バトルオブフラワーズ⑪〜風折れの招き
●風を越えて
少なくともウインドゼファーは、軍団の中でも明快な存在だった。
着飾る術や謀略を一糸も纏わず、ただ速さを追い求める欲を風に変ずる。
そして、時には敵が布陣する足場を暴風で崩し、時には二振りの車輪剣で切り刻む。
風はウインドゼファーの味方であり、ウインドゼファー自身が風でもあった。
彼女の卓越した能力は、ウインドゼファー自身を軍団の幹部へと落ち着かせるのに異論なき証となる。
門番を務める彼女の佇まいは凛として、揺らぎなど皆無。動揺を一滴も零さぬ怪人から漂うのは、冴えた気だ。言の葉ひとつ紡いでいく間も、彼女に侮る素振りは無い。
手にした車輪剣も、ウインドゼファーにとっていつもと同じ軽さだ。抜かりはない。
「誰にも、邪魔は、させないッ!」
阻む者を駆除するため、風を以て戦う。
ただ、それだけだ。
●グリモアベース
猟兵たちを出迎える『ウインドゼファー』は、速さに優れた怪人なのだと、ホーラ・フギト(ミレナリィドールの精霊術士・f02096)が言う。
「ウインドゼファーも今までの強い敵と一緒よ。何度でも骸の海から蘇るの」
そして短期間のうちに、許容値を超える数だけ倒してしまえば、復活は不可能になる。
つまり猟兵たちが成すべきは、たったひとつ。
とにかくウインドゼファーを倒して倒して倒すことだ。
しかし怪人軍団の幹部として、重要な拠点を任されているぐらいだ。
ウインドゼファーは強い。
風と共にある彼女への対抗手段が必要だ。戦いの中での動き方と同じぐらいに。
「いつでも転送できるわ。準備が整ったら、声をかけてちょうだいね!」
ホーラは笑顔のままそう告げると、早速転送のため動きはじめた。
棟方ろか
お世話になっております。棟方ろかと申します。
オープニング並びに以下を一読の上、ご参加くださいませ。
敵は必ず先制攻撃します。敵は、猟兵が使用するユーベルコードと同じ能力値(POW、SPD、WIZ)のユーベルコードを、猟兵より先に使用してきます。
この先制攻撃に対抗する方法をプレイングに書かず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、必ず先制攻撃で撃破され、ダメージを与えることもできません。
また、戦場の戦力「40」をゼロにできれば制圧成功ですが、それ以上の成功数があった場合、上回った成功数の半分だけ、「⑬『ドン・フリーダム』」の戦力を減らせます。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 ボス戦
『スピード怪人『ウインドゼファー』』
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POW : フルスロットル・ゼファー
全身を【荒れ狂う暴風】で覆い、自身の【誰よりも速くなりたいという欲望】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
SPD : レボリューション・ストーム
【花の足場をバラバラにする暴風】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ : ソード・オブ・ダイアモード
対象の攻撃を軽減する【全タイヤ高速回転モード】に変身しつつ、【「嗤う竜巻」を放つ2本の車輪剣】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
イラスト:藤本キシノ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
芦屋・晴久
出番となります御魂、共に参りますよ
敵は攻防一体の近から中距離攻撃を行ってきます、こちらの攻撃を軽減させつつ仕掛けてくるならばその防護を外してカウンターを狙っていきましょう
私は自らに硬化術を掛け一度相手の攻撃を最低限受け止めます
勿論怪我は免れないでしょうが、相手の先制を受け止めねば話になりません
御魂、相手が貴女に対して意識を外した瞬間。術式麻酔を奴にかけるのです、麻酔の中にここの花の強力な毒素を織り交ぜた術式を用いてね
私と同等の医術を持っている貴女ならば組み込むのも無理ではない筈
さて、貴女は門番、直に私以外の猟兵もここに駆けつけることでしょう
彼等が来るまでその体力、限界まで削らせて頂きますよ
戦場を埋め尽くすのは、花だ。
花の足場は脆く散りそうに思えた。しかし芦屋・晴久(謎に包まれた怪しき医師・f00321)が踏み締めてみれば足場は固く、簡単には揺らぎそうにない。
だからすぐさま符を浮かべた。編んだ光が彼の前方で陣となり、召喚の儀を執る。
「出番となります、御魂」
呼び声に応じ現れたのは、神秘を総身にまとう銀糸の少女。
「参りますよ」
晴久が言い終えるや否や、ぐっと腰を深く構えていたウインドゼファーが駆けた。
踵の車輪が散らすのは足場の花ではなく火花。すべての車輪が目にも止まらぬ速さで駆動し、ウインドゼファーに降りかかる火の粉を打ち払おうとしている。
晴久は銀の娘を押しのけ、陰陽の式を展開する――それは攻め手でなく、自らの身を硬化させる術。
式が完成するのとほぼ同時、怪人の揮う二振りが晴久の肩口を叩いた。刃から生じた竜巻が嗤い、肉と骨を抉るときの不快な音を撒き散らす。
そのままウインドゼファーが剣で押し切ろうとするも、硬い晴久の肌身を断つのことは叶わない。軋む音が転がるだけだ。
直撃の瞬間、晴久は踏ん張らずにやや後ろへ退き、深手には至らなかった。
体の構造は知り尽くしている。どのような流れで刃や鋲を受けるのが最適か、彼は理解していた。
それでも仕掛けた側は更に力をかけて押し込み、すでに刺さったスパイクで彼の神経を傷つけようとする。
「受け止めるとは、愚直ですね」
ウインドゼファーの端的な所感はしかし、晴久の心を波打たせるものにならない。
苦痛こそ表情に帯びる晴久だが、懸念も恐れもそこには浮かばず。
「なッ……!?」
突如として驚いたのは、ウインドゼファーだ。
気配を紛らせていた御魂は、一手交わされる間に術式をひとつ成していた。
医術の知と腕に長けた御魂による、術式麻酔を。
瞬く間に内側を巡った麻酔が、怪人の感覚神経を心許なくさせていく。
身動きが侭ならなくなった彼女をよそに、晴久は御魂へ笑みを向けた。
「やはり貴女ならば、組み込むのも無理ではなかったですね」
一帯を覆い尽くす花の、僅かな毒素を。
織り交ぜられたものに感づいたウインドゼファーが、苦々しく息を吐き捨てる。
彼女は早くも、自らを構成する過去をフル回転させ、動きだそうとしていた。
なるほど門の守りに相応しい気迫と熱量だ。風を冠する敵に、晴久の口端も上がる。
「……貴女は門番だそうですね」
帽子を目深に、彼は笑った。
「お勤めご苦労様です。直に、私以外の猟兵もここに駆けつけることでしょう」
自分は露払いに過ぎない。そう大言した晴久を前に、ゼファーの面が微かに曇る。
仲間が来るまでの短い時間、可能な限り体力を削ぐ。それは実力を行使しつつも、後続へ繋ぐ点に心傾ける戦いの在り方だ。不可解だったのか、ゼファーは怪訝そうな声音を漏らす。
「後に繋げるなど……それこそが本分だとでも?」
「おや? 意外そうな声をしていますが……」
揶揄を湛えた眼差しで、晴久は敵を見据えた。
「門番たる貴女も同じようなものでしょう」
臆面もなく言いきった彼へ、返るのは面の下の睨み。
そこに怒気が混じるのを感じて、晴久は、にいっと笑った。
成功
🔵🔵🔴
デイヴィー・ファイアダンプ
内緒にしてたけど戦闘ははっきり言って苦手でね。今もどうやって上手く対処すればいいか考え付きもしないくらいだ。
だから少し手を貸してもらうよ、ウインドゼファー。
そうはいっても上手くは出来ないの身を持って知っている。相手の攻撃を防ぐにせよ、いなすにせよ、力を込めた炎で迎え撃つだけだ。
そして気高きキミのことだ、こんな矮小な炎なんてその回転や竜巻などでものともせず“消し去って”くれるだろう。
ところで質問なんだけど、灯りを消すとどうなるか知っているかな?
