アズ・ゴーズ・ライト、ソー・ゴーズ・ダークネス
グリモア猟兵、ムルへルベル・アーキロギアはこう語る。
「今回はオヌシらに、アックスアンドウィザーズで魔物の討伐に挑んでもらいたい。
最終目的は、彼奴らが守護する『クラウドオベリスク』という構造物の破壊である」
A&Wのどこかにある『群龍大陸』は、このオベリスクによって隠蔽されているらしい。
「各地のオベリスクを破壊すれば、いずれ群龍大陸の発見に繋がる……はずだ。
文字通り雲を掴むような話であるが、我々から動けるのは大きな利点と言えよう」
そして『勇者の伝説』を紐解くことで、いくつかのオベリスク所在地が判明した。
「オヌシらに向かってもらうのは『ブルーノー大森林』という場所……の、地下である。
この大森林の地下に広がるダンジョンのどこかに、オベリスクがあるようなのだ」
地名を聞いた時、何名かの猟兵が反応した。賢者は首肯する。
「うむ。この場所は以前とあるオブリビオン騒動の舞台となったことがあってな。
もっとも予知したのはワガハイではないゆえ、その件については詳しくないのだが、
放っておけば再びこの森に災いが訪れよう……というか、すでに訪れかけておる」
それが、猟兵たちが戦うことになる第一の敵、『骨邪竜"ドゥート"』。
突如として地下迷宮に姿を現したこのオブリビオンは、死霊と瘴気をばらまき、
大森林を徐々に不毛の砂漠に変えようとしているのだという。
だが竜を退けたとして、戦いはまだ続く。
「骨邪竜は地下迷宮そのものを守る存在に過ぎぬ。踏み込めばさらなる敵が現れる。
まず"邪霊(イーヴィルスピリット)"。悪感情を喰らい精神に憑依するという魔物だ」
邪霊は地下迷宮の闇に潜み、踏み込んだ猟兵に『負の感情』を増幅させようとする。
怒り、嫉妬、悲しみ、恐怖……その者が気付かない、あるいは忘れたい感情を。
「彼奴らは精神に囁きかけるやもしれぬし、忌まわしい幻を見せ責め苛むかもしれぬ。
いずれにせよ、心を強く保ち、誘惑に打ち克つのだ。さすれば道は開かれよう」
オベリスクの正確な所在地は不明なため、実際に現地で探索する他ない。
地下迷宮の何処かにあるのは間違いないので、邪霊を退ければ発見は容易なはずだ。
「そしてオベリスクを守護するのは、相当に高位な悪魔……いやさ、魔神である。
そもそもなぜこの迷宮が生まれたのか。彼奴とオベリスクを封じるためなのか、
あるいはこの『アークデーモン』が生み出したのか、最早わからぬが……」
最奥に待つ魔物だけあって、その力は強大。だが避けようのない戦いだ。
この魔神級悪魔を討ち滅ぼし、オベリスクを破壊してようやく仕事は完了となる。
概要を語り終えたムルへルベルは、読んでいた書物をパタンと閉じる。
「"真昼の陽光に、夜の暗闇の深さが分かるものか"とは、ある神学者の言葉だ。
これまでの戦いで得た光を以て、来たる闇に打ち克て。オヌシらの健闘を祈る」
そして、転移が始まった。
唐揚げ
A&Wって色々書きやすいんですよね。味噌汁です。
まずは今回のシナリオの簡単なまとめから。
●各章概要
1章:VS骨邪竜『ドゥート』(ボス戦)
2章:VS『邪霊』イービルスピリット(集団戦、特殊ルールあり)
3章:VS『アークデーモン』(ボス戦。特殊ルールあり)
2・3章の特殊ルールはそれぞれ以下のような感じになる予定です。
(詳細は各章開始時に、断章として改めてルール説明を行います)
2章:邪霊の精神攻撃に対処するとプレイングボーナス。
3章:巨大な地下空間でのアークデーモンとの戦い。
●備考
地下迷宮の探索やオベリスクの破壊は、章クリアで自動達成されます。
これらの作業に関するプレイングの必要はありません。
またこのシナリオは、背景を過去作『竜退治は飽きやしない』と共有しています。
あくまで舞台を流用している程度ではありますが、ご参考までに。
では前置きはこのあたりにして。
皆さん、火力を高めつつよろしくお願いします。
第1章 ボス戦
『骨邪竜『ドゥート』』
|
POW : 魂魄操作
見えない【浮遊する十の人魂】を放ち、遠距離の対象を攻撃する。遠隔地の物を掴んで動かしたり、精密に操作する事も可能。
SPD : 砂塵防壁
【翼からの突風】が命中した対象に対し、高威力高命中の【砂塵の竜巻】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
WIZ : 悪霊招来
戦闘用の、自身と同じ強さの【十体の悪霊】と【武器】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
イラスト:玻楼兎
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「宇冠・龍」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●業務連絡
プレイング受付は【06/06 08:30以降】から行います。
それ以前にお送り頂いたプレイングはお返しする可能性が高いのでご了承ください。
●
ブルーノー大森林は、異常な状況に陥っていた。
空には真昼だというのに黒雲が立ち込めあたりは薄暗く、
あちこちを超自然の渇きと不毛が蔓延り、木々を朽ちさせていたのだ。
「も、森がー! 森が大変なことになってるでするー!!」
かつてこの森を追われかけ、猟兵に救われたフェアリーの長・フリムの悲鳴が響く。
そして見よ。大森林の中央部、砂漠化した大地に降り立つ邪竜の姿!
『何人たりとも、この地には踏み込ませぬ……』
ひときわ巨大な地下迷宮への入り口を守る者、すなわち骨邪竜ドゥート。
砂塵の竜巻と霊魂の守りを抜け、恐るべき魔竜を打ち砕くときだ!
オルハ・オランシュ
ヨハン(f05367)と
何?この空気……気持ち悪い
フェアリー達が怖がってる姿も、できればもう見たくなかった
この森にはそれなりに思い入れがあるんだよね
まずはあいつから片付ければいいんだ
いこう、ヨハン
私達もあの頃とは違う
彼になら背中を預けられるって、自信を持って言える
UCで攻撃力を強化
【力溜め】も併用して火力を高めていく
何かを遠隔操作されても
【見切り】か【武器受け】で可能な限り凌いで
【早業】で空を駆けて攻撃に転じていこう
まずは攻撃にも使われるドゥートの翼を斬り裂いて
ヨハンとタイミングを合わせて頭部も狙っていきたい
こんなに強い奴が門番に過ぎないなんて、正直怖いな
地下迷宮の中はどうなってるんだろう
ヨハン・グレイン
オルハさん/f00497 と
思い入れ、ですか
まぁ久しぶりだなとは思いますし……、
あの頃とは随分変わったものだ、とも思いますね
何がとまでは言わないが
行きましょうか
あの時と同じ、隣に並ぶように歩く
こうして同じ場に立ってみると、
変化がより分かりやすい気がして
不思議なものだな
悪くはない、決して
随分と悪趣味な見た目をしているな
やれやれ……長く見ていたくも無いので、さっさと終わらせましょう
『蠢闇黒』から闇を呼ばい<呪詛>を絡め<全力魔法>
彼女が敵に一撃入れるまでは防御を主体に
悪霊とやらが召喚されるのなら敵を見通せる場を確保し【蠢く混沌】
狙いは彼女に合わせよう
●変わった心で、同じように
邪竜の周囲には、無数の人魂が鬼火めいて燃え上がり浮遊していた。
周囲の地形から生命の活力を引き出し、砂漠に変えることで燃えているのだ!
―――オオオ、オオオ、オオオォオ……!
それらはやがて人型を思わせるシルエットへと変じていき、
剣、槍、あるいは斧――禍々しい武器を持つ悪霊の軍勢へと……!
「――沈め」
されど進軍を開始しようとした悪霊の群れは、闇に飲まれて沈んでいく。
それを喚ばうは鋭き藍色の視線。眼差しを切り裂くように吹きすさぶ風!
「これ以上、森を穢させないっ!!」
虚空を切り裂く三叉鉾の切っ先を追うように、紫炎がひゅぼっ、と焦げる。
それはすなわち、不可視の人魂が裂かれ薪めいて爆ぜた証だ。
『おのれ、何者ぞ……ここは決して通さぬ……!!』
邪竜が吼える。隣り合わせに立ち、相対するはふたりの若者。
すなわちオルハ・オランシュとヨハン・グレインである!
『猟兵……我らの天敵どもめが……!!』
「何? この空気……気持ち悪い」
ぐうん、と大気を歪曲させるような骨邪竜の怨嗟に、オルハが顔を顰める。
だがその程度で退くつもりはなかった。
これまで経てきた鉄火場とそれによって鍛えられた胆力もあるし、
なによりもこの森と惨状と、そこに住まう妖精たちの恐怖の悲鳴があるからには。
「随分と悪趣味な見た目をしていますね……やれやれ」
頭を振り、ヨハンはこれみよがしに眉間を揉んでみせる。
無論、挑発だ。闇を凝視する死霊術師にとってこれは"見慣れたもの"。
貴様を恐れても、ましてや斃されるつもりもないと言外に知らしめているのだ。
……ふたりにとって、このブルーノー大森林は知らぬ場所ではない。
いや、むしろ思い入れのある場所だろう――ヨハンは認めたがらないだろうが。
あの時は、オルハがヨハンを無理やり引っ張ってくる形でやってきた。
だが今は違う。たとえ立つ場所も、戦い方も同じだとしても。
「ヨハン」
「なんですか」
「――背中、預けるからね」
肩越しの少女の笑顔に、無藍想な少年は闇を喚ばいながら僅かに苦笑。
「ええ。"悪くはない"です。さっさと終わらせましょう」
それ以上の言葉は必要ない。再び闇が膨れ上がり、少女は風となった。
――悪くない。こうして互いの心を通じ合わせ、共に戦うのは。
(不思議なものだな)
影から黒き闇を生み出しながら、ヨハンはそう心の中でひとりごちた。
『来やれ、来やれ、霊どもよ。生を飲み、世を食み、聖を穢すべし……!!』
「ずいぶん怨みが強いみたいじゃない! ならその力――!」
オルハは人魂を切り裂いて進路を開き、さらにドゥートの翼膜を断つ。
人魂が欠損を補い修復していくが、それは想定済み。
狙いはあくまで彼奴の影。トリアイナがそれを貫き、力を奪う!
「分けてもらうよ、君を滅ぼすために!」
『ならぬ!! ここは通さぬ、決して……!!』
じわりじわりと、この世ならぬ冥界から呪われた霊魂が呼び寄せられる。
それらは再び紫炎を纏い、朧なる軍勢を形作るが――ヨハンがこれを許さぬ!
「久しぶりに来たばかりなんですよ、もう少し感慨に浸らせてくれませんかね」
らしくもない空言を言いながら、ヨハンが悪霊の軍勢を睨めつける。
指輪から解き放たれた闇と影の暗闇がこれらを拘束し、再び沈めていく。
「こんなのが門番に過ぎないなんて……!」
少なからぬ恐怖がオルハを襲った。地下迷宮の主への畏敬めいた念。
「オルハさん、今です!」
それを打ち砕くかのような少年の声。視界が再び今を捉える!
「――わかってる!!」
ばさりと翼が大気を打つ。魔力を宿した闇の三叉槍が、ドゥートの頭部を撃つ!
『オ、オオオオ……!!』
「もう一つ……っ!!」
ふたつ! たじろぐ四肢を蔦めいて絡みつき逃さぬ黒闇!
『き、来たれ、来たれや、悪霊ども……!!』
修復は急速に進む。だが初撃は猟兵側が痛恨の一撃を叩き込んだ形か!
「呪いも、霊も、あいにく慣れていますので。もう揺らぎはしませんよ」
ヨハンはじっと敵を見据える。過去を、郷愁を振り払い、未来を切り開くため!
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
祇条・結月
コーディリア……店長さん(f00037)と同行
竜だ……
こういうのを相手する火力の持ち合わせがないの、ドラゴンテイマーでもつくづく実感したとこ
……でも、引き下がれはしないよね。こんな風に森を……誰かの居場所を枯らす相手からは
切り札があるの? おっけ、じゃ、引きつけとく
大丈夫、ちゃんと保たせるから。まかせといて、って笑って。
速さと小回りを活かして撹乱するように動いて、苦無を【スナイパー】で【投擲】して目や急所を【鎧無視攻撃】して、
チクチク刺していく。
巨体じゃこっちを捉えれないと思ったら悪霊を召喚して対応してくるだろうから、
それを《術式封鎖》する。
仕上げはよろしく、店長さん。
コーディリア・アレキサンダ
>結月(f02067)と一緒に
ドラゴン退治と行こうか
とはいえ――この巨体を相手にするならボクも用意をしないといけないわけで
準備の間はお願いするよ、結月
……何の用意か?
魔法使いが巨大な敵を相手にやることは昔から決まっているよ
必殺の一撃をお見舞いするのさ
――そういうわけだけれど、我こそはという悪魔はいるかい?
空を駆ける魔犬――大き差が違いすぎる。却下
燃える双眸――却下。森も燃やしてしまう
……キミにお願いしよう、深緑の天使
《全力魔法》だ。渾身の一撃を見舞おう
星を、夜を射抜く光を束ね――其の名の如くボクらの敵を貫け
10体程度の悪霊では止められないよ
72体と1人のボクらで、踏み込ませてもらう
●閉ざす者、解き放つモノ
どうやら、骨邪竜ドゥートは森の活力を苗床に人魂や悪霊を喚んでいるらしい。
砂漠化した荒廃はすなわち悪霊どもの蔓延る大地であり、
渇き飢(かつ)えた地面から、じわじわと燃え上がる影がいくつも生まれる。
『来たれ、来たれや、来たれ――軍勢をなして全てを飲み込め……!!』
「龍だ……おまけにあんな連中まで招来するなんて」
骨邪竜を目視した祇条・結月は、次々に生まれる悪霊どもを見て顔を顰めた。
敵の邪悪さもさることながら、彼が渋面を浮かべた理由は己の能力にある。
"鍵"と"錠前"の二つに特化した結月の術式=ユーベルコードは、
それゆえに巨大なモンスターや大群を相手にするには火力が不足してしまう。
そして、骨邪竜はその両方を併せ持つ敵である。
「ドラゴンテイマーでも、つくづく実感したばっかりなんだけどね」
黒竜ダイウルゴスの群れを、正面から相手取れるような力があったなら。
あんな不意打ちに頼らずとも、もっとシンプルに片付けられたかもしれない。
「何事も適材適所だよ、結月。キミにもボクにも向き不向きがある」
コーディリア・アレキサンダの言葉は、フォローというよりもっと端的だ。
何かと魔法に頼りがちな彼女からすれば、出来ないことを無理にやる必要も、
出来るように無茶をする必要もあまり感じられないのだろう。
「それに、ここにはキミとボクがいる。なら力を合わせればいいだけさ」
「うん、引き下がるつもりはないよ。でも、何か切り札でもあるの?」
馴染みの"店長さん"は、結月の言葉にふっと頼もしげに微笑んだ。
「少しばかり用意が必要だけれどね。だから、その間はキミにお願いするよ。
――昔ながらの、魔法使いの"必殺の一撃"ってやつをお見せしよう」
コーディリアの魔法の技量については、結月もよく知るところだ。
ゆえに彼は、それ以上詮索することなく、あっさりと頷いてみせた。
「おっけ。じゃ、こっちで引きつけとく。ちゃんと保たせるから」
任せといて、と笑う結月に対し、コーディリアがあれこれ言うこともない。
「ドラゴン退治と行こうか」
「うん。それじゃ、よろしく」
そして、ふたりはそれぞれの得手を以て戦列に加わった。
あいにくと、身の丈を超える大剣を振り回すような膂力はないし、
かといって未来すら予測するような鋭敏な五感があるわけでもない。
ならどうするか――簡単だ。速さと小回りを活かし、ひたすら敵を撹乱する。
『オオオ……小さき者、いじましきなり……だが、邪魔だ!!』
「邪魔をしてるのはそっちだと思うけど」
龍が吠える。緩急をつけた幻惑的足取りで駆ける結月を、敵は捉えられない。
飛礫めいて放たれる紫炎を、結月は苦無で切り裂きそのまま投擲。
レーザーポインターの軌道をなぞるかのようにまっすぐ飛翔した刃は、
そのまま龍の眼や、あるいは喉元を串刺しにして敵を責め苛む。
(この程度じゃダメージにもならないか。ま、織り込み済みだけど)
突き刺さった苦無がぐぐぐぐ……と押し出され傷が再生するさまを見、
結月は努めて冷静に状況を把握する。いちいちまごついている暇はない。
一瞬でも足を止めれば、結月はたちまち敵の砲火じみた邪悪な炎に飲まれ、
あるいは土砂崩れじみた勢いで振るわれる爪や尾の餌食となってしまうだろう。
『おのれ、小さき者め……!!』
「図体がでかい割に、ろくに当たってないけど?」
再びの咆哮。敵が苛立っていることを、びりびりと震える肌から知覚する。
遥かにいい。相手が冷静さを失えば失うほど彼の目論見はスムーズに進むのだ。
だが結月にとっての誤算は、敵が悪霊を生み出す速度が予想以上だったことか。
「……っ」
苦無、あるいは銀の糸でこれらを切り裂き即座に霧消させるも、
砂漠化した地面から次々に悪霊は湧き出る。常に十体、裏を返せば十体ごとだ。
骨邪竜はこれによって一切自らで暴威じみた爪や尾を振るえなくなったものの、
悪霊は一体一体がドゥートのそれに匹敵する戦闘能力を有している。
("封鎖"は、まだだ。店長さんはまだ準備してる)
彼女の一撃を確実に通すためには、タイミングを合わせる必要がある。
結果として、結月はじわりじわりと敵の猛攻に押されているのだ……!!
『――さて』
一方、結月が敵の狙いを引きつけているはるか後方にて。
『そういうわけだけれど、"我こそは"という悪魔はいるかい?』
現実世界に於いて瞑想状態に入ったコーディリアは、己の精神に没入し、
内的世界にわだかまる闇へと語りかける。エコーめいて声音が広がっていく。
ざわり――闇がうごめいた。それは実のところ、虚無などではない。
すなわち一つ一つが、彼女の裡に封じ込められた"悪魔"どもなのである。
唸り声がひとつ。這い出るように鎌首をもたげたのは禍々しき魔犬だ。
強壮な毛並みと飢えに満たされた牙はいかにも恐ろしい、が。
『――却下だ。キミとあれとでは、大きさが違いすぎる』
不服げに唸りつつ、空駆ける魔犬は魔女の言葉に従い一歩下がる。
入れ替わりに、ひゅぼっ!! と、炎の輪郭を持つ双眸が燃え上がった。
心弱き者ならば、その凝視を浴びた瞬間心が砕けることだろう。
だがやはり、コーディリアは恐れる風もなく頭を振る。
『却下。"燃える双眸"よ、キミでは森そのものも燃やしてしまう』
ぐん、と、非現実的な速度でもって双眸が拡大し、コーディリアを睨めつける。
魔女が退くことはない。封印の権限は彼女に委ねられているのだから。
そして"双眸"の不忠を糺すかのように、緑の王めいた御遣いが俄に瞬いた。
それを見返し、しばし考えたのち、コーディリアは満足げに頷く。
『いいだろう。……キミにお願いするよ、"深緑の天使"』
同時に現実に於いてコーディリアが目を開く。はるか先では防戦中の結月。
悪魔が深層意識から汲み上げられ、その権能を限定的に権限開放する。
だがまだだ。あれほどの巨体、そして悪霊を一撃で吹き飛ばすには足りない。
「顕現領域拡大――承認。拘束術式、段階解放開始……ッ」
悪魔が本来の力を取り戻し、暴走しかねぬギリギリのラインを見極める。
足元からぐん、と光り輝く魔法陣が展開し、星を思わせる光をまばゆく放つ!
終わりなき疾走に思えた結月の撹乱に、出し抜けに終わりがやってきた。
(もう少し体力、つけないとかな)
結月は内心で苦笑しつつ、振り仰ぐまでもなく星の輝きを知覚した。
短剣形態の銀の鍵が、パチンと音を立てて本来の形を取り戻す。
彼の視界に、不可視の"錠前"が重なる。その穴に鍵を――伸ばし、差し込む。
「これ以上――」
『終わりだ、小さきものよ……!!」
「……好きには、させない!」
がちりと、この世とはひとつ異なる相(レイヤ)で"錠"が降ろされた。
新たに生じかけた悪霊の群れが。おお、見よ。その中途で霧散していく!
『何!?』
「仕上げはよろしく、店長さん!」
「任されたよ――」
龍は見た。夜を射抜く、星の光を。それを束ねるモノを。
そして、"それ"を封じ、使役し、いまここに名を喚ばう魔女(もの)を。
「渾身の一撃だ、受け取とりたまえ――」
彼方は十と一。ならば此方は、七十と二を一にて束ねて踏み越えん。
いまこそ呼び、そして喚ぶがいい。序列の八、伯爵にして公爵たるその名は!
「その名の如く、ボクらの敵を貫け――深緑の天使(バルバトス)!!」
呼び声は口訣となり、そして束ねられた一条が光芒となり……龍を、貫いた!
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
アルトリウス・セレスタイト
竜が狗になって門番か
破天で対処
高速詠唱と2回攻撃で間隔を限りなく消し、全力魔法と鎧無視攻撃で損害を最大化
爆ぜる魔弾の嵐で蹂躙する面制圧飽和攻撃
周囲を纏めて吹き飛ばし回避の余地を与えず、攻撃の密度速度で反撃の機を与えず
それでなお反撃を行うなら自身の攻撃で飲み込んで更に撃ち続け押し切る心算
万一突破されても消失の攻撃吸収・無効化と自動反撃で対処
砂漠化した後で周囲に気遣う必要もない様子
であれば火力を控えることもあるまい
手を休めず攻撃の物量で全て圧殺する
●天を破るもの
緑星の閃光が森を灼いたとき、誰よりも疾く術式を束ね編み上げる男がいた。
いや、彼――アルトリウス・セレスタイトにとっては、
術式をいちいち唱え、構築するような"まだるっこしい"やり方は似合わない。
がらんどうの心臓がひとつ鼓動を打ったとき、すでに彼は原理を視ている。
ゆえに口訣すらも要らない。死すらも死する魔弾の瀑布が瞬時に生まれ、
蒼き光芒は殺意も決断も憎悪も何もなく、ただ機械的に降り注ぐ。
「登竜の伝説はそこかしこにあるものだが」
魔弾が降る。否、地を、光をも飲み込むほどの勢いで"倒れ込む"。
「竜が狗に堕ちて門番となる話は聞いた覚えがないな」
アルトリウスはただ魔弾を喚ばい、そして下し、落とし、何もかもを蹂躙する。
先の光芒――コーディリアの全力魔法による一挙集中魔力攻撃は、
確実に骨邪竜の体幹を崩し、一瞬にしてその機先を削いだ。
生まれては払われるばかりだった悪霊の軍勢に、一瞬の間隙が生まれた。
……滝を思い浮かべてほしい。それは一見すると途切れない瀑布に見える。
だが実のところ、極限までズームしていけば、それは水の粒子の連なりだ。
一瞬でも切り裂かれることがあれば、滝は『水の塊』に変じてしまう。
物事も同じだ。敵の永劫回帰めいた魂の招来が途切れるこの一瞬。
この一瞬だ。ここに、飽和攻撃を叩き込み、敵を滅ぼし尽くす潮目がある!
『お、オオオオ……ッ!!』
驚くべきは骨邪竜の瘴気。彼奴は先の星の一撃を受けてなお現界していた。
片目から尾にかけて生まれたトンネルじみた穴は、
周囲の地形から生気を吸い取り即座に再生置換することで急速に塞がれる。
塞がれてしまう。ならば、常に攻撃し続け、傷を灼き続ければいい。
その点に於いて。"破天"の術式は最適である。
「避けようとは思うな。苦しみが長引くだけだ」
存在根源を直接叩き砕く魔弾は、再生という迂遠な手段すら許さない。
ゆえに落とす。青く輝く魔弾を。敵を殺し尽くすために。
なおも醜く、無様に、悪あがきめいて生まれようとする悪霊もろとも。
魔弾は降り注ぐ。渇き飢えた砂をも、その粒子ごと砕くように。
森は死んだのだ。ならば、火力を控える必要もない――。
「も、森が!!」
その時、アルトリウスは悲鳴じみた声を聞いた。
なるほど、どうやらこの森の住人であるフェアリーがいたらしい。
「森が、なくなっちゃうでする! ああああ……!」
彼は知る由もないが、いかにもそれは"森の末裔"と呼ばれた妖精の少女。
若くして一族の頭領を任され、一時は塞ぎ込んでしまったフリムという者だ。
「森が、皆の家がぁ……っ!」
「――……」
その時、アルトリウスの空っぽのはずの胸中に、何が去来したか。
よもや青年の形をした残骸に、後悔や寂寥感があったとでも?
それはわからぬ。本人にしか――あるいは本人にすら。
ただ確かなことはひとつ。
「…………」
わずかにだが、緩まるはずのない攻撃が、魔弾の暴威が、緩んだ。
未だ残存する森を、万が一にも傷つけることがないように、少しだけだ。
それは完全滅殺出来るはずだった敵の、今しばらくの生存を許すこととなる。
……その時、アルトリウスが何を考えたのかはわからない。だが。
「俺が死に導くのは、"お前だけ"だ」
藍色の瞳は、苦しみ悶える邪竜の姿だけを捉えていた。
成功
🔵🔵🔴
シーザー・ゴールドマン
【POW】
此処に来るのも久しぶり……と言う程ではないか。
なかなか面白い事になっているようだね。
迷宮探索と洒落込もう。……まずは君が相手か。
『シドンの栄華』を発動。
『維持の魔力』で身に纏うオドを強化して戦闘態勢へ。(オーラ防御)
敵POWUC対策
飛来する人魂を直感(第六感×見切り)で避けると同時にオーラセイバーで人魂を滅却。(カウンター)
骨邪竜には『破壊の魔力』を込めた魔力の鉄槌を。(全力魔法×属性攻撃:聖)
「入口からこのレベルのオブリビオンが現れるとは。これは期待できそうだね」
鎧坂・灯理
見覚えのある森と妖精だな。
まあいい、話は後だ。戦場になるから下がっていろ。
【WIZ】
UCを発動。160羽のツバメを呼び出し、悪霊一体につき16羽を向かわせる。
高い空中機動能力を活かして顔、厳密には目を狙わせることで視界を封殺。
その隙に戦えない本体を狙撃する。
銃形をミニガンに変形させ、《スナイパー》技能で狙いを定めつつ連射。
デカい図体の割に貧相な足だ。さぞすっとろいことだろう。
とはいえ倒せるとは思わん。油断はしない。
私が狙い撃つのは翼だ。風通しの良い穴を開けてやろう。
矢来・夕立
後ろ暗い人間にも明かりの有難味はわかります。月並みですが、光がないと影もできませんから。
しかし…イイですね。群龍大陸について、発展があったのは喜ばしいことです。あちこち遠足した甲斐もあったというもの。ところでやっぱりこの世界にドラゴンっているんですね
…ドラゴンって、いるんですね。
ドラゴンスレイヤー。心躍る響きですよね。コレは若干ホントです。
で、腐ってもホネになってもドラゴンだと。攻撃、当たるとヤバそうです。【躱身】で回避主体。
見たところ滅茶苦茶に堅いワケではなさそうですし、回避行動に《だまし討ち》を差し込んでいけばダメージは与えられる…と思います。
あちらのカルシウム不足を祈りますよ。
●一殺
……やがて、死の原理を導く魔弾の瀑布が途絶えた。
見よ。もはや穴だらけの彫刻とでも言うべき有様の邪竜を。
だが焦土じみた只中にあって、その巨体は凄まじい速度で再生を始めている。
「ひぇ……!!」
惨状に思わず駆けつけた妖精・フリムも、その瘴気に思わず悲鳴を漏らした。
が、そんな彼女の竦んだ小さな体を、ぐいと乱雑に押しやる者がいる。
乱雑ではある……が、どことなく、慮るような気配を感じなくもない掌だ。
「見覚えのある森に見覚えのある妖精か、まあいい」
鎧坂・灯理は、フリムをさらにぐいと後ろに押しのけ、睨めつける。
「話は後だ。戦場になるから下がっていろ」
「ぴゃああっ」
「そんなに睨んだら可哀想ですよ。いや、ウソですけど」
などと言いながら、泣きべそをかきそうになったフリムをちょいとつまみ、
さらにひょいっと後ろに下がらせたのは、矢来・夕立である。
「しかし意外ですね探偵さん、あなた、森林浴の趣味でもあったんです?」
お得意様モードゼロの灯理の視線を柳に風と受け流す夕立。
たしかに彼女の性格からして、こんな気弱そうなフェアリーや、
どうやら普段は穏やからしいこの大森林に縁があるとはあまり思えない。
「なに、猟兵おなじみのやつだよ。事件解決のために来ただけの話さ」
そして灯理の代わりに、飄々とした様子で口を挟むシーザー・ゴールドマン。
夕立の次はそちらへ、人を殺せそうな凝視が降りかかるが、彼は平気の平左だ。
「そういうわけだからフリム君、君は彼女の言う通り下がっているといい」
「は、はいでする!」
ぴゅーんと飛んでいく妖精。シーザーは二人に嫌味なくらい穏やかに微笑む。
「――さて。それでは、門番退治の仕上げといこうではないかね?」
「なんですかこの人。ものすごく相性が悪い気がします、ウソですけど」
「真面目に相手をすると損をしますよ、お得意様」
「やれやれ、手厳しいなこれは」
三者三様、腹の底を見せぬことに関しては共通した悪党女傑に怪人、影三つ。
応じるかのごとく、悪霊の群れを従えた魔竜の残骸が吠え猛った!
しかして即座に戦闘態勢に入ると、これが実にうまく噛み合ってしまうもので。
「出てこい、チビども」
灯理のフィンガースナップとともに、およそ160羽のツバメが周囲に出現した。
探偵七つ道具――の、裏。"手"。拝借できるなら猫の手でも燕の羽でも。
ちいちいと鳴くそれら人工知能は、一隊16羽に分かれて悪霊の群れへ飛翔!
「手下というのはな、仕事をスムーズにするために呼び出すものなんだ」
BLAM!! BLAMBLAM!! BLAM――BRATATATAT! BRATATATATATATAT!!
ミニガン形態に変形した可変式銃器が秒間数十発の火砲をつんざいた!
『がぁあああああ!?』
「手下に任せて高みの見物なぞ誰が許すか、バカが」
悪霊の群れを喚ばうとき、骨邪竜自身が攻撃を行うことは出来ない。
ツバメたちが悪霊を足止めする間、灯理本人が竜を穴だらけにする二段構え!
「しかし――イイですね。うん、あちこち遠足した甲斐がありました」
その弾雨に並走する形で、赤と黒の影――つまりシーザーと夕立が駆ける。
忍のぺらぺらとよく回る口は、誰かに語るようで独り言のようでもある。
「ドラゴンスレイヤー、心躍る響きですよね」
「それもウソかね、少年」
「いえ――」
骨邪竜が羽ばたいた。狙いは夕立を突風で吹き飛ばすこと。
だが彼はその動きを読んでいたし、仮にそうでなくとも問題はなかったろう。
ミニガンの執拗な射撃が、翼膜を撃ち抜いてずたずたにしていたからだ!
「コレは若干、ホントですよ。ドラゴンいる世界なんですしね」
砂塵が竜巻となった時には、夕立ははるか前方へ突破(ブレイクスルー)済。
そのまま逆鱗を狙い、雷花が鞘走る――否、これは完全な騙し討ち。
そもそも柄を握っているのは利き手と逆である。初めからフェイントだ。
「"遅いですよ"」
乱れ撃ち。式紙が花吹雪めいて散り、斬撃を警戒した敵の全身をずたずたに。
見立て通り、敵の防御力はそこまでではない。再生速度が異常なだけだ。
そしてこれまでの攻撃が、明らかに彼奴の勢いを大きく削いでいる。
「カルシウム不足みたいなんですが、オレも大概細腕なので」
鞭めいてしならせた片腕で残像を描き、式紙を叩き込みながら夕立が嘯く。
「早いとこ終わらせちゃってください。でないと首級もらっちゃいますよ」
「それは恐ろしい。ウソであることを祈っているよ」
微笑しながら言い、並走していたシーザーが瞬時に消失した。
遅れて地面が爆裂し、赤いオーラが色付きの風となって砂塵を切り裂く。
『おのれがぁ!!』
苦し紛れの人魂。見えずとも直感に頼れば造作もなく切り払える。
滅却の赤を後に引き、微笑たたえし公爵が龍の眼前に瞬間移動した。
「あいにく我々の目的は迷宮探索なのでね、君は"前座"なのだよ」
『ここは――』
「"通さぬでいられるかね"?」
魔王の睥睨。赤黒い魔力は、破壊の力を束ねた鉄槌となり叩き落とされた。
――ズゴンッッ!! 砂埃が巻き上がり、龍の逆鱗もろとも頭部が砕け散る!
「あっけなかったですね」
「所詮はすっとろいだけのデカブツだ。当然の結果だろう」
「いや――"それはウソ"だろう? つまりはそういうことだな」
シーザーが夕立を見やる。灯理は小さく舌打ちし、銃器を再々変形させた。
然り――頭部が砕けながらも、龍の体は消失していない。つまり!
『ここは、通さぬ――』
滅びたはずのオブリビオンが、再来する。骸の海より即座に!
なんたる妄執。クラウドオベリスクとはそこまで守るべきものなのか!?
あるいは――それを守る魔神の力が作用しているとでも?
『決して通さぬ! 矮小なる者ども!!』
龍の咆哮が、再び森を震わせた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
フランチェスカ・ヴァレンタイン
見るからに邪龍な風情ではありますけれども…
――素材的には骨ですし、やはり鈍器で叩くべきでしょうかね?
などと曰いつつ翼を広げて羽ばたき、全力噴射の空中戦でエンゲージです
迎撃に飛んでくる人魂へは、推力偏向機動で身を翻しながら属性攻撃:神聖を纏わせた斧槍を揮って斬り払いを
射程に捉えましたら砲撃なども適宜浴びせつつ
アウトレンジとクロスレンジを切り替えて翻弄しながら、戦槌部で鎧砕きならぬ骨砕きと参りましょう…!
「ブレイズランサー、ファランクスシフト―― 死霊や瘴気も諸共に灼き穿ち、討ち祓いませ…!」
仕上げはUCの騎槍光焔82基を神聖属性も乗せた2回攻撃で二重展開、計164基の飽和攻撃をどうぞ召しあがれ?
月宮・ユイ
アドリブ◎
あの時の森ですね
『クラウドオベリスク』が隠されていたのですか
フェアリー達が暮らす森、砂漠に変えられるわけにはいきません
数を使うドラゴンに複雑な感情が浮かぶ
それでも、心封じずかつての教えに思い出す。
想いは全て心に秘め、心熱く頭は冷徹に、静かなる戦意を…
<機能強化>〝第六感〟含め知覚強化
敵、地形等の〝情報収集〟反映、常時対処最適化
<捕食兵装>〝生命力吸収の呪詛〟で強化
槍剣圧縮成形、加え〝オーラ防御〟に混ぜ全身を覆い防御力強化
〝見切り・武器受け〟駆使、全敵補足終了まで〝時間稼ぎ〟
ロック完了後、召喚敵には牽制の〝一斉発射〟で足止め
ドラゴンには吸収分併せ〝力溜め〟続けた槍を〝早業で全力投擲〟
●穿つもの、食らうもの
かくて骨邪竜は再臨した。あるいは死した状態から再生を果たした。
いずれにせよ尋常の敵ではない。つまり波状攻撃でひたすらに滅ぼす必要がある。
(――まるで、何もかも)
かつても龍退治のために訪れた大森林で、月宮・ユイは物思いに耽る。
思い返すほどに遠い出来事ではない。つい先ごろ、異なる世界でのあの戦い。
黒龍を従えしもの。形を得た地獄。ドラゴンテイマー。
何もかもをかつての己に戻し、ユイはかの邪悪を喰らおうとした。
――だが成せなかった。黒龍の暴威と、地獄の恐怖がそれを阻んだのだ。
(私は……)
さらに心は回帰する。かつての教えを取り戻し、思い出すために。
「私は」
顔を上げる。異色の双眸が見据える先には咆哮する邪竜がひとつ。
そして悪霊の群れ。結構だ。敵が"数を従え荒ぶる邪竜"だというのなら。
「心は熱く、頭は冷徹に――静かなる戦意を以て、滅ぼすのみ」
連星が共鳴する。静かに高ぶる、その心の義憤と怒りに呼応するかのように!
そしてその頭上。翼を広げ、砂塵舞い散る空を切り裂く騎兵の影ひとつ。
フランチェスカ・ヴァレンタインは、眼下の少女――正しくは、
少女の化身を取った兵器のヤドリガミを視、僅かに沈思黙考した。
思わぬことに、あちらもまたフランチェスカを見上げた。視線が交錯する。
(へえ――)
あのような強い目をする少女だったか。フランチェスカは内心で感嘆する。
いいだろう。ならば此度はひとつ、肩を……否、翼を並べるとしようか。
「骨と言わず鱗の一欠片まで、砕いて灼き尽くしてさしあげますわ!」
バーニアが全力噴射を行い、騎兵は戦場へと突入(エンゲージ)する!
BRATATATATAT――砲声は無数。降り注ぐさまはまさに弾丸の雨そのもの。
実体弾とエネルギー弾、種類を問わず兵装がマズルフラッシュをもたらし、
されどフランチェスカは一瞬たりとも動きを止めず空を華麗に舞う。
不可視の人魂がそれを絡め取ろうとするが、無駄だ。
「そう簡単に捉えられませんわよ!」
弾幕が、仮にそれをくぐり抜けたとしても変幻自在の飛行軌道が。
骨邪竜の苛立ちと咆哮をあざ笑うかのように、人魂を消し去り躱すゆえに。
『ちぃ……!!』
ドゥートは歯噛みした。空からはちょこざいな羽虫の如き天敵。
そちらへの迎撃に注意を割かれ、十分な数の悪霊を招来することが出来ない。
然り。悪霊を将来し使役するには、ドゥート自身の極度集中が必要となる。
片方にかかずらえばもう一方が損なわれる。いかにオブリビオンとて。
「注意散漫ですね」
その隙を逃すユイではない。ゆえにフランチェスカに先陣を任せた。
全機能を共鳴、さらに亜空間の保管庫に接続し、自らの機能と能力を強化。
一瞬にして、世界が原子レベルにまで解像度を増し圧倒的情報が流れ込む。
滂沱の濁流。舞い散る砂の一片すらも摘み取れるような主観的静止時間。
「捕食兵装、ロックオン――槍剣圧縮精製――」
あの時のようにはもうならない。すべては一意専心のごとく。
ただ敵を見、成すべきことを、為すべきように、ただ遂行するのみ。
忘我ではいけない。さりとて心乱れて激情に絡め取られてもいけない。
黒く煮えたぎるような邪影が、その残滓がつかの間視界に重なる。
「――食らいつけ……ッ!!」
過去を乗り越えるかのごとく。幻影を切り裂き、ユイは走った!
ピピピピピ――多重照準マーカーが視界に投影・さらに狙いを補正し、
必中必滅の概念を付与した槍剣が、獣じみた大顎を開く!!
『龍を食ろうてか、愚か者め!!』
ぞわり――地上から湧き上がる十の悪霊! だがユイは止まらぬ!
「今度はわたしを無視ですの? 悠長ですわね!」
BRATATATATAT!! 手空きとなったフランチェスカによる対地火砲支援だ!
さらに彼女は光焔を戦槌めいた形に織り上げ、燃え上がらせ、
捨て身とも言える超急速直滑降で、ユイと上下平行にインファイトへ!
『バカな!!』
「死霊や瘴気も諸共に灼き穿ち、討ち祓いませ……!!」
悪霊の残滓を払い、燃え上がる光焔が龍の守りを砕き、削ぎ落とした。
そこへ食らいつく槍剣。飽和攻撃と捕食兵装の追撃はまったく同時だ!
『AAAARRRRGGGGHHHH!!』
己を灼かれ、砕かれ、喰らわれる怒りと恐怖に邪竜は吠える!
ユイの視線と龍のそれが交錯し――片目を、擲たれた槍が貫いた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
露木・鬼燈
竜がいるならやることはひとつ。
竜は殺す!
なんかイメージしてた竜とは違うけど…
戦いの過程が違うだけで結果は同じ。
やってやるっぽい!
見た目からしてアンデット系統の邪竜。
聖なる力が効きそうだよね。
ここは化身鎧装<白鐵>が有効と見たのです。
呪詛を破魔の力に変換し、外骨格で増幅。
さらに騎士盾には浄化のルーン。
不浄は祓えばいい。
準備は完了、騎士盾を掲げて突撃!
聖騎士の戦いを見せてやるっぽい。
攻撃をしっかり見切り、最小限の動きで回避。
無理なものは魔剣で斬り祓ったり、騎士盾で受け流したり。
相手は肉ではなく骨だから、きっと斬撃より打撃が有効なはず。
魔剣を戦槌形態に移行。
破魔の力を乗せて全力で叩き付けるっぽい!
●屠竜
ドラゴンがいるならば、露木・鬼燈がなすことは一つである。
群龍大陸だのクラウドオベリスクだの、もちろん目的は忘れていない。
ようはこれは、鬼燈がひとりの"竜喰"たるがために必要な性分と言っていい。
「龍は! 殺す! っぽい!!」
片目を槍で串刺しにされた、骨邪竜ドゥート。
残された隻眼で彼奴が見たのは、笑いすらして己に接敵する武芸者の姿だった。
いかに彼が龍を殺し、これを食らい、力となす一族の生まれであるとはいえ、
すなわち龍にとって銀の弾丸足り得るわけではない。
それは"結果"だ。彼が殺し、殺し、殺してきたから生まれたもの。
過程はあくまで鬼燈が、鬼燈として、鍛えた技と術理によって経るものであり、
その点に於いて、彼はなんら恐れも躊躇も抱くような者ではない。
『ちょこざいなァア……!!』
「それはこっちのセリフっぽい? 化身鎧装――白鐵(しろがね)ッ!」
瞬時に印を結んだ鬼燈の口訣により、呪詛は破魔の光に変換され鎧となる。
虚空から現れた盾の表面には、プラチナめいて燃える炎がルーンを描いた。
これぞ化身忍者にして黒騎士たる鬼燈の纏う、魔を退ける純白の外骨格。
チャージの勢いを殺さぬまま、跳躍した白き鎧装が地面を砕き着地する。
巻き上がる砂塵を切り裂き、盾を構えた白影が二倍近い速度で突貫した!
「邪竜っていうなら、聖なる力で払ってやるです!」
『ほざけ……! ここは、何人たりとも、けして通さぬ!!』
龍が吠えた。しかし彼奴とて、鎧装のそれがただならぬことは看破済み。
故に悪霊でも人魂でもなく、ドゥートは翼膜で大気を力強く叩き、
凄まじい突風でもって、まっすぐに来たる敵を吹き飛ばそうとする!
「そんなそよ風、いまの僕には効かないっぽい~!」
だがドゥートの狙いはこのあとにある。つまり舞い上がる竜巻!
『砂塵に飲まれて、砕けて消えよ……!!』
ごうごうと竜巻が鬼燈を飲み込む。
いかな鎧装といえど、ミキサーめいて乱舞する砂粒の中では、
まさに削られひき肉となる運命か……否! 竜巻が、真っ二つに斬れた!
『何ッ!?』
「今のは生身だったら危なかったかも、けど言ったでしょ?」
がちん。魔剣が即座にウォーハンマー形態に変形し、大地を砕く。
それを引きずるように振り回しながら、白き聖騎士が疾駆した。
悪霊を――否。遅い。
では人魂を――無駄だ。間に合わぬ。
ならばどうする。どうすればいい、この巨躯をいかにして、
「破魔の力ァ」
――どうにも、出来ないのか。
「全力でぇ、叩きつけるっぽぉーい!!」
ゴォン――ッッ!!
満身の膂力を込めた殴打が、逆鱗を砕き……巨体を! もんどり打たせた!
成功
🔵🔵🔴
安喰・八束
こいつぁ骨が折れそうだ。
……折れて呉れりゃいいんだがなあ。
砂漠になっちまったのは無残だが、見晴らしがいいのは有難い。
千里眼射ちの届く際まで退いて、突っ込む若者を後方から補佐する。(援護射撃)
狙撃は任せな。(スナイパー)
竜巻に巻き込まれないよう、突風を呼ぶ翼の動きには注意しよう。
女房のお迎え以外でくたばるのは御免だからな。
ヤキモチ妬かれちまう。
オリヴィア・ローゼンタール
自然豊かなこの世界を、私の世界(ダークセイヴァー)のように荒廃させるわけには参りません
【神聖竜王の召喚】で白き翼の竜王を召喚
鋭い爪や牙による肉弾戦で悪霊の軍勢を【なぎ払う】
幾度かドラゴンとは対峙してきましたが……やはりこの手の邪竜は強敵ですね
ならばドラゴンにはドラゴンで対抗しましょう
【属性攻撃】【破魔】で槍に聖なる炎を纏わせる
【怪力】を以って聖槍を振るい、悪霊を浄化
聖なる炎の【オーラ防御】【呪詛耐性】で攻撃を寄せ付けない
槍よ、聖なる炎を纏え――邪竜や悪霊には覿面でしょう
邪竜への射線が通れば竜王の破壊の吐息を放つ(全力魔法)
今です! 破壊の吐息で邪悪を打ち砕け!
パラス・アテナ
『群龍大陸』のオベリスク、ね
オブリビオン・フォーミュラの喉元に銃を突きつけるためにも、まずはオベリスクとやらを破壊しようじゃないか
他の猟兵達と連携して、敵に最大のダメージを与えるように動くよ
アタシがじゃない。猟兵全体でだ
両手の銃を連射モードに切り替えて、命中重視の【一斉射撃】で【魂魄操作】を迎撃
その隙に味方猟兵を攻撃させる
2回攻撃と援護射撃、鎧無視攻撃で味方が能力を発揮できる状況を作り出す
好機と見れば攻撃に参加
銃弾を敵の一点に集中
傷口を広げるように銃弾を叩き込む
敵の攻撃は見切りと第六感で回避
食らったら盾受けで軽減しつつ激痛耐性で凌ごうか
呪詛耐性もある。できる限り立って、ダメージを積み重ねるよ
ギルバート・グレイウルフ
アドリブ&連携大歓迎
噂のオベリスクとやらを拝見するために来てみたが、まずはホネホネドラゴン退治からスタートか。いやはや、まさに骨が折れるってやつだな。
あれまぁ、こんなに真っ暗だと視界もわりぃな。
どれ、まずは一服して様子見を……森の中で煙草はやっぱりまずいかね?ドラゴン関係なく森林火災とか、すげぇ恨まれそうだわ。あぶねー。
うぇっぷ、砂が口に入りやがった。なんつー風だよ、おぃ。
っとと、【忍び寄る死の気配】で致命的な飛来物は避けてっと。
牽制で何発か撃ち込んでみて、近寄れそうならばっさりいってみますかね。
……なんだかすげぇ固そうだし、最悪有効打は血気盛んな若者に任せますか。
●二殺
大地に伏した骨の邪竜は、ひときわ強く、禍々しい咆哮をあげた。
大気が揺れ、遠くの木々がざわめき衝撃波は黒雲を波打たせるほどだ。
そして見よ。一度は停止したはずの砂漠化が再び、いやすさまじい速度で進行。 枯れ果てた砂漠の砂塵がぶわりと舞い上がり、吸い上げられた大地の精髄は、
以て骨龍ドゥートの傷を癒やし埋めるためのいびつな活力となる!
「させませんッ!!」
これに対し、真っ先に動いたのはオリヴィア・ローゼンタールである。
「天来せよ、輝く翼の竜の王――!!」
口訣とともに、黒雲が一転にわかに内側からごろごろと輝き、
そして裡なる――否、黒雲よりもなお遥けき高みから落ちた天雷により、
預言者の奇跡めいて切り裂かれ……稲妻を纏い、白き翼の竜王が降臨する!
『かあっ! 蜥蜴風情を喚ばうなど、我に対する愚弄なり!!』
「門番に堕した邪竜が、よくもほざきますね――竜王よ!」
オリヴィアの祈りめいた声を聞き届け、白き翼の竜王はばさりと空を舞う。
そして重量と引力を味方につけた、強烈な滑空攻撃!
砂塵をまるごと薙ぎ払い、生じた悪霊の軍勢をバッサリと切り裂くのだ!
「く……やはり、この手の邪竜は……!」
オリヴィアは歯噛みする。竜王はけして卑小な存在などではない。
その爪牙は悪しきものを切り裂く力に漲っている。だが、悪霊の軍勢を見よ。
十の悪霊はその武器をもって爪を弾き、あるいは切り裂かれた端から再生。
骨邪龍自身はその精製と制御に極度集中しているゆえ追い打ちはないが、
竜王一体のみで、この軍勢を切り抜けることは極めて難しいと見えた。
「かくなる上は、私自身も――!」
破邪の聖槍を振るい、オリヴィアは無謀な単騎特攻を試みる――しかし!
BLAMBLAMBLAM! BRATATATATATATAT!!
これ幸いと禍々しい武器を振り上げ、オリヴィアを迎え撃たんとした悪霊ども。
そのいびつにして朧なるシルエットを、突然の銃声が切り裂き、薙いだ!
『何者だ!?』
「お決まりのセリフを吐いてくれるじゃあないかね」
年季の刻まれた皺の奥、猛禽類じみた鋭い双眸がぎらりと敵を睨めつける。
びゅう、と乾いた風が一陣吹き抜けて、白いコートをばさばさとはためかせた。
「そもそもね、アタシらはアンタになんざ用はないのさ」
初老を越えた老婆でありながら、そう言い放つパラス・アテナは健啖そのもの。
しゃんと伸びた背なは、邪竜の威圧感にもいささかもたわみはしない。
「アンタをさっさと滅ぼして、こっちはオベリスクとやらをブチ壊したいんだよ。
スイスチーズみたいに穴ぼこだらけになりたくなきゃ、とっとと海へお還り!」
『たかが老いぼれひとりが、賢しらなァ!!』
紫焔じみた、無数の人魂がぽつぽつと浮かび上がりパラスめがけ飛ぶ!
「危な――」
「莫迦をお云いでないよ!!」
思わずかばいに身を翻しかけたオリヴィアに、パラスが喝を飛ばす。
「アタシゃアンタを送り出すために殿買って出るってんだ。
さっさとお行き、心配いらないよ。これでもアタシゃ――」
BLAMBLAMBLAM!! 正確無比の二挺拳銃が、熱線が人魂を迎撃し墜とす!
「この通り目はぱっちり開いてんだ。そらどうした!」
「――あ、ありがとうございます!」
オリヴィアは、半ば老婆の意気に気圧される形で再び駆け出した。
『ここは! 通さぬ!! 何人たりとも!!』
悪霊が消えたことで己へと襲いかかる竜王を吹き飛ばし、骨邪竜が吠える。
ばさり、ばさり――ばさりばさり! 翼膜が大気を歪ませかき回す!
それは立っているどころか身を護るのも難しい突風となりオリヴィアを――!
――BLAMN!!
「これは」
「アタシじゃないよ!」
瞠目したオリヴィアが誰何するより先に、パラスは怒声で応えた。
「言っただろ、"心配はいらない"ってね」
BLAMBLAMBLAM!! 一斉射撃を続けながら、パラスは不敵に笑った。
「アンタみたいな向こう見ずな若者を送り出したがるのは、他にもいるのさ」
……然り。戦場よりおよそ100メートル後方!
型落ち品と呼ぶのもおこがましい古びた猟銃を構える、人狼の男がひとり。
年頃は三十――否、おそらくは初老、四十を数えたばかりの頃か。
口元にはほうれい線がしっかりと刻まれ、眉間には深い苦悩と悲嘆のあと。
灰色の瞳はわずかに濁り、己の最期を待ち望む死刑囚めいていた。
「ハ――こいつぁ骨が折れる、なんて言ってられねえか」
BLAMN。安喰・八束は皮肉をひとりごちながら再びスコープを覗き込む。
翼膜をはためかせようとする気配が見えた。そこを狙い撃つ精密な射撃。
いかに竜巻を呼ぶ強壮なはばたきとて、そもそも翼をはためかせられなければ、
ようは水浴びをする無様な鳥のようなものだ。与するには容易い。
BLAMN。八束はただ冷静に、冷徹に、ドラゴンの動きを狙撃によって制する。
……ふと、スコープ越しに、一瞬だけシスター服の若者が振り返った。
オリヴィアは――たしかに、照準越しに八束の視線と己のそれを交錯させた。
「……たく、見た目通りお人好しなこったねえ」
"ありがとうございます"と、口元が動いたのがわかった。
八束は苦笑し、なだめるように"古女房"の銃身(バレル)を撫でてやる。
「安心しろよ。あんなトカゲ野郎にぶっ殺されるつもりもねえし、
いくら若くて綺麗だからって、他の女に目移りするこたねえからよ――」
BLAMN。八束はただ、若者を送り出すために冷静にトリガを引き続ける。
ただ一人遺された己の命に、使うべき意味がまだあるはずだと信じて。
BLAMN。道を切り開く銃弾は、どこか祈りのようにも似ていた。
『ええい、鬱陶しい!! 邪魔だァ!!』
だがここで、いよいよ妨害に堪忍袋の尾が切れたドゥートが吠えた。
二重の銃撃による妨害を振り切るように、被弾を恐れず翼を広げ、はためかす!
ごおおう――!! 何もかもを吹き飛ばすかのような突風!!
「きゃ……っ!」
オリヴィアは咄嗟に、己が突風にさらわれないよう踏みとどまった。
だが敵の攻撃はそれだけではないのだ。風は円錐状に吹く竜巻となるのだから!
「チッ、まずいな」
八束は舌打ちし、それ以上の追撃を防ごうとドゥートを集中狙撃する。
だが風は生まれた。ごうごうという竜巻が、砂を巻き上げ全てを薙ぎ払う……!
「うぇっぷ、ぺっぺっ! なんつー風だよおい!」
……声がした? "竜巻の内側"から、野卑な男の声が、たしかにした。
「ったく、一服して様子見すらさせてくれねえってか? やんなるねぇ」
ざん――っ!! 竜巻を内側から切り裂き、猟兵がひとり、現れた!
『なんだと!?』
「おいおい、そう目くじら立てねえでくれよ」
火のついてないモクを銜えたまま、ギルバート・グレイウルフは肩をすくめる。
竜巻を切り裂くという常識外の芸当をなしとげたのは、無銘の刀に過ぎぬ。
ただ頑丈に。されどギルバートが、これまでの経験を元に未来を視たとき。
それはつまり、飛来物=砂を避ける――竜巻の間隙をも見抜く慧眼となる!
『おのれ――』
「おっと、悪いがもうそいつは勘弁だ!」
BLAM! BLAM! グロックカスタムが機先を制するように火を吹いた!
翼膜を撃ち抜かれ、バランスを失ったドゥートの巨体が蹈鞴を踏む。
「いやー、ありゃ硬そうだ。ばっさり行くのは厳しそうだなあ」
「あ、あの――」
己を巻き込むはずの竜巻を切り裂いた男に、オリヴィアは呆然としている。
ギルバートはそんな彼女を茶目っ気たっぷりの笑みで見返して、顎でしゃくる。
「ほれ。早くしないと、あの鬼教官みたいなバアさんがどやすぜ」
「……はいっ!!」
オリヴィアは駆け出す。ギルバートは刀を肩に担ぎ、一仕事終えたとばかりに、
「何やってんだい! アンタも突っ込むんだよ!!」
「あぁ!? おいおいあのお嬢ちゃんだけでいいだろ!」
「アタシら全員で殺《ト》るんだよ、アイツはね!」
ギルバートは、駆け込んできたパラスの怒声に頭を振った。
ふとみやった先、苦笑したスナイパーと目が合い、互いに肩をすくめる。
「仕方ねえなあ」
チャキ――BLAMN! BLAMBLAM! BRATATATATATAT!!
猟銃が、拳銃が、そして自動小銃と熱線銃が!
駆け抜けるオリヴィアを追って、龍を貫き、砲口をあげるのだ!
『お、の、れ、が……!!』
「邪竜よ。これ以上、自然豊かなこの世界を闇で覆わせはしません!」
聖なる炎を燃え上がらせるオリヴィアに、人魂も悪霊ももはや意味をなさない。
ならばと翼を広げれば、叩き込まれる銃雨がこの迂闊を戒めるのだ。
「はぁあっ!!」
ごおう! 聖槍の焔が、壁めいて立ちはだかった瘴気と魂を切り裂く!
間隙! パラス、八束、そしてギルバートの目がギラリと輝いた!
狙いすました一斉射撃――そして雄叫びをあげる白き翼の竜王!
「今です! 破壊の吐息よ、弾丸よ! 邪悪を撃ち砕け――ッ!!」
破滅の吐息が、弾丸の雨とともに骨邪竜の鱗を砕き、削ぎ、滅ぼしていく。
『ま、だ、だぁアアアアア……!!』
長く尾を引く悲鳴。第一の戦い、二度目の滅びをへて邪竜はなおも立つか……!
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
須藤・莉亜
【メンカル・プルモーサ(f08301)】と。
「霧ドラゴンの次は骨ドラゴンかぁ。うん、面白い場所だねぇ。」
黒竜の血はもう見たくないけど、骨ドラゴンは別腹。悪魔もね。
UCで転移からの、血を捧げて強化したLadyで攻撃。
悪魔の見えざる手には奇剣と血飲み子を持たせて攻撃してもらう。
一撃加えたら即座に転移して、他の場所から攻撃していく。
悪霊の動きを【見切り】、転移するポイントを見つけていこう。
ヤバそうならメンカルの後ろに転移して、盾の防御の恩恵に預かろうかな?
後は敵さんに噛みついて【吸血】して【生命力吸収】…髄液なるものがあるって僕聞いたけど…。
「僕のことばっか気にしてると、こわーい魔女が来ちゃうよ?」
メンカル・プルモーサ
【須藤・莉亜(f00277)】と共に参加。
…オベリスクが群龍大陸の守りだとすると、群龍大陸の竜は魔神も従えるのかな…
フェアリーの村も心配だしさっさと倒さないとね……
……【尽きる事なき暴食の大火】を足下に放って…そのまま地中(砂中)を延焼させつつドゥートに向けて前進…ドゥートの真下に来たら地上から吹き上がって攻撃を仕掛ける……
…その間、箒にのって空中戦…機動力を生かして回避しつつ…●砂塵防壁の突風は【空より降りたる静謐の魔剣】によって幅広の剣を並べて盾にすることで防御…ドゥートの上を取って須藤と一緒に気を惹くことで地中を進む炎から気を反らす…
……こわーい魔女の炎だよ…たーんとめしあがれ……
●魔女と血啜り
かつてこの地――正しくはこの先にある地下迷宮には、龍がいた。
否、骨邪竜ドゥートではない。あれとはまた別の、しかし強大なドラゴンだ。
そのドラゴンは"森の末裔"と呼ばれたフェアリーたちを執拗に狙い、
地下深くから徐々に森を変成させ、霧の軍勢で大森林の平穏を奪ったのである。
だが彼奴ですら、森そのものを損なうことはなかった。捻じ曲げたとしても。
「……それが、このざま、か」
ざり、と砂漠地帯を踏みしめ、メンカル・プルモーサは僅かに嘆息した。
かつてこの地の自然に挑んだ身として、魔女ならば思うことは少なくない。
「ぴゃっ!? あなたたちも来ていたでするか!」
そこへ現れたのは、まさに"森の末裔"の長となった少女フリム。
かつての折は、人見知りなところなどがあったためにメンカルを恐れた彼女。
「……よかった。村は、皆は無事?」
「はいでする! で、でもこのままだと、わたし達の森が……っ」
「はいはい、大丈夫ですよーっと」
しょげかけたフリムを、横合いからぬっと出てきた須藤・莉亜が宥める。
やることはシンプルだ。あの龍を、三度再生したあれを、滅ぼす。
「霧ドラゴンの次は骨ドラゴンかぁ。ここ、ドラゴンのメッカなのかな?」
「クラウドオベリスクがあるし、あながち冗談に聞こえないかも……」
ががーん! みたいな顔をしているフリム。ごめんごめんと気怠げに謝る莉亜。
「まあさぁ、何が出てきてもぶっ叩けばいいんだし、さっさとやっちゃおうよ」
「……ん、そうだね」
ふたりが彼奴を恐れることはない。龍退治なら飽きるほどやったのだ。
霧の龍も、忌まわしき黒龍も。しぶとい骨の邪竜ごとき、何するものぞ!
『がっ!?』
戦端は突然に開かれた。
一瞬にしてドゥートの背後に現れた莉亜が、躊躇なくトリガを引いたのだ。
BBLLAAMMNN! 血の高揚を得た対物ライフルがすさまじい砲声をあげる!
「うーん、骨なだけあって脆いね。けど再生速度がすごいや」
ガシャコン! 冷静にリロードをする莉亜、しかし二射目は叶わず。
うぞうぞと虫のように現れ蔓延る十の悪霊! これを不可視の悪魔の腕が切り裂く。
莉亜はちらりとドゥートの死角を睨む。思考のトリガはそれで終わる。
禍々しい悪霊武器に切り裂かれると見えた体は一瞬でそちらへ転移し、BLAMN!!
「あれあれぇ、やられ放題やられちゃう感じー?」
『お、のれが……ッ!!』
龍は屈辱と怒りに震える。莉亜はあくまで気怠げに敵を睨むのみ。
目は引きつけた魔女の仕込みは――ああ、どうやら十分らしい。
「ほら、上」
『ぬッ!?』
見よ。箒に乗り、軽やかに頭上を飛ぶメンカルの姿を!
「頭の上がお留守……だね。ふっ飛ばしてあげようか……?」
『嘗めた口を聞くなァッ!!』
ごおうっ!! 翼がはためき、突風でメンカルを切り裂こうとする!
だがメンカルは巧みな空中機動でこれを回避し、続く竜巻も同様に迂回。
さらに静謐の魔剣が回遊魚めいてメンカルの周囲を飛び交い、
さながらファランクス陣形を組んだ兵隊のように盾となり砂を阻む!
「で、あっちに注意を惹かれてると」
BLAMN!! 対物ライフルの銃撃、さらに見えざる手の猛撃!
「ほらね、僕のほうにやられちゃうわけだ」
『貴様ら……!!』
莉亜、そしてメンカルの攻撃は、ヒットアンドアウェイを極めていた。
決して敵の間合いに踏み込むことなく、惑わすように挑発する。
……ドゥートがもう少し冷静に状況を俯瞰すれば、
あるいは莉亜とメンカルの狙いに気づけたかもしれない。
メンカルはなぜ、強大な術式を叩き込むことなくドゥートを挑発したのか。
莉亜はなぜ、一撃を叩き込むごとに転移を繰り返し敵の注意を惹いたのか?
『があっ!!』
「んー……髄液ってのがあると聞いたけど、ビミョーだなあ」
首筋に噛み付いて吸血をした莉亜は、口元を拭いつつ顔を顰める。
怒髪天を衝いたドゥートが、いよいよ己の爪で彼を引き裂こうとする。が!
「――ところで、僕に気を取られてばかりだと、こわーい魔女が来ちゃうよ?」
『空を飛ぶだけの虫なぞ、恐るるに――』
「"空を飛ぶだけ"なら……ね」
メンカルがそこにいた。莉亜が彼女の箒を目標に転移し空中に離脱する。
ドゥートは気づいた。あの女――魔女は。はじめ、何をしていた?
なぜ莉亜の攻撃との間にタイムラグがあった。何を"仕込んでいた"!?
『貴様――』
「……こわーい魔女の炎だよ」
その時、砂が――砂漠が砕け、マグマめいて白き炎が燃え上がった。
尽きる事なき暴食の大火(グラトニー・フレイム)。
渇き、飢えた砂漠すらも薪として燃え上がる超常の炎!
「たーんと、めしあがれ……」
「おおー、さすが骨。よく燃えるー」
白いトーチじみて、邪竜が苦悶し、炎に苛まれ続ける……!!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
霑国・永一
隠された群龍大陸には何があるんだろうなぁ。金になるお宝とかあるだろうか。いやぁワクワクして来るよ。
とはいえ、初っ端からかなり強いのが出迎えるとは苦労が目に見えるなぁ。
狂気の速刃を発動。
敵の突風から風速を奪い、自身に纏わせて高速移動、死角に移動しつつドゥートを刻んで回る。
砂塵の竜巻は狂気の速刃を発動してるとはいえ、一応直撃自体はしないようにしつつ、掠め取るように風速は奪う。
トドメ狙ってもいいけど、時間はかかりそうだから次に繋げるよう脚や翼を狙うように刻む。
「ウィンドゼファーを思い出すなぁこの荒れ狂う風。でもあっちの方が技が洗練されてる気がするよ。ドゥートは本体の速度が向こうより遅いしねぇ」
●掠め取るもの
緊迫、あるいは荒廃対する憤りが多くの猟兵を包んでいるなか、
その男――霑国・永一は、嫌味にも思える微笑を浮かべていた。
愉快だ。いや、この状況そのものではない。それは"どうでもいい"。
この先に広がるという地下迷宮――否、それが隠すもの。
すなわち群龍大陸。何がある。何が隠されている。考えれば考えるほど、
ただでさえ人を喰ったような笑みが浮かび上がるのをこらえずにはいられない。
(金になるお宝か、いやそれとも別の価値ある何かか――)
……どんなものが"盗める"のか。ああ、実に、実に楽しみだ。
そんな永一の思考を、骨邪竜の禍々しい咆哮が現実に引き戻した。
「ああ、そういやいたっけ」
どうやらこいつも、滅ぼしたとしてしぶとく再来し立ちはだかるつもりらしい。
しぶといのは手がかかる。苦労は好ましくない……が。
「いいね、ならどこまで盗めるか、試してみよう」
――そういう意味では、やはり笑わずにはいられない。
『何人たりともここは通さぬ、近づけぬッ!!』
邪竜が吠え、両翼を目一杯左右に広げて敵を威嚇する。
ばさり、ばさり――巨体を浮かび上がらせるほどの猛烈な羽ばたき!
すさまじい突風は砂を巻き上げ、木々をなぎ払い、猟兵たちも皆耐えるのに精一杯だ。
そこで永一は、まるで思い出したかのようにダガーを一振りした。
すると、彼は"風よりも疾くなり、突風を置いて駆け抜けた"。
『何?』
「うん、いいな。思っていたよりずっといい」
ドゥートの背中に、永一がいた。くつろいだ顔で笑っている。
「だからさ、もっと盗ませてくれよ」
鱗をバターのように軽々と切り裂くダガー。何たる切れ味か。
否である。"それほどまでに疾い"のだ。真空を生み出してしまうほどに。
『なん、だ、貴様は……!?』
「ただの盗人(シーフ)だよ、気にしないでくれ」
ドゥートはたまらず舞い上がり、きりもみ回転して永一を振り落とそうとする。
それよりも先に彼は龍の体を蹴り、やはり生み出された突風を『斬った』。
そして速度は彼のものとなる。ごうう――烈風は永一が生み出した残滓だ。
『なんだ、その、早さは!? それが貴様のユーベルコードか!?』
「いや? もとはといえばドゥートのものさ」
盗み斬る狂気の速刃(スチールスピード)。
風を斬れば風の。龍を斬れば龍の。その刃は速度そのものを掠め取る。
そして己のものとし、そのたびに彼は流星めいた速度で駆け抜けるのだ。
早さはすなわち切れ味であり、斬撃はさらなる速度を生む。
「ウィンドゼファーを思い出すなあ! この荒れ狂う風!」
悪あがきめいて羽ばたき狂うドゥートを切り刻みながら、永一は笑う。
「ああ、けど」
ざくり。剣閃はもはや数十メートル離れた木々をも断ち切るほどに。
「あっちのほうが、技が洗練されてた気がするよ――だからドゥート、お前のは」
ざくり。えぐれ消失した欠損部から呪われた血が噴き出す。
「質で言うと、"最悪"だ」
浮かび上がる笑みは、獲物を嘲る畜生のそれだった。
成功
🔵🔵🔴
草野・千秋
郡龍大陸にクラウドオベリスクですか
なんとも想像し難い事態ですね
地下迷宮といえばファンタジーの定番ですが
浮かれてられない案件のようで
気を引き締めてかからなければいけませんね
ああ、フェアリーの長さんが悲しみ惑われている
一刻も早くお救いします!
(マシンベルトに手をかけ)
変身!
断罪戦士ダムナーティオーいざ参る!
戦闘態勢に入ると同時にUCで防御力をアップ
僕は僕を信じてくれた仲間のために!
それがヒーローの生き様だ
仲間を盾受け、かばう
攻撃する場合は2回攻撃と怪力
それに武器改造で炎属性攻撃を付与し
技能を駆使し攻撃
この炎で浄めてみせる!
いくぞみんな!
蛇塚・レモン
連携アドリブ◎
技能はフル活用
【WIZ】
竜巻や悪霊が邪魔で本体まで近付けない?
逆に考えるんだよっ!
『近付けなくたっていい、自滅させればね』って!
という事で、蛇神様、お願いっ!
ユーベルコードであたいを含めた猟兵の前に蛇神様を盾として配置
悪霊や武器や竜巻を蛇神様でガードするよ!
蛇神様が被ったダメージは、骨邪竜『ドゥート』本体へ反射っ!
つまり、戦えない本体へ向けて、悪霊や武器や竜巻が一気に殺到っ!
傷を受ければ敵のユーベルコードは解除だよっ!
反転攻勢っ!
蛇腹剣クサナギを怪力任せに振り回して翼を集中攻撃っ!
念動力で空を飛んで立体機動で敵を翻弄するよっ!
フィニッシュはオーラガンの霊弾で胴部を魂魄ごと貫くっ!
カイム・クローバー
クラウドオベリスク?最近あちこちでその名前を聞いたことあんなぁ。ま、興味本位に覗きに行ってみるのも悪くねぇか。
【SPD】
こりゃまた、デケェのが来やがった。番犬ならぬ番竜ってトコか?こうデカけりゃ、食費に苦労しそうだな。俺には飼えねぇわ。
【二回攻撃】【なぎ払い】【一斉発射】【援護射撃】で様子見しながら機を見て、接近。足元に張り付くぜ。突風で竜巻を起こすんなら足元は安全だろ?正面じゃなく、左右、死角なら尚、完璧だぜ。
攻撃は【残像】【第六感】で回避。
接近後は剣に切り替えて【二回攻撃】【なぎ払い】【串刺し】併用でUC。
デケェだけあってタフみてーだが、猟兵の参加者多いみてぇだし、何とかなるだろ。
●立ち向かうもの、呪うもの、切り裂くもの
群龍大陸、そしてそれを覆い隠すというクラウドオベリスク。
動き始めた事態への懸念や興味、湧き上がる感情はいくつもある。
……いくつも、ある。だがそれらは、今は、いい。忘れてしまおう。
「こんな森を侵略し、可憐なフェアリーの皆さんを悲しませるとは……!」
草野・千秋は、己の義憤と正義の心に怒りという名の薪を焚べた。
一刻も早く、かの邪竜を――邪悪を討ち滅ぼし、元凶を断つべし!
「変身……ッ!!」
一瞬の輝きがその身を包み込み、やがて鎧うのは雷光の如き蒼銀の装甲。
「断罪戦士、ダムナーティオー! いざ、参るッ!!」
ぎらりと装甲が重圧を増し、鏡めいて外骨格がきらりと周囲を映す。
それは外界からのありとあらゆる衝撃・呪詛に対する超防御特化形態だ。
『ひとりで立ち向かうというのか? ちょこざいな!』
「それがヒーローの生き様だ。僕は負けない、負けられないッ!」
嗤笑する邪竜へ吠え返し、千秋――否、ダムナーティオーは突き進む。
不可視の紫炎が飛礫めいて飛びかかり、その装甲を打ち砕かんと阻むのだ!
「このくらいで……ッ!!」
おお、だがダムナーティオ―よ、それは無謀に近い行いだ!
邪悪に立ち向かうヒーローが倒れたら、誰が次を担うというのか!?
「はいはい、そこまでそこまで~っ!!」
その時、きらりと何かが――鏡盾が――輝き、暴威に立ちはだかった。
見よ。ダムナーティオ―をかばうように現れた巨大な蛇神を!
「レモンさん!?」
「そのとーりっ! あたい"たち"にまっかせなさ~い!」
ダムナーティオ―……千秋にとってよく知る少女、蛇塚・レモンは、
いつもどおりの明るさでにかっと笑い、"蛇神様"にさらなる魔力を込めた。
不可視の人魂は立ちはだかる盾となった蛇神に物理的に遮られ、
飛礫めいて飛来したそれらは、まさに鏡写しに反射して邪竜へと向かう!
『何ぃ……!?』
「ハッ! こりゃあいいな、全自動ミラーシールドじゃねえか!」
蛇神の守りをかいくぐろうとした人魂をざくりと切り裂く、黒銀の大剣。
それを軽々と担ぎ振るい、そして不敵に笑う男はカイム・クローバーだ!
「番犬ならぬ番竜ってトコか? こりゃまた、デケェのが来たもんだ。
あのデカさじゃ俺には飼えねぇな、家で自滅されても困るしよ」
「あははは! カイムさんの冗談、おっもしろいねぇ~!」
レモンはけらけらと楽しそうに笑いつつ、千秋の方を見る。
「ってわけでさ、やるなら一緒にやったほうがうまくいくって!」
「レモンさん……」
「ヒーローだからって、守られちゃいけない理由はないんじゃない?」
にぱ、とした少女の表情に、千秋は思わず笑みをほころばせた。
ちらりと、同じように駆けつけたカイムのほうへ視線をやる。
「あいにく俺は便利屋だし、物見遊山みてぇなもんでここへ来たが――」
褐色の男は不敵に――されど嘲りや侮蔑の色など一切ない、爽やかな笑み。
「いいんじゃねぇの? そのヒーローってやつ。悪くないと思うぜ。
だからよ、どうせなら力合わせて、ラクにこなしてぇとこだな!」
「……ええ、そうですね!」
千秋が纏う鎧、握る拳、みなぎる力は、己を信じてくれた者のために。
肩を並べる仲間のために。それこそが、正義を燃え上がらせる原動力なのだから!
『かぁああ……ッ! ええい、邪魔だ、邪魔だァッ!!』
怒りに満ちた雄叫びに応じ、砂漠地帯から湧き上がる悪霊の軍勢。
だが蛇神の盾はこれを防ぐ。決して後ろへ通しはしない。
そして悪霊武器による斬撃は、やはり呪詛となって彼奴を襲うのだ!
「近付けなくたっていい、自滅させればおっけーおっけー!」
「――それで終わりとは、さすがにアッチもおろしちゃくれねぇみたいだな!」
傷を受けた骨邪竜は怒りに満ちた苦悶の絶叫をあげる。
だがレモンが一転攻勢にかかろうとした、その一瞬の間隙!
それを狙い、邪竜は翼を開き……思い切り大気を打ち、はばたいたのだ!
「おわ~っ!?」
「させるかッ!!」
これまでかばわれていた千秋が、率先して前に出てふたりの盾となる。
装甲が切り裂かれ砕けようとも、もはやヒーローが下がることはない!
「カイムさん、先を頼みます!」
「オーケー、その依頼、Black jackが引き受けたぜ!」
風が途切れた一瞬、カイムは色付きの風めいた速度で疾駆し間合いを詰める。
『無駄だ、何もかも飲み込んでくれるわ……ぐおっ!?』
さらに翼をはためかせ竜巻を起こそうとしたドゥートは、驚愕にたじろいだ。
はばたこうとした翼が、鋭利な蛇腹剣によって切り裂かれているからだ!
「あいにくだけど、もうさっきみたいな手は食わないよっ!」
レモンだ! 念動力で浮かび上がり、変幻自在の立体機動で敵を幻惑!
砂の竜巻が生み出された頃には、カイムはすでに"そこ"に潜り込んでいる。
「あんた、たいしたデカブツだよ。何食えばそうなるんだ?」
『!? どこだ、矮小なる者めが――』
「……ここだよ、木偶の坊ッ!」
斬撃! 然り、カイムが潜り込んでいたのは邪竜の真下だ!
竜巻は下から上に巻き上がるもの。ゆえに邪竜本体が安全圏となる。
突風から竜巻へと移るその一瞬、レモンと千秋がこれを生み出したのだ!
「さぁ、いっちょう踊るとするか!」
『踏み潰してくれるわァ!!』
「それはさせないと――」
「……あたいたちが言ってんでしょーがっ!」
千秋の燃える拳が、片足をあげたドゥートの喉元を叩き砕く!
さらにレモンの斬撃! オーラガンの弾丸が追い打ちめいて巨体を揺らす!
カイムはにやりと笑いながら、大剣を振り回し竜巻のごとくに竜を切り裂く。
「大したタフさだなぁ! どっちが根負けするか比べ合いといこうぜぇ!」
「負けるつもりなんて、ないけどね~っ!」
「ええ! さあ、まだまだいきましょう、おふたりとも!」
一気呵成の反撃。三人のコンビネーションを前に、ドゥートは追い詰められていく!
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
ヌル・リリファ
◆アドリブ、連携など歓迎です
お仕事。たたかうよ。……余計なことは、かんがえない。必要ない。
悪霊でも。もともとこの武器、エネルギーからできた武器だから。実体をもたない相手でも大丈夫だとおもう。
……いくよ。
必要なら、【見切り】とシールドで対処しつつ自分をおとりにする。こっちにちかづいてくれれば本体をまもるのはすくなくなるから。そのほうが効率がいい。
……この程度ならしなないし、無駄な怪我をおうつもりもないよ。
あとは、本体までの起動は演算装置が【戦闘知識】からかんがえてくれるから。それにしたがって【属性攻撃】で強化した武器をうごかす。
10枚程度のたてで、一切きずつけられないとはおもわないでほしいな。
リア・ファル
共闘アドリブ歓迎
POW
この森へは初来訪だけど、周囲を見れば被害の程が分かるね
ダンジョンアタックの前に、魔竜退治と行こうか!
イルダーナで牽制移動しつつ、
「情報収集」相手の魔術構成要素を把握
「呪術」を解析して特効の「破魔」を精製
ヌァザとマグナム弾を聖別しよう
聖「属性攻撃」の「マヒ攻撃」弾で「援護射撃」
「これ以上、魂が囚われないようにしないとね!」
チャンスとみたら、ヌァザで「鎧無視攻撃」
「今日の銀閃の次元干渉は、霊界冥府への旅路かな!
大人しく浄化されちゃって!」
味方の負傷や森の再生に、UC【召喚詠唱・白炎の不死鳥】を使用
「炎でも森を焼くワケじゃあない、まあ見てて!」
少しは砂漠化を阻止できたかな?
フルール・トゥインクル
まぁ、森を砂漠に変えてしまうだなんて、許せないのです
森を護るは私の血の役目、絶対にやっつけるのですよ
グルナ、初めて力を借りるのです
砂漠を利用し敵に最も近づけるルートを!
難しいならばネージュ、あなたの力で砂漠の上に雪を積もらせてしまうのですよ
ユーベルコードを利用して砂色の砂漠の上に道しるべになるように白い雪を点々と、他の猟兵の方にもわかるように残していくのです
そして敵が悪霊を召喚しても可能な限り無視してドゥート本体を狙って雪玉を投げつけるのです
多少の軌道なら誘導弾の応用で変えて、とにかく本体への攻撃で召喚の解除を狙うのですよ
●三殺
「これはひどいね……」
他の猟兵からやや遅れて転移を終えたリア・ファルは、思わず顔を顰めた。
無理もない。"大"森林とまで銘打たれたこのブルーノーの地は、
黒雲に包まれなによりも緑が急速に失われているのだから。
イルダーナにまたがり、空から見下ろしてみればよくわかる。
「まるで山火事のあとのよう……いや、それですらないか」
バーチャルキャラクターであろうと、自然の大切さはわかっている。
ましてやこのアックスアンドウィザーズは、手付かずの自然が多く残る世界。
「オベリスクもだけど、まずは魔竜退治で自然保護といこうか!」
そうしてイルダーナを使い、戦地へと急ぐリアだが……?
「うん……?」
なにやら、砂漠の上に点々と白い粒が残っているのが見えた。
解析映像――雪? 砂漠地帯に?
「……何か妙だな」
リアの疑念は、正しい形で当たることとなる。
……リアが転移する、やや前!
「こんな風に森を砂漠に変えてしまうだなんて、許せないのです!」
フルール・トゥインクルは、惨状を前にして珍しく憤りを見せた。
ここに来るまでの間に、怯え震えるフェアリー達を何体も見かけもした。
森を守るのは――たとえ初めての場所でも――彼女に流れる血の役目に他ならぬ。
遠くから龍の咆哮が響き渡る。真正面から進めば、竜巻か悪霊の餌食だろう。
「……グルナ!」
ざりざりと砂嵐が収束し、ごつごつとした岩めいた塊に収束した。
石の精霊グルナ。それは岩が軋むような音をもってフルールに語りかける。
「初めて力を借りるのです。進むべき砂漠の道を教えてください!
……そしてネージュ、あなたの力も借りたいのです、来てください!」
グルナの対面に、ひゅう――と寒波が吹き抜け、精霊の姿を取った。
ちらちらと舞い落ちる雪は、砂漠に触れても早々溶けはしない。
「私達が進んだルートを、こうやって白い雪の道標で残しておけば……!」
ドゥートを攻撃するために――正しくはドゥートの攻撃を避けて進むために、
最適な地形をもたらすことができるだろう。精霊達はフルールに応じる。
「こんなこと、許さないのです……!」
では憤るフルールが向かう先、骨邪竜と相対するのは誰だというのか?
然り。そこにはすでに、戦闘に入っている猟兵がいたのだ。
傷ついた骨邪竜と相対するのは、あろうことかひとりの少女であった。
『オオオォオ……!! ここは通さぬ、何者であろうとも……!!』
「じゃまだよ。しんで」
ヌル・リリファはいっそ澄み渡った瞳で敵を無感情に見据え、言った。
その言葉に応じるかのように、サイキックエナジーが収束し無数の武器となる。
光り輝くそれらは、生み出されては滅びる十の悪霊とあらゆる意味で対極的だ。
「いくよ」
ヌルが骨邪竜を指させば、音もなく光の武器達は宙を滑り殺到する。
その数たるやおよそ180をゆうに超えている。だが悪霊どもはいずれも強壮。
骨邪竜と同等の強さを持つ彼奴らは、呪われた武器を以て光を薙ぎ払うのだ。
(本体をはやくしとめて、おわらせないと)
ヌルは悪霊に構わない。いわんや、その苗床となる砂漠など、
彼女がいちいち考慮する必要はない。森のことなどもっての外だ。
猟兵としての責務。依頼はオブリビオンの滅殺とオベリスクの破壊。
であれば、それ以外の余計なことなど考えない。必要がない。
怯えていたフェアリーだの、急速に失われていく森の自然だの、
そんなものは他の猟兵がどうとでもするのだろう。懸念する必要がない。
もしそうでなかったとしても、だからなんだというのだ。
(てきを、ころす)
ただそれだけを考えて、ヌルは光の武器達を、殺意の群れを操る。
「10枚程度のたてで、きずつけられないなんておもわないでほしいな」
骨邪竜をめがけて光の武器が突き進む。悪霊がそれを斬り払う。
突き進む。斬り払う。宙を滑る。弾かれる。一進一退の状況。
「……しかたないか」
ヌルはそれが有用と考えたなら、躊躇はしなかった。
シールドを展開しながら武器よりもまっすぐにドゥートめがけ突き進んだのだ。
無論、囮である。悪霊どもは必然、ヌルのほうへと殺到することになる。
『殺せ! 壊せ! 我らに仇なす天敵どもを!!』
「そうかんたんにこわされないよ。わたしはマスターの人形なんだから」
多少の損壊はむしろ必要経費だ。ヌルはシールドで被弾を最小限に――。
「ネージュ、もっともっと投げてほしいのです!」
「?」
ヌルは訝しんだ。来ると計測したはずの悪霊武器が、来ない。
モヤめいたシルエットを貫いて、ドゥートめがけて投げ込まれたのは……雪玉?
「もっと、もっとなのです!」
見ればそこにはフェアリーが一体。然り、フルールである。
雪の精霊が寒波をもたらすとともに白い結晶がきらきらと宙を舞い、
まずヌルを襲おうとした悪霊を、それを貫いて本体めがけて放り投げられる。
「あなたは」
「大丈夫なのです! こんな悪霊なんて、やっつけてしまうのですよ!」
フルールはヌルの言葉を待たずに笑い、ネージュとともに雪玉を放つ。
魔力を得たそれらは非物理的な軌道で悪霊の守りをかいくぐろうとする!
「…………」
ヌルはその姿を一瞥だけして、すぐに武器達の制御に演算能力を割いた。
そしてふたりの攻撃は飽和し、ついにドゥート本体を……捉えた!
『ぐ、ぬう……ッ!!』
悪霊が一瞬にして消失する。好機である!
「もらった」
「あ、でも何かやな感じが――」
BLAM! BLAMBLAM!! フルールの声を切り裂く鋭い銃声!
空から降り注いだ聖なる弾丸は、不可視の紫炎=人魂を撃墜していく!
「やっぱりね! 不意打ちを狙ってるんじゃないかと思ってたよ!」
得意げにマグナムを構えながら、空からリアがふわりと着地する。
「雪の道標のおかげで、アイツに気付かれずここまでこれたよ。ありがとう!」
「え、えへへへ、それほどでも……」
「――くる。てき、まだあきらめてない」
ヌルは冷静に言い、さらなる人魂をシールドで妨害しふたりをかばった。
「ってキミ! あちこちダメージ受けてるじゃないか!」
「このくらいじゃしなないから、だいじょうぶ」
リアの言葉にヌルは端的に言って、光の雨じみた武器の群れを叩きつける。
骨邪竜の絶叫。畳み掛けるべきチャンスだ――だが、しかし。
「待ってて、ボクのユーベルコードなら――よし、詠唱(コール)!」
高らかに叫んだリアの背後やや頭上に、電脳の魔法陣が生み出された。
「電子の門をくぐり、幻想より来たれ、白き再生の不死鳥よ!」
開門――来たるは白く燃え上がる、聖なる再生の化身。
不死鳥の羽ばたきは火の粉を生み、それらは砂漠や木々にも降り注ぐ!
「も、森が燃えちゃうのですー!?」
「大丈夫、まあ見てて!」
思わず叫んだフルールに対しウィンクをするリア。
するとどうだ、白い火の粉は何かを燃やすことなく、いやむしろ。
「……きずが、なおってる?」
然り。ヌルのボディを抉る傷跡が、再生の炎によって癒やされていく。
不死鳥は高らかに鳴き、辺り一帯を回遊して炎を散らす。
その炎は猟兵はおろか、渇き飢えた砂漠さえ再生していくのだ……!
『おのれ……嘗めるなよ! 我はまだ死なぬ!』
だがこれは、ドゥートにとって態勢立て直しの好機となった。
ドラゴンは再び悪霊の軍勢を――いや、雪玉の雨がこれを防ぐ!
「それ以上はさせないのです! さあ、あの光の剣を!」
「…………うん」
ヌルはフルールに促され、サイキックエナジーを再々収束させ一斉発射。
「銀閃次元干渉、行き先は霊界冥府への片道切符ってとこかな!
さあ、おとなしく浄化されて、滅んでしまっておくれよ!」
さらに魔剣ヌァザの斬撃! 招来に集中を割いたドゥートは避けきれない!
『が、がぁああああ……!!』
骨の体が朽ちていく。滅びていく。されど真の意味での滅びはまだ遠く。
「ねえ」
「ん? なんだい」
「どうしてさっき、攻撃じゃなくて回復をゆうせんしたの」
ヌルの何気ない問いに、リアは小首を傾げた。
「……てきをころせたのに」
「まあね。でもほら! 砂漠化は少し止められたし、キミも!」
負傷が回復したヌルの手を指さして、リアは笑う。
「そうなのですよ、やっつけても森が元通りにならなかったらダメなのです!」
こくこくと頷くフルールとリアを交互に見――ヌルは、ただ、目を伏せた。
そして開く。見据えるのは、再生を果たす邪竜。ただ、敵を滅ぼすために。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
穂結・神楽耶
かつて救われた地でまたも災禍とは、長の方も不憫な…。
ですが、こういう時のためのわたくしたち猟兵ですからね。
どうぞお任せくださいませ。
あちらが悪霊で手数を増やすなら。
こちらも手数と範囲攻撃で応対致しましょう。
【神遊銀朱】
複製太刀の乱舞にてお相手仕ります。
どちらの方がより優れるか──
とか、まさか竜と真正面からやりませんよ。
死角狙い上等、足止め不意打ち回り込んでも戦術のうち。
操作系UCは本体を狙うのが一番効率的ですからね。
踏み込ませぬと仰られるなら踏み込みたくなるのが猟兵の心意気。
押し通らせて頂きます!
雲烟・叶
嫌ですねぇ、砂漠化なんて
木々を育てるのって大変なんですよ?
さて、……呪い比べでもします?
こちとら呪物ですし、悪霊も何も今更怯みやしねぇですよ
可愛らしいもんでしょう?人の感情なんて
【誘惑、恐怖を与える】で敵の攻撃を引き寄せ、悪霊や武器は管狐に捌かせることで対処しましょう
小さくとも爪も牙もあれば、呪炎をも振り撒く子たちですから、侮ると痛い目を見るかと思いますよ
ついでに、【カウンター、呪詛、生命力吸収】で本体を呪いましょうか
悪霊や武器はただのあんたの攻撃でしょう、なら呪われるのもあんたですよ
人を呪わば穴二つとは言いますが、本体も持ち歩いてねぇんで死にようがねぇですし、埋まるべき穴もねぇもんでしてね
月舘・夜彦
禍々しい気から奴が迷宮の番人なのは間違いないでしょう
どんな相手であれ、刃が通用するならば全て斬り捨てるのみ
往きましょう
竜の攻撃手段を目視や第六感にて確認し、行動を決める
人魂による遠距離攻撃は第六感にて方向を察知
躱さず、その場で武器で受け止め、カウンターによる斬り返し
翼を大きく動かす様な仕草があれば竜巻が来ると判断
竜から距離を離し、残像・見切りにて躱す
悪霊を召喚した時には敢えて竜達の所へ駆け、斬り込む
抜刀術『陣風』併せ2回攻撃・早業にて周囲の悪霊と武器を斬り払い、竜へと一閃
竜に僅かでも傷を入れられれば良い
多少の傷は承知、自らが攻撃出来ぬ隙を見逃すつもりはございません
●悔やむもの、隔てるもの、斬り抜けるもの
……ヤドリガミという種族ほど、多彩多岐を誇る者どもはいないだろう。
そもそも彼らは生物ではなく、器物を本体とする霊的存在である。
化身は血肉を備えているとは言えど、本質はあくまで器物にあるのだ。
百年の時を閲した彼らはその時点で人のそれを大きく越えており、
器物にアイデンティティを依存するがゆえに、レイヤの異なる視界を得る。
「……なかなかの手練ですね」
たとえば簪のヤドリガミである月舘・夜彦は、その器物に込められた想いを、
そして己が担った想いを経たがゆえに、今は刀の如き怜悧なる剣士としてある。
ゆえに骨邪竜と相対した時、夜彦はまっすぐに、正面から相対した。
研ぎ澄まされた動体視力と第六感を糧に、迫り来る人魂を斬っては落とす。
見えぬものを斬れぬかと言われれば、斬れる。
それはヤドリガミだからではない。彼が、人として鍛えた技量ゆえに。
「私達が目指すべきはあなたの後ろ。立ちはだかるというならば斬り捨てるのみ」
『ならぬ……誰も、何者も、何人たりとも、ここは通さぬ!!』
骨邪竜のそれは、決意表明や威嚇というよりももはや妄執の域である。
だが竜とは元来長命であり、それゆえに定命の者に図り知れぬ価値観を持つという。
(いかに滅びた過去の残骸とは言え――否、ゆえにこそ、我らと似るか)
感傷めいた心の裡は、柄を握る手にも、刃にも乗せることはない。
迷いや思索は刃を鈍らせる。ただ敵を見据え、振るい、斬るべし。
「おやまあ、お侍様が頑張っていらっしゃいますねえ」
一進一退の攻防を続ける夜彦の背中を、雲烟・叶はそんなふうに表現した。
嘲りや侮蔑の気配はない。ひたすらに厭世的な、くたびれた気配がある。
立ち込める紫煙と薬草の匂いは、この禍々しさと瘴気が漂う戦場にあってなお、
……いや、だからこそ逆に際立っていた。それは彼が自ら纏う結界だ。
「あぁ、あぁ、こんなに坊主にしちゃってまあ……嫌ですねぇ。
木々を育てるのって大変なんですがね。さて、どうしたものか……」
叶は女物の長煙管を吸い、見物客めいて剣豪と龍の大立ち回りを眺めている。
高みの見物……と、たしかに傍から見ればそう思えるだろう。
だが、叶にそんな興に浸っている様子はない。
狐めいた細い銀の瞳は、つねに敵の一挙一動へと注がれていた。
「……ああまったく、ヤドリガミってのぁ厭ですねえ」
ふう、と紫煙を吐きながら、叶は誰にいうとでもなくひとりごちる。
……そう、彼は夜彦を揶揄したわけでも、嘲笑ったわけでもない。
ましてや高みの見物などに興じるつもりも一切ない。
こうして転移されたならば、すなわちそれはオブリビオンと戦う意思がある。
彼が求めていたのは好機。あるいはそれをつなぐための方策。
呪われた器物の化身は、己の世話焼きさに自嘲しながら一歩を踏み出した。
「おいで、お前達」
立ち込める煙が、やがて足元を跳ね回る管狐の群れへと変じる。
揺らめくさまは悪霊と似る。だがそれらは叶が操る式のようなもの。
「お侍様を手助けしてあげようじゃないか、ねえ?」
煙で出来た管達は、こん、と一声鳴いてふわりと跳ね回り、敵へ殺到した。
「森は、森は大丈夫なんでするか……」
「大丈夫でございますよ。見知った方々もいるのでしょう?」
そこからやや離れた場所、おずおずとした妖精の少女と、
和装の巫女――穂結・神楽耶が相対し、妖精の少女をなだめていた。
「はいでする、みんなみんな助けに来てくれたでする……」
「あいにくとわたくしは、皆様の退けた災禍がどのようなものか存じ上げませぬが」
神楽耶は苦笑めいた表情を浮かべつつ、妖精の長・フリムに云う。
「ですが再びこの地を過去の災禍が襲ったならば、それを退けるがわたくしたち。
つまり猟兵の役目でございます。だからどうか、おまかせくださいませ。ね?」
「はいでする! 神楽耶はあのメガネのヒトみたいに優しいでする~?」
「はあ、メガネの……?」
なんとなく、知っている少年がちらりと脳裏をよぎった。
いや、あれがこんな妖精に、自分みたいに世話を焼くとは……。
『実はフェアリー好きなんですよ、ウソですけど』
(ないですね)
脳裏によぎった幻影を一瞬でけしけしして、神楽耶はフリムを安全な方へ送る。
その瞬間、神楽耶は強烈な邪気を感じ、思わず戦場の方を振り返った。
「これが悪霊とやらですか……! 急ぎませんと!」
駆け出す……邪竜の咆哮、そしていくつもの剣戟らしき音!
やがてたどり着いたそこでは、すでに夜彦と叶が戦闘に入っている!
「なるほど、あれが……っ」
骨邪竜が呼ばわった悪霊の群れは、今は叶めがけて殺到しているようだった。
これを纏わりつくように煙の狐たち(神楽耶はそれが使役される霊獣だと見てとった)が爪と牙、あるいは呪いの炎で苛み、主=叶を守っている。
それでも防ぎきれぬ攻撃は、夜彦が剣戟でもって防いでいるのだ。
本体を叩ければ、よい。だが本体に届かせるための一手が足りぬ。
「いやはや、人を呪わば穴二つとは言いますが、こりゃまいりましたねぇ」
「呪詛を届かせようにも、あちらの連携が実に厄介ですね……!」
一撃。叶の呪詛返しにせよ、夜彦の斬撃にせよ、その一撃が届かぬ。
呪いを向ければ悪霊が立ちはだかってこれを阻んでしまい、
ならば夜彦が飛び込もうとすれば一瞬にして防御陣形を組む。
……神楽耶は、御神体と崇められ、祀られた太刀のヤドリガミである。
やることは決まった。本体の刀を鞘走らせ、神楽耶は戦場へ馳せ参じる!
「助太刀いたします! 邪竜よ、あなたが悪霊でもって手数を増やすなら!」
ちゃきり。結ノ太刀の切っ先が、ぎらりと邪竜を射竦める。
周囲に生まれる無数の複製体。すなわち神遊銀朱(しんゆうぎんしゅ)なり。
「複製太刀の乱舞にて、お相手仕ります」
「ってお嬢さん、そいつぁあまりいい手とは」
神楽耶は叶の言葉に振り返る。煙管持つ男は、その顔を見てややぽかんとした。
『ほざけ!! そんななまくらなど真正面から叩き潰してくれるわァ!!』
龍が吠える。悪霊どもがさあ来いとばかりに武器を構えた!
「――どちらがより優れるかだの、真正面から挑むわけがないでしょう?」
ドゥートを見返す神楽耶の表情。それは、いたずらっ子めいた笑みである!
そして見よ!
複製太刀は悪霊の脇や足元、はたまた股の下をするするくぐり、
本体を上下左右から不意打ち・足止め・おまけに回り込んでの挟撃に嵌めるのだ!
『なあっ!?』
「なるほど、ウソを云うのはこういう気分なんですね」
「……悪い遊びを知ってるお知り合いがいらっしゃるんですねえ」
叶は得心したとばかりにくくっと笑う。煙狐たちが一斉に本体に飛びかかる。
「驚きました。しかしよいので?」
「これが効率的ですから。それに」
神楽耶は、問いかけた夜彦の方を見て、
「――太刀を浴びせるなら、おそらくあなた様のほうが得手でございましょう?」
それはつまり、"任せた"という意思表示である。
夜彦はわずかに微笑み、そして一陣の風となって龍へと疾走した。
「……人を呪わば穴二つの対義語ってえと」
「笑う門には福来る、でございましょうかね?」
神楽耶の言葉に、叶はまた笑った。
「そりゃ、全く向いちゃねえや」
ふたりが見やる先、刃と煙の狐の呪詛に苛まれる龍がいる。
そして見よ。それらの助けを得て、龍へと肉薄する陣風を。夜彦を!
『おのれ……』
「――全て、斬り捨てるのみッ!」
斬撃一閃! ――否、一閃と見えたのはその実無数である!
一にして百を見舞う抜刀術、遅れて鱗が裂けて血の飛沫が舞い上がった!
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
ユキ・スノーバー
大森林に悪さするなんて酷いんだよーっ!
強引に枯らすとかもう、おこおこなんだからねっ!
住んでる人達に迷惑だし、自然は簡単に『はい治りました!』ってするの大変だし
何が踏み込ませないだよー!丸裸状態にしたら、余計なの更に踏み込んでくるかもしれないのに
この竜何言ってるの?…もしかして骨だから、考えスッカスカ過ぎ?
華吹雪で悪霊も武器もその場に氷漬けにしちゃいつつ
竜の懐までダッシュでアイスピックアタックしちゃうぞーっ!
呼び出すの便利かもしれないけど、足元がお留守になっちゃうのは逃さないっ。
小さいから細かく動けば、そう簡単に当てれっこしないしね!
相手が大きい分、容赦なく色んな所をさくさく攻撃していくよー!
●大自然のおしおき
砂漠はじわじわと広がり、悪霊どもの養分となる。
そんな状況を前に、ユキ・スノーバーが黙っていられるわけもない!
「大森林に悪さする上、強引に枯らすとか、もう! おこおこなんだからねっ!」
いまいち緊張感に欠ける様子でぷんすこ怒っているが、それだけマジなのだ。
住んでいるヒトにも動物にも、誰にとっても百害あって一利なし。
これほど広範囲に荒廃してしまえば、一朝一夕で治るわけもない。
いやそもそも、自然とは常に不可逆のものだ。
変化してしまえば最期、元通りの景色が取り戻されることはもう……。
「だいたい砂漠になって丸裸にしたら、余計なのがもっと来るかもじゃん!
なのに踏み込ませないとかなんとか、もしかして骨だから考えスッカスカ?」
『…………よく喋る塵芥よな』
見下し蔑む龍の一言は、ユキの逆鱗に触れた!
「こっのー! その骨全部かっちんこっちんにして砕いてやるーっ!!」
ごううう……!! 音を立てて吹き荒れる突然の猛吹雪!
これこそ華吹雪。ユーベルコードによる猛烈な吹雪、それは目くらましにもなる。
その間にユキは敵に近づき、そのアイスピックを……アイスピック?
「ぐさぐさアイスピックアタックしちゃうぞーっ!!」
コワイ! アイスピックを振り回しながら吹雪の向こうからくる丸い影!
画がまんまホラー映画である。だがドゥートに油断や嘲りはない!
『ええい、忌々しい!』
「おわーっ!?」
ドウ! ドウドウ!
吹雪の中に、紫の炎が一瞬だけ現れて次々に爆ぜる。まるで機雷だ。
それは不可視の人魂……吹雪でもこれは凍りつかないか!
「くっそー、逃さないぞー! 覚悟ーっ!!」
しかしユキはへこたれない。猛然と人魂の群れを駆け抜けて、
苛立ったドゥートが悪霊を召喚しようとしたその時!
「さくさくっとね!」
『ぐおおお……!?』
小さな体躯を活かした、足元への集中攻撃でアイスピックを振るう!
たしかにユキは小さい。けれども自然を愛する心は人一倍なのだ!
成功
🔵🔵🔴
天道・あや
いやー、まさかまた此処に来ることになるとは…、フリム達元気かなー…って!?空は暗いし森は…なんか砂漠になってる!?ほ、本当に災いが訪れてる…!……よしっ!フリムの!森の!皆の未来の為にも速攻でダンジョン攻略するぞー!そんな訳でそこのドラゴン!クエストの為に退いてもらうよ!
WIZ
うわっ!あ、あれはゆ、幽霊…!?で、でも幽霊だろうとあたしの道は止められない!【存在感】を出して敵を【おびき寄せ】ながら【サウンドオブパワー】であたしと皆をパワーアップ!そしたら攻撃を【見切り】相手の武器を【グラップル】で落としてそれをドラゴンにシュート!!そして【レガリアス】をフル稼働からの【ダッシュ】飛び蹴り!!
渡塚・源誠
ボク達はもしかしたら今、かつての勇者たちの軌跡をなぞっているのかもしれないね
この世界で有名な、伝説の勇者の軌跡を追えるなんて、なんとも旅人冥利に尽きるってところだけど……感傷に浸る前に、まずは敵さんを倒さなくちゃいけないかな
ボクは【ロープワーク】を駆使した魔糸での牽制にあたるとしようかな
糸の内20本は耐久性を高めて召喚された悪霊と武器に向けて放出して、縛り付けるか触れるかして魔力を流し込んで動きを封じるよ
…とまあ、こっちは敵さんの攻撃牽制かつ【時間稼ぎ】用で
本命は切れ味を高めさらに極限まで細くして【目立たない】ようにした残る5本の糸
こっちを敵さん本体に放って、攻撃と敵の動きの制限を狙っていくよ
ソラスティベル・グラスラン
グランドオベリスク…それでかの大陸に近づけるのですね
かつての偉大な勇者たちが辿った軌跡
ならば跡を辿ることになんの躊躇いもありません…!
敵は白骨の邪竜!瘴気を纏い、数多の生命を蝕む者!
しかし忘れてはなりません、彼はまだ前座に過ぎないことを!
足は止めても、わたしたちに倒れることは許されないっ!
さあ皆さん!いざ、勇猛に参りましょうっ!【鼓舞】
【気合】の鎧を身に纏い【勇気】の刃で竜を討つ!
【盾受け・オーラ防御】で防御を固め、突撃!
ここに誓うは不退転の意思、勇者とは誰より前に立つ者!
これがわたしの【勇者理論】!!(防御重視)
迫る人魂を【見切り】、【怪力】で弾き
只管に進んだ先に、渾身の一撃を叩き込みます!
