壊れ、壁は崩れている。修復には時間がかかりそうだ。
「事が片付いたら、修理を手伝わせてもらおうかな」
 カガリの言葉に、学生達は表情を輝かせた。
「そう言ってくださるだけで、とても助かります。きっと皆喜びますよ」
 まだ戦いは終わっていない。だが元の学園を思い描く彼らの表情は明るかった。
 それを見た二人は、改めて学生達を守り切ったということを噛みしめたのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

迎・青

…うう、あうあう!こんどはお花がいっぱい…!?
だ、だいじょぶ、コワくない、よぅ!
(爆発音にびくつき震えながら)

周囲の猟兵・学生を【鼓舞】しつつ協力
【生まれながらの光】での負傷者治療・サポートをメインに立ち回る
「いたいところあったら、いってね!なおすのは得意だよぅ」
疲労はするが複数一度の治療も迷わず使用する
自分や周囲の人に危険が迫ったり、茨に絡みつかれた時は
杖から光を放ち攻撃(【属性魔法】【全力魔法】)

臆病な性格故に、「比較的安全な場所」を見極めるのは得意
治療の手が回らない負傷者・戦闘に向かない学生等は退避させ
守れるように立ち位置を調整する


トリテレイア・ゼロナイン
(センサーで●情報収集し、花粉の危険性を●見切り)
催眠効果の花粉……あまりあの花には学生達を近寄らせない方が良さそうですね

●防具改造、自身の●ハッキングで花粉等の外部物質の身体の内部への取り込みを制限しつつ、頭部・腕部・肩部の格納銃器による●なぎ払い掃射や●スナイパー射撃で遠距離から倒します

花粉が飛散し飛んで来たら、周囲に電磁障壁発生ユニット展開、電磁バリアによる安全圏を確保
学生達をバリアで●かばいつつ、遠距離からなるべく高火力の技で一撃で倒すか、凍結系等の行動阻害で自爆を阻止するような攻撃をするよう指示し援護して貰います

相手が不気味でも、脅威を認識し落ち着いて対処すれば恐れることはありません


マレーク・グランシャール

記憶のない俺には生きる意味も夢も希望もなくて、いっそ泡となって消えてしまえればと思うことがある
だがな、そんな俺でも他人を巻き添えに死のうと思ったことはないぞ

まずはそこのおぞましい花を駆逐する
元は美しき花も人の不幸を願えば歪む
最早元の姿に戻れぬならば、俺の手で骸の海へと返そう

学生達を背に庇い、【汗血千里】を成就
射程距離を伸ばしたら【破魔黒弓】を番えて射る
敵の花粉の範囲に入らず遠距離から攻撃
槍投げぬのは元の竜が花粉を吸わぬためだ
高速で攻撃をしかけ、接近されぬ間に自縛させてしまう
もし花粉が来たら風圧で吹き飛ばす

仲間の危機は【黒華軍靴】でダッシュし、身を挺して庇う
今さら惜しむ血でも命でもないから


アテナ・アイリス
人数が多いから、後方支援に回りましょう。
後ろから、「フレースヴェルグ・ブラスター」を使って、【援護射撃】【誘導弾】で攻撃のサポートを行う。
傷を負った人には、クレリック呪文で傷を癒す魔法を唱える。
催眠状態に陥った人が出た場合は、UC「リフレッシュ」をつかって、異常状態を回復させる。
最後は、花弁に連続射撃をして、敵の攻撃力をそいでおきましょうか。

「後ろから援護するわよ。前は任せたわよ。」
「浅い傷ならわたしの呪文でも治せるわ。さあ、これで良し。」
「世界樹よ!力を貸して、お願い。」
「弱点はあそこね。集中的に攻撃しましょう!」


アドリブ・連携好きです。


四王天・燦
焔(f04438)と防衛隊

無機質で醜い炎だ。
「駄目だね美しくない」

「守護理論受講生は攻撃に備え障壁展開。破壊講義を受けた奴は攻撃魔法で支援。前線は任せろ!」
役割を与え、神鳴を掲げ戦国武将の如き雄叫びを上げ鼓舞しながら突撃

符術『力場の生成』+ダッシュジャンプで跳び掛かり先制で叩き斬る。
跳躍回数の限り跳び回り鋼糸デストラップの罠を張り巡らせるぜ

残像を囮に、見切りで回避、武器受けで自身や焔・学生に向かう炎を切り払う。着火したら池なりダイブ。
鎮火手段がなければ早々に倒す方向に切替え

「普段、先生が許さない魔法や禁呪をぶっ放せ!」
罠に絡めたら学生にトドメを任せ実戦経験を積ませるぜ

流れ弾は災魔の仕業って事で


ラルマ・ドゥルーヴ


さまざまな花があるものだし、愛でるものも人それぞれだが
あれは事前に聞いた強力な敵とやらの趣味か
好みに口出しする気はないが、どうにも合わないな

槍で戦闘
あの赤い光が心臓部だろうか、一度狙い撃ちして様子を見る
ダメージが大きいようなら【部位破壊】を試してみるか

生徒たちには引き続き遠距離からの援護を頼もう
だが、相手に飛び道具がある以上庇うだけでは不十分か

【火樹銀花】で宣告、ルールは「猟兵以外を傷付けるな」
この乱戦でルール破りの代償は大きく見込めないが
生徒に攻撃が行けば多少なりと怯むはず
その隙をついて庇う位置取りを保とう

私も竜の炎を扱う身の上でな
攻撃には【火炎耐性】で耐え、炎の中からカウンターを狙おう


四王天・焔
燦お姉ちゃん(f04448)と一緒に参加
SPD判定の行動
アドリブ歓迎

■心情
お花は好きだけど、もはやあれば花じゃないよね。
学生たちを恐怖に陥れる存在は、放ってはおけないよ。

■行動
白狐召還符を使用して、白狐様に騎乗して戦うね。
【属性攻撃】で狐火の属性を強化して攻撃し、
【マヒ攻撃】や【気絶攻撃】で敵の動きを止めながら戦うよ。
養分吸収に対しては、こちらも【火炎耐性】で耐える様にしつつ、
延焼分には【地形の利用】で踏み込んだりしない様に注意するよ。

学生たちや、燦お姉ちゃんが狙われたら
積極的に【かばう】様にし、【盾受け】や【武器受け】で防御しつつ
【カウンター】で反撃を試みるね。


サフィリア・ラズワルド
WIZを選択

生徒達に『自分も戦えたらって思ってる?なら皆の戦い方を参考にして、見るのも勉強だよ……気分が悪くならない程度に』と言って前に出ます。

敵からの攻撃を受けます。敵と自分が繋がったのを確認したら【竜の怨念】を召喚します。『さぁみんな行ってきて!あれは敵だよ!』死体は食べても肉体のない怨霊を食べることはできないはず、彼らは安らぎを求めていない眠りも求めていない、敵を攻撃し続けることだけを求めている、だから滅多なことでは怯まない。

でも彼ら任せにする訳じゃない、ペンダントを竜騎士の槍に変えて『ここからでも攻撃はできる!』と【槍投げ、串刺し】で敵に攻撃します。

アドリブ協力、歓迎です。




「あっ……」
 学生の一人が、がくりと膝を突く。花が爆ぜたあと、まき散らされた花粉を吸い込んだ学生達の様子が変わった。
 虚ろな視線に、
「世界樹よ!力を貸して、お願い」
 すぐさまアテナは『リフレッシュ』で彼らの状態異常を打ち消した。
 その様子を見たサフィリアの紫の瞳が、ふわりと浮かぶ赤い花を写す。
「あれが、今回の敵なのね」
 仲間を呼ぶように数度瞬けば、釣られるように花が集まってきた。そしてこの騒動の元凶へと続く道を、異形の花が彩る。
「自爆とは厄介ですね。無理に突破することもできず、しかしこちらはおいそれと放置することもできないわ」
「今回の元凶は厄介ごとを企むのが好きなのかしらね。そうやって私達の邪魔をする……」
 まるで猟兵の出方を窺い、反応を試されるような。知らず知らずの内に思惑に絡め取られ、手のひらの上で弄ばれる舞台に招かれたようで。サフィリアは己が内を無遠慮に見透かされる不快感に歯がみした。
「……分からないことは、直接聞けばいい。まずはこの死体を食べる花を倒す」
「後ろから援護するわよ。前は任せたわよ」
「わかった。あなたも気をつけてね」
 にこりと笑うアテナに、サフィリアは変わらぬ表情のまま頷き返す。その視界の端で、不安を隠しきれない学生達の表情が見えた。
「自分も戦えたらって思ってる?」
「えっ」
 唐突なサフィリアの言葉に、彼らはきょとんとした表情で竜の少女を見た。
「私も誰かに教わった訳じゃ無い。私は私が戦いたいようにしているだけ。けど」
 かつての実験の影響か、サフィリアは戦闘では本能をむき出しにしてしまうようだ。だがそれを見て、何を思うかは彼らの自由。成長の糧となるのなら、悪くない。
「なら皆の戦い方を参考にして、見るのも勉強だよ……気分が悪くならない程度に」
 こうならないで、とは言えないがどうなるかを見せることはできる。たたんっ、と床を蹴り迫るサフィリアに、葬彩花は誘うように花弁が開く。あえて懐に飛び込むと、花弁の内何枚かをもぎ取った。零れ落ちた燐火が音を立てて燃え上がると、炎がぱちんと弾けた。次の瞬間、サフィリアの腕に触れていた花弁が破裂した。
「――ぐっ!」
 痛みを堪えて呻くが、それでも退かない。なお伸ばされるその手を絡取るように、茨が伸びサフィリアを捕える。
「回復を――」
「大丈夫」
 落ちた汗を拭いもせず、痛みに荒げた息もそのままに。事も無げにサフィリアが言うと、学生達は戸惑いながらも杖を下げた。サフィリアは茨で繋がれた腕をぐいっと引っ張り、簡単に解けないことを確認する。これでいい。
 サフィリアがこの腕で倒すにはちょうど良い距離だ。
「ごめんね、起こしちゃった? ……いいよ、行ってきて」
 呟かれたのは誰への言葉なのだろう。サフィリアの敵愾心が向けられると、濃い紫の怨霊がぐずぐずの輪郭を形作る。ナイフででたらめに裂いたような赤い瞳と口が鳴いた。三十九体の『竜の怨念(ドラゴン・ヘイト)』が、花を貪り食う。
 死体は食べても肉体のない怨霊を食べることはできない。サフィリアのユーベルコードとなった『彼ら』は安らぎを求めていない眠りも求めていない。
 ただ敵を攻撃し続けることだけを求めている、だから滅多なことでは怯まない。
「一度そのあたりにしておきましょう。浅い傷ならわたしの呪文でも治せるわ。皆も回復を。さあ、これで良し」
 サフィリアの捨て身の一撃に、言葉を失っていた学生達はアテナの声で我に返ると、慌てて回復を施す。
「傷を負ったら癒やす、例え仲間が傷ついても慌てないで」
 アテナは【フレースヴェルグ・ブラスター】を構えると、狙いをすましトリガーを引く。
 何らかの攻撃手段の前に、赤く輝く球根に何かある。確信めいた予感がアテナの脳裏にはあった。
 アレを撃てば何か分かるはず。放たれた弾道が光の帯となり、闇を焼く。
 ――、――!!
 中心を穿つ光に、葬彩花の体が大きく跳ねる。ざわめくように激しく花弁が蠢き、やがて生気を失ったように茶色く萎びて枯れた。
「弱点はあそこね。集中的に攻撃しましょう!」
 立て続けに放たれたプラズマ弾が、花弁を撃ち抜いていく。敵の攻撃力をそぎ落とし、確実に勝利への布石を打っていく。
「ここからでも攻撃はできる!」
 アテナと学生達の力により回復したサフィリアが、胸元のペンダントを【竜騎士の槍】へと変化させる。
「はああぁっ!」
 空気を震わせる竜の咆哮と共に、サフィリアは力任せに槍を投げた。
「合わせるわ!」
 槍が貫かんとする花を、アテナの放ったプラズマ弾が手と花弁を撃ち落とした。
 そして僅かな身じろぎすら許さぬまま、瑠璃色の彗星が花を焼いた。


「……うう、あうあう! こんどはお花がいっぱい……!? け、ケガしてます!」
 青がサフィリアに駆け寄ると『生まれながらの光』で傷を癒やす。
「ありがとう」
「ど、どういたしまして!」
 サフィリアからお礼を言われたことが嬉しくて、青はぱっと表情を明るくさせた。
「(よかった、ちゃんと役に立ててる)」
 そのまま動かずにこにことしていると、サフィリアは彼の行動の真意が読めず、首をかしげた。
「どうしたの?」
「ううん、ただ嬉しいだけだよぅ」
 いつも誰かの顔色を窺わずにはいられない青は、サフィリアの率直な言葉がただただ嬉しかった。