正解は“暗くなる”だ。
過去にしがみつくだけではなく這い上がってみせたキミを見習うためにも、せめてこの暗闇の中でその強さに近づいて見せるよ。
訪れたデイヴィー・ファイアダンプ(灯火の惑い・f04833)は頬を掻く。
足場は花、敵は怪人、世界を模るのは灯火から程遠いネオンの煌めき。
どうにもむず痒い。
戦いの経験を積み重ねた猟兵ならば、デイヴィーほどの惑いもなかっただろうか。
――内緒にしてたけど。
誰にでもなく胸中でデイヴィーが打ち明ける。
――戦闘……はっきり言って苦手でね。
いざ戦場に赴いてはみたが、上手い対処法がデイヴィーには考えつかなかった。
それでも、彼に戸惑いの火は点かない。
鳴り止まぬ敵の車輪が耳をつんざくも、彼を織り成すモノの音は揺るがなかった。
「少し手を貸してもらうよ。ウインドゼファー」
「おかしなことを言いますね」
手を貸す、という言葉に解せぬと払い落とし、怪人は駆けた。
あらゆるタイヤの回転速度が上昇し、轟音が響く。足場がいかに頑強か知る彼女は、花の表面が傷つくことも厭わない。摩擦による軌跡を刻みながら戦場を駆け、デイヴィーを翻弄しようとする。
デイヴィーは息を吐き、その吐息で炎を編んだ。
目映いばかりの青白い炎が、彼を慕うように浮遊する。
「邪魔はさせません!」
そこでウインドゼファーが振るったのは、高らかな声と車輪剣。
佇むデイヴィーを囲っていた炎が、彼女の起こした剣風で掻き消される。
そして怪人はすかさず、生じた狭間へ刺々しい剣を挿す。
デイヴィーがいなすには、あまりに剽悍な一撃だった。腰を伸ばして一歩退くのがやっとで、それでも切っ先とスパイクは青年に追いすがる。
刃の餌食と化すデイヴィーを前にウインドゼファーは、面の内側でしたり顔を浮かべる――はずだった。
彼女の世界を、闇が覆ったのはそのときだ。
「なっ……いったいこれは……!?」
右を向き左を向き、あるいは顧みようとも、彼女の周りにあるのは濁りなき暗闇。
「質問をひとつ。灯りを消すとどうなるか、知っているかな?」
驚くウインドゼファーの耳朶を、どこからか打つ声があった。
突拍子のない問い掛けに思えたが、そこでウインドゼファーは気づく。
「まさか、この闇は……」
「陽光は疾うに閉じたよ」
デイヴィーのイグニス・ファトゥスは、燈らぬ闇をも生み出す。
けれど怪人は慌てふためくことなく、その場から飛び出した。
彼女は一瞬のうちに判断していた。己の視覚に何かがまとわり付いた気配はなく、ならば闇が覆うのは限られた範囲だろうと。だから抜け出せた。元の景色がすぐさま彼女のもとへ戻る。
しかし反応はわずかに遅れ、がくんとウインドゼファーの膝が落ちた。
彼女は咄嗟に身を捻り、転がって距離を置く。
背に受けた熱の正体は確かめずとも知れる――炎だ。
見上げたことで、敵は漸く捉える。先ほどまで自身が立っていた闇燃える地に、デイヴィーがいるのを。
「気高きキミのことだ。矮小な炎なんて、消し去ってくれるだろうと思ったよ」
上手くできないのは知っている。だからこそこれが、デイヴィーの採った手段。
ゆらゆらとランタンを揺らし、デイヴィーは淡泊な眼差しで敵を見つめる。
「……小癪な真似をしますね」
ウインドゼファーが憤りを噛む。素知らぬ顔でデイヴィーは示した。
「過去にしがみつくだけでなく、這い上がったキミを見習うためにも……」
闇も、炎も、白皙の青年をぼんやりと照らす。
「せめてこの暗闇の中で、その強さに近づいてみせるよ」
誰でもない顔は、誰のものにもならない炎を今日も燈し続ける。
大成功
🔵🔵🔵
ルビィ・リオネッタ
相棒にして恋人の六道・紫音(f01807)と共闘
油断は禁物ね
敵は自分たちの想像以上の能力があると思って挑むわ
・戦法
最初はシオンの肩に【目立たない】ように居るわね
暴風を払ってくれる瞬間を【視力】でよく見て【見切る】
相手もシオンもスピードを出していて、正面から最高速でぶつかったとしたら速度差は物凄い事になるわ
だからアタシはゼファーが来るポイントに正確に『フェアリーアックス』を置くように合わせるだけでいい
UC『パラフレーズ』で大きくなりゼファーにアタシのリーチを誤認させるわ
【早業・見切り・空中戦・暗殺・武器落とし・先制攻撃・鎧無視攻撃】全て総動員して一撃に賭ける!
