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疑心群像グラン・ギニョール

#UDCアース

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#UDCアース


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●Grand Guignol
 ――――わからない。わからない、わからないわからない。
 照明が埃を焼く匂いに、思わずむせ返りそうになる。
 壇上に立つ若き主演女優は、舞台化粧に彩られたそのかんばせに苦悶の表情を滲ませていた。
 それは演じるべき役『フローラ』ではない、素の『自分』としての迷いだ。
(「どうして? どうして『フローラ』は孤独の中で魔物に縋ってしまったの? 友達や街の人に助けを求めなかったの? 何度も練習して、演じている筈なのに、今も答えが見出だせない……」)
 悶々としたまま、ぎこちない台詞と振舞いで演技をやり過ごす。
 ――ああ、そうして。スポットライトは拙い主演女優の姿をあぶり出すのだ。

 そして、クライマックス。地下牢から救い出した魔物に喰われてしまう、無残なラストを終えて――舞台は暗転。客席から響いた賞賛の拍手は、公演初日よりもずっとまばらであった。

「『フローラ』……あなた、本当にやる気あるの? あんなにもミスばかり」
「すみません、先輩。けれど私……できる限り、精一杯に演じたんです」
「ふざけないで! 監督も皆もどうかしてるわ。あなたなんかが主演に選ばれるなんて」
 舞台が終わった、その夜。誰も居ない控室の中で、先輩女優が『フローラ』へと罵声を浴びせていた。
 先輩女優の役どころは、『フローラ』の親友。けれど劇団内での関係は舞台での仲睦まじさとは真逆で、顔を合わせるたびに気まずい空気が流れていた。
「でも良いわ。明日が【花とビースト】の千秋楽ですものね。これでヘマしたらタダじゃおかないわよ」
「…………はい」
 ぎり、と歯軋りしながら『フローラ』はうつむく。最も失敗を恐れているのは自分だ、なんて――先輩を相手に言えるわけがない。
「ああ、そうそう。良いことを教えてあげる。
 ――――都市伝説、ご存知? 『舞台上には魔物が棲む』っていうの」
「……舞台上の、魔物?」
 思わず顔を上げ、先輩女優を見つめて訊ねる。
 先輩女優は「ええ、そうよ」と唇の端を釣り上げ、『フローラ』の肩に手を置いた。
「あなたってば、いつも魔物に足を引っ張られてばかり。
 ……けれど、本当にその『魔物』が現れたとしたら、どうする?」

 ――――あなた、喰われて死んじゃうかもね?

「…………あぁ」
 耳元で囁かれたその一言に、若き主演女優はくらりと目眩を憶えた。
 ああ、けれど。
 舞台のクライマックスのように、魔物に喰われてしまったら。
 ほんの少しでも、『フローラ』の気持ちがわかるかもしれない――。

●Briefing
「【花とビースト】――UDCアースの或る街で話題になっている、アマチュア劇団の公演よ」
 グリモアベースにて、小夜凪・ナギサ(人間のUDCエージェント・f00842)はポスターを広げながら、静かに告げた。
「舞台の概要は、こう。花屋の娘『フローラ』は不幸な事故に見舞われて両親を亡くし、天涯孤独となってしまうの。寂しさを抱えたフローラは、街外れの地下牢に封印された魔物と偶然出逢い、恋に落ちるの。けれど、魔物と心を通わせる彼女はいつしか、友人や、街の人々からも見放されてしまう。そして――」
 ――――最期は、バッドエンド。
 魔物はフローラを騙し、彼女の身体を喰らって地下牢から脱獄するという筋書きだ。
「そして、【花とビースト】の千秋楽当日。クライマックスに本当に現れてしまうのよ――『魔物』とでも云うべき、異形の化物がね」
 間違いなく『UDC』よ、とナギサは言い添える。
 そして、それを使役する親玉も居るはずだと。
「あなた達にはまず、『物語のクライマックスに襲われてしまう主演女優の救出』をお願いしたいの。彼女を救出しながら舞台を無事に終幕させれば、きっと次に繋がる手がかりも掴める筈よ」
「UDCが出現するのは、舞台上よ。だからあなた達には真っ先に主演女優を守れるよう、『舞台役者』の立場で潜入してもらうわ。
 劇団へのコネや観客の保護、情報統制は、我々UDC組織が責任を以て対処するから、あなた達猟兵は任務に徹して頂戴」
 戦場は違えど、頑張るのはお互い様よ。とナギサは信頼を込めた笑みを向ける。

「さあ、寝覚めの悪い夢は覚ませてしまいましょう。
 帰ってきたら、お気に入りのブレンドコーヒーを教えてあげるわ」

 ――ナギサは手元の『グリモア』をさらに輝かせる。
 程なくして、テレポートは始まった。


夢前アンナ
 夢前アンナと申します。おいでませ、舞台劇へ。
 第一章では、舞台上で奇襲を仕掛けるUDCを撃退しながら女優を守っていただくこととなります。
 本格的な戦闘は第三章からなので、心情・行動に重点を置いてご自由にプレイングを賭けて下さると幸いです。

●舞台
 クライマックスの際、登場するのは主演女優のみ。
 壇上は広々しており、技能およびユーベルコード使用に支障はありません。

●主演女優『フローラ』
『フローラ』は役名で、本名は別にあります。
 若手で初めての主演。もとより愛され気質のため、劇中の『フローラ』の心情を理解できない。
 千秋楽前の先輩女優からの一言で、魔物に対しての印象が揺れています。

●先輩女優
 OP冒頭にて主演女優をいびっていた先輩。
 役どころは『フローラの親友』。
 キツめの性格で、監督達の判断が気に食わない様子。

 グリモア猟兵の小夜凪・ナギサ(人間のUDCエージェント・f00842)は当リプレイでは全章通して登場しませんので、ご了承のほどお願いいたします。

 それでは、どうぞ佳き夢を。
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第1章 冒険 『舞台上の魔物』

POW   :    身体を張って、真正面から役者をかばう。

SPD   :    軽やかな身のこなしで魔物の奇襲をあしらう。

WIZ   :    派手な台詞や振舞いで注意を逸らす。

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●壱
 開幕のブザーが、劇場内にけたたましく鳴り響く。

「これより、劇団××公演、【花とビースト】を開演いたします。
 皆様、心ゆくまでお楽しみくださいませ――――」

 淡々とした案内が流れる中、控室では既に役者たちが揃って開演に備えている。
『フローラ』を担う主演女優は緊張のあまり、今もなお身体が震えている――それは初めて彼女を見た猟兵達でも一目で知ることができるだろう。
 UDCが登場する直後、舞台は騒然とすることは間違いない。
 故に、「猟兵がアドリブをしながら登場しても、格好良ければスタッフも観客も受け入れてくれる」ということだ。
 グリモア猟兵が話した概要の中に、新たなキャラクターを創作して立ち回るのも問題ない。混乱の中でも、主演女優や皆は受け入れた上でアドリブに対応してくれる筈だ。
 
 ――さあ、もうすぐ舞台の幕が開く。
 スポットライトはぎらぎらと、新しい役者の登場を待つかのように輝き続けていた。
須藤・莉亜
【WIZ】
「舞台ねぇ、普通に見てみたかったかも?」

僕は、フローラに死を告げる妖精さん役で舞台に上がろうかな。
ちょうど首なし馬も召喚できるし。
大鎌持ったヤツが、首なし馬に乗って急に出て来るってけっこうインパクトない?

「君はもうすぐ死ぬよ。それはもう無残にね。」
セリフは適当、その場のノリでそれっぽいこと言っとく。

魔物の注意を引いたら首なし馬と一緒に刈り取ろうかな。
「お前の死の原因はこいつらではない」
シナリオ壊しちゃいそうなら無言で魔物を倒しとこう。

あと、こっそり魔物の血を味見するのも忘れずに。


麻生・大地
「さて、舞台を台無しにしようとする大根役者の皆様には速やかにご退場願いましょうか」

ただし、素早く、静かに。
裏方が主演をくってしまっては意味がないですからね

【忍び足】【だまし討ち】【暗視】【先制攻撃】【二回攻撃】

【ハイドクローク】で隠密
奇襲者の背後から高周波ブレードで手早く解体します
出来れば向こうが僕の存在に気付く前にある程度仕留めたいですね

「この光景、はたから見れば、『姿の見えない化け物が、化け物を惨殺している』とでも捉えられるのでしょうか」

だけど、それでいい
化け物はどこまで行っても化け物

こんなにも醜悪なものと心を通わせることなんてできっこないのだと
それを分かってほしい


ミーユイ・ロッソカステル
舞台は魔物や地下牢なんてものが出てくるような中世の世界観。
このUDCアースよりも、私の故郷……ダークセイヴァーに近い雰囲気のはず。私の姿は、「役者の一人」として、自然に溶け込める、はずね。

「舞台上の魔物」と称されるオブリビオンが出現したならば、私の取るべき行動は一つ。
ユーベルコード「夜との闘い 第3番」を歌い、敵の注意を引きつけましょう。
敵の注意を引きつければ、そのまま攻撃に転じられる。一石二鳥ね?

……舞台上で歌う演出は、ミュージカルでなくとも多用されるもの。
故に、舞台の雰囲気を損なうことなく、警護の役に立てる。
……中断なんて無粋な真似をせずとも、問題なくしてあげるわ。


南雲・海莉
……『芝居とは生き様』だって
私を育ててくれた『義兄』は言ってたわね
教えてくれたことが役に立てばいいのだけど

リハーサルが終わった時点で、
軽く声を掛けたいわ
一群衆の代役として呼ばれた振りで
「初めての舞台で緊張しちゃって」

「兄の背中を追って、この仕事を始めたんだけど」
『猟兵』を『役者』に置き換えたら本当ね

「『理解でも模索でも無い
自分の全てで
その役を、抱えた背景全てを生きるんだ』
兄の言葉の意味を、知りたくて飛びこんだの」

いつかの『義兄』の言葉、役に立つかしら?


UCも使用
防御力を上げていつでも庇えるように
芝居としては一緒に喰われたことになるのかしら?
守りに徹するわ
退治する英雄役は他の猟兵さんにお願いね


リダン・ムグルエギ
役者?やーよ、面倒くさい
アタシは舞台に立つ人を飾るのが仕事なの

衣装係として参加
他の人が舞台に上がる際、その役の衣装をアイテムのミシンで即作成して渡していくわ
こういうのは見た目が大事なの
希望に沿った服を手掛けるわ

あとは…フローラ役の人の服にも花柄の意匠をワンポイント加えさせてもらうわ

アタシのコードは衣装を見たものの五感を操るの
だから主役の彼女を見てる観客やスタッフ、そして怪物の五感を操れるハズよ
そして、錯覚させるの。注目させるの
この劇の真の主役は猟兵さん達だって
視覚、聴覚
猟兵達の一挙一動を強く強調し印象付けることで、フローラ役の人の危険を減らすわ

役者さん(PC)や他の人との対話等、アドリブ大歓迎


太刀川・明日嘉
孤独って苦しいわよね
私にはわかるわ、フローラの気持ち
だけどね、この魔物は縋ってはいけないものなのよ
だから、私たち猟兵があなたを守るわ

【POW】
魔物が現れるまでは近くに待機しておきましょ
来たら体を張って女優をかばうわね
多少の攻撃は大丈夫、痛くない
激痛耐性が私の意識を強く保ってくれる
さあ、黒剣の騎士がお相手するわ

攻撃が激しいなら黒剣解放・梅の出番ね
攻撃は受けるけれど、ダメージは全て別次元へ流してあげる
私がするべきはとにかくこの子を守ること
動けなくったって、問題ないわ


レナ・ヴァレンタイン
※他猟兵との絡み大歓迎

――悲恋、というよりは寂しい女性がただただ悪い魔物に食い物にされてるだけではないか?
芸術というものに疎い私の感性の問題か?