「私達は右側を引き受けます」
「では、私は左側を。お任せ下さい」
 アテナとトリテレイアは短く言葉を交わすと、それぞれの敵に向かい射撃を開始する。
『――各ユニット異常なし。フィールド情報の更新を開始します』
 すぐさま現状把握のため、スキャニングを開始。トリテレイアのアイセンサーが緑色の光を放つ。
 まだ戦場に残る爆発の残滓を感知したトリテレイアは、敵を撃ちながら慎重に分析を進める。暗闇を見透かす電子の目(センサー)は、その棘や僅かな繊毛までも忠実にモニターへと映し出した。
『フィールド上に敵性個体および散布した物質を発見。サンプリング、解析開始――完了。
 報告。スペースノイドに対し催眠効果のある物質を検出。速やかな討伐、または避難を推奨』
「催眠効果の花粉……あまりあの花には学生達を近寄らせない方が良さそうですね」
 葬彩花が放つ脅威が自爆によるダメージでは無く、散布された花粉にもあると分析したトリテレイアは自身のコアユニットに強制的にアクセスする。
「少々無理な方法ですが、安全に行動できるのであればやるに越したことはありません」
 制限された動きを確認しながら、自身のパフォーマンスを再計算。演算結果を基に最良の動きを自身に命じる。
「離れていてください」
 片腕に格納された多目的単装銃を展開し、赤く光るポイントへ向けて狙いを定める。
 あらゆる状況を計算し打ち出された弾丸は、正確に敵の中心部を捉えた。
「すごい……! ううん、ボクもやらなきゃ」
 見とれているばかりではいけないと、青は奮起する。自分にできることは何か、何が得意なのか。今一度思い巡らせる。
「あっちなら安全です!」
 葬彩花から死角になる位置を見つけ出し、学生を移動させる。その間トリテレイアが更に銃器を展開、掃射による銃弾の雨あられにより、動きを封じてサポートする。
「いま、治療します……」
「私も手伝います!」
「あう、ありがとう」
 近くに居た学生が、青と共に癒やしの力を紡ぎ上げる。受け取った前衛達の傷が綺麗に塞がったのを見ると、青は皆の顔を見て、そして笑った。
「みんながいてくれて、ボクはとっても心強いです」
「回復とか、ちょっとした攻撃しか僕達にはできないけど……」
「ううん、そんなことないよぅ! いたいところあったら、いってね! なおすのは得意だよぅ」
 にこりと精一杯青は笑う。その笑顔に励まされ、学生達は杖を、ガジェットを持つ手に力が入る。
「守ってくれて、ありがとう」
「お礼はまだ早いよぅ! みんなでがんばって、のりきろう」
 青の応援に力を貰ったのは学生達だけでは無い。
「迎様の笑顔は、皆に慕われる笑顔ですね」
 兜から覗く緑の光が、柔らかく眇められる。
「私からお願いがございます。敵の自爆を防ぐため、魔法で凍結させて頂きたいのです」
「任せてください。私、氷の魔法なら得意なの!」
 そう名乗り出た精霊術士が、氷の精霊を伴って顔を出す。更に二人の学生が、剣を、杖を持ちトリテレイアに向かって力強く頷いた。
「相手が不気味でも、脅威を認識し落ち着いて対処すれば恐れることはありません。行きますよ、お願い致します」
 トリテレイアの声に、学生達は災魔へと視線を向ける。
「凍って!」
 杖と剣の示した先へ、冷気が滑るように床を走る。染み出した水が凍るように細い氷の道が出来上がり、花へとたどり着くと冷気が爆発する。
 合わせてトリテレイアは全砲門を展開。氷像の花以外を一気に狙い撃つ。
 しかし魔法を逃れた一体が身を震わせ、予兆のように赤く輝き始める。
「電磁障壁発振器、射出」
 トリテレイアは複数の杭状の発振器――『攻勢電磁障壁発振器射出ユニット(バリアジェネレーターランチャー)』を前方の足下に射出。
「展開」
 声と同時に、葬彩花は溜め込んだエネルギーを放出、爆発した。
 間一髪、檻状に張り巡らされたエネルギー障壁が爆風と飛来した花粉を受け止める。
「トリテレイアさん!」
「問題ありません、さあ、続きを」
 青の悲鳴に、トリテレイアは冷静に応える。変わらない様子に、青がほっと息を吐く。
 揺るぎない姿に奮起してか、学生達の詠唱にも力が入る。
「ボクも、ボクだって……!」
 青は重なり歌う詠唱の声に合わせて、光の魔力を集める。
「みんなを、守りたい!」
 だから、力を貸して。ボクも精一杯やってみせるから。
 冷気に触れた水はたちまち凍り、花弁を霜で覆う。それらに乱反射する光は、鮮烈な夜明けのように白く世界を照らし出す。青が導く束の間の朝日が、世界を焼いた。
 そして再びの夜をもたらす引き金を、騎士が引く。
 頭、腕、そして肩。その身に格納された銃器全てが、凍り付いた花へと銃口を向ける。
「発射(ファイア)!」
 視界を埋め尽くす、扇状一斉掃射。
 残る花は日の名残と共に、砕け散った。


「ひゃあー、派手にやるなあ」
 光と共に花がなぎ払われる光景は、まさに圧巻の一言だった。燦は手でひさしを作ると、身を乗り出して戦いの行方を見守る。
「いやあ爽快痛快、アタシもあれくらい派手にやりたいもんだぜ」
「燦お姉ちゃんは、派手なのが好きなのかな?」
 焔は姉の言葉に首をこてんと傾げた。合わせて揺れるストライプのリボンと耳が、燦の肩先で揺れる。
「何を言う焔、アタシは遍く美少女の味方だ!」
「なら焔は燦お姉ちゃんの味方だね、一緒に頑張ろう」
 胸を張って答えた燦。彼女の変わらない主張に焔は笑顔で頷いた。
「くぁー、今日も妹が可愛い……。おうともさ! おーい、後ろから敵が来てるぞ、でも安心だ」
「焔達が、お相手致します、だよ」

 脇を通り過ぎた炎に視線だけ向けると、燦は打って変わって表情を真剣なものへと変える。
「無機質で醜い炎だ。駄目だね美しくない」
「お花は好きだけど、もはやあれば花じゃないよね」
 学生さんたちを恐怖に陥れる存在は、放ってはおけないよ。
「だから、お仕置きです! 符よ妖の郷への扉を開け。おいでませ白の御狐様」
 焔の呼び声に、青い狐火が応える。指先に掲げた符がボッ、と音を立てて激しく燃え上がる。
『白狐召還符(サモン・フォックス)』
 白い毛並みに覆われた足が現われ、雪のように真っ白な尾をぶるりと震わせた。小さな焔の倍はある大きな白狐の口元から、くるる、と鳴き声と共に青い狐火が零れ落ちる。
「焔と一緒に、あの花たちを焼いて」
 その思いに応えるように、白狐は頭を下げて騎乗を促す。焔がしっかりとその背に跨がったのを確認すると、燦は【神鳴】を抜き、切っ先を花の群れへと向ける。
「さあさっきの授業の復習だぜ、転校生からの特別講義は覚えてる?
 守護理論受講生は攻撃に備え障壁展開。破壊講義を受けた奴は攻撃魔法で支援。前線は任せろ!」
 戦国武将の如き雄叫びを上げ、味方を鼓舞する燦。自らも紅雷を纏い先陣を切る。学生達の猛攻が雨あられの如く飛び交う中、懐から取り出した符をばらまくと、空中に固定する。
「御狐・燦が命ず。符よ、我が意のままに空に留まり、天へと至る足掛かりと成せ!」
 空中で四十七回の跳躍を可能にする、燦の埒外の力。それらを爪先で蹴り、戦場を縦横無尽に飛び回る。
「これがアタシの”符術『力場の生成』(エアリアルステップ)”だあっ!」
「燦お姉ちゃんに続いて!」
 焔は炎の力を集めると、小さな狐火に纏わせ大きな炎を作り上げる。
「いっくよ――!」
 焔と白狐による、狐火の乱舞。青い狐火が地面を焼き払えば、焔の紫の狐火がいつの間にか張り巡らされた鋼糸へと火をつける。
「もうここは鋼糸の檻の中だ。熱で焼き切られるか、アタシの【神鳴】叩ききられるか――」
「焔と御狐様の炎で、焼き尽くされるか、だよ」
 燦へと向かって極彩色の炎が飛ぶが、焔はそれを自らの狐火で相殺する。極彩色を食い尽くした紫は、焔が指差すほうへ――炎をけしかけた花を丸ごと飲み込んだ。
「燦お姉ちゃんは、傷つけさせないからね」
「さすが焔! さあて、こちらも最後の仕上げだ!」
 燦は葬彩花を蹴り上げると、トラップに絡めて動きを封じる。辺り一面、蜘蛛の巣に囚われた獲物のように、花が鋼の檻に捕らわれた。
「最後の仕上げだ! 普段、先生が許さない魔法や禁呪をぶっ放せ!」
 燦の号令と共に、学生たちはいっせいに自分が得意な方法で攻撃を行う。
「御狐様!」
 焔も最大火力で、辺り一面を狐火の光と熱で埋め尽くす。
 目を焼く様な光が消え去った後にはおぞましい花の姿はなく、灰すら残っていなかった。


「あの姉妹、やっぱり仲がいい」
 ラルマは髪に隠れた相棒の事を思いながら、二人の姉妹の後姿を見つめていた。うっかり流れ弾が当たってしまった壁を見て、燦が何やら学生たちと話し合っている。おそらく口裏合わせの口実を話しているのだろう。
「さて私たちも頑張らないと、そこのあなたも」
「俺は最善を尽くすのみだ」
 ラルマは初めて見る黒い青年の言葉を聞いて、その通りだと思った。肩に乗った碧眼の小竜が、ぱちくりと目を瞬かせた。
「兵は神速を貴ぶと云う」
「なら手早く片付けてしまおう。あの花に――これ以上学生たちを危険に晒さないために」

 ラルマの旅路には、幾多の美しい花があった。
 色や形、香りなど。全て思い出すのも困難なほど、さまざまな花があった。そして彼らを愛でるもの達にも、人それぞれの「愛でかた」があった。
「あれは事前に聞いた強力な敵とやらの趣味か。好みに口出しする気はないが、どうにも合わないな」
 未だ姿を現さない首魁に悪態を吐き、ラルマは槍を握りしめる。それを確かめるには、いま目の前にいる悪趣味な花を退けるより他に無い。
「自らの存在を賭して、か」
 マレーク・グランシャール(黒曜飢竜・f09171)記憶がない。寄る辺なく漂い、その日一日を「生きた」事がマレークにとって唯一の足跡。しかしそれすらもおぼろげに、彼の記憶から零れ落ちていく。
 零れ落ちた水は、決して元の形に還らない。
 記憶の代わりに埋め尽くされた空虚さ故に、彼には生きる意味も夢も希望もなかった。いっそ泡となって消えてしまえればと思うことがある。
「だがな、そんな俺でも他人を巻き添えに死のうと思ったことはないぞ」
 今は違うと断言できる。繋いだ絆は生きる意味に、心にわずかに積もる思い出の結晶はマレークに儚い夢と希望を与えてくれる。
 奪うと言うことは、誰かのものをその手で取り上げると言うことだ。生殺与奪の権を委ねるには、この花はあまりに無機質すぎた。
「まずはそこのおぞましい花を駆逐する」
 それは先触れ。マレークが戦いに臨み、己が到達すべき未来を定めたという宣言だった。
「ああ、そうだね」
 マレークの言葉にラルマは頷き返す。そして学生達の方へと振り返ると、場に不似合いな明るい表情で笑った。
「みんな、まだ戦える?」
「は、はい」
「ならさっきと同じように援護を頼む」
「はい!」
 威勢のいい答えを背中も受けて、ラルマは敵中へと颯爽と駆け出す。その隙にマレークは学生達を庇い立ち、肩に止まっていた小竜の首を指先で撫でる。
「草原を吹き抜ける野性の風よ。我が血、我が命をもって疾風の竜となれ」
 朗々と、しかしどこか厳かに。歌い上げた声を以て小竜に命じ、『汗血千里(ドラゴニック・ワイルドウィンド)』を成就する。淡緑の光に包まれたかと思うと、碧玉を嵌めた優美な長槍が現われた。血と寿命を捧げたマレークを満たすのは【碧血竜槍】の力。竜の加護により射程を伸ばすと、【破魔黒弓】に矢を番え射かけた。
「元は美しき花も人の不幸を願えば歪む。
 最早元の姿に戻れぬならば、俺の手で骸の海へと返そう」
 緑成す疾風を纏った矢が、空を切り飛ぶ。鋭い切っ先が、花の中心部に風穴を開けた。
「先の戦闘で、弱点は分かっている」
「それなら、狙わない手はない」
 ラルマはドラゴンランスを横に薙ぎ、花を一気に刈り取った。花弁がなくなり、球根だけになった花に穂先を沈める。
「結構効いてる」
「なら、多少自爆しても構わん。学生たちから距離を置いたうえで、自爆を誘う。花粉は俺がこの風で吹き飛ばそう」
「その気持ちのいい風、私は好きだ。マレーク……だっけ、任せた。私は私にできる事をやる」
 だが、相手に飛び道具がある以上庇うだけでは不十分か。ならば、とラルマは愛用の槍を手に、群がる花へと駆けた。
 懐から取り出したコインを、指と指の間に挟みサイドスローで放つ。くるくると回転しながら飛ぶそれは、赤い光を弾いて花へと命中した。
「なら賭けようか――『猟兵以外を傷付けるな』、私達の槍と正々堂々向かい合って貰う!」
 ラルマが賭けるのは銀貨一枚。迷ったのなら任せれば良い。コインの裏と表、簡単な二者択一に気まぐれでこの身の全てを委ねるのもまた一興。
 『火樹銀花(レイズ)』によりラルマが賭けたルールが、葬彩花を縛り上げる。
 縛め振りほどくかのように、葬彩花はぶるりと身をくねらせ震わせた。次の瞬間、ひとつまた一つと花が爆ぜた。
「マレーク!」
 ラルマが足を止めた隙に、葬彩花たちは我先にと学生達へと向かい音もなく滑るように行進する。
 どうする? と考えるまもなく、勝手に体が動いていた。
 ラルマは駆け寄りながら【ドラゴンランス】で花を切り刻む。舞い上がった土煙が晴れると、そこにはマレークの姿があった。
「吹き飛ばせ!」
 マレークの言葉に、一陣のつむじ風が吹き抜け花粉を全て吹き飛ばしていく。巻き込まれた葬彩花も、離れた床に叩きつけられた。
「この賭け、ルール違反は御法度なんだ。破ったものには、それ相応の罰は覚悟して貰う」
 学生にほど近い場所で自爆した花を、『火樹銀花』の罰が下る。バチン、と音を立てて体の半分が銀の火花に焼き尽くされる。
「私も竜の炎を扱う身の上でな。どちらの炎がより強く美しいか賭けてみる?」
 言うが早いか、ラルマは次々と飛んでくる極彩色の炎を躱し、上から振りかぶり真っ二つに切り裂いた。
「だが、一人で敵中に飛び込むのは感心しない」
 ラルマの前に立ち、炎を風圧で掻き消した。並び立ち、左右を警戒しながら敵の数を数える。……三体がこちらへと漂いながら向かって来る。
「でも、マレークは仲間の危機を見過ごせない。だろう?」
「今さら惜しむ血でも命でもないから」
「……その言葉、槍の竜にはあんまり聞かせないで。相棒なら、長く一緒にいたいと思う」
「……そうか」
 そこで会話は途切れてしまった。しかしそれを合図にラルマは槍を手に敵へ突撃し、マレークは【破魔黒弓】から番え射る。
 ひゅん、と矢と槍が風を切る音が三つ。
 八人の猟兵たちの周囲の花は駆逐された。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