「もう、この世界を荒らさせないわ!」
六道・紫音
恋人のルビィ(f01944)と共闘
どれほどの強敵であろうと、俺達ならば負けはしない!
・対先制
相手の攻撃は『第六感』と『見切り』で見極めて『武器受け』で切り払い、即座に『カウンター』で攻勢に転じる為にUC【抜刀覚醒】を使用。
「我が剣は風すらも斬り裂く!」
・反撃
抜刀覚醒で得た飛翔能力で空を駆け、『残像』を伴う『ダッシュ』で素早く距離を詰めて『怪力』のままに刀を『早業』で振るう、その太刀筋は風すら斬り裂く『鎧無視攻撃』として全ての斬撃が『捨て身の一撃』と呼べるほどの鋭さで『二回攻撃』
敵の攻撃は『第六感』と『見切り』で見極め『武器受け』で切り払い回避し、残心のまま即座に『カウンター』。
※アドリブ歓迎
ルビィ・リオネッタ(小さな暗殺蝶・f01944)は世の酸いも甘いも噛み分けた蝶だ。
そんな彼女も今一時は蜜からも死からも遠い温もりの基――六道・紫音(剣聖・f01807)の肩に乗っている。
頼る紫音は、内で滾る熱意を決して露にせず、感覚を浄める。ネオンの色彩を思わせるにおいから、紫音は風を嗅ぎ分けた。す、と細く短く息を吸い込めば、やはり戦場らしい空気が滲む。
敵の艶めく装甲に、そして二振りの剣は、この世界の晴々とした雰囲気からは想像もつかぬほど、手入れに時間を割いたとわかる代物だ。剣の使い手としても、風を操る者としても上等な存在だろう。そう考え、紫音は唇を引き結ぶ。
手を取り合う絆なぞ知るよしもない怪人は、そんなふたりをよそに、駆動音を撒き散らしアクセル全開で駆ける。
――来る……っ!
紫音は鯉口を切り、指を柄へ走らせた。
「我が剣は……」
陽射さずとも紫音の刀身に光は滑り、曇りなく放たれるのは一閃。
「風すらも斬り裂く!」
得物で荒ぶる風を受け、中心から裂く。
紫音の切り開いた風を、ルビィは見る。しかし目を凝らしてみても、無尽の暴風に法則性はない。ただただ暴れ回るだけの風は、だからこそ怪人の糧となっているのだろう。ただでさえ、速さと風を得意とする戦士が相手。見切るのも探るのも困難だ。
ルビィが見つめた時間はほんの僅かだった。
直後には、四方から巻き込むような凄まじい烈風に、切り開く紫音の剣筋も腕も揺れた。
そして風の狭間から顔を出すウインドゼファーの面が、紫音の眼前へ音もなく迫る。一瞬、時間が止まったように思えた。怪人の風は紫音の刃に纏わりつくように吹きすさんだ――彼が切り払えたのは、風の衣のみ。代わりに、防備の薄い紫音の下方から振るわれた車輪が、腕に容赦なく穴を開ける。
ぐっと痛みを噛み殺し、紫音は飛びのいた。足場を滑って着地し、間合いを保つ。そしてぽたりぽたりと垂れゆく痛みも厭わず、己が身に無数の剣閃をまとう。
攻勢に転じる紫音の型まで想定していたのか、怪人は一笑する。
「……多くの剣士を見てきましたから」
敵の言の葉が意味するものに、ふたりも感けていられない。
紫音の覚醒は一瞬の裡。抜刀は、彼が常より眠る能力を目覚めさせ、すぐさま地を蹴った。猛禽を思わせる鋭く軽やかな飛翔で、絵具を塗りたくったような空をゆく。残像を伴う動きは見る者の目を眩ませ、見誤らせるに値するものだ。だが。
懐へ飛び込み仕掛けた早業は、車輪剣のミラーに引っ掛けられた。ミラーが歯止めとなって摩擦が生じ、鼓膜にまで突き刺さるほどの金属音が火花を散らす。
怪人と紫音の逼迫した対局を眺めたルビィは、意識せず息をのむ。
――すごい。
我に返りふるふるとかぶりを振って、ルビィは願いの感情を募らせた。それは誰かを想うという、曇り無き心の機微。
しかし彼女の感情が爆ぜるより先に、怪人が再び烈風に身を包む。ルビィが身と能力を増大させる前に、ウインドゼファーは飛躍的に上昇した力で、車輪剣を揮う。
微かな悲鳴すら風に溶けた。
募る想いで巨大化する前に胸元を突かれそうになり、すかさず構えたダガーが弾かれる。受けた衝撃でバランスを崩しかけたものの、ルビィは咄嗟にはばたきで風を捉え落下を防いだ。けほけほと咽せながら立て直した彼女へ、なぜか怪人は追撃もせずに佇む。
意識を奪われぬよう、武器を握る手に力を込め、ルビィは溢れる感情のままに自らの姿と力を大きくさせた。すると。
「小さき者にちょこまかと動かれるよりは、やりやすいですね」
淡々と紡ぐウインドゼファーに、ルビィが双眸を揺らす。
――なんてひとなの。
強化を制止するつもりなど、端から怪人には無いようだ。
ならば先ほどの強撃もやはり、純粋にルビィを伏すためのもの。
――負けたくない。こんなに大きい存在に。
小さくとも、度胸や想いはひと一倍強いルビィだ。胸の奥で渦巻いた情に背くことはできない。
そして紫音もまた、膝を折らない。痛みに痺れる腕を抑えつつ、諦観の意も示さない。
疾駆した敵の影が、瞬く間に視界から逸れる。余韻すら必要としないウインドゼファーの風は、風と風とが縺れ合った暴風は裂いても止まず、それでも紫音は、合間に見えた虚空めがけて、渾身の力で斬り上げる。切っ先が怪人の得物を捉えた。
振り抜く際の角度を力任せに変える。紫音の起こした太刀風は鋭利に跳ね、車輪剣のミラーを弾く。
しかし今度は、擦れ違いざまに肩を抉られた。紫音が抜け落ちかけた肩の力を籠めれば、ルビィが寄り添う。心配そうに覗き込む彼女、紫音はなけなしの掠れ声を振り絞った。
「どれほどの強敵であろうと……」
相棒と、愛しきひとと並び立つ戦地に於いて愛情がどのような力をもたらすか。
それを紫音は知っている。
「っ、俺達ならば負けはしない!」
だから彼は再び、覚醒の力で空を舞う。荒天をも破る一太刀にて、反撃に打って出た。
いかな荒々しき天候も、その先にあるのは快晴だ。暴風の後に出る晴れ間の美しさを、ふたりで招くために。力強く踏み込んだ紫音が刀を振りぬけば、ウインドゼファーの腿の装甲がぱっくりと裂けた。
だが怪人は動揺ひとつ漏らさず、荒れ狂う風を纏う。
巨大化したルビィはそこで斧を握った。彼女が狙う機はただ一点。風が通りすぎる道の上だ。
――この一撃に賭ける!