だが、今回は覆させてもらう
フード付きの外套をかぶり、マスケット銃と拳銃をぶらさげた『狩人』
それが今回の私のロール

魔物と『フローラ』の間に飛び込み、マスケットの一撃で牽制、さらにクイックドロウで拳銃弾をしこたま見舞って相手を退かせにかかる
あまり二人の距離が近いと近接戦が得意な連中には辛かろう

「嗚呼、我が愛しのフローラよ。たとえ我が行いが二人を引き裂こうとも。私は、貴女が失われることを赦せない」
「たとえ貴女が振り向かずとも、貴女を害するすべては私が払おう」


コーディリア・アレキサンダ
「牢から出ようとしたのかもしれないけれど、無駄だよ」

『縛り、支配するもの』を起動。現れたUDCを拘束しよう
UDCを「魔物」としつつ、ボクはその「魔物」を牢に閉じ込めていた魔女になる、というわけだね
……これ大丈夫? 辻褄合わせは任せよう、得意な人にね

ふわり、舞台の上から急に降りて来れば注意も引けるぐらい派手な振る舞い……ではないかな
着地は魔法でゆっくりね


魔物――悪魔に喰われるのはボクだけでいい

「邪魔させてもらうよ。あくまで、悪魔らしく」


張・小龍
演技のことはよく分からないのですが、フローラさんの行動を疑問に思います
なので彼女を守りながら疑問をぶつけてみたいと思います

「私はあなたに問いたい。乙女よ。あなたは何故迷いながらこの場に立っているのですか?」
「周りに助けを求めず、答えを出さないままに魔物に縋ってしまっている。魔物に喰われてしまえば、救われるとでも思っているかの様に」

彼女は今、気付かないまま『フローラ』になりかけているのではないのでしょうか?


ボクは肌も髪も真っ白なので、角を花の飾りで隠して白い花の精と見える衣装で舞台に立ちたいと思います


魔物はドラゴニアン・チェインの鎖で動きを封じるように、怪力とグラップルを併用して抑え込みます


未来院・魅霊
WIZで対応するぜ。

「お姉ちゃん、危ない!」
フローラの妹、ミレイとか適当にそういう役柄を名乗って舞台に上がるぜ。
舞台に上がったら、そのまま一曲二曲即興で歌って注意を集めようか。

お姉ちゃん、何を怖がっているの?あなたには家族がいる。友達がいる。
魔物だけがあなたの友達じゃないでしょう?みんなあなたが大好きなのよ。怖がらないで、私たちの顔を見つめて?
“フローラ”に呼びかける歌。

歌い終わると、“主演女優”に向かってささやくように。
「舞台の上では別人になれる。そう、アンタとフローラは別人だ」
「……他人の気持ちなんて、どう言い繕っても、本当の意味で理解でなんてできないんだぜ、楽になりなよ、おねーちゃん」


暗峠・マナコ
ブタイゲキ、ですか。皆さんとてもキラキラされていてとてもキレイ・・・なはずなのですが、ご様子を聞くに、本来はもっとこれ以上にキラキラされている筈なんですよね? 

私の姿は真っ暗なので、『フローラ』さんと同じ衣装を着れば『フローラの影』として振る舞うことが出来ませんかね。『フローラ』さんと一緒に手を組んで踊って【軽やかな身のこなしで魔物の奇襲をあしらい】ながら、『フローラ』と『フローラの影』の対話のように演出は出来ないでしょうか。
ねぇ私、私は本当にそれでいいと思っているの?決められた暗い未来ではない、自分の希望を輝かせるためのキレイな未来に手を伸ばしたくはないの?



時はほんの少し遡り、リハーサル直後の楽屋内にて。
 リダン・ムグルエギ(宇宙山羊のデザイナー・f03694)は小さくあくびを漏らしながら、ミシンオブゴートをその手に喚び出した。思い描いた衣装を一瞬にして創り上げる、リダン愛用の特殊ミシンだ。
「……これは、ミシン? あなたは役者にならないの?」
「役者? やーよ、面倒くさい。アタシは舞台に立つ人を飾るのが仕事なの」
 偶然居合わせた南雲・海莉(コーリングユウ・f00345)の問いかけに対し、リダンは気だるげにそう返す。
 リダンが選んだ役割は、裏方の衣装係だ。
 アタシの作戦(デザイン)は今に分かるわ――と、眠そうな瞳を鋭く細めては。
「さ、あなたの衣装も仕立ててあげる。どんなデザインをお望み?」
「ありがとう。私は、そうね……群衆役として参加するから華美すぎないものを――」
 海莉が希望を述べ終える頃には、すでに精巧な衣装が出来上がっていた。

 そのとき。
 ガチャ、と楽屋のドアが開く。

 こわばった顔で入ってきたのは、【花とビースト】の主演女優だった。
 鏡の前の椅子に腰掛けたところで、海莉は彼女へと声をかける。
「私、代役で急遽呼ばれたの。初めての舞台で緊張しちゃって」
「そうなんですか? 奇遇ですね、私もドキドキしていたんです」
 コミュ力に長けていたおかげか、主演女優とすぐに打ち解ける海莉。
「兄の背中を追って、この仕事を始めたんだけど」
「……ということは、お兄さんも同じお仕事をなさっているんですね」
「ええ、まあ」
 同じお仕事――『猟兵』を『役者』に置き換えれば、この話も嘘ではない。
 義兄との数年間の生活を思い返しながら、海莉は話を続ける。
「『理解でも模索でも無い。自分の全てで、その役を、抱えた背景全てを生きるんだ』――兄のこの言葉の意味を、知りたくて飛びこんだの」
「……自分の全てで、その役を」
 ぽつり、ぽつり。主演女優は言葉を反芻する。
(「『芝居とは生き様』……自分自身を、見失わないと良いのだけど」)
 きっと、届いたわよね。義兄の面影をふと思い浮かべ、海莉は小さく微笑んだ。


 ――――斯くして、舞台の幕は開かれた。
 両親を喪う悲劇から始まり、地下牢の魔物との出逢い、友人や街の人々との別れまで。
 目立った滞りはなく、順調に芝居は進んでいく。

 そして、物語は遂にクライマックスに差し掛かる。
 暗がりの舞台に一つ、ピンスポット。悲劇の娘『フローラ』を照らし出した。

「嗚呼、地下牢のあなた……其処に居るのでしょう?」
 震える声で『フローラ』は語りかける。
 魔物はなにも、答えない。
「私はもう、いいの。あなたが居れば、何もいらない」
 ――ね、私と共に生きましょう?
 まるで、深淵に触れようとするかのように。手を伸ばした、その瞬間。

『フローラ』のその手を絡め取るべく、“紫色の触手”が舞台の上方から垂れてきたのだ。

「ッ!?」
 ぬめりとした感触を指先に感じ、主演女優は小さな悲鳴をあげる。
 このままでは、彼女は舞台から姿を消すことだろう。
 けれど――そうはならなかった。
 何故ならこの物語には、“特別な続き”が存在するからだ。

「――危ないわ、私。もうひとりの私」
「えっ……?」
 そう囁きながら主演女優の手をとったのは、暗峠・マナコ(トコヤミヒトツ・f04241)だ。
『フローラ』とまったく同じ衣装を身にまとった黒の娘は、まるで彼女の影のよう。
 くるり、くるり。舞台を廻る、娘たち。
 リダンが衣装に施した花柄の意匠が、暗がりの中できらめいた。

「おい、幕をおろせ! 幕を!!」
「落ち着きなさい。舞台はまだ続いているわ」
 舞台袖では、混乱するスタッフをリダンが諌めていた。
 アンニュイな溜息を漏らしては、「よく観て」と顎で舞台を示す。
 ――ゴートリック・ファウスト。
 衣装に仕込んだ暗示は、観客やスタッフたちの五感を操作する。
(「『GOATia』の衣装に誰もが夢中……本番は、ここからよ」)
 これよりこの舞台は、リダンの衣装を身にまとった猟兵たちに注目が集まることだろう。

 一方、壇上では。
 マナコが『フローラ』をリードしながら、触手の奇襲をかわしていく。
「ねぇ私、私は本当にそれでいいと思っているの?」
「どういうこと? ……か、影の、私」
「自分の希望を輝かせるための、キレイな未来がきっとあるはず。それに手を伸ばさないの?」
 ――――だって、私はその“キレイ”を観たいから。
 美を求めるマナコは、静かに問いかける。
 本来の、もっとキラキラしたブタイゲキを知りたいからこそ。
「ねぇ、私。どうか暗い未来に囚われないで」
 マナコと『フローラ』が舞踏を続ける中、触手の塊はずるりと舞台上に降りてその姿をあらわした。
 その直後、背後からの斬撃が触手の塊を襲う。
 斬撃の正体は、高周波ブレード【ゲブラー】の刃。
 麻生・大地(スチームハート・f05083)がハイドクロークで姿を消しながら、奇襲を仕返したのだ。
(「さて、舞台を台無しにしようとする大根役者には速やかにご退場願いましょうか」)
 大地は高周波ブレードを構え直し、静かに肉薄していく。
 戦いの中、ふと思う。観客からの視点は、この光景はどう映っているのだろうと。
(「『姿の見えない化け物が、化け物を惨殺している』とでも、捉えられるのでしょうかね」)
 ふ、と小さく笑みを漏らした。それでいい。
 化け物は、どこまで行っても化け物なのだ――それは、生身の身体を奪われた大地自身にも当て嵌まるのかもしれない。
 しかし触手の塊は切り刻まれようとも、分裂し、追うように、求めるように、『フローラ』を付け狙う。
 猟兵たちの戦いでなく、あくまで『フローラ』に固執し続ける。
 この触手たちを使役するUDCの目的は、未だ分からない。
 塊の中から新たに生えた触手が、ふたたび『フローラ』に触れようとする――が、
 空間を裂くように大きく響いた、銃声。
 外套を翻し、レナ・ヴァレンタイン(ブラッドワンダラー・f00996)が触手と『フローラ』の間に飛び込んだ。
 水銀の弾丸に苦しむ触手の塊たちへ、レナは容赦なく解放者メイヴの銃弾を浴びせる。
 触手群が怯み、舞台の端へと離れたところで、『フローラ』は呼吸を整えながらレナに訊ねる。
「あなたは……?」
「嗚呼、我が愛しのフローラよ。私は只の名も無き『狩人』。貴女を、失いたくなかった」
 目深に被ったフードから、彼女――ないし、彼の顔を窺い知ることはできない。
 レナはふたたび、銃口を触手に向ける。
「狩人さん……あなたの気持ちには、応えられないわ。だって、私は、」
「かまわない。たとえ貴女が振り向かずとも、貴女を害するすべては私が払おう」
 このままでは本当に、この娘が魔物に食い物にされるだけなのだから。
 幾度もの銃声がこだます中、『フローラ』……否、主演女優の瞳は迷いで揺れていた。
 “舞台上の魔物に喰われてもかまわない”――その想いを抱いた瞬間、『フローラ』に近づけるかもしれないと思っていたのに。
「――乙女よ、私はあなたに問いたい」
 そのとき、ふわりと。
 小柄な少年が、『フローラ』を護るように傍らへ降り立つ。
 龍の角を白の花飾りで隠した張・小龍(飛竜子・f03926)が、静かに問いかけた。
「あなたは何故、迷いながらこの場に立っているのですか?」
「真っ白な……お花の、妖精さん? 私は、迷ってなんて」
「では、何故目を逸らすのです。今の貴女は、魔物に縋ってしまっている。周りに助けを求めず、答えを出さないまま」
 小龍はさらに問いを重ねながら、レナ扮する狩人を示すように視線を遣る。
 目が合えば、レナは「ここは任せてくれ」と言わんばかりに所員の小龍へ頷いてみせた。
「あの狩人さんは……」
「私が此処へ、導きました。もし魔物に喰われてしまえば、自分は救われる――貴女は、そう思っていたのではないですか?」
『フローラ』の息を呑む声が、小龍の耳に確かに届いた。
 やはり、と小龍は確信する。
 彼女は、自分でも気づかないうちに『フローラ』になりかけているのだと。
 かつ、かつ。蹄の音が舞台上に響く。
 驚いた様子で『フローラ』が振り返れば、首なし馬に騎乗した須藤・莉亜(メランコリッパー・f00277)が触手の塊たちを斬り裂いていた。
 大鎌に、首なし馬。生気のない莉亜の瞳と目が合うと、『フローラ』は上ずった声で、
「で、デュラ、ハン……?」
「おや、説明が省けて助かるよ。僕が来たということは、どういうことかわかるよね」
 こて、と首を傾げながら莉亜は告げる。
 その間にも、新たな触手が這うように忍び寄る――が、
「君はもうすぐ死ぬ――けれど、死の原因はこいつらではない」
 白き大鎌――血飲み子を、大きく振るう。長く伸びた触手をすっぱりと断った。
 血飲み子の刃を伝って、濁った血の味が舌を刺激する。
 嗚呼、苦い。煙草と似たその味に、莉亜はうっすらと目を細めた。


