さわらぬガキにたたりなし
●UDCアースにて
「この地下迷宮秘密基地も形になってきたよなぁ」
「梅雨が来るまえに屋根をつけたいよね」
「完成したら、皆で落成式しようぜ!」
「ラクセーシキって?」
「あたし、知ってる! おっきなハサミでテープカットするやつでしょ!」
時は土曜日の昼下がり。所は森の奥の廃寺の境内。
十歳になるかならずかといった少年少女たちが『地下迷宮秘密基地』なるものの建設に勤しんでいた。
それは名前に反して『地下』にあるわけでもなければ、『迷宮』のような複雑な構造をしているわけでもなく、ましてや『秘密』の存在ではないし、そもそも『基地』と呼べる代物でもない。吹けば飛ぶような(実際、台風が来れば、ひとたまりもないだろう)ガラクタの集積だ。
しかし、子供たちのイマジネーションは無味乾燥な現実を軽々と飛び越え、CG顔負けの光景を脳内に描き出していた。不規則に並べられたダンボールやトタン板は基地内の壁もしくは基地を守る装甲。中央に陣取る苔むした石灯籠はメインコンピューター(苔については『超古代文明が残した有機AI』とするか『墜落したUFOから回収した生体メモリ』とするかで意見が別れていたが)。赤錆びた自転車のギアとカーテンレールを組み合わせた戦闘機のカタパルト(ただし、肝心の戦闘機がない)、破れたビニール傘のパラボラアンテナ、空き缶の砲弾。いずれ、腐りかけたブルーシートかなにかで天井が築かれれば、それはエネルギーシールドと見做されるだろう。
「おーい! なんか、変な物があるぞ!」
と、境内の隅で一人の少年が声をあげた。なお、彼の名誉のために断っておくと、隅にいたのは基地の建設をサボるためではない。周囲をパトロールしていたのである。
皆はパトロール係の少年の傍に集まり、『変な物』を覗き込んだ。
蓋のない、大きな木箱だ。中には、VRゴーグルのような機械が無造作に詰め込まれている。
「なんだろう、これ?」
「ゲーム機でしょ」
「でも、こんなの見たことないぜ」
「どっかのサンギョースパイが発売前のゲーム機を盗み出して、ここに隠したのかも!」
不審がる子供たちであったが、好奇心には勝てず、一人また一人とVRゴーグルを手に取り、顔に装着した。
それが悪夢の始まりとも知らずに。
「ぎゃあぁぁぁーっ!?」
最初にゴーグルを着けた少年がいきなり悲鳴を発した。ゴーグルのそこかしこからケーブルが伸び、体に絡みついてきたのだ。
「大丈夫か、マサトシ! ……って、うおっ!?」
駆け寄ろうとした別の少年もゴーグルに絡み取られた。
「ヤスヒト! タイヘイ! 待ってろ、今……うわぁぁぁーっ!?」
二人を助けようとした第三の少年も同じ運命を辿った。
そして、他の少年少女たちも。
●グリモアベースにて
「これ、UDCアースの水飴っていうお菓子。練り練りするのが楽しいんだわー」
伊達姿のケットシーが猟兵たちの前で水飴を練っていた。
グリモア猟兵のJJことジャスパー・ジャンブルジョルトだ。
先端に水飴がついた割り箸をぐるぐると回し続けながら、JJは本題に入った。
「さて、そのUDCアースでまたもや事件発生。小学三年生のガキンチョどもが廃寺の境内で秘密基地をつくって遊んでたんだけどよ。ゲーム機に擬態したUDCオブジェクトに寄生されちまったんだ。そのオブジェクトは寄生主の破壊衝動に働きかけて、目に付くものをなんでもブッ壊し、ブッ殺そうとするらしい。放っておいたら、ガキンチョどもは廃寺から町に移動して、虐殺を繰り広げちまうだろうな」
取り返しのつかないことになる前に子供たちを止めねばならない。とはいえ、命まで奪う必要はない。幸いなことに寄生はまだ完了していないので、頭部に装着されたゴーグルもしくは左胸を覆う機械を破壊すれば、子供たちは解放されるはずだ。
「でも、ガキンチョどもを助けただけでは終わらないぜ。予知によると、UDCオブジェクトを廃寺に置いた誰かが現れるらしい。あるいは、その『誰か』本人ではなく、息のかかった奴かもしれないが……まあ、どちらにしろ、許しちゃおけねえよな。おまえさんたちの力で骸の海にまた沈めてやってくれや」
JJの手が止まった。水飴を練り終えたらしい。
「あ、そうそう。最初に言ったけど、ガキンチョどもは境内に秘密基地をつくってんだよ。戦闘やらなんやらでその基地はボロボロになっちまうだろうから、事が済んだら、ガキンチョたちと一緒に再建してみるのはどうかな? たまには童心にかえってみるのも悪くないと思うぜ」
かえるどころか常日頃から童心を維持しているJJはそう提案すると、目を細めて水飴を舐め始めた。
土師三良
土師三良(はじ・さぶろう)です。
本件は、UDCに寄生された子供たちを救い出し、その後で彼らと一緒に秘密基地をつくっちゃうシナリオです。戦闘だけもしくは秘密基地ごっこだけの参加も大歓迎。
第1章は、寄生された子供たちとの集団戦。子供たちのユーベルコード『助けて、誰か』はPCにも(共感するならば)影響するものとします。敵も味方も同時に強くなってしまうわけですな。
第2章は、黒幕(の息がかかった奴)との戦い。それが誰かはまだヒミツ。
第3章では、子供たちと一緒にスーパーウルトラデラックスでカッチョいい『地下迷宮秘密基地』をつくりましょう。
第2章終了時に子供たちの記憶はUDC組織の職員に消去/修正され、寄生されていた時のことはすべて忘れ去ります。よって、第3章での子供たちは猟兵たちのことを『秘密基地づくりを手伝ってくれる通りすがりの親切なお兄さんやお姉さん(もしくはオジさんやオバさん、もしくは同世代の少年少女)』と認識します。
それでは、皆さんのプレイングをお待ちしております。
※章の冒頭にあるPOW/SPD/WIZのプレイングはあくまでも一例です。それ以外の行動が禁止というわけではありません、念のため。
※基本的に一度のプレイングにつき一種のユーベルコードしか描写しません。あくまでも『基本的に』であり、例外はありますが。
第1章 集団戦
『『ジャガーノート』寄生未完了体』
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POW : 《Now Loading...》
戦闘力のない【電子データ】を召喚する。自身が活躍や苦戦をする度、【寄生完了を加速させるプログラム】によって武器や防具がパワーアップする。
SPD : 助けて、誰か
【寄生された子供の生存願望を叫ぶ悲痛な声】を聞いて共感した対象全ての戦闘力を増強する。
WIZ : 《緊急防衛モード、作動シマス》
【寄生対象者の生命力】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【自身を緊急防衛モード】に変化させ、殺傷力を増す。
イラスト:tel
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●幕間
「だ、だ、誰か……助けて……」
「痛い、痛い、痛い……」
「あああああああああ……」
悲痛な言葉を絞り出しながら、あるいは苦悶の呻きを漏らしながら、子供たちは境内に立ち尽くしていた。
彼らを乗っ取ったUDCオブジェクトはもうゴーグルと呼べる形状をしていない。この世の理を無視した原理でパーツが増殖し、展開し、合体し、獣の耳のような突起のついたヘルメットと化して、頭部の大半を覆っている。露出しているのは口元のみ。
体に絡みついた無数のケーブルのうちの何本かは互いに先端を結合させ、頭部と同様に増殖/展開/合体して、ハート型の新たな装置を生み出していた。その形に相応しく、心臓のある位置――左胸に。
「怖い……怖いよ……」
「おかあ……さん……」
「う゛ぁぁぁぁぁぁ……」
ゾンビのような足取りで子供たちは歩き出した。
自分の意思ではなく、UDCオブジェクトに操られて。
破壊と虐殺に興じるために。
ヒトツヒ・シカリ
アドリブ・絡み等大歓迎
WIZ
ウチと同じくらいの子達が
そういうんってちょっとアカンと思うんよ
好奇心が何を殺すとしても、よ
対峙しいざ戦闘という時
カクンと全身から力が抜ける
次の瞬間周囲に桜を吹雪かせて神楽舞の正装の様な
別人のような
子は未来
日に千縊られるとしても確かに残る未来
それを弄ぼうという愚かは見過ごせません
UCダンス野生の勘使用
ひらり風に舞う花弁のように攻撃をかわす
花を手折ろうという悪い子は、少し寝ていて下さいませ?
優しい踊りで目的に触れ
触れた場所には不浄を祓う桜と桃の花が大量に咲き誇る
出来る限り多くの子供に触れようと
子らを使わねばいかぬということは
子よりもたよわき者ということでしょうか?
火奈本・火花
「明確に子供を標的としたUDCオブジェクトとは、卑劣ですね。そんな計画が無駄である事を、思い知らせる必要がありそうです」
■戦闘
最優先の目標は子供達の解放ですね
可能な限り被害を抑える必要があります
まずは『激痛耐性』と『覚悟』を基に、『捨て身の一撃』で子供達に接近しましょう
『怪力』を使って、可能な限り子供達に怪我をさせないように動きを抑え込みます
その上でUCによる狙撃を
「ターゲットは頭部に装着されたゴーグル、もしくは左胸を覆う機械だ。寄生されている子供達への被害は最小限に抑えろ――撃て!」
ゴーグルか左胸の機械のみを狙えるよう、反撃を覚悟で子供の体勢を固定するつもりです
絶対、子供を犠牲にしないように
紗我楽・万鬼
最近のVR機はオプション寄生何てあるんですねぇ
ゲームばっかしてっと規制かかって寄生されるんですよきっと!
まそんな適当置いといて!
いやぁ真逆リアルゾンビゲー擬きするなんてねぇ
いえいえ御子様は殺りませんよねぇ御犬様!
まだ助けられるそうですよミッションSクリ行きやしょうや
そらもう簡単ですよ寄生してる奴だけ燃やしゃあ良いんですって
御犬様の炎なら子供等にゃ熱くありませんからね!
触らぬ御餓鬼様に祟りは無いそうですよ!
じゃんじゃん燃やし…嗚呼ーあっしに来る?
千破夜の火熱いでっしょ動きブレブレですよ
仕方ないですねぇひょい避けからの丁度手元に手裏剣有るんで的当てしますかね!
ゴーグルか胸の機械当てりゃ満点ですね!
ロバート・ブレイズ
「私を差し置いて『冒涜的』な寄生物どもが。酷く愉快な悲鳴を聞かせるものだ。オブジェクトは即刻収容・破壊せねば成らぬ。戯れの時間だ」
探索者の心得を発動
生存願望に共感したのか、其処の有無は別として攻撃を悉く回避。その間に情報収集で対象の隙を見抜く
隙を確認すると同時に鉄塊剣『立ち去れ』を叩き込む。恐怖と悪意に反応し、地獄の炎を『オブジェクト』に注ぎ込む
「俺の脳髄に寄生したものは『無聊』だ。貴様が癒しを提供すると説くならば抱擁すべき。生命への執着は当たり前で、我々は常に怯えねば成らない。忘れるな。如何なる存在でも『いきる』と――クカカッ――死は救済に在らず。既知の結末だ。故に撲り貫く」
城島・冬青
秘密基地!いいですねー
私も小さい頃に作ったことが…いや、作ろうとしたというのが正しいかな
基地が出来上がってすぐにお父さんがなぜかやってきて秘密の基地にはならなかったんですよ…(遠い目)家族に知られるのはNGですよねー
っと、思い出話は置いといてまずは子供達を助けないと!
子供達を傷つけないよう頭部のゴーグルか左腕を狙います
他の部位攻撃、ダメ絶対!
ってコラー!勝手に寄生対象者の生命を消費しない!!