斧を置くだけの感覚で振りおろすと、妖精の光が踊った。
「もう、この世界を荒らさせないわ!」
斧刃が狩るのは、ウインドゼファーの剣。休む間もなく回る車輪の牙を、いくつか砕いた。
ちらりと怪人がルビィを見る。
「……なかなか手を出してこないので、狙いがあるのは解っていましたが」
ミラーを断たれ、車輪のスパイクも欠け、装甲の傷を改めて確認し、ウインドゼファーは息を吐いた。
「斯くも阻む者でしかないのですね、あなたがたは」
どことなく皮肉めいた声が落ちる。
「多くを見てきたのは……俺も同じだ。ウインドゼファー」
先に放られた言の葉を、紫音が返す。朦朧とした意識を辛うじて支えていた彼だが、直後に膝から崩れ落ちた。
シオン、と叫んでルビィが彼にしがみつく。肩からも腕からも、流れる命が止まらない。
敵は自分たちの想像を遥かに超える力を持つ。そう思って挑んだものの、いざ目の当たりにすると冷たい。それでも、合わせた手からはまだ熱意が失せていない。
世界を揺るがす大戦も、根幹に悪意を染み込ませようとする過去の骸も。
「アタシとシオンなら、うまくやれる」
苦戦
🔵🔵🔴🔴🔴🔴
鵜飼・章
分母が多ければ無差別攻撃の矛先が分散すると予想し
可能な限り大量に鴉を連れていく
鴉達を風避けにしつつ
【激痛耐性】で攻撃に耐えながら
足場が崩れきる前にUC【相対性理論】を発動
僕と隼に直接風が当たらないよう
周りに鴉を集め一羽の巨大な鳥になる
飛んでくる足場の残骸等は【見切り】
武器を【投擲】し叩き落とす
敵は足場の上だろうから
残った足場には魔導書で危険生物を召喚
神経毒を吐いて飛ばすフィリピンコブラだ
噛まれたら死ぬよ
でもこれは本命の攻撃じゃなく妨害
逃げ場を無くしつつ【早業】で近づき
敵の頭上をとれたら
そこから必殺の急降下を放つ
最大時速400㎞に迫る攻撃だ
隼の速さも中々のものでしょう?
【スナイパー】で必ず当てる
上野・修介
アドリブOK
・POW
狙うは一撃。
――恐れず、迷わず、侮らず
呼吸を整え、無駄な力を抜き、ただ一撃に専心。
先ずは観【視力+第六感+情報取集】る。
体格・得物・構え・視線等から呼吸と間合いを量【学習力+戦闘知識】る。
UCで攻撃力を強化。
敵が速度に長け『先』を取られるなら、その『後の先』に合わせる。
体幹と視線、殺気を【視力】と【第六感】で読み、軌道と呼吸を【見切】ってダメージを恐れず【勇気+激痛耐性】相打ち【覚悟】で紙一重――否、当たる刹那まで引き付け【カウンター】にて渾身の拳【グラップル+捨て身の一撃】を叩き込む。
もし接近してこないなら【挑発】
「そんなそよ風では、砂埃を巻き上げるのが精々だろうな」
遠呂智・景明
アドリブ・連携歓迎
POW
さて、と。
初撃は全力で凌ぐ。
敵の動きを如何に早かろうが【見切り】つつ痛みは【激痛耐性】で耐える。んで、【早業】で抜いた2本の刀を使い【2回攻撃】の要領で敵の攻撃をいなす。
真正面から受けたらさすがにヤベぇが、ほんの少しだけずらしてやりゃ、致命傷は避けられる。本命は反撃だ。
凌いだら反撃だ。
何処までも高く飛翔出来るって?
何者よりも早いって?
それは、この雷、怒槌を回避出来る理由にはならねぇよなぁ!!
【風林火陰山雷 雷霆の如く】を発動。
呼び出した7体の精霊に一斉に雷撃を放たせる。
暴風の鎧だろうが、当てさえすればこの怒槌は全てを斬り裂く。
悪いが、押しとおらせて貰おうか。
木元・杏
強敵、わたしじゃ上手く動けないかも
でも……勇気を出して
ゼファー、貴女は全てを手に入れて何をしたいの?
わたしはチュチュやソリ(共にテレビウム)、キマイラフューチャーの皆を守るって決めた
負けない
第六感で初手の瞬間を察知
白銀の剣を盾代わりに光のオーラで防御
でも竜巻を防ぐだけが狙いじゃない
オーラの光を目眩ましに利用し、わたしの動きの察知を遅らせるのが本当の目的
光の奥から【華灯の舞】
そしてうさみみメイドさん、行って
人形(30cm弱)を光と足場の花を隠れ蓑にし近接させ、隙をついてジャンプ
小ささを利点に車輪を見切って避け、装甲の薄い場所を狙って殴りつける
連携OK
その時は出来る限りオーラ防御で庇いに入る
木元・祭莉
その場に集まったみんなと!
ウィンドゼファー……春風?
優しそうな名前の割に、凶悪だねー?