 ――――わからない。わからない、わからないわからない。
 ずっとずっと、頭の中で廻っていた言葉。けれど今では意味合いが違う。
「私は……私は、どうすれば……?」
 頭を抱え、主演女優はか細い声で呟いた。
 猟兵たちの奮闘が功を奏し、幸いなことに『フローラ』は傷を負わずに舞台に立ち続けている。
 されど、彼女自身の疑心は拭いきれぬまま。新たに紡がれる【花とビースト】の物語は、どんな終わりを迎えるのか――。

「――お姉ちゃん、何を怖がっているの?」
「……!」
 未来院・魅霊(feature in future・f09074)が『フローラ』の顔を覗き込み、あどけない声で訊ねた。
「……お姉、ちゃん? あなたは――」
「私よ、妹のミレイ。生き別れた後、ずっとお姉ちゃんを探していたの」
 また逢えて嬉しい、と『ミレイ』は微笑む。妹に応えるように、『フローラ』もややこわばった顔ながらも笑みを返した。
 淡い色がうつろう長髪をふわりと揺らし、魅霊は前に立つ。
 すぅ、と静かに息を吸い、披露するのは即興の台詞をのせた歌。
 迷い続ける『フローラ』に手を差し出しながら、先程と同様に微笑を浮かべ、魅霊は語りかける。
「ねえ、お姉ちゃん。あなたには家族が、友達がいる。魔物だけがあなたの友達じゃないでしょう? みんな、あなたが大好きなのよ」

 ――――だから、怖がらないで。私たちの顔を見つめて?

「聴け この叫びを 見よ この光を――」
 魅霊のあたたかな歌が終わりを迎えた直後、新たに響くはミーユイ・ロッソカステル(微睡みのプリエステス・f00401)の高らかな歌声。
 昏き夜を賛美するその歌を聴いた触手の塊は、敵意の感情を抱くと同時にミーユイへと近づく。
「――星の輝きは 全てあなたの敵である」
 その一節と共に、触手たちへと手招き。瞬間、まばゆき星の光と熱が放たれて塊を飲み込み、灼き尽くした。
「……いやね。これだけ歌ってもキリがないわ。けれど、舞台の幕引きまでもうすぐかしら」
 気だるそうに独りごちながら、ミーユイは『ミレイ』へ目配せする。「彼女に声をかけるなら、今よ」と。
 その視線に気づいた魅霊は、ふっと小さく笑ってみせた。
 そのまま彼は、“主演女優”へと近寄って、囁く。
「舞台の上では別人になれる。そう、アンタとフローラは別人だ」
「えっ……」
 先程までの『ミレイ』でない、素の魅霊の言葉を聞き、主演女優は目を瞬かせる。
「……他人の気持ちなんて、どう言い繕っても、本当の意味で理解でなんてできないんだぜ。楽になりなよ、おねーちゃん」
「――――っ」
 その言葉で、ようやく彼女は思い出せた。見失いかけていた、“自分自身”を。
「――見えてきたわね、ハッピーエンドが」
 姉妹を護るように、太刀川・明日嘉(色を失うまで・f01680)が前へ出でる。
 触手の刺突をその身に受けても尚、笑みは絶やさずに。
 意識を強く保ちながら、黒剣の騎士は語りかける。
「フローラ、今のあなたなら魔物に縋ったりはしないわよね。あなたは、もう孤独じゃないもの」
 もう、苦しまなくていいのよ。
 明日嘉の言葉に、『フローラ』は嬉しさが込み上げながらも、深々と頷いた。
「……! はい!」
「ふふ、安心したわ。その想いごと、私たちが守らなくちゃね。――さあ、黒剣の騎士がお相手するわ」
 触手の新たな攻撃を黒剣でいなし、明日嘉は触手群を次々に斬り結んでいく。
 一体、二体、三体――――ようやく、触手群も片手で数えられる程になった。
「――――まだ暴れられると思ったの? 無駄だよ」
 そのとき、コーディリア・アレキサンダ(亡国の魔女・f00037)の声が頭上から響く。
 舞台に浮かび上がった魔法陣から喚び出された鎖が、触手群を次々と縛り上げた。
 ふわり、とコーディリアが壇上に降り立てば、明日嘉は微笑んで、
「あら、派手な登場ね」
「あの魔物を閉じ込めていた魔女が、ボクだからね」
 ――こういう設定大丈夫? とコーディリアが周囲に訊ねれば、ミーユイは小さくあくびを漏らして傍らに立つ。
「ふぁ……いいんじゃない? 歌う吸血鬼だっているんだから」
「ならいいかな。最後まで邪魔させてもらうよ。あくまで、悪魔らしく」
 コーディリアの鎖がさらにキツく、触手群を捕縛する中――――スポットライトよりもまばゆい、光と熱の奔流が舞台を包み込んだ。
 ミーユイの歌う『夜との闘い 第3番』が終わりを迎えると、同時。
 先程まで群がっていた筈の触手たちは、跡形もなく消え去っていた。

 ――――これにて、終幕。暗転。
 緞帳が降りても尚、観客席からの拍手喝采は鳴り止まず。
「こんな盛大な拍手、聴いたこと無い……夢みたい。どうも、ありが――――」
 緊張の糸が切れたのか、主演女優は猟兵たちに礼を述べる前に意識を手放した。

 嗚呼、けれど。物語はまだ終わっていない。
 魔物をけしかけた本当の『黒幕』が、まだこの劇場の中に潜んでいるのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『(名/迷)探偵は俺だ!!』

POW   :    犯人の驚異的な身体能力に引き起こされたトリックと推理する

SPD   :    犯人の卓越された技術によって引き起こされたトリックと推理する

WIZ   :    複雑な専門知識や数式でトリックを証明する

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●弐
「無事に千秋楽は終わった、けれど――カーテンコールどころじゃないわ。
 あの子は……『フローラ』はどうしたの?」
 猟兵たちが控室に足を踏み入れて早々、声を荒げて詰め寄ってきたのは先輩女優だ。
 彼女の苛立ちを抑えるべく、猟兵のひとりが「救護室で眠っている。身体に異常はない」と伝えれば、
「…………そう。なら、いいのよ」
 深い溜息を吐き出しては、鏡の前の椅子へと腰掛けた。
 先輩女優は腕を組み、猟兵たちから目を逸らしながら言葉を続ける。
「【花とビースト】の千秋楽を盛り上げてくれたことには、感謝しているわ。
 あんな大歓声、初めてだった……。悔しいほどに、クライマックスはあなたたちが主役だった。
 あの場の誰もが――『監督』だって、認めていた筈よ」
 ぶっきらぼうな口振りながらも、取り繕いや嘘は感じられない。
 それでも、先輩女優の苛立ちは収まることはなく、猟兵たちを見渡して睥睨する。
「――でも、あんな“舞台上の魔物”が現れるなんて聞いてないわ。
 話せない理由はあるのかもしれない、けれど……まさか、」
 はた、と先輩女優は気づいた。彼らが何故、この控室にやってきたのかを。

「……もしかして、私を疑ってるの? それとも、スタッフや劇団仲間を?」

 ――――さて、此処までで猟兵たちが得た情報を整理しよう。


・主演女優『フローラ』を選んだのは、『監督』達の判断。
・先輩女優は、主演女優『フローラ』に毎日つらく当たっていた。
・『舞台上の魔物』の都市伝説を主演女優『フローラ』に伝えたのは、先輩女優。
・千秋楽当日、あらわれた『舞台上の魔物』は主演女優『フローラ』を執拗に狙っていた。
・先輩女優は、主演女優『フローラ』の容態を心配している。


 戦いの中で気になった箇所があったり、此処からさらに新たな情報を手にできるかもしれない。
 全ては、猟兵たち次第だ。
 次の目的は、『情報を糧に、魔物をけしかけた黒幕を探し当てること』。

 疑心群像グラン・ギニョール――――その果てに、待ち受ける結末や、如何に。



【補足】

※重要※

 このフラグメントはMSの脳内当てゲームではありません。

※重要※


 皆様から頂いたプレイングを参考にし、活躍できるように黒幕等を決めて、物語を進行していこうと思います。
「いいなあ」と思った推理を積極的に採用していきます。指定がない限り、格好悪い描写はしません。
 そのため、新たな情報の捜索や推理、リプレイ完成後の二度目以降のプレイング送信も歓迎です。
 お正月休みを利用してなるべくお早めにリプレイをお届けしようと思います、がんばります。
 勿論、このフラグメントからの参加も大歓迎です。

 皆様のご参加を、心よりお待ちしております。
麻生・大地
「そうですね…僕は少し『舞台裏』を見てみたいですね」

【情報収集】

舞台を作るのは演者や監督だけではない
その裏で活躍する、衣装、メイク、小道具、照明、そして音響
彼らも舞台を彩る役目を持っているのだから

まず第一に、その中で、特に役者と接する機会の多いであろう、『衣装』『メイク』

言っては何ですが、一番役者に『共感』を持つと思われ、そして、監督脚本を始めとした演出の関係者全てに繋がるのが彼らではないかと考えるからです

まずはフローラの役が決まってから今までの経緯をざっと聞いておきたいですね

どんな些細な事でも構いません
ここに至るまでの期間、『違和感』『疑惑』、調べ上げてみましょう



「そうですね……僕は少し『舞台裏』を見てみたいですね」
 麻生・大地(スチームハート・f05083)はぽつりとそう呟き、猟兵達に一礼したのち、控室を出る。
 大地が聞き込み対象に選んだのは、役者でも、監督でもない。
 衣装、及びメイク係だ。
 役者と接する機会の多い彼らならば、『共感』を通じ――主演女優が襲われた理由を、少しでも掴めるかもしれない。
 さっそくスタッフルームへ訪れた大地は、既に開かれた戸にノックを一度、二度。
「失礼します。此方に、衣装やメイク担当のスタイリストの方はいらっしゃいますか?」
「ええ、私達ですけれど。あなたは……もしかして、千秋楽を盛り上げて下さった助っ人さん?」
 ドアの前へさっそく駆け寄ったスタイリスト達は、「ありがとうございました!」と深々と頭を下げる。
 それほどまでに、舞台の成功は喜ばしい功績だったのだ。
 大地だけでなく他の猟兵達としても、情報収集において有利になることだろう。
 柔和に笑みを浮かべては、ひらひら手を振って、さっそく大地は本題に入る。
「いえいえ、僕はあくまで裏方でしたから。それより、『フローラ』役の女優さんについて聞きたいのですが……」
 彼女が主演に選ばれた経緯について、知るものは居ないか――大地がそう訊ねれば、
「あ、あの……私、少しだけ気になることがあるんです」
 と、おどおどとした様子で手を上げたのは若い女性スタイリストだ。
 大地は彼女へ視線を向ける。彼女の様子に、『違和感』を覚えたのだ。
「詳しく、お話をお聞かせ願えませんか?」
「は、はい。『フローラ』役が決まったのは、主に『監督』のゴリ押しに近いんです。
 私達スタイリストは、他のベテランの方が良いかと思ってました。今回の、フローラの親友役のあの人だとか――」
 若い女性スタッフが挙げた『フローラの親友』とは、さきほど控室で会話した先輩女優のことだろう。
 彼女はスタッフ達にも支持を得ていた。
 けれど、『監督』の意見に圧されて『フローラ』は新人の女優が選ばれた――。

(「これは……。この時点で、挙げられる可能性は“二つ”でしょうか」)
 暫し思索に暮れた大地は、ふたたびスタッフ達へ向き直って会釈を一つ。
「ご協力ありがとうございました。ただ……舞台が成功したのは、皆さんのセンスがあってこそですよ」
 そんな言葉を残した後、スタッフルームの扉を閉じた直後。

「ねえさっきの彼カッコよくなかった!? 私キュンってしちゃったけれど!」
「えーっ! 他にも素敵な助っ人さん居たでしょー! もっとチェックしてみましょうよー!」

 などと、黄色い声が聴こえたような気がした。
(「…………真剣に調べているのに、反応に困りますね」)
 大地は小さく肩を竦めて、苦笑しながらスタッフルームを後にした。

成功 🔵​🔵​🔴​

南雲・海莉
まずは劇団のHPなどで簡単に調べられる範囲で
スタッフや関係者の名前は覚えておくわ

儀式や祭具の形状なんて本当に何でも有りよ
……芝居そのものが儀式であり、
繰り返すことに意味があるとしたら?

