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曇天を穿て

#サムライエンパイア

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#サムライエンパイア


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●我こそ魔王の配下なり。
 軍勢が押し寄せる。砦の周りを赤で染められ、植えられた緑共が灰に帰す。
「正門、陥落!」
 なんということだ、と武士どもが頭を抱えて嘆くほどの数の暴力と――圧倒的な力の差!
 このままではあの木瓜の前になすすべもない。
 立ち向かう武士どもの覚悟を決めた顔は青白く、そして赤で染められ踏まれ蹴られ塵となる。
 何のために、戦っているというのか!
 これほどまでの差を前に、どうあがけというのだ。
 希望を捨てきれないがために絶望に晒された武士どもの闘志も命のもはや風前の灯火――ここを抜けられてしまえば、彼らの守るべき未来が破壊されつくす。
「神も仏もおらぬのか――!」
 ――欠けた刃を腰から抜いて、また勇気ある命が潰えゆくのだった。

●「死」こそが彼なり。
「がァーっはっはっは!お前等、よく集まってくれたなァオイ!」
 轟くような笑い声と共に猟兵たちに明日を任せるグリモアベースに現れたのは、ヘンリエッタ・モリアーティ(犯罪王・f07026)の内在する人格が一人『ヘイゼル』だ。
 女の体でありながら、男である彼はどっかりと床に胡坐をかいて座る。
 集まった猟兵たちにとりあえずその場に座ってくれと手で合図を送った。
「サムライエンパイアで、とんでもねェ合戦が起こってンだわ」
 にたにたと笑いながら彼は挑戦的に、そして端的に事のあらましを説明する。
 サムライエンパイア――今回は、呪術法力とUDCアースに似た国となぜか似た歴史をたどる島国「エンパイア」が舞台となる。
 戦国時代が明け、今や江戸時代。
 徳川の彼らがこの世界を統治し、数多の魑魅魍魎との拮抗によって苦しめられる世界だ。
 猟兵たちが事前知識として思い出す傍ら、ヘイゼルは楽し気に告げる。

「お前等にゃァ、エンパイア側についてもらいてェ。なんてったって相手はあのノブナガのシンパだぜ!オダ・ノブナガの兵どもだ!知ってっか!?『第六天魔王』っつーんだってよォ!」
 今回の事件は――サムライエンパイアの黒幕(オブリビオン・フォーミュラ)である、第六天魔王「織田信長」の軍勢が攻めてきたことにより諸藩の砦を攻め落とそうとし始めたのだという。
「やっべーだろォ?そうだ、どこもかしこもせめて来やがる。きっひひひひ!!チョーゾクゾクするよなァ!?そうだろう、ああそうだろう!」
 手元に浮いた赤黒い蜘蛛糸――グリモアだ――を操って、ヘイゼルはエンパイアの地図を浮かす。

 諸藩の数は多い。なにせ徳川の息がかかった藩主共の数だけあるのだ。つまり、それだけ守るものも多くある。
「数百人のサムライどもがどの砦にも配置されてるが、まァ、どいつもこいつも俺様の予知じゃあぶっ殺された」
 凄惨な死に様だったぜ、ありゃァ大義も何もねェ。と珍しく困ったように笑うヘイゼルは己の腰に備わった刀を握る。

「ホントーは俺様も暴れてやりてェが――俺様が予知したンだ。俺様が呼んだ手前等にやってもらいてェ。いいか、頼むぜ。負け戦なんか見るのはごめんだァ」
 誇りを折られ、斬られ、あまつさえその死体の首を奪われることなく頽れた先から踏みつぶされてゆく哀れな武士どもを救わねばならぬ。
 猟兵たちに頼み込むように、一度両こぶしを突いて頭を下げた。
「今から、お前等を『襲撃の直前』に送る。ただこの戦いは激戦で、連戦だぜ。覚悟してけや」
 まず第一線にやってくるのは、信長軍が一番槍――魔神兵鬼『シュラ』。その変異体『焔(ホムラ)』である。
「わかりやすいバーサーカーでよう。火炎に強ェやつが前にでると良いかもしれねェ。各々己らの得意なことでやっちまったほうがいいな」
 そして、二戦目にやってくるは追撃のからくり人形ども。
「これくらいの手合いになってくるとサムライたちも協力できらァ。こいつらと共闘して、少しでも三戦目に備えて立ち回るとファインプレーだ」
 サムライたちとて、護られるだけではきっとおさまるまい。
 頷いて各々の作戦を立てる猟兵たちを順にみて、では最後にとヘイゼルが敵の情報を『巣』の上にホログラムとして浮き出した。
「ラストがこいつだ。『闇刃阿修羅』。最初は御仏の姿で神々しくかましてくるだろうが――蓋を開けりゃァ気味の悪い怪物でしかねェ。死ぬことを幸福とし、義務だっていう洗脳がお得意な輩さ。真正面から叩き斬って、否定してやろうや。オーケイ?」

 猟兵たちの前に己の刀を握る拳を突き出して、彼は問う。
 この作戦に乗ってくれる猟兵たちであれば、同じく拳を突き出しただろう。

「それじゃァ、頼んだぜ――猟兵(Jeager),SHOW DOWN!」

  赤の巣がその拳から猟兵たちを包むようにして――戦火の中へ導いていった!


さもえど

 四度目まして。さもえどです。
 サムライ、好きです。
 第六天魔王「織田信長」の軍勢が諸藩の砦を襲うので、防衛してくださいという三連続戦闘シナリオになります!
 大規模な作戦のつもりですので、お友達とご参加などもよいかもしれません。

●構成
 第一章:『焔』(ボス戦)
 火炎を扱う一番槍のオブリビオンです。
 かっこよく戦ってしまいましょう!
 第二章:戦闘(集団戦)
 織田信長軍のオブリビオンたちが猟兵たちを襲います。サムライたちも猟兵に協力します。
 第三章:戦闘(ボス戦)
 信長軍の指揮官オブリビオンと戦います。どんな劣勢であれ最期まで抗ってきます。
 皆様のプレイングで物語がいかようにも熱く展開すればよいと考えておりますので、ぜひご活躍のほど宜しくお願い致します!
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第1章 ボス戦 『修羅の魔神兵鬼『焔』』

POW   :    剣刃一閃・焔ノ太刀
【近接斬撃武器を振るうと同時に放たれる炎】が命中した対象を燃やす。放たれた【業深き修羅の】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD   :    剣刃無双・絶影陣
【見切る事が困難な程の無数の斬撃】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    剣刃一殺・不意穿ち
【一切の予備動作無く必殺の突きを放った後、】対象の攻撃を予想し、回避する。

イラスト:森乃ゴリラ

👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠蒐集院・閉です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


● 焔よりも熱く

ごうごうと燃え盛る鉄が、熱でその身を揺らめかせる。
この武人に、大義などはない。
「――で、あろうな。貴様らなら我らの前に立ち塞がろうよ」
ただ己の手で燃やして良いものがあると命を受けたがために、そこに立つ。

転送が済み、武人があたりに火を放つまでに間に合った猟兵達が遭遇するは、背の大きい、紛れもなく焔に飢えた修羅であった。
仮面向こうの赤の瞳は焔よりもずぅっと紅く煌めいて、猟兵達を向く。

「我こそは、織田信長軍が一番槍『焔』。いざ、死合おうではないか」

熱風が巻き起こる。灼熱が屈強な身体から放たれ彼が握る大太刀を真っ赤に彩った!
腰を落とし足を肩幅に開く。
ちきりと音を立てて刃が砦を守る猟兵達をその刀身に映す。

「往くぞ猟兵、我が剣技――我が業の前に灰となれッッ!!!」

さあ、いざ!いざゆかん、地獄の果て!!
真守・有栖


神も仏もおらねども
狼ならば此処に在り、よ!

えぇ、お任せあれ!
同じ永海を振るう者として、代わりにずばばっと成敗してくるわ!

あっちあちじゃないの。燃えてるわね!
いいわ。そっちがぼわっとぼーぼーなら、こっちはぴかっときらきらよ!

ふん。吼えるじゃないの!
真守・有栖。刃狼たる私が受けて“たつ”わ。かかってらっしゃい!

抜刀。
刃を交えて、いざ太刀合わせ――って、あっづづづ!!?ちょ、本当に燃えるじゃないの?!!あぢぢぢぢっ?!!
わぅう……や、やってくれたわね!今度はこっちの番よ!

――月喰

刃に込めるは“斬”の一意
業も炎も。一切を喰らい呑まんと
念じて振るうは煌めく光刃

迸る烈光にて、ずばっとぴかっと成敗よ……!


三千院・操
◎◎★★
死合う、死合うねぇ。
おれは侍でも武士でもないんだけどぉ……まぁいっか。
丁度刀の振り方を知りたいと思ってた所なんだ! その太刀筋、その剣技、全部おれに頂戴よ! きひひ!

【サヴァンの叡智】を使うよ。
必殺の穿ちはちょっと面倒臭いから、全身に高速詠唱で幾重にも死の呪詛を纏って威力を削ごうかな。
複写に成功したら纏っていた呪詛を刀のように整形して、そのまま焔を串刺しにするよ!

行動を予想? きひひ! たった一つの思考しかないおまえと、三千院全員の思考を持つおれ。どっちがより的確な予想を出来ると思う?

だけどあんまり考えすぎてると抉っちゃうから気をつけてね。
その筋肉、飾りじゃないでしょ?



●銀の餓狼達

 燃え盛るあたり一帯が、この場の空気を焼く。
 草葉すら、空気中を漂う目に見えぬ塵すら水すら焼いて滅ぼしてゆく。
 ああ、ならば――神仏に頼りたくなる気持ちもわからないでないと真っ白な狼耳を二、三度レーダーのように動かしてから自信たっぷりの顔で破顔する剣の女がいた。
 揺らめく焔と彼女の毛並みの良い銀の髪が赤く照らされて、より彼女を強気に魅せる。
「神も仏もおらねども、狼ならば此処に在り、よ!」
 我こそはと声を上げて、前に一歩進みだすは――真守・有栖(月喰の巫女・f15177)!
 お任せあれと声を高らかに、己の背に負う砦のサムライどもに告げる!
 そのさまを横目で見ながら、圧倒的な戦火の前で昂る男も一人。
「おれは侍でも、武士でもないんだけどぉ……まぁいっか」
 同じく銀の髪をした彼は三千院・操(ヨルムンガンド・f12510)。血管が浮き出るほど鍛えられた手に構えられる刀は――『仇斬』。
 それを視界に入れた有栖が瞼を乾燥する空気にあてられたのもあって、何度もまばたきをして問う。
「あなたも?」
 有栖が腰に携えるのもまた、光刃『月喰』といって、ふたりの刃は「おなじところ」の出だ。
「あれっ?お揃いだね!あはは、じゃあいいや。比べっこしようよ」
「比べっこ」
 けらけらと笑って同じ出の刀を掲げ合う二人が、――試すことと言えば、目の前の敵がちょうどいい。
「どっちがよく斬れるか、さ」
 にたりと笑う操が、傷の顔をした狼のごとくべろりと赤い舌で上唇を舐めてひりりと焼ける空気を味わう。
「もちろん、ずばばっと成敗できるし――お得でいいわね!」
 それでも有栖の自信は揺るがない。
 受けてたとうと言わんばかりに彼女もまた、紫の目で応じた。

 
 前に出た二人の刀使いを『焔』は見下ろす。
 大きな体は、何も見かけだけでない。何人もを炎の「薪」にするためにその剣で屠ってきた歴戦の身体つきであった。
 だからこそ、今二人の刀使いがどのような腕前かはわかる。

「……ふン、かたや狼憑きの剣豪と――喧嘩屋といったところか。他愛なしッ!!」

 威圧。熱された空気に乗せられ熱風が二人を襲うが、汗が顔面から伝っていくだけで二人が怯むはずがない。
 この二人は強者というものに飢え、立ち向かう信念がある!
 強者を喰らい、強者を討ち、強者から学ぶために剣を手にして此処に立つ二人がたかだか喝一つをなんだと鼻で笑ってやる。
「ふん、吼えるじゃないの!」
 があっとまるで狼のように眉間と鼻筋に皺をよせ、愛くるしい顔立ちから――戦う獣のそれに有栖は顔を変える。
「そぉだよ。ちょうど刀の振り方を知りたいと思ってた所なんだ!その太刀筋、その剣技、全部おれに頂戴よ!」
 きひひと悪鬼のごとく嗤う操もまた、喧嘩屋と称された己を肯定して構える。彼も紛れもなく有栖に劣らず獣であった!
「よかろう!!獣どもよ、斬り伏せて『薪』にしてくれるわ――好く、燃えよッッ!!」

 相手の踏み込みと同時にまず前に出たのは有栖だ!
 振るわれた大太刀を『月喰』で受け止め、ぎゃりぎゃりと燃える刀身に乗って断ち切ろうとするが――めらりと薄着の肌を炎が撫でた。
「あっづづづづ!!?――ちょ、本当に、燃えるじゃないの!あっぢぢぢッ?!!」
 たまらず、ぎちりと音を立てて一度刀同士を押しつけ払うようにしてお互いの刃を地面に向ける!
「よくも、焼いてくれたわね……!」
 子犬のような悲鳴を上げて、ぎろりと相手を見る紫を赤の業は嗤うのだ。
「悪いのぅ、狼よ――焼ければなんでも構わンのだ」
「へぇ、じゃあおれといっしょだ!」
 わなわなとお互いの力で震えた大太刀を、次は予備動作なしで焔は赤の軌跡を描いたまま――己の死角から『仇斬』を抜いた操めがけて振り下ろした!
 その隙に熱で赤く焼けた左の太腿と左の腕をかばいながら、有栖は距離をはかる。
 狼を逃がしたか、と内心焔が舌打ちをする間。
                          ・・・・・・・・
 確かに振り下ろされた大太刀は操を打った。だが、――打ったにすぎない!
 燃え盛る刀身の下で、耳障りな笑い声が響くのを焔は鈍く光る赤を曇らせる。
「『――へぇ、そう使うんだ!』」
 操を護るように黒の魔力――彼が内に宿す『三千院』の呪詛――が彼の鎧が如く『仇斬』を、そして彼の上半身を覆うように守っていた!

「ぬぅ、妖術か!」
「いいや!【サヴァンの叡智】だよッッ!」              フェイク
 脳内での演算が済んだのだからこれ以上接敵する必要はあるまい!完璧な模倣を生み出せるほどの能力を展開する操は、『焔』の剣技を奪う!
 振り払うように、的確に操の不意を突こうと払われる剣技には、纏う呪詛を刀にして応じる!
             トゥーソード
 『仇斬』と『呪詛』の――二刀流。
  
 かつて存在した二刀の剣豪を真似たそれに、歓喜をこめて焔は笑った!
「おお!おお、貴様――『かの剣豪』を真似るというか!滑稽な奴よッ!」
 それには返事を返さない。腰を低く落として一度腕を引く。
 構える操の笑みは、影が落ちて真っ黒だが赤い口内を晒して勝負に悦び、震えていた。
 また、彼は強さを得たのだ!
 たった一人の思考を持つが何人をも生前から焼き払ってきた焔と、『三千院』一族の命を代償に『彼らの知識』を得た操。
 さあ、どちらの知が勝り、技が煌めき、穿つのか。
 お互いを赤同士が睨みあう――その間を、銀に煌めく狼が走った!

 月を喰う狼が如く、銀の刀身が二人の間を走って弧を描くように振り落とされれば、地面が割れる!
 迸るは意志の裂光、振るわれるは“斬”の一意!
 有栖がこの機を逃すかと言わんばかりに牙を剥きだしに歯を噛みしめ、剣をもう一度振るう!
「――ォおおおおおああああああああああああッッッ!!!」
 空気を裂く音は操にも届く。それほどの威力を物語る!
 小さな華奢な女らしい体が、剣豪と言うものを業に叩きこんでやろうと――狼の如く地獄の焔に吼えるのだ!
「ぬゥ、ううううううッ!」
 その威力、まさに炎をかき消さんとす!
 ごうごうと燃える炎が剣の威力に負け、放射線状に燃え広がる。その赤は持ち主である焔も焼くが、同時に接敵する有栖を焼く。

 しかし!

「次は、ッ、にげ、ないンだからッ!!」
 先ほどは熱さにたまらず逃げてしまった――だからこそ熱さを知った!知った痛みなど、彼女の前では恐怖にすらなり得ない。
 負けてたまるか、自信に満ちた己を鼓舞する先ほどの言葉を思い出す。     
 見栄を張ったのも少しはあるが、それでも今の彼女は剣を振るう剣豪なのだ。負けの二文字を考えてはいけない。
                      見栄を張った
 必ず勝利を手にする。だから――己 を 追 い 込 ん だ の だ !
「ぐぬぅうううおおおッ、小癪ッ!!」
 燃え盛る己の焔に身を焼かれながらも楽し気に有栖と刃を合わせ続ける焔の脳は――一つでしかない。
 そして狼である有栖がその力をフルに使って彼ごと炎を斬ろうと踏み込んでくる。だから、『彼』のことはすっかり抜け落ちていた!

「一人に考えすぎだよ――もらッたァ!!」
 
 尖った牙を見せるほど口を開いて吼える雄狼――操だ!
 先ほどの腰を落とした体勢から駆け出して、刃を交えてその場から動けない焔を穿つ!
 彼が真似るのは先ほどの焔の剣技【剣刃必殺・不意穿ち】。
 予備動作なく、まるで最初から使い方など心得ていたかのように二刀の刀で、強靭な筋肉で覆われるわき腹を貫いた!

「ッお」
 鈍く声を上げ、ぐらりとよろめいた質量に有栖が身を後ろに引く。

 それに合わせて操も後ろに下がった。油断はならない――確かに穿ったが、これごときで倒れる手合いでもあるまい。
「さっきの比べっこ、おれの勝ち?」
「いいえ!まだ終わってないから試合続行よ」
 軽口を交わし合いながらも二人が見ているのはよろめいた焔だ。
 ぼたぼたと血を垂らす己のわき腹を、ごつごつとした人殺しの手のひらで撫でれば、焔の熱されたからだで血が蒸発してゆく。
「く、ふふふ、ははははッ」
 鉄の頭からはくぐもった笑い声が響いた。

「ふふふははははははははッッッ!!好い!好いぞ猟兵ッッ!!――貴様らは我をも燃やすのかッッ!!」 
 ごううと砦の前で、焔を中心に炎が湧く!まるでそれは、彼の歓喜を、闘志を、――地獄を表すかのよう。
 傷口から噴出する地獄の焔が――みるみるうちに彼の傷を「焼いて」塞いだ!


「死ぬのはもとより前提の上よ。貴様らもそうだろう?そうでなければ――焼き殺すまでよなァッ!」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

シュテルン・ガーランド
サムライエンパイア、初めて訪れたけれどなんとも風情がある街並みで楽しいものだね
おっと、僕達は戦いに来たんだものね、気を引き締めていかなくては
オダ・ノブナガ?歴史には詳しくなくてね、僕にもわかんないや
でもね、倒さなくてはいけないことは分かるだろう?
一番槍の彼、僕らの小さな身体で翻弄してやろう

トリニティ・エンハンスで、風の魔力と共に攻撃力を上げていこう
無事に戦えるよう祈りを込めて
テーブルナイフでチクチクと切りつけて差し上げよう
大丈夫、今はマナーなんて必要ないよ、美味しくいただいてしまおう
敵の攻撃には気をつけて。小さい僕らはきっと真っ二つさ
攻勢が悪化したら水の魔力に切り替えて防御を上げて耐えしのごう


花剣・耀子
◎★
嗚呼、そう。
それでも立っているのなら、確かに修羅と呼ぶに相応しい。
――傷を焼いて塞ぐというのなら、塞げなくなるまで斬り果たす。

打ち合うには炎が邪魔ね。
避けられる限りは避けましょう。
易く燃やされてやるつもりはないのだけれど。
遠間から狙っても埒が開かないなら、踏み込むわ。

この身が燃え落ちなければ、剣は振れる。
痛みを噛み潰し、風を呼んで吹き散らして。
炎を刃で斬り開きながら、おまえに至るための道を付けましょう。
ひとりで此処に立っているわけではないから、
これだってきっと無駄にはならない。

お生憎様。
あたしは、死ぬために生きているわけじゃあないわ。
死なんて只の結果でしょう。
生きるために死線を踏むのよ。



●花剣と歯車の大魔術

肌を焼くような熱風と、ほとばしる戦意、そして血が飛び交うこの灼熱の中で次に前に出たのは冷静に眼鏡の向こうから澄んだ蒼を灯した女性。
己の魂を、肌を焼いてまでなお猟兵たちとやりあおうと前に出るのは羅刹の彼女――花剣・耀子(Tempest・f12822)。
漆のような黒を身から生やしまた絶対の黒を纏う彼女はコードネーム『花剣(テンペスト)』と呼ばれる。
 腰に携えられた残骸剣『フツノミタマ』はその身を布で護られていた。
 傷を焼いて塞ぐ目の前の人斬り『焔』をさて、どのように攻略しようかと一度眼鏡のつるに手を添えてからベストポジションへともっていく。

「――傷を焼いて塞ぐというのなら、塞げなくなるまで斬り果たす」
 ぽつり、つぶやく作戦は『斬る』ことだけを考えたもの。
 漆を頭に乗せた花のような唇からは想像もできない勢いのある作戦に、彼女の膝にも満たないほどの鼠が鳴く。
「僕達は戦いに来たんだものね、気を引き締めていかなくては」
 くすくすと小さく笑う彼こそ、シュテルン・ガーランド(歯車の冠・f17840)のモノクル、ラート。
 廿日鼠の彼女の体を借りながら、モノクルの彼が戦況を見る。
 街並みこそ圧巻で美しいものだ。
 サムライエンパイアというのは彼が「モノクル」になってしまう前の世界と比べて、人の手で成り立ってきたものが多い。
 もちろん多少魔術の干渉もあろうが、城の大岩で作られた壁は全て手作業でつんだものだと事前の知識で知った時は驚いたものだ。
 オダ・ノブナガが何者かは歴史に疎い彼も鼠の彼女もわからないが、この人の手で作られた風情ある世界を壊そうというのなら守るべきであると判断した。
「一番槍の彼、僕らの小さな身体で翻弄してやろう」
 細くも長い尾をしならせて、耀子を見上げる。
 斬る、とにかく斬るのだと突っ込もうとする彼女についていくのはシュテルンとラートなりの作戦である。
「君、強そうだね。大丈夫、今はマナーなんて必要ないから、美味しくいただいてしまおう」
 くる、と指で円を描くように空をかき混ぜていくシュテルンを、耀子は不思議そうに見ている。
 この小さな彼が、炎に焼かれてしまわないかどうかを考えてから頷く。
「ええ。勿論」
 彼の身を焦がす前に、己が剣で炎ごと斬りはらってしまえばいい事だ。そう結論付くと同時に、黒曜石の色が――走った!


 打ち合うにはまず炎が邪魔なのだ、ならばその炎は避けねばならぬ!
「く、ふははははッ!!狂っておるのか、おらぬのかッ!死にに来たかッッ!!」
 ごうと大太刀を正面にひと薙ぎすれば、たちまち炎は空気を走りまるで光線の如く空を貫いて燃やしてゆく!
 体勢を変えて、スライディングをしながら前に進もうとする耀子の宙に残る髪が燃える嫌な匂いがした。それでも、耀子に焦った様子はない!
 この手合いは遠間から狙っても埒が明かぬ――現に、炎を放つような術も扱うのだ。
 人を斬ることではなく、人を燃やすという執念だけを背負った焔に耀子が太刀打ちできる手段の中で、一番成功度が高いのはやはり近距離での剣戟である。
 ざりりりと土ふまずで地面を滑りながら、炎の切れ目を見つけて一度静止してから前へ駆け出す!
「まるで猪よのう、女!突っ込むことしか知らぬかッ!?――そうら!燃えてしまえッッ」
 空気を次は横に裂くようにして振るえばまた炎が風に乗って耀子に迫ってくるではないか!
 体勢を立て直し走り出した直後の耀子の頭には、対策を講じる時間も魔術構築の暇もない!

 だが、ここで止まれない。
 ――止まってなるものか!          ・・・・・・
 たとえ、この身が燃え落ちなければ――いいや、燃え落ちても剣は振るう!

「ッう、ぉおお――」
 迫った炎を躱す術がないが、剣だけはその手に握られている!
 抜き放ち、布を垂らす神器の名を背負う刀を構えた。
 ならば炎ごと斬ってしまうまでである!
 構えた刀身に炎が触れれば神器が熱を孕みながら断ち切った。

  赤 の 壁 を 超 え た !

 炎を弾いたのだと耀子が判断する――刹那、思考の空白を使って焔は耀子の眼前に迫る!
「見事なり、だが届かぬッッ!!」
 しまった、と思うと同時に耀子はまだ諦めぬ。
 ここに一人で立っているわけではない。そう、先ほどは鼠のモノクルがくるくると指を回していた。

 鼠、モノクル、指、旋回。
 空気、巻く、――風!

 耀子が己の評価を思い出す。
 耀子こそが、花を散らす嵐の具現ではないか!この神器を握る己の手には、剣を使う以外にも使い道がある。
 戦場をかき乱す暴風を纏う嵐を、巻き起こせばいい!

「言ったろう?――今はマナーなんて必要ないのさ」
 焔と比べて彼らはあまりにも小さすぎて、影の刺客に気づかなかった!
 地獄の焔を掻い潜り、全てこの時のために魔力を【トリニティ・エンハンス】のために溜めていたのだ。
    マジック
 今こそ大魔術を起こす時!そう判断して、小さいからこそ一撃のダメージを考慮しずうっと機会をうかがってきた。
 刀使い二人が争う――顔を突き合わしたこの瞬間に巻き起こるのは竜巻!
「ショー・タイムだ」
 モノクルの彼と廿日鼠の彼女が微笑むのは同時だった。
 その表情の動きを足元を見やって感じとった耀子が己も嵐の如く暴風を纏う!

「――ッおおおおお!!?」
 
 土埃と砂を吸い上げながら立ち上る竜巻が、焔と耀子の間に発生した!
 たまらず距離を取った焔の業が、竜巻に吸い上げられていく。
「クッはははははッッ!我が業をも風に吸うたか!」
 それでも楽し気に笑っているのは――燃やし甲斐を確かにこの二人に感じたからだ。
 片や未成熟の女、片や小さな鼠と思って早く燃やしてしまおうと思ったものだったが、焔にとって二人はなかなかどうして燃やすのが惜しいほど楽しい相手である!

「さァどうする猟兵!我が業を一時取り上げたぞ!なれば、死ぬほどやりあおうではないかッッ!文字通り、死ぬほどな!」

「お生憎様。あたしは、死ぬために生きているわけじゃあないわ」

              花剣・耀子
 漆黒の暴風を纏いながら――黒耀の剣使いが駆ける!
「頼むよ、お嬢さん。君は強い」
 微笑むモノクルの彼が暴風から逃れるために風に乗って戦線の離脱をするのを視界の端に収めた。

「『散りなさい』――『花剣(テンペスト)』ッッッ!!!!」
「よう来たッッ!受けてたとうぞ黒の女ッ!!――『剣刃無双・絶影陣』ッッ!!」

 互いの剣が――今、交錯する!
 無数に放たれる、熱を孕んで赤く光る剣を――すべて叩き落す!
 火花が散る、血が散る、お互いを斬り合う。            テンペスト
 片や死んでも構わぬという気迫で、その刀を振るう!だが、彼女は――花剣たる気迫で応ずるのだ!
 「死なんて只の結果でしょう」
 吐き捨てるように耀子が言う。
 死など負け犬の姿でしかない。己が負けたという動かぬ証拠にしかなり得ない。
 だから、そのようなものを望んで戦うのではない!
 
「あたしはッ――生 き る た め に 死 線 を 踏 む の よ ! ! 」

 咆哮だった、魂からの叫びだった!
 それを聞き届けたのか耀子の勢いを増すよう追い風が吹き荒れる。
 無数の斬撃をいなしながらも前に進む耀子の肩に、もぞりと動くのは――激戦区を離脱してから、風に乗ってここに着地できたシュテルンとラートだ!

「そうさ、生きるために戦うのだよ――僕 ら は ! 」
 放たれたテーブルナイフが金の軌跡を描いて、焔の左手の甲に風とと共に突き刺さる!

「ッグ!?」
 予想外の場所からの痛みを感じ、焔が集中を欠いた!

 今、――!!   ・・・・・
 体が判断するよりもずっと早く耀子の剣は振るわれていた。
 前にかがんだ身体が、テーブルナイフを目印にして――手首からひじにかけてを切り裂く!!

「ぅうう、おぉおおおおおおおおお!!!!!」
 どちらのものとも言えない咆哮が巻き起こって、耀子は暴風と神風の勢いのままに前に転がり、シュテルンとラートを乗せて戦線を離脱!
 手ごたえはあった。
 炎で焼いたところであの傷ではもう左は大太刀を振るえまい!
 確信と共に、金細工の彼が笑うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴィリヤ・カヤラ
◎★△

見るからに熱そうだね、
少し冷えてみる気はない?