【POW】
先制攻撃がフルスロットルで来るなら、速さでは追い付けない。
「野生の勘」で、来る、と感じたら「覚悟」を決めて対応。
風圧を軽減するため体勢を低く保ち、左拳から「衝撃波」を放って威力を相殺(「武器受け」)。
「激痛に耐え」て、突進を身体で受け止めた後、「カウンター」で「捨て身の一撃」。
相対距離を縮めるには、これしかなかったんだよねー。
せっかく向こうから接近してくれるなら、引き込まないとね?(ニコ)
車輪剣を腹で喰らい足を止めさせ、ゼロ距離からの右拳。
まだ意識はある。おいらの拳を喰らえー!(灰燼拳で吹き飛ばし)
デイヴィー・ファイアダンプ
……上手くいったか。
とはいえ“警戒”されてしまっただろう。
しかしそれなら、どうにかできるかもしれないな。
距離を置いた以上うかつに近付こうとせず暴風で吹き飛ばしてくるのは想像に難くない。
見えづらい相手への攻撃でその芯を外れさせながら致命傷を避け、暗闇から得た力と共に彼女へ不運を呼び込もうか。
何故か上手くいかない感覚と、そして何かをされている事実。
それらで彼女の意識をおびき寄せ、可能な限り引きつけるよ。
僕を警戒しすぎて意識を捕われ、他の猟兵への注意が疎かになってしまったという最大の不運を呼び込むために。
……小癪な真似をしてすまない。
それでも、これがキミを倒すためにどうにか考えついた手段なんだ。
●風の贈り物
見晴るかす花畑の果てが、夢まぼろしであるかのように霞み、揺らめいた。
際限なく伸びそうな足場の花も、戦いと運命を共にし、終わりを迎えるのだろう。
戦場は広大で、随所を飾る彩りに足を弾ませたくなりそうだ。ここには静かな風が吹いている。建物も天も、鮮やかな色彩で猟兵たちを出迎えてくれた世界だというのに、ここの空気はいっそ張り付いて、冷たい。
アンバランスな空間で、くるくると大粒のまなこを動かすのは木元・祭莉(花咲か遮那王・f16554)だ。不思議そうに唸る様とは裏腹に、尻尾はゆらゆら揺れている。
「ウインド? ゼファー? なんだろ? 春風??」
はてなをたっぷり付け足して、祭莉が首を傾ぐ。
彼の眼差しの先、怪人のウインドゼファーが立ちはだかっていた。訪れた猟兵たちを窺っているらしく、まだ走り出す素振りはない。
「優しそうな名前の割に、凶悪だねーっ?」
優しそう。
祭莉のさりげない一言だが、どうやら怪人の耳にも届いたらしい。
ウインドゼファーの面が祭莉へ向き、何事か思案するような間の後、言葉をこぼす。
「……不思議な捉え方をする者もいるのですね」
表情はなくとも、ウインドゼファーの面越しに感情が滲み出た。祭莉の発言への、戸惑いが。それを隠すかのように怪人はグリップを捻り、バイクのエンジン音に近いものを響かせる。
その間も足場の花たちは、我関せずの表情で猟兵たちを見上げるばかりだ。
ひとり、デイヴィー・ファイアダンプ(灯火の惑い・f04833)は依然として炎を揺らしていた。
――上手くいったか。とはいえ。
同じ手が二度も通じる相手ではない。
そしてデイヴィーの存在は、少なくとも「そういう戦い方をする者」として彼女に認識されているだろう。植付けられた印象は、容易に拭えるものではない。
だからデイヴィーは思考に沈む。
「……どうにかできるかもしれない」
デイヴィーの知略は、内包する灯火のように絶えず闇を照らす。
一方で、睫毛に情をのせて、木元・杏(微睡み兎・f16565)は戦場と敵とを交互に見やっていた。震えるのは指先よりも唇よりも、心。豊かな色彩きらめくこの世界の華やかさからは一変した、戦の生々しいにおいの篭る地。
足場がどれだけ花を咲かせようとも、杏の心を落ち着かせるものには成り得なかった。柔い肌身にちくちくと突き刺さるような感覚は、果たして己の抱く恐怖からか、それとも。
――強敵。
幼き少女のまなこが捉えたのは、明らかに戦い慣れした人の姿かたち。
奇妙な笑いや言葉を発することも、殺気にまみれ命狙う素振りも一見ないが、杏にもわかる。
ほんの一瞬、あるいはたった一度、判断を過つ者に訪れるのは死への呼び声であると。
――わたしじゃ上手く動けないかも。でも……。
小さな拳をにぎりしめる。隣を見れば祭莉もいる。同じ戦場に集った猟兵たちがいる。
頼もしさと安堵に背を押されながら、杏は踏み出した。少女の動き気に感づき、怪人がゆっくり振り向く。
「……ゼファー」
風に委ね願う敵へと、杏は問う。
「貴女は、全てを手に入れて何をしたいの?」
「何?」
質問が思いがけないものだったのか、ウインドゼファーの声に怪訝が混じる。杏は臆せずかぶりを振り、言葉をつなげた。
「わたしはチュチュやソリ、キマイラフューチャーの皆を……」
ここで出会ったテレビウムの顔も、ここで楽しく暮らす人々の姿も、杏は知っている。
ウインドゼファーを含む怪人たちに脅かされなければ、あるがまま流れていたであろうきまいらフューチャーの時間。
「守るって、決めた。貴女は?」
宣言ののちに再び問えば、ウインドゼファーが言葉を躊躇うような間をつくる。
「私は門番です。それ以外の役目を持ちません」
「そうじゃ、なくて……」
戸惑う杏をよそに、怪人は足場花を踏み締め、強度を確かめた。
その一方、ゆったりと戦場を見回して、紫雲の神秘を双眸に宿した少年――鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)が口を開く。
「分母の多さも強みだね」
ぽつりと喋る章は、集った猟兵たちの中、空を埋め尽くさんばかりの鴉を連れていた。
彼が軽く片手を掲げれば、鴉が一羽、応じるように彼を止まり木にする。
