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我楽多ゲーム・ハント

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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●ターゲット・メイカー
「これが今度の的ねえ。今度は少しは真っ当に動くんだろうねえ?」
「は。後は目覚めて知能が残っていれば、きっとお眼鏡に叶うことと思われます」
 ここはダークセイヴァーの片隅、ある旧き大きな教会の跡地。その聖堂にて、悍ましき儀式が執り行われていた。ステンドグラスは割れ、首をもがれた聖母像が空々しい。
 言葉を交わすのは血に塗れた、時代がかったデザインの術衣を纏った医師風の男――その口元には長い牙が覗く――と、派手な毛皮に身を包み、猟銃のバレルで肩をトントンと退屈そうに叩く女の二人だ。
「そ。まぁ、知恵と理性は残して貰わないとねぇ、狩ってもまるで面白くないからさぁ。こないだのガキどもみたいに」
「あれは失敗作でしたからな。まだ地下に飼ってありますが、いかが致します?」
「その辺の村に放って死体作るのにでも使えばいいんじゃないの? 使い方はアンタが考えなよ。アタシは狩り甲斐のある獲物が出来りゃそれでいい。せっかく拾ってやったんだ、きっちり仕事しな」
「御意に」
 術衣の男は聖堂に並べられた棺桶の一つ一つの蓋をずらし、覗き込んでまわる。――その中には、継ぎ接ぎにされた、いつか人間だったものが眠っている。
 あくびをすると、女は銃を手慰みにくるくるとバトンのように回しながら踵を返した。
「その辺の森で獣を追ってくるよ。アンタの最高傑作の前に準備運動だ」
「承知致しました――ごゆるりと、マスター・ディアナ」
 術衣の男は棺桶に目を落としたまま答えた。
 口元は狂気の笑みに歪み、棺桶の中の、パッチワークにされた少年少女達を一人一人愛でて回る。
 外なる神を宿すべく、肉体の優れた場所を継ぎ合わせ作り上げた依代。後は目覚めを待つばかり。想定した性能が発揮されれば、自分の主の銃弾を避け、生きるために必死に抗う小兎となっているはずだ。
 男は恋人をそうするように、棺桶の表面を指先で撫でた。
 冒涜的なその所業を、愛しているとでも言うかのように。

●狩りの話
「ダークセイヴァーでまた碌でもない話を視た。手伝って欲しい」
 切り出すのは壥・灰色(ゴーストノート・f00067)。立体パズル状のグリモアを指先で回すと、そこから空中にホロディスプレイを投影する。
「現場はダークセイヴァーの片隅にある教会跡地。今回の敵は、『吸血猟鬼』ディアナ一派。ディアナは狩りに強い執着を示す女吸血姫だ。種族問わず、生きて動くものなら何でも撃ちたがるトリガーハッピーで、事ここに至るまでに幾つも村を滅ぼしてきた。……だが、それを繰り返す内にどうも、人間を単に撃つだけじゃ満足できなくなってきたらしい」
 灰色は目を細め、抑揚のない声で続ける。
「人間は脆い。撃てば当たるし、当たれば死ぬからね。ならばと獣を撃ち出したが、獣は命乞いをしないし、泣き叫ばない。ディアナは考えた。強くて撃ってもなかなか死なず、追い詰めれば泣き喚き命乞いをし、長く楽しめる獲物はいないかと。いる訳もなかった。けれど、諦めもしなかった」
 宙に映し出されるディアナの参考映像を睨みながら、灰色は努めて冷静にした風に、静かに言葉を継いだ。
「――存在しないのならば、作ればいいと奴は考えた。配下の吸血鬼どもと共謀し――村を襲い、殺した、或いは生け捕った人間達を原料に、『頑丈で楽しい的』を作り始めたんだ」
 到底、許せぬ所業だ。
 灰色は不快げにディアナの映像を睨んでから、目を落とす。猟兵達を見つめる瞳は、信頼に凪ぐ。
「――その拠点が明らかになった。きみ達には、これより現地に急行、拠点を強襲し生産設備を徹底的に破壊し、ディアナを討伐して貰いたい」
 作戦は三フェーズに分かれる、と灰色は説明する。まず人差し指を立て、
「第一に、施設の破壊。教会の敷地は広大だ。生産設備は『聖堂』に、材料の貯蔵庫は『納屋』に、技術実験場が『礼拝堂』にある。どれ一つも残さず、徹底的にやってくれ。現場周辺には猟銃で武装した警備の男が数十人、また『的』の生産スタッフがいるけど、彼らも全員吸血鬼だ。――現場に『生きた人間』は既に存在しない。動くものは、全て叩き潰して構わない」
 次に中指、
「第二に、『失敗作』の排除。『的』を作る技術は発展途上で、その過程に幾つも失敗作を出している。……既に意思も感情も持たず、生けるものを羨むように襲うだけの人形達。彼らを放置すれば、いつかどこかの村が襲われるだろう。元は罪もない子供達だったはずの彼らだけど――どうか、きみ達の手で葬ってやってくれ」
 目をつぶり、薬指。
「第三に、戻ってきたディアナの排除。奴に引導を渡して、作戦は完了となる。――作戦説明は以上。敵概要については、別途配布資料を確認してくれ」
 灰色は立体パズル状のグリモアを操作し、“門”を開く。
「狩りをしたがるのは攻撃性の発露。それは必ずしも悪ではないだろうけれど……奴らがやっているのは、人間性の剥奪と冒涜だ。おれは奴らを許せない。――力を貸してくれ」
 頭を下げ、灰色は猟兵達に声低く頼んだ。
 握る拳が少しだけ震え、その怒りを告げているようだった。



 お世話になっております。
 煙です。

●章構成
 第一章:冒険 『施設の破壊』
 第二章:集団戦『失敗作の少女達』
 第三章:ボス戦『吸血猟姫ディアナ』
 敵詳細、その他補足は適宜各章間の断章にて描写致しますので参考になさって下さい。

●プレイング受付開始日時
『2019/05/28 08:30』

●お受けできる人数について
 今回の描写範囲は『無理なく(日に三名様程度)』となります。
 プレイングの着順による優先等はありませんので、お手数に思わなければ、受付中の限りは再送などなどお待ちしております。
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第1章 冒険 『創造のための破壊』

POW   :    心を鬼にしてパワフルに破壊だ!

SPD   :    気持ちを切り替えてスピーディーに破壊だ!

WIZ   :    いろいろ考えたけどマジックで破壊だ!

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●廃教会、或いは狩猟場
“門”からはじき出された猟兵達は次々に地面に着地。現場となる教会を睥睨する。
 グリモア猟兵から先だって説明のあったとおり、聖堂、礼拝堂、納屋の他にも多数の設備と広い敷地を持つ大教会だ。
 破壊対象設備の位置を確認――聖堂は敷地中央よりやや南西。礼拝堂は敷地中央よりやや北西近くに位置し、間に建物が数個。納屋はさらに地図で言えば北西方向、外れた座標に位置する。破壊対象施設の他にも居住区画や農場跡、学習施設などがあり、往事の盛況を思わせた。
 ――しかし、今となってはもう、戻るものもない。教義は血に塗れ、聖母はもういない。いるのは、血に飢え天に唾するオブリビオンどものみだ。

 ならば、灰燼と帰すのみだ。赤々と燃える炎で、全てを焼き払って終わらせよう。

『聖堂』には、『的』作りの首魁である男性吸血鬼、そして目覚めるのを待つばかりの理性を持った『的』達がいる。設備の他、男性吸血鬼、及び目覚めている・いないに関わらず『的』達が排除対象となる。
 吸血鬼はともかく、『的』は当初は強固な棺桶に守られている。施設ごと破壊して終了としては、討ち漏らす可能性があるだろう。
 吸血鬼による足掻きや、若しくは『的』らが目覚めていることを考慮し、行動するべきだと思われる。……理性を持つとは言え、しかして彼らは既に、死肉を貪るしか生きる術を持たぬリビングデッドだ。猟兵らの手により狩るしかない。

『礼拝堂』には『的』の制作スタッフが十数名、また『的』の実験作――意思を持たぬリビングデッド――がいる。それぞれ多少の戦闘能力はあるが、強襲すれば猟兵の前に立てる歯牙などあるまい。
 こちらも確実を期すならば突入、鏖殺、後に施設の破壊を試みるべきだろう。

 複数戸固まった『納屋』には、『人だったもの』が保管されている。腐臭と、血の匂いがするだろう。
 その中には『的』の材料、及び警備の吸血鬼兵、これも十数名がいる。
 今や不浄極まるそこだが、猛撃する前に祈りを捧げる猟兵がいたとするなら、それもまた自由だ。

 その他の施設は、力の限り薙ぎ倒して構わないだろう。

 外にいる、見えるだけで数十の警備兵は、それぞれ単発型のマスケット銃と、吸血鬼としての爪牙を備えている。
 ――襲撃すれば敵もまた、態勢を整え反撃してくるはずだ。
 猟兵達は、各施設の特性と、敵の反撃について意識しつつ攻撃行動を取るべく散開する。

 オープンコンバット
 戦 闘 行 動 開 始。各員、幸運を祈る。
リュシカ・シュテーイン
本来私の魔術はぁ、破壊が目的ではないのですがぁ……仕方ありませんねぇ
生きていれば知恵を付けぇ、この暗き世界を救うぅ、一つの灯火となるやもしれなかった命を弄んだことをぉ……後悔させてあげましょうぅ

大規模な威力を籠めますのでぇ、周りに同じく訪れた方には気を付けねばぁ、ですねぇ
野球ボールほどの鉄鉱石にぃ、かなりの爆破を発生させる魔力の法石をいくつか用意しましたのでぇ、【スナイパー】を用いてぇ、施設ごと爆破に巻き込むこみましょうぅ

別に私は聖職者や学者などではないただの"魔女"で"商人"ですのでぇ、正しい死などわかりませんがぁ……少なくともぉ、人として死を終えられなかった人のためにぃ、弦を引きますよぉ


アルトリウス・セレスタイト
全破壊で問題無いのだな

破天で手近な施設から順に対処
魔力を溜めて魔弾を体内に生成・装填
許容可能な最大数蓄積しつつ施設内部へ
蓄積した分全て同時に解放し自身を爆心地とした爆弾として運用

解放後は回転重視
装填と解放を最速で繰り返し破壊漏れのないように
高速詠唱と2回攻撃で間隔を限りなく無に
初撃も含め解放時は全力魔法と鎧無視攻撃で損害を最大化

護衛が居れば先に爆撃で排除
周囲一帯を纏めて吹き飛ばして回避の余地を、攻撃の速度密度で反撃の機を奪い、攻撃の物量を叩き付けて圧殺する


アルマ・キサラギ
…やれやれ、随分胸糞の悪い連中がいたものね
弱きを助け強きを挫く、なんて正義の味方を気取れるほど純真ではないけれど
どうしようもない外道を捨ておくほど擦れてもないわ

他の猟兵が仕事をし易いよう、聖堂の警備を【おびき寄せ】る
施設外の【地形を利用】して身を隠し、敵の配置と建造物のデータを【情報収集】
電子装備を持ってる猟兵がいたらそっちにもデータを回して、と
…レッドラム、榴弾装填。最初に狙うのは高所で見張りをする奴よ
敵の目を潰すと同時に、爆発に他の敵の気を取らせる
その隙に早駆術で射撃位置を変えながら他の敵集団にも榴弾を叩き込んでいくわ
充分におびき寄せれたらピンホールショットで確実に頭数を減らしつつ足止めよ



●デモリッション・スリーマンセル
 ダークセイヴァーの無明の闇に、三人の猟兵の姿がある。他の猟兵は既に教会を包囲する布陣で、各々の配置へ向かっていた。西入口を小高い丘から俯瞰しつつ、赤い瞳の猟兵が嘯く。
「……やれやれ、随分胸糞の悪い連中がいたものね」
 アルマ・キサラギ(Bride of Blade・f14569)は木陰から血塗られた教会を見下ろし、吐き捨てた。 決して、弱きを助け強きを挫く、なんて正義の味方を気取れるほど純真ではない。ただ、どうしようもない外道を捨ておくほど擦れてもいない。
 奴らは、叩き潰すべき――唾棄すべき悪だ。
「やるわよ。準備はいい?」
「本来私の魔術はぁ、破壊が目的ではないのですがぁ……仕方ありませんねぇ」
 応ずるはリュシカ・シュテーイン(StoneWitch・f00717)。手の中で弄ぶ野球ボールほどの石塊――『爆破の法石』を指先でトス。ふわりと浮かび、スリングの紐付近に静止する法石。幾つか続けざまに浮かべ、一つを掴み取る。
「生きていれば知恵を付けぇ、この暗き世界を救うぅ、一つの灯火となるやもしれなかった命を弄んだことをぉ……後悔させてあげましょうぅ」
 間延びした口調ではあるが、決然とした眼には怒りの色が透けて見えた。
「では、開始か。全破壊で問題無いのだな」
 最後の一人、アルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)が無感情に言う。無機質な印象を与える銀の髪、深淵に似た光持たぬ藍の瞳を、眼下の教会に注ぐ。
「注意が必要なのは聖堂と礼拝堂。他は更地にして構わない――だったわね」
「えぇ、そうでしたぁ」
「いずれにせよ、最後には全て破壊するのだろう。……同じことだ」
 アルトリウスは体内に魔力を蓄積する。己自身より生成する魔力、そして大気から収奪した魔力を自らの術式を通し、破壊の魔術を織り上げる。
 淡青色の光粒子を身体より零し出すアルトリウス、擲弾銃『レッドラム』をポンプし、榴弾を装填するアルマ。
「じゃあ、先鋒はお願い。後はあたし達が引き継ぐわ」
「はいぃ、お任せくださいぃ」
「頼む」
 アルトリウスとアルマは夜闇に紛れるように駆け出す。アルトリウスが発動した魔術――『透化』により、二人の姿が宵闇に紛れるのを確認すると、リュシカは掴んだ爆破の法石をジャイアントスリングにセットした。
 スリングの切っ先をぐいと前に突きだし、Y字の先端、その間に最も手近な建物を捉える。
 彼ら三人はいわば陽動班。その中でもリュシカの担当は遠距離からの初撃だ。出力を絞らず、大規模に爆炎をまき散らす法石を使用するが、そも他に猟兵がいないのならば関係もない。
「別に私は聖職者や学者などではないただの“魔女”で“商人”ですのでぇ、正しい死などわかりませんがぁ」
 リュシカはひとり、呟く。
 そう、正しい死の形など分からない。寝床で死ねれば正解か。戦に倒れるは不正解か。では、孤独に床で誰にも看取られず死んだのと、仇を討ち取り笑顔で倒れたのとでは?
 分かるまい。正解など。
 ――けれど、それでも、一つだけ、確実に言えることがある。
「私はぁ、ただ……人として死を終えられなかった人のためにぃ、弦を引きますよぉ」
 死の上等、下等は知れずとも、『人として死ねなかった』のは、残酷だということだ。
 だからリュシカは握った法石に魔力を篭める。ルーン文字が赤熱し、中に篭められた魔力と術式に火が点る。
 ぎりり、引き絞ったスリングのバンドを一度軋ませ、リュシカは爆破の法石を放った。空を赤々と、光曳いて翔る、流星の如き一矢。

 吸血鬼どもからすれば、音もなく、全く唐突に放たれたそれは流れ星か何かに見えたことだろう。
 しかしそれは空で燃え尽きることなく、地に届いた。その威力を減ずることもないまま、宿泊施設の屋根を突き破り――
 爆轟!!!
 ダークセイヴァーの木造建築など、その一撃の前には文字通り木っ端も同じだ。屋根から射入した爆破の法石が、間髪入れず炸裂する。建物は内部から炎に煽られるように膨れ、そのまま爆散した。
 それと威力を同じくする法石がさらに数発降り注ぎ、建物を薙ぎ倒し出す。
「なんだ、何が起きてる?!」
「て、敵襲ッ! 敵襲だッ、ぎゃあっ!?!」
 爆轟に紛れ響く銃声、騒ぎ立てる警備兵の心臓を魔力の銃弾が穿つ。オルトロス『ツヴァイ』による銃撃。倒れ伏す二体の吸血鬼の横合い、建物の影に、出し抜けに二人の猟兵の姿が現れた。
 透化を解いたアルマとアルトリウスである。
「とんでもない威力ね。巻き込まれないようにしないと。次は北寄りの予定よね?」
「そのはずだ。俺達はこのまま前進する。予定通り進めば破壊範囲が重複することはないだろう」
「了解よ。……じゃ、行きましょ」
 アルマの声に、打てば響くようなアルトリウスの応答。アルマは頷いて、物陰を飛び出した。
 即座に高所に目を走らせる。鐘楼、物見台の類。
 仮に自分が防衛する立場なら、高所から敵の仔細を確認しようとするだろう。それを見越しての視線走査。果たして、鐘を鳴らし敵の襲来を告げようとする敵が一人。アルマは即座にレッドラムの銃口を跳ね上げ、グレネード・サイトで距離込みの照準を完了。同時にトリガーを引く。
 打ち上げられた弾頭は榴弾。リュシカが放つ爆破の法石に気を取られていた吸血鬼が、その接近に気付いたときには手遅れだ。
 鐘楼の上で爆発。鐘が吹き飛び、上半身を失った吸血鬼の死骸がそれに続いて墜ちる。
 高所に着いた敵の目を奪い、位置的優位を潰す。また、視線を奪い、敵の注意を引き寄せることで囮となる他、他の猟兵の発見を遅らせる効果を狙ってのものでもある。一つの行動が複数の目的を持つ、クレバーな戦術だ。
「前、敵影三。……後続五。増えるぞ」
「!」
 アルトリウスの警告。
 即座に左右、散るように物陰に飛び込んだ二人の足下に、マスケットの銃弾が弾ける。
「来たわね。集まってくるなら都合がいいわ。あたしはここで敵を足止めする」
「なるほど。了解した。……ならば俺は手近な建物から破壊する。――どうせなら、山と集まってくれた方がやり甲斐があろう」
「……大人しい顔して、結構言うじゃない。やってやるわよ」
 表情一つ変えずにハードルを上げるアルトリウスに、鋭い目のまま笑って応ずるアルマ。
 マスケットの銃声はすぐに止む。単発式で弾幕が張れる訳がない。二人は、銃声が途切れると同時に物陰を飛び出した。
「引っ込んでいろ」
 アルトリウスが腕を振るえば、『死』の原理を具現化した魔弾が複数、宙を抉って黒閃を曳いた。出し抜けに、全く唐突に放たれたその魔弾の名は『破天』。回避する吸血鬼もいれば、穿たれて声もなく灰に還る者もいたが――隊伍を組んだ吸血鬼らの動きが一瞬乱れたのは間違いない。
 そこを逃さず、早駆けから横っ飛びに跳び、アルマがトリガーとポンプを連続操作。息もつかせぬ三連射。それは猟兵数多きとて滅多に見られぬ、『グレネードランチャーでの精密射撃』!
「がっ……」
「ごっ!?」
「うげあっ!」
 連続して放物線を描く榴弾が敵三体の胴を、顔面を、土手っ腹を強かにぶっ叩き、推進力でその身体を二メートルばかり圧して炸裂! 着弾した三体は元より、爆裂に巻き込まれて瞬く間に敵八体が吹き飛ぶ。
「こっちだ! 敵がこっちにいるぞ!」
 派手な爆炎と爆轟に惹かれ、さらに数体の敵が寄せる。グレネード弾を素早くリロードするアルマの横で、銀の男がうっそりと言った。
「いい花火だ。ならば一つ、俺もお目にかけよう」
 アルトリウスの身体に纏いつく青白の光がことさら強く輝く。何をするつもりかアルマが問う前に、アルトリウスは地面を蹴って手近な建物の窓を蹴破り転がり込む。
「この建物から離れろ。吹き飛ばす」
「そういうことはもうちょっと早く言いなさい!」
 敵のマスケットから素早く射線を外しつつアルマが後退するや否や、アルトリウスが飛び込んだ建物の窓やドア、あらゆる隙間より青白い光が漏れ――
「な、なんだこの光は?!」
「さ、下がれ! ただ事じゃ――」
 建物横に差し掛かった敵勢が足を止めた、その刹那。
「もう遅い」
 アルトリウスの声。

 劈く轟音、響くは炸裂!

 アルマも思わず顔を腕でかばうほどの爆風が吹き付けた。
 アルトリウスは『破天』を体内に生成・装填。自身の身体に死の概念を蓄積し、建物にエントリー。しかる後に自身を中心とした半球状範囲にその暴威を同時に投射することで、建物ごと敵を吹き飛ばしたのだ。
 己が身体を『爆弾』とする荒技である。
 しかも、爆発は一度ではない。二度、三度。落ちてくる建物の瓦礫、未破壊部分を次々と巻き起こる『死』の爆風が削り取り破壊し、あっという間に建物一棟が更地になる。
 砂塵晴れた後に立っているのは、恐らくは飛び込んだその時のままの、直立姿勢のアルトリウスだけだ。
「……顔の割に無茶するのね」
 周囲の地形情報が連携した矢先から更新されていく。横目にアルトリウスの無事を確認するアルマ。
「この程度なら、珍しくもあるまい。……新手が来るぞ。まだいけるか」
「当然! 続けるわよ!」
 流星の如き爆破の法石が戦場を赤く燃やし、照らし上げる中。
 アルマは参じた敵目掛け、アルトリウスは手近な建造物目掛け再び構えを改める!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アリーシャ・マクファーソン
さて、呼び出されたと思えばまた吸血鬼共の悪趣味とは。
本当にこの世界は救われないものが多すぎる。けど、終わらせることはできるでしょう。
1つずつ1匹ずつ、潰していくとしましょうか。

咽るような血の匂い…この『納屋』からね。
少しでも反応してしまう自分が嫌になるわ。手早く済ませましょう。

これは……吸血鬼が作る的、だったかしら。その材料みたいね。
あら、流石に警備もいるか。なら、遠慮なく殲滅させてもらいましょう。

【百華凍刃】
強く拳を握り、仕込み指輪を起動。
自らの血を持って、この不浄を塵と化しましょう。
物言わぬ骸とはいえ、これ以上の辱めを受けなければいけない謂れはないわ。
氷の刃たちよ、全てを切り刻みなさいっ。



●氷刃絶禍
 吸血鬼らは浮き足立っていた。それはそうだろう。彼らは望んで抱擁を受け容れ人間の身からディアナの配下となったか、或いは元々ディアナに心酔して彼女に従うかした若い吸血鬼らだ。
 人を虐げたことはあっても、手痛い反撃を喰らったことなどない。故に動き慣れていない。
 大音のする教会西側に手勢の多くが集まっていく中、まずは材料の供給を断つべく、闇の中を数人の猟兵が駆けた。アリーシャ・マクファーソン(氷血の小悪魔・f14777)もまたその一人である。
 ――呼び出されたと思えば、また吸血鬼共の悪趣味とは。つくづくこのダークセイヴァーという世界は救われないものが多すぎる。
 しかし、せめて。犠牲になった者が還らず、これ以上救うことが出来ないとしても、終わらせることは出来るはずだ。
 アリーシャは冷淡な表情を崩さぬまま、指環をした手を確かめるように軽く握る。
 彼女が向かうのは複数ある納屋のうちの一つだ。未だ随分距離があるが、それでもここまで噎せ返るほどの血の匂い、そして腐臭が届く。蒼穹を撚ったような青い髪、血を日に透かしたような鮮紅の瞳が特徴的な美しい少女は、鼻を鳴らして目を尖らせた。
 ――嫌になるわね。
 如何に無関心を装おうとも、ダンピールとしての血脈が彼女の心をささくれ出させる。血を求める思いは止められぬ。それを押し殺すように、短く息を吸ってアリーシャは駆けた。
 粗末な納屋の扉から、警備兵が飛び出してくるのが見える。
 納屋の中にあるのは『的』の『材料』だと聞いていた。流石に多少の警備くらいは付けるだろう。納得のいく話だ。
『的』とは、『吸血猟姫』ディアナが自分の享楽の為だけに作り上げんとした、人を継ぎ接ぎした成れの果て。人から、人らしい死を奪い、その尊厳を、魂を踏み躙る行い。
 ――容赦など、不要だ。
「一つずつ一匹ずつ、潰していくとしましょうか」
 彼女は終わりの始まりを謳うように呟いた。
 気付いたように、警備兵――当然彼らも吸血鬼だ――二体が、アリーシャ目掛け単発のマスケットを振り向ける。
 彼我の距離、二〇メートル。吸血鬼らとて蒼い髪になど見覚えがあるまい。故に識別は早い。
「そ、そこの女! 止まれッ!」
 警告に応ずるわけもない。
 アリーシャは無言で姿勢を低め、駆ける速度を上げた。間髪入れず放たれる銃弾を意にも介さず斜め前へのステップで避け、指環をした手を強く握り込む。飛び出た針が膚を裂き、血を溢れさせる。
 ――日も射さぬ裏寂しいこの世界とは言え、溢れたばかりの血潮がそれほどまでに冷たいと誰が思おう。流れ出た血は、まるで思い出したと言わんばかりにパキパキと音を立てて凍りついた。アリーシャが一つ手を打ち振れば、飛び散った血は、無数の細かく鋭い氷刃となり宙に舞う。
「――百華凍刃。この血を持って不浄を贖え。氷の刃たちよ、全てを切り刻みなさい」
 それは赤き吹雪かに見えた。彼女の『聖域』である。
 マスケットを外し、肉弾戦に移行しようとした二人の吸血鬼は吹き荒れる血風に防御の姿勢を取ったが――
「ぎゃっ?! 冷た、いっ、痛ッ、」
「ぎッ……! これは、クソ、離れ、やめろオオオっ!!」
 身体に纏わる細雪を、全て払える者などいない。
 続いて出てきた三体目も纏めて、アリーシャの吹雪の如き刃風が押し包んだ。断末魔の叫びすら凍る、峻烈にして苛烈、鋭利にして玲瓏なる氷河の聖域。
 吹き荒れ一過すれば、真っ赤に染まり凍えた三つの肉塊が、どうと音立て倒れ込む。とうに絶命している。声も無い。
「物言わぬ骸とはいえ、これ以上の辱めを受けなければいけない謂れはないわ。――さようなら」
 断罪する様な声が、骸の上を弾んで落ちた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ルイーネ・フェアドラク
この世界の命の軽さを、知ったつもりではいましたが
あまりに――胸糞が悪い

納屋へ向かいます
途中の警備は片端から排除していく
見逃す道理もない
身を潜め、撃たれる前に触手で屠っていく

ひととして死ぬことすら許されなかった子供たち
取り返しのつかぬ現実ならば、せめて跡形もなく
狐火を放ち、空へと還す

祝福を知らぬ命とて、
玩具のように弄ばれるために生まれるわけではない
痛ましさ、嫌悪、怒り、
あらゆる感情も一定量を超えれ逆に頭は冷えるものだ

このような所業を為す者には、きっと何を告げても響かない
ならばただ、骸の海へと還るがいい
それすらお前達には過ぎたる終わりだ



●手向け火
 命とは軽いものだ。風に吹かれて転がり弾み、容易く枯れ落ちるものだ――
 対UDC組織に身を置くルイーネ・フェアドラク(糺の獣・f01038)とて、それは知っていた。だから、必要以上に嘆くことはないし、怒りに我を忘れるほど青くもない。
 しかしそれと、許せるかどうかとは別の話だ。
「あまりに――胸糞が悪い」
 ルイーネは刻印に血を供給し、ずるり、と身より触手を引きずり出した。遠くで上がる爆炎を逆光にしたそのシルエットは、吸血鬼からしても異形に見えたことだろう。
「なっ、なんだ貴様は!」
「止めろ! 止めろ!!」
 怒号が響く。脇目も振らず走るルイーネを止めるべく、複数のマスケットの銃口が持ち上がる。
 そこから伝わってくる殺意。ルイーネは切れ長の目に刃の如き光を点した。
 ――嗚呼、奇遇だな。
 私もお前達を見逃してやるつもりはない。
 腕を凪ぐように振るえば、触手が鞭の如く撓った。多数の触手が伸び、銃口を撥ねのけ逸らすなり、錐のように尖らせたその先端で吸血鬼の喉を貫く。
「ごッ?!」
「がばっ、」
 間に合わぬ分は身を屈め、殆ど地を這うように駆けることで回避。当たらぬ銃声ほど空々しいものもない。
 制止の声が空しく響く。最早ルイーネは、それを聞いてやるつもりはなかった。
 貫いた男達を振り捨て、ルイーネはまたも触手に命を下す。
 彼が伸ばした指の先目掛け、ぞろりと触手が切っ先を揃える。
「殺せ」
 断罪するような響き一つ。触手の風切り音、連なる悲鳴と飛び散る血。
 次々と貫かれて死ぬ吸血鬼達の間を、ルイーネは駆け抜ける。彼が目指すはただ一所、かつて少年少女だった『もの』が静かに眠る納屋である。

 ああ、人として死ぬことすら許されず、ばらばらにされて腑分けされ、血の匂いのする納屋に押し込められ。挙げ句継ぎ接ぎのばけものにされて、道楽の射的の的に使われるとは。
 確かにこの世界に、祝福などないのかも知れない。だが、よしんばそうだとしても、誰かの放埒のために弄ばれ、玩具のように使い捨てられるために生まれる命があるはずがない。
 限度を超えた怒りと嫌悪、そして骸となった少年少女らへの悼みが、ルイーネの思考をクリアに研ぎ澄ます。
 駆け至った納屋の入口からは腐臭。そして、夥しいばかりの血の匂い。もう二日もすれば、腐臭で近づけないほどになるだろう。
 ――逆に言うのなら、まだ腐りきっていない。虐殺が行われたのは極めて直近のことだ、ということだ。
 ああ、仮にこの中に、自分と共に過ごす少年がいたとするなら。
 不意に脳裏に過ぎった考えに、自分でも驚くほどの怒りが湧く。ルイーネはぎり、と歯を噛みしめ、自身の周囲に狐火を浮かべる。瞬く間に浮かぶ焔はその数二十七。ルイーネが手を掲げれば、狐火は寄り集まり巨大な火球となる。
 手を振り下ろした。火球は空気を喰らい、ぼひゅあ、と唸って納屋に食らいつく。
 木製の納屋は炎に煽られ、瞬く間に炎上する。
「う、うわああっ!!」
「炎?! くそっ、もうこんなところまで――」
 泡を食って納屋から転がり出てくる吸血鬼達を、ルイーネが逃すはずもない。
 触手を放ち、その心臓を、喉を、一撃で貫く。彼らが厭った焔の海へ、敵の躯を突き返しながら、ルイーネは語勢も強く言い捨てた。
「ただ、骸の海へと還るがいい。それすらお前達には過ぎたる終わりだ」
 外道に道義を説けども響くまい。ならば言葉は不要だ。
 燃える、燃えていく。警備兵を巻き込み、人だったモノのもろともに、納屋が炎に包まれ崩れていく。
 ルイーネは焔を見上げ、僅か数秒、瞑目した。
 せめてこの煙と共に、空まで魂が届くようにと。

成功 🔵​🔵​🔴​

パーム・アンテルシオ
狩りをするなら。獲物を獲るなら。
獲ったものは…しっかりと使うこと。
…なんて、もう。私が言えた話でもないかも、ね。

だから、これは。この感情は。きっと、自己満足。
人は、こういうのを、偽善って言うのかな。

それでも、私は…ヒトだから。
人を助けるものだから。
そうじゃないといけないから。

●WIZ
ターゲットは…納屋、かな。
この場で、誰かを助けられないのなら…
せめて、終わらせる手伝いをしたい。
これも、自己満足。かもね。

ユーベルコード…金竜火。
みんな、送ってしまおう。人だったものも、そうでないものも。
優しく燃やしてあげたいけど…
手加減できるほど、私は強くないから。
邪魔をするなら、本気で燃やすよ。

【アドリブ歓迎】



●葬送焔狐
 狩りをするならば、狩ったものを無駄にしてはならない。
 獲物を獲ったならば、全てを使い尽くすこと。その骨の一片まで、感謝と共に。
 命を戴くとはそういうことだ。決して、手慰みの享楽のために殺すことではない。
 糧を得て、生きるために。必要に駆られて、獲物を求める。狩りとは生きるための行動。――ディアナがしているのはそうではない。享楽心を満たすための遊び。そう――ゲーム・ハントに過ぎない。
「なんて、私が言えた話でもないかもしれないけど」
 爆炎、轟音巻き起こる廃教会の一角に、桃色の風が吹く。
 ――風と見えた。しかし、それは人だ。地を蹴り納屋へ向けて走るのはパーム・アンテルシオ(写し世・f06758)。
 パームは凪いだ瞳に、陰惨な廃教会の風景を写しながら駆ける。
 偽善かも知れない。ただの自己満足に過ぎぬやも知れない。けれど、オブリビオンの享楽のために死ぬ人々が増えることを、これ以上見過ごしてはおけない。
「私は……ヒトだから」
 人を助けるものだから。――そうじゃないといけないから。
 パームはそうあるべきだと己を規定する。強い信念が、彼女の裡より桃色の焔となって溢れ出す。
「いたぞ! こっちだ!」
「殺せ、殺せ殺せ! ディアナ様の手を煩わせるなどあってはならん!」
 三体ばかりの吸血鬼がパームの行く手を阻むべく横道から飛び出した。駆けるパーム目掛けてマスケットを構える。
 銃が火を吹く前にパームは地を蹴り、跳んだ。空中で彼女が衣を翻せば、誘われるように虚空に現れるのは三九体の桃色の狐。声もなく鳴く仕草を取る獣たちは、九尾の狐たるパームの眷属である。
 ユーベルコード、『金竜火』。
「この場でもう、誰も助けられないのなら……せめて終わらせる手伝いをするよ」
 或いはそれすらも自己満足か。しかし、パームは自嘲せども行動を止めることはない。差し向けた少女の掌に従うように、三十九匹の火狐が空を駆け降りる。
「う、うおおっ?!」
 地上から放たれるマスケット銃。その銃声、人数分の僅か三発。二発は逸れ、一発は火狐に喰われて溶けた。
 フルオート
 全自動射撃が出来る現代火器ならばともかく、単発のマスケットで、しかも熟練者でも的確な命中が困難な、実戦においての仰角射撃。結果は散々、一発とてパームの身を捉えることはない。
「送って、金竜火。人だったものも、そうでないものも」
 パームは宙でかそけく呟いた。声に応えるように小さな火狐らは三体ごとに一体となり、通常の狐ほどの大きさを成す。
 ごううっ、
「ひいっ……!?」
 風に桃色の火狐の躯が靡き、空気を揺らす焔音。
 十三体の火狐が、そのまま群がるように吸血鬼らに飛びかかった。悲鳴は一瞬。三体も群れれば、吸血鬼はただの桃色の火柱になり、瞬く間に黒く焼け焦げ頽れる。
 燃え臥す骸を余所に、パームは着地して再び駆ける。
「優しく燃やしてあげたいけど……手加減できるほど、私は強くないから」
 焔の狐を伴い、パームは今一度、桃色の疾風となって奔る。
「邪魔をするなら、本気で燃やすよ」
 視線の先に映る納屋。パームは腕を打ち振り、焔狐らに命を下す。
 ――焼き祓え。全て、葬送ってしまえ、と。
 命を受けた十三体の焔狐は群れて駆け、やがて一つに寄り合い、巨大な狐の顎門を形作る。

 納屋を駆け出て迎撃しようとした吸血鬼が最後に見たものは、巨大な、炎獣の牙列であった。
 押し寄せる熱に捲かれ、悲鳴は太くなる前に轟焔に灼かれる。――警備兵もろとも、また一つの納屋が燃え落ちた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ムルヘルベル・アーキロギア

同行:織愛(f01585)
この世界の支配者どもはとことん悪辣を極めておるな……
オブリビオンであることを差し引いても醜悪に過ぎるというもの
支配者となっておるからか? あるいは吸血鬼であるゆえの理由が……
いやすまぬ、いま考えることではなかったな、我らも征くとしよう

前衛は織愛に任せ、ワガハイは【ウィザード・ミサイル】での広域破壊を担当しよう
この手の仕事は慣れておるとは言わぬが、若者の手前心を乱してはおれまい
彼奴らへの悪感情を魔力に編み込み、鬼も屍も灼き尽くしてくれよう

祈りが死者たちに届くかはわからぬ
だがそうすることで、誰よりもオヌシの心が救われる
ゆえにその祈り、その躊躇いを忘れてはならぬぞ、織愛よ


三咲・織愛


ムルヘルベルくん(f09868)と

POW

おぞましい所業ですね……
自分の……遊びのために、命を物のように扱って

これ以上繰り返させないためにも、
徹底的に壊してやりましょう

彼と共に『納屋』へ
ねぇ、ムルヘルベルくん
少しだけ、祈らせてください
祈っても、もう無くなった命は戻らないけれど
せめて安らかな眠りをこれから与えられるように

いきましょう

夜星の槍を携え、正面から挑みます
<覚悟>を胸に、終わりを与えてあげましょう
<見切り>、<串刺し>、届かぬ敵には<槍投げ>
拳による破壊も厭わない
ムルヘルベルくんが狙われた場合には<武器受け>で庇います

的にも躊躇わない、躊躇ってはいけないの

……その言葉が、一番救われますね



●賢者、星雨を詠む
「この世界の支配者どもはとことん悪辣を極めておるな……オブリビオンであることを差し引いても醜悪に過ぎるというもの」
 宝石の賢者は憮然として呟く。多数の命を犠牲に、己が享楽を求めるとは。悪辣の一言以外にない。
「おぞましい所業ですね……自分の、遊びのために、命を物のように扱って。一体、どれほどの命をそうして奪ったんでしょう」
「さてな。……支配者となった傲りか、或いは吸血鬼とならば精神構造に変異を来すか。……いやすまぬ、いま考えることではなかったな。我らも征くとしようか、織愛よ」
「はい。……でもその前に、少しだけ祈らせてください、ムルへルベルくん」
「――」
 足を止めた賢者の横で、星の少女は手を組み合わせる。
 それは厳かな祈りだった。僅か四半秒に、込められるだけの思いを込めた。
 もう、喪われた命は戻らなけれど、正しい場所へ往けるように――せめて、安らかに眠れますように、と。
 今一度開いた桃色の瞳には、もう、迷いはない。
「行きましょう」
「……うむ」
 二人は、駆けだした。

 複数の納屋から火の手が上がる。増改築を幾度も繰り返したのだろう、一つ二つでは効かない納屋を、猟兵達は多面同時的に制圧していく。
 その中でも大きい建物に狙いを定めた二人の猟兵がいる。三咲・織愛(綾綴・f01585)、そしてムルヘルベル・アーキロギア(宝石賢者・f09868)だ。
「徹底的に壊してやりましょう。――これ以上、こんな悲劇を繰り返させちゃいけないから」
「そうさな。――ならば織愛、ワガハイがオヌシの背を守る。往くがいい、迷いなく、真っ直ぐにな」
 ムルへルベルが首元のマフラーを背側に払い、腕を打ち振れば、その瞬間宙が赤々と燃えた。
 炎の矢だ。宙にまるで、注いだ怒りが形になったかのように複数の炎の矢が生み出される。
 泰然として見えるムルヘルベルとて、決してこのような惨状に慣れた猟兵というわけではない。しかして彼もこう見えて、長き時を生きた宝石の賢者である。年若い織愛の前で、必要以上の怒りや動揺を晒すわけにはいかない。
 ――故、術式に籠める。怒りの針と嘆きの糸で、己が膨大な魔力を縫い、編み上げ、その炎矢の群を作り出したのだ。
 納屋についていた警備兵達が織愛とムルヘルベルを察知し、迎撃の為にマスケットを構えるその一瞬前に、ムルヘルベルは右手を振り下ろした。一瞬にして編み上げられた怒りの炎の嵐が、吸血鬼達目掛け雨霰と降り注ぐ!
「うわあああッ?!」
 肝を潰したか、マスケットの銃声が見当違いの方向へ向けて咲く。ムルヘルベルの炎弾は狙い過たず敵二体、物見の番兵に立て続けに着弾、その身体を灼き尽くして炭屑に変えた他、納屋に突き刺さり建物に火を点ける。
「敵襲! 敵襲ーッ!!」
「こっちに応援は未だ来ないのか?!」
「他も同時に攻撃を受けてる! 伝令が間に合ってない!」
 口々に現状を叫びながらも、納屋から十数体の警備兵が飛び出してくる。
「往け!」
「はい!」
 足を止め、背を押すムルヘルベルの声。
 再詠唱、炎矢を再び編み出す賢者を背に、織愛は夜星の槍を構え、それこそ放たれた矢の如く敵の群へ吶喊した。
「くそっ、止まれ!!」
 マスケットの引き金が引かれる。しかし、トリガーを視た上で斜め前に跳ねるように跳ぶ織愛。低姿勢に走る彼女が高速でステップすれば、照準は容易に外れる。弾丸は地面を穿ち、彼女を傷つけること能わない。
 織愛は疾風となって駆け抜け、夜星の槍を突き出した。流星の如き一刺が、マスケットを放った吸血鬼の胸を貫き通した。背に刃が突き出る。心臓破壊、即死。尚も踏み込んで身体を振り回しながら、次の敵に死体を振り飛ばして叩きつけ、時間を稼ぐ。
「このッ!」
 今まで多数の血を吸ったのであろう爪をジャッと伸ばし、打ち掛かってくる敵が二人。織愛は片方の爪を槍で受け止めつつ、その身体の影に隠れるように身体を捌き、もう片方の敵から逃れる。攻撃しあぐねて足を止めた敵を、後ろから放たれた炎の矢が穿った。
「ぎああっ?!」
 ムルヘルベルの援護射撃である。
 それに気を取られて目の前の敵が動揺を見せれば、槍の切っ先から力を抜いて軋り合う爪を受け流し、バランスを崩した敵の胴に膝を叩き込む。ごぶ、と息を吐く敵の顔面を即座に拳で打ち抜いて破壊。
「後ろだ! 後ろのあの魔術士を狙え!」
「させませんっ!」
 敵が指示を下すなり織愛はnoctisを投擲、指揮者とおぼしき敵の胸に槍の刃を突き立てまたも一殺。拳にナックルダスターを装着し、槍の後を追って駆ける。
 指揮者の死に浮き足立ちつつもその言葉通りにムルヘルベルを狙う敵の元へ駆け込み、マスケットの銃身を拳で払うことで照準をずらし、賢者を庇いつつ格闘戦を繰り広げる。 ナックルダスターで拳を保護すれば、振るわれる爪も拳で受けること容易。闇雲に振り回される爪の、更にその内側に踏み込んで肝臓と心臓、或いは水月と顎など、急所を的確に拳で打ち抜く。
「こ、こいつ――」
「速いっ!」
 織愛の攻撃は電瞬、指揮者の死骸より槍を取り戻せば回旋させて一気に数体を薙ぎ払う。槍を持たねば彗星の打撃。槍を持てば荒れる星嵐。吸血鬼達では彼女を止められない――!
「織愛! 退がれ!」
 ムルヘルベルの声。織愛は一も二もなく飛び退いた。
 それと全く同時に、ムルヘルベルが腕を振り下ろす。長い詠唱から生み出されたのは、――流星雨めいた炎の嵐であった。
 幾度も詠唱して中空に生み出したウィザード・ミサイルを、一気に打ち下ろすように解き放つ。織愛が刻を稼ぐことで可能となったコンビネーション。雨霰と降る炎弾はまるでずらり並んだ迫撃砲の砲雨めいて、生き残った吸血鬼数体諸共、納屋を燃やし、炎で呑み込んでいく――!
「はぁっ、はぁ、」
 弾む息。槍を握りしめる織愛の隣に、進み出る小さな足音。ムルヘルベルである。「織愛よ」
「……はい」
 ムルヘルベルは織愛の肩を叩くように撫でて、横目に彼女の瞳へ一瞥をくれた。
「祈りが死者たちに届くかはわからぬ。残念だが、オヌシもワガハイもここで生きている。死後のことは分からぬのだ。その断絶をこそ、『死』と呼ぶが故」
「……」
 静かにムルヘルベルの言葉に耳を傾ける織愛。伏せた桃色の瞳に涙はないが、ただ悲しげな光を宿している。
 賢者は少しでもその慰めになればいいと、言葉を継いだ。
「だがそうすることで、誰よりもオヌシの心が救われる。ゆえにその祈り、その躊躇いを忘れてはならぬぞ、織愛よ」
「……ありがとうございます、ムルヘルベルくん。その言葉が、私にとっては一番の救いです」
 織愛は淡く、ムルヘルベルに微笑みを返した。
「ムルヘルベルくんもあんまり無理しないでくださいね。この間みたいな無茶は、駄目ですよ」
「……肝に銘じておくとしよう」
 風の王と戦ったときのことを引き合いに出し、悪戯っぽく笑う織愛に、目を逸らしながら応えるムルヘルベルであった。
 燃える納屋に背を向け、二人は次なる戦場へ駆けていく。
 ――未だ、戦端は切り拓かれたばかりだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユーゴ・アッシュフィールド

【リリヤ(f10892)】と

ああ、行こうか

思えば、この小さな相棒と知り合ってからは
こんな事にばかり連れ回してしまっている
生きる為の糧を得るに必要な事といえ、少々酷かもしれないな
などと考えながら、納屋へ

病、疫病
人狼病に罹患し迫害を受けたリリヤにとっては
不幸の象徴のようなものだろう
今回は俺が片づけようと思っていたのだが
その手で灰に還すというのなら、その意思を尊重しよう

リリヤ、“灰に還す”なんて行為は
やるにしろやられるにしろ辛いものだ
今からやろうとしている事に躊躇ってもいい
やはり自分にはできないと諦めてもいい
躊躇う時間は俺が作ってやる
できない時は俺が代わりにやってやる

心に嘘をつく事だけは、するなよ


リリヤ・ベル

【ユーゴさま(f10891)】と

ユーゴさま、……ユーゴさま。
ゆきましょう。

ちゃんとまえを、見ていられます。
……でも、すこしだけ、こころがいたくて。
邪魔にならないよう、マントの裾を握って、納屋のひとつへ。

ほんとうは、ちゃんとお弔いをしたいのです。
――でも、もう、ここは。
ここまで傷んでしまったら、灰にかえさなくては。
このままでは、やまいをつれてきてしまう。

ユーゴさま。
できます。ちゃんと、できます。
だから、どうか。それまで、おまもりくださいましね。

みどりのきばに、火をともして。
……だいじょうぶです。
わたくしが、おくりたいのですよ。

灰になったあとは、きっと、また芽吹きますから。
どうか、やすらかに。



●弔火
 猟兵達が駆ける。納屋を潰すたび、かつて戦地で嗅いだ匂いが風に交じった。
 人の。腐肉の焼ける匂い。
 小国の英雄だった彼は、その匂いをよく知っている。
 ああ、教会跡はいまや戦火けぶる戦場だ。この炎の海の下に、幾つの骸が沈んだろうか。
「ユーゴさま、……ユーゴさま」
「……ああ」
 傍らの少女が、男に声をかけた。
 リリヤ・ベル(祝福の鐘・f10892)と言う名の、緑の瞳をした可憐な少女である。黒いフードを被って、頭を隠している。その下に何があるのか、ユーゴは知っている。
「……ゆきましょう、わたくしたちも」
「――分かった。行こうか」
 男――ユーゴ・アッシュフィールド(灰の腕・f10891)は、ルーンソードを腰から抜剣。
 傍らの少女を気遣わしげに見る眼の裡には、僅かな悔悟がある。思えば、この小さな相棒と知り合ってからこっち、こんなことにばかり連れ回してしまっている。
 猟兵として生き、糧を得るためには必要不可欠なことであるとは言え、幼いリリヤには少しばかり酷なことかも知れない。ダークセイヴァーの無明の闇は、いつも優しくない報せばかり運んでくる――
 見下ろす視線に気付いたように、傍らを歩くリリヤが視線を上げる。緑の瞳を頼りなげに揺らすが、一度きゅっと瞑った目をもう一度開き。
「……だいじょうぶです。ちゃんとまえを、見ていられます」
 でも、とリリヤは眼を伏せた。腐臭運ぶ風が、二人の頬を撫でる。ユーゴさま、と願うような声。
「すこしだけ、こころがいたくて。……おかりしても、かまいませんか」
 ユーゴの揺れるマントの裾にいとけない指先を絡め問う少女に、ユーゴは鷹揚に頷いた。彼女の半歩前をリードするように歩きながら、応える。
「それで気が紛れるのなら、好きにするといい」
「……はい」
 小さな手が布地を掴む。
 歩幅を合わせ、歩く。納屋まで。

「邪魔をするぞ」
「貴様、猟兵ッ……!」
 納屋の内側に踏み込めば、警備兵が数名。彼らの後ろには、堆く積み上げられた壺や木箱。木箱は下の四隅から血が滴っており、内部の想像が付く有様だ。ユーゴの眼が尖る。
「下がっていろ、リリヤ。すぐに済む」
 敵のマスケットの銃口がユーゴを睨む。ユーゴは数メートル離れた遠間よりそれを払うように手を一閃。風の精霊がユーゴの意に呼応し、放った風の矢が銃口に突き刺さる。銃声。銃弾が銃身内で堰き止められ銃身破裂、射手もろとも周囲二名を破片に巻き込んで手傷を負わせる。
「ぎゃあっ?!」
「あっが、ががッ……」
 何が起きたのか分かるまい。分からなくていい。その隙に畳みかけるだけだ。ユーゴは踏み込んでルーンソード『灰殻』を振るった。無事な敵から狙い、マスケットを払って心臓を貫き通し一殺。破片を顔面や身体に受けた残り数名を、斬首、割頭、刺殺。ルーンソードから血を払えば、居室内の警備兵は瞬く間に全滅である。
「……終わったぞ、リリヤ」
 ユーゴは敵の死骸を蹴転がし、死んでいることを確認した後、振り向いてリリヤを呼ばわる。
「――」
 声を聞いたか、否か。リリヤは痛ましいものを見る眼をして、ユーゴの横に参じた。積み上がった木箱、壺から漂う腐臭。表情を悲しげに歪める。
「ほんとうは、ちゃんとお弔いをしたかったのです。むくろが、たくさんの人びとが、納屋にねむっていると、そう、聞いていましたから」
 グリモア猟兵の説明を諳んじながら、リリヤはこぼれそうな大きな瞳を悲しみに染め、呟いた。
「――でも、もう、ここは。ここまで傷んでしまったら、灰にかえさなくては。このままでは、やまいをつれてきてしまう」
「病――」
 病、疫病。ユーゴは彼女のフードの内側を知っている。
 リリヤ・ベルは人狼病の少女だ。
 人狼病を罹患し迫害を受けた彼女にとっては、いかなる病とて不幸の象徴のようなものだろう。
 だから、今回の件は自分一人で片付けようと思っていた。――しかし付いてくると言って止まなかったのはリリヤである。ユーゴはリリヤに何も強制しない。彼女を一人の人間として認め、その意思を尊重する接し方をしている。
「リリヤ。……大丈夫か?」
 少女の顔を覗き込むようにユーゴは声をかけた。リリヤは『資材置き場』から目を背け、ユーゴのアイスブルーの瞳を見る。
「だいじょうぶ、です。わたしは、だいじょうぶ。ちゃんと……できます。灰にかえします」
 リリヤは腰元から、すらりとルーンソード――『ドラセナ』を抜いた。切っ先に燠火が揺れる。
「……リリヤ、“灰に還す”なんて行為は、やるにしろやられるにしろ辛いものだ」
 ユーゴは静かな声で、言い聞かせるように語る。強制も、命令もなく。
 一度閉じた目の裏に、灰しか残らなかった、亡国の景色が浮かぶ。ユーゴは短く息を吐き、目を開いた。続ける。
「今からやろうとしている事に躊躇ってもいい。――躊躇う時間は俺が作ってやる。やはり自分にはできないと諦めてもいい。――できない時は俺が代わりにやってやる。だから」
 フードに大きな掌を置く。――だからどうか。
「心に嘘をつく事だけは、するなよ」
「……はい。だいじょうぶ、です、ユーゴさま」
 頭を撫でる掌に少しだけ目を細めてから、リリヤはもう一度、繰り返す。先ほどよりも強く。
「わたくしが、おくりたいのです。――だから、どうか、きちんとできるまで、おまもりくださいましね」
 リリヤはユーゴから贈られたみどりのきば――ドラセナに魔力を篭める。発現するはユーベルコード『真鍮の鐘』。点る炎が、ゆらり渦を巻いて揺らめき――リリヤが剣を振ると同時に、溢れた。
 周囲に敵勢がないか気を払いながら、ユーゴは弔いの火を見つめる。敵が襲えばすぐにリリヤを庇える姿勢だけは崩さぬまま。
 充分に炎を広げると、は、と一つ息をついて、リリヤは剣を下ろす。
「……すべて灰になったあとは、きっと、また芽吹きますから」
 リリヤは、或いはそうであるようにと願うように呟く。剣を納めると、まいりましょう、と言う風にユーゴを見上げる。ユーゴもまたそれに頷き、燃える骸置き場に背を向け、納屋を出た。
「――そうだといいな」
 灰の腕は、心からの想いでそう呟いた。
 かつて燃え尽きた男が呟くその内心はいかばかりだったろう。剣を納め、リリヤを伴い歩いて行く。
「はい」
 リリヤはユーゴの肯定に、返すように強く頷き――赤々と炎を漏らす納屋に、別れを告げるように呟く。
「どうか、安らかに」
 納屋の焼ける煙が天に昇る。
 捧げられた祈りが、それと共に届けばいい。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ジュリア・ホワイト
……ふん、傲慢な暇人というのは本当に碌な事をしないね
この行いを見逃す理由は、只の一つも見当たりそうにないよ
「ヒーロー、オーヴァードライブ参上。これより正義を執行するよ」

機関車に変身して【ヘビーアームド・ウェポナイズ】を使用
車載主砲とロケットランチャーで警備兵達を攻撃しながらゆっくり礼拝堂に向け前進
阻む全てを轢殺、薙ぎ払っていくよ

礼拝堂にたどり着いたら人間態に変身して突入
スコップと動輪剣で敵を片っ端から破壊していくさ
「急で済まないが、この路線は本日をもって廃止になる。君たちは全員次の駅……死後の世界へご案内しよう」

【アドリブ連携等歓迎】


指矩・在真

まさか、ボクが奪う側になるなんて思いたくなかったけど……
ごめんね
恨んでもいいよ
それで君たちの心が救われるなら

【WIZ】
礼拝堂に突撃
スタッフや実験作の排除に取りかかるよ

突入前に【エレクトロレギオン】でレジスタ召還
先鋒として一斉突撃させるよ
『属性攻撃』の電撃を『2回攻撃』『早業』『範囲攻撃』でぶつけていくね
他に突撃する仲間がいるようなら『援護射撃』によるフォロー中心で!

ボクは『目立たない』ようにしながら、隠れている相手の居場所を『野生の勘』『追跡』『情報収集』で探して攻撃しようかな
スタッフみたいな弱い加害者なんかは隠れると思うんだ
そういう人ほど許せないのにね
だから、確実に倒すためにボクは探すよ



●特急、地獄行き
 猟兵らの進撃により、瞬く間に方々で火の手が上がり、けたたましい銃声・砲声・爆発音が場を支配する。燃える炎を銀の瞳に映し、戦場をまた一人の少年が駆け抜けていく。
 物陰を上手く使い、隠密に駆ける彼が向かうのは礼拝堂だ。聞けば、そこにはこの『的作り』騒動における首魁の一味、人を冒涜する研究に携わった技師達がいるという。……そして、彼らの狂気の犠牲となった少年少女のなれの果て達も。
(――ごめんね。恨んでもいいよ)
 少年――指矩・在真(クリエイトボーイ・f13191)は密やかに独白した。
 意思を喪い、人として機能しなくなりながらも、死肉を喰らって己が躯を維持する――哀れな『的』達に宛てた、祈りにも似た思いだ。
 罪もなく、享楽の犠牲となり、今や動く肉塊に成り果てた少年少女らから、この上奪うことになるのかと気は重い。自分が奪う側に回るなことになるなど、考えたくもなかったが――しかして、やらねばならぬ。
 作戦前、グリモア猟兵は言った。彼ら、『失敗作』は、既に人ではなく。意思も感情も持たず、生けるものを羨むように襲うだけの人形達だ、と。
(せめて、安息を。君達の心が救われるように)
 在真は、ただそのためだけに武器を取る。
 腕を上げた。宙にGUIを思わせるウインドウが展開。そこから呼び出されるのは彼が信を措く『レジスタ』。戦闘用自律小型兵器。その数、膨大。瞬く間にウインドウを抜けて現れる兵器の群れは、在真の実力を語るがごとく一六五機。当に「群」(レギオン)である。
 レジスタをいくつかのグループに分け、それぞれ情報収集モード、戦闘モード、追跡モードにセットして即座に散開させる。
「――一人だって逃がさない」
 礼拝堂の方では派手な戦闘はまだ起きていない。爆発音、交戦音は何れも納屋や他の施設からだ。故に在真は情報収集に時間を割いた。散開したレジスタから送られてくる情報を処理し、リアルタイムで統合する。
 戦況を把握する意味は勿論、現地から撤退しようとしている敵の配置を知る意味もあった。――弱い者ほど逃げ足が速い。いたぶる事を好む癖、自分が傷つくことだけは絶対に避けたがる。
(そういう人ほど許せないのにね)
 ――卑劣な敵を、逃さないための監視。在真を衝き動かすのは強い怒りだ。
 在真はレジスタから得た情報を確認。現場、礼拝堂付近に猟兵なし。礼拝堂外に敵警備兵多数の展開を確認。
 礼拝堂内の状況までは確認できない。接近させると発見され、迎撃を受ける可能性がある――レジスタを大量に従えているとは言え、一人での突撃は得策ではない。
 どうする。機を見るか。或いは限定的にでも先制攻撃を叩き込むか――在真が逡巡を挟んだその刹那、辺りを汽笛の音が押し包んだ。



 ふん。
 傲慢な暇人ってのは本当に碌なことをしないね。
 この行いを見逃す理由なんて、只の一つも見当たりそうにないよ。
      ゴー・アヘッド
 ――さぁ、出 発 進 行だ、理不尽を、驕慢を、怖気を震うような悪を。
 鉄の車輪で踏み砕き、轍に捲いてぶち撒けよう。
 型式番号『D110』、ブラックタイガー号――
 否。青銀の髪をした少女は、颯爽と駆け、跳躍と共にその真の姿を現した。



 このダークセイヴァーの闇夜の中、汽笛。そして何かが走る音。何か? ……ぼかす必要もあるまい。それは蒸気機関車の音だった。がたん、ごとん、と車体を揺らし、機関車が走ってくる。あまりのことに、それをいの一番に察知した在真さえ目を瞬き驚きを表したほどだ。
 レールもない、駅もない。そもそもそんな技術体系は、この闇の世界には存在しない。だというのに機関車が走る。摩訶不思議と見える状況であったが、――それもその筈。
“ヒーロー、オーヴァードライブ参上。これより正義を執行するよ”
 ――『彼女』は猟兵。蒸気機関車のヤドリガミ、ジュリア・ホワイト(白い蒸気と黒い鋼・f17335)である!
「なんだ、あれは?!」
「鉄……鉄の馬車……?! 否、しかし巨大すぎる! そもそも馬は何処だ?!」
「壊せば済むことだ! 恐れるな、マスケット一斉発射後接近戦に移れ! 引きつけろ!」
 機関車は在真が不可解に思うほどゆっくりと進む。しかし音だけは本来通り派手に鳴るので、とにかく耳目を引いた。吸血鬼達が防衛ラインを構築するのを、機関車の前照灯が照らしあげる。
 横合いの物陰から息を潜めてそれを見つめていた在真は、次の瞬間機関車の速度の意味を悟った。
 一見すれば只の蒸気機関車。……しかし――ジュリア、否、『オーヴァードライブ』は、既に『重武装モード』に入っている!
「マスケット照準、構えーッ!!」
 吸血鬼らが筒先を持ち上げた瞬間、オーヴァードライブの煙室扉が開き――ごうん、と音を立てて鉄筒がせり出す。それを見た瞬間、吸血鬼らは全く意味が分からなかっただろう。時代錯誤な蒸気機関車に搭載されたのは、最新鋭のビーム兵器。
 ……その名も、『アクセルホワイト』!
 カッ、と鉄筒の先が煌めいた。射出されたビームが、正面で隊伍を組んでいた数体の吸血鬼兵を呑み込んで吹き飛ばす。悲鳴すら残らぬ。
「な、な……ッ!?」
「クソッ! 態勢を立て直せ、応援を呼べーっ!」
“必要ないよ。――さあ、そこの君も乗りなよ! 今なら切符はサービスで、礼拝堂まで一直線さ!”
「――分かった!」
 在真が見えていたかのような物言い、そして能力的な相性を一瞬で察すると、在真は物陰から飛び出し、レジスタを宙に並べて階段のように蹴り継いでオーヴァードライブの背中に飛び乗る。
「正面に回るな! 光が来るぞ!」
 吸血鬼とて阿呆ではない。アクセルホワイトの射界に入らぬよう散開し、側面攻撃を仕掛けようとする。しかして、オーヴァードライブとてそれを予測せぬ訳もない。
 蒸気機関車、機関室の側面よりじゃき、じゃき、と音を立てて砲口が迫り出す。四連誘導砲身、念力誘導式詠唱ロケットランチャー『ML106』!
 間髪入れず斉射! 盛大な砲火が上がり、周囲を照らしあげる! 射出されたロケット弾がオーヴァードライブの意念を受けその軌道をねじ曲げ、的確に襲い来る吸血鬼らの足下、或いはそのものに着弾、爆裂! 爆裂! 爆裂!! 爆裂!!!
「ぎゃああああああああああああっ!?」
 声を上げることが出来たものは幸運だ。一撃で粉砕された吸血鬼もいたためだ。直撃せずとも巻き込まれ、包囲攻撃に参加した十数体のうち半数程度が塵に還る。
 ロケットランチャーを回避した残り七体が、ML106のリロードの隙を縫い攻撃に移ろうとするが、
「――残念だったね。ボクを忘れてもらっちゃ困るよ」
 その機先を在真が獲った。
 彼の周囲に侍る一〇〇機あまりのレジスタが、編隊を組んで敵に殺到する。一機一機の力はさしたるものではない。然りとて、チームレジスタの強さは「群体」としての強さだ。その手数、同時攻撃範囲、攻撃属性を相乗させることでの威力。いずれも、群なくては成立せぬもの。
 在真は八方睨み、レジスタらに命を下す。――即ち、『撃て』と。刹那、帯電した空気が産毛を逆立てるほどに張り詰めた。
 四方、闇を走る吸血鬼らを、突然の雷が打ち据える。――無論落雷ではない。レジスタらがそれぞれ『電極』となり、空間に高圧電流を走らせたのだ。巨大版のスタンガンのようなもの。
 これを喰らっては声もない。一瞬で内蔵まで煮えくり返り焼け焦げ、即死する吸血鬼達。そうしつつも在真はレジスタの一体に命じ、礼拝堂を目指す他の猟兵に、現状までで得た情報を共有する。抜け目も隙もない。

 蒸気を上げ、機関車は礼拝堂の防備に回った敵を蹴散らし、ゆっくりと前進していく。
 オーヴァードライブは、車輪の音に紛れて告げた。鳴り響く汽笛。
“急で済まないが、この路線は本日をもって廃止になる。君たちは全員次の駅……死後の世界へご案内しよう”

 それは死刑宣告。
 これより、敵を全員滅殺するという宣言に他ならなかった。

“――なあに、運賃はサービスだよ。どうせ片道切符だからね”

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

仁科・恭介
※アドリブ、連携歓迎
依頼内容を聞いている段階からイライラを募らせ爪を噛む

【目立たない】ように懐にマフラーをしまい込み、宵闇に紛れるように『礼拝堂』へ近づく
【目立たない】ように窓から室内を伺い【学習力】で作戦を検討
中にいる吸血鬼達を混乱させるように窓枠の隙間などから【蟻達】を侵攻させ、混乱に乗じて殲滅する
混乱の際に騒ぎ出すことを考慮して突入するタイミングは見計らう
また、突入と同時に一旦蟻の排出を停止し他猟兵への被害が無いよう配慮する
混乱している吸血鬼の中で壁際に居る者から順に【目立たない】よう【ダッシュ】で近づき【失せ物探し】で狙った心臓を刺す
怒りはあるが一人一人丁寧に排除するように戦闘する



●禍つ先触れ
 享楽のため、ただ『狩りを楽しみたい』と言う理由だけで、犠牲になった幾つもの村落、そして幾人もの子供達。
 ――その話を、聴いたその時から苛立ちが止まらなかった。爪を噛んだ際に出来たささくれをざりりと人差し指で撫で、仁科・恭介(観察する人・f14065)は礼拝堂内を伺う。
 恭介には卓抜した隠密技能がある。彼は先行する猟兵らの起こした騒ぎに乗じ、建物影に取り付いて、内部の様子を偵察していた。
 中は騒然としており、術衣を着た吸血鬼らはガラス瓶や血で錆びた実験器具を抱えて右往左往している。
 それと並び、大量の警備兵がひしめいている。しかし武装――マスケットに弾を込めている最中のものなどもおり、準備が十全であるとは言いがたいようだ。おそらく状況に即応できるものは外の警備に回り、今も礼拝堂正面側で猟兵達と激突しているのだろう。状況と手札を勘案し、恭介はすぐに判断を下した。
 ――戦闘準備を整え終わる前に、先行して叩くべきだ。
 判断まで一瞬。恭介は即座に行動を開始する。
「……来い」
 呼ぶように呟いた瞬間、恭介の足下の闇がざわめく。――否、ざわめいたかに見える闇は、蟲。軍隊蟻の群だ。恭介のユーベルコード、『知恵の実』である。
 ダークセイヴァーにおける技術レベルでの木造建築など、蟻からすれば隙間だらけのあばら屋に等しい。恭介は蟻の群に命を下し、建物の隙間を探して侵入させる。窓枠、或いは補修痕、はたまた単純に壁に開いた穴。進入口は選り取り見取りである。
 中を覗いた限りでは、未だ猟兵は突入していない。ならば全力を尽くして構うまい。恭介は蟻を内部へ充分に浸透させたのち、命を下した。
「喰らえ」
 異変はすぐに起こる。
「……?!」
「……!! っつ、っでえええ?!」
「なんだ?! 何が起きてる?!」
「くそっ、蟲だ!! 足下に蟲が、こっちにも、くそっ!!」
「石鹸水だ、石鹸水を撒け!!」
「そんなモンすぐに用意できるか馬鹿ッ!!」
 蜂の巣を叩いたような騒ぎだ。一匹二匹ではない、それこそ恭介が止めるまで無尽蔵に沸き続ける蟻である。吸血鬼達の動揺も頷けようもの。一度内部に騒ぎを引き起こせばしめたもの。恭介は斬魔鉄製狩猟刀『牙咬』を一閃、立て付けの甘い窓を『切り抜き』、騒ぎに乗じて室内へと隠密に侵入した。滑り込めばあとは早い。
 手近な敵に近づき、その心臓を穿つ。一尺丁度の狩猟刀は閉所でも取り回しよく、心臓を穿つにも不足無い長さだ。
「な――」
 一人刺殺すれば流石に周囲の意識が恭介に向く。しかし恭介は躊躇いも迷いもなく、一番近い敵に接近してその頸動脈を掻き切る。舞い散る鮮血。
「う、うおおおおおおっ?!」
 マスケットを持った一人の兵士が筒先を上げる。恭介は頽れる死体の首根っこを掴み、それを盾として前進。マスケットの銃声。銃弾は死体にめり込み停弾、死体を突き飛ばすようにして敵にぶつけながらまたも心臓を突き刺す。狙いは精密、一刺一殺の鋭い剣閃。一人一人確実に、丁寧に、殺していく。
「――逃がさない。お前達は、ここで殺す」
 恭介は牙咬を血振りしつつ、次の敵に狙いを定める。礼拝堂二階から駆け下りてくる複数の足音――新手だろう。
 構わない。――こちらとて後続の猟兵が必ず来るのだから。それまで戦い続ければいい!
 蟻を新たに呼び出しつつ、恭介は牙咬を構え直す!

大成功 🔵​🔵​🔵​

ネグル・ギュネス

【礼拝堂】の扉を蹴破る

不愉快だ、実に不愉快だ
人を、命を弄ぶ愚物どもよ

懺悔の用意は出来ているか!!!

破壊の化身となりて、貴様らを滅する
エクリプス・トリガー、…変身。

黒い甲冑の戦士となりて、暴風の如く敵を、設備を、実験体を破壊する

【残像】を残す【ダッシュ】で駆け回りながら、武器や体に【破魔】を宿し
殴打し、踏み潰し、斬り落とす
設備に叩きつけ、貴様らがやった所業を思い知らせるように抉る

悲鳴、懇願、呪詛の言葉など知った事ではない
返り血を浴びて、赤に染まれど躊躇わない

誰かいたら、怯えるかもしれないが、構わない
私は、鬼だ

敵、殲滅
何処かで見ているだろう敵に、指差してやる

嗚呼、次はお前だ
逃げられると思うなよ!


