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指先に南十字星

#UDCアース #呪詛型UDC

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#UDCアース
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●宝石には魔力が宿る
 宝石とは、大変美しい外観を有した固形物を指している。
 地殻から掘り出される天然鉱物はもちろんのこと、樹脂が固まって形成された琥珀や、生物由来の珊瑚、貝類から産出される真珠などもカテゴライズされ、宝石と偏に言えどその種類は多岐に渡る。
 宝石は古来より美しさや希少性から装飾品として重宝される他、転じて人々の信仰となり厄除けや加護の力を持つものとして、迷信めいた魔具の一面を持っていた。
 御守り。アミュレット。タリスマン。チャーム。
 呼ばれ方は地方によって様々だが、人々は昔から信じているのだ。
 ――……宝石には魔力が秘められているのだと。

●乙女の憧れ
「つまりね、UDCアースではパワーストーンなんて呼ばれて昨今持てはやされているけれど、これがあながち間違いってわけでもなくって。宝石には本当に魔力が宿っているのよ。鉱物に魔力を込めて使う魔術形態もあるでしょう?」
「ただの透き通った石コロだと思ってた……本当に効能あるのか? ゲルマニウムって肩に貼っても別に健康促進の効果無いらしいぞ」
「科学的観点の話は今してないのよ、もういいわ引っ込みなさいアンタ達」
「なんで!?」
「宝石の魅力も言えないアンタ達は今回お役御免よ!」
 バシュン。小さな音と共に二つ存在していた人格が一つに統合される。
 多重人格者の奇天烈・モクレン(f00754)はやれやれと首を振ると、すぐに猟兵達の方へと向き直ってにこやかに笑って見せた。
「アラいらっしゃい! 依頼を受けに来てくれたのね!」
 どうやら吸収されたのは男性人格の彼だったらしい。
 今日は女性の人格かあ、と猟兵達は曖昧に微笑んで見せた。

「来てくれてアリガト、お願いしたいのは呪詛型UDC誘引任務よ」
 その言葉にぴくりと何人かの猟兵が反応した。
 呪詛型UDC誘引任務。聞き覚えのある依頼内容だ。
 とある場所で日常を過ごす人々が、UDCの怪異に巻き込まれるという予知。怪異自体はUDCによる呪いのようなもので、被害者の共通点として日常を満喫している者がより怪異に巻き込まれ易いという事実が判明している。
 そこで、猟兵達が他の民間人よりも日常を満喫し、UDCからの干渉である怪異を猟兵達自身に引き寄せることその奥に潜むUDCを逆にこちら側へと誘引し撃破する――それが呪詛型UDC誘引任務の内容だったはずだ。
「何かイベントごとでも?」
「ええ。百貨店で一般人向けのイベントがあったんだけど、そこに邪神にまつわる召喚呪具の宝石が出て来ちゃったのよ。放っておけばその呪具を狙ってUDCが出没、怪異を発生させてしまうって内容の予知だったわ」
「止めないといけないね」
「アナタ達ならきっとそう言ってくれると思ってたいたわ。それじゃ、さっそく概要を説明するわね」
 ふふん、とモクレンが資料を配る。
 場所は都内の大型百貨店、デパートメントストア。
 イベント内容は有名な宝石商主催のアクセサリーショップと宝石商の提携による無料のジュエリー自作体験イベントだ。本物の宝石を参加者にいくつか選んでもらい、それをプロの金細工職人と宝飾デザイナーのアドバイスを受けながら自分で加工して。あなただけの世界に一つしかないジュエリーを作れるという触れ込みらしい。
「へえー、本物の宝石商主催のイベントか」
「そうなのよ。お値段の張るダイヤモンドやらエメラルドやらルビーやらサファイアやら、希少性の高い宝石も奮発して用意してくれたみたい」
「大盤振る舞いだね」
「ねっ! 女の子なら一度は憧れたこともあるでしょう、きらきら星みたいに輝くジュエリー、一度は身に着けてみたいわよね。それに宝石に込められた石言葉とかも教えてくれるらしいわよ。どう? 乙女なら誰でも胸躍るイベントだと思わない!?」
「はぁ……まぁ……ソウデスネ……」
 男性気が強く、ジュエリーなどチンプンカンプンなモクレンが宝石に乙女心を揺らして胸ときめかせているのは中々どうしてシュールだったが、猟兵達はつとめて冷静にスルーしてみせた。今の彼は女性人格なのである。
「で、この宝石の中に厄介にも召喚呪具が含まれていたみたいなのよ。さすがにその呪具がどれかは分からなかったから事前回収は出来なかったのよねえ」
「それでこのイベントに参加することでUDCにカチコミすればいいと考えたわけか」
「そういうこと! イベント自体を楽しまないと多分召喚呪具もUDCも出てこないわよ。気合入れて楽しんできて頂戴。いいかしら?」
「もちろん全力で楽しむさ」
 アナタだけの素敵なジュエリーを作ってきてね、とまるでUDCの撃破はそのついでだと言わんばかりに、モクレンは茶目っ気たっぷりにウィンクしてみせた。


山田
●マスター挨拶
 お久しぶりです。山田と申します。先日はシナリオ参加ありがとうございました。今回は呪詛型UDC誘引任務シナリオです。最初は日常フラグメントを全力で楽しんでください。最終的には純戦となる三章集団戦へともつれこむので力こそパワーです。遊びも戦闘も、どちらも楽しんでいきましょう。キラキラ!

●一章プレイングに関して
 ここでは「選んだ宝石種とジュエリーの作り方」を記入して下さい。
「エメラルドをイヤリングに、頑張って自作する」
「サファイアをペンダントに、加工は難しそうなのでプロにお任せする」
「ダイヤモンドを指輪に、宝石にも詳しいし細かい作業は得意なのでお任せあれ」
 など上記は一例です。作成したいジュエリーの内容を考えてみてください。
 宝石種が未記載の場合やアドリブOKの文言が入った場合は猟兵さんに似合いそうなものを宝石商、もとい山田が見繕います。
 素敵なあなただけのジュエリーを作ってみませんか?

●二章プレイングに関して
 一章が成功すると、召喚呪具の出現、及びUDCによる怪異発生フェーズに移ります。
 章切り替わり直後には章跨ぎの区切りとして具体的な名前の出る猟兵が登場せずNPCのみが登場する、空のリプレイが入ります。
 ここでは「召喚呪具の探索方法」を記入してみてください。
 方法はフラグメントで提示されているPOW・SPD・WIZの例以外の別の方法でも全く構いません。

●三章プレイングに関して
 純然たる戦闘となります。基本は一律戦闘描写です。

●同行者に関して
 共に行動される方がいる場合は、お互いの呼び方を各位ご記載下さい。

●グリモア猟兵
 奇天烈・モクレン(f00754)
 多重人格者の明るい性格の青年です。
 グリモア猟兵は一章日常フラグメントの場合、お客様にお誘いされても登場しないためご注意下さい。今回は皆さんを送り出してからおうちに帰ったようです。
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第1章 日常 『パワーストーンアクセサリー』

POW   :    直感で意思を選び作る

SPD   :    キットを元に、オリジナルで作る。

WIZ   :    石の意味や相性を調べて作る

👑5
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 透明に磨かれた指紋一つないガラスケースの向こうでは、カッティングされた色とりどりの美しい宝石達がライトに照らされて輝いていた。宝石達を惹き立てる銀細工は等間隔に並べられて、空いた窪みに神秘的な石をおさめられるのを今か今かと待っているかのよう。
「お待ちしておりました。本日は私どもの催しにお越しいただき大変ありがとうございます」
 身なりの良い男性は今回のイベントの主催者だろうか、男は宝石商を名乗ると猟兵達や他の参加者をガラスケースの前に案内する。
 深々と一礼した男はガラスケースの向こうの宝石をちらりと見遣ってから静かにイベントの開始を告げた。
「どなた様もお好きな宝石をお選びください。一つでなくとも構いません。どうか、お客様に宝石との良き出逢いがありますように」
ミツルギ・サヤ
よろしく頼む。
……うむ。
装飾品を作りたい、とは。前々から思っていたのだ。
だが決心がつかず、店の前を素通りしてしまう。
そんな有様でな。
少し力をお借りしたい。良いだろうか?
その、なんだ。
クリスマスも近いから、な……。

●何を作る?
妖刀の武器飾り(プレゼント予定)と、
イヤリング(自分用)をペアで。

●宝石種
…どれが良いだろうか。
色や種類は問わない。
イメージワードは…
覚悟であるとか、凛とした姿勢。
前を見てそれらを保ち続けられるような石。
石言葉になくとも、直感でおススメがあれば
今回はそれを使ってみたい。

●作り方
作り方解説を見たり、助言を貰いながら完成させる。
手先は器用だが、制作用道具の使い方はわからん。


杜鬼・クロウ
アドリブ◎
全身服着用
小さな金の宝石が一つある銀チェーン有の眼鏡

俺は器物が鏡だし用途として通じるモノがあるから、
宝石は嫌いじゃねェンだよなァ
召喚呪具の宝石も気にかけつつ今は楽しめってコトな

アクセも好きなので内心興奮気味
色々店巡る
一際目立つ宝石や物珍しい宝石ないか軽く情報収集
色鮮やかな宝石種に目爛々

俺、一回だけ尾鰭飾り作ったコトあるンだよ
案外器用に出来てな
とある人魚姫へ渡したンだが

ぱっと目惹く宝石に手伸ばす
集中して作る
具体的に誰への贈物かは言わず(羞恥心ゆえ

職人技を間近で見られ楽しい
石言葉に興味津々
仕上げはプロにお任せ

・宝石
色は赤
弟イメージ
他全てお任せ
余裕あれば自分用に誕生石用いた化粧品が欲しい


十三星・ミナ
【POW】
※連携アドリブ歓迎

宝石に魔力が宿るというのはよくある話ですね。
私の持つネクロオーブもその類いですから。
邪神を呼び出すためにも、宝石を選んで装飾品に……ということですが、
首から下げたネクロオーブと干渉しないように選ばないと。
……ああ、このブラックオパール。不思議と星空を思わせるような色合いをしていて惹かれます。
加工してくださる方がいれば、これに鎖をつけてブレスレットにしていただきたいです。
……本当に綺麗な石達。昔から人々が惹き付けられるのもわかります。
いえ、惹き付けられるのはきっと人だけではないのでしょうね……


イリーツァ・ウーツェ
金属や石の加工か
地に属す物を操る事は容易だが
造形という面では、私は完全に素人
プロを頼れるのは良い機会だ

近頃塞いでいる弟に加工品を贈りたい
クロムスフェーンはあるだろうか
あれは面白い石だ
プロが居るのだろう
渡す相手の情報を伝えるから、デザインを任せたい

憶病で気の弱い奴だが、負けん気の強い男です
如何に複雑な形でも加工してみせます
勇気を与えてやれるような意匠をお願いしたい

(人には敬語、思考内は無愛想)


グラナト・ラガルティハ
宝石か…自分の名もまた宝石の名前を冠しているからな縁は感じる。
柘榴石、ガーネット。色味はより赤い物を…。
そんなに大きい物でなくていい。あくまで宝石がメインではないからな。
金のチェーンでネックレスに。細工は職人に頼んだ方がいいいだろうな。
恋人に渡すつもりの物なのだが…金の髪と青い瞳の美しい。
…本当は青い石の方が似合うのかもしれないが俺にはあの瞳以上に美しい青は見つけられないからな。

宝石は確かに魔力を帯びやすいものだ…触媒にするにはよいものだろう。
古いものになれば宝石の魔力以外にも人間の念も吸収している。
邪神を呼ぶにはもってこいだろう。

アドリブ歓迎


雪月花・深雨
宝石には魔力が宿る…。
それが多く集まるのであれば、曰くのあるものが紛れていても、不思議ではありませんね…こわい…。


しばらくは危険がないようですね…
少し警戒してしまう事は否めませんが、催しに参加して時を待ちましょう。

わたし自身、宝石や貴金属を身に着ける事は多くないので、
インテリアに加工するほうが望ましいかもしれませんね。

例えば…机に乗るくらいの、小さなスタンドを作って、
そこに宝石を吊り下げて…
それと台座に電飾をつけて、
下から光を当てるようにしたら綺麗かな…。

あっ…えっと…宝石は、あまり詳しくはないので…
どういったものがありますか…?



●おくりもの
「それではこちらにどうぞ」
「よろしく頼む」
 宝石商の男に導かれてさっそくやって来たのはヤドリガミの猟兵、ミツルギ・サヤ(f17342)だ。
 目の前に広がる宝石達にどことなくそわそわしつつも当初の目的を思い出しサヤは一歩を踏み出す。此処へ来たのはもちろんUDC討伐のためでもあるが、彼女にはもう一つ目的がある。
「本日はお越しいただきまことにありがとうございます。こういった体験イベントは初めてでしょうか」
「……うむ。装飾品を作りたい、とは。前々から思っていたのだ。だが決心がつかず、店の前を素通りしてしまう。そんな有様でな」
 サヤはこれまでも何度かそういった類の宝飾店や自作の出来るアクセサリーショップの前まで来ては、また戻りを繰り返してきた。なかなかどうしてその一歩が踏み出せない。今回は依頼だからという後押しもあってようやくここに立っている。
「少し力をお借りしたい。良いだろうか?」
「勿論でございます」
「その、なんだ。クリスマスも近いから、な……」
 その言葉に一瞬宝石商の男は目を丸くして、そしてややあってからそれを優しく緩めてみせた。世間一般に呼ばれる神の誕生を祝う日は、海を渡ってはるばると。日本においては恋人たちの記念日になっている。それが意味する所は、つまり。
「それはとても素晴らしいですねお客様。お客様が大切な方へ素敵な贈り物が作れるよう、私共も尽力致します」
 恭しく宝石商の男は一礼する。貴方に素敵な宝石との出会いを。男はそう言うとやや速めのペースで歩き出した。

「では早速宝石選びから参りましょう。今回はスポンサー企業の協力もあり普段は市場に出回らない希少な石もご用意することができました」
 グリモアベースで聞けばこのイベントは一切の参加費をとっていないらしい。なるほど確かに大盤振る舞いだとサヤはひとりごちた。
 しかし宝石選びとくればサヤは頭を抱えるしかない。宝石の種類は多く、そもそもサヤは妖刀に宿りし神で渡り歩いてきたのは戦場ばかりだ。細かな過去の記憶は消え、僅かばかりに残っている記憶もまた斬り合いのものが多い。装飾類は見たことがあるが詳しいとは言い難かった。
「……どれが良いだろうか。色や種類は問わない」
「そうですね……この量からひとつ選び取るだけでも大変かもしれません」
 むむむと整った顔を歪ませるサヤに宝石商は助け船を出してみる。
「それではその方を思い浮かべて宝石を選んでみましょうか」
「なるほど……?」
「大切な方のイメージに近しいものを選んで行けばおのずと答えにたどりつけるかと」
「イメージか……イメージワードは……」
 そう、それは。
 覚悟であるとか、決意であるとか、そういった部類の凛とした姿。
 前を見てそれらを保ち続けられるような石。そんな石が相応しいのではないだろうか。サヤがおずおずと告げる言葉に宝石商は真剣な面持ちで耳を傾けている。
「すまない、ぼんやりとしていて、これでいいだろうか?」
「とんでもございません。大変細かくお伝えいただいて、お客様のお考えになっているイメージが伝わってきましたよ」
「石言葉になくとも、直感でおススメがあれば今回はそれを使ってみたい」
 どうだろう、と不安げに効くサヤに宝石商の男はゆっくりと頷いて見せる。それならばぴったりのものがございますので。言うや否や宝石商の男はそっとガラスケースの蓋を開けて見せた。透き通った青色の碧玉が慎重に取り出されていく。
「こちらはサファイア。高潔なるサファイアの宝石言葉は慈愛、誠実、忠実、真実、徳望。深みのある青色は揺るぎない心の象徴でございます」
 言葉から誠実なイメージを汲み取った宝石商はであるならばこれが相応しいのではないかとサヤの手にサファイアをそっと乗せた。青々とした海のような色合いは見ていると不思議と心が落ち着く。それは見ているだけで背筋が伸びる、きりりとした心の有り方を示しているかのようだった。
「お気に召して頂けましたか?」
「ああ……そうだな。これにしよう」
「それでは加工手順をご説明いたします。こちらへどうぞ」
 妖刀の武器飾りとイヤリングをペアで。同じ色、同じ石、同じものから生み出されるそれを想像して、サヤはちょっぴり口元に笑みを滲ませた。

●潤沢なる魔力の根源
「宝石に魔力が宿るというのはよくある話ですね」
 私の持つネクロオーブもその類いですから。
 サイボーグの十三星・ミナ(f17400)がするりと首から下げたネクロオーブを撫でた。
 グリモアベースで聞いた言葉の通り、宝石には魔力が宿る。ミナが持つ宝珠を筆頭に、この場にいる猟兵には魔力に縁深い者が多い。単純な鉱石と侮るなかれ、比喩でもなんでもなく彼女達が持つ宝石や宝珠といった品々には人知を超えた力が宿っていた。
 彼女の持つネクロオーブは召喚した死霊を操る、呪われた宝珠。神秘の輝きにゆらめく宝珠はこの世ならざるものの力を秘めた遺物だ。
「宝石には魔力が宿る……ですか」
 ミナの言葉に不安そうな顔をしたのは羅刹の少女、雪月花・深雨(f01883)。
 今回彼女達がまかされたのは呪詛型UDC誘引任務だ。必然このあとに戦闘を控えている。精神を脅かすほどの呪詛を撒き散らすUDCとの対峙は、どうしたって深雨に恐怖を植え付けた。UDCをおびき寄せる種としての宝石もまた恐怖を募らせるばかりだ。
「それが多く集まるのであれば、曰くのあるものが紛れていても、不思議ではありませんね……こわい……」
 うぅ、と怯え縮こまって首をすぼめる彼女にミナはそっと声をかけた。
 励ましの声色が含まれているのかその言葉はゆるりとやわらかい。
「そうですね、しかし怯えることはありません」
 この場に居るのは彼女達だけではない、猟兵がこんなにも居るのだとミナはガラスケースの前の集ってくれた猟兵達を見回した。呪詛型UDCは確かに脅威ではあるが、それも集団で挑めば取るに足らぬ相手だとミナは軽く胸元に手を置いてトントンと叩いてみせた。
 仲間は居るのだ、自分も含めて。そう安心させるように言えば、深雨の瞳はほんの少しだけ恐怖の色を薄くして和らいだ。未だ警戒はしているけれど、この催しを楽しまなければUDCは出てこないのだから。
「は、はい……が、がんばってみます。しばらくは危険がないようですし……催しに参加して時を待ちましょう」
「その意気です。さて、邪神を呼び出すためにも宝石を選んで装飾品に……ということですが、このネクロオーブと干渉しないように選ばないといけませんね」
 宝石同士には相性がある。互いに力を高めあうもの、互いに力を反発しあうもの、それは宝石によりけりだ。彼女の持つネクロオーブはある種の宝石と反発の傾向が強いのか、相性の悪いものが近場にあると干渉しあってしまう。案の定胸元からはほんの少し熱を感じたような気がした。慎重な石選びが必要になりそうだとミナはガラスケースの向こうを覗き込む。
 よく磨かれたガラスケースの向こうに立つのは男性の三人組。
 すらりとした長身の彼らはミナや深雨よりもずっと視線が高い位置にある。二人とも首を傾けて見上げなければならなかった。

●瞳に赤を宿す者
「狙われてんのは厄介だな」
「宝石は確かに魔力を帯びやすいものだ……触媒にするにはうってつけだろう。古いものになれば宝石の魔力以外にも人間の念も吸収している。邪神を呼ぶにはもってこいだ」
「邪神か……」
 がしがしと面倒そうに掻く漆黒の髪の奥、紅玉と碧玉をはめこんだかのようなきらめく瞳を持つ男はヤドリガミの杜鬼・クロウ(f04599)。その隣に立つ炎の具現の如き男は、さる世界では神と呼称されている天上存在のグラナト・ラガルティハ(f16720)だ。
 三人組のなかで一番身長の高い褐色肌の男――ドラゴニアンのイリーツァ・ウーツェ(f14324)は、クロウの片目に負けず劣らず美しい、ルビーをしたたり落としたような瞳でガラスケースの向こうを見ていた。
「ま、ともかく召喚呪具の宝石も気にかけつつ今は楽しめってコトな。気になったモンは?」
「いえ、まだ」
「そうだな……こうも種類があるとなかなかすぐには決められまい」
 クロウもイリーツァもグラナトもガラスケースを前にして暫し問答をつづけていた。宝石商の用意した宝石の数はそれこそ夜空の星に匹敵すると思しき量だ。ワンフロアにはずっと向こうまで長いガラスケースが続いている。即時決めるのは難しいだろう。
「にしても宝石か……自分の名もまた宝石の名前を冠しているからな、縁は感じる」
「グラナト、というと露西亜語の?」
「ああ、ってェと柘榴石か」
「二人ともよく知っているな」
 イリーツァが彼の名を元に、クロウがそのまま続けて柘榴石を言い当てる。
 グラナトはその名称の通り、garnet――……ケイ酸塩鉱物、英語圏ではガーネットの名で親しまれる宝石だ。柘榴の果実に似ていることから、ラテン語の種子という意味であるgranatumを語源とする。
 色や成分などによりガーネットはグループとしての総称を指しており、グロッシュラー、アルマンディン、パイロープ、ロードライトなど種は多岐に渡る。
 内に炎を宿したかのような色合いはルビーよりも強く濃く、炎を揺らめかせている。その輝きに魅せられる者も多く、柘榴石は一月の誕生石としても知られていた。
「確か石言葉は……真実・友愛・忠実・勝利だったか?」
「博識ですね」
「ああ。俺は器物が鏡だし用途として通じるモノがあるからな。そっちも露西亜語の発音なんてよく知ってたな」
「偶々聞いた事があったので」
 イリーツァがどこかで小耳にはさんだ言葉にクロウは頷く。
 ルーツがヤドリガミであるクロウにとって、古くから人の身を飾ってきた貴金属の装飾品類はいわば親戚のようなものである。クロウはかけていた眼鏡を少し押し上げると、そのレンズ越しにしげしげと宝石を眺めた。宝石に親しみがあるのもそうだがクロウ自身のアクセサリー好きも相俟ってか、色鮮やかな宝石種を追いかける目は心なしか少年のように爛々としている。
「こういう類の宝石は嫌いじゃねェンだよなァ。ほら見ろよ、ちゃんとあるぜ」
「ほう?」
 彼の名を冠する柘榴石もまた、ガラスケースの向こうからグラナトに向かって炎の輝きを放っている。深い赤色はまさしく彼の色だ。粒の大きさはそこまでではないが、発する力強い色に彼らの赤い瞳はより一層強さを増した。
 グラナトの様子に気づいたのか、コツリと革靴を響かせて近づく人影があった。宝石商の男だ。
「お決まりになりましたか」
「ああ、これにしよう。色味はより赤い物を……。そんなに大きい物でなくていい。あくまで宝石がメインではないからな」
「かしこまりました」
 宝石商の男によって、慎重に手袋をつけた手でガラスケースの向こうからガーネットが取り出される。
 カッティングされた柘榴石は大粒の宝石ではなかったが、爪の先ほどの宝石であってもその炎は決して弱まっていない。小ささの中にも猛々しい火炎が渦巻いている。
「お客様が宝石と縁結ばれたこと、大変嬉しく思います。加工はどうなさいますか?」
「そうだな……金のチェーンでネックレスに。細工は職人に頼んだ方が良いだろうな」
「ではそのように。こちらはご自分用でしょうか」
「いや。恋人に渡すつもりの物なのだ」
 その言葉を聞いた宝石商の男は、ふわりと口角を上げて微笑んだ。心なしか目元が柔らかくなり、グラナトを見つめている。そうですか、と小さな声で相槌を打った。
「大切なお方への贈り物……なるほど。それはより一層美しく仕上げなければなりませんね」
「ああ。金の髪と青い瞳が美しくてな……本当は青い石の方が似合うのかもしれないが、俺にはあの瞳以上に美しい青は見つけられないからな」
 かの恋人の瞳を思い浮かべる。
 そのどれもがここに並ぶ宝石よりもずっと美しいのだとグラナトは語った。
「宝石とは身に着けるもの。宝石とは人に寄り添うもの。お客様と同じ色を宿すこの柘榴石は言わばお客様自身です。いつもこの柘榴石がお客様の大切な方と共に在れるよう――……私共も、腕によりを掛けて慎重に加工致しましょう」
「宜しく頼む」

 グラナトがクロウとイリーツァの二人に一旦別れを告げてその場を離れた。宝石商の男と共に宝飾デザイナーの方へと歩いて行く。イリーツァは彼の後ろ姿をみてぼんやりと加工か、と思い出した。
 そう、この催しは自分で加工もできるアクセサリーづくりのイベントだ。
 彼のようにプロに任せることももちろん可能である。
「金属や石の加工か……地に属す物を操る事は容易だが」
「得意なのか?」
「いえ全く」
 イリーツァは首を横に振る。操作ではなく造形という面では、完全に素人の自負がある。プロを頼れるのは良い機会だとイリーツァが思うのとは逆に、クロウは自作に挑戦するようだ。
「そちらは自作を?」
「あー……俺、一回だけ尾鰭飾り作ったコトあるンだよ。案外器用に出来てな」
 とある人魚姫へ渡したンだが、と当時の事を振り返るクロウの指先をイリーツァがちらりと見遣る。確かに細やかな作業に向いていそうだ。戦い通しの猟兵の手ではあるが、彼の手はよく洗練されているように見えた。ヤドリガミは百年使われた器物に魂が宿り、人間型の肉体を得た存在だ。肉体は仮初の物であり、損傷しても、本体の器物を破壊されない限り再生する。それも起因しているのだろう。
「ではそろそろ石選びに」
「良いのが見つかると良いな」
「はい」
 イリーツァがグラナトの元を離れて戻ってきた宝石商の男に話しかける。近頃塞いでいる弟に加工品を贈りたい、そんな気持ちでこの依頼を受けたイリーツァが探していた宝石。
 あれは面白い石だからきっとあるだろうと聞けば、勿論ございますよと宝石商の男はやや離れたところにあるガラスケースの前までイリーツァを案内した。
「楔石ですね。確かに仰る通り面白い石です。正式名称はチタナイト、私共の宝石業界ではスフェーンと呼ばれます。輝きようはその含有するチタンやクロム、マンガンといった不純物に左右されるため一つとして同じ輝きはないのです」
 世界に一つだけの石と言っても過言は無いでしょう。ガラスケースから取り出されたスフェーンはきらきらと緑色をこぼしている。宝石商の男はさらにその隣に置いてある箱を手に取って慎重に開けた。
「スフェーンの中でもクロムが発色要因となり通常のものよりさらに濃い緑色を見せてくれる――それがお客様がお探しのクロムスフェーン。輝きはやや抑えめですが多色性が見られる本当に面白い石ですよ」
 きらり、きらり、手袋からあふれるようにして輝くクロムスフェーンは緑色の向こう側に橙や黄や赤を内包している。虹にも負けない美しさがあった。
「これにしよう。渡す相手の情報を伝えるから、デザインを任せたい。お願いしても?」
「勿論でございます。こちらもご贈答用ですね」
 宝石商の男がすぐさま職人を呼び寄せる。職人らしき老齢な男はクロムスフェーンを受け取ると、どのような形が良いか顎に手を当てて深く考えた。渡したい相手に相応しきものを。それがこの宝石商や職人の目指す商売なのだ。イリーツァは安心して彼らに任せられると、渡したい相手のことを思い浮かべる。
「……憶病で気の弱い奴だが、負けん気の強い男です。如何に複雑な形でも加工してみせます。勇気を与えてやれるような意匠をお願いしたい」
「なるほど……やってみましょう。任せてください。宝石を贈るときは、石にその人へ向けた愛情や親情といった思いがこもる」
 きっとお客様のお気持ちも、その方に届くと思いますよ。
 宝石職人の言葉に、イリーツァはただひとつ頷きを返して見せた。
 成功、頂点、才能の開花、実力の発揮、幸運、導き。それがこの石に宿るのであれば、きっと。