「かれらも、ウインドゼファーにとっては標的のはず」
章の声に、腕へ止まった鴉がひと鳴きし、他の鴉たちが高らかに連ねた。
そして、踏み込む前の段階に、上野・修介(元フリーター、今は猟兵・f13887)は在った。何事にも重要なのは呼吸。そしてよく視ること。培ってきた経験は彼自身を裏切らず、ゆえに彼もまた鍛練を積む。腰を据え、胸が心地好く澄む程度に息を吸い、体内の巡りを濁らせるものを息に含め吐き出す。平時と変わりない流れだ。
ましてや敵は風の使い手。風を味方につけた者は、とかく間合いと呼吸に強い。
――乱れてはならない。
こちらのそれが乱れれば、風は過たず狩りにくる。修介にはそれが解っていた。
途端に生じる、狂いに狂った風。ウインドゼファーは総身にその風を纏い、力を増大させる。ただでさえ強敵とされる怪人の強化だが、ゼファーの体格は逞しいとも繊細とも言えない。そこから力は計り知れず、そうこうしているうちに二振りの車輪剣が跳んだ。飛翔すら手中に収めたウインドゼファーの斬撃が、呼吸を整えていた修介へと降りかかる。
――恐れず、迷わず。
迫り来る脅威にも動じず、修介は顔なき敵の圧だけを察知する。
一瞬ののち、得物が突きつけられた。修介は息を大きな塊として吐き出し、その勢いで後ろへ跳ねる。激しい駆動音で回る車輪のスパイクが、そんな彼に追いすがる。慌てた素振りもなく怪人が突き出した剣の先端は、修介の胸を容赦なく抉った。回転する刺が、ただの切り傷になどさせてはくれない。微妙な深みが胸に入り、修介は痛みを噛み締め拳で返すも、剣の柄に阻まれる。
――やはり視線と呼吸から量るには、限界があるか。
敵も戦いの経験に長けている。マスクの下なぞ修介は知りたくもないが、それでも「顔が見えない」というのはなかなかに厄介だと実感した。
足場は変わらず花畑のような形状で、摺った足裏に、花の丸みがこれでもかと伝わってくる。敵を見澄ます遠呂智・景明(いつか明けの景色を望むために・f00220)の佇まいは悠然とし、歩調に沿って羽織る白雪が揺れた。
「さて、と」
首巻き越しの呟きは平生の色を含み、構える姿も空気と一体化した自然なものだ。
ウインドゼファーも、彼の戦い方を察したのだろう。かぶった面で顔色こそわからぬが、景明をじっと捉えているのが知れる。
そして宣言も前兆もなく、怪人が地を蹴る。荒々しい烈風が吹いたかと思えば、彼女の影は地に綾を織り、翔けた。この世界特有のネオンがちらつく光景を背に、跳んだ怪人が景明へ突撃していく。来る、と判断した頃にはもう、彼女の気が半透明の膜一重のところにあった。
景明は鯉口を切る様相すら誰にも見せぬ裡、刀を振り抜く。
――真正面から受けたらさすがにヤベぇが、ずらしてやりゃ……。
起きた太刀風で、怪人が纏う暴風もろとも刃の軌道を反らそうとする。手早い所作は彼の得意とするところだ。だが。
瞬きもせず、直後に景明は腰の力を抜く。
ふわりと浮いた身は後方へ吹き飛ぶも、咄嗟の機転が実を結び、大した傷もなく着地が叶った。
――強ぇ、何だ今の力……!
法則性の無い怪人の風に煽られた際、刀が剣を捉える頃には間に合わないと、彼は本能で感知した。立ち上がり、ふ、と吐こうとした息が胸の奥で僅かに詰まる。
すんでのところで刀の向流れを変え防いだにもかかわらず、身に走った衝撃は凄まじい。凌ぐことに専念していなければ、恐らく無事では済まなかったはずだ。
見切るのも耐えるのもさせぬと言わんばかりの一撃を感じ、景明は不適な笑みを口端に浮かべた。彼の刀も心も、この程度では折れるどころか欠けもしない。
不意に、ウインドゼファーが声をこぼす。
「あなたがたが、あらゆる戦法を採ると解りましたので」
「そりゃ大した学習力だ」
景明は軽く返しながらも機を窺った。
疎漏も早合点も適さない。
下手に反撃を試みようものなら、相手の風に呑まれ、返す前に倒されてしまうと、予感して。
不意に、ウインドゼファーが嵐を呼ぶ。
震動と風音が徐々に広がっていき、突如として花びらの乱舞が一帯を包んだ。いずれも、戦場の足場を成していた花だ。
足場の花びらが降りかかる中でも、章の風避けは周到だった。鴉の群れが影のような黒い塊を成して、風に乗る。かれらは防風の徒となり、章へ向かう風花を削いだ。
章の思惑通り、無差別に飛ぶ攻撃の矛先が分散されたのだ。それでも完璧に防げはせず、あっという間にひとひらが章の腕を掠め、風で姿勢が崩れかける。耐える間も花は次から次へと足場から剥がれてしまい、時間がない。
章はすぐさま風に逆らい、指笛を吹いた。ヒュウ、と高音が空間をつんざく。
応えたのは章の体躯の倍はある巨鳥――黒い隼だ。呼ばれた隼が天から章のもとへ舞い降りるまでの僅かな間、鴉たちが集結する。烏合の衆は巨大な一羽の鳥となって、暴風とバラバラになった花から章と隼を守りぬく。
そして足場が崩れきる直前、章は隼と共に空への飛翔に成功した。ふぅ、と短く息を吐いて見下ろせば、ウインドゼファーがじっと章を見据えていた。ぞくりと背筋を走る寒気に、微かに身震いする。
――なんだろう。見抜かれていたようで、妙な感覚だ。
●花に嵐、風に命
軽い屈伸を終えた祭莉が、よーいどんの姿勢をとる。
当たり前のように怪人も、駆け抜ける意思を示し先手を取った。卓越した速さから繰り出されるのは、祭莉の予想通りのフルスロットル。パワーとスピードを兼ね備えた戦士の有様は、祭莉の大きな瞳に現実を映し出す。
速さでは追いつけない。そこはわかっていた。
相手の得意分野で競うのであれば、相応の策やアイディアが要る。
