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やがて花となる

#UDCアース

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#UDCアース


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●いまは土の褥に
 割れた硝子の天蓋。まばらに残ったフレームが、沈黙に浸された地へ影を落とす。
 鳥は去り、草花の枯れ果てたはずの楽園。項垂れる深緑の獣はしずかにその一角を見つめている。
 だれかの遺した芽吹きの骸。
 灰色じみたこの地にも。或いは、この地から。――緑を、広げなくてはならない。
 星を染め上げる理由は既に失せたけれど、それがそのまま存在意義であるかのように、蹄を鳴らして。

 "諦めきれずにいる願いを、叶えよう"。
 "伝えられなかった想いを、届けよう"。
 錆の浮く看板ごと、湧き出づ花蔦が覆い尽し石畳をも呑めば、真新しく、いくつもの羽音が舞い降りた。
 再びの、春の訪れを謳うかの如く。

●やがて花となる
 UDCが巣食っている。廃墟と化した植物園にて。
 ……と、云うのがアビ・ローリイット(献灯・f11247)の予知。
「てか、寄り付かなきゃそんままでも平和そーなんだけどなぁ」
 いまいち気合いの入らぬ面持ちで。
 一部のひとたちにとって今も名所なんだってさ、そう尾で床をぺたんと叩いて捨て置けぬ理由とした。放り出された褪せ色のパンフレットが示す園名は、一昔前にひっそり人気を博したもの。知ってる? と聞くのは名物イベントに関して。
「言の種綴り。花の種といっしょに紙に書いた願いやら言伝を埋めっと、花が咲く頃、叶います届きますってな集客イベント」
 本来は。
 それが尚も一部で、おまじないみたいに細々と愛され忍び込む目的となっているというわけだ。高名な誰々の祈祷が捧げられた地とか、風水的にどうとか……色々な宣伝文句で釣っていたらしいが。
「墓みてぇだね」
 ちょっと笑って猟兵へまっさらな紙片と花の種を差し出すアビ。
「その手の好きなクチ?」
 半ば揶揄うような。
 目標が植物にゆかりのあるUDCであろうことは予想される。見とけば楽しめっかもと草花図鑑をひらつかせるなどもしたが、おしゃべりもそこまで。
 引き寄せられた小物オブリビオンがいたらまとめて片付けちゃって、なんてついでの頼み事で締める。
「誰かさんもそんなもん呼びたかったわけないと思うし。そんで、約束通りじゃすべての願いが今ごろ叶ってんのかな」
 それとも、廃業となった時点で破約だろうか。
 足を踏み入れたならきっと知れてしまうだろう。花は今、咲いているのか、どうか。


zino
 ご覧いただきありがとうございます。
 zinoと申します。よろしくお願いいたします。
 今回は、花のひとつとなれそうなUDCアースへとご案内いたします。

●流れ
 第1章:集団戦(セキセイさま)
 第2章:ボス戦(翠翁)
 第3章:日常(廃植物園)

 時間帯は早朝。小雨が降りそうな空模様。

●第1章について
 ドームへ着くまでのバードウォッチング気分でどうぞ。

●第2章について
 翠翁の一部ユーベルコードを受けた場合、皮膚、内臓、血液等の人体内外が植物に変化、同化します。
 変化先の植物に関しまして、ご希望や縁深いものがございましたらお教えいただきたく。お任せいただいても大丈夫です。
 受けた状態変化は、討伐後~第3章にかけてゆるやかに解除されます。

●第3章について
 廃植物園。言の種綴り、という名の願掛けを行えます。
 詳細はOPの通り。散策等、その他の行動もお心のまま。

 お手数となりますが……。
 複数人でのご参加の場合、【お相手のIDと名前(普段の呼び方で結構です)】か【グループ名】をプレイングにご記入いただきたく。
 個人でのご参加の場合、特に言の種綴りに関しましては、個人単位での執筆が多くなると予想されます。その他の行動でも確実な単独描写をご希望でしたら、【単独】とご記入ください。

●その他
 各章とも導入公開後、プレイング受付開始。今回、ご参加者様数次第ではお戻しさせていただく可能性が高めです。
 補足、詳細スケジュール等はマスターページにてお知らせいたします。お手数となりますが、ご確認いただけますと幸いです。
 場合によって鬱々と。植物化、ダメージ、欠損描写等が生じる見込みです。どうぞご承知おきください。
 セリフや心情、結果に関わること以外で大事にしたい/避けたいこだわり等、プレイングにて添えていただけましたら可能な範囲で執筆の参考とさせていただきます。
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第1章 集団戦 『セキセイさま』

POW   :    ガブリジャス
【嘴で噛み付くこと】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    あわだまおいしい
戦闘中に食べた【あわだま】の量と質に応じて【全身の羽毛】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
WIZ   :    セキセイまみれ
【沢山のセキセイインコ】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 五月空はひんやりと薄曇り、久方ぶりに正面入口から訪れる団体の来場客を迎えた。
 鉄一色のガーデンアーチをひとくぐり、押したならキィと軋む門扉。
 遠くに見えるドーム型の朽ちたカゴ。
 歩けども見渡す殺風景は酷くしずかな――、否。

『キレイダネ!』
『パパ、アシタハオヤスミナノ?』

 羽音と、人の声?
 穴開きの屋根、枯れ木の枝、まだら橋の欄干、水の流れぬ滝の岩に噴水の端。
 いたるところにとまって、寄り集まる黄緑の物体。

『ミテ! トリサンガイルヨ』
『…………』

 セキセイインコにも似た。
 だが口を噤んで愛らしく首を傾げてみせた、その嘴が啄んでいたものは生き物の骨、から生える花。
 こちらを窺う瞳もどうだろう。まるで待ち侘びた食物を前にしたときのそれではないか。
エンジ・カラカ
ミテミテ、トリサンガイルヨ。
真似っこ真似っこ。
鳥が沢山いるなァ。
鳥かー……。

賢い君、賢い君、どーしよ。どーする。
アァ……小さいものイジメはダメだって君が言っただろう。
今回は誘き寄せに徹するカ。
それに鳥はトクベツだ。

とりとり、コッチコッチ。
君の手はいらない。足で、声で、口笛で、チリチリチリ。
この鳥は小さくてかわいいネェ。
青い鳥の方がもっと賢いけどなァ。

コッチの小さいのは賢い?賢い?
おいでおいで、キレイダネ!
鳥の言葉に合わせておうむ返し

アァ……一切手は出さなが、何かあれば
指先でぺちんとするくらいは許されるかなァ。


ジャハル・アルムリフ
…本来の姿を失くそうと
輝きを失おうと惹き付けるもの
ああ、確かに、幾つか知っている

若芽のような小鳥の群れ
そんな消えた過去ばかりを鮮やかに身に留めて
乾いて廃れて、忘れられて
自分の姿すら忘れているよう
触れる者も絶えればこうなるのか
植物も、ひとも

そら、新しい止まり木が要るか
集まってきた所を【まつろわぬ黒】にて
枝や廃墟は極力崩さぬよう小鳥どもを狙い撃つ
墜とせずとも、驚かせて飛び立たせるか
羽毛を剥ぎ落とせれば他猟兵の攻撃へも繋げられよう

高みから降りてこぬものが多ければ翼の領分
こちらを追わせる様に天井近くで弧を描き
戯れついでの露払いを

残念だ
見目通りにしおらしく囀っていれば
主の手乗りにでもしてやったのだがな


ナギ・クーカルカ
嗚呼。そう……そうね。《ナギ》もこんな場所で育ったの。覚えているわ。
外には出られなかったけど、秘密の花園の様な。美しい籠の中で。それが世界だったのに。
ある日突然扉がひらいて。
飛び出した。

ため息が出てしまいそうよ。
想い出が少々血に濡れてしまうわ。
いつもは陽気にしているでしょうけど。でもダメなの。今日は《ナギ》が想い出に浸っているの。

だからのそお喋りな口を閉じて頂戴。

【日曜日の貴婦人】
とん、とステッキで床を叩けば、彼女はやってくる。美しいレディ・ドミニカ、お願いよ。──喰らって。

一番最初に生まれた蛹。ねえ、《ナギ》 今日は夢から醒めるかしら。


鳳仙寺・夜昂
なんとまあ、丸っこくてやわこそうな鳥。
でもやってることはかわいくねえのな。
喰われる気もねえし、さくっと退治すっか。

【月影】で縛ってから握った錫杖でぽかっと。
次のセキセイが来たら、開いてる左手を握り込んで【2回攻撃】。
……見た目はかわいいのになあ。

骨から生える花ね……。
次の命が芽吹く~みたいに言うと感動的にも聞こえるけど、
実際に見ると、気持ちのいいもんじゃねえな。どんなに花そのものが綺麗だったとしても。
せめて土に還ってから養分にしてほしい。


※絡み・アドリブ歓迎です


渦雷・ユキテル
わぁ、綺麗な鳥さんですね。
かわい……うわっ骨。やっぱ可愛くありませーん。
見掛けだけ可愛くてもダメですよ。あたしを見習ってください。

さてさて。鳥ですしけっこう素早いんですかね?
外すこと考えたら銃より槍で薙ぐのが確実かなぁ。
相手が距離を取り続けるようなら銃撃、近づいてくるなら
クランケヴァッフェにサイキックブラストの電流を込めて
叩き落としたり【串刺し】にします。掠るだけでもまぁ及第点。
一度痺れたら、満足に飛べるようになるまで暫くかかるでしょ?
至近距離にいっぱい集まってきた場合は
電撃の【属性攻撃】【範囲攻撃】で一気に仕留めちゃいます。

強くなくちゃ、可愛いは正義になれないんですよ。

※絡み・アドリブ歓迎


二月・雪
▼雪ちゃん、植物園デートしようよ。
体の主導権は俺。【オルタナティブ・ダブル】で「雪ちゃん」を呼び出す。
これパンフレット。覚えてる?

▽「呼び出される側」は久しぶりだ。
植物園は――昔、一緒に行ったな。
あの時埋めた花はどうなっているだろうな、二月。

▼雪ちゃんの手を引いて、後ろに人形を引きつれて。
昔見たことあるものとないもの、探しながら歩こうか。
あの鳥は見たことないな。俺と雪ちゃんの邪魔するようなら、指輪から【呪詛】を飛ばして追い払うよ。

▽二月の手を取って共に。
子供の頃に来たきりだ、記憶がちゃんと残っているといいが。
鳥は無害なら触れあいを。邪魔をするなら同じく【呪詛】を飛ばして追い払うとしよう。


アルバ・アルフライラ
沢山の緑を湛える楽園は、朽ち往く姿も美しかろう
…狼藉ものがいなけれは尚良かったが
ええい鬱陶しい鳥共め
我等の行く手を阻むならば容赦はせぬ

姿ばかり愛らしい鳥へ解き放つは【死への憧憬】
ふふん、多勢を蹂躙するにはこれが手っ取り早い
何より群れを為して襲われた際は盾にも出来る故
屍竜の影に隠れ攻撃をやり過ごしつつ鳥の動向を観察
決して死角を取られぬ様な失態は演じぬ
余力があれば騎士に他猟兵の支援を命じよう
主命のもと、上手く立ち回ってみせよ
屍竜も我が守りが盤石ならば、後は踏み潰すなり食い散らかすなり好きにせよ、私が許す
…然し無闇に自然を破壊するでないぞ
美しいものは、愛でる為にあるのだからな

(従者、敵以外には敬語)


ロカジ・ミナイ
おお、おお、なんて可愛いんだ
朽ちた空間にそぐわない派手な装いに円らなお目目
一羽二羽、三羽に四羽……たくさんだ!
君らはお花を食べるのかい?そうかい
僕もお花ちゃんは大好きだよ
おいしいよねぇ

草花が骨を食べ
君らが草花を食べ
じゃあ君らは誰が食べるのか

知ってるかい?食物連鎖のしっかりしている世界は美しいんだよ
だからもっときれいにしようじゃないか
僕が手を貸そう
……さぁ、ヤマタちゃんたち、ごはんだよ

骨はぺってしときなさい
きっとまたきれいな花が咲く


クレム・クラウベル
【バッカス】
普段から早く起きる癖を付けておけばこういう時も楽だぞ
……まあ、それにしても早すぎるとは思うが
此処まで来たなら一仕事だけ頑張ってくれルト。後で寝直して良いから
自称された美少女は見ないフリでスルー
廃墟になる前は綺麗だったのだろうな(棒読み)

俺も朝は珈琲が好みだな
肉は……寝起きには重そうだ、食いたいヤツが食ってくれ
淡々と読み上げる祈りの欠片も乗せていない祈祷句
祈りの火で放たれたインコは丸ごと燃やしてやろう
鳥なら焼いたほうが美味い、……多分
そも死霊というのは腹を壊すものなのだろうか
ささやかな疑問とともによつろの連れたそれをちらりと見遣り
この先のがメインだ、ルト。帰るのはせめてその後にしろ


クロエ・アルページュ
【バッカス】
ほらおねむさんは起きて下さいまし
相変わらず夜更かしさんの集まりですのね
今日の夜はきっとよく眠れますわ
いいでしょう?わたくしひとりでは怖いですもの
この通り、か弱い美少女、ですから

喋る鳥の声はヒトの真似事なのかしら
わたくし朝食はとろーり蜂蜜とヨーグルトをいただきたいです
花の蜜なら美味しそうではありますが流石に遠慮しますわ
向かってくる鳥は光で撃ち落としましょう
最近の美少女は武闘派ですのよ
食べるよつろのわんこさんや、ルトも食あたりにご注意と撫で
クレム火加減は…言うまでもありませんね

ふふ、まだお付き合いしていただきますのよ
……花が咲き誇っていた植物園はきっと美しかったでしょうに


イェルクロルト・レイン
【バッカス】4名
未だ残る睡魔に大欠伸
なんだってこんな時間から出歩かなきゃいけねえんだよ……
見慣れた面子に顔を顰め、踵を返すも襟首を掴む手
全く気乗りしない、が、さっさと終わらせたが早そうだ
……か弱い? 美少女?
なんだババア、耄碌してんのか?