敵の動きは良く見るようにして、
敵の炎は『火炎耐性』で、
攻撃は『第六感』で出来るだけ避けるか、
『武器受け』で防げたら良いな。

【氷晶】で牽制と見せかけて、
突っ込んで黒剣の宵闇で攻撃仕掛けてみるね。
途中で攻撃に気付けたら宵闇を蛇腹剣にして
離れて攻撃していくよ!
使うタイミングがあれば【氷晶】も使っていくね。

連携相手がいるなら自分が攻撃を受けてる時にも
攻撃チャンスが出来るから構わず敵に攻撃してもらうね。

怪我が酷くても表情には出さずに笑っていくよ、
強敵と戦うのはそれだけ経験にもなるし楽しいしね。


音羽・浄雲
※アドリブ、絡み歓迎です。

「木瓜紋。あの旗印を忘れられましょうか」
 天正、伊賀。浄雲の故郷は織田に攻め滅ぼされた。全て殺され、全てを焼かれた。
「恥を偲んで生き延びて幾星霜・・・・・・待ったぞ織田。漸く、漸く己等を滅ぼす機会が巡りきた!」
 懐から【欺き光秀】、【貫き秀次】を投擲すると同時、【謀り長慶】を抜いて焔へと駆ける。
「尋常に仕合ってなどやるものか。疾く疾く滅びよ」
 手裏剣の投擲は無論囮。そして振りかぶった脇差すらもまた囮。
 怒りに任せた隙だらけの一撃と見せれば少なからず焔も隙を見せるだろう。そう浄雲は読み、焔の反撃に合わせて【天狗風】で虚空を蹴って背後を取る【騙し討ち】を狙う。


イリーツァ・ウーツェ
【POW】
主方針:他猟兵を守る様に行動
即時、UCを防御力中心で発動。
味方の邪魔にならん様に動きつつ、敵の攻撃を邪魔する。
(見切り)
翼や尾を使い防衛するが、防ぎきれん場合は威力の減衰を狙う。
(盾受け+なぎ払い)
相手がUCを使ったタイミングで攻撃に移行。
炎には杖の妖魔が生成する水で対策。
延焼を防ぎつつ水塊をぶつけ、発生する湯気を煙幕代わりに距離を詰める。
刃を横から叩くように弾き、足の甲や指を突いて砕き、体幹を崩す。
隙を見せたなら、相手の首を顎の下から掬い上げるように杖で薙ぐ。
(怪力+鎧砕き+なぎ払い)
成功失敗に関わらず、尾を敵の腹に打ち付け、そのまま遠心力で距離を取る。
再び他者の防衛に戻る。



●鉄壁ストラテジー

 木瓜紋の旗が遠くに見える。戦火にあてられて赤く煌々とするそれを、憎らし気に見つめる彼女がいた。
「おのれ――おのれ、織田」
 音羽・浄雲(怨讐の忍狐・f02651)。赤い目に映された地獄からの赤が、彼女の記憶から焼ける痛みを思い出させる。
「木瓜紋。あの旗印を忘れられましょうか」
 浄雲の故郷は、妖術を扱う傭兵集団【音羽衆】の住処であった。
 かつて、彼らは勇名を馳せたものだったが――目の前の織田軍どもに挑んだが運の尽き、一族諸共、野草でも刈るかのように里ごと滅ぼされて行った。
 経歴だけを語るのなら、とても単純明快。
 かつ、織田を恨む道理がある。だが、彼女の胸中はそれだけでは済むはずもない。
 あれは、みせしめではなく虐殺だったのだ。
 抵抗すればこうなるぞ、という諸藩への訴えではなく必要外の犠牲を作った。完全な「絶滅」を意図した悪行である。
 それが、織田軍が音羽衆を敵性が非常に高いと踏んで行った行為であっても――いくさとして妥当な行為であったとしても、浄雲の怨嗟を止める盾にもなるまい。
 浄雲は見てきたのだ、これからもずぅっと彼女の脳裏に焼き付いて離れない。
 あの惨劇を抱えて何度も思い返してはあの場所に戻ったような感覚になってしまう。
 燃え落ちる人間の顔がどのように溶けていくのか。
 人が燃える時のにおいというものはどうだったのか、命を喪う人間のひとみを見た。
 炎はどうやって燃え広がって、どのようにすべてを奪っていったのか今でも事細かに思い出せる。
 これから先――幸せに笑うことがあっても、ちりりと頭の端を誰かに焼かれたような気持ちで生きていかねばならない。
「嗚呼、どれほど、っこの時を待っていたか!」
 もっとも、目の前の織田軍を斃さねば彼女に幸せなど訪れはしない。
 怨讐にまみれる報復の狐が、口元の凶悪を隠せないままでいた。

「ねえ、大丈夫?見るからに熱そうだね」
 復讐に駆られる狐の後姿が、気になった。
 ヴィリヤ・カヤラ(甘味日和・f02681)は美しい人形のような造りをした顔を、心配の色にわずかに染めている。
 ――熱そうだね、という言葉は狐への共感と、客観的な今の彼女の姿にだ。
 氷を扱うヴィリヤの手のひらから、心地のいい冷気が流れる。
「御免。少し、織田とは確執がありまして」
 その冷気が、浄雲の熱を少しだけ下げる。己が怨嗟と怒りに狂っているのは、浄雲が一番よくわかっていた。
 たとえ正気でおられずとも、狂気に蝕まれては命を落とすやもしれない。
「うん、君の顔を見てればわかるよ。だから、行こう。――もう一人くらいお誘いしていった方が、万全だね」
 この戦いは私闘ではない。
 未来をかけた皆の戦いであるから、万全な策で挑まねばなるまい。
 目の前で剣戟を繰り広げる焔が、黒耀と鼠の彼女らに夢中でよかった。今のうちに、お互いの欠点を補えるような仲間を集めようとヴィリヤは動き出している。
 浄雲には陽動と攻撃役を担ってもらうとして、ヴィリヤ自体は魔術で援護をする。では、あと足らぬは盾か。
「同行する」
 彼を、言葉として表すのならば――堅牢の盾竜といったところだろうか。
 トレンチコートをたなびかせ、黒く短い短髪が彼の意志の鋭さをまるで表現するようだ。
 イリーツァ・ウーツェ(盾の竜・f14324)は鋭い眼光を隠しもしないまま、水を宿した杖を握り彼女らの前に現れた。
「実力ともに信頼しているが、私は私が出るべきと判断した。どうか」
 連れて行ってくれ、と頭を軽く下げた竜に、ヴィリヤと浄雲は目を合わせてから頷いた。
 彼こそ、盾役に相応しい。得意な戦術を示し合わせたときに、彼はほかの猟兵(なかま)を守るために動くという。
 表情の変化に乏しいが、だからこそ理性的であるだろうとヴィリヤも踏んだ。
 戦いによって学習を繰り返すヴィリヤだからこそわかるのは、口数の少ないイリーツァから心の動きが少ないということだ。
 それは、恐らく動物が獲物を狩るようなときのもので、いたって冷静である。余計な情動が少なく、適切な判断ができるということでもある。
「もちろん、行こう!」
 そして何より、きっと彼は恐れ知らずだ。そう、推理した。
「ええ、『天すらも自在に駆けて御覧に入れましょう』」
 この仲間たちも、燃やしてなるものか――心の底で浄雲が誓う。それは、今からの作戦のために音羽忍法【天狗風】(オトワニンポウ・テングカゼ)の発動でもあった。
 そうそう燃えぬであろう頼もしい仲間たちではあるが、最悪の結果だけは想定して動かねばならない。
 なぜならば、彼女は音羽の忍者である。だが、猟兵であることも忘れない。
 この仲間たちも守るべき、なかまだった。


「ぬぅううううッッッ!!」
 ぼたりぼたりと血を垂らす己の左腕を焼こうとも、どうやら腱を斬られてしまったのか動くことはなさそうだ。
 少しばかり頭の鎧を彩る赤の光が鎮まった。
「くっ、ははは、ははははは―――ッッ!!!」
 瞬間、焔が発火する!
 彼が己の左腕を『焼いた』。身に炎を纏い、振り回そうというのだ! 
「薪であればなんでもよい!己の体であっても構わん――ああ、存外よく燃えるではないかッッ!!」
 響くは、狂笑!
 だが、――耳障りなその声に、冷気がたどり着く!

「少し冷えてみる気はない?『氷よ、射貫け』!!」

 美しい声色に乗せられた詠唱と共に放たれたのは――【氷晶】!二〇五本の氷の刃が焔の正面から放たれた!
 口から白い息を吐いて金の瞳を魔術で煌めかせるヴィリヤが挑発的に微笑む。
「次は妖術師か!好い、好いぞォッ!」
 対抗する焔は無数の斬撃を放つ!先ほどよりは腕一本足らない分威力に衰えがあると言っても、ヴィリヤが放った氷をすべて撃ち落とさん勢いで刀身に炎を滑らせ斬りはらっていく!
「はは、やるねぇ!」
 ここまでは計算通りなのだ。己の氷剣どもが弾かれていくまでは。問題は――ここから!
 焔が氷のつぶてを凌ぐことに必死なのを確認してから変形武器、「宵闇」を構えて軍服をたなびかせて走る!
 気づかなければこのまま剣体系で斬りつけるまでだが、相手も相当大太刀を振りなれている。蛇腹剣に変形させることも想定して柄に力を込めた。
 さて、ヴィリヤがたどり着くまでの瞬間は――怨嗟の狐に譲ろうではないか。

「恥を偲んで生き延びて幾星霜――待ったぞ織田。漸く、漸く己等を滅ぼす機会が巡りきたッッッ!」
 地獄の底からの咆哮と共に、怒りを露わにして突っ込むは浄雲!駆けながらも放った【欺き光秀】、【貫き秀次】は音羽の手裏剣である。
 鎧すらも射貫くその鉄と、不可視の手裏剣が風を切って接近する音に気付き焔が左の使えぬ炎の腕を振る!
 肩の関節がまだ動くのだ、痛みすら曖昧になった腕で手裏剣を受け止めた。
 その手裏剣に見覚えがある。焼いてばかりの彼が、焼いたはずのものを忘れるはずもない。
 どうやれば焼きやすいか、等は歴史と人の心を知るよりも興味があったのだ。
「おお、貴様。貴様、音羽の生き残りかッ!?く、ははは――あの時にすべて燃やしてやったと、思うたがなァ!」
「挑発だよ、乗せられるなッ!!」
 叫ぶヴィリヤの声が遠い。浄雲が歯をむき出しにして奥歯を噛む!
 走る身体は予定通りに妖刀【謀り長慶】を抜いているが、どうか獣性に駆られるなと願うヴィリヤが蛇腹を振るう!

「ッ――ぐぉ!?」

 蛇腹剣となった黒剣は、焔の屈強な体を締めて拘束する!動けば刃がにじみ流血は必死の状況にもっていった――さあ、どうなるかとヴィリヤが微笑みを絶やさぬまま浄雲を信じる!
 だが、その美しい顔に汗が垂れた。
「そうよなァ、熱かろう?」
 にたりと顔のない鎧が嗤う。すっかり熱されて今や炎そのものの厚さがある焔の体を締め上げる黒剣は鉄塊――熱伝導が起きて、ヴィリヤの手袋ごと焼いてくる。
「熱いね」
 シンプルな回答を返す。これは、報告だ。ダメージを受けるぞという報告。
「涼しいのは、用意できてる?」
 たらりと鼻頭にたまった汗が垂れて顎を伝う。予想外に、我慢しきれぬ熱がある。体中の水分を奪われるような感覚に『彼』を呼んだ!

 どう、と地面を蹴る音と共に跳び、その羽を使って上空から確かな質量を持って落ちてきたのは――イリーツァ!
 ぎらりと赤の瞳は己の作戦開始を語る。その瞳にこくりと頷いて、ヴィリヤが鉄から手を離した。

「――ィイイイイイアアアアアアッッッッ!!!」
 そしてその場に追いついたのが剣を抜いた浄雲である!
 前脚を強く踏み出しての斬りこみ!だが、それを多少体を揺らがすことで焔はかわす。
「おのれ、小賢しいなッ!」
 浄雲が体勢を低くしてわざと長身の焔と接敵をするようで、すばしっこくちくちくと炎を斬るだけにとどめていく。
 炎を放って浄雲を焼こうとする焔であるが、動けば動くほど腹に巻き付いた蛇腹剣が食い込んで牙を立てて往くのだ。
「ッぐは、ははははッッ!あの魔術使いも粋なものよ――だが!」
 己の右手が血に塗れるのもいとわぬ!
 熱を灯したままの右で、蛇腹を掴んでずるりと――腹筋も皮もなにもかもを抉りながら――抜いた!
「よい得物を預けてくれたッッッ!」
 
 そうして、ブンと浄雲に蛇腹を振り下ろす!あわや、かわし切れぬかと思ったその時に盾の彼が杖で受け止めた!
 吹っ飛びもしない。
 その場に足をしっかりつけて重心も落としたままでびくともせぬ。
 堅牢、まさに彼こそ 盾 の 竜 !

「――、この程度か」
 挑発するようなイリーツァの淡々とした感想通り、彼はびくともしていないのだ。
 杖で受け止めた蛇腹が、彼の硬さで吹っ飛んだほど――彼 の ほ う が ず っ と 硬 い !
 ならば予備動作のないこの一撃であればどうだと焔が大太刀を空いた右腕に呼び出す。
 振り下ろされるまでが早すぎる!真上からの急転直下の一撃が重いことなど、見ずともわかるものだった。
「イリーツァ殿!」
 たまらず、浄雲が叫んだ。だが、イリーツァの意志が変わることなどない。
 ちらりと浄雲のほうに視線が動いて――。
「『大丈夫だ、必ず守る』」

 彼が、必ず守ると言ったのだ。仲 間 を 信 じ る し か あ る ま い ! 
 もとより、復讐の念のみに囚われてなるものかと駆け出したのだ。今こそ、かつての再演を防ぐとき!
 彼女は空に飛ぶ、これからの一撃を予期して計画通りに動いた。

 刹那、炎の軌跡と思い一撃が生み出したのは地面を割るほどの衝撃波。
 熱された空気が一度噴出してから、また凝縮して――爆風を生み出した!
 地形が破壊されたのを上空で飛び回り吹き飛ばされないようにしながら、汗の垂れる視界で浄雲が確認したのは――焔の刀を妖魔の水を纏う杖で受け止めるイリーツァだ!

「何……ィッッッ!?」
「――行け」
 その手が大太刀を握る。そのまま、焔の血まみれの腹に尻尾を叩きこんだ!
 血すらひとつ零さずに、丈夫な鱗と【竜翼衛巣・雛守(リュウヨクエイソウ・ヒナモリ)】にの発動により守られた彼の身体こそ、鉄壁!
 焔から距離を取ったイリーツァが後ろに下がれば、居るのはヴィリヤだ!

「いいね、いい仕事だった!」
 合図とともに再び放たれたのは氷の剣!
 次は燃やし尽くして溶かしてやろうと炎を渦まかせれば、炎と氷の壁の接戦が始まった。
 ――だが、これは猟兵たちの作戦である!

 氷の壁を打ち消すことと痛みに夢中で、焔が気づくまいとイリーツァとヴィリヤが踏んだ。だからあとはそれを、浄雲が信じるのみだった!

 望んだのは、浄雲の だ ま し 討 ち !

「疾く疾く滅びよッッッ!!」

 背中、右肩から左腰部にかけて刃を突き立て――薙ぐ!
「――っお」
 予想外の背後からの一撃!これこそ、音羽の忍、復讐の牙である!
 その場に膝をついてなお炎を纏う焔に汗を垂らしながらも、イリーツァを盾に三人は無事撤退していった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御剣・刀也
くはははは!面白れぇ!
燃える剣を使う剣豪か!
面白すぎるぜ!良いぜ、俺の相棒と俺の闘志、燃やし尽くせるもんなら燃やし尽くしてみな!

剣刃一閃・焔ノ太刀は炎が放たれるのでなるべく受け流すなどはせず体さばきで避けて反撃を打ち込む
剣刃無双・絶影陣がきたら見切るのが難しいのならば突っ込んで鍔元で斬られてダメージを浅くしつつ、そのままグラップルで顔面を殴る、あるいは零距離からカンターで突きを見舞う
剣刃一冊・不意穿ちは第六感と見切りをフル活用してカウンターの突きを狙う。無理なら急所を外してあえて受けて、その隙に反撃する
「戦場では俺は死人。死人は死を恐れない。さぁ、俺の闘志と刃、砕けるもんなら砕いて見せろ!」


ゼイル・パックルード
よぉ、似た者同士だな。俺も面白そうな依頼があったからここに来たんだ。
燃やしてくれるんだろ?渇くだけの熱じゃガッカリだぜ?

敵が炎を放ってくる間合いまでじりじりと近づいていく。刀の間合いに入るまで使わないのか、離れた敵に対して使うのか。

刀の間合いに入るまで使わないのなら、熱に強い鉄塊剣を盾替わりに武器受けをしながら、
離れた敵に対して使うのなら近づきつつ炎を避けながら、太刀筋や炎の出方を【見切り】できるよう観察する。炎も耐えられる熱量かをしっかり感じておく。

見切るか隙ができたら、攻撃を避けるか武器受けをしながら間合いを詰めて、相手の炎を散らしながら俺の拳の炎で防ぎながら烈破灼光撃を放つ。


セルマ・エンフィールド
◎★
戦闘狂というやつでしょうか。オブリビオンとなったからなのか元からなのかは分かりませんが、襲われる方としてははた迷惑な限りですね。

熱や冷気には強い体質なので、前に出ることも可能でしょう。が、敢えて剣の間合いに入る義理はありません。

【氷の狙撃手】の射程は最大で1.6km、あなたの間合いの外から狙わせてもらいます。
まずは敵の武器や手足を狙い他の猟兵の援護を。着弾地点の周囲を凍てつかせる弾丸で熱を緩和します。

他の猟兵との戦いの中で隙ができるなど、チャンスを見つけたら胴体や頭を狙い、無数の斬撃の間を縫うような狙撃を。

私は死ぬのが怖い、だから戦っています……理解はし合えそうにありませんね。



●狂悖暴戻の戦術

 とうとう、一番槍焔が膝をついた!
 左腕は使い物にならず、上半身は切り刻まれ己の体はすでに限界を迎えているのをよくわかっているが――それでも焔は狂笑をやめられない。
 業深き修羅である彼の血が戦場を赤く染めあげているのを、喉の奥で笑うのだ。
「良い、死んでもよいと思うて貴様らと死合ってきたが、まだ我が熱は収まらずッッッ!!」
 大太刀を一度、ごんと地面にぶつければ火花が上がる!そうすれば、あたりは一面炎が渦巻いて真っ赤になった。

「なんだァ、くはははは!面白れぇ!燃える剣を使う剣豪か!剣豪っちゃ聞いてたけど、まさか己の血も燃やすたぁな!」
「俺とは似た者同士だな。俺も火を扱いはするけど――撫でるような熱じゃ、足らねぇぞ」
 さあ、燃ゆる彼にいざ斬りかからんとするのは御剣・刀也(真紅の荒獅子・f00225)とゼイル・パックルード(火裂・f02162)!
 二人が挑むは「強き敵」である。
 生粋の武人気質である刀也と壁にぶち当たるたびに笑う戦闘狂のゼイルの目的は一致している。
 打倒すべき強敵を効率よく斃すには、どうやら共闘が不可欠らしいことなど、重々承知なのだ。
 その二人のぎらつく視線などまるで理解も出来ないが、あのまま二人に突っ走らせてしまえば炎と一緒に燃え尽きてしまわないだろうかどうかを考えて、後ろからマスケット銃を構えて援護をはかるのはセルマ・エンフィールド(終わらぬ冬・f06556)だ。
 彼女は冷気や熱に強い体質ではあるが、戦闘に特化した彼らと一緒に前に出る必要などはない。
 出来る限り、遠いところからかく乱して彼らの思い一撃を叩きこめるようにサポートをしたほうがよいのだ。

「私は、遠方で狙撃を。よろしいですか」
「ああ、――スナイパーか。じゃあ前は俺たちに任せな」

 あたりを燃える炎など涼しいかのように、ゼイルが顔色を変えぬままセルマに返事をした。
 死ぬことが、恐ろしくはないのか――?
 ゼイルだけでない、その隣で準備運動のように腕や肩の柔軟をする刀也すら、目には楽しそうな光を宿している。
 燃やせるのなら、燃やし尽くしてみよと訴えそうな彼らの顔はまさに獣のそれだ。
(私は死ぬのが怖い、だから)
 理解はし合えない。
 それでも、だからこそ彼らを導く一手を撃てるはずだ。
 きゅ、と握るセルマの小さな両手がマスケットに魔力を籠めていた。

 
 大太刀を使って立ち上がって見せるかの修羅にはまるで痛みなどないかのように、ぶうんと空気を鉄塊で薙いでいる。
「うン、まだ貴様らを屠れるだけの余力、確かに」
 ダメージになっていないはずがない。
 だが、ああいう手合いは肉体よりも精神のほうが勝っているんだったかなとゼイルが観察をしている。
 その観察が終わるのは待ちきれず、いざ!と刀也が飛び出した!
「戦場では俺は死人。死人は死を恐れない。――さぁ、俺の闘志と刃、砕けるもんなら砕いて見せろ!」
 まるで獅子の如く牙を剥く!
 どうと駆け出した脚は勢いが止まらない!ならばと放たれるのは【剣刃無双・絶影陣】であった。
 だが、無数の斬撃にすらこの荒獅子が止まるはずもない!

「獅子狩りといこうではないかッッ!覚悟せよッッ!」
「うるせぇや!――想定内だぜ、その動きがよォ!」

 より強敵であるからこそ、事前の情報を得たときにすでに幾通りも相対する方法は考えてあるのだ!
 戦うことに頭を使い、死人であると吼える彼だからこそ本当の死というものを体現できる!彼の闘志が、このような事では砕けるはずもない!
 見切るのは難しい、だからこそあえて剣の中に突っ込んでいく!

「う、ぉおおおおお゛おおおおお゛ッッッ!」

 想定よりも、――痛みは大きい。
 熱された鉄が彼の肩を裂いて、頬を裂いて、鮮血が舞うよりもはやく蒸発して消えていく。
 なるほど、これは確かに耐えきるだけでは先に意識をもっていかれそうだなと理解をするが、刀也は笑っていた。
 笑 っ て い る の だ 、 紅 の 獅 子 が !
「――ぬ?」
 何故、この状況で笑うのか。
 鍔元で攻撃を流しながらも、負傷の数は浅くとも多いはずだ。
 傷は燃え、死と言う恐怖はなくとも確実に痛みは伝わっているはずである。
 本能的な恐怖を凌駕する何があるというのか――。
「阿呆か、貴様」
「応よ!阿呆じゃなきゃ飛び込んでねェよ!尤も――」
 人間として、生物として死を恐れないというのは欠陥だ。
 この戦場においても引き際を見誤り死ぬ確立と言うのがぐんと上がっていく。
 だから今己が鉄に刻まれながらも前に進もうとする行為の愚かさなど、よくよく刀也が一番分かっていた。
「阿呆が一人じゃないもんでなァ!!」
 だから、ゼイルも――飛び込んでくると分かっていた!
 この戦火渦巻く地獄に躊躇いなく踏み込むのは、彼ぐらいのものである。
 鈍色の鉄塊剣を振るおうと腰を落として、大きく振りかぶった!
 剣というのは刀と違い、「殴る」武器である。振り下ろした刃の質量で相手の鎧を砕き、骨を砕き、それでから肉を断つ。
 使いようによっては、純粋な打撃武器よりも細部の動きが扱いやすい。それに、別の使い方もある!
 ゼイルに放たれる赤の業は剣を『盾』とすることで防いだ!
「あっちィな」
 確かに熱される鉄がゼイルに彼の業を伝える!この炎は戦場に放たれた炎をは温度が違う。
 いくら鉄に強い彼の剣でも、溶けてしまえばひとたまりもない。
 だが、彼がやりたかったことは――強者の観察と、一瞬の隙を作ること!

「――っっら゛ァ!!!」
「ぐゥぬッッ!?」

 ゼイルに意識を向けたこの瞬間を待っていたといわんばかりに、獅子の拳が鎧の頭を打つ!
 がぎんと鈍い音がしてから巨体が少しふらついて、しかしすぐに体勢を立て直した。
 大太刀が振るわれる!
「構えろッッ!」
 ゼイルが叫んだ。次に放たれるのは不可視の一撃であることは先ほどの戦闘からずっと見てきた彼なら確信が持てる!
 しかし防御の体勢を構えさせるのではない、刀也には魔術の集中が始まっていた。
 ゼイルが合図を出したのは――【 氷 の 狙 撃 手 】!!


「『さて、完全に凍り付くのは何発目でしょうか?』」
 うんと離れたところで、熱も斬撃のダメージも受けない箇所から彼女はスナイプをする必要があった。
 スナイパーであるセルマはもしその身に一つでも傷を負ってしまえば、スコープを覗く手元が狂う可能性がある。
 絶対の集中と、絶対の安全が保障された遠方でないと味方の援護が出来ないことは理解していたが、まさか戦闘狂である彼らからタイミングを促せられるとは思っていなかった。
 もっと、身勝手に戦うものだと思っていた。
 戦闘狂というのだから、周りを顧みずに暴れ散らすものだとばかり思っていた。
 だが、認識を改める。少なくとも味方である彼らは死にに来ているのではない。
 もう、人間としては死んで獣に生まれ変わったかもしれない。
 だけれど、彼らは――勝 つ た め に 戦 っ て い る !
 ならばセルマのこの一撃は、まさにその足掛けになると判断されたのだ。
 
「当 た れ ッッ!!」

 放たれた氷の一撃はゼイルの横を走って――大太刀を刀也の脳天に振るおうとする炎を何度貫いても溶けることが無い!
 白銀の軌跡を描いて焔の胴体に着弾した!
「氷――ッ!!」
 目の前の獅子に氷の魔術は感じられない、奥にいるゼイルには炎の気配しかない。
 ではどこから!と視線を動かすまでに刀也の一撃は完成する!
「『この切っ先に一擲をなして乾坤を賭せん!!』」
 まるで神に力を乞うような詠唱で、戦獅子が吼えた!
 意識を散漫させられ、燃やすべき対象を絞り切れず不可視の斬撃すらもうこの状態からではろくに放てぬ!
 突き出した焔の右の斬撃は――獅子の頬を裂くに留まった!


「――【雲耀の太刀(ウンヨウノタチ)】!!」
 彼の持てる力を、全身全霊注いだ決死の一撃!
 深紅の軌道を描いて振るわれた刀が突きの体勢を取って――凍らされた焔の胴体を貫いた!
「ぐぅううぬぉおおおおおおッッッ!おのれ、獅子よ!貴様は疾く燃やさねばならぬッ!!」
 だがそれで意識をやられるような焔でない!
 一撃を放ったあとの緩みを見逃さなかった。刀が役立たぬなら次は蹴りよと振るわれた太腿が氷に凍てつかされる!
「また――氷使いか!」
 舌打ちを交えて叫ぶ巨体がセルマを見つけることは出来ぬ!あてずっぽうに放たれた炎など、誰の肌も焼けまい!

「熱くなりすぎだぜ」

 確かに熱を孕みながらも、冷や水を浴びせるような指摘を耳にした。
 刀也が全力を放った余韻でふらついた隙間から飛び出す黄金の炎を手に宿したのは――ゼイルだ!
 距離を詰める必要があった、この一撃を絶対のものにするためにはこの瞬間が不可欠だった。

「『一足先に地獄を味わいな!』」
 
 放たれたのは【烈破灼光撃(レッパシャッコウゲキ)】!!
 暗い笑みがその腕の炎で照らされる!まるでその表情、悪鬼そのものである!
 駄目の一押しと言わんばかりに刀也の刀に続いて――焔のみぞおちを撃ちぬく。
「――がっ、は、ッ」
 鎧の頭から泥のような血が吐かれて、焔は衝撃のまま後ろに吹っ飛ばされていく!
 ふうと息を吐いたゼイルの顔がどす黒い血に塗れて、不快そうに顔をゆがめた。

「くせェな。全部燃やしとくんだった」

  

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

加里生・煙
戦うことに、傷つけることに、こいつは 戸惑いはないのか…?
命を傷つけることに、悪に、正しさなんて―
……あぁ、感傷に浸る暇もない!
助けて、救って、守る――戦うしか ないのだから。
アジュア、お前の出番だ。

炎を扱うヤツに銃火器が聞くのかはわからねぇ。俺の出来る攻撃は牽制や誘導用と思って割りきるぞ。
幸いにも戦うのは俺一人じゃない。仲間に合わせるように。合間を縫うように。息もつかせない。
傷を負っても、追い詰めて。踏み込めるときが来たのなら、お前の出番だ。アジュア。
――アレはお前にとっちゃ 美味だろう?

狂気を喰らうのは、頭の奥が痺れるように甘く。骨の髄が燃えるように。
牙を剥いて。その血肉を―
――美味い。




エレニア・ファンタージェン
死合う…?何のことかしら
貴方とは分かり合えそうにないわね
ファラリスの雄牛よりも暑苦しいし…

「苦痛を感じ得ぬ」呪詛を自らに施してから、
幽鬼を召喚、生命力吸収の力を与える

エリィ、避けるのって苦手なの
剣刃一殺はあえてこの身に受けて、身を貫く刃を握り込む
ここまでは予想されている行動かしら?
でも、だまし討ちを仕掛けるのはエリィではなくて幽鬼のほう
そちらも読めて?
いずれにしても、エリィは適当な拷問具で傷口をえぐるだけ

途中で立ち回って幽鬼に攻撃を任せながら、敵の背後に鋼鉄の処女を具現化、そのまま畳み掛ける
「ようこそ」
本当は貴方の趣向に合わせて火刑台をご用意したかったのだけど
夏も近いもの
涼やかに行きましょう



●静かなる乱暴狼藉のものども


 地面に二度三度、体を打ち付けて弾んでは転がっていった。焔は、まだ潰えていない。
 ――それどころか!
「かっ、は、ふはッ、ふふはは……ッ!」
 まだ、笑う。
 まだ、猟兵たちと戦う力が残っている!
 もはや体は限界だった、穴の開いた胸からはぼどぼどと血も絶えず流れ、飛び散った肉片をつなぎ合わせるようにその傷から炎が湧く。
 命がもたないのは、過去である彼は良くわかっていた。おそらく己はこの敵たちを相手に勝利は出来ない。
 だからといって――彼が、炎をおさめていい理由にはならぬ!
「ぐは――っはははははははははァアッ!!もっと、もっとだ!死合え!我と――この俺、焔とッッッ!!」
 爆炎とも言ってよい苛烈な炎が彼を焼く、彼だけでない。
 舞った血がより強さを孕んで猟兵たちを燃え焦がそうとしていた!