『フローラ』さんにもう一度逢いましょう
「えっと、こちらに居られると聞いて……お疲れさまです」
初めての芝居を終えてホッとしたと伝えるわね
舞台の事で怯えているようなら
もう終わったのだからと落ち着かせるわ
大丈夫そうなら、舞台に対して違和感を伝えた上で
「この芝居の脚本って、確かオリジナルよね?」
監督や脚本家についても訊いてみる

情報は仲間と共有し、自分はできるだけ彼女の護衛として動くわ
UCも使って、目を離さないようにするわ



コンコン、とノックを一度、二度。
「はい、どうぞ」と微かな声がドアを隔てて返ってきた。
 彼女が既に意識を取り戻していることを確認し、南雲・海莉(コーリングユウ・f00345)は静かに救護室のドアを開いた。
「失礼します。えっと、こちらに居られると聞いて……お疲れさまです」

 室内には、真っ白なベッドが一床。
 上体を起こした主演女優は、訪問者の海莉と目があえば嬉しそうに微笑んだ。 
「はい。お疲れ様です。あなたは確か……海莉さん、でしたよね」
 あの時はありがとうございました――そう、深々と頭を下げる。
 海莉もほっと胸を撫で下ろしながら、ベッドの傍の椅子に腰掛けた。
「そんな、顔を上げて? 私も無事にお芝居が成功して安心してるから――。……?」
 そう話を続けようとした時、海莉は気づいた。主演女優の身体が、微かに震えていることを。
「…………」
 ――――そっと、彼女の背を撫でて、海莉は言葉を続ける。
「大丈夫よ。舞台はもう終わったのだから」
 あんな悪夢は、もう見なくて良いのだと。
 海莉がそう静かに囁やけば、主演女優は少しずつ震えを抑えながら頷いたのだった。
「……ええ、そうですね。ありがとうございます」
「――そういえば、少し訊ねてもいい? この舞台についてのことなのだけれど」
 落ち着き始めた主演女優に安堵しながら、海莉はさっそく本題に入った。
 先ず伝えたのは、この舞台への違和感。
 周囲が不審を抱くほどに、ゴリ押しで抜擢された主演女優。脚本の『魔物』と、都市伝説として囁かれた『魔物』――。
「この芝居の脚本って、確かオリジナルよね? 詳しい話を聞きたいの」
「は、はい。確かにこの【花とビースト】は、私達の劇団スタッフの発案を元に今年書かれた、新作のオリジナルシナリオです。
 監督と脚本家の先生も、熱心に取り組んでいたのですが……その」
「その……? なにか、あったの?」
 気まずそうに目を逸らす主演女優へ、海莉は眉を顰めて訊ねる。 
「――なんだか、変だったんです。お稽古の後もよく相談をなさっていたのですけれど、『儀式』だとか『贄』だとか……物語に出てくる筈のない不穏な話がたくさん出ていて」
「…………そう、なるほどね」
 新たな情報を、掴めた。深く頷いて、椅子から立ち上がる。
「私は、これから仲間の皆にその話を伝えに行くわ。……すぐ、この部屋にも戻るから」
「あ、あの! 私も――連れてってくれませんか? 邪魔は、しません。でも……」
 ぎゅ、と布団の裾を握り、主演女優は海莉へ向けて真っ直ぐに視線を向ける。
「向き合いたいんです。『フローラ』と。海莉さんが、海莉さん達が――本当に【花とビースト】の物語を終えて下さることを」
 その言葉に、海莉は小さく息を呑んだ。
 初めて会った時の、気弱な彼女でない――気高い誇りを抱いた、女優としての彼女を知って
「……わかったわ。けれど、私は何があってもあなたの傍に居る。
 舞台を終えても、あなたはまだ『フローラ』なの。だからこそ――私はあなたを「救う」わ」

 ――そう、これからも。
 “彼”と巡り逢うその時のように、戦い続けるのだと。

成功 🔵​🔵​🔴​

須藤・莉亜
僕は先輩女優さんに、『舞台上の魔物』の都市伝説を誰に教えてもらったかが気になるかなぁ?
有り触れた都市伝説ではありそうだけど、ちょっとタイミング良すぎない?僕の考えすぎかな。

あ、フローラさんに僕の万能血液で回復しても良いかな?一滴だけでも疲労回復ぐらいは行けると思うけど。
目を覚ましたフローラさんにも話を聞けたら良いな。
どういう経緯で今回の役に決まったのか聞いてみたい。

「うん、さっぱりわかんないや。この話を聞いて推理するのは他の人に任せるよ」


ミーユイ・ロッソカステル
……別に、誰もあなたがどうこうなどと言ってはいないのだけれど、ね

……落ち着きなさいな。必要ないことを自分からまくしたてるのは、美しくないわよ

……そう、先輩女優に向けて言ってのけて。上からの言葉ではあっかもしれないけれど――自分なりに、「冷静になれ」と言ったつもりだ

……『フローラ』を演じたあの子だけれど
……最初からあの子が主演に決まっていた訳だはないでしょう?
まさか当て書きじゃあるまいし
……どういう敬意でそんな大役に抜擢されたのか、ちょっと興味があるのだけれど。

……あなたが彼女を心配している理由、当ててあげましょうか。
もしかしたらああなっていたのは自分かも、って思ったら申し訳ないのではなくて?


スバル・ペンドリーノ
うん。とっても、素敵な劇だった

『黒幕』は『先輩女優』――では、ないと思うのよね
だってあの人、第一声で『フローラ』の無事を、「どうしたの」かを確かめた
犯人なら、奇襲が失敗したことは分かってる――「どこにいるの」で、良いと思うのよ。なぁんにも、不自然じゃないわ
ううん、舞台のスポットライトを気に入らない後輩に奪われて、滅茶苦茶にされたんだもの。その方が、よほど自然な言葉選びじゃなくて?
そう考えてみれば、練習中の光景だって、不甲斐なさを叱咤してるだけに聞こえるわ。言葉が過ぎた所は、あるんでしょうけど

だったら犯人が誰かなんて、決まりきってる。
『フローラ』を、愛していたんでしょう? 舞台の上の、魔物さん。



――――一方、控室では。
 この場に残留した猟兵達が、フローラの友人役である先輩女優に聞き込みを始めていた。
「じょ、冗談じゃないわよ! 私自身だって何がなんだか分からないっていうのに!」
「……落ち着きなさいな。必要ないことを自分からまくしたてるのは、美しくないわよ」
 声を荒げる先輩女優に対し、ミーユイ・ロッソカステル(微睡みのプリエステス・f00401)はピシャリと諭す。
 本来ならば、即座に噛み付いていたことだろう。けれどミーユイと目が合えば、先輩女優は苛立ちを抑えて肩を竦めた。
「――っ。……そうね、あんなにも綺麗な歌で舞台を盛り上げたあなたに言われちゃ、ぐうの音も出ないわ」
 鏡の前の椅子に座ったまま、先輩女優は猟兵たちを見渡した。
 今ならば、できうる限りの質問にも答えることだろう。
「うん。とっても、素敵な劇だった。けれど本当の幕引きも迎えなくてはね」
 一歩、前に出たのはスバル・ペンドリーノ(星見る影の六連星・f00127)。
 星の模様を散らしたスカートの裾を摘み、「御機嫌よう」と恭しくお辞儀を一つ。
「私、『黒幕』はあなた――ではないと思うのよ」
「……なん、ですって?」
「だってあなた、私達が此処へ訪れた第一声で『フローラ』の無事を、「どうしたの」かを確かめたでしょう?
 犯人なら、奇襲が失敗したことは分かってる――「どこにいるの」で、良いと思うのよ。なぁんにも、不自然じゃないわ」
 涼しげな笑みを唇に添えながら、スバルは控室に備えられた鏡を見遣る。
 す、と細めた瞳が見留めるは、先輩女優の顔に浮かぶ“動揺”の綾。
 スバルの推理に揺さぶられる彼女へと、言葉を重ねるはミーユイ。
「そう……なら、私の推測とも合致していそうね。あなたが彼女を心配している理由、当ててあげましょうか」
 常の微睡む瞳が、鋭さを帯びる。全てを見据えたかのように。

「――もしかしたらああなっていたのは自分かも、って思ったら申し訳ないのではなくて?」
「――――っ!!」
 大きく息を呑んだ声が、猟兵たちにハッキリと聞こえたことだろう。

 ゆらり、須藤・莉亜(メランコリッパー・f00277)が歩み寄り、おそらくは白と見なされた彼女へ一つ問いを投げかける。
「君に一つ、聞きたいことがあるんだ。……『舞台上の魔物』の、都市伝説について」
 誰に教えられたのか。ぼんやりとした莉亜の瞳と目が合えば、先輩女優は瞳を泳がせて。
「それは……スタッフや劇団仲間の中で、冗談交じりに囁かれていたの。
 練習では上手くいっても、本番ではふとした拍子に魔物に足をすくわれる――」
(「それにしては、タイミングが良すぎるね……千秋楽当日だけに現れた、魔物」)
 紫に彩られた指先で、つ、と己の顎をなぞって。考え込むように視線を流す。
『フローラ』にも改めて話を聞くべきか――そう思案した丁度そのとき、新たに控室のドアが開かれた。
 護衛の猟兵たる娘を伴い、『フローラ』……もとい、主演女優はやや覚束ない足取りで室内に足を踏み入れる。
「おっと、このままじゃ本当に倒れるよ。――少し、いいかな」
 主演女優に肩を貸しながら、莉亜は密かに『万能血液』を一滴だけ注ぐ。
 そのたった一滴でも、娘の体力を回復させるには充分すぎるほどだ。
 そのまま今回の役の抜擢について訊ねれば、やはり返ってきたのは「『監督』側からのひと押し」であった。
「これは……聞き込みだけじゃなく、『舞台そのもの』も見てみるべきかしら」
 そう思い至ったミーユイは、念の為に女優ふたりへこの場での待機を奨めた。
 何かあれば、UDC組織の面々がサポートにまわることだろう。女優たちを含め、スタッフたちの安全は確約されている。
 猟兵たちは揃って、控室を後にした。
 最後に扉を閉めたスバルは、通路奥の舞台袖を見つめながら独白を、ひとつ。
「……犯人が誰かなんて、決まりきってる。もうすぐ、あらわれるかしら」

 ――――攫いたいほどに『フローラ』を愛した、舞台上の魔物さんに。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

零井戸・寂
極々シンプルに状況から考えるなら

・魔物はフローラを狙う
・フローラを選抜したのは監督
・脚本はオリジナル
・監督・脚本家双方の間で行われてた怪しいやり取り

怪しさ極まりないのは監督達、シナリオを書いた側の様に思えるね。
彼らが教団だと仮説すれば納得も行くけど――

証拠?さぁ。
そういうのはよくわかんないよ、探偵じゃないし――強いて言うなら僕はエージェントだ。
だから、チートさせて貰う。

『フローラ』及び舞台関係者を呼んで、記憶操作銃で【催眠術】使用。
失敗した筈の儀式が成功して
UDCが召喚できたと誤認して貰う。
さぁ、化けの皮が剥がれるのは誰かな。

――仮に誰かが襲われそうになったら、庇うくらいの【覚悟】はあるよ。


暗峠・マナコ
もし『犯人の卓越された技術によって引き起こされたトリック』だとすると、何か証拠のブツが残っていると思うんです。
どたばたアドリブしたブタイゲキでしたもの、自体収束のため証拠隠滅する暇もなかったかと。