見下ろす狼の目に映るのは小さな鳥
こちらを食わんとする瞳が気にくわない
誰が上か、分からせてやるよ
……朝は食べない。それに、肉もきらいだ
撫でる手は鬱陶しそうにやわく払って

雨の気配に機嫌も悪く
なあもう帰っていいか?
小鳥を燃やし黒焦げにして、やることはやったとばかりに
喧嘩する気も今日はない
焦げた肉片をよつろの犬の群れに投げ込んで


四辻路・よつろ
【バッカス】
老人って朝が早いって言うけれど、早すぎだわクロエ
私、昨日はあまり寝てないって言うのに
徘徊するにしてもこんな廃墟を選ばなくっても

眠い眠いと文句を言いながら大きく欠伸をし
見かけた小鳥の群れと亡骸を一瞥

…優雅な朝食ね、残念だけど私は遠慮するわ
朝は珈琲とトースト派なの
ちゃんと豆から挽いてちょうだい
それに、そういうのが好みなのはこっちの方

あのね、クロエ
――か弱い美少女は鳥を撃ち落としたりなんてしないわよ
そう言って足元の海より呼び出されたのは狼を撫で
大きく開けた獣の口から覗くのは底なしの闇
壊す腹なんて、この子たちにはもうないわよ

狼たちは次々と鳥に噛み付いて
投げやりに放られた肉片も上手にキャッチ




 ――雪ちゃん、植物園デートしようよ。
 二月・雪(恋人たち・f17521)は多重人格者。オルタナティブ・ダブルで呼び出した"恋人"と本日もふたりきり、朽ちた思い出の場所だって、宝物。

 連れる人形の足音もが遠く。
 二月――男の側が、覚えてる? と差し出した古ぼけたパンフレットを、本来の体の持ち主であり今は召喚体である女、雪は見つめている。
「ああ。……昔、一緒に行ったな」
「なつかしいね。あのトピアリー、すっかりぼさぼさになっちゃって」
 薄茶色にぼけて内側の針金まで覗いた動物のシルエット。
 熊だったっけ? 象だったっけ。はしゃいだ様子の二月はすぐまた別な枯れた噴水を指す。たしかあそこ、花を投げ入れると運気が上がるってさ――、手を引かれる雪の視線はその度に右へ左へとうつろう。
「子供の頃に来たきりだ。随分と変わってしまった、か」
「そーう? 雪ちゃんと一緒なら薔薇色に見えるよ、俺には」
 微かに笑ったのはどちら。
 だから、と。
「邪魔者には消えてもらおうね」
 二月の左手薬指。昏い色した煌めきが、飛び立っては道を塞ぐ害意――オブジェのつもりで黙り込みしずかに隙を窺っていたセキセイさまを跳ね転がせば。
『ギェギェ! アナタ、アイシテルワ』
『モウキミトハヤッテイケナイ』
 割れた壺やら木箱、周囲の物陰から黄緑数羽が一挙姿を見せた。
 一目には無害そうなそれらが咥えた骨片にぱちりと瞬く雪。
「……ん? お腹が減っているのか?」
 差し伸べる左手には呪詛ではなく、どこで拾ったか褪せかけた紅色の花一輪。
 ギッと鳥の嘴が二、三向けられ、羽ばたきは一直線にその手元へ――――、だが。
「だめだめ、雪ちゃん。玉のお肌に傷がついちゃうよ」
 齧られたらどうするの。不安そうに眉ひそめ、割り入った二月の愛という名ののろいが阻む。
『アァ! ドウシテコンナコト』
 翼を蝕まれたセキセイはけんけん跳びで逃げ出して。
 雪のてのひらには、紅だけが残る。それごと握りしめ引き上げる二月の手の力があまりに強いから、くしゃりとした断末魔で潰れた花弁が、伝う血みたいだ。
「心配ばかり。変わらないな、お前は」
「あはは。これからもずーっと、変わらないよ」

 手を繋ごう。
 ふたりでゆこう。
 約束が咲いていたっていなくたって、ずっとずっとずっと。


 待ちに待った日曜日の午後、さんさんお日様の下、訪れた家族連れはきっと素敵なひとときを過ごしたのだろう。
『モウイッシュウ! モウイッシュウ』
『オネエチャン、マッテヨー』
 その証拠に人々の声だってこんなにも賑やか! だというのに。
「ため息が出てしまいそうよ」
 ナギ・クーカルカ(eclipse・f12473)はとても憂鬱。
 正しくは、彼女の中の《ナギ》。 未だ見ぬもうひとりが。

 嗚呼。

 覚えている――欠けた門扉を、まるで自由の体現みたく両側へと開け放って。
 踏み行ったこの場所はまるで、《ナギ》が育ったうつくしい地。籠の中。秘密の花園。これっきりの、世界。
 ある日突然にひらいた扉、飛び出したならさようなら。
「想い出が、少々血に濡れてしまうわ」
 歩むほどストーリーをなぞるようにしくしくいたむ過日が、常ならば麗しくレースを遊ばせ端から端まで探検してしまえるかの陽気さ秘めた女の表情へも影を落とす。
 ダメなの。今日は《ナギ》が想い出に浸っているの。
「だからそのお喋りな口を閉じて頂戴」
 とん、 と、合図は一度きりで構わない。漆黒ドレスに赤斑点、慎ましく身を飾った黒後家蜘蛛の貴婦人はナギのもとへとやってくる。
 体長は三メートルを超していた。そのすべらかなボディを親しみ込め撫ぜて女は。
 美しいレディ・ドミニカ、お願いよ。──喰らって。
『ワッ』
 何かしら叫ぼうとしたのだろう。
 しかしオブリビオンの声は半ばで途切れ、毛並みにふつんと空いた穴からは音よりも体液が噴き出していた。咀嚼して上下する蜘蛛のからだ。 三口目は、ない。
 殺傷性の高い毒は神経を侵し、速やかな死の兆候を生じさせる。
『オカアサン、ドコー?』
『モウカエルゾ』
 追い立てるステップは軽快なダンス。
 かさかさ、かさ。お相手が痙攣したって崩れて醜くなったってお構いなしの積極性はぼろぼろダンスホール中の熱い視線を独り占め。
 そんな貴婦人の背に両足揃え澄まして腰掛け、ほうと押さえる両頬、淑女の耳には雑音はもはや届かない。
 想うは、一番最初に生まれた蛹。
「――ねえ、《ナギ》。今日は夢から醒めるかしら」

 まるで今だって夢の底。


 冬でもないのに、蜘蛛の巣には朝露が掛かっている。
 ともすれば先日の雨の残りだろうか。連れの手によって半ば引き摺られがちな人狼の青年は、まとわりつくような嫌な空気に頭を振るきりょくもあやしい。
「なんだってこんな時間から出歩かなきゃいけねえんだよ……」
 大あくび。
 うっすい色した空を仇よろしく睨むのは彼、イェルクロルト・レイン(叛逆の骸・f00036)だけではない。
「老人って朝が早いって言うけれど、早すぎだわクロエ。私、昨日はあまり寝てないって言うのに」
 徘徊するにしてもこんな廃墟を選ばなくっても――、 老人?
 共に歩くのは三人の若者だ。
 とはいえそれは決して薄幸げな色味をしたひとみをしょぼつかせる四辻路・よつろ(Corpse Bride・f01660)が、未だ夢うつつを彷徨っているからでもなく。
 名指しされたクロエ・アルページュ(eine wilde Rose・f02406)は歩みの遅い二人の背を押した。
「ほらおねむさんは起きて下さいまし。相変わらず夜更かしさんの集まりですのね」
 年月を経てもなおうつくしい人形の身を包むは、呪いか祝福か。
 顔合わせ一番に踵を返そうとして以来イェルクロルトの脱走を気にかけていたクレム・クラウベル(paidir・f03413)も、その言葉には頷く。
 普段から早く起きる癖を付けておけばこういう時も楽だぞ、と。
 模範的な大人の男の顔をして。
「……まあ、それにしても早すぎるとは思うが」
 やはりちょっと付け足したりもして。
「此処まで来たなら一仕事だけ頑張ってくれルト。後で寝直して良いから」
「はあ……」
 全く気乗りしない、が、さっさと終わらせたが早そうだ。
 とぼとぼと自身の足で歩き始めたイェルクロルト。気持ち常以上に垂れた気がしないでもない獣耳に、もう、と頬を膨らませてみせる女の姿は愛らしくも。
「いいでしょう? わたくしひとりでは怖いですもの。この通り、か弱い美少女、ですから」
 美少女を救うとおもって!
 おもって――――おもって――おもって……。
「なんだババア、耄碌してんのか?」
「この地も、廃墟になる前は綺麗だったのだろうな」
 男二人に搭載されたセンサーはその実態をお見通しなもので。クレムに至っては鮮やかなまでに右から左へ流し、なにやらしずかだと思いきや隣にて舟をこぎはじめていたよつろへ話を振る。
「え? うん。そうね、悪くないんじゃないかしら」
 ねっむ――……狼男以上に気怠いあくびでふわっとした返しを済ませ、鳥にも好かれてるみたいだし、と視線だけで問題のブツを促したよつろ。

『ワケッコ、スル?』
『パパー、カタグルマシテー』

 洒落た色した小鳥。彼らが花ごと啄みとまるは頭蓋に背骨、半分埋まった横が肋骨?
 ……優雅な朝食ね、死霊術士たる女はさしたる動揺も見せず。
「残念だけど私は遠慮するわ。朝は珈琲とトースト派なの、ちゃんと豆から挽いてちょうだい」
「わたくし朝食はとろーり蜂蜜とヨーグルトをいただきたいです。花の蜜なら美味しそうではありますが」
 ――流石に遠慮しますわ。
 彼女に限らず。四人ともが大体似たような。
 聖者クロエが裁きを下すには、そこに慈愛があろうとなかろうとそっと意味ありげに見つめるだけでいい。瞬間、空に白さを増して降り注いだ光は、恵みの貌で奪うもの。
 ちょっと味見にでも、などとふらふら寄ってきていたセキセイがまず包み込まれて塵と化す。
「俺も朝は珈琲が好みだな。肉は……寝起きには重そうだ、食いたいヤツが食ってくれ」
 まるまるとした小鳥の姿はそこそこ食いでが……あるのか?
 こんなものまで連れゆけば、天上が溢れかえってしまいそうではある。だとして知ったことでもないが。淡々と読み上げられた祈祷句は分かりやすく、棒。雑。先の美少女事件よりも! ――それでも変わらず灯せる奇跡には、やはり信心など。
「鳥なら焼いたほうが美味い、……多分」
 ジュッと骨食み同色の白き炎が燃え立つ様は、ともすれば犠牲者らが帯びた怒りに映ったろう。
『ワアァ、イイテンキダネェ!!』
「るせ」
 趾から焼かれびたびた転がる小鳥たち。炎帯びてそれが突っ込んでくるのを、億劫さ隠さず逆に殴りつけた狼男は鳥の落ちた地を見下げ。
「まぁクレムったらこんがり。ルト、食あたりにはご注意なさって」
「……朝は食べない。それに、肉もきらいだ」
 だが。
 こちらを食わんとす気にくわない、この、瞳。ペット同然に撫でてくるクロエの手をやわく払ったイェルクロルトは息をつき、
「誰が上か、分からせてやるよ」
 SIMUL。
 はじめに白炎が波打ったのは靴先。から、踏みしだく一歩が大地に宿りし畏れを呼び覚ましたかの如く炎は広がり放たれた。クレムのものとは違い、与うは恐怖。引き摺り込むなら土の下。
 空ではブレーキも効かない。
 喜んで火球へ飛び入るかたちとなった鳥は次々に落とされて。旋回して翼を焦がし、動きの鈍ったものについては光の柱が。宙に彼らの領域など、もはやどこにも存在してはいなかった。
「ごめんあそばせ? 最近の美少女は武闘派ですのよ」
「あのね、クロエ。――か弱い美少女は鳥を撃ち落としたりなんてしないわよ」
 アレを殺してと顎で使うくらいがいい。
 そう口にするよつろの足元にはいつしか、どろりとした海が。とぷり。姿を見せた死霊、狼を撫ぜるこれもまた美少女アピールであるのか。誰も見てやしない。しかし使いだけは嬉しげに、誇らしげに、獰猛に光るまなこを細めた。
「アレ、好みでしょう。みんな食べていいわ」
 にっ――こり。笑うみたく裂けた獣の口からは、底なしの闇が覗くばかり。
 ひと跳びに"好物"へ頭から喰らいつく様もその通り、炭に近く焦げていたってお構いなしであった。
 狼男に振られた分、寸前まで狼の頭を撫で回していたクロエ、それから死霊の腹事情に疑問を抱いたクレムの目線にひらひら手を振る主は仕事は済んだとばかり枯れ木の幹へ寄りかかって、
「壊す腹なんて、あの子たちにはもうないわよ」
 やはり酷く眠たげに目を擦るのだ。

 焦げ臭さの中にも、迫る雨の気配を嗅ぎ分けるよう鼻を鳴らして。
 久しぶりに発されたイェルクロルトの声は「なあもう帰っていいか?」。出来たてほやほや黒焦げインコをぺいと放ればよつろの犬らが上手にキャッチ、がっついて群がった。
 腹から脳から腐り落ちた、死後の獣はお幸せそうで。
「はあ……」
「この先のがメインだ、ルト。帰るのはせめてその後にしろ」
 何度目か分からぬ重苦しい吐息にはこれまた分からぬクレムの一声。同居人ともなれば手の掛かる気性にも慣れたもの。目に見えぬ手綱でもあるかの先読みで後方を固めたなら、前方ではクロエが天の使いめいて笑んだ。
「ふふ、まだお付き合いしていただきますのよ」
 ……花が咲き誇っていた植物園は、きっと美しかったでしょうに。
 先ほどのクレムの棒読みではないけれど。
 底の底で、想ってしまう――変われぬ身として、変わり果てたもののこと。