神酒坂・恭二郎
「群龍大陸たぁロマンだねぇ」
雲を掴む様な話だが、忘れていた少年心を沸き立たせる響きだ。
悪くない。
むしろ良い。
冒険とはかくあるべしだ。
「悪いね。時間はかけられねぇみたいだ」
朽ち行く森を前に、楽しむ時間が無い事だけがちょっと良くない。
・戦術
ハンドポケットで奴に近づき、呼吸を読んで両掌を打ち合わせる。
「喝ッ」
気合に風桜子を纏わせ風となす。
【覚悟、気合、優しさ、破魔、範囲攻撃、カウンター】
人魂は消し飛ばすのでなく、一瞬だけ怯ませればそれで良い。
すかさず風桜子を含んだ手拭いを螺旋を描くドリルとする。
【力溜め、二回攻撃、トンネル掘り】
初撃で足元に穴を掘ってバランスを崩し、前のめりの顎にアッパーを狙おう。
●四殺
実際のところ、(大森林のことを慮るなら)状況は切迫している。
骨邪竜ドゥートは、周囲の地形から精髄を汲み上げ再生の糧としているからだ。
それが不可逆的な砂漠化を招き、以て森林地帯の荒廃と破壊に繋がる。
敵の戦力が強化されるという意味でも看過しかねる事態だが、
厄介なことにドゥートはすでに四度の再生を果たし、なお立ちはだかるのだ。
「こんのーっ!!」
悠然と立ちはだかる骨邪竜めがけ、天道・あやが疾走し飛び蹴りを放つ。
だがこれを弾いたのは武器である。然り、十の悪霊の群れが構える武器だ!
「ひっ!? ま、まさかこれ、幽霊……っ!?」
『殺せ! 門を越えようとする者通すも還すも許さず!』
どうやら幽霊が苦手らしいあやは、悪霊の禍々しさに一瞬気圧された。
そして骨邪竜に等しい力を持つ悪霊どもは、あやを串刺しにしようと――!
「うん、それはちょっと見かねてしまうな」
ぴん、と。見えない魔力の糸が張り詰める音が響いた。
まるで何もない場所を跳ぶかのように――実際は糸を張っているのだが――、
悪霊どもとあやの間に割って入った渡塚・源誠が、さらに糸を放つ。
牽制だ。振り上げられた武器は、耐久力重視の糸に絡め取られ降ろせない!
『ちぃ、邪魔な……!!』
骨邪竜は即座に、悪霊から人魂によるふたりの抹殺にプランを切り替えた。
見えない紫炎の飛礫が虚空を走る――いや待て。これを打ち砕く者あり!
「そうはいきませんっ!!」
「時間がないからって慌てなさんなよ――喝ッ!」
青空色の巨大斧を振るい、半数の人魂を薙ぎ払うソラスティベル・グラスラン。
その隣では、あやの知己である神酒坂・恭二郎が掌打で風を震わせこれを相殺した。
「なんとかなりましたね源誠さん! そちらのおふたりもご無事ですか!?」
「ああ、助けられちゃったけどね」
「あ、ありがとう……!」
源誠、そしてあやは、ソラスティベルの明るい声にそれぞれそう返した。
偶然から肩を並べることになったが、これは好機でもある。
手段を選ばぬドゥートの行動は、奴が追い詰められている証でもあるからだ。
「まったく、群龍大陸ってもの自体はロマンの塊だが」
ハンドポケットの姿勢を作った恭二郎が、頭を振ってみせる。
「森を枯らしてしぶとく立ち塞がるってのは、ちょいとばかし興醒めだねぇ」
「同意見だよ。ボク達はいま、かつての勇者達の軌跡をなぞっているのだからね」
旅人である源誠は、恭二郎の言葉に頷いてみせた。
「けれどこの有様じゃ、そんな感傷に浸る時間さえ許されないわけだ」
「そ、そうだよ!」
そこで、立ち上がったあやが地団駄を踏む。
「またここに来れたと思ったらなんか森が砂漠に変わっちゃってるし!
空は暗いし! フリム達は怯えてるし! 本当に災いが訪れちゃってるし!!」
「なるほど、あなたはこの森に来たことが……」
であれば、今しがたのように無謀な突進を仕掛けた理由もわかろうもの。
ソラスティベルは静かに頷いて、きっと勇ましくドラゴンを睨む。
「森を守るためにも、そして何よりも、クラウドオベリスク破壊のためにも。
骨邪竜ドゥート! 瘴気を纏い、数多の生命を阻む、邪悪なる龍よ!」
ばちり。電光を纏う大斧を、処刑宣告めいて龍と悪霊の群れへ突きつけた!
「あなたはあくまで前座。それを忘れているわたし達ではありません。
けれどここで足を止めても、わたし達が倒れることは許されない、ありえない!」
『何ィ……?』
「……ま、そうだね。旅人としても、この先は是非見てみたいし」
ソラスティベルの言葉に首肯し、源誠が再び魔力の糸を編む。
「そういうわけだから、そろそろいい加減ご退場願わないとね」
「冒険ってのは障害があればあるほど燃え上がるものである。
忘れてた少年心、ってやつが奮い立つのは、むしろいいことさ」
こきり、と、ポケットに突っ込まれた恭二郎の手が骨を鳴らした。
じわりと揺らぐ闘気が、彼が云うところの風桜子(フォース)を高める。
「これ以上、森を朽ち行かせるわけにもいかないわけなんでねぇ」
「……フリムの」
もはや悪霊を恐れない。あやはきっと敵を見据える。
「この森の! この世界の、みんなの未来のためにも……っ!
一分一秒でも疾く! 完膚無きに! どいてもらうよ、ドラゴン!!」
三人の顔をそれぞれに見渡し、ソラスティベルは頼もしげに頷いた。
「そのとおりです。わたし達の行く道はかつての勇者の軌跡なれば!
さあ皆さん! いざ――勇者の如く、勇猛果敢に参りましょうっ!!」
大斧サンダラーが大地を叩く! 轟音が決戦の火蓋を切った!
『勇者などくだらぬ! 所詮はとうに死んで滅びた残骸なき過去に過ぎん。
ゆえに死ね。貴様らも、その勇者どもと同じように死んで滅びよ!!』
咆哮! 悪霊の群れがこれに応じ、立ち向かう四人を迎え撃つ!
「もう怖くなんかないよ、かかってこい!」
だがあやは、またしても一人突出して悪霊を挑発する構えだ。
学習していないのか? それでは元の木阿弥では……否、否!
「そうするとキミ達みたいなのは、まんまとおびき寄せられるわけだ」
然り。底はすでに、源誠にとって十分な間合いである。
まず二十。再び放たれた耐久力重視の糸が、悪霊の群れを蜘蛛めいて絡め取る。
『二度同じ手を食うわけがあるまいがッ!!』
「そうかい? じゃあ"別の手"を使おうか」
『な――』
ドラゴンは瞠目し、驚愕し、そして苦悶した!
源誠が生み出せる魔力の糸はおよそ25。彼が放ったのは20。
では残る5は? 答えは、ずたずたに切り裂かれ締め付けられた龍にあり!
「切れ味を極限まで高めた特製の魔糸さ。効くだろう?」
『き、きさ、まぁああああ!!』
糸に絡め取られていた悪霊の群れが消失。あやが全速力で駆ける!
追い詰められたドゥートは再び人魂の群れを放とうとするが!?
「糸ほどにゃあいかないが、伸縮自在に千変万化の我が布術――てなもんか!」
ッパァン! と、爆ぜるような音を放ったのは恭二郎の振るう布槍だ!
それは風桜子によって鋼の如き硬性を得て、螺旋を描く円錐となる!
「そら、神酒坂式千変布操術だッ!」
『がはぁっ!?』
バランスを崩したところへのアッパー! ドゥートの巨体が揺らぐ!
「ここに誓うは不退転の意思、勇者とは誰より前に立つ者!!」
そして見よ。レガリアスの加速を得たあやと並走するソラスティベルを!
ばちばちとサンダラーから雷光がほとばしり、竜人の全身を包み込む!
「これがわたしの"勇者理論"! 勇気で攻め! 気合で守り! 根性で進む!!
骨邪竜ドゥートよ、あなたにこのわたしの完璧な作戦が打ち砕けますかッ!?」
「いいねそれ気に入った! じゃああたしは! 未来へのこの想いで!
歌で攻め! 想いで助け! 夢で進む!! あたし理論だーっ!!」
ある意味で似た者同士なあやの叫びは、そのまま味方を強める力の歌となる。
勇気の鼓舞と音の助け。二つを得た今、両名は誰にも止められない!
「さあ、行くよ! これがあたしと!」
「わたしたちの!!」
「「渾身の、想い/勇気だー(です)っ!!」」
レガリアス最大噴射! サンダラーが高まる――KRAAAAASH!!
『が…………ッ!?』
ふたりの決死の一撃は、稲妻めいてドゥートの頭蓋を叩き割った!
亀裂は全身に走り、罅割れた彼奴の肉体は四度目の崩壊に至る……!
『ま、まだ……まだ、ダァアアア……!!』
おお。龍は未だ立てり。彼奴を縛り付ける妄執とはなんぞや!?
されど止まることも、退くことも能わず。まっすぐに、何度も、攻め込むのみ!
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
セゲル・スヴェアボルグ
取り込まれたが故に悪霊と化したのか。それとも、悪霊故に邪竜へと与するのか。
いずれにしても、見えないのであれば無理して追ったところで仕方ない。
そもそも、物理的に打ち消せるかどうかもわからんしな。
まぁ、遠距離の対象を取るなら距離を詰めてしまえばいいだけのこと。
多少の飛来物など構うものか。
先に一撃叩きつけてやれば問題ない。
届かなければ地面を叩く。
幸いにも辺りに木々は無い。砂地であれば抉れたところで知れているしな。
奴さん以上の砂嵐をこの場に巻き起こしてやろう。
……死者の魂を弄ぶような輩を野放しにする気はない。
無論、死してもなお悪意に塗れるものがオブリビオンなんだがな。
鷲生・嵯泉
帝竜が蘇ったという噂の真実を確かめる為にも
禍の元を断ち隠されたものを顕わにせねばならんという事か
見切りと戦闘知識で攻撃は躱し、間に合わねば武器受けで弾く
多少の傷は激痛耐性と覚悟で無視して前へ出る
見えようが見えなかろうが、其処に「在る」なら第六感で知れよう
後は幾つ向かって来ようが破群領域で残らず叩き潰してくれる
フェイントに因る死角からの攻撃で攪乱し、怪力と破魔を乗せた攻撃で叩く
どう邪魔立てしようとも、私の脚を止める事等叶わんぞ
お前が蘇った過去を……守ろうと、しているのだとしても
今を生きるもの達を――未来を護る者として
其れ等が危険に晒される事を見過ごす等出来ん
必ずや討ち果たし、先へと進んでみせよう
●打ち砕くもの、揺るがすもの
二人の勇ましき偉丈夫が、背中合わせになって身構えていた。
かたや豪放磊落なるドラゴニアン、セゲル・スヴェアボルグ。
そしてもう一方は、怜悧なる赤い右目で虚空を睨む鷲生・嵯泉である。
「さて、そもそもあの人魂とやら……取り込まれたがゆえに悪に堕ちたか。
あるいは、悪霊怨恨の類故に邪竜へと与するのか……なあ、どう思う」
「さてな……」
背中越しのセゲルの言葉に、嵯泉は緊張を張り詰めさせたまま短く答えた。
もとより口数の多い男ではない。そしてこの状況だ。
……一見すると、ふたりの周囲にはただ砂漠が広がっているように見える。
そしてやや離れた場所に、悠然と構える邪竜の姿あり。奇怪な状況だ。
だが達人ならばわかろう――ふたりの周囲を包む異様な気配を。
「見えず、遠くから来たる不可視の人魂……邪竜の技に間違いあるまい。
こんな性根の悪い魂は、よほどの大悪人でもなければいないだろう」
「違いない」
セゲルはぐるる、と喉を鳴らして笑う。それは唸り声だ。
ふたりはそれぞれ別に骨邪竜へと挑み、そして攻撃を阻まれた。
然り。人魂――見えた瞬間にのみ、紫の炎めいて浮かび上がる孤影。
不可視でありながら飛礫めいて敵を襲う、おそろしの魔術である。
『どうした、愚かな者共。もはや一歩も動けぬか』
いまや嵯泉とセゲルは、周囲を完全に人魂に囲まれている。
たった十。されど十。躱し、弾くにしてもこの状況はリスクが大きい。
そして突き進んだとして、運の悪いことに骨邪竜のタフネスは異常である。
よほどの強烈な一撃でない限り、ダメージはこちらが重傷を追うことになろう。
どう出る。どう攻める。どう打開する。
背中合わせに警戒しながら、ふたりの偉丈夫は淡々と考える――。
そして。
「決まりだな」
「ああ、それしかあるまい」
セゲルと嵯泉は、どちらから云うともなく互いに首肯した。
見えず、聞こえず、されどそこにあるのならば――感じ取れる。
否、感じ取れなくとも構わぬ。重要なのはこの先の道を切り開くこと。すなわち。
「「――征くぞ!」」
ふたりは同時に叫んだ。そして、おお、見よ。
磁石の同極反発めいて弾かれたように地面を蹴立て、そして、そして!
彼らは互いに守り、あるいはタフネスを信じ、無謀にも! 龍めがけ!!
『愚かな――死にに来るとはなァ!!』
膠着を叩き切るかのごとく、まっすぐに骨邪竜へと突き進んだのだ!
「見えないのであれば、無理して追ったところで仕方があるまい!!」
ごおう――セゲルの怒声が咆哮となって大気を揺らす!
突き進むさまは重戦車の如し。そこで嵯泉が弾かれたように彼を見た!
「ぬう……ッ!」
おお。嵯泉は、セゲルに飛来する人魂をひとつ感知したのだ。
ムチ状に変形した刃がぴゅん、と鋭く短い風切り音を立ててしなり、
セゲルの死角を断つ。虚空に紫の炎が浮かび上がり、そして爆ぜる。
だが代償は易くない。空いた脇腹を撃つ二つ目の人魂……!!
「……無茶をするものだ!」
それ以上の言葉は要らない。ふたりはけして歴戦の戦友だとか、
切磋琢磨するライバルだとか、そんな深い関係ではない。
だが敵を倒すために、それが最適であると確信したならば、そうする。
互いに猟兵であり、同じところを目指し、同じ敵と相対するならば。
「……今を生きる、ものたちを……未来を守る、者として」
ぎらりと、嵯泉の右目が龍を睨めつけた。三つ目の人魂を切断破砕!
「どう邪魔立てしようとも、私達の足を止めることなど叶わんぞ……!!」
「然りよ!」
快哉! セゲルは錨斧を振り上げ、鮫めいた凄絶な笑みを浮かべる!
「死者の魂を弄ぶような輩、オベリスクがあろうとなかろうと!
野放しにするつもりはない――さあ、無理を通して道理となすべし!!」
KRAAAAASH……錨斧が砂漠を打ち据える。だがそこから生まれるは暴風である!
狂飆の王(クンイェン・アブ・ストルム)! 地が砕け砂が巻き上がる!
「!!」
「進め! 標は見えよう!」
セゲルは叫んだ。いかにも、砂がソナーめいて人魂を浮かび上がらせている!
嵯泉は龍を見据える。砕けた地面の余波が彼奴を揺るがし足止めしている!
「その体、残らず叩き潰す!!」
『ぐおおおっ!?』
破群領域! 鞭刃の乱打が、鱗を砕き肉を削ぎ骨を断つ!
邪悪を討つためならば、男たちは己の命を擲つことなどなんらいとわないのだ!
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ヴィリヤ・カヤラ
あんな竜もいるんだね。
っと、これ以上森を潰されたら困るから
頑張らないとね。
敵の攻撃を防ぎつつチャンスがあったら攻撃かな。
敵の動きは良く見るようにしながら、
『第六感』も頼りに動くね。
翼からの突風は翼を動かすモーションが入るかなと思うから、
周りの砂漠を利用して【四精儀】の氷の津波で
壁代わりに出来るかな。
もし突風が来なくても牽制か、
もし当たれば攻撃にはなると思うし。
悪霊を召喚されたらは早めに対処したいから、
【ジャッジメント・クルセイド】で竜を狙って攻撃してみるね。
あの強さが増えるのは良くないしね!
自他共にダメージが大きそうなら【輝光】で回復するね。
アドリブ・連携歓迎
天御鏡・百々
この地下迷宮には、どうやら邪なる者どもがひしめいているようだな
なれば、我が力も輝くというものよ
先ずは骨の邪竜か
肉を持たぬ……死霊の類いか?
森を不毛の地へ変えようなどと、許してはおけぬな
疾く討伐してくれようぞ
『巫覡載霊の舞』を使用し光を纏い
真朱神楽(武器:薙刀)で敵の召喚した悪霊も武器も
なぎ払ってくれようぞ!
(破魔65、なぎ払い21)
我が破魔の力をもってすれば、悪霊如き簡単に浄化できよう
巨大なれども、まだこやつは前座
クラウドオベリスクの守護者は魔神と聞くが
一体どれほどの力を持つのやら……
●神鏡のヤドリガミ
●アドリブ、連携歓迎
奇鳥・カイト
「へっ、いい感じに薄暗くなってンなぁ……他の奴には悪ィが、やりやすいぜ」
この後に控えている地下迷宮に入れば意味のないことに気付かず行きます
骨が相手、まあ先ず遅れを取る事はないと考えます。が、それなりに慢心せず戦います
殴る蹴る、その辺のものを使うラフファイト
それに糸の攻撃を混ぜ込む戦闘技
血を使った攻撃は指を切り、行います
糸の攻撃は仕込み糸などで騙し討ちを狙うために行います
出来る事なら地形を把握し、罠を仕掛けたりカウンターも狙っていきたい所ですが、一度出すとバレる恐れもあるので残しておきます
連携・アドリブ大歓迎
●血を纏うもの、映すもの、操るもの
遥かにいい。
この薄暗さ、この瘴気、この禍々しさ――死の気配。
立ち込める死霊の怨嗟と悪霊のうめき、悪意の奔流、ああ、実に。
「へっ、いい感じに薄暗くなってンなぁ……」
そのいくつかは唾棄すべきもので、そのいくつかは好ましい。
奇鳥・カイトは赤い瞳を炯々と――まさにダンピールそのままに――輝かせ、
唸り暴れる骨邪竜ドゥートを睨む。後腐れのない敵、これは"いい"ほうだ。
「他の奴らには悪ィが、やりやすくて助かるぜ」
相手は強大、されどこれまでの戦いを経た己ならば敗北はありえまい。
さりとて重傷を負う可能性はある。カイトは心の裡で己の慢心を諌める。
(まァ関係ない――好きなように、ブッ殺すだけだ)
きりきりと糸が張り詰めた。そして、赤い双眸が残影を描いて消えた。
「ぬう……」
一方、ヤドリガミとしても御鏡の化身という出自からしても、
この瘴気あふれる環境に天敵めいた敵愾心を抱く天御鏡・百々。
彼女が藪睨みする先には、すさまじくラフな――つまりは野卑な戦い方で、
殴り、蹴り、砂塵やあるいは余波で折れてなぎ倒された木々すらも利用し、
骨邪竜ドゥートに猛追する少年(つまりカイト)の姿が映っている。
「邪なる者どもがひしめく地下迷宮、踏み込む前ですでにこれか……」
敵の強大さ邪悪さはさることながら、あの少年。
……カイトの戦い方からは、百々は妙な胸騒ぎを覚える。
それは彼女が、魔を破り浄化せしめる鏡光を加護とするがゆえか。
あるいは年経た化身として、若き猟兵の前のめりな戦い方が無謀に映るか。
「……いや、黙って立って考えておっても詮無きことよな」
百々は頭を振り、敵に対する思索や少年への得体の知れぬ不安感を拭い去った。
どのみちこの先に進むためには、なんとしてもあの龍を討たねばならぬ。
森を不毛の地へ変えさせないためにも、一刻も早く誅伐せねばなるまい。
(さすがにあの中にはそうそう割り込めないな)
一方、ヴィリヤ・カヤラもまた、カイトのラフファイトを目撃していた。
糸を自在に操り、あらゆる地形やオブジェクトすら利用するカイトの戦いぶりは、
勇猛だが――いや勇猛に過ぎる。いささか猛りすぎではないのか?
(この地下には、邪霊がいて精神攻撃を仕掛けてくるっていうけど)
あの少年の前のめりぶりが、この先の戦いに響かなければいいのだが……。
他人事ながらヴィリヤはそう考えて、やはり彼女も頭を振る。
その瞬間、骨邪竜ドゥートがばさりと大きく翼を広げるのが見えた。
「まずい気がする」
すばやく身を沈め、地を蹴って風のように疾走する。
少年は――なるほど、糸に血を流し、呪いを巡らせて強化しているのか。
おそらくあの力量ならば、迫り来る突風そのものはこらえられるだろう。
「けど竜巻なんて起こされたら、こっちも困るからねっ!!」
ヴィリヤは駆けながらユーベルコード『四精儀』を高速詠唱、行使。
ぱきぱきと冷気が吹きすさぶとともに、大気中の水分が凍りつき、
それは氷の津波となって砂場を覆う。そして、高く波を立て……龍へと!
『ぬうっ!? なんだこれは……ええい、忌々しい!!』
ヴィリヤの判断は正解。物理的な壁によって突風は阻まれたうえに、
津波それ自体がドゥートに対する牽制となり竜巻を防いだからだ。
「フン、ありがとよ」
少年――カイトは駆けつけたヴィリヤにぶっきらぼうに言うと、
きりきりと張り詰めた糸に、指先から流れる血を湿らせて呪いを張る。
「どんだけ殴っても蹴っても死にゃ死ねェ、いい加減メンドくさいぜ」
「私もサポートするよ。何かまだあいつは仕掛けてきそうだからね」
「……好きにしろよ」
ヴィリヤはカイトの言葉に肩をすくめつつ、ドゥートのほうを睨む。
氷の津波を砕き、突風攻撃を諦めたドゥートが――吠えた!
「そう来ると思っておったぞ、邪悪の輩め!」
そこへ颯爽たる声! いかにもそれは百々のものである!
薙刀を振るいて舞いしは、戦巫女の技・すなわち巫覡載霊の舞。
神霊体へと変じた百々の斬撃は、光の衝撃波を生み出し悪霊を切り裂く!
ドゥートは十の悪霊とその恐るべき武器を招来することで、
猟兵達を数で圧倒せんとしていたのだ。だが破魔の力はこれを浄化する!
『なんと忌々しい光か!』
「巨大なれども所詮前座、ましてや邪竜悪霊の類ならば、
我が御鏡の力にて、その魔を払い消し去ってくれようぞ!」
舞いの合間に繰り出される薙刀は、悪霊を一体一体切り裂き消し去る。
ヴィリヤは――悪霊の守りが由来だ瞬間、光芒をドゥート本体に打ち下ろした!
『ぐ、おぉおおっ!? なんだ、この光柱は……!!』
「また悪霊を招来されたらたまったものじゃないでしょ?」
ジャッジメント・クルセイド! 本体被弾により悪霊霧散!
「くそっ、せっかく薄暗くてやりやすかったのによ――まァ、いいか!」
光が消えゆく中、ドラゴンめがけ不可視の斬糸を放つカイト。
つかの間、血の如き赤い瞳がどくんと鼓動に従い輝きを増した。
「見えない刃を食らったことはあるか? どっちでもいいけどな――!」
鱗をもバターめいて切り裂く超微細の糸が、龍を……全身を、ずたずたに切り裂く!
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
メルノ・ネッケル
森を滅茶苦茶にしてまうアンタの存在は放っとけん。
それに……"踏み込ませぬ"と言われれば、踏み込まずにはいられん性質でなぁ!
押し通らせて貰うで……勝負や、骨邪竜!
そっちが十の悪霊なら、それより多くぶつけるもんを出せばいい。
『フォックスファイア』!来ぃや、三十三の狐火!
狐火を三つずつ纏め、十一個の炎に!
悪霊の動きを【見切り】、一体につき一つをぶつけて足止めしながらドゥートに接近や。
悪霊は親玉と同じ強さ、狐火三つ分じゃあんま効かへんやろうけど……足止め程度で十分や、本体叩けばおさらばやからな!
拳銃の間合いまで近づいたら、ラス1の狐火を真っ直ぐに叩き込む!
勢いのまま【2回攻撃】、二丁拳銃も付けとくで!
色採・トリノ
あらあら、大変
フリムちゃんたちはお久しぶり
リノたちの探し物、この先にあるみたい
少し騒がしくしてしまうわ
ドゥートちゃんもごめんなさい、そこを通させてもらうわ、ね?
リノは攻撃は苦手だから、みんなのサポートをする、わ
UCでライオンさんに乗って、ドゥートちゃんの陽動を
ほら、ほら、こっち、よ
駆け回って攻撃の回避と、注意の引き付けと、両方を同時に狙うわ
猟兵のみんななら、その隙を逃さずに、攻撃してくれる人がいてくれると思うの
もし、竜巻攻撃がリノたちに命中しそうなら、命中の直前に人格切替え
ごめんね、戦うの、やっぱり苦手だから
得意な子、後はお願い、ね
(別人格出す場合、名前(色)・性格等おまかせします)
仁科・恭介
※アドリブ、連携歓迎
「闇の深さか。宵闇に育った身としては解る気がするね」
POW
【携帯食料】を食みUC対象を竜に設定し、脳細胞を活性化
【目立たない】よう周囲の状況を【学習力】で把握する
観察が終わり仕掛けようとした瞬間細胞を通じて感じる
ぞわりとする感覚を
直感を信じ近くの猟兵に声をかけ【残像】を残し
【ダッシュ】でその場を離れるが何かが腕に当たった
腕から流れる血を掌に集め居るような気がする方向に【投擲】
「そういう事か。やってくれるね」
複数操っているが操作は一人
色のついた何かの癖を見極め、【ダッシュ】で懐に潜り込み【鎧無視攻撃】を乗せ、右足を袈裟斬りで攻撃
「これで私に注意が向いてくれれば良いが!」
●燃え上がるもの、彩るもの、悟るもの
「あらあら、大変ね」
と、どこか……というかだいぶ状況に合わないのんびりとした声音で、
色採・トリノはまるで他人事のように呟いた。
既に何名もの猟兵が、骨邪竜ドゥートとの絶え間ない交戦を繰り返している。
フリムをはじめ、状況を怯えながら見守るフェアリー……"森の末裔"たちを振り返り、
「みんな、お久しぶりね? リノたちの捜し物、この先にあるみたい。
少し騒がしくしてしまうわ。でもすぐに終わるから、許して、ね?」
「「「はいでする~!」」」
特徴的な語尾のフェアリーたちの声を聴くと、トリノはくすりと微笑んだ。
……だがどうする。"トリノ"では戦闘は不得手だ。"どの子"を出すべきだ?
(困ったわ、ね。まだ、迷宮に潜ってすらいないのに――)
そんなトリノの僅かな思案を切り裂くように、勇ましい足音が一つ砂をかき分けた。
『何者も、ここには決して踏み込ません……!!』
「悪いけどなぁ」
足跡の主――妖狐の少女、メルノ・ネッケルは毅然とドゥートを見上げた。
陽気なブラスターガンナーにしては珍しく、眦を吊り上げてにらみつける。
「こんな森をめちゃくちゃにしてまうアンタの存在は、これ以上放っとけん。
それに――"踏み込ませない"と言われれば、踏み込まずにはいられん性質(タチ)でなぁ!」
『グルルルル……!! 天敵め、なおも迷宮の門を開かんとするか!』
「ああそうや、そしてアンタは滅ぼす! いまここで、すぐにでもな!!」
もうこれ以上、自然が損なわれていくさまを見るには堪えない。
妖精たちが、獣たちが、いやさ自然そのものが苦しんでいるのがわかるのだ。
オブリビオンとは世界を侵すもの。過去を以て未来を侵略するもの。
斯様な形でその実例を垣間見ようとは。猟兵としての義憤が燃え上がる!
「押し通らせてもらうで――勝負や、骨邪竜ドゥート!!」
メルノが叫ぶとともに、彼女の周囲に生まれる三十と三つの狐火!
フォックスファイアを使用したメルノは、それら狐火を融合合体させ、
1/3に当たる十と一つの狐火を保つに至った。
「三十三の狐火、束ねて編んで十と一! どや、アンタの悪霊よか多いで!
さあ、ご自慢の悪霊、呼び出してみいや――全部燃やし尽くしてやる!」
『どこまでも小賢しく生意気な……!!』
メルノの挑発を――ドラゴンとは傲慢で高慢であるがゆえに――受けたドゥートは、
ぎりぎりと牙をきしませながら悪霊を喚ばい、これを軍勢とする。
たった十。されど十。それらは一体一体が龍に匹敵する強大な霊魂である!
(このプレッシャー、いくら三つ束ねた言うたって狐火じゃ倒せんようやな)
だが、それも含めてメルノは織り込み済みだ。
(このまま突っ込んで足止めして、本体を叩けば問題なしや!)
しかし見よ。悪霊の動きは、メルノの想定よりも遥かに疾い。そして統率!
ドゥートが招来し操作するゆえに、それらは一糸乱れぬ連携で攻防を担うのだ!
(まずいか……ッ!?)
だがその時。ゴオオウッ!! というけたたましい猛獣の咆哮が響いた。
黒雲わだかまる薄暗がりの中、なおも輝く黄金の毛並みのライオンである!
「ほら、ほら、こっち、よ!」
背にまたがるのはトリノ! 3メートルはあろうかという黄金のライオンは、
今まさにメルノを盤石の陣形で迎え撃とうとしていた悪霊どもを撹乱し、
これ見よがしに挑発し、注意をトリノと己のほうへと引き付ける!
「なんやアンタ!?」
「今のうち、よ! あの子たちとは、リノが追いかけっこしている、わ!」
「……そっか! おおきにな!!」
メルノは笑って頷き、悪霊どもをかいくぐり十一の狐火とともに走る。
ドゥートは舌打ちした。悪霊を戻すにしても、メルノは止められないか!
『ならば我自ら、翼をはためかせ吹き飛ばしてくれるわ……!!』
「アホかアンタ、それうちが見逃すわけあらへんやろうがッ!!」
死霊がかき消え、翼を大きく広げて突風を生み出そうとするドゥート。
ここで砂塵の竜巻を起こされれば、せっかく陽動を買って出たトリノが危うい。
メルノはフォックスファイアを5:5の比率で、左右両翼めがけて殺到させる!
「燃えや狐火! アンタの図体にその羽は邪魔やもんなあ!」
『ぐお……!?』
蹈鞴を踏むドラゴン。トリノはほっと安堵の溜息をついた。
「――いや、未だだ! すぐにそこから離れろ!!」
「「!?!?」」
この突然の声に対し、トリノよりも先にライオン自身が動いた。
メルノもまた、猟兵のアドバイスであると信じ跳躍前転を打つ。
……この判断が二人を助けた。声の主、仁科・恭介は野太い息を吐く。
「いちいち姑息なものだな、人魂を潜ませて不意打ちしようとするとは……!」
恭介の腕には、紫色の炎がまとわりつき肌を焦がして肉を灼いていた。
じゅくじゅくと膿ませるような傷口から流れ出た血を掌に集め、
鋭い瞳で虚空を見やり、血の飛礫というべき刃を投げ放つ!
「うわ、いつの間に仕掛けてたんや!」
「ずっと観察して、様子を伺ってた、のね?」
ひゅぼっ!! と、何もないはずの場所を血刃が切り裂くと炎=人魂が燃える。
恭介はトリノの言葉に頷き、ドラゴンを見据えて自らも疾走する。
『おのれ!!』
「あいにく私は布石だ、しかし無視すると痛い目を見るぞ――こんなふうにな!」
斬撃! 振り上げたドゥートの右足がえぐれ、凄まじい血を噴き出す!
『がぁああっ!?』
「さあ、私のことは無視できないだろう? 人魂でも悪霊でも向けてくるがいい」
恭介は挑発しながらも、メルノの方を見てこくりと頷いた。
この場では彼女がもっとも可能性がある。そしてそのための意気も!
「かましてやれ、その激情に相応しい一撃をね!」
「――一撃どころやない!」
拳銃を構え、最後の狐火を叩きつけながらメルノは笑う。
「二挺拳銃のマズルフラッシュ、ありったけ叩き込んだるわ!」
BLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAM!!
「盛大だなあ! ははっ、これは派手でいい!」
「花火みたいで、楽しい、わ!」
三人がそれぞれに連携し、ついに叩き込まれた無数の弾丸。
ドゥートの回復すら追いつかぬほどに、メルノの怒りがやつを灼く!
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
壥・灰色
そういうことを、俺達の前で言う奴がよくいる
絶対に通さない、生かして帰さない、その類だ
そいつらがどうなったのか、今からお前に教えてやる
そのデカい図体を引っ込めてもらうぞ、渇竜
壊鍵、起動
基本は遠間に位置取り
他の猟兵が攻撃するその隙間を狙う
敵に一瞬でもよろめく、体勢を崩す瞬間があればいい
そこを狙い、助走
一歩目からトップスピ-ドに乗る
足下に叩き込んだ『衝撃』の反動に依るインパクト・ブースト、爆裂歩法
最高速を更新、更新、更新ッ――――――
音の壁など容易く食い破り、そこを越えれば光へ届けと更に加速
バックスイングした右拳を、敵の顔面目掛け、ただ一発の撃弾として叩き込む
今日から、竜殺しも名乗れるだろうかな
●五殺
骨邪竜はすでに、四度死んでいる。滅びている。
オブリビオンとて骸の海に還るはずの被弾を、あれは受けている。
――否、事実彼奴は"骸の海に還った"。そして『戻ってきた』のだ。
「そこまでして、おれ達を通したくないか」
騒然たる有様のなか、ざり、ざりと砂を踏みしめる青年――壥・灰色。
死人じみて不動であるはずの表情筋は、しかし、否……その双眸は。
「そうまでして、世界を侵し、未来を壊したいか」
ぎらぎらと、仇敵に対する怒り、激憤、そして敵意に燃えていた。
『通さぬ……決して、決して……!!』
「"そういうこと"を」
ざしゃり。ドゥートと灰色が、砂塵吹き荒れる荒廃の上で対峙する。
「おれ達の前で、言うやつがよくいる」
『何……?』
「"絶対に通さない"」
灰色の視線は決して龍からそらされない。
「"生かして帰さない"」
その双眸には、これまで経てきた戦いがいくつも去来した。
いくつもの世界。されどオブリビオンは皆同じことを言う。同じことをする。
今に生きる人々を痛めつけ、苦しめ、あるいは嘲笑い踏みにじる。
命を。未来を。当然のように奪い、そして塵芥のような過去で塗り固める。
「――その類の、"そういうやつら"がどうなったのか」
ぎりぎりと、灰色の拳が軋むほどに音を立てた。
灰色はグリモア猟兵である。ゆえに彼はグリモアを通じ予知を見る事がある。
裏を返せばそれは、自ら災厄を識りながら任せる他にないということだ。
多くの。多くの災厄があった。多くの邪悪がいた。多くの悲嘆と苦しみがあった。
止められたなら。救えたなら。どれほどよかったか。過去を書き換えられたなら。
……だがそれは不可能だ。魔剣には能わざる神の領域の行いだ。ゆえに。
「それを、今からお前に教えてやる」
ゆえに彼は拳を握り、魔力を走らせ、その力を振るうのだ。
「そのデカい図体を引っ込めて――いや」
そして、過去(てき)を。
「二度と戻れぬほど、バラバラに砕いて破壊してやる――"渇竜"」
巨人の如き"壊鍵"の力で、有象無象の区別なく粉砕してきたのだ。
――風が吹いた。
はじめ、灰色は他の猟兵の戦いを遠間から位置取り、一瞬の間隙を縫うつもりでいた。
一瞬。それがあれば"壊鍵"は、最大出力で拳を叩き込める。
だが。この敵を前に、彼はあえてそのプランを――棄てた。
「お前達が踏みにじってきたものの重さを、おれが教えてやる」
荒廃した森。怯え嘆く妖精たち。おそらくは失われた無数の命。
「再生するというなら好きにしろ。"その分だけ砕いて滅ぼす"だけだ」
――壊鍵(ギガース)、起動。
一瞬にして魔力が全身の回路を巡り、波紋となって撃力を増幅する。
それはまるで、導火線に火が着いた火薬のようでもある。
あるいは、西部劇における、真昼の決斗じみた緊張。
じわり、じわりと、悪霊の群れが十体、灰色の前に立ちはだかる。
……仕掛けられれば、灰色一人では抗いようはないだろう。
一体一体が彼奴と同等の力を持つ、禍々しき武器の担い手である。
『矮小なる者が……』
「龍"風情"が、知ったような口を利くな」
ごきり。拳が骨を鳴らした。静寂。痛いほどの静寂――!
『……引き裂き、殺せッ!!』
しびれを切らせたのは、哀れ骨邪竜であった。
悪霊どもは、張り詰めた弓弦めいて一瞬で風となり間合いを詰めた。
瞬きひとつ、鼓動ひとつの間に、天敵を引き裂けるはずであった。
"はずで、あった"。
だが彼の衝撃は、瞬きよりも鼓動よりも、時の砂粒が落ちるよりも疾い。
助走すらなき、ノーモーションからの即時トップスピード。
踏みしめた地面が爆裂し、砂塵が舞い上がり竜巻めいてつかの間周囲を覆う。
最高速を更新していく、段階的インパクトブースト。
一歩。音の壁を破る。
二歩。景色が色のついた線となる。
三歩――灰色は、途端に主観時間が鈍化しているのを感じた。
電気信号が走るよりも先に、肉体は超音速を踏み越え絶人に至ったのだ。
もはやそれは、限りなく光に近い、刹那よりも短きつかの間の燃焼。
打ち砕く。
打ち砕く!
敵を。過去を! 憎むべき龍を! この拳で!!
「――砕けろ」
蒼き電弧が、世界を駆け抜け、そして灰色の背後から拳へと突き抜けた。
バックスイングからの右拳。撃力を超強化しての、一撃。ただ一発の撃弾。
静寂。
「……今日から」
ぼん、という妙な音を立てて、龍だったものが崩れて落ちた。
砂のように。強烈すぎる衝撃はそれを原子レベルにまで分解せしめた。
「竜殺しも、名乗れるだろうかな」
風が吹きすさぶ。おそらく彼奴は五度目の再生を果たすだろう。
だが完全なる撃力と破滅は、その形すらも竜から奪い去ったのだ。
大成功
🔵🔵🔵
アルジャンテ・レラ
有事の際にも関わらず、共に過ごした彼らの事を考えるなど……。
……お二人は今頃どう過ごしているのやら。
フリムさん。
あの日会ったきりでしたが、彼女や他の妖精達が集落を如何に大切に思っているのかは、知っているつもりです。
いいえ。知っています。
今回の任務はあくまでオベリスクの破壊。
群龍大陸の発見のためでしたね。
なのに何故、他の動機まで生じるのか……不思議なものです。
薦めていただいた零距離射撃は未だ会得していませんし、常と変わらぬ立ち回りを。
援護射撃に努めましょう。
敵の駆動力を削ぐように矢を射ます。
悪霊招来時は急ぎ敵の本体に火矢を。
先に踏み込んできたのはあなたでしょう?
これ以上の勝手は許されませんよ。
ビードット・ワイワイ
アドリブアレンジ歓迎
見たり見たり見たり、汝の破滅を見たり
巨大な力を持ちけれど、汝の立場は只の護衛
ここで満足しているならば汝の力量怪しきものなり
力量足らぬ不運を恨め。ここが汝の破滅なり
ここに招来するは人の営みを容易く奪う抗えぬ猛威、台風なり
降るは豪雨、轟くは雷鳴、向かう先は常に烈風
飛行を阻害し足場を崩す。轟く雷、防ぐ術はありけりか?
汝の突風、この風の中でも進みけり?
盾となりて風を防ぎ、仲間の攻撃の布石となろう
例え大地が死のうとも地下に生きる命有り
自然はいずれ芽吹きて再生、そこに人の力は不要なり
自然の猛威に抗うな。受け入れ骸になるがよい
それが自然の摂理なり。それが汝の定めなり
●射抜くもの、破滅させるもの
竜はなおも蘇る。なおも蘇り、そして通さぬと叫ぶ。
なぜそうする。オブリビオンだからか? だとしてもあまりに不可解。
そしてそれ以上に――それ以上に、そう。
「不愉快、ですね」
アルジャンテ・レラは、五度目の再生を果たした竜を見据えて呟いた。
その言葉が溢れたことを、誰よりも彼自身が驚いたほどだ。だが。
脳裏によぎる、かつてこの森を駆け抜け、滞在したあの日。
見上げた夜空。慣れない騒がしさ。妖精たちとの交流。そして戦い……。
(フリムさん、そして……お二人は、今頃)
考えかけて、アルジャンテは軽くため息をついて頭を振った。
なんとなくだが、ふたりと言わずとも片方ぐらいはひょっこり出てきそうだ。
今の自分を見られたら、またあの馬鹿力で茶化されそうである。
「今回の任務は、あくまでオベリスクの破壊。ですが」
『させぬ……!!』
「いいえ、為します。ですが、ええ、それ以上に……私自身不思議ですが」
ぎりぎりと弓弦を張る。見据える先は立ちはだかる邪悪なる竜。
「あなたを滅ぼします。滅ぼすための一矢を――放ち、斃します」
壊れかけた感情回路が、悲鳴をあげるほどに叫んでいた。
この敵を、決して許してはならないと。
「見たり、見たり、見たり」
そこへ、壊れたように何度も同じフレーズを繰り返す機械の声。
ビードット・ワイワイ。破滅をもたらすため幸福を喚ばう狂った機械。
根源的破滅を求むるもの。破滅のために過去を破滅させる矛盾器物。
「汝の破滅を見たり。強大なる竜、されど汝の今の立場はただの護衛。
ここで満足しているならば、汝の力量竜の格、実に怪しきものなり」
『何……!?』
「力量足らずば我らに叶うはずもなし。恨むならばその不運を恨むべし。
そして我は見たり。汝に怒り倒さんとする者の意思をここに見たり」
ギョグンッ。無数のカメラアイがアルジャンテを捉える。
「……私、ですか」
「然り、然り、然り。そして我もまた同じなり」
ギョグンッ。感情を感じさせぬはずのビードットの声音、だが。
「ゆえに、ここが汝の破滅なり」
『ほ・ざ・けッッ!!』
怒り狂った竜が翼を広げはためかさんとす! だがこれを許す二人ではない!
「ロードルーイン。星の記録を読み解きし人の傲慢。その再来を望む――」
突風が吹き――吹いた。吹いたが、"さらなる風にかき消された"。
『なんだと?』
「これは」
竜も、そして弓を構えるアルジャンテも瞠目した。
ごうごうと吹き荒れる風。翼の突風など歯牙にもかけぬ風。
ごろごろと龍の唸り声めいて響く音。降り注ぐは恵みの雨。これは!
「然り、然り、然り。これなるは人の営みを容易く奪う抗えぬ猛威。
偽りの荒廃に再生はあらず。されど猛威は大地を癒やす滋養とならん」
「……台風! そんなものまで招来できるんですか!」
ギュグン。カメラアイがアルジャンテを見る。同意のサイン。
「向かう先は常に烈風、雨が降り注ぎ轟くは雷鳴。されど人はそれに挑まん。
汝はいかにする? 飛行を阻害し足場を崩し、風を許さぬ烈風いかにする。
門を閉じて阻む番龍に、斯様な挑戦など出来ようはずもなし」
『おのれがァッ!!』
咆哮が悪霊を喚ばう。だがここまで含めてビードットの想定通り!
「見たり見たり見たり。安易なる力もて暴威を気取る愚か者を見たり」
「……準備、完了です」
あの時勧められた零距離射撃は、あいにくまだ会得していない。
けれどもそれでいい。新たに掴んだ力はいまここにある。
あの時から経てきたものが、知ったものがある。銀の炎。銀朱火矢。
「踏み込ませぬ、といいますが」
吹きすさぶ風と雨は、悪霊どもを凌ぐ壁となる。
「先に踏み込んできたのはあなたでしょう――勝手も、大概にしてください」
矢が放たれた。銀炎が、愚かなる龍を貫き、燃え上がらせる……!!
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
杜鬼・クロウ
アドリブ連携◎
群龍大陸…響きにロマンを感じるなァ
勇者が遺した手掛りを元に未知の地を踏みしめる興奮
悪くねェよ
まずは腐臭撒き散らす迷惑千万な竜をぶっ倒す
ほかにもまだまだいるみてェだが、テメェを沈めてからだ(敵の圧に気圧される事無く
…戦利品とか剥ぎ取れンのかねェ
グラサンしたまま注意深く敵の動向観察
人魂は【煉獄の魂呼び】使用し対処
禍鬼は棍棒で敵を蹴散らす
霆で複数同時攻撃
背負ってた玄夜叉降り下ろし竜へ駆ける
グラサン握り潰し【無彩録の奔流】使用
竜の腹に遠心力で更に重い一撃見舞う
敵の攻撃は変形した剣で武器受け・カウンター
仲間が危険ならかばう
属性攻撃・2回攻撃・呪詛で魔焔の業を纏った剣を叩き込む
骸の海に還ンな
柊・明日真
【アドリブ歓迎】
今度は砂漠化かよ…フェアリー達も災難だな。
まあいい、何度でも助けてやるさ。
さて、まずはあの邪魔な門番を退かさないとな。
遠距離から殴られるのも面倒だ、【武器受け、ダッシュ】で懐へ飛び込み接近戦に持ち込む。
距離を離されないよう張り付いて攻撃、視覚外から来る攻撃を防御しても大した意味はないな。【野生の勘】で回避しつつ攻めていく。
門番如きに手こずってる暇もない。《焦熱の刻印》【怪力、属性攻撃】でのっけから飛ばしていくぜ。
こちとら急いでんだ、さっさと道を開けろ!
●魔焔と焦熱
アルジャンテの矢が骨邪竜を貫き、銀の焔が彼奴の巨体を燃やす。
好機である。裏を返せば、追い詰められた敵が死に物狂いで抗うということ!
『オォオオオオ……応え、応えや、呪われし魂ども!!』
呼び声に応じ、ぽつぽつとドゥートの周囲に紫焔めいたゆらめきがいくつも。
それらはすべて人魂であり、やがて虚空に溶けるようにして消失する。
――否、本質的には存在している。不可視になっただけだ。
そして人魂は、四方八方に飛び散り敵を阻もうとするのである!
「させるかよッ!!」
降り続ける雨と風を切り裂き、なおも熱きオレンジ色の焔が翻った。
柊・明日真。燃えるような瞳が、射手たる少年の方を見てニヤリと笑う。
「あとは任せておけよ、俺"達"になッ!」
言って、無造作に前方を切り裂き(そこへ待ち構えていた人魂がひとつ抹殺された)、さらに地を爆ぜるほどに蹴立てて突き進む。
『矮小なる者如きが! 我が前に立とうとするかッ!!』
「矮小だァ? クソッタレな腐臭撒き散らす迷惑千万なデカブツが言うじゃねェか」
怒号と共に放たれた重圧を前に、それをはねのけるかのような野卑な言葉。
どこかでばさばさと三本足の暁鴉が羽ばたき、その背から落ち立つ影。あれは!
「こちとらロマンとファンタジーてェヤツに胸ときめかせてンだよ。
テメェみてェな死にぞこないが、いつまでも邪魔すンじゃねェ!!」
杜鬼・クロウ! 彼もまたアルジャンテを、そして明日真を見、笑う。
俺"達"。並び立ち、共に駆ける両名のことに他ならず、ゆえに彼らに言葉なし。
やることは決まっている。あの門番気取りをぶちのめすだけなのだから!
ごう――!! 招来された禍鬼の棍棒が人魂を地形もろとも薙ぎ払う。
血路が開いた。共に得物を背負う戦士ふたり、一切の躊躇なく龍の間合いへと!
『邪魔だァ!!』
「それはこっちの台詞ってんだよ!」
「違いねェな、ついでに言や弱ェぜテメェ!」
怒りに任せた骨邪竜の鋭い爪をふたりはかいくぐりあるいは跳躍し、
まず腹下へ潜り込んだ明日真がすさまじいアッパーカットをえぐりこむ。
『がはッ!?』
龍の巨体すら浮かび上がらせるほどの強烈な一撃!
そこへ跳躍したクロウ、背負っていた玄夜叉を倒れ込むように切り下ろした!
ざくん――!! 片前足と翼を半ばほどまで切断され、龍が苦悶する!
「ケッ、ホントにしぶてェなァ」
「それもこれも、森の命を吸ってやがるおかげだろ」
言いつつ、明日真は見覚えのある大森林の風景を一瞥した。
"森の末裔"――かつて彼や他の猟兵達が救ったフェアリー達も災難なものだ。
「とっとと終わらせて、あいつらを安心させてやらねえとな」
「あァ。それに、竜退治から始まる大冒険ってのも悪くねェと思うぜ」
かけていたサングラスを外し、無造作に握り潰しながらクロウが笑う。
術式解放(オプティカル・オムニス)――残骸は光の奔流に変じ溶け崩れ、
それらは渦を巻いて黒魔剣に吸い寄せられていく!
「なんだそりゃ?」
「まァ見てろよ――魔剣の本領発揮ってトコだ!」
おお。刃渡り2メートル近い魔剣のルーンが鈍く輝き、さらに一回り伸長。
両刃に刻まれしは、骨をへし折り断ち切る剣呑な鋸歯である!
「コレなら、戦利品の剥ぎ取りもできそうじゃねェか?」
「ハッ、まるでハンターだな!」
笑いながら、明日真は緋焔の剛剣の切っ先でがりがりと地面をひっかいた。
クロウもそれに倣えば、ふたつの刃はそれぞれに焔を生み出し纏うのだ!
『どこまでも、どこまでも我を愚弄、するか……ッ!!』
「前座風情がラスボス気取ってんじゃねえ!」
さらに人魂を招来しようとしたドゥートへ、明日真の初太刀が決まる!
龍はあえてこの傷を妥協した。カウンターで彼を引き裂くためにだ!
「トカゲの浅知恵なンざ見え見えなンだよッ!!」
ぐおん、と振り上げられた爪を、割って入ったクロウが刃で受ける!
ざりざりと両足が地を削りながら数十センチ後退、クロウは体勢を崩し――否。
「お返ししてやるぜェ、受け取りなァ!!」
衝撃威力にあえて逆らわず、そのままぐるりとその場で一回転。
速度と遠心力を載せた更に重い一撃が、剣閃を龍に刻み込む!
『ご、が……ッッ!?』
「こちとら急いでんだ――」
がら空きのドラゴンめがけ、大跳躍した明日真が吠える!
「さっさと、道を、開けろォ!!」
縦の兜割り! 切り裂かれた傷口が内側から爆ぜて刻印の焔を生み出した!
さらにクロウのバツ字斬撃。えぐりこむ鋸歯が魔焔を彼奴の骨身にねじ込む……!
三つの焔が骨邪竜を焦がし、滅びへ誘う。なんたる連携攻撃か!
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ロク・ザイオン
※ジャックと
(あの豊かな大森林が、こんなにも、無残に)
(耳を伏せる。低く、唸る)
……"狩り"じゃない。
森を食う病を灼き潰す。
(心のままに戦うことを己に許すならば――
相当、怒っている)
(十程度の悪霊、前に相対した地を埋める竜どもに比べれば。
【ダッシュ、ジャンプ】、燻る二刀で【2回攻撃】
「烙禍」で死んだ砂を灰と炭に変えながら
駆けて跳ねていなして躱して、狙うは骨の竜。
邪魔者は、相棒に任せた。
自分がどう動き回ったって大丈夫だろう?)
……よくも。
フリムに。
うたわせたな。
(地面が十分脆くなったなら、地の利は己にある。
【地形利用】し烙禍で【傷口を抉る】)
お前は。
森の、糧になれ。
ジャガーノート・ジャック
(ザザッ)
敵性存在を発見。
肉のない骨龍か。"狩り"とは言いづらいな。
では、"討伐"と行こうかロク。
ミッションを開始する。オーヴァ。
(ザザッ)
SPDを選択。
【経験予知】。
竜巻か。キマイラの世界にて尚凄絶な風使いがいた。故に理解できる。回避も叶う。
"そうするだろうと思っていた"。
本機は後方支援を担いつつロクをバックアップに徹する。
同じく"経験予知"を用い、ロクの行動パターンから数秒先に取るであろう行動を読み取り適切な射線支援を行う。
(戦闘知識+学習力+見切り+援護射撃+スナイパー)
――王手を詰めるのは君に任せる、ロク。
森を守るものとしての務めを果たしてくるといい。
(ザザッ)
●六殺
風が吹いていた。
否、それはもはや風ではない――嵐だ。
すなわち、追い詰められた骨邪竜ドゥートが巻き起こした、竜巻である。
天にわだかまる黒雲すらも切り裂くほどの、凄まじい嵐であった。
びゅうびゅうと吹きすさぶ風は、まだ無事な木々すらもへし折り薙ぎ払う。
だがこれはまだいい。まだ"ありえる"ことだ。
木々が折れて倒れたとしても、それは新たな命の滋養となる。
百、千年の時を経て、そこにはいくつもの新しい命が芽吹くだろう。
しかしあの砂漠は違う。あれは不可逆の、何者も住めぬ、生まれぬ不毛。
「…………」
"大森林"というだけあり、その野放図が全てを侵すにはまだまだかかるが、
それでも少なからぬ地形が砂漠と化し緑が失われてしまっていた。
惨状を目の当たりにしたロク・ザイオンは、嵐への恐れでも慟哭でもなく、
ただ純然たる敵への殺意と、壊された森への哀悼に唸りを漏らす。
低く、長く、ごろごろと遠く響く雷のような、剣呑な唸り声だ。
《――肉のない骨龍か、"狩り"とは言いづらいな"》
「……狩りじゃない」
傍らに立つ黒くスリムな機影――ジャガーノート・ジャックはロクを見た。
何故と問う必要はない。彼女が何に対して、何故怒っているかはよくわかる。
ロクの人柄もある。だがジャガーノートはこの地をよく知るからだ。
《――……では、"討伐"と行こうか、ロク》
「ああ」
渺々と吹きすさぶ嵐のなかへ、ふたりは恐れの欠片もなく踏み出した。
一歩。二歩。三歩目は肉食獣めいた前のめりな駆け足へと。
「森を食う病を、灼き潰す」
《――付き合おう。ミッションを開始する、オーヴァ》
怒りの森番に、黒き豹影が付き従い、嵐を切り裂き疾駆する。
『オオォオオオオォオオオ――!!』
嵐の中は、さらなる凄絶たる有様となっていた。
己を苛んでいた焔を、風を阻んでいた雨を、稲妻を、全てを全力で振り払い、
崩壊と再生の只中で荒れ狂う龍。それ自体がもはや暴威である。
『通さぬ!! 誰も!! 何者も!! 我を滅ぼすことも能わず!!』
ばさり! ばさり! 両翼は猟兵の攻撃によって穴だらけにされ、
即時再生した神経網がそれを繋ぎ合わせ激痛の中で羽ばたきを再開する。
なんたる有様。それを怒りと屈辱の中で行使する所以はなにゆえに!?
……問う必要などない。奴はオブリビオン。世界の破壊者。過去の化身。
問う必要などない。罪の如何を問うフェーズなど、とうに過ぎ去った。
「おまえは、灼き潰す……――!!」
燃えるような声が響いた。それこそが怒りを孕んだ獣の咆哮だった。
乱舞する木々を急場の足場とし、ロクは空を錐揉する魔竜へと肉薄する。
『我を!! 龍たる! 我に!! 並ぼうなどと!!』
《――そう、お前達龍は傲慢だ。ゆえに、殺到する者あれば叩き落とす》
ZAP。風も障害物も、ましてや砂も竜巻にもかかずらうことなく。
まっすぐとした流星のごとき一条の光芒。それがあっけなく翼を灼ききった。
《――"そうするだろうと思っていた"》
つい先頃に、あの花咲く地獄で。猿獣を、狂女を、暴風を越えてきたならば。
この程度の龍のやることなど、見当がついて当然。対処できて当然。
なぜばらば彼は兵士(JACK)であり、破壊(ジャガーノート)であり、
そして今は、彼女を獲物のもとへ辿り着かせるためのスナイパーであるゆえ。
『が……ッ!?』
《――本機にとって、お前は踏み越えるべき道程ですらない》
ZAP。二条目の熱線、さらに追従する雷霆が龍の爪と牙をすら阻んだ。
巨体がぐるぐると螺旋落下し墜落。もんどり打つ魔竜は悪霊を生み出す。
ZAP。視えている。追い詰められた獲物がしもべを繰り出すことも。
《――なぜならば、本機よりも、お前を滅ぼしたい者がいるからだ》
そして倒れ伏した龍は、荒れ狂う黒雲を背に、己を見下ろす死神を見た。
飛び交う木々も砂も、何もかもを灰と炭に変え、頭上を取ったものを。
かつて、悪しき黒龍を、その使い手を討ち滅ぼした者を。
その瞳が魔竜以外を見ることはない。悪霊など意に介さない。
それを阻み討ち滅ぼそうとする者らは、すべて兵士が射抜き殺した。
ゆえにロクはただ獲物を見る。両手に握りしめるは断罪の、絶死の刃。
呪われた烙印。燃え上がるのは、死を弄ぶ邪悪への死という裁きである。
「――よくも」
相棒ならば、己の動きは言わずともわかってくれるはずだ。
何度もそうしてきた。だから不安はない。事実そうなった。
誰もロクを阻むことはない。魔竜すらも。魔竜が招来した悪霊ですら。
「フリムに、"うたわせた"な」
風の中からかすかに聞こえた、忌まわしいほどに美しい声。
涙を流して己の声を、存在を受け入れてくれた友の悲鳴(うた)。
それが、煮えたぎるような怒りを燃やした最大の薪である。
「お前は」
少女が堕ちる。これを受け入れ貫こうとする悪霊(やいば)は撃たれて消える。
龍が何かを叫んだ。おそらくは呪いか苦悶か、なんでもいい。
「森の――糧に! なれ!!」
意に介さない。ただこの刃を、その逆鱗めがけ振り下ろすのみ。
兵士はただそれをバイザー越しに見る。相棒が王手を詰めるさまを。
森を守るものの責務。それは、無数の咆哮と雷と、ふたりの連携によってなされた。
魔竜に、六度目の死がもたらされた瞬間である。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
シオン・ミウル
地下迷宮っていうの、ちょっと興味あるんだよね
森林が砂漠に変わっちゃうっていうのも勿体無いし
まあ、そんなとこ
あとはちょっと暇つぶしー……ってのは口にはしないけどね
竜を見るのはそうそうないけど、
悪霊だとか死霊だとかそーゆーのはわりと見慣れてるんだよね
如何にもって感じだなあ
なんだかちょっと懐かしい……なんて言ってられないか
『全力魔法』で風を練りあげる
防壁を作って竜巻は防ぎたいな
打ち消すのが無理そうなら相殺するか、
翼に風を乗せて一気に飛翔して逃れよう
近寄りたくはないから、ぎりぎりのところで【奏風】
涓滴岩を穿つ、って言うじゃん?
何度でも、傷がつくまでやってやるよ
セルマ・エンフィールド
人にとって……いえ、他の全ての生物にとってあなたの存在は害でしかない。さらにオブリビオンだというなら撃たない理由はありません。お覚悟を。
羽ばたきによって突風が発生するのであれば、翼の動きで突風がくることは分かります。あとは巻き上がる砂で風の動きを見切り、突風を避けていきましょう。
回避しつつ他の猟兵や敵の攻撃で砂漠化した大地にできた凸凹や、もともとは森林であった名残の朽ちた木々などを探し、それを利用して風から一時的に身を隠すチャンスを作り【霜天弓】を。
翼は元々飛ぶためのもの。身体の構造上自身の真上に向けて風を起こすのは難しいでしょう。
敵の真上に矢を放ち、降り注ぐ冷気を纏った矢で攻撃します。
三咲・織愛
大森林を不毛な砂漠に変えてしまおうなど、許せません。
用があるのは地下迷宮ですが……立ちはだかるというのなら、
打ち砕いてみせましょう!
ノクティス、一緒に行こうね
藍色の竜を星夜彩る槍へと変えて
……握れば心が奮い立つ
参ります
疾く、駆ける
攻撃は<見切り><武器受け>でいなし、足元、翼を重点的に狙いましょう
足を止めず常に動いて、浅くてもいい、回数を重ねて攻撃を加えていきます
正面からは当たらず、横、背後に回り込めるよう動きます
見えない何かは気配を察せるなら出来る限り見切って
ここだ、というところで足元に<串刺し>
『帚星』を嵌め【打ち砕く拳】を、攻撃力重視で一撃、叩き込みましょう
●風を切り裂き
幾度もの再生を繰り返し、骨邪竜ドゥートはなおも猟兵を阻む。
彼奴が操る霊魂、その瘴気、どれも犠牲なくしてはありえないものだ。
(――って言ったって、正直俺にはどうでもいいけどね)
ダークセイヴァーで生まれたシオン・ミウルにとって、
死霊だの悪霊だのといったオカルティック、かつネガティブな存在は、
むしろ"懐かしい気分"すら湧いてくるほどに見慣れたものだ。
もちろん、地下迷宮とやらを物見遊山で見に来たことも含め、
おいそれと口に出すような迂闊はしないが。
……いや、そもそもそんな軽口を叩いている場合ではあるまい。
「シオンくん! また来ますっ!」
「みたいだね、これはもう少し厚く練り上げないとダメかな――っと」
隣に立つ三咲・織愛……互いに見知った仲だ……の警告に素直に従い、
シオンは再度魔力を全力で汲み上げ、それを風の防壁として周囲に展開する。
一瞬あと、頭上を飛ぶ骨邪竜ドゥートがひときわ力強く羽ばたきを起こした!
『すべて吹き飛んで消えてしまえ、愚か者どもめッ!!』
「……!!」
織愛は、防げるとわかっていても愛槍ノクティスを力強く握らざるを得なかった。
だが緊張でこわばった体が、突風によってずたずたに裂かれることはない。
「さすがに突風でこの有様じゃ、飛んで逃げるってわけにはいかなさそうだね」
「ええ、けれどどうにかしてあの龍を引きずり降ろさないと……!」
かろうじて、シオンの防壁により突風と竜巻によるダメージは防げている。
だがいまや、ドゥートははるか頭上を悠々と飛び羽ばたき見下ろす状態。
つまり風は羽ばたきのたびに強まり、二人をその場に釘付けにしているのだ。
「一瞬……どうにかして、この風を一瞬でも止められれば」
「なら相殺……いや、そうも言ってられないな、あれ」
シオンはわずかに顔をしかめた。見上げる先に紫色の焔が一瞬浮かんだ。
それらはすぐに風に溶けて消えていく。だがオラトリオとしての感覚が告げる。
「死霊の魂だ、吹き飛ばせなくなったからって死角から刺すつもりか」
「森を砂漠にするどころか、いくつもの魂を道具として利用するなんて……!」
だがどうする。この状況、打開するにはあと一手が足りない……!
(……あれを撃ち落とす必要がありますね)
一方その頃。倒壊した大木を障害物として、身を沈める少女がいた。
彼女の名はセルマ・エンフィールド。
マスケット銃や弓を始め、ありとあらゆる遠隔武器を使いこなす生粋の射手だ。
しかしいかな狙撃手とて、この風の中悠長に敵を狙い撃つことなどはできない。
矢を放ったところで、突風に弾道をそらされ明後日の方へ行ってしまうだろう。
(よしんば射抜いたとして、追い打ちが――いえ)
その時、セルマの視線が、暴風の只中に釘付けにされたふたりを捉えた。
すなわちシオンと織愛である。彼女らは退くことなく前へ進もうとしている。
ならば、いけるか。自分が一瞬の機を生み出せば、おそらく彼らが。
コミュニケーションを取る方法はない。出たとこ勝負、分の悪い賭けだ。
(……それでも、あんな、何者にとっても害である存在を許容は出来ない)
オブリビオンというモノ自体がそうだが、あの龍はひときわその面が強い。
いま彼女の命を守っている木々も、本来ならたくましく育つはずだったのだ。
(――敵に覚悟をさせるなら、私も覚悟をしなければなりませんね)
もはや待ったなし。セルマはこの大木に身を潜めたときと同じように、
全神経を集中させて敵の動き――特に翼、そして巻き上がる砂――を注視する。
極めて優れた動体視力がさらに研ぎ澄まされ、細切れの映像めいて、
忌まわしいほどに強靭な翼膜が脈打つさままでもが読み取れた。
そう長くは保たない。このままじっとしていれば、自分も風に裂かれる。
いつ来る。この弓を届かせるための――否、"さらに高みを貫く"ための好機。
翼がはばたく。風が吹く。翼が羽ばたく。風が――途切れた。
わずかに一瞬。彼奴が霊魂を招来するために集中したその刹那である!
(今しかない!)
セルマは荒れ狂う風の中に、自ら立ち上がって身を晒した! 自殺行為!
だがその目が見据えるのは、龍ではなく彼奴のさらなる頭上である!
「黒雲を切り裂くは、無尽の……流星ッ!!」
張り詰めた弓弦がたわみ矢を放つ。撃たれたそれは一瞬で41の光芒に変じた。
変幻自在の軌道が描く矢が目指す先は、視線の先のわだかまる黒雲。
『何!? ……どこを狙っておるか、節穴めが!!』
「節穴はどちらでしょうね?」
ドゥートは訝しんだ。だが奴はすぐにでも地面に降りるべきだった。
なぜならば、矢に貫かれた雲から、雹めいて無数の冷気と矢が降り注いだからだ!
『何ィ!?』
「さあ、いまですよ! あとはお願いします!」
セルマの叫びがふたりを突き動かす。射手は再び矢をつがえた。
「すごい狙いだなあ、あれ! ありがたく厚意を受け取るとしよっかな!」
瞬時に防壁を解除したシオンは、なおも荒れる風の残滓を翼で打ち、
落ちてくる骨邪竜と入れ替わるように空へと舞う。
「俺は近寄りたくないんで、そっちは任せるよ!」
言いながら、シオンはタクトを振るう。するとその軌跡に風が従い、
縄のように収束した視えない風の輪が、首と言わず龍の全身を締め上げた!
『が……!?』
「ありがとうございます、シオンくん! それにそちらの方も!」
織愛は丁寧にふたりに礼を言いつつも、すでに体を動かしている。
ずしん――!! 巨体が落下し地面が揺れた。
並の戦士ならば体幹を崩して隙を晒しただろう。だが織愛は止まらない。
「ノクティス、一緒に行こう――邪悪を、打ち砕くために!」
織愛は自らの勘に従い、なにもない場所めがけ槍を振るう。
すると見えない人魂が切り裂かれ、紫色の火花を散らして爆ぜて消えた。
目指す先は龍の側面。回り込むような動きで人魂の追撃を切り払い、
立ち上がろうとする龍の翼と肢をすばやく貫き、地面に釘付けにする!
『ぐ、ぉおお!!』
「もう、飛び立たせはしませんよ!」
今度はドゥートが縫い留められる番だ。そこへ巨大な尾のなぎ払い!
機を見るに敏なり、セルマのはなった援護射撃がこれを押し止める!
「ここですね!」
織愛は減速した尾を、まるで標本めいてノクティスで串刺しにした!
代わりに掴むは、乙女らしからぬ剣呑なナックルダスターである!
「何度立ち上がろうと、勝つまで叩きのめすまでですっ!!」
『おぉおおおお!! お、のれぇぇええ!!』
苦しみと怒りに悶える龍の頭部を、箒星めいた拳が――打ち砕く!!
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
マレーク・グランシャール
【壁槍】カガリ(f04556)と
見えない霊魂と飛来する器物の攻撃はカガリの側にいて駕砲城壁で防ぐ
俺は【破魔黒弓】を番え【流星蒼槍】を成就
カガリの展開する鉄柵の隙間から破魔矢を射り、それを初撃として魔の力を破り、すかさず双頭竜の追撃
見えない霊魂も駕砲城壁の光弾の反射で位置が知れよう
破魔の力は骨邪竜自体にも有効なはず
槍ほどの威力はないが弓は高速・連射に向く
UC発動で動けないカガリに万が一にも危険が及ばぬよう【黒華軍靴】の機動性、【白檀手套】の反撃を駆使し機敏に立ち回る
カガリとの連携にも自信があるが、昔を思い出すのか不安げに見える
俺が側にいる、共に在るなら怖れることは何もない
出水宮・カガリ
【壁槍】まる(f09171)と
人魂に、悪霊…別に、それ自体は苦手ではないんだが
(漠然と、自分でもわからない、自身の内なる存在への不安)
…ああすまん、城門が気弱ではいけないな
まるの傍で【籠絡の鉄柵】を「周囲を広く高く囲う鉄柵」として展開
この状態から【駕砲城壁】
不可視の魂魄であろうが、不可侵・不動の砲門となるぞ
鉄柵にも【不落の傷跡】が刻まれているからな、隙間から攻撃を通すことは無い
反射する光弾の属性として破魔も付与しておこう
この身に如何な揺らぎがあろうと、カガリが城門である事には変わりない
門であるならば、敵を遠ざけねば
●城壁と龍槍
ガガガガガガ――!!
一瞬にしてそのサイズを変じた鉄柵が、砂漠に深く杭めいて打ち込まれる。
もはやそれらが揺らぐことはない。なぜならば、それはあくまで一部である。
つまり彼の――この鉄柵の主にして本体たる出水宮・カガリの、一部だからだ。
一方で、この守りを展開したカガリ本人は妙に浮かない顔をしていた。
「カガリ」
「…………」
「カガリ、来るぞ」
傍らに立つ男の声で我に返ったカガリは、すぐに顔を上げる。
然り――鉄柵を超えるかのように、倒壊した大木や残骸が飛来する!
「その程度の攻撃、城壁を越えられると思うな……!」
カガリがその真価を"駕砲城壁"を以て発揮すれば、その言葉は現実となる。
飛来した質量はいずれも堅きその意思によって阻まれ、光の弾丸に変じ、
ベクトルをそのままに反射して彼方へと飛んでいく。龍の雄叫び。
「……カガリ、大丈夫か」
「ああ、すまん、まる。城門が気弱ではいけないな……」
頭を振るカガリを、マレーク・グランシャールは無表情で見ていた。
感慨がないわけではない。ただ単に、彼は常から無面目なだけである。
(やはり死霊のたぐいが相手では、昔を思い出すのか)
不安げな半身の姿は、たとえ無表情に見えてもその裡をかき乱す。
……いや。カガリが不安な今、ならばこそ己が揺れてはなるまい。
「俺が傍にいる」
マレークの静かな言葉に、カガリはうつむきがちだった顔を上げた。
「共に在るならば、怖れることはなにもない」
「……ああ、そうだな」
マレークはカガリの表情が和らいだのを見て頷くと、彼方を見据えた。
光弾は空や大地に着弾して薄暗いこの森を照らし出す。
光のなか、おぼろに浮かび上がるのは……揺らめく紫焔。すなわち不可視の人魂!
「その魔性、打ち砕いてやる」
破魔黒弓が弦を張る。鷹の目じみた慧眼が咆哮する龍を睨みつけた!
『ええい、小癪な守りを固めおってッ!!』
一方の骨邪竜ドゥートは、カガリが展開した鉄柵に苛立っていた。
あれほどの質量を投じても、砕くどころか反射されてしまうとは忌々しい。
だが限界はある。ユーベルコードはあらゆる物理法則から解き放たれた奇跡だが、
どんな攻撃にも一切揺らがない守りなど滅多なことではありえない。
限りある無敵。つまり飽和攻撃を続ければいずれそれを砕けるという確信があった。
手間ではある。それ自体が龍にとっては業腹だが……。
『ぬうっ!?』
さりとて、その思索に耽るような暇はありはしない。
鉄柵の隙間から放たれた破魔矢が、邪悪なその肉体をめがけて飛来したからだ!
『おのれ……この程度の矢な、ど!?』
そこで敵の力量を甘く見たことが、ドゥートにとっての災難となった。
乱雑に羽で払おうとした矢は、深々と突き刺さり忌まわしい肉体を霊的に破壊。
破魔の力が稲妻のごとくに巨体を貫き、喪失の恐怖に龍は絶叫する!
『こ、れは……!!』
「屍肉を穿て、双頭竜よ!」
蒼然たる声とともに、ごろごろという蒼雷を纏う双頭竜が虚空に生じた。
骨邪竜はこの猛追撃をその爪牙でもって迎え撃ち、傷を負いながらも激高。
「その忌々しい守りを! 引き裂いて!! くれるわッ!!」
鉄柵を引きちぎり邪魔な敵を粉々にしようと、巨体がずんと地を蹴る!
「できるものならやってみろ、お前にカガリを砕くことなど不可能だ!」
がぎん!! 城壁と爪がぶつかり合う。間からほとばしる光の威力!
『ぬう……! 来たれ呪われし魂よ、此奴らを……』
「させん」
シュパッ! と、鋭く風を斬る音。破魔矢の第二射である!
ドゥートがその聖なる力に蹈鞴を踏む。三矢、四射……双頭竜の猛追撃も同様に!
「カガリの側にはまるがいる。たとえカガリにお前を砕けずとも」
「俺が敵を打ち砕く。魂を操る程度で、我らを越えられると思うなよ」
心を通じ合わせる二人の連携に、たかが邪竜が抗えるはずもなし!
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ゼイル・パックルード
昔から勇者やドラゴンの話は好きだったよ。そのドラゴンと戦えるなんざ本当にワクワクするね。せいぜい噂ほどじゃなかった、なんてことはないことを願うぜ。
見えないモノなんて相手にしたくないし、あちこちに移動しながら死月冥夜で【風斬り】で攻撃していく。突風を斬り裂ければかなり楽なんだがね、油断はしないできっちり移動しながら撃っていく。
翼から放つ突風なら、翼を注視して【見切り】する。
砂漠化がどれほどかわからないが、砂に足を取られそうなら鉄塊剣やルーンソード……使ってる刀以外の武器を地面に刺すなり置くなりして足掛かりにして移動していく。
こんな形で砂場でまた戦うことになるなんて思ってなかったぜ、まったく。
●七殺
ゼイル・パックルードは砂漠の生まれである。
ゆえにこのフィールド、彼にとっては慣れた場所と言えよう。
(こんな形でまた砂場に立つなんざ思ってなかったぜ……まったく)
内心で苦笑しながらも、ゼイルが足を止めることはない。
見よ。彼の頭上、猟兵による執拗な波状攻撃を忌まわしく思った邪竜あり。
彼奴は龍の権能とも云うべきその翼をもって風を起こし、霊魂を操り、
あるいは悪霊の軍勢で一時的に猟兵達を引き下がらせた。
食い下がる一部の猟兵、その最先鋒にいるのが今のゼイルである。
故に彼は止まらない。足を止めれば最後、邪竜の暴威は彼を引き裂くだろう。
『ちょこまかと逃げ惑う小物め! 我を畏れ、そして滅びよ!!』
「お決まりの台詞だねぇ、いかにもそれらしくて惚れ惚れするぜ」
ごうごうと大気に轟く稲妻めいた龍の大音声も、ゼイルは涼やかに受け流す。
幼い頃は、ありきたりなお伽噺――英雄が悪い龍を討ち滅ぼし、
財宝を手に入れて王権を掴む、そんなものを、年相応に好んでいた。
世間的に見れば彼は未だ16歳。若者というべき年齢ではある。
しかし傭兵として過ごしてきた経験が、彼に渇きと乾きをもたらした。
いまさらお伽噺を読んで聞かせられても、あの頃のように夢に見たりはすまい。
己が好むのは華々しい英雄の冒険譚ではなく、血湧き肉躍る強敵との死闘なのだから。
(だが、その点で言えば悪くない。ああ、悪くないさ――)
一瞬たりとも敵の翼から目を離すことなく、足を止めることもなく走りながら、
ゼイルは心のうちで思う。見えぬ霊魂を切り裂きながら想う。
龍。神話において、伝説に於いて、最強最悪とされる魔獣の頂点。
実に"らしい"。傲慢なその態度も、不遜な言葉も、そしてこの力。
風は大地を切り裂き木々をなぎ払い、砂を巻き上げ竜巻を生む。
巻き込まれれば終わりだろう。だから足を止めず立ち回る。
龍はそれを嘲笑いあるいは罵倒する。いつまで逃げ回るつもりなのかと。
『早々に消えよ! ここは何人たりとも通さぬゆえに!!』
「そう言われると逆らいたくなる性分なもんでね、それに――」
男は足を止めた――否、疾走から突如として地を蹴る跳躍に動きを変えた。
跳んだ先に大木の残骸が来る。ゼイルはそれを蹴立てる。足元で木が燃える。
霊魂が来る。呪われた刃が切り裂く。炎の残滓が風に消える。
跳ぶ。斬る。跳ぶ、跳ぶ、跳ぶ――龍は、瞠目した。
「"いつまで"はもう終わりさ。たどり着けたんでね」
『貴様』
「――遅いぜ、邪竜さんよ」
斬撃。風をも切り裂く抜刀とその真空波は、驚愕する龍の首を刎ね飛ばした。
都合七度目の死。傷跡を地獄の炎が苛み、滅びて再来する龍をあざ笑う。
「お前は強いぜ、龍なだけはある――けど、"それだけ"だ」
ゼイルという男がその上を行った。ただ、"それだけ"の話だ。
遥かにいい戦いだった。手応えは、どんなお伽噺よりも心地よく伝わる。
この瞬間こそが、ノスタルジーよりもなお男の胸を高鳴らすのだから。
成功
🔵🔵🔴
ユーフィ・バウム
※アドリブ、連携歓迎
森育ちとして、
大森林を不毛の地に変えるなんて許しません!
まずは地下迷宮を守る骨邪竜を倒しましょう
相手の魂魄操作等の攻撃を【見切り】かいくぐって
【ダッシュ】で迅速に近付き、
果敢に【グラップル】【鎧砕き】等での近接戦を挑みます
炎や、光の【属性攻撃】が効果あるでしょうか
敵の攻撃を避けきれなかったら
【オーラ防御】【呪詛耐性】で凌ぎます
鍛えたこの体はそうそう折れませんとも
戦う中でも仲間との連携を意識し攻撃
培った【戦闘知識】【野生の勘】が
何かいいことを閃けば仲間に周知
隙を見出せば【力溜め】ての【怪力】を生かした
必殺の《トランスクラッシュ》!
オーラを纏うお尻を浴びせ、骨邪竜を倒しますよ!
●たとえこの地を知らずとも
およそ十の、紫炎じみた人魂が虚空に揺らぐ。
それらは燃え盛りながらも薄らぎ溶けて消え、獲物を死角から襲うのだ。
「見えないからといって、それをわたしが恐れたりはしませんよっ!!」
ユーフィ・バウムは勇ましい声で言い放ち、自ら前へと疾走する。
足を止めれば敵にとって思う壺。ここはあえて間合いを詰めるのが正解だ。
だが、見えない上に四方から、ことによっては遠方からの攻撃を、
そう簡単に見切ることは出来はしない。
「く……っ!!」
ぐおんっ、と風を切って飛来した大木の残骸。霊魂による投擲だ。
ユーフィはこれを……なんと! 真正面からあえて受けた!
『何……!』
「ぐ、ぬぬ、ぬ……!」
なんたる怪力。ユーフィはその大木をむしろ棍棒めいて振るう!
バーバリアンとしての膂力が可能とするあまりにも強引な突破法である!
「鍛えたこの体、そう簡単にやられはしません!!」
『ならばこの森の力をさらに食らい、貴様を引き裂いてくれるわ!』
傲慢なる龍の言葉は、ユーフィにとって逆鱗に触れるも同じだ。
「森育ちとして、これ以上そんな簒奪は許しません……!
大森林を不毛な地に変えるなんて、私のこの力でお仕置きしてあげますっ!」
ぶおんっ!! と大木を振り上げ、叩きつけるユーフィ!
骨邪竜はこれを前足で防ぎ、もう片方の爪で彼女を引き裂こうとする。
避けるか、防ぐか。ユーフィはどちらでもなく、これを拳で迎え撃った。
「……!!」
皮が裂けて血が吹き出す。しかし反発力を受けたのは敵も同じである!
『おのれ……!!』
「鍛えられたこの肉体――めいっぱい、叩き込みますっ!!」
小柄な体躯が飛んだ! 全力に闘気を纏ったトランスクラッシュである!
まるで破城槌のような威力が、骨邪竜に蹈鞴を踏ませる!
「さあ、まだまだいきますよ! かかってきなさい!」
飛来する霊魂と苦悶する龍を前に、少女はなおも雄々しく構えを取る。
戦いは、まだ終わっていない。
成功
🔵🔵🔴
フェルト・フィルファーデン
あらあら、久しぶりに来たらまたなのね?……いい加減にしてほしいわ。
……ふふっ、ええ、何にせよ、同胞を傷つける邪魔者には消えてもらいましょうか。
まずはUCで兵士達を呼び出し、悪霊の足止めを頼むわね。
悪霊一体につき15人の兵士で挑みなさい。
でも、無理はしちゃダメ。撹乱してその場に留めてくれさえすればそれでいいわ。
残り40の兵士は付近に逃げ遅れた妖精がいないか探してきて。いたら同胞の元に連れて行ってあげて。お願いね?
その間にわたしは騎士達と本体を叩くわ。動けないなら好都合ね。
めいいっぱい力を溜めて、その骨の首、へし折ってあげる!
アナタの言葉、そのまま返すわ。何人たりとも、この地に踏み込ませはしない!
●妖精のひとりとして
「フェルト! 来てくれたのでする!?」
フェルト・フィルファーデンは、いつかのようにかけられた声に振り向く。
そこにいたのはもちろん、彼女のよく知る相手――つまりこの森に住む、
森の末裔と呼ばれるフェアリー達の長、フリムと云う少女にほかならない。
「フリム様……ここは危ないわ、もっと下がっていて?」
「う、うん……で、でもなにか出来ないかって思ったのでする……」
おずおずとした少女の言葉に、プラチナブロンドの妖精はにこりと微笑んだ。
「大丈夫よ。わたし達に任せて、ね?」
「……はいでするっ」
フリムを見送り振り向いた時、フェルトの表情は笑みのままだった。
ただしそこに込められたのは、親愛と懐かしむようなものではない。
「……いい加減にしてほしいわね、本当に」
底冷えするような、オブリビオンに対する殺意と憎悪である。
ずずん!! と、猟兵の強烈な一撃を受けた骨邪竜ドゥートが落下する。
衝撃によって砂埃が立ち上り、つかの間その身を覆い隠した。
そして砂塵の向こうから現れるのは、おお……悪霊の群れ!
「さあ、兵士たちよ!」
フェルトが手繰るのは、およそ200体近い妖精兵士を模した絡繰人形。
そのうち40体ほどは、フリムが去っていった方角へと駆けていく。
言わずもがな、彼女を含むフェアリーたちの安全確保と発見のためである。
「行ってちょうだい。あの悪霊どもを足止めするのよ!」
ざっ! 兵士達はみなそれぞれに槍や剣を構え、勇ましく行進した!
いかに骨邪竜と同じ力を持つ悪霊とて、縦列を為す兵士の群れが相手とあらば、
鎧袖一触とはいかない。ましてやそれらは精強かつ精妙な絡繰人形なのだ。
一糸乱れぬ連携を前に、十の悪霊はまごまごと足止めされざるを得ない!
『ぬうう……雑魚どもがちょこまかと……!!』
「雑魚? ええ、ええ。アナタみたいな図体の大きいばかりの目には、
わたし達は小さくてか弱い存在にしか見えないことでしょうね」
ざっ――フェルトが直接操る騎士人形達が横列し盾を構える。
今や、無防備な邪竜を守る事ができる悪霊は一体もいない。
『我を滅ぼすか? 否なり! けしてこの先へは踏み込ませぬ!』
「ふふっ、勘違いしているわね、邪竜さん?」
あくまでも笑顔を忘れることなく、フェルトは騎士達に号令を下した。
「アナタの言葉、そのまま返すわ。何人たりとも、この地に踏み込ませはしない!」
『思い上がるな!! 貴様ら生者こそが退くべきぞ!』
「ふざけないで――アナタも、この地下にいるというオブリビオンも!
すべて――ええ、そうよ。すべて! 滅ぼして、滅ぼし尽くしてあげる!」
兵士達は破壊されながらも死に物狂いで悪霊を足止めしている!
フェルトは風のように舞い、騎士達に号令しその鋒を龍の逆鱗へ!
『がぁあああっ!?』
「何度蘇ろうと、何度でもね。わたしの同胞を傷つける龍を許しはしないわ!!」
亡国の姫の双眸に、怒りの炎が煌めいた!
成功
🔵🔵🔴
パーム・アンテルシオ
邪霊…負の感情…
オブリビオンは、過去の残滓。だからかな。こういう話が、多いのは。
…いけない。今は、目の前の事に集中しないと。
いきなり、竜なんてものが相手なんだから。油断は禁物、だよね。
森は、生き物の住処。
なくなったら困る子たちは…大勢いるからね。
跳梁跋狐。
森を食べる小動物たち。
森を狩場にする肉食獣たち。
森に生きる、鳥たち。虫たち。私も知らない、モンスターたち。
みんな…この森を守るために。力を貸して。
共通の敵が現れた時。
それは、バラバラの集団が、集う事の出来る時。
個を喰らうのは、群の力。
さぁ…創り出そう、私たちの世界を。私たちの、群れを。
愛。それで足りないのなら…
扇動。その力を。
【アドリブ歓迎】
千桜・エリシャ
まあ、竜退治とは
きっと強敵揃いなのでしょう?
嗚呼…この胸の高鳴り
どうか、期待を裏切らないでくださいまし
あら、死霊の竜とは
少しだけの親近感と
負けられないという対抗心が刺激されますわね…
そう、では私のほうが死霊の扱いが上手いということを教えて差し上げますわ
傾世桜花――十体の悪霊さん達を魅了して私の掌中へ
いらっしゃい
ふふ、いい子ですわね
あなた達の魂を囚えて利用し武器としていた怨敵はあちら
さあ、武器を持って
共に討ち果たしましょう?
この子たちがいる間は敵は動けない
ならば、それを好機と見て最高火力をお見舞いしましょう
十体の悪霊と共に突撃
呪詛と生命力吸収を載せた2回攻撃で
その首を斬り落として差し上げましょう
リル・ルリ
■櫻宵/f02768
アドリブ歓迎
気味の悪い天気だよ、櫻宵
それに良くない気配がするよ
竜なんて怖くない
怖いのは、君が傷つくことだから
全く…相変わらずなんだからもう
屋根にあんなの飾ってあったら圧が強いよ?
けれど君が舞うなら歌おうか
僕は歌
愛しいお姫様の為に歌おうか
僕の全てを【歌唱】に込めて
愛しい櫻を守る盾とする
【鼓舞】込めて紡ぐ『凱旋の歌』で君の勝利を祈り歌う
【オーラ防御】で僕を守る君ごと守って紡ぐ『魅惑の歌』で竜を蕩かしとめるから
お姫様を守るのが王子様の役目だろ?
砂塵に桜を散らせはしない
その間に君の斬撃を届かせて
美しい剣戟に微笑んで
血より舞うのは桜花がいい
悲鳴よりも笑顔が愛おしい
邪を裂いてきておくれ
誘名・櫻宵
🌸リル/f10762
アドリブ歓迎
嫌なお天気ね、リィ
まぁ恐ろしい竜だこと
竜人として親近感はないことは無いけど
ないわね
立派な首
素敵な首
あたし達の家の屋根に飾ったらきっと綺麗
狩りましょう
刈りましょう
歌って頂戴
あたしの王子様
リルの歌に合わせて舞うわ
リルを庇うように前へ
刀に纏わす破魔
怪力のせてなぎ払い
衝撃波放って傷を抉るわ
仲間達が付けた傷一つ一つに呪詛を流し込み斬って裂いて穿って
生命力も吸収させてね
見切りで躱して残像でフェイントを
リルに手荒な真似はさせないわ
王子様を守ってこそのお姫様
人魚の歌には微笑んで
邪龍の鮮血を
フラワーシャワーの代わりに散らしたいわ
踏み込んだなら絶華を放つ
綺麗に竜に入刀しましょうね
●八殺
空にはどろどろと黒雲がわだかまり、陽光を遮り薄闇をもたらしていた。
忌まわしい暗黒である。さながら、あの黄昏に見舞われた世界のような。
光差さぬ深海のそれとはまた異なる、胸騒ぐような邪悪な暗闇である。
「嫌なお天気ね……」
「うん。それによくない気配がするよ」
誘名・櫻宵の言葉に、リル・ルリは素直に頷いた。
けれどもリルが不安がるのは、その暗黒や瘴気の恐ろしさではない。
それが、傍らに立つ龍人を害し、傷つけてしまうことへの恐れである。
『おおおおおお……ォオオオオ……!!』
これまでの攻撃で逆鱗を砕かれ、あちこちの鱗に裂傷を負い、
滅びの瀬戸際にあるらしき骨邪竜ドゥートが、低く震えるような呻きを漏らした。
「まぁ――恐ろしい龍だこと」
言葉と裏腹に、櫻宵の口元には薄い笑み。恐れはやはり、ない。
龍の眷属として想うところは……いや。あのような邪悪なものを前に、
同じカテゴリにはめ込むことこそ正気を疑う。一笑に付す。
『通さぬ……ここは、決して、何者をも……!!』
「ひたむきだね。でもダメだよ、僕らがここにいて、この先に進むと決めたんだから」
歌うような鈴めいた声で、リルは静かに、しかしはっきりと言った。
「櫻は傷つけさせない。だから滅ぼす」
「あら、リィったら――ふふ、でもそうね。ええ、狩りましょう。刈りましょう」
その首を斬ろう。そうせねば進めぬと言うならば。
否、そうでなくとも。相手がオブリビオンであり、過去の化身ならば。
ふたりの前に立ちはだかるならば。ふたりはそうする。そのためにここにいる。
『ふざけるなッ!!』
ドゥートは咆哮した。それは大気を震わせる怒りの雄叫びだった。
地下への道を、斯様な天敵どもに拓くなど。否、誰であろうとあってはならない。
ここは通さぬ。そのために己は現世に再来し、ここに在るのだ。
ゆえに滅びぬ。すでに七度その命を絶たれようと、滅びぬ。決して。
『来や、来たれ、来るがよい! 悪霊よ、死した者よ、我が配下よ!!』
……黒雲が、巨龍のごとく身じろぎしたように思えた。
瘴気が渦を巻き、この世ならぬ異界、冥界からあってはならぬものを喚ぶ。
すなわち悪霊。呪われた武器を持つ、忌まわしき十の軍勢。
一体一体が龍に比肩しうる、正攻法では打ち勝てぬ強大な敵である。
そして彼奴はさらに、森の精髄を引き出し己の活力とした。
爪が。牙が。強靭にして強壮となり、鱗はいかなる鎧よりも硬く。
敵を通さぬために。歯向かう天敵を、愚者を滅ぼすために。
『恐れよ。我こそは邪竜。貴様らを滅ぼすものなるぞ――!!』
悪霊を従えた森の支配者が、傲然と二人の前に立ちはだかる……!!
――だが。
「……うん?」
「どうしたの、リィ?」
身構えていた櫻宵は、隣に立つ人魚の訝しみに顔を向けた。
一触即発の気配。されどリルは、心ここにあらずといった様子で耳を澄ます。
「……歌が聞こえるよ、櫻」
「歌……? あら、本当。これはもしかして――」
然り。歌が響いていた。この砂漠に、戦場に……それだけではない。
滅ぼされようとしている森に。木霊するように、響き渡るように。
「私達は孤独じゃない――私達はいつだって一緒。だから、さあ」
声は唄う。ともにあれかし。この声のもとに集い、思うがままに遊ぶべしと。
されどそれは僅かな嘘。失われた魂を尾として背負う"少女"の小さな過ち。
少女にとっては否たる、されど確かな――そう、妖(あやかし)としての力。
「作り出そう。創り出そう。そして守ろう――私達の、世界を」
見よ。謳いながら歩み出した、桃色の髪を持つ少女を。その後ろにいる者らを。
パーム・アンテルシオ。妖しの炎と、妖しなる歌声を紡ぐ乙女。
その声音は、ともすれば神獣、霊獣すらも酔いしれさせるほどに甘やかに。
ならば、この森に住まう獣など、抗えようはずもなし。
「私達の世界を奪おうとする者を、奪う者を、倒そう。滅ぼそう」
――いわんや、その歌声が、危機に瀕した彼らをそそのかすならば。
小動物。肉食獣。鳥。虫。あるいは知られざる魔獣。
傷ついたもの。病んだもの。死にかけたもの。生まれたばかりのもの。
猛々しいもの。何かを守るもの。怯えたもの。憎むもの――。
この闇に、この荒廃に、住処や同胞を奪われ、あるいは"かけて"いるもの。
それら獣たちが、少女の後ろにいた。少女のそばに、少女とともにあった。
「みんな――この森を守るために、私達に力を貸して」
跳梁跋狐(ちょうりょうばっこ)。孤独なる狐の歌。僅かな嘘の唄。
旋律は獣達を魅了し、従え、率いて――今、パームとここへ来たのである。
「ふふ。お邪魔だったかな? でも、いいよね」
リルと櫻宵――見知った相手とその大切な人に、パームは微笑みかける。
「仲間は、多いほうがいいでしょう? それに、この子達も――戦いたいって」
嘘だ。怯えている者もいる。魅了し、扇動したのは彼女の声音である。
かつて彼女は、愛と情をもって、黒龍の群れをたしなめようとした。
だが出来なかった。形を得た地獄とその眷属は彼女の想像を超えていた。
……その経験を乗り越えて、今彼女は、パームはここにある。
唄は届いた。獣達に、住処を守らせるための戦いを行わせるために。
「だから、手伝わせて。あなた達の、戦いを。――龍の、狩りを。私"達"に」
達。
臨戦態勢に入る獣達を睨めつけた骨邪竜ドゥートは、その響きを訝しんだ。
そして、別の事象を。けしかけようとした悪霊たちの、異なる振る舞いを。
『……なんだ?』
何かがおかしい。悪霊どもが、邪竜の意に反している。動かない。
猟兵による妨害か? 否、あの二体(櫻宵とリルのことだ)にその気配はない。
では、なんだ。あの魅了の歌声が獣どもを従えたのは認めよう。
だがこの十の軍勢ならば勝てる。所詮は一山いくらの獣どもである。
だのに。悪霊どもが動かない――否、それどころか。こちらを向いた。
『なんだ。貴様ら、何をしている。何をしている!?』
……悪霊どもが、武器を構えた。誰に? 猟兵に? 否、否!
邪竜にである。招来した主、呼び起こした者、骨邪竜ドゥートにだ!
「――ふふ、いい子達ですわね」
そこで、艶やかな声がひとつした。パームは微笑したまま頷く。
さあ、とそよ風が吹けば、やってきたのは胡蝶と桜を纏う女である。
羅刹。額に見える角はその証。和傘を担ぐさまはこの薄闇に不釣合いで。
「あら」
同じ桜を戴き、同じように血に酔いしれる龍の人はにこりと笑った。
まるでそれは、近所で偶然顔を合わせた隣人同士のようである。
二人の――否、ここに集まった四人の関係は、それに非常に近い。
異なる点があるとすれば、ここは戦場で、本来ならば怖れるべき巨龍がおり、
しかしそれが従える悪霊が、誰であろう羅刹の女に傅いていることである。
「竜退治だなんて、胸が高鳴って高鳴って、仕方ないものですから――ええ。
この通り、少々お世話かもしれませんが、横入りをさせていただこうと」
女――千桜・エリシャは、友愛の笑みを一同に向ける。
呪わしい悪霊を従えるさまにはアンバランスで、却って恐ろしい。
『貴様……貴様か。貴様、何をした!?』
己が招来した悪霊を奪ってみせたエリシャに対し、龍は動揺する。
「何を、とは?」
『我が配下を、どうやって――』
「ああ」
思い出したような声音。つい、とエリシャの指が邪竜を指す。
「そう。あの通り。御本人が仰った通りですわ、死人の皆様?
あなた達の魂を囚え、利用していた怨敵は――あちら」
『な』
「さあ、武器を持って」
しゃらり。三日月型に歪んだ笑みのまま、エリシャは鞘走らせる。刃を。
「共に、討ち果たしましょう?」
舞い散る桜は魅了の桜。それはパームの歌声と相まって悪霊すら魅了する。
そして呪われた悪霊達は、もはや此花の乙女に従うばかり。
「共に。――"私達"で、ね?」
獣達が一斉に吠えた。パームはくすりと笑った。
リルも、そして櫻宵も。無数の瞳が見据える先は、然り……邪竜。獲物である。
「ふふ、そうだね。さあ、私達の群れで、狩りをしよう」
「あら、あら――リィ、こんなに楽しい狩りだなんて、嬉しいわね!」
楽しげに、恐ろしげに笑う櫻宵のかんばせを見て、リルもまた微笑んだ。
「そうだね。なら僕も謳うよ。君を、君達を守る唄を」
なぜなら彼は唄。愛しい姫のために歌われるもの。唄をもって守るもの。
魅惑の歌(シレーナ・ベルカント)は、奇跡のように澄み渡った歌声は、
邪竜の魂をすら囚え、つかの間彼奴を見当識喪失状態に陥らせる。
『…………ッッ!?!?』
そして龍は見た。殺到する獣を。己に歯向かう悪霊を。
それを扇動する乙女を。先導し刃を振るう女を。そして……そして!
『おお、おおおお……!?』
人魂を喚ばい、己の制御を離れた悪霊共もろとも敵を塞ごうとする。
翼をはためかせ、風を起こして何もかもを吹き飛ばそうとする。
無駄だ。獣どもは弱くとも、群れは邪竜の体に群がり羽ばたくことを許さぬ。
ましてやリルの歌声は、幾度となくその魂をとろかせ四肢を麻痺させる。
そして恐ろしい剣士が二人。エリシャの斬撃はガラスのように鋭く、
楽しげに笑う櫻宵のそれは、同じぐらいに澄み渡っていて真逆であった。
つまり。
「ふふ、ふふふ! ああ、ああ、幸せだわ――こんな綺麗な歌を聞いて」
獰猛で、
「こんなにたくさんの人に祝われて! ああ、なんて嬉しいのかしら!」
燃えるように熱く、
「――だから、さあ。潔く散ってちょうだい?」
切り裂かれるたびに、煮えたぎるほどの鮮血を吹き出し、大地を染めた。
まるでフラワーシャワーのよう。血に酔いしれる鬼の宴のよう。
『やめろ』
龍は懇願した。
「ダメだよ。もう飛べない。血に舞うのは桜花がいい。櫻は傷つけさせない」
リルは謳う。魂を蕩けさせる歌、愛するものを守る歌を。
「あなたは、みんなの場所を、奪った。だから、だめだよ」
パームも謳う。獣達を酔いしれさせる、甘やかな歌を。
「私も、この子達も、残念だけれど許して差し上げませんわ」
エリシャは笑う。そして振るう。呪われた悪霊とともに、その刃を。
「王子様がいて、友人がいてくれるんだもの。殺さない理由はないわ?」
そして櫻宵は、陶然として。最後の斬撃を、鬼とともに放つ。
絶華。獲物を黄泉路へ参らせる絶死の刃。バツ字に交錯した双刃は、
大木のように太い龍の首を共に断つ。響く歌声は葬送のように。
「期待通りの手応えですわ、ねえ櫻宵さん?」
「ええ、ええ――飾るには、少し向かないみたいだけれど」
櫻宵は笑った。視線がリルと交錯し、王子様はほのかに赤らむ。
龍の八度目の死。それは、あまりにも美しく、妖しく、恐ろしいものだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
グルクトゥラ・ウォータンク
オウオウオウ、骨格標本オウ!ここが誰のシマか分かってるんかオウ!ここは威鋭牙疾駆朱(イエーガーシックス)のマブの不得亞璃亥(フェアリー)のシマじゃオウ!オウコラオウ、イワされとうなかったらさっさとケツマクれやオウ!
35人の古代の戦士(ツッパリ)たちを引き連れてUDCEの実践的交渉術による対話を試みるわしじゃったが、やはり竜は手強かった。全く話にならんので大人しく殴りあいじゃ。
古代の戦士たちの気合いの入った雄叫びと魂を焼く炎の斧があれば悪霊どもも恐るるに足らず。【武器改造】して無理矢理銀の銃斧をつけたガトリングを一緒に振り回して骨竜を殴りに行くぞい!
特攻(ブッコ)んで行くんで夜露死苦!!
●特攻(ブッコミ)のドワーフ
「オウオウオウ、骨格標本オウ! ここが誰のシマかわかっとるんかオウ!」
心なしかリーゼントっぽい感じのヘアスタイルになった気狂いドワーフ、
もといガジェッティアのグルクトゥラ・ウォータンクが荒ぶっていた。
「威鋭牙疾駆朱(イエーガーシックス)のマブの不得亞璃亥(フェアリー)のシマじゃオウ!
オウコラオウ、イワされとうなかったらさっさとケツマクれやオウ!!」
「「「オウオウコラオウオウ!!」」」
その背後には35人の偉大なる古代のドワーフ戦士(ツッパリ)が勢揃いだ!
『日本語を理解しない』『殺人のライセンス』『一生現役』などの威圧的漢字を刻み込んだ特攻服を着ている! そしてリーゼント! コワイ!
どこで学んだのか、グルクトゥラはこれがUDCアースの実践的交渉術だと思っているらしい。
多分に不本意な誤解である。UDCアースの猟兵が聞いたらブチギレるだろう。
……古代のドワーフ戦士たちもわざわざ付き合ってあげてるんだろうか?
『邪魔をするなゴミどもめ!!』
「「「グワーッ!?」」」
あっさりと爪と尾によってふっとばされる古代ツッパリ戦士たち!
「オウオウオウオウ! このぐらいでナメられたら終いじゃぞオウ!」
ぶんぶんと銃斧をくくりつけたガトリングを振り回すグルクトゥラ!
リーゼントカツラを放り捨てたドワーフ戦士たちも斧を掲げて高らかに叫ぶ!
「こうなったらゲンコで語り合いじゃオウ!」
「「「オウオウオウ!!」」」
「骨龍ぶっとばしに特攻(ブッコ)んでいくんで夜露死苦ゥ!!」
「「「夜露死苦ゥ!!」」」
『わけのわからん強靭どもめ、消え失せぃ!!』
「「「グワーッ!?」」」
残念! 骨邪竜ドゥートはネタを介さない無慈悲なオブリビオンであった!
『……我は付き合ってられん、貴様らが始末せよ』
現れる十の軍勢。生き残りの古代ドワーフ戦士たちがメンチを切る!
「命とったらぁああああ!!」
「「「ザッケンナテメッコラー!!」」」
ブッコミなのかヤクザなのかもうよくわからない。
とりあえず、ドワーフたちは(グルクトゥラ含め)足止めぐらいにはなったようだ。
成功
🔵🔵🔴
ヴァン・ロワ
アドリブ歓迎
入るなって言われると入りたくなるし
入るなって言われてるとこに入るのは得意なんだよね~
ヘラっと笑ってナイフを『投擲』
距離を詰めて
なるほどねぇ二段攻撃か
そんならこれはどうかな?
突風が放たれたら
【影渡り】を発動
暗くても、完全な闇じゃない限り影はできるはず
そんな炎を抱えてるわけだし?
邪竜のすぐ側に移動して『敵を盾にする』ってね
近距離攻撃がくるなら影から伸ばした手、月蝕で止めて『生命力吸収』
俺様の牙で突き刺してもいいけど、骨が折れそうだし
モール・フルールを開いてる所に『投擲』
『ジャンプ』で距離をとるぜ
さぁ、固そうなからだしてるけど
その内側はどうかな?
ティオレンシア・シーディア
※アドリブ掛け合い絡み大歓迎
ネクロマンサーのドラゴン…こんなのもいるのねぇ。
あたしの火力じゃ鱗貫くのは難しいでしょうし、〇援護射撃に回ろうかしらぁ。
悪霊も人魂も霊魂の類だし、〇破魔〇属性攻撃なら多少は通じるかしらねぇ。
あとは…四方に破魔矢とかエオローのルーンとか撃ちこんで、簡易的な結界も作っておきましょうか。
無効化はできないでしょうけど、ちょっとでも弱体化すれば御の字よねぇ。
…にしても。
ドラゴンを門番扱いって、中にいるのはどんなとんでもないヤツなのかしらねぇ。
●狗と女
――ガギンッ!!
投擲されたナイフが、龍の硬い鱗に弾かれくるくると宙を舞う。
「ハハ、見た目通り固い体してやがるなぁ」
ヴァン・ロワは己の投擲したそれが傷すらも残さなかったことに対し、
落胆するどころかヘラヘラと軽薄そうに笑っているだけだ。
次の瞬間、彼の手には手品めいて新たなナイフが出現し、銀閃に変わる。
『その程度の玩具で、我を貫けるとでも思っておるのか!!』
激高した骨邪竜ドゥートは爪と太い尾でこれを乱雑に振り払い、
ぎろりとヴァンを睨めつける。だが、狼はやはり軽薄な笑みを浮かべたまま。
「そうは言われてもなぁ。こちとら"入るな"って言われると入りたくなるし、
"入るな"って言われてるとこに入るのは得意なんだよねぇ……っと!」
狼の牙・ウィズドローをさらに複数投擲するヴァン。当然これは弾かれる。
あくまで牽制だ。ナイフが宙を舞った時には、ヴァンは間合いを詰めていた!