あの場『フローラ』さんの手を引いて触手を避けた私には、たしかにアレが『舞台の上方から垂れてきた』のが見えました。
なので、舞台の天井・・・照明ですか?あそこに召喚の儀式痕のようなものはないでしょうか。直前の『フローラ』さんもピンスポットに照らされてましたし。
もしくは、照明のフィルターを使用して、舞台上に魔法陣が映し出されるように仕掛けがされていた、とか。

私の液体状の身体はどんな隙間の証拠の見逃しませんよ



――――観客が立ち去った舞台は、只々がらんどう。
 まるで時が止まったかのように、しんとした静けさに満ちていた。

(「あの時、確かに触手は『舞台の上方から垂れてきた』ように見えました」)
 ふたたび壇上に立った暗峠・マナコ(トコヤミヒトツ・f04241)は、天井を見上げる。
 まあるい黒の瞳が捉えるは、今は消灯した舞台照明たち。
 あの紫の触手が天井から現れたということは……本番当時、黒幕が“すのこ”に居たのだろうか?
(「……それは、考え難いです。あるとするならば、事前に仕掛けたであろう『召喚の儀式痕』――」)
 マナコの華奢な身体は液状に戻り、するり、するり、と高く伸びていく。
 天井へと到達したマナコは、一つ一つの舞台照明を調べ上げた。
 途中、光を灯さず静かに眠る灯具たちの“キレイ”さに見惚れかけたけれど――ピンスポットライトの違和感に気づいた途端、はたと我に返る。
「これは、カラーフィルターのホイル? ですが、これは……」
 本番当時、このピンスポットライトは、クライマックスのフローラただ一人を照らしていた。
 その照明の光に色をつけていたのが、このホイルにセットされていたカラーフィルターだ。
 だが、その四色のうちの一つが不自然に切り取られていたのだ。
 ――明らかに、おかしい。考え込みながらマナコが普段の形態を取り戻したところで、
「……その、どうだった? 手掛かりになりそうなものは見つかった?」
 零井戸・寂(アフレイド・f02382)がおそるおそる、彼女へと声をかけた。
 赤縁のメガネから覗く大きな瞳は仄かに震えている――おそらく、彼自身の“常の顔”が弱気であるからだろう。
 マナコはきらり、きらめく黒真珠めいた瞳を向けて頷く。
「はい、見つけました。どうやらこのピンスポットライト……細工がされていたようです」
 その話を小さく頷きながら、寂は携帯ゲーム機をいじり始めた。メモ機能を開き、タッチペンを走らせている。

 ――さて。
 寂が綴るメモを頼りに、此処までの情報を整理しよう。

 ・他スタッフは監督たちのゴリ推しに不信感を抱いていた。
 ・監督や脚本家は『儀式』や『贄』などの日常に逸脱した単語を話していた。
 ・脚本はオリジナルであった。
 ・先輩女優は言葉がキツくも、純粋に主演女優『フローラ』を心配していた。
 ・舞台の天井に設置されたピンスポットライトには、細工が施されていた跡が残っていた。

「怪しさ極まりないのは監督達、シナリオを書いた側の様に思えるね」
 メモを取る間にも、寂の顔は弱気な少年とは到底思えない――『無理ゲーを攻略するプレイヤー』となる。
「仮説とするなら、彼らが教団であるということかな。カラーフィルターが切り取られていたことなんて、あまりにも稚拙な証拠隠滅に過ぎないよ」
 ――きっと、この場に猟兵(ぼくたち)が来ることを想定していなかったんだろうね。
 饒舌に語りながら、寂はぱたん、と携帯ゲーム機の蓋を閉じた。
 それらの手掛かりを糧に、猟兵たちが新たな探索をしようとした――そのとき、


「おい、きみたち! ここでなにをしてるんだ!!」


 大きな怒号と共に、舞台袖から姿を表したのは――――30代後半とも見えるラフな格好の男。
 彼の周囲には何人か、同じようなTシャツを着た若い男がいた。
「これから道具も全部片して打ち上げにいくんだ。先に外で待ってなさい! 全部監督である俺の奢りだからな!」
 はっはっは、と高らかに笑って、『監督』は舞台袖から静かに消えていく。
 それを守るように――監督の傍の若い男たちが立ちふさがった。

「……成程、そういうことなんだね。なら、僕は僕なりの戦い方で――“チート”させて貰う」

 記憶操作銃を構えた寂は、そのまま若い男たちへと光線を放つ。
 その光線はある種のトリップ。『UDCの召喚を成功させた』と誤認した男たちは、嬉しげに声をあげる。
「やった……やったよ! 『監督』が望んでいた【花とビースト】がここで完結するんだ!!」
「ああ、やっぱり造り物じゃ誰も納得しねーよ。『監督』が『フローラ』を攫って初めて、【花とビースト】は完結するんだよ!!」
「だよなぁ! 女優が死んだとあっちゃ、ネットでも話題になるしな!! 最高だぜ、『監督』の発想は!!!」


 ――アッハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!


 まるで、麻薬を打ったかのような、呂律のまわらない言葉たちが劇場内に響き渡る。
「剥がれたね、化けの皮。……ああ、でも。あまり聴きたくなかったかも」
 耳障りな笑い声をかき消すように、寂はお気に入りの音楽を選択した。ヘッドホンから、慣れ親しんだ重厚なサウンドが流れる――。

「――あの、待ってください。もしかして、あの監督(ひと)が向かっている先は……」

 大きな瞳を何度も瞬かせて、マナコは言う。
 黒幕に近い彼が――否、『奴』の本来の目的を。

「……まさか」

 舞台袖へと消えていった『奴』を追うべく、寂は走った。マナコもまた、必死に駆けていく彼の背についていく。

 おわらない。まだ、この狂った舞台劇は――終わらない。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

境・花世
話を聞きつけて、わたし参上!

実力に劣る新人を主役にゴリ押し?
余程きらりと光る才能があったのか
……でもいきなりはやっぱり、博打過ぎて怪しいよ
わたしの第六感がそう言ってる

そんなわけで周りから固めようか
なけなしのお金で先輩女優に差し入れを

あんまり高い花は買えない身だけど
きみの演技に、惚れ込んだから

なんて爽やかに笑いかけて、
気を許した隙に牡丹の瞳で絡め取る
ちょっとだけ睡眠術、狡くてごめん

ねえ、監督はどんなひと?
稽古中に感じた違和感は、ある?
どうしてあの娘を主役にしたか、きみにはわかる?

監督の目的を知りたいんだ
愛されるのに慣れた娘に
孤独と絶望の闇を演じさせた理由を
舞台の成功よりも優先させた、その理由を


未来院・魅霊
黒幕は誰だ?当然、一番怪しいのは監督だな。
だが、違う。“フローラ”を狙うンなら、先輩女優にやらせた方が“美味い”に決まってる。

なら、役を奪われた先輩女優か?
いいや、アンタでもないらしい。

それなら、主演女優の熱狂的なファンが――
なんて、わざわざ言わなくてもいいよな。

そう、元凶は、アンタ自身だ。“主演女優”サンよ。
初主演の座は青天の霹靂。
先輩にはいびられるわ、フローラのことはわかんねェわ、散々だった。
それでも、好きだったンだろ。舞台が。そして、“フローラ”が。

その思い入れの強さと、葛藤の深さが、化け物を呼び込んだ。

……でも、もう大丈夫だろ、アンタなら。
「大好きよ、お姉ちゃん」
後は、俺たちに任せな。



「さっきの舞台、とっても素敵だった。よければこのお花、貰ってくれる?」
 その頃、控室では境・花世(*葬・f11024)が先輩女優たちと接触していた。
「あんまり高い花は買えない身だけど……きみたちの演技に、惚れ込んだから」
 なけなしの金で買ったという花束を差し入れに、共に居た主演女優にもお裾分け。
「わあ、とっても綺麗……! ありがとうございます」
「――ええ、とても光栄だわ。この花は……牡丹、かしら?」
 花に見惚れて薄らと目を細める先輩女優に、花世は小さく笑って。
「そう、八重咲の牡丹。美の象徴。『王者の風格』だなんて、よく云われるよね――」
「へえ、なんだかあなたの瞳の色も、なんだか牡丹に……似……て……」
 彼女が牡丹の花から花世へと目を向けた、その瞬間――
 右目に気高く咲く牡丹の薄紅から、ふわりと花の香りが漂う。
(「狡くてごめん。ちょっとだけ、お話しようか」)
 花世がかけた催眠術に、二人の女優の瞳はとろりと蕩ける。
 そのまま二人と視線を合わせるように身をかがめて、花世は質問を投げかけた。
「ねえ、監督はどんなひと? 稽古中に感じた違和感は、ある?」
「稽古中の……違和感……。監督は、この舞台を考えてから、人が変わったようだった――」
 ぽつり、ぽつりと。先輩女優の唇から、答えがこぼれていく。
「人が、変わった?」
「宗教じみた言葉を使ったりも、だけれど。監督は、この子を、一等気に入っていたのよ」
 ――――若くて、無垢で、素直だからかしら。
 よく通るその声からは、嫉妬の念を確かに感じた。
「でも、私、この子が攫われなくて、安心したの。だって監督、気持ち悪いから。まるで、この子を、女優としてじゃなくて……」
「そういうコト、か――」
 控室の壁に凭れ、その話を聴いていた未来院・魅霊(feature in future・f09074)が静かに口を開いた。
「監督が『フローラ』を選んだ理由。それは“主演女優”サン――アンタに惚れ込んで、“贄”としても“一人の女”としても欲していたからか」
 同じく催眠術にかかったままの主演女優に目を向けて、魅霊は告げる。
「ミレ、イ……?」
 こて、と首を傾げる主演女優。催眠状態の彼女は『フローラ』として、魅霊を『妹』として見続けていた。
「アンタにとって、初主演の座は青天の霹靂。先輩にはいびられるわ、フローラのことはわかんねェわ、散々だった。
 ……それでも、好きだったンだろ。舞台が。そして、“フローラ”が」
 その直後――、かつり、かつり、と通路から響く靴音に気づく。控室に居た二人の猟兵は、扉の方へと向き直った。

「――――ついにお出ましだな、“舞台上の魔物”サン」

 ドアが開かれたと同時、舞台監督はひどく歪んだ笑みを湛えた。
 熱の籠もった視線は魅霊でも、花世でもなく――――『フローラ』だけに、注がれている。
「思い入れの強さと、葛藤の深さが、こうして化け物を呼び込んだ。……醜い化け物を、な」
「此処まで来たってことは、他の猟兵のみんなもすぐに到着しそうだね」
 催眠術が解けていない今ならば、女優二人は此方の指示にも素直に従うことだろう。UDC怪物の存在も上手く誤魔化され、秘匿される筈だ。
 だが、問題は――舞台から降りながらも『フローラ』に固執する、“舞台上の魔物”だ。

「……ミレイ、私、」
 その言葉の続きを止めるように、『ミレイ』は『フローラ』の手を握る。
 舞台のクライマックスの、あの瞬間のように。
「――――大好きよ、お姉ちゃん」
 魅霊はそう台詞を口遊みながら、見つめ返した。
 後は、俺たちに任せな。――『フローラ』は渡さない。絶対に。


 嗚呼、けれど。物語はまだ終わっていない。
 斯くして疑心はほどかれ、群像劇は遂にクライマックスへと、至ろうとしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『膨らむ頭の人間』

POW   :    異形なる影の降臨
自身が戦闘で瀕死になると【おぞましい輪郭の影】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
SPD   :    慈悲深き邪神の御使い
いま戦っている対象に有効な【邪神の落とし子】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
WIZ   :    侵食する狂気の炎
対象の攻撃を軽減する【邪なる炎をまとった異形】に変身しつつ、【教典から放つ炎】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
👑17
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●参