穂結・神楽耶
【呪業縛血】
ニルズヘッグ様(f01811)・マダム様(f07026)・鷲生様(f05845)

それにしたってこんなに災魔が出るなんて。
学びも何もあったものではありませんね。
皆様、まだ動けますか?
――ありがとうございます、頼りになりますね。

引き続き前衛はお任せください。
植物ならは炎に弱いでしょう?
引き続き【朱殷再燃】を起動。
花弁も花粉も、マダム様に強化頂いた炎でなぎ払ってしまいましょう。
万が一受け損ねたとて燃やし斬れば済む話。
生徒たちや後衛の皆様を守る為には回避などしていられませんしね。
鷲生様も、いざという時はわたくしの後ろへ。
……ふふ。でしたらここは殿方を立たせて頂きます。


鷲生・嵯泉
【呪業縛血】にて
原因解明の糸口すら見つかっていない事は気掛かりだが
先ずは学生達の不安の種を取り除き
すべき事を片付けねば話にならん
未だ準備運動程度、早々に片を付けるとしよう

後衛は引き続き任せる、学生を頼むぞ
手に刃を這わせ妖威現界にて底上げして最前へ
援護も十分に活用させて貰うとしよう
強化にしては些か変わった感覚だが……中々面白いものだな
見切りと第六感にて攻撃は躱し弾いて後ろへは通さず
近接したなら一気呵成に叩き斬る
自爆の影響なぞ覚悟で捻じ伏せてくれよう

……いや、気持ちは有難いが遠慮しておこう
男の矜持という役立たずを見捨てる訳にもいかん
しかし……後ろは後ろで賑やかな事だ


ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
【呪業縛血】
今回の災魔は不気味な連中が多いなァ
長引かせてロクなことになるものじゃあなさそうだ
大将首に行きつくためにも
とっとと始末してやるとしようか

生徒は後方に庇うとしよう
万事任せろ、一つたりとも通しはせんよ

さて、では引き続き支援と行こう
嫌な搦め手は封じるに限る
【親愛なる従僕達】で仔竜どもを喚ぼう
凍らせちまえば自爆も出来まい
少しは助けになるだろう
こら、じゃれるんじゃない、はしゃいでる場合か!

花弁が飛んで来たら槍に変えた蛇竜で応戦しよう
繋がれたところで断ち切れば良いだけだ
マダムのせいかも知れんが、豪快だな、前衛は
まァ、こちらを守ってもらえるのは有り難い
おいマダム、後が面倒ってどういう意味だ!


ヘンリエッタ・モリアーティ
【呪業縛血】
ああ、いけないな――学び舎では静かにしてもらわないと。
というか、私も食おうっていうのかい。この私を?はは、面白い。
前衛の彼らに守ってもらうとしようか。荒事は苦手なのだ。
【犯罪王の悪巫山戯(ソシオパシー・ハンティング)】で彼らを少しだけ「よく」するよ。
ニルには使わない。君に使うとあとが面倒そうだ。
「安定」している彼らのほうが土台にはいいのでね。
暴れすぎないだろうし
ちょっとだけ、ネジをはずしてあげるだけだよ。
いつもより力が出やすい、出すぎる――かどうかは彼ら次第だけれど。
赤い蜘蛛糸で導いてあげる、さあ、力を振るって。

なあに、戯れ程度だ。君にも守ってもらえるしいいコードだろ?ん?




 まだ花は枯れ尽くしていない。悪食の花は未だ満たされぬ腹を抱えて、校舎内を漂っている。
「今回の災魔は不気味な連中が多いなァ」
 狂った歌声の次は、死体を食らう花ときた。人の感情を煽るような災魔を見て、これ以上は御免被るとため息を吐いてニルズヘッグは口を歪ませた。
「それにしたってこんなに災魔が出るなんて。学びも何もあったものではありませんね」
「ああ、いけないな――学び舎では静かにしてもらわないと」
 学園としての機能を失った姿を見て怒る神楽耶に『マダム』はゆったりと頷きながら同意した。彼女もまた教鞭を執る立場として、思うところがあった。
「これでは授業ができないからね。成長というのは時に生物の進化のように激しく、そして愛おしい。何より、優秀な生徒が育つのを見られないのは退屈だろう」
「ああ、そういう……」
「マダム様らしいご意見ですね」
「おや、嘘かも知れないよ」
 頷きかけた二人の首が、ぎしりと軋んで止まる。真意は暗中に、目の前に灯る赤い光よりも朧気に、輝いて指先をすり抜ける。
「原因解明の糸口すら見つかっていない事は気掛かりだが、先ずは学生達の不安の種を取り除きすべき事を片付けねば話にならん」
 嵯泉はこちらへと近づいてくる花を見て、剣の柄に手をかける。
「長引かせてロクなことになるものじゃあなさそうだ。大将首に行きつくためにも、とっとと始末してやるとしようか」
 戦いの予兆に、ニルズヘッグは笑みを隠せない。逸る気持ちを抑えながら、それでも指先がテンポの速いリズムを刻むのを止められない。
「皆様、まだ動けますか?」
「未だ準備運動程度、早々に片を付けるとしよう」
 神楽耶の声に、嵯泉が頷く。
 近づいた花が、貪り食らった力を誇示するように赤く輝いた。
「というか、私も食おうっていうのかい。この私を? はは、面白い」
 その光を見たマダムが、底の無い花の食欲を笑う。どこまでも悪食で、欲深く、見境の無い災いの魔花。
「生憎と荒事は苦手なのだ。引き続き二人に任せよう」
「前衛はお任せください」
「後衛は引き続き任せる、学生を頼むぞ」
 頼もしい返答に、犯罪王は鷹揚と頷いた。
 ならば導こう。崩壊への序曲は静かに、華々しく。張り巡らされた無数の糸は破滅をたぐり寄せる。指揮棒はいま、振り下ろされた。
 指先の赤い蜘蛛の巣が、空中を這う。マダムの輪郭が『犯罪王の悪巫山戯(ソシオパシー・ハンティング)』によって怠惰で傲慢な獣人へと変貌させる。
「少しだけ『よく』するよ。さあ君達が歴史に名を残せ、私は遠慮しておくよ」
 尖る爪先で神楽耶と嵯泉を指差すと、彼らのネジを「ちょっとだけ」はずす。赤い蜘蛛糸が二人を導くように先へと伸びていく。
「さあ、力を振るって」
 いつもより力が出やすい、出すぎる――かどうかは彼ら次第だけれど。彼らなら問題ないだろう。
「――ありがとうございます、頼りになりますね」
「万事任せろ、一つたりとも通しはせんよ」
 力強く可憐に笑う宿神と、灼けた鋼の熱をひた隠す剣豪。
 そう言って後ろを預ける二人を、ニルズヘッグは笑顔で前戦へと送り出した。
「学生達とマダムのことは私に任せてくれ、さあ前を向いたのなら行きたまえ」
 安心しろ、と自信に満ちた表情で、ニルズヘッグは二人を送り出す。
 ふと、ニルズヘッグは己には届かない赤い蜘蛛糸を見て疑問を抱いた。
「あれ、マダム。私には使わないのか?」
「ニルには使わない。君に使うとあとが面倒そうだ。『安定』している彼らのほうが土台にはいいのでね」
 暴れすぎないだろうし、と二人の背中に視線を向け、ニタリと唇の端を持ち上げる。
「おいマダム、後が面倒ってどういう意味だ」
「なあに、戯れ程度だ。君にも守ってもらえるしいいコードだろ? ん?」
「まァ、こちらを守ってもらえるのは有り難い」
 しかし何故私だけ、と口惜しさが残るものの、友人の勇姿は頼もしい。自分もあの背中を押して、どこまでも行かせてやりたい。だから。
「親愛なる従僕達(ガングラティ・ガングレト)よ!」
 ――その邪魔な花を、氷に閉じ込めてくれないか。
 喚ばれたことが嬉しかったのか、じゃれつくように尾を絡ませる二頭の仔竜の頭を優しく撫でてやる。その手に満足したのか、ひと鳴きすると冷たい氷のブレスを吐き出した。
「凍らせちまえば自爆も出来まい、少しは助けになるだろう」
 真冬の如き寒さの中に、花弁がひらりと舞う。
「マダムには花一片とて触れさせん」
 傍らに控えた邪竜を槍へと変え、鋭い突きで中心を穿つ。小さな爆発と共に、葬彩花とニルズヘッグを繋ごうと茨が伸びる。
 その茨を、仔竜のブレスがたちまち凍り付けにした。
「繋がれたところで断ち切れば良いだけだ」
 張り付いた霜ごと握りしめ、脆くなった茨を槍を振るって払いのける。
「おや、優しいね、ニルは」
「お礼を言われる程では無いさ」
 良くやった、と仔竜の手柄を褒めてやると、二匹は羽をばたつかせニルズヘッグの頭の周りをぐるぐると旋回した。
「こら、じゃれるんじゃない、はしゃいでる場合か!」
 それでも仔竜を甘やかす相棒にマダムは一時だけ、ほんの少しだけ穏やかな視線を送った。


「しかし……後ろは後ろで賑やかな事だ」
「賑やかな戦場というも、時には良いものでは無いですか」
 先を走る神楽耶が返すと、嵯泉は吐息だけで笑った。振り向かずとも、彼らの様子など想像するのは容易い。
「時にはな」
「不器用な方」
 ――『刀』たるわたくしには、『ひと』についてうまく語ることができないのかも知れませんが。
 しかし嵯泉の距離が、神楽耶にはちょうど良い。
「柄にも無いのは、わたくしの方かも知れません」
「何か言ったか」
「いいえ、何も」
 さあ、前を向きましょう。わたくし達は炎となり、剣となり。その障害の全てを燃やし、切り払う。
「植物ならは炎に弱いでしょう?」
『朱殷再燃』――少女の細い身体が、暗い朱色を纏い燃え上がる。
 高らかに、そして歌うように。神楽耶の命を火種にして、唇から炎を紡ぐ。
「花弁も花粉も、マダム様に強化頂いた炎でなぎ払ってしまいましょう」
 ニルズヘッグが凍らせた花を、神楽耶の炎が包む。
「――代償はくれてやる。相応の益を示せ」
 手に刃を這わせ、流れ出る血と精神力を捧げる。
『妖威現界』――天魔鬼神を封印のくびきから解き放つ。
 解放は成った。現われた天魔鬼神を従え、嵯泉は前戦へと一気に駆け抜ける。
 鋭敏に研ぎ澄まされた感覚が、予感めいた速度で敵の攻撃を知覚する。
 刀身で攻撃を躱し弾き、本体へと迫る。
「ハァッ――!」
 間合いに入った瞬間、嵯泉の剣が一気呵成に叩き斬る。
「強化にしては些か変わった感覚だが……中々面白いものだな」
 まるで己の中の獣が檻の外へと顔を出したような、薄ら寒い未知の恐怖と高揚感。
「ですが、御してしまえば問題などありません」
 嵯泉の視界の外で、花が自ら爆ぜる。
 迫る爆風をいつもより大きく膨れ上がった炎が喰らい尽くし、天魔鬼神が剣劇の圧で吹き消した。
「万が一受け損ねたとて燃やし斬れば済む話。生徒たちや後衛の皆様を守る為には回避などしていられませんしね」
「ああ、自爆の影響なぞ覚悟で捻じ伏せてくれよう」
 常より剣呑に、しかして絢爛に輝く赤い視線を遮るように、神楽耶の指が伸ばされる。
「鷲生様も、いざという時はわたくしの後ろへ」
「……いや、気持ちは有難いが遠慮しておこう。男の矜持という役立たずを見捨てる訳にもいかん」
「……ふふ。でしたらここは殿方を立たせて頂きます」
 さあ参りましょう、と刀の宿神は誘う。
 炎が焼き払い、鬼神が荒れ狂う。
 暴風雨の如き攻撃が、花を無様に散らしていく。
 程なくして、炎と剣劇の先に花は無く、全てが灰燼へと帰した。
 
