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闇へ葬られた者の声

#UDCアース

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#UDCアース


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●暗闇からの呼び声
 ________おいで、おいでと声がする。
 こちらにおいでと声がする。私を助けてと声がする。救ってくれよと声がする。
 そんな嘆きの声を聴いても、近寄ってはいけないよ。ましてや洞窟の中に入ってはならない。彼らの呼び声に応えたら、君も向こうにつれていかれてしまうからね。

●夏といえば肝試しだろう?
「水着もいいが涼むのならもっといい話があるぞ」
 上機嫌なアメーラに声をかけられた猟兵たちは嫌な予感がぬぐえなかった。こういう時の予知は、大抵の場合厄介なものなのだ。
「UDCアースでの事件だ。都会から少し離れた山中の心霊スポットで奇妙な噂が立っている。なんでも、洞窟の中から助けを求める声がして、中に入ると『持っていかれる』らしい」
 爽やかな笑顔で言う説明ではない。だがアメーラの口は止まらなかった。なにせここまでならただの怪談だが、これはオブリビオンがらみの事件なのだから。
「問題は本当に『持っていかれる』ことでね。私の予知では肝試しに入った男女四人が呼び声にひかれて暗闇へ消えてしまった。どうやら、噂の主は命を欲しているらしい」
 洞窟の入り口まで聞こえる誰かの呼び声。中に入るとより暗いところから声が聞こえてくるらしい。そちらへ進んでいった剛の者たちは軒並み、行方不明になるようだ。ただし、それは一般人の時の話だ。
「猟兵である諸君らはあえて声についていってほしい。声が犠牲者を呼び寄せるなら、その先に問題のオブリビオンがいるはずだからねぇ。あ、奥に進んでいくと霊障がひどくなっていくから覚悟はしたほうが良いと思うぞ」
 アメーラ曰く洞窟を進んでいくと足を掴まれたり肩に触れられたりする上、奥になると問いかけをするなにかが現れるらしい。心を強くもって進んだほうがいいだろう。
「私が行くわけにいかないのが残念だ……楽しい報告を期待しているよ」
 アメーラは笑顔を浮かべたまま本を開いた。猟兵たちはどう霊障に対処するかを各々の頭に巡らせながら、転送に応じるのだった。


夜団子
 マスターの夜団子です。オープニング閲覧ありがとうございます!

●今回の構成
 第一章 心を強く持って件の洞窟を進もう! いろんな怪奇現象が起きるぞ!
 第二章 問いかけを行う霊障がやってくるぞ! 答えながら彼らを天に送ろう。
 第三章 すべての元凶を倒そう。

 水着で盛り上がっていますが、夏といえば肝試しも欠かせませんね!

 皆様のプレイング、おまちしております。
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第1章 冒険 『曰くつき…大丈夫、恐くないですよ?』

POW   :    恐くない恐くない恐くない恐くない…(気合・自己暗示)

SPD   :    キチンと準備しておけば関係ありませ、ぎゃー!出たー!(脇目も振らずに逃走)

WIZ   :    幽霊なんているわけないでしょ?(存在を信じない)

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🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ベルンハルト・マッケンゼン
アドリブ、他参加者との絡み大歓迎!

【WIZ】
幽霊なんているわけないでしょ?
……あぁ、その通りだ。幽霊なんているわけが、無い。いるのは地縛霊や浮遊霊や生霊やポルターガイストだ。超常現象愛好家として、きちんと分類しなければ、な。戦術的に…フッ。

心を強く持ち怪奇現象に期待して洞窟を進む。
下り坂の元アイドルや汚れ芸人がわざとらしくキャーキャー言うのは飽き飽きだ!(怒りを込め)
さぁ、私を呼べ! 我が名はベルンハルト、戦争屋で酔いどれ、そしてオカルトホラー原理主義者だ!

ほら、定番の謎の物音や振動や電磁波異常はどうした! さっさと掛かって来い!(各種計測機器を稼働させて挑発し、状況の変化を待ち受ける)


花菱・真紀
肝試しも夏の定番だよな♪
昔は姉ちゃんに無理やり夜の墓地とか連れてかれたもんだぜ…。
廃墟の方は霊的な事以外の危険も多いけど洞窟なら。
うん、今から楽しみだな。

(懐中電灯を装備して)
俺もオカルト好きの端くれだしこういうのはやっぱドキドキするな。
(呼び声に応え洞窟内へと)
動画なんか撮っても楽しそうだな【撮影】とかしてみるか…。
この先で何かあった時はそうだな…。
UC【オルタナティブ・ダブル】で別人格の有祈を呼ぼう。もしもの時はよろしく頼むぜ相棒。

アドリブ連携歓迎です。



「肝試しも夏の定番だよな♪」
 うきうきと懐中電灯を取り出す花菱・真紀(都市伝説蒐集家・f06119)。かつて姉によく墓場へ連れていかれていた彼にとって肝試しは身近なものだった。廃墟探検もいいがそちらは現実的な危険も多い。無論今回の肝試しはオブリビオンによる事件なので、油断は大敵だが。
「幽霊なんているわけが、無い。いるのは地縛霊や浮遊霊や生霊やポルターガイストだ。超常現象愛好家として、きちんと分類しなければ、な」
 戦術的に、と含み笑いをするベルンハルト・マッケンゼン(黄金炎の傭兵・f01418)に真紀は笑いながら懐中電灯を差し出す。彼は、大量の計測機器を抱えたベルンハルトに親近感を覚えていた。
「俺もオカルト好きの端くれだしこういうのはやっぱドキドキするな! 楽しもうぜ!」

 いざ洞窟の入り口に二人がやってくると、彼らを待っていたように声が響いた。
 おいで、おいで。
 私を助けて。この手を取って。
 こちらに来て、一緒にいてよ……。
「こ、これはなかなか……」
 呪詛のようなその呼び声に真紀は思わずしり込みする。まるで声に質量があるようにじっとりと重いそれは、猟兵たちですら飲み込もうと二人へ腕を伸ばしていた。本能的に感じる「ついていってはダメだ」という直感が真紀の足を止めてしまう。
「……下り坂の元アイドルや汚れ芸人がわざとらしくキャーキャー言うのは飽き飽きだ……!」
「え、ちょ、あんた……」
「ほら、定番の謎の物音や振動や電磁波異常はどうした! さっさと掛かって来い!」
 謎の勢いで洞窟へ進んでいくベルンハルトを追う形で真紀も洞窟に入る。呼び声もベルンハルトの言葉にあっけにとられたようで、一瞬沈黙が訪れた。そして突然、ベルンハルトの持つ計測機器が異常な音を立ててその針を振り切る!
「う、うおお! 揺れる! なんだよ地震!?」
 ビーッビーッと悲鳴のように鳴り響く異常音に、立っていられないほどの地揺れ。そしてベルンハルトの哄笑が入り混じる空間は地獄のようなカオス具合だった。
「ははははいいぞ! これぞ定番! この程度か!?」
「わかった、あんた酔っぱらいだろ!」
 自棄のように鳴り響いていた計測機器の異常音はぷすん、という音を最後に派手に故障して消えた。二人が知覚していた激しい揺れもだんだんと収まっていき、代わりにすすり泣く声と二人へ助けを求める呼び声が喚き声のように鳴り響いた。
「こりゃまじもんの霊障だな……ベルンハルトもなんか吠えてるし、これ動画にしたら面白いんじゃないか……?」
「さぁ、私を呼べ! 我が名はベルンハルト、戦争屋で酔いどれ、そしてオカルトホラー原理主義者だ!」
 呼び声に喜々と応えるベルンハルトを見て、真紀の恐怖心はどこかへ行ってしまった。撮影用にスマートフォンを構え、ずんずん進むベルンハルトを被写体にしながら二人は奥へと足を進めていった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

鈴木・志乃
え? 何が怖いの?
私既に取り憑かれてるんですけど?(すっとぼけ)

UC発動
あっはっは、君の存在自体が霊なのに
これ以上怖いものなんてあるのかねえ……
あっやめて怒んないで!(笑ってる)
ユミト(ペガサスの精霊)も一緒に行こうか
二人と一匹いて怖いことなんてそうないでしょ?

さ、ガンガン進んで行きましょうか
【呪詛耐性】の【オーラ防御】張りながら
【第六感、失せ物探し】で【見切り】

これ以上誰かが闇に呑まれるのは嫌だよ
しっっかし危ないねえ
瓦礫降ってきたりしたら【念動力】で放り投げる

音がうるさいねえ
なんか適当に【歌唱】しようか
ピクニックじゃないんだけどなあ



 洞窟の入り口で鈴木・志乃(ライトニング・f12101)はその呼び声に耳を傾けていた。それを恐れる様子はなく、ただただ凪いだ目で暗闇を見つめている。
「怖くないの? シノ」
「あっはっは、君の存在自体が霊なのにこれ以上怖いものなんてあるのかねえ……あっやめて怒んないで!」
 そんな志乃の隣には白髪の女霊が浮かんでいた。頬を膨らませてぽこぽこと志乃を叩いている姿は愛らしく、悪霊とは言い難い。守護神兼親友の彼女を連れて志乃は洞窟へ足を踏み入れた。
「ユミトもいるし、二人と一匹ならそうそう怖いこともないよ」
 傍らに侍るペガサスはその頭を撫でられて嬉しそうに喉を鳴らした。その輝きは洞窟を照らし、呼び声も少しずつ潜んでいく。
 散歩でもするように歩く二人と一匹に、悪霊たちは実力行使に出た。
「おっ……と」
 ガッとなにかに足を掴まれ、バランスを崩しかける志乃。なんとか持ち直して見てみるも、足を掴んでいる者はいなかった。
「定番だねえ……って、危ないな」
 天井が崩れ志乃に迫って落ちてこようとした瓦礫を念動力で止める。ポイっと放り投げれば、それは壁にあたって崩れ落ちてしまった。
 それとほぼ同時にいくつもの呼び声がワンワンと志乃たちの周りで響き始める。物理干渉がダメなら音で、ということなのだろうか。あまりの大きさに志乃は耳を押さえて眉を寄せる。
 そんな彼女をのぞき込んで親友は問うた。うるさいなら、歌う?
「……そうだねぇ。なんか適当に歌ってようか」
 親友と声を合わせて歌いながら志乃は進む。歌えないけれど楽しそうに、ユミトも鳴いていた。ピクニックじゃないんだけどなあ、と志乃は苦笑した。

成功 🔵​🔵​🔴​

マクベス・メインクーン
肝試しって行ったら夏の定番だよな~♪
洞窟とかまさにうってつけじゃんっ!
めっちゃ怖い現象とか期待だなっ

なんか、洞窟から色んな声が聞こえるんだけど…
招いてる声は幽霊だとして
ソレ以外の高笑いとかなんだいったい…

【聞き耳】で幽霊の声がする方に進むぜ~
せっかくならいっぱい心霊現象にあってみてぇしなっ
物理的に危ないようなら【野生の勘】で回避するぜ
あー…でもビックリ系はちょっと音に固まるかも…
でかい音って怖いとか関係なくビックリするし