●虹と好奇心
 一際目立つ宝石や物珍しい宝石ないか軽く情報収集しつつクロウが歩き回っていると、ガラスケースの前で唸っている二人組を見つけた。ミナと深雨が一つの宝石を前にしてこそこそ話し合っている。
「……ああ、このブラックオパール。不思議と星空を思わせるような色合いをしていて惹かれますね」
 ミナが見つめているのは吸い込まれそうな黒色の向こうに七色の輝きを放つ天然石。黒蛋白石とも呼ばれるブラックオパールだ。通常、白や青っぽい淡色のオパールは白色光が散乱して色彩の輝きが外側へと拡散するのに対し、ブラックオパールは暗色の地色が吸収するため、まるで宇宙を閉じ込めたかのような神秘的な輝きを放つ。ちかちかと照明の向こうでは小指の先ほどの星空があった。
「ネクロオーブとも反発していません。……私はこれにしますね。これに鎖をつけてブレスレットにしていただきましょう」
「よっ、決まったか?」
「おや、お決まりでしょうか」
 クロウと共に現れた宝石商が二人に話しかける。こくんと頷くミナとは対照的にぶんぶんと首を横に振る深雨はまだ石が決まっていない。というよりも宝石や貴金属を身に着ける事が少なく、あまり宝石に詳しいわけではない深雨は判断材料がそもそもないので決めかねているのだ。
「あ、えと、えっと、わたし、まだ……」
「大丈夫です。きっと良い石が見つかります」
 今日の催しは宝石との出会いを探す場なのだから。
 宝石商の男によって取り出されたばかりのブラックオパールを手に、ミナは深雨に優しく笑みを浮かべて見せた。
「というか俺もまだ決まってねェ」
「なるほど……お客様は普段宝石を身に着けていますか?」
「あ……いいえ……」
 まだ十五歳の少女は本物の宝石を身に着ける機会が少ない。正直に告白すると、宝石商の男はにこりと笑って解説を始めた。そう、ここは宝石を探す場。なにもアクセサリーにこだわる必要はないのだ。
「そうですね、お客様のご年齢ですとまだ本格的なジュエリーと触れ合う機会は少ないかもしれません。ですが身近に輝く宝石は星のようにきらめいてお客様を引き立ててくれます。ここはいっそ家具としての宝石はいかがでしょうか」
「家具……ですか」
「はい。たとえばシャンデリアなどいかがでしょう。お洒落な照明器具など若い女性にも人気ですよ」
「シャンデリア……」
 深雨がその言葉を元にふわりふわりと思考の雲を飛ばしていく。確かにアクセサリーでなくとも身の回りに素敵な小物類は沢山あった気がした。
「確かにインテリアに加工するほうが望ましいかもしれませんね。例えば……机に乗るくらいの、小さなスタンドを作って、そこに宝石を吊り下げて……」
 それと台座に電飾をつけて、下から光を当てるようにしたら。きらきら光の欠片を反射して部屋中に撒いてくれるだろう、それは。
 それはきっと、とても、きれいだ。
 宝石商の男も感心したようにうなずいている。
「なんて……どうかなって……」
「とても素晴らしい着想ですよ、お客様。それではそれにふさわしい宝石を選びましょう」
「あっ……えっと……あまり詳しくはないので……どういったものがありますか……?」
「そうですね、光の屈折による景色を楽しみたいのならずばり、クリスタルがおすすめです。ほんのわずかな光の加減によって魔法のオーラを生み出してくれますよ」
 赤橙黄緑青藍紫は様々な角度から当たる光のプリズムによって形成される。サンキャッチャーを模して反射用のクリスタルガラスなどを用いれば、深雨の望むシャンデリアによく映えるだろう。
 カッティングされた中にはスワンやイルカといった動物を模したクリスタルの置物もある。可愛らしい動物達はきらきらと輝きながら透き通っていた。
「わぁ……これにします……!」
「お、決まったみたいだな」
「そちらは?」
「そうだな……」
 クロウはぱっと目を惹く宝石に手伸ばす。
 彼が直感で選び取ったのは尖晶石、レッドスピネル。ルビーよりも透明度のある灼熱の赤、はっきりとした赤が非常に美しい石だ。誰かの瞳を彷彿とさせる色合いだった。
  レッドスピネルの石言葉は好奇心。持ち主に自信を与え、好奇心や探求心を高めて挑戦する力を与える。
「アイツにはもうこれ以上の好奇心なんてェのは有り余ってそうだが……」
「贈答に、ですか?」
「あー……まあ、そんなトコだ」
 言葉を濁して足早に加工の作業席がある方へとクロウが歩いて行く。
 深雨はぱたぱたと慌ててその後を追った。

●惹きつけられるもの
 作業の席にはグラナトにイリーツァにミナ、それと最初に来ていたサヤのそれぞれが席についている。グラナトとイリーツァはプロに加工を頼むついでに職人の技を間近で見ているようだ。研磨やカッティングを繰り返して、宝石が割れたり砕けたりすることなく自在に形を変えていくのはまさしく職人芸だった。
 手ほどきを受けつつクロウと深雨はそれぞれ製作に取り掛かり始め、サヤはすぐ横にいる宝飾デザイナーの話にしきりに首を縦に振っている。みながわいわいと賑わいをみせる中、一足先に完成したミナは腕で煌くブラックオパールのブレスレットを見つめた。
「……本当に綺麗な石達。昔から人々が惹き付けられるのもわかります。いえ、惹き付けられるのはきっと人だけではないのでしょうね……」
 そう、この宝石につられて招かれざる者が近づきつつあるのを、猟兵の誰もがみな感じ取っていた。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

花邨・八千代
【徒然】
めっちゃキラキラしてんなー!すげー!
いろんな宝石があんだなァ、どれもたっかそー……。
アクセサリー作れんだろ?ぬーさん、なんにする?

◆行動
相談の末作るものは右手薬指用のペアリングに。
俺が選んだのは青味の強いタンザナイト。

あのな、指輪のモチーフ鳥にしたい。
かぁいい小鳥に、目のとこ宝石はまったやつ!
二羽でくっついてるみたいな感じがいいなー、俺。

ぬーさんが指輪を作ってる間は背中の辺りに張り付いて見学。
細かい作業、向いてねーんだよ。
力仕事があればその都度手伝うぞ。

指輪を嵌めてもらい、くすぐったくて小さく笑う。
右手、指を絡めて。

ほんとでっけー手だよなァ、俺の手ほとんど隠れちまう。
指輪、ありがとな。


薬袋・布静
【徒然】
喜んでるようで
イベント主催者に感謝やな
んー、ペアリングはどうや、ダーリン

◆行動
選んだのは赤みの強いサンストーン

宝石の瞳を持った小鳥が二羽寄り添うか…
ええんやない?

一人で飛ぶ事もままならん“比翼の鳥”みたいで

皮肉めいた事を口にし、指のサイズを測る
背の八千代をそのままに過程を学び製作
素材はプラチナ・ゴールド・ピンクゴールドを選ぶ
裏に刻印で小鳥と宝石を嵌めるのは職人任せ
許せ、絵心皆無なんや

全面にマットつや消しと槌目加工を施された指輪が完成

八千代の右手薬指に指輪を嵌めて
己の指にも同じように鈍く光る指輪
絡めるように合わさった手に

俺がデカいってのもあるが…ちっこいもんなお前
っはは、どーいたしまして



●君の為の翼
「めっちゃキラキラしてんなー! すげー!」
 ガラスケースから跳ね返った光が瞳の中で泳いでいる。宝石と同じくらいにキラキラと目を輝かせながら色とりどりの宝石を吟味するのは花邨・八千代(f00102)だ。その姿をまるで保護者のように後ろから眺めている薬袋・布静。二人とも今日は依頼にかこつけてこの場に来ている猟兵だ。本日は呪詛型UDCの誘引任務、もといデートである。
「おー……喜んでるようで。イベント主催者に感謝やな」
「こんな機会滅多にねーもん。しかもタダだとよ」
 宝石と言うのは貴重品だ。当然値も張る。目玉が飛び出るほど、という喩えはUDCアースでは馴染み深い。それを今回は無料でサービスともなれば、食いつかない道理はない。デパートの体験イベント会場には猟兵にまじって一般人の姿も多く見受けられた。
「いろんな宝石があんだなァ、どれもたっかそー……」
 値札が付いていれば回れ右をしたかもしれない宝石を八千代が目をまあるくして見る。ゼロがいくつ並ぶことやらと布静も彼女の頭越しにガラスケースの向こうに飾られた宝石を見た。精巧に切り取られて研磨されて加工を施された宝石もあれば、岩についたままの原石の状態で保管されているものもある。
「今日はこれでアクセサリー作れんだろ? ぬーさん、なんにする?」
「んー、ペアリングはどうや、ダーリン」
「おっさんせーい。んじゃそれにするか」
 せっかくならば揃いのものを一つ拵えてみないかと布静が持ち掛ければ、彼女も同じ気持ちだったのか快諾した。それぞれが選んだ宝石のペアリングを互いに贈り合うのもいいだろう。早速布静と八千代は宝石を探してその場を移動する。
 数分後戻ってきた二人は気に入った宝石を見せ合った。八千代は青味の強いタンザナイト。一方布静は赤みの強いサンストーン。
「あー……」
「どうしたぬーさん」
「いや、お互いの色を見事に選んできたなと思っただけや」
「あっ本当だ。この色スゲーぬーさんみたい!」
「……無意識やったか」
「は? どういうことだよ」
「いや何でも」
 目の前の相方は少し混じった天然がなんとも可愛らしい。選び取った宝石を手に二人は作業台の方へと連なって歩く。さて宝石選びは順当に終わった。ではデザインは何にするべきかと布静が悩んでいると、急にぱっと思いついたように八千代が声を上げる。
「ぬーさんあのな、指輪のモチーフ鳥にしたい。かぁいい小鳥に、目のとこ宝石はまったやつ!」
「おー、ええんちゃう」
「二羽でくっついてるみたいな感じがいいなー、俺」
 その言葉に布静の脳裏にあるひとつの話が浮かぶ。古代中国の伝説上の生物の逸話。一つの翼と一つの眼を持つ比翼の鳥だ。二匹は単眼と片翼しか持ち得ていない。雄鳥と雌鳥が飛ぶ際には隣り合って、互いに飛行を支援しなければ飛ぶことができない。仲睦まじさを表す際にも用いられるあの鳥を思い出して、布静は思わずくすりと笑った。確かに例えるならば自分達の関係性は比翼の鳥そのものだ。
「宝石の瞳を持った小鳥が二羽寄り添うか……ええんやない? 一人で飛ぶ事もままならん“比翼の鳥”みたいで」
「んー、ヒヨク、とかいうのはよくわかんねーけど。二匹一緒になってたら一匹で居るよりずっと楽しいもんな!」
「……」
 皮肉めいた事を口にした布静に対する八千代の返答はケロリとした明るいもので。一瞬天然なのかそうではないのか判別がつかずに黙り込む。彼女の顔を覗き込んで、しかしその天真爛漫な笑顔に毒気を抜かれた布静は思わず笑ってしまった。急に笑い出した相手に不思議がる八千代の手を引いて、布静は作業用の席に着く。
 握ったままの右手の薬指を恭しくつまむとサイズ判別用のリングをすべらせた。
「ん、こんなもんやな」
「ぬーさん自作するんだ」
「お前は?」
「俺は細かい作業、向いてねーんだよ。力仕事があればその都度手伝うぞ」
「力要る作業は多分無いと思うんやけど……」
「ちぇー」
 宝石を叩き割ってしまいそうな彼女に丁重にお断りしておいた。加工は繊細さが求められる。彼女の力はまた別の――それこそUDC討伐の際にお披露目してもらうとしよう。ぴとりと背の後ろについて布静の作業を眺めている。宝石職人の手ほどきを受けつつ、布静はさっそく作業に取り掛かった。素材はプラチナ・ゴールド・ピンクゴールド。指輪の形を整えながら慎重に加工をつづけていく。ある程度終わったところで息をつけば八千代が不思議そうに首をかしげていた。
「鳥のところはやんねーの?」
「許せ、絵心皆無なんや」
「ふーん、へーえ、そう……今度描いて見せろよな!」
「話聞いてへんなこれは。苦手なんやって」
 餅は餅屋だ、せっかくプロがいるのだから。そうこうしているうちに職人はすぐさまリクエスト通り、寄り添いあうような二匹の鳥の刻印をいれるとその窪んだ瞳に宝石をはめ込んだ。サンストーンにタンザナイト、きらりきらりと赤い目と青い目を手に入れた鳥は画龍点睛のようにそのまま指輪から解き放たれて飛び立ってしまいそうだ。
 つや消しなどの工程を挟んでようやく指輪が出来上がる。
「お手をどーぞ? お嬢さん」
「へへー」
 八千代の右手薬指に指輪を通してやればくすぐったいのか彼女が微笑む。右手の薬指をからめあって、そのままぴたりと手を合わせれば。指の向こう側では対になった鳥が羽を広げていた。比翼の鳥は二匹で初めて空を飛べる。
「ほんとでっけー手だよなァ、俺の手ほとんど隠れちまう」
「俺がデカいってのもあるが……手ェちっこいもんなお前」
「言うほどちっこくねえって。……指輪、ありがとな」
「っはは、どーいたしまして」
 合わせていた手をすこしだけずらして、二人は互いに指をからめて恋人つなぎに切り替えた。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

トリス・ビッグロマン
f18291
ネロと

なんだ、思ったより小ぶりのものばっかだな
タダなんてケチなことは言わねぇ、宝石商
いくらでも積むから上等なのを持ってこい
そいつをピアスにしてもらおう
見ての通り片耳が欠けているから、ひとつでいい

キラキラした石を前にしても、物々しい空気を崩さないネロに呆れる
慣れてるなんて当たり前だ
相応の物を身に着けないとオレの格が落ちる

そうだ…バイオレットサファイアはあるか?
それはツレに買う

ツマランことを言うなよ、ネロ・ケネディ
美人は相応の宝石を身につけるべきだ
それに価値あるものを身につけていれば、
相応しい者になろうって気になるだろう

オレほどの器には、ひとつふたつの宝石じゃ足りないがな


アドリブ歓迎


ネロ・ケネディ
トリスさんと(f19782)

――小ぶりのもの、ばかり?
トリスさんはこういう、豪華なものになれてらっしゃるのですね
ああ、いえ、私は、あまり。
余計なアクセサリは、戦う時に邪魔なので――。
彼のお誘いでこの店に来ましたが、やはり警戒は解けません
私は彼の様に「大きく」ないだけ
常に、周囲は警戒しておかないと。そういう依頼ですから

与えてもらうのなら「それらしい」ものにはなろうと思います、けど
ああ、またそんなポンとお金出しちゃって――名前通りの人。
いいえ、有難く頂戴します。思い出として、大事に。
きれいな石。あまり、興味がなかったのですが
視れば視るほど、きれい
……ところで、これおいくらするんでしょうか――うわ。



●幾億の財宝よりも
 トリス・ビッグロマン(f19782)は目の前に並んだ宝石をしげしげと眺めると片眉を吊り上げる。大粒の宝石も並べられていたが、それは彼が思っていたよりも数が少なかったようだ。トリスは軽く首を振って見せた。
「質は良いが……なんだ、思ったより小ぶりのものばっかだな」
「――……小ぶりのもの、ばかり? トリスさんはこういう、豪華なものになれてらっしゃるのですね」
 トリスの言葉に反応を示したのはネロ・ケネディ(f18291)。佇まいが稀薄な彼女はゆらりと空気のように彼の傍らに立っていた。こてん、と不思議そうに首をかしげる。宝石達は彼女の目にはそれなりの大きさに見えたからだ。一カラットは二百ミリグラム。どれも小さいと思えず、そこそこの大きさに彼女の目には映っていた。
 トリス・ビッグロマンその人は、物語における王子の役割を当てはめられた存在だ。狩人役であったはずの物語から引き抜かれた彼。彼本来の物語の行方はここではいったん置いておくとして、トリスは必然この種の貴金属類には詳しい。それが王子をあてがわれた彼の品位を示すのだから。
「まあな、慣れてるなんて当たり前だ。相応の物を身に着けないとオレの格が落ちる。そっちはどうなんだよ」
「ああ、いえ、私は、あまり。余計なアクセサリは、戦う時に邪魔なので――」
 ネロの爪先から頭のてっぺんまで、見回しても特にこれといった装飾類は見つからない。指輪にアンクレット、ピアスなど。自身を飾り付けることはしていなかった。しいて言えば胸元に光るペンダントくらいだろう。それも大粒の宝石を埋め込んだようなものではない。
 ネロは非常に注意深くあたりを見まわした。イベントの会場には今のところUDCの影も形も見つからないが、微かに妙な邪気を感じる。今回の任務はUDC誘引だ。必ず敵が現れるのを分かっていてみすみす警戒体勢は解けないとネロはあくまでも任務に注力していた。
 器という観点で見て、彼女は彼のように大きくはない。それだけだとネロは考えている。
 ――……与えてもらうのなら彼のようにそれらしきものにはなれるかもしれない、けれど。

(彼のお誘いでこの店に来ましたが、やはり警戒は解けませんね)

「堅苦しいぞ。もっと肩の力を抜いておけ」
「いいえ。常に、周囲は警戒しておかないと。そういう依頼ですから」
 あくまで警戒を続ける彼女の様子にトリスは呆れたように息を吐いた。キラキラした宝石達を前にしても、物々しい空気を崩さないネロにやれやれと首を振る。彼女とは逆に誘引任務だからこそ楽しむべきなのだと、トリスはイベントの趣旨に沿うことにした。すなわち宝石選びである。宝石商の男は二人の前にタイミングよく現れた。
「お決まりになりましたか、お客様」
「おう。タダなんてケチなことは言わねぇ、宝石商。いくらでも積むから上等なのを持ってこい」
「かしこまりました。今回の催しは私共の店を知って頂くキャンペーンも兼ねておりますので、本当に大粒の商品は別のケースにて取り扱っているのですよ。お客様であれば良き宝石がご提供できると思います」
 意図せずしてこの場で宝石の買取契約を結べたことに宝石商の男はやや驚きつつも、トリスの要望に応じて店員と相談を始めた。店員にカウンターの奥にあった棚からアタッシュケースを持って来させる。ケースを広げればたくさんの仕切りの向こうに大粒の宝石がぎっしりと詰め込まれていた。このケースだけで相当な値段になるだろう。
「どれになさいますか、お客様」
「そうだな……ここは宝石商の審美眼に任せよう。見繕ってもらおうか。そいつをピアスにしてもらう。見ての通り片耳が欠けているから、ひとつでいい」
「左様でございますか。それではお客様に叶う宝石を見つけ出して見せましょう」
「そうだ……バイオレットサファイアはあるか?」
「はい、こちらに」
 トリスの言葉に宝石商は頷いた。宝石商の男が慎重に持ち上げて手に取った紫色の大きな粒は、まるで朝露がまだ付いたままのつみたての葡萄のようだった。五カラットを優に超えている。
「それはツレに買う」
「お買い上げありがとうございます」
「ああ、またそんなポンとお金出しちゃって――」
 名前通りの人だ、とネロは言う。ビッグロマンの名に恥じぬ振舞いは、まるで物語の書き手からそうあれと願われた役のよう。ネロの言葉にトリスはニヒルな笑みを浮かべてこう宣った。
「ツマランことを言うなよ、ネロ・ケネディ。美人は相応の宝石を身につけるべきだ。……それに価値あるものを身につけていれば、相応しい者になろうって気になるだろう」
「確かにそんな上等なものを頂いてしまったら、それらしいものにはなろうと思います、けど」
「ならそうした方が良い。それとも要らないか?」
「いいえ、有難く頂戴します。思い出として、大事に」
 バイオレットサファイア。直観力を高めてくれるという文言の通りならば、その石は持ち主を善い方向へと導く。為すべきことを思い出させてくれる目覚めの力を秘めているのだとトリスは言った。
「きれいな石。あまり、興味がなかったのですが……視れば視るほど、きれい」
「気に入ったのなら何よりだ。それで、オレの宝石は決まったか宝石商」
「大変申し訳ございません。もう暫しお時間を頂きたいのです、お客様。どの石もとても似合うでしょう、しかしたった一つその宝石を貴方に選ぶには、些か時間を要してしまいます。私はまだまだ未熟ですね」
「構いやしねえ。好きなだけ時間をかけろ。……オレほどの器には、ひとつふたつの宝石じゃ足りないからな」
 腕を組んで静かに待つ体勢になったトリス。そんな彼に叶う宝石……非常に希少な石でもあるパロットクリソベリルを宝石商が選びとるまで。彼はそっと目を閉じていた。持ち主の往く道を肯定し、その手助けをする。そんな石との出会いが彼には待っている。
「……ところで、これおいくらするんでしょうか――うわ」
 宝石商が石を選ぶのを待つ間、ふと気になって周囲にゆるりと視線を向けたネロは、電卓に並んだゼロの数に少しだけ眩暈を覚えて。そっと見なかったふりをして。静かに視線を手元のバイオレットサファイアに戻したのだった。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

蜂月・玻璃也
【土蜘蛛】
お小遣いって言うな
経費と言え……えっ無料?ほんとうに?
助かった……えっほんとに無料?

俺の分はなんでもいいから、べりるにあげるよ
そうすれば戦術リソースが一発増えるし
だ、だって俺が宝石に詳しいように見えるか?
座布団ってなんだよ!
わかんねえよ、女心……

でも楽しそうに作業する二人を見てると、
なんだか宝石を見る目が変わってくるかもしれない
わ……このダイヤ、グレーがかかってて綺麗だな
姉さんの瞳みたいだ
じゃあ、シンプルで落ち着いた感じのペンダントに……

なあ
やっぱりこれ、俺が貰ってもいいか?

今も病院で意識の戻らない姉さんに、
プレゼントしたいと思ったから


星鏡・べりる
【土蜘蛛】
へ〜、無料なんだ……
結構イイ宝石も混ざってるみたいだけど、太っ腹だね!

エメラルドをいくつか眺めながら思案。作るならネックレス辺りかな?
こういうのは難しく考えず直感で選んだ方がいい。
悩んでそうなよーこには、そう伝えよう。

この室長、みもふたもない事を言うなぁ……
確かに私は宝石を弾丸にするけど、この雰囲気で言っちゃう?
男子として0点だね〜

そうだね、そっくり。
うん、いいんじゃない。
私の弾は、ちゃんと経費であげるから大丈夫だよ。


花剣・耀子
【土蜘蛛】
室長、お小遣い――……えっ無料? ほんとうに?
なるほど。それじゃあ、遠慮なく選びましょう。

石の扱いは専門外なのだけれど。
こういうのって、選ぶコツみたいなものはあるのかしら。
べりるちゃんの手元を伺いつつ、濃淡様々な青色を眺めて思案顔。
……ふうん、直感。なるほど。

室長は如何するの。
好きな色や石はある?
……、――ほんと、張り合いがないこと。
座布団5枚没収ね。

惹かれたサファイアを一粒手に。
あたしもペンダントにしましょう。
華美にしなくて良いから、自力で頑張ってみるわね。

良いんじゃない。
直感で、って。べりるちゃんも言っていたでしょう。
持っていたい気持ちになったなら、そこにあった方が良いのよ。



●その宝石は彼の手に
 一人の男性を囲むようにして女性が二人立っている。両手に花か、否。彼らの関係性は上司と部下である。――……名目上は。
 UDCアースにおけるアンディファインド・クリーチャーの対抗組織であるアンダーグラウンド・ディフェンス・コープが内の一つ。対UDC組織《土蜘蛛》特型異能対策室所属である彼らは室長である蜂月・玻璃也(f14366)を筆頭にこの度、UDC討滅の協力要請を受けてこの場に居た。
 仕事なんだぞと釘をさす玻璃也の言うことなど小指の爪先ほども聞いていないのか、ぱたぱたと駆け出そうとする部下の星鏡・べりる(f12817)に、これまた勝手にどこかに行こうとしている部下の花剣・耀子(f12822)。慌てて手綱を握ろうとあっちへ行くなこっちへ行くなと必死に面倒を見る彼は端から見れば保護者のように見えたかもしれない。が、ここでは割愛しておこう。
「室長、お小遣い」
「おこづかーい」
「お小遣いって言うな。経費と言え」
 こめかみの部分を押さえている玻璃也に宝石商の男は穏やかな顔でこう言った。お客様、本日の催しはガラスケースの中の宝石であればお代は頂戴致しません。
 玻璃也の目が見開かれる。
 いまなんて、と聞き返した玻璃也に無料でございますと再度男は申した。
「……えっ無料? ほんとうに?」
「――……えっ無料? ほんとうに?」
 奇しくも玻璃也と耀子の声が重なる。二人の後ろからべりるが感心したように声を上げた。
「へ〜、無料なんだ……結構イイ宝石も混ざってるみたいだけど、太っ腹だね!」
「なるほど。それじゃあ、遠慮なく選びましょう」
「助かった……えっほんとに無料?」
 まだ事態が飲み込めていないのか玻璃也は念押しするように宝石商の男に聞き返している。ほんとうですか。ほんとうでございます。ほんとに? うそじゃない? ほんとですって。そんなやり取りを聞き流しながらべりると耀子はさっさと室長を放ってガラスケースから宝石を選び始めた。

「石の扱いは専門外なのだけれど。こういうのって、選ぶコツみたいなものはあるのかしら」
「そうだなあ、こういうのは難しく考えず直感で選んだ方がいいよ、石を選ぶというよりも石の方がこっちを選ぶってこともあるからね、よーこ」
「……ふうん、直感。なるほど。……ありがとうべりるちゃん」
「どういたしまして!」
 手元を伺いつつもどれを選んでいいのか悩んでいそうな傍らの彼女に、べりるがそっとアドバイスする。べりるはエメラルドを前に、耀子はずらりと並んだ濃淡様々な青色を前にして思案した。
「そうだなあ、作るならネックレス辺りかな?」
「身に着けられるならそれがいいでしょうね。指輪だと剣の邪魔になりそうだもの」
 首から下げられるなら戦闘時は服の下にしまい込んでおけばそう簡単には落とさないだろう。指輪や耳飾りではどうしても戦闘が常の彼女達にとっては邪魔になってしまう。身体の動きを阻害しないネックレスが妥当と言えた。
 二人がどれにしようかと意見を交わしていると後ろからばたばたとせわしない足音が近づいてくる。置いて行かれた玻璃也だった。
「はぁ……はぁ……ここに居たのか、勝手にどんどん先に行くなって」
「遅いんだもの」
「目を離したら勝手に居なくなってたの室長の方だよ。ねー、よーこ?」
「ええ。子供そのものね」
「お前らだよ!」
 思わずツッコミが飛び出す。玻璃也はようやく息を整えると、呆れからかゆるく首を横に振っている。一呼吸のあとにそれで宝石は、と二人に聞いた。
「決まったかのか?」
「んーん、まだ決めてない」
「そう言う室長は如何するの。好きな色や石はある?」
「あー、俺の分はなんでもいいから、べりるにあげるよ。そうすれば戦術リソースが一発増えるし」
 銃に装填した任意の宝石弾が増えるのならばそれに越した事はないと玻璃也が言う。それは宝石選びではなく戦闘観点からの発言だった。
「はぁ……この室長、みもふたもない事を言うなぁ……。確かに私は宝石を弾丸にするけど、この雰囲気で言っちゃう?」
「……、――ほんと、張り合いがないこと」
 散々な言われようである。確かに宝石選びとは本来贈り物ないし自分用に、自らを飾る美しい装飾具をあれこれと選ぶためのものだ。それはきっと恋人同士でなら甘い雰囲気に、自分のためならば至福の時間に成りえるもので。今の彼の発言は雰囲気壊しも良いところだと彼女達は溜息をふぅと吐いた。慌てて玻璃也が弁解するが時すでに遅し。
「だ、だって俺が宝石に詳しいように見えるか?」
「男子としてゼロ点だね〜」
「座布団五枚没収ね」
「座布団ってなんだよ! わかんねえよ、女心……」
 ぐうう、と唸る彼を横目に彼女達は和気あいあいと宝石選びに勤しむ。そんな楽しそうに作業をする二人を見ていると、玻璃也も純粋に宝石を見る目が変わってきたような気がした。普段見るべりるの攻撃手段としてではない、本来の装飾目的である宝石を。
 玻璃也はガラスケースの向こうに光る色にふと懐かしさを覚えた。記憶の端で見たことのあるそれに思わず目を奪われる。ダイヤモンドは無色透明なものほど価値が上がるが、色味が強くある一定ラインを超えたものはファンシーカラーとして扱われている。
 玻璃也の見つけたダイヤモンドはやや灰色みの強い色合いのダイヤモンド。懐旧に思わず手を伸ばした。
「わ……このダイヤ、グレーがかかってて綺麗だな」
 ノスタルジーの正体にようやっと気づく。ぽつりと玻璃也は無意識のうちに零した。ああ、これは、この石の色は。
「姉さんの瞳みたいだ……」
「そうだね、そっくり」
 ひょこりと横から覗き込んだべりるが彼のつぶやきを肯定する。
 彼女の瞳によく似た色だとべりるはほんのりと微笑んだ。それは今見る事のかなわない、病院で寝たきりの玻璃也の姉の目が宿していた優しい灰色。
「なあ……さっきはやるって言ったけど……やっぱりこれ、俺が貰ってもいいか? 姉さんにプレゼントしたい、なんて言ったら……」
「うん、いいんじゃない。私の弾は、ちゃんと経費であげるから大丈夫だよ。選びたい石も決まったしね」
 エメラルドを指さしたべりるに、申し訳なさそうに玻璃也が謝るのを耀子が制する。
「良いんじゃない。直感で、って。べりるちゃんも言っていたわ。持っていたい気持ちになったなら、そこにあった方が良いのよ」
 そうしたいと思ったのならそうするべき。それが石を選んだ、ひいては石に選ばれたということなのでしょう。耀子が言えば、玻璃也がこくりと一つ頷く。べりるは二人の背をトンと叩いてまっすぐ作業台を見た。
「よーしじゃあさっそく加工だね! よーこはどう? 決まった?」
「ええ。このサファイアにするわ。あたしもペンダントにしましょう。華美にしなくて良いから、自力で頑張ってみるわね」
「おっじゃあ私も加工頑張っちゃおうかなー!」
「走って転ぶなよ」
 目に惹かれたサファイアを一粒手にした耀子が、べりると共に作業台に向かう。
 先程見つけた姉の瞳によく似たダイヤモンド手に。土蜘蛛の室長は今度は置いて行かれることなく、彼女達二人の背をゆっくりと追いかけた。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

比良坂・美鶴
※アドリブOK 御随意に

あらまぁ
アクセサリーの自作体験をできるなんて
素敵じゃない?