 ――斯くして、首魁への道が開かれた。
 時を告げる鐘が、校舎内に鳴り響いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『心喰の亡我竜』

POW   :    「ちょうだい」
【躊躇】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【存在を奪われた影】から、高命中力の【心を求める腕】を飛ばす。
SPD   :    「おいで」
戦闘用の、自身と同じ強さの【きみの大切な人】と【きみの大切な物】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
WIZ   :    「来ないで」
【悲痛な慟哭に呼応する炎】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。

イラスト:春告百合

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ニルズヘッグ・ニヴルヘイムです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 ――時を告げる鐘が、校舎内に鳴り響く。
 
 ふと、窓の方が幾分か明るくなった。
 月が雲の合間から顔を覗かせたのか。
「あれ」
 そう思って視線を向けると誰かが驚く声が聞こえた。いや、それは自分の声だっただろうか。
 それほどに、誰もが息を呑む光景だった。
 教室棟の空から、無数の炎が雪のように降っている。この世とあの世が入り交じったような、幻想的な夜。
「さあ、準備が整ったわ。皆様どうぞ、屋上へ」
 そこへ潮騒のように余韻を響かせる鐘と共に、少女の声が猟兵たちへと届けられた。
 このまま動かないで、じっとしているように。万が一に備えて学生達にそう言い残すと、猟兵たちは屋上への階段を駆け上がる。
 先頭を走る猟兵が、屋上への入り口を勢いよく開いた。

「……あえた」
 離れていた恋人と再会する少女のように、頬を薔薇色に染め、瞳に涙を浮かべる竜の少女。
「やっと来てくれた、やっと会えたのね」
 くるりとスカートの裾を翻し、月光の下でステップを踏む姿は可憐な少女そのものだ。
「ようこそ、愛しいいとしい『ひと』たち。私の愛の晩餐へ。招待状は届いたかしら? 無礼があったのなら、ごめんなさい。急に会いたくなったから、用意の時間が無かったの」
「さあ、ご覧になって」
 そして少女が近くにあった蝋燭ほどの小さな灯りを覗き込めば、たちまち大きく燃え上がり、閉じ込めた光景を映し出す。 ――それは家族の思い出。
 ――それは恋人との逢瀬。
 それはもう帰れぬ日々、或いは輝ける昔日の影。
 さまざまな思いが無音映画のように流れ、移ろっていく。
 
「忘れたなんて言わないで頂戴。忘れていても、忘れたことを覚えていないだけ。
 心に、体に、仕草に。思いの欠片は染みついてしまっているのよ」
 さあ、思い出して。
 
 蘇る。
 少女の誘う声が呼び水となり、記憶の水底から何かが『湧き上がる』。
 過去となり忘却の果てにうち捨てられた者どもが、影の内より手を伸ばす。
 巻いた螺子が戻るように、死者に手向けられた花が瑞々しさを取り戻すように。
 指先を焦がす炎の熱が、勢いを増して空を焦がす。
 白い少女の晩餐に、猟兵たちの『思い』が再生される。
 焦がした思いの数だけ、少女を飾る茨が燃える。
 灰となり塵になった思いが、炎の向こうに輪郭を取り戻す。

「わたしは『過去』であり、『永遠』。さあ、消えゆくことの無い美しさとなって、わたしと共にいきましょう。
 それが誰しもの願いであり、希望となるわ。
 ――さあ、聞かせて。あなたの大切な『ひと』は誰? 大切なものは『なに』?」
 その炎に口付けるように唇を寄せて。
「喰らい喰らわれ、愛しましょう」
 ぱくん、と召し上げ平らげた。
 
 =====================================
 ※第3章特殊ルールについて
 『必ず』『あなたの大切なひと/もの』について答えをプレイングに記載してください。
 その際、キャラクターの反応についてプレイング冒頭に記載頂ければリプレイの指針と致します。
 A よっわよわ
 B よわ
 C その程度で立ち止まらない
 D 無理。打ちひしがれる(苦戦判定となります)
 ★ その思いを凌駕する!
 
 例:A★(よっわよわになるけれど乗り越える)
 文字数節約にお使いください。
 よわよわ具合は水平の裁量となります。
 
 回答によって敵が強化・弱体することはございません。
 キャラクターの思いを思いっきりぶつけてください!
 各フラグメントの【POW】【SPD】【WIZ】行動の参考にお使い頂いて構いません。
 
●スケジュールについて
 一度プレイングを受付し、ある程度執筆が進んだ段階で再度受付期間を設けます。
 仮受付→受付となりますのでご注意ください。ご協力をお願いします。
 受付期間(投稿期間)は追ってTwitterかマスターページ、この投稿の続きにてご連絡致します。
 それでは、皆様のプレイングを心よりお待ちしております。
 
【プレイング仮受付期間】
 8/10(土) 8:31 ~ 8/13(火)23:59 
【8/9 追記】
第3章はボス戦となるため、学生たちは登場しません。猟兵のみの参加となります。
【プレイング受付期間】
8/16(金) 8:31 〜 8/18 (日) 12:00
トリテレイア・ゼロナイン
C★◎

大切な物は電脳に刻まれた騎士の御伽噺
これが私の最初の物差しでした
ですが、紛い物なれど騎士と振舞う中で様々な事を経験しました

沢山の人々と出会いました
沢山の命を救い感謝されました
沢山の命を取りこぼし泣けぬ我が身を呪いました
涙に濡れる哀れなオブリビオンにどう優しい終わりを齎すか苦悩したこともあります

始まりは紛い物なれど、彼らの存在が齎した喜びと悲しみが私を騎士として形作ったのです

(躊躇なく少女に近づき跪いて目線を合わせ、燃える手をつないで言葉を掛け)
私達の「答え」はご満足頂けましたでしょうか
そうであるならば骸の海に穏やかにお帰りください
対価として『永遠』に貴女を覚えておくことをお約束します




 トリテレイアが起動した時、電脳に刻まれていた騎士の御伽噺。
 それは陳腐なものだったかも知れない。だがトリテレイアにとって、それが最初の『物差し』だった。
 何をすれば良いか、迷った時はこの騎士の行いを通して判断し、動く。
 その姿は陳腐な騎士を真似る、紛い物である機械の騎士であった。
 しかし、紛い物であれど騎士として振る舞う中で、様々なことを経験することとなる。
「沢山の人々と出会いました。沢山の命を救い感謝されました。
 沢山の命を取りこぼし、泣けぬ我が身を呪いました」
 トリテレイアと騎士を隔てる大きな壁。それは人と機械の差だったのかも知れない。
 ウォーマシンであるトリテレイアが如何に喜怒哀楽を感じようと、『彼』と同じように涙は流せない。
 何故違うのか。同じ騎士として歩むと決めたはずなのに、同じ様にできないのか。
「泣いていた哀れなオブリビオンにどう優しい終わりを齎すか苦悩したこともあります」
 トリテレイアが紡ぐのは、騎士として歩んだ軌跡。吟遊詩人が英雄譚を語り聞かせるように、相手の反応を伺いながら丁寧に語っていく。
 ただのメモリに過ぎない記憶が、掛け替えのないものとなって記憶領域を広げていく。
 トリテレイアの感情は色鮮やかな物語となって、聞き手の少女へと届けられる。
「始まりは紛い物なれど、彼らの存在が齎した喜びと悲しみが私を騎士として形作ったのです」
 結びの言葉と共に、最後のページが静かに閉じられる。
「それがあなたの『大切なもの』なのかしら」
 ぴんと伸ばした指先が、口元に添えられる。こてんと傾げた頭に合わせて、白い髪が揺れた。
 是、とトリテレイアは首肯して答えた。躊躇なく少女に近づくと跪き目線を合わせ、茨が絡み燃える手を恭しく取る。
「私の『答え』はご満足頂けましたでしょうか」
「あなたは、その思いをわたしにくれるの?」
 その質問には否、と首を振る。
「わたしは欲しい。わたしの希望があなたの希望になるように、あなたを愛したい。それはいけないの?」
「私達が貴女を『永遠』に覚えておくことをお約束します。それは、この場を納める対価になりませんか」
 どうしてと問いかける少女に、トリテレイアが願う。
 しかしその願いは届かない。少女はトリテレイアの手を振り払い、とうとう大声を上げた。
「なら、あなたをわたしにちょうだい!」
「それは」
 できない。
 電脳が即座にはじき出した答えは、トリテレイアの結論だった。大切なものは渡さない、しかし少女には骸の海へと還って貰う。
 言葉を尽くしても、少女との会話は平行線を辿った。
 結末は導かれた。少女はトリテレイアの言葉を、願いを受け入れられない。
「いいえ、嫌よ。それではあなたは世界にとられてしまう! それだけは絶対に嫌! 愛するために、わたしにちょうだい!」
 少女の叫びに呼応するように、存在を奪われた影たちが現われる。癇癪玉が弾けるように、それらはトリテレイアに腕を伸ばし襲いかかった。
 それらを潜り抜けるべく、トリテレイアはスラスターを駆使し地面を滑るように移動し、回避する。『機械人形は守護騎士たらんと希う(オース・オブ・マシンナイツ)』によって強化されたトリテレイアにとって、それは造作も無いことだった。
 少女の哀哭が、夜空に響く。
 その残響が、トリテレイアの電脳に確かな記憶として刻まれた。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

サフィリア・ラズワルド
WIZを選択
B★

私の大切なものは施設にいた仲間達、竜になってしまった人も理性を無くした人も大切な仲間
でも誰が出てきても私は怯まない、人々の脅威となってしまったなら殺してでも止めると決めているから

けれど現れたのは知らない女性、誰?こんな人知らない、私と同じ竜人、同じ髪の色、私にそっくりだ、でも目の色だけは違う、知らないのにどうして私の“中”にいるの?なんで私に似てるの?まさか、まさか……おかあ

背中に衝撃を受けて我に返ります。背後には何故か怒ってる精霊竜様が

『せ、精霊竜様…?は、はい!行きます!』

精霊竜様に吠えられてよくわからないけど勢いのままに突撃して槍を振るいます。

アドリブ協力、歓迎です。




 亡我竜の問いかけに、サフィリアは動じることは無かった。
 サフィリアの大切なものは施設にいた仲間達。竜になってしまった人も理性を無くした人も、サフィリアにとっては等しく大切な仲間だ。
「(でも誰が出てきても私は怯まない、人々の脅威となってしまったなら殺してでも止めると決めているから)」
 その手で仲間を狩る少女は、一体どれほどの決意をしたのだろう。
 大切だからこそ、その手で止めると誓ったのだろうか。
「あなたの大切な『ひと』は、だれ?」
 少女の甘い声音を合図に、手のひらの上に炎が灯る。
 ゆらり。
 小さな炎が揺らめく。その輪郭が歪み、やがて姿を変え――。
「え……?」
 予想を裏切って現われたのは、見覚えのない女性だった。
「誰? こんな人知らない」
 銀の髪に、翼と尻尾――彼女はドラゴニアンだ。
 こめかみから頭のラインに沿って、優美に伸びる角。
「私にそっくりだ。でも目の色だけは違う」
 彼女の瞳の色は、ペンダント同じラピスラズリ。紫を帯びた深い青だった。
「知らないのに、どうして私の“中”に居るの? なんで私に似てるの?」
 浮かび上がる疑問を矢継ぎ早に投げかけるも、彼女は穏やかに微笑むだけだ。
 もう一度記憶を洗い直すが、誰にも当てはまらない。
 彼女は、一体誰?
 まさか。
「まさか、……おかあ、っ!」
 そこまで言いかけて、サフィリアはぴしゃりと背中を叩かれたような衝撃を受けて一歩前につんのめる。
「せ、精霊竜様……?」
 背後にはラピスラズリの鱗を持つ、優美な竜の姿が。煌めく鱗は数多の灯火の光を受けて、星のように輝いていた。
 柔らかなアイスブルーの鬣は、手で触れると絹のように滑らかだ。
「す、すみません精霊竜様! け、決して気づかなかった訳では……」
 ――ガルルルルッ!
「お、怒っておられる……」
 精霊竜が怒っている原因がサフィリアには分からないが、竜の怒りにざわざわと周囲の空気が震えている。
「あ、え、ええと。私はどうすれば」
 慌てふためくサフィリアを見てか、こんどは精霊竜が頭を僅かに下げ視線の高さを合わせる。
 ――グルルッ
 精霊竜はサフィリアに何かを促すように、頭を振り鬣を震わせた。
 額の角が指し示したのは、白の少女。
 それが何を意味しているのか悟ったサフィリアは、ペンダントを握りしめると【ドラゴンランス】へと変える。
 それを見た精霊竜は、満足げに喉を鳴らした。どうやら正解のようだ。
「は、はい! 行きます!」
 精霊竜に言われるまま、サフィリアは勢いそのままに突撃する。
「てやああ――っ!」
「あら、お話はもういいの?」
 くすくす、と笑いながらサフィリアの攻撃をひらりと躱す。
「あの『精霊竜』さまがあなたの大切な『もの』?」
「決まってるじゃない!」
「どうして、大切なの?」
「分からない。けど分かる!」
 自信満々に答えて、サフィリアは槍で突き、そのまま横薙ぎに払う。
「私は精霊竜様と一緒に居なければならない」
 明確な理由はサフィリアには分からない。ただ直感が、サフィリアの何かが離れてはいけないと叫ぶのだ。
「他ならぬ私が言うの、だからその思いに従うだけ」
「そう……」
「私は進む、邪魔をしないで!」
 サフィリアの槍を受け止めた腕の茨が、甲高い音をた立てて砕け散る。そのまま振り抜くと、槍の穂先が亡我竜の体を鋭く切り裂いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アテナ・アイリス
A★
大切な人:儚げですぐどこかに行ってしまいそうな銀髪の青年