霊障が酷いようなら【破魔】で打ち消しつつ進む
オレには守ってくれる神様がついてっからな(アンクレットを見つつ)
やすやすと幽霊なんかにゃ負けねぇぜっ



 肝試し、といえば夏の定番である。そして洞窟というのも、また王道だ。
 期待を胸にマクベス・メインクーン(ツッコミを宿命づけられた少年・f15930)は指定された洞窟へと向かう。
 めっちゃ怖い現象とか、期待だなっ! この幽霊はガチモンらしいし、せっかくならいっぱい心霊現象に遭ってみてぇし。
 そんなわくわく気分のマクベスも、洞窟の入り口で思わず立ち止まった。
 おいで……おいで……。
 助けて……私を助けて……。
 ____はははははァッ!!
「なんか、やけに色んな声が聞こえるんだけど……。招いてる声は幽霊だとしても、ソレ以外の高笑いとかはなんだいったい……」
 別の意味で若干おののきつつ、マクベスは気を取り直して聞き耳を立てた。たまに混じる笑い声ではなく、幽霊たちの呼び声の方へ行きたい。聞き分けながら進むマクベスは耳に集中しながら暗闇を進んでいく。
 バンッ!
「うおッ!?」
 マクベスの尾がピィンと伸びる。真横の壁から突然響いた大きな音が、彼の心臓を跳ね上がらせた。どっどっ、と鳴る胸を押さえてマクベスは立ちすくむ。
「おおう……でけぇ音は関係なくビビるからやめてくれよ」
 こっち……こっちだよ……。
 助けて……私たちを……。
 早く……こっちに……。
 立ち止まったマクベスの右足に、するりと何かが絡まった。誰かの手のようなそれは左足にも絡みつこうと闇を這う。しかし到達する前に、バチン! と音を立てて弾かれた。
「……わりぃ、オレには守ってくれる神様がついてっからな」
 アンクレットの加護を感じながらマクベスはそっと微笑んだ。その脳裏に浮かび上がるのは、炎を纏った愛しい相手。
「よぉし、ちょっとびびっちまったがどんどん行くぞ! やすやすと幽霊なんかにゃ負けねぇぜっ!」
 霊障を打ち消しながらマクベスはずんずん進む。その表情に一切の迷いはなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

終夜・還
●SPD

蝶ヶ崎(f01975)と霊障鑑賞して歩いたあと飽きたら蝶ヶ崎の馬イクにニケツ
洞窟を抜けるぜ

しかし死霊術士大喜びだなこりゃ(ケラケラ)幾らかお持ち帰りするのもいいけど先急がんとアカンし、地縛霊だとめんどくせーからな、蝶ヶ崎の言う通り指咥えるしかねーか

お、イイ感じに肌寒くなって来たぜ?ラップ音もスゲーや

…ってそっちじゃねーよ(爆笑しつつラップ歌い始めた蝶ヶ崎の頭にチョップ)
ん?あ、こっち見てるのが居る
やっほー(手ェ振ってにっこり【笑顔】
殺意籠ってるって?ああ、ごめんね、つい❤)

灯りは【呪言】で熱くない炎を周りに
しっかしバイクを馬イクに改造しちまったって言うお前ンとこの店主面白れぇなァ(笑)


蝶ヶ崎・羊
終夜・還(f02594)さんと同行します
【SPD】
『どう誘ってくるのでしょうか?楽しみですね、還さん』
幽霊より神の方が怖い思考なのでわくわくの方が強いです

最初は終夜さんと辺りを探索します
【学習力】でこの現象の知識を有していたら教えます

『一応依頼ですからね?それに、地縛霊なら持ち帰れないと思いますよ?』
『しかし…行方不明が起きるほどの現象とは怪しいですね』

終夜さんが飽きれば馬イクに終夜さんを乗せて、【騎乗】を駆使して走ります
『ラップ?では今回のジャンルはラップにしましょう』
とラップでUCを使用します(チョップされれば『おや、これは失礼しました』と謝罪)

『ええ…店主は面白い方ですよ(ちょいおこ)』



「おお! 死霊術士大喜びだなこりゃ」
 肝試しに来ているとは思えない声色で終夜・還(一匹狼・f02594)は目を輝かした。死霊術士である彼にとっては現れる怨霊も恐怖の対象になり得ない。むしろいくつかお持ち帰りできないかと品定めしていた。
「一応依頼ですからね? それに、地縛霊なら持ち帰れないと思いますよ?」
「あー地縛霊だとめんどくせーからな。先も急がなくちゃならねぇし、諦めるか」
 しぶしぶといった様子の還と裏腹に、また違った期待を乗せて蝶ヶ崎・羊(伽藍堂の歌箱・f01975)は視線を巡らせる。
 幽霊なんかよりも、神様のほうがよっぽど怖い。死霊など恐れない羊はわくわくと胸を踊らせながら洞窟を見まわしていた。
「どう誘ってくるのでしょうか? 楽しみですね、還さん」
「そーだな。いまのところ気配がするだけでなにも起きていないが……つーか、呼び声がするんじゃなかったか?」
 二人は耳を澄ませるが呼び声らしき声は聞こえない。なにかがすすり泣くような声と、言葉にならない唸り声のようなものがするばかりである。
 幽霊たちも戸惑うことがあるのだろうか。暖簾に腕押し、糠に釘な二人へ呼び声はなかなか訪れない。
「お、これ顔じゃね?」
「ああ、それは類像現象と言って三つの点が集まっているから人の顔に見える脳の錯覚ですよ」
「へーつまんね」
 二人はずんずん、ずんずん進む。そろそろ飽きてきたのか還はくあ、とあくびをし、羊も首をかしげてため息をついた。
 期待はずれですが、しかし、行方不明が起きるほどの現象とは怪しいんですよね。羊のぼやきに還は生返事を返した。
「もういいんじゃねぇか? 馬イクで駆け抜けようぜ」
「そうですね……もしかしたら奥には何かがあるのかもしれません」
 そしたら、と羊は言葉を切る。少し困った顔で還に振り返り肩をすくめた。
 洞窟は暗くて互いの顔もぼんやりとしか見えない。呪言で灯りをともすか、と還が考えたとき、羊がまた口を開いた。

「騎乗するので手を離してもらえませんか?」

「……は?」
「え?」
 間の抜けた還の声に羊が首を傾げる。還は両手を顔の横に持ち上げて握っていないことをアピールした。
「そもそも野郎の手を握るわけねぇだろ」
「と、いうことはこの手は……」
 呪言の炎がひとつ、ふたつと浮かび上がる。二人が揃って見下ろした羊の手の先には青白く黒髪の長い、幼子が立っていた。
 ________来てくれたね。来てくれたね。
 こっち、もっとこっち。
 たすけて、たすけて。
 それとも、わたしたちといっしょになる?
 幼子だったものはどす黒く染まっていき、ぐちゃぐちゃと不定形のなにかに変貌していく。それでもなお羊の手だけは離さず、むしろ這い上がるように黒いなにかは蠢いた。
「おうおう、イイ感じに肌寒くなって来たじゃねぇか」
 べちん、とそれを振り払い還は羊を引き寄せる。そのまま馬イクを出すように促せば、羊はもう一度肩をすくめてため息をついた。
「なんだったのか、結構興味があったんですが」
「そーかよ。でもま、このあといくらでも見れるんじゃね?」
 馬イクにまたがった二人は風を切って進んでいく。明るく照らされた洞窟内では障害物の方がよほど恐ろしく、黒いなにかは見えなくなってしまった。
 その代わりとばかりに、誘う声とパンッパンッというラップ音が響き渡って二人を襲った。
「ラップ音もスゲーや。大歓迎だな」
「ラップ? では今回のジャンルはラップにしましょう」
 馬イクで駆けながら軽快にリリックを刻み始めた羊に、還はぶはっと吹き出した。ひぃひぃ笑いながら羊の背中を叩く彼をよそに、羊は大真面目でリリックを刻み続ける。
「そっちじゃねーよ! 笑い殺す気か!!」
「おや、これは失礼しました。治療するつもりだったのですが」
 天然漫才を繰り広げている彼らに、変わらず霊障は続いている。笑いつかれた還がふと見まわしてみれば闇の向こうに先ほどの幼子が見え、進む先に待ち構えていた。黒髪の間から見えた目と視線が交わったので、還はあいさつ代わりに手を振るが幼子はむしろ慌てて逃げ去ってしまった。
「逃げちゃいましたね。なにしたんですか?」
「いや、やっほーって手を振っただけだぞ? ……あ、いけね、殺意こめちまったかも」
 お互いうっかりですね、と笑う羊に、いやお前と一緒にすんなよ、と笑い返す還。仲良くドライブしている雰囲気に霊たちもあきらめたのか、また徐々に声が消えていった。

「しっかしバイクを馬イクに改造しちまったって言うお前ンとこの店主面白れぇなァ」
「ええ……店主は面白い方ですよ。それはもう……」
「お、なんか籠ってんな。怒りが」
 霊障が無くなったことなどもはや二人の意識の外だった。霊障に飽きた二人の次の興味はバイクを馬イクに改造した羊の店長についてに切り替わっていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

出水宮・カガリ
※アドリブ可

ふむ、ふむ
暗い洞窟とかちょっと嫌ではあるのだが、
死ぬほど苦手、というわけでもなし
いっそ、今度仲間でやるお化け屋敷の参考にしてやる、くらいの気持ちで

流石に、暗いまま進むのは見えないので
【命の篝火】を抜く
霊障とかは…ほどほどに耐性はあるつもりだが(呪詛耐性・狂気耐性)
声を見失わない程度に、起きる物事はあくまで客観的に観察しながら進む
自分で言うのもなんだが、ほら
我ら自身が、半分お化けのようなものだしな
(念動力でいつでも盾で反応できるようにしつつ進む)
こらこら、しつこいのは嫌われるぞ?
大事にして欲しいなら、怖がらせないようにしなければ
それとも、急ぐ用事か?(足を掴もうとする手に誘惑)


エウトティア・ナトゥア
SPD出たら脇目も振らずに突撃

※アドリブ・連携歓迎

うーむ、あまり良くない気配がするのう。
精霊もざわめいておるようじゃしこのままだと犠牲者もでるようじゃ。ここはひとつ祓ってみるのじゃ。

とりあえずマニトゥに【騎乗】して【破魔】の【祈り】を乗せた鎮魂歌(【歌唱】)で祓っいながら洞窟を進むとするかの。

む、奥の方から声がするのう、どうやらこの気配の主はこの先のようじゃな。
マニトゥ!声のする方向へ向かうのじゃ!迷える魂が居るなら大いなる意思の元に還してやらんといかんからのう。
(狼に乗って奥へ疾走し、霊障は狼の咆哮で吹き飛ばす)