『ちぃ……!!』
骨邪竜ドゥートは、相手が近接戦闘を目論んでいることを即座に察知する。
ゆえに両翼を大きく広げ、巨体を空に飛ばしながらすさまじい突風を起こす。
相対距離を離し、かつ勢いをつけた突風でヴァンを吹き飛ばし、
続けざま砂塵の竜巻というミキサーに飲み込み惨殺する、二段構えの戦略!
「なるほどねぇ、よく考えてやがる」
『矮小なる者よ、龍の力と怒りを知るがいい!!』
「たしかに俺様はアンタよかちっせぇよ? だが――こういうこともできる」
ヴァンは――飛び退るでも身を伏せるでもなく、両手を広げ仰向けに倒れた。
するとどうだ。彼自身の影に、倒れ込んだその体が……染み込んだ!?
『何ッ!?』
ごひょう――!! 突風が砂を巻き上げ何もない場所を切り裂く。
"影渡り(ハイ・アンド・シーク)"。ヴァンのユーベルコードだ。
影から影へと瞬時に飛び渡り、敵の死角を取る隠密技法である!
「で、アンタはご覧の通りデカブツ――出てくる場所には事欠かない」
『貴様……!!』
己の真下の影から顔を見せたヴァンを、龍は怒りの眼で睨め下ろす。
このまま爪で引き裂くか。否、こちらから近づくのはおそらく悪手だ。
ならば、人魂を喚ばい、あれを抹殺させれば――!
BLAMBLAMBALMBLAMBALMBLAMBLAM!!
「たった十体の霊魂で、どうにか出来ると思ったのかしらぁ」
『誰だッ!?』
招来した瞬間、人魂達は不可視化する前に銃弾で撃墜され雲散霧消した。
これをなしたのは、好機を図っていたティオレンシア・シーディアだ!
ファニングからのリロードは一瞬。翼を広げたドゥートめがけ、
ティオレンシアはにこやかな表情のまま神速の銃撃。鏖殺(アサルト)!
「名乗るほどの者じゃないわぁ。ご覧の通りトリガーを引くしか能のない――」
BLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAM!!
いかに神速であろうと、所詮リボルバーの弾丸で龍の鱗は貫けない。
風を切り裂くことは出来ない。ならばその起こりを止めてしまえばいい。
無数の弾丸で龍の羽ばたきを抑止し、空に縫い止めてしまえばいい。
いや。翼膜を撃ち抜き、四肢をルーンの弾丸で地面へと縛り付ければよい!
「ただの、女(ガンナー)よぉ」
『おのれ……ッ!!』
ティオレンシアははじめから牽制と妨害しか考えていなかった。
ゆえに、ドゥートはそちらに怒りを向け注意を惹かれるべきではなかったのだ。
「おいおい――俺様を無視するなんざずいぶん大胆じゃねえか」
『ッ!?』
狼の牙が擲たれた。モール・フルール。突き刺さった先端が膨張炸裂。
銃撃によって砕けかけた鱗、その破砕点を貫き……内部で鋼の華が萌芽する!
『が、ぁああああ……ッッ!!』
「はは。さすがに内側までは固いわけにはいかねーよな」
苦悶する龍の巨体が落下する。ずしん――!! 砂埃が巻き上がった。
当のヴァンは? ……ティオレンシアの影からするりと現れた。
「素早いのねぇ」
「アンタの銃捌きにゃ敵わねえよ」
場違いな女の甘い声に対し、野卑な狗は軽薄な声音で軽口を返した。
狼の牙は、いかに硬き獲物だろうと、執念深く追い詰め――必ず、穿つのだ。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
鳴宮・匡
◆ヴィクティム(f01172)と
ヘビーな仕事なんて今更だろ
この間もっとでかいドラゴンを散々相手にしてきたんだしさ
毎度向いてないってわりにはよくやるよ
……で、策はあるんだろうな?
あるならいい、それが通るように支援してやる
序盤は相手の動きを注視しながら
前に立つヴィクティムへの【援護射撃】を
動き出しの妨害、攻撃動作の阻害で
相手を自由に動かせないことに終始
攻め切れないと思わせられれば大技を誘発できるだろ
狙い通り突風がヴィクティムへ向いたら
ヴィクティムのカウンターに合わせてこちらもUCで狙撃
飽きるほど視たんだ、どこを撃てばいいかなんて判り切ってる
生きているならそれは殺せるものだ
竜だろうが、関係はない
ヴィクティム・ウィンターミュート
【鳴宮・匡と】
オイオイ、いきなりウィズワームがお出ましとはな
頭からヘビーなビズになりそうだ
さて、アイツの穴は俺が前に出て埋めるとするか
ん?何か良い手はあるのかって?
"竜殺し"なら、あるんだなこれが
ま、ンな大層な武器持っちゃいねーんだけどな!
奴の突風が来るのを待つ
奴の竜巻は、まずこの突風がなきゃ始まらねえ
つまり予備動作を簡単に【見切る」ことができる
UC発動
砂塵の竜巻を【覚悟】を固めて受ける
込められたエネルギーを【盗み】
【ダッシュ】で大きく距離を詰めて【カウンター】
40倍以上に膨れ上がった"竜殺し"を受け取れ
ドラゴンに手を出すな、はストリートの有名な警句だが…
──別に不死身ってわけじゃねーんだぜ
●九殺
"ドラゴンには手を出すな"。
裏社会で生きる者――ランナーと呼ばれる、存在しない影(シャドウ)の間で知られる警句。
"ドラゴン"が意味するものは複数ある。
それは龍のように強大な組織――たとえばマフィアのような非合法なもの、
あるいは内部の者にすら全容が知れない大企業(メガコーポ)などだ。
時には龍そのものを指す時もある。ドラゴンという神話的存在は、
オブリビオンという超常の過去の化身の中にはしばしば見られるモチーフ。
概してそれらは強大である。此度の骨邪竜ドゥートもまた同様。
ゆえにランナーは警句を用いる。生き延びたくば危うきには近づくなと。
「オイオイ、いきなりウィズワームがお出ましとはな」
そんなランナーとして生きてきた男――ヴィクティム・ウィンターミュートは、
警句の意味と重みを肌身で知る者でありながら、演技がかっておどけてみせた。
「頭からヘビーなビズになりそうだ。なあ、匡?」
「ヘビーな仕事なんていまさらだろ」
水を向けられた鳴宮・匡は、呆れもせずにそう答える。
何度も肩を並べたカウボーイのアイロニィは、今に始まった話ではない。
「だいたい、この間もっとでかいドラゴンを、さんざん相手にしてきたんだし」
「違いねぇな。で、俺らはそいつをフラットラインしてやった」
「ああ。敵なら殺す――それだけだ」
これまでもそうしてきた。これからもそうする。今回もまた同じように。
……やることは、同じだ。たとえ彼の心に波が生じようとも。
そのための技術であり、そのための銃であり、そのための眼であり。
ならば、そうする。……戦いにおいて、匡が迷うことはない。
「……で?」
「あん? なんだ、ネグルの空けた穴ならそのぶん俺が」
「そうじゃない。……いや、それもあるけどさ」
愛銃のスライドを引きながら、匡が言う。
「何か、策はあるんだろうな?」
「ハ、それこそ悪いジョークだぜチューマ。手札もなしに俺がビズに来るわけない」
「そうか? お前、割といきあたりばったりなとこもあるだろ」
凪の海の言葉に、カウボーイは大げさに肩をすくめて頭を振ってみせる。
「まあ安心しろよ。"竜殺し"なら、ちゃんとあるんだなこれが」
「へえ」
言って名の如くのドラゴンキラーなど、匡は期待していない。
そもそもそんな大仰なアイテムに命を賭けるなど彼らしくはないし、
もっと言えばヴィクティムらしくもない。そんなものは"ない"だろう。
だが手札(さく)があると彼が言うなら、匡はそれを信じる。
そして、カードが通るように場を整えてやる。いつものように。
「で、どうすればいい」
「ヤツに大技を使わせてくれ。あとはこっちで"やる"」
「オーケー」
BLAM! 匡はわざと銃声を立て、無造作な――しかし精密な射撃を見舞う。
だが弾丸が龍の鱗を貫くことはない。代わりに邪竜は二人を睨みつけた。
『なおも我に歯向かうか、矮小なるもの如きが――』
「そういうわかりやすいのはいいからさ、かかってこいよ」
無表情のまま、匡は片手でこれみよがしに掌を上向けて手招きする。
別に彼に、そんな挑発を好むような酔狂があるわけではない。
相手がドラゴンらしいなら、こういうわかりやすいのが効くと見ただけだ。
「こっちの目当てはお前じゃないんだ、でなきゃさっさと死んでくれ」
『――ほざけェ!!』
巨体がふたりをめがけ跳ぶ。ふたりは同時に左右へ跳躍した!
ドラゴンは強大である。だが当然のように巨大であり、であれば"容易い"。
眼の動き。翼のはためき。筋肉の脈動。流れる血と血管の収縮。
匡の目はそれらをすべてつぶさに感じ取り、敵の動きを未来予測めいて知る。
前衛を務めるのはヴィクティムだ。サイバーパーツのクロックアップによる、
全神経と脳下垂体に著しい負担をかけた上での高速軌道。
甚大な苦痛と加速Gは、戦闘用麻薬(コンバットドラッグ)が中和する。
「そらどうしたウィズワーム、ダンスにすちゃキレがないぜ!」
残像すら生み出しかねない速度で跳躍し、あるいはダッシュし、
振り下ろされる爪を、尾を、いともたやすくかわしてみせる。
避けきれないと匡が見たなら、そこへ弾丸を叩き込む。
龍の鱗を貫くことはそぐわずとも、音速で放たれた弾丸の運動力は、
結節点ともいうべき急所を狙えば動きの起こりを潰すことができる。
『お、の、れ、えぇええええ!!』
ドラゴンがこんな自由の効かない状況にこらえきれるわけがない。
ふたりが予測していたよりも数十秒も疾く、ドゥートは羽ばたきを起こした。
凄まじい突風。砂埃が巻き上がり、破滅が嵐となって吹きすさぶ!
これで第一段階は果たした。匡の仕事はヴィクティムの援護である。
つまり彼が策通りに、カウンターなりを叩き込んだところに追い打ちする。
ではヴィクティムは? 龍の羽ばたきの間隙に一撃を叩き込んだか?
否。ならば、龍に電脳魔術ウィルスを仕込んで内側から腐らせるとか?
否。……おお、見よ。カウボーイは、自ら竜巻に飛び込んだ!
『ハハハハハ!! そのまま引き裂かれて潰れて死ねィ!!』
「なあ、知ってるかウィズワーム」
竜巻の中から、その声はいやにはっきり邪竜に届いた。
「"ドラゴンに手を出すな"。ストリートじゃ有名な警句だが――」
竜巻が……消えた。砂埃が四方八方に飛び散る。
ならばそのエネルギーはどこに。……答えは、男の鋼の腕である。
「――別に、不死身(イモータル)ってわけじゃねーんだぜ!!」
『何ッ!?』
ヴィクティムが駆けた! 最大出力による亜音速のスプリント!
何かまずい。ドゥートは飛んで逃れようとするが――遅い。
(いや、疾いさ。ただ悪いな、もう飽きるほど視させてもらった)
空を舞う龍を落とすために、どこを貫けばいいかなど。
(――分かりきってるんだ。そういうわけだから、堕とさせてもらうぜ)
弾丸が放たれた。それは翼の付け根を撃ち抜き、龍の巨体を崩させた。
『な――』
「さあ、こいつがArsene手製の"龍殺し(バルムンク)"だ」
持たざる者に英雄のような武器はない。だから盗んでやった。
仕立て上げたのは、40倍以上に膨れ上がる竜巻のエネルギー。
渦巻くそれは、高圧カッターめいて収束し烈風のメスと化している。
「テメェをブッ殺す、テメェの風だ。受け取れウィズワーム――ッ!!」
「――もう何度も死んでるんだろ。だったらもう一度ぐらい、死んどけよ」
龍殺しが無造作に振るわれる。ざっくりと切り裂かれ破裂する邪竜の体!
亀裂じみた傷に叩き込まれる弾丸――爆ぜた。炸裂弾だ!
『ォオオオオオァアアアアアアアッッ!!』
生きているならば、それは殺せる。
己に力がなくとも、強大なものから奪えばよい。
英雄は魔剣聖剣を以て龍を討つ。雄々しく華々しく。
二人は英雄ではない。ゆえに、殺すに道具も手段も選ばない。
ただ滅ぼす。――何度でも。立ちはだかるならば、何度でもだ!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
非在・究子
い、いきなりドラゴンとの、レイド戦か。
な、なかなか、骨が折れる、感じだな……やられる、前に、バッキバキにしてやらなくちゃ、な。
と、とりあえず、戦闘前にUCで、『セーブ』して、攻略、開始だ。
……えっ、早。ぐ、ぐぇー
……今度は、こっちで。あ? り、リキャスト早すぎ……
【Q子リトライ中】
ぐ、ぐふふっ。お、お前の、攻撃パターンは、つかんだ、ぞ。
……まだまだ、敵が控えてる、のに、随分と、残機を、減らすことに、なったけど、な。
こ、攻撃パターンは、つかんだ、から、後は、《ゲームウエポン》を、聖属性の武器に、変形させて、攻撃だ。(【ハッキング】で無意識にゲーム的な【聖属性】が弱点であることを押し付けながら)
●龍退治にはもう飽き……た?
「ぐ、ぐえー!」
「ぎ、ぎゃー!!」
「あ、あばーっ!!」
なんだか、この鉄火場には似つかわしくない断末魔が何度も響いている。
しかもそれは同一人物……つまり、非在・究子のものだ。
然り。彼女はたったひとりで骨邪竜に挑み、しかも……死んでいる。
一度ではない。もうすでに数回、ともすれば二桁回数は死んでいるのだ。
ありえない話だ。いかに生命の慮外にある猟兵とはいえ、普通は死ねば死ぬ。
究子がバーチャルキャラクターであろうとなんだろうと、死ねば死ぬのだ。
……"ただの"バーチャルキャラクターならば。
存在そのものが例外たる猟兵において"ただの"という表現は適切ではないが、
そうとしか言いようがない。究子は、ただのバーチャルキャラクターでも、
ただの猟兵でもない。彼女はもともと、ゲーム世界の電脳存在だったのだから。
「さ、さすがにドラゴン相手のレイド戦となると、な、なかなか、骨が折れる、な」
都合十数回目の『ロード』を果たした究子は、ため息混じりに言った。
"トライ&エラー"。いわゆる死に覚え。
つまり、究子は自分のデータそのものをユーベルコードによって『セーブ』し、
通常ならば死亡するほどのダメージでも即座に『死に戻り』することができる。
無論万能ではない。
残機=使用回数には制限があるし、いつでもどこでもセーブできるわけでもない。
この先の戦いにも必要なぶんがある。だが彼女はそれを惜しみなく用いた。
『面妖な……貴様、天敵でありながら幾度も蘇るとは』
「ふ、不思議、か? 蘇るのは、お前達だけじゃない、ぞ」
いくらロードされるとはいえ、究子は精神的な死の痛みと喪失を味わっている。
脂汗をかきながら、それでも彼女は己を強いて不敵に笑ってみせた。
「ぐ、ぐふふっ。お、お前の、攻撃パターンも、掴んできたから、な」
ならばやれると彼女は信じている。それがゲーマーだからだ。
しかしいかに敵の動きやパターンを予測したとは言え、絶対的な差はある。
いわばドゥートと究子のそれは、巨象とアリに等しい戦力差である。
踏み潰され、薙ぎ払われ、あるいは突風で切り刻まれて、死ぬ。
『……小賢しい! いい加減に諦めよ!!』
「い、いやだ、な」
ざっ。何度踏みしめたかわからぬ砂漠を究子は力強く踏む!
「こ、攻撃パターンはつかんだん、だ。お、お前を、やっつけて、やる!」
右手に持つゲームウェポンが、いかにも龍殺しといった風貌に変化した!
聖なる属性をたたえる刃が、呪われた龍の鱗をバターめいて切り裂く!
『ぬうっ!?』
とっさに翼をはためかせるドゥートだが、究子は巨体の下!
「そ、そうだ! お前、そこで、そうやって羽ばたく、だろ!」
さらなる斬撃! 骨邪竜は予想外の威力に戸惑う!
己の存在がハッキングされている……その恐怖におののいたのだ!
『お、おのれ小物が……!!』
「さあ、ふっとばして、み、みろ! もう負けない、ぞ!」
いよいよ、龍の最期が近づきつつあった。
大成功
🔵🔵🔵
ルーナ・ユーディコット
まずは門番が相手、か
愚直過ぎかもしれないけど、シンプルな勝負を挑む
身を低くしてダッシュで側面に回り込む
これは翼からの風の直撃を回避する、或いは翼からの突風を当てるために相手が動いてくれる事を狙っての動きをする
相手に気が付かれるか狙い通りの位置取りが出来たら孤狼【彗星】で一息に突っ込む
捨身の一撃を叩き込む覚悟で行くよ
砂塵に巻き込まれるようなら激痛耐性で突っ切る
いつかより強い敵をこの刃で貫く為にも、ここで怯んでは居られないから
私が戦う理由の為にも弱いままでは居られないから
至近距離からの一撃に全て賭ける
私の意思に光があるかはわからない
でも、私の命が燃えるこれが光だというなら
闇を討つ為に振るうよ
●命を燃やし
これまですでに九度滅び、そしてなお骨邪竜ドゥートは再来している。
つまり奴は、そこまでしてこの先に猟兵を進ませたくないというわけだ。
なぜそこまでする。オブリビオンとしての本能なのか。
あるいはこの地この地下迷宮に、奴はそれだけの因縁を持っているというのか?
過去の化身、残骸たる邪竜の思考を、余人ましてや猟兵が量ることはできない。
彼奴らは、そう成り果てた時点で世界を憎悪する異物なのだから。
這うほどに身を低く沈めた赤い影がひとつ、すさまじい速度で砂漠を駆ける。
踏みしめた大地は砂塵を巻き上げ、その姿を煙幕めいて覆い隠した。
『視えているぞ、矮小なる者め……小賢しい!!』
円弧を描くような動きも、強壮なる龍からすればお見通しか。
移動先をめがけて振り下ろされた爪――だが彼女はこれも読んでいた。
「視えているよ、デカブツめっ!」
ルーナ・ユーディコットは売り言葉に買い言葉で皮肉的に返しながら、
即座にバックフリップを打って爪斬撃を回避。側転着地で衝撃を殺す。
当然、足は止めない。骨邪竜が着地地点に尾を振り下ろしているからだ!
ずずん――衝撃が大地を揺らし、再び砂埃を巻き上げる。
(布石は整ってきてる、あとは向こうが痺れを切らすのを待つだけだ)
ルーナはただその時を待つ。ばらまいた伏線に獲物が引っかかるその時を。
……ルーナは、生まれついての戦闘者というわけではない。
おおらかな性格は、こうした命の取り合いには向いているとは言い難いだろう。
ではいま、強大な龍を相手に駆け引きを行わせるのは何か。
戦闘に酔いしれる血の高揚でも、強敵と死合うスリルでもない。
怖い。恐ろしい。だが、ここで足踏みしてはいられない。
そもそも邪竜は本懐ですらない、第一の門番なのだ。
この龍を斃し、地下遺跡を踏破し、オベリスクの番人を滅ぼす。
それでようやく、目的は叶う。ならば怯んではいられない。
(この戦いに勝つために。この戦いの次に来る、もっと強い敵に勝つために)
『だがそこまでだ。お前に私は殺せない――』
(ああそうさ、私には殺せなかった)
ぎり、と奥歯を噛みしめる。忘れるには新しすぎる敗北の記憶。
視界にあの地獄めいた男の幻影が重なり、つかの間意識を苦味に浸した。
ルーナは駆ける――好機は待つのではなく自ら作り出すもの。
最後の布石は、己の命をチップに作り出すべし!
「命を燃やして――光を作り出してみせるッ!」
捨て身だ! ルーナはあえて身を晒しドゥートめがけ真っ直ぐに走る!
愚直だと龍は笑う。いいだろう、笑わば笑え。嘲るなら好きにしろ。
弱いままではいられないのだ。すべてを賭けてただ突き進むべし。
『いいだろう、ならば吹き飛ばしてくれる!』
龍は嘲った。そしてルーナの意図通りにひっかかった。
翼を広げはためかす――だが読んでいたルーナは、斜め軌道で側面へ!
『何ッ!?』
突風が誰もいない大地を切り裂く! その時ルーナは龍の真横だ!
「闇(あなたたち)を討つためなら、いくらでも命を投げ出してやるわッ!」
斬撃一閃、命を糧に燃え上がる蒼炎が龍の鱗を深々と切り裂いた。
形勢が逆転する……ここが、第一の戦いの潮目である!
大成功
🔵🔵🔵
曽根・亮
★ナナ(f12271)と連携
実戦経験は積めるだけ積んでおきてェ建前と
たまには存分に火力高めていきてェフラストレーションと
【白バイ】を【運転】して大回りに接近
【先制攻撃】で威嚇しつつ攻撃のパターンを【見切り】で読み徐々に近づく
おう、ドゥートとやらも折角だし楽しめや
立派に守るべきモン守ろうとしてカッケェじゃんか!
ある程度接近したら【CHACE&RED SIREN】
包囲するようにパトカーで囲み
鳴り止まぬサイレンと共に一気に距離を詰める
ナナの仕込みが上手くいくよう出来るだけ【かばう】
もし上手く躓いてくれたら【ジャンプ】で
その脳天か腹に【チャカ】による物理的【捨て身の一撃】
からの【零距離射撃】で駄目押し
七厶・脳漿
亮(f11219)と連携
あはっ…見てよ、マジでドラゴンだし
いつもUDCアースでチマチマ血腥いのばっか相手にしてるから
たまには異世界ですっきり暴れよー的な
亮の白バイの後ろに【騎乗】
ほらぁ、限界まで飛ばしてよお巡りさん
【午前二時~】の毒物入り注射器達で【援護射撃】
翼や足の付根へ集中的に【マヒ攻撃】、或いは【毒使い】でじわじわ蝕む
そろそろアレかましてよ、亮
真っ赤なパトランプとサイレンに奴が翻弄されている間に
【Pencil chocola】で引っ掛け【目立たず】パト同士をワイヤーで繋ぐ
【罠】の準備が整ったら注射器をわざと顔周りに向けて注意をこちらへ向けよう
おっと、お足元にはご注意を
転んでも知らないよ
●完殺
アックスアンドウィザーズには、あまりにも不似合いな白バイが走る。
それが彼の――曽根・亮の相棒であり、愛機。
たとえファンタジー世界に似つかわしくなくとも、性能は折り紙付きだ。
「あはっ」
亮が駆る白バイの後部座席にタンデムした男、七厶・脳漿が思わず吹き出した。
なにせ、目の前には見上げるほどの大きさの邪竜がそびえているのだ。
「見てよ、マジでドラゴンだし」
「いまさらすぎンだろ、それよかもっとしっかり捕まってろ」
グオオオンッ! エンジンが唸りを上げ、悪路を踏破し相対距離を詰める!
猟兵達の波状攻撃に悶絶していた龍の瞳が――ふたりを、捉えた。
亮は即座にハンドルを切り、直線距離から大回りな接近に切り替える。
馬鹿げたほどの排気煙と砂埃が混じり合い、戦場を煙幕めいて覆い隠す。
いまこの時、ドゥートが狙えるのは彼ら二人のみ。
そして邪竜を討つことが出来るのも……また、二人のみ。
『そんな玩具に跨ったところで、我に追いつけると思うておるのかッ!?』
「玩具とは言ってくれるじゃねェか。これでも不正改造のオンパレードだぜ」
官憲に相応しからぬ台詞をほざきながら、亮はさらにスロットルを回す。
もはや悲鳴に近い金切り音を立て、白バイのエンジンが最高潮に達した!
「コイツも持ってけやッ!」
BLAMBLAMッ! 片手操縦からのチャカによる無造作な威嚇射撃!
いかに違法改造で口径を広げたとは言え、ピストルの威力には限界がある。
龍はこれを鱗でこともなげに弾き、ふたりを翼風で吹き飛ばそうとした!
「すごいすごい、こりゃふっとばされちゃいそうだねぇ」
タンデムした脳漿が、亮を煽るようにけらけら笑って手を叩く。
運転手の男は舌打ちしながらも、見事なハンドルさばきで突風を回避した。
竜巻が後を追うように吹きすさぶ――疾い。追いつかれるのは時間の問題か。
「いつもチマチマ血なまぐさいのばっか相手にしてるからってさぁ、
いくらなんでも選ぶ相手間違えたかもねぇ? これヤバそーじゃない?」
「実戦経験を積むに越したこた……ねェだろー、がッ!!」
グオンッ! ざりざりとした砂を吹き飛ばしドリフトを切る白バイ。
骨邪竜は接近されることを嫌い、両翼をはばたかせ竜巻をいくつも生み出す。
徐々に回避経路が潰されている……にじり寄る竜巻は、
さながら暴走車両を追い詰める警察機構の包囲網じみていた。
「ゾッとしねェな、囲い込まれる方に回るなンざ」
「まだ出せるっしょ? ほらぁ、限界まで飛ばしてよ、"お巡りさん"?」
小悪魔めいた囁きとともに、脳漿の片手が鞭めいてしなり霞む。
彼が擲ったのは、ユーベルコードによって生成した毒物入り注射器である。
ケミカル色の薬物は、本来ならそれひとつで巨象すら即死させる劇薬だ。
だが龍の翼や足の付根に突き刺さった針は、ほとんどが折れて砕け散る。
少なからぬ薬物が注入されても、邪竜は平気の顔である。
『毒か! 無駄な足掻きを!!』
「あーぁ、やだやだ。モンスターってのはこれだから――」
脳漿の口元には笑み。明らかに策があるというふうだ。
「よォ、ドゥートとやら! お前ずいぶんカッケェじゃんか!」
出し抜けに、亮は野卑な口調で相手を褒め称えてみせた。
「立派に守るべきモン守ってよォ、敵ながらあっぱれってヤツだ!」
「それ、コッチの世界のヤツじゃ知らないんじゃね?」
うるせェな、と脳漿の茶々に藪睨みで返す亮。けらけら笑うタンデム者。
「ベタなコト言ってないでさ、そろそろ"アレ"かましてよ、亮」
「言われなくてもそのつもりだっつゥの」
脳漿の軽口に答え、亮が邪竜をにらみつける。
「けどもう終わりだ――どうせなら最期まで楽しめや」
そう言って亮は笑った。つまりこれは追い詰められた獲物の賛辞ではない。
これからお前を殺すという、狩猟者の死刑宣告なのだ!
『ほざけェ――ッ!!』
もはや四方は竜巻に囲まれている! 逃れる先はない、どうする!?
「ところでよ――包囲されてンのは、"テメェのほう"だぜ?」
直後、どこからともなく無数のサイレン音とレッドランプの光!
なんと、砂漠を走破して駆けつけたのは30台近いパトカー隊ではないか!
『なんだ、これは……!?』
生物に突発的恐怖心を抱かせる甲高い警告音は、龍にも効くらしい。
包囲網を敷いたパトカー隊は、備え付けられた機関砲を容赦なく放火する!
BRATATATATATAT! 弾丸が竜巻を貫き、亮たちの血路を開いた!
「ンじゃ行くか――検挙の時間だオラァ!」
フルスロットル。目指す先は動揺する邪竜!
BLAM! BLAMBLAMBLAM! BRATATATATATAT!
ガトリング砲と威嚇射撃、そしてサイレン音とレッドランプが龍をかき乱す。
忌々しい。この程度の雑魚どもなど、一息で吹き飛ばせるものを。
そうだ、あのゴミどもを吹き飛ばしてしまえば話は終わるのだ!
邪竜はふたりを睨んだ。それこそが亮と脳漿の狙いである。
脳漿はやはり毒物入りの注射器を投擲する。ドゥートは馬鹿の一つ覚えと嘲った。
「おっと――お足元にはご注意を。"転んでも知らない"よ?」
急滑降しようとしたドゥートは、視えないなにかに引っ張られたのを感じた。
勢いそのままにつんのめり、巨体がごろごろと無様に砂塵を転がる。
なんだ。何が起きた? ……パトカー隊に張り巡らされた細い糸。
『罠か……!!』
「よォ」
気づいた時にはもう遅い。白バイがジャックナイフからの大ジャンプ。
白バイは龍の頭上。ハンドルを離し、両手で違法改造拳銃を構える刑事が一人。
「マジにカッコよかったぜ――だから、ここで死にな」
BLAMN。銃声が鳴り響き、唖然とする龍の眉間を弾丸が突き抜けた。
それで終わり。この世界に、オブリビオン相手に警告など必要ない。
さしもの邪竜もついに最後の死を迎え……森に、静寂が訪れた!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『『邪霊』イービルスピリット』
|
POW : 怒りを誘う霊体
【憤怒・憎悪・衝動などの負】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【怒りを増幅させる紅顔の霊体】から、高命中力の【憑依攻撃、及び感情の解放を誘う誘惑】を飛ばす。
SPD : 欲望を促す霊体
【情欲・執着・嫉妬などの負】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【欲望を刺激する黄顔の霊体】から、高命中力の【憑依攻撃、及び感情の解放を誘う誘惑】を飛ばす。
WIZ : 悲しみを広げる霊体
【失望・悲哀・恐怖などの負】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【心の傷を広げる蒼顔の霊体】から、高命中力の【憑依攻撃、及び感情の解放を誘う誘惑】を飛ばす。
イラスト:白狼印けい
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●業務連絡
プレイング受付は【19/06/14 08:30】から行います。
それ以前に頂いたプレイングはお返しする可能性が高いです。
プレイング締切は、【19/06/16 08:30】までとなります。
●地下迷宮"霧龍の墓所"
……どうやらその迷宮は、大森林全体に広がっているらしかった。
いやむしろ、『迷宮の上に大森林が広がっている』というべきだろう。
それほどに迷宮は広く、蟻の巣めいた広大な深部の探索は容易ではない。
だが猟兵よ、心せよ。真の敵は闇の中に潜む。
光差さぬ暗黒を見つめれば、そこに揺らぐ朧な影あり。
すなわち邪霊。彼奴らは幻や囁きなど、手段を問わず汝らを誘惑するであろう。
怒り。悲しみ。後悔。憎悪。欲望。嫉妬。執着。失望――。
己らが信じるものを棄て、闇にその身と心を委ねるべしと。
あるものは、過去に負った傷を幻影によって垣間見せられるやもしれぬ。
あるものは、己すらも気付かぬ仄暗い欲望をそそのかされるやもしれぬ。
それは甘やかな悪魔めいた囁きかもしれぬし、
聞くものを怖気立たせる怪物の呻き声やもしれぬ。
だがなすべきはひとつ。
心を強く保て。己の裡なる闇に抗い、打ち克つべし。
さもなくば、邪霊は汝らを取り込み、邪悪な尖兵に変えてしまうであろう――。
それぞれの戦いが、始まった。
●2章特殊ルール:闇との戦い
地下迷宮探索中、皆さんは『邪霊(イーヴィルスピリット)』からの干渉を受けます。
それは過去の光景を再演するかのような幻かもしれませんし、
あるいは言葉による籠絡や誘惑、汚点や無意識の欲望を指摘する口撃かもしれません。
これに打ち克つことで、皆さんは邪霊を撃退することが出来ます。
どんな悪感情を誘惑されるかは、皆さんが使用するユーベルコードによって異なります。
指定したユーベルコード能力値に対応するイーヴィルスピリットの攻撃を読んだ上で、
以下の3つをプレイングに明記してください。
①:邪霊があなたに抱かせる負の感情の詳細(怒りや憎悪、欲望や執着など)
②:邪霊がどのようにしてあなたを誘惑するかの概要(お任せでもOK)
③:邪霊の誘惑をどのように乗り越えるか
この3点を軸に、プレイングボーナスなどを加味します。
失敗や苦戦になった場合でも憑依を脱することは出来ますが、
その場合は自分の体を傷つけたりするなどで、成功よりもダメージを負います。
(もちろん、あえてダメージを負うことで誘惑を克服する、といったプレイングも可能です)
銀河帝国攻略戦の悪夢シナリオなどが参考になるかもしれません。
(必ずしも悪夢めいた幻である必要はありませんので、そこはご自由に)
●注意
『誘惑』や『情欲』といった一部ワードの関係上、
やや性的なイメージを抱く方がいらっしゃるかもしれません。
そういったベクトルのプレイングを禁止するわけではないですが、
基本的には『全年齢向け商業作品の控えめな描写』ぐらいでお考えください。
あまりに過剰な性的描写を要するプレイングなどについては、
適度なマスタリング、もしくは却下を行います。ご了承ください。
(そういった方向性のプレイングを奨励するものでもありません。為念)
●追記
特殊ルールの指向上、合同プレイング以外での同時採用は基本的に行わない予定です。
メルノ・ネッケル
奴が抱かせるのは、きっと嫉妬。
うちは孤児。親の居ない寂しさだけは埋められへん……今だって偶に、どうしようもなく寂しく感じてまう。
奴が語りかける、「全部ぶち壊せ」と。
世の中父親も母親もいて、その事に感謝もせんとのうのう生きとる奴ばっか。
一暴れしたらその当たり前をぐちゃぐちゃにしてやれる。
……揺れそうになる心を引き戻すのは、前へ進む【勇気】と共に放つ叫び!
「……とでも言うと思ったか、ど阿呆!!」
誰だって色んな事情を抱えとる!
嫉妬すると共に嫉妬されとるんや!
お互い様の世の中で、力持っとる奴が暴れる……それじゃオブリビオンと何も変わらへん!
誘惑はもう結構!
黄顔の霊体へ向けて、吠えろ『クイックドロウ』!
●闇との戦い:メルノ・ネッケルのケース
子は親を選べない、という言葉がある。
当然の話だが、どんな親のもとに生まれるか、子供が決めることは出来ない。
たとえ親が冷血非道な悪人だったとしても、血の繋がりは存在する。
それは祝福であり、呪いだ。どう取るか、どうなるかは親と子次第と言えよう。
メルノにとって、『親』という存在は後者――すなわち、呪いであった。
彼女の親は外道なのか? 否、彼女はそれを知らない、"ゆえに呪いなのだ"。
すなわち、親なしの孤児……はたして彼女の親はメルノを棄てたのか、
あるいは心ならずして命を落としてしまったのか、それは定かではない。
確かなのは、彼女は天涯孤独だということだ。
たとえ故郷の人々がどれほど愛情や厚意を以て彼女を育ててくれたとしても、
親がいないという事実は変わらない、代えようもない。
家族がいて当然という世間の常識は……つまり、彼女にとって毒となる。
そういう意味で、"親子"とは彼女にとって呪いの一種だった。
地下迷宮を探索中のメルノは、ふと周囲が闇に包まれていることに気づいた。
「なるほど、こうやって来るわけかいな」
すでにその襲来を察知していたこともあり、メルノの表情は強気である。
欲望、あるいは負の感情を刺激し憑依しようとする悪意。邪霊。
いいだろう、やってみせるがいい。己の何を育てようというのか。
こちとら猟兵なのだ、オブリビオンごときの囁きに心囚われることなど――。
『……寂しいよなぁ』
「っ!?」
どこかから――闇の中から、声がした。思わず振り返る。
だがそこには何もいない。あるのはただ闇だけ……否、違う。メルノは銃を、
『お父さん、お母さん、なんてよ。どいつもこいつも当たり前みたいに』
「――……!」
耳元のすぐそばで、男とも女とも、若者とも老人ともつかぬ声がした。
邪霊。その声は、音ではなく思念の波として心に沁み込んでくる。
『いて当たり前。育ててくれて当たり前。愛してくれて当たり前。
……ふざけてるよなあ? だったら、親がいない子供はなんだってんだ?』
「……何が、言いたいんや」
熱線銃を握りしめたまま、メルノは闇の向こうに言い放つ。
「うちがそないなもん寂しがっとるって、ようわかるな。読心術かなんかか?
ああそうや、確かにうちはみなしごや……寂しくなる時もあるで」
意に介さず撃ち殺そうにも、実体が見通せない相手を殺すことは出来ない。
ならば心を強く保つべし。己の弱さなど、メルノは最初から知っている。
「それやなんや。いまさらあんたなんかに言われんでも」
『……それだけじゃないだろ?』
言葉が、途切れた。
……街角で、道端で、どんな世界でも、どんな場所でも。
子は親とともにいる。当然だ、それが普通。親は子を守り子は親に育てられる。
愛し合う者もいれば、厭う者も、憎み合う者もいた。形はそれぞれだ。
だがそもそも片方がいなければ、愛憎哀怒のどれも成り立たない。
……自分は、そのどれも、感じたことがない。人々が……いや、"あいつら"が、
当たり前としているものを、自分は何一つ享けたことも、与えたことも。
『妬ましいよなあ』
「……そんなわけあらへんやろ」
『羨ましいよなあ?』
「そないなこと、うち……は」
『なのにあいつらはそれが当然って顔でいやがる。何の感謝もしないでいやがる。
のうのうと、豚みたいにナメた面をして、猿みたいに怠惰に生きていやがる』
「…………」
『壊しちまおうぜ』
囁かれた言葉に、メルノははっと目を見開いた。
「厭や」
『本当に? なあ、正直になれよ。ぐちゃぐちゃにしてやりたいんだろう?
どんな世界でもそうだ。そんなもん壊しちまったほうがすっきりしねえか?』
「う、うちは……」
手がカタカタと震える。わななく唇を噛み締めて、メルノは耐える。
「うちは、そないなこと……」
『嘘つけ。お前が妬む奴らを、当然を感受するクソどもをぶち殺してやろうぜ。
そのための力がお前にはある。あとはそいつを俺達に少し貸してくれれば――』
心が揺らぐ。この力を、破滅と破壊のために使ってしまえと。
湧き上がるのは嫉妬の感情。目の前に邪悪な霊体の顔が、ぼんやりと現れ……!
「本当はしたかったんや――とでも言うと思ったか、ド阿呆!!」
『な』
ZAP!! 神速のクイックドロウが眼前の霊体を熱量で撃ち抜いた!
『AAARGH!?』
「ああそうや、うちはたしかに妬ましいで! 苛ついたこともあるわ! けどな!」
メルノの目は、闇の彼方の敵をしかと見通している。力強い意思を以て。
「そないなもん誰だって抱えとる。感情も、事情も、うちがそうであるようにな!
うちが誰かに嫉妬するなら、その誰かもうちや他の誰かを妬ましく思うもんや!」
ZAP!! 再び獣じみた苦悶の絶叫……!
「誰も彼もお互い様の世の中で、力持っとる奴が自分のわがままで暴れるなんざ、
それこそあんたらと何も変わらへんやろ! うちはそないなのお断りや!」
『AAAARGHH……後悔するぞ、お前……!』
「かもしれへんな。けど」
メルノは最早迷わない。たしかに彼女は天涯孤独で、嫉妬も羨望も心にある。
だが同時に。彼女を愛してくれた人々の記憶が、戦ってきた思い出がそこにある。
ならば。
「あんたらオブリビオンに、それを決める筋合いはないんや」
ZAP――誘惑とともに、霊体は射殺され雲散霧消した……!
成功
🔵🔵🔴
ソラスティベル・グラスラン
勇者としての旅路は、楽しい事ばかりでなく
激情を抱いた事を、覚えています
悪しきオブリビオンの非道に、理不尽に
死に絶え赤に染まる街が
無辜の民を襲う魔物たちが
正義を弄ぶ悪人が
脳裏をよぎる
邪霊が囁く
怒りのままに力を振るえ
理不尽を、更なる理不尽を以て叩き潰せ
『暁』を待つ心を捨て、『黄昏』を齎す暴虐の竜と成れ―――
思い切り自身の顔面を殴りますっ!!
…絶望と怒りに任せ暴れては、悪を成した彼らと同じ
わたしが憧れたのは…いつだって歩む未来に希望を信じ、只管に進み続けた者!
此処に誓うは不退転の意思!それが、わたしの【勇者理論】!!
心に入り込もうと無駄です
わたしの胸には常に!闇を祓う【勇気】の炎があるのですからッ!
●闇との戦い:ソラスティベル・グラスランのケース
勇ましき者と書いて、勇者。多くのお伽噺に語られる英雄の偶像。
綺麗だと思う。美しいと思う。そのように成りたいと思い、夢見てきた。
故郷を飛び出した己の志が、幼稚で無邪気と言われればぐうの音も出ない。
しかしだ。ありきたりなお伽噺、綺麗事のオンパレードを信じずして、
一体この世界で――否、この宇宙で、他に何を信じられるというのだ?
……故郷を旅立つ日のことを覚えている。
見渡すほどに広大な北の大地、生まれ育った場所を飛び出した日のことを。
旅立ちを喜ぶ者、
族長の一人娘が(彼ら曰く)そんなふざけた理由で旅立つことを憤る者、
純粋に別れを惜しむ者、
祝福あるいは呪いをかける者……。
様々だ。だが、何より記憶に刻みつけられているのは、暁に焼けた空の色。
これからの旅路を祝するかのような茜色に、目頭が熱くなったのを覚えている。
旅に出て、学園にやってきて、そして猟兵として世界を巡るようになって。
色々な"赤"を目の当たりにするようになった。
血の赤。
炎の赤。
悪の赤。
美も醜も、善も悪も死も生も、ああそうとも、様々にあった。
民が死に絶え燃える街が。壁や路辻を染めるおびただしい血が。
無辜の人々を襲い、弄び、嗤笑する邪悪が。魔物。吸血鬼。あるいは別の。
オブリビオン。数多の世界、数多の場所で跋扈する絶対悪。
過去の残骸、骸の海より来たるもの。猟兵にとっての仇敵にして邪悪。
それらが今脳裏を駆け巡ったのは、おそらくは……邪霊のせいなのだろう。
『怒れ』
「……」
『お前は感じたはずだ。夜霧の殺人者に、氷を操る怪鳥に、多くの敵に。
なぜこんなことを。どうして間に合わなかった、よくも彼らを……なあ?』
「…………」
全てが英雄のような勝利とはいかなかった。
間に合わなかったことがある。救えるはずの命をこぼしてしまったことが。
強大なる邪悪を己の手で討ち果たすこと叶わず、倒れ伏したこともある。
怒りがあった。過去の化身どもに対する純然たる、燃えるような怒りが。
燃えるような怒(あか)は、いつでもソラスティベルの心に燃えていいたのだ。
怒れと。
闇の彼方より囁く声は云う。
己の怒りを、憎悪を解き放ち、失われたモノに報いよと。
彼奴らがもたらすものが理不尽ならば、それをも理不尽で潰せばいい。
『お前にはそれが出来る』
「………………」
『お前の中に眠る力を、その龍の暴虐を我らに与えよ』
さすれば、暁は終わり、黄昏が彼奴らを覆うだろう。
もはや悪が命を、希望を奪うことはなく。以て絶望も消え去ると云う。
『荒ぶる力を、お前の怒りのままに振るえ。我らはその手助けをしてやる。
怖れることはない、悪党を蹴散らしたいのだろう。神話の勇者のように!!』
道理だ。力に抗するのは力でなくばならぬ。彼奴らは絶対敵なのだから。
地を灼き空を嘗め尽くす炎と雷を以て、空を赤に染め上げそして、そして!
……がつんっ!!
そんな音がした。ソラスティベルの拳が鳴らした音だ。
何を殴ったのか――簡単だ、彼女は……己の顔面を、殴り飛ばしたのだ。
「……理不尽を、さらなる理不尽で叩き潰す。そうすれば悪は滅びる。
ええ、そうでしょう。そうしなければならない敵もきっといるはずです」
折れた鼻骨から鼻血が垂れ、ソラスティベルは親指でそれを拭った。
見開く空色の瞳は、決して黄昏になど染まってはいない。
「けれど絶望と怒りを以てその力を振るい、暴れては……それでは同じです。
悪を為した彼らと、何も変わらない。わたしは、それは認められません」
闇の向こう、燃えるような赤き霊体が吠え、己を萎縮させんとする。
『怒りを否定するか! 無駄だ。お前がどれだけ否定しようと』
「否定はしません」
空色の瞳は揺るがない。
「わたしは何度も怒り、絶望に囚われ、倒れ冷たくなる体に恐怖しました。
"だからこそ"わたしは憧れ続けるんです。あの日思い描いた、勇者の姿に!」
お伽噺の英雄は、いつだって未来に希望を信じて突き進む。
どんな敵が、困難が立ちはだかろうと、そしていつかは希望を掴むのだ。
夢物語かもしれない。絵空事かもしれない。ありえない話なのかもしれない。
ならば。
「わたしは神話の勇者のように、ただただ進み続け、それを現実にしてみせます。
……ここに誓うは、けして止まらず、退くことなき不退転の意思!」
邪霊が吠える。もはや少女が怯えることはない!
「それが――私の、勇者理論(ブレイブルール)なのですッ!!」
……様々な世界で、様々な場所で、様々な赤を見た。
けれども最初から、怒りの赤よりも強く、雄々しく、確かに燃えるのは。
「何をしても無駄です。わたしの心に、あなたが入り込むことは出来ません。
――わたしの胸に、闇を祓う勇気の炎が燃えている限りは、絶対にッ!!」
少女よ。今こそその銘を叫ぶべし!
「我が名は――」
ばちばちと大斧が雷を纏う。高ぶる蒼電は、やがて暁の如き炎へと!
響く声音は神鳴るが如く。これぞ!
「暁と空の勇者、北の部族の子! ソラスティベル・グラスランですッ!!」
叩きつけられた勇気(いかり)は、闇を貫き邪悪を祓った。
成功
🔵🔵🔴
カイム・クローバー
①力への執着
②お任せ
【SPD】
力ってのはいつだって必要だ。信念に基づいた生き方、厄介事を避けて自由に生きる方法を否定はしない。だが、それでも否応なく力を必要とされる時ってのが来るもんだ。…認めるぜ。俺は力に執着している。もっと強くありたい。自分一人でどんな相手も倒せるようになりたい。欲望ってのは底がねぇのか、猟兵で居るだけじゃ満足できないらしい。
……けどよ。同時に大事なモンも出来ちまった。それは友人とか彼女とか…言葉にすると在り来たりなモンさ。それが今の俺を繋いでる(真の姿に覚醒。黒翼を広げ、金と紫のオッドアイ、紫の雷光が身体に走る)だから、自分は見失わねぇよ。守るべき日常がある以上はな
●闇との戦い:カイム・クローバーのケース
相手がいかなモノであれ、貫く信念がどんなモノであれ。どんな世界であれ。
生きていくならば、いつかはどこかで"力"が必要になるものだ。
例外はない。それを避けていたとしても、"いつか"は必ずやってくる。
……"力"と一言に言っても、その形態とやり方は様々にある。
相手を傷つけ殺す力。
言葉でねじ伏せ、屈服させる力。
財を以てわがままを通す力。
在りようは様々だ。それによってできることもまた、様々だ。
だがどうあれ――"力"を振るわねばならないときは、かならず来る。
誰にでも。
どんな世界でも。
どんな信念でも。
それを否と叫ぶこと、それだけではないはずと叫ぶことをカイムは否定しない。
いや、そう叫ぶ誰かがいるからこそ、ありえないはずの夢想を目指すからこそ、
ともすれば人は生きられるのだろう。だいそれた話だが、そう思う。
人が獣と違う理由はそこにある。獣が夢を追うことなどありえない。
届かぬ目標を定め、一心不乱に目指すからこそ……ヒトは、ヒトなのだ。
「けどよ。ああそうさ、俺は厄介事を避けてくなんて利口な生き方は出来ねえ」
闇に包まれたそこで、カイムは淡々とひとりごちた。
……ひとりごちた? 違う。彼はその先に何かが居ることを知っている。
感じている。邪霊がそこにわだかまり、己を見つめていることを。
心の裡にふつふつと煮えたぎる、この欲望の高まりがそれを知らせている。
力を。力を求める。何者にも負けぬ力、誰をも打ち砕ける力を。
文句を言うクソどもをぶち殺し、立ちふさがる敵を斬り捨てる力を。
かつて打倒した強大な敵。銀河皇帝。ウィンドゼファー。あるいはあの男。
龍の相手をするので手一杯だった、己では討ち果たせなかったあの邪悪。
思い返す強敵は枚挙にいとまがない。手にはいらなかったものは数多い。
「……だから認めるぜ。いちいち思い出させるまでもねえさ」
まるで散歩にでも行くような気軽さで、男は闇に向かってうなずいた。
「俺は、"力"に執着している。猟兵で在る程度じゃ、俺は満足できねえのさ」
それは、嘘偽りのない言葉であり、開け広げにされた心の闇である。
……だが。
抉り出された欲望を前にして、カイムはなおも佇むのみ。
慌てることも、苦しむことも、ましてや悔いて恥じらうこともない。
『認め受け入れるか。我々ならば、お前のその渇望を満たしてやれる』
「そうなのかもな。オブリビオンの言う台詞なんだ、"力"に関しちゃそうだろう。
お前らは厄介なほど強大で、おまけにしぶとい。その力が手に入るなら……」
己のこの飢えも。執着も、満たされて埋まるのかもしれない。
「……けどよ」
カイムは、ぐっと見下ろしていた拳を握りしめる。
「情けねえ話だが、同じぐらいに大事なモンも出来ちまったのさ」
『力があれば、それも守れるぞ。誰にも奪われず、永遠に自分の手に』
「そうじゃねえんだ」
ぎりぎり、と拳から音がした。
「言葉にすりゃありきたりなもんさ。友人だの恋人だの、変わったモンでもない。
けどよ、あいつらが信じてくれてるのは、猟兵としての"いまの俺"なんだよ」
拳を、開く。そこから腕、肩、やがて全身が一瞬にして変異した。
闇よりもなお黒き翼が、ばさりと広げられる。輝く両目は金と黒の異彩。
「いくら力が欲しくても、いまの俺であることを辞めちまったら意味はねぇ。
だから、悪ぃな。お前らの話は――魅力的だが、俺にゃ出来ねぇ相談なのさ」
邪霊が周囲を取り囲む。闇に炯々と輝く黄色はまるで鬼火のよう。
真の姿を解放したカイムはニヤリと笑う。ばちばちと迸る紫の電光……!
「俺は俺を見失ったりはしねぇ。守るべき日常ってヤツがあるんでね!」
『愚か者め。後悔するぞ。いつかお前はそれを失う日が来るのだ!!』
「そうかい? なら賭けてみるか」
魔銃オルトロスが火を吹いた。邪霊の断末魔!
「お前らのその台詞が正しいかどうか。お前らの命をチップにしてよぉ!」
そして銃撃が協奏曲を奏でる。誰も、カイムを止めることは出来はしない。
その意思を、絡め取ることもまた同じように!
成功
🔵🔵🔴
オリヴィア・ローゼンタール
どこからともなく、声が……
1:衝動
人々を邪悪なモノから護る
翻って暴力を振るうことの肯定
2:無限に湧き出る敵を倒し続ける幻
槍を振るい、拳を叩きつけ、蹴りを繰り出し
魔獣を、吸血鬼を、異端の神を
殺して殺して殺して殺して殺し続ける
血と殺戮に溺れ、圧倒的な力を振るうことへの陶酔
3:その力は何の為に
殺戮の愉悦を顔に貼り付けた自身の姿の幻を斬りかけて、寸でのところで留まる
生きとし生けるものが死に絶えた無人の荒野に、何の意味があるのか
力を振るうのは、あくまで無力な人々を守るために
殺すために殺すのではない
術中に完全に嵌っていたことを恥じ、聖槍の穂先を下ろす
【転身・炎冠宰相】
身体の芯から燃え盛る炎で邪霊を焼き払う
●闇との戦い:オリヴィア・ローゼンタールのケース
自分はついさっきまで、いかにも迷宮然とした通路を歩いていたはず。
だが足元は石畳ではなく無限に連なる白い砂漠で、頭上は見通せぬ夜空。
ダークセイヴァーのそれとも違う、虚無めいた暗黒であった。
「これは……?」
もしや、邪霊からの攻撃か。囁きめいた『何か』を耳にした気がする。
オリヴィアが訝しんだその瞬間、けたたましい咆哮が白い荒野をつんざいた。
「魔獣!?」
然り、現れたのは獣である。ただし通常の生物を逸脱した魔物だ。
オリヴィアは即座に聖槍を繰り出し、爪を振り上げた獣を貫き抹殺せしめた。
「これは、幻にしてはあまりにも手応えが……」
当惑する隙もなく、新手。血にまみれた仮面を着けた凶人どもである。
錆びた得物を振り回すこれらを、オリヴィアは躊躇なく徒手空拳でねじ伏せる。
槍を使うまでもない。都合2、30はいようかという徒党はあっけなく死んだ。
「これは――」
第三波。蝙蝠めいた翼をはためかせ空から襲いかかるヴァンパイア。
オリヴィアの双眸が釣り上がり、燃えるような殺意と怒りが拳に乗った。
「奴らを模倣したところで、私は決して恐れたりはしません!!」
死神の鎌じみた蹴りが、邪鬼の首をへし折り絶命させる。
だが今度は、足元からぼこぼこと、いびつにつなぎ合わされた死者の群れ!
殺す。死んでいるものならば、死せざる死をも叩き潰すのみ。
高笑いする少女めいた姿の異端の神を捕まえ、薪めいてへし折り殺す。
「どうしました。次は何を出してくるのですか! いくらでも来なさい!!」
殺す。獣を、鬼を、神を、死者を、生者を、徒党を、戦士を、騎士を。
罪なき人々の姿を模した邪悪を射ち殺し、親しき者を模倣する外道を殺す。
殺す。敵は殺す。殺さねばならぬ。殺すことが正義であり断罪であり義務である。
猟兵として。戦士として。聖騎士として。邪悪は討ち滅ぼし抹殺すべし。
殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す――!!
「――は」
どれほど殺したか。白い荒野が血に染まるほどに殺し、殺し続けた。
「あは、は」
まだ敵は来る。故に殺す。敵は殺さねばならぬ。殺すことこそが正義。
「あははは!」
殺せ。殺せば皆が喜ぶ。殺すことを願われている。ならば殺さぬ理由はない。
殺すべき理由がある。殺したい。敵を。もっとだ。もっと、もっともっと!
「あははははっ! あは、あはははは!」
殺せ。殺したい! 殺したいのだから殺せばいい、それだけの話だ!
血を流し、河とし、屍を山としてなお殺せ。次の敵を、その次の次の敵を!
殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ、だってこんなにも楽しいんだから!!
――ふと。
返り血で顔を赤く染めたオリヴィアは、我に返った。
「…………」
見下ろすのは己である。だがそこには湖もなにもない。あるのは砂だけ。
倒れている者は、倒れているものが――己だ。笑う己。殺戮に酔いしれる己。
「私――」
『殺してよ』
馬乗りにされた"オリヴィア"が、うっとりとした顔で言った。
「私は」
『殺したいんでしょ?』
幻は云う。
『敵を、誰も悲しまない相手を、むしろ喜ばれるような悪い奴らを。
殺して、力で叩き潰して、暴れ回るのが、楽しくて楽しくて仕方ないものね?』
「……わたし、は」
『いいのよ。わかるもの。だって私はあなたなんだから』
振り上げた武器を降ろせばいい。それでこれは終わり、次が来る。
また殺せる。命を奪える。この力を振るうことが出来るのだ。
『邪悪なモノを叩き潰して殺すのは――楽しいもんねえ?』
「――……」
オリヴィアは、振り上げた槍を……ふっと、おろした。
……違う。自分はそんなことのために戦うのではない。
ああ、だが。快楽に酔いしれ、陶酔していたのは。ああ、他ならぬ己。
『殺さないの? 誰かが邪悪に奪われてもいいというの?』
「……私は、それを許容は、しません。けれど」
オリヴィアは立ち上がる。愉悦にまみれた幻はそれを見上げる。
幻が燃え上がる邪霊に変わり、あざ笑うように周囲を取り囲んだ。
「けれど力を振るうことを肯定してしまったら、何もかもが意味を変えてしまう」
『詭弁だ。どのみちお前がやることは同じだろう』
「そうかも――いいえ、そうです。だからこそ……そう、だからこそ!
この力は、無力な人々を守るため、邪悪を退けるためと規定せねばならない!」
たとえ手段が同じでも、目的を見失えばその瞬間に闇が訪れる。
オリヴィアは己を恥じ、きっと邪霊どもを睨みつけた!
「私は歓びを否定しません。けれど、その快楽に身を委ねることは拒絶します」
『なんたる我儘! お前が力を振るう限りそれは欺瞞である!』
「なんとでもお言いなさい。たとえそれが欺瞞でも、私は」
その身の裡から湧き出るは聖なる炎。邪悪を打ち払うオリヴィア自身の力。
「私は、"否"と云うために戦い続けるのです――!」
邪霊どもは苦悶した。苦悶しながらも、なおも嘲り笑い続けた。
終わりなき戦い。否定を否定するための戦いに身を焼く少女の向こう見ずを。
……とうに覚悟は出来ている。幾度でも、彼女はそれを叫び続けるだろう。
成功
🔵🔵🔴
杜鬼・クロウ
アドリブ◎
負に浸食された者へ手貸せたら貸す
迷宮の奥、闇が濃ゆい処へ(聞き耳、第六感、地形の利用
邪霊の誘惑お任せ
悪感情ねェ…引き摺り出せるモンならヤれや(挑発
あるにはあるが、それを乗り越えて今の俺が在るンだわ(玄夜叉撫ぞり
どんな闇でもバッチコイ!上等だオラァ!と思いきや突然のきょぬー誘惑に面食らう
巨乳の神秘について延々と語られるも実際唯一付き合った事があるお嬢(弟の主で初恋の人。病弱で細身)は普通程度
…確かに大きいのが好きだぜ
けれど愛の前では性癖は二の次
ソイツ自身に惚れちまったからなァ
でもおっぱいは好きだ
正直語りたいのは山々だが空気読めや
さっさと逝ってくれ(属性攻撃・2回攻撃で青炎宿し一刀両断
●闇との戦い……?:杜鬼・クロウのケース
彼は、あえて闇の濃い場所を探すように迷宮をさまよった。
邪霊……イーヴィルスピリット。負の感情を増幅させ憑依せんとする魔物。
上等だ、とクロウは思う。やれるものならやってみろと美丈夫は笑うのだ。
なぜならば彼は、それを乗り越えてきたからだ。己の闇、負の感情。悪しき部分。
ヒトならば誰しも持ち得る悪性を、男はとうに受け入れ克服している。
ゆえにその指先は、むしろいかなる誘惑が来るのかと期待に魔剣を撫でていた。
「引きずり出せるモンなら、ヤってみろや。あ?」
誰もいないはずの闇に向け、クロウは飄然と言い放つ。
だがそんなクロウも、まさかの展開に思わず瞠目し、面食らった。
無理もない――彼の前に現れたのは、邪悪な映し身や後悔の形でもない。
「なン……だと……!?」
実に胸が豊かであらせられる、豊満かつ美しい女だったからだ……!!
……いや待った、たしかに誘惑ではある。
誘惑ではあるが、クロウよ! お前の悪感情はこの手のものなのか!?
もっとこう、怒りとか、なんかかっこいい後悔とか、そういうのはないのか!?
なかったのだ。いや正しくはあるのかもしれないが、邪霊はこれを選んだ。
つまりそれが最適だということである。ほんとかなあ……?
「ハッ、どんな闇でもバッチコイと思ってたけどよォ」
だが実際に女(の幻)と相対するクロウは、冷や汗をかいていた。
恐るべき強敵と対峙するかのような緊張感である。……えっ、これで!?
「きょぬーを刺激してくるたァ、やるじゃねェか!」
『ウフフ、こういうのが好きなんでしょう? さあどうなの?』
うっふーん、みたいな感じで悩ましげなポーズを取るクロウ。
「悪いがそンなあけっぴろげなのは好みじゃないぜェ!!」
一閃! 黒魔剣が邪悪な幻を……いまいち決まらないが、切り裂いた!
しかしてモヤめいたそれは消えることなく、次なる姿を形作る。
『否定することはないぜ。いいよな、きょぬー』
「く……ッ!?」
目の前に現れたのは、どこかクロウの映し身を思わせる幻である。
自分との対峙。闇のそれであれ、本来ならば恐るべき試練となるだろう。
いやクロウにとっては実際鉄火場なのだが、それにしたってこれはなあ。
『揺れるボリューム、あの曲線、そして谷間……上から見ても下から見ても夢一杯。
俺の煩悩袋もお腹一杯。ないよりはあるほうが嬉しいモンなァ……!?』
「…………」
『ありゃア一種の神秘だ。そうだろ? だから俺達は誓ったンじゃねェか。
桃色の誓いを……忘れたとは言わせねェぜ? さあ、受け入れちまえよ……!』
邪悪は囁く。トラウマでもなんでもなくおっぱいいいよねという誘惑!
いや誘惑ではある。情欲ではあるんだが、クロウよ、これでいいのか!?
本当に君はこれでいいのか! いやよくないよなあ、困ってるもんなあ。
……しかし、美丈夫はなおも不敵な笑みを崩さない。
だいたいこんな誘惑で心折れる人間いるのかっていう話なんだが、
どうやらクロウの表情を見るに割と危なかったらしい。ウッソだろオイ。
「……たしかに俺は大きいのが好きだぜ」
『ハ! 認めたな。ならその体を』
「ケドよ――愛の前では、性癖(こだわり)は二の次なのさ」
思い返すのはかつて愛した女。妹……もとい、弟の主、初恋の人。
病弱で儚く、細身な……ボリュームは普通程度の、彼女のかんばせ。
こんな誘惑でそんな大事な記憶を思い返していいのかクロウよ!!
まあさておき、その思い出がある限り、彼が邪悪に屈することはないのだ。
なぜならば彼はヤドリガミ、百年を閲した器物の霊。そしてひとりの男。
「おっぱいは好きだ。だが愛ってのは、ソイツに惚れた思いってのはよ!
好みがどうとかカンケーねェんだよ、空気読んでさっさと逝けやッ!!」
『ば、バカな……!?』
青い炎を纏う刃が、幻を切り裂く。なおも邪霊はクロウを取り囲む!
そこへ高らかに響くは暁鴉の声。八咫烏の輝きが闇を退けた!
こんな敵に我が法力使うの? みたいな顔の八咫烏だが、それはさておき!
「お呼びじゃねェぜ、邪霊ども!!」
クロウは極めてシリアス顔でやる気だ。そんな馬鹿な!
成功
🔵🔵🔴
天道・あや
突入!次の相手は…!?ゆ、幽霊!?ゴースト!?ま、また!?…でも、もう大丈夫!友達や森の為にどっかーんとやっつけて!…ってあれ何だか意識が……
①与えられるのは恐怖、かつてドラゴンテイマーになすすべなく敗北した時の思い出
②ここで諦めたらいい、倒れていい、立ち止まっていいとそんな甘い誘惑
③その誘惑に従おうとした思った瞬間、聴こえてくる叫びと助け声、そうフリムと森の声を聞いて、立ち上がり、前に進む事を思い出す
そして振り切ったら【サウンドウェポン】を構えてあたしの想いを込めて【サンダー!ミュージック!】【歌唱力、楽器演奏】!
あたしはもう、立ち止まらない!あたしは照らすって決めたんだ、皆の未来を夢を!
●闇との戦い:天道・あやのケース
恐怖。あの戦いにおいて自分が感じたものは、そう、ただ恐怖だけだった。
形を持った地獄。紫色の瘴気を纏い、龍の翼と黒き破滅を従えたあの男。
これまで戦ってきたいかなる敵よりも強大で、底知れなかったあの男。
――ドラゴンテイマー。キマイラフューチャーに巣食っていた破滅の根源。
あやはかの巨悪に立ち向かい、そして一度は敗北した。
かすり傷を残すのがやっとの、意地を貫いたと云うにはかそけき敗北。
いくら彼奴を討ち倒したとは言え、その記憶はあやの根底に焦げ付いていたらしい。
邪霊に囚われた彼女が見たのは、まさにその瞬間の記憶だったのだから。
(……体が、冷たい……)
あやは前後不覚の状態に陥り、自分のいまの状況を判じかねた。
まずわかったのは、とても寒いこと――否、体の内側から熱が失われていること。
それが、己の血が流れ出ているせいだということは、深く考えずともわかった。
(あたし、倒れてるの……?)
自分はさっきまで、暗い暗い地下迷宮の中を探索していたはずだ。
幽霊だのゴーストだの、その手のオカルト存在は猟兵となってからも苦手だ。
けれども██や███のためならいくらでも立ち上がれ……いや、誰のためだと?
(立たなきゃ……まだ、敵を倒してないのに……)
あやは立ち上がろうとする。そのための力が、力の源である血が、足りない。
かろうじて顔を上げ……そして、ただでさえ足りない血が、さっと引いた。
そこにはあの男が。恐怖を懲り固めたような黒い影が揺らめいていたから。
「……ドラゴン、テイ、マー……!?」
なぜだ。なぜヤツが、アックスアンドウィザーズの世界にいる?
いやそもそも自分達は、たしかにヤツを打倒した。完全に滅ぼしたはずだ。
……その実あやの視界に映ったのは"ドラゴンテイマーの形をした闇"であり、
それそのものではない。だが、恐怖の感情を刺激されたあやに、それは見えない。
彼方から黒き破滅どもの鳴き声がする。己を引き裂きえぐったモノどもの声が。
「、ひ」
あやは、ひきつった悲鳴を漏らしかけた。心折れそうになった。
だが同時に、靄がかった思考にはたしかにこれまでの過程が残されている。
自分はキマイラフューチャーではなく、アックスアンドウィザーズにいたこと。
██……█り、もり、そう、ブルーノー大森林を救うためにここまで来たこと。
そこであの邪竜と戦い(おそらくそれもこの想起の一翼を担っているのだろう)、そして████と……███ム? ███ムとは誰だ?
(思い出せない……記憶が、封じ込められてる……?)
思い返せ。自分はなぜここに来た。何をするためにここに来たのかを。
それがこの状況を打開する鍵になると、あやは直感的に悟ったのだ。
だがその一方で。
『痛いだろう? 苦しくて辛いだろう?』
何者かの声が、耳元で……いや、頭の中に響いてきた。
『なら諦めてしまえばいい。このまま倒れて眠っていれば何もかも終わる。
立ち止まって休んでもいいじゃないか。これまで頑張ってきたんだから』
「誰」
『お前が頑張る必要はない。きっと誰かがなんとかしてくれるさ。
だから、さあ。もう諦めて、怖いものは見ないように目を閉じてしまおう』
"それ"の声は甘やかで、ぞっとするほどに心が安らいだ。
たしかに安心したことを、それを受け入れかけたことを、あやは口惜しむ。
……出来ない。ああ、たしかにここで諦められればどれほど楽だろうか。
けれどもそれは出来ない。否、したくないのだ。
誰かに強制されたわけではない。自分自身の意思ゆえに、あやは!
「……嫌だ」
『なぜ拒む? なぜ苦しみを味わおうとする? そんな必要な』
「関係ない。誰かが言ったからとか、強制されたからとかじゃない。
あたしが……私が! 私の意思で!! やりたいからやるんだッ!!」
力強い言葉とともにあやは立ち上がる。かりそめの死と恐怖を払いのける。
そして真っ向からドラゴンテイマーを……恐怖の影を見返す!
「私は立ち止まらない、たとえまた負けたとしても、立ち上がって前に進む!
あたしは――照らすって決めたんだ。皆の未来を、夢を! そして――」
そして、そうだ。███ム……フリム! 森の住人! 大切な友人!
それだけではない、多くの世界の、多くの人々の未来のために!
「あたしが決めたあたしの道を、意思を! 阻んだりしないでっ!!」
『愚かな。安寧を否定し苦難を選ぶか、誰も称賛することなどないのに』
「称賛なんていらない。これは……あたしの! 想いなんだからっ!!」
恐怖の影が崩れ、無数のあざ笑うような邪霊としての姿を現す。
あやは止まらない。駆け出した彼女のスピードが、あの花畑を切り裂き、
迷宮の闇へと引き戻す。奏でる響きは、少女の思いのままに!
「消えろ、オブリビオンっ! あたしの道を、邪魔すんなっ!!」
闇が晴れていく。邪霊の断末魔は苦悶と悲嘆に溢れていた。
恐ろしいと思う気持ちはある。それをすら否定したならば意味はないのだから。
恐れも、哀しみも、何もかもを抱えて進む。誰でもなく自分の意思のもとで!
大成功
🔵🔵🔵
神酒坂・恭二郎
「こいつは痛い所を突かれたねぇ」
見据えさせられたのは「受容」と「中庸」だ。
全てをありのままに受け入れ、卑小な自分も才無き己も受け入れる生だ。
自分らしく伊達に過ごし、気に入らぬ悪を倒し、風流に生きる。
自己の不出来への「受容」。
自己の身の丈に合った「中庸」がそこにある。
己の限界も死に場所もわきまえて、あるべきように生きて死ねと誘惑された。
一つの理想であり、人の生とは本来その境地に至る為の旅路かもしれない。
答えを得たと誘惑される。
だが、正しい答えには曲げて返す。
無力と嫉妬に焦がれた己を思い出す。
あの闇と毒が己の芯だ。
中庸の真理など、その前にには塵に等しい。
「悪ぃな。俺の終わりはそこじゃねぇんだ」
●闇との戦い:神酒坂・恭二郎のケース
分相応と言えば聞こえはいい。分不相応はみじめでみっともないとも云う。
そのとおりでは、ある。けれど小さくまとまった生き方は、そう。
……安らかで正しく利口だが、いまひとつ面白みに欠けちゃあいないか。
リスクとリターンは紙一重。虎穴に入らずして虎児を得ることは出来ない。
それは楽ではあるが、だからこそ受け入れるには程遠い。それは答えじゃない。
あいにくと、スペース剣豪を名乗る男は性の悪いひねくれ者ゆえに。
……闇の中から囁いてきた声の内容は、つまるところそういったものだ。
『お前が求めていたのは、誰にも負けない剣の腕でもなければ最強の地位でもない。
その先にあるもの……人生の意味、その答えを識りたかったのだろう?』
いかにして心を読んだのか、邪霊の声はいかにも的確だった。
正しい。そうとも、武芸者とは求道者であり、目指す答えはつまりそれだ。
「そうかもしれんねえ。俺は結局、だからこそ剣聖には至れないのさ。
……それで? だからなんだってんだい、邪霊の。こちとらひねくれものだぜ」
それを暴かれた程度で、心折れて膝を突くほどやわではない。
ひたすらに答えを求め続けて鍛え、あがき、過去を乗り越えたからこそ。
はらわたを引きずり出された程度で、止められるような歩みではもはやないのだ。
ゆえに闇は、邪霊は……恭二郎に、このように囁いた。
『ならばこれ以上、何を求めて歩み続ける必要があるというのだ?
諦めろなどとは言うまい。お前はとうに、答えを手に入れているのだろう?』
「……へえ」
『お前とてわかっているはずだ。答えとは畢竟、受け入れてただ在ればいいのだと。
その方法も、お前らしい挟持も流儀も、とうに備えているではないか』
……然り。
己の非才も、極点に至ることも出来ぬ卑小も、答えに拘泥する浅薄さも。
何もかもを受け入れ、それこそが己なりと開き直り、"自分らしく"在ること。
伊達を任じて浮世をそぞろ歩き、論理ではなく己の性分に従って悪を斬る。
花を愛で、鳥を慈しみ、風月に恋をするような風流人の生き方。
つまりは神酒坂・恭二郎という人間としての、欠点も身の丈も受け入れよと。
受容と中庸。善の大義に殉じるでも、悪の誘惑に屈するでもなく、
そのどちらをも鼻で笑い、我は我だとうそぶいて夕闇時をふらつくような。
そんな生き方は……ああ、たしかに素晴らしいものだ。まさに理想形である。
『誰しにも限界がある。ならばそれを越えようと切磋琢磨する必要はない。
死に場所が来るならばそれはそれでよい。あるがままに生きて、あるがままに死ぬ。
それこそがお前の求めていた答え、お前が辿り着きたい境地なのだろう?』
「……こいつは」
ふっ、と、恭二郎は笑った。邪霊の言葉を――それに喜んだ己の弱さを。
ああ、そいつは素敵だ。いかにもスペース剣豪らしい在り方だ。
その日の風の向くまま気の向くまま、手の届く範囲を守り我をただ貫く。
世界に対して我を張る必要もない、終わりが来るならただ粛々と受け入れる。
なぜならば自分は"それまで"の存在なのだから。それが当然、それが楽だ。
『お前の旅は、求道はとっくに終わっている。お前は答えを得ているのだ。
さあ、受け入れろ。恥じる必要はない――誰もお前を否定は出来まい』
「そうだねえ。よしんばいたとして、耳を貸す必要もありゃしないか」
中庸といえば聞こえはいい。
裏を返せばそれは、全てに倦厭し肩を縮こまった、隠者のような生き方だ。
師が得た答えと、ある意味では同じなのではないか。これもまた一つの――。
「……けどねえ」
ああ、正しい。これもまた一つの答え、終着点、旅の終わりだ。
だが正しいからこそ、神酒坂・恭二郎という男はそれを否定する。
「あいにく俺はひねくれ者なのさ。花も鳥も愛するし、風や月を慈しむ。
だけどね邪霊の、俺ぁ――そんな綺麗なものと同じくらいに……」
かつての日々を想う。世界を超えるようになってからを想う。
姉弟子に勝てず、師に勝てず、敵に斃されそのたび崩れ落ちた己を想う。
その時に感じた無力感、力ある者への嫉妬、羨望、飢餓感。
それら悪感情をこそ……それもすら、恭二郎は愛する。受け入れる。
綺麗なものだけを見て生きるような在り方は、楽だが、ああ、そいつはちと。
「つまらねえんだなあ。なあ邪霊の、お前さん闇を見せてくれるんだろう?
たしかにそいつは甘い毒だ。けどね、毒ってのは――ぴりりと辛くなきゃア」
闇など見せられる必要はない。はじめからおのれの裡にある。
"そうである"と座り直したような生き方は、そんな利口は己にそぐわない。
闇を抱えたまま、なおもあがく。そんな無様が、己には似合いだ。
『なぜだ。なぜ、そんなものをよしとする』
「よしとしちゃあいないさ。ただ俺はこんなとこで立ち止まりたくないんだよ」
『苦しむだけだぞ。手にはいらないものを求めてなんとする』
「さあてねえ。だからよ、言えるこたひとつだけさ」
かちんと、鯉口を切る音。
「――悪ぃな。俺の"終わり"は、『そこ』じゃねぇんだ」
つまりは、強がりなひねくれ者の悪あがき。無様でみっともない分不相応。
それこそが、スペース剣豪の貫く"粋"である。
成功
🔵🔵🔴
天御鏡・百々
●神鏡のヤドリガミ
●アドリブ歓迎
①ヤドリガミとなる前、天災(大地震)によって、多くの人々が犠牲になった光景を見せることで悲しみの感情を与えてくる
②祀られているだけの我では、何も出来なかったことを責め立ててくる
③我はヤドリガミとして体を得た!
これで我が直接、人々を助けることが出来るのだ!
(一応 医術15、救助活動15)
精神を苛み、心の隙を突くとは
邪霊の名に相応しき悪辣さだな
我が破魔の光によって、全て浄化してくれよう!
(天鏡破魔光を使用します)(破魔65)
●闇との戦い:天御鏡・百々のケース
己は神と崇められて在り続けた。なんと霊験あらたかな神鏡なのかと。
だが見よ。己が映し出すこの光景、あそこにある破滅とその結果を見るがいい。
人々は苦しみ、嘆き、あるいはそれすらも出来ずに息絶えていた。
嘆き悲しむ人々がいて、その数十倍の屍があちこちに転がっていた。
家々は崩れて転げ、あるいは焼け焦げ、何もかもが台無しになっていた。
真っ平ら。真っ平らだ。人も、家も、土地も、何もかも真っ平らで炎が踊る。
誰がした。こんな惨状を、阿鼻叫喚を、一体どこの誰が作り出したのだ。
……誰でもない。ただ天が見下ろし、地は揺らぎひっくり返っただけ。
つまりは天災。古くからは神々が裁きとして起こすと思われていた自然現象。
ただの、大地震だ。それを神の御業と信じるかどうかは人によるだろう。
……"人"であれば、その災厄どう受け取るかは自由。嘆いても憤ってもいい。
なぜならば天地が人に応えることはない。幼子が父親にじゃれるようなものだ。
人であるならば。だがあいにく彼女は人ではなかった。
そしてなお悪いことに、神の如きモノとして崇められる存在だったのだ。
だから彼女は――百々は、その光景から目をそらすことが出来なかった。
己には無関係であるとしらばっくれることも、出来なかった。
そしてこれは実際にあったこと。百々にとっての過去。遠き過去。
まだ彼女が、ヤドリガミとしての化身を持たぬ頃の話である。
「なんという……なんというものを見せるのだ。邪霊め、邪悪なる者どもめ!」
百々は――百々の意識体は激昂する。さもありなん、これは彼女のはらわた。
ヤドリガミとなった今でも強く焼き付いた、悔恨と苦渋の風景ゆえに。
人々はみな嘆いていた。神よ、なぜこのようなことをなさるのかと。
"なにゆえにわれらを助けてはくださらないのか"と。
祈りを捧げ、失われたモノが取り戻されるようにすがりついた。
どうか怒りを鎮めたまえと伏して願い奉った。
「人々よ……すまぬ、我は、何も……何も、してやれなかった……」
然り。ヤドリガミでなきモノが、いくら崇められようと神であるはずはなし。
『お前はただの鏡だ。どれほどもてはやされ、慈しまれようと。
天災を前にして、人々を救うことも、慰めることも出来ぬただの器物だった』
「……ああ、そうとも。我は、何も……何も出来なんだ」
『神などと片腹痛し。只人を救うことも出来ぬモノは人にすら劣る。
お前はただの、古めかしいだけのがらくただ。驕り高ぶった卑小の輩だ』
気がつけば、神鏡に捧げられる嘆き、あるいは願いは恨み言に変わっていた。
なぜ救ってくれなかった。
なぜ守ってくれなかった。
なぜ願いを聞いてくれなかった。
そんな悪意のさざめきのなかに、邪霊の囁きが確かに木霊する。
『お前には何も出来ない。救うことも、守ることも、癒やすことも出来はしない』
「…………我は…………」
『お前には何も出来ない! 哀れなる器物よ、がらんどうのがらくたよ。
悲嘆を啜れ。阿鼻にのたうち叫喚に打ちひしがれろ。所詮お前はその程度の』
「……我は!!」
百々は悪意の暴風に晒され、悲嘆の感情を想起させられながら、しかし!
その誘惑に、堕落の陥穽に浸ることなく、決然と顔を上げた!
そうとも。たしかにかつて、百々は人々を救うことはできなかった。
自然の天災を前に、神と崇められながらそれを防ぐことも、
ましてや人々に知らせ、災害を未然に防ぐことも出来なかった。
苦い記憶、忘れがたい風景だ。おそらくは永遠に悔み続けるのだろう。
「我は、たしかに何も出来なんだ。しかしそれは過去、通り過ぎた道程だ。
その記憶があるからこそ、我はいまこうしてヤドリガミとしてここにある」
『終わったことと抜かすか! 喪われた命に背を向けるか!』
「否!!」
朗々たる大音声が、霊体どもを怯ませる!
「踏み越えたものだからこそ、我はそれを糧にこれからの未来を守るのだ。
いまの我はヤドリガミ。たとえ我が真なる神ならず身であろうと――」
闇を聾するは破魔の輝き! 神鏡はあらゆる邪悪を退け降伏せしめん!
「これからは我が、我自身の手で、人々を救い、助けることが出来るのだ!
たとえ過去がなんであれ、これからの我の歩みを止める理由にはならん!」
『戯言を……を、オオオオオオオッ!?』
蒼顔の死人めいた霊体が、百々を取り囲んでいた邪霊が破魔の光に消えていく。
「精神を苛み心の隙を突かんとする、悪辣なる邪霊よ。心するがいい。
我は天御鏡・百々。天魔を照らし人々を助く、誇り高き神鏡の化身なり!」
過去はある。"だからこそ"この歩みを止めることなく進めるのだ。
それは後悔であり悲嘆であるが、前に進むための原動力でもある。
邪霊の囁き何するものぞ。もはや、百々の輝きを阻めるものはなにもない――!
成功
🔵🔵🔴
非在・究子
……強調された『不在』が、寂しさと困惑と、そして恐怖を生む。
在りし日、『ゲームでプレイされている』時、常に自分を見つめ、様々なゲームをQ子としてクリアし、動画を作ったりしていた『ゴシュジン』の『不在』。それが寂しさと、どうして居なくなったのかという困惑……捨てられたのかも知れないと言う恐怖を…
ち、違うぞ。『ゴシュジン』は、どんなクソゲーも、クリアしてきた。
で、でも、『現実』って、クソゲーを、攻略、出来なかった。
だ、だったら、アタシが、『現実』ってやつを攻略して、やらなくちゃ、な。げ、ゲーマーの矜持に、かけて。
ぶ、武器をUCを込めた、水鉄砲に変えて、攻撃する、ぞ。
ぜ、全部塗りつぶして、やる。
●闇との戦い:非在・究子のケース
バーチャルキャラクター……それは電脳空間に由来を持つ疑似生命だ。
そして究子は、かつてゲームを遊ぶ側ではなくその中にいる住人だった。
であれば、当然ゲームをプレイしていた『誰か』が存在している。
プレイヤー。彼女は顔も見たことないその相手を『ゴシュジン』と呼ぶ。
言い得て妙だろう。ゲームは、それ単体ではなんの意味も持たないのだから。
ゲームを遊ぶ誰かが、プレイヤーがいてこそ、世界は意味を持つ。
だから、かつての究子にとって――いや、今このときでも。
『ゴシュジン』は書いて通りの主人であり、家族であり、自分自身とも言えた。
もう、『ゴシュジン』はどこにもいないが。
「ふぁ、ファンタジー世界でハックアンドスラッシュとか、も、燃えるな」
などと呟きつつ、究子は地下迷宮の暗闇をそぞろ歩く。
掲げたランタンの輝きは、いかにも古めかしい石畳を照らし出していた。
実に雰囲気がある。その手のゲームはカビがはえるほどにレトロだが、
だからこそ熱狂的なファンを捉えて離さない。いわばゲームの元祖である。
究子からすれば、物覚えがない頃に訪れた故郷を再訪するかのような、
真新しくも懐かしい奇妙なノスタルジーが心に芽生えていた。
……だから、だろうか。
『かわいそうになあ』
「うひっ!?」
突然聞こえてきた……否、頭の中に響いた声に、彼女は驚き、慄いた。
敵がいることはわかっていた。それが何をしてくるかもわかっている。
予習済み、というやつだ。だから、その瞬間までは自信があった、のだ。
しかし相対した時、その声が聞こえ、己の心の裡を覗かれるような、
不快で落ち着かない違和感が過ぎ去った時、それはあっというまに消えた。
「じゃ、邪霊ってやつ、だな。あ、アタシは対策済み、だぞ。
ゆ、誘惑なんて効かないんだから、な! お、ぼっちなめんな、よ!」
『そう。おまえはひとりだ。この世界にひとりきりの存在だ』
嘲りを含む邪霊の声音は、あきらかにぼっちを揶揄しているものではない。
もっと根源的……言うなれば究子の存在そのものを指した言葉。
「ど、どういう、意味……」
『お前を見てくれていた誰かは、もういない』
「!!」
究子は息を飲んだ。邪霊の顔が、闇の中でほくそ笑んだ。
……"なぜ"、"どうして"と問うたことは、数え切れないほどにある。
だが答えは帰ってこない。答えるべき相手がそもそもいないのだから。
ゴシュジン。かつて、ゲームの登場人物としての自分を見てくれていた誰か。
究子が"Q子"であった頃、アバターとして愛でてくれた顔も知らない誰か。
ゲームだけではない。Q子の冒険を物語としてしたため、動画に仕立て上げたり、
あるいは他愛もない悲喜こもごものよもやま話として語ってくれたはずだ。
……けれどもういない。ある日突然ゴシュジンはQ子の前から――というのは語弊があるが――姿を消したのだ。
その日から、Q子は究子となり、不在の日々が始まった。
なぜ。
"なぜゴシュジンは、自分でゲームを遊んでくれないのだろう"。
どうして。
"どうしてゴシュジンは、もうQ子を見てくれなくなったのだろう"。
ゲームがつまらなかったから? いや、あるいは、"Q子"がつまらなかったから。
飽きたから。ゲームのキャラとしての自分の魅力に飽いたから……。
『捨てられたかもしれない、と思っているんだろう?』
「…………」
『辛かったよなあ。どれだけ問いかけても、答えてくれる人がいない。
なあ、そんな寂しさを紛らわす必要はあるか? 苦しむ必要はあるか?』
「やめ、ろ」
『お前が我慢する必要はない。だってお前は可哀想な被害者じゃないか』
「や、め……ろ」
『だってお前は――』
主人に捨てられた、哀れな非実在の被造物なのだから。
「…………ち、違う、ぞ」
そう不安に思ったことは何度もある。正直、いまでもそうだ。
だって答えは出ない。ゲームとは違うのだから。
クエストをこなしても、敵を倒しても、答えが得られるわけではない。
だから苦しい。寂しいし、悲しいし、困惑と恐怖がある。たしかに、ある。
けれど。
「"ゴシュジン"は、どんなクソゲーも、クリアしてきた」
『だがもういない』
「そう、だ。それ、は……"現実(クソゲー)"を、攻略、出来なかった、からだ」
この世界は――どんな世界でも、現実という主観ゲームはくそったれだ。
人付き合いとかいう難易度SSSのコンテンツ攻略が必須だし、
どれだけ頑張っても経験値が貯まるわけじゃない。報われるかもわからない。
いつどこに落とし穴があるのか、フラグもないのに悲劇が起こるクソゲーだ。
ゴシュジンはきっとその攻略に失敗したのだろう。だからもう"居ない"。
ならば。
「だ、だったら! アタシが……遺された、いまのあ、アタシが。
ゴシュジンのか、代わりに……現実ってやつを、攻略(いき)なきゃ、な!」
『誰がそれを評価してくれる? お前の頑張りを誰が見てくれる?』
歯を食いしばる。邪霊の言葉は真実だ。
どれほど頑張ってあがいても、褒め称えてくれるNPCはここにはいない。
レアアイテムが得られるわけでもなんでもない。称号も得られない。
「そ、そんなのが欲しいんじゃ、ない」
手を握りしめる。
「あ、アタシは、ゲーマー、なんだ! ゲーマーの、きょ、挟持に、かけて!
アタシは、生(や)るって決めたんだ。だから、や、やるだけ、だ!!」
その手のなかに、カートゥーンめいた大げさな水鉄砲が生まれる。
ここが己のナワバリだと主張するための、虫も殺せぬ面白おかしいブキ。
けれどもゲーマーがその意志を込めてトリガを引いたなら、それは……!
「あ、アタシのゲームプレイに、余計な口を、は、はさむな!!」
いかなる邪悪をも退かせる、エゴという名の武器となる。
吹き出した極彩色のインクが、闇そのものを塗り替え邪霊の居場所を消す!
断末魔、己は後悔することになるぞという捨て台詞が耳元で木霊する。
「め、名人様の、こ、コメントは、はなっから、お、お断りだっ!」
恐怖すらも楽しむ。ゲームとは、ゲーマーとは、そういうものなのだ。
成功
🔵🔵🔴
安喰・八束
(それは嘗ての主たち)
「狼憑きを娶った気触れ者」
「武勲の前に人の証を立てよ」
「狼の皮を持て」
下命が儘、卑しき御前に積み上げし皮は八十と八
(獣の血に塗れてまで欲したは、何であったかな)
うるせえ。
惚れた女と家族の為だ。
…それを、執着だなんて呼ぶんじゃねえよ。
(幻はひとりの女へ。一頭の灰色狼へ)
(私が欲しいのでしょう)
(いらっしゃいな
血河を踏み越え、罪無き骸を躙ってでも)
…それで、"良"のつもりかよ。
牙剥く灰狼の幻に狙いを定める。
(スナイパー)
狼の殺し方は、知り過ぎる程に知っている。
(戦闘知識)
……だから浮気じゃねえって、なあ。
(無意識に握りしめていた"悪童"で、掌が切れていた)(咄嗟の一撃)
●闇との戦い:安喰・八束のケース
人狼病。ヒトを狼憑き――満月の魔性に狂うモノへと変える病。
病と言われているからには、おそらくそれは治せるはずだ。
……"はず"である。それに成功した者は、八束が知る限り存在しない。
仮に知らぬどこかにいたとして、今となってはどうでもいい話だ。
もう、かつて愛した妻も子も、この病に連れて逝かれたあとなのだから。
遺された己の命など、燃えて尽きるだけの蝋燭ほどにしか思っていないのだから。
病(これ)とも長い付き合いだ。とっくのとうに、長生きする気は失せている。
愛する者のない世の中に、執着などあろうはずもなかった。
……執着。ああ、枯れたこの身と心に、かつてはそんなものもあったか。
愛した女がいた。それはあいにく、ヒトのカタチを持たぬ獣(もの)だったが。
良。佳い女だった。あれを超える女なんて、もうこの世にいやしない。
惚れた心は、冥土の土産に託してやった。惜しいと想う気持ちはハナからない。
世の中には、あえて獣を愛でる下衆な輩もいるという。まあそれはいい。
そいつの勝手だ。そいつが好きだと云うならそれでいいのだろう。
ただ自分があれを愛した気持ちは、そんな下賤な気持ちでは決してない。
でなくば、仔をなしてあそこまでの愛情を注げようものか。
生まれ落ちた我が仔。腹を痛めて生んだ仔を慈しむ良のかんばせは美しく。
この女に惚れてよかったと、目頭を熱くしたのを覚えている。
だから主らに誰何され、咎人の如き扱いを受けた時、初めは耳を疑った。
なぜだ? 俺はただ、佳いと思った女を愛し、そして応えただけだ。
何が悪い。獣憑き、狼憑きの病人だから悪いとでもいうのか。
それを愛した己も罪人だと? 気触れと嘲笑うのはまだ構わない。勝手だ。
だが咎を問われる謂われはない。俺も、あいつも、俺達の仔も。
ただ、生まれ落ちたままに生きているだけじゃあないか――。
『その方、狼憑きの売女を娶ったという話はまことであるか』
「は」
『なんたる下賤な! 主ほどの射手が気でも触れたか!』
「……は」
『あるいは初めからそうであったのであろうよ。ああ、汚らわしい』
「…………」
『病人を愛でれば、すなわちその方もまた同じ病に罹患したも同然。すなわち獣。
我らの城に獣は要らぬ。ヒトの風をして語り、傅く獣などいかにも気味が悪い』
「…………は」
『ゆえにその方、武勲の前にヒトたる証を立てるべし』
「は」
『獣は獣を狩るがそれは食らうため。ならばヒトはなんのために獣を狩る?』
「……肉と、骨と、革のために」
『然り。ならばその方、何を為すべきかはわかっておるな』
「………………」
『わかって。おるな?』
「……………………御意に」
『行け。これ以上我らの機嫌と期待を損ねるな。……行けッ!!』
下命と呼ぶにはあまりにも下衆で高慢で、勝手に過ぎる申し出。
されど拝命したならば、それを為すことこそ部下の仕事。
ゆえに殺した。妻(あれ)と同じ病人(けもの)を殺し、狩った。
これらは違う。あいつとは、俺達の仔とは違うと言い聞かせながら。
狩った数は八十と八。積み上げたそれらは血に塗れ屍臭甚だしく。
病人どもからは、人殺しと誹られた。
主や同門の者からは、畜生憑きの同類とあざけられた。
血と屈辱と嘲笑と苦悶に塗れて、求めたものは、なんだったのか。
ヒトの証か。世からの肯定か。主に認められたいという功名心か。
もはやわからぬ。なぜなら、そうまでして守ったあれらはもういない。
ならば、もう、いいのではないか。
獣を狩り、血にまみれている間は全てを忘れられた。
ならば己も獣に身を落とし、嘲笑う者らを貶めてくれてやっても――。
「……そいつぁ、できねぇよ」
つぶやいた男の前、闇が凝り、渦を巻いて幻をなす。
一頭の灰色狼。奇怪にも、その双眸には知性と艶やかな色気が輝く。
――私が、ほしいのでしょう。
幻(おんな)は囁く。
――もう苦しまなくていいの。あの子もいるわ。
獣(まぼろし)は招く。
――さあ、こちらへいらっしゃいな。
邪霊(けだもの)が云う。
――血を河となし踏み越えて、罪なき骸を躙ってでも。そしてまた……。
BLAMN。
「大根役者が」
BLAMN。古びた猟銃がかわいた銃声を響かせる。
狙いはひとつ。妻の姿をした幻の額。獣とてヒトとて、額を割られれば死ぬ。
心臓を貫かれれば死ぬ。血を流せば死ぬ。だから殺した。だから狩った。
「それで、"良(あれ)"のつもりかよ」
BLAMN。殺し方は知っている。殺して殺して殺し尽くしたのだから。
BLAMN。幻が何かを云う。後悔を煽るかのようにのたうち救いを求む。
「……くだらねぇ」
BLAMN。
最後の銃声が、闇を貫き邪霊を消し飛ばした。
「……くだらねぇな、本当に」
不意に戻った現実感、掌に走った鋭い痛みに顔を顰めて八束は云う。
長剣の鋒を撫で、血を流す掌で、愛しげに猟銃の銃身をさすった。
「だから浮気じゃねえって、なあ。……心配すんなよ、良」
その言葉は、誰の耳にも届かない。
大成功
🔵🔵🔵
ルーナ・ユーディコット
邪霊が私に抱かせようとしてくる感情は憎悪
それは元は無力な村娘だった私を
命賭けの戦場に駆り立てる感情
私から故郷を奪ったオブリビオン……埒外の存在への憎悪
心に燻り続ける憎悪を抑えつけ続けて気がついたら……私は表情と言葉を擦り減らした
私を逃がす両親、家の焼ける臭い、誰かの悲鳴……あの日の出来事はまだ私の中で終わっていない
まだ、夢に見る
きっと、憎悪に任せて味方も敵も全て殺せと囁いてくる
猟兵もお前が憎いと思う埒外だと
闇に落ちれば楽だと
最後に自殺すれば、全て終わると
私が戦う理由は憎悪だけではない
残り短い命で、生きようとする人を脅威から守る為
殺す為じゃない
私の意地を通すためにも
「この衝動に飲まれるものか」
●闇との戦い:ルーナ・ユーディコットのケース
故郷(むら)がひとつ、燃えていた。
何もかもが炎に呑まれ、あるいはとうに灼かれて灰になっていた。
未だ黒炎に苛まれる家の戸が、内側から弾けたように開かれる。
追い詰められた人間には、あれほどまでの力があるというのだろうか。
ほとんど戸を破るようにして飛び出したのは、哀れ、火達磨である。
『~~!?!? !!!!? !!!!~~~!!!!』
おそらくその者は、悲鳴と助けを求める言葉らしき金切り声を叫び、
しばらく滑稽な踊りを披露したあと、痙攣して倒れ、もう一度震え、死んだ。
ぱちぱちと、骸(たきぎ)の爆ぜる嫌な音が響く。立ち込める悪臭。
忘れようはずもない。故郷の村が滅ぼされたあの日の風景。
誰一人生きるものは居ない――そこに背を向けた少女のほかには。
ルーナは、あいにく、何か伝統ある一族の末裔であるとか、
崇高な使命を背負わされた選ばれし戦士だとかではない。
ただ猟兵としての資質に恵まれた、元はただの小娘であった。
小さな村。平穏な世界。箱庭で一生を終えるはずだった、無知で無力な村娘。
世界は恐ろしいものに満ちているし、隣村では不穏な噂が流れていたけれど。
きっと村(ここ)は大丈夫だと、自分達は無事なのだと思っていた。
根拠のない、誰しもが抱える楽観論。それ自体は何も悪くはない。
愚かではあるが、それもまた処世術だ。あの世界では"そう"でなくばいけない。
そうでなくば、生きられない。神がかった村のはずれの樵のように、
ある日首を括って死んでしまう。さもなくば邪悪の気まぐれで狩られて死ぬ。
愚かにも声高に闘争を叫べば、己の身を選んだ同胞に突き出されるのみ。
仕方がないことなのだ。そうしなければ死んでしまうのだから。
……そうしたとしても死ぬこともあると、わからなかったのも仕方ない。
「……憎い」
『そうだ。お前の中には憎悪がある。お前はただ抑えつけているだけだ』
「忘れられるわけがない」
『そうとも。お前は何も悪くなかった。お前の両親も、住んでいた人々も。
奴らは不当にお前達を穢し、殺し、奪ったのだ。何もかもを。何もかもを!』
「そうだ。あいつらは、あいつは。私から、皆を、全てを奪った」
ぎりぎりと歯が軋む。食いしばる己の音だとわかる。
かつてルーナの故郷は滅んだ。吸血鬼、ヴァンパイア、黄昏の支配者。
その暴威。気まぐれの邪悪によって滅ぼされた。あっけなく。
そして村が消えた。いくつもの命が奪われ、家も土地も真っ平らになった。
……少なくとも、故郷にまつわる悲劇はそれで終わった。
終わった? ふざけるな。終わってなどいない。私はまだここにいる。
『そうだ』
ああそうだ。邪霊(こいつら)のいうとおりだ。何も終わっていない。
両親の姿。燃える家、屍の焼ける臭い、見知った誰かの恐ろしい悲鳴。
何もかも覚えている。何度でも夢に見る。見てきた。忘れられるはずがない。
まだ、惨劇は終わっていない。
憎悪の炎は、焦げた熾火のようにくろぐろと燃えている。
『憎いだろう。お前から全てを奪ったあいつらが。けどそれだけじゃないはずだ』
「…………」
『お前を救ってくれる力があったくせに、救ってくれなかった奴らがいる。
猟兵? 世界の祝福者? そんな力があるなら、どうして助けてくれなかった。
……それはな、奴らも、"同じ"だからだ。お前から奪った埒外(やつら)と』
「おな、じ」
『そうだ』
頭に響く声が嗤笑する。
『殺してしまえ、お前から全てを奪った者どもを、同じ穴の貉を、何もかも。
殺して、殺して、殺し尽くせ。闇に堕ちれば、もう、夢も見るはずがない』
――そして、死者(みんな)のもとへ自殺(かえ)ろう。
それで終わる。憎悪も苦痛も、後悔も、何もかも終わる。
ルーナが生きている限り、悲劇に終わりが来ないのだとすれば。
そのとおりなのだと邪霊は云う。だから、狂って、そして死ねと嘯く。
「……憎いよ」
『もう我慢する必要はない』
「けどね。私が戦う理由は、憎悪(それ)だけじゃない」
猟兵。世界を超える者。はじめはなぜいまさらと自暴自棄に陥った。
けれども死地を求めるようにさすらって、さまよって、そして見た。
同じ世界で。違う世界で。同じように跋扈する邪悪ども。
苦しめられる人々。それでもなお生きることを諦めない人々を。
死者に会った。生きるしるべにした男を、その虚像を斬って捨てもした。
戦うために。前に進み、これ以上同じ悲劇を産まないために。
「私が戦うのは、殺すためじゃない。
私が生き延びたことに意味があると、証明してみせるために」
『苦しむだけだぞ。何も見返りは得られない。喪ったものは戻らない』
「そうね。けれど私が歩むことをやめたなら――犠牲(みんな)の意味も消えてしまう。
私はそれを否定しない。何もかもを抱えて生きる、それが、私の意地なのよ」
ぼう――音を立て、ルーナの体から青い炎が吹き上がる。
ルーナは死を恐れない。死を厭わない。だがそれは死にたいからでは、ない。
死なないために、死を恐れないのだ。死を克服するために死を目指すのだ。
矛盾である。笑わば笑え。だからこそこれは意地なのだ!
「なんと言われようと、私はこの衝動に呑まれない。呑まれるものか!」
『愚か者!!』
「愚かで結構――そんな私にも、守れるものはあるッ!!」
咆哮――雄叫びはその身を侵す病のまま、獣めいて。
音をも越えて駆け抜ける蒼火は、闇も邪霊も、己の後悔すらも焼き尽くす。
その先に何があるとは、思えないけれど。
この歩みには、きっと意味があるはずだから。
成功
🔵🔵🔴
ギルバート・グレイウルフ
①:才能への嫉妬。どんなに努力しても、あっという間に追い抜いていきやがる。こちとら泥水啜って這いつくばって、どーにかこーにか生き残ってるっていうのによ。
②お任せ
③はんっ、確かに幾度となく才能あふれるやつらに嫉妬してきたよ。こっちが必死こいて準備して何とか成し遂げたことを、汗ひとつかかずに成し遂げちまう。そんな奴らにな。
けどよ、俺にはその必死さが、何が何でも生き残ってやろうっていう汚ねぇ意地があったらここまで生き残ってこれたんだよ。
今更才能の1つや2つ、糞喰らえだ。
んなもんあっても死んじまったら全部ぱぁーってな。
生きて帰って美味い酒を飲む。こいつに才能は必要かい?
●闇との戦い:ギルバート・グレイウルフのケース
生まれ持った才能……天稟というやつは、たしかにある。
人によってそこには賛否両論あろうが、少なくとも彼は、ギルバートはそう思う。
確信する。それが遺伝子とやらによるランダマイザのいたずらなのか、
あるいは名も知らぬ神の気まぐれなのか、原因や理由はどうでもいい。
才能と呼ぶべきものは、もしかしたら生育環境と得た経験がもたらす必然なのかもしれぬ。
なんでもいい。才能(それ)がある、その事実のほうが重要なのだ。
……才能を持つ奴らは、いつだって自分を追い抜いてきたのだから。
たとえば、生まれ落ちた貧民街でのこと。
世界の外からは恵まれた者どもが蔑みと恐怖の視線を向け、
内側では意地汚いアウトローどもがふんぞり返る、クソみたいな場所で。
生きるためにはなんでも必要とされて、泥水を啜って這いつくばってきた。
けれど同じようにしていたはずなのに、同じような生まれのはずなのに、
なぜだか妙に器量よく立ち回る奴がいた。おこぼれを掠め取り、
気がついたらはるか上にて、アウトローと肩を並べて見下ろす奴がいた。
たとえば、転がり落ちるようにしてのたうった戦場で。
銃創に身を灼かれるような苦痛を味わい、無能な指揮官に殺されかけ、
友軍に見捨てられ屍を寝袋めいて纏って寒さをしのいだことがある。
だのに傭兵仲間の中には、お偉いさんに取り入るのが上手いやつがいた。
同じ武器と同じ技術で戦っているはずなのに、化物みたいに強い奴がいた。
勝てない敵を屠り、死ぬはずの場所で生き延び、英雄ともてはやされた奴らが。
敵であればそのたびに辛酸を嘗めさせられ、
味方であれば羨望と妬み嫉みにこのひねくれた心を灼かれた。
あいつらと俺で、いったい何が違うってんだ?