「死合う…?何のことかしら」
 困ったように麗しのかんばせを顰めてみせるのは、エレニア・ファンタージェン(幻想パヴァーヌ・f11289)。
 白い服を赤の光に照らされて、エレニアはただでさえ蒸し暑さを感じていた。
 熱には多少――煙管であるから――慣れているとはいえ、そろそろ夏も近いというのに、なんとも暑苦しい敵である。
 困ったようにして、ふわりと白の髪をうなじからほつれ毛を美しくかきあげてから、また熱された空気と風のままに流そうとして、エレニアの肌が汗ばんでいたのを知る。
 ああ、本当に鬱陶しい相手だこと。
 心の中でやはり毒づいてしまうのは、己が熱されるときのことを思い出してしまうからだろうか。
         エリィ                       エレニア
 優雅に在る今こそ彼女であって、煙管で人々に甘い夢を見せていたころの彼女が交錯する。 
「涼やかに行きましょう」
 考えるのをやめるよう、自分に合図を出した一言と共に一度目を伏せた。
 
 次にエレニアのそばにやってきて、さあ我こそはといった雰囲気ではないが――物々しい、まるで信じられないものを目の当たりにした男がいる。
「戦うことに、傷つけることに、こいつは 戸惑いはないのか……?」
 加里生・煙(だれそかれ・f18298)。彼こそ、内なる群青を飼う男である。
 黄昏色とはまた違った地獄の明かりを前に、今一度震えた。
 煙の身に巣食う群青は、「アジュア」と名前がついた貪狼である。煙本人は知り得ないが、――アジュアは、煙の獣性だ。
 彼こそが群青の霊であり、群青の霊はまた、彼である。
 ただの人間であった期間が何せほとんどの人生を占めているものだから、己の獣にすら恐れを抱くが、目の前の焔はまた違った恐怖を彼に植え付けた。
「命を傷つけることに、悪に、正しさなんて――」
 まるで、彼こそ――正義のように見えてしまう。
 己の存在証明のために戦い、好きなように燃やし、そして大義などよりもまず、己と言うものをしめそうと無数の猟兵たちに立ち向かう強敵ぶりに息を呑んだのだ。
 ああ、俺もあのように振る舞えたら――どれほど、楽になれるだろうか?
 余計な考えが脳裏をかすめていったのを、群青の狼のせいにする。
 狼が囁いたのだ、煙が考えたわけではないと否定したくて思わず顔を両手で覆った。
 じんわりと嫌な汗が噴き出してくる。まるで、本当に――獣になってしまう気がしてしょうがない!

「大丈夫?――暑いもの、頭も痛くなってしまうわよね」

 うずくまってしまいそうな彼の耳へ、まるで風鈴かのような音で届いた声がある。
 煙の異変に気付いたエレニアが、そっと彼の肩に手を乗せていた。
 あまりにも、軽すぎて――気づかないほどの温かさに煙の意識が戻る。そして、美しい顔をした彼女を見た。
 白すぎる。だから、わかる。彼女の頬が熱されて赤みを帯びている。垂れる汗をぬぐい切れないのも、わかる。水分が奪われていく。
 彼女の瞳に映る己の顔の、なんと情けない事か!彼女は、この敵を相手にしてもまるでどこ吹く風のようにしているというのに。
 弾かれたように、交わした視線に頷いて煙は前を向く。
「やるしか、ないんだ」
 助けて、救って、守る――戦うしか ないのだから。己に言い聞かせるよう、心の中で何度も唱える。
 そうだ、この白の彼女だって言ったではないか。すべて、暑いのが悪い。

「『行くぞ、お前も手伝え。』――【群青の青(アジュア)】!」
 煙が呼べば呼応するかのように彼の影から躍り出た狼の巨体は、群青色!
 ずうんと足音を立ててその場にどるどると唸りながら煙を頭に乗せる。
「まぁ、立派な狼さん」
 嫋やかな仕草で両手を己の唇にやって驚くエレニアに、煙がアジュアの上から語り掛ける。

「あなたは、大丈夫ですかッ!」
 
 それは、きっと煙からは別の意味だったのかもしれない。敵に届くか、逃げられるかを問うたのかもしれない。
 誰かに――大丈夫か、など問われることは幻影の女神たる彼女には、まして薬の御使いであった彼女にはかけられない言葉だった。
 たった一度、かけられた言葉にエレニアも蒸し暑さから少し――醒める。
「ええ、大丈夫よ。ありがとう」
 微笑んだエレニアに、どこか覚悟が決まったようなものを見た煙が理性をつなぎとめていたその時!

「しゃべるのが好きよのぅ、貴様らはッッ!」

 しまった!と煙が想うより早く、焔はエレニアの眼前に来ていた。
 エレニアが咄嗟に退くも、その真珠のごとく美しい肌をした胸元には火傷と傷跡が刻まれ貫かれる!
「――ぁ」
 やられた、と煙が絶望の色を顔に宿せば、エレニアの表情から光が一度失せた。
 そして、突きの型をした不可視の一撃を放つ彼が、にぃと鎧の向こうで笑った――が、エレニアも微笑んで返した。

「エリィ、避けるのって苦手なの」
 ごめんね、と言いたげな幼い顔をしたかと思えば彼女の腕には紛れもなく「痛覚遮断」の呪詛が刻み込まれている。

(あの時、――あれか)
 煙と会話したときに、アジュアを見上げる彼女が口許に両手をやっていた。
 たったあの数秒の間に、彼女は近くできるすべての痛覚を遮断してしまったのだ!
 痛みを感じない、ということは――この暑さすら、もう感じていないということでもある!

「『還る場所なき者たちに、せめてあの日の夢の続きを』」
 
 小さな詠唱と共に、ぎりりとエレニアは白い肌に赤を咲かせながらその大太刀を握りしめる!
 彼女の心臓を確実に貫いたはずだった、――何が起きている!?と焔は動揺ばかりで今の状況に頭が追い付かない。
 エレニアは、ヤドリガミだ。いくら人間の身が穿たれたところで、本体である器物が破壊されねば何度でも蘇ることが出来る。
 だから、煙を騙してしまったようで悪いなと思ったのだ。大丈夫に、決まっていたから。

(それでも、嬉しかったのだけれど)
 微笑んだ彼女の顔を合図として周囲に警戒をする焔の影が、ぐらりと揺らめき――主に反逆を始める。
【死者たちの残夢(オワリナキレクイエム)】の発動だった!
 彼らが焔の体を拘束する!動けないよう、大太刀を握る腕ごと固定していった。
「うう゛う、ぅ、お!おおおおおおーーーーーッッ!!」
 この拘束からなんとか逃れまいと軋むからだと炎を吹き出させる焔が暴れ狂う!エレニアは、大太刀の刺さった体をずるりと引き離してドレスを真っ赤に染めていた。
 げふごふと一度噎せて、赤い花弁を口から垂らすエレニアが次に感じたのは――風だ。

「ああ、良い風」
                           けもの
 思わず口をついて出た一言を置き去りに――駆けるは、群青の蒼!

「うぉおおおおおおおあああああああああーーーーーッッッ!!!」
 炎の扱う、あの炎を纏う相手にはたして己の重火器が本当に通ずるのかはわからない!
 鉛などどんどん炎に流れて溶けていってしまうだろう、それでも放つほかがなかった!
 薬莢を散らしながら、無駄撃ちになるとわかっていても――正義のために彼が動かねば、誰が動いてくれるというのか!
 血まみれの体をしたエレニアに任せてばかりで、己が何もしないというのは――絶 対 に 、 間 違 っ て い る ! 
 悪霊共の拘束を炎で振り払いながら、群青の蒼どもが猛スピードで突っ込んできたのを赤の瞳にようやく映した焔が嗤う!
「ははははッ!!なんだ、なん、っだそれは!豆鉄砲のつもりか、小僧ォオオ!!!」
 焔から極大の範囲で放たれた炎の壁が、往く手を阻んだ!

「黙れェエエ゛エ゛――ッッッッ!!!」

 だが、泣き叫ぶような声を上げて、炎に突っ込んで行く!
 熱い、熱くて狂ってしまいそうだ!それでも、やめない。この攻撃をやめないのだ。
 たとえ炎に身を焦がされても、前へ、それでも群青の蒼の腹を蹴って前へと行く!
 獣が暑さに唸っても、だから何だというのだ。唸れ、唸れ!好く唸れ!――今こそ、群青の蒼が出番である!

「行け、――アジュアッッッ!!」

 煙の吼える声と共に、狼が口を大きく開けて前へ足を蹴った!
 確かな打撃。脆くなった腹部に受けた焔の体がわずかばかり宙に浮く。
 その獲物を逃がさんと言わんばかりに、群青の蒼が左腕を貪った!
「くぅ、ぅお、お゛おお!!」
 左腕が、体を振られた動きに合わせて引きちぎれる!
 空気の間をまるで砲丸のように投げられ行く焔を待っていたのは――壁でも、樹でもなく、拷問具。

「ようこそ」

 冷たい、巨大な鋼鉄の処女が待ち構えていた。その内部からずるりと黒い手たちが這い出て空中を舞う焔を掴んで勢いのまま引きずり込む!
「ッ、待て、待てッッ!!」
 抗おうとするがもはや腕もなく傷だらけの炎の体では、そこから抗うことも出来ない。
 閉まる拷問具の扉に右手をかけて、やめろやめろと呻くばかりだ。
 拷問具の主であるエレニアは、冷たい笑みを浮かべて何も言わずそのさまを見ていた。

「待てェエエエエーーーーーーッッ!!!!」

 がごん、と鋼鉄の処女が閉まる。
 あたりに訪れるのは、沈黙だけだ。だが、まだ揺らめく炎が存在する。
 まだ完全には死に至っていないだろうが、それでもこの一瞬は切り抜けることが出来た。

「――美味い」
 ようやく、生きた心地のした煙が声に出したのは、【群青の蒼】が食ったはずの狂気の感想であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

穂結・神楽耶
◎★△
炎の相手、苦手なんですよね。
少しでも当たると火傷になりますし、かといって回避して放っておけばどこまでも広がりますし。
最後には全てを奪っていくのが炎で。
実は結構苦手なんですけれど。
だからこそ、勝ちます。
守ります。

激痛には耐性があります。
負傷は覚悟しておけば動きを妨げる要因に非ず。
真正面から参りましょう。
我が本体、彼の大太刀と打ち合おうとなんら見劣りするものではありません。
近距離に惹き付けてしまえば纏う炎が余所を焼くこともないでしょう。

だからこの業で送らせて頂きます。
ひとを燃やしてきたのなら、灰になって還るべきですよ。


矢来・夕立
◎★
正々堂々って苦手なんですよね。
《忍び足》で狡賢く立ち回って、《暗殺》の手口で仕留める。
挨拶でもしておきましょうか。通りすがりの忍者です。
…と、自分から身分と手口をバラしてあげますけど――
――コレで「馬鹿にされた」と思ってくれます?一瞬でも気を引けましたか?そうあってほしいとこです。
オレにしては積極的に煽ったので。

本命はこちらです。
《だまし討ち》【紙技・影止針】

忍び衆の得意科目のひとつに“相手の嫌がるコト”が挙げられます。
「状況に応じて何でもやれる」のが理想ですが、相手の動きを封じる方が早い。こんな風に。
仕留めるのは他の方にお願いします。
どうもオレの刀がね。『嘴喰』に遠慮してるみたいなので。




 炎を前に、やはりたじろいでしまう。
 そんな己が情けなくて、思わず眉根を寄せて笑ってしまう穂結・神楽耶(思惟の刃・f15297)がいた。
 壁を乗り越えたと言えど、やはり炎への認識と言うものは根強いものだ。
 神たる身のくせに、いまさら何を怯えているのかと己を叱責したくなる。
 だけれど、炎と言うものはやはりすべてを奪ってしまうから。
「穂詰さん、どうしたんですか。置いていきますよ」
 そういいながら、彼女が歩くのも待たずに前に出ようとするのは矢来・夕立(影・f14904)だ。
 黒の彼が内なる赤を翻して静かになった敵性へ向かおうとするのを、慌てて神楽耶がついていこうとする。
 彼はこうして炎に縫われて立ち止まる己をひきはがすのがうまい。普段を顧みれば、扱いがうまい、というべきかもしれないが。
「心配をしてくださるんですか?」
「ええ、まあ――数少ない、友達なので」
 次は言いませんけどね、と軽口を言いながら斬魔の剣を握って、鋼鉄の拷問具の前に二人で立つ。
 
 ごとり、と音がした。緊張が走る。同時に、二人でふたつの刀を抜く。
「おお、ぉおおおおおッッ」
 呻くような声がして、がうん!と鋼鉄の処女が揺れた。内部から殴られたのであろう、前に飛び出るように鉄がひしゃげる。
 歪んだ扉からは、てらてらとした溶ける鉄が見えた。
「おかんむりのようです」
「そりゃあ、そうでしょう。当たれば大やけど、回避すれば大火事ですね」
 ――つまり、ここまで来て逃げの一手というのは存在しない。
 ひりりと夕立と神楽耶の肌を熱が撫でる。空気の流れに従って鋼鉄の部屋から、右腕がずるりと伸びれば――火焔地獄が始まった!
 ごうと二人の地面を炎が走る!
 焔は、ずっと燃やしていたのだ。――鋼鉄の処女の中で、ず っ と 燃 え て い た !


「ふふ、ははははッははは!!燃えよ、燃えよッッ!燃 え て し ま え ッッ!!」


 響き渡る地獄の鬼からの笑い声と共に巻き起こる炎の渦が夕立と神楽耶を襲う!
 激痛に耐え凌ぐのはできるが炎の赤に覚悟が決まるまでは時間がかかるか。夕立が神楽耶の様子を視界の端に入れてから、先に駆け出す!
「正々堂々って苦手なんですよね」
 無感動に吐き捨てたその言葉と共に、炎の渦に飛び込んでいく夕立の背を神楽耶は視た。

 友が、燃えぬとはわかっている。
 だけれど、黒が赤の渦に呑み込まれるのを見送ってしまった。

「 夕 立 さ ん ッ ッ ッ ッ ッ !!!!!」

 彼女の『覚悟』が決まるには、十分な燃料だったらしいのを耳で聞き届けて、夕立は羽織をかぶったまま渦の中心へ突っ切る!
 その中心に――焔の姿が見える。
 焔がこちらを見上げた。
 内からの炎に身を焦がされながらも、なおの事まだ戦おうとする修羅のごとく所業にさて、どのように斬りこむべきか。
「どうも、火だるまさん。通りすがりの忍者です」
 お道化た口調で――表情は変わらないが、夕立は己の身分と手口を「忍者」という一言で披露してやったのだ。
 くるんと空中で体勢を変えて、素早く渦を蹴って駆ける夕立の靴裏には焼け焦げた式の紙がある!
 仮の足場がわりにと思って張り付け、それを蹴りながら空を走るように見せていたが、何せこれも消費が多い。
 この後の戦いを考えれば、無駄なコストは減らしたいものだが――かく乱してなお素早く動く夕立の動きについてくるのだ、この地獄の鬼は!
「忍者だとォ!?っかはははは!――愚かな!忍んでみんか!」
 忍びたくとも、忍べまい。
 ごうと炎を操った焔が作り出すのは、炎の大太刀である!

「そんなのありですか」
 少しげんなりとした口調をしてから、炎の大太刀であればかき消せそうだなとも判断する。
 雷花を振るえば、一時的にではあるが大太刀は両断された!
 だがしかし、すぐにまた形を整えて振るわれる。
「どうした、どうした小僧ォ!逃げてばかりで、太刀ひとつすら届かんぞッッ!!」
「逃げてるように思ってくれました?――それは、よかった」
 嗤う悪鬼に対して、夕立は次に火の粉を散らしながら、己の頭を狙った炎の剣を躱すそぶりもない。

「『静かに』」

 ぽたり、と夕立少年らしい輪郭から流れる汗が詰襟につたって落ちる。そうすれば――訪れるは、静寂。
「っぐ、ぉあ……ッ!?」
 夕立が先ほどから飛び回り、駆けまわって炎の剣を凌いできたのは今この瞬間のためである!
 【紙技・影止針(カミワザ・カゲシバリ)】。
 三枚の式紙が暗器のごとく手折られ、炎が噴出されない箇所――背中の胴回りの裂傷に突き刺さっていた。
 もとより、夕立はトドメなど刺す気がない。
 いいや、正確にいうならば――『雷花』が『嘴喰』に遠慮をしているようだった。
 どちらにせよ、この執念の塊を断つ方がよっぽど疲れそうでもあったし、そろそろ『彼女の覚悟も決まった』ところであろうから――炎の渦から煤に塗れて飛び出す!

 熱されてすっかり乾いた視界に何度もまばたきして、赤の渦を見る。
「いいですよ、穂詰さん。どーんと」
 渦からいつもの声が、友のいつもの声がいつも通り聞こえた。
「狙いやすいよう、固定しておきましたから」
 どうしてそう、しなくてもいいことをやってしまうのだ。
 息をするように嘘をつきながらも、こうして神楽耶を騙して戦場を切り開いたのだ、夕立がやってくれた。
 
 出てきた夕立が作る炎の切れ目で彼と入れ替わるようにして――突きを繰り出したのは神楽耶だ!

「あっつ……!」
 やはり、夏などとは比べ物にならぬ蒸し暑さを孕んだ地獄の渦である。
 気を抜けば溶けてしまいそうなほどの威力があるこの渦の主をしかし、穿たねばならぬ。
 彼女が、彼女の守る世界のために――。

「は、ぁ」

 彼女が、彼女たる理由を簡単に作り出す、あの友のためにも――!!

「ぁあああああああああッッッ!!!!!」

 まさに、その突きの威力たるや神風!空気を押し出してなお力強く踏み出した神楽耶が、中央で影ごと縫われた焔に『本体』を突き刺す!
「ぬぅうううううッ!!!女、ここで共に死ぬかッッ!!グハ、ハハハッそれも、悪かないなァ!!」
「――黙れ」
 もはや炎同然と言って良いほど燃えながら笑う鬼に、臆する神楽耶ではない!

「『 燃 え て 弾 け て 、 灰 と 散 れ 』ッッ!!」

 【鉛丹光露(エンタンコウロ)】。それは、地獄の修羅を神たる彼女の業で屠る神業!
 彼女自身を伝って燃え放たれた――赤よりも赤い火焔が爆裂し、地獄の炎など生ぬるいと炎で焔を飲み込んで行く!
 ひとを燃やしてきたのなら、灰になって還るべきであると神の炎が地獄の鬼を焼いてゆくではないか!
「が、――アアアアアアアッッッ!!!」
 燃え盛る焔の体を、瞬きもせずに神楽耶が見送る。
 紅蓮の炎を黄金の炎が呑み込んで――この修羅を屠るのを紛れもなく、見送らねば夢見も悪い。

「はは、は――よい、炎、だ」
 
 炎に生き、炎で死ぬ。焔と名付けられた彼には宿命付いていた事であった。
 神楽耶が突き刺した箇所からひび割れ、黒の灰となって消えてゆけば――同時に炎も火の粉となって、季節の風に煽られて消えていった。

「兵どもが、夢のあと――なんて」
 まだ、その夢を見るのは早いかもしれないが。
 今は、一つの脅威を確かに断ち切ったのだ。
 振り返って夕立のほうを見れば、彼もまた――目を閉じてこの勝利の余韻を共にしていた。
 
  

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『からくり忍者軍団』

POW   :    からくり・自己犠牲術
【死角から超高速で接近し、忍刀】による素早い一撃を放つ。また、【壊れたパーツを破棄する】等で身軽になれば、更に加速する。
SPD   :    からくり・自己複製術
完全な脱力状態でユーベルコードを受けると、それを無効化して【からくり忍者】から排出する。失敗すると被害は2倍。
WIZ   :    からくり・麻痺拘束術
【麻痺毒の煙幕爆弾】が命中した対象を爆破し、更に互いを【鎖】で繋ぐ。

イラスト:なかみね

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●絡繰狂々

 「おお、よう来た、よう来てくれたッッ!」
 藩主がどたどたと砦に招かれた猟兵たちに、急いで給仕と医療具を提供する。
 先の『焔』との争いで苛烈な戦いを繰り広げてくれた猟兵たちを少しでも休ませてやろうと侍たちも動き回っていたが――やはり、ここにもすでに刺客が来ている!

 きりきりと絡繰りの音が響く、ぴんとはった糸が彼らの中でひしめいている。

 しかし、侍たちも黙って守られてばかりではいられない。
 彼らは徳川に命を授かって、ここを守るよう言い聞かされたのだ。
 神や仏に縋っている場合ではない、信じられるは己の鋼と猟兵たちのみ!
 猟兵たちには、この軍勢の頭領とこの後も戦ってもらわねばならないのだ。
 ――だから、彼らも刀を抜いた!
 
 集団で攻めてくるは――『からくり忍者軍団』!
 
 機械仕掛けの彼らを、侍と共に穿て、猟兵!

※この章では砦にいる侍も協力して集団戦を行います。
※完全NPCなので、戦闘に考慮してもしなくてもOKです。
※また、傷の治療に専念したり、ご飯をもりもりたべても構いません。お好きに行動なさってください。

 
セルマ・エンフィールド
◎★
私は他の猟兵より消耗も少ないですし、しばらくは働かせてもらいましょうか。

脱力状態で受けさせないよう、援護射撃も兼ねて侍と打ち合っている、あるいは侍を狙っている敵をマスケットで狙って倒しつつ、敵のUCの弱点を侍たちにも伝えます。
このように敵が攻撃に移ろうとするところを狙えばこちらの攻撃を無効化する技は使えません。敵よりも数で勝り、1人が攻撃を受けている間に1人が仕掛けるように。正攻法でいきましょう。

私の方に敵が来たら攻撃に移ろうとするところを【クイックドロウ・四連】でこちらに攻撃が届く前に迎撃を。

最も得意なのは狙撃ですが……近づかれると戦えない、なんてことはないのでご心配なく。



●撃鉄を起こせ


 砦に侵入してきたからくり人形たちは、音もたてずに砦の天井裏を歩いてゆく。
 その機械仕掛けの体に果たして心はあったのか。
 布の向こうに顔があるとしたら、さぞひどく歪に笑っていたことだろう。
「てッ、敵襲ッ!!」
 侍たちの前に天井を突き破って廊下に着地した!
 土埃を立てて現れた群れは、きりきりと笑い声にもならない糸を繰る音を響かせている。
 侍たちとて、己らの誇りに誓ってここで死んでもよい覚悟で刀を握る。
 強大なオブリビオンでないこの人形共であれば――痛み分けを覚悟で、挑むことが出来るはずだ。
「うおおおぉッ!」
 たとえここで志半ばに死んだとしても、悔いはない!
 猟兵たちに護られたのだ、次は護って返さねばならぬ。刀を振って、からくり人形たちを斬り伏せていく。
 
 そんな彼らの後ろからやってくる一つの影は――猟兵、セルマ・エンフィールド(終わらぬ冬・f06556)。
 先ほどまではスナイパーとして戦っていた彼女だが、近距離にも適応した立ち回りがある。
 侍たちが斬りかかり、人形たちがそれをいなし、また弾くさまを冷静に見ていた。
「……無駄が多いですね」
 おそらく、初めての手合いということもあって侍たちが動揺しているのだろうというのがある。
 この狙いで正しいのか。ここを斬れば次はどのような攻撃で返されてしまうのかを考えながらではあるが当然であるが、それがセルマの加わる環境であれば改善できるはずだ。
                           アタック
 己の隠し持ったデリンジャーを二つ抜いて、セルマは――攻撃を開始した!
 先ほどはほかの猟兵に比べて彼女の消耗というのはかなり少ないものに収まった。
 確かに、作戦である。この後のことを考えていたから、最低限のリスクでやりあわねばならぬと講じた結果だった。
 しかし、全力を用いて近くで戦っていた彼らは結構な痛手を背負ったということだ。
 ならば、彼女が動かない道理はあるまい。
 
「なんだ、なんだァ!?」
 攻撃を防がれて、絡繰り人形を増やしてしまった侍の驚愕と絶望の悲鳴が轟いている。
 麻痺毒の煙幕爆弾が後ろでは用意され、今か今かと投げるタイミングを見計らっていた。
 蒼の双眸にその惨状をおさめておいて、瞬きののち駆け出す。
 空をまるで踊るかのように、ふわりと浮いた蒼の服を侍たちも視た。
 それが、救世主の姿だと認知する――までに!

「『種も仕掛けもありません、ただの早撃ちです』」

 がうん、とデリンジャーが吠える!ばす、ばすと音を立てて人形たちの眉間を貫く鉛玉が過去を灰にしていった。
 これこそ彼女が技。【クイックドロウ・四連(クイックドロウ・クアドラプル)】!
 休むことなく、そのまま両手で持ったデリンジャーを前にやって、走る!
 そして、引き続き撃鉄を鳴らし続けた!
 前方で戸惑う絡繰りどもの額を、胸を、急所と思われる場所を無駄なく撃ち続けたかと思えば、次は空中に蹴りだした脚の遠心力でくるりと回転!
 後方で逃げようともくろんだ絡繰りどもを撃ちぬく!

 相 手 に ユ ー べ ル コ ー ド す ら 、 使 わ せ な い !
 
 早撃ちどころではない!まるで、マシンガンでもセルマに持たせたようなものである!
 圧倒的な力の差を見せられた侍たちは、その様を見ていた。
 デリンジャーから煙をくゆらせながらセルマが彼らに歩いてゆけば、心なしかびくりと肩を震わせた気がする。
 指でデリンジャーをひと回しして、また隠していた場所に戻したセルマにほっとする侍たちがいた。やはり、刀を扱う彼らには飛び道具は恐怖の象徴なのだろうなとセルマも感じる。

「このように敵が攻撃に移ろうとするところを狙えばこちらの攻撃を無効化する技は使えません」
 侍たちにはいちいち板書を使うよりも実戦で教えてしまったほうが早いだろう、という彼女の解釈もあった。
 侍たちに足らないのは、敵の事前情報とオブリビオンと戦う実戦経験だとセルマは踏む。
 事実、あの状況で誰も逃げずに前へ前へと切り開こうとしていたのだ、刀の筋もやはり悪くはないのもわかっていた。
「敵よりも数で勝り、1人が攻撃を受けている間に1人が仕掛けるように」
 だから彼らには、『より強い猟兵』がまずお手本を見せてやる必要がある。
 侍というのは義理に厚くまた、上下関係を大事にするものであるから、セルマは『より強い猟兵』を我先にと実践したのだ。

 ――余力のあるセルマだからこそ、率先してやれる役でもある。一番、この場で侍に指示を出すのに適していた。

「正攻法でいきましょう。いいですね?」
 こくりと頷いた侍たちは、先ほどの怯えた瞳とは違うものを瞳に宿している。
 確かな希望、彼らにとっての先導者である蒼の彼女は確かに希望の御使いである!
 頷いた彼らを見てから、満足そうにセルマも頷いて立ち上がった。
 またデリンジャーを二丁抜いて、次は天井に向けて発砲する!
 ぎゃ、と嫌な悲鳴が上がってからくり人形たちが落ちてきた。
 布の向こうの顔は、今度はどのような顔をしていただろうか?とはいってもこの場の誰もが知るつもりもない。

 さて、それでは――任務の続きをしようではないか。 

成功 🔵​🔵​🔴​

イリーツァ・ウーツェ
【POW】
方針:攻撃的防衛。攻め込まれる前に滅ぼす。
侍の数は多い。守るには手が足らん。なれば打って出よう。
破損前提の技を使うか。
で、あれば。そこまで頑丈ではあるまい。
UCを使用し、翼を現出。敵のUCを無視した高速飛翔を可能とする。
地表擦れ擦れを滑るように、高速の低空飛行を行い突貫。
敵群を翼で轢く。
ある程度散らばれば、地に足を付けて戦闘を行う。
杖でなぎ払い、翼で殴り飛ばす。死角からの攻撃は尾でなぎ払う。
(見切り+怪力+なぎ払い)
避けられない攻撃は受けても良い。UCとしての力は防いでいる以上、
それは単なる斬撃に過ぎず、致命傷とはなり得ないので。
向けられた刀ごと砕く。
とにかく。出来る限り数を減らす。


ゼイル・パックルード
◎★△
いいね、俺達の強さを見ても任せきりにしようとせず、ちゃんと立ち上がるか。
忠義なんてもんはわからないが...意思のないガラクタに殺させるのは惜しいね。

【ダッシュ】で突っ込んで、行く先々のからくり共を斬っていく。刀で狙うのは脱力してるやつ中心だな。
ついでに【ブレイズフレイム】を放射して、刀の間合いの外のやつは燃やしていく。

死角に突かれない意味でも常に動き回るが、【第六感】...というよりは自分に向かってくる音とかには注意を払う。
適当に燃えたヤツは侍たちに任せるよ、見せ場を奪いすぎるのは悪いしな。
苦戦してる侍がいたら手出しはする。こんなからくりなんかにやられるなんて勿体ないからね。



●蒼と紅蓮


 ひくり、と次に野性の耳が動いたのはイリーツァ・ウーツェ(盾の竜・f14324)だ。
「はじまったみたいだな。ったく、凝りねェもんだ」
 給仕を、治療を、と求める侍たちに「じゃあタオル」と投げやりな言葉をかけて手に入れた布で、ごしごしと己の身を拭くのはゼイル・パックルード(火裂・f02162)。
 イリーツァの数少ない反応と言うものに、他者を見極め強弱をはかるゼイルが一番に反応できた。
 赤の瞳で褐色の彼を見る。その視線は依然鋭く、肌が煤けていたとしてもまったく気にしていないようだ。
 それどころか、ゼイルに己の意志の強さを訴えるような――輝きがあった。
「行くんだろ。じゃあ俺も行くぜ。――こういうやつらを見殺しにするのは惜しい」
 ニヒルに笑いながらも立ち上がるゼイルがイリーツァではなく、猟兵たちを甲斐甲斐しく世話しようとする侍たちを見る。
 彼らは、本当はすでに逃げてしまってもよかったのだ。
 砦を猟兵に任せて、自分たちは安全なところで今日の命を喜んでもよかっただろうに、ここにいる。
 不慣れな手つきであれやこれやと準備をしながらも、その掌には剣を振るってきた『たこ』がある。
 彼らが腰に携えて降ろさない刀は、決してお飾りではないのだ。その刀が語る『忠義』とやらはゼイルには無縁だったが、このような絡繰りに絶やさせるのはどうにも、勿体ない。
 ならば、彼が燃やすには十分な動機だ。
 対するイリーツァは、人ではない。人に擬態するのが上手い『竜』だ。
 彼には三つの約定が刻まれている。人間を害してはならない、オブリビオンは殺し猟兵は補佐せよ、作法と礼儀を損なってはならない――竜を『猟兵』たらしめん、呪いのような彼専用の首輪があるのだ。
 だから彼は、たとえこの場の侍が逃げてしまってもよいと考えていたし、ここに残ってもよいと思っていた。
 どちらにせよ、彼がやることなど変わりはしない。
 人間のために戦い、災厄を殺すだけの使命が揺らぐはずもないのだ。
「私は、――攻撃的防衛。攻め込まれる前に滅ぼすつもりだ」
「俺もそれが良いと思うぜ。あんた、獣みたいな眼をしてるな。そういうの、いいね」
 冗談の通じる手合いでもないが、通じなくとも構わない。
 お互いに歩けて、戦えて、言葉が話せる。
 今ここで、ゼイルとイリーツァに必要な共通点は、戦いのときにお互いが邪魔にならないという一か所のみであった。


「――うおおおおッッ!!!」
 ぶんと刀を突きだしながら、甲冑を着た侍が災厄に挑む!
 災厄の忍者どもはあざ笑うようにしてかたかたと体を響かせながら、体を壊される。
「なんだ、そこまで強くはないぞ!やれ、やれェッ!!」
 応!と声を上げた同志たちを頼もしそうに見やりながら、とある侍は一息ついた。
 一つ一つは弱くとも、こうも数で責められては普通の人間である己らなどすぐにやられてしまうだろう。
 だがしかし、ここで怯んでばかりも嘆いてもいられないのだ。まして、己の信ずるべきは手に握った刀と――己らでつかむ未来である!