命が危険になる前に《緊急防衛モード》が作動した子供から先に攻撃していきますよ
ごめんね、もしかしたらちょこっと痛いかもしれないけど我慢してね
【ダッシュ】で素早く接近し
ゴーグルor左腕の機械を破壊していきます
●火奈本・火花(エージェント・f00795)
廃寺の境内に足を踏み入れた私たちを出迎えたのは、十人ほどの少年少女。
いえ、向こうからすれば、出迎えたつもりなどないのでしょう。市街地に進軍を始めようとした矢先に邪魔者と鉢合わせしてしまった……といったところですか。
境内に築かれていた秘密基地は踏み荒らされて半壊していました。踏み荒らしたのは基地を築いた当人たちなのでしょうが、自分の意思でおこなったわけではないはず。そう、彼らや彼女らの小さな体はUDCオブジェクトに乗っ取られているのですから。
「秘密基地! いいですよねー!」
学校の制服に日本刀という取り合わせのお嬢さん――冬青さんが言いました。きらきらと目を輝かせ、壊れた基地を見ながら。
「私も小さい頃に秘密基地をつくったことがあるんですよ。いえ、『つくろうとした』と言うのが正しいのかなー」
「途中で断念したんですか?」
「違います。完成したことはしたんですけど、その直後にお父さんがやってきたから、もう秘密基地じゃなくなっちゃったんですよ」
「……意味がわかりません。なぜ、お父様が現れると、秘密基地ではなくなるのですか?」
「だって、秘密基地というからには秘密でないといけないでしょう! とくに家族に知られるのはNGですよぉー!」
いえ、力説されても……。
「うんうん。そん通りじゃ」
と、しかつめらしい顔で何度も頷いたのはヒトツヒさん。あの少年少女たちと同年代くらいのキマイラの男の子です。
「そういうのは親のほうが気を使わにゃいけんよ。子供の秘密基地を見つけても、あえて知らんぷりをするのが大人のマナーっちゅうもんじゃ」
大人のマナーですか……興味深い話ですけれど、深く追究するのは別の機会にしましょう。『あえて知らんぷり』などできるはずもない案件が目の前にありますからね。
ほら、その案件の犠牲者たる子供たちが――
「お、お姉ちゃんたち……誰?」
「……助けに来てくれたの?」
「おねがい……これ、外してよぉ……」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……」
「痛い……怖い……」
――こちらに向かって、歩き始めましたよ。
言葉では助けを求めながらも、UDCオブジェクトから伸びるケーブルのうちの一本を掴み、威嚇するかのように振り回しながら。
●ヒトツヒ・シカリ(禊も祓もただ歌い踊るままに・f08521)
「周辺の封鎖は完了しました!」
後ろのほうから声をかけられたんで振り返ると、そこには黒服を着たオッチャンたちがおった。UDC組織の『えーじぇんと』とかいうやつじゃな。しかし、なんで黒服? 逆に目立ちよると思うんじゃが。
「戦闘後の子供たちのケアもお任せください」
「ほーい。あんじょう、よろしゅう」
黒服たちのリーダーらしきオッチャンの言葉に頷いて前に向き直ると、今度は別の『えーじぇんと』の背中が見えた。ジャケットをビシっと着こなした火花さんの背中。さっきまではウチと冬青さんの横におったんやけど、今は子供たちにじりじりと詰め寄っとる。
「明確に子供を標的としたUDCオブジェクトとは……卑劣ですね」
火花さんの呟きが聞こえてきた。静かな声じゃけども、本当はブチ怒っとるんじゃろうな。
「そんな計画が無駄であることを思い知らせる必要がありそうです」
「うむ。思い知らせてやろう」
ずいと前に出たのはロバートさん。
一見、髭を綺麗に整えて、皺のない服を着た、真面目そうな老紳士っちゅう感じなんじゃが――
「冒涜王たる私を差し置いて、冒涜的に振る舞う寄生物ども。即刻、破壊せねばならぬ。戯れの時間だ。戯れの時間だ。戯れの時間だ」
――言うてることはよう判らん。なーんも知らん奴がこがな状況を見たら、ロバートさんこそがラスボスじゃと勘違いするんじゃなかろうか。
「ぎぎぎぎぎぃーっ!」
ラスボス感溢れるロバートさんに触発されて……というわけでもないじゃろうが、子供のうちの一人がイナゲな声をあげたかと思うと、足を速めて、火花さんに襲いかかった。
もちろん、火花さんは怯るんだりせん。それどころか、自分も駆け出して、正面からぶつかりよった。
「ぎぃーっ!」
子供が物凄い勢いでケーブルが振り下ろす。
それを火花さんは素早く回避……せんかった! 思い切り食ろうとる! じゃけど、悲鳴一つ上げずに、そのまま子供に組み付いたかと思うと、後ろに回り込んで羽交い締めにした。
「ばりすげぇー!」
ウチが叫んだ瞬間、他の猟兵たちも一斉に攻撃を仕掛けた。
●ロバート・ブレイズ(Floating Horror・f00135)
「ばりすげぇー!」
ヒトツヒが賛嘆の喚声を発するのもむべなるかな。見事だ、火花。私も負けてはおられぬ。戯れの時間を始めよう。
「だぁーずぅーげぇーでぇー!」
ヒトツヒの言葉に韻を合わせるかのように、幾人かの童が悲鳴じみた咆哮を響かせた。生存願望が生み出した叫び。共感した者の力を高める叫び。
しかし、童よ。いや、童という宿主なくしては存在できぬ三流の冒涜者たちよ。残念だったな。『共感した者』の中には私も含まれているのだ。
「貴様らの存在は暴かれた。正気を贄と為し、総てのものを既知と成す」
私はユーベルコードの『探索者の心得(シンワギノウ)』を発動させると、高められた力をそこに加え、童たちの攻撃を見切り、次々と回避した。このユーベルコードの代償は己が正気。なんと軽い代償であろうか。微塵も躊躇することなく、手放すことができる。手放せるだけものが我が心に残っているどうかはさておき。
それは私に限ったことにあらず。猟兵を生業とする者たちは皆、多かれ少なかれ、箍が外れている。たとえば……そう、あの赤い目をした羅刹を見るがいい。
「最近のVRゴーグルはオプション寄生なんてあるんですねぇ」
奴の名は万鬼。自称『噺屋』。飄々と語りながら、童たちの攻撃を躱し、なにやらユーベルコードを発動させようとしているようだ。
「きっと、ゲームばっかしてっと、規制がかかって寄生されるんですな。その挙げ句にこうして『ぎぃー』なんて奇声をあげて、気勢まであげちゃうわけで。稀世の猟兵たるあっしももう対応に大忙しで、帰省する暇もなくなっちまったりして」
そのユーベルコードによるものか、奇妙な生物(の範疇に入るのだろうか?)が奴の傍に出現した。全身に炎を纏った大型犬。
「さーて、リアルゾンビゲームもどきに挑むとしやしょうか。御犬様、ミッションSランククリア目指して、じゃんじゃん燃やしてくだせえ!」
「ま、待って、万鬼さん!」
と、サムライブレイドを手にした火花が叫んだ。
「燃やしたりしたら、子供たちまで巻き込んじゃいますよぉー!」
「心配御無用! 御犬様の炎は――」
万鬼が腕を振り下ろすと、犬の体から炎が噴き上がった。
「――あっしが指定したものしか焼きやせんからねえ!」
傍にいた童が炎に包まれた……と、見えたのは一瞬。炎は頭部と左胸に集束し、童の体に傷一つつけることなく、寄生物だけを焼き捨てた。嗚呼、素晴らしい。指向性もしくは思考性もしくはその両方を有した炎。欲しい、欲しい、欲しい。
「なにこれ!? ふっしぎー!」
寄生物から解放されて倒れる童を冬青が受け止め、地面に寝かせた。
『ふっしぎー』などと言って、目を丸くしているが――
「じゃあ、私も行っきまぁーす!」
――すくに表情を引き締めると、寄生物に取り憑かれている別の童に向き直り、サムライブレイドの切っ先を突きつけた。
すると、童の左胸の寄生物が弾け飛んだ。サムライブレイドの刃は触れていないにもかかわらず。
この技も『ふっしぎー』と評されるべきものであろう。
●城島・冬青(六百六十九番目の宿木・f00669)
愛刀『花髑髏』の切っ先から飛び出したカマイタチが、女の子の左胸に張り付いていたUDCオブジェクトに命中!
でも、これで終わりってわけじゃないみたい。
「緊急防衛モード、作動シマス」
女の子の頭部に残ってるヘルメットから電子音声が聞こえてきた。えーっと、JJさんの情報によると、緊急防衛モードっていうのは、寄生した相手の生命力を消費するんだっけ……って、コラー! 勝手に人様の生命を吸い取るんじゃなーい!
私はダッシュで間合いを詰め、ヘルメットめがけて『花髑髏』を振り下ろした。
「ごめんね! もしかしたら、ちょこっと痛いかもしれないけど我慢してね!」
と、謝ってる間に『花髑髏』の刀身がヘルメットにめり込んだ。そこから沢山の亀裂が走って、ヘルメットは粉微塵。女の子のほうは……見たところ、無傷みたい。よかった、よかった。でも、気絶して、こっちに倒れ込んできた。
私は咄嗟に『花髑髏』を地面に刺し、彼女を両手で抱き抱えて支えたけれど、その隙を衝くようにして、別の子供が攻撃してきた。これは大ピーンチ! ……じゃなかったんだな。
なぜなら、万鬼さんがその子の注意を引いてくれたから。
「リアルゾンビゲームの次は古典的な的当てゲームといきやしょう。あのヘルメットか胸の機械に当てりゃあ――」
万鬼さんの手から手裏剣が飛んで、子供のヘルメットの横っちょに突き刺さった。
「――満点ですね!」
うん、満点!
子供は私から万鬼さんへと狙いを変えて、頭の横から手裏剣を生やした状態のまま、攻撃を仕掛けようとした。
でも、その前に『ジャジャーン!』とばかりにヒトツヒくんが立ちはだかる。小さいながらも頼もしいー。さあ、ヒトツヒくん! やっちゃって!
「……へ?」
思わずヘンな声を出しちゃった。
だって、ヒトツヒくんがいきなりヘナッとして倒れかけたんだもん。攻撃を受けたわけでもないのに。
すぐに体勢を直したけど……なんだか、いろいろと様子がおかしい。周囲に桜が舞い散って、着ていたものが巫女さんみたいな衣装に変わってる。
「子は未来。日に千縊られるとしても、確かに残る未来。それを弄ぼうという愚か者は見過ごせません」
口調まで変わってるぅ!?
子供は例によってケーブルを鞭のように振るったけど、変身したヒトツヒくんは舞うような動きでそれを躱し、反撃した。
反撃といっても、相手のヘルメットに軽く手を触れただけだけど。
「花を手折ろうという悪い子は、少し寝ていてくださいませ」
触れた場所から淡紅色の桜の花が次々と咲き出したかと思うと、あっという間に枯れ落ちた。同時にヘルメットも土塊みたいになって、崩れ落ちた。
「子らを使わねば、戦えぬということは……子よりもたよわき者ということでしょうか?」
誰にともなく、ヒトツヒくんは問いかけた。
『子よりもたよわき者』かもしれない奴の悪意に満ちた置き土産――ヘルメットの残骸を見下ろして。
●紗我楽・万鬼(楽園乃鬼・f18596)
「クカカカカッ!」
おやおや。ロバートの旦那が笑い始めましたよ。おつむの構造が複雑なかたとお見受けしやしたが、戦ってるうちにより複雑になっちまったのかもしれませんやねえ。
『戦ってるうち』と言いましても、旦那はお子様が振り回すケーブルをひらりひらりと躱し続けてるだけだったんですが、今はもう違いやす。攻撃のパターンを完全に読み切ったのか、ケーブルを避けつつ、相手の懐に入りました。
で、両手で振りかぶったのは馬鹿でっかい真っ黒の鉄塊剣……いや、あれを剣と呼ぶのは無理がありますな。どっかの石碑だか石柱だかを力任せに引き抜いてきたような代物ですから。
「俺の脳髄に寄生したものは無聊だ。貴様が癒しを提供すると説くならば、抱擁すべき。生命への執着は当たり前で、我々は常に怯えねばならない」
あっしにはとても理解できないデンパチックな言葉を並べながら、旦那は真っ黒な石碑をブーンと体ごと半回転させやした。石碑でお子様をブッ飛ばすという荒っぽいやり方かと思ったら、さにあらず。ある意味、もっと荒っぽかった。あっしが召喚した御犬様と同じように、石碑から炎が噴き出したんです。ありゃあ、地獄の炎でしょうな。旦那はブレイズキャリバーのようですから。
「忘れるな。如何なる存在でも生きる、と。死は救済にあらず。既知の結末だ。故に撲り貫く」
旦那はデンパをゆんゆん流し続けながら、お子様を操る機械に炎を注ぎ込んでいきやす。たいしたもんですが、なにを言ってるのかはあいかわらず判りやせん。
「ちょいと、おまえさん。お手数だとは思いますが、旦那の言葉を通訳していただけませんかね?」
と、あっしが頼んだ相手は、眼鏡が似合う(でも、伊達眼鏡と見やしたぜ)火花さん。旦那とはそこそこ近しい関係みたいなので、あのわけの判らない言葉も少しは理解できるんじゃないか……と、期待したんです。
ところが、火花さんはそれどころじゃなかった。お子様の一人をまだ羽交い絞めにしてたんですよ。
お子様は抜け出そうとして必死にもがいておりますし、寄生している機械のケーブルもブンブンと激しく動いて抵抗しておりますから、火花さんは傷だらけ。それでも、決してお子様を放そうとしません。あの華奢の体のどこにそれだけの力が秘められているんでしょうねぇ? いや、物理的な力だけじゃなくて、意思も賞賛に値しますな。
ただ、意思があまりにも強すぎるせいでしょうか、戦いが始まる前に比べると、表情がキツくなって鬼気迫るというか、ちょいと怖い感じがします。もしかしたら、UDC相手にいろいろ思うところがあるのかもしれやせん。
まあ、しかし、相手を押さえつけているだけじゃあ、埒があきませんやね。ここは一つ、あっしか御犬様が手助けを……と、思いましたが、その前に火花さん自身が動きました。お子様を羽交い絞めにしたまま、自分の右手の位置を調節。すると、人差し指に嵌められた指輪から赤い光線がピッと伸びて、当たったところはお子様のヘルメットです。バイザーの上のあたり。
それはレーザーポインターみたいなもんで、べつに殺傷能力はないようですが――
「ターゲットはここだ。寄生されている子供たちへの被害は最小限に抑えろ。撃て!」
――と、どこかの誰かに火花さんが命じると、次の瞬間、光線の当たってるところで火花(いえ、駄洒落じゃありませんぜ)が散り、ヘルメットが弾け飛びました。
少し遅れて、銃声が遠くから聞こえてきやした。なるほど。『どこかの誰か』ってのが狙撃したんですな。音が遅れて届くほどの遠距離から。
お子様はヘルメットが破壊されたと同時に意識を失ったらしく、ぐらりと倒れかけやしたが、火花さんが素早く支えました。
そして、自分の傷を慮る様子も見せず、無傷のそのお子様に声をかけました。
「もう大丈夫ですよ」
おや? いつの間にか、鬼気迫る顔じゃなくなってやすね。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
天杜・乃恵美
※アドリブ・共闘歓迎
※科学者人格・モニカが現出
※主人格・ノエミは補助
兄くん(理生:f05895)に呼ばれて来たが
確かにコレは悪趣味だ
でも機械の形を執ったのは迂闊かな
…確かに仕様は気になるけどね
任せてよ
ノエミ、お祈りを
『うんっ!』(ユベコ起動)
エグい遊びはお終い
コレの一刺しで、望み通り助けよう
よし、端子貫入確認
防壁【ハッキング】開始、カースドワーム注入
OK、制御系侵食…兄くん、頼むよ!
●ユベコ
古びたエストック『禍津雷』召喚
実は突き刺した絡繰りの動作を鈍らせる
呪術的コンピュータウイルスの搬送ツール
ウイルス制御の為に【メカニック】のモニカが戦う
●兄くん
「男性・実兄」という刷り込みを慕情から敢えて受容
天杜・理生
モニカ(乃恵美・f05894)と同行。
アドリブ、共闘歓迎。
好奇心は猫をもなんとやら。
しかしまぁ、こどもの遊びを邪魔するような輩を放置もできまいよ。
うん?いや、モニカはこういうの好きそうだと思ってな。
まだ死ねやしないよなぁ。
そんな遊びがしたかったわけじゃないよなぁ。
ああ、お前達の声がよく聞こえる。
すぐに解放してやるから待ってろよ。
行くぞ、モニカ。援護は任せていいな?