 グラン・ギニョール(Grand Guignol)――それは、フランス・パリに実在したと云う、見世物小屋の意。
 荒唐無稽。猟奇を嗤う、不道徳な舞台劇。

「『フローラ』……きみが舞台から消えることで、初めて【花とビースト】は終わるんだ」
「監、督……? どういうこと、ですか……?」
 控室にて、狂気に堕ちし男――舞台監督は主演女優へ語りかける。
 舞台を終えても尚、役名で呼ばれた彼女はただ首を傾げるばかり。
 催眠術の効果が切れていないこともあるのだろう、頭が働いていないのだ。
 だが、監督はお構いなしに話を続ける。
「いや、今はいいんだ。後で教えてあげよう。無垢で素直で、従順なきみなら分かる筈だ。――おや?」
 丁度、そのときだ。彼を追ってきた猟兵たちが現れたのは。
 控室内と、通路の猟兵たちに拠って、逃げ場を阻まれた監督。
 小さく舌打ちを鳴らしながらも――不気味なほどに、その唇は笑い続けたまま。
「まだこの劇場に残っていたのか……まあ、いい。
 きみたちは物語の結末を台無しにしたんだ。タダで帰す訳には、いかないね」
 手にした『脚本』を開き、ぶつぶつと何かを唱える。
 それは――――紛れもない、邪神(オブリビオン)を降ろす呪文だ。
 男の足元に、禍々しき光を帯びた魔法陣が浮かび上がる。

 瞬間、劇場内のブレーカーが落とされ、真っ暗となった。

「っ!? あいつ、一体どこへ……!?」
「待ってください、まずは二人の無事を確認しなくては」
 そう、控室内には二人の女優がまだ残っている。
 だが、暗闇の中でもすぐに返事は返ってきた。「私達は二人とも大丈夫」だと。
 彼女らの傍に猟兵が居たからだろう。監督は、女優二人に手を出さなかったのだ。
「何が、あったか、わかりません――けれど、皆さん。どうか、ご無事で」


 ――――【花とビースト】を、ハッピーエンドで終わらせて欲しい、と。
 

 催眠術やUDC組織のケアなどで、いつかはこの悲劇の記憶も失ってしまうことだろう。
 しかし、猟兵たちはその言葉を胸に、邪神に身を委ねた監督を追ったのだった。

 行き先など、目に見えている。
 舞台に固執し続けた男が、決める戦場など。



 ――――――暗闇に満たされた、舞台の上。
 観客も舞台役者も、裏方も居ない。スポットライトすらも、センターポジションに立つ異形の男を照らすことはない。
 膨らんだ頭部から脳漿を滴らせながら、ひどく崩れた唇が、笑う、嗤う、せせら嗤う。

「【花とビースト】……『フローラ』役の彼女の行方不明、そして死を以て、俺の舞台は新聞やニュースで語り継がれる筈だった。
 あの物語の最後、魔物は「フローラを喰らい、一つになることで愛に応えた」んだ。
 だからこそ――俺も、彼女を贄にし、一つになりたかったんだよ」

 舞台の板につく、幾つもの足音が響く。
 【花とビースト】の脚本を魔導書とし、手元に開いた異形の男は猟兵たちへと向き直った。


 ――名声と愛執に囚われた、哀れな男に幕引きを。
麻生・大地
【怪力】【武器受け】【盾受け】【先制攻撃】【情報収集】

【レグルス・タイタンフォーム】で変形

まずは先制して、壁になりながら相手の戦力を測ります
後方にドローンを待機させて、得た情報は逐一仲間に伝えるようにします
いままでのいきさつを見るに、相手は相当狡猾…しかも陰湿な手段に
及ぶ可能性もありますので、足元をすくわれないように
十二分に警戒しながら、守り主体で情報収集に努めます

「さて、終演は間近。ハッピーエンドで終わるために、最後の出番をしっかり務めましょう」

神様気取りではないですが、デウス・エクス・マキナとして
物語の幕引きを演出してみようじゃありませんか


ミーユイ・ロッソカステル
……愛し合う魔物とヒトの物語、に少し興味があったからこそ、この場に来たのだけれど、ね
……お前は、魔物の如くに心を歪ませただけの、ただのヒト
私がお前から学ぶ事など、何一つないわ。消えなさい

【スバル・ペンドリーノと連携】
……なんだか、よくお見かけするわね?
どうやらご同類のようだし。――ひとつ、試してみましょうか。

そう言って、「夜との闘い 第3番」を【歌唱】する。
敵意を引き、それに反応して攻撃を返すこの歌の本質は……今回は、それじゃない。
――【星が瞬く夜】を呼ぶ事。

この私を舞台照明に、バックグラウンドミュージックに使うなんて贅沢な事。
……それなりの成果は上げて頂戴な? 正当なる闇の血統、なれば。


スバル・ペンドリーノ
愛する人を、食べてしまいたい。一つになりたい
――そうね。よく、分かるわ。とても、よく

けれど……ダメよ、魔物さん
だって貴方のそれは愛じゃない
貴方の目は、本物の相手を映していないのだもの

※どこか複雑そう、悲しそう

【ミーユイ・ロッソカステルと共闘】
(……酷いことを言う人ね。同じ吸血鬼でしょうに……それとも、吸いたいと思わないのかしら。愛する人から)

けれど、ええ……口にするのは無粋ね
だって、こんなに綺麗な歌声
とっても正義感が強い、優しい人なのね

あぁ……素敵な夜

夜闇の下、星の光を浴びて、守りの力に変えて
女優だけじゃない、貴女のことも守って差し上げてよ、お姫様
大事な、夜のはらからですものね

真の姿は瞳が赤く


張・小龍
「悲劇というのは、登場人物が必死に生きてなお、人智を越えたところでハッピーエンドを逃す様が美しいんです」
「チート持ちの黒幕が全部裏から操ってました。なんて、コメディもいいところじゃないですか」
「ついでに一番重要な点ですがボクは、ハッピーエンド至上主義です!」

今回、ボクは真の姿にはなれませんので他の猟兵さんのアシストを頑張りたいと思います。
敵は召喚によって増えるタイプの模様。
ではボクは増えたところから全力でぶっ飛ばして行きましょう!

両手両足を竜化させ、如竜得翼によって端から八つ裂きにして行きましょう!
本体を狙う仲間の元から引き離していきたいので、必要ならば怪力やグラップルで抑え込みます。



「――プログラム・ドライブ」
 先手を取った麻生・大地(スチームハート・f05083)が静かに詠唱するは、変形のユーベルコード。
 直後、劇場の扉をブチ破り、可変試作型バイク【レグルス】が彼の元へ走り出す。
 そのままレグルスが壇上へ辿り着いたと同時、
「レグルス・タイタンフォーム!」
 宣言と共に愛機と合体――白きボディにライトブルーの差し色を散りばめた、巨人が顕現した。
 監督――否、魔物が手にした台本から放たれた邪の炎が、猟兵たちへと放たれる。
 だが、レグルス・タイタンフォームと化した大地の機体が前進し、盾となって炎爆を防いでいく。
(「いままでのいきさつを見るに、相手は相当狡猾……十二分に警戒しなくては」)
 大地はそのまま後方から、密かに多目的ドローン【ネツァク】を飛ばす。
 偵察、監視を主目的とする小型ドローンの空撮ならば、対象の弱点や情報などを突き止めることができるだろう。
「嗚呼、世界は、物語は燃える――この激情を以て、何もかもを灼き尽くして俺と『フローラ』は一つになるんだ。
 きみたちはお呼びじゃないんだよ。さあ、消えてもらおう!!」
 怒りを込めた魔物の攻撃を大地が引き受ける間、煙炎を避けるように跳躍し、壇上を踊る二つの人影。
 ミーユイ・ロッソカステル(眠れる紅月の死徒・f00401)は、軽やかに舞台へ降り立った。甘い薄紅から血潮の紅へとうつろう髪は鮮烈なまま、炎の中でも色褪せることはない。
 星の光にも似た金の瞳が孕む感情は、『落胆』に近かった。
 愛し合う魔物とヒトの物語――――舞台を統べる魔物に拠って語られたその真意は、あまりに拙く、醜い。
「お前は、魔物の如くに心を歪ませただけの、ただのヒト。私がお前から学ぶ事など、何一つないわ」
 ――消えなさい。紅月の死徒は眠りから覚醒め、敵意を抱いて瞳を細めたのだ。
(「……酷いことを言う人ね。同じ吸血鬼でしょうに……」)
 その眼差しを盗み見るはスバル・ペンドリーノ(星見る影の六連星・f00127)。
 くるり、夜色のワンピースを暗がりの舞台に翻し、ミーユイの所作に合わせるように舞台の中央(センターポジション)を取る。
「……なんだか、よくお見かけするわね? 星の髪飾りの――そう、あなたよ」
「ええ、奇遇だこと。なんだか他人のように思えないわ」
 言葉少なに、けれど互いの想いは舞台の上で確かに通じ合う。
 夜を謳う彼女と、星の名を継ぐ彼女。二人のダンピールが巡り逢うのは、ある種の運命だったのかもしれない。
 ふ、と小さく微笑んだミーユイはそのまま息を吸い――そうして高らかに、歌い上げる。
 ライトのない殺風景なステージから、次々と星々が喚ばれる。
 星の瞬き、灼けつく放射。スポットライトよりも鮮烈な光が、壇上をを照らしてゆく――。
『星の輝きは 全てあなたの敵である……。
 闇を裂き 瞬き 星々は結び合う そして――――』
「ええい、聴き難い……聴き難い!
 俺の筋書きに無い歌など……どれだけ素晴らしくとも、この舞台には不要だ!」
 絶叫と共に、魔物はふたたび炎を飛ばす。
 その炎弾は歌い手たるミーユイを狙う。不意の攻撃にミーユイは息を呑む――が、

「――――そして、“ハッピーエンド”こそが語り継がれるの」

 ミーユイの即興の歌を次いだのは、スバルだ。
 彼女は常の緑の瞳を赤く、紅く染めて、ミーユイを庇うように降り立つ。
 星のタクトが転調を示すように大きく振るわれ、魔物が放った炎を弾き飛ばしたのだ。
「私は、“識ってる”わ。どれほどの年月が過ぎようとも、物語は誰かの心の中に息衝いていることを」
 ――――天井に生まれた、銀河にも似た星々を見上げて思い出す。
 父と母が語り継いでくれた、沢山の物語たちを。
 沢山の世界が、物語が。今も、これからも語り継がれて、生き続けている。あの星々のように。
「あぁ……素敵な夜。貴女がこの星の光を喚んでくれたのね、お姫様」
「……!」
 背後のミーユイへと、スバルは微笑む。
 そのまま手を差し伸べれば、ミーユイは驚きで目を泳がせながらも、スバルの手をとって即興の台詞を紡いだ。
「――ええ、この私を舞台照明に、バックグラウンドミュージックに使うなんて贅沢な事。
 ……それなりの成果は上げて頂戴な? 正当なる闇の血統、なれば。――それと、」

 ――その『語り継いだ物語』、いつしか聞かせて欲しいわ。

 耳元で小さく囁き、離したのち、ミーユイは新たな歌詞を紡ぐ。
 その歌声のままに、タクトにこびりついた炎を散らし、スバルは告げる。
「綺麗な歌声……とっても正義感が強い、優しい人なのね。
 ……ねえ、魔物さん。貴方の目には『本物の相手』が映っていて?」