「行くぞォオオオッ!!」

 往かねばならぬ、勝ち取らねばならぬ!そう思って――一歩、前に足を出せば背中に赤い花が咲いた。

「――ぉッ?」
 ごぷり、と口から血が溢れてきたと意識が戻れば、侍は倒れてしまう!
 背中に突き立てられた忍刀を、先ほど壊した絡繰りが握り、己の内から抜いては前へと歩いてゆくではないか。
「……ッ、のれ、おの、れッ!」
 慄く仲間たちの顔が見える。その顔に闘志は宿っているからこそ、この手の内がわからぬ手合いへ挑むのは避けてほしいところだが、逃げぬであろう。
 それが、愚かにも武士と言う生き物なのだから!
「……にげ、ろッ。にげろっ――!!」
 立ち向かおうとする仲間たちに、絡繰りの忍術が襲い掛かる――!!

「『九泉の底へ運んでやろう』」

 が、人形共の魔の手は 届 か な い ! 

 ごん、と倒れ伏した侍の眼前に、人形の生首が転がってきた。
「侍の数は多い。守るには手が足らん」
 その杖に絡まるは――ぶりきの部品ども。
「なれば打って出よう」
 静かなる盾の竜は、今この場に顕現した! 
 ずしりと重い体を廊下に軋ませながら、羽を広げるイリーツァがこの混沌とした現場に到着する。
 ユーベルコード【黄泉平坂・押送脚(ヨモツヒラサカ・オウソウキャク)】は、彼の翼をより強化するものである。
 青い炎が盾の竜を包まんと火の粉を散らして、全神経を研ぎ澄ませた。

 赤い瞳が自身の飛行すべき場所を見定めれば――そのさま、ま さ に 彗 星 が 如 く !

 繰り出されるのは超低空超高速の飛翔!すべてを置き去りに、その速さに追いつけず機械どもには煙幕をたく暇すら与えない!
 翼で敵軍に衝突をすれば、そのまま引きずり倒して火だるまにしてから転がしてやった!
 めらめらと燃え上がる絡繰りたちが蒼に包まれて灰となるのを見て、イリーツァは再び地面に足をつけた。
 
 まだ、これでは終わらない。

 そう目だけで語る男である。
 ぎろりと獰猛な瞳を絡繰りどもに向ければ、まさに彼は全身凶器となって立ち向かうではないか!

「おお、――おおおおッ!!?」
「興奮すんのはわかるが、あまりはしゃぐなよ。死ぬぜ」

 背から血を流しながらも、その様に思わず驚嘆する侍に声をかけたのは、炎を身に宿すゼイルだ。
 【ブレイズフレイム】を発動した彼の体は、先ほどの戦いで裂傷も多かった。
 だが、その傷があるからこそ――今こうして、敵の前に紅蓮を放てるというものだ。
 にたりと笑って、前を見る。
 徐々に目が見開いて――無骨な鉄の塊を連れて、走った!
 かちゃかちゃと喧しいからくりどもには紅蓮を纏った前蹴りで蹴倒してから、踏みつぶしてやる。

 生きた人間には程遠い中身が空間を舞ったところで――さ ら に 、 加 速 し た !

 燃え盛るさま、まるで烈火のごとく!
 己に向かってくる音を感じれば、己の勘に従い炎を放射する!その場にいた絡繰りごと空気を燃やせば、また次へ、次へと足を向かわせた!
 「おっと、通じないぜ。――出直しな」
 ユーベルコードを利用したカウンターを想定した絡繰りの動きなど、遅 す ぎ る !
 剣でぶうんと空気を薙ぐようにして、砕いてやった。
 彼の燃え残したままの人形たちを、いまだいまだと仲間の仇を討つがごとく侍たちが斬り伏せていく。
 その音を後ろに聞きながら、ゼイルはイリーツァに追いついた!

「終わったか」
「ああ、次に行こうぜ」
 めらりと互いの炎を引き連れながら、目の前で彼らを待ち受ける新たな刺客を見据える。

     かれら
 ―― 蒼と紅蓮は、まだまだ燃え足りない!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

音羽・浄雲
※アドリブ、絡み歓迎です。

「窘められて・・・・・・しまいましたね」
 仲間に諌められ己が暴走を恥じる。本来ならば快く思えないだろうやりとりが浄雲には心地よかった。
 仲間と肩を並べる高揚を、互いを気遣う幸せを感じられた。なれば今ここで誰も死なせる訳にはいかない。
「お侍衆、わたくしは誰も死なせたくありません。貴方方にも誇りや意地もありましょう。しかしここはこの女狐の顔を立てていただけませんか?もう織田に誰も奪われたくないのです」
 悲哀と憂いに満ちた顔で問いかける。どこか蠱惑的で儚い、しかし先の様に自分で抱えようと気負っているわけでもない。
 守る。決意と共に絡新婦で絡繰を絡め、詭り久秀で刻まんとする。


三千院・操
【真の姿解放】◎◎★★
──あ?
アーァ変わったのか。
しかし絡繰人形ねぇ、悪ィが人形には興味ねぇな。蹂躙のしがいがねぇもん、きひひ。
(真の姿解放により口調が粗雑になる)

引っ込んでろよ侍。痛めつけられたいなら話は別だが──ここは今からおれの場所だ。
木乃伊になっても恨むんじゃねえぞ。

【偽りの造物主】を使って人形どもをなぎ払ってやるよ。
今この時点でおれは神に限りなく近い。紡ぐ言葉はすべて呪詛となり、杖を鳴らせば死の嵐がおまえらを侵す。
死角から接近されようと呪詛を全身に纏うことで腐敗させて対応する。神(おれ)の元に易々と近づけると思うなよ。

──さぁ早く! 早く早く早く! 生身の敵を寄越せよ!きひひ!



●悪神と女狐

 ごうん、ごうんとどこかで戦闘の音と振動を聞く。
 響く床がその苛烈さを物語っているのを、三千院・操(ヨルムンガンド・f12510)は心地よさそうに瞼を閉じて感じていた。
 ああ、戦っている。この砦の中で誰もが。
 強者どもが我こそがとやりあっているのなら――彼もこの争いに混ぜてもらうほかない。
 我慢がきかない、この脈動と煮えたぎるような己の胎のうちを解放せねばと、細く目を開いた彼が放つのはただならぬ欲望だ。

「――あ?」
 ざらりと、己の声がノイズ交じりになったのを感じた。
                                アヌビス
 敵を蹂躙するためだけにこの身を呪詛に捧げた末の――呪われし、冥界の神の姿を纏う。
これこそ、罪を背負いし地獄を視る操の真の姿である!
 一際大きく、そして甲高く吠えてやればあたり一面がその誕生に震えた!
 冥界神の姿をした操の狂暴性は増してゆく。でろりと垂れた赤舌は、獲物に飢えてだらだらと涎を垂らしてしまう。
 突き出た犬の面をした顔から何まで、真っ黒に染められた彼の体は血管を浮き出して脈だつばかりだ。
「くひ、ひひひ、きひひひッッ!!」
 ぎらりと目の輝きが紅を増して、ずんずんと彼の脚を動かせる。
(しかし絡繰人形ねぇ、悪ィが人形には興味ねぇな。蹂躙のしがいがねぇもん)
 だからこそ、こんな局面は早くに片付けてしまいたい。もっと彼が求めているのは、別のものだ。
 誰かを救いたいわけではない、誰かを護りたいわけでない。――今の彼を突き動かすのは、 本 能 だ ! 

 一方、急襲を受けるであろう侍たちを護るために一足早く現場に急行していたのは、音羽・浄雲(怨讐の忍狐・f02651)。
「窘められて――しまいましたね」
 彼女は、先の戦いで己の私情めいた行動を反省していた。
 確かに、怨讐と言うのは根深くそして優先されるべき行動原理かもしれないが、この場において浄雲と同じ気持ちになれるものは限られてくる。
 皆が、この世界の出自では無ければ、奪う側の人生である仲間たちも、確実にいるのだ。
 あの場で共に戦った彼らは『そういう立場』だったのだろうか。少し目を細めながらも、彼らが己に真摯に向き合って戦場を共にしてくれたのは良い収穫であった。
 本来ならば、己の気持ちもわからずに諫められるというのは不快でしかなかったのだが、あの場の二人は浄雲に一撃を任せてくれたように、気持ちを優先してくれた。
 そのうえで、作戦を立てて皆が生き残る最適解を持って焔に一矢浴びせることが出来た。これは、かつて――仲間がいた感覚と似ている。
 あの温もりを、幸せを思い出させてくれたのだ。だからこそ、ここで誰もを死なせるわけにはいかない!

 侍たちに気を遣って、天井裏で隠れて彼らを見守っていたもののやはり性根が素直である。
 浄雲は天井の一面を取り外して、くるりと着地し侍たちの前に姿を現した。
「お侍衆、わたくしは誰も死なせたくありません。貴方方にも誇りや意地もありましょう」
 敵襲かと思って身構えた彼らに、両手を前へ向けながら浄雲は彼らの安全を訴える。
 誇りや意地があるのは、彼女だからこそ――よくよく、わかっているのだ。
 だから、この申し出がさぞや無礼になってしまうことも想定内である。
 だけれども。
「しかしここはこの女狐の顔を立てていただけませんか」
 思わず憂いが瞳に宿ってしまう。
 どこか蠱惑的で儚い、しかし先の様に自分で抱えようと気負っているわけでもないのに、自然とその顔になってしまうのだ。
 その様子を見て、侍たちも思わずぎょっとした。
 己らよりもはるかに強い猟兵が、まして人間でない彼女が、一体どのような業を背負えばそんな顔になってしまうのか。

「もう織田に誰も奪われたくないのです」

 織田。その言葉を聞いて侍たちは顔を見合わせた。
 あの天魔を名乗る化生に、滅ぼされた一族と言うのはよく聞くが――まさか、彼女がそうだというのか。
 奪うのならば全て奪っていくのがあの天魔の性分である。間違いあるまいと次々に口にした。

「なればこそ、我らの命を――おぬしに預けても、よいか」
 たった一人のこの少女に、任せてよいのか。いいや、きっとよいのだ。
 なぜならば――。

「御意に」

 決意が、少女の瞳に宿っていたのだから。



「邪魔なんだよ邪魔邪魔邪魔ァアアッ!!!きひひひはははははッッッ!!」

 まるで、その姿はやはり――猛獣どころでない!
 どしどしと重い音を立てながら、彼は身に宿った呪われし悪の力で絡繰りどもをまるでおもちゃのように蹂躙してやる! 
 それは、幼子が出来上がった積み木の城を壊すがごとく、無邪気で悪辣なものだった。
「おおお、まるで――羅刹よ」
 ぞくりと背筋に寒気がして、狐の彼女に戦場から避難するよう指示を受けた先ほどの侍たちが操とすれ違っていく。
「あ?引っ込んでろよ侍。痛めつけられたいなら話は別だが──ここは今からおれの場所だッ!!」
 大きく吠えて人間でないものの威嚇をあらわす!
 ひぃ、と声を上げながら侍たちは逃走に励んだ。
「ちんたらすんなッ、木乃伊になっても恨むんじゃねえぞ」
 本能を露わにした操ががちがちと牙を鳴らしながら、まるで蜘蛛の子を散らすようにして操はカウントを始める。
 それは、執行の猶予を与えるがごとく!

 
 五、侍たちの背が遠くなる。
 四、自身の周囲に錻力の音がする。
 三、侍たちが廊下の向こうを曲がった。
 二、屋根裏を走る――猟兵の音だ。
 一、己の背後を絡繰りがとった!
 
「『虚ろなるもの、ここに在り』――【偽りの造物主(ゴッド・イスト・トート)】ッッッ!!!」
 
 轟音とも言える遠吠えと共に、詠唱が成された!生命力を代償に己の神格を偽りながらに底上げし、その肉体には呪詛が渦巻く!
 ぶん、と手を振れば背後の人形が、操の爪がかすった程度で――腐って、霧散してゆく!

「神 ( お れ ) の元に易々と近づけると思うなよ、あ゛ァッ!?」
 
 荒れ狂う冥界の化身が、その身を確かに悪神として呪詛の嵐を巻き起こす!

 そのさまを見て、きぃきぃと悲鳴のように体の中を鳴かせながら逃げ出す絡繰りたちがいた。
 たとえ人形であれど、神との差はよくわかったものだ。だけれど――そうそう簡単に、逃げれまい。

「『搦め捕って差し上げましょう』」

 そこに顕現するは、音羽忍法【絡新婦】(オトワニンポウ・ジョロウグモ)!
 きり、と張った丈夫で粘性のある糸は――浄雲の仕業だ。
「あまり動かないほうがよろしいかと。どんどん苦しむだけですよ」
 じたばたと逃れようとして、絡繰りたちはもがくばかりだ。だが、ここに張り巡らされたのは蜘蛛の糸である。
 蜘蛛の糸と言うのは、もがけばもがくほど獲物を離さない。まとめて捕まってしまった絡繰りたちがパーツの間に糸を挟ませて、きちきちと苦しそうに軋んでいる。
 浄雲の狙いは、この蜘蛛の巣を使って絡繰りの動きを止めるまで。
 詭り久秀はこのあとやってくるであろう悪辣が――『食べ残し』た時の一手だ。

「そこォオオ゛オ゛ッッ!!」
 
 ごう!と屈強な獣の腕が浄雲の張った巣ごと掴んでは全てを腐らせ灰へと変えてゆく!

「――ア?アーァ、仲間か」
「ええ、ですが今は、効率よく使っていただければと」
 一礼をしてから、浄雲がまたひらりと天井へと昇る。
 そのまま、足音が遠ざかれば操の進行方向で、また錻力が軋む音が聞こえたのだ。
 彼女が何をしているのか、合点がいった!操は、また呪詛を引き連れて走りゆく!

「いいね、いいねぇ!さぁ早く! 早く早く早くッッッ! 生身の敵を寄越せよォッ!」
「ええ、焦らずとも。もう少しご協力を」
 
 先ほどまでの己とはまた違う獣性を背後に感じながら、浄雲は迫る悪神に生贄を差し出すのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

御剣・刀也
ふぅ。良い戦いだった
さて、次の大将の前に箸休めか
物足りない連中だが、ぶちのめしてやる

自己犠牲術で超高速で接近してきて斬りかかって来たら見切りと第六感を駆使して避けつつカウンターで斬り捨てる
自己複製術でからくり忍者を作られたら、その数が増える前に斬り捨てる。脱力状態になろうとしたら、それさえ許さない速度で一撃を見舞って斬り捨てる
麻痺拘束術で鎖を繋がれて拘束されたら、その鎖を掴んで振り回して障害物にぶつけるか、自分の方に引き寄せて斬り捨てる
「こんな連中で俺が止められるか。もっとましな奴を寄こしな」


ヴィリヤ・カヤラ
◎★△
敵がいるなら早めに潰しておきたいよね。
砦を守ってる侍さん達にも被害は少ない方が良いしね、
この後も砦を守っていくのは侍さんだし。
それじゃあ、頑張っちゃうよ!

忍者ってあまり戦った事は無いけど、
少し変わった攻撃をしてくるイメージだから
敵の動きは良く見て動かないとかな。

敵の攻撃はできる限り『第六感』と『見切り』で対応、
鋼糸の刻旋で攻撃しつつ、
防御と連携相手がいれば不意の攻撃があった場合の
フォローに入る際に『敵を盾にする』ね。

敵が複数体集まっていたら【氷晶】で
数が減らせたらラッキーと思って攻撃するね。
一体も逃がす気は無いから
ダメージの大きい敵は優先的に攻撃していくよ。



●武人と氷

 ずず、と熱い茶をすすってみる。
 慣れぬ手つきでもてなした割には、緑の色も温度も丁度良い。口に含んだものをごくりと喉を通して息をついた。
「いや、さっきのは良い戦いだった」
 御剣・刀也(真紅の荒獅子・f00225)は、「ありがとな」と短く礼を言って侍たちに微笑んでやる。
 この後の大将戦を考えながらも、まずはこの侍たちと共に雑魚を蹴散らしてやらねばなるまい。
 正直、戦の修羅として生きる彼は、少しばかりこの状況が勿体ないと思っていたのだ。
 先ほどの戦が皆で魂を震わせたものであったから、絡繰り相手となると余興にもなるまい。
 だが――だからといって、手を休める気もないのだが。
「ぶちのめしてやる」
 鴉の濡羽のような短い髪を少しかきあげて、蒼の瞳に再び闘志を宿す。
 その様は、まるで獲物を狩る獅子の横顔そのものであった。

「んー、敵がいるなら早めに潰しておきたいよね。砦を守ってる侍さん達にも被害は少ない方が良いし」
 いろんなところで戦闘が始まっているため、ずしん、どかんなど聞こえる砦の内部である。
 わずかに地響く床に足をつけながら、ここの砦の広さや大きさを見ては
「立派だなぁ」
 とのんびり声を出したのはヴィリヤ・カヤラ(甘味日和・f02681)だ。
 この立派な砦を今まで守ってきたのは侍だ。そして、これからも彼らが守っていくのだろう。
 今回は敵があの天魔の御使いであるから猟兵たちを呼ばねばならぬことになったというだけだから、ヴィリヤは今後のリスクを考える。
 やはり、被害を受ける数は最小限であればあるほどよい。
「それじゃあ、頑張っちゃうよ!」
 明るくも確かな気合を入れながら、彼女は軍服をたなびかせて歩いてゆく!
 すらりと腰に携えた先ほどとは別の武器――黒月を抜いて、忍達を仕留めんとするのだった。

「どらぁあああッ!!」
 怒声と共に放たれた一撃で、ぐしゃりと忍たちがあっけなく斬り捨てられて地面をバウンドする。
 口から今にも内なる熱を吐き出しそうなほど鬼気迫る刀也が、数多くの忍たちを屠っていた。
「わぁ、やってるねぇ」
 そこに、ヴィリヤがまるで昼下がりに遊びに来る婦人のような声色で参戦する。
 刀也はにへらと笑うヴィリヤが、先ほどの傷を負いながらも笑顔であるのを見た。――仲間であり、武人だろうと判断する。
「応よ、気ィつけたほうがいいぜ。存外めんどくせぇんだ」
 血など人形からは出ないが、かくし芸はでてくるものだ。刀也が煩わしそうに壊れた人形の残骸を足で踏んだ。
「さすがからくり忍者ってとこかな?あまり戦ったこと無いけど動きはよく見たほうがよさそうだね」
 その残骸をみながら、臆することなくヴィリヤは顎に指をやって考えるそぶりをみせる。
「……あんた、そういうのうまそうだな」
「あはは、どんなものであれ学ぶことは多いから、ついね」
「いや、――そういうのは俺も参考にしてえ」
 きりきりと彼らの周りを糸繰る音がして、どんどん忍者たちは取り囲むようにして現れる。
「んじゃあ、危なかったら教えてくれよ!」
 そのまま、どう!と刀也が横に跳んだ!襖を押し倒して広い和室へと転がり込む。
 狭い廊下で長物を振るうのは刀也であれば問題にもならないのだが、やはり広いほうがやりあいやすい!

「全力で来いッッ!!」

 己を追って和室に入ってきた玩具どもを一喝!のち、斬撃を繰り出した!
 そのさまを見ながら、ヴィリヤも高速で襲い来る忍刀をまるで予期していたようにかわす。
「んー、やっぱり絡繰りだから、嘘は吐けないとおもうんだよ」
 機械仕掛けであるならば、仕組まれたとおりにしか動けないはずだ。
 ヴィリヤに攻撃をかわされたために宙に浮いたからくりに、ぶすりと黒月を突き立てて刀也を襲おうとする刺客に投げ放つ!
 ごしゃと重い音を立てて二つの人形がぶつかり――転がっていく。
「脱力してるやつ、気を付けたほうがいいよ!」
 脱力する人形――猟兵にも同じようなユーベルコードを扱うものが居た気がする。よって、あの手合いは近接にいる刀也では面倒そうだ。

「『 氷 よ 射 抜 け 』 」

 詠唱と共に放たれるのは【氷晶(ヒョウショウ)】!
 ぎゅおっと勢いと共に刀也の刃が至る前に氷漬けにしてやる!
「ありがとよっ!」
 礼と共に刀也が【剣刃一閃】で氷ごと一刀両断!
「次ッ!」
「煙幕くるよ!」
 そして軸足のつま先を別方向へ!急旋回をした刀也には麻痺毒の煙幕爆弾が放たれていたが――それも瞬時に氷で射貫かれ固められた!
 まるでボールを蹴るがごとく、氷漬けの煙幕を蹴飛ばせば絡繰りどもに直撃!そして、追撃で間髪入れず放たれる刃!

「 ぬ る い ん だ よ ッ ッ ! ! 」

 獅子が如く形相で、紅は駆ける!
 超高速のがらくたの攻撃は、風を切る音が耳の届けば――まさに、超 反 応 !
 一歩、横に刀也がそれれば忍刀が刀也を貫くことはなく、お返しにといわんばかりにその体を横なぎで両断された!

 がしゃ、がしゃと嫌な音をたててパーツを散乱させるからくりたちは、次々と黒灰にかわっていくばかりである。
 己らのプログラム外の戦力で立ち向かわれてしまうことに他の絡繰りたちも驚くばかりで、攻撃の手が怯んだ!
 どん、と一度足で地面を踏み鳴らしてやれば、びくりと影は揺れるではないか。

「こんな連中で俺が止められるか。もっとましな奴を寄こしな」
「一体も逃がす気は無いから、覚悟してよね」

 戦獅子と氷の女王相手では――勝ち目などあるまい!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

加里生・煙
◎★△
くそっ、終わったと思ったらもう次か!
休んでる暇なんてないってのはこの事だな。――あぁ、休むつもりはない。痛みなんて忘れたさ。
守ると決めたなら、最後までやりきるまでだ。
アジュア。お前もサボってないでやるぞ、来い!

侍たちの合間を縫って戦うぞ。
機動力と射程なら、他にひけを取らないくらいにはあるんだ。……今までの経験上、たぶんな。
敵を機動力で撹乱しつつ、侍たちが動きやすい場を整える。侍たちにも指揮官がいるはずだ、その人に話は通しておこう。

俺が――俺たちが、撹乱する。あんたは信じるままにやってくれ。
降りかかる火の粉は、俺たちが撃ち落とす!
大丈夫さ。――これが、正義なら。俺が 負けるわけないだろう?



●群青の狼
 
 敵襲を知らせる音はこの場において、笛など吹かなくともわかる。
 わずかに揺れ、獣の咆哮が轟き、超常の力が振るわれているであろう別の階を感じながらぐしゃぐしゃと黒髪をかきまぜるようにして加里生・煙(だれそかれ・f18298)はたまらず呻いた。
「くそっ、終わったと思ったらもう次か!」
 口許の笑みがとまらないのを、ひくつく己の顔を撫でながら煙は理解していた。
 何を喜んでいるのだ、己は。
「休んでる暇なんてないってのはこの事だな。――あぁ、休むつもりはない。痛みなんて忘れたさ」
 勝手に口から出てくる言葉たちは、戦うことをまるで肯定している。
 休んではいけないのだ、この場で足を止めてはならない。
 戦うことに疑問を持ってはいけない。
 ほんの少し前まで猟兵に護られる側の「にんげん」だった煙は、己の変化に心がついていっても脳がついていっているわけではない!
 今の煙を突き動かすのは、恐怖よりも何よりも、群青の心であった。
「『アジュア。お前もサボってないでやるぞ、来い!』」
 いつもよりも【群青の蒼】を呼ぶ声は勇ましい!ぐるると唸って煙の影から現れるのは、大きな狼。
 廊下を歩かせるのは少し狭そうだが、かまうまい。どうせ暴れれば何もかもを破壊してしまうのだろうから。
 ――怖い発想を、してしまうな。
 と、己を冷静に疑問に思えたのは、蒼を召喚した後のことである。


「おおお!なんだ、なんだアレは――!」
 さて、ところ変わって侍たちが絡繰りに苦戦する戦場である。
 廊下に突き刺さった忍刀を物ともせず、走り迫る蒼の弾丸が如く――アジュアが、煙が走ってくる!
 煙には、今までの己らから確かに自信があった。
 この狭い廊下であっても、機動力と射程であればだれよりも――今は、優れているはずだ!
 アジュアの頭の上、そのふさふさとした毛を左手でつかみながら、煙は鉄の死神を繰り出す!

「 喰 ら え ぇ え え え え ッ ッ ッ ! ! ! ! 」  

 がうんがうんがうんと吼える音と共に、アジュアは壁を蹴り、天井を蹴る!
 足場に大きな足跡を残して、一直線ではなく変則的に。
 かつ、侍たちに傷をつけないように煙の放つ弾丸がこの死線入り乱れる空間を縫うように舞って――絡繰りに命中!
 ばきゃりと音を立てて射貫かれた絡繰りたちは、地面に伏せていくばかりだ。
 次いで、呆ける侍に飛び掛かろうとする人形には容赦なく狼のあぎとが喰らいついた!
 駆けていく狼から離脱した煙が、マガジンを入れ替えて火花を散らしながら弾を放つ!また放つ!
 壁に無数の穴をあけながらも薙ぐように、かつ狙いは正確に。固まった侍たちなど、障害物にもならないのだ。
    ターゲット
 狙うは標的!数は多数!鎮圧!完全の鎮圧こそ、正義!!

 一度訪れた沈黙が――この場の誰もに、煙の正義を知らしめた証拠だった。
「……うおおお!なんと、なんと勇ましき火縄か!」
 ありがとう、と握手を求める侍の顔には、心底から救われたと言いたげな色がある。

 ああ――この笑顔を視るのは、煙が刑事を辞めてから、何度見れたものだったろうか。
 握手に応えながら、煙がどこか懐かしい感覚に陥る。
 じんわりと胸ににじんだ感謝の言葉が、まるで気道と心臓を圧迫するかのようにして目頭をどこか熱くさせるではないか。

「俺が――俺たちが、撹乱する。あんたは信じるままにやってくれ」
 この熱を、彼らの希望として渡さねばならない。
 煙の片方の瞳が侍を射貫いた。侍もまた、心を打たれたのか涙ぐんで頷く。
「猟兵よ、おぬしは大丈夫か?休んでおらずとも、よいのか」
「ああ、大丈夫。あんたたちに降りかかる火の粉は、俺たちが撃ち落とす」
 大丈夫、と言えた煙の口許は、今度は穏やかに笑えていただろうか。

 がしゃりと熱を持ったままの己の銃火器を握りなおして、アジュアを呼ぶ。
 サムライたちに真っ赤な口内すら晒さない獣は、彼らにむける敵意がないことを煙にも伝えていた。その大きくて利口な鼻っ面を撫でてやる。
「――大丈夫さ」
 誰にも、己にも言い聞かせるような穏やかな声色だった。
 彼こそ、加里生・煙である。
 正義のために法の下、力を行使する国の番犬である。
 ならば、それならば!

「――これが、正義なら。俺が負けるわけないだろう?」

 彼が正義である限り、この群青の蒼を機械仕掛けは止められまい!