琥珀川・れに
【依頼掲示板前広場】
↑未定だが合流来るかもしれない。合わせ執筆かは任せる
時期的に負担なら流しても可

幽霊は当然いるよね。奴らは結構強力だ、なめて向かってはいけない。
(ダークセイヴァー出身の発想)
心配するな【呪詛耐性】がある。

幽霊の気配か?
【血統覚醒】でヴァンパイアの姿になる
圧倒的【存在感】に幽霊も驚くさ

何か僕の姿を見て逃げて行く人がいたような気がするが
きっと一般人じゃないだろう【恐怖を与える】

※アドリブ大好き&楽しみ。追加省略アレンジもご自由に。



「ふむ、ふむ。流石に暗いな」
「そうだね……あ、エウトティア、足元に気を付けて」
 命の篝火をもって出水宮・カガリ(荒城の城門・f04556)は先行する。その後ろを歩くエウトティア・ナトゥア(緋色線条の巫女姫・f04161)を気にしながら、琥珀川・れに(男装の麗少女 レニー・f00693)も続く。
「うーむ、あまり良くない気配がするのう。精霊もざわめいておるようじゃしこのままだと犠牲者もでるようじゃ」
「幽霊は当然いるよね。奴らは結構強力だ、なめて向かってはいけない。僕には耐性があるけれど、二人は大丈夫?」
「霊障とかは……ほどほどに耐性はあるつもりだが。自分で言うのもなんだが、ほら、我ら自身が、半分お化けのようなものだしな」
 ケラケラと軽快に笑うカガリの横で、エウトティアはしゃがみ込む。連れていた巨狼、マニトゥがなにかを察知したように足元をふんふん嗅ぎ始め、エウトティアはそれをのぞき込んでいた。
「エウトティア? どうかしたのかい?」
「マニトゥが変なものを見つけたよう……なの……じゃ……」
「も、もしやそれは……」
 エウトティアに続き、れにまでもが固まる。角度的に見えなかったカガリは首を傾げて彼女らの視線を追った。二人と裏腹に、マニトゥはそれを鼻先でつついてパタパタと尻尾を振っている。
 命の篝火に宿る炎が、ゆらゆらと地面を照らしていく。マニトゥの顔が離れた先、地面から目立つ白いなにかがそこにはあった。石というにはつるりとしていて、あまりにも白い。マニトゥがさらに掘り出すとその白い何かの、『関節』が露出した。
「……うむ! それは人間の手の骨だな!」
 元気なカガリの声に反応するように、呼び声が三人を取り囲んだ。泣き声の混じったそれは、むしろ固まっていた二人を正気に引き戻した。
「一気に気配が増したね。これが幽霊の呼び声……か」
「とんでもない数の霊たちなのじゃ……これほど迷える魂たちが居るなら、わしは気合を入れて大いなる意思の元に還してやらんといかんのう」
「どうせなら今度仲間とやるお化け屋敷の参考にしようと思ったのだが……これはなかなか、いいものができそうだな」
 カタン、と物音がして欠けた岩の一部が、豪速で飛来する。念によりいち早く察知したカガリはそれを盾で受け、弾き飛ばした。
 みつけてくれて、ありがとう……。
 たすけて、ぼくをたすけて……。
 どこにいくの? わたしをおいていくの?
 見捨てないで! ぼくたちまだ、しにたくない!
「ありがとうと言ったりこっちに来てと言ったり、忙しい幽霊たちだな」
「でも、発言が気になるな……なぜ、助けを求めているのだろう?」
「やはり迷い続けているからじゃないかのう。あてもなく彷徨い続けるのはさぞつらかろうぞ」
 マニトゥ! とエウトティアが呼ぶと、骨を咥えていた巨狼が彼女の元へ駆けてくる。これは埋めておこうと、れにのとりなしで手の骨は元の場所に戻されたが、土をかける前に煙のように消えてしまった。これすら幽霊による幻覚だったのだろうか。
「ここはひとつ、わしが祓ってみるのじゃ。数が多いのなら鎮魂歌がよいじゃろう」
「幼い声も聞こえることだし、少し気になるね。救えるのであれば、僕は救いたい」
 決意を帯びた言葉と共に、れにはその血統を解放する。ヴァンパイアの姿へとなった彼女はその圧倒的な存在感とオーラで、幽霊たちを押していた。
「はよう、マニトゥに乗るのじゃ! なんだか奥に、もっと大きな気配の者がいる気がするのじゃ!」
「わかった。……カガリ、大丈夫かい?」
「ああ、問題はないよ。先に乗っていてくれ」
 カガリは二人に応えながらも、じっと足元を見ている。炎に照らされ消えたり現れたりしながら、それは確かにカガリの足を掴んでいた。
「こらこら、しつこいのは嫌われるぞ?」
 語り掛けてみるが手が離す様子はない。それは『いかないで』と言っているようでもあった。カガリはしかたないな、とばかりに微笑みその場にしゃがみ込む。
「お前たちがおいでと言っているのに、行かないでとはおかしな話だ。大事にして欲しいなら、怖がらせないようにしなければいけないぞ」
 そっと見えない手を指先で撫でて、カガリは言葉を紡ぐ。優しい声に、手の掴む力が少しだけ緩んだ。
「それとも、急ぐ用事か? それならなおさら、待っていてくれ。カガリたちが根源を断って、解放してやるからな」
 その言葉が、霊にも届いたのだろうか。冷たい感触はだんだんと溶けていき、暗闇の中に霧散していく。拘束の無くなったカガリはゆっくりうなずいて立ち上がり、れに達へと振り返る。
「待たせたな」
「遅いのじゃ! はよう乗れい!」
「ふと思ったんだけど、三人も乗せてマニトゥは大丈夫なのかい?」
 れにの問いに任せろと言わんばかりに聖獣は吠える。カガリも乗り込むと巨狼はしっかりと立ち上がり、地を蹴った。
「マニトゥ! 声のする方向へ向かうのじゃ!」
 ガウ! と答えてマニトゥは肺を膨らませる。聖獣の咆哮は邪魔しようと躍り出た幽霊も飛来した岩石も等しく砕き、道を切り開いていった。呼び声は依然続くが、その魂を鎮めようと、エウトティアの歌声が対抗するように響き渡った。
 視線を感じて、れには振り返る。暗闇からのぞき込んでいたぼんやりとした人影が、ササッと慌てて逃げていった。どう考えても生きた一般人ではない。そんな影を見てれには目を細めた。
「カガリ、僕は当初ね、黒幕のオブリビオンの影響で、この洞窟に浮遊霊たちが集まってしまったのだと思ったんだ」
「ん? 違うのか?」
「もちろん、僕の勘が外れている可能性はある。この先には邪悪なオブリビオンがいて、僕たちを待ち構えているかもしれない。それは悪意を持って、幽霊たちを利用しているのかもしれない」
 れにが一度、言葉を切る。ヴァンパイアに変身した彼女を見て、また幽霊が逃げていった。彼らは、れにの存在感に逃げ出しているだけなのだろうか? 『ヴァンパイア』を見て、逃げ出しているのだとしたら。
「……もしかしたら黒幕なんていなくて、彼ら幽霊自体が僕らを呼んでいるのだとしたら。……倒して解決とは、どうもいかない気がしてね」
 予感を胸にれに達は進む。エウトティアの美しい歌声が洞窟に響き渡っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『嘆き続けるモノ』

POW   :    何故俺は救われなかった?
質問と共に【多数の視線】を放ち、命中した対象が真実を言えば解除、それ以外はダメージ。簡単な質問ほど威力上昇。
SPD   :    誰も私を助けてくれない
自身と自身の装備、【自身と同じ感情を抱く】対象1体が透明になる。ただし解除するまで毎秒疲労する。物音や体温は消せない。
WIZ   :    僕を傷つけないで!
【悲しみに満ちた声】が命中した対象にルールを宣告し、破ったらダメージを与える。簡単に守れるルールほど威力が高い。
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●問いかけの声
 どうして。
 どうしておれはたすからなかった?
 どうしてわたしを見捨てていくの?
 どうしてぼくは間に合わなかったの?
 どうして。どうして。

 問いの言葉は怨嗟の声となって、道行く猟兵たちへ襲い掛かる。
 闇はより一層深まり、どんな光でも照らすことができない。視界の通らないその向こう側から、無数の視線が猟兵たちの肌を刺す。確かにいるなにかが、猟兵を見ている。
 前も後ろも、横も上下もわからない空間の中で声が響き渡った。たくさんの嘆きが混ざった雑音は少しずつ輪郭を得ていき、その場に立つ猟兵のよく知る声になっていく。その相手を思い出したとき、その相手が、猟兵の前に立っていた。

 決意ある猟兵でも一度、足を止めてしまうだろう。もしかしたら、暗闇がまるで見知った場所のような、幻覚まで見るかもしれない。
 猟兵たちはそれぞれの忘れられない人、失った誰かとそこで対面する。
 偽物と侮るなかれ。それは確かにそこにいる。
 本物と妄信することなかれ。それは怨霊たちによってゆがめられている。
 彼は、彼女は、彼らは。猟兵たちへ問いかけるだろう。その問いに答えれば猟兵たちは解放され、闇が晴れる。
 真を口にしなくてもいい。しかし偽りを伝えた代償は猟兵のその身に降りかかることだろう。

 選択は、君次第だ。

【PL情報】
 暗闇に取り残された猟兵の前に、過去に自分が失った人・別れた人が現れます。それは一人でも複数でも構いません。それに合わせて闇が思い出の風景を映し出してもいいですし、闇の中で対峙しても大丈夫です。
 現れた人は猟兵に向かって問いかけを行います。それは生き残った猟兵への恨み事かもしれませんし、全く違うことかもしれません。その内容を教えてください。
 そして、猟兵の行う答えも教えてください。真実かどうかも教えてください。嘘をついてもクリアになりますが、ダメージをうけてしまいます。
 風景や相手について、描写のヒントを記入していただければ存分に盛り込みます。基本的にプロフィールは見に行きますが、それ以上の情報はプレイング以外からは抜き出せません。
 アドリブ多めのリプレイになることを、ご了承ください。
終夜・還
また逢ったな、セレア。

最近この手にハマるの多いなァ

問いには正直に『生かすため、自ら俺に喰われたから』と答えよう

後悔していない訳じゃない
喪いたくなかったし、喰いたくなんかなかった

何時までも一緒に暮らしたかったよ

でもそれを選んでくれたのは、俺に生きろと微笑ったのはお前だ、セレア

あの時、屈託なく、後腐れない様に笑ったんだろ?知ってるよ

だからこの状況は腹が立つなァ

俺の愛おしいセレアを、最愛の女を歪めんじゃねぇよ
セレアはそんな顔はしない。アイツは俺を怨まない

綺麗な金の髪と碧眼を歪めるな、殺すぞ。

ダークセイヴァーの依頼で出てきた時はお前になら殺されてもイイと受け入れたが、アレは俺の心の反映だからノーカンな



●黄金の月、見つめるは碧眼
「……また逢ったな、セレア」
 暗闇の中、耳障りな呼び声が消える。さっきまで気持ちよく馬イクで駆けていたはずなのに、気が付けばたった一人で立っていて。同行者もまあきっと無事だろうと終夜・還(一匹狼・f02594)はぶらぶらのんびり歩いていた。
 足が止まったのは前後がわからなくなったからではない。ましてや、暗闇を恐れたわけではない。死霊たちの視線は死霊術士の還にとって慣れたものであるし、人狼となったこの身はよく闇に馴染む。だからきっと彼女が、美しい金髪の彼女が現れなければ彼は未だに進んでいただろう。
 ________久しぶりね、還。
「……そうだな」
 碧い瞳は変わらず優しい光を宿していて、還は思わず目を細めた。ひと時だって忘れない、最愛の相手。今でも横にいてくれたら、と思ったことは何度だってある。だから、だからこそ。
 その瞳が怨みに歪まされるのはただただ腹立たしかった。
 ________ねえ還。私はどうして死んだのかしら。どうして死ぬはずだったあなたが生きて、生きられた私が死んでいるのかしら?
「よぉく知ってるよ、セレア。お前は俺を生かすため、自ら俺に喰われたんだ」
 目の前に立つ姿が、幻覚であるのはよくわかっている。それでも、言葉には後悔が滲んでしまった。
 喪いたくなかったし、喰いたくなんかなかった。だが、現に今、還は生きてここにいる。
「でもお前は選んでくれたのは……俺に生きろと微笑ったのはお前だ、セレア」
 だから還は生を謳歌することを決めた。短い寿命をできるだけ楽しく、自分らしく、欲に素直に。屈託なく笑って先に逝った彼女がうらやむくらいの土産話をこさえて、また会いにいくと決めたのだ。
 ……それが後腐れのないように、最期に笑ってみせた彼女への餞だと信じて。
「……だから、この状況は腹が立つなァ」
 ぶわ、と還から殺気と怒気があふれ出す。怒りのままに剥いた牙はみるみるうちに鋭くなってゆき、体が剛毛で覆われていく。狼のものとなった両手で顔を覆えば、その下で人の顔は形を失っていく。月下の獣、満月の人狼が、そこには現れていた。
「俺の愛おしいセレアを、最愛の女を歪めんじゃねぇよ。セレアはそんな顔はしない。アイツは俺を怨まない!」
 還の怒りの咆哮が闇を吹き飛ばす。周囲に纏わりついていたはずの死霊たちがざわめき、逃れるように千々に散っていく。それでもなお目の前に立っていた金髪碧眼の女は、恨みの形相のまま還をじっと見つめていた。逃げないその霊の首へ、還は腕を伸ばす。
「……綺麗な金の髪と碧眼を歪めるな、殺すぞ」
 ぱちん、とはじけるようにその姿が消えていく。どろどろの黒い塊となった『それ』は還の足元でどす黒い塊となって蠢いていた。
 ________どうして、どうしてどうしてどうして……。
「うるせぇ、セレアの声で喚くな」
 ぷちゅ、という音を立ててそれは踏みつぶされた。二度目の死を与えられたそれは洞窟の地面に溶けて消えていく。
「……前は殺されてもイイって受け入れたがな……アレは俺の願望みたいなもんだからノーカンな」
 人狼化を解き人間の姿に戻りながら還はつぶやく。ガシガシと頭をかいて大きく息を吐いた。
 湿っぽいのは嫌いだっていうのに。あいつは大丈夫だろうか、まあ、平気か。そんなことを考えながら還は先へと足を進め始めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