アウレリア・ウィスタリア
礼拝堂を目指しましょう
ああいった建物には大きな窓があります
多少高い位置でもボクは飛べますから
そこから突入です

【空想音盤:追憶】の花弁を纏い突入と同時にすべてを切り裂きましょう
同様に突入する猟兵とは連携を、
最悪同士討ちだけは避けるようにしましょう

ボクは容赦しません
祈ることなら後からできます
今はこの一瞬の奇襲による一撃にすべてをかけましょう

花弁で仕留めきれずとも目眩ましになります
その僅かな隙に鞭剣で首を掻き斬り
距離があれば魔銃で頭を撃ち抜き
複数いれば血糸で絡めとって追撃を加えましょう

死者を辱しめてはいけない
もう安らかに眠ることはできないでしょう
だからせめてこれ以上の苦痛が無いよう
一瞬で終わらせます



●レージング・ウィズ・ブラックゲイル
 斯くして、在真とジュリアの活躍により拓かれた道を階とし、次々と礼拝堂に殺到する猟兵達。
 外ではまだ警備兵と猟兵らの戦いが続いているが、その騒ぎを突破してまた一人の猟兵が礼拝堂の扉にたどり着いた。
 ノックなど、不要だ。
「不愉快だ、実に不愉快だ。人を、命を弄ぶ愚物どもよ」
 憎々しげに猟兵――黒いスーツの男は言う。駆け抜けた勢いをそのまま踵に載せ、彼は礼拝堂の扉を蹴り抜いた。
「ぎゃああっ?!」
 木扉とはいえそこそこの大きさの扉が、蹴りの勢いのままに宙を舞い、警備兵を一名巻き込んだ。
 外の爆炎、焔風、閃光を背に受けて、肩に刀の峰を負い、スーツの男は怒りに吼える!
「懺悔の用意は出来ているか!! ――聴けども斬るが、悔いて死ね!!」
 ネグル・ギュネス(ロスト・オブ・パストデイズ・f00099)である!
 礼拝堂内部の空気は既に先行した猟兵により混乱状態だ。そこに畳みかけるように、ネグルは即座に紫色の鍵を義手にインサート、半回転。
「エクリプス・トリガー、変身ッ!」
 ――破壊の鬼が、目を覚ます!
 ネグルの右半身が深紅の色を帯び、緋色のスパークを放つ。それを包む黒き甲冑――誰が見てもただ事ではない。誰あろうとも脅威を、暴威を、感じずにはいられまい。
「う、うわあアッ!!」
 数人の吸血鬼が、そのプレッシャーに追い詰められたように発砲。黒色火薬のマズルファイアと発砲煙が視界を塞ぐ。
 室内という至近距離。外しようがないはずだった。――しかし着弾の音はなく、煙を突き破るのは『桜花幻影』の切っ先。
 銃弾を回避したネグルは硝煙を引き裂き前進、残像を残すような速度で電瞬の平突きを放ったのである。
 一突き。喉を貫き通し、一体殺害。
「るうゥああァッ!!」
「あ、あああ、ぎゃあっ?!」
 甲冑に覆われた腕で横手の敵の襟首を引っ掴み、力任せに振り回して悍ましき祭壇に叩き付ける。祭壇もろとも敵の頭蓋を粉砕、滅殺!
「くそっ、くそ、貴様らァッ! こんなことをしてタダで済むと思って――」
 吸血気がつく悪態を呑み込むように、二階のガラスが破れる音がする。降り注ぐ破片と共に、ネモフィラの花びらが輝き舞った。
「容赦はしません。――ただでは済まないのは、アナタ達の方です」
 アウレリア・ウィスタリア(憂愛ラピス・ラズリ・f00068)である。彼女は礼拝堂に採光用の大窓があることを見越していたのだ。背の翼で飛翔し、ネモフィラの花弁を纏い突撃、ガラスを撃砕して内部へエントリーしたのである。
 纏うネモフィラの花弁は当然、ただの飾りではない。アウレリアのユーベルコード、『空想音盤:追憶』によるものだ。アウレリアが腕を振り下ろせば、花弁はまるで意思持つかのようにそれに従って、刃風となって吹き下ろした。
「ぎっ!?」
「ぐああっ!」
「クソッ、実験体を起こせ!」
「もうやって――ぎゃあっ?!」
 舞うのを見るだけならば美しい花弁の群れは、しかしてその実アウレリアの意思を代弁し敵を裂く無数の刃でもある。次々と吸血鬼達が裂かれ動きを止め、或いは絶命していく。
 その間を縫うようにネグルが駆け抜けた。その躯、そして太刀には破魔の光が宿る。夜の住人が恐れる、黒き太陽の加護が。
「貴様らが何を考え、言おうが――私の知った事ではない。私は、鬼だ。貴様らを征伐するただ一騎の鬼だ!!」
 吼えるネグルが刃を振るわば、その尋常ならざる膂力によって加速した太刀が、受けに回ったマスケット銃ごと敵の身体を一刀両断。派手に飛び散った血飛沫がネグルの身体を汚すが、彼はそれに頓着した様子はない。
 意にも介さず再び踏み込み、加速の勢いのまま次の敵を殴り飛ばす。その拳もまた撃弾の如しだ。吸血鬼の顔面がぼきゅ、と音を立てて陥没し、頭蓋が砕けて眼球が飛び出す。当然のごとく即死。
 返り血に真っ赤に染まった鬼の姿を、しかし他のどの猟兵も咎めはしなかった。思いは同じである。――それほどまでに、猟兵達は怒っていたのだ。

 暴れ狂うネグルの殺界を避けてアウレリアは着地。範囲攻撃に使用したネモフィラの花弁を手元へ収束させ、鞭剣『ソード・グレイプニル』を再構築する。
 仮面の内側で琥珀の瞳を細め、アウレリアは地を蹴った。
 本来ならば争いを好まぬ優しい気質の少女だったが、優しさだけでは、祈りだけでは、救えぬものがある。彼女はそれをよく知っていた。祈ることなら、後でも出来る。
 今は、この一瞬の奇襲による一撃にすべてを懸け――徹底的にこの冒涜者らのアジトを破壊し尽くすのみだ。
 右手、数メートル先にいた手近な一体目掛けソード・グレイプニルを振るう。ぎゃらららら、と音を立てて鞭剣は伸び、射程外と侮っていた吸血鬼の首に食い込んで刎ね飛ばした。一見しただけではその剣が斯様に伸びるなどと想像は付くまい。刀身を引き戻し、再び剣状に固定しながらアウレリアは左手に魔銃『ヴィスカム』をドロウ。
 ちり、とうなじを刺す殺気に、アウレリアは舞うようにステップを踏んだ。翼翻り、レーススカートの裾が風を孕んで華麗に舞う。一瞬前までアウレリアがいた位置を、何かがびょう、と音を立てて擦過する。
 即座に敵手に向き直ったアウレリアは、仮面の下の表情を硬くした。
「あ”ー……」
 呻きと共に、敵手――『それ』は、伸びた『右腕』をずるりと縮めて引き戻した。
 異様であった。
 そこにいるのは、色をなくした膚には縦横に無数の縫合痕が走り、手足の長さもてんでばらばら、あげく顔までパッチワークの『実験作』――屍食鬼。爪牙は鋭利、腕は伸縮し敵を裂く事に長けるようだ。
 地下へ続く階段から、まるで溢れ出るかのように屍食鬼の群れが現れる。『的』として作られるも眼鏡に叶わなかった我楽多たち。
「――惨いことを」
 唇を噛むアウレリア目掛け、またも鞭の如く撓る腕が繰り出される。群がる屍食鬼は一体二体ではない。アウレリアはソード・グレイプニルで攻撃を斬り払いつつ跳び下がり、ヴィスカムを連射して敵を撃ち倒していく。
 ……死者を辱しめてはいけない。こうなった以上、もう安らかに眠ることは許されまい。外法の犠牲になり、死肉を喰らうようになった以上は。
 アウレリアに出来ることは、ただ一つだけ。
「――せめてこれ以上の苦痛がありませんように」
 祈るような言葉を発し、一撃で終わらせる事のみであった。
 ――複数体からの同時攻撃を、身体を回し際どく回避しながら、少女はソード・グレイプニルで自らの左手首を裂き、血を宙に舞わせた。――血は宙にてまるで独りでに紡がれるかのように線を引く。まるで、傷口と繋がっているかのように。
   レージング
 ―― 血 糸 。アウレリアの血より生成される強靱な糸だ。
 アウレリアはレージングに魔力を通わせ、撓らせて敵三体を絡め取り動きを封じる。内二体をヴィスカムで撃ち抜く間に、駆け来たネグルの刀が三体目の首を刎ねる。
 アウレリアとネグルは互いの背を守るように立ち、周囲を睥睨した。敵、吸血鬼兵、屍食鬼、共に未だ多数。
「ありがとうございます」
「構わない。……やはり首、或いは脳を破壊すれば止まるようだな」
「はい。それに、動きは単調です。私が封じます、追撃をお願いします」
「承知した」
 弱点の共有。二人は首肯一つ、己の武器を構え直す。
 二人は同時に弾けるように動き出した。八方へ伸びるレージングが屍食鬼達を絡め取り、そこへ紅黒の風となったネグルが突っ込んで斬り捌く。血風荒れる中、ネグルはここにはいない首魁を貫くような語調で吐き捨てた。
「嗚呼――ここを片付ければ次はお前だ。逃げられると思うなよ、吸血猟鬼!!」

 それは、この場に集った猟兵の総意であったに違いない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アンナ・フランツウェイ
◎、『礼拝堂』へ

この澱んだ雰囲気、血の香り…。思い出しちゃうな、私がかつていた実験施設の事…。

自分の中の怨念が犠牲者達の苦しみに反応し始め、それによって生まれた憎悪に導かれるように『礼拝堂』へ突入する。

突入後近くにいるスタッフorリビングデッドへ【先制攻撃】。まとまった数がいるなら【断罪式・彼岸花】で処刑器具による【範囲攻撃】を放つ。

倒し終えたら処刑斧を振るい、【鎧砕き】【範囲攻撃】【衝撃波】で実験施設を破壊していく。もうこんな狂った実験の犠牲者が生まれないように…。

終わったら実験の犠牲者達へ【祈り】を捧げ、誓おう。あなた達をこんな目に合わせた者に、生き地獄が生温いと思える地獄を与えると。



●断罪天使
 礼拝堂には、猟兵達の鮮烈なる攻勢により吹き荒れた血の匂いのみならず、古い、腐ったような血の匂いもまた重苦しく滞留していた。
 壁や床に所々、染みつき二度と落ちることのないであろう血痕。一体、ここでどれほどの血が流されたのであろう。アンナ・フランツウェイ(断罪の御手・f03717)の与り知るところではなかったが、彼女は礼拝堂へ踏み入る前に一瞬、逡巡した。
 澱んだ雰囲気も、血の匂いも、こごったような怨嗟の気配も――かつて、彼女が囚われていた実験施設を彷彿とさせる。
 アンナは『呪詛天使計画』なる狂気の計画の被験者である。今や彼女は血液の継続的な摂取なくしては生きられず、その身には世界を憎み死んだオラトリオの怨念が宿る。
 破損したドアから覗く礼拝堂の内は、地獄の様相を呈していた。多数の吸血鬼兵と、継ぎ接ぎだらけの屍食鬼達が、猟兵と鎬を削り合っている。
 屍食鬼。実験。試験。失敗作。手前勝手な欲望のために殺され、作り替えられ、打ち棄てられたなれの果てども。その犠牲者達の苦しみを、アンナは身に宿した『怨念』を通じて知る。
 彼女の中の『怨念』は激しい怒りを表していた。世界を憎み死した『怨念』には、運命に翻弄されるように死に、今もこの地に縛り付けられた無辜の魂の苦しみが分かるのだろう。燃え上がるような憎悪が湧き上がり、アンナの心の内側を焦がす。
 アンナには犠牲者の苦しみは見えぬ。想像するしかない。だが――憤る気持ちは怨念と同じだ。
 ――分かってる。請われたって、許しやしないから。
 眦を決し、アンナは決然と礼拝堂の中へ身を躍らせた。
 手近にいた屍食鬼が数体、ぐりん、と一八〇度首を巡らせてアンナを振り向く。彼らが攻撃に移る前にアンナが機先を制した。爪で手に刻んだ裂創より迸る血液が、引き延ばされて複数のギロチンめいた刃を形作る。『断罪式・彼岸花』。
「ごめんね」
 嗚呼、願わくば死者に正しき安息を。
 アンナが腕を振るえば、生きているかのように血液の断頭刃が唸り跳び、屍食鬼らの首を刎ね飛ばした。汚泥めいた血液が飛沫く。
 頽れる死者を踏み越えて第二波が来る。鞭のように伸びる腕の一撃を、顎を逸らして回避。飛びかかってくる屍食鬼を、閃光のごとく抜いた処刑剣『ラストレクイエム』で貫き、振り捨てる。
 一体征してもすぐさま次の数体が来る。
 しかしアンナの目から光は消えぬ。屈み、裂創を刻んだ右掌を地面を圧すように押しつけた。
 刹那、彼女を中心とした円状範囲に、数百本からなる血の拷問針が、間欠泉のごとく吹き出す! 空中へ跳んだ屍食鬼がそれを避けられるはずもない。串刺しになり空中で血袋に変わる三体の屍食鬼。
 地面を突き放す様にアンナは立ち上がり、裂創刻んだ右手に処刑斧『ロストクロニクル』を抜く。
 儀式に使われたであろう棺、冒涜的な手術台、血錆びた器具が並べられたカート――礼拝堂に今も残る、怖気の振るうような実験の残滓。
 一つたりとて、残しはしない。
「やっ、やめろ! 貴様、それは我々の――」
 飛び出し駆け来る術衣の吸血鬼。アンナはそれを意に介することもなく、身を捲くようにロストクロニクルを振りかぶる。
 聞いてやる義理があるものか。
 アンナは力の限りロストクロニクルを振るった。彼女を中心に扇状に巻き起こる衝撃波が、紙を破るよりも容易く実験器具を、棺を、手術台を、そして飛び出した術衣の吸血鬼を粉砕する。圧倒的な威力。
 ――こんな狂った実験の犠牲者は、もう生まれちゃいけない。
 アンナはロストクロニクルを再び構え直し、次のターゲットを見定める。室内にはまだ壊すべきモノが山とある。……そして、倒すべき敵も。
 わらわらと群れる屍食鬼達に痛ましげな目を向けながら、アンナは祈るように一瞬、目を閉じた。
 ――ああ、約束するわ。あなた達をこんな目に遭わせた者に、生き地獄が生暖かいと思えるほどの地獄を与えると。
「だから、どうか迷わずに逝って」
 アンナは敵を目掛け、今一度走り出す。
 静かに怒る彼女の怨念と共に。

成功 🔵​🔵​🔴​

鹿忍・由紀

手薄な所へ
どこに行ったってやることは変わらない
教会内のものを壊せば良いんだろ
相手に理性があるかないかも関係なく
気分が良い仕事ではないよね、
と淡々と始終表情も変えず

殲滅するなら影雨を
棺を開ける必要があるなら鍵開けが使えるかな
近接ならダガーで切り捨てる
祈りなど捧げることもなく
躊躇いがないのがせめてもの慈悲か
的確に急所を狙って効率良く
吸血鬼でもリビングデッドでも
邪魔してくるやつは捩じ伏せて

祈りたい人は好きに祈っとけば良いんじゃない
そういう人の邪魔はしないよ
祈りの邪魔はしないけど、手を止めるつもりもない
面倒なことは早く済ませた方が良いでしょ

的になった時点で助からない命だ
せめて人間らしいうちに眠りなよ



●無温の弔風
 猟兵というのは決して、気分のいい仕事ばかりを請けられるものではない。
 誰にも感謝されないこともある。それどころか、憎まれることもある。――今回は恨まれることこそなけれど、これ以上は一人も救うこと叶わぬ仕事だ。敵は命を冒涜する吸血鬼達と、彼らが作り出した人間を継ぎ接ぎにした異形達。そして、命を冒涜した器具、祭壇、その類の設備。
 ――どこに行ったってやることは変わらない。教会内の物を壊せば良いんだろ。相手に理性があるかないかも関係なく。
 鹿忍・由紀(余計者・f05760)がグリモア猟兵に言った言葉は正に正鵠を射ていた。
 確かに、気分の良い仕事ではない。しかし、誰かがやらねばまた誰かが犠牲になる。由紀はそれを分かっていたからこそ招集に応じたし、手薄なところをカバーするつもりで走った。
 由紀が至ったのは礼拝堂だ。見たところ、納屋は重要性と人数のバランスが丁度いい辺りで取れている。聖堂は多数の猟兵が向かっている。残るは礼拝堂。護衛部隊と猟兵らの戦闘は既に散発的になっている。戦線を駆け抜け、礼拝堂に至るのは容易だった。
「遅れたけど――始めよう」
 由紀はダガーを抜き、開きっぱなしの入口から室内に突っ込んだ。
 礼拝堂は二階建て。一階は既に乱戦の様相を呈している。目の端に、いずれは攻められるであろうに二階へ逃げる術衣の吸血鬼達が見えた。他の猟兵は一階で各々の相手と戦闘中。由紀は殆ど思考を差し挟まず、二階へ続く階段を蹴り上る。ユーベルコードを起動。
 一足飛びで階段を駆け上れば、二階の広いスペースに、血まみれの寝台が所狭しと並べられている。今も横たわる実験体が、ずるりと身を起こす。立ち上がる実験作達は、その数数十。一気に殲滅するには数が多い。
 
「ヒィ、ひひひはははは! 動け動け、敵が来たぞ! 子供達よ!」
「……呆れたな。アンタ、この期に及んでそういうことをするんだ」
 由紀はダウナーな、光の薄い目をそれでも不快そうに細めて、影に魔力を注ぎ込む。
「煩い、煩い煩い! 我らの研究を邪魔する者はァ、全員死ねばいいのだ!!」
 手を振り向ける術衣の吸血鬼。その命に従うように実験作の数体が伸びる腕を鞭のように振るった。
 由紀はそれ以上会話を交わすつもりもなかった。撓る腕を避け、潜り抜けてダガーで切り裂き、跳躍して距離を空ける。
 即座に魔力を注いだ影から、刃を数十本と展開。影の刃の群を放ち、先頭の四体を剣山めいて滅多刺しにする。
 ――捧げる祈りも何もない。
 ユーベルコード『影雨』を再起動。再び影に魔力を注ぎながら由紀は前進。寝台を蹴って浮かせ、指先を引っ掛けて振り投げる。数体を薙ぎ倒し、隊列が乱れたところを狙って飛び込んだ。穿つは心臓、首、そのどちらかだ。
 急所を狙い、的確に、効率よく。
 この場には他の猟兵はいなかったが――優しい者は、きっと祈ったのだろうと思う。けれど、由紀はそうするつもりはなかった。祈りを否定するつもりはない。ただ、面倒事は早いうちに片付けた方がいいと思うだけ。
 辛うじて人の形をしている実験体たちを、ダガーで穿ちながら距離を詰める。振るわれる腕を、食いつき掛かる者を、避けながらスライディングして空いたスペースに滑り込み、自身を取り巻くように『影雨』の刃を発露。全方位に向けて、弾けるように刃を投射。十数体を一挙に貫く。
 それでも未だ動く実験体たちに、由紀は声低く言った。
「的になった時点で、助からない命だ。せめて人の形をしてるうちに眠りなよ」
 ――それは或いは、彼なりの優しさだったのか。
 由紀は攻撃を掻い潜りながら、影雨で穿った敵を己がダガーで貫いていく。異形の命を終わらせる弔いの風となって、影めいた男は鋭く跳んだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

アヴェルス・ジュネ
生きた人間は居ないのね
つまり、動くものは猟兵を除いて全て敵。…判り易くていいわ

礼拝堂を目標に
とはいえ拘らないわ
手薄な所があるなら其方へ加勢しましょう

排除対象複数へ鋼糸を巻き付け、紅華で一斉延焼
敵性存在の鏖殺を最優先し、
一掃を確認後、建屋まで延焼拡げて炎による施設破壊
他戦場へ影響したり、仲間を巻き込む下手の無い様炎の制御はするわ

敵性存在が無いなら、建屋の燃え易そうなものへ糸を絡めましょうか
焼き尽くすだけよ、敵だろうと、人であったものであろうと

とうに命喪われているとしても、
歪んでしまったかたちは、全て炎で灼き尽くして、
存在としての最期くらいは、人として逝ける様に送りましょう

…所詮、都合の良い解釈ね



●赫奕
 礼拝堂二階、吸血鬼技師の悪足掻きと先行した猟兵がぶつかり合う中、階下より駆け上る足音が一つある。
「加勢するわ」
「頼むよ」
 短いやりとりを経て参戦するのはアヴェルス・ジュネ(哀雨・f16344)だ。彼女は作戦内容をシンプルに理解している。即ち、現場に要救助大将なし。動くものは猟兵を除き全て敵。生産に関わる三カ所の設備を破壊すれば第一目標を達成出来る。
 故に、彼女は猟兵がまださして多くない礼拝堂の二階を戦場に選んだ。敵群を前に己が武器――鋼糸『無影』を広げる。
 敵性体を確認。「実験作」がなおも数十体。それに、彼らに指示を下す吸血鬼技師が数体。
 技師から狙うのも一つに思えるが、そのような動きを見せれば当然のように実験作が動いて彼らを庇う。アヴェルスは敵の挙動を頭に入れ、戦列に参じた。
 実験作の腕が唸り、空を裂いた。継ぎ接ぎの腕はまるでゴムのように柔軟に、鉄鞭の如き暴威を備え唸る。アヴェルスは飛び退き回避。床に炸裂した腕の一撃は床板を裂き、爪が刃めいて突き刺さる。
 回避するなり、アヴェルスの手がまるで指揮するように優美に翻る。その指先から放たれるのは、この闇の中にあっては吸血鬼でさえ視認が困難なような鐵の糸だ。
 張れば鋭く弛めば柔く、剛柔の性能を兼ね備えた鋼糸は、彼女の指の動きを汲み取るように広がり、地面を打ち据えた腕に刹那の内に巻き付いた。アヴェルスは後退しながら鋼糸を張る。
 実験作の腕に巻き付いた鋼糸が、加えられた力積により刃と化した。まるで輪切りのハムめいて細切れになる実験作の腕。斬られた本体は痛痒を見せないまま、ただバランスを崩してひっくり返る。
「……もう、痛みも感じないのね」
 歪んでしまったかたち。人の形をしているだけの屍食鬼。生者を羨むように呻いて、鋭い毒の爪をこちらへ向けてくるだけのもの。
 アヴェルスは哀れむように言うと、突貫してくる敵数体目掛け、十指より鋼糸を一斉に放った。
 それは、籠か、或いは檻か。広がった糸がアヴェルスに殺到する数体の身体のどこかに絡みつく。全てが致命の部位とは行かぬ。足先、手先にしか絡まぬ者もいた。
 構わない。アヴェルスの狙いは別にある。
 刹那、彼女の赤い瞳が、燃えるように光を曳く。
「――せめて存在としての最後くらいは、人として逝けるように送るわ」
 アヴェルスの両手が紅く燃えた。炎の鋼糸を伝い、まるで燃料を纏っているかのように即座に燃え上がる。
 致命の部位を裂かずとも、燃えるの炎の糸は、一所絡めば命に絡んだのと同じ事。一気に絡めて燃やせば、それを振り払おうと藻掻いた敵が勝手に炎を広げてくれる。一度点いた炎は消えず、実験体らを舐め尽くしていく。
 礼拝堂二階は、瞬く間に炎の間に呻き声交じる焦熱地獄と化した。アヴェルスは燃える炎の延焼範囲を操作、最低限二階が崩落しない程度に抑え、一階で戦闘中の猟兵らへの影響を防ぐ。
 燃える腕が振り回されるのを掻い潜り、時折己に直撃するコースのものを銀のナイフで斬り払いながら、アヴェルスは鉄火場を駆け抜ける。
 屍肉と脂と髪の焼ける悪臭。命なかれども、動くための筋肉が熱凝固を起こしてしまえば、屍食鬼達とて立ち上がれぬ。一度倒れ伏せばそのまま、炎に捲かれて燃え尽きていくのみ。
 ――火葬し、荼毘に付せば。歪みきってしまった命のかたちだとしても、最後くらいは、人と同じように葬れるだろうか。
「……所詮、都合のいい解釈だけれどね」
 アヴェルスは自嘲するように言う。――答えは誰も出してはくれないが、きっとその想いは正しいものだ。グリモア猟兵に報告したなら、そう言ったに違いない。
 二階も制圧目前だ。残る敵に向け再び鋼糸を放ち、先行した猟兵と協力しつつ、アヴェルスは敵勢を一気呵成と攻め上げる!

成功 🔵​🔵​🔴​

鎧坂・灯理
◎【調査依頼】依頼人/f14904

※方針は共通参照

依頼人に同意だ。

さて、逃げてきた鼠を依頼人と退治するわけだが。
曲がりなりにも礼拝堂。祭壇奥に、聖具室なり非常口なりあるはず。
我々はそちらから侵入する。こちらから出ようとする者も居るだろうからな。
また、地下室(クリプト)も調査する。鍵は撃って壊す。
失敗作や資料が保管されている可能性が高い。

綺麗な死体を見繕い《念動力》で動かす。
緻密な動作は無理でも、立って歩く程度の動作は出来る。
敵が仲間と思って声をかけてくれば幸いだ。
かねて影を恐れたまえよ、オブリビオン。

殺り漏らしは《破魔》作用のある『聖塩の弾丸』で《スナイパー》。
逃げられると思うなよ、害悪共。


矢来・夕立
◎【調査依頼】探偵さん/f14037

※共通行動
『礼拝堂』へ
あぶれた敵/目立たない敵を陰から排除
作戦の確実性を上げる

誰を助ける必要もないなら気楽ですね。
オレと探偵さんは礼拝堂の裏手に回ります。
こういうときは絶対いるんですよ。抜け目なく逃げてくるヤツ。
そんな小賢しい輩をプチッと行きましょう。
「こんにちは死ね」って。

探偵さんが《念動力》で面白いコトしてくれます。
これも一種の人形劇ですよね。それに乗じて《だまし討ち》で殺す。
万に一つオレが背後を取られたとしても、後方の後方にはおっかない鮫がいます。
テキトーに撃ち殺してくれるでしょう。

お約束ですが言っておきましょうか。
狩られる側になった気分、どうですか?



●ランペイジ・ニンジャ・アンド・ディテクティヴ
 誰を助ける必要もない。生存者は既になく、その場には倒すべき敵しかいない。
 礼拝堂正面からは次々と猟兵が雪崩込み、内部で激しい戦闘が繰り広げられている。
 ――順調に行っているように思える。今のところは。順調に行っているということは、敵から見れば強めの劣勢に感じられているところだろう。

「じゃ、まあ、裏手ですよね。オレたちは」
「そうだな」
「絶対いますからね、抜け目なく逃げてくるヤツ」
「彼我戦力比が見える目玉が付いているなら、当然の行動だろうさ」
「ところで礼拝堂って非常口とかあるモンなんですか?」
「祭壇の奥に聖具室か勝手口、非常口の類があるだろう」
「なるほど」

 ――そういうわけで、忍者と探偵は非常口にいた。
 蛇の道は蛇。彼らは何れも見識と機知に富み、――いや虚飾せず言うなら『敵の嫌がることをやるのが上手かった』。忍者は名を矢来・夕立(影・f14904)、探偵は鎧坂・灯理(鮫・f14037)という。
 夕立は音を立てぬ歩みで大股に非常口に寄り、――不意に足を止めた。
 どうした? と目で問う灯理に、夕立は人差し指を唇に当てて静寂を保つよう指図。
 すぐに、その理由が分かる。数秒とせず、非常口のドアがけたたましい音を立てて開き、
「こんにちは」
 飛び出した二体の、術衣を着た吸血鬼が、
「死ね」
 夕立に刺されて死んだ。
 挨拶混じりに放たれた、永海・鉄観作、斬魔鉄製脇指『雷花』、銘が如きの電瞬迅雷の刺突二条。過たず心臓を二個破壊、達人の業である。
 引き抜いた雷花を夕立が血振り。その滴が地に落ちた後で、二体の吸血鬼は死んだことを思い出したように臥した。
「予想通り過ぎて笑えますね、コレ」
 雷花を鞘に納める夕立の横に進み出た灯理が、骸の元に屈み込む。
「……後生大事に抱えて逃げるものが、これか」
 灯理は吐き捨てるように呟き、死体の抱えた瓶を取り上げた。中には、なにがしかの溶液に揺蕩う人体の部品、内臓の類。もう一本にはこんもりと、眼球のみが幾つも詰められ漂っている。
「万事醜悪、反吐が出る」
「趣味がいい吸血鬼っていうのもなんか不思議な気がしますけどね。『らしい』連中でいいじゃないですか、ためらわず殺せますし」
 こともなげに告げる夕立に、灯理は肩をすくめて見せる。
「……こちらから出てくる連中は一人二人ではあるまい。すぐに次が来る。行くぞ」
 灯理は言うなり、瓶をそっと地面に据えて立ち上がった。それに続くように、のろのろと二体の死骸が起き上がる。具合を確かめるように不器用に腕が動いた。
 夕立が眉一つ動かさず嘯く。
「人形劇団でも立ち上げます?」
「軽口を仕舞え」
「褒めてるのに」
 ウソですけど、と続きそうな夕立の声を聞き流し、灯理は強くイメージする。――歩く。歩行とは、腕と脚と体幹の連動による動作だ。
 二体の死骸が、マリオネットめいて歩き出す。――そう、それを操るは灯理。サイキッカーである彼女の離れ業である。念動力によって身体の動きを模倣し、まるで生きているかのように操っているのだ。
「先行させる。後詰めを頼む」
「心得ました」
 繰り返すようだが、忍者と探偵は互いに聡い。
 己が何を求められているか知るには、その説明だけで十分であった。

「おいっ、そのカートごと持って行く気か?! 荷物を絞れ!」
「しかしディアナ様のために研究したものだぞ、ここ数年分だ! 主任と我らの血肉に等しいものだ!」
「ここで殺されればそれも無意味だ! その中から一等大事なものだけ取って走れ! 今ならまだ裏口から逃げられる!」
 喧々と言い合いをしながら、礼拝堂裏の小扉から通路に出るのは術衣の吸血鬼達。
 言い合う彼らの狭間――唐突に。礼拝堂の交戦音に紛れ、カツンと固い靴音が響く。
 肩を跳ねさせる吸血鬼ら、三名。素早く視線を向けた先には――
「どうした、お前達?! 先に逃げたはずだろう」
「まさか向こう側にも既に敵が?! なら道幅は狭まるが、向こうの勝手口から逃げよう!」
 口々に言葉を発する吸血鬼。先行した二人は応えぬ。ゆらゆらと、夢見るような足取りで歩いてくるだけ。
「――おい?」
 不審を感じたリーダー格が、注意深く問うように声を潜めた。
 相対距離五メートル。

「かねて『影』を恐れたまえよ、オブリビオン。死者を弄うならば、死者に化かされることも覚悟の上だろう?」

 凜とした女の声だった。発したのは当然、ゆらゆら歩きの二体ではない。
 声と同時に旋風。夢路を歩く二体の影から、文字通り『影』が飛び出した。夕立である。赤い瞳が闇に曳光し、それより尚鮮烈に抜いた刀が煌めいた。
 雷花が撓るかに見える超高速の抜き打ち。先頭のリーダー格の首を穫る。血飛沫を浴びる前に二体目を刺殺。引き抜きざまに身を回し、左手を撓らせた。
 たすッ、と音。人体の部品を満載したカートの横にいた吸血鬼が、ぐらりと身を傾がせ、倒れる。額に突き立った『紙の手裏剣』が、じわじわと血を吸って赤く染まった。
 ――矢来・夕立は忍術『紙技』を操る忍。この程度、鶴を折るよりまだ容易い。
「次は中か」
 夕立の後ろより、灯理が進み出る。
 操る必要のなくなった死体のコントロールを放り出すと、糸の切れたように死体は臥した。
「うんざりするほど乱戦ですけどね」
「カバーはする。そのための銃だ」
「頼りにしてます」
 灯理は拳銃を引き抜く。夕立は外套を翻し、放たれた第一矢の如く乱戦の礼拝堂内に突っ込んでいく。その後ろで灯理は眼鏡のブリッジに手をやり、軽く持ち上げた。
 クリプト
「地 下 室も調査するつもりだったが――敵の坩堝か」
 乱戦に於ける敵の流れをみれば、地下室から屍食鬼が上ってきていることは一目瞭然だ。本来ならば聖遺物、聖人の遺骨の類を収めるべき所に、冒涜的な実験の成れの果てを置くとは、文字通り神をも恐れぬ所業である。
 夕立が雷花を逆手に構え、名の如く、夕の驟雨めいて紙の手裏剣をばらまき、駆け抜けるその後ろ。命恋しと逃げ回る術衣の敵をこそ、灯理は睨む。
 スピンさせながら持ち上げた銃のスライドが展開・回転・結合・伸長、バレルが延び、瞬く間に肩付け用のストックと長銃身を備えたアサルト・カービンに変貌する。
「逃げられると思うなよ、害悪共。――貴様らが嘗て命乞いを聞いた、そこの失敗作達をどうしたか――」
 サイトの内側に映り込む敵。三〇分の一秒で、殺すための意思を尖らせる。
 それは回避不能、絶命必至のミリ秒狙撃。『MSスナイプ』。
「――地獄の底で思い出せ」
 トリガー。銃声が響く度、『聖塩の弾丸』による狙撃が術衣の吸血鬼の頭を射貫く。味方を的確に避け、時折は跳弾をも用いて、その頭蓋を貫いていく。
 忍者と探偵は鏖殺を尽くす。
 天井灯に蝙蝠のように脚を引っ掛け戦場を睥睨しながら、夕立は銃撃の火線に眼を細めた。
「お約束ですが言っておきましょうか。狩られる側になった気分、どうですか?」
 それに応える余裕が、銃火に追われる敵にある由もない。端から夕立も返事を期待などしていなかった。銃弾を避けた者に手裏剣を叩き込みながら、今一度夕立は乱戦へ身を躍らせる。
 一人、また一人。術衣の吸血鬼が射貫かれ、死んでいく。戦闘の趨勢は、猟兵達の側に傾きつつあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ネロ・ケネディ
ああ、これだから――吸血鬼は嫌なの
ばかげてる。どんな命も殺そうと思って接したら一瞬で壊れてしまうのに
吸血鬼(やつら)はあまりにも世界が狭すぎるんです
……父親も、一緒だったから。

礼拝堂にて、二丁拳銃を抜きます
【無音の魔弾】で――あますことなく、撃ちぬいてしまいましょう
冒涜的かもしれません、半魔の私がここにいることも
それでも私は、種族に反逆する
右手に牙を立てて、刻印を起動し焔の弾を装填
お母様、今日もあなたの焔は呪詛で満ちているのですね
青黒い炎が吸血鬼の痕跡ごと、焼けてしまえと哭いている

燃やしてしまえ、こんな所
――未来の笑えない場所に、存在する意味などないわ

すべて燃えて、朽ちて、灰にして



●血を灼き穿つ、蒼炎の魔弾

 吸血鬼は、嫌いだ。

 人は脆い。殺そうと思って接すれば、どんな命だってあっという間に壊れてしまうに決まっている。それを良しとして、ならば壊れない玩具を作ろうと、すべてを自分に合わせて作り替え、欲望と享楽の道を行こうとする。
 それが吸血鬼という種だ。――そう。彼女の父親もそうだった。
 思い出すだけで、身体の中が焼けてしまいそうになる。女――ネロ・ケネディ(半魔の蒼・f18291)はか細く息を吸い、おもむろに持ち上げた右手に牙を立てた。
 ためらいなく噛み裂いた右手から溢れる血液が、彼女が腕に持つ刻印に染み入り――ごう、と青黒い炎となって燃え立つ。
 ――ああ、お母様、今日もあなたの焔は呪詛で満ちているのですね。
 今となっては言葉を聞くことも叶わぬ、焔となった家族を呼ぶ。皮肉なことに、その呪焔こそがネロの武器だ。
 ネロは、乱戦に身を躍らせて二挺の『銀』を抜く。掌を呪詛の焔が伝い、二丁の拳銃の弾倉へ焔が流れ込んだ。ただ『Silver』とだけ名付けられた二丁の拳銃は、ネロが血に宿す焔――かつて母だったモノ――を容易く受け入れて尚、溶けることのない堅固な作だ。
 吸血鬼がマスケットを放つ。ネロは身体を反らしながら、左手の拳銃のフレームを払うように真横に振った。鉛弾の軌道が火花、金属音と共にねじ曲がり、礼拝堂の壁を抉る。銀の銃には傷一つもない。舞うように左手の銃を引き、自然振った右手を跳ね上げる。インサイト。トリガーを引く。放たれるは『無音の魔弾』。
       マズルファイア
 銃口から迸る発  砲  炎。否、それは炎そのものだ。青黒の焔が弾丸となり、拳銃弾もかくやというスピードで飛翔、マスケットを撃った吸血鬼の胸を貫く。
「ぎ、」
 ゃあ、と悲鳴を上げる前にネロはさらに撃った。五連射。炎弾が、叫びが飛び出しかけた口腔をブチ抜き、さらに立て続けの三発が心臓を、脳幹を破壊した。最早言葉もなく、青黒く燃え上がる焔に捲かれて倒れ伏し、灰に還る吸血鬼。
 ――確かに、冒涜的かも知れない。ネロは内心で懺悔をするように考える。自分にもまた、あの残虐な父の――吸血鬼の血が流れている。
 鏡に映る秀麗な眉目を、人とは違う自分の力を、目にするたびに憂鬱になった。それらはすべて父から受け継いだモノだったからだ。
 ああ、父と、この騒ぎを起こした吸血鬼らの間に、どれほどの差があろう。本来ならここに立つことさえ、自分には許されないのではあるまいか――そう考える自分がいる。
 しかし、ネロは唇を噛んだ。
 ――それでも私は、種族に反逆する。
 力の由来は確かに吸血鬼のもの。けれど、反逆を選ぶのはネロの意思だ。

 青黒の焔を銃に篭めるも。
 此と決めた敵を狙うのも。
   トリガー
 その 銃 爪 を引くのも。

 すべては、ネロの意思一つ。

「クソッ、当たれッ!」
 マスケットが放たれる前に、ネロは姿勢を低くして駆けた。翻したSilverに呪焔を再装填。
 身の裡で猛る焔が叫ぶ。こんな所、燃やしてしまえと。
 ――焼けてしまえ、燃え落ちてしまえ、いつかまた誰かの笑顔を奪うだろう場所が、世界に在る意味など一つもない!
 ネロは駆け抜け、鋭く屈みマスケットの銃弾を潜り避けた。身を沈めながらのスライドターン。靴裏を礼拝堂の床面に擦りながら両手を打ち広げる。一〇八〇°回転! 銃撃、銃撃、銃撃、銃撃、銃撃、銃撃、銃撃、銃撃、銃撃、銃撃ッ!!
 撃ち抜かれた敵兵が、実験体が、扇状に吹っ飛び地に倒れ、青黒い炎に包まれる。
「――すべて燃え朽ちて、灰になれ!」
 炎の魔弾は、有象無象を逃がしはしない。ネロは射殺すように轟然と言った。次なる敵を求め、Silverが蒼く燃え上がる!

成功 🔵​🔵​🔴​

セリオス・アリス

【双星】
向かうは礼拝堂
ちゃんと全部終わらせてやんねぇとな
…アレス
呼び掛けて剣に手をかける
そっち、任せたぜ

【望みを叶える呪い歌】を歌い
速度をあげ『ダッシュ』で突っ込む
んな単純な攻撃じゃあたんねぇよ!
見切りよけたら剣を跳ねあげ『2回攻撃』
アレスがいてくれるなら余計な邪魔は心配しなくていい
今はただひたすらに
目の前のコイツらを、眠らせてやることだけ考えよう

…ここ、燃やすのにお前らの力借りるぜ
ある程度数が減ったら
炎の属性を纏わせて
転がる人だったものも
こちらに向かってくるヤツも全部
今まで以上
最大火力で燃やし尽くし
彼らを送った炎で礼拝堂を破壊する

送る為の『歌』で更に炎を強く
一つの苦しみも残らないように…


アレクシス・ミラ

【双星】

行き先は礼拝堂
未来を奪い、命を冒涜する所業…許す訳にはいかない
ここで終わらせよう
…ああ
呼びかけに応じるように剣の柄を握る
任せて、セリオス

突入と共に【天星の剣】を切り拓くように放つ
セリオスが集中できるようにカバーする
彼の妨げになるものは光「属性攻撃」で斬り払い、貫き
盾で防ぎ、はね返そう
僕がいる限り、彼の邪魔はさせないよ

敵が逃げないように
足場になりそうな物を使って跳躍、上空から【天星の剣】を降り注ぐように一斉放射、牽制する
逃しはしない!

…手伝うよ
向かってくる敵ごと最大出力の光属性の衝撃波を叩き込む
炎と合わさるように
再び亡骸を利用されない為にも『的』も空に還そう
…魂と共に導かれる事を祈って



●黒歌鳥は極天に唱う
 炎が、衝撃が爆ぜ、礼拝堂が激震する。猟兵達が各々の全力を尽くし、敵の掃討に当たった結果だ。病葉のように湧いた屍食鬼も打ち止めか、その数を増すのを止めている。
 踏み込んだセリオス・アリス(黒歌鳥・f09573)とアレクシス・ミラ(夜明けの赤星・f14882)は、畳みかけるように剣を抜いて暴れ回る。アレクシスは光波を放つ剣で、セリオスは焔を発する剣で、敵を薙ぎ回っては飛び退き、背と背を合わせるように止まる。
「まだいけるか、アレス」
「当然」
 既に両手に上るほどの屍食鬼を、吸血鬼を斬った。息を弾ませつつも、二人の身体に致命的な傷はない。周囲を取り巻く屍食鬼もその数を減じ、攻勢は散発的になりつつある。
 畳みかけるなら今だ。
 多くの猟兵がそれを感じだした折、最初に動いたのはセリオスとアレクシスであった。
「ちゃんと全部――終わらせてやんねぇとな」
 蠢く屍食鬼を前に、セリオスが呟く。死んでしまったのに――命を失ったのに、今なお蠢き屍肉を喰らう怪物となってしまった子供達を前に、憐情を募らせる。ぶっきらぼうな物腰とは裏腹に、朴訥な優しさが滲む言だ。
 アレクシスは全く同意だ、とばかりに頷く。
「未来を奪い、命を冒涜する所業……許す訳にはいかない。ここで終わらせよう」
 セリオスが抱いた哀れみに対し、アレクシスが抱くのは正しき怒り。二人の感情と剣は、場を制し巨悪を裂く焔となる。
「アレス。そっち、任せたぜ」
「ああ――任せて、セリオス」
 信を置く友の鼓動を背に感じ、互いに一瞥すらせずに二人は前進した。まるで弾け合うように。
 ただ、互いのことを信じている。『任せる』『任せて』だけで、『きっと果たしてくれる』『必ず果たそう』と通じ合える無二の友だ。
 セリオスが握り直すのは『青星』、アレクシスが再び構えるは『赤星』。
       ジェミニ
 背中合わせの双 子 星が、輝き宿して敵へと走る。

「我が剣に応えよ、星護の聖光!」
 アレクシスが詠唱を叫び、光増す『赤星』を全力で振り抜く。剣閃に乗り、光の刃が飛んだ。遠隔の斬撃と言ってもいい一撃。兜割りに一体の頭を叩き割る一撃。周囲から降り注ぐ反撃を大楯で受け、流しつつ、飛び退いてユーベルコードを発動する。
「終わらない夜に迷うなら、導いてあげよう。――此なるは払暁の聖光、死に終わり告ぐ夜明けの光!」
 アレクシスが言うなり、彼の周りに浮かぶ無数の光剣。――『天星の剣』!
 やらせるまいと、呻く屍食鬼が腕を振るい、アレクシスを抉ろうと爪を光らせる。鞭の如く撓る腕を飛び退き、剣で打ち払い、アレクシスは手近な手術台を足掛かりに跳んだ。宙に舞うアレクシスに従う光剣の群れが、その切っ先にて眼下、居並ぶ屍食鬼らを睨む。
「――逃しはしない。行け!」
 命ずるなり中空から注ぐ光剣の嵐! 牽制の意味も含めた一斉射だが、その威力は単なる威嚇に止まらぬ! 回避し損なった屍食鬼が瞬く間に剣山のようになり、光に包まれ塵へと還る。
 地に降り立つアレクシス目掛け、鞭めいた屍食鬼の腕が撓る。楯を上げ弾き飛ばし、或いは赤星を振るって斬り払いながら、攻撃を自分に引き寄せるように前進する。
 全ては背で戦う相棒のためだ。
「僕がいる限り、セリオスの邪魔はさせないよ。――この守りの剣楯、超えられるものなら超えてみろ!」

 セリオスは不敵に笑う。背で戦う親友の動きが、自分を助けているのがはっきりと分かる。
「さあ歌声に応えろ、力を貸せ! ――万象に根ざすもの、根源の魔力よ、俺の望みのままこの地に躍れ!」
 セリオスが唄うのは『望みを叶える呪い歌』。根源の魔力をその身に纏い、『エールスーリエ』に魔力を装填、烈風伴う歩法にて跳び走り、まずは突出した二体の首を薙ぎ斬る。
 間髪入れず左右から新手。挟むように伸びる腕のが二本。セリオスは上体を反らし、手も使わずにしなやかにバック転を打つ。当然のごとく回避。
 ならばと思ったか次は脚目掛け、下半身狙いの鞭打が来るが、それをもバックフリップで跳び避け、セリオスはにいっと唇の端を上げる。
「んな単純な攻撃じゃ当たんねぇよ!」
 空気を蹴り飛ばした。エールスーリエに注いだ魔力を風として爆ぜさせる歩法は空すら駆けることを可能とする。
 ――アレスがいるなら、余計な邪魔が入る心配はない。敵を眠らせてやることに集中すれば、それだけでいい。
 親友に対する信頼が、セリオスの動きをより速く、鋭くする。
 鋭く切り込み、青星へ焔を纏わせる。根源の魔力を焔の属性魔術として発露、斬撃に載せて投射する。
 一振りごとに焔乗る斬風が跳び、屍食鬼の首を刎ね、その身体を灼き尽くしていく。

 他の猟兵の奮戦もあり、広い礼拝堂の敵は壊滅しつつあった。
 散発的になる敵の攻勢を前に、セリオスは飛び下がってアレクシスに呼びかける。
「アレス。――燃やすぜ」
「ああ。手伝うよ、セリオス。君の望むままに」
 ごおっ――……!!
 青星に宿る焔がより強く激しく燃え上がる。
 赤星に宿る光がより白く眩しく赫き照らす。
 剣を身体の前に構え、セリオスは歌う。その歌に煽られるように焔は燃え、アレクシスの光もまた高まるようにその輝きを増す!
 あまりの熱風と眩さに、生き残りの屍食鬼達すら恐れるように蹈鞴を踏んだ。
 哀れな屍食鬼らに、セリオスは語る。
「――お前らに恨みなんてねぇよ。でも、もう終わりだ。こんな所に、こんな形で縛られたままじゃ、永遠にどこにも行けやしねぇ。――だから」
 決然と、高い天井を衝かんばかりの焔剣を振り上げ、
「お前らの力を借りるぜ。送るよ。この焔で。お前らが縛られたこの建物ごと」
      レクイエム
 言うならば鎮 魂 歌。彼らに『歌を捧げる』事で、セリオスの焔は尚も強く燃え上がる。
「――もう、眠れ。僕とセリオスが君達を導く。どうか、その魂に安息あれ。天へ届け」
 アレクシスはその横で、百数十本分の『天星の剣』をただ一本に収束。己の剣、赤星に宿してただ一刀の究極の剣を成す。相棒の全力に応えるならばそれしかない。黒歌鳥の声に惹かれ、夜明けに上る陽の如き光。青星に同じく天井を衝かんばかりの輝き。最大出力の光波を放つ、究極の光剣である!
「アレス!」
「ああ!」
 セリオスが呼ぶ声にアレクシスが応じる。
 振り下ろされる熾天焔剣、真横に薙ぐは極天光剣!
 焔と光が混ざり、唸りを上げた。残った屍食鬼を灼き、浄め払い尽くす!!
 邪悪なる祭壇も、血に塗れた実験設備も、何もかもを呑み込み――白焔が、全てを塗り潰した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

六波・サリカ
理不尽で自分勝手な殺戮を繰り返した上に
死者への冒涜まで行うとは…。
私が最も嫌うたぐいの悪ですね。
何が何でも殲滅します、絶対にです。

広い敷地を持つ協会のようですから、味方を巻き込まぬよう他の猟兵が居ない施設に向かいます。
敵がこちらに気付いて追いかけて来るならば大いに結構。
全て巻き込んで蹴散らしてみせましょう。

消し炭すらも残さない!全て全て全て!!!
ジャッジメント・ロア!!!

私の周囲の敵と施設はジャッジメント・ロアで破壊し尽くします。
大きな施設は味方に任せ、私はその他の施設を力の限りなぎ倒して回りましょう。
万が一、味方が打ち漏らした敵に遭遇することがあれば、容赦なく叩き潰します。



●トールハンマー
 遠く、礼拝堂に火の手が上がるのが見える。
 最早、その場においては、建物の炎はクリアマークのようだった。
 猟兵達は、敵の勢力と比較すれば決して大人数とは言えない。作戦に参加した猟兵を全て合わせても五十名そこらだ。
 ――それでも、彼らは強力であった。経過点にある敵を、施設を叩き潰しながら、猟兵達は真っ直ぐに大聖堂に向けて驀進する。
 先頭を走るは、六波・サリカ(六道使い・f01259)。常々無表情なその目に、今は珍しく怒りの色が浮いている。
 理不尽で自分勝手な殺戮を繰り返すのみならず、『的』と称して、殺した人間で遊ぶような――死者への冒涜まで行うとは。
「私が最も嫌うたぐいの悪ですね。何が何でも殲滅します、絶対にです」
 後続の猟兵達に目を向ける。彼らは皆聖堂へ向かうのだろう。その数、約十名弱。いずれ劣らぬ精鋭揃いといった顔ぶれだ。
 ――ならば、自分はその足がかりになろう。
 広大な教会だ。破壊対象には事欠かぬ。聖堂までには幾つか建物があり、そこから戦場に出てくる敵の存在も垣間見える。ならば、それらの敵を引きつけ、巻き込み、力の限り薙ぎ倒すのみ。
「止まれ! 止まれッ!」
「引きつけろ! 充分に引きつけて放て!!」
 二十数名の警備兵が猟兵らの、ひいては先頭を走るサリカの前に飛びだし、隊伍を組む。阻む如き陣形。サリカはそれを一瞥するなり、無感動に――そう、無感動に、しかし、
 確かな怒りを込めて呟いた。
     フル・ドライブ
「神格式、出 力 全 開」
 サリカの第二心臓たる『神格式』が唸りを上げ、彼女の全身に電力を供給する。
 かつて六波・サリカは、≪無窮の剱≫と呼ばれる災厄の折、眼球を、右腕を、骨格を、式神にて代替した。
       ソーサリーサイボーグ
 いわば彼女は機械仕掛けの陰陽師。神格式からの一時的な過剰電力供給により、彼女の身体は雷の化身と化す。
 蒼白いスパークが彼女の全身を覆う。走る速度はなお速く。その速度は、雷霆そのものめいて鋭い。
「私を撃って壊すつもりならば、せめてその十倍は持ってこなければならないでしょうね」
 空気が爆ぜた。一際強く、サリカが纏う電荷が跳ねる。
 弾ける火花の速度になってサリカは前進する。数十発のマスケットの銃声が響くが、弾丸が至る段になっては既にサリカの姿は軌道上にない。弾幕を潜り抜け、地面を蹴り飛ばして宙へ舞う。
 眼下、阿呆のように自身を見上げる敵達を笑うことすらなく、サリカは右腕を振り上げた。

 それは神話に於ける雷神の右腕。
 悪しきを裁く断罪の鉄槌。

 雷の御手よ。何もかもを薙ぎ、灼き尽くし、灰燼と帰せ!!

   ジャッジメントロア
『―― 大  放  電 ッ!!!』

 閃光。誰も止めることの出来ない雷が咲いた。
 噴き出した雷が周囲全てを薙ぎ払った。絶縁体、導電体の是非を問わず――いや、絶縁体にすら無理矢理に通電し、抵抗熱によって破断した。
 猟兵達を阻もうとした敵も、進撃の邪魔になった建物も、揃いも揃ってあまりの熱量に燃え上がり、雷轟に裂かれ発生した空気の断層に弾き飛ばされて吹き飛んだ。最早猟兵の壁になることもない。
 サリカは膝を折り、身体に溜まった熱を吐くように深く息を吐いた。
 ――許せぬ敵を祓うため、自身を追い越し、猟兵達が行く。その背に己が願いを託しながら――
 せめて、彼らの討ち漏らしは自身で祓うべく、彼女は身体の冷却を開始する。

成功 🔵​🔵​🔴​

リーオ・ヘクスマキナ
アドリブ・連携歓迎

ほうほう、建物と警備と対象を派手にぶっ壊せば良いんだね?
まっかせて。やっちゃるよー!

……命ってのは、重いんだよ
ただ己の快楽の為に、尊厳と共に奪い弄ぶ
そんな連中を許す気はないからね

聖堂を担当
閉所への突入・制圧と【破壊工作】は得意でねぇ
突入直後、即座に初撃の擲弾発射器の榴弾で機先を制する
統制を取り戻す前にSMGで掃討って流れが理想かなぁ

『的』にされちゃった人達は……同情はするけど、「そう」なれば最早助からない
狂気に侵された連中と同じなんだよ
貴方達を放置すればきっと更なる悲劇を生む
……許しは請わないよ

施設諸共、ライフルに込めておいたUCで消し飛ばす
せめて安らかに……



●エントリー・ザ・ワンマンアーミー
「見えた!」
 大放電により敵の護衛部隊が一網打尽となった今、聖堂への道を遮るものはほぼない。大聖堂を視認し声を上げるはリーオ・ヘクスマキナ(魅入られた約束履行者・f04190)。オーダーは理解している、建物も、警備も、『的』も、吸血鬼技師も――一切灰燼、見敵必殺!
「まっかせて。やっちゃるよー!」
 右手に抜くは『ザ・デスペラード』。ギ魔術を用いることでバックファイアを極小化した擲弾発射器だ!
 ぼひゅあ、と音を立てて擲弾が放たれた。走る猟兵らに先んじて飛んだグレネードが、照準の通りに聖堂の扉に突き刺さって炸裂。ほとんど吹っ飛ばすように扉を破壊、開口させる。
 閉所へのエントリーの際は制圧射撃後に迅速に突入すべし。リーオは空いた開口部にもう一発グレネードを叩き込み、中から溢れる悲鳴と怒号を受けながら大聖堂へ一番乗りに突っ込んだ。
 閉所戦闘開始。機動性を鑑みて擲弾筒とギターケースを手放し、ライフル・サブマシンガン・拳銃のみを携行する。
「クソッ、もうここまで進撃してきたというのか?!」
「主任を逃がせ! 猟兵どもを足止めしろ!!」
 飛び交う指示と怒鳴り声を聞きつつ、リーオは対UDC用サブマシンガン『ADMP-9』のグリップを取る。セレクターはフルオートにスイッチ。初弾は装填済みだ。
 グレネードの爆炎、煙が晴れる前に、身体で名残を切り裂いて駆け抜ける。
 踏み込んだ室内には棺が無数に並んでいる。人骨や人体の部品で作られた悍ましき祭壇がこれまた数十。敵兵が数十と詰めており、恐らくは正面扉以外外から増援が合流してじわじわ数を増している。
 ――長期戦はうまくない。
「命ってのは、重いんだよ。そんな当たり前のことさえ分からないのかい、吸血鬼っていうのは。ただ己の快楽の為に、尊厳と共に奪い弄ぶ――そんな連中を許す気はない。覚悟しなよ」
 傲然と言い放つ声に対する返事は、マスケットによる一斉射撃だ。リーオは横っ飛びに弾幕を回避、転がって潜り抜けて、サブマシンガンにより弾幕を張る。
 最初は圧倒された吸血鬼らも、眼が慣れてくれば、扇状に連射される弾幕に対応して、周囲から包囲するように動きを変える。リーオは距離を詰められれば拳銃を抜き、サブマシンガンと同時に撃って敵を寄せつけない。
 リーオが放つ銃弾のうち、数発が棺に着弾。火花が散る。
 フルオートで銃弾を放ちながら下がるリーオの手元でボルトとスライドが止まる。弾切れだ。
「便利なマスケットを持っているようだが、無限とはいかないようだな! 死ね、猟兵!」
 弾切れと見るや一気に殺到してくる敵。それをひどく冷めた目で見ながら、リーオは拳銃を納め、サブマシンガンをスリングで吊り――マークスマン・ライフルを構える。
 立射姿勢。サイトの内側に、先ほど拳銃弾で削った棺桶を捉える。その手前には襲いかかる敵の姿。棺桶、敵、リーオが一直線となる位置関係。
(……同情はするけど、「そう」なれば最早助からない)
 理性を持とうとも、屍食鬼は屍食鬼。狂気に侵された吸血鬼らと同質のモノだ。
(きっと放置すれば、更なる悲劇を生むだろう)
 魔力を銃に注ぎ、リーオはトリガーに人差し指を添えた。
「――だから、せめて、目覚める前に済ませよう」
「ごちゃごちゃと何を――」
 はなから吸血鬼にかける言葉などない。だからリーオはトリガーを引いた。
 銃口より射出されるのは広域殲滅用重魔術弾。空間を削り取り、灰すらも残さず敵を殲滅する魔弾である。拳銃弾に混ぜたビーコン弾で、予め着弾位置を設定してあったのだ。
 その威力は凄まじく、進路上にいた吸血鬼は、魔術弾の形状に『切り抜かれた』かのように欠落し、残った身体の部位が空しく飛び散る。棺桶五個ほどと祭壇を数個を破壊しながら、魔術弾は飛び――着弾地点を抉り飛ばして消えた。
「安らかに、おやすみ」
 リーオは次弾の魔力を練りつつ、サブマシンガンをリロード。
 ――殲滅対象はまだまだある。戦いを続けよう。

成功 🔵​🔵​🔴​

薄荷・千夜子
とても許せる所業ではありませんね。せめて、これ以上の被害を出させないよう全力で当たりましょう。

行先は聖堂に。
死でしか救いがないのであれば迅速に、吸血鬼には容赦無く。
『夜藤』を抜いてUC使用、攻撃力を強化。【破魔】【属性攻撃】で刀に浄化の蒼い炎を纏わせて。
いざ、参ります!
複数で一気に襲いかかってくるのであれば【なぎ払い】で一気に。
棺桶の破壊が燃やしたり、刀では難しいようであれば盾を取り出して【シールドバッシュ】での抉じ開けを試みます。
戦闘では刀を、建物や棺桶の破壊には盾をうまく使い分けつつ立ち回れればと思います。



●救いの蒼炎
 リーオが穿った入口から次々に猟兵が雪崩れ込む。
 薄荷・千夜子(鷹匠・f17474)は懐刀『夜藤』を逆手抜刀、駆け抜けながら状況を確認した。
 猟兵達を阻むべく警備兵がマスケット、或いは爪や剣を構え襲いかかってくる。其処此処で打ち合う音が響く。敵の練度も、外の兵に比べれば高いように思われた。
 棺桶は未だ閉じており、その中から『的』が姿を現すこともない。
 千代子は無数に並ぶ並ぶ棺桶を、痛みを堪えるような目で見た。あの全てに、『的』として造られた継ぎ接ぎの少年少女らがいるという。
 その元となった子供らの数は果たして如何ほどか。更に言うなら、技術が確立されるまでに失われた命の数は? 下手をすれば数千に届くのではないか。
 人の命を弄ぶなど、とても許せる所業ではない。――失われた命は救えないが、せめてこれ以上の被害は出させるまい。千代子は眦を尖らせ、ユーベルコードを発露する。
『干渉術式:影炎染風』。此度宿すは蒼炎の加護。鈨に藤の彫刻光る懐刀に炎を宿す。
 蒼炎がもたらすのは破魔の力。邪悪なる吸血鬼らの命脈を断つ為の魔力である。蒼く燃える懐刀を右手に。懐中時計を取りだして操作、瞬く間に盾へと変形させて左手に携える。
「いざ――参ります!」
 千代子はしなやかに駆けた。刀に宿した炎が、彼女が駆ける軌跡を縁取るように光を曳く。
「殺せ殺せェ! マスケット、撃てッ!」
 号令一下、数十挺のマスケット銃が火を噴いた。黒色火薬による濛々とした発煙が立ち籠めるが、――猟兵の中に斃れた者はない。千代子もまた健在である!
 彼女は自身に飛び来た鉛弾を楯――『etolie montre』によって弾いてのけ、速度を落とさず前進する。銃火襲う中を減速するどころか加速し、発射煙を引き裂いて敵へと襲いかかった。首元目掛け刈るように夜藤の一撃を繰り出す。
「くッ――?!」
 吸血鬼は即応、サーベルで受け太刀する。しかし千代子は魔力を更に注ぎ込み、蒼炎の出力を向上。蒼く煌めく炎に熱された夜藤の刃が、じり、と音を立ててサーベルの刀身に食い込んだ。
「な、何ッ、馬鹿なッ――」
 最後まで言わせることもない。千代子は逆手に持った夜藤を躊躇いなく振り抜く。サーベルが折れるのではなく『断たれ』、走る夜藤の刃が吸血鬼の首を抉り飛ばした。飛沫く返り血を浴びることなくその横を駆け抜ける。
「一人で当たるな! 数を揃えて潰せ!」
 千代子の――引いては猟兵らの力を理解しているのだろう。単体では到底相手にならないことも察している。下された命の通りに数名が手に剣を携え千代子に打ち掛かる。
 千代子は突き出された剣を首を傾げるように避け、楯で刃を払い除けながら一体目の胸に夜藤を突き立てる。燃える刃がいとも容易く心臓を破壊。死体を突き放すようにして、続く敵に押し付け、時間を稼いだ。
 瞬間的に魔力を高める。夜藤が纏う炎が一際強く燃え――その瞬間、合わせるように千代子は懐刀を振り抜いた。
 かび臭い大聖堂の空気を瘴気諸共焼き払うように、蒼い炎が駈けた。蒼炎が刃の延長を成す如く延び、間合いの外より敵三体を薙ぎ払う。首を灼断された敵三体が声も無くひっくり返り、傷口から走る炎に嘗め尽くされて燃え尽きる。
 吸血鬼にかける情けなどない。襲いかかってきた四体を瞬く間に撃滅すると、千代子は足下に横たわる強固な棺を、左手の楯で強打することで開く。
 ――中には未だ目を閉じたままの、あどけない顔の少女がいた。きっと遠からず目を覚まし、化生と変わってしまった自身に絶望し、――それでも生きようと藻掻くであろう哀れな少女。
 千代子は、夜藤に宿す炎を強く燃やす。
 死によってのみしか救われぬ魂を導くために。
「――お休みなさい」
 夜藤の刀身が少女の心臓を貫き、その身体を浄化の蒼炎で包んだ。
 眠るような表情のまま、少女は一度びくんと痙攣し――それきり、二度と動かなくなった。燃える。燃えていく。
 黙祷は一瞬。悲しむのも、儚むのもあとだ。横合いから怒号。千代子は懐刀を少女の胸から引き抜いて、敵へと構えを改めた。

成功 🔵​🔵​🔴​

クロト・ラトキエ
こんなものまで視得てしまうだなんて、灰色も難儀ですね。
ですが、ありがとう。
貴方のお力でもって、僕らは征ける。
この胸糞案件、叩き潰しましょう?

作戦、把握。資料、記憶。位置、確認。
身構えられるより疾く、奇襲の如く。
対象、聖堂。突っ切ります。
派手な工作は、僕のは手間が要りますし、そこは皆を信じてますので。
室内に踊り込めば、片っ端から棺桶を開けてしまいましょう。
目覚める?結構。
UC拾式。
後はやれる限り『的』を手に掛けるだけ。

相手を問わず嘆きを聴かず。
何人たりと逃るる事能わず。
そんな戦場なら、ごまんと。
怨嗟も遺恨もどうぞ此方に。
イタむのは、後でとします。

此処に在るのは一介の傭兵。
あなた方の、『最期』です



●処刑人
 グリモア猟兵とは難儀なものだ。クロト・ラトキエ(TTX・f00472)は思う。
 四六時中、予知が起きるタイミングは予測が付かないと聞く。その度凄惨な現場を見るものもあるという。
 ――ですが、その力を以て僕らは征ける。
 心の中で礼を言いつつ、男は駆け抜ける。
「この胸糞案件、叩き潰しましょう」
 穏やかな声に反して、込めた想いは燃えるようだ。
 大聖堂内のレイアウトは予め読み込んだ資料通りだ。ただ予想に反するのは敵の数。今この瞬間も敵の精鋭が合流を続けている。
 しかしクロトがやることは変わらない。他の猟兵が戦闘に移る一方、クロトが取った行動は棺の解放であった。大技ならばともかく、堅固な棺は打撃で割るのも熱で灼くのも非効率。派手な工作を弄する時間もない。
 クロトは十指より鋼糸を四方八方に伸ばした。先に結びつけたアンカーを棺の蓋に引っかけ、跳躍ざまに強く引く。ぎん、と鋼糸が張り、いくつかの棺の蓋が開く。
 ――事前に作戦を共有した際、目覚めてしまうのではないかとの他の猟兵の危惧に、結構、とクロトは言った。
 効率的に破壊するのならば、いずれは蓋を開けるのだ。やれるものが一斉に開け、多勢で攻撃を浴びせるのが最も効率のいい殲滅手法だろう。
 また、彼はこうも言った
 ――皆さんを信じている故の策です。それでも不安というのなら、僕がやりましょう。この手の届く限り、的を手に掛けましょう。
「ん――?」
「ここ、どこ……?」
 開いた蓋から、青白い膚の少年少女がむくりと起き上がる刹那、見えぬ糸がまた空気を裂いてひゅるりと鳴った。彼らの首に絡みつき、産毛をざわめかせる鋼糸。
「え、」
 戸惑うような声が消える前に、クロトは右腕を引いた。
 棺から身を起こしたばかりの『的』が四人、全く同時に頭を失って棺桶の中へ元通り倒れた。驚愕の表情を浮かべたままの頭がごろりと転がる。
「眠りなさい」
 クロトはいっそ冷酷なまでに平静な語調で言った。
 彼は戦場傭兵だ。戦場の残酷さなど比べるものでもないが、それでもここに劣らぬ修羅場を幾つもくぐってきた。相手を問わず、嘆きも聞かず、何人たりとも逃がさず殺し、その骸の上に立つような戦場を。それこそ、ごまんと見てきたのだ。「怨嗟も遺恨もどうぞ此方に。――あなた方に罪のないことくらい、僕だって知っています。だから恨んでくれていい。――それでも、ここから出す訳にはいかない」
 クロトは再び糸を張り、棺桶を片っ端から開放していく。
 開けた棺桶から起き上がるものあらば、即座に首を刎ね、ナイフを胸に撃ち込み、再殺していく。
「い、やだッ、いやだっ!! やめて、ぼくは――」
 最早涙すら流せぬ身となった、ある少年が叫んだ。けれどクロトは眉一つも動かさない。せめて痛みのないように、躊躇いなく糸を絡めて腕を引く。首が飛ぶ。
 恨むような声、嘆くような声。それに胸が痛まぬわけはない。けれどクロトは顔に鉄面皮を貼り付ける。痛むのも悼むのも、後でいい。
 ――今は今しかやれないことをするべきだろう。
「此処に在るのは一介の傭兵。あなた方の、『最期』です」
 クロト・ラトキエは不可視の糸を鳴らして言う。張り詰めた糸の先でまた幾つか、棺桶の蓋が開いた。
 処刑人は走る。今はただ冷酷に。情も、痛みを感じる心も置き去りに。

大成功 🔵​🔵​🔵​

皐月・灯
ユア(f00261)と

……本当にこの世界は、胸糞悪りー話ばっかりだ。
ディアナ。それに手下のクソ野郎ども……生かしちゃおかねー。
一人残らずブッ飛ばす……!

……わかってる。
だが、……抑えきる自信は、正直ねーな。

聖堂をブチ壊す。
ふざけたもんを生み出す設備、全部《焼尽ス炎舌》で消し炭にしてやる。
【属性攻撃】【全力魔法】。オレの手が触れる全てに、焔の滅びを刻み込む。
燃やして、壊して、……眠らせてやる。

……なあ、おい。楽しかったか?
てめーの悪趣味なお人形さんごっこは、楽しかったかって聞いてんだよ。

……だったら、一切合切容赦無しだ。
てめーが生み出した痛みの一割でも、味わってから逝きやがれ……!


ユア・アラマート
灯(f00069)と

変わらないなこの世界は
ひどい話だが、この世界ではそこまで珍しくないというのが何よりひどい
灯、ここで出し切ってくれるなよ。本番はまだ先なんだから
まあ、本当なら私がセーブさせないといけなんだが、気分が悪いのは一緒だ
全部壊すぞ

聖堂で生産設備の破壊を行う
【属性攻撃】【全力魔法】で生成した風の杭で設備を攻撃
衝撃の余波で吸血鬼や「的」を怯ませて、その隙を利用して排除
全て叩き潰して構わないのなら、これくらいしても許されるだろう
大丈夫だ、巻き込まれるようなヤワな相手を隣に置いていない
せめて、安らかに眠らせよう

……ああ、お前は、特別枠だよ
楽に死ねるなんて贅沢な考えはまさか持っていないだろう?



●焔嵐
「くそ……くそッ!! ディアナ様に捧げるはずの芸術を! 無粋な猟兵如きが寄って集ってとは、――殺せ! 奴らを殺せぇ!!」
「主任! お退がり下さい!」
 主任――というのは、予知にもあった『的』の制作技師のリーダーのことだろう。
 大聖堂に響く怒りの声に、鼻を鳴らすのは新たに乱入した二人の猟兵だ。
「……本当にこの世界は、胸糞悪りー話ばっかりだな」
「そうだな。ひどい話だが、この世界ではそこまで珍しくないというのが何よりひどい」
 唸るように呟くのは皐月・灯(喪失のヴァナルガンド・f00069)、応じるはユア・アラマート(ブルームケージ・f00261)。彼ら二人は共にこの地の出身である。だからこそ、この世界の残酷さをよく知っている。
「変わらないな、この世界は。どこまで行っても醜悪なままだ」
 ユアは銀糸を揺らし、ライムグリーンの瞳を刃のように絞る。決して激しくはない――しかし、ごくフラットに――触れれば斬れると思わされる、鋭い殺気を纏う。
 それと対照的なのは灯だ。幻釈顕理『アザレア・プロトコル』、その二番。引き出す力は業火の術式。焔蜥蜴の舌かのような焔が彼の両腕に巻き起こる。
 燃え上がる両腕は、当に怒りと殺意の塊だ。ごうごうと隣で荒れ狂う焔に、ユアが諫めるように声をかける。
「灯、ここで出し切ってくれるなよ。本番はまだ先なんだから」
「……わかってる。だが、……抑えきる自信は、正直ねーな」
 無愛想でぶっきらぼう、整った顔はいつも大体無表情かむっつりとした不機嫌顔。それが皐月・灯という少年だったが、その根底には熱い血潮のような正義感がある。
 このような邪悪な敵の所業を見て、心底憤るのがその証座だ。
 それを知っているからこそ、ユアは軽く肩をすくめるに留めた。
「――好きにするといいさ。止めやしない。気分が悪いのは私も一緒だからね」
 ユアとて、かつて囚われて弄ばれた過去を持つ身だ。自分は今も生きているが、囚われてそのまま死んだ子供達が今、この無数の棺の中にはいるという。
 ――境遇を重ねれば、怒りは加速するばかりだ。
「全部壊すぞ、灯」
「ああ。ディアナ。それに手下のクソ野郎ども……生かしちゃおかねー。一人残らずブッ飛ばす……!」
 ユアと灯は同時に踏み出した。
 彼らは両名、独自の魔術体系を備えた優秀な魔術師である。
 ユアはつ、と、胸元の月下美人の刻印をなぞる。魔術回路が起動し、術式が一瞬で成立。びょう、と音をたて、吹き荒れる古の風を束ねる。
「荒れ狂え」
 腕を打ち振り、ユアは百八十本あまりの『風の杭』を放った。
 術式の名は『刹無』。圧縮し固められた風の杭は、着弾と同時にその暴威を解き放ち、衝撃波をまき散らして対象を破壊する。
 しかも風であるが故、極めて視認性が低い。せいぜいが光の屈折率が変わることで、飛ぶ軌跡が微かに歪んで見える程度だ。――高速で飛ばせば、吸血鬼ですらそれを見切ること叶わぬ。
「げっ、ごあっ!?」
「ぎゃあっ、な、なぐっ」
 降り注いだ風の杭に為す術もなく、数体の吸血鬼が四散する。数発直撃した棺が破壊され吹き飛び、中から姿を現した『的』を、彼らを生み出すために使われたと思しき祭壇を、悉く破壊していく。
「……せめて安らかに眠れ。弔いと言うには少々荒っぽいけどね」
 壊した『的』に静かに声紡ぐユア。吸血鬼達に対してはかける言葉もない。俄に浮き足立つ警備兵らに向け、ユアは再度風の杭を生成する。
 警備兵らが体勢を整える前に、続いて灯が踏み込んだ。間接距離での戦闘を得意とするユアに対し、灯は生粋のインファイターだ。
 燃え盛る焔を宿す両手――アザレア・プロトコル・ナンバーツー、《焼尽ス炎舌》の熱を高めながら、灯は風の杭吹き荒れる中を駆け抜け接敵。
 ユアが第二射を放った。遠慮会釈のない範囲攻撃を潜り抜け、灯は稲妻のごとく疾る。
 風の杭をどうにか回避した吸血鬼に向け踏み込んだ。マスケットを跳ね上げようとするのを払いのけ、紅く燃える拳を二打、顎と胴に叩き込む。
「ごはッ?!」
 単純な打撃の威力だけでも意識を奪うほどのレベル。しかし、サラマンダー・ドライブの神髄はそこではない。拳が命中した位置に紅く印が刻まれ――
「あ、ああ、ああづっ、ギャアアアア?!」
 一瞬で燃え上がる。術式を篭めた拳は、命中した敵に焔の滅びを刻み込む。ほとんど爆発するような勢いで燃焼した吸血鬼は、一瞬で灰と化した。
 ユアの援護を受けながら、灯は当に破竹の勢いで攻め上がる。さらに五体を瞬く間に叩き込んだ拳で爆発炎上させ、未だ中で『的』が眠るであろう棺にもまた焔の術式を刻みつけ、燃やす。
 燃やし、壊し、眠らせて。そうしながら、灯は吸血鬼兵の向こうにいる“主任”を睨んだ。
「なあ、おい」
 怜悧な殺意に冷える空色の瞳が。
 紅蓮の怒りに燃える橙色の瞳が。
 貫くように敵を視る。
「楽しかったかよ」
「何、何だと、貴様ッ」
 うろたえながらも反駁するように言葉を紡ぐ“主任”に、灯は吼えた。
「てめーの悪趣味なお人形さんごっこは、楽しかったかって聞いてんだよ……!!」
 灯は姿勢を低め、突進。目の前にいた吸血鬼兵が振り下ろす剣を逆手に抜いた『タスク・オブ・ルーン』で受け流し、空いた右手を胴に叩き込む。
「うゲッッ……、」
 見せつけるように持ち上げた敵の身体が、まるでゼロ距離で大砲を喰らったように紅蓮の炎と共に爆ぜる。
「悪趣味な人形遊びだと、貴様っ、我が主のための行いを! 言うに事欠いて――!!」
「それ以上喋るな、お前。耳が腐る」
 凜とした声。『風の杭』が飛び、“主任”の横合いにあった大きな祭壇が砕かれ爆ぜて無残に飛び散った。ユアである。
 あえて本人ではなく、その横の祭壇を狙い、砕いた。それは『いつでも殺せる』と言う意思表示に他ならない。
 横に進み出たユアに一瞥をくれ、灯は前へ向き直った。拳をぶつけ合う。
「そうかよ――……だったら、一切合切容赦無しだ。オレたちがてめーに因果ってヤツを教えてやる。てめーが生み出した痛みの一割でも、味わってから逝きやがれ……!」
「灯は一割とは言うけどね、真逆――特別枠のお前が、今更楽に死ねるなんて思っちゃいないだろう?」
 怒りに猛る灯と、凄絶な笑みを浮かべるユア。
 多数の警備兵に守られながらも思わずと言う風にへたり込む“主任”を、断罪するようにユアは言った。
「お前が後生大事に抱えていたものを、目の前で全部壊してやろう。――全て喪って、その後苦しんで無為に死ね」
 焔と風が荒れるまでの凪は、ほとんど一瞬であった。二人は再び地を蹴り、破壊と鏖殺の限りを尽くす!

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

黒江・イサカ
やあ、僕を呼んだかな
呼んだよな わかってるよ
助けに来てあげたんだ

用事があるのは「人間だった彼ら」だ
罪もない可哀想な彼らを殺してあげるために来たからね、僕
となると、行くべきは聖堂かな 納屋も気になるけど

わりと賑やかになりそうだし、
吸血鬼の相手は他のひとに任せて僕は棺桶を開けに行こうか
いや、もちろん吸血鬼とやらも僕が殺したいんだけどね 残念

彼ら、まだ寝てるのかな
寝てるなら、どうか優しい夢を見ていればいい
僕の手は、殺したひとを望む場所に連れていってあげられるから

まあ、起きててもいいけど
抗っても嫌がってもちゃんと殺してあげる
折畳ナイフ、たくさん持ってきたからね
ひとり残らず、丁寧に
最期に愛をくれてやろう



●ホーンテッド・ラヴ
 猟兵達は各々の手段で棺、若しくはその中身の破壊をこなしていた。が、それに及ばず、棺を抜けた『的』もまたいる。
 彼らは恐れていた。超常の術で破壊の限りを尽くす男女――猟兵達と、それと渡り合い戦う吸血鬼達を。
 そもそもここはどこなのか。これはもしかしたら、悪い夢ではないのか。
 けれど、破壊される棺、中から飛び出した少女が、眠ったままに首を断たれ『始末』されるのを目の当たりにすれば、夢と決め込んでまた瞳を閉じる気にはならなかった。
 外だ。外に逃げれば、きっと安全なところがあるはず。そう考えた一人の『的』の少年は、戦に紛れるように逃げ出した。
 うまく動かぬ脚と手で、ほとんど這いずるように逃げる。
 間近に銃弾が着弾した。思わず首をすくめる。身体の感覚がなじまない。まるで自分の身体じゃないみたいだった。
 ――ああ、助けて! 誰か、誰か助けて!
 声なき声を叫びながら、涙で霞む視界をどうすることも出来ずに、ひたすらに逃げ惑う――
 そんな少年の耳に、
「やあ。僕を呼んだかな」
 飄々とした声が届いた。
 まるで気まぐれに吹いた風みたいな声だった。なのに不思議と耳が囚われる。少年は視線を上げた。
 男が立っている。ゆらゆら吹く風のような男が。

「呼んだよな、わかってるよ。助けに来てあげたんだ」
 男の名は、黒江・イサカ(鼻歌と・f04949)という。
 イサカは捉えどころのない笑みを浮かべて、少年の元に歩み寄り、跪いた。
「怖かっただろ。もう平気さ。なんたって僕が来たからね、恐れることなんてもう何もない」
「お兄さん、……だれ?」
「通りすがりさ。さあ、安全なところに連れて行ってあげるよ。ほら、目を閉じているといい。もう、怖いものなんて見たくないだろう?」
 イサカは帽子の位置を直しながら、変わらぬ声音で言う。奇妙な説得力を伴う声に、少年が目を閉じようとしたその時。
 かつん。
 イサカの袖から、固い音を立てて折りたたみナイフが落ちた。閉じかけた少年の瞼が、目覚めるように上がる。

 ――ああ。
 かわいそうに。

 彼の目に最後に映ったのは、銀閃を曳くナイフの刃だった。
「え、」
 背に食い込んだ折りたたみナイフ。呆けたように少年は二度目を瞬いて、なぜ、とも口に出来ぬまま――血を口からこぷ、と溢れさせ、呆けないほど簡単に死んだ。
「おやすみ」
 イサカは表情を変えない。凪いだ、笑みだ。初めから、こうするつもりでここに来た。
 用があるのは、人間だった彼ら――『的』達だ。罪もなく、然りとて既に生きることすら許されぬ可愛そうな彼ら。
       アイ
 そんな彼らを殺してあげるためだけに、黒江・イサカはここにいる。
 死んだ少年からナイフを抜くこともせず、床に落ちたナイフを拾ってパチンと刃を起こす。イサカは吸血鬼らに挑みかかる気はなかった。無論殺してやれるならそうするつもりだったが、既に他の猟兵が修羅場を繰り広げているところに割って入るつもりもない。
 まあ、これからすることの邪魔をされればその限りではないが。
 イサカは手近な棺桶を開ける。未だ目覚めぬ『的』の少女。継ぎ接ぎの縫合痕も痛々しい、青白い膚の少女をそっと悼むように跪き、けれど何のためらいもなく心臓に刃を立てる。
 突き立った刃越しに、仮初めの生が霧散する感覚を感じた。
「迷わずお逝きよ」
 イサカは薄笑み、キャスケットのを位置を直してまた新しいナイフを取り出す。
 棺桶の中で眠る『的』たち。願わくば、彼らがどうか優しい夢を見ていればいいと思う。その優しい夢を見るまま、この手に抱かれて逝けばいいと。
 イサカの手は、殺したひとを望んだ場所へ連れて行く。彼の手は、特別だ。ただ殺すだけのものではない。
「折畳ナイフ、たくさん持ってきたからね――」
 嗚呼、刃が足りずに愛せないと言うことだけは決してないように。
 イサカは開いていない棺桶を順に、一つ一つ開けてはナイフを、愛を与えていく。
 その作業は喧噪の中、異常なほど静かに。
 まるでひとりも残さぬとばかり、丁寧に進んでいった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

真守・有栖


髪を結う飾り布を解き、両の目を隠して、と。
これで月に呑まれることもないわね!たぶんっ

まーったく!けしからん狩鬼ね!
いいわ。この狩狼たる私が狩りの何たるかを身を以て教えてあげる!


――なーんにも見えないわ!?


音。匂い。気配。
視覚を除く五感を頼りに皆の後をついていくわ!

たくさんいるわね?此処が聖堂かしら?

月喰を抜き、瞬閃。
感じたままに太刀振る舞う。血華が散る。朱に染まる。
肌に感じる殺気。
紙一重で避け、返す刃が光を放つ。
――光閃。迸る斬光。

何だかとっっっても冴え渡ってるわ!さっすが俊狼たる私ね!

此の場を破壊せよ。
動くものは全て叩き潰せ、と。


えぇ、命に従いて。一切を喰らう。


嗚呼。月は未だ視えずとも――



●月下狼舞
 Q:満月を見ると理性が危うくなるのですが、ダークセイヴァーではどのように活動すべきでしょうか?
 A:両目を布かなんかで隠しましょう。解決!

「――なーんにも見えないわ!?」

 真守・有栖(月喰の巫女・f15177)は月に酔うタイプの人狼病の罹患者だ。単独行ならともかく、月に酔えば強者と立ち会いたがる自身のことをよく悟っていた有栖は、月の光注ぐダークセイヴァーでの月酔い対策に飾り布を使ったのである。直後は物の見事に何も見えず往生したものだ。
 一人コントのような真似をカマしていたのも数十分前のこと。今や視覚なくとも、その類い希な嗅覚・聴覚と気配を探る感覚にて、有栖は他の猟兵らの後ろへ付いて回り、大聖堂へと至った。
「ここが話に聞くけしからん狩鬼のアジトね! いいわ。この狩狼たる私が、狩りの何たるかを身を以て教えてあげる!」
 大聖堂に踏み込めば、新旧を問わぬ血の匂い。染みついた血の匂いは犠牲者らのもの。新しく感じられるのは敵の血だろう。重い血の匂いのせいで、空気の動きがよく分かる。 有栖は耳を跳ねさせ、音を聞く。
 マスケットの音。マッチロック式の板バネ仕掛けの作動音。ちくちくと肌に刺さる殺気。有栖は横に弾けるように跳んだ。銃声、後方で着弾音。弾丸を撃ってきた砲口は憶えている。有栖は刀を抜いた。
 届かぬであろう。敵は遠間から銃を使った。刀でその距離を埋めようなどとは、蒙昧極まる考えだ――
 その刀が、只の刀なのであれば。
 有栖は声無く、息を鋭く吐いて刀を振るった。――刹那、刀は百光を纏い、『延びた』。正確には、その刀に纏う百光が延びた。剣先から伝わる感覚、『斬った』手応え。
「あ"ッ……!?」
 重い肉が二つ落ちる音。斬れたと見える。有栖は気配と反響音・実音を聞き分ける聴覚、匂いにより瞼の裏に周囲の気配を描く。その唇が、ゆるりと吊り上がる。
「なんだ、今のは……?!」
 敵勢から驚きの声が上がる。然もありなん。有栖が振るう刀は、そんじょそこらの刀ではない。正真正銘の妖刀だ。
 延びた光は、名を『光閃』という。それは『永海』と呼ばれる妖刀鍛冶一派が編み出した、究極の鉄『烈光鉄』に特有の現象。
 籠めた意念を光の刃、『光閃』に換え、彼方を薙ぎ斬る光刃。
『九代永海』永海・鍛座作――光刃『月喰』の成せる業である!
「くそっ、単独で音を立てるな! 相手は盲だ、囲んで一斉にかかれ!」
 敵の吸血鬼は即座に散開、近接武器に持ち替えて格闘戦を挑むべく接近してくる。
「無駄よ、今、私――何だかとっっっても冴え渡ってるもの」
 有栖は笑みを深める。敵は判断材料を音だけと仮定して集団で挑んだ。しかし音以外にも判断材料はある。匂い、気配、風の動き。特に匂いは強い。――人間の感情は匂い立つものだ。強い感情、恐れ、怒りは体臭を変化させる。
 殺気をその中から読み取るなど、俊狼には造作もないことである。
「死ねェッ!!」
 振り下ろされる刃を舞うように回避。くるり舞う動きに手に持つ刃を追従させるだけで、面白いように敵が裂けた。広がる血の匂い。その中から生きた敵の殺意を嗅ぎ分ける。――狼は鼻が利くだけではない。嗅ぎ分けの精緻さが異常なのだ。
 月すら喰らえと名付けられた刃の銘に従うように、有栖は刀を振るい、近づく者を刃で、未だ遠間にいる者は光閃にて咲き、次々と血飛沫を上げた。繰り出す斬閃はいずれも致命。血が間欠泉の如く飛沫き、命の灯の終わりを告げていく。
 グリモア猟兵は言った。この場の全てを、動く者全てを叩き潰せと。
 その命に従おうではないか。有栖は背を向けて逃げようとする気配を、放つ光閃にて斬首。倒れ伏す身体の音を聞きながら、封じた視界、無明の闇の中に次の敵を探る。

 ――嗚呼、月は未だ視えずとも。
 剣閃に曇りなく、汝らに生くる路無し。

成功 🔵​🔵​🔴​

ラグ・ガーベッジ
◎【結社:聖堂】
「あ"ー辛気臭ェ。結社の地下と同じ匂いがしやがる」
生産設備へと足を踏み入れ顔を顰めるが、それは目の前の光景への嫌悪ではなく不快な臭いに対する苛立ちでしかない

「ハッ、雑魚をいくら寄せ集めたって雑魚にゃ変わりねぇだろうに。」
「んだ、テメェの知り合いにも似たようなのが居たのかよ。」
「テメェの周りにゃロクな奴がいねぇなぁアダムルスゥ。」
三日月のように片頬を吊り上げ嗤いかける

「こういうのはお前が一番得意だろ、ブン回せ炎火」
そう言って巨木のような棍棒となり、小さなフェアリーへ倒れこむ

「あ"?ザケんな全力でやれ、変な気回してんじゃねぇぞ」

「ヒャヒャヒャヒャヒャ!!!ブッ潰れやがれぇぇぇ!!!


灰炭・炎火
【結社:聖堂】
「えー、あーし、こういうとこなんか緊張するけど、結社は居心地いいよ?」
ラグちゃんの独り言に返しつつ。
とにかく、ひどいことしてるのはわかった! あーし許せへん!
とりあえずぶっ壊せばえーんよね? それじゃいつもどおり……

……ん? ラグちゃん、あーしがつかってええの?
壊れたりせぇへん? だいじょぶ? それじゃあ、遠慮なく!
ユグドラシルの小枝になったラグちゃんを担いで…………うん。
そーね、気に入らへんなら、見えるもの全部、片っ端からぶっこわそっか!

……あ、おっちゃんごめーん!
勢い余っちゃったから避けてー!!