 とりさんたくさん。
「ミテミテ、トリサンガイルヨ」
「おお、おお、なんて可愛いんだ」
 くるり、くるり。くるくるり。
 襤褸切れ引っ提げずぅーっと腹ペコに見えるエンジ・カラカ(六月・f06959)が手放しに近付くから、屋根のインコは一斉に飛び立った。
 てってこ、なとど愛らしい足音が立つわけもなく。おうむ返しに真似た声ばかり跳ねるエンジ。遊び相手の反応に小首を傾げる狼の横で、ロカジ・ミナイ(薬処路橈・f04128)はといえば両目の近く、手輪っかを作ってバードウォッチャーごっこに興じていた。
 派手な装い、つぶらなおめめ。
 心なしもっちりしたからだ……それにお花を食べるときた!
「僕もお花ちゃんは大好きだよ。おいしいよねぇ」
 もくもく吸っても商いの道具としても素晴らしい。浸っていれば、ぐりんと首ごとエンジの興味が向く気配。
「アァ……ロカジンは鳥でもあったンだ。好物は? ソッチもお揃いでホネ?」
「やぁ、ジャングルの奥地なんかに居そうな色してるだろう?」
 けれども好物――食すのならやっぱり。
 さも愉快そうに笑うロカジの指先から微かに灰が落ちる。煙草だ。薄くくゆる紫煙は朝に流されてすぐに過去のものとなるものの、うだつの上がらぬ沈んだ空気によく馴染み、なにより。
「好き嫌いはしないさ。食物連鎖のしっかりしている世界は美しいからね、だからもっときれいにしようじゃないか」
 ――草花が骨を食べ、彼らが草花を食べ。それならば誰が彼らを食べるのか。
 僕が手を貸そう。……さぁ。
「ヤマタちゃんたち、ごはんだよ」
 ぱかんっ、空間の割れるような音がして。かと思えば薄煙に巻かれた小鳥の数羽をまとめてなにかがひと呑みした。としか表現できないほどの一瞬、不自然に刈り取った跡だけ残ししゅるるととぐろの巻かれる音はロカジの足元から。
 あれはちょうどエンジから逃げた個体。
 獲物をとられ不貞腐れるかといえばそうということもなく、狼男は既に別なお遊びに夢中でいて。
「とりとり、コッチコッチ」
 いえいえこれは誘き寄せ。ちりちり口笛鳴らしてともだちみたく。相棒の拷問器具はその懐にて深く沈黙し、持ち主が小さいものイジメをしないか見張っている風でもあった。大丈夫、ちゃーんと覚えてる。それに鳥はトクベツだ。
 おしゃべりしようと誘いかけても、空腹からかいまいち毛艶の悪い一羽がふぁさり! 翼を広げて威嚇のみを返す。
 姿にも、突き出される嘴にもくつくつ笑いで飛び退いては近寄って。追いかけっこ、ぐるぐる。
「かわいいネェ。賢いネェ? おいでおいで、キレイダネ!」
 青い鳥の方がもっと賢いけどなァ、目覚めぬ君を想いつつ。
 つつき攻撃の勢い余って胸元まで飛び込んできたやわらかボディを五つ指でふにんと押し返したところ、鞠よろしく跳ね転がっていったのでやはり賢くはないのかも?
 何故って、その先ではロカジの"スサノオ"が大口開けておかわりを強請る。

 焼けた酒の香と。
 大喰らいのあぎとが荒々しく立てた風で、黄緑だけでなく煙が散らされた。
 自らの鼻先まで戻り来たそれに心地よさげ眦細め、鳥たちが慌てて骨片咥え逃げゆくのを大蛇の七ツ首のうち一がどれより早く齧り落とした。 生存競争、同じからだに首が七もあると大変だとも。
 牙の隙間からはみ出る骨を、こらこらと引っ張り出すロカジは捨てて。
「ぺってしときなさい。エンジくんもね」
「ハァーイ」
 ゆるく一声、小鳥の残していった白色を習性で穴掘り埋めかかる狼男へも。もしくは口にでも入れようとしていたか。なんにせよ、まじまじ見つめていたくせ放り出す際のあっけらかんとした様はさしたるドラマも醸さず。
「本当にたくさんだなァ……でっかい鳥はいないでーすカ?」
 樹上に次なる羽音を捉え嬉々とし顔を上げるエンジと逆に、ロカジは転がる髑髏を見下ろした。
 ――きっとまたきれいな花が咲く。何度だってたのしもう。
 朽ちた世界ひとり寂しい君には、一等洒落たショッキングピンクなんてどうだろう。


 セキセイさまはどこから見ても丸っこくて、やわこそうで。
 仕事とあってそれなりに気を引き締めてきたはずの鳳仙寺・夜昂(仰星・f16389)としては、こう……つまるところ、気が抜けてしまう部分も若干。
「喰われる気もねえし、さくっと退治すっか」
 ぱんと拳と掌を合わせて己への気合入れとする。共に涼しく鳴った仕事道具に指を触れ。
 存外に大きく響いた音に、鳥たちはスサッと寄り集まった。自分たちを大きく強くみせようとでも? だが、都合がいい。
「じぃっとしてりゃ一瞬だ」
 ほぼ同時に男の足元から沸き立つ影色をした帯は、月影の力。
 途端にセキセイの短い四肢へ絡めば、特に動きを制限されたのは翼であったろう。羽ばたこうとし土を捲るに終始する彼らを右の錫杖、次いで左の拳でぽかぽかん! 殴りつけるのはどの説法よりも容易かった。
「……見た目はかわいいのになあ」
 残念なような、この世の縮図のような。折り重なって倒れる姿になんとも複雑な眼差しを注いでしまう。
 そんな男の肩を鳥の嘴……よりは柔らかな何かがとんとん。振り向いたなら、
「よーだかさん」

 頬にぷにっ。
「は? 来てたのか、ユキテル」
 指の刺さる女子高生ノリご挨拶。今を時めく渦雷・ユキテル(さいわい・f16385)の在り様は曇天にも眩しい。
 はたして猟兵同士の縁とは奇遇なもの。しかし何故――数歩引くと見知った顔から足元まで順に見下ろして、ふむと顎に手を添える夜昂。
「あー……鳥でも愛でに?」
「っふふ! 鳥ですか、鳥ですねぇ」
 ついつい吹き出して口元に手を当てるユキテルの仕草は年頃の少女そのものであるが、逆側の手には隠しもせず物騒な"得物"が握られているわけで。
 ぱっちり春色おめめでじ、とセキセイを見つめれば同じような視線が返ってくる。
 それからユキテルだけがにこり。
「うぅん、まぁ綺麗で可愛くないこともないですけど。見掛けだけ可愛くてもダメ――強くなくちゃ、可愛いは正義になれないんですよ」
 前触れこそなく、おしゃべりがてらにその手が滑らせたクランケヴァッフェのひと突きで一羽二羽、なかよく団子串刺しになった小鳥は込められし高圧電流によってたちまち黒焦げ。
 あたしを見習ってください、との消し炭へ向けた言に、夜昂の口元には乾いたような苦笑いが浮かぶ。えげつねぇの、呟いたものの――錫杖で殴りつけられ凹んだ鳥もまぁ、大して違いないか。
「こんな花食ってんだしな。にしたって、骨から生える花ね……」
 死体に薄らとでも土をかけつつ、屈んで手にした小花を指先でくるり夜昂は回す。
 山でも見かけぬ種に見えるが、うまいのだろうか。……実際に目にすると気持ちの良いものでないのは確かだ、次の命の芽吹きだとかなんとか感動に飾られたところで。
「せめて土に還ってから養分にしてほしい、つう話だわ」
「そうですよねー、死んだ後にまで好き勝手されるなんてサイテーですって」
 足を取る草も枷も此処にはない。とんと軽く踏むステップ、セキセイ必死の抵抗を難なく避けて悪戯な嘴を踏み倒し。 突き立つ穂先。集まる極光は瞬間、ひとつの色へ。
 ばちりと音がしたかと思えば、髪の金すら色飛びするほどの白が弾けてユキテルの周囲には焼き鳥が山盛り。先ほどの一手の余波で痺れ動きの鈍ったものたちだったのだろうか。容赦なく、確実に。
「お互いに、もしものときは埋めてあげる約束でもしますか?」
 どこまで本気か冗談めかして告げる少女の顔した笑みにだって、縁起でもないと肩を竦めて手指を拭う道行きだ。
「それよりかは晩飯のことでも考えときてえよ」
 ……未だ、遠く白んだ。


 止まり木とは。
 こうも、寄らば突き刺さるものだったろうか?
「どうした。来るといい」
 小鳥を前にして。
 一見して無防備に身をさらしたジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)は、すてきな大樹やうまい飯に見えたかもしれない。
 ただしその利き手が鞘から剣を抜くのには、秒と要さぬそれだけだ。
 環境の破壊を極力減らそうと十分に己へ引き付けてから振り放つまつろわぬ、黒。空より陽が射さずとも、また異なる光輝に常ながら照らされ、生まれた影刃は怪異を呑む。
『ギェッギギ』
『イイ、テンキ デ、タノシカッタネ……』
 やわい寒天同然に千切れ飛び。
 やがてしずかに、転がるセキセイは土へと溶けてゆく。
 翼か爪、牙にも似た形状の剣を払えば、夢の終わりのような軽さでふわふわり風に散る羽毛。 ああ、残念だ。
「見目通りにしおらしく囀っていれば、主の手乗りにでもしてやったのだがな」
 そう。その主といえば――見違える筈もないのだが。
 今まさに、そこなる橋上で暴れる首無し騎士に屍竜の彼らはどうみたって、彼のひとの喚ばわる使いではないか。

「ふふん、悉くを蹂躙してみせよ」
 死霊術士、アルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)はばっと五指を広げた。
 従えるは二体。小鳥からすれば戦車や怪獣でしかない迫力のまま、主命に従う一動ごとに斬り裂き叩き潰される黄緑、緑。"鬱陶しい鳥共"こと多勢を相手取るには之が得策だ。
 そして更には盾ともなる。
『ミテ、ミテ!』
 オオォ、オ――!!
 どっと突き立つ短い嘴は立ち塞がる竜の腐肉を抉るのみ。どころか、逆にその泥沼めいた体内へ引き摺り込まれてそれきり。
 予言もなしに狩り尽くすデュラハンの鋼は輪をかけて凶暴であったが。
「無闇に自然を破壊するでないぞ。美しいものは、愛でる為にあるのだからな」
 然し、と、主が告げた"ねがい"については破らずいた。 微かに残って揺れるちいさな青。ひとの手に世話されたものではない、或いはそれを雑草と呼ぶのかもしれぬが。これもまた、尊きを知る瞳には花のひとつ。
 同族の死に際の呼び声に応えたか。
 やがて新たに現われしセキセイインコズは灰色空をぐるんと囲う、回る。
『キレイナオハナ、ホシイナァ!』
(「ふん。上か、ひよっこ如きが――」)
 上空よりびゅんと矢となり飛び来る黄緑が一、二……数えるのも無駄だろう。なにせ一手で事は済む。厳かに手を掲げ、
「やらん」
 んとすクリスタリアンを遮った、短く言い切る声以上に力強い風切りの音。
 弧を描きて振るわれた黒刃は、セキセイの身を幾多まとめて八つ裂いた。
「! ……お前、」
 たとえ頭上を狙われたとて、アルバにならば目を瞑っていたとて十分に反応できた速度。
 だが有翼種――ジャハルの、意志乗せた刃の方がずっと迅かったというだけだ。
 ぺちゃっ、
 と、細かになった黄緑が落ちてくる。こればかりは全ては誰にも止められず、自らの腕で振り払うアルバの輝石の衣に僅かな赤が滲む。残りはジャハルが。半々に、これも誓いの証とでも呼ぶとして。
「まったく」
 ふうと息をついてそれからアルバはしたり顔。
 翼を畳み真隣に降り立った従者へ向けて、だ。こいつはやはり傷も厭わぬ突撃具合であるし。すこし灸を――、そう師として。
「ジジ。今日は私をつけ返して、いつぞやの意趣返しとでも語るか?」
「さてな。入園してこちら、師父が根に躓いた回数なら教えてやってもいいが」
 …………。
 前言撤回。今日のところは問わずおいてやろう。
 何事もなかったかのように踵返し、赴くべきドームへと向き直るアルバ。同じく何も言わず、影が付き従う風にしんとジャハルは歩を進め。
「過去、か。お前は此処をどう思う」
「どう。植物もひとも変わらんと、そう」
 触れる者も絶えた、乾いて廃れて忘れられ、己をも忘れた過去の遺物。
 そうあって尚――本来の姿を失くそうと、輝きを失おうと惹き付けるもの。

 確かに、幾つか、知っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

夏目・晴夜
不謹慎かも知れませんが、少しワクワクしてきました
廃墟とはいえ植物園に行くのは初めてなもので
私は静かに緑を眺めて楽しむよりも、肉を喰らうほうが好きな性分ですから

あれ、今回のお相手は随分可愛らしいのですね
しかし私は犬派ですから容赦はしませんよ
どちらが捕食される側か、
【謳う静寂】でカラッと揚げてしっかりお教えてあげますよ

命令は私の事を盛大に褒め称えるか……
或いは、このハレルヤの好きな植物を正しく答えられたら見逃して差し上げます
はは、その答えは私にもわからないのですがね

今日という日をきっかけに、好きになれそうな植物を見つけられたら素敵です
まあ出会えなかったとしても、肉が食えれば万事よしでもありますがね


誘名・櫻宵
🌸リル/f10762
アドリブ等歓迎

まるで朽ちた鳥籠ね、ムードあるじゃない
愛しの人魚と一緒にバードウォッチング!なんて……言ってる場合ではないのかしら?
手を繋いでゆっくり鳥を見つけたかったところだけれど――どうやら小鳥さんは凶暴なのね
骨に肉に
うふふ
狩りがいがありそう


刀引き抜き宿す呪詛
生命力吸収をのせた斬撃でなぎ払い、穿ち鳥を斬る
あたしのリルには近寄らせないわ
庇い、彼に近い敵から屠る
鳥より美しい歌声にのせ舞うように刀をふるい
時にはグラップルで潰して、散華でまとめて
綺麗に捌いてあげる

リィ
あの小鳥もふわふわで可愛いけれど近寄ってはいけないわ
あたしの可愛い人魚を
あなた達に食べさせるわけにはいかないのよ


リル・ルリ
■櫻宵/f02768
アドリブ等歓迎

わぁ、すごい
寂しいけど雰囲気があるところだね……けれど少し、怖いかも(櫻宵にそっと掴まり
ばーどうぉちんぐ、は僕もしたことがなかったからしてみたかったのだけれど
見る、というより
見られている気がする
……あ、ふわふわで可愛い黄色いことりだ!
嗚呼、でも
食べてはいけないものを……

繋いだ手の甲にキスを
それから離し刀を抜く彼の武運を祈り歌を紡ぐ
【歌唱】には愛する君への【鼓舞】をのせてその剣舞を彩る歌としよう
ダメだよ
僕の櫻は君の止まり木じゃない
「魅惑の歌」で鳥をとめて
櫻宵への攻撃を【オーラ防御】で防ぐ

僕も大事な櫻を、君たちのごはんにはさせられないんだ
櫻宵……君は僕が、守るから


終夜・嵐吾
キトリ(f02354)とチロ(f09776)と

かわいらしい形をしとるのに、やっとることはようないみたいじゃ
ふわふわかの?これは……かわ…いや、ちがう
……かわいいのはキトリとチロで汝らではないわ!
その花も咲かせてやるには弔いが必要じゃろて

チロとキトリに向く攻撃はなるべくわしが受けていこう
攻撃しようとしておるのを掴めるなら、掴んでぽいっと遠くへ放り投げる
遊んでおるわけではないぞ
ふたりに傷をつけるわけにはいかんからの

セキセイさまは花弁に抱いてこの場より消してしまおう
主よ、力を貸しておくれ
花は、なぁ……確かに骸を経て咲くものもあるがそれは摂理の内にあってこそ
ここにあるものはそうではなかろう……


チロル・キャンディベル
嵐吾(f05366)とキトリ(f02354)と

人が作った見たことない景色に興味津々
人がお花をつくって閉じこめちゃうなんて、すごいの!
きっとたくさんの人のすき、が集まってるのよ
今はだれも来なくても、いつかまた見てもらえるの
だから返してもらうのよ!