確かに宝石って憧れるし
一度自分でアクセサリーを作ってみたいとは思っていたの
ふふ 面白そう
参加させて貰いましょ

作るなら普段使いできるものが良いわね
そうねぇ
ペンダントなんかがいいかしら
宝石は……
うぅん、どれも綺麗で素敵だけれど
折角だから宝石商の方に
似合いのモノを見繕って貰いましょ

あら素敵
やっぱりこういうのは専門家の目が一番イイわね

さて 加工だけど
手先の器用さには自信があるわ
教えて貰いながら
自分で作ってみましょ

華やかなものは好きだけれど
アタシには似合いそうもないし
シンプルに纏めましょ


アンリエット・トレーズ
アクセサリーやジュエリーを身に着けなくともアンリエットは十分カワイイのですが
それはそれ
きらきらしたものや可愛いものはもちろん好きですし
かわいいアンリエットがきれいなものを身に着けることで魅力が増すのは当然ですね
足し算というやつですよ

ふんふんとガラスケースを覗き込みつつ
実は欲しいものは決まっているのです
青い石がよかったので
ブルートパーズ、写真で見るよりきれいですね

問題は加工とやらです
アンリエットは賢いので、プロに任せる方がよいことは知っています
知っているのですが

イヤリングなどが好きなのですよね
でもアンリエットのお耳は
こう

こうです
垂れた犬耳を自身で引っ張りつつに

このお耳にも着けられますか…?


シャルファ・ルイエ
宝石ってなかなかのお値段がするんじゃなかったでしょうか……!
あの、本当に無料で良いんでしょうか?赤字でお店が潰れてしまったりしませんか?

お店の経営についてはちょっと心配になりますけど、やっぱり綺麗なものは見ていると楽しいです。
飾られている宝石や見本品をあれこれ見せて頂いてみますね。
どれも素敵ですけど、チョーカーや髪飾りは持っていますし、作るならイヤリングが良いでしょうか。
せっかくなので使う宝石を幾つかプロの人に見繕って貰って、頑張って自分で作ってみようと思います。
選んでもらった石の意思言葉なんかも聞いてみたいです。

そんなに不器用ではないので、教えていただきながらならちゃんと作れると思うんです。


桜雨・カイ
乙女ではないですが参加しに来ました。
ジュエリーは普段つけないので何にすれば…そうだ、髪を結う飾りとか良さそうですね

宝石はあまり詳しくないので、おまかせしていいですか?
デザインはシンプルなのがいいです。普段使いできるように

せっかくなので頑張って加工してみます。
仕上げはプロの人にお願いします。
………人形の修理で細かい作業は得意なはずなのですが
こういうアクセサリーの作業とは違います…やはりプロの人は上手いですね。



●あなたに寄り添う石
「あらまぁ、アクセサリーの自作体験をできるなんて素敵ね」
「ええ、ご要望の声も大きかったので。この度開催させて頂きました」
 比良坂・美鶴(f01746)の言葉に宝石商の男がそうでしょうそうでしょうと大きく頷く。今回この場にいる猟兵達はイベントの参加者だ。たとえその後に戦闘が控えていようと、今この瞬間だけはイベントを楽しむことに目的がある。
 もちろん呪詛を撒き散らすUDC捕獲のための誘き出しではあるが――しかしそれ以上に。このイベント自体を楽しみにやってきた猟兵も多い。
「確かに宝石って憧れるし、一度自分でアクセサリーを作ってみたいとは思っていたの。ふふ 面白そう。参加させて貰いましょ」
「それでは皆様、お好きな宝石をお選びください」
「アクセサリーやジュエリーを身に着けなくともアンリエットは十分カワイイのですが……」
 それはそれとして。透き通った美しさを持つアンリエット・トレーズ(f11616)もまたこの場に導かれた猟兵のひとり。
「あら、可愛らしいお嬢さん。今日は宝石をお求めなのかしら」
「そんなところです。アンリエットは着飾らずともカワイイですが、きらきらしたものや可愛いものはもちろん好きですし、かわいいアンリエットがきれいなものを身に着けることで魅力が増すのは当然ですね。足し算というやつですよ」
「可愛いものにはより可愛いものを、ね。確かに言い得て妙かもしれないわ」
 くすくすと笑う美鶴に至って真面目な顔でアンリエットは頷いた。そらいろのひとみに海を思わせる深い色合いのひとみ。二つが美鶴を見つめている。ここにさらに宝石の美しさが加わるのなら、確かにそれは足し算で相乗するだろう。
 そんな二人の後ろから少女がわたわたと慌てた声を上げている。シャルファ・ルイエ(f04245)は目の前に広がる宝石の数に思わず感嘆の声を洩らして、直後すこし不安そうに眉を寄せた。
「宝石ってなかなかのお値段がするんじゃなかったでしょうか……!」
「宝石商のお方は無料だと仰っていましたが、確かにここまでの数を見るとすこし採算が合うのか気になってしまいますね」
「あの、本当に無料で良いんでしょうか?赤字でお店が潰れてしまったりしませんか?」
 収益問題は商いの上で必須だが客を呼び込むためとはいえどここまでの規模のイベントはなかなかあるまい。シャルファの呈した尤もな疑問に答えたのは桜雨・カイ(f05712)だった。彼も器物をルーツとするヤドリガミ、物の価値は十分すぎるくらいに分かっている。ここに並べられている品々が普段売り物として扱われているものと殆ど遜色なく、値が張ることも理解していた。それをこんなにふんだんに一般人に提供してしまって大丈夫なのだろうか。
「ふふ。大丈夫です。今回私共の提供させていただく宝石達はきちんと収益を見込んだ上での開催ですから」
 宝石商の男はそれなりに敏腕なのか利益を度外視しているわけではないらしい。
「それなら良かった……やっぱり綺麗なものは見ていると楽しいです」
「そうですね。私は乙女ではないですが……その気持ちは少しわかるような気がします。人の身に着けるものというのはいつ見ても綺麗ですから」
 きらりきらりと星が舞う。昔から人々をより美しく、さらに美しくみせるためにと宝飾類は重宝されてきた。人を惹きつける魅力的な品の数々は冬至から変わらないきらめきを宿している。
「それにしても宝石選び、どうしましょう」
「そうですねえ……」
 カイもシャルファもむむむと悩みこんだ。カイは普段ジュエリーはつけておらず、シャルファは既にチョーカーや髪飾りは持っている。新しく選ぶとしたら何が良いか二人とも決めあぐねていた。そんな最中にひょっこりと顔を出したのは美鶴とアンリエットだ。
「お悩みのようね」
「決まらないのですか。アンリエット、実は欲しいものは決まっているのです」
「はい、まだ悩み中で……」
「アンリエットさんはどれにするんですか?」
「青い石がよかったので……そうですね、この中だとブルートパーズでしょう」
 ふんふんとガラスケースを覗き込んでいたアンリエットが迷いなく一直線に指を指し示す。細い折れそうな指の先にはクッションの上に乗るブルートパーズが置かれていた。美しいクリアブルーがきらりきらりとガラスケースの中で反射している。
「写真で見るよりきれいですね」
「わぁ……素敵です! アンリエットさんにぴったりです!」
 シャルファがアンリエットの瞳の色と重ね合わせてとても似合うと自分の事のように喜ぶ。アンリエットも嬉しそうに……とはいっても凪いだ顔のままこっくりと頷いた。精神安定、集中力のお守りとしての効果が高いそれは大人の落ち着きを持つ彼女に相応しい石だ。
「ええ、本当によくお似合いです。私も事前に決めてくれば良かったですね……どうしましょう」
「あら、決められない人は宝石商の方に見繕ってもらうこともできるみたいね」
 美鶴が壁に掲載されていたイベントポスターに書かれていた文言を読み上げる。貴方だけの素敵なジュエリーを。こちらでお選びすることも可能です。きっと貴方に似合う宝石との出会いをプロにお任せください――等々。
「ですって。せっかくだから頼んでみたらどうかしら」
「それは助かります。宝石はあまり詳しくないので……おまかせしてみましょうか」
「あ、わたしも……石言葉、少し気になっていたんです。似合う宝石を選んでもらえたら嬉しいですね……!」
 カイとシャルファはにっこりと笑いあって宝石商の男に宝石選びを委託することにしたようだ。
 美鶴もまた、まだ宝石が決まっていない。どれもこれも美しい色をしている素敵な宝石達からひとつ選び取るのは難しそうだ。
「うぅん、どれも綺麗で素敵だけれど……折角だからアタシも宝石商の方に似合いのモノを見繕って貰いましょ」
「おや、これは大役を任されました。それでは僭越ながら、お客様にお気に召して頂けるような素敵な宝石を選びましょう」
 いつの間にか傍に立っていた宝石商の男が冗談っぽく笑う。胸を軽く叩いて三人の石選びに取り掛かった。
 ブルートパーズをもったアンリエットもゆっくりとその後ろをついていく。
 宝石商は三人と会話をして人物像を掴むとそれぞれガラスケースから三つの宝石を取り出した。
 シャルファにはパライバトルマリンを。
 美鶴にはタンビュライトを。
 カイにはロードクロサイトを。
「わ……!」
「綺麗ね」
「どうしてこれを?」
「はい、それではシャルファ様から解説致します」
 シャルファの手に乗せられたパライバトルマリンはみずみずしい色をした希少石だ。トルマリンとはそもそも成分元素がかなり複雑な混ざり方をしたものだ。鉱物そのものの名前というよりも鉱物グループの総称としての扱いが強い。その中でも特に希少でネオンブルーが美しいものがパライバトルマリンである。
「トルマリンの石言葉は希望ですが、パライバトルマリンは根源……ルーツを石言葉とします。お客様は過去あまり知らないと仰られていました。記憶がなくとも、過去を辿れずとも、それに心を病むことなく前を向いて進んでいけるお客様の強さをより美しく輝かせたいと思い、パライバトルマリンを選びました」
「石言葉……同じトルマリンでも意味が違うものがあるのですね。それに、とても綺麗……」
「お気に召して頂けましたか?」
「はい!」
 美しい水色はシャルファの青色によく沿う。カイも美鶴もとても似合うと彼女を褒めた。
「素敵よ。それに色合いも良く似合っているわ。アタシのタンビュライトはどういう意味の石言葉があるのかしら」
「はい。タンビュライトは安らぎをもたらす癒しの石でございます。浄化の力を秘めるパワーストーンは持ち主の日々の疲れを癒し、精神に安定をもたらしてくれるのです」
 お客様の職業柄、死に寄り添う貴方自身にも安らぎが与えられるように。宝石商はタンビュライトを選んだのだと美鶴に言った。手の中にころがっている透明な石は美鶴の顔を映し返す鏡のようだ。
「そう……アタシ、この石にするわ。選んでくれてありがとう」
「お気に召したのなら何よりでございます。それでは最後にカイ様のロードクロサイトについて」
 カイが手渡されたロードクロサイトを見た。それは桜の花びらを思わせるやわらかな薄桃色の宝石。とろみのある優しい色合いに惹かれる人は過去になにか悲しい出来事で傷を負っているのだという。
「傷……ですか」
「それは目に見えぬ傷であることがとても多いのです。トラウマとも呼ぶべき精神への傷……その傷はずっとその方にとって心の深い場所を刺すもの。それを癒せる力もまた、この石には宿っているのですよ」
 カイが胸の内に閉じ込めている傷を感じとった宝石商は、古傷を癒す力も秘めているこの石を贈りたかったらしい。ロードクロサイトを光に透かしてみせると、カイはそっと目を細めた。
「ありがとうございます。これにします」
「決まったようですね」
 三人と宝石商が振り向くとアンリエットが立っていた。それぞれの手に宝石があることを見つけると満足げに息を吐く。
「とてもよくお似合いです。アンリエットのブルートパーズも、アンリエットにとてもよく似合っています。ただ……」
「ただ?」
「問題は加工とやらです」
「そうね。身に着けるには加工が必要だわ」
「そういえばそうですね……」
「すっかり忘れてました……」
「アンリエットは賢いので、プロに任せる方がよいことは知っています」
 知っているのですが、とアンリエットは言葉を濁した。
 知っているけれど、でも。
「イヤリングなどが好きなのですよね……このブルートパーズもそうしようかと……でもアンリエットのお耳はこう……」
 こうです。言いながらきゅっと小さな手で耳を引っ張る彼女にああ、と猟兵達は頷きを返した。キマイラの彼女の耳は人間の耳よりも頭上にある垂れた犬耳なのだ。イヤリング加工とは通常よりも勝手が違ってくる。猟兵は世界に違和感を与えないため宝石商の男もとくに気にするでもなく犬耳を見て首を縦に振った。
「このお耳にも着けられますか……?」
「なるほど、お気持ち大変よく分かります。ですがどうかご心配なく、私共の宝石職人は優秀です。どなたさまのお身体にもぴたりと合うよう加工してみせましょう」
「アンリエットさん、一緒に頑張りましょう。わたしも一緒に作ります。教えていただきながらならちゃんと作れると思いますよ!」
「そうですね、私もせっかくなので頑張って加工してみます。仕上げはプロの人にお願いしますが……人形の修理で細かい作業は得意なはずなのですがこういうアクセサリーの作業とはまた一味違いそうですね。共に頑張りましょう」
「アタシも手先の器用さには自信があるわ。みんなで教えて貰いながら自分で作ってみましょ」
 三人がそれぞれ声をかければアンリエットが少しだけ微笑んでこくりと頷いた。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エンジ・カラカ
(アドリブOK)

宝石、宝石。賢い君の宝石が欲しい。
シンシャ。知ってる?知ってる?
拷問器具の賢い君が大好きなモノ。
毒にも薬にもなるンだって。

真っ赤な宝石をブレスレットにしようそうしよう。
賢い君にも結びやすい。
うんうんイイネ。

加工は難しそうだなァ……。
プロのヒトにおまかせしようそうしよう。
見た目は数珠みたいだよなァ。
賢い君にも似合うサ。
お揃いお揃い。

これに後で毒を仕込もう。
そうすれば君のご飯にもなるだろう?
プロは君の毒を扱えない。
だからそれは帰ってから。
アァ……どんな風になるのか楽しみ楽しみ。


臥待・夏報
【SPD】
お化粧はエージェントの先輩に教わった通りに。
服は服屋で、ネイルはサロンで、毎週日曜にお勧めを訊く。
……こういうのって何にすりゃ良いのか、いまだに理解してるわけじゃないんだよね。実は。
パターンはなんとなくわかるんだけど。

だから、石や装飾はプロに見繕ってもらおっかな。
ピアスにしよう。よく使ってた安物を、最近飼い始めたカラスくんにあげちゃったから。
リクエストは――『普通の女の子に見えるやつ』で。
なーんて言うとまるで本当は普通じゃないみたいんなんだけど、マジで普通だから困っちゃうよね。

そのぶん自作は楽しむぞ。
よく見えないなー? コンタクトレンズ忘れたか? まあなんとかなるだろ、ノリだよノリ。


千桜・エリシャ
🌸アドリブ大歓迎

ふふふ、素敵な催し物ですこと
もちろん私も乙女ですから
例に漏れず宝石は大好きですわ
故郷のエンパイアでは中々お目にかかれない宝石もたくさんありますし
どれも素敵で目移りしてしまいますわね
全種類お持ち帰りしたいくらい…
冗談ですわよ?

眺めるだけでも楽しそうに
うんと考えて導き出したオーダーは
この間、クリスタリアンの友人にドレスをオーダーメイドしましたの
クリスタリアンの宝石糸――ふふ、お察しの通り髪なのですが
それを魔術加工して作られた桜の宝石ドレス
それに見合うような装飾品が欲しいですわ
そうですわね…ティアラなんてどうかしら?
作り方には明るくありませんし
ここはやはりプロにお任せしたいですわ!



●ちりばめられた桜色
 彼女のお洒落はまず準備から。
 お化粧はエージェントの先輩に教わった通りに。化粧水に乳液に、ベースのつくりはよい肌から。
 服は服屋で、ネイルはサロンで、髪はもちろん美容室に。毎週日曜にお勧めを訊く。そういう当たり前のルーチンから成り立つのが臥待・夏報(f15753)のお洒落である。とはいえど。
「……こういうのって何にすりゃ良いのか、いまだに理解してるわけじゃないんだよね。実は。パターンはなんとなくわかるんだけど……」
 UDCエージェントである彼女の日常はそうした当たり前を掛け合わせて作られているが、その実、細部に関しては成り立ちを覚えていない。こうするのが良いのだ、というのは何となくわかるのだけれど。つまるところ常人の常識とやらに合わせているだけなのだ。
「だから、石や装飾はプロに見繕ってもらおっかなって。アクセサリー自体は私も好きだしね。そっちはどう?」
「もちろん私も乙女ですから、例に漏れず宝石は大好きですわ!」
 夏報の言葉にうんうんと頷いてみせるのは千桜・エリシャ(f02565)。女性二人の目を惹きつける宝石達はきらめき揺れる光をミラーボールのようにあちこちにばらまいている。
「ふふふ、素敵な催し物ですこと。故郷のエンパイアでは中々お目にかかれない宝石もたくさんありますし……どれも素敵で目移りしてしまいますわね」
「種類が豊富だよね。沢山選択肢があるのは良い事だけれど、こんなに多いと迷っちゃう。全部素敵だから」
「ええ、全種類お持ち帰りしたいくらい……もちろん冗談ですわよ?」
「この棚から端こちらの棚の端まで――ってね。分かってるよ。冗談なことくらい」
 エリシャのいたずらっぽい声色に夏報がくすりと笑みを返した。
 くるくると二人はフロアを巡る。沢山の宝石をその目に収めるだけでも楽しい。ゆらゆらと透明な色の中には魅力がたっぷり詰まっている。目の保養だと言いながらフロアを一周して戻ってきたエリシャはうんうんと唸った。宝石選びは難航している。
「夏報さんはプロに頼むつもりだけど……どう? 決まった?」
「そうですわね……一周まわりきってしまいましたし決めないといけませんわ。うんと考えて導き出したのですけれど……」
 エリシャは上を見上げるように思案する。そう、つい最近のことだ。友人に頼んだ素敵なオーダー。
「私この間、クリスタリアンの友人にドレスをオーダーメイドしましたの。クリスタリアンの宝石糸で出来た、とびきり素敵なドレスを」
「クリスタリアンの宝石糸というと、」
「ふふ、お察しの通り髪なのですが」
 エリシャが口元に笑みを浮かべる。
 宝石で出来た種族のクリスタリアン。とくればその素材元は必然その友人の髪を束ねて糸にしたことになる。夏報が珍しいね、と小さく呟いた。エリシャが友人から贈られたのは宝石糸を魔術加工して作られた桜の宝石ドレスだ。
「ドレスに見合うような装飾品が欲しいですわ」
「なるほど服と合わせか。それは良いかもしれないね。何をオーダーするの?」
「そうですわね……ティアラなんてどうかしら?」
 素敵な服にはそれに見合うジュエリーが相応しい。ふっくらと可愛らしいドレスから連想されるジュエリーを思い浮かべて、エリシャはティアラという答えにたどり着いた。桜色のドレスを、そしてそれを纏う者をより引き立てるにはこれ以上相応しい品は無いだろう。
「決めました、私はティアラに致しましょう。宝石とその加工は……せっかくですからここはやはりプロにお任せしたいですわ!」
「同意見だね。夏報さんは――そうだなあ……普通の女の子に見えるやつにしようかな」
 なーんて言うとまるで本当は普通じゃないみたいんなんだけど。マジで普通だから困っちゃうよね。なんて夏報は付け加えて笑った。一般の女性が選ぶような、という大変シンプルなオーダーだったが、エリシャはそれを否定したりはしなかった。
「シンプルな装飾だってきっと似合うに違いありませんわ。自信をお持ちになって」
「そう? そうだといいな。さて、夏報さんは宝石選びをプロに任せる代わりに、そのぶん自作は楽しむぞ」
「まぁ! 応援致しますわね」
 宝石商の男がフロアを周ってきた彼女達に声をかける。宝石選びを任せる旨を伝えると彼は少しばかり思案して、であれば腕によりをかけて選びましょうと早速ガラスケースに手をかけた。
「お客様方のご要望、どちらも素敵です。それではお二人には此方の宝石をセレクトすると致しましょう。どうぞお手に取ってごらんになって下さい」
 宝石商の男から手渡されたのは薄い色のほのかに赤みがかった宝石だ。やわらかに天井の照明をうつして透けるそれは、なんとも穏やかな春の兆しを感じさせるパステルカラーを纏っている。ピンクジュエリーの中でももっとも有名なその石の名は――……。
「こちらはローズクォーツ。桜色が特徴的な宝石で、石言葉は美や愛の象徴。恋愛や慈しみといった女性にとって大切な感情を司り手助けする、パワーストーンとして有名です。現代の女性に大変人気の品ですね」
「女性らしさ……なるほど」
「素敵な色合いですわね」
「お気に召して頂けて光栄です。それでは何に加工致しましょう?」
「夏報さんはピアスにしよう。よく使ってた安物を、最近飼い始めたカラスくんにあげちゃったから」
「私はティアラでお願いします」
「あ、夏報さんは自作を頑張るからよろしく!」
「かしこまりました。それではどうぞ作業場へ。宝石職人が責任をもってティアラの加工とピアスの手助けを致します」
 宝石商に連れられて二人は作業台につく。宝飾デザイナーからのアドバイスもあり順調に加工は進んでいた。否、ややトラブルらしきものはあったが、おおむね順調に進んだハズである。
「んー? よく見えないなー? コンタクトレンズ忘れたか?」
「ああっ割れてしまいそう……! でも、とても素敵な造形になって参りました。あと少しですわ」
「おっと、まあ見えなくてもボヤけててもなんとかなるだろ。ノリだよノリ」
 えいやとばかりに夏報がピアスとなる土台づくりを力いっぱい進めていくのをエリシャが応援して。傍らにいる宝石職人はティアラづくりをしながら少しだけハラハラしつつも、比較的穏やかな面持ちでその作業を見守った。

●君の為の宝石
 エンジ・カラカ(f06959)は宝石に歌う。賢い君に歌う。拷問器具なる君に――唄う。
「宝石、宝石。賢い君の宝石が欲しい」
 ガラスケースの向こう側、沢山ある宝石の中から、賢い君に適う宝石が欲しい。
 ガラスケースの向こう側、沢山ある宝石の中から、賢い君に叶う宝石が欲しい。
 エンジ・カラカは歌うのだ。
 エンジ・カラカは問いかけるのだ。
「シンシャ。知ってる? 知ってる?」
 ――……拷問器具の賢い君が大好きなモノ。その宝石は辰砂。鉱物を構成する主成分は――硫化水銀。
「毒にも薬にもなるンだって。そうでショ?」
「ええ、仰る通りでございます。……これはまた、珍しい宝石をお求めのお客様がいらっしゃいましたね」
 そう、辰砂は宝石というよりは鉱物標本として売り出されることの多い石だ。美しい赤色を宿しているものの大変割れやすいため加工は難しく、そもそも宝石のカッティングの工程で行われる加熱や水洗いなどは毒性流出の危険がある。古くからの使用方法は朱砂や丹砂としての薬の側面や顔料といったもので、装飾類での活躍をしてこなかった宝石だ。
 それでもエンジ・カラカは、いやだからこそエンジ・カラカはシンシャを飾りたいと申し出た。
「加工は難しそうだなァ……プロのヒトにおまかせしようそうしよう。真っ赤な宝石をブレスレットにしようそうしよう」
「そうですね……であれば、いっそ原石のまま飾るのがよろしいでしょう。お取り扱いにはくれぐれもご注意を」
 宝石職人は器用に穴だけを貫通させると、ひもを通して小粒のシンシャを数珠つなぎにしてみせた。くるりと手首を廻る大きさのそれはちりちりと手元で鳴いている。
 そうして手渡されたシンシャをそっとエンジは賢い君に結びつけた。
「賢い君にも結びやすい」
 するりとひもを通して、軽く結んで、はいできあがり。これが君の為の宝石だ。
「うんうん……イイネ」
 似合っている似合っているとエンジは嬉しそうにその金の瞳を細めた。
「見た目は数珠みたいだよなァ。賢い君にも似合うサ。お揃いお揃い」
 おそろいだ、とエンジは言うとそのまますらりと腕を動かした。ちゃりちゃり、ちゃりり。シンシャはそのまま賢い君にまとわりつく。
「これに――後で毒を仕込もう。そうすれば君のご飯にもなるだろう?」
 ちゃりちゃり、ちゃりり。
 ちゃりちゃり、ちゃりり。
 ひどく物騒な声は誰にも聞こえない。シンシャの鳴る音で掻き消されるほどの小さな声は誰にも届かない。
「プロは君の毒を扱えない。だからそれは帰ってから。アァ……どんな風になるのか楽しみ楽しみ」
 にこりと笑うとエンジ・カラカは揺れる赤色に満足げに頷いて、そっと手元を隠してしまった。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『キラキラ光るモノ』

POW   :    体力を生かして探す

SPD   :    技術を生かして探す

WIZ   :    知力を生かして探す

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●かっさらう者達
 ジュエリー作りにいそしむ彼らの頭上に黒い影がかかる。最初はひとつだけだったそれが、ふたつ、みっつよっつ、いつつ、むっつななつやっつ、ここのつ。瞬く間に数を増していく。
 猟兵達が頭上を見上げれば真っ黒い羽根に身を包んだ鴉が自分達を見下ろしていた。周囲の人々も異様な光景に気づいたのか、みな口々に指差して頭上を仰ぎ見ている。
「どうしてデパート内に鴉が……」
「待って、なんだか様子がおかしいわ」
 ざわざわと騒がしくなってきたイベントフロアに、鴉達はガァガァと一鳴きすると。
「あっ!」
「!?」
「……!」
「えっ、」
 掠めとるようにして急降下してきた鴉が器用に出来上がったジュエリーを咥えて持っていってしまった。宝石商も一般参加者達も一瞬の出来事にあわてふためいている。
 ばさばさと翼を翻してあっという間にその場から消えてしまった鴉達。あっけにとられた猟兵達はすぐさま切り替えて後を追おうと駆け出した。
「なんだ!? 何で急に鴉が」
「あれが呪詛型UDC……?」
「いや、オブリビオンの気配はしなかった。ただの鴉だったハズだ」
「ただの鴉があんなに徒党を組んで?」
「いくらヒカリモノが好きと言えどそれはちょっと考えにくい……」
「じゃあ、呪詛で操られてる、とか?」
 ひとりの猟兵が可能性について言及する。その言葉にみな押し黙った。
「……」
「……なるほど」
「持っていかれた宝石の中に呪具が紛れ込んでいたって事か!」
「……有り得ないとは言い切れないな」
「とにかく追うしかなさそうですわね」
 デパートの外に出てきた猟兵達は足元に舞う黒い羽根を拾って、空の向こうを睨み付けた。
十三星・ミナ
【SPD】
アドリブ・連携歓迎

皆さんが折角様々に思いを込めた宝石を奪っていくなんて許せません。
UDC誘引任務のためにも取り戻さないと……!