自らの肌を傷つけて遠呂智に血を与えブラッド・ガイスト
捕食殺戮の大蛇と化した遠呂智で
モニカの与えた傷に重ねる様に傷口を抉り、生命力吸収。
セゲル・スヴェアボルグ
好奇心は猫を殺すとは言うが……悪趣味だな。
壊すだけならさほど難儀なことではない。
槍で貫くなり、斧でたたき割ればいいだけだからな。
だが、子供たちを傷つけないとなると話が変わる。
UDCオブジェクトとは言えども、所詮は電子機器だ。
ならば、中から直接潰してしまえばいい。
電脳ヲ駆ケル竜とハッキングで機能停止させてしまおう。
無論、向こうも簡単には近づけてはくれんだろうが……
まぁ多少の怪我は必要経費だ。
何、多少の痛みなど気にするもんでもない。ほんの一瞬でも接触する機会があればいいのだからな。
逆に浸食される可能性?そんなものは気合と根性で何とかすればいい。
ルベル・ノウフィル
spd
悲痛な声に共感
今、助けますぞ
UC:花焔乱舞
対象をオブジェクトに限定しますが
ゴーグルを燃やすと顔が燃えて、実際に熱くなくてもとっても怖くてトラウマものでしょうから、左胸を覆う機械のみを狙い破壊します
早業で一瞬のうちに破壊しましょう
この世界の子は、戦いとは無縁の生活を送っている平和な子達
僕は彼らを羨ましいとほんのちょっぴり思ったりしつつ
そんな「戦いを知らず平和で尊い人生」がそのままであってほしい、守りたい、と強く願うのでございます
僕は戦いに慣れておりますゆえ
そんな操られた動きに遅れは取りませんとも
僕は人を守るために戦っておりますゆえ
破壊と虐殺を楽しむだけの動きには負けませんとも
今、助けますぞ
●天杜・理生(ダンピールのグールドライバー・f05895)
「ばりすげぇー!」
事前に示し合わせていたわけではないけれど、小さな仲間の歓声に合わせて、僕たちはほぼ同時に走り出した。
UDCオブジェクトの傀儡と化した子供たちに向かって。
そのうちの何人かは悲鳴という形で迎撃してきた。
「だぁーずぅーげぇーでぇー!」
ああ、すぐに助けてあげるさ。キミたちもこんな遊びがしたかったわけじゃないだろうからね。
好奇心は猫も殺す。でも、今回の一件で責められるべきは、迂闊にUCDオブジェクトに触れた子供たちじゃなくて、彼らや彼女らの好奇心を利用した輩だ。
「好奇心は猫も殺す……と言うが、実に悪趣味だな」
僕の心中を読んだかのごとく、竜派ドラゴニアンのセゲルが同じようなことを呟いた。子供たちの攻撃(悲鳴によって強化されたのか、動きが素早くなってる)を躱しながら。
「ネコも殺すぅ?」
と、妹のノエミこと乃恵美が復唱した。きょとんとした顔をしながらも、セゲルと同様に敵の攻撃をちゃんと回避しているのはさすがだ。
「そういえば、この子たちの頭の機械にはネコさんのお耳みたいなのが付いてますね。だから、殺されちゃうんですかぁ?」
「いや、そういうことじゃなくてだな……」
セゲルが『好奇心は猫を殺す』という諺について説明を始めたが、僕はそれを遮り、呼びかけた。
ノエミの中にいる別の人格に。
「いくぞ、モニカ。援護は任せていいな?」
「うん!」
ノエミは元気よく頷くと――
「鳥石楠さま、おねがいします! モニカちゃん、いいよっ!」
――ユーベルコード『夜刀の標にて奉る(ゼロドライブ・メイズコスモス)』のためのセキュリィティ認証を経て、人格をモニカにスイッチした。
「了解さ、ノエミ」
と、数瞬前まで自分だった者に答えて、モニカが『夜刀の標にて奉る』を発動させた。
「天鳥船・封縛宮、次元隔壁開放。指定貨物を一時転送っ!」
次の瞬間、彼女の手に武器が出現した。古びたエストック。僕やノエミ/モニカの活動拠点たる航界神宮宮船『天鳥船・玄舞紗』から転送されたんだ。
「エグい遊びはおしまい! これの一刺しで――」
モニカは子供たちの攻撃を掻い潜り、エストックを突き出した。
「――望み通り助けてあげるよ!」
●天杜・乃恵美(天杜・桃仁香と共にありて・f05894)……の別人格のモニカ
傍にいた子供のうちの一人。その左胸を覆う機械にエストックの切っ先が命中した。子供は体をびくりと震わせたけど、ダメージは負ってないはず。エストックが傷つけたのは機械の表層部だけだからね。
「うんがぁぁぁぁぁーっ!」
言葉になってない言葉を苦しげに吐き出しながら、その子供はケーブルでアタシを打ち据えようとした。
だけど――
「そうはさせませんぞ!」
――獣の耳を生やした男の子が黒い刀を素早く振り、刀身でケーブルを絡め取るようにして攻撃を防いでくれた。
人狼のルベルくん。年齢はあの子供たちよりも二つか三つくらい上かな?
「こう言っては失礼ですが、そのエストックの攻撃はあまり効いてないのでは?」
「いやいや。そんなことはないよ」
刀でケーブルをさばき続けるルベルくんにそう言いながら、アタシはエストックの柄をちょこっと操作した。そう、これはただの剣じゃないんだ。この一件を仕掛けたのがどこの誰かは知らないけど、機械を利用したのは失敗だったねぇ。
「端子貫入、確認。防壁ハッキング、開始。カースドワーム、注入。制御系、侵食……兄くん、頼むよ!」
目には見えない蟲(ワーム)の群れが目には見えない防壁を食い破ったことを確認して、アタシはエストックを引き抜くと同時に後ろにジャンプ。
入れ替わるようにして兄くん(お兄さんの理生のことだよ)が子供に迫った。自分の左手の人差し指に歯を立てながら。
「さあ、解放してやる」
指先から流れ出した血を、右手に持つ乗馬鞭『遠呂智』に塗り込む兄くん。『解放してやる』と語りかけた相手は子供だけじゃない。それは『遠呂智』に向けた言葉でもあったんだと思う。だって、『遠呂智』は血を吸ったことで解き放たれて、殺戮捕食態に変わったから。
「『ブラッド・ガイスト』でございますな」
「そのとおり」
ルベルくんに答えながら、兄くんは『遠呂智』を振り下ろした。
バシッ! ……と、痛そうだけど小気味のいい音が響く。鞭が刃のように斬り裂いたのは、さっきまでエストックが刺さっていた場所。
大きくなった傷の奥で火花が散り、か細い煙が噴き出した。
「……うぁぁぁぁ?」
素っ頓狂な声をあげて、子供は大きくよろめき、尻餅をついた。
お尻が地面についた拍子に左胸の機械が二つに割れて、子供の体から剥がれ落ちた。
●ルベル・ノウフィル(星守の杖・f05873)
「お見事です」
「いや、僕だけの手柄じゃない」
そうやって言葉を交わしている間も、僕と理生殿はのんきに突っ立ていたわけではありませんぞ。戦場を駆け回りつつ、子供たちの攻撃を回避し、時には間合いを広げて、時には詰めているのです。
「ノエミとモニカの援護があってこそだ」
理生殿はそう仰いました。足を止めることなく、視線を妹君に向けて。
それにしても……乃恵美殿(それにモニカ殿も)は理生殿を『兄くん』と呼んでおられますし、ご本人も男性のように振る舞っていますが、なにやらちょっと違和感があります。片目を眼帯で覆った端正な顔立ちは女性のようにも見えるような、見えないような……いえ、追究するのはやめておきましょう。人様の事情に首を突っ込むのは失礼ですし、なによりも今はそれどころではありません。
「ぐがあぁぁぁーっ!」
あ! 絶叫とともに放たれたケーブルの一撃がセゲル殿に命中しました。
でも、セゲル殿は眉をほんの少し顰めただけ。
「壊すだけなら、さほど難儀なことではないのだがな。槍で貫くなり、斧で叩き割るなりすれば、それで事が済む。だが、子供たちを傷つけないとなると、話が変わってくるから――」
セゲル殿は額に手をやり、そこにかけていた防風眼鏡のような形状の電脳ゴーグルをずり下げて双眸を覆い隠しました。
「――そこのお嬢ちゃんに倣って、電脳戦といくか。UDCオブジェクトといえども、所詮は電子機器だ。内部から潰してしまえば、どうということはない」
「なるほど! 後学のため、セゲル殿の電脳魔術士としての能力を拝見させ……って、えぇーっ!?」
僕は我にもなく叫んでしまいました。
それというのも、セゲルさんが――
「ふん!」
――と、子供の左胸の機械に拳をいきなり叩きつけたからでございます。電脳戦というのは、こんなに荒っぽいものなのでしょうか?
おや? よく見ると、機械に打ち込まれたセゲル殿の拳は拳ならざる形に変わっておりますぞ。
「手の先端を、電子機器に侵入できる電脳体へと変えたんだ。ユーベルコードを使ってな」
そう言いながら、セゲル殿は拳(だったもの)を引き抜きました。
理生殿が仕留めた時と同様、機械は火花を発し、煙を噴き、真っ二つに割れて剥がれ落ちました。
●セゲル・スヴェアボルグ(豪放磊落・f00533)
電脳体に変えた拳で胸糞悪い機械をハッキングし、宣言通りに『内部から潰して』やったぞ。間合いを詰めて拳をぶつける過程でケーブルの攻撃を何度か食らったが、べつに構わん。多少の怪我は必要経費だ。
「電脳戦で相手に直に触れるのは危険じゃないかい?」
機械から解放された子供を地面に寝かせていると、乃恵美……じゃなくて、モニカだったか? まあ、とにかく、多重人格者のお嬢ちゃんが声をかけてきた。
「逆にこっちが浸食されちゃうかもしれないよ」
「問題ない。そんなものは――」
俺は子供から離れて、残った敵たちに改めて向き直った。
「――気合と根性でなんとかなる」
もしかしたら、その意見にお嬢ちゃんは反論したのかもしれない。
だが、聞こえなかった。敵が例の叫び声をまたあげたからだ。いや、『あげさせた』と言うべきだな。
「だぁーずぅーげぇーでぇー!」
「今、助けますぞ!」
負けじと叫び返したのはルベル。敵がそうであるように……いや、ひょっとしたら、敵よりも戦闘力が上昇しているかもしれんな。救いを求める子供の叫びを耳にして、共感しないでいられるような奴には見えないから。
「そう、絶対に助けまぁーす!」
おうおう。燃えてやがる……と、思ったら、本当に体が燃え上がったぞ!?
いや、ユーベルコードを使って、炎を纏ったのか。
「戦いを知らず、平和で尊い人生を送っているその子たちと違って、僕は戦いに慣れておりますゆえ、そんな操られた動きに遅れは取りませんとも!」
人間松明と化したルベルは火の粉を散らして境内を走り回った。『飛び回った』という表現のほうがしっくり来るような猛スピードだ。敵は次々と攻撃を繰り出したが、ルベルの残像にさえ命中しない。
「僕は人を守るために戦っておりますゆえ、破壊と虐殺を楽しむだけの動きには負けませんとも!」
もちろん、ルベルは敵を翻弄するだけでは終わらなかった。炎を放射し、子供たちに貼り付いている機械を焼いていく。そう、機械だけを。あの羅刹が召喚した犬の炎と同等、ルベルの炎も攻撃対象を指定できるらしい。頭部の機械には手出ししていないが、それはルベルなりの配慮なのだろう。ダメージを受けるのが機械だけだとしても、頭を炎で包まれるような体験をしたら、強烈なトラウマが残るかもしれないからな。
残っていた子供たちの左胸の機械がすべて焼け落ちると、ルベルは急停止した。その小さな体から炎が消え、子供たちが一斉にくずおれる。
「……」
ついさっきまで大声を張り上げていたルベルだが、今は無言。やりきった顔をしているものの、その表情には寂しさにも似た感情が滲んでいるような気がする。
もしかしたら、『戦いを知らず、平和で尊い人生を送っている』という子供たちのことを少しばかり羨んでいるのかもしれんな。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
第2章 ボス戦
『血渋木・弥次郎兵衛』
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POW : あたしもちったぁ、格好良くキメたいもんでねぇ!
【付着した物体を溶解させる血飛沫】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【が血で満たされた池へと変わり】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
SPD : 血渋木・弥次郎兵衛、大博打と参りやすぜぃ!
完全な脱力状態でユーベルコードを受けると、それを無効化して【対象の足元に湧き出た血溜り】から排出する。失敗すると被害は2倍。
WIZ : 旅は道連れ、世は情けって事ですぜ。旦那!
【ゲル状の血で模造された敵のそっくりさん】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
イラスト:麻風
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「火奈本・火花」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●幕間
戦いが終わると、黒服を着たUDC組織の構成員たちがてきぱきと事後処理を始めた。機械の残骸を回収し、子供たち(全員が意識を失っていた)を境内の隅に寝かせ、なにかの薬品を投与して、記憶消去銃の光線を照射していく。
もっとも、それは本当の意味での事後処理ではない。
戦いはまだ終わっていないのだから。
JJの予知が正しければ、新たな敵がここに現れるはずだ。
その『新たな敵』の姿を求めて、猟兵たちが警戒の眼差しを四方に巡らせていると――
「いやいやいやいやいや。皆さん、お強いですなぁ。こうでなくっちゃあ、おもしろくありませんや」
――廃屋のような本堂の扉が開き、一人の男が姿を現した。
奇妙かつ奇怪な出で立ちの男だった。ソフト帽、着物、ガスマスクのような仮面。そして、体の周囲に漂う赤黒い靄。
すべての猟兵の視線が自分に向けられるまで待ってから、男は本堂の階段をゆっくりと降り始めた。
「お初にお目にかかりやす。あたしの名は血渋木・弥次郎兵衛。皆さんが言うところの『オブリビオン』ってヤツなんですが……まあ、下っ端も下っ端。ケチな用心棒みたいなもんでござんすよ」
階段を降り切っても、弥次郎兵衛という男の足は止まらなかった。境内を横切り、猟兵たちに近付いていく。
「おっと! 念のために言っておきますが、あのみょうちくりんな機械を置いたのはあたしじゃありませんぜ。仕組んだのはどこぞの秘密教団かなんかでしてね。わたしゃあ、その教団に雇われて、命じられたんですよ。『今回の計画を妨害する奴らが現れたら、ブチ殺せ』と……」
弥次郎兵衛の周囲の靄が波打つような動きを見せる。
この時になって、猟兵たちは初めて気付いた。
その靄の正体が血であることを。
「そういうわけで、今から皆さんと一戦交えさせていただきやすが、戦ってる最中にそこの子供たちに手出しをすることはありませんから、その点はご心配なく。いや、正直なことを言わせていただきやすとね。あたしとしては雇い主の目的なんざ、どうでもいいんですよ。強い奴と戦えりゃあ、それで満足なんです」
弥次郎兵衛の声は楽しげだった。マスクの奥はきっと満面の笑顔だろう。秘密基地ごっこに興じる子供たちと同じような笑顔。
「文字通り、血沸き肉躍りますぜぇ」
血の靄の色が濃くなった。
ルベル・ノウフィル
pow
戦いは格好良さを求めるものではございません!