鳥さんかわいいー!
ふくふくまんまる、いっしょにあそびたいの!
だけどね
お花と人をきずつけるのはめっ、なのよ
わるいことする鳥さんは、チロがしっかりおしおきするの!

ソルベといっしょにがんばるの!
エレメンタル・ファンタジアの花嵐
鳥さん、たべるならこっちのお花をどうぞ

何があっても、嵐吾がたすけてくれるってチロしんじてるの
だからキトリといっしょに、今日も戦うの!


キトリ・フローエ
嵐吾(f05366)とチロ(f09776)と

人の手で作られた森や花畑に行ったことはないけれど
かつてはここも、とってもきれいな場所だったんでしょうね
それがこんなになってしまって、今はオブリビオンの住処だなんて
でもね、それも今日限り
あたしたちの手で、きれいな花を咲かせてあげる!

ねえ見て、可愛い鳥よ
…って、その嘴にくわえているものは、…骨?
…やだ、あたしもチロもソルベも嵐吾も美味しくないんだから!
そうよ、嵐吾の言う通り、あたしたちのほうが可愛いわ!
…なんて言ってる場合じゃなくて
どんなに可愛い見た目だからって肉食の鳥はお断り!
嵐吾が飛んできた鳥を掴まえてくれているうちに
空色の花嵐で纏めて包んであげる!


オズ・ケストナー
アヤカ(f01194)と

雨、ふりそうだね
にこにこしたまま
うん、雨はしずかじゃないからすきっ

きれいなときに来られなかったのが
すこしざんねん

わあ、アヤカみてっ
とり、とりだ
インコ?

…だれかの思い出をうたってるんだね
たくさんのひとが遊びにきてたときの
たのしい思い出
その声をけしてしまうのは
すこしさみしい気もするけれど

花?
なになに?
きょろきょろして
えっ、花どこ?
とりがよばれて瞬き
あっ、帽子っ
頭に咲いたバラに気づいて笑う
うんっ
ここにも花があるよ

みんなの声をきかせてくれてありがとう
わたしが覚えておくからね
たのしそうな声をききながら
またね、と斧を
【範囲攻撃】

今日はもふもふできそうにないね
軽口を叩いてみせて笑って


浮世・綾華
オズ(f01136)と

嗚呼と返しながらもそう言えば
オズと雨の日を過ごしたことはなかったような気がして
雨、好きなん?と穏やかに訪ね
(自分は好きでも嫌いでもないがもしオズが好きなら)
俺も好きになるかも、と

昔はきっと、色んな花がみれたんだろうな
…っても、植物園って来たことないケド

インコ?っつーんだっけ
まねっこのトリ
オズの言葉に少し考えて
(楽しかった頃みたいにできりゃあ良かったが
此処には愛でる花もないし……あ、いや)

あったあった、綺麗な花
オズの頭の上をみて
不思議そうな顔にはくすりと笑う

綺麗な花、あるぞー
トリに向かって声かけ
気づいたらせめてと花弁で攻撃

ん、もふもふするにはちょっと遠かったな

アドリブ歓迎


月藤・紫衣
縫さん(f10334)と一緒に。
おや、そうなんですか?
願掛けというのはあまり口にしない方がいいそうですよ。
…私は何をお願いしましょうか。

当時いたモノがこうしてオブリビオンとなっても戻ってきたのかもしれませんね…美しい羽根の色も心なしかくすんで見えます。
…彼らが安らかに眠れるように頑張りましょう、縫さん。

【高速詠唱】した【散花風棘】で【2回攻撃】を。
増えた分もしっかりと狙っていきましょう。
縫さんに流れそうなら彼女へ到る前に【なぎ払い】ます。

手、ですか?
構いませんよ、それで貴女の寂しさが紛れるのなら。
…本当に優しいのは、これを寂しく感じることの出来る縫さんだと思いますよ。


真幌・縫
『しーさん(f03940)』と一緒。
最後にねお花の種を植えてお願い事をするんだって!
ふふ、ぬいのお願いはもう決まっているんだよー♪あ、こういうのは内緒の方がいいのかな?

鳥さん。セキセイインコ…羽根の色が綺麗だよね…ここがまだちゃんと植物園だった時からいるのかな?
(鳥達が繰り返す言葉にどこか寂しさを覚えながら)
あぁ、でもやっぱりオブリビオンなんだね…。
なら、退治しなきゃ…。
ぬいぐるみさん達!今日もよろしくね!
UC【ぬいぐるみさん行進曲】発動。
まるで戯れるように倒していく。

ね?しーさん、ちょっとだけ手をぎゅっとしていい?なんだかちょっと寂しいから。

ありがとう、しーさん。
しーさんはやっぱり優しいね。


ノ・ノ
ほーん。言の種綴りねぇ
人間てなぁ、ほんに願掛けがお好きだわね
ま、おいちゃんも異文化こーりゅーってな感じで、ちとお邪魔させてもらいまひょ★

キャ~!!
トリサン、カッワE~★★
よちよちしたげるねェー✨☺
なんちて、ナンチテ

ハイハイ、ノノ様はの、鳥にゃ興味ナイんですのよ
アタイが興味あんのは、“ニンゲン”だけなんだにゃー
っつーことで、オブリビオン召喚
テケトーに蹴散らしたって、頼んだじぇぃ

アー、ンでもアータらの羽はお綺麗ね
散った羽と可哀そなお花
ぷちぷち摘んで自分の黒い液体にぷすぷす挿してこ
イロドリ、イロドリ
どーぉ、似合う?ナンテネ

どこかにあったな、そんな話
羽を取り返そうって奴は…この場にはいなさそうだけどね


絢辻・幽子
ふふふ。あらまぁ、可愛らしいインコさんたちねぇ
……でも、うーん?なぁんか餌と思われてるみたいね?

狐なんて食べたらお腹壊しちゃいますし
とりあえず、焼き鳥になるご予定は?
なぁんて
どちらかというとチャーシューかしら
糸でぐるぐるにしちゃうしー……鳥もチャーシューでいいのかしら?

うーん、羽毛が増量するのは見たいのだけども
戦闘力上がっちゃうのはねぇ、
『ロープワーク』も使いつつ、嘴を重点的に
封じたい気持ち。
あわだまを食べさせなければいいのよね……
燃やしたりとか?

願いの花は咲いたのかしら、どうかしら
人の想いって強いから花の身には重かったりしたのかもねぇ
なぁんて。

(のらりくらりとした、人を喰った様な女狐)


ルル・ミール
廃墟になった今でも誰かが言の種綴りを…
わかります、今もやっちゃうの凄くわかります
だって籠めたものが季節を巡ってお花と一緒に咲くなんて、素敵です…!

たくさんの想いが今も眠ってるなら本当にお墓かもですね
それを啄まれちゃうのは悲しいです
ここは猟兵として…わぁ可愛い小鳥です!
ついついノートにスケッチ
あれ、でも、穏やかじゃないものモグモグしてませんか?
お喋りの中身も、誰かの会話のような…
ななな何だかペコペコみたいですけど、私は猟兵なので!
私も!これから来る誰かさんも!ご飯には!なりません!
UCは風属性
小石を使ったセキセイさまサイズ竜巻をドーン、です
植物を傷付けたりしないようにめいっぱい集中ですよ…!




「チロね、ここにいると、またみんなとおべんとうを食べたいきもち」
「分かるわ。花と緑に囲まれて……あの可愛いチューリップのベンチなんかで休みながら」
「ふっふふ、そのときはわしになんでも注文しとくれ」
 明るいやり取りが響くと余所に。
 終夜・嵐吾(灰青・f05366)とチロル・キャンディベル(雪のはっぱ・f09776)を背に乗せた白熊ソルベが一歩進む度に、さくさくと物寂しい音で枯草が鳴く。
(「かつてはここも、とってもきれいな場所だったんでしょうね。それがこんなになってしまって、今はオブリビオンの住処だなんて」)
 共に進むキトリ・フローエ(星導・f02354)は空に。
 人の手で作られた森や花畑を目にしたことこそないが、ベンチの他にも花壇の色とりどりの縁石、手書きの品種説明、案内板に見るこだわりのエリア分け……随所に残る夢の跡からは決して投げやりではないつくりが想像できる。
 同じくはじめての植物園に興味津々、きょろりと上下左右を見ることに忙しいチロル。その瞳には在りし日のまま緑豊かな草花でも映しているかのよう、すこしも暮れず。
「人がお花をつくって閉じこめちゃうなんて、すごいの! きっとたくさんの人のすき、が集まってるのよ」
 今は誰も来なくとも、いつかまた。だから返してもらおうねと無垢な握り拳が掲げられるから、おーと声の続く道中は今日だって明るいものであった。
「そうね、今日限り。あたしたちの手で、きれいな花を咲かせてあげましょ!」
「もちろんじゃ。ところでのキトリ、もうすこぅし傍を飛んでくれんか?」
 なによ……、で妖精が男の近くまで降り視線を流せば『ピッピピ』と。
 セキセイインコの群れが、倒れた花型モニュメントクロックの陰から顔を覗かせていた。
「――まぁ、可愛い鳥! 教えてくれたの、嵐吾?」
「鳥さんかわいいー! ふくふくまんまる、いっしょにあそびたいの!」
『ピッピ』
 そうですただの鳥さんですといういたいけな面と鳴き声をするセキセイ。であるが、弾みで嘴からポロッと落ちたものまで誤魔化せるほど猟兵は甘くない。
 なにせ見慣れていた。
 骨。 死して尚どれだけ啄まれたのか、穴だらけのスカスカな。

『オベントウハアマイタマゴヤキガイイナ!』
 ままよ、の勢いで飛び掛かってきた一体をまず伸ばされた狐の指が弾き返す。なれに出す飯はない、と――それはあまりに無駄なく洗練されたデコピンであった。
「……やだ、あたしもチロもソルベも嵐吾も美味しくないんだから!」
「かわいらしい形をしとるのに、やっとることはようないみたいじゃ」
 ころんころん跳ねる姿を目にスッとソルベを背へ押しとどめるかたちにキトリが飛んだなら、の? 渋い顔をして二人と一匹の前へ、いつでも守れる立ち位置へもういくらか歩を進める嵐吾。
 危険として報せたけれど。寄ってみればみるほど無害そうな鳥。ふかふかで……実際ふわふわだった。これは……、かわ――……
 いや、ちがう!
「……かわいいのはキトリとチロで汝らではないわ!」
「そうよ、嵐吾の言う通り、あたしたちのほうが可愛いわ!」
 のよわ? と真似っ子するチロルが不思議そうに、でもいちもふくらい……と手をそわつかせているものだから。
 なんて言っている場合ではないと悟るキトリは咳払いひとつ。可愛くたって肉食の鳥はお断り、心の底からの叫びで己を律した狐の友が両手にむんずと摘まみ上げてくれたセキセイがばたばたしているうちに。
 お願い、ベル。 ――願う、鮮やかな青空を溶かし込んだ花弁は刹那にして咲き誇った。嵐吾をつつかんとす鳥の身だけ器用に巻き取るとぐっと覆い包み、解けたあとにはなにも残さない。過去を、あるべき姿へ。
 ぺいっ! と、相棒の代わりソルベが熊パンチでもふ――もとい薙いだ数羽もそこに巻き込まれ、束の間に開かれる花の宴。
 に、終わらず。
「お花と人をきずつけるのはめっ、なのよ。わるいことする鳥さんは、チロがしっかりおしおきするの!」
 かわいい。だけど、と戦うことを選んだチロルの声で、妖精の花に添うようにペールグリーンの魔法めいた花弁も加われば一層強く吹きつける。きら、きら。鳥さん、たべるならこっちのお花もどうぞ。
 撫でつけられる鈴の澄んだ音色もが小鳥の囀りに負けず、これは、エレメンタル・ファンタジアの事象だ。
 綺麗よの。狐男の尾は振れて。
 彼女らの頼もしさに蕾む心も綻ぶというもの。セキセイを放った手を叩いてみれば、ふかもふボディに紛れていた骨片が指に纏わりついてきて落とす最中。目につくは小鳥に咥えられたちいさな白一輪。
「その花も、咲かせてやるには弔いが必要じゃろて」
 確かに骸を経て咲く花はある。だが多く花々を"目"にしてきた嵐吾にとって、捻じ曲げられた摂理の外で咲いた異変と知れるは容易なら、如何に愛らしくうつくしかろうとも。
「主よ、力を貸しておくれ」
 そうと認めてはやれない。
 早朝、目ぼしい緑も辺りになく、常ならば怠惰であろう右目の虚とて同じ心地であったのか。戒めの合間からほとほとと零れ出で、直ぐにセキセイへ迫る牙たる花嵐。
 薄紫、薄桃。紫陽花は僅かばかり季節を先取りして、羽毛混じりの雨をあちこちへ降らせゆく。
「嵐吾のお花もいつもすてきなの!」
「こんな風に色んな花が仲良く咲いていたのかしら。最後まで、寂しくなかったのならいいわよね」
 ひとりきりで枯れゆくものがなかったのなら――。
 行きましょ、やがて止んだ風の中を飛ぶキトリ。危険を恐れ無為に立ち止まることがないのは、信頼できる仲間同士であるから。嵐に乱され不思議なつむじの生まれたソルベの毛を繕ってあげるチロルも大きく頷き、さっきはありがとうと妖狐へ向ける笑みもこそ。
「ん。こちらこそ、じゃよ」
 五月にしては冷える空気。短く、しかし同じだけのあたたかさで応えて、身に引き寄せる嵐吾の衣からははぐれた花弁が土へ触れ。
 一行は、この地に絶えて久しい芳しい香を連れていた。