大成功 🔵​🔵​🔵​

エレニア・ファンタージェン
エリィ、はしゃぎすぎたみたい
少し眠ろうかしら
傷は平気だけれど…早く着替えたいわ

そういえば、お侍さんは普通の生身の人間なのね
どうして戦えるのかしら
不思議…
エリィ壊すしか能がないから、この人達が傷付いても癒せないわ
焦れったい

…眠るのはやめた
UCで黒馬を召喚して騎乗
戦闘に戻るわ
馬の嘶きや撒き散らす炎で恐怖を与え、馬上から拷問具の刃で切り付けて
完全な脱力状態になる隙を与えずに、呪詛纏う蹄で蹴散らすわ
刃では2回攻撃を重ね、切りつけざまに生命力吸収を
浅い傷を重ねたほうが脱力する暇もないでしょう

第六感を使って反撃を受けそうにないタイミングを見切り、「我が懐かしの阿片窟」を発動
動きを封じてとどめを刺して回るわ


エクスデス・エクソシズム
WAO! Japanese 「NINJA」とご対面できるたァ光栄だぜ、最もオブリビオンなら喜び半減どころか真っ逆さまさ。とっとと済ませちまうかね。

煙幕爆弾なんてクソ面倒なものを投げ込まれちゃ敵わねぇ。ガジェットってのはこういう時の為に在るってもんよ。デカくて重い武器は強い、そしてベースボールでもheaviestなバットは強ェのさ。形状については文句言うなよ、こいつはgame(試合)じゃねえんだからな!
そんでもって侍や愛する猟兵の皆が傷ついたならユーベルコードで回復だ。
「生憎天使や聖女なんてモンじゃあないが、傷の治りは保障するぜ」

◎★【判定:WIZ】



●神も仏も御使いも

「おお、なんと酷い傷か!」
「さあ、こちらへ!さあ!」
 侍たちが口々に心配して声をかける真っ白な――今は、赤い花を服に咲かせてしまっているが――女性は、エレニア・ファンタージェン(幻想パヴァーヌ・f11289)。
 眠たげによたよたと歩いているのだが、彼女の仔細を知らぬ侍たちからすれば胸に傷を受けながら歩く彼女がこと切れるように見えて仕方なかった。
 むしろ、侍たちが一方的に歩いている姿に執念(ゆめ)を感じてしまうのだが、現実はもっと単純である。
 先ほどの戦闘で少々はしゃぎすぎてしまったというのがエレニアにとって今の己への総評だ。
 貧血という症状はヤドリガミであるエレニアには関係がないし、『焔』から得た生命力で傷などとうに塞がっている。
 だが、あまりにも繊細なつくりをした彼女と、神聖さを醸し出す白のドレスが真っ赤であるからそればかりが目立ってしまうのだ。
 ふわあとあくびを一つ手で隠しながら、少し眠ろうかなど考える。疲労も、体力の消費のあらわれであるのだ。

「……早く着替えたいわ」
 もとより、戦闘を開始した皆とは隔離されて割れ物のように扱われているのは好きでない。
 いっそこの服を新しいものに変えてしまえば、襖の前でエレニアを守護すると息巻く侍たちを黙らせ、再び戦うことが許されるだろうかなんて考えていた。
 ころんとい草の上に寝転がってみるものの、広がるのは木造の薄暗い天井ばかり。
 
――退屈だ。
 
此処にいたところで、王子様などやってくるはずもない。ぼんやりと思考を巡らせながら不機嫌によこたわる。
                  リアリスト
 どこまでも虚構を知ったからこそ、現実主義であった。

「HEY!こんなところで白雪姫たァ驚きだぜ!生きてるかい、マドモアゼル!?」

 つぎに響くは、警戒かつ熱い男の声。
 何事だろうとのんびり声をした方を首だけ動かしてみれば、白の髪がわずかに広がった。

「どなた?」
                              エクソシスト
 赤い瞳に映るのは、しゃがみこんでエレニアを映す聖者の服をしたテレビニウム。

「よくぞ聞いてくれたッ!オレはcoolな死者還し――エクスデス・エクソシズム(死者還し・f15183)さ!」
「死体だと思ってくれたのかしら?」
「ノン!愛する仲間が生きてねェと来た意味がねェよ!」
 ち、ち、ち、と右手の人差し指を振るエクスデスは、己が信仰していた神とは違うが――神であるエレニアに明るくも無礼に語ってみせた。
 そして、次にその指に灯るのはあたたかな光だ。
 そのままついとエレニアに向けられる。
「愛すべき侍の皆が言ってたぜ。ちょっと疲れてんだろ?」
「あなたのおかげで、目も覚めたけれど」
「HAHAHA!!そりゃあよかった。だがとっとと済ませちまいたいだろ。この局面」
 ――それは、確かにエレニアには否定が出来ない。
 やってくる眠気が覚めたとはいえ万全でない状態でこの後の大将戦に挑むのも、楽しくなさそうだ。

 それに、いつまでも守られてばかりの様はどうにも気に入らない。

 自分の脚で、その力で未来を切り開きたいと誰もが思っているように、エレニアもそうなのだ。
 もう、飾られてばかりで――夢の御使いらしくしおらしく人の言いなりになる緩やかな地獄に戻るのは、御免であるから。
「安心しな、こう見えても聖者だぜ」
 【生まれながらの光】は、紛れもなく彼が神の御使いである証だとエレニアもよくわかっている。
 王子様のキスよりもずっと単純で、それからクールな手段で目覚めることができるのならば、喜んでその光に照らされることを受け入れるだけだった。

「『蹴散らしなさい』」
 侍たちが守護する襖が、真っ黒な蹄で蹴り飛ばされた。――あんぐりと口を開けてそのさまを見るだけしかできなかった彼らのことは置いて、エレニアは悪夢の馬に乗る!
 【蹄音の小夜曲(ナイトメア・セレナーデ)】で呼び出した彼は、エレニア以外の質量を乗せたのを不機嫌そうにしながらも前へ前へと嘶いて走るのだ。
「WAO!!こりゃあ、すげぇ!かぼちゃの馬車よりはSPEED出てるぜッ!」
「おとぎ話ばかりじゃ、つまらなくってよ!」
 黒馬に乗せられたエクスデスが楽し気に中指を立てれば、からからとエレニアも笑う。
 ファンキーな口調にはそれ相応に演劇めいて返しながらも、それでも気品ある応対は忘れない。

 悪夢の化身が二人を連れて戦場に戻った!
 
 馬の蹄が向かう先は、これから侍たちを攻め落とそうと廊下を忍び足で歩く絡繰りたちの眼前である。
 もう一度気高く嘶き、前脚をスタンピングする悪夢の化身はつま先から火花を放った!
 ――進行方向に、線路でも引いたかのように蹄から燃え広がる炎に逃げ惑う絡繰りの叫びは、声にもならぬ!

「『憂き世のことは全て忘れて』」
 指揮棒のように彼女が持つ蛇のあしらいをした杖を向けて、くるりと空気を甘いにおいを混ぜるように紫煙を放てば――炎に逃げ惑うばかりのものどもは我楽多へとなり下がる。
 これこそ、エレニアの本懐である【 我 が 懐 か し の 阿 片 窟 (オピウム・ファンタージエン)】のすべてだ!

「Japanese 「NINJA」とご対面できるたァ光栄だ……と思ったが、これじゃあテンションも上がんねぇどころか、真っ逆さまだな」

 からんと全てが沈黙すれば、あとは眠る人形ばかりだ。
 エクスデスが肩をすくめて、エレニアの後ろで十字架を呼び出す。

 ごう!と音を立てて――プレス機のように重厚な十字架(クロス)もとい、超絶対浄化携行型蒸気大型武装・楽園(エデン)がその場に影を差せば。
 床をひしゃげる勢いで人形共のことなど、スクラップにしてしまったのだった。

「スタイリッシュ・スマート・スタイルって感じだ。どうだい、マドモアゼル」
 土埃、それから床のひび割れが語るは、彼らの目の前にいる敵性反応が完全に沈黙し、消滅した事である。
 立ち上る黒の霧は数多く、十字架が届く限りは全てを葬ってやった。
 得意げにエクスデスが語るのを、エレニアはうんうんと頷いて聞く。

「うん、とっても気に入ったわ。わかりやすい勝利だもの。だけれど、エクスデスさん」
「ん?」

 ぴ、とまるで子供に教えるように立てられた白い手袋でもしているかのような細い指は、まっすぐに上を示していて、それはきっと見ようによっては教会のシスターのようだったかもしれない。
 まるで、悪い子に教えを説くような――そんな語調で彼女は言うのだ。

「マドモアゼルじゃなくて、エリィよ」
「――AGH!」
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

真守・有栖
◎△

次は絡繰り三昧ね!(わぐわぐ)
握り飯を頬張り、お茶をずずーっ
小腹も満たした。後はずばっと断ち斬るのみ!
さぁ、どこからでもかかってらっしゃい!

って、不意打ちは卑怯よっ!?
わぐぐ!あにまると違って、なーんかびみょーに殺気が読みづらいのよねっ

なーらーばー?

死角からの速撃を避けず、あえて受けるわ。
肉を斬らせて、糸を絶つ。
返す白刃にて、成敗!

あだだだだっ!?
けれど、大丈夫…っ……!さっきの戦いで学んだわ。血止めは月喰の光でじゅわっと灼いて……わぅぅうううう!!?

――嗚呼。逃げても無駄よ?

此の場は全て、私の間合い。

迸る斬光が彼方まで延び、白刃届かぬ間合いの外まで薙ぎ斬るわ。

さぁ、ばっさばっさいくわよ!


シュテルン・ガーランド
◎★
ニンジャ!ニンジャだよシュテルン!
彼らはすっごく強くて不思議な術を使うんだよ!楽しみだなぁ…あイタッ!尻尾で叩かないでおくれ!ごめんごめん、戦うのは君だものね、気合を入れて挑もう

敵の攻撃をよく見て、合間を縫って攻撃に走ろう
僕達は素早さなら自信はあるよ
トリニティ・エンハンスで水の魔力によって流れるように合間合間を駆け抜けてトドメをさしていこう
メインディッシュの前にお腹いっぱいになりそうな量だねぇ、なんてついつい笑みが零れてしまうけれど
マナーのない敵集団に容赦はいらない、僕達も大胆にいただきます、だね
小回りをきかせて傷ついた的への追撃をメインにザクザクと
美味しく切り取ってしまおうか



●狼と鼠の間合い
 
 皆が戦う音を聞きながらも、もぐりもぐりと握り飯を頬張る。
 戦となるのなら、まずは腹ごしらえからとはよく言ったものでやはり動いた分だけの摂取は必要不可欠だ。
 アドレナリンの分泌にも限界があるように――真守・有栖(月喰の巫女・f15177)の考えは、もっともっと単純だったかもしれないが、これで彼女は十分な回復を得た。
「次は絡繰り三昧――後はずばっと断ち斬るのみ!」
 自信満々に己を鼓舞してから、ぐっと立ち上がる!
 
その有栖についていこうと小さな影たちが歩いていく。
 足元にいるのを有栖は気づいていないようであるが、シュテルン・ガーランド(歯車の冠・f17840)とその歯車であるラートには些細な事であった。
「ニンジャ!ニンジャだよシュテルン!彼らはすっごく強くて不思議な術を使うんだよ!楽しみだなぁ!――あイタッ!」
 きゃっきゃと眼前ではしゃぐ歯車を鬱陶しそうにしなる尻尾で叩くシュテルンは、不機嫌そうだ。
 なぜならば戦うのは歯車であるラートではなく、シュテルンである。
 戦いにおいて使命感は抱いておれど、ラートのように不謹慎に楽しむことがシュテルンには出来ないし理解もし難いのだ。
 まさに、無言の威圧を放つ相棒に歯車は慌てた。
「ごめんごめん、戦うのは君だものね、気合を入れて挑もう」
 機嫌を取ろうとしたわけではないが、身分は理解しているということは伝えておかねばなるまいとすぐさま歯車は口にする。正しくは口すらないのだが――シュテルンに気持ちが伝わればいい。
 ふん、と話した廿日鼠の少女はどこかちょっとだけ満足げなのだった。


「さぁ、どこからでもかかってらっしゃい!」
 廊下に躍り出た有栖が、刀を抜く!手にされた鋼はぎらりと明かりで刀身を鈍く照らし、光刃『月喰』をより鋭く見せた。
 彼方の敵すらも斬り伏せようと輝く彼と、持ち主の有栖が音のたてぬ敵に挑む。
 彼女の周りには、まだ一つも影が見えやしないが――そろりと彼女の立つ床、その下から忍刀がつきあげられる!
「わうっ!?」

 たまらず、体を仰け反らせてその斬撃をいくつか己の流した髪を犠牲にすることで有栖は凌いだ!

「不意打ちは卑怯よっ!?」
 そう叫んで、一度刀で斬りかかってみても忍びであるからくり人形はすぐに天井に逃げてしまう。
 ごとり、たたた。
 それ以上の音は聞こえない。まるで、それは鈍感な有栖をあざ笑うかのように変則的にあちこちで聞こえるのだ。
 大きな狼耳を四方八方にひくひくとさせて、悔しそうに有栖はあたりをにらむ。
「わぐぐ!あにまると違って、なーんかびみょーに殺気が読みづらいのよねっ」
 耳も使って、鼻も使うが――野性というものに頼り切りである有栖からすれば、機械が相手というのはどうにもやりづらい。
 ならば、出来るのは痛みに耐えられる強さを持った己のみができる戦術である!
 
 どうと次は有栖の死角から勢いよく飛び込んだ絡繰りだ!
 その手には忍刀がやはり握られている。
 有栖の柔らかな腰を貫いて一番血の巡りが良い肝臓を一突きしてやろうと――明確な殺意を抱いて突っ込む!
 だが、その殺意こそが命取りだったのだ。
 ぎらり!と野性の眼を煌めかせた有栖が確信を抱いたまま――己 の 左 手 で 忍 刀を 握 っ た !

「 成 敗 ッ ッ ! ! 」

 そのまま振り向きざまに横薙ぎの一閃!
 銀色の光と数度の火花が散れば無残にも我楽多は横に両断され動かなくなった。
 ぼたぼたと零れ落ちる己の血を舐めながら、相手の再起不能を確認した有栖が息を吐くと緊張がほぐれていく。
 取り残した痛覚がじんわりと戻ってきた。
「あ、だだだだだッ!?」
 忘れていた痛みが彼女に傷を訴える。
 ああ、この痛みは思ったよりもひどい。傷を見てみればくぱりと皮膚を開いて中の肉が見えてしまっているのだ。
「あ、でも、さっき学んだのよ!血止めは月喰の光でじゅわっと」
「だめだよ、お嬢さん」

 紳士的な声が響いたかと思えば、癒しの水がどこからともなく有栖の手のひらにかけられる。
 穏やかな川のせせらぎのように、冷たくもどこか優しい透明は彼女の出来立ての切り傷を洗い流して、洗浄してゆく。

「傷はそこまで深くない、大きいだけだね」
 一体どこから声がするのか?きょろきょろと有栖があたりを見てみるのを、「やっぱり」とちょっと微笑ましそうにした声が歓迎する。
「ここだよ、ここ」
 手を振るシュテルンと、その貌の上で話すラートに気づけば――きゃうんと子犬のような悲鳴を有栖があげたのだった。

「よし、これでいいね」

 有栖の服の端をナイフで裂いて、きゅうと拳に結んでやれば簡易の包帯が完成だ。
「すごいわ、こういうこともやらないといけないのねっ」
「もちろんさ。レディなのだから、手当ての種類はたくさん覚えておいた方がいいよ!」
 楽し気に語るラートを人差し指でとんとんと小突くシュテルンが治療したのであって、かの歯車は知恵を与えたに過ぎないのだ。けれど、得意げだった。
 有栖はまだ右手で刀を握れる。己の布の巻かれた左と、そうでない右手を見比べてから迷いなく有栖は立ち上がった!

「じゃあ、続きをしましょう!」
 そして、また腰を折って鼠と歯車の彼らに手を差し伸べる。
 いいのかい?とラートが聞くのと同時にシュテルンはよじのぼった。
 まじまじと近くでラートが有栖を見てみれば、俊敏で餓狼たる彼女の紫はめらめらと闘志に燃えている。
 ならば、野暮なことを言うものではないかとため息をついてから
「マナーのない敵集団に容赦はいらない、僕達も大胆にいただきます、だね」 
 と歯車が言えば、廿日鼠の少女は当然だとばかりに頷くのだ。


 巻き起こるは――大 洪 水 ! 

 別の階で戦う猟兵たちの頭に水滴が落ちたりしないよう、ささやかに地から浮いて絡繰りたちを押し出すその水の力は【トリニティ・エンハンス】を扱うシュテルンのものだ!
「メインディッシュの前にお腹いっぱいになりそうな量だねぇ」
 流されていく黒の数を視ながら笑みをこぼす鼠たちである。
 素早さには自信のある彼らは――水にまきこまれないよう、天井と襖のはざまを走った!
 彼らが走ってゆくたびに水が巻き起こっているのだ。
 では、流されていく忍たちを誰が斃すかといえば月を喰う狼である、彼女である!

「頼んだよ!美味しく切り取っておくれ!」

 歯車が叫べば、白銀の煌めきが応える。

「――嗚呼。逃げても無駄よ。此の場は全て、私の間合い」
 流される水の中、悶え狂う絡繰りたちが滝のように流れてくる先!そこにいたのは人狼、――有栖!
 刃を今一度大きく掲げて、空気を肺いっぱいに吸って――狭い廊下で暴力的な水に流される忍たちを、光刃『月喰』にとらえた!
 
「で ぇ 、 り ゃ あ あ あ あ あ あ あ あ ッ ッ ッ !!!!」

 咆哮と共に、【剣刃一閃】が放たれ迸る斬光が彼方まで延び、白刃届かぬ間合いの外まで薙ぎ斬る!
 そうすれば、まるで指導者の奇跡がごとく滝は――両断された!
 水しぶきとなった魔力が霧散すると同時に、我楽多となった彼らも黒霧となって空気へ溶けていくではないか。

「ブラヴィー!」

 思わず歯車の彼も、楽しくなりすぎてしまうほどの快進撃である!
 廿日鼠の少女が温かく笑ったのは――きっとこちらに手を振り上げて勝利を喜ぶ狼の彼女が間違いなくとても、勇ましかったからだ。

「さあ、ばっさばっさいくわよ!!」


 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジュジュ・ブランロジエ
◎★
メボンゴ=からくり人形

後れ馳せながら助太刀に参ったでござる!
なんてね!
さあ、行くよ、メボンゴ!
忍者との戦いってちょっとわくわくしちゃうよね
『うん!』(裏声でメボンゴの台詞)

遠距離なら弓、それ以外はメボンゴから出る衝撃波で攻撃
食らえっ、メボンゴ波ーッ!

UCワンダートリートは無効化されても早業&二回攻撃で即座に再発動
ふふふ、二度目は受けきれないでしょ!

敵の攻撃は第六感・見切りでタイミングを計り
メボンゴから衝撃波を出して衝撃緩和しつつ武器受け
メボンゴ真剣白刃取り!

隙あらばカウンター
暗器のナイフを投擲
関節を狙う
手裏剣だったら忍者対決っぽくなったんだけど
まあ、私は忍者じゃないから仕方ないね!



●白薔薇スターとナンセンス

「後れ馳せながら助太刀に参ったでござる!」
 高らかな宣言と共に彼女は茶色の髪をひらりと翻した!
 ジュジュ・ブランロジエ(白薔薇の人形遣い・f01079)――彼女こそ、白兎と人形劇を繰り広げる少女だ。
 なんてね、と笑いながら呆気にとられた侍たちに挨拶をひとつして、悠々と戦場に出る。
 彼女が戦う理由は、即ち人の笑顔の為である。
 路上やショーの前座にて、その技術を振るってきた。
 人形を操る腕といえば彼女の独壇場といってもよいほどのもので、いろいろな人を驚かせては、興奮させ、そして期待たっぷりの顔を満足の笑顔へと変えてきたのだ。
 時に人形を操りながらも、下手な腹話術は彼女の技術とのギャップもあって大きく笑ってもらったりもしたものである。
 そして、今――猟兵として未来を抱く身になった彼女がやってきたのは、まさに今絶望に抗おうとする侍たちと、それを蹂躙せんとす悪しき羅刹どもの戦場だ!
 張りつめた空気は、大掛かりな大道芸をキャストが演じるときのものと似ている。
 先ほど真っ白な友達が悪夢に乗って駆けて行ったのを――見送ったものだから、ならば一層頑張らなくてはと気合を込めた。
 今は、彼女も共演者だ。

「さあ、行くよ、メボンゴ!」

 愛らしいフランス人形のウサギにはあまりにも似つかわしくない名前だからこそ――面白おかしくて、誰もが笑える。
 呼び出された白兎の絡繰りはつやりとしていて、細やかな服飾が美しかった。
「忍者との戦いってちょっとわくわくしちゃうよね?」
『うん!』
 今日のコンディションを確認するためのリハーサル。裏声の調子は相変わらずであるが、これでよい。
 誰もを笑顔にする未来の大スターならばこうでなくてはいけないのだ。
 ポリシーを抱きながらジュジュは誰もが笑える希望へと、前へと進めるのだから!

 侍たちを探してぞろぞろと絡繰りたちは天井裏から出てくる。
 すでにほとんどの猟兵に気づかれたのだ、ではもう大げさに隠れる必要もあるまいと判断したのだ。
 かしゃかしゃと気味の悪い音を立てながら、機械たちは廊下の先へと駆けてゆく。からんころんと部品が落ちれば、さらに加速していく。
 廊下の曲がり角に誰かの影がある――それへ一目散にどうと疾駆!

「食らえっ、メボンゴ波ーッ!」
           トリック
 だが、それこそ彼女の奇術!そして休むことなく、続いて迎撃!

「『これもある意味ショータイム!』」

 宣言と共に放たれる次なる奇術が【ワンダートリート(ワンダートリック)】!
 可憐な白兎から放たれた衝撃波にのせられたナイフは、襲い掛からんと勢いのまま飛び上がった忍たちを吹っ飛ばす!
 しかし、いざと言うときに仕組まれていた第二陣と思われる後ろの絡繰りたちは脱力したまま、あえてそれを受ければ――からからと体内からまた忍を増やした!
 
 それでも、意外性と言う点でジュジュに挑んだのは愚かな選択だった!

  アドリブ
 無茶ぶりなど奇術師である彼女にとっては朝飯前である!
 くるんと繰り糸を回してやれば、白兎はまた衝撃波を放ち――二度目のナイフを放った!
 白銀のきらめきはカウンターの成功をその軌跡をもって証明する。予想外の演算で叩かれた残党の人形たちが、処理が追い付かず固まっている。
                                      
 どすどすとその銀が人形たちの関節を射貫けば、衝撃波の余波で加速!
        ・・・・・・ 
 ――パーツごと持って行った!
 動く術も演算能力も失われ、空を舞う体には容赦なくナイフが突き立てられる。
 衝撃が加わるたびに人形共のからだは、くるくると勢いのまま廻って地面へ叩きつけられて黒霧となって消えていった。

「手裏剣だったら忍者対決っぽくなったんだけど。まあ、私は忍者じゃないから仕方ないね!」
『そうだね!ジュジュ!』

 不出来な裏声を言いながらも、観客のいない戦場であっても彼女はプロ。
   マジシャン 
 ――奇術師であることをけして、忘れない。
 美しいロリィタに彩られたメボンゴを抱いて、次の舞台に足を進めたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

矢来・夕立
この程度の負傷、どうということはないですよ。補給も結構です。
あー…千代紙、ありません? だいぶ燃やしちゃったので。今後も考えると残弾が心許ないんですよね。
なければないでイイですよ。子供の遊ぶものですし。

標的は忍者モドキの絡繰人形。一山いくらが十把一絡げ。それなら遠慮も何もない。
本業の忍び相手にイイ度胸ですね。
――《暗殺》ってのはこうやるんです。
《忍び足》で近づいて、稼働部に【竜檀】。

本業の武士、しかもやる気がある方々がいますね。非常にやりやすい。
事実普通の人間は猟兵よりもろい。敵が狙うのは恐らくそちらからでしょうから。
囮になってもらえれば、人形を背面から叩き斬り放題ってコトです。
効率的ですね。


穂結・神楽耶
◎★△
猟兵はいつまでも同じ土地を守れません。
本来そこを守るべきは土地に根づいた方々なれば。
ええ、是非とも協力致しましょう。
あなた方が真に砦なのですから。

『存在感』にて敵兵を威圧、攻撃は適宜『オーラ防御』で弾きます。
ようは囮ですね。
主となる攻撃は侍様方、あるいは他の猟兵様方にお任せ。
わたくし自身は牽制と援護射撃に徹します。
『拠点防御』の心得もありますので合間に教授しながら─が最上ですが。
難しいようなら立ち回りを見覚えて頂きましょうか。

それから。
わたくし忍者の手管はよくよく知っておりまして。
『だまし討ち』なぞ、できると思わない方がよいですよ?



●阿吽の光影

 「この程度の負傷、どうということはないですよ。補給も結構です」
 己に纏わりついた汗と煤を手拭いで拭きながら、眼鏡もついでに拭いてやる。
 愛用している伊達のそれが歪んでいないことを確認できればそれでよいが、すっかり汗でべとべとだ。
 塩分を含んだ水滴がレンズに残す痕に、苦い顔をしながらも矢来・夕立(影・f14904)はいつもの余裕を守り続けて居た。
 まったく、面倒な――。
 吐き捨てたい気持ちを堪えながら、彼は事前に折ってきた紙たちを見やる。
 ひい、ふう、みい。
 数えても数えても、その数は先の戦いでうんと燃やされてしまっていて、どうやっても足らない。
 いつ、むう、なな。
 加えて、種類も足らないようだから、何かできることはないのかともたつく侍たちに尋ねてみることにした。
「あー…千代紙、ありません?」
 無ければ無いでよいのだが。
 千代紙と聞いて侍たちが慌てふためくあたり、心当たりはないのだろうか。
 夕立が眉根を下げて、いつものように憂いを含む顔になる。

 まったく初戦から相性が悪かった。さて、これからの立ち回りはどうしたものか――と、考えていれば。
「あったぞ!あったぞ黒の!」
「黒のって」
 それ、オレのことですか。
 と言ってしまうまえに寄せられたのは、この砦からなんとかかき集めた千代紙たちである。
「俺らの娘息子も、たまに此処に連れてきてやるんだ」
「父上はここで頑張ってるぞって、教えたくて」
 ――ああ、なるほど。
 かさりと音を立てる千代紙を手に取ってみて、その美しくも繊細な模様に夕立が納得する。
 子供用にしては上等だ。
 きっと、侍たちが子守ついでの玩具として用意していたのだろう――大人の好みそうな柄だった。
「多少シックですが、まぁいいでしょう」
 頷いた夕立に、ほっと胸を撫でおろす侍たちがいる。
 夕立は表情こそ変わらないが、紙を手折る指先は几帳面に端と端を合わせていった。
 結果的に、彼らの未来(こどもたち)を守る一手となるならば――余計に、丁寧な仕上がりにせねばなるまい。


「ええ、是非とも協力致しましょう。あなた方が真に砦なのですから」
 おおおお!と大きく歓声が上がる。
 多くの猟兵たちが侍に協力的であるが、彼らを積極的に前線に立たせることにしたのは穂結・神楽耶(思惟の刃・f15297)だ。
 彼女が、侍たちをこの場に出したのは――。
 理由がある。
 猟兵たちは、いつまでもこの場を守ってはいられない。
 たとえ今日の軍勢を屠ったところで、また時間がたてば過去はその分生まれてオブリビオンは湧き続けるように、この場に二度と脅威がやってこないとも言えないのだ。
 だからこそ、神楽耶は彼らを『見守る』という行為に出た。
 けして死なせはしないが、己の身で護るための試練を与えねばならない。
 彼女が刀の化身だからか、はたまたそれとは違った心構えかもしれないが――神頼りというものは、尤も愚かであると知っている。
 正しくは、経験者だ。

 数少ないからと玉砕覚悟で表に出てきた絡繰りどもに、心はないだろうが仕組みはある。
 きりきりと軋む錻力は命を狩ろうと忙しないが――。
 だが、そのような真似をさせるかと神楽耶がひとつ、睨んだ!
 神の威光ともいえる戦意の輝きを瞳に宿す。
 びりりとその場の空気が震えて、敵には威圧を、そして侍たちには。
「う、おおお」
「おおおおお」
「ぉ お お お お お お オ オ オ オ オ  オ オ オ オオッ!!!」
 鼓舞を与える!
 どう、と彼らが足並みをそろえて駆け出せば、場所は一階。少し広めの廊下で戦闘は始まった!

「『偽りなれど、彼の色は真となりて。』」
 
剣戟の音を聞きながらも神楽耶が生み出したのは【神遊銀朱(シンユウギンシュ)】による複製された己たちだ。
 鈍く光りながらも、それらはすぐには飛ばず神楽耶の後ろでまるで扇の如く広がっている。

 まだ、刃を飛ばさない。
 
絡繰りが北西で部品を外して豪速の一撃で貫かんとするならば、神楽耶の刀が飛んで行く。
 まるで、その様は布を縫う針の如く――。
「お、おっ!?かたじけないッ!」
「いいえ。貴方は少し右に癖があるようです。左をおろそかにしないように」
 剣の指導をしながら、刀を飛ばして――拠点防御の極意を伝える。
「相手を見る!次に来る攻撃をある程度予測しなさい!一撃で力量を見定め、必要最低限の力で斬り合いなさい!」
 そして、求められるは冷静沈着。
 声こそ大きいが、神楽耶の表情はけして怒りには満ちていない。
 その表情が人を育てるという感覚で楽しそうでもあったから――彼女を狙う絡繰りたちも当然、現れるのだ。
 客観的に見ても指揮官は神楽耶だった。ならば、彼女を狙わない理由もあるまい!

