バトルオブフラワーズ⑪〜その欲望(ユメ)を吹き飛ばし
●静かに熱く、吹きすさぶ
モンキーも、バニーも、骸の海へと還ってしまった。
最強でも無敵でも阻めなかった猟兵達の進軍を、自分ひとりで止める事などできるのだろうか。
そんな事、どうだっていい。
「私の役目は門番。ドン・フリーダムがシステム・フラワーズを取り戻すまでの時間稼ぎならば、決してあの2人にひけは取りません」
もはや1人だけになってしまった怪人軍団幹部、ウインドゼファー。
オブリビオンであるこの怪人も、かつてはこの世界に生きる人類であった。
ドン・フリーダムが開放した『無限大の欲望(リビドー)』、それにより怪人化し、滅亡していった旧人類。
だけど今なら。
オブリビオンとなり蘇った今なら、自分たちを滅ぼした欲望にすら打ち勝てるかもしれないのだ。
誰よりも深く、誰よりも美しく、誰よりも速く。
自分たちが、すべてを手に入れる。
その為ならば、首領の為の門番役も、喜んで引き受けようじゃないか。
「――何処からでも来なさい。誰にも、私達の邪魔はさせないッ!」
●戦争とは
「3人目はスピード怪人ウインドゼファー。風を操る強敵です、どうかご武運を」
もはや何度も繰り返したやり取り。
シスター服のグリモア猟兵が、簡潔すぎる説明を終え、グリモアを転移の為に輝かせる。
戸惑うのは集められた猟兵達だ。
これまでの2つの幹部戦と異なり、あまりにも情報が無さすぎるではないか。
「……ええ、この説明で十分なのです。ウインドゼファー、彼女には、エイプモンキーのような最強の力も、ラビットバニーのような無敵の力もありません」
ただ強く、ただ速い。
ただそれだけのオブリビオン、それがスピード怪人である。
ただそれだけで、他2人と肩を並べた怪人である。
「――覚悟、勇気、気合。ええ、ええ。貴方達も持つ、人としての意思の力。それを発揮して、これまでの戦いを超えて来た方も多い事でしょう」
そしてそれは、かつて人であったオブリビオンが持っていてもなんら可笑しくないものだ。
ウインドゼファーには、今までの幹部のような絶対的な力は存在しない。
それでも彼女は、かつて自らを喰らった欲望を超える為の覚悟を持って、猟兵達の前に立ちはだかる。
最強でも無敵でもない彼女が、それを超えて来た猟兵を食い止める為の意思を連れて、花園で待っている。
「努々油断なさらぬように。怪しく姿を変じていたとしても、彼女もまた、奇跡の力を振るう人なのですから」
人と人が争う戦争。
あるいは、誰よりもそれに相応しい最後の門番への道が、グリモアの光によって開かれた。
北辰
OPの閲覧ありがとうございます。
正直に言います、ウインドゼファーさんみたいな人凄く好きです、北辰です。
●特殊ルール:先制攻撃
敵は必ず先制攻撃します。敵は、猟兵が使用するユーベルコードと同じ能力値(POW、SPD、WIZ)のユーベルコードを、猟兵より先に使用してきます。
この先制攻撃に対抗する方法をプレイングに書かず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、必ず先制攻撃で撃破され、ダメージを与えることもできません。
今回の特殊ルール終わり!
これまでのチート共を超えて来た皆様ならば、難しい事は無いでしょう。
OPでも触れましたが、彼女は最強でも無敵でも無いのです。
それを分かっていてなお、自身の欲望の為に戦う彼女。
今まででも、もっとも人らしいオブリビオンが相手となります。
ただの強敵を倒す為。
彼女の夢を吹き飛ばす為のプレイングをお待ちしております。
第1章 ボス戦
『スピード怪人『ウインドゼファー』』
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POW : フルスロットル・ゼファー
全身を【荒れ狂う暴風】で覆い、自身の【誰よりも速くなりたいという欲望】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
SPD : レボリューション・ストーム
【花の足場をバラバラにする暴風】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ : ソード・オブ・ダイアモード
対象の攻撃を軽減する【全タイヤ高速回転モード】に変身しつつ、【「嗤う竜巻」を放つ2本の車輪剣】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
イラスト:藤本キシノ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
フロッシュ・フェローチェス
速さ、スピードか――それならアタシの領分だ。譲らないよ……譲れる、ものか……!