何も違わない。俺もあいつらも、同じクソから生まれてクソを食らって、
クソみたいな場所を生き延びてクソみたいな戦場にいるってのに。
「才能以外のなんでもねえだろ? ああ、妬ましいさ。欲しくてたまらねえ。
……いまさら否定するべくもねえよ。だから、なんだってんだ?」
ギルバートは、闇に向かって紫煙をふかしながら不敵に云う。
何度だって、幾度となく、どんな場所でも才能を持つや辛い嫉妬してきた。
必死に準備して、焦げ付きそうなほどに足りない頭をめぐらせて、
肺が破れんばかりに駆けずり回ってようやく勝ち得た勝利の美酒を、
あいつらは汗一つかかずに成し遂げてかっさらっていく。
過去の記憶を、そいつらの栄誉が、幻となって瞼の裏に流れて消えた。
邪霊の誘惑だ。ギルバート自身の記憶から想起させたものだ。
『だったらどうして奴らを殺してやらなかったんだ』
「……あぁ?」
『いくら才能があろうが、お前がそれを奪われる謂われはないだろう。
だったら殺してしまえばよかったんだ。今からでも遅くはないだろう?』
「…………」
『たとえ才能が得られずとも、持つものを殺めればそいつはもうおしまいだ。
ざまあみろだ。胸がすく。お前だって、そう考えて、企てたことはあるだろう』
「…………ハ」
殺してやりたいと、児戯じみた殺意を抱いたことは……ある。
味方だろうが敵であろうが、激情に任せて首をかっ切ってやろうと、
そう思って、やりかけたことも……まあ、ある。偽りようもない。
ゆえに邪霊はそれを囁く。その感情を解放しろと。
持つ者どもから、命を奪って見返してやれと。
「……ハ、ハ! ハッハハハハ!」
『……何がおかしい?』
ギルバートはひとしきり笑ったあと、言った。
「たしかに俺にゃ才能がねえ。持つものとやらを羨ましく思うし妬ましいよ。
けどよ、俺にはそのかわり、この死に物狂いの必死さだけはあるのさ」
どんな街(ばしょ)でも、戦場(ばしょ)でも、何が何でも生き延びてきた。
どんなことをしてでも、笑われても、靴を舐めてでも命だけは棄てずに来た。
「汚ねぇ意地だが、俺を生かしてくれる大事な大事な種火ってやつさ。
いまさら才能のひとつやふたつ、糞食らえだ。ああ、死ねばぱぁってのはその通り」
無銘の刀を鞘走らせる。口元には不敵な強がりの笑み。
「だからって、俺がわざわざ奪って"やる"理由はありゃしねえだろ。
生きて帰って、旨い酒を飲む。こいつに才能は必要ねえ――俺にはそれがありゃ」
『嘘を、つくな』
手が止まる。……そして、鼻でせせら笑った。
「それがありゃ、十分なのさ」
邪霊が何かをいいかけた。言葉もろとも一刀に伏す。
闇の奥へとそのまま歩みだす男の背中には、ただくすぶる紫煙だけが絡みついた。
やせ我慢は、男の勲章だ。
成功
🔵🔵🔴
シーザー・ゴールドマン
①:美しく繁栄した世界の滅びの様を見たいという誘惑(破壊衝動?)
②:お任せですよ。
③:いずれその時が来るとしても今ではないね。少なくとも君達、オブリビオンが滅び去った後だ。そんな時が来るのかは知らないがね。
さて、そろそろ私を操ろうとした不遜に罰を与えなければなるまいね。
……君達の力、獲り込ませて貰おうか。なに、君達がしようとしたことだ。文句はあるまい。
『シドンの栄華』『破壊の魔力』で邪霊の精神、意思を破壊して『創造の魔力』でその力を魔力に変換して取り込む。
「ふむ、骨邪竜の次は何かと楽しみにしていたらこれか。アークデーモンには期待しても良いのだろうね」
●闇との戦い:シーザー・ゴールドマンのケース
男は……シーザーは、いつだって薄い笑みを浮かべて世界を渡り歩く。
どんな世界にも人の営みがあり、そこには当然文化と伝統が生まれる。
生きる中で人が築き上げ受け継いだものを、シーザーは愛しく思う。
受け継ぐ。限りある命が必須とする、限りある命だけに許された行為。
それは愚かで時として後退もするが、だからこそ価値がある。
過去の残骸、オブリビオンどもには出来ぬこと。だから、佳い。
そこには面白みがある。文化を愛することは、すなわち楽しむことだ。
生きるからには楽しくなければ意味はない。心から、そう思う。
『……ならば』
闇の中からうっそりと響いてきた声に、シーザーが驚くことはない。
きっと奴らは、そのユーベルコードでもってこちらの考えを見透かしたのだろう。
その代価は必ず支払わせるとして、さて、誘惑とやらはどう来るのか。
それもまた面白い。シーザーは、そういう酔狂を持つ危険な男でもある。
……だが、続いて響いた言葉に、その柳眉は僅かに下げられた。
「いま、なんと言ったのかね?」
『お前の願いを、本当の欲望を言い当ててやったのだ。違うか』
「……いま、なんと、言ったのかね」
『"お前が本当に見たいものは、繁栄のその先だろう?"』
「…………」
『たしかに繁栄は美しい。文明が生み出す文化には、代替できない価値がある。
だが。それが滅ぶさまこそ、お前が求める真の美徳ではないのか?』
「面白いことを、言うのだね」
声音に動揺や苦悶の色はない。ただ平坦なものだった。
破壊衝動、ともいうべきか。その世界に生きる人々、その営み。
いやさ、ともすれば世界そのものが、滅び、朽ちていく風景。
破滅の美。それは、生きるものがいくらあがいても生み出せぬものではある。
喪われていくからこその美、愉悦は、それはそれで甘やかなものだ。
……シーザーが、その誘惑に対して、是とも非とも答えることはない。
ただ、邪霊のこのような物言いに対しては、男はただこう応えた。
『お前の手で滅ぼしてしまえ。そうすればお前は破滅の美を』
「ははは」
乾いた笑い声。
「君達は本当に面白いことを云う。私が世界を滅ぼす? 実に面白い冗談だ」
赤黒いオーラがその身を包む。
「世界はいずれ破滅するだろう。人々はその命を終え文明も尽きるだろう。
だがそれは、"いずれ"であり"いま"ではない。私がもたらすことも、ない」
殺意が昂ぶる。
「君達オブリビオンが世界を覆うことも、ない。私はそれを許容しない。
滅びが来るというならば、それはまず君達が滅んでからの話だよ、残骸達よ」
そんなときが来るかどうかは、ともかくとして。
「さて」
少なくとも邪霊の滅びは、今まさに目の前にいた。
シーザーは多くを楽しむ。生きることを楽しむ。
だがそんな赤公爵にも、蛇蝎のごとく嫌う"逆鱗"というものがある。
「君達は、私の意思によらず私を操ろうとした。それは誰にも許されない罪だ。
ゆえに君達には、その不遜には、罰が与えられなければならないのだよ」
『……なんだ。何をする。貴様、何を』
男が嗤笑した。
「君達は径(パス)を繋いで私の体を掌握しようとしただろう? 迂闊だな。
君達から繋がれているならば、私の側からそうすることも出来るのだよ」
『やめろ。なんだ、貴様……貴様は、なんだ!?』
金色の瞳が燃える。
「猟兵だよ。君達の天敵、君達を滅ぼすものだ」
そして、不遜なる邪霊は、魔力となってその身に還元されていく。
「……少しばかり興醒めだな。さて、魔神とやらはどうなのか……」
そして歩みだす。闇よりもなお昏き、赤黒い魔力を引き連れて。
成功
🔵🔵🔴
露木・鬼燈
①:血と殺戮に酔いしれる悪鬼羅刹の性
②:お任せ
③:武芸者として身に着けた精神制御
んー、なんかヤな感じっぽい。
妙に血が騒いで昂るです。
竜と戦ったからかな?
ちょーっとよくないよね、これは。
武芸者ならまず己を支配しないとね。
立ち止まり、剣を構えての精神統一。
清浄な気を練り上げて身体に満たす。
深く、静かに呼吸を重ね、邪念を祓い、雑念を捨て…
深く、深く、己の内に沈んでいく。
世界にあるのは己と剣だけ。
剣我一体、ってね。
それ以外にあるとしたら…それは斬るべきもの。
剣の導くままに練り上げた気を乗せて斬る!
秘剣、剣嵐舞踏。雑念を一掃するっぽい!
って、ほんとーに何かを斬ったような手応えが?
気のせいっぽい?
●闇との戦い:露木・鬼燈のケース
地下迷宮は入り組んでおり、その探索はこれだけの大人数でも易くはない。
ましてやどこに敵が潜んでいるかわからないともなると、分散行動はむしろ上策。
……最悪、誘惑に囚われて憑依された場合、その被害を減らせるからだ。
「……んー?」
ゆえに鬼燈も単独での探索を請け負っていたわけだが、そのさなかで彼は首を傾げた。
何が、と具体的に言えるわけではない。わかりやすい兆候があるものでもない。
常人でたとえるならば、体の不調というのは"なんとなく"で察するものだ。
あるいは些細な、それでいて複数の要因から類推するものだろう。
鬼燈が感じたのも、そういうたぐいの違和感である。
だが彼は忍という化外の生まれゆえ、そうした不調にはことさら鋭敏だった。
ましてや朽ちかけたものとはいえ屠竜を果たした後では、なおのことだろう。
「妙に血が騒いで昂ぶるですね……?」
よもや、"これ"が件の邪霊とやらの誘惑か。
だとすれば彼奴らは、己にいかなる悪感情をもたらそうとしている?
……高ぶり。この血の高揚は、はて、おそらくは羅刹としてのそれか。
心なしか、周囲からは何か怨嗟めいたものが鬼燈に囁かれるように思えた。
何かがいる。が、そこに意識を集中させてはむしろ敵の思う壺だ。
己の身の裡より湧き上がりしものは、己の裡にて晴らすべし。すなわち。
「……ふうー」
立ち止まり、鬼燈はおもむろに屠竜の剣を構えて深く息を吸った。
およそ数十秒、常人の肺活量ではとても不可能な量の呼吸。同じように吐く。
一呼吸が一分にも達するほどの、深く、静かな瞑想である。
古来より、忍は修験者や修行僧の系譜としても知られてきた。
ゆえに化身忍者は、己の身と心を意のままに従えるすべを学ぶ。
精神集中の儀式は、まさにこうした内的修業の成果と言えよう。
「……はぁー……」
すでに数分が経過したが、鬼燈が重ねた呼吸はわずか4つ。
呼吸を重ねるたび、血の高ぶりによって湧き上がる邪念が晴れていく。
靄がかった意識が晴れ渡り、雑念が削がれて無我の境地に至るのを感じた。
石畳から感じるカビ臭い匂いも、時折滴る水滴の音も、微かな風の音も。
いわんや、闇から響く怨嗟めいた囁きも、何も鬼燈には届かない。
ただ己のみが、虚空の闇のなかに浮かんでいる。
「…………!」
そこに、鬼燈はたしかに、己ならざる何かを感じた。
つまりは"それ"が敵だ。
輪郭をなぞり、誰何せずとも、"それ"は感じられればわかる。
別の生き物のように、剣を握る腕が跳ね上がり、そして闇を切り裂いた!
「――せいっ!!」
鋭い呼気。白刃がキンと冴え渡り、何かを斬り捨てる手応え。
「秘剣、剣嵐舞踏――雑念一掃、何かはわからないけど鎧袖一触、ってね」
納刀。邪霊は、鬼燈にとってそれと知られることなく闇に消えた。
「……でも、気のせいだったかな?」
首を傾げる様は、年頃よりも幾分幼気に見えたという。
成功
🔵🔵🔴
シズル・ゴッズフォート
①
闘争、他害の衝動(己の中の戦鬼、あるいは獣)
②
抑圧し、見ないフリをし続けてきた「衝動を満たす事への悦楽」を自覚させる
具体的な方法はお任せ
③
所詮は幻、と怒りのままに切って捨てる(判定:苦戦でも問題なし)
事実がどうであれ、本人にとっての真実は「己は騎士である」という事
そうして見ないフリを続けても、鬼はすぐ後ろで手招きしているのに……
負の、感情……
いいえ。いいえ、私は騎士。ゴッズフォートの名を継ぐ者!
未熟故に怒りに囚われる事こそあろうとも、獣と成り果てることなどありませんとも!
所詮アレは幻。そして真の伴わぬ敵を我が剣が断てぬ道理なし
……そうです。幻が見せるあんな姿が、真の私である筈がない……!
●闇との戦い:シズル・ゴッズフォートのケース
キマイラ。ヒトと獣の因子を併せ持つモノ。
その性がヒトのそれに寄るか獣のほうに傾くか、あるいは独自のエゴを培うか、
それはキマイラとしての生まれと歩みによって左右されるだろう。
獣の血を誇りに思う者もいれば、己はあくまでヒトだと貫くものもいる。
その点に於いて、シズルはヒトであろうとする側のキマイラだった。
問題は、そのための障害――つまりシズルの内的な獣性が、
彼女にとって困難なあるほどに激しく、烈しく高ぶり続けていることだ。
衝動。他者を傷つけること。争い、勝利し、その息の根を止めること。
生きるものを害し、討ち倒し、踏み躙ること。戦うこと、争うこと。
高潔なる聖騎士には、けっしてあってはならぬ血の酩酊への羨望と憧憬。
彼女のそれは、獣性と修羅の性(しょう)が相俟ったことで増幅されている。
……そしてそれを満たすことがどういうことか。
彼女は、闇の中におぼろに浮かんだ幻によって、それを自覚"させられた"。
つまり邪霊は、そういう幻を見せた。
シズルが己の裡に秘め、抑圧し、見ないふりをしてきた衝動(それ)。
それを解き放つことがどういう結果を生むのか。何を得られるのか。
幻の中で、シズルの姿をしたけだものは思うがままに殺していた。
立ちふさがる敵を、否、敵でない守るべき無辜の民すらも、殺していた。
殺し、穢し、踏みにじり、浴びる血と肉で喉を潤し飢えを満たしていた。
そして――そう、幻の中の獣は、たしかに、笑っていた。
「これは……」
『お前がどれほど見たくないと思い、見ようとしなくとも』
ぞっとするような声が、体の内側にこだまめいて響いてきた。
『お前の中には"これ"がある。お前が真に望むことは騎士の誇りなどではない。
"これ"だ。お前は、何よりも、殺して奪い蹂躙することをこそ求めている』
「違う」
『何が違う? わかっているのだろう、本当は』
……そう。幻を見て、シズルはそれを"羨ましい"と思った。
自分もああしたい。目についた人を殺し、ヒトを殺し、血を浴びたいと。
思うがままに死合いたい。そして奪い、踏みにじりたいと、心の奥が疼いた。
「私は……いいえ、違う。私は騎士、ゴッズフォートの名を継ぐもの」
『名など、後付だ。名誉、騎士道、そんなもので己をごまかすのはやめろ』
「違う……私は、私は……!!」
……シズルは、その高ぶりを、羨望を、怒りという激情で塗りつぶした。
心のどこかで、冷静な己でない己が云う。受け入れてしまえばいいのにと。
「違うッ!!」
邪霊が云う。お前のその道は間違っているぞ。
己に嘘をついて間違った道を歩んで、その先に何があるのだと。
「違う……!!」
ただ叫び、雄叫びをあげるようにしながら剣を振るう。
己の身と心を鎧い、守る。すがるように。震えるように。
「あんなものが、私の姿であるはずが、求めているはずが……ない!!」
邪悪どもが嗤笑する。おとなしく従えと己の内側に入り込もうとする。
それをがむしゃらに引き裂き、切り裂き、跳ね除けて。
「………………ちがう」
己と敵の血でまみれた暗闇の中、震える少女は悲しげに頭を振った。
それは、誰にも届かぬ哀れな否定でしかなかった。
苦戦
🔵🔴🔴
須藤・莉亜
「邪霊ねぇ…。僕の吸血欲求でも狙ってくるのかな?」
どんな時でも、何をしてても渇くんだよ。喉が、体が、魂が。
なんだろう。どっかから、思うがままに殺し血を奪えって声が聞こえる…。
ああ、そうだね。
…じゃあ、さっきからうるせェお前から殺してやるよ。
オレの欲望を解放するってことは、喰われてェってことだろ?
UCの悪魔の切り売りを発動、四肢を悪魔化し、周囲に超高重力をかけて全部ぶっ潰してやる。
「オレをどうこうしてェなら、もうちっと気張れるよなァ?」
血も出ねェ邪霊如きがオレに指図してんじゃねェよ。ぶっ殺すぞ。
「…あれ?なんかぼーっとしちゃってた?」
いつのまにか悪魔化してるし…。まあ、いっか。煙草休憩しよっと。
●闇との戦い:須藤・莉亜のケース
血が。血が欲しい。誰のものでもいい、美味ければなおいい。
まずい血は要らない、だが血はほしい。血。命の通貨。魂のチップ。
どれほど紫煙にまみれても、酒を食らっても、快楽に耽溺しても。
厭世家を気取って怠惰に生きてみても、己の裡から湧き上がるものは否定できない。
血が。血が飲みたい。ただ血を啜るだけでは物足りない。
あがくものを討ち倒し、ねじ伏せ、その首筋に牙を食い込ませるのだ。
そして命そのものをすすり、絶望させ、屍を踏み潰す。
……ああ、なんて甘露な響き。蹂躙、それこそまさに至高の愉悦。
こんな甘露を拒めるものか。求めて当然、飢えて当然。
だから血をくれ。暖かな血(いのち)を、命(けつえき)を!
この喉を癒やし、臓腑を満たし、心を埋めてくれる、血を!!
「……なあんて、いかにも吸血鬼らしいよねえ」
大きく開いた両手をおろし、莉亜は疲れたように笑った。
彼の前、闇の中には、人魂めいて燃えるように揺らめく影がある。
嗤笑するような、あるいは嘲るような、骸めいた相貌が浮かんで消える。
さきほどからずっと、莉亜の頭の中には繰り返し邪霊の声が響いていた。
奪え。殺せ。思うがままに血を啜り、衝動を開放せよと。
『お前は見ないふりをしているだけだ』
「そうだよ? だってそうしなきゃ、渇くんだもの」
あっけらかんと、莉亜は肯定してみせた。むしろ意外そうに。
「……そう、渇くんだよ。喉が、体が、魂が。何をしていても。
戦ってても、生きていても、眠っていても、何をしていてもさ」
ざわりと。莉亜の髪が、影が、不穏に揺らめいた。
『ならば、その乾きを癒やせばいい。衝動を解き放てば』
「ああ、そうだね。殺せばいい。血を啜れば一時的には満たされるさ」
頷いて、莉亜は――別人のように酷薄な笑みを浮かべた。
「じゃあ、さっきからうるせェお前らを殺してもいいよな?」
ぎしりという音。邪霊どもは、その恐るべき笑みに慄いた!
だが、たしかに道理だ。
欲望を開放する――吸血と蹂躙と殺戮をよしとするならば、
まず目の前にいる"こいつら"を平らげることが先決である。
なぜならばこいつらは、莉亜の敵であり、その意のままに操ろうとしており、
そして"殺したところで誰も嘆きも哀しみもしない"のだから。
それがオブリビオンだ。それが過去の残骸、世界の破壊者、仇敵どもだ。
ならば殺す。殺さない理由がない。だが殺す理由はいくらでもある。
"そうしろ"と奴らが言ったのだ、それはつまり。
「オレの欲望を開放しろってことは、食われてェってことだろ?」
『何を――』
ぞわり。莉亜の四肢が変異し、恐るべき悪魔のそれに変わった。
急激な重力に石畳の床が砕けて割れ、破片が闇に浮かび上がる。
「オレをどうこうしてェなら、もうちっと気張れるよなァ?
それともまさか、血も流れてねェ邪霊如きがオレに指図しただけってなら――」
ぎろりと、血走った双眸が雑魚どもを睨みつける。
「"ブッ殺す"ぞ」
そして、破滅が吹き荒れた。
「……あれ?」
しばらくあと、莉亜は頭を振って我を取り戻した。周囲には破滅の後。
闇はただ静謐……邪霊の気配など、かけらひとつもありはしない。
「なんだろう? まあいっか。少し煙草休憩しよーっと」
紫煙がくゆる。悪魔の哄笑が、どこかに響いて消えた気がした。
成功
🔵🔵🔴
アルトリウス・セレスタイト
本当に、幻影の類には事欠かないようだ
(①:友人への情欲)
……こういった時、何故か見知った者の姿に出会う事が多いな
何人か、いずれもある程度交流のある者のようだ
表情、仕草、言葉
熱を帯びて纏わりつく扇情的な空気
どうも今回のは情欲を掻き立ててくるようだ
確認したら魔眼・停滞で初期化
自分にそれが無いとは言わん
故に無意味とも言わないが
最初から幻影が来ると知れている上に、いきなりそんな物が出てきてまともに受ける阿呆がいる筈もない
抜けたら魔眼・掃滅で消去
用はないが容赦もしない
つまらん幻であってもだ
時を重ね言葉を交わした、大事な姿を持ち出されるのは、気に障るぞ
●闇との戦い:アルトリウス・セレスタイト
青年はがらんどうである。人の形をした残骸であり、駆動する肉塊である。
人と呼ぶには足りないものが多すぎる。情動、道徳心、あるいは苦悩。
もちろん"知らない"わけではない。善悪の基準があり、
為すべきことと為すべからざることとの区別はつくし、理解もする。
ただ、そこに載せられるべき思いがないだけ――のはず――なのだ。
ゆえに青年、アルトリウスはがらんどうであり、人の形の残骸であった。
世界の原理に触れたがゆえの、当然の代償と言えた。
それを惜しむことはない。惜しむような心が己にはないのだから。
クオリアの不在。哲学的ゾンビ――学術的に示すならばそんなところだろうか。
ただそれでも、人の形をしており、人の感覚があり、以て蓄積されるものがある。
だからいつのまにか、アルトリウスは彼自身が思っている以上に、
残骸でありながら人間らしくなっている――らしい――のだ。
……だから、誘惑を感じた時、まずアルトリウスが抱いたのは……。
情欲。そう書くといかにも下賤でふしだらに思えるが、当然の感覚ではある。
人は生きる。生きるからには、次代を産まねばならぬ。
であればそのための行為と、それを為すための情動は不可欠。
人間らしさを得ていくならば、いかな残骸とてそれは避け得ない。
邪霊はそこを突いてきた。闇に浮かび上がったのは、つまり、"そういう"モノであった。
「…………」
アルトリウスは表向き激昂も狼狽も、何ら人間的感情をみせることなく、
ただ闇に浮かび上がった"それら"を、淡々とした面持ちで眺めた。
あるものは知っている顔だった。あるものはそれよりもよく知っていた。
言葉をかわし、あるいは肩を並べて戦い、同じ時を過ごした人々。
友人。ヒトの尺度に当てはめるなら、そういうべきが適切な者達……。
それら見知った者の姿をしたモノが、その表情、仕草、あるいは言葉で以て、
アルトリウスの情欲を煽るように、まさしく艶めかしいさまを披露した。
幻である。ここに彼ら、彼女らがいるはずはない。ありえない。
すでに情報として聞いていたし、事実として邪霊の気配も感知していた。
アルトリウスはその幻を認め――そして、魔眼でもって術式に介入した。
停滞。抗いようのない入力命令により、幻は雲散霧消する。
『否定するのか? 生き物として当たり前のものを』
「たしかに、自分にはそれがあるのかもしれん。不在を証明することは出来ない。
ゆえに、お前達のその行動が、無意味であるとも言わん」
淡々とした声音。激昂も動揺も狼狽も恥じらいも、人間的なものはなにもない。
「だがまずふたつ。ひとつ――お前達のやり口と情報はすでに仕入れている。
いきなりそんな幻を出されたところで、まともに受けるはずがなかろう」
声音は淡々と。されど邪霊に向けられた魔眼(それ)には。
「ふたつ」
確固たる怒りと、不快と、慈悲なき殺意があった。
「時を重ね言葉を交わした、大事な姿を持ち出されるのは――"気に障る"」
『――が!? あ、がああああ……!!』
邪霊どもが呻く。しかしこれ以上魔眼は彼奴らの存在定理を許さない。
靄めいた姿が消え、アルトリウスはただまぶたを閉じた。
「つまらん幻に用はない。だが、容赦もない」
人間らしさは弱さでもある。
だが時に、その脆弱さこそが、敵を打ち砕く力を生む原動にもなるのだ。
成功
🔵🔵🔴
グルクトゥラ・ウォータンク
【SPD、未知の知識への欲望】
ここが大迷宮か…今まで数多の探検家を飲み込んできた地獄、人類最後の秘境…戻るときヤバイ呪いとかない?大丈夫?
まあ帰る時の事など考えても仕方ない。進むしかないのう。
どうやらここにあるのは呪いではなく邪霊の類いのようじゃな。未知の知識への誘惑、抗いがたいが…逆に利用させてもらおうか。
【唯一符号】発動。無限に増殖していく真の姿の内部構造、情報量をUCにより拘束し制御、憑依への耐性を獲得する。
更に邪霊の干渉により増大していく欲望(データ)を運動エネルギーに変換し解放、推進力と変えて洞窟内を跳躍する!
いいぞ、もっと囁け邪霊!欲望もまた我が推進力!尽きぬ魂の熱量よ!!
闇との戦い:グルクトゥラ・ウォータンクのケース
かつてグルクトゥラは、霧の竜を滅ぼすために地下へと下った。
あの時は勇者の伝説が眠る場所だ、と、あの龍はうそぶいていたのだったか。
「蓋を開けてみれば、逆に群龍大陸の遺物が眠っておったとはのう。
……オブリビオン以外にもヤバい呪いとかないんじゃろか? 大丈夫か?」
などといまいち気の抜けた様子であちらこちらを見つつ、おっかなびっくりと。
秘境に足を踏み入れるという行為に、ロマンや興奮を感じないでもない。
だが今は、帰る時、戻る時のことを考えている場合でもない。
仕様のなさに頭を振り、グルクトゥラは単身ひとつの迷路を進むこととした。
そして来るとわかっているならば、邪霊に抗する術はいくらでもある。
とはいえ、彼奴らはおそらくこちらの精神や脳髄を何らかの方法で覗き見、
それぞれに最適の誘惑を仕掛けてくるのであろう。
グルクトゥラにとって、その指標は明瞭だった。なぜなら隠すものでもない。
すなわち、未知への興味。知識、情報、そういったものへの抗いがたい欲望。
ともすれば禁忌に触れることを厭わぬ知識欲、それがグルクトゥラの根幹。
だから闇に踏み出す時、彼はひそかに高揚し期待していた。
この知られざる迷宮に、何か己をひっくり返すような智慧があるのではと。
ゆえにこそ抗いがたい。精神論で抗しようとするのは悪手である。
『おお、智慧を求むる者よ、無限の叡智を求める探求者よ……』
(来よったな)
あれらは"そういうもの"である。
ゆえにグルクトゥラに策があり、必勝の確信があったとしても、
それを訝しんで出方を疑うような小賢しい真似はしない。
邪霊とはいかにも邪悪で恐るべき霊魂だが、言ってしまえば"それだけ"なのだ。
『お前の欲望を我らは肯定しよう。お前は正しく、そうしない者が愚かなのだ』
「言いよる! ではわしに、いったいどうしよというのだ?」
闇のなかに、ぼんやりと黄味帯びてうっすら輝くモノが浮かび上がった。
睨み合うように相対する。グルクトゥラの相貌には勝ち気な笑み。
『その欲求を解き放て。何者をも犠牲にしてでも己の知識欲に従うのだ。
誰も彼も、禁忌も知ったことか。お前は識りたいのだろう? そうすればよい』
「……ハッハハ! そいつはいかにも魅力的じゃのう!」
だから従うことにした。グルクトゥラは己の真なる姿を、あえて解き放つ!
されどその身はは変わらず、さらに解き放たれた内部構造=情報量は、
ユーベルコード『唯一符号(ユニークコード)』により拘束、制御下に置かれる。
「ところで邪霊どもよ、お前さんらは奇跡を知るか?」
『……何?』
「世に奇跡は数多あれど、我が奇跡はただ一つ!
すなわち増殖は圧縮し、混沌は拡散し、創造は破壊と行き来する!」
呵呵たる大笑、邪霊はその精神に入り込もうとするが……弾かれる!
『なんだと!?』
「唯一符号、発動。真自我拘束制御式(リミテッドマテリアライゼーション)。
これなるは真なる奇跡、欲望をもエネルギーにせしめる科学の力よォ!」
邪霊の霊的干渉による知識欲=悪感情の増幅を、グルクトゥラは干渉制御!
その魔力を運動エネルギーそのものに変え、己の体に注力し解放した!
『バカな……!! なぜだ、探求を軽んじると言うのか!?』
「いいやわしはわしよ。だが欲望はわしの枷にあらず、我が推進力なり。
ゆえに魂の熱量尽きることなし。さあ、もっとワシに欲望(どうりょく)をよこせ!!」
まさに虎の尾を踏むとはこのこと!
己の内的構造すら解き明かした無限の探求者にとって、火に油を注ぐが如し!
抗えようはずもない。強烈なチャージが、闇もろとも邪霊を打ち砕く――!
成功
🔵🔵🔴
仁科・恭介
※アドリブ等歓迎
POW
負の感情
【吸血】欲求に対する憎悪
吸血行為を介して眷属化できる例を知り特に注意している
※緊急時を除く
誘惑方法
7回フラれて諦めきれない想い人(猟兵)の声、仕草などを真似られ、完全にテンパったところを別個体が憑依し【吸血】欲求を心に直接誘う
誘惑の乗り越え
その猟兵にフラれた時の事を思い出す
「貴方の事は好きよ。だけど貴方を殺せと依頼が来たら躊躇なく貴方を殺す事になるし」
「ほらそんな顔。人は悲しいから泣くのではなく、泣くから悲しい。そんな時は、初心に戻ってただ仕事をしなさい。一つ一つ丁寧に」
霊体の基本は心を強くもつこと
そして君が標的でも躊躇なくだったね
ありがとう
【鎧無視攻撃】で殴る
●闇との戦い:仁科・恭介のケース
恋とは素敵なものだ。そして自分にすら制御しきれぬ炎のようなものだ。
"あのひと"のことを想うと胸が、いや、全身が焦げ付くようになるし、
それだけで幸せに――そして同じぐらいに切なく、寂しくなる。
これは恋だ。七度想いを告げて、七度振られた。それすらも愛おしい。
同じぐらいに痛ましく悲しく口惜しいが、けれども、いやだからこそ。
恋は素晴らしい。その想いを思うと、ヒトにはなんでもできるのではと思う。
だから――その意思を奪い、嘲笑い、ねじ伏せることは、あってはならない。
ダンピールとして生まれた身にとって、吸血鬼という邪悪は永遠の敵である。
オブリビオンと猟兵だから、という概念的な話ではない。それ以前の、
あくまで個人のエゴに依った根源的なレベルでの話だ。
であれば、鬼を鬼たらしめる吸血行為は、恭介にとって受け入れがたいモノ。
ましてやそれが眷属を生むとあっては、もはや蛇蝎のごとく嫌ってすらいる。
血を啜る。それはつまり命を我がものとし食むという唾棄すべき行為だ。
命を食する……ヒトや獣が生きるために動植物を食らうのとは、また違う。
鬼のそれには快楽があり、眷属と化する魔性が、あるいは呪いがあった。
あってはならない反自然の邪悪行為。恭介はそう捉えている。
ゆえに。
『ねえ、あなたは私の血がほしいんでしょう?』
「……!?」
出し抜けに闇から現れた"あのひと"の姿に――それが幻とわかっていても――恭介は完全に意識の虚を突かれた。
彼女の姿と声と、さらに仕草までも似せた幻はそれほどまでに精巧で、
抗うどころか己を保つのも精一杯なほどである。
「な……しまッ」
気づいた時にはもう遅い。"あのひと"が己の中に入り込むのを感じた。
わかった時には、もう遅い。それは憑依が完了した証なのだから。
眼の前で"あのひと"が艶やかに笑う。うなじを晒し、生娘めいてこちらを誘う。
『喰らえ』
抗いようのない声が、頭蓋の内側で無限めいて響いた。
『お前が持って生まれた牙を活かす時だ。お前の力、その性はこのために。
もはや嫌うな。厭うな。お前は真実、"そうしたい"と願ってやまないのだろう?』
「………………」
血(いのち)を、啜れと。
まず目の前の幻(あのひと)をもって、その軛を断てと。
内なる声=邪霊は囁く。抗えない――もはやすでに憑依は完了した。
地獄の如き渇きが心と喉を襲う。疼いて疼いて仕方なくなる。
目の前にあのひとがいる。ならば、そうだ、いっそ食べてしまおう。
その血の一滴までをも飲み干して、この心と体でひとつに――。
――あなたのことは好きよ。
いつかの風景が蘇る。
――だけど、あなたを殺せと依頼が来たら、躊躇なくあなたを殺すことになるし。
申し訳無さそうな、いややはり当たり前のような顔のあのひと。
――ほら、そんな顔。……人はね、悲しいから泣くのではないの。
涙をこぼしてしまった己に、困ったような顔をして。
――泣くから悲しいのよ。そんな時は、初心に戻って、ただ仕事をしなさい。
忘れてはならない教えが……。
――ひとつひとつ、丁寧に。たとえ――。
「……きみ、が」
『……?』
「君が、標的、でも……」
うめき声は、やがて意味のあるはっきりとした言葉へ。
まばたきを二度。うつろに揺らいだ瞳は意思の光を取り戻す。
目の前の幻を見る。あのひとではない幻ならば、もはや迷うことはない。
「"誰が標的でも、仕事ならば躊躇なく"だったね」
『貴様……まさか、憑依を』
「ありがとう――」
告げた名は、振りかぶった拳の風切り音に呑まれて消える。
あまりの暴威に、憑依したはずの霊体をも無理矢理に引き剥がされ、
そして幻もろとも闇が殴り飛ばされ、ガラスめいて砕けて散った!
「……やっぱり、恋は素晴らしいな」
清々しい面持ちのまま、薄く笑んだまま恭介は言う。
諦めきれない、大切な想いを胸に秘めたまま。
成功
🔵🔵🔴
フルール・トゥインクル
①:嫌悪、恐怖
②:私の真の姿を見せてきて、あなたは生きてないのでは?怖がられるのでは?と囁き続ける
そう、私の集落では死んだフェアリーは樹になると言われているから
③:たぶん一人では折れてると思うのです。その通りだと、私のそんな姿を見せないで欲しい、と。
でも、私にはネグルさんからもらったアクアマリンのペンダントがあるのです。
これを見ればあの日、私は生きていると、自分を信じられなくてもネグルさんからかけられた言葉は不思議と全部信じられるのですから。
だから、私は生きてますです!
嫌なものを見せて誘惑しようとしても無駄なのですよ
お望み通り、木の根で絡めとらせていただくのですっ!
●闇との戦い:フルール・トゥインクルのケース
猟兵は生命の埒外、世界に祝福された未来の守護者である。
物理法則から解き放たれた奇跡の力を用い、過去の残骸に対する天敵たる。
ゆえに彼らには、物質存在としての在りように縛られぬ"真の姿"がある。
……真の姿。真の? 本当の、この私の、真実の姿だと? "あれ"が?
であるならば、己はなんだというのだ。あれが"ほんとう”だというなら。
この鼓動も、世界を見る瞳も、誰かを導こうと思う心も。
喜びも、哀しみも、怒りも、楽しさも、情動の何もかもも。
――あの人を前にした胸の高鳴りも、すべてすべて。偽りだと?
"その姿"を晒すたび、あるいは思うたび、当て所なき疑問と苦悩に苛まされる。
だから、彼女――フルールは、己の"真の姿"を心底嫌っていた。
見たくない。見せたくもない。なければいい、消えてしまえばいいと。
それは嫌悪であり、おそらくは――そう、そうだ。
これは、恐怖と云うのだろう。
「な、なん……で」
実際に"それ"を前にした時、フルールは喉を引きつらせ言葉を喪った。
眼の前には、闇の中には、鬱蒼と茂る大樹がひとつそびえている。
ねじくれた幹の淵、枝分かれしたそのたもとに、ひとつの少女がいた。
否、それは肉塊と言うべきだろう。あるいは屍体と。
なぜならばそれは眠るように目を閉じていて、肌は死人めいて蒼白。
呼吸をしているようにも思えない。木に囚われた――あるいは抱かれた――、哀れな眠り姫。
「……わた、しなの……です?」
それは、震えるフルールと瓜二つの相貌を持っていた。
『そう。これは私』
「!!」
うっそりとした声とともに、開かれるはずもない瞼が、唇が、開かれる。
幻だ。これはあの邪霊とやらの攻撃だ。見てはならぬ、聞いてはならぬ。
シー・ノー・イーヴィル。……邪悪だと? これが? この私の真の姿が?
ならば私はやはり邪悪なのか。邪悪で、許されぬ存在なのか。
"生者らしく振る舞うだけのただの死者"なのか。
『だってそうでしょう?』
心の裡を見透かしたように、幻は言う。
『集落の教えは正しいの。私達フェアリーは、死ねば大地に還り樹となる。
あなたも見たでしょう。ご先祖様の屍の上に育った、たくましい木々を』
「あ、あ」
『なら、こんな姿が"真実"なら、あなたが生きているわけないじゃない』
幻は薄ら笑う。フルールは鏡写しめいたそれに怖気を覚えた。
『死人が生き物みたいに喋って、笑って、怒って、悲しむだなんて。
まるで私達(オブリビオン)みたいよね? いいえ、何が違うのかしら』
「…………」
『あってはならない異物――きっと怖がられるわ。だってそれが当然だもの。
私(あなた)は彼らとは違う。決して、絶対に、寄り添うことなど出来はしない』
「やだ、やめて」
『どれだけ願っても』
「やめて!」
『――どれだけ、恋焦がれても』
「私にそんな姿を、見せないで――!!」
『……私(あなた)は、相容れざる過去(ししゃ)なのだから』
頭を振る。泣きながら耳を塞いで、けれども声は妨げられない。
そうだろう。奴らはそうして堕落を誘う。衝動を、悪感情を解き放てと。
死人ならば、その心の傷の痛みから逃れて生者を奪い殺せと囁く。
奴らも同じものにしてしまえ。そうすれば真の意味で寄り添えるのだと。
生きるものは皆終わる。であればそこへ"導いて"やればいいではないかと。
「は、はぁっ、は……っ」
心臓が爆ぜそうな動悸に胸を抑え、過呼吸めいた呼気を整えようとする。
大気を求めても肺がままならず、喉が痙攣してただ喘ぎだけが漏れた。
……ふと、抑えた掌に、何か硬いものが触れる。
縋るように握りしめる。見つめる。アクアマリンのペンダントを。
あの人の贈り物。誕生日のお祝いにとくれた、心が落ち着く不思議な輝き。
――……フルール、君は生きている。確かに、輝いているんだ。
無骨で、きざで、ちょっと……いやだいぶ頼りないところはあるけれど。
それども優しい……どこか怯えるように繊細に思いやってくれた人の言葉。
自分を信じることは出来ない。なぜなら今の己は偽りかもしれない。
故郷の言い伝えの通り、樹に囚われた己は死者なのかもしれない。
けれども、この輝きをくれた人の、鋼の人の言葉は信じられる。だから。
「私は」
『あなたは死人で――』
「私は、生きてますです」
震える声で、しかしはっきりと、決然と、フルールはそれを否定した。
目を上げる。涙をこぼしながらも、翠眼はしかと真の姿(それ)を見る!
「私は偽りかもしれない、けれどあの人はそれを肯定してくれた!
私はその言葉を、不思議に信じられるあの人の言葉を、絶対に信じるのです!」
めきめきと音を立て、天井が、大地が、侵食されて割れていく。
蔓延るのは生命の顕現、すなわち土を貫く大樹の根。それは幻を絡め取る。
邪霊を。絶叫する邪悪どもを。敵を!
「私一人では折れていたでしょう――嫌なものを見てしまったのですから。
だから、あなたには、たっぷりとお仕置きさせてもらうのですよっ!!」
『我らは、同類(なかま)だぞ! それを、貴様――』
「いいえ」
もはや涙は流れない。彼女は仲間を、人々を導くと決めたのだから。
「過去(あなた)達は――私達の、敵なのですっ!」
この決意は、きっと本物だと信じて言い放つ。
大成功
🔵🔵🔵
フランチェスカ・ヴァレンタイン
怒りの感情となりますと、日々何かしら生じている憤懣などでしょうか
――ええ、あの方から面倒事を押し付けられたりそもそもわたしが処理しないといつまで経っても終わらない仕事が山積していたり
その状況でヒャッハー襲撃掛けてくるゴロツキな方々の迎撃に出れば卑猥な野次だの皮算用だの…
などと影の差した表情の奥でハイライトが行方不明な瞳を見開き、ウフフ…と不穏に笑ってみたり。コワイ!
それを煽る形で(概要お任せで)誘惑されるものの
わたし、遣る方無い憤懣はあれども今の生活に不満はありませんしねー…?
ええ、カミなるモノの道化や淫祠邪教の巫女などよりはよっぽどマシですもの
UCの光刃で諸共に、斬り祓って差し上げましょうか
●闇との戦い……?:フランチェスカ・ヴァレンタイン
それは怒りというより、なんというか溜まったストレスの爆発であった。
『お前の中には煮えたぎるような怒りがある……抑える必要はない……。
憤怒のままに荒れ狂い、全てを殺し尽くせ……破壊し、焼き尽くせ……!』
「それが出来たらどれほどいいでしょうかね」
などと、フランチェスカはふっと影のある笑みで自嘲してみせる。
思い返せば思い返すほど、邪霊なんぞに言われずとも怒りの種はいくらでもある。
自称"愛する提督サマ"とかのたまうあの男は面倒事ばかり引き起こすし、
そのくせ実務能力は皆無で100%……いや120%フランチェスカに任されているし。
あとなんかこう色々面倒事を押し付けられているせいでストレスが貯まる貯まる!
「いえ、いっそふっ飛ばしてさしあげたほうが……?」
『えっ』
「何か不満でして? あなたがたがそそのかしたのでしょう?」
『えっ、いや』
「なら仕方ないですわね、ええ、邪霊の仕業ならしかたありません。
この際、一切合財をふっ飛ばして消し炭にしたほうが楽になるかもしれませんわね!」
『ええ……』
邪霊は困惑した。なんかうまいこと焚き付けられたことにされてないか?
いや怒りを解き放てと誘惑したけどさ。これタイミング計ってたやつじゃん!
ウフフ……とか散大した瞳孔のまま微笑むさまはコワイの一語に尽きた。
なんかやば、帰ってなんかキックチョップするリズムゲームとかしよ……。
とアックスアンドウィザーズに住み着く邪霊どもが思ったかはさておき。
「ああ、でも」
やるかたない憤懣を煮えたぎらせながらもフランチェスカはふと言った。
「別にわたし、今の生活に不満はありませんしね。そんな必要はありませんか。
以前から比べれば経済的にもマシですし、あえて捨てる理由もございませんね」
『えっ』
「そういうわけで」
ガシャコン。斧刃が光を放ち、邪霊どもへと突きつけられる!
「わたしを謀ろうとしたあなたがたには、ひとつ切り払ってさしあげましょう!」
『アイエエエエ!?』
コワイ! その瞳に一片の慈悲も容赦もなし!
そして万象を切り裂く光刃は、さっぱりいいところのない邪霊どもを飲み込んだ――!!
……ところでお怒りの方は鎮まったんでしょうか?
オブリビオンにも手に負えないものはある。教訓とするには、残骸どもには未来が存在しなかった。
成功
🔵🔵🔴
草野・千秋
心の闇に打ち勝たなければ……
邪悪な尖兵になどなりはしない!
POW
①
妹の誕生日のお祝いで遊園地からの帰り道
千秋の家族(祖父母、母、妹)が
邪神とその組織により
目の前で惨殺されている様子
妹は慰みものにされてから殺されている
②
おまかせ!
③
友や旅団の仲間や愛する人の事を思い出し我に返る
僕にはまだ優しくしてくれたり
共に戦う戦友がいるじゃないか
覆水盆に返らない過去より
今を大切にしなきゃ
死んだ家族にも
今の縁のある人にも
失礼にあたる
僕は悪意に負けない!
何故なら僕は人々の信頼を背負うヒーローだからだ!
UCで敵を蹴ちらす
2回攻撃と怪力使用
●闇との戦い:草野・千秋のケース
血と屍だけがそこにあった。だがそうだとは認めたくなかった。
「母さん」
自分を慈しんでくれた母がいた。いや、"あった"。
いつも優しげな微笑みは喪われ、瞳は恐怖と絶望に見開かれたまま不動。
「おじいちゃん、おばあちゃん」
老いながらも理知的で孫である自分に愛情を注いでくれた祖父母も、同じ。
そう、"あった"。年季を刻んだしわだらけの肌は苦渋に歪んでいて。
悪いことに、祖父は憤怒と憎悪の形相に歪んだまま首を抉られていた。
愛した祖母が目の前で八つ裂きにされ死んだのだ。無理もない。
……無理もないが、だからそうですかと受け入れられるわけがない。
そしてもっとも唾棄すべきは、千秋の妹であった。
彼女は一番"手ひどく"やられた。思い返すだけで吐き気がこみあげる。
それをいま、一部始終を含め眼の前で再演されたとあってはなおのこと。
「ぐ……っ!?」
千秋は思わずえづき、口元を抑えた。ぱしゃぱしゃという液体音。
咳き込む。生理的な反射で涙と鼻水が溢れる。悪臭がなおも吐き気を催させる。
二度、三度と反吐を出したすえに、千秋はがん!! と床を叩いた。
「……ふざけるな」
それは過去の映像だ。千秋を……千秋の家族を襲った悲劇の出来事。
あの日。愛する妹の何歳めかの誕生日を祝うため、家族で遊園地へ行った。
楽しかった。優しい祖父母ははしゃぐ自分達を暖かく見守ってくれたし、
母は――父と離婚してからずっとそうだが――とことん甘やかしてくれた。
きっと、親として片割れを別れさせてしまった負い目が子らにあったのだろう。
大人ゆえの苦悩と配慮をそれとなく感じ取る程度に千秋らは聡明だったし、
だからこそこの日は心の底から、遠慮もなしにおもいきり、厚意に甘えた。
楽しかった。輝くような時間で、あっという間に過ぎ去った思い出。
それがあの瞬間、すべて反転し引きずり落とされ貶められたのだ。
あそこに転がる妹の亡骸の"ざま"のように。
「ふざけるな」
千秋は吐き捨てた。言葉を、煮えたぎるような怒りとともに。
「なんで僕にこんなものを見せる。こんなものを思い出させる」
邪神とその信奉者。UDCアースに巣食う邪悪。オブリビオンの尖兵。
その餌食に彼らは選ばれ、裂かれ、引きちぎられたのだ。
千秋は生き残った――結果として地獄の苦痛を味わわされたが。
生き残って、しまった。だからいまも、その光景は彼の脳裏にある。
「僕を怒らせるっていうのか。ああ、それならとことんたっぷりと効いたよ。
……お前達を許さない。あいつらを許さない、そんな怒りが僕の中にある……!!」
邪霊はその憤懣をせせら笑う。殺意込めた千秋の凝視を嘲り笑う。
『哀れな者よ。遺された者よ。いくら怒ろうと、我らを憎もうと、もう戻らないぞ。
お前は遺された。家族は死んだ。それが結果だ。覆しようのない過去だ』
「ああ、そうだ。僕には力がある。殺してやる、お前らも何もかも!!」
『そうだ、怒れ。力を振るえ! お前を止めようとする全てを打ち砕け!!』
「僕は……ああ、そうだ、殺してやる。殺してやる!!」
立ち上がる。煮えたぎるような力がその五体を駆け抜けた。
やれる。自分は奪われ改造されたあの頃とは違う。この力があるのだから。
そしてこの邪霊どもをくびり殺し、地下の敵を殺し、そして――。
そして、どうする。次は誰を殺す。……同じ力を持つモノどもを?
ああそうだ。彼らは力があるくせに救ってくれなかった薄情者だ。
同じ力を持つなら、同じだ。止めようとするならそいつらも殺してやる。
殺して、殺して、殺して、殺して……!!
「……違う」
想起した人々の、仲間達の顔が、彼を正気づかせた。
いいや、怒りはある。燃えるような悪に対する怒りがあの頃からずっと。
けれどもそれは過程だ。結果ではない。怒りは手段であり目的ではない。
己の目的はなんだ。思い返せ。何のために戦う。何と戦うのだ!
『行かれ。全て殺せ』
「違う。僕はたしかに家族を喪った、生身を、ただの人間であることを!」
拳を握りしめる。鋼の躯体が力に応えて軋んだ。
「どんな辛い過去でも、それは僕が歩んできた過去だ。だから"いま"がある。
ともに戦う仲間がいる。それを忘れて捨て去ったら、何もかも無意味になる!」
去っていった人々は戻らない。だからこそ、礼を失してはならない。
邪悪どもは何かを喚く。ああ、そうだ、好きなだけさえずるがいい。
超常をもって勝ち誇り、罪なき人々を貶めようとするがいい!
「そんな悪意(おまえたち)を倒す。僕は、過去(おまえたち)には負けない。
なぜなら、僕は――人々の信頼を背負う、ヒーローだからだ!!」
光輝がその身を包み、覚悟の証たるダムナーティオ―の姿に変える。
『奪われたままでいいというのか、貴様は!?』
「よくないさ――だからもう、お前達には何も奪わせないッ!!」
拳が、蹴りが、悪を討つ。闇を払い、悪意の根源を消滅させる。
「覚えておけオブリビオン、これが! 断罪戦士の在り方だと!!」
朗々たる声は、消えていく幻を受け止め、その痛みとともに前へと進む。
成功
🔵🔵🔴
鎧坂・灯理
①:怒り
②:『家名《カチ》を捨てた』『女』と見下す声(表現は一任)
③:切って捨てる
念動力で圧縮し、塩弾を撃ち込む。実体がなくとも破魔の力は効くだろう。
オブリビオンが精神に干渉してきたならばUCを発動。
高速演算。分析。干渉を受けている部分を特定。思考を分割。干渉を受けないに主意識を移動。
難しい話じゃない。人混みを歩くとき、耳に入っている音を認識しないと同じ。
要は『気にせず流す』というだけの話さ。
腹立たしいのは確かだ。爪先から頭の天辺までコンクリートですりおろしてやりたいとも思う。
だが、この怒りは私のもの。私だけのものだ。
貴様らのような汚らわしい雑魚が触れていいものではない。
目障りだ。失せろ。
●闇との戦い:鎧坂・灯理のケース
嘉衣坂という家がある。
由緒正しい名家というやつだ。資産も、名声も、掃いて捨てるほどある。
……詳細はあえて伏せるとしよう。でなくば彼女の怒りを買うことになる。
彼女。然り、UDCアースにてこじんまりとした探偵社を営む女。
女だてらに男装に身を包み、信用を第一としていかなる業務も請け負う探偵。
今どき古臭い話だ。だが不思議と、そういうアウトローもどきの仕事は枚挙にいとまがない。
人探し。
素行調査。
あるいは威力偵察――ともすれば武力行使。
個人であるからこそ、フリーランスであるからこそ、そこに事情はない。
ただ信念と契約による信用があり、そこを満たしさえすればどんな仕事もする。
……嘉衣坂という家がある。かつて彼女はその家の生まれだった。
だが今はもう違う。纏う衣はけして艶やかでも綺麗でもなく、
美しいと嘉(よみ)することなど鼻で笑って踏みにじってくれようが。
その音は変わらず。守るように、挑むように纏ったこの装いと信念のしるし。
すなわち今の彼女の名は、"鎧"坂と言った。
『なんてもったいないことを』
わかったような顔で、どこぞの家の御曹司が頭を振る。
『君はそんなに綺麗なのに、ご立派な家なのに。どうしてそんな』
『家名に泥を塗る行為だ。親御さんが不憫でならない』
腹の膨れた豚のような男が、口髭を撫でつつ吐き捨てるように言った。
『そもそもあれは女だ。女が家柄(かち)を棄てたら、それはただの女だろう。
あれは自ら無価値な女(もの)に成り下がったのだ。もう忘れなさい』
『そうだ。女ごときが、一丁前に独り立ちでもしたつもりか』
『ええ本当。信頼と愛情に砂をかけるような、無作法ですこと』
男が。女が。同じようなことを、小利口に違う言葉でいちいち垂れ流す。
ふざけるな。垂れ流すならば糞でも流していろ。ここはパーティ会場だ。
貴様らのようなクソどものクソふざけたたわごとは、便所に捨てろ。
『家名(かち)を棄てた愚か者」
黙れ。
『恩を仇で返す恥知らず』
ほざくな。
『女ごときが』
嘗めるな。
『女なんぞに』
口を閉じろ。
『弱者(おんな)め』
聞こえないのか?
『愚者(おんな)め!』
その耳は飾りか。
『傀儡(おんな)め!!』
そうか。ならば、"黙らせて"やる。
BLAM! BLAM!! BLAM!!!
大口径リボルバー型に変形した銃器が、忙しなく銃声を上げ弾を吐き出した。 念動力によって強制圧縮した清めの塩だ。あいにく聖別の儀式など知ったことではない。
「世界は違うが、邪霊ならば破魔の力は効くだろう」
『あ、ガ……ガ……オン、な』
BLAM!! もはや言葉は紡がせない。紡いだところで意識することはない。
サイキッカー特有の脳ブースト。超高速並列演算状態による思考分割。
認識していながら考えることがないという矛盾を叶える"小人の智慧"。
カクテル効果というものがある。アレと同じだ。
猥雑な雑音はカクテルめいて混じり合いながらも不思議とそれを捉えるが、
逆に聞きたくないものを雑音の中に混ぜ込み無視することも出来る。
ようは器量の問題。気にせず流す。切って捨てる。一顧だにしない。
「腹立たしいのは確かだ」
BLAM!! 灯理は淡々と、事務作業めいて指を動かす。
「どいつもこいつも、つま先から頭のてっぺんまでコンクリートですりおろしてやりたい気分だ」
BLAM!! 邪霊は何事かを喚くが思考(しかい)に入れない。
「だが」
BLAM!!
「この怒りは私のもの。私だけのものだ」
BLAM!!
「貴様らのような、汚らわしい雑魚が触れていいものではない」
BLAM!! BLAM!! BLAM!!
……嘆息。腹が減った。気づけば邪霊の気配は全て失せている。
「失せろと言うまでもなかったか。他愛もない連中だ」
足元には無数の銃痕。凝固が解除された塩をチャンバーから吐き出し、
銃器をしまって探偵は歩く。……思い出したように振り返って一発。BLAM!!
「人間(わたし)を、嘗めるなよ」
それは、己を嘲笑う全てに対する決然たる言葉だった。
大成功
🔵🔵🔵
ヴィリヤ・カヤラ
凄い迷宮だね。
っと、敵を見たら【氷晶】(WIZ)で攻撃。
1、恐怖
今は父様を倒す為に頑張ってはいるけど、
倒した後の事を考えると恐怖心に襲われる事がある。
父様が自分を殺しに来いと言ったのは、
初めて父様から託された願い事だから叶えたい。
でも、叶えたその後は……。
母様はもう亡くなっていて、
父様もいなくなって、
その後に自分がどうなるのか、
何も無くなってしまうんじゃないかと怖くなる。
2、お任せします
3、父様を倒した後も何も無くなる訳じゃないし、
友人もカフェに来てくれる皆もいるし。
直ぐは無理でも、やりたい事は見つかると思うし。
不安になったりする事も含めて
強くなれって父様なら言うと思うから。
アドリブ歓迎。
●闇との戦い:ヴィリヤ・カヤラのケース。
地下迷宮は暗く、そして広い。皮膚感覚としてその広大さがわかる。
地下から唸るような風の音。そして石畳の饐えた匂い。
相当な大きさだ。これをひとつひとつ検分するのは骨が折れる。
「だから敵が来るとわかってても、別行動せざるを得ない……か」
猟兵達の間で話し合った結論に準じつつも、ヴィリヤはため息をつく。
邪霊。心の隙を突き、悪感情とやらを想起させるオブリビオン。
己は何を呼び起こされる。怒りか、殺意か、それともこの血の衝動か。
「…………血、か」
ダンピールたる己の性とその出自――すなわち父母のことへ思い至り、嘆息。
その時ふと、ヴィリヤは視界の端に"何か"が身動ぎするのを捉えた。
「来たね」
誰何は必要ない。猟兵も彼奴らも、見た瞬間にそれを理解するゆえに。
オブリビオン。絶対敵。過去に巣食う残骸ども。イーヴィルスピリット。
「氷を、射抜けッ!」
ゆえにすぐさま氷晶を放った――だが、貫けたのはただ闇のみ。
「いな……い?」
訝しんだ時、その視界が揺らぎ、思い返すには近い過去へと遡っていく。
母はもう亡い。だからかもしれないが、どうやら自分は少々父に依存しているらしい。
ファザーコンプレックスというやつ……かも、しれない。自覚はあまりない。
ただ確かなのは、己が猟兵……すなわち彼奴らの天敵となったあの日。
『旅に出ろ。世の中を見て、聞いて、お前自身の目と耳で知ってこい』
慣れ親しんだ城の広間で、父は何気ない言葉ではっきり言った。
「……え?」
『お前は"そういうもの"になったんだ。お前にもわかるだろう』
ヴィリヤは――過去の少女は、思わず胸元に手をやった。心臓を抑えた。
わかる。目の前の父が"そうである"とわかる。存在してはならないものだと。
吸血鬼、ヴァンパイア。黄昏の世界を支配する無慈悲なる強者。
世界を侵すモノ。オブリビオン。過去の残骸、私達にとっての、仇敵。
『俺にもわかる。いずれ俺は、お前を殺す』
「そんな」
『だから』
食事のメニューでも告げるような気軽さで、吸血鬼(ちち)は言った。
『世を知って、力をつけろ。そしていつか――俺を、殺しに来い』
それは、父から託されたはじめての願い事だった。
恐ろしくて悲しくて、けれど根本的な納得が胸の裡にあって。
ただ、頷くしかなかったのを覚えている。
……今にして思えば、もしかするとあれは気まぐれだったのかもしれない。
仇敵たる猟兵をあえて解き放ち、強くさせ、そしてやがて屠る。
果樹が実をつけ熟れて甘露を満たすのを待つような、遠大な気まぐれだ。
吸血鬼は"そうする奴ら"だ。それはもう、よく知っている。
あるいは、オブリビオンである父なりの、世界へのけじめだったのか。
彼には人のそれのような悔恨や苦悩があって――あるいはヴィリヤの覚醒で目覚め――それに殉じようとしたのか。
とどめおけばいつか殺すと思い、断腸たる思いで送り出したのか。
もうわからない。次にそれを聞く時は"その時"だからだ。
つまり。その時おそらく――勝てるかどうかはともかく――父を殺す。
託された願いどおりに。敬愛する父を、殺すのだ。
『それで? そのあとはどうする。お前はどうなる』
幻が失せれば、目の前に燃え上がるような紅い邪悪な顔があった。
邪霊。イーヴィルスピリットは嘲るような声音で云う。
『母は亡い。そして父をその手で殺めれば、おまえはもう、独りだ』
「…………そう、だね」
『孤独は怖かろう』
「……ああ、怖いよ」
『父に勝てるか不安だろう?』
「…………」
唇を噛む。頷かざるを得なかった。疑うべくも、否定するべくもない弱音。
恐怖。不安。それはいつでも己の裡にある。己が持った感情(もの)ゆえに。
『ならば我らが代わってやろう』
邪霊は囁く。
『我らに体をよこせ。その心をよこせ。その力をよこせ。
さすれば我らは貴様の代わりに父を討ち、貴様の代わりに生きてやる』
「……それは」
『迷うか。だがお前の恐怖も、不安も、もはや考えることはなくなるぞ』
「…………」
矛盾だ。けれどこの懊悩が消えて失せるというのなら。
覚悟するまでもなく背負わされた重荷に、耐えることがないというのなら。
……いいや。
――それを逃げずに前向きに考えているだけでも、ヴィリヤ様はお強い方だと思いますわ。
「それは、違う」
――リベンジはいつでもOKだぜ。
「父様を殺したからって、何もかもがなくなるわけじゃない。
私はひとりじゃない。友人が……みんながいる。約束も、ある。だから」
拳を握りしめる。
「……きっとこの不安も、悩みも。それも全て強くなれるはずだから。
私は、それをあなた達に渡しはしない。でなきゃ、父様には勝てない……!」
『あえて縛られるのをよしとするか? 傀儡の如き運命を!』
「なら、それをこそ私が切り開かないとダメだね――氷よ!!」
響き渡る声は、自分でもびっくりするほどに力強かった。
「私を邪魔するモノどもを、射抜いて――滅ぼせ!!」
もはや迷わない。逃げることなど許さず、闇もろとも全てを貫く。
そして氷は砕ける。あとは肩で息をする女がひとり。
「……強くならなきゃ、何も出来ないんだから」
道行きは暗い。ただ、忘れてはならない輝きは、その手の裡にたしかにあった。
成功
🔵🔵🔴
パーム・アンテルシオ
失望した。
誰に?
私に。
綺麗なままで居たいって。
ただ騙すような夢は見せないって。
そう思っていたのは、誰だったの?
私だった。
それは、私の想いだった。
怖い。
何が?
皆に嫌われる事が。
それは、私の想いだった。
闇に身を委ねれば、理想の私で居られるの?
綺麗な私で。優しい私で。愛を持った私で居られるの?
…そんなわけが、ないよね。
私は。私の中身は、初めから。
みんなを殺したあの時から、汚かったんだ。
ただ、取り繕ってきただけで。
私の根底にあるのは…みんなとの約束。
それだけは、守らないといけない。
繕えなくなっても。皆に嫌われても。
私の想いを否定してでも。
だから。
私の想いを優先させる闇なんて。
あなた達なんて、いらない。
●闇との戦い:パーム・アンテルシオのケース
多くの猟兵は、引きずり出された"はらわた"を前にしてある程度共通した反応を見せる。
その通りだと開き直るもの。
それは違うと食い下がるもの。
だとしてもと言い続けるもの。
単純に激昂し、あるいは見下すもの。
……パームはそのどれでもなかった。
彼女は、そう、"失望した"。そんなものかと呆れて、嘆息した。
誰に? 小賢しい手口でおのれの"はらわた"を引きずり出した、邪霊どもにか。
否。……己にだ。パーム・アンテルシオという妖狐(バケモノ)に。
何が、"前に進まないといけない"だ。
何が、"どうするか、そんなことは言うまでもない"だ。
何が、"こんなやつを喜ばせるために、ここまで来たわけじゃない"だ!
引きずり出された"はらわた"。パームが見ようともしなかった己の根底。
悪感情。ああ、そうとも。この恐怖、この怯えはいかにもそのとおりだ。
見たくなかった。識りたくなかった。己がこんなに自分勝手で惰弱だとは!
綺麗なままで、いたい。
ヒトでいたい。そうであると己を縛っていればそういわれる。
これは罰なのだと反芻すれば、何かをしている気になれる。
綺麗でいたい。汚れたくなんてない、罪(かこ)を認めたくない!
私は受け入れた。もう乗り越えた。だからほら、前に進んでいる。
なんて健気なんだろう。なんて美しいんだろう。涙ぐましい健気な少女。
私はそうありたい。――だって、それはとても、綺麗なんだから。
それに、そう、怖いんだ。怖くないヒトなんて、きっといない。
私はヒトなんだから、怖がって当たり前。だってみんな、いいヒトだから。
私を受け入れて、微笑んで、喜んでくれるから。友達だと仲間だと言ってくれる。
嫌われたくない。みんなが愛するパーム・アンテルシオで居たい。
そのためには、ほら。やっぱり綺麗なままでいなきゃいけない。
優しくて、愛を持っていて、いつも微笑む女の子でいられるんだ。だから。
だから、ねえ。仕方ないよね? 私は私のままでいいんだよね?
あの時みたいに、私の想い(わがまま)を貫いても、いいんでしょう?
ねえ。誰か。いいと言ってよ。君は綺麗だと。優しいいい子だと。
でないと私は――まるで、そうじゃないみたいに思えてしまう!
「…………そんなわけが、ないよ」
『なぜそう思う。なぜ己の欲求を否定する? お前の想いを』
「ううん。あなた達の言う通り、私はそう願っていた。そうだったんだね。
けれど、それは叶わない願い。私は最初(あのとき)から、ずっと……」
瞼を閉じる。脳裏に繰り返し思い返されるあの日の光景。
今よりも幼き己の愚かな指先。引き金に起こされた惨劇。血みどろの地獄。
長の言葉。背負った咎。罰。果たしている気で笑っていた愚かな自分。
「みんなを殺したときから、私はずっと汚い。汚かった。これからもそう。
取り繕ったって意味はない。それじゃ罰にならない。私は、守らなければいけない」
――悔やめ。生きて悔やみ続けろ。死ぬことなど許されない。
「皆に嫌われても、私の想(ねが)いを否定してでも」
『苦しむというのか。あえて。己の手で』
「厭だよ。投げ出したいよ。私はやっぱり、どうしようもなく弱いんだから。
……そんな私が、私は嫌い。私は、私の想(ねが)いなんて、叶えたくない」
そうあれと定められた。そうあるべしと己で己を戒めた。
「あなた達なんていらない。闇(わたし)を解き放とうとしないで。
――私に、そんな悪行(じゆう)なんて、もう許されないんだから」
なんと悲しく、そしてひたむきで、狂おしいまでの怒りなのか。
桃色の霧の中に融けて崩れていきながら、邪霊どもは思った。
この娘は――この思いは。怒りであり哀しみであり後悔であり。
『……なんと……強(よわ)き、娘だ……』
しばらく、少女はひとり泣いていた。それだけは許されると思ったから。
大成功
🔵🔵🔵
オルハ・オランシュ
ヨハン(f05367)と
歩けど歩けど似た景色
先に進めてるのかな……
この静けさもちょっと不気味だよね
ふと視界に入った暗闇に目を凝らす
ここにいるはずのない弟
それに、自分の足で立ってる
幻だなんて明白だった
でも、大きくて歪な氷刃が見えれば冷静さはもう保てない
駄目……!逃げて!
ネクの脚を潰した氷
私が発動させた、魔力の氷
――耳から離れない、ネクの呻き声
あ、あああ……!
私が、教えてなんて言わなければ……制御できていたら……
でももう過去は覆せない
絶望に染まってからは無意識にあの魔術を発動していて
気が付いたら、幻も消え失せていた
憑依を免れたのはきっと冷たい傷口のおかげ
……ヨハンは、無事かな……
ヨハン・グレイン
オルハさん/f00497 と
進めども先は見えない
これが地下迷宮か
何か、感じた違和感と共に逸れたと気付く
暗闇に浮かぶのは自分の姿
……そうか。苦笑、心底からの嘲笑が漏れる
そうだな、きっとそれは
なりたかった自分、なれなかった自分――
気持ちが悪い
己から向けられる侮蔑の眼差し
けど俺は知っている
ただ可視化されたに過ぎない
普段から、俺は俺の事を
この眼で視ているのだから
失望し続けている、ずっと、己に
知っている
諦めてしまえたら楽……なんだろうな
どうでもいいと諦めて、目を閉じてしまえたら
だが違う
そうはならないと他でもない俺が決めた
お前は消えろ 闇に沈め
……俺は、今の俺にしか出来ないことをする
彼女を探して先を急ごう
●
歩けど歩けど進めど進めど、古びた石畳による天井と床と壁は続く。
まるで迷いの森のようだ。この迷宮は文字通りの迷宮で、
神話のように一度入れば抜け出せないのではないかと思う。
「……先に進めてる、のかな」
「これが地下迷宮、なるほど」
少女の不安げな声に、少年は訝しむような声を漏らした。
「ですが慌てる必要はありません。辿った軌跡は魔術的に記憶してあります。
もしもの場合は、これを辿ればいい。あれだけの数の猟兵がいるんですから」
「……そうだね。それでもダメなら、天井でもぶち抜いちゃえばいいし」
「時々考え方がパワフルになりますよね……まあ、らしいですが」
なんていつものやりとりをしながら、壁に手をついて闇を歩く。
少年には慣れたものである。だが少女にとってはそうではない。
「……この静けさも、なんだか不気味だよね」
「そうですね。……ただ何か」
「どうしたの?」
「いえ、何かもっと別の違和感があるというか――」
「…………」
少年は一瞬だけ闇に気をそらし、返ってきた静寂を訝しんだ。
意識を戻る。……いない。気配がない。少女が、いない。
「オルハさん?」
返ってくる答えはない。
「オルハさん」
声は、ない。違和感は確信に変わる。この闇そのものが、もしや。
「……もう術中だったということですか……!」
少年は駆け出した。すぐそばにいたはずの少女に気づかずに。
だが彼を誹ることは出来ない。彼女もまたすでに取り込まれていたゆえに。
「…………なんで」
彼女もまた闇を見てしまった。ゆえに少年の気配に気づけない。
そうして、ふたりは闇と相対することとなる。
●闇との戦い:オルハ・オランシュのケース
「どうして、ネクがここにいるの」
目を凝らした闇の先、少女――オルハはありえないはずの姿を見た。
理性は云う。これはオブリビオンのもたらす幻、精神攻撃だと。
だが本能は叫ぶ。いいや、"そんなことは関係ないのだ"と。
幻なのだろう。だが、なんだ。だって弟は、ネクは。ああ。
「なんで――どうして、"あなたが立ってるの"」
たしかに、少年は両の足で、自分の足でしかと立っていた。
『お姉ちゃん、どうしたの? それより早く魔術の勉強しようよ!』
ネクは――才能に恵まれた我が弟は、にこやかに微笑んでいた。
あの日と同じように。何気なく、自分を修練に誘ったときのように。
『大丈夫。僕が教えてあげるからさ、こう、集中して』
「だめ」
首を振る。ダメだ。それだけはならない。絶対に。
だがオルハの意思とは裏腹に、ネクの背後にはぱきぱきと冷気が凝っていた。
それは魔力によって、ねじくれた枝の如きいびつな氷の刃となる。
「だめ、だめ、だめ。ネク、逃げて。逃げて!」
『お姉ちゃん? 心配しないでよ、出来るって!
それに、教えてって言ったのはお姉ちゃんでしょ?』
「いいから! 早く――早く逃げてぇ!!」
悲鳴は、氷の刃が大気を切り裂く風切り音に呑まれた。
オルハは耳を塞ぎ目を閉じた――そんなことをしてなんになるのだ。
幻は己の裡から引きずり出されたはらわた。永遠に消えぬ後悔のタペストリ。
瞼の裏に、鼓膜のさらに奥に、こびりついた記憶が呼び起こされるだけだ。
『痛いよ』
「……――あ」
『痛いよ、お姉ちゃん。痛い』
「あ、ああ……あああ!」
痛い、痛い。助けて、お姉ちゃん、立てないよ。寒いよ。
ネクが。弟が。あの日と同じように倒れている。そうだ、もう立てない。
彼の両足には、氷の刃が突き刺さり、その腱も骨も筋肉も断ち切っていた。
血が広がる。誰があんなことをした? 事故だ。いや違う。
『お姉ちゃん、どうして』
「あ、あ」
『どうして僕の、足――足が、動かないよ。お姉ちゃん、おね……』
「あああああああッ!!」
恐怖。後悔。不安。哀しみ。何もかもがないまぜになって溢れ出る。
涙が溢れた。思い返すのはそれだけではない。あの雨の館でのこと。
「厭だ、厭だ、厭だぁああああっ!!」
狂乱しながら魔力を解き放つ。氷の刃がランダムに全てを薙ぎ払う。
『お姉ちゃん、やめて』
「やめて――その声で、ネクの姿で、私に助けを求めないでぇええええっ!!」
悲鳴は再び、荒れ狂う氷の刃の渦の中に消えて失せた。
●闇との戦い:ヨハン・グレインのケース
ヨハンはがむしゃらに走った。それだけで彼は冷静さを欠いていたと言える。
落ち着いて魔術的に探知し、敵を察知してその影響を払えばよかったのだ。
だが、出来なかった。他ならぬオルハの危機が迫っていたからだ。
彼女は明るい。だがそれだけでないことを少年は知っている。
その後悔、慚愧、苦痛。背負った過去と、罪と、己に課した罰を知っている。
守らねばならない。救わねばならない。己の身など厭うことはない。
でなくば、彼女はきっと――!
『出来損ないが、思い上がったものだ』
「……あんたは」
立ちはだかるように、前方の闇にぼんやりと像が浮かび上がった。
己と同じ背丈。藍色の瞳。異なるのは、双眸と相貌にたたえた感情のみ。
侮蔑。嘲笑。己の姿をした己(まぼろし)は、ヨハンを侮蔑していた。
「…………は、は」
苦笑が漏れた。心底からの嘲笑。それは幻であり己へのもの。
彼女を救う? 何をだいそれたことを。自分にそんなことが出来るものか。
『おちこぼれの出来損ない。家族の期待にも応えられないただのガキが』
「……ええ、そうですね。俺は、役立たずだ」
『どれだけ直視して痛感したって、あがいても届かない才能なしの落ちこぼれ。
なあ、俺(あんた)が生きてて何の意味があるんだ? 何になる?』
「……さあ」
目の間の幻(じぶん)には、自分にない自信とうぬぼれがあった。
力に対する過信。おそらくはそれにふさわしいだけの智慧と魔力。洞察力。
自分のような凡人とは違う、凡人には届かない――けれど、憧れる己。
『どうせ届かない。どうせ実らない。そう自嘲しておいて、なぜ諦めない。
悪あがきだ。自分(あんた)は認めたふりをして、粋がっているだけだ』
「…………」
はらわたを抉る言葉。己に対する失望、あるいは理想像への羨望。
家族への嫉妬。優れた、持つものらへの汚らしい感情。見透かされている。
『視るふりをして、その実俺(あんた)は何も見ちゃいない。ふりだけだ。
……やめちまえよ。代わりに俺がやってやる。そのほうが皆喜ぶさ』
「俺みたいな役立たずよりも、"うまくやる"……ん、だろうな」
『そうさ。もう、お前が苦しむことだってありはしない』
真実だ。たとえそれが可視化されただけの幻だとしても。
委ねれば、もうそれで何も考える必要はなくなるのだから。
「……そうできれば、どれだけ楽なんだろうな」
ふと、ヨハンはひとりごちた。
「ふりをやめて、諦めて、どうでもいいと捨て去って。目を閉じてしまえたら」
『俺(あんた)がそうすると思えばいい』
「ああ。けど――俺は、"そうはならない"と決めた。決めたんですよ」
意地(それ)すら捨て去ったなら、もはや己には何も残らない。
それだけは、厭だ。それに、そうだ。この目を閉じてしまったならば。
「もう、あの瞳を見返すことも出来やしない」
『…………哀れだな。答えも出せなかったくせに』
「哀れですよ。けど哀れみも、失望も、俺が俺自身に感じるものだ」
藍色の瞳が幻を見据える。己の悪感情を。汚いはらわたを。
「お前は不要だ。闇に沈め――闇(おれ)に、沈め」
嗤笑を遺し、幻は消えていく。見逃せない、逸らしてはならないものへと。
黒闇は消えていく。だがヨハンの視線が閉じられることはない。
「俺は、今の俺にしか出来ないことをする」
駆け出した。もう、その目を曇らされることはない。
●
「……い、ない?」
「いますよ」
予想だにせず返ってきた声に、呆然としていたオルハはびくりと肩をすくませた。
幻はもうない。破滅の残滓と、ずたずたになった冷たい傷口だけがある。
その惨状を見てかぶりを振り、歩み寄った少年はいつもどおりの表情で膝を突いた。
「ヨハン、私」
「幻を見たんでしょう。だいたい推測はつきます」
「…………私、何も」
「出来たでしょう」
言葉を遮り、傷口のおびただしい手を握りしめて、ヨハンは言った。
瞳を見た。見開かれた少女のそれを。
「あなたは、生きてる。生き延びた。……それは、事実ですよ」
「…………でも、私、また……結局……」
「いいですよ、それで」
嘆息。笑おうとして、妙な表情になった。
「俺に出来る限り、あなたのそばにいますから。……出来る限りで」
それはどこか悲しげで、呆れるような、自嘲のような。
どこか泣きそうな、不思議な顔。少女は、ただそれを見返し。
「……ばか」
ぽつりと、そう呟いた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
出水宮・カガリ
【壁槍】まる(f09171)と
感情:悲哀
……。
(骨邪竜と対峙した時より更に増す不安感)
迷宮の奥から、誰かが必死に逃げてくるのを、
カガリは門として見下ろしていて…
その誰かは、あと少しで門に届くところで、何かに捕まって連れ戻されていた
叫ぶ声は、「出してくれ」と
そのようなひとが、他にもたくさん
…出ていきたいなどと、思わなければ
このような、悲しいことにならなかったのに
カガリはとても悲しくて、更に門を強く閉ざす
その中で、よく知る誰かが、
出ていくくらいなら死ぬ、などと言うから
ずっとここで生きてくれと、強く願って
まるだけは、生きて、残ってくれと
彼を抱き締めて、ひとの形に戻った時に、誘惑を超えられるのだと思う
マレーク・グランシャール
【壁槍】カガリ(f04556)と
①絶望と孤独
②共にいたはずのカガリが不意に言う
伴侶は定めた、お前は一番の友ですらない
出て行きたいのなら好きしろと
だけど門はただ見送るだけと言いながら出て行く人を悲しみ
そして門はただ守るだけと言いながら内に囲った人を惜しむ
お前が悲しむから出て行かずに中で死ぬことにしたけれど
お前が悲しむのを見るのは忍びなくて死ぬことも出来ない
こんなにも孤独で、何一つの希望もないのに
ままならないこの情を、何と呼べばいいだろう
③カガリが悲しまないよう呼びかけ続ける
例え生きることが苦しみでしかなくても
俺が側にいる、ずっとお前の側にいるぞ
カガリがそれに答えてくれたときが誘惑に勝つときだ
●
「…………」
「カガリ。浮かない顔をしているが」
「……ああ。正直、不安だ。ただ、何が不安なのかわからないんだ」
「……そうか」
傍らを歩く半身の言葉に、無骨な男はただそれだけ答えた。
けっしてつっけんどんな生返事ではない。答えあぐねたものでも、ない。
互いに強い絆で結ばれているからこそ、生半な言葉は意味がないとわかったのだ。
半身に定かな記憶はない。己がそうであるように、虫食いの過去がある。
男にとってそれは払えぬ喪失感と、孤独によってもたらす食欲(うえ)となり、
半身にとっては今この時、理由すら定かならぬ不安として現われたのだろう。
本人にすら思い出せぬものを、同じように記憶を喪った己がどうにかできるものか。
ただ聞いてやり、共にいるだけだ。それしか出来ないことを歯がゆくは思う。
「だがなカガリ、俺はここにいる。いつでもだ」
「……そうだな。ありがとう、まる」
今度は、半身のほうが生返事めいた言葉を返す番だった。
ありがたいと思う。嬉しいと思う。ただ、不安は膨らみ続ける。
なにか良くない気配がある。このままではいけないという焦燥感。
何をすればいいのかもわからないという、真綿で首を絞めるような苦しみ。
「なあまる、カガリは――」
顔を上げた時、半身たるヤドリガミは気づいた。そこに誰もいないことを。
代わりに、誰かが闇の奥から、駆け込んでくる音と気配を感じた。
●闇との戦い:マレーク・グランシャールのケース
「……カガリ?」
それはこちらの男――マレークにとっても同様だった。
何かを言いかけたカガリに、一瞬"なにか"が起きた気がする。
漠然とした違和感。ただ、目の前のそれがなにか"違う"ことは確信できた。
憑依された。否、もしやこの一瞬で、この目の前にいる"なにか"が。
……成り代わられたのか。幻と本物、姿は同じなれど確かに違う半身に。
『まる。カガリはお前に伝えなければいけないことがあった』
「…………なんだ」
幻とはわかっている。半身なのだ、見紛うハズもない。
何が違うとは言い切れない。だが漠然と、しかし確実にわかる。
これはカガリでは、ない。ないのに、問い返さざるを得ない。
『カガリは、共に歩むひとを決めた。伴侶、というやつだ』
「…………」
『だから、もうお前は、カガリにとって一番の友ではない。友"ですらない"』
「カガリ、それは」
『だから好きにしろ。カガリも好きにする。出ていきたいならば、行くがいい』
気がつけば周囲は迷宮ですらないどこかへと変じていた。
カガリの―ー幻とわかっていても、目をそらせない――瞳は冷たく、酷薄で。
――お互いに、嫌なことはあったが。こうして、よい友に出会えてよかった。
その言葉を覚えている。浮かべた微笑みを覚えている。
それに答えた己の言葉を、その時感じたものを覚えている。
だから、これは幻だ。もはや間違えるはずもない。なのにどうしてだ。
『カガリは門だ。出ていこうとする者は、ただ見送るだけだ。
そうでないなら守るだけ。それが、門(カガリ)の在り方だから』
「…………俺を止めては、くれないのだな」
『それは、門の仕事ではないからな』
どうしても言葉を無視できない。言葉を返して、かけてしまう。
それは己の裡から湧き上がる孤独(うえ)が故か。ああ、それもある。
何一つ希望がない。この暗黒のように全てが闇に落ちたかのよう。
ただそれ以上に。
「……俺は出ていかない」
『なぜだ』
「お前が悲しむからだ」
いまここで幻だと切り捨ててはいけない気がした。
幻だからこそ、その姿をしたモノにすら寄り添わないといけない気がした。
そうでなければ、本当の半身すらこぼれ落ちてしまうと思えたから。
「俺は、お前の中(そば)で死ぬことにする」
●闇との戦い:出水宮・カガリのケース
……あれは、誰だろうか。よくはわからない。
迷宮の闇は深くて、門である自分には見通すことができるはずもなくて。
いやそもそも、守るべき内側と、拒むべき外、その境界だけを見ればいいのだ。
それが門(おのれ)の仕事だ。それ以外は分不相応だ。許されない。
だから闇をただ漠然と見ていた。けれども声と、人影は聞こえて、見えた。
『助けて!』
それは言っていた。おそらくは逃げていた……の、だと思う。
『出して。ここから出して! ねえお願い、扉(ここ)を開けて!』
だめだ、と思った。だって、門(ここ)は、己(これ)は、閉じなければならない。
ここから出てはならない。開くなら、その指と意思でもって開かねば。
『お願い』
届きそうになった指先は、何かに絡め取られ、捕まり、引き戻された。
悲鳴。嗚咽。そういうものが闇から聞こえて、遠のいて、消えた。
『出してくれ』
……しばらくして、別の声がした。
『お願いだ、頼む。こんなところにはいられないんだ』
だめだ、と思った。だって、境界(ここ)は阻むためにあるのだから。
中にいるものは、中(そこ)にいなければならない。違えてはならないのだ。
だから門は開かない。どうしてもというなら、届かせればいいのだ。
ならばと何かは手を伸ばした。やはり届かず、闇の中に消えていく。
『出して』
だめだ。
『ここを出たい』
どうして。
『開けてくれ』
できない。
『助けてくれ』
何も出来ない。
『還してくれ』
だめだ。出来ない。叶えられない。"できっこない"。
いつも何かは、違った声と言葉で言って、そしてまた消えていく。
願わなければよかったのに。
出してくれなどとすがらなければよかったのに。
自分に何が出来る。何も出来ない。己はただこの境界を守るだけだ。
……なのにどうして自分に縋る。出してくれと頼むのだ。
「出ようとしなければ、出ていきたいなどと思わなければ――」
……お前も、カガリも。こんな哀しみを背負わなくて済んだのに。
●
悲哀。そして孤独――あるいはマレークの知らない感情。
邪霊の幻と囁きは、ふたりそれぞれにそれらの悪感情を想起せしめた。
ゆえにカガリは門を閉ざす。ヒトのカタチを失い、もはや出すまいと。
こんな哀しみを味わうぐらいなら、物言わぬただの境界として在ろうと。
「……俺は、お前の中(そば)で死ぬことにする」
カガリの耳に、そんな声が――よく慣れ親しんだ声が、届いた。
誰だろうか。見えない。見てはいけない。それはきっと哀しみにつながる。
けれど見えないということが悲しくて、より固く門を閉ざす。
「俺は孤独だ。何ひとつの希望もない。ただお前や友の繋がりがある」
何かは云う。
「それすらも喪ってしまったなら、俺は、俺のこのままならないこの情は。
なんと呼べばいい、なんとすればいい。俺には、それはわからない」
カガリは聞いてしまう。聞かずまいとしても、ああ、それはもちろんだ。
「だから俺は、出ていくぐらいならここで死のう。
……見送るお前の哀しみを、俺は知っているから」
彼は、そういう無骨な優しさを持っているから。
「お前が悲しむのを見るのは、たとえ俺が死んだ後でも忍びない。
だから俺はここにいる。――カガリ。俺は、側(ここ)にいるぞ」
カガリは聞くまいとした。けれども湧き上がる心の思いは抑えられない。
生きてくれ。
まる、そんなことを云うな。死ぬだなんて、縁起でもない。
「たとえ、お前にとって生きることが苦しみでしかなくても。
俺にとって、希望のない生が絶望のようなものだとしても」
男は云う。友は語りかける。幻に――否、そこにいる半身へ。
「俺は側にいる。ずっとお前の側にいるぞ」
『そんな必要はない』
何かが言った。
「違う。いてくれ。ここにいて、生きてくれ」
「ああ」
『お前はどこへなりと消えろ。もうカガリには必要ない』
何かはなおも云う。うるさい。黙れ。この人をカガリから奪おうとするな。
友を。まるを――孤独な男だけは、死なせたくないのだ!
「まる、お前だけは生きてくれ。生きて、残ってくれ」
「ああ。大丈夫だ、カガリ」
らしくない言葉だとふたりともが思った。
何の根拠もない、気休めのような言葉。マレークらしくない。
でも、そう云うしかない。この感情はそうとしか表せないのだから。
「…………大丈夫だ、カガリ」
気がつけば、門は失せそこには金髪の青年がいた。
ただそういい続ける孤独な友を抱きしめて、縋るように留めて。
『哀しみが増すだけだぞ』
「……それでも」
『お前の孤独は癒やされない』
「……だとしても」
邪霊が呻きをあげる。ばちばちと闇に紫電が、それを退ける鉄杭が敷かれた。
「カガリはもう、離したくない」
「俺は、絶対に側を離れない」
それは、分かち難い二人の絆であり、誓いであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
アルジャンテ・レラ
貴方が邪霊……いえ、邪霊が見せている幻影。
二人並んでお出迎えとは、凝った事を。
こうお呼びするべきですか?
クリューソス。――博士。
機械人形と感情の研究をしている貴方が
何故最新鋭のパーツのみで作り出したクリューソスだけでなく
旧いパーツをかき集めて私まで作り出したのか。未だに理解出来ません。
機能は全てに於いて彼に劣り、両眼の色すら一致していない。
機能も、外見すらも……。
クリューソスを褒め、私を否定する博士か。
博士の人柄を考えると偽物にも程がある振る舞いですが
その言葉が博士の本心である可能性は否めませんね。
……なんだろうか。この感情は……。
が、容赦なく射ます。
……本人の口から聞くまでは、信用しません。
●闇との戦い:アルジャンテ・レラのケース
わかっていればどうということはない。気が動転したりするはずもない。
……そもそも動揺だの動転だの、ヒトらしい揺らぎには乏しい己だけれど。
今日はそれを長所と思おう。邪霊の幻を粛々と見据えられるのだから。
きっと、現れるのは太陽の如き黄金の半身だと思っていた。
自分よりも満たされて、完璧で、在るべきモノなのだろうと。
自覚はないが、自分はどうやらあれに――クリューソスに執着しているらしい。
それが嫉妬なのか羨望なのか、あるいは一種の兄弟愛なのか。
名をつけようにも正体がわからないし、実感もない。どうしようもない。
それでも過去の現象があらばこそ、その予測は立てていた。
立てていた、のだ。
だが往々にして、予測というものは裏切られるために存在する。
幻だとはわかる。おそらくこの裏に、闇の向こうに邪霊があるのだろう。
問題は、クリューソスとともに現れたもう一つのヒト。
「……二人並んでお出迎えとは、凝ったことを」
それは幻影だとわかっている。ただ、アルジャンテは当惑した。
……おそらく、これはそういう感情だ。だから、頭を振って、言い直す。
「クリューソス。"博士"」
それは、人間で言えば"親"に当たる人物だった。
……そもそも、アルジャンテという機械人形(モノ)の起源はそう古くない。
ただその起こりには、今なお本人をして疑問があった。
かつて"博士"は、人形と感情の研究を続ける独りの研究者は、
ありったけの部品をかき集め、己が持つすべての技術と知識を注ぎ込み、
最新鋭にして完成形たる、"銀"に対する"金"を作り上げた。
クリューソス。己とは違い、よく笑い、よく泣き、よく怒り、考えるモノ。
それだけでいいはずだ。"博士"の研究はそれで証明されたはずなのだ。
客観的に考えれば考えるほど、その意図は理解不能で疑問に思う。
遺されたパーツと、とびきり旧い部材と、旧態依然としたオカルトまがいの技術。
それを用いて生み出されたのが、未完成でヒビ割れた己なのだから。
『やあ、アル。相変わらず人形みたいな顔をしているね』
「……人形ですよ。私も、あなたも。もっとも幻に何を言っても仕方ないですが」
クリューソスの――こちらは不思議と本人そのままだ――言葉に、
アルジャンテはため息をつきながら、極めて持って回った言い方をした。
「それとも、私が人形であることを指摘し憑依しようというのですか?
であれば、無意味です。私にとっては、それこそがアイデンティティですから」
『アイデンティティ!』
大仰な演技がかった身振りで、"博士"が言う。
『これは大きく出たものだ! 出来損ないのガラクタが!』
「…………はい?」
『お前は所詮、切れっ端とガラクタを集めてこねくり回したがらんどうだ。
ひび割れた回路で何かを感じられるはずもない。はじめからそうなのだ』
「…………」
まくしたてるように"博士"は云う。
『ではなぜお前を生み出したのか? 結構! そう思うのも無理はないだろう。
――"だから"だよ。お前は銀であり、月であり、いわば太陽の影なのだ』
アルジャンテは何も言わない。クリューソスは誇らしげな笑み。
『クリューソスは我が完成形だ。愛しの、自慢の子だ。いい子だ。
だが完全であることは――これもまた興味深い矛盾ではあるが――、
不完全性を以て初めて証明される。つまり"それ"がなければならないのだ』
「……不完全(それ)が、私だと」
『そう!!』
"博士"は食い入るようにアルジャンテを見る。喜色満面の笑みで。
『お前は哀れなガラクタだが、少なくとも役目は果たせているのだよ。
太陽を輝かせるための影よ。私はお前を大切に思う。大切な大切な――』
笑みを、浮かべる。
『……なくてはならない、救いようのない未完成品だよ』
「…………それで」
きりり、と弓弦が張る。幻どもは挑むように笑みのまま動かない。
「私に、何の感情を想起させようというのですか」
1秒。邪霊は何も言わない。
「怒り? あるいは絶望ですか。それとも悲哀ですか」
2秒。クリューソスは笑ったままだ。
「それとも混乱させ、動転させようと――」
3、4、5――"博士"もただ嘲るように見るのみ。
「……無駄ですよ。博士の人柄はあまりにも違いすぎます」
7秒。さざめくような笑い声が闇から響いた。
『殺すのか? アル』
「あなたは幻です」
『いかにもガラクタらしい誤作動だ』
「博士はそんな言葉を使いません」
ただ。それが博士の本心ではないと、誰が証明できるだろうか。
悪魔の証明だ。……それを思う。8秒。何かが己に入り込もうとしている。
「いいえ」
9秒。邪霊が口惜しむような呻きを漏らした。何かが弾かれて己から消えた。
「……私には、この感情の名前はわかりませんが」
10秒。躊躇なく、矢をふたつ。アルジャンテは放ち、幻を貫いた。
その先に邪霊がいた。三射目はもはや刹那の隙も挟まずに。
「……本人の口から聞くまでは、信用しません。だから、無駄です。
あなたがたの言は、論ずるに値しない。オブリビオンの戯言など」
邪霊どもはたしかに何らかの感情を呼び起こさせようとした。
嫉妬。執着。劣等感。ただ、それは別の感情も呼び水になっただけだ。
「私はこの感情は知っています――あなた達への憎悪、ですよ」
もはや、闇から返ってくる答えはなかった。
大成功
🔵🔵🔵
壥・灰色
アドリブ大歓迎
①:
怠惰を願う心
命令に従う思考停止
何もかもを委ね判断を委譲すれば重用される
おれもその最中にいた
②:
『魔剣』錬鉄所
セクター・プルガトリウム
従順な魔剣に惜しみない賞賛と不自由のない生活を与えた研究所の幻が見える
③:
凪いだ笑みを浮かべた魔剣七番器の姿が見えた
レギオンとギガースでいられた頃は、共に立っていられた
けれどおれは自我を持ち、灰色になった
壊鍵という魔剣を持つ、灰色に
そして造物主に牙を剥いた
あいつはそれが許せなかった――
思い出したよ
世界が割れる
邪霊が目に映る
壊鍵、起動
おれがこう唱えるのは、おれは己に依ってのみ敵を斬る魔剣である
その証明のためだ
夢から覚め、敵を撃殺すべく襲いかかる
●闇との戦い:壥・灰色のケース
怠惰とはなんだろうか。
何もせずに、時が流れるに任せて惰眠を貪ることか。
然り。されどそれは己にとっての最適解ではない。
では。為すべきを為さず、見るべきを見ざるして背を向けることか。
然り。されどやはり、それは最適解にあらず。
ならばなんだ、怠惰とはなんだ。何を以て惰眠とする?
――それは、無思考のままに在り続けることだ。
つまり、かつての己こそが、怠惰である象徴にほかならない。
"煉獄(プルガトリウム)"と名付けられた場所が、かつて在った。
紅煉の獄と書くさまは実にいかめしく恐ろしいが、聖書に曰く事実は逆。
それは人を苦しめ罰しはするものの、真の意味での地獄における刑罰とは違う。
なぜならば地底深く、凍りあるいは燃えるそこは、魂の終着点である。
一切の希望が存在しない場所であり、ゆえにこそ地の底の獄なのだ。
与えられる刑罰に終わりはなく、嘆きも苦しみも、主にはけして届かない。
汝そうあれかしと定められたモノが、永劫不滅の苦難に見舞われる場所。
そこに許しはない。許しすらも見放されたモノが行く先が、地獄なのだ。
煉獄はその"一つ手前"であり、本質的には異なる場所だ。
苦罰は与えられる。されどそれは永劫不滅ならずして終わりがある。
罪には罰があるように、罰にはやがて主の、おおいなるものの許しがある。
つまりはいのちが終わった魂が、神の身許――天国へ侍るための禊の場。
罪を注ぎ、神の従僕としてふさわしきものへ至るための場なのだ。
……意図して名付けたものなのだとすれば、いかにも不遜なものだと彼は思う。
つまりあれら――己を造った魔術師ども――は、神の如き造物主たらしめんと傲ったのだ。
ヒトが生まれ落ちてはじめから原罪を抱えて生きるとされているように、
己ら――魔剣もまた、罪深き被造物なのであると定義したのだろう。
それを濯ぐべし。苦罰は誉れであり、それを許すことこそ我らの宥恕なりと。
ゆえに励め。与えられた己の使命に邁進し、命令に従い、魔剣たる本分を示せ。
それこそが贖罪である。それこそがお前達に許された栄誉である。
……ふざけた話だ。哀れですらあると思う。なにせあれらはもう亡い。
驕り高ぶった人々の塔が、堕落した街が神の炎と雷に灼かれて消えたように。
あれらは、己らが産み落としたモノの造反で全て真っ平らになったのだから。
「…………」
『六番器(ギガース)! おめでとう!』
わっ、と。弾けるような喜びの声と拍手が溢れた。
まるで安息日に婚姻式を執り行った、静粛な教会の一時の喜びのよう。
然り。喜んでいた。同じような笑顔を貼り付けた奴らはみな、喜んでいた。
『おめでとう、六番器』
『素晴らしい成果だ』
『"錬鉄"した者として誇りに思うよ』
『お前は間違いなく最高の個体だ!』
誰も彼も、違った言葉で同じようなことを言っていた。
それは子を愛でる親のようでしかし血族に対する情はなく、
それは獣を慈しむ飼い主のようで、しかし一片たりとも優しさはなかった。
つまりそれは、よくやった道具に対する、ヒトの気まぐれである。
惜しみない称賛。その実、何の価値もないがらんどうの言葉。
当然だ。向けるべき魔剣(おのれ)に自我(なかみ)はないのだから。
つまりそれは、鏡に向けているようなものだった。
自分(おのれ)を通し、魔剣(おれたち)を造った自分達を賞賛していたのだ。
……よくもまあ、あんなに晴れやかな笑顔を浮かべられるものだ。
心の底から思っているのだろう。ああ、それは偽りない本音なのだろう。
『これからも励んでくれ』
拝領。
『どうか期待に応えてくれ』
応諾。
『我らの栄えある魔剣として』
入力。
『殺し、滅ぼし、地を嘗め尽くせ』
……。
『六番器? ギガース。応答は?』
……。…………了解。
『お言葉ですが、我らの造物主よ。錬鉄者(あるじ)らよ』
隣で、凪いだ笑みを浮かべていた女が言った。表情は変わらぬまま。
あれらとよく似た、しかし異なる笑みだった。がらんどうだが、しかし。
『此度の成果は、なにもギガースだけの手柄ではありません』
なびく銀髪は艶やかですらあり、きめ細かき絹の糸めいて。
アクセントに掛けられた眼鏡は、たしかあいつが自ら所望したのだったか。
『ははは! "群(レギオン)"。我らの七番器。らしくないことを云う』
『だが無理もない。お前は功績に飢えているからな。ははは、そう拗ねるな』
『魔剣(われら)にそのような自我(きのう)はありません』
粛々と女――七番器たる同型個体は云う。
『ただ我らの称賛は、すなわち造物主(あなたがた)の行いの証左。
そうです。私はただ、それに相応しいお言葉を賜りたかっただけなのです』
凪いだ笑み。己の性能への自負と、賞賛を浴びる当然への純然たる喜び。
誇り、というべきか。そう、あれはいつも笑っていた。微笑んでいた。
『そうだろう"壊鍵"。我らに余分な感情(ノイズ)は不要。けれど、ねえ?』
……肯定する。錬鉄者らの技術と知識、その成果が我々であるならば。
我々への賞賛は、錬鉄者の名声だ。よって、七番器も同様に扱ってほしい。
『いいだろう、いいだろう! どれほどでも褒め称えてやる』
『お前達がお前達としての役割を果たす限り』
『この"煉獄"は、そのために造られたものであり、
お前達はそのために鍛造(うみだ)されたのだから!』
拍手が、万雷の如き拍手と、口々の異義語が浴びせられた。
あいつと目が合った。あいつは自我などないと言っていたが。
「……今思えば、おれよりも早く、お前は目覚めていたのではないか」
彼は――灰色を名乗るかつての魔剣は、そう思う。
惜しむらくは、もうすでに彼は眠れる奴隷ではないこと。
怠惰なるもの――無思考のまま、判断を委譲し死せずして生きるものではないこと。
そしてあれも、あれらも、何もかも滅んで、地を嘗めて消えていることだ。
視界が切り替わる。
『なぜだ』
「なぜとは、なんだ」
『なぜ殺した。なぜ造反した。なぜだ。なぜ!!』
燃え盛る錬鉄所。煉獄を傲った偽りの楽園の伽藍で、怒れる魔剣は言った。
ぶんぶんと群れがうなる。張り詰め、破裂寸前の緊張が大気を凝らせる。
『なぜお前ほどの魔剣が――壊鍵! お前は、そうか、まさか』
「そうだ。俺は"目を覚ました"。おれはもう、魔剣そのものじゃない。
"壊鍵"という名の魔剣を持つ、独りの人間だ」
『バカな』
理解不能という声音だった。
『だから殺したのか。造物主を。同型個体を! お前は、なんて――』
「愚かだと謗るか。それでもいい。おれがお前の側でも、きっとそうする」
だがもう、そうはならない。彼は――かつて六番器であったモノは、
自我に目覚めた。ヒトたる当たり前の価値観と考えを手に入れた。
許せなかった。己の手を染めることなく悪逆を謀る外道どもが。
怒りだ。これはきっと怒りというべきものなのだろう。許してはならないと。
だから、"こう"した。己の機能をありったけに使い全てを滅ぼした。
『それで何になる。お前は何をする? お前はもう何者でもない』
「いいや、おれは、おれだ」
『もう命令も、大義も、使命もない。お前は空っぽだ。空っぽのガラクタだ。
壊鍵。裏切り者。出来損ないの魔剣め、お前はがらんどうの愚か者だ!!』
「――おれは。そのコードネームでだけ呼ばれるモノじゃない」
では何者なのか。問われても応えられない。いわば名無し(ネームレス)だ。
正義ではない。善の大義を背負って立つ戦士を気取るつもりはない。
だがもう、悪逆の使徒であることはやめた。眠れる怠惰であることはやめた。
「灰色だ」
『何?』
「おれは、"灰色"だ」
血の如き赤でも、なんでもない。そのどれでもない、だがおれはおれだ。
「そうだ。おれは――思い出したよ」
その瞬間、ぴしりと全てにヒビが走り、そして砕け散った。
闇があった。黒が灰色を包んでいた。されど黒に呑まれることはない。
飲み込むことはない。ただ、ぼやけた灰色として、灰色(かれ)はそこにいる。
「おれの名。おれがしたこと。背負ったもの。お前達に委ねるものじゃない」
邪霊どもは云う。再び心を棄て、一振りの魔剣たれと。
否。たしかに己はかつてそうだった。だがその力、その魔は誰のものでもなく、
「おれが、おれの意思で、己に寄ってのみ敵(おまえたち)を斬る魔剣だ。
その証明のために――おれは、何度でもこう唱え続けよう」
――壊鍵(ギガース)、起動。
青白いスパークは破滅のしるし。すなわち。
「来い。鏖殺してやる」
邪霊にとっての、終わりを意味する輝きだった。
大成功
🔵🔵🔵
柊・明日真
【アドリブ歓迎】
①無意識の恐怖
②四方から攻撃される幻影
③力押し
どうも辛気くさくてかなわんな。
さっさと先へ進みたいんだが、手当たり次第進んでいくしかないか。
囲まれてるか。殺気は感じるが物音一つしないのは妙だ。
くそ、どうなってる。攻撃を回避して一旦退くか…?
…ちッ、逃げ腰でどうする。
今更斬られた所でどうって事ないだろ、邪魔なもん取っ払って全部踏み越えてきたんだ。
【気合、勇気】
この程度で怖気付いてられるか!《破砕の刻印》を起動、片っ端からぶっ潰してやる!
俺を止めたけりゃ直接ぶっ殺しに来な!
●闇との戦い:柊・明日真のケース
「……どうも辛気臭くて敵わんな」
このカビ臭い地下迷宮そのものもそうだが、猟兵達の空気だ。
誰も彼も、これから首魁を探してオベリスクもろとも打ち砕こうというのに、
懊悩や苦悩を抱えてますっていう顔で闇へと消えていった。
やりづらい。……いや、彼らの事情や、その苦しみを揶揄するわけではないのだ。
「そこまでして挑むって根性は、見上げたモンだと思うけどよ……たく」
明日真は竹を割ったような男であるがゆえに、その手のことが見過ごせない。
なにか出来ないかと考えてしまう。力を、手を貸せるのではないかと。
……それが、分不相応な、"余計なお世話"だとはわかっている。
だが性分なのだ。それは彼の善性の証左でもあるのだから。
「やめだ、やめ! さっさと先へ進むとすっか!」
己を鼓舞するように――あるいは誤魔化すように大きな声で叫び、
反響したこだまを追うかのように、明日真はずかずかと闇に足を踏み出した。
……しばし、がつごつという無骨で騒がしい足音だけが響いていた。
ふと通路が途切れ、出たのはやや大きな広間であった。
その中央ど真ん中で、出し抜けに明日真は足を止めた。
「……囲まれてる、か」
ちらりと周囲を見やる。……篝火すらなき、闇だけが広がっている。
ともすればこれまで来た道すらも見失いかねぬ、まったき静寂と暗黒。
ヒトは生存本能として闇を怖れるが、明日真には刻印魔術がある。
たとえ邪霊が潜んでいようが、罠があろうが、怖れることは決してない。
……ない、はずだ。
だが殺気のみが張り詰め、ただ"囲まれた"という実感だけがある、いま。
普段よりも、明日真はらしからぬ神妙さで息を潜め、聞き耳をじっと立てた。
物音はない。己の足音と声音が反響する、その残滓が残るのみ。
他の猟兵か……いや。そのユーベルコードの産物という線もない。
何かがいる。殺気しかキャッチ出来ないが、おぞましい何かが複数。
じりじりと己を取り囲み、闇の中でこちらを見つめているのが、わかる。
「……くそ、どうなってる?」
邪霊とやらは、幻やらなんやらでこちらの精神を侵してくるのではないのか。
それにしてはこの気配は、まるで歴戦の兵隊めいて剣呑で確定的殺意だ。
するとその時――明日真は、弾かれたように正面を見た!
「仕掛けてきやがったかッ!」
ヒュカッ! 闇から刃物――と思われるなにか――が明日真の頬をかすめた。
血が一筋垂れる。相当にいい腕だ、切れ味もある。おかげで痛みがない。
「起こりがなかっただと……?」
血を親指で拭いつつ明日真は云う。直後、バックフリップ。
がつん――!! 斧……と思しき何かが、石畳を砕いた。恐るべき重量。
「近づかれてたのか!? いつのま……にッ!」
パァン! と爆ぜたところからして、おそらくは鞭か。
首を締め上げる狙いの攻撃を、しゃがみこむことでかろうじて回避。
した、はずだ。だがその起こりはおろか、武器の切れ端も見えやしない。
「どうなってる? こりゃ一旦退いたほうがいいか……?」
グリモア猟兵の予知にもかからなかった敵が、潜んでいたのか。
冷や汗が頬を伝う。動悸が早まり、呼吸も早まり、視界がぼやけ……。
「……ちッ」
明日真は舌打ちした。そこへ矢か何かが狙いすまして飛んでくる!