勝てば良いのでございます(クワッ)
全行動に早業活用
1、念動力で敵の足元をトンネル掘りしましょう
浮いてる敵ではないのでしょう?なら、足元をピンポイントに崩せば動きを阻害できるはず
(浮いてたら残念)
2、血飛沫対策に全身にオーラ防御を巡らせましょう
基本は回避でございますが、味方がピンチなら積極的に庇います
その際は夕闇マントにオーラ防御を集中してマント受けしましょう
その方が絵的に格好良いし(あれ?)
3、血で満たされた地(池?)はトンネル掘りで掘って、さらに掘った土で埋め立てます
4、UC魂の凌駕
真の姿の白狼となり、捨て身の一撃を叩きこみましょう
わんわんお
紗我楽・万鬼
ちょいと待って下さいよお前さん
四割程あっしとキャラ被ってません?
此方もケチな噺屋一匹ドンパチやるなら喜んで
血祭り開催といきやしょうや!
お前さんが血飛沫ならあっしは獄炎纏って御相手しやしょう
火達磨万鬼たぁあっしの事ですよ、御心配なくあっしは熱くないもんで!
お前さんと其の血を燃料に、そらそら焼ける匂いが香ばしく!
業火諸共豪華に立ち回り、ゲルだかも丸焼きで良いですかね?
槍ぶん回せば火炎大車輪が如く!赤い霧巻き込み派手に火葬しましょうや!
嗚呼然し流石用心棒御強いですねぇ…おやぁ動けません?
そりゃあっしの焔で出来たお前さんの影に千破夜が取り憑きましたからね
さあ幕引きですぜ旦那。斯の槍にて終いとしやしょう
ヒトツヒ・シカリ
アドリブ等大歓迎
SPD
あら
楽しいだなどと怖いことを
成程。成、程
あの狂れたモノで子らを手に掛けようとした者らに与すると
それが楽しく満足だと
静かに瞼を閉じて
周囲に花弁が吹き荒れる
美しく静かな怒り
UCダンスパフォーマンス歌唱使用
極度に高レベルとなった優しさ・破魔・浄化による
今を恨む過去への攻撃を試みる
くるりひらりと舞う度に周囲に花弁の旋風を
桜は命、桃は破邪、踊りは活力、歌は祈りを
貴方とて命であった者であるからこそ私は祈るのです
再び安らかに瞼を閉じる事が出来ますように、と
私とて怒ります。子らをあのように使うを見過ごしたことを
故に踊りにそれを籠めましょう
祈りを、怒りを、思いを
ひらりくるり花の舞は続く
ロバート・ブレイズ
「知沸き憎踊る現実を、貴様の存在に叩き憑ける」
闇堕ち発動
自身に漆黒の毒・膨張する心臓・流動する虹色を付与
超強化した肉の塊でぶん殴る
相手が『防御』『回避』せねばならないと思うほどの【恐怖を与える】
対象の目前に存在する爺こそが暗黒で、混沌の化身だと刻み込むのだ。シャドウ一色だと理解させる
その後、鉄塊剣で圧し潰す。地獄の炎と共に
「貴様の満足(ほてっぷ)など知らぬ。否。既知だ。貴様の如き大莫迦は早々に退場し、相応な場に現れるべきだ。舞台が違うぞ」
苦戦する際は情報収集で弱点を見つけ、他猟兵に伝える
即時撤退を
城島・冬青
子供達が無事でよかった
んでこの血渋木・弥次郎兵衛さん?は強い人と戦いたいバトルジャンキーって感じっぽいよね
貴方の望む戦いができるかどうかはわからないけれど挑んでくるなら相手をするまで!
【廃園の鬼】を使用したら花髑髏を構え【衝撃波】で距離を取りながら戦っていきます
血飛沫を近距離で食らうのは避けたいので近接戦闘は避けたいな…てかこれって服にかかったらとんでもないことになりますよね??!戦ってる最中、裸に……ってダメダメダメー><
なので血飛沫攻撃は【第六感】で発動の気配と飛んでくる方向を察知し【ジャンプ】と【残像】で絶対避けます!てか避けなければいけないんです!!それ以外の攻撃は【武器受け】で凌ぐ
セゲル・スヴェアボルグ
てっきりUDCオブジェクトの被験者にでもしよう……などと言うのかと思ったら、存外、血気盛んな奴等だな。
さて、血飛沫を警戒して距離を取るのが定石だが……
子供に手を出さんと言うのを鵜呑みにするわけにもいかんな。
この手の輩はそんなことはないだろうが警戒するに越したことはない。
故に間に挟まるような位置取りをする。
当然、子供達からは十分な距離を取らんとな。
敵との距離は多少近くなるだろうが、
盾でしのげばいいだけだ。
幸いにも、リソースはいくらでもある。盾は出し放題だ。
さっきのアレに変なもんが仕込まれてなければ問題なかろう。
血飛沫で作った池など、俺のブレスで蒸発させてやろう。
そのまま奴も燃えてしまえば僥倖よ。
火奈本・火花
「戦いを楽しんでいる、と言ったところか。邪神そのものでは無いが、異常な存在である事にに変わりはないな」
■戦闘
力量が分からない以上、まずは攻撃を確実に当てて出方を見よう
命中率を重視した蹴撃乱舞で攻める
短針銃が命中した時に『催眠術』で意識を一瞬でも奪えないか試そう
蹴り技には私の『怪力』を併せて、奴を蹴り飛ばす等で体勢を崩す
この攻撃で仕留められるとは思わない。続く仲間の攻撃に少しでも有利になればと思うよ
「一対一の勝負ではないが、まさか後から不満を言わないだろうな? 数の利も連携も、我々人類の武器なのだ」
■真の姿
胸から左腕にかけてが樹木化
浮き上がった血管のような根が、顔や腕、脚に張り巡らされている
天杜・乃恵美
※アドリブ・共闘歓迎
※エストック送還後はノエミ主体
※精神年齢低め・感覚重視
おにいちゃん(理生:f05895)お疲れさまぁ♪
あれ?ヘンなヒトキリさんが…
あ、猫さんヘルメットは違うんですねぇ
『それでもアレは敵だよ、ノエミ』
うん、血のにおいはお祓いしないとね☆
みんなで秘密基地作りたいもんっ(にへー)
おにいちゃん、いっしょに行くよぉっ!
●兄妹同時攻撃
【光風よ、白華の聖旗に祝福を】での束縛と
【破魔】術式を載せた光の花弁による【援護射撃】担当
理生の眼帯操作で察したノエミが軍旗を形成
理生の行動に合わせて軍旗を振り風を起こして
邪な靄を吹き飛ばすと共に白い花吹雪で裂く
●理生
一章のモニカと違って純粋に「実兄」扱い
天杜・理生
乃恵美(f05894)と同行。
アドリブ、共闘歓迎。
ふぅん、雇った方も随分と適当なんだな。
ああ、ノエミもモニカもご苦労だった。
子供たちはもう心配いらないよ。
だからモニカの言うようにアレをさっさと倒して子どもたちの秘密基地を取り返してやろうな。(ぽん、とノエミの頭を撫でて)
さて、随分と厄介なやつだな。
ブラッド・ガイストを遠呂智と一目連に発動
眼帯を外してこの身に宿した龍神様を呼び起こすとしよう。
血なら僕の好物なんでね。
せっかくだ、分けてくれないか。
ノエミが動きを封じた隙に遠呂智を振るい、距離を詰めて吸血。
ついでに他の仲間がつけた傷口も抉ってやろう。
●天杜・理生(ダンピールのグールドライバー・f05895)
血渋木・弥次郎兵衛か。
腕は立つのかもしれないけど、お世辞にも優秀な用心棒とは言えないな。雇い主の意向よりも自分の望みを優先しているんだから。案外、雇い主のほうも適当な奴らなのかもしれないけど。
「なかなか興味深いオブリビオンだね。でも、あいつの相手は兄くんとノエミに任せようかな」
そう言って、モニカがエストックを『天鳥船・玄舞紗』に送還し、意識の主導権もノエミこと乃恵美に返した。
「おにいちゃん、お疲れさまぁ! ……あれ?」
戻った矢先に首をかしげるノエミ。きょとんした視線の先にいるのが血渋木であることは言うまでもない。
「ヘンなヒトキリさん……ネコさんのヘルメットは被ってないけど、あの人が敵なの?」
「そうだよ」
手を頭に軽く乗せるようにして、僕はノエミを撫でた。
「さっさと倒して、子どもたちの秘密基地を取り返してやろうな」
「うん!」
満面の笑みで頷くノエミ。
その元気な返事の語尾に『ヘンなヒトキリさん』の声が重なった。
「御兄妹ですかい? 仲のよろしいことで……」
血渋木は言葉を続けようとしたが、その前に割り込んできた者がいる。
羅刹の万鬼だ。
「ちょいと待ってくださいよ、おまえさん!」
びしりと血渋木に指を突きつける万鬼。
「四割ほど、あっしとキャラが被っちゃいませんかぁ?」
「ほうほう」
ガスマスクの顎のあたりを撫でながら、万鬼をしげしげと眺める血渋木。まあ、マスクのせいで表情が見えないので、『しげしげと』というのは僕の想像に過ぎないのだけれど。
「言われてみると、確かに被り気味ですなぁ。実は『血』を分けた生き別れの兄弟だった……なんて、たまげたオチが待ってるかもしれやせんぜ」
「なるほど。兄弟となりゃあ、似てるのも当然。『血』は水よりも濃いと言いやすからね」
「とはいえ、兄弟だろうが他人だろうが、『血』で『血』を洗うような戦いは避けられやせんよ」
「もとより、避けるつもりもありませんや。屍山『血』河を築く覚悟はできてますぜ」
「だったら、あたしも出し惜しみはなし。心『血』を注いで編み出した技のすべてを披露させていただきやす」
「出『血』大サービスってわけですかい。こりゃまた太っ腹なことで」
うん。四割どころか、八割くらい被ってるね。言葉だけを聞いてると、判別がつかなくなりそうだよ。
「いやいや、太っ腹なのは気持ちだけ。実際のところは、逆さに振っても鼻血も出ないようなありさまです。さっきも言いやしたが、あたしはケチな用心棒に過ぎやせんのでね」
「そちらがケチな用心棒なら――」
見得でも切るかのようなオーバーアクションで万鬼が身構えた。
「――こちらもケチな噺屋一匹! ドンパチやるなら喜んで! 血祭り開催といきやしょうや!」
「血祭り上等でさあ!」
血渋木も鏡像のごとく同じポーズを取った。
……十割かな?
●ロバート・ブレイズ(Floating Horror・f00135)
「血祭り上等でさあ!」
血渋木・弥次郎兵衛が珍妙な姿勢を取り、大音声を境内に轟かせた。愉悦の叫び。喜悦の叫び。恭悦ならぬ狂悦の叫び。
血の靄が弾け、飛沫が散った。赤き滴の弾丸が狙うは、弥次郎兵衛へと突き進む影――UDCのエージェントたる火花。
否、逆だ。火花こそが血渋木を狙い、血渋木は迎撃を試みたに過ぎぬ。我が目は確と捉えた。血渋木が万鬼に応じて吼える寸前に火花が走り出したのを。
「戦うことがそんなに楽しいか? 邪神ではないが――」
蛇行を描いて血飛沫を避けながら、火花は距離を詰めていく。
「――異常な存在であることに変わりはないな」
両手がジャケットの懐に消え、すぐに現れた。左右ともに銃を掴んだ状態で。
そして、二丁の銃が火を噴く……と、思いきや、意外。火花が放った攻撃は蹴り。
脇腹を爪先で抉られて血渋木が体勢を崩すと、火花の銃が初めて火を噴いた。いや、火を噴いて弾丸を吐き出したのは右手の自動拳銃のみ。左手の銃は硝煙も銃声も発さなかった。おそらく、あれはUDC組織の記憶消去銃の一種。なんらかの薬剤が塗布された針状のものを発射したのだろう。
その薬剤の影響か、あるいは蹴りと弾丸による物理的なダメージによるものか、血渋木の体がぐらりと揺れた。
間髪容れず、火花が再び蹴りを放つ。これも命中。歯応えがなさすぎるぞ、血渋木よ。楽しませてくれるのではなかったのか。
「先程、あたしのことを『異常の存在』とか仰いましたがねえ」
……む? 私としたことが、結論を急ぎすぎたようだ。血渋木め、三度目の蹴りを躱し、体勢を立て直したではないか。
いつの間にやら、その足下の地面が赤く染まっている。血だ。血だ。血溜まりだ。それが奴に活力が与えているらしい。しかし、その血はどこから生じた? 何者が流した? ああ、そうか。判ったぞ。火花の回避した血飛沫が地表に落ち、血溜まりへと変化したのだな。面白い。実に面白い。
「戦いを楽しむのが異常ですかい? だとしたら、この世は異常者だらけってことになりませんかねえ。それに、おまえさんの組織もそういう異常者を山ほど飼って……いや、他ならぬおまえさんもその異常者の気がないと言えますか?」
「黙れ!」
叫びざまに火花がまた拳銃を発射したが、血溜まりから力を得た血渋木はそれを回避した。
だが、『それ』以外の攻撃はどうかな?