蝶ヶ崎・羊
目の前にいるのは黒髪の目付きの悪い青年

『貴方は何処かで…』
頭を押さえる

無意識にヒアデス・グリモワールを見て、ハッと目を見開く
『貴方は…オレを作った人?』

思い出したのは完成したオレに拍手と『おめでとう』の言葉を送り
そして自らを盾にして人形を欲しがった人からオレを逃がした人

彼は問う
俺はどうして死んだのか
どうして俺を忘れたのか


『貴方は…オレを逃がすために自らを盾にして立ち向かい、命を…落としました』
血に濡れた後ろ姿を思い出す

『捕まったオレは何回も記憶回路を焼き切られて…全てを忘れてしまいました』


許してとは言わない
でも貴方の傷が癒えるように歌う(UC発動)

貴方が教えてくれた子守り歌に
感謝と謝罪を込めて



●断片の記憶、その背は赤く
 同行者も馬イクも見失った蝶ヶ崎・羊(伽藍堂の歌箱・f01975)はその両方を探しながら暗闇の洞窟をさまよっていた。響く呼び声は問いかけへと変わり、羊の耳へも届く。その問いかけを耳にするたびに、なぜか頭がチクリ、チクリと痛むような気がした。
 普段ならば気にしないような、些末な違和感。この身を包んでいく暗黒も相まって、羊の足はだんだんと、だんだんと止められていった。
 立ち尽くした彼の背後からコツコツと足音がする。同行者か、と一抹の安堵を胸に振り返った先にいたのは、名前もわからない青年だった。黒髪の青年はその細い目をより細めて羊を見つめる。思い出せ、とでも言うように。
「貴方、は、何処かで……」
 ぐにゃり、と視界が歪んで羊は頭を押さえる。違和感でしかなかった痛みがズキズキ、ズキズキと確かなものに変わっていく。痛い、痛い。まるで記憶回路を焼き切られたときのような________。
「……え?」
 今自分はなんと思った? 『記憶回路を焼き切られた』痛み? ああそうだとも、よく覚えている。何度も何度も焼き切られたから……。
 ぐるぐると回る頭に耐え切れなくなりゆっくりと息を吐く。同時に開かれた瞳が自然とヒアデス・グリモアールに引き寄せられ像を結んでいった。その牡牛の表紙が瞳に映ると、羊はより大きく目を見開いた。
「貴方は……オレを作った人?」
 考えるより早く答えが口からこぼれていた。弾かれたように顔をあげた羊に、目の前の青年は、否、彼の造り手は口端を釣り上げる。
 満足そうな笑顔に響く拍手。そして贈られる『おめでとう』の言葉。
 すべてがあの時の、蝶ヶ崎羊というミレナリィドールが完成した時の情景と重なって蘇った。
『おめでとう。ついに完成だ!』
 彼はまだなにもわからぬ羊にそう言った。
『今日がお前の誕生日、そして俺がお前の主人になる。まぁ好きに過ごしてもらって構わないんだが……』
 喜びを隠さず、羊の誕生にはしゃいだ人。そして育まれ、長い時を共に過ごした人。
 あの日が訪れるまでは。
『……は? 羊が欲しいって? 依代? 何言ってんだお前ら……』
『勘弁してくれよ、あいつは俺の……お、おい! やめろ!』
『早く! 逃げるぞ羊!』
「……っ」
 急に蘇った記憶達が暴れまわり、記憶回路が熱を持つ。声を漏らしながら顔をしかめた羊を眺めて、目の前の造り手が問いを口にした。
 ________俺はどうして死んだ? そしてお前は、どうして俺を忘れた?
「貴方は……貴方は、オレを逃がすために自らを盾にして立ち向かい、命を……落としました……」
 蘇る彼の最期の時。『逃げろ』と一言命じて敵の元へと走り出した彼の背中だ。羊を逃がすため立ち向かった彼の背中はみるみる血に塗れていく。真っ赤に染まったあの背中を忘れられるはずなんて、なかったのに。
「捕まったオレは何回も記憶回路を焼き切られて……全てを忘れてしまいました」
 弁明の言葉も言い訳も、口から出ることはなかった。許してほしいとは言わない。思いもしない。
 あれは悲劇だったのだろう。それでも彼を死なせた罪を自分は受け入れるべきだ。
 責められてもよかった、罵られてもよかった。俯いた己に投げかけられる言葉を待って、羊は目を閉じた。
 ついに言葉はやってこなかった。その代わり、肩にそっと手を置かれた感覚がして羊は目を見開く。懐かしい主の名を、忘れていたその名を呼ぼうとした口は顔をあげた直後に止まってしまった。そこにはもう、暗闇も造り手も、ありはしなかったのだ。
「……ああ……」
 今の霊は本当に彼だったのだろうか。ただの幻覚だったのだろうか。どちらでもいい、と羊は息を吸う。届くかはわからないが歌わせて欲しい。貴方の傷を癒す、子守り歌を。かつて貴方が教えてくれた子守り歌を。

 洞窟に優しい音色。そこには伝えきれなかった感謝と謝罪が、込められていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ベルンハルト・マッケンゼン
アドリブ歓迎

POW
喪った人? 私は傭兵、倒れた戦友は数知れず。
彼奴らが皆出てくるのなら、整理券が必要だ。
テルモピュライ、アラモ、ペリリュー。どの戦場だ?

(予想と異なり一人のシスターが出現。金髪碧眼、六枚翼のオラトリオ。
髪のマドンナリリーの白百合が闇に映える)

参った、な。
私は、貴女に出会っていない。出会うこともない。
それなのに、この喪失感か。
どうか、言葉を紡いでくれ……。

(彼女が静かに語る。恨み言や問い掛けでは無い。
たったの3語…Let it be. と)
…あぁ。ありがとう。“それではまた”、な。

(万感の想いを込め返答して一礼。
UCのVerne SHoTを使用、吼え猛る。さぁ、戦いの時間だ!)



●『Let it be』
 ベルンハルト・マッケンゼン(黄金炎の傭兵・f01418)は気が付けば右も左もわからなくなっていた。酒のせいではない。己を取り囲む暗黒のせいで酔いはとっくに冷めてしまっていた。飲みなおす気分にもならず、また期待した霊障もやってこない静寂の空間でベルンハルトはつまらなそうに辺りを見渡す。
 そんな彼に、待ちに待った『呼び声』がまた訪れた。
 ________あなたの、喪った人は? 会いたい? 会いたい?
「喪った人? 私は傭兵だ、倒れた戦友は数知れずいるぞ。彼奴らが皆出てくるのなら、整理券が必要だろうな。せめてどの戦場か絞らなくては」
 出会いと別れを繰り返し、今日は味方で明日は敵の相手と酒盛りしてきたベルンハルトにとってその問いかけは鼻で笑えるものだった。
 会いたいなど思っては眠った彼らに失礼だろう。そんなのは戦争が終わったあとの休息からたたき起こすようなもの。泥のように眠っている傭兵を起こすのは自殺行為に近い。
 そんなベルンハルトと裏腹に、こつん、こつんと足音が洞窟に響き始めた。見れば暗闇の向こう側から人影が近づいてきている。喪った人を会わせてくれるというのなら見せてもらおう。一体全体誰が来るのかを。
「テルモピュライ、アラモ、ペリリュー……さあ誰が来る? 一人に絞る必要はないんだぞ!」
 意気揚々と向かい合ったベルンハルト。その声がだんだんと細っていく。現れたのは屈強な傭兵たちとは程遠い存在であった。
 大きく広げられた六枚翼。サファイアを思わせる大きな両眼。闇の中にありながら輝く金髪に、咲き誇るマドンナリリー。地味なシスター服いっそ浮くほどに映える白百合の君がゆっくり、ゆっくりと歩み寄っていた。
「ああ……参った、な」
 先ほどまでの勢いを失い、寂しげに微笑むベルンハルト。シスターの表情は陰って見えない。それでよかったかもしれない、とベルンハルトはらしくもないことを考えた。
「私は、貴女に出会っていない。出会うこともない。……それなのに、この喪失感か……」
 か細いベルンハルトのつぶやきは闇に溶けて。静かに立ち止まり佇んだシスターは感情のない顔でじっとベルンハルトを見つめている。
 かけたい言葉が浮かんでは消え、口にしようと開いては閉じる。諦めたベルンハルトは目を伏せながら懇願することにした。どうか、言葉を紡いでくれ……。それをすべて、受け止めようと。
 思いが伝わったのか、偶然だったのか。シスターの小さな口がゆっくりと開かれた。小さな、鈴を転がす声がベルンハルトの耳に届く。
「________あぁ……ありがとう。“それではまた”、な」
 顔をあげたベルンハルトの瞳にシスターの微笑みが映る。静かに、霧が晴れるように消えていくシスター。その姿を眺めながら、ベルンハルトはそっと一礼をした。そこに言葉にならない多くの想いを乗せて。
「……しんみりするのはここまで。さあ、戦いの時間だ!」
 ベルンハルトの咆哮と共にガンタレットが展開、ガトリング砲がかまされる。それは闇を払い死霊たちを祓いながら同時に、ベルンハルトの決意が込められた狼煙となったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

花菱・真紀
あぁ、ほんと…もうこういう形でしか姉ちゃんに会えないんだな。でもこうやって姉ちゃんが現れるって事は俺の中に姉ちゃんがまだいるって事だから…嫌じゃないよ。

姉ちゃんがなんで死んだのかって?
そりぁ「俺がどうしようもない馬鹿だったからだよ」あいつに騙されて死ぬのは俺だったはずなのに姉ちゃんは俺を庇ったから死んだんだ…。ごめんな…それにありがとう。

有祈?どうしたんだ?自分を傷付けるなって…傷付けててなんかいないさ。これが事実で真実だから。もう、これを口にする事に惑いはないから。

アドリブ連携歓迎。



「うーん本当になにも見えないな」
 花菱・真紀(都市伝説蒐集家・f06119)は動画を取っていたスマートホンをしまい、辺りをきょろきょろと見渡した。凝らしても凝らしても見えるのは闇ばかり。洞窟内を見通すことはもちろん、すぐ足元さえ見える気がしなかった。
「どうしたもんか……懐中電灯も当てにならないし」
 ________真紀。
 耳に届いた声に、真紀は思わず振り返った。聞き間違えるはずもない声だ。ばくばくと心臓が鳴る。
「姉ちゃん……?」
 確かに聞こえた姉の声。それを探すように真紀の懐中電灯の光が右往左往と彷徨った。しかしその姿を捉えることはできない。
 ________真紀。
「姉ちゃん!」
 幻聴、と納得して忘れようとしていた頭に、また声が響く。たまらず叫んだ真紀の声に応えてか、闇の中から静かに女性が現れた。懐中電灯でそれを捉えた真紀は一瞬、洞窟にいることも忘れて駆け寄った。
 そこにいるのは紛れもなく、姉だった。かつての時のように笑い、かつての日々のように瞳を真紀に向けている。
「あぁ、ほんと……もうこういう形でしか姉ちゃんに会えないんだな」
 底冷えする冷たい気配に、目の前の姉は死霊であることを真紀は悟った。姉は死んだ。そのかつては封印していた事実をまざまざと突きつけられながら、それでも真紀は顔をほころばせた。
「でもこうやって姉ちゃんが現れるって事は俺の中に姉ちゃんがまだいるって事だから……嫌じゃないよ」
 微笑んだ真紀に、姉はそっとその白い手を彼の頭の上へ乗せた。あの時の肝試しを思い出すわね、と響いた声に、考えることが同じだな、と返す。これがオブリビオンの罠だったのだとしても、真紀はいっそ感謝したい気持ちだった。どんな形であれ姉とまた会うことができたのだから。
 ________真紀、答えて。どうして私は死んだのか。答えたら、また前へ進めるから。
「姉ちゃんがなんで死んだのかって?」
 そりゃあ、と真紀の口が小さく動く。後悔と罪悪感と悲しみの混ざった声は、それでもなおはっきりと真実を述べた。
「俺がどうしようもない馬鹿だったからだよ。あいつに騙されて死ぬのは俺だったはずなのに、姉ちゃんは俺を庇ったから死んだんだ……」
 頭に触れていた手が、するりと降りて頬へ触れる。ぐに、と頬をつまんだ姉はまた昔のように笑っていた。後悔するな、笑いなさい、とでも言うように。そんな笑顔が霧のように透き通り、だんだんと消えていく。
「ごめんな……それにありがとう。俺はちゃんと、向き合うから」
 触れようと添えた手が、すり抜けただ自分の頬に当たる。確かにそこにいた姉は、闇に溶けて見えなくなってしまった。それでも真紀はしばらく、姉がいた場所を眺めて立ちすくんでいた。
「……有祈? どうしたんだ?」
 頭の中で響くもうひとりの人格の言葉に、真紀は応じる。そして心配はいらないぞ、と首を横に振った。
「自分を傷付けるなって……別に傷付けてなんかいないさ。これが事実で真実だから」
 過去は変えられない。変えてはいけない。過去の事実で傷つくことはその決まりを守る気持ちを揺るがしてしまうものであるから。受け止めて明日へと歩むとそう決めたのだ。
「もう、これを口にする事に惑いはないから。姉ちゃんもわかってて言ったんじゃないかな」
 闇は、晴れる。見覚えのある洞窟の道に真紀はまた懐中電灯を向けた。
 前に進む。そう決めた思いを胸に、真紀は歩き始めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​


●過去と共に歩む________花菱・真紀(都市伝説蒐集家・f06119)の幻影

(こちらの不手際で章名をつけそびれてしまいました。大変申し訳ございません)
マクベス・メインクーン
あ?なんの声だ…?
いや、この声は昔聞き覚えのある…
あの人の…声…?