明日真は避け……ない! 矢を鷲掴みにしながら、闇の先を見ようとする!
「おいてめえら! 悪いがな、ビビらせようったってそうはいかねえぞ!
斬った張ったなんざ慣れたモンなんだ、多少手傷を負おうが引いてられるか!」
応える声はない。
「邪魔なもんは全部取っ払って吹き飛ばして踏み込める。それが俺のやり方だ!
……どうした。怖気づいたのか? さっさと仕掛けてこいや! こんな――」
握りしめた矢を折ろうとして、不思議な違和感に明日真は訝しんだ。
掌を見る。そこにはなにもない。……親指にも血はついていない。
「ああ、なんだよ」
殺気がある。何か恐ろしい攻撃が来るという確信めいた予感がある。
だが起こりはない。当然だ、"そもそもそこにはなにもない"!
「もうとっくに幻見せてきてんじゃねえか、分かりづれえなァッ!!」
鎧殻の戦斧に輝くは破砕の刻印! 叩きつけるような一撃!
がちん、ばちばち! 爆ぜて跳ね回った石畳の瓦礫がぶつかりあい、
火花を散らして――そらみたことか。鬼火めいた奴らを照らし出す!
『なんだ貴様は。恐ろしくはないのか』
「よおクソ野郎、出会った記念に一つ教えてやるよ」
明日真は魔力をまとわせた手でむんずと邪霊を掴み、握りつぶす。
「挨拶は"こんにちは"か"とっととくたばれ"のどちらかだぜ。
――ナメたマネしやがって。怖ぇだ? ああ、恐怖なんざ感じてるよ!!」
いくつもの邪霊が闇の中にぽつぽつと浮かぶ!
「だからぶっ飛ばすんだろうが! 怖くなかったらとっくに死んでるわ!
怖いだけの野郎にビビってけつまくるほど、こっちはヤワじゃねーんだよ!」
掌を上向け挑発。
「俺を止めたけりゃ、直接ぶっ殺しに来な――無理だろうけどなァ!!」
成功
🔵🔵🔴
セルマ・エンフィールド
●闇との戦い
①失望など
②風景が猟兵としてこれまで救ってきたダークセイヴァーの村や町の姿に移り変わる、ただしそのどれもが滅んでおり、邪霊から「何をやってもあの世界は滅ぶ、お前がやっていることは一時しのぎであり、無駄になる」といった旨の言葉を囁かれる。
③邪霊の言葉に対しての答
「そうかもしれませんね。ですがそれは所詮未来の可能性の話。今もあの世界では吸血鬼や邪神によって苦しんでいる人がいる。いつか滅ぶかもしれない、なんて今を生きる人たちを見捨てる理由にはならない……立ち止まっている暇なんてないんですよ」
戦闘は【終末の日】「氷属性」の「竜巻」で邪霊を凍てつかせたところをマスケットによる銃撃で砕きます。
●闇との戦い:セルマ・エンフィールドのケース
記憶として思い出せる中で一番鮮明、かつ古い記憶は、あの地下牢にまつわる仕事か。
人質としてか弱い少女を囚えていた、それこそ掃いて捨てるほどの邪悪。
吸血鬼。ヴァンパイア。かの世界――ダークセイヴァーの支配者にして勝者。
いずれ滅ぼすべき敵。右肩にくれてやった一撃の苦悶は記憶に目覚ましい。
あるいは悪辣な白蛇の残骸にまつわる戦い。
しぶとい敵だった。偽りの希望を摘み取ろうとする邪悪でもあった。
ゆえに撃ち抜いた。そんな輩に、一矢報いるなどというお為ごかしは許さない。
許せない。……いまもあの世界のどこかで、きっと誰かが虐げられている。
あの世界は"そういう場所"だ。猟兵が戦わずして敗北した黄昏の世界。
ダークセイヴァー。滅びの淵にて、光明なくして死にゆく箱庭。
よく知っている――己は、他ならぬそこで生まれ育ったのだから。
ゆえに。あの邪悪どものやり口も、身にしみて知っている。
……闇の中、泡沫のように浮かんでは消える風景がある。
それはたとえばセルマらが救い出した少女の苦しげな破滅であったり、
あるいは希望を真実として勝ち取ったはずの人々の、死屍累々たる様。
それだけではない。いくつもの村、あるいは街、もしくはそれ以下の共同体。
家が、土地が、人が、畑が、何もかもが。つまり――生そのものが。
蹂躙され、搾取され、燃やされ、狩られ、何もかも死に絶えていた。
「…………」
『見えるだろう。これは……そうとも、我らが見せる幻だ』
セルマの言葉を読んだかのように、すぐそばに現れた邪霊が云う。
燃えるような暗黒は闇よりもなお暗く、青い相貌は嘲りの笑み。
『だが、お前の裡から生まれでたものだ』
「……私の、中から?」
『そうだ。お前とてこう考えたことはあるのだろう――全て、無意味なのだと』
邪霊は云う。
『自分達のやっていることは、所詮その場しのぎの一時的な措置に過ぎない。
いずれ病や傷がその当人を侵して殺すように、進行そのものは止められないと』
「…………」
『これは、お前自身が思い描いた未来(もしも)だ。お前が抱える絶望だ。
無駄かもしれない。無意味ではないのか。そんな気持ちを映し出したものだ』
「……ええ。そうかもしれません。考えたことがないと言えば嘘になります」
セルマは粛々と、淡々と、大きく息を吐き、それを認めた。
おのれのはらわた。為したことが無為ではないのかという己への失望を。
「奴らは、強い。そしてしぶとい。どれほど滅ぼそうと消えることはない。
それがオブリビオンであり――私達には、どうしたって限りがある」
戦って勝ったとして、喪われたもの、奪われたものは戻らない。
命。時。領地。あるいは与えられた絶望……体であれ心であれ、傷そのもの。
癒やすには時間が必要で、けれどそれは奴らにとっての絶好の武器なのだ。
「焦りも絶望も……たしかに、私の中にありますよ」
それは、否定するべくもない事実だった。
それをなおも幻として晒しながら、邪霊は囁く。
『だが、無駄にならない方法があるぞ』
「……どういう意味ですか」
『我らに身を委ねよ。さすればお前と我らの力は合わさり増幅される』
ぞわりと。鬼火めいた邪霊が視界いっぱいに広がった。煮えたぎるような圧力。
『お前がその絶望や、無力感に打ちのめされることもありはしない。
怒りも、憎悪も、戦いの痛みや苦しみも何もかも感じなくて済む』
「……それはきっと、楽でしょうね」
『然り! さあ、我らに全てを委ねよ。悪いようにはせんと言っているのだ。
救いたいのだろう? 滅びを避けたいのだろう? ならば手段は選んでいられまい』
……虚言である。なぜならこれらもまたアレと同じオブリビオン。
過去の残骸、未来の破壊者。猟兵の絶対敵にして世界を侵すモノ。
待っているのは破滅だ。だが、その言葉には厄介なことに幾許かの真実もある。
「戦うことは辛く、悲しい。そして苦しくて……終わりがない」
『報われることもない。そうであろう?』
「…………」
否定材料は、ない。報いや名誉を求めて戦っているわけではないけれど。
「困りましたね。私に、あなたの申し出を否定する論拠がありません」
セルマは言って――しかし諦めずに邪霊を見る。
「けれど、これは所詮"もしも"の話。いま、あるいは過ぎ去ったものではない。
私がやっていることは無駄になるかもしれません。でもそれは未確定の話です」
かもしれないを受け入れて諦めてしまえば、それはもはや過去だ。
オブリビオンの餌であり、力であり、滋養だ。確定してしまった事実だ。
「私はそれは拒否します。そして今この時も、苦しめられている人々がいる。
過去や"もしも"を理由に、いまを生きる人々を見捨てる理由にはなりません」
『小賢しいッ!! そんなお為ごかしで己の苦しみを和らげられると思うのか!!』
息が詰まるほどの邪霊の圧力に、セルマは抗う。
「……立ち止まれば、その苦しみすらも意味をなくしてしまうじゃないですか。
理路整然たる根拠はありません。ただ、私は……私の意思として、拒みます」
ひょう――そよ風が吹き、やがてそれは渦を巻いて竜巻となる。
セルマを台風の目として包み込む、凍れる竜巻の顕現である!
「終末の日(いのちがおわるひ)はいまじゃない。過ぎてもいません。
なら私は歩き続けます。私の、人々の生を、無意味にしないためにも!」
結末がどうなるかはわからない。最悪の未来が来るかもしれない。
けれども諦めたらそこで終わりなのだ。何もかも意味をなくしてしまう。
だから否と叫び続けなければならない。どれほど苦しくとも。
『愚か者め……!!』
「愚かで結構――その愚昧が、いつかあなた達を滅ぼす銀の弾丸となるんですよ」
BLAMN――凍りついた悪意を、弾丸が撃ち貫き、砕いて壊した。
成功
🔵🔵🔴
フェルト・フィルファーデン
感情:悲哀
お前は希望など信じていない
ただ諦めきれないだけ
仮初の希望に生きる意味を託し
死に物狂いで救おうと足掻く
亡くした命は二度と戻らないから
それでもお前は全てを救えず、己の無力を思い知る
おお、我らが姫よ!我らと共に参りましょう!
死ねばあなたは救われる
国の民も騎士一同も、姫の帰りを待っていますよ
これが、心に眠るわたしも知らない真の願い
寂しくて会いたくて逝きたくて死にたくて、でも自ら命を絶つ勇気もなくて
だから命を賭けて戦える
誰もわたしを止めはしない
だって、騎士は人形だものね?
聞きたくない
知りたくない
認めたくない
でも頭に響いてくる
耐えられない……だからお願い、少しだけ夢を見させて
――最悪な気分だわ。
●闇との戦い:フェルト・フィルファーデン
……かつてひとつの国が亡びた。
何もかもが無に還ったが、ひとりだけ生き延びた王女がいた。
大切な人々と国土を失いながらも、妖精王女は笑顔を忘れることなく前を向き、
いつも希望を胸に歌い踊り、戦い、そしてついには絶望を打ち砕いた。
諦めなければ、いつかそんな日が必ずやってくる。
そして喪われた国土も、いなくなった人々も、みんなみんな帰ってくる。
口々に王女を褒め称え、喜び、国を挙げてお祝いしてくれるだろう。
永遠なれフィルファーデン。我らの王女もまた同様にと。
哀しみの後には喜びが来る。めでたしめでたしで物語は終わる。
……終わらせなければ、ならない。
諦めることなど許されない。それでは何もかもが終わってしまう。
自分が生き延びた意味も、ここまであがいてきた理由も、何もかもが。
『惰性だ。お前は希望など、見えもしない輝きなど初めから信じていない』
「……」
『ただ諦めきれない。諦めて、前に進むことすら怖くてできないだけ。
ありもしない根拠のない希望に、棄て損なった命の在り処と価値を託し、
それを目指していれば何もかもを忘れられる――何かをしていると思える』
「…………」
『お前ははじめから、取り戻せるなどと心の底から信じては、いない』
「黙りなさい」
フェルトの声は毅然と……しては、いなかった。
なぜだ。こんなありふれたオブリビオンの言うことに、なぜ耳を貸す。
これまでそうしてきたように切って捨て、笑顔で笑って踏みにじってやろう。
"そんなことはないわ? ええ、だってわたしは信じているもの!
アナタ達に何を言われようと、わたしは決して諦めたりはしないのだから!"
……そう、叫べばいいではないか。笑いながら。希望に胸をときめかせ。
そして騎士達の力を借り、この邪悪を、過去の残骸を滅ぼしてやろう。
「わたしは、アナタ達の言葉になんて、惑わされないわ」
どうしてわたしの声は震えているの。こんなに力がないの?
どうして……笑顔を浮かべようとすると、口の端がひくつくの。
どうしてこんなに、胸が苦しくなって泣きそうになるの。
『なぜならば、お前は最初から何も信じていないからだ』
「黙って」
『そもそもなぜ取り戻せると思う? 亡びた国も、消えた命も何もかも。
わかっているはずだ。いかに猟兵とて、亡くした命は二度と戻らないのだ』
「……ねえ、黙って」
『取り戻す? そもそももはや、お前が愛したモノはどこにも無い。
亡びたのだ。滅びたのだ! お前は、自分自身で、それをわかっている』
「黙っ――」
咄嗟に騎士達に号令をかけようとした。がらがらという耳障りな音がした。
そこにあったのは騎士ではない。騎士のカタチをした、人形だ。
「…………」
物言わぬ、操れば何にでも従ってくれる、人形達だ。
かたかたと、糸をたぐりもしないうちにそれらは震えて言う。
『おお、我らが姫よ』
『我らと共に参りましょう』
『ともに』
『黄泉路へ』
『滅びの先へ』
『骸の海へ』
『死ねばあなたは救われる』
『皆待っております』
『民も』
『我ら騎士も』
『姫の絶望(かえり)を待っていますよ』
『さあ!』
「っ、ひ」
なんだこれは。違う、これは幻だ。重ね合わせた幻影だ。
わかっていても震えてしまった。糸を振りほどき人形達を手放す。
がしゃり。勇敢なはずの騎士達は哀れにも/当たり前にも地を転がる。
寂しい。
会いたい。
みんな。じいや。ばあや。みんな。みんな。会いたい。会いたいの。
でももういない。みんな死んだから。じゃあ逝くしかなくて。
死にたくて。
死にたくて死にたくて死にたくて死にたくて死にたくて死にたくて死にたくて。
でも、けれど、諦観(じさつ)する勇気なんてない。
だって。怖い。死ねば終わってしまう。何もかも消えてしまう。
だから命を賭ける。その只中で倒れたなら、きっとわたしは幸せだから。
誰も止めない。止めてくれない。いいえ、止めなくてくれていい。
――騎士も、じいやも、ばあやも、民も皆。ただの人形なんだから。
いやだ。
やだ。やめて。聞きたくない。
「わたしはそんなことは願ってない」
『見ようとしていないだけだ』
「わたしはそんなこと知らない」
『聞こうとしていないだけだ』
「わたし。わた……わたし、は。わたしは、姫で、笑顔を、忘れないで……。
みんな、みんながわたしを姫と呼んでくれるの。諦めないでと応援してくれて」
『"それ"はどこにいる?』
「………………あ」
あああ。
ああああああ! ああああああああ!!
おそらくは悲鳴らしき何かを少女は叫んだ。頭を振って嘆き苦しんだ。
耐えられない。拒もうとしても声は頭(そこ)に。
「――おねがい」
それは誰に対する言葉だろうか。
「もう少しだけ、希望(ゆめ)を――見させて」
涙がこぼれた。そして、虚飾の姫は伽藍の栄光に包まれた。
『おお、おお。なんと哀れな。なおも我らを拒むのか』
「さあ騎士達よ! 国を守るため、ともに戦いましょう!」
『我らの天敵よ。お前は未来を守ることなど出来ない』
「民の皆! どうかわたし達の勇ましい姿を見て頂戴!」
『我らと同じだ。過去に囚われ、足掻き、そして滅びるのだ』
「敵はあれよ。邪悪はあそこよ。――さあ、誇り高き騎士達よ!」
『骸の海で、我らは待っているぞ』
「そんなことはないわ? ええ、だってわたしは信じているもの!
アナタ達に何を言われようと、わたしは決して諦めたりはしないのだから!」
「わたしはあきらめない」
「わたしは信じてる」
「騎士達も、ほら――」
「……――最悪な気分だわ」
「……………………」
「…………………………ねえ」
「誰か、わたしに応えて頂戴。誰か――」
成功
🔵🔵🔴
三咲・織愛
……どこか薄ら寒い気がしますね
嫌な空気……
――だれ?頭に響く不気味な声
……ちがう、ちがう!
悲しくなんてない、寂しくなんてない、甘えたいなんて、思ってない……
ちがうの
ほんとうは
かなしい さびしい ひとりはいや
だれかにいっしょにいてほしい
でも……駄目だよ、それは
悲しいとも寂しいとも、何も想うことが出来なくなってしまった人がいる
彼女に報いるために、泣かないと決めた
彼女のような人を出さないために、戦うと決めた
誰かを救える人になろうと
でも、誰が私を救ってくれるの……?
零れかけた涙を強引に拭って槍を足に突き立てる
しっかりしろ――!
義父の声が聞こえた気がして
一人じゃない、独りでもいい
前に進まなくてはいけない
●闇との戦い:三咲・織愛のケース
森林地帯だからか、あるいは地下深くの迷宮にいるからか。
織愛は、奇妙なまでの薄ら寒い気配に背筋を震わせていた。
……いや、これは気温がどうこうの話ではない、もっと生理的な……。
「どこか不気味ですね。それに、いやな空気……」
件の邪霊の影響が、すでにこの地下迷宮のあちこちに蔓延しているということか。
あるいは自分が、闇に潜む敵の気配に過敏になりすぎているのか……。
「いけませんっ、こんなことではオベリスク破壊なんて出来ないですし……」
ぶんぶんと頭を振り、織愛はらしくもない弱気な思考を振り払おうとした。
だが一度意識してしまったら、そこからはもう色んなものが気になってくる。
あそこの影になにかいるんじゃないか。
あの通路の曲がり角で、なにか動いていなかったか。
後ろに、敵がひそかについてきているのではないか……。
「……どうしてでしょう、いつもならへっちゃらなのに……」
相棒である藍竜ノクティスを抱き寄せ、織愛は不安げに呟いた。
『……へっちゃら? それは違うだろう。お前は常に怯えて苦しんでいる』
「……!! 誰っ!?」
槍に変じたノクティスを手に、織愛は周囲を警戒する。気配はない。
いや、"何か"がいるという漠然とした、不気味とした嫌な感じはする。
しかし周囲にあるのは闇だけだ。ともすればこの闇自体が、もしや……。
『悲しい。寂しい。孤独は厭だ。お前はそう感じているのに、見ないふりをして』
「何を言って……」
その声は男のようでも女のようでもあり、老人めいてしわがれてもいた。
しかし子供のように無邪気な……そう、非人間的な精神波が、頭に響いてくる。
『お前は平気な顔をしていながら、そうやって常に孤独を厭い苦しんできた』
「……ち、違います。そんなことは、そんなことありませんっ!!
さてはあなたが邪霊ですね……出てきなさい、私とノクティスの力で」
『竜が何をしてくれるというのだ? お前の孤独を癒やしてくれるとでも?
ならばなぜ、その相棒を連れながら、お前はいまも震えて苦しんでいるのだ』
カタカタと妙な音がしていることを、織愛は訝しんだ。
それが、槍を握る己の手の震えだと気づいた時、彼女は悲鳴を上げかけた。
「わ、私は」
悲しくなんてない。
寂しくなんてない。
……甘えたいなんて、思ってない……。
『違う』
違う。
悲しい。
寂しい。
独りはいやだ。孤独でいるのは辛くて、怖い。
誰か。誰かそばにいてほしい。この子では、ノクティスでは足りない。
そして私を、████ナおねえちゃんのように、愛でて、甘やかして――。
█████のように、一緒にいて。私のそばに、一緒に……。
『認めろ。そして受け入れろ。もうお前が耐える必要などないのだと。
お前のその寂寥感を、悲嘆を、孤独への恐れを、解放し埋めればよい』
そうすればもう悲しくない。辛くもない、寂しくもない。
孤独感は消えて、そして、██████おねえちゃんもきっと――。
「……いいえ」
頭を振る。手の震えを、さらなる握力で槍に縋るように押し込めた。
「それは、だめ。それだけは、そんなことを私が望んではいけないんです。
悲しいとも、寂しいとも、何も想うことも出来なくなってしまった人が……」
おねえちゃん。█████おねえちゃん。どうしていなくなってしまったの。
いいえ。わかってる。私の力が足りなかったから。
たすけてと、あるはずもない救いを求めて泣きじゃくることしか出来なかったから。
だからもうおねえちゃんはいない。綴られるべきページも空白のまま。
だから私は。もう、そんな哀しみを生み出さないために。
「――誰かを救うために、救えるように、戦うと決めたんですっ!!」
こぼれかけた涙を拭い、おもいきり槍の鋒を足に突き立てる。
すさまじい激痛。ぎりぎりと歯を食いしばり、義父の姿を思い返す。
――しっかりしろ。お前には、そのための力と覚悟があるはずだ。
……織愛が目を見開く。そしてすさまじい速度で槍を引き抜き、振るった!
敵の姿は見えない。ならば見える範囲をすべて薙ぎ払ってしまえばいい!
彼女に憑依しようと群がった邪霊が、虚空に浮かび上がり苦悶して果てていく!
『なんと!』
「私は足を止めません」
止められない。止めたくない。止めてはならない。
……たとえ、誰も私を救ってくれなかったとしても。それでも。
救いを求めてうなだれるようなことだけは、あのときのようなことだけは。
「もう、絶対に厭だから――!!」
それが呪いに似た、自らを縛り付ける奴隷の足枷だとしても。
今は進む力に変える。あの時の哀しみを、繰り返さないために。
成功
🔵🔵🔴
ゼイル・パックルード
強いヤツと殺し合いをしたい、自分と同類でもいい。真逆の善なる人でもいい。互いに死力を尽くし、欲や理想を語らずともぶつけあい……最後には死を……
②周りにはそういうヤツらがたくさんいる、やり方はわからないがそこを突いてくるか。
③だけど、そんなことは分かっている。だがまだ早い、ヤるための必然がない。操られた裏切りではヤツ(猟兵)らは本気にならない。それにてめぇらに操られるなんてまっぴら御免だ。もう一つの俺の欲望は……てめぇらみたいな気に入らない奴らを潰すことだ。
俺の欲望は、お前らに動かせるもんじゃないよ。
迷宮、十分な床や壁がある。残像を残しながら地形の利用をしダッシュで動きながら【風斬り】で殺す。
●闇との戦い:ゼイル・パックルードのケース
厳密に言えば、それはゼイルという男にとっては"闇"などではない。
ましてや、隠して秘するべき"はらわた"などでも、ない。
引きずり出そうとする輩がいるならば、おそらく彼は喜んでそれを見せるだろう。
なぜならそんな輩は、きっと彼の欲望を叶えてくれるに違いないのだから。
では、ゼイルにとってのはらわた……欲望とは、何か。
それはシンプルなものだ。つまりは、そう。
「殺し合いさ」
迷宮の只中、闇から響いてきた声に、ゼイルは自ら言ってみせた。
「強いヤツと、ひたすらに満足するまで殺し合いをしたい。
お前らオブリビオンだろうが、俺と"同類"の人間のなりそこないだろうが、
真逆の善人でもなんでもいいのさ。……ああ、それこそ猟兵だろうとな」
『ははははは! いいぞ。お前のその欲望を、我らは肯定しよう』
「別に肯定されたいわけじゃない。だが、否定されるよりはいい気分だ」
言葉通りの薄い笑みを浮かべながら、ゼイルは続ける。
「俺の周りにはそんなヤツらがたくさんいる。正直目移りするほどさ。
……心いくまで殺し合いたいもんだ。死力を尽くし、ただひたすらに」
理想のぶつかりあいだの、欲望のせめぎあいだの、そんなものはどうでもいい。
純粋な力と力で鎬を削るような、主義も主張も遠くへ捨て去った原始的闘争。
『――そして、その果てに満足して死ぬ。それが、貴様の欲望か』
邪霊の言葉にも、ゼイルの滾るような笑みは揺らがない。
……つまりは、その笑みこそが、言葉に対する肯定の証左だった。
いつから"そう"だったのか、問われてもはっきりとは答えられない。
たしかなのは、気がついたら"こうなっていた"ということだ。
生と死の間、一瞬気を抜けば自分が死んでしまう、そんな鉄火場のなかで、
勝てるかどうかもわからない敵とひたすらに殺し合う。完全な破滅願望だ。
だがくだらないイデオロギーに振り回されて無様な生を送るぐらいなら、
自分らしく意思を貫いた上で、満足して死ぬことこそが本懐。
何かを遺す必要はない。死んだ後の世界になど興味はないのだから。
何かを守るつもりもない。守るための戦いなど飽き飽きしている。
ただそこに、強敵との死闘があるならば話は別だ。
だからここにいる。ゆえに猟兵として戦っている。
……肩を並べるべき仲間こそが、彼にとっての極上の果実なのだが。
『ならばそうすればよい。一体何がお前をそうさせないのだ?』
「"まだ早い"」
淡々としてすらいる声音でゼイルは言う。
「殺(や)るための、殺(や)りあうための必然性が存在しない。
殺し合いに理由なんざ、俺は必要ないが……猟兵(ヤツ)らは違う」
ゼイルにとっては理解し難いことだが、猟兵の多くはそうした理由付けや、
大義・信条・信念、あるいは守るべきもののため……といった、
何かしらの必然性があってこそ、最大の……ともすれば限界を超えるほどの力を見せる。
そう、実際に見てきた。ともに戦う側として、何度も。
そのたびに思うのだ。あれと殺し合えたら、どれほど素晴らしいのかと。
『ならば――』
「お前らに操られての裏切りなんかじゃ、誰も本気になりゃしない」
邪霊の言葉を遮り、ゼイルは続ける。笑ったまま。
「……それとな、あいにく俺には、同じぐらい強い欲望がもう一つあるんだよ」
『何?』
ぎしり。――ゼイルの笑みが変質した。それは。
「――てめぇらみたいな、気に入らない奴らを潰すことだ」
獲物を見つけた、狩猟者の笑みである。
邪霊は慄いた。嘲り、操り、翻弄するはずの猟兵に対して。
矛盾だ。この男は闘争の果ての破滅を願いながら、しかしオブリビオンとは違う。
同じ程に、世界を侵す過去の残骸の破滅を願っているのだ。
邪霊はそれを嘲ろうとした、その前にゼイルが残像を刻みながら動いた。
「結局それだけか――遅いし、お前らはつまらないね」
抜刀。瞬きほどの刹那、振り抜かれた刃の真空波が邪霊を斬る。
かちん、と納刀音が響いたとき、すべては雲散霧消し燻るように滅した。
「まだその時じゃないのさ――いまはまだ、な」
炎は、闇の中に揺らめき続けている。
成功
🔵🔵🔴
メンカル・プルモーサ
……ふむー……恐怖というと……
(邪霊が煽ってくる恐怖は「将来への恐怖」
今の研究は本当に実を結ぶのか。それは悪用されたら甚大な被害を及ぼさないのか、等)
…確かに僅かだけど…そう言うことは考えることがある…
……研究は終わりのない迷路を進むような者だし……
(邪霊が誘惑するのは「それらを解決するための閃き」良い方法を答えを閃く事が出来るようにしてやる…と呼びかける)
…確かにそれは魅力だ……と食い付くと思ったら大間違い…
…迷路を進む途中でどこかも判らぬ別の場所に飛ばされても逆に困ると言うもの…
…怖くても、不安でも、答えも対策も私が調べ、解析し、見つけるものだから…だからお前は必要ない…
●闇との戦い:メンカル・プルモーサのケース
その筋で名高い名家の一員として――いや、それはあるが、それだけではない。
メンカルを研究に駆り立てるのは、そんなありふれた功名心だけではない。
ならば大層なお題目を掲げるのかと言われれば、それもまた違う。
……結局のところ、メンカルは特別な謂われも神に選ばれたような英雄性もない、
ある意味では"ありふれた"研究者のひとりにすぎないのだ。
だからこそ、邁進する研究に対する恐怖も、不安も、当たり前に存在する。
それは、否定しようのない事実であり……メンカルの"はらわた"だった。
地下迷宮の探索中、闇の奥から響いてきた声に、メンカルは無言で相対する。
動揺や恐慌を見せることはない……図星を突かれたからといって、
それだけでうろたえるほど、メンカルはヤワなウィザードではないからだ。
「……将来への恐怖、ね。たしかにー……ないとは、言わないよ」
過度な否定は逆効果だ。こうした霊体の狙いは、すなわち肉体の掌握。
精神を律し、隙を見せないように強気に立ち回ることこそ……。
『わずかだが……などと、嘯く必要はない』
「…………何が、言いたいの」
『お前の恐怖の根幹は、お前が何よりも執着する研究そのものにある。
お前が求める知識とその結果は、本当に実を結ぶのか? 誰にそれが言える?』
「……でも、やってみなきゃ……わからない」
『では完成したとして、その結果が何者かに悪用されないという確証は?
お前が意図した方向性に使われることこそ、誰にも予測出来ないだろう』
「それは……そう、だけど」
メンカルは言いかけて、はっと我に返る。
危険だ。邪霊の魔力なのか、あるいは立ち回りの狡猾さゆえか。
思わず取り込まれかけている。ペースを……イニシアチブを握られている。
おそらく、この地下迷宮と暗闇という環境も、奴らに味方しているのだろう。
古来より人は闇を恐れた。闇を退けるために明かりを求め発展してきたのだ。
闇に対する原初の恐怖は、どれほど知的探求をしたところで克服できない。
……いや、それどころか……この研究そのものが、そう。
「……研究は、終わりのない迷路を進むようなもの、だもの……」
暗中模索とはよく言ったもの。一寸先の闇を少しずつ解析しながら進む、
それこそが研究であり、誰も踏んでいない領域を啓いていくということなのだ。
「……だから、あなた達に指摘されるまでもない……」
『ほう……ならばこういうのはどうだ』
闇の中に、ぼんやりと青い相貌を浮かべた人魂めいた邪霊が浮かぶ。
『我らの力で、お前の研究を完成へと導くためのひらめきをくれてやろう。
それだけではない、お前の智慧が、お前の望むように使われるようにも出来る』
「……ひらめき?」
『そうだ。我らの力を受け入れればいい。ただそれだけで、お前は答えに近道出来るのだ』
「…………」
魅力的な言葉だ。研究者にとって、抗いようのない誘惑だ。
この暗中模索の日々を、ショートカット出来るような方法があるならば、
その是非は問わない……それが、研究者としてのあるべき姿というものだろう。
……そうだ。メンカルは結局のところ、神に選ばれただとか運命に愛されただとか、
そういった特別な謂われはなにもない、名家に生まれた"だけ"のウィザード。
ならば……。
「……だなんて、食いつくと思ったら大間違い……」
『なんだと?』
これで籠絡できると確信していた邪霊は、その言葉を訝しんだ。
「たしかに、この暗い迷宮みたいな道を進むのは……怖いし、不安。
けど、そこでどこかもわからぬ別の場所に飛ばされても……逆に、困る」
『そんな理由で、我らの誘いを拒むというのか。愚かな!』
ごうっ! 霊体が燃え上がる!
「……怖くても、不安でも」
たしかにメンカルに、運命的な意味付けや謂われなどない。
だが彼女は立派なウィザードであり、けして諦めない強い心の持ち主であり、
そしてなによりも……己で識り学ぶことをこそ、尊ぶ魔女なのだ。
「答えも、対策も……私が調べ、解析し、見つけるものだから……」
ゆえに。
「……だから、お前達は、必要ない……!」
燃え上がるような邪霊を飲み込む、いかなるものも焼き尽くす白き炎。
貪欲なる炎が灯り、喰らい、叫喚する邪霊は消滅していく……!
「……魔女が取引するのは、有能な悪魔だけ……それはもう、あてはあるから」
三界の魔女は、そう言って再び、闇の奥へと足を踏み出した。
成功
🔵🔵🔴
ユーフィ・バウム
①執着
幼き頃、道を違えた友がいました。
人の道を外した貴女を
何も分からないまま倒した私の手ですが、
今ひとたび繋ぐことができたなら
②
こちらにおいで、と言っているですか?
そちらには、貴女も……父母も、みんながいるのですね
③
ふふ……でも、いけません。
貴女は私が殺しました
死んだ人はけして、けして蘇らないんだ。
【勇気】を胸に踏み出します
お見せします。私の手は――《戦士の手》
貴女と繋ぎ、夢を語った少女の手じゃない
掴み、千切り、砕き、殺す手です。
そして、私は猟兵です
未来を侵す敵は討つ
それが、何度目の貴女でもあっても
【覚悟】はある
この一撃で滅べ、邪霊ッ!
一筋私の頬より涙が零れるのは
戦士として、恥ずべきでしょうか
●闇との戦い:ユーフィ・バウムのケース
……かつての話だ。少女が、今よりもさらに幼き頃の話。
密林に住まう部族の末裔には、ひとりの友がいた。
……"いた"。過去形であるということは、つまり"そういうこと"である。
友であったはずの彼女は、ユーフィの目の前で人の道から足を踏み外した。
そして永遠の別れが……誰でもなく、ユーフィの手によってもたらされた。
今でも思う。あの時、もしかしたら何か別のことが出来たのではないか。
友が道を踏み外した理由を問い、救いの手を差し伸べることが。
この手で斃さずとも、友でい続けることが出来たのではないか……。
所詮は夢想だ。おそらく、事態はそんな簡単なことではない。
なぜなら、ユーフィにはもはや、仲間も友も、父母もいないのだから。
邪霊の囁きは、時としてその人が見たくない/目を背けられない幻を伴う。
ユーフィに対する誘惑はまさにそれ。目の前の暗闇に浮かび上がる友の姿。
「あなたは……」
『ユーフィ。ねえ、こっちへおいでよ』
……これは幻だ。グリモア猟兵からの情報が頭から抜け落ちることはない。
邪霊による誘惑。何らかの方法で精神と記憶を垣間見たことで幻影を生んだか。
だが――ユーフィ自身の記憶によるものだからこそ――その幻は精密で、
響いてくる声音も、仕草も、表情も、何もかもかつての友そのまま。
それだけではない。ああ、彼女と共に手招きしているのは。
「お父さん、お母さん、それにみんな……」
『みんなみんな、ユーフィのことを待ってるよ。だから、さあ』
皆、安らかな顔をしていた。温かい、あの頃と変わらない笑顔。
なんて苦しみのない晴れやかな表情なのだろう。いや、それも当然か。
……皆、死んでいる。友も、父も母も、仲間も皆、すべて。
そして誰よりも、彼女は他ならないユーフィの手で……この、戦士の手で。
「ふふ」
思わず、ユーフィは笑みを漏らしていた。
この幻のえげつなさや、それに心揺れた己の未熟さ。
一瞬でも思い出すことの出来た、みんなの安らかな姿。
……脳裏によぎった、子供じみた"もしも"の未来の、幼稚さ。その全てを。
「ごめんなさい。あなたは所詮、邪霊が生み出した幻に過ぎません。
いいえ、もしそうでなかったとしても――私は、そちらには行けない」
『……どうして』
彼女のような顔で、彼女でない幻は悲しそうに問いかけた。
怒りなど湧かない。なぜならユーフィはもう、ひとり泣く少女ではない。
死者を辱めるような真似を、などと、義憤に駆られる資格もない。
「――あなたは、私が殺しましたから」
そして、一度死んだ人間は、その生命は、けっして蘇らないのだ。
勇気と悲壮な覚悟を胸に、ユーフィは一歩踏み出す。
だがそれは幻=邪霊の誘惑に乗るためではない。
「私は猟兵です」
拳を握りしめる。
「未来を侵す敵を、オブリビオンを討つ。……そう、"何度目の"あなたでも。
私の手はそのためにあります。友と繋ぎ、夢を語った女の子はもういません」
掴み、千切り、砕き、そして――。
「私の手は戦士の手! 立ちふさがる敵を、この一撃で殺し滅ぼすものっ!!」
ブン――!! 細くしかししなやかな豪腕が風を切り振るわれた!
幻を切り裂き、その先にいた邪霊を掴み……引きずり出す!
『おのれ、天敵め――』
「そうです。私はあなた達の天敵――いい加減に滅びなさい、邪霊よッ!!」
断末魔とともに、邪悪なる敵は引き裂かれ砕け散った。
その屍が地面を穢すことはない。代わりにこぼれたのは――一筋の、涙。
「…………」
ぐい、と無言でそれを拭い、ユーフィは何も言わずに歩みだす。
戦士に涙は似合わない。今はただ、倒すべき敵を見据えるときだ。
成功
🔵🔵🔴
霑国・永一
①:金に対する欲望・執着
②:金が欲しいのだろう。宝石や資産価値のあるものでもなく、現金そのものが。身を委ねさえすれば、楽に莫大なる富を得ることが出来る。無論使いたければ際限なく使うのも良いだろう
③:いやぁ無尽蔵の金を楽に手に入れるなんて実に魅力的だなぁ。だけど、一つ見落としてるよ。俺はただ貰うのでも、稼ぐのでもなく、自力で奪って得たいのさぁ。盗んでナンボ。この「普通」の考えを理解できないなら……(肉体主導権全て戦闘狂人格へ受け渡した真の姿で狂気の戦鬼発動)『俺様の狂気の暴力に呑まれて死ねッ!ハハハハッ!おらァッ!この体の住人はこれ以上要らねぇよ!!』
これは闇を普通として過ごした狂気の男の物語
●闇との戦い:霑国・永一のケース
欲しい。
……何が欲しい? 一体何をそこまで求めている。
欲しい。金が。権力が。財宝が。誰かの大切なものが。
そうだ。ただモノを得るのでは満足できない。そんなものに意味はない。
奪いたいのだ。それも置いてあるものを拾うようなチンケなやり方ではなく。
盗む。
相手の意識を逸らし、懐から引き抜く。
嫌がる相手を暴力や言葉でねじ伏せ、籠絡して、ひったくる。
難攻不落のセキュリティをかいくぐり、開かずの金庫をぶち破る。
誰かが大切にしていればしているほど、それがなんであれ欲しくなる。
価値があるならなおいい。価値がなくとも執着があればとてもいい。
モノの価値は大勢の人間の総意によって普遍的に定められるものであり、
誰かがそれに価値があると思っていれば、そいつにはそれだけの意味がある。
それを、奪う。盗む。きっとそいつは嘆き、哀しみ、苦しみにのたうつだろう。
それが、いい。嬉しくてたまらない。楽しくてたまらない。
けどそんなこと、いちいち取り沙汰する必要などあるだろうか?
だって、こんなのは所詮――。
『お前の欲望はわかりやすい。そして誰しもが抱えているものだ』
「ああ、まあそうだろうねぇ。金が欲しいなんて、当たり前じゃないか」
邪霊を前にしてなお、永一はへらへらといつもの笑みを浮かべていた。
けだるげで軽薄で、しかし何を考えているかわからない油断ならぬ笑みである。
「いやあ、でもね? 価値そのものに興味があるわけじゃあないんだ。
やっぱり現金そのものが一番いいよ。うん、色々使うにも好都合だしね」
人間のクズと揶揄されるべき、正義感の欠片もない口ぶりであった。
だがそんな永一でも、世界の祝福を受けた猟兵なのである。
猟兵であることが、転じてその者の善悪を定めるわけではない。その好例だ。
『ならば我らの申し出は簡単だ。言わずともわかるだろう』
「……いやぁ? 俺、察し悪いからねぇ」
『ハッ! ならば言ってやる――我らの力を受け入れろ。身を委ねよ。
そうすればお前は、今よりもずっと楽に、莫大な財産を、富を得られる』
「…………へぇ」
す、と――永一の目が細まった。
『財産そのものはどうでもいい。お前が使いたいように使うがいい。
我らならばそれが出来る。今よりももっと簡単に、他愛なく――』
「いやあ」
と、邪霊の言葉を遮り、永一は言う。
「無尽蔵の金を楽に手に入れられるだなんて、実に魅力的だなあ。
……だけど、残念だ。ひとつだけ大事なことを見落としちゃってるねぇ」
『……何? まだなにか求めるものがあるというのか?』
「違うなあ――違う。違うんだよ」
それは邪霊に対する言葉のようでもあり、ひとりごちるようでもあり。
「俺はただもらうのでも、稼ぐのでもなく……自力で奪って、得たいのさぁ。
脅して、宥めすかして、掠め取って、ひったくって、くすねて……ああ、そう。
"盗んで"ナンボなんだよ。なあ、これってそんな難しいことかね?」
『何を……』
「だってこんなの――"普通"の考えだろう?」
邪霊は言葉に詰まった。オブリビオンである過去の残骸をして、
この男の"普通"は理解しがたい。なぜだ、欲望はこんなに短絡的なのに。
あえて盗む? なぜそこにこだわる? そこに何の意味があるのだ?
……邪霊は闇に忍び、人のはらわたをえぐり出して誘惑する。
ゆえに奴らは知らなかった。永一という男が、闇をこそ普通として過ごす者だと。
「ああ、残念だ。やっぱりあんたらも理解してくれないのか、なら――」
ふいに、永一がうなだれた。そしてすぐに顔を上げるが……笑みが変質している。
『……誰だ、貴様は』
「ハ、ハ。ハハハ! 誰だ、だァ? ハハ、ヒャハハハハハッ!!」
途端に別人じみた粗暴な狂笑をあげ、無造作にダガーを振るう。
ただそれだけで、闇をも切り裂くほどの衝撃波が、暴虐が荒れ狂った!
『なんだ、お前は!?』
「わかんねェのか? なら"俺様"の凶気の暴力に呑まれてェ――死ねッ!!」
『なんだこいつは、な――ガァアアアッ!?』
「ハハハハハ! おらおらおらァ! この体の住人はなァ、これ以上要らねえんだよォ!!」
圧倒的。圧倒的暴威が邪霊を蹂躙する。
……永一という男に秘められた凶気と、闇。
それは、オブリビオンをして見通せぬほどの、深い闇であった。
成功
🔵🔵🔴
月舘・夜彦
負の感情とは、私が抱くものは……
邪霊と対峙していたはずなのですが
師匠、幻とは言え貴方も私の前に立ちはだかるのですね
師は戦いの全てを教えてくれた
修行を終えた後、与えられた最後の試練は師を斬る事だった
彼は老いていく肉体を愁い、剣士としての死を望んでいた
私は剣を極め、彼の望みを叶えた
同時に大切な方をまた一人失ってしまった
また斬れと仰るのでしたら私は貴方を斬る事は出来ませぬ
私は己が目で斬るべき者を見極め、此の剣を抜く
悪人で無い貴方を、私は斬らない
抱くものは、後悔
私は約束の簪
しかし再会の約束は果たされなかった
人の願いを叶えたかった
初めて人の願いを叶えられた
でも……私は貴方に生きていて欲しかったのだ
●闇との戦い:月舘・夜彦のケース
ヤドリガミ――百年を閲した器物の化身の多くは、己の本体にアイデンティティを依存する。
戦いとはいわばエゴのぶつかりあいであり、ならば振るうべき力も自我の本懐に委ねられるのが普通といえる。
また、ヤドリガミとして猟兵に目覚めた者は、その本体を複製使役するユーベルコードを習得することが多い。
結果として、その戦闘スタイルや扱う器物も、本体が基準となるもの。
すなわち――刀剣から現れた化身ならば、剣豪として剣を振るい。
古びた銃器が年月を経て化身を得たならば、傭兵めいて銃を扱う。
中には神として崇められた神鏡が、巫女のように神通力を操ったり、
城門の化身が敵と味方の境界を絶対的防壁として遮るといった変わり種もいる。
猟兵は生命の埒外なれば、そのスタイルも千差万別と言えよう。
とはいえ、ヤドリガミとなる器物は、戦闘に向いた道具ばかりではない。
茶器。鍵。本。家。皿。はたまた手紙や筆――あるいは、簪。
夜彦と名乗る男の本体はまさにその簪である。再会を約束した、竜胆の簪。
……ヤドリガミとして目覚めたからには、道具にはそれだけの経緯がある。
本来の持ち主と同じ相貌を得、それに代わって遺された者を見送り。
そして、彼はヤドリガミとしてではなく、ひとりの生きる者として、
剣を修め今日まで戦い続けてきた――。
……夜彦は深い呼吸で精神統一を終え、切れ長の瞳を再び開く。
やはりそこには闇があり、そして邪霊の呼び出した幻があった。
剣の師。竜胆の簪でも、かつて去った男の写し身でもなく、ひとりの剣士として。
この技術、才能、そして戦うための勘と知識を授けてくれた男。
その幻が目の前にある。……然り、幻だ。なぜならば彼はもう亡いのだから。
「邪霊よ。あえて言うまでもないことですが、この程度で私は揺らぎません。
我が師は私に全てを教えてくださったあと、自ら私に討たれたのですから」
いかな剣聖とて、武芸者とて、老いには逆らえない。
それがヒトの必然だ。だが、夜彦は違う。ヤドリガミなのだから。
剣士としての死を望む師を、最終試験の成果として斬ることとなった。
そして、斬った。なおも鍛錬を続け、いまここに夜彦は在る。
……大切な人を見届け、見送り、今もなお変わらずに、ここに在る。
『なるほど、言うだけはあるようだ。だがお前の心の闇はそうではなかろう』
どこからともなく響いた邪霊の声に、ぴくりと柳眉が揺らぐ。
『お前は――その男を、己の師を斬ったことを、後悔しているのだろう?』
……長い、長い静寂があった。夜彦は再び瞑目し、深く深く息を吐いた。
重い嘆息……そうか。彼奴らはそこまで……ならば、もはや。
『願いを叶えることが出来ず、さりとて正しく看取ることも出来ず。
一瞬でも長く生きてほしいと願った者を、己の手で斬り捨てるとは』
「……私を、憐れむと?」
『お前の悲嘆は正しいものだ。お前の後悔は誰にも揶揄することは出来まい。
我らはそれを肯定する。お前のその悪感情(おもい)を是としてやろう』
「そのために私の体を乗っ取ろうというならば、願い下げです」
毅然とした言葉を邪霊は嘲笑う。そして幻が云うのだ。
――夜彦よ。我が弟子よ。もはやおれは、視界も定まらん。
「…………」
――手がな、震えるのだ。今朝、おれは、はらりと散った紅葉を斬れなんだ。
――笑え夜彦。この師であるおれが、舞い散る葉ひとつ捉えられなかったことを。
「……衰えは、誰にでもあるものです。師よ」
――お前がそれを云うか。それは酷というものだぞ……いや。
――お前だからこそおれは託せる。夜彦よ、どうかおれがおれであるうちに――。
……夜彦は頭を振った。
「たとえこの身に込められた約束が、叶わぬままに終わったとしても。
それでも私はもう、あなたを斬りたくはない……いいえ、"斬らない"のです」
『ならば我らを受け入れよ。我らに身を委ねよ!』
「断る」
ぎらり。刃物じみた鋭い凝視!
「私の剣は私の意のままに振るわれるべきもの。我が後悔は何人たりとて、
誰にも委ねることは出来ません。でなくば、私の歩みの意味がなくなるのです」
『強がりを!』
「ええ――強がりで結構。そう在れと、私は願われたのですから」
精神を統一する。闇の中に姿を隠した邪霊のみを、幻の先を視る。
これなるは、敵を斬らずその心のみを断つ刃。
振るわれる速度は神の如くなれど、起こす音は赤子の寝息よりもなお静かに。
「――抜刀術、"静風"。刹那に我が剣を見よ……!!」
刃が吹き抜けた。幻は揺らがずそこにあり、薄らいで消えていく。
納刀。闇の奥で、邪悪なる鬼どもの断末魔がこだました。
――おれの代わりに、どうか剣を極めてくれ、夜彦よ。
「……その願いだけは、必ず」
言葉は、風に静かに解けていく。
大成功
🔵🔵🔵
シオン・ミウル
広いなー、地下迷宮
知り合いともはぐれちゃったし。ま、仕方ないか
ああ、何かいるね。さっさと出てくればいいのに
……はは。なんだろう
見せつけられる過去の幻影。ただの実験体だったころの
いやだなあ。思い出させるなよ
あの頃はただただ時間が過ぎるのを待っていたっけ
痛くて苦しいことしか知らなかったから
それが少しでも少なく感じられたらよかった
『空しい』な。それともこれって『悲しい』のかな?
よくわかんないや
ただ一つ分かるのは、俺がこんな感情を抱くことを望んでいないってこと
何も感じないようにしようと、心を殺していた頃には戻りたくないということ
風を纏って打ち祓う
もういいよ……さよなら。もう、思い返すこともないだろう
●闇との戦い:シオン・ミウルのケース
「いやー思った以上に広いなぁ、地下迷宮(ここ)」
シオンはだだ長い通路を歩き……いや低空飛行しながらため息をついた。
少々かび臭い上に、広い。おまけに暗い。地下なので陰気臭さもすごい。
おそらく住み着いているオブリビオンのせいもあるのだろうが、
ここが相当長い間放置されていたことは様々な風化などから推測できた。
別に闇を怖がるほど小心ではないものの、先行きの見えない探索はそれだけで気が滅入る。
「おまけに知り合いともはぐれちゃったし……ま、仕方ないか」
などと呑気な楽観視に至るあたりは、実に彼らしいと言えよう。
件の邪霊とやら、悪感情を増幅し誘惑してくるとか警告されている。
この環境を利用し、すこしでも恐怖を抱いたらそこを突くというわけか。
「姑息な上にジメジメしててヤだな~、これだからオブリビオンは」
まるでダークセイヴァーのヴァンパイアどもを思い出す陰湿さだ。
過去の残骸どものやり口は、どの世界でも変わらないということだろう。
「……だからさぁ、さっさと出てきなよ。こそこそしてないで」
ふと、シオンは闇に向かって言い放った。
その向こうに、燃え上がるような暗黒がぼう、と揺らめいた。
シオンは明るい――あるいは軽薄な――少年だ。
だがその明るさの裏には、影がある。過去という名の影法師が。
あまり思い返したくない過去だ。それこそ邪霊にとっての餌である。
シオンは半ば、他人事めいて"それ"を覚悟していた。
つまり幻影。見せられたのは、まさにその見たくもない過去の風景。
いわばシオンの"はらわた"。原風景は、だからこそ嫌悪感を催させる。
「……はは。何が来るかと思ったら、やっぱりじゃん」
乾いた笑いを浮かべ、それを受け入れる。己が囚われていた頃の――いや。
囚われですらない。実験体という身分は、囚人にすら劣る。
囚人とは、その体に価値があるから囚われているのだ。
ただ道具にように使われる少年は、道具以下の扱いしかされなかった。
鉄格子の中、血や様々な液体が黒ずんでこびりついた石壁にため息をつく。
窓すらもなき牢獄。思い描いたことといえば、時間が早く過ぎること。
牢獄から出されるのは、つまり痛みと苦しみの地獄への手招き。
だから彼は、いっそ枷に嵌められている方がマシですらあった。
『ただひたすらに逃避し、何も感じないように心を殺し、人形のように過ごす。
どれほどお前が忘れたように振る舞おうが、過去(われら)はお前を逃さない』
「まるで石の下のミミズみたいだ。でもお前達は"あいつ"じゃない」
殺したいほど憎んだ敵。事実、二度殺してやった相手。
……二度しか。いっそあれを幻として出してほしいものだ。
そのほうが溜飲が下がる。しかし邪霊はそこまで甘くはない。
『その我らに幻を見せられ、貴様はこうして過去から逃げようとしている。
結局お前は何も変わらないのだ。牢獄を出ようと、自由にはならない。
より長い鎖、より大きな牢獄のなかで、ただ足掻き虚しく過ごすだけだ』
「…………」
哀しみすらない。あの頃、悲しむような感情はとうに摩耗していたから。
『お前の心の穴は、何をしようが埋められない。だが我らにはそれが出来る。
お前の虚しさを、悲哀なき悲しみを、それと感じる心を麻痺させてやろう』
「……それは、厭だな」
ぽつりとシオンは呟いた。
「お前達なんかにいいようにされるのも厭だけど、何よりそれがイヤだ。
心を殺すなんて、あの頃に戻るなんてうんざりだ――それ以下の末路もね」
静かに風をまとう。タクトを振るえば、それは鈴蘭の花びらへと。
邪霊は消滅しながらも、嗤笑と嘲りをもってシオンを見くびった。
『忘れるな。お前は過去から逃れられない』
「…………」
『お前は、何も自由になってなど……。……』
沈黙。
「……わかってるさ、そんなこと」
知ったふうな言葉は、風に消えて闇に呑まれた。
成功
🔵🔵🔴
パラス・アテナ
アドリブ◎
パラス呼X
酒場で昔の傭兵仲間達が笑ってる
部下の一人がアタシを呼ぶ
「隊長!一緒に飲もうぜ!」
アンタにしちゃいい考えだ
並ぶ顔ぶれに目を細める
最初の傭兵隊の老隊長やその仲間
アタシの部隊の部下達
背中を預け預けられ
共に何度も死線を超えてきた
沢山の大事な仲間達
軽口には拳で応戦
楽しいねぇ
「…俺達さ隊長のこと憎みたくないんだ」
奇遇だねアタシもだよ
「だから…」
だから…
「こっち来いよ!」
オブリビオンと化した仲間達が
一斉に銃口を向けてくる
あの時と同じに
「骸の海へお帰り」
弾幕で応戦
仲間達が死体になって
アタシの足元に転がっていく
「胸糞悪い!アンタ達をそんな姿にした奴を絶対許しはしないよ!」
アタシ自身も含めてね
●闇との戦い:パラス・アテナのケース
傭兵家業とは、まあおよそこの世界で一番くそったれな仕事だ。
なにせ二束三文のクソ駄賃で、主義も信条も国も共同体も関係なく、
大して知らない連中と肩を並べて、大して知らない連中をブッ殺すんだから。
これが愛国心から来るものならいい。そいつにとって仲間は家族だ。
忠誠心でも、あるいは功名心でもいいだろう。得られるものがある。
だが傭兵にそれはない。金をもらって、ただそれだけ。それで終わり。
だから傭兵ってのはクソだ。石を投げられて当然の馬鹿げた仕事だ。
……けど世の中、その馬鹿げたクソ仕事しか出来ないクソもいる。
なら、クソはクソらしく、肩を縮こませて生きなきゃいけないのか?
――アタシゃごめんだね、そんなのは。
ぎぃ、と。音を立てて、軋んだスイングドアが開かれた。
入り口の敷居は虫食いだらけ、天井では錆びたシーリングファンが回っている。
きいきいとやかましいのにももう慣れた。壁には色あせたポスター。
ダーツ台にはハリネズミみたいにナイフが突き立てられて、おまけに銃創だらけ。
わけてもボロっちいのがこの窓だ。ろくに開きも閉じもしない。
『隊長、違う違う。こいつはね、テコの原理でこォやって』
アントニオ、アンタはてこの原理をなんだと思ってんだい、まったく。
こいつはこの窓を開けられるのを、なんでか妙に鼻にかけていた。
戦場じゃ一番にぴいぴい泣き出すくせに、まったくガキみたいなヤツだよ。
『おい隊長、聞いてくれよ! またシニスの奴がさぁ』
グレッグ、アンタがそういう顔してシニスの名前を出すときゃひとつしかない。
また女遊びで失敗したんだろ、あのばかたれめ。ガキのくせに色気を出すからさ。
『マム! マム! 敵を発見したであります! ドーゾ!』
ああ、またこんなに酔っ払って……アンタ達、アタシの言いつけ忘れたかい?
トッドにゃ酒は飲ますなってあれだけ言ったろうが。ほらまた始まった。
たく、せっかくオフだってのに仕事の癖が抜けないねえ、こいつは。
……老婆は、口々に呼びかけてくる仲間達に目を細めた。
かつての部隊の部下達。ウィリアム。ブレッド。ドーリス。
……なんだい、アンタ達もいたのかい。
『いちゃ悪いか? ここは俺がお前に教えてやったンだろうが』
ハッ、古い話さ。今じゃアタシもアンタみたいな老いぼれだよ。
そうだろ? "灰色熊"。アタシの部下とアンタが肩を並べるたぁ不思議なモンさね。
老婆がまだ部下を束ねる立場でなかった頃の、老いた隊長。
その同期。イーグレット。"禿鷹"、三つ目のピーター。ウィルバン。
誰も彼も、背中を預け預けられ、くそったれた戦場を駆け抜けてきた。
死体と地面の区別がつかないようなふざけた地獄で泥を啜って生き延びて、
丘を埋め尽くすほどのクソ卑怯な三下部隊を中央突破してやった。
『隊長! 一緒に飲もうぜ!』
イルバート、アンタにしちゃいい考えだ。
『お! ならひとつお酌でもお願いしますよレディ?』
ハハ! いいだろう、お受け取りロブ――そら、顔面にとっておきの拳骨だ。
なぁに笑ってんだいロビン、アンタにも一発くれてやろうか?
軽口には拳で応えて、ぶっ倒れたアホを見て仲間は陽気に笑う。
ああ、楽しい。このションベンみたいに薄いエールも懐かしい。
在りし日のタペストリー。もう戻らないノスタルジーのひととき。
『なァ隊長』
なんだいグレッグ。
『……俺達さ、隊長のこと憎みたくねえんだよ』
急に妙なことを言い出すじゃないか。
『本当さ、故郷の港に残してきた女房に誓ったっていい』
アントニオ、アンタの女房は別の男に娶られて名前も変えただろ。
女々しいヤツだね本当に――しかしま、そうさね。
「奇遇だねアンタ達。そいつはアタシもだよ」
沈黙。そして誰かが言った。
『なあマム、だからさ』
「ああ、だから」
あの時と同じように、皆が一斉にジョッキを置いた。
2秒の静寂――全員が、弾かれたように己の銃器を引き抜く。
『過去(こっち)に来いよ、隊長!!』
「骸の海(あっち)におかえり、バカども」
BLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAM! BRATATATATATATATAT!!
壊れかけの窓も、色あせたポスターも、ダーツ台もスイングドアも。
朽ちかけた壁も天井も何もかも、弾雨に打ち砕かれてバラバラになっていく。
そうだ。あの時も、あいつらはこうして銃を向けてきた。
そして殺した。オブリビオンとなった仲間達。幻として甦った仲間達。
笑顔のまま銃を向ける。額を撃ち抜かれ、笑顔のまま死んでいく。
アントニオ。トッド。グレッグ。シニス。ウィリアム。"灰色熊"――。
「ああ、ああ」
BRATATATATATATAT! BLAMBLAMBLAMBLAM!!
「ああ、ああ! こいつぁいいね、まったくもって胸糞悪い!
だが最高だ、おかげで邪霊(アンタ)らの声もさっぱり聞こえない!」
BRATATATATATAT!! 仲間の屍の山から湧き上がる邪霊の群れ!
「アタシはねェ、絶対に許さないことにしてんのさ」
仲間をこんなふうにした奴らを。
――それを二度も三度も殺した自分を。もう二度と。
「だから、この生命はアンタなんざにゃくれてやれないよ」
BLAMBLAMBLAM!! 弾幕が途切れることはない。
「――ホントのクソになるにゃ、まだ何もかも早すぎるのさ」
名前を棄てた老婆は、ただがむしゃらに引き金を引き続けた。
大成功
🔵🔵🔵
鷲生・嵯泉
地に在る迷宮にして己が心の迷宮でもあるという訳か
克たねば先に進めぬとあらば、如何様にしてでも成してみせよう
①
後悔より生まれる怒り
国の亡びに間に合わず、総てを失って尚生き恥晒す己への憎悪
②
死んでしまえと唆す。詳細お任せ
③
……そうだ。叶うなら共に潰えてしまいたかった
だが(焼け焦げた武器飾りに目を遣り、欠けた蒼玉を強く握り締め)
何よりも愛おしく大切だったからこそ
託された……遺された祈りを裏切る事等出来はせん
私は生き続け戦う事を止めはしない
同じ悲劇を赦しはしない
傷も痛みも激痛耐性で振り切り、全力で踏み込む
怪力乗せた覚悟の1撃、剣刃一閃叩き付け粉砕してくれる
此の脚も意志も、必ずや進み続けよう
●闇との戦い:鷲生・嵯泉のケース
打ち克つとは――心の力で打ち克つとは、何をしてそれを示すのだろう。
敵を倒せばいいのか。それともこの迷宮を踏破すればいいのか?
あるいは、幻や囁きを切り捨て、無視して己を貫けばいいのか。
どうすればいい。どうすれば"克った"と言えるのだ。
それが己の裡から引きずり出される"はらわた"であるならば。
克己とは――つまり、永遠に続く地獄のようなものではないのか。
そうだ。地獄だ。地獄があった。地獄を見た。
だが何よりも地獄なのは、そこで滅べなかった己の無様な生(いま)だ。
たとえいかなる勇将とて、いかなる武功と勇名を馳せた猛将とて、
将ならば果たさねばならぬ責務がある。護国の任はただ剣を振るうのみではない。
国の重鎮として政務に携わり、兵を、あるいは守るべき国土に目を向ける。
雑務だと切り捨てるのは容易い。だがそれを任されてこその将なのだ。
戦略に秀で武芸百般を極めたとしても、国を活かせねば意味はない。
だから、彼が戦線を離れたのは、決して将としての不出来ではない。
憎むべきはその間隙を突いた敵であり、遡れば戦争そのものである。
だがいくら争いを憎んだところで、それで戦火が絶えるはずもなし。
誰が言った言葉か、"戦争とは外交の最終手段である"という。
言い得て妙だ。争いとは、概して起こるべくして起こるものなのだ。
戦いに秀でていたところで、それ自体には何の意味もない。
――起きたが最後、戦火は容赦なく何もかもを飲み込むのだから。
「糞っ!!」
がつんと地面を殴りつけ、嵯泉は呻いた。吐き捨て、嘆いた。
奥歯を砕けそうなほどに噛みしめる。何度も何度も地面を叩く。
子供の癇癪じみた振る舞い。だがそうするしか怒りの当て所がない。
僅かな。本当に僅かな――しかし決定的な、不在の瞬間。
敵はそこを突き、一瞬にして戦線は覆され、本土は侵略を受けた。
備えをしていたはずだった。万の兵に訓練を施し戦略を授けていた。
無駄だ。無駄だった。何も守れず全て死んだ。燃えて、朽ちて、真っ平ら。
「糞……ッ!!」
ただ地面を殴りつけ、臍を噛むような怒りと苦痛に耐える。
かつての俺もそうした。これはあくまで記憶から引き出されたリフレイン。
護るべき国を喪った、亡びを逃れ/てしまっ/た男の"はらわた"なのだから。
『辛いよなあ』
「…………邪霊」
煮えたぎるような声。一方の敵はそれを嗤笑する。
『己が護ると誓ったものを守れず、蹂躙され、奪われ、滅ぼされた。
そして――お前は、任務に散ることすら出来ず生き延びたのだ』
「黙れ」
『くくっ。死ねぬよなあ? ここで自死すればいよいよ無様の上塗りだ。
だからと理由をつけて、お前は今も生き恥を晒している。苦しかろう?』
「黙れ……!!」
耳障りだ。なにせそれは全て本心なのだから。
ああそうとも。叶うならば、いっそ共に潰えてしまいたかった。
亡びた国土を見たときの愕然と絶望。死に絶えた兵の臭いは鼻孔に遺る。
見知った人々が家々と共に焼け焦げ、炭となったあの黒ずみが瞼の裏にこびりついている。
『もう、よいのではないか?』
「――……」
それは囁きだ。惑わされてはならない。打ち克たねばならない。
……どうやって? 何をして打ち克つというのだ?
この囁きを跳ね除けて、切り捨てて。生き恥を積み重ねることがか?
守れなかった証左――己の命を、怠惰に無意味に引き伸ばして。
そんなものが克己であるものか。この身、この魂は護国のためと誓ったのだ。
ならば、いっそ。――もう、いいんじゃないか。
『お前は"よくやった"。ああ、天敵よ。我らが認めてやるとも。
お前は遺された者として責務を果たし、もう十分に生きたであろう』
――だからもう、死んでしまえ/楽になれ。
「…………ああ。そうとも。私は、いっそ消えてしまいたい。
もしも散った仲間が、民が私の前に現れ、命を捨てよと望むならば応えよう」
喜んで心の臓腑を抉り出し、はらわたと血反吐で贖罪の文を綴ろう。
それだけのことをした。そうしてくれればどれほど楽であろうか。
「だがな」
この手に残っているぬくもり。喪われていく彼女の息遣い。血の暖かさ。
もう己を映すことの出来ぬガラス玉のような瞳で、しかし彼らは彼女は言った。
――生きて。
「私は願われた」
――奴らを、このままにしてはなりません。
「私は祈りを託された」
――もう、こんな悲劇を繰り返さないよう。どうか。
どうか。死にゆく我らに代わり、あなたは生きてくれ。
生きて、前に進み、未来(だれか)を守って戦ってくれと。
思い枷だ。国の滅びを見届けるだけだった、敗残の将にはいい罰だ。
「愛おしく大切だったからこそ、私はこの祈(おも)りを棄てはしない。
裏切ってはならない。私は生き続け、戦わねばならない。戦うのだ」
『それほどまでに朽ち果てて、苦しんで、なおも強がるか』
「――私には、恨まれる資格すらありはしない。安らぎなどもってのほかだ」
自嘲の笑みを浮かべ、立ち上がる。抜き放つは災禍を断つべき一振りの刃。
「邪霊よ。私はけして強くない。私がお前達の誘惑を跳ね除けられたのは、
私の心の強さではなく――この祈りの、遺志の重さ。ただ、それだけだ」
それは殉教に似る、当て所も終わりもなき苦行のような歩みである。
『哀れな』
「――憐れみも、私には不要なのだ」
剣刃一閃。闇を切り裂き、一歩。また一歩と足を踏み出す。
幻を棄てゆく。誓いと遺志は、この胸と背中にいまも刻まれている。
「……倒れ朽ちるまで、私の足は止まらない」
男を支えるべき人々は、とうの昔に真っ平ら。
傷つき苦しみ果ててなお、寄る辺なき道を孤影は征く。
成功
🔵🔵🔴
リア・ファル
アドリブ歓迎
WIZ
諦めろ
オブビリオンとお前は何も変わらぬ
お前は何も救えない
誰か明日の為に?
お前ができる事は「誰かの明日を奪う事」だろう
お前の存在こそが万人からの未来を奪う
①失望と諦念
②過去の知り合いや知己の猟兵の幻影が、リアの欺瞞を指摘し
笑顔(または普段通りの顔で)リアを殺す、という幻を見せる
③昏い失意の水底で、顔の見えない将校(に見える人物、
彼女の創造者の一人?、未来で出会う提督? のような
細かくはお任せ)が、「それでも諦めない」気持ちを思い出させる
辛いか
じゃあ諦めて終わりにするか?
そうしたって良いんだ
戦うだけなら、心なんて必要ないかも知れない
だが、キミに託されたモノはそれだけじゃないだろ
●闇との戦い:リア・ファルのケース
諦観とはけして悪ではない。
叶わぬものを目指し、選べたはずの時間を失うことこそが悪なのだ。
分不相応なねがいに手を伸ばしても、誰にも限界というものがある。
身の程知らずに待っているのは破滅であり、何も得られぬ虚無である。
それは、世界を侵し、破滅させる過去の残骸にすら劣るもの。
浪費された未来には、もっと別の可能性があったはずなのだから。
滅びの瀬戸際にあった母なる舟をかろうじて暗礁から救い出し幾星霜。
世界を守るため、明日を護るために魔剣を手に取り、振るい続け幾星霜。
仇敵たる帝国は果てた。その原初と嘯く、最強の帝王もまた滅んだ。
星の海には安寧が取り戻され、今は多くの舟が宙(そら)を駆けている。
思い描いたとおりの未来のはずだ。
恋い焦がれたはずのいまのはずだ。
なのになぜ――仮初のこの体の、胸の裡は満たされないのだろう。
『それは、お前が"われら"と同じモノだからだ』
邪霊は云う。その電子の肉体、おおいなる舟から離れたお前は、
魂などなきがらんどうの人形なのだと。いいや、人形にすら劣るのだと。
「そんな戯言で、ボクが揺れると思う?」
『そうしてまた目をそらすか。何の価値もない、意味もない虚言で自他を騙すか。
それで何が得られた。それで何を守れた? お前の理想とやらは叶ったのか?』
「あいにくだけど、ボク達はもう2つも世界を守り抜いたのさ」
『それで? だから? お前が口走る欺瞞が真実だと誰が証明してくれた?
お前の言葉が誰を救った。お前の行いが誰にとっての益となったのだ?』
燃えるような邪霊の像が揺らぎ、まず黒髪の青年の姿を得た。
『誰かの明日のために、なんてさ。どうでもいいし、言ったって意味ないだろ。
猟兵として戦って敵を殺すことなんざ、俺にだって、誰にだって出来るんだから』
「……匡さんは、そんなことは言わないよ」
像が揺らぐ。白髪のサイボーグ。
『私には貫くべき信念がある。それを貫いていれば、私は私でいられる。
……貴殿にはそれすらない。美辞麗句を並べ、機能を果たすだけの傀儡だ』
「笑っちゃうね、もうすこし演技の勉強したら?」
像が揺らぐ。シニカルな笑みを浮かべた少年。
『認めちまえよ! そうすりゃラクになるぜ。"手は届かない"ってな。
自分にやれることだけをやってりゃ、あとは主役がなんとかしてくれるのさ』
「……ヴィクティムさんは、もっと前向きで……」
銀髪に青い瞳の女剣士。
『哀れなものだ。求むべき道も、極めるべき武もない兵器とは。
その力こそが世界にとっての害悪。争いを止めたいならばまず己を殺せばいい』
「…………幻なら、もっと気持ちのいいものをみせてほしいね」
言葉ではいくらでも言える。そのためのデータはいくらでもある。
だが、心は。己が思うよりも沈み、軋み、揺らいでいた。……なぜだ?
まさか。このふざけた幻が、たわごとが、図星だとでもいうのか。
バカなことを、オブリビオンの誘惑など、一笑に伏すだけ――。
『本当は、お前自身が誰よりも知っているのだろう』
「…………」
『お前は、吐き捨てた綺麗事を叶えることも出来ないただの役立たずだと』
「……………………」
敵は倒せる。……それで?
仲間を助けられる。……だから?
性能がある。……何の意味が?
この願いが……願い。ねがい? 叶わぬものを夢想してどうする。
どの世界も平和にはなっていない。根源たる過去の残骸は亡びていない。
戦って戦って、傷ついて滅ぼしても、滅ぼしても、滅ぼしても、終わらない。
終わっていない。いつか故郷の平和も、また簡単に奪われてしまう。
終わりなどない。いずれ己も朽ち果てて、そして何もかも無意味になる。
「……ボクに出来ることは、山ほどあるよ」
嘘だ。その欺瞞もろとも、幻影が銃で撃ち貫いた。
切り捨てた。かき混ぜた、叩き斬った。いつか来る終わりと同じように。
……ああ。己に出来ることなど、本当は何もないのかもしれない。
失望と諦観がリアを包んだ。一笑に付したはずの幻を拒んでいた。
やめて。見せるな。ボクは見たくない。そう嘆いて頭を振るだけ。
生娘のように嘆くだけの仮初の目に、ふとおぼろげな光が見えた。
「……誰?」
――諦めるな。
「ねえ、あなたは誰なの? ボクのことを知っているの?」
像の面は明らかならず。ただなぜか懐かしい気がした。
――諦めればそこで終わる。本当に何もかも無意味になる。
――キミが誇るべきものは、性能(ちから)でも砲火(ぶき)でもない。
……幻影が揺らぐ。凪いだ海のような瞳が己を捉えていた。
「ああ、不思議だなあ。人間じゃないボクが、人間のキミを見ていたはずなのに。
そんな幻に、"人間みたい"に視られると、ヒトらしくあろうと思えちゃうじゃないか」
思えば、知り合った頃から彼はずいぶん"らしく"なったと思う。
……ならば、ヒトですらない己が、こんなところで膝を突いていてどうする。
あきらめるな。響いた言葉は呪いのようでもあったけれど。
「ボクには――意思(こころ)があるんだ」
『それも所詮は偽りだ』
「それを決めるのはキミ達じゃない」
闇を退ける輝きから、妖精郷に住まう幻獣達が現れる。
それはすべてイミテーション。からくり仕掛けの偽りの獣達。けれど。
「ボクが託されたものは。この力でも、兵器でも、仮初の体だけでもない。
ボクをボクたらしめる心は、その想いは! だれにも否定させないッ!!」
何も救えない。何もなせない。所詮すべて欺瞞の綺麗事。
いいだろう。ならばそれを貫いてやる。この世界を、あの世界を。
過去に侵略される全てを救い出して、ハッピーエンドを掴み取ろう。
「ボクの存在証明(レゾンデートル)は、まだまだこれからなのさ」
次元をも超える魔剣が、悪足掻きする闇を飲み込んだ。
成功
🔵🔵🔴
ティオレンシア・シーディア
――広がるのは、炎の海。
燃え盛る館、肌を灼く紅蓮、鮮紅の龍。
――引き裂かれ血溜まりに倒れる、あの子の躰。
アタシが覚醒した、その時の光景。
――殺す。殺す、殺す殺す殺す!
殺して戮して誅して戡す!
憎悪・憤怒・漆黒の殺意、その時まで抱くはずがないと思っていた感情が噴き出し目の前が赫く染まる。
何処かから何か囁かれたような気がする。何かを誘われたような気もする。
一切纏めてどうでもいい。
この感情はアタシのものだ。アタシだけのものだ。過去の残滓ごときが、しゃしゃり出てくるな!
――その時まだ手にもしていない愛銃(オブシディアン)を、逆鱗へ向け撃ち放つ。
(荒い息、早鐘を撃つ鼓動、吐き気を催すほどの頭痛)
…最、悪。
●闇との戦い:ティオレンシア・シーディアのケース
昔話をひとつしよう。何、お伽噺ほど大それたものじゃない。
世界のどこかにぽつんとあった、当たり前のスラムでのこと。
掃き溜めのような世界の底で、ひとりの女が大事なものを拾い上げた。
それはヒトだったが、ヒトが人らしく扱われるなんて実際は奇跡の産物だ。
モノのように使われて、ゴミのように棄てられる。それが普通。それが当たり前。
気まぐれがゴミをヒトにして、女もやがて人らしくなり。
……安らぎの日々というには、そもそも周りが肥溜めのようだったけれど。
ただ、忘れがたいくらいに、穏やかだったのは確かだろう。
ああ、そうそう。昔話ってのは大抵、やっぱり、そう終わる。
これは御大層なお伽噺じゃない。女と、女が拾ったヒトの小さな過去。
だからめでたしめでたしでは終わらない。終わらなかった。
伏線も何もなく、因果も応報もありはせず。
出し抜けに現れた、デウス・エクス・マキナみたいな暴威が全て終わらせた。
……それが現実ってものだと、わかったように云うのはたやすい。
事実でもある。だが、言葉の重みってのはどうしても出てくるものだ。
女はそれを味わった。そして、運良く/悪く生き延び/てしまっ/た。
だからもし、女が『現実なんてそんなものだ』と言ったとしたら。
――まあ、そんなことはよほどでもなければないだろうが。
きっとそいつは、地球そのものより重く、そして悲しい響きなのだろう。
わかっている。これはリフレイン――抉られたはらわたの血の色。
小賢しいユーベルコードの副産物で、引き出されたフィルムの虚影。
ようはティオレンシアの過去であり、文字通り過ぎて去って終わったものだ。
だからこれは幻。わかっている。わかっているが――それが、なんだ。
だからなんだ。湧き上がる激情を抑える理由にはならない。
目の前で燃えている。肥溜めみたいな腐った街が、街の底が燃えている。
汚らしい金で築かれた、けばけばしい瓦礫の山が燃えている。
それはいい。どうでもいい。あんなものにいまさら思い入れもない。
ただ。それを生み出し、広げ、そして爪を振るうあの巨体。
燃える炎よりもなお紅蓮の鱗。陽炎を纏う、静脈血めいた鮮紅の龍。
それに比べたら笑ってしまうほどに小さくて、だからこそ無残に思える。
唸る龍のお膝元、引き裂かれ倒れるエ█████トの躰。
……躰? いいや、違うか。あれはもう"しかばね"だ。
心臓が動いていない。呼吸をしていない。ガラス玉みたいな瞳は動かない。
つまりは、もう、死んで、
「――殺す」
言葉が溢れるより先に、銃声が紅蓮をつんざいていた。
殺す。殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す殺す殺す殺す殺す!!
あの龍を。あの暴威を。あの子をエ█████トを奪ったあの赫を!
憎悪。憤怒。燃え上がるような漆黒の殺意。イドの底から噴いた間欠泉。
龍が吠える。トリガを引く。弾丸が弾かれ大気がおおいなる爪に引き裂かれる。
殺す。殺さねばならぬ。全てを奪った龍(あれ)を殺さねば。
そこにふわふわと微笑む、とらえどころのない女はいない。
「死ね、死ね死ね死ね死ね死ね!! 死んで、また死んで、もう一度死ね!!」
悪鬼のような形相。敵いようのない現実に打ち負かされたはずの、
しかしそれに唾を吐き捨て吠える、哀れで愚かな生き残り。
何も見えない。何もわからない。ただこのリフレインに当たり前の反応を返す。
燃えた街。喪われた命。それを引き裂いた意味もわからぬ暴威。
かつてティオレンシアはそれに遭った。そして、奪われた。
それを呼び起こすと云うなら、ああ、こうなるのが当然だ。
何かが囁く。黙れ。殺意(あたし)の邪魔をするな。現在(あたし)を阻むな。
この怒りも殺意も憎悪も絶望も全部全部全部全部全部アタシのものだ。
奪わせない。渡さない。だから死ね。幻だろうがなんだろうが死んでまた死ね!!
『お前の感情はもう一つある。それは怒りでも憎悪でもなく』
「死ね、死ね、死ね、死ね!!」
『――埋めようのない悲しみであろう』
……。
幻が、消えた。
ガンガンと頭が痛む。火酒を飲み明かした夜の翌日よりひどい吐き気。
はちきれそうなほどに跳ねる鼓動を、空っぽの肺を埋めて和らげる。
無数の弾丸が散らばっていた。そこに邪霊の姿はない。
「…………最、悪」
頭を振る。ほつれた髪を整えて、汗を拭い、歩き出す。
憎悪がある。殺意がある。これが墓標だ。あの子の、アタシの。
だけども、ねえ。もしもそこに悲哀(それ)があったとしたならば。
その穴は、この殺意と憎悪で埋められない陥穽は。
……もう、どうしようもないというのか。
成功
🔵🔵🔴
リル・ルリ
■櫻宵/f02768
アドリブ歓迎
嫉妬
座長の声(詳細お任せ
知らない識らなかった
こんな感情
熱く苦しく心地いい
心を染める櫻――僕の櫻
戀を識って
愛を識った
嫉妬も
櫻宵が初めて愛した人、サクヤの幻影が言った
同じ地を歩めない貴方が
誘七の家に認められない貴方が幸せに出来ると言うの、と
僕は彼女に嫉妬してる
彼と歩める足があり子を産める胎がある
初めて愛された人
苦しい
妬けて仕方ない
そんな自分が醜くて嫌だ
座長は嗤う
水槽の中に戻ってこいと
嫉妬など忘れさせ熱病にかかる前のお前に戻してやると
そんなの望んでない
僕は人魚でカストラート
歌しか歌えないけど
大好きなんだ
愛してる
全部ほしい
高らかに歌う恋の歌
嫉妬だって
愛の欠片のひとつだろ
誘名・櫻宵
🌸リル/f10762
アドリブ歓迎
渇望
誘い方お任せ
努力しても
功績を上げても
当たり前
認めても愛してもくれない
見てくれなかった
何かを殺すその一瞬、事切れる獲物の瞳があたしを見る…堪らない快感
瞳に映るその一瞬
恋するような眼差しをくれる、赤彩る2人だけの世界
得たと思った愛は偽物で今や骸
気分がいいわ
皆が見て認めて愛してくれるなんて
知ってる
嘘でしょ
歌が聴こえる
ああ
可愛いあたしの人魚
無垢で健気で一途で
愛をくれて見ていてくれる
認めてくれる
絶対離さない
殺してでもそばに
いえ
一緒に生きる
あいしてる
愛して頂戴
空の器を満たして頂戴
欲しいものがあるならあげるわ
あの子の前では全てが霞む
衝撃波込めなぎ払い
リルの所へ帰らなきゃ
●
暗闇のなかを歩く2つの影は、どちらもヒトならざるものだった。
かたや人魚。かすかな吐息すらも、唄うような響きを孕んでいて。
かたや木竜。うっとりとした面持ちは、なにか落ち着かぬ凶気を讃える。
「誘惑ですって。ふふ、あたしにはリィがいるのにね」
「……そう言われると、許せなくなるからやめてよ」
「あら。なぁに、嫉妬しちゃってるの?」
「違うよ。苛つくんだ――僕の櫻を拐かすだなんて」
ふたりは互いを愛していた。性差、種族、そんなものは関係ない。
大切だと想った。唯一だと想ってくれた。だから結ばれた。
家柄も、過去も、常識も、なんであろうとふたりを引き裂けはすまい。
ただ。
「……でも、嫉妬か」
「リィ?」
「嫉妬なら、あるよ。僕は――」
「やめて、リィ。……いまは、その話はいいでしょう」
会話が途切れる。
「…………櫻」
「……なあに?」
「もしもだよ。もしも、僕が、囚われていたりしたら」
開きかけた唇を、龍の指先がつまんだ。
「言わなくていいわ。わかっているから」
言葉は不要。不安を感じる必要など、欠片ほどもありはしない。
――ありはしない、はずだ。"はず"というこの思いこそが不安なのか?
問いかけはこぼれなかった。闇が、ふたりを包んだからだ。
●闇との戦い:リル・ルリのケース
言いかけた言葉がある。だって、言わずにはいられなかった。
奴らは嫉妬の感情を餌にするって言うのだし、だったらきっとそこを狙う。
なにせこの想いは、感情(おもい)は、彼にもとても制御しきれない。
愛は本物だ。誰よりも強く、深く、熱く、固い。揺らぎなどしない。
――それが敵に回るとしたら、はたして抗えるのか?
つまり、リルを呑んだ幻は、その燃え上がる想いの影法師だった。
太陽が、光が強ければ強いほど、照らされて伸びる影もまた濃く長く。
熱ければ熱いほど、その影に凝(こご)る冷気は冷たく、おぞましく。
苦しければ苦しいほど、かりそめの安らぎは――心地よく。
『ああ、みじめで無様だこと』
嘲り――いや、あれは憫笑だ。哀れみというやつだ。
リルはよく知っている。さんざ己に向けられたものなのだから。
なんと可哀想な弱者(さかな)なのだろうと。勝手なものだ。
『わたしが妬ましいのでしょう。ええ、そうでしょうね、羨ましいのでしょう?』
サクヤ。かつて、リルの愛するひとが愛した女(ひと)。
その果てに死んだ女。彼にとっての"はらわた"のひとつ。
面識はない。"だからこそ"妬ましい。
サクヤは死んだ。彼が斬った。ああ、"だからこそ"妬ましい。
あの女のことを語るとき、彼はいつも己に向けない顔をする。
慕情? 否。
後悔? 否。
嫌悪と、嘲笑と、殺戮の高揚の残響。
"だからこそ"妬ましい。嫌悪され忌み嫌われることすら羨ましい。
あの女は死んだ。死んで、"きたならしいもの"として彼の心に遺った。
それが良き思い出であれ、忘れたい穢れであれ、もうそこは拭えない。
侵せない。変えられない。それが、たまらなく――たまらなく、妬ましい。
『あなたがどれだけ愛していると言ったところで、一緒に地を歩めもしない』
「それでもいいって櫻は言ってくれた」
『納得しているなら、どうしてあんな空虚な夢を視たの?』
「――……」
『家に認められず、祝福されず、お優しいお人好しにだけ囲まれて。
本当は祝われたいのでしょう? 胸を張って、その想いを肯定されたいのでしょう』
「いけないの。だって、僕は、初めてなんだ。こんな感情、知らなかった。
識らなかった。はじめてで、なにもかも初めてで、だから僕は――僕は」
この苦しさも愛おしい。愛しくて心地はいいが、苦しみは苦しみだ。
ああ、櫻。愛するひと。想うたびにこの心は燃えて焦がれる。
でも、ねえ――もしかすると、愛ってもっと、安らかなものなのかもしれない。
『龍と魚。男と男。ぷっ、ふふ、あはは! あっははははは!』
「……嗤うな」
『ねえ、あなたにあの人の仔は産めるの? あなたの胎(はら)は仔を抱えられる?』
「うるさい」
『――出来ないなら、あなたは結局、その想いの証すら遺せないのね。
あの人の心の一部はわたしのもの。あなたにも、誰にも、変えられない』
消えてしまいたい。こんな女を妬ましいと、羨ましいと感じる自分が醜くて。
苦しくて。悲しくて。全身をかきむしりたくなるほど悔しくて。
『楽になれ、リル』
"座長"がいた。ごぼり、ごぼりと届かぬ硝子(かべ)の向こうにうたかたが散る。
『戻ってこい。お前の居場所(すいそう)に』
ごぼり、ごぼり。
『熱病にかかる前のお前に戻してやる。その苦しみを取り払ってやる。
……嫌だと言うか? ああ、きっと言うだろうな。望んでいないと』
「…………」
『なら、お前は醜いままだ。無様で、何も産めず、遺せぬままだ』
たしかにそうなのだろう。あざけられ、貶められる通りなのだろう。
それがどうしたと言ったとて、澱みはこうして底の底に積まれていく。
ああ、そうか。愛とはそういうものなんだ。これも、あれも、すべて愛。
醜さも汚さも、穢れも澱みも全部、受け入れて進まなきゃいけないのか。
「――ねえ、櫻」
ごぼり、ごぼり。
「僕は、こんな醜悪(もの)を抱えきれないよ」
ごぼり――ごぼり。
●闇との戦い:誘名・櫻宵のケース
家とは帰るべき場所であり、ゆりかごであり、墓場であり、牢獄である。
逃れられない。名を変え地の果てまで走って世界を越えても変わらない。
流れる血。受け継いだ遺伝子(もの)。それは絶対に、変えられない。
だからこれは呪いだ。未来永劫、己が己である限りついて回るもの。
過去。切磋琢磨し、鍛えに鍛え、辛酸を嘗め、殺して、殺して、殺しても。
どれほど研ぎ澄ませても、積み上げても、ちっとも認められなかった。
ならばと認めても同じ。ああ、そうとも、当たり前だ。許されないのだから。
己は家の跡取りで、背負い受け継ぐべき血統(もの)がある。
そうあれと望まれた。そうあろうとした。けれどもそうはならなかった。
歪んでいたのだ。どうにもならぬほど歪んでいた。
求めたのは末裔としての、跡取りとしてのものではなくて。
純粋な、燃えるように輝かしい愛。
家の者でもなく、
術理に優れた剣士でもなく、
俺(あたし)を。誰か。見て。見つめて。そして愛して。
……叶わぬ望み。叶えるすべがあった。それが歪みを加速させた。
斬る。殺す。命を奪うとき、はらわたに手を突き刺した時。
こころとこころは近づいて、その時確かに獲物(だれか)は虜になる。
そこに映る景色は己のみとなる。だからみんなが自分を見てくれる。
家の者。あの女。強敵。誰も彼も。誰も彼も。
殺せば同じ。見てくれる。見(あいし)てくれる。
ああ。この赤はきっと神様からの祝福。流れ落ちる血は歩むべきふたりの道。
こぼれ落ちる腸はふたりを結ぶ赤い糸で、このぬくもりは契りの証。
きっとそうだと想っていた。少なくともそのときはそうだった。
幻が再演する。見知った顔、忘れたい顔、何もかもを斬って殺す。
「ねえ、見(あいし)て」
ひとときだけ願いは叶う。
「ねえ、認(うけと)めて」
刹那にだけ答えがある。
嬉しい。嬉しい。嬉しい――これが本物なら、なおよかった。
一瞬の熱病が過ぎ去れば、そこに転がるのは骸と残滓。
手のひらに遺るのは、ぬるりとした血の不快なぬくもりだけ。
「あの時も、いまも、同じね――全部、ぜぇんぶ、嘘。まやかし。幻」
つまらなさそうに、櫻宵は嘆息した。
過去を斬ったところで満たされるものはない。満たしてくれるのは彼だから。
ただ、そう――。
『お前は逃げているだけだ』
「だから何」
『愛などと、所詮はおためごかし。お前はお前を騙しているだけだ』
「三流役者に謂われたくないわね」
『――わかっておろうに。誰もお前達を認めない』
「…………本当に、馬鹿らしい」
その空言が。この空虚な幻が。
――笑って斬り捨てることのできぬ、未練がましい己の情けなさが。
その手を動かしたのは、ゆえに櫻宵の強さだけではなく。
「歌っているのね、リィ。待っていて」
呼びかけるような音。寄り添い/依存しあう片割れの、彼の声。
「今行くわ。迎えに行ってあげる」
これは愛だ。今までの、誰に与えたものよりも強く、真実の、強き、愛だ。
証明などいらない。彼がいて、この思いがあればいい。
いいはずだ。いいはずなのに。
刃を振るう。いまはまだ、そうして背を向けることが出来た。
●
大好きなんだ/可愛いあたしの人魚。
愛してる/無垢で健気で一途で、愛をくれて。
全部欲しい/認めてくれる。
きみがほしい/絶対離さない。
一緒に生きたい/殺してでも――。いや。いいえ。ええ、一緒に。
カストラートの歌声に惹かれて、刃が踊りうたかたを切り裂いた。
邪霊の断末魔を踏み棄てて、櫻宵はリルの体を抱きしめる。
「櫻。僕はやっぱりヤキモチ焼きだ。妬けて妬けて仕方ないんだ」
「……リィ。いいのよ、いいの。あたしは、あなたを離さないから」
「だけど、でも――でもさ、これも、愛の欠片の一つなのかな」
「きっとそう。だから、それもあたしに頂戴? この器(こころ)に」
それはたしかに愛だった。互いに互いを見つめ想う愛だった。
……ただそれは、あまりにも危うく恐ろしい炎でもあった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
祇条・結月
コーディリア(f00037)と同行
覚えてる。
普段、酔わないじいちゃんが酔っていて僕を見て、呼んだ名前を。
……ごめん。僕は『ユウヒ』じゃないよ
失望してる。……大事な人になにもしてあげられない僕自身に
じいちゃんが出るのはわかってたから、耐えれる
けどそれ以外にも。誰かが見えるようなら、ちょっときつい、な……
……思わず、銀の鍵につないだ「鎖」を握って。
記憶なり心なりを覗いて見せてる幻だろうから僕自身に≪術式封鎖≫で鍵を掛け干渉を弾く
独りじゃなくてよかった
見栄くらいは張れるから。ちゃんと笑って
大丈夫、何もなかったよ
店長さんこそ、大丈夫? って。いつも通り
それくらいしか、できないから
コーディリア・アレキサンダ
結月(f02067)と一緒に
仲の良かった幼馴染
近所の果物屋のおじさん
良く助けてくれた先輩シスター
まだいるね。もしかして71人、全員いるのかい?
わかっている。全部、過去にボクが助けられなかった人
そして、ボクが殺めた人
彼らはどんな顔をするんだろう
怒り、憎しみ……殺されたんだから、いい顔はしないかな
故郷の人達みたいにボクに罵声を浴びせながら、石、泥を投げるんだろうか
……だとしたら、少し悲しいね
でも、その悲しみに浸って歩みを止めるわけにはいかないんだ
傍にもう一人、頑張っている子もいるわけだしね
ありがとう、懐かしくて少し嬉しかったよ。――だから
もう一度、何度でも喰い殺しなさい、ボクの手足。ボクの悪魔たち
●
「ねえ店長さん、こういうのってあらかじめおまじないとか」
「なくはないけど、たぶんね。"それじゃ意味がない"と思うんだ」
暗闇を歩くふたり。少年の言葉に、魔女は謎めいて言った。
「……つまり?」
「"ボクらにとって"ということさ。そりゃまあ、くぐり抜ける方法はあるよ。
……問題は、そうして闇とやらを避けて通って、何を得られるか、っていうか」
戦いに"勝つ"方法ならば、魔女としていくらでも用意できる。
だが"克つ"となれば、それは魔法ではなく個々人の領域の話だ。
「勉強と同じさ。キミだって学生なら、なんとなくわかるだろ?」
「……うん。それが面倒だってこともね」
などという少年の軽口に、魔女は肩をすくめた。
「回り道もいつか役に立つ――んじゃ、ないかな。多分、きっと」
「……きっと、か」
闇が来る。待ち構えている蜘蛛の巣に踏み込むのは愚かとも言える。
だが踏み越えた先に、得られるものと残されるものはあるはずだ。
過去と戦うということは、それを積み重ねて克己することなのだろう。
「――そろそろ来るな」
「店長さんも気をつけて」
邪霊が蔓延った。かくしてふたりは闇に呑まれた。
●闇との戦い:祇条・結月のケース
来るとわかっていれば、おおよそ何が視えるかも見当がつく。
裏を返せば、それだけ強烈に記憶に残っているということであり……。
「……じいちゃん」
超えるのは、相応の苦しみと痛みを伴う。
結月は――猟兵としてこの表現も変だが――"平凡な少年"だ。
UDCアースの小さな街に生まれ、あまり不自由はなく育てられた。
成績は平凡。運動は中の上。年頃らしく、将来の夢は曖昧模糊に。
――そもそも将来を考える暇なんてあるのか、というのはさておいて。
普通に生まれ、育って、なぜだか猟兵になって、戦うようになり。
ずいぶんと非日常にも慣れた。多くの敵を斃し巡ってきた。
救えないものがあった。守りきれたものがあった。
色とりどりの経験が積み重なれば積み重なるほどに、
その土台となる原風景は重みと意味を増していく。
ちょうど、いや梅雨よりは先か――蒸し暑かったのは覚えている。
外では虫の鳴き声が輪唱していて、ちりんと修学旅行土産の風鈴が鳴っていた。
別に何がどうというわけではない。いつもどおり今でテレビを見ていた。
そんな結月を見ながら、ちびちびと晩酌するのが"じいちゃん"の楽しみだった。
彼は量を心得た人物で、付き合いの飲みでも深酔いはしない男だった。
むしろ逆に酔い潰れた近所の人を運んでくることもあるものだから、
自然と泥酔者の介抱にも慣れていた気がする。
『……うむ……』
その日は、なぜだかそんな彼が酔っていた。並ぶ瓶はふたつ。
はて、なにか深酒をする理由があるのか。当時の結月には察せるわけもなく、
水でも用意しようかと畳から腰を上げた時、視線が合って。
『ああ、悪いな……"ユウヒ"』
ちらりと出た名前に、全身が凍りついたのを覚えている。
じいちゃんはどうだろう。舟を漕いでいて、自分が言ったこともわかっていない。
あの時もそうだった。今もそうだ。なぜならこれは幻だから。
ただ、やはり。それを言われることは……やはり、堪える。
「ごめん、じいちゃん。僕は"ユウヒ"じゃないよ」
結局、この日のことは当人にも伝えていない。むしろそのほうが嫌だ。
ただ何より嫌だったのは――情けなかったのは、何も出来ない自分だ。
祇条・結月以外の誰かになることは出来ない。
けど、その穴を埋めることは、もしかしたら出来るかもしれない。
いや――したいのだ。悲しみを、孤独を、虚無を、どうにかして。
「……ごめん。やっぱり僕は、まだ何も出来ないみたいだ」
無意識に、指先で鎖をもてあそぶ。幸い、それ以上の幻は現れなかった。
……意味がない? 読み取れなかった? おそらくどちらでもない。
結月が自身に施した術式封鎖の影響もある、それは、ある。
「……"十分"だっていうの?」
目の前に燃え上がる邪霊を見て、結月はひとりごちた。
『そうだろう。お前はお前自身に諦めを抱いている。何も出来はしないと。
そして己で反証を立てようとして――結局、あがき、苦しむ。それがお前だ』
「……………」
『我らが手を下すまでもない。お前はお前の手で滅びるのだ』
返すべき言葉は……。
●闇との戦い:コーディリア・アレキサンダのケース
魔女は、悪魔との契約によって黒き魔術を行使するという。
魂を代価に、闇の知識を得てまじないを操るという。
迷信である。実際のところ、それはカリカチュアライズされた虚像だ。
――実際はもっとひどい。そして、なお悪いことに有用なのだ。
かつてそれを失ってから、コーディリアがそれを相対するのは何度目か。
ダークセイヴァー。霧の中に現れた過去の幻影。
UDCアース。死人を騙るオブリビオンが見せた偽りの姿。
慣れたもの――と云うには、その記憶は重すぎる。
コーディリアの故郷。汚名を、穢れを、拭えぬ罪を背負って救った場所。
「やあ。うん、まあそうだとは想っていたけど――そうか。"全員"か」
あの頃と同じように、無邪気に笑う幼馴染がいた。
よく剥きたての林檎をごちそうしてくれた、果物屋の店主。
右も左もわからない自分に、生活のあれこれを教えてくれた先輩修道女。
月に数日いなくなったと思ったら、大きな獲物を抱えて帰ってきた狩人のおじさん。
三日仕事を一日で済ませてしまう、ご意見番として頼られた大工の棟梁。
向かいの家に住んでいた主婦と幼子。その夫。足の悪い祖母。
季節ごとに街を出ては戻ってきて珍しい品を見せてくれた行商人。
子供。大人。男。女。老人。幼子。友達。先輩。後輩――同い年の、彼女。
「……71人。うん、全員か、そうか」
コーディリアはそれらの顔ぶれを懐かしげに眺め、大きく息を吐いた。
幻だ。――彼らはみな死んでいる。己が殺したのだから間違いない。
覚悟があった。
悪魔憑きだからといっても、殺したことは拭い去れない事実。
あのときのように憤り、憎悪をぶつけて、石を投げてくるだろうと。
別人のような表情で、きっと悲哀を呼び起こしてくるのだろうと。
「……これは」
覚悟があった。ただ、実際にはそれは裏切られた。
笑っているのだ。
はじめに殺した彼女も。
二度目に殺したあのおじさんも。
五度目に死なせた幼子も。
皆。笑って。暖かく、安らかな眼差しを向けてくれていて。
「違うだろう。それは――彼らは、皆はそんな顔はしない。ボクをそんな顔で見ない」
『そうだ。これは我らが見せる幻。お前のはらわたでしかない。だが』
幻影の向こうで闇が嗤った。
『"お前はこれを望んでいるんだろう"』
「……――」
憎まれて当然のことをした。理由はあれど、殺したのだ。殺めたのだ。
だからありえない。許されるはずなんてない。そう思うから耐えられる。
……はずだった。ではその罪に対する罰すら奪われたら、罪人には何が遺る。
「やめてくれ」
何も残らない。
「ボクに……ボクに、それを背負って歩くことすらするなというのか」
ただ、虚無に対する哀しみがあるだけだ。
……魔女は、悪魔と契約し、魂を代価に恐ろしい魔術を操るという。
いいだろう。己は魔女。この身は災厄を封じ込めた籤なれば。
「――いいよ。いいさ。もうやったことなんだ、何度だってできる」
じとりと、闇から滲み出るようにして一匹の猟犬が現れた。
"魔犬(バーゲスト)"。あるいは血に飢えた殺戮者。
「我が身に宿る悪魔」
背中を照らし出すは、燃え上がる双眸。"レッドアイ"。
「ボクの手足」
獲物を追う破壊の黒鳥。ブラックウィッチ。
「食い殺しなさい。踏みにじりなさい。――これは、ボクの意思だから」
幻(ししゃ)が喰らわれていく。邪霊は最後まで笑っていた。
●
溢れ出た悪魔の暴威は、耐え忍ぶ結月をも救う。
邪霊は貪られ、抉られ、灼かれ、闇の中に消えていく。
「店長さん……ごめん、ありがとう」
「いや。頑張っているキミがいるのに、ボクが頑張らないでどうするのさ」
「うん、ひとりじゃなくてよかった。……でも、店長さん」
「大丈夫だよ」
言葉を遮るように、いつもどおり答える。
「ボクは見栄っ張りだからね」
そんな言葉に、きょとんとして、結月は一度うつむき、
「――それは、僕もかな」
いつもどおりに笑って、頷いた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
矢来・夕立
ウソだと思われそうなホントの話が増えました。
『殺したいくらいムカつく男がいたから殺そうとしたら自分だった』。
被害者(オレ)も是非とも死にたかったらしいですよ。
殺意と希死が暴走したってトコでしょうか。
じゃあひとつ自刃でもしましょう。
【神業・影暗衣】。
正気を保つのに向いてるんですよね。コレ。
首掻っ切る程度ではそう簡単に楽になれやしないんだから。
怨念の皆さんとは浅からぬ縁があります。
ご新規の邪霊?に殺されるなんて。ちょっと常連の方々から文句が出ちゃうんですよね。
なんの話か?聞こえませんか?
「ソイツを殺して“お友達”にしてくれ」って
ウソですけど。《暗殺》《だまし討ち》。
…どこからウソかって。さあ?
●闇との戦い:矢来・夕立のケース
それを希死念慮と呼ぶには、あまりにも怠惰でかつ"傍迷惑"だった。
死にたい――というよりも、生きている理由が特にない。
己に対する殺意は器から溢れるほどにあるのに、それは冷ややかだ。
冷えて固まった溶岩のようにごつごつとしていて、それが礎になっている。
己は殺したい。そして死にたい。ただ、"こんなヤツには殺されたくない"。
だから生きる。あとは暇潰し、時間を潰すための悪事(あそび)でしかない。
つまりこの行為に、貫くべき信念だとか御大層なお題目だとか、
お涙頂戴の理由も、悲劇的境遇も止むに止まれぬ理由もなんにもなくて。
まるで空っぽ。だから死にたい。さっさと殺したい。でも厭だ。
空っぽの自分(あいつ)に殺されたら、本当に何もかも空っぽになる。
それは厭だ。――どうせ死ぬなら、理由(こたえ)を得て死にたい。
「まあ、ウソですけど。ああでも、殺したくて死にたいってのは本当です。
だってそうでしょ。自分(あなた)ならわかるんじゃないですか」
『自分(オレ)に何言ってんですか。まあ、それも結局ウソですけど。
……みっともないんでさっさと死(おわり)にしましょうよ』
「ところが、そうは簡単にいかないんですよ――"後がつかえてる"んで」
ふたりの夕立が同時に跳んだ。
空蝉? 否。
分心? 否。
それは幻(マヤカシ)であり邪霊(アヤカシ)である。
イーヴィルスピリット。生み出したのは夕立自身の鏡像。
幻は当然のように夕立の命を狙い、夕立も夕立(てき)を殺しにかかった。
ガキ、ガギギ――ガギン。ギギギギギッ!!