あの鴉たちが《呪詛》に操られているならその気配を追えないでしょうか。
《呪詛》の扱いは常人より少しばかり長けていますから、
どうにか追えるとよいのですが。
ネクロオーブを握りしめつつ意識を集中。
右目の『霊性眼』の高度演算機能を利用した《第六感》も使いながら
鴉たちの追跡を試みます。


グラナト・ラガルティハ
さて、流石に俺が空を飛んで探すのは目立ち過ぎるだろうしな。
向こうが鴉を操るならこちらも同じ手を取らせて貰おう。
近くにいる鳥は鳩か…【呪詛】【動物使い】で鳩を操る。
先程の鴉の呪詛の気配を追ってくれ。
操る鳩には【破魔】を付与し鳩を害するモノから守ろう。
重要な役だが頑張ってくれ。
無事やり終えたのならば何か褒美をやろう。
よろしく頼むぞ。

アドリブ連携歓迎


イリーツァ・ウーツェ
UCを使用
直感に従い、全力で追う
其れを奪われる訳にはいかん
依頼の目的も有るしな

力には自信が有る
身体能力を活かし、高所……ビル等を登り、鴉の群れを探す
全力魔法で身体に魔力を通し強化、見つけた群れを翼で強襲し
全力の怪力で空気を殴り、高圧の空気砲で鳥の群れを攻撃
落とした宝石の中からUCを使用した直感で召喚呪具を選び
……破壊して良いのか? 良いなら壊す
弟へ渡す石で無ければ良いのだが


臥待・夏報
人間が人間のためだけに作ったつもりの大都会を、カラスってやつは我が物顔で満喫してる……ように見える。
夏報さんは、彼らのそういうとこが好きだったりする。
他の皆はどうだかわかんないけどね。

POW:
さて、空を飛べるわけでもないし、呪詛は掛けるの専門だし。
情報収集の要領で、街中のカラスに根気よく話しかけるしかないか。
本当の意味で動物と話せるわけじゃないけど、これもノリだ。鳴き声とかの。

やあ、そこのゴミ捨て場は穴場だぜ?
この前酔い潰れて寝てた時、一晩誰も通らなかったよ。

夏報さんの女性らしさとか愛とか美なら、最悪、君にあげちゃって構わない。今度の日曜、また探すよ。
他の皆の宝物は、返してあげてくれないかな?


雪月花・深雨
それは己の爪で在り、牙で在り、身体で在り、
力で在ると…。
そう想いを込める事で、呪いはより強く結びつき、
我らの戦いを助ける…。

かつて呪いの扱いを教わる時、そんな言葉を授かった覚えが
あります…。

戦士たちが扱う、武具に編み込む呪いとは異なりますが、
奪われた作品の中にも、少なからず何かの想いが込められた物が
あるのかもしれません。

例えばそれが、誰かを想ってのものならばと考えると、物悲しい
気持ちがあります…。

複数の作品を持ち去った事を考えると、目当てのものを選ぶために一所に集めるのかもしれませんね。
建物の屋根などの高所を移動しつつ、飛んでいく方向を観察して、多くの鴉が集まっている所へ向かいましょう。



●笑え嗤え哂え、空の者
 鴉の鳴き声は特徴的だ。それは人が笑うような声だと形容する者もいれば、赤ん坊が泣くような声だと例える者もいる。ガアガアと彼らにしか知りえない音域コミュニケーションのしるしを辿って、猟兵達は慌ただしく駆けていく。
 大都会に住まう者の一員、鴉の主な活動範囲はビル街だ。時に会社員の捨てた弁当をついばみ、時にコンビニ店員があつめたゴミ袋を破き、時に公園にいる男性からパンをせがむ。都会で生きる術を身に着けた鳥類がハトやスズメ、そして彼ら。
「人間が人間のためだけに作ったつもりの大都会を、カラスってやつは我が物顔で満喫してる……ように見える。夏報さんは、彼らのそういうとこが好きだったりする」
  他の皆はどうだかわかんないけどね。と夏報は彼らの生態について呟いた。良く言えばしたたかさだとか、悪く言えばずる賢いだとか、そういう類の生き様はなかなか好みなのだと足早に上空の黒い影を追いながら彼女は言うのだ。都会は時に森で生きるよりもずっと危険が付きまとう場所にも関わらず、彼らはここを終の棲家と定めている。
「まあ、それはそれとして追わないといけないか」
「はい……皆さんが折角様々に思いを込めた宝石を奪っていくなんて許せません。UDC誘引任務のためにも取り戻さないと……!」
 夏報の言葉に走りながらミナが同意する。鴉がオブリビオンでない事はその気配から判明しているものの、かと言って呪具が紛れ込んでいるかもしれない宝石をみすみす持ち逃げされるなど言語道断。おまけにそうでない宝石達もまた、彼らが一つずつ選び選ばれた大切なものだ。ここで逃げられてはたまらないとミナ達はスピードを上げた。しかし地面を往く彼女達はどうしたって障害物に阻まれる。UDCアースの日本と言う国は海を囲まれた島国で領土もそこまで大きくはない。特にこの東京にはコンクリートを流し込み整地した上に所狭しと、これでもかと住宅やらビルやらが立ち並ぶ。一方、上空を逃げていく鴉に阻むものは何もない。埒外の存在である猟兵ですら、その差を埋めるのは今の現状では困難だ。
「引き離されてきました……!」
「さて、どうするか……」
 イリーツァが前を向いたまま独り言のように零した。このままでは埒が明かない。見失ってしまえば完全に追うすべはなくなってしまうかもしれない。イリーツァがちらりと近くのビル群を見て、さらにそれから未だ低空を飛ぶ鴉の群れを見つめた。目算距離にしておよそ二十メートル前後といったところか。己の脚力と換算してもまだ届く範囲であるとイリーツァは判断した。種族ドラゴニアンは元を辿れば空に生きる翼をもつもの達。空域であればお手の物だ。おまけに身体能力はUDCアースに住まう一般人よりも遥かに高い。
(其れを奪われる訳にはいかん。依頼の目的も有るしな――飛ぶか)
 ぐっと足に力を込めてイリーツァは仲間達から一歩飛び出した。そのまま近場のビルへと足を掛けて、まるで重力など感じさせないかのようにするすると登っていく。ぎょっとしてミナが声をかけた。
「イリーツァさん!?」
「そのまま追跡を」
 こちらは上空から狙うとミナに一声かけると、イリーツァは更に数階分上がっていく。パルクールというフランスの軍事訓練から派生、発展していった動作鍛錬に近い動きで、彼はあっと言う間にそこそこの高さがあるビルの屋上にたどり着いた。そこからの高さを利用して街の障害物をアスレチックの如く、難なく駆けていく。
「速いですね」
「へえ、直接自力で鴉に追いつこうとするなんて大胆な作戦だな」
 なかなかどうしてやるじゃないか。感心したように夏報が手のひらをポンと叩く。そうこうしているうちにイリーツァは鴉との距離をどんどん縮めていった。
 身体に魔力を通して脚力向上を図り、地面を踏みつける。軽くたんっとした足音と共に彼の身体は一気に鴉をその射程範囲に捉えた。
「……破壊して良いのか? 良いなら壊す。弟へ渡す石で無ければ良いのだが」
「ガァア!」
 警戒した鴉が喧しく鳴くが既に遅い。黒く骨ばった翼が空気を巻き込んで衝撃波を生み、最後尾の遅れていた鴉を一羽叩き落す。地上で追っていた彼らの元へ、鴉と共にイリーツァは一気に着地した。
「お見事。夏報さん良いもの見せてもらった」
「いいえ大したことは……それよりも宝石を。おそらくこれは、」
「はい……ご想像の通りかと」
 ミナがネクロオーブを握り締めて意識を集中させると、昏倒している鴉のくわえていた宝石から微かに邪気が感じ取れた。そう、これは呪具の一部だ。イリーツァが直感で選び取ったそれは確かに邪神召喚に用いられる呪具の一種だったらしい。どうやら猟兵の作っていたジュエリーではなく他の一般参加者が作っていたもののようだ。
「あてずっぽうの直感も馬鹿にならないな。一発で呪具を引き当てるなんて」
「ただ、気配が点在しているようです。おそらく呪具は一つではないのかもしれません」
 ミナがさらにネクロオーブをかざせば東京各地の方々から同様の気配が微かに感じ取れる。鴉の群れはいくつかに散ってから逃げたようだが、そのどれもがみな向かった方向から邪気が感じ取れた。今はあちこちに散らばっているが、どこかに持っていくのだろうか。
「それが……呪具、ですか……うぅ、こわい……でも、それ以上に悲しいです」
「ああ、すみません先に駆けてしまって」
「は、い……大丈夫です、なんとか……」
 先んじて駆け出した彼らの後からやっとついてきたらしい深雨が、少しばかり息を乱しながらも追いついた。
「呪具……それは己の爪で在り、牙で在り、身体で在り、力で在ると……。そう想いを込める事で、呪いはより強く結びつき、我らの戦いを助ける……。かつて呪いの扱いを教わる時、そんな言葉を授かった覚えがあります……」
 戸惑いながらも、たどたどしくも、喉を震わせる深雨の言葉を猟兵達は聞いて静かに頷いた。猟兵達の中でも呪いをかける側の立場でのエキスパートがいる。この場に於いてはミナや夏報、そして深雨が呪いをよく知る者に該当していた。彼女達の共通認識はみな同じ。呪具とは思いの丈によりその力を増幅するのだ。
「こちとら、呪詛は掛けるの専門だしね。だいたい夏報さんも似たような感想だ」
「そちらもですか……私もです。《呪詛》の扱いは常人より少しばかり長けていますから。多分私達が感じている邪気は同様に宝石から発しているものだと考えていいでしょう」
「戦士たちが扱う、武具に編み込む呪いとは異なりますが、奪われた作品の中にも、少なからず何かの想いが込められた物があるのかもしれません。例えばそれが、誰かを想ってのものならばと考えると、物悲しい気持ちがあります……」
 人々の気持ちから生まれゆく呪詛に敏感な三人は互いに意見を纏めて同じ見解に至った。深雨が悲しみの感情を抱いたのも、その呪詛の発生源が人の思いをこめられた宝石から来ているからだ。その宝石は現在空にある。であるならば、あとはこれを追いかけていけばおのずと他の呪具にもたどり着けるはず。
「おっと、お喋りは一旦そこまでにしておいたほうがいい」
 突然彼らを呼ぶ声に猟兵達が振り向いた。グラナト・ラガルティハが悠々と声をかける。そして彼の後ろからは――見慣れない人だかり。猟兵達を囲むようにして民衆の輪が出来ている。その手に収められているのはスマートフォン。どうやら先の一連の動作を曲芸か何かと勘違いした街の人々が集まってきてしまったらしい。猟兵達の姿や行動は現地の人々に違和感を与えないが、それが世界に落とし込められたときにこの場では運悪くイリーツァの行ったパフォーマンスの一種として訂正されたようだ。
「人が集まってきてしまいました……」
「あちゃー、派手過ぎたかな?」
「すみません」
「いいえ! 呪具を詳しく調べられましたし、イリーツァさんのおかげで事態は好転し始めました」
 ネクロオーブを仕舞ったミナがこれからの指針を決めましょう、と鴉の飛び去って行った方向を指さして人だかりから離れたのを猟兵が追う。鴉の姿は黒い点となってごまつぶのように縮んでいた。
「飛んで追うのはさすがにもう、」
「そうだな。俺も空を飛んで探すのは先のように人を集めてしまう可能性がある。目立ち過ぎるだろうしな」
 グラナトはここが都会であることに少しばかり運の悪さを感じた。兎にも角にも人が多すぎる場所だ。障害物はなにも建物だけではなく、人の目もまた鴉のブラインドとしてここは動いてしまう。
「そんな皆に夏報さんから提案がある」
「教えて、いただけますか……?」
「もちろん」
 意見が詰まり掛けたところに彼女の凛とした声が響く。深雨の問いかけに快く返事をすると、歩みを止めずに夏報が静かに話を始めた。
 ――曰く。鴉の行方は鴉に聞くのが一番早いのだと。
「鴉に、ですか」
「そう、鴉に。情報収集の要領で、街中のカラスに根気よく話しかけるしかない。本当の意味で動物と話せるわけじゃないけど、これもノリだ。鳴き声とかのね」
「なるほど……同じ鴉に……複数の作品を持ち去った事を考えると、目当てのものを選ぶために一所に集めるのかもしれませんね。建物の屋根などの高所を移動しつつ、飛んでいく方向を観察して、多くの鴉が集まっている所へ向かいましょう」
「鴉に言葉を……」
「いや、あながち突飛な提案というわけでもないぞ」
 訝しげな声の上がりかけた夏報の意見を肯定したのはグラナトだ。猟兵の中で一定数確認されている、ビーストマスターと呼ばれる異能。あらゆる動物と心を通わせ、彼らの力を使役して共に戦う獣使い。その者達ではないにせよ猟兵の中にはそういった特定スキルに心得のある者がいる。グラナトはその専門ではないが、確かにその力について心当たりがあったのだ。
「幸いにして俺も多少ならば話がわかるはずだ」
「これは強力な助っ人だね。それじゃ追おう」
「それじゃ、わたし達は……」
「はい。私達は鴉と、それに連なる宝石をしるべに呪詛の行方を追っておきます。近くなればイリーツァさんの脚力がもう一度必要になるかもしれませんので、備えておいていただけますか?」
「承った」
 ミナは右目を見開いて――霊性眼の高度演算機能を利用して探索をはじめ、深雨もそれに倣い教わった呪いに関するあまたの知識をもとにその行方を追っていく。彼女達の後ろからはイリーツァがいつでも飛び出せるように魔力を循環させ始めた。

「それじゃさっそく近場の鴉や他の動物に協力を求めよう」
「さて、近くにいる鳥は鳩か……先程の鴉の呪詛の気配を追ってくれ」
 まるでグラナトの言葉に本当に返事をしたかのように。鳩はほろろと一度だけ鳴いてすぐさま飛び立つ。その翼にグラナトは鴉に襲われぬように破魔の力を宿してやると、さらに数羽に声をかけた。そのどれもに同じように破魔の力を付与する。これで邪魔立てはなくなった。鳩はみな多少のばらつきはあるものの、最初の一羽を追って次々に地を離れていく。
「――重要な役だが頑張ってくれ。無事やり終えたのならば何か褒美をやろう。よろしく頼むぞ」
「おおー、やるねえ」
「まあ、それなりにはな」
「謙遜する必要ないよ。大したもんだ……それじゃ夏報さんもやるか。やあ、そこのゴミ捨て場は穴場だぜ? この前酔い潰れて寝てた時、一晩誰も通らなかったよ」
 夏報の言葉に電信柱の上で羽根を膨らませていた鴉がばさりと音を立てて降りてくる。夏報の言葉を理解しているかは定かではなかったが、敵意らしい敵意は感じられなかった。まあ話だけでも聞いてやろうというスタンスが見て取れるのは気のせいか。そんな黒艶の君に、夏報はさあ何が欲しいと問いかける。
「夏報さんの女性らしさとか愛とか美なら、最悪、君にあげちゃって構わない。今度の日曜、また探すよ。その代わりと言っちゃなんだけど、君のお仲間さんが盗っていった他の皆の宝物は、返してあげてくれないかな?」
「ガァア……カァ、カァ」
 肯定ともとれるそれを一つ返して鴉は翼を翻して空に往く。グラナトが指示した鳩を追うようにして低く旋回を始めた。
「うーん上手く行ったかどうか分からないな」
「上手く行っているはずだ」
 なにせ空を飛ぶ彼らの向かう方向はたったひとつ。向かう先が束ねられてやがてひとつの道になるのなら、それらはすべて邪神召喚の呪具に通ず。目的地をピン止めされたかのように猟兵達が一つの場所に向かって進みだしたのを見て、グラナトはある種の確信を以て夏報にそう返した。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

花邨・八千代
【徒然】
っあー!せっかくぬーさんが作ってくれた指輪!
なにすんだ!返せこのカラス!!
行くぞぬーさん!舌ァ噛むなよ!

返事を聞くより前にぬーさんを抱き上げて一気に【空躁】で跳ぶぞ!
相手は鳥だし、上から探した方が早いだろ?
担いだ俺より大きな男を落とさないようにしながら空を駆けるぜ。

時々ビルの屋上とか足場にしつつ、視野を広くとりながら捜索だ。
しかしあのカラスども何処に行きやがった…!
ぬーさん、なんか見えるかー?

足場が足りなくなったらぬーさんにユベコ使ってもらって足場確保だ。
はっはー、快適ィー。

しかしぬーさん、意外に軽いもんだなァ。
でっかいから嵩張るのは確かだけど……とりあえずしっかり捕まっててくれよー。


薬袋・布静
【徒然】
は?って…うおっ
いや、お前がなにすんねん!ド阿呆ッ!!!

気付けば姫抱きされていた俺の気持ちを10文字以内に述べよ
そう“俺の話を聞けや“このクソアマと思うも
今のコイツになに言っても無駄なので大人しく運ばれる
その間もちゃんと探索した俺めっちゃエラない?
はーーーっやってらんねェーーー
って思ってもちゃんとやる俺エラない?

ま、気持ちわからんでもないが少し落ち着けや
お前……俺のユベコや煙管を足場に考えるとかええ度胸しとるやんけ
足場がないのは死活問題なので仕方なしに
【潮煙】で青煙を泳ぐ空飛ぶ巨大マンタを呼び背に移り乗り
八千代の腕の中から解放されれば一発どたまぶん殴る
俺より軽い奴に言われたないわ、ボケ



●急転直下
「っあー!」
 今より半刻ほど前。デパート内に侵入してきた鴉の最初の被害は彼女達だった。寄り添っていたはずのリングは両方とも持っていかれてしまい、八千代が思わず叫び声をあげた。
「せっかくぬーさんが作ってくれた指輪! なにすんだ! 返せこのカラス!!」
 言うや否や他の猟兵達と共に八千代はすぐさまデパートの外に飛び出すとそばに居た布静の手をぎゅっと掴んだ。彼女の突飛な行動に驚いたのは一度や二度ではないが、この時のそれはさすがに想像の外であった――と、のちに彼は語る。
「行くぞぬーさん! 舌ァ噛むなよ!」
「は?」
 はて、何を言い出すのやら。これから舌を噛むようなことでもあるのだろうか。そんな疑問を持たせてくれる暇を花邨・八千代は与えない。八千代はそのまま彼の手を強く引いて、バランスを崩した身体を難なく横にすると抱えあげた。そうこれは所謂女子の憧れの行為のひとつ、お姫様だっこである。本来配役が逆である点はこの際目をつむって。しかし甘い雰囲気など欠片も無く、布静の両省の返事を聞くより前に、八千代はそのまま足を軽く曲げると地を蹴って飛び出した。

 どこへ向かって? ――……それはもちろん、空へだ。

「って……うおっ!?」
「うわっ、暴れんなって!」
「いや、お前がなにすんねん! ド阿呆ッ!!!」
「相手は鳥だし、上から探した方が早いだろ?」
 そういう問題じゃない。それならそうで声をかけて返事を聞いてからやってほしかった。あとこの体勢にはものすごく不満がある。彼の表情はそれを如実に表していたが、悲しいかなそこは既に上空十数メートル地点。今更どうこうできる位置に二人は既にいなかった。そのままゆるやかに滞空している。見上げるばかりだった鴉の群れは平行な視線で追うことができる位置になっていた。しかしそこに鴉の姿は無い。どうやらこちらの方向に散った群れは既にその行方をくらましていたようだ。
「しかしあのカラスども何処に行きやがった……! ぬーさん、なんか見えるかー?」
「……」
 布静の心情を知ってか知らずか八千代はそう問いかけてくる。淡々と次のビルを足場にしてもう一度高く跳躍して、また次のビルへと飛び移るのを繰り返しながら聞けるのは彼女の桁外れの体力あってのことだ。
 気付けば姫抱きされていた俺の気持ちを十文字以内に述べよ。彼の内心はその設問が浮かんでいた。回答としては俺の話を聞けや、が模範解答である。しかしこれが彼らの間では日常茶飯事であり、今更それについて言及する気も萎えてしまう。ハイハイいつものことね、と流すしか出来ないのだ。俺の話を聞けやこのクソアマ、と思わず口から出かかったけれど。
 今の彼女になに言っても無駄だと分かっているのは今までの経験則から分かりきっている。大人しく運ばれながらも布静は仕方なく探索を始めた。東の空、やや気配あり。北、南ともに気配無し。西には別の猟兵が向かっている。お姫様抱っこの体勢のまま行う探索はかなり彼の心臓にダメージを負わせた。
(はーーーっやってらんねェーーー)
 って思ってもちゃんとやる俺エラない?
 大人しく運ばれつつもちゃんと探索してる俺めっちゃエラない?
 そんな自問自答を繰り返していると急に八千代があー、と間抜けな声を発した。今度は何だどうしたと彼女を仰ぎ見れば少し困ったような顔を浮かべてぬーさん、と呼ぶ。
「足場なくなっちまった」
「は?」
 見れば景気よくぴょこぴょこと飛んでいたビル群から離れて、数階建ての比較的低い建物が並ぶ地帯に出ている。彼女は次に踏むべき足場がないのだと訴えて来ていた。急転直下、重力に従って身体はまっすぐと下へ落ちていく。位置エネルギーと運動エネルギーから逆算すると、二人が地面についたときにはぺしゃんこになってしまうだろうことは容易に想像できた。
「考えてから飛べや!」
「考えてた考えてた! スゲー考えてた!」
「嘘つけェ!」
「ぬーさんそれよりどうしよう、流石にこの高さヤベェかも。なんとかよろしくなー」
「お前っ……俺のユベコや煙管を足場に考えるとかええ度胸しとるやんけ」
 足場がないのは死活問題なので仕方なしに、懐から『潮煙』――海洋生物精霊を宿す煙管を取り出す。ふぅ、と息を吹き込めば青煙を泳ぐようにして背の広い空飛ぶ巨大マンタが悠々とその姿を現した。まるで空を海かのように気持ちよさそうに泳ぐその背に八千代がすとりと足を降ろせば、落下の危険はなくなった。二人で乗ってもまだスペースが余るそこに腰を落ち着けることができそうだ。
「はっはー、快適ィー。しかしぬーさん、意外に軽いもんだなァ。でっかいから嵩張るのは確かだけど……とりあえずしっかり捕まっててくれよー」
「もうええわ降ろせ阿呆」
「いてっ!」
 ようやくお姫様抱っこから解放された布静から、それなりに重たい鉄拳が八千代に振り下ろされた。一発をぶん殴り、そのまま後頭部を押さえてうーうー唸る彼女の隣に腰を下ろす。
「俺より軽い奴に言われたないわ、ボケ。……ま、気持ちわからんでもないが少し落ち着けや」
「だって指輪、せっかく作ってくれたのにさ」
「また取り返せばいい。その為に追ってきたんやろ」
 ほら、と布静が指を指した先。気配が稀薄だった東側の空にはいつのまにか鴉の群れの姿を視認できた。このまま追跡を続けていけば恐らく彼らの集まる場所へとたどり着けるはずだ。鴉の咥えている宝石がきらりと夕陽を反射してまばゆく二人を照らした。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

トリス・ビッグロマン
ネロ(f18291)と

不届きな鴉に向かって発砲する
しかし、

一羽落としたところでキリがねぇな

ルールなんて、またツマランことをと笑い飛ばそうと思ったが…
ちゃんとオレの言いそうなことをわかっていたようなので、
その生意気さに免じて言うことを聞いてやる

ハンティングは狩人の領分
とはいえ、街中じゃ狩場もなにもない

そもそも鴉なんて小物に興味が湧かん
助手、なんとかしろ

あいつ、飛べたのか…やるなぁ
おい待て、だったらついでにオレを高い所に連れて行け

飛んでいった方…
あれらが操られているなら、その先で術者が待っているはず
【千里眼射ち】の応用で視力を強化して
潜伏できそうな場所を探してみるか

クハハ
その冷淡さ、気持ちがいいな


ネロ・ケネディ
トリスさんと(f19782)

発砲音は驚かないけれど、思い切りの良さに驚きます
トリスさん。駄目ですよ、UDCアースでは、カラスというのは一応守られている生き物なので
ルールを破らないでという意味ではなくて
――ルールの中で、手を打ちましょうという意味です

残念ながら助手ではありません
ただ、仕事は仕事
【銀の弾丸】でカラスを追います
――さっきいただいた宝石も返してもらわないと、困るの
呪詛で操られているなら、私の「焔」も反応するかも
「お母様」の焔は、よこしまなそれには敏感だから
ええ、どうぞ。連れていきます
深くは追わない。おおまかに特定したら、細かい「仕分け」はトリスさんの領域でしょう

準備してから、殺しきる。



●ハンティング
 発砲音がした。パン、と甲高く鳴いた音の出どころは彼の担いでいた小銃から。
 白く硝煙を上げる銃口の先を視線で追えば、そこにいるのは羽根を撃ち抜かれて落ちていく黒い影だ。ネロはトリスがすぐさま鴉を撃ったことに気づいてちらりと彼の双眸を見遣る。銀の瞳はただただまっすぐに獲物を見ていた。躊躇の無い思い切りの良さに少し驚いて片眉を上げ、それは瞬きの内に元に戻ったので誰も彼女の表情変化を知ることは無かったのだけれど。小さな舌打ちとともにトリスがライフルの照準を鴉の群れに向けるのをやめた。
「一羽落としたところでキリがねぇな」
「トリスさん。駄目ですよ、UDCアースでは、カラスというのは一応守られている生き物なので」
「あぁ?」
 目の前の鴉はオブリビオン――アンディファインド・クリーチャーに従属ないし操縦されている可能性がある。この国の鳥獣保護管理法など気にしている場合ではない。一笑に付そうとして、しかしトリスは口をつぐんだ。
 ルールなんて、またツマランことをとトリスは笑い飛ばそうと思ったが……違う。彼女の瞳に宿るそれはその類のことを言いたいわけではないと分かったからだ。
「ルールを破らないでという意味ではなくて――ルールの中で、手を打ちましょうという意味です」
「ハッ、ちゃんとオレの言いそうなことをわかってるじゃないか。その生意気さに免じて言うことを聞いてやる」
「ありがとうございます」
 ネロはすぐさまトリスが今しがた撃ち落とした鴉の群れの方角を見て、その距離を目算で図った。この遠い場所からよく動く対象を一発で仕留めるものだとやや感心しつつも、割り出された距離からさらにその進む方角を見極める。
「都心から離れているようですね。人の集まる場所を避けて飛んでいるように見えます」
「街から離れてんなら好都合だ。ハンティングは狩人の領分とはいえ、街中じゃ狩場もなにもない。そもそも鴉なんて小物に興味が湧かん。助手、なんとかしろ」
「残念ながら助手ではありません。ただ、仕事は仕事なので」
 ネロはそっと目を閉じると、蒼き呪詛焔を迸らせた。物質が酸素不足の状態で燃焼する橙色とは違う、完全燃焼のように澄んだ青色の炎。呪詛焔は彼女の身体の上をなめるように移動して、瞬く間に全身を包みこむ。飛翔能力を得た彼女はそのままトン、と軽く地を蹴ると一気に空へ飛び立った。地上に残されたトリスがへぇ、と感心して軽く口笛を吹く。
「あいつ、飛べたのか……やるなぁ。いや、おい待て、だったらついでにオレを高い所に連れて行け」
 ぐんぐんと距離を離されるネロを追ってトリスも駆け出した。空中ではそのままネロが鴉の群れに追いつこうとしている。蒼ざめた炎は風に流されて彼女の身体をさらに空へと押し上げた。
「――さっきいただいた宝石も返してもらわないと、困るの」
 呪詛で操られているなら、私の『焔』も反応するかも。『お母様』の焔は、よこしまなそれには敏感だから。彼女の思う通り、青い炎はゆらめいて。ちりりと弾けると鴉の群れの一羽の羽先を焦がした。
「オレも連れて行けよ、助手?」
「……先程申し上げた通り、助手ではありませんが、」
 ええ、どうぞ。連れていきます。ネロが上空から離れて地上に降り立つ。そのままトリスに向かって手を伸ばせば、ネロが得た飛翔能力のままにふわりと彼の身体も浮いた。ティンカーベルに誘われたピーター・パンと言うよりかは、彼のニヒルな笑みはどちらかというとキャプテン・フックのそれに近しい。
 ニィ、と笑ってトリスはネロに連れられるまま一気に空へと飛び立った。
「とはいえ、深くは追いませんよ。おおまかに特定したら、細かい『仕分け』はトリスさんの領域でしょう」
「ああ、ここまで近づけば十分だ」
 仕分けとネロが評したそれはトリスが使える能力を指していた。集中することで獲得できる視力の大幅な強化により、彼の視界はクリアに見えていた。それこそ先程ネロが燃やした羽根の焦げた一匹の鴉の位置までしっかりと鮮明に。トリスは本来攻撃に使用するその能力を応用して彼らの行方を辿ろうとしているのだ。
「飛んでいった方……あれらが操られているなら、その先で術者が待っているはずだな。丁度いい、あの青い炎が目印になる。潜伏できそうな場所を探してみるか」
「出来そうですか?」
「オレを誰だと思ってやがる」
 こんなものは朝飯前だと言わんばかりに、彼は不安を感じさせない声色でネロに言ってのけた。本来呪詛を追うのにはそれなりの技術と、呪詛に負けて折れたりなどはしない、揺るぎない精神力が必要だ。大した自信と、その自信に見合うだけの実力を持つ男に。ネロはひとまずこの場は任せることにした。
 手持ちの銀の二丁拳銃を構えて、カチリと小さな音と共に安全装置を外して引き金に指をかける。
「準備してから、殺しきる。いいですね」
「クハハ。その冷淡さ、気持ちがいいな」
 嫌いじゃないぞ、と言いながら銀色の目はただ一点、鴉の行方を射貫くような瞳で見つめている。
 
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

比良坂・美鶴
あらやだ
随分行儀の悪い子たちねェ
折角似合いの宝石を選んで貰ったのに

まァ良いわ
此処までは計画通りかしら
あの子たちを見失わなければ良いんでしょ?