敵へと突っ込んでいく。けどこれは攻撃の為じゃない。
攻撃の予兆を見たら踏みつける形で体を沈め、加速式起動――残像すら映さない神速の早業で溜めた威力を使って斜め後ろにジャンプ。
衝撃波で二段ジャンプだ。
そして後方に置いていたバイク・闇鷲炉を、生きた鎖・咆蛟炉に起動させて騎乗。
そのまま殲銃形態の弾幕からロープアクションで騎乗し、スピードに乗って突貫――する訳無いだろ?
だまし討ちだ。
バイクの上、横、後ろ、何処でも足場に出来る。
本命はUC。
お前の挙動を僅かでも見切り視界の端だろうが捉えて離さない。
叩き切ってやるよ、この脚刀で!!
●スピード狂、2人
暴風が荒れ狂い、舞い散る花弁の嵐の中を、緑の軌跡が駆け抜ける。
スピード怪人ウインドゼファーと、キマイラの少女、フロッシュ・フェローチェス(疾咬の神速者・f04767)の攻防は、開戦から数瞬で膠着状態に陥っていた。
フロッシュが転移したと同時、間髪入れずに吹き荒れるウインドゼファーのユーベルコード。
その高速の風の暴力を、やはり高速の機動力で躱した彼女が花の戦場を走り続ける。
この一瞬で、2人の女は目の前の相手の正体に気づく。
――同類である、と。
相手の攻撃は当たらない。
自分の攻撃も当たらない。
膠着を打破するために手を変える? 馬鹿を言え、そんなすっとろい事をしてれば、その瞬間に相手のユーベルコードがこの身を貫く。
だって、自分ならそうするから。
それでも、両者の立場はわずかに異なる。
地を駆けるフロッシュにしてみれば、このまま時間をかければ、それだけ走り回る花畑は削られていく。
このままならば負けるのは自分だ。
その結末を変えるべく、フロッシュが行動を起こす。
「ほう……?」
ウインドゼファーの暴風を、術式により更に加速したフロッシュがバックステップで躱す。
普段は攻撃に使うであろう、ブーツから生じる衝撃波をも推進力に変え、フロッシュが一時的にではあるが、オブリビオンの風が支配する空間から逃れて見せる。
その後方にあるのは、鎖が巻き付いた彼女のバイク。
走り回っている内に、彼女が転移してきた最初の地点に戻ってきていたのだ。
その前面にフロッシュが足をつけば、生ける鎖は主の望み通り、バイクをひとりでに走らせる。
急後退からの猛突進、人体だけでは無しえぬ超速の緩急。
「……今更、そんな遅い鉄塊で私に勝とうと?」
それを、冷めた口調のウインドゼファーの暴風が叩き潰し。
「思ってる訳、ないだろう!?」
「なっ!」
鎖を操り、転がるようにバイクの更に後方へと逃れていたフロッシュが、そのユーベルコードを展開する。
加速式の出力を上げる為の僅かな隙、その、スピード怪人から引き出すには長すぎる隙を作る為なら、バイクの一つや二つ、喜んでスクラップにしてもらおうじゃないか。
【断砲『キャロライナ・リーパー』】。
走り回り、バイクを突撃させ、ようやく僅かばかりの隙を見出したフロッシュ。
神速を求めるキマイラが、音を置き去りにして、ウインドゼファーへとその脚を振るうッ!!