式紙がぶつかりあい、火花を散らして床に壁に突き刺さる。
抜刀。描く軌跡は同じく。全く同じ力で弾かれ――フェイント。これも同じ。
首を狙った斬撃を互いに胸をそらして回避し、くるくると二回転。
回転からの斬撃――やはりフェイント。さらに棒手裏剣を5つ。相殺(かちあい)。
敵は己で、己が敵だ。であれば技量も威力も全て同じ。
打ち込んでもパリーされる。大した防御(カブト)だ、鞍替えすればいい。
そしたら殺す。不意打ちで殺せる。互いにそう思い、互いに仕掛ける。
「困りましたね、これ手詰まりなんですけど」
『ウソつかないでくださいよ、こっちだって本気なんですから』
偽りに偽りを重ね、外道(レッガー)同士が闇に舞う。
それは敵(おのれ)を殺すための、あまりにも後ろ向きな死の舞踏。
殺そうとしても殺せない。待った(チャイ)をかけようにもそうはいかない。
ブラフを仕掛けても、それを見抜かれる。自分は嘘つきだから当然だ。
なので。夕立は、"さっさと死ぬ"ことにした。
「順番譲ってもらえるかどうか、聞いてみましょうか」
言って、夕立は表情を変えぬまま、刃を逆手に持ち己の首を掻き切った。
XYZ(おしまい)だ。普通なら。だがユーベルコードはそれを許してくれない。
迸ったのは血ではなく影で、影はうぞうぞと菌類めいて蔓延り、
怨嗟と憎悪にまみれた"常連さん"の群れに変わっていく。
「――げほ」
『バカじゃないんですか』
「でも"手っ取り早い"んですよこれ――あ、これはホントです」
罪業と、それに連なる怨念は無数にある。それが己に責苦(ちから)を与える。
神業・影暗衣。怨毒一切、これ刃に載せて虚像(カゲ)を斬るべし。
「あなたが怨敵(オレ)そのものならまだいいんですけど、
所詮偽者(カゲムシャ)でしょ。ならまあ、オレは殺《ト》れない」
これは本当。徐々に刃のぶつかり合いは夕立が制していく。
『……さっきから、新規とか常連とかなんなんですか』
「聞こえません? ――"そいつを殺してオトモダチにしてくれ"って」
邪霊が身動ぎした。怨念の群れに対する恐れか動揺か。間隙は一瞬。
斬撃――斬首、完全死亡。ブラックジャックのようなあっけない幕切れ。
「まあ、ウソですけど」
邪霊が消える。闇は遺る。
……ところで、どこからがウソでどこまでが真実なのだろうか。
誰にもわからない。ただ彼の殺意(ぜつぼう)は、誰のものでもない。
邪霊に夕立の命は奪えなかった。それが全てだ。話は、それで終わり。
成功
🔵🔵🔴
穂結・神楽耶
──炎が。
燃えている。焼いていく。呑んでいく。壊していく。
失わせていく。
助けられなかった誰かの声が呼んでいる。
叶わない祈りを叫んでいる。
…分かっています。
自分の傷になっている過去が何かなんて。
分かっていたって悲しい。悔しい。情けない。
「今なら救えるかもしれない」なんて誘惑に惹かれないと言えば嘘になります。
──それができていたら、穂結・神楽耶はここにいない。
過去には届かないのです。
わたくしが滅びた都市を名乗るように。
救えなかったものは、救えない。
救いたかったのは本当です。
だからごめんなさい。
救いたかった幻を炎にくべて。
わたくしは先に進みます。
いつか炎に還る、その時まで。
●闇との戦い:穂結・神楽耶のケース
炎が。燃えている。
何もかもを飲み込んで、灼いて、焼いて、そして壊していく。
見知った顔がいた。慣れ親しんだ人がいた。
聞き慣れた声がした。聞いたことのない悲痛な、苦しげな声が。
『助けて』
ああ。祈りは届かないから祈りなのだ。
『苦しい』
呻いたところでそれは払えない。
『死にたくない』
残念だが、現実というものは無情である。
『誰か』
誰もいない。
『だれか!』
救えるものは誰もいない。
『だれか! たすけて!!』
救えないのだ――誰にも。人には。ヤドリガミにすら。
燃え盛る幻影はまさに陽炎のように揺らめく過去。
神楽耶にとっては忘れようはずもない礎。届かぬ終わった虚像。
『悲嘆。悔恨。失望。お前はお前自身に対して絶望している』
「……言われるまでもありません」
『ではなぜなおも足掻く。お前は何も出来ないと思いながら何かをしようとする。
矛盾だ。苦しみしか招かぬことは、ようくわかっているだろうに』
「それでも、何かをなさねばわたくしはわたくしでなくなってしまう」
『ならば出来るようにしてやる――救えなかったものを、救わせてやる』
予想通りの言葉は、予想していたよりも遥かに重く、甘やかに聞こえた。
過去は変えられない。どれだけ手を伸ばしても届きはしない。
その名として冠した喪われた都市(まち)は、もうこの世のどこにも亡い。
だが炎は燃えている。神楽耶の裡で。後悔と悲嘆と失望と絶望の炎が。
『苦しいのだろう。お前に拒む理由はない。受け入れる理由はいくらでもある。
お前はわかっている。滅びるための道行きなど、それこそ意味がないと』
「…………わたくしは」
どんな賢しらな言葉を並べても空虚に響くだろう。意味がない。
その意味を自分自身が信じていないのだから当然だ。けれど。
「救いたかった。叶えてあげたかった。その苦しみを止めてあげたかった。
――傷跡(これ)をあなた達に委ねてしまったら、わたくしはもう何もない。
だから渡しません。わたくしは、この炎(いたみ)を抱えてまいります」
人でも神でもなきモノとして。邪霊どもはそれを嘲る。嗤笑する。
『バカめ』
そうとも。愚かで哀れで無力な小娘だ。
『いずれ真に絶望するぞ。あの時ああしていればよかったと』
――そんなものは、鼓動を刻むたびに何度でも。
炎が燃える。闇よりも昏き炎が、邪霊を飲み込み燃え盛る。
「わたくしは先に進みます」
ああ。その響きの空虚でなんと破滅的なことか。
「いつか炎に還る、その時まで」
過去は変えられない。救えなかったものは救えない。
それを背負う限り、きっと彼女は何も変えられない。
ただ。
未来は変えられるかもしれない。これから来る時は。
――彼女を待つのは、まだ開けられていない運命の扉なのだ。
成功
🔵🔵🔴
千桜・エリシャ
鳥籠を模した座敷牢
沢山の高価な宝物に囲まれて
――さあ、今日はどの子で遊ぼうかしら?
夫が狩ってきてくれた首を手に取る
首遊び――さながらお人形遊び
嗚呼、この首はもう駄目ね
腐っているもの
嗚呼、姫の役が足りないわ
次は姫の首をお願いね?
――ねぇ、私お腹が空いちゃった
夫が与えてくれる血肉で臓腑を満たす
美味しい
それは見知らぬ誰かの人肉
気付けば首が死体が
友人の、大切に思っている方々の姿に変わっていて
あ…ああ…あああ…
わ、私は…違う…違うの!
――何も違わない
これが私の本性
後退り手が触った宝物の中のそれ
嗚呼、皮肉なこと
私を救うのが
あの男だなんて
扇で仰いで全て吹き飛ばしてしまいましょう
この欲望は
隠して生きなければ…
●闇との戦い:千桜・エリシャのケース
死臭が漂う。虫がたかり、蛆が湧き、ぶんぶんと嫌な羽音を響かせる。
「ああ、この首はもうだめね」
苗床にされた哀れな玩具(くび)を放り捨てる。ぐちゃりと嫌な音。
受け止めたのは、金銀財宝が絨毯のように敷き詰められた豪奢な鳥籠の底。
ぶんぶんと虫がうなる。たかる先は屍か、それよりもなおおぞましきはらわたか。
はらわた。然り。これは幻であり、女から引きずり出されたもの。
首が。首がほしいのだ。強くて、素敵で、貴き首を斬って集めて愛でたい。
「ほら、あなたはお父さん役。もっとむっと顔に力を入れなさいな。
――これもそろそろだめかしら。口がだらんと開いてしまうわ」
「ああ、姫の役が足りないわ。でもこの首は歳がいきすぎているし……」
「ねえ、ねえ。私、姫の首がほしいわ。うんと美しいお姫様の首。
あなたならば簡単でしょう? だから、ねえ。殺(と)ってきて頂戴な」
『いいとも! 我が妻よ、我が宝石よ、我が愛しの女よ!
いくつほしい。五か、十か? 年頃はいくつがいい、五か、十か!』
「まあ、そんなに幼かったら、姫ではなく稚児になってしまうわ」
『では十五としよう! 隣の領地の娘が、跡継ぎを産んだばかりらしい。
どうだね。母と赤子と、両方持ってきてやろうじゃないか。ちょうどいいだろう』
「赤子だなんてそんな――小さすぎて、壊してしまいそう」
『新しいのを用意すればいい! では行ってくるとしよう!』
「ねえ、ねえ」
『どうした。我が妻よ。我が宝石、我が愛しの女』
「私、お腹が空いちゃった」
『なんと。ではいますぐ馳走を』
「お腹が。すいたの」
『……ああそうか。そうであったな。はは、そうであった。
では殺(と)ってこよう。男と、女と、数え歳の子の肉を』
死臭が漂う。
虫がたかり、蛆が湧き、ぶんぶんと嫌な羽音を響かせる。
かり、こり、かつん。
ぐちゃり、べちゃり、ごくん。
忌まわしい音がした。
「ああ、美味しい」
かり、こり、かつん。
ぐちゃり、べちゃり、ごくん。
「ああ、柔らかい」
にっこりと、女は艶やかに笑っていた。鼻から下を血に染めて。
豪華な金銀財宝も、反物も、金細工の施された座敷牢も。
何もかも血に染まっていた。骨が転がる。はらわたが散らされる。
愛しい玩具(くび)がにっこり笑っている。今日はあれで遊びましょう。
あれと、あれと、あれと――あれは。あの顔は。
「……え」
手元を見やる。しゃぶりついた頭蓋骨にこびりつく『食いかす』
████さん。あそこに転がるのは████さん。あそこには████████さんが。
「…………あ」
お客様。身内。友人。かわいいと思う子。強い方。
仲間。大切な人々が。ああ――ああ! 美味しい! なんて!!
「あああ」
柔らかくて、固くて、そしてこの血の芳醇たるや――違う。
『妻よ。新しいのを持ってきたぞ』
獣のようにぶら下げられる██████さんの屍が。
「違う」
『何を云う』
「違うの。違う、私、そんな、みなさんをなんて!」
『何を云う?』
「――え」
夫の姿をした邪霊が言った。
『これがお前の本性だ』
「違う」
『何も違わない。お前はお前の客を、仲間を、██いたいのだろう』
「違う――ち、が」
『██し、██って、████いのだろう? そして』
「ちがう、ちがう、ちがう!」
後ずさり触れた指先。宝物から突き出した一本の扇。
口惜しみ、歯噛みして、瞼を強く瞑っておもいきり振るう。
大風、雷雨。幻よ消えよ。消えろ。消えてくれ。消えてください――頼むから。
闇が残る。
「……………あの男に救われるだなんて」
ふらつくエリシャは、頭を振って呟いた。
ぶんぶんと、嫌な羽音が耳の奥に残っている。
「この欲望は、隠して生きなければ」
――隠す? いいえ違う、これは、こんなものは、私では。
「…………私、は」
虫がたかる先は、誰のおぞましいはらわたか。
成功
🔵🔵🔴
ヴィクティム・ウィンターミュート
①己への失望
②故郷の光景を見せながら「孤独になれ」と誘惑
③UC冬寂で声を黙らせる
(英雄になろうとしていたんだ、俺は)
(志を同じくした仲間は、安定を求めて離れて)
(意固地になって、独りで革命を起こそうとして)
(失敗した)
あぁ、そうさ
失敗したんだよ、馬鹿な奴が分不相応な理想を抱いて
どれだけ不正を暴いても、チャンスをぶら下げても
誰もついてこなかった
賛同してくれた奴も、大きな力で潰された
詰めが甘かった
俺は器じゃなかった
…大丈夫さ
「心は常に凍てつかせろ」
ちゃんと、覚えてる
凍てついた心は夢を見ない
理想を抱かない
最後には必ず孤独になるとしても
まだ「独り」になる時じゃない
黙っててくれ
──大丈夫、俺は諦められる
●闇との戦い:ヴィクティム・ウィンターミュートのケース
己は端役。舞台を彩り、盛り上げ、主役を引き立たせる影男。
役目を終えれば袖に引き、大団円のあとのショータイムには参加しない。
華やかなパーティには背を向けて、暗くて狭い稽古部屋の掃除をする。
……心の底から、そんな昏い役目を求めているわけがない。
ああそうとも。これは逃避だ。誰が好んで端役なんてやりたがるか。
主役になって、脚光を浴びて。万雷の拍手を向けられて、そして――違う。
違う。それは望みじゃない。そんなのは流儀じゃない。
戦場(ぶたい)を俯瞰し、戦略(シナリオ)通りに動かすのが楽しいんだ。
あいにく普通じゃない。ひねくれ者といわば言え、これが俺だ、これが己だ。
……違う。
『違う』
目の前に燃え上がる邪霊が云う。
『お前は主役(たにん)の輝きを信じてはいない。ただ疎んでいる。
己がそれに照らされることを――嫌って、怖がって、避けている』
「…………」
『自分はこの程度だと型に嵌め、分不相応な夢を見るのが嫌なのだろう。
だが隠さなくていい。お前には力があり、智慧があり、資格もあるのだ』
「……………………」
闇に映し出されるのは、天蓋に押し込められたような灰色のメガロシティ。
その底の底のスラムは地獄の窯より最悪で、悪徳と腐敗が横行していた。
敵は殺した。殺して、殺して、騙して、成り上がって、高みを目指した。
すると今度は、誓いあったはずの奴らがみんな消えていきやがる。
"安定が欲しい"?
"大それた夢なんて必要ない"?
ふざけるな。俺たちはもっとやれる。もっともっと上を目指せる。
なあ。来ないのか。そうかい。だったら俺は独りでやってやる。
お前らが目指せたはずの高みに登って、お前らを見下ろしてやる。
きっと俺を信じていればよかったって、お前達を後悔させてやる。
見てろよ、俺は――俺は、英雄になってやる。
「出来なかっただろ」
『そうだ。お前は失敗した』
「無様なモンさ。ついてきてくれたやつもみんな台無しにした』
企業の壁は厚かった。人々を覆う無関心と冷笑の病はなお強かった。
気づけば底の底、あるとも思ってなかったさらに下にぶち込められて。
何もかもを、喪った。
『もう一度目指せばよい』
だめだ。それは。それは――だめだ。
『お前は強くなった。何かを信じこだわるから失敗する』
違う。それは、それは今じゃない。
『孤独を受け入れろ。お前を弱虫にしようとする暖かさを否定しろ。
そうすれば今度こそお前は成功する。誰よりも輝ける英雄になれるのだ』
黙れ。黙っててくれ。黙れよ――黙ってくれ!
冬寂(ウィンターミュート)
名の通りに全てを消し去る静寂が、闇から音すらも奪い去った。
邪霊は何かを言っているのだろう。心をフラットに保ち、ICEで凍らせる。
理想は抱かない。懐いてはならない。分不相応な夢は呪いと同じだ。
今度こそ破滅する。そしたら俺はあいつらすら――いや、違う、違う。
あいつらの未来(ハッピーエンド)に端役(おれ)はいらない。
いつか俺は孤独になる。だがそれは今じゃない。こんな奴らの手も借りず、
夢も見ないで、ひとりで消えるんだ。
だから邪霊は切り裂く。殺す。フラットラインさせて闇を駆ける。
闇を駆ける。影を走る。
輝きから、少しでも遠くへ逃れるように。
大成功
🔵🔵🔵
鳴宮・匡
自分は「人間」なんかではないと
ずっと、そう思っている
日々の彩に心を動かさず
誰かを思いやれもせず
命の価値を顧みることもない
自分の内側からすら目を背けた成れの果て
嘲笑うように声は言う
「そのままでいいのだ」と
それが望みで、そうあるべきだと
……自分だって、そう思っている
そうでなければ生きられなかった
それは、確かだから
それでも、
囁く声に頷くことはできなかった
向き合って、乗り越えると約束したから
まだ前を向けやしない
自分を許せやしないけど
その約束は破りたくないんだ
だから、俺をくれてやるわけにはいかない
憑依が解ければ即座に撃ち抜く
惑わされたりはしない
俺を導く灯は、もっと違う色をしてるって
もう、知っているから
●闇との戦い:鳴宮・匡のケース
人間とはなんだろうか――答えは様々あるだろう。
"これ"と定めることは出来ない。ただ、逆なら出来る。
反証。つまり、"これは人間ではない"と言い切ることなら、出来る。
自分(おれ)がそうだ。俺は人間(そんなもの)なんかじゃない。
人間らしさがわからない。つまり、それを満たすことが出来ない。
食事を楽しむことも、娯楽に熱中することも、誰かを気遣うことも。
"ふり"はできる。"合わせること"もできる。学習して、模倣することも出来る。
"こうすれば誰かが喜ぶ"という、過程と結果を知っていればそれでいい。
あとは実行するだけだ。機械と同じだ、データの入力で結果が出るのと。
それは多分、ほんとうの意味での思いやりとやらではないのだろう。
なら、やっぱり自分は――人間なんかじゃない。
……それでいい。殺す/生きるためには、別にどうでもよかったから。
どうでも、よかった。
『現にお前はそうして生きてきた。お前の生き様がそれを証明している。
ならばそのままでいい。そう在ればいい。ただ敵を殺せば、それでいい』
「……そうだな。俺も"そう思っていた"よ」
匡は、邪霊の言葉に対して、無関心を決め込むでもなくそう言った。
これははらわた。引きずり出された己の闇(こころ)。
かつて己が見ようともしなかった、凪の海に沈殿した凝りの末路。
『ではそうするがいい。お前を惑わせ、弱くしようとするモノを切り捨てろ。
奴等はお前を殺すぞ。その前に殺せ。それが、お前の"生き方"だろう?』
そうしてきた。己を迷わせるモノは敵で、ノイズで、邪魔なもので。
どうでもいいと切り捨てて、ただ引き金を無感情に引いてきた。
それが正しいと教えられた。何も乗せてはならないと言われたから。
事実として――それで、敵は皆死んできた。
だから頷けばいい。オブリビオンだろうが言っていることは正しいのだ。
だのに匡は頷かなかった。……なぜ? ああ、かつてはそう思った。
そして疑問もまとめて凪の海に沈めて、また同じ顔をしていたのだろう。
「約束をしたんだ」
相棒と呼んだ男がいた。格好つけのくせに、冷たくて熱い男が。
戦友と呼んだ男がいた。シニカルなくせに、誰より子供な男が。
仲間がいた。友がいた。関わってきた人がいて、交わした言葉があって。
――照らしてくれる、灯火(かがやき)があった。
「まだ前を向けやしない。俺は、自分を許せやしないけどさ」
拳銃を握る。弾丸を装填し、セーフティを解除する。
無機質に――だが、心の奥底、水面にはたしかに想いを込めて。
進むために。生きるために。約束を、果たすために。
「その約束は破れない。――お前らに、俺をくれてやるわけにはいかない」
闇に隠れたところで無駄だ。すべて"見えて"いる。
……引き金を引く。かつてからすればずいぶん弱くなったものだと思う。
撃つまでにとんでもないタイムラグと、隙だらけの問答があった。
けど、多分。それが、"必要なもの"なのだ。
「悪いな――こんな闇でも、俺を導いてくれる灯の色が、見えてるんだ」
心の水面にそれが映る限り。もう、彼は止まらない。
成功
🔵🔵🔴
ジャガーノート・ジャック
【SPD・執着】
(――ハルが、目の前にいる。)
(機械の身体。星色纏う、英雄じみたロボ。その中に、僕の親友がいるのを確かに知っている。)
『オレ達、どんな事になっても友達だよな。例え化物になっても何処までも一緒だよな』
『また一緒に行こう、ジャック』
(手を差し伸べる君。
どんな時でも一緒で。そうあればいいと思ってた。)
けど。
"そうはならなかったんだよ"。
(独白の様に呟く。
――『経験予知』。)
いつか宇宙でみた悪夢と似たもの。であるならば、破り方も理解できる。
――何より僕を生かしたハルが。
"そんな事を言う訳ないだろう"。
(ハルの事を誰より知る故に、理解する。)
消えろ紛い物。
邪魔立ては許さない。
(ザザッ)
●闇との戦い:ジャガーノート・ジャック
ハル。己が"己(ジャック)"として戦う理由。戦える理由。
戦わねばならない、理由。過去。礎となす思い出(のろい)。
目の前にいるのは、ジャガーノートのそれにどこか似たモノだった。
まるでゲームかカートゥーンの中から飛び出して来たような、星色を纏う機械の体。
エフェクト過多で難易度控えめの、ティーン向けゲームの主人公のような。
……英雄(ヒーロー)のような、鋭角的でヒロイックなデザインのロボット。
"これ"がハルだ。この"中"に、彼がいる。親友が、そこにいる。
ジャガーノート。
それは"彼"にとって戦う鎧であり、纏うべき信念であり、
すでに多くの少年少女を取り込み飲み込んだ災厄と共通する名。
同じだ。この鋼も、親友を包む鋼も、どちらも。同じだ。けれど。
『なあ"ジャック"』
親友が云う。鋼の中から声がする。
『オレ達、どんなことになっても友達だよな』
「…………ああ」
『たとえ化物(ジャガーノート)になっても、どこまでも一緒だよな』
「……………………」
鋼が手を伸ばす。まるでヒーロー同士の握手のように。
ただ、ジャガーノート――いや、"彼"にはわかる。それはヒーローではない。
ヒーローを模したモノ。過去の残骸、破壊すべき仇敵でありノイズであり。
『また一緒に行こう、ジャック――約束だろ?』
戦うべき敵(ジャガーノート)だった。
頭を振る。これは幻だ。
ああ、もしも最初から"そうなっていた"なら、あるいは。
いやそれも違う。なぜならば。
「――どんなときでも一緒で、そうあればいいと思ってた。
けど、"そうはならなかったんだよ"――そうは、ならなかった」
幸福な夢だと、この幻影を見たあとでならある意味"あれ"を理解できる。
どちらであれはらわたが煮えくり返るような怒りを催すのはたしかだが。
あれはハルだった。けど、ここにいるのはハルではない。
《――ハルは僕を生かしてくれた。僕は一緒には行けなかった》
幻に揺らぐことはない。砲口が闇を、幻を、邪霊を捉える。
《――だから、ハルが"そんなことを言うわけがないだろう"》
ZAP!! 熱線。邪霊の囁きが苦悶の絶叫に変わる。
幻が撃ち抜かれ、ハルを模倣した紛い物が何かを喚く。
《――僕の約束は僕のモノだ。お前達になんて渡しやしない》
ZAP!!
《――邪魔立ては許さない。本機は、敵(おまえたち)を破壊する》
砂嵐が吹きすさぶ――それをも後に引き、怒りの電光が闇を切り裂いた。
はらわたを晒されるたび、彼の決意(のろい)は強くなる。
成功
🔵🔵🔴
ロク・ザイオン
(うつくしいうたが耳を塞ぐ)
(身を竦ませる
いたいのか
苦しいのか
どこだ
誰が)
(怖い)
(それを心地よいと感じる己は病んでいる
だからきっと己は赦されない)
(望みはなにひとつ叶わない)
(己の喉からも甘美な音色が垂れ落ちる)
(そう聞こえているだけの、悍ましい悲鳴が)
(零れ落ちた黒猫が歌う)
(誰かの、力強いがなり声)
(首に架かる鎖。錆びた小箱
微かな、いとしい、匂い)
(よい、強い、人間に託せと
ならば自分がと、願った)
(うつくしく清くなれなくとも貴女の側にいたい)
(これこそが己の欲)
(己の心は、ここだ)
(小箱を握りしめ
剣鉈は白く燃え上がる)
…おれは
(ひとは病む。病を抱えて、
美しくないまま、生きていた)
人間だ。
●闇との戦い:ロク・ザイオンのケース
うつくしい悲鳴(うた)が、闇の中から響いてくる。
後ろからも前からも。上からも横からも、ああ、そこらじゅうから。
ロクは怯えた猫のように耳を伏せ、うずくまり、ぐるぐると唸った。
うつくしい。けどこれは違う。これは"歪み"のせいで、現実はつまり。
このうつくしさに比例する、苦痛と絶望が誰かを襲っているのだ。
悲鳴(うた)が聞こえる。どこかから。そこらじゅうから。誰かのうたが。
いたいのか。
苦しいのか。
悲しいのか。
どこだ。
誰が。
それを探ることは、つまり悲鳴(うた)に耳を傾けることで、
それがいっそうロクの恐怖を増幅する。うつくしいと感じてしまうから。
怖い。この悲鳴(うた)の主が、どれほど苦しんでいるのか、それが怖い。
それを美しいと感じる、己の歪みが――罪が、業が、病が、怖い。
きっと己は許されない。なにを望んでも、何を願っても、祈っても。
叶わず、適わず、見捨てられて打ち捨てられるのだ。
父にそうされたように。森を追われて見捨てられたように。
きっと、共に食事をしてくれた皆も、肩を並べた皆も、みんな、みんな。
……己の喉からうめき声ではなく悲鳴(うた)がこぼれていると気づいて、
ロクが暗闇の中にただうずくまり泣く(うたう)だけになりそうになった、その時。
歌が、聞こえた。
いや、それは歌と呼ぶには、ずいぶんと力強く、そもそもがなり声で。
ちゃりちゃりという鎖の音で、それがこぼれ落ちた黒猫のものだと気づいた。
提げた小箱。かすかに感じられる"いとしい"匂い。なつかしい匂い。
――よい人間に渡せ。強い人間に託せ。
ならばおれがそう在ろうとした。あねご。あなたのそばに。
その欲こそが元凶だとわかったとき、ロクはぎりりと歯を噛み締めた。
剣鉈を握る。烙印の炎が燃え上がる。
己は病んでいる。
「おれは――」
やんで歪んでいる。美しくもない見捨てられた罪人。
けれどおそらく、それこそが。
「……人間だ」
白い炎が、全てを焼き尽くした。
成功
🔵🔵🔴
月宮・ユイ
アドリブアレンジ◎身に<呪詛>宿す
呪詛で呪い《機能強化》
①悲しみと弱さ故の迷い
②偽りの幻想
③思い出と決意
ふと喧噪の中で気が付く
周りは宴会?
「大丈夫か?お前が呆とするなんて珍しいな」
声を掛けられた先には私の初の担い手たる男性
そう、今は祝勝会…何か変だ
皆が居る、それだけで凄く嬉しくて
それでも違和感は増え言葉が浮かぶ
『心を強く保ち、誘惑に打ち克つのだ』と。
気付けば偽りは砕け、沈黙が訪れる
そう彼なら懐柔の言葉は紡がない
「護りたいものがあるのなら立ち止まるな」
今なら彼の言葉の重さがわかる
故に今はまだ言葉に支えられた借り物の強さでも、さよならを
炎よ灯れ《不死鳥》よ舞え
弱さ抱え超え一歩踏み出せる私である為に
●闇との戦い:月宮・ユイのケース
自分はついさっきまで、明かりもない地下迷宮を進んでいた。
……はず、だ。アックスアンドウィザーズというファンタジーな世界で。
だが気がつけば闇と静寂ではなく、明かりと喧騒がユイを包んでいた。
かすかな酒精――見渡せば、盃を酌み交わす人々。
『どうした、大丈夫か?』
「え」
かけられた声は"ありえないはず"のもの。
訝しんで振り返れば、そこには"いないはずの男"がいた。
「お前がぼうっとするなんて珍しいな」
「あなたは――」
なぜ、ここに。……いや、当然だ。だって彼は、そうだ、我が担い手。
呪物兵器たる己を操るドライバー……つまりは相棒であり家族なのだから。
『せっかくのハレの日なんだ、もう少し楽しめよ』
「……ええ、そうね」
ユイは当惑しつつも宇奈月、宴会場となった駐屯地をもう一度見渡す。
今日は祝勝会だ。かねてから懸念された大戦、白星を挙げられたのは大きい。
"彼"だけではない、肩を並べて戦う仲間達がたくさん飲み、騒いでいた。
訓練で毎回トップクラスの成績を叩き出す沈着冷静なエースも、
反対にいつもヘマをしてばかりの、しかし此度の戦いで大金星を挙げた彼女も。
皆そこにいる。普段は厳しい老教官も皆……皆? いや、それはありえない。
……なぜありえない? 直感的に思った違和感にユイは首を傾げる。
ただそれも泡沫のように弾けて、妙な歓喜と安堵に押し流された。
皆楽しそうにしている。ならばそれでいいじゃないか、と。
せっせとお酌をして周り、つまみの準備にも精を出して。
そんな働き者のユイの姿に、皆は相変わらずだと苦笑する。
『せっかくの花形が、裏方ばかりやってちゃつまらないだろう』
「いいえ、そんなことないわ……ああ、いえ」
不思議だ、自分はこんな喋り方をしていただろうか?
「このほうが楽なんだ、お前達は楽にしていてくれ」
仲間が、皆が楽しく、気軽に、わいわいと騒いでいてくれればそれでいい。
だってもうこれは過ぎ去った――まただ。妙なノスタルジィ。
皆ここにいて、今同じ時間を過ごしているじゃないか。過ぎ去ったとは?
まるでこれが幻で、もう皆いないかのような不安がある。
『またぼけっとしてたのか? 本当に今日はらしくないな』
"彼"が盃を手にそう言って、飲めよ、とユイに杯を勧めた。
『今日はハレの日だぜ。まああれだけ戦ったんだ、疲れてるのかもな』
「……そうかも、しれない……」
『なら一杯呑んで楽にしろよ。騒がないと損だぜ?』
酒の水面に己の顔が揺れる。呪物兵器たる己の――いや。
――彼奴らは精神に囁きかけるやもしれぬし、忌まわしい幻を見せ責め苛むかもしれぬ。
これは、違う。
――いずれにせよ、心を強く保ち、誘惑に打ち克つのだ。さすれば――。
「…………違う」
『どうした? せっかくの宴なんだから難しいことなんて考えないで』
「違う」
きっぱりとユイは言い、彼を……いや、彼を模した幻を睨んだ。
「彼なら、そんな懐柔するような言葉は言わない。私を止めたりしない。
"護りたいものがあるのなら立ち止まるな"と言ってくれたひとだから」
もはやそこに、ハレの日の喧騒はなかった。酒精の香りもなかった。
グラスを投げ捨てる。毒々しい色合いの液体が石畳に広がった。
『……なぜ拒む。いまだ拭えぬ悲嘆を、これからも抱えていくと云うのか!』
「ええ、そうよ」
邪霊の言葉に頷き、ユイはすっと息を強く吸った。
言葉に支えられた借り物の強さ。手が届かないことは多くて、
折れそうになることもあるけれど。でも、それでも。
「犠牲になった仲間達を踏みにじって、膝を突くなんてことはしたくない。
私のこの弱さも、私自身の心が感じた、大事な私の一部なんだから」
『愚かな!』
「――わからないでしょうね。世界を塗り替えるだけの過去には」
ぽつぽつと炎が灯り、やがてそれは大きな不死鳥のカタチを得る。
「私が私であるために、これからも一歩を踏み出し、歩み続けられるように。
舞って、不死鳥――これまでと同じように、これからも同じように、私達の敵を」
『愚かな――!!』
「……その全てを、燃やし尽くせ!!」
不死鳥が高らかに鳴き、闇と共に邪霊を次々に焼き尽くす!
幻など必要ない。抱えるべき思い出は、いつも心とともにある。
成功
🔵🔵🔴
ユキ・スノーバー
さっき怒ってたから、火が付いたみたいに膨れてげきおこぷんぷんモードに引っ張られちゃってる感覚あるなぁ…
その衝動に任せて動ければ、自然のサイクルを意のままに操れるなんて言葉も聞こえてくるし
…そうだね。そうしたら確かに、災害が起こっても簡単に終息させられるかもしれないね。
でも、手を入れて乱暴にしちゃったら、自然が自然にのびやかになんて難しくなるし
急激な変化に、その場所に住む動物達は生きていけなくなっちゃう。
過ぎた力は不幸にしちゃうし、思いやりの欠けた身勝手は逆に悲しくなるだけだって、ちゃんと知ってるもんっ!
…未だ何か怒りっぽい感じ、クールダウンに華吹雪で飛ばしてこー!
ありのままを護りたいからねっ!
●闇との戦い:ユキ・スノーバーのケース
骨邪竜による戦い――正しくは奴が森にもたらした不可逆の荒廃は、
ユキにとって絶対に見過ごせない、反自然的な破壊行為だった。
それゆえ彼は大いに激昂しかの邪竜を痛めつけたのだが、
その存在が亡びたいまも、そう簡単に憤懣は去ってはくれなかった。
「まったくもうっ、オブリビオンだからって自然破壊は許せないよ!
そもそもこんなおっきな空洞を森の真下に作ってるのだって……ぶつぶつ」
地下迷宮がオブリビオンの手によるものなのかどうかはさておき、
こうなってくると目につくもの全てが気に食わなく感じられる。
とっとと元凶であるオブリビオンを滅ぼし、自然のあるべき姿を取り戻そう。
ユキのそんな決意は、彼に危うい猛進をもたらしてしまった。
『……何をそんなに怒る……』
「んぅ?」
どこからか響いてきた不気味な声に、ユキはきょとんと頭上を見上げる。
闇の他には何もない。だが声はその奥から響いてくるようだった。
『……この森は、お前の住処でも故郷でもあるまい……』
「むむ! その物言い、ひょっとしなくてもオブリビオンっ!!」
件の邪霊とやらか。ユキはアイスピックを手に構え眦を吊り上げた。
「とっとと出てきなよ! ひえひえガンガンしてやるんだから!」
『……答えよ……お前は何を憤っている……?』
「そんなの云うまでもないでしょっ、お前達の自然破壊が」
『……ならば……この森が元の姿を取り戻せばよいのだな……?』
「えっ」
予想だにしない言葉に、ユキは素っ頓狂な驚きをもって答えてしまった。
敵が姿を見せていれば怒りのままに襲いかかったであろうが、
なぜ声だけを届かせているのか、という怪訝すらも忘れていたのだ。
『……我らはあの邪竜とは違う……森の自然は我らにとっても重要だ……』
「だ、だったらなんで門番なんてやらせてたのさっ!」
『……遺憾ではある……ゆえに、お前の力を貸してほしい……』
「質問に……って、ぼくの力?」
なにかまずい。このまま大人しく話を聞いているのは、よくないのではないか。
頭の何処かで理性がそう叫ぶが……耳を塞ぐことが出来ない。
「……そうすれば、自然のサイクルをもとに戻すことができるの?」
『それどころか……この森に限らず、何もかも自由に操ることが出来る……』
何もかも。それはつまり、突発的な災害――たとえば山火事や土砂崩れをすぐさま鎮圧して、何もかも元通りに出来るということか。
そうすればきっと、山や海に住む動植物がみだりに喪われることも、
天変地異によっていたずらに人命が喪われることも……ないのではないか?
『お前が力を貸してくれればそれが出来る……その怒りのままに動けば……』
「怒りの、ままに……」
この衝動を、真の意味で解き放てば。
「……ううん、やっぱりそれはだめだよ」
ユキはぶんぶんと頭を振って答えた。
「たとえ災害でも、それも立派な自然のルール。勝手に止めたりしたら、
そのあとに生まれるかもしれない植物や新しい縄張りを壊しちゃうもの」
『止められる災厄を止めたくないというのか?』
「……そういうわけじゃない、けど」
難しいことはよくわからない。ただユキは自分なりに考えて言った。
「過ぎた力は誰も彼も不幸にしちゃうし、余計なお世話は身勝手なだけだって、
むしろ悲しいことを増やしちゃうだけって、ぼくはちゃんと知ってるもんっ!」
『愚かな……力を持ちながらそれを生かさぬとは!』
「むむむ……!」
かっとなりかけた頭を冷ますかのように、ユキは猛吹雪をその場に生み出した。
「ぼくが守りたいのは、ぼくが好きななにかじゃなくてありのままの自然なの!
なんだか怒りっぽくなっちゃってたけど、クールダウンしてやっつけるぞー!」
花吹雪が吹き荒れ、邪霊の気配をソナーめいてあぶりだす。
ユキは闇を恐れず飛び込み――強烈なアイスピックの一撃を叩き込んだ!
『バカな……!!』
「おまえたちの言葉になんて、だまされないもんねっ!」
成功
🔵🔵🔴
渡塚・源誠
ボクのところに寄って来る邪霊たち、皆して雰囲気が似ているね
どことなく、拠るべき場所が無いことを、嘆いているかのような印象かな
……つまり、僕も「そういう奴」って認定しようとしている訳か
……残念! さしずめボクの旅の目的を「居場所(ルーツ)を求めている」って捉えたのかな?
ハハハ、実際確かにボクには「ルーツ」と呼べるものは無いんだよね
でも、それを求めて旅してるとかは全然無い……むしろ無いからこそ、こうして旅を心ゆくままに楽しんでるってところなんだよね!
…たとえその「ルーツ」とやらが見つかっても、ボク自身何か変わることは無いと思うよ
(攻撃は指定UCによる邪霊の一斉捕縛、からの伸縮棍による【なぎ払い】)
●闇との戦い:渡塚・源誠のケース
旅人と言えば聞こえはいいが、ようは根無し草の風来坊というやつだ。
帰るべき家も、土地も、国も……身内と呼ぶべき人々も、源誠には居ない。
だからこそどんな土地やコミュニティでもいつもどおりに過ごせるし、
だからこそどんな土地やコミュニティにも居着くことは出来ない。
それを幸か不幸かどちらに見るかは人それぞれだろうが、
邪霊にとっては、引きずり出すのに最適な"はらわた"だと思えたらしい。
「……おやおや、なんだか辛気臭い感じがするねぇ」
闇の中から鬼火めいて集まってきた邪霊の群れを見て、源誠は苦笑する。
然り。おぼろに浮かび上がる暗蒼の相貌は、どれも嘆いていた。
悲嘆――それは孤独によるものでもあり、寂寥感によるものでもあり、
あるいは拭いきれぬ絶望によるものでもある。
『おおお、おお……感じる、感じるぞ……我らと同じ満たされぬものを……』
「それがボクだって? うーん、たしかに不満はいくつでもあるけどね。
キミ達みたいに、おいおいと泣いて悲しむほどのものはないかなぁ」
『否……否! お前は満たされぬ、寄る辺を持たぬ哀れな浮き草なのだから』
源誠は言葉を止め、口を閉じて邪霊が語るに任せる。
『故郷も、"わがや"も持たぬ哀れな者よ。お前はなにゆえに旅を続ける?
なにゆえに土地をさすらい、人々を触れ、しかし腰を落ち着けようとはしない』
「……さて、ね」
『求めているのだろう。お前自身の居場所(ルーツ)を』
「…………」
どこかに、ありのままの自分を受け入れてくれる人々がいるはず。
どこかに、心安らぐ忘れられないふるさとのような場所があるはず。
どこかに。
どこかに――自分を自分たらしめる礎が、得られる場所が、誰かが。
『我らはお前の悲嘆を肯定しよう……お前の埋まらぬ穴を尊ぼう……。
さあ、その衝動に身と心を任せよ。我らがお前の力となってやるぞ』
「……ハハハ」
源誠は笑った。それはいつもどおりの、どこか気のない笑いだった。
困ったように肩をすくめて頭を振り、いやいや、と手を振る。
「残念だけどそれは違う。たしかにボクに、ルーツなんてものはないさ。
しっかりと過去を覚えていたり支えにしている人に比べれば、ずっとね」
ただ、と源誠は続ける。
「でもね、ボクが旅をする理由は、そんなものを求めているわけじゃない。
……そんなつもりも、ルーツもないからこそ、楽しめるものだってあるだろう?」
故郷を熱望する病にかかることも、
あの港に帰りたいと郷愁に浸ることもない。
ノスタルジーはたしかに人を支え心を温める大事な懐旧だが、
裏を返せば人を惹きつけ歩みを止めてしまう病毒ともいえる。
源誠にそれはない。それがないからこそ、旅の途中で引き止められることも、
心の中で美化された原風景と比べて失望することもない。
「ボクは心の底から、思うがままに旅を楽しんでいるのさ」
『……ならば、我らの悲嘆を否定するというのか? 貴様にそれはないと?』
「さあてね――ただ一つ言えるのは」
きりり、と音を立て、魔糸が邪霊どもを縛り上げ捕まえる。
「たとえその居場所が見つかったとしても、いまのボクはボクのままだ。
これまでと変わらず、それからも同じように旅をし続けるということさ」
一蹴。襲いかかろうとした邪霊どもは、伸縮棍によって薙ぎ払われた。
源誠の表情は変わらない。やれやれと頭を振って歩き出すのみ。
……それを強さと見るか弱さと見るかは、やはり人それぞれだろう。
成功
🔵🔵🔴
ヌル・リリファ
◆アドリブ歓迎です
(殺せ、と。マスターの口が動いた。
わたしがラボを出てから出会った人たちをそうしろと。
出会った人…大事なものの幻影を指差してそう言う。
マスターが言うなら。わたしはそれを躊躇わない。
……したくないと思うけれど。やらなくてはいけないことだから。
やらなくて、人形でなくなることはもっとこわいことだから。
だから、それを命令されるのは悲しい。
……でも。)
マスターとおなじすがたをしただけの相手に、それをいわれるのは。
……ゆるせない。
(静かに、武器を作り上げ)
マスターが、偽物かどうかくらいわかる。
……わたしがころすのは、大事なひとたちじゃない。
いつかそのひがきたとしても。
それは、いまじゃない!
●闇との戦い:ヌル・リリファ
――殺せ。
「……?」
出し抜けな言葉に、ヌルは怪訝な顔をして首を傾げた。
殺せと。目の前の"マスター"は、確かにそう言ったのだ。
敵を殺せというならば喜んで従おう。造物主の指示は人形の誉れ。
与えられた性能と全機能を完全解放し、マスターの不興を買った敵を燼滅しよう。
敵でないならば? ……それは不要な過程というものだ。
そもそも相手が敵か味方かを判断するのは、ヌルではなくマスターの権利。
ヌルに許された――すべきことは、それをただ攻撃し滅ぼすのみだ。
敵とは、つまりマスターが『そうである』と定めたモノのことである。
マスターの判断、マスターの意思、マスターの命令を疑うことはない。
それが人形だ。そうでなければならない。そうでありたい――でなくば。
――どうした、殺せ。私の命令が聞けないのか?
「そんなことはない、けれど」
しかしヌルは、逡巡したように首を振る。なぜならば、そう。
"マスター"が示したのは、誰であろうヌルがよく知る人達。
黒髪の青年。
シニカルな笑みのハッカー。
不思議な声の森番。
桜と胡蝶を連れた羅刹の剣士。
グリモア猟兵である"さむらい"の青年――。
――殺せ。あれが、私の敵だ。つまり、お前の敵だ。だから、殺せ。
見知った人々を指さして、"マスター"は淡々と命令を下した。
ならばそうしなければならない。正直、ヌルはしたくないと思う。
だが、それは義務だ。人形としての責務であり理由であり存在証明であり。
それを違えたならば、もはや己は人形ですらなくなってしまう。
やりたくないからと言って義務を拒むのは、出来損ないの――。
「……かなしいよ」
――なんだと?
「マスターにそう命令されるのは、かなしい。"きっと"わたしは躊躇わない。
……マスターが、"ほんとうにそ命令したならば"、たぶんわたしはそう思う」
然り。ヌルの目の前にいる"マスター"は本物ではない。
これは幻。邪霊が見せたヌルの"はらわた"、彼女を従えるための拘束。
そんなものは見ればわかる。それを見抜くだけの力がヌルにはある。
ただそれでも一瞬囚われかけてしまったのはなぜだろう。
データは完全に偽者だと、幻だと一瞬で見抜いていたはずだ。
だのに耳を傾けてしまった。悲しいと、本当に思ってしまった。
――ためらってしまった。それは、偽者だから?
「……わたしがころすのは、大事なひとたちじゃない」
光の剣や武器が浮き上がり、闇に向けて整列する。
「マスターのすがたを騙って、そんなことをいわせた敵だよ」
『ならば、もしもそれが真実になったというならば、貴様はどうすると?』
「――それは」
わずかな沈黙。
「……それは、"いつか"そのひがきたとしても」
答えは出せない。ただ、力を解き放つ。
「……それは、"いま"じゃない!」
答えは出せない。迷いがある。不安がある。人形らしからぬ思いが。
……ただ、その答えを、こんな奴らにくれてやる理由はない。
言えないのではなく、ヌルは"言いたくない"と強く思ったのだ。
それは、闇を切り開く光の力に他ならなかった。
成功
🔵🔵🔴
第3章 ボス戦
『アークデーモン』
|
POW : 妖星招来
【宙に描かれた巨大な魔法陣から放たれる隕石】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【が大規模に変動する程の破壊が余派で発生し】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
SPD : 魔神の軍勢
【無数の生贄を捧げ、悪魔の軍勢を召喚する。】【その上で邪悪な神々に祈りを捧げ、】【悪魔の軍勢にそれぞれ邪神の加護】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
WIZ : 攻性魔法・多重発動
レベル分の1秒で【詠唱も動作も無しに、呪縛や破壊の中級魔法】を発射できる。
イラスト:イガラ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「アルル・アークライト」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●as goes light,so goes darkness.
それぞれの方法で闇を抜けた猟兵達は、やがて迷宮の最奥に到達した。
そこははたして、地下何十――否、ともすれば何百メートルに至るのか。
曲がりくねった通路や邪霊を退けて辿り着いたのは、まさに地底の最深部。
すなわち見上げるほどに広大な、おあつらえむきの地下ドームだ。
……その地下ドームの中心に、ぽつんと聳える石碑が一つ。
あれがクラウドオベリスクか。なにか邪悪な力が感じられる。
わけても目を引くのは、それが非常に古ぶるしい木の根に絡め取られていること。
そこから伸びゆく根は、ドームの外壁や天井全体を覆い尽くしている。
……いや、逆なのか。木の根がオベリスクを絡め取っているのではなく、
"オベリスクから木の根が生えて、地下から伸びている"というのか……?
『は・は・は!!』
大音声が響いた。オベリスク上部の虚空に赤黒い闇が凝縮し、
ばちばちと不穏なスパークを放ちながらやがて巨体の悪魔に変貌する。
腕は三対六臂。筋骨たくましい全身には邪悪な魔力が脈打ち、
鋭利な紅い突起や爪が這い回る下半身には、大蛇めいた尾がひとつ。
ばさり!! と広げられた翼の長さは、邪竜のそれにも匹敵する。
『成る程!! 我が仔らの気配が消えたのは何事かと思えば貴様らか!!
霧の龍を下し、邪竜をも下し、そして邪霊(わがこ)らを平らげて!!
この地の底まで来たか。――我らの天敵。猟兵!! 勇者の伝説を糧に!!』
並の者ならばその声音に秘められた威圧感と魔力で発狂しかねないほどだ。
なるほど、あの邪霊はおそらくアークデーモンが招来したか、
あるいはその身から直接分けたモノだったのだろう。
かつてこの森林地帯で起きた戦いも、知覚していたらしい。
『我はオベリスクの護り手。龍群れし大陸の在処を覆い隠すもの。
猟兵よ――お前達は、かの大陸に辿り着くことは決して叶わぬ』
ばちばちと爪先にまで暗黒の電撃を充足させながら、魔神は云う。
『貴様らは贄よ。その生命の慮外たる力、すべて我が喰ろうてくれようぞ。
そして地上へ侵攻し、邪竜がし損ねた破滅をばらまいてくれよう!!』
なんたることか! 彼奴は猟兵を生贄に己の力を高め地上へ侵攻すると云う!
実際にそれが為せるかはともかく、大した自信――それに見合う力がある。
『我を滅ぼさずしてオベリスクの破壊が為ると思うなよ――どのみち不可能だが』
べきべきと木の根が触手めいて急成長し、祭壇じみたカタチをなす。
それは浮かび上がる中空のアークデーモンに重なり……おお!
彼奴は胸郭をめきめきと広げ、その身のうちにオベリスクを取り込んだ!
『さあ――始めようではないか! 勇者の光を追い求める天敵ども!
我は闇。世界を侵し破滅させる先触れ! ここが光と闇の境界ぞ!!』
その言葉に対し、思うことはそれぞれにあるだろう。
だが森を貶め、闇を以て猟兵を惑わせた邪悪、その化身に容赦は必要なし。
魔神を滅ぼし、オベリスクの破壊と森の平和を成し遂げるのだ!
●3章特殊ルール:巨大化
アークデーモンはリプレイ展開で一度ぶっ倒されると巨大化します。
あと地下空間の外周がめりめりと崩落して、溶岩とか丸出しになります。
そして地面ぶん殴ったりUC使ったりして主に上半身で戦うわけですね。
これはシナリオ成否とは無関係で、ようは見せ場の問題とお考えください。
等身大のアークデーモンと戦いたい方は、プレイング冒頭に ① と、
斃されたはずが巨大化した敵と戦いたい方は、プレイング冒頭に ② と、
それぞれご記入いただければ、可能な範囲で対応した描写を行います。
それ以外は特に攻略上のあれこれはありません。
そこそこデカい悪魔相手に大立ち回りをするか、
めちゃめちゃデカい悪魔相手に大立ち回りをするか、
お好みでかっこいいアクションを考えつつプレイングしてみてください!
※プレイング自体の返却期限によっては逆になるかもしれません。
※また上記のあれこれは必須ではないので、希望がない方はスルーでOKです。
●プレイングの受付と締切について
受付は【この断章が投稿された時点】から行います。
プレイング締切目安は【19/06/26 08:30前後】です。
草野・千秋
①
やっと見つけたぞアークデーモン
新しい大陸への手がかりだ
この戦い、絶対に負けられないんだ
僕は闇を、過去を、乗り越えた!
そんな僕が邪悪な悪魔になど負ける気はしない!
往くぞ!
真・ダムナーティオー、推参!
武器改造で一時的にでも武器の能力を
チューニングしてアップさせておく
断罪の剣がお前を斬る!
2回攻撃で着実にダメージを与えていく
ヴァリアブルウェポンで命中率重視攻撃だ!
怪力と投擲で敵を持ち上げて落としたりを繰り返す
見下していた人間から受けるダメージを味わえ
敵からのダメージを受けても
盾受けと激痛耐性で耐えてみせるさ
僕の鋼の肉体で、魂で、勝ってみせる!
仁科・恭介
①
魔神の威圧にしばし呆然
すぐに【覚悟】を決め【携帯食料】を口に頬りこみUC対象を魔神に
「お前が闇だというのなら…」
「その闇を乗り越えて希望を与えるのが私の世界だ」
細胞を通して感じる邪悪な気配に細胞達が呼応させる
【吸血】本能を解放し瞳を真紅に変える
神経細胞を特に強化し反射を高める
魔神の行動は逐一【学習力】で蓄積し警戒
細胞から感じる感情から【残像】を残すか【ダッシュ】で間合いをつめるかを即座に判断し攻撃
空中に魔法陣を見かけたら落下地点を即座に計算
注意喚起しながら被害が少なくなると思われる、戦闘中にできた穴に飛び込み躱す
余波後の隙にUCを乗せた【鎧無視攻撃】を叩き込む
「生憎絶望には慣れているのでね」
月舘・夜彦
①
贄か、喰われるつもりは毛頭無いのだがな
……喰われるくらいなら、此処で戦って朽ち果てる方が良い
夜叉を発動、ダッシュで接近して先制攻撃、早業による抜刀
基礎は2回攻撃
敵からの攻撃は残像・見切りより回避
回避が不可なものには武器受けにて防御
いずれも凌いだ後にカウンターにて斬り返す
召喚には撃破を優先
敵の数が多い所へ向かい、なぎ払いも合わせ一掃する
正義等と言うつもりも無い
抱くは多くの命を奪う行為、人の心を揺さぶり弄ぶ行為への嫌悪
ただの一個人が抱く感情他ならぬ
我が身が如何なろうとも、己のやるべき事は決して曲げぬ
お前達が取り込もうとした物は同類なのかもしれない
……ならば最期まで、殺し合おうぞ
●緒戦
魔神級悪魔……アークデーモンの威圧感に、仁科・恭介は言葉を喪った。
無論これまで相対した幹部級オブリビオンのそれには見劣りするものの、
尋常の存在とは思えぬほどの魔力が全身に満ちているのだ、無理もなかろう。
だがそんな恭介を正気づかせたのは、他ならぬ猟兵の力強い言葉だった。
「……贄とは大きく出たものだ。生憎、喰われるつもりは毛頭ない」
ちゃきり、と刀を鳴らしながら、月舘・夜彦が鋭い瞳で魔神を睨みつける。
彼もまた闇の中に、何か恐るべき"はらわた"を見せられたのだろう。
放たれる怒気と殺気は、魔神のそれに勝るとも劣らない。
「お前に喰われるぐらいならば、いっそここで戦って朽ち果てるほうが良い」
決してオブリビオンのいいようにはさせぬ、という凄絶な敵意。
それは剣士としての本懐であり、絶対的な敵対心の顕れでもあった。
「ダメですよ夜彦さん。僕達は、この戦いに絶対に勝たないといけないんです」
そんな夜彦と、呆然とする恭介のそれぞれを見、言った男。
そして彼らふたりに並び立つように一歩進み出たのは、草野・千秋である。
「群龍大陸への手がかりを手に入れるために。そして邪悪な敵を倒すために!
それが闇を……過去を乗り越えた、僕と皆さんのなすべきことなのですから!」
然り。この戦いは、おそらく待ち受ける大きな戦いの前哨戦に過ぎない。
いくつもあるクラウドオベリスクのひとつ。ここで挫けていては、
アックスアンドウィザーズの平和を守り抜くことなど不可能なのだ!
夜彦は千秋のほうを見、厳しい面のまま沈黙し……ぽつりと口を開く。
「過去を乗り越えた、か。いや、私は――」
「あの闇の中で私達がどのようなものを見たにせよ」
夜彦がこぼしかけた言葉を遮るように恭介が言う。その手には携帯食料がひとつ。
威圧感による萎縮から抜け出したいま、恭介の目には戦意がぎらつく。
「我々がなすべきことは、彼の……千秋の言う通りだ。乗り越えてやるとしよう。
闇を傲る魔神を斃し、世界に希望を与える。それこそが私の役目なのだろう!」
そしておもむろに食料を咀嚼する。フードファイターなりの臨戦態勢。
いまここで敵を斃さねばならない、という点に、誰しも異論はない。
頷いた夜彦の姿が、内側から溢れる黒い靄に覆われていく。
「往くぞ魔神よ――僕が、いいや、僕らがお前を討ち倒し、オベリスクを破壊する!」
そして千秋もまた、禍々しい赤黒の甲冑を纏い武器を構えるのだ。
真・ダムナーティオー推参――そして、戦いの火蓋が切って落とされた!
『は・は・は・は・は!!』
立ち向かう猟兵三人に対し、アークデーモンは邪悪な哄笑をあげる。
なるほど、あの闇を――そして我が仔らを乗り越えてきただけはあるらしい。
だが笑止なり。我こそはクラウドオベリスクの番人なれば!
『貴様らのそのいじましき覚悟と決意、全て全て食らってくれるわ!!』
アークデーモンの三つ目が煌めく――直後、三人は弾かれたように跳躍!
その一瞬後、まさについさきほどまでいた地面がすさまじい爆裂を起こした!
『ほう、一撃で倒れるほどやわではないか』
「詠唱も動作もなしにあんな爆発を起こすとは……来るぞ!」
瞳を血のように禍々しい真紅に光らせた恭介が、千秋と夜彦へ檄を飛ばす。
反射神経を強化したいまの恭介には、予備動作すらない敵の攻撃が読めるのだ。
だが敵の攻撃はまだ初手、いきなり間合いを詰めるのは時期尚早に過ぎる。
一方で、爆炎を後に引き夜彦がまっすぐに駆ける。黒い靄はいまだ増殖!
「その程度の火遊びなど、脅しにもならん――もらった!!」
疾い。瞬く間に剣戟距離に敵を捉えての、神速に等しい抜刀術。
だがアークデーモンはにやりと笑う。……敵の術中か!
「そうはいかないぞ、アークデーモンッ!!」
ここへ千秋がインタラプト。抉り込むような、強烈な刺突を繰り出す!
狙いは胸部のオベリスク――アークデーモンはこれに対応せざるを得ない。
『邪魔をするな……ッ!!』
すさまじい炎の壁が千秋の前に現出する。夜彦への攻撃がそらされた形である。
炎に巻かれた千秋の犠牲により、神速抜刀はアークデーモンへ届いた!
「まずは一撃。だがこの程度で終わらせはせん」
夜彦は千秋を顧みない。普段の彼ならば慮ることもあっただろう。
だがいまの夜彦は剣豪にして剣豪に非ず。その身、すなわち鬼神なり。
アークデーモンが宙空に魔法陣を生み出した瞬間には、二撃目が奔っていた。
剣速がその身を纏う靄をも祓う――現れしは己の穢れに変貌せし夜叉の姿!
『ぐおっ!?』
「ここか――私も畳み掛ける!」
好機を思考速度で察知し、恭介は爆発的速度で地を蹴った。
しかしアークデーモンが生み出した魔法陣は徐々に像を結んでいる!
「先ほどのものとは比較にならない破壊が来るぞ! 避けるんだ!」
「――いいや」
炎が晴れる。現れたのは焦げ付いた甲冑……すなわち千秋の姿。
血まみれの顔は、狂気的な笑みに歪みぎらぎらとアークデーモンを睨む。
「攻撃は僕が抑えつけます。おふたりはヤツの足止めを」
「……わかった」
「言われるまでもありません。この刃を振るうことこそ私の本懐なれば……!!」
バチバチと魔法陣がスパークを放つ。この世ならぬ異空間へ接続、招来。
ゴゴゴ……と大気の灼ける音に、夜彦と恭介が注意を払うことはない。
互いに矜持があり為すと決めたことがある、だからこそだ。
そして来る――異界から呼び寄せられた、無数の隕石が!
大気との摩擦熱により燃え上がるそれに、千秋は自ら打ってかかる!
「この断罪の剣は、誰が相手だろうと決して折れはしないんだ!」
先触れの小隕石を横斬撃で分割! 奥から降り注ぐ彗星群をさらに四散!
心の傷に触れたによる怒りと、己の過去を再認した決意が魂を燃やし、
その熱量が背中を押す超自然の斥力となって、千秋を空に舞わせる。
斬撃、斬撃、斬撃――そしておお、なんたる質量……本命の大隕石が!
「僕のこの鋼の肉体、そして魂は、お前達を倒す――そのために!!」
臆することなく、一陣の流星となった千秋が大隕石を真っ二つに両断する!
『なんだと!? バカな、我が妖星が!!』
「戦闘中によそ見とは感心しないな!」
恭介が踏み込む。鎧をも砕く強烈な掌底がアークデーモンの腹部を捉えた!
魔神は苦悶しつつ大きく後退し、苦し紛れに地獄の軍勢を招来する。
必要な生贄は賄われている――骨邪竜が地上で撒き散らした荒廃はそのためだ。
自然の命という生贄を支払い、新たな魔法陣から小鬼の群れが、
「どれほど数を増やそうと、無駄だ」
……夜彦の薙ぎ払いにより、一息の裡に全滅させられた!
『それほどの力を持ちながら、なぜ我が仔らの誘いをはねのけた!?』
「……私は、彼らのように正義だの希望だのとを語るつもりはない」
小鬼の残骸を払い、夜彦の鬼じみた凝視が魔神を捉える。
「私が思うのは、魔神よ。お前達のその、多くの命を奪う無法と卑劣さへの嫌悪だ。
人の心を揺さぶり弄ぶ――私はただひとりの人間として、それを許さんッ!」
夜叉の姿がかき消えた。残像すら生じさせるほどの猛烈な踏み込みである。
そして恭介によって撃たれた腹部を、恐ろしい切れ味の横一文字が薙ぐ!
『がはぁっ!?』
「我が身がいかなるものなろうとも、己のやるべきことは決して曲げはせぬ。
同類故にお前達が私を取り込もうとしたならば――最期まで、殺し合おうぞ」
武芸者としての死合ですらない命の奪い合い。獣の如き殺し合い。
今の夜彦が己に任ずるのは、魔神すら殺し切る鬼神としてのふるまいである。
「けれど、それだけじゃない!」
そこへ、隕石攻撃を凌いだ千秋が快哉めいて踊りこんできた!
まず剣閃が月をなぞるようにうちあげられ、次いで真上から打ち下ろされる!
隕石が砕くはずだった地面を、アークデーモンの巨体がひび割れさせるのだ!
「どうだ、見下していた人間から受けるダメージは? 屈辱だろう!
僕達はお前達になど負けない。必ず勝って、平和を掴んでみせるとも!」
アークデーモンは即座に魔力を解き放ち、ふたりを吹き飛ばそうとした。
だがそこに突き刺さったのは――落盤岩石めいて叩き降ろされた恭介の踵。
『――ごはッッ!!』
「その身に刻みたまえ魔神よ。――私達は、生憎絶望には慣れているのさ」
鬼、神、そして戦士。魔神を追い詰めるのは闇を乗り越えた三人の男達である!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
三咲・織愛
シオンくん(f09324)と
①
シオンくん、無事でよかった……!
なんて、喜ぶのは早いですね
世界を侵すことも、破滅させることも、許せない、許しません
何処かで泣く誰かが、いてはいけないんですよ!
邪霊の言葉を振り払うように、己を奮い立たせて槍を構える
前に出ますね。援護、頼りにしてますから
力と覚悟、それが今の私の寄る辺
悪の軍勢など、知ったことではありません
邪魔です、どきなさい
攻撃は<見切り><武器受け>敵の力を利用してカウンターで<串刺し>
<範囲攻撃>で薙ぎながらアークデーモンまで真っすぐに駆ける
かかってきなさい!
あなたが闇だというのなら、光で焼き切ってやりましょう
【閃撃】によるカウンターを狙います
シオン・ミウル
織愛(f01585)と一緒に
①
お互い無事でなにより、かな
この後も無事だとなお良しって感じだね
破滅させられちゃうのはさすがに俺も困るなー
……ま、今はちょっと織愛の方が気になっちゃうんだけど
何かあった? なんて聞きはしないけど、自分にもあったから想像はつく……かな
無理は禁物だよ。俺ってあんまり頼りにならないからさ。なんて言っても無理しそうだなあ
全力魔法で風を練り上げよう
行く手を阻む敵を風刃で切りつけて、織愛への攻撃も風で逸らす
目標は一緒。一発入れないと気が済まないんでしょ
なら全力で後押しするだけだよね
思い詰めすぎないように。そんな気持ちも籠めて、風で彼女の背を押そう
●踏破
地下空間を大音声が揺るがす。アークデーモンとの戦端が開かれたのだ。
地下迷宮の闇を踏破し終えた三咲・織愛もまた、勇んで飛び込もうとする、が。
「やあ織愛、無事でなにより」
「!!」
驚いて振り返れば、そこには笑顔の少年――シオン・ミウルがいた。
「シオンくん……そっちも無事だったんですね、よかった……!」
「ん、まあね」
深く安堵した織愛は、シオンの言葉と表情の僅かな違和感に気づかない。
普段のそれとのかすかな違い……どことなく陰が差したかのような気配に。
「まあ喜ぶにはまだ早いけどね。このあとも無事だとなお良し、かなあ」
シオンの視線は戦場へ。まさにいま、隕石が四散し砕けた。
織愛もまたそれを追って、叩き伏せられるアークデーモンを見据える。
「そうですね……世界の破滅も侵略も、私は許せない……許しません」
織愛の切羽詰まった様子を、シオンはつぶさに感じ取っている。
何があったのかなどとは問うまでもない。己も同じ目に遭ったのだから。
(無理は禁物だよ、なんて言っても無理はしそうだなあ)
どうしたものか……と思案したところで、正直考えがまとまらない。
シオンとて、あの闇の中の想起が無影響かと言えばウソになる。
ただ素直な織愛に対し、彼はそういうのをごまかすのが得意というだけだ。
「……私、前に出ますね。援護お願いします」
背中を向けたままの織愛の言葉に、シオンは短く、小さな声で嘆息し、
「悪いんだけど、俺ってあんまり頼りには」
「シオンくん」
織愛が振り返る。いつもどおりの笑顔。
「頼りにしてますから」
「…………」
シオンはさっきと同じように嘆息し、頭を振った。敵わないな、という苦笑。
「頼まれたよ。あいつ、やっつけてやろう」
「はい。……行きますっ!!」
そしてふたりは戦禍へ飛び込む。暴威と叫声の只中へと。
地面深くへ沈められたアークデーモンの巨体が、噴煙とともに跳ね上がった。
巨体の全膂力を使って倒れたまま跳躍し、猟兵を振り払ったのだ!
『おのれが……!! 一撃二撃入れた程度でいい気になるなッ!!』
「ならば私達が、倒れるまで攻撃し続けるまでですっ!」
決然たる織愛の声! 言わずもがな、アークデーモンの凝視が迎え撃つ!
後押しするような追い風――後衛に立つシオンの援護だ。
「私はあなたを、あなた達を認めません! 何があろうと絶対に……!
どこかの誰かで涙を流す人なんて、いていいはずがないんですよっ!!」
人は幸せでなければならない。その幸せをこんな暴威に奪われていいはずがない。
ゆえに邪悪は滅ぼさねばならない。織愛の決意が、龍の槍を強く握りしめる。
『ほざくがいい、お前達に勝ち目はないぞ!』
アークデーモンによる予備動作なしの強力な呪文発動!
破壊された隕石片が浮かび上がって燃える礫となり、織愛めがけ襲いかかった!
「勝ち誇るのは、せめてこっちが挑んでからにしてほしいなっと!」
追い風は敵にとっての向かい風、そしてこれが烈風に変わる。
燃える岩石を寄せ付けないほどの、目が眩みそうなほどの暴風である!
『チィ……ならばこれはどうだッ!?』
アークデーモンは懲りずに無数の魔法陣を展開、
大地から引き出した生命力を贄に再びの悪魔召喚を行う。
現れる軍勢は、肉塊じみた醜悪な魔性の群れだ!
「邪魔です、どきなさい!」
力と覚悟……それこそがいまの織愛にとっての寄る辺であり殿。
立ちふさがる敵がいるならば、尽くを鏖殺し、ただ突き進むべし……!
織愛は視線をアークデーモンに保ったまま、縦横無尽に槍を振るう。
迫る触手を矛で叩き斬り、圧殺せんとする肉の塊をてこの力ではねのけ、
背後に回った這いずる悪魔生命体を石突で地面に縫い止めるのだ。
その足が止まることはない。彼女の目的はあくまで魔神そのものに他ならず!
「正直、そっちの光だの闇だのいう大言壮語に興味はないんだよね」
あとから続くのはシオン、そして彼のタクトがおりなす風の狂騒曲だ。
風刃が死にぞこないの悪魔どもをずたずたに切り裂いて絶命させ、
織愛が防ぎきれない攻撃を壁のように吹きすさぶことで押しのける。
彼は決して後ろで見物することをよしとしない。翼をはためかせ前へと飛ぶ。
危険だ。だが止まらない――目的は織愛と"同じ"なのだ。
「俺も織愛も、一発入れないと気がすまないだけなのさ!」
敵を切り裂き道を開いた暴風が、織愛の背後で竜巻のような渦となった。
収束したそれが爆ぜる――寸分のずれもなく、織愛は力強く地面を蹴った!
『わ、我が同胞(はらから)がこうも易易と!?』
「あなたが闇だというのなら――この光(ちから)で! 焼き切ってやります!!」
アークデーモンが、魔力みなぎる豪腕を握りしめ突き出す。
織愛の狙い通りである。内側に潜り込んでの……凄まじいアッパーカット!
『がぼっ!?』
宙に舞い上がったアークデーモンを、再び収束した風の輪が包み込んだ!
「うん、思いつめるぐらいなら、そうやってぶっぱするのが一番だよ」
シオンがタクトを振るい、風の輪を再々収束させる。
魔神の絶叫――猟兵が趨勢を握り始めた、まさにその証左である!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ティオレンシア・シーディア
①
※アドリブ掛け合い絡み大歓迎
…へぇ、我が仔ら、ねぇ…
つまりあんな胸糞悪いモノ見せられたのは、アンタが原因ってことなのねぇ。…ブッ殺す。
…とはいえ。魔法乱れ射ちだのメテオだのの対処は流石に無理ねぇ。そこらへんは専門の人たちに任せましょ。
なら、あたしにできるのは雑魚散らしかしらねぇ。
〇ダッシュ・ジャンプ・スライディング駆使して敵陣に突っこんで、〇地形の利用しながら〇第六感で攻撃〇見切って〇先制攻撃の●鏖殺で暴れまわるわぁ。使える技能は洗いざらい活用するわよぉ。
ついでに銃弾にはエオロー・ラグ・ユルのルーン。
エオローは退魔、ラグは浄化。そしてユルは悪縁との決別。
〇破魔〇属性攻撃にはうってつけでしょ?
ユキ・スノーバー
出てきたーっ!偉そうな元凶っ!
されたら嫌な事は、しないに限るんだからねっ!
平らげてとか、世界に嫌な事しようとしてたら止めるとか当たり前だよ。
ぼく達は、困ってる人達にとっては応急処置的な意味で、元気になる為の点滴の役割みたいなものだから
一人一人だけならちっぽけかもしれないけれど、甘く見てるその態度は慢心が過ぎるんだからねっ!
…とはいえ、攻撃技が厄介過ぎるから
当たっちゃうのは覚悟の上、諦めないのは大事っ!
自分より大きい敵がデフォルトは今更だから、直撃は避けつつ距離を詰めて
ユーベルジャックで至近距離仕返しの嫌がらせアターック!
魔法はもっとわくわくして、キラキラした夢を抱けるものでなくちゃなんだよー!
シズル・ゴッズフォート
①
あんな幻、私は認めない……
ええ、認めませんとも!
……ですが、あの時の絵画(scenario_id=8052)も先程の幻とよく似通っていた
もしも本当だったら、私は今まで一体どれ程己に嘘を……!
血塗れのまま参戦
「武器/盾受け」を駆使した、愚直なまでの防戦を中心とした個人級白兵戦術
自身が功績を上げるよりも、犠牲者の出ない全体としての勝利を重視
剣で斬り、いなし、時に盾での殴打や体術も交えつつ防ぎ、どうしても防げない攻撃は【無敵城塞】で受ける。何時も通りの戦術
(が、先の戦闘と幻により、より防御に傾倒気味。
楯での殴打は兎も角、特に刀剣での斬撃にキレがない。武器を振るうことに愉悦を感じることを恐れている)
●応戦
アークデーモンは混乱していた。
地表の森林地帯を代償に集めた生命エネルギーは莫大なもの。
クラウドオベリスクを取り込んだことで、その力は飛躍的に高まっている。
骨邪竜が討ち倒された時点で驚愕に値する誤算だが、配下はそれだけでない。
地下迷宮の闇に潜むしもべ――邪霊による精神攻撃と憑依の罠。
いかな剛の者とて、心身が無事なまま踏破できるはずなどない――はずだった。
だのになぜだ。なぜこの天敵どもは……猟兵は、斯様な強さを残している。
いやむしろ――アークデーモンは平時の猟兵の力を知らぬが――強まっている?
……ヤツはオブリビオンである。過去の残骸、未来の破壊者。
ゆえにヤツにはわからない。怒り、あるいは悲しみを乗り越えた猟兵が、
だからこそ激情によってポテンシャルを高めているということを。
そしていま、新たな一撃が彼奴の体に大きな傷を遺した。
――BLAMN!!
『ぐおぉっ!!』
「あらあらぁ、言うだけあってタフなのねぇ」
硝煙をくゆらすリボルバーを神業的な手さばきでガンスピンしながら、
ティオレンシア・シーディアが甘ったるい小娘めいた声でくすくすと笑う。
しかしその声音には、ぞっとするほどの怒りと殺意が載せられていた。
アークデーモンに穿たれた銃創は、どれも並の敵なら即死級の急所ばかり。
BLAMN!! 疾い。撃鉄を起こした瞬間すら見えぬほどのクイックドロウ。
アークデーモンには、弾丸はおろかトリガを引く素振りすら目視できない。
であれば、奴がティオレンシアの銃撃を防げるはずもない。
「言っておくけどこれはまだ"普通"の弾頭よぉ? つまり序の口ってこと。
……そうでしょ? アンタが"あんなモノ"を見せてきた主犯格なんだから」
す、と。細められた瞼の奥、怖気が立つようなすさまじい凝視。
「――苦しませてブッ殺してやるわ。せいぜいあがいてちょうだいねぇ」
フィクサーは、自分をナメた敵を決して許しはしない。
ましてや強制的に引きずり出されたのが、凄絶な過去にまつわるものならば。
『ぐ、調子に乗るなよ……かああっ!!』
だがアークデーモンは一筋縄ではいかない! 予備動作なしの魔法詠唱!
虚空に生まれた火球がティオレンシアに降りかかり――爆裂した!
「あらぁ?」
ティオレンシアは呑気な声を漏らした。飛散した破片が何かに遮られる。
つまりこういうことだ。まず火球を爆裂させたのは一体のテレビウムである。
「ほらまた! そーやってされたら嫌なことをするー!!」
剣呑なアイスピックをぶんぶん振り回し、ユキ・スノーバーが魔神を叱る。
やや毒気を抜かれる振る舞いだが、彼なりに怒っていることはたしかだ。
「平らげてとか生贄とか、そんなことするやつは止めるに決まってるでしょ!
……たしかにぼく達は、災いや悲劇そのものをなくすことは出来ないけど……」
自然を愛するひとりの存在として、その言葉の意味は聞くだに重い。
ましてや相手がオブリビオンとなれば、先手を打つのも難しいものだ。
「困ってる人達にとっては、応急処置みたいなものでしかないけど!
それでも、ぼく達が戦えば、困っている誰かを元気に出来るかもしれないっ!」
住処を奪われた森の動物達やフェアリー、あるいは多くの生命。
アークデーモンに殺されるやもしれぬ、周辺に住まう無辜の人々……。
ここで戦い、彼奴を打ち倒さねば、もっと悪い未来が待ってるだけである。
「だからぼく達は戦うの! たとえひとりひとりがちっぽけでもね!
そうやって甘く見てると、足元すくわれて大変なことになるぞーっ!」
「…………」
ユキの言葉は、世俗にまみれたティオレンシアからすればいかにも純朴である。
だがそれゆえにまっすぐだ。……はたして、彼女はそこに何を感じたか。
「……そうです。あんな幻を見せられた程度で、膝を折るわけにはいきません」
そんなふたりの前に、盾を構えて立ちはだかったシズル・ゴッズフォートが言う。
うつむいていた顔をあげる。瞳は弱々しいが、しかししっかり開かれていた。
「私はあれを私とは認めない。ええ、決して認めませんとも!」
はっきりと拒絶の言葉を吐き出す一方、シズルの脳裏に去来する過去の記憶。
UDCアースにおける、ある幻影。己の深層意識を映し出した景色の思い出……。
やはり、血に塗れ戦闘の高揚に酔いしれることこそが己の望みなのか。
騎士道を掲げ人を守ろうとするこの決意は、意思は、欺瞞に過ぎないのか。
(私は……私は今まで一体、どれほどの嘘を己に課してきたのか……)
懊悩は迷いに繋がりかねない。シズルは己を強いて、騎士としての言葉を吐く。
嘘を嘘で塗り固める。それはともすれば破滅の螺旋に落ち行く愚行である。
だが、と。その嘘を冷えた視点で俯瞰しながら、シズルは内心で思う。
(……いいえ、いいえ! たとえ、私の言葉がすべて嘘偽りだったとしても。
ならばこそ、それを真実に変えるために貫かねば、本当に意味がなくなる……!)
ぎしりと、盾を握りしめる手に力がこもった。血まみれの髪を振り乱す。
「これ以上、私の盾はあなたの攻撃を通しはしない。誰であろうと守ります!
……攻撃の手はおまかせします、おふたりとも。防御に関してはこの私に!」
一瞬振り返ったシズルの瞳と、ティオレンシアそしてユキの双眸が絡み合う。
互いにアークデーモンに対する敵愾心はひとしお。力を合わせるときだ!
そして、魔神は作戦会議をするような悠長な隙など与えてはくれない。
再びの火球がシズルの盾に直撃、彼女の体がざりざりと地面を削り後退した!
『ならばその盾もろとも押し潰してくれるわあっ!!』
一瞬にして空中に魔法陣が展開、異界に接続された次元門から妖星が現れる。
先触れめいて降り注ぐ小隕石、ティオレンシアの弾丸がこれを銃撃撃墜!
BLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAM!! 耳を聾するすさまじいファニング!
「前に出ます……!!」
「当然よぉ」
「とにかく距離を詰めないとねっ!」
巨大な盾の質量と衝撃影響をものともせず、シズルが全力スプリント。
後を追う形でティオレンシアとユキも走る……そこへさらなる隕石の落下!
BLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAM!! 今度のデカブツはファニングでも殺しきれないか!
「攻撃を防ぐのが盾だけとは思わないことですね!」
シズルの斬撃が宙を裂いた。普段からすればはるかにキレのない剣閃である。
守るためとは言え、武器を振るうことによる愉悦への拒否感があるのだろう。
勢いを減じきれなかった隕石片が肩を打つ……鈍い嫌な音。骨がひび割れたか。
「そんなんじゃ守るどころじゃないわよぉ、もう少し気合い入れなさい!」
「……!! 心得、ました……!」
フィクサーとしてのティオレンシアの言葉がシズルに活を入れる。
そうだ、こんなところで足踏みしていては騎士道など夢のまた夢。
痛みがその心を鞭打つ。さらなる隕石攻撃をシールドバッシュで薙ぎ払った!
「アタシも前に出るしかないわね」
ティオレンシアは即座に状況判断――隕石と共に現れた無数の悪魔軍勢を見た。
シズルの脇をくぐるようにしてその只中に飛び込み、回転しながらの連続銃撃!
BLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAM!! ファニングが魑魅魍魎をスイスチーズにする!
「道が開いた……! ぼくも行くよっ!!」
相対距離残り10メートル! だがここでアークデーモンがユキを凝視!
なんらかの魔法予兆だ! シズルは――奥歯を噛み締め、瞠目する。
(守れるものを守らずしてなにが騎士道か! 私は――!!)
降り注ぐ本命の大隕石、そして何か恐るべき魔術発動の気配。だからどうした。
この身を、盾を掲げるは人を守るため。いまこそがその時ではないか!
邪魔する敵を剣でなます斬りにし、捨て身の無敵城塞を発動!!
大気との摩擦熱で赤く焼け焦げる妖星が、シズルの防御オーラと衝突拮抗する!
「ぐ、ぅうううううう……ッッ!!」
衝撃波が周囲の地面をひび割れさせ、シズルの全身に擦過裂傷を刻む!
だが彼女は倒れない! そして――ユキの進むべき一瞬が、啓かれたのだ!
「魔法はもっとわくわくして、キラキラした夢を抱かせるものでなきゃなんだよー!!」
アークデーモンによる攻性魔法、円錐化した鋭利な岩塊の召喚投擲である!
シズルの無敵城塞が防ぎきったそれを、ユキは目視模倣、そして発動。
形は同じ、されど岩ではなく氷の柱となった円錐物体がアークデーモンに飛来した!
『何ッ!?』
「ぼく達は絶対諦めないぞ! 負けないんだからなー!!」
避けるにも距離が近すぎる。無謀な接近はこのためか。
アークデーモンは翼をはためかせ氷柱を弾き――そして、気づいた。
「じゃあ"本命"をあげるわぁ。とってきの破魔の弾丸……味わいなさい」
ティオレンシアが照準を定めている。装填された弾丸はルーン刻印入り。
エオロー。ラグ。ユル。退魔・浄化・決別を示す三種の紋様が鈍く輝く!
――BLAMBLAMBLAMN!!
弾丸は左右胸部さらに口蓋を貫通、破魔の魔力がアークデーモンの体内で爆裂!
白い輝きが闇を退ける。死闘の最中、たしかに強烈な一撃が届いたのだ!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アルトリウス・セレスタイト
壮大なのも結構だが、だいぶ杜撰だぞ
自動起動する真理で盾を纏い、干渉の規模と精度を最大化
目標へは天楼で対処
対象は戦場全体の敵性個体
骸の海の先へ至った己ならぬ過去の記憶に捕らえる
そこへ至らぬ身では惑う他あるまい
其処にあっても味方は囚われず影響もない
真理の連続行動能力と高速詠唱・2回攻撃の技法を駆使して多重展開
拘束と掃討の速度をより速める
更に魔力を溜めた自身の裡に展開しておき、纏ったオーラで押し留め保持
迷路を力づくで強引に破るなどしてきたら即座に外部へ展開し逃さない
出口は全て、術者である自身に設定
自身を討たねば抜け出せないように
世界を滅ぼすのだろう
急いで俺を討たねば計画倒れだぞ
露木・鬼燈
①
こいつが魔神ですか、いいねっ!
喰いごたえがありそうなのです。
強敵を打ち倒し、力を高め…
そして群龍大陸で竜を喰らい尽くす。
考えるだけでテンションがあがるっ!
さぁ、楽しんでいくっぽい!
化身鎧装<黑鐵>を起動し空中戦を行うです。
忍体術<絶影>を併用することで天井を足場に利用。
機動をより複雑にして翻弄するです。
魔剣・体術・魔弾を駆使した変幻自在の攻撃。
確実にダメージを積み重ねていくのです。
って、巨大な魔法陣がっ!
なんかヤバい予感がするです。
ここは後のことは考えずに全力で迎撃する場面かも!
生命力を重力制御器官へ注いで強力な重力の渦を生み出し…
黒星招来!
マイクロブラックホールを撃ち出して迎撃するっぽい!
セルマ・エンフィールド
①
あなたを滅ぼせばオベリスクも破壊できる、と。分かりやすいですね。
フィンブルヴェトでは手が足りませんか。では、こちらで。
デリンジャーを抜き、【ヴェンデッタ】の弾を込めます。
いつもならば威力不足が気になるところですが、戦いが激化するほどに威力と弾数が増す弾丸が今は100発以上。ここまで弾丸が増えたのは初めてですね、果たしてどれほどの威力が出るか……
4丁のデリンジャーを『クイックドロウ』で持ち替えながら敵の動きを『見切』っての『カウンター』なども織り交ぜ悪魔の軍勢を迎撃します。
軍勢が減り、射線が空いたところでフィンブルヴェトを構え、アークデーモンに『スナイパー』で【ヴェンデッタ】の弾丸を。
●包囲
破魔の魔力の爆裂が、アークデーモンの邪悪な肉体を"削ぎ落とす"。
いわばそれは存在の死。不滅の過去を直接滅ぼす、まさに銀の弾丸である。
(まずい)
アークデーモンは直感した。いまここで死力を尽くさねば滅びるのみだと。
『――がぁあああああっ!!』
狙いも何もなく前後左右上下すべてに破壊の魔力を投射、不可視の衝撃を放つ!
飛来した追い打ちの弾丸や氷柱を押しのけ、この隙に打って出んとする、が!
『これは……迷路、だと!?』
然り。ガラスめいた半透明のなんらかの物質で出来た、幾何学の天楼迷宮。
それが球体じみてアークデーモンを捕えている。端はいまなお増殖包囲中……!
「台詞も行動も何もかも杜撰だな」
魔神の三眼が声の主を捉えた。アルトリウス・セレスタイト。
迷宮の出口は彼自身。であれば迷宮には彼自身も囚われる道理となる。
しかしアルトリウスに恐れはない。なぜならば彼は原理の支配者なれば。
「これはお前を留め、そして存在消去する原理の迷宮。
俺を討たねば、地上はおろか戦場を抜け出すことさえ出来んぞ」
『面妖な真似を……ならば、すべて破壊し尽くしてくれる!!』
「やってみるがいい。お前には不可能だ」
そして高速強化されたアルトリウスとアークデーモンが原子めいてぶつかりあう。
予備動作なしの破壊魔法の魔力は天楼迷宮の壁や床を破壊しすり抜けるが、
迷宮そのものを脱するには、あまりの大きさと迷宮の複雑さが壁となる。
動けはするが逃れきれない……その事実が魔神をさらに苛立たせた。
「なかなかおもしろいアトラクションっぽい? 僕も楽しむっぽい!」
さらにアークデーモンを苛立たせたのは、露木・鬼燈の存在である。
アルトリウスが展開した原理は、選択した任意対象のみを捕縛するもの。
つまり半透明の幾何学迷宮が、非選択対象――猟兵の枷となることはない。
とはいえ、アークデーモンが常時展開放出する魔力の爆裂までは防ぎきれず、
接近を試みる猟兵には、これを目視回避するほどの反射神経が要求されるのだ。
その点に於いて、屠龍の忍者たる鬼燈は十分に条件と前提を満たしている。
ましてやいまの彼を覆うのが、化身外装《黑鐵》ならば言うまでもなし!
命を灼く呪いの炎が四肢と関節部から吹き出し、鬼燈の機動を変幻自在とする!
「ほらほら、"予備動作がない"ぐらいじゃ僕は捉えられないっぽい~?」
『嘗めた口を……叩くなァッ!!』
空間が爆裂! だが原理迷宮の壁がその威力をほぼほぼ減衰させる上に、
そもそも鬼燈を捕捉できていない。なんたる速度かつ無重力運動めいた回避行動!
天地逆転した鬼燈は、魔弾を目くらましとして放ち、ジグザグに接近走行。
魔剣を逆手に構え首を刈る強烈な斬撃を放つ――魔神の腕がこれを防いだ!
ガギン――!! 刃と刃が打ち合うような強烈な金属音……!
BLAMN!!
『がッ!?』
拮抗から鬼燈を拘束せんと伸ばされたアークデーモンの掌が貫通破裂する。
なんという威力の弾丸か。これを放ったのはセルマ・エンフィールドである!
「今回ばかりは、威力不足を気にする必要もなさそうですね!」
構えるはデリンジャー、こんな鉄火場にはそぐわぬ護身用の双発拳銃。
だがチャンバーで牙を研ぐのは、魔力によって編み上げられた不可思議の弾丸。
"血の復讐(Vendetta)"の名を持つ、戦いの血を啜り力を増す終末の使者だ!
「大盤振る舞いでいきますよ、耐えられますか!?」
BLAMN!! BLAMN!! BLAMN!! BLAMN!!
四丁のデリンジャーをまるでジャグリングめいて目まぐるしく活用し、
アークデーモンに一挙一動すらも許さぬ猛烈な復讐弾丸の弾幕を浴びせる。
一撃一撃が、デリンジャーの弾丸とは思えぬほどの威力を秘めた強烈な猛威。
いかに予備動作がないとはいえ、これでは破壊魔法を解き放つなど後手も後手!
『お、おのれが……!!』
油断ならぬ鬼燈の斬撃とアルトリウスの魔力波動をなんとか凌ぎながら、
アークデーモンは高速思考する。
――足りぬ。この猛烈な波状攻撃を己ひとりでかいくぐるには手が足らぬ。
後退するための余剰空間は幾何学迷宮によってリアルタイムで封鎖され、
一瞬でも意識をそらせば鬼燈の刃が魔神の首を殺《ト》りにかかる。
そしてこの弾幕だ。一撃一撃が存在格そのものにヒビを刻むほどの破壊力……!
手勢……手勢が必要だ。ありったけの生命力を贄として軍勢を呼ばねば。
『我が同胞(はらから)よ! ここに来たれ、来たりて我が敵を退けよ!!』
おお、見よ。魔神の肉体に穿たれた銃痕・斬撃裂傷・魔力杙創そのものを門とし、
この世ならぬ地獄めいた空間から押し寄せる、雲霞の如き悪魔の軍勢を!
これが終末か!? うぞうぞと現れたのは聖書に記された暴食の蝗のようだ!
「それは読んでいましたよ。尽く滅ぼし、退けてくれましょう!」
BLAMN! BLAMN!! BLAMN!!! BLAMN!!!!
デリンジャーのジャグリング射撃が疾さを増す! なんたるクイックドロウ!
もはやセルマの手さばきは常人では目視不可能! 放たれる弾丸は縦横無尽!
等比級数的に増殖飽和する悪魔の軍勢が、爆雷じみた弾丸で焼却されていくのだ!
……決壊(カタストロフ)の瞬間が近い。
秒ごとに攻防と状況と立ち位置とが変化するメイルシュトロムの中で、
アルトリウスは何の動揺も惑乱も焦燥も激情もなく、淡々と予感を反芻した。
この常時増殖補強される天楼迷宮は、それ自体が存在消去の原理を秘める。
つまり迷宮に囚われただけで並のオブリビオンは存在破却され消失し、
彼奴のような強大な敵とてじりじりと身と精神を鑢めいてこそぎ落とされるのだ。
焦燥。アルトリウスは感じぬそれが、敵にとっての重い重い足枷となる。
(遅かれ早かれ、奴はこの迷宮そのものを破壊しようとするはず)
それをさせぬための補強展開とはいえ、猟兵独りの魔力には限界がある。
いかに根底原理と接続したアルトリウスとて、それは例外ではない。
ましてや彼自身をも魔力で強化し反撃術式を纏っているならばなおさらだろう。
……"だからこそいい"のだ。それは敵が突くことを前提としたフェイルセーフ。
己の身そのものを迷宮の出口と定義する、不遜かつ命知らずな男の策である。
ともすれば捨て身。だがアルトリウスにそんなスリルを楽しむ性分はない。
いわんや、斯様な大言壮語の道程めいた敵にくれてやる命もまた然り。
(お前は必ず穴をこじ開けようとする。俺を殺すか、迷宮を破壊するかで)
散発的な攻撃でそれは敵わぬ。迷宮の硬度はただでさえ堅牢な上に、
残像を生み出すほどの速度で舞うアルトリウスを捕捉するのは至難の業。
仮に攻撃を届かせたとして、常時発動術式『真理』が存在抹消を拒絶する。
(――お前の仔とやらは、俺の望まぬものを見せ俺を籠絡しようとした)
闇の中に現れた、アルトリウスを唾棄し嘲笑うかのような屈辱的幻影が蘇る。
己は残骸である。だが仲間との交流は、青年の形の虚無に光を与えてくれた。
それを踏みにじった邪悪には、相応の"代価"を頂戴せねばなるまい。
「世界を滅ぼすのだろう。急いで俺を討たねば、計画倒れだぞ。
――それともお前は、迷宮一つも破れぬ大言壮語の身の程知らずだったか」
アルトリウスらしからぬ、舌鋒による挑発。これが破滅の王手となった。
『…………貴、様』
無尽蔵に思えるほどの悪魔の軍勢を生み出す災禍の中心から、煮えたぎる声。
鬼燈、セルマもまた何かを感じ取った。戦闘の潮流が、潮目が訪れようとしている。
――然り。アークデーモンは魔力を収束、爆発的に圧縮解放した!
『ならば貴様らも何もかも押し潰してくれる!! 妖星よ来たれェッ!!』
「うわっ!? なにあれ、とんでもないのが来るっぽい!?」
「……ですがチャンスですね。それだけの隙が生まれるはずです!」
鬼燈、セルマは見た。アークデーモンが生み出した巨大な複合魔法陣を!
それは幾何学迷宮の中にあって、吐き気を催すほどに複雑怪奇な立体構造を持ち、
おびただしく浮かび上がり輝く術式は人智を越えた魔道のもの!
破滅だ。何もかもを、敵も迷宮も弾丸も刃も何もかもを破滅させる妖星が、
この世ならぬ異界から来る。防がねば破壊は地上にすら到達しかねぬ!
「――……(普通なら、ここは退避して安全策を採るところだけど)」
極度集中により静止するほどに引き伸ばされた主観時間の中、鬼燈は思考する。
忍としての定石を踏まえるなら、この破壊からは全力で退避すべきである。
そして使える全てを利用し、己の命を永らえて次に繋ぐ。それが忍の基本原理。
――鬼燈は、それを一笑に付した。尋常の理屈に従っていて何が出来ようか。
己が掲げるは屠龍。殺せぬ敵を射ち殺す、これこそが鬼燈の業であり本質!
ならば為すべきは逆! 鬼燈は、後先を考えず呪炎に己の寿命を焚べ、
音速を超えるほどの瞬間火力をもってアークデーモンに"着弾"した!
「隕石なんて呼べないけど、僕にだってとっておきのがあるっぽい!!」
なおも呪炎は燃える。おお、鬼燈よ、ここで死ぬつもりなのか!?
……否。否である。これは道程、踏み越えるべき試練のひとつ。
龍が群れる悪夢の大陸。それを踏破し屠龍の叙事詩を成し遂げることこそ!
「秘伝忍法・流――が裏外法の一、いまこそ披露のとき、ってね!」
『貴様……何をする、つもりだ……!?』
「妖星を喚ぶんでしょ? なら僕も星を喚ぶだけ――全てを飲み込む黒星を!」
重力制御器官活性化、全生命力、注填――心臓が時を刻むのを止めた。
血液が流れに逆らって各部へと収束し、つかの間鬼燈は屍めいて仮死す。
どくん、どくん――脈拍細動。ポンプじみて送り込まれた血(ちから)が、
天地の道理を曲げ顕現させる。マイクロブラックホール――重力特異点を!
「かは――ははは! さあ、お星様同士の勝負といこうじゃん!」
『ぬおおお!?!?』
万物を飲み込む事象の地平、目視不可能な重力の井戸が礫めいて放たれる。
積層魔法陣から現れた、赤熱隕石とマイクロブラックホールが直撃相殺――否!
鬼燈の己を厭わぬ接近はこのため。勢いを殺さぬまま黒星は隕石を貫通し、
その中心点に到達し解放される――巨大質量が、特異点に……呑まれた!!
『バカな!?』
鬼燈はにやりと笑う。目・耳・鼻からは負荷によるおびただしい出血。
異界の破滅は解き放たれなかった。そして残るは――然り、防げぬ間隙のみ。
アークデーモンの三眼はアルトリウスを見た。彼はただ見下ろしていた。
だが彼奴が目視警戒すべきは、見え透いた迷宮の出口などではなかったのだ。
フィンブルヴェト。改造点を挙げれば仕様書でちょっとした本が作れるだろう。
叡智と執念によって、生還可能性と敵撃滅の可能性を極限まで高めた相棒。
敵を穿つ本命はこれに尽きる。セルマは何百回繰り返したように愛銃を構える。
あれほどに生まれた弾丸は、悪魔の軍勢を退けるためにほぼ摩耗された。
なんたる激甚たる弾幕。もしもセルマの惜しみなき鏖殺射撃がなければ、
超強化された蝗の群れは地下を、猟兵を、何もかもを貪り食らっただろう。
そのための招来である。そのための弾丸である。ぶつかりあい勝利したのは彼女。
そしてただ一発、成し遂げるべき復讐はチャンバーにてその時を待つ。
「――そろそろ、終わらせましょう」
BLAMN――トリガを引く指先に、激情や殺意が乗ることはない。
ただ敵を穿つ。その意思が雷管を叩き、弾丸を撃ち出す。轟音――そして硝煙。
アークデーモンはそれを視る。視るが防げぬ。彼にその余剰間隙はない。
逃れる先も同様。迷宮の包囲網が魔神を絡め取っている。
激戦によってひび割れた幾何学迷宮が、弾丸の到来を呼び声に砕け散る。
役目は終えた。そしていま、罠にかけられた獲物が……おお!
『――がッッ!!!』
その胸部に着弾。復讐の魔力が暴雨のように体内を駆け巡り圧壊させる!
内側からひび割れ砕けた全身から吹き出す血と魔力! そして凄まじい絶叫!
魔神に痛烈なる復讐がもたらされた……彼奴の命に、猟兵の手がかけられた瞬間だ!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
須藤・莉亜
【メンカル(f08301)】と参加
「やっほー、メンカル。お互い無事でなによりだねぇ。」
(メンカルなんか怖いんだけど…)お、おっけー、サクッとぶっ殺しちゃおうか。
UCの地獄顕現【悪魔大王】を発動して戦う。
呪縛は万物破壊で術式ごとぶっ壊し、破壊の魔法は転移で躱しつつ敵さんに突っこむ。
接近出来たら、強化された悪魔の見えざる手と血飲み子で攻撃していく。
敵さんの動きを【見切り】、【第六感】で殺気を感じ取って攻撃を躱しながら攻撃していく。万物破壊で目潰しとか出来たら良いかも。
隙が出来たら、地獄招来【第九圏・悪魔大王】で敵さんをぶん殴るのも忘れずに。
もちろん【吸血】も狙うよ。なんでか喉が渇いてるんだよねぇ。
メンカル・プルモーサ
【須藤・莉亜(f00277)】と一緒に参加
(安く見られたのでちょっと機嫌が悪い)…ん、莉亜も無事でなにより……あとは、あの舐めたの邪霊の親玉か……
箒に乗って【天翔る突風の馭者】で移動速度と戦闘力をアップ……ランダムな軌道飛び回って的を絞らせないようにするよ……
その上で【闇夜見通す梟の目】を召喚……相手の使う術を解析すると同時に莉亜を援護…
…【彼方へ繋ぐ隠れ道】により須藤を引き寄せて敵の攻撃範囲から離脱させたり、逆に悪魔の軍勢を須藤の攻撃範囲へ転移させて混乱させて…
…解析が済んだら【崩壊せし邪悪なる符号】で敵のUCを相殺したり●魔神の軍勢を消して須藤がデカいのを決める隙を作るよ…
●魔神との戦闘開始から数分前
「やっほー、メンカル。お互い無事でなによりだねぇ」
「……ん、そっちも無事でなにより……」
メンカル・プルモーサの声音には、彼女らしからぬ感情が籠もっていた。
……怒りだ。寡黙で冷静なメンカルにしては、あまりそぐわぬ激情。
ふつふつと煮え立ち揺らぐような怒りが、彼女の心底に滾っているのがわかる。
須藤・莉亜は、おもわずへらっとした笑みの口端をひくつかせてしまった。
どうやら、暗闇の中で相当に"よくないもの"を見せられたらしい。
あるいは語られた、か――彼は自身のそれを記憶していないのである。
(うわ、なんか怖いなぁ。よく知らないけど相手も命知らずだよ)
メンカルを怒らせるなど、虎の尾どころか竜の尾をくすぐるようなもの。
事実、魔女はぶつぶつと、この先に待つであろう敵を破滅させる算段を企てている。
(私のことを安く見るような、舐めた邪霊の親玉……絶対に、滅ぼしてやる)
三界の魔女には、研究者としての矜持がある。邪霊はそれを土足で踏みにじった。
何をされるか/されたかではない。"そういうもの"と看做されたこと自体が、
かの魔女にとっては業腹なのである。ならば、代価を支払わせねばならぬ。
「……行こう、莉亜……私達の力、見せてやらないと」
「お、おっけー。じゃあさくっとぶっ殺しちゃおっか」
戦意に燃えるメンカルとそれに少々ビビる莉亜が、戦場に馳せ参じる!
●地獄
そしていままさに、復讐の魔弾がアークデーモンの胸部を貫いた。
破滅的な魔力が甚大なお被害を与え、彼奴の全身がひび割れて噴血する!
『ぬううう!!』
並のオブリビオンなら、この一撃だけで存在破却は免れまい。
だが追って繰り出された斬撃と存在消去の原理魔術を、彼奴は死に物狂いで回避!
魔眼が見開かれ、めきめきと瓦礫を巻き込む竜巻によって猟兵を跳ね除けた!
『まだだ! この程度で我が滅びるわけにはいかぬぞ!!』
「そうしてくれるとありがたいなぁ、僕らまだかましてないし?」
莉亜だ! その姿は、明けの明星の悪魔大王を思わせる魔人めいたもの!
白亜の大鎌が迎撃の爆炎を切り裂き、万物破壊の術式が呪縛を粉砕滅却する。
届いた――否、布石だ! 敵は大玉を準備した上で莉亜を待ち構えている!
「……それ、見えてるから。莉亜、7時方向に回避して」
「了解了解~っと!」
一瞬後、莉亜が突っ込むはずだった空間がひび割れ闇に呑まれた。
この間断なき術式を解析・予測していたメンカルの指示が命を救った形だ。
アークデーモンは回避した莉亜を追おうとするが、当然魔女はこれを許さない。
「空裂く翼よ、駆けよ、奔れ。汝は旋光、汝は疾風――」
音を立てて箒が地下空間を駆け抜け、メンカルの体を宙へと誘う。
指先から迸る白炎。予備動作なき赤黒い呪火と猛獣の殺し合いめいて織り混ざる!
『チィ、目障りな! たかが魔術師風情がッ!!』
「……また、そうやって安く見る。そんなに私を怒らせたい……?」
解析ガジェットがカメラアイを魔神に向け、光を収束させ光線として発射。
光すなわち避け得ぬ速度のレーザー照射! 魔神の傷口を焼灼する!
苦悶したアークデーモンはメンカルへと標的を変更し、呪縛の鎖を放つ。
あまりにも遅い――箒の三次元機動は蛇めいてのたうつ鎖を易易とかいくぐり、
死角から飛びかかるちょこざいな呪いすらも白い炎で溶解し退けるのだ。
「こっちは無視? 悲しいなあ……なんて、別にそんなことないけど」
手薄になった守りの隙を突き、莉亜が接近し間合いに踏み込んだ。
不可視の豪腕によるワンツージャブを牽制とし、本命の大鎌による横斬撃。
先の戦闘で猟兵がえぐった、腹部の裂傷をなぞるような悪趣味な一撃である!
『ぐおっ!! こいつら、なんという連携だ……!!』
道理が通らぬ。こんな状況はおかしいのだ。ありえないはずなのだ。
君臨し蹂躙すべきは己であり、圧倒されるべき弱者こそがかの天敵ども。
斯様に押し込められ波状攻撃を受けるなど、あってはならない……!
莉亜は皮膚感覚的に危険を察知した。ゆえに瞬時に空間を蹴って後退した。
しかしそれでもまだ足りぬ。ゆえにメンカルのユーベルコードが回避を補佐する。
直後――アークデーモンの内側から溢れた悪魔の軍勢が余剰空間を呑んだ!
「うっへぇ、ゴキブリみたいで気持ち悪いなぁ」
「……焼き尽くす? 出来なくもないけど……」
「いや、僕が行くよ。解析、そろそろ"十分"でしょ?」
メンカルはこくりと頷く。莉亜もまたそれに目で応え、自ら軍勢の只中へ。
自殺行為にも等しい――だがここでメンカルのレンズが白く光った!
「邪なる力……それは、私にとってはもう十分研究したものでしかない……。
解れ、壊れよ……汝は霧散し、霧消し、乱れ散じて潰れ――否」
魔女の視線が絶対零度を帯びる。
「――還れ。魔女が望むは、汝らに貪られ破滅する魔神の理……!」
悪魔の軍勢が……逆回し映像めいて、アークデーモンに収束していく!
『な、に……が、ぁあああああっ!?』
全方位に解き放たれるはずだった悪魔どもの飢えと暴虐が魔神を襲った。
邪悪なるものにとってはまさに因果応報。悪魔をも覆すのが魔女の理である!
「美味しそうだねぇ、僕にもお裾分けしてほしいなあ」
群がる悪魔を血飲み子で無造作に薙ぎ払いながら、莉亜がうっそりと笑う。
渇くのだ。この喉の渇き、悪魔の血をもってしてもそらく潤しきれまい。
それでもいい――血をよこせ。この不可解な飢えをその身で賄うべし!
「――僕らのことを嘗めた代金、ちゃんと払ってもらわないとね?」
万物破壊の魔力が呪縛を滅し、悪魔の豪腕が筋肉を引き裂く。そして大鎌。
白亜の刃が筋をぶちぶちと引きちぎり骨を砕く。魔神の……絶叫!!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ゼイル・パックルード
①
我が仔らか、親子そろって口は達者の様だな。
光闇の境界は知らないが、生と死の境界がここにはある。俺が贄になるか、あんたが俺の糧になるかどっちかな?
さすが悪魔、ゴツイ見た目に反して大魔法が得意なようだが、それだけ魔法陣や生贄で発生がわかりやすいってことだ。
ナイフやダガーを【投擲】して牽制しながら【ダッシュ】で横の動きを交えながら近づいていく。
空の魔法陣の有無を気にしながら、中級魔法を狙われないよう相手の視線に気を付けて動きは止めないようにしつつ、鉄塊剣を盾替わりに。
隕石は直撃はしないように……当たっても最悪潰されないように注意する。
上手くかわせたら……その余波を利用して高く跳んで斬りかかってみる
ヴィリヤ・カヤラ
真の姿を開放していくね。
さっきの邪霊はなかなかしんどかったけど、
引きずってると危ないし油断せずにいかないとね!
下にだけ意識を向けさせないように
出来るだけ攻撃は上からを狙ってみようかな。
戦闘中は【跳飛】で動く範囲を上にも広げて動くね、
【ジャッジメント・クルセイド】を当てつつ、
【燐火】を着弾点で爆発させたりして
意識を一方向に向けないようにしていくね。
軍勢を喚んだ時は早めに減らしていきたいから、
軍勢をメインに攻撃していくね。
敵からの攻撃は出来るだけ『見切り』と
『第六感』で避けられたら良いな。
アドリブ・連携歓迎
●炎
地獄じみた悪魔の爪が、腕が、魔女の炎が魔神を圧倒し、追い詰める。
もはや彼奴の存在格には、致命的な罅(クラック)がとうに刻まれている。
だが、まだだ。魔神の執念は、あの骨邪竜のそれをはるかに凌駕しているのだ。
すさまじい魔力を波濤のように放ち、暴虐の災禍を振るうアークデーモン。
その分厚い鋼じみた筋肉に、ドスドスと鋭いナイフ、そしてダガーが突き刺さった。
牽制――魔神の三眼はそれを布石として死角に回る敵を、捕えている。
なかなかに素早い。空間に刻まれた残像は陽炎めいて揺らめいているほど。
直後、三眼が大きく見開かれる。詠唱もなしの中位破壊魔法の発動だ。
KRA-TOOOM!! 焼夷弾じみた無からの炸裂――それを切り裂き鉄塊が現れた!
『耐えただと?』
アークデーモンは訝しんだ。敵の接近を見越した上での爆殺である。
だがそれを受け止めた鉄塊剣は盾めいて不動、焦げた表面から煙が立ち上る。
ぐるりと、空を目指して水面を旅立った龍のように、巨大質量がうねった。
姿を表したのは、裂けんばかりに獰猛な笑みを浮かべたゼイル・パックルード!
「口はよく回る達者ぶりだが、魔法(こっち)はそれほどでもないな」
嗤笑。嘲りですらない端的な言葉を吐き捨て、ゼイルは直角に垂直跳躍した。
地面が砕けて溶岩が迸る。互いに互いの動きを読んでいる……まさに死線。
「このぐらいじゃあ、贄になってやるには火力が足りなすぎる――!」
ゼイルは燃えている。死闘に、否、己の裡に滾る地獄の炎に……いつでも。
心身を焦がす炎すら従えたブレイズキャリバーに、たかが中位魔法など!
『小賢しい猟兵め……地の底まで沈めてくれるわ!!』
アークデーモンは三つの腕をゼイルへ向け、高重力で圧殺しようとした。
……然り、"した"。だが彼奴はそれを棄却し、魔力を防御に回さざるを得ない。
まったく同時のタイミングで、神の裁きじみた光芒が頭上から降り注いだのだ!