なら専門家に任せた方が良いわね
煙草を燻らせ
『慧眼』を数羽喚ぶわ
死霊鴉に宝石を加えた烏たちを追跡させる

鴉を使うのは黒幕以外にも居るってコトよ
さぁ
悪い子達と追いかけっこと洒落込みましょ

もしかしたら
散り散りになっちゃうかもしれないわね

そうしたら烏の行く先
呪詛の源を追いかけさせましょ
烏を操るために呪詛を使ったのなら
その源がある筈

アタシも緝に糸を吐かせて
後からちゃんと着いていくわよ

駄目よ
見逃してあげないわ
アタシ達の宝石
返してもらうわよ


ミツルギ・サヤ
ならば、鴉の向かう先も同一ということか。

UDCよりもアクセサリー作りに没頭し、心血注いでいた。
……特に武器飾りは。
渡す相手を思い浮かべて。
宝石商が選んでくれた深く蒼いサファイアに、
自分の気持ちをこめて……。
ああ、物に想いをこめるとは、こういうことなのかと。
私が宿り神になりしは、使い手のみならず、
それを世に現した作り手の想いもあってのことなのだと。

……いかんな。
本分を忘れていたからか。
妖刀たる私が鴉に気取られるなど。
怒りは刀身を焼き溶かし歪ませる。
鎮まれ、私の心。
我を想い出せ。

鴉の黒、見逃すものか。
冷静に動きを見切り、あきらめずに追いかけ続ける。
衝撃波は放たねど、高速移動を使い対応しようと思う。


杜鬼・クロウ
アドリブ◎
宝石アイテムの内容お任せ

宝石の加工途中に騒ぎが

ち、あと少しで完成だったのによ…!
ま、別にアイツのだから適当でもイイか
後で続き出来たらしてェが…仕上げは頼めるか?
こっちは俺達が

夜雀召喚
先に鴉の後を追わせる(情報収集、聞き耳
呪具の力が強そうな所、異変を感じる所あれば報せる様に伝達

鴉か…あの数、闇雲に探しても埒があかない
俺だったら何処に導くか…
宝石に宿るぐらいだからなァ
そもそも黒幕が見えてこねェ
意図も
…何も考えてねェ?

自分は虹駆でジャンプし建物内を伝いショートカット
地形の利用し第六感で追う
【沸血の業火】で速度up
鴉集団に追い付き呪具探索
直接触れない様に注意
鴉は仕留めず追い払う迄に

猟兵と協力



●奪われたものは取り返せ
 ギャアギャアと喧しい鴉達が宝石を狙って降りていく。襲撃直前に加工用に用意された作業台も例外なく襲われていたが、クロウはそれを阻止していた。手元の加工途中だった宝石を狙って嘴を突き出してくる鴉を手前で弾き飛ばす。
「ち、あと少しで完成だったのによ……! ま、別にアイツのだから適当でもイイか。後で続き出来たらしてェが……仕上げは頼めるか?」
「っ、はい……! ですがあの鴉達は一体……!?」
「こっちは俺達が何とかする。襲われないように身を屈めててくれ」
「わ、わかりました!」
 突然の襲撃に慌てふためく一般参加者や宝石職人をなだめてクロウはすぐさま駆け出した。他の猟兵達も応戦するものはいたが、鴉がすぐ外に出たのを見て追っていったのか周囲にその姿は見えない。
 クロウがデパートを出るとそのまま猟兵達はあたりに散った群れを手分けして方々に散っている。ただ行く末を調査しようと場に残っている者もいた。

「あらやだ全く……随分行儀の悪い子たちねェ。折角似合いの宝石を選んで貰ったのに」
 残念だわ、と美鶴が空を見上げて、次いで足元に落ちていた黒い羽根を拾った。正確に何羽いたのかまでは数えていないがそれでも相当数の群れがデパート内に入り込んで、そしていくつかのグループに分かれて一斉に逃げていった。通常有り得ないその動きにUDCが絡んでいるのは明白だ。
「まァ良いわ。此処までは計画通りかしらね。あの子たちを見失わなければ良いんでしょ?」
「そうだな。行方を辿ることができるならばおそらくは。鴉の向かう先も同一ということだ」
 美鶴の言葉に傍らにいたサヤが同意を示した。群れであるならばわざわざ分断して逃げる必要はない。これは相手の策略、追跡の攪乱だ。猟兵達を分散させて数を少なくすることで行方を紛らわし、後を辿れないようにしてから一点に終結するはずだとサヤと美鶴は同じ見解に至った。
「なら専門家に任せた方が良いわね」
「専門家?」
「ええ。出てきて頂戴。少し頼まれてくれる? ――……慧眼」
 慧眼、と美鶴が静かに言葉に出して、煙草に口づける。火をつけて煙を燻らせれば、それは瞬く間になにかを象った。ふわりふわりと本来ならば空に解けてゆくはずの煙はその場に滞留してとぐろを巻いていく。ぐるりぐるりと蛇のようにのたくったかと思えば、左右に広がって美しい鴉の姿を描く。煙は更に薄まりながら広がって数羽の鴉を生み出した。くちばしが一つ。瞳が二つ、翼が二つ。足が――。
「三ツ足の……鴉」
「鴉を使うのは黒幕以外にも居るってコトよ。さぁ、悪い子達と追いかけっこと洒落込みましょ」
「なるほど、専門家か。確かに餅は餅屋だな。鴉の事は鴉に任せるのが道理だ」
「そっちも追いかけるところか?」
 クロウがデパートから出てくると二人の傍まで駆けてくる。サヤは頷きを返して彼にも同行を求めればもちろんだと快諾が返ってきた。
「一応相手のテリトリーは空中だろ。夜雀を呼んでおく」
「そうね、手数が多いのに越した事はないわね。助かるわ」
「ああ。いざとなれば接敵の必要も出てくるだろう」
 蝙蝠に変化する果実型式神――『夜雀』は美鶴の呼び出した鴉の後を追って翼を広げた。さて、ここからは地上ルートからも鴉の行方を追わねばならない。幸いにして美鶴の慧眼は自身と五感を共有している。夜雀は偵察にも使える怪しい気配を感知できる式神だ。より正確に、より気づかれにくく、彼らはスニーキングミッションが可能になった。
「にしても鴉か……あの数、闇雲に探しても埒があかない」
「同意見ね。結局のところ他の方角に向かった群れも一点に向かっているようだし」
「向かっている場所、か」
 サヤが今しがた追っている鴉の群れを見つめる。大きさこそ視認が難しいほど離れているが、追跡のおかげでその位置はこちらに明かされているので多少離れていても問題はないだろう。クロウは鴉の群れの目的について思案をつづけた。
「俺だったら何処に導くか……宝石に宿るぐらいだからなァ。そもそも黒幕が見えてこねェ。意図もわからねェ」
「気になるのはその目的だ。何故に呪具を求めているのか」
「そうね……一番に考えられるのは邪神召喚の供物に使うか、あるいはその引き金そのものに使うかのどちらかだと思うのだけれど。でも今回の事件は不可解よ」
 美鶴が思い返すに、呪具をあの宝石の中から見つけ出すのであればもっと巧妙なやり方があったはずだ。呪詛型UDCによって人々が呪詛に脅かされずとも、もっと隠れて行うことが可能だったはずである。そうでなくとも白昼堂々あの鴉の群れは目立ちすぎにも程がある。立つ鳥跡を濁して汚して。
「呪詛で人々を襲うことが目的だったのかしら……いいえ、それにしても何か引っ掛かるわね」
「……もしかして何も考えてねェ?」
「そんなことは……いや、待て」
 サヤが途中で口をつぐむ。遠く離れた鴉の群れが確かに分断したように見えたからだ。ごまつぶのように小さな影では分からない。すぐに美鶴が自身と五感を共有している慧眼を通して確認した。
「散り散りになっちゃうかもしれないわね。一羽一羽が別々の方向に飛び出したわ。こうなったら烏の行く先――呪詛の源を追いかけさせましょ。烏を操るために呪詛を使ったのならその源がある筈よ」
「烏そのものではなく、呪詛の源自体をか。それなら一応こっちは一羽に絞って行方を追わせる」
「ええ。アタシも緝に糸を吐かせて後からちゃんと着いていくから。――駄目よ、見逃してあげないわ。アタシ達の宝石……返してもらうわよ」
「宝石……」
 美鶴の言葉にサヤが思い出すのは、先ほどまでデパートの中で加工していた宝石だった。クリスマスに贈りたい品があった。大切な相手に届けたい品があった。UDCよりもアクセサリー作りに没頭し、心血注いでいた己。特に武器飾りは必死になって作っていた。呪詛型UDCによる被害を防ぐためとはいえど、熱中したのにはその思いがあったからこそだ。
 渡す相手を思い浮かべて、宝石商が選んでくれた深く蒼いサファイアに、自分の気持ちをこめて。分からないながらも手ほどきをうけながらひとつひとつ丁寧に。ああ、物に想いをこめるとは、こういうことなのかと。
 私が宿り神になりしは、使い手のみならず、それを世に現した作り手の想いもあってのことなのだと。
 それなのに、そう思うきっかけを与えてくれたあの宝石を奪われてしまった。
「……いかんな。本分を忘れていたからか。妖刀たる私が鴉に気取られるなど。怒りは刀身を焼き溶かし歪ませる」
 鎮まれ、私の心。
 我を想い出せ。
 其は妖刀なりし、ただ斬り落すのが本懐だ。
「では、私は先に向かっている。すまない、後でまた会おう」
「先行するってことか? 構わねェけど――……ってオイ!?」
 ダン、と強く地を蹴るとサヤは高速で二人を追い抜いて瞬く間に消えていく。目指すは一点、鴉の向かう場所へ。俊足で消えてしまった彼女に、美鶴はクスリと笑った。
「急ぎたい気持ちは分かるわ。大事な大事な宝石だもの。アタシだって取り返したいのは同じよ」
「そうだな。取り返したいのは皆……同じだ。俺のは今回たまたま盗られなかったけどよ。あの場に居た他の奴らの大事なものを奪われたままってェのは――どうにも腹に据えかねる」
「そうね、その通りだわ」
 苦笑いを零して、先に行ってしまったサヤを二人は急ぎ足で追っていった。
 
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

アンリエット・トレーズ
泥棒は感心しませんね
ましてアンリエットの物に手を出すなんて
ただのカラスさんと言えどちょっぴりおこです

飛ぶ鳥をそのまま追うのは難しいことなのかもしれませんが
アンリエットにとってはさほどではありません
すみやかに宙を駆け上がりそのまま追い掛けましょう
個体の目星をつけたら、きちんとそれを追えるように
欲張るとひとつも手に入らないそうですからね
注意すべきは途中、ビルの屋上や窓のへりなどを貸していただいて
自分は落ちないように、鴉は見失わないようにすることです

捕まえるのも容易いでしょうけれど…
退治しなければならないのはオブリビオンですからね
ええもちろん、目的だって忘れていませんよ
アンリエットは賢いですので


桜雨・カイ
操られているなら怪我をさせるわけにはいかないですね。
それに誰かが選んで作り上げたジュエリーに早々傷を付けさせたくありません。
鴉が飛んでいった方へ駆け出します。姿をみかけたら
【想撚糸】で怪我をさせないよう鴉を捕まえます。

落ち着いて下さい、まずは「聖痕」の光で鴉を撫でながら呪詛を浄化したあと、アイテム「ボトルキャップ八兵衛さん」の力を借りて話を聞いてみます

仲間の鴉達も操られているのでしょう?
そんな事をした相手を止めにいきますので
場所を教えてくれるか、連れて行ってくれませんか?


シャルファ・ルイエ
召喚呪具の宝石は流石に無理ですけど、他のジュエリーはなるべく回収してちゃんとお返ししたいです。
わたしも素敵な宝石を選んでいただいて嬉しかったですし、それを持っていかれてしまったらとてもがっかりしてしまいますから。

空に逃げたなら空から探しましょう。
あの子達も操られているのなら、行先はオブリビオンの所だと思いますし。まずは場所を把握するのが先決です。

とりあえず空を移動して、飛んでいる鳥達に宝石を咥えた鴉達を見なかったか尋ねてみたり、一緒に探して貰えないか協力をお願いしてみます。
お礼はパンでどうでしょう。他のものが良ければ、なるべくそれをご用意しますけど……。
情報が聞けたら、他の方達にも伝えますね。



●便利アイテムとパフォーマーと
「泥棒は感心しませんね。ましてアンリエットの物に手を出すなんて。ただのカラスさんと言えどちょっぴりおこです」
 表情こそ変わらないがアンリエットの頬は少しだけふくらんでいた。ぷくぅ、と焼き始めの餅のようにふくらんだそこがプシュンと音を立てて元の大きさに萎む。
「持っていかれてしまいました……」
「そうですね、取り返さないと。呪具が相手側に渡ったら嫌な予感がします」
 シャルファの言葉にカイが頷く。アンリエットも二人に倣って、空を見上げた。鴉との距離はだいぶ離れてしまったようだ。宝石の所在は遥か遠く上空。追いつけるだろうか。
「召喚呪具の宝石は流石に無理ですけど、他のジュエリーはなるべく回収してちゃんとお返ししたいです。わたしも素敵な宝石を選んでいただいて嬉しかったですし、それを持っていかれてしまったらとてもがっかりしてしまいますから」
「誰かが選んで作り上げたジュエリーに早々傷を付けさせたくありませんしね。追跡しましょう」
「はい!」
「アンリエットも何とかするとしましょう」
「では三人で」
 それぞれの思いを胸に猟兵達はさっそく追跡を開始した。
 まずはアンリエットが先程みた鴉の位置から今居る場所までの距離を測る。遠い遠いその点が更に離れてしまう前に、彼女は飛び立つことにした。否、彼女達二人は、飛び立つことにした。
「飛ぶ鳥をそのまま追うのは難しいことなのかもしれませんが、アンリエットにとってはさほどではありません」
「そうですね、空に逃げたなら空から探しましょう」
 シャルファは翼を、アンリエットは跳ね回る脚を。二人は空飛ぶ術を使って上から鴉を追いかけようとする。
 すみやかに宙を駆け上がりそのまま追い掛けましょう、と言うや否やアンリエットはトントンと爪先とかかとをそろえた。ダンスのように軽やかに、踏み出すのは空への一歩。歩き出す足は小鹿の如く跳んでみせましょう。アンリエットが空気を踏んで更に一段上へ、二段上へ、まるで駆け上がるように上がっていく。
 ふわりと春に花咲きほころぶように羽を広げたのはシャルファだ。すずやかな色の髪が風を吸い込んでふくらむ。しゃらりしゃらりとカスミソウの小さな花が風に運ばれて後ろへ流れていった。そうして彼女達は上空へ。地の利はこれで対等だ。
 カイはそのまま地上からの追跡をつづける。
「それでは私は地上から。操られているなら怪我をさせるわけにはいかないですね」
「はい……あの子達も操られているのなら、行先はオブリビオンの所だと思いますし。まずは場所を把握するのが先決でしょうか」
「個体の目星をつけたら、きちんとそれを追えるようにしないといけません。欲張るとひとつも手に入らないそうですからね」
「ああ、二兎を追わないようにしましょうか」
 目的は一つに絞るべきだと暗に言うアンリエットにカイとシャルファは頷いた。まずは場所の確定から、呪具を狙う元凶についてはひとまずここでは置いておくとしよう。そう決めた三人はすぐさま鴉を追う。
 滞空しつづけられるシャルファに対してアンリエットは脚力を使ってしばしば運動エネルギーを得ていく必要があるため、彼女は上手にビルの屋上や窓のへりなどを貸り、時にはシャルファの手を借りて鴉の行方を見失わぬように気を付けていた。
「大丈夫ですか?」
「はい、アンリエットはこうみえて飛ぶのが得意なので」
「とってもすごいです! 地上はその代わり少し騒がしいことになっていますが」
「おや……」
 アンリエットが見た下では、ぴょこぴょこと軽快に飛ぶ彼女に人々が指をさしてパフォーマーだとしきりに歓声を上げていた。UDCアースにおいて猟兵はその行動ならびに容姿は世界に違和感を与えないが、それが都合よく世界に取り込まれるには空中パフォーマンスとしての形をとったようだ。別の猟兵達が空中を飛んだ瞬間に同じような現象が起こっていたのを思い出して、アンリエットはなるほどと呟いた。
「大事なのは鴉を見失わないようにすること……です」
「はい、このままいきましょう!」

「わあ……これは……困りましたね」
 人混みでやや追跡がしづらくなったが、カイはそれでも順調に人々を避けながら探索をつづけていた。上空に居る彼女達の方が進むスピードも速く、位置としては追跡するのに問題のない箇所まで来ている。このままいけば上手く鴉の足取りを追って彼らの目的地へと自分達も着けるだろう。ただ、より確実に着くためにももう少しばかり手が欲しい。
 カイは一匹、群れから遅れた鴉を自らの能力――想撚糸を使ってからめとった。本来は結界としての用途だがこうして少しばかり捕縛に応用する分には難なく使えそうだ。
「っと、上手くいきました。傷つけないようにしないと……」
 操られているなら怪我をさせるわけにはいかない。それは呪詛型UDCによる操作を鴉が受けており、情報として追うならば殺してその場で落とすよりも追跡する方がアジトにたどり着けるから。そんな打算もあるにはあったが、一番の理由は心優しきかの青年が生き物を傷つけるのに抵抗感を示したことにあった。
 バサバサと暴れまわる鴉からそっと想撚糸を外してやりながら彼はそっと怖がらせないように呼び掛ける。まだ呪詛がきいているのか落ち着く様子のない鴉に手を翳した。
 浄化の光を有しているその手がすぐさま呪詛を晴らしていく。頭に物理的に手を置かれたことと呪詛がなくなったことでようやく鴉は大人しくなった。豆知識だが鶏を筆頭に鳥類は視界を遮られて暗くなると反射的に動きを止めるものが多い。お試しあれ。
「さて、ここからはボトルキャップ八兵衛さんの出番です」
 カイはボトルキャップ八兵衛さんを呼び出した。ボトルキャップ八兵衛さんはカイの呼び声に応じてひょっこりとオコジョのような、イタチのような、そうでないような、分類はできないが大変愛くるしい顔をのぞかせた。

 説明しよう!
 ボトルキャップ八兵衛さんとは!
 生き物との会話や協力を求める際に手助けをしてくれるお助けキャラである!
 すげえ!

 ボトルキャップ八兵衛さんは白く可愛らしい外見の口をぱくぱくとさせると鴉になにごとか囁いている。カイもまた鴉にゆっくりと気持ちを伝えた。これを画策したものは誰なのか。
「仲間の鴉達も操られているのでしょう? そんな事をした相手を止めにいきますので。場所を教えてくれるか、連れて行ってくれませんか?」
「カァア……」
 鴉は呪詛に操られてではなく、自らの意思で羽根を動かしはじめた。今居る群れとは少し東に逸れた方向に飛んでいくと、カイが視認できる位置の街灯に止まる。どうやら本来の目的地へと向かってくれているようだ。カイはすぐさま上で飛んでいる二人に伝えるべく少しだけ声を張った。
「アンリエットさん! シャルファさん! おそらくその群れは本当の目的地からわざと少し離れて飛んでいます!」
「そうなんですか……やっぱり!」
「お手柄ですね。まあ、なんとなくそんな気はしていました。アンリエットは賢いのでわかります」
 この群れが先程から旋回しようと風の向きに逆らっているとアンリエットともシャルファも気づいていた。何かおかしい、そう思いつつも得られなかった確証を得た二人は地上低くを飛んでいる、カイが手当てした鴉の導く方向へと進路を変える。
「捕まえるのも容易いでしょうけれど……退治しなければならないのはオブリビオンですからね。ええもちろん、目的だって忘れていませんよ。アンリエットは賢いですので」
「お礼をしないといけませんね。鴉さん、お礼はパンでどうでしょう。他のものが良ければ、なるべくそれをご用意しますけど……」
「カァア! ガァア!」
 すぐに返事がかえってくる。まるでこちらの言語を理解しているかのように聞こえるのはボトルキャップ八兵衛さんの力か、或いは本当に理解しているのか。
「あのお返事は了承でしょうか、それとも不満でしょうか」
「きっと了承です。パンはいつだって美味しいですから。彼らにとってはご馳走ですよ」
「えへへ、そうですね!」
 下からねだるように鳴いている鴉に、あとでとっておきの焼き立てのパンをご馳走すると約束してシャルファは更に速度を上げた。
 
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

星鏡・べりる
【土蜘蛛】
なるほど、賢い方法だねぇ~
いや、これ賢いかな?

室長にしてはいいアイデアじゃん、了解~
鴉には私の宝石を奪わせたから、アレとアレの周辺の鴉の反応をおいかけたら楽かな?
機械鏡起動、この条件で周辺サーチをかけて。
あと『蜂月玻璃也』と『花剣耀子』に情報連結実行。
さーて、追いかけるよう。
情報処理しながら走るから、よーこ先行お願い!

あっ、室長って情報連結を使われるの初めてだっけ?
あはは、ふいに情報が流れ込んできて気持ち悪いよね~
でも、頑張って走って?


花剣・耀子
【土蜘蛛】
あっ。
……上前をはねるなんて、良い根性をしているわ。
ぜったい逃がさない。

位置は判る?
べりるちゃんから情報を貰って追跡開始。
先行は任せて。誘導お願いね。

街中だもの。まだ機械剣は抜かないわよ。
とはいえ交通ルールや障害物は邪魔だから、
宙を蹴ってショートカットしていきましょう。
鴉の行く先や集まっている場所が視認出来たら共有するわね。
此方の行く手を阻むような個体が居たら、露払いも引き受けるわ。
操作されているだけなら、なるべく穏便に済ませるように。

べりるちゃんは兎も角、室長はちゃんと付いてきてる?
……嗚呼、うん。そうね。最初はそうなるわよね……。
慣れて頂戴。

追いつくなら良いわ。
先に行くわね。


蜂月・玻璃也
【土蜘蛛】
油断した!
屋内に鴉を侵入させるとは大胆だな
くそっ、泥棒カラスなんてまんまなことしやがって!

あんなに大量の生物を一度に使役するなんて…
個別操作じゃなくて、簡易文言での一括命令かな

べりる、鴉の生体反応に絞って周辺に検索かけられるか?
本部に連絡とって、市街地マップと位置情報を同期させよう
さあ、行くぞ!

ん?なんだこれ…頭の中に…う、うわああ!
オエエエエッ…

…ゼエッ!ゼエッ!
お、俺のことは気にするな…!
後から追いつくから、ヒュッ、さ、先に行ってくれ!