 きらきら。湿気た空気をものともせず藤紫の瞳輝かせ、ルル・ミール(賢者の卵・f06050)の犬耳はびんっ。
 廃墟になった今でも、誰かが言の種綴りを? ひそひそ声が聴こえるかも?
「わかります、今もやっちゃうの凄くわかります。だって籠めたものが季節を巡ってお花と一緒に咲くなんて、素敵です……!」
「人間てなぁ、ほんに願掛けがお好きだわね。ま、おいちゃんも異文化こーりゅーってな感じで、ちとお邪魔させてもらいまひょ★」
 ノ・ノ(ノーナンバー・f05650)はそんなキマイラ少女の斜め後ろあたり、頭の後ろに手を組んでのゆるやかな足取り。雨の香りが強まってきたけれど、ゴキゲンカラフルアンブレラの出番はもうすこし先だろうか。
 ぴょん、ぴょん! いくらか毛色は違うものの、飛び跳ねんばかりの軽やかな足跡が四つ罅の入った土へ刻まれてゆく。様を、もうすこし後ろで見遣ったならつられて弾むものもあるというもの。
「不謹慎かも知れませんが、少しワクワクしてきました。……廃墟とはいえ、植物園に行くのは初めてなもので」
「あら、そうなんです? デビュー祝いに何か――と思ったのだけども、お野菜しかないのが残念よねぇ」
 夏目・晴夜(不夜狼・f00145)少年がそわと視線巡らせ呟けば、絢辻・幽子(幽々・f04449)はふふり微笑。
 お野菜すらないのが現状ではあるが。
 もっとおいしそうでしげきてきなものを、先頭歩くルル・アイはしかと捉えていた。
「皆さんみてください、可愛い小鳥が! あんなところに!」
 鳥たちを驚かせぬよう絞られた控えめ魂の叫び。あんな――土産屋の半壊ガラスの向こう。
 捨て置かれたフラワーマグカップやらに鮮やかな小鳥が収まる様は置物然として実に愛らしく、日々のトキメキ記しつけたルル・ノートへとスケッチ走らせる黄緑クレヨンもうなる!
 うなる、のだが……。
『ヤダァ、マサシッタラ!』
 ばりばり。
『ハーアシタカラゲツヨウビツライワー』
 がりがり。

 ……?
 穏やかじゃないもぐもぐ物は犬の大好物だとしても、鳥には。
 そしておしゃべりは――誰かの、ひとの会話?

 ヒェッ。 息呑んだルルの肩越しににゅっ、と顔出す幽子はここにきて尾を振った。
「ふふふ。まあまぁ、可愛らしいインコさんたちねぇ。それにとーってもはらぺこみたい」
 その逆側からは晴夜が。
「これはいい。結局のところ静かに緑を眺めて楽しむよりも、肉を喰らうほうが好きな性分ですから」
 それとなんといっても、犬派だから容赦はしない。お上手ですねとチラ見したスケッチを称えて即、牙覗かせ零す"いただきます"。
 やり取り耳に――ブラックタールは既に怪異のそばまで辿り着いている押せ押せだ。
「キャ~!! トリサン、カッワE~★★ よちよちしたげるねェー」
 なんちて、ナンチテ。 ガッッ!!
 数メートルの距離などあってないようなもの。伸ばした触腕が邪魔な薄窓を叩き割る。儘、ぐわんとさらう卓上のあれやこれやがセキセイごと一斉に路上へと放り出された。
 割れ物はちゃんとやわらかタールで包んであげたからノノさんやさしい。これにはびくぅとしたのちルルも引き戻され、
「はっ……! ななな何だかペコペコみたいですけど、私たち猟兵なので!」
 私も! 皆さんも、これから来る誰かさんも!
 ご飯には!
 なりません!! 転がり殺気立ったつぶらな黒と目が合って――今度こそ叫べば、襟元からぴょこりと顔出した碧玉めいた小鳥が「もふんっ」。 硝子ペンを模す頼もしきロッドとして、取り落したクレヨンに代わりてのひらへ。
 中空を色付ける淡い碧のインクで描くのは竜巻のまほうwith小石。
 ざらざらと周囲の石粒が風に巻かれ、前へ向かう者らの背もまた追い風となり送り出す。
「狐なんて食べたらお腹壊しちゃいますし。とりあえず、焼き鳥になるご予定は?」
「どちらが捕食される側か。カラッと揚げて、しっかりお教えてあげますよ」
 骨すら残さぬ獣が二匹。
 焼き鳥派と唐揚げ派とで火花でも散るのか? いえいえ、翳す異能は打ち合わせたかの如く鮮やかに右と左へ。
 ああ――けれど。チャンスを恵んでやってもいい。
 ダンッ! 思案げな囁きに続いて狼少年の踵が敢えて踏み鳴らしたマンホール蓋、そのけたたましさに慄くセキセイズ。注目しろと、つまりは。
「ほら。クイズです、このハレルヤの好む植物ですよ。正しく答えられたら見逃して差し上げます」
 ピ……。黙り込む小鳥。
「はいっ、道端によく咲いてる黄色くて可愛いあれだと思います!」
「ンー、なら赤くてでっかいのに我様の清き一票プレゼンツ!」
 そして挙手するルルノノ。フワッと具合はきっと世界を目から取り入れるタイプであるからだろうか――いずれにせよ、鳥さんたちは確定的に失格。
「はは、残念でした。答え、私にもわからないのですがね」
 笑いにも似た響きで肩揺らし振り返った晴夜の背でぴしゃんといかづちが降り注いだ。
 雨は未だ。
 これはつまり、自然現象でもなんでもない。"神罰"である。

 ふむ、ふむ。
「ちょっとお肌には悪そうね。いい鳥チャーシューになれるかしら」
 そうして生みだされ風に転がる焦げ焦げ炭を踏み潰し、幽子は巧みな糸捌きで小鳥をぐるぐる巻き。特に尖った嘴を重点的に、纏めてしまえばおしゃべりもぴたりと止んで。
 縛り上げられた彼らはグラデがかって変色しながら次々に"出来上がる"。いつしか、ほんじつのめにゅーは変更となった模様。
 決して地縛霊ではないものの。いやに曇天の廃墟が似合うシェフは気まぐれだ。
 セキセイの翼がたまにもふんっと膨らむ様に胸をときめかせる程度には、実のところ、毛玉としての興味もあったくらい。
「悲劇よねぇ。食べるもの、食べられるものにしかなれないだなんて」
 ほろり。
 ――流してもいない涙を拭う所作で引き絞られたアカイイト。
『トッ トリサンカワイイネ!?』
「ハイハイ、ノノ様はの、鳥にゃ興味ナイんですのよ」
 経路上にて手ぶらの両腕を開いて危機感皆無、衝突の直前。ノノの両脇からからだの一部を分裂させたかの如く、湧き出た黒き死霊――屈強な体躯をした騎士と蛇竜が、主に代わって鳥爆弾をぐわんとあたたかく迎えた。
 アタイが興味あんのは、"ニンゲン"だけなんだにゃー。
 次は答えを教えてやったけれど。
 どうせもう、届いていやしない。

 この頃には。ルルが起こしたミニマム礫の嵐たちに、空を逃げていたセキセイもすっかりスカスカ。
「どーぉ、似合う?」
「モデルになってもらいたいほどに! おでこにもひとつどうです?」
 綺麗なものを身につけて得る虚飾のイロドリ? 末路は――。
 ナンテネ、とノノが自身の真っ黒液体へ挿して楽しんだ鳥の羽根、骨の花。いくらか食い気味でルルははしゃぎ、拾い上げる絵具のみどりに、はた。
 奥では尚も芽吹きを。或いはしずかな眠りを望む花々がきっと待っている。
「進まないと、ですね。たくさんの想いが今も眠ってるなら、本当にお墓かもです」
「人の想いって強いから、花の身には重かったりしたのかもねぇ。なぁんて、狐には分かりませんけど」
 土の下で力及ばず頽れる彼らを思い描くことと同時並行で、ふかりとして且つおとなしいもふの出現にそっと期待する幽子も相当であるが。
 仰る通り、うまい肉をあまり待たせるのもなんですし。それだけ横を抜けてゆく晴夜は相も変わらずの涼しい顔。
 とはいえ花。 花、か。
(「この手で埋めるのなら、一応はそれなりに選んでやりたいところですが」)
 今日という日をきっかけに、好きになれそうな植物を見つけられたら。
 歩む他ない、道の先にはなにが咲いてくれているのだろう?


 たったか先行く青年の後ろ姿、その怖いもの知らずな瞳のつぶらは、小鳥にだって負けてはいない。
「わあ、アヤカみてっ。とり、とりだ」
 半身で振り返るオズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)。指した指をぶんぶん上下に振るものだから、取れんぞってうっすら笑いが滲む浮世・綾華(美しき晴天・f01194)。いくら人形だってそう簡単に取れやしない――ひとではないもの同士、分かっちゃいるものの。
「あー。インコ? っつーんだっけ。まねっこのトリ」
「インコ。そっか、あれは……だれかの思い出をうたってるんだね」
 キレイ、キレイ。ラベンダーノイイカオリ。
 タノシカッタネ、マタコヨウネ。
 ――黄色の嘴から漏れるのは人々が遊びに訪れていた頃の、楽しい、過去。
(「その声をけしてしまうのは、すこしさみしい気もするけれど」)
 さみしいとの呟きは知らずオズの唇から漏れていたろうか。
 ちらりと横目に連れの顔色窺った綾華は、ふむ――と。
(「植物園ってのは、つまり色んな花眺める場所か。楽しかった頃みたいにできりゃあ良かったが、此処には愛でる花もないし……」)
 ああ、いや。 ある。
「あるぞ、綺麗な花。そらこっちだ」
「花? なになに? えっ、花どこ?」
 綾華が手招いて呼び掛ける先はなんとセキセイさま。 こっち??
 オズはきょろきょろあちこち見回すけれど、やっと察せたのは小鳥の狙いが自身の頭部……帽子の飾りへ向いていると分かったときだ。あっ、帽子! 破顔するかんばせは一転して晴空。
「うんっ。ここにも花があるよ。いま食べているものより、おいしいかも」
「腹一杯にしてやれねぇのは、ま、堪忍な」
 頭上、帽子を振って示してみせるフレンドリーさへ零れる笑みで。代わりに。 せめてと。
 友の素敵な帽子飾りをくれてやるより先に、ヤドリガミが贈るは一握の花霞。
 魂散らすかたちから姿移ろわせた白菊は舞い落ちてセキセイへとひたり纏わる、あの黒目が最期に映すであろう衣までも唐紅にうつくしく、――きっと満足いただける味わい。
『オヒルハナニニシヨウカナ?』
『トリサン、カワイイ!』
 白自体は潜れど風の流れに羽ばたきを押し返され、口々に声を上げる鳥も数羽。
 うん、と、行き場のない言の葉たちを受け止め花降りの雨中をオズは踏み込み。
「みんなの声をきかせてくれてありがとう。わたしが覚えておくからね」
 アヤカみたいに贈れるものもないけれど――。
 止まり忘れ去られゆく時間の残滓にとって、その口約束もまた喜びのひとつであったろう。ぐっと溜めて振るわれたHermesの一閃はおだやかな花弁のカーテンを裂いて、開いて、 閉じて。
「またね」
 烈々と。
 描いた輪の端から端まで、二度目の終わりまで。恐れ嘆く声など上げさせやしなかった。

 今日はもふもふできそうにないね、笑うオズの軽口に乗る綾華。気安い空気は心地好い。
 ……そういえば。
「ほんものの雨、ふりそうだ」
「嗚呼。雨、好きなん?」
 花弁の群れが失せてしまえば空の色が再び瞳を薄める。雨の日を、となりで過ごすのは初めてだったろうか?
 綾華にとって好みも厭いもせぬ天気。だがオズはわくわくとする胸裡を余さずおもてへ浮かべ。
「うん、雨はしずかじゃないからすきっ」
 いこう! 大きく一歩、掴む手を引いて、いざなう先は共にたのしめるものだといい。
 つられて駆け足になる綾華の、二歩目からはしっかりと合わせることのできる歩調は記憶以上、積み重ねた日々の証左。
「っと……そっか。俺も手拭いでも持って来ときゃよかったかと思ったが」
 二人して降られてしまうのも、悪くはないのかもしれない。
 彼が好むものならば、きっと好きになる――そんな予感をより確かなものとして。