「血は僕の好物なんでね。せっかくだから――」
鷹揚に語りかけながら、別の猟兵が死角から鞭を振り下ろした。
「――わけてくれないか」
鞭が命中した場所は、火花が最初につけた傷。容赦のないことよ。
その容赦なき猟兵は理生。ただし、先程までの彼(いや、彼女なのか?)とは少しばっかり様子が違う。
眼帯を外し、両目を晒しているのだからな。
●天杜・乃恵美(天杜・桃仁香と共にありて・f05894)
「血祭り上等でさあ!」
火花さんが走り出すと、ヒトキリさんが大きな声をだしました。
そしたら、ヒトキリさんの周りの血のもやもやが『バァーン!』って弾け飛んだんです。
でも、火花さんはジグザグに動いて、血をよけました。かっこいいですねぇ。
よーし、あたしもかっこよく戦おう。おにいちゃんと一緒に。
ちらりとおにいちゃんのほうを見ると、おにいちゃんもあたしを見ました。
両方の目で。
そう、ガンタイを外したんです。おにいちゃんの右目は龍神の目。『一目連』という名前の刻印(ドライバー)。
「……」
「……」
なにも言わずに同時にうなずく、おにいちゃんとあたし(こういうのをイシンデンシンって言うんだっけ? 後でモニカに訊いておこうっと)。
そして、あたしはユーベルコードを発動させました。
「舞い誇れ、無垢なる華」
お空に両手を突き上げると、破邪の光がピカっと輝きました。
その光が手の中にギュっと集まり、大きな旗に早変わり。
「鳥石楠の祝(な)の元にて、勇士の遥かな旅路に今一度、穢れなき帆風を吹かせるためにっ!」
光の旗を力いっぱい振ると、小さな光の点がいくつも散って、その転々が白い花片になり、風(その風も光り輝いてます)に乗って飛び回りました。
すると、火花さんのキックを避けたヒトキリさんの動きが止まりました。白い花吹雪が生み出した結界の力です。
ヒトキリさんが止まったのはほんの一瞬だけど、それを見逃すようなおにいちゃんじゃありませんよぉ。
「血は僕の好物なんでね。せっかくだから、わけてくれないか」
一気に近付き、自分の血を吸わせて強化した鞭『遠呂智』でバシーン! 花火さんの鉄砲が命中したところを思い切り引っ叩きました。痛そぉーっ!
しかも、それだけでは終わりません。ヒトキリさんの腕にガブリと噛みついちゃいました。たぶん、血を吸っているんじゃないかな? なにを隠そう、おにいちゃんはダンピールなのでーす。
そして、おにいちゃんは反撃を受ける前にヒトキリから離れて――
「不味い血だ。おかわりはいらないよ」
――口の端から垂れる血を袖で拭いながら、チョーハツしました。
「無理からに吸血しておいて、その言いぐさはないんじゃないですかい」
肩を揺らして笑ってみせるヒトキリさん。チョーハツされたのに、ちっとも怒ってないみたい。
「とはいえ、荒っぽい攻撃は大歓迎ですぜ。無傷で勝っても面白くありやせんし、戦いってのは激しけりゃ激しいほど楽しいもんですからね」
「ふん!」
と、呆れたように(それとも、感心したように?)鼻を鳴らしたのはセゲルさん。
「どうやら、雇い主やUDCオブジェクトに興味がないというのは嘘ではないようだな」
セゲルさんは他の皆よりも距離を取って、境内の隅のほうに立っていました。そこにいるUDC組織のエージェントさんたちや子供たちを守ってるみたい。
ドラゴニアンだから見かけはイカついけど、実はいい人なんですねっ!
●セゲル・スヴェアボルグ(豪放磊落・f00533)
多重人格者のお嬢ちゃんがキラキラした目でこちらを見てる。大方、『イカつい外見の割に云々』とか思ってんだろう。竜派ドラゴニアンあるあるだな。まあ、どうでもいいが。
しかし、紳士たる俺と違って、あの血渋木とかいうのは外見の印象を裏切らない男らしい。
「『荒っぽい攻撃は大歓迎』と来たか……血気盛んな奴だ」
「バトルジャンキーって感じですねー」
俺の独白に冬青が応じた。
この娘は臆せずに突っ込んでいくタイプなんだが、今回はなぜか慎重に距離を取り、攻撃するタイミングを見計らっている。
「では、その血気盛んな御仁に――」
動かぬ冬青に代わって、万鬼が勢いよく飛び出した。
「――血が引くような思いをしていただきやすかね!」
そして、万鬼が召喚したあの大きな犬がまた炎を噴き上げた。
それを満身に受けたのは敵じゃない。
万鬼自身だ。
「火達磨万鬼たぁ、あっしのことですよ! おっと、御心配なく! あっしはちっとも熱くないんで!」
そういえば、あの炎は指定したものだけを焼くのだったな。
さっきはルベルも炎を体に纏ったが、万鬼は羅刹だし、おまけに槍を振り回しているので(もちろん、その槍も炎に包まれている)、ルベルの時とは違った迫力がある。
「業火もろとも豪華に立ち回り、後悔する間も与えずに豪快に焼き捨ててさしあげますぜ!」
「うへえ! 火達磨万鬼さんのおかげでこっちは『血』達磨になりそうでさぁ! こいつぁ、『血』も涙もないオブリビオンといえども、恐怖のあまり『血』相を変えて逃げ出したくなりますぜぇ!」
剽げた動きで万鬼に応戦する血渋木。しかし、本当にキャラが被ってるな……兄弟どころかクローンじゃないのか? あのマスクの下から万鬼と同じ顔が現れても驚かないぞ。
クローンの片割れたる『火達磨万鬼』に合わせて、他の猟兵たちももう一人の片割れの血渋木に次々と猛攻を加えたが、俺はこの場から動かなかった。地面に並べられている子供たちを守るためだ。相手は子供に手出ししないことを明言したが、鵜呑みにするわけにもいかん。それに流れ弾ならぬ流れ血液も飛んでくるしな。
『この場から動かなかった』とはいっても直立不動というわけじゃない。なにせ、血渋木は動き続けているから。常に奴と子供たちの間に立つように左右に移動しながら、俺は電脳ゴーグルを再び装着し、それと連動した右腕のガントレット『オンスキルビング』に指を走らせた。プログラム化されていた盾が瞬時に具現化。『スィタデル(城塞)』という名に相応しいデカさを有したそれを前面に構え、こちらにきた血飛沫を防ぐ。
後方を振り返ると、子供たちの傍で黒服姿のUDCの面々が恐縮そうに身を縮こませていた。
「なあに、気にするな。これが猟兵の仕事だ」
そう言って前に向き直った時、ついに冬青が動いた。
「この『花髑髏』の本当の姿をお見せしますね!」
叫びとともに振り上げられた冬青のサムライブレイド。
その刀身が漆黒に変わった。
●紗我楽・万鬼(楽園乃鬼・f18596)
あっしのユーベルコードは燃やすもんを自由に選べますから、こうやって体に炎を纏っていても、火傷するこたぁありません。しかし、目の前で炎がめらめら燃えてるから、ちぃとばかし視界が悪い。
そんなめらめらな視界に冬青さんの姿が入ってきやした。刃が黒く変わったサムライブレイド(鍔んところに花と髑髏の透かし彫りが施された乙な得物です)を構えたりなんかして、なかなか凛々しいですな。
で、冬青さんはそのサムライブレイドを振りかぶり――
「とぉーっ!」
――裂帛の気合いとともに斬りかかった!
あれ? よく見ると、斬りかかってやせんね。
「えーい! どりゃー! ちぇすとぉーっ!」
叫び声は勇ましいですし、我が兄弟(いや、冗談ですよ)の弥次郎兵衛に何度も傷を負わせてもいます。
しかし、例のサムライブレイドの刃は一度たりとも弥次郎兵衛には触れておりません。
それというのも直に斬らずに、斬撃から生じた衝撃波で攻撃しているからです。
「ちょいと、冬青さん。なんだか、芸風が変わっちゃいやせんか? 子供たちと戦ってた時はもっとガンガン前に出る感じで攻めてたじゃないですか」
「そりゃあ、私だってガンガン攻めたいですよ。だけど、今回だけは接近戦は避けなくちゃいけないんです」
「そりゃまた、どうして?」
「だって……ほら、見てくださいよ!」
冬青さんはサムライブレイドをぐるりと回しました。切っ先で四方を指し示したつもりなんでしょう。
「弥次郎兵衛さんの血飛沫が命中した場所はぐずぐずに溶けてるじゃないですかぁ! もし、こんな攻撃を食らったら……」
「……食らったら?」
「服が溶けて、大変なことになっちゃいますぅ! そんなのダメ! 絶対、ダメダメダメェーッ!」
『ダメ』を連発しながら、衝撃波を放ち続ける冬青さん。
もちろん、弥次郎兵衛のほうもやられっぱなしというわけじゃなくて、血飛沫を飛ばして反撃しているんですがね。標的たる冬青さんは残像を大量生産しながら飛んだり跳ねたりしてるもんですから、ただの一発も命中しません。いやはや、恥らう乙女の力ってのはたいしたもんですな。
あっしは乙女でもなければ、恥も知りませんが、負けちゃいられません。燃える槍(まあ、槍だけじゃなくて、全身が燃えているわけですが)をブン回して弥次郎兵衛にまた攻撃を仕掛けました。
弥次郎兵衛は迎撃の構えを見せましたが――
「おろっ!?」
――と、素っ頓狂な声をあげて硬直しました。
「おやぁ? 動けませんか? でしょうなぁ。おまえさんの影に御犬様が取り憑きましたからね
ぇ」
あっしが召喚したあの御犬様(名は『千破夜』です)は相手の影に取り憑いて動きを止めることができるんですよ。
「あっしが炎を纏った本当の理由はね、おまえさんの影をくっきりと浮かび上がらせるためだったんですよ。おあとがよろしいようで」
種明かしをしながら、あっしが弥次郎兵衛の胸に槍をスブッと突き入れた。
しかし、さすが我が兄弟(だから、冗談ですってば)。
でっかい穴を胸にあけられたっていうのに泣きも叫びもせずにこう言ってのけました。
「いやー、思っていた以上に楽しいですぜ」
●城島・冬青(六百六十九番目の宿木・f00669)
「あら。『楽しい』などと怖いことを……」
と、口に手をあてて上品に笑ったのは、すっかりキャラが変わっちゃったヒトツヒくん。
「そんなのに楽しいですか? 戦うことが? あの狂(たわ)れたモノで子らを手にかけようとした者らに与してまで戦うことが?」
矢継ぎ早に問いかけると、ヒトツヒくんは相手の答えを待つことなく、目を閉じて小さく頷いた。
「ああ、楽しいのですね。なるほど。なるほど。な、る、ほ、ど」
今、判った……これ、顔では微笑んでるけど、本当はものすごく怒ってるよね? 漫画やアニメなら、オーラだの炎だのがめらめらと激しく燃え立つやつだよね?
でも、弥次郎兵衛さんとやらは凄まじく鈍いのか、それとも怒りに動じるようなタイプじゃないのか、飄々とした態度を崩そうとしない。
「そりゃあもう! 楽しくてしかたありませんや。しっかし、こういう楽しみを求める心ってのは底無しでしてね。ちょっとやそっとじゃあ、満たされないんですなぁ。ですから、皆様にも――」
またもや、血の靄が炸裂。
「――もっと、つきあってもらいますぜ!」
「では、おつき合いいたしましょう。ただし、あなたを楽しませるためではありません」
なんと、飛び散った血飛沫をヒトツヒくんはぜーんぶ避けちゃった。目を閉じたまま、子供たちと戦ってた時と同じように舞うような動きで……というか、本当に舞ってる。翼を広げて(キマイラだから、翼があるの)、尻尾を揺らめかせて(キマイラだから、尻尾もあるの)、薄桃色の扇を両手に持って(キマイラだから……って、これは関係ないか)、くるりとくるりと。
「我らとて命、汝らとて命。この場すべての命を祝い、そして穢れを禊ぎ、払おう」
「ぐっ……!?」
ヒトツヒくんが円を描くようにして舞い踊り続けていると、その円の中心にいた弥次郎兵衛さんが片方の膝を地面に落とした。きっと、あの舞いは回避だけじゃなくて攻撃も兼ねていたんだね。といっても、物理的な攻撃じゃないと思う。ヒトツヒくんは敵に触れていないから。『穢れを禊ぎ、払おう』とか言ってたから、敵の悪しき魂を浄化するような感じのユーベルコードなのかな?
「……こいつぁ、いけねえ」
弥次郎兵衛さんは膝を上げて、蟹みたいに横歩きで移動した。近くの血溜まりに向かって。そう、ヒトツヒくんが血飛沫を避けた時にできた血溜まり。
そこに立って、また戦闘力をアップするつもりだったんだろうけど――
「おっと!?」
――今度は片膝をつくどころか、思い切り転んじゃった。なぜなら、血溜まりのある地面がいきなりボコボコと崩れちゃったから。
「文字通り、足をすくわれましたな!」
と、力強い声を出したのはルベルくん。
どうやら、念動力を使って、足場を崩したみたい。可愛い顔してエグいんだから、もう!