アダムルス・アダマンティン

【結社:聖堂】
切って捨てた弱きを集め、理想の個体を作り上げるための糧とする……
……“奴”のような外道はこの地にもいたか

ロクなやつであれば、武器に選ばれることも無い
仕事だ、ラグ。残らず一掃するぞ
炎火、退路を自ら断つような過ちは犯すなよ

ここは神の聖域。涜神者へ裁きを。そして人ならざる者に慈悲の鉄槌を
刻器神撃。燃え盛るソールの大槌でもって建物ごと失敗作どもを葬り去る
我が地獄の炎によって燃えよ。そして願わくば、地の底へと逝き冥府神の御下へ辿り着かんことを



●紅蓮、時々血雨
「あ"ー辛気臭ェ。結社の地下と同じ匂いがしやがる」
 相争う吸血鬼と猟兵ら、逃げ惑う『的』達。とても悠長に喋っていられるような状況ではない、鉄火場だ。しかして常と変わらず言葉を紡ぐ三人の猟兵がいた。吐き捨てるように言うのは少女……ラグ・ガーベッジ(褪せたⅦ色・f16465)である。露骨にしかめた顔は、明らかな不快を訴えていた。飛び散る血の匂いもそうだし、この施設そのものに染みついた古い血の匂いも、こびり付いた陰惨な死の匂いも――単純に、不快だ。別に光景そのものには大した思い入れがないとばかりに、ラグはぷらぷらと手を振る。その身を何に変じるか考えあぐねているかのように。
「えー、あーし、こういうとこなんか緊張するけど、結社は居心地いいよぉ?」
 張り詰めた戦場の空気に、言うほど緊張していなさそうな少女の声が浮く。ラグの独り言を混ぜ返すのは灰炭・炎火(“Ⅱの闘争”・f16481)。 ラグの横をぴるぴると飛び回りつつ、炎火は視線を四方に彷徨わせた。
         ぶっこわそう
 こちらはどこから手を付けようか、その品定めに余念がない。
「切って捨てた弱きを集め、理想の個体を作り上げるための糧とする……」
 低い声。ラグのやや後方、遅れて続いたのは身長百九十センチほどもありそうな偉丈夫である。アダムルス・アダマンティン(Ⅰの“原初”・f16418)だ。
「……“奴”のような外道はこの地にもいたか」
 いかなる世界にもいるものだ。力なきものを食い物にして、己の理想のための糧とする捕食者は。
 アダムルスが思い起こすのは宿敵とも言える存在だ。とかく、この世には屑が多すぎる。
 巨大なハンマー――『ソールの大槌』を構えるアダムルスに、からかうようにラグが応じる。
「んだ、テメェの知り合いにも似たようなのが居たのかよ。テメェの周りにゃロクな奴がいねぇなぁアダムルスゥ?」
 片頬を吊り上げ嗤いかける挑発的な語勢に、アダムルスはいつものように平静な語調で応じる。
「鏡を見てから言うことだ。――そもそも、『ロクなやつ』が武器に選ばれるものか」
「あ"? ンっだと、ケンカ売ってンのか?」
「まーまーま! その辺にしんと、敵さんに隙攫われるよぉ!」
 アダムルスに噛み付くラグを炎火が諫める。アダムルスは表情も薄く、敵の配置を確認してから言った。
「いいだろう。仕事だ、ラグ。残らず一掃するぞ。炎火、やる気があるのはいいが、退路を自ら断つような過ちは犯すなよ」
「ケッ……わァったよ」
「あーい! ひっどいことしてるのも見ちゃったし、わかったし――あーしもこの人らのこと、許せへん! たいろ? だけ残して、ぶっ壊せばえーんよね?」
 疑問形がアダムルスの頭に鈍い頭痛となって刺さった。が、それを余所に炎火はやる気一杯と言った風に腕を振り回す。
「よーし! そんじゃいつもどおり……」
「待てよ、炎火。こんな寄せ集めの雑魚ども相手じゃ食い足りねぇ。『俺』を貸してやる、とっとと終わらせろよ。こういうのはお前が一番得意だろ、ブン回せ」
 ラグは言うなり、とんと踵で地を打って身を翻した。その瞬間、彼女の身体はぐにゃりと歪んで人型を失い伸張し、巨大な棍棒となって炎火へと倒れかかる。――ラグを初めとする結社の『短針』は、その身を武器へと変ずる異能者たちである。
 事情が知らないものが見れば炎火に『危ない』とでも言っただろう。だが見ていたのはアダムルスだ。声の一つも漏らさない。真に『危ない』のはそのフェアリー自身である。
「ん? ラグちゃん、あーしがつかってええの?」
 軽く応じる声。事もあろうに、大の男――それこそアダムルスでも扱いに苦慮しそうな巨大な棍棒を、身長二三センチと余りの炎火が軽々と片手で受け止める様子は、余人が見れば驚愕に目を見開いたことだろう。
 だが何ら不思議なことではない。灰炭・炎火は長針のⅡ。説明はそれだけで充分だ。
“そう言ってんだろうが。耳に何か詰まってんじゃねェだろうなァ?”
「でもでも、壊れたりせぇへん? だいじょぶ?」
“こいつ――『ユグドラシルの小枝』はな、お前みてぇな馬鹿力のヤツにぴったりなんだよ。いいから全力でやれ、変な気回してんじゃねぇぞ”
「ん――わかった。それじゃあ、遠慮なく!」
 炎火は細腕で棍棒を持ち上げ、軽々と肩に負った。彼女の身体に備わる剛力は、刻器『ニャメの重斧』をこの世で唯一振るうことを可能とするほどのもの。丸太めいた『ユグドラシルの小枝』すら、彼女に掛かれば檜の棒と変わらない。
「話は纏まったようだな。――ならば始めよう。ここは神の聖域。涜神者へ裁きを。そして人ならざる者に慈悲の鉄槌を与えん」
「うん! いっくよぉ、おっちゃん、ラグちゃん!」
 アダムルスと炎火は、示し合わせたように前進した。とにかく巨大な棍棒へ変じたラグが、炎火に支えられ飛ぶのが目立つ。遠方から見れば丸太が宙を舞っているようにしか見えるまい。
 二人の間、目配せ一つ。炎火が先に前に出る。
「辛気臭ェって言ったよね、ラグちゃん」
“あん? あぁ”
「気にいらへんなら、見えるもの全部、片っ端からぶっこわそっ! あーしらでさ!」
“――ヘッ。言われなくたってそのつもりだよ! やれ! 炎火!”
「おっけー!」
 ごうっ、
 音を立ててバックスイング。
「な、なんっ――」
 驚愕の声を上げようとした吸血鬼がいた。皮肉にも、それが最初の犠牲者であった。
『ユグドラシルの小枝』がスイングされた範囲にいた敵がまとめて飛び散った。灰炭・炎火が行使するのは、ただの暴力にすぎない。型も、流派も、何もない。ただの『力積』と『質量』にすぎない。
 ――それが、ここまでの暴威となるとは誰が思おう。血と肉片が汚泥めいて飛び散り、床の棺を濡らす。
“ヒャヒャヒャヒャヒャ!!! ブッ潰れやがれぇぇぇ!!!”
 ラグの哄笑が虚空に響く。炎火がもう一度振るえばまたも吸血鬼が数名が弾け飛び散る。凄まじいばかりの衝撃に軋み音を上げる棍棒。三打、四打。棺の幾つかを叩き潰すと、炎火の膂力に耐えかねたように棍棒が半ばから砕ける。
「あっ、ラグちゃん、大丈――」
 ぶ、と炎火が発する前に、棍棒はまるで生きているようにメキメキと伸張し、元の形状を取り戻す。
“だから言っただろ。こいつはお前みたいな馬鹿力にぴったりだってな”
『ユグドラシルの小枝』は、いくら砕けようとも再生する特殊な棍棒だ。過ぎた膂力故に大抵の武器を破損に追い込んでしまう炎火との相性は、最良と言える。
 炎火は驚いたように眼を幾度か瞬き――そして、すぐに笑みを浮かべた。
「――ふうん、そんなら、もっと遠慮せんで振ってええやんね!」
 先ほどの一撃が全力でなかったとでも言うのか。散弾を詰めたマスケットを棍棒を楯に受け、再三炎火は棍棒をバックスイング、敵が密集している場所へ突入して打撃を叩き付ける!

 肉と血と骨の雨が降る中を、アダムルスが疾る。炎火の圧倒的なパワーで浮き足立った敵を、或いはまだ無事な棺桶を彼が狙う。
 手にした『ソールの大槌』から地獄の焔が迸った。
「う、うわあああ!」
 数体の吸血鬼が、やけくそに照準したマスケットの引き金を引く。しかしてアダムルスはその筒先の動きから弾道を予測、その軌道上を避ける機動で前進。銃声が響くときにはその軌道上にアダムルスの姿はない!
「我が地獄の炎によって燃えよ。そして願わくば、地の底へと逝き冥府神の御下へ辿り着かんことを――刻器神撃ッ!!」

 疾る勢いもそのままに、両手でホールドしたソールの大槌を横殴りに叩き付ける。
 リアクションを取ることも許されない。打面による打撃のインパクトと爆ぜる地獄の焔が相乗し、ほぼ迫撃砲の命中時のような音を立て、一体の吸血鬼が五体四散し爆ぜ燃える。
 アダムルスは止まらない。ソールの大槌を圧倒的な膂力で振り回しつつ、その遠心力をうまく生かして攻撃に乗せる。ハンマーは連なる半円を描き、アダムルスは一瞬とて止まらず前進した。
 燃える槌の軌道が蛇のように宙に紅く残る。アダムルスはこのような業を生み出した悪鬼どもに裁きを下しつつ。棺の中に眠る『的』達には、厳かな祈りを捧げた。
「そのまま眠れ。せめてもう、これ以上苦しむことのないように」
 ソールの大槌が直撃すれば、強固なはずの棺すら耐えかねたように砕けて燃える。中の『的』ごと叩き潰しつつ、当に暴虐の旋風がごとく進むアダムルスを止められるものはない――
「……あ、おっちゃんごめーん!」
 ――いや、一つだけ、
「勢い余っちゃったから避けてー!!」
 あったか。アダムルスは凄まじい速度で迫るユグドラシルの小枝に向けソールの大槌を翳し、その全力で受け止めつつ、嘆息した。
「壊すのならば俺よりも、敵をやれ、炎火」
「えへへ、ごめんて! ――おっちゃんならちゃんと受けてくれるって思うから安心して戦える乙女心とか分かってくれへん?」
「とんだ乙女がいたものだ」
 頭痛を堪えるようにアダムルスは額を押さえ――最早及び腰となった敵へとソールの大槌を振り向けた。
「抵抗はしない方が楽だぞ。楽に死にたいのであればな」
 横合いで素振りされる棍棒。空気を震わせるスイング音が不吉に響く。
 低く恐ろしい結社の長の声を前に、吸血鬼達は己が愚を悟る。余りにも遅い。
 相対した時点で、彼らの末路は決まっていたのだ。
 
 逃げるものも、抗おうとする者もいた。
 だが全員、漏れなく、等しく、死んだ。

 結社に手向かうとは、そういうことだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ダグラス・グルーバー


ここでも子供が犠牲になってんのか
…最近子供が犠牲になる案件に関わったのもあって胸糞悪ィな
まあここでピリついても仕方ねェ…
俺は聖堂の方に行って、身を潜めつつ窓から中の様子を窺い
突入のタイミングを計ってみるわ

突入したら敵を捕捉次第、首魁へリボルバーを撃つ
…が首魁は的を盾にして攻撃してくると思うんで
武器受けとカウンターをしつつ
【ブレイズフレイム】で的ごと首魁を焼く
その際、炎が拡がり過ぎて討ち漏らしが発生しないよう注意
棺桶の方は戦闘中にいつ開くかわからんから
念の為第六感で不意打ちを警戒
もし首魁が逃走を図ったら出口に行かせねェように吹っ飛ばして
更に炎を放って燃やし続ける

……逃げんな。ここで燃え尽きろ


宮落・ライア
聖堂襲撃。

雑魚は語る暇なしに皆殺し

礼拝堂と少し迷ったけれど……やっぱりお前(的作りの首魁)は手ずから殺したいし確実に殺さないといけない。
どう殺されたい? 存分に、十全に、痛みをもって殺してやる。

被害者は…まだ起きていないのならそのまま起こさずに痛みで起きないように一撃で。
起きていたら、怖がらせない様、安心させるように声をかけ近づいて、認識する暇も無く一刀で首を落とす。

戻れないのなら、理性をもったまま罪を犯す前に終わらせるのが救いだ。

隠れた物がいないかは、野生の感と追跡、嗅覚でどうにかできるかな

少し納屋に人が行くか心配だけど、居るのは警備兵だし騒ぎがおきれば自分から来てくれるかな?



●応報
 範囲攻撃が得意な猟兵らが、己の力の限りを振るって大聖堂内を破壊していく。、荒れ狂う攻勢の中を、宮落・ライア(ノゾム者・f05053)が矢の如く走って行く。
「し、死ねぇっ!!」
 マスケットの引き金を引く敵目掛け襲いかかるライア。銃声、迸る発射炎。放たれた銃弾をライアは視認の後、刀で斬った。
「は――?」
 吸血鬼兵が呆けたような声を上げる。ライフリングのない前装式のマスケット鉛弾、その初速はおおよそ二六〇m/s程度。熟練の猟兵たるライアにとっては、狙って斬るなど容易いこと。
 相手に口にすべき言葉はない。外道共に掛けてやる言葉など。左右に斬り分かたれた銃弾が脇を抜けていくのをよそに前進。呆けたままの吸血鬼の首を、擦れ違い様に刎ね飛ばして駆け抜ける。
 先行した猟兵が開けて回ったのか、開いた棺の中、未だ目覚めを待つ者がいれば、その胸に刀を立てて終わらせていく。その一刺しごとに、ライアの中で怒りが膨れていく。
 ――もう、戻れないのなら、理性を持ったまま罪を犯す前に――終わらせてやるのが救いだろう。
「やめろオオオオッ!! 奴を止めろ、貴様ら、殺せっ、殺せええ!!」
 喚く声と共にマスケットの銃声が連なった。先行した二発を弾き、ライアは銃弾の下を潜るように低姿勢で走り抜ける。
 ――命を下したのは“主任”とやらだろう。野生の勘が囁く。
 この棺の山を築いた、憎むべき首魁。
「見つけた。……そこにいたのか。バカで助かったよ」
 ライアは呟く。彼女が聖堂を戦場に選んだのは、必ず殺さなければならない敵がそこにいるからだ。真っ直ぐに迷いなく、“主任”のいる方向へ走る。
 阻むように立ち塞がる敵二人。サーベルを持って打ち掛かってくる二体を、翻る白刃にて斬る。剣を持つ腕を刎ね、返す刀で首を斬り、殺す。
 隙を突いて横から襲いかかる一体のサーベルを受け太刀。そこを狙って放たれるマスケットの嵐。サーベルを突き放すようにして跳び下がるが、数発が彼女の手脚を撃ち、めり込む銃弾はその骨を砕く。
「ッ――」
 ライアの手脚から血が飛沫く。
「今だ! 畳みかけろ!」
 間近で命中を確認した吸血鬼が快哉を叫び、追撃のために踏み込んだ瞬間――ぽん、とその首が飛んだ。
「えっ」
 確かに当たった。当たったはずだ。その証拠にライアの手脚は流れ出た血に染まっている。
 だが傷が。ほんの一瞬前に出来たはずの傷がない。流れ出た血の跡しかない。
 ライアは地面を蹴り飛ばし、前進。マスケットを放った敵の方向へ走る。
「第二射ッ!!」
「てぇーっ!!」
 隊伍を組んだ吸血鬼らは一瞬で動揺から立ち直り――或いはそれは反射的な行動だったか――装填済みのマスケットを持った数名が第二射を放つ。ライアの身体にまたも突き刺さる銃弾。血が飛び散るが、だがしかしライアの動きは止まらない。
「ば、バカな――」
「再生、している?!」
 死に拒まれたような。死ぬ事を許されていないような再生能力。
 血に塗れながらマスケットの嵐を抜け、ライアは刀にて貫き、裂き、断ち、舞うようにマスケットを持つ吸血鬼らを鏖殺する。
 一瞬にして十数体が冥府に送られる。駈けてくる次の敵。その向こう側にいる“主任”をライアは睨んだ。
「考えておきなよ。死に方をさ」
「な――」
「やっぱりお前は手ずから殺したいし確実に殺さないといけない。死に方くらいは選ばせてあげるよ。どう殺されたい? ――ただ、楽な死に方は許さない――」
 接近してくる敵二体。爪を、サーベルを這うようにして回避。足首を断ち、倒れ込んだ敵の心臓を踵と刃で穿って殺す。ライアは朱い瞳で“主任”を睨んだ。
「存分に、十全に、痛みをもって殺してやる」
「――ッ」
 色を失う“主任”。大聖堂の戦いは、最早決着に近づいている。
 彼を守る兵も、最早少ない。
「く、くそっ! “的”を一体でも二体でもいい、確保して逃げろ! 主任をお守りするんだ! こいつら、強すぎる……ッ!」
「主任! こちらへ!」
「私の……私の研究成果が、燃える……この襲撃があと一日……あと一日遅ければ……ディアナ様にご満足頂けたはずなのに……」
 正に火のついたような猟兵らの攻勢に、警備兵や並ぶ棺はその悉くが破壊され燃やされ散っていく。猟兵らが放つ炎、攻撃は大聖堂自体にも飛び火し、いつしか大聖堂はそこかしこに燃え移る炎に蝕まれ、焦熱地獄と化しつつあった。
「窓だ! 窓から逃げろ!」
 大聖堂端の窓目掛け、“主任”を含む十数体の吸血鬼兵が走る。
 逃がすまいと追うライアが殿の兵らと戦う間に、逃げおおせんと走る“主任”たち。
 しかし――彼らの前で、窓が派手に割れ散る。
 ――燃える聖堂の中に飛び込んできたのは、黒いスーツ、金色の隻眼の男だ。
「よう、どこに行こうってんだ、クソ野郎。こっちは行き止まりだぜ」
 剽げた声で言うのはダグラス・グルーバー(ダンピールのダークヒーロー・f16988)。その右手には武骨なリボルバーがある。
 彼は窓から中の様子を伺い、敵の逃走がないかどうかに気を払っていたのだ。数人――既に、逃げ去ろうとした『的』の少年少女らを鉄塊剣にて隠密に葬っていた。
 そして今。
 逃げようとする“主任”を察知した彼は、ここで過たず討伐するべく窓より乱入。敵の退路を塞いだのである。
「胸糞悪ィ事ばっかりしやがるな、吸血鬼ってのは。だが、それもここで終わりだ。俺が来たからな」
 ――ダグラスは以前にも、子供を食い物にして永らえる村を見た。その時にも覚えた思いだ。かつてヴィランとして名を馳せた彼にも、許せぬ悪というものがあった。
 いつだって犠牲になるのは弱い子供達だ。それを思う度、胸の内がぴりぴりと焦げるような思いになる。外で機を伺っていたときには、心の中に押し隠していた怒り。
 踏鞴を踏むヴァンパイアらを見れば、その怒りは炎の形となってダグラスの裡より噴出する。
 突き立てた鉄塊剣で手を裂き、迸る鮮血を苛烈な炎へと変える。窓際へ炎を振りまき、敵が逃げぬよう後ろを塞いだ。
「逃げようってなら、俺を殺して逃げ果せてみろよ」
 金眼が光る。怖じけたように“主任”が一歩下がる。
 ダグラスはスピンさせながらリボルバーを持ち上げ、トリガーを引いた。銃声、“主任”を庇って代わりに警備兵がそれを受ける。苦悶の声を漏らしながらも、一発だけでは殺すには至らぬ。敵が反撃のマスケットの筒先を持ち上げるのを見て、ダグラスはせせら笑った。
 遅い。遅すぎる。
 ダグラスはリボルバーを連射。頭蓋を貫けば吸血鬼とて再生叶わぬ。リボルバーを廃莢しつつ、空のままシリンダーを振り戻す。今だ焔溢れる右手でリボルバーを握れば、地獄の焔がシリンダーへと流れ込む。
「殺せ!!」
 裏返った声で叫ぶ“主任”。ダグラス目掛けサーベルを抜刀した警備兵が突撃する。
「死ねええッ!!」
 振り下ろされるサーベルを、ダグラスは鉄塊剣を抜いて受ける。カウンターめいて銃口を跳ね上げ、敵の顎に突きつけてトリガーを引いた。ハンマーに叩かれた地獄の焔が、炎弾となって射出され、吸血鬼の顎から上を吹き飛ばす。
 続いた二名も機先を制して踏み込み、鉄塊剣で薙ぎ払う。血を吐きながら宙に浮いた敵に炎弾を連射、連射、連射! 地面につく前に燃え尽きて散る。ダグラスは銃を撃ちながら前進、警備兵に撃ち返す暇を与えず射殺していく。
「ひ、ひいいっ!!」
「覚悟も力も足りなかったな。――逃がさねえよ」
 最早、守る者もない。“主任”は、瞬く間に独りになった。
 ――その後ろに、ひたり、と足音が迫る。
「さあ。死に方は決めた? 言ってみなよ」
 ライアである。差し向けられた兵を残らず鏖殺して参じたのだ。
 ダグラスはニヤリと笑うと、リボルバーに炎を圧縮して詰める。ハンマーをガチリと起こし、ぴたり、と照準。
「テメエがしでかしたことの全てを悔いて、死んでいけ」
「う、あああ、あああアアアッ!!!」
 叫びながら頭を抱え、逃げだそうとしたその脚をライアの刀が断った。
 ぎゃあ、と声を上げながらドサリと斃れるその身体目掛け、
「――ここで、燃え尽きろ!!」
 ダグラスが放った緋弾が突き刺さり、“主任”は凄絶な絶叫を上げた。それが、狂った男の最期であった。
 今際の際を悟ったか、宙を掻き毟るように手を伸べる。
 痙攣する“主任”の指先が、何かを操作した。それはあまりに些細な動きだったが――
 地面を揺るがす音に、ダグラスは眼を細める。
「もう一波来るみてェだな」
「関係ないよ」
 焔に包まれて燃えていく“主任”を蹴転がしながら、ライアが応じる。
「――何が来ようが、もう一度鏖殺するだけだからね」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『失敗作の少女達』

POW   :    ひとのからだとさようなら
自身が戦闘で瀕死になると【埋め込まれた外なる神の部品】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
SPD   :    かみさまのちから
【埋め込まれた外なる神の部位】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
WIZ   :    ひとのきもち
【人間部分の肉をちぎって投げたもの】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【に呪いをばらまき】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 大聖堂が焔に包まれ崩落する。
 しかし、猟兵達の戦闘は終わらない。これからが本番と言ってもよかった。

 最期に“主任”が操作したのは、地下の“棺檻”を解放するためのスイッチだった。
 そこかしこの地が割れ、ロケットめいた形状の棺檻が地面へ迫り出す。
 その数、一つ二つではない、大量である。建物跡を突き破り飛び出す棺檻は、全ての建物の地下に仕込まれていたものやもしれぬ。
 ――棺檻は極めて堅牢に見えた。そうまでして、隠していなければならなかったものとは――
 がしゃん! 音を立てて棺檻が開き、とってつけたような笑顔を浮かべた少女たちが進み出る。
 顔は蒼白く、肉は腐る手前、しかし決して腐れ落ちることはなく、呪いを伴いて歩く。
 感情はなく。ただ、屍肉を喰らいたいという意思だけがある。
「あー、」
「あーぅ……ぅー」
「ごぉ、」
「――ごは、ん」
 既に、地上の一切の鏖殺は完了した。次々と建物燃え落ちるその場に、生きて歩くものは猟兵のみ。
 少女たちの目に映る食事とは――猟兵ら、君達に他ならない!

 武器を取り、戦闘を開始せよ!
 嘆くのも、祈るのも、全ては生き延びてからのことだ!


≫≫≫≫≫MISSION UPDATED.≪≪≪≪≪
【Summary】
◆作戦達成目標
『失敗作の少女達』の撃破

◆敵対象
『失敗作の少女達』×多数
 
◆敵詳細
『吸血猟鬼』ディアナが腹心の吸血鬼らに作らせた、“的”の発展途上。
 継ぎ合わせた少女らの肉体に『外なる神』――まつろわぬ神々を宿らせることで、頑健さを補おうとした実験の副産物。
 結果として頑健さと戦闘能力は得られたが、少女らの精神は尽く破壊され、今や屍肉を喰らうために存在する怪物に過ぎない。少女しかいないのは、女性である方が『受け入れ』やすい、という唾棄すべき実験結果によるもの。
 主な用途は対外敵排除用、村の後始末用、消費期限を過ぎた『部品』の処理用、など。
 外なる神の宿る身体部位により、猟兵に苛烈な攻撃を仕掛けてくる。見かけによらず機敏である。その身体構造は既に人間ではなく、戦闘の過程で別の形に変ずることも充分に有り得るため、注意されたし。

◆戦場詳細
 猟兵達が襲撃した廃教会。
 既に、大部分の施設は猟兵達の攻撃により崩落しているが、それでもいくらかの建物は残っている他、地面から迫り出した巨大な『棺檻』があるため、足場を用いた空間戦闘も可能と思われる。
 逆に、射撃武器は射線を確保の上放つ必要があるだろう。

◆プレイング受付開始日時
 2019/06/10 08:30:00

◆プレイング受付終了日時
 2019/06/12 00:00:00
 
 
ネグル・ギュネス
腹が、減っているのか
───すまない、私は、…料理が、下手なんだ

泣き笑いの表情で語りながら、刀を引き抜く

せめて苦しまぬように、終わりにする
敵の攻撃を【残像】で欺き、ダッシュで回り込んで、神なる部品を一刺し

【破魔】の力を持った脇差で部位を削ぎ落とし、敵の動きを一人ずつ止める
仮に齧られそうになったら、左腕で味方を己を庇う


悪いな、…私も、人では無いんだ
失敗作同士、仲良くなれたら良かったのにな

氷の【属性攻撃】を持った弾丸で、敵を凍てつかせ、最期は


何か言い残すことはあるか問い掛け、氷越しにでも、慈愛の笑みを。
壊れていると、理解していても

そして
【剣刃一閃】

太刀で首を狩る

必ず、殺す
【殺気】を放ち、奥を見据える



●鬼の目に、朱
「ごはん……」
「ごは、ん」
「腹が、減っているのか」
 哀切の表情を浮かべ、少女らに対したのはネグル・ギュネス(ロスト・オブ・パストデイズ・f00099)。
 今、その顔には哀れみと、痛みを堪えるような苦悩の表情がある。
 礼拝堂にて、彼女たちを作り出したものに怒りを叩き付けたのが十数分前のこと。実験体に続き、悼むべき少女らと対する段になって、ネグルは悪鬼必滅、鏖殺の引金『エクリプス・トリガー』を解き、静かに刀の鯉口を切った。抜き放つは屠霊鉄製脇指『春陽』。
「─すまない、私は、……料理が、下手なんだ」
 優しい男だった。対話も、説得も不可能、既にただの屍食鬼と化したと説明のあった、失敗作の少女達に、それでも声をかけずにはいられない。微笑みかける。うまくはいかない。刃の肌に映った自分の顔は、まるで泣いているようだった。
「ごはん……んん」
「うぅうぅう、ううぅ」
 唸りながら、少女らがネグル目掛け殺到する。敵数は膨大。数人で隊伍を組まねば、包囲されるのは時間の問題と見えるほどだ。しかしネグルは単騎で駆けた。
 弔うように戦う、この弔意を誰かに押しつけたくはない。せめて苦しまぬよう、情を慈愛を以て葬ろうと、そう願う猟兵ばかりではあるまい。
 ――けれど一人。ここに一人。
 そう願いながら戦う猟兵がいてもいいはずだ。
「おいで。私は、君達を満たせないが。……代わりに、出来うる限り丁寧に葬送ると、約束しよう」
 ネグルは春陽を逆手に構え、姿勢も低く飛び込んだ。肉食獣の疾駆が如き低姿勢のスプリント。そこに、上から振り下ろされる、少女らの背から生えた腕。そればかりか、這いずる少女たち――共食いの果てに上半身しか残っていない――が、地に這いながら文字通り腕を伸ばし、鞭が如く、ネグルの脚を払いに掛かる。
 振り下ろされた腕がネグルに食い込み、脚を薙ぐ腕がその膝を断った。
 ――そのように見えた。しかし、ネグルはそれを擦り抜けるように走る。
 否。それは残像だ。揺らめき消える残像を遥かに超えた位置で、ネグルは地面に踵を叩きつけるかのように蹴り、反射するように一八〇度の方向転換。己の残像目掛け腕を振る少女たちに襲いかかった。
 ネグルが狙うのは『外なる神』を宿す彼女らの部品だ。観察すれば異質な部分が分かる。露出した肋骨を脈動させるような心臓、耐えず蠢き、少女の身体をまるで引き摺っているかのように動く、背中から生えた奇腕。体躯に対し不自然なまでに発達した脚。顔面のほとんどを占めるような巨大な双眸。少女らは狂わされていた。気付いたのは、或いは、少女を直視したネグルだったからなのかも知れない。
 ネグルは刃に、破魔の願いを託して襲いかかった。願わくば、外つ神を滅し、彼女らが天へ迷わず登れるように。なんの足枷もないようにと。
 反射的に反撃するものがあった。首を畸形化させ伸ばし、食いついてくる少女の顎に、機械の左腕で蓋をする。歯が欠ける手応え。
「悪いな、……私も、人では無いんだ。失敗作同士、仲良くなれたら良かったのにな」
 食いついてきた少女の目を平突きで貫いた。そのままもう片目も引き裂くように刃を外に払う。ある少女の背中から生えた腕を擦れ違い様に斬って捨て、肥大した心臓を貫いて切り裂き、貫いた少女の身体を振り捨てるように続く敵に叩きつけ、その脚を止める。
 閃く右手が銃、ペネトレイトブラスターを執る。即座にトリガーを引いた。銃口から迸るのは氷の魔力を帯びた貫通弾。神の部位を貫かれて喘ぐ少女らを猛撃する氷の銃弾。凍えたように、少女らの動きが鈍る。
「言い遺すことは、あるか」
 慈愛の笑みを向けようと思った。それがどこまでうまくいっていたか、分からないけれど。
 帰るのは呻きに似たばかりだった。ごはん ごはん、 いたい いたい やめて いたいよぅ ……分かっていたはずだ。屍肉を喰うしか、もう彼女らにはないのだと。それ以外の何もかもがフェイク、哀れを誘うような、痛みを訴える声さえ、防衛反応に過ぎないのだと。

 ああ、――それでも。
 壊れていると分かっていても、人として彼女たちを葬送りたかった。

 ネグルは春陽を納め、爆ぜるように駆けた。抜刀、桜花幻影。
 抜き打ちの一閃が、少女らの首を纏めて刎ね飛ばす。生ける死体を葬る一撃。

 ――この所業を許さない。必ず、殺す。
 ネグルは血の涙を流しながら、彼方に――今だ見えぬ吸血猟鬼に、絶対不変の応報を誓う。

成功 🔵​🔵​🔴​

矢来・夕立
◎【調査依頼】探偵さん
※共通方針
予め探偵さんのUCに入っておく
探偵さんが目立たない位置にトランク設置→死角まで群れを誘導
オレがUCから脱出して奇襲

探偵さんの【私用の鞄】に隠れます。
上手く隠してくださいね。どっか持ってかれたら困るんで。
あちらの下拵えが終わったらテレパシーで連絡してもらう手筈です。
飛び出たときには全部整ってるでしょう。
《だまし討ち》【紙技・大荒紙】。
コレなら束ねられた内側にいるやつも全部食い破れます。
勿論、中にいればいるほど傷は浅いはずなので…油断せず、外側の死体に紛れて《忍び足》ですね。しかるのち《暗殺》。

殺り漏らしは探偵さんに任せます。
お互いシゴトに妥協はしないタイプですよ。


鎧坂・灯理
◎【調査依頼】依頼人/f14904
※方針は共通参照

混戦の隙に、スーツケースを起点としてUCを発動させ、依頼人を収納。
そこそこ開けた場所の棺檻の陰に置いて隠す。
知能が低く食欲に動かされている奴らが、無機質な鞄に目を止めるものかよ。

開けた空き地に簡単なワイヤートラップを張り、バイクで駆け巡り敵集団を誘導する。
ワイヤーの片端に輪を作って、そこを通す奴だ。引っ張るとしまる。
空き地に集めてトラップを使い、オブリビオン共を束ねて電気警棒で留め、テレパシーで依頼人へ合図。
あとは依頼人が飛び出すに合わせて、念動力で上空へと離脱する。

生き残りは後ろから散弾銃化した銃器で処理する。
お手並み拝見しますよ、依頼人。



●ショットガン・バースト、ニンジャ・オーバードライブ
 ――上手く隠してくださいね。どっか持ってかれたら困るんで。
 ――忍ぶのは得意技だろう。目一杯、気配を殺して待っていろ。

 猟兵達は、敵勢と真正面から衝突した。
 瞬く間に乱戦となる。猟兵達の戦技が爆光を咲かせるその真っ只中を、混乱に乗じて鉄馬で駆け抜けるは鎧坂・灯理(鮫・f14037)。その傍らに忍の姿は、今はない。
「さあ――こちらだ。肉を食いたいのだろう」
 ウオォン、と亜空間エンジンを唸らせる単車――『白虎』に跨がり、灯理はこれ見よがしにドリフトターン。隙をさらしつつ顎をしゃくってみせる。
 失敗作の少女達には、知能と呼べるほどのものは残っていない。彼女らに残されたのは、屍肉を喰らい自己を保存する本能と、自らに搭載された外なる神の部品を敵に叩き込み殺す、という殺戮衝動のみだ。
「ごはん、ごはんん……」
「あそんで、あそんで……えぇえ」
「――遊んでやるとも。たっぷりとな」
 ひゅおっ、
 唸りを上げ、少女らの背中から伸びた外なる神の『腕』が灯理に襲いかかった。灯理は即座にスタンロッドを引き抜き、振り伸ばして展開。派手な音を立てて通電させながら、腕を打ち払う。同時にアクセルを開放、クラッチレバーをロッドを持ったままの手で叩くように操作。前輪が持ち上がり、行く手を塞ぐように立つ少女らを轢殺しながらのロケットスタートを決める。
 高速で遁走する灯理の後を追うように、少女らは脚をメキメキと音を立てて変形させ、まるでガゼルめいた逆関節を成し、跳ねるように灯理に続く。
「……ホラー映画も斯くやだな。夢に出そうだ」
 バックミラーに目を走らせ、ぼやくように一言。灯理を追う個体は瞬く間にその数を増していく。少女らは汚泥めいた肉塊を自分の身体から千切り投げつけるが、灯理は巧みなハンドルワークで蛇行、身体を左右に振って直撃を回避。
 目指すのは小広く開けた空き地だ。灯理はスピードを上げる。広場の中程、ジャンプ台のようにしつらえた板切れに乗り、灯理は白虎と共に宙へ舞う。車輪を横滑らせながら着地、ブレーキ。
 空き地の中央、地面から突き出た棺檻と白虎の車体で自身を挟むような立ち位置だ。
 そのまま車体を遮蔽物とするようにその影に降り立つ。
「――さあ、私はここだぞ。来い」
 呼ぶように嘯く。追い上げてきた少女らが、血液混じりの涎と涙を垂れ流し、広場へと立て続けに降り立ち――
 二歩目を踏み出そうとした矢先、脚を引っかけられたように転倒する。
「あッ」
「あぅ……?」
「ぅうう、なあにい、あしいいい」
「ビンゴだ」
 灯理は眼鏡のブリッジを上げ、敷設しておいたトラップの効果を確認する。彼女はこの開けた空き地にワイヤー・トラップを張り巡らせ、そこに踏み込むものを捕らえる策に出たのだ。バイクごとの跳躍は伊達ではない。トラップを避けるための歴とした手順である。
 灯理は白虎の影から立ち上がり、トラップに掛からなかったものをアサルト・カービンモードの愛銃で撃ち抜きに掛かる。発砲音ごとに一体が正確に倒れるが、何分数が多い。まるでゾンビ映画だ。
 引き寄せる。一体でも多く。
 二十数体が広場のトラップに掛かった。しかし、それだけでは留めきれない物量の敵が尚も押し寄せる。包囲するように襲い来る敵の群れを前に、灯理は銃口を下ろす。

 ――諦念か?
 否さ。

 彼女が仕掛けた罠はワイヤー・トラップのみではない。或いは彼女さえもが敵を釣る餌。
 少女達は目先の新鮮な肉は目に入っても、檻棺の前に置かれた無機質なスーツケースに目を止めることなどない!
『お手並み拝見しますよ、依頼人』
 慇懃な敬語でテレパシーを一つ打電、灯理は突如、念動力で自身の身体を宙に飛ばした。
 出し抜けな跳躍に少女らの視線が奪われる。宙へ離脱した灯理を注視した彼女らは、地面でスーツケースが開いたことに気付かなかった。
 そのスーツケースこそ灯理の『私用の鞄』。一見ただのスーツケースだが、その奥には広大な空間が広がっている、ユーベルコードの賜物だ。彼女はこれを多数の武器を収蔵する武器庫として用いる。

 ――今日はそこに、一等タフで、よく斬れる刀を忍ばせてある。

 ジャックナイフめいてスーツケースを飛び出したのは闇色の人影。
 その刃は銘を、矢来・夕立(影・f14904)という。得手は虚言嘘吐き、奇襲暗殺、ダメ押し一手の騙し討ち。
 常人ならざる跳躍力で天に舞い、錐揉み回転からのうっそりとした技名乗り。
「とくとご覧あれ。忍法“紙技”――」
 この場に措いては己の名など名乗るに及ばず。忍びが語るは己が技。

 オオアラシ
「大 荒 紙」

 夕立は両手に開いた紙束を、空中で竜巻のごとく廻り乍ら投げ広げた。旋風に煽られ紙がくしゃくしゃに折れ曲がり――否。違う。
 ――独りでに、形を成していく!
 四方手裏剣。棒手裏剣。蝙蝠、人形、紙箱。
 撒いた紙吹雪は瞬く間に神賦武器となり、夕立の紅い瞳が地に注がれるや否や、当に時雨のごとく降り注ぐ。
 紙と侮るものがあれば、その驟雨の下に来るがいい。
 紙は紙でも、それは稀代の紙忍、矢来・夕立が操る『式紙』である!
 手裏剣がワイヤーに脚を取られ、転んだ少女らに突き立つ。雨のごとく注いだ刃により瞬く間に剣山のようになり絶命。複数纏まって拘束された少女らの元に降った紙箱は突如膨れて爆ぜ、数体をまとめて吹き飛ばす。
 灯理を狙い殺到してきた、未だ動けるもの達には機動性に長ける人形と蝙蝠が殺到し、その身体を噛み裂き、或いは貫いた。
 忍法・大荒紙は文字の通りの大嵐。夕立の持つ式紙を瞬時に大量開放し、周囲を鏖殺の渦に巻き込む大技である!
「いたあ、いいいい」
「やあ、やぁー……っ」
 痛みに鈍いリアクションを示す少女ら。リアクションを返せるものはまだ軽傷の部類だ。鏖殺の渦の中心付近にいた少女らは既に行動できないほど破壊され、完膚なきまでに再殺されている。
 キンッ。鍔鳴り一つ。
 夕立は空中で斬魔鉄製脇指『雷花』の鞘を払い、宙返りを打って落下軌道に入る。足下、まだ息のある少女らがその背の伸びる奇腕にて夕立を迎撃する。まるで鞭のように伸びる腕を、夕立は身を捻り、外套に風を巧みに孕ませ落下速度をコントロールし回避、回避、回避!
 一時に繰り出された内、最後の伸びる腕に着地するなり、よもやその上を、坂をそうするように駆け下りる!
「鏖だ」
 夕立の周囲に滞空する複数の蝙蝠の群れ――否、式紙『冬幸守』が、まるで放たれたミサイルのごとく急降下。奇腕を引き戻す最中の三体の首に食い付き血の薔薇を咲かせる。それに続くは夕立、駆け下り擦れ違い様に、駆け下りてきた腕の主の首を掻っ捌く。
 吹き出た血の落ちる前に、罠に掛かったまま果てた少女らの上を足場とし、連続で片手ハンドスプリングとサイドフリップ。着地と同時にショートジャンプから翻る雷花のコンパクトな斬撃。矢来・夕立はまさしく、荒れ吹き抜ける刃風となった。
 刀の狙いは首一択だ。――敵は疾うに異形、心臓を穿って動いても不思議ではない。疾うに動力がそこでない可能性がある。しかし、腐っても人の形をしているのなら、電気信号を身体に伝える脳と身体のリンクが断たれれば、爾後の動作は罷り成るまい。
 生き残りの内浮いた駒を、夕立の刃が断ち、血飛沫を散らす。
 余りに高速でトリッキーな夕立の動きを咄嗟に捉えられる少女はその場にない。彼女らが右往左往とする間に、横手からショットガンのレバー音が響く。
「ゾンビ映画にはこれがつきものだろう?」
 怜悧な女の声と共に銃声! ダブル・オー・バックの散弾が銃口より鉛のシャワーとなって飛び出した。命中するなり肉が血の霧になって吹き飛ぶ威力。銃を回転させリロード。
 流星の如き夕立の剣閃が疾る後ろを追いかけるのは、地に戻り降りた灯理である!
 再度白虎に跨がり急発進、レバータイプのショットガンに変形した愛銃で、狩り漏らしを撃ち抜いていく。
 ――与えられたオーダーは鏖殺。奇襲に続く掃討は、一角に動くものがなくなるまで――徹底的に行われたという。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒江・イサカ
こんなに一気に作るから失敗するんだよね
やっぱりあいつらって脳味噌も過去のものなのかな?
トライアンドエラーって言葉、教えてあげようっと


しかし、腹ペコか
僕にはあんまりわかんない感覚だけど、――“その”味はわかるよ
食べたことあるのかな
ないだろうな
食べるなら美味しいものの方がいい
きっとその舌は美味しいもの、憶えてるだろ

【誘惑】して彼女らの食欲を僕に招こう
結構美味しそうだしね、僕って
無防備に手を伸ばせばいい

【先制攻撃/早業/見切り】
…痛くしないよ
腕を潜って急所を刺して、
切れ味が落ちたらナイフは替える
そういう殺しは得意なんだ

僕のこと、食べれた未来を君らにあげる
おなかいっぱいの夢を見て、どうぞ幸せの旅路を



●鼻歌と微睡み
「ああ、ああ、ひどいな」
 手近な建物の屋根から周囲を確認すれば、地表は檻棺から這い出た失敗作の少女らで溢れかえっている。
 その数ときたら、まるで夏の骸に湧いた蛆のようだ。
「こんなに一気に作るから失敗するんだよね。一つ一つ反省して行かないと、進むものも進まない。やっぱりあいつらって脳味噌も過去のものなのかな?」
 猟兵達が怒りのままに打ち砕いたオブリビオンらを揶揄するように呟くのは、黒江・イサカ(鼻歌と・f04949)。彼は焼け残った数少ない建物の屋上で、しゃがみ頬杖、少女らの葬列を眺めている。
 そう、その有様は葬列に似ていた。死者を悼むような上等なものではなかったが。ぞろぞろと、生者を求めて行軍する死者の列。
「彼らがトライアンドエラーって言葉を知っていたら、こんな光景もなかったろうにね」
 皮肉に呟き、イサカは屋根を蹴って飛び降りた。
 ごく軽い音を立てて着地すると、少女達が音に気づいたように足をピタリと止める。ぎゅるり、と首だけが巡り、イサカを見た。紅い空洞に見える空虚な瞳が、幾つも幾つもイサカに注がれる。
 僕ってば人気者だなぁ、なんて冗談も出てこないほど、薄ら寒い光景だ。
「ごはん……」
「おいしい、おにく……」
 イサカを向いた少女らが身体の向きを変え、己に宿る『外なる神』の部位を構える。イサカは肩を竦めた。
「腹ペコか。僕にはあんまりわかんない感覚だけど、――“その”味はわかるよ」
 イサカは、死臭を孕んだ風に転がされるように、ふらりと踏み出した。
「君達は食べたことあるのかな? ないだろうな。――いや、いいのさ。食べるなら美味しいものの方がいい。きっとその舌は美味しいものを憶えてるだろ」
 つらつらと独言。少女らがそれに声を返さないのを知っていて言葉を紡ぐ。
「おいで」
 イサカは襟元を寛げて白い膚を晒した。少女らが求めて止まない肉を見せつけるように。微かに脈打つ首元。その内側の血潮。

「うううぅぅううぅ」
「たべる、うぅぅ!」
 少女らに残った欲望は食欲だけ。男の煽るような所作は覿面に彼女らの本能を燃え上がらせた。
 次々とましらのごとく飛びかかる少女達。本能のまま男へ、叩き付けるように腕を振る。外なる神を宿す腕が、脆い男の身体を引き裂いた。
 血飛沫。吹き出す男の血潮を浴びる。腕を千切り取り、熱い朱が迸る肉に噛み付いて呑み込む。甘く艶やかな味がした。もっとと求めて首に食い付き噛み千切る。あっという間に男は群れた少女らに呑み込まれた。虚ろな瞳に競って舌をねじ込み啜り、頭蓋を砕いて中身を穿り――
 ああ、素敵なごちそう! 美味しい、もっと、もっと頂戴! 骨のひとかけらまで全部おなかに納めたら、きっとわたし、おなかいっぱいになれる気がするの!

「なんて夢を見ているのかな、今頃」
 張り付いた空虚な笑みのまま、仰臥して唇をわななかせる少女達を、イサカは見下ろした。
 その手には血の滴る折り畳みナイフ。奇しくも彼はそれを『食慾』と呼ぶ。
 ――何が起きたのか。単純だ。挑発して、刺した。ただそれだけだ。愛しむ様に伸ばされる少女らの腕を脚を爪を牙を、素気なく躱してその胸にナイフを突き立てただけ。
 また二体、イサカに襲いかかる。即座に切れ味の落ちた右手のナイフを投擲して一体の額を射貫いた。左手をくるりと閃かせれば新しいナイフの刃がバチンと起きる。揺らめくように踏み込んだ。頭狙いの打ち下ろしを揺らめくように回避、延髄に刃を打ち込んで刺殺。
 ずるりとナイフを引き抜いた。
 殺しは得意だ。痛みを感じさせずに、末期の夢を見せ、黄泉路に送る。
「僕のこと、食べれた未来を君らにあげる。おなかいっぱいの夢を見て、どうぞ幸せの旅路を」
 痙攣する少女らを見下ろして、イサカは言った。
 唇に引っかけた笑みは、或いは少女らのそれよりも酷薄であった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ルイーネ・フェアドラク
救いという言葉の孕む傲慢さを、私は好みません
殺人は殺人だ
けれど――これを『生きている』とは、呼べない
呼びたくはない
この子たちの精神は、魂は、既に殺されているのでしょう

解放した触手たちを、防御と攻撃に使い分け
この状態でも、急所が急所たり得るかはわかりませんが
頭部、あるいは心臓をできるだけ狙います
幸いにも、外道共の血でエネルギーは十分だ

この脚では届かぬ高所も、飛び越えれぬ壁も、
遥かに発達した筋肉を備える触手を使い、駈け抜け

無駄なことは考えるな
考える間があれば、一体でも多く、一秒でも早く
すべてを破壊する

外道の核たるオブリビオンの元へ
逃してなるものですか



●死は救いか、という命題について
「――まるで葬列だ」
 ルイーネ・フェアドラク(糺の獣・f01038)は怜悧な双眸をすいと細め、うごめき押し寄せる少女らを見詰めた。
 救う。
 傲慢な言葉だ、と思う。生きている人間を助けるならば分かる。だが、動かなくすることで――破壊することで少女達を『救う』とは、称したくなかった。殺しは殺しだ。それに救うという綺麗な言葉を被せて正当化しようとは思えなかった。 然りとて、彼女らは待ってはくれぬ。もう、到底『生きている』と言うには及ばぬ、ただ動いているだけの骸の群れ。条件反射のように空腹を訴え、死んだ目にぺらぺらの空虚な笑みを貼り付けて、屍肉を求めて歩む亡者達。
 ――ああ、彼女らの精神は、魂は、疾うに殺されてしまった。
 救うなどとは言うまい。ルイーネは刻印に命じ、再び触手を開放する。納屋で喰らった吸血鬼達の血液のおかげで、エネルギー残量は充分。
 ルイーネは低く構えると、右手に『GB-10』を抜き、迫る少女らへと駆けた。
「あそぼぉ、」
「あそ、ぼっ」
 口々に、辿々しい声が紡がれる。ルイーネの顔に、苦悶に似た表情が過ぎるが、それも一瞬だ。無駄な事を考えてはならない。躊躇ってはならない。
 今はただ、一体でも多く、一秒でも早く、全てを破壊するのみ。
 少女らが自らの肉を千切り、投げ放つ。腐臭と強烈な呪詛を纏うそれを、ルイーネは横っ飛びに回避。追って弾幕めいて降り注ぐ肉塊を、避けきれぬものは触手を用いて弾く。呪詛に蝕まれ腐れ落ちる触手を即座に再生。
 ルイーネは返礼とばかりGB-10を連射。次々に着弾するなり、少女らががくんと膝をつく。
「うううァぅう」
「おもぉ、いい」
 重力の精霊を宿した銃弾は、命中した対象を超重力でその場に縛り付ける。動きを止めた少女ら目掛け、ルイーネは触手を槍のごとく繰り出した。眉間を貫き、或いは鞭の如く撓らせ首を刎ね。狙うは常に、急所を一撃。
「ごはん、ごはんんん……!!」
 めきゃ、と音がして一人の少女の口が裂け、人の頭すら飲めるほどに開口する。ましらのごとく襲いかかる少女の大口に二本の触手を叩き込み、首後ろへ貫通させた。即死。痙攣する少女の身体を、触手の圧倒的な膂力により振り回し、他の個体に叩き付けて粉砕する。
「ううぅぅうう――」
 ルイーネは弾かれた様に上を見た。呻き声が上から聞こえたのだ。果たして、一際巨大な檻棺に上って、数体が肉塊を投擲してくる。迫り出した檻棺の全高は目測で二〇メートル超。助走なしでは跳びがたい高度に思える。
 ルイーネは肉塊を触手とGB-10によって撃ち落としながら――後退するのではなく、前進した。触手を地に打ち込み収縮、身を引き寄せるように高速で駆ける。
 その要領で檻棺の壁面に触手を掛け、ルイーネは地面を蹴った。壁を蹴る脚は方向転換にのみ用い、メインの推力を触手により稼ぐ。アンカーワイヤーを用いた高速機動を思わせる動きでルイーネは檻棺の壁を蹴り登り、頂点に至ろうかというところで触手の力を一際強めた。
 大跳躍。檻棺の頂点でぼうと呆けたようにこちらを見仰ぐ少女らに、ルイーネがかける言葉は最早ない。
 ただ願う事があるとすれば。
 死んだ彼女らが、来世は正しく生きられればいい。
 腕を振り下ろす。まるでレーザーが伸びるように、ルイーネの触手が次々と伸び、少女らの頭蓋を、首を、心臓を破壊して地へと叩き落とした。落ちる過程で風化するようにボロボロと崩れ、少女らだったものは風に吹かれて朽ち消えた。
 檻棺の頂点に着地するなり、男は跳ねるように身を躍らせる。
「――逃がしてなるものですか」
 彼女らを造った外道共は殺した。しかし、元凶は未だ潰えぬ。吸血猟鬼に至るまで、ルイーネが足を止めることはない。

成功 🔵​🔵​🔴​

皐月・灯
ユア(f00261)と

……解ってるよ。お前らの声は、ちゃんと聞こえてる。
だからもう泣くな。今、みんな眠らせてやるから。

ユア。
手加減すんなよ。
善人気取るつもりはねーが……長引かせるのは、酷だ。

【全力魔法】を発動するぞ。
【地形の利用】で、棺檻を足場代わりに使い移動し続ける。
狙いが定まらねー攻撃は【見切り】易いし、
同じ場所に留まらなきゃ呪いの影響も最小限で済むだろ。
……影響あったところで関係ねーし、【見切り】が要るのはユアの攻撃かもしれねーけどな。

オレは《猛ル一角》で、確実に息の根を止めに行く。
……もう十分だろ。頭、心臓を狙って、一撃で終わらせてやる。



――おやすみ。


ユア・アラマート
灯(f00069)と

ああ、…可哀想に
辛いだろうな。してやれることは多くないが、できるだけ痛くはしない

分かってるよ灯。さあ、おやすみを言ってまわろう

灯について【ダッシュ】で戦場を駆け、攻撃は【見切り】で当たらないように素早く移動
じっとしていれば数がいる分被弾の可能性があるし、常に止まらず灯の背をカバーしながら戦っていこう

灯が一体一体を相手にする間、私は対多数で立ち回るよ
【全力魔法】で強化を施しダガーに仕込んだ斬撃の概念を開放。周囲にいる子供たちを一気に掃討
力も狙いも回数も、すまないけれど私の方が上だよ
できるだけ心臓か頭を狙って、一撃で全て終わらせるように
子守唄にしては物騒だけれど、我慢しておくれ



●さよならの代わりに、剣/拳舞を
 視界全てを埋め尽くすような、壊れてしまった少女の群が来る。常人ならば狂を発しても何ら不思議ではない状況下で、二つの影が闇を縫い、彼女らへ対するべく駆けた。
 聖堂に続いてツーマンセルを張るのは、皐月・灯(喪失のヴァナルガンド・f00069)とユア・アラマート(ブルームケージ・f00261)である。
「ああ――可哀想に。辛いだろうな。してやれることは多くないが、できるだけ痛くはしない」
 悼むように呟くのはユアだ。罪もない少女らの成れの果てがこれか。救いのない世界であることは知っている。しかし、これでは余りに報われない。
 疾る二人に向かい来る少女らは、最早数えるのが億劫になるほどの数だ。目から口から、だらだらと、血液混じりの涙と涎を垂れ流して、迫る。
「ごはん……、」
「おかあ……さん、」
「ごはんん……」
「あそぼぉ……よぅ……」
「ねぇ……」
 ざわめくような少女らの、意味を成さない呟きの中に、たった一つ。人間性の残滓のように肉親を呼ぶ言葉を聞いた灯が、きつく目を閉じる。ほんの一瞬だけだ。
「……解ってるよ。お前らの声は、ちゃんと聞こえてる」
 決然と見開かれる双眸。悲しみも痛む心も、今は脇に措く。
「だからもう泣くな。今、みんな眠らせてやるから」
 両拳に白光を宿し、ただ、前を睨む。灯が憎むのは成れの果ての少女たちではない。彼女らを作り出した巨悪だ。
「ユア」
「なんだい」
「手加減すんなよ。善人気取るつもりはねーが……長引かせるのは、酷だ」
「分かってるよ、灯」
 ユアは灯のぶっきらぼうな言葉から優しさを嗅ぎ取った風に目を細めると、ライムグリーンの瞳を少女らの群れに向けた。
「さあ、おやすみを言ってまわろう」
      ゆめ
 悪夢めいた現実に、さよならを。

 二人は互いの背を守り、一陣の疾風となって駆けた。ユアはダガーを用いて少女らの攻撃を斬り払い、刃の届くものがいれば首を掻き切って殺していく。
 その隣で、灯の両拳の光が高まる。彼は『魔術拳士』。魔術を体術に乗せて放つのが灯の得手だ。
「はッ……!!」
 灯は道を切り開くように、目の前に現れる少女の胴に輝く拳を叩き込む。心臓、一撃で破壊。叩き込まれた打撃と同時に爆ぜる光が少女の身体を貫き、背中に抜けた爆光が咲く。塵に還る少女の身体を掻き分けるように踏み出し、灯は尚も前進した。続いた三体の頭部を、拳の三連打で釣瓶打ち。命中から一瞬遅れて、炸裂する光が少女らの頭部を吹き飛ばす。
 ユアも、灯も、無用な苦しみは与えたくなかった。殺すならばせめて一撃でと考えているのが、挙動から見て取れる動きだ。
 二人は一瞬たりとて止まらない。止まったが最後、敵勢に呑まれて食い殺されるだろう。それに、少女らの腐肉が落ちた場所は呪詛に包まれる。刻一刻と呪いが少女らの力を増す以上、常に呪いに汚染されていない場所を走り、ひたすら数を減らすのが最善であろうと二人は考えたのだ。
「――ユア! デカいのが来るぞ!」
 灯が警告するように言った。ずしん、と辺りを揺るがす足音。林立する中でも一際巨大な檻棺から、何かが降り立った。
 ――少女達の中には、外なる神に格別に適合したのか、全身が肥大し巨大化したものがいる。
 踏み出すその体高、七メートル。阿修羅のごとく背より生えた複椀、原形を留めぬほど醜く膨れ上がった面差し。おおおお、おぉぉおおぉ、咽び地を震わすような低く重い声。
「見えてる。――灯、私が雑魚を散らす。アレを任せてもいいか?」
「ああ――来るぜ!」
 軽やかな応酬を余所に、巨大な少女――否、或いは『外なる神』そのものか――が、腕をめきめきと剣めいて変形させ、跳躍した。
 型も何もない、重量に任せた振り下ろしの一撃。ユアと灯は全く同時に左右に飛び分かれ、落雷めいた一打を回避。
 空中でユアは魔術回路――月下美人の形を取る刺青に嫋やかな指を這わせる。
 それは見ようによっては蠱惑的な所作であったが、実のところ、詠唱の代理行為である。大量の魔力を魔術回路に流し込み、ダガーに発現した術式を纏わせた。
 着地するなり、全方位からユア目掛け殺到する失敗作の少女ら。
「恨んでくれて構わない。子守歌にしては少しばかり物騒だからね」
 ユアはほんの少しだけ感傷を乗せて呟いた。翻したダガーが纏うのは、『斬撃』の概念。
 神象術式回路二・三・四番連立、透過式、驟閃式、並列起動。
 ユアのダガーが怜悧な青白い光に包まれ、甲高い金属音を立てて嘶いた。身体を捲くように身を捻った女は、刃そのものの声で唸る。
    ザンゲキカイロウ
「軋れ、 斬 撃 廻 廊」
 全力の一閃。振り抜かれたダガーが嵐を生む。
 ユアを中心とした半径四〇メートル弱の同心円範囲に、青い無数の『斬撃』が奔った。
 襲いかかった少女らの首と胴を、それどころか雨後の筍めいて突き出た檻棺をも、まるで糸で卵を切るように断ち分かつ。装甲を擦り抜けるための『透過式』、斬撃の概念を現出する『驟閃式』、これらをユアの魔力を以て結びつけ、彼女自身の体術に載せて放つ絶技。
 結果生まれるは絶命必至、一切鏖殺の荒刃空域。透過驟閃・『斬撃廻廊』……!
「力も狙いも回数も、すまないけれど私の方が上だよ。――迷わずお逝き」
 ユアが嘯く。尚も彼女がダガーを振るえば、虚空に曳いた斬撃がまたも数体の少女の首を刎ねる。崩れ落ちる檻棺、そして少女達。骸が塵となって舞う。
 灯はバック転を三度打ち、天才的な見切りで無差別に襲う斬撃廻廊を掻い潜りながら、巨大な『外なる神』を睨み据える。
 斬撃廻廊の驟閃に傷を刻まれながらも、外なる神は動き続ける。いかなユアの絶技とはいえ、あの巨体を一撃で裂くのは至難。
 ――だからこその自分で、だからこその幻釈顕理だ。
「もう充分だろ。――オレが、終わらせてやる」
 着地するなり、溜めるように膝を撓め、狙いを定める。イメージは槍。一直線に突き進み、全てを貫いて破壊するもの。
 それは幻釈顕理『アザレア・プロトコル』、第一番。始まりの幻想にして無双の尖角。 溜めた全ての力を、灯は叫びと共に解き放つ。

  ユニコーンドライブ   フルゲイン
「≪ 猛 ル 一 角 ≫――出力全開ッ!!!!」

 踏んだ地面が弾け飛び、灯は一歩ごとに加速。斬撃廻廊を流星の如く駆け抜ける。外なる神はそれを斬ろうとした。刃となった奇腕を持ち上げ、捕らえようとした。
 ――しかして。流星とは比喩でなく。掴めぬからこそそう称すのだ。
 激突。地から生えた檻棺さえ揺るがすような大音が鳴った。
 灯の身体は速力のままに敵を、七メートルの『外なる神』となった少女の胴を突き抜けた。制動。地面を削り跳ばして止まり、ゆっくりと前傾姿勢より復位する。
「――おやすみ」
 かそけき声は届いたろうか。
 灯の背中で、注ぎ込まれた術式が炸裂。外なる神は光の柱の如く迸る白光に呑まれ、散り果てた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クロト・ラトキエ

トリニティ・エンハンスで風の魔力を纏い、鋼糸で棺檻を渡って。

仕留め切れねば神を喚ぶ、されど頑健…
鋼糸を絡め障害物に固定し引けば、硬くとも同じ。
だがこの数相手には聊か向かず。
ならば、眉間、心臓、外つ神…拓けた頭上から短弓やナイフで一射必倒?
此方は数の限りがネック。
では後は、長引く覚悟で何時も通り?

…答えは、否。

いたみを置いていける己は、
お世辞にも褒められた質じゃ無い自覚はある。
けれど『一息で』
択んだのは、私。
故に。意地など今ばかりは捨てましょう。

開封――黒刃『Neu Mond』
高所からと風での加速、回転による遠心力、全て威力に、
振るっては糸巻き、繰り返し。
奪われ踏み躙られ続けるその命脈を…絶つ



●黒刃、開帳
 びょう、と黒い風が吹いた。
 ――否、吹き抜ける風のごとくに、一人の男が奔った。
 外套を翻し、林立する檻棺から檻棺を、まるで翼持つかのように跳び走るのはクロト・ラトキエ(TTX・f00472)である。ユーベルコード『トリニティ・エンハンス』を用い、その身体に風の魔力を纏って飛翔する。鋼糸を伸ばし、先端のアンカーで次の檻棺を捉えては巻き上げ、高速での移動。
 眼下を見れば、亡者が列を成し歩く。クロトにはまだ気付いていない。
 襲撃の機を前に、クロトは敵の能力と己の手札を確認する。
 敵の肉体は頑健。瀕死となれば外なる神が呼び出される。己の肉を千切り投げ、周囲を汚染する呪詛をばらまく他、埋め込まれた外なる神の部位で攻撃してくるという。そして、最大の強みはその数だ。猟兵達に比べ、圧倒的に多勢である。
 それを相手に何が出来るか。
 ――鋼糸による轢断。対多数にはマッチしない。いかにクロトの操糸術をしても、十数体をまとめて絡め取り、即座に轢断するのは困難だ。
 ――急所に対する狙撃。残弾数の問題がある。籠手に仕込んだ短矢射出機にしろ、スローイングナイフにしろ、撃ち尽くしてしまえばそれまで。
 これまでに採ってきた戦法で相手をすれば、いずれ手札が尽きるだろう。或いは長引き、要らぬ消耗を呼ぶやも知れぬ。それでいいのか。
 ――答えは、否だ。
 クロトは、かつて駆け抜けたサムライエンパイアの一夜を思い出す。
 魍魎征伐、八束百鬼夜行。
 あの刃鳴り散らす様なよるにさえ、抜かなんだ刃が懐にある。
 ああ、いたみを――痛みを、傷みを、悼みを――『全て後で』と置いていける精神構造など、碌でもないと分かっている。けれど、クロトはそうして生きてきた。戦場とはそれほどまでに過酷だった。
 此度も選ぶ。『一息で断て』と言うのならば、今ばかりは抜かぬと言う意地すら捨てよう。クロトは己に禁を課すように封じていた刃を取り出した。
「開封――『Neu Mond』」
 そのコートの内側のどこに収まっていたのか。漆黒の長剣であった。独自の変形機構に依り、隠密な携帯を可能とする剣。クロトが封じた剣。
 クロトは夜風に紛れ、剣を構えたまま墜ちた。風の魔力を帯びたその身は重力に手伝われ、彗星めいて翔け――
 一閃。両断。一撃必殺。
 一人の少女が左右に裂けて即死。突如墜ち来た襲撃者を周囲の少女らが首を巡らせ捉えようとするが、しかし視線が集まったときにはクロトの姿は既にそこにない。
 ぱ、ぱぱぱんっ、
 刃が腐肉を打つ濡れた音。身を捲きながらのショートダッシュから、遠心力を載せた斬撃四合。首が四つ飛ぶ。腐った血が悪臭と共に飛沫くが、風を纏う男にそれが届くことはない。
「ううぅぅ、う」
 不快げな唸りを上げながら、一人の少女が外つ神の腕を振るおうとする。クロトは間髪入れずに左手を跳ね上げた。
 ギシッ、と、少女の動きが停止する。
「う……?」
 伸ばした鋼糸が巻き付き、腕の動きを妨げたのだ。生まれた一瞬の隙を盗むようにクロトは突進、黒刃を突き出しその頸を貫く。口から血を溢れさせる少女を蹴り離し、反射するように次の敵へ疾る。クロトの動きは当に黒き旋風だ。
「ああああぁぁぁあぅ」
「あそぼ、おぉおぉぉぉぉ」
 怒濤のように押し寄せる敵。瞬く間に包囲され、逃げ場が失われかけるなり、クロトは僅かな間隙を縫って檻棺へ鋼糸を伸ばす。アンカーで突起を捕らえ、ロック。
 即座に巻き上げながら駆ける。その速度、圧倒的。身を切らんばかりの飄風纏い、加速しながら進路上の少女らを一人一閃、鎧袖一触に蹴散らして包囲を抜ける!
 ほぼ低空を飛ぶように駆け抜け、身体を捻って檻棺の側面に着地。クロトは尚も群れ、彼を向き直る少女たちを真っ直ぐに見据える。
「――最後にしましょう。僕が奪うのが最後です。オブリビオンに奪われ踏み躙られ続けてきた、貴方達の、命脈を――ここで、絶つ」
 死は救いか。分からない。
 けれど、終わらせなければならないことだけは確かだ。

 クロトは再び黒風となる。
 終わりを齎す、闇の風に。

成功 🔵​🔵​🔴​

アルトリウス・セレスタイト


戻らぬものならば仕方あるまい

破天で掃討

魔力を溜めて体内に魔弾を生成・装填
過剰に魔力を注ぎ込んだ魔弾で肉体を満たし、自身を死の魔弾と化す

高速詠唱と2回攻撃の技法を応用して装填を継続しつつ、向けられる全てを死の原理で殺し続け、痺れを切らして群がって来るまで継続

十分釣れたら魔弾を周囲全方向へ解放
瀕死で留まらず完全に消滅するよう全力で魔力を注ぎ、地下に何かあっても消し飛ぶよう下方も隈無く
万が一にも死に残らぬように、即座の再装填と解放を繰り返し殺し切る

万能と自負はするが全能には程遠い
救えぬとあれば割り切って始末

彼女らが真っ当に幸福であれなかったことは残念に思う
それを為した者への嫌悪も否定はできない



●デス・リアライザー
「戻らぬものならば仕方あるまい」
 少年は言った。無感情に、無感動に。
 どうしようもないことだ。彼は万能だった。あらゆる事を『原理』を操り実現する彼は、そのユーベルコードによってあらゆる事を可能とした。
 ――ただ、その『原理』でさえも届かぬ場所がある。少女達がいるのはそこだ。或いは『原理』の魔力を十全に扱ったならば、死者すら息を吹き返すやも知れぬ。しかし、少女らは――
 縊られ、
  刺され、
   斬られ、
  挽かれ、
   潰され、
  轢かれ、
   摺られ、
 殴られ、
   捻られ、
    毟られ――
 ばらばらになったところを継ぎ接ぎにされて、人と違うもののと混ぜ合わされた。
 どうしようもないほどに、壊されてしまったのだ。
 少年は、アルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)は、それを理解していた。己に何が出来て、何が出来ないかも知っていた。彼は万能だが、全能ではない。
 故の淡々とした割り切り。彼を取り巻く原理の蒼き光が瞬く。少年は駆け、手近な一団に攻撃を仕掛けた。
 高速詠唱。身の内に死の魔弾『破天』を装填する。破天は本来『死の原理』を練り固め、存在の根源を破壊する魔弾の群れとして現出する。それを、体内に装填するとはどういうことか。
 アルトリウスの両手が、死を告げるように蒼く煌めいた。
「ううぅうぅぅ」
「おに、ぃちゃん、あそぼ、ぉ」
「ごは、んん……」
 アルトリウスを認め、襲い来る少女らに、しかして彼は眉一つも動かすことなく真っ直ぐに突っ込んだ。
 空を裂いて振り下ろされるのは、先頭の少女の背から伸びた『外なる神』の腕。関節可動範囲、そもそも関節の数さえ自在か。鞭のように撓る強烈な打撃を、アルトリウスはしかし、徒手空拳の手刀で迎え撃った。
 結果は明らかに見えた。人の細腕と異界の神の腕。勝敗は自明だろう。
 ――その細腕が、アルトリウスのものでなかったのなら。
「脆いな」
 外神の腕が、切断されてくるくると宙を飛び、重い音を立てて落ちた。
「え、?」
 全力の一撃を空かされたかのように蹈鞴を踏む少女の頸を、アルトリウスは撫でるように手刀で薙いだ。頸が飛ぶ。
 ――破天を身体に篭めたアルトリウスの肉体は、それそのものが死の魔弾。手刀を作ればそれ即ち死の刃である。アルトリウスは音韻詠唱を多重並列、圧縮術式言語にて破天の詠唱を継続。生成した魔弾の全てを尚も己が身に装填しながら前進した。
 突き出した貫手が、続く少女の顔面をまるで石榴をそうするように容易く貫いた。痙攣する骸を振り捨て、飛びかかってきた次の個体の胸に掌底を叩き込む。蒼く輝く掌が少女の身体にめり込み、心臓を破壊して突き抜けた。
 ――うううぅぅう、ううう……。
 複数の少女の声が重なり、まるでサイレンのように響いた。
 術者とは思えぬ身のこなしで格闘戦をこなすアルトリウスを察知した少女らが、数体で殺せないならばと群れて押し寄せる。
 それが、アルトリウスの狙いであるとも知らず。
「お前達が、真っ当に幸福であれなかったことは残念に思う」
 アルトリウスは足下で魔力を爆ぜさせ、跳ねるように踏み込んだ。群れの先頭数体を手刀と拳で駆逐しつつ、襲い来た一団の中へ、攻撃を回避しながら浸透――
 男は、無感情に続けた。
「しかし、ここが行き止まりだ。――この先はない」
 蒼き光が炸裂した。死の原理を載せた魔弾が、アルトリウスを中心とした球状範囲に一斉射出されたのだ。発射、と言うには密度が高すぎた。それは最早放射に近い。太陽が光をそうするように、アルトリウスは死を全方位にばらまく。地面も、周囲の地形も、檻棺も、建物も、全てが平等に死んでいく。
 巻き込まれた少女らも当然例外ではない。少女らは声もなく削れ、その身体から外神の部品を解放する間もなく死の弾幕に呑み込まれた。射撃と再装填を高サイクルで繰り返すアルトリウスは、光の嵐の内側で目を細める。
 ――これが、嫌悪か。
 葬った少女らの末路を、それを導いた敵の首魁を。胸の内側で反芻しながら、アルトリウスは破天の嵐を納め、自らが生み出した巨大なクレーターから一歩を踏み出した。
「待っていろ。応報してやる」
 消えた少女らにか。或いは吸血猟鬼にか。
 アルトリウスは呟き、未だ健在の別の群れ目掛け走り出した。

成功 🔵​🔵​🔴​

リュシカ・シュテーイン
魂がその身体に宿っているのであればぁ、ここで断ち切りぃ、次の生へと導かねば彼らが旅立てませんぅ
故郷に残してきた幼馴染達と約束したぁ、教師となる身としてもぉ、ここで迷う訳には行きませんぅ!
──ラミィぃ、エリンぅ、私に勇気をお貸しくださいぃ!