「それから」
 振り向きもせずに囁くような一言に、影たちが強張った。
「わたくし忍者の手管はよくよく知っておりまして。『だまし討ち』なぞ、できると思わない方がよいですよ?」
 目線だけが影のほうを向いたが――やはり、顔は前に向けたままだ。楽し気に微笑む彼女のそれを、『心してかかれ』と受け止めなかった忍どもには――!

「本業の忍び相手にイイ度胸ですね」

 舞い出づるは、一閃の黒!
 夕立がまるで鴉のように黒を連れて天井裏から降って現れた。
 誰も気づかなかったのだ。
 彼をよく知る神楽耶は気づいていなかったが、『ここに来るであろう』とは予想していた。
 なぜならば、彼のやり方に己が一番沿っていたのだ。
 普通の人間のほうが猟兵よりも狩りやすいのは、敵も味方も認識に相違ない。だから絡繰りの仕組まれた回路には真っ先に「侍」を狙わせるよう組んであるはずだ。
 ならば、忍たる彼がやることと言えば――。

「うまく、囮になっていましたでしょう」
「ええ、よくわかっていらっしゃる」

 神楽耶が微笑みかければ、夕立は振り向かないが口許が少し笑んだ。
 彼女ならば――目立つことをするだろうな、と踏んではいた。
 矢来・夕立が友に選んだ相手である、夕立のやり方などよくわかっているように、神楽耶のやり方もよくわかっていたのだ。
 ――まさに、その様。阿吽!
 
 ふ、と夕立が気配を消せば、絡繰り人形たちはあっけなく彼を見失う!
 どこだ、どこだと懸命に振られる布を垂らした頭に鋭い影が差せば――。

「『はい、真っ二つ』」

 疾るは、『雷花』!斬魔の剣が空気を割いて、人形の頭を貫いて夕立の下へ引っ張れば頭蓋が割れた。
「――暗殺ってのは、こうやるんです」
 そしてまた、影に消え。また、人形に影を刺す。今度は可動部である肘を貫いた。
 段々とその動きは早くなってゆき、まるで敵を試すかのような――忍同士の戦いである、力量を比べているからこそ、静かに行わねばならない!
 砕け、裂き、また錻力が飛ぶ。
 その音を聞きながら、神楽耶は前にいる侍たちに指示を出すのだ。

「敵兵、残りあとわずか!――覚 悟 致 せ ッ !」

 戦う侍、それを導く神楽耶、そして余計な刺客は断つ夕立。
 此処に在るは、侍と言う人間を育てるための構図である。

 己の力で守るべきものを守れてこそ、心の強さであり、この任務の成功だ――誰もが、今は前を向いて戦っていた!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

花剣・耀子
◎★
手助けして貰えるのは、有り難いわね。
……こちらが手助けをする側だったかしら。
まあいいわ。持ちつ持たれつ。もう少し頑張りましょう。

残る負傷には包帯を巻いて
それよりも優先すべきは刺客の排除。
あたしは休む程ではないわ。
……でも、あとでごはんをご馳走して頂戴ね。おこめは好きよ。

その場のヒトたちと協力して、からくりを排除しましょう。
――、此処が命の遣い処なら、それも良いとは思うけれど。
余力があれば、人死にが出ないよう努めるのだって自由よね。
どちらにしたって、やることはひとつだもの。
斬り果たすわ。

おまえたちの間合いは、あたしの間合いよ。
触れた瞬間に斬り返しましょう。
肉を斬らせて骨を断つと言うでしょう?



●嵐の一幕

 ぎち、と己の負傷に包帯を巻きつける。
 多少の薬品とそれから新しいにおいがツンと鼻をついて、顔を顰めてしまうがもう少しだけ走り続けねばなるまい。
 意を決して立ち上がり歩き出す黒の彼女に、侍たちは慌てふためく。
 もうからくり人形たちも残り少ないというのに、急いで戦場に戻ることもあるまいと傷だらけの花剣・耀子(Tempest・f12822)に声をかけながらも、何か必要ならば食べていくかどうするかと彼らは問う。
「あたしは休む程ではないわ。……でも、あとでごはんをご馳走して頂戴ね。おこめは好きよ」
 薄い微笑みを浮かべて歩いていく耀子に、では我も我もと助太刀として侍たちがついてゆく。
 そろそろ大将戦が近いのだ――ならば、邪魔になるような手合いは絶対に滅ぼしておかねばなるまい。
 そしてついてくる侍たちには一度、振り向いてからまた前を向いて歩きだす。
 次いで耀子から出てくる一言は。
「――、此処が命の遣い処なら、それも良いとは思うけれど」
 布に封じられた残骸剣が彼らのために振るわれるのだから。
「死なないように、ついてきて」
 余力があるのならば、彼らを誰も殺させずの完全勝利が望ましい。
 どちらにしても、耀子がやるべきことはいつだって、シンプルなのだ。
 花の嵐を巻き起こす化身よ――斬 り 果 た し て し ま え 。


 やはり、絡繰りたちは数もだいぶ少なくなってきていた。
 この後の大将戦を考えれば、コストは少なくやってくべきである。
 侍たちがごうと風を切り、叫んで刃を振るうのを、耀子もまた見守っていた。
 これは、持ちつ持たれつであるから。もう少し、彼らの魂と言うものをみていてやるのだ。
 切り傷があっても、麻痺煙幕を放たれようとしても、拘束されても――すべて、それは耀子の剣が斬る!

「おまえたちの間合いは、あたしの間合いよ」

 そして、とどめは侍が刺すように勝ち癖をつけさせておくのだ。
 刀を振るえば、勝てる。その刷り込みと言うものは本当に効く。
 みるみるうちに侍たちが己の自信を取り戻し、未来という不規則で絶対でないものに、確かな――ぬくもりを感じた!
 ならば、ならば!と。
 勢いを増して残党を狩ってゆく。根こそぎ斬りはらう。
 まるで耀子を多く複製したような気迫で、彼らは戦場の地を踏んでいく!

 だけれど、まだ刺客の排除には程遠いか。夕暮れも近くなってきて、どんどんと日が傾く。
「……時間がないわね」
 耀子が流れる戦場の空気と、その変化を敏感に感じた。
 膨大な魔力、そして神聖が迫る。
 早く侍たちを満足させてこの狩りを終わらせねばならない。
 もう少し彼らに勝利と言うものを味合わせてやりたかったが、それは己の活躍で埋めるとしよう。
「ぐぬぁああ!?」
 体中を鎖に巻かれた侍が悲鳴をあげるのを、ひとつ目を閉じてから。
 耀子は――残像を残す速さで駆けつけた!

「『 散 り な さ い 』」

 布をはらりと空気に漂わせて、放たれるのは――【《花剣》(テンペスト)】!
 空気も何もかもを裂きながら繰り出した一閃は、耀子の強さの分だけ振るわれた。

 破砕、破砕、――破砕!

 ぐしゃりめしゃりと嫌な音を立てながらもあっけなく散っていくこの人形たちに、やはりと耀子は睨む。
 ――もう、ただの余興程度ってことね。
 目を細めて、その軽すぎる手ごたえに不快そうにして続々となぎ払っていく!

「おおお!おおおお!羅刹よ!美しいのう!」
 
 戦っている様を、美しいと褒めるのか。
 耀子がそれを少しだけ気に留めてから、応えるようにまた人形どもの歯車を晒す!
 ぱきゃりと粉砕されたそれが、ようやく数を減らしたところで――沈黙。

「避難して」

 おおおと歓声をあげて盛り上がっていた侍たちに、ぴしゃりと冷静な水をかけてやるように言葉を放った。
 びりりりと震える空気――いいや、これは地鳴り!
「応!!ああ、耀子殿――!」
「何かしら」
 夕暮れの太陽と地平線の間に、黒いシミが見える。
 えらく真っ黒な大将だなあと耀子が考えていたところに、砦の中層部に撤退を始める侍たちが願った。
 ただならぬ殺気に体を震わせながらも、それでも瞳は。
「どうか、ご武運をッッ!!」
 ぱちくりと瞬きをして、侍たちのほうをようやくしっかり見る。
 皆が汗まみれ泥だらけ、時には血に塗れながらも――耀子に願わずはいれなかった。
 どうか、この勝利を本当にしてくれと。
 未来を諦めないと。
 その瞳が、その顔が。
 全身が語るというならば。

「ええ、ありがとう」

 約束せねばまるまい、嵐を巻き起こさねばなるまい。
 頷いた耀子の周囲に彼女を起点として――風が、吹き始めていた。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『闇刃阿修羅』

POW   :    六道輪廻撃
【六本の腕】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    救世塵殺
自身が装備する【武器】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ   :    後光・偽
【全身】から【目映い光】を放ち、【相手を怯ませる】により対象の動きを一時的に封じる。

イラスト:鋼鉄ヤロウ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は月凪・ハルマです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●人の子らよ

 地鳴りを響かせながら、ちょうど沈む太陽と地平線の間に黒がいる。
 きい、きい、きりり。
 不気味な音だ。しかし、それよりも注目すべきはその姿である。

「おお、おお、お、人の子らよ」

 ――『闇刃阿修羅』!
 かつて、その姿は徳の化身であったという。
 誰もを赦し、誰もを愛し、誰よりも人の平和を願った仏であった。
 だが、今は過去に憑りつかれ望むは未来の破壊となり果てる。

「救って、あげましょう」

 なぜならば、救世に――死を、見出したからだ。
 天魔が己に言うたのだ。
 天魔の配下になれば、数多くの命を救えるぞとこの悪仏に言うたのだ。
 ああ、ならば、数多くの哀れないのちをたとえ滅んだあとの今でも、救って良いというのなら。
 その六つの刀で、人の子どもを過酷な乱世から救うしかあるまい。

 救うために、――信仰されていたのだから!

「怖くは、ありませんよ」
 赤の涙は、慈悲である。

 痛みなど、感じさせぬような速さで――。
 ごう、とその巨体が地面を揺るがせながら走ってくる。
 かつての信仰と恩恵を受けて、姿は巨大だった!
 猟兵の一撃だけでは、倒れないだろう。
 だが、此処にいる猟兵の数は多い!
 一人が刀を取れば、一人は魔術を使い、一人は銃を構えるように。
 一撃一撃の威力を絶対としよう。未来に誓え!

「さあ、救世を始めましょう」 

 このような救世が―― あ っ て た ま る も の か !
 
 さあ、かつての御仏を下し誰もが望む未来を示せ!
                    ファイナル・バトル アクション
 いざ、いざ、いざ!――猟兵(Jaeger)、最 終 決 戦 、開始!
 
シュテルン・ガーランド
◎★
さあさ、メインディッシュのご登場だね
君の救いを、僕達は求めていないよ
トリニティ・エンハンスで炎の魔法を宿して、こんがり焼いていただいてしまおうか?
小回りをきかせて敵の体にのぼるか、周りとの連携で肩等の上から飛び出してナイフで一突き
こんなもので倒れはしないだろうけれど、僕らには強くて頼もしい仲間がいるんだから

最高にアツく燃え上がっていこう!ディナーショーの始まりだね!
小さな体ではあいつの一撃、貰ったら沈んでしまうだろう
ちょこまかとした撹乱をメインに、味方への援護を
属性攻撃で火傷させて隙を作るよ

傷ついた仲間には生まれながらの光で回復を試みる
ほんの小さな光だけれど、後一歩進む力になるように祈りを


音羽・浄雲
※アドリブ、連携歓迎です。

 浄雲は静かに怒る。
「救い?何が救いなものか」
 身の内に秘めた怒りは体を蝕み、浄雲の真の姿を引きずり出そうとするがすんでの所で抑え込む。怒りに任せて身を亡ぼすわけにはいかない。
 故に般若から真蛇に変型した面を顔に被り、その怒りに蓋をした。
「織田に滅ぼされた我らが郎党。救われた等とは欠片も思ってはおらぬわ!」
 印を結ぶ浄雲の周りに骸の兵団【音羽衆】がかたかたと音を鳴らして佇んでいた。皆一様に怒りを目に宿し、眼前の敵を見据える。
「征くぞ。一度は滅ぼされた我等の身命、今を生きる者らの為に燃え果てよう」
 今は昔の在りし日にそうしたように。音羽衆は駈ける。
 今度は失わない為に。



●怨讐の彼方

 ごうんごうんとその胎動を響かせながら、死を象徴するその姿がどんどん猟兵たちに迫ってくる。
 ぎらりと六つの刃が光り夕暮れの恩恵を受けて赤を乗せた。
「おとなしくしていれば、楽に導いてあげましょう。お前たちにも、救いを」
 慈悲の涙がぼとぼとと赤い泥の如く零れ落ちていくのを、シュテルン・ガーランド(歯車の冠・f17840)とその歯車であるラートは見上げていた。
 小さくもその体には未来を背負う。きらりとシュテルンの蒼が光れば、同じく金の輪も光るでないか。
「君の救いを、僕達は求めていないよ」
 歯車と鼠の少女の気持ちは、今ならばかみ合っている。
 使命に燃える小さな彼らでは踏みつぶされる可能性も危惧して、ある猟兵の肩口が彼らの足場となっていた。
 まるで、その仏――山のごとし!

「救い?何が救いなものか」
 静かに燃ゆる怒りを孕みながら、破滅の悪徳を見上げるは――音羽・浄雲(怨讐の忍狐・f02651)。
 ぎりりと瞳孔を狭めながら、己の体がまるで火の球にでもなってしまったような感覚に陥る。
 この破滅が宣うのだ、死が救いであると。
「織田に滅ぼされた我らが郎党。救われた等とは欠片も思ってはおらぬわ!」
 ――ば か げ て い る 。
 そのような思想は、所詮『本当に魂を殺された』事のない生者が語る夢物語のようなものだ。
 己の顔が、全身が熱い。明らかに瞳の赤が苛烈さを増してきていた。
 まるで、その様は頭に乗せた般若面が如く。だが、それではいけないのだと己を律した。
 肩に乗せた一匹と一つのぬくもりが、浄雲の今生きる現実というものに連れ戻していく。
 先の焔の戦いのように――己が、怒りに任せてはならない。
 だから、その般若面を執念の真蛇面へと切り替えて――顔を覆った。
 
 仮面から覗く赤の瞳には確かに、怒りが、そして絶対破壊の意志が宿される!
 
 その赤を肩口から眺めていたシュテルンとラートである。
 彼女の怒りが、純粋な戦意に変わったのを確信してラートは相棒に指示を出した。
「シュテルン、僕らも【トリニティ・エンハンス】で炎魔法を宿そう。きっと、彼女との相性がいいよ」
 この場の現場指揮官はラートが一番相応しい。
 彼はどこまでも客観的で――そして他人に動いてもらうことに長けている。だから、浄雲の機動力に合わせて炎の魔法を選択した。
 こくりとシュテルンが頷けばその金剣がゆるり、虚空に円を描く。
 そうすれば炎が三人をまるで守るかのように、地面から現れて包みだした!
 「――愚かで、哀れな子らよ」
 どろりとその涙がまた赤く地面に池を作ったところで――敵 性 反 応 、 増 大 ! 
 
 「さ ぁ 、 最 高 に ア ツ く 燃 え 上 が っ て い こ う !」

 ラートが叫べば、浄雲が駆け――、戦闘開始!
 駆けだした炎の軌跡が彼らの闘志と道筋を示しながら、勢いに任せて浄雲は跳んだ!そして、もう一度空中で火炎の爆裂に合わせて飛翔する!
 六本ある驚異のうち、せめて一本は落としたほうが後続の猟兵のリスクも減る。
 ならば、と着地したのは右の一番低い位置にある腕だ!槍のようになった穂先に、浄雲が着地すればその場から燃える!
 そのまま、どうと勢いを増して体勢を低く、走る、浄雲は走るッ!
 走りながら己の体内の熱を感じる。今こそ、今こそ我らが仲間を呼ぶときであった!
 指を組んで、印を手早く作る。そこに迷いなど、無いッ!
「『音羽が兵者共よ・・・・・・我らが怒りを此処に示せ!』」
 炎の恩恵を与えられながら――眼前、腕の関節部と思われる悪仏の上で、叩きつけるように掌を当てた!
 そうすれば、発動するのは呪詛のごとく!

「おお、そのようなものに縋るなど――汚らわしい」
「何とでも言えッ!――【音羽忍法【餓者髑髏】(オトワニンポウ・ガシャドクロ)】!」
 彼女らの炎が燃え盛りながら、呼び出したるはかつての音羽衆!
 甲冑に刻印を刻まれた彼らは、今や骸骨となって猶更、怨讐にたぎるのだ!
「征くぞ。一度は滅ぼされた我等の身命、今を生きる者らの為に燃え果てよう――!」
 まるで、昔のように彼らがそこに在った!
 炎をつれて走ればまた、使命と共に骸も腕を駆ける!

 だが。

「導いて、さしあげましょう」

 まるで鈴のように穏やかな声色で、破滅の仏は宣言したのだ。

「 【 救 世 塵 殺 】 」

 刹那、現れるはその腕に握る刃の複製――!!
 己の腕を傷つけることもいとわないのか、ぶんぶんとその刃どもは浄雲の頭や足元を狙って飛んでくるではないか!
「愛しい子のためならば、傷など厭いませんよ」
「ちィ――ならば、疾く死ね!」
 思わず仮面から舌打ちが漏れるが、そこでシュテルンとラートの出番である!
「邪魔しないでおくれよ、おとなしくディナーになってくれ!」
 浄雲の耳元で空気を何度も割きながら、金剣を振るえば炎は勢いを増した。
 ごうと纏うようにしていた烈火が燃え盛り、そうすれば、なんと浄雲を狙おうと降った剣が軌道を反らされ勢いを失っていく!
 間一髪でかわせる程度の速さになれば、皮一枚を数か所犠牲にするだけでその剣戟をかわしてゆけるではないか。

 まったく、やはりこの仲間は頼もしい――。

 浄雲が、一人ではないことを思い出す。
 この戦いは、浄雲だけで、音羽の衆だけで行ってはいない。
 大切な、仲間が――未来への、仲間が、ともに!
「全く、無理をするものではないよ!」
 そしてあたたかな光が浄雲の肩で光れば、彼女を鼓舞するかの如く包んだ。
 【生まれながらの光】に照らされて、浄雲の薄い切り傷を癒し、そして魔力の補填をする。
 ああ、やはり、 負 け ら れ ま い !
 
「集合ッッッ!!!」
 合図を出せば、音羽衆が空中へと飛んで骸の一つ一つが重なり合って、混ざっていく。
 そしてどんどんと存在を増して――その姿はまさに!

「――ッ 往 け ェ エ エ エ エ エ エ エ ! ! ! ! ! 」

 今やその怨讐の姿、――破滅の悪徳と同等!
 巨大な甲冑姿の忍が、腕を握れば吼える浄雲に応える。

 御 仏 の 右 頬 に 、 拳 が 直 撃 ッ ッ ッ ッ ! ! ! !

「――が、ッ」
 
 苦悶の声を漏らして、仏が仰け反るのを瞳に収めた。
 その衝撃に合わせて、浄雲が己の走った軌跡を振り返るように三人とも、空中へ投げ出される。
 仏の右腕は、シュテルンとラートによって焚かれた炎がひどいやけどを刻んでおり、そして浄雲が留まった肘関節など炭同然となっていた。
 ぼろぼろと崩れ落ちていく右腕は、猟兵たちの勝利をより強い可能性へとする!

「僕たちの救いは、僕たちで得るのさッ!」
 空中で舞う廿日鼠の少女を、浄雲の手のひらが拾えば――そのまま、弧を一度描いてから地面へ着地した。
 執念の蛇の面を外し、今一度彼らに礼を言おうと浄雲が素顔を露わにする。

 汗の伝う顎を拳で拭ってから、
「ありがとう、助かりました」
「ううん、――君の手のひらは、優しいものだったよ!」

 小さな彼らの――あたたかさを知ったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ゼイル・パックルード
◎★△
死ぬことは基本的にとても不幸なことだぜ?
俺は死闘の果てに死ぬのはやぶさかじゃあないがね......過去に囚われて救われてなさそうなアンタが言っても説得力はないし、そんなやつに殺される俺じゃねぇ。

鉄塊剣で30cmより外(なるべくは鉄塊剣のギリギリくらい)から攻撃できるよう、つかずはなれずを意識。
念力で攻撃してきたらそっちに意識を向けていると考え、【ダッシュ】で間合いをつめて邪刃一閃で【咄嗟の一撃】をする。

発光は【第六感】で起こりがわかれば鉄塊剣を盾に防ぐ。
喰らった場合は、剣を振り抜ければいいんだけどな......人間の本能的に硬直はしちまうかね。いっそ捨て身のカウンターでも狙うか。


加里生・煙
◎★△
救い……?殺すことが、救い……?
……ぁ。いや、ダメだ。違う。
そうであっては俺が困る!
殺すことは愛じゃない、正義じゃない!
認めない、認めるものか。認めてしまったら、俺は。
(――この拳を止められる理由がなくなってしまう。)

……アジュア!行くぞ、あいつを生かしてはおけない。もう一度殺して、もう過去から甦らないように。戯れ言を抜かさないように。
捨て身であろうが突っ込むぞ。今やるべきはヤツを殺すことだ。

人を殺すのは救いじゃない。独りよがりの、みっともなくて、自分勝手な、――愛の姿だ。
お前じゃ役者不足だよ。少なくとも、お前に愛される(ころされる)なんて、ごめんだね。
――あぁ、獣の声が うるせぇなぁ。



●炎と正義の拳に誓え

「おお、おお、お」
 コロ
 愛すべき人の子らによって加えられた一撃と、肘を壊され使い物にならなくなった腕を嘆く悲鳴が轟く。
「――うるせぇな、そういうもんだよ、死ぬっていうのは。基本的に、とても不幸だ」
 そんな痛みも覚悟していなかったのか、と吐き捨てるのはゼイル・パックルード(火裂・f02162)。
 彼は死闘の果てであれば潰えることもいとわない、そんな戦いに生きて戦いに死ぬような男ではあったが――この悪神の考えることと言うのは、度し難いものだと思う。
「過去に囚われて救われてなさそうなアンタが言っても説得力はないし、そんなやつに殺される俺じゃねぇ」
 面倒くさそうに一度、頭をがしがしと掻いて銀髪をかき乱してから金の瞳に悪徳を視る。

 ――悪徳、というのはこのようなものではない。

 より、相手の脅威がゼイルにはチープに見えたところで戦慄く隣の彼を見た。

「救い……?殺すことが、救い……?」
 理解しがたい未知のものを受け入れられない、それは――漠然たる恐怖をもたらす。
 加里生・煙(だれそかれ・f18298)は、その脅威に言葉にできない虞を抱くばかりだった。
 黒髪を握りながら、山のような大きさをした敵を視る。それだけでも、絶望感と焦燥感が湧いてきてもよいのに。
 彼が恐れるのは、その正義の在り方だ。
 神仏、というのはUDCアース出身のものにおいてはなじみ深い。
 特に、日本に住んでいるものであればなおさら「神仏習合」の文化に慣れ、神と言えば救いで仏と言えば絶対であった。
 だから、煙は――ついこの前まで、一般だったのだから。
 その様を、静かにゼイルが視ている。口を出すべきかどうか悩んだが、彼も炎使いであるように――煙もまた炎使いであることはわかっていた。

 じゃあ、熱くてたまらねぇよな――。

 とうに己もすっかり、この戦場の熱に「あたためられている」ように。
 目の前の、この頼りなさそうな反応をする色違いの瞳を持つ彼だって同じなのだ。
「……ぁ。いや、ダメだ。違う」
 徐々に見開かれていく瞳孔に、ゼイルの読みが的中したのを悟る。
「そうであっては俺が困る!殺すことは愛じゃない、正義じゃない!」
「そうだな。俺もそれが正義だっていわれちゃあ、アイデンティティがくずれちまうよ」
 だから、拳を止めないのだ。ゼイルはそれがいかに悪徳かを知っている。
 悪とは――傲慢で、利己的で、己の欲を果たすためならば、どのように相手をねじ伏せてもよく、そして。
「証明してやろうぜ。なあ」
 存在証明に、ちょうどいい。
 暗く笑んでは、誘うように煙の二の腕を二、三叩いてやって。
 がしゃりと無骨な大剣を担ぐのだった。

「――アジュア!行くぞ、あいつを生かしてはおけない」
 こんな正義があってたまるかと嘆きながら、群青の蒼にゼイルごと乗せる。
 ふかふかとした毛並みに対し凶悪な顔をした蒼の狼に、ほおと関心を寄せながらも。
「アンタに似てるな、コイツ」
 とゼイルがくつくつと笑うのだ。
「冗談でも、よしてくれ」
 煙が煮える腹のうちを明かせなくなっているのを、確認した。
 ああ、ならばこれからの特攻は、ただの特攻では終わらないだろう。ゼイルの笑みはますます深く、そしておぞましくなるばかりだ。
 正義に狂うという感覚は、彼にないが――それもまた、面白そうではないか。
 
  アジュア 
 群青の青が、吼える!
「行くぞォオオオオッッ!!!!」
 それに合わせて吼える煙が、突撃の指令を出せば弾丸の如く!
 ゼイルが単体で動くよりも早く、機動力に優れた彼らにあやかっておく。
 ――が。

「畜生と、手を取るのですか」

 嘆きだ。
 それと共に放たれるのは――【後 光 ・ 偽 】!!

「くッ、ぅあ!?」
 煙がちかりと両の眼に映る景色を白で奪われる!
 それはすなわち、彼から出づるアジュアも同じことだったが――だが、ゼイルは!
「構わねえ、俺は前が見えてる!――そのまま、走れッ!!」
 戦闘経験であれば煙よりゼイルのほうが積んでいる。
 どんな手合いも相手してきたからこそ、予備動作と言うものには彼のほうが敏感だった!
 本能的に訴えた危機に体が反応して、背中に背負った剣で己の視界を覆い、偽りの光を遮断したのだ!
 耳元でゼイルの怒号を聞いて、弾かれたように煙が頷けばアジュアはその速さを衰えさせることはない!

「今だ――跳べッッ!!!」
 
 どう、と前脚が地面を深く掻いた。
 そして、そのまま後ろ足で体を飛ばせば、二人は仏を見下ろす!
 ・・・・
「人間風情に、見下されちゃあ――救いもクソもねェな」

 にたりと嗤う。烈火の彼があざ笑う!
「人を殺すのは救いじゃない。独りよがりの、みっともなくて、自分勝手な、――愛の姿だ」
 空を舞う感覚が煙に視界を戻させる。ごしごしと掌で瞼をもんで、眼球を正気に戻してやった。
                     コロ
「お前じゃ役者不足だよ。少なくとも、お前に愛されるなんて、ごめんだね」
            ・・・
 次いで、蒼の彼が狼から跳んだ。
 ゼイルは、それを止めない。狼の軌道が決められているのを理解したのだ。
 宙に舞った煙よりも大きな仏の顔面が、煙の眼前にある!
 ぎり、と拳を握った。力の籠めすぎで掌を爪が抉る。
 血が垂れたところで、だから――だからなんだというのか!
                                      
「『お前のあたえた痛みの分だけ、この拳には正義がある。』」
 咄嗟に向けられた無数の刃が煙の肩をかすめ、こめかみを刻んで黒髪を散らしても、彼の炎が傷ごと覆う!
           ・・・
「お前が、どれだけ――イタいこと言ってンのか、教えてやるよッッ!!!」
「言うねぇ、やっちまえ」
 炎の気配を感じて、狼と落ちていきながらもゼイルが歓声をあげた。
 悪なる彼に煽られて――悪とは知らずとも――より、煙の炎は燃える!

 【復 讐 の 牙 は 青 い (リベンジャー)】のだ!

 蒼の炎を纏った拳が、――この場の誰もの痛みを乗せて、悪仏の額に撃たれた!!
 ばきゃりと破砕音がして、額が陥没!

「お、おおおお―――――ッッッ」

 この痛みには神も仏も耐えられぬ。口から出るのが教えどころではおられず、獣の慟哭、獣の嘆きとなる!
「――あぁ、獣の声が うるせぇなぁ」
 腹正しそうにしながら、顔いっぱいの嫌悪感を乗せて。
 煙はそのまま、自由落下をしていく。

 狼の背に乗せられたゼイルは、その狼が向かわんとしている場所――正面から見て、左。その真ん中へと落ちた。
 彼が得意とするのは、超近接のバトルスタイルだ。
 敵に接敵することに長けているが、こうも大きい敵となれば間合いに入れば木偶も同じ。
 仏がすっかり煙に気を取られている今ならば、どこかひとつの腕でも落とすことは容易いと考えた。

「何が救いだよ、救われたことがねえくせに。じゃあ、今此処で『───死にな』!!」

 静かな宣告と共に、放たれたのは【邪刃一閃(ジャハイッセン)】!!
 鋭い一撃と共に、仏の体が――その意識が、額による一撃で途切れたところで、揺らいだ!
 ぐしゃりと音を立てて枯れた体に深々と一撃。
 そして、そこを削いで――左真ん中の腕が、どうと地面に落ちた!

「おっと、あんたは死ぬな」
 落ちてきた煙の襟首を掌でつかんで、そのままアジュアに乗せる。
 アジュアは帰ってきた主が、ぐったりと全身を弱らせているのを感じてぐるると嗤うのだ。
「ッハ、楽しかったかい?」

 蒼の狼が短く吠えれば、ぼどぼどとゼイルが削いだ傷から漏れる木くずとも泥とも言えぬそれを足場に軽々と地面へ戻っていったのだった。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ジュジュ・ブランロジエ

エレニアさん(f11289)と
お友達との共闘にわくわく
うん、私もメボンゴも頑張るよ!
『えいえいおー!』(裏声)

死が救いだなんて馬鹿げてる
そんなこと誰も頼んでないよ
あはは、そうだね!本当に変な敵!
あいつに人は救えないからさっさと倒しちゃお!