●ルベル・ノウフィル(星守の杖・f05873)
転倒した弥次郎兵衛殿めがけて、僕は妖刀『墨染』を振り下ろしました。
弥次郎兵衛殿は地面を転がって間合いの外に逃れようとしましたが、僕の素早さには勝てず、『墨染』に斬り裂かれました。
とはいえ、地面を転がることをやめたわけではありません。傷口から血の糸を引きながら回転し、充分に距離を取ったところで立ち上がったのでございます。
「見かけによらず、小狡いお坊ちゃんですなぁ。まあ、あたしゃあ、こういう戦い方も嫌いじゃありやせんがね」
弥次郎兵衛殿は僕を嘲りました。いえ、当人は嘲っているつもりなどなく、ただ普通に笑っているだけなのかもしれませんが。
確かに敵の隙をついて足場を崩すのは小狡いしですし、格好いい戦法とは言えません。
しかし――
「――戦いは格好よさを求めるものではございません! 勝てばいいのでございまぁーすっ!」
「いや、そんなに目ぇ剥いて怒鳴るこたぁないでしょう」
おっと、いけない。思わず声に出してしまいました。
「しかし、その気概にゃあ、シャッポを脱ぎますぜ。あたしも皆さんに倣って、格好よさなんか求めず――」
血と砂に塗れた着物を翻して、弥次郎兵衛殿は何度目かの血飛沫攻撃を放たれました。
「――最後の最後まで泥臭く抗わせてもらいやしょう!」
しかし、血飛沫は何者にも命中しませんでした。僕もまたマントを翻し(数多の敵の返り血を吸ってきた『夕闇』という名のマントです)、そこにオーラを展開して防壁としたからです。先程、『戦いは格好よさを求めるものではございません』と言い切りましたが、マントをバサッと翻すこの所作はなかなか格好いいのではないかと……どうでもいいですか? どうでもいいですね。
おそらく、弥次郎兵衛殿の意図は攻撃ではなく、それによって生じた新たな血溜まりの上に立つことだったのでしょう。
しかし、彼は血溜まりまで行くことができませんでした。
「血のにおいはお祓いしましょー!」
と、乃恵美殿がまたもや光の旗を降って不思議な花吹雪を発生させ、動きを封じたからでございます。
その隙に乗じて弥次郎兵衛殿に攻撃を仕掛けたのはロバート殿。
「よくやった。己が内に余人にして自身を住まわせる童よ」
乃恵美殿を労いながら(労ってるんですよね?)、ロバート殿はユーベルコードを発動させました……のだと思います、たぶん。正直、理解の外です。それが本当にユーベルコードなのかどうかも僕には判りません。
「『血沸き肉躍る』などと嘯く痴れ者よ。知沸き憎踊る現実を、貴様の存在に叩き憑けん」
ロバート殿の肉体が膨れ上がり、衣服から覗く肌が毒にでも犯されたかのように漆黒に染まっていきます。
「貴様の満足など知らぬ。否、既知だ。貴様のごとき大莫迦は早々に退場し、相応な場に現れるべきだ。舞台が違うぞ」
弥次郎兵衛殿を罵りながら(罵ってるんですよね?)、ロバート殿は拳を振り下ろしました。
●ヒトツヒ・シカリ(禊も祓もただ歌い踊るままに・f08521)
ロバートさんの強化された拳が命中するよりも早く、乃恵美さんのユーベルコードがもたらした金縛りは解けたようです。
しかし、回避する余裕まではなかったのか、血渋木さんは体を脱力させて、拳を受けました。
おそらく、それは攻撃を無効化するユーベルコードだったのでしょうが――
「ぶぎゃっ!?」
――失敗に終わり、血渋木さんは無様な苦鳴をあげて、地面に叩きつけられました。
先程までの彼ならば、この程度の傷を負っても怯まず、臆せず、軽口を叩いて笑いながら、自分がいかにこの戦いを楽しんでいるのかを語ったはず。でも、今は様子が違います。
「ぎ、ぎぎぎぃ……」
痛みに呻きながら(皮肉なことにあの子供たちが発していた呻き声に似ています)、のたうつようにして地面を這っているのです。
マスクに隠されているので表情は判りませんが、その体の震えを見えれば、彼の心に生じた新たな感情は察しがつきますね。
それは恐怖。
そう、ロバートさんの攻撃には(彼自身の特質によるものなのかユーベルコードの作用なのかは判りませんが)恐怖を植え付ける効果があったのでしょう。
「ぎぎぎぎぎぃ!」
血渋木さんは血溜まりまで這い進み、よろよろと立ち上がりました。
満身創痍の姿は憐憫を誘います。
しかし、許しません。許すわけにはいきません。
血渋木さんの心に植え付けられた恐怖よりも、私の中の怒りのほうが大きいのですから。
そう、子らをあのように扱うことを見過ごしたことへの怒り。
その怒りを込めて、同時に彼のための祈りも込めて、私は再び舞いました。
「ぎぎっ!?」
舞いによる浄化の効果か、またもや崩折れる血渋木さん。
それでも、血溜まりの上にいるのですから、力が込み上げてくるはずですが――
「ドーピングに頼ってばかりいるのはどうかと思うぞ」
――少し離れた場所にいたセゲルさんが灼熱のブレスを吐いて、血溜まりを蒸発させてしまいました。
当然のことながら、血溜まりの上に立つ血渋木さんも無傷では済みません。ブレスが生み出した炎(セゲルさんの体色は青ですが、炎は真朱色です)は袴の裾へと燃え移り、たちまちのうちに全身を包み込みました。
「ぎゃあああぁぁぁ!」
「火を見たら、火事と思え。火種はおまえさんだがな」
炎に焼かれて絶叫する血渋木さんと、ブレスを吐き終えて悠然と語りかけるセゲルさん。
両者の間に人影が立ちました。
火花さんです。
いえ、『火花さんだった者』と呼ぶべきでしょうか?
彼女は真の姿を現していました。
胸と左腕が樹木のようになり、そこから根らしきものが全身に走っています。
「……」
セゲルさんが無言で指を鳴らすと、血渋木さんを苦しめていた炎が消えました。
そして、火花さんが走り出しました。
●火奈本・火花(エージェント・f00795)
指の鳴る音が背後で聞こえると、血渋木を包んでいた炎が消えました。
セゲルさんが消してくれたのでしょうか? だとすれば、あれはユーベルコードの使用者が自在に消せる炎だったのですね。
セゲルさんへのお礼は後回しににして、私は走り出しました。
今にも倒れそうな血渋木に向かって。
数秒後、血渋木の状態は『今にも倒れそうな』から『必死に起きあがろうとしている』へと変わりました。
私が、樹木のようになった左腕を力任せに叩きつけたからです。
「こ、こいつぁ、効きやすぜ……」
マスクに隠された血渋木の口から言葉らしい言葉が久々に出てきました。笑いを含んだ声です。ロバートさんに植え付けられた恐怖を拭い去ることができたのか。あるいは虚勢を張っているだけか。
「わんわんおー!」
突然、この場に相応しからぬ愛らしい鬨の声が聞こえてきましたが、私はそれに構うことなく、二発目の攻撃を繰り出しました。
血渋木は地に伏したままの状態で体を捻り、それを回避。続いて三発目も巧みに躱しましたが、その頃にはもう地に伏してはいませんでした。
しかし、再び立ち上がった彼を前にしても、私は焦りを覚えたりしませんでした。
そもそも、自分一人の力で勝てるとは思っていません。私の行動によって、仲間たちが少しでも有利になれば、それでいいのです。
そして、その『行動』は既に終わっています。
そうとは知らないであろう血渋木はなにやら語り始めましたが――
「さっきも言いやしたがね。あたしゃあ、最後まで泥……ぐあっ!?」
――すべてを言い終える前にまた転倒しました。
白い狼が背後から襲いかかり、彼の喉笛に食らいついたのです。
その狼の正体は、真の姿になったルベルさん。
先程の鬨の声をあげたのもルベルさんですよ。
血渋木はもう立ち上がりませんでした。命の火が消えかけているようです。
私は通常の姿に戻り、彼を見下ろしました。
最後に倒れた拍子にマスクが外れ、素顔が曝け出されています。
当然のことながら(あるいは意外なことでしょうか?)、万鬼さんには似ていません。とても平凡な顔です。平凡すぎるので、明日には忘れているかも。
「一対一の勝負ではなかったが、まさか、不満は言うまいな?」
そう言いながら、平凡極まりない顔に私は銃を突きつけました。
「数の利も連携も、我々人類の武器なのだ」
「くくくっ……」
血渋木は笑いました。
「不満なんざ、ありませんや。むしろ、礼を言いたいくらいですよ。とっても楽しい体験をさせていただきやしたからねぇ。皆さんも楽しかったでしょう?」
「楽しいわけないじゃろが」
と、ヒトツヒくんが吐き捨てました。いつの間にか、普段の彼に戻っているようです。
彼の言葉など聞こえていないのか、血渋木は子供のような目で私をじっと見つめながら、静かに問いかけました。
「あたしが骸の海から戻ってきたら……また一緒に遊んでくれやすかい?」
「いや、おまえは――」
私は銃のトリガーを引きました。
「――二度と戻ってこれない」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 日常
『復旧作業のお手伝い』
|
POW : 必要なものを持ってきたり等の力が必要なことをする
SPD : 細かい作業等の技術が必要なことをする
WIZ : 図面をひいたり等の知識が必要なことをする
👑5
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●幕間
「くそっ! あとちょっとで完成だったのにぃ!」
「野良犬の仕業かしら?」
「メインコンピューターが無事なのがフコーチューのサイワイだね」
「そりゃ、野良犬に石灯籠は壊せないだろ」
「壊してはいないけど、おしっこかけてるかもよ」
「やめてよぉーっ!」
崩壊した地下迷宮秘密基地の前で、あの子供たちが騒いでいた。
事件に関する記憶は消去され、『廃寺にやってきたら、基地が崩壊していた』という偽りの経験が上書きされている。
「ところで――」
子供のうちの一人が境内の隅に目を向けると、他の子供たちもそれに倣った。
「――なんなの、あんたたち?」
十対ほどの視線の先にいるのは、彼らや彼女らの命の恩人である猟兵たち。世界の加護が働いているので人間以外の種族でも違和感は与えていないはずだが、年齢や性別や雰囲気に統一感のない奇妙な集団には見えるかもしれない。
しかし、その奇妙な集団を子供たちはあっさりと受け入れた。
「もしかして、あんたらもこの地下迷宮秘密基地に興味があんの?」
「基地をつくり直すのを手伝ってくれたら、仲間にしてあげてもいいですよ」
「本当はこの石灯籠……じゃなくて、メインコンピューターに選ばれたセイエイじゃないとメンバーにはなれないんだけどな。特別だ、特別」
「ただし、この基地の存在は誰にも教えちゃダメよ」
「そう! だって、秘密基地なんだから!」
そして、子供たちは地下迷宮秘密基地の再建を始めた……が、そのうち一人がまた猟兵に目をやり、首をかしげた。
「あんたたち……前にどこかで会ったっけ?」
猟兵たちを見る眼差しには、本人も自覚していないであろう思慕と感謝の念が滲んでる。
記憶は消されたが、命を助けてくれたヒーローたちへの想いは潜在意識に刻まれているのかもしれない。
ルベル・ノウフィル
pow
秘密基地ですか、なるほど地下迷宮
(僕トンネル掘りで本物の地下迷宮も作れますぞ)と思いつつ
ガムテープで基地の壁(段ボール)を修復
黒色塗料で黒く塗りましょう、この方が格好良いのでございます
え、黒はダメ?じゃあ色を分けましょうぞ?
ここからここまで黒の領域でございます(線を引く)
小まめに買い出しにいき(さぼっているわけではございませんぞ)
作業の合間に皆様に棒アイスを配りましょう
ついでに段ボールも仕入れて参りました
これで戦闘機が創れますでしょうか?
JJ殿、落成式は全員でバーベキューとかしたら楽しそうだと思うのですがいかがでしょうか?
大人も子供も皆集まって、ワイワイと
こういう光景は良きものですね
紗我楽・万鬼
あっしね意外と口固いんですよ
喋っても原型留めませんからご安心を!
しっかし派手にやりましたし大分襤褸ってますね
嗚呼独り言ですよお子様等
復旧作業と云う名の戦い頑張りましょうや、て事で
今な噺御存知ですかい?
子供等が燥いでるとね、小人がやってくるんですよ
其奴等子供が大好きでね
子等が喜ぶ為ならちょいちょいと遊びに手ぇ貸すそうですよ
例えば穴開きブルーシートにカラフルな継ぎ接ぎ補修したり
カタパルトの骨折破損の治療迄!
でも残念な事に小人は子供さん等にゃ見えませんがね
おや?何とも格好いいカタパルト出来てますね
ダンボールの壁も穴が塞がってますね!此奴は僥倖!
あっし絵心あるんで秘密基地のマークでも描きやしょうかね!
天杜・理生
ノエミとモニカ(乃恵美・f05894)と同行。
アドリブ、絡み歓迎。
さぁ、どこかであったかね。
それにしても、はは。秘密基地か。楽しそうだな。
特別扱い感謝するよ。
それなら何か手伝えることはあるかな?
とはいえ、妹たちの方が喜んで手伝うと思うが。
基本的には妹たちを見守るつもりだが
子供たちや妹たちになにかせがまれたり要請されたりすれば応えるとしよう。
多少の力仕事くらいなら僕でも力になれるだろうよ。
うん?肩車?ああ、構わないよ。
おいで、ノエミ。
随分と立派な基地になったな。
天杜・乃恵美
※アドリブ・絡み歓迎
※【オルタナティブ・ダブル】でノエミ&モニカに分離
●ノエミ
※金髪の巫女、無邪気
おもしろそうだし、あたしたちもいーれーてーっ♪
・女子向け
んとね、これは「まほうの花」!
敵さんが来たらひかってねかせちゃうよ
(【破魔】…の祈りだけ込めた普通の造花)
おにいちゃん(f05895)かたぐるまして♪
これが『ひみつきち』だよっ!
●モニカ
※銀髪の巫女、クール
…とまあ、ノエミが気になってるらしいし
アタシもちょっとお手伝いさせてくれないかな?
・男子向け
こう見えても【メカニック】…コホン、技術が好きでね
「メインコンピューター」にスゴいパネルとかどうだい?
(チョークでコンソール風模様を描いた板を提示)
ヒトツヒ・シカリ
WIZ
ふっふっふー!ウチは別の基地からやってきた別の選ばれし者!
他所の技術をもってきたよ!
子供からすれば大きな、ちょっとボロい、黒い遮光性カーテンをばさーっと
自身も110cmとちびっこいので大きく見える
ほら!誰かに侵入されたときに役に立つ光学迷彩マント!
これを張ればちょっとの危機なら脱せられる!
秘密基地は誰かに見つかるのが常
いつか壊れる夢
けれど叱られて終わるのは面白くないから
最後まで顔を隠して遊んじゃえ!という考え
危ないときのとーそーけーろは必要じゃ!
ここからじゃと、ここを抜け道にして鎮守の森まで一直線!
もしもの時なんてのも、考えたらワクワクじゃろ?
この楽しさがずっと心に残るように一緒に遊ぼう
城島・冬青
秘密基地作りとか心が躍る!!
お父さんに乱入された時はどんなの作ってだかなぁ…
ま、みんなと作ってれはそれっぽいのができるよね?
というわけでお姉さんも混ぜて混ぜてー!
コミュ力駆使して子供達の輪に入っていくよ
子供には持ちにくい物を率先して持ってお手伝い
へーきへーき!お姉さんは中学生だからね、来年には高校生だし(ふふん)
いや、この場には私よりも年上の人が何人もいるけどその辺はホラ、あまり気にしない
しかし元気な男の子を見てるとうちの弟を思い浮かべちゃうなぁ
最近ほんと生意気になってさぁ…女の子には優しくしないとダメだぞ?