 二人、たくさんの旅を共にしてきた。
「まるで朽ちた鳥籠ね、ムードあるじゃない」
「すごい……寂しいけど雰囲気があるところだね」
 だから怪しい場所だってへっちゃら。……とはいえだ。そろり肩に掴まるリル・ルリ(想愛アクアリウム・f10762)がちょっぴり覚える怖さを伝えたなら、大丈夫! 朗らかに誘名・櫻宵(屠櫻・f02768)は微笑んでみせる。
「あたしがそこらの輩にリルを傷付けさせたことあった? ほら、小鳥さんだってあたしたちを歓迎してるわよ」
「うん。ありがとう、櫻宵。……ふわふわで可愛いね、ちょっと口から……、出てるけど」
 しろくてかたくて食べてはいけないものが。
 錆びた橋の欄干、とまってだんまりを決め込むセキセイはこちらの様子を窺っているようだ。
 うふふ、と笑みを深めた櫻宵はいままでリルと繋いできた指を口元まで運んで。
「ゆっくり鳥を見つけたかったところだけれど――骨と肉も乙よね。 ねぇ愛しのあなた様、なにより強い加護をくださるかしら?」
「……ん。気を付けてね、ここにいるよ」
 その手の甲へ望み通り贈られる口づけ。
 綻んで指と指とがほどけたなら、艶桜は乱れ咲く剣の鬼となりて。
 引き抜かれし血染めの太刀には呪いが這った。たった一動にしてもはや完成した斬撃、華散らすが如く風刃が並ぶ黄緑色をすとんと上下に別つ。
 触れて、いない?
 否。 視認できないだけだ。
「綺麗に捌いてあげる。それとも磨り潰しがお好み?」
 己が眼前に何羽いようと愛する人魚を目掛け飛び立った一羽をこそ見過ごさず、叩きつける刀の腹で地面へ導く櫻宵。派手な戦いぶりは隙があると見せかけ、誘い込んだ途端に飛ぶのが拳だというのだからおそろしい。
 したたかに、同時に舞うように咲かす殺陣を盛り立てるのは、歌声。
 武運を祈って紡がれるこの世にひとつの。
(「君という花が在るだけで、景色はこんなにも変わる」)
 この彩の欠けた場所だって。
 うたうリルのつとめはそれだけではない。後方にて見守る瞳として、大切な唯一へ近付く不届き者を裁くこと。
「ダメだよ。僕の櫻は君の止まり木じゃない」
 吐息を挟んですぐの転調、花へ飴ならセキセイへは鞭。透明な魅惑の歌は、オブリビオンの揺らぐ魂をも惹きつけて渦巻く敵愾心をひととき薄れさせた。
 ぽ ぽふんぽふん!
 攻め手を忘れたセキセイは仲間を呼んでみせるが、しかし。
「群れてもムーダ。あたしの可愛い人魚をあなた達に食べさせるわけにはいかないもの」
 長大な刀身を持つ刃の前にまるで児戯。
 ひとひら、薄紅の花弁のかわり真紅を落として散り散り。歯応えがないわね、とは櫻宵が笑み混じりに。残った一羽のタックルだって、人魚のうたが縛り付けては宙でとどめ。
「綺麗で、欲しくなってしまうのも分かる。でも僕も大事な櫻を、君たちのごはんにはさせられないんだ」
「――すてきよ、リィ」
 振り下ろした一刀にてふたつに下ろせば、おしまい。

「ドームか……もう、すこしかな」
「そうねぇ。もっとずっと遠くたって構わないけれど。さっ、もいちど繋いでいきましょ」
 互いに大きな傷のないことを確かめて。いつか檻を抜け出した花は、人魚は眺める。
 "こわい"と感じた理由はなんだろう?
 鉄の籠に囚われた花々は、はたして幸せだったのだろうか。
 想像すらできぬほど、ここにはもうなにもない。 そっと、支えるように、慈しむように。ふれあうひとの手がくれる今だけが願い叶った、未来。


「――最後にね、お花の種を植えてお願い事をするんだって!」
 しーさん、しーさん!
 ぱたぱた元気に門扉をくぐっては同道のひとの名を呼んで。
 腕に抱くのは一番の友だちの灰色翼猫ぐるみ、サジ太。真幌・縫(ぬいぐるみシンドローム・f10334)が身振り手振り、後ろを向きながら歩くので、いつか転んでしまいやしないかと自然と月藤・紫衣(悠々自適な花旅人・f03940)の歩幅も広がる。
「ふふ、ぬいのお願いはもう決まっているんだよー♪ 知りたいっ?」
「おや、そうなんですか? 願掛けというのはあまり口にしない方がいいそうですよ」
 花が無くともやわらかな香が香るのは、男が身に纏った纏衣の品のある仕立てか。隣にまで歩きつけばくるんと体を反転させ前を向いた縫。
 そっかぁ、内緒の方がいいんだね。ひとりごちる彼女を横目にしたなら、自身の願い事が決まっていないことが思い返された――紫衣の思考はいっときぼんやり沈みかける、ものの。
「あっ。とりさまだー!」
 キマイラ少女の翼と尾がぴょん!
 ……ゆるやか視線を向けたなら、なるほど、セキセイインコ?
『モグモグ! オニギリオイシーイ』
『カッテカッテー、オニンギョウサンカッテー』
 嘴で毟り取るブツを見るに、ちょっとばかり鳥ではない部分も。
「羽根の色が綺麗だよね……ここがまだちゃんと植物園だった時からいるのかな?」
「こんな場所にももふもふの魔の手が潜んでいようとは……。ふむ、当時いたモノがこうしてオブリビオンとなっても戻ってきたのかもしれませんね」
 美しい羽根の色も心なしかくすんで映る――そう、彼らはオブリビオン。
 過去の残滓。
 どんなに可愛くても、繰り返される言の葉にすこしの寂しさを覚えてしまっても。ふかもふでも。今までそうしてきたように、二人は目的を違えはせず。
「……彼らが安らかに眠れるように頑張りましょう、縫さん」
「うん。退治しなきゃ、ね」

 散花風棘。
 このたび散らすは花になく、花食む哀れな理外れなれば。
「最後の遊び相手、務めさせていただきます」
 酔蜜月刀を抜くまでもない。たちまち練られた百を軽く超す疾風の棘は羅刹男の衣を巻き上げ、向かい来る小鳥へとごちそうとして見舞われる。
 ぱつんと弾けるものが大半。
 仲間の犠牲に押し出され、地を転がったものにはまた別な。
「ぬいぐるみさん達! 今日もよろしくね!」
 戯れるように。叩きつけられるぎゅうぎゅうに綿が詰まったくまぐるみーずのパワフルクロー!
 使役する縫だってもちろん見守るばかりではない、追ってみんなが戦いやすくするし、ときには黄緑ぷにボディを両手で押し返す。
「……ふかふかだけど、サジ太のほうがすごいもんっ」
 そこへすかさずうさぐるみのタックル。
 ともすれば、はじめ呼び出されたぬいぐるみの数は小鳥以上であったろう。ミニミニと愛らしくも、縫の指示により統率のとれた動きはまさに行進曲。往来でぼーっと突っ立つ者は轢き潰されたって仕様がない。
 そうして。
「――さ、お眠りなさい」
 ザ、ザザ。  ザ。
 薫る風がひときわ強く吹き抜ければ、一時はわっさりと増えていたセキセイもいつしかいなくなっていた。

 賑やかな客が去り。そうして訪れるのは、歩き来たこれまで以上に身に沁みて感じられる静寂だ。
 サジ太はいつも通りくっついていてくれるけれど――……。
「ね? しーさん、ちょっとだけ手をぎゅっとしていい?」
「手、ですか?」
 こくりと頷く俯きがちな縫。なんだかちょっと、寂しいから。
 その横顔へ、も一度ばかり瞬いた紫衣は掬い取る形で伸ばす指を手にそっと触れ。
「構いませんよ、それで貴女の寂しさが紛れるのなら」
 包み込む。決して体温が高いとは云えないが、ずっと大きな手。
 ちいさく引き返す縫は存在を確かめるように。
「ありがとう、しーさん。しーさんはやっぱり優しいね」
「いいえ。……本当に優しいのは、これを寂しく感じることの出来る縫さんだと思いますよ」
 緑朽ちた冬めく景色――。
 浮かべた微かな笑みこそ穏やかなまま、紫衣の花めく双眸はどこか、ずっと。遠くを映しているようだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

隠・イド
ええっと、アイツなんつってたっけ…
グリモア猟兵の話をまともに聞いてない

渡された紙片と種は雑にポケットへとしまい
取り敢えず行って殺せば良いのだろ、と面倒なので深く考えない

雑魚がうぜえな、こっち来んな
インコ相手は面倒臭そうに、適当に変形した腕でモグモグ
腹の足しにもならねぇ癖によ、と吐き捨て

一般人の生き残りが居れば気紛れに助けたり、見捨てたり
いや、襲われてるなら敵くらい殺してやっけど
安全な場所まで送ってくれとか言われたらうぜぇな

ドームに着いたらお散歩終了
そんで結局、この先何が出んだっけ?

知人と出くわした場合はそれなりに取り繕ったり取り繕わなかったり

そんな感じでよろしく


サヴァー・リェス
アドリブ・連携歓迎

小さく鮮やかな鳥
あなたたちは過去のこと
愛らし、かった
楽し、かった
全て終わった、こと
それを思い出させる様に何度でも、UCで相殺
【第六感】も活かし敵の攻撃に合わせ…何度でも
間に合わない時は【オーラ防御】で防ぐ
的にならない様移動しつつ
敵の隙に【催眠術】で【誘惑】で【呪詛】である【衝撃波】を放ち各個撃破
「おわり、おやすみ、さようなら
だいちこいしく、はねおもく
ねんねするこは―」
可愛や、かわい、ええ…そうよ
ここには花があり
鳥がいて、笑いさざめく心があった
きっと、誰かが覚えている
その心へ、おかえり
歌となり私から溢れるこの想い
慈愛、というものなら、良いと思う

私の過去は、誰か覚えている、かしら


穂結・神楽耶
梅に鶯の例えは聞きますけれど、廃墟にオブリビオンは絵になりませんねぇ…。
いえ、過去の残滓がありし日を重ねたと考えると合ってはいるのでしょうか。

とはいえ放置する道理もなし。
【神遊銀朱】『スナイパー』。
あちらにも、こちらにも。褪せた廃墟にみどりのからだはよく目立ちます。
群集がいたら『範囲攻撃』で仕留めるのもいいですね。
一匹一匹、確実に。過去へと還ってくださいまし。

たとえば此処が願いの墓標だとしても。
灰に還った神社より、よっぽどひとに添っている。
だったら守りましょう。
いつか、本当に祈りが届くかもしれませんし、ね。


冴木・蜜
おやまぁ
可愛らしく囀る小鳥ですね
囀るだけならまだ良いのですが
命を啄むというのなら見過ごせませんね

取り出した注射器で『偽薬』を使用
その上で己の毒を麻痺毒に調整

他の猟兵に牙を剥くなら
身を捻じ込み庇います
彼らが私を啄むなら
私は敢えてそれを受け入れましょう
私を食む勇気があるというのなら、ですが

嘴が私を捉えたら
喰われた身体さえも使って
ありったけの麻痺毒を注ぎ込み
動きを封じます

そのまま融けた己の毒腕で彼らを抱き締め
その命ごと融かしましょう

もう逃がしません
このままじっとして下されば
微睡むような最期を約束しましょう

さあ
おやすみなさい


静海・終
なかなか素敵な植物園でございますねえ
嫌いではありません…が
あぁ、そんなそんな愛らしい見た目にホラー極まりない
悲劇は悲劇を呼びましょう、ならば悲劇は殺して、壊しましょう

ドラゴンランスの涙を蒼槍に変化させ構え
さぁ、涙、あれを穿ち殺しましょう
青白い炎で鳥のみを燃やしていきましょう
…あぁ、この鳥の会話、これは何を意味するのか
あの、人の言葉をどこで覚えたのか、あの、骨の持ち主は
骨を見てから想像した悲劇に首を振り槍を握りしめる
逃がさぬよう弱った個体を優先して狙い確実に仕留めましょう
協力できる相手がいれば積極的に共闘を


矢来・夕立
花に願掛け。いまは廃墟、と。
「おまじない」としてはよく出来てる。流行るのも頷けます。
実際、ひとに願われて咲く花って綺麗ですから
普通に好きですよ、花は。見た目も、色んな薬効も。

…植物園というか、花鳥園の様相ですね。
早朝なら《忍び足》で薄明に紛れられる。《暗殺》【紙技・冬幸守】。
小鳥でも噛む力って存外強いので距離を取ります。
毛玉…羽玉?の中に突っ込むと、かゆくなりそうですし。

実際にもう何人か食われてるようで。
流石に自分が死ぬとは思ってなかったでしょうけど…何をそんなに願うことがあったんでしょうね。
代償として怪物に殺されても後悔しないようなことでしょうか。

…。まあ、全く理解不能とは言いませんけど。


花剣・耀子
よりにもよって、……というわけでもないのかしらね。
願いに寄せられたのか、
想いを苗床にしたのか。
他の要因かも、知らないけれど。

考えても詮無いはなし。
行った先にこたえがあろうとなかろうと、
あたしがやることに変わりはないのよ。
……嗚呼、でも。
何が咲いているのかは、すこしだけ楽しみだわ。

お散歩というほど暢気な風情ではないのが惜しいけれども。
……数が多いくせに的が小さいのは、やり辛いわね。
寄せられるだけ寄せてから斬り払いましょう。
――、ヒトを真似る声は、嫌いなの。
黙って頂戴。