周りの景色がキュマイラヒューチャーの町並みに
そこに佇む、20歳前後の
赤を基調とした服装、赤い瞳、黒髪、犬と鷹のキマイラの青年
小さい頃にヒーローのように強かった憧れの人

なんで、此処に…?
だってアンタはあの時死んで……

『どうして、俺以外に憧れているんだ?』
『お前のヒーローは俺だっただろう?』
一緒においでと手を伸ばされる

……確かに、オレがヒーローに憧れたのはアンタが最初だ
けど、愛しいと思える人ができた
それに今の兄貴分たちはアンタと同じくらい尊敬してる
だから一緒には行けない…ごめん(答えは真実)



●あの日のヒーロー
 幽霊になんか負けないとは言ったが、こんなのは想定外だ。マクベス・メインクーン(ツッコミを宿命づけられた少年・f15930)はうんざりとした気持ちで足を止めた。歩けど歩けど見えるのは暗闇ばかり。引き返そうにも背後もただただ暗黒が広がっているばかり。たぶんすでに術に嵌められたのだろうな、とわかっていても鬱屈とした気持ちは止まらなかった。……せめてなにか突破口でもあればいいのだが。
 ________どうして。どうして……。
 なぜ。どうして。答えて……。
「ああもうまた始まりやがった! 誰だか知らねぇがささやくことしかできねぇのかよ!」
 暗闇の中、複数の声だけが聞こえ続けるという状況にもストレスがかかる。いらだちを隠せないままに吠えるもその声も呼び声の中にかき消されていく。
 しかし、深くため息をつこうとしたマクベスの耳に聞き覚えのある声が飛び込んできた。
「あ? なんの声だ……? いや、この声は昔聞き覚えが……まさか……あの人の、声……?」
 マクベスの脳内でぼんやりとしていた影が像を結ぶ。その相手をはっきりと認識した瞬間、周りの暗闇が一気に晴れた。しかし見えたのは先ほどまでいた洞窟の岩肌ではない。それはあまりにも見覚えのある……キマイラフューチャーの街並みだった。
「な、ん……幻覚にしたってどうして此処が……」
 呆然と街並みを見渡すマクベス。そのせいで、その背に近づいている者がいることに気が付かなかった。
「うわぁッ!?」
 ぽん、と叩かれた肩に思わず飛び上がり、勢いよく振り返ると相手はケラケラと笑っていた。犬と鷹の特徴を持つ、キマイラの男性。その黒髪も、真っ赤な瞳も見間違えるはずがなかった。幼いマクベスが、穴が開くほど見つめ追いかけていた憧れの人。赤を纏う、マクベスにとってのヒーローだった人だ。
「な、なんで、此処に……? だってアンタはあの時死んで……」
 そしてその最期も、痛いほどに瞼に焼き付いている。ここにいるはずがない。彼は一足先に天へと昇ったのだから。
 その笑顔も纏う雰囲気も、変わらずあの日のままだった。まだ生きているのだと錯覚してしまいそうな、思わずすがってしまいそうな気持ちが、胸から湧いて広がる。
 ふと、自分の前に手が差し出されていることに気が付いた。相手から伸ばされているその手の意味をわかりかねてマクベスはそっと顔を見上げる。変わらないその笑顔のまま、彼は口を開いた。
 ________どうして、俺以外に憧れているんだ?
 今度は心臓が跳ね上がったような気がした。その笑顔は変わらないまま向けられる手は変わらず差し出されていて。それを取るに決まっていると、彼は確信しているようだった。
 ________お前のヒーローは俺だっただろう? さあ、一緒においで。
「……だめだ。行けない」
 なにか思うより早く、言葉を連ねようと考えるより早く、拒否の言葉は口から離れていた。それに内心自分でも驚きつつも、マクベスは改めて意思を固めた。
「確かに、オレがヒーローに憧れたのはアンタが最初だ。今のオレがあるのだって、アンタのおかげだ。けど、オレはもう一人じゃない」
 一度紡ぎ始めた言葉は止まらない。止める気もない。聞こえのいい偽りではなく、心からの本音の方が憧れの人への言葉としてふさわしいと思ったからだ。勇気は、左足のアンクレットがくれる。
「愛しいと思える人ができた。アンタと同じくらい兄貴分たちもいる。だから一緒には行けない……ごめん」
 きっぱりと断ってもなお、その手はマクベスの前にあった。もしかしたら、怒るだろうか。これが死霊による術なら、このまま襲い掛かってくるかもしれない。憧れの人と戦いたくはないな________そんな思いと裏腹に、彼の顔は穏やかなままだった。
 ________そうか。
 ぽつり、とつぶやくように彼が答えた瞬間、周囲の街並みが霧のように立ち消えた。あの煩わしかった暗闇の中に、マクベスは二人きりで立っている。
 ________大事にしろよ。
 そんな優しい言葉を最後に、彼もまた霧となって消えてしまった。思わず伸ばした手が空を切る。
 闇が、今度こそ本当に晴れていく。露出した岩肌をしばらく眺めて、マクベスは踵を返した。この仕事が終わったら、みんなに会いに行こう。その気持ちを胸に。

大成功 🔵​🔵​🔵​

出水宮・カガリ
【依頼掲示板前広場】
※アドリブ絡み可・真実を答える

てぃあのまにとーに、れにーと3人で乗っていたはずなのだが
……ああ、この景色は

焼け落ちた黄金都市、その住人
あるひとは深く斬り付けられ、
あるひとは腕を失い、あるひとは首を失い、
あるひとは血の塊となった赤子を抱いて這い寄る
なぜ自分達は、殺されねばならなかったのかと

今は、正面から向き合える
お前達は、滅びなければならなかったのだ
お前達は、ひとの形をしているようで――もう、ひとではなかったのだから
黄金都市とは、邪神を奉る邪教の都だった
オブリビオンの巣窟であったのだから

今は在るべき場所へ還れ、かなしいひとびと
カガリも在るべき場所へゆく


琥珀川・れに
【依頼掲示板前広場】エウトティアと

一人のヴァンパイア、成人男性が僕に問う
「どうしてお前は生きている」
悲しみに血の涙を流しているように見える

僕は動揺し答えられない。
「わからない」
でも、彼のその問いは『どうして自分は死んだのか』とイコールだからその答えはこれが真実である
「父よ、貴方が母を愛し、母が僕を愛したから」


…すまない、エウトティアの方は大丈夫かい?
僕には今仲間がいるし、新しい居場所、旅団もある。
もちろん君もね(ウインク)

城にも僕の帰りを待っている者がいる。
剣をとろう。戦おう。

※僕の設定は外部でまとめてるので拾うの難しいの了承済。
なので確定でなければ好きに想像でアドリブ歓迎。追加省略ご自由に。


エウトティア・ナトゥア
チーム【依頼掲示板前広場】で参加するのじゃ
ふむ、闇の先は故郷の風景か。
それにあそこに居るのは数年前に亡くなった長老方じゃな。
久しいのう。皆とっくに精霊の元へ還ったと思っておったが迷ったのかのう?
なるほど、ここで休んでいけと言うのじゃな。
戦いは辛くないかじゃと?うーむ、確かに怖い思いや痛い思いをする事もあるのう。じゃが、心配しなくても楽しい仲間達と愉快にやっておるよ。
それに…お主達のような者を救ってやらんといかぬでな。
(歌唱+属性攻撃+祈り+破魔)
【精霊の唄】使用 「浄化属性」の「風」で『嘆き続けるモノ』をあるべき処へ送る。
うむ、レニー殿、わしは大丈夫じゃよ。幻とは言え、懐かしい顔に会えたわい。



●柘榴輝く黄金城壁
「……てぃあのまにとーに、れにーと3人で乗っていたはずなのだが」
 出水宮・カガリ(荒城の城門・f04556)は気が付けば一人取り残されていた。右も左もわからぬ闇の中にひとり。これは幻術か、それとも催眠にかかったのだろうか、とカガリは首を傾げる。
「うむ……なにも見えぬが視線だけは感じるな……」
 明らかに先ほどより多い視線。しかも肌がひりつくほどに激しい感情が乗っている。熱烈な歓迎とは言い難いが、拒絶されているようにも思えない。悩んだ末にカガリは一歩足を踏み出した。
 ________どうして、死なねばならなかったんだ!
「!」
 悲痛な声と共にカガリの視界が一気に晴れた。いたるところから上がる火の手、崩れ荒れゆく黄金都市。
「……ああ、この景色は」
 古き過去の光景。周囲を満たす焦げた臭気と鉄の匂い。足元でたくさんの人々が殺され、苦しんでいる。死屍累々というにふさわしい惨劇がカガリの目下に広がっていた。
 あるひとは深く斬り付けられ。
 あるひとは腕を失い。
 あるひとは首を失い。
 あるひとは血の塊となった赤子を抱いて。
 みな、カガリの足元に縋っていた。どうして、どうしてと繰り返し問い続けて。口々に叫ぶその声をカガリはそっと聞き入れ、立ち続ける。
 ……彼らを見放し、無視することもできた。罵ることだってできた。しかしカガリはそうしないと、向き合うのだと、決めていた。
「ああ……今ならば、正面から向き合える」
 かつて目をそらし続けていた真実。それはカガリが守っていた人々の大きな秘密だった。ためらいなくカガリは、その真実を口にした。
「お前達は、滅びなければならなかったのだ。お前達は、ひとの形をしているようで――もう、ひとではなかったのだから」
 黄金都市とは、邪神を奉る邪教の都であった。栄えに栄えたその都は多くの信仰を生み出し、邪教の糧となっていた。
 カガリの守っていた黄金都市こそが……オブリビオンの巣窟であったのだ。
 輝く金髪がふわりと浮かび、その眼に嵌る柘榴の瞳が瞬いた。彼らを封じ込め、送り出せとカガリの心が言う。
「今は在るべき場所へ還れ、かなしいひとびと。カガリも在るべき場所へゆく」
 すべてを照らす黄金の輝きが、闇を打ち払い洞窟を満たしていった。