●プロフェッショナル達の追跡術
「あっ」
「ああっ!?」
「あれっ!」
 土蜘蛛の三人は三者三様の驚き方をする。あっけにとられて宙を舞う宝石を大口開けてみているまま――なんということはなく、すぐさまデパートを飛び出してその行方を追っていた。彼らもUDCに対しての追跡レースなど日常茶飯事だ。この手のことには慣れている。

「……上前をはねるなんて、良い根性をしているわ。ぜったい逃がさない」
「油断した! 屋内に鴉を侵入させるとは大胆だな。くそっ、泥棒カラスなんて捻りもなくまんまなことしやがって!」
「なるほど、賢い方法だねぇ~いや、これ賢いかな?」
「鴉は昔から知能の高い動物として知られているわ。知能としてはだいたい人間で換算すると三歳から四歳くらいの知能を有しているとも言われていて――」
「その話は後回し! まずは追いついてからだ!」
 まったく息を乱さないままの二人が和やかに雑談し始めたのを見て、二人とは対照的に早くも息が上がり始めた玻璃也がストップをかける。これはまずいと我らが室長が軌道修正を図り、耀子は話の腰を折られてやや不満そうに、べりるは興味深い話を聞けなかったことに口をとがらせつつも素直に従った。
「で、どうするの。このままだと埒が明かないわ」
「そうだな……あんなに大量の生物を一度に使役するなんて……個別操作じゃなくて、簡易文言での一括命令かもしれないな。べりる、鴉の生体反応に絞って周辺に検索かけられるか?」
「お、多分いけるよー!」
「なら頼む。それをもとに本部に連絡とって、市街地マップと位置情報を同期させよう」
 玻璃也が示した案はいたって単純、情報連携によるポインター追跡だ。UDCアースを多角から見つめられるGPSに類似するポイント特定レベルの追跡はさすがに小さな生物である鴉と言えど、逃れることはできないだろう。
「室長にしてはいいアイデアじゃん、了解~。鴉には私の宝石を奪わせたから、そうだなあ……アレとアレの周辺の鴉の反応をおいかけたら楽かな? それじゃ、機械鏡起動――この条件で周辺サーチをかけて」
 ふむふむ、とべりるが宝石に交じる微かな反応を的確に探し当てる。観測に長けた彼女にとっては、常人ならばかなり集中しないとできない探査も容易い。ピン留めのように正確な位置を掴み取って、奪われた宝石をすぐさま見つけ出した。
「どう? 位置は判る? べりるちゃん」
「バッチリ! これなら追えるよ。『蜂月玻璃也』と『花剣耀子』に情報連結実行――よし、これでいいかな」
 ずくん、と二人の脳裏にあまたの情報が滑り込んできた。鴉の位置とその数、自分達の位置と人数、街の人々の位置、呪具の気配、宝石の種類、距離、風向き、温度湿度、緯度経度、時間、世界のありとあらゆる情報が濁流のように流れ込んでくる。
「――っ、よくやった。行けるか?」
「勿論よ」
「さーて、追いかけるよう。情報処理しながら走るから、よーこ先行お願い!」
「そうね、先行するわ。……街中だもの。まだ機械剣は抜かないけれど……とはいえ交通ルールや障害物は邪魔だから、宙を蹴ってショートカットしていきましょう」
 まるで何でもないことのように言ってのけると、耀子の身体がかくんと沈む。膝を折って、ぐっと構えて、あとは蹴りだして。彼女の身体はまるで宙に放り出されたかのようにすぐさま跳び立つ。否、放り出されたのではなく彼女自身が彼女の意志で宙へと歩を進めたのだ。
「いつみてもカッコいいねえ、よーこは」
「さあ、行くぞ!」

 ――と、威勢よく言ったはいいものの。
 悲しいかな、この作戦には一つ欠点があった。

「ん? なんだこれ……頭の中に……う、うわああ!」
「あっ、室長って情報連結を使われるの初めてだっけ? あはは、ふいに情報が流れ込んできて気持ち悪いよね~」
「オエエエエッ……」
「ちょっと! 道端で嘔吐くのやめてよ! 今吐いても介抱できないから!」
 そう、作戦の欠点とは『情報連結』に副作用が伴うという点だ。実働部隊にとっては馴染み深いそれも、しかし今この場にいるそもそも現場に中々出てこない彼にとっては死活問題だったのである。
 頭脳に直接ながれこむ情報量は自身が普段視覚や聴覚といった語感から拾うものとは比にならない量だ。頭痛、眩暈、謎の浮遊感、耳鳴り他、一時的ではあるもののさまざまな症状を引き起こす。対処法はひとつだけ――慣れることだ。
 地上でコンビが頑張り(?)を見せている一方、耀子は鴉の群れと同位置になったことで妨害を受けていた。群れの何羽かが耀子を狙って向きを変えるとその鋭い嘴を怯むことなく向けてくる。しかし耀子もまた人混みを離れたおかげか、露払いとして先程は出せなかった機械剣の柄で殴り返すなど大胆な方法が取れていた。
 空中でバランスを崩した鴉が慌てて群れへと戻っていくのを確認してから機械剣をしまい、耀子は地上を見る。
「そういえば室長は初めてだったわね。べりるちゃんは兎も角、室長はちゃんと付いてきてる?」
 その予感は的中していた。案の定先を走るべりるの後ろからふらりふらりと千鳥足になった玻璃也が目に見えて遅れ出しているのがここからでも把握できる。それはそうだろう今彼を苛むのは呪詛にも近しい副作用のオンパレードだ。
「…………嗚呼、うん。そうね。最初はそうなるわよね……」
 ご愁傷様、慣れて頂戴。と耀子は小さく呟いた。
「でも走ることは止めないのね。追いつくなら良いわ。先に行くわよ」

「室長離れすぎ! 置いていっちゃうよ」
「ゼエッ! ゼエッ! お、俺のことは気にするな……! 後から追いつくから、ヒュッ、さ、先に行ってくれ!」
「頑張って走って? 後で必ずだよ」
 ぜえぜえと息の乱れる彼を置いてべりるは先行した耀子の後を追う。
 ひゅうひゅうと笛ラムネのような情けない呼吸をこぼしつつも、しかし玻璃也も連結された情報をもとに亀のような歩みで追跡をつづけたことに関しては、一定の評価に値することは追記しておこう。そのスピードには目を瞑るとして。
 
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

千桜・エリシャ
人のものを持っていってしまうなんて
お行儀の悪い鴉さんたちですこと
お仕置きが必要ですわね
どんなものがいいかしら…なんて
ふふふ

落ちている鴉の羽根を拾って
この羽根の持ち主達を追ってくださいまし
召喚した死霊の胡蝶にお願いして場所を探ってもらいましょう
呪詛型UDC…ならば呪詛の気配を辿れば
呪具を持っている鴉さんの判別もつくかしら?
さあ、追跡開始ですわ!
なるべく最短の道を行きたいもの
常夜蝶に偵察してもらって割り出せないかしら
基本的には地上から
空高い場所ならば花時雨を開いて風に乗って飛んで参りましょう

私、意外と執念深いんですのよ
だって、せっかく楽しみにしていた宝石を盗られてしまったのですもの
逃しませんわ


エンジ・カラカ
カラス?追いかける?追いかける?
うんうん、そうしよう。追いかけよう。
動物と話すで他の鳥にカラスのコトを聞く。
ハロゥ、ハロゥ。カラスは見てなーい?
ドッチー?
うんうん、アリガト。

あとは追跡に情報収集トカ。
使える技能を使って追いかける追いかける。
バレないように追いかけるのは得意なんだ。

途中で懐の賢い君の赤い糸に話しかけよう。
追いかけたらどうする?
君の宝石を餌に撃ち落とす?
冗談冗談。

アァ……カラスの通った道を見失わないようにしないとなァ……。
道に迷わないように目印もつけておこう。
カラスカラス、宝石泥棒のカラス。
早く撃ち落とそう。



●行方
 宝石の行方を追う猟兵達は方々に散っていく。彼女達もまた、ひとつの群れを追ってデパートを出たところだ。エリシャは空で光る小さな宝石を仰ぎ見て、エンジは空で羽ばたく黒い影を見た。
「人のものを持っていってしまうなんて、お行儀の悪い鴉さんたちですこと」
「カラス? 追いかける? 追いかける?」
「ええ、追跡と参りましょう。それにしても全く……お行儀の悪い鴉さんたちにはお仕置きが必要ですわね。どんなものがいいかしら……なんて、ふふふ」
 ひらりと地面に落ちているのは黒い羽根だ。襲撃時には結構な数の鴉が居たので混乱のさなかで抜けたのだろうそれをエリシャはそっと拾い上げる。鳥の羽は細かい繊維のようで、羽軸をもとに伸びる羽弁がある。ペンにでも使えそうな大きな鴉の羽根を一体どうするのかとエンジが問いかけた。
「羽根? ドウスル?」
「これは立派な証拠品ですから。これをもとに辿りましょう」
 まるで探偵めいた返答にエンジがキョトンとした顔を浮かべる。エリシャはそのまま死霊の胡蝶を召喚した。春夜ノ夢、仮初の命をここに。ひらひらと生まれ往く蝶は幻想と現実の間を飛ぶ。まるで実体の感じられぬそれは生き物ではなく、しかし偽物ではなかった。
 死霊の蝶はエリシャを主人とわかっているのか、本来昆虫が成し得ないようなふれあいをしている。じゃれつくように、あるいは慕うように、指先にキスを落とすように。そんな蝶達に先程拾った羽根を翳して彼女は願うのだ。
「この羽根の持ち主達を追ってくださいまし」
 言うや否や、蝶達は一斉に飛び立っていった。向かうはもちろん上空の鴉達。まるで一列に並んだ兵隊のごとく、理路整然と飛んでいるのは一つの線のようになってエリシャとエンジに道を示した。
「呪詛型UDC……ならば呪詛の気配を辿れば、呪具を持っている鴉さんの判別もつくかしら? さあ、追跡開始ですわ!」
「うんうん、そうしよう。追いかけよう」
 鴉と、その姿を追う蝶と、それを追うために二人はゆっくりと歩みだした。

 
「最短ルート、コッチ?」
「ええ、そのはずですわ。なるべく最短の道を行きたいもの。常夜蝶に偵察してもらって割り出してもらったのですけれど……すっかり姿が消えてしまいましたわね」
 途中鴉達が大きく旋回してルートをずらそうとしてきてもエリシャの蝶は惑わされなかった。蝶が辿るのは鴉のようであって鴉ではない。その目的は彼らの目指す呪詛をしるべに動いている。
 鴉たちとは少し別のルートに進んだためか、鴉の姿は見えなくなっていた。
「でも道はきっと合ってる……あとは追跡に情報収集トカ。ハロゥ、ハロゥ。カラスは見てなーい?」
「カァア!」
「ドッチー?」
「ガァア……カァ、カァ」
「うんうん、アリガト」
 途中、往く先々でエンジが道端の野鳥達に話しかけた。まるで彼の返答に応えているかのように雀や鳩や鴉達は鳴いている。否、それは本当に返事をしていた。
 動物と話せるという一定スキルを持ち得る猟兵がいる場合、索敵にはかなり役立つ。エンジもまた動物との会話が可能な猟兵であった。蝶を追うついでにより確実性を求めて周囲に聞き込みをすれば、やはり向かう先はみな同じだ。鴉はここを通っている、このルートであっているらしい。
「今のカラス、群れを見てたっテ」
「ではやはり……追跡は上手くいっているようですわね」
 鴉の姿はとうの昔に見えなくなっていたが蝶は迷いなく飛んでいる。その道のりもまた、エンジの聞き込みにより裏付けが取れた。二人は確実に一歩ずつ呪詛型UDCの元へと駒を進めているのだ。
バレないように追いかけるのは得意なんだ。アァ……カラスの通った道を見失わないようにしないとなァ……。道に迷わないように目印もつけておこう」
「ふふ、目印だなんて。まるで私達、ヘンゼルとグレーテルみたい」
「パンを撒いては帰れない、帰れない。小石を撒くのが正解サ」
「悪い継母はもう居ないといいですわね」
「御菓子の家の魔女も消えタ、あとはゆっくり帰ればいい」
 始終和やかな会話のなか、そっとエンジが会話の途中で誰かに話しかけた。ネェ、ネェ、と気さくに話しかけるのはエリシャに対してではない。懐の賢い君の赤い糸に。彼女にはバレぬようにこっそりと。
「追いかけたらどうする? 君の宝石を餌に撃ち落とす? 冗談冗談」
 カラスカラス、宝石泥棒のカラス。
 早く撃ち落とそう。
 歌うようにエンジは獰猛な言動で、小さく賢い君にそう持ち掛けた。
 しかしそれは彼女も同じ。賢い君に話しかけたのを聞いてか聞かずか、エリシャもまた同じように目を光らせた。
「ふふ。私、意外と執念深いんですのよ。だって、せっかく楽しみにしていた宝石を盗られてしまったのですもの」
 逃しませんわ、と一言。短い言葉の裏には執着とも執念ともつかない何かが隠れ潜んでいて、それはすぐさま可憐な姿の裏に隠れて見えなくなってしまった。
 やがて二人は目的地に辿りつく。そこは――……。
 
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第3章 集団戦 『嘲笑う翼怪』

POW   :    組みつく怪腕
【羽毛に覆われた手足】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    邪神の加護
【邪神の呪い】【喰らった子供の怨念】【夜の闇】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
WIZ   :    断末魔模倣
【不気味に笑う口】から【最後に喰らった子供の悲鳴】を放ち、【恐怖と狂気】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●大群
 猟兵達がたどり着いたのは都心から離れたところにある、人気のない雑木林だった。異質だったのは、その上空を夥しい数の鴉の群れが覆っていた点だ。
 黒い羽根、黒い嘴、黒い眼、黒い鉤爪の足。まるでひとつの巨大な鳥を描くかのように、粒々とした波を作るひとつひとつが一羽の鴉になっている。
「ああああっ!!」
 人気のない雑木林であるはずのそこから人の悲鳴が聞こえてくる。慌てて猟兵達が雑木林を進むと、汗だくの男が倒れこむようにしてこちらに駆けてくるのが見えた。なんだなんだと猟兵達がザワつくなかで一人が声をかける。
「どうしたんだ?」
「どうしたもこうしたもあるか! ああ、なんて、なんてことを、神様、かみさま、私はなんてものを、」
「おい、落ち着け。何があった」
「あああ、ああ! わた、わたしはなんて、なんて愚かなことを!」
 猟兵達の言葉にも聞く耳持たず、錯乱した男は頭を掻きむしって叫んでいる。
 私はなんてことをしてしまったんだろう。
 わたしは。わたしは。
 なんてものを呼び出してしまったんだ。
 お許しください。
 お許しください。
 お許しください。どうか。かみさま。
 そう口走った瞬間、言葉の覚束ない男はみるみるうちに口から泡を吹いて気絶してしまった。ばたりと倒れ込むのを何人かの猟兵が支えて、その場に寝かせてやる。頬を軽く叩いてもゆすっても簡単には起きないだろうことが伺えた。
「ふむ、どうやらワケ有りのようだね」
「うぅ……こわい……なんでしょう……」
「……あ? 何か握ってねえかコイツ?」
「おお、ホンマや」
 意識のない男の握っていた袋の中に、沢山の宝石が入っているのを猟兵達は視認する。きらきらと星のように輝くそれらは間違いなくデパートで奪われたはずの宝石だった。幸いにして傷はない。どれも奪われた当初のままだ。
「いや、でも、何か妙じゃねェか?」
 別に変なところはどこも……と言いかけた猟兵が押し黙った。可笑しい点が確かに一つある。呪具だったはずのそれ――沢山の宝石の中のいくつかが魔力を失っていた。芳醇だった魔力反応が、今はごく微量になっている。ただの綺麗な宝石になったそれが示す事実はすなわち。
 使用済み――。猟兵達は顔を見合わせる。この男は呪具を使用して何かをやらかしてしまったらしい。
「これは……不味いわね。この奥にいるわよ。元凶が」
「……ああ。クソ、マズいことになったな」
「とりあえずこの人なんとかしちゃおう!」
 全ての宝石を回収し、男を安全な場所へ避けてアンダーグラウンド・ディフェンスコープ――UDC組織への連絡を済ませる。あとは組織のエージェント達が男を保護ないし捕縛してくれるだろう。猟兵達は急いで雑木林の奥を駆けていく。と同時に、空模様が崩れていないにも関わらずあたりが急激に薄暗くなり始めた。
「これは……囲まれていますね」
「ああ、囲まれてんな」
「これはこれは。お構いなク」
「出迎えにしては随分と乱暴ですのね」
 ガァガァガァガァガァガァガァガァガァガァ。
 ガァガァガァガァガァガァガァガァガァガァ。
 耳に劈く大合唱。鴉のねぐらへようこそ。仲間かな。仲間じゃないね。よそ者が来たぞ。じゃあ敵だ。食ってしまえ、ついばんでしまえ。あの肉は美味いにちがいない、いいやきっと頭の脳髄を啜ったほうがよっぽど旨いに決まっている。口々にそんなことを言い合っているような不気味な声だ。頭上には空を埋め尽くさんばかりに何十羽もの鴉の大群がひしめき合っていた。雑木林入り口付近の比ではない。そこらじゅうの木という木に、枝という枝に鴉がとまっている。
「やぁねェ、歓迎されてるみたい」
「ハッ、こんな手荒な熱烈歓迎は初めてだ」
「宝石は既に此方が手中にある……が。見過ごせんな」
 猟兵達は鴉達の奥に妙な敵影をいくつか確認した。今にも襲ってきそうな雰囲気を纏う其れはあきらかに鴉の容姿には見えず。人ほどの大きさ、不気味に笑う口。撒き散らされる呪詛の塊。――数は一匹二匹ではない。二十を超える数のオブリビオンが獰猛な瞳でこちらを見ている。
「あれが呪詛型UDCですね」
「なるほど、親玉登場です」
「やっぱり出てきました……!」

 身構えた猟兵達に向かって呪詛型UDC――嘲笑う翼怪達は一斉に羽根を膨らませて、一度大きく笑い声を上げてから。次々に猟兵達へと襲い掛かってきたのである。
 
 
グラナト・ラガルティハ
あぁ、無事見つかったか…。
しかし、儀式はなされてしまったようだな。
ならば呼ばれたモノには速やかに帰ってもらおうか?
邪神の呪詛に俺の破魔が効けばいいが…。

【戦闘知識】で戦場を把握。敵位置を確認。
【封印を解く】で神の力を限定開放。
【高速詠唱】でUC【柘榴焔】に【破魔】をのせ【属性攻撃】炎で威力を強化。
一気に燃やす。
燃やしきれなかったもの神銃にて【属性攻撃】炎【破魔】で撃ち落とす。
敵攻撃は【オーラ防御・呪詛耐性】で防ぐ。

さて回収したアクセサリーだが…。
俺でよければ持ち主に返す前に少し【破魔】をかけておくが?


イリーツァ・ウーツェ
舞台は雑木林、敵は群体
攻撃し易い事だ

怪力で近くの木々を引き抜き、回転させながら投げる
空を埋め尽くさんばかりの鴉と、人間程度の敵の群れだ
続けざまに投げてやれば、早々避けられはしまい

近付いてくるならば、怪力で金属杖を振り回し叩き潰す
近付いてこないなら、怪力で地を蹴り、近付いて杖で叩き潰す
其の翼、毟り取ってやろう
手羽先が沢山取れそうだ

殺すべき者が現れたのだ
いざ、意味も理由も無く
約定に従い、全力でオブリビオンを殺し尽くそう


十三星・ミナ
アドリブ連携歓迎

人喰いの悪しき邪神を、取り逃がすわけにはいきません。
ここで殲滅します!その、気味の悪いニタニタ笑いをやめ……

(子供の悲鳴が脳裏で反響する。泣いているのはいつかの)

っ、死者を冒涜するような不快な声を、あげないでください!
《狂気耐性》で敵UCによる狂気へ抵抗。
《破魔》の力を持った霊符を自身に叩きつけた上で
《呪詛》と《呪詛耐性》のこもった宝珠を握りしめ更に抵抗。

UC【リザレクト・オブリビオン】で死霊騎士と死霊蛇竜を召喚。
邪神へ攻撃してもらいます。

動けるなら《第六感》を使って敵の動きを《見切り》、
回避を試みます。

邪神を無事に倒せたら犠牲になった子供へ、
鎮魂のための《祈り》を捧げます。



●翼をもぎ落とす者達
 イリーツァ・ウーツェの選んだクロムスフェーンも。
 グラナト・ラガルティハの選んだガーネットも。
 十三星・ミナの選んだブラックオパールも。
 すべてがそこに傷一つなくあった。元凶となった男の手から回収した宝石達はガラスケース越しに見た時と寸分変わりなくきらめいている。ただ、そこに先程までの力はなかった。どうやら儀式に使われたことで本来秘めていた魔力を消耗してしまったようだ。それでも。
「あぁ、無事見つかったか……」
「傷は……よし」
「何ともないみたいですね。少なくとも宝石としてはですが」
 グラナトとイリーツァが安堵からか小さな溜息をこぼした。ミナはブラックオパールを手のひらの上で転がして確認している。そう、ミナの言葉通り表面上の傷はなく宝石としての価値は全く損なわれていない。これはグラナトやイリーツァにとって大切な者へと贈るためのもの。ミナにとっては己が身に着ける為力の補助となる魔具。そうやすやすと失われてはならなかったモノたちだ。それをようやっと己が手に取り戻した彼らは気を取り直して、すぐさま上空に目を向けた。
「しかし、儀式はなされてしまったようだな。ならば呼ばれたモノには速やかに帰ってもらおうか?」
「そうですね、あの邪神達にはお帰り願いましょうか。人喰いの悪しき邪神を、取り逃がすわけにはいきません。ここで殲滅します!」
「舞台は雑木林、敵は群体……となれば、攻撃し易い事だ」
「ああ」
 イリーツァの冷静な言葉にグラナトは改めてあたりを見回した。ここは雑木林で近場に人の気配はない。一般人の心配は必要なく存分に戦える上、周りの木々を上手く使えば立ち回りも容易だろう。
 立地良好、人払い済、敵数多――相手にとって不足なし。
 おまけに三人とも戦いの準備をすでに終えている、猟兵としての実力は申し分ない対集団戦のエキスパート。地上であっても空中であっても、誰がどの相手をしても問題なく戦えそうだ。
「三方向から畳みかけましょうか。互いを背中合わせにして」
「承った」
「邪神の呪詛に俺の破魔が効けばいいが……」
 言いながらグラナトは封印を解く。己が神であることの有用性を存分に発揮した。神の力とは扱い難いため普段はおいそれと使役できない。他の猟兵とさほど変わらないはずの実力は彼が自身の力を封じているためだ。この緊急時に置いてその枷は今、彼の手によって外された。
「本気を出させてもらう。――……柘榴が如く燃えよ」
 ぶわり、とその場の魔力値が上昇する。柘榴焔、燃え盛るガーネットが宿す力強き炎が雑木林に散っていく。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる炎の渦は的確に森を燃やさずに鴉達を追い払った。騒々しい声で鳴く鴉の間を縫うようにして炎は雑木林をすすみ、嘲笑う翼怪に柘榴焔はつぎつぎと引火していく。身体を焼かれているにも関わらず嘲笑う翼怪は不気味な声で笑いだした。
『ギャハハハハハ!! ギャハハハハハ!!』
「その、気味の悪いニタニタ笑いをやめ――……、」

『わぁあああ……っ!』

「っ、」
 ミナが発された声に思わず足を止めた。嘲笑う翼怪から次の瞬間発されたそれは子供の悲鳴、子供の泣き声。嘲笑う翼怪は最後に襲った子供の声を真似ることがあった。このUDCはそれによって呪詛を生んでいるようだ。子供の涙ぐんだ悲痛な声がミナの脳裏で反響する。嗚呼そうか、あそこで泣いているのは、いつかの、ちいさなこどもで――。
「気をしっかり保て!」
「!」
 普段の対面会話は礼儀として敬語を使うイリーツァが、珍しく仲間の猟兵に向かって荒々しい口調で声を張り上げた。言葉に意識を揺さぶりかけられたミナが未だ頭に響き渡る子供の悲鳴を振り払って気丈に叫ぶ。
「死者を冒涜するような不快な声を、あげないでください!」
 ミナは胸元に光るネクロオーブをしっかりと握り締めてから真上に掲げる。ネクロオーブが瞬いて、雑木林に閃光が走った。ネクロオーブによる光は猟兵達に加護をもたらし、狂気による耐性を付与していく。雑木林に響き渡る笑い声と子供の声によって生み出された呪詛を瞬時に打ち消した。そう、これは呪詛型UDC。アンディファインド・クリーチャーの中でも特異部類としてのカテゴライズを受けたオブリビオン。呪詛の力は他のUDCに比べてもかなり強い。だがミナにとって呪詛とは常に傍にある馴染みの深いものだ。呪詛と来れば――彼女にとっては赤子の手をひねるようなものである。
 ミナは《破魔》の力を持った霊符を自身に叩きつけるとグラナトとイリーツァに軽く一礼した。
「失礼致しました。もう大丈夫です。お二人は戦闘に集中を」
「助かる」
「ああ、心得た。後方は頼むぞ」
「もちろんです。任されました」
 ミナはそのまま死霊騎士と死霊蛇竜を召喚するとグラナトの炎に沿わせて、一気に嘲笑う翼怪を叩き落した。炎に巻かれたオブリビオンは地で藻掻いている。子供の苦痛がにじむ悲鳴が耳に届いてきたが、もうそれはミナの頭を揺さぶる狂気にはならなかった。
「全て倒し終えたら鎮魂のための祈りを捧げましょう。どうか今はご容赦を」
 まだ空には沢山の嘲笑う翼怪がいる。戦闘態勢を解くわけにはいかない。戦いを終えたら必ず彼らの魂のために祈る約束を小さく呟いて、ミナはまだ大量に上空を飛び交うオブリビオン達に目を向けた。
 そんなミナの背後を狙って降りてきた一体をグラナトが炎でからめとり、神銃で撃ち落とす。紅く赤く朱く眩く燃え盛る炎は敵を焼く鮮烈な炎だが、不思議とミナにはそれが温かく寄り添う焚火のようにも感じられた。
「どうも」
「たまたま降りてきていたからな。しかし――随分と使い込まれたらしい」
「宝石……ですか。そうですね」
 大事に懐に入れられたブラックオパールからは魔力反応が著しく下がっているのはミナも分かっていた。ネクロオーブに近づけてもデパートで試していたときのような相性の良し悪しが分かる反応すら得られない。グラナトが所持するガーネットも同じようなものなのだろう。このままでは魔具としての力は果たせなさそうだ。
「持ち主に返す前に少し破魔の力をかけておくか?」
「そうですね。せっかく手に入れたものなので――私もブラックオパールに今一度魔力をこめましょう。そのためにも、」
「ああ、まずは倒すのが先決だな」
 二人は同時に魔力を走らせる。炎と死霊がまだまだ上にいる敵へと迸っていった。

「行くぞ」
 二人から少し離れた場所に居たイリーツァは軽く近場にあった木をおもむろに掴んだかと思うと、まるで道端の雑草を抜くように軽々と引き抜いて己が武器とする。数メートルもある木は槍か棍の如くぐるりぐるりと振り回されて。長射程となったそれは彼から遠いところにいた一体の嘲笑う翼怪に叩きつけられた。他にも何体か直撃しなかったとはいえど羽根に掠めたか、明らかに飛行高度を落としている。
 集団戦で一番恐ろしい力である広範囲攻撃を見事に使いこなしている。
「空を埋め尽くさんばかりの鴉と、人間程度の敵の群れだ。続けざまに投げてやれば、早々避けられはしまい」
 棍使いですらここまでの荒業はなかなかできないだろう、槍や杖を得物とする猟兵ですらまさか大木をそのまま武器に使うのはかなりの膂力と豪快さが必要となる。それをやってのけるのがイリーツァ・ウーツェという男だった。次々と木を引き抜いて棒切れよろしく空に向かって振り回せば、面白いくらいに嘲笑う翼怪に当たった。
 危険を察知して降りてきた一体は金属杖を素早く振りぬいて叩き落とし、木も当たらぬほど上空へ逃げた嘲笑う翼怪には逃がすまいと直接接敵して地へ堕とす。
「其の翼、毟り取ってやろう。手羽先が沢山取れそうだ」
 人間食わねど鳥ならば。夕飯には困らなそうだが正直お味の方は推して知るべし。イリーツァは冷たい視線を向けてもはや飛べないオブリビオンの羽根を丁寧にちぎる。
「殺すべき者が現れたのだ。いざ、意味も理由も無く――約定に従い、全力でオブリビオンを殺し尽くそう」
 なにせ敵はまだまだいるのだから。倒しても倒しても呪詛型UDCの数は減らない。であるならば倒し尽くすだけだと、イリーツァは再び上空に舞い戻った。

 三人の猟兵を皮切りに集団戦が幕を開ける。鴉の群れを呪詛で操っていたのもあってか彼らは仲間を呼び寄せて、その数は当初の倍に膨れ上がっていた。
 だがこちらに控えるは一人一人が埒外の存在の猟兵である。邪神に拮抗する力を兼ね備えた者達には、数で勝ろうとも実力で敵うに能わず。敵にするには相性が悪すぎたと、この後オブリビオン達は身をもって知ることになる。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

杜鬼・クロウ
アドリブ◎
無双・厨二歓迎

…少し遅かったか(呪具だった宝石見て
ちっ、錯乱野郎が余計な真似を
鴉には俺の八咫烏で相手してヤろうと思ったが如何せん数が多い

被害を最小限に効率よく倒す…あァヤメヤメ
今回は面倒事は無しだ
暴れるぜ!