こんな時間なら、そうそう紛れ込んでいるヒトなんて居ないでしょうけれど。
もし見かけたら帰るよう促しましょう。
被害が出ると面倒なのよ。




 踏み入ったそのときは、嫌いではない、なかなかに素敵な植物園だと感じたとも。
 廃れようと愛された証――確かにそこにあったであろう数々の喜劇。
 だが。
「あぁ、そんなそんな愛らしい見た目にホラー極まりない」
 物語の転調はいつだって突然に。
 静海・終(剥れた鱗・f00289)の瞳がいま映しているのは、悲劇そのもの! 人骨とそれを生み出したであろうオブリビオンとの盛り合わせ。
「きっと……、迷い子、ね」
「可愛らしく囀る小鳥ですね。囀るだけならまだ良いのですが」
 命を啄むというのなら見過ごせません。
 同じく揺蕩うように歩を進めていたサヴァー・リェス(揺蕩ウ月梟・f02271)、冴木・蜜(天賦の薬・f15222)。
 この心地は落胆か。過ぎしいつかに間に合えなかった己への……救いたがり、無益な感傷だとして切り捨てられぬ。一瞥のみで伏して蜜は自らの腕に注射針を突き立てた。麻酔毒へと変質してゆく内側は、肌色のうえからは尚も美味そうに映るものの。
 ――過去。
 愛らしかった、楽しかった。なにもかもすべて終わったことであると、気付けずにまだ此処にいる?
「あなたたちの、ある、べきを。思い出させて……あげる」
 染み渡る風に紡ぐ、サヴァーの囀りに銀の幕は鎖して。 Fata Morgana。
 彼我の合間に浮き出た蜃気楼は横一列に並び飛び出してきたセキセイの身を通さず、来た側へと包むやさしさで弾き返した。
 てん、てんてん。
 力なく転がる彼らを前にして、更なる悲劇を"壊して殺す"方法は唯一。少なくとも魚には。
「さぁ、涙」
 あれを穿ち殺しましょう。
 キュイと鳴く音は応える竜のものであったか、握りしめた蒼槍のものであったか。すぐに姿を移ろわせた供連れと、今日も茨を喰らおうと。

 終の手で撃ち込まれし槍は弾丸めいた鋭さ。
 穂先を躱せばそれで済むということもなく、燃え広がる不知火――海底から仰ぐ空もしくは遠く灯る漁火……いずれも届かぬ光にも似て、青く白む炎こそが本命。
『ギェギギ!』
『コンドハドウブツエンニイキターイ』
 胸のど真ん中へ串刺された個体がぼおと焼け、あついあついと羽ばたくものだから、飛び散った火の粉はお仲間にもプレゼント。
 前線に躍り出た終を支えるのはサヴァーの援護だ。
「……だめ、よ」
 高く空へ逃げんとオブリビオンが向けた背、見過ごすことを慈悲とは呼ばず。
 ずっと立派で大きな梟の翼の羽ばたきにて巻いた風が、彼らを地へと引き戻した。ちいさく身を震わせる小鳥。痛みはすくない方がいい――そうした、上手に声には出せぬ胸裡のねがいを叶えてくれるものもまた此処に。
「空腹のまま眠るのもお辛いはず」
 オラトリオの娘との間に割り入って、どうぞ、と、とろり熟した毒腕を差し伸べる蜜。
 つつく嘴の眼前へ、敢えての救い?
 否。 残念ながら之は、"現在"だって変わらず死の誘い。
『オェ、……ェ』
 内臓を通して直に流し込む麻酔毒のゆるやかな終わり。この手法ならば、痛むのは術者当人くらいのものだ。無茶を止めるひとが今共に居ぬことは幸いそれともその反対、ただ、――為せればよい。
 もう逃がしません。 歪に微笑んで。
「このままじっとして下されば、微睡むような最期を約束しましょう」
『オハナ、オウチニモ、……』
 行き場のない小鳥たちを抱き上げる男の腕の中、甘やかにいのちが融けてゆく。混ざりゆく。
 人間を真似た音も次第に小さくなって。
 鳥の会話が、何を意味するのか。人の言葉をどこで覚えたのか。 あの、骨の持ち主は。
(「いやだな。……悲しいじゃないですか」)
 戦いの最中に思案に暮れてはいけない。首を振ると強く、つよく。力込める愛槍で、今一度。
 死にぞこなって土を掻く必死なものから突き立て仕留め、必ず終わらせることを誓う。
 終は――、しあわせも、過去も。望むもののため切り捨てるべきが何であるかを知っていた。

「おわり、おやすみ、さようなら。だいちこいしく、はねおもく。ねんねするこは――」
 ――可愛や、かわい。
 似ているとすれば夜の月、だろう。儚く朧でも、迷わぬためと誰もをしんと照らすような。
 そんな、調べはサヴァーの唇から紡がれる。
 そう。
 ここには花があり、鳥がいて、笑いさざめく心があった。
「きっと、誰かが覚えている。その心へ、おかえり」
 慈愛。 敵味方なく溢るるこの想いの名を、きっと。
 まぼろしを漂わせつ眠りへいざなう子守唄は、敵方を妨げる他、蜜の毒の浸透をも早めていたやもしれない。ぽろぽろと腕から零れゆく小鳥は先ほどまで敵意を剥き出しにしていたものと思えぬ安らかな面立ち。
「さあ、……おやすみなさい」
 この声が、この終が、 この薬が。
 彼らの内に囚われたであろう誰かにも届くと、いい。
 脅威は去って。僅かばかり瞑目していた終が「それでは」と声を上げる。
「向かいましょうか。この分ですと、まだまだ首を長くして待っている方がいそうですよ」
 海竜の姿へと解けたドラゴンランス、涙を伴って。
 次なる悲劇を打ち崩すため――笑んで駆けだしたなら振り返らず。
「ええ」
 こうしている間にも新たな犠牲者が出ぬとも限らない。醜くかたちを崩した腕も未だ治らぬうち白衣の袖へと隠して、蜜が応じ。
 骸が消え失せる様を横目に、サヴァーもまた二人へ続く。
 あの小鳥たちに憶えていてもらえた去りし人は、きっとそれだけ、鮮やかな日々を過ごしていたはず。
(「私の過去は、誰か覚えている、かしら」)
 罪の他に、なにか。きらめくひとときがそこには在ってくれるのか。


 梅に鶯。
 世には縁起のよい取り合わせもあったものだけれど、目の前の光景はといえば。
「絵になりませんねぇ……」
 廃墟にオブリビオン?
 ほうと息をつく穂結・神楽耶(思惟の刃・f15297)はすっかり綺麗になってしまった右腕に刀を揺らす。過去の残滓がありし日を重ねたと考えれば合ってはいるのか。
 有も無もものはいずれ傷む――だとして。
「放置する道理もなし、と」
 切っ先もたげ、指す先へと複製刀が飛び出した。
 距離を保っての先制攻撃は油断していたセキセイの身をびゃっと跳ねさせる。とはいえ飛ぶには間に合わず、数秒ののちには木の幹に縫い付けられた鳥という芸術が複数完成しているのみ。
『マッカナオハナダネ』
『ユウエンチニイキタイナァ!』
 翼を振るわせ果敢に神楽耶へ向かわんとした数羽は、こずえを離れた直後に消える。
 小骨の砕ける音だけ残し、薄明の彼方より舞い込んだ蝙蝠に喰らわれたのだ。
「そうです? よく出来た"おまじない"だと思いますけど」
 花に願掛け。いまは廃墟。ひっくるめての無常さが淡い五文字そのもの。 はた、はた。黒は暗雲のさきがけめいて集って去って。
 この園にも未だただの生物が? 不思議に顔を向けるまでもないことを神楽耶は知っていた。紙の擦れ合う乾いた羽音、その先の声、さすがに聞き慣れたとも。
「声くらいかけてくださればいいのに」
「無駄なことは減らしたいじゃないですか」
 気付いていただろう、そうした口振り。かゆくなりそうなんで捨てといてください、と毛玉を遊ぶ式へ命飛ばす様はちょうど軽く余所を片してきたところか、細枝が剥き出しになった垣根の向こう。矢来・夕立(影・f14904)が立っている。
 ついでのついでのついで、共闘による効率アップ。
 空しい仕事先でばったり友人と出くわした状況にしては弾むよろこびもなく、二者の合間に流れる空気は淡泊であった。

 草木を挟みて同じ道を歩むのは、目的がこの先にあるからが一番正しい。結構食われてるようで、とは、セキセイが散らかしていった骨一本を踏んづけてしまった夕立の与太話。
「何をそんなに願うことがあったんでしょうね。代償として怪物に殺されても後悔しないようなことでしょうか」
「さぁ……ひとの心とは大昔から、難しいものですので」
 会話も碌に続かない。
 別々のものをそこに見ているものだから。
 此処は願いの墓標、であれど灰に還った神社よりよほどひとに添っていると嘗て神であった女は思う。祈りを捧げる先としては断然。廃され、姿かたちなど得ぬ偶像のままであれる今が、或いはこの地も幸せであったか。
 叶えられぬ無力を嘆くこともなく――、それほどの花。見てみたいものだとの声が横から耳打てば、思考を断ち切るようにふいとかぶりが振れる。
(「守りましょう。いつか、本当に祈りが届くかもしれませんし、ね」)
「それよりも、意外ですね。矢来様がそんなお話をされるなんて」
「普通に好きですよ、花は。実際、ひとに願われて咲く花って綺麗ですし。人一倍ロマンチストですから」
 ウソですけど。最後にかけて此度の自己否定は早く、そのあとにぽつりと。踏みしめる草に紛れ掠められた一声、恐らく答えのつもりもない呟きは。 願いの代償、
「……。まあ、全く理解不能とも言いませんけど」
 雨、降ってきましたね。
 ちいさな紙傘ひとつ手慰みに折り上げて、結局一度も視線を交わすことなく、夕立は空を見上げていた。


 グリモア猟兵の話? ちょっと思い出せない。
 とりあえずでアーチのいくつかと扉をくぐった。右手に見えるレストラン跡、左手に見える濁った蓮池……まぁなんとなく好みで、奥にそびえる骨っぽいドームまで。
 隠・イド(Hermit・f14583)はさながら夢遊病患者の足取り。だとして妙に明確な規則性を持つ彼らと同じくに、こちらの男は"行って殺す"とのシンプルなソレに酷く忠実だ。
『ライネンモイッショニコヨウネ!』
「雑魚がうぜえな、こっち来んな」
 嘴突き出して熱烈なハグを求めるセキセイさまが視界に入ったなら、そちらを正視するまでもなくばくんと。
 花が蕾へ逆戻りするかの如く、伸ばし、異様に膨れ上がって開かれた五指が閉じて頭を喰い千切る。肩口から繋がった、咀嚼し蠢く肉は当然只人のものではない。"捕食"を特性として持つ、うまく人間に化けた化物。
 それが隠《ハーミット》。
「腹の足しにもならねぇ癖によ」
 吐き捨てては次々に、誘蛾灯かの勢いで寄りつく鳥を食らう、喰らう、クらウ。

 群れる小鳥の甲高い叫びは耳を劈くようだ!

 ――願いに寄せられたのか、
 ――想いを苗床にしたのか。
 考えても詮無きはなしにひとり心傾け、辿り着く宛てで咲いているであろうもののことを想い。
 すこしだけ楽しみだ、……そう、変わりのない"やること"に僅か色を見出していたというのに。
「どこの誰かしら。一太刀で切り捨てなくては、こびりついてしまうじゃない」
 暢気なお散歩日和ではない、などと惜しむ暇すら与えられず。
 ちょうど進路でもある。一路、音の方へと駆ける花剣・耀子(Tempest・f12822)の刻む足跡も既に随分と赤くなっていた。
 橋の下、干からびた浅瀬にひととき流れを取り戻してやったのも耀子。
『アノオハナ、ナァニ?』
『ウレシイ、ウレシイ、アイシテル』
 もちろんながら他者の赤にて。
 突き進むにつれ先達も減るのだろう、取り零されたと思わしき過去がうぞりと擦り寄る。
 ――、ヒトを真似る声は、嫌いなの。
「黙って頂戴」
 すりぬけ様の剣閃でそれを穿ち。
 自らが起こした風を翼とするように、高く。踏み跳んで塀を越えた先を見もせず撃ち込む白刃の嵐。
 小規模とはいえ竜巻が叩きつけられたかの衝撃は、集っていた軽い小鳥のからだを持ち上げ空に躍らせた。
 のみならず、触れる端から斬れるものだからバラバラショーだ。
 バラバラ……、いささか多い気がしないでもないパーツの理由ははたと顔を上げた男。
 ちょうど物ぐさにまとめて数羽、小鳥を丸かじりしていた――いちおうは、腕で――イドと、薄硝子挟んで視線が交わることとなる。
「あら」
「……おや」
 耀子様。

 ――本日もこのような僻地まで、お勤めお疲れ様でございます。
 顎の下をひたりとなぞる刃にも傅いてこうべを垂れる男。
 持ち上げられれば儘、上がり。
「お互いにね。らしくない戦いをしてどうしたの? もうすこしで斬るところだったわ」
「これは惜しいことを……耀子様に斬られたものなら、きっと美しく咲けましょう」
 断たれたところで替えが利くからだとは便利なものだ。互いにそれを知っていてこその軽口か、さして追及もせず剣を収めた耀子はさくさくと草踏み先を歩く。ドームは、もうすぐそこ。
「それに入口は反対よ」
「わたくしとしたことが。ふふ、すこし寝ぼけていたやもしれませんね」
 道具に正しい意味での眠りも何もないとして、続きイドの零した微かな笑いが空気を揺らした。
 半歩後ろを付き従う男の顔は、主たる女からは見えない。がらりと様変わりした在り方を知る小鳥は片されてしまったし。
 ポケットには何かの紙片と種。結局のところ目的などと忘れていても、こうして道は示されるものだから変わる必要も特にない――枯れ果てた平和のオリーブの木だかなんだかへ流れた血色の眼差しはただ、餓えだけを灯して。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『翠翁』

POW   :    縺ソ繧薙↑縺ゥ縺薙∈?
【意識】を向けた対象に、【対象の内部を植物に変えること】でダメージを与える。命中率が高い。
SPD   :    蝸壼他縲∝履蜻シ縲∝履蜻シ窶補?輔?
自身からレベルm半径内の無機物を【土壌に、猟兵を問答無用で植物】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
WIZ   :    縲主卸荳悶?繧ィ繝シ繝?Ν繝ッ繧、繧ケ縲
全身を【エーデルワイス】で覆い、自身の【周囲にある植物の数】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠フォルティナ・シエロです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 しずかだ。

 耳障りな鳥が居ぬだけではない。外と比べ、辿り着いたドームの中にはちいさな森めいて緑が息衝いている。
 果樹、熱帯植物、水生植物、園芸向きのもの……嘗ては何をメインとして飾っていたのだろう?
 もはや分からぬほど。

 分かることはみっつ。
 かたい石畳を捲り上げ、突き破りながら花々は法則を捻じ曲げて高く伸び、巻きつき、咲き誇っているということ。
 大半がちょうど……出口へ向けて傾き、雪崩れるみたくに混ざり合い、立ち並んでいるということ。
 一様に伸ばされた花の枝。花見の席以外、どこかで見た覚えがあるだろうか? たとえば事件現場。逃げ惑い助けを求める人々の――……。

 かさり、と、長大なバナナの葉が揺れる。
 緑がその領域を広げるように。間を割って現われたそれは蔦、によく似た、獣の前足。
 十メートルを見上げたなら、青白く光る双眸を見た。
 新緑の獣は黙して異物を見下ろしている。
 一筋、雨風にしては薫り高く硝子張りの世界を花嵐が吹き抜けて。
 "彼"の首では絡め取られ苔生した髑髏がからからと揺れ――舞う、エーデルワイス。
 白く小さく綿毛か星かに似たその花が、ここへ至るまで朽ちた骨の身を侵していた小花に、とてもよく似ているということ。
ナギ・クーカルカ
【花お任せ】
花が雨のようにふりそいで。
あなた綺麗ね。綺麗で残酷。ほんの少し、落ち着くの。
《ナギ》に似ていて。
美しいひと。花みたいなひと。
博愛、白い指先から蝕むような、残酷なひと。

あなたも籠の外へ出たいのね。
あの日の《ナギ》のように。
でも、いけないわ。それでは人が死んでしまうもの。
人が居ない世界は少々退屈だわ。

【少女の居眠り】
私は蛹、頭から爪先まで絹の糸。指先にキスをして。手を伸ばす。ひらひらと羽化して舞い上がる。愛しい子。
散らす火の粉。広がる熱。灰になるまで、美しく。

ああ。痛いわ。
蛹の中まで入ってこないで頂戴……!
ああ。でも、少し。愉快よ。
私にどんな花を咲かせてくれるのかしら。
教えてくださる?