半端な火力ではぁ、彼らを苦しめるだけになってしまいますぅ
……小粒ですがぁ、ルビーを使いますぅ
高出力な火の魔力を籠めぇ、太陽のように範囲数mをも焼き焦がす一撃をぉ、味方にあたらぬようにぃ、スリングよる【スナイパー】で射出しますぅ

……太陽のように暖かでぇ、聖なる日差しではありませんぅ
だけどせめてぇ、彼らが光に導かれ次の生を迎えられるようぅ、ただ私は祈るんですよぉ



●浄炎
 リュシカ・シュテーイン(StoneWitch・f00717)には、密やかに秘めた夢がある。夢、というよりはそれは約束か。
 今でこそUDCアースの片隅で法石商として赤貧の日々を送っているが――かつて故郷に残してきた幼馴染達との約束は、今も彼女の心に確かに残っている。
 教師になりたい。子供達を教え諭し、間違いを正し、次なる世代を育てるものに。
「──ラミィぃ、エリンぅ、私に勇気をお貸しくださいぃ!」
 幼馴染の名を祈るように呟き、リュシカは一粒のルビーを取り出した。
 ルビーは勇気の象徴にして、血液・精神の浄化を意味する石でもある。リュシカの心を奮わせ、少女達の業を濯ぐ石としては当に誂えた様な宝石であった。
 リュシカは指先ほどのルビーを強く強く握りしめる。魔力を帯びやすいように特殊なカットを施されたルビーは、容易くリュシカの魔力を受け入れて煌めいた。瞬く間に彼女の手の内側で焔を発し、紅蓮に煌めく紅玉。
 その光と熱は誘蛾灯めいて、死した少女らを引き寄せた。細波のように寄せる声。
 ――おねえちゃん……
 ――あそぼう、?
 ――ねえ――
 ――おなか、すいたよう。
 爛れた死者の声帯から、ざらざらと零れる声が、リュシカの耳を鑢にかけるように撫でる。
 しかしリュシカは一粒のルビーに、魔力を篭めることを止めようとしない。
 リュシカは遠目に、駆け来る少女らを視認。あの身に未だ魂が宿っているのであれば、此処で断ち切らねばならない。いつまでも腐った肉の檻に牢獄めいて繋がれ、来世へ向かうことも出来ないとしたなら。
 ここで、次の生へと導かねばならない。それすら出来ずに教鞭を執るなどとは言えない。生徒らの、子供達の、進むべき道を照らしてこそ真の教師であろう!
 リュシカは決して気の強い性格ではなかったが、それでも凛然と前を見た。
 あの数を一撃で、跡形無く導くとするならば、爆破の法石では火力が足りない。そう思うが故のルビー。炎の象徴。法石商としての彼女に言わせるなら、あまり積極的には使いたくない値の張る代物。
 しかし惜しまない。半端な火力で少女らを苦しめるくらいならば、せめて一瞬。せめて一射にて葬る。迷いはなかった。
 リュシカは口の中で呪文を転がし、魔力を練り上げる。真面に見れば目を灼かれてしまいそうなほどに輝く法石をジャイアントスリングに番え、照準。
 走り来る少女たち。その中央。イメージされる爆炎の法石の有効攻撃範囲を重ねて狙い澄ます。未だ足りない。ならば引き寄せる。相対距離が縮む。少女たちの声が耳を削るように刺す。唇を噛みしめる。血の涙が、走る少女らの頬を伝い落ち、弾ける雫が見えた。手が震えかける。しかしリュシカは眦を決した。
「おやすみなさい」
 右手をリリース、

 ――夜闇に、炎龍が翔ける。

 爆破の法石が着弾した周囲を吹き飛ばすグレネードだとするなら、今放たれたのはビーム砲。放たれた瞬間に白光と熱で、軌道上の全てを灼き尽くす光学兵器。放たれたルビーは周囲の空気を喰い、炎の龍の如く膨れ上がり、空気を軋ませて直進した。
 その脅威の一矢をして、『爆炎の法石』と字する。リュシカが放った圧倒的な炎の奔流が、駆け来る少女らの列を、塵さえ残さず呑み込んで焼尽す。
「……太陽のように暖かでぇ、聖なる日差しではありませんぅ。――だけどせめてぇ、」
 光炎行き過ぎれば、その一帯に動くものはリュシカしかなく。
「せめて……光に導かれぇ、次の生を迎えられますようにぃ」
 祈りが静かに宙を揺らした。リュシカは顔を隠すようにフードを引く。
 その下でどんな表情を浮かべたか。彼女だけが知っている。

成功 🔵​🔵​🔴​

ネロ・ケネディ
なんてことを――な ん て こ と を !
……っ、いけない、冷静にならないと
【無音の魔弾】で早々に葬送(おく)ってあげたいけれど
……射線に気をつけないといけないみたいですね
集中、集中しないと
手元が狂って跳弾なんかで誰かを傷つけたら、洒落にならない
――怒りばかりでは、誰も救えないのでしたっけ
落ち着いて、落ち着いて放ちましょう
燃え滾る母様の怨嗟は、この子たちに向けられたものではない
この子たちを弄んだ吸血猟鬼へのものだから、恐れない
むかってくるというのなら、こちらも行きます
零距離射撃というやつですね、射線も気にしなくていい
だけれど、怒りに満ちた顔では撃たない
――最期に見る顔は笑顔であってほしい、から



●銃口より哀を込めて
 ――継ぎ接ぎだらけの、青白い肌の少女達が、幽鬼のように歩み来る。一体、二体の騒ぎではない。地より飛び出た檻棺から、廃教会の敷地を埋め尽くさんばかりにわらわらと。
 成れの果ての少女らに猟兵らが思うことはそれぞれだったが、ネロ・ケネディ(半魔の蒼・f18291)は、唇を裂かんばかりに噛みしめて、呪うように呟く。
「なんてことを――なんて、ことを」
 怒りに震え、途切れ掠れる声。ともすれば我を忘れてしまいそうなほどの激情に、ネロは思わず首を振った。冷静にならなければならない。
 銃口から飛び出す怒りの焔は熱くとも、それを引く指先は限りなく冷たくあらねばならない。ましてや、狙ってやるならばともかく、そこかしこに飛び出た檻棺に不用意に跳弾させればその先にいる味方を傷つけぬとも限らない。
(集中――集中しないと。落ち着いて)
 怒りのままに引いた引き金が他の猟兵を傷つけるようなことがあってはならない。怒りは確かに原動力となる。何かを傷つけるエネルギーとなる。しかし、怒りだけでは何者をも救えない。
 燃える腹の奥を、冷えた頭で御すのだと、どこかで聞いた気がした。
 惨状に感じた烈気も、血で燃えたぎる母の怨嗟も、それを御す指先と切り離す。ネロは手から溢れさせた蒼焔を、二挺のリボルバー『Silver』に装填した。
「おねええ、ちゃんんん」
「あそ、ぼぉ」
 少女達が、屍蝋めいて白い面に作り物の笑みを貼り付けて迫る。ネロは、彼女の母は、少女達ではなく、彼女らをこうした吸血猟鬼を憎む。
 表情から怒りを、無理矢理に消す。これは彼女らに向ける怒りではない。
 少女らはきっと、生物学的にはとっくの昔に死んでいるだろう。死者が、人の形を保った死骸が、醜悪なる外法で人を模倣して動いているだけの話。
 それでもネロは、彼女たちを怒りの表情で見送りたくはなかった。最後に見る顔は笑顔であってほしいと祈った。
 ――笑え。笑え。
「ごめんね」
 ネロはほとんど泣き笑いめいて笑んだ。
 Silverの筒先を上げ、踏み出す。
 振り下ろされる外神の腕。左に一歩踊るように回避、少女の頭にSilverのマズルを突きつける。トリガー。蒼炎が銃口から迸り、少女の頭蓋を貫いて、その後頭部にかけてを運動エネルギーで吹き飛ばす。
 横殴りに振るわれる二体目の攻撃は身を屈めて回避。身を回しながら大鳥のように広げた両手の先に、二人の少女の胸。ブルー・ブラックのマズルファイアが迸る。心臓を破壊して突き抜ける怨嗟の焔。
 跳弾を気にかける必要のある檻棺の狭間で、ネロが取った策。それは、二丁の拳銃を用いたゼロ距離格闘射撃であった。
「ううううぅ、うううう!」
 背中から掻き抱くように組み付きにかかる少女の腕を、身を投げ出すような前宙で回避しながら発砲。少女の額を貫く呪焔。頽れる身体を背に、着地と同時に膝を撓め前方に駆けた。
 駄々っ子がそうするように振るわれる死者の腕、その爪をSilverのフレームで火花を散らしながら弾き受け流し、身体が泳いだところへもう一丁の銀を差し向けて撃った。心臓を穿たれ、沸いた腐血を吐きながらまた一つ、小さな身体が地面に倒れる。
 ほんの一瞬で、先頭集団が壊滅する。続く失敗作の少女らに、ネロは微笑みかける。それがどこまでうまくいったかなど、知ったことか。
 ――せめて最も近くで。私にできる最も優しい表情で。そして、私にできる最も苦痛の少ない方法で――

       おく
 あなた達を、葬送ろう。

 ネロは蒼炎の銀を構え直す。
 葬送のために、哀を込めて。

成功 🔵​🔵​🔴​

鳴宮・匡

◆ヴィクティム(f01172)と

らしくもなく派手に――無慈悲に暴れるもんだ
……ったく、そういうのはお前の役目じゃないだろ

まあいい、やれるかヴィクティム?
問題ないなら行くこうぜ
まずは――状況をクリアしないとな
あいつへの説教は、その後だ

こちらは遮蔽を盾に敵の攻撃をいなす
なるべく接近はされたくないからな

狙撃は相手の動きを視ながら
射線の通るタイミングを見計らうよ
咄嗟に隠れられても――「当てて」くれるんだろ
ならこっちは気にせず撃つぜ

あいつと違って俺には慈悲なんてない
目の前に立つなら殺すだけだ
――俺には、それしかできないから

なあ、――
いつか言ったように、これが「救い」になるなんて
俺には、まだ、思えないよ


ヴィクティム・ウィンターミュート

【鳴宮・匡】と

ったく…あのバカ
行くなら行くで声かけろってのに
何を一人で背負ってんだあの熱血は…

オーライ、チューマ
説教の前にまずはフューミゲイションといこう
──この惨状は俺もムカツクからな
上位者気取りのフリークスどもが
テメェらの玩具箱は焼却処分だぜ

UC起動
反射板展開
投げられた肉は跳ね返して対処
匡の銃弾が躱される、あるいは遮蔽に邪魔されるのなら
【早業】で素早く反射板を操作
銃弾を反射、反射、反射
反射で変わった軌道で予想外の方向から銃弾で【騙し討ち】
射線の確保?必要ないね
俺のUCでオブジェクトを追加、環境修正、更新された【地形の利用】をかましゃいい

──安らかに眠れよ
ナイティ・ナイト(お眠り、坊や)



●2/3
 ネグル・ギュネスという男のことを知っている。
 優しい男だ。彼ら、チーム・アサルトのタンク・前衛担当にして、芯に熱い心を秘めた青年。彼は今当に、戦場を駆け抜けていた。太刀を右手に、脇指を左手に。剣舞うごとく疾るその頬に表情はなく、ただ朱い涙の痕が伝っている。
 それが見えた。見えてしまう。
 ――目がいいってのも考え物だ。
「らしくもなく派手に――無慈悲に暴れるもんだな」
 鳴宮・匡(凪の海・f01612)が呟いた。チーム・アサルト、中~長距離火力戦闘担当。かつて戦場において、無慈悲で悪辣なやり口で、対した敵手の悉くを撃滅してきた戦場傭兵。彼我損害比が合わぬとみれば、味方すら平気な顔で切り捨てる、その際ですら余りに動かぬその表情に、付いた異名は『凪の海』。
「『そういうの』は、俺たちの仕事だろ」
 お前の仕事じゃないだろう、と匡は言う。――或いはネグルはチーム・アサルトのうちでもっともこの世に希望を持った男かも知れない。諦めきれていないから。絶望しきっていないから。だからこそ、ああして激情を秘めて荒れ狂うのかも知れない。
「まったくだよ……あのバカ。行くなら行くで声かけろってのに。何を一人で背負い込んでんだあの熱血は」
 匡に同意するトーンで応えるのはヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)。チーム・アサルト、支援・妨害・工作・電子戦担当。バフ・デバフから白兵戦もこなすマルチプレイヤーにして、チーム・アサルトの頭脳である。
 ヴィクティムの呆れ声に混じる一抹の寂しさに目を細めながら、匡はアサルトライフルの初弾をチェンバーに送り込む。
「まあいいさ、説教は後だ。やれるか? ヴィクティム」
「野暮なこと聞くなよ、チューマ。やろうぜ、フューミゲイションだ」
 阿吽の呼吸だ。ヴィクティムは状況から最も必要とされるであろうプログラムを選択。取らんしす・アヴァロンをアクティブに、片膝を土に付けるようにしゃがみ、左手で地に触れる。
「Create Program "Reflect", activate.──この惨状は俺もムカツクからな――上位者気取りのフリークスに教えてやろうぜ。今日を限りに、テメェの玩具箱は焼却処分だってな」
 ヴィクティムが実行したプログラムは、『Reflect』――その名の通り、周囲の無機物より反射防壁を作り出すもの。
 自発的な攻撃には向かないプログラムだ。
 ――横に、鳴宮・匡がいないのならば。
「了解」
 匡はアサルトライフルのストックに頬を当て、立射姿勢を取る。
 筒先は、押し寄せてくる敵勢へ向けて。
      クリア
「行こうぜ。制 圧を始めよう」

 アサルトライフルの銃口から、地獄に咲く花めいたマズルファイアが迸る。ユーベルコード『千篇万禍』を用いた、匡得意のフルオート狙撃だ。銃声二発で一体を倒していく。心臓と頭を確実に破壊し、瀕死に留めさせない配慮を加える。
 ネグル
「あいつと違って俺は優しくないぜ。目の前に立つなら殺すだけだ」
 呟きながら、匡は銃を連射する。――彼にはそれしかなかった。もうずっと、そう割り切って生きてきたから。
 倒れ伏していく少女らを余所に、生き残りが押し寄せる。いかに匡の弾幕が苛烈であっても敵の数もまた多い。また、林立する檻棺に障害物に隠れて射線が通らないケースもある。一切鏖殺とはいかない。
 少女達は匡とヴィクティムめがけ、己の肉を引き千切り、呪詛の爆弾として投擲してくる。
 ヴィクティムが応じて片手を上げた。『Reflect』は一枚二枚ではない。その数無数にして自在。展開された反射障壁が群れ成し、少女らから雨霰と投擲される肉塊を反射、彼女ら自身に呪詛を叩き返す。
 少女ら自体が元々呪詛でできているようなものだ。肉塊の衝撃以上のダメージはないものの、ヒットストップにより進行速度が僅かに鈍る。
 その機を逃さず、ヴィクティムが吼えた。
「匡! フォローは任せろ、ブッ放せ!」
「行儀良く撃たなくていいってか。ありがたくって涙が出るぜ」
 匡はマガジンをリリース。ロングマガジンをライフルに叩き込むと、『Reflect』により構築された防壁の影から半身を出し、セレクターをフルオートに合わせたままトリガーを引いた。跳弾を一切考慮せずに放たれた弾幕。檻棺や障害物に当たるであろうコースのものも当然出るが――
 ヴィクティムのバイザーに無数の演算結果がPOP。少年は戦場の指揮者めいて手を躍らせる。その動きに従って『Reflect』が複数、高速で機動した。
「射線の確保なんて必要ねぇさ。匡と俺ならな」
 カウボーイは笑う。地形を考慮した射撃? それを射手に強いないのがリアル・ハッカーの仕事だ。
 当に早業。反射障壁が火花を散らし、外れるはずだったはずの銃弾の軌道をねじ曲げる。少女らの正面から放たれたはずの銃弾が、横から、後ろから跳ね、まるで檻の如く敵を囲む。匡の射撃技術をヴィクティムがサポートすることで、ただ一挺の自動小銃が戦略兵器並みの制圧力を発揮する。
 それはヴィクティムと匡、ただその二人に依ってのみ実現される絶技。

 ミリオン・リコシェ
 千変万禍の跳弾結界。

 全くの予想外の角度から飛び来る銃弾に、為す術なく射貫かれた少女らの骸が折り重なる。
 次々と倒れ伏していく少女らを見ながら、匡は一言、銃声に紛れてしまいそうな声で呟いた。
「これが『救い』になるなんて、俺には、まだ、思えないよ」
 ――匡に撃てないものはない。
 けれど、救うのだけはいつまで経ったって不得意だ。彼は助けるための存在ではなく、命令に基づき敵を殺害する機構なのだから。
 銃声の狭間、匡の独言に、応えるようにヴィクティムが唱う。
「何が救いかなんて、分からねぇ。けど、これで、あいつらがもう以上――誰も傷つけないし、誰にも傷つけられねぇことだけは確かだ。そうだろ? チューマ」
「――ああ」
 ヴィクティムの言葉には虚飾も何もない。ただ、そこにはある側面での事実があった。
 それは或いは、ドライなストリートランナーなりの、精一杯の慰めだったのかもしれない。
 最後の一体の頭に銃弾が食い込む。倒れ伏すその姿にヴィクティムは目を細め、囁くように呟くのだった。

 ナイティ・ナイト
「お眠り、お嬢さん。――安らかに」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

三咲・織愛


ムルヘルベルくん(f09868)と

醜悪な吸血鬼による、被害者……ですね
こうなってしまっては、出来るだけ苦しめずに逝かせてあげるしか無いでしょうか

そんな余裕が持てるかは分からない、けれど
目を逸らさずにいたい
正面から向き合いましょう

後ろはお願いしますね。ムルヘルベルくん
安心して前を向いて行けるから

敵の攻撃は<見切り><武器受け>で凌ぎます
数の多い内は棺檻を遮蔽物として利用し、視認した敵を<串刺し>
<範囲攻撃>と<槍投げ>を駆使し敵の位置を誘導、派手に動いて敵を惹きつけます。彼に攻撃の手が向かぬよう
狙うは首か心臓、早く逝けるように
【打ち砕く拳】を叩き込みます
瀕死になどさせない。苦しみは一瞬でいいの


ムルヘルベル・アーキロギア

同行:織愛(f01585)
人の命という未来を奪い、あまつさえその死骸を繋ぎ合わせ神の依り代とする
いかにもオブリビオンらしい、唾棄すべき所業であるな……度し難い
オヌシがそうすると決めたならば、それを支えるのが賢者の仕事であろう
だが背負いすぎるな、一人に出来ることはあまりにも少ないのだ

さて、ワガハイは妨害をメインに行動する
【封印文法】を以て織愛の攻撃目標や攻撃してきた敵を拘束する
朽ちかけた少女の亡骸が、さらに辱められるようなことは見過ごせぬ
立ち向かうと決めた織愛の決意に水を差さぬよう
そして万が一にも彼女らが苦しむことのないよう、最大限の手助けをしよう
……首魁には、相応しい報いを受けさせねばな



●バインズ・アーキロギア・フォー・シューティングスター
「人の命という未来を奪い、あまつさえその死骸を繋ぎ合わせ神の依り代とする。――骸の海にあらゆる道徳を棄ててきたか。いかにもオブリビオンらしい唾棄すべき所業であるな」
 視界を埋め尽くすほどの数。駆け来る、青白い肌の生ける死体達。虚ろな瞳が自身を映すのを見て、ムルヘルベル・アーキロギア(宝石賢者・f09868)が吐き捨てる。
「一理も無し。度し難い」
「醜悪な吸血鬼による、被害者……ですね」
 その横。常は穏やかに光る桃色の瞳を悲しみに曇らせ、三咲・織愛(綾綴・f01585)が呟く。
「こうなってしまっては、出来るだけ苦しめずに逝かせてあげるしか無いでしょうか」
「で、あろうな。――織愛、ワガハイはオヌシを助けるためにここに在る。オヌシが成すべきと、そうすると決めたことをせよ。それを支えるのがワガハイの仕事だ」
「……私が、決めること」
 少女達が駆けてくる。口々に、ザラついた声で、屍肉を求め。無ければ作ってやろうと。
 それを前に織愛は顔を上げる。真っ直ぐに、目を逸らさずに少女らに視線を注ぐ。正面から。
「……逝かせてあげることが救いになるかどうか、分かりません。けれど、彼女たちがこれ以上傷つくのも……外神の思うままに罪を重ねるのも、私は許せない」
 織愛は槍を構える。銘を『noctis』。夜を意味する槍。
「背中をお願いします、ムルへルベルくん。――そうしたら、私は安心して前を向いて行けるから」
 一歩踏み出す織愛の背を見て、賢者は強く頷いた。
「任された。……心せよ、織愛。いかに猟兵とはいえ、一人で出来ることは余りにも少ない。努々、背負いすぎるなよ」
「はい。忘れません」
 警句に力強く返し、息を一つ吸う。
 織愛は、槍を低く構えて弾けるように駆けだした。

 幾つも突き出た大小様々の檻棺を縫い、駆けてくる少女の群れへ織愛は疾る。少女らの背から生えた外神の腕がべきべきと骨格を変じて、撓り放たれた。次々と、織愛を叩き潰すべく、天から振り下ろしの一撃が放たれる。
 織愛は加速することで二打躱し、三打目は力を込めた槍で払い、続く四打目を斜め前に飛び駆ける事で避け、敵の先頭集団の懐に潜り込む。全く無駄のない回避行動。少しでも無駄が生じれば容易く致命傷に繋がる高威力の打撃を、しかしギリギリの位置で斬り抜ける。
 接敵すればすぐさま槍を繰り出した。射程重視の片手突きで一体の喉を貫き、槍を引き戻す。抜ける刃の抵抗を手繰って前進の助けとしさらに一歩。抜けた槍の刃を回旋させて薙ぎ払い一閃、三体の頸を掻き切った。血が弧を描いて宙を舞う。
 一瞬で四体。しかし続けざまにその数倍の数が押し寄せる。織愛は決して目を逸らさず、次の敵へ踏み込んだ。突きと薙ぎ払い、更には至近距離に寄せての寸打をも用い、少女の心臓を破壊する。狙いは常に頸か心臓。周囲の猟兵らと同様の、本能的な弱点看破であった。
 織愛の槍が圧倒的な速度で少女達を駆逐する。しかし、それでも敵の全ての攻撃を未然には防げない。
 投げ放たれた腐肉の塊が、振るわれた外神の腕が、外神宿る脚が、牙が、織愛を喰らわんと、殺さんと、四方から放たれる。

 瞬間、織愛の背から淡い虹色に光る、誰にも読めぬ文字の群れが、帯めいて伸びた。どこかで見たことのある文字。しかし、誰にも、決して読めない文字。それもその筈、最早その文字は、コトバは、アーキロギアに伝わる『閉架書庫』の底にしか存在しない故。
 光帯は次々と少女らの手足を、舞う腐肉の塊を、外神の器官を絡め取り、
「■■、■■――■■■■■」
 これもまたこの世に最早残っていないような――言うなれば、遙か時の彼方に失われた音素が鳴るなり、少女らに固着して縛り付けた。言うまでもない。ムルへルベルの術である。
 賢者は自身の周囲に織りなした原初の文字に依りて光帯を編み、それをマルチプル・ミサイルめいて射出。呪縛を意味する印を組み、光帯を操作し敵を纏繞――
          ロストフォニム
 間髪入れず、それを遺 失 音 韻にて固定したのだ。
 三工程、スリーアクションによる呪縛魔術――『封印文法』!
「朽ちかけた少女の亡骸を、更に辱めることは許さぬぞ、外神よ」
 ムルヘルベルは声低く告げる。彼は永きを生きた故、数々の悲劇を目にした。心が麻痺するほどに、多くの悲しみを、地獄を見てきた。摩耗して、全てを諦めてもおかしくなかったろう。永き時は肉体はおろか、心をも殺す。
 ――しかし、ホワイトオパールの賢者は今以て、その正しき心を喪っていない。あらゆる禁書を己が『閉架書庫』に収蔵する大任を負い、この世万物の真実と向き合い、抱えた智慧を反芻し続ける永久の少年は、確かな声にて織愛に告げる。
「往け!」
 芯のある、強い響き。

 まるで質量を伴っているかのように声が背中を押した。立ち向かうと決めた、織愛の背中を。
 ムルヘルベルは何が正しいか、どうするべきか、織愛に教えることはない。諭すことはあっても、選び取るのは織愛自身だと言うかのように。
 命を下すでなく、支配するでもなく、寄り添い、道行きを照らすように共にある。
「ありがとう、ムルヘルベルくん」
 織愛は彼には届かぬ聲を零した。動きを縛られた少女ら目掛け、竜槍を投げ放つ。三体を串刺しにして吹き飛ばしながら両手を一度打ち振る。諸手がきらりと閃いた。ナックルダスターが彼女の両拳に装じられ、星の瞬きめいて光る。
 切り込んだ。動きを縛られた少女たちの元へ。
 嵐のように吹き荒れる、金剛石より硬い拳。拳撃の瀑布が動きを止めた少女らの首を、心臓を、頭蓋を、砲弾めいて砕いた。
 ――苦しみは一瞬でいい。無くせるのなら、それが一番いい。
 織愛とムルヘルベルの思いは重なる。停止した少女らは、それ以上身動ぎ一つもしないまま急所を打ち砕かれ、風に吹かれるなり塵と化して闇空に舞った。

「……首魁には、相応しい報いを受けさせねばな」

 吹かれる風に嬲られて、黒く散り行く骸を見つめ、ムルヘルベルは呟いた。
 賢者の識覚は、寂寞を伴い振り返る拳の乙女と、彼方で異変に気付いたらしい、吸血猟鬼の双方を捉えていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

仁科・恭介
※アドリブ、連携歓迎
出てきた少女たちを見て思い切り爪を噛む
瞳がどうにかなりそうだ
「(ものすごく憚られる罵声)」
蟻を使っても良いと思った
だがそれでは駄目だ
【覚悟】を決めた
「一刻も早く眠りにつかせる」

POW
【携帯食料】を食む
大量に食む
UC対象を少女に
細胞を通して感じる「美味しそう」という感情
そして弱弱しい感情

瀕死になると神の部品が召喚されるのは【学習力】で学んだ
【失せ物探し】で見つけた急所にフォーカス
呼応するように刀を【ダッシュ】で作った加速と共に突き出す
一撃で仕留める
生真面目過ぎると言われる私だから…圧し通す
怒りと言う感情は不要
今はただ真直ぐに急所を狙うのみ

時折嫌な匂いを感じる
あぁ、最後は貴女か



●掠れた想いを汲み上げて
 次々と地面より迫り出す檻棺から、薄笑みを浮かべた骸が這い出てくる、この世の終わりのような光景を前に、仁科・恭介(観察する人・f14065)は血が出るほどに親指の爪を噛む。茶の瞳が色を失いかけるのを、理性を以て堪えた。彼もまた吸血鬼の因子を持つもの、ダンピールである。
「なんて惨い――血吸い虫の愉悦のためにこれだけの人間を巻き込むなんて、到底正気じゃない。狂人が雁首揃えて、よくもまあ息をしていたものだ」
 思わずこみ上げる罵声を堪らぬとばかりに吐き出す。
 その狂人達は、猟兵達の襲撃作戦により既に終焉を迎えた。一人として残さず、滅殺した。しかし彼らの作品は依然として猟兵達に立ち塞がる。
「おな、か、すいた」
「ごはん、ちょうだいいぃ」
「あそ、んでぇ、あそんでえぇえぇえ」
 腕が四本あるものがいた。骨の尻尾の生えたものがいた。首が二つあるものもいたし、目が五つあるものもいた。人間としてのパーツが足りないものは、その場には存在しない。ただ、『多すぎた』。少女らはみな、何らかを足されて不自然な存在としてそこに在った。
 恭介は彼女らを前に、乾し肉を噛み砕く。それも大量にだ。咀嚼し飲み下すたび、全身の細胞が活性化し、四肢に力が漲る。
 恭介には少女らを一斉に攻撃する選択肢があった。吸血鬼達をそうしたように、蟻を使い、少女達を襲わせることもできた。
 しかし、その策は採らない。少女らはおそらく痛覚を失っているだろう。蟻による攻撃には痛覚とビジュアルの恐怖に訴える側面もある。既に正常な感覚を失ったアンデッドたる少女らには効きが薄いだろうし――
 何より、この期に及んで蟲に食まれ果てるなど、哀れすぎるではないか。
 恭介は抜刀。研ぎ上げられた刃を正眼に構え、独言した。
「一刻も早く眠りにつかせる」
 決意の表明。その意味を理解していないであろう少女達は、相変わらずの薄笑みのままに、構えを取る恭介目掛けて飛びついた。
 恭介はユーベルコードを発動する。『共鳴』。活性化した細胞を通じて伝わってくる少女らの食欲、目の前を動く肉を喰らいたいという衝動、美味しそう、という思考。
 表層を埋め尽くす欲望の奥に、か細く揺れる想い。それをこそ、恭介は感じ取る。
 ――『助けて』『もう嫌』『楽にして』。
「ああ。……分かったよ」
 恭介は、怒りも悲しみも排して踏み込む。薙ぎ払うような外神の腕を刀で真っ向から受け、関節を狙い刃を滑らせた。強靱な筋肉に覆われた外神の腕がいとも容易く切断されて飛ぶ。
 少女らは瀕死になれば、宿した外神の部位に力を注ぎ込み単独で顕現させる性質を持つ。恭介は既にそれを察していた。故に少女らと戦うなら、まずは外神の部位を破壊するか――或いは、急所を一撃で貫くか、そのいずれかを狙わねばならない。
 恭介が取ったのは後者。腕を薙がれ、ふらつく少女の首を断つ。一撃だ。噴血を潜り抜け次。腕を振りかぶる間に前進、心臓を貫き通して破壊。捻りながら引き抜く。顎を変形させ食い付いてくる少女の、その顎に躊躇わず刃を奔らせた。上顎と下顎が分かたれ、顔の上半分が飛ぶ。刃は曇り無く、真っ直ぐに、一閃一殺、少女らを散らせていく。
 ――旋風のごとく少女らの間を駆け抜けながら、恭介は鼻を鳴らす。少女らの死臭に混じる、邪悪な――もっと残忍な血の匂いを。遠くから放たれる殺気の匂いを。
 ――最後は貴女か。いいだろう。この罪を贖わせてやる。
 吸血猟鬼に募る怒りを胸に秘めたまま、恭介は尚も刃を振るうのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャガーノート・ジャック
◎◆ロクと
(ザザッ)
――最早人には在らぬものか。

であるならば、全力を以て討伐するのみ。

(ザザッ)
(外なる神の部位を用い巨大な肉体を誇る個体。相棒とは相性が悪いだろう。)
彼方は本機に任せろ、ロク。
此方は余り小回りが利かなくなる、小型のものは君に任せる。

SPDを選択、"Leopad:ON"。
機械装甲を豹型から人型機械に変形。
(武器改造+操縦)

弩級機械装甲での肉弾戦、及び火器での攻撃を以て大型敵性存在の鎮圧を狙う他、装甲で敵からの攻撃を受けつつ、至近距離からのチャージビームで敵を穿つ。(スナイパー+誘導弾+一斉発射/零距離射撃+力溜め)

本機の作戦概要は以上、実行に移る。オーヴァ。
(ザザッ)


ロク・ザイオン
◎ジャック(f02381)と

(病に塗れた子供が歩く。土を呪いながら歩く)
……ッああァアアア!!!
(愛するものを踏み躙られる激情を、咆える)
(【恐怖を与える】だけの心が、あれらに残っているとは思わないけれど)

…わかった。
おれがやる、ジャック。

(【地形利用】し、棺檻を足場に飛び回る
「燹咬」で棺檻を切り崩し足止めに
体の異形を狙って【早業】の「烙禍」で【2回攻撃、傷口を抉る】
投げられた肉は【野生の勘】で迎撃、土には落とさせない
それでも土を呪うなら、その土ごと「烙禍」で炭に
呪いを焼き潰しおれの戦場に変える)

それしか言えないのか。
それしかわからないのか。
…たすけてと。言うことも、できないか。



●焼尽
 病に塗れた子供が歩く。土を呪いながら歩く。足の形に、生えた雑草さえ枯死した。
 彼女らが歩いた後には、きっともう草も生えるまい。染みこんだ呪いが全ての命を拒絶する。それが薄れるのはいつになるのだろう。
「……ッああァアアア!!!」
 声は慟哭に似ていた。森番、ロク・ザイオン(明滅する・f01377)のものだ。
 吸血鬼の悍ましき外法によって作り替えられた少女達は、或いは、既に病葉そのものであった。ロクは叫ぶ。かつて『ひと』であった彼女らの死と、今この瞬間も呪われて死んでいく、踏み躙られた悲しき土を悼み、嘆き、この理不尽な現実に牙を立てるように咆える。
 叫びに気付いたように、少女らが首だけを巡らせてぎゅるりとロクを視界に捉えた。紅い目の虚が、ロクを無機質に、空虚な笑みを伴って見詰める。獣ですら怯懦するロクの引き裂くような咆哮に、恐怖を示さず集い出す。
 ザザッ、
『――最早人には在らぬものか』
 突き刺さる少女らの視線を意にも介さぬノイズ混じりの音声。ジャガーノート・ジャック(AVATAR・f02381)だ。感情は一時、捨て置く。冷静に彼我戦力を評価するように、彼は一体を見回した。
『敵が多い。それに――異常個体が見られる』
 ジャガーノートの言の通り、少女らを統率するように、ずん、ずん、と歩く巨大な怪物がいた。一言で表現するなら、それは十メートル級の巨人であった。外なる神を孕み、適合した個体か。
 それは、かつて人間だったと言われても信じられないような膨れた顔面と、縄めいた筋繊維がみっしりと絡み合って出来た図太い四肢をしていた。小柄なロクと尺の短い武器では、相手に難儀することだろう。
『ロク。奴等は本機に任せろ。此方は小回りが利かなくなる。他の少女らは、君に任せる。――やれるか』
 牙を剥き出しに少女らを睨み付ける相棒に、ジャガーノートは問いかける。
「……できる。ああ、おれがやる、ジャック。あれは――灼いてやらなければ。そうしなければ、いけないものだ」
 ロクははっきりと答えた。
 ――そうだ。救うことは出来ないだろう。ただ、炎で灼くことしか、止めてやることしか出来ない。それでも、これ以上土を汚すことも、骸を弄うことも、許してはならないと思った。
『であるならば、全力を以て討伐するのみ。――本機はこれより弩級装甲を展開。敵特異個体との格闘戦を開始する。幸運を、ロク』
「……ああ。幸運を、ジャック」
 堅苦しい相棒の物言いに様式を揃え返じて、ロクは山猫めいてしなやかに駆けだした。
『Transform sequence start. "Leopard" ON.』
 その後ろ姿を見ながら、ジャックは跳躍した。己の纏う豹型追加装甲"Leopard"を展開変形する。質量、体積が瞬く間に激増し、物理法則など無視して巨大な人型兵器に変貌。
 ずうん、と地面を揺るがして着地するジャック。敵からすれば突如巨人が現れたように見えたろう。特異個体、二体がジャックの方にぐるり、向き直る。
『ロクの邪魔はさせない。来い、“外なる神”。貴様らがなんと名乗ろうが』
 人型兵器の手首に設けられたパーム・ビーム・カノンが展開、紅い光を湛えて輝く。
『本機の兵装は全てに平等だ。――制圧を開始する』

 後ろに、質量と質量のぶつかり合う大音を聞いた。ロクは林立する細身の檻棺を、当に森の木を渡るときの如く蹴り走り、迫る少女らと対した。
 ――うううぅぅううぅぅう。
 多くの呻きが重なり、まるで地を揺らすサイレンのように響いてくる。
 ロク目掛け、少女らは遠距離から、自らの腐肉を千切り、投げ放った。ロクは緋迅鉄製剣鉈『閃煌』に意念を込める。朱金の刀身は一瞬で超高熱を発し、まるで光剣の如く輝いた。
 一拍遅れ、閃煌が発した熱が紅蓮の炎となって迸る。投げ放たれた腐肉の塊を呪詛もろともに焼き祓い、土をこれ以上呪うことを許さない。
「咬み、千切れ!」
 ロクは檻棺を蹴り渡りながら逆手にした閃煌を振るい、飛びざまに檻棺を切り崩す。鋼鉄で出来ていると思しき檻棺が次から次へと半ばから断たれ、少女らの道を塞ぐように落ちた。
 下方、少女らの前進が止まる。或いはロクを喰らうまではこれ以上は進まぬという構えやも知れぬ。
 構わない。
 ロクとて、一人も逃すつもりはなかった。
「おなか、すいたあぁあぁぁ」
「おねえちゃんんんんん、ごはんんんん」
 ロクは地面へ向け回頭、右手に閃煌、左手に烙印刀を構える。
「――それしか言えないのか。もう、それしかわからないのか」
 肉を求める少女らに、慨嘆するように言う。少女らの薄笑みは変わらず、その背から異界の神の腕が伸びた。
 複数体から同時に、まるで鞭のように撓り繰り出される一撃を、ロクは檻棺を蹴り下りながら避け、斬り払い、抜ける。檻棺の壁面を反射するように敵目掛け落ちる彼女はまるで流星だ。後れ毛が翻り、色の付いた風めいて靡く。
「……たすけてと。言うことも、できないか」
 断。
 空を駆け下り、着地ざまに一人の少女の背の腕二本を根本から斬って捨てる。身を捻りながら立ち、立ちざまに両腕打ち広げ斬り上げ。さらに二体の首を断つ。
 三体が、斬撃と共に叩き込まれた熱で燃え上がった。倒れる三つの炭屑を余所に、尚も屍食鬼達がロクを襲う。
 応える声はなく。
「あそんでぇえぇ」
「ごは、んんん!」
 ただ、お仕着せの欲望を繰り返し唱えるばかり。
 ロクは烙印刀を地面に打ち込み、呪われた土を灼き焦がす。発生した熱気がロクの髪を嬲った。
 ――咆える。
 助けを求む声すらも発せぬ、哀れな骸を葬るため。
 烙印刀の熱を広げ、焦熱地獄を生み出しながら、ロクは敵目掛け尚も跳ねた。

 ぐうん、巨大な人型兵器――レオパルドが右拳を引く。ボッ、とエルボー・ブースターに青白く点火。加速した圧倒的質量の拳が、轟音を立てて外神の顎を打ち抜く。凄まじい撃力に蹈鞴を踏む外神。もう一体がカバーするように突っ込んでくる。引っ掻くように右手を振り下ろしてくるのを、左腕を翳してガード。またも大音が鳴り響く。
 ジャックは視界の端に、エネルギーのチャージ状況を表示。手首のビームカノンの充填完了まであと僅か。チャージビームは一発限り。撃てば再充填が必要だ。――長引かせるわけにはいかない。
 打撃を押し込んでくる敵の腕。圧されてジャックが一歩引くその瞬間に、外神の背から三本目の腕が繰り出される。ジャックはLeopardの中で、迷わずフットペダルを蹴り飛ばした。
 肩部高出力スラスタから左方に焔が吹き出て、残像を残し間髪回避。同時に右脚で地に杭を打ち、メインブースターのパワーゲインをマックスまで上げ前進。
 雷光めいた機体制御。Leopardはジャックの操作により、正に豹の如くしなやかな動きでステップイン。外神の胴にフック気味の拳を叩き込む。
 ――まだだ。
 チャージ残量及びブースターによる消費エネルギーと現在のエネルギー総量が、危うい位置で釣り合う。敵を拳で宙に吊り上げた。ジャックはLeopardの限界に迫るように、尚も機体を前進させる。ようやく立ち直りかけた一体目を、拳を突き立て押す外神の身体でで巻き込む!
 強引に二体の射線を重ね、誤射を無くす唯一の方法。――格闘からの至近距離射撃!
 ジャックはLeopardの拳を突き出しきり、二体纏めて殴り飛ばすのと同時に、パーム・ビーム・カノンのセーフティをリリース。
 ジャスト・タイミング。チャージコンプリート、ビームカノンから迸るのは赤き光条。
 砲口から溢れた光が、超高熱と加速した重金属粒子の質量で外神二体の身体を貫いた。浮いて吹き飛ぶその中空で、叩き込まれたあまりの熱・運動エネルギーにより二つの巨体が四散する。
『言ったはずだ。本機の兵装は全てに平等だ、と』

 それは、喩え相手が神だとて例外ではない。

 散り散りに吹き散る骸を見送り、ジャックは周囲の敵反応をサーチする。
 ――ロクが未だ戦っている。支援すべく、彼はLeopardを再変形。サイズを縮小し、地を駆けて相棒の元へ駆け参じるのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ジュリア・ホワイト

さて、ボクの故郷でもゾンビ映画は人気だったけど
「ここまで悪趣味ではなかった筈だよ」

乱立する檻で射撃にはやや不向き
列車が直進するのも難しい
そして何より―度し難い規模の乱戦
「となれば、手は限られるね。【圧力上げろ!機関出力、最大開放!】―ヒーローの戦い方を見せてあげよう」

UCで身体能力を引き上げ、高速白兵戦を開始するよ
触れるモノを問答無用で破壊する動輪剣と、斬撃打撃刺突に加えフックやアンカーにも使える万能スコップ
両者を振るって檻を足場にも使い縦横無尽に戦場を駆ける
「その体では最早魂も宿れまい。在るべき形に戻して(ばらして)、炎の祝福をもって(もやして)、安息の地へと送って(ころして)あげよう!」



●OverKILL
 未だ炎上する建物と、無数に突き出た檻棺。その狭間を歩き回る少女たち。継ぎ接ぎにされ、神の部品を埋め込まれて、情緒と意思と、人としての生を破壊された哀れな骸。
 歩き回る骸達のその頬に、一様に貼り付いた薄笑み。一つの檻棺の頂点から場を俯瞰し、吐き捨てるように呟く少女が一人。
「ボクの故郷でもゾンビ映画は人気だったけれど、ここまで悪趣味ではなかったはずだよ」
 ジュリア・ホワイト(白い蒸気と黒い鋼・f17335)だ。蒸気機関車のヤドリガミたる彼女は、礼拝堂への道を切り開いた立役者であった。今は本体としての姿ではなく人間体を取っている。
 戦場は混迷を極めた。そこかしこで猟兵が戦っており、跳弾や怒号が行き交う。少し離れた場所では巨大人型兵器と、敵の異常個体が格闘戦を繰り広げている。燃える建物をバックに映る激戦は、正に地獄をひっくり返したような騒ぎだ。
 乱立する檻棺により工夫無しでの射撃戦は困難、本体となって一気に蹴散らそうにも、檻の数、敵の数共に多すぎる。巨大個体もいるとなれば、最初のように蒸気機関車の姿を取っていては横合いから痛烈に打たれる可能性もあった。
「……となれば、手は限られるね。――ヒーローの戦いを見せてあげよう」
 ジュリアは左手に動輪剣を抜き、右手にスコップを提げ、ユーベルコードを起動。
 身体の内側でボイラーが燃え、彼女に熱をくべる。真の姿を晒した折、大量に炉にくべた石炭が、今まさに彼女の内側で燃え上がっているのだ。
「機関出力――最大開放!」
 これぞ、バーニング・ハート。ボイラーの出力を上げることで、化身であるジュリア自身の戦闘力を向上するユーベルコードだ。
 ジュリアは一声発するなり跳んだ。その手の中で動輪剣が凶悪な音を立てて回転開始。動輪剣とは武骨な外見のチェーンソーだ。それこそホラー映画によく似合う類の。
 落下するなり、ジュリアは手近にいた少女の頭をスコップにより叩き潰した。問答無用の一撃に頭が砕ける。一殺。高速回転する刃を横一線に薙ぎ、進路上の二体の首を裂いて刎ね飛ばす。更に二殺。
「ううぅぅううぅう」
「ごはんんんんっ」
「悪いね。君達にあげられるご飯は持ち合わせてないんだ」
 二体、骸が飛びかかってくる。振り下ろされる外神の腕をスコップで受け止め、動輪剣を全開で回転しながら振り上げた。高速回転する動輪剣の刃は、触れるもの全てを問答無用で破壊する。次の一体の攻撃を斜め前方にステップして回避しながら、振り回したスコップを首に叩き込んで頸骨粉砕。
 ジュリアは止まらない。跳躍ざまに手近な檻棺にスコップを引っ掛けてアンカーの如く身体を引き寄せ、檻棺の横腹を蹴って再度上から強襲した。迎撃に投げ放たれる肉塊を、スコップで弾きながら動輪剣を振り下ろし、またも一体を真っ二つに斬り裂く。
 泥めいた淀んだ血液が飛び散り、血腥い臭気が漂う。跳ねた血がジュリアの頬を汚すが、じぃうっ、と音を立てて血は蒸発した。
 ボイラーが供給する圧力と熱が、ジュリアの体温を上げていく。もっと熱く。もっと速く。もっと強くと。
「その体では最早魂も宿れまい。在るべき形に戻して、炎の祝福をもって、安息の地へと送ってあげよう!」
 やることはわかりきっている。バラして、燃やして、殺す。ヒーローネーム『オーヴァードライブ』、誰が呼んだか裏の名前は『オーバーキル』。
 ジュリアは集まってくる少女たちを前に、再び動輪剣の出力を全開。けたたましく回り、悪血に濡れて尚吼える動輪剣を振りかぶって、敵の群へと駆けだした。

成功 🔵​🔵​🔴​

ダグラス・グルーバー


――ごは、ん、か
こんな状況じゃなきゃポケットを叩いて菓子を渡したりできるんだが
ああ、分かっている。そうじゃねぇんだよな、目を見りゃ分かる
だけど、すまんな…
分かっていてもハイどうぞとはできんのよ

と、こっちがンな事を思っていても襲ってくるよな
ホントこういう時俺ができる事っつーのは
燃やして燃やして燃やし尽くすくらいしかできねぇのよな
……マジでヴィランの頃からそこは変わんねぇわ

向かってくるお嬢ちゃんの攻撃を受け流し
主任らとの戦いでつけた手の裂傷を拡げて紅蓮の炎を放つ

万が一噛みつかれたとしてもその傷から溢れ出るのは
お嬢ちゃんが求めているもんじゃねぇんだよなァ…
腹いっぱいにさせる事ができなくてごめんな



●その身を巡るは地獄の焔
「ごはんっ……ごは、んん」
「おじ、さん……おなか、すいたああぁあぁ」
 ダグラス・グルーバー(ダンピールのダークヒーロー・f16988)もまた、大量に突き出た檻棺と、肉を求めて歩く亡者の列を見た。
 酷い光景だ、と思った。ダグラスとて、かつてはヴィランとして名を馳せた時代がある。悪を断罪する、なんてお綺麗な台詞を、今さらこの口から吐くつもりもない。
 しかし、彼女らがこうならなくてはならなかった――こんな末路を迎えなくてはならなかったこの世界はクソだと、ただそれだけは断言できる。
「ごはん、か。こんな状況じゃなきゃな――お嬢ちゃん達が、真っ当に生きていたんなら、ポケット叩いて菓子の一つも振る舞ってやるんだが」
 ダグラスは服のポケットを見下ろした。携帯食や菓子が出てくる不思議なポケット。寂しげに呟くダグラスをよそに、少女たちは虚ろな、淀んだビー玉のような赤い目を、ダグラスに向けてジリジリと迫ってくる。
「――ああ、分かっている。そうだよな。お嬢ちゃん。お前さんたちが欲しいのは、甘いお菓子なんかじゃねェ。人の肉だ。俺の肉だ」
「うううぅううぅう」
「たべる、ううぅう」
 射程距離に至ったか。一人立ち尽くすダグラス目掛け、五体ほどの少女が一斉に飛び跳ね、疾駆。襲いかかる。ダグラスは鉄塊剣を抜いた。
「――だけど、すまんな。分かっていても、ハイどうぞとはできんのよ」
 襲いかかってくる少女らに、黙って肉を捧げてやるわけにはいかない。喩えダグラスがその身を差しだしたところで、少女らは続けて人を襲うだろう。分かっていた。何もかも。だからダグラスは、その右手の裂傷を握りしめ、紅蓮の炎を迸らせる。
 正面から襲いかかってきた少女らの前に、右手の裂傷から迸る炎で分厚い『炎の壁』を作る。空気を喰って燃え上がる地獄の焔の揺らめき音が、少女らの呻きを呑み込んだ。
 ばうっ、
 炎の壁を突き抜け、全身を炎上させながら飛び掛かってくる影が二つ。ダグラスはすかさず鉄塊剣を振り回し、一体を叩き伏せるなり姿勢を屈めて、二体目の爪を掻い潜った。少女の首を右手でガッと掴み受け、右手に熱を集める。
 裂傷から爆発的に迸った炎が、少女に言葉を許さず喉から上を一瞬で焼尽、塵へと変えた。
「ホントこういう時俺ができる事っつーのは……こればっかりだ。燃やして燃やして燃やし尽くすくらいしかできねぇのよな」
 優しく葬ってやることも、悼んでやることもできない。ヴィランとして生きていた頃から、ずっと変わらないことだ。猟兵として、無辜の人々を救う側に回った今となっても。
 感傷に浸る間もない。別方向から更に数体。背中から伸びた外神の腕が、鞭のようにダグラスの足を刈りに掛かる。ダグラスはショートジャンプで攻撃を避け、鉄塊剣を右手に持ち替えた。鉄塊剣に炎が這い上り、紅蓮の大剣へ姿を変える。
「おおッ!」
 距離を詰めながらに吼え、ダグラスは鉄塊剣をフルスイングした。二体が木っ端微塵になり吹き飛び、叩き込まれたあまりの熱により燃え果てる。鞭の如き一撃を放った個体が今度は打ち下ろしの一撃を放ってくるのを、上げた鉄塊剣で受け流しつつ飛び込み、そのまま振り下ろして叩き潰す。
「おにく、うううぅぅうぅ!」
 捌ききれなかったもう一体がダグラスの頸を狙って食いついてくる。ダグラスは跳ね上げた左腕で、少女の顎を受けた。
 熱く迸る血が、少女の口腔を満たすかに思われたその瞬間、噴き出るのは――
「――悪ィな、お嬢ちゃん」
「あ”、あ”あ”あ”あ”あ”ッ」
 少女の耳から、鼻から、殆ど爆ぜるように紅蓮の炎が吹き出し、その顔面が爆ぜるように弾けた。ダグラスの身に流れるのは、熱き地獄の焔である。
「腹いっぱいにさせてやれなくて、ごめんな」
 密やかに言葉を落とす。斃れた骸もまたすぐに塵となり、大気に還った。
 ダグラスは左腕の傷から溢れる焔を御し、新しい敵勢へ駆けだした。
 ――こんな馬鹿みてえな一夜は、早いところ終わらせてやらないとな。

成功 🔵​🔵​🔴​

薄荷・千夜子

このような状態にされてしまった痛ましい…
間に合わなくてごめんなさいね
ここで終わりにしましょう

UC使用
[夜藤]と[禽羽双針]に攻撃強化の蒼の炎と【破魔】【属性攻撃】の力を乗せて

【先制攻撃】で一気に間合いを詰めて禽羽双針で一蹴、仕込み針での【毒使い】で動きを鈍らせます
近くにいる少女たちを順に同じ攻撃をしつつ【吹き飛ばし】を組み合わせつつできるだけ一ヶ所に纏めていきます
ある程度一纏めにできたら夜藤に纏わせている浄化の炎で【なぎ払い】
一気に纏めて炎で包みます
「おやすみなさい、もう悪い夢は終わりです」



●蒼炎よ、哀れな御霊を天へと運べ
 飛び出した檻棺から、またも数体の少女らが現れる。生きているとは到底思えぬ青白い肌。身体には継ぎ接ぎの縫合痕がそこかしこに見えた。
 この闇の世界だ。生前も、決して幸せとは言い切れぬ環境であったかも知れない。しかし、それでも、今この状況よりは確実にましだったはずだ。
 薄荷・千夜子(鷹匠・f17474)は、望まぬ笑みを頬に貼り付け、血の涙を流して群がる失敗作の少女達を見詰めて、辛そうに表情を歪める。
「このような姿にされてしまって、痛ましい」
 呟けど、同情を寄せど、少女らの歩みが止まることはなく。戦いもまた回避できぬ。千夜子とて分かっていたことだ。懐刀『夜藤』を抜刀、『干渉術式:影炎染風』を起動。破魔の蒼き焔が夜藤の刀身を覆い、ダークセイヴァーの夜気を焦がす。
「間に合わなくてごめんなさいね。……ここで終わりにしましょう」
「ううぅ、うううぅぅぅう」
「おなかぁ、すいたのおぉおおぉ」
 千夜子の言葉を、今や屍肉を貪るただの生ける骸となった少女らは解することもない。千夜子目掛け、肉を求めて殺到する。
 千夜子は敵が踏み出したその後に早駆けた。敵より後に動きながら、先手を取ったのは千夜子が先であった。風の魔力を己に纏い、ヒールを鳴らして踏み込み。
 かキンッ、と密やかな音。爪に毒持つ猛禽めいて、隠れてヒールに針が迫り出す。隠し針を有するその靴の名は『禽羽双針』。
 風を捲いて千夜子の蹴りが唸った。針で、僅かに傷を付けるだけでいい。飛び込むようにして、伸びて叩き伏せようと振るわれる外神の腕を回避しつつ、擦れ違い様に振るった踵の針で少女らの身を抉る。背で風の魔力を爆ぜさせ、一瞬たりとも減速せず――敵十数体の攻撃を尽く回避しながらの前進。当に飄風の如く、少女らの間を駆け抜ける。
 異変はすぐに現れた。少女らの動きが明確に鈍る。がくがくと震え、躓くものも現れる。――言わずもがな、禽羽双針に含まれる毒の効果である!
(神経毒は有効みたいですね)
 予想通りだ。周囲での戦闘の様子を見ていれば、頭部を失う、首を断たれるなどで戦闘不能となるのは分かっていたことだ。つまりあのような姿となっても、少女達は脳を起点としての電気信号で動いている。毒によりその伝達を阻害すれば、動きが鈍るのは道理だろう。
 動きが鈍ったその隙を衝き、千夜子は疾る。
 おそらく生命活動を行っていない以上、毒は致命傷にはならない。まともに生きている人間ならば呼吸を出来なくすれば死ぬだろうが、アンデッド相手ではそうは行くまい。
 だからこそ、もう一手が必要だった。千夜子は普段自らが駆る鷹の如く、低空を鋭く舞い、少女らを旋風めいた回し蹴りで吹き飛ばし、一方向に纏める。
「うああううぅうぅ」
「ご、は……んん、んんん」
 蹴り飛ばされ、引っ繰り返り、よたよたと起き上がっては飢えるように千夜子へ両手を伸べる――その姿を哀れむように千夜子は、夜藤に灯した蒼炎を強く強く燃やす。
「これ以上、苦しまなくていいんです」
 最初の一歩に風の魔力を使った。弾けるように踏み出し、以降全ての魔力を夜藤に炎として注ぎ込む。身体を捲き、引き裂くように一閃した。夜藤の炎が一気に開放され、青々とした炎の奔流となり、少女たちを一気に薙ぎ払った。
 怨嗟の呻きは、炎の猛りに呑み込まれ――蒼い炎の中で悶えた少女らの影が、崩れるように臥していく。
「おやすみなさい――もう、悪い夢は終わりです」
 夜藤を納め、千夜子は悼むように、蒼い炎の残滓を見つめるのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

アルマ・キサラギ
…あれを相手にしなきゃならないのは作戦の説明を聞いた時から分かってた事
けど、いざ目の当たりにすると…ああ、全く。見るに忍びない
女吸血姫とやらには後できっちり落とし前をつけさせてやるわ

相手集団に榴弾を叩き込んで風穴を開けて
二丁拳銃に持ち替えて魔力のヴェールとドレスを纏い、早駆術で一気にそこへ飛び込む
【地形の利用】をして撹乱しつつ、速度を活かして派手に暴れる事で他の相手もこちらへ【おびき寄せ】るわ
相手の攻撃を【見切り】回避し、あるいは光の刃を操って受け止めて
返す刃で斬り裂き、両手の銃で【範囲攻撃】
充分に集まってきたら早駆術を使って跳躍、棺檻を蹴ってさらに上空に跳び、榴散弾の爆撃で纏めて仕留めるわ



●グレネード・レイン
 青白い肌、パッチワークみたいな縫合痕。生前は美しい面立ちで笑っていたはずの少女たちの顔に貼り付いたのは、なんの感情も交じらない虚ろな薄笑み。
 呻き声が、風を揺らして響く。数十人もの少女が爛れた声帯で呻く声は、まるで地の底から漏れた地獄の風音。或いは、今この瞬間、地上に地獄が現出したのではあるまいか。
 作戦内容を説明された時から、この地獄のことは知っていた。実験の過程で生まれた失敗作を一体残らず排除せよ、とグリモア猟兵は言った。どのような攻撃をしてくるのか、どのような存在であるのか、説明を受けていた。
 しかし、説明をされるのと現実に直面するのとでは重みが違う。目の当たりにした少女らからは、死と、血と、朽ちた肉の臭いがする。
「――ああ、全く、見るに忍びない。吸血猟鬼とやらには後できっちり落とし前をつけさせてやるわ」
 アルマ・キサラギ(Bride of Blade・f14569)は声低く呟く。グレネードガン『レッドラム』をポンプし、派手な金属音を立てて榴弾を装填する。
 ぎゅり、と、少女らの目がその金属音に集まった。近くの数グループが、アルマを目掛けて進路を変える。
「おねえ、ちゃん」
「おな、か……すいたぁああぁ」
「ごはん、ちょうだいいいい」
 先程からずっと、地鳴りめいて響く少女らの呻きの内訳の殆どはそれだ。間近で聞いてみれば、神経に障る、壊れてしまった声帯から吐き出された割れた声。数百と重なるからこそ一つの大きなうねりとして聞こえるものの、間近でこんなものをずっと聞かされれば、通常の人間ならば早晩精神を病むだろう。
 アルマは赤い瞳を細め、無造作にレッドラムを突き出して構えた。
「ごめんね。ご馳走出来るものなんて、これくらいしかないのよ」
 トリガーを引く。ひゅぼっ、と音を立てて榴弾が射出された。炎の尾を引いて飛んだ榴弾は過たず敵の少女らの密集陣形のど真ん中を目掛けて飛び――
 きゅ、どんッ!!!
 炸裂音が地を揺るがす。放たれた榴弾が爆発し、密集して歩く少女らを吹き飛ばす。そこにアルマが飛び込んだ。否、正確には、彼女は榴弾を放った直後には既にその後ろを追うように駆けだしていた。駆けるアルマの身体を、魔力で出来た光のヴェールとドレスが覆う。
 ユーベルコード『ブライド・オブ・ブレイド』。光のヴェールから溢れた魔力が渦を巻き、空中で光の刃となって彼女の周りに滞空する。アルマが得意とする高機動戦闘フォームだ。
 レッドラムをスリングで肩に引っ掛け、二丁の『オルトロス』を引き抜く。爆心地に飛び込み、周囲の生き残りを舞うように回転しながら撃ち抜いていく。ツヴァイにより敵の攻撃動作を阻害、アインスによる一撃で頭を撃ち抜き、的確に倒す。アインスの銃弾は強烈だ。対戦車拳銃と目すだけあり、着弾の瞬間、少女らの首から上が血の霧になって消失する。
「ううぅぅうぅぅぅ!」
 横手から襲いかかる少女。振り下ろされる外神の腕を、しかしてアルマは光の刃を操り、空中で外神の腕を止め、カウンター気味にアインスの銃弾を叩き込む。額に食い込む銃弾がまた一つ頭を爆ぜさせる。
 周囲の敵の注意が集まり、アルマの元へ敵が集まってくる。アインスが弾切れ。ツヴァイを連射し、光の刃を自身を中心とした衛星軌道を描くよう回転させ敵数体を切り裂き牽制、リロードの隙を潰す。
 リロードの済んだアインスを構え、連射、連射、連射。倒すのが追いつかないほどの敵数が来る。しかし、それも織り込み済みだ。元より、敵を引きつけるための派手な立ち回りである。アルマは襲い来る少女ら目掛け、二挺拳銃を連射しつつ突撃。向かい来た一体の顔面を蹴り潰すように踏み、高々と跳ぶ。檻棺の壁面を反射するように尚も跳び、銃を納めた。
 高空から俯瞰。背に回していたレッドラムに魔力を注ぎ込む。
「おやすみ」
 アルマは囁き、トリガーを引いた。レッドラムの砲口から溢れるのは榴散弾! しかも魔力で出来たものだ。着弾した散弾はその一発一発が二次爆発、地からアルマを見仰ぐ少女らを、一網打尽に爆撃する――!! 肉が飛び散り、呻き声は爆音に呑まれ、あっという間に掻き消されて失せた。
 連射、連射、連射!正に鏖殺の雨が降ったあとに、アルマは身を翻して着地する。
 猛撃の後である。地上には、動く影は残っていない。
「こんなことしか出来ないけれど……せめて、安らかにね」
 アルマは焦土を一望した後、次の少女らを探して戦場を走り出した。

成功 🔵​🔵​🔴​

リーオ・ヘクスマキナ
こんな事までやるっていうのか、吸血鬼っていうのは……
UDCの狂信者共もかくや、って感じだねぇ

……全くもって腹が立つ
何故だろうね。さっきの『的』にされた人達よりも、あの少女達をこそ疾く「終わらせないといけない」って強く思うのは

……行こう、赤頭巾さん。力を貸して!


(亡くした記憶の中。幼馴染が曝された神の理不尽の光景と、彼女達がダブったような気がしたが故)



赤頭巾さんを前衛に。連携戦闘は手馴れたもの
機敏な動きにはSMGで【援護射撃】の弾幕を張り、その間に鉈か散弾銃接射で仕留めてもらう

……酷い気分だ
けど戦意に衰えはない。「また」理不尽な目に遭う犠牲者が出る前に、当の吸血鬼とやら、『処理』しないと……!



●もう誰も、犠牲とさせないために
 吸血鬼というのは、人を弄び、足掻き藻掻き苦しむその愉悦を楽しむものだという。多くの場合、彼らは完全に、人間を只の遊び道具、兼食糧としか見ていない。
 呻きながら、青白い肌を晒し、最早人としての意思さえなく歩き回る少女たち。吸血鬼の下らない遊びの産物だ。
「こんな事までやるっていうのか、吸血鬼っていうのは……UDCの狂信者共もかくや、って感じだねぇ」
 リーオ・ヘクスマキナ(魅入られた約束履行者・f04190)が呟く。
 腹が立つ。なぜか、聖堂にいた――『的』として完成された少年少女らよりも、今こうして、最早屍肉を喰らうだけの屍食鬼とされてしまった少女たちを見る方が、早く「終わらせてやらねば」と強く感じる。
 それは、或いは、意思の差か。人としての意思すらも剥奪され、かつて持っていた人間性を全て奪われ、人の肉を喰らい、血を啜って己を維持するだけの機構に貶められた――その少女たちが哀れでならない。

           あの日の記憶、
           今や遠い彼方。
           幼馴染みが犠牲となった、
           神の気紛れたる理不尽と、
           重なって見えたためなのか。

 ずき、とリーオは痛むこめかみに手を当て、浅く呼吸する。
 何かが見えた気がした。いつかの光景が。ただ、それを全て思い出すことは叶わないし、この戦場で足を止めるわけにはいかない。何よりも、一刻も早く――彼女たちを終わらせてやらなければならない。
「……行こう、赤頭巾さん。力を貸して!」
 呟けば、リーオの影からゆらりと“赤頭巾”が立ち上がる。
 ショットガンと鉈で武装したそれはホラー映画も斯くやという様だったが、その動きはリーオの制御下にある。駆け出す赤頭巾に続き、リーオもまた走り出した。
 先を走る赤頭巾が鉈を振りかざし、少女らに斬りかかる。
「ううううぅぅうううぅ」
 少女の一人が外神の腕を翳し防御の構えを取るが、赤頭巾の速力と体重をフルに乗せた一撃がそれに克った。翳された腕を立ちきり、頭を縦二つに割る。
 赤頭巾は少女の身体を蹴り飛ばして鉈を引き抜きながら、ショットガンを連射して少女らを蹴散らしていく。しかし数が多い。赤頭巾のショットガンは常に炎を孕み、それが超常のものであると容易に知れたが、そうであるとて無限に弾が出るわけではない。
「あそぼ……」
「あそ、ぼおぉおぉぉ!」
 赤頭巾がショットガンに炎を装填し、リロードをするその隙を狙い、数体の少女が外神の腕を振りかぶって飛びかかる。
「赤頭巾さん! 下がって!」
 後方から指示を下すリーオ。赤頭巾はその声に従い飛び退いて姿勢を低める。射線が開いた瞬間にリーオはACMP-9のトリガーを引いた。パーカッシブな激発音が響き、飛びかかる少女たちの胸を穿ってヒットストップ。
 ひっくり返って地面に落ちる少女らが起き上がる前に、再度前進した赤頭巾の鉈が、その頭を一閃一殺、叩き割っていく。
 リーオを先に倒すべきだと感じたのか、少女らが赤頭巾を無視して前進しようとするが、それを再装填の終わったショットガンが許さない。派手な銃声の響く度、少女らの腕が足がもげ飛び、動きを止めた瞬間にはリーオが放つサブマシンガンの銃弾の嵐が、その脳幹を破壊する。
 死が、乱れ飛ぶ。トリガーを引く度。ショットガンが吼える度。まるでこの世に救いなどないと、そう言っているかのように。
「――酷い気分だ」
 リーオは辟易した風に呟く。しかし、今更止められることでもない。
 彼女らは確かに、ここで終わってしまった。否、改造された時にはもう終わっていただろう。――けれど、ここでこの事件を正しく終わらせられたならば、また理不尽な目に遭う犠牲者が出ることはない。
「待ってなよ、吸血猟鬼。……お前を必ず、ここで『処理』してやる」
 決意を込めて呟いて、リーオはサブマシンガンのマガジンをチェンジ。赤頭巾が押し上げた前線目掛け、駆け出すのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

コーディリア・アレキサンダ


出遅れたうちにずいぶん風通しが良くなったようだね
ともあれ、終わる前には間に合ったようでよかった

ごきげんよう、最低の陽気だ


《全力魔法》――つまり最大火力だ
出遅れた分を取り返すようだ?
そうじゃない。それが、ボクにできる彼女たちへの慈悲だから
付き合ってもらうよ、ボクの中に居る悪魔よ
ボクはボクの我儘で、キミたちを行使する

――飛べ、ブラックウイッチ
キミに射線なんて関係ない
遮るもののない頭上から降り注ぎ、どこまでも追い立て、一人と残さずに撃ち抜け


跡形がないとしても、ここが聖堂でよかった
主よ。恨み、憎しみはボクが。……彼女たちの魂に、どうか救いを



●悪魔の憐歌
 戦況も佳境となったが、未だ少女ら、多数健在。地面を這いずるリビングデッド達を憐れんでか、また一つ、ひゅおっ、と風を捲いて宙から舞い降りる猟兵の影がある。箒に乗って空から現れたのは、七十二の悪魔を宿す希代の魔女。
「出遅れたうちに随分と風通しが良くなったようだね。ともあれ、終わる前には間に合ったようでよかった」
 コーディリア・アレキサンダ(亡国の魔女・f00037)である。可憐な少女の容貌であったが、男性的で自信に満ちた口調で言う。
 ああ――間に合ってよかったとも。この乱痴気騒ぎの仕掛け人には、是非とも一撃叩き込んでやりたい。
「ごきげんよう。最低の陽気だ」
 日の差さないこのダークセイヴァーで発するにはあまりに皮肉な一節だ。冷たい夜の中、コーディリアは月を背に、スカートを摘まんで嘯く。
 紅い瞳を眇めながら周囲を睥睨。新たな乱入者の匂いを嗅ぎつけてか、続々と少女らが集まってくる。
 おなかすいた、ごはん、あそんで――その三語しか発せず、コーディリアとの間合いを計るように、少女らはじりじりと包囲網を狭めてくる。コーディリアは目をますます、刃のように細めた。
「付き合ってもらうよ、ボクの中に居る悪魔たち。――この光景は目に余る。ボクはボクの我儘で、君たちを行使する」
 コーディリアの呟きを余所に、数体が背中に外神の腕を広げ、呻き声を発しながら襲いかかった。コーディリアは武器も持たず、その手にあるのは箒のみ。端から見れば絶体絶命の窮地と映っただろう。しかし、真実は異なる。
 コーディリアが腕を打ち払った瞬間、空が一度、チカチカと黒く瞬いた。
 ――きゅどどどどどどどどどどっ!!
 襲いかかった少女達を迎えたのは呪弾のカーテンであった。天から降り注ぐ、呪いを圧し固めた漆黒の魔力弾が、宙に飛んだ少女らを射貫き、引き裂き、その呪いで蝕んで塵へと帰す。
 
 ――それは、コーディリアの身に宿る悪魔『ハルファス』の権能。無尽の戦を引き起こし、悉くに死を運ぶ魔性の技。『壊し、破るもの』。
    ブラックウィッチ
「飛べ、壊し、 破るもの。射線なんて関係ない――キミを遮るものは何もない。空から注ぎ、どこまでも追い立て、一人も残さず塵に帰せ」
 再び空が黒く瞬いた。降り注ぐ魔弾が、今度は攻めあぐね踏み止まった一団を迫撃した。コーディリアは動かぬ。身に宿す悪魔が巻き起こす破壊を、少しも見落とさぬとばかり、戦場を睥睨している。まるで出遅れた分を取り戻すような、最大火力の魔力爆撃。
 ――否、それはコーディリアなりの慈悲であった。圧倒的な破壊力で、一瞬にして葬り去る。これ以上骸を晒し夜を彷徨うことも、何者かを喰らい罪を重ねることもないように。七十二の悪魔を宿す彼女に出来る救済は、それただ一つであった。
 大聖堂は燃え落ち、既に跡形もなかったが、ここが教会で良かったとコーディリアは思う。鏖殺の最中で、少女はそっと祈るように手を組んだ。
「主よ。恨み、憎しみはボクが。……彼女たちの魂に、どうか救いを」
 空で再びブラックウィッチが瞬く。
 魔弾の嵐が失敗作の少女達を散らす。その奥から骸を乗り越え、さらに駆け来たる一団。コーディリアは組んだ手を解き、少女らを睥睨する。
 狂騒の夜は始まったばかりだ。箒に乗り、コーディリアは次なる一団と距離を取り、次なる悪魔を呼び覚ますのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

アウレリア・ウィスタリア
あぁ、おぞましい
なんて狂気に満ちた存在なのでしょう
こんな狂気を求めた吸血猟鬼
その存在を見過ごしてはいけない…

空からの攻撃も考えましたが
棺檻が乱立する中では死角が多すぎます

鞭剣に【蒼く凍てつく復讐の火焔】を纏わせ
地を駆け剣を振り抜き
敵を切断して焔で凍てつかせましょう
凍ってしまえば再生も出来ないでしょう?
投げつけられた部位も凍りつけば地に直接接することもない

棺檻を蹴って空へ舞い上がり
凍りついて動きが鈍った敵に破魔の魔銃でトドメを
血糸も張り巡らし動き回って翻弄していきます

ボクはお前たちの食料になるわけにはいきません
そして今のアナタたちはこの世に存在してはいけないものに成り果てた
だから無慈悲に葬ります



●スパイダー・スティング
「ああ――悍ましい。なんて狂気に満ちた存在なのでしょう」
 アウレリア・ウィスタリア(憂愛ラピス・ラズリ・f00068)は呟く。どうしようもない――悲愴なまでにどうしようもない光景が眼下に広がっている。
 燃え落ちる礼拝堂を後にし、聖堂方面へ向かう彼女の眼下で次々と地面が隆起し、檻棺が姿を現したのは数分前のこと。今や地表は檻棺から現れた失敗作の少女達で溢れている。
 ――人の身体を継ぎ接ぎにして、こんな狂気を求め生み出した吸血猟鬼を見過ごしてはならない、決して許してはならない。アウレリアは決意を新たにしつつ、敵の密集している位置から離れ、バックアタックを食らわない位置に降り立った。
 空から攻撃をすれば位置エネルギー的な優位は取れるが、一撃入れた後に檻棺の影より強襲される可能性がある。死角の多い状況では離脱戦法は避けるべきだと判断。
 アウレリアは鞭剣『ソード・グレイプニル』に蒼き焔を纏わせた。ユーベルコード『蒼く凍てつく復讐の火焔』。蒼く揺らめくそれは、焔に見えながらにして、あらゆるものを凍えさせる絶対零度の陽炎。姿勢を低くして、アウレリアは鋭く駆けだした。
「うううぅぅ、ぅぅう」
 呻き声を上げながら、駆け来たるアウレリアに気付いたように、少女達がぐりんと首を巡らせる。目が赤い警戒色に煌めき、外神の腕がその背で手首を擡げる。
 アウレリアは構わぬまま、凍焔を纏わせたままの鞭剣を振り放った。ぎゃらららら、と金属音を立てて伸びる鞭剣が少女らの身を裂き、切断ざまに凍り付かせていく。
「うー、う……?」
 外神の腕も切り落とされた傷口が凍てついていては、そこから再生を果たすことも叶わず藻掻くばかり。地に落ちた腕を不思議そうに眺める少女の頭に銃口が突きつけられた。
 魔銃『ヴィスカム』の銃口であった。
 銃声。少女の頭、右から銃弾が射入。左半分が石榴のように爆ぜて吹き飛び、宿っていた外神の腕もろとも塵となり弾け散る。
 アウレリアが手を翻せば、ソード・グレイプニルが彼女を中心とした渦を描くように螺旋軌道を描く。蒼炎が竜巻のように吹き荒れた。蒼き氷焔の嵐に近づきあぐねた少女らが己の身体から千切った肉塊を投げ放つも、それすら凍って地に落ちる。氷の内側に封じられた呪いは、地を汚すことも適わない。
「この蒼焔は復讐と狂気の炎。囚われて逝きなさい」
 アウレリアは練り上げた氷焔の竜巻を解放。周囲、同心円状に氷炎を解き放ち、取り巻く敵を一挙に巻き込む。すぐさま地を蹴り、左手から血の糸を張り巡らせた。血の糸――レージングが、檻棺の森に幾つもの橋を架ける。――それは、彼女の巣のようなもの。美しき女郎蜘蛛めいて、アウレリアはレージングを蹴り飛ばし、翼での羽撃きも併せて縦横無尽に機動。
 蒼炎に凍えた少女らに、それに対抗する術があるわけもない。アウレリアの手の中で、再びヴィスカムが咆えた。銃声のたび、少女らの頭が、首が、心臓が爆ぜ、その身体が次々と塵に帰されていく。
「ボクはお前たちの食料になるわけにはいきません。――そして今のアナタたちはこの世に存在してはいけないものに成り果てた。このままにすれば、きっと、いつか、誰かを害する」
 きし――
 レージングを軋ませ、アウレリアは脚を揃えて空中に静止。ヴィスカムをリロード。
「――だから、無慈悲に葬ります」
 ヴィスカムが月光に煌めく。
 アウレリアは、未だ残る少女らへ再び飛んだ。この遺恨も、未来の犠牲も、何もかも断ち切るように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セリオス・アリス

【双星】
ただでさえ晴れの少ないこの世界で
地下から出てきた檻の住人は
アイツらはどれ程光と遠いところにいたのか
余計な憐れみだろうが…せめて明るい光のもと送ってやる

まあ、つって…俺が出せる光は炎なんだけどな
『ダッシュ』で距離を詰め強い炎の『属性』を剣に纏わせ『2回攻撃』
敵の攻撃を『見切り』『ジャンプ』
飛んでる最中に追撃が来るなら檻を、崩れた建物を蹴りつけ方向を変えて
時に駆け上がり立体的な攻撃を
呪いが敵を強くするなら
それを越えるくらい『全力』の魔力を込めて斬ればいい

お前が望むならいくらでも
アレスを『鼓舞』するように【赤星の盟約】を
アイツの強い光に僅かに目を細め
残ったヤツは俺が送ってやるから―安心しな


アレクシス・ミラ

【双星】

…どこまで命を冒涜すれば気が済むのか
これ以上、彼女達が奪う側にならないように…
光を以って呪縛を祓い、導き、送ろう

剣に宿すは「破魔」と光「属性」
盾に纏うは「オーラ防御」と「呪詛耐性」
素早く「2回攻撃」の後、
斬撃と同時に地面に叩き込んだ光の魔力を拡げるように「範囲攻撃」
攻撃は盾で受け、剣で「カウンター」

セリオスへの攻撃は割り込んで防ぎ、叩き落とす
君達の相手は、僕だ

倒す前に部品が出現してしまうな…
…君の力を貸してくれ。セリオス
両手で剣を構える
セリオスの歌と僕の「祈り」を
この剣に乗せよう
彼女達を縛る呪われし運命を…断ち切る!
剣を大きく振り抜き最大の【天流乱星】を放つ
…残りは頼んだよ、セリオス



●流星と送り火
 ダークセイヴァーに太陽はない。
 昼には無明の曇天が空を埋め尽くし――夜には昇った月が、かそけき灯を示すのみ。
 そんな、光の乏しいこの世界で、地下から迫り出した檻棺。その中から這いずり出た少女達は――一体、今まで、どれほど光と遠い位置に居たというのだろう。
 人は光を求めるものだ。光無くしては、生きてはいけない。――人として生きる限りは。
「うぅうぅ、ごはん、ごはんんんん」
「おにいちゃんんんん、あそ、ん、でええぇええぇ」
 アンデッドの――失敗作の少女らが迫り来る。
 セリオス・アリス(黒歌鳥・f09573)は、地下に囚われていたその少女達の境遇をただ憐れんだ。今や屍肉を喰らうアンデッドに過ぎずとも、元を正せば彼女らもまた犠牲者だ。罪もない無辜の民だ。セリオスが抱いた思いを代弁するように、その横で金髪の――夜明けの光めいた青年が口を開いた。セリオスが明ける前の夜を表すとしたら、その青年はまるで払暁を示すような――対照的な容貌であった。
「どこまで命を冒涜すれば気が済むのか――奪い、殺して、玩具にして。到底許せる所業じゃない。……セリオス。これ以上、彼女達が奪う側にならないように……光を以って呪縛を祓い、導き、葬送ろう」
 アレクシス・ミラ(夜明けの赤星・f14882)だ。破魔の光宿す長剣『赤星』を構え、セリオスの肩を軽く手で叩く。
「あぁ、アレス。……この憐れみも、もしかしたら自己満足に過ぎねぇのかも知れねぇが。せめて――明るい光の下に」
 セリオスの頷きを見て、アレクシスは目を和ませて一つ頷き、進み出た。
「君に攻撃を届かせはしない。前衛は僕が張る。後詰めを任せたい」
「任せておけよ。お前の背中を預かれるくらいには、俺も強くなったつもりだぜ」
 背中を見せたまま語るアレクシスに、笑って返すセリオス。
「頼もしいな。それじゃあ……お手並み拝見、といこうか!」
 アレクシスが盾と剣を構えれば、正面から迫るは敵勢、約十名。先行するのが三名。アレクシスは背後のセリオスを守り戦うべく不動の構えを取る。
「ううぅぅうううぅ!」
 襲いかかってくる少女。外神の腕が背中より展開し、鞭めいてアレクシスに襲いかかる。一挙に四本ほどの腕が襲いかかるが、アレクシスは即座に剣を振るい、一呼吸に二閃の剣撃を放つ。腕が二本薙ぎ飛ばされ、くるくると宙を舞う。残りの二打を光纏う楯にて弾き返し、打撃の圧力に押されて下がりつつも地面に剣の切っ先を叩き込む。
 ともすればただの制動に見える動作だったが、しかして実体は異なる。
「奔れッ!」
 アレクシスが命じれば、足下に光が疾る。敵の真下から迸った斬光が、セリオスへ襲いかかろうとした少女らの脚を刈り飛ばし、その侵攻を阻む!
「行かせはしない。君達の相手は、僕だ」
 少女らを阻み遅滞戦闘を繰り広げるアレクシス。広範囲をマークし、敵を侵攻させない手腕はさすがの一言であった。しかして、それだけでは敵は倒せない。脚を、腕を、外神の腕を失った少女らは、外神の力を解放して、失われた部位に新たな外神の部位を召喚し、より強い異形として再臨する。
「――セリオス!」
「分かってる。――お前が望むなら、この喉が枯れても歌ってやるよ」
 後ろから黒歌鳥の美しい歌声が響いた。天上の美声ながらに、感情を揺さぶり奮い立てるように勇壮で、勇猛な声。
「星に願い、鳥は囀ずる。いと輝ける星よ、その煌めきを彼の人に。これは亡郷の歌――今生二度とは帰れなくとも、懐郷の念我らが胸に」
 歌い上げるは『赤星の盟約』。アレクシスの力を、ひいては自分の力を高めるための、故郷の歌。
 アレクシスは奮い立つ力を感じ、楯を地面に突き立てて赤星を両手で構えた。亡郷の歌に、少女らへの祈りを載せる。赤星が、セリオスの星歌を帯びて無二の光を放つ。瞬く間に剣は極光を束ねた如く伸び、四十メートル近い光剣となる!
          さだめ
「――これは呪われし運 命を断つ星光の剣! 光よ、御霊を天へ導く橋となれ――!!」
 唸りを上げるは遍く呪いを断ち斬り貫く星の剣――『天流乱星』!!
 アレクシスは全身全霊、天地両断するが如く光の剣を横に薙いだ。横薙ぎに斬光一過、前方扇状範囲に居た少女らがその一撃に巻き込まれ身を真一文字に断たれる。
 身体を二つに分かたれただけならば、動ける少女もまたいただろう。しかし、天流乱星は二段構えの必殺の牙。
 斬光奔ると同時に空に刻まれた光の陣より、まるで流星雨が如く光の剣が飛び出し、初撃が命中した少女らを追撃する。当に天に乱れし千の星。セリオスの力を得たアレクシスの斬撃が、前方に居た数十体を一刀のもとに滅却する!
「はぁッ、はぁ、」
 最大最強の一撃を放ち呼吸を継ぐアレクシスの肩を、とんと撫でる手が一つ。
「ははっ――やるじゃねーか、アレス! 後は任せておきな!」
 跳ねるような声と共に、光吹き荒れた跡へ今度はセリオスが前進した。
 極光が晴れれば、偶然にも檻棺の影に隠れ難を逃れたもの、密集していたために辛うじて無事であったものが数体残っているのが見える。それを狩るため、セリオスは踏み出したのだ。
 呪いに塗れた肉を千切り投げつけてくる少女らを前に、しかしセリオスは一歩も退かない。青星に宿した炎で降りかかる肉片を焼尽・浄化しながら、真っ直ぐに進む。
「俺はアレスみたいに、浄化の光は使えねぇけど――灼き浄めてやることくらいはできる」
 セリオスは『エールスーリエ』に魔力を叩き込む。魔導蒸気機械内蔵ブーツ。魔力を直に運動エネルギーに変換し、足下で爆ぜるその撃力に乗って空を疾る。
 手に携えた長剣、『青星』が、夜闇切り裂く紅蓮に燃えた。
 セリオスは空を駆け下りるように突っ込み、鋭い刺突により一体の喉元を破壊。首半分を斬り断って抜いて、燃える剣先でさらに二体の首を断つ。伸ばされた外神の腕をエールスーリエによるショートダッシュで回避、檻棺の壁面を蹴ってムーンサルト。追い伸びる外神の腕を空中で斬り払いながら落下、腕の主たる少女の頭へ青星を突き立て、脳幹を破壊。身体を蹴り離してバックフリップ、地に降り立つ。
 マントをばさりと払えば、殺されたことに気付いたかのように少女らは噴血し、燃え爆ぜるように灰になった。
「せめて迷わないで逝けよ。きっと――無念は俺たちが果たすから」
 セリオスは、宙に吹き散る骸の塵を見上げ、虚空に一言。青星を納め、アレクシスを振り向いた。
 アレクシスが息を整え走ってくる。二人揃えば、何をも恐れることはない。
 ――さあ、次の少女達を祓おう、業を濯ごう。青の炎と、赤の光で。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リリヤ・ベル

【ユーゴさま(f10891)】と

見えるのは、然程変わらないような背格好の。

誰かを、食べさせるわけには。
わたくしが食べられるわけにも、いきません。

……ユーゴさまが火をともすのを見るのは、はじめてです。
使わなかった理由を、ちゃんと知りはしません。けれど。
いま使う理由は、わかるような気がするのです。

その意志を叶えるよう、天からひかりを招きましょう。
当たらなくとも、地に満ちる呪いを祓うように。

なにがこの子たちの救いになるのか、わたくしにはわかりません。
……だから、わたくしにできる、いちばんよいと想うことを。
満たすことはできないけれど、
もう飢えなくてもよいように。

おやすみなさい。
よいこは眠る時間です。


ユーゴ・アッシュフィールド

【リリヤ(f10892)】と

……子供か。
趣味の悪い事だな。

他の猟兵の始末した個体を見ていると
致命傷を受けても動くようだな。
微塵に斬ってしまうのが楽だが、なるべく苦しませたくはない。
かといってリリヤのように聖なる力を扱える訳もなく。

――仕方がない、使うか。

かつて俺自身の意思と共に燃え尽き、灰となった剣。
だが、どうにもまた炎が灯り始めているようだ。
まだ深く眠っちゃいるが、少しだけ目を覚ませ火の鳥
契約に応え、炎を貸せ。