鴉達をぐるりと見渡し不敵の笑み
親指を犬歯で噛み血流す
【沸血の業火】使用

敵の攻撃は第六感で見切り
流れる所作で華麗な剣捌き
玄夜叉に紅焔宿し一回転し振り回す
複数敵を一気に薙ぎ倒す
地形利用しジャンプし勢いつけ斬撃
敵集団に突入
的確に急所狙い交互に灼き払う

相手が悪かったなァ、ノロマ共

粗方片付いたら職人の所へ
宝石の品受け取る

(思いの外良いヤツ出来ちまった
適当に作ったハズが
手抜きに見えねェ(複雑


比良坂・美鶴
まァ怖い
……なんてね
これくらいの子はいくらでも見てきたのよ
怯んでられないわ
招かれざるモノには御退場願いましょ

先の猟兵達の戦いを観察
翼怪の動作をよく目に焼き付けてから仕掛けるわ

充分に距離を取った上で
『リザレクト・オブリビオン』

煙草の紫煙を燻らせ
あの子達を喚びましょ
流石に数が多いと厄介だものね
こちらも数で対抗するわ

手数にモノを言わせて
叫ばれる前に一匹ずつ確実に口と喉を潰すわ
流石に喉を潰されたら叫べないでしょう?
攻撃動作をしているものから
優先的に、ね

アナタは一体どれほどの命を
弄んで犠牲にしてきたのかしら
アナタの在り方を認めるわけにはいかない

さあ
骸の海に帰りなさいな


臥待・夏報
夏報さんのUDCは獣に対して効果が薄い。
彼らの精神構造はシンプルで強いからね。
――真正面から突破するしかないか。

操られてるカラスたちには『釣星』の麻痺毒で勘弁してあげつつ、本体にできるだけ接近し、あるだけ銃弾を叩き込む。

手足で攻撃するってことは、間違いなく『触れて』くれるってことだ。
大した過去は見れそうにないが、『通りすがりの走馬灯』。
全身を破壊不能の写真に変えて戦場を離脱。
最後にこの展開にさえ持っていければ、それまでどんなに負傷しても、死にはしないからね。余裕があれば味方をかばう。

写真と宝石は、うちのカラスくんに後で回収してもらおう。
……そこら中に飛んでいっちゃうと、後で困るんだよね、これ。



●天穿つ者達
「……少し遅かったか、ちっ、錯乱野郎が余計な真似を」
 クロウが手元の宝石から失われた魔力量をもとにどの程度のリソースが邪神召喚に割かれたかを知った。
 潤沢にあったはずの資源は無くなってしまった。宝石一つ一つにこめられている魔力量はたかが知れていてもそれが十を超えているとなると話は違ってくる。頭上の大群がその証拠だ。空を覆い尽くす勢いで群れを成す邪神の数に思わずクロウから舌打ちが漏れる。
「まァ怖い」
 軽口を叩くのは美鶴だ。邪神に怯えたような物言いはすぐさま次の言葉で打ち消される。数に怯んでなど居られない、猟兵達はそもそもあれを倒すためにここにいるのだ。
「……なんてね。これくらいの子はいくらでも見てきたのよ。怯んでられないわ。さあ、招かれざるモノには御退場願いましょ。たとえこの数であったとしてもね」
「そうだな、仕方ねェ。鴉には俺の八咫烏で相手してヤろうと思ったが如何せん数が多い」
 数の多さに辟易しつつも攻撃手段がワンパターンではないのが猟兵達である。クロウはすぐさま次の手を考えて、被害を最小限に効率よく倒すにはどうするか頭を巡らせて。そしてすぐに。
「あァ、ヤメヤメ。今回は面倒事は無しだ――……暴れるぜ!」
「あら。ひどくシンプルな作戦ね」
「要はブン殴りゃァいいんだろ。判り易くていい」
「身も蓋もないわね。でも確かにその通りよ」
 美鶴は苦笑を洩らしてクロウの飾りのないただ暴れるという言葉に肩をすくめた。しかし彼の言う通りだ。この数相手にやることは至ってシンプル。暴れて暴れて暴れて暴れて暴れて暴れて暴れて、暴れて尽くせば。おのずと敵の数は減る。
「決まりね、じゃあアタシも存分にやらせてもらうわ」
「そうだな。他の奴らも好きに始めてる」
「ふむ、そういうことなら夏報さんの出番もありそうだ」
 ひょっこりと二人の間から顔を出した小柄な女性は臥待夏報だ。美鶴とクロウの間に揺れる灰色の髪、邪神を見つめるのは藍色の瞳。その目に曇りはひとつも無い。空は彼女の髪の色のように灰に染まっていたが、まるで青空を覗きに来たような気軽さで彼女はUDCを見上げている。
「夏報さんのUDCは獣に対して効果が薄い。彼らの精神構造はシンプルで強いからね。つまり――真正面から突破するしかない。そしてそれはシンプルに暴れてしまえばいいということだろう?」
「そういうことだな」
「スマートに行ってもいいけれど泥臭く暴れるのがむしろ一番効果的かもしれないわね」
「よし、そうと決まればとっとと終わらせるとしよう」
 夏報は懐から戦闘用フックワイヤー『釣星』を取り出した。フックの先端部分に改造が施してあり、毒を注入できる機能がついた彼女だけの特別性のそれをくるりと振り回す。器用に周囲の樹木にひっかけながら上空に向かうと、操られてるカラスたちには麻痺毒を与えた。
「これで勘弁してあげつつ、こっちは――」
 本体の嘲笑う翼怪にできるだけ接近し、これまた懐から銃を取り出すとありったけの銃弾を叩き込んだ。行動としてはかなりシンプルなそれに、しかし威力は存分にある。文字通り暴れた結果嘲笑う翼怪は地に叩き堕とされた。
「よし、こっちも行くか」
 鴉達をぐるりと見渡し不敵の笑みを浮かべたクロウがおもむろに指を歯にあてた。そのままがりり、とクロウの犬歯が己の指の腹を破る。噛みだしたそこからぽたぽた鮮血が落ちた。
「我が身に刻まれし年月が超克たらしめ眠る迅を喚び覚ます。獄脈解放――凌駕せよ、邪悪を滅する終焉の灼!」
 ヘレシュエト・オムニス、彼がそう小さく呟けば一滴の血はぐらぐらと煮立つ。血潮を代償に彼は瞬発力や移動速度、攻撃速度といった身体能力強化を得た。
 たった一つの跳躍で簡単に空に飛び出した彼は流れる所作で華麗な剣捌きで次々と群れに剣撃を浴びせている。杜鬼クロウが持つ刃渡り二メートル近い黒魔剣『玄夜叉』はその力を存分に発揮していた。ルーンによる精霊の力を宿す魔剣は呪詛持つオブリビオン達にも有効に作用しているらしい。
 跳躍を終えて地に戻り、また勢いを付けて敵集団に突入、的確に急所狙い交互に灼き払う、その繰り返し。集まっているUDCは確実にその数を減らしつつある
「相手が悪かったなァ、ノロマ共」
「負けてられないわね。あの子達を呼ばなくちゃ」
 流石に数が多いと厄介だものね、こちらも数で対抗するわ。
 美鶴はそんなことを一人呟きながら、先の猟兵二人の戦いを観察して、翼怪の動作をよく目に焼き付けて。美鶴は二人とは対照的に距離を取ると攻撃を仕掛けた。彼の手段は自身が傷を受けると解除されてしまうため接敵が許されない。より確実に、しかし大暴れを。そのために必要な観察だった。
「それじゃ行ってきて頂戴」
 心得た、と言わんばかりに屍霊である死霊騎士と死霊蛇竜は主人に頷きを返す。線香の馨りを背負った二体は忠実に命令をこなし始めた。煙草の紫煙を燻らせて、実体のないふわりとした煙から生まれたあの子達。
 それらが狙う急所はみな喉元や口と言った、不快な呪詛と仲間を呼んでしまうパーツばかりだ。
「手数にモノを言わせて叫ばれる前に、一匹ずつ確実に口と喉を潰していかないとね。流石に喉を潰されたら叫べないでしょう? さあ、骸の海に帰りなさいな」
 攻撃動作をしているものから優先的に狙う二体のおかげで邪神の数の発生も抑えられ始めた。あとからあとから増えていた邪神の数に陰りが見え始める。
 と、頭上からばらばらと美鶴めがけて写真が落ちてきた。
「あら」
「――緊急離脱した。拾ってもらえるかい」
 拾い上げたそれは子供の泣き叫ぶ様子やついばまれる直前の凄惨な事件現場の数々がおさめられた写真。夏報のユーベルコードによるものだった。
 全身を触れたものの過去を写す写真へと変貌させて、己は無敵化するユーベルコード。つまりこの写真の数々は今現在の夏報であり、かつて嘲笑う翼怪の過去。捕食の様子に美鶴が顔をしかめた。
「アナタは一体どれほどの命を弄んで犠牲にしてきたのかしら。アナタの在り方を認めるわけにはいかない」
「夏報さんもちょっと許せないな。いやあごめんごめん、……そこら中に飛んでいっちゃうと、後で困るんだよね、これ」
 ばらばらと次から次に落ちてくる写真を拾い上げて美鶴は一束にまとめてやった。ユーベルコードを解いた夏報が元に戻る。
「よーし、首尾は上々だね。そっちは?」
「粗方終わったぞ」
「お疲れ様」
 クロウが玄夜叉についたオブリビオン達の血を振り払って戻ってきた。三人の戦果報告はかなりの数だ。それぞれが好き勝手に暴れたおかげで数はかなり減っている。
「早く宝石持って帰路につきたいね」
「あァ……宝石か」
 職人の所へ預けてきた宝石をクロウは思い出していた。後で取りに戻らなければ。光に翳したときのクオリティーはそれなりに良かったと自負している。否、それなりではない。かの渡す相手にはもったいないほどの出来になってしまった。
「思いの外良いヤツ出来ちまった……適当に作ったハズが手抜きに見えねェ。これじゃ本気出して作ったみてェに思われるな……」
「あら、どうかしたの?」
「イヤなんでも」
 複雑そうな顔を慌てて消して、クロウは上に向き直る。
「まあ兎にも角にも宝石持ち帰るためにはまだまだ暴れねェとな」
「その通り、夏報さんも早々に離脱したからまだ暴れ足りないんだ。まー、最後にこの展開にさえ持っていければ、それまでどんなに負傷しても、死にはしないからいくらでも戦えるんだけどね」
「まだまだ掛かりそうね」
 やれやれだわ、と美鶴も夏報もそれぞれまだそれでも多い大群に溜息をつきつつも、再び戦場へと舞い戻る準備を始めた。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エンジ・カラカ
アァ……カラス。
アレが宝石を奪った犯人?
いーっぱいいる。
賢い君、賢い君、見ててくれ。
コレがたーっくさん撃ち落としてくるヨ。

おびき寄せである程度おびき寄せたらまとめて人狼咆哮。
ちまちまと一匹ずつよりまとめての方がイイ。
散らばったカラスを一つにまとめてバイバイ

カラスが空から来ても狼の足は素早いカラ
カラスになんて捕まらないサ。
第六感と見切り、それから自慢の耳をつかって
カラスの攻撃は避けようそうしよう。

コレは支援に徹する。
味方が動きやすいように立ち回りに気をつけて
敵サンをまとめておく
沢山まとめ過ぎたら敵わないカラ適度に
そこは分かってるサ。


桜雨・カイ
宝石も男の人も無事保護できたし、本物の鴉…もこの場にはいない?(逃げててくれればいいのですが…)あとはUDC達を相手にするだけですね。
「念糸」で羽根に糸をからめて動きを制限させつつ【援の腕】で浄化させていきます

(子供の、悲鳴---!)
過去を思い出して思わず動きをとめた瞬間、
印象に残っていたロードクロサイトの色を思いだし
とっさに強い光を放ち、一撃を逸らします

『心の深い場所を刺すもの。それを癒せる力もまたー』
……さっそく助けてもらいましたね

もう惑わされませんよ。
呼び出されたところすみませんが、このまま元へ戻って下さい
浄化の光で彼らを浄化します

終わったら、ジュエリー作りの続きをしないとですね


アンリエット・トレーズ
なあるほど
悪い子が失敗してしまったのですね
悪事は露見するものとはいえ、もはや反省させる必要もないようです
仕方がないので、後始末だけはしてあげましょう

あなたたちは鴉には見えませんけれど、きらきらするものは好きですか?
アンリエットは好きですよ
《薔薇城の晩餐》だってそうです
お姫様のためのカトラリー、美しいでしょう?
硬くて、強くて、美しいのです
さあさどうぞ、めしあがれ

ああいけません
お姫様に触れられるのは王子様だけ
もちろんアンリエットにも
これはあなたたちをたいらげるためのカトラリー
一石二鳥とは言いますけれど、アンリエットは優しいので一羽ずつ落としてあげます

でもあなたたちは、晩餐のチキンには向きませんね



●黒い翼の君
 アンリエットの見上げる空にはオブリビオン達――嘲笑う翼怪がはばたいていた。それを呼び出した張本人はといえば、今頃UDC組織のいずこかで治療を受けているだろう。その後に何が待っているのかは推して知るべしであるが。
「なあるほど、悪い子が失敗してしまったのですね。悪事は露見するものとはいえ、もはや反省させる必要もないようです。仕方がないので、後始末だけはしてあげましょう」
 全く困ったものです、とアンリエットはさして困った顔を浮かべずに言う。左右非対称の瞳が未だ空の所有権を叫ぶ夥しい数のオブリビオンを涼やかに見つめていた。
 彼女の瞳に映るのはなにもオブリビオンだけではない。灰色の空を泳ぐ黒い魚のようにぽつぽつと。その姿はオブリビオンに操られる鴉達だ。
 うるさい声がする。うるさい声がする。
 エンジ・カラカがアンリエットに倣って頭上を見上げれば、ちょうど上からは彼らのつややかな羽根が落ちてきた。漆塗りのように光沢をもつそれが光を反射していて装飾品のようだ。鼻先をかすめて地を目指すそれをひょいと指ですくってまわす。羽ペンのようにインクこそ滴らなかったが、彼の指によって鴉の羽根は宙になんらかの文字を書いた。それは賢い君に向けたメッセージ。
「アァ……カラス。アレが宝石を奪った犯人? いーっぱいいる。賢い君、賢い君、見ててくれ。コレがたーっくさん撃ち落としてくるヨ」
 楽しそうに笑うエンジは酷く獰猛な瞳で鴉を見つめていた。
 呼び寄せるかのように手に持った羽根を魅せつければ、仲間の鴉達は誘引されて降りてくる。元々呪詛型UDCによって操られていた彼らは因子的に、今はそれが何であれど“呼ばれやすく”なっていた。
 エンジの手招きに導かれて何羽も何羽も降りてくる。彼の頭上で輪を描く。
「そんなに集めてどうするつもりです」
「オブリビオン達を倒すのに邪魔だからなァ、ココはお暇してもらおうカ」
 ぴた、とエンジの手が止まった。と同時に薄く開いていた口が大きく開け放たれて、次の瞬間には彼の口からキィンと高い激しい咆哮が飛び出していた。
 至近距離で聞くはめになっていたはずのアンリエットは彼が予備動作に入った段階でも、片眉を少しばかり上げるだけでとくに驚く様子はなかった。彼が行ったのは無差別攻撃だったが、アンリエットは声の飛び出る直前、瞬時に身をひるがえして雑木林の陰に隠れると既にそっと耳を塞いでいた。まるでエンジがそうすることが分かっていたかのように。
 驚かなかったアンリエットとは真逆に驚いたのは鴉の方だ。いきなり浴びせかけられた激しい咆哮は音の波となって、彼らの脳髄をぐらりぐらりと揺さぶった。視界はブレにブレて平衡感覚が失われる。当然飛行能力にも影響して、ばたばたと何羽かが固まって地に落ちてきた。
「ちまちまと一匹ずつよりまとめての方がイイ」
「先に仰っていただかないと」
「何、きっと避けてくれると思って」
「避けなかったらどうするおつもりだったのですか」
「その時はその時サ」
「……」
 言葉の応酬に肩をすくめたがアンリエットは追及も怒りもしなかった。
 エンジもまた弁解はそれきり止めて鴉に向き直る。
「さて、散らばったカラスを一つにまとめてバイバイ――」
「わーっ、待って待って! 待ってください!」
 はいさようなら、と一網打尽にした鴉を放り投げようとしたエンジに慌てて待ったをかけたのは桜雨・カイだ。猟兵達は多くの鴉を虐殺するようなことは一応止めてはいたものの、一度戦闘に突入してこうなってしまってはやぶれかぶれだと一気に鴉にも攻撃を仕掛けている。だが元を辿ればただ操られているに過ぎないとカイは言った。
「わからないナ、どうして止める?」
「その、たぶん呪詛型UDCの近くにいなければ元の鴉に戻ってくれると思うんです。実際に洗脳が解けた個体も居ました」
「フーン……なるほど。まあやることは変わらない。そーれ」
「ああっ! どうかなるべく丁寧にお願いしてもいいですか……!」
「これ以上ないくらい丁寧だとも。ねえ賢い君?」
 えいや、とエンジが鴉達を雑木林の入り口付近に結局投げてしまった。飛距離が当初より伸びていたのはカイの助言故だろう。処分予定を変更して遠ざけるだけにとどめておく。遠ざかれば呪詛型UDCに操られることもないのだろう、とエンジが問えばカイは頷いて見せた。
「良かった……もとはと言えば呪詛型UDCが原因であるだけで普通の鴉なので……。戦闘に巻き込まれたり未だ洗脳のさなかにある個体はどうしようもないですが、助かる子が多いに越した事はありません」
「鴉の数はそれなりに減りましたがまだ空にいますね」
「ま、相対数が減らせたから良しとしよう。カラスが空から来ても狼の足は素早いカラ、カラスになんて捕まらないサ。残ってしまったカラスの攻撃は避けようそうしよう」
「ではそろそろ戦闘に移りましょうか。あちらさんもかなり業を煮やしているようです」
 アンリエットがすい、と指を動かしたその先、ニィイと口角を吊り上げて不気味な顔で笑う敵が三人を待っていた。

「あなたたちは鴉には見えませんけれど、きらきらするものは好きですか?」
「ギャアギャア、ギャアギャア!!」
「アンリエットは好きですよ。――《薔薇城の晩餐》だってそうです」
 きらり、と問いかける彼女の後方で何かが光る。それはアンリエットの宝石ではなく、想像の粒から生み出された力。彼女特有のユーベルコード。きらきらと一番星がたったひとつだけだったそれは瞬く間に数を増していく。それは食卓で用いられる食器類。銀にきらめく磨き上げられた彼女の為のもの。
 カトラリーと呼ばれるナイフやフォークやスプーンが宙に浮いている。
 生み出されたカトラリーはみな一方向に固定され、オブリビオン達に先端を向けていた。美味しいごちそうは誰、と問われれば食器は皿の上の鳥を指している。
「お姫様のためのカトラリー、美しいでしょう? 硬くて、強くて、美しいのです。――……さあさどうぞ、めしあがれ」
 ひゅん、と空を切る音とともにカトラリーは一斉に射出された。
 追尾弾がごとく、今更危機を察知して逃げまどうオブリビオンを串刺しにする。
 テーブル、デザート、フィッシュ、ケーキ、バター、それぞれの用途のために用意された独特の形を持つ食器。先の鋭いものはオブリビオン達に突き刺さり、逆に先端のまるいスプーンは目玉をえぐり取ろうとやわらかな部位を狙って飛び交う。
 さながらマジックショーのように次々にカトラリーを撃ち出すアンリエットはその場から動いておらず、固定砲台のようにぴたりと止まったまま一部始終を眺めていた。ここに優雅なティーセットでもあればより一層お姫様らしく人の目にうつるだろう。
 一匹がいくつものカトラリーに刺され目をくりぬかれながらも懸命にアンリエットを狙ったが、フォークがそれを阻害する。道半ばで力尽きて骸の海へと還っていった。
「ああいけません、お姫様に触れられるのは王子様だけ。もちろんアンリエットにも。これはあなたたちをたいらげるためのカトラリーなのですから」
「一網打尽にはしないの? 効率重視は良い、とても良い。何より一手で済むヨ。楽で簡単簡単」
「一石二鳥とは言いますけれど、アンリエットは優しいので一羽ずつ落としてあげます」
「そっかー、残念残念」
 エンジの問いかけにもアンリエットはそう答えるだけだった。
 羽をもがれた嘲笑う翼怪を一瞥して、アンリエットは既に聞こえない消えかけのオブリビオンに言葉を残す。
「でもあなたたちは、晩餐のチキンには向きませんね」

 一方カイはアンリエットと違い、フィールドを存分に駆け回って戦闘を続行していた。念糸によってからめとった嘲笑う翼怪に片っ端から浄化の力で対抗する。呪詛型UDCの放つ呪詛は他の猟兵の能力によってかなり出力が抑えられているもののまだゼロではない。真逆に位置する破魔の力は毒になっているのか、暴れまわる嘲笑う翼怪には効果があるようだ。
『ギャアア!! ああ、痛い、痛いよ、助けて!』
「子供の、悲鳴――!」
 嘲笑う翼怪は子供の声を真似てカイの古傷をつついてくる。かつての過去を思い出したカイは足が止まりかけたが、不意に先の宝石商の言葉と差し出された宝石の色を思い出した。とろみのある優しい、桜を思わせる春の色。
 過去になにか悲しい出来事で傷を負っている。その傷はずっとその方にとって心の深い場所を刺すもの。
 それを癒せる力もまた、この石には宿っているのですよ。
「ああ、そうでしたね……さっそく助けてもらいました」
 立ち止まり掛けた足が動いた。もう惑ったりなどはしない。からめた念糸を指で引いて浄化の力を流し込む。
「もう惑わされませんよ。呼び出されたところすみませんが、このまま元へ戻って下さい」
「敵サンをまとめておこうか。アッチの彼女は一人でいいみたい。賢い君も自分もお役御免。だからこちらの支援に徹する。ドウ?」
 ひょっこりとエンジがこちらに顔を出した。援軍にカイは表情を柔らかくして快諾する。
「助かります。それではお願いできますか?」
「リョーカイ、リョーカイ。沢山まとめ過ぎたら敵わないカラ適度にね。そこは分かってるサ」
 先に使ったおびき寄せはオブリビオンに対しても効き目があったのか、少しずつエンジに群がる嘲笑う翼怪を、カイが次々に浄化させていった。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

トリス・ビッグロマン
ネロ(f18291)と

UDCの獲物は、ゲテモノばっかだな
悪魔に似てて胸クソが悪い

【配下の十一人】を召喚
さあ追い立てろ狩人ども
デカかろうがキモかろうが鴉は鴉
撃ち漏らしたら恥だと思え

ネロ、宝石は見つかったか
よし、オレの背中を預けてやる
背後には一切注意を払わんからそのつもりで戦え
その代わり、お前も後ろを見る必要はない

あ゛~やかましい
鳴くなら艶のある女の悲鳴で鳴いてくれ
その喉に風穴空けてやる


ネロ・ケネディ
トリスさんと(f19782)
……UDCですからね
でもゲテモノばかりでちょうど良かった
燃やすのに心が痛まない

【無音の魔弾】、装填
私は私の手で殺します。両手を歯で噛んだなら、血が出ればそれでいい
トリスさん、撃ち漏らしたりはしませんよ――私はどうやっても、このカラスどもを燃やして、朽ちて、灰にする
頂いたものが手にないのは落ち着かない
――返して貰いましたよ
背中を預ける彼にいつの間に「信頼されて」いたやら
預けてやる、だなんて「おおきい」ことで少し驚くけれど
――わかりました、では私も後ろを任せます

静かにして頂戴
――静かな方が好きなの
カラスが鳴いたら、還りましょう?



●共犯者達のワルツ
 一言でいえば不気味の其れに尽きた。
 人を模したような四肢におよそありえない大きさの口、血の匂い。撒き散らした呪詛にまぎれる子供の悲鳴。見た目も吐き出す呪いも、とてもではないが趣味が良いとは言えないだろう。
「UDCアースの獲物は、ゲテモノばっかだな。悪魔に似てて胸クソが悪い」
「……UDCですからね。でもゲテモノばかりでちょうど良かった。燃やすのに心が痛まない」
「まあな」
 悪態をつくトリスにネロがつとめて冷静に返す。外見のかわいらしさは時に狩人の手を止めてしまうが相手がこの様相であればその心配も必要ないだろう。瞳につぶらさはなく、やわらかでちいさな体躯はなく、であれば狩人のトリガーは鈍らない。
「じゃあとっとと始めるか。来い、誰が“狩って”も恨みっこナシだ」
 トリスのユーベルコードにより十一人の猟師の霊が呼び起こされる。各位トリスの命令系統で統率することも可能であり、それとは別に個別でも動くことのできる優秀な狩人達だ。ワイルドハントの幕が開く。トリスは人差し指を頭上に向けると彼らに出発を促した。
「さあ追い立てろ狩人ども、デカかろうがキモかろうが鴉は鴉。撃ち漏らしたら恥だと思え」
 奴らもまた狙うべき獲物。一匹たりとも逃してなるかと嗾ければすぐさま猟師達は己の武器を手に方々に散っていく。
「それで、そっちはどうする? ネロ・ケネディ」
「私は私の手で殺します。両手を歯で噛んだなら、血が出ればそれでいい」
「へっ、そうかよ。なら存分に暴れて来い。撃ち漏らしはナシだ。いいな」
「トリスさん、撃ち漏らしたりはしませんよ――私はどうやっても、このカラスどもを燃やして、朽ちて、灰にする」
「頼もしい事だ、全く」
 ただでさえ宝石を取られているのだ、逃したりはするものか。
 ネロがトリスから贈られた宝石は、男が持っていた袋の中にはなかった。あの数多いるオブリビオンのうちどれかの手に渡っている。頂いたものが手にないのは落ち着かないのだとネロは言った。
「せっかく頂いたのですから」
「気に入ってくれたなら結構」
 燃やして、朽ちて、灰にする。その宣言通り、ネロは二丁拳銃を構えて嘲笑う翼怪に銃口を向けてトリガーを引き絞る。ガチン、という硬い音とともに弾丸は亜音速で狙い寸分違わずに眉間に命中した。
 硝煙のたちこめる戦場で、ネロは場に不釣り合いな酷く穏やかで凪いだ、静かな瞳をしていた。そこには焦燥も苛々もない。撃って、捨てて、撃って、薬莢を捨てて、オブリビオンを撃って、撃って撃って、撃って、捨てて撃って、また撃って。表情に変化はない。当たり前を当たり前のように、日々のルーチンワークをこなすように。オブリビオンを実に作業的に、あるいは機械的に殲滅していた。
 夥しい数の嘲笑う翼怪の骸の山ができる。そのうち一体がネロの贈られた宝石、バイオレットサファイアを持っていた。幸いにしてこちらも傷はない。元のままだ。手のひらのなかできらめく宝石の無事を確認する。
「――返して貰いましたよ」
「ネロ、宝石は見つかったか」
「はい。確かに」
「ならいい。よし、オレの背中を預けてやる。背後には一切注意を払わんからそのつもりで戦え。その代わり、お前も後ろを見る必要はない」
「……、」
 先程まであんなに感情が表に出ていなかったネロがおや、と少し目を開いた。
 戦場で背中合わせに戦う事、それはお互いの死角を預け合うということだ。死角はすなわち弱点、視界が届かなくなる死角からの攻撃を常に警戒して兵は動かなければならない。が、その役割を他人に任せるのはよほど相手に信頼がないと出来ない行為であるはずで。そんな彼から、背中を預けるなどと。
 トリスから向けられるのは確かに信頼の二文字で、背中を預けると申し出た彼からの提案にいつのまにかこんなにも膨らんでいた信用の念の大きさにネロは驚いていたのだ。
「……わかりました、では私も後ろを任せます」
「ああ、任せろ。オレも任されてやる」
 守り守られ、互いの弱点を譲渡しあう。相棒や仲間ではあまりに近しすぎて、協力者ではあまりに疎遠すぎて、二人の関係性はたった一言で表すには複雑すぎる。それでもあえて例えるとするならば――秘密を分かち合う共犯者だ。
 二人の共犯者達は非常に息の合った攻撃で敵の合間をすり抜けていく。それは先程互いが一人で戦っていた時よりもずっと、なぜだか心地が良かった。ギャアギャアとわめく鳥をかき分けて彼らは進む。
「静かにして頂戴――静かな方が好きなの。カラスが鳴いたら、還りましょう?」
「あ゛~、やかましい。鳴くなら艶のある女の悲鳴で鳴いてくれ。その喉に風穴空けてやる」
「無駄口を叩いている暇は有りませんよ」
「そっちだって叩いてるだろ」
 軽口の応酬を重ねあいながら、二人はまるでダンスを踊るが如く、呼吸と攻撃をぴたりと合わせていった。まるで随分前から、ずっと前から、とうの昔からそうであったかのように。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

花邨・八千代
【徒然】
指輪戻ってきたー…!あー、よかった。
にしたって気持ちわりーもん呼び出しやがって…。
どこで拾ってきたんだか知らんがきちんと責任とれよなァ、まったく。

まァいいや、ちっと遊ぼうぜぬーさん!

◆戦闘
掌掻っ捌いて『ブラッドガイスト』だ。
武器は黒塚、怪力乗っけて思いっきりなぎ払うぜ!
どんどん来いよ、片っ端から切り刻んでやる!