勇者様に憧れて、故郷も捨ててまで猟兵になったけど、やっぱり寂しいときがあるのよ。
でも、そんなときに見つけた、わたしの心の拠り所。
本心は決してあかさない、でも何時も寂しそうな彼。時々みせる困った顔が大好きなのよ。
ねえ、絶対に私を置いて手の届かない遠くに行かないでよね。ねえ、お願いよ。手を離さないで。
彼の笑顔が戻るまで、絶対そばにいると誓ったんだから!

・・・心の奥を覗くなんて、絶対許さないわよ。
UC「ラグナロク・ワルキューレ」を使って楯の乙女に変身し、「アーパスブレード」と「クラウ・ソラス」と【2回攻撃】を使った連撃技で攻撃する。




 小さな炎は音もなく空から落ちてくると、アテナの目線の高さでぴたりと止まる。
 あの竜の少女が言うように『大切なひと』を見せてくれるのだろうか。
 知らず身構えるアテナに、炎はただ優しい橙色の明りでその表情を照らすだけだった。
「何があっても、私は私。だれかが勇者になるその時を見届けるために、この力を振るうのよ」
 自ら言い聞かせるように、ゆっくりと呟くアテナ。その言葉に応じて、世界が橙色に染め上げられる。

 ――どんな大人になりたい?
 ――私、勇者様みたいになりたい!
 誰に聞かれただろうか朧気な記憶。その問いかけにアテナは真っ直ぐに答えたのを覚えている。
 お話の中に出てくる勇者様はいつでも弱いひとの味方で、勇気に満ちあふれその手を差し伸べた。
 勇者様に憧れた少女は、故郷を捨ててまでして猟兵となった。
 それは己の夢と理想を実現させるため、努力が実を結ぶと信じて邁進する彼女は、夢が叶った未来のみを見据えていた。
 それでも、一人で剣を振るい続けてきた。一人には限界があると、その途中で知った。
 
 剣の扱いが上手になったわ。
 新しい力、皆の役に立つと良いのだけれど。
 
 期待する心に、答えてくれる人がいない。故郷にいた皆の顔を思い浮かべてみても、今は声が届くほど近くに居ない。
 積もり積もった寂しさを心の底に押し込めて、強い自分を作るために更に鍛錬に力を入れた。
 そんなときに見つけた、アテナの心の拠り所。
 儚げで、すぐどこかに行ってしまいそうな銀髪の青年。
 アテナの色彩が太陽の金色だとしたら、彼は月の銀色。
 本心は決してあかさない、でも何時も寂しそうな彼。彼が時々見せる、困った笑顔がアテナは大好きだ。
 そう、いま「目の前」で見ているような笑顔で笑うのだ。
 もうこれ以上寂しいのはいや、彼の傍に居て寄り添っていたい。
「ねえ、絶対に私を置いて手の届かない遠くに行かないでよね。ねえ、お願いよ。手を離さないで」
 アテナの手が彼の手へと伸びる。
 お願い、この手を取って。そしてもう離さないでいて。
「私はあなたの笑顔が戻るまで、絶対そばに居るって誓ったんだから!」
 掴んだはずの手は触れた瞬間脆く崩れ去り、塵となって消えた。

「まっ……!」
 次にアテナの視界に飛び込んできたのは、思いを寄せる彼では無く小さな灯火が一つ。
「まあ、あなたには素敵な方がいるのね」
 素敵、素敵だわ! と灯火の向こうで嬉しそうに笑う亡我竜。
「ねえ、彼があなたの『大切なひと』なのかしら?」
 その言葉を聞いてアテナの顔から表情が消えた。
「あなた、見たのね……」
「ええ。でもわたしはちゃあんと聞いたのよ。
 あなたの大切な『ひと』は誰? 大切なものは『なに』? って。あなたは質問に答えてくれただけだから、なにも悪くないわ」
 ねえ、と同意を求めて向けられた笑顔に、アテナの内で何かが火花を散らして燃え上がる。
「……心の奥を覗くなんて、絶対許さないわよ」
 守護女神の力に覚醒したアテナは、楯を携えた乙女へと変身する。女神の力に応えるように現われた【クラウ・ソラス】を握りしめ、取り落としていた【アーパスブレード】と共にもう一度構える。
「あらあら、怒らせてしまったかしら」
「怒らせたなんてものじゃ無いわ。人が秘めていた思いを無理矢理こじ開けて晒すだなんて、誰が許そうとわたしは絶対に許さない」
 息つく間もない二刀流による連続攻撃を躱し、声を上げて笑う少女へ更に接近する。
「誰かに打ち明けるのも、思いを抱えていくのも、決めるのはわたし達よ。あなたが決めることじゃないわ」
「きゃあっ」
 身を捻り素早く叩きつけられた二連撃が、亡我竜を切り裂いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エンティ・シェア
大切な人、なんて
居ないと言い切りたかったけれど、そうではない
病に伏した恋人が、いた
いつから、忘れていた?
二人で乗り越える約束を、すっぽかして
俺は一人で逃げた…?
違う
死んだ、から
忘れたんだ
喪失感に、耐えられなくて

「俺」とってその記憶は膝を折るのに十分だけど
「僕」には、何も、関係ない

――変わりなさい
貴方には荷が重い
問には答えた。もう良いでしょう
僕は何もかもどうでもいい。貴方を殺せるこの体さえあれば
色隠しにて攻撃を
貴方が喰ったものを飲み込む前に
その、首を。刎ねて差し上げます

…無事、だよ
すげぇこたえたけど
なんだかんだ、思い出したもんで
亡くす前の、幸せな記憶ってやつも
だからむしろ、礼が言いたいくらいだわ




「大切な人、なんて」
 そんな人は居ない。断言しようとしたエンティの喉が、その続きを拒んで凍り付く。
 居ないと言い切りたかったが、そうではない。
 小さな灯火の向こう、穏やかな微笑みを湛えているのは――
「病に伏した恋人が、いた」
 いつから忘れていたのだろう。二人で乗り越えるという約束を、エンティはすっぽかして。それで。
「俺は一人で逃げた……?」
 何だ、何が正しい。何が真実だ、俺は本当に逃げたのか?
「違う」
 連続写真のように、一場面が切り取られ、次々と蘇る。
 穏やかな寝顔。閉じられた棺。佇む墓標。
 そして墓前に手向けられた花。
「死んだ、から」
 だから、忘れたんだ。喪失感に、耐えられなくて。
「あ、ぁっ……」
 こみ上げる嗚咽を抑えるように、口元を抑える。
 ――「俺」にとってその記憶は、膝を折るのに十分だけど。
 辛い、これ以上見たくない。エンティは視界を覆うように、視界を手で遮った。その手の上から、黒熊のぬいぐるみが丸い手を添える。
 ――「僕」には、何も、関係ない。
 頭の中で、「僕」の声がはっきりとそう告げた。

「――変わりなさい。貴方には荷が重い」
 その為の「僕」でしょう。
 シャッターを切るように、入れ替わる世界。主役は一度舞台の袖へ、新たな役者の登場と共に場面が転換する。
 目を開いた「僕」は恋人の変わり果てた姿を見て、温度のない視線を向ける。
「問いには答えた。もう良いでしょう」
 亡我竜を視界に入れないまま、「僕」は平坦な声音で言った。
「いいえ、まだわたしはあなたの『大切なひと』を貰っていないわ」
 早くちょうだい、とねだる災魔を「僕」は白けた目で見る。
「僕は何もかもどうでもいい。貴方を殺せるこの体さえあれば」
「これ以上の時間は不要です。もう、終わらせましょう」
 浅く残った傷口から溢れ出す血を黒熊のぬいぐるみ吸わせ、ずるりと得物を引き出す。
 苛立ちと悲しみの感情を吸い上げて、処刑道具は鈍く光り輝く。「僕」の意思に合わせるように、刃は鋭さを増していく。
「貴方が喰ったものを飲み込む前に――」
 刃が走る。取り上げられたものを、取り返すために。
「その、首を。刎ねて差し上げます」
 女王の命令で少女の首を刎ねようとする兵隊のように、その行為になんの感傷もなく無慈悲に振り下ろされた。
「きゃあっ」
 災魔の白い角を砕いた刃が、がきんと音を立てて石の床に突き立てられる。
「――残念です」
 貴方の首を刎ねたいのは山々なのですが、と呟く「僕」の意識が薄らいでいく。
「酷い有様、でしたけど。大丈夫なのですか」
 瞬き一つ。そして現われたのは未だ揺れる緑の瞳。
「……無事、だよ。すげぇこたえたけど」
 苦笑しながらも、その表情はどこかすっきりとしていて。遠い日を見る眼差しは暖かく、優しい。
「亡くす前の、幸せな記憶ってやつも。なんだかんだ、思い出したもんで。
 だからむしろ、礼が言いたいくらいだわ」
 愛おしいものを思い出させてくれた代わりと言っては何だけど。譲れないものはある。
「でも、思い出したものは渡さない。他を当たってくれ」
 そう言ってエンティは追い払うように手を振ると、消える炎を名残惜しげに見送った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

四王天・燦
B
焔(f04438)と決戦へ

大事な人は姉妹、もの(というには語弊があるが)は喰らい宿した魔物娘たちの魂

姉妹最下位の術力と言われ家出して泣いた日。
命を奪った魔物娘たちの姿を炎の中に視る

動機、視界が歪む。
焔の腕を握りそこにいることを確認し、己の内に宿るものを確認

大切な人・ものを模造されたら鬼の形相。
「愛し愛され?バケモノな本性した奴にかける愛はねえよ」
妖魔解放発動。残酷になるべく女吸血鬼と魂と性格を混ぜあう

『大切』は斬らない。
白狐様の背から飛び、夕日を背負い目潰しし竜を斬る。
暴力的に蹴倒し斬り刻む

「珍しい…燦の意思で女の子に鞭打っているわよ。それだけあなたが大事みたいね」
別人の呆れた口調で焔に語る


四王天・焔

燦お姉ちゃん(f04448)と一緒に参加
SPD判定の行動
大切なひと(燦お姉ちゃんと、燎お姉ちゃん)

■心情
大切な人を模倣するなんて、ずるい事をするよねー。
でも、いくら焔でも、本物と偽物の区別くらいは付くよ!