●帰る場所は、確かにここに
 同刻。
「参ったな……僕がはぐれたのか、それとも散ってしまったのか。……なんとなく後者な気がするね」
 コツ、コツと数歩進み、琥珀川・れに(男装の麗少女 レニー・f00693)はぴたりと足を止めた。また数歩進み、止まる。れにの小さな足音の後に響く少し大きい足音が、れにの耳には届いていた。
「……ふむ。やはり誰かついてきているか。暗闇の中でも足音が聞こえていては意味がないよ。姿を現してはくれないかい?」
 足音の主へとれには体を向け、優しく言葉を投げかける。れにへ注ぐまっすぐな視線がより強くなり、れにの肌がぞわりと粟立った。
 暗闇の中から赤い二つの両眼が爛々と輝く。暗黒の中で浮かび上がるその瞳は覚醒しているれにと同じもの。れにはその瞳を大きく開かせた。
「あなたは……」
 暗闇から現れたのは一人のヴァンパイアだった。しかし武器を抜く気配もなく、襲い掛かる覇気も感じられない。それでも、れにはその言葉を失ってしまっていた。
 ________答えよ。
 その紅い瞳から、じわりと真っ赤な液体が溢れ始める。頬を伝うそれは悲しみのあまりに流れているように見え、れにはつられて目じりを下げた。痛ましい。そんな思いが上っては消えた。
 ________どうしてお前は生きている?
 だからその問いかけに思わず虚を突かれてしまって。動揺したれには問いかけに答えることができなかった。右に、左に視線を揺らし、答えを探す。しかし彼女の中で答えは出ない。れには一度ゆっくり息をつき、目を閉じた。
「……わからない」
 ざわり、と漂う空気が不穏な気配を帯びる。しかしれには慌てず落ち着きを払って、その顔をあげた。彼女の赤い瞳が、相手のヴァンパイアの視線と合わさる。
「でも、あなたのその問いは『どうして自分は死んだのか』とイコールだ。それなら、答えることができる」
 その瞳にはすでに固まった決意を深く宿していた。彼女は迷いなく、真実を口にする。
「父よ、貴方が母を愛し、母が僕を愛したから。だから僕は、ここにいる」
 闇の中で響き渡ったのはヴァンパイアの悲鳴か死霊たちの嘆きか。判別のつかないたくさんの音の集合に、れには耳を押さえた。悶え嘆いていたヴァンパイアの姿はだんだんと消えてゆき、気が付いたときにはれにの目の前には誰もいなかった。そしてその奥から、黄金色の輝きが溢れていることに気が付く。
「あれは……カガリか? エウトティアもあそこにいるだろうか……」
 そう言いながらも、駆け始めるれに。仲間想いの彼女は、みんなの集うこの場所を守れるのならばいくらでも剣を取るだろう。そんな彼女に応えるように光がまた鼓動した。

●響く精霊の唄
 また同刻。
 れにが足を止めたころに、エウトティア・ナトゥア(緋色線条の巫女姫・f04161)もまた、見覚えのある場所へ導かれていた。わかりやすいそこは故郷の平原であり、そこには長老たちが優しい顔でエウトティアを迎えてくれている。
「久しいのう。皆とっくに精霊の元へ還ったと思っておったが迷ったのかのう?」
 のんびりと応えながらエウトティアは彼らのそばに腰かけた。とっくに死んだはずの彼らは、しかしそれを恥じることなく、巫女を受け入れている。火を焚き、外の世界の話に花を咲かせる彼ら。その心配の声に、エウトティアは笑って応える。
「戦いは辛くないかじゃと? うーむ、確かに怖い思いや痛い思いをする事もあるのう。じゃが、心配しなくても楽しい仲間達と愉快にやっておるよ」
 エウトティアの瞼の裏に浮かび上がったのは大事な仲間たち。れにを筆頭に、みんな共に旅をし共に語らい合う、かけがえのない仲間だ。彼らのおかげでエウトティアは後悔することなく、猟兵としての仕事に精を出すことができる。
「それに……お主達のような者を救ってやらんといかぬでな」
 その言葉は決意か宣言か。立ち上がったエウトティアはその口に唄を乗せ、精霊たちに語り掛ける。________彼らをいるべき場所に送り届けてほしい。そのために力を貸してくれ。
「精霊よ! 幻想のおもむくままに歌え!」
 浄化属性の風が、長老たちを優しく包み込んだ。彼らもそれを拒むことなく、むしろ自ら精霊の手をとって、浄化させられていく。ありがとう、と現巫女姫への礼を口にして。
 歌い終わったとき、エウトティアは平原ではなく洞窟内でひとり佇んでいた。いつの間にか帰ってきていたマニトゥが体を寄せて侍っている。ぼんやりと立ち尽くし、その毛並みを撫でてやっていると洞窟の向こう側から黄金の光が差し込んだ。
「なんじゃ!?」
「エウトティア!」
 光とは逆方向、背後から現れたれにに、エウトティアは勢いよく振り返った。驚きを隠せないまま耳を立たせる彼女に、安堵したようにれには笑う。
「……すまない、エウトティアの方は大丈夫かい?」
「うむ! レニー殿、わしは大丈夫じゃよ。幻とは言え、懐かしい顔に会えたわい。……それよりレニー殿の方が心配なのじゃが。不安そうな顔をしておるぞ」
「!」
 れには驚いたように頬に手をあて、そしてふにゃりと微笑んだ。その笑顔に、エウトティアは首を傾げる。
「大丈夫だよ。僕には今仲間がいるし、新しい居場所、旅団もある。もちろん君もね、エウトティア」
「それならばよいのじゃが……ところでカガリ殿は?」
 金髪の彼がいないことをエウトティアが指摘すると、れにの表情も少し曇る。彼女も見つけられていないらしい。
「この先のまばゆい光……あれがカガリじゃないかな、って僕は目をつけているよ」
「ほうほう! たしかに何事かと思ったものな。よし、カガリ殿を迎えに行くとしよう!」
 意気揚々とマニトゥに騎乗するエウトティア。その差し出された手を取りながられには静かに笑った。
 城にも僕の帰りを待っている者がいる。剣をとろう。戦おう。
 その思いを胸に、二人はカガリの元へと急ぐのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『平和の犠牲者達』

POW   :    Rest in Peace with us
全身を【濃硫酸】で覆い、自身が敵から受けた【負傷と過去に取り込んだ生命】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
SPD   :    熱い…苦しい…死にたくない…助けて下さい…少尉…
【自身が過去に取り込んだ宿敵の部下達】の霊を召喚する。これは【濃硫酸により生成された仮初の身体】や【生前使っていた銃火器】で攻撃する能力を持つ。
WIZ   :    せめて産まれたかった…母の愛が欲しかった…
小さな【生誕を求め、救いを求める声】に触れた抵抗しない対象を吸い込む。中はユーベルコード製の【胎内で、核である水子を破壊する事】で、いつでも外に出られる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ユウキ・スズキです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 過去の『誰か』との問いかけに応えた猟兵たち。彼らは本当に見知った『誰か』だったのか。それともただの幻覚だったのか。
 はっきりしているのは、彼らを歪め猟兵たちを惑わさんとしたものが、この先にいるということだった。
 ________助けて、私を救って……。
 ________救ってくれよ……そのためにいるんだろ?
 ________なにも、なにも見えないよ。聞こえないよ……。
 ________せめて、生まれたかった……愛が欲しかった……。
 ________助けてくれないの……?
 ________じゃあ、私たちと一緒になろう……?
 嘆くそれは怨霊が固められたような存在で、恨みではなく悲しみを抱え霊障を呼んでしまっている。
 彼らは救われなかった者たち……救われるべきだった犠牲者たちだ。
 彼らに悪意はない。しかし生前への執着と嘆きに囚われた彼らは救いの手を常に求めている。それが呼び声となり洞窟の外まであふれ、人々を引き寄せた。
 一般人が彼らを見て正気を保つことは難しい。自分たちを救えないと気が付いた彼らは、やってきた一般人を自分たちの一部にしてしまうのだろう。
 それは、防がねばならない。

 彼らの『嘆き』は三種類。
 一つ目はかつて硫酸をかぶせられ死に至った哀れな被害者たちの声。彼らは嘆きを恨みに変えており、体を溶かしながら猟兵たちへ襲い掛かってくる。濃硫酸への対策が必須だろう。
 二つ目は戦場にいながら命を落とした兵士たちの声。彼らは濃硫酸で体を覆い、武器を手に現れる。彼らの嘆きは深い。猟兵たちが失った戦友や部下たちの姿を纏うこともあるかもしれない。
 三つ目は生まれることを許されなかった子どもたちの声。彼らは核が胎内にあり、外から浄化することができない。その嘆きに触れて胎内へと入り、中の核を破壊しよう。胎内の水子たちは愛に飢えている。優しさを向けてくれるのであればなつくかもしれないが、刃を向ければ呪いを吐くだろう。どう浄化するかは猟兵たち次第だ。

 嘆きを浄化することができたならば、彼らはあるべき場所に還ることができるだろう。どうか、彼らを癒し天へと送り届けてくれ。
終夜・還
やっほ、蝶ヶ崎(f01975)
そっち大丈夫だった?顔色何時にも増して悪いけど無事な様で何より

元凶はアレらしいよ

アイツらイイ具合に感情が固定されてて使いやすそう
やっぱ欲しいなァ
でも俺赤子の扱いわかんねーしアレは要らないかな
さっさと還しちゃおうぜ

蝶ヶ崎、呑まれたらダメだぞ(頭叩く)こう云うのは向こうのペースに乗ったらダメだぜ

蝶ヶ崎の優しすぎるのは問題だなァ
後で説教垂れてやろ
同調してたら目ェ覚まさせるために都度緩み切った頭を四十五度の角度で叩きます
ええ加減にせーよポンコツ!

あとこの空間、妙に昔、それも覚えてない忘れてるのを思い出しそう
長く遊んでたくないし蝶ヶ崎が渋っても適当な所で核壊して強制終了な


蝶ヶ崎・羊
還さん(f02594)…無事なようで安心しました
ワタシの顔色は変化しませんよ…問題ありません

『これは…やはり怨みや哀しみの塊が犯人でしたか…』
先程のことを思い出して目を細める


【呪詛】の心得があるのでもしかしたら気持ちを汲み取れるかもしれない…と自ら気持ちを読もうとします
『…!申し訳ありません…この幼さでは考えられない程、悲哀過ぎたので…』
頭を押さえつつ
叩かれる度に正気に戻り謝ります