「――嗚呼、くそっ。ここまでしてもまだ対応するのか……!」
「………………」
ウインドゼファーの腕を切り裂き、その代償として暴風でひしゃげた脚を庇いながら、フロッシュが吐き捨てる。
その悪態を、無言で聞くウインドゼファーの心境もまた、穏やかではない。
今の一瞬の交差、彼女が注視していたのが自分自身だったからこそ、不可視の暴風の迎撃が間に合った。
もし、彼女の見つめるものが違っていたら。
もし、自分が別のユーベルコードを使っていたのなら。
すべて、意味のない仮定ではある。
それでも、ウインドゼファーは、猟兵に対する警戒を、静かに強めていたのだった。
苦戦
🔵🔴🔴
セルマ・エンフィールド
私もあなたも行動理由は自分のため。問答は無意味でしょう。
吹き飛ばされた勢いで何かに叩きつけられてはかないませんし、位置取りには注意を。
片手にマスケット、片手にフックのついたロープを所持、落下、吹き飛ばしの度に残っている足場にロープを引っかけて戻れば場外敗けはないでしょう。
敵がこちらの射程に入ったら、全力でマスケットを投擲します。重量が軽い弾丸は風の壁に阻まれて届かないかもしれませんが、これならば重量もあり、先端の銃剣で殺傷力もあり、意表もつけます。
が、当たるとは思っていません。本命は一瞬銃剣に注意を払った隙に接敵し、隠し持ったデリンジャーで零距離からの早撃ち【クイックドロウ・四連】です。
●刹那に撃ち抜く
花園に現れる2人目の猟兵。
セルマ・エンフィールド(終わらぬ冬・f06556)は表情を引き締め、真っすぐにウインドゼファーを見据える。
敵が語った野望、かつての彼女たちを飲み込んだという、欲望の打倒。
つまりは、あれは自分と同じ、自分自身の為に戦う者。
これほど、踏み越えるのに躊躇いの無い相手もそうそう居ないだろう。
問答は不要、ただ、勝つことだけを考えればいい。
そしてそれは、ウインドゼファーも同じこと。
セルマが行動を起こす、その先手を制して放たれる暴風が、足元の花々ごと、セルマの身体を宙へと吹き飛ばす。
宙を舞うセルマには、空中で動く術はない。
いや、厳密には、ドローンだの、氷塊だの、相応のユーベルコードで身体を動かすことは可能だろう。
それだけの隙を与えてくれる相手なら、という話だが。
だからこそ。
「(……なるほど、速くはありませんが。上手い、と評すべきでしょうか)」
そんなセルマが取った行動は、足場に引っかけたフック付きロープを用いての強引な復帰。
荒れ狂う暴風の中、ロープ一本を頼りに戦場に舞い戻るその姿は、ウインドゼファーから見ても洗練された体捌きだ。
とはいえ、所詮は曲芸の類。
一度はそれで凌げても、種が割れればフックごと吹き飛ばしてしまえばいいだけの話。
まだまだ猟兵は乗り込んでくる。
さっさと片付けて、次の相手を待とうじゃないか。
ウインドゼファーのその思考を妨害するのは、迫りくる銃刀付きのマスケット。
この戦術が続かない事は、セルマ自身もよく分かっていることだ。
だからこそ彼女が打つ次の手。
風で弾かれる銃弾だけでなく、マスケット銃そのものの投擲は、確かにウインドゼファーの意識の外を突くもの。
重量ゆえに容易には飛ばされず、刃を持つがゆえに無視はできない。
ウインドゼファーの意識がそちらに向けば吹き飛ばされる程度の攻撃ではあれど、その瞬間にはセルマの次の攻撃――本命のユーベルコードの発射準備は終わっている。
花舞う戦場を走る猟兵、翻るスカート。
宙に投げられたのは2つの短銃、その次の瞬間には、また彼女の両手に収まる3つ目と4つ目。
ただの早撃ちではない、ユーベルコードと呼ばれるまでに彼女が磨き上げた技術、【クイックドロウ・四連(クイックドロウ・クアドラプル)】がウインドゼファーへと襲い来る。
この機を逃せばチャンスはない。
唯一無二の攻撃の機会に、セルマの集中が極限にまで高められる。
ウインドゼファーが渾身の力で引き起こした風で、軌道を逸らされる2つの銃弾が見えた。
花をまき散らす風の音がどこか遠くに聞こえる。
オブリビオンに当たらず、見当違いの方向に向かう弾丸を見て、彼女の狙撃手としてのこれまでが、撃つべき目標をそっと告げる。
暴風の中、なお揺らがない彼女の腕が伸ばされ、引き金をそっと引き。
「……ッ!? ば、バカな!」
2つの衝撃を受けたウインドゼファーが、その体勢を崩す。
確かに意表は疲れた、接近を許した。
その上で、風での防御は間に合ったはずだ。
間に合ったのに、後から撃った追撃で、逸らされる筈の自分の銃弾を弾くなんて、冗談みたいな技量で強引に攻撃を押し通された!