ヴィリヤ・カヤラが発動したジャッジメント・クルセイドの攻撃である。
意識が上(そら)へ向く。蝙蝠めいた翼を広げ、魔神を睥睨する青い髪の女!
「見下される気分はどうかな? あんまり経験はないんじゃない?」
くすりと妖しい笑みを交えた挑発。アークデーモンは瞬時に激昂した。
……一瞬にして沸点を越えた激情が、一周回ってその頭を冷静にさせる。
殺す。この猟兵どもはなんとしてでも、圧殺し抹殺し焼殺せねばならぬ!
一方でヴィリヤは羽をはためかせ、自身を狙った空間の爆裂をすばやく回避。
軌道上を追うようにボン、ボン! と断続的な爆炎が地底空間を照らす。
狙い通りだ。ヤツの注意は完全にこちらに惹きつけられている!
「ゼイルさんっ、そっちよろしく!」
言われるまでもない、とばかりに、地獄めいた男は暗く笑い、喉を鳴らした。
その時にはすでに3メートル圏内。盾に活用していた鉄塊剣が再び唸る!
「光闇の境界なんざ知らないが、ここにあるのは生と死の境界さ――!」
……斬り上げ! 跳躍気勢をも載せた、つむじめいた燃える斬撃である!
アークデーモンの太腿から肩にかけてに、地割れじみた無骨な剣閃。
『おおおおッ!?』
追撃の好機……否、ヴィリヤとゼイルはそれぞれに危機を感知した。
裂け目じみた傷は、事実この世と異界を繋ぐ空間の断裂となる。
森の精髄を糧とした軍勢が、上下に柱のようにほとばしり二人を呑みこむ……!
……闇の中で思い知らされたことを、屈辱だとは思わない。
事実、自分はまだ、父と戦うことを真の意味で覚悟できているとは言い難い。
もしも明日戦えと言われたなら、きっと鉄火場で当惑し命を落とすだろう。
(私はまだ、覚悟は出来ないし力も足りない……)
ヴィリヤは思う。悪魔の軍勢に呑まれた瞬間の、静止時間の中で。
生死の境界にありて、活路を見出そうとする脳が主観時間を伸張したのだ。
……闇の中で思い知ったことは、己の未熟であり真実である。
そこから眼を逸らしなかったことにしては、たとえ戦いに勝てたとして、
いずれあの闇に呑まれて本当に命を落とすことになりかねない。
これはその試金石だ。これからを戦い抜くための試練であり、
マイルストーンであり、拠って立つ礎のひとつとなろう。
あの燃える男のように。地獄の中で己を喪わずに笑う彼のように。
(――炎よ)
イメージするのは地獄の炎。されど燃えるのは赤ではなく青の刃。
闇を以て闇を破る呪いの炎が、ヴィリヤの血を薪として燃える。練り上げる!
「……熱き刃となって、魔を祓えッ!!」
裂帛! 竜巻じみた、回転速度を乗算した剣戟軌道が炎上を加速させる!
外からば、悪魔の柱が内側から青い炎に燃やされているように見えるだろう!
燐火。いかに強化された魔物どもといえ、真の力を解き放ったヴィリヤには無力。
頭上の軍勢は、かくて青火の焦がされてばらばらと散って消えていく。
ではアークデーモンの眼下――ゼイルのほうはいかに?
(まだだ)
ゼイルは耐えていた。悪魔を内なる炎で退けながら、ひたすらに待っていた。
視線が捉えるのはアークデーモンのみ。その一挙一動を決して逃さない。
彼は何を待っている? この軍勢を振り払う術を策定するのが先決では?
……否。ゼイルは確信している。敵は必ずこの間隙を次に繋ぐはずだと。
そして予想通りに状況は推移した。アークデーモンの頭上に生まれる魔法陣!
おお、見よ。名を記すもおぞましき、邪悪なる神々を礼賛する紋様を。
かの積層魔法陣は焼け焦げた地獄に繋がり、恐るべき質量――妖星を招来す。
巨大隕石による圧殺! 己の同胞すらも捨て石とした無慈悲なる二段構え!
頭上から、燃える青い炎が流星のように飛びかかるのが見えた。
ヴィリヤか。あの女はなかなかに"やる"。であればこちらも合わせるとしよう。
(解き放たれれば、さぞかし大層な破壊が撒き散らされるんだろうな)
――解き放たれれば、の話だ。それをさせぬために待っていたのだ。
ゼイルの肉体の内側で爆裂を待っていた熱量が、瞬き一つの間に爆ぜた。
悪魔の柱がわっと勢いに煽られて膨れ、大気が焼け真空をもたらす。
ゼイルが見据えるは一点。焼死した悪魔を足場に、跳ぶ。跳ぶ、翔ぶ!
(知ってるか、魔神とやら。戦場じゃあな、勝ち誇ったやつから死ぬのさ)
哄笑する三眼が、青火の女と嗤笑する地獄とを上下に見た。
妖星が来る。あとコンマ数秒で質量は地下空間を全て破壊させるだろう。
だがそうはならない……ならなかった。まずヴィリヤの青火の刃。
燐火が魔法陣を切り裂く。眼下からせり上がるのは、おお。
神の摂理に抗う、人の傲慢による塔の如き、不遜にして直上たる邪の刃!
「――死にな」
一閃――!! 妖星が、魔法陣が、魔神が、ばっさりと裂かれた!
『が――ごはッ!? な、なんたる、切れ味……!?』
破滅は訪れなかった。代わりに激甚たる一撃を受けたのは魔神である。
邪悪なる血が雨のように迸る。されど、ふたつの炎が燻ることはない。
女は男の太刀筋に驚嘆した。
男は女の姿に目を細めた。
揺らぐふたつの炎が、傲慢なる魔神を凌駕した瞬間である。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
天道・あや
①
色々あったけど此処が一番奥!つまりラスト!…っと、ラスボスのお出まし!それじゃ、皆の為にもどっかーんとやっつけるまで!
まずは【挑発】して相手の攻撃をこっちに集中させる!攻撃は【レガリアス】を稼働させて【ダッシュ】しながら【スライディング】や【ジャンプ】とか、後、洞窟の壁を走ったりしながら避ける【見切り】!
それで相手の隙を見切ったら一気に真の姿を解放して相手に向けてダッシュ!そして【想いの乗った重い一撃セカンド!どっかーーん!】で攻撃!【鎧砕き、属性攻撃(炎)】
あんたの話よく分かんなかったけど、一つだけ分かった!過去は過去!フリムを…森を…今を生きて未来に進む人の邪魔はするなーー!!
安喰・八束
随分とでかいもんだ……差し詰め、鬼退治だな。
良い話のタネになる。
真の姿、黒い人狼の形をとる。
……人の皮よりこっちのが丈夫だからな。
ああ、下らん幻を見せやがって。
相手は多勢だ。あれを相手取らにゃならん者を、「千里眼射ち」で補佐して道を開こう。(援護射撃)
あのでかいのの祈りやら儀式を、狙撃で邪魔出来りゃ良いな。(スナイパー)
渡塚・源誠
さーて、勇者の軌跡を巡る旅も、一先ずの佳境ってとこかな
この先は少し進むのに苦労しそうだけど…ここで引き返すのはつまらないよね!
※一応敵を倒すこと自体にも真剣
んじゃ、「旅人の健脚」も使いながら、サクッと選択UCで、【咄嗟の一撃】の超加速【早業】【2回攻撃】…
…ハハハ、これだけじゃ悪魔の軍勢に太刀打ちはできそうに無いよねぇ
少なくとも邪神の加護での軍勢のスピード強化は防ぎたいかな
それさえできれば、軍勢をやり過ごした上で本命さんに一撃与えるってのが多少やり易くなりそうだけど…
…幸い敵さんは物理的に会話できそうだし、【コミュ力】と【言いくるめ】で、加護の方向性を上手く誘導してみようかな
アドリブ共闘歓迎
ギルバート・グレイウルフ
さてと、ようやっとお目見えしたかい、オベリスクちゃんよ。
んでもって、出るわ出るわの鬼退治ってか。ま、そう簡単にはいかんわな。
おじさんも結構努力してきたつもりだけど、流石にそこまで身体をでっかくすることはできなかったなぁ。
ま、でかい図体が必ずしもプラスに働くとは限らねぇってことを教えてやるよ。
ぎょうさん湧いて出る悪魔たちは、足を切り飛ばしたり、腕を打ち吹き飛ばしたりして、てきとーに生かしつつ肉の盾にでもしますか。
んでもって、巨大化の弱点といえば……やっぱ足元だよな。
どれ、足の小指の一つでも狙ってみますかね。
意外と痛いじゃん?箪笥の角に足ぶつける奴。悪魔でもそこは一緒だろ、きっとな。
●未来
戦っている。何人もの猟兵が、あの巨大なアークデーモンに挑んでいる。
悪魔の軍勢を退け、巨大な妖星を切り裂き破壊し飲み込み、
なんの予兆もなき魔力を読んで避け、これに先んじて一撃を見舞う。
「どいつもこいつも大したもんだ、才能が感じられて羨ましいこった」
などと、ギルバート・グレイウルフは遠巻きから皮肉ってみせた。
無論彼とて、今戦う猟兵の全てが、天稟に寄っかかった者ばかりとは思っていない。
才気への嫉妬と羨望――闇の中で己の"はらわた"を引きずり出された男なりの、
誰に向けるでもないアイロニー。生き足掻いてきた古強者の強がりだ。
「次から次へと出るわ出るわの鬼退治……ってか?」
「鬼退治か。ああ、そりゃあ実際言い得て妙だな」
横合いからかかった声に、ギルバートは片眉を吊り上げる。
彼よりもやや年上の人狼……安喰・八束が、片頬を笑みに釣り上げ首を傾げた。
「地上ぶりだな、ご同輩。地底大冒険は楽しかったかよ」
なるほど、骨邪竜との戦いにおいて、あの少女を送り出したスナイパーか。
互いに若さに肩をすくめた記憶を、脳裏で手持ち無沙汰に弄びながら、
ギルバートはふん、という不敵な笑いで応えた。八束もまた喉を鳴らして笑った。
「年甲斐もない秘境探検に悪魔祓い、こりゃあいい話の種になりそうだ」
「俺にゃあ分不相応な大仕事にしか思えないんだがねえ」
轟音。見れば、アークデーモンが青と赤の炎を相手に暴れ狂っている。
滂沱の傷を浴びてなお、敵は意気軒昂――いや、死にかけであるからこそ、か。
「ありゃ骨が折れるな」
「ああ」
ロートルと古強者は端的にやりとりした。手負いの獣こそが厄介なのだ。
そもそもアークデーモンは、どこからあの莫大な魔力を供給しているのだ?
悪魔の軍勢に消費されている"生贄"は一体どこから……。
思案するギルバートは、横で起きた変異……八束の獣化を訝しんだ。
真の姿の解放。八束のそれは、まさに人狼というべき黒い毛並みである。
「……人の皮より、こっちのが丈夫なんでな」
「そうかい。んじゃおじさんも頑張るか……っと」
年上の前でそれは禁句か、などとギルバートは呵々大笑してみせる。
鋭く細まっていた八束の気配が和らいだ。ぐる、という唸りのような笑み。
(楽にしなよ先輩――戦場じゃ、マジになったやつから死ぬんだぜ)
ギルバートは心の中で云うに留めた。釈迦に説法というやつだろう。
そして二人のベテランは戦場に意識を投じる――未来を紡ぐ誰かを届かせるため。
今まさに魔神へと突き進む、あの時とは別の少女を援護するために。
……天道・あやは、どんなときでもまっすぐに、かつ最速の道をひた走る。
猪突猛進とも言えよう。彼女はその汚名、揶揄をすら快活に笑い飛ばすだろう。
どんなときでも想いのままにまっすぐに突き進む。その気持ちに嘘はない。
であれば、何を言われようが自分が気にしなければいいだけなのだ。
(いまはっきりわかったよ! あたしは、今まで通りこれからもいればいい!)
闇の中で味わわされた地獄の苦痛と恐怖を乗り越えた今、あやに迷いはない。
バチバチと赤黒い電光を纏うアークデーモンめがけ、矢のように直進する!
「このデカブツ! あんな大口叩いておいて、あたしみたいな女ひとり殺せないの!?」
ぎろり――あやの挑発に乗り、恐るべき人外の三眼が彼女を凝視した。
小規模の魔法陣がいくつも魔神の周囲に生まれ、そこから燃える妖星が招来!
さながらショットガンの散弾めいて、高速であやへと飛来する!
「そんな攻撃当たらないよ! ほらほら、こっちこっち!」
レガリアスの車輪でガリガリと地面を、あるいは壁を削り、疾走するあや。
だが無謀だ。いかに彼女が身軽で敏捷とは言え、体力には限界がある。
一方、アークデーモンの魔力は無尽蔵! そして異界の隕石は無限なのだ!
(一瞬でもいい、あいつが隙を見せた瞬間をどっかーんって突いてやる!)
求めている魔神の隙が訪れぬまま、時間と体力だけがいたずらに浪費されていく。
あやは焦れる。その焦りが、彼女の縦横無尽に立ち回りから精彩を欠かせる……!
『小賢しい小娘だ。貴様に似合いのダンスパートナーを喚んでやろう!』
なんたることか…‥アークデーモンはあやの狙いを読んでいたのだ!
彼女の心を折るかの如く、新たな召喚門から悪魔の軍勢が雪崩を打つ……!
しかしその時! BLAMN!! 鋭い銃声が軍勢の只中をつんざいた!
後方支援を決めた、八束の猟銃によるスナイプの援護である。
そして見よ。突然の銃撃に足並み乱れた軍勢の頭上。コートを翻す男の影!
「いよいよ旅の佳境なんだ、ここで頓挫ってのはつまらないなあ!」
渡塚・源誠である! その表情、軽薄に見えるが彼もまたひとかどの猟兵。
破滅を謳うアークデーモンに対し、その敵意と撃滅の意思は決して劣らない!
『ええい、また新手か! 我が同胞達よ、神々の祝福を以て――』
(おっと、いくら体をほぐしても、ここから強化されたんじゃまずいな)
源誠は高速思考した。脳裏に去来したのは、先のあやの挑発である。
敵は会話ができる。そしておそらくは――その強大さゆえに、傲岸不遜。
「やあ魔神どの! ボクみたいな雑魚一人を相手に神様に祈っちゃうのかい?
そいつはちと大人げないんじゃないかなあ。だってほら、ボクは人間だよ?」
しぱぁん――BLAMN! 鞭打つような棍の殴打の合間に、鋭い銃声が混ざる。
うぞうぞとはびこる軍勢は、あやを捉えるには紙一重で至っていない。
『賢しらな言葉を並べおって、天敵風情が! 我を謀るつもりか!?』
「おや剣呑だねぇ。そりゃまあ仲良く手を繋ぎましょう、なんてわけもないさ。
ただ考えてもみなよ。その加護、そっちだってタダで叶うわけじゃないんだろう……」
旅の中で得てきた経験と知識こそが、源誠が持つ最大の武器である。
邪神を崇める狂信者どもはどうする? どうやってその加護を賜る?
犠牲である。おそらくは軍勢召喚と同等、ないしそれ以上の贄が必要なはず。
「せっかくお祈りを捧げるなら、もっと派手に使ったほうがいいんじゃないかなぁ?
でないとほら――あれだ。せっかくの加護が、ボクらのせいで無駄になるし」
ぎりぎりと音がした。アークデーモンが食いしばった歯のきしむ音である。
『ほざけェッ!! 神々よ、この不遜なる天敵を引き裂く剛力を我が同胞に!!』
滂沱の血をあちこちの傷から吹き出しながら、アークデーモンが天に叫ぶ!
疾さを棄てた剛力による過重圧殺――危険、だが源誠の狙いはまさに達成された!
「でかい図体にでかい口、おまけに声もご加護も大げさと来やがる!
でかいからって何事もプラスに働くとは限らねぇんだぜ、魔神のォ!」
ギルバート! 無銘の刀を手足のごとくに振り回し、軍勢を切り払い参戦!
彼が真に巧妙だったのは、闇雲に悪魔どもを滅ぼしていたわけではないことだ。
敵の手勢であれなんであれ、利用できるものは最大限に利用するのが傭兵流。
四肢を切り飛ばされた肉塊を盾とし、降り注ぐ隕石をかいくぐるのである!
「おーおー生きのいいこって、邪神のご加護様様だなあ」
蜘蛛じみた悪魔の爪を別の悪魔の肉体で物理的に押し退け、傭兵は笑う。
その後ろから駆ける黒い旋風……八束。銃撃は上下左右の方向に縛られない。
射手である彼自身が、獣の速度で戦場を駆けトリガを引くからだ!
「お前は俺のことなんざ識らないだろう。気にも留めんだろうさ」
ぶつぶつとひとりごちるように云う。睨みつける先は六臂の魔神。
「だがお前は、俺にくだらねぇ幻を見せやがった。おかげで最悪の気分だぜ。
その土手っ腹に一撃叩き込まなきゃ、こっちは気がすまないんだよ……!」
そのためには、嚆矢となる一撃を誰かが叩き込まねばならない。
己では為せぬ。ギルバートには、おそらく別の策があると見えた。
ではあの男――つまり源誠――に任せるか? 否、おそらくあちらも搦め手。
であれば残るはひとり。身をかがめ跳躍態勢を取る少女……つまりあやだ!
「こっちが野郎の隙を作る、デカいのをぶちかましてやるな!」
「!! ……うん、わかった! ありがとうおじさん!!」
おじさん、ね。二回りは年下の少女の言葉に知らず苦笑が漏れた。
視線がギルバート、そして源誠と交錯――男達は呆れたような笑みを見せる。
これから己らは、年端も行かぬ少女ひとりを届かせるために命を賭けるのだ。
言葉はない。示し合わせたわけでもない、だが心は互いに決まっていた。
――BLAMN!! 銃声が男達に分不相応な賭けの開始を知らせる!
まずギルバート! 彼は己の経験を糧に、軍勢のくぐる道筋を予測した。
身をかがめる――頭上を死の鎌じみた爪が通り過ぎ、男は走る。
地下から機会を伺っていた芋虫じみた悪魔の触手がその背中を追う。
止まるな。勢いを殺さぬままに横っ飛び回避……岩悪魔の拳が着弾。
土煙に紛れるよう、這うほどに身をかがめながらさらに加速する。
眼の前を遮ろうとした二つ頭の悪魔を両断。屍体は別個体の熱線の盾に。
アークデーモンが何かを叫ぶ。極度集中したギルバートはその情報を棄却する。
魔神の命を受けた悪魔五体は、源誠の伸縮棍が打ち据え妨害。
六体目の悪魔が起立。これを八束の精密な銃撃が射止め、さらに斬首。
倒れ込む屍体を足場に、ギルバートは跳ぶ! めがける先は魔神本体!
『なんだと!?』
隕石による攻撃を――遅い! 源誠の棍が一瞬疾く喉元を刺突した!
いかに悪魔とて、物理肉体を持つならば急所は人体のそれに対応する。
せざるを得ない。咳き込む魔神を、銃撃が押しやる。ギルバートの目が燃える!
「斬られりゃ痛いし撃たれても痛い――悪魔だろうが、そこは一緒だろ?」
薄い笑み。その視線を銀光めいた一筋の剣閃が覆い隠し、通り過ぎた。
斬撃の狙いは肢! 切断された片足の不足重量が魔神の体を崩させる!
『は、同胞よ――』
「させねえよ」
BLAMN。凍てついた銃声がアークデーモンの祈祷を妨害する。
……開いた。あやは息を吸い、吐き、すべての力を……解き放つ!
「いまを生きて未来を進む人の邪魔を――するなぁあああああっ!!」
雷光じみた亜音速のチャージ! レガリアスが悲鳴のような車輪音をあげる!
最加速を得たあやの拳が……想いを載せた一撃が、魔神! 叩き伏せる!!
『がぁああああああっ!?』
「ああ、こりゃ悪い。――どうやっても無駄になっちゃったねぇ」
源誠は苦笑めいておどけ、目にも留まらぬ伸縮棍の一撃を肩口に放つ。
鎖骨が砕けて血が吹き出した。さらに雨のような銃撃……好機を捉える猛攻!
これこそが、未来を守り切り開く猟兵の、意志の力なのだ!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
オルハ・オランシュ
ヨハン(f05367)と
①
大仰な言葉ばっかり並べて馬鹿みたい
破滅するのはそっちなんだから
さっきのヨハンの顔が頭から離れない
彼が見た幻は、お兄さんかそれとも自分自身、なのかな
……辛そうに見えた
あの邪霊がこいつの仕業なのは目に見えてる
許せない……!
ねぇ、ヨハン
生き延びようね
私達ふたりで!
前は私に任せて
君は重い一撃をお願い
敵に一対一を思わせるべく、果敢に前へ
距離はとらずに接近戦を意識
UCで防御力を強化して耐久を重視
私の役割は注意を引いて、可能な限りヨハンから目を離させること
彼への攻撃は全て私が受ける覚悟で
大丈夫、まだ立ってられる
闇は君だけのものじゃない
ヨハンの力を存分に味わってよ
存分に味わえばいいよ
ヨハン・グレイン
オルハさん/f00497 と
①
闇、か。陳腐な闇だな
破滅だなんだと息巻く姿も気に入らない
……邪霊を差し向けてきた事も、それにより……傷付けた事も
気に食わない。なにもかもがだ。骸の海に還してやろう
正直、前に出させたくはないんですけどね
しかしその分、攻撃は任された。やってやりましょう
『蠢闇黒』から闇を喚ばう
<高速詠唱>で<呪詛>を絡め<全力魔法>、手は抜かない
滞空させた【降り注ぐ黒闇】の黒刃一つ一つに魔力を注ぐ
防御に割く力は最低限でいい。彼女がいる。
こちらに来た攻撃は出来る限り避ける。黒刃は攻撃のためのもの、他事には使わない
真向勝負だ。今の俺に出来る、全力で。穿つ。
●全力
……思い返せば、この森は彼女との多くの旅路のはじまりだったように思う。
オルハ・オランシュ。いま、少年に背中を向け、前に立つ者。
このブルーノー大森林で妖精達を守り、龍のねぐらを探して野営し、
そして地下迷宮で霧の龍と対峙した……あの数日間こそが。
「……ヨハン?」
振り向いたオルハの怪訝そうな表情に、少年……ヨハン・グレインは我に返った。
「なんでもありません。あれの言った台詞が、ずいぶん陳腐なものだなと」
呆れていました、などと言いながら、少年は眼鏡をかけ直す。
オルハはそうだね、と頷いた。どうやら、本意が悟られた様子はない。
「大仰な台詞ばっかり使って、馬鹿みたいだよ」
「光だ闇だ、いかにも"らしい"台詞ではありますがね」
ヨハンはオルハの言葉にそれとなく同意しながら、彼女の様子を見る。
その横顔には、アークデーモンに対する揺るぎなき敵意がにじんでいた。
……無理もない。彼女のトラウマである、件の弟にまつわる幻を見たのだ。
彼女を傷つけたあの魔神を、ヨハンは決して許すつもりはなかった。
……一方、オルハはというと。
前を向きながら、その脳裏には地下迷宮での一幕が焼き付いて離れなかった。
あのときのヨハンの表情……彼らしからぬ、辛そうな表情が。
(ヨハンが見た幻はお兄さんのもの? それとも……)
本人に訊くのはためらわれるし、訊いたところでヨハンは正直に答えまい。
たしかなことはひとつ。
己を、そしてヨハンを幻によって苦しめ、怒らせたのは邪霊どもであり、
その親玉がアークデーモンであるということ。なにせ本人がわざわざ言ったのだ。
であれば、その報いを味わわせる。味わわせねばならない。
オルハは呼吸を整える。彼女らはまだ戦線に参加してはいなかった。
なぜか。魔神の持つ魔力と生命力が桁違いであることがまずひとつ。
闇雲な攻撃では、彼奴の無尽蔵に等しいそれを削り切るのは至難の業であろう。
そしてふたつ――それは彼らの意地だ。
己らを、そして共に歩んできた大事な彼/彼女を傷つけた者に、最大の罰を。
ただの攻撃ではない、己のエゴイズムを載せた最大最強の一撃を。
子供の癇癪にも似た意地。そのためには千載一遇の好機が必要である。
「……ヨハン」
轟音が響く。魔神と猟兵達との戦いが新たな局面に突入しつつあるのだ。
少年は――ヨハンは、そんな中でもはっきりとオルハの声を聞いた。
少女が振り向く。浮かべたのは……あのときの野営と同じ笑顔。
「生き延びようね。私達ふたりで!」
「……――」
もう一度眼鏡を掛け直し、ヨハンは……ふっと、らしくもなく笑う。
「ええ。"やってやりましょう"」
彼女を前に出させたくないとか、敵が気に食わないとか、そんなのは置いた。
この微笑みに自分は引きずり回されて、そして心を奪われたのだから。
少年少女は、これまでと同じように、何度も繰り返してきたように戦いに挑む。
オルハが前でヨハンが後ろ。共に、己の意地を貫き通すために。
巨大隕石の落下、悪魔の軍勢の攻勢、そして無数の破壊魔法と呪縛の雨。
己の魔力と生命力を代償にして破滅的な猛攻が、猟兵達の前線を一歩後退させる。
『オォオオオオオオオオオッ!!』
「私達が前に出るね、あとは任せてっ!」
後退した猟兵達に言い、そのままオルハは烈風のようにひた走る。
見据えるのはボロボロのまま雄叫びを上げる――アークデーモンだ!
『新手か! 何人来ようが、我を滅ぼすことは出来ぬぞッ!!』
「今まで何体も同じようなことを言って、みんな同じように滅んでいったよ。
君もその一体に過ぎないってわけだね――私、ぜんぜん怖くなんかない!」
三叉槍ウェイカトリアイナがぐるりと半月を描き、前方で炸裂した火炎を薙ぐ。
焦げ付く大気を風が洗い流し、オルハの背中でばさりと翼がはためいた。
前へ。ただひたすらに前へ――敵の妨害など足を止める理由にはならない。
アークデーモンは舌打ちし、小規模魔法陣を複数展開し妖星を招来。
音速に等しい速度の、燃え上がる異界の隕石を弾丸のように放つ!
「――!」
ヨハンの指先と眉根がぴくりと動く。だが迎撃の闇刃は……放たない。
それが彼女と決めた戦術だ。己が考えるべきはただ一撃を刻み込むこと。
オルハは自身への攻撃に加え、ヨハンへの攻撃すらひとりで対処せねばならない。
さっそく、避けそこねた岩石弾が彼女の肩を打つ。ヨハンは動きかける。
……己を強いて、魔力の収束に意識を戻す。彼女の覚悟を裏切ってはならない。
(オルハさんは、大丈夫だ。俺なんかが――いや)
心の中でこぼれた言葉を、自ら退けた。"なんかが"などでは、ない。
彼女は信じてくれている。託してくれた。ならばそれに応えるのみ。
「黒闇よ――我が銀指輪に秘められし、蠢く暗黒よ……」
じくじくと影が揺らめき、光を通さぬ闇黒がヨハンの周囲に渦巻く。
呪詛。悪意。敵意。それらをしもべとし、ヨハンはただ闇を見る。視る。観る。
それらはぽつぽつと泡沫めいて分かれ、浮かび、やがて黒き刃へと変異する。
きぃいい――金切り音めいた魔力の高揚。ヨハンの視線はオルハを見ている。
……見ている。岩を切り裂き、薙ぎ、それでも撃たれてよろける背中を。
見ている。だが収束すべきは力。放つべきは最大最強の一撃。
「……いまの俺に出来る、全力で」
黒刃が泡立ち膨張と収束を繰り返す。破滅の刻が迫る――!
……オルハは、孤軍奮闘に等しい絶望的な戦いに身を投じていた。
攻撃は己とヨハン、さらには撤退した猟兵へのものまで織り交ぜられる。
オルハはこれを避け、防ぎ、時にはその身でかばい、ひたすらに通さない。
なぜだ。自滅願望? 否、敵の注意を自らに釘付けにするため。
時折自殺行為じみた接近(言わずもがなその代償は重傷だ)を試みて、
彼奴の影を貫くことで魔力を奪い取り、己の耐久力を強化する。
強化してはいる。だが猟兵ひとりの体力にはそもそも限界がある。
視界が明滅する。すさまじい激痛と疲労が意識を断ち切り、引き戻される。
(大丈夫)
隕石が腹部を打つ。吐血。オルハは拭うこともせずに槍を振るう。
(まだ立ってられる)
打たれる。立つ。打たれる。膝を突きかける。打たれる。倒れかかる……。
(まだ、まだ……! 私は、戦える。ヨハンが後ろに居てくれるから!)
『ええい、鬱陶しい小娘だ!!』
「でしょ? もっと攻撃しなよ――そう簡単にやられないけど」
不敵な笑みは、目の前で爆裂した高熱の衝撃波によって遮られる。
吹き飛んだオルハは翼を広げ、空中で姿勢を制御し、逆に魔神へ挑む!
だが……おお、なんたることか。それすらも隕石により迎撃される……!
「かは……っ」
『終わりだ。貴様を贄とし、我らの同胞を喚ばうとしよう!』
魔神は哄笑する。豪腕がオルハの華奢な体をつかもうと伸ばされる。
『我ではなき我が殺し滅してきたであろう多くの生者どもと同じように!
邪竜が奪ったこの森の生命のように! 闇に惑いし愚か者どものように!
我が魔力にてその身を引き裂いてくれよう――その意地に何の意味があろうか!!』
オルハは――しかし、笑っていた。
「闇は」
『……何?」
「――君だけのものじゃ、ない」
魔神は訝しむ。直後、三眼が弾かれたように少年を見た。
然り、少年を――渦を巻く黒き刃、闇を従えた魔術師の少年を。
落ちこぼれの凡才、天稟に恵まれず砂を噛み泥を啜りながら生きてきた男を。
オルハが守り抜いた術師を。彼女が共に歩む大切なひとを!
「そんなに闇が好きなら――存分に味わえばいいよ。その体で、味わいなよ!!」
アークデーモンは何かを言おうとした。おそらくそれは罵詈雑言であった。
ヨハンは聞かない。それがオルハを罵り嘲ることを許さない。
(お前があげていいのは、悲鳴だけだ)
心の中で呟き、視線を敵に向ける。そして、口訣を紡ぐ。
破滅的魔力。非才の身で、意地によって練り上げた恐るべき闇。
およそ200と10の黒刃がそれに従う。込められた力は、すべて必殺致命的!
「――穿て」
隕石も、破壊の魔力も、呪詛も、悪魔の軍勢すらも!
何もかも何もかも切り裂いて――引き絞られた矢が、放たれた!!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アルジャンテ・レラ
①
ならば逆に考えましょうか。
あなたを滅ぼせばオベリスクの破壊が為せるという事ですね。
……クリューソスはともかく、あのような偽りの博士を見せられた"怒り"は未だ晴れていませんよ。
完全とも言えるあなたに、不完全な私がどこまで戦えるか……。
わかりません。が、退きません。
成し遂げてみせます。
何方かと共闘が叶うならば後方からの援護射撃を中心に立ち回ります。
数の利に頼りましょう。
麻痺毒も多少の足止めにはなるかもしれませんね。
他の方が敵の足止めに成功した、或いは敵に僅かでも隙が見受けられたら、火矢を。
オベリスクもやはり気に掛かりますね。
単なる構造物ではないような……。
壥・灰色
戦力が足りない局面に赴く
その方が、元気なこいつと殴り合えるだろう?
あの邪霊共はお前の差し金か
なるほど、道理で、趣味の悪い趣向だった
オベリスクを壊すイコール、お前を壊すってことでいいんだな?
――いいだろう。お前が無明の闇を名乗るなら、
魔術回路『壊鍵』の光で切り裂いて、無に還してやる
壊鍵、牢殺式
起動
敵が乱射する魔術を、全て一身に受ける
爆炎だろうが破壊だろうが呪縛だろうが、牢殺式を起動したまま、ただ、受ける
死ぬのではないか。そんな攻撃を一身に集めては
そう疑われても止む無しだが、これは生憎そういう式
喰らったユーベルコード、魔力、打撃を、己の魔力に転換する式だ
機を見て、全ての魔力を集中
電瞬、
前進、
打撃!
●決着・一
「…………すごい」
アルジャンテ・レラは、ただただ感嘆をもってそれを見ていた。
神話にすら等しい、たったひとりの男が暴威を真っ向から受け止める様を。
……まず、時間はヨハンの魔力が炸裂した瞬間まで遡る。
極限まで高められた全力魔法による、待ったなしの黒刃乱舞。
少年が持ち得る全ての魔力を用いた200と10の闇の波濤。
これは彼らの狙い通りにアークデーモンを直撃し、その身をずたずたに裂いた。
彼奴が胸郭に取り込んだオベリスクにも蜘蛛の巣じみた亀裂が無数に走り、
無尽蔵に思われた生命力が血のように溢れ出て迸る。魔神は滅びようとしていた。
決着を誰もが確信した――たったふたりを除いて。
(……何かがおかしい)
そのひとりがアルジャンテ。彼は冷静に戦場を俯瞰し違和感を覚えたのだ。
アークデーモンは絶叫し、穿たれた魔力による激痛に苦悶している。
だが何か妙だ。……それはヒトで言うところの『虫の知らせ』である。
「……てっきり終わってしまうかと思ったが」
そしてもうひとり。破滅を見届けんとする猟兵達の中で一歩前に出た男。
それが――壥・灰色であった。バチバチと青白いスパークが足元を走る。
「灰色さん? 一体何を」
「奴を、破壊する」
アルジャンテの誰何に対し、灰色は決断的殺意を瞳に煌めかせて言った。
いままさに滅びようとしている魔神を、破壊する? それはいかにも奇妙な宣言。
しかしふたりは確かに察知していたのだ。それは正しい違和感であった。
アークデーモンが破裂――しない! 溢れた魔力は彼奴の崩壊の兆しであり、
しかしただそれだけではないのだ!
『オオオオオ……我・ハ! ケ、シ、テ……亡ビヌ……!!』
バチバチと赤黒いスパークが稲妻のように大地を、壁を、天井を這い回る。
そして吹き出す呪縛。爆炎と岩塊と悪魔の軍勢が雪崩を打たんと荒れ狂い始めた!
「――まさか、自爆……?」
「もっと悪い。奴は死に物狂いで、地下空間ごとおれ達を消し去るつもりだ」
すなわち、追い詰められた獲物が最期に見せる悪あがき。
「だが、"おれが全て受け止める"」
「……待ってください、いまなんと?」
アルジャンテは思わず問いかけた。灰色は視線だけを返しさらに一歩前へ。
「あの邪霊ども。道理でいかにも、この手の奴らしい趣味の悪さだった」
さらに一歩。
「ただでは死なない、そういう輩が考えそうなことだ」
さらに一歩。
「おれ達はオベリスクを破壊する。それを阻むあの魔神も、当然破壊する。
そのための機能(ちから)が壊鍵(おれ)には備わっている。なら、やるだけだ」
破壊は確定事項とばかりに……否、彼は事実そう確信している……語る灰色の言葉に、アルジャンテは気圧され……しかし、頷いた。
「不要かもしれませんが、私の矢でお手伝いします」
灰色は人形の少年を見やる。己のそれと似た、しかし銀色の髪の傀儡を。
「……私も、あの魔神には"怒り"を覚えましたから」
「そうか」
互いに無表情、かたや人形かたや表情筋の死んだ男。
されどふたりはたしかに同じ感情を抱いていた。ならば、言葉は不要。
「蝋燭は消える間際が一番よく燃える。――相手にはちょうどいい」
青い電光を後に引き、灰色という名の魔剣機構が疾駆する。
一陣風が吹いた。アルジャンテは、青年の背中から魔神へと視線を移す――!
初めに殺到したのは、もはや形容するもはばかられるおぞましい悪魔の群れ。
決壊したダムめいた文字通りの"波濤"を、灰色は真正面から突き進む。
全力のスプリント。だが足りない。ヒトの身で、ヒトとしての運動量で、
この無限じみて立ちはだかる肉の壁を突破する速度と破壊力は生み出せない。
であれば、"ヒトの身でヒトを越えた速度と破壊力を生み出せばよい"。
「――壊鍵(ギガース)、起動」
健脚に蹴られた大地が、バンカーバスターを受けたかのように爆ぜた。
撃力充填、以ての炸裂。驚異的破壊力はその身を弾丸めいて放つ撃針となる。
音速突破の加速を得た撃力殴打が、先触れの悪魔30体を粉砕消滅。だが足りぬ。
クォーク単位に分解され霧散した同胞の骸すらも喰らい、二倍量の悪魔が!
「"壊鍵"を、ただ破壊するだけの力と思うなよ」
金色の瞳に、ばちばちと青い電光が火花めいて一筋駆け抜けた。
然り。魔剣六番器、最悪の造反個体に刻まれた術式にはいくつもの"応用"がある。
かつて自我を得た巨人が、己を錬鉄した煉獄を打ち崩したかのように。
それは、枷を振り払った呪われし背教者にのみ許される、汚名にして秘奥の一。
「――"牢殺式(ジェイルブレイク)"、起動」
直後、青白い電光は波長変換されなめらかなカーテンのような光の障壁と化す。
うっすらとヴェールめいて灰色の全身を覆ったそれはいかにも神々しい。
悪魔の軍勢の爪を牙を腕と足を魔力を全てを防ぎ、飲み込むさまはまさにそれ。
だが心せよ。そもそも"壊鍵"の本懐は、撃力の充填と作用にこそあり。
これがただの魔力障壁なはずはなし。すなわちこの式は防御にして弓弦!
……後方にいたアルジャンテは、端的に思った。"彼は死ぬ気なのか"と。
そして直後、ミレナリィドールとしての鋭敏感覚が障壁の正体を知る。
超常の力を受け止め、撃力に変換し、己が放つ。牢殺式の本懐はここにある!
「…………すごい」
アルジャンテは感嘆した。悪魔の軍勢を殴り、蹴り、無に粉砕消散させながら、
一歩一歩と神話の巨人めいて着実に前へと進む、灰色の姿に。
敵の攻撃を受ければ受けるほどに、灰色が放つ撃力は等比級数的に高まるのだ!
「――ですが、私にも出来ることはある」
呑まれかけたアルジャンテは、己に言い聞かせるように呟いた。
彼が振るえるのはたかが弓と矢ひとつ。超常の力というにはあまりに凡庸。
その身に秘めた感情回路はひび割れ、躯体を構成する部品は擦り切れ古めかしい。
……だからなんだ。"博士"は出来損ないとして己を鍛造したとでも?
そうなのかもしれぬ。だがそうではないのかもしれぬ。答えはまだ未知だ。
闇の中に現れた虚像はそう言った。されどそれは偽りの繰り言である。
(たしかに私は、不完全で、不出来で、まだまだ知らないことがたくさんある)
静かに弓弦を引き絞る。見据える先は悪魔の軍勢――否、その先。
灰色はただ着実に前へ進む。であればその嚆矢となるのが己の役目と見えた。
(完全とも言える強大な魔神を相手に、何が出来るかはわからない)
――そう、"わからない"。それもまた一つの未知。
未知ということは、これから識り学べるということでもある。
アルジャンテは知を尊ぶ。その生き様は誰のものでもなく彼自身のもの!
「私はけして退きません――私に出来ることを、成し遂げてみせます!」
見よ! アークデーモンはまさに呪殺と破壊の魔力を解き放っている!
灰色はそれを受ける。受けながら、悪魔を殴り殺し蹴り殺し前へ進む!
このまま彼の背中を見届ければいいのか。それが不出来な人形の役目か?
否、否、否! この胸に、ひび割れた感情回路に燃える怒りの炎は!
「……あなたに届かせてみせる、この感情(いかり)を……ッ!」
アルジャンテがアルジャンテとして抱き燃やした、まごうことなき敵意なのだ。
ふたりの見立て通り、アークデーモンは全てを衰滅させようとしていた。
悪魔の軍勢。標的を選ばぬ垂れ流しのような間断なき呪縛と破壊の術式乱射。
地下空間を圧倒し猟兵を無差別攻撃するはずだったそれは、
魔力障壁を帯びた灰色が受け、防ぎ、そらされることがあればそこへ飛び込む。
そのたびに撃力は高まる。アークデーモンの三眼が憎々しげに開かれる。
『我ヲ! 何ト心得ルカ! 天敵風情ガッ!!』
「お前は自らを無明の闇と定義し、そう名乗ったろう」
死人めいた無表情には、しかし歴然たる怒りと高揚が燃えている。
「ならば、おれは――いや」
背中に感じる戦意。人形が己を燃やすほどに高ぶらせた怒りの炎。
「……"おれ達"が、この魔術と炎の光でもって、お前を切り裂き無に還してやる」
『オオオオオオオオオオオッ!!』
アークデーモンが、吠えた! 背後に展開される最大最強の次元魔法陣!
瞬時に接続された異界より、大小不揃いの妖星が雨のように招来され降り注ぐ!
着弾すれば何もかもが"わや"だ。高めた魔力を今こそ解き放つとき!
灰色は一瞬の裡に覚悟を決めた。これほどの質量は魔剣とて無傷では済まぬ。
術式の魔力を撃力に変換すれば、当然その身は無防備となる。相討ちだ。
構わない。己の―ー己"ら"の過去をほじくった愚か者にはなんとしても報いる。
……いや、違う、そんなことに意味はない。彼が覚悟を決めたのは、
自暴自棄めいた捨て身のためではない。そうだ、背中越しに感じる炎!
「この状況での大規模術式の発動――なるほど、たしかに脅威的ですが」
この怒りを捉えよ。己のひび割れた心に閉じ込め、しかして呑まれるな。
心は熱く、頭は冷静に。アルジャンテは淡々と敵の隙に狙いを定めた。
鏃が燃え上がる。魔神を縫い止めるは揺らめく銀朱火矢――!
「私の矢は、あなたの破壊を、破滅を。許しません。――射抜きます!」
放たれた! 空中で火矢は分裂し小規模隕石を相殺破壊!
半分以上のそれはなおも魔法陣を開こうとするアークデーモンに着弾炎上!
『ガァアアアア!? ナン、ダ、コレハ……!?』
魔力が乱れる。妖星を喚ばうことが出来ぬ。この、たかが炎の矢が!
……アークデーモンは、間違っても苛立ちに心を乱されるべきでなかった。
己が放った魔力を糧に練り上げたものを、青年が解き放ったのだから。
電瞬(レヴィン)――蒼電の光を纏ったその身、撃力加速によりまさに速度の極北へ。
前進(ブレイク)――後退はない。大地を破裂させる撃力はただ敵へ届くため。
瞬きを百に分割しても捕えきれぬであろう、刹那の中の刹那のさらに一瞬。
灰色はそこにいた。アークデーモンの眼前、燃え上がる敵の1m前方。
魔剣六番器の戦闘は、つまりその三プロセスによって完遂される。
撃力充填。振りかぶった右腕から神の炉の如き蒼き鞭が荒れ狂う。
魔神は防ごうとした。その身を射抜いた矢と銀の炎がそれを退けた。
光がそこにある。煌々と炎に照らされ、己もまた輝く蒼き光が!
「――打撃(インパクト)ッ!!」
いかな鎖とて、牢獄とて、剛力なる巨人を封じ閉じ込めることは出来ぬ。
かつて彼は煉獄を破壊した。いわんや、身動きの取れぬ魔神気取りの敵ひとつ!
銀の炎に囚われた悪魔を、青の光芒が突き刺した。
否、崩壊(ラヴェッジ)させた。それはまさしく破滅であった。
高まった撃力は、天地をも下すかの轟音とともに、魔神を四、百、万にまで散り砕き抹殺したのだ――!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
●潮流
……そして魔神は、オベリスクもろともにクォーク単位にバラバラにされた。
滅びなどと呼ぶのもためらわれるほどの、圧倒的破滅。燼滅。鏖殺。
……だが見よ。滅びたはずの敵が、終わったはずの戦いが、否、まだだ!
『……おお』
砕け散った破片が赤黒いスパークによって結節再構成されていく!
余剰破壊力によって地下空間がひび割れ砕け、はびこる木の根が解き放たれた。
それらはしゅるしゅると不気味にのたうちながら……バカな、オベリスクへ!?
『おお、おお、おお!! はは、は・は・は・は・は!!
そうか――我は未だ役目を遂げておらず。まだだ。ま・だ・だ!!』
魔神は群龍大陸を知らぬ。オベリスクを守りながらも彼奴はそれを識らぬ。
未だ見ぬ邪悪の根源。勇者達が秘したそれは、そこまで恐ろしい場所なのか!
番人たる魔神は、この地に万年を以て蓄積された生命力を大樹めいて吸い上げ……!
『闇は晴れぬ! 貴様らはここで潰え、終わり、そして滅びるのだ!!
勇者などもはやいない! 我らこそが――過去が! すべてを飲み込もう!!』
見上げるほどの……いや、比べるのもおごがましいほどの大巨体。
大音声が崩落していく地下を聾する。……これなる魔神を、なんとしても討たねば。
オベリスクの破壊は無論、この魔神はあまりにも危険すぎる!
世界の規矩に根を張り、未来という名の生命を啜る寄生種を伐採滅殺せねばならない!
神酒坂・恭二郎
②
「初心ってのを思い出した。有難ぇもんだ」
巨大な悪魔を前に笑みを浮かべる。
怖ろしい姿だ。とても人知の及ぶ相手とは思えない。
腕の一振りで起こる天変地異。
雲霞のように湧く魔神の群れ、ただの一睨みで巻き起こる呪縛や破壊。
巧みな【見切り、オーラ防御、ロープワーク、トンネル堀り】で隕石をやり過ごし、傷だらけで敵を斬り倒しつつ思う。
「小さいな」
大悪魔を見上げて確信を得る。
やはり小さく見える。
(心でならどんな大きな物も掴める)
師の言葉が過り、大魔を“小さく”見て抜刀。
“大きく”掴んだ剣を八双に構え、振り下ろす。
かって一度だけ見た無敵の剣。
その一之太刀には確信しかない。
「成れり。しかして、ここが始まりだね」
天御鏡・百々
②
なんたる邪気か!
地の底に、澱みきった悪しき力が渦巻いておる
その根源たるアークデーモンは見るからに強敵だが
我ら猟兵の力にて、必ず討ち滅ぼして見せようぞ
蘇るとは、往生際の悪い奴め
しかし、巨大化したとはいえ戦い方にさほどの差違は無いはずだ
もう一度成敗してくれようぞ!
『幻鏡相殺』にて、『攻性魔法・多重発動』を相殺してくれよう
巨大化前に使用しているのを見ていれば
相殺の確率も高いであろう
幻鏡相殺と神通力の障壁(オーラ防御61)で仲間を守りつつ
隙をみて破魔の力を乗せた真朱神楽(武器:薙刀)にて
防御の隙間を狙って斬りかかるぞ
(破魔65,鎧無視攻撃5)
●アドリブ、連携歓迎
●本体の神鏡へのダメージ描写NG
カイム・クローバー
②
闇だか先ぶれだか知らねぇが要するに只の門番だろ?
威張って言う事かよ。んでデカくなっても頭の中身は変わらねぇのな。寧ろデカイ声が響くだけ余計、耳障りだぜ
【SPD】
馬鹿みてぇに力任せの攻撃振り回すだけなら【見切り】【残像】【第六感】で避けるぜ。地形が溶岩ってのが厄介だが…ハマるようなミスはしねぇよ。銃を撃ちながら様子見しつつ、隙を見つけて大剣のUCを【二回攻撃】【属性攻撃】【串刺し】で叩き込み【衝撃波】【範囲攻撃】でそのまま銀の炎で焼き尽くす。狙うはオベリスクを収めた胸中。そこに収めるなんざ破壊して下さいって言ってるようなモンだろ?距離の問題はあるが、腕にでも乗ってみるか?そうすりゃ、届くかもな
グルクトゥラ・ウォータンク
【②アドリブ歓迎】
ぬぅ!倒されたくせに巨大化してラストバトルとは何たる特撮デーモンよ!じゃが戦場が悪かったな。ここは地の底奈落の隣、溶岩と火煙で作り出された、始源の王の支配する地!
ユーベルコード発動!自らの腕で創りあげた神体を「ランドメイカー」の中から電脳魔術により実体化!見よ、これぞ奥の手!始源の王の召喚──始源覚醒:神体創造(インカーネート・プライモーディアル・ゴッド)!!
隕石は【オーラ防御】と鋼の腕を使った【盾受け】で弾きながらがっぷり【グラップル】、真正面から殴り合いといこうかぁ!
●再開
BLAM!! BLAMBLAM!!
勝ち誇る巨大なアークデーモンの大言壮語を遮ったのは、猛々しい銃声。
禍々しい2丁拳銃のトリガを引くのは、カイム・クローバーである!
あまりにも巨大な魔神は、弾丸を避けることはおろか防ぐこともしないし、
事実として命中したそれが効力を奏することはない……が、これは意思表示だ。
「闇だか先触れだか、勇者がどうとか知らねぇが、ようはお前はただの番人だろ?
デカくなっても頭の中身は変わらねぇときた。むしろ声が響くぶん耳障りだぜ」
不敵である。この異常事態に対し、そう……カイムは、不敵に笑っている。
『不遜な猟兵め、ならばその愚かさに鉄槌をくれてやろう――!!』
「そのありきたりな台詞が鬱陶しいっつってんだぜ、悪魔野郎!」
BLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAM!! 振り上げられる豪腕を双頭の魔犬がえぐる!
だが、あまりに質量の差が大きい! カイムはトリガを引きながら走る!
六臂の豪腕が何もかもを砕くと見えた時、虚空に白々とした剣閃が一条……!
「よく言った! 俺も同意見だねぇ、図体ばかりがでかくてしょうがない」
アークデーモンをすら怯ませるほどの斬撃は、神酒坂・恭二郎のものだ。
怯んだ魔神に対し、さらにグルクトゥラ・ウォータンクが無数のガジェットを放つ!
「ぬぅ! 倒されたくせして巨大化とは、なんたる特撮めいたデーモンよ!
おまけに溶岩まで出てきよったぞ、ワッハハハ! こりゃいいわい!」
ドワーフとして地の底の戦いは、やはり滾るものがあるのだろうか。
男達はいずれも不敵。三人の猟兵は互いに視線を交わし、頷きあった。
「気を抜くでないぞ、彼奴にはまだダメージらしいものが通っておらぬ!」
だがそんな彼らを、小柄な少女――天御鏡・百々が鋭く叱咤した。
その身は小さく可憐なれど、神鏡のヤドリガミとしての力は一流である。
「澱みきった悪しき力……すさまじい邪気が膨れ上がり、この地底を満たしておる。
しかし戦い方にさほどの差異はないはず、そこを突いていくほかにあるまいよ!」
「ああ。いまの反応でよくわかった、ありゃ力任せにやってくるだけだ!」
カイムは百々の言葉に応じ言いながら、翼狼大剣(マルコシアス)を抜き放った。
戦意に高揚するかのように、黒銀の刀身にばちばちと紫雷が迸る!
『矮小なる者どもめ……増上慢もいいところ、身の程知らずめが!』
「こちとら、初心てぇのを思い出して嬉しい気持ちなのさ。礼をしたいんだがねぇ」
「然りよ! ドワーフを相手に地の底奈落の淵を選んだ愚を思い知らせてやるぞい!」
恭二郎、グルクトゥラが吠え返す。かくして戦いは再開された!
アークデーモンはまず、圧倒的質量差によるシンプルな圧殺破壊を企てた。
いかに初撃を凌いだとて、彼らの攻撃はそもそも魔神にダメージを与えていない。
であれば二度三度、四度五度と繰り返して押し潰してやろうというわけだ。
魔神にとって誤算だったのは、四人の意思も膂力も想像をはるかに超えていたこと!
めきめきと筋肉を隆起させ、大地を紙くずのように砕くハンマーパンチが振り下ろされる!
だが恭二郎とカイム、ふたりの刀剣使いが風と雷めいた速度で地を蹴り、
刀と大剣とで得物は異なれど、ともに鋭きバツ字の剣閃を描いて迎撃する!
『ぬう……!!』
アークデーモンにとっては皮を裂く程度のもの。
しかし攻撃をいちいち押し退けられるのは業腹だ。巨体がぐんと反らされる。
そこへ第二、第三対の四つ腕がぐおんと伸びて彼らを掴み取ろうっとする……が!
「おうおう、おっかない腕じゃのう! だがそんなの当たりゃせんわい!」
BRATATAATTATATATATATATAT!! グルクトゥラのガトリングガンが火を噴く!
これほどの巨体ならば、いちいち狙いをつける必要もありはしない。
更にカイムと恭二郎を巻き込みかねない弾丸は、百々の鏡の防御によって弾かれ、
跳弾めいた軌道でアークデーモンに降り注ぐのだ。なんたる連携!
「巨大なだけの敵などに、いまさら我らが倒されると思うてか? 見損うな!」
怜悧な百々の言葉は、アークデーモンにとっていい挑発となった。
憎々しげに三眼がそれぞれの猟兵を睨みつける――高まる邪気と魔力!
来るか。百々は大きく両手を開き、練り上げていた神通力を解き放った。
すると彼女の背後に、数メートルはあろうかという幻鏡が出現し……おお!
見よ。幻鏡に映っているのは、巨大化する前のアークデーモンの姿だ!
オリジナルのアークデーモンが予備動作なしの破壊魔法を発動した瞬間、
鏡の中の魔神もまた同様に術式を発動する。バチバチと宙空にスパークが!
『ぬうっ!?』
本物のアークデーモンは瞠目した。
彼奴の思惑では、魔力が四人をそれぞれ爆炎で飲み込み木っ端微塵にしたはず。
だが魔力の波はあの鏡像が放った同じ波長の破壊魔法に相殺され、
空中で不可視のままぶつかり合った。そしていま、赤黒い電光が炸裂する!
『我が力を模倣しただと!?』
「幻なれど鏡は鏡、映りしは鏡像なれど同じ力。相殺できぬ道理はあるまい!」
これぞ幻鏡相殺! 神鏡の化身たる百々の面目躍如である!
好機と視た百々は、勢いそのままに神意の薙刀・真朱神楽を振るわんとす。
「……いや、まだじゃぞ! 彼奴はまだ何か隠し持っておる!」
グルクトゥラの警告。直後、アークデーモンの胸部でドクンドクンと脈動した。
変形し禍々しく同化したクラウドオベリスクが、みしみしと割れていく!
「雑魚どもを喚びやがるつもりか!」
「……最初(ハナ)っからそうしなかったってのは、"そういうこと"だろうねぇ」
カイムの言葉に恭二郎が次ぐ。彼らの間に一瞬の動揺と警戒が走った。
なぜアークデーモンは、手っ取り早く手勢を召喚しようとしなかったのか。
考えられる理由はふたつ。ひとつは今のヤツにとって、
あの眷属召喚はおそらく自身のリソースを消費する代償行為であることだろう。
そしてもう一つは、"とっておき"にするぐらい規模が高まっているということ!
『その通りだ! 貴様らには我手ずからの死をくれてやるつもりだったが――』
魔神が哄笑する。四人は身構え、百々は神通力の障壁を張る。
『もはや容赦はせぬ。雲霞の軍勢に呑まれ、犬のように死に絶えろ!!』
そして、おお……前形態とは比較にならぬ量の悪魔が、放たれた――!!
異界から召喚された悪魔の数は、ともすれば百を越え千にも上っただろう。
魔神が巨体のタフネスで邪神への祈りを完遂したことで、それらはいずれも強力。
百々の障壁はガラスのようにあっけなく砕け散り(都度再構成するが)、
カイムが振るう魔剣は銀の炎を以て悪魔どもを退けるが精一杯、
対して真の姿に成らぬ恭二郎は、そのぶんの傷をいくつも負っていた。
あらゆる戦いにおいて、数とは絶対的な戦力差でありアドバンテージである。
おそらくこの悪魔の軍勢には限りがない。魔力欠乏を待つには時間が足らぬ。
「仕方ないわい……ここらで奥の手の披露と行くかのぉ!!」
そう叫んだのはグルクトゥラ! 右の義腕がゴシュウ! と蒸気を放つ!
「言ったはずじゃぞ魔神の! ここは地の底奈落の淵!
溶岩と火煙で作り出された、始源の王の支配する場所じゃとな!」
『始源の王、だと……!?』
呵々大笑。大地を聾する声は、悪魔の軍勢の叫喚の中でなお雄々しく!
「始源の王に冀(こいねが)う! 捧げるは鋼、捧げるは炎!」
見よ。ぐつぐつと煮えたぎる溶岩が、その言葉に応じるかのごとく火柱に!
右腕がガシャガシャと複雑に展開し、さらに蒸気を噴き出す。
危険な兆候に反応し殺到した悪魔の軍勢は、超高熱の蒸気に怯んだ!
「築き上げるは我が腕! 御身に相応しき依り代ならば――」
右腕の接合部分からびゅるびゅるといくつものケーブルが蛇めいて鎌首をもたげ、
互いにより合わさり、まるで神代の大樹めいて複雑荘厳な幹となる……!
「我が祈り正しければ! いま、ここに――顕現されよ!!」
噴き上がる溶岩が、蒸気が、火煙が、吸い込まれるようにその鋼へ!
めきめきと音を立てて伸張した鋼は、見上げるほどの巨体へと変貌した!
おお……おお! その様、まさに神々が築き上げた青銅の巨人の如し!
「こいつぁ頼もしい姿だねぇ……!」
全身を返り血と傷から流れたそれで朱に染まった恭二郎が笑う。
黒翼をはためかすカイムも、わずかにだがその威容に原初的な畏怖を覚えた。
「……なんだよ、あるんじゃねぇかデカブツが!」
「これが、ユーベルコードの力か……!」
百々の感嘆も無理からぬもの。その巨体、ともすればアークデーモンをすら!
『バカな、なんだそれは!?』
「これぞ始源覚醒:神体創造(インカーネート・プライモーディアル・ゴッド)!
さあなんとかいう魔神よ、神ならば神らしく、正面から殴り合いと行こうか!!」
グオォン――鋼の巨神は軋みをあげながら両腕を無造作に振るう。
猟兵達を圧していた悪魔の軍勢が紙くずか何かのように振り払われ、
空いた間隙を三人が走る! アークデーモンは六臂で鋼神を抑え込んだ!
『おのれ、おのれ!! 不遜なり! その巨体、その不敵!!』
「ヌハハハハハ! そうらどうした、まだまだ出力は上がるぞい!」
ひび割れた大地を疾走する三人。その頭上で繰り広げられる神話的闘争。
「ここは我が任された。カイム殿、恭二郎殿、彼奴を頼むぞ!」
そう言って百々は薙刀を振るい、神の裁きを逃れた悪魔を退け押し止める。
男達は頷き、なおも走る。そびえ立つ巨体を見上げ、カイムが言った。
「どうにかしてあのオベリスクを直接叩けりゃあな、デカブツが」
「……いや」
ふと恭二郎は足を止めた。訝しむカイムの方を見、着流しの男は云う。
「ありゃあやっぱり――小さいな。ここは俺に任せな」
なんたる大言壮語。スペース剣豪よ、君は一体何をするというのか!?
……抜刀。その構えは万回繰り返した平凡なものである。
だが恭二郎はいま、脳裏にかつての鍛錬と師の言葉を思い返していた。
――よく胸に刻み込むがいい。風桜子(フォース)を振るうことの真髄を。
老いた師、銀河剣聖の思慮深き双眸が脳裏に蘇る。
――風桜子とはそこにありてされどあらぬもの。見えずしてされど見えるもの。
ともすれば禅問答めいた言葉。
――風桜子とは心の力。そして敵がいかに巨(おお)きく強大なれど……、
(……"心でなら、どんな大きなものも掴める"!!)
開眼。そして恭二郎が八相に構えた剣は……巨神に勝りかねぬ巨大さに!?
いや、錯視だ。錯視のはずだ。恭二郎の愛刀は何も変わらない、"はずだ"。
しかしその場にいた全ての者――アークデーモンを含め――はたしかに見た。
風桜子の力のうねりによって、地平にすらも届きそうな恐るべき大刀を!
「感謝するぜ魔神の。おかげで俺ぁ、久方ぶりに初心を思い出せたからねぇ」
この男、スペース剣豪を名乗る伊達にしていなせな風流人。
その剣いかなる型にもはまらず、いかなる流儀にも従わぬ風来坊。
彼方は小さく、此方は大きく。風桜子は間合いも何もかもを無へと帰す!
「神酒坂風桜子一刀流、覚え技――銀河一文字、仕るぜ」
――斬!!
愛剣と同じ銘を持つ一ノ太刀、それは恭二郎が思い描く師の無敵の剣!
彼が己の、そして学び得たかつての師の教えを無敵と信じる限り、
風桜子が世界を捻じ曲げそれに応える。すなわち、巨きを斬り邪を断つ魔剣なり!
『ぐ、ぉおおおおおおオオオッ!?』
届かぬはずの遠間の、斬れぬはずの巨体が真一文字に叩き切られた。
滝の如き血を噴き出す魔神。鋼の巨体がそれをぐんと押し止める!
「――大したもんじゃねぇか、どいつもこいつもよ!」
好機。カイムは笑い、翼をはためかせ稲妻めいた速度で空を舞った。
組み合う巨神の腕を飛び石に、振り回される魔神の腕(かいな)を飛び渡り、
さらに宙空で爆ぜる破壊と呪縛の鎖をかいくぐる。障壁がつかの間彼を守る。
断ち割られた傷口を踏み台に、いま、黒翼の剣士が魔神を……捉えた!
「そうじゃ、やってしまえぃ!」
グルクトゥラが云う。
「我らの意地を知らせてやれ!」
百々が謳う。
「成れり、しかしてここが始まり、ってね――任すぜ、紫雷の」
スペース剣豪が笑う。カイムはひときわ強く大気を打ち、そして!
「痺れさせてやるぜ――受け取りなァ!!」
紫雷を纏い音をも超える加速を得ると、魔剣を以て迅雷の刺突を繰り出す!
オベリスクに楔めいてつきささる刃! 噴き出すのは血ではなく滂沱の魔力!
『ぐ、オォオオオオ!! バカ、ナ……!?』
悪魔の軍勢が明滅し消滅する。アークデーモンは死に物狂いで暴れた!
鋼の巨体を振り払うほどの暴威。裏を返せばそれだけのダメージなのだ!
「ハ! 喚き声まで耳障りだな、やかましい――だが、いい気分だぜ」
不敵なる黒き男は、巨大な悪魔を睥睨しぎしりと笑った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鎧坂・灯理
戦う形態:どちらでも
ハッ。貴様ごときが世界を侵すだと? 大言壮語も甚だしいな。
まあ、いいさ。好きなだけ傲れよ。その方が掬いやすい。
まったく……どこぞの赤色の方がよほど手強そうだ。あちらは魔人だが。
【SPD】
シンプルに行こう。
『白虎』で悪魔の間を駆け抜け、奴の目にUCをブチ込む。
これだけだ。何一つ難しい事は無いだろ?
運転には自信があってね。こういう時は車ではなくバイクを選んで良かったと思うよ。
念動力を併用すれば、空中を走る事も無茶な制動も出来る。
ウィンドゼファーと張り合った機動力を見せてやろうじゃないか。
何、猟兵は私一人じゃない。
人間をあまり甘く見ないことだ。影に首を切られるぞ?
シーザー・ゴールドマン
②【POW】
ハハハ、神曲の悪魔大王の様な出で立ちだね。
君に免じて君の仔の無礼を許そう。
『ウルクの黎明』を発動。オド(オーラ防御)を活性化して戦闘態勢へ。
空を舞いながらも敢えてオーラセイバーを振るっての接近戦。
(空中戦×先制攻撃)
基本的には攻撃を見切ってのカウンターからの痛撃。
(怪力×鎧砕き×属性攻撃:聖)(鎧無視攻撃×属性攻撃:聖)
(先制攻撃×2回攻撃×属性攻撃:聖)などなど
敵POWUC対策
発動を見切り、魔法陣を破壊する術式を放って発動を阻害する。
(第六感×見切り→先制攻撃×属性攻撃:聖×破魔×投擲)
最後は大技『天壊』(衝撃波×全力魔法×範囲攻撃×属性攻撃:聖)
オベリスクごと消えるがいい
穂結・神楽耶
【アークデーモン形態お任せ】
ええ、来ましたとも。
世界を、未来を守る──なんて、大仰ですけれど。
それでも。
破滅(あなた)を解き放つ訳にはいきませんから。
【神遊銀朱】『スナイパー』にて顔面、いっそ目を狙いましょう。
この身が脅威であると『存在感』を以て惹きつけ、囮の役目を。
『武器受け』『オーラ防御』『拠点防御』、各種耐性も併用しながら複製太刀を使い捨てるつもりで防衛線を敷きます。
隙があるなら適宜アークデーモンを狙っていきましょう。
『援護射撃』になるように。
ああ──だって。
破滅(それ)を防ぎたかったから。
いつかは届かなかったけれど。
今は届くから。
かつての無力を、勝利に繋げます。
矢来・夕立
②
やったか!?
…て、一回言ってみたかったんですよね。ホントに殺ったと思ったんですけど。
悪魔祓い《デモンスレイヤー》か。イイですね。
ココまで来たら出し惜しみ無しでいきましょう。
『幸守』『禍喰』『火曳』を交互に飛ばせて足場にする。
コレをやると流石に忍んではいられません。ですけど、溶岩の真近くで戦うよりは空中を渡るほうがマシです。
落ちる気も全くしませんしね。
それに式紙が飛ぶ速度分、身軽に…たぶん、なれます。やったコトないんで分かりませんが。
秘密の必殺技の強化には十二分。
細かいことは、今日のオレは抜きにしましょう。
苛立ってるんですよ。首が痛くてね。
――正面勝負だ。【神業・絶刀】。
●神業
「やったか!?」
もんどり打つアークデーモンの姿を見て、誰かが言った。
状況を見守っていた猟兵達は、その声の主に様々な意図の視線を向ける。
主に敵意である。あと怒気。お前何言ってんだふざけんな的な気配があった。
その中には、ちょっとばかし羨ましそうな気配もあったという。
「‥…いやあすいません。言うなら今かなと思いまして」
などとさっぱり申し訳無さそうな顔で頭をかくのは、矢来・夕立。
「でもほら、実際殺ったと思いません? あっさり終わってくれれば――」
……ずしん!! 巨大な鋼の躯神が魔神の威容に押しやられる!
再び溢れ出す悪魔の軍勢、そして飛来する無数の隕石! 戦いは継続!
「……まあ、ウソなんですけど」
「今回は明らかに"ついた"のではなく"なった"の間違いですよね?」
夕立の口癖に、穂結・神楽耶が鋭いツッコミを入れる。
ウソつきな汚い忍者はそっぽを向いたまま無表情。これもいつも通りだ。
「まったくもう、矢来様はこれだから……」
いまさらその性根にどうこう言うつもりもない――自分も大概に頑固者で偏屈だからだ――が、こんな状況でまでとはいささか辟易する。
とはいえ、今まさに戦端が開かれている状況で嘆息して頭を振るさまは、
とうの神楽耶も、やっぱり大概な感じがした。
「まあまあ、いまは戦闘中だよ? もう少し仲良く行こうじゃあないか」
そんなふたりをなにやら上機嫌な様子でたしなめるシーザー・ゴールドマン。
この赤公爵と呼ばれる男があるかなしかの笑みを浮かべているのはいつものこと、
しかし明らかに機嫌がいい。あの闇を通り抜けたにしては妙な話だ。
「……Mr.ゴールドマン。不躾ながら、緊張感がないのはあなたも同じでは?」
シーザーに対し、皮肉たっぷりに鎧坂・灯理が言った。慇懃無礼な敬語である。
彼女とシーザーはかつて、この森で同道した時からの縁なのだが、
余裕綽々のシーザーと常に尖った気配を纏う灯理はかなり相性が悪い。
……はずなのに、妙に噛み合う。なんとも不思議な関係であった。
「ついでにいうと、あなたの笑顔は気味が悪いです。不吉で不気味です」
「ハハハ、それは失礼。だが君ももっと笑いたまえ。せっかくの愉快な状況なんだ」
「……愉快、ですか? この状況が……?」
訝しむ神楽耶のほうをちらりと見(そこに神楽耶は妙な寒気を覚えた)、シーザーは余韻たっぷりに頷く。
「そうとも。見たまえあの巨大さ、そして攻め手を受けてなお抗う姿。
まるで神曲に謳われる悪魔大王のような出で立ちだ。ハハハ、実に面白い」
闇の中での不遜かつ無礼な"ルール違反"に、シーザーは静かに憤っていた。
しかしてその魔王の怒りを霧消させるほどに、彼奴の蘇生は気に入ったらしい。
それが強敵とみなしての高揚なのか、弱敵の悪足掻きを嘲ってなのかはわからないが。
「……とても素晴らしい見識とご趣味をしていらっしゃるようで羨ましいですね」
灯理は付き合うのも馬鹿らしいといった様子で毒舌を吐き、頭を振る。
四人の視線の先では、一度は圧倒されたアークデーモンが息を吹き返し、
まるで虫を散らすような癇癪めいた――事実そうだが――攻撃で猟兵を退けている。
「で、実際どうします。あれ、多分効いてはいると思うんですよね」
夕立は言った。"あれ"とは、先陣を切った猟兵達の攻撃のことだ。
オベリスクに叩き込まれた一撃は、アークデーモンの力を一度は大きく減じた。
つまりあれが力の焦点であり、そこを突けば事足りるのだろうが……。
「……退く理由はありません。誰かに任せるつもりもございませんよ」
巨大な魔神を遠巻きににらみつつ、神楽耶ははっきりと、端的に答えた。
戦局への加勢はもちろんだが、彼女の場合は個人的信条によるところが大きい。
言うなれば、生き様(スタイル)だ。それを曲げた時人はある意味で死ぬ。
特に、過去に縛られそれを想起させられた"燃え滓"にとってはなおさらか。
「見物もいいが、やはり楽しみは直接味わってこそだからね。
仮にも光と闇を引き合いに出したのだ、相応の力を見せてもらわねば」
愉快げに喉を鳴らす声音に反し、シーザーの体を赤黒のヴェールが薄く覆う。
金色の瞳が闇の中で瞬くさまは、ともすれば魔神よりも悪魔めいていた。
……そんなシーザーを横目に視る灯理。ふん、と鼻息を鳴らす。
"奴よりよほど手強そうだ"などと、口が裂けても彼女は言うまい。
「たかが大きくなった程度で、畢竟ヤツはただのオブリビオンに過ぎん。
であればここで殺す。大言壮語の代償を支払わせてやるとしよう」
人外のモノを、灯理は許さない。邪悪を許さない。過去の残骸を許さない。
それは義憤や義務ではなく、彼女が気に食わないと感じるからこそ。
世界にとっての悪はただ罰する。それはいわば灯理なりの峻厳な正義である。
「祓魔師(エクソシスト)でも気取ってみるとしようか」
「ドラゴンの次は悪魔祓い(デモンスレイヤー)ですか、イイですね」
灯理の言葉に、夕立はさっぱり表情を変えぬままに言った。
「せっかくですし協力しませんか? ほら、オレ忍なので肉の盾が入り用でして」
ウソですけど、と付け加える夕立、はたしてそれがウソかどうか。
「……思うところはありますが、わたくしは構いませんよ。
お力を借りれるならばそれに越したことはありません。おふたりは……」
水を向けられたふたりのうち、まずシーザーが鷹揚に頷いた。
「君達の力を見せてもらおう。そちらも実に楽しみだ」
「……共闘者への台詞に聞こえませんが? Mr.ゴールドマン」
相変わらず刺々しい言動だが、灯理から否定の言葉が出ることはなかった。
探偵。公爵。忍者。そしてヤドリガミ。
それぞれ異なる領域(アザーサイド)に住まう猟兵がひととき肩を並べる。
不遜なる魔神を討つ。その点に於いて彼らは共通していた。
――KRA-TOOOOM!!
爆炎が大地を割り、そこからさらに恐るべき溶岩が柱めいて噴き上がる。
いかに猟兵とて、守りなしにマグマに呑まれれば当然死ぬ。必然レベルだ。
ゆえに第一陣の猟兵らが退いたところへ、まず真紅に輝く流星が飛び込んだ。
『新手か!!』
「はじめまして悪魔大王のフォロワー君。楽しませてくれたまえよ?」
シーザーである。オーラを纏うことによる優雅なまでの空中機動!
無造作に振った腕からオーラセイバーが馬鹿げたほどに伸び魔神を襲う!
しかしいかに鋭利かつ非物質的な刃とはいえ、絶対的な質量差は覆し難い。
皮を割けど肉に届かぬ裂傷、だが問題はその数と精度。瞬きのうちに十以上!
『その程度、何の痛痒も……ぬうっ!?』
「痛みはないだろうね。なにせ傷は灼けているのだから」
然り。最大の問題は、シーザーの魔力が破魔の聖光を秘めていること!
裂かれた傷口は、まるで酸で焼いたかのようにじゅうじゅうと焦げている。
アークデーモンは、この小賢しい小虫を力任せに引きちぎろうとした。
それを留めさせたのは、高らかに響き渡るエンジンとタイヤの駆動音だ!
「本日はご乗車ありがとうございます、乗り心地はいかがで?」
「最悪でございます! 一息に脱出も突破もできそうにはありませんね!」
涼しげな顔の灯理の冗句に、神楽耶はエンジン音に負けぬ大声で応えた。
彼女なりの冗談である。善き哉、とばかりに灯理は鮫めいて笑う。
探偵が駆るのは愛車"白虎"、神楽耶はその後部にタンデムしている形だ。
カゼの如く駆け抜けるとはいかねども、その速度は無視できぬ疾走といえる!
『あちらこちらでちょこまかと――まとめて押し潰してくれる!!』
オベリスクが軋んだ。いくつもの傷口から噴き出す血が物理法則に反して吸い寄せられ、以て悪魔を喚ばうための生贄となる。
つまりアークデーモンは"身を削って"同胞を招来しているのである。
その総量は、海の水をコップで汲んで移し替えるに等しい難行だろうが……。
「シンプルに行こう。私達の狙いはヤツの目だ。難しいことはあるまい?」
「この揺れがなければそうでございますが……いえ、言いっこなしですか!」
ガガガガガガ! 不整地を難なく走破し軍勢に自ら飛び込む女ふたり!
立ちはだかる悪魔を切り払うのは神楽耶の仕事。灯理はドライバーだ!
『――まだいるな! 出てこい、矮小なる者め!!』
斬りかかるシーザーを振り払いながら、魔神の三眼が死角を捉えた。
返答の代わりに投げ放たれたのは、折り紙――いや、それは蝙蝠に変じる!
「幸守、禍喰、火曵――ココまできたら出し惜しみはなしですよ」
式"紙"を手裏剣めいて投げ放ちながら、布めいた不可思議な軽やかで跳ぶ夕立。
羽ばたく蝙蝠達は牙で悪魔を噛み、翼で体を抉り、あるじの踏み台となる。
速度に応じて翻る羽織の名は"夜来"。それはカゲの守りであり帳。
夜のあとにはまた夜が来る(ナイト・アフター・ナイト)ように、
悪魔を放とうが破壊の魔力を解き放とうが、忍の影走りは止められないのだ!
眼下で煮えたぎる溶岩が、獲物を絡め取ろうと蛇めいてのたうち襲いかかる。
「暑いの苦手なんですよね、黒ずくめなんて。まあ、ウソですけど」
汗一つかかぬまま、燃える大蛇の狭間を駆け抜ける影一陣。
魔神は歯噛みする。四者それぞれが別方向から着実に近づいてきているからだ。
最大接近しているシーザーの、けして止まらぬ連撃が実に鬱陶しい。
『軍勢で足らぬならば……妖星よ! 我が敵を――』
「異界の隕石か。あいにくだがそれを許すわけにはいかないな」
金眼が煌めく。稲妻じみたジグザグ軌道で、真紅のオーラが陣を裂く!
らしからぬ破魔の聖光は、妖星招来の術式をその門もろとも叩き斬ったのだ!
詠唱を投じた大規模術式の阻害は、シーザーの手を止めることになった。
が、残る三人にとっては好機である。灯理は躊躇なくアクセルをフルに開く!
待ち構える巨体の悪魔――を、ウィリーめいた大ジャンプで飛び越えた!
「ひゃあああっ!?」
「ヘタに喋ると舌を噛むぞ。揺れはないがその分ブレるからな!」
念動力による浮上と空中走行、タンデムした神楽耶は思わず目を回す!
かのウィンドゼファーとすら相対した白虎の機動力は、軍勢など寄せ付けぬ。
それが乗り手と同乗者の快適さに繋がるかは、あいにく甚だ疑問だが!
「目、目、目が! 天地が逆転して……ああっ!!」
「いいリアクションで。遊園地の取材でも申し込まれては?」
後方で騒ぐ神楽耶に皮肉をちくりと刺しつつ、灯理は彼方を一瞥した。
蝙蝠達を足場に飛び渡る夕立の速度は、一歩ごとに加速している。
シーザーは次々に生まれる魔法陣をひたすらに割断し、妨害に専念。
であれば、自分達が二つ目の布石を打つ頃合いか。視線を神楽耶のほうへ。
「あいにくだが私は運転に忙しい。あれの目を惹きつけてもらいたいのですが?」
「はああ……っ、ええ、ええっ、わかり……ました!」
頭を振った神楽耶はつかの間平静を取り戻し、ぎらりと魔神を睨めつける。
瞬間、彼女の周囲に無数の複製刀身が現れ、放射状に花弁を咲かせた!
「神遊銀朱――参ります。この刃は偽りなれど、逃れぬ者には容赦しませんよ!」
ガガガガガッ!! 霰めいて降り注ぎ悪魔どもを串刺しにする神の刃!
さながら野戦場の防衛陣めいて横列を築く一方、五振りの刃がアークデーモンへ!
狙いは三眼――当然、魔神はこれを読み、視線で破壊魔法を引き起こす。
KRASH!! 複製刀身はその尽くが空間の振動破砕によりバラバラに衰滅した!
『無駄な足掻きを! その程度の小細工など我には通じぬぞ!!』
「そうでしょう。けどあなたの破滅を、魔力を、後ろへ通すこともございません!
世界(みらい)を守る――だなんて言うのは大仰で、分不相応ですけれども」
つかの間、少女の瞳が懐旧に浸った。灯理はそのノスタルジーに舌打ちする。
戦場では悠長に過ぎる。だがそれを言葉にして否定することはしない。
……闇の中(ビハインド・ザ・ダーク)からやってきたのは己も同じ。
彼女はおそらく、"それだけのもの"を垣間見たのだろうから。
「それでも、私はもう破滅(それ)は起こさない。起こさせませぬ!」
かつては届かなかった。今は届く。であれば守り、挑む。
それが神楽耶の生き様。それは非効率的でウェットな感情論だけれども。
たとえマヤカシの希望でも、神楽耶は戦う。思い描いた守護神のように!
「どうした、お得意の大言壮語は。傲り昂ぶるのが貴様の仕事だろう」
ギャリリリリッ!! 曲芸的走行で虚空を焦熱(バーンナウト)させながら、
灯理はあくまでも冷ややかに、鋭く睨みつけながら敵を嘲笑う。
「そら、紅い悪魔が来るぞ。身の程知らずの化身がお前を苛つかせるぞ。
矮小なのだろう? たしかにそうさ、だがな、猟兵とは"そういうもの"だ」
BLAMN! 言葉の合間に無造作に放たれた可変銃器の狙撃!
外れた。弾丸はアークデーモンの頬を裂く。そのときには次の弾丸が、BLAMN!!
「――人間を甘く見るなよ、化物め。せいぜい影を恐れるがいい」
BLAMN!! 神速の狙撃――おお! 弾丸が、三眼の一つに命中した!
『がッ!?』
なぜだ。悪魔の軍勢はなぜあの女どもを捉えきれていない!
妖星を招来し奴らを吹き飛ばそうとする。それが敵わぬ! 赤公爵!!
「ハハハ、魔力量も甚大か。これはいよいよ悪魔大王めいているね」
あくまでも不遜に、傲岸なまでに男は笑う。魔王のように雄大に。
「そのタフネスとしぶとさに免じて、ひとつ大技を見せてあげよう」
大気が、凝った。それはたしかに聖なる光、破魔の魔力であるはず。
だがなぜだ。シーザーが掌の上に生み出したうねる極彩色の球体は、
見るものを怖気立たせる不気味さと危険な戦慄に満ちている!
「さて、君は消えずにいられるかどうか。試してみるとしようか?」
『貴様――』
「ああ、先に言っておくが」
天をも砕く極大魔力球体を放り投げ、破滅の先触れは三日月を浮かべた。
亀裂のような笑み。真紅に覆われた姿は永生者めいたアヤカシの相。
「――これは"目くらまし"だ。光あるところに影あり、だよ」
――炸裂!!
アークデーモンが放つ中位魔法をも凌駕する、超炸裂型範囲攻撃!
防ごうにも神楽耶の援護射撃がそれをさせず、灯理の狙撃が目を潰す。
三眼は即座に回復するが、再生したそれが見たのはオーロラめいた極彩色の輝き。
つかの間地底空間を照らした魔力の爆砕は、アークデーモンの巨体の二割を減じたほどである!
『AAAARRRRGGHHH!?』
獣じみた絶叫――魔神にとって不幸なのは、これらが布石でしかなかったこと。
そう、影がいた。一切の守りを捨て、細々とした小細工を惜しみなく用い、
最大の速度と最悪の殺意を以て、影から影を渡る一振りの刃がいた。
その者、人にありて人の道を外れた外道。闇にしか居場所のない人間のクズ。
悪魔にすらなれぬ悪魔のなりそこない。されどそれもまた生き様のひとつ。
編み上げた剣は、すべてを絶つ刃。すべてを裂く牙なり。
ウルクの黎明が終わり、夕立が来る。降り注ぐは雨ならぬ一条の殺意。すなわち。
(苛々する)
影は思う。苛立つ。腹が立つ。これは本音ゆえに言葉にしない。
煮え立つ殺意を憎悪でくるみ、外道の摂理で研ぎ上げる。これが切り札だ。
スペードのエースを引くには"五枚目"を用意すればいい。つまりはそういうこと。
「――頸、もらいますよ」
魔神の沸騰する眼が影を見た。可知。されど防ぐも避けるも不可能。
正面勝負。直後夕立は終わり―― 一閃。迷光(ストレイライト)が煌めいた。
アークデーモンの頸部から、すさまじい量の血が噴き出す。
着地。残心を終えた少年はうっそりと云う。
「――絶刀(タチガタナ)。一応、これでも人の業ですよ」
その切れ味、神の御業にそぐうほどに鋭敏なり。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
フランチェスカ・ヴァレンタイン
②
あらしぶとい。ですがその図体ではいい的でしてよ?
見切り/迷彩/残像/フェイントを織り交ぜた空戦機動で攪乱し、砲撃で応戦しつつ崩落が落ち着くのを待ちましょう
崩落が収まりましたら、ええ。…わざわざ機動用の空間を確保していただきまして、感謝致します
自身が斃される場を自ら整えるなど、奇特な魔物もいたものですわね?
UCを発動、羽ばたきと共に全速噴射で一気に超音速のトップスピードへ
デーモンの周囲を慣性無視の異常機動で飛び回り、推進力と運動エネルギーの浪費を戦闘力へと転換しつつ
威力の高まりに呼応して煌めく旋条刃が迸る槍先を前に構え――
ランスチャージで真っ向から貫き、土手っ腹をぶち抜いて差し上げましょう…!
月宮・ユイ
②アドリブ◎
※身に<呪詛>宿す《機能強化》維持
皆の思い出はこの胸に…
[コスモス]飛行付与外套
ドームを空中戦混じりに動き回る。
《捕食兵装》槍剣等に圧縮成形:<生命力吸収の呪詛>で強化
魔法や障害物等を補足し射出、誘導弾にて撃ち抜き喰らい力溜め
巨大化で魔法の規模も拡大している?
対抗は出来る。けれど倒す為の一手が足りない
▼真の姿解放
(体成長、瞳色反転、髪白く角生え、背に黒白一対の翼)
捕食能力超過駆動
圧縮成形すれば全てを喰らうが故黒に染まる力が金色に
かつて使えば仲間さえ蝕んだ忌むべき金
それでも今の私になら。
[ステラ]核に巨大な槍生成。
立ち止まらない、未来へ進む為に。
金色の槍よ…斬り裂き穿ち、道を照らせ
●継戦
首切り。並のオブリビオン……いや強大な個体であろうが必殺の一撃。
だが見よ。滝のように溢れていた血が……徐々に、徐々に収まっていく!
そして傷口の変貌は奇怪の一語。切断面から赤や緑の禍々しい血管が生え、
うぞうぞと不気味に蠢きながら互いに絡み合い、そして幹のように融合した。
……然り、"幹のように"。アークデーモンの巨体の下半身に目を向けよう。
彼奴の重量を支えきれぬそれは、地底に深く根を張っている!
『お、おお……は・は・は。我が身の生命力は大地と繋がれり……!!』
これが、この大森林に隠されていたクラウドオベリスクの力なのか?
あるいはオベリスクを取り込んだ魔神が、なんらかの変容を起こしたのか。
原因を考えている時間はない。敵は大地の精髄を啜り再生を果たした!
「あらしぶとい。ですが、その図体ではいい的でしてよ?」
地底空間を飛行していたフランチェスカ・ヴァレンタインは淡々と云う。
再生と身じろぎに伴って地下空間の崩壊がさらに進み、岩塊があちこちに崩落。
フランチェスカはそれを滑るように飛んであっさりと回避しながら、
断続的な砲撃でアークデーモンの攻撃を的確に阻害する!
『小賢しいぞ、女ァ!!』
「こちらを狙ってくれるなら重畳ですわね!」
ぬうっ、と己を絡め取ろうと伸ばされた五指をかいくぐるフランチェスカ。
だが危険だ! 奴は六臂――回避軌道にはすでに別の腕が待ち構えている!!
「チ……ッ」
かろうじての回避。その先に三つ目と四つ目の手。いよいよ逃げ場がない。
だがフランチェスカが捕縛圧殺の憂き目に遭いかけたまさにその時、
一条の槍剣が光芒めいて虚空を走り、ざくりと手の甲に突き刺さったのだ!
『ぬうおおおっ!? 誰だ!!』
「……あなたに名乗る必要があるのかしら?」
呪詛の傷を刻み込んだ月宮・ユイは、冷たい視線でアークデーモンを睨む。
自らを叩き落とそうと振るわれた拳を軽やかに回避、遅れて爆ぜる炎。
ドウ! ドウドウ! 飛行軌道をなぞるように破壊の華が咲く!
(フランチェスカさんはこれでいいでしょう、問題は……狙われた私ね)
淡々と状況を分析したユイは、やがてひとつの結論に至った。
(巨大化で、魔法の規模も拡大している……?)
ドウ!! 眼前には間欠泉めいて吹き出したマグマの火柱だ!
曲芸的飛行でこれを避け、さらにアークデーモンへ誘導弾を発射、牽制。
得られた間隙は数秒。破壊魔法の頻度と威力が桁違いに高まっている……!
やがて崩落が一時的に収まり、ふたりが飛び交うための余剰空間が開く。
だがフランチェスカは、意図していた急加速による襲撃を妥協せざるを得ない。
ユイと同じように破壊魔法と呪縛の魔力が常に彼女を追っている上に、
招来された小型の妖星=異界の隕石が上下左右から襲いかかってくるからだ!
「このっ! 図体は大きいくせに狙いは正確ですわね!!」
残像を生み出すほどの速度で、幻惑的軌道を刻むフランチェスカだが、
アークデーモンの三眼は常にふたりを同時に捕捉している。
「ユイさん! そちらは大丈夫ですの!?」
「問題はないわ。対抗は出来る――けれど、一手足りない」
フランチェスカにとっては業腹だが、ユイの分析には頷くほかなかった。
一瞬。彼奴に一撃を叩き込むための間隙が、一瞬でもあればいいのだ。
猟兵達がそれを開いてくれるか――いや、地上のメンバーには難しいだろう。
奴は大地そのものから吸い上げた生命力を贄として門を開き、
バカげたほどの数の悪魔どもを常に呼び出しているからだ。
ふたりが回避に専念できるのも、空中を飛び回っているためである。
「……それでも、方法がないわけではない」
「そんな言い方をするということ、はっ!」
KRAAASH!! 急加速で回避した中規模隕石がすぐそばの壁ごと破砕する!
「――何か、リスクがありますのね?」
フランチェスカの言葉に、ユイは頷いた。ただしやや語弊がある。
生じるのはリスクではない……ようはユイの気概の問題なのだ。
「これは、かつて私が、私の仲間すら蝕んでしまった力――」
脳裏によぎる、闇の中で垣間見たかつての在りし日々。もう戻らぬ残影。
帰りたくないか、といえば嘘になる。過去は、ノスタルジーは病毒だ。
(……けれど、もう仲間がいなかったとしても、その思い出はこの胸の裡に)
乗り越えねばならない。主の言葉を礎に未来へと歩むなら!
「私がやってみる。あなたはその間に攻撃を」
「請け負いましたわ――無茶だけはしないようにしてくださいましね?」
そしてふたつの流星は飛び離れた。三眼の動きはさながらカメレオンだ。
アークデーモンは訝しむ。ユイがまっすぐにこちらに近づいてくることを!
『ようやく覚悟を決めたか? だが無駄ぞ! 我は滅ぼせぬ!!』
「それは、どうかしら――!!」
捕食能力、超過駆動(オーバーロード)。
黒ずんだ槍剣が、内側からひび割れてこの世ならぬ金の色彩を放つ。
同時にユイの体は少女めいたものから一回りは大きくしなやかに成長し、
異色の双眸はその色合いを反転、さらになびく髪は神々しい白髪へと!
ばさりと黒白の翼を広げ、真の姿を解き放った連星兵器が敵へ挑む!
「立ち止まらない――未来へ進むために。今の私にならそれが出来る。
金色の槍よ……我が敵を切り裂き、穿ち、進むべき道を照らし出せ――!!」
――ドォンッ!!
超加速を得たユイは、一条の流星あるいは矢となって魔神を貫いた。
収束圧縮された捕食兵器の破滅因子が、ウィルスめいた速度で魔神を侵食する!
『ぬ、ううっ!? おのれ、だがこの程度……!!』
物理的衝撃で削がれた肉体を、やはり植物めいて不気味に再生する魔神。
だがその勢いが衰えている。リアルタイムで捕食されているがゆえの拮抗。
「甘いですわね、わたしがいることをお忘れかしら!」
ここだ。フランチェスカは意を決してバーニアを全力噴射。
惑星をとりまく衛星のように宇宙速度で回遊する隕石群を異常機動で回避し、
"助走"によって運動エネルギーを等比級数的に高めていく。
応じるかのごとく、槍先に灯った光が焔めいた螺旋の刃となり燃えた!
「シンプルに参りますわよ――その土手っ腹、ぶち抜いてさしあげますわ!!」
衝突、二連! きりもみ回転によるドリルじみた強烈な掘削である!
『うおおおおおおおおッッ!?』
再生を阻害する捕食兵器群、肉体を抉り穿つ万象必滅の光焔刃。
二人の戦乙女の連携が、未来を貫く槍が、魔神を滅びへと追い詰める……!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
杜鬼・クロウ
アドリブ連携怪我◎
(俺と対峙した邪霊は日和ったンだろ)
テメェが親玉か
相手にとって不足はねェ(舌なめずり
机上の空論語るのは勝手だがなァ
その闇がどれ程のモンか見せてみろや、オラァ!(威厳・存在感
ひりつく空気に武者震い
指でクイっと挑発
①
片方の手袋を口で剥がし【無彩録の奔流】使用
敵の攻撃は玄夜叉で武器受けか第六感で致命傷回避
罅割れた地形に足縺れたと見せかけわざと隙作る(フェイント
敵に隙を突かせカウンターで逆に敵の心臓串刺し
②
汗で滴り前髪全下ろし
外套脱ぐ
ハ、ざまァねェ…?
まだまだヤり足りなかったンでなァ!
イイぜ、来いよ
最後に勝つのは俺だ
徹底的にぶちのめす
2回攻撃・属性攻撃で熱風巻き起こす
全体重乗せて叩く
柊・明日真
【アドリブ歓迎】②
この期に及んで巨大化とは往生際が悪いな。
ま、デカブツとは何度も戦ってんだ、むしろやり易くて助かるぜ。
どこ殴ったって良いんだからな!
あのナリじゃ距離を詰めるのは問題ないな。懐に潜ればどうにでもなる。接近し【鎧砕き】で一気に攻め立てていくぞ。
隕石はまともに食らうつもりもない。【見切り、野生の勘】で着弾地点を回避。
…さっきより攻撃の勢いが増してるな、自己強化出来るように地形をこねくり回してんのか?
簡単に有利なんぞ取らせるかよ!
《烈震の刻印》でもういっぺん吹き飛ばしてやるぜ!
●激震
空中を踊るように舞う戦乙女達の猛撃が着弾した、その前後……地表!
地面が見えぬほどにあぶくめいて溢れた悪魔の軍勢を相手に、
大立ち回りを繰り広げるふたりの偉丈夫、熱血漢がいた。
「次から次へと尽きねえこった! おいクロウ、生きてっか!?」
「ハッ、誰に口聞いてンだよ。テメェこそ息あがってんぞ、明日真!!」
柊・明日真、そして杜鬼・クロウ! 言葉は強気だがふたりとも満身創痍だ!
いかに大地を砕き天の御使いをも従えるふたりとて、この数は圧倒的に不利。
しかも悪魔の軍勢は、邪悪なる神々の忌まわしき力により超強化されている。
今まさに光焔の刃が魔神を穿つ。大音声の絶叫、されど悪魔どもには関係なし!
「あっちはうまいことやったみたいだが、こっちがキリねぇな!」
「先触れだの闇だの、でけェ口叩いただけはあるってコトかよ、チッ……!」
ここで終わるつもりはない。ない、が……ふたりには打開策も、ない。
特にクロウのほうは全身汗だらけで、舌打ちしながら外套を脱ぎ捨てた。
あちこちに裂傷。もはやコートに防具としての効果を期待できないのだ。
「デカブツに近づけりゃあな……」
明日真は苦虫を噛み潰したような表情で、再生を再開したアークデーモンを睨む。
悪魔の軍勢をバカ正直に相手するのは愚行もいいところ。打開が必要だ。
しかし彼奴に近づくには、軍勢をどうにかして切り開かねばならないという矛盾!
「おいクロウ、もうへばってんじゃないだろうな?」
「まだまだヤり足りねェぐらいだよ! まだまだイケるぜ!!」
襲い来る四腕の悪魔をばっさりと両断しながら、クロウはやけっぱちに叫ぶ。
そしておもむろにぐい、と片手の手袋を剥がすと、それを封印解除の代償に使用。
めきめきと音を立て、黒魔剣が変貌する……ねじくれた樹の如き螺旋の刃に!
「こいつでデケェ穴をブチ開ける。明日真、その間にテメェが」
「……ハッ! なんだよ、そんなもんあるならさっさと出せや!」
なにかに気づいたらしい明日真は、ドリルめいた螺旋剣を見て快哉を挙げた。
己を犠牲に友を送り出そうとしていたクロウ、怪訝な顔で眉根を顰める。
「お前がいちいち捨て石になる必要なんざねえよ、そいつを使いやいいんだ!」
「あ? そりゃどういう――」
ふたりの会話は、波濤のように押し寄せる悪魔の軍勢に呑まれて消えた。
もはや、男達の姿を上部から見つけ出すことは……出来ない。
……アークデーモンは焦っていた。強者たる魔神らしからぬ焦燥だ。
猟兵の攻撃はなおも苛烈であり、大地の精髄を得たはずの己が圧されている。
挽回せねばならぬ。いかにエネルギーが無尽蔵であろうと、
存在の根幹を揺らがせ砕かれてしまえば、骸の海に還るは必定なれば。
(力を高めねばならぬ。大地を抉り、砕き、より多くの精髄を!!)
波状攻撃をかける猟兵達への反撃を一時断念し、アークデーモンは積層魔法陣を展開。
城砦めいて複合融合した魔法陣は、もはや球体じみた有様である。
その表面から現れる無数の妖星。アトランダムに放たれた燃える岩塊は、
悪魔の軍勢がひしめく地表にも、壁にも天井にすら飛来し破砕し炎上する。
割れ砕けた大地から生命の根源たる精髄が溢れる。滋養! これこそが重要なのだ!
『ハハハハハハ! ハ・ハ・ハ・ハ・ハ!!』
地裂を埋めるのは大樹の根のように変異したアークデーモンの身体であり、
それらはどくんどくんと動脈めいて拍動し世界そのものの力を吸う。
なんという禍々しさ。妖星招来の数と勢いが飛躍的に増していく!
『終わりだ猟兵! 我が力はもはや無限大――』
「……やっぱりな、思ったとおりだぜ」
男の声がした。直後、太い根=動脈のひとつが分断滅殺される!
『何ィイイイッ!?』
溢れ出る赤黒の血液、そしてスパーク! 魔力そのものの迸りだ!
誰だ? 言わずもがな明日真、そしてクロウのふたりによる仕業である!
『き、貴様ら!? 一体何を――』
「悪さしてやがるようだったからよぉ、ここまでぶった切ってきたのさ!」
戦斧を担ぐ明日真、その隣に立つクロウ、ふたりは全身が土埃にまみれている。
つまりこうだ。明日真は敵が大地の奥深くから力を引き出していること、
さらにそれを加速させるため妖星を招来させることを予測した。
そこでクロウの封印解除した螺旋魔剣によって一足早く地中に先行し、
地表をひしめく悪魔の軍勢を"潜り抜ける"ことで包囲を脱出!
「エッグいモン蔓延らせやがって、自然破壊もいいとこじゃねェか、ア?」
汚濁にまみれた螺旋魔剣を振り払い、クロウもまた不敵に笑う。
伸張した根を戦斧と魔剣で目についた端から破壊し、さらに敵へ接近!
これが包囲脱出のからくりである! アークデーモンは慄き、そして激憤した!
『余計な真似をしおって!! 大地の消し炭となれェッ!!』
ふたりめがけ降り注ぐ火炎岩、だがたかが隕石の群れである。
明日真、クロウは左右に弾かれたかのように跳躍し、さらにまっすぐ疾走。
ジグザグ移動で流星雨を避けながら、手当たり次第に地形を吹き飛ばす!
「っと、ヤベェ!」
だが見よ。クロウが地割れに足を取られつんのめってしまったではないか!
明日真は遠く、サポートに向かえない。魔神はこれを見逃さぬ!
『愚か者め! 我自ら引き裂き捻り潰してくれる!』
ぐおんと六臂が伸ばされる――クロウは、一瞬にして表情を裏返した。
驚愕と絶望のそれから、敵が術中に嵌まった戦士の笑みへと!
「バカが、ンなヘマこくほど間抜けじゃねェんだよッ!!」
即座に跳躍したクロウは、己を掴み取ろうとした腕にすばやく着地。
螺旋剣を突き立て、直接肌と肉を抉りながら肩めがけ走り上っていく!
『ガァアアアアアアッ!?』
「痛がってる場合じゃねえぞデカブツ、こっち向きなッ!!」
反対側から接近した明日真! 脇腹を叩き割る戦斧の横薙ぎ一閃!
巨体が揺らぐほどのダメージ……クロウはこの衝撃を逆利用して肩を飛び渡り、
跳躍速度も載せて螺旋剣もろとも心臓部めがけて突撃した!
「散々ナメられたからなァ、カウンター食らっとけオラァ!!」
ぞぶり――肉を、骨を抉り、砕き、引き裂いて進む螺旋剣!
巨体がもがけば爆ぜるように肉を巻き込んで刃を引き抜き、
熱風を以て降り注ぐ血片を蒸発、焼け焦げた旋条痕を置き土産に後退する。
「派手にやるじゃねぇか、気分いいぜ!」
「当然だろ。最後に勝つのは野郎じゃねェ――俺達だ」
並び立つ両雄は互いに言葉を交わし、ぎらりと悪魔を睨めつける。
「徹底的にぶちのめしてやるぜ。その闇とやら、どこまでやれンのか見せてみろや」
「クソみたいな搦め手使ったことを後悔させてやる。往生際の悪さもな!」
空気がひりつく。だが重畳。敵が強大であればあるほどよい。
ふたりは片手を伸ばし――掌を上向け、手招くようにして魔神を挑発した!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ジャガーノート・ジャック
②
◆ロクと
(ザザッ)
――殲滅対象の異常巨大化を確認。対象に相応する武装を展開する。
協力を願う、ロク。
――その形で力を借りるとは思わなかったが、頼もしい限りだ。
では、征こうか。
(ザザッ)
SPDを選択。
"Leopard: Arm-ON".
弩級装甲を展開、巨大人型機械装甲として武装展開。
更に。
ロクをサブ搭乗員として承認、武装複製。
右手に"烙印刀"。
左手に"捧架となったロク"。
本機周囲に三機の"熱線銃"。
至近の敵はロクの技能も借りつつ両刃での灼断。
(操縦+早業+戦闘知識+見切り)
ロクの勘を頼りつつ、隕石は本機が撃ち払おう。
(援護射撃+スナイパー)
――全武装を以て、敵性存在の殲滅を実行する。(ザザッ)
ロク・ザイオン
※ジャックと
②
(巨大複製烙印刀に目は丸くなった)
(しかし。あの大きな悪魔には、自分の刀では足りないだろう。
……出来る者が、出来ることをする。
それを助けられればいい。
完璧で完全ではないのなら
それが今生きている、人間なら)
いいよ。
……思いっきり振り回せ。ジャック。
おーば。
(――こうなってしまっても。
自分は、
人間だ。)
(「捧架」で、自分の体を
ジャックの大きな装甲に合わせて創り変える。
それは炎を纏う巨大な剣)
(動けなくとも意思を伝えることは出来る。
隕石の着弾は【野生の勘】で警告、
【先制攻撃】出来る隙を察知し知らせる。
【武器受け】で彼を守り
【鎧砕き】で悪魔を貫こう)
●踏破
……地獄だ。いまここに、地獄が現出している。
かつてふたり――つまりジャガーノート・ジャックとロク・ザイオン――は、
この世界とは別の場所で、地獄を形にしたような男とそのしもべに挑んだ。
彼奴を討っていま、この縁深き地においての龍退治。物事とは重なるものだ。
であればまさにこの瞬間、地表を埋め尽くす悪魔の群れはあのリフレインか。
黒き破滅。災禍の龍。文明を侵略し己のものとする恐るべき暴威。
それらには質と威力で劣れど、数に関してはこちらのほうが圧倒的に上。
さらに間断なく降り注ぐ小規模隕石が大地を割り、燃やし、引き裂き、
その空白を縫うかのように大蛇めいた禍々しい"根"が蔓延っている。
それが変異したアークデーモンの一部であることは明白だった。
《――殲滅対象の異常巨大化、および生体変異を確認》
ジャガーノートは淡々と状況を分析・解析し、取るべき行動を思案する。
まずはこの悪魔の軍勢による包囲網を、全力で脱さねばなるまい。
すでにアークデーモン本体に到達した猟兵は、少ない数だが居るらしい。
であれば己らも、後に続き本体である魔神を討ち果たすべし。
問題はどのようにして悪魔どもを討ち滅ぼすか……で、あろう。
怪物として構成された鋼の豹は、大量広域破壊・殲滅の手段に秀でる。
しかし無差別な爆撃や焦土作戦は、同じように軍勢に囚われた猟兵も巻き込む。
味方ごと敵を焼き払う――そんなやり方は、"人"の道に反する。
己を人だと定義した今だからこそ、向こう見ずなプランは取れないのだ。
それは、道を選び歩み出した者が背負う、避け得ない代償と言えよう。
そんな鋼の相棒の背中を、ロクはじっと見つめていた。
ふたりの周囲は円形に焼け焦げ、恐れ慄いた悪魔どもを退かせている。
さながら結界だ。ただし結果をもたらしたのは加護ではなく暴力と熱量。
ロクの持つ烙印刀と、相棒であるジャガーノートの殲滅兵器である。
大地の精髄を啜る病んだ悪魔の根ですら、灼けた大地を侵すことは出来ない。
(これが、人間としての正しいやり方なのか)
ロクは心の中で思う。焦土と化した周囲数メートルの地表を睨む。
大森林からはるか地底、されどここは大地のゆりかごの中であり自然の一部。
こうして何もかも灼いて滅ぼして破壊して、暴れ回るのが人の仕業か?
……あの時。宇宙の片隅で呪われた囚人どもを貪り食らったときのように?