だから祭莉はそこで争わず、己の本能を目覚めさせることに集中した。ぶわ、と全身が総毛立つのに近い感覚。
だが恐怖や悪寒ではなく、祭莉の血となり駆け巡るのは、野生。疾駆する怪人のシルエットを追走する祭莉の目は、獣じみた動体視力でまばたきを忘れた。
少なくとも、キマイラフューチャーで活動する怪人のうち、獣の要素があまり感じられないウインドゼファーだ。戦士として、あるいは剣士としての知略や勘に長けていようとも、野生の香りを湛えた少年の姿には、やや疎い。
ぴくりと髪が震えた刹那、祭莉は風圧対策のため体勢を低め、迫る剣の猛攻をかいくぐる。左の拳から打ち出した衝撃波で、風を押し返すように相殺しながら。
しかし怪人に宿る四方八方から吹く烈風は、祭莉の足をもたつかせた。全部を避け切るのは叶わず、腹部へハンドルを思わせる剣の部位が、遠慮なく食い込む。
「ぐへぇっ!」
強烈な苦しさが喉元まで上がった。
けほけほと咽ぶ祭莉に、怪人はしかし追撃を見舞わない。
すぐさま祭莉が、軽やかな身のバネを全開に、素手による会心の拳を放ったからだ。
「おいらの拳を喰らえーっ!」
そして辺りに響くのは、重たい何かがぶつかりあったかのような音。ゼロとも言える近距離からの灰燼拳は、この距離、この角度、この一瞬に敵の強打を受けたからこそ、成せたものだ。
激痛に悶えながらも快活さはそのままに、にへらとどことなく力の抜けた笑みを祭莉が仲間たちへ見せる。
「せっかく接近してくれるんだから、引き込まないと、ね?」
祭莉の言葉は、戦いが始まる前から変わらぬ明るさで。
意識のありなし無関係に、ぐっ、と怪人が悔やみに酷似した情を飲み込んだ。
途端に、ウインドゼファーは、嵐と見紛う凄風を解き放つ。凄風は猛威を振るい、戦場で大事な足場となる花をも連れていく。どんな走りにも衝撃にも耐えてきた花は、あまりにも呆気なく散った。
花びらは楽しげに踊り、風に乗って猟兵たちへ襲いかかった。
風花の隙間を縫い避けて周り、デイヴィーが辺りをじっと観察する。
先刻の攻撃のこともある。距離を置いた以上、敵は迂闊に近付こうとせず暴風で吹き飛ばしてくるはず。想像に難くないと、デイヴィーは考えていた。ならばと彼がは今後のため知識の扉を開く。
言葉は時として呪いになる。
善良に満ちた言葉も、悪意にまみれた言葉も、誰かの心を蝕むものだ。
それが生きる活力となるか、死への標となるかもまた、人による。呪言の使い手であるデイヴィーは、強風に荒らされ舞う花びらに心身を苛まれながら、だからこそ音を繋げていく。
「彼の者に悲劇を」
デイヴィーの紡ぐ音は、凍てついた灯火のような色彩を宿す。
――僕を警戒しすぎてくれれば、進めやすい。
好事ののちには嵐が吹く。
花たちが可憐に咲けば、風に散らされ無残な姿と化すように。
効果はすぐに現れた。運を根こそぎ奪われた怪人が、覚束ない足取りになる。見えにくくなっていた足場の片側が、いつのまにかすっぽり抜け落ちていた。先ほど怪人が花びらを飛ばしたのか、別の理由があるのか。いずれにせよ抜けた足場の窪みに、僅かな時間ウインドゼファーを食い止めるのに成功した。
そんな彼女の顔が、デイヴィーを捉えたのがわかる。
無言にが無言が返る。
敵と言葉を交わしに来たのではない修介が、敵に投げかけるとすれば吐息ぐらいか。修介の構えた姿勢に抜かりはなく、怪人もまた絶妙な間合いを保つ。体格と構えから動きを量るべく凝視するも、佇む怪人の姿はまるで澄まし顔のようだ。速さに関しても戦士として捉えても、相当な使い手。簡単には見抜かせてくれない。
それでも、感じるものは確かにあった。
ウインドゼファーが仕掛ける。自ら覆う烈風を連れて、尾を引くことなく修介めがけ飛翔した。フルスロットルで相対する怪人に、修介もまた死力を尽くそうと構える。狙うのは一撃だ。
――侮らず、無駄な力を抜き、専心。
そうして飛び込んできた戦士の刃を、彼は恐れない。懇親の一撃を確実に与えるには、斬撃が当たる刹那まで敵を引き付けるのが効果的だ。そのためには当然、己を強化した怪人が扱う、二振りの剣をどうにかする必要がある。
だから修介は、自らの体躯で抗った。相打つ覚悟の表れは、意地となって彼の両足を踏ん張らせる。
「何……っ!?」
思わずといった様子で、ウインドゼファーが呻いた。
矢継ぎ早に修介が返すのは、鼓動そのものを掴み獲り、命を潰すための一撃。速さで「先」に走るのが敵の得意分野なら、「後の先」を読めば通用しやすい。そう考えた修介が起こした策でもある。
車輪が深々と食い込み、スパイクが貫いた修介の身から命がぼたぼたと染み出す。崩れ落ちる修介の代わりに、ウインドゼファーが胴に点していたライトが、音を立てて割れていく。
「……捨て身の攻撃とは、思いきったものですね」
想定外だったらしく、ウインドゼファーの声音がは、心なし掠れていた。
直後。
剣の車輪を支えにした怪人は、阻む障害物すべてを巻き込む勢いで疾走した。掻き鳴らされる車輪の響きが、鳴りやむ気配もない。
そして怪人は徐に、竜巻の名を冠する車輪剣を二振り掲げる。
研ぎ澄ませた感覚で敵の動きを察知しようとして、杏は不安を抱く。強さの底が見えない敵をオーラで凌ごうとするのが、果たしてどう転ぶのだろうかと。そんな思考を少女が持っているとは露知らず、ウインドゼファーの二振りが襲いかかる。
――負けない。
杏は咄嗟に白銀を集約させ、模った剣を構える。
守りに徹する少女へも容赦なく、怪人の刃が食らいついた。
ずん、と烈しい衝撃が重たさとなって白銀の光ごと杏を沈ませようとする。
そのまま崩れそうになった杏のもとへ、祭莉が駆ける。
「てやっ!」