種も仕掛けも無いただの早撃ち。
何よりも、撃つべき目標を見極める、その判断の早さ。
最速を求める怪人であっても、その速度を認識するのには、いくらかの時間を要する出来事であった。
成功
🔵🔵🔴
遠呂智・景明
ボドラーク・カラフィアトヴァ(f00583)と連携
SPD
初手は全力で敵の一撃を躱すぞ。
敵の攻撃を【見切り】、【迷彩】で身を隠しながら、多少掠っても【激痛耐性】を用いていきなり落ちることだけは回避する。
足場を崩されちまえば俺もボドも刀が振るえねぇなぁ。
そのために俺がいる。
UC【風林火陰山雷外道 同胞の太刀】で複製を作り出し、それを操りつつ足場にする。
俺ら刀使いの体幹の見せどころだな。
足場も、振るうための刀も用意したぞ。
それがありゃ、人斬りに斬れねぇもんはねェ。
ボドを支援だ。刀を足場にしつつ、ウインドゼファーに斬りかかろう。
刀を持ち替えつつ【早業】の【2回攻撃】だ。
〆はボドに任せた。存分に斬れ。
ボドラーク・カラフィアトヴァ
遠呂智・景明(f00220)さんと連携を。
足場を崩されるのはよくありませんねえ……
まあ、それの対応は景明さんにお任せするとして。
……足場の問題が解決したとて、ひとまずは彼奴の攻撃を凌がなければなりませんね。
【見切り】、【武器受け】、場合によっては【第六感】で回避できればいいのですけれど。
さて、次は私の番です。
かのオブリビオンは速さに自信がおありのようですが……それはわたしとて同じです。
景明さんの作り出した足場を【残像】を生むほどの【ダッシュ】で駆け抜けて間合いを詰めて。
そうして、間合いに捉えることが出来たならば――“疾風”の一突きを叩き込みましょう。
ええ、景明さん。背中はお任せしますよ?
●颶風を裂いて
吹き荒れる暴風、散りゆく花弁。
猟兵との数度の戦いを経て、ウインドゼファーの纏う風はますますその暴威を増していく。
既に花の足場も崩壊を始め、まともに戦場を駆けることも難しい。
そんな中で、オブリビオンを見つめる二人の剣士。
一人は、敵から一瞬たりとも目を離すかと、赤い瞳でじっと前を見据え。
一人は、死を振りまく怪人を前にしてなお、青い瞳を瞼の奥に隠して。
遠呂智・景明(いつか明けの景色を望むために・f00220)と、ボドラーク・カラフィアトヴァ(笑う銀鬼・f00583)。
花舞う戦場に立つ彼らの姿は、その悠然とした姿も合わさり、どこか浮世離れしたものであった。
「次から次へと……。 いいでしょう、何度でも吹き飛ばすのみッ!」
新たな脅威、剣を帯びた二人の猟兵。
その襲来を察知したウインドゼファーが、彼らが行動を起こす前にこの戦場から叩き落さんと、革命を告げる嵐を向ける。
猟兵に迫る不可視の暴力。
ただの空気の流れの域を超えた、圧倒的な力が猟兵達に襲い来る。
同時に向けられた脅威に対して、景明とボドラークはバラバラに対処を。
少なくとも、ただの攻撃に対してフォローをしてやらねばならないほど、隣に立つ剣士は弱くない。
二人に共通するその認識が、無言のスタンドプレーを実現させる。
赤いマフラーを靡かせる景明は、乱れた足場を器用に駆けて風の脅威から逃れていく。
風による暴威は、本来視覚で見切ることは難しい。
あるいは、自分たちがこの戦場に最も早くたどり着いていたのであれば、より苦戦していたかもしれない状況。
けれども、これまでの猟兵達の戦いで空高く舞い上がった花弁があるのであれば、その流れである程度の軌道を読む程度なら可能だ。
「とはいえ、もう少しくらいは、楽させてもらおうかッ!」
腰に帯びた二振りの刀の内、黒い刃を瞬時に抜き放つ。
目にも止まらぬ早業で振り抜くのは、どうにか足元に残っている花々へ。
あえて斬らぬように刃を傾けた一閃の後に舞い上がる花弁が、景明を覆い隠すように舞い上がる。
即席の迷彩としては上出来だ。ウインドゼファーの視線を遮る事で精度が失われていく風の中を、景明が疾走する。
足を使い、動き回る景明と対照的に、その場から殆ど動かずに対処するのがボドラークだ。
無銘の刀に手をかけ、静かに構えを取る彼女。