『普通に産まれ、愛されたい…そう思うのは当たり前ですよね。』
人形に熱は無いけれど
そっと手を伸ばします
握り返されたら優しく微笑みます

『はい…還しましょう
この子達にこの環境は悪影響です』
還さんと核にUCを打ち込みます



 暗闇を進んだ先で、猟兵たちは合流を果たす。ひとりはいつもの笑顔で、ひとりは少し陰った表情で、二人は一堂に会した。
「やっほ、蝶ヶ崎。そっち大丈夫だった? 顔色何時にも増して悪いけど無事な様で何より」
「還さん……無事なようで安心しました。ワタシの顔色は変化しませんよ……問題ありません」
「へいへいそうかよ」
 蝶ヶ崎・羊(罪歌の歌箱・f01975)はモノクルを直しながら顔をあげる。彼らは今、この事件の元凶の前に立っていた。
「元凶はアレらしいよ。イ~イ具合に感情が固定されてて使いやすそうな死霊共だ」
「やはり怨みや哀しみの塊が犯人でしたか……」
 先ほどまで立っていた暗闇が羊の瞼の裏にフラッシュバックする。思わず目を細めると終夜・還(一匹狼・f02594)が肩をすくめていた。目の前の死霊たちは嘆きを吐き出しながら、黒々と渦巻いている。
「ほら、来んぞ」
 ________たすけて。
 ________ぼくも、うまれたかった。
 ________おかあさん、ってなきたかった。
 ________でもぼくたちは、うまれるまえにしんだんだ。
「っ!」
 嘆きの声に触れた二人が胎内へと一気に引き込まれた。先刻の幻影を思い出すような暗闇の中、ぼんやりと明かりを灯されていく。その光のおかげで二人はすぐに自身の状態を確認でき、同時に眉を寄せる。
 拘束されるでもなく立っていた二人の周りで、赤子や幼い子供が泣いていた。その姿は曖昧で、近寄れば立ち消えてしまうようなもろいもの。
「これは……。先ほどの嘆きを聞く限り、生まれることもできなかった子どもたち……?」
「かねぇ。でも俺赤子の扱いわかんねーしアレは要らないかな。さっさと還しちゃおうぜ……っておい」
 面倒くさそうに首を鳴らす還をよそに、羊はふらふらと泣き声に歩み寄っていく。近寄れば霊は消え、すすり泣く声だけが響く胎内で唯一消えない霊がいた。胎内の中心でゆりかごに揺られているそれは、声をあげて泣く赤子だった。
 きっとこの赤子がこの空間の核なのだろう。
「だぁぁ蝶ヶ崎! この手のは呑まれたらダメだ。しっかりしろ!」
 ゴッと鈍い音がして、きれいな四十五度の角度のチョップが羊の頭に直撃する。頭を押さえつつも正気に戻った羊は謝罪を口にした。
「……! 申し訳ありません……ただ、この幼さでは考えられない程、悲哀過ぎたので……」
「こう云うのは向こうのペースに乗ったらダメだぜ。持ってかれても知らねぇぞ」
 二人の眼下で赤子が泣いている。生まれることの叶わなかった水子は愛を求めて声をあげているのだ。その悲哀に羊の胸がざわつく。
「ですが……普通に産まれ、愛されたい……そう思うのは当たり前ですよね。この子はそれも手に入らなかった……」
 そっと伸ばした羊の手が、赤子の頬に触れる。撫でられたことに気が付いた赤子は泣くのを止め、目を開いてじっと羊を見つめ始めた。
 撫でた指をそっと差し出してみれば赤子は小さな手でそれを握った。柔らかく弱い力に、羊は優しく微笑み返す。
「蝶ヶ崎ィ……」
「大丈夫ですよ。……還しましょう。この子達にこの環境は悪影響です」
「……蝶ヶ崎の優しすぎるのは問題だなァ」
 ガシガシと頭を掻いて還はため息をつく。そして瞳を閉じ、封じていた本能を体の奥から引き出した。
「核は任せんぞ」
「はい。背中はお願いします」
 そっと赤子から離れた羊は、その指先を赤子に向ける。そんな羊の背を守るように、還は臨戦態勢をとった。敵意を察知した死霊たちは気が付けば、彼らを取り囲んでいる。
 ________なんで、またぼくたちをころすの?
「テメェらはもう死んでんだよ。とっとと在るべき場所に行きやがれ」
 還の脳内にぼんやりと浮かぶ光景。それは覚えていないはずの光景で、きっと思い出したくない靄のかかった過去。うっかり思い出す前にここから出てしまいたかった。
「……できれば、次は幸せな家庭に導かれんことを」
 審判の光が、核へと降り注がれた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ベルンハルト・マッケンゼン
アドリブ、他参加者との絡み大歓迎

【SPD】
(古代ローマ帝国兵から中世の重騎士、ナポレオンの古参近衛隊にSS武装親衛隊やグリーンベレーなど、時代も国も様々な兵士達の軍団が姿を表す)
これは壮観だ、かつて戦場で倒れた先祖達か……

(踵を音高く鳴らし、切れるような敬礼を彼等に送る)
一族末裔、ベルンハルト・フォン・マッケンゼン=ド・モンストルレより、誉れ高き貴殿達に心からの敬意を!

(偉大な先輩達と戦える名誉に歓びつつ、UCのEisernen Handを攻撃回数重視で使用。ニヤリと笑う)
死んでも治らんのか、一族の酔いどれは。
仕方がない、戦いの勲を肴に……もう一度倒れるまで呑みあかそう! 戦術的に…フッ。



 人の歴史は戦いの歴史でもある。戦いの歴史である以上、そこには戦場で倒れた者たちの歴史も同じように刻まれ続けている。
 その歴史の一端が、死してなおベルンハルト・マッケンゼン(黄金炎の傭兵・f01418)の前へ立ちふさがる。古代ローマから中世の騎士、ナポレオンの古参近衛隊にSS武装親衛隊やグリーンベレー……歴史としてしか知らぬ先祖たちの大歓迎にベルンハルトは胸を踊らせた。
「これは壮観だ、かつて戦場で倒れた先祖達か……」
 点でバラバラ、雑多な兵士たちでありながらみな隊列は崩さず、生前の練度の高さを思わせる。鎧や服の間から見える痛ましい傷跡や、全身を覆う濃硫酸の匂いがベルンハルトの鼻をついた。________これは、戦場の匂いだ。酒のように人を酔わせる戦場の匂いだ!
「一族末裔、ベルンハルト・フォン・マッケンゼン=ド・モンストルレより、誉れ高き貴殿達に心からの敬意を!」
 カツンッと踵を打つ音。小気味よく響いたそれと鋭い敬礼に、迫る軍隊すらも足を止めた。
 国も時代も戦場も、全く異なる兵士たちで構成された軍隊が一糸乱れぬ動きで敬礼を返す。圧巻のその光景にベルンハルトの胸は震えた。________偉大な先輩方と戦えるなど、なんて名誉なことだろうか。
 グレネードランチャーを手にベルンハルトはにやりと口端を上げた。相対する兵士たちも同じく剣を手にしている。
 グレネードランチャーの盛大な花火が軍隊の一部を消し飛ばす。それでもひるむことのない彼らの勇猛さは、もはや狂気といえるものだ。これが戦いに、戦場に酔うものたちの戦いだ。
「死んでも治らんのか、一族の酔いどれは」
 途切れることなくグレネードランチャーを撃ち放ちながらベルンハルトは笑う。そのつぶやきは自嘲でもあった。戦場に酔うのは己も同じ。この状況をなによりも楽しんでいるのだから!
「仕方がない、戦いの勲を肴に……もう一度倒れるまで呑みあかそう!」
 爆風と瓦礫の中で酔いどれたちは笑う。もう一度死を賜った者は満足したのか、端から天へと還っていった。それでも満足できないものが戦場に踏みとどまり、ベルンハルトに襲い掛かり続ける。かはは、と笑いベルンハルトは向かい来る大軍を眺めた。
 まともに相手をして倒し切れる人数じゃない。しかし酔いきれない輩が出るのは哀れだ。だからベルンハルトは、最後にランチャーを天井へ向けた。
 岩盤に炸裂したそれは、洞窟の一部を崩すのに十分すぎる威力だった。
「戦術的に……フッ」
 轟音を立てて瓦礫が兵士たちに降り注ぐ。静まったころに立っていた酔いどれは、ベルンハルト一人だけだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

花菱・真紀
どの人もどの子も何かが悪かったわけじゃないのにな…こういうのは結構こたえる。
だから浄化してあげたいってのは同意かな。
俺に出来ることがあればいいんたけど…

UC【オルタナティブ・ダブル】で別人格を召喚。有祈、俺になんかあったらよろしく頼む。

生まれてこれなかった君達へ。
【コミュ力】で【言いくるめ】なんてのは役に立たないだろうな…ただ真摯に告げたい。
一度天に帰ろう。そうすればまた生まれてくることだって出来るから。また生まれておいで。
新しい君に外の世界で出会えることを祈ってる…。

アドリブ連携歓迎。



「どの人もどの子も何かが悪かったわけじゃないのにな……」
 ぽつりとつぶやきながら花菱・真紀(都市伝説蒐集家・f06119)は辺りを見渡した。視界は通るが周りはほの暗い。赤子の泣き声は変わらず聞こえ続けていた。
 怪談の元凶、怨霊の塊であるそのオブリビオンの前にやってきたとき、真紀は子どもの声を聞いた。赤子の泣き声と助けを求める子どもの声。悲痛なその声に、きっと死霊の声だろうとわかっていても、真紀は思わず応えてしまった。もしかしたら迷い込んだ被害者か、それならば救える、と思ってしまったのだ。
「……有祈、俺になんかあったらよろしく頼む」
 己に眠る別人格、有祈はゆらりとその場へ姿を現し、感情のない目で辺りを見渡した。迂闊だな、と真紀へ冷静な言葉を投げかける。
「う……わかってるさ、でも……。……こういうのは結構こたえる。だからできれば浄化してあげたいんだ。俺に出来ることがあればいいんだけど……」
 産声を上げることすら許されなかった彼らに、自分ができることがあるだろうか? どんな言葉もただの自己満足な慰めになってしまうだけのような気がして、真紀は言葉を紡げなかった。伝えたいことが浮かんでは消え、浮かんではまた泡沫のように消えていく。
 ________お兄ちゃんは、ぼくたちをすくってくれるひと?
 不意に、真紀のシャツが弱々しく引っ張られた。振り返ると小さな少年が、泣き続けている赤子を背負って真紀を見上げている。その目は子どもと思えないほど昏く、泣き疲れたように腫れていた。
 答えを求めているようには思えなかった。もう絶望しきったその目は、助けを期待していないのかもしれない。そんな彼に真紀はどう慰めようか一瞬考え、自らすぐにその思考を消した。
 ……ただ真摯に告げよう。そう決意した。
「……背負っているのは兄弟だよな?」
 ________うん……ぼくもおとうとも生まれなかったから、ほんとうは『ぼく』なのかも『おとうと』なのかも、わからないけど。
 ゆらりと蜃気楼のように少年の姿が揺れる。しかし背負われたままの弟だけははっきりとしたままで、変わらず泣いていた。……この空間の核は、この赤子なのだろう。
「……なあ、一度天に帰ろう。そうすればまた生まれてくることだって出来る……ここに囚われ続けるよりずっといいだろ」
 視線を合わせるようにしゃがみ込んで、真紀は少年に語り掛ける。泣き腫らした目を向けて、少年は虚ろに問いかけた。
 ________それでぼくたちはすくわれる?
「無責任に、救われるよ、とは言わない。けどさ、ここにいるとチャンスを捨て続けているようなものだから」
 パンッ、と乾いた音が胎内空間に鳴り響く。有祈の手にした拳銃が弾を放ち、それは的確な射線を描いて少年に飛来した。ゆらりと消える霊体の彼をすり抜け、弾丸は弟へと突き刺さった。血が出ることはなく、まるで陶器のようにそれは砕け散った。
「……また生まれておいで。新しい君に外の世界で出会えることを祈ってる……」
 ゆらりと少年も姿を消し、空間が崩れていく。嘆きの声は止み静寂になった空間で、真紀は確かに『ありがとう』の言葉を聞いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

マクベス・メインクーン
……ごめん、一緒に行けなくて
でも約束するぜ
まずはこの声の奴らを救ってやるっ!

生まれることが許されなかった子供か…
敵のUCの声に触れて胎内へ
正直、オレ自身いっぱい愛されてきたと思うから
愛されなかった気持ちは分かんねぇ
けど、愛されたいって気持ちなら分かる

だからこそ、こんなとこで泣いてたって変わんねぇよ
こんな薄暗いとこ一緒に、じゃなくてさ
お前らがオレに着いてこいよ
その方が何倍も楽しませてやるぜ?