■戦闘
白狐召還符を使用して、白狐様に騎乗して戦うね。
燦お姉ちゃんも、良かったら白狐様に載せてあげよう。
白狐様の狐火を属性攻撃で強化して攻撃するね。

スナイパーの技能で、敵の本体を狙い撃ちして攻撃するね。
2回攻撃やマヒ攻撃、気絶攻撃も織り交ぜ、敵の動きを止めるよ。

敵の攻撃には、見切りで避ける様に努め
避けきれない時は盾受けや武器受けで防御するね。




 ――橙色の炎が、ちりりと揺れた。
 急な明りに、思わず目を腕で庇う燦。目蓋を透かした赤い光りが弱ったのを見て、そろりと目を開いた。そして聞こえた微かな声に、耳を傾ける。
「誰か、泣いてる」
 幼い少女の涙声が、徐々にはっきりと聞こえてくる。燦は聞き覚えのある声に、頭を過ぎった可能性に背筋が震えるのを感じた。
「なんで……」
 打ちひしがれた幼い少女は、昔日の燦。
『あの子の術力は、姉妹の仲でも最も劣る』
 ただ仲良く過ごせていれば、術力なんて関係ない。そう思っていた燦だったが、周りの目は違った。次代へと継承するため、その技を途切れさせないため。致し方ないとはいえ、幼い少女を傷つけるには十分すぎる現実だった。
「(薄々感付いてはいたさ。けど、はっきりと言葉にされると思っていたよりショックを受けたアタシが居て……)」
 そして、家を飛び出した。
「どうして……」
 幼い少女がむせび叫ぶ。比べる大人も大嫌い、比べられる原因になった姉と妹が疎ましい。
 繰り返す疑問に、応えるものは無い。ただ泣き崩れる少女の髪を、優しく撫でる手があった。
「嘘、だ」
 隣にいるはずの焔と、ここにはいない姉。そして、その魂を喰らった魔性の娘達の姿があった。
 あり得ない。
 どくんと跳ねた心臓を押えるように、胸元を握りしめる燦。陽炎のように歪み、揺れる姿が笑いかけた気がした。
「(落ち着け……!)」
 もう一度目を閉じて、己が内に取り込んだ魂達を確かめる。
「(……間違いない、ちゃんと居る)」
 息を整えるように細く長く吐き出すと、もう片方の手を探るように伸ばした。
「燦お姉ちゃん、焔はここにいるよ」
 焔はその手を握り、さらにもう片方の手を重ねた。
 小さな両手が、凍えた指先を温めていく。
「焔……」
「大切な人を模倣するなんて、ずるい事をするよねー」
 いつもと変わらない、妹の声。甘えたがりの焔だが、その目はしっかりと本物だけを見ていた。
「でも、いくら焔でも、本物と偽物の区別くらいは付くよ!」
 炎が作り出した二人の姉を、きっと睨み付けて堂々と宣言する。
「焔のお姉ちゃんは、いま手を握っている燦お姉ちゃん。そして、お家で焔達を待っていてくれている」
 だからね、と常ならぬ険しい瞳が二人の姉の幻影を睨め付ける。
「燦お姉ちゃんを傷つけたことは、許さないから」
「あら、それでも大切な人が自分から奪われないように、永遠を願うのは愛ではないの?
 わたしはあなた達も愛したい。だから愛して、愛されて。そうありたいわ」
「愛し愛され? バケモノな本性した奴にかける愛はねえよ」
 亡我竜の言葉に、怒りを顕わにする燦。
「綺麗な言葉で飾ろうと、お前のやっていることは他人の思いを踏みにじっているだけだ!」
「何が嬉しいの、何が愛なの? 焔には分からない、けどこれが愛じゃないって事は分かるよ」
 二人はそれぞれ臨戦態勢にはいると、もう交わす言葉はないと、言外に告げる。
「御狐様」
 再び喚んだ白狐に騎乗すると、焔は燦へと離した手を差し出した。
「燦お姉ちゃんも、白狐様に乗る?」
「焔と白狐様が一緒なら、負ける気がしないな」
 その手を取って、燦もまた白い背中に跨がった。
「魂の奥底に宿りし魔の者よ。オブリビオンの呪縛より解かれ、この身を依り代に顕現せよ!」
 『妖魔解放(リリース・ピュアリィハート)』で残酷なる女吸血鬼の魂を溶かし混ぜあい、その力を我が物として解放する。
 白狐の背から飛び出すと、幻影の大きさまで膨れ上がった炎を背に負う。
「あら、意外ね。偽物が嫌いなら、斬ると思っていたのだけど」
 幻影をすり抜けた燦に、ことりと首を傾けて災魔の少女が尋ねた。
「ハッ! 斬るのはお前だけで十分だね!」
「焔が許さないのは、お姉ちゃん達の姿で傷つけようとした、あなただけだよ」
 燦の【神鳴】と焔が強化した白狐の炎が、少女を同時に襲う。
 少女は羽ばたき、ひらりと跳躍して回避すると、愛おしげに姉妹を見つめた。
「ああ、その心が欲しい……。それなら、これはどうかしら?」
 つい、と少女の指先が空を滑る。
 幻影の内、燦と焔、二人の幻影が立ちはだかる。
 焔へと走る『燦』の幻影が、瞬く間に距離を詰めると焔へと斬りかかる。
 しかし焔にとって、その動きは見慣れたものだった。
「白狐様!」
 一声呼びかけると、すれ違い様に竜の少女へ向かって走らせる。狙いを定めて青い炎を幾つも放つ。
 吸い込まれるように命中した炎は、一瞬の間、少女の意識を刈り取った。
「がら空きだぜ!」
 妖魔と混ざり合った超人的な力で『焔』の脇をすり抜けると、腹を蹴倒し、乱雑に斬り付ける。
「あっ、あああっ!」
 片翼をもがれ、痛みにのたうち回る少女を睥睨する燦。その隣に焔を乗せた白狐が音もなく降り立った。
「燦お姉ちゃん」
 様子の違う燦の表情を窺い見るように、焔は首をかしげた。その仕草を見て、僅かに陰った目元が眇められ、妖艶な声音でころころと笑う。
「珍しい……燦の意思で女の子に鞭打っているわよ。それだけあなたが大事みたいね」
 別人の口調で語る燦に、驚く様子もなく焔は笑う。
「……焔は、知ってるよ。焔もお姉ちゃんたちが大好きで、大事だから」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ラルマ・ドゥルーヴ
◎C【SPD】

現れる姿は年若い少女
最後に見た十四の頃の
茶色の長髪、無邪気な笑顔
砂漠の邑の私の姫

確と見つめ、微笑み返しもしよう
ナイフを持つなら心臓を示して誘うとしよう
懐かしいな、お前には護身の技を教えてやった
しっかり狙えよ

殺されるつもりはさらさらないが

襲って来た瞬間に胸を槍で【串刺し】に
【烽火連天】で灰まで焼いて

答えは決まっている
願いも希望も私のものだ
欠片もくれて堪るものか

何度でも姿を映すが良い
悉く引き裂き、焼いて、奪ってやる
幻影の手が止んだら敵本体へ切り掛かろう

平生通り戦おう
行く手を阻むなら何者だって切り捨てる
自由に生きろと、別れの時に祈りを受けた
大切なものはその言葉だけだから




 ラルマの原風景は、焼け付くような太陽と砂塵の中にあった。
 乾いた風と、土の煉瓦。陰を作る葉の下で、弱い風が少女の長い茶髪を浚った。
 年の頃は十四だったか、無邪気な笑顔が強く印象に残っている。
 とある世界の砂漠の邑。ラルマと少女、騎士と姫。記憶の中心はいつも彼女だった。
 それはまだラルマの世界が、とても小さかった頃の記憶だった。
「まさか会えるなんて」
 旅に出た頃は思いもしなかった再会に、ラルマは微笑んで返した。
 その手に握られているのは、鈍く光る一振りのナイフ。それを見たラルマの脳裏に、あの頃の日々が蘇る。
「懐かしいな、お前には護身の技を教えてやった」
 遠くを見る視線が、記憶の影を追いかけて彷徨う。やがて落ちた視線が、脈打つ心臓を捕える。胸元を見たラルマが、親指を立ててとん、と指し示す。
「しっかり狙えよ」
 誘う言葉と仕草に、姫はその身を守るために与えられた牙を握り、ラルマ目がけて砂の上を走る。
 ラルマは分かっていた。彼女なら必ず狙ってくると。
 靡く髪が風に散らばって、陽光に透けて淡く輝く。
「シェリュー」
 ラルマは道連れの銀翼の竜の名を呼んだ。手を伸ばせば心得たとばかりに、その身を槍へと転じる。
 記憶の始まりと同じ、全き銀。
「殺されるつもりはさらさらないが」
 刃が振り下ろされる。迫る刀身を躱しもせず、ラルマは槍を握る。
 もう要らないと祝われた。自由に生きろと呪われた。
 今のラルマを形作るすべてを与えた姫に、騎士は手向けの銀を差し出した。
 胸を貫いた【Cherubino】は、少女を空中に縫い止めた。
 答えは決まっている。願いも希望も私のものだ。
 彼女は渡さない。少女になど欠片もくれて堪るものか。
 だから、焼いて。白く白く、灰まで焼いて。
 『烽火連天(ゲヘナ)』は狂おしいまでに猛々しく、姫の体を包み、やがて何も残さず消えた。

「あら、何も残してくれなかったのね。残念」
 顛末を見届けた亡我竜が、拗ねた子どものように爪先でとんとんと地面を叩く。その片翼は失われ、体のあちこちに傷が出来ている。
「美しい物語のように、二人は幸せに過ごしていたのに。その思いをわたしは食べたかったのに」
 そして点した新たな炎に、『姫』の姿が現われ揺れる。
「何度でも姿を映すが良い。悉く引き裂き、焼いて、奪ってやる!」
 ラルマは相棒を手に、少女へと槍を向ける。
「行く手を阻むなら何者だって切り捨てる」
 大切なものを守るために、騎士は攻撃の手を緩めない。
 積み上げた鍛錬も、打ち合わせた槍とナイフも。総てが彼女のためだった。
 別れの時に受けた祈りは、ラルマにとってたった一つの大切なもの。
 もう主と呼べない彼女の願いに、騎士は応えるため。銀の槍が、ラルマの道を示す。
「痛いの、欲しいの。わたしが愛していたいから! その子をちょうだい!」
「何度言われようと、答えは変わらない」
 刺し貫いた脇腹から【Cherubino】を引き抜くと、ラルマは瞳を閉じた。
 記憶の中の声が、祝いの言葉を繰り返した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴォルフガング・ディーツェ
C★

…もしも、この世界が産まれた場所であったなら
或いはこの体が、心が、見た目通りの年であったなら

俺は君に膝を突いていただろう

悪いが、君が踊る事を許されるのはダンス・マカブルだけだ
叶わぬ夢とお眠り、哀しき竜よ

思い起こされるのは愛しい妹、双子達
思い出は今も色褪せようと、今も俺に宿り続ける

…そう、記憶は永遠じゃない
もう、声は思い出せない
顔すらも朧気なセピア色だ

だが、だからこそ躊躇わずに屠る事が出来る
…君がどうして誰かを求めたのか、気にならないわけじゃない
だが、同情は無意味だ、違うかい

この身に負うのは血の宿命、別離の業苦
それを【緋の業苦】、我が牙と変え、地を駆け跳ね上がり、キミを貫き腐らせるとしよう




 夕焼け小焼けの世界の中、聞こえた声はどんなものだっただろう。
 セピア色のに褪せた記憶のスクロールは、もう擦り切れて顔すらも朧気だ。
「……そう、記憶は永遠じゃない」
 永い時を生きたヴォルフガングが口を開く。
 愛しい妹、そして双子達。
 どれだけ色褪せても、彼らとの思い出はヴォルフガングの中に宿り続ける。
 血と絆、結んだものが肉となり、ヴォルフガングを形作っている。
「……もしも、この世界が産まれた場所であったなら。或いはこの体が、心が、見た目通りの年であったなら。
 俺は君に膝を突いていただろう」
「なら、どうして? あなたはわたしに『大切なひと』をくれないの!」
 じくじくと痛む傷を押えながら、亡我竜は叫んだ。
 誰もわたしに大切なものをくれない苛立ちが、周囲の炎がざわめかせた。
「永遠じゃなくて良い。完璧じゃなくても、欠片になっても、それは大切なものなんだ」
 薄れる記憶を肯定するヴォルフガングに、亡我竜は理解できないと顔をしかめた。
「それは、幸せなのかしら。失うことは苦しみではないの?」
「違う、それでも幸せなんだ」
 思い出は糧である。人が次の一歩を踏み出すために、どうやって歩けば良いのかを知るための大いなる指標。
「悪いが、君が踊る事を許されるのはダンス・マカブルだけだ。
 叶わぬ夢とお眠り、哀しき竜よ」
 しゃらんと音を立てて、腕輪が音を立てる。亡我竜を死の舞踏へとエスコートするために、ヴォルフガングの呪詛を帯びた魔爪が差し出された。
「いいえ、わたしは眠らない。愛は、希望は、わたしと共にあるのよ。世界になんて渡すものですか!」
 叫び声を上げて、亡我竜は差し伸べられた手を撥ね除ける。現われた少女の影がならば奪い取るまでと、心を求めて腕を伸ばす。
「うん、君はそうだ。だが、だからこそ躊躇わずに屠る事が出来る」
 彼女がどうして誰かを求めたのか、ヴォルフガングとて気がかりだ。
「だが、同情は無意味だ、違うかい」
 低く、優しく、寂しげに。
 炎が揺らめくと共に、その向こう側にいた魔狼の姿ごとかき消える。地を駆け跳ね上がり、振りかざされた異形の爪が弧を描く。
「あっ……!」
 華奢な肩を、魔爪が引裂いた。
「この身に背負うのは血の宿命、別離の業苦」
 例えそれが、身を苛むほどの痛みだとしても。それは愛したが故に、狂おしいまでに甘い疼きとなる。
 災魔の血を浴びた魔爪が纏う『緋の業苦(ヘイトレッドカース)』は、腐敗の呪詛を撒きながら、更なる緋色を求めて少女の体を貫いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