メボンゴが顔に飛びかかると見せかけて直前で引くフェイント
エレニアさんの攻撃が通り易くなる様に

二回攻撃で白薔薇舞刃
攻守共に活用
数多の花弁で後光を軽減
エレニアさんのおまじない(催眠術)のお陰もあるし動きが鈍ることはない
どんどん行くよー!

通常攻撃はメボンゴで武器受け
衝撃波を出して勢いを削ぎながら
メボンゴ真剣白刃取り!ってね
自分だけじゃなくエレニアさんへの攻撃も妨害


エレニア・ファンタージェン
ジュジュさん(f01079)と共闘
そういえば初めてよね?エリィ頑張るわ

でも、変な敵
人を救うなんてエリィにも出来ないのに
それに、死って…エリィに使役されるだけよ?

あんな光、少しも怯むことないわ
怪我をしたって痛くないから、押し切りましょう
UCで技能強化の上、自身とジュジュさんにそんな呪詛めいた催眠術を

ジュジュさんのフェイントに合わせてだまし討ち
【千年怨嗟】の亡者の手に呪詛と生命力吸収を重ねるわ
敵の攻撃は第六感で見切り、
鋼鉄の処女を武器にも盾にもしてジュジュさんを守る

真剣白刃取り?すごいわ、メボンゴさん
その隙にエリィはギロチンの刃で2回攻撃を
首とは言わないけれど、腕の一本くださらないかしら



●強迫性エンターテイメント


 おおお、おおおお。
 やはり、嘆くようにして瞳からの赤がとめどなくその足元に池を作り、面積を広げてゆく。
 そのさま、まさに地獄の修羅のごとくの様であった。
 夕暮れがどんどんと進む中で、その様を見る女が二人。
「変な敵。人を救うなんてエリィにも出来ないのに」
 夢を見せて壊すことだけなら出来るのに――。
 己の生を嘆くようにはしないで、ありのままのように語るのは、エレニア・ファンタージェン(幻想パヴァーヌ・f11289)だ。
 人を救いたくとも、その手で人の魂ばかりを葬らされてきた。
 今更、その過去を悔いるようなことはないが。
「それに、死って……エリィに使役されるだけよ?」
 今ですら、死を握る彼女だからこそ――果ての答えを、もう得ているというのに。
                         エリィ
 釈迦に説法とはこのことかもしれない。あいにく、阿片の女はお釈迦様でもないのだけれど。
 彼女の疑問を吹き飛ばすように、隣の彼女の声は明るいものだった。
「あはは、そうだね!本当に変な敵!あいつに人は救えないからさっさと倒しちゃお!」
 ね?と合意をとるように、エレニアを、腕に抱いた相棒の人形――メボンゴ――とともに見つめるのはジュジュ・ブランロジエ(白薔薇の人形遣い・f01079)。
「死が救いだなんて馬鹿げてる」
そんなこと誰も頼んでない。――望んでいて、たまるものか。

 笑顔ばかりを向けて、前に、そして未来に向かってこれからも歩む彼女は、笑顔を崩すわけにはいかない。
 だから笑う。たとえ、瞳の中に憂いがあったとしても。
 そんな――ジュジュと友達だからこそ、エレニアにはその陰りが解ったのかもしれないが。
 彼女は、エンターテイナーだ。だからこそ、彼女は笑顔でなければならない。
 職業病だとはエレニアも思う。だけれど、彼女の職業を否定はしないのだ。

「そういえば一緒に戦うのは初めてよね?エリィ頑張るわ、ジュジュさん」
「うん、エレニアさん!私もメボンゴも頑張るよ!」
『えいえいおー!』
 不格好な腹話術だって、一緒に笑えるような友が今日を境に、戦友となるのだから!


「――なんと、ああ、なんと。私の子らよ」

 追撃を止めない猟兵二人に、悪仏が赤を流してはその地獄から魔力を振るおうとする。
 まばゆい光を己の背後に集めた、「あれ」は先の狼と苛烈の彼らが受けた技である!
 
 光をまともに浴びれば、目をしばらく焼かれて視界を奪われる。それだけはなんとしてでも避けたい!

「メボンゴ!ガード!」
 それでも、体はこわばってしまうのだ。繰糸をたぐる手が震えているのを、エレニアが赤に映した。
 なによりも強い光は――本能的に、動物の恐怖を煽る。それはスポットライトに照らされることに慣れたジュジュであれば、さほど脅威には感じられないが。

           幻灰の女神
 それでも、ジュジュはエ レ ニ アとは違うから。
 念には念を、とエレニアがお互いに「おまじない」をかける。
「あんな光、少しも怯むことないわ、ジュジュさん――『……エリィ、何だかワガママを言いたくなってしまったの。』」

               【阿芙蓉の雫(オピウム・レメディ)】
 耳打ちをするように、囁いた。――友 を 欺 く 嘘 を つ く 。 

 怪我をしたって痛くないから、押し切りましょうと肩をたたいてやれば、ジュジュは人間として――生物として抱くはずだった未知の恐怖が薄れていくのを、不思議そうにした。
 だが人形を操るには十分だ!白兎をを前に突き出して放たれる【後光・偽】を凌いで見せる!
 そのまま光り続けている阿修羅のことは、兎の背を視認できる正常な今であっても認知するのに十分だ。
 場所の確認は問題ない。あとはトリックの見せ所!
 一撃を防いだあとは、ジュジュが目を閉じていても白兎が迷うことなく前へ突き進む!
 風に乗って、そのまま宙へと舞い上がれば――阿修羅の目の前だ。
「人形など、容易い、容易い」
 子供の遊びに付き合ってやっているのだと言いたげに、赤を垂れ流す瞳で弧を描く阿修羅を襲おうと兎が――その眼前で 急 停 止 !  
 阿修羅が異変に気付くまでに、兎の背後に居た「彼女」が白をはためかせた!

「エレニアさんッッ!!」

 ジュジュの合図とともに、兎を盾として光を避けながら飛び掛かったのは――エレニア!
 つい、と人差し指を悪徳の仏に向けてやる。ああ、なんて薄汚れて醜いのだろうと赤を細めてから、かつての誰かの怨嗟を呼ぶ!!

「『こ の 手 を 離 さ ず 居 て く れ ま す か ? 』」

 そしてその醜い阿修羅よりも、ずっとずっと醜くも儚い想いが渦巻いて亡者の無数の手が巨大を搦めとった!
「く――ぉおお、おおおお、ぉッ」
 【千年怨嗟(アイノオワリニノコルモノ)】の顕現だ!
 ぎりぎりと軋むような音を立てながら、ぐずぐずとした皮膚に爪を立てるようにしてその場に拘束して神性を奪ってゆく。
 愛を証明するのなら、この愛に飢えた亡者を受けって見るが好い――と、エレニアが空中を落下すれば、彼女を迎えに来る王子が現れる。
 王子は、兎の顔をしていた。
「まぁ、メボンゴさん!ありがとう」
 どう、と兎が地面に勢いよく着地すれば、エレニアもふわりと降ろされる。 
「どんどん行くよー!いける!?」
 エレニアがひとまず無事であることを確認してから、また糸を手繰るジュジュが己の魔力を底上げる!
 痛みもなければ疲れもない。薄く開いた瞼から覗く、ぼやけた視界で白を見つけて微笑んだ。
「ええ。問題ないわ!――いきましょう!」
 放たれる後光に兎を盾にして楽し気にエレニアが頷けば――その手に握られるのは己の影から呼び出した拷問具、【鋼鉄の処女】。
 その頭頂部には鎖がついていて、エレニアの細い腕で一つ引きずってやればまるで モ ー ニ ン グ ス タ ー の 如 く !
 空気を薙ぐ音を耳で聞けば、視界の補完は済まされる。ならばとジュジュが魔力を己の白兎に込めた!糸を伝いながら、白く淡く光る魔術式がにじむ!

「『ご覧あれ、白薔薇の華麗なるイリュージョンを!』」

 発動されるのは、【白薔薇舞刃(ホワイトローズイリュージョン)】!!
 白兎を中心に、ぶわりと無数の花びらが湧いた!
「ちょっと体重が軽くなっちゃうね、メボンゴ!」
 今は苦手な腹話術も披露する暇がない。だが、その白が放たれる光を屈折させていく!
 
――二人の視界が、影で覆われて取り戻された!

「小賢しいことを、花と共に葬ってあげましょう」

 ぞくりと、ジュジュが背筋に寒気を覚える。
「来るよッッ!メボンゴッッ!!!」
 指の関節に木彫りの糸受けが食い込んで、血がにじむほど緊張感が走った!
 

「  断       罪      を    ッッッッ    !!   」

 直後、暴風!
 美しく長い絹のような髪を、後ろからも前からもすべてをもっていかれそうになりながら、エレニアが【六道輪廻撃】の発動を目にする。
 あの愛の怨讐を受けながら、まだこの修羅が――動こうとするではないか!
 何がなんでも、ジュジュだけは護りたい。
 さすがにこの超高速かつ、大威力の一撃を喰らってしまえば――エレニアの本体も危ういのだ!

 だけれど、それでも、 友 だ け は ! !

 放たれるのは、再起不能となった二本を除く四本の剣である!
 まだ、凌ぎ切れるはずだとエレニアが踏んで――諦めないからこそ、彼女は強くあった!
 力任せに『鋼鉄の処女』を振るえば、まずジュジュに向かった一撃に直撃する!
 砕け散る鋼鉄と、軌道が大きくそれて地面に叩きつけられる剣。そしてすぐさま二撃目が繰れば、それを残った鎖で巻き付けて、【千年怨嗟】で再びその刃を拘束する!
「――いける、いけるわ、まだ!」
 いつもの余裕が其処にはない。己に近しい何かを護りながら戦うのは、神であるエレニアにとっては――慣れていない!
 それでも、けして勝利を諦めたりはしないのだ!
 
 三撃目が、放たれる。
 鎖を握り、魔力を放出し二撃目を押さえ続ける エ レ ニ ア を 狙 っ た も の だ っ た。
 友を、守りたいがために――己のことは、守れない!

「メボンゴッッッ!――真剣白刃取りッッッッ!!!!!」

 しかし、エレニアもまた、ジュジュの友である!
 白兎は強化された巨体で――両腕で確かに、 阿 修 羅 の 攻 撃 を 止 め た !

「傀儡、風情、が――!?」

 ふざけた道化に己の人類への愛憎が止められる。それも、阿修羅には許せないことであった――ぬいぐるみの赤が、なんとおぞましく見えたことか!
 おのれ、ならば――。
 そう叫んで繰り出した四撃目が空気を突き破って風圧を放ちながらメボンゴへと向く!

「――真剣白刃取り?すごいわ、メボンゴさん」


 体勢を立て直したエレニアが呪詛を用いて、地獄から呼び出したるは―― 断 頭 台 !!
 それがメボンゴと刃の間に、ちょうど口を開けるようにして伸びたのだ。
 ぬらりと鈍く光る刃に、落としきれない鉄さびがあったとしても容赦はない!


「首とは言わないけれど、腕の一本くださらないかしら」

 ぱちん、と指を神が鳴らせば、審 判 は 行 わ れ た ! 

 問答無用で、神の友に手を出す不浄の腕は――上の刃と、そして下からも飛び出た刃によって挟まれて。

「ァアアアアああああああああッッッッ!!!!?」

 ――絶叫を上げる御仏の眼前に、泥を垂らしながら舞ったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

三千院・操
◎◎◎★★
ク、クク──そうだよ闇刃阿修羅。お前を待ってたんだ。
死んだ人間は二度と生き返らねぇ。死んだらそこで『終わり』なんだ。だったらそれは『救済』なんかじゃァねぇ。
それによォ──『殺生』は大罪だろ? きひひ!!

なァ、これまで何人殺してきた? これまで誰を殺してきた?
奴が殺害してきた命の無念を燃料に高速詠唱で呪詛を発動。霧のように周囲に撒き散らせば敵の武器は綻び、速度は鈍る。
敵の動きの隙を見出したら【脳門】を発動するぜ。両腕を阿鼻地獄に連なる姿へと変貌させて、阿修羅の首を落とす。もしもそれが叶わなさそうであれば腕を削ぎ落とす。

さぁ、見せてくれよ闇刃阿修羅ァ!!
おれの地獄を、どう救う?


セルマ・エンフィールド
◎★

これならば戦闘狂の方がよほどマシですね。
死が救いなどとのたまう輩となど、絶対に相容れない。

遠距離から狙っても念力で操る武器が飛んでくるかもしれませんから、それなら援護をしやすいよう敵や他の猟兵の近くで戦いましょうか。

序盤はマスケットで敵の頭部、目を狙い味方の援護を。当たらずとも避けるためにこちらに注意を払わせれば効果はあります。
敵がUCで武器を複製したらこちらも【オートマチック・シューター】を起動、複製した刀が10本だろうと100本だろうと、全て撃ち落とし、へし折ってあげましょう。

撃ち落としたら銃口を闇刃阿修羅へ向け、そのまま連射を。この戦いはあなたで最後、残弾全て撃ち尽くします。


真守・有栖
◎△

陽が沈めば、月が昇る。

嗚呼。
救いに惑いて狂いし阿修羅よ。
腕(かいな)に抱くは刃に非ず、と。

真守・有栖。……参る。

月夜に舞う、数多の刃。

塵と残さず、一切を殺し。
死を以て救いを為す。
其れが救世と示すならば。


――その一切を、喰らい尽くす


月天に咆哮。

四方八方。迫る救世の刃。
一心に振るうは狼牙の連閃。
白刃が刃を砕き。
彼方に延びる光刃が闇を呑む。

此の場の全てが己が間合い、と。

渾身を以て太刀振る舞い。
悉くを喰らい尽くす。

月下。阿修羅と対峙。
残る腕で振るう刃を、身を以て受け止め。

――刃に込めるは“還”の一念。

闇も。業も。刃も。
迸る烈光にて断ち斬り。
仏と成り、涯てるように。

光閃。

――黄泉路へ導く、一太刀を。



●鉛月満ちる冥府


 ど、どう!と大きな地響きと――日が没した空間に、阿修羅の腕が落ちる。
 腐りゆく途中のような半端な腕が、三本喪われた。
 右の下、左の中、そして今度は――右の上をまたもや猟兵に奪われたのだ!

「あああ、ァアア、あああああッッ!!なんて、ことを、ああ、おぞましい!お前たち――ッッッ!!」

 現れるのは、もはや慈悲ではあるまい。
「ああ!!そうだよッッ!!ク、クク──そうだよ闇刃阿修羅。 お 前 を 待 っ て た ん だ ッ ッ !!!!」
 叫んで走るのは、黒い審判たる冥府の神に成った三千院・操(ヨルムンガンド・f12510)!!
 仏であった今の悪徳から彼が望むのは、その背負った業でありその強さである!
 猟兵が束になってようやく落とした三つの腕よりも、その命が欲しい――もし難しくとも、その腕を一本丸ごと、いただいてしまいたいのだ。
 この場の誰よりも今は利己的で、今は自己中心的である!どすんどすんと地面を揺るがせる突撃についていこうとするのは先ほどまでと表情を変えた、真守・有栖(月喰の巫女・f15177)だ。
 この日没であるからこそ、今の彼女は己を隠す必要がない。陽が沈めば、昇る月が彼女の本性を呼び起こす!
 ――人狼!病に侵されながらも、今を短い命の中で生きる彼らだからこその月下の恩恵は、有栖も例外でない!
 この己を知っているからこそ、――有栖は、いつもを己の自信で塗り固めることが出来いていた。

「嗚呼。救いに惑いて狂いし阿修羅よ」
 駆けながら、まるで見定めるように呟くその横顔は、まさに堅狼であり。
「腕(かいな)に抱くは刃に非ず、と」
 紫の瞳に敵を収めたならば、冷静な評価を下すその様は、まさに才狼であり。
「真守・有栖。……参るッッッ!!!」
 冥府の化身に負けずと刀を抜き放ち、突撃を繰り出す様が―― 荒 れ 狂 う 狼 そ の も の で あ っ た !

 地面に痕を残しながら走る、走る二頭の狼どもである!
 まるでこのあたりのすべてを喰らってしまいそうなその餓狼ぶりに、冷静な判断の下援護に出る女がいた。

 彼女は、セルマ・エンフィールド(終わらぬ冬・f06556)!
 黒と銀の二頭が走っていく方向からは大きくそれるようにして、阿修羅の接敵に臨む。
 彼女が今回己に課したのはほかの猟兵に降りかかる困難の破壊だ。サポートに入るからこそ、できるだけ彼らの近く、かつ、死角に入るよう努めねばならない。
「死が救いなどとのたまう輩となど、絶対に相容れない」
 鼻で笑ってやりながら、マスケットを抜く!
                 エフェクト
 おそらく攻撃力の高い先の二人は、影響が派手になるだろう。だからこそ、セルマの一撃一撃が冴えるのだ!
 両腕で抱くようにして構えた相棒のマスケット銃を、一度止まって構える!
 狙うは、その――赤を垂れ流す、右目!
「図体がでかいと、あてやすくて――相性もよさそうです」
 口許が少しだけ、数ミリ変化を見せてから発火と共に鉛玉が空気を割く!
 長い重心からはじき出された球が、狼を追い越して、冥府の化身を追い越して――赤の瞳を、穿つ!!

「あ、あ゛ァアアあああああああッッッッ!!!?」
 大きな叫び声に思わず耳を寝かせた操であった。
 ――うるせェな。
 だらりと垂らした犬の舌を一度しまってから、相手を再び飢える視界に入れる。
 確かにこの仏は、圧倒的な強さがあるがどうにも先ほどから攻撃を受けるたびに――いちいち喧しい。
「つゥことは――そんなに、戦い慣れてねェんだよなァッッッ!きひ、きひひひひひはははははははッッッ!!!」
 なれば操たちには確実な勝ち目がある!
 強さに飢え、そして未来に強さを探し出した己たちに、このような手合いが勝るはずもないから――操は次に現れた無数の剣に畏れない。
 ただただ、ぽっかりと穴の開いたような深淵の瞳に上らせた紅い月を光らせて、あざ笑うばかりではないか!

「おのれ!おのれおのれおのれッ!!!」

 迫りくる三名に発動されたのは【 救 世 塵 殺 】!!
 怒り任せに増えた剣の数は夥しい。だが、それでも――前へ!
 それに対抗せんと操に降り注ぐ鋼を、超反応と速度でかわしてゆく!己の皮膚を剣が割いても、銀の髪を数ミリ斬り落としていっても、立ち止まらない!
「死んだ人間は二度と生き返らねぇ。死んだらそこで『終わり』なんだ。だったらそれは『救済』なんかじゃァねぇ」
 どるる、と喉を鳴らして操が迫りくる剣に指先「のみ」を触れさせた。
 ――そうすれば、霧となる。
 真っ黒い霧へと姿を変えた鋼は、風にさらわれて消えゆくばかりだ。
「――何!!?」

           神    で    あ    る
 こ れ こ そ 、三 千 院 の 頭 脳 を 持 つ 証 !!


「なァ、これまで何人殺してきた? これまで誰を殺してきた?」

 操の問いと共に、ついで彼の魔力反応が増大する!
 少し発動に時間がかかってしまうが――その間を縫うのが彼と肩を並べた狼、有栖だ!!
 有栖に注がれる剣は、有栖が駆けるだけで不可視の弾に撃ち落とされていく!

「『別世界の技術ですが、使いこなしてみせましょう―――全弾発射』ッッ!!!」
 マスケット銃に自動装填、そして自動発射機能を搭載させるユーベルコード【オートマチック・シューター】を発動したのは、セルマだ!
 だだだだだだ!と休むことなく放たれる鉛が、有栖を、そして操を余計な刃から守る!
                              フルアタック
 鋼が蜂の巣にされ、そして砕け散っていくのを視認――まさに、百発百中であった!

「おおおおお!なんと、なんと――!! 嘆 か わ し い の で す か お 前 た ち は ッ ッ ッ ッ ! 」
 
 気迫、そして魔力の放出――!
 撃ち落としても撃ち落としても、剣の数は増えていくばかりであるがそれでも、狼は脚を休めなかった!
 腕を振るう!そうすれば月を喰らう刀がしなって、有栖を襲う刀が破砕される!
 振って、砕いて、駆けて、また――振って!いまこの戦場全てが有栖の間合いであった。届かぬ距離など、どこにもない!
 
 ようし、と操が己の前を駆けて行った有栖の後姿を見送る。
 次はセルマを狙おうとする刃を視界に入れれば、冥府の神たる操が呪詛を唱える!
「──『殺生』は大罪だろ? きひひ!!じゃあ、――ここで、死刑だッッッ!!!」
 
 判決――!それと共に、阿修羅が呼び出した剣たちは す べ て 霧 散 ッ ッ ! ! 

「馬鹿な、馬鹿な――ッッッ!!!このような、こんなことが――!!!」
 驚愕に震える片目がその様を見る。圧倒されたのだ、この悪しきものどもに! 
 次いで矢継ぎ早といわんばかりに操がずっと――溜めていた呪詛を解放した!

「 『 こ の 身 を 潜 る も の 、 一 切 の 希 望 を 捨 て よ 』 」

 穏やかな宣言は、審判者たる彼に相応しい。
 腕を阿鼻地獄に連なる姿へと変貌させ、地獄の主たる冥府の彼は――嘲笑う!!

「おれの地獄を、どう救う?」
 このような地獄が――この阿修羅に救えるか!
 彼の両腕が醜くも大きく伸びて、かの阿修羅の巨体を地に縛り付ける!

 それでもなお抵抗をしようとするのならば、黙っていないのがセルマの銃撃だ!
「無駄な抵抗、ですよ!」
 ――残弾すべて、撃ち尽くしても構わない!
 縛られて、砕かれて、なお刃を複製して振らせようというのならば 片 っ 端 か ら 叩 き 割 る ま で !
 鉛玉で、貫く、貫く、破砕!破砕!!――生まれたての鋼にすら、容赦なく怒涛を喰らわせてやった!
 
 最後の一撃がぱりんと砕けて――勢いのまま宙に舞った有栖を、仏に見せる。

 有栖は、その体を近くで観た。
 眼前にあるのは、仏のがらんどうばかりの胎。
 こんなに虚しい、そして悲痛の体で破滅の愛を誓うというのならば――打ち砕かなくてはならない。

「『鉄火散り、血華舞う。刹那を刻むは狼牙の連閃』」
 ――刃に込めるは“還”の一念!!
 まるで経のように唱えられた詠唱に、片目で仏が呆気にとられていれば光刃「月喰」によって、胴体に一閃!!
 これこそ、【鐵牙(テッカ)】が一撃であった!
 一閃が入ればまるで呪うように無数の刃が阿修羅の胴体に刻まれて――その傷口から泥とも赤とも言えぬものを吹き出させたのだった。
 
「きひひひひひッッッ!!これじゃあ、おれも救えない!」

 対での連撃、そして銃撃によって脆くなった左の上腕を――ぶちりと黒が勲章のように、もぎ取ったのだった。

 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

薄荷・千夜子
●星芒邸で(3名1組)
呼び方:向日葵(ひまくん)、夜嵐(ましろさま)

遅ればせながらお力添えに参りました。

向日葵と夜嵐に「私が先行します、ひま君は続いて下さい。ましろさまは援護をお願いします」
言うなり敵に向かって駆け出し[禽羽双針]での【先制攻撃】【属性攻撃炎】【毒使い】による行動阻害の蹴撃を。
一撃与えた後は向日葵と攻守交代で後ろに下がりつつ地面に[操花術具:藤巡華簪]を投げ挿す簪が刺さったところから藤の枝花が鎖の如く伸びてくる。
UC使用で風を纏わせ防御力を強化。
藤の鎖と盾を構えて
「攻撃は簡単には通しませんよ」
【地形の利用】【オーラ防御】【盾受け】で防御を引き受けます。

アドリブ歓迎


朝野・向日葵
●星芒邸で参戦
「遅くなっちまったが助っ人推参ってね」
SPD
「勝手な話で悪いがね、もう俺達にお前さんの救いは必要ないのさ」
防御と援護は星芒邸の仲間に任せて自分は攻撃に専念します
「任せな!千夜子ちゃん!」
【見切り】と【残像】で的を絞らせず【救世塵殺】にて複製された武器を大木刀と鞘付きの刀の【2回攻撃】と【なぎはらい】で一本ずつ慎重に破壊しつつ隙を見つけて打撃を当てていく戦法です
「良い援護だ、夜嵐姐さん!!」

「見た目は派手で不気味だが…冷静になれば複数人まとめて相手にしてるのと一緒なんだぜ?」
仲間や他の猟兵と連携をとって確実な攻撃で押していきます


夜嵐・右京
●星芒邸
呼び方は千夜子、向日葵。

遅ればせながら、助太刀致します。
敵目掛けて突っ込んでいく二人を、後方から援護します。
二人とも頼もしくて、何よりです。
私は呪詛を籠めた札をとばし、主に敵の行動阻害をします。
後方から見て気づける敵の動きがあれば、二人に伝えながら。
攻撃が流れてくれば、第六感で見切れるように立ち回ります。
敵がこちらに向かってくるようであれば、花鳥風月扇で応戦します。



●悪魔祓いのペンタグラム

 愛も救世もなにもかも、全てを否定されて体に刻まれるは未来からの制裁である!
「猟兵、猟兵ェエエエエエエエエエエッッッッ!!!!!!!!!!」
 荒れ狂う阿修羅の叫びが、まるで鐘の如く響いて――くずおれてもなお、まだ立ち向かう意志を宿したまま片方の目で猟兵たちを捕らえるではないか!
 鉛玉を打ち尽くして破壊されつくした自身の刀を、まるで扇子のように呼び出して背負っては、満月を遮るようにしてもう一度立ち上がる!

「一匹残らず、まとめて、――救ってやろう!!!」

 どぼどぼと腹から赤黒い何かを垂れ流す。
 赤黒い何かが地面に触れれば、腐食が始まる。
 ――まるで、この悪しき仏のこころが漏れ出しているようだった!!

 だが、猟兵たちと仏の間。
 その地面に紋章が走る!新たなる猟兵たちの登場だ。
 現れた赤黒い光が、五芒星を描けば――召喚されしは【星芒邸】の面々!

「遅ればせながら、お力添えに参りました!」
 頼もしく声をあげたのは鷹を手に宿し、その鷹と同じ色をした髪を携える狩人の少女、薄荷・千夜子(鷹匠・f17474)である!
 千夜子をたたえるように、相棒の鷹がばさりと翼を広げてから。
「遅くなっちまったが助っ人推参ってね」
 そして次いで楽し気に笑って現れるのが、朝野・向日葵(刀を抜かない侍・f18432)である。
 腰に携えた刀に己の右腕をのせながら、ぼさぼさの黒髪を撫でつけ悪徳の仏を目に映した。
「こいつァ、でけぇなあ」
 顎に左手をやって、数度さすってやる。彼の瞳に映る悪仏こそ、打倒すべき過去であるが――なるほど悍ましい。とその脅威をねめつけるのだ。
「遅ればせながら、助太刀致します」
 そして描かれた星から、最後に悠々と姿を現すのは、白髪の女。凛とした態度、そして美しく正しい姿勢をしてしゃなりと歩くのは夜嵐・右京(真白の守り刀・f18418)!
 右京はこの場に漂う正気めいた呪詛に目を細める。
「ひどい穢れですね」

 思わず、口をついた愚痴である。
 右京は、元は呪いを孕む祓魔の刀であった。その呪いが解放されるまでに――人の手が加わるまでに――時間がかかったため、ヤドリガミとして生きるこの長い自由を与えられた今であっても、名残りで穢れには弱い。
 彼女の真白である装束も、その髪も肌も、変色してしまわないかどうかといったくらいの瘴気がたちこめているのだ。
「外なのにこの穢れ――すさまじいわね」
 どろどろぼどぼど。潰された片目からも、そのくぱりと開いた腹からもとめどない呪詛があふれ出している仏が三人を敵と認識した。

「穢れ――?いいえ、けがれているのは、おまえたちのほう、ですよ」

 話の通じるような手合いでない。そしてなお、魂を呪詛に蝕まれている!
 ならば、この戦いで右京を前線に出すのは最悪手であろう。
 そう判断した千夜子が、二人に視線をやった。

「私が先行します、ひま君は続いて下さい。ましろさまは援護をお願いします」

 細くも引き締まった脚で弾かれたように駆け出す千夜子である!
 肩で出番を待機していた鷹が、飛び立てるようにばさりと翼を開いて千夜子の走る動きに合わせて飛んだ!
「任せな!千夜子ちゃん!――頼んだぜ、夜嵐姐さん!」
 向日葵もまた、それを追いかけるようにして走る!
 その場に残される右京がこくりと頷いて、二人の頼もしさに微笑んだ。
 しかしまた、右京もまもられているばかりではないのだ。――愛用の呪符を取り出して、宣言する!

「『封じし穢れを、ここに解放する』」

 ぶわわとたちまち、右京を中心に湧いたのは――【百夜ノ呪符(モモヨノジュフ)】!
 それがまるで花びらの如く舞ったかと思えば、確かに黒々とした呪力を纏ってそれから白銀へと代わった。
「お二人の援護を」
 つい、と指を振ってやれば背中が遠い二人の影に向かって――呪符たちも空気を駆けた!
 右京の呪符には、相手を捕縛するものが織り込まれている。
 だからこそ、彼らに何か一つでも触れてしまえばたちまち縛り上げてしまうだろう。
 呪符たちが待ち構えて狙うは、――無数に振る金の剣どもだ!
 