不可視の暴風など関係はない。元々、見えぬものを相手するのは得意分野だった。
だが、はて。
見えぬものは見ずに斬ればよい。
だが、風は見えず、形の無いもの。
コレを果たして、どう斬り伏せればいいものやら。
ユーベルコードでも使おうか、いやいや、そんなことをすれば、その隙にもっと容赦ない追撃を叩き込んでくる類だろうアレは。
「――まあ、斬ることに拘らなければよい話ですね」
これが正道の剣士であれば、あるいは刀に固執し、暴風に吹き飛ばされたかもしれない。
けれど彼女が歩むは邪道。
羽織ったジャケットを脱ぎ捨てた彼女は、そのまま宙に放り投げたそれを、パワードスーツで強化された脚で蹴り抜く。
それは、颶風が彼女に襲い掛かるまさにその瞬間。
風と蹴り、二つの力に挟まれたジャケットが板のように引き延ばされ、ボドラークが少し力の加減を変えてやれば、それは面として風を受け流し、彼女の身を守る。
「――ッ。やってくれる……!」
自身のユーベルコードを攻略してみせた二人を睨みながら、それでもウインドゼファーの思考は冷静だ。
既に戦場の大部分は吹き飛ばされ、自身の風が支配している。
この二人は明らかに近接戦闘を得手とする剣士、近づけなければ、こちらの絶対的な優位は揺るがない。
そのために俺がいるのだと。
風に阻まれ聞こえない筈の男の声が聞こえたような気がした、次の瞬間。
風と花弁に覆いつくされた戦場に、無数の刀が現れる。
その数、三十と七。
景明のユーベルコード、【風林火陰山雷外道 同胞の太刀】にて呼び出されるのは、彼自身である大蛇切が斬り捨てた彼の影打。
少しの偶然が異なれば、彼と同じような姿をもって、兄弟などと呼んだのかもしれない、刀の骸。
されど、その可能性は彼に斬り捨てられ、今は真打と共に敵を斬り裂かんとする刃。
宙に浮く同胞の腹に立ち、三十八本目、いや、唯一無二の真打たる『大蛇切 景明』を構えた剣士がオブリビオンへと駆ける。
ウインドゼファーは速い。
ならば、此方も速く斬らねばならない。
そう叫ぶような怒涛の連撃がオブリビオンを襲う。
風を打ち据え体勢を崩そうとしても、景明の念力で操られる刀が間に入り、邪魔をする。
景明が振るうは変則的な二刀流剣術。
本体である大蛇切を振るったと思えば、対の腕はもう一本の刀をウインドゼファーへと投げつける。
それを躱せど、追撃のように振るわれるまた別の刀。
替えは幾らでもあるこの空間において、常以上に型破りな剣術が振るわれている。
それでも、致命傷には至らない。
冷静に見極めれば、自分より遅い猟兵など、風で貫き、キマイラフューチャーの彼方へ押しやれる。
そう思考するオブリビオンは気づけない。
足場と、刀。
それを持って自分を斬らんと迫る人斬りが、目の前の男であるという誤解に。
刀の腹へと踏み込む。
しっかりと自分の足を押し返す感触と共に、灰色の髪を靡かせた身体が、また加速して押し出される。
敵は彼にすっかり夢中。まあ、こんな派手な刀の戦列、見るなというのが酷なのだけど。
とはいえ、無視されているようなこの現状も面白くはない。
さあ、速さを誇る彼女に、猟兵の速さを見せてやろうじゃあないか。
「――隙あり、という奴ですね?」
「おう、存分に斬れ」
「なに……!?」
ウインドゼファーは強者である。
男の斬撃を風で受け流す間とて、女から目を離したわけではない。
けれど、その距離は遠く、目の前の脅威から意識を裂いてまで警戒するべき相手では無かったはずだ。
では、何故この女が自分のすぐ横にいる?
一瞬で刀の道を駆け抜け、自分の下へ来たのであれば、それは。
「私より、速いッ!?」
「あら、それは嬉しい」
【高速打突術 四式 “疾風”】。
ボドラークの刀を受け、走る激痛。
それよりもなお深い驚愕と共に、ウインドゼファーの身体が、花舞う空へと踊った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
真守・有栖
絡繰(めか)のあにまるじゃないの?
元はひとのあにまる???
ま、いいわ!
あにまるのてっぺんを阻む最後の番人が貴女ね!