剣から漏れ出る程度の、か細い炎だが上出来だ。
なるべく叩き斬る事はせず、引火させるよう戦おう。

……この炎は熱くも痛くもないだろ
これが救いだとは言わないが、せめて安らかに逝くといい。



●薪をくべよ
 或いは、彼女らにも騎士が――庇護者がいたのなら、何かが違っていたのだろうか。
 リリヤ・ベル(祝福の鐘・f10892)はそう思わずにはいられない。失敗作と目された少女達は、いずれもリリヤと同じような年齢、背格好だ。
「ねええぇえぇえ、あそ、ぼおぉぉぅうううぅ」
「おなかああぁ、すいたあぁあぁ、ごはんんんん」
 遮蔽物の庇護もなく会敵したリリヤの前に、少女達が群がり出す。
 少女達の唇から、血の混じった唾液と共に零れ落ちるのは、聞くのも憚られるような爛れた声。声帯も、気管もおそらくまともな状態にない。割れてざりざりと、かつての面影もなく響く。
「……これ以上、誰かを、食べさせるわけには。……わたくしたちが食べられるわけにも、いきません。おゆるし、くださいね」
 リリヤは祈るように手を組む。それは、今から祓う骸達に対する憐れみの籠もった祈りだった。喩え幼くとも――小さくとも、彼女は猟兵。彼女らを救うことは出来ず、祓わねばならぬと理解している。
「今度は子供か。……揃いも揃って趣味の悪い事だ」
 そして、リリヤは一人ではない。ユーゴ・アッシュフィールド(灰の腕・f10891)が、リリヤの前を守るように立った。ユーゴとリリヤは、以前にも同じグリモア猟兵の案内で、吸血鬼に関わる案件に携わったことがある。その時には、慰み者とされた少女らを、一部救えぬものもあったにせよ――生きたまま助けることが出来た。
 しかし、此度は違う。ユーゴらがたどり着いた時点で犠牲となった少年少女らは死に、残ったのは青白い肌の動く骸だけ。ユーゴは苛立たしげにルーンソードの鞘を払う。
「ユーゴさま」
「ああ」
 伺うような声に応え、抜剣した剣を構えるユーゴ。
 ――他の猟兵が戦うところを見るに、人間ならば致命傷となり得る心臓の欠損、腕・足の切断、挙げ句上体と下半身の轢断――その類の手傷を負おうとも、骸達は未だ動きうるらしい。
 致命の一打となり得るのは、首を骨ごと断ち、泣き別れとする一閃か。或いは、相棒――リリヤの扱うような、聖なる力を用いての祈りか。はたまた、微塵に切り刻み再生もままならぬようにするか――
 乱戦では的確に頸だけを狙うのは困難。聖なる力を持つわけでもなく。切り刻むのが最も楽だったが――しかしてあの骸を、これ以上貶めることをユーゴ自身が許せない。
 これ以上、苦しむこともあるまい。そう思う。
「――仕方がない。使うか」
 ユーゴは抜剣したルーンソード――『灰殻』を地面と水平に、突き出すように構えた。『灰殻』と字すその剣は、或いはユーゴ自身である。かつて彼自身の意思と――そして或いは、彼のくにと――共に燃え尽き、最早大義も、なんの力も宿さなくなった剣。
 しかして、ユーゴは念じた。求めた。願わくば、あの哀れな少女らに――この上苦痛のない死を、と。
 以前の彼なら、思わないことだったろう。それはつまりは、ユーゴ自身の胸の奥に、微かではあるが炎が灯り始めたということなのかもしれない。
「深き眠りの淵より翼を上げよ。契約に応え、炎を貸せ」
 刀身の腹を二本の指で以てなぞる。後ろで、リリヤが密やかに息を呑むのが聞こえる。
 ――声に応え、深淵に未だ眠る火の鳥が身動いだ、気がした。
 刀身に這うユーゴの指の後を追うように、緋色の炎が灯り、ルーンソードを包み込む。
 未だ、全盛期の力の全てを振るうことは罷り成らずとも。喩え剣から漏れ出る程度のか細い炎であろうとも。……きっと、少女らを葬送るのには充分だ。
「俺の背から離れるな、リリヤ」
「はい。おそばに」
 リリヤの応えを聞き、ユーゴは機先を制して敵へ駆けた。

 ユーゴが剣に炎を灯すのを、リリヤは初めて見た。眠れぬ夜に御伽噺のように、火の鳥のことを聞いたことはあった。しかし今この時まで、ユーゴはその力を振るおうとはしなかったし、リリヤもまた、それを問い質すことはなかった。そうしなくても、二人の旅は支障なく続いてきたから。
 ――けれど、嘗て聞いた火の鳥の話を思い出せば、今ユーゴが何を思い、眠りの淵にある火の鳥を揺さぶったのか、なんとなく解る気がする。そうなれば、リリヤがやるべきことはたった一つだった。幼くとも彼女は聡い。明快に、己がどうすべきかを知っている。
「ひかりよ、ひかり。まよえる御霊を、呪いを、みちびきたまえ」
 リリヤは小さな手の指を伸べ、襲い来る少女たち十数名のグループを指し示す。ダークセイヴァーの闇空が割れ、天から注いだ光がまるでレーザーのように少女らに幾筋も降り注いだ。『ジャッジメント・クルセイド』。
 注ぐ光が少女らの四肢を撃ち抜き、転倒するものが相次ぐ。転倒せずとも肩を、胸を、或いは外神の部位を撃ち抜けば動きが鈍る。先んじての攻撃で少女らの勢いが鈍ったところに、ユーゴが突っ込んだ。
 此度ユーゴが披露するのは、荒々しい戦場剣術ではなく、宮廷の儀礼剣術めいた動き。敵を見れば叩き切るような荒々しい剣ではなく――流麗に刃で相手の鎧を撫でて『一本』を決めるような剣だった。
 ――リリヤが思い当たったことは、誤りではなかったようだ。ユーゴは、少女たちを静かに葬送ろうと考えているのであった。剣が撫でるように少女一人一人を掠める度、静かに――だが激しく燃える火の鳥の焔が、少女らの衣に、膚に燃え移り、その身体を瞬く間に燃焼させる。
「う……?」
「あ、あぁあ、ああああぁぁ」
「あった、かい……?」
 少女らは、自分の身を包む焔に、見惚れた風に動きを止めた。外神の部位は引っ切りなしに暴れ、苦痛を訴えるが、少女らは徐々に燃え尽きていく自身の身体を、どこか安堵したように見下ろしている。
「……この炎は熱くも痛くもないだろ。これが救いだとは言わないが――せめて、安らかに逝くといい」
 ユーゴの言葉と共に、数体の少女が頽れ、そのまま燃え散り塵と化す。
 横合いより尚も少女たちの声。外神の腕が、幾つもユーゴ目掛けて振るわれる。
 それを、リリヤの指先が迎え撃った。天から注ぐ光線が、その腕をまるでレーザーカッターめいて断ち、追撃の数射で敵勢の鼻先を押さえる。
 ――何が、彼女たちの救いになるのか。自分が今していることは正しいのか。それは分からない。誰も教えてくれはしない。きっとユーゴでさえも。
 だからこそ――絶対の正解はないこの世界で、リリヤは己が正しいと思うことを成す。
 尽きてしまった命を、亡者の欲望を、満たすことこそ出来ないけれど――もうこれから、ずっと、飢えることのないように。
 ユーゴが再び、燃えるルーンソードを構え直し吶喊する。
 彼の行く先を光で照らすよう、リリヤはもう一度指を伸べた。

「――おやすみなさい。よいこは眠る時間です」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アヴェルス・ジュネ
壊れて、しまったのね…可哀想に
苦痛感じる痛覚は残して、
随分と、悪趣味に歪めたものね
こんなこと、許されていい筈がない

戦場内に叶う限りの鋼糸を展開
糸掛ける先には残る建屋と、無数の棺檻を利用しましょう
移動と、後を考えてのことだけれど、
他猟兵は、足場にしてくれても構わない

糸の中を止まることなく駆け回り、
敵に狙いを定めさせない
迫る攻撃はナイフで武器受け、
少しずつ、糸の内へ内へと敵を誘導

蜘蛛はね、獲物を捕らえる為に入念に準備をするものよ
叶う限りの敵を巻き込み潜牙

今日のことは、知り得なかった現実だから
悔いも悲観も、抱いた所で意味はないけれど
それでも、傷付いた命に…一つだけ
…間に合わなくて、ごめんなさい



●哀雨は弔うために降る
「壊れて、しまったのね。……可哀相に」
 檻棺の一つの天辺で、夜闇の藍色の髪をした女が独り言ちた。
 赤い瞳で戦場を俯瞰するのはアヴェルス・ジュネ(哀雨・f16344)。鋭く怜悧な印象の瞳に反して、瞳の光は救えなかった全てを悔いるような、悲しみの色を帯びる。
 アヴェルスは幾つもの声を聞いた。一見、最早自我も感覚もなきがごとく、動く肉と見るや食ってかかる少女らだったが、攻撃を受けたおりに「いたい」と言葉を発したものもあった。
 少女らに痛覚が残っていないなどとは誰にも証明できまい。――そうだ。有り得ぬことではない。吸血猟鬼は『撃って楽しい』的を模索していたのだから。
 仮に――あの有様になってまで、少女らに痛覚が残されていたとするのなら。
 アヴェルスは歯を噛み締める。
「随分と、悪趣味に歪めたものね」
 こんな非道が許されていいわけがない。アヴェルスは、四方八方へと鋼糸――『無影』を伸ばした。檻棺の合間、建屋と建屋の間、叶う限りに伸ばし、張る。
 ――身を躍らせた。下を歩む、少女らの元へ。

 飛び降りるアヴェルスを見仰ぐなり、少女らは瞳にぼうと赤い光を宿し、薄っぺらな笑みを深める。唇の端だけがぐにゃりと釣り上がり、腐りかけの口端が裂け、赤く濡れた。
「うううぅうぅぅ」
「ごはんんん」
 少女らの背中でべきべきと音を立て、外神の腕が変形。即座に繰り出される豪腕の群。空を裂いて撓る外神の腕を、しかしアヴェルスは空中で『立ち止まる』事で回避。不可思議な挙動に、届かぬ腕を不思議そうに見上げる少女らを俯瞰する。
「う……?」
「貴女達に、捉えられるかしら」
 宙に張った鋼糸の一本を踏んだのだ。即座に糸を蹴り、次なる糸へ。敵の射程範囲に降りた次の瞬間には、射程の僅か外まで跳ねる。焦れたように徐々に、敵が追いかける動きが大振りになっていくのを、アヴェルスは冷静に観察する。狙いを定めさせず――大胆になりすぎず、しかして臆病にもならず。敵が僅かに手を緩めれば、もう少しだけ踏み込んで、「当てられるかも」と思わせる。計算された距離の取り方。
「たべ、させ、てええぇえぇえぇ」
 突如、一体の少女が跳ねた。背の外神の腕を細く長く伸ばし、射程を稼いでいる。この短時間での学習と、異様とも言える進化。アヴェルスは痛みを堪えるような顔をして、右手を翻した。
 きゅぱッ、と音。僅かに残した鋼糸が、ショートナイフ――『月爪』のグリップを巻き取った。即座に抜剣。腕を振る速力がそのまま糸を伝い、ナイフに乗って斬風となる。月下、銀孤描く刃先が、外神の腕を鋭く断った。手の届かぬまま、飛び来た少女が落ちる。
 アヴェルスはバックフリップ一つ、建屋の屋根に着地した。地面を見れば彼女を追い、足下に群がる、二十数体もの少女たち。彼女らの足がメキメキと音を立て、変異する。まるで羚羊の脚のような、跳躍に向いた形に。飛び来る気なのだ。
 ――いたい、……いたいいぃ、
 細波のように教会一体を満たす少女らの呻き声のどこかに、また、その哀しい響きを聞いた気がした。
「――ああ」
 女は、目を伏せる。
 それを諦めと取ったのか、少女らは一斉に高く飛び、アヴェルスの元へと殺到した。
 対するアヴェルスは――開いた手を衝き出し、
「……覚えておきなさい。蜘蛛はね、獲物を捕らえる為に入念に準備をするものよ」
 握った。

 檻棺が、建屋の桟が、柱が、或いは少女ら自身の身体の一部が――今まで、アヴェルスの足場となる鋼糸の『巣』を支えていたものが断たれ、空中を無数の銀糸が舞った。アヴェルスは十糸を手繰り、その糸全てを操作する。
 それは潜み、掛かった獲物を穿つ牙。――エフィカス。
 跳ね撓り絡みつく鋼糸が、少女らを宙でぎしりと留めた刹那。
 掻き抱くように、アヴェルスは全ての鋼糸を張った。力が糸先にダイレクトに伝わり――
 それが最後。少女らは、幾つもの肉片と化して、汚泥めいた血を散らし地へと落ちる。
 果てる少女らを見て、アヴェルスは哀しげに声を漏らした。
「今日のことは、知り得なかった現実だから――悔いも悲観も、抱いた所で意味はないけれど。それでも、……間に合わなくて、ごめんなさい」
 落ちる言葉が、大地に浸みて消えた。
 まるでそれは、少女らを哀れむ雨のようだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鹿忍・由紀
あーあ、やっと片付いたと思ったのに
まだこんなにあったんだね
よく集めたもんだ

これだけ死角を用意してくれるならやりやすくて助かったよ
乱戦状態なら敵の集中が一点に向くことが無いことも加味
地形の利用で目立たないよう、
影と影を渡り歩くように不意打ち
UCの高速移動で瞬時に肉薄
ダガーでの斬撃と追従する残像による二回攻撃
一体一体を確実に落としていく

自分にも死角が出来るけど
第六感と野生の勘で危険を感知
見切りで攻撃を避けてカウンターで落とす
複数体の敵なら同時に相手せずに撒いて
体勢を整えてから狙いやすい相手を優先的に片付けてく
深追いせず、身のこなしは軽く、躊躇わず確実に

こんなとこに詰め込まれて災難だったね
感傷もなく



●影の雨の降る
 見渡す限りの檻棺に、その間を彷徨うのは青白い肌の骸達。
「あーあ、やっと片付いたと思ったのに。まだこんなにあったんだね。よく集めたもんだ」
 鹿忍・由紀(余計者・f05760)は嘯く。彼は礼拝堂の掃討に当たった猟兵の一人である。言うに及ばず、礼拝堂にも『失敗作』はいた。外神の部位などという大層なものこそ埋め込まれてはいなかったが、同様の実験の被験者であろうことは容易に知れた。
 有紀の声は凪いでいた。嘆けば命が帰るのか、怒れば犠牲が巻き戻るのか。いずれも否である。
 淡々と由紀は周囲の地形を確認。檻棺がそこかしこに飛び出て、自由な機動を妨げている。近接戦当を得手とする猟兵にはディスアドバンテージとなりかねない地形だが、由紀は涼しげに呟く。
「これだけ死角を用意してくれるなら、やりやすくて助かったよ」
 隠れ不意討つのは得手のうち。少女らにまだ気付かれぬうちに、由紀は闇に紛れて駆けだした。

 檻棺に身を隠し、影から影を飛び歩く。周囲の建物は他の猟兵の放った炎で赤々と燃えていたが、光があらば影がある。光源となる炎が揺れることで揺らめく檻棺の影から影を、由紀は黒い風となって走った。
「う……?」
 ひゅん、とその移動に伴う風に嬲られた少女が何かに気付いたように顔を上げるが――その時には由紀は行き過ぎた後だ。少女の首から血が飛沫を上げ、あっけないほどに軽い音を立てて倒れる。その首に裂傷二閃。言わずもがな由紀のダガーによるものだ。
 ユーベルコード『影朧』による高速移動。魔力を帯び、気配を消し、まるで名に負う忍の如き動き。
 烈風そのものの速度で由紀は吹き抜けた。彼がダガーを一閃すれば、後ろに従う残像が同様の軌道で刃を振るう。魔力を載せることで質量を持った残像が、由紀の一閃に追従し敵に傷を刻む。
 瞬く間に数体が首から血を噴き、倒れた。
 由紀は倒す順序に気を遣う。自分が疾る位置、全ての敵を殺しては、その死んだ順に軌跡を追われる。未だ相手が自身を捉えきれていないのなら、通った足跡を追われぬよう、ランダムに倒すべきだ。敵の集中を一点に寄せぬようにする策である。
「あ、あぁああぁぁ、うぅう」
「なぁ、にいいぃぃ」
 果たして少女らは策略に正面から嵌まることとなる。隣の少女が噴血して倒れたかと思えば、他方でまた数人が倒れる。吹き出る血に釣られ、少女らの目が左右に彷徨う。
 瞬く間に十数体が由紀のナイフで果てる。
 残り数体のうち、一体が、頭を抱えて軋むように呻いた。
「ううぅううぅうううぅ……!」
 少女は背の“外神の腕”をメキメキと、細く、長く分化させ、鞭の如く振るう。
「っと」
 由紀は背に這い上る危険信号に従い、跳躍。その眼下を、刃を纏った触手のようになった外神の腕が、複数の檻棺を薙ぎ倒して暴れ狂うのが目に入る。
 ――危機による進化という他ない。
「悪趣味だけどね」
 びゅん、と音を立てて引かれる鞭めいた腕。由紀は空中で身を翻し、態勢を整え降り立つ。姿を現した由紀へ、二体が爪を光らせ襲いかかる。
「――」
 確かに、隠れての闇討ちは最も効率のいい殺害手法だが。
 何も、由紀とて正面戦闘が出来ないわけではない。
 身体を捌いて爪を回避、カウンター気味にダガーを喉に打ち込んで一体片付け、痙攣する身体を蹴り飛ばしてもう一体にぶつけ、体勢を崩させる。左手を翻しつつ、その一体を捨て置いて変異個体目掛け駆けた。
 一度に対するのは一体までだ。複数を相手取ることはない。優位な一対一を繰り返すのなら、百体だって殺してみせる――
 由紀の後ろで、ばつん、と一つ頸が飛ぶ。
 閃かせた左手から鋼糸を這わせ、蹌踉めいた個体の首に絡めていたのだ。死体を蹴りぶつけたときには攻撃は完了していた。熟達の見切り、そしてカウンター。
 再び影に紛れつつ走る由紀の行く手を阻むように、今一度鞭の如く撓り伸びる異形の腕が荒れ狂う。由紀はその軌道を見切りつつ、地面を蹴って跳んだ。檻棺の側面を蹴り飛ばし蹴り渡り、宙に舞う。月光が地に彼の影を落とし――
「貫け」
 由紀が命じると共に、その影から浮かび上がった影のダガーが爆ぜるように射出される。ユーベルコード『影雨』。鞭の如く外神の腕を振り回す少女を次々射貫く影の刃。一度ふらつき、腕が止まれば後は一瞬。
 ひたりと着地した由紀は、瞬息、加速。爆ぜるが如く電光石火の前進から、繰り出したダガーで少女の首をぱっくりと断つ。
 噴血しながら塵に帰っていく少女に一瞥もくれず、束の間静かになった戦場で、由紀はこんこんと檻棺の壁を叩いた。
「こんな檻に詰め込まれて災難だったね。いい夢を」
 塵となった身が、夢など見るわけもない。感傷もなく言い捨て、由紀はダガーから汚れた血を振り飛ばした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ラグ・ガーベッジ
◎【結社】

「――――気に入らねぇ」
不快感を隠そうともせず顔を歪ませる

「”似てる”と思っちまった事実が気に食わねぇ」
しかしそれは外道への義憤ではなく
眼の前の”失敗作”に感じる同族嫌悪

「俺は雑魚とは違うんだ」
武器の一部と、神の部位の差異はあれど
体の内側から異物を生やし戦うその姿は
眼の前の少女たちと酷似していた

「喰われてたまるかよ!テメェらが俺の糧になりやがれ!!!!」
刃に変えた手刀や背中から生えた槍、鎌のようになった足などで敵を切り刻んでいく

リーチが足りなければ、肘の部分を鎖に変え、手首を鎖鎌のように振るうなど
その場に合わせた早業で瞬時に変形し、トリッキーに戦う

「ああ、ウゼェウゼェ消えちまえ!」


アダムルス・アダマンティン
◎【結社】
ああ、まったく。何から何まで先代のⅦに似通っている。目的は違えど、目指すもののために悪に手を染めるその思想。人ならざる身にしてなお度し難い
思考は口にすることはなく

ただいつも通り叩き潰す
誰よりも前へ出て、その身でもって攻撃を庇い受け、激痛に耐える
かつて先代のⅦが生み出した失敗作をそうしたように

前に出過ぎるな、ラグ。戦場では考えられなくなった者から死ぬ
貴様はまだ考えられるだろう

刻器、神撃
放つは捨て身の一撃
ソールの大槌に纏わせた地獄の炎で敵を焼く



●鏡を砕く槌
 燃える廃墟の中を、葬列めいて青白い少女達が歩く。地獄を形にしたような、救いのない末世の光景。

 ――ああ、似ている、と、二人は思った。

 アダムルス・アダマンティン(Ⅰの“原初”・f16418)が想起したのは、先代の『Ⅶ』。目的こそ異なれど、己が求むるもののためならば悪にすら手を染め、他のあらゆるものを踏み台に邁進するその様子。
 吸血猟鬼が現出したこの地獄は、当にその手前勝手な思想により結実したものだ。
 ああ、何から何まであの屑によく似ている。人ならざる身にしてなお、度し難い。
 アダムルスは決して口を開くことはなかった。そのⅦの名を口にすることすら憚るとばかり、無言でソールの大槌を構える。

「――――気に入らねぇ」
 一方、それとは対照的にラグ・ガーベッジ(褪せたⅦ色・f16465)はぽつりと呟く。その顔は感じた不快感に苦々しげに歪み、ぎざぎざの鋭い歯が重なってぎりりとと軋みを上げる。
 骸となってなお、屍肉を喰らうために歩く少女達の哀れさに義憤を感じたか――
「”似てる”と思っちまった事実が気に食わねぇ」
 否。単純に、今も動く死体として動き回りながらも――何者にもなれず、何者とも呼んでもらえず。名は無く、ただ『失敗作』とレッテルを貼られた少女達にラグが感じるのは、同族嫌悪であった。
「俺は、違う」
 ラグはその身を武器に変ずる。少女達は身体に神の部位を宿し、歪に変形させて攻撃する。武器と神の部位との差はあれど、いびつに歪んだ命の在り方という点で――そこには相似性があった。ラグ本人すら、否定しかねるほどの。
「俺はテメェらみてェな!! 雑魚とは違うんだよ!!」
 咆えるなり、ラグはアダムルスに先んじて踏み出した。
「ううぅううぅぅう」
「ごはんんんん」
「おな、か、すいぃぃたあぁあぁ」
「うるせぇな、喰われてたまるかよ! テメェらが俺の糧になりやがれ!!!!」
 手刀を構えれば、ラグの腕は剣となる。ギラリと刃に変じた右腕を構えて突貫。横薙ぎに薙がれる外神の腕を潜り抜けショートジャンプ、首を薙いで一息に斬首。宙に飛ぶ頸が落ちる前に空中で身を捻り、脚を鎌のように変じる。
「おらァ!!」
 ひゅばう、と音を立てて空気を裂いた鎌脚が、当に死神の鎌めいて少女らの首を三つ刈り飛ばす。身を撓めて着地。その背に覆い被さるように襲いかかる少女を、不意を討って背から生やした槍襖で貫く。奇妙な息と声が背後で零れる。
「あかっ、か、かあぁぁお、」
「くたばり損ないが、いつまでも人間ヅラしてんじゃぁ、」
 槍を引っ込めるなり、再び刃となった腕を、
「ねぇよッ!!!」
 振り向き立ち上がりざまに袈裟切り上げ。身体を二つに分かち、絶殺。それ以上声を発することもなく少女は塵となって消え失せる。
 瞬息、五体を葬るラグ。しかしそれに倍する数がすぐさま襲い来る。ラグは両手を刃に変えそれを迎え撃つ構えを取るが、それより先に後ろから迫る気配があった。
 アダムルスだ。
「いつも言うことだが、前に出すぎるな、ラグ」
 言いながら、己は前に出る。
 それがまるで、自身の責務だと感じているかのように。――先代のⅦの生み出した罪を、今なお注いでいるかのような顔で。
「燃えろ、ソールの大槌。獄炎にて哀れなる者どもを焼き祓え」
 圧巻であった。ソールの大槌は文字通りに巨大なウォーハンマーだ。それそのものが帯びる地獄の炎に、アダムルスがくべた身の内の火焔が重なれば、アダムルスは最早歩く焦熱地獄と言って不足無い。
「あ、ああぁ、っ」
 近づくだけで少女らの髪がちりりと焦げ、衣服に炎が点る。しかしそれも一瞬だった。なぜなら、その次の瞬間には粉々になっていたからだ。
 アダムルスは炎の旋風となった。ソールの大槌を横薙ぎに振るえば、直撃した少女は五体四散して骨と肉と血でできた霧のようになって吹き飛ぶ。弾け飛んだ骨片がショットガンのようにその横合いにいた少女を巻き込んだ。堪らず倒れ込む少女の上に尚も振り下ろされる戦槌。一撃で地面の染みとなる。瀕死となる間もない。即死だ。
 ――ただ、いつも通りに。いつも通りに叩き潰す。アダムルスはただそれだけの機構であろうとしているかのように前に出る。
「それなら俺も毎回指図すんじゃねえッつってるよなァ、アダムルスゥウウ!!」
 それもいつも通りの流れだ。アダムルスが先んじて前進すれば、競うようにラグが前に出る。
 アダムルスが七体を粉砕すれば、ラグがさらに三体を切り裂き殺す。
 失敗作の少女達はさらに襲い来る。ラグとアダムルスが殺してきた数よりも、さらに多くの手勢が押し寄せる。
 ラグからすれば、写し身の数が増えたようなものだ。望みもしないのに押しつけられる鏡に似ている。
 少女らは己が腐肉を千切り、呪いを孕んだそれを雨とアダムルスとラグ目掛け投擲する。立ち止まることなくソールの大槌を振り回し、アダムルスが空中で呪いの肉塊を焼き祓う。爆炎広がるその後ろから、ヒステリックに空気を掻き毟るような声。
「あぁあああ、ウゼェウゼェウゼェウゼェウゼェ!!! 消えちまえ! クソ共が!!」
 ぎゃららりりりりりっ!!!
 金属音が響き、ラグの右腕が伸びた。――否、右腕を半ばから鎖に変じ、鎌となった手先を投げ放ったのだ。地獄の炎を突き破り伸びた刃が、敵三体の首を掻き切り刎ね飛ばす。
 それでは飽き足らず鎌を引き戻し、尚も突出するラグ目掛け、数体がタイミングを合わせて外神の腕を伸べた。
「チッ……!」
 蠅たたきをするように振り下ろされる豪腕に蹈鞴を踏み、バックステップで回避するラグ目掛け、呪いの肉塊が再び降り注ぐ。
 刃で全てたたき落とすか――と逡巡した瞬間、後ろから飄風が抜けた。同時に炸裂する轟炎。
「俺が気に入らんというのは、貴様の勝手だ。しかしラグ、貴様はまだ考えられるだろう」
 ――それは或いは、思考を失った失敗作の少女と比較してのことか。
 ラグの前に立ち、地獄の炎を揮うはアダムルスだ。焼き祓うのが間に合わず幾ばくかの呪肉を身に受け、傷を負うもその声に震えはない。
「戦場では考えられなくなったものから死ぬ。――貴様は違うはずだ。この失敗作らとは」
「……ッ」
 ラグが返す言葉に惑ったその瞬間には、肉塊の雨を防いだアダムルスは再び敵勢へ距離を詰める。アダムルスは地面を撓むほどに踏み飛ばした。巨体がまるで、カタパルトに載せられた巨石のように空へ舞う。
 その手の内で、刻器『ソールの大槌』が、紅く、熱く、地獄の火焔に燃え上がる!
   コッキシンゲキ
「――刻 器 神 撃ッ!!」
 アダムルスはまるで焼けた隕石の如く、敵の集中した一帯へ落ちた。
 振り下ろされる燃える大槌。炸裂のインパクトが地を捲り、撒き散らされる炎と熱が少女らの一団を灼き尽くす――!
「……チッ……調子狂うこと言いやがって」
 ラグは自分の両手を刃へと再び変じ、炎の中心に立つ結社の長を視た。新たなる敵勢を認めたか、他方へ向き直り、大槌を背に負い直す。
 ――貴様は違うはずだ。
 その一言が、波立つ心を少しだけ軽くしたことを認めようとしないまま、ラグはアダムルスの後ろを追い、次なる敵勢へと駆け向かうのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アリーシャ・マクファーソン


あぁ、そんなに涎を垂らしてしまって。
お腹が空いて空いて堪らないのね。永遠の飢餓感、それはどれほどの拷問なのかしら。ごめんなさい、私には想像することしかできないわ。
だから私にできることは1つだけ。その永遠を終わらせてあげること、だけ。

彼女たちを閉じ込めていた『棺檻』
それに飛び乗り見下ろすのは、哀れな少女たちの成れの果て。
こんな風に見下ろすことは、決して好きではないけれど……なるべく多くを終わらせてあげるために。
【血命蒼翼】
もう動かなくていいのよ。吸血鬼の悪辣は、私たちが必ず止めるから。
私の血が、翼が、あなたたちを偽りの命の鼓動を止めることでしょう。

……弄んだ命の代償、確かに払ってもらうわよ。



●終焉の氷雨
 血の混じった涎と涙を垂れ流しながら、死者が行軍する。真面な人間であれば正気を失うような末世の光景の最中にあって、猟兵らの攻勢は止まることを知らない。
「あぁ、そんなに涎を垂らしてしまって。お腹が空いて空いて堪らないのね」
 アリーシャ・マクファーソン(氷血の小悪魔・f14777)は雨降る空を見たときのような嘆息を挟み、少女らの方へ踏み出す。
「うううぅぅうぅぅ、うう」
「あぁぁぁぁああぁ、ごぉ、はん、ごはんんんん」
 その呻きは永遠に続く、満たされぬ飢餓に咽ぶようにも聞こえた。戦場のそこかしこから聞こえる、失敗作の少女らの言葉のほとんどはそれに終始している。お腹が空いた。ご飯を頂戴。
「永遠の飢餓感というのはどれほどの拷問なのかしらね。ごめんなさい、私には想像することしかできないわ」
 感情も薄く、静かな声で言うアリーシャ。失敗作の少女らが、目を吸血鬼譲りの赤色に光らせて、アリーシャへ次々と視線を向けた。――まるで、羨んでいるようだ。永遠の飢餓を、苦しみを、知ることもない生者のことを。少女らはアリーシャを、その血肉を求めるように手を伸べ、歩き集う。青白い肌の手が、何対も何対も、ゆらゆら宙に彷徨い揺れる。
「たべ、させてええぇぇえぇ」
「……それは出来ないわ。私が、あなた達にしてあげられるのは一つだけ。……その永遠の苦しみを、終わらせてあげることだけよ」
 アリーシャは眠たげな眼をすう、と開き、少女らを前に構えを取る。それを合図にしたように、少女らは一斉にアリーシャへと襲いかかった。
 背中に生えた外神の腕を伸べ、打ち掛かるのが先ず二体。アリーシャは大振りの一撃をバックステップからサイドステップを絡めて立て続けに回避。ぴ、と仕込み指環で掌を裂き血を流すと、アリーシャはそれを躊躇わず、振り飛ばすように放った。
 それは如何なる術か。血は放たれると同時にごく細く伸びた。最早遠目には見えぬほど。――アリーシャが腕をもう一振りすると、りぃぃいん、と音。その音のみが、彼女の血が超常のものであると告げている。
 初撃をすかされた失敗作の少女らが追撃をかけるべくアリーシャ目掛け駆け出そうとしたところで、異変は起きた。先頭の二体が、何かに足を取られたようにつんのめり転倒する。周囲で攻撃の機会を伺っていた少女たちも、まるで軋んだように動きを止めた。
 ――アリーシャの表情だけが静かだ。
 目を凝らせば、闇夜の中に見えたろう。一瞬にして四方、檻棺に絡み、結界のように延びた極細の『氷の鎖』が。それら全てが、アリーシャの手の内に繋がっているのが。
『絶断之氷柩』。アリーシャのユーベルコードの一つだ。
 アリーシャは跳躍した。檻棺の一つの上に降り立ち、動きを封じた敵を俯瞰する。氷の鎖を軋ませる少女らの成れの果てを見下ろす。――見下しているようで、この視点は好きではない。けれど、今は、一人でも多く――一刻も早く眠らせてやるために、躊躇わない。
 親指で赤い氷のキューブを圧し砕く。それはアリーシャが自らの血を固めたキューブだ。霧散する朱が、魔力としてアリーシャの周りを満たす。己が魔力と、キューブの魔力を束ね重ね合わせ、少女が成すのは翼。
 ――赤く凍てつく、氷血の翼だ。
 フレスベルグ
 血 命 蒼 翼。偽りの命の鼓動を凍らせ止めて、冷たい眠りに閉ざす慈悲の翼。
「もう、動かなくていいのよ。吸血鬼の悪辣は、私たちが必ず止めるから。――だから、眠りなさい」
 アリーシャの背に結晶化した氷血の翼に、ウインドチャイムめいた音を奏でて無数の氷の羽が逆立つ。足下、氷柩の鎖を引き千切る個体が出た瞬間が最後。
 檻棺の頂点から、氷羽の雨が放たれた。針めいた『氷の翼』は、少女らに突き立つなり着弾位置周辺を凍り付かせる。一発二発ならいざ知らず、その数無数。直撃したものから、瞬く間に凍り付いて彫像のように動きを止めることとなる。
 ――血は巡らなくなり、氷結により脳と神経細胞が破壊される。訪れるのは、本当の死だ。
 吹き荒れる氷の羽、瞬く間に凍えてゆく少女たち。それを見下ろしながら、アリーシャは一人呟く。
「……弄んだ命の代償は、確かに払ってもらうわよ」
 吹き荒ぶ氷嵐はあれほどに冷たいのに。
 声に滲んだ激情は、胸の内を焦がすほどに熱い。

成功 🔵​🔵​🔴​

指矩・在真

お腹、すいちゃった?
でも望むようなご飯はあげられないかな
…ホントにごめんね

攻撃手段を持っている人はたくさんいるみたいだし、それならボクは確実に苦しませずに倒せる環境を作るよ
『棺檻』や建物の残骸を足場として、全体を掌握できそうな高めの場所に移動
そこから【ハック・ユア・マインド】を『範囲攻撃』『2回攻撃』で展開して、食欲だとか怪物としての部分を封印して、少女たちを棒立ちにさせていくよ
これで意識のないただの「的」になってくれるのなら、少しは楽に逝けるかな

投げつけられた肉は『見切り』で躱して、地面に落ちる前に『属性攻撃』の炎で焼きたいね


奇鳥・カイト

好き勝手改造された挙句、今度は屍肉を貪るバケモンになっちまうとはな
は、哀れなもんだよな

粗暴な不良の喧嘩ような戦い方に糸による[だまし討ち]や[カウンター]を組み合わせて戦う
殴る蹴る、その辺にあるものもなんでも使って戦うラフなファイトスタイル
糸は捕縛や罠として仕掛けての反撃や妙手として行います

周りを巻き込む技でもあるので、人が近くにいると離れるように促します
口が悪いのと素直ではないので、トゲのある言い方をしてしまいますが



──『出来損ない』って意味じゃ、俺も同じかもしんねェな
…いや、これはもう、忘れた過去か

今は目の前にいるお前ェ等をすぐに始末する方が先だな
……とっとと眠りにつかせてやるよ



●水先案内
 教会跡地――もう、跡地というのが相応しいだろう。廃教会、ですらない。
 猟兵達の圧倒的な攻撃力により崩壊し燃え落ちた大聖堂、瓦礫しか残らぬ礼拝堂、更地になった納屋。そして無数に迫り出した檻棺、最早ここが教会であったと示すものの方が少ない有様だ。
 今この瞬間もそこかしこで爆炎が、超常の魔術が飛び交い争う鳴り音が響いている。戦いは未だ終わっていない。
 指矩・在真(クリエイトボーイ・f13191)は、礼拝堂を攻めるきざはしを作った立役者の一人だ。今は、檻棺の中でも一際高いもののその頂点にしゃがみ、眼下を見下ろしている。
 ひょう、と吹く地上十メートルの風に、失敗作の少女らの呻きが混じった。
 ――ごはん、ごはんんん。
 ――おなか、すいたよおぉぉおぉ。
 ――食べさせてよおぉ、ごはんんん……。
「お腹、空かせているんだね。……でも、ごめん。君達が望むようなご飯は、あげられそうにないよ」
 在真は周囲で戦う猟兵らの様子を俯瞰する。いずれも、正に一騎当千の強者ばかり。彼らの敵に対するスタンスはそれぞれだ。既に死んだものと割り切ってドライに攻撃を加えるもの。或いは、世界に仇成す存在となったと見なし、容赦なく排撃するもの。はたまた、祈りを込め、せめて安らかに眠れるようにと願い、各々の出来る最も優しい方法で殺していくもの。皆、等しく戦っている。
 ――在真は最後者に属する。あんな風に、肉を求めるだけの骸に成り果てたとて、元は人間。最早痛みを覚えるかどうかすらも定かではないが、終わりの間際くらいは、苦痛なく穏やかであって欲しいと祈る。
 すっと、在真は檻棺の上で立ち上がった。手を軽く振る。
 刹那、在真を取り巻くように、電子音を立てて三六〇°のパノラマにキーボード――入力装置と、レイヤ構成のウィンドウが広がる。在真は両腕をキーボードの上に翳した。
 怒濤の打鍵。押下されたキーが白く光り、入力されたというリアクションを返す。無数のキーを見もせずに、在真はただただキーを叩く。あまりの打鍵速度に、キーボードは最早モザイク模様にすら見えた。
 視界内の全ての『失敗作の少女』を射程範囲に定義。プログラム・HYM、『ハック・ユア・マインド』を発動。デーモン並列展開。在真が叩くキーの一つ一つが、少女らの――未だあるかどうかも分からない、自我と心の領域に手を伸ばす。
 極めて困難な作業だった。心など、定量化できない領域だ。それを仮想化し、仮定し、最早機能していない部分は仮定より切り捨て、ただ、まだ存在する場所と向き合う。
 ――今、探すのは、人の肉を喰らう食欲。遊ぼうと、誰かを害する狩猟本能。
 その二つを少しの間でいい、潜めさせよう。きっと、人だった頃の彼女らの心は、表に出られるほどには残っていない。……出てこられるほどに燃え残っていたとしたら、これだけ多数の『失敗作』がいる中、反旗を翻すものが一人も出ぬわけがない。
 在真は無音でキーを叩く。尖塔の切っ先で、一人。
 ハック・ユア・マインド、広範囲発動まで八五秒。

「好き勝手改造された挙げ句、今度は屍肉を漁るバケモンになっちまうとはな。ハッ、哀れなもんだ」
 未だ声の変わりきらぬボーイソプラノが響いた。フラフラと、肉を求めて歩き回る少女らの前に柔肉を晒して、一人の少年が進み出る。帽子越しに巻き付けたゴーグル、メッセンジャーバッグに襟を立てたジャケット。赤い、燃え立つような瞳なのに、少女らを見つめる瞳は光薄く、感情に乏しい。
「来いよ。俺を殺せたなら、あとの肉なんざ好きにしたらいい。……もし殺せりゃ、だけどな」
 少年の名は、奇鳥・カイト(自分殺しの半血鬼・f03912)。
 自殺志願のような事をいいながらも彼もまた構えを取った。我流に相違あるまい、出鱈目な――ただ、凄みのある格闘の構え。大きく手の間隔を取り緩く握り、刻むようなステップを踏む。
 失敗作の少女らは、呻き声を連ねながらカイト目掛けて飛びかかった。
 ……しかしその身体は、カイトに至る前にいずれも阻まれ、止まる。
 転倒する者がいた。空中、何かに遮られたように身体をくの字に折る者がいた。首に食い込んだ何かに、パクパクと口を戦慄かせ、喉を手で押さえて震える者がいた。
「はい残念」
 カイトは嘆息紛れに声を発する。――月光が雲間より出でて、今なお炎燻る教会跡を照らす。
 きらりと、光る糸があった。――鋼により撚られた、強靱な鋼糸。カイトが張った糸。『WILD CASE』。
 挑発するように大袈裟な構えを取って敵を呼んだ時には、既に彼の陣は完成していた。敵を絡め取り、引き裂く鋼糸の巣。
 言うなれば騙し討ち、先の先を切ったカウンター。その効果は絶大であった。少女らはその一足にうちに転ぶか、攻撃する瞬間の勢いを大きく殺がれ、トラップから一歩退いて地面を踏む。
 ――その一歩こそが、カイトが狙ったものであった。
 襲いかかった。それは粗暴なアウトローの喧嘩と言って差し支えない。敵の命なぞお構いなし、ただ制圧し、倒すための戦い。
 倒れ伏し、尚も食いつこうとする少女の頭を踏み躙り、砕く。手近に落ちていた鉄柵の棒で尚も立ち上がろうとする敵の首を地面にピン刺しにするように縫い止め、鈍器になりそうな岩があれば拾い上げて敵に叩きつけ。
 少女らが外神の腕を展開しようとすれば、即座に振るった鋼糸がその動きをその動きを留める。その隙を縫うようにカイト自身が進み、鈍器で、糸で、或いは拷問具で、少女らを制圧する。
 ――カイトの技は、その全てが、己以外の全てを射程に収め、傷つけるような技だった。今この場に措いては何も関係ない。賞賛されるべき技能だ。
 ……ヤマアラシのジレンマのように、彼一人が孤立すること、その一点を除いては。

 ――ああ。出来損ない、という意味では――
 或いは、自分も同じなのかも知れない。失敗作。親の敷いた路の通りに、決して歩めやしなかった半端者。
 くらい、無明の世界では、いらないことばかり思い出す……

“そこのきみ!”
 カイトの肩が、びくりと跳ねた。思索に入りつつあったカイトの意識を揺らすのは、どこともなく響く声だ。
“聞こえたね。……今、そこの皆の意識を止めた。もうすぐに、皆、動かなくなる”
「……どういうこったよ」
 返答など期待せず、カイトは唇を動かす。
 意外にも、ほとんど間を置かずに虚空に言葉が返った。
“そうなるように、願って探っただけさ。……ボクはね、そこにいる娘たちが、可哀相だと思う。……もしかしたらこれも、上からの言葉になってしまうかも知れないけど、それでも”
「……」
“眠る時くらいは、穏やかであればいいと、思う”
「……ああ」
 こんな風に壊れてしまったなら――覚めぬ眠りにつくのが早道だと、カイトでさえ思う。その水先案内を務めるとでも言いたげに、虚空の声は言った。
“力を、少しだけ貸して欲しい。眠ったまま――皆を、葬送れるように”
 いつしか、カイトが追撃をするまでもなく、失敗作の少女らは棒立ちになって、ぼう、と宙を見上げていた。破壊の意思も、食欲も、何もかもが消えたように。或いは生前にあった情緒に従って、見えぬ星に目を凝らすように、月しかない夜空を仰ぎ、唯一輝くあの星に、あどけない瞳を向けて。
 それが如何なる術によってのものかは知らないが、カイトは、言葉少なに謎の声に応じた。
「……俺は、難しいことは出来ないぞ」
“いいよ。……きみに出来ることは、ボクには出来ない。ボクに出来ることは、きみには出来ない。それくらいで、ちょうどいいのさ”

 虚空から響く声は、アルマと名乗った。
 応じて、少年はカイトと名乗り返して。

 星に夢を見るような少女達を、二人、声を連ね。
 静かに黄泉路に送り出し始めたのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

パーム・アンテルシオ
吸血鬼のする事は、いつだって。悪意に満ちていたけれど。
ここの吸血鬼は…とびきりだね。
良かった、ここに来ていて。
この子たちを、終わらせる事ができて。
この世界の敵を、しっかりと認識できて。

…悪いけれど。ごはんになってあげる事は、できないかな。
代わりに、っていうのも、なんだけど。
あなた達を、ごはんにしてあげる。

ユーベルコード…極楽鳥火。
炎の爪で焼き裂いて。炎の嘴で焼き喰んで。
その子たちも、その子たちじゃない部分も。
その体も、千切れた肉も。
ぜんぶ、食べちゃって。

ここにあるのは…私が作り出せるのは。偽りの摂理だとしても。
歪んだ命を。命だったものを。
せめて、一片残らず…自然の摂理の中で。

【アドリブ歓迎】



●摂理の環に還れ
 長く生きると、感受性が鈍磨していくと聞いたことがある。
 飽きてしまうのだ。色々なことを知り、学び、そうするうちに刺激に対して鈍感になっていく。 だからなのだろうか、吸血鬼が悪意に満ちたことをするのは。パーム・アンテルシオ(写し世・f06758)は考える。
「だからって――こんなことが許されていいわけない」
 少女たちの骸が歩く。背中から、あってはならない『腕』を生やして、よたよたと、ふらふらと。パームの姿を認めるなり、薄ら笑いの張り付いた唇をさらに吊り上げて、群がる。一体二体ではない。檻棺の影から、もう一体、また一体――
「ここの吸血鬼の趣味の悪さはとびきりだね。――良かった。ここに来ていて。あなた達を、終わらせてあげられて」
 ――そして、この世界の倒すべき敵をしっかりと認識できて。
 パームはゆらりと狐火を手繰り、自身の周りにゆらゆらと浮かせる。彼女は、決して戦闘が得意なわけではない。できることならば戦わずして収拾したいと思っているし、自己評価としては他の猟兵よりも戦闘面では劣ると考えている。
 しかしそれでも、通さなければならない意地がある。こんな悪辣を前に、その犠牲となった少女たちを前に、力を揮わずして猟兵は名乗れまい。
「ううう、うぅうぅうう、」
「おなかすいたあぁぁあぁ」
「ごはん、ごはん……ぅううぅ」
「悪いけれど――ごはんになってあげる事はできないかな」
 パームが浮かべた狐火は、徐々に形を変ずる。形取るのは炎の鳥、『極楽鳥火』。その数膨大、一瞬にして二〇五匹もの炎鳥が編まれ、パームの周りに侍った。
「代わりに――っていうのもなんだけど、あなた達を、ごはんにしてあげる」
 最早、人にあらぬ身として夜に彷徨う少女らへ、パームができることはそれだけだ。炎の鳥という、自然の範囲から外れた超常の存在しか自分には編めない。けれど、それでも、偽りの摂理であったとしても、パームは少女たちを摂理の輪の中に帰してやりたかった
 命だったものは、死骸は、鳥に食まれ、土に還り、自然の中で巡るもの。それが自然の摂理だ。
 パームが鳥の形をした炎を選んだのは、ただそのため。静かに凪いだ表情で、パームは囁く。
「行きなさい、極楽鳥火。――眠らせてあげて」
 パームが差し出した手に従って、二百あまりの炎鳥が声もなく嘴を開き、鳴いた。
 羽音代わりに響くのは炎の翼が風に煽られて翻る音。放たれた炎鳥が瀑布の如く少女らに襲いかかる。
 少女らの数も二十数体、決して小規模とは言えない集団だったが、真っ向から襲いかかる炎鳥の群れはその十倍に迫る物量である。少女らは呻きながら次々に外神の腕を振るうも、それで潰せるのはせいぜい一度に二匹。その間に六体ばかりが炎の爪を振るってその屍肉を引き裂き、外神の腕を燃やし、嘴で灼き喰んで――ああ、瞬く間に、群がられた少女らは炎に包まれる。
 ――あああぁあぁぁぁぁあぁぁ、
 押し寄せる波のような呻き。群がった鳥たちはやがて超高熱の炎そのものとなり、少女らを灼き尽くしていく。
「単なる自己満足かも知れないけど。……食べられて、消えていけば、きっとまた摂理の中で生まれることができるから。……いつか、また、ね」
 パームは羽織の位置を直し、焼ける少女らの煙が天に昇っていくのを見上げる。せめて来世は――どうか、幸福な生を受けられるようにと、祈ることしか出来なけれども、そう思わずにはいられないのだ。
 敵はまだ多い。
 パームは一度目を閉じて、感傷を振り切るように開いた。次の少女らの元へ、狐火を侍らせ歩いて行く。

大成功 🔵​🔵​🔵​

六波・サリカ
これは随分と酷い姿ですね。
思うところは有りますが、全ては事が片付いた後にしましょうか。
参ります、その魂に安寧を。

侵攻式、神格式、起動。
拡張兵装、斬滅式、装填完了。

神格式で作り出した電力を右腕の侵攻式に流し込み、斬滅式を起動させます。
斬滅式が起動したらヴァリアブル・ウェポンを発動
素早い踏み込みと接近から命中率を重視した攻撃を放ち、
少女の首を落とします。
また、攻撃の際は範囲攻撃や破魔の技能も使い
より多くの少女の首を纏めて落とします。

敵への攻撃はより早く敵を倒すことで対処、
間に合わぬ場合は見切りや残像、情報収集などの技能を使用して回避を試みます。

全ての少女を倒した後は少しばかりの黙祷を捧げます。



●紫電、爆ぜる
 少女らは身体に縫い跡を大量に残して、青白い肌を晒し、外神の腕を背に宿し行軍する。腐りかけた声帯は満足な閉鎖もままならず、声はざりざりと鮫皮のように割れていた。
 屍肉を捜して彷徨うその有り様は当に屍食鬼、生きていた頃の可憐な面影は最早どこにもない。
「これは随分と酷い姿ですね」
 六波・サリカ(六波羅蜜・f01259)は、無感情な金色の目を少女らに向ける。彼女らのことを悼み、悲しみに臥せば蘇るかと言えば、そんなわけがない。
 故にサリカはそうした無駄を省く。思う所こそいくつもあれど、思考するのも、死後の安楽を祈るのも、全ては事が片付いた後で遅くあるまい。
「参ります。その魂に安寧を」
 サリカの目が、体内電圧の急上昇により闇に軌跡を残すほどに煌めいた。
 少女らがそれを察知し、サリカの方へ身体を向ける。
「神格式、出力上昇。侵攻式起動」
 サリカの手が左右に分割、後ろにスライド。迫り出した発振器の先端が青白く瞬く。
     ソードオプション
「侵攻式、 斬 撃 拡 張。斬滅式、装填」
 空気を引き裂く荷電音! サリカの右腕に現れた発振器から迸るのはプラズマの刃――攻撃用の式神、『侵攻式』に用意されたオプションの一つ、『斬滅式』である!
 六波・サリカはその身体の至る所に式神を埋め込んだ機械と陰陽術の集合体である。侵攻式とはその右腕にして、彼女の主兵装だ。
 第二心臓『神格式』より供給される電力の大部分を斬滅式に注ぎ込み、サリカは集まりだした少女らに向けて距離を詰めた。
「ううぅううぅ」
「ばちばち、いやぁあぁ」
「ごはんんん」
 口々に声を上げる少女らは、即座に背の外神の腕を変形・伸張し、斬滅式の射程範囲外から攻撃を仕掛けてくる。サリカは立ち止まることすらなく、撓り放たれる外神の腕を斬滅式により切断。
 超高熱のプラズマブレードが、ほぼ抵抗なく外神の腕を切断する。宙でくるくると舞う腕の落ちる前に、地面を蹴って接近。
「眠りなさい」
 外神の腕を容易く斬り裂く斬滅式の威力の前には、少女らができる防御はあまりに無力だ。両手を挙げて攻撃を防ごうとする、その少女の両腕ごとプラズマブレードが少女の首を刎ね飛ばす。
 敵の多さ、手数の多さは如何ともしがたいが、接近さえすれば一度に受ける攻撃の多さは限定できる。
 左右から外神の腕が振るわれるのを、サリカは攻撃を繰り出した勢いのまま前進して転がるように回避。立ち上がるなり、斬滅式に過剰電力を叩き込み、
「……延びろ!」
 ほんの一瞬、斬滅式の射程を拡大。延ばしたその一瞬に完璧に合わせて腕を振るうことで、周囲十五メートル範囲内にいる少女の身体をまとめて天地上下に二分する! ――手数の多さを恐れるならば、攻撃を食らう前に、倒してしまえばいい。
 紫電に光るプラズマブレードが帯びるのは熱と電荷だけではない。サリカの腕に宿る破魔の力もまた、その輝きの中に篭められている。
 遠方より殺気。サリカは飛び退く。ちぎれた肉塊が降り注ぎ、大地を呪いで汚染する。
 自分に当たるコースのものを即座に斬滅式で斬り払い、サリカは姿勢も低く吶喊するように駆けた。
 全ての敵を倒すまでは今しばらくの時間を要するだろう。神格式の出力を上げながら、屍肉の雨が降り注ぐ中をサリカは駆ける。
 全てが終わったなら――ほんの少しばかり、彼女らに祈りを捧げよう、とサリカは思う。
 それが果たして彼女らを救うかどうかは分からないけれど――誰にも悼まれることのない死は、ひどくさみしく、悲しいものだから。

成功 🔵​🔵​🔴​

水衛・巽

正純さん(f01867)と

『失敗作』の排除:
広域戦場かつ対多数のため、脚を活かし遊撃
狙われている他の猟兵から
『失敗作』のターゲットを奪って戦場を攪乱する
高所から攻撃する位置取りをし集中砲火は避ける

安易に惹きつけるのは危険ですね
かと言って守りを固めても…
今は首魁を引きずり出すまで我慢比べですか

所で魔弾は温存しませんか正純さん
その弾丸にふさわしい標的は今ここにいない

「大きな一手」は気になります
理想は完封ですが可及的速やかに反撃しましょう
何しろ闘争の凶将は大層せっかちです

起点を潰す、ですか
天地四方を標的にできるなら可能かも
優秀な将が軍を動かすことで戦いは盤石となる
駒はほら、ここに


納・正純
そうだな。バレットパーティにはまだ早い
それに、魔弾が貫くのは――悪魔に魂を売った奴ッて相場が決まってる

敵の形こそは人だが、攻撃方法は人のそれじゃないと考えて良いな
棺桶に登って高さを取るか、遮蔽物を利用して距離を取る
まずは見極めることだ
動きの癖と、力の源。それが分かれば、六発で充分
相手が焦れて現状を打開するための『大きな一手』を繰り出したなら、チャンスだ
数に任せて押し包んで来るのか、それとも突出して来るのか。いずれにせよ、そこを狙って一気に撃つ

合わせな、巽。相手の拙攻を潰しながらのカウンターといこう
焦れた敵の行動の起点を潰すのが、最も賢い一手ってものさ

勾陳と六合の神業を、とくとその眼で見ていきな



●天将、陣を穿つ
 多数の少女が呻き上げ、うろうろと彷徨う戦場。最早最初ほどの勢いもなくなったが、しかして全滅と言うには未だ遠い。
 細波のように響く呻き声を聞きつつ、少女らを俯瞰し、無数の檻棺の上を飛び駆ける二人の猟兵の姿あり。
「安易に惹きつけるのは危険ですね。かと言って、守りを固めても埒があかない。今は首魁を引きずり出すまで我慢比べですか」
 檻棺を蹴りながら呟く水衛・巽(鬼祓・f01428)。共に走るのは納・正純(インサイト・f01867)だ。
 決して地面に降りたって近接はせず、敵から認識されているがその攻撃が届くまでは寄らない――正純と巽はそれを徹底し、戦場を飛び回る。下から投げ上げられる呪肉塊を回避しつつ、正純が応じた。
「耐久戦にはなるだろうが、そうだな――そう我慢を考えることもない。戦いには潮目ってものがある。流れと言ってもいい。それを見極めるんだ、巽。動きの癖と、力の源。それさえ分かれば、キツい状況に見えても覆せる」
 正純の言葉には重さがある。優秀な射手――それも彼は一発の銃弾に重きを置く、一射必殺の狙撃手だ。その目には他者とは違うものが見えている。
 未だ無事だった大振りな建物の上に着地すると、二人は担当する区画を一望した。同様の場所で戦う猟兵の姿はない。戦火はいずれも、他の区画で上がっている。
「形こそ人だが、攻撃方法はもう人間のそれじゃないと考えていいな。腕は伸びる、肉は呪いを帯びてる、あげくそれを千切って投げてくる。油断するなよ」
「はい。大丈夫、心得ています。……所で、正純さん」
「なんだ?」
「魔弾は温存しませんか」
 魔弾。バレットアーツ、狙撃銃『L.E.A.K.』から放たれるただ一弾の正純の弾丸。これだけの敵勢、十、二十ではきくまいと言うのに、主兵装の一撃を使うな、と巽は言う。
 なぜ、と問い返す代わりにか、正純は片眉を上げて見せた。
 巽は迷いを差し挟まず言葉を続ける。
「その弾丸にふさわしい標的は今、ここにはいないから」
 撃ち込むべきは未だ姿を現さぬ敵の首魁。魔弾論理が穿つべきは、哀れな贄の少女らではないだろう、と巽は告げる。
「足りない分は、私が弾丸になります。――闘争の凶将は大層せっかちでしてね。暴れるのを、今か今かと待っている所です」
「言うね」
 正純は、愉快そうに唇の端を吊り上げた。
「確かに、バレットパーティにはまだ早い。それに、お前の言う様に――魔弾が貫くのは、悪魔に魂を売った奴ッて相場が決まってる」
 正純は黒いリボルバーを抜き、銃口を上げる。
「なら、一働きして貰おうか。――丁度、奴等も焦れたところだ」
 檻棺を使って飛び駆けた結果、正純と巽を追う多数の少女が、檻棺の間を縫って寄せてくる。動きは決して速くはないが、遠からず二人の立つ建屋の上に至るだろう。
「合わせな、巽。相手の拙攻を潰しながらのカウンターといこう。奴らは俺たちが止まった今の隙に、一気に叩き潰そうって肚だろう。焦りは隙を生む――焦れた敵の行動の起点を潰すのが、最も賢い一手ってものさ」
「分かりました。……これが『大きな一手』、ですか。それを覆す一手を指して魅せてくれるのなら、この身、どうぞご自由にお使い下さい」
 正純の物言いにすらりと合わせて、巽は印を切る。その身に降ろすは十二天将、前が三、凶将『勾陳』。
 抜刀、水衛家が宝刀『川面切典定』。身体に降ろした凶将が、巽の四肢に力を漲らせる。
「しかし、あれだけの数を相手にするなんて、天地四方を狙うようなもの」
 言葉遊びめいて巽が刀を提げ歌うと、応えるように正純は言う。
「狙うのさ。お前に勾陳が宿るなら、俺に降りるのは六合。六合とは吉将にして天地四方――おっと、こいつは要らない説法だったかな」
「いいえ、いいえ。自信に満ちた返事で、聞いていて安心しました。――それでは、参りましょうか」
「応。――先頭と、その右後ろの進行を止めてくれ。あとは左に行って、適当に暴れてくれれば、あとは俺の仕事だ。合図をしたら跳んでくれ。六発で、綺麗に片してみせるさ」
「承知しました」
 優秀な将が軍を動かすことで戦いは盤石となる。正純の声に応え、水面のように凪いだ笑みを一つ向けてから――
 巽は屋根を蹴り、檻棺を蹴り継いで敵の砲口へ駆けだした。
 接近してくる少女ら。まずは先頭を抑える。霊符を片手にずらりと広げ、意念を込めて宙に撒く。敵を呪縛する意志の籠められた霊符がぼうと光り、誘導式ミサイルのようにひとりでに敵の群へ唸り飛ぶ。振り払おうとする外神の腕にさえ貼り付き、霊光、火花散らしてその身を呪縛する。
 先頭の動きを封ずるなり、檻棺を蹴り降りてその右後方に走る一団に迫る。また霊符を抜き投擲。同様に数体を檻棺の合間に縫い止め、後続の進行を阻害する。後続が只では還さぬとばかり投擲する呪肉塊の群を、宙に撒いた『形代』で堰き止めつつ、巽は一瞬とて止まらず左に回頭、駆けだした。
 再三、霊符を抜く。……紙で出来ている筈の符の縁が、剣呑なまでに光った。
 巽は前方に敵集団を認めるなり、問答無用で霊力を籠め、符を投擲した。霊符は高速回転しながら加速、正純目指して駆ける集団の真ッ最中に飛び込み――少女らの首を、腕を、外神の腕を、刎ねて、飛ばして、切り裂いた。縛るための符ではなく、断ち切るための符。巽が扱う複数の符のうちの一つだ。
「うううぅぅぅぅ……!」
「いた、ぁいいいぃぃぃい」
 唸り声鳴るその合間に、助走の勢いもそのまま、巽は真っ向から斬り込んだ。手にした太刀を、身に宿した闘争の凶将の力を以て片手で振り回す。
 飄風纏って飛び込み一閃、ぱぱん、二つの首が飛び、返す刀で肩から逆足に抜け、袈裟懸けに真っ二つ。襲う外神の腕さえ、その狩衣の裾すら捉えられぬ。瞬く間、更に十数体を斬り伏せる。
 息一つ乱さず戦鬼が如く駆け抜ける巽だったが、視界の端にきらりと光るものを見て視線を這わせる。
 屋根の上より月光を照り返すは、永海・鋭春作、斬魔鉄製鎧通し短刀『咎討』!
 巽は一も二もなく跳躍し、身を翻して檻棺の上に逃れる。

「さあ、勾陳と六合の神業を、とくとその眼で見ていきな」

 弾道計算、効果測定、被害評価、再算定完了。
 六合――正純は素早い巽の判断ににやりと笑って咎討を納刀。リボルバーの銃口を俯角に据え、トリガーを引いた。勾陳が整えた土壌を喰らうよう、六合を穿つ、たった六発の銃火が放たれる。

 跳弾――
 火花が散る。檻棺が火花を咲かせる。一人の少女の目に射入した銃弾がその後頭部を爆ぜさせ貫通、次の少女の喉を射貫いて跳弾。着弾貫通、着弾貫通、跳弾、着弾貫通、跳弾、着弾、頭蓋を掻き回し頬を抜け隣の少女に着弾、貫通、……跳弾!!
 跳弾と着弾が繰り返され、まるでピンボールのように六矢の死神が荒れ狂う!
「――これが貴方の一指しですか。お見事、正に、六合の一手」
 巽が感嘆の息を吐く。跳弾の音が収まって――揺らめくボウリングのピンめいて、最後の少女がぐらりと身を傾け斃れた。
 地に伏した少女らが、一斉に塵と変わってボン、と散る。
 二人の天将を讃える如く、黒き塵埃が夜風に舞う――

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

真守・有栖
わふぅ!?なーんかいっぱい出てきた気がする、わ?

――嗚呼、成る程。

月喰を右手にぶら下げて、構えもなく前へと進む。
餓えた少女の攻撃。
避けるでも堪えるでもなく、ただ“喰らう”
身を裂く痛みも流れる血も。
在るが儘に受け入れて、返す白刃にて少女を斬る。
喚ばれし外なる神を光刃にて、断つ。

一歩。前に。

身を以て、喰らう。
白刃にて、斬る。
光刃にて、断つ。

そして、一歩。前へと進む。

血を喪って、揺らぐ身体。
月喰の光で傷口を灼き、なおも前に。

喰らう。斬る。断つ。

満身創痍。
けれど、斃れるは今に在らず。

盲いた闇の中。

死線を彷徨えば。
覚たる意志で、その先へと。

死中に路。
死域へと踏み出し――

しゅるり、と。
己が戒めを解き放つ。



●餓狼、血河を往く
『わふぅ!? なーんかいっぱい出てきた気がする、わ?』
 ――四半時あまり前のことだ。地面から迫り出す檻棺に、真守・有栖(月喰の巫女・f15177)がそんな声を上げたのは。彼女は未だ、大聖堂を襲撃したときに巻いていた目隠しを付けたままでその場にいた。
 戯けたように華やいだ声が、しかしてすぐに潜まる。
『――嗚呼、成る程』
 ぴん、ぴん、と耳が跳ねた。優れた有栖の聴覚が、周りが一体どういった状況になっているのかを賢察する。
 その場に、猟兵以外に真面な生者はいなかった。有栖はきん、きん、と手元で鍔鳴りを発し、その反響を聴いて敵の位置を割り出す。歩む敵の動きは幽鬼に似て、その身体からは人並みの鼓動が感じられない。弱々しい、不規則な拍動。
『うううぅぅぅぅぅうう』
『おな、か、すいたぁああ』
 爛れた声帯から、怨嗟にさえ似た割れ声がまろび出る。
 先ほどは斬らなかったが、『的』と呼ばれる存在が敵により作られたのは知っていた。その類であろう。有栖は察して、抜いたままの打刀『月喰』を右手に提げ、構えも取らずに進み出る。
 目を隠した有栖を相手に少女らは容赦なく襲いかかった。しかし、有栖は回避動作を取らず、遠間より月喰を一閃。刀の切っ先から光が伸び、首を一つ刎ね飛ばす。返す刀でもう一人を斬首。しかし敵の動きも速い。二体目を斬って捨てたときには三体目が刀の間合いのうちに潜ってきている。
 しかし有栖は――引かずにさらに前に一歩を踏んだ。
 外神の腕が、有栖の左半身を引き裂いた。走る衝撃、裂ける肉、迸る血。左肩から腕半ば、胸半ばまでが裂けて血が飛沫く。
『――』
 しかし有栖は声の一つも吐かずに、月喰を再度翻して敵手の首を断つ。避けもせず、受けもせず、ただ“喰ら”ってみせた。頸を一撃にて断たれれば、外神も姿を現せぬ。
 未だ無明の視界の中、耳に届く音がさらに十数体の到来を告げる。有栖は構えを取らぬままに右腕の刀の切っ先を僅かばかり上げ、襲い来る敵の渦中へ身を委ねる。

 身を裂く痛みも流れる血も。
 在るが儘、来るがままに受け入れて、幾つもの傷を身体に刻んだ。しかして抉られれば、噛まれれば、必ず返す次刃にて敵を斬る。
 一つ斬っては一歩踏み、二つ斬っては二歩踏んで、三つ喰らわば三つ斬り、紅い足跡三つ踏み。
 斬撃浅く外神が顕わば、その出鼻を閃光纏う刀にて断った。
 少女らの爪を牙を腕を、身を以て喰らい、銀閃一条、命脈を絶ち、延びる光刃にて命運を断つ。

 ――何たる非合理。
 ――何たる出鱈目。

 それを、四半時ほども、敵が襲い来る最前線で続けたというのだ。



 斬った少女は塵埃となり、風に吹き抜け消えゆくようだ。幾度目かの黒塵を浴びつ、剣鬼が死出の路を行く。

 有栖の身体はボロボロだった。秀麗な巫女装束は既に血の染みこんだ襤褸同然、血に塗れた姿は美狼の剣士とはとても呼べぬ、言わば手負いの餓狼の様相だ。
 しかし、嗚呼、まだ歩く。
 血を失って身体が揺らぐ。有栖は未だ血を流す傷口を、光刃・月喰の光熱で焼灼し止める。さらに前へ。振るわれる爪を喰らう、しかし反撃で斬る。命を、断つ。
 嗚呼、倒れて仕舞いそうだ。満身創痍の重傷である。
 八束と死合った時もこのような傷を負った。走馬灯のように、折れた刃のことを思い出した。有栖は月喰を握る。もう、あの頃の有栖ではない。もう、あの刃には別れを告げた。
 踏み止まる。応、斃れるは今に在らず。
 盲いた闇の中。有栖は真面に動かぬ左手を挙げ、目を覆う布に手をかけた。
 餓狼が往くは死中の路。覚悟など、疾うの昔に決まっている。
 戒めた布を取り去る。開いた紫水晶の眼に、銀の光が映り込み。死に瀕したこの様では、己の衝動すらも冴え、心に残るは敵を断つ一意のみ。
 他念なし。
「ごは、んんんん!」
 襲い来る少女。跳躍せんと撓めた身が、出し抜けに真っ二つに裂けた。先の先、距離三間を措いての月喰の一閃。一撃、必殺。かつてなき冴え。
 今ならば、この刃は天にだろうと届く――そう錯覚するほどの剣。
 有栖は、事ここに至ってゆるりと構えを取った。迫る敵勢、未だ十数あまり有り。
 ――ものの数でもない。
「お出で。この世に別れが済んだ者から」
 有栖が見据えるは、既にその向こう側。
 彼方より迫る、巨大な殺気の持ち主――それ一体のみであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

紅呉・月都


んだよこれ…胸糞ワリィとかのレベルじゃねーぞ

ご飯、な…わりぃがお前らの飯になる気はねえ

…さっさと全部終わらして供養すんぞ

あまりの光景に低く、低く唸る

【武器落とし】で外なる神の部位を排除

その身体には必要ねえもんだろうが

そのちからも必要ねえ、そいつらに必要なのは静かな眠りだ

【鎧無視・範囲攻撃】でなるべく一撃で倒せる様にユーベルコードで召喚したナイフを操作

何が“かみさま”だ

力持たねえやつを犠牲にして神を名乗るんじゃねえ

そんなもん…俺が、俺で絶つ

【残像】が出来る様な速度と【野生の勘】を活用し敵の攻撃を回避

その手を汚させるわけにはいかねえ

もう寝ちまえ、こんな悪夢は見なくて良い

握り締めた掌には血がにじむ



●弔い前に刃舞う
 少女らは、神を降ろす器にされた。まつろわぬ神々は人の器には大きすぎる。少女らは埋め込まれた外神の部位に当然のように拒絶反応を起こして、壊れた。
 吸血鬼達は、それだけでは諦めなかった。壊れてしまうのは人間が脆いからだ。なら、強い部品と強い部品を組み合わせた上で埋め込めばどうか。この組み合わせなら、この組み合わせなら――
 青白い肌の少女たちに走る縫合痕と、歪な長さの手足はそういうことだ。実験されて、『ああ、それでもやっぱり壊れたな』『仕方がないな』と無為に消費された。
「んだよこれ……胸糞ワリィとかのレベルじゃねーぞ」
 紅呉・月都(銀藍の紅牙・f02995)が声低く、唸るように言うのも無理からぬ事であろう。
 これだけ多数の少女らが犠牲になって、果たされようとしている目的が吸血猟鬼の享楽一つだというのだから。
「ごはん、ちょう、だい、おにいちゃんんん」
「おなか、すいたぁあぁあぁ」
 辿々しい口調で喋る少女。開いた口から覗いた舌には歪に縫い合わされた跡があった。
「ご飯、な……わりぃがお前らの飯になる気はねえ。俺はお前らを弔いに来たんだ。……こんなこと言ったって、今のお前らには聞こえねぇんだろうけどな」
 少女らに、最早人語が解せるとは月都も思っていない。――つなぎ合わされた歪な骸が、人の機能を真似ているだけのものだ。
 月都は『紅華焔』を抜刀。低く構えを取り、
「来い。終わらせてやる」
「ううぅぅぅぅぅうううぅぅ!」
 言い放つ言葉に惹かれたように、少女らは月都に襲いかかる。月都は放たれる外神の腕に依る一撃を刀で受け流し、もう半歩踏み込んでその腕の関節部を狙って刀を振るった。断ち切る。
「こんなもの――その身体には必要ねえもんだろうが。こんなちからだって必要なかったはずだろうが! 弄ばれて殺されて――この期に及んでてめえらの勝手で、こいつらを動かすのはもう終わりだ!!」
 月都の口から迸るのは、少女らの骸を駆動する外なる神、外神共の部品への怒りだ。
「何が、“かみさま”だ」
 刀を振るい、少女の背から外神の腕を切り離す。攻撃をまるで風に踊る木の葉の如く避け、射程の内側に潜り込んでは斬り飛ばす。
「力持たねえやつを犠牲にして神を名乗るんじゃねえ! そんなもんは――俺が、『俺』で絶つッ!」
 刀を構える月都の周囲に紅い風が渦巻いた。――否、それは風ではない。彼を中心に衛星軌道を取り、高速で回る、赤みを帯びたナイフの刃。その数二二。
『錬成カミヤドリ』! 紅華焔による格闘戦のみならず、月都は己の分身を召喚し、それによる斬風を手数に加える!
 後ろから強襲、振り下ろされた外神の腕を月都はノールックで刀を上げることでガード。冴え渡る勘働きである。振り向きざまに手を打ち振れば、ナイフの一本が唸り跳び、少女の首を打ち抜く。続けざまにナイフを全方位に放ち、外神の腕を斬り払った少女たちに同様に慈悲の一刺しをくれていく。残像を残す如き速さで、月都は刃風の中を駆け抜けた。
「これ以上、その手を汚させるわけにはいかねえ。……もう、寝ちまえ。こんな悪夢は見なくて良い」
 月都は踏み込み、間近で少女の目を見た。
 血で澱んだ涙を流しながら、空虚な笑みを口元に貼り付けた――虚ろそのものの顔を。
「せめてさ、幸せな来世の夢を見ろよ」
 紅華焔を一閃。首が高々と舞い、また一人の少女を終わらせる。

 ――全てを終わらせたら供養をしよう。
 少女らは再殺が成れば塵と化し、消えてしまうが。
 静かな眠りを捧げた後で――祈りを捧げてやるのは、きっと悪いことではないはずだ。
 月都は、握る拳から滴る血もそのままに決意を新たにするのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

居待月・穂波

この子達、元は子供だったとか?ガチめにガンギレ案件なんですケド?
ボスの趣味チョベリバってカンジ。こんなん人の子らに任せるとかちょっち神としてどーかと思うんで参戦すっから。

痛みがあるのかもわからない……いや、無いのかな。カンケーないけど。
スーパー・ジャスティスを使用しておもっきしぶん殴って破壊する。
正面からぶちかます。返り血だって構うもんか。
あなたたちの証をこの身に刻んでおくから。

私は巫女でも坊主でもないから祈るのはおかしいかもしんないけど。
せめて、魂に安らぎがありますよう。



●それは、神の願う幸
 青白い肌、継ぎ接ぎの手脚。歩く姿さえぎこちなく、背中から生えた下腕の腕に歩行を任せる個体さえある。人としての在り方を根底から歪められたそれらは、――ああ、それでも哀しいまでに人としての面影を残していた。未だ腐らずに残った顔は、いずれもあどけない、年端もいかぬ少女のものだ。
 それが大挙して行軍していた。猟兵達の圧倒的な撃滅作戦により数こそ減ったが、未だ戦場の各所に、その姿が残っている。
「――ガチめにガンギレ案件なんですケド」
 苛立ちを隠さず少女は口にする。元が罪も業も持たぬ子供達だったことは明らかだ。継ぎ接ぎされた手脚が、犠牲となったのはこの場で蠢く少女らだけではなかったことを、穂波に教えている。
「ホントMK5ってカンジ。マジキレた五秒後だけど。つーかボスの趣味チョベリバね、こんなんタピオカキメてる場合でもねーし。こんなん人の子らに任せっぱで放置はマジねーと思うし、とりま参戦すっから」
 新旧とりどりのギャル語彙を操るのは、居待月・穂波(カリスマギャルゴッド・f18787)。そのイェーガーネームにあるとおり、『神』にして『JK』、しかも『ギャル』とのハイブリッドイェーガーである。そこだけ抜き出せば何のことやら分からなかったかも知れないが、言葉に時折混じる俯瞰視点やら、二十数年前からごく最近に渡る死語を含む語彙が、その肩書きに妙な凄みを与える。
 人の子ら。彼女は他の猟兵をそう呼んだ。
 そう、穂波はかつて稲の実りを、豊穣を司る神であった。時代の潮流に着いていけず、信仰を喪い、そこから再起を図った結果が若者の人気を集めるJKだった、という異色の変わり種であったが――来歴にかかわらず、彼女が『神』であることに変わりはない。
 穂波は、全身に力を漲らせた。少女らが歩み来る。
「おなか、すいたよぅ」
「おねぇちゃんんん、ごはんんんん」
「ごはん……たべたい、よぅ……」
 穂波は歯を噛み砕かんばかりに噛んだ。
 それが死後、外神が少女の口を借りて言わせているだけの繰り言なのか。或いは、少女らに残された本能がそう囁かせているのか。そこまでは分からぬ。少女らに、痛覚が残っているのかも分からない。
 分からないことだらけだ。それでも、豊穣の神は、飢えに苦しむ少女らを哀れむ。
 せめてその歪な形を、元に正して――来世生まれた時には、きっと幸せに糧を得て欲しいと思う。その加護をあげたっていい。
「――痛いか痛くないか分かんないけど、カンケーない。一瞬で終わらせるよ。……終わらせてあげる」
 ごうっ――
 穂波の身体を金色のオーラが覆った。神は、少女らの安らぎを祈った。――神だってのにさ、おかしいね。坊主でも巫女でもないのに。……けれど、その意思は、思う心は本物だ。
 意念は高まり、金色のオーラは尚強く光る。『スーパー・ジャスティス』。
 唸りながら、歪な足で駆けて襲いかかる少女らへ、穂波は地面を蹴って駆け寄った。
 突き出すのは武器すら用いぬ、ただの拳。しかし、彼女の速力を以てすればそれは脅威の撃力と化す。
 拳が直撃せずとも、穂波の身体に当たったものはその速度、撃力をまともに受けて四散した。飛び散る肉が、血が、穂波を汚す。しかし構わない。
 ――この身に刻み染み入るこの朱が、あなたたちがここにいた証だ。

「――せめて、魂に安らぎがありますよう」

 金色の髪を朱に染め、少女は――否、神は、祈りと共に戦場を駆ける。檻棺を砕き、少女らを散らしながら。

成功 🔵​🔵​🔴​

新堂・ゆき
雪風の感触を確認するように握りしめ。
これを使わなければならない程の事態に陥らなければよいのですが。

月照丸を繰り、失敗作に攻撃する。
巫顕載霊の舞で周囲の敵を攻撃です。
これが切欠で周囲の猟兵さん達の手助けにもなるといいのですが。
複雑には繰れないかもですが、棺檻を利用して、駆け上がって攻撃
してみましょう。
空中戦も中々楽しい…ああ、不謹慎でしょうか。

解放してあげます。
せめて今度は本当に安らかな眠りを。



 おくりまい
●葬 送 舞
 永海・銀翔作、飄嵐鉄製打刀『雪風』。
 持ち主の動きさえも軽くする、風を謳う刃を手に、新堂・ゆき(月雪花・f06077)は戦場を見る。
「これを使わなければならない程の事態に陥らなければよいのですが」
 ぽつり、呟いてから刀を腰に収める。ゆきとしては此度はその刃を抜くつもりはなかった。月照丸と月牙刀のみにて、事態を収拾するつもりでいる。
 自身の担当する区画を見渡せば未だ十数体、残敵が確認される。流れ来た失敗作の少女らが迫るのを見て、ゆきは薙刀『月牙刀』を八相に構え、少女らと対した。
「……行きましょう、月照丸」
 糸に意思を伝え、ゆきは月照丸と共に走り出す。少女ら目掛け、まずは月照丸を前進させた。
「ううぅぅぅぅぅぅぅうう」
「ごは、んんんんん」
 月照丸目掛け、食い付いてくる少女、二体。月照丸は鉄扇にて迎撃。広げた鉄扇で一体の外神の腕を斬り払い、すかさず畳んで喉元への突きで頸骨を砕く。
 その隙に二体目が月照丸の腕に食い付くが、人形は血を流さない。がきり、と固い音がしたが、ただそれだけだ。
「う……?」
 不思議そうに呻く少女の身体を空中に振り飛ばし、月照丸は再び広げた扇を一閃。少女の首を刎ね飛ばし、塵に帰す。
 瞬く間に二体を葬る月照丸の後ろから、『巫覡載霊の舞』にて飄風を纏うゆきが飛び出した。
「はっ――!」
 月牙刀を一度振るわば発された衝撃波が失敗作の少女らを襲う。それをまともに食らい四散するものもあれば、サイドに跳んで間髪回避するものもある。
 跳んだ勢いのまま檻棺を蹴り反射、空中から襲いかかってくる少女たちを空かすように、ゆきは月牙刀の衝撃波を足下に炸裂、その反作用でバックステップ。月照丸に組ませた手の上にひらりと着地。打ち上げるような人形の動きに合わせて跳躍!
 そのまま檻棺を蹴り走り、宙から眼下の少女らを衝撃波を連発して迫撃する!
(――戦場でなければ楽しいと思えたのでしょうけど)
 さすがに、少女らの惨状と戦場の陰惨さを思えばそれは憚られる。
 打ち下ろしの衝撃波が少女たちの体力を削っていく。脚のもつれ、体幹の崩れを確認し、好機とみればゆきは月照丸を突っ込ませる。
「解放してあげます」
 この呪いから、その腐肉の檻から。
 ゆきが語りかけるのは、今もどこかで迷っているであろう、失敗作の少女たちの魂だ。
 
 月照丸に格闘戦を演じさせつつ、己も檻棺を駆け下りる。手近な一体を頭から股下まで一刀両断の唐竹割り。着地の勢いで膝を撓め、その反動を使うようにゆきはスプリントする。
 衝撃波を纏わせた月牙刀にて、進路にいる二体を立て続けに斬り裂き、真っ直ぐに突き出した切っ先で一体の頸を貫く。
「――せめて今度は、本当に安らかな眠りを」
 もう、終わらぬ夜の下で彷徨い、人の死肉を喰らって生きるような仮初めの生を過ごすことはない。爆発するように塵に変わっていく少女らを見送るように、ゆきは空を見上げる。その横に、戦闘を終えた月照丸が並び立った。
 戦闘は、佳境を迎えつつあった。
 失敗作の少女らはその数を減じ、代わりに――重く、鈍い殺気が遠くから少しずつ近づいてきているのを、ゆきはその肌で感じ取るのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 ボス戦 『吸血猟姫ディアナ』

POW   :    インビジブルハッピー
【銃口】を向けた対象に、【見えない弾丸】でダメージを与える。命中率が高い。
SPD   :    バレットパーティー
【血から無数の猟銃を生み弾丸】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ   :    ドレスフォーハンティング
全身を【これまでに狩った獲物の血】で覆い、自身が敵から受けた【負傷】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ナイ・ノイナイです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●我楽多――
 否。
 
 
 
 
 
 
 
 
●イェーガー・ゲーム・ハント
 全ての少女達を、猟兵達は殺した。
 殺して、殺して、殺して、殺した。一体残らず再殺した。
 思うところがあるものもいただろう。何の感慨も抱かぬ者も、或いはいたかも知れない。けれども、君達がここで彼女らを絶ったからこそ、後に救われた命があることだけは間違いない。
 ――だが、これで終わりではない。
 あと一つ、難題が残っていることを、猟兵達は重苦しく沈む空気によって思い出す。
 ここは教会、大聖堂跡。
 落ち合った猟兵達が警戒を深める中、北から、重圧が迫るのを誰ともなく感じ取る。
「フフ――フフフ、」
 空気が重くなったような錯覚があった。殺気だ。
「ッははははあはははははははははははは! なんだいこりゃあ! アタシの愉快な別荘が、燃えて砕けて、おまけになんだいニョキニョキと、そこら中に生え腐って――あァよく育ったバンブーだねえ、こりゃ寝るのにも難儀するな!」
 燃える建物と檻棺の彼方。一つの影が歩んでくる。
 猟兵達は直感する。あれだ。
 ――あれが、吸血猟鬼。
 灰青の膚に、狂笑に釣り上がった唇。瞳は燃えるように赤いのに底冷えのするほど冷たく、かつて屠った獣の革を身に纏い、一丁のライフルを携えた、猟人風の女だ。
「まったく、随分な真似をしてくれたじゃないか。アタシのゲーム・ハントの邪魔をしてくれたんだ、相応の対価を払う覚悟はあるんだろうね?」
 にこり、と笑って吸血猟鬼は言う。
 その表情はいっそ狂い咲きの花のように明るく猟奇的だ。――自分の居城をここまで徹底的に破壊されているというのに? 支配欲の塊のような吸血鬼が?
 疑問に思った猟兵らがその真意を確かめようとする一瞬前。

 宙に、無数の銃口が並んだ。

「避けろォーッ!!」

 猟兵の一人が声を限りに叫んだ。間髪入れず宙に浮いた銃から無数の赤き弾丸が撃ち出され、猟兵らを猛撃する。圧倒的攻撃範囲、圧倒的面的制圧力。地面を穿ち抉り飛ばし吹き飛ばす、凄まじいばかりの破壊力。弾丸の嵐が止み、不意の静寂。蜂の巣になった檻棺が幾つも幾つも崩れ倒れる。
 猟兵らは各々の判断で回避行動を取った。辛うじて初手は無傷、或いは軽微な損害で乗り切ることが出来ただろう。それぞれが高い練度を誇る、この場に集った猟兵であるからこそ成せた業だ。
 ――だがしかし、二撃目、三撃目は? いや、そもそもヤツの手札は今の範囲攻撃だけではなかったはずだ!
「なァんだ、一人も死んでないや。すばしっこいねえ、頑丈だねえ、アッハ!! だからこそ狩り甲斐があるってェもんだ! 嬉しいねえ、嬉しいねえ! みんな燃えちまったけどさあ、」
 吸血猟鬼は――ディアナは、哄笑を上げながら言った。
「ただの我楽多じゃァダメなんだ、イケないんだよ、アタシは。そこにアンタ達が来てくれた! 歓迎するよイェーガー、アタシのいとしい獲物達!!」

 両手を打ち広げ、抱き寄せたいとばかり、血色のない頬を、それでも赤く紅潮させて、

「始めようじゃアないか!! アタシとアンタのゲーム・ハントをさァ!!」

 ――死の遊戯の開始を告げるのだった。



≫≫≫≫≫MISSION UPDATED.≪≪≪≪≪


【WARNING】
 敵個体は非常に強力。
 充分な対策の上、戦闘に臨まれたし。


【Summary】
◆作戦達成目標
『吸血猟鬼』ディアナの撃滅


◆敵対象
『吸血猟鬼』ディアナ×1

 
◆敵詳細
 獣を、人を、動くあらゆる物を、銃で穿って殺して糧とすることを至上の生き甲斐とする吸血鬼。
 トリガーハッピーにして弾幕依存症。血液の銃弾による瀑布の如き弾幕と不可視の弾丸により、三千世界を射殺する殺界の主。


◆戦場詳細
 猟兵達が襲撃した廃教会。
 幾許かの檻棺が残り、未だ空間戦闘は可能だが、ほぼ射撃武器の射界が通る状況にある。ディアナの銃撃は檻棺を容易に貫通する威力を備えるため、これを遮蔽物とすることは恐らく悪手だ。
 地力の試される戦場となるだろう。


◆補遺
 困難な敵であれど、猟兵に後退はない。進み、ただ打ち砕け。
 そうするだけの怒りを、想いを、抱えている者もいるはずだ。


◆プレイング受付開始日時
 2019/06/22 08:30:00


◆プレイング受付終了日時
 2019/06/24 00:00:00
ダグラス・グルーバー


おう、あれがボスか
やたらテンション高ェ女が出てきたな
しかも速攻で雨アラレな銃弾攻撃とはなァ
そうかそうか、そんなに活きのイイ獲物が来て嬉しいか
…だったらなァ
ハナからテメェの足で活きのイイ獲物を探しに行けやクソ女

と、ここで怒りに任せて特攻しちまったら
返り討ちにあいそうなんだよな
つーワケで銃口を向けてきた位置に注意を払いつつ
第六感でギリギリの所でかわすか、剣で受け流して
まともに攻撃を喰らうのを極力避けてみっか
んで焦る素振りを見せてから陽炎で一気に距離を詰めて畳み掛けるが
万が一あっちが後退しかけたら
飛翔も駆使してどこまで追い詰めて渾身の一撃を叩きこんだるわ

活きがイイのがイイんだろ?
もっと付き合えよ!