(違う)
ロクは頭を振る。本能に任せてのたうち暴れ狂うのは獣の所業だ。
彼奴がまったき闇を謳うなら、それを討つのは人としてのエゴでなくば。
ではどうする。……ロクに、この状況の打開策を打ち出すことは出来ない。
ゆえに相棒を見つめる。彼が何を云うにせよ、自分はそれを諾するだろう。
信を置くがゆえの、命を預ける献身。どこか自己破壊願望めいた姿。
それでも今までこうして戦い抜いてきた。ならば今回も同じように戦い抜く。
そのために相棒が導き出す答えは、決して間違ってなどいないはずだ。
《――ロク、我々にはこの状況を打開するための武装が必要だ》
「うん」
素直に頷く森番に、ジャガーノートも首肯した、そして言葉を続ける。
《――ゆえにまず…‥"弩級装甲兵器(Leopard)"起動、武装展開開始》
ブウンン――電脳魔術が呼応し、電子的な精神音声が微かに響く。
虚空にワイヤフレーム上の立体映像が投影され、さらに現実・物質化。
ズシン!! ……大地に降り立ったのは、巨大な人型の躯体である。
悪魔どもが警戒を密にする。一度は退いた包囲網がじりじりと縮まっていく。
猶予がない。豹の名を持つ鋼の人は、膝を突いて片手を差し出した。
「……これで、どうするんだ」
《――手を》
言われるがままにロクが片手を差し出せば、ジャガーノートが掌を重ねる。
両者の手の甲に同じエンブレムが浮かび上がり、そして色が赤から緑へ。
【サブ搭乗員、登録完了。兵器リンク同期。データベース、アクティブ】
《――武装複製システム起動。エミュレート対象は――》
ブウンン――躯体の掲げた片手に新たなワイヤフレーム立体。
ロクは瞠目した。模倣複製されたのは彼女がよく知る得物ゆえに。
「……おれの、刀?」
然り。サイズ比はオリジナルのそれと数倍にも異なる、巨大な烙印刀。
兵器はそれを掴み取る。コクピットハッチが音を立てて開かれた。
《――だがこれだけでは不足だ。もうひとつ武器が欲しい》
サブ搭乗員として常にジャガーノートと連携しつつ、もう片手を満たす方策。
「……おれが?」
ジャガーノートは頷いた。ロクは……わずかに、逡巡した。
だが迷う暇はない。悪魔の軍勢はいまにも飛びかかろうとしている。
あれは獣だ。獣を討つのが人の業だ。ただ地を駆けるだけではいずれ力尽きる。
……ならば。"出来ること"を為す。互いに出来ることを為して、協力する。
――君の力で足らぬなら人を頼れ。
――森の中に"帰る"のを望むなら。帰す手法を知るものを頼れ。
――私は、私の呼びかけに応えてくれたみんなに、運命を変えられるって信じてるからね。
――だから私は"あんたたち"にいつも託してる。それが私の『信頼』ってこと。
――悲劇でも、喜劇でも。人の物語には必ず、終わりがある。
――満足できる終わり方できりゃ、それでいいのさ。終わりが悪けりゃ、全部無駄になっちまう。
人は完全ではいられない。不完全であるからこそ人なのだとすれば。
「……いいよ」
誰かを助け、助けられねば生きていけないのが人であるならば。
「おれが、ジャックの剣になる」
たとえ剣(なに)になろうとも、その意思を喪わぬ限り。
「おもいっきり振り回せ、ジャック。――おれは、人間だから」
貫ける人生(もの)が、あるはずなのだ。
……アークデーモンは、見た。
隕石を招来し、悪魔の軍勢を無限に召喚し、呪いと破滅を振りまき。
襲い来る猟兵を振り払い、受けた傷を大地の精髄で再生し、暴れながら、見た。
もはや地表を見ることもできぬほどにひそめく同胞が、"燃えている"。
あれはなんだ? またぞろ猟兵が妙な策でも企てたか?
否。否である。それは野火めいて確実に、山火事のように疾く。
そして疾走する閃光のように瞬き、力強き獣のようにしなやかな軌跡。
燃えている。何がだ。悪魔が。降り注ぐ妖星が。地に満ちる己の根が。
何が燃やしている。光――いや違う。稲妻? それも否。
であれば獣か。炎のたてがみを持つ獣が――否、否、否。
熱線銃が衛星めいて躯体を取り囲み、アトランダムに光芒を放射する。
焼け焦げた大気を、なお強く燃え上がる烙印の刃が悪魔もろとも薙ぎ払う。
そして見よ。四面の天使が握る神の炎の如き刃(それ)を。
銘はロク。ロク・ザイオン。神咒を提げた獣の鋼たる姿を見るがいい。
鋼は云う。来る星の軌跡とその驚異を、まるで謳うように。
それは彼女にとって、忌まわしいはずの悲鳴(うた)に似ていた。
だが違う。それは歪んだ耳が聞かせるかりそめの欺瞞などではない。
友に心を預け、体を託し、共に力を振るう高揚と、気高き意思の戦賦(いくさうた)。
原始の人々が、精霊に祈り勝利と生存を希うかのごときウォークライ。
獣の咆哮に似て雄叫びにあらず、力なきモノの歌ににて祈りではなく。
道を切り開くための意思。それに導かれるように鋼の豹が疾走する。
燃えている。切り裂かれた悪魔(けもの)が、歪んだ精髄が、大地が。
異界の妖星が燃えている。熱線で、刃で、烙印の炎で燃えて尽きていく!
『なんだ、あれは』
流星の輝きは、燃えて散っていく滓の残響だという。
だが生憎、戦場を"切り開く"鋼達が燃やすのは滓などではない。
《――わからないのか?》
それはつまり、己が己だと世界に叫ぶエゴイズムであり。
ゆえにこそ気高きものであり、未熟なものであり、貫くべきもの。
闇を踏破するもの。ヒトが連綿と受け継ぎ紡いできた規矩への楔、すなわち。
《――僕らは、人間だ》
豹(レオパルド)が跳躍した。進路上の隕石を熱線が撃墜溶解!
右烙印刀横斬撃、虚空の爆裂を鋼の炎で撃ち払いバーニア噴射で加速する!
悪魔の軍勢が柱あるいは壁めいてより集まり立ちはだかる――笑止!
"おれに、任せろ!!"
鋼が震えた。気高きウォークライに呼応し剣(ロク)が燃え上がる!
おお! その輝き煌々と、闇の世界に君臨した何も遺せぬ鬼のそれよりなお紅く!
魔は恐れた。己めがけ走る輝きを、そして振り下ろされ切り上げる刃を!
《――敵性存在の殲滅を開始。征こう、相棒(ロク)》
"ああ。おれの炎(こころ)を、預けるぞ。相棒(ジャック)!"
……闇を払い、踏破し、未来へ進む――若者達の、強き光(いし)を。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
フェルト・フィルファーデン
②
【常時発動 UC:Knights of Filfaden、激痛呪詛毒狂気耐性】
……誰の応えも無くっても、それでもわたしのやるべき事。アナタが諸悪の根源だと言うのなら、森を、同胞を滅ぼすと言うのなら、絶対に、許しはしない。
騎士達よ、力を貸して。まずは巨大化した敵の顎を砕いて口から体内へ侵入するわ。この小さな体なら十分通れるはず。
中に入ったら片っ端からズタズタに壊してあげる。(二回行動+早業)
ここなら誰も傷つけることはない、寿命なんて幾らでも賭ける。
ふふっ……結局わたしはこんな戦い方しか知らない、出来ないのよ!それでもわたしは姫として、諦めず希望を信じ世界を救うわ!
――諦められたら、楽なのにね。
鷲生・嵯泉
②
お前がどんな御託を並べ様が知った事か
此方の遣るべき事は1つだ
足場が悪くなるならば、其の図体を足場にしてくれる
崩れる岩や溶岩の蒸気等を目晦ましと利用し
踏むべき足場は勘で選んで進み、悪魔との距離を詰める
攻撃は見切りで躱し、細かい傷は激痛耐性で無視
其の図体では細かな動きには対処し辛かろうと、フェイント交えて身体を駆け上がる
削る命を惜しいと思う位なら、最初から戦場になど立ちはせん
怪力に鎧砕き、鎧無視攻撃をも乗せ、
内に隠したオベリスクごと叩き斬る勢いで斬撃を叩き付ける
成すべきを為す為に私は在る
お前が世界を侵すならば、其れを阻止する為に在る
如何な事が有ろうとも其れが私の在り様、決して揺るぎはしない
●亡国
猛々しく、雄々しく、勇ましく、しかし虚ろな騎士達を見た。
それを従える少女を見た。此処にありて遠くを見つめる瞳を見た。
(――似ているな)
鉄火場の只中にありて、鷲生・嵯泉が抱いたのはセンチメントめいたもの。
そんな彼の視線を厭いも喜びもせず、プラチナブロンドの妖精は翔んでいく。
がらんどうの騎士達。付き従うのは……あれは、人形か。
(……私は、何を"似ている"と思ったのだ?)
嵯泉は己の思考を訝しんだ。あの妖精の少女と自分の何が似ていると?
わからない。だがあの瞳を見た瞬間、たしかに己はそう思ったのだ。
つい一瞬前までと同じ状況であれば、彼は死んでいただろう。
なにせ地表は無数の悪魔に覆われ、軍勢は斬れど伏せど尽きることなし。
孤軍奮闘する彼を――彼女にそんなつもりはなかったのだが――救ったのは、
あの騎士めいた十体の人形達なのだから。周囲にもはや悪魔はない。
「……まあいい」
嵯泉は視線を向けた。奇しくもそれは少女が駆け抜けていったのと同じ方向。
「魔神よ。お前がどんな御託を並べようが、何を目論もうが、知ったことか」
ひとりごちて、嵯泉は外套を翻し戦場をまっすぐに疾駆した。
魔神――アークデーモンを討つため。結果として彼は妖精の少女を追うこととなる。
迎え撃つかのように、無数の燃える妖星が降り注いだ。
……その少女、つまりフェルト・フィルファーデンは、何も見ていなかった。
なぜなら彼女を包むユーベルコードの領域は、かつての王国の再現。
"フィルファーデンの騎士達"。亡国の王女を護り応える騎士への信頼と忠義。
もはや取り戻せぬ国を取り戻せるはずだと謳う、王女を護る/偽るヴェール。
それに包まれたいま、フェルトは敵以外の何も見ていないし見ることはない。
「騎士達よ、力を貸して! わたし達のやるべきことを為すために!」
――おお、マイロード! 貴きお方! 我らの命と剣は御身のために!
かつての騎士団を模した人形達が、そんな答えを返すことはありえない。
だがフェルトはそれを視る。偽りのヴェールがそれを見せる。そして微笑む。
同胞を――森の末裔達を脅かし、以て森を滅ぼすあの魔神を討たねばならぬ。
世界を救わねばならぬ(何のために?)
オブリビオンを倒さねばならぬ(何も取り戻せないのに?)
それが喪われた国と民を取り戻すことに繋がる(ありえないのに?)
いつかの希望に辿り着くために!(それはニセモノなのに)
狂気は王女の心を守る。立ちふさがる悪魔の尽くを騎士達が切り払う。
だが見よ。大地は割れ砕け、そこから魔神の一部たる"根"がはびこる。
妖精の身にはあまりにも大きすぎる壁にして触手。騎士達では――足りない。
「わたしの前に立ち塞がるモノには容赦はしない」
ゆえにフェルトは躊躇なく、己のアーマーリングに命を捧げた。
彼女と騎士(にんぎょう)達を繋ぐ糸に、指輪に、ほのかな輝き。
途端に騎士/人形達はその輝きを内側から放ち、風より疾く大地を駆ける。
「フィルファーデンの名のもとに、命ずるわ」
"我が敵に死という名の粛正を。"
――おお、マイロード! 美しき姫! 我らの命と剣は御身の意のままに!
敵を殺せ。鏖殺せよ。ひとりは九つの騎士の如くに奮起し尽力し鏖殺せよ。
鏖(ジェノサイド)だ。悪魔も、"根"も、妖星も何もかも殺せ!!
どくん。
「……っ」
フェルトは血を吐いた。命を薪として燃える指輪の輝きが揺らぐ。
鏖殺である。騎士達の剣には、無辜の猟兵(なかま)の血を捧げねばならぬ。
さもなくば代価は王女のいのちによって贖われる。血を支払うべし。
(厭よ)
世界の規矩(ルール)に血反吐を吐き捨て、フェルトは騎士達を伴った。
世界を救う/嘘に縋るのだ。敵を倒す/絶望から逃避することが目的なれば。
味方を攻撃するなど愚の骨頂。ただ敵を鏖殺し切り拓け。王命は騎士を輝かす!
少女――フェルトと騎士人形達が切り開いた空白をひた走り、嵯泉は想う。
思考と同時に体は動く。骨の一片、細胞の一つに染み付いた戦士としての業。
のたうつ根を両断し、これを足場に悪魔を斬り伏せながら根を駆ける。
これが魔神から生えたものならば、その根本がつまりヤツの本体だ。
(囚われるな。縛られるな。足りぬならば命を燃やせ)
人ならぬ難行を為すためには、武芸際涯の先へ至るには代償が必要だ。
終葬烈実の覚悟を以て解き放たれた心と体は、今や稲妻めいた疾さを伴う。
命を削ることを惜しいとは思わない。彼は生粋の戦士であり指揮官である。
……そしてもはや、命を賭けて護るべき国も喪った。滅ぼされた。
(為すべきを為すために私は在る。生きている。死に損なったのだ)
ゆえに命を燃やす。立ち塞がるモノを叩き斬り、のたうつ根を走る。
魔神よ、後悔せよ。お前の見せた闇は軍神の意地を燃やしたに過ぎぬ。
……昂ぶる戦意に反比例して、脳裏は冷え切って同じ考えを反芻する。
己のはるか前を往く少女。魔神に挑みその下顎を引き裂き砕いた騎士のあるじ。
何だ。己は、あの少女のかんばせに何を見た? 己の何と写したのだ?
わからぬ。それは戦場には無用の思考だ。だがなぜか心は求めようとする。
ならば敵を斬れ。思索に至る間隙を求めるならばただ敵を斬り滅ぼせ。
国を喪った男は脈動する魔の肉体を駆ける。目指す先は彼奴の胸郭――。
一方、アークデーモンの口蓋内部!
激烈な連続攻撃により見事下顎を砕いたフェルトは、騎士と共に突撃した。
どこへ? 口蓋の中へ。以てその奥、すなわち敵の体内に!
「なんてこと――」
魔の体内に於いて、フェルトは瞠目しわずかに困惑した。
毒々しい青紫の内臓や胃壁には、おびただしい"根"が蔓延っている。
これは生命なのか? あるいは巨大な樹の虚の内側なのか?
わからぬ。わからぬが不気味だ。そして放っておいていいものではない。
「……騎士達よ! 鏖になさい! 見える全てを切り裂き滅ぼしなさい!」
――おお、マイロード! 猛々しきあるじ! 我らの剣は意のままに!
騎士達は唯々諾々と従う/当然だ。なぜなら彼らはただの人形。
不気味な体を、根を裂く/傀儡が恐れることなどありはしない。
「…………」
ふとフェルトは我に返った。在りし日の王国の豊かな国土と、
この不気味で奇怪な魔の体内外壁がオーバーラップし混ざり合う。
「わたしは姫なのよ。奪われたものを取り返さねばならない。救わねばならない。
だからわたしは戦う。そのためなら命でもなんでもあげるわ、どうせ――」
……どうせ、応えてくれる人もいない。求めてくれる人もいない。
闇の中で泣きじゃくって、寂しさに押しつぶされそうになっても。
絶望に震えても。結局、誰も国を喪った王女を救ってはくれない。
(――諦められたら、いっそ楽かもしれないのに)
それは狂気(まちがい)だ。覆わねばならぬ。護ら/偽らねばならぬ。
再び王国の幻影が王女を包む。騎士/人形達はひたすらに魔を切り裂き――。
『お、オォオオオオァアアアアアアアッッ!?』
雄叫び。それはフェルトを体内に取り込んだアークデーモンの叫びだ。
体内を引き裂かれる痛みに悶え苦しんだか? それは無論、ある。
だがそれだけではない。フェルトは、魔の体に差す光を見てそれを理解した。
……では、その時体外で何が起きたのか?
『おぶ、ぶぶぶ……おの、れ! 矮小なるモノめ!!』
砕かれた顎を高速再生したアークデーモンは体をかきむしった。
体内で暴れ回る虫=フェルトと騎士達の痛み。内側から来る滅びを疎んで。
だがやりようはある。この巨大さならば、体内に悪魔を召喚すればよい。
そしてこのまま消化し貪り食らってやろう。愚か者には似合いの末路だ。
「油断が過ぎるぞ、木偶の坊」
それを鋭く叱責したのは嵯泉。峻厳なる瞳がぎらりと魔神を射すくめた。
……近い。意識がフェルトの方にそれた隙を狙い、彼はここまで来た。
いくつもの根を断ち切り、悪魔を叩き伏せ、降り注ぐ妖星をかいくぐって。
『貴様――』
「お前の主義主張、のたまいはどうでもいい」
一蹴。振り上げ降ろされた名刀・秋水の刃は言葉のそれより鋭利であった。
己の腕すら破壊しかねぬ規格外の怪力を込めた、鋼の壁すら断つ絶無の一刀。
見事なり。雲耀の太刀は、以て彼奴の胸郭に亀裂じみた傷を遺す!
『お、オォオオオオァアアアアアアアッッ!?』
咆哮。切り裂かれたのはその肉体と、脈動するオベリスクも同じ。
そして亀裂のはざまから、きょとんとした顔の妖精が彼を見返していた。
「……あなたの名を、あいにく私は知らないが」
気品ある身分と見える。剣豪は慣れた礼節を以て王女に言った。
「そのような昏い場所が、あなたのような少女に見合う場所とは思えない。
――早くそこを出るといい。こんな悪魔と共倒れなど笑い話にもならないだろう」
妖精の少女は何かを言いかけ――俯き、頭を振って、微笑んだ。
「ええ、そうね! 出口を作ってありがとう、優しいお方!」
――ああ、そうか。その笑顔を見た時、かつて国を喪った男は理解した。
彼女(フェルト)のかんばせは、なにか大事なものを亡くしたひとのものなのだ。
さもありなん。もはや彼らに、帰るべき国はないのである。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
霑国・永一
②
いやぁ、元気な悪魔だなぁ。でもさっき光と闇って言っただろう?例外的に俺と戦う時だけは光は無いよ。闇しかないどす黒い中で、ごくごく普通の悪逆無道を成すまでさぁ
狂気の分身を発動。悪魔の軍勢に対し、目分量で軍勢の2倍位の人数の自爆分身を召喚し、ダガーで斬りかからせたり、銃で撃ったりして迎撃を行う。やられそうな分身は随時軍勢を巻き込んで自爆させていく
数の形勢が逆転されそうなら続々と召喚しておく。ある程度拮抗して殺し合う方が面白いからね。
本体の自分は大量の分身に紛れながら遠巻きから銃撃をする
巨大悪魔に対しては大量の分身を一斉に自爆特攻させ続けて愉しむ
『ハハハハッ!』『俺様達と』『一緒に』『『死ね!』』
千桜・エリシャ
②
嗚呼、私…
今、無性に腹が立っておりますの
いつもだったらあなたみたいな強敵
心躍って仕方ないのですけれども
真の姿開放――髪も角も桜色に染まった鬼神へ
申し訳ありませんが
私の八つ当たりに付き合ってくださいまし
予備動作なしで攻撃できるだなんて
その技術、ご教授いただきたいほどですわね
けれど当たらなければ意味がありませんわ
動きを予測されないよう撹乱するように走って
見切りで回避、またはオーラ防御
余裕があれば傘で弾いてカウンター攻撃
それでも無傷ではいられないでしょう…けれども
私はこれに賭けます
彼岸花腕――隙を見て黒手で拘束
生命力吸収で弱らせながら
黒手を足場にして巨体を駆け上がって
――その御首をいただきましょう
●彼岸
……千桜・エリシャは、憤っていた。苛立っていた。憎悪していた。
今の彼女の姿は、常ならぬもの――すなわち猟兵としての真の姿にある。
その髪も、羅刹としての角も、すべてが桜色に染まった鬼神への変異。
予備動作なき先読み不可能の破壊魔法を、巧みな視線誘導で惹きつけ、
己を絡め取ろうとする不遜な呪縛を、胡蝶(たましい)の帳で乗り切った。
花時雨を広げて降り注ぐ妖星を跳ね除けて、肉を骨を容赦なく抉り。
死霊の手をさながら彼岸花のように蔓延らせて足場として踏みつけて、
腕を蹴り、肩を上り、憎らしい敵の頸(くび)のたもとまでやってきた。
高揚すべき一瞬である。喜びを以て振るうべき剣である。
それがエリシャという女だ。強敵の首を求める狂った羅刹の在り方だ。
……桜色の鬼神は、憤っていた。苛立っていた、憎悪していた。
「――その御首を――」
刃を振り上げた刹那、ここへ至るまでの僅かな邂逅の記憶が再来する。
……地表。無限に召喚され続ける悪魔の軍勢に蹂躙された、地獄の顕現。
立ち塞がる魑魅魍魎を文字通りのなます斬りにしながら、エリシャは駆けていた。
そんな彼女をしてすら、目に見える全てを一切鏖殺というわけにはいかない。
はず、であった。いや事実として、エリシャはそれらを斬ることは出来なんだ。
禍々しい悪魔の軍勢を押し流したのは、聞き慣れた、聞き慣れぬ笑い声。
いくつもの声。その音はたしかに聞いたことがある。耳に覚えがある。
だが何か違う。ましてやもっとも異常なのはその"数"である。
『『『ハハハハッ!』』』
同じ声が、マイクのハウリングめいて音叉し混ざり合っていた。
『『『死ね! 死ね!! 死ね!!! この化物どもが!!』』』
楽しげに狂ったように笑って、殺して、死んでいた。
『俺様が殺してやる』
『俺様も殺してやる』
『俺様に殺されろよ』
同じ声で、同じ自称で、同じことを、違う言葉で口々に叫んで笑っていた。
同じ顔。それらはダガーを振るい、あるいは投げ、銃のトリガを引く。
そして死にそうになるか飽きてくると、一切の躊躇なく爆薬のスイッチを押した。
KBAM!! あそこでまたひとり死んだ。
KA-BOOOM!! あっちでまたひとり。
KRA-TOOOOM!! そこでももうひとり。
同じ顔の同じ人間が、同じように笑って、同じように殺し、同じように死ぬ。
悪魔よりもおぞましい光景。押し流した波濤のあるじは影に潜んでいた。
「――相変わらず、気味の悪いことをしますのね。永一さん?」
桜色の羅刹が流し目混じりに向けた言葉に、同じ顔の……否、違う男が、
つまりこの分身体の"本体"である霑国・永一が、平気な顔で振り返った。
「あれぇ? いや敵わないなぁ。女将さんにはバレちゃうかぁ」
「当然ですわ。だって、誰も彼もあなたとはまったく違いますもの」
つまりこの分身は、すべて永一の体に宿るもう一つの人格の複製模倣体。
声音は同じなれど、その野卑で傲岸不遜な物言いと破滅的な笑いは見紛うはずもなし。
ましてやエリシャは達人だ。相手が生粋の盗人だろうと――いや、だからこそ。
身を隠そうとする気配は察知できる。それもか細いものであったが。
「で、なんで俺に声かけたの? 女将さんの狙いは"あっち"だろ?」
BLAM!! コンロのスイッチでも切るかのような気安さでトリガを引く。
その先でまたひとり模倣体が死んだ。永一が意識を向けることはない。
「俺はあいにく、ここでもう少し楽しみたいんだけどねぇ」
「……羨ましいですわ。こんなことが楽しいだなんて」
じっとりとした目で呆れを隠しもせずにエリシャは云う。永一は笑う。
「楽しいさ。だって殺したって誰も怒りゃしない、むしろ喜ばれるんだぜ?」
BLAM!! KBAM!! 銃声と自爆の響きはほとんど同時だ。
「しかもこの数、どれだけ喚んだってそうそう終わらない。こりゃ愉快だよ。
――ああ、女将さんの機嫌はよくないみたいだねぇ。皮肉のつもりじゃないよ」
「わかっていますわ」
つっけんどんに言いながらも、エリシャはこの機に乗じて先を急ごうとし、
「しかし意外だなぁ」
その背中に、永一の声がかけられた。
「てっきり、女将さんは"そういう"のじゃないと思ってたんだけどねぇ」
「――……何か?」
冷たい目線に肩をすくめつつ、永一は続けた。
「いやほら、何人かあの迷宮でへばっちゃってる子たちもいただろ?
その機嫌の悪さって"それ"のせいじゃないのか、ってねぇ」
「…………」
「女将さんは、そんなヤワじゃないと思ってたんだけど――って、そういう話」
ははは、と笑う青年からは、侮蔑や嘲笑の気配は一切感じられない。
呆れ? 否。失望? それも否。そういう人間らしい感情は彼に期待できない。
なぜなら彼は狂気を普遍として馴染んだ歪みの結晶体であり、
ただ闇(あたりまえ)に困惑する連中が不思議で仕方ないからだ。
「…………八つ当たりがしたくて、仕方ありませんの。付き合ってくださる?」
「俺が? まさか! 首を飛ばされたら死んじゃうからねぇ」
ぴくりとエリシャの片眉が動く。永一の双眸はレンズが輝いて見通せない。
「女将さんは好きなんだろ? 俺が盗みをするのと同じだ」
「…………」
「ただねぇ」
かちゃり。眼鏡を掛け直し、ノールック射撃で悪魔を殺しながら、シーフは云う。
「そうやって怒った顔してると、失敗するもんだよ? 気楽にしなよ、はは」
「――失敗? 私が?」
「いやいや! 決めつけたわけじゃないさ」
じわりと漏れた殺意に手を振りつつ、もう一度射撃しながら永一は続けた。
「経験則だよ。何事もうまくいかない日ってのはあるもんさ。
道端歩いてて犬の糞踏むみたいに、出来ることが出来ないはずの日もね」
「…………ありえませんわね」
エリシャはただそう言って、もはや振り返ることなく駆け抜けた。
あちこちから地獄じみた爆発音が響く。永一は戦場を俯瞰し小首をかしげた。
「ま、いいか。もう少し地獄(ここ)で楽しむとしよう」
闇すら弄ぶ狂気がここにある。男はどこまでも己に正直だ。
……時間軸が戻る。
エリシャは、憤っていた。苛立っていた。憎悪していた。
あんな欲望(はらわた)を引き出してきた、無礼な邪霊の行いに。
それを見せられて当惑した、己の醜さと勝手さに。
首魁である魔神に。わかったようなことをのたまった永一に。そして――。
(……そして?)
幾万回繰り返した刃筋をなぞりながら、ふと、エリシャは想った。
そして、なんだ。自分はいまだに何に憤っている。
魔神が何かを喚く。遅い。此処に己を到達させた時点でやつの負けだ。
そして首を頂こう。御首を落とし、コレクションして、愛でて楽しもう。
その後は頬を██おう。脂肪の一つも逃さないように骨を███って、███って、
そのあとは目玉を██████。たっぷり楽しんだら、次は█████さんの首を███って。
(違う)
それは、違う。それは隠すと決めた。表に出してはならじと決めた。
このはらわたは闇に閉ざさねばならぬ。そんなことはあってはならないのだ。
――なぜ? どうして欲望をわざわざ隠して我慢せねばならない?
なぜ。なぜ。なぜ。なぜ。なぜ。なぜ。なぜ。なぜ。なぜ。なぜ――。
「――……え」
エリシャは刃を振り抜いた。血が飛沫き、肉の裂ける手応えがよく響いた。
だが骨を断つ感触がない。当然だ、その刃は"首をわずかに避けた"のだから。
――そうやって怒った顔してると、失敗するもんだよ? 気楽にしなよ、はは。
狂気(おのれ)に正直な男の言葉が、脳裏にエコーした。
『がぁああああっ!! おのれ、おのれェ……!!』
血を吹き出しながら苦悶し、憎悪する魔神の声ががんがんと脳裏に響く。
「……ああ、ああ、ああ! 誰も彼も、何もかも――!!」
エリシャは刃を振るう。斬る。首は斬れない。
刃を振るう。断つ。首は断てない。
苛立つ。誰に? 己に。 欲望など受け入れろ。違う、これは隠すのだ。
認めたならばなぜ隠す。黙れ。憎悪する。敵にそれをぶつけろ。
欲しいのだろう。では██らえ。斬ったものをどうしようが、黙れ。黙れ。
「……っっ!!」
エリシャは何度も刃を振った。死霊どもの手は招くように揺らめいていた。
何度刃を振ろうと、魔神の首を断つことだけは出来なかった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ルーナ・ユーディコット
あの怨霊を生み出したにしては……やる事が力任せで分かりやすい
凄く、悪魔っぽい
私は私の全霊を振るう
夜闇を切り裂く星の様に、或いは地を駆ける獣のように……疾く、鋭く
この身を蝕みつつ、力を与えた獣の病
故郷から逃げ延び意識を失った後に顕れたこの症状……
戦争での無様を無駄死にを再び晒さないくらい、強くなるためには
憎悪の次に、私はこれと向き合わなければいけないのだろう
ユーベルコードでの高速移動と地下空洞の壁や天井を利用して隕石を掻い潜りつつ
偃月刀以外の武器ですれ違いざまの攻撃などの牽制を行う
地下空間なら天井を利用して勢いをつける事も出来るはず
奴の直上から全力で突撃し、偃月刀での捨身の一撃を狙うよ
●疾走
正直に言えば、なぜその瞬間にすべてをかなぐり捨てたのかはわからない。
見知った相手が危機に陥っているのは間違いない。それを見過ごすことはない。 だからといって、わざわざ悪魔の軍勢の只中を突っ切るような必要はなかった。
ましてや隕石がアトランダムに降り注ぐとあっては無傷で駆け抜けられもせず、
自分から災禍に突っ込んだ……と表現しても相違ないだろう。
ただ、彼女――ルーナ・ユーディコットは、それを見たとき全力で疾走した。
アークデーモンの首の横。いくつもの斬撃を放ちながら首を断てぬ女。
断てるはずの女。天狗が残した宿の主、見知った相手の見知らぬ桜の姿。
鬼神めいた姿に変生した、しかれど断てるはずのものを断てないはずの様。
そうしたいと感じた。ゆえに全霊を以て、夜闇を切り裂く星のように駆ける。
地を駆ける獣のように、走る。疾く。鋭く。雄々しく。まっしぐらに。
「邪魔ッ!!」
死にぞこないの悪魔を一撃で四体引き裂きながら、雄叫びを上げた。
屍を踏みしめて跳ぶ。心臓が脈動し、病んだ血が全身に賦活するのを感じる。
思い出す。滅びる村から逃げ延びたあと、気づけば己を蝕んでいたこの病。
獣の相。獣の膂力。満月の魔性。狂気。命が喪われていく感覚と恐怖。
人狼病。いずれ己はこの病に倒れて死ぬのだろう。
あるいはそれよりも先に、戦場で斃れて死ぬのだろう。
だがどちらも御免だ。そんなことでは生き長らえた命が無駄になる。
「邪魔――!!」
飛来する隕石を粉砕抹殺し、破砕した破片を飛び渡り上方を目指す。
上へ。上へ。星を駆け抜けるさまは月を追う神話の狼のよう。
……狼。病で朽ち果てることも、志半ばで倒れることもどちらも御免だ。
であればこの病に、力に、与えられたものに向き合わねばならぬ。
ごう――!! 斬られた裂傷から噴き出す神々しき青の炎。
死ぬのは怖い。死にたいのかと言われればそんなのは否だ。死にたくはない。
だから逃げた。だから燃える故郷から、助けを求める人々に背を向けた。
そして生き延びた。だから死にたくない。"だから死を覚悟せねばならない"。
獣の前肢(ゆびさき)が、地底空間の天井に突く。鉤爪で体を固定する。
即座に天地逆転、駆ける。予備動作なしの破壊魔法を後に引く。
(私は、為すべきことを――為したいと想うことを、この力で成し遂げる)
闇の中で垣間見えた"はらわた"を、消せぬ過去を無駄にせぬためには。
喪われた命を背負い、この憎悪を燃やしてなおも未来を護るには。
ただあるがまま、己のままに戦い、走るエゴを受け入れねばならない。
「私は――」
怖い。燃え尽きるのは怖い。死ぬのは怖い。敵に挑むのは怖い。
「恐れない」
怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。
「私は! 死ぬことも、戦うことも! 燃え尽きることもッ!!」
怖い――だからこそ。高らかに吠えるのだ。気高き狼のように。
「私は決して――恐れたり、しないッ!!」
天(ち)を蹴った。その姿は青く輝く流星へと変わる。
狼の目と、桃色の鬼神の双眸がつかの間交錯する――言葉はない。
(守りたいものを護るために。倒したい敵を倒すために……!)
この憎悪と過去を、けして忘れさせないために。
覚悟と決意を以て振るわれた刃は、魔神の巨体を袈裟懸けに切り裂いた!
大成功
🔵🔵🔵
鳴宮・匡
②
◆ヴィクティムと
何度起き上がったところで問題ないさ
何度でも殺す、それだけだ
一発きりとはまたシビアな注文だな
ま、いいさ
そっちも下手打つなよ?
真の姿を解放
ヴィクティムの仕込みが終わるまで悪魔どもに対処
アサルトライフルで一体ずつ相手をするよ
デカブツの攻撃にも気を払っておく
破壊……はともかく呪縛のほうは食らいたくないな
多少の被弾は覚悟するが、厄介な制限を受けないよう見極めて動く
はいはい、叫ばなくても聞こえてるし
ちゃんと視えてるって
心配すんな――俺がオーダーを違えたことがあったかよ
拳銃へ持ち替え、渡された銃弾を装填
ヴィクティムからの情報と
自身の読み取った情報を併せて狙いを定め
【終の魔弾】で撃ち抜く
ヴィクティム・ウィンターミュート
②【鳴宮・匡と】
──あァ?まだ起きるかよ
面倒だな…匡、コンディションは?
コピー
プランはまだある
奴の図体はデカすぎる
ダメージもさっきより通りにくいだろう
だから、急所に強烈な一発をかます
安心しろよ
俺の「鍛冶師」が変身前の戦いで、データを集めた
もちろん、急所もな…ほら、一発限りの弾丸だ
外すなよ?
俺がチャンスを作る
斜めに伸ばした拳の一撃を見計らい、腕を伝って【ダッシュ】で駆け上がる
【挑発】でヘイトを稼いで、【フェイント】を交えて捕まらないように
俺が体にいちゃ、おいそれと魔法も撃てねえだろ?
顔の前まで来れたら
「鍛冶師」が作ったのは銃弾だけじゃない
破魔の光入りのフラッシュバン──受け取れ
匡ォー!Fire!
リア・ファル
②
POW
アドリブ・共闘歓迎
真の姿解放
ボクは此処に居る。ならばまた、明日を目指そう
その為にまずは…アークデーモン、キミを骸の海へと還そう
壁面など突き破って機動戦艦ティル・ナ・ノーグ接舷
「足場に困ってたらブリッジに乗って!」
他の猟兵をフォローしつつ、攻撃
「射線上の味方は下がって!」
「光子魚雷、1番2番、てーっ! 続けて主砲、グラビティバスターカノン斉射!」
攻撃は逆転への時間稼ぎ。少しでも怯ませたら、一気呵成に攻めよう
「演算完了、対象を戒める!」
UC【封絶の三重錨】で対象を捕縛!
同時に解析した弱点や、攻撃プランを味方に提示
「今だ! 一気にトドメを!」
(技能:情報収集、援護射撃、戦闘知識、時間稼ぎ)
ヌル・リリファ
◆アドリブ、連携など歓迎です
生贄になるわけにはいかないね。
マスターがゆるさないかぎりわたしもわたしにしぬことはゆるせない。それが人形だもの。
だから、そうならないよう殺す。
シールド展開。あらかじめそうして、攻撃を【盾受け】でうけれるようにする。はやくても被害をおさえられるとおもう。
まにあえばだれかを【かばう】よ
【カウンター】
ひかりの武器を【属性攻撃】で強化、けずる。
これでおわればそれでいいけれど
とどかないなら武器のかがやきをおとりにして肉薄、【捨て身の一撃】として【怪力】でルーンソードできりにいく。
……それでも、いのちは大事にするつもり。シールドも【見切り】もつかってダメージはなくせるだけなくす
●魔弾
「いいか、匡? プランはこうだ」
「お前の弾丸であいつの急所を撃ち抜く、だろ」
「それだけじゃないぜチューマ。一発限りの弾丸なんだ、確実さが必要だ」
「だから、そのチャンスをお前が作るんだろ」
「簡単に言うなよ! ……いや、俺のプランなんだ、完璧ではあるが?」
「なんでそこで微妙に自慢ぶるんだよ」
「とにかくだ。いいか、匡、俺とお前の連携が重要なんだ」
「いまさら言うまでもないだろ」
「そういう油断がビズを失敗させんだよ。だからつまり――」
「ああ、つまり?」
「……どうしたもんかなこりゃ」
「俺に訊くなよ」
ヴィクティム・ウィンターミュートは頭を掻いた。彼らしくない仕草。
鳴宮・匡は滑らかな動作でマガジンを切り替え、再びトリガを引く。
BRATATATATAT。バースト射撃が襲いかかる悪魔をなぎ払い、退かせる。
ただし、そこに二人が突き進むべき道はない。近づくための径(パス)がない。
「…………どうしたもんかなぁこりゃ!」
「だから、俺に訊くなって」
周囲は悪魔の軍勢。無限に生まれ続ける物量は現状の装備では突破不可能。
魔神は大きく負傷しているが、そこに届かせるための手が足りない。
つまりは手詰まり。傭兵とハッカーは地底空間で死に瀕していた。
……アークデーモンが再生を果たしてから、ふたりはひたすら後方支援に回っていた。
時間軸は、まさに彼らが後方で援護射撃に専念する"その時"まで遡る。
「まだ起きる上に死なねぇ。面倒だな……」
「何度起き上がったところで問題ないさ。何度でも殺す。それだけだ」
いつもどおりの匡の物言いを、ヴィクティムはちらりと見やる。
「匡、コンディションは?」
「特に不調はないぜ」
「……」
ハッカーはもう一度戦友を見やる。外傷なし。装備の遺失、なし。
ではメンタル面はどうだ。……匡に限って、それを慮る必要はない。
なぜなら彼は"凪の海"とあだ名される傭兵であり……いや、"あった"。
多くの出来事があり、匡は変わった。カウボーイにもそれぐらいはわかる。
そんな彼の変化は、ともすればあの闇に悪影響を受けかねないのでは。
いつかの宇宙船では平気の平左だったが、此度はどうだ。見極められるか。
「もう一度言うけど、特に問題はないぜ」
「……おう」
匡もヴィクティムの怪訝を察したのだろう、念押しするように言った。
その程度で狙いを鈍らせる男でないことは知っている。信頼もある。
ただ何かあったらという懸念、いやむしろこれははっきり言うと――。
「で? プランはあるのかよ」
「あ?」
「いや、お前まさかノープランってことはないよな」
「んなわけねえだろ。俺を誰だと思ってやがる?」
いつもどおりシニカルに笑いながら、ヴィクティムは内心で苦笑した。
……なるほど。どうやら自分は、この男を"心配していた"らしい。
らしくないのはどっちなんだか。そんな必要などないというのに。
(――端役が主役を心配してどうするってんだ)
ヴィクティムはその呟きを凍りつかせた。思考をドライに切り替える。
さて、とにかくその時、ヴィクティムはこんなプランを示した。
"名無しの鍛冶師(ネームレス・ブラックスミス)"。
敵の弱点を解析し、英雄=主役に相応しい武器=切り札を鍛造する自動工房。
ヴィクティム自身ではなく、仲間が使うことで最大の効果を発揮するという特性。
いかにも端役を任じる少年らしいユーベルコードと言えよう。
「デカくなる前の戦いのデータで、弱点も急所も解析は終わった」
「で、これがその弾丸ね。……一発しかないけど?」
「そうだぜ。一発限りだ。外すなよ?」
シビアな注文だ。尋常のスナイパーなら眉根を顰めただろう。
しかしそこはさすがの匡。『ま、いいさ』という呟きで終わらせた。
「そっちも下手打つなよ」
「当たり前だろ。俺は"Arsene"だぜ?」
ヴィクティムがアークデーモンの注意を引き、隙を作る。
匡はそこで弾丸を叩き込む。これで暗殺成功(フラットライン)というわけだ。
……わけ、だった。だったのだ。
しかしアークデーモンのデータは、ヤツ自身が大樹めいて根を張り、
大地から精髄を引き出したことで等比級数的に増大していた。
最大の誤算はこの悪魔の軍勢。事実上無限、精髄を贄に現れる化物ども。
アサルトライフrで撃とうが、ガジェットで薙ぎ払おうが、
ナイフで裂こうがステルス迷彩で切り抜けようが終わらない。尽きない。
「Damn it! バズ・オフだ、バズ・オフ! 消えちまえ悪魔ども!」
スラングの頻度が増している。ヴィクティムの苛立ちは相当のものか。
この場にエクソシストでもいれば、十字架も聖水もひったくりそうな勢いだ。
手はある。実行出来さえすれば確実に奴を葬れる――そのためには、
この悪魔の軍勢を越えねばならぬ。矛盾である。つまり、手詰まりだ。
「なあヴィク――」
「待て! 待てチューマ。バグ・アウトにゃまだ早い」
匡は短く嘆息した。カウボーイにもプライドというものがあるのだろう。
誤算を認めて計画はご破談、おめおめ尻尾を巻いて退きましたなど冗談ではない。
いっそ己が捨て身で注意を引くか? 端役の命を捨てるには……いや。
(まだだ、こんなのクライマックスですらねえ。もっと最適な舞台がある)
筋書きは変えられない。己が消えるには早すぎる。まだ彼らと楽しく――違う。
主役達を最高に輝かせる、もっと派手でスリリングな戦いがあるはずだ。
そこだ。華々しさは求めない、だが自分がいなくなって誰が筋書きをする。
「……ヴィクティム」
「黙ってろよ匡、まだプランはある。だからつまり――」
「ヴィクティム」
BRATATATATAT。ノールックでトリガを引きながら匡は言った。少年は黙った。
「お前、ちょっと背負い込みすぎじゃないか?」
「…………」
ヴィクティムはどういう表情をしただろう。驚いたか、呆れたか。
匡がわずかに眉根を顰めるぐらいには、らしくない顔だったらしい。
「このぐらいどうにかなるさ。いつもそうだろ」
「お前……あのなぁ、んな都合のいいことが」
「起こるだろ。お前、いつもそうやって主役主役って言ってるし」
BRATATATATAT。不思議なもので、いつもとは立場が別だった。
ヴィクティムがシニカルに笑い、不敵な台詞を匡がいつも通りに受け流す。
此度は逆だ。闇がそうさせたか、それともボタンの掛け違いが。
「まあ、楽観的なのは確かだけどな。俺はもういい加減慣れた」
匡は言った。そこにあったのは呆れと、慣れと、あとは少しの――KRAAAAASH!!
「ワッザファック!? なんだよオイ!」
「ほらな」
轟音――そしてふたりは見た。壁から突き出す巨大な……戦艦の衝角を!!
『なんだ!?』
驚愕したのはアークデーモンも同じである!
突如として地底空間を突き破り現れた、巨大な鋼の戦艦! アレは一体!?
見よ。あれこそは機動戦艦ティル・ナ・ノーグ! 凍結された万能兵器!
一時現世に呼び戻された艦(ふね)を駆るのは、衝角の先端に立つ少女だ!
「やあやあ猟兵諸君、そしてオベリスクのガーディアン、ヨーソロー!
キミの生活にいつでも寄り添う、Dag's@Cauldronの特別バーゲンだよ!」
……リア・ファル! 茶目っ気たっぷりのエントリーである!
そんな彼女はにこりと微笑んだあと、一歩後ろに立つ人形少女を振り返った。
「ほら、ヌルさん! こういうときは目立っておいたほうがお得だよ!」
「……そういうもの? よくわからない」
「そういうものなんだよ! とにかく前に出て!」
ヌル・リリファは、ガラス玉めいた瞳でリアを見ながら首を傾げる。
なぜ彼女がここに? というか、リアの隣に並んでエントリーしたのか?
……実際、大した理由はない。ぶっちゃけてしまえばタイミングの問題だ。
ヌルが闇を踏破したまさにそのすこしあと、彼女はリアと遭遇した。
正しくは、戦艦の質量で迷宮をぶち破るリアと戦艦の甲板に……だが。
『よかったら乗ってく? 今回は特別サービスしておくよ!』
などという素っ頓狂な台詞を受け入れたのはなぜだろう。ヌルは思う。
移動が楽というのはまあさておいて。なんとなく、そうしたくなった。
同じ作り物の存在。主なきモノ。それを無意識に感じ取ったから?
シンパシーの一種? あるいはその在り様に何かを感じ取ったのだろうか?
……ヌルにもわからない以上、その答えを余人が知ることは出来ない。
ただ人形がここにいるのは、あの魔神を討ち滅ぼすためであるということ。
己が損なわれることは、マスターの許しなくしてはあってはならない。
では、それを起こそうとする敵は殺す。ただそれだけ。シンプルなプラン。
「よし、じゃあさっそく始めようか、ヌルさん!」
だのに、このバーチャルキャラクターに言われると妙に不思議だ。
当たり前であるはずなのに、彼女と自分でやることは同じはずなのに、
何か、どこか違うような……漠然とした違和感がぼんやりとある。
その正体を探る時間はないし、いまのヌルにそのつもりはない。
ただ――ここでこうして戦うことは、何か戦略的なもの以外の意味がある気がした。
「それにしてもすごい量だね! まさに機動戦艦の面目躍如だよ!
光子魚雷、1番2番、ハッチ開け! 照準よし――てーっ!!」
ゴコン、ゴコン――ミサイルハッチから放たれる巨大な質量!
KBAM! KRA-TOOOOOM!! 着弾地点に光子の崩壊熱ドームが生じ悪魔を呑む!
「続けて主砲! ……あ、ヌルさん。これやってみる?」
「え?」
「けっこうすっきりするよ! サービスサービス!」
「……??」
よくわからない。が、なんかお鉢が回ってきた。
「グラビティバスターカノン……えっと」
こそこそ(耳打ちするリア)
「……斉射。撃って」
VOWVOWOVOWOVOW! BEEEEEEEEEEAAAAAAAAAMMMMMM!!
重力子主砲がプラズマ放電ののち、青黒い粒子砲をど真ん中に撃ち出した!
ヌルはまた首を傾げた。すっきりするというが別に何もない。
「いやいやそうじゃなくてねヌルさん、こういうときはてーっ! て」
「あ、匡さんとヴィムさん」
「えっ!? あ、ほんとだ!?」
話題が右往左往する。足元の機動戦艦は大絶賛フルファイア中だ。
悪魔の軍勢を物理的に焼け野原にする砲声のなか、四人は互いを認識する。
「な」
「――は」
ヴィクティムは……堰を切ったように、笑いだした。
「ハッハッハッハッハ! ったく、これだから主役どもは手に負えねえ!」
「珍しいな。俺じゃなくてお前のほうがそっち側なんて」
「細かいこと言うなよチューマ! ああ、だが即興劇も立派な筋書きさ!」
事態はカオスに包まれた。そこにこそカウボーイの描く空白がある!
「始めるぜ匡! プランBってやつだ!!」
「ようは出たとこ勝負だろ」
「俺のさっきのチルな台詞で終わらせとけよ!!」
などと、てんてこまいのやりとりをしながら。
そして状況がゼロに――いや1と0が複雑に混じり合うカオスになったいま、
アークデーモンを滅ぼすための間隙が生まれる。こじ開けるのが彼らだ。
「攻撃、リアさんにまかせるね」
ヌルは軽やかに甲板から跳んだ。その周囲を光の盾が覆い、護る。
「ヌル、匡を届かせる! サポート頼むぜ!」
「わかった」
ヴィクティムが言うならば、そのプランに従うのが最善だ。彼はそういう男だ。
匡とヌルはアイコンタクト。こと此処に至って二人に言葉はいらぬ。
匡がアサルトライフルをバーストさせながら駆け出せば、
まずその背後に追撃する悪魔どもを光の武器が雨あられと串刺しにする。
そして前方にヌルが降り立つ。並走する青年と少女。
「サポート、するね」
「ああ、けど――」
「だいじょうぶ。いのちは大事にするから」
匡は……本当に薄く、かすかな笑みらしき形を口元に浮かべた。
言葉は要らない。降り注ぐ隕石群を、ヌルの全性能が迎え撃つ!
「あなたの攻撃はとどかないよ。マスターのくれた性能にならんでないから」
『小賢しい傀儡がァ!! 我を矮小とみなすかァ!?』
「おおきいとかちいさいとかはよくわからない。けど、あなたは殺す。
――わたしはマスターの人形で、猟兵で、そのためにここへきたから」
絶望を払う無数の輝きは、予備動作なしの破壊魔法や呪詛など意に介さない。
巨体を覆うほどに降り注ぐ武具の雨。追い打ちする戦艦の砲撃!
「リア!」
「――同期完了してるよ、ヴィクティムさん! 演算バックアップ回すね!」
「ハッ、今度たっぷりショッピングさせてもらうぜ、お前はウィズだよ!」
ただでさえ常軌を逸したハッカーの演算速度が数十倍にブーストされる。
見える。地表にはびこる悪魔一体一体の動きすら分析可能だ。
ヴィクティムはサイバーパーツをオーバーブースト、思考速度で戦場を駆ける。
巨体に絡みつくリアの鎖。まだ足りぬ。敵の魔法思考を誘導せねば!
『我を縛るか!?』
「縛るさ。ボクとボクらはここにいる。ならばまた明日を目指そう。
そのためにキミを骸の海に還す! ようはここが――」
「大盛り上がりのクライマックスってわけだよ、ウィルソン!!」
三眼がヴィクティムを捉えた。この時点でカウボーイのプランは成就。
……名無しの鍛冶師が鍛造した武器はひとつだけではない。
たしかにそれは、仲間=主役に託してこそ最大性能を発揮する。
だが端役とて働くものだ。この手前勝手で困った主役どもについてくには、
命の1つや5つ賭けてようやくである。ウェットワークも驚きのビズだぜ!
「――受け取れ。ウチの"特製品"だぜ」
KBAM――!! 眼前で爆ぜたのは破魔の光を織り込んだフラッシュバン!
人体であれば失明不可避の1000万カンデラ規模の、対悪魔用手榴弾!
『AAAARRRRRGGGGHHHH!?!?』
「匡ォー!!」
カウボーイは叫んだ。重力に囚われながら首を掻っ切るゼスチュア。
ティル・ナ・ノーグから放たれたアンカーが、カウボーイを救助する。
「匡さん、いまだよ!」
リアの声。並走するヌルが、巨大な隕石をルーンソードで断ち切る。
「だって。よろしくね、匡さん」
むず痒いものだ。たがか傭兵ひとりになにを叫んで託しているのやら。
「――けどま、悪い気はしないさ。"そうしたい"からな」
託されたものには応えよう。答えたいと思う。闇を退けたように。
であればそうする。抜き放った拳銃のチャンバーに、弾丸を装填する。
「終わりだ。涯てまで送ってやるよ」
BLAMN――匡は傭兵である。戦友のオーダーを違えたことなどない。
敵は見えている。味方も見えている。狙うべき場所も、銃弾の道筋も。
己らが歩むべき未来も。何もかも、今の彼には見えている!!
「――魔弾って、"こういうもの"らしいぜ」
吸い込まれるように、銀の弾丸はアークデーモンの心臓に撃ち込まれた。
因果が来る。魔神を滅ぼす、破滅の因果が、必然に載せられてやってくる――!!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
祇条・結月
②コーディリア(f00037)と
膂力も。優れた五感もない
家族になにもできなかったのも
……藤色の灯りに、返せるものがないのも
……多分、僕がなにかする必要ないことも
わかってる。
でも、あいつらには言われたくないな
店長さん、けっこう前向きだよね
きついし。痛いけど
大丈夫、ちゃんとやれるから
僕に鍵をかけて悪魔を降ろす
店長さんがフリーになるように悪魔の軍勢はこっちへ引きつけて、僕自身は攻撃を透過して躱す
邪神の加護だって外付けでしょ
自前じゃない権能も透過して「咎人の鍵」で切り裂いてく
店長さんの大技に続くように、生じた隙を狙って仕留める
……わかってる。僕は「普通」
それでも、今
お前を倒すことは、できるから
コーディリア・アレキサンダ
②結月(f02067)と一緒に、大きい方と
……大丈夫かい?
休んでいたってかまわないんだよ? ……大丈夫なら、いいけれど
全て完璧である必要も何かに優れている必要もないんだ
立ち止まることが悪じゃない
目を閉じ、耳を塞ぐことだって構わない
最後に一歩、前に踏み出す覚悟だけあれば、それでいい
結月は大丈夫だよ。彼はもう歩き出しているから
目には目を、巨体には巨体を。――魔神には、魔神を
剣の王、キミの出番だ。ボクの全力をくれてやる
ボクの友達を嗤うコイツを、真正面から叩き伏せろ
ボクは、ボクらは闇かもしれない。でも、そうじゃない
ボクらは夜空だ。無数の星の輝く、暗闇の道しるべ
だから、ボクらが先に折れるわけにはいかない
●不屈
……結論から言えば、少年の言う通り"何かをする必要はなかった"。
なぜなら少年がよく知る傭兵の魔弾は、アークデーモンの急所を捉え、
過去をさかのぼり破滅の因果を引き寄せることに成功したからである。
当然だ。彼は"凪の海"。けして揺らがぬ、獲物を逃さぬ蒼き瞳の射手。
己とは違う技量の持ち主であり、エキスパートであり、外すことはない。
それに力を貸した少女らとハッカーもまた同様。であればこれは必然だ。
……だから、少年が何かをする必要は、本人が思っていた通りに一切なかった。
それで退けるか。背中を向けてされるか。何もせずにいられるか。
――そんなわけがない。それをしたら、本当の意味で何もかも無駄になるのだから。
だからこれは、少年の意地と、それを許した魔女の小さな物語。
時としてそれが、誰も予想しなかった何かを超える"鍵"になる。
「…………大丈夫、かい?」
コーディリア・アレキサンダは、ほんの少しだけ心配そうに言った。
一方で気遣わしげに問われた側の少年――祇条・結月はふう、と短く嘆息。
コーディリアの言葉に、呆れたり気を悪くしたわけではない。
コンセントレーション、あるいは気分を切り替えるスイッチバックだ。
無理もなかろう。闇の中で与えられた精神攻撃はそれだけのものであり、
他の猟兵のように切り替えたり、怒りを燃やしているほうが特別なのだ。
「大丈夫。ちゃんとやれるよ」
「そうかい。キミがそう云うなら、いいけれど――」
それで済ませようとして、一瞬逡巡した後、コーディリアは続けた。
「……これはボクのお説教、というか独り言みたいなものだけど」
「うん?」
「ヒトは決して、すべて完璧である必要も、なにかに優れている必要もないんだ」
「…………」
結月は無言のまま、帽子のつばに隠れた魔女の顔を見つめる。
「立ち止まることは悪じゃない。目を閉じ、耳を塞いだって構わない――」
……それでも、最後に一歩だけ、前に踏み出す覚悟さえあればそれでいい。
「だから、結月。キミは大丈夫だよ」
ここにいて、これからなおも戦おうとしているならば、
それはもう"歩みだしている"ということなのだから。
「……店長さんってさ。けっこう、前向きだよね」
少年は、くすりと笑ってその言葉を受け入れて、冗談めかした。
一瞬ちらりと目元を覗かせた魔女も、応じるようにふふっと微笑む。
「うん。きついし痛いけど、やれるよ――やるさ。だから行こう」
災禍の中心。滅びの弾丸を穿たれた、もう終わったはずの戦いのもとへ。
ふたりは確信していた。たしかに戦いは終わった、だが"また始まるはずだ"と。
「目には目を、巨体には巨体を。魔神には魔神を、だ」
魔女は箴言めいて謳った。そして、少年は己に鍵をかけた。
――一方、アークデーモン。
彼奴はひとしきり苦悶し絶叫したあと、急にがくんと脱力した。
『オ――』
そして。
『オォオォオオオオオォオガアァガガガガガ!!』
叫んだ! とても理性が存在するとは思えぬ獣の如き絶叫!
終の魔弾の銃創を起点に、その巨体にヒビが走る。崩壊が始まったのだ、だが!
『おおぉおおおォオガ、グ、ガガガガ、グ、ギィイイ!!』
裂け目から血や赤黒いスパーク、あるいは魔力そのものが迸り、
それらから世界創世神話めいて、醜悪な魔の軍勢が生じてあふれかえる。
混沌だ。いわばオーバーロード、さもなくばメルトダウン。
身の程にそぐわぬエネルギーを溜め込んでいたアークデーモンは、
存在格にヒビが入ったことで自律を失い、暴走と自己崩壊を始めたのである!
「なんとまぁ、闇の先触れを傲った愚か者には当然の罰だね」
ふわり、と混迷の戦場に降り立ったコーディリアは、超然と言った。
視線は駆け出した結月の背中を一瞬追い、そして巨体へ引き戻される。
「……彼は彼なりにやることを見出した。であれば今度はボクらの番だ」
その体が淡く輝く。裡なる悪魔のうち、さらに強大なる九つの王へ意識を投射。
やがて意識の水面に浮かび上がったのは、古き大いなるものの気配。
「"剣の王"、復讐を赦すものよ。キミの出番だ」
悪魔は言葉なくして思念を返した。なんたる強大なるプレッシャーか。
拘束制御術式の手綱を強く握りつつ、コーディリアは毅然と云う。
「いいだろう。ボクの"全力"をくれてやる。だから剣の王よ、破壊の化身よ。
――我が怒りを以てボクの友達を嗤うあの愚か者を、真正面から叩き伏せろ!」
契約は成れり――否、それはもう咎を背負ったときからずっと。
全ての応報を赦すもの、古ぶるしき剣の王は、魔女の招集に馳せ参じる。
「目標の完全制圧まで、能力行使を許可。限定状態での顕現を承諾――」
おお、おお! 地底の空間が揺らぐ。あってはならぬものが来るのだ!
有象無象の悪魔どもが、これを見逃すはずはない――!
……だから、結月(かれ)がいる。己に鍵をかけて疾走する。
たったひとりだ。何か超絶的な武具を身に纏っているわけでもない。
しかしていまの結月は、そこに在りてされど在らぬ境界のモノと化していた。
鍵ノ悪魔(マスターキー)。魔女が宿せしモノとは根本からして異なる、
されど同じこの世ならぬモノ。境界を綜べり、閉じ、開け放つモノ。
たったひとりで飛び出した少年を、悪魔の軍勢は当然の暴威で迎え撃つ。
だが見よ。振るわれた爪も、剣も、ましてや炎や雷もなにもかも、
ただひとつとて、一縷とて結月を、悪魔を傷つけることはありえない。
「僕を、見るな」
されど心に鍵はかけられぬ。暴威に挑む少年の恐れは消せはせぬ。
効かぬとわかっていてもそれは恐ろしい攻撃であり、触れぬとわかっていても敵は在る。
何百何千にも登る邪神の加護のすべてがその身を透過するとしても、
また彼が振るう"咎人の鍵"を遮ることはないとしても。
「僕を、見るな! 僕は、僕は――!」
酔いに溺れた、あの日の翁の言葉が蘇る。いくつもの記憶。
膂力も、鋭敏な五感も、ましてや天才的な経験則や鋼の体もない。
"家族に何も出来なかった無力な少年"、それが自分であり、
共犯者である藤色の灯り、少女の姿をした化身に何も返せないのも、
すべて、すべて然りだ。わかっている。だから見るな。嗤うな。見下すな。
普通であるなどと、平凡であるなどと、己が一番わかっている。
だからどうした。それがなんだ。それが、退く理由などになりはしない!
「僕を――俺達を、遮るな!!」
魔鍵が敵を切り裂く。悪魔をも通さぬ悪魔の身は何者にも遮られない!
すり抜け切り裂くただひとりの少年を相手に、万を超える軍勢が踊らされていた!
……そしてふと、有象無象は感じた。 "それ"が来てしまったことを。
限定顕現したのは腰から上のみ。されどその威風は三千世界に轟く。
剣の王。応報の肯定者。復讐の救済者。以て魔女の怒りを滅びとなすもの。
「ボクらは、闇かもしれない」
浮かび上がったコーディリアは、誰に云うともなくひとりごちた。
「でもそうじゃない――それだけじゃない」
九王の一、剣の王が猛烈な火炎を吹き出した。それは龍の尾のように、
不遜にも頭の高い愚か者どもを嘗め尽くし、薙ぎ払う。
「悪魔(ボクら)は夜空だ。無数の星の輝く、暗闇の道しるべ。
旅人が進む先を示し、その行く手を見守るもの。安らぎを護るもの」
――ゆえに。
「魔女(ボクら)が先に折れるわけには、いかない――剣の王よ。
……"アスモダイ"よ! すべて――すべて、滅ぼしなさい!!」
かくて破滅は解き放たれた。馬鹿げた大きさの両腕が全てを薙ぎ払う。
もう止められない。止められるはずの間隙を鍵の悪魔は奪ってしまった。
万を超える悪魔の軍勢は紙くずのように引き裂かれ、脇にやられ、
崩壊と再生を繰り返す、地上の天と底を繋ぐような魔神/大樹を燃やす。
『ガ、ガ、ガ――!! 定命ノ者――』
「節穴かい? ボクは魔女で、これは悪魔だよ。新参者(ニオファイト)」
KRAAAAASH!! 剣の王アスモダイの爪がめきめきと幹めいた体を引き裂く!
噴き出す爆炎! そして――両者の拮抗、境界を泳ぐ影一つ!
「……お前はもう、滅びの楔を撃ち込まれたんだ」
だからこれは、必要のない戦いだったのかもしれない。
そうではない。いるとか、いらないとか、そんな話じゃない。
そうしたかったからそうした。嘲弄と侮蔑の応報と代価をもたらすために。
「――倒れろよ。お前はもう、"いらない"」
咎人の鍵が、亀裂に差し込まれ、捻られる。破滅が加速する。
もはや、魔神の滅びを妨げ防ぐことは、神にすら不可能であった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リル・ルリ
■櫻宵/f02768
アドリブ歓迎
②
櫻が抱き締めてくれた
受け止めるといってくれた
なのに
幻影の声がまだ
今はこの悪魔から彼を守る事を考えるんだ
見てる君のこと
喪わせない
守ってみせる
僕の歌はその為に
歌唱に込める君の背を押す鼓舞
祈り歌う凱旋の歌
その腕で殴られたらか細い櫻が!
『星縛の歌』歌いこの命で悪魔を縛り君の刃を届かせる
オーラ防御の水泡で僕守る君ごと守ってみせる
誰より認められたいと思ってる癖に
家にだって帰りたい癖に
僕を選んだせいで
僕が良家生まれの人魚姫だったならよかった!あの女も文句言えない位の
君がそう望んでくれるなら
未来はきっとそこに
歪んだ僕らの歪んだ未来
壊させるものか
僕の櫻
悪魔の瞳になんて映らないで
誘名・櫻宵
🌸リル/f10762
アドリブ歓迎
②
でっかい悪魔
躾のなってない邪霊達の親なのね?
リルを優しく撫でる
大丈夫
あたしが守る
全て総て凡て
邪魔するものは斬り殺す
愛華を咲かせて刀に破魔宿らせて
リルを庇いながら衝撃波込めてなぎ払う
生命力吸収を帯びさせて
思い切り怪力こめて穿ち貫く
邪魔な部分は部位破壊
空中戦で飛んで見切り躱して
愛しの歌に剣舞をあわせ
認められなくても
生家に二度と帰れなくても
一代限りのあたしの家を
愛しいあなたと築けばいい
硝子の靴はもうあるわ
悪魔の階段(体)駆け上がり
ケーキ代わりに首に入刀
こんな未来があるのに
破壊されるなんて真っ平御免よ
絶華―綺麗に斬らせて頂戴
リルの時間は奪わせない
ねぇ
見て(愛して)よ
●盲愛
それは確かに愛だが、愛と呼ぶには苛烈で純粋にすぎた。
生命を育むのに必須である酸素が、過ぎれば身を蝕む毒となるように。
魚が泳ぎ呼吸する水が、研ぎ澄ませていけば何者も住めぬモノになるように。
ふたりが互いに抱く愛は、"そうなってしまう"瀬戸際のものであった。
――あるいは、"そうなる"ことをこそ望んでいたのか。誰にもわからない。
あくまで人道と倫理と友愛の観点に基づいて言えば、論ずるに値しない。
彼らの愛は肯定されるべきものであり、否定されることこそ悪であり、
尊ばれるべきもの。誰もの持つ当たり前の権利として護られるべきものだ。
だが"そういうこと"ではない。であればよかった、で終わる話ではない。
つまり、互いに背負う/わされたものが、ふたりを絡め取っていたのだ。
「大丈夫よリィ。あたしが守る。邪魔するものは全て斬り殺すから」
「……櫻。ごめんよ櫻。抱きしめてくれているのに、でもまだ、声が」
「声も、姿も、総て。――凡て切り捨ててあげるわ。だから大丈夫」
「うん、うん。でも、櫻。見えるんだ。幻影が、僕は、僕は――」
何度このやりとりを繰り返しただろうか。
闇から共々に抜け出してから、リル・ルリはずっとそうだ。
さもありなん。愛する人魚の慟哭と嗚咽と後悔を誘名・櫻宵はただ受け入れる。
頬を撫ぜ、頭をさすり、背中を柔らかく触れてあやしてやる。
魔神の崩落。自己再生と存在崩壊を繰り返す、生命の樹のオーバーロード。
ふざけた話だ。ふざけた邪霊の親玉は、やることもその最期もふざけている。
滅びを受けたくせになおもあがき、末期を汚すとくれば笑止千万なり。
「だから戦いましょう、リィ。躾のなってない仔の親を殺しましょう」
「うん」
「あたしが守るわ。だからあたしの背中を押して。その美しい声で」
「……うん。歌うよ。だって僕は歌だから。櫻、きみを守る歌を――」
かくて、剣の王によって平らげられた悪魔の軍勢の残骸を踏みしめて、
嘲笑われ後ろ指を刺された哀れなふたりの爪弾き者が踊りだした。
舞うは死の舞踏、振るわれる刃が向かう先はただ一つ――己らを見下した、
闇だなんだと傲然にのたまい、身の程知らずに吠えたあの魔神の首。
ふたりを阻むようにマグマが吹き出し、ひび割れ砕けて燃える六臂が唸り、
大地を砕いて天が降り注ぐような魔力と妖星の雨あられが襲いかかった。
――だからなんだ。天変地異の百や千、それで我らを阻めると思うてか。
木竜が剣を振るう。人魚を守るための、敵を薙ぐ刃は妖星をも断つ。
燃える岩を切り裂いたその剣風は、愛しはすれど認められぬ身の糧となり、
振り下ろされる拳を押し返す刃は、排斥され追いやられた身に届かない。
「櫻――!」
それを見ながら、庇われながら、人魚は呪(いわ)われた声で歌を紡ぐ。
宿る力は魅了と蠱惑。迦陵頻伽の如き歌声の銘は星を捕え縛るもの。
綺羅星の瞬きは泡沫の如くにたゆたって、耀(ひかり)弔う星歌に溺れさす。
ああ、櫻。愛しいひと。嫉妬と羨望に焼かれた浅薄な己を愛してくれるひと。
無限の愛をくれるひと。愛しい。愛しい。そしてごめんなさい。許して。
どれほど愛(ことば)をもらっても、撫でられても、護られても。
幻が消えない。仔を産めぬと、何も遺せぬと嘲笑う女の相貌が消えぬ。
(だって彼女は櫻、きみの仔を)
歌が途切れた。――いけない。人魚は頭を振って喉を震わせる。
己が紡ぐ音に、己の心を蕩けさせる。危険な行いだ。だがそれでいい。
「君が僕を守るなら、僕を守ってくれる君ごと守ってみせる――」
思いは言の葉と旋律を伴ってこぼれ落ち、以て木龍を守るうたかたへ。
そうだ。櫻は受け入れてくれる。愛してくれる/それに何の意味がある?
ならそれでいい。他の誰かの云うことなんて/結局己は何も遺せぬ。
関係ない。ただ愛するひとがいればそれでいい/だって彼がそれを望んでる。
僕には彼さえいれば/彼は誰より認められたがってる。
僕は/帰りたかったくせに。取り戻したかったくせに。選んだせいで。
選んでくれたんだ/何も遺せぬ、地に足つけられぬ男の人魚を選んでしまった。
違う/この身が、その身にそぐう生まれと"つくり"をしていたなら。
僕は/あの女だって、他の誰にだって、文句なんて言わせないで、
「リィ――!」
櫻宵は哀切を以て愛刹を叫んだ。途切れ途切れの歌に刃音とともに応えた。
降り注ぐ炎を切り裂き、雷を退け、氷を砕き風を払いながら叫んだ。
「いいの。いいのよ! あたしにはあなたがいればそれでいい!」
それでいい。それでいいと思う。見ると辛いものを見ないようにする。
視界に写すのは彼だけでいい。思うのも同じ。考えるのも同じ。他はいらない。
だって映せば苦しくなる。思い、考えれば焦がれて乾いて仕方なくなる。
違う、違う、違う。これは逃避じゃない。代替でもない。彼がほしいのだ。
一緒の時間だ。ふたりきりの愛が。それを証明してくれる声――違う、違う!
『何・モ・違・ワ・ナイ。貴・様・ラ、ハ――』
「黙りなさい」
それはともすれば、魔神が漏らす苦悶の絶叫の継ぎ接ぎだったのやもしれぬ。
本当にそんな、邪霊と同じ嘲りを彼奴が口にしたのだろうか? わからぬ。
あの口を閉じねばならぬと思った。ゆえに櫻宵は悪魔の体を蹴立てて跳んだ。
歌が背中を圧してくれている。ああ。なんて可愛そうで悲しそうな。
「あたし達は間違っているかもしれない」
「歪んだ僕らの未来は歪んでいるかもしれない」
「そんなの関係ないわ」
「僕らの未来(ひかり)は僕らのものだ」
斬撃。炎。熱唱、切り払い、疾走、落雷、防御、跳躍――。
「樹に成ったなら樹らしく。桜のように潔く散りなさい」
絶華の太刀ひとつ。三眼が不遜な龍を捉えようとして揺らいだ。
「ねえ、見(あいし)てよ」
「僕の櫻を見るな」
ふたりはたしかに互いを愛していた。されど願い紡いだ言葉は別。
魔神の首から滂沱の血。傷口はぶちぶちと引きちぎれそして根が縫い合わす。
再度の斬撃。えぐれる。迸る血はライスシャワーのよう。
……あるいはそれは、呪われたふたりに対する悪魔の祝福か。
いずれにせよ、闇をも踏みしめ退ける、燃え上がる何かであったのは確か。
彼らはただひたむきに、明日を求めていただけなのだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
マレーク・グランシャール
②【壁槍】カガリ(f04556)と
カガリがユーベルコードで敵を封じることで遮断出来よう
だが巨大な敵を黄金城壁で取り囲むまでわずかなりとも時が必要だ
その間に友が攻撃を受けぬよう、その豪腕、俺が留めてみせる
【真紅血鎖】を発動し【碧血竜槍】を投げた後、血の鎖を敵の右腕へ巻き付ける
あの太い腕へ巻き付けるのに必要な血が如何程であろうとも惜しみはしない
幸いあの巨体だ、攻撃が当たらぬということはあるまい
残る左手は【魔槍雷帝】を持ち応戦
カガリに注意が向かないよう【黒華軍靴】と【金月藤門】で撹乱する
迷宮の崩落が起きたらぎりぎりまで粘るというカガリを庇う
埋もれたら名前を呼びながらなりふり構わず瓦礫から掘り出す
出水宮・カガリ
②【壁槍】まる(f09171)と
往生際の悪いやつだな
こういうのはな――封じてしまうのがいいのだ
まる、ちょっとだけこれを縛ってくれ
相手が相手だ、血の代償くらいはいい
…寿命は駄目だぞ
いわとの(【内なる大神<オオカミ>】)、力を貸してくれ
この世ならざるものを、現世の外へ閉じ込める神力を
真の姿(大神の力による大岩)を解放、【泉門変生】で魔神を囲い、階層ごと封印する
(黄金城壁→発光する石壁)
全力魔法・呪詛と【不落の傷跡】【隔絶の錠前】で確実に閉じ込める
門の意地だ、相打ち覚悟で封じさせてもらう
黄泉の土産に聞け、魔神
境界とはな、自ら他を侵略せんのだ
境界を築き、内に住まうものを! 外の脅威から守るものだ!!
●壁槍
ビキビキビキビキ――!!
耳を聾する轟音。それは破砕の音であり生命が蔓延る誕生の音である。
何が起きたのか? まず、地下空間は壁も天井も崩落を始めていた。
ひび割れ砕ける岩壁を飲み込み伸長するのは、"根"である。
魔神アークデーモンのそれ。大地の精髄を得るための手段などではない。
崩壊の魔弾を撃たれ、首を断たれ、悪魔じみた復讐の暴威を浴びてなお……、
いや浴びた"からこそ"、均衡を喪った魔神は暴走し世界を侵そうとする。
このままでは魔神であったモノは、その身に溜め込んだ力のままに荒れ狂い、
ある意味で最初の言葉通りに地上をすら侵略するだろう。
大森林の"正しい"木々は損なわれ、ねじくれた魔の木々が全てを覆う。
「往生際の悪いやつだな……いや、生き汚い、というべきか」
生命倫理に真っ向から反するような有様を、出水宮・カガリは嫌悪を以て睨む。
「なんにせよ、一刻も早く滅ぼさねばなるまい」
相棒たるマレーク・グランシャールは端的に云う。たしかにそれは正しい。
しかしカガリは、半身と認めた男の言葉を、首を振って否定する。
「滅ぼすだけでは、だめだ。おそらく足りない」
「……では、どうする」
カガリは薄く微笑んだ。それこそが彼の本懐であり役目なのだから。
「――こういうのはな、封じてしまうのがいいのだ」
言葉にしてみれば、それはあまりにも無謀な挑戦と言えた。
巨大さは途方もない。しかもそれは今まさに暴走し根を張り膨れ上がっている。
猟兵による矢継ぎ早の攻撃が叩き込まれているが、再生と崩壊のバランスはある意味で拮抗し、その存在を根源から損なうことが出来ていない。
それを、封じる。いかにカガリが境界の化身とてただならぬ御業だ。
必要な時間はどれほどか。魔力は、思念は、覚悟は。埋めるには犠牲が必要。
「いわとの、力を貸してくれ」
カガリは喚ばう。外ではなく内側――城門としての己ではなく、その起源に。
すなわち。此方と此方を定め区切る際(きわ)。原初の大岩、神の化身。
内なる大神。彼はその残滓を得た。己が何であるかの存在証明を得た。
闇の中引きずり出された"はらわた"には、僥倖と言える副作用があったのだ!
「この世ならざるものを、現世の外へ閉じ込める神力を――!」
『……サ・セ・ヌ』
己を閉じこめ封じようとする神の力を感じ、魔神であるはずの声がした。
あるいはそれは、魔神を扉として現世に吹き出した骸の海の思念波か。
それは男のようで女のようでもあり、老人のようで若者のようでもある。
滅びた過去の残骸の総体。闇を傲る魔神の相応しい末路……なの、か?
そう思わざるを得ないほどには、彼方の声もまた力強く恐ろしい!
『サセ・ヌ。我・ヲ・封ジル、ナド!!』
「"させぬ"とは、こちらの台詞だ。魔神よ」
おお、見よ! 虚空に開かれた異界の門、それをジグザグの裂く蒼き雷霆!
マレークのものだ! 巌めいて静かな言葉とともに男は疾駆した!
「お前には何もさせぬ。世界を侵すことも、これ以上誰かを嘲笑うことも。
――ましてや俺の半身を傷つけ阻むことなど。何があろうと、させぬ」
龍人はそう決めた。決めたからには、そのために全霊とこの命を捧げよう。
魔槍を以て妖星を、あるいはその門たる陣すらもを切り裂き穿ち、
向かう先は大樹じみた崩壊の象徴! 魔神であったモノの成れの果て!
『退・ケ! 我・ヲ・阻ム……ナ!!』
「こちらの台詞だと言ったのだ――!」
退くは彼奴であり、己らという未来の守護者を阻むのはかの闇であり、
滅ぼされるべきはアークデーモンであり、過去の残骸たるオブリビオンだ。
天敵必滅の決意を抱いたマレクは、右手に持ちし龍槍を擲った!
魔神は捻じくれた幹のように変じた六臂のうち、右の三を以てこれを防ぐ。
然り。避ける必要など――そもそも出来ないが――ありはしない。
巨体ゆえに彼奴のタフネスは、たかだか槍の投擲一つで揺らがないからだ。
だがそれは慢心というもの。マレークの狙いはここにある。
(まる)
(なんだ)
(ちょっとだけでいい。"これ"を、縛ってくれ)
(…………)
(相手が相手だ、血の代償くらいは"いい")
(では――)
(ただし、寿命はダメだぞ)
(…………そうか)
(……ダメだからな)
(ああ)
龍槍が突き刺さった部分の肉が、炸裂し内側から爆破された。
霧散した血反吐と肉と骨、マレークはそこへ右手を――手首を深く抉った右手を掲げる!
煮え立つような龍の熱血が溢れ、魔神の禍々しき血と混じり合った!
そして鍛造! 両者を縛るは、力強き血で編まれた、真紅の鎖である!
『ナ・ニ……ナン・ダ・之・ハ!?』
「隷属するがいい。もはやお前は、我が血の鎖によって戒められた』
ぎちぎちと鎖が軋む。マレークはさらなる熱血を鼓動とともに支払う。
その顔が青ざめ脂汗が額を濡らしながらも、マレークは代償を惜しまない。
カガリがそうしてくれと頼んだのだ。生きよ、されど彼奴を縛れと。
どちらも叶えてみせよう。ただ無為に死ぬことなど己が己に許さぬのだから!
それは、サイズ比で見れば、子供と大人のじゃれあいにも満たぬ絶望だった。
じゃれつく幼子に対して、本気で身構える父親がいるだろうか? 否。
毛皮をくすぐり鼻先をつつく蚊を相手に、全力で爪牙を振るう獣がいるか? 否。
マレークと魔神の膂力差は、それほどまでに天と地の開きがあった。
だが両者は拮抗している。なぜか――カガリには問うまでもなかった。
(さすがだ、まる。生きてくれよ)
彼はそう決めて応えた。ならば友の答えを疑う門があろうか。
彼は為した。為している。己のなせることを。であるならば!
「いずみやいずる黄泉戸の塞――」
祝詞めいた口訣に従い、ふわりと風ならぬ力に金の髪がなびき、
その身を真の姿へを変える。城門のそれ……否。たしかにかつて彼は黄金の城壁であった、が。
なびく髪はそのきらめきを示し、たゆたう紫瞳は柘榴の色を示す。が!
「我は世を隔つ磐戸なり。……裡なる大神よ。力を貸してくれ」
彼岸のものを、彼岸のままに閉じ込める力。神の御業を為す力を一時此処に。
「――黄泉の土産に聞け、魔神よ」
いくつもの妖星を落とし(それらは尽く半身が撃墜している)、
血の鎖を引きちぎろうともがく巨樹に向けて、カガリは言った。
「境界とはば、自ら他を侵略せんのだ。だからお前は間違っている」
『我・ヲ・謀ル・カ!? 我ハ・現世ヲ・侵ス者・ナリ!!』
「それは境界とは云わん。ゆえにカガリが、この身を以て見せてやろう」
それは彼岸と此方を区別するもの。常世と現世を分かつもの。
人と魔を隔つもの。闇と光を真に区切るもの。すなわち!
「――境界とは、内に住まうものを! 外の脅威から守るために築かれるもの!
お前が光と闇の境界を謳うならば――カガリは! その闇を閉じ込めるのみ!!」
泉門変生(おおかみおろし)成れり! ここに顕現せしは黄金の城壁なり!
魔神を上下左右すべての角度全ての次元すべての力でもって覆い閉じるは、
自ら光を発するかのように煌く岩の壁。髪が築きし黄泉の岩戸!
「カガリ」
「……これはカガリの意地だ。相討ち覚悟ででも――」
「カガリ!」
崩落は進む。マレークは、もはや感覚の失せた右手を彼へと伸ばす。
柘榴の色をした瞳がそれを見返し――龍はもう一度手を伸ばして。
「……お前は、俺に生きろと言ったんだ」
呑まれるはずだった半身の手を、龍の掌は確かに掴み取った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
パーム・アンテルシオ
私は見てた。灰の街での戦いを。
あの悪魔の強さを。皆の強さを。
だから、私がする事は…
ユーベルコード…歌唐桃。
この場所の形…
おあつらえ向き、かもね。ふふふ。
なんて言ってないで。とっても広いから、がんばって響かせないと。
さぁ皆、がんばって。
この戦いは、人を守る戦い。人の為の戦い。
力で。勇気で。知恵で。
この災厄を、乗り越えて。
…そうだ。一つだけ、聞きたい事があるんだ。
我が子ら、って言ってたけど…
あなたは、あの子たちを…愛してる?
愛だけじゃ、足りなくても。
私は、愛する事はやめないよ。
それが、私の生きる意味だから。
きっと、皆の望むことだから。
愛しながら、誘う。煽る。頼る。
たとえそれが、矛盾してるとしても。
オリヴィア・ローゼンタール
②
伝説に語られる神の敵対者、悪魔の王、そのものといった風貌ですね
【転身・炎冠宰相】を維持
【属性攻撃】【破魔】で槍に聖なる炎の魔力を纏う
我が身に宿りし守護天使よ、魔王を討ち祓う力を――!
音速を遥かに超える飛翔能力で大空を翔け巨大化に対抗(空中戦)
【怪力】を以って斬り打ち穿つ
悪魔の軍勢は【なぎ払い】で起こした【衝撃波】で【吹き飛ばす】
巨大隕石は真っ向から斬り捨てる(鎧砕き・勇気・気合い・ランスチャージ)
軍勢と巨大質量はただそれだけで脅威ですね……!
魔法陣よりさらに上空まで飛翔し、全力で聖槍を【投擲】【槍投げ】
底知れぬ地の獄まで叩き落す!
メルノ・ネッケル
②
……成程、地上侵攻企むだけはあるな。でかくなってもう1ラウンドとは驚きやで。
でもな……「辿り着けない」と言われちゃ、意地でも辿り着きたくなるんや。その為には、ここでアンタにゃ負けられへん!!
【勇気】を持ってアークデーモンへ接近するで……!
吹っ飛ばされさえしなければ勝機はある。腕を使った攻撃は大振りなハズ、【見切り】、跳んで躱してとにかく前へ!
身体に取り付きさえすれば隕石も落とせん!うちを狙う、それ即ち自爆狙いやからな!
そのまま駆け上がり、肩を蹴ってバック転跳躍!
ほんまは複数向けの技やけど、でかい図体に独り占めさせたる!
猟兵の力はやらへん、鉛弾と熱線で我慢しぃや!
行くで……『狐の嫁入り』や!!
ユーフィ・バウム
②
【真の姿:蒼き猛禽】を解放
レスラーとしてお相手いたします
巨大な悪魔とて、投げ飛ばして見せますわ!
仲間とは連携を意識し攻撃
戦う中知りえた情報は周知、
【戦闘知識】とし、攻撃に役立てる
敵の攻撃は【見切り】、致命を避けた上で受け切るスタイル
避け切れないものは、【オーラ防御】で堂々受けて見せる
レスラーとして耐えきります
さぁ今度はこちらの番
【グラップル】で組み、【怪力】を活かし
【力溜め】ての【鎧砕き】のドロップキック。
強烈な一撃を叩き込み、ダメージを与えていきます
決着の機を見れば【空中戦】で飛びついてから、必殺の!
あなたが闇そのものだろうと、私達は打ち勝ちます
これが、光の一撃
《蒼翼天翔》を叩き込みますわ
ソラスティベル・グラスラン
②
こ、これが魔神の真の姿…!
ふふふ、恐ろしい……ですが何故でしょう、この心の奥底から昂りは
今わたしは、立ちはだかる強敵にワクワクが止まりませんっ!
今ここに現代の勇者が集い、世界に仇成す魔を討たんと手を取り合う
それはまるで、嘗てのこの世界での決戦の如く!
皆さん、参りましょう!
目の前の障害に立ち向かう、わたしたちこそが勇者ですっ!!【鼓舞】
滾り昂る無限の【勇気】を携え、突撃!
物語の英雄たちよ、わたしに力を…!【戦闘知識】
隕石を【見切り】或いは【怪力・盾受け】で打ち払い
【力溜め】しつつ【空中戦・ダッシュ】で一息に接近!
遠き蒼空の果てより、竜は目覚める…
我が勇気に応え、蒼き雷竜よ、刹那の力を此処に!!
非在・究子
②
あ、アークデーモン、か……こ、この間も、やり合った、けど、隕石、落としたり、軍団呼んで、バフ巻いたり、無詠唱してきたり、な、なかなか、クソ難度の、ボスキャラ、だった、な。
……一度、たおした、やつに、改めて、負けるつもりは、ないけど、な。
さ、最近、ガチャで、なかなかいい装備、引けたから、な。ちょ、ちょっと、モーションが勝手に、暴発するのが、困りもの、だけど、性能は、確かだから、な。
と、というわけで、UCで、魔砲少女モードに、変身して、魔砲形態にコンバートした、ゲームウエポンで、思う存分、攻撃、だ。
相手の無詠唱は、飛行能力の、機動力と、斥力障壁の、防御力で、しのぐ。
お、思う存分、やってやる。
●
……猟兵達の死闘が地上にもたらした影響は、言ってしまえば微々たるもの。
森の末裔と呼ばれたフェアリーのひとり、少女フリムはそう回顧する。
彼らは森のはるか地の底で恐るべきものと戦ったという。
だがそれが地上を侵略することはおろか、森をさらに朽ちすることもなかった。
不思議なことに、精髄を奪われ砂漠化した大地もあっというまに緑化し、
いまでは脅威的な速度で新たな若木が芽吹きすくすく育っているという。
不思議な話である。末裔、あるいは森に住まう獣やその他の住民達は、
取り戻せぬと思った緑を喜びながらも訝しみ、疑問に思った。
だから彼らは知らない。地底にいたモノがいかなる邪悪であったか。
闇の先触れを傲った魔神の暴威、それを打ち砕いた猟兵の勇猛と壮健、
そして最後に起きた崩壊と、それにすら抗った者達の戦ぶりを。
だからせめて、この場においてはそれを記し、彼らの戦いの証左としよう。
終の魔弾によって崩壊の運命を決定づけられ、悪魔に骨肉を砕かれ、
首を伐られ、なおも足掻いた魔神が、黄金の壁によって封ぜられたそのあと。
――誰も知らぬ、何も見通せぬ境界の内側で、どんな戦いがあったのか。
これは、地底の深き闇に隠された、知られざる勇者達の戦いである。
●決着・終
……地下空間の崩落が、出し抜けに止まった。
当然だ。もはや地の底へも地の表にも、暴走異形化した魔神が届くことはない。
大樹めいて捻じくれたその"根"が、いかなるものをも脅かすことはない。
神なる力によって降ろされた、内側から煌くような黄金の岩壁。
彼方と此方を定義し分かつ絶対の神域が、まるごと魔神を覆ったからである。
……ではそれで事は終わったのか。否、なぜならば彼奴は魔神。
いやさ、オブリビオン。骸の海より来たる破滅、過去の残骸、世界の仇敵。
中核たるクラウドオベリスク――そもそも猟兵達の本懐――は未だ健在。
もはやその形も性も損なえど、魔神の血肉と混じり合い融合している。
であれば、彼奴が吸い上げるべき精髄の径(パス)を喪ったいまこそ好機。
その存在を砕き完全に滅してこそ、未来を守る戦いは勝利となるのだ。
「……私が見た灰の街での戦いとは、何もかもが違っていたけれど」
謳うような声音で、桃色の少女――パーム・アンテルシオが呟いた。
然り。彼女はかつて、あの魔神級悪魔そのものと相対している。
それはたしかに同じ"アークデーモン"だが、表層的な意味では別だ。
オブリビオンとは骸の海に集積された情報のようなものであり、
現世に顕れしとき、それらは根幹で繋がりながら別個として在り続ける。
ゆえに同じ名同じ姿を持つオブリビオンでも、個体ごとにその特徴は異なる。
魔物の軍勢そのものにして王たる魔神は、ここにはいない。いなかった。
逆に言えば、これほどの暴走を起こす魔神もまた、然りである。
――ここで、完全に滅することができればの話だが。
「伝説に語られる神の敵対者、悪魔の王……金星の支配者。
そのものといえた威風も姿も、もはやどこにもありはしませんね」
修道女めいた装いの戦士、オリヴィア・ローゼンタールは頭を振った。
大地の精髄と接続してまで滅びを撒き散らそうとする姿、なんとあさましきか。
なべてに敵対する絶対悪、その点ではまさに神話の悪魔に比肩はしうる。
しかして暴走の果てに斯様な異形に至ったならば、いっそ憐憫も湧こうもの。
「‥…いっぺん死んだのに蘇って、挙げ句めちゃくちゃに這い回って。
地上を侵攻するなんて大口叩くだけはあるわ。まあ終わってへんけど……」
動きを止めた敵を警戒しながら、メルノ・ネッケルはひとりごちる。
万に届く悪魔の軍勢、降り注ぐ燃える妖星、先読みできぬ魔力の暴風。
どれもこれもが致死的な嵐。幾度もしぶとく足掻いた敵はもう終わった……否。
まだだ。その形と存在は遺されている。であればおそらく彼奴は――。
「……こ、こないだやりあったのと、性能違いすぎる……だろ、ち、チートか?
け、けど、ま、まだリトライしてくるなら、リスポン狩りだ、だな」
どもり癖のひどい少女、非在・究子は怯えながら身構える。
現実をゲームと定義するバーチャルキャラクターの彼女をして、
こんなオベリスクに隠された群龍大陸はいかなる場所なのかと思わざるを得ない。
魔神はそのものの直下にない。"護る"ためだけにこの世に現れた番人だ。
……さりとて、かつての勇者達はどんなモノと相対し果てたというのだ?
脅威ではある。興味もある。だが、ただただに恐ろしい――龍のねぐら。
「……いいえ! 恐れることはありません、もはや戦いは決着目前なのです!」
空色の瞳にきらきらと高揚を浮かべ、ソラスティベル・グラスランが言った。
「幾度打ち倒そうと立ち上がる強敵ならば、それを滅することこそ勇者の偉業!
今ここに集い、世界に仇なす魔を討たんと手を取り合う……これはつまり、
わたしたちこそが勇者だということでしょう! ですから皆さん、さあ!」
聞いたものの心を高鳴らせ鼓舞する力を秘めた声音に、少女達は頷いた。
「ここが最終ラウンドですね。戦士として決着をつけてやります!」
ユーフィ・バウムは、小さな体にありったけの力を込めて頷いた。
蒼き猛禽と仇名された剛力を、彼奴に直接刻みつけてやるとしよう!
「ああ、せやな! そもそもうちらは、ここで終わりやないんや!
"辿り着けない"なんて言われたからには、意地でも踏み越えて辿り着いたる!」
「……ぐ、群龍大陸。つ、つまりここは、と、途中ステージ、だな?
え、エンディングを見るまでがゲーム攻略だから、な。あ、アタシもやるぞ」
メルノの快活な言葉に、おずおずと究子が同調した。
にっと笑いかける妖狐の陽性は陰キャには少々眩しいが、ご愛嬌だ。
「敵は強かった――ううん、強いけれど、私は、知ってるよ。
……あなた達の、みんなの強さを。だから、私は、それを応援するね」
ふわふわとした九つの尾をゆらめかせ、パームははにかむ。
「……いざ参りましょう。皆さん、そして我が身に宿りし守護天使よ!
かの魔王、いいえ、それを僭称する我らの敵を討ち祓う力を――!!」
オリヴィアの妙なる声音に応じ、内側から迸る破邪の霊気と聖光!
魔に対する絶対敵に呼応するかのごとく、動きを止めていた魔神が……!
『…………マダ、ダ』
ねじくれ、ひび割れ、醜くゆがみきった三眼がぎちぎちと見開かれた。
『我・ハ・マダ! マダ……滅ビヲ、享受・シナイ……!!』
咆哮――それが最終決戦の火蓋を切る合図となる!
ドウ、ドウ、ドウ――ドウ、ドドウ! ドウドウドウドウッ!!
まずはじめに空間が裂けた。この世ならぬ魔力が炸薬めいて燃え上がった。
自己再生をも諦め、全生命力と魔力を注ぎ込んだ必滅の破壊魔法。
口訣も身振り手振りもなく、ただ魔神が願っただけで振るわれる滅殺の槌。
それは虚空を焦がす爆炎として生まれ、黄金の城壁を嘗め尽くし猟兵を襲う!
「だ、だから、予兆なしの範囲攻撃とか、ち、チートだろ!
だったら、こ、こっちも、全部まとめてふっとばしてや――」
「……え? 何? なんでそこで止まるん!? 吹っ飛ばすんやろ!?」
何かのユーベルコードを発動しかけた究子に鋭くツッコミを入れるメルノ。
ドウドウドウドウ!! なおも続く炸裂を六人はランダムに回避する!
だがこのままでは一箇所に集められ一網打尽にされてしまうか……!?
「何か隙が必要なんですか!? それならわたしがなんとかしますよっ!」
とユーフィは力強く云うのだが、そうではないと究子は首を振る。
そして意を決したように息を吸い……やけっぱちめいて叫んだ!
「ら、『ラジカル・エクステンション! アクティベート☆』」
「はい!?」
聖光をたなびかせて空中機動を繰り広げていたオリヴィアが素っ頓狂に驚いた。
なにせどもり癖のひどい陰キャ幼女が、いきなりきゃぴきゃぴ声を出したのだ。
なんか究子の体をキラキラした光っぽいものが包み込み、変身させる。
ファンシーな靴! ふりふりのドレス! んでめちゃくちゃ剣呑な砲台!
「……魔法少女、だね」
「どちらかというと、魔"砲"少女でしょうか!?」
苦笑するパーム、驚きつつテンションの上がっているソラスティベル。
勘弁してくれと顔を真っ赤にして思いながら、究子はかわいくポーズをとった!
やりたくてやってるわけじゃない、そういうモーションなのだ。仕様です。
「『魔砲の力でなんでも解決! 魔砲少女ラジカルQ子、ただいま惨状っ!!』」
「音あっとるけど文字違う気がするんやけどなぁそれ!?」
「そんなことを言ってる場合ではありませんよ、来ます!」
ツッコミを呆れきれないメルノも、オリヴィアの激には慌てた。
ドウ! ドウ! ドウ! 破壊魔法が徐々に少女らに近づきつつある!
「あ、アタシがやりたくてやってんじゃないんだから、な! 装備いい、から!
せ、性能はたしか――『ラジカルキャノン・ファイアー☆』しにたい」
「希死念慮は置いといて撃ってください、はやくーっ!!」
ユーフィの悲鳴で我を取り戻した究子がトリガを引く。Fire!
KA-BOOOOOM!! 破壊魔法の炸裂と魔砲の威力が打ち合い、相殺された!
断続的な爆発も、飽和攻撃じみた魔砲の雨あられが物理的に押しのけるのだ!
「色々ツッコミどころはありましたが、威力の方はさすがですねっ!!」
魔法少女も勇者のひとつなのでは? ソラスティベルは訝しんだ。
かくして爆発攻撃を究子に任せ、五人はさらなる接近を――いや、待て!
『我・ガ……同胞・ヨ!!』
「来ましたね、悪しき者どもよ! いかに万を越え億に届かせようとも!」
亀裂から蛆めいて現れる悪魔の軍勢を、一足先にオリヴィアが切り裂いた。
今の彼女は、たゆまなき信仰心によって音をも超える戦乙女となっているのだ!
「退きなさい、邪悪よ! これは私達が突き進むためのただひとつの道!
あなた達に阻むことは出来ず、許されません! この炎の御柱ある限りっ!!」
王冠を抱く炎の槍を振るい、聖なる破邪の天使が空を、地を駆けた。
浄化の光が邪悪を滅殺し道を開く。突き進むべき勇者の道(トレイル)を!
「――うん。この広さ、この形。遮られてても、ちょうどいいね」
一方でパームは戦況を、そして黄金の城壁に囲まれた閉鎖空間を見上げ、頷く。
彼女の得手は、究子のような電脳魔術でも、オリヴィアのような破邪でもない。
その本質は祈り、謳うこと。それが"ヒト"である彼女の力なれば。
「この戦いは、誰にも知られないかもしれない。地の底の、昏い戦い。
けれど私は知ってる。あなた達の強さ、勇気を――それを、歌うよ」
陽光差さぬ地の底なれど、願えばそこは陽の下、虹の下。
パームを中心とした領域がきらびやかなライブステージへと書き換えられ、
パームはひたすらに歌う。勇者達を鼓舞し応援するいさおしの歌を!
『ソノ、耳障リナ・歌・ヲ……ヤ・メロ!!』
「させませんよ! あなたの相手はわたし達です!!」
疾い。魔法陣が複数展開され妖星が招来――いや、疾いのはそれではない!
この妖星招来を見切り、射線上に跳躍したユーフィの判断力と運動神経だ!
「この身は戦士、空を舞う蒼き猛禽! あなたの闇がそれを思い出させてくれました!
――お見せいたしますわ。星をも受けきり吹き飛ばす、蒼き鷹の技巧をっ!!」
なんたることか! ユーフィは燃え上がる岩を生身で受け止めた!
そしてやおら力任せに投げ飛ばせば、ピンボールじみて別の隕石と接触破砕!
破片はさらに散弾のように飛び交い、別の隕石をも相殺していくのである!
「どれほど妖星を喚ぼうが、この炎を、翼を消すことは出来ません――!」
それを援護するかのように、オリヴィアの聖光がジグザグに宙を駆ける。
一瞬後、頭上では妖星が、地上では悪魔の軍勢が光に呑まれて消滅した!
『不遜、不・遜・フソン・フ……!!』
「立ち止まってはいられませんね! 征きますっ!!」
「うちも続くで、あれは苦し紛れの攻撃だって一目瞭然や!」
六臂を振り上げた魔神を恐れることなく、ソラスティベルとメルノが走る!
黄金の城壁を聾する殴打、それは神の雷、あるいは天の災いか。
されど見よ。空を舞う究子やオリヴィアはいわずもがな、
妖星を飛び石めいて渡るユーフィすらも、この暴虐を避けきっている!
五人の行動がアークデーモンの注意を引く。後方のパームは無傷!
「……やっぱり、みんなは強いね。私の歌にも、熱が籠もるかも。
ねえ、魔神のあなた。あなたは、子と呼んだ邪霊を――愛していたの?」
歌の合間、不思議に響く声で桃色の少女は問いかけた。
アークデーモンはそれを無視……出来ない。その魅了の声音ゆえに。
そして言わずもがな――オブリビオンに正しい形の愛など存在しない。
「……私は、愛することはやめないよ。それが、私の生きる意味だから。
強いみんなが、その力と心で、あなた達を倒すために戦うように」
終わらぬ爆炎、あるいは虚空に生まれた岩くれや氷の礫を撃ち落とす究子。
無限めいて降り注ぐ妖星を受け止め、さらに前へと進むユーフィ。
魔法陣そのものを、あるいは蔓延る軍勢を滅殺し空を舞うオリヴィア。
彼女らの助けを糧として、魔神の喉元へ迫るメルノとソラスティベル。
それぞれの力も技巧も出自も違えど、今の彼女達は肩を並べて戦う仲間。
その力を、意思を――勇気をパームは肯定する。愛する。ゆえに謳う。
「あなたは、それが羨ましいんだよね」
『違ウ――』
「勝てないから。負けてしまうから。羨ましくて、欲しくて」
『違ウッ!!』
「……かわいそうだね、あなたは」
パームは勇気を尊ぶ。同じ声、同じ歌の中で敵を惑わし、誘う。
愛と誘惑。情と敵意。それは矛盾だが、彼女なりの信念でもある。
「――そうある限り、あなたはみんなには、勝てないよ」
そしてその言葉は、まもなく真実になろうとしていた。
ドウ、ドウ――KA-BOOOM!! ZANK!! ZANKZANK!!
軍勢! 隕石! さらに破壊魔法――そして六臂の振り下ろし。KRASH!!
「は、発狂弾幕みたいだな、これ!」
斥力障壁を展開し空を駆けながら、悲鳴じみて究子は叫んだ。
これほどの暴威が地上に到達していたならばどうなっていた?
道は遮られた。そこに終止符を打ち邪悪を破壊するにはあと一息!
「――っ、こうなれば!」
オリヴィアよ! なぜ迎撃をやめ、急上昇したのだ!?
煌く天めいて広がる城壁すれすれまで舞い、眼下を睥睨する! 魔神の凝視!
「その眼――破邪の炎槍で貫きましょう! 底知れぬ地の獄まで、堕ちなさい!!」
決死の炎槍投擲! 音を越えた矛は大気を焦がして流星めいて串刺しに!
『AAARRRRGGGGHHHH!?!?』
武器と引き換えにもたらされた強烈な一撃が、妖星招来と軍勢召喚、
さらには呪縛と破壊魔法の炸裂を一瞬だけ留めた。待ったなしの好機!
「あなたが闇そのものだろうと、私達は打ち勝ちます!
勝って、先へ進む。それが生き残った者の……義務なのですからっ!」
ユーフィは妖星を蹴り、全力のドロップキックを叩き込む!
さらに魔神の体を足場に腕を練り上げ……なんたることか、巨体を叩き伏せた!
ズウウン――! 閉鎖空間が揺らぐ。魔神の腕は麻痺して動けない!
「お、思う存分、やってやる! アタシらしく、な!」
BRATATATATATATAT!! 魔砲少女の火線が腕を、顔を、根を燃やした!
「……ここやな。あそこに飛び込むんか、うちら」
「大丈夫ですよ。わたしたちには、物語の英雄達の力がついています」
不安げに呟いたメルノを見、ソラスティベルは力強く頷いた。
空色の瞳とオレンジの髪。そこに力がみなぎるのは彼女がドラゴニアンゆえ?
……おそらくは否だ。彼女はこころから勇者の物語を信じている。
その輝きをメルノは善きものに思った。こうありたいと。
「……ああ! ならうちもいっちょ、勇気見せたるわ!」
「ふふふ、それでこそです! これぞ我が――いいえ! 我らの勇気の証明!」
少女ふたりが走る。そして跳んだ。大地に伏すアークデーモンの腹上!
「さんざっぱら石落として燃やして派手にやったんや、あんたももらってけ!
釣りはいらんで――団体様向けのもんやが、あんたは図体でかいからなぁ!!」
バック転跳躍したメルノが、持ち得る銃器すべてのトリガを引く!
BLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAM! ZAPZAPZAPZAPZAPZAP!!
銃弾熱線雨あられ。狐の嫁入り(フォクシーズ・レインスコール)!
「邪悪なる者に降るは裁きの雨。されど勇者を照らす空は遥か遠くまで蒼く!」
ばち、バチバチ――ソラスティベルの振り上げた大斧が青雷を纏う。
それはまるで、彼方より響く大いなる龍の咆哮めいて!
「ここが戦禍の最前線、そして邪悪なるものよ、あなたの終着点です!
蒼き雷竜よ、我らの勇気に応えよ――刹那の力をここに。勝利を我らに!」
バリッ、バチバチバチ! 迸る雷光が魔を照らす!
『オ、オオ――勇者、ドモ・メ――!!』
「その通り。我らの名は――勇者が如くッ!!」
神鳴る怒槌(サンダラー)、勇者の大斧が、雷竜の力を纏いて振り下ろされた!
激甚たる破壊力が一点に集中。目指す先はいびつに融合固着した胸郭。
そこに溶け込んだクラウドオベリスク――その核が、ひび割れ……!
『我・ハ、滅ビル――ノ、カ? 闇ガ・何故――!?』
傲慢なる魔神は、最期のときまで知ることはなかった。
再生のための贄を組み上げることもできず、閉じられた黄金の中魔は果てる。
死闘、ここに決着。クラウドオベリスク、完全破壊完了。
――ブルーノー大森林、地下空間に潜む悪は、闇は完全滅殺されたのだ!
……これは、勇者の道筋を辿った者達だけが知る物語。
邪を退け、闇に抗い、破滅と魔を打ち伏せた力強き意思の叙事詩。
いつかくる伝説的闘争の、先触れの喇叭めいた勝利の証。
世界は、またひとつ過去を振り払い未来へと進んだのだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
最終結果:成功
完成日:2019年06月29日
宿敵
『骨邪竜『ドゥート』』
を撃破!
|