それでもオレを留めるってんなら
悪いな、待ってる人が居るんだ…倒すぜ
核を炎のUCで【全力魔法】【範囲攻撃】で焼き尽くす

アドリブ歓迎



「……ごめん、一緒に行けなくて。でも、約束するぜ。俺は成すべきことをする。まずはこの声の奴らを救ってやるっ!」
 霧となって消えたかつてのヒーローを思い、マクベス・メインクーン(ツッコミを宿命づけられた少年・f15930)は決意する。彼に恥じぬよう、ことを成すのが最大の恩返しになるだろう。そう信じて彼は宣言した。
 ________すくってくれる?
 ________たすけてくれる?
 ________ぼくたちを、すくいだしてくれるの……?
 ________たすけて、たすけて! こっちに来て!
 ためらいなく、その嘆きの声に触れるとマクベスの体は大きな空間へ飲み込まれていった。暗闇に一瞬身構えるが、先ほどまでと違うほのかな生温かさと、ぼんやりとした明かりに少しだけ警戒を解く。聞こえるのは今までと違い、すすり泣きだけだった。泣き声の主たちは中央の核に寄り添うようにうずくまっている。核である赤子は未だ母体の中にいるようにへその緒につながれ、眠っていた。
「生まれることが許されなかった子供か……」
 マクベスが近寄ると彼らはビクリと肩を揺らす。しかし逃げる気はないようで大きな目をじっとマクベスに向けていた。
「……正直、オレ自身いっぱい愛されてきたと思うから、愛されなかった気持ちは分かんねぇ……ごめん。けど、愛されたいって気持ちなら分かる」
 子どもたちの表情は変わらない。なにかが抜け落ちてしまったかのような表情でマクベスを見つめ返している。中には妬ましいという感情をあらわにしている子どももいるが、それをマクベスにぶつける気力ももう残っていないらしい。
 その中でひとりの少女がそっとマクベスに手を伸ばした。その服の端を掴み、静かにマクベスを見上げる。小さく動いた唇は、「じゃあ、このまま一緒にいて……」と動いていた。
「んん、ダメだ。だからこそ、こんなとこで泣いてたって変わんねぇよ。こんな薄暗いとこで一緒に、じゃなくてさ。お前らがオレについてこいよ」
 その少女の手を、マクベスは優しく握る。視線をあわせて笑顔を浮かべて、マクベスは彼女に告げた。一緒にいる、だからついてこい、と。ここよりも外は、ずっといい場所だから。
「その方が何倍も楽しませてやるぜ?」
 マクベスの言葉に少女は動揺したように瞳を揺らした。なにも言わない彼女の代わりに、うずくまったままだった子どもたちがゆっくりとマクベスへ歩み寄る。同じようにマクベスの周りに纏わりついた彼らは異口同音に言葉を吐いた。
 ________むりだよ。
 ________ぼくたちはうまれなかったんだもの。
 ________うまれることもできなかったんだもの。
 ________ここからでたら、またきえちゃう。
 ________だからやっぱり、ここにいてよ。ずっといっしょに……。
「……そうか」
 そっと立ち上がったマクベスは悲し気な表情を浮かべながら魔装銃を抜いた。二丁の銃口はまっすぐに核へ向けられ、子どもたちからは制止の声が飛ぶ。マクベスはわかっていた。あれを破壊すればここに囚われた彼女たちも解き放たれ、天へと昇るのだと。
「悪いな、待ってる人が居るんだ……倒すぜ」
 炎の属性を得た銃弾があたり一帯を焼き尽くす。霊である子どもたちは掻き消え、銃弾の突き刺さった核は砕け散った。
 言葉で救うことは叶わなかったが、これで子どもたちも救えたはずだ。そう己を納得させようとマクベスは銃をしまう。
 ________ありがとう。
 ちいさな少女の声に、マクベスは振り返った。後ろには誰もいない。ただ声だけが届く。
 ________つぎは生きたいって、おもえたよ。だからあたらしいわたしとあえたら、なかよくしてね。おにいさん……。
「っおうよ! 待ってるからな!」
 少女の声もそこで消えた。
 今度こそ幸せな家庭に生まれて、自分のことを思い出せないくらい幸福な日々を過ごしてほしい。マクベスはそう祈り、救えた喜びを胸に空間から脱出した。

成功 🔵​🔵​🔴​

出水宮・カガリ
【依頼掲示板前広場】れにーと、てぃあと
※アドリブ絡み可

(れにーから鱗を貰いつつ、足りなければ【不落の傷跡】が刻まれた【鉄門扉の盾】で庇う)
その声は…兵士、か。しかも戦場の(痛ましい、という顔をして)
声は届くまいが、敢えて言おう、何れかの門の外で散ったひとびと

――だから、カガリは英雄が大嫌いだ
お前達のような悲しいひとが、オブリビオンになってまで世界を恨んで
そのような未練を残すほど、生きていたかったのだろうに
戦士になどならなければ、生きていられたのに

その無念、未練、確かにこの眼に捉えた(【大神の神眼】を開眼)
「出水宮之門」(門だった頃の名)からの手向けだ、静寂(しじま)に眠れ
――【死都之塞】


琥珀川・れに
【依頼掲示板前広場】エウトティア・カガリ

もしかして…アイテム【虹色の鱗】である程度硫酸を弾けるな?
同行者にもつけてあげよう。

アイテム【空間阻害魔術】で硫酸を一瞬ずつだが次々弾いて、
【早業】で素早く駆け寄る。

UC【クィニティエンハンス】で防御力重視で水を操ろう
ねえ、エウトティア
硫酸も水…液体なのだから、
押し寄せる波を逆流させることはできないだろうか。
ほら、己の体液で沈むがいい。
不可でも「水で洗い流す」駄目押しならできるはず【属性攻撃】

カガリの考えに同調。
こうなった魂は消えたほうが幸せかもしれない。
止めは刺せなくてもどこかで【祈】ろう。

※アドリブ大好き。追加省略ご自由に。


エウトティア・ナトゥア
チーム【依頼掲示板前広場】で参加。
レニー殿(f00693)カガリ殿(f04556)と連携。
これは怨霊の集合体か、これ程の負の感情にまみえるのは初めてじゃの。皆、気をつけるのじゃ。
(滴る濃硫酸に)彼奴らが纏うのは酸かの?厄介じゃな。まずは僅かばかりの加護じゃが、酸への備えじゃ。
(歌唱+破魔+祈り)【細流の調べ】に破魔の祈りを乗せて高らかに歌い癒しの力を付与する。水の精霊よ。敵の酸から皆を護れ。叶うなら哀れな魂達にも安寧を。
さて、後は彼らを救ってやらんといかんのう。(魂石のブレスレットを前衛に渡し)鎮魂の力の宿った石じゃ。お守り代わりに持っていくとよい。哀れな魂達を救っておくれ。



 合流した三人はまたマニトゥに乗り奥へと進んだ。他の猟兵たちより少し遅れてやってきた彼らはその悲惨な死霊たちを目に、顔をしかめた。ひとりは痛ましそうに、ひとりは祈るように目を閉じ、ひとりは浄化せんと意気込む。
「これは……怨霊の集合体か。これ程の負の感情にまみえるのは初めてじゃの。皆、気をつけるのじゃ」
「黒幕は死霊そのもの……予想できていたとはいえ、いい気分ではないね」
 武器を抜き警戒を高める琥珀川・れに(男装の麗少女 レニー・f00693)と祈りのため杖を構えるエウトティア・ナトゥア(緋色線条の巫女姫・f04161)。
 巨狼から地へおりた彼らに、死霊たちの目が一斉に向く。流れ落ちる濃硫酸の涙が地へと広がり、その中からぼこ、ぼこぼこ、と何かが這いずり出てきた。それらはズルズルと体を引きずり、もしくはよろよろと立ち上がって、カガリたちへ近寄ってくる。
「彼奴らが纏うのは酸かの? 厄介じゃな」
「酸は触れるだけで危険だからね。満足に攻撃もできなくなるが……もしかして、虹色の鱗である程度硫酸を弾けるな? エウトティア、カガリ、これを」
「ありがとう、れにー。確かに水を弾くこれならば濃硫酸も弾けるだろうな」
 輝く鱗を手に微笑む出水宮・カガリ(荒城の城門・f04556)。しかしその顔はすぐに死霊たちへ向けられ、引き締められる。何か思うところがあるようだった。
「……れにー、少しの間足止めを頼めるか? 少し時間をくれればカガリが彼らを完封しよう」
「うん、任せてくれ。僕には空間阻害魔術があるからね。それに濃硫酸も液体……つまりは水だ。僕の水の魔力である程度操れると思う」
「それならばまずは、僅かばかりの加護じゃが、酸への備えじゃ」
 トン、とエウトティアの杖が地を鳴らす。ノアの長杖から流される精霊力がエウトティアと水の精霊を結び付けた。精霊たちへ捧げるエウトティアの唄。それは破魔の力が乗った癒しのしらべ、水精霊の唄だ。
「水の精霊よ。敵の酸から皆を護れ。叶うなら哀れな魂達にも安寧を」
 美しい歌声が洞窟に響き渡る。歌声を捧げられた水精霊たちはほのかな光となってカガリたちの周りを揺蕩った。その癒しの唄に、呻き嘆いていた死霊たちの声も少し収まっていく。安寧を得、天に還ることのできた者がいたのかもしれない。
「ふう、これで大丈夫じゃ。水精霊の加護に虹色の鱗、空間阻害魔術があれば濃硫酸もレニー殿を傷つけられまい。さて、後は彼らを救ってやらんといかんのう」
 しかし、エウトティアに死霊たちを直接消滅させる力はない。肝心のところで人任せじゃの、とエウトティアは腕のブレスレットを外した。
「レニー殿、鎮魂の力の宿った石じゃ。お守り代わりに持っていくとよい。哀れな魂達を救っておくれ」
「ありがとう、エウトティア。あとは僕たちに任せて君は下がっていて。危ないからね」
 さて、とれにとカガリが振り返る。少し数は減っているものの依然死霊たちは濃硫酸をたらしてこちらに迫っている。その表情は苦し気で助けを求めてうわ言を繰り返しており、三人の目に哀れにも映った。かつては兵士だったのか、武器や半壊した鎧を身に着けている者もいる。
「その声は……兵士、か。しかも戦場の。……声は届くまいが、敢えて言おう、何れかの門の外で散ったひとびと」
 痛ましい、とカガリは目じりを下げる。鉄門扉の盾で二人を庇いながら彼は、散った英雄たちへ言葉を投げかける。……不落の傷跡を残す城門は、もう二度と破られることはない。それは濃硫酸であっても同じ。守るべき者たちに傷ひとつ付けさせはしない。
「――だから、カガリは英雄が大嫌いだ」
 カガリの言葉と共にれにが走り出す。襲い来る濃硫酸を魔術で弾き、細身の魔法剣で切り捨てる。最も目立つように駆け抜けながら、れには魔力をその身に纏い始めた。
「……ほら、己の体液で沈むがいい」
 水の魔力によって操られた濃硫酸が、突然不自然に逆流する。死霊たちはもう濃硫酸で死ぬことはないが、水としてのそれには弱い。押し流され、水の中でもがく彼らを十分に足止めして、れにはカガリに声をかけた。
「カガリっ!」
「あいわかった」
 準備の終わったカガリがその目を開く。美しい紫だったその瞳は柘榴色に輝き、内なる神性、大神の神眼を刮目していた。
 お前達のような悲しいひとが、オブリビオンになってまで世界を恨んで。
 そのような未練を残すほど、生きていたかったのだろうに。
 ……戦士になどならなければ、生きていられたのに。
 その思いを胸にカガリは彼らの未練を捉える。
「その無念、未練、確かにこの眼に捉えた。「出水宮之門」からの手向けだ、静寂に眠れ――——死都之塞」
 輝く瞳が死霊たちを映すと、とたん彼らは動きを止めた。しびれたわけでも拘束されたわけでもない。自由意志を奪われた彼らは、もがくことすら止めただひたすらにその時を待つ。……終わりの時を。天に還る、再生の時を。
「……カガリの考えには、賛成なんだ」
 立ち止まっていたれには、死霊たちが動きを止めたのを見て、改めて魔法剣を抜く。その目には強い決意が宿っていた。彼女を見た死霊たちは動けないままに直感する________ああ、彼女が自分たちを終わらせてくれるのだ。
「こうなった魂は消えたほうが幸せかもしれない。そうしてまた、今度は幸せに生まれ変わってほしい……なんて、勝手かな」
 魔力の宿ったれにの剣は水精霊の力でより強化されている。水を纏うその剣を手に、れには地を蹴った。
 ……狙うは本体、その一番の中心。大きく振りかぶったその一撃は迅速に、的確に死霊たちの核となっていたひとりの霊を、打ち砕いた。

「よくやったのじゃ! レニー殿、カガリ殿!」
 またひとつ、またひとつと死霊たちが散っていく。美しい光となった彼らはみな最後の輝きを放ち消えていった。彼らは天に還れたのだろうか。エウトティアの表情を見る限り、期待してもよさそうだ。
「眠ってくれ、深く、深く。もう怨みや悲しみなど思い出さないように」
 カガリはその光を目に、嬉しそうに、そして少し哀しそうに目を細めた。かつて失った人々をそこに重ねて、彼らが共に天に上ることを望んでいるようだ。
「地上に縛られ続けるなんて、酷い話だからね。ゆっくりと眠って悲しみを癒してそして……また生まれ変わったらいいよ」
 手を合わせ、そっと祈るれに。届くかはわからないが祈らずにはいられなかった。彼女に合わせて二人もそれぞれ祈りの体勢に入る。
 どうか、彼らが安らかでありますように。どうか、彼らの来世が幸福でありますように。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年07月06日
宿敵 『平和の犠牲者達』 を撃破!


挿絵イラスト