●猛る陽炎
「あれがボスか。またやたらテンション高ェ女が出てきたもんだな」
 辛うじて初手の銃撃を剣を楯に凌いだダグラス・グルーバー(ダンピールのダークヒーロー・f16988)はぼやくように言う。他の猟兵と格闘戦を繰り広げる最中のディアナに、燃え立つような金の目を向ける。
「出てきて早々雨アラレな銃弾攻撃たァな、恐れ入るぜ。……そんなに活きのイイ獲物が来て嬉しいかよ――」
 鉄の塊そのものと言ってもいい、無骨な鉄塊剣を提げ、男は声低く唸った。
 彼は憶えている。永劫の飢餓にさいなまれるように猟兵に飛びかかり――悉く滅ぼされていった哀れな少女らのことを。
 決して忘れはしない。自身の腕に食い付き、溢れる炎を呑んで藻掻きながら燃え尽きていった少女のことを。
 また一人、猟兵が銃弾を受けて飛び下がる。後退する猟兵と入れ替わるように、ダグラスは猛然と前進した。狂笑を浮かべて迎えるディアナに、ダグラスは叩き付けるように叫んだ。
「ニヤニヤヘラヘラしやがって、そんなにぎゃいぎゃい騒ぐくらいに力が有り余ってんならなァ、ハナからテメェの足で活きのイイ獲物を探しに行けやクソ女が!」
「捜したさ、沢山ね!でもどこまで行っても見つからなかった、アタシの都合を満たす的なんて! ――いや、もしかしたら今、見つかったのかもね。アンタ達っていう素敵なターゲットがさァ!」
 ディアナは猟銃の銃口を跳ね上げ、ダグラスに筒先を向ける。
 ダグラスは反射的に鉄塊剣を心臓前に翳しつつ、斜め前に地面を蹴った。ぎゃりィんっ!! 剣の横っ腹を抉る衝撃。ディアナの表情に微かな揺れ。
 ダグラスとて、ただ怒りに任せ特攻したわけではない。無策での突撃は返り討ちを招くのみだ。彼は細心の注意を払って猟銃の向きを観察、どこを狙っているかを第六感的に察知し、面積の大きい鉄塊剣の横腹で弾きつつ前進することを選んだのだ。
 放たれる銃弾は不可視。しかし、銃口と引金を絞る指は見える。綱渡り的に、しかしさらに二発の銃弾をガード。距離を詰める。
「面白い避け方をするじゃァないか! ならこれも同じように避けてみなよ、曲芸師!」
 ディアナの叫びと共に宙に無数の猟銃が召喚される。そこから放たれる弾幕は連射でもなく、狙撃でもない、ただ物量にものを言わせた一斉射撃だ。対多数攻撃だった初撃とは異なり、今度は全ての銃口がダグラスに向けて据えられている。剣一本で防ぐには些か荷が勝つ相手、さすがのダグラスも一瞬狼狽えたように足を止める。ディアナはにやりと笑って、腕を振り下ろす。
「死ね!」
「嫌なこった」
 銃声が無数に連なる! しかし、その銃弾が届くよりも早く、ダグラスの身体は炎のような、真夏の蜃気楼のような――陽炎に包まれた。同時に地面が抉れて、当に放たれた銃弾のようにダグラスの身体が前に飛ぶ。
 踏み込んだだけだ。――ただそれだけでその速度。ユーベルコード、『陽炎』。感情の昂ぶりがダグラスの戦闘力を跳ね上げる。
 失われた幾つもの命が、救えなかった少女達への悔悟が、彼の鉄塊剣を熱く燃やす!
「ッく、速……!」
「それがイイんだろ? 活きがいいのが好みじゃなかったかよ、吸血鬼!」
 至近距離。瞬く間に距離を詰めたダグラスが連撃を打ち込む。猟銃で受けるディアナ、一打、二打、三打目で猟銃粉砕! 蹈鞴を踏むディアナ。跳び退ろうと、後退の姿勢を見せる女をダグラスは逃さない。さらに一歩踏み込み――
「テメェで吹っかけた狩りだ――もっと付き合えよ!!」
 全力での鉄塊剣、フルスイング。
 炎を纏った一打が、受けたディアナの身体を砕きながら吹き飛ばした。叩きつけられた檻棺が幾つか折れ飛び、崩れて砂塵を上げる――!

成功 🔵​🔵​🔴​

新堂・ゆき
なるほど。
あの失敗作を見る限り、作った張本人の趣味の悪さも納得ですね。
存分に戦いましょう。最後に生き残るのは私達猟兵ですけど!

檻棺がまだ残っているようですね。
武器は貫通してしまうようですけど、引き続き空中戦を挑むのに
使えそうです。
最初は防御強化。結界展開、水の鎧!
月照丸で攻撃しつつ、時に銃撃を人形で防いで、接近戦の機会を伺う。
接近出来ればその時こそは雪風を。
結界展開で火の加護をかけて攻撃力を上げて戦闘です。
接近出来なくても、手数の多さでダメージを与え続けて必ず倒します!

倒せたら少しはここも静かになるでしょうか。



●辻疾風
「なるほど。あの失敗作の様相といい、品のない物言いといい――首魁の趣味の悪さも納得、というところですね」
 ダグラスが吹き飛ばしたディアナを追いかけ、追撃をかけんとするのは新堂・ゆき(月雪花・f06077)。
「この期に及んで狩りがお好みなら、存分に戦いましょう。最後に生き残るのは――私たち猟兵ですけど!」
 ゆきは折れ飛んだ檻棺の瓦礫で、土煙に沈むディアナの元へ走る。銃声が響き、土煙がぼう、と衝撃波で弾けた。一瞬の見切り、ゆきは辛うじて身を躱す。衣の裾を不可視の弾丸が裂いて過ぎる。
「!」
「アタシに勝つつもりでいるってかい。そいつァまた面白いねぇ、猟兵! いいだろう、遊んでやるよ。せいぜい面白おかしく踊って見せなァ!」
 ディアナが瓦礫の中から立ち上がり、砂塵をその身で斬り裂いて飛び出した。ダメージを感じさせない機敏な動きだ。
 ゆきは敵の照準から身を躱すべく空中戦を選択。未だ数本残る檻棺を蹴り飛び上り、眼下のディアナへ月照丸を向かわせる。
「おっと、こいつは……人形か」
 ディアナは即座に月照丸の正体を看破。人と同程度の大きさの絡繰人形でも、幾人もの人間を撃ち狩り殺してきたディアナには命持つ持たざるを容易に見通す目がある。
「こういうのは本体を叩くに限るってね。喰らいな!」
 ディアナは空中に十数の猟銃を召喚、筒先でゆきに狙いを定める。対するゆきは刀印を組み、結界術により水の鎧を纏った。
 猟銃の群れによる斉射! 檻棺を蹴り飛ばし回避、水の鎧にて血の弾丸を弾き、眼下で敵に打ちかかる月照丸と同時に、上方より襲いかかる!
「ハッ、二方面攻撃か! だがその位じゃあアタシは捉えらんないよ……!」
 ディアナは即座に前進。猟銃をバトンめいて取り回し、打ちかかる月照丸の攻撃をストックで捌く。同時に跳ね上げた銃口で真上のゆきを狙い発砲。
 反射的に持ち上げた薙刀が、偶然にもゆきの命を救った。不可視の銃弾が彼女の手から薙刀を弾き飛ばす!
(――抜くならば、今!)
 ゆきは腰の打刀――飄嵐鉄製打刀『雪風』を抜刀。印を組み直し、結界を『火の加護』に切り替える。緋色の陽炎めいたオーラがゆきを覆い、その剣の威力を増す。
 しかし防御は棄てたことになり、見えぬ銃弾に対する対処も月照丸頼りとなる。守りは手薄だが、しかして接近の好機を逃すわけにも行かない。 ゆきは落下の速度もそのままに飛び込んだ。『雪風』が彼女の身を軽くし、常よりも鋭い斬撃を可能とする。振り下ろしの一撃、銃身で受けられる。返す刀も銃でいなされる。銃身と刀が死のビートを刻んだ。鉄と鉄とがぶつかり合う、禍々しくも美しいパーカッション。
「はっ……!」
 幾合目か。打ち込んだ刀が止められ、それを軸にディアナは身体を捌きステップ。銃床でゆきの身体を突き飛ばすように打撃!
「ッ」
 踏み止まったときには不可視の銃弾が間近で激発していた。
「く……!」
 舞うような動きからの近接射撃がゆきの右脇腹を抉って抜ける。飛び退く彼女に向けディアナは連続で銃弾を放つが、それは月照丸が軋みを上げながら受け止める。
「さぁ、その壁がいつまで保つかねェ?」
 哄笑しながら銃弾を放ち続けるディアナ目掛け、ゆきは踏み止まり、決然と月照丸の背を見た。
 ――少しだけ耐えて、月照丸。
 ゆきは月照丸に最大出力での前進を命じる。ディアナの眉が跳ね上がる。銃弾を撃ち込んでも撃ち込んでも、まるで動じず突っ込んでくる絡繰人形。まずい、と距離を取ろうとした瞬間に月照丸は跳躍し――
 その足下を潜るように、疾風と化したゆきが駆け抜ける!
「ッ!」
 月照丸に気を取られていたディアナが目を見開く。
「奔れ、雪風……!」
 飄嵐鉄による刀は、持つ剣士の動きをも軽くするという。ゆきの手の中で応えるように、刀身が若草色の光を放ち曳光する!
「速いッ?!」
 鮮やかに抜けた斬閃は一瞬にして三。ゆきの意念に応えるように放たれた斬撃が、確かにディアナの腕と脇腹を裂く!
「ぐっ……! 味なマネをするじゃないか……!」
「――死者の眠る静寂に、あなたの声は相応しくありませんから」
 きっと、ディアナを倒せば、ここで散っていった命も安らかに眠れることだろう。
 あと少しだけ待っていてと祈りながら、ゆきは雪風に再び意念を注ぎ、月照丸と共にディアナ目掛けて向き直る!

苦戦 🔵​🔴​🔴​

アルトリウス・セレスタイト

撃ちたいのか。付き合ってやろう

破天で対処
高速詠唱で間隔を限りなく減じ、全力魔法と鎧無視攻撃で損害を最大化
且つ、二回攻撃の一回分を毎回体内に蓄積し続け、一回分は攻撃に射出

常であれば戦闘力を更に上げる目標に通じぬだろうが、今は此方も手を抜かん
戦闘となれば、敢えて押し止めぬ限りこの身は真理を纏う
伽藍堂の心臓が加速して鼓動を刻み
より速く深く顕に原理を紡ぎ
死の星は天を覆い尽くさんが如く

我が身を死が満たせば仕上げ
目標が近接していれば捕まえ、そうでなくば此方から近接
過剰に魔力を注いだ魔弾を統合
周囲を吹き飛ばす爆弾ではなく、指向性を持たせた砲撃として解放


手向けの華だ
文字通り、残らず散るが良い



●魔弾対魔弾
「撃ちたいのか。付き合ってやろう」
 吸血猟鬼の身勝手な言葉に応ずるはアルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)だ。『原理』の魔力を身体の周囲に漂わせ、ディアナに真っ向から対する。
「はン、付き合うって? そんな丸腰で何をするつもりだい?」
「射撃戦に付き合ってやると言ったんだ」
 高速詠唱。一瞬で、蒼く輝く『死』の原理の魔弾がアルトリウスの周囲に生成され、滞空する。
「なァるほど――そういうことか! いいよ、真っ向から撃ち合いと行こうじゃないか!」
 楽しげなディアナに取り合わず、アルトリウスは手を打ち払う。
「穿て、破天」
 絶えず高速詠唱を行い、魔弾を再装填しつつのアルトリウスの連射。しかしディアナはそれを易々と避けてのけつつ、自分の周りに赤々とした血を浮かべ、まるで外套のように纏いだす。動きが加速。当たるはずの『破天』が、一刻一刻と再生する『血の外套』の一部を死の概念で殺しては消え失せ、防ぎ止められる。
「む――」
「ぬるっちいねえ、射撃戦をやってくれるんじゃなかったのかい? 半端なことやってるとォ、喰っちまうよォ!!」
 ディアナは哄笑を上げながら宙に銃を無数に召喚。アルトリウスが放つ弾幕を呑み込むほどの血の弾丸の嵐を放つ。
「チッ」
 アルトリウスは舌打ちをしながら後退。四肢で銃弾の嵐をガード、拍動する伽藍堂の心臓だけは守り仰せる。加速する拍動のたび、心臓は原理を紡ぎ、魔弾を宙に――そしてその身の裡に装填し続ける。
 そう、アルトリウスは正面切っての射撃戦を行いながら強烈な一撃の布石を打っていたのだ。多重詠唱のうち一回分を身の裡に装填、一回分を射出して攻撃を行っていた。いかにアルトリウスが達人であるとて、ディアナの攻撃の苛烈さには、それでは敵わぬ。――射撃戦では敵に譲ることになるが、しかしそれで構わない。
 被弾した傷から原理の光が漏れる。早急に魔力で傷を塞ぎ、アルトリウスは弾雨を破天で相殺しつつ前進した。
 血を流すとも、死に近づこうとも、アルトリウスが恐れることはない。腕が蒼白く煌めきを帯びる。全ての魔弾を右腕に統合し、なおも前に進む。防ぎ切れぬ血の銃弾が命中し、アルトリウスの体内で炸裂、身の内を裂き、傷つける。
 ――構わぬ。
 死の弾丸が右腕に結実する。今までアルトリウスが放って来たのと同数の魔弾を圧縮した、ただ一発の『死』。最早相殺するために放つ魔弾さえ惜しい。アルトリウスは魔力を脚に集め、単純に爆ぜさせて風のように前進した。
「ッ!」
 爆発的な前進は予期しなかったか、ディアナは咄嗟に足を止めて銃口を上げる。トリガーが引かれた。放たれる魔弾、インビジブルハッピー。
 ――しかし!
 ばじっ!と爆ぜる音一つ、不可視の魔弾が宙に散る。
「!」
「当たると分かっているならば、防ぎようもある」
 顔の前に右手を翳したアルトリウスが嘯いた。青白く光る右手は既に、『死』の原理の塊である。それを侵徹できる威力と密度の術式でもなければ、その右手を貫くことは不可能だ!
 弾丸を防いだ一瞬のうちに、至近距離まで肉薄!
「ハ――! イカした真似をするじゃない……」
「言葉は不要だ。文字通り――残らず散るがいい」
 アルトリウスはディアナに最後まで言い終えることすら許さず、右手の『破天』の弾塊を指向性を持たせ解き放つ。ビーム・キャノンのような光条がディアナを包み込み、吹き飛ばした。全方位に解放することで建造物すら容易に破壊する威力を備えたそれは、一方向に砲撃として解放することで超高威力の魔砲と化す。
 吹き飛ばした敵を追撃する余裕は――今のアルトリウスにはない。膝をつき、呼吸を整える。
「手は抜かなかったつもりだが――存外、ヤツもやるということか」
 敵は強大。消し飛んだかに見えるが、重いプレッシャーは消えぬ。戦いは、未だ続く……!

苦戦 🔵​🔴​🔴​

鎧坂・灯理
◎【調査依頼】依頼人

どこに隠れるか知りませんが、流れ弾に当たらないようにしていて下さいよ。
さあ、て。
UC起動。銃器高速展開。対航空機砲へ変形(トランスフォーメーション)。
代償設定“お気に召すまま”。今を超えられなければ全て無駄だからな。

あの坊やはとんだ嘘つきだが、仕事に関しては正直者でね。
ああ、信じるとも。あれは信じるに値する男さ。

発動(ロード)――現実拡張(オーグメンテッド・リアリティ)
8.8cm FlaKの抱え撃ちだ。反動を《削除》し残弾は《必要なだけ追加》。
砲身が焼けるまで撃ち続けてやる。

寿命が年単位で減るだろうが知ったことか。
鎧坂の【覚悟】を魅せてやる。


矢来・夕立
◎【調査依頼】探偵さん

…。マトモな遮蔽が無いのは、何とかします。常に盤石の壁があるものと思ってください。
44回限りですけど、44回は絶対に死にません。
オレは怖いんで《忍び足》で隠れてますね。どっかにはいますよ。
それじゃ任せました。

【紙技・禍喰鳥】。
探偵さんの傍に潜伏させて、彼女に向いた攻撃を全部《かばう》。破れた傍から新しい式を起動。
言った通り、44回は無事ですよ。
きちんと数えて、45回目が放たれる前に死角から《だまし討ち》。
あっちを見続けるならこのまま蝙蝠で食い殺す。
こっちに意識を向けたならご愁傷様、狩られるのはアンタだ。
本当に優秀な狩人は無駄弾を撃たないんだよ。

…でしょう、“灯理さん”。



●アハト・アハト
 散ったはずのディアナは、宙から赤い霧となって析出し、凝集して再び人形を取る。
「やるじゃあないか、ねェ、猟兵! さァ、次は何を見せてくれんだい?!」
 哄笑と共に、再び吸血鬼は戦闘態勢を取る。堪えていないのか、或いは表に痛痒を出さぬだけか――いずれにせよ、動きに翳りはない。
「――あれ、ヤバいですね」
「また見ればわかることを」
 その様子を遠目に見つつも、引く気も無しにディアナの元へ駆ける猟兵が二名。矢来・夕立(影・f14904)、そして鎧坂・灯理(鮫・f14037)だ。
「棺檻の密度は薄い。とても正面切っての銃撃戦を挑める状況じゃない――」
「……いや、マトモな遮蔽が無いのは、何とかします」
 灯理の考察に、駆けながら夕立が応じる。灯理は眼鏡越しに鋭い瞳を夕立に向けた。朱の瞳がちらりと灯理の瞳を見つめ返す。
「大丈夫。常に盤石の壁があるものと思ってください。四四回限りですけど、四四回は絶対に死にません」
「……ウソでした、はやめて下さいよ」
「オレはウソつきですけど、吐いて自分が死ぬようなウソはつかないんですよ」
 損得勘定の化物が口にする言葉は、それだけに説得力の塊のようなものだった。灯理は僅かに口元を緩め、ふっと笑い、頷いた。
「矢面に立たせるようで申し訳ないんですが、オレはあんなの怖くてやってらんないんでこっそり隠れてますね。大丈夫、どっかにはいますよ」
「どこに隠れるか知りませんが、流れ弾に当たらないようにしていて下さいよ。四四回の前にあなたが死んでて、結果的に『ウソでした』なんて、一番笑えないパターンだ」
「善処します。……それじゃ、任せました」
 灯理の皮肉を織り交ぜた言葉にクスリとも笑わず、夕立はヒュンと音を立てて消えた。或いは灯理の知覚の外に失せた。忍び足も極まれば、人の知覚の外に消えることすら叶うのやも知れぬ。灯理は正面に向き直る。
 走る先にいるディアナは虚空に銃を無数に召喚、一度放てば猟兵達を寄せ付けぬ血のファイアレーンの中心で嬌笑を上げている。
 ――今から、あれを叩き潰す。
「あァん? 二人いたと思ったけどなぁ。もう片方は尻尾巻いて逃げたのかい!!」
 BLAM!! 周囲への銃撃で猟兵達を後退させたディアナが、銃身で肩を叩きながら明里に目を向けた。未だ遠い灯理目掛け大音声で言う。
「さてね。教える意味もない」
 それに届くか届かないかも知ったことかと平素の声で応じつつ、灯理は銃を抜いた。彼女の愛用の火器、物理法則を無視して可変する拳銃。
「そんな小っさい銃でアタシを殺そうっての、ナメてて笑えるねえ!! 狩りってのはァ――こうやってやんだよ、覚えて死にな!!」
 ぎゃらららららららりりりりっ!!
 宙の無数の銃口が首を擡げる! 銃身同士を擦れ合わせるほどの密度の猟銃の群が、灯理へ向け、まるでスコールのように血の弾丸を吐き出した。その初速、約八〇〇メートル秒。知覚するのも困難な弾丸の嵐を前に、しかし灯理は一切の防御を放棄した。
「あの坊やはとんだ嘘つきだが――仕事に関しては正直者でね。ああ、信じるとも。あれは信じるに値する男さ」
 ――言葉を口に出来た。
 それはつまり、その信頼の甲斐があったと言うことに他ならぬ。
 凄まじい勢いで吹き荒れた鮮血弾幕から灯理を守ったのは、『紙忍』夕立が放った式紙――『禍喰鳥』である。灯理の傍に侍る、禍を喰う鳥と名付けられた式紙が、その名の通りに灯理へ吹いた鏖殺の弾幕を喰い止め、彼女の命を繋いだのだ。
(――今の一撃で幾つ消えた?)
 一斉に放たれる散弾めいた銃撃。狙いもせずに放つだけある、凄まじい密度だ。
 灯理に当たるはずだった銃弾、その全てを蝙蝠は肩代わりして消えたが――掻き消えた紙の蝙蝠の数は十五……否、十四。一撃でそれか。
「へェ――面白いじゃないか! アタシの弾幕を防ぐなんてねぇ!」
 楽しむようにディアナは言い、新たな銃を召喚する。リロードなど不要。呼び出せば弾丸の籠もった銃が現れる。オブリビオンにこの世の理は通じない。
 ――構わない。灯理は前進する。
                  チート
 オブリビオンがこの世の理を無視してず るを成すなら、こちらも同じことをするだけだ。この悪夢を骸の海へ叩き返すための治外法権を得た存在、世はそれを猟兵と呼ぶ。
 ディアナが再び血液の銃弾の嵐を放った。血液の銃弾、と言えば脆そうに聞こえるが、魔力によって射出できるまでに圧縮凝固された血だ。フルメタルジャケット弾を遥かに上回る硬度、そして命中すれば飛び散りダムダム弾めいて敵の体内を破壊する殺傷能力を備えた恐るべき弾丸である。
 再び、禍喰鳥が弾丸を食み、女の前で赤く染まって落ちた。灯理は防御と回避をしないまま前に駆ける。相対距離、二十メートル地点。立ち止まる。第三射。やはり禍喰鳥が防御――しかし、最早その守りも尽きた。禍喰鳥がなければ、灯理は四四度、弾丸の直撃をもらっていたことになる。――だが、それを留めた。矢来・夕立が。
「小さい銃と言ったな。これを見て同じ事が言えるか」
 灯理は拳銃をディアナに向ける。――銃が、一瞬で変形した。
 スライドが四方へ裏返り、物理法則を無視して膨れ上がる。弾楯めいたカバーを備えたそれは――あまりに巨大で、あまりに武骨で、およそ人が携行すべきではない――

 Flugabwehrkanone
 対戦闘機用高射砲。
 
 通称『Acht-Acht』、八八ミリ高射砲『FlaK 36』!
 照準――人間が支え持つには重すぎるその銃の重量をユーベルコード『現実拡張』にて削り取りつつ、灯理は真っ直ぐに、照準器の向こう側に吸血鬼を捉える。
「――ハッハァ! なんだいなんだい、小さいって言われたのが癪に障ったかい? そんな大物を持ち出してさぁ――銃なんてのはねぇ、当てれて殺せりゃそれでいいんだよ! そこんところまで教えないと猟兵ってのは狩りも出来ないのかい?!」
 けたたましく笑いながら、ディアナは手にした猟銃を灯理に向けた。
 その銃口から飛び出るであろう透明な銃弾。インビジブルハッピー。

 ――ああ、知っている。
 だから、忍は吸血鬼の後ろに姿を現した。

「――!?」
 ディアナは驚愕の表情を浮かべた。後ろに迸った殺気に総毛立つ。その猟兵は、全く唐突に、ディアナの後ろに『発生』した。それほどまでの隠密・隠形技能。ディアナほどの知覚能力を持つオブリビオンから身を隠す能力。――それほどまでの殺気を、全くゼロに留めておく制御力……!
 ディアナは、灯理目掛けて撃つはずだった銃弾を、反射的に肩に負うように構えてノールックで背後の猟兵目掛け放った。しかし手応えがない。びょう、と飄風。斬、と唸ったのは永海・鉄観作、『雷花』。

                ハガネ
 魔を斬るべくして生まれた無上の刃 鉄。

 ディアナの両腕が断たれて宙を舞った。すれ違うように放たれた、夕立の瞬撃二閃によるものだ。そのまま夕立は横っ飛びに、灯理の射線から逃れて顎をしゃくる。
「ご愁傷様。狩られるのはアンタだ。そら、魔弾が来ますよ」
 ――優秀な狩人は、無駄弾を撃たぬものだ。
「そうでしたよね、灯理さん?」

 ロード
「 発動 」

 然り、と応じるように灯理は呟いた。
 ご、ぐん、と音を立ててFlaKが砲弾を咥え込む!
 わたし
「鎧 坂の覚悟を魅せてやる。よく目に焼き付けろ、糞外道」

 ――――砲声!!!!!!!!!!!!!!

 まともに正面から、ディアナの身体を、八八ミリの砲身が焼けるまで、高射砲の速射が貫いた。一射ごとに灯理の寿命を削る、強烈な砲撃。現実を書き換え、反動を『削除』しながらの連射! 眼から血涙を流しつつも灯理は砲撃を止めぬ! 最初の二発が強靱なディアナの身体をぽっかりと削り取り、三発、四発目がその身体を億の破片に還す――!
 吹き飛ぶディアナを前に、灯理は無慈悲に言った。
「徹底的に殺し尽くしてやる。この場にいる猟兵の全てでな」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​


 
 散れど、散れど、ディアナは幾度もその身を再生し、何事もなかったかのように戦闘を再開する。
 強敵との戦いに酔うたように、尚も狂笑し、無数の銃で猟兵らを猛撃する。
 ――だが猟兵達がそれを恐れることはない。鉄火飛び交う戦場で、飛び込む猛き兵がまた二人。
 
鹿忍・由紀
あの威力は参ったね
身を隠せそうにもないし面倒だなぁ

他の猟兵の動きを見て敵の意識がこちらに向いてない隙を探す
見切りと勘で出来るだけ避けて接近
多少の傷は激痛耐性で誤魔化して
無傷で近付くっていうのは諦めて
踏み込みやすいチャンスくらい割り出す

接近しつつ負傷した血を使って虚空への献身を使用
高速移動で加速して数多の杭を撃ち込む
敵の攻撃はスピードを生かして避けて、接近戦も交えつつ応戦
射撃武器なら至近距離には対応しづらいはずだけどどうかな
やばそうだったら逃げ足で体勢整えよう

吸血鬼の心臓には御誂え向きだろ
杭の目標は出来る限り心臓へと
貫ききれない分は蹴りつけて押し込んでやる

あーあ、くたびれたなぁ
さっさと帰ろ


アヴェルス・ジュネ
戦場内に鋼糸展開
弾丸に対する遮蔽物が無いのなら、
平面から空間へ、逃れる為の足場を増やすまで

鋼糸の上を止まることなく駆け続ける
進路を予測されない様速度に緩急、動きは不規則に
銃弾はナイフで対処、斬るよりも弾く意識で

愉しそうね
開放的な戦場は、さぞ狙い定め易かったことでしょう
でもその割に、的が一様に元気なのは不思議ね?

挑発後、ディアナの上空で鋼糸を解放
落下中の無防備に、狙い放題と喜ぶ様ならそれが隙
多少のリスクは覚悟の上
潜牙で攻撃と銃撃への対応、乗じてディアナの体を絡め取る

鋼糸の攻撃とは、何も斬り裂くだけではないのよ
捕らえた体へ紅華

伝えることは苦手なの
簡潔に言う
さっさと消えて。…弔いが、出来ないでしょう



●不死身を穿つは炎と血杭
 数人の猟兵がディアナに挑んでは苛烈な応酬を交わす。衝撃波、爆発音、銃弾が飛び交い、近くにいるだけで巻き込まれそうだ。
 中でも、初手に見せたディアナの広範囲銃撃。あれを繰り出されると、近づけもしない。
「あの威力は参ったね――身を隠せそうにもないし、面倒だなぁ」
 鹿忍・由紀(余計者・f05760)は気だるげに言う。しかし出し抜かなければならない。ここでヤツを殺せねば、帰るどころの話でもない。
「……隙に乗じるとしようかな」
 折しも――一人の猟兵が、己の技術を活かし、檻棺を飛び渡ってディアナへと挑むところだった。由紀は、自らの気配を極限まで抑え、彼女が仕掛けるのを待った。

 弾丸に対する障害物、遮蔽物がないというのであれば、空間戦闘を行うための足場を増やすまでだ。戦場に未だ点在する檻棺に、鋼糸をかけてそれを足場に走る。
 銃という武器は筒先の平面を穿つ武器。狙う範囲が立体的になった瞬間、その命中率は著しく落ちる。上方、もしくは下方への射撃は、極めて困難となることを、飛び渡る猟兵――彼女は知っていた。
 宙を飛び駆けるのはアヴェルス・ジュネ(哀雨・f16344)。眼下、負った負傷を再生しながらぐりん、と視線を上げるディアナと目が合う。
「はン、鳥の真似事かい、猟兵? 撃ち落として欲しいみたいだねェ!」
「やれるものならやってご覧なさいな。それにしても愉しそうね、吸血猟鬼。こんなにも開放的な戦場ですもの、狙いも付けやすかったでしょうね、貴女が水を得た魚のようなのも頷けるわ」
 アヴェルスは静かな口調で言い放ちつつ、駆ける。一瞬たりとて止まらぬ。銃火が放たれる一瞬前に方向転換。予測射撃の暴威が彼女の進路を赤い弾風で埋める。即座に糸を蹴り離し別ルートを走る。予測させてはならない。緩急を付け、不規則に。コースを読まれぬように走れ。アヴェルスは努めて冷静に言葉を続けた。
「でも、狙いやすい割には――的が皆、一様に元気なのは不思議な事ね。もしかして射手の腕が悪いのかしら? ゲームハントにならないわね、このままでは」
「安い挑発してくれるじゃないか、何を企んでんだか知らないが――いいよ、乗ってやる。アタシの銃から逃げられるヤツなんざ、三千世界にいやしねぇって事を、骨の髄まで憶えて逝きな!」
 空中に無数の猟銃が並ぶ。それらは一様に銃口を上に向け、アヴェルスを狙って火を噴いた。血液の銃弾が嵐となってアヴェルスを襲う。アヴェルスの敏捷性を見越してのことか、今度は狙いを散漫にして、威力よりも命中率を重視した形だ。
 アヴェルスはそれを、最低限の急所のみをナイフで守って弾き飛ばす。火花が散る。心臓と頭さえ守れば走ることはできる――とでも言うような、捨て身めいた構えだ。数射を防ぐも、銃弾がアヴェルスの脇腹を、肩を穿ち、着弾と同時に飛び散る血の弾丸が彼女の身体の内を掻き回す。
「っく……!」
「ははァッ、大口叩く割に当たっているじゃないか! ま、当てるように仕向けたんだがねぇ! くたばりな、アンタが最初の獲物だよォ!」
 ディアナの哄笑、そして宙に向けた猟銃に再装填。僅か動きの鈍るアヴェルスに照準し、再度射撃する当にその瞬間!
「――!」
 ディアナは反射的に屈み込んだ。一瞬前まで頸があった位置をダガーが薙ぎ払う。
 舌打ち一つ、
「そう簡単にはいかないか」
 由紀である。影で襲撃の機会を伺っていたが、あのままもう一射させればアヴェルスが危険だ。或いは彼女にも策があったかも知れないが、それがなかった場合、ここで打って出なければ次に各個撃破されるのは自分だ。戦術的判断に基づいての拙速な奇襲。
「ちょいと鳥撃ちに夢中になりすぎたかねぇ!」
「そのまま夢中になっててくれて良かったんだけどね、こっちとしては」
 飛び退るディアナへ向けて追撃のため踏み込むが、宙に殺気。由紀は顔を上げる前に反射的に横っ飛びに跳んだ。
 宙に浮いた猟銃が回頭、打ち下ろしの掃射をかけてくる。
 あの猟銃の恐ろしいところは――『連射ではない』ところだ。連射ならば、連射である以上、弾丸と弾丸の間にはごく僅かながらタイムラグがある。ところがあれは、『斉射』だ。順序立てて回避する事ができない。なぜなら着弾は同時。一瞬で二発弾けるとしても、同時に五発が着弾すると仮定すれば――三発は嫌でも喰らう計算になる。
「つッ……」
 由紀は左太腿と右腕を弾丸で穿たれつつも左方へ逃レル。脳内麻薬の量を操作して、激痛を抑え込む。
「活きのいい獲物で嬉しいよ、さあ、どんな可愛い牙を見せてくれるんだい、猟兵!」
「可愛い牙、ね――同じ事がいつまで言えるか、試してみようか」
 由紀は流れ落ちる自らの血に魔力を通わせ、その身に纏う。足下から這い上がった『影』が値と混ざり合い、まるで澱んだオーラのように由紀の周りを覆った。
 アナイアレイト
『虚 空への献 身』。自らの血液と寿命を贄として、圧倒的な機動力と攻撃力を得る由紀のユーベルコードだ。
 由紀は敵を中心とした旋回軌道に入り、纏う血影を練り上げ『杭』を生み出す。
「穿て」
 ダガーを差し向ければ機関銃も斯くやという勢いで杭が射出された。それを迎え撃つのはディアナの猟銃の群れ。一斉射撃で杭が撃ち落とされる。だが、防御に攻撃リソースを割かせているだけで杭を撃つ意味がある。
 由紀は役割がスイッチしたことを感じていた。
「面白い曲芸だねェ! アタシらがやってるのと似たような術じゃないか、アンタもアタシらとお仲間ってわけだ!」
「一緒にするのは勝手だけどね、仲間意識も逃がす気も、こっちには爪の先ほどもないんだ。さっさと死んでよ」
 揺さぶるようなディアナのセリフに由紀はドライに返し、さらに接近。血影を帯びさせたダガーで切りつける。ダガーの刃がまるで伸びたように、赤黒い斬影がディアナの頸を狙う。猟銃でのガード。至近距離から杭を連射。悉くが猟銃で弾かれる。
「至近距離なら勝てるってハラかい? 浅はかだね!」
 華麗な防御、そして不可視の銃弾による撃ち返し。由紀は斜め前に踏み出して超高速での回避。ダガーをくるりと回し、逆手で切りつけ、受けたディアナの猟銃と軋り合う。
「それはどうかな」
 一言。確かに、至近距離で圧倒とは行かなかった。しかし、ディアナを防戦に回らせ、猟銃による斉射を封じ――自身も巻き込みかねないためだ――、時を稼いだ。
 由紀は上に視線を走らせ、地を蹴って飛び退いた。優位を確信して近づいた後の、全く唐突な後退。ディアナが目を見開いた瞬間、
「ありがとう」
 空から、夜色の髪の女が落ちてきた。
「くっはは、そういうことかッ!」
 ディアナは猟銃を召喚、即座に宙に放とうとするが、それを由紀が連射した杭が叩き落とす。幾ばくかの弾丸が放たれるが、それが身体にめり込むのにも構わずアヴェルスは全ての鋼糸をディアナの身体へ撓らせた。指先に、ぎしり、と絡む手応えを感じる!
「グッ……!?」
「鋼糸は何も、斬り裂くだけの代物じゃないわ。――燃え尽きて、さっさと消えて。弔いが出来ないでしょう」
 糸へアヴェルスの血が滴る。血は焔となり、まるで導火線を走るようにディアナへと迫った。『紅華』。業火がディアナの身体を捲き、肉を焼き焦がす!
「ぎいいぃいぃいッ、」
 喉が引き攣れるように出る声を貫くように――
「さっさと消えてってのには同感だね。――吸血鬼の心臓には、これがお誂え向きだろ。持って行きなよ」
 由紀が駆けた。宙に収束する血影。腕ほどもある杭を練り上げ、動きを封ぜられたディアナ目掛け繰り出す!
 心臓を貫き通す杭に、ディアナの叫びすら一時凍った。駆けた由紀の蹴りが、突き刺さった杭を一際強く押し込む。背から突き立った杭が、ディアナの胸から飛び出したその刹那、その身体は赤く弾けるように四散した。赤い霧が風に乗り、吹き散る。
「ほんと、草臥れさせてくれるよ……さっさと帰りたい」
「全くね」
 荒れた息を整える二名の猟兵。――しかし由紀もアヴェルスも、事が未だ終わっていないことを朧気に悟っている。
 戦場を取り巻く重圧、未だ消えず――

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ネグル・ギュネス

『MAX trigger on.』

トリガーキーを差込み、逆回し

黒き髪の真の姿に、エクリプスモードの融合
『失っても、壊せ』

超加速モードで、撒き散らされる弾丸は回避
【ダッシュ】と【残像】で欺いたり、刀を旋風させ、【武器受け】で弾く


───で
ガラクタ遊びは満足したか?


今度は、此方の銃で【破魔】の弾丸を放ち、腕や脚を、光で腐らせる

痛いか?苦しいか?助けて欲しいか?
子供達がそう懇願した時どうした?

近接距離に接近し、殴り飛ばした後、顔を足蹴にして

Destroy finish!!

思い切り、踏み抜く!


残虐、鬼、修羅
何と思わば思え、言わば言え

この怒りだけは、誰にも譲れない
子供達の笑顔を奪った外道は、俺が殺す!


鳴宮・匡

◆ヴィクティムと共にネグル(f00099)を救援

先行するヴィクティムにネグルのほうを任せ
こちらは【確定予測】による予測回避で対処
現れた猟銃の位置・数・銃口の向きを把握
可能な限り被弾の少ないルートを選定して接近

なんで、みたいな顔すんなよな
……まあいいさ
こっちのことは気にすんな
好きにすればいいって言ったろ、こっちも好きにやる

交戦は至近距離を保ち
拳銃での零距離射撃とナイフで応戦
猟銃は取り回しが悪い
この距離なら相手の得手をある程度殺せるし
血の猟銃も下手にぶっ放しにくいだろ

お前が無辜の命を幾ら奪おうと
同情もできない、怒りもしない

ただ、それでも
――それに心を砕けるやつの道は
ああ、それくらいは守ってやるさ


ヴィクティム・ウィンターミュート
【鳴宮・匡とネグル・ギュネスを救援】◎
──いつまで
上位者気取ってんだよ、三下
テメェのハンティングはここで幕切れなのさ
エピローグの準備をしなきゃいけないんでね…舞台を降りてもらうぜ

…ま、その前に
あの馬鹿を助けてやらねえとな?
座標確定、防壁起動
──パーティーに乱入だ
(敵UCの発動に合わせて起動、防壁と共にネグルを【庇う】)

ようネグル、随分とキレてるな?
ま、話は後だ…護ってやる。行け

前衛よりもやや後方で立ち回る
ナイフの投擲、相手の妨害に専念
ネグルと匡への攻撃を【見切り】と【第六感】察知して、避けきれないならUC発動、【かばう】でインターセプトし続ける

行きな、ネグル!
胸糞悪い舞台を終わらせろッ!!



●3/3
「正直なところ」
「ああ」
「あのオブリビオン――吸血猟鬼が、いくら無辜の命を奪っても、俺には関係のないことだ」
「だよな」
「……それが例えば、友達とか。俺の知ってるやつを狙ってるとかなら、関係ないなんて言わないけどさ」
「丸くなったもんだな」
「茶化すなよ。……とにかく、俺の知らない世界で、俺の知らない名前で、俺の知らない日常を生きている人間が、喩えいくら殺されたって――俺は同情は出来ないし、怒りもしない」
「まぁ、知ってるさ。……それで?」
「……見透かしたような顔するなって」
「知ってるか? 端役は何でもお見通しなんだぜ」
「……」
「拗ねるなって。お前の口から聞かせろよ」
 溜息一つ、
「……ただ、それでも。その、名前も識らない誰かの死を本気で悲しんで、二度とはこんなことを繰り返させないって。――それに心を砕けるやつの道は……ああ、それくらいは守ってやるって、思う」
「随分ウェットなことを言うようになったよな、お前も。――いいぜ。あの馬鹿を助けに行こう。あいつにしか出来ねぇことをさせに行こうぜ」
 端役は、笑った。
「パーティに乱入だ」


「今回の獲物は本当に――狩り甲斐があるねぇ!」
 女の声がした。言わずもがな、『吸血猟鬼』ディアナのものだ。オーバーキルな攻撃を食らっても、ディアナの肉体は血の霧として霧散した後、再度別の場所に結実する。
 それは彼女が喰らった命の総数によるものか。死ねど死ねど、身の裡に取り込んだ数百の生の内幾許かを使って蘇る。
 猟兵達も薄々気付いていた。ディアナはともすれば、彼らが挑んできたオブリビオンの中でも、屈指の継戦能力を持っていると。
 警戒して慎重に事に当たるべきだ――と、多数の猟兵が考えたかも知れない。けれど、その瞬間――ディアナの肉体が再構成されたところにいたのは、怒れるただ一匹の鬼だった。
「おや、はぐれ狼が一匹。群れる前に狩っておくとしようかね――」
 ただ一人、戦場に立ち尽くす猟兵を見たディアナは軽薄に笑うが、猟兵は構わずに義手に鍵を差し入れる。
『――MAX trigger on.』
 鬼は、漆黒の髪をうっそりと揺らし、鍵――エクリプスキーを、決意を込めて、
 逆回した。

『Crush the world! Are you ready?』

「吸血猟鬼。貴様を殺す!!」
 逆に回ったエクリプスキーは、彼から人間性を、人間の部分を奪い去る。黒き閃光――そうとしか形容できない空間の瞬き――が彼を包み込んだ。
 一瞬の後にそこにいるのは、最早ただの鋼鉄の戦鬼、黒の機械兵。――ネグル・ギュネス(ロスト・オブ・パストデイズ・f00099)である!
「ははん、怒り心頭って具合だ。まるで布に煽られた雄牛さね。何をそんなに怒ってるんだい、猟兵? アンタに縁のある、誰を殺したわけでもあるまいに」
「黙れ!!」
 ネグルは爆ぜた。爆ぜた、としか形容の出来ないスピードで踏み込んだ。脚部装甲、超加速モードで展開。推進器から吹き出す推力炎に乗って低空を駆けるように前進する。
 口笛を吹きながらディアナは宙に無数の銃を招来。ネグル目掛け固め撃ちの弾幕を張る。ネグルは刀を旋回、丸楯を作るようにして銃弾の嵐を絡め取り弾き、同時にスプリント、次の乱射を回避。さらにもう一回の斉射を残像を残して回避と、凄まじい勢いで駆け回りながらディアナの攻撃をいなす。
「はぁッハァ! すごいね、このペースの三斉射を避けるなんてさ! なら次は四連、その次は五連だ、踊りな猟兵!!」
 戦闘を心底楽しんでいる調子で、ディアナは先に呼んだ猟銃の群れに倍する数の猟銃を召喚、さらに細密に操作してネグルに銃口を差し向ける。
 ネグルはそのあまりの無邪気さに、血を吐くように言った。
「貴様がガラクタと呼んだ彼女らでの遊びは、愉しかったか。あの悲痛な声を上げていた少女たちを、思うように壊して――満足したか、吸血猟鬼!!」
 水を向けられ、ディアナはきょとんとした風に目を瞬かせ――
「遊ぶ前に壊しちまったのはアンタ達の方だろ。逆に感想を聞きたいね。どうだった?」
「貴様――ッ!!!!」
 ネグルはペネトレイトブラスターを抜き、ディアナを殺すつもりで破魔の力を宿して撃った。しかしディアナが指を一つ鳴らせば、赤いカーテンの如く降り注いだ弾幕がネグルの銃弾を呑み込む。一斉射は一度だけではない。第二射はネグルに降り注ぐ。刀で弾きつつ横に逃れるネグルを、第三射、第四射が襲う――! からくも残像を残し回避したネグルが制動したところを見計らい、
「そうら、記録を更新してみせな!」
 更に、第五射!!
 瀑布の如き朱がネグルの視界を埋め尽くす――かに思われた、まさにその瞬間。
 宙に蒼白いスパークが弾け、無数の赤の銃弾を弾き散らす!
「──いつまで上位者気取ってんだよ、三下。テメェのハンティングはここで幕切れだ」
 涼しげな声が響いた。宙に弾ける蒼い電荷。ネグルの前に降り立ったのは我らが超一流の端役。
「ヴィクティム?!」
 そう! ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)である!
 新作のプログラムは以前よりさらに改良した転移プログラムに、防壁機構を付与したもの。転移と同時のカバーリングを可能とした連結支援プログラム、Code『For You』である。蒼い防壁で自身とネグルをカバーしながら、端役は口の端に笑みを引っかけた。
「ようネグル。随分とキレてるな? ま――お互い言いてぇこともあるだろうが、話は後だ」
 ヴィクティムはディアナへ向き直り、親指で首を掻き切るジェスチャーを交えながら吐き捨てる
「終わりだよ、テメェの出番はおしまいだ。エピローグの準備をしなきゃいけないんでね……舞台を降りてもらうぜ、大根役者」
「いきなり出てきて言ってくれるじゃないか。その蒼い壁がどれだけの固さか知らないけどね、アタシの銃弾が貫けないものなんて――」
 バララララッ!! 横合いからパーカッシブな射撃音。
 全くの不意打ちにディアナの身体が横殴りに吹き飛ばされ一転する。
「コソコソとよく群れる連中だねェ!!!」
 ディアナは即座に転がって地を蹴り、飛び退きながら、弾丸が飛び来た方向に猟銃の群を向け、カウンターファイア。赤い弾幕が襲うが、しかし射線上には射手の姿は既にない。
 射手は銃口の向きを見て、射線と軸をずらしていた。駆ける、駆ける。手にしたライフルのトリガーを絞り、連射。敵の猟銃のバレルを片っ端から銃弾で弾く。射手を射貫くはずだった銃が狙いを逸らされ、四方八方、明後日の方向に火を噴いた。
 何手先まで読んでいるのか。『確定予測』――敵の反撃まで織り込んだ油断ない強襲。その射手は当然――
「匡――」
「なんで、みたいな顔すんなよな。……こっちのことは気にすんな、ネグル。好きにやればいいって言ったろ。俺達も好きにやる」
 鳴宮・匡(凪の海・f01612)だ。匡はそのまま撃ち尽くすまで撃ってアサルトライフルを放棄、ホルスターから拳銃――Strangerをドロウ。右手に拳銃、左手にナイフを持ってそのままディアナへと駆け抜ける。
 呼吸を合わせるようにヴィクティムが防壁プログラムを再展開。匡が接近するまでにやり過ごすべき最後の一射をすんでの所で弾き、匡の接近を助ける。
 匡にはそれが『視え』ていたのか。蒼い壁が突如現れ、着弾寸前の致命の弾雨が全て目の前で弾かれたその瞬間も、一瞬の逡巡もなく駆け抜ける。――ナイフの間合い、超至近距離! 匡は銃口を押し付けるほどに繰り出し四連射。立て続けに着弾。
 ディアナは罵声と共に銃口を跳ね上げ匡を射貫かんと引き金を引くが、銃声の一瞬前に火花が散って銃口が逸れた。匡が逆手に握ったナイフで銃身を弾いたのだ。腕をクロスするようにハンドガンを敵の顔面に振り向けて匡もまたトリガーを引くが、ディアナは弾かれた銃をバトンのように回してストックで拳銃を払い回避。明後日の方向に激発する拳銃。
 嵐の如き死神同士の至近距離格闘。正に、ダンス・マカブル。匡が至近距離格闘を挑むのは、敵の猟銃のバレルの長さ――そして、強烈無比な面的制圧火力を逆手にとってのことだ。猟銃は近距離では思うように取り回せまいし、猟銃を召喚しての一斉射は自身をも巻き込む故に発動不可だろうと踏んだのだ。そしてその狙いは正しく奏功した。匡は単独で、束の間ディアナを圧倒している!
 ヴィクティムが両手に、フェアライト・チャリオットで構成したガラス質の投げナイフを手挟みながら吼える。
「ケツは持ってやる。行け、ネグル! 走れ!! お前がこのクソッタレな舞台に幕を引けッ!!」
 ヴィクティムのその言葉が。
 格闘戦を演ずる匡が、蒼く閃く瞳で一瞬、掠めるように横手のネグルを見た、その目が。
“往け”
 ネグルの背中を押す。正しき怒りが胸の中で燃え、ネグルは機械仕掛けの目をギラリと煌めかせた。
「――一瞬でいい。ヤツの動きを止めてくれ、ヴィクティム、匡」
 ヴィクティムが片目を閉じ、匡が口元だけで笑った。それが、合図。


●ランペイジ・チーム・アサルト ~フォーメーション・イクリプス~
 匡の目が青く光った。同時に、そのナイフが青き光を帯びて拡張される。ヴィクティムが支援プログラム『寂冬』を起動、匡の情報処理能力と格闘戦能力を拡張したのだ。
 遠目のネグルから見てさえ分かるほどに、突如、匡の動きが変わった。
 匡は声も無く踏み込んだ。蒼白い光を帯びたナイフを受けようと掲げられた猟銃のバレルを両断。吸血猟鬼の腕を半ばから深く裂きながら、その横を駆け抜ける。
「なッ――」
 何が起きたのか、ディアナには全く理解出来ないだろう。その驚愕に乗じるようにヴィクティムが走り、投げナイフを雨霰と投擲。関節部を破壊する的確な照準、両膝を破壊されよたつくディアナ。その両肩を、駆け抜け振り向いた匡の拳銃が四連射で射貫いた。中空、ディアナに喚ばれた猟銃の切っ先が、誰を最初に撃つべきか彷徨う。

「「やれッ!! ネグル!!」」
「応ッ!!!!!!!!!!!」

 ネグルは奔った。
 ともすれば、今までのいつよりも速く。
 機械の足が、彼の意思に応えた。一瞬で最高速へ加速。地を駆ける流星の如く、棒立ち状態で目を見開くディアナに向けて一直線に。
 接敵。拳を叩き込む。一打、吹っ飛ぶディアナを追う!
 地を蹴ればすぐに追いつく、ネグルは加速し続けている!
 尚も殴る、殴る、殴る、吹き飛ぶディアナを追いかけるッ!
「痛いか? 苦しいか? 助けて欲しいか?」
 殴打、殴打、殴打ッ――
「子供達がそう懇願した時、貴様はどうしたッ!!!」
 蹴り飛ばすッ!!!
 ディアナは最早口も開けぬ襤褸雑巾のように吹き飛び、その身体の結合は殆ど解けかかっていた。
 しかしネグルは許さない。命を弄んだ悪鬼を!
 絶望の淵に叩き込んで殺すまでッ!!
 
 ――残虐、鬼、修羅、何と思わば思え、言わば言え!
 この怒りだけは、誰にも譲れない。子供達の笑顔を奪った外道は、俺が殺す!

 脚部推進器、オーバードライブ!
 ネグルは一瞬で吹き飛んだディアナに追い付き、その顔面に蹴りを叩き込んで、サーフボードめいてその身体で地面を滑りながら、全エネルギーを、叩き込んだ右脚に集中し――
「――Destroy finish!!!!」
 
 解き放つッ!!!

 白き爆光が迸り、ディアナを呑み込んだ。完全破壊――塵すら残さぬオーバーキルの一撃。
 諸共に光の中に消えたかに見えたネグルが、迸る光の爆発の中から反動により離脱。地面を削り跳ばしながら着地する。

 勝利のスタンディングもなく、ネグルは咲いた爆光の中央を睨んでいた。
 ――やがて光が失せ、二人の友が、その背に追い付いて来るまで、ずっと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アリーシャ・マクファーソン

吸血猟鬼の範囲攻撃が飛んできた瞬間、真の姿を解放。
金色の瞳に、真紅の翼。忌み嫌う吸血鬼共と酷似している姿。
けれど、此度の敵を討つにはすべてを使い切るつもりでいなければ。
例え、血に酔いしれようとも。

これまで楽しく狩りを続けてきたのでしょう。
けど、そんなあなたの道楽もここまで。
集いし数多の刃が、あなたの享楽を終わらせるわ。

その強大な力を、私一人で打ち破れるとは思ってない。
けど、その歪んだ笑みを浮かべる顔に、一筋の傷ぐらい拵えてあげたいじゃない?
無数の銃弾を受けようとも、どれだけの血を流そうとも、私は止まらない。
奇遇ね、私もあなたと似たようなことができるの。
【百華凍刃】
捉えたわ。


アウレリア・ウィスタリア
この敵に対してボクができること
攻撃を掻い潜り接近するのは難しい
遠距離では敵の方が有利…
ボクの攻撃では有効打が思い付かない
だったら、ボク…私があの敵を足止めしよう

オーラ防御を全開に
血糸を張り巡らし鞭剣も用いて弾幕回避を可能な限り試み
【空想音盤:絶望】これを使うための隙を探ります

お前は常に狩る側であったのでしょう
だからこそ狩られる側の苦痛、絶望は知り得ない

抵抗する力を持たない存在が
傷つけ痛めつけられ辱しめられる
この恐怖、お前は耐えられますか?

頭痛がする
吐き気もする
私の記憶が私を蝕む
それでもお前の隙を作るためなら
私は過去の絶望を受け止めよう

この絶望に僅かでも恐れをなしたのなら
私の魔銃がお前を撃ち抜く



●零度の悪夢に、凝れ
 敵は未だ笑みを消さぬ。――既に幾度も吹き飛ばされ、滅びるに足るほどのダメージを与えられ霧散するところを、複数の猟兵が見ている。だというのに血霧となってさえ再び凝り固まり、何事もなかったかのように戦闘を続ける。
 しかし、尽きぬものなど存在しない。この世に無限などない。アリーシャ・マクファーソン(氷血の小悪魔・f14777)は知っている。
 ――忌み嫌うが故、然りとて、彼らに近しいが故。不死の吸血鬼すら、人の血を啜らねば生きていけぬと。
「はあ……ッ、」
 どくりと胸が拍動する。
 ディアナが幾度目か。赤い血液の銃弾の嵐を放った瞬間、アリーシャの背に生じるのは紅の翼。跳躍、羽撃く事で弾丸の殺界を逃れる。
 赤の瞳が、魔性の金色に染まった。その姿は吸血鬼にほど近く、無辜の民から見ればいずれも同じように映ったことだろう。
 アリーシャ自身、その姿を取るのは不本意だ。憎む吸血鬼と同じに堕した心地になる。……しかして、持てる手札は何もかも使わねば勝てぬ。ディアナはそれほどの強敵だと、正しく理解していた。――喩え血に酔いしれようとも、止めてみせる。
「これまで楽しく狩りを続けてきたのでしょうね、吸血猟鬼。――けど、そんなあなたの道楽もここまで。集いし数多の刃が、あなたの享楽を終わらせるわ」
「ハッ、何が終わるって? アタシがここで終わる? 冗談だろう、こんなに愉しい夜なのに――永遠に続いて欲しいくらいなのに! アタシは死なないさ、ここでアンタ達を喰らってねえ、また千夜一夜の涯てにこんな夜に逢うために、狩り明け暮れて生きてやるよォ!」
 アリーシャの声に、唯我独尊とばかり謳いながら、ディアナは無数の猟銃を展開。天から撃ち下ろしの銃弾の嵐を吐き出す。飛んだアリーシャよりもさらに上からの弾雨は、到底弾道を読むなどとは言えぬほどに多数。降り注ぐ銃弾を受け、アリーシャの身体が瞬く間に赤く染まる。
 ――敵は強大なオブリビオン。自分一人でやれるとは、思っていない。
 それ故に前に出た。挑発的な言葉を吐いた。敵の意識を惹き付けた。
 あの憎らしい、歪んだ笑みを浮かべる顔に、一筋の傷ぐらいは刻んでやると心に決めて。
 流れ落ちる血が凍える。アリーシャの手元で、薄鱗のように、凍えた血がひび割れて浮かぶ――

 ぎゃららららららっ!!
 不意に、金属片が逆巻き渦を巻くような音! 弾雨一過したその後、アリーシャを注視したディアナを襲うのは金属片が連なって出来た鞭剣、『ソード・グレイプニル』の一撃だ!
「死角を縫うのがお上手な連中だね、猟兵ってのはさァ!」
「何とでも言いなさい」
 ディアナの背よりソード・グレイプニルを放ったのはアウレリア・ウィスタリア(憂愛ラピス・ラズリ・f00068)である。放たれた鞭剣が身体に絡もうとするのをディアナは横っ飛びに避け、転がり、着地するなりアウレリアに銃を振り向けた。放たれるは不可視の魔弾、インビジブルハッピー。アウレリアは即座に飛翔することでそれを回避、距離を詰めるため追い縋る。
 攻撃を掻い潜り、接近するのは困難。遠距離戦で立ち向かおうにも、魔銃「ヴィスカム」の単発火力がいかに強力とて、制圧火力では敵に及ぶべくもない。有効打を与えるビジョンがなかった。だが、そこで迷う事なくアウレリアは決断していた。
(機を見て、ボク――いや、『私』が、吸血猟鬼の足を止める)
 アウレリアはソード・グレイプニルを手元で連結、フランベルジェの如き蛇行した刃を持つ剣として固めつつ、ディアナを追う。
「チッ……!」
 ディアナは即座に召喚した猟銃をアウレリアに向けて固め撃ち。しかし、アウレリアは空中を鋭角的に方向転換して躱し、尚も追い縋る。予め宙に張り巡らせられた血糸、『レージング』を蹴り飛ばすことで実現される圧倒的な機動力。
 瞬く間にアウレリアは敵の間近まで潜り込む。ここまで来れば、範囲攻撃を構わず撃てば自身も巻き込むはずだ、撃てまい。
 ――アリーシャが囮となって前に出てくれたおかげで、アウレリアは下準備を済ませた上で攻撃を開始できた。一人では成せなかったことだ。斬りかかればディアナは猟銃のバレルで斬撃を止める。
「お前は常に狩る側であったのでしょう。だからこそ狩られる側の苦痛、絶望は知り得ない」
「ハッハ! そんなのは当たり前だろ、そしてアタシがそいつを知る必要はない! アタシはそれを与える側だからねぇ!」
 身勝手なディアナの言葉に、仮面の内側でアウレリアは琥珀の瞳を怒りに見開いた。
「そうでしょうね。――ならば、見せてやる。知ればいい。抵抗する力を持たない存在が傷つけられ痛めつけられ辱しめられる、その恐怖を、耐えられずとも追憶するがいい」
 アウレリアの目がディアナの目を覗き込んで妖しく光った。
 ――ああ、頭痛がする、吐き気がする、私の記憶が私を蝕む。捨て去った、身の裡から消し去ったはずの記憶。拷問され、穢され、痛めつけられ、人間性を剥奪された時の記憶。
 思い出したくなんてなかった。けれど、構わない。この外道の隙を作るためならば、身を切り焼くような地獄の記憶さえ、過去の絶望さえ、飲み下し受け止めよう。アウレリアはユーベルコードを発露する。
「な――ァ、アッ、が、これはッ……?!」
 不意打ちに発動された精神攻撃にディアナの身体が痙攣する。『空想音盤:絶望』。自らの絶望を、苦痛を、敵に追体験させてその動きを封ずるユーベルコードだ。
 ――吸血鬼は死なない。腕を落としても、脚を落としても、このディアナにおいては、心臓を潰しても頸を掻き切っても全身を吹き飛ばしても死なない。死など怖くない。
 だが、アウレリアが見せたのは、琥珀の瞳が映したのは彼女自身が味わった苦痛激痛失意絶望である!
 そのビジョンの中においてはディアナは屈強な肉体も、幾度でも再生できる身体も、銃を撃つ力も、銃そのものさえも持たぬ! 抵抗叶わず蹂躙される絶望を、脳髄にそのまま叩き込まれるようなものだ!
「うッぐ、ェッ……猟兵ァッ、アンタ、よくもッ……!!」
 そして――いかに強大な吸血鬼とて、この絶望を恐れるならば――それを乗り越えたアウレリアが、怯懦したものを恐れる道理などない!!
 蹌踉めいたディアナから飛び退き、アウレリアは無言で魔銃『ヴィスカム』をドロウ。一瞬で弾倉内の全弾をディアナに叩き込むッ!
「っぎ、ああああっ!?」
 叫び、苦悶を訴えて傷口を抱えたディアナを、間髪入れずに赤い氷の刃が取り巻いた。空気が軋み、周囲の気温が自覚できるほどにずんと下がる。
 後退するアウレリアを見ながら進み出たのは、アリーシャだ。彼女の周りに、ぶわり――と、無数の赤き薄片が浮かび上がる。血に染まるドレスを
「いい夢を見られたようで何よりよ、吸血猟鬼。今度は私の刃も見て戴けて? ――奇遇ね、私たち、同じようなことができるのよ」
 ディアナが放つのは血の弾丸。
 アリーシャが放つのは――凍血の刃!
「ック――あァ!」
 ディアナは猟銃の銃口を上げようとした。しかしそれよりもアリーシャが手を振り下ろす方が早い。
「捉えたわ。『百華凍刃』」
 それは赤き風に見えた。ダークセイヴァーの無明の闇を吹き渡る赤き風に。間近で見ればその正体は、無数の薄片のごとき血の刃。荒れた赤き飄風がディアナを巻き込み、その身体から血を飛沫かせ――動きを止める!
「ッぐぁああぁぁ!?」
 百華凍刃の名の通り、アリーシャが放つのは己が血より作り出した、数えることすら困難なほどの刃の嵐である。
 しかも、アリーシャの血はただの血ではない。氷の如く冷たく、触れた者を凍えさせる魔性の血だ。未だ動きに精彩を欠くディアナを押し包み、その五体を切り刻み、赤く染めながら凍らせていく……!
 その五体が凍え固まり、軋み音を上げるとき。場に今一度響くのは、魔銃の作動音。
「今ならさぞ、ヴィスカムの音色もよく響くでしょうね」
 アリーシャが生み出した最大の好機を、アウレリアが逃すわけもない!
 今一度連なる銃撃! 凍えたディアナの身体を、魔銃の銃弾が打ち砕き、赤き霧へと還す――!

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

六波・サリカ
ようやくお出ましですね、悪の親玉。
私はただ、あなたを滅ぼすのみ。
他に語ることなどありません。

神格式、出力最大。制圧式、装填完了。
消し炭になりなさい!殺戮指令、全弾発射!

先制攻撃の技能で相手よりも素早く行動を開始。
体内の神格式からの電力全てを制圧式に送ります。
そして固定砲台である制圧式から、凄まじい弾幕を放ちます。
一斉発射、誘導弾、範囲攻撃の3つの技能を駆使して
敵の弾幕を射ち落としつつの攻撃。
視力はまあまあ良いので少し遠くからでも当てる自信はあります。
敵の攻撃を射ち落とし損ねても、照覧式による弾道演算を行い回避を試みます。



●クロス・キルゾーン
 ドウッ、と地面が音を立てて捲れ上がる。
 体内のジェネレーターで生成される電力はとっくの昔にピーク出力。超高速でディアナ目掛け駆ける一人の猟兵の姿有り。闇に銀糸の髪が流れ、煌めく金の瞳が夜光虫めいて曳光する。
 六波・サリカ(六波羅蜜・f01259)である。
「ようやくお出ましですね。悪の親玉」
 よく通る声。ディアナはせせら笑うように返す。
「親玉たァ随分ご挨拶だねぇ? そもそも、『的』を作ってたのはアタシじゃない。部下が勝手にやったことだってのに」
「繰言は結構。私はただ、あなたを滅ぼすのみ。他に語ることなどありません」
 サリカは言いつつ、右腕――『侵攻式』をマシンガン状に変形。敵との相対距離二十メートル地点で、ディアナを中心とした旋回軌道に切り替える。マシンガンを連射、連射、連射!!
 ディアナも応じてサリカと対するような旋回軌道へ。二人の走る軌跡は互いを狙い合う内向きの渦。まるで巴めいている。その間を行き交うのは無数の銃弾、そして血弾である!
 ディアナは自身の周りに衛星めいて浮かせた猟銃でサリカを銃撃!サリカは全力で地面を踏みしめ跳躍、左手での片手側転回避。倒立しながらマシンガンをフルオート連射。ディアナも緩急付けたステップでサリカの銃火を的確に回避する。
「なんだいこんなモンかい、猟兵! 工夫も刺激もないね!」
 ディアナが手にした猟銃を上げてトリガーを引く! サリカの右腕、侵攻式の銃口が弾かれて逸れる。その隙にまたも放たれる血の弾丸の嵐を、サリカはすかさず招来した『急襲式』――鴉の式神の群れで防ぐ。貫通した銃弾が腕に、脚にめり込み血が飛沫く。バランスを崩すも転げながら受け身を取り、サリカは即座に再度疾走。表情を歪めることすらもない。はらはらと落ちる鴉の式神の残骸を背に、駆ける!
「退屈だよ猟兵、最初の大口はどこにやったんだい?」
 追い走りくるディアナの位置を見ながら、サリカは目を刃の如く鋭く眇めた。
「……言ったでしょう。他に語ることなどありません、と」
 言うなりサリカは右腕、侵攻式の武装化を解除。第二心臓『神格式』、出力最大。供給される全エネルギーを一つの式に注ぎ込む。爆発的に高まるサリカのプレッシャーにディアナが身構えたその瞬間、サリカは地面に杭打つように脚を叩き付け制動!
「――制圧式! 装填ッ!!」
 サリカが咆えて地面に拳を叩き付けた瞬間、その足下から砲塔の集合体めいたトーチカが生えた。それだけではない。さらに二本。ディアナの背後に同様のトーチカが迫り上がる!
「な――?!」
 側転の時。受身の時。手を付いたタイミングでマークした位置へ、サリカは全電力を賭して式神――『制圧式』を装填、立脚! 制圧式を頂点とした三角形が、ディアナを取り囲む――!
 位置関係も、出力のない攻撃も、敵の追撃を誘ったのも全てはその一撃のためだ!
 サリカはトーチカの上よりディアナを見下ろした。彼女には油断も躊躇もない。何事か発そうとしたディアナの声を呑み込むように、間髪入れずに命を下す。
 ――それは破壊の式神。全てを鋼鉄の弾雨と殺戮の放火にて飲み込み『制圧』する式!

 プログラムジェノサイド・エクセキュート
「 殺 戮 指 令 ・ 全 弾 発 射 !」

 三つの制圧式が、圧倒的な弾幕を放った。砲火、銃火が代わる代わるに弾幕を放ち、そのクロスする地点にディアナを閉じ込める。悲鳴一つすら許さず、その身体を千々に引き裂いて吹き飛ばすッ……!
 弾幕が晴れた後――そこには、屑鉄になった銃が一丁転がっているのみであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ネロ・ケネディ
――、交わす言葉も必要ないわ
そうよね、お母様。
殺してしまっていいのでしょう、そうよね。
【銀の弾丸】で。放たれた弾丸を避けるようにランダムで壁を蹴り土を蹴り、とび回って逃げます
動く的の方が、お好きでしょう?
動く方が楽しくてたまらないわよね
――私はどこかにたどり着く度に焔をまいていきます
当たらなくていいの、それはこの吸血鬼を灰にするために撒いた火種に過ぎない
撒き終われば全速力であえて向かっていく
右手の焔で弾を溶かして――。
「着弾」すれば火種と連鎖して大炎上でしょう
母の焔は、……私と仲間だけは燃やさないから。
灼熱地獄にようこそ、吸血鬼。
灰となって――海へ還れ



●ヴァンパイアベイン・シルバー・バレット
 事、ここに至っては、最早言葉を交わすべくもなし。
 対話など不要だと、身の裡の炎が、母が吼える。
 ――そうよね。殺してしまっていいのよね、お母様。
 ネロ・ケネディ(半魔の蒼・f18291)が駆ける。彼女が向かう先はただ一点、敵――即ちディアナの元だ。
 彼女の身の裡に蟠る炎が溢れ出したように、邪悪断つべしと燃え上がり、ネロの身体を包み込む。蒼い呪詛炎――かつて、彼女の母だった焔。今や焔は何も言わぬ。けれど猛り風に暴れる音から、赫奕と訴えるように燃え盛る様から、まるで叫びが聞こえてくるようだ。
 外道絶つべし。慈悲はない。
 ネロは全身を覆う呪詛炎を全力で燃やし、自らの速力を増しながら戦場を駆け抜ける。
「目立つ的が来たもんだ――丸見えだよォ!」
 ディアナが歓喜に笑いながら、猟銃を跳ね上げ透明な銃弾を放つ。インビジブルハッピーと名の付けられた銃弾。ネロはマズルフラッシュを見た瞬間、力の限り地を蹴り、横にスライド移動。不可視の銃弾を回避。
「へぇ?」
 意外そうにディアナは片眉を跳ね上げ、インビジブルハッピーを再装填。手にした猟銃内に透明な魔弾がまたも凝り、今度は三連射。猟銃が怒号するたび、ネロは土を、檻棺を、辛うじて残っていた建屋の壁を、まるでピンボールめいて反射して回避する。
「やるじゃないか、直進しか能がないってワケじゃなさそうだね!」
「動く的の方がお好きでしょう? ――そうよね。狩りっていうのは、的がよく動く方が愉しくてたまらないものよね」
 愉しげなディアナに、ほとんど返事を期待していない調子でネロは呟くと、徐々に距離を詰めていく。彼女が反射するように蹴った檻棺が、土が、彼女が纏う蒼炎に蝕まれるように燃えていく。
 身に纏う地獄の焔を推力とし、圧倒的な高速で迫るネロを、ディアナは手の猟銃のみならず宙に浮かべた銃を用いて迎撃。銃声と共に降り注ぐ血の銃弾の嵐を、ネロは最低限、心臓と頭をカバーしながら駆け抜け、やり過ごす。命中した位置から血が迸り――いや、それさえ蒼い焔となって燃え上がった。彼女の身に巡るは、嘗て家族だった地獄の焔。
 今はこの傷さえ、敵を倒すための階とする。ネロは接敵し、身に纏う焔を弾丸としてディアナ目掛け振り飛ばす。当然のようにディアナは飛び退いて回避、手にした猟銃でカウンターファイア。転がり避けるネロ目掛け、
「しぶっといねぇ!」
 BLAM!! BLAM!! BLAM!! 宙の猟銃が立て続けの制圧射撃! ネロは踵が地面に付くなりまたもスプリント、一射ごとに加減速して弾丸の大部分を躱しつつ、右手に銀の銃弾を握る。
 吸血鬼殺しの銀。蒼い焔を纏った右手が、一際強く燃え上がる。
「あなたを、燃やすわ」
 ネロは銀の光を煌めかせる。――彼女は弾丸。『銀の弾丸』。
「やってみなよォ!」
 ディアナが中空に猟銃を再召喚。その筒先がまとめて自分を睨むのを見ながら、ネロは全力で地を蹴った。射撃のたび加速、加速、加速!
 筒先が内向きに射角を修正するよりも早く、一歩ごとに加速し、吸い込まれるようにディアナに突っ込む。無論、多数の被弾! 血が飛び散り、宙で蒼く燃える!
 ――しかし倒れない。ネロは拳を強く握り、低空を翔る飛燕の如くにディアナに突っ込む!
 真っ向、繰り出される一撃の拳。
 ディアナは片手でそれを受け止めた。溶けた銀が、ネロの焔が、ディアナの手を炙って灼き焦がし――じいいいっ、と音を立てる。
「なんだい。そんな拳でアタシを射貫くつもりで――」
 受け止めたディアナが火傷を意にも介せずせせら笑ったその瞬間、銀の眼光が尖った。
「――灼熱地獄へようこそ、吸血鬼」
「?!」

 ――銀の弾丸は既に着弾していた。

 瞬間、周囲に撒かれくすぶっていたネロの蒼き焔が輝くように燃え上がる! ネロの拳の焔に呼ばれるように、火勢を増した蒼焔は吸い寄せられ集中、ネロの拳の先で当に爆発的に燃え上がり、天を衝かんばかりの火柱となってディアナを呑み込む!
「ッがアアアアアアアアアアッ!!」
 蒼き火に呑まれ藻掻きながら飛び下がるディアナに、ネロは叩き付けるように言った。

「灰となって還れ、……骸の海へ!」

成功 🔵​🔵​🔴​

皐月・灯
ユア(f00261)と

――やっとお出ましか。待ちくたびれたぜ三流狩人。
ああ、てめーより弱い獲物しか狩れねー女、そう言ったんだよ。

オレは地上から、ユアは地上から……同時に仕掛ける。
お互いを囮にして、ヤツに攻撃が届く距離まで接近するんだ。
……確かにあの面制圧能力は厄介だが、オレもユアも回避技能は高い。
同時に狙えば命中精度が落ちる。かといって片方に専念すりゃ、もう片方がフリーだ。

【見切り】【ダッシュ】【スライディング】で回避に専念しつつ、少しずつ距離を詰める。
焦ることはねー……ヤツの行きつく先は、もう決めてる。
お前もそうだろ、ユア。

この拳を衝き動かすのは、あいつらの泣き声だ。
――届かせる!