その覚悟。その欲望。とっっっても分かる気がするわ!
けれども。
後はもうないの。
今があって、先があるだけよ。
未練たらたらなのはよくないわ!
此処ですぱっと断ち切ってあげる!
って、ちょっと!?
開幕ぶわぁは反則よ!?え?足場…わぅうううぅうう!?
――なぁーんて!
落ちた振りして、狼に変身っ
飛び散る足場に隠れて、わっふわっふと高く跳ぶわ!
何処からでも、と言ったわね?
ならば遠慮は無用!
今度はこっちの番ね!
此処は全てが私の間合い
刃に込めるは“断”の烈意
彼方をも裂く光の刃で
一切合切、すぱっと成敗――!
形代・九十九
SPD
暴風を前に、為す術はない。否、果たして本当にそうか?
この身は右腕を含む上半分が本体で、それ以外は全部念力で動かす作り物だ。
攻撃を受ける瞬間、作り物の部位を切り離す。
仕留めたと油断して貰えたらいいが、上手く行くかな。
ついでに此処でUCを使い、おれ自身を複製して彼女にしがみつく。
如何に速さが自慢だろうと、おれを何人も引きずって、まともに動けると思うなよ。
……この隙に誰かが彼女に必殺の一撃を叩き込んでくれると、期待する。
「おれには、おまえの痛みも願いも知る由もない」
「ひとつわかるのは、おまえの願いの先には誰かの苦しみがあることだけだ」
「わるいが……おまえの願いは、ここで終わらせる」
●覚悟を持って、覚悟に敗れる
ひしゃげた排気管が不快な熱を吐き出す。
猟兵達と渡り合ったこの身体は既にボロボロだ。
ドン・フリーダムのシステム掌握まで、あとどれほどの時間がかかるだろうか?
そうだ、元々この身は時間稼ぎの為に立つだけ。
後ろに控える残りの者とて、モンキーやバニーが敗れた相手を、自分が完全に退けられるなど思っていないだろう。
それがどうしたと、己の中で吐き捨てる。
猟兵達がこの地を踏み越える、その瞬間を僅かにでも引き延ばせ。
まだ風は吹いている、自分が立つ限り、自分達の夢は走り続けるのだ。
だからこそ。
「最後まで付き合ってもらいますよ、猟兵達ッ!」
暴風が、ますますその勢いを増して暴れまわる。
「おれには、おまえの痛みも願いも知る由もない」
暴風の中、その声は目の前の敵には聞こえない。
それを分かっていてなお、形代・九十九(『火』を見守る者・f18421)は言葉を紡ぐ。
ウインドゼファーの語る全て、彼女達を滅亡に追いやったという『無限大の欲望(リビドー)』。
九十九は、相対するオブリビオンの事を、ほとんど知らない。
あるいは、立場が異なるだけで、彼女達にも、彼女達なりの正義があるのかもしれない。
オブリビオンとなる前、このキマイラフューチャーを作り上げた彼女達は、今を生きる者と変わらぬ、友と生きる幸せを知る存在だったのかもしれない。
仮定を重ねるのは、いくらでもできる。
それでも、この場で九十九が言い切れることは一つだけ。
「ひとつわかるのは、おまえの願いの先には誰かの苦しみがあることだけだ」
「――何を、ごちゃごちゃとッ!」
彼の語る唯一の真実は、やはり怪人の下には届かない。
あるいは届いたところで、骸の海から蘇り欲望に支配された彼女は、同じ言葉は返したのかもしれない。
ウインドゼファーの操る風が九十九へと襲い掛かり、その身体を、花の足場ごとあっけなく両断する。
手ごたえが、おかしい。
これまでの戦いを経て、ウインドゼファーの猟兵に対する評価は非常に高いものになっていた。
あっけなく真っ二つにされ、足場と共に崩れ落ちる九十九を睨む彼女の思考。
それは、一切の油断のない、警戒だ。
これで終わる筈がない。
まだ此方に立ち向かってくるのだろう、猟兵よ!