西条・霧華


「過去は永遠…確かにそうですね。だから私達は、永遠を積み上げて刹那の未来を目指すんです。」

<真の姿を開放>し右腕と武器に蒼炎を纏います

大切な人――それはあの日喪った友達や家族
大切な物――それは同じ悲劇を繰り返さないと誓ったあの日の想い

確かに、それは掛け替えのない想い出です
『だからこそ』私は歩みを止めません
同じ悲劇を繰り返させない事でしか報いれないと【覚悟】していますから
…ありがとうございます
私はこれで、また一歩を踏み出せます

纏う【残像】で敵を乱し、【破魔】と【鎧砕き】の力を籠めた[籠釣瓶妙法村正]にて[幻想華]

敵の攻撃は【見切り】、【武器受け】しつつ【オーラ防御】と【覚悟】を以て受け止めます




 永遠を語る亡我竜の言葉を聞いて、霧華はしかし、緩やかに首を横に振った。
「過去は永遠……確かにそうですね。だから私達は、永遠を積み上げて刹那の未来を目指すんです」
 一呼吸置いて、ゆっくりと目蓋を降ろす。

 大切な人――それはあの日喪った友達や家族。
 大切な物――それは同じ悲劇を繰り返さないと誓ったあの日の想い。
 
 いま一度確かめた記憶を噛みしめて、確かめる。その思い、覚悟は霧華が確かに握りしめている。
 確かに、それらは掛け替えのない思い出だ。
「『だからこそ』、私は歩みを止めません」
「『だからこそ』わたしは、あなたの大切なものが欲しいわ」
 骸の海より現われた存在は、傷ついてもなお求めることしか出来ない。
 そう言ってのけた亡我竜へと、己自身をぶつけるために。
 決意と共に開いた眼差しは曇り無く、透徹に。真っ直ぐに敵たる少女を見る。
 音もなくゆっくりと、誓いと共に歩み続ける半身――【籠釣瓶妙法村正】を抜く。
 その切っ先から青い炎が立ち上がりたちまち刀ごと覆い尽くすと、そのまま霧華の右腕を包む。
 その静かな炎が、霧華の横顔を照らす。
 真の姿を現してなお、西条・霧華は表情一つ変えず刀を構えた。
「私は、同じ悲劇を繰り返さないために守ると誓った」
 たんっ、と小さな音一つだけその場に残して、霧華は駆けだした。
 喪った人々の顔をもう一度だけ、脳に刻みつけるように見据える。横一文字に薙いだ刀身が、幻影を両断し塵へと還す。
「同じ悲劇を繰り返させない事でしか報いれないと覚悟していますから」
 青炎が塵を焼く。最後の一粒が消えるのを見送ると、霧華はそのまま前へと進む。
 一歩進む度に軌道を変え疾駆する彼女は、一筋の軌跡を描きながら夜を引裂いていく。
「『大切なひと』と一緒に居たくはないの?」
「『大切なひと』だからこそ、今の私は一緒に居られない」
 悲劇を繰り返さないために、ひたすら護り戦う道を選んだのだ。その道は血と命で形作られている。
 幻想を現実にするために。霧華が背負ったのは、命を以て命を守る茨の道。鋼の心身で血路を開く、際限なく救い続けるもの。
「鬻ぐは不肖の殺人剣……。それでも、私は……」
 もう、止まれない。
 咲け。幻想の華、軌跡は花開く。
 裂け。その血肉、我が道程となれ。
 
「――幻想華(リナリア)!」
 
 青炎の花が咲き、鋼が未練ごと少女を斬る。
「……あなたも、わたしが愛したいものをくれないの?」
「貴方に手向けるのは、この剣のみです」
 どうしてと問いかける声に、霧華はただそう答えるのみだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

迎・青
A★
大切な人は、まだ見ぬ「双子の姉」
青とよく似た少女
「本体」は青のそれとよく似た、紫色の宝石の首飾り

見せられるのは、「おねーちゃんが一緒にいる」という偽りの記憶と
考えたくなかった可能性
おねーちゃんが、もうどこにもいなかったら?
おねーちゃんが、ボクのことキライで、どこかにいってしまったのだとしたら…?

おねーちゃんは、ボクの「過去」じゃない
これからボクがさがして、みつけたいひと
全部「これから」…だからこれは、ぜんぶウソだ
ボクは、とまってちゃダメなんだ…!

不安を振り切ったところで【B.B.B.】使用
【属性魔法】【全力魔法】で攻撃




 痛い、痛い。
 失った角が、斬られた腕が痛い。
 それでも心にぽっかりと空いた穴が、世界に喰われた心が飢えて渇いて仕方が無い。
「おしえて」
 少女は小さな青い鳥へと手を伸ばす。

 青がまず思い浮かべたのは、未だ見ぬ「双子の姉」だった。
 青の「本体」とよく似た紫色の首飾りを首から下げている、青とよく似た少女。
 ――そう、例えば。目の前に居る少女によく似ている。
「おねーちゃん?」
 だから青は、そこに姉が居ると思ったのだ。
 鏡で見た自分とよく似た顔、紫色の首飾り。こんな姿だろうと夢想した姿。
「よかった……。あのね、ずっとずぅっと、あいたかったんだよぅ」
 青は安心して微笑むと、姉の手をそっと握った。
「その子があなたの『大切なひと』なのね」
「うん、そうだよぅ。大切なたいせつな、おねーちゃんなの」
 白の少女の問いかけに、素直に答える青。少女は『おねーちゃん』の姿を見ると、僅かばかりに剣呑な色を含ませた。
 それを青は知るよしもない。彼の視線は『おねーちゃん』に注がれたままだったから。
「それにしては姿が朧気ね。本物そっくりに映し出せると自負していたのだけど……。ねえ、その子は本当に、存在するのかしら」
 少女の何気ない疑問が、青の心に突き刺さる。
「本当にあなたは『おねーちゃん』を知っているの?」
 どくん、と。
 心臓があるとすれば、きっと早鐘を打っている。
 皮の薄い、柔らかい果実を掌で握りつぶされるような。形容しがたい衝撃が青の核心をかき乱した。
 おねーちゃんが、もうどこにもいなかったら?
 おねーちゃんが、ボクのことキライで、どこかにいってしまったのだとしたら……?
 青の隣に居ない。青は知らない。
 何故なら、一度も会ったことなど無いのだから。
「あ……っ、あ、ぅっ……」
 零れる涙と嗚咽を堪えることなく、青は泣いた。
 考えもしなかった。考えたくなかった可能性が、いま目の前に明確な形となって苛み続ける。
 俯く青の前に立つ亡我竜は、その姿を見て嘆息する。
「あなたが涙するほど、思い焦がれる『大切なひと』なのね」
 そして同時に歓喜する。
 その思いこそ、少女が求めていたものだから。
「あなたの心は、わたしが食べてあげる。もう過去も未来もなく、永遠に大切な思いだけを見続けていましょう」
 甘く誘う声と共に、炎を浮かべた掌を青へと近づける。間近に迫った炎が、青の髪に触れようかという時だった。
「……いやだ」
 おどおどしていた少年とは思えない、しっかりとした声だった。聞いたこともない自分の声に驚きながらも、青の舌は止まらない。
「おねーちゃんは、ボクの『過去』じゃない。これからボクがさがして、みつけたいひと」
 青い小鳥は、幸せの片割れを求めて空へと飛び立った。自由は青を不安にさせたが、それよりも大きな希望があった。
 だから飛べる。小さな羽が今空を打つ。
「全部『これから』……だからこれは、ぜんぶウソだ」
 青く輝く風が吹き荒れ、目の前で揺れていた炎を掻き消した。
 青く、青く。どこまでも澄み切った空のように、夜闇の世界を塗りつぶしていく。やがて風は翼となり、青に羽ばたく力が全身に漲る。
「ボクは、とまってちゃダメなんだ……! だから、あなたを倒さなきゃ!」
 溢れる奔流を整えて、持てる限りの力を振り絞り、アオイトリが進む先を自らの光りで照らし出す。
「きゃあっ!」
 眩しすぎる光と思いに貫かれ、亡我竜は青に呑まれていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヘンリエッタ・モリアーティ
B★
【呪業縛血】
はは――大切な人、ね
生憎、死んでいるか生きているかもわからないのだ
いいや、死んでいてほしくないだけかもしれないな
君の「姉」は随分といやらしい。困った人だね、ニル

シャーロック
君が出てきてしまうだろうとわかっていたよ
――この君に聞いても、しょうがないよね
でも、応えなくていいから、聞いてくれないか
どうして
一緒に、死ぬはずだったんだ
――どうして、君だけ、死んだんだろう
孤独は苦しい、むなしい、理解者がいないのは
君と、「最後の事件」にしたかった

でも、私は前へ行く。君という最後の鎖を擦ってでも
壊すよ、君を。
【いざや傅け我が命に】で何もかもを平らげる
消えろよ、忘我竜。「彼」はもう私の「兄」だ


鷲生・嵯泉
【呪業縛血】にて
C★
あの狂った歌い手が居たからな、覚悟はしていた
大切なもの、彼女の名
「―――」唇は動く、しかし声は無い……音にして等なるものか
既に居ない。故に決して其の名を呼びはしない

灰色の男、其の背後へと目を遣る
矢張りそうか……
良いだろう、其の覚悟で在るのなら、否やを唱える気は無い
ならば侵逮畏刻にて封じる事に注力しよう
攻撃は見切りと武器受けにて弾き落とす事に努め、後ろへは決して通さん
――私の前に立つな
己の帰りを待つ者の存在を忘れている者に、人が護れると思うのか

『ニルズヘッグ』、お前を信に足ると判じた事
私は今でも間違っていないと信じている
今迄も、此れからも、だ


穂結・神楽耶
【呪業縛血】◎C

…お姉様が?
過去より出でる災魔だから、そういうこともあるのですね。
ニルズヘッグ様。
…後で、ちゃんとお話。聞かせてくださいね。

大切なもの?
全て燃え尽きました――そう言えば満足ですか?
我が過去は全て炎の底に。
その向こうから怨嗟の腕が伸びるのは道理でしょう。

ごめんなさいね。
今。わたくしの在る『今』が、結構大事になってるみたいなので。

味方を《かばい》ます。
愛おしき過去、大切な人達を守れなかったけれど。
あの悔悟を今、繰り返さないために。
わたくしの大切なひとたちが、過去になんか呑まれず帰ってきますように。

――【茜小路の帰り唄】。


ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
【呪業縛血】


人に執着、か
久し振りだ、なんて、覚えてないなら意味もないな
……質問に答えよう
私の一番大事なものは、おまえだ、姉さん

あァ、私の片割れだ
だが容赦はしてくれるな
あいつがこれ以上、誰かの命を奪うなら
――この手で殺すと決めている

槍を持って前に出る
ありったけの『呪詛』と【三番目の根】で強化を施し
全力で穿ってくれる
味わう死は姉さんのもの
私を呪い、自ら故郷を焼き、その火を呑んだ苦しみだ
遺言は「おまえが代わりに死ねば良かった」だっけか
ならせめて、死の痛みくらい共有しよう

そんなに誰かが欲しいなら――私の命、おまえにやる
世界に愛と希望を示して、私の望みが叶ったらな
……だからもう、誰も傷付けないでくれ




 その少女を前にして、ニルズヘッグは息を呑んだ。
 そして彼女の言葉を聞いて、記憶の底の泥を浚う。
「人に執着、か」
 懐かしい声、懐かしい仕草。
 少しでも近くで見ていたくなり、灰色の青年は覚束ない足取りで二歩、三歩と前へと進み出た。
「久し振りだ、なんて、覚えてないなら意味もないな」
「あら、そうだったかしら。わたしは覚えていないのだけれど」
 ――ああ、そうだとも!
 死して骸の海を漂った存在なら、当然覚えていない。しかしその答えに思わず叫びだしそうになり、唇を噛んで堪えた。
「……質問に答えよう。私の一番大事なものは、おまえだ、姉さん」
 ニルズヘッグの答えに息を呑む音と、息を吐く音が混ざり合う。
「お姉様が?」
 驚き戸惑う神楽耶の声に、ニルズヘッグは力の無い声で答えた。
「あァ、私の片割れだ」
「矢張りそうか……」
 ニルズヘッグの背後へと目を遣る嵯泉は、彼の言葉でようやく理解した。彼を見る度に感じていた危うさに、全て説明がつく。
「鷲生よ、それはどういう意味かな?」
「自覚がないのなら、尚更重症だな。たわけ」
「手厳しいなァ」
 力なく笑うニルズヘッグの声を聞いて、神楽耶は落ち着きを取り戻す。普段通りの思考が回れば、屋上に来てからの彼の様子に思いを巡らせる。
 その痛みを想像しかけて、止めた。戦う前に、感傷は必要ない。
「過去より出でる災魔だから、そういうこともあるのですね」
 だから神楽耶はそれ以上言わなかった。言えなかったのかも知れない。悪戯に彼の心をかき乱すのは、彼女の本意ではなかった。
「君の『姉』は随分といやらしい。困った人だね、ニル……」
 マダムはあえて、目の前の少女――ニルズヘッグの姉だというオブリビオンについて踏み込んだ。既にその目は相手を分析するべく、少女へと向けられたままだった。
「それで。ニル、君は彼女をどうしたい」
「私達は猟兵だ。オブリビオンを倒し、世界の安泰を守る。私のことなら気にしないでくれ、いずれ決着を着けねばならない事だった。それが今だと言うことだ」
 力強く握りしめられたせいで、嵌めた手袋が悲鳴を上げる。それでも構わずに、ニルズヘッグは仲間達へと語った。
「だが容赦はしてくれるな。あいつがこれ以上、誰かの命を奪うなら
 ――この手で殺すと決めている」
「良いだろう、其の覚悟で在るのなら、否やを唱える気は無い」
 嵯泉の答えに、マダムが頷いた。
「ニルズヘッグ様」
 名前を呼んだ神楽耶は、しかし己の声が心許なく感じた。
「(わたくしは、いつも通り笑えていますでしょうか)」
 震えていないか、固くないか。出してしまった声が思い出せなくなって、不安になる。
 しかし、言葉にしなければ。今のニルズヘッグには届かない。
「……後で、ちゃんとお話。聞かせてくださいね」
「面白くもないが……。そうだな、必ず聞かせよう」
 その答えに、誰もが誓った。
 また四人で、今日の日を語るのだと。癒えぬ傷跡を、慰めるために。
「お話は終わったかしら。待ちくたびれてしまったわ」
 唇を尖らせてつんと拗ねる姿は、愛らしい少女のもの。しかし彼女は災魔、炎で幻覚を作り上げる亡我竜。
 角が欠け、羽はもがれ。白いドレスを血で汚して。
 それでもなお『愛』を求め『希望』を信じ、夜空に炎を点すのだった。