 私にはそうは見えない、絶対に。

『愛するものを欲し、一つになりたい』――それが痛いほど分かるからこそ、スバルは“敢えて”訊ねたのだ。
 その声は悲しみを帯び、僅かながらも、震えていたことだろう。
 だが魔物と化した哀れな男は娘の想いなど汲みやしない。
 笑う、嗤う。星々のスポットライトに照らされながら――男は、猟兵たちへ向けて新たな『邪神の落とし子』を産み始めたのだ。
「そうさ……俺が見ていたのは、ずっと、ずっと、『フローラ』だけ!
『舞台上の魔物』に呑まれ、身も心も『フローラ』になる彼女を求めていたんだ!!
 それを邪魔したきみたちを、タダで帰すわけにはいかない!!」
「そうですか……あなたは、やはり『悲劇』を求めていたのですね」
 それを危惧していた張・小龍(飛竜子・f03926)が、いち早く躍り出る。
 両手両足を白き竜のそれに変化させ、落とし子たちを鋭い爪で切り裂き始めた。
「けれど、『悲劇』とは――登場人物が必死に生きてなお、人智を越えたところでハッピーエンドを逃す様が美しいんです」
「なんだと、小僧……きみに何がわかるというのだ!」
「いち観客として、ボクは一言申し上げますよ。チート持ちの黒幕が全部裏から操ってました。なんて、コメディもいいところじゃないですか」
 そんなものは、只の滑稽な三流芝居に過ぎない。
 小龍によって次々に消滅していく落とし子たちの悲鳴を耳にし、魔物は歯を軋ませた。苛立ちと共に、膨らんだ頭から脳漿が滴り続ける。
「ついでに一番重要な点ですがボクは、ハッピーエンド至上主義です!
 ……だからこそ、『フローラ』さんの願いを叶えます!」
 仲間たちに縋ろうとする落とし子たちを片付けたのち、小龍は飛び立つ。
 新たに産まれたばかりの落とし子へと、竜化した爪と牙を剥き出した。
「――我が爪牙にて、八つに引き裂かん!」
 大きく振るわれた、八つの引き裂き。断末魔の叫びをあげる暇もなく、落とし子は消滅していく。
「……おのれ、おのれ! 俺の芝居も、『フローラ』も、誰にも渡しはしない!!」
 そう息を荒げる魔物が、新たな台本のページを捲り始める。
 それをいち早く識別したのが――大地の小型ドローンだ。
「……! 皆さん、気をつけて下さい。相手は瀕死になれば影を召喚し始めます」
 機体越しからくぐもった声を響かせ、大地は猟兵たちへ伝達する。
 しかし、対象の情報を探ることができた分、此方の勝算は高い。
 舞台の主役は、奴か、我々か――。

(「――終演は間近。ハッピーエンドで終わるために、最後の出番をしっかり務めましょう」)
 云うなれば、デウス・エクス・マキナ(機械仕掛けの神)。大地にとって、皮肉な役目かもしれないけれど。
 それでも、幕引きは盛大に。グラン・ギニョールを終演へと至らせる為に。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャガーノート・ジャック
(ザザッ)
――ここからは『本機』の領分。
本物の"怪物"を披露しよう。

(ザザッ)
SPD選択。
『ダッシュ』『早業』で突撃、敵の不意を撃つ形で接近、敵に組付く(『グラップル』)。
敵の体の一部を掴み捉え離さない(『手を繋ぐ』)ままに
『Full-Arm Storm』『零距離射撃』『一斉発射』使用。

左右36対、計72、古き悪魔達と同じ数の砲門、悉くを零距離から撃ち尽くし
敵を"殺す以上に殺し尽す"。

獣はお前の様に人を殺(あい)さない。

砲門と本機自身、二種の咆哮。
暴力装置。鉄鋼の獣。
――本物の"ビースト"がどういう物か、目に焼き付けてから死ね。

本機の行動指針は以上。
作戦の実行に移る、オーヴァ。
(ザザッ)



 ――――ザザッ。

「――此処からは『本機』の領分。本物の“怪物”を披露しよう」

 静かに、闇に溶けるように響いたのは、雑音混じりのくぐもった声。
 星々のスポットライトが一旦消えたと同時、突撃したのは機械豹の戦士――ジャガーノート・ジャック(OVERKILL・f02381)だ。
 突然の暗転に気を取られていたのだろう。魔物は抵抗する隙すらも与えられず、ジャガーノートに組み付かれる。
「何っ……いつの間に!? く、離せ!」
 暴れる頃にはもはや遅い。膨張した醜い頭をぶよぶよと揺らし、魔物がようやく振り返ったその時には――、

「全兵装展開――、殲滅、開始――……」

 古の悪魔たちを解き放つように、計72発もの砲撃が左右の砲門から一斉に放たれたのだ。
 その惨状をあらわすならばまさに、硝煙弾雨――否、牙向く『Jaguar』の咆哮そのもの。
 零距離からの銃撃を一身に浴び、魔物は声にならない叫び声をあげる。

 ――“殺す以上に殺し尽す”。影も形も、残らぬように。

「ぐ、アァァァ、ァァ……本物の“怪物”……か。ククッ。きみもまた、ぼくと同類ということかな……」
 赤黒く濁った血潮を吐き散らしながら嗤う魔物に対し、黒き“怪物”は冷徹に告げる。
 ――ザザッ。ジャガーの仮面から響いたノイズは、獣の唸り声にも似て。
「否定。獣は、お前の様に人を殺(あい)さない」
 故に、本物の"ビースト"がどういう物か。

 ――――その目に焼き付けてから、死ね。

 鋼の獣は、ふたたび銃口を向ける。
 ジャガーノート・ジャック。黒く鎧われた獣の素顔は、喩えスポットライトを浴びようとも、この壇上から降りようとも、未だ晒されることはない――。

成功 🔵​🔵​🔴​

太刀川・明日嘉
救えない、救われない男ね
その膨張した頭は肥大化したエゴイズムの象徴だわ
昔ね、あんたみたいに、女を生贄にして成り上がろうとした男がいたのよ
最後は周り諸共、自分が生贄になってしまったのだけれど……
こんな悪夢は、いくつもあっていいものじゃないわ
終わらせてあげるわ、百花繚乱の嵐で!

大抵のことには耐性があるもの、高速移動で立ち回って、仲間や役者を庇って黒剣で受けるわ
痛みは全部、私が引き受けてあげる

邪神の落とし子が召喚されたら怨嗟の弾丸で近付かれる前に攻撃をしかけるわ
ほら、これが人を生贄にしようとした人間の末路よ
あなたにお似合いじゃない?

やっぱり物語は、ハッピーエンドが一番ね


マリア・マリーゴールド
*お芝居、楽しカタ、デス!
*……でもデモ、偉い人、フローラさん、食べヨとシタ、デス?
*お芝居なのニ、本当に食べ食べするのは、嘘付きデス!
*「めっ」の時間デスネ。

*SPD使いマス!
*ぷすぷすサン達(釘、針、その他刺突の為の器具)、たくさん出しマス!グリグリするデス。
*仲間(邪神の御使い)、呼ぶデスカ?嘘付きさんの仲間、きっと嘘付き。一緒にグリグリしマス!

*反省、しマシた?
*んん、叫んデモ、何言てるカ、わかりまセン。マリィ、言葉苦手デス。
*ちゃんとゴメンナサイできるまで、グリグリ(傷口を抉る)デス。

*マリィ、まだ弱いデス。
ちゃんと「めっ」てスルの、他の人、任せルマス。


南雲・海莉
真の姿解放
ホログラムの様な光を纏うわね

“歩き続けることでしか、幸いなる終演(ハッピーエンド)には辿り着かない”
義兄はそう言ったわ

(『向き合いたい』、その言葉と表情を思い返し)
『フローラ』さんをこの世界から奪わせない
歩き続けるための意志を奪わせない
ましてや……狂信ストーカー男にくれてなんてやらない!

UCで風の属性まとわせ、攻撃力増加
影や落とし子を片っ端から薙ぎ払うわ
【残像】を残すような刀と剣の舞、披露するわね

この程度で足止めできるとでも思った?
私も歩き続けると誓ったもの
義兄に……彼にもう一度めぐり逢い、生きる意志を取り戻させるその時まで!

(仲間を振り返り)
さぁ、【花とビースト】に最高の幕引きを


コーディリア・アレキサンダ
…………ボクが片付けの手伝いをしている間に凡そ済んでいたようだね……
いや、人助けは大事だからね。うん。でも――

「――そろそろボクも混ぜてよ」
「初めに言ったじゃないか。『最後まで邪魔させてもらう』って」


「ひとつ、質問があるのだけれど」
「……そんなに大事なのかい? 他人にどう見られるか。名声、というやつは」

ボクらは同じ、自己満足のために活動している、ということだろう?
つまり、ボクもキミのような悪魔そのものなのかと思ったのだけれど
――よかった。どうやら、まだボクは人間寄りらしい

「それじゃあ消えてもらうよ。人助け――ボクの自己満足を満たすために」


暗峠・マナコ
悪夢に幕を下ろしましょう。

私もハッピーエンドの方が好きなので、そうなるよう、アドリブにご協力いたしますね。

せっかくのクライマックスなのに、舞台上が殺風景で物足りなくはないですか?
であれば、あなたにふさわしい舞台を用意してあげましょう。
生憎とここは地下ではありませんが【レプリカクラフト】で【檻形状のキレイな仕掛け罠】を作成しましょう。
『舞台上の魔物』さんにはきっとお似合いのはず。
居場所を[暗視]で確認し、足元にそっと忍び寄って実行しましょう。
衣服を脱いでしまえば私の身体は闇に紛れるには打って付けですから。

はてさて、あなたの描いた脚本通り『フローラ』さんはあなたに手を伸ばしてくれるのでしょうかね?


未来院・魅霊
「馬鹿が。――脳味噌が腐ってもアレだけの舞台を創れンだ。魅入られてなきゃ、大層な舞台が作れただろうによ」

 胸糞悪ィ。とっととぶっ潰すぞ……っつっても俺の攻撃じゃそう効かねェだろ。支援に徹するぜ。シンフォニック・キュアで味方の治癒に専念するぜ。

 歌うのは当然のごとく即興歌。第一章を受けた内容にするか。フローラはついに心を開き、魔物の呪縛から解き放たれました。――ここから、フローラの本当の物語が始まるのです、なンてな。

「いいこと教えてやるよ。UDC事件は須らく隠蔽し人々より秘匿すべし――。わかるか?てめェはな、己の最高の舞台を不意にしたってわけだ、ご苦労サン」

 精々、一番可憐な笑顔で見送ってやるさ


レナ・ヴァレンタイン
さて、あの魔物は上からきたのだったな
下でやりあってる間に舞台天井裏に密かに潜伏
戦場の把握と奇襲タイミングを計り、真上から突撃して一撃で首を狩って仕留めにかかる

「そうだな、誰にも渡す必要はない。その妄執はお前のものだ」

落下直前に声をかけ、注意を此方に向けさせて誘導
マスケットの一撃を足狙いで一発撃ち込み回避封じを試み、自由落下からの肘打ち気味の一撃
魔を屠る超熱量の光剣を奔らせ、幕を落とすようにぶった斬る
同時に拳銃を抜き、クイックドロウで心臓めがけて全弾叩きつける

異形の神々に身を売った輩だ。オーバーキルくらいが丁度いいだろう

「――幕引きだ。独りよがりな愛は地獄で謳え」

※他猟兵との絡み、アドリブ歓迎



 ――――直後、舞台はふたたび照らされる。

 暗闇に映える、ホログラムめいた鮮やかな光は――真の姿へと変貌した、南雲・海莉(コーリングユウ・f00345)の華奢な身体から発せられていた。
 野太刀の柄に指を這わせ、海莉は思い出す。嘗て告げられた、義兄の言葉を。

 “歩き続けることでしか、幸いなる終演(ハッピーエンド)には辿り着かない”

「彼女はね、『向き合いたい』って言ったの。自分自身の役である『フローラ』と。
 “身も心も『フローラ』になる彼女を求めていた”? 馬鹿にしないで」
 義兄の言葉の通り、彼女は自分自身を見失わずに歩き続ける――海莉はそう信じていたからこそ吐き捨てた。
 怒りと共に、得物を握る。
「『フローラ』さんをこの世界から奪わせない。歩き続ける為の意志を、奪わせない。
 ましてや……狂信ストーカー男に、くれてなんてやらない!」
 抜刀。
 幕は既に閉ざされているというのに、壇上を包むは彼女の決意を示すかの如き激しい“舞台風(ぶたいかぜ)”。
「フフ……ハハハハァ!! きみが何を言おうとも、彼女が何を想おうとも構いやしない!
『フローラ』は魔物に喰われる――その結末に、変わりはないのだよ!!」
 下卑た嗤いと共に、魔物が吐き出すは邪神の御使いたち。
 海莉は風の魔法を帯びた剣技で、落とし子たちを次々と斬り裂いていく。
「この程度で足止めできるとでも思った?」
 ふ、と小さく微笑む海莉。決意を秘めし瞳は『誓い』を黙して物語る。
 ――義兄に……彼にもう一度めぐり逢い、生きる意志を取り戻させるその時まで。歩き続けるのだと!