 しずかだから。

 白き花雨に瞬きもせずに、ナギは獣を瞳に映していた。
「あなた綺麗ね。綺麗で残酷。ほんの少し、落ち着くの」
 《ナギ》に似ていて。
 美しいひと。花みたいなひと。――博愛、白い指先から蝕むような、残酷なひと。呟き落とす言の葉はひとりごとのかたちをしながら。
 雨みたいだ。ステッキが規則的に土を打つ。
 眠る子らを揺り起こすが如く。
「あなたも籠の外へ出たいのね。あの日の《ナギ》のように」
 それからそれから、"彼"の身を覆う緑をも一度じいっと目に楽しんだ。地球の命、虫の一匹をも許さぬであろう幽玄なる深緑。注ぎ返される眼差しはまるで感情滲ませず――それは、友を前にしたかの穏やかさを湛えたままの女もある意味では同様か。
 先にふるりと首を振るのはナギ。
「でも、いけないわ。それでは人が死んでしまうもの」
 人が居ない世界は少々退屈だわ。
 告げて――……オン・レーヴ。
 次に杖の先端が土に埋まったなら、恭しく解きて口元運んだ指先へ口付けて。羽化したての命が翅を伸ばすみたく。なめらかに宙へ滑らせた手からは、愛し子、白く美しき幾多の蛾が零れ出る。
 羽ばたきに飛散する鱗粉が、華やか以外に意味を持たぬのは束の間限り。
 触れる端からたちまち炎を振り撒きつ、翠翁へと迫るのだから。
「蛹の中まで入ってくるなんて、不躾な方とも思ったけれど」
 炎の前にたたらを踏む獣をよそに、そ、……と、絹糸の連なりめいたナギの繊細な指は続き自らの胸元を撫ぜる。
 そこには一輪の花が、芳しく香り立つまでに咲いていた。

 幾重にも折り重なった花弁はドレスのよう。桃から黄へと淡く色映りする艶やかなラナンキュラスは、ナギが纏うなら舞台女優の出で立ちだ。
 ああ。
「くださったこの贈り物……少し。愉快よ」
 《ナギ》にも見せてあげたいほど。けれども、しかし。
「フアンで終わってもらっては困るの。今日はあなたもスターでしょう」
 さあ、御一緒に? 魅せるものが、ロマンチックなラヴストーリーとは限らない。
 はらりと数枚の花弁が落ちて、それすら糧とするように蛾の群れは巻き込んでいった。ほろほろに身を食まれ、ときに焼かれる甘やかなる痛み。
 獣の嘶き。煌めく鱗粉が降り落つ炎の中で、夢見心地に恍惚と微笑む淑女がそこにいた。

成功 🔵​🔵​🔴​

二月・雪
▼確かこの辺りで埋めたはずだけど……
もうわからないね。すこし残念だなぁ。あいつの影響かな、そうだろうな。

▽そうだな。でも、こんなに植物があるんだ。
案外どこかに咲いてるかもしれない。終わったら一緒に探そう。な?

▼俺と人形は前に
俺と俺、とも言うね。人形に仕込んだ暗器で防御や攻撃を。
雪ちゃんに攻撃が向かわないように。
【呪詛】を纏わせた人形とその武器、味わってみて。

▽二月の援護
【呪詛】を放って支援をする傍ら、私を狙うよう密かに誘ってみるか。
敵のUCを受けるのは私だ。二月が標的になるなら割り込んで【かばう】
忘れるな二月、今のお前の体は私の体。
盾になるなら召喚体の私がふさわしい。

(変化部位・植物おまかせ)




 幕を開ける戦いに、徐にそこらの背の高い葉を掻き分けていた二月の手も止まり。
 あのとき――たしか、このあたりに埋めた筈だけれど。
「もうわからないね。すこし残念だなぁ。あいつの影響かな」
「案外どこかに咲いてるかもしれない。終わったら一緒に探そう」
 な? と宥める口振りで雪が問うたなら二月は首を縦に振る。約束、だ。
 その動きに呼応したかの如く二月と、そして雪とよく似たかたちをした人形の指がぴくり動いた。ぎ、ぎと持ち上がるそこから放たれるのは仕込みの暗器。
「そう考えると、一気に張り切ってきちゃうや」
 恋する二人に障害はつきもの。之をもデートプランのひとつに数えることなんて、二月には造作もなく。
 刃は五本線を引き一直線。がぎん゛ッと刃物同士が触れあったときの鋭さで、翠翁の昆虫が備える針ほどに鋭利な前肢の先が薙ぎ払う。
 ゆるやかに首を捻り向けられる仄暗い双眸の前。より前へ、と身を躍らせたのは、雪。
「こちらを見ろ」

「へっ? 雪ちゃ――」
 誓いの指輪から解き放つ駄目押しの呪詛は弾丸か。衝撃に逸れた青と雪の視線は絡み、ざわつき脛に感じた違和の正体は。
 秒を数えるまでもなく、露出の少ない衣服をも巻き込んで痩身と小指に緑、赤が咲いたのだ。ブラッドリリー、五月に見頃を迎える花は、永き眠りから理外れて目覚めたようにあどけなく。
 骨を砕きて肉を絞る気味の悪い音を連れ、引き摺り込まれる如く蔦が、根が身の内へ地の内へと這い進んで同化を誘う。っ、と、息を呑むもかんばせには平静を保ち、雪は唖然とした連れの肩を拳骨で押して。
「……忘れるな二月、今のお前の体は私の体だ」
 盾になるなら、召喚体の私がふさわしい――ぐらと傾きもうひとりが視界から消えてゆく様。まるで"リプレイ"。
 二月が伸ばした手は彼女を片腕にやさしく抱き留め、逆側の手はゆるり獣へ。
「あぁ、そうだね」
 でも、ほら。 触れてみればこんなにも本物だから、肯定は空滑り。二月の一手と重ね撃ち放たれた人形の――同じ顔をした死体の――のろい。纏わる執念は黒く渦巻き、真白い骨を欠けさせた。
「芯にまで沁みるだろう? どうぞ、じっくり味わってみて」
 笑わず笑んで。ここから蝕んでゆく、じわじわと。
 熟れて爛れて腐りて堕ちた、花実か恋かの末路のように。

成功 🔵​🔵​🔴​

終夜・嵐吾
獣か骨か、蔦草か
何にせよ放っておいてはならんものじゃろ

ふたりには待っててもらう事にしたが……これで、よかった
人の身を苗床に、草木がはえる
ふたりにそのような事、おこってはならん
わしの大事なふたりの身を苗床にするなど
きっと、ふたりは受け入れるじゃろうが、わしが我慢ならん

主よ、わしの右側、頬から首を通って指先までしばし這えば良い
草花這うより汝が良い
そのかわりその爪を、あれに
骨を砕くか、その身を斬るか、それはなりゆきのままに攻撃をかけよう

身の内が変わるなら丁度良い
違和感あれども見た目にわからなければ隠すのも簡単じゃ
ふたりが、心配するからの
……でも心配してもらうんも、それはそれでと思ってしまうんじゃけど




 間近へ振り下ろされた鉄槌じみた蹄を、前へと跳んで潜り抜ける。
(「獣か骨か、蔦草か」)
 何れにせよ放っておいてはならぬものだとして。
 "彼"の意識に土足で踏み入ったその刹那から例外なく、嵐吾の身にも異変は訪れていた。着地にとんとついた手の腹に罅を生み、蔓延る蔦がその証明。
 だが。
「主よ、しばし明け渡そう」
 この半身――草花這うより汝が良い、吟するよう囁いた途端に生命の色は塗り替えられる。黒き紋様……茨によって。溶け落ちる風だ。ざぁと右目から伝った無彩が、頬から首、肩を流れて右の指先まで至る様は。
 ぞわ、 覆い尽くし蠢く様は荒れる獣のかいなに似て。
「そのかわりその爪を、あれに」
 獲物を屠るのだ。

 ――ふたりには外で待っていてもらうことにして、よかった。
 身を跳ね上げさせた異形の腕、度し難い力に土の地面は抉れる。変わらず距離を保たんとすUDCへと四足の野生同然踊りかかりながら男が想うのは、それだけ。
 胸元目掛け爪を翳す姿は荒々しく。
(「連れ来て、わしの大事なふたりの身を苗床にするなど。きっと、ふたりは受け入れるじゃろうが……わしが我慢ならん」)
 人の身を苗床に、草木がはえる怪異。
 現実に味わっておきながら、自らの身を案ずることのひとつもない。翠翁の敵意が完全に集中したためか、ずくり、身の内を蝕んでいた緑の尚更に暴れる気配。
 をも発条に、嵐吾はその右腕を振り抜いた。
「喰われた分を喰ろうてしまえ」
 狙い通り。豊かに蓄えられた深緑の茂みを深く裂けば――グル、と低く渦を連想させる唸り声に続き、刺し貫くべく蔦這う前肢が突き出される。
 ともすれば致命打、しかし動ぜず。寸でで身を捩り右の肘で多くを受け止めることが叶えば、肋骨の僅かに下、横腹……裂けた肉の隙間からは、木犀科の花と新葉とがざらざらと流れ出た。
 甘い香。
 金に、望まれた種にはなれなかったもの。赤みを帯びたそれを疎むかのように自ら引き摺り出しながら、浅い息ひとつ。
「――は。これは、会うまでに、塞いでおかんとの」
 ふたりに心配させてしまう。
 とはいえ……心配してもらうのも、それはそれで。醒めぬ眼光の鋭さと別にすっかりやわくなったらしい己の心模様にこそ、吐き捨て握り潰す花弁以上にくつ、と、喉は鳴った。

成功 🔵​🔵​🔴​

エンジ・カラカ
ロカジン(f04128)

自然?自然?
アァ……アレはとーってもイイ。
なんたってでかくてかっこいいからなァ……。

花だらけでオシャレオシャレ
緑が最高じゃあないカ
あの花は何て名前の花だろう。ロカジンは知らないだろうネェ。
知っているのカ。すごいすごい。
賢い君、賢い君、知ってるカ?
そうかそうか。

アァ……首が花だらけ。大変だなァ。
ちょんぎる?ちょんぎる?
えー、仕方がない。
緑のでかいやつをやるしかないですネー。ネー。
薬指を噛み切って戦闘体勢

ロカジンこれこれ、コレの薬指、白い花!
コレは知っている。この前会ったからなァ。
シロツメクサという花ダ。賢いだろう。
花の冠だってできるオシャレな花。
ちょんぎる?この指はダメ。


ロカジ・ミナイ
エンジくん(f06959)

色んな草花が一堂に会してるなんて、僕感動
でも無理やり作った不思議は、なんか嫌
ああ、自然が一番さ
でっかくてかっこよくてつよいからねぇ

賢い君さんも花に詳しいのかい?実は僕も分かるよ、アレはね、

……!ホラ、いたよ、でっかいの!
首のとこ骸骨でオシャレしてる
お花もたくさん付いてる
うんうん、いい感じだよ君
やっつけ甲斐のある見てくれだ

おやおや
僕の首からエニシダが生えてくる
おお?おお?エンジくん、ちょいと見ておくれよ
僕の首が、ハハハ、可愛いエニシダに取られてしまうよ
ああ……あの子のお花だ、エニシダ
カカカ!エンジくんは薬指かい?洒落てるじゃないの

(とかふざけながらやっつけます)




「自然? 自然。アァ……アレはとーってもイイ。なんたってでかくてかっこいいからなァ……」
「ああ、自然が一番さ。でっかくてかっこよくてつよいからねぇ」
 苛立ち露にするUDCのなんのその。より間近で拝もうと浮つく足取りのエンジを止めもせず、色んな草花が一堂に会して僕感動ってな顔で手を合わせるロカジ。
 それに花だらけでオシャレ。緑は最高だし、撒かれた花の名だって気になっちゃう――と、巨大な脅威に出くわしての二人の雑談はべた褒めからはじまった。残念といえば、その不思議がつくりものに過ぎぬこと?
 危機感は既に植物へでも変えられたのか。
 身の内をさらう痛みもあるのだかないのだか、少なくともブレーキとならぬのはエンジが証明済だ。
 ちりちり。
 歯を立てる薬指には未だ赤い血色のみ浮かべ。
「名前、ロカジンは知っているのカ。すごいすごい。賢い君、知ってるカ?」
 持ち前の輝きを増しゆく拷問器具を撫でやり頷くそのやや後方で、おおっと上がる声こそ場違いな平和さを醸し出していたものの。
「おおー……エンジくん、ちょいと見ておくれよ」

 呼