ユア・アラマート
灯(f00069)と

漸くお出ましか
テンションが高いのはいいが、あの様子ではまだ気づいていないようだな
ここが、誰の狩場なのかを
やるか灯、どちらが優秀な狩人か見せてやろう

鷹へと姿を変え、飛翔
天井があるので高くは飛べないが、靄で視認性が低い分狙いにくいだろう
【ダッシュ】で飛行速度を底上げ【見切り】【第六感】で弾を避けながら地上の灯と協力して撹乱
敵の注意が逸れた所で急滑空し、敵の眼球を狙う

私が成功しなくとも、狩人は一人じゃない
灯と私の狙いは同じなのだから、お互いをサポートし合ってどちらかが目的を達成できればいい
さあ、よく見ろ、よく狙え
私達を仕留めようとすればするほど、その腐った目玉の寿命が減ると思えよ



●ヴァンパイア・ハント
「ハッ――此処まで暴れる獲物ってのはさすがに初体験だね、アタシも!」
 負った傷を癒やしつつディアナは跳び下がり、宙の猟銃で弾幕を張る。血の緞帳を降ろすように吹き荒れる銃弾が傷ついた猟兵に後退を強いる中、猟兵達は絶えず新戦力を供給することで対応。次に前に出たのはユア・アラマート(ブルームケージ・f00261)、そして皐月・灯(喪失のヴァナルガンド・f00069)である。
「漸くお出ましか」
「だな」
 目を細めるユアに灯が応じる。高笑いを上げるディアナを遠目に、ユアは続けた。
「よく笑うことだ。テンションが高いのはいいが、あの様子ではまだ気付いていないようだな。――ここが誰の狩り場なのかを」
 浮かぶ笑みは、凶暴にして妖艶。
「やろうか、灯。どちらが優秀な狩人か。狩られる側がどちらなのか――奴に教えてやるとしよう」
「おう!」
 灯の返事を聴くなり、ユアは外套を翻して跳躍。一瞬の後、銀の大鷹へと姿を変え、大空へ羽撃き舞い上がる。ユーベルコード『空胞』!
 その下を駆け、驀地にディアナへ駆ける灯。ユアは空中から、灯は地上から、二面で連携攻撃を仕掛ける策だ。
「次から次へよく来るもんだ。今度は鷹撃ちも楽しませてくれるって寸法かい? 気が利いてるねぇ」
「うるせーよ。随分遅かったじゃねぇか、三流狩人。待ちくたびれたぜ」
「三流狩人だァ?」
 不快そうに眉を上げ、宙の猟銃の筒先を灯へ集中させるディアナ。それにも臆さず灯は続ける。
「腕だけじゃなく耳も悪ぃのか? ああそうさ、テメーより弱い獲物しか狩れねー女、そう言ったんだよ。……てめーはまだ一人の猟兵だって倒せちゃいねー。違うか?」
「吹くね、クソガキ! じゃあアンタを最初の一人にしてやるよ!!」
 BLAM!! 斉射の音が轟き、灯目掛け無数の血の弾丸が荒ぶ!
 灯は軽口もそこそこにスライディング、急激な被弾面積の低減で被害を最小限に抑える。それでも脚にかすめる程度に二発、腕に一発食らった。走るのに支障はないし、腕は拳が出せないほどではない。
「オレだけに気を取られてちゃ片手落ちだぜ!」
 灯は言い放ち、即座に復位しつつ低姿勢で走る。ディアナが気付いたように視線を上げたときには、銀の光が真っ直ぐに落ち来ていた。
 ユアだ。落下速度に羽撃きの速度を加えたその速度、最早銃弾ですら捉えきれまい。
 流星めいた速度に、ディアナも銃口を跳ね上げるが追いつかぬ。刃そのものの煌めきを放つ鉤爪が空を裂き、
「ぐアッ!」
 目を貫く銀の鉤爪。血が飛沫き、ユアは強く羽を打ち振るって再び空へ舞い上がる。
『さあ、吸血猟鬼、よく見てよく狙えよ。灯を狙えば私が、私を狙えば灯が、お前の頸を獲りに行くぞ。私達を仕留めようとすればするほど、その腐った目玉の寿命が減ると思えよ』
 空から墜ち来るのはユアの声。ユアと灯は、言わば互いを囮とした連携作戦を展開したのだ。まるで本当の鷹匠と鷹による狩りのように。
 舌打ち交じりにディアナは手を打ち振った。ぎゃらりりりりりっ、瞬時に宙に銃口が乱立、
「二人揃って叩いた大口、後悔するんじゃないよ!!」
 BLAM、BLAMBLAMBLAMBLAMBLAMッ!!!
 次々と盲滅法に発射される猟銃。
 狙いもなくランダムに、自身の周囲を鎧う様に乱射される銃は、最早弾幕の結界めいてディアナを守る。
 しかし、ユアと灯は回避に長けた猟兵。並べても、灯の回避力には特筆すべきものがある。
 宙に並んだ銃の射角が、彼の中では三色に見える。赤、自分に向くもの。黄、照準移動中、未確定のもの。青、自分に当たらないもの。
 赤のものだけを、的確に掻い潜る軌道を頭の中に描き、そしてそのコースを忠実に走る。
 先ほどのように、回避の隙もなく、的確に自分を狙って放たれる一斉射ならばともかく――ヤケクソの乱射など、目の粗いザルのようなものだ。
 弾幕の隙間に身をねじ込む如きロンダートからバック転、バックフリップに捻りを加えて進行方向を向き着地、膝を撓めて勢いを懲らさぬまま再ダッシュ。上に目を走らせる。ユアもまたノーダメージで弾幕をやり過ごしている。
 ――二人の狙いは当にそれだ。どちらかを狙えばどちらかがお前を殺す、とユアが宣言したのは、この粗のある同時攻撃を誘発したいがため。
 距離を詰める。少しずつ。
 ヤツの行き着く先はたった一つ。地獄だ。
 ――そうだろ、ユア?
 猟銃の群れの射撃が途切れる。その一瞬、再召喚までのタイムラグを見切り、灯とユアは同時に行動した。
 よりディアナに近いのは灯。宙で、ユアがぎゅるりと人の姿を取り戻し、手にしたダガーを真下に振り向ける。
「荒れ狂え、古の風!」
 ディアナの発砲よりユアのユーベルコードの発現が早い。術式、『刹無』。連射されるのは不可視の『風の杭』! 宙に再召喚される銃の悉くが、先行して放たれた風の杭によって粉砕され、弾幕に穴を作る!
 ユアが作った路を、稲妻の如く灯は駆け抜けた。
 拳が白く輝く。幻釈顕理『アザレア・プロトコル』、第一番!
「この拳を衝き動かすのは、あいつらの泣き声だッ!! 喰らいやがれ、ユニコーン・ドライブ!!」
「そんな女々しい、くそったれなモンでアタシが殺せるかァッ!!」
 ディアナは外套を翻す。どろりと吹き出た血が外套を覆い、その防御力を増す。灯の右拳が、まるで鉄板を殴ったような音を立てて防がれた。
 ドレスフォーハンティング。これまでディアナが奪った命と血の量に比例し、彼女の戦闘力を増す呪血骸装!
 怨念孕む血と外套が灯の拳を防ぎ仰せた時、ディアナは勝利を確信して銃口を上げ――
 再び拳を引く、灯の姿を見た。

 レゾナンス
「共鳴連突角――ッ!!!」

 叫び。灯は初打で、ダメージが通らずともディアナの呪血骸装に術式を打ち込んだ。通った術式が大地の魔力をそこに走らせ、呪血骸装の間に根を張る。そこにすかさず、アッパー気味のもう一撃。張り巡らされた大地の魔力が、更に注がれた術式により増幅、炸裂!
「そ、んな、バカな……!?」
 呪血骸装が光により弾け、ディアナの身体が凄まじい勢いで打ち上げられる。
 打ち込んだ術式の二重発露、共鳴発破。
 これぞ、ユニコーン・ドライブ・レゾナンス!!
「やれ、ユアッ!!」
「ああ」
 打ち上げた先にはユア。こおっ、と逆手に握った刃に青白い光が走る。インサイド・ルフタ。『切断力』という概念を増幅する術式。
「恨みはない、なんて言うつもりもない。――精々悔やめ。数多の命を殺めたこと――」
「く、ッそぉぉぉぉぉお!!」
 ユアを狙って跳ね上がる銃口、しかし蒼く煌めいたダガーはそのバレルさえ二つに斬った。
 蒼刃、一閃! ユアが振るうダガー『咲姫』が走り、ディアナの首を刎ね飛ばした。ユアは危なげなく宙返りを三転、地に肉食獣めいて音もなく着地。
 刃の血を振り、褥で語る如く密やかに云う。
「そして、それを、私たちに知られたことを」
 頭上、七メートル。宙でディアナの首と身体が、赤い霧となって霧散した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルマ・キサラギ
おいでなすったわね、狩人気取り
趣味の悪い獲物を喰わせてくれた落とし前、ここでつけさせてやるわ

デバイスで敵の手の銃や血の猟銃の向きを【情報収集】
射線と発射の瞬間を【見切り】ながら早駆術で駆け回り射撃を仕掛ける
…とはいえあの無数の銃、駆けて避けるのもいずれ限界が来る
避けきれないと察したら跳躍による回避よ

身動きの取れない空中、敵の銃火を【おびき寄せ】て
展開済みの反射盾で撃ち返して足を潰す
自分の銃弾で追い詰められる気分ってのを味わうといいわ

続けざまに実弾と魔力弾の榴弾を連続で【クイックドロウ】
敵の周りにも展開してた反射盾で囲んで逃げ場を塞ぎ、
榴弾が着弾する直前に密封
反射し続ける爆圧に飲み込まれなさい



●滅却の爆圧
 ディアナ目掛け、立て続けに榴弾が迫った。ディアナは即座に弾幕を張って迎撃。宙に咲く苛烈な爆炎と、撒き散らされる破片。破片すら弾幕で撃ち落としつつ、外套で身体をガード。
「漸く会えたわね、狩人気取り。趣味の悪い獲物を喰わせてくれた落とし前、ここで付けさせてもらうわよ」
 グレネードランチャー『レッドラム』による飽和火力砲撃。無論、アルマ・キサラギ(Bride of Blade・f14569)の技である。地にそそり立つ檻棺の合間を鞍馬の早駆術にて駆け抜けながら、ディアナに射撃戦を仕掛ける。
「はん、大砲かい。そんなものでアタシの銃と勝負できるつもりかァ!!」
 ぎゃりりりりりりッ! 空中、発生した銃のバレル同士が衝突して、軋るが如き金属音が連なる! 多数相手に同時に射撃しても脅威となるディアナの猟銃群――バレットパーティであるが、対単数に集中させればその射撃密度、威力は更に跳ね上がる。
 アルマはサングラス型超高性能戦闘支援CPUデバイス『ラグナデバイス』により、瞬時に無数の銃口の向き、弾道、トリガー位置を解析、見切り、射撃に至るその一瞬前に全力での早駆け。一斉に放たれる弾丸による瀑布の如き弾雨を、紙一重のところで駆け抜ける。
「ほらほら、どんどん行くよォ!」
 鉄砲隊めいた多段射撃。ラグナデバイスによる解析と、対策を忠実に履行するアルマの機動力を以てしても、二射目で追い詰められ三射目が数発着弾、暴力的なストッピングパワーでアルマの身体を吹き飛ばす。
「っつう……!」
 アーミーウェアの防弾性により胸と肩に喰った二発は表層で停弾、しかし脇腹に食い込んだ一発が貫通。吹き飛ぶが辛くも着地、転げるように右方へ逃れるアルマ。
「ちょこまかとよく避けるが、人間じゃその程度が限界だろう? そろそろキルマークを一つ付けさせておくれよ!」
 ディアナは哄笑しながら、それまでに倍する猟銃をスタンバイ、アルマを押し包むように飽和銃撃を放つ。耳を聾する銃声と共に迫る銃弾、逃げ場は最早上にしかない。アルマは脚に力を込め、高々と跳躍。
 レッドラムを眼下に振り向けるアルマだが、榴弾の速度では射出してもディアナ相手では撃墜されてしまうだろう。しかも、彼女には空中移動手段がない――
「悪足掻きだねぇ――今度こそ詰みだ!」
 ディアナの言葉の通り、万策尽きた状況であった。そう、追い詰められた。ディアナが全ての銃の筒先をアルマに向け、再びの弾雨を放つ。――アルマの計算通りに!
「そう来るだろうと思ったわよ!」
 空中、アルマがいる一角のみが跳弾の火花に光る。その範囲だけは、血の弾丸も通ること罷り成らず――否、それどころか、
「なっ……にいィ?!」
 血の弾丸が、あろうことか反射された。アルマが展開したユーベルコード『ブロックバスター』――引いては、勾玉が宿す『神威式多重結界』の力である。逃げ場のない状態で跳べば、絶対に下から撃ってくる――アルマはそれを予想の上で足下に結界を展開、銃弾を待ち受けていたのだ!
 予想外の反射にディアナの回避が一拍遅れる。
「ぐうぅッ……あ!」
 苦悶の声、下半身を血に染めてよろめくディアナに、アルマは空中で立て続けにレッドラムをポンプ。榴弾を三連射、弾が切れれば即座に魔力を籠めて魔力弾を連発する。
「そんなすっトロい弾でッ……!」
 手負いながらにディアナが撃ち落とそうと猟銃を上げた刹那、アルマは指をパチンと鳴らした。
「弾速だけで勝負しようなんて思ってないわ」
 ――瞬間、榴弾の軌道がジグザグに変ずる!
「……!」
 アルマは多重結界を念力で操作、宙で榴弾をラケットの如くトラップして軌道を操ったのだ!
 思わず爆破範囲を逃れるべく後退ったディアナの背にどん、と不可視の反射盾が当たる。
 ――榴弾を放った時には、既にアルマの攻撃は完了していた。
 即ち、弾速の遅い榴弾の射撃を見せ、気を引きながらに不可視の盾で敵を包囲――
「反射し続ける爆圧に呑まれなさい!」
 爆圧を不可視の盾で閉じ込め、輻射爆圧檻となし――圧殺する!
 爆圧は四度盾檻の内側で反射・反響、やがて耐えきれず爆散する檻と共に天へ火柱を噴き上げた。――その圧倒的な威力の前には、叫びを上げる余地すらない!

成功 🔵​🔵​🔴​

紅呉・月都


コイツか…全ての元凶は
唸る唸る、地を這う様な低音で
敵を視線で八つ裂きにせんとばかりに睨め付け動きを読もうと試みる

俺は弱い。だが、一人じゃねえ
此処にはテメェをぶっ潰しに来た仲間がいる
俺が出来んのはそいつらがテメェをぶっ潰すための下地作りだ!
【怪力】による【鎧無視攻撃】で【鎧を砕き】、【マヒ攻撃】で銃とそれを持つ手を狙う

オラ、捕まえたぞ!
ユーベルコード発動後は味方の攻撃の邪魔にならないよう注意しながら限界まで敵を焔鎖で繋ぐ

敵の弾丸は銃を構えようとした段階で【戦闘知識・野生の勘・残像】を駆使し、その弾道を【見切り】、最低限致命傷は回避するよう行動
回避不可能なら弾丸を【なぎ払い、武器落とし】を試みる


リーオ・ヘクスマキナ
あの少女達を見た時、酷く心が締め付けられるようだった
……あんな存在を、悲劇を。ただ己の楽しみの為だけに生み出すようなお前は、此処で『処理』する!


兎に角最初はこっそり逃げ回りながら(【迷彩、目立たない】)時間を稼ぐ
流れ弾は【オーラ防御】。直接狙う弾丸は銃口の向きから大まかな射線を予想して【見切り】、どれ程不格好だろうが最終的に弾丸を当てることだけに集中

赤頭巾さんからの魔力を、俺の体を経由してありったけ込める
……正直、負担は凄くデカいけど。奴を倒すためなら、コレくらいはさァッ!

お前は邪神じゃない。けど、その悪辣さは俺から見れば比肩しうるものだ
だから、敢えてこう言おう
……邪神、撃/討つべし!!



●貫く意志
「テメェか、全ての元凶は」
 多数の猟兵相手にも一歩も退かずに立ち回るディアナの前に、また新たな猟兵が進み出る。声は低く、地の底から唸り響くような色。
 相対距離十メートル、軋るような一瞬の沈黙。ディアナの瞳が新たな猟兵の目を捉える。
「ッハハァ、いい目だねェ。火傷しちまいそうだよ。そうさ、アタシが撃ちたいと云ったからアタシの子らは人を攫った。アタシがいなきゃ、こんなことはそもそも起こらなかったろう。それが分かったならどうするね、猟兵?」
「ぶっ潰す」
 端的で、この上のないほどの怒りを込めた回答。苛烈な怒りを滲ませるのは紅呉・月都(銀藍の紅牙・f02995)。視線に力があったとするなら、疾うにディアナの身体は八つ裂きになっていただろう。しかしそれほどの怒りを前にしてもディアナは泰然自若と笑みを浮かべ、腕を広げてみせる。
「いい返事じゃないか。かかってきなよ。アンタみたいに青いガキを踏み潰すのも、アタシの楽しみの一つだからねェ」
 挑発するようなディアナの言葉に、月都は弾けるように前進した。ディアナは手に持った長銃身の猟銃をまるで拳銃を扱うかのように跳ね上げ、即座にトリガーを引く。
 激発、銃声。曲芸めいた撃ち方というのに、その狙いは正確無比。不可視の弾丸、インビジブルハッピーが月都の心臓に迫る。しかして、
「つッ……!!」
 月都は身体の軸をずらし、ギリギリの回避。左肩口を銃弾が抉る。致命傷は避けた。敵の銃口の向き、狙いから逆算して、トリガーを引かれた瞬間に銃口の延長線上から身を躱すという荒技を披露する。
 インビジブルハッピーは不可視の銃弾である。通常の猟銃とは違う、打ち落とすのも困難だ。それを不完全ながらに見切ってみせ、月都は駆け抜ける。
「驚いた、殺したと思ったんだけどね――じゃあこれならどうだい!」
 ディアナは飛び退き、宙に手を掲げた。
 喚ばれ中天に座すは三十八の猟銃。月都目掛けその筒先を向ける。ディアナが用いるユーベルコードの一つ、バレットパーティだ。
 BLAM!! 同時に三十八の銃口が火を噴き、月都目掛け赤き弾丸の嵐が吹き荒れる!
「オオオオッ!!」
 月都は日本刀『紅華焔』に焔を纏わせ薙ぎ払い、爆炎と剣圧で血の弾丸を切り払えるだけ払って前進する。
 何発もが着弾し血が飛沫くも、月都は止まらぬ。捨て身の構えの前進――元より、月都は一人でこの強敵を打破しようとは思っていない。
 ――俺は弱い。だが、一人じゃねえ!
 この戦場には自分の他にも沢山の猟兵がいる。ディアナを倒すために集った仲間達が! 故に月都は迷わない、己を礎としてこの強敵を討つであろう仲間の存在を疑わぬ!
 再度の斉射を渾身の一斬で払い、更に数発喰らいながらも月都は弾雨を抜け、ディアナの間近に迫った。
「ッハハ! 抜けてくるかい、イカれてるねェ!」
「喰らいやがれェッ!!」
 哄笑に構わず、月都は燃える刀をディアナ目掛けて振り下ろした。ディアナは即座に銃を持ち上げガード。火花が散る。ギリリッ、と軋り合う銃身と刀、一瞬の膠着!
「アンタにはその刀しかないだろうが、アタシにゃあまだ銃があるってのを忘れちゃいないかい?」
 真上、月都を見下ろすように複数の猟銃が俯角を向く。
 銃口がギラリと煌めいた、その瞬間――

「お前こそ忘れてるんじゃないか、吸血鬼。猟兵が一人じゃないって事を」

 ガガガガガガガガッ! 連続する激発音が響く!
「!」
 突如として二人の横合いから注いだ銃弾が、ディアナの身体に複数の銃創を穿つ。その機を逃さず月都は吼えた。
「オラアァァッ!!」
 焔纏う紅華焔の一閃が、バレルのガードを押しのけてディアナの身体を一閃! 爆ぜる炎がディアナを灼き、吹き飛ばす!
「っち……いいところだってのにさァ、デートを邪魔する男はモテないよォ?」
「お前みたいなのにモテるくらいなら、死んだ方がマシだね」
 横合いからの銃撃の主――リーオ・ヘクスマキナ(魅入られた約束履行者・f04190)はサブマシンガンのマガジンをリロードしつつ、肩を竦めた。彼は隠密に、他の猟兵が戦う中機を伺って、最適なタイミングで飛び出したのだ。隠形技能の成せる技である。
 幾人も、生ける骸と化した少女たちを見た。死肉を食むだけの化生と成り果てた少女らを、見た。その度にリーオの胸は締め付けられるように痛んだ。今のリーオの心も――或いは、嘗て失った記憶の中の彼も、等しく。
「……あんな存在を、悲劇を。ただ己の楽しみの為だけに生み出すようなお前は、此処で『処理』する!」
「ハッ、大口叩くじゃないか! できるモンならやって――」
 みなよ、とディアナが言う前にその身体がぐんっ、と傾ぐ。
「やるよ。やってやらァ。――テメェを! 叩き潰してやる!!」
 月都だ! 見れば、紅華焔を握る月都の右手と、ディアナの身体は紅い焔の鎖で、チェーン・デスマッチめいて繋がっている。月都のユーベルコード、『悪しきを喰らう焔鎖』によるものだ!
「――ッらアアァァ!!」
 月都は力の限りを篭め、繋がった鎖を縮めつつ振り回す。びん、と突っ張った鎖がディアナの身体を地から浮かせ、そのままぶん回した。
「ッぐぅっ……?!」
 檻棺を二本へし折り、大振りな三本目にその身を叩き付け、一瞬動きを奪う。月都にできる最大の支援。鎖による拘束、そして打撃ダメージによる暫時のスタン。
「今だ! やっちまえ!」
 月都はリーオに向けて叫ぶ。その身体は夥しい銃創に満ちており、単独でした無茶がいかほどかを伺わせる。
 それに応えるべくリーオは強く頷いた。
「ああ!」
 地を蹴り、ディアナへ向け肉薄。マシンガンを連射する。尚も数発を受けつつ、ディアナはめり込んだ檻棺から跳ね起きて無数の猟銃を周囲に召喚。
「舐めてんじゃァないよ!!」
 マズルフラッシュが辺りを白く染め上げた。それほどまでに多数の銃声が鳴り渡る。周囲への超高密度、圧倒的手数の無差別銃撃。ヤマアラシの針めいた密度で放たれる銃弾、月都が鎖の維持をできなくなりつつ後ろに飛ぶ中、今だ余力のあるリーオは魔力を身体に通わせ、最低限心臓と頭にオーラを集中。
 襲い来る弾丸。数発掠め、肩や脇腹に銃弾を喰らいながらも致命傷だけは裂け、銃を跳ね上げる。SLG-8、リーオが最も頼みとする中口径セミオートライフル。
 ディアナが応射すべく跳ね上げた銃の銃口の向き、トリガータイミングを計ってリーオはサイドステップ、不可視の銃弾を躱しながら――銃に魔力を注ぐ。己に宿るUDC『赤頭巾』からの魔力を、自分の身体を経由して全て、ライフルに流し込む。銃口が虚無の光を帯びた。他者の異質な魔力を無理矢理に自身の身体を通せば、その負担は相当なものだが――構わない。敵を倒すためならば。
 銃弾を受け、血を流し、その有り様はスマートとは言い難い。それでもリーオには信念がある。月都から託された想いがある。銃口を上げた。

 チェンバーに篭められた魔弾は、死した少女らの哀切と、月都の激情と、リーオの怒りの塊だ。

「吸血猟鬼。お前は邪神じゃない。けど、その悪辣さは俺から見れば似たようなものだよ。だから敢えてこう言わせてもらう」
 制動。
 リーオはストックに頬を付け、決して外さぬようスコープ越しにディアナを睨む。その周囲の猟銃が再びリーオを睨み、火を噴く当にその一瞬前。
「……邪神、撃/討つべし!!」
 リーオはトリガーを引いた。
         オークロックベル
 射出されるのは広域殲滅用重魔術弾。この悪夢を終わらせる零時の鐘は、相殺するべく放たれた紅いディアナの銃弾の嵐すら飲み込む。
 反射的な回避が成るわけもない。魔弾はディアナの身体を呑み込んで、背後の檻棺もろとも吹き飛ばす――!

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

セリオス・アリス

【双星】
ちっ…跳び回って避けるには厄介すぎるな
どうにか意識をそらさねえと
…囮はいいが俺がやる
お前さっきから人の事庇いすぎなんだよ
適材適所
わかちゃいるが抗ってみる
折れないアレスに拳を当てて
くっそ…なら絶対当たんなよ

深く沈めて息を吐く
魔力を巡らせできるだけ速く
影に紛れて近づいて
狙うのは…アレスに攻撃するその瞬間
狩られるのはどっちかしっかりとその身に教えてやる
炎の『属性』を乗せた剣で斬って1回
続けざまに【星球撃】を腹に叩きこんで『2回』
3度目は…ああほら
簡単によそ見してんじゃねぇよ
攻撃するアレスを敵の背越しに見て笑みを浮かべる
避けようとするなら『咄嗟の一撃』で進路を塞いで
二人分の怒りだ食らいやがれ


アレクシス・ミラ

【双星】

僕が奴を引き付ける…つまり、囮だ
君は速いし、一撃一撃が強い
だからこそ、隙を突いて欲しい
その為に僕(盾役)がいる
言っただろ?僕がいる限り、君の邪魔はさせないと
彼の拳に己の拳を当てる
ああ、分かっているさ
頼んだよ、セリオス
ここで決着を付けよう
この巫山戯た遊戯を終わらせる

発動するは【天誓の暁星】
脚鎧に魔力を充填、僕に意識が向くように駆ける
「第六感」と「見切り」を駆使して回避、もしくは「盾受け」
時に檻棺を利用しながら接近していく
…捉えた、と思ったかい?
それが命取りだ
セリオスが攻撃してる隙に一気に距離を詰め、剣に光「属性」を宿す
貴様の欲の為に、戯れの為に未来を奪われた彼らに代わって…叩き斬る!!



●俺の盾、僕の剣
 ディアナはどうやら、幾度滅されようと、その身に蓄えた血のある限り黄泉返り、戦場のいずこかに復帰するようだ。その情報は即座に猟兵全員に通達され、彼らの布陣の助けとなった。

 ディアナが現れたとされるポイントの連携を受け、最も近くにいた二人の猟兵が走って行く。
 セリオス・アリス(黒歌鳥・f09573)と、アレクシス・ミラ(夜明けの赤星・f14882)の双つ星である。
「ヤツの範囲攻撃は飛び回って避けるには厄介すぎるな。どうにかして意識を逸らさねぇと、懐に飛び込めねぇ」
 セリオスが緊迫に満ちた表情で呟く。元来、セリオスもアレクシスも近距離攻撃を得意とするインファイターだ。中距離~遠距離を射程により支配するディアナとは極めて相性が悪い。
「確かに、速さで挑むのなら難しいと思う。けどセリオス、ここには僕がいる。僕が奴を惹き付ける囮になるよ」
 アレクシスの言葉にセリオスは憮然と唇を尖らせて反論。
「囮作戦するってなら、今度は俺がやる。さっきだってお前が散々前に出ただろ。お前、人のこと庇いすぎなんだよ」
「セリオス」
 セリオスの反駁を宥めるように、アレクシスは青い瞳をセリオスの目に注いだ。ぐ、と唇を噛むセリオスを前に、アレクシスは笑う。
 適材適所だと、セリオスとて分かっていないわけがないのだ。
 タンク
 盾 役にどちらが向いているかなど。それでも親友を危険に晒したくないと、そう思うからこそこうして渋るのだろう。
「君は速い、そして一撃一撃が強い。君の速さは、隙を突くためにこそ使うべきだ。それにね、」
 アレクシスは自らの楯を示して、軽く拳で叩いて見せた。強靱さを示す、よく響く固い音がした。
「そのために――君を活かすために僕がいるんだ。攻撃の前に出ることを躊躇う盾なんて、あり得ない。僕がいる限り、君の邪魔はさせないと言っただろう? 僕は君の盾だ、セリオス。――だから」
 盾を叩いた拳を、セリオスに差し出す。
「――君が僕の剣になってくれ」
「~~~~~ッあああ、もう」
 セリオスはガシガシと頭を掻き、アレクシスが差し出した拳に自分の拳を重ねた。
「大怪我したら承知しねぇからな」
「ああ、分かっているさ。頼んだよ、セリオス――」
 アレクシスは笑みを潜め、表情を引き締めた。 遙か前方、紅い霧が凝り、今一度ディアナが姿を現すのが見える。
「ここで決着を付けよう。この巫山戯た遊戯を終わらせる」
「おう!」
 双つ星は、速力を上げてディアナへと駆け向かう。

「はん、騎士が姿を晒して正面からとは! 見上げた正直さだよ。頭にバカが付くけどね!」
 姿を取り戻したディアナは即座に猟銃の銃口を上げ、アレクシスに差し向ける。アレクシスが先行、アレクシスはユーベルコード『天誓の暁星』を発露しつつ、ディアナの意識を惹き付けるように盾を構え突撃した。
 接近戦のみしか攻撃手段のないアレクシスが遠間から姿を晒し、わざと目立つように走るそのディスアドバンテージ――不利さに比例して、アレクシスの身体能力が上昇する。
 ディアナの猟銃が火を噴く。射出されるは不可視の銃弾、しかしアレクシスは盾で真っ向から銃弾を受け、弾き飛ばした。銃口の向き、引き金を絞るタイミングで射撃を見切り、受け止める絶技である。
「その程度では僕を射抜けはしない!」
「吹いたね、猟兵。ならこれはどうだい!」
 紅い魔力が渦巻いた。宙に現れるは無数の猟銃。アレクシスは反射的に足を止める。左手に騎士剣『赤星』を引き抜けば、次の瞬間には驟雨の如く紅の弾丸が降り注いだ。
「っく……!」
 盾で大部分を弾きつつ、脚や手に迫るものを赤星で弾き散らし、アレクシスは檻棺のある方向へ逃れる。その間をジグザグに走り狙いを外させようとするが、
 BLAM!! BLAMBLAM!!
 怒号めいた銃声が鳴るなり、強靱なはずの檻棺さえ蜂の巣になり、削れて折れ飛ぶ。
 あの威力の前では檻棺は遮蔽物にすらならない。
「逃げ回るばっかりじゃあアタシは倒せないよ、猟兵!」
 優位とみたか、サディスティックな笑みを浮かべてディアナはアレクシスへ空中の全ての銃口を向ける――
「殺せる、と思ったかい、吸血猟鬼」
 アレクシスは檻棺の狭間で制動、構え新たにディアナを睨む。
「――だとしたら、思ったより浅はかだ」
 アレクシスが言った瞬間、ディアナの背後で焔が燃えた。
「……!」
 影より出でて焔の剣を振るうはセリオス。アレクシスが囮となる間に迅速に回り込み、背後を取る策であった。
「こんだけ近けりゃ、銃もうまく使えねぇだろ!」
 斬!
 紅き一閃がディアナの背中を薙ぐ。しかし浅い。ディアナは反射的に身を返し、
「狩られにきたかい、もう一匹ッ!!」
 腋下から突き出した猟銃から不可視の銃弾を放つ。
 しかしてセリオスは斬撃の次の瞬間には膝を撓め這うように姿勢を沈めている。頭上を擦り抜ける銃弾をやり過ごし、魔導蒸気ブーツ『エールスーリエ』に魔力を叩き込んで炸裂!
 その一歩で、向き直りかけのディアナの間近まで距離を詰める!
「なっ」
 驚愕の表情を浮かべるディアナに向け、セリオスは右拳をコンパクトにバックスイング、
「狩られるのはどっちの方か――しっかり教えてやるよ!」
 セリオスの右手に集中した魔力が光を放つ! それは至近距離にしか使えぬが、超高速・超高威力の魔術拳撃――『星球撃』!
「吹っ飛べッ!」
 弾丸めいて繰り出されたセリオスの右拳が、ディアナの胸元を強かに殴り抜いた。胸骨・鎖骨が一手に粉砕し、ディアナは声もなく吹っ飛びバウンド。セリオスは足下で魔力を爆ぜさせそれを追走しつつ声高く、親友を呼んだ。
「行ったぜ、アレス!」
「ああ!」
 ――敵が着地して態勢を整える前に、終わらせる!
 アレクシスは脚鎧に注ぎ込んだ魔力をブースターめいて炸裂、凄まじい速度でディアナへ迫る! 意念を込めたその剣先より、暁空の光が迸る。
「貴様の欲の為に、戯れの為に未来を奪われた彼らに代わって……叩き斬る!!」
「逃がしやしないぜ――俺達二人分の怒り、抱えて地獄に落ちやがれ!」
 前より迫るは焔の青星、後ろより迫るは光の赤星! ディアナは転げながら、苦し紛れに猟銃を宙に展開するが――
 それが放たれるよりも早く、双つの星が交差した。
 焔の剣が胴を断ち、光の剣がその背を断つ。
「っぎ、いぃあああああっ!?」
 荒れ果てた教会跡に、今一度、悪鬼の絶叫が木霊する――!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャガーノート・ジャック
◆ロクと

(ザザッ)
――痛くはないか。
そうか。なら、いい。

(ザザッ)
SPDを選択。
"Craft: Bomb"。精製対象に"照明弾"を指定。
事前にステルス化した照明弾を精製・目標地点に正確に射出。
その後、ロクの影の中に潜む。
(目立たない+迷彩+スナイパー)

照明弾が起爆し空を照らし、それが敵に穿たれる前に決着をつける。

ロクの影に潜んだまま、然るべき時を待つ。
――ロクが光を背にし、影が伸び。
敵の背面まで掛かった時が最良だろう。

影より出現、ロクと挟撃。
本機は背中から敵を"クイックドロウ"にて狙い撃つ。
(援護射撃+スナイパー)

――背から穿たれる者の気持ちを味わうといい。
(ザザッ)


ロク・ザイオン
◎ジャック(f02381)と
(予め手の甲に傷の紋を刻んでおく。
ジャックに照明弾を打ち上げて貰ってから)
……大丈夫。
そんなに痛くない。
(「擁瑕」でジャックを影に沈める)

(強い陰影はものを見えにくくし、勘を狂わせる。
光も含めて【地形利用】し攻撃を躱して
【ダッシュ、ジャンプ】で光を背にし真上から襲いかかる。
真の姿ならこの病好みの、獣らしい動きが出来るだろう。

女の背の側に、自分の影が落ちたなら。
狙い通りだ。
死角からジャック、上から自分が「烙禍」で挟撃する。
体を覆う血を全て灼き潰す)

お前は。
食べる為でなく、生きる為でなく、喰らい潰す病は。
あの、ひもじい病葉たちにも劣る。

燃え落ちろ。
森の糧になれ。



●So FLAME
 手の甲に刻まれる傷と、流れ落ちる血を見詰めていた。

 ザザッ、
『痛くは、ないか』
「ああ。……大丈夫。そんなに痛くない」
『そうか。なら、いい』
「でも」
『?』
「胸が痛くなる。だれも、救われなかった。救え、なかった」
『――それは我々の担保する範囲の外だ。届かぬ事を気に病んでも仕方がない』
「……わかってる、つもりだ。ここでは、おれたちには壊すことしかできないと、承知のつもりだった。でも――」
 あまりにも浮かばれない。
 病葉として摘んだ、罪もなき少女らの虚ろな瞳が、未だに瞼の裏を灼くのだと、彼女は言った。
『本機は――ロク、君を慰めることはできない』
 このアバターでは、この鋼鉄の腕では、何もしてあげられない。
 けれど、とノイズ混じりの声が続く。
『君の隣にいる。君が震えるのなら支えよう。今しばらくはそれしかできないが、それだけは絶対だと約束する』
 火力の塊のような男は、ノイズ混じりの音声で少女に言った。三連砲身の一つを擲弾筒に変換、彼は空へ向け数発の擲弾を打ち出す。擲弾はステルス処理を通され、一瞬空気を揺らめかせてすぐに虚空に溶け、見えなくなった。情報欺瞞とカモフラージュは彼の十八番だ。
 ザッ――
『征こう。ロク。あの病を終わらせに。それはきっと――救えなかった少女らに報い、未来の誰かを救うことになるだろう』
 少女を促すように、静かに――だが強く呟いた。
「――ああ」
 少女は――ロク・ザイオン(明滅する・f01377)は、男の言葉に応えて、手の甲、刻んだ刻印で彼の頬に触れた。
 何が起きたか、冷たい装甲の男は突如として消えた。周囲で延焼する焔に揺らめく、ロクの影の中へ――まるで水に墜ちたように、とぷりと。
 彼の姿はすぐに見えなくなったが、ロクには慌てた素振りはない。
 まるで彼がすぐそばにいる事を確信しているように、ロクの瞳は揺らがず、踏み出す足取りは確かだ。
 ――君の隣にいる。
 聞いたノイズ混じりの声が、リフレイン。
「ああ、ジャック。征こう。一緒に」
 ロクは吼えた。罪を、病葉を、削り灼き潰す鑢のような声で。

「またえらくすばしこいのが来たもんだね――さあ、来るならもっと近くにおいで。そうしなきゃあその山刀も届くまい?」
 ディアナが迎えるような声を上げた。ロクは結った赤髪を帚星の緒のように揺らし駆ける。ロクを狙って複数の猟銃がその銃口を擡げ、狙いを定めんとする。ロクがそれに備えて膝を撓めた瞬間、空で光が爆ぜた。
「!」
 ディアナが帽子の鍔を下げ、突然の閃光から目を守る。空で爆ぜたのは照明弾。前触れなく炸裂した光が、周囲をまるで真昼のように煌々と照らし上げる。しかも複数――
(――強い逆光は視界を奪う。コントラストが感覚を破壊する。ものは見えづらくなり、距離感は狂う)
 予め明るくなることを知っていたロクは照明弾を背にする様な形で走った。目を眇め、瞳に入る光量を調整。盲に放たれる血の弾丸の嵐を姿勢も低く駆けやり過ごし、檻棺を駆け上る。
「味なマネをッ!」
 ロクが中天に光る照明弾を背にすれば、いかにディアナがいかに優れた射手であるとて、真面に狙いを定めることはできぬ。光を直視しすぎれば、この光が消えた後に視界は闇に沈み、一方的な不利に立たされることになる。
 故にディアナが取った手は飽和銃撃であった。宙に召喚した銃の数は一瞬にして五十八。ロクと照明弾へ大凡の見当を付けて一斉射撃。
 BLAM!! BLAMBLAM!!
 響き渡る銃声。ロクは数発被弾しつつも、当に獣の如く檻棺と檻棺の間を蹴り渡り、一際強く飛ぶ。膝を抱え身を丸めて空中で三転、弾幕の薄い位置を恐るべき身体能力で擦り抜け、四肢を広げる。彼女の背で照明弾二つが撃ち落とされる。しかし一つ。たった一つ残った。
 それで、充分だ。
 ――唯一残った照明弾の光が、少女の影を地に長く伸ばす。ディアナの背側、延びたロクの影から、浮かび上がる人影がある。
 ロクが行使したのはユーベルコード『擁瑕』。自らの影の裏側に不可視の虚数空間を展開、その中に男を招き入れていたのだ。
 立ち上がる鋼鉄の黒豹は、言うまでもない――ジャガーノート・ジャック(AVATAR・f02381)である!
 音もなく熱線銃を展開、エネルギーチャージ完了。FCSが敵のバイタル集中部位を割り出し、ロックオンマーカーの色が赤に変じた瞬間、ジャガーノートは論理トリガーを引いた。
 ZAPZAPZAPZAP!! ジャガーノートの周囲に浮く三つの熱線銃から光条が連射され、背からディアナの身体を穿つ! 当に電瞬のクイックドロウ。真面に相対していたとて対応が困難な速度で放たれた光だ。背を向け、ロクに集中していたディアナが気付くべくもない!
「なっ――?!」
 穿たれた身体に、反射的に後ろを見るディアナ。紅い瞳が捉えるのは、黒豹の鎧を纏うアバター。彼はノイズ混じりの声で、静かに――涼しげに言った。
『背から穿たれる者の気持ちを味わうといい。――ところで、こちらを見ている暇があるのか?』
 弾かれた様に再び上を見るディアナ。
 空から落ちるは病葉を灼く山猫。ロク・ザイオン。その手にするは烙印刀、そして業火に白熱する剣鉈『閃煌』。
「お前は。食べる為でなく、生きる為でなく、ただ己の欲のためだけに、喰らい潰す病は。あの、ひもじい病葉たちにも劣る」
「ワケの分からない事を――言ってんじゃあないよ!!」
 ディアナは灼き穿たれた傷口から溢れさせた血を外套に孕ませ、鋼鉄に勝る強度の呪血骸装を成す。だが、それに怯むロクではない。烙印刀が紅蓮の焔を、閃煌が白熱の焔を発する。二刀携えそのまま、落下の速力を載せ――
「燃え落ちろ。森の糧になれ」
「――!!」
 振り下ろした二刀が、ディアナの呪血骸装を灼き潰し斬り、その両の腕を肩口から切り落として轟熱で包んだ。
「がああああああああああああっ!?」
 病葉を灼く炎に包まれ、失った両手に悶えながら蹈鞴を踏むディアナの後ろから、電子音声が響く。
『Right arm cannonize complete. 【Napalm Knuckle】 on.』
 ジャガーノートだ。よろめいたディアナの背中をランチャーと化した右拳で、打ち上げるように殴りつけ――
『Fire.』
 そのまま、『ナパーム・ナックル』を発射した。ランチャーから射出された焼夷弾はその推進力でディアナの身体を中空に吹き飛ばし、ロクが発した焔と混じって爆光を上げた。
 KABOOOOOOOOOM!! 轟炎、轟音。ロクとジャガーノートの連携が、悪意の吸血鬼を焼灼した瞬間であった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

仁科・恭介
※アドリブ、連携歓迎
初手を避けながら懐にマフラーを隠し【携帯食料】を食む
UC対象をディアナに設定
細胞を通して流れ込む楽しそうな感情にイラつき爪を噛む

【学習力】で幾つか残っている棺桶の位置を把握

ほぼ射程が通るため【覚悟】を決める
撃つ瞬間の気配に反応できるよう全身の神経細胞を活性化
見えても見えなくても気配を感じたら【残像】を残し回避する
何度かそれを繰り返しインファイトに持ち込めないと学習させる

その上で棺桶を【投擲】する
苦し紛れと思わせて視界を遮るのが目的
撃つ気配を感じたら【ダッシュ】で棺桶の死角から【鎧無視攻撃】で急襲

続けて「やっと貴女の顔を間近で見られたね」と顔に注意を向けて脛を斬り機動力を奪う


パーム・アンテルシオ
いとしい獲物達なら、もっと優しく扱ってよね…痛た。

でも…奇遇だね。
私も、あなたに優しくする気なんてないし…
もしかしたら。良かったのかもね、これで。
あなたに対する怒りが。不快感が。もっと増えて。

ねえ、あなた。
八岐大蛇、って知ってる?

ユーベルコード…崑崙禍。
この子たちは、それをイメージして創ってみたんだ。
ちょっと、数が多くて…
ちょっと、危ない呪いを持ってるけど。
さぁ、皆。狩りの時間だよ。

…なんて、これで倒せるなら、苦労はないけど。
これならきっと、注意は集められる。
この子たちの数と大きさなら、視界を遮る一手になる。
…腐蝕の呪いが、弾丸に効くかはわからないけど…
壁ぐらいには、なってくれるかな。ふふふ。



●蛇葬、一刀添え
 開幕のディアナの銃撃をやり過ごし、ひらり、と檻棺の頂点に着地する影があった。
 銃弾掠めた頬の傷を稚い指先でなぞる狐である。
「……いとしい獲物達っていうなら、もっと優しく扱ってよね……痛た」
 パーム・アンテルシオ(写し世・f06758)である。
「いとしい獲物にこそ狩人は本気を出すもんなんだよ、分かってないねぇ、猟兵」
 ディアナは指を立ててちちち、と左右に振って見せてから、檻棺の頂点を見上げてうっとりと目を細めた。パームは不気味な視線に居心地悪げに身を揺らす。見られている位置くらいは大体分かる。ディアナの視線は、パームの見事な九尾に注がれていた。
 ディアナは舌舐めずりを一つ。
「それにしても……いい尻尾だねえ。魔力も山ほど詰まってそうだ。その尻尾を使って呪具を作ったらさぞかしいいモンが出来るだろうねえ。ねぇねぇ、猟兵。大人しく殺されておくれでないかい。その尻尾を血に染めてボロボロにしちまうのはね、ちょいともったいない気がするのさ」
「優しくする気皆無じゃない。お断りよ」
 ディアナの言葉に呆れたようにパームは眉を下げる。けれども踏ん切りのつく話でもあった。
 パームは元より、他者を攻撃するのも戦いも、さして得意ではないしなるべくならば避けたいと思っている。仲間の助けとなる方が性に合っている。
 だが、
「――でも、奇遇だね。私も、あなたに優しくする気なんてないし。もしかしたら。良かったのかもね、これで」
 ディアナの身勝手が、彼女の一派が巻き起こした悲劇を、パームは嫌というほど見てきた。腑分けされた人間も、作り替えられ、最早人とも言えぬ屍食鬼へと作り替えられた少女らを。
「あなたに対する怒りが。不快感が。――もう、耐えられないくらいに増えているから」
 ――ああ、これほどまでの怒りがあるのなら。この敵を灼き滅ぼすことに、些かの躊躇もない。
「ハッ、大人しく頷くわけもないか。まあいいさ。なら殺して奪うだけだ」
「やれるものならどうぞ。――私も全力で抗うけどね。あなた、八岐大蛇って知ってる?」
「? なんだいそりゃ」
 ディアナは宙に無数の銃を召喚、狙いをパームに絞る。対するパームはふわりと両手を打ち振った。虚空に黒い孔が空き、その奥から、ぞるり――と這い出る何かがある。
 大蛇であった。人を一呑みに出来そうな蛇が、それも四十体あまり。パームのユーベルコード、『崑崙禍』。
「神話の大蛇よ。この子たちは、それをイメージして創ってみたんだ。ちょっと、数が多くて……ちょっと、危ない呪いを持ってるけどね」
 ずうん、ずずん、
 腐食の呪いを纏う大蛇らが地面にのたくり、四方からディアナへ向け首を擡げる。こうなってはディアナも、パームばかりを狙うわけには行かない。ディアナは一笑し、手の猟銃を構え直した。
「ハッ、でかい的を用意してくれたもんだ――撃ち甲斐があるねェ!」
「気に入ってくれたなら嬉しいな。――さぁ、皆、狩りの時間だよ」
 パームが手を差し向けると同時に大蛇らがディアナに殺到する。ディアナは飛び退きながら猟銃を多重発砲。BLAM!! 銃声と同時に二匹が吹き飛ぶ。腐食の呪いは確かに血の弾丸を腐らせるが、運動エネルギーまでは殺せぬ。高速で飛ぶ液体が散弾めいて数十と直撃すれば、いかに大蛇とて斃れよう。――しかして、健在な大蛇の数未だ多数、その数四〇!
 続けざまに襲いかかる大蛇と応戦するディアナを見ながら、パームは一歩引いた位置より戦況を見詰める。
(――壁くらいにはなってくれるよね)
 敵の一斉射を受けて、二体。あれが最大火力でないにせよ、しばらくは保つはずだ。
 自分の役割は敵の行動を封じ、視界と火力を奪うこと。――足りない役割は他の猟兵が担ってくれると、信じている。

 ――そしてパームが託した信は、一人の男に拾い上げられた。
 初手を回避して以後、他の猟兵の攻め手を見遣りながら、自分の往くべき機を今か今かと待っていた彼――仁科・恭介(観察する人・f14065)が、大蛇を駆逐せんと大規模な射撃を繰り返すディアナに狙いを定めたのである。トレードマークのマフラーも今は隠密行動のために隠し、彼は檻棺の影で携帯食料に噛み付いた。
 噛み千切り、飲み下す。摂取したエネルギーを火種に、全身の細胞を賦活する。
 恭介は、ユーベルコード『共鳴』を発現する。文字通り、ディアナの心境、感情に共鳴するユーベルコード。ディアナの心底から愉しげな感情が共有され、恭介は不快げに爪を噛む。
 相手が昂ぶっていればいるほどに、恭介の力も増すが、感じる感情の快不快は恭介の感性によるものだ。――唾棄すべき邪悪に、恭介は日本刀を抜く。
 大音声の銃声がまたも轟く。大蛇がまた数匹消し飛ばされたのを見るなり、消えゆく大蛇らの影より恭介は飛び出した。
「――貴女を狩る」
「ハハハッ! 蛇に紛れてまた猟兵か、いいよ、まとめて掛かってきな!」
 大蛇らを宙に喚んだ猟銃、バレットパーティにて迎撃しながら、ディアナは駆けて間を詰めだす恭介目掛けて不可視の銃弾を放つ。マズルフラッシュが辺りを照らすたび、恭介は軽快に左右へステップ、銃弾を躱してのける。肉体のみならず、神経細胞をも賦活することで超高反応性を得ての回避。
 長くは保たない。ディアナは飛び退き、尚も数体の大蛇を薙ぎ倒しながら恭介に不可視の銃弾を送り続ける。
 少し詰めては、回避に使った時間で再び距離を開けられる――恭介は刀を握り直した。
 彼我の距離を詰め切れぬ、ということが濃厚に見えだした折、恭介は急激に飛び退いた。檻棺の影に滑り込むように紛れる。
「そんなモンが壁になるかってェの!!」
 ディアナは哄笑しながら不可視の弾丸を再装填――
 檻棺ごと恭介を穿とうとした瞬間に、目を剥くこととなった。
 恭介が隠れた檻棺は、地上部分のみで全高五メートルほど。周囲のものと比べれば小ぶりではあるが、しかし――
「――お、おおッ!!」
 ・・・・・・・
 引き抜いて投擲できるようなサイズのものではない。否、ないはずだった!
 気合一喝、恭介は突起に手をかけ、檻棺の一本を地面から引き抜き、力の限り投擲する――活性化された細胞による、信じられぬ膂力である!
「無茶苦茶しやがるねぇ!」
 ディアナは大蛇に対する対処よりもその檻棺の破壊を優先。バレットパーティを再起動、無数の銃弾を集中させ投げ放たれた檻棺を破壊!
 即座に猟銃を追加召喚、襲いかかる腐食の大蛇共を連続一斉射撃で撃破、撃破、撃破! 大蛇の肉片と、木っ端微塵の檻棺の欠片が舞い散る。ディアナは即座に檻棺を投げ放った敵手、恭介を狙って今一度多数の猟銃の筒先を向けるが――
「いない……?!」
 舞い散る瓦礫の向こうに恭介の姿はなく。
 殺気は、ディアナの背から迸った。
「――!」
 ディアナが振り向くよりも早く、日本刀の斬閃二条!!
「ぐ――!?」
 両腕、しかも腱を狙う至近からの斬撃。無論、恭介が振るったものだ。
「やっと貴女の顔を間近で見られたね」
 自身の全速力を見せぬまま、追い詰められた風に見せつつの、檻棺投げによる派手な撹乱。そこから立て続けに全速力に繋げることで、敵に己の実力を悟らせぬまま奇襲する――それが恭介の立てた筋書。そして、滞りなく履行された現実である。
「こっ……の!」
「遅い」
 間近で猟銃を召喚するディアナだが、銃が結実するよりもディアナの下肢を薙ぎつつ恭介が駆け抜ける方が遥かに早い。どう、と膝をつくディアナに、残っていた大蛇がのし掛かる。
「がッ、ぎ……!!」
 潰れながら発する苦鳴は、すぐに止む。これにてまたも一殺、恭介はくるりと回したサムライブレイドを納刀。
「貴女のことは許さないと決めていた。――蘇るならそうすればいい。何度でも、私たち猟兵が相手になる」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ラグ・ガーベッジ
◎【結社】

「あ”あ”……今日はどいつもこいつも……」
ただでさえ苛立っていた所に不意打ちを受け、癇癪の限界が近づいていた

「ビリウットォ!」
敵の得物を見た瞬間、己が変わる先は決まった
相性や戦術など関係ない、これでねじ伏せなければこのイライラは収まらない

己を扱う者の名を叫び、その手に収まる姿の名は
『喰らい尽くす者=アポリオン』

無尽に吐き出される銃弾は
幾千幾万幾億の虫の羽音が如く

「グッ……あ”ぁ”……っ”……!!!」
だが、弾こそ無尽であれど
撃ち出す口は僅か2丁

敗北の文字が脳をかすめたその時
「ムッ……カ……ツ、ク……ンだよぉ!!!」

――キレた
放たれた銃弾の全てがラグの心そのものが如く
縦横無尽に跳ね回る


ペル・エンフィールド
【結社】◎
貴方は暴力による殺戮を狩りと言うですね
そこに命のやり取りは無く、一方的な略奪のみ…
私の理想の狩りとは全く別物なのですよ
でもでも、その高ぶる気持ちは理解できるのですよ
やっぱりペルも狩人ですから
だからこそペルは貴方に挑むですよ
勝って私の狩りを…命を貰うことへの感謝を肯定する為に

ペルは残像の分身を率いて空から攻めるですよ
視力で弾道を見極め弾丸を回避
でもでも貴方はとっても強い狩人で、ペルの残像なんてそのうち全部撃ち落とせるのでしょう
だからペルは群れるです
残像ではない本当の仲間たちと

貴方がペルを鬱陶しく思い空を見上げれば、それは結社の仲間が近づく隙となるはずです
皆ちゃんとペルの分まで頼むですよ


ビリウット・ヒューテンリヒ
【結社】◎

ラグ、撃滅したそうじゃないか
…いいよ、私が使おう
弾の雨には弾の雨さ…バロウズ!
この地に眠る怨嗟ごと、喰らって飲み干せ

形態変化【ジェノサイダー】
弾数は無限、連射速度は最高クラス
アポリオンとなったラグとこれで、2丁拳銃の弾幕勝負を仕掛ける

……っ!ぐっ…これは、不可視の弾丸!
くっ…厄介だね、見えないからタイミングも読めない…!
…いや、それでも空気を裂いて来るのなら…微細な空気の揺れを感知して…弾ければ…!

さて──ディアナ?
君の不可視の銃弾、実に便利じゃないか
悪いのだけど…ただの銃使いじゃなくてね
魔術師、なのさ
さぁ、アカシックレコードに刻まれた君の技…!
使わせて貰うよ!バロウズ!再現開始!


灰炭・炎火
【結社】◎
あーしは、すっごい! 怒ってるんだから!
悪趣味、悪辣、悪者や!
あーし達を相手に、楽しめるものなら楽しんでみて

――ここから先はⅡの闘争が掲げし絶対防衛線!
――遊興に戯れる程度の覚悟なら通さんよ!

攻撃は避けない! どうせ見えないんだもん、皆の分まで喰らってあげる!
ニャメを盾に、壁になるよ!
…………見えなくても、弾はあるんでしょ?
ちょっとずつ、打ち返せないか試してみる、カウンターよ!

――――――やー! もー! 飽きたぁっ!(キレて相手の攻撃と同時、ニャメ――を投げると盾がなくなるので鉄球の鎖を引きちぎり(後日エンパイアまで行って治してもらいました)ガルレグレルを投げつける!


アダムルス・アダマンティン
【結社】◎
――哀れな
機械神や銃神が見れば、あるいは喜んだやもしれぬが
俺からしてみれば貴様はただ使われているだけだ

ラグ、ビリウット。弾幕は任せた
炎火、無理はするなよ

――行くぞ
封印を解くことでソールの創槌へと変える
刻器、真撃
電磁力を操ることで鉄鎖網を盾の代わりとする
銃弾を全て防ぎきれるとは思わん。だが、この程度の激痛で神を倒せる思わせぬ

武器を握り、武器を使っているように思っていて――武器に使われるだけの哀れなる者
我が鉄槌にて屠ってくれよう



●神へと捧ぐ愚者の贄
「滾るねぇ……! 長く生きたけど、一晩でここまで殺されるのは初めてだ!」
 紅い霧が凝り、人型をとった。ディアナである。
 塵と化すほどに砕かれようと、ディアナは今まで喰らった獲物の血を用いる冒涜の秘術でその身を再生し、数多くの猟兵と対する。そして、その殺される過程を――殺し合いを、楽しんでいるようですらあった。
 その有り様は一種異様ですらあった。殺されているのにもかかわらず笑う。強敵を撃てる、ただ銃弾で貫ける。幾ら撃っても貫けぬからこそ撃ち甲斐があり――ああ、もっとこの夜を楽しみたいと、走り続ける。
 トリガーハッピーにしてバラージジャンキー。
 狩猟依存症の吸血猟鬼。その有り様を見て――
「哀れだな、吸血猟鬼」
 その男は、たった一言そう言った。
「あァン?」
 声がした。創世の槌めいた重さの声だ。ディアナは振り返る。その先に、数人の猟兵がいた。
 声を発したのは、先頭に立つ巌のような男である。巨大なウォー・ハンマーを肩に負った、強い意志の光を瞳に宿す偉丈夫だ。
「機械神や銃神が見たならば或いは喜んだやも知れぬが――俺からして見れば、貴様は使われているだけだ」
「なんだい、藪から棒に。アタシが銃に使われているって言いたいのかい?」
「そう言っている。貴様は引き金を引けば何もかも殺せると誤認し、トリガーに意思を縛られ、動くもの全てを撃たずにはいられなくなったただの暴力装置だ。これを哀れまずして、何を哀れという」
 ハンマーを構えながら男――アダムルス・アダマンティン(Ⅰの“原初”・f16418)は姿勢低く構える。
「ラグ、ビリウット。弾幕を任せる。ペル、範囲攻撃に注意しろ。最後に炎火。無茶はするなよ」
 口々に了解の声が返る。――いや一人だけ、返事の前に前に出た猟兵がいる。
「あーしは、すっごい! 怒ってるんだから! あんなに沢山の人をあんな風に虐げて! 悪趣味、悪辣、悪者や! あーし達を相手に、楽しめるものなら楽しんでみぃ!!」
 アダムルスの静止も聴かずに、前に突出したのは灰炭・炎火(“Ⅱの闘争”・f16481)。
 炎火の得手はその超怪力を活かした格闘戦。しかし遠間はディアナの間合いだ。ディアナは当然のように複数の猟銃を空中に召喚、ノータイムで照準。
「黙って聞いてりゃァ勝手な御託をガタガタと――悪趣味悪辣大いに結構じゃないか。大義の元で殺しを正当化するアンタ達と、好き勝手に殺すアタシの間の差なんて、思想一つだろうに? 手始めにアンタで愉しい的当てをしようか。その可愛いお顔をブチ抜いてやるよ、動くな!」
 ディアナは畳みかけるようなアダムルスと炎火の言葉に不快を示すように片眉を上げつつ、無数の猟銃より銃弾を一斉射。BLAM!!
 炎火は銃弾の嵐を前に『ニャメの重斧』を構える。刻器の中でも最悪の可搬性と重量を備える規格外兵装――それは言い換えれば、刻器の中で最強の打撃力を備えた武器ということに他ならぬ。
「――ここから先はⅡの闘争が掲げし絶対防衛線! 遊興に戯れる程度の覚悟なら通さんよ!」
 掲げたニャメの重斧が、その身に纏う黒き鎧が、銃弾を弾く。その後ろに隠れた結社の一団には当然ながら銃弾は届かぬ。
 炎火は端から攻撃を避けるつもりがなかった。一斉射も、そして不可視の銃弾もだ。捉えきれぬ無数の射撃も、見えない銃弾も、手を延ばして弾けるものでないのならば全てを耐えきってから打ち返せば良い。
 それは避けないという覚悟だ。炎火の小さな身体と、ニャメの重斧に複数の銃弾が立て続けに着弾。鎧は銃弾を通さぬが、着弾の衝撃が激しくその身を揺さぶりダメージを蓄積していく。
 ディアナの手にした銃がまたも火を噴く。不可視の銃弾、インビジブルハッピー。炎火はそれに合わせてニャメの重斧を振るう。
「!」
 ぎうん! と音がして空中で火花が弾けた。――不可視の銃弾といえど実体はある。でなければ標的を射抜けまい。それと踏んで、炎火は銃弾を撃ち返すことを試みたのだ。
 ディアナは鼻を鳴らし、目を尖らせて手の猟銃を構え直した。左手にもう一丁が発生。腰だめにした猟銃を、弾数制限もなく連射、連射、連射! 連続で不可視の銃弾が炎火を襲う! 弾く、弾く、喰らう、ノックバック、復位する前にもう一発食らいつつ斧を振る、空振り――
 ……炎火の中から打ち返せるまでやってやる、という当初の決意が消し飛んだのは四発目の銃弾を喰らった時であった。
「――――――やー! もー! 飽きたぁっ!」
「――?!」
 ディアナの眼前に突如として鉄球が迫った。炎火が鎖鉄球『ガルレグレル』を引き千切り、投げ放ったのだ。恐るべきはその怪力、瞬発力。ディアナは即座にその鉄球を撃ち落とそうとトリガーを引くが、火花が散り、銃弾は鉄球に刺さることなくその表面を滑るのみ。
 止めることなど叶うわけがない。――質量と硬度が、根本的に違うのだ。ガルレグレルは炎火のために誂えられた、妖刀地金『地鳴鉄』による鉄球。
 炎火の膂力とその重量が相乗したとき、その運動エネルギーはフルスピードの大型トラックを遙かに凌駕する……!!
「っちいい!!」
 舌打ちをしながら回避を余儀なくされるディアナ。撃ち落とすつもりからの行動変更のためにハンのが遅れる。転がるように避けたために次の発砲が遅れる。
 その隙に結社の面々は散開し、それぞれの攻撃行動を開始する。まず第一に空から襲いかかったのはペル・エンフィールド(長針のⅨ・f16250)である。嘗て失ったその下肢は今や地獄の焔によって代替され、燃え盛る鋼鉄の装甲『ストラスの大爪』で覆われている。焔伴い天を羽撃くその姿は伝承の熾天使を思わせた。
「高ぶる気持ちは理解できるのですよ、やっぱりペルも狩人ですから。――でも、貴方はただ暴力による殺戮を狩りと言うですね」
「圧倒的な蹂躙、悲鳴と恐怖を味わうための簒奪! この世にこれ以上の娯楽があるかい?」
 即座にディアナは飛び退きつつ、襲い来るペル目掛け複数の猟銃の筒先を向け発砲。銃弾は過たずペルを貫くが――貫かれたペルは血を散らすこともなく、ただ揺らめいて消えた。
「何ッ!?」
 ディアナは反射的に空を目で走査する。ペルは一人だけではなかった。否、正確には一人だが、二十数人もの彼女がいるように見える――一人一人が質量を伴い、羽撃き、偽物・本物の区別を極めて付きづらくしていた。
 言わば狩猟結界とも言えるそれは、ペルのユーベルコード『ハーピィ達の狩り場』。彼女の
「蹂躙と簒奪。そこに命のやり取りは無く、一方的な略奪のみ……私の理想の狩りとは全く別物なのですよ。だからこそ、ペルは貴方を否定するです」
 ストラスの大爪から吹き出る焔がその方向を偏向、ベクターノズルめいてペルの身体を高速機動させる。
「こ、ッの! これならどうだッ!!」
 ヤマアラシめいて、ディアナは周囲八方へ向けて猟銃を召喚。初手に見せたような全方位斉射を演ずる。他の結社のメンバーの追撃の機会を奪いつつ、空中から複数体同時に襲いかかるペルへのカウンターアタックをも担う一手。
 しかしペルは臆せず、複数の残像を伴って急降下をかける。残像が撃ち抜かれ、消えても、躊躇うことなく速度を上げる。ストラスの大爪の推力を偏向し、最低限の機動で直線的な銃弾の軌道を縫う。高い視力と空間識覚により、ペルは弾道を知覚し、そのギリギリを避けるように飛ぶ。
「貴方はとっても強い狩人だって、ペルは知ってるですよ。でも、だからって負けられないです。――私にとって狩りとは、命を貰うこと。決してその命を消費して楽しむことじゃない。だから、ペルは貴方を否定するです!」
 ペルは最高速で空を駆け下りた。ディアナが放つ銃弾がペルの残像を次々に撃ち落とすが、それよりも早くペルが足下でストラスの大爪の焔を強く燃やす。加速!
 間近、ディアナが見開く目とペルの視線が絡んだ。ペルは吼えるように言う。
「刻器神撃ッ!!」
 ペルはストラスの大爪の先端よりバーナーめいて吹いた焔の鉤爪で、浅いとは言えディアナの肩口を裂いて飛び抜けた。肉の焼ける悪臭と焦げ音、
「やってくれるねぇ!」
 猟銃を取り回し即座に反撃しようとするディアナに突撃したのは炎火。ペルに気を取られた隙に前進してきたのだ。
 ペル一人では反撃を喰らっただろう。しかし、彼女には強力な仲間がいる。
「好き放題やってくれた分、お返しっ!!!」
 溜まったフラストレーションを解放するように、ニャメの重斧が唸りを上げた。ディアナは反射的に外套に獲物の血を孕ませ、鋼鉄に勝る強度のドレスを成すが、しかしそれすら重斧と炎火の攻撃力の前には霞む。その身体がくの字に折れて吹っ飛んだ。
「がッ……は!」
 ――否、『跳んだ』のか!
 炎火の打撃など防ぎ切れるわけがない。ならばとディアナは最初から踏み止まらずに、受けた瞬間に衝撃をいなし、跳べば良いとしたのだ。喰らった打撃力をそうして散らしつつ、それでも粉砕した骨を一瞬で再生。折れ残った檻棺を蹴り飛ばし宙で一転、先ほどに倍する数の猟銃を空中に召喚する。
 それを見て不機嫌そうに唸るのはラグ・ガーベッジ(褪せたⅦ色・f16465)。
「あ”あ”……今日はどいつもこいつもッ……イライラすんだよ……殺す、殺す殺す、ブッ殺し尽くしてやる」
 それもそのはず。今日は、何もかもがうまくいかない。辛気くさい大聖堂、這いずる『失敗作』共、挙げ句の果てに先制攻撃を食らった現状。彼女の苛立ちはピークに達していた。
「ご大層に銃を並べやがって、テメェが何発撃とうが俺の方が強ェんだよ!! ビリウットォ!! 俺を使えッ!!!」
 ラグ・ガーベッジは己の価値を保証するために力を振るう。ここで敵の銃を凌駕できねば苛立ちは消えない。敵よりも己が優れていると証明できねば、性能をフルに発揮し、敵を破壊できねば――この心が晴れることはないのだ。故にラグは身を翻し、拳銃へと転身した。形態名、『アポリオン』。喰らい尽くすものにして黙示録の蝗。
「随分と撃滅したそうじゃないか、ラグ。……いいよ、私が使おう。銃使い同士――負けられぬ意地もあるしね」
 名を呼ばれた女が、拳銃と化したラグ――アポリオンのグリップを長い指先で絡め取った。ビリウット・ヒューテンリヒ(Ⅳ番目のレコード・キーパー・f16513)である。
「さて、ディアナ。手数で勝負と行こうじゃないか。弾の雨には弾の雨さ――バロウズ、ラグ! この地に眠る怨嗟ごと、喰らって飲み干せ!!」
 ディアナは着地すると同時に宙の無数の銃から血の銃弾を撒き散らす。降り注ぐ銃弾の群れをビリウットは駆け抜けながら左手、アポリオンのトリガーを引いた。
“死ねェ!!”
 銃声と同時に傲然と響いたアポリオン――ラグの声が空気を震わせる。古びたオートマチックの形をしているのに、アポリオンは怖気の震うような、幾千幾万幾億の虫の羽音が如き銃声を奏でる。宙を降り来る血の銃弾を食い荒らす、当に蝗の群れが如き無尽の銃弾。
 それに合わせるように、ビリウットが右手の魔銃『バロウズ』を形態変化し、連射をメインとする鏖殺形態『ジェノサイダー』に変形。
 ジェノサイダーとアポリオンの二挺拳銃より、ビリウットは通常の銃では到底為し得ぬ連射密度で弾雨を迎撃する。
「ハッ! アタシのバレットパーティに正面から付き合いに来るとはね――いいじゃないか、滾ってくる! もっとビートを上げな、猟兵! アタシがイケるまで、踊るのを止めんじゃないよォ!!」
 ディアナが狂ったように笑い、倍――更に倍の猟銃の群れを召喚する。当然、筒先はビリウットを狙っている。
 一斉射ではなく、生じた銃のうち二割ほどを同時発射、間髪入れずに第二波を発射――それを繰り返すことによる連続斉射。弾幕の密度は最初のまま、それが継続して襲いかかるが故、対応の難度は指数関数的に跳ね上がる!
「ぐッ……!!」
 ビリウットはジェノサイダーとアポリオンにより果敢に血の銃弾を迎撃、吐き出した銃弾の数だけ敵の銃弾を撃ち落とすが、しかし! ああしかし! それでも手数が足りない!
 敵の銃は数百、千に至ろうという数。対してビリウットが持つのはアポリオンとジェノサイダー、たった二挺のみだ。
 いかにジェノサイダーにビリウットが無限の魔弾を篭め、アポリオンにラグが無尽の銃弾を供給しようとも、吐き出す口が二つだけでは、この嵐には抗し得ぬ!
 次々にビリウットを掠める銃弾。その四肢、身体に傷が刻まれ、徐々に圧されだす。致命傷こそ避けているが、明確に劣勢に追い込まれている。そこへ、
「隙だらけだねェ!!」
 ディアナが手にした二丁の銃がマズルファイアを吐いた。
「ぐっ……ァ!」
“ビリウット!!”
 ビリウットが苦悶の声を上げた。無数の銃弾に混ざり、飛び来たインビジブルハッピーが彼女の脇腹を撃ち抜いたのだ。
「不可視の銃弾……! 厄介だな、着弾のタイミングが読めない……空気の揺れを検知して、避けるしかないかっ」
 だがしかし、周囲を常に揺らすのは無数の血弾の銃声。同時に放たれるバレットパーティによる圧倒的面的制圧射撃。迎撃すべく絞られるトリガー、アポリオンが更に高速で銃弾を撒き散らす。
“グッ……あ”ぁ”……っ”……!!!”
 オーバーヒートしかけるアポリオンの銃身。ビリウットは空気の震えを捉えて避けると言ったその中で空気の微細な揺れを検知するなど――

 不可能ではないのか。
 勝てないのではないか。

 ラグの中に、疑念が過ぎった。
 ――それはつまり、俺がヤツより劣っているということか。負けてしまえば、そんな武器は誰も使ってはくれない。クラッククロック。つがいを持たぬ失敗作。
“気、に、いらねェ……!!”
 哄笑を上げるディアナが、その笑みを崩せぬ自分が、今にも使い手が膝を折りそうなこの戦況が!!
“ムッ……カ……ツ、ク……ンだよぉ!!!”
「!!」
 ラグの血を吐くような思念が伝わる。ビリウットは目を見開いた。
 アポリオンから放たれた銃弾が――
 ・・・・・
 空中で跳弾した。
「何ッ……!?」
 アポリオンの連射速度は既に限界。しかし、叩き落とした敵弾から跳ねたアポリオンの銃弾がもう一発、もう一発と、空中で跳ね回り多数の銃弾を撃ち落としていく!
 まるで激情に跳ねる、ラグ自身の心を示すような弾道。
「ラグ! これは――」
“どォーだっていいンだよォ!! やれ!! ビリウット!! ヤツを撃てェ!!”
「――分かった」
 ビリウットはジェノサイダーを通常の形態に戻す。
 放たれる嵐の如き敵の射撃を、アポリオンがただ一挺で押さえ込む間に、不可視の銃弾を辛うじて掻い潜りつつ、右手のバロウズを構え直した。
「ディアナ。君のその不可視の銃弾――実に便利で興味深いね。喰らったものは皆一様に脅威を感じたことだろう」
「御託を並べる前に手を動かしなァ、ガンスリンガー! その手品みたいな跳弾だけじゃ、アタシは殺せないよォ!」
「――もう、動かしているさ。生憎私はただの銃使いじゃなくてね――」
 確かにビリウット・ヒューテンリヒは射手だ。だが、そうである前に――
 彼女は、魔術師である。
      リプレイ
「バロウズ、再現開始。原理は分からなくても、君の技はアカシックレコードに刻まれている」
 バロウズの銃口がギラリと光った。その威圧感に本能的に気付いてか、ディアナが一歩退いた瞬間、マズルフラッシュが煌めく。
 ディアナは迎撃するように猟銃を上げた。その視力で宙を唸り飛ぶ銃弾を捉えようとした。
 しかし、『視えない』。
「――!?」
 バロウズから放たれたのは、不可視の銃弾。アカシックレコードの記憶から再現したインビジブルハッピー、ディアナの魔弾であった。ディアナは盲に二射放つが、盲撃ちの銃弾がビリウットの射撃を捉えられるわけもない。過たず不可視の銃弾はディアナの胴に突き刺さり、血を飛沫かせる。
 弾幕が途切れる。痛みに集中が途切れ、ディアナが蹌踉めいたその瞬間だ。
「頼みます、御大将」
 ビリウットは願うように言った。
 それに応えるように、神が――
 アダムルス・アダマンティンが跳んだ。

 刻器、封印解除。焔に覆われたソールの大槌がその姿を変じ、真の姿をあらわとする。
 PM形態『トールの創槌』、解放。紅蓮の焔が白雷に変じ、アダムルスの身体をその電磁力により浮遊させる。
 天の雷を纏いて空より降りる威容――おお、その姿、神話に描かれる神そのもの。
「虚仮威しがッ!!」
 ディアナはすかさず猟銃を再召喚、宙高く跳んだアダムルスを撃ち落とすように銃弾を放たんとするが、アポリオンの銃弾が跳ね狂い、次々と猟銃を叩き落としていく。ビリウットがそれに伴奏するように不可視の銃弾による狙撃を交えた。ディアナの両膝が撃ち抜かれ、束の間彼女から機動性を奪う。
「うっ、グ?!」
 跪くように両膝を落とすディアナ。その顔から未だ闘志は消えぬ。落とされなかった銃、そして手にした二丁の猟銃から、空のアダムルスへ銃弾を放つ。しかし、宙で火花が飛び散り銃弾は防がれた。
 まるで生きているように鎖が舞い、銃弾を弾き落とすのだ。電磁力により操られ、レンジ内に入った銃弾を弾きとす鎖はまるで神の蛇めいている。
「武器を握り、武器を使っているように錯覚しているのだろう。――武器に使われるだけの哀れなる者よ。我が鉄槌にて屠ってくれよう」
 アダムルスはハンマーを高々と掲げた。ダークセイヴァーの無明の闇を、その紫電と電荷が熱と光で斬り裂いた。最早動くことも叶わずトリガーを引くのみのディアナへ向け、アダムルスは墜ちる。銃声。銃声、銃声、銃声銃声銃声銃声銃声ッ、弾丸は鎖で弾き飛ばされ――よしんば命中したとて、アダムルスの巨体を止めるには能わぬ。
 
 ――狩人風情が神殺しなど、
 所詮烏滸がましい夢話――。

 コッキシンゲキ
「刻 器 真 撃 ッ!!!」

 アダムルスは創造と破壊の槌を振り下ろした。当にトール・ハンマー。雷撃を伴う、あめつちを破壊し創造する槌撃が落ちた。そう、落ちたのだ。落雷めいて、空気を爆ぜさせて、一直線に。当に稲妻。それ以外に表現する言葉などあるものか。
 神の雷がディアナの身体を粉々に破壊し、その雷の熱によって灼き尽くした。弾けたディアナの身体は億の砕片と化し、紅い風となって散る――!!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

三咲・織愛
ムルヘルベルくん(f09868)と


我欲のために命を弄ぶのは許せない
彼女達は玩具として遊ばれるために生まれたのではない

遊ばせてなどやるものですか
無力であると敗北感を与えてやりたい
槍持つ手を痛いほど握りしめ

長射程の銃使い、私には分が悪いですね
接近しなければ攻撃できない
敵もそう思うでしょう

惹きつけます。あとはお願いしますね
背を預けて駆ける

接近すると見せかけ、見切り、武器受けを第一に
見えない弾丸は銃口の角度から弾道予測
回避ではなく弾く、後ろに行かぬよう

ぬるい、ですね。遊びにもなりませんよ
笑う、どれ程傷付こうとも強がってみせる
気を向けさせるため槍を投げて【ドラゴニック・エンド】を狙います

後は彼に託して


ムルヘルベル・アーキロギア

同行:織愛(f01585)

やれやれ、狙撃は不得手なのだがまあよい
織愛も相当に煮詰まってるようだし、好きにさせる
がそこで一度引き止め、彼奴に一言

吸血鬼よ、ひとつゲームをせぬか
我らがオヌシに一撃入れられるか、という賭けだ
攻撃が避けられたなら、ワガハイの命をやろう
オヌシの支払い? 何、気にするな

彼奴が挑発に乗るかはともかく
陽動に合わせ適当なところで魔力の矢を〈高速詠唱〉
非UCの攻撃では届くまい

おや外れたか
仕方ない、では"外すなよ"
……『花衣』解除、全魔力を解放し自らを矢とす
ようは超高速の体当たりで彼奴に"当たりにいく"……っと
当たる代わりに"当ててしまった"か
配当は結構、見事な吠え面が見れたのでな