秘密基地ができたらみんなとハイタッチ
やったね、かっこいいのができたよ
アドリブ大歓迎
火奈本・火花
「秘密基地、私も少し覚えがあります。小さい頃に男の子達が夢中になっていて、結局私は仲間に入れて貰えませんでしたが……」
■行動(WIZ)
今回の“事故”もありましたが、またいつ侵入者が基地にやってくるか分かりません
少しでもそれらから守れるように、偽装やトラップを考えましょう
野犬がやってきても大丈夫なように、入りやすそうな隙間には音の鳴るトラップを
「侵入者を知らせる警報です」
害虫が入ってきて危険な事にならないよう虫除けの防虫剤も
「これがバリアのエネルギーになります」
大人に気付かれにくいよう、木の葉のついた枝で出入り口を偽装しつつ、ロープを引っ張れば偽装を解けるようにしておきます
「これが隠し扉ですね」
セゲル・スヴェアボルグ
ほう……此処が噂の秘密基地か
ちょうどいい、此処を俺の新たな拠点としてやろう(悪い顔)
基地を奪われたくなければ、セイエイたるお前さんたちの力を見せてみろ。
などと、適当に子供をからかいつつ力仕事だ。
あくまで子供ではできない部分の手伝いだがな。
何やら視線を感じる気もするが気のせいだろう。
なんでそんなに手を貸すのかって?
そりゃあ、頑張って作ったものの方が壊し甲斐があるだろう?
冗談だ、冗談。
このサイズの石灯籠をどうやって運んだのかと思ったが……
そういえば寺だったか。
しかし、メインコンピュータならば、
定期的にメンテとアップデートをせねばな。
他の灯篭と組み合わせて、改造を施すとしよう。
アレクサンドラ・ルイス
秘密基地を建造するガキどもを眺めて、目を細める
――ああ、いいな。平和ってヤツだ
俺がガキの頃に必死で作った「秘密基地」は、
それこそ本当の秘密の基地だった
敵に見つかれば明日はない
必死で身を隠して今日という日を生き延びるための隠れ家だった
こんな風に友達と作る“ひみつきち”は、……控えめに言って最高だな
ガキの俺にも作らせてやりてェな――
そうしたら、少しは違う俺になっていただろうか
基地の建造は基本的には子供たちのやりたいように任せる
力仕事が必要な局面で、何も言わずに手を貸す
もしくは危ない場面で助けてやる
俺みたいなのがでしゃばっても、怖がらせるだけだろうしな
境内の隅で、この平和のおこぼれに与らせてもらうさ
●天杜・理生(ダンピールのグールドライバー・f05895)
「あんたたち……前にどこかで会ったっけ?」
男の子が首をかしげた。
子供たちのやりとりを聞いていて判ったが、彼はこのグループのリーダー格であり、名前はタイヘイというらしい。
「さぁ? 会ったかな?」
僕はとぼけてみせた。ちょっぴり、わざとらしかったかもしれない。
でも、問題ない。もっとわざとらしい振る舞いをした大人がいるから。
「おまえさんたちに会ったことはないが――」
セゲルだ。子供たちをぎろりと睨みつけている。『睥睨』っていうのは、こういうのを言うんだろうね。実に悪い顔だ。あまりにも悪すぎるから、一目で芝居だと判るけど。
「――この秘密基地のことは噂に聞いたことがある。うむ、ちょうどいい。ここを俺の新たな拠点としてやろう」
「なんだと!? そんなことはさせないぞ!」
と、タイヘイが芝居に乗ってくると、青い竜派ドラゴニアンは悪い顔を悪い笑顔へと変えた。
「がっはっはっはっ! ならば、セイエイたるおまえさんたちの力を示すがいい! この基地を再建することによって!」
「望むところだ!」
タイヘイは拳を突き上げて応じた。
「言っとくけど、今日の俺たちは一味ちがうかんな! いつものセイエイだけじゃなくて、特別に入れてやった新入りたちもいるし!」
『特別』の部分に力を込めてるね。少しばかり恩着せがましいような気がしないでもないけど、文句は言えない。なにせ、僕らはしがない新入りだから。
「特別扱いに感謝するよ」
と、タイヘイに笑いかける僕の横を駆け抜けて――
「あたしたちも『とくべつ』になかまにいれてくれるんだよねー?」
――乃恵美ことノエミが子供たちの輪に加わった。何故に『あたしたち』と言っているのかというと、『オルタナティブ・ダブル』で分離したモニカが後ろに付き従ってるから。最強無敵のタッグチームだ。
「お姉さんもまぜて、まぜてー!」
ノエミとモニカに冬青が続く。『お姉さん』なんて言ってるけれど、子供たちの中に交じっても、さして違和感はないな。
「では、秘密基地の再建を始めようか」
違和感なき少女を含む一団に僕が声をかけると、タイヘイとは別の男の子がしかつめらしい顔で訂正を求めてきた。
「違う、違ぁーう! 僕らがつくってるのは秘密基地じゃなくて、地下迷宮秘密基地!」
はいはい。
●ルベル・ノウフィル(星守の杖・f05873)
なるほど。地下迷宮秘密基地ですか。
こう見えても、僕はドワーフも顔負けのトンネル掘りの技術を習得しておりますので、本物の地下迷宮をつくることもできるのですぞ。えっへん! ……と、胸を張りたい気持ちは抑えておきましょう。本物をつくってしまうのは、さすがにやりすぎですからね。今回は子供たちのやり方に合わせますとも。
「さっきも言ったけど、この基地のことは内緒だからね」
崩れたダンボールの壁を撤去しながら、女の子(マイサという名前だそうです)が僕らに釘を刺しました。
「重々周知しておりますよ!」
と、調子よく答えたのは万鬼殿。
「その点は心配御無用。あっしは意外と口が固いんですよ」
「いや、万鬼殿。御自分で『意外』と仰るのはいかがなものかと……」
「たとえ我慢できなくなって喋っちまったとしても、だいじょーぶ! あっしの舌が回り出したら最後、どんな話だろうと原型を留めることはありやせんから」
「それって、自慢していいことなのですか?」
「だもんで、この秘密基地のことを誰かに語って聞かせようとしても、空飛ぶイワシの大群だの人食いウサギが出没する遊園地だのの話に変わっちまうでしょうなぁ」
「留めるとか留めないとか以前に、そもそも原型が違うのでは?」
僕は何度も半畳を入れましたが、万鬼殿はどこ吹く風。半壊した基地が解体されていく様を見回して、飄々と笑いました。
「しっかし、派手にやっちまったから、かなりボロってますねぇ。おっと、お子さまがた。今の『派手にやっちまった』ってのは気にしないでくださいよ。ただの一人言、一人言。はっはっはっ!」
「ちょっと、万鬼さーん。口より手よりを動かしてくださいよー」
おやおや。冬青殿に叱られてしまいましたぞ。
その冬青さんはといえば、マイサ殿と同様にダンボールをかたしておられます。体格も体力も子供たちに勝ってますから、一度に運ぶダンボールの量も大違い。
「おねえちゃん、そんなにたくさん持って大丈夫なの?」
「へーき、へーき! お姉さんは中学生だからね。来年には高校生だしー」
子供たちの尊敬と驚嘆の眼差しを浴びて、冬青殿は『えっへん』とばかりに胸を張りました。
それに触発されて、抑えていたはずの気持ちが……そう、トンネル掘りの技術を披露して『えっへん』と胸を張りたい気持ちが僕の中にまた沸き上がってきました。
し、しかし……耐えるのです……耐えるのですぞぉ!
●セゲル・スヴェアボルグ(豪放磊落・f00533)
ルベルが両手の指をわきわきと動かしている。なにかの欲求を必死に抑え込むかのように。
なかなか面白い光景だが、子供たちの前で得意げな顔をしている冬青の様子も面白いな(『秘密基地の乗っ取りを企む悪役』に扮している俺も他人の目から見れば面白いのかもしれんが、その点は深く考えないことにしよう)。お姉さんぶる機会に飢えているのかもしれない。年上の猟兵に囲まれて活動することが多いだろうから。
と、思いきや――
「それにしても、元気な男の子たちを見てると、うちの弟を思い浮かべちゃうなぁ。最近、ほっっっんとに生意気になっちゃてさぁ!」
――違ったようだ。弟がいるのなら、お姉さんぶる機会には事欠かんな。
しかし、『生意気』などと言いながら、冬青の声音からは弟への愛情が感じられるような気がしないでもない。たぶん、生意気な弟とやらもそんな姉のことを憎からず思っているんじゃないか。兄弟姉妹ってのは良いもんだ。
なにはともあれ、冬青と子供たちは本物の兄弟姉妹さながらのコンビネーションを発揮し、使い物にならなくなったダンボールを瞬く間に一掃した。
そして、新たなダンボールによって基地が文字通りに『仕切り』直されていくと、別のお姉さんが張り切りだした。
UDC組織のエージェントの火花だ(もう一人、理生もなにやら『お姉さん』くさいんだが、その点も深く考えないでおこう)。
基地の外郭に生じた隙間に火花は糸を仕掛け、それをトタン板に括りつけた。トタン板には、錆びた折れ釘だのひしゃげた空き缶だのが吊り下げられている。手製の鳴子だな。
「侵入者を知らせるための警報を設置しました」
「おぉーっ!?」
鮮やかな手際を見て、感嘆の声をあげる子供たち。
火花は誇らしげな様子も見せずに(内心では鼻高々なのかもしれんが)淡々と第二のトラップを置いた。今度は防虫剤だ。これからの季節(だけでなく、場所的にも)のことを考えると、虫への対策というのは必要だよな。
もっとも、ここは秘密基地……いや、地下迷宮秘密基地なんだから、防虫剤にもそれらしい役目を与えなくちゃいけない。火花はその点も抜かりはなかった。
「これはバリアのエネルギーです」
「おぉーっ!?」
この子供たち、本当にノリがいいな。
まあ、俺も人のことは言えんが。
●紗我楽・万鬼(楽園乃鬼・f18596)
UDCエージェントとしての知識と経験を活かして……いるのかどうかはあっしごときにゃあ判りやせんが、とにかく、火花さんは次々と基地にトラップ(といっても、人間には無害ですがね)を仕掛けていきやす。
いや、トラップだけじゃありません。
「隠し扉をつくってみました」
「おぉーっ!?」
お子様たちが何度目かの声をあげたのも当然。火花さんのつくったそれは地下迷宮秘密基地にぴったりの隠し扉でしたから。
あっしはね、火花さんが最初に鳴子を仕掛けた隙間んところが基地の入り口だと思ってたんですよ。ところが、ぎっちょん! あれはダミーでして、奥は行き止まりなんですな。おっと、『天井がないんだから、一目で行き止まりだと判るだろ』とか『たとえ行き止まりでも、ダンボールの壁なんて容易に突き破ることができるじゃん』なんて野暮なことは言いっこなしですぜ。
で、本物の入り口はどこにあるのかってえと……もうお判りでしょ? そう、火花さんの力作である隠し扉こそが入り口なんです。
隠し扉というくらいですから、パッと見では扉だとは判りませんよ。葉っぱの茂った何本もの枝でもって覆われているんです。で、傍にある紐を引っ張ると、枝がこうバサっと開いて入り口が現れるというわけで。いやー、お子様のハートを鷲掴みにするギミックですなぁ。
ところが、これだけでは終わらないのがこの地下迷宮秘密基地の……いや、それをつくった猟兵さんたちの凄いところ。火花さんに続いて、お子様と同世代のヒトツヒさんが新たなギミックの紹介を始めました。
「ふっふっふー! この基地のメインコンピューターに選ばれし者たちよ!」
芝居がかかった調子で語りかけながら、虫食いだらけの黒い遮光カーテンをマントのように纏すヒトツヒさん。いやはや、キマッてますなぁ。
「ウチは別の基地のコンピューターに選ばれし者! ウチの基地で開発された新技術を与えちゃる!」
さあ、盛り上がってまいりました……おや? ヒトツヒさんを凝視しながら、ルベルさんがまた指をわきわきさせ始めましたよ。あー、はいはい。弥次郎兵衛と戦った時にルベルさんもマントを翻すポーズをかっこよくキメたんですが、そのことをお子様たちが覚えてない(というか、そもそも意識を失っていたので見ていない)のが歯がゆくてしょうがないんでしょうな。
指をわきわきさせてるルベルさんとは対照的に、身動き一つせずにヒトツヒさんやお子様たちを眺めているかたもいます。
本堂の階段に腰をかけてるアレクサンドラさん。
この名を聞いて、なにやらエキゾチックな美女なり美少女なりを想像された男性陣はご愁傷様。アレクサンドラさんはスキンヘッドの偉丈夫ですよ。見た目のイカつさという点ではセゲルさんに勝るとも劣りませんな。
●アレクサンドラ・ルイス(サイボーグの戦場傭兵・f05041)
「ウチは別の基地のコンピューターに選ばれし者! ウチの基地で開発された新技術を与えちゃる!」
ボロボロである点を除けば、なんの変哲もない黒いカーテン。
だが、それを手にしているヒトツヒの身長が一メートル強といったところなので、相対的にちょっとばかり大きく見える。当人や他のガキたちにとっては『ちょっとばかり』では済まない大きさだろう。
しかも、ただ大きいだけじゃない。地下迷宮秘密基地では、ただのガラクタもハイスペックなアイテムに早変わりだ。
「ほら! これは誰かに侵入された時に役に立つ光学迷彩マントじゃ!」
はははっ! そう来たか。
「このマントを張れば、ちょっとの危機なら脱せられる!」」
「すげぇー!」
顔に大きな青痣のあるガキ(さっき聞こえてきた会話によると、名はマサトシだとよ)が目を輝かせて興奮気味に叫ぶと、少し遅れて他のガキどもも騒ぎ出した。
もちろん、ヒトツヒは得意満面だ。百体ものオブリビオンを倒した猟兵だって、こんなに良い顔はできないかもな。
「秘密基地といえども、誰にも見つからんホショーはない! じゃけん、危ないときのトーソーケーロが必要なんじゃ! ここからじゃと……そう、ここんところを抜け道にして、あの鎮守の森まで一直線!」
ヒトツヒはカーテンで体を隠し、逃走経路を走ってみせると、すぐにまた戻ってきて、マサトシにマントを渡した。
「もしもの時なんてのも、考えたらワクワクじゃろ?」
「うん!」
マサトは頷き、カーテンを羽織った。
次の瞬間、その姿が消えた。
もちろん、肉眼では見えている。だが、見えない。見えないんだ。あれは『光学迷彩マント』なんだから。
ヒトツヒと同じように逃走経路を往復すると、マサトは姿を再び現して、次のガキにマントを渡した。そのガキから次のガキへ、また次のガキへ……中には順番を待ちきれずにマントを羽織らずに走り出すガキもいたが、そういう奴にはヒトツヒが警告を発した。
「いかん、いかん。光学迷彩マントがないと、敵に丸見えじゃぞぉ」
警告といっても、するほうもされたほうも笑っているが。
逃走の訓練が楽しいってのは良いことだ。
それに基地を築くのが楽しいのも。
俺もガキの頃に何度も基地をつくったもんだが、それは本当の意味での秘密基地だった。必死で身を隠し、今日という日を生き延びるための隠れ家。敵に見つかれば、明日はないから。
今、目の前にあるような基地をガキの俺にもつくらせてやりてえもんだ。そうしたら、その『俺』はこの『俺』とは違う人間になれるかも……。
「こら! そこのハゲのおじさん!」
可愛げのない声が、思索にふけっていた俺を現実に引き戻した。
●ヒトツヒ・シカリ(禊も祓もただ歌い踊るままに・f08521)
「こら! そこのハゲのおじさん!」
リーダーだけあって、タイヘイくんはええ度胸しとるのう。おっかねえ顔したアレクサンドラさんを睨みつけて、しかも『ハゲ』呼ばわりするとは……。
「サボってんじゃねえよ! あんたも特別に認めてやった新入りなんだから、ちゃんと働け!」
「へいへい」
よっこらせとばかりに腰を上げるアレクサンドラさん。べつに怒っとらんようじゃのう。それどころか……笑っとる?