飛べるかどうかもわからんがその羽、落としといた方が見栄えいいぜ。
あとなー、ちっとばかしうるせーから黙れや。

ぬーさんの方に行く敵がいれば優先して倒すぜ。
手助けはいらんかもしれんけどなー、まぁ気分だ気分。
楽しんでるかぬーさん!俺ァ結構楽しいぜ!
なんせ切っても切っても湧いてくらァ!


薬袋・布静
【徒然】
折角作った指輪やもんな…よかったわ、ホンマ
うっわ、これまたえげつないモンを…
コレを責任取らされるのは俺ら猟兵なんだよな〜

お前にしたら戦闘は本気出せる遊びやもんな

◆戦闘
八千代の作った傷をえぐるように「蛟竜毒蛇」で
多くの同胞で捕食と毒で侵食させ動きを鈍らせ補助を

数には数をってな
あんまりはしゃがんと少しは冷静に行動しぃーや?

此方に向かってくるのがいれば数匹残してた同胞と
潮煙で呼んであったカツオノエボシを彷徨せ壁を作る
効果あるか微妙だが、念の為に対策として呪詛耐性で
子供の声を紛らわせ対処

そないに頼りないかね…ま、ありがとさん

数の多さから治療が必要なら
腰の医療ポーチ(医術)で己と八千代を治癒する



●いつもの二人
 苦労して造った指輪は確かに彼女の手の中でふたたび光をみせていた。寄り添う鳥の姿はそのままに何一つ欠けることもなく燦然と磨かれたときのままの艶めきを放っている。指輪に使うべき表現かどうかはわからないが、まあ五体満足と言って差し支えないだろう。
「指輪戻ってきたー……! あー、よかった」
「折角作った指輪やもんな……よかったわ、ホンマ」
「無くなってたらマジでボコボコのギッタンギッタンにしてたわ」
「おぉこわ」
 心底安心した表情でつぶやく八千代に布静が同じくどこか穏やかな声色で返す。彼もまたせっかく創り上げた指輪がこの手の中に戻ってきたことに安堵していた。もうなくさないようにしなければと大事に懐にしまい込む。
 さて、宝石とそれを接着した加工品である指輪を取り戻す、という当初の目的は達成した。問題は奪った宝石をもとにとある男がしでかしてしまった後始末が残っている点だ。
 二人とも“後始末”の姿を見る為に視線を上に向ける。嘲笑う翼怪は鴉に交じって翼を動かしながらその不気味な笑みを歪めていた。ゲラゲラと汚く笑うその声はまるで人間のようだと布静が顔をしかめた。あれこそが呪詛型UDC。人々に呪いを振りまいている今回の敵だ。
「にしたって気持ちわりーもん呼び出しやがって……どこで拾ってきたんだか知らんがきちんと責任とれよなァ、まったく」
「うっわ、これまたえげつないモンを……コレを責任取らされるのは俺ら猟兵なんだよな〜」
 ペットは飼ったら最後まで面倒を見るのが飼い主の責任ではないのかと八千代がべぇと舌を出した。飼い主――もとい召喚者は不在である。そのしわ寄せは猟兵達に。嫌な仕事だと布静は八千代に首を横に振るジェスチャーをした。
「まァいいや、ちっと遊ぼうぜぬーさん!」
「はいはい。お前にしたら戦闘は本気出せる遊びやもんな」
 遊び、と称してオブリビオンに臆さず向かっていく彼女にとっては、まさしく戦闘も遊戯の一種なのだ。
 痛みなど物ともせずに八千代は己の掌を掻っ捌く。滴り落ちる血を媒体にして彼女はユーベルコードを発動した。血でぬめるのも気にならないのかしっかりと武器を構えなおして封印状態を解く。殺戮捕食態へと移行した彼女の武器――黒塚。大振りの刃が取り付けられた黒塗りの薙刀はずっしりと重く頑健で振り回すだけでもかなりの破壊力がある。ユーベルコードの力によりさらに攻撃力が上乗せされた黒塚は既に振るうだけで雑木林一帯を更地に出来そうだ。
「どんどん来いよ、片っ端から切り刻んでやる!」
 向かい来る嘲笑う翼怪を玩具のようにちぎってはなげ、ちぎってはなげ、またちぎってはなげを繰り返す。バッティングセンターよろしくバカスカと打ち返すのは見ていて実に爽快だ。追記するとすれば、彼女の目の前にあるのはピッチングマシンではなく生きたオブリビオンであることを記しておくべきだろう。
「うおりゃー! 次来い!」
「あんまりはしゃがんと少しは冷静に行動しぃーや?」
「なんだよぬーさん、せっかく暴れられんだぜ。こういう時は楽しむもんだ」
「楽しむ、ねえ……」
「そうそう! イェーイ、楽しんでるかぬーさん! 俺ァ結構楽しいぜ! なんせ切っても切っても湧いてくらァ!」
「そりゃよかったなぁ」
 ここでやらねば損損、と楽しげに笑う彼女に布静は溜息一つで返答した。彼女が楽しいならばまあ、自分に不満はないのだと吐き出した息の中に思いを詰め込んでおく。布静は八千代の作った傷をえぐるように、ユーベルコードで呼び出したアオミノウミウシの霊が猛毒の棘で動きを鈍らせていった。
 海底由来の能力で先程は空を飛んで見せた二人だが戦闘に於いてもその能力は存分に発揮されていた。八千代の攻撃を運よくすり抜けた個体がいれば今度は潮煙で呼んであったカツオノエボシで毒壁をつくり二人を守るように動かしていく。忠実に布静のいうことをきくカツオノエボシはゆらゆらとゆらめいてまるで次の命令を心待ちにしているようだ。
「あー打ちもらした。悪い悪い」
「前見ぃ、前」
「おっとっと、」
 骨の砕ける音と共に黒塚が打ち据えられる。その先は嘲笑う翼怪の翼に向かって。ばきりと小気味よい音と共に翼が落とされた。
「飛べるかどうかもわからんがその羽、落としといた方が見栄えいいぜ。あとなー、ちっとばかしうるせーから黙れや」
 キンキンと耳に響く子供の悲鳴の呪詛は聞くに堪えがたい。慣れているのか煩い程度で済んでいるのは彼女の豪胆さ故か。襲い来る呪詛も蹴散らして八千代はさらに前に出た。
「ぬーさんの方に行く敵がいれば優先して倒すぜ。手助けはいらんかもしれんけどなー、まぁ気分だ気分」
「そないに頼りないかね……ま、ありがとさん」
 八千代は前衛で思い切り暴れ、その残りを布静が拾う。いつもの戦闘パターンはカチリと型に嵌っている。彼らにとって最も戦いやすい形に落ち着いた戦闘隊形は、瞬く間にオブリビオンの屍の山を生み出した。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

花剣・耀子
【土蜘蛛】
ちゃんと追いついただけえらいわ。
ゆきましょう。後片付けの時間よ。

別に許可されなくたって、必要なら使うけれど。
現場責任を負おうとするその心意気は評価してあげる。

――機械剣《クサナギ》、全機能制限解除。

消耗はできるだけ抑えるようにするけれど、
時間を掛ければ掛けるだけ厄介でしょう。
優先は敵の殲滅と室長の命、あとはべりるちゃんのフォロー。
銃弾で落ちきらなかった鳥まで踏み込んで斬り落とすわ。
強化されたものが居たら位置を共有して、確実に斃しましょう。

はい、お疲れ様。
あたしのは如何なのかしら。元々魔力とか良く分からないけれど。
それじゃあ、お見舞いの前に開発室に行きましょうか。
室長は口添えお願いね。


星鏡・べりる
【土蜘蛛】
重役出勤だねぇ
ほら、早く構えて。来るよ!

手数で攻めるって言ってからソレ!?
仕方ないなぁ、うちも予算苦しいしねぇ……
それじゃ、今回は普通の銃弾使うから安心していいよ。

分霊機≪ツクヨミ≫、起動。分霊数は7枚。
二人への情報連結は解除、頭ぶっ壊れちゃうからね。
さぁ、一匹残らず撃ち落としてあげる!

室長は取り返せてよかったねぇ。
私の宝石は魔力を全部使われちゃったかぁ。
スカスカの石になっちゃったから、あとで魔力入れ直してもらわないと。


蜂月・玻璃也
【土蜘蛛】
はあ、はあ…
やっと追いついた…もう始まってる?

銃型ガジェットを抜いて構える

数が多い…
べりる、二人の手数で撃ち落とすぞ!
えーっと、弾数は節約してね!(ケチ)

耀子、《ヤエガキ》の仕様を…きょ、……許可する!(苦渋の判断)
あっでも要らなさそうだったら使わなくていいです!(ヘタレ)

くうっ、いつまでも部下たちに気を遣わせて情けないな!
でも足手まといにはならないぞ!
子供の断末魔に怯むけど、
怒りと使命感で必死に照準を合わせる

そうだ!姉さんのペンダントは!?
ああよかった、傷がついてないみたいで

…ちゃんと戦って取り戻したこと、
頑張ったと思ってくれるかな

ウッ
開発室に行くの、胃が痛いなあ



●帰り待つ人
 遅いよ、と彼女は言った。
 遅いわよ、と彼女も言った。
 出迎えごくろうなどと冗談を言う余裕は無かったかもしれない。息は苦しいし汗は流れているし、肺は膨らんだり萎んだりとせわしない。なにせ自分は裏方控え、前線に出てくること殆どあらずと言っていい。まして慣れない運動量――敵の追跡で街中を走り抜け終えたばかりだ。随分遅れての登場に二人は呆れと苦笑をもって出迎える。
「はあ、はあ……やっと追いついた……もう始まってる?」
「重役出勤だねぇ。ほら、早く構えて。来るよ!」
「ちゃんと追いついただけえらいわ。ゆきましょう。後片付けの時間よ」
 ヒィヒィ息を乱す玻璃也に、既に攻撃の構えをとっているべりると耀子が振り返らずに返答する。雑木林では既にそこかしこで激闘が巻き起こっていた。すでに撃ち落としたオブリビオンの数は五十を超えている。
 耀子とべりるもまた玻璃也が雑木林にたどり着く前に既に何体か屠っていた。さてようやく指揮官がついたところでUDC組織『土蜘蛛』は機能し始める。玻璃也も二人に倣って銃型ガジェットを抜いて構えると、周囲を見渡して戦況確認に入った。なるほど敵数はそれなりに減ってはいるものの、まだ。
「数が多い……」
「元が多かったのに加えて仲間呼んでるからねえ。あとからあとから増えちゃってもう。もぐらたたきみたいになってるよ」
「べりる、二人の手数で撃ち落とすぞ!」
「はーい任せて!」
「えーっと、弾数は節約してね!」
「手数で攻めるって言ってからソレ!?」
 べりるから困惑した声が上がる。出鼻をくじかれてしまった。手数で攻めるならば総力戦だと身構えたところで飛び出した発言に思わずケチ、と口から出掛けてあわてて口のチャックを……締め切ることができず。
「室長のケチ!」
「本部から節約しろってせっつかれてんだよ!」
「ハァもう、仕方ないなぁ。うちも予算苦しいしねぇ……それじゃ、今回は普通の銃弾使うから安心していいよ」
 銃弾の元として宝石を要求してくるべりるのそれはなかなかにお値段が高くついている。日々経費で落とされるそれは金額に並ぶゼロの数が他の比ではなく、室長玻璃也の目下悩みの種であった。だだでさえ組織の土蜘蛛はあれやこれやと金のかかる雑費が多いのだから戦闘面でも節約は必須だ。こまめに部屋の電気を消し、水道を閉め、日々の出費を抑えている涙ぐましい努力の痕跡がそこにはあった。
 べりるは不承不承に了承すると宝石――ではなく、やや威力の劣る通常弾に切り替える。いつか宝石を湯水のように使える日が来るに違いない。いつか、きっと、たぶん、メイビー。本当に?
「分霊機≪ツクヨミ≫、起動。分霊数は七枚。二人への情報連結は解除でいいかな」
「ああ。もう充分だ」
「そうね、追跡時は接続していたほうが良かったけれど。今はもう必要ないわ」
「繋ぎっぱなしは頭ぶっ壊れちゃうからね。さぁ、一匹残らず撃ち落としてあげる!」
 耀子はもちろんのこと、初回接続時にはだいぶフラフラしていた玻璃也も今ではようやく慣れてきていた情報連結を解除する。べりるは宣言通り通常弾にて敵の威嚇射撃を始めた。
 銃弾に追い込まれるようにして退路を失うオブリビオン達にしこたま撃ち込んでいると耀子が取りこぼした敵を切り刻んでいく。連携の取れた動きはさすが組織で来ているだけあってか日頃の戦闘訓練の成果が良く出ていた。
 ただしそれでも敵数は増えていく。斬っても切っても撃っても討っても、あとからあとから次から次へと湧き出てくる敵に二人が辟易しだしたところで玻璃也が重い口を開いた。
「うぅ……」
「何よ」
「耀子……の使用を……」
「聞こえないわ。もう一度言って」
「だから、《ヤエガキ》の使用を……きょ、……許可する!」
 かなり苦渋の判断だったのか玻璃也はぐぬぬと下唇を噛んでいた。苦虫を嚙み潰したよう、とはまさにこのことか。今にもアッやっぱり今の無しですと口走りそうな雰囲気を発している。ヤエガキと彼が称したのは耀子が持つ機械剣《クサナギ》の補助機構のことだ。高速機動用の“巣”を構築する射出式鋼糸をアタッチメントとして取り付けられるが当然その補助機構行使には許可が必要なほどに、リソースを“食う”。おまけに消耗も早い。先のべりるの攻撃にすら節制を促した彼がその決断を下すにはかなりの逡巡、迷いがあったはずだ。案の定すぐさま打ち消すような発言が飛び出た。
「あっでも要らなさそうだったら使わなくていいです!」
「今更撤回しないでくれる。別に許可されなくたって、必要なら使うけれど。現場責任を負おうとするその心意気は評価してあげる」
 部下の責任をひっかぶる度胸は大したものだと評価して耀子は機械剣《クサナギ》に手をかけた。まあ本当に責任をひっかぶってくれるかは別として。
「――機械剣《クサナギ》、全機能制限解除」
 ばちりと耀子の視界で青が弾ける。迸る電流の閃光が機械剣を覆って、攻撃力がワンランクアップした。次いで機能追加が行われてより一層UDCを巻き込んで攻撃のしやすくなる機構が開かれる。
 鋼糸によるワイヤーアクションはかなり多彩に攻撃手段を増やしてくれるだろう。
「消耗はできるだけ抑えるようにするけれど、時間を掛ければ掛けるだけ厄介でしょう。一気に行くわ。それでいいわね」
「くうっ、いつまでも部下たちに気を遣わせて情けないな! でも足手まといにはならないぞ!」
 格段に攻撃力の上がった耀子がべりるの補助もしつつ、狙い切れない上空の敵もからめとって落とし切り刻む。べりるはべりるで、耀子が《ヤエガキ》の鋼糸によって落としたオブリビオンに銃弾を撃ち込んで動けなくしておいた。互いが互いに補助をするなかを玻璃也も必死にカバーしていく。といっても呪詛型UDCが放つ子供の悲鳴におっかなびっくりの若干及び腰ではあったが、ここであえて言及するのはやめておこう。彼の名誉の為にも。
 強化されたものが居たら位置を共有して、確実に斃し、数を減らしていく。いくらか巻き込んで数体落としたところで、はたと玻璃也が顔を上げた。
「そうだ! 姉さんのペンダントは!?」
「ちゃんと回収してあるよー。召喚者が使っちゃってたけど」
 べりるがあらかじめ男の持っていた袋から回収しておいた宝石を渡した。姉の為にと選んだ宝石に陰りも曇りも何一つない。奪われる直前までに見ていた変わらぬ輝きがそこにあった。
「……ああよかった、傷がついてないみたいで」
「室長は取り返せてよかったねぇ。私の宝石は魔力を全部使われちゃったかぁ。スカスカの石になっちゃったから、あとで魔力入れ直してもらわないと」
「あたしのは如何なのかしら。元々魔力とか良く分からないけれど」
「よーこのも使われちゃったみたい」
「あら残念」
 べりるが回収しておいた宝石を見つつ、攻撃の手は緩めない。このあとどうしようか、とまるで遊びに来た午後の昼下がりのように雑談を始めた。
「室長は会いに行くんでしょ。それ渡しにさ」
「ああ。……ちゃんと戦って取り戻したこと、頑張ったと思ってくれるかな」
「さあ。それよりまずお見舞いの前に開発室に行きましょうか。室長は口添えお願いね」
「ウッ」
 開発室に行くの、胃が痛いなあ。
 ストレスでずきりと痛む下腹を撫でつつ。彼らはとにかく目の前の殲滅に集中し、その場にいた粗方の嘲笑う翼怪を一掃する。仕事を終えた彼らをきっと待ってくれている誰かを――思い描きながら。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ミツルギ・サヤ
呪具に籠められていたのは、はて、何だったのか。
斯様な悲しき小鳥は海へ還れ。還りの渡りをするがよい。

翼は伸ばせばかなりの長さとなり、間合いも変わる。
脅威であるよ。
そのために、三十五の刃で敵の視界を塞ぎ、その翼を地に縫いつけよう。
防御の意識を上半身へ向けさせるということでもある。
一刀だけは別の動きができるよう、意識し。
私は刃と共に前へ突き進む。
敵の急所を狙い一刀を操るが、
裏をかいて我が手に戻し、剣の軌跡を読まれぬ速さで胴を一閃。
真っ二つにする気合で斬り込む。
敵を屠れどまた先に敵がいると心得、最後の一羽が討伐されるまで気は抜かぬ。

耳を飾る宝石に相応しい者であるかどうか。
常に己に問い、対峙しよう。


シャルファ・ルイエ
どうしてこんなものを呼び出そうと思ってしまったのかは分かりませんけど……。
宝石も無事に取り戻せましたし、あとはあちらの方にお帰りになって頂くだけですね。

数が多くて空を飛んでいる敵なら、【統べる虹翼】で対抗です。
ただ、鴉は操られているだけの様ですし、なるべく傷付けずに終わらせたいです。
怪我をしない強さで光属性の鳥をぶつけて正気に戻せないか試して見ますね。
それで正気に戻る様ならこの場所から離れる様に伝えます。
戻らなければ、攻撃を翼怪に集中してなるべく早く倒せるようにしましょう。

敵が放つ悲鳴には、歌を。
幸い狂気には少しだけ耐性が付きましたし、悲鳴より歌が響けば、敵の声の効果も届かないかもしれません。


千桜・エリシャ
さて、これで大詰めですわね
歓迎してくださるのは光栄ですが…
私を喰らうつもりなら
喰われる覚悟も当然おありですわよね?

生命力吸収を載せた斬撃を翼へ飛ばして
引き摺り堕として差し上げましょう
味は褒められたものではありませんわね…
あら、これは
子どもの声かしら…
でもすでに犠牲になった方を偲ぶ気はありませんの
今ここが戦場だということをお忘れ?
ここでは
斬るか、斬られるか
それだけでしてよ
私は恐れない
それにこの身はすでに狂気の渦中
残念でしたわね

浴びせられた悲鳴を逆に己の呪詛として刃に籠めて
あなた方の御首を犠牲者への手向けの花と致しましょうか
斬り落とせば咲くは血染めの桜
私、ああは言ったけれども
存外怒っていたみたい



●指先に星と光と煌きを
「どうしてこんなものを呼び出そうと思ってしまったのかは分かりませんけど……宝石も無事に取り戻せましたし、あとはあちらの方にお帰りになって頂くだけですね」
「そうだな。斯様な悲しき小鳥は海へ還れ。還りの渡りをするがよい」
「ええ、これで大詰めですわね」
 シャルファとサヤ、そしてエリシャはかなり数の減ってきたオブリビオン達を見上げた。他の猟兵達が呼び寄せていた仲間ごと叩き切り伏せてきたおかげか個体数は徐々に減少傾向にある。とはいえ一匹でも取り逃せばすべてが水泡に帰す。逃がしてなるものかと三人とも慎重に武器を構えた。肝心の相手といえば、数匹が旋回を繰り返しながらギャアギャアとまるで猟兵を呼ぶように喧しく鳴いている。
 早くここまで飛んで来い、食ってやる、食ってやる。嘲り笑うその声に惑わされることもなく三人はつとめて冷静に返した。
「そう易々と挑発に乗るなどと、随分軽く見てくれる」
「歓迎してくださるのは光栄ですが……私を喰らうつもりなら喰われる覚悟も当然おありですわよね?」
「お帰り頂きましょう、そのためにわたし達は来たのですから。――……いってらっしゃい、わたしの鳥。その翼で、何処へだって飛べるから」
 数が多くて空を飛んでいる敵ならば戦法はいくつか取れる。シャルファはユーベルコードによる追い込みを試みた。彼女が呼び寄せたのは魔法から生み出された鳥の大群。次から次へと雛の巣立ちのように地面から飛び立った鳥達は、淡く発光しながら嘲笑う翼怪を追い始めた。魔法の鳥には追尾機能がある。上手く相手に気づかれないように中心地へと追い立てながら距離を詰める戦法だ。途中、オブリビオンではない鴉達が妨害を行おうとしたが鳥の身体に衝突したとたんふらふらとバランスを崩して飛ぶ方向を変えたかと思うと雑木林から離れていった。
「簡単に離れているな。洗脳は解けたのか?」
「これは何かが功を奏したのかしら」
「やはり鴉は操られているだけの様ですね。光属性のあの子達に接触しただけで元に戻ったところを見るに、どうやら呪詛型UDCの呪詛の力もかなり弱まっているようです」
 シャルファが分析する。魔法の鳥には相手有利な属性に転換する術があるはずだ。呪詛型UDCの天敵となりうる属性といえばやはり破魔や光といった浄化傾向の強い能力だろう。摂食だけで十分に効果を発揮したのか鴉を操る能力はすでに皆無に等しいと見える。
「なるほど。周囲の鴉はこれで気にしなくて良くなったというわけか」
「それは好機ですわ。今を逃す手はありませんわね」
「はい! なるべく傷付けずに終わらせましょう……!」
 シャルファがそのままさらに鳥の群れを誘導して中央付近に残ったオブリビオン達を集合させる。ぐるりぐるりとミキサーのように、知らず知らずのうちに鳥がつくりあげた渦の中心に嘲笑う翼怪を閉じ込めて退路を潰してやった。
「もう逃げられませんわよ。引き摺り堕として差し上げましょう」
 エリシャが空へ斬撃を放つ。あらかじめシャルファによって逃げる術を失った嘲笑う翼怪に、それは地上からいともたやすく当たった。彼女が放つ斬撃に乗せたのは生命力の吸収。刃が生み出した鋭い斬撃に当たった対象の傷からは生命力が無理やりひきずりだされ、斬撃を放ったエリシャ自身の糧へと変換される。
「ん、これは……味は褒められたものではありませんわね……」
「呪詛型UDCの生命力はあんまり、その、そうですね……」
 他者を蝕む精神への呪いの味はお世辞にも嗜好品の類にはならなさそうだ。気を取り直してエリシャは素早く二撃、三撃へと攻撃をつなげて絶え間なく空へ向かって斬撃を放つ。空は逃げられない、かといって下からは絶え間なく攻撃を受けている。
 致し方なく嘲笑う翼怪は奇声を上げた。
『……やめて、痛い、痛いよ!』
「きゃっ、」
「!」
「あら、これは……子どもの声かしら……」
 呪詛混じりの攻撃に一瞬頭痛を感じて、しかし三人とも倒れたりなどはしなかった。狂気耐性、呪詛耐性、あるいは忍耐。ここで倒れてやるほど甘くはない。
「――、っ大丈夫、です。幸い狂気には少しだけ耐性が付きました」
「これしきの狂気、今更どうということはない」
「すでに犠牲になった方を偲ぶ気はありませんの。――今ここが戦場だということをお忘れ?」
 ここでは斬るか、斬られるか。その二択しかないというのに。
 エリシャはくすりと笑みをこぼす。
 彼女は恐れない。彼女は狂気に溺れない。なぜなら彼女の身はすでに狂気の渦中に在するからだ。元々狂気に浸る身にそもそも狂気に陥るという概念は通用しない。
「残念でしたわね」
「……悲鳴より歌が響けば、敵の声の効果も届かないかもしれません。歌で対抗します」
「助かる。このまま攻撃を続けるのみだ」
「ええ、畳みかけましょう」
 シャルファがシンフォニアとして力の宿る歌を紡ぐ。頭上から響く子供の悲鳴を打ち消すように高らかに涼やかに声を張った。邪神の加護を付与した断末魔模倣が通用しない。となれば彼らは必然的に近距離の攻撃手段である羽毛に覆われた手足の引っ掻きに頼らざるを得ず、降りてくるしかもう手段が残されていない。案の定シャルファが歌いだした途端に嘲笑う翼怪は高度を下げて三人に襲い掛かってきた。同時にサヤが地を蹴る。
「待っていたぞ、降りてくるのを」
 翼は伸ばせばかなりの長さとなり、間合いも変わる。空からの攻撃の方が得意とは言え、長い手足も十分に脅威足りえる。地上に降りてきた相手も侮るべからずと彼女は知っている。それでもサヤには彼らに勝てる手段があった。
「炎まといし我が刃よ、嵐となれ!」
 妖刀・輪廻宿業。彼女の持つそれが震えたかと思うと激しくブレはじめた。――否、実際に目の錯覚などではなく――増えている。二振り、三振り、数を増して、増して増して増して。増していく。サヤの有するユーベルコードがひとつ、剣嵐業火。文字通り剣を嵐が如く操る、複製からの操作剣術だ。三十五――超えて三十六となった輪廻宿業はふわりと軽やかに宙に浮くとぎらついた刀身をぐるりと回して次々に降りてきた嘲笑う翼怪を地面に縫い留めていく。さながら曲芸のように、三十六の妖刀は彼女の思い描くままの軌跡を作っていく。
 それでもさすが手負いの獣か、気丈にも向かい来る妖刀を呪詛で叩き落とそうとしたがそれすらサヤの作戦だった。敵の急所を目指して飛んだ刀は急激に向きを変えると主人の手の中に舞い戻り、目に留まらぬほどの速さで胴を一閃した。動く者はもういない。エリシャも舞い降りてきた他の嘲笑う翼怪の首元に素早く大太刀を食いこませると、抵抗を感じない紙に鋏を通すかの如く、なめらかに横に滑らせる。サヤはまた先に敵がいないかどうか視線を巡らせて、戦場のどこにもそれがないことを確認した。
「最後の一羽、か」
「こちらも首を落とし終えましたわ。依頼は達成でしょうか」
「敵影、見当たりません。ということはこれで終わりですね。お疲れ様でした……!」
 シャルファが歌を止めてようやっと一息ついてほっとした笑顔を浮かべた。三人とも先程取り戻して大事にしまい込んでいた宝石を取りだすと、戦闘の振動で傷がついていないことを確認する。
 シャルファの持つパライバトルマリンのイヤリングも。
 エリシャの持つローズクォーツのティアラも。
 サヤの持つサファイアの武器飾りも。
 どれひとつとして輝きは損なわれず美しさは健在だ。激しい戦闘でも欠ける様なことはなく、宝石達は新しき主人の元へと還ってきたのである。
「――耳を飾る宝石に相応しい者であるかどうか、か……」
 私はそれに相応しくなれているだろうか。
 サヤはそっと胸内で自問する。美しい宝石を飾るに足りえる人物と成れているならば良いのだけれど。
 もちろんだ、とこの場に宝石商がいたのなら、その自問に自信をもって答を返しただろう。

 ジュエリーとは何か。それは装飾品である。
 主役をより美しくより気品に引き立てるためにつけられる装飾品だ。決して宝石自体を目立たせるためではなく、それを身に着ける者をより一層のこと、燦然と星の如く輝かせる役割を持つ。
 指先へ、胸へ、足首へ、耳へ、頭部へ、きらきらと星を落としているのは誰よりも何よりも輝かせたい大切な貴方がいるから。指先に転がったそれは確かに天をも照らす南十字星の煌きを宿していて、しかし本当に輝いてるのはそれを持つ者自身ということを忘れないでほしい。
 宝石達は主人達にそれが伝わるよう、曇り空の隙間から夜空にちりばめられた星々の光を反射して、手のひらの中できらりと輝いて見せた。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年12月26日


挿絵イラスト