                          ・・・・
 そして、次いで己が術を発動せんと意識する狩人が――仕掛けた!
 彼らの接近に伴い、降り注ぐ剣をかいくぐり、時に呪符が彼女を守らんと飛び出れば剣に触れ、腐らせて塵へと還す!
「はああああああああああッッッ!!!」
 その闘志がごとく熱くたぎる炎の力を――千夜子は脚に纏った!
 直後、爆裂!
 炎が彼女を「吹っ飛ばせ」ば――まるでロケットのごとく、空を斬って風となる!
 眼前に、阿修羅の巨大な顔面!もう一度爆裂を起こした炎で、遠心力を得る!
 そして、仕込み針を見せたヒールで――蹴撃!!
 
 ドゴンと一度鈍い音が響けば、阿修羅の巨体がよろりと揺らいだ!

 意識を散漫させることに成功したのだ、大したダメージになることを望んではいない!
 散漫したこころでは、この無数の剣を狙い通りに放てまい!あてずっぽうになっていく剣に確信を得た。
 一撃を与えれば、あとは戻るだけである。この戦場は千夜子だけで戦っているわけではないのだから――また足元の爆裂で向日葵の下へと帰っていく!
 
「ひまくん、――頼みましたッ!」
「応ッ!!」

 手を前に突き出して帰ってきた千夜子と、悪徳に向かっていく向日葵が掌を突き出す。
 そして、互いに短く弾けば交代だ!

「勝手な話で悪いがね、もう俺達にお前さんの救いは必要ないのさ」
 ――向日葵は。                         ・・・・・
 元はといえば、剣豪である。歴史はあるが有名でない国において、彼は英雄だった。
 圧倒的な敵性反応を前に、若いころの彼と言うのは英雄であったにも関わらず――仲間を全滅させたあげく、しっぽを巻いて逃げ出してしまったのだ。
 誰もが彼を責めたかもしれないが、一番彼を責めたのはほかでもならぬ、向日葵自身だった。
 己は、なんと情けない生き物だろうか。
 そう思って日々を堕落に潰しては、かつての力の象徴であった己の刀を抜くことすらできなくなって。
 ああ、いよいよここで終わるのか。
 と、死にながらにして生きていた彼だからこそ、わかるのだ。
 ――死では、人を救うことなどできはしない。
 彼を蘇生したのは、神でも仏でもなければ――狩人の少女だったからである。
 ゆえに、彼はまた剣をこうして握れているし、生きようと前を向く。未来を望む。未来を、抱いて――名前を得た。

「見た目は派手で不気味だが…冷静になれば複数人まとめて相手にしてるのと一緒なんだぜ?」
 極限において分析が出来るのは、今の彼だからだろう。
 昔の彼とは、もう違うのだ。この巨大な敵に怖気づいて逃げてしまうような男は、とうの昔に死んだ。
 駆ける彼を襲う剣には、元剣豪として立ち向かう!
 残像を残すほどの速さでランダムに落ちてくる脅威を躱し、そして鞘のついた刀で打撃、――鋼の破砕!!

 彼が求むのは、確実の一手である!
 向日葵に余計な力を使わせまいと呪符がとんでは、彼の息遣いを安定させるがために降りかかる脅威を縛り上げた!
「良い援護だ、夜嵐姐さんッッ!!」
 怒声にも似た感動の声に、右京が後方で目を細めて微笑む。

 この三人にあるのは――ともを、失わないという前提の下である戦意!

「おおおおおッッッ、何故、なにゆえ、――私の愛を拒むのです」

 それでもなお、己が愛を認めてくれと過去が吠えるのであれば――黙らせてやらねばならない!
 剣をはじきながらも、前へ前へと足を進める向日葵の補助に千夜子が回る!
 髪の毛にさした簪をひとつ、抜いて手にすれば。
 向日葵の進行方向にある地面へと投降。次いでそれから藤の枝花が鎖の如く伸びてくる!
 
「『蒼炎の加護よ、疾風の守護よ、月影の冥護よ。我が身に力を与え賜え』!!」

 叫ぶように祈れば、――疾風の加護が千夜子に与えられる!
 【干渉術式:影炎染風(カンショウジュツシキ・カゲロウセンプウ)】はここに成就された!
 びゅおうと鳴いた疾風が千夜子に力を与えれば、まるで走狗のように千夜子に速さを与える!
「ひまくんッッッ!!!」
 その風に乗った千夜子が、後姿がどんどん近づく向日葵に声を掛ければ――。
「いよっしゃぁああっっ!!」
 再び、向日葵と手を握る。 
 彼らの進行方向にまるで滑り台がごとく、滑走路を引いたのは右京の呪符だ!
「お二人とも――ッッッ!!!」

 右京からの声が、最終段階の合図である!
 そのまま千夜子が走る、駆ける、まだ――まだ真白の滑走路を走って、向日葵を上へ、上へと連れてゆく!

 仏 の 頭 上 を 、 と っ た ! 

「――罰当たりかい?そりゃあ、どうもッッッ!!!」

 千夜子が向日葵を空へ投げれば――彼が鞘のついた刀で、 仏 の 面 を 打 っ た の だ っ た ! 

 いよいよ猟兵たちの連撃で、顔は顔をとどめることなどできておらず!
 ばきゃりと向日葵の一撃で破砕した顔の面が、赤を吹き出した!
 赤に呑まれる前に向日葵の服を掴めば――千夜子はそのまま、風の恩恵を預かって離脱する!

「ましろさまッッ!!!」

 赤が濁流のように右京に迫れば――それよりもずっと早く!
 千夜子が彼女を掬うようにもう一つの腕で、右京の細く華奢な腰を抱いて、戦線を離脱した!
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

穂結・神楽耶
◎★△
まったく、度し難い。
求められぬ救済などその時点で独善です。
あるいは、初志こそ清いモノだったのかもしれませぬが。
人の願いは変わるものです。
「今」に適応できぬ過去は、海へお還り下さいませ。

刀を武器とするなら近づいて攻撃したいはず。
手弱女ぶって誘い込みましょうか。
『武器受け』『オーラ防御』で真正面から受け止めて。
反撃一献、【神業真朱】。
我が身、我が太刀の神髄にて送ります。
どうぞ安らかに。

あるいは。
この身が骸の海に落ちたなら…ああなるのやもしれません。
だから、今のわたくしはあれを認めない。
それだけですよ。


矢来・夕立
千代紙、あるような気はしてました。
日頃の行いが良いので。ウソですけど。言ってみるモンですね。
貰ったぶんは温存しておきます。
―――この話の、ホントのお終いまで。

死こそが救済という点については同意できます。
でもオレ、悪党が都合よく救われる展開って死ぬほどキライなんですよね。
なので少なくともオレに説法は要りませんよ。

さて。《忍び足》で必中の間合いを図ります。
呼吸、気配、殺意。全てを殺せて一流ですよ。
式紙で《暗殺》―――というのはウソでして。
呼吸、気配、殺意。全て使うのが超一流です。

――《だまし討ち》【神業・絶刀】。
魔を絶つ刀で斬れるなら、おまえは『仏心』なんか持っちゃいない。
終われ。いま。ここで。



●嘘吐きイデオロギー

 とめどなく割れた面からこぼれる赤は、どこまでも赤く、どこまでも醜い。
「おおおお、なぜ、なぜ、なぜッ、なぜ!!!愛している、我が子らよッッッ!!!」
 救済を、だからこそ死と言う平穏での救済を、与えたいというのに!
 どぼどぼと赤を流しながら、腐食をはじめる土地に嫌悪感を示すのは穂結・神楽耶(思惟の刃・f15297)だ。
「まったく、度し難い。求められぬ救済などその時点で独善です」
 ばさりと言葉の刃で斬捨てる彼女に、肩をすくめるのはその隣で迎撃せんと千代紙を弄ぶ矢来・夕立(影・f14904)だ。
「千代紙、あったのですね」
「あるような気はしてました。――日頃の行いがいいので」
 嘘であるが。
 じとりとした目で夕立を見つめて、口元だけ悪く笑んだ神楽耶に言いたいことがあるのならどうぞといったような視線で返しておく。
 ――この話の仕舞まで、侍たちに与えられた千代紙は温存しておく。
 詰襟の服の後ろに手をやって、一枚だけ尻についたポケットにおさめておいた。
 願掛けなど、信じてはいないが。
 目の前の敵性反応が、傷つくたびに禍々しさをまして――凶悪になっていくのを、夕立は冷静に見ていた。
 最初こそ、仏は慈悲で力を振るったのだろう。
 猟兵たちになすがままにされながら、痛みに嘆くさまは「拒絶されると思っていなかった」からだ。
 だが、今は――荒れ狂う悪である。この状態のほうが、確実に面倒であった。

「死こそが救済という点については同意できます」
 死は、沈黙であるから。
 誰にも何も、心の内が知られないというのは安寧である。
 死んでしまえば口もきかなくて良ければ、誰かと争うこともないし、――命を奪い奪われる必要もないのだ。
 静寂であるから、それを夕立は肯定できる。
 だけれども。
「でもオレ、悪党が都合よく救われる展開って死ぬほどキライなんですよね」
         自己正当化
 それを理由に――彼は、救われてしかるべき存在でない。
 矢来・夕立は悪党だ。悪党だからこそ――仮にも元仏だったものが悪を「なぞるだけ」なのはいただけない。
「なので少なくともオレに説法は要りませんよ」
 おとといきやがってください――。
 その言葉と共に黒が、弾かれたように駆け出す!
 
 駆けだす黒が完全に悪仏を拒絶した。
 ――だけれど、神楽耶がかの悪仏に思うのは、己だ。
 もしかしたら、この身がこれから。それか過去の分岐に置いて、何か道をたがえていたとしたら。
 ああなっていたのは、神楽耶のほうかもしれない。
 人々を救いたい、その気持ちだけで生きていた己が――現在という最先の未来に、適応できていなければ。

 友は、穿ってくれるだろうか。

 薄暗い考えは、立ち込める瘴気のせいに違いなかった。
 ぶんぶんと左右に頭を振って、戦場へ意識を集中する。
 そう、なりたくないのであれば――あれを、認めなければよい。
 神様でありながら、自分は、神楽耶にはもう、神楽耶という意志があるのだ。
「人の願いは変わるものです」
 己を鞘から抜いて、眼前の悪意からの一撃を歓迎とした。

「「今」に適応できぬ過去は、海へお還り下さいませ」

 自信たっぷりの笑顔で微笑んでやれば――人に愛され、今は人に囲まれる神楽耶に歪んだ仏が喰らいつこうとする!

「貴 様 も ――何 れ 、 な り 果 て る の で す ッッッ!!!」

 繰り出されたるは、超高速かつ超火力の――仏の二撃となった、【六道輪廻撃】!
 その速さは、窮地に追いやられた今だからこそ真価を発揮する。
 刃を構えて、それを受けようとする神楽耶は「わざと」困ったような顔をしてやった。
 それは――嘘である!

「いやいや、そうさせないのが友達なんで。唆さないでくださいよ」
 嘘をつくの、うまくなったんじゃあないですか――。
 そんな声が影から聞こえたのを、仏は剣を振るいながら感じ取る。
 今の今まで、呼吸も気配も、殺意すらも隠していたあの黒は、おそらく忍である!
 どこだ、どこにいる――。
 赤の隻眼が眼前の神楽耶に刃を放ちながらも、夕立を探す!
 
 激しい火花だ!
 振るわれる豪速の刃がうちひとつを、神楽耶が「己」で受け止めていた!
「――ッッ!!!」
 そして、「己」で受け止めたがために激しい激痛を体にもたらす。
 だが、その痛みこそ今は――好機であるのだ。
 にやりと不敵に笑いながらも、巨大な刃に沿って「己」で太刀筋を反らし続ける!
 きいぃいと甲高い鋼同士の擦れ合う音と、火花で頬を焼かれながらも、退かぬ!!

 呼吸、気配、殺意――! 
 もし、己を欺こうとする影が出なら、潰れた左側からであろうと顔すら醜くはがれた頭で考えたのだ、だから――刃を、左に二撃目で放つ!!

 が。

「ウソですよ。『終いです』」
 その、気配すら――彼が身代わりに放った数少ない、よれた紙であった。
 剣先が紙のみを射貫き、仏は慄く。
 ま さ か 、 真 逆 ――――! ! ! !

 仏がまだ見えている右側に意識を向けてももう遅い!
「魔を絶つ刀で斬れるなら、おまえは『仏心』なんか持っちゃいない」 
 魔を絶つ刃で、仏の喉を切り裂いたのは――夕立だ。
 赤が眼光を闇に残しながら、仏から離脱をはかる。
 その足場に選んだ右の鎖骨から、刃を首に立てたまま、長く切り裂こうとして走る。そのまま走る!!
 ぎゃぎゃぎゃと嫌な音を立てて、筋肉も骨もその中に詰まった泥のようなこころごと、裂いてやった!!

「お゛ぉおおおおおおおおおおおおおッッッッ!!!!」

 咆哮を立てながら、もがき苦しむ仏に見向きもしないで、駆ければ――次の一撃は、「仕返し」だ!

「『断ち、散らせ』」
 神楽耶は夕立に阿修羅が気を取られる隙にようやく放たれた刃全ての刃渡りを凌いだ。
 ならば、次に神楽耶の眼前に来るのは。
 刃を握る指を守る、鍔ならば!
 ちゃきりともう一度「己」を握りなおして、この悪行を斬りさかんと空気をめいいっぱい吸って――呼吸を止めて、振るう!
 
 反 撃 一 献 、 【 神 業 真 朱 】 ――! ! ! 
 
 赤を身にまとう神楽耶自身を覆うように、赤の津波が湧いた!
 阿修羅の喉を、そして刃を持つ右の腕を一閃したがために生じたそれに呑まれそうな鋼の化身を、黒が手早くさらうのだ。

「はあ、助かりました」
「目の前で死なれちゃあ、格好つかないですよ」

 いつも通りの軽口は、きっと――いつも通りであるほどよい。
 全力の一撃を放った神楽耶が、目を閉じて息を長く吐くのを感じて。
 空中で鉄臭い赤津波から逃げながら。また、夕立も息を長く吐くのだった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御剣・刀也
救世?笑わせるな。
なら何でお前の涙は赤い?
教えてやるよ。お前のそれは救世じゃねぇ!だから、てめぇの涙は赤いんだ!

六道輪廻撃は間合いに入らないように気を付ける。間合いに入ったと第六感で感じたら攻撃が来る前に第六感を信じて防御に専念する
救世塵殺は武器を念力でバラバラに動かせるので自分の邪魔になる奴は斬り捨てるか弾いて突っ込んで斬り捨てる
後光・偽で視界を遮ろうとしてきたら日本刀を盾にして相手の視界を遮る。
「戦場では俺は死人。死人は死を恐れない。例え相手が神だろうが、真っ向から斬り捨てる!俺を退かせる事が出来るならやってみせろ!神様よ!」


ヴィリヤ・カヤラ
◎★△
死が救いになる時もあるけど、
無理矢理は良くないと思うんだよね。

敵の動きは『第六感』にも頼って注意するね。
後光の目眩ましが厄介そうだから、
敵の動きが止まったり、
仲間の攻撃で押されていたら注意するね。
間に合えば【四精儀】で闇の霧を
敵の周りに発生させられたら軽減出来ないかな。
もし霧が邪魔になりそうなら、
氷の突風に切り替えて吹き飛ばすね。

近接で攻撃してる人がいたら、敵の動きも見ながら
危なそうなら【瞬刻】を使って割り込んでフォローに入るね、
その際にも連撃が来るかも知れないけど。

敵に攻撃されてる間は仲間の攻撃チャンスにもなるから、
【夜霧】が使えそうなら使ってダメージの軽減を狙うね。


花剣・耀子
◎★△

……ええ。
願われたなら、応えましょうか。

一撃で斃すのが難しいなら、何度だって征けば良い。
出し惜しみはナシね。
機械剣のトリガーを引いて加速。
行く手を阻む全てを斬り果たして、おまえまで辿り着いてみせましょう。

飛来する武器を掻い潜り、
叩き落とすようになぎ払い、
鋼糸で絡めて引き摺り降ろして、
此方に惹き付け阿修羅へ至るための道を空けるように。

確かにおまえは、いつかの誰かの救いだったのでしょうけれど。
だけれど、いまここに、おまえの救いを必要とするヒトは居ないのよ。
あたしが見てきたヒトたちは、立ち止まることを良しとはしないもの。

――信仰が力になるというのなら。
武運を祈られた、あたしたちの方が強いわよ。


イリーツァ・ウーツェ
【POW】
剣は足りている。十二分に。
ならば私は盾になろう。
UCを使用し、猟兵を守る。
六本の腕、全てを受け止め固定しよう。
私は死なない。救われもしない。人ではないからな。
私は化け物だ。貴様も最早同類。
化け物は何も救えない。人も、世界も。
殺されろ。それが人の望みだ。

行動:仲間をかばい、そのまま敵を固定する。
技能:怪力・覚悟・盾受け・グラップル



●サムライ・ラスト・バトル

 赤の津波が、どどうとやってくれば――最後の攻撃を託された彼らが前へ出る!
「――『この地を構成するモノよ、その力の一端を示せ』」
 凛とした女の声が響けば、あたりに浮いた水滴が氷出して氷塊をなし始めた。
 数秒。
 どう!と氷塊となってその場に現れ、砦と猟兵たちを護るではないか!

「死が救いになる時もあるけど、無理矢理は良くないと思うんだよね」
 穏やかな口調で冷気を纏うのは、ヴィリヤ・カヤラ(甘味日和・f02681)!
 赤の津波が彼女の氷に触れれば、たちまち冷気を与えられその場にとどまってゆく。
 ならば臆することなどなにもあるまいと、彼女の背後からゆるりと姿を現すのは、剣豪たちである。

「救世?笑わせるな。――なら何でお前の涙は赤い?」
 吐き捨てるように呟いて、ヴィリヤの生み出した氷塊の上へと駆けるのは――紅の獅子である。
「教えてやるよ。お前のそれは救世じゃねぇ!だから、てめぇの涙は赤いんだ!」
 咆哮がごとく叫んで、剣を抜き放ち突きつけるように仏へ切っ先を向けるのが、御剣・刀也(真紅の荒獅子・f00225)だ!
 ぎ、ぎぎ、と声にもならない悲鳴を軋む体で響かせながら、もはや地鳴りのような方向のみを轟かせる仏は彼に言い返す口も持たないのだ。
 それこそが、証明である。――救世をもたらすのは、猟兵たちだと!
 
 紅獅子が吠えるのとは違って、強かにその様を見やってから阿修羅だったものを同じく氷塊の上から見下す女がいる。
「願われたなら、応えましょうか――信仰が力になるというのなら。武運を祈られた、あたしたちの方が強いわよ」
 だから、お前を見下すのだと宣言したのは花剣・耀子(Tempest・f12822)。
 がしゃりと手のひらに握りしめるのは機械剣。叡智の結晶であるそれが、どるるどるると声を上げてぎょろぎょろと獲物を求めて瞳を動かす。
 飢えた、剣に餌もやらねばなるまいと。
 同席する猟兵たちをちらりと見やれば、どうやらこの中で一番早くに動けそうなのは耀子のようだった。
 彼らが、それぞれを。
 そして、仲間を、耀子を信じたように。侍たちが耀子に未来を祈るように。
 ――耀子もまた、自分を信じて未来を祈る。
 ぎゃるると鳴く剣を、今一度「あたためて」おいた。

 剣をそろえたのだから、あとは――盾たる彼が、前に出る。
「私は死なない。救われもしない。人ではないからな」
 落ち着いた様相で、迷うことなく耀子の隣に立つようにしたのはイリーツァ・ウーツェ(盾の竜・f14324)。
 どるると喉が鳴った気がして――耀子が彼を見ても、イリーツァは獣性を秘めた赤を仏からは逸らさない。
「行くのだろう、誰よりも早く」
 耀子にしか聞こえない声で、イリーツァが問えば。
「ええ、もちろんよ」
 こくりと頷く花剣が、その包帯だらけになった手をイリーツァに差し出した。
 手を。
 何を求められたかわからなかった竜が、言われたとおりにその手に自分の手を置く。
「あなたも連れて行ってほしいんでしょう。前に」
 ――誰よりも、猟兵たちを護る使命を背負う彼もまた、猟兵であり、最強の盾竜である。
 先の二戦でその実力は十二分に見てきた。だからこそ、確信があった。
 誰かを誰よりも守ろうとする盾竜は、戦場においては皆よりも先に居らねばならない。
 誰かが傷つくよりも先に、その先に――彼が居なければおそらく、阿修羅の理性なき呪術で仲間が穿たれてしまうかもしれないからだ。
 その考えは、イリーツァ自身にもあった。
 彼が居ながら仲間の命を落としては、盾の竜とて己を責めるやもしれない。

「――『大丈夫だ、必ず守る』」

 今度は頷かなくとも、意志が仲間に伝わったことを竜が確信すれば、その羽を大きく、大きく広げた!

           ラストバトル・アタック――スタート
「じ ゃ あ 、 『 最 終 戦 闘 開 始 』 よ ! 」

 黒の竜の手を握ったまま、花の剣が手にした機械剣のトリガーを回せば―― 超 加 速 !!
 確かな質量をした彼がそれに合わせて飛翔すれば、耀子の加速に合わせて  と も に 空 を 飛 ん だ !

「おおおおおぉおおオオぉおおおおお」

 もはや、そこに在るのは嘆きか自我か、それとも――黄泉へ還る魂か!
 しかし、汚泥の体を引きずってもなお悪の仏はその力を振るおうと呪力を吸い上げて、無数に剣を作った!

 その数、――も は や ど れ が 月 か わ か ら ぬ ほ ど で あ る !

「ふん、やるじゃない。だけれど」
 こちらには、盾の竜がいるのだ。
 耀子が手を離す遠心力にあわせて、盾の竜は投げ出されて――さらに飛ぶ!
 ぐるんと体を丸めれば、固くなったイリーツァの体とうろこが、無数の剣を砕いていく!
 きらりきらりと舞う鋼は、まるで粉雪が如く。

 それでも猟兵の身を襲おうと次は光が集められていくのだ。

 丸まったまま空中で剣を叩き割るイリーツァは光に耐えられるとしても、問題はほかの猟兵である!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!」
 ならば俺が――と駆け出したのは刀也だ!
 放たれる光に合わせて、両腕を前に突き出し――さやから刃を抜いた。それが、彼の己を守る方法である。
「ああ、そっか。あれ、反射しちゃえばいいんだ!」
 【後光・偽】。それは猟兵の眼を焼き、視界を奪う最悪の技だ。だが、その技には欠点がある。
 ヴィリヤがそれに感づいて、急いで氷塊をひとつ氷の刃で砕いてから光を放たんとする仏の眼前に投げ飛ばした。
 ちかりと小さく明滅してから――後光は放たれる!

 遮る氷塊は、まるでガラスのように厚く、その後光を『跳ね返す』ことに成功した!
 視界を己の虚実で焼かれた仏が、雄たけびを上げてもんどりうった!
 どしんどしんと地面が揺れて、猟兵たちもよろめいてしまう。

 が、【瞬刻】で辛うじて自由を得たヴィリヤである!
「大丈夫かい?立てるね?」
「――っ、ありがとう」
 高速で移動をしたために、揺れに弱かった耀子がふらついているところを強襲した刃から退避しながら。
 より早く移動し続けて、――仲間を守らねばなるまい。
 昂る強さへの好奇心と切迫した状況に、ヴィリヤの唇だけが微笑んでいた。

「いけるわ。大丈夫、ここで降ろして!」
「わかった、無理はしないでねっ!」
 青髪の麗人に降ろされて、耀子が仕切りなおす。
 飛来する武器を掻い潜るようにして刀でなぎ払って、ぎゃうぎゃうと蛇を鳴かせる!
「まだ、――前へ!」
 まるで、道でも拓くかのように。
 ぶんぶんと空気を薙ぎながら仏であったものに至るために耀子が、その眼鏡と瞳を煌めかせた。

「『出し惜しみはしないわよ』ッッッ!!!!」
 
 怒声にも似た感情的な声と共に、放たれたコードは【《八雲》(リミットリリース)】!!
 鳴いていた蛇たちが、叫び声にも似た声を機械の刀身にあげさせて――赤の津波ごと、文字通り斬り開く!
 振るわれた全力出力の機械剣と共に排出された衝撃波によってその切れ目は伸びていくのだ。
「確かにおまえは、いつかの誰かの救いだったのでしょうけれど」
 どう、と音を立てて赤の海が割れていく。まだ、割れる。

「だけれど、いまここに、おまえの救いを必要とするヒトは居ないのよ」

 鉄臭いにおいを立ち込めた海が割れて――その起源である仏に至った!
 目標まで、障害物はなし――!

「あたしが見てきたヒトたちは、立ち止まることを良しとはしないもの」

 全力の一撃だった。
 これは、耀子の全力であったから――彼女はその場に膝をつく!
 喘鳴を上げながら反動に耐えて、未来を生きる仲間にこの道を託したのだった。

「よくやってくれたッッッ!!!」
 紅獅子の声と共に、耀子の肩に一瞬掌が置かれればもう、あとは穏やかに見守るばかりである。
 駆ける紅が、口の端から闘志を漏らしながら迫る刃どもを斬りはらってゆく!
 鈍い音と砕け散る鋼が割れた血の海に沈んでいくのを、振り返りもしない。
「戦場では俺は死人。死人は死を恐れない」
 まじないのように、己が退かない理由を思い起こしながら――刀也は前へ、前へ行く!
 守るべき巫女がいるように、この者たちにも守るべき誰かがある!未来がある。

 な ら ば 、 刀 也 は ! 

「例え相手が神だろうが、真っ向から斬り捨てる!俺を退かせる事が出来るならやってみせろ!神様よ!」
 
 吼えて――斬捨てるだけだった!
 
 そして、彼を鼓舞するために走る先に降り立ったのが盾の竜である!
 頭上で弾かれる鉛玉のごとく剣を砕いてきたイリーツァだ。

「死なせはしない」

 刀也の信念を否定はしないが――死んでいるも同然だから死も怖くないなどとは、この竜の理解には及ばなかったのだ。
 イリーツァに無数の鋼は効かないのを理解して、阿修羅は残った一本の腕で貫かんとした!
 【六道輪廻撃】!放たれたその剣に、まったくもって 盾 の 竜 は 退 か な い !
 親竜が如く、どこか優しい光を眼に抱いて。
 一度まばたきをすれば、目を見開く!
 己にむかってくる一撃、その穂先をあえて掌で触れて――『腕に抱え込んだ』ッ!

「私は化け物だ。貴様も最早同類」

 それは、イリーツァが人でないから出来る事である。
 彼は竜だ。人の心も道もわからねば、理解も出来ない。だけれども、知ることは続ける。
「化け物は何も救えない。人も、世界も」
 なので、彼は盾なのだ。
 竜たる彼は、剣を振るって悪を蹴散らす「ひと」にはなれない。どこまでも、ひとでなしから抜け出せないし、抜け出すつもりもない。
 竜は――「ひと」と「せかい」と共存できなければ対峙される運命だった。
 「せかい」に選ばれた彼が生き残るために出来ることは、「ひとのたてになる」ことだったから。
 この仏を殺すのは、己でないと悟っていたのだ。

 まるで彼の意志が如く、その体は強く。そして、けして仏の腕と同化した最後の腕を離さない!
 ぎちり、と腋と両腕と共に縛り付けてやれば、凛々しく太い眉毛が吊り上がって。

「――殺されろ。それが人の望みだ」

 バケモノとしての引導を渡す!
 
 阿修羅だったものをがちりと固定したイリーツァを見て、紅獅子がそれに応じようと駆ける、駆ける!
 だから、今こそ神風を起こす時!
「おわっ!?」
 刀也の背を押すようにして――彼の体を宙に持ち上げたのは、ヴィリヤの風であった。
「頼んだよ!」
 ぶんぶんと両腕を振って微笑む彼女も、すっかりほこりと切り傷塗れになっていた。
 だけれど、彼の実力を先の戦場で観たからこそ、最後を彼に託す!

 舞い上がった刀也が頷いているのを見上げるのは、もう一人。

「行って――――!!!」

 びりびりとしびれる己の体から、まだ大きな声が出る。
 泣きそうなくらい胸に熱いものがこみあげて、耀子がたまらず紅に祈りを叫んだ!
 
 なれば、応えねばならぬ!

「『こ の 切 っ 先 に 一 擲 を な し て 乾 坤 を 賭 せ ん ッ ッ ッ ッ ッ ! !』」

 青い瞳を、より輝かせて――!
 宙を舞った刀也が、己の真下に向かって刃を持ち直す。
 彼の直下には、もう顔面を保てなくなった下あごのみが残る仏の頭であった。
 穿つならば、まさに今。
 そして、腕を一度高くあげれば【雲耀の太刀(ウンヨウノタチ)】は成就される!

 振り下ろす動作に任せて真っ逆さまに――そ の 脳 天 を 貫 い た ッ ッ ッ ! ! 

 
 ●救世とはじまり


 山が、崩れ落ちた。
 声も出せぬほど完膚なきまでに痛めつけられた仏がぐずぐずと黒霧となって消えてゆく。
 ――恐ろしいほど静かな、夜が守られた。

 砦はやはり、今日もそこに在る。
 猟兵たちに護られた彼らが、藩主が己らを鍛える日々を送っているのだ。
 彼らのようにユーベルコードを扱えるわけではない。だから、知恵が必要だった。
 次にまた、天魔の大群が襲ってきたとしても、――次は己らの誇りを守ったまま戦い続けるのを目標にして、己たちを鍛え続ける。

「おお、今日は晴れましたな」
「猟兵たちが――嵐も、雲も晴らしていきおったのだろうなぁ」

 穏やかで、少し蒸し暑い快晴が――サムライエンパイアに訪れる、いつもどおりが始まったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年06月14日
宿敵 『修羅の魔神兵鬼『焔』』 『闇刃阿修羅』 を撃破!


挿絵イラスト