そう、風に身を任せて空中で構える怪人を見る九十九が、小さくため息をつく。
九十九はヤドリガミ。器物となったのは、右腕を中心とした上半身だけの人形。
人の形を得ようとも、なお半端者である彼は、だからこそできる事をせんと、あえて風の暴威に身を差し出したのだ。
これで、仕留めたと思ってくれたのなら楽だったのだが。
先に戦った、頼りになる猟兵達がやりすぎたようだ。
それなら仕方ない。
「次善策だ、頼んだぞ」
「ええ! 俊狼たる私に任せると良いわ!」
崩壊を続ける花畑の中から、白い影が飛びだしてくる。
青いリボンを結んだ白い髪。
苛烈な戦場の中でなお、楽しそうな笑顔を浮かべる人狼の少女、真守・有栖(月喰の巫女・f15177)が九十九の手を掴む。
そしてそのまま、ウインドゼファーを真っすぐに見据える。
「あにまるのてっぺんを阻む最後の番人が貴女ね! その覚悟。その欲望。とっっっても分かる気がするわ!」
この戦争をお山のあにまる決定戦と認識している彼女にとって、オブリビオンに対する敵意はそこまで大きくない。
あくまで彼らはあにまるとしてのライバル。
今回の相手は絡繰(めか)だったり元ひとだったりするらしいけれど、すべてを手に入れるというその叫びは、殊更否定するものでもないだろう。
けれども。
「後はもうないの。今があって、先があるだけよ」
一瞬だけ、過去の残骸と化したオブリビオンを憐れむように、その紫の瞳が細められる。
なにを、とウインドゼファーが問う前に。
「わっ、ふうううぅぅぅ!!」
有栖が、九十九を思いっきりぶん投げた。
飛翔する九十九は、存外に早い。
有栖自身が多くの戦いを経験した優秀な猟兵であることも勿論影響しているが、それ以上に、不完全な人形である九十九の軽さが功を奏して、ウインドゼファーの予想を超える速度で彼女へと迫っていく。
躱すべきか。
一瞬の思考を経て怪人が行動を起こす。
「って、ちょっと!? そのぶわぁは反則よ!? え? 足場……わぅうううぅうう!?」
それは、有栖を優先した対処だった。
再び暴風を展開したウインドゼファーが、有栖ごと花の足場を吹き飛ばし、システム・フラワーズの下層へと叩き落す。
その間にも、ウインドゼファーへと迫った九十九が彼女にとりつくが。
「――やはり、本命は彼女の方ですね」
「くっ……」
宙に佇むウインドゼファーに接近する為、普段念力で操ってる部分を捨てた不完全な身体となっている九十九は丸腰だ。
オブリビオンにしがみつき、その行動を制限したとしても、追撃を叩き込んでくれる味方がいなければ勝利は無い。
このままでは、自分もウインドゼファーに振り払われて落ちるのみ。
そう考える彼がふと。
「なぜ、笑うのです」
「そりゃあ――できる事を、ちゃんと成し遂げたからさ」
そう語った直後。
ウインドゼファーの視界に、もう一度白い影が映る。
もちろん、その正体は有栖だ。
【止足“空駆”】の歩法で宙を跳ぶ彼女。
いや、狼の姿となり、全身のバネを使う獣の動きで宙を駆ける彼女が、再びウインドゼファーへ相対する。
「刃に込めるは、“断”の烈意」
そして、再び人の姿となって、刀を構える彼女。
この一瞬だけは笑みも消え、鞘から洩れる光と共に、獣の眼光がオブリビオンを射貫く。
風も、未練も。今この時、断ち切ってみせよう。
まずい、アレは回避すべきだ。
九十九を振り払おうとしたウインドゼファーの身体が、ガクンと落ち込む。
人形が、増えている。
ユーベルコード、【錬成カミヤドリ】を最高のタイミングで発動させた九十九が、もう一度ニヤリと笑う。
自分ごと斬らせるのか、などという問いは浮かばなかった。
だって、目的の為に、仲間の為に潰れ役になるなど。
自分がしようとしていた事と、同じことをするだけじゃないか。
「わるいが……おまえの願いは、ここで終わらせる」
「一切合切、すぱっと成敗――!」
光の刃がオブリビオンの身体を断ち切る。
ウインドゼファーの身体から、この世に留まるための何かが漏れ、骸の海へと還っていく。
ぐらりと、力を失い落ちゆく怪人が、最期の思考を重ねる。
時間稼ぎなら、上出来だったと言えるのではなかろうか。
だから、これくらいは、先に還った二人も許してくれると願ってみよう。
「――見事です」
勝者達に対し、飾り気のない賛辞を贈るくらいは。
大成功
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