「ガキの俺に代わって、この秘密基地をつくらせてもらおうかな」
と、わけの判らんことを呟いとるアレクサンドラさんに理生さんが声をかけた。
「力仕事が得意そうだね。これを運ぶのを手伝ってくれないか?」
『これ』というのは石灯籠のこと。基地のまんなかにデーンと聳えとるメインコンピュータじゃのうて、境内の端っこに転がっとった灯籠じゃ。理生さんはセゲルさんと一緒にそれを運んどった。
「その灯籠……ちゅうか、割れてしもうて、ただの石の固まりになっとるけど、なんに使うんじゃ?」
ウチが訊くと、理生さんはセゲルさんに向けて顎をしゃくった。
「コンピューターの新しい部品にするそうだよ」
「その通り!」
石を抱えた(ちゅうても、軽々と持っとるけど)まま、セゲルさんが頷いた。
「超古代文明のコンピュータといえども、メンテとアップデートは欠かせん。いい機械だから、改造を施そう」
「いや、ちょっと待ってよ。キミは確か――」
モニカが冷たい目でセゲルさんを見よった。
「――この基地を奪おうとしている悪者のポジションじゃなかった? なんで、汗水流して子供たちを手伝ってるの?」
「最終的に俺の拠点となるのだから、基地の再建に手を貸すことはマイナスにはならん。それに頑張ってつくったもののほうが奪い甲斐があるというものだ。がっはっはっはっ!」
……このオッチャン、ノリノリである。演技じゃのうて、素でやっとるんじゃなかろうか?
まあ、なんだかんだいうても、大人が三人もおるのはありがたい。セゲルさんとアレクサンドラさんと理生さんのおかげで、メインコンピューターに新しいパーツが加わって(素人目には周りに石を置いただけにか見えんじゃろうな)性能が格段にアップしたぞ。
それにモニカもパーツをくれたんじゃ。
「スゴいパネルを持ってきたよ。こう見えても、アタシは技師だからね」
メインコンピューターに立てかけられたのは一枚の板。もちろん、ただの板じゃのうて、表面にチョークでスイッチとかメーターとか描いてある。いわゆる『こんそーる』ゆうヤツかのう?
「かっけー!」
何人かの男の子がメインコンピューターの前にやってきて、『こんそーる』をいじくる真似を始めた。
うん。ウチもこの子らに同感じゃ。
これはかっけー!
●城島・冬青(六百六十九番目の宿木・f00669)
万鬼さんがどこかからブルーシートを持ってきて、基地の天井をつくってくれたよ。穴だらけの天井だから、雨漏り必至だけどね。
なんにせよ、完成まであと少しかな?
外観はかなり良い感じに仕上がってる。黒を主体にしたカラーがかっこいい!
色を塗ってくれたのはルベルくん。では、みんなのお姉さんたる私がその労をねぎらって……あれ? ルベルくんがいない? どこ行っちゃったんだろう? もしかして、サボり? だったら、ねぎらいませーん。お姉さんはサボる子に厳しいのでーす。
それに比べて、乃恵美ちゃんはしっかり働いてるよねー。ほら、今も花を摘んできた。秘密基地と花っていう取り合わせはミスマッチだけど、それが逆に素敵じゃない?
「マイサちゃん、チアキちゃん、リコちゃん、ヒカリちゃん、ナオちゃん! このお花、見てー!」
摘んできた花を女の子たちに差し出す乃恵美ちゃん。どれどれ、私も見せてもらおうかな。
ん? これって、造花だね。どこかから摘んできたわけじゃなくて、乃恵美ちゃんがつくったのかしらん?
「これはね、まほうのお花なの。敵さんが来たら、ピカッとひかって、ねかせちゃうんだよ」
「すごーい」
女子たちのリーダーらしきマイサちゃんが花を手に取り、小さな細いパイプ(雨水管かな?)製の一輪挿しに飾って、石灯籠……じゃなくて、メインコンピューターの前にそっと置いた。うんうん。絵になるねー。
この花は乃恵美ちゃんのユーベルコードかなにかで生み出されたもので、敵意のある者に対して本当に『ピカッとひかって、ねかせちゃう』ことができるのか? それとも、普通の造花なのか? そんなことはどうでもいいよね。だって、乃恵美ちゃんの想いが込められていることに変わりはないんだから。
と、思ってたのに――
「えー! なんで、花なんか置いてんだよー!」
「ここはそういう乙女チックな空間じゃねーぞ」
「これだから、女子は嫌なんだよなぁ」
――生意気な男の子どもがケチをつけてきたー! まったく、もう! 弟といい、この子たちといい……どうして、男子ってのはこうなの!?
「ちょっと君たち! 女の子にはもっと優しくしないとダメだぞ」
ぴしゃりと叱りつける私。いやー、我ながら『お姉さん』って感じ。もっとも、この程度のことでは男子は懲りないだろうけどね。
と、思ってたのに――
「ごめん」
「ごめんね」
「ごめんなさーい」
――全員、あっさり謝ったー!? いや、素直なのはいいんだけどね。ちょっと拍子抜けだよ。もう少し『お姉さん』したかったのにぃ。
「うんうん。自らの非を認めるのは立派なことですぞ」
と、唐突にルベルくんが現れて、男の子たちの肩をぽんぽんと叩いた。さては『お兄さん』な気分に浸ってるな。
「いや、ルベルくん。どこに行ってたのよ?」
「買い出しです。アイスをたくさん買ってきました」
あ、そうだったの。サボリ扱いして、ごめんねー。
●天杜・乃恵美(天杜・桃仁香と共にありて・f05894)
「買い出しのついでにダンボールもたくさん仕入れてまいりました。これだけあれば、戦闘機もつくれますでしょうか?」
ルベルさんがダンボールの束をどさりと地面に置きました。いっぱい、ありますねぇ。
「うん! つくろうぜ!」
「どうせなら、かっこいいのがいいよねー!」
「だったら、前進翼のやつな! でも、色は赤以外で!」
「じゃあ、クリーム色!」
「青い戦闘機もつくって、戦わせよう!」
男の子たちがルベルさんのところに駆け寄り、戦闘機をつくり始めました。『ぜんしんよく』の意味とか赤色を嫌う理由とかはわかりませんけど……まあ、とにかく、いろいろとこだわりがあるみたいですね。
「戦闘機もいいけど、それを乗せるカタパルトを直さなくちゃいけないんじゃないの?」
と、マイサちゃんが言いましたが、男の子たちには聞こえていないみたいです。戦闘機づくりに夢中になってますから。
でも、代わりに万鬼さんがマイサちゃんの前にやってきました。
「そうですね。カタパルトも直さなくちゃいけやせんねぇ。ところで――」
マイサちゃんの前に腰を下ろす万鬼さん。
他の他の女の子たちもまわりにあつまってきました。
「――今な噺、御存知ですかい? 子供さんが元気に遊んでいるとね、時々、小人がやってくるんですよ。そやつら、子供さんが大好きでねぇ。子供さんの喜ぶ顔を見るためにちょいちょい遊びに手を貸したりするんですよ」
「手を貸すって……どんなふうに?」
と、たずねたのはマイサちゃんたちじゃなくて、あたしです。だって、気になるんだもん。
「そうですねぇ。たとえば、穴だらけのブルーシートを継ぎ接ぎして補修したり、空き缶の砲弾を綺麗に並べたり、ビニール傘のパラボラアンテナの骨折を直したり、それにバラバラになったカタパルトを元に戻したりとか。ただし、その小人たちは子供さんの目には決して見えねえんですがね……おやぁ?」
万鬼さんはいきなり目を大きくあけて、あたしたちの後ろを指さしました。
振り返ってみたら、びっくり! バラバラになってたはずのカタパルが元通りになってる! それだけじゃないですよ。パラポラアンテナは直ってるし、砲弾は一列に並んでるし、天井は継ぎ接ぎされてカラフルになってる。
あたしが前に向き直ると、万鬼さんはいたずらっぽく笑いました。
「いつの間にやら、なんとも格好のいいカタパルトができてやすね。こいつぁ、僥倖!」
子供好きの見えない子供さんがやってくれたのでしょうか?
それとも……万鬼さんがユーベルコードを使った?
●火奈本・火花(エージェント・f00795)
「こればっかりは小人たちには任せられませんや。あっし、絵心があるほうだと自負しておりますんでね」
万鬼さんがダンボールに……いえ、特殊装甲の外壁に絵筆を走らせて、この基地のシンボルマークを描いてます。
「こう描いて、こう描いて、こう描くと……はい、できあがり!」
「おぉーっ!?」
驚きと喜びに満ちた子供たちの声が響くのはこれで何度目でしょうか? 今までいちばん大きな声かもしれませんね。シンボールマークは最後の仕上げだったのですから。
そう、地下迷宮秘密基地が完成したのです。
「いぇーい!」
と、冬青さんが嬉しそうに子供たちとハイタッチして回っています。年齢差に合った身長差がありますから、子供たちにとってはハイタッチでも、冬青さんにとってはミドルタッチといったところですが。
「おにいちゃん! かたぐるまして! かたぐるまー!」
「はいはい。モニカは後でな」
「アタシはべつにいいよ」
乃恵美さんを肩に乗せ、モニカさんと並んで、ゆっくりと視線を巡らせる理生さん。
「おにいちゃん! これがちかめいきゅうひみつきちだよ!」
「うん。立派なものだ」
「確かに立派な基地だが――」
そう言いながら、セゲルさんがぎろりと睨みつけたのは、冬青さんとのハイタッチを終えた子供たちです。
「――それをつくったおまえさんたちも立派だ。よって、おまえさんたちをセイエイと認め、今回だけは手を引くこととする。だが、精進を忘れるんじゃないぞ」
最後までキャラを貫き通しましたね。さすがというか、なんというか……。
そうやって皆が各々のやり方で感慨に耽っていると、けたたましい音が基地の端のほうから聞こえてきました。私がダミーの入り口に仕掛けた鳴子の音です。
そちらを見ると、小さな影が蠢いていました。野良犬でしょうか?
境内の隅に佇んでいたアレクサンドラさんが素早く駆け寄り、その影の首根っこを掴んで引き上げました。
それは野良犬ではなく、野良猫……でもありませんでした。
猫は猫でもケットシー。グリモア猟兵のJJさんです。
「なにをやってんだ、おまえは?」
冷ややかな声で問いかけるアレクサンドラさん。
彼に首根っこを捕まれたまま、JJさんはじたばたと手足を動かしました。
「ルベルに呼ばれたんだよぉーっ! バーベーキューをやるからって!」
「バーベキュー?」
「そうです」
と、ルベルさんが話に加わりました。
「落成式にバーベキューでもしたら楽しいんじゃないかと思いまして、アイスだけじゃなくてお肉とかも買ってきました」
こうして、地下迷宮秘密基地のある境内はバーベキュー会場へと変わりました。
子供たちは(それにJJさんも)旺盛な食欲を見せています。あと何時間かしたら、夕食が待つ家に帰らなくてはいけないと思うのですが……まあ、育ち盛りですから、大丈夫でしょう。
「大人も子供も集まって、ワイワイと……こういう光景は良きものですねえ」
口元についたバーベキューソースを上品に拭いながら、ルベルさんがしみじみと言いました。
「はい。良きものですね」
と、同意した私ですが、一抹の寂しさのようなものを感じずにはいられませんでした。
すると、そんな心中を読みとったかのように、ヒトツヒさんがぽつりと漏らしました。
「秘密基地っちゅうのは、いつか必ず壊れる夢じゃ」
「……え?」
私が目を向けると、ヒトツヒさんは少しはにかみながら、語り出しました。
「ほら、冬青さんが言うとったじゃろ。お父さんに見つかって、秘密基地が秘密でなくなってしもうたって。きっと、こん秘密基地もいつか大人に見つかる。親とか、学校の先生とか、土地の持ち主とか……」
「そうですね。そして、見つかった時はこっぴどく叱られてしまうかもしれません」
「うん。じゃけど、叱られて終わるのは面白うないけぇ、ウチは光学迷彩マントとトーソーケーロを用意したんじゃ。どんな遊びもいつか終わるけども……いや、いつか終わるからこそ、最後の最後まで楽しんだほうがええ。楽しい思い出がずっと心に残るように……」
ずっと、心に、残るように。
ヒトツヒさんの話を聞いているうちに思い出しました。
小さい頃、男の子たちが秘密基地ごっこに霧中になっているのを見たことがあります。いえ、『見たことがある』ではなく、『見ていることしかできなかった』と言うべきですね。私は仲間に入れてもらえませんでしたから。
あの頃の私に教えてあげたいです。
いつか、あなたも仲間に入れてもらえる、と。
素敵な秘密基地をつくることができる、と。
おまけにバーベキューもついてくる、と。
大成功
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最終結果:成功
完成日:2019年06月11日
宿敵
『血渋木・弥次郎兵衛』
を撃破!
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