「あの狂った歌い手が居たからな、覚悟はしていた」
 過去を思い起こさせる歌姫。再びの邂逅に「こうなるであろう」という心づもりが嵯泉にはあった。
 しかし亡我竜が炎の中に映し出した姿に、大切な彼女の名前を呼びそうになる。
「―――」
 唇は動く、しかし声は無い。漏れ出る寸前で息を呑み、奥歯を噛みしめる。
 ……音にして等なるものか。
 声に出せば未練が生じる。未練は更なる欲を産み、果ての無い苦しみとなる。
 彼女は既に居ない。故に決して其の名を呼びはしない。
 嵯泉は暫し、その姿だけを認めて。
 その影を通り過ぎ、前へと進む。


「はは――大切な人、ね」
 マダムはその質問を、笑わずには居られなかった。かの犯罪王が、ここで笑わずに平静を保てようか。彼の姿など、瞬きの合間に細部まで思い出せるというのに。
 ここまでマダムが焦がれて止まないのは、ゼロにならない可能性が「もしや」と思わせるからだろうか。
 死体のない事件に、医者は死亡という結論を下せない。たった一枚の証文の有無が、こんなにも希望的観測を生むというのは、普段なら興味深いケースとして観察していただろう。対象が自分でなければ、まだ冷静になれただろうか。
「いいや、死んでいてほしくないだけかもしれないな」
 それとも、自身が事実を認めないだけか。生死不明の結末に、満足していないのは他ならぬ自身である。
「シャーロック。君が出てきてしまうだろうとわかっていたよ」
 現われた姿に、彼の人の名を呼ぶ。
「――この君に聞いても、しょうがないよね。でも、応えなくていいから、聞いてくれないか」
 きっと君にしか聞かせられない事だから。
「どうして」
 呟くように、呻くように。漏れ出た声は彼女の弱さを露呈していた。
 一緒に、死ぬはずだったんだ。確かに私達は二人で落ちていった。永遠に続くような浮遊感、滑り落ちた場所がどんどんと遠ざかる。
 まず助かることのない高さからの墜落。
 私という存在が、彼と共に孤独ではない最後を飾るとは!
 何という僥倖だと、打ち震えたのも束の間。私達は自らの重みで砕け散った――はずだった。
「――どうして、君だけ、死んだんだろう」
 解の合わない数式が、介在する悪魔の数字の存在を語るかのようだった。ブラックボックスには法則があるというのに、その悪魔は法則を超えて、証明を嘲笑うかのように式を乱す。
 孤独は苦しい、むなしい。理解者がいないという現実は、苦しみという怪物を生み出した。
「君と、『最後の事件』にしたかった」
 それが叶わないことなど、マダムは重々理解している。
 奇跡を願う人間が、叶った瞬間を夢見るのは当然だろう。
「でも、私は前へ行く。君という最後の鎖を擦ってでも。――壊すよ、君を」
 生きてしまった。だから、前へと進むしかない。
「名残惜しいが、別れの時間だ。――さあ、怪物どもがやってくる」
 その足音が、破滅を連れてやってくる。【いざや傅け我が命に(クィーン・オブ・モンスターズ)】は、何もかもを平らげる。
 姿を、声を。記憶を。晩餐がひとの糧となるように、その血肉とするために。
 影すら喰らい尽くすUDCの群れが平らげた後、女王は一人、名探偵が居た場所を見つめていた。


 炎の向こう側、愛しい人影が神楽耶へと腕を伸ばす。
「これはあの日を繰り返しているのでしょうか」
 それにしては肌は生気に溢れ張りがあり、ちゃんと生前の形をしている。おかしな事、と神楽耶は悠然と微笑んだ。
「大切なもの? 全て燃え尽きました――そう言えば満足ですか?」
 我が過去は全て炎の底に。その腕は持ち主の体ごと焼かれ、黒く焦げて炭同然と化したはず。
「わたくしは守れませんでした。もしあるとしたら、その向こうから怨嗟の腕が伸びるのは道理でしょう」
 至極当然だと、神が笑う。怨恨、悲哀――それら全てを慈愛で包み込んで。神の所有物だと宣言するように、愛おしげに影達を見る。
「ごめんなさいね。わたくしの在る『今』が、結構大事になってるみたいなので」
 愛おしき過去、大切な人達を守れなかったけれど。
 それでも今、大切な人達を守りたいと思う神の傲慢さを、神楽耶は真っ直ぐに肯定する。
 神楽耶は刀の宿神。人を守れと願い、祈りを込めてこの世に生まれた八百万の一柱。
「あの悔悟を今、繰り返さないために。わたくしの大切なひとたちが、過去になんか呑まれず帰ってきますように」
 祈りと共に、帰り道を指し示す。黄昏色の空の下、カラスの鳴き声が聞こえたら歌ってご覧。
「また明日、おはようと言うために」

――【茜小路の帰り唄】が聞こえたのなら、声のする方へいらっしゃい。わたくしはお帰りなさいと迎えるでしょう。

 神楽耶の子守歌が、帰り道を作る。

「皆様、お帰りなさいませ」
 彼らに降りかかる炎を、神楽耶の炎が打ち消した。
「神楽耶は歌も歌えるとは、芸達者だね」
「お役に立てたのなら、幸いですわ」
 いつの間にかかすり傷が癒えている。嵯泉は調子を確かめるように、一度手を開いて――力強く握る。問題は無い。
「何を呆けている」
 未だ攻め手に踏み切れないニルズヘッグに、嵯泉の厳しい声が飛ぶ。
「――私の前に立つな。己の帰りを待つ者の存在を忘れている者に、人が護れると思うのか」
 発破を掛ける言葉に、ニルズヘッグははっと目を開く。
「――『ニルズヘッグ』、お前を信に足ると判じた事。私は今でも間違っていないと信じている。
 今迄も、此れからも、だ」
 神楽耶の炎が舞い、また一つ亡我竜の炎を飲み込んだ。その残り火で符を燃やし、嵯泉は火鳥を喚び放つ。
 嵯泉の埒外『侵逮畏刻(シンタイイコク)』が炎の羽根を撒き、吐いた炎を亡我竜に纏い付かせ、動きを奪っていく。
「このっ!」
 煩わしい炎を消すために、亡我竜も炎を無差別に放ち応戦する。
「鬱陶しいのよ、忌々しい! 誰もわたしに愛をくれないのなら、消えて!」
「囀るなら小鳥のように歌ってご覧。ああ、出来ないなら結構。
 ――消えろよ、忘我竜。『彼』はもう私の『兄』だ」
 悲鳴と共に放たれた在りし日の影すら、女王の忠実な僕達が平らげる。
 ニルズヘッグへと伸ばされた影の腕を、嵯泉が剣で弾き落とす。
「後ろのことは気にするな。私の剣に掛けて通しはしない」
「……本当に、私には過ぎた人達だ」
 こんな自分に付いてきてくれたこと、支えてくれたこと。今ここにいる、そして帰りを待つ仲間達。彼らの顔を思い浮かべて、手にした槍を握り直す。
「その続きは、帰った後でも構わないかい。ニル?」
「何も解決していないのに、感謝の言葉を頂いても困ってしまいます」
「はは……、約束しよう。遅くなって済まない、皆。ありがとう、私は――行くよ」
 ニルズヘッグは全ての決着を付けるため、亡我竜へと走る。


「お前もッ、何もわたしに与えてくれない! なら何の為にわたしに向かうの!」
 怒りを顕わに吼える亡我竜。その表情を見て、ニルズヘッグは変わらないなと場違いに昔を思う。
 灰燼色の呪いの忌み子と、失くした故郷では呼ばれた。
 死者の怨嗟と生者の情念を呪詛に変え、その身に溜め込んだ。それが自分だと、ニルズヘッグは思っている。
「私を呪え」
 最期の言葉が、蘇る。
「おまえが代わりに死ねば良かった、だっけか」
 繰り返し耳の奥で響く悲鳴が、また蘇る。どうすれば、あのような身を裂く声をあげられるのか。
 痛かっただろう、辛かっただろう。
 ならせめて、彼女の最期を。死の痛みくらい共有しよう。
 ニルズヘッグを呪い、自ら故郷を焼き、その火を呑んだ苦しみが。時間が戻ったかのように、今際の痛みがニルズヘッグを焼く。
 肺が、肌が焼ける。全身を覆い尽くす熱と痛みが、生を鮮やかに、激しく彩り焼き尽くす。
 ――その通りかも知れない、姉さん。
 こんな痛みが続くなら、代わりになれば良かった。動く度に痛みは増していく。痛みと比例するように、力が漲っていく。痛みの薪をくべた命の炎が、激しさを増していく。
 ――けれど、それは今ではないんだ。
「呪いたければ呪えばいい。私はその通りに、望まれたまま生きよう」
 ありったけの呪詛を力に変える『三番目の根(ニヴルヘイム)』、氷る地獄の蓋を開け、竜は牙を研ぐ。
「わたしがお前に何を望むというの!」
「あなたは誰かを欲している! 奪われたものを埋めるための、愛と希望が欲しいと言ったでは無いか!」
「五月蠅いうるさいうるさいッ! うるさい!!」
 闇雲に伸ばされる腕を、槍が切り落としていく。
「そんなに誰かが欲しいなら――私の命、おまえにやる」
「な、に――」
 菫色の瞳が、驚愕に見開かれる。その目に、写る自分が徐々に大きくなる。
「だが今ではない。世界に愛と希望を示して、私の望みが叶ったらな」
 何かを守れる力は愛おしい。まやかしであろうと、世界は愛と希望に満ちているから。
「……だからもう、誰も傷付けないでくれ!」
 封印を解かれた【Ormar】が白い竜を呑む。
 その穂先が深く、亡我竜の胸を刺し貫いた。
「……あ、がっ」
 忘我竜の小さな唇から、鮮血が溢れ出る。
 槍を引き抜けばぐらりと傾く華奢な体を、ニルズヘッグはそっと抱き留めた。
「姉さん」
「わたし、は……、しぬ、の?」
「そうだよ」
「い、や……。わたし、は。まだ、あい、が……ほしい」
「ああ」
「わたし、を、せかいから、かえして……。わたし、は……っ、あいして、いたい……」
 少女の願いを、二度も奪ったのは――。
 言葉を失ったニルズヘッグの左目から零れ落ちた涙が、ぽたりと落ちる。
 ニルズヘッグは過去を繰り返す。
 白い少女輪郭は穏やかな炎に焼かれ、再び最期の時を迎える。
「すまない……。痛いだろう」
 その言葉に、少女は小さく吐いた息だけで、弱々しく笑った。

 ――刺し貫かれた痛みは、わたしだけの痛み。だから、おまえにはあげない。
 もう十分、味わったでしょう。

 虚勢を張る勝ち誇ったような笑顔が、陽炎のように揺らぎ霞む。
 最後の炎が触れる直前、落ちた涙を拒むかのように少女の姿は炎と共に消えた。
 彼女の痛みを知るものは、ただ一人。生きるための呪いとして、その心に刻んで背負い続けていく。


 その罪を雪ぐため、裁きを受けるため。過去たる死者は灰より蘇った。
 息絶えた祈りを再び紡ぐ、この声が届きますのならば、どうか。
 炎に焼かれた苦しみを忘れ、安息をお与えください。
 その眠りが覚まされることのないよう、永久の安寧となりますよう。
 
 涙の日はきたれり。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年08月18日
宿敵 『心喰の亡我竜』 を撃破!


挿絵イラスト