●ライトスピード・ジャックポット
 ――我欲のために命を弄ぶのは許せない。
 人は皆、この無明の闇の最中にあってさえ、それぞれの生を、物語を紡ぐために生まれてくるもの。決して、玩具として弄ばれるために生まれてきたのではない。
 三咲・織愛(綾綴・f01585)は強く強く、槍を握りしめる。血の気が手先から失せるほどに強く、強く。これ以上遊ばせてなどやるものか。無力だと、今や狩られるのは自分の側なのだと――敗北感を刻み込み、屠ってやりたい。
 可憐な容貌に隠せぬ怒りを滲ませる織愛のそば、槍を固く握る彼女の手に重なる手が一つある。
「気負うなと、先刻も言ったぞ、織愛よ」
 立ち上る怒りの気色を読んだか。重ねた手を解すように動かすのは永久の少年賢者、ムルヘルベル・アーキロギア(宝石賢者・f09868)だ。織愛を諫めるように声をかけて、するりと手を引く。
「……はい、ごめんなさい。大丈夫です」
「ワガハイとて腹が煮える思いだ。しかし引きずられてはならん」
 ムルヘルベルの言葉が終わるなり、ぶおう、と紅い風が吹く。吸血猟鬼の重苦しいプレッシャーが周囲を包み込む。今一度ディアナが現出しようとしているのだ。幾度滅されようとも、獲物の血によって自分の身体を再構成して。
「さて、どう攻める」
「敵は長射程の銃使い、私には分が悪いですね。私の得物は拳と槍。接近しなければ攻撃できない――敵もそう思うでしょう」
「ふむ」
「ですから、私が惹き付けます。後は、お願いしますね」
「またオヌシはそうやって脳筋めいたことを……」
「大丈夫です。ムルへルベルくんのこと、信じてますから、ね」
 微笑みは明るく、自棄を起こした様子はなく。なれば、彼女の信に応えるのもまた、賢者の仕事だ。ムルヘルベルは嘆息しつつ、マフラーに隠した口元を尖らせる。
「やれやれ、狙撃は不得手なのだがな。――良かろう、好きにせよ」
 だがその前に、とムルヘルベルは一歩前に出る。十五メートル先、紅い風が凝り集まり、吸血猟鬼の姿を取るなり、ムルヘルベルは声を張った。
「吸血鬼よ、一つゲームをせぬか」
「あん……? ゲームだァ?」
 ディアナは地に降り立つなり銃を上げたが、トリガーに添えた指を動かさぬままムルヘルベルに応じた。対話の意思がある。釣り込むように、ムルヘルベルは続ける。
「そうとも。オヌシのような洒落者のことだ、その手の諧謔を解する気風があろう。何、簡単よ。――我らがオヌシに一撃を入れられるかどうかという賭けだ。我らの攻撃を美事捌ききったならば、その時は配当にワガハイの命をやろう」
「ムルヘルベルくん?!」
 驚いたような声が横の織愛から。制するように手を延ばしつつ、ムルヘルベルはディアナの目を見詰める。
「へぇ――面白いね。で? アタシは何を賭けりゃいいんだい?」
 食い付いた。
 ムルヘルベルはマフラーの内側で密かに笑う。
「何、オヌシの支払いは気にするな。ワガハイとしてはゲームに乗って貰えればそれで良い。ではゲームスタートだ。我ら二人でお相手しよう」
 ムルヘルベルは飛び退き、織愛に目配せ一つ。
 ――策ならある。オヌシはオヌシの成すべき事をせよ。
 声もなく、意念を込めた視線を受け、織愛は軽く唇を噛みつつ前を向き直った。――同時に、駆ける。
「そんな得物じゃそっからここには届かないだろ。景品を貰う前にそっちの娘ッ子を殺しちまうよ?」
 ディアナは言いながら跳ね上げた猟銃を連射。マズルファイアは見えるが銃弾が見えぬ――不可視の銃弾、インビジブルハッピー! 
 織愛はマズルフラッシュがあった時点での銃口の角度を見切り夜の槍『noctis』を回旋、辛うじてといった体で弾く。しかし足を止めて防御に専念したところで、連射される不可視の銃弾の全てを止めることなど不可能だ。弾道予測と槍だけでは防ぎ切れない。
 しかし、回避して後ろに銃弾を通しはしない。自分が避ければムルヘルベルに累が及ぶ。織愛はそれを知るが故に絶対に引くことはない。肩口を、脇腹を銃弾が抉る。
 血が飛沫く。しかし織愛は倒れない。歯を食いしばり、続く弾丸を防ぐ。
 織愛は笑う。それは強がり。彼女の決めたことだ。どれだけ傷つこうが強がりを通してみせる、と。
「ぬるい、ですね。この程度では、遊びにもなりませんよ」
「ハッ――血をダラダラ流しながらよく吹くじゃないか、猟兵! それじゃァアタシもちょっと本気出して相手してやろうかねェ!!」
 ディアナは両の手を打ち広げ、中天に数百、ともすれば千に届かんばかりの猟銃の群れを召喚。
「消し飛びなァ!!」
 吼え声、号令一下――しかし!
「荒れろ、魔が風」
 銃声の一瞬前、後の先を取るように対応したのは後方のムルヘルベル。高速詠唱に依り圧縮した魔力の矢を一瞬で多数放つ。それにより宙の猟銃の照準を逸らす。
 耳を聾する銃声と共に無数の血の弾丸の嵐が吹き荒れるも、織愛に注ぐ銃弾の数を効果的に削ってみせる!
「チッ、やるじゃないか!」
「……行きますッ!」
 ディアナの舌打ち。
 ムルヘルベルの援護を受けた織愛は、機と見るや自身の身に迫る血の弾丸の嵐を弾き駆け抜けた。数発を受けて血を流しつつも、敵まで十メートルの位置まで前進。
 ――振りかぶった槍を身を捻って投げ放つ!
「いいのかい、武器を棄てちまってさ! それとも自殺志願ってとこかね!」
 ディアナは宙の猟銃の狙いを飛来する槍に集中させ、一斉射。
 夜を意味する槍に銃弾が集中し――
 しかし、唐突にそのシルエットがぐにゃりと変ずる。夜を翔ける藍色竜、ノクティスが真の姿を現し嘶いたのだ。織愛から受けた推進力に加え、己の翼による推力で加速、ノクティスは弾幕を抜けてディアナの間近に迫る!
「曲芸かい、よく種が尽きないもんだねッ……!」
 ディアナは猟銃を差し向けようとするが遅い。ノクティスは速力のままに鋭い鉤爪を振るう! 撃墜できない以上他に択はない。ディアナは体勢を崩しつつ転がり回避する。
「く、――ッ!」
 一瞬奪ったその視線と意識こそ、値千金。ムルヘルベルが後陣より今一度魔力矢を嵐の如く連射する。ディアナは辛うじて潜り抜けるが、バレットパーティを維持できなくなったか、宙の銃が次々と消滅していく。
 魔力矢を駆け抜けて制動するディアナに、声が刺さった。
「未だ捉えられぬな、ワガハイを。吸血猟鬼よ」
 ムルヘルベルだ。その身を晒し、魔力矢もなしにディアナと相対する。荒野の早撃ちの瞬間を見るような一瞬の沈黙。ディアナの銃口が跳ね上がるまでの、その一瞬がムルヘルベルには泥のように遅かった。
 彼は既にユーベルコードを起動している。魔術矢はユーベルコードですらない。高速詠唱に依り圧縮加速した魔力を矢として敵に叩き付けていただけのことだ。
 本命はこちら――『蔵書票・過剰励起』。非物質的拘束呪式……『花衣』を解除、全魔力を解放。花衣の解除は即ち禁書からの呪詛に制限をかけず、その身に浴びることを意味する。
 宝石の賢者を構成する珪素細胞群が、凄まじい出力と、反応速度を生む。
「心配しなくても今、ブチ抜いてやるよ!!」
 銃口がムルヘルベルを捉える。相対距離七メートル。照準までミリ秒の世界。
「――では次こそは“外すなよ”」

 しかし賢者は、その世界の先にいた。

 爆音が爆ぜ、ディアナの左腕がもげて飛んだ。まるで砲弾に撃たれたように。もんどり打って転がり、その身体が檻棺に叩き付けられる。
 顔に驚愕の表情。撃ったのは自分のはずなのに――まるで撃たれたように転がったのは、彼女自身だった。
「な、んだって……?」
「……っと。当たる代わりに“当ててしまった”か」
 ムルヘルベルは摩擦熱による焔の轍を踏みながらディアナを振り向いた。――当に激発された銃弾の如くに加速したムルヘルベルの身体が、魔弾めいてディアナの身体を引き裂いたのだ。
 それは単なる体当たりに過ぎぬ。しかし問題は速度だ。――圧倒的な速度で行われた攻撃は、それそのものが魔法に見えるものである。
「賭けは我らの勝ちということでいいな、吸血猟鬼よ」
 宝石賢者は嘯く。
 モノクルの内側で目を眇め、初めからこうなることが分かっていたかのように。

「――ああ配当は結構、実に見事な吠え面が見れたのでな」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルイーネ・フェアドラク
ゲーム・ハント
すべてはお前のお遊戯だったわけか
ならば、
私たち猟兵がそう呼ばれる由縁を、その身を持って知るといい

触手を操り、重力の銃を撃ち、隙を窺う
が、恐らく早々隙など見つからないだろう
吸血猟鬼の名は伊達じゃない
……あまり、形振り構っていられる状況ではないな

仕方がない

呼び起こすは、普段操るより尚凶悪なるモノ
周囲の猟兵たちが流した血をも吸収して、巨大なワームを呼ぶ
馬鹿みたいにコストを食うので、あまり使いたくはなかったが
いいさ
まだしも、貧血でぶっ倒れて死ぬほうがマシだ

最早私という軛はない
好きに暴れるといい



●Jormungand
「面白いじゃないか――」
 浮かべた猟銃を全方位に斉射、猟兵らに後退を強いつつ、ディアナは鮫のように笑った。
 今し方受けた攻撃によって根本からもげて飛んだ左腕を再生しつつ、ディアナが立ち上がる。
「どこまでも楽しませてくれる連中だねぇ! 続けようじゃないか!」
「ゲーム・ハントとやらをか」
 怒りの籠もった声音。他の猟兵の後退が余儀なくされる中、前に進み出るのはルイーネ・フェアドラク(糺の獣・f01038)だ。身体から呼び出した触手の群を同時に動かして銃弾を防いだのである。千切れ飛ぶ触手を再生しつつ、ルイーネは真っ直ぐに敵を――ディアナを睨み付ける。
 何人も――何人も死んだ。未だ、終わらせた少女らの無機質な笑みと色の薄い肌が脳裏から離れない。
「すべてはお前の手前勝手なお遊戯で――それをまだ続けると?」
「だったらなんだい、優男。世界なんざどうせね、力を持つもののオモチャ箱だよ。弱いヤツは死ぬ、強いヤツには好き勝手が許される、シンプルじゃないか! アタシは好き放題を続けるよ、この命が燃え尽きるまでねェ!!」
 哄笑を上げつつ、ディアナは複数の銃を操り、ルイーネへ向けて狙いを定める。
 やめろと言われて止めるような悪党ではない。分かっていたことだ。ルイーネはなんの感慨もなく――ただ、純粋な怒りを込めて言う。
「ならば、――私たち猟兵がそう呼ばれる由縁を、その身を持って知るといい」
「上等だよ。吸血猟鬼の二つ名、知らずにここに来たとは言わせないよ? 狩りを極めた吸血鬼は伊達じゃないってこと――その身体に教え込んでやる!」
 ディアナが手を打ち振るなり、虚空に猟銃が無数に居並ぶ。時を措かず一斉発射! ルイーネは触手の一部を防具に回し射撃を遮りつつ走る。数発が身体を掠めるもルイーネは表情を動かさない。触手を撃ち放つように伸ばし、まだ残る檻棺に絡めて縮め、高速移動しながらルイーネは左手の重力銃『GB-10』を連射。ディアナに当たればその身体を重力で縛り、攻撃する隙を稼げる目論見であったが、拳銃の連射力ではディアナが用いる無数の弾幕を突破できぬ。重力弾が次々に空中で撃ち落とされる。
「ほらほら、どうした? あんまり退屈なことしてっとねェ、一気にプチッと潰しちまうよォ!!」
 ディアナの攻撃は時と共に苛烈さを増す。次から次へと連続で放たれる猟銃の斉射に、徐々に回避が追い付かなくなりつつあるのを感じながら、ルイーネは臍を固めた。
(あまり形振り構っていられる状況ではないな。――仕方がない)
 ルイーネは刻印に命ずる。血を喰らえ、“蛇”を喚べ、と。猛烈な勢いで自身の血が消費されるのを感じながら、ルイーネは手を振るう。細く伸びた触手が、地に染みた猟兵の、そして最早塵へと還った失敗作の少女らの血を吸い上げ、僅かなりとも“蛇”を喚ぶためのコストを補填する。
「何をしてんだい、優男! 今度は何を見せてくれる?!」
 放たれる銃弾の嵐をバックステップとバック転で回避し、踵で地面を削りながらルイーネは制動。左手を地面に預けた着地姿勢のまま、浅い息を吐く。視界が明滅し、揺らぐ。血が喪われていく。――しかし、あの敵を逃してはならぬと本能が叫ぶ。あれを見過ごし、すごすごと引き下がるくらいならば、まだしも貧血で倒れて死ぬ方がマシだ。
 ルイーネは息を吐きながら己の内なる怪物を解き放った。ずるるる、るるぅ、とルイーネの身体より這いだした触手が伸長、膨張、更に何本も絡み合い、ルイーネの身を離れ――
「暴れろ、我が臓腑の成れの果てよ。最早私という軛はない――好きに暴れ、好きに喰らい、好きに殺せ。――そら、餌はそこだ」
 巨大な“蛇”――大樹の如き太さの、悍ましく長大なワームとして結実する!
「――ッハハア! こいつは――規格外だ!」
 ルイーネに命ぜられるまま、“蛇”は身をのたくらせてその尾を打ち振った。回避するディアナを、身体から更に枝分かれした細い触手を鞭のように撓らせ打ち据える蛇。
「ぐっ……!」
 反撃の不可視の銃弾も、嵐のような一斉射も、強大な触手の前には奏功せぬ! 汚泥めいた血液が触手の胴体で幾つか爆ぜて、それまでだ。ルイーネは飛び退き、GB-10をリロード。
「――殺せ!」
 叫ぶと同時、ルイーネは触手と連携し、重力弾を連射。一発でも掠めれば――
「……!」
 着弾位置が重くなり、動きが阻害され――そこに“蛇”が襲いかかる。
 貧血のあまり、膝をつくルイーネの視界の隅に蛇の触手に埋もれて縊られる女が映る。深く息を吐いた。貧血による頭痛と吐き気がその身を苛むが――それでも、ルイーネに後悔は微塵もない。
「――随分まともな死に方だ。あの娘達に比べればな」
 触手の群から墓標の如く突き出た猟銃に、ルイーネは吐き捨てるように呟くのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ジュリア・ホワイト

ボクらをハントする?面白い冗談だよ
我ら猟兵(ヒーロー)、全てのオブリビオン(悪)を狩るべく在るモノなれば
「ここはキミのデッドエンドだ!袋小路の中に居るのはどちらか思い知ると良い!」

【降り注げ破滅の火、過去の栄光を燃やし尽くせ】で燃える石炭の雨を召喚
普通に降らせると無数の銃弾で各個迎撃されるか
なら銃弾に砕かれぬよう、全ての石炭を合体させて巨大な塊に
「押し潰されると良いよ吸血鬼。大地の抱擁が終わったら、次は炎の祝福だとも!」
生命力吸収を炎の継続ダメージで相殺できれば最上だけど、そこまで望むのは贅沢かな

救うべき者無き戦場に高揚など無い
ボクを突き動かすのは、滅ぼすべき敵を前にした使命感のみ!


薄荷・千夜子
我々、猟兵ですら獲物ですか
これまでの所業、とても許せるものではありません
必ず、ここで止めましょう

「(なんとか、まずは足止めを…!)」
動きを止めることができれば、他の猟兵の方々も動きやすいはず
[操花術具:藤巡華簪]の1本を地面に挿し、ディアナを捕縛するように向かわせますが、メインは目晦ましに
自身は[夜藤]を構えて【オーラ防御】【破魔】【武器受け】で銃弾を弾いたり【見切り】による回避を駆使して接近
一撃与えては【吹き飛ばし】を自身に使い距離を取ります
藤の目晦ましと吹き飛ばしを駆使して、藤簪の楔を1本ずつ挿していき5本挿し切ったところでUC使用
「時間がかかりましたが、これで完成です…!」


クロト・ラトキエ

銃ですかぁ。
私的に?飛び道具相手って厄介なんですよねー。
…故に、最も対策してきた物でもありますが。

撃った瞬間当たるなんて概念武器や、弾道自在なんて代物で無い限り。
視るのは銃口の向き、視線、指の動き。
弾速は先刻視た。
定石だと逃げ場の無い中空は悪手…
なればこそ鋼糸で檻棺を渡り宙に出ます。
向けられた猟銃から掃射の瞬間を捉え、見切り。定点にて、
UC伍式。
持てる最速で以て縦方向への座標移動、からの相手へと距離を詰め。
鋼糸又はナイフにて、他の方の一撃の為、動きを封じたく。
アレがXとYを支配するなら、此方はZを穿つまで。

猟兵。いえ、
我楽多で結構ですよ?
その方が…
貴女が狩られる瞬間の絶望の味が増すでしょう?



●メテオスウォーム
「さて、どうします?」
「敵は強力――闇雲に攻めるだけでは落とせないでしょう。まずは足止め。その後に、火力を叩き込む展開が良いかと。僕の能力は足止め向きですので――上からの足止めは僕が担当しましょう」
「そうですね、動きを止めることができれば、攻撃が通るはず。では、私が足下からの呪縛を担当します。――まずは上と下、二段構えの足止め。その後――」
「ボクが最大火力で攻撃すればいいって展開だね。任されたよ」
 三人の猟兵が走る。その中央に立つ猟兵が、くい、と帽子の鍔を上げた。オレンジの瞳が、夜闇にきらりと輝く。
「出発進行だ。ヤツを地獄に叩き込む!」

 三人の猟兵は走りながらブリーフィングを済ませ、紅い風の流れる先へと駆ける。また別の猟兵が一殺したのであろう。死に値するダメージのたび、敵はこうして霧散して別の場所で再誕する。
「幾ら殺しても死なないように見えますが――」
 先頭を走る猟兵が呟く。
 彼は眼鏡の下で、青の瞳をすっと細めた。
「不死身の化け物など、この世に存在しません。。殺し続けたならばいつかは必ず死ぬ。そうでないのなら――そもそもこちらの攻撃を避ける意味がない。戦闘をする意味がない」
 クロト・ラトキエ(TTX・f00472)である。彼は鋼糸を手繰り、それを無事な檻棺に放って絡める。
「上に回ります。下は任せました」
「了解です!」
 返事の返るなり跳躍。視線を引く動きで空を駆け出す。
 返事を返し地を駆けるは薄荷・千夜子(鷹匠・f17474)。先行して空と地からの二面妨害のうち、地面側を担当する。
 ディアナは即座に二名の挙動に対応。
「性懲りもなく群れるねえ、猟兵! 今度こそ狩り殺してやる!」
「我々、猟兵ですら獲物ですか――これまでの所業、とても許せるものではありません。あなたは、必ず、ここで止めます」
 凜とした語調で言い放つ千夜子を嘲笑うように、ディアナは戦闘姿勢を取る。
「やってみなァ!!」
 ディアナは接近戦に対応すべく、今まで殺した獲物の血を外套に孕ませ、鋼鉄に勝る強度の鎧を成す。同時に無数の銃を召喚、クロトと千夜子に向けて一斉射を放った。
 千夜子は身体にオーラを纏わせ、短刀『夜藤』を構える。身を低め、最低限の銃弾を弾き、見切り、潜り抜ける。二方向に射撃が分散していてさえ、数発が身体を掠める。
「くっ……!」
 圧されかかる千夜子を見てか、クロトが突出する。その身に傷はなく、言葉もディアナを挑発するようなものだ。
「飛び道具相手は厄介ですが――故に、対策方法は心得ているんですよ」
 撃った瞬間に着弾するような概念武装の類、弾道を自在にねじ曲げる特殊武器などでもない限り、銃口の向き、視線、トリガーの動き――見るべきポイントは限られる。放たれる一瞬前に加速、面的制圧を逃れる。ワイヤーを巻き上げながら檻棺を蹴り渡り、掃射を巧みに掻い潜るクロト。
「賢しいねぇ。それならまずはアンタから落としてやる!」
 地上に向けていた銃までも全て宙に向けての一斉射。クロトの顔に緊張が走る。
 いかに間隙を縫い、避けようとも、それは「避ける先があってのこと」。避けた先まで全て銃弾で埋め尽くされては回避はままならない。
「させません!」
 そこに千夜子が割って入った。咄嗟に投げ放つは『藤巡華簪』。地面に突き立つなりそこから呪詛纏う藤の花枝が伸張してディアナへ襲いかかる。
「チッ、少しくらい順番を待てないのかい、小娘ッ!」
 迫る花枝をディアナは不可視の銃弾で迎撃。千切れ飛ぶ花枝を意に介さず、千夜子は藤巡華簪を連続投擲!
 更に二本が地に突き立ち、三方向より延びる呪詛の花枝でディアナを拘束に掛かる。
「ナメるなッ!!」
 ディアナは猟銃を追加召喚、紅いカーテンめいた弾幕で花枝の群れを掃射、滅却する。しかし、その隙に潜り込むように上から急降下する影。クロトだ! 一瞬の機を逃さず、己に出来る最速で襲いかかる。
 敵が平面と単軸を射程により支配するのならば、付けいる隙は立体的攻撃――Z軸方向からの強襲にありと踏んでの攻撃だ。
「伍式――剪絶」
 クロトの瞳が青白く曳光した。ディアナが視線を上に跳ね上げる。撃たれる前に、宙の猟銃の射程の内側に潜り込む。
「死になッ!」
 敵が迎撃する為、手にした銃を上げた。その銃口の延長線上から、『偶然にも横にあった檻棺』を蹴り離して身を躱す。銃声。空振り。
 クロトはピンボールめいて宙を駆け下り、抜き放ったスローイング・ナイフを腕の一振りで三つ投擲。飛び避けるディアナ。しかし、それすらも予測の範囲内。
「うっ……!?」
 ディアナの踵に鋼糸が絡む。ディアナの背後へ既に伸ばしていたクロトの糸である。――己が取る行動によって無数に分岐する未来を予測し、打った布石によって敵の行動を一つの未来に集約する――これぞ、ユーベルコード『伍式』。クロトはディアナの踵に絡んだ糸を力強く引いた。糸はぎゅんと吊り上がり、ディアナの片足を取ったまま逆さ吊りしに掛かる。
「こっの、苛つくことばっかりしてくれやがって……!」
「貴女の銃は恐ろしいですからね。当然用心もしますよ、僕のような臆病者は特に――ね」
 戯けたような返事をしながら、クロトは糸を張る。
「猟兵と呼んでくれましたが、僕としては我楽多のままで結構でしたよ。――その方が、『我楽多』に狩られる貴女の惨めさと絶望の味が増すでしょう?」
「綺麗な顔してエグいこと言うじゃないか、優男! でも勘違いして貰っちゃ困るね、狩るのはアンタ達じゃない――アタシだ!」
 ディアナは手にした銃で鋼糸を撃ち千切り、身を回して着地した。膝を撓めて着地したその動きを、そのまま横方向へ駆ける力に転化するが、四方より延びる花枝がまたもその動きに待ったをかける。
「ッ!」
 気付けば周囲五方より襲う藤の花枝! 当然、千夜子が放ったものだ。藤巡華簪は既に五本が放たれ地面に突き立っている。
 クロトの危機をカバーした後、千夜子は、クロトがディアナと渡り合う間を狙い、地に藤巡華簪を撃ち込みおえ、陣を完成させていたのだ。
「時間が掛かりましたが、これで完成です!」
 千夜子が展開するはユーベルコード『操花術式:藤巡呪楔』。地面に打ち込んだ楔、藤巡華簪より藤の花枝を伸ばし、絡め取った敵の動きを藤の呪詛で封ずる!
「また捕縛ってかい、まどろっこしいんだよォ!!」
 ディアナは自信の周囲を薙ぎ払うように、藤の花枝を掃射で散らすが、
「甘いですよ……!」
 千夜子は術式に再度強く干渉する。
 一度成った術は、先ほどまでの不完全な状態ではない。凄まじい速度で再生した花枝が、まるで撃ち出されるように延びて身体に絡みついた。呪詛がディアナの四肢を蝕み、その動きを封じ込める!
「ぐっ……!?」
「捉えたっ!」
 千夜子の快哉と同時に、ごおうっ! と音を立てて空が燃えた。――否、天空を炙るように燃え立つ、数多の星々が浮いている。
 星々――? 否、それは石炭の雨だ。赤々と燃える小粒な石炭が、無数に浮いて宙に焔の河を作っているかに見える。その下にいるのは一人の少女。まるでその石炭群を支える如く、天目掛け右腕を突き出している。
「ボクらをハントする? 面白い冗談だね」
 少女は歌うように言った。
「我ら猟兵。全ての悪を狩るべく在るものなれば――ここで狩られるべきはどちらか自明だろうに」
 意思の光も強く輝く、燃える石炭のような橙の目で! ジュリア・ホワイト(白い蒸気と黒い鋼・f17335)は傲然と言い放つッ!
「ここがキミのデッドエンドだ! 袋小路の中に居るのはどちらか思い知ると良い!」
「ふざけたことを言うもんだねッ――クソ、こんな木の枝程度、直ぐに引き千切って――」
「ダメだね。それよりもボクの方が速い!」
 救うべき者なき戦場に高揚はなく――ジュリアを駆動するのはただ、滅ぼすべき敵を前にした使命感のみ。故に躊躇わず、故に一切の容赦もない。
 呪詛によりディアナは動きを取れず、銃弾を放つことも出来ぬ。千夜子が放った呪いはユーベルコードの発動をも阻害していた。銃弾の嵐も今はない。
 ジュリアは天に突き上げた手をグッと握る。紅く燃える石炭群が命に従うように一点に凝集、圧着されて一つの巨大な塊となる。まるで大気圏を落ち来る隕石の如く、赤く、熱い岩塊が構築される!
「――!」
「これならキミが撃とうが、多少のことでは逸らせない。仮に君が銃のコントロールを取り戻そうが、ね。天ボクのやることは変わらない。この破滅の火でキミを圧し潰し、灼き尽くす! 灼け潰れるがいい、吸血鬼。大地の抱擁が終わったら、次は炎の祝福だとも!」
「猟兵ァァッ……!!」
 呪わしげな声を上げるディアナを無視し、ジュリアは上げた手をディアナへ向けて振り下ろした。その手の動きに沿うように巨大な石炭塊が、圧倒的な熱量を伴って、夜気に赤い線を引いた。
「があああああああああああああああっ!!」
 ディアナの凄絶な絶叫と共に、着弾。石炭塊が炸裂し、熱エネルギーを解放。巨大な火柱が上がる。ジュリアの渾身の一発だ。燃え立つ花柱の中、ディアナは影も残らず消し飛んだ。
「じゃあね。終点は焦熱地獄だ。或いは――まだ続くのかも知れないけどね、この乱痴気騒ぎは」
 ジュリアは徐々に弱まっていく火柱の中を見詰める。今やその中には人影の一つもなかったが――戦場を取り巻くプレッシャーは未だ消えぬ。
 しかし、これでまた一殺だ。
 不死の化物などこの世に存在しない。クロトの言葉を思い出しつつ、ジャケットを翻して踵を返す。
 二人の仲間と共に、再び、ジュリアは夜闇の中を走り出す。
 今一度吸血猟鬼とまみえたならば、再び引導を渡してやるために。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒江・イサカ
僕ね、ちょっと怒ってるんだ
好んで痛くして殺すって、本当に理解できないの
しかも子どもをさ、そんな風に
……だから、君は特別 痛くするよ

少々僕の間合いで付き合っておくれよ、お嬢さん
物珍しい綺麗なものを見せてあげるから
僕のこと、撃ってくれていいぜ

生憎、噴き出るのは――…ひかりなんだけど

傷は血が出る前に【奇跡】で瞬間治療
そうすると僕は、君好みの“硬い”人間になれるわけだね
…疲れるからあんまりやらないんだよ、これ
君は特別さ、ときめくだろ?
【見切り】【早業】【激痛耐性】
斬られるって痛いよね、可哀想に
でも大丈夫
ちゃんと君は、死ねるからね

さあ、此処がデッドラインだ
ゲームを決めるのはいつだってライン際、そうだろ?



●嗤う男と安楽死
 赤き霧が人の形に集まり、宙で固まった。
 出でた人影は着地をしくじり、無様に地面に倒れ伏す。土を爪で掻き――彼女、ディアナはゆっくりと立ち上がる。
「ハァッ、は……、」
 ディアナは、はっきりと感じ取っていた。自身の再生速度の低下と、例えようもない飢餓感をだ。猟兵達に殺される度、自身の中に溜め込んだ血が失せていく。恐れは急に押し寄せた。『腹が減りつつある』。ずっと満腹だったのに。無理に飲まずとも生きていられたのに。
 思えば、最初はそう、人を狩るのは生きるためだった。血を呑まなければ飢えて、屍食鬼に堕す。そうなればもう戻れないことは知っていた。骸の海を通った今となっても、飢餓を恐れる心は彼女の中に染みついている。
 飢える必要のなくなった頃から、彼女の中で狩りはただの娯楽となり――長きに渡って、狩りは『しなくてもいいが、すると楽しい娯楽』だった。
 なのに殺した。殺し続けた。必要のない殺しをし続けた。
 飽食して、際限なく己の力として血を溜め込み続けた。
 ――そうして忘れた。飢えを。死の恐怖を。忘れていたのだ。今の今まで。
 不意に、ディアナの背後にザッ、と焦土を蹴る音が鳴った。
「僕ね、ちょっと怒ってるんだ」
 からかうような声が続く。
 ディアナは己の弱みを気取られぬよう、努めて不敵な笑みを浮かべ、手の内に猟銃を召喚して振り向いた。
「何にだい、猟兵」
 問いかけた先には黒髪をキャスケットで隠した、ふらりと吹く風のような――飄々とした男がいた。
「惚けるなよ。それとも本当に自分が原因だと思ってないのかな? 好んで痛くして殺すってさ、僕には本当に理解出来ないの。せめて眠りくらいは穏やかにあるべきだと思わない? しかも、子供を。まだ死ぬ必要もなかったはずの少年少女を、そんな風にしてさ。それを罪だと、思わなかった?」
「興味がないね、アタシの食い物になって死ぬだけの人間の感情になんぞ。アタシはアタシに撃たれて泣き叫ぶ人間が楽しくておかしくて堪らないだけさ!」
 ディアナは両腕を打ち広げた。そう――そうしている間は死と飢餓の恐怖を忘れていられたから。
 男は言葉を聞いて、切れ長の目を、ナイフの刃先のように細めた。
 酷く――酷薄な笑みだった。
「だろうと思った。知ってたよ。だから、君は特別、痛くするよ」
 男は、両手にナイフを抜いた。折りたたみ式の量産品。パチン、と刃を起こし、男はディアナに向けて無造作に踏み出した。
「――少々僕の間合いで付き合っておくれよ。物珍しい綺麗なものを見せてあげるから」 踏み出した男は、ディアナすら驚嘆するような速度で間を詰めた。認識の隙間を縫うような、無拍子の接近。背を這い上る怖気に耐えかねたように、ディアナはそれを撃った
 殆ど反射的に、軽口も無しに撃った。男の脇腹に着弾。肩に着弾。腿に、腕に、胸に着弾。しかし男の足は止まらない。
「――嗚呼、」
 男の濡れた唇から言葉が零れた。
「何発でも。僕のこと、撃ってくれていいぜ。生憎、噴き出るのは――……ひかりなんだけどね」
 血が傷から溢れ出る前に光が吹き出て、まるで死ぬ事を許可されていないように、元通りに銃創が巻き戻る。揺蕩う光が、男を覆っていた。
 それは恐ろしいほどに幻想的で、艶めかしく、……そして、
「いいだろ、これ。君好みだと思うんだけど。“硬い”人間、好きだろう? 疲れるからあんまりやらないんだよ、これ――君のために、特別に頑張ってるんだ。ときめくだろ?」
 猟奇的であった。
「ッああああ!!」
 ディアナは手にした猟銃をリロード、銃弾を連続で放った。しかし、喰らいながら、その銃創を即座に治癒し、男は何事もなかったかのように前進してくる。
 頭への着弾だけを腕でガードしつつ、男は真っ直ぐにディアナへ駆け、滑らかな動きで銃を持つその腕を刺した。引き攣れた悲鳴を上げるディアナに更にもう一刺し。まるでピン刺しの標本を作るみたいに、刺す度男は新しいナイフを取り出す。
「斬られるのも、刺されるのも痛いよね、可哀想に――」
 飛び退こうとするディアナにぴったりとついて男は前進、立て続けに三本のナイフをディアナに突き刺して、擽るような甘い声で言った。
「でも大丈夫。ちゃんと君は、死ねるからね」
 ああ。
 吸血猟鬼は、恐らくその時初めて、猟兵に対して恐怖を抱いた。

 その男――黒江・イサカ(鼻歌と・f04949)に。

「さあ、此処がデッドラインだ。ゲームを決めるのはいつだってライン際、そうだろう? 銃を構えなよ吸血猟鬼。そうしなくちゃあ、デッドラインどころか――」
 イサカは折りたたみナイフをジャラリと手挟み、歌うように言う――

      デッドエンド
「ここが君の 終 着 点 になっちゃうよ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

真守・有栖


……参る

不可視の弾丸

視えずとも他愛なく
視えぬからこそ、冴えていく

――光閃

魔弾を断ち、延びる光刃
刃を突きつけ、牙を覗かせ

戯れは此にて終い。次は断つ

狩りは此処から、と
獲物を見据え

効き手(ひだり)に握った刃に問う

――月喰

永海の妖刀は
“こんなもの”じゃ、ないでしょう?

まだ足りぬ
真守・有栖に他刃なき、と

私の牙と、此処で示せ

刃と狼
二心なく、一心に
他念なく、一念を以て


嗚呼。刃に込めるは――


ぎちり、と布を巻き
動かぬ腕(かいな)に力を込め

千瘡百孔

死中に在れど。なればこそ

滾り、冴える本能

感じるままに魔弾を捉え
餓えるままに太刀振る舞う


――光刃、連閃


一切合切。余さず全て
“喰ら”っただけ、喰らい尽くす……!



●狼牙抜刀
 ディアナは地面を踵で削り飛ばしながら後退、外套を振り飛ばす一撃によって男――イサカの身体を吹き飛ばし、間合いを離した。その身は最早ないふで剣山のようになりつつあった。いずれもイサカが突き刺したものである。
 しかしディアナに休む間などない。血に塗れた女が――どう見ても死に体の女が、イサカに続いた。ディアナは身体に突き刺さった折り畳みナイフを掻き毟るように抜きながら、両手に猟銃を呼び出し構える。女は密やかに――だが力強く、通る声で吼えた。
「……参る」
「そんなズタズタのザマで! アンタに何が出来るってんだい!」
 撃ち放たれる不可視の銃弾、インビジブルハッピー。しかし女は迷わず刀を閃かせた。刀の先端から飛ぶ光の斬閃。キン、と甲高い音がして、不可視の弾丸が、二つに分かたれた。
「なッ」
 その剣士は、視界無いなかで失敗作の少女らを、屍食鬼らを刀一本にて屠ってきた兵。それが今は目隠しを取り、爛々と光る目を晒している。今更視えぬ弾丸一つ、斬って弾く程度座興に劣る。
 延びた光の閃をディアナに突きつけながら、女――真守・有栖(月喰の巫女・f15177)は言う。
「戯れは此にて終い。本気で来ねば、次は断つ」
 狩りはここからだ――告げるように、有栖は最早用をなしていない右手をだらりと下げ、左手のみで刀を構える。
「ナメやがって――こっのォお!!」
 ディアナは吼えながら無数の猟銃を展開。
 最早無尽蔵に力を振るえる状態ではない。それ故に、火力で言えば先ほどに劣る。しかし、コントロールはより細密になり、一度狙われれば回避は困難。踏み込まば必殺必倒の銃殺領域。
 そこに、迷わず踏み込むは修羅。
 有栖は刀を握る左手の上より固く巻き締めた布の端を咬み、締め直す。
 ――月喰。永海の妖刀は“こんなもの”じゃ、ないでしょう?
 問いかける。左手の中で、寄せて返す細波のような脈で光の刃が震えている。

 ――足りぬ。この私に、真守・有栖に他刃なき、と示せ。
 いつか月すら喰らう刃ぞと――私の牙ぞと、此処で示せ!

 発砲音。否、無数の銃が放たれる前に刀が一閃している。放たれる『延びる光の斬撃』、光閃。軌道上の銃は暴発するか明後日の方向に弾を散らしたのみ。有栖は踏み込み、開いた射線を的確に駆け抜ける。
「く――!」
 二射目、三射目も同様。剣先、翻る飛燕の如し。月喰と有栖は既に一つ、刃狼一体の境地である。――刃に込め託す。
 敵を断つ、在りし一念、是一つ。
 最早動かぬほどに傷ついた腕が、傷を負い今にも崩れそうな膝が、しかしそうならぬ。
 ともすれば一瞬後にも命の灯火を失いかねぬ殺劇のなか、有栖は当に名乗りの通り、俊狼の如く駆けた。死中に在ればこそ滾り冴える、狼の本能。
 宙から降り注ぐ銃弾が当たらぬとみるや、ディアナはそれに手ずから放つ不可視の銃弾を絡める。――発射したそばから魔力をチェンバー内に固め直しての連射!
 二丁の銃から連続して放たれる、不可視致命の銃弾嵐――
 有栖はそれを前に、尚も、笑うのだ。
 銃弾の嵐の前に刀一本で立ち、修羅は避けるどころか更に踏み込むのだ!
 ――千瘡百孔。
 最早剣戟と言うにはそれは速すぎた。まるで蜻蛉の羽のように月喰の刃が舞う。無数の弾丸を弾くたび光の粒子が飛び散り、ダークセイヴァーの夜気を白く斬り裂いた。感じるままに、襲う殺気を呑み干すように魔弾を弾き飛ばす。
 ディアナが目を見開く。渾身の連射すら喰らいながら、狼が前進する。
 有栖は咆え、最後の銃弾を弾くなり、再装填までの一瞬の間隙を衝いた。敵までの七メートル余りを措いて月喰の刃を解き放った。
 ――それは猟鬼を喰らう刃。
 壱、弐、参、肆、伍ッ!!
 振るうた斬撃は光閃となり延び――
「く、っそがああァァア!!」
 再装填が今まさに済んだ銃ごと、ディアナの身を深く裂いて吹き飛ばす。

 ――嗚呼、狩人よ。忘れていたのか。
 銃さえ通じぬのならば。
 人の形をしたお前が、狼に敵う道理などないのだと言うことを。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リュシカ・シュテーイン
正当な取引であればこちらも応じますがぁ、あなたのような一方的な私利私欲を得ようとする輩と交渉するなんて無駄なことぉ、私は致しませんのでぇ

……貴方はここで朽ち果ててもらいますよ

私の役目は後方からの支援ぅ
しかし相手も武器は違えど投擲使いですからぁ、私は皆さまの防御や攻撃の起点となるよう支援致しますぅ

スナイパーとしてぇ、負けていられませんから
威力の弱い爆破の法石によりぃ、皆さまの視界を塞がぬ程度の砂埃を起こしますぅ
その後はぁ、相手から放たれる弾丸を自慢の視力で埃の軌跡から把握しぃ、威力の低い爆破石での相殺を連続で試みますよぉ

子供達にも顔を合わせられぬような地の底へと沈みなさい
二度と姿を成さぬように


指矩・在真

楽しむのはいいことだよね
うん、生きる上で息抜きは大事だよ?
でも、他人の命弄ぶのは……絶対許せることじゃないよね

【ライオンライド】でレオくん召喚
『迷彩、目立たない』でボクらの位置を誤魔化しながら『騎乗、ダッシュ、見切り』で攻撃に気をつけて接近するよ
近づいたら『属性攻撃』で銃口を凍らせて簡単には撃ってこれないようにするね
さてレオくん
ボク、すっごく怒ってるんだ
その鋭い爪と牙で思いっきり『2回攻撃』よろしくね
満足のいく一発が決めれるよう『援護射撃』で彼女を黙らせとくからさ

あの子達も怖かったはずなんだ
それなら、あの子達を屠ったボクが退くわけにはいかないよ
……レオくん、一緒に狩りにいくよ



●終焉の階
 血を流し、飛び退き、荒く息をつき己の身を癒す吸血猟鬼。
 遠目にそれを見て、「ここで絶つ」と、決意を新たにする二人の猟兵がいた。

 楽しむのはいいことだ。
 そうしなければ人は生きていけない。苦行ばかりを重ねていては、いつか息が詰まって死んでしまう。生きる上で、息抜きをするのは重要なことだろう。
 指矩・在真(クリエイトボーイ・f13191)とて、それを否定しはしない。だが――
「でも、他人の命を弄ぶのは……絶対許せることじゃないよね」
 他者を侵害する息抜きなど、言語道断だ。
 少年は金色の獅子を召喚し、声低く唸る獣に跨がった。迷彩プログラムを起動、周囲の光を偏光し光学迷彩を施して、獅子に命じる。
「行こう、レオくん。――狩りに行こう。あの吸血鬼を」
 在真の言葉に頷くように、獅子が吠えた。
 二者は、遠距離からディアナを目掛けて駆け抜ける。策を持たずに駆けるわけではない。彼らの後ろで、既に一人の猟兵が援護の準備を整えている。

 対等ではない取引だ。
 いや、そもそも、人の命を玩具にしてこの瞬間まで享楽に耽っていたようなオブリビオンと、今更真っ当な取引が出来るとも思ってはいなかったが――
「正当な取引であればこちらも応じますがぁ、あなたのような一方的な私利私欲を得ようとする輩と交渉するなんて無駄なことぉ、私は致しませんのでぇ」
 リュシカ・シュテーイン(StoneWitch・f00717)は、スリングに番えた『爆破の法石』に魔力を乗せる。しかし出力は絞る。此度の彼女の役割は後方からの支援。防御や攻撃の起点となるべく、彼女が選んだ策は――
「……貴方はここで朽ち果ててもらいますよ」
 敵の銃弾の、その軌跡を露わとすることであった。

 ど、ど、どどどど、どうんっ!!
「またぞろ派手な花火だねぇッ……!!」
 ディアナの周囲に幾つも砲弾が炸裂し、砂塵が舞い上がる。濛々と舞う土煙にディアナは舌打ちをした。彼女が扱う不可視の銃弾、インビジブルハッピーは、如何に不可視といえど銃弾である以上空間を通り敵を射貫くものだ。粉塵を舞わせれば当然、弾道が露わとなる。
 ――来る。
 予感があった。自身を直接に狙うでもない砲撃。これは、前衛を支援するためのものだ。
 土煙が舞うその向こう。見通せぬ位置から、何かが走り来る音がする。
 ディアナは空中に猟銃を数十と展開、音の方向目掛け手当たり次第の盲撃ちを仕掛けるが――今や、彼女は最初に見せたような一斉射を放てるほどの余力がない。地を駆ける音は止まらず、大きくなるばかりだ。密度の薄いやけっぱちの弾幕では、最早猟兵一人すら阻めぬ……!
「畜生、こんなところで――」
 口に上らせた瞬間に気づく。
 或いは、自分は死を意識しているのか、と。
「ボク、すっごく怒ってるんだ」
 凜とした声が通った。その方向目掛けディアナは両手の銃から不可視の銃弾を撃ち放つが、しかし足音は止まぬ。熟達の狩人たる彼女の手に手応えはなく。手を震わせるのは、空矢の空虚な反動ばかり。
 ばおうっ――
 音がして、土煙が裂けた。
「あの子達だって、怖かったはずなんだ。玩具にされて、殺されて、継ぎ接ぎにされて作り替えられて。そんなの、怖くないわけがないだろ。――ボクだって戦うのは怖い。けど、彼女らが受けた恐れを、彼女らを終わらせたボクが――屠ったボクが、耐えないわけには行かないじゃないか」
「御託をガタガタとぶるじゃないか、猟兵! 何を言ってんだかさっぱり分かんないけどねェ!!」
 ディアナが叫ぶ言葉に応じたのは――無数の蒼い光であった。
 周囲へ蒼く光る画面が無数に展開した。その何れもが、在真が展開したものだ。
 画面に映し出されるのは『アーチャーアプリ』。ディアナを包囲するように展開されたホロ・ディスプレイから、全く唐突に、連続で衝撃波が放たれた。
「!」
 空気が爆ぜるような音。ディアナは飛び退いた。一打一打の威力は大したことはないが、衝撃波の恐ろしさは知っている。衝撃波とはつまり空気圧の変化。大規模なそれは、効率的に三半規管――感覚器を破壊する。
「ちいいっ!!」
 まともに受ければ脳震盪で動きが止まる。ディアナは即座に後方へ向け、召喚した猟銃で血の弾丸を一斉射。蒼いホロ・ディスプレイを破壊しながら後退する。
「レオくん――一緒に狩りに行くよ」
 告げる声。
 金色の獅子がその毛並みを総毛立て、咆哮して応える。在真はディアナの走る方向を一方向に絞るがために、彼女を包囲して衝撃波を放ったのだ。
 在真の命を受けた獅子が、地面を蹴り離し加速する。
「しつっこいねぇっ!!」
 ディアナは在真を射貫かんとインビジブルハッピーを連射するが、その弾道上で爆炎が咲いた。弾丸が相殺される。
「……!?」
 視認してからでは到底間に合わないはずだ。ディアナの放つインビジブルハッピーの銃口初速は七三四メートル秒。音速の二倍強だ。如何に土埃でインビジブルハッピーが視認可能になったとて、見てから撃って、銃弾を狙撃するなど不可能の筈。
 ――しかし、それを可能とする射手がいる。ディアナの射撃のクセを把握し、撃つその瞬間に機先を制し、法石を超高速で射込む射手が。
 土埃の中を進む弾丸の速度も、その軌道も、射手――リュシカ・シュテーインの中では既に分かりきったことだった。ならばクセに合わせ、撃つタイミングで予測射撃をするだけ。リュシカが放った爆破の法石が、ディアナの射撃を尽く阻む!
「クソがッ!」
 自身が放つ不可視の銃弾だけでは全て相殺されてしまう。
 認めたくない事実を、それでも呑んでディアナは再三、無数の猟銃を展開した。最早あと幾度展開できるか分からない銃撃陣を在真に向け、ディアナは再び一斉射を放つ。
 しかして、在真もまたそれを予測していた。衝撃波を発するホロ画面を幾つも自身の前に展開し、リアクティブ・アーマーの如く銃弾を弾きながら進む!
「デタラメしやがって、このッ――」
 唸るように言うディアナが再び銃を構える。相対距離十メートル。一瞬で至れる距離になり、在真はダメ押しの策を弄した。
「……凍れ!」
「?!」
 構築された蒼いホロ画面から凍気が発され、ディアナの手にした銃口が凍る。しかして引き金を引く指が止められるわけもない。
 結果、口を塞がれたまま放たれる銃弾は内圧を異常上昇させ、銃身を爆ぜさせる。
「ぐァッ……!?」
 破片がディアナの顔面を抉る。思わず銃を零してよろめくディアナ目掛け、在真と獅子が襲いかかった。
 畏怖を覚えるほどに巨大な獅子の爪が、ディアナの肉体を引き裂く。絶叫が上がった。

「子供達にも顔を合わせられぬような地の底へと沈みなさい。二度と姿を成さぬように」
 冷たく言い捨てるリュシカの視線の先で、金色の獅子が、ディアナの身体をその凶猛な爪で抉り立て、引き裂いていく。
 一度の死では生温い。何度でも殺してやると――リュシカは、攻撃用の法石をスリングに番え、狙いを定める。
 ――彼女には確信があった。
 終わりが、近いと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

三千院・操

おや。
最近流行ってるのかい? 狩猟(そういうの)。
ねぇ吸血猟鬼。君、名前はなんと言ったっけ? 教えてくれよ、君の名前。

──ディアナ、君は随分と加虐嗜好が強いようだね。おまけに少しばかり粗野で血腥い。レディとしては頂けない。
故にそれらの真実、嘘にしよう。

まずは数多の虚言を弄して彼女を催眠術に取り込み、己への攻撃を外させる。
さらに呪詛の霧を用いて『全ての銃弾が玉詰りを起こす幻』でも見せようか。

可哀想に、ディ。君は自分が制御できないんだね。
だけどもう大丈夫だ。君は病気だったんだよ。

【掠める黄金】を使う。
食らうのは彼女のトリガーハッピーとあう性質と銃の技術。
一切の傷はつけない。ただ触れるだけでいい。



●簒奪者
「近頃の流行なのかい、こういう趣向は。こんばんはお嬢さん、いい夜だね」
 最早一度霧散すればもう、再構成すら許されぬ状況下で、敵の砲撃と爪撃にカウンターファイアをぶつけ、右方に逃れたディアナを迎えたのは長身の男であった。
 気取った態度で慇懃に礼をしてみせ、赤い瞳でディアナを見詰める。この鉄火場にあって余裕ぶった所作を崩さない。
「退きな、優男。顔面に弾ブチ込まれてくたばりてえってなら話は別だが」
「つれないことを言ってくれるね、仮にも今宵のダンスパートナーに。俺はミサオ――三千院・ミサオ。吸血猟鬼、君、名前は何と言ったっけ? 教えてくれよ、君の名前」
 名乗りを上げるは三千院・操(ヨルムンガンド・f12510)。常の飄々とした、無邪気かつ悪辣な態度は形を潜める。
 彼の中には三人の彼が住んでいる。そのうちの一人――ミサオが、ディアナと相対しているのだ。
「変な野郎だね。そんなに冥土の土産が欲しいならくれてやる。アタシは『ディアナ』だ。憶えて逝きな」
 突っ慳貪に言って手の内に新たな猟銃を召喚、銃口を上げるディアナに、ミサオは顎を撫でながらふぅむ、と息を漏らす。
「──ディアナ、君は随分と加虐嗜好が強いようだね。おまけに少しばかり粗野で血腥い。レディとしては頂けない」
 両腕を広げて演説をぶるように語るミサオに向け、ディアナは構えた銃だけではなく、複数の猟銃を宙に発生させ、ミサオを取り巻くようにして狙いを定める。
「うるせえ男だね。アタシは女である前に狩人だ。アンタの決める女の像に、アタシを填め込んでんじゃあないよ」
「いいや、君はレディだとも、ディアナ。一度全ての真実を嘘にしよう。『君は狩人ではない。ただの女だ』。君は銃を扱えず――宙に浮かべた銃は詰まり、俺一人すら殺すことは出来ない」
 ミサオは言いながら無造作に踏み出した。踏み出す一歩、踏んだ地面から黒い靄が溢れる。
「――そうら、試してご覧」
「言われなくてもブッ殺してやるよ!!」
 ディアナは銃のトリガーを引いた。激烈な反動に銃口が跳ね、弾丸は彼女がイメージしたのとは全く異なる弾道を描いて明後日の空に消える。
「?!」
「ほら、俺の言ったとおりだろう?」
 当然ながらミサオには傷一つ無い。悠然と歩くその足跡から黒い霧が立ち上った。ディアナとミサオを取り巻くように、上った黒い霧が渦巻く。
 ミサオは右手の平を空へ向ける。金の光の粒子が漏れ、そこから幾匹もの金の蝶が舞った。ディアナは反射的に蝶を、引いてはミサオを穿つべく宙の銃より弾丸を放とうとする。しかし、くぐもった銃声。
「は――?」
「扱いが下手なのだから、無理をしてはいけないよ、ディ。可哀想に、君は自分が制御できないんだね。だけどもう大丈夫――」
 ミサオはディアナを愛称で呼びながら、憐れみを込めて囁く。浮かべた蝶が群れ成し、ディアナへ向けて飛ぶ。
「君は病気だったんだよ。全て忘れて眠れば、きっと良くなるさ」
 ミサオは優しく言った。何の保証もない虚言を、さも優しく詠うように嘯いた。

 最初の一発は種を明かせば、相手の真名を掌握すると同時に話術へ載せての催眠術により外させた。
 次の斉射は、呪詛による感覚のブロックと幻覚により、そもそも発射させず――『弾詰まりが起きた』という幻を現実として刷り込み、やり過ごした。ここまでで、敵の、『自分の技能に対する自信』を揺らがせる。
 そして最後。放った蝶の群れは『掠める金色』。
 最初の二度は虚言と幻覚と催眠によるもの。だが最後の是は違う。金色の蝶は真実を喰らう。――彼女が得意とする銃の技術、そしてトリガーハッピーという性質を喰らう。
「うッ、ああああああああ、止め、止めろッ!! アタシは……アタシはっ!!」
 それは彼女からすれば根源、存在するために要する衝動そのものだ。けれどミサオは躊躇わない。
「怖がらないで。一切、傷なんて付けやしないからね」
 ディアナの悲痛な叫びを、ミサオの酷薄な笑みが見下ろしている――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

居待月・穂波

あれが吸血ナントカのカントカね。ふーん、服のセンスはいいんじゃね?着てンのがオニブスじゃ台無しだけど。
血まみれなってるあたしの方がよっぽどイケてるでしょ☆
だからあんたも血まみれにしてやんよ。あんた自身の血だけどさぁ!

挑発しまくってタゲ向いたらスーパー・ジャスティスで離脱or突撃。
ちゃけば格上っぽいし捉えられないよう動き回りつつ一発ぶちこむ隙を狙う。

何発撃たれようがあたしだけ狙ってくる時間が増える分あたしの勝ちってコトで。
吸血ナントカ、もうコウモリでいいか!
コウモリには拳は使わない。神の御利益、全力顔面キック。
こっちもいい加減ガンギレ極まってるしハデに鼻血ぶちまけな!



●バチギレキックコンボ、御利益添え
「ヤバ、ちょっと遅刻? でもまだ生きてるっぽいしおけまるだよね」
 ディアナの射程攻撃がミサオによって封じられた折、当に駆け来て突出したのは居待月・穂波(カリスマギャルゴッド・f18787)。先行していた猟兵に軽口を叩く。
「あたし、そいつにちょっと用があるんよね。譲ってもらっていい?」
「おやおや、それは失礼。治療は済んだ、下がるとするよ」
 慇懃に言って飛び下がる猟兵――ミサオと入れ替わりに穂波は前に出た。
「アンタが吸血ナントカのカントカね。ふーん、服のセンスはいいんじゃね? 着てンのがオニブスじゃ台無しだけど」
「今度はメスガキのお出ましってかい――ホントタネの尽きなさだけなら大道芸人級だね、アンタらは。言ってくれるじゃあないか、死ぬ覚悟は出来てんだろうねぇ……!」
 ディアナは既にミサオのユーベルコードの影響下にあった。銃の技術を、トリガーハッピーという性質を大半奪われていたが、しかし怒りでそれを補い銃を握り、穂波と対する。
「その三下ワル台詞がブスさに拍車かけてんのなんでわかんないの? 血まみれになってるあたしの方がよっぽどイケてるでしょ☆ あんたも血化粧したらマシになるかもだし、血まみれにしてやんよ。――ただし、あんた自身の血でだけどさぁ!」
 立て続けに挑発しつつ、穂波は全身に黄金のオーラを纏い、姿勢も低く踏み込んだ。
「血まみれがイイってんなら、あんたをもっと真っ赤にしてやるよ、クソガキが!!」
 正面切って突っ込んでくる穂波目掛けディアナは右手の銃を発射。射出されるのは不可視の銃弾、インビジブルハッピー。穂波はサイドステップして銃弾を回避。ディアナは空中への銃展開を行わない。おそらく、前の猟兵の攻撃が尾を引いている。
 この状態となってなお、ディアナは格上の敵だ。穂波は挑発的な態度とは裏腹に、慎重に攻撃のタイミングを計る。大胆な突撃から機敏なステップによる攻撃回避を経て、敵の苛立ちを誘う。
「ちょこまかちょこまかと、大口叩く割にはビビりなんだねえ、クソガキ!」
「そっちこそそんな『銃こそ全て』みたいな見た目の割に、あたしにさえ当てられないんじゃ終わってるね、吸血ナントカ! ちょっとはまともに狙ったら?」
 穂波は手をパンパンと鳴らしながら、挑発に挑発で返す。
「ナメくさりやがって……!!」
 ディアナは思わず、といった風に左手にもう一丁の銃を召喚、二丁同時のインビジブルハッピーを撃ち放つ。穂波は跳躍して回避――
「死になッ!!」
 空中なら逃げ場はあるまい、と踏んでディアナは宙の穂波に狙いを定め――
「って思うじゃん? 残念っ!」
 急降下してくる穂波に、目を剥くこととなった。
 穂波の身体を覆う黄金のオーラは、戦闘力の増強だけではなく、彼女に飛行能力を付与する効果もある。充分な加速距離がなくとも、その速度は凄まじい。
「吸血ナントカ――いやもう、あんたなんかコウモリでいいや! コウモリ! あんたごときに拳なんて使ってやらない。喰らって鼻血をブチ撒けな! 御利益満点、全力ゴッド顔面キィーーーーック!!」
「あがッ……!?」
 ディアナの顔面に穂波の踵がめり込み、吹き飛ぶ。穂波は膝を曲げて着地するなりほぼバウンドするような勢いで膝のバネを解放、ディアナへ高速で肉薄し追撃! 左胴、右腕、跳躍しての後ろ回し蹴りでダメ押しの顔面もう一発。穂波の全力・全速力を篭めたキックコンボが、ディアナの身体を十メートル余りも吹き飛ばし、未だ残っていた檻棺に叩き付けるッ!!

大成功 🔵​🔵​🔵​

リリヤ・ベル

【ユーゴさま(f10891)】と

ユーゴさま、お怪我はございませんか。
あれが、ここをつくったヴァンパイア。
……――ゆきましょう。

鐘の音が呼び出すのは、ひかり。
ゆらぐ陽炎。幾重にも姿を揺らがせ、きらきらと燦めく嵐。
目を眩ませて、剣の届く距離まで近付きましょう。

隠して、隠れて、目立たないよう。
息を潜めて、そうっと追いかけて、……ほんの少し物音を立てて。
――そうやって近付いてきた、気付かれていないと思い込んでいる獲物を捕らえるのは、“楽しい”でしょう?
わたくしへと誘き寄せられたなら、それで良いのです。
ユーゴさまの道を、作れれば。

狩りは、ひとりでするものではありませんもの。
わたくしはかしこいのですよ。


ユーゴ・アッシュフィールド

【リリヤ(f10892)】と

ああ、なんとか無事だ。
さて、正真正銘の化物だな。
これだけの人数が居ても怯むどころか昂るのか。

リリヤには自身が最善と思う事をやってもらったが
驚いたな、こんな事が出来たのか。
俺はリリヤを信じて機を待つとする。

――今だな。
久方ぶりに剣に火を灯したんだ、もう少し付き合えよ。
代償が欲しいなら、ここから先は俺の命を焼べてやる。
お前が喰うのは敵と俺の命だ。
この剣がディアナを滅ぼすかどうかは分からない。
だが、今この場に居る仲間の次に繋がる"何か"になればいい。

"剣を抜いた"俺を止めたいなら、攻撃がたりないぞ。
リリヤが繋いだこの距離は、俺の剣の届く距離だ。
いくぞ、ディアナ!



●光嵐、焔刃を導く
「かはっあ、ははっ、ハハハハハハハ!!!」
 折れ飛んだ檻棺の狭間に埋もれて、血を吐き、それでもなお女は笑った。狂を発したか、或いは猟兵らを未だ嘲弄し嗤うか。その内情は知れぬ。
「そうかい、そうかい――これが狩られる側になるってことかい。怖いねえ、恐ろしいねえ、だが――まだ終わっちゃいないよォ!!」
 ディアナの外套が血を孕む。彼女の内側から溢れた、過去に狩った獲物の血が、ディアナを束の間強化する。
 多数の猟兵が重ねた物理攻撃、精神攻撃の影響すら振り切って――それは最後の灯火を燃やすような切迫を伴う全力。
 今一度、虚空に招来された猟銃の群れが、全方位へ無差別の銃火を放つッ!! 猟兵らは各々の手段で防御・後退する。
 その中――ディアナから見れば後方に、二名一組の猟兵の姿があった。
「ユーゴさま、お怪我はございませんか」
「ああ、なんとか無事だ」
 咄嗟に天からの光――ジャッジメントレイを降らせ、銃弾を遮蔽する壁としたのはリリヤ・ベル(祝福の鐘・f10892)。その庇護を抜ける銃弾を辛うじて剣で弾き、リリヤを守ったのはユーゴ・アッシュフィールド(灰の腕・f10891)である。
「殺してやるよ、猟兵共オォッ!」
 ひっくり返った金切り声で叫ぶディアナに、ユーゴは冷静に呟く。
「正真正銘の化物だな。これだけの人数が居ても怯むどころか昂るのか」
 ユーゴとリリヤのみではない。この場には四十数名からなる猟兵がおり、彼ら一人一人がダメージを与え続けてこそ今の状況がある。それぞれが一騎当千の兵、それに囲まれながらにして哄笑するその胆力、いかばかりか。
「あれが、ここをつくったヴァンパイア、なのですね。……――ゆきましょう、ユーゴさま。わたくしが、道を作ります」
「策があるのか」
「はい。あのヴァンパイアは、一人で狩りをしますが――わたくしにはユーゴさまがいます。……ユーゴさまにはわたくしがいます」
 リリヤは淡く微笑み、しかし気丈に言う。
「狩りは、ひとりでするものではありません。狼とて群れてえものをねらうものです。――それを、おしえてあげましょう」
「ふ」
 ユーゴは胸を張るリリヤの頭を一撫でして笑う。
「賢いな、リリヤは」
「ええ。わたくしはとってもかしこいのですよ」
 笑う少女に仔細を訪ね、ユーゴは未だ焔を纏うルーンソードのグリップを確かめた。

 突如として、戦場に鐘の音が鳴り響いた。それこそはリリヤのユーベルコードに伴い鳴り響く祝福の鐘。奏でられる鐘の音に伴い、綺羅星のように瞬く光の風が辺りを満たした。
「こいつは――」
 ディアナは燦めく嵐めいた空気の正体を図りかねたように唸る。周囲を満たした光嵐は、その向こう側の景色を揺らがせ、幾重にもぶれさせた。
 光と嵐と陽炎を重ね合わせた視覚攪乱の策。リリヤによるユーベルコード『真鍮の鐘』の一活用である。
 リリヤは『ドラセナ』を抜き後ろ手にして、足音を潜めてディアナの背後より近づく。隠れ、隠して、目立たぬようにと息を殺し、迫る。
 煌めく光の嵐が荒れ、遙か遠くで戦況を伺う猟兵の姿を間近に映し、ディアナの視覚を欺瞞する。ディアナは動くことなく仁王立ちになり、周囲に映り込む人影を手当たり次第に召喚した猟銃で撃ち抜くが、当然の如く血は流れず、虚像が揺らめき消えるだけ。
 リリヤはそっと近づく。剣が届く距離まで、あと少し――
 さり、と焦土を踏む音に、ディアナの耳が跳ねた。
 リリヤが踏み込めば刃が届く――その距離まで近づいた瞬間、ディアナはぐるりと身を廻し、猟銃をリリヤの顔面に突きつけた。
 凍えたように身を縮ませるリリヤに、ディアナはにんまりと笑う。
「どうしたんだい、こそこそと。さてはこの光の風もあんたがやったもんだね、メスガキ。その後ろ手にしてんのは刃物だろ、猟兵ってのはやることがいちいちえげつなくておっかないねぇ?」
「……、」
 あと僅か。あと僅かで刃が届いたのにとでもいう風にリリヤは唇を噛んでみせる。ディアナは唇の端を更に吊り上げた。実に愉しげに。
「残念だったねぇ、あとちょっとだったのに! いいとこまで行ってたが、あんたの努力はここでご破算だ! 最後に言い遺すことがあるなら聴いてやるよ、口が利けるなら言ってごらん?」
 勝ち誇った風なディアナの言葉に、リリヤはしばし逡巡するように唇を震わせた後――
 ふ、と笑った。
「――こうやって近付いてきた、気付かれていないと思い込んでいるえものを捕らえるのは、“楽しい”でしょう? あそびになった狩りは――慢心をうむのですよ」
 自分の役割は、これで終わり。奇襲するふり、捉えられたふり、追い詰められたふり。全ては、焔の剣をこの場に導くための演技に過ぎない。
 こおっ、と、紅い焔が視界の端に映った。迫る足音と戦意!
「……!」
 ディアナの視線が一瞬、揺れる。迷いを見て取った瞬間に、リリヤは銃口から首を逸らして横に跳んだ。一瞬の後にまずリリヤを殺すべしと放たれた銃弾が、彼女の頬を掠めて後ろに抜ける。間一髪の回避。
 立て続けに、金属と金属の軋り合う音が鳴り響いた。
「よくやった、リリヤ。――後は任せろ」
 ――ああ、この声だ。
 いつだって背中を押し、道を照らしてくれる声。
 転がり、リリヤが顔を跳ね上げた時には、視線の先で、ユーゴがディアナと打ち合っていた。

 幼き少女の成長とは凄まじいものだ。大規模な光の嵐、虚像を伴う視覚欺瞞から、足音を潜めての奇襲――途中で音を立てることで見破らせ、演技を交えて自分に意識を惹き付け、囮となる。
 全てリリヤの発案で、彼女が出来るといい、実際にやってのけた事だ。おかげで、間近まで無傷で切り込むことが出来た。
 ならば後は、彼女の信頼に応えるだけだ。
 が、ががが、がきんっ、がきいんっ!!
 燃えるユーゴの剣『灰殻』と、バトンの如く取り回される銃身が打ち合う。ぐるりとダンスめいたターンからの発砲、襲う不可視の銃弾を身を屈めて回避してユーゴは突撃、突きを繰り出す。
 蜂の一刺しめいて鋭い一閃をディアナは銃のストックで滑らせて間髪回避。血を孕み鋼鉄同等の強度を持った呪血骸装を翻し、その裾を刃のようにしてユーゴへ跳ね振る。
「ハッ、割り込みで殺されに来たかい、伊達男!」
「いいや。お前に引導を渡しに来た」
 ユーゴは呪血骸装を焔の剣で打ち払いつつ、心の裡で剣に――自らと縁を結んだ精霊に呼びかける。
 ――久方ぶりに剣に火を灯したんだ、もう少し付き合えよ。代償が欲しいなら、ここから先は俺の命を焼べてやる。
 ユーゴは火の鳥に自らの命を注ぎ、それを焔に変える。剣の焔が激しさを増し、空気をごおう、と震わせた。
「ッ」
 本能的な恐怖を煽るほどの火力。飛び退いたディアナは即座に召喚した猟銃の群れでユーゴに向けて斉射を叩き込むが、しかしユーゴは一歩も退かずに剣を振るった。焔が膨らみ、赤い軌跡を残して斬撃が幾重にも重なる。それは最早焔の壁めいて、ディアナが放った呪血の弾丸を一瞬にして焼き払う!
「“剣を抜いた”俺を止めたいなら、攻撃が足りないぞ」
 斬撃の軌跡に残る焔をその身体で裂きながらユーゴはそれこそ弾丸めいて前進!
 ――お前が喰うのは敵と俺の命だ。たっぷり味わえ。
 ユーゴが心の裡に告げれば、焔の輝きはいや増し、嘗てのユーゴの力の一端を垣間見せる。その刃は、まるで不死鳥の翼めいて赤く、猛々しく、美しい。
 ユーベルコード『灰焔』。焔の剣にて常の十倍近い速度での連続斬撃を叩き込む絶技。
 命を削る技であった。しかし、ここまで追い詰めた他の猟兵の砕身に、後に続く猟兵らの情思に報いるために、――そして、背に守る少女が繋いだこの距離のためにとあらば、何も惜しくはない。
「――いくぞ、ディアナ!!」
 ユーゴは咆え猛る焔の剣を身体を捲くように構え、正面からディアナに突っ込んだ。二度目の一斉射を三つの剣閃で作った焔壁でまたも灼き尽くし、最高速でディアナに肉薄。
「ははッ――そんな、何もかも諦めたような目をしてるくせに――」
 ディアナは、迫るユーゴの斬撃に猟銃を上げ受け太刀の構えを取る。
「おおォッ!!」
 戦吼ッ! ユーゴは裂帛の気合と共に振り下ろした剣で、防御すら許さず銃を両断!
 荒れ燃える焔がディアナの髪を、呪血骸装を炙る。ディアナは両断された銃を取り落とし、
「あッついねぇ……、火傷しちまいそうだよォ」
 諦念か、恍惚か、或いはそのいずれもか。想いが綯い交ぜとなった笑みを浮かべて、呟いた。
「お前は俺が、灰に還してやる。――地獄まで真っ直ぐに、迷わずに墜ちろ!」
 無防備となったディアナの胴に、肩に、腕に、首に、一瞬で七の斬撃が叩き込まれ――
「があぁぁっ、ああ、あッ――……!!!!!!」

 ああ、悪逆たる狩人が燃える。
 燃える、燃える、燃える――

 燃え落ちた聖堂を追うように、殺めた全ての少年少女らを追うように、苛烈な炎を上げて燃えていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

水衛・巽

正純さん(f01867)と

そうですね、マックス
お誂え向きにカスパールもいる

的に白薔薇の花冠でも着けますか
ならば貴女にも撃てるでしょう?ディアナ

作戦は正純さんに従い
目眩ましを兼ねた騰蛇奈落で全方位の黒炎の壁を作る
ディアナの弾丸もすべて焼き落とし
防御壁の中で咎討を借りる

焦れたディアナがバレットパーティを使う直前、
防壁へ一カ所揺らぎを作って再度敵の目標を誘導
魔弾論理と咎討へも黒炎を纏わせディアナの弾丸と相殺

ディアナが撃ちきる直前で防壁から飛び出し
狙撃準備が整うまで咎討で防ぎきる
斬魔鉄『本打ち』の味を貴女の心臓に訊きましょう

できないと言わせたいんですか、正純さん
魂を売った者を咎と言わず何と言うんです


納・正純

巽(f01428)と

敵がディアナなら、こっちはアポロンになろう
やるぜ、巽。悪魔に心を売ったものへの、魔弾の道筋を斬り拓いてくれ。漆黒の炎と……コイツでな
ヘイ、狩人。『コイツを撃つことができるか』?


敵へ巽を撃てるかという挑発を行い、初撃の目標誘導を行う
両手を開け、UCによる狙撃準備に入る 不可視の弾丸と、無数の弾丸の幾つかは巽に任せよう
今回の狙いは防御と反撃だ
敵の銃弾を空中での弾丸同士の衝突による跳弾を利用して全て弾き、そして敵の脳天さえも撃ちぬくような魔弾を実現させよう
『数撃ち』じゃ、研ぎ澄まされた『本撃ち』には勝てないということを教えてやる


『巽。俺がアイツを討つことはできると思うかい』?



●Der Freischütz
 ディアナとは、神話に曰く狩猟の女神なのだそうだ。
 皮肉だと思う。狩りをゲームに見立て、数多人を嬲り殺して来た女が、狩りの女神と同じ名をしているとは。

 ――いいさ。それなら、俺がアポロンになって、その一矢にてお前を射貫こう。

 男は槓桿を引く。
 薬室の中に、ただ一発の銃弾が送り込まれる。

 燃え上がったディアナは、その焔を最早自分では消し留める事さえ無く、煉獄の魔神の如く業火を纏って狂笑した。
 異様であった。最後の力を振り絞ったか、多数の猟銃が宙に浮かぶ。再三の全方位、一斉射。猟兵らは終わりを予感しつつも各々の方法で防御と回避を行う。
「巽。俺がアイツを討つことはできると思うかい?」
 不意に、男が問うた。
 遠距離より、ディアナの斉射を観察しながらの言葉だった。問われた青年は肩を竦め、涼しげに返す。
「――できないと言わせたいんですか、正純さん。私が答えなくとも、その短刀が答えを知っているはずでしょう?」
 青年は男の腰元を見やる。ベルトに差されている短刀の名を、青年もまた知っていた。
 永海・鋭春作、斬魔鉄製鎧通短刀。
 刃渡り七寸一分、腰二本樋、藍漆塗鞘、金目貫鋲頭、藍糸巻柄常組。刃銘――

『咎討』。

「悪魔に魂を売った者を咎と言わず何と言いますか。この一夜もこれにて最終幕です、マックス」
 青年は静かに歌劇に準えて、男を呼んだ。
「貴男がマックス。彼女がカスパール。魔弾の最後の一発は、その銃の中に在る。役者は揃いました。あとは――貴男が、魔弾論理を完成させるのみ」
「そうすれば幕は下り、物語は大団円、ってところか。――なるほど、こいつは外すわけには行かないな」
 男は笑った。既に装填の済んだライフルの筒先を上げ、歩き出す。
「しかしまた気の利いた喩えをするな。万に一つもないように白薔薇の冠でも被っておくか?」
「ふふ、私がアガーテ役ですか? ――ディアナの目も引けるでしょうし、悪くはないかも知れませんね」
 異世界の歌劇などディアナが解する訳もなかろう。笑って青年は護符をひと弾き。ひとりでに折れ曲がり紡がれた紙花を、髪に挿してみせる。
「似合うじゃないか。――さあ、やるぜ、巽。悪魔に心を売ったものへの、魔弾の道筋を斬り拓いてくれ。俺の魔弾はそこを通って――」
 男は先んじて、歩き出す。既に脳裏では計算が始まっている。膨大な弾道計算。着弾という唯一解を導き出す、世界を舞台にした必中定理の証明が。
      せいかい
「かならず、一射必殺に辿り着く」
 魔弾の射手、納・正純(インサイト・f01867)が言えば、
「ええ。微力ながらお手伝いしますよ、正純さん」
 鬼祓の術師、水衛・巽(鬼祓・f01428)が笑って答えた。
 二人は走り出す。この戦いを終わらせるために。

 数度目の一斉射のあと、荒れ狂うディアナへ、凜とした声が飛んだ。
「ヘイ、狩人。コイツを撃つことができるか?」
 今もまるで消える寸前の蝋燭のめいて燃え続けるディアナに挑発の声を放つのは正純である
 ディアナが振り返る。その表情は最早焼け爛れ、炎に覆われ、相対距離二十メートル。
 正純に示された巽が、一歩前に進み出る。その武装は刀と術符――遠距離戦には向かぬ。言ってしまえば、ディアナと射撃戦を演じ、まともに戦える武装ではない。
 ディアナは最早声帯も焼け爛れ、声と言える声も出せずにいる。しかして持ち上がった銃口は、“やってやろうじゃないか”と、ディアナの声を代弁するかのようだ。
「来なさい。この紙花を目掛ければ撃ちやすいことでしょう」
 巽の誘うような声に、ディアナの指が動く。全く同時、巽は刀印を切り、術式を発現。その名も『騰蛇奈落』。凶将・騰蛇の黒炎が燃え上がり、正純と巽の周囲を壁となって覆った。
 降り注ぐ不可視の銃弾、インビジブルハッピーがその表面で炸裂し燃え尽きる。
 しかしてディアナは銃弾を連射、連射、連射! 炎の壁が煽られ不気味な音を立てる。 如何に騰蛇の炎とて、長く保つものではない。
「巽」
 音止まぬ中、炎壁を維持する巽に正純がひゅっと投げ放ったものがある。巽は一瞥して受け止めた。――『咎討』。
「その黒炎とこいつで――俺の弾道を開いてくれ。いけるか?」
「十二分です」
 ひゅ、ひゅ、ひゅん!
 抜いた咎討を試し振り三つ、冴えた光を放つ刃を手に、巽は常と変わらぬ調子で嘯いた。
「斬り拓いて御覧に入れましょう」

 ディアナは、灼熱の中にいた。
 いつ終わるとも知れぬ熱。命が刻一刻と燃え尽きていくのが分かる。あの伊達男が放った炎が消えぬ。
 一人だけでも狩って、その血を飲めたならば、或いは持ち直せるかも知れない。事ここに及んで、彼女がしようとしたのはゲーム・ハントなどではない純粋な『狩り』だった。
 インビジブルハッピーを何十発と叩き込み、黒炎が透けるほどになったその時を見計らい、ディアナは宙に召喚した数百の照準を一点に集中。黒炎の壁を突き破るべく、一斉発射する。

 ――それが、二人の策であると知ることもなく。

 撃ち放たれた嵐のごとき血の銃弾。それと全く同時に、正純はトリガーを引いた。
 銃声をスタートピストルにして、巽もまた、走り出す。
 騰蛇の黒炎を通過した咎討の刃と、正純の魔弾が、漆黒の炎を宿す。
 無数の銃弾の前に身を晒した巽の通り道を、先に魔弾が唸り飛んだ。
 正純の放った魔弾は、血の銃弾の嵐のその一発一発を撃墜、跳弾、跳弾、跳弾跳弾跳弾跳弾跳弾跳弾跳弾跳弾跳弾跳弾跳弾跳弾跳弾跳弾跳弾跳弾跳弾跳弾跳弾ッ!!!! 巽が走る最初のスペースをこじ開ける!
 空いた弾幕の隙間を巽は走った。二十メートル程度、猟兵の脚力を以てすれば一瞬。黒炎を纏わせた咎討で、続く弾丸を弾き散らしながら!
 数射、彼の身体に炸裂する銃弾があった。しかし、血を流しながらも巽は止まらぬ。その手の中、咎討が黒く燃え立つ。
「斬魔鉄製鎧通短刀『咎討』が『本打ち』――心の臓にて、とくと味わえ」
 弾幕を駆け抜けた巽は血を流しながらも最高速でディアナへ至る。焼け爛れた肌に燃え立つ炎の下、見開かれたディアナの目と巽の視線が重なる。
 ――ドッ、と肉に重く突き立つ劒の音。既にディアナを焼く炎に黒炎が交わり、赤黒の――破滅の色をした炎へと変ずる。声無き絶叫。ディアナの胸に突き立った刃を手放し、巽がその横を駆け抜ける。
 宙を跳ね回る『魔弾』が、『論理』に導かれるままに、或いは、ディアナの、虚の叫びに喚ばれたように、血の弾丸を蹴散らして吸血猟鬼の方向へ飛んだ。
 しかし狙いはやや逸れている。それは或いは歌劇の内容のままに、アガーテを射貫くように、巽へ向かって迫った。

 巽は、笑う。
 ――全く、出来すぎた戯曲のよう。カーテンコールとしましょうか。

 巽が頭に戴いた白薔薇の紙飾りが触媒となり、ノータイムで炎の壁を作り出した。
 騰蛇の黒炎壁。
  魔弾が帯びるのと同じ炎。
   黒炎と黒炎は反発し合う。
 ――それが最後の変数。『魔弾論理』は、その変数の確定を以て結実する。
 
 Quod Erat Demonstrandum.
 斯くして魔弾は示された。

 反射した魔弾が、ディアナの頭蓋を完膚なきまでに貫き――
 それが最後。
 数多の少年少女を惨殺し、手前勝手なゲーム・ハントを繰り返した悪逆の狩人は、空気を震わせ爆ぜる赤黒の炎と共に、完膚なきまでに散華した。――二度と、人の形に結実することはなかった。
「来世生まれた時のためにレクチャーしてやる。『数撃ち』じゃ、研ぎ澄まされた『本撃ち』には勝てない。――冥土の土産に、覚えて逝きな」
 正純は、四散する吸血猟鬼にスナイパーライフルのバレルを肩に預け、傷ついた相棒の元に歩き出した。

「――証明終了」

 廃教会を舞台とした遊戯狩猟はこれにて終了。
 猟兵らの戦いは、未来に生じるはずだった犠牲を、確実に減じたことだろう。
 ――救えなかった命はある。
 ――失われてしまった命は、ある。
 けれどそれは、君達が制した戦いに、意味がなかったということでは断じてない。

 喪われた命にさよならを。前を向き、次の戦いに向かおう。
 誇れ。君達は、未来に消える数千もの命を救ったのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年07月05日


挿絵イラスト