掛け声と共に祭莉がウインドゼファーへ飛び掛かり、怪人が彼をいなすまでの短い時間で、杏はよろめきながら立ち上がる。
「だいじょーぶ??」
ウインドゼファーの向こうから届く祭莉からの気遣いに、杏はこくんと頷いた。
そして彼女は、痺れた手首を撫でながら敵を視界に入れる。一手、たった一手を受けただけで理解できた。ウインドゼファーの強大さを。
しかし杏もひとりの猟兵だ、無策ではない。すぐさま盾に使った白銀を輝かせ、怪人の眼を眩ませた。
「くっ、な、何ですかこれは……!」
頭部がメットでも、光輝がいかなるものかは知れるのだろう。
眩しそうに顔を逸らした拍子に、杏が心傾けたのは華灯の舞。射て、と一言杏が解き放てば、白銀の瞬きは桜を想起させるかたちになる。
微かに揺らぐウインドゼファーへ降りかかった、花の舞。そして連ねるのは、杏が咲き誇る花に紛れさせたうさみみメイドさん。小柄な人形ながらも戦いへの意欲に満ちたうさみみメイドさんは、杏のため未来のため、悪意の塊と成り果てた過去の骸へ殴りかかる。
――わたし、ちゃんと戦える。
少しばかり早く胸を撫で下ろし、杏は戻ってきたうさみみメイドさんを迎え入れた。
それでも、花びらは幾度となく踊る。戦場を構成する足場の花は尚も、枯れも萎みもせず在り続けた。
荒れ狂う風が運ぶ花びらを、章と隼の周りを飛ぶ鴉がつつき、章自身も針を投げて撃ち落とす。すべてを凌ぐことはできず、何枚もの花びらが風に乗って章と隼へと襲い来るが、大空にある裡の隼は――風の相棒だ。
ウインドゼファーは未だ足場の上に立つ。章は彼女を取り囲むため、ぱらぱらと魔導書を風任せにめくっていく。あらゆる生物を網羅した魔導書から、今回章が導き出したのは、神経を毒で侵すコブラ。魔導書の中で、危険生物として分類され注意喚起がなされている。
「噛まれたら、死ぬよ」
続けた章の言い方に、ウインドゼファーが小さく唸る。
「……鳥獣の使い手は、毒をも制するのですか」
風は未だ止まず、景明の前にも現れた。
烈しい風は阻む者すべてを喰らうほどで、飛翔する怪人の身は目にも止まらぬ速さ。
地に降り立ってさえいなければ毒蛇の心配もないと、言いたいかったのかもしれない。こちらが仕掛ける前には動かれる。耳をつんざく駆動音も、風音さえも騒々しい。
一方で音を捨てた景明は、精霊の加護を展げていた。
目映い光に顔を晒し、風にざわつく戦場へいかづちを招こうとする。
そんな彼へと、言葉通り突っ込んできたウインドゼファーの風を、再び刀身で受け流す。一度は体験した風と手だ。相手も学習するのなら、景明も二度同じ攻撃は喰らわない。音もさせずに抜刀した二振りの動きを、荒ぶる風に乗らせる。
そしてほんの僅か、風の抵抗が薄れた狭間から跳躍させた刃で、相競う。
「何処までも高く飛翔出来るって? 何者よりも早いって?」
彼が起こした剣風も暴風の軸を捉え、突き出された車輪を撥ねる。
そして生じた一瞬に、仕掛けた。
「それはこの雷、怒槌を回避出来る理由にはならねぇよなぁ!!」
吶喊が響き、いかづちは景明を照らす。
七ツもの精霊が織り成す怒槌は、堅牢なる風鎧だろうが大地だろうが、構わず断つ。
攻め轟かす彼の一手は、雷どころか凄まじい風雨でさえ避けて通るであろう迫力だ。
おかげでウインドゼファーの纏う風が裂け、ふらりと怪人の足取りも覚束ない。
「悪いが」
莞爾として、景明は敵を目する。
「押しとおらせて貰おうか!」
「……させません!」
なおも門番として立つ怪人に、仲間の猛攻の波が続く。
その間に空翔けていた章は、隼の首の後ろをめいっぱい撫でる。
途端、隼が翼をすぼめて急降下した。怪人の頭上へ落ちるゆく様は、正しく得物を狩るかのごとく。余分な荷物も持たぬ彼らは身軽で、頑丈そのものだった彼ら――章と隼は、飛び交う暴風と花びらには目もくれない。
天をも切り裂く時速で、隼が敵を迷いなくつつき、章はうっすらと双眸を緩めた。
隼の攻撃に重ねて章が投げ放った針は、風の隙間を突き進み、射止める。
ふたつの流れは、まるで天上での戦いのごとき鋭利さと眩しさを備え合わせていた。
ぐらりと上半身に蓄積された苦痛が、ウインドゼファーの膝を折らせる。
悔しげな息を噛むように吐いて、怪人は残っていたわずかな足場へ拳を叩きつけた。
「っ、こんなところで、敗れるわけには……ッ!」
ウインドゼファーのひとりごちた情を聞き届けたのか否か、キュイィィ、と誇らしげに隼が鳴く。
「隼の速さも中々のものでしょう?」
告げる章が奏でるのは、厳かなる事実。
いかな風でも掻き消すことの叶わない、ウインドゼファーの嵐。
しかし風は堕ちた。
なのにゼファーは理由を、要因となったものを見ない。
ただ追い風が失せていくのを、嘆くばかりで。そこへ。
「……小癪な真似をしてすまない」
先刻の言葉に対しデイヴィーが紡ぐ。
ようやく、ウインドゼファーがくすんだメットで猟兵たちを見上げた。デイヴィーの持つランタンで、青白く炎がゆらめく。
デイヴィーの綴った言の葉は、気にしていた、とデイヴィー自身の口で言い表すにしても、あまりに人間じみた態度。
「それでも、キミを倒すためにどうにか考えついた手段なんだ」
想定していなかった発言なのか、くつくつとウインドゼファーが笑嗤いを噛み殺す。
「おもしろいひとですね。ああでも、だからこそ……」
揶揄ではなく、純粋な興味を含んで彼女は告げた。
「その灯火を、私の風で消したいものです」
風を操る者はこうして、とこしえの闇に消えた。
成功
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