 そのとき、新たに産まれた落とし子が海莉へと襲い掛かる――!
 直前、躊躇なく斬り裂いたのは、黒き剣の一閃。
「――救えない、救われない男ね」
 太刀川・明日嘉(色を失うまで・f01680)は哀れみを込めて瞳を細め、魔物を見据える。
 その眼差しに苛立ちを覚えたのか、魔物は明日嘉へとターゲットを変えた。
「なんだと……? 何が救われないんだ。この舞台は、俺の望み通りの結末を迎えるというのに!」
「“それ”が救われないのよ。その膨張した頭は、肥大化したエゴイズムの象徴だわ。
 ――只々、醜いだけなのよ」
 残りの落とし子たちからの襲撃に耐えながら、ふたたび黒剣を振るう。
 一度に消滅していく落とし子たちの死骸を掻き分けながら、明日嘉は哀れな“魔物”へと静かに語る。
「――昔ね、あんたみたいに、女を生贄にして成り上がろうとした男がいたのよ」
「……ほぅ?」
「最後は周り諸共、自分が生贄になってしまった。残ったのは骸ばかり。……それはまさしく、悪夢だったわ」
 黒剣の戦士が語るは、死を迎えるであろう“人間”であった筈の存在への手向けの噺。
 それでも尚、人としての理性を棄てた男は嗤う。ただただ、ニタニタと、嗤い続けた。
「悪夢……? その悲劇は物語として良く出来上がっているじゃないか。
 何が問題なんだい? きみは『悪夢』の物語をこれからどう語り継ぐというんだい!」
 その嘲笑に、明日嘉は剣の柄を強く、強く握った。
「そうね、あんたには言うだけ無駄だったかしら。
 私が為すべきは一つ……悲劇を繰り返さないこと。この、百花繚乱の嵐で!」
「ふっ……馬鹿め! きみにも新たな『悲劇』をくれてやろう!!」
 本を開き、魔物が新たに落とし子たちを産み落とす。
 歪な形のまま、明日嘉へと這い寄るそれらを――篩い落とすは、怨嗟の弾丸。
「――そう、分からないのね。
 ならば見なさい。これが人を生贄にしようとした人間の末路よ」
 …………あなたにお似合いじゃない?
 そう、挑発的な微笑みを向け、次々に落とし子を撃ち抜いていった。
 落とし子の襲撃から逃れ、海莉はふたたび刀と剣と構え直す。
「ありがとうございます――さぁ、【花とビースト】に最高の幕引きを、下ろしましょう」
「同感ね。やっぱり物語は、ハッピーエンドが一番だもの」
 明日嘉の黒剣の切っ先が、ふたたび魔物へと向かれる。
 そのとき、ふわりと踊る黒き影――暗峠・マナコ(トコヤミヒトツ・f04241)だ。
「私も、望んでいます。『フローラ』のハッピーエンドを」
 ひらり、と翻すドレスは、本番の舞台上で身にまとっていた衣装と同じもの。
 マナコは依然、影として、くるりくるりと踊りながら魔物の背後へと忍び寄っていた。
 “キレイ”を求めるマナコは感じていた。折角のクライマックスに、殺風景な舞台では魔物は満足しないはずだと。
(「であれば、あなたにふさわしい舞台を用意してあげましょう」)
 くるり、ドレスを脱ぎ捨てながら、密やかにマナコが生み出すは『レプリカクラフト』の舞台装置。

 ――『舞台上の魔物』さんにはきっとお似合いのはず。

 がちり、と黒き檻が魔物を囚える。
 影たるマナコ自身もまた『舞台装置』であったかもしれない――けれど、確かに。彼女の指先は物語をハッピーエンドへと運んでいたのだ。
(「はてさて、あなたの描いた脚本通り『フローラ』さんは……あなたに手を伸ばしてくれるのでしょうかね?」) 

「いやだ……いやだ、いやだ、厭だ! 物語は未だ、終わらない!!
『フローラ』は誰にも渡しはしないんだ!!」
 檻に囚われし異形の男は、血などの体液を垂らしながら壇上で子供のような駄々をこねた。
 誰もその我儘を、聞き入れる者など居ないというのに。
 ――ああ、けれど。その拙い叫びを受け止める娘が、ひとり、居た。

「お芝居、楽しカタ、デス! あなたが、偉い人、デス?」

 ぴょこん、と飛び跳ねてマリア・マリーゴールド(パニッシュ・f00723)は無邪気に微笑む。
 人の身体を得て間もない彼女は、たどたどしい言葉で異形の男へ意思疎通を図ったのだ。
「ああ、そうさ……きみなら、わかってくれるのかな?」
「ハイ! 素敵な、お話、デシタ! ……でもデモ、偉い人、フローラさん、食べヨとシタ、デス?」
「――え」
「お芝居なのニ、本当に食べ食べするのは、嘘付きデス!」

 ――――「めっ」の時間デスネ?

 にっこり。笑顔のまま、マリア――マリィが喚び出したのはぷすぷすサン達だ。
 釘、針、ナイフ、メス、彫刻刀……様々な鋭い『刺突器具』が魔物を身体を貫いたのだ。
 ぐさ、ぐさ。ぐさぐさぐさぐさぐさ。
 不健康な赤黒い血飛沫を浴びようとも、マリィは無垢な瞳を向けたまま――床に這いつくばる男を見下ろして。
「反省、しマシた?」
「グ……アァ……」
「んん、んん。何言てるカ、わかりまセン。マリィ、言葉苦手デス。ゴメンナサイ、待ちマス。
 それまデ、グリグリ、デス」
 ぐりぐり。ぐりぐりぐりぐりぐりぐり。
「グァア……アァアアアアアアアアアアア!!!!!!」
 マリィは身体に刺さったままのメスの柄を指先で、ぐりぐり、ぐりぐりーっと、まわす。
 まるで、おもちゃのように。悲鳴を上げる魔物の声すらも――おもちゃの音声であるように。
「クソ……クソ、クソ、クソクソクソクソ!! どいつも、こいつも!!
 邪魔ばかりしやがって――!! 俺のこの願いも、想いも、誰も渡しはしないんだ!」
 肩で息をしながら、魔物は自力で立ち上がった。
 ぐちゃり、ぐちゃり、と。邪神召喚の応酬でその身は頭から四肢へ、オブリビオンの侵食が続いている。

「そうだな、誰にも渡す必要はない。その妄執はお前のものだ」

「……!?」
 頭上から静かに、届いた一言。
 その声に注意を向けたが最後、魔物の意識は着地したばかりのレナ・ヴァレンタイン(ブラッドワンダラー・f00996)へと逸らされた。
 金の髪を翻し、機械人形は『黒衣のウィリアム』を対象へ向け、一撃。
「ぐっ、ゥ……!!」
「――かかったな」
 手応えを感じ、不敵に微笑むレナ。そのまま畳み掛けるように、解き放つは光剣のユーベルコード。
「――――――“聖剣”抜刀。浄(と)けて、散れ」 
 静かな宣言と共に、光を迸らせて刃を振るう――!
 一閃。肉を断つ、確かな手応え。
 直後に撃ち抜いた『解放者メイヴ』に拠る銃撃。
 激しい攻撃を受けても尚、魔物は未だ――虫の息で、生き続けていた。
「ひゅぅ……ヒュゥ……どいつも、こいつも。邪魔をして……。
 こんな幕引きなど、絶対に認めはしない――」
「――いいや、今こそが幕引きだ。独りよがりな愛は地獄で謳え」
 宣言と共に、レナはふたたび銃口を向けた。そのとき、

「――なんだか、愉快な声が聴こえているね。アンコールかい?
 そろそろ、ボクも混ぜてよ」

 すのこからふわり、と亡国の魔女――コーディリア・アレキサンダ(亡国の魔女・f00037)が飛び降りてゆく。
 魔法を以て、音もなくふわりと着地したのち。醜く這いつくばる魔物を見下ろした。
「……また、邪魔者か。なにしに、きた」
「何って……初めに言ったじゃないか。『最後まで邪魔させてもらう』って。
 監督なら、咄嗟のアドリブも頭に入れておくべきじゃないかな? ボクらが此処に来ることそのものをさ」
 ――それを考えていなかったというのなら、それは余りに拙い、と。
 肩を竦めて笑ってみせて、地に伏せたままの魔物の傍でしゃがみこみ、コーディリアはじーっと見つめた。
「……虫の息なキミにひとつ、質問があるのだけれど」
「…………ひゅぅ……ひゅ、ゥ……」
「……そんなに大事なのかい? 他人にどう見られるか。名声、というやつは」
 その問いには、男は未だに“魔物”のまま、ニタリと歪に唇を釣り上げた。
「……ああ、大事さ。自分を『視て』もらえる。自分の存在を、相手の記憶に『留めて』もらえる。
 喩え俺が死んだとしても、世間にとっても、人々にとっても――舞台は忘れるまで生き続けるのだからね」
「――――そう、か。結局は、キミは『自分本位』の儘に生き続けていたんだね」
 醜い、あまりに、醜いや。
 落胆のままに、魔導書を新たに開いた――その名も『小さな鍵』。
 風もなく静かに捲られる頁の中、コーディリアが呪文を唱える。
「それじゃあ消えてもらうよ。人助け……ボクの自己満足を満たすために」
 ボクとキミの“エゴ”は、どうやら違うようだ。

 そのまま、魔女が生み出した『悪魔』は――哀れな人の子を無残にも喰らったのだった。

「グ、ゥ……アァ……」
 解き放たれた、檻の先。身も心もボロボロとなった魔物は――ただ一人の『男』となって倒れ伏す。

 ――ぱ、と照らし出すピンスポット。
 醜く壇上を這うその存在を、照らし出される――おそらく、一般人の避難などを終えたUDC組織たちに拠るせめてもの気遣いだろう。
(「……馬鹿が。遅すぎるんだよ。ンなの只の晒し上げじゃねーか」)
 嘆息した未来院・魅霊(feature in future・f09074)が、まばゆいピンスポットの中へと向かう。
 壇上に立った以上、彼の役はフローラの妹『ミレイ』に他ならない。
 ――娘は、歌う。これまでに戦い続けた猟兵たちの傷を癒やすべく、舞台のクライマックスを、彩るべく。

「――――だいじょうぶ。もう、恐れないで。
 この物語は……見世物なんかじゃ、ないの」

 観客は、誰も居ない。この歌を終えたところで、拍手など得られない。
 それでも、魅霊は歌い続ける。想いのままに、即興の歌を。

「花開く人生を、どうか歩んでいて。
 そうでしょう? ねえ、お姉ちゃん。あなたの名前は――――」


 ――――――――フローラ!!


 この舞台に降り立った、全ての猟兵たちが告げた。
 魔物に囚われることのない、『ハッピーエンド』を。今ここで掴み取ったのだ。

「ぐ、ぅ……ぁ……」
 呻く魔物へと、魅霊は首根っこを掴み耳元で静かに囁いた。
「いいこと教えてやるよ。UDC事件は須らく隠蔽し人々より秘匿すべし――。わかるか?
 てめェはな、己の最高の舞台を不意にしたってわけだ、ご苦労サン」
 吐き捨てながら手を離し、床へと叩きつける。
 直後、魔物の身体はじゅわりと蕩けて――静かに消えていった。
 まるで、先程までの悲劇が悪夢だったかのように。何の跡も遺さずに。

(「――台本を経典に、か」)
 力尽きた男の手元の台本を見下ろしながら、魅霊はふと思う。
 ……この『台本』を手がけた脚本家はいったい誰だったのか。
 燃え尽きかける台本に手をかける前に、本は炎と共に、消えた。

 ――――後日。

 この報道が世界を巡る猟兵たちに届いたかどうかは定かではない。
 されど、この騒動が起きたあと。新聞の大きな見出しとして、或る女優たちの笑顔の写真が掲載されることだろう。


【花とビースト、看板女優二人による新作舞台が決定!】
【『ライバル同士、切磋琢磨しあって素晴らしい物語を作り上げます!』】

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月13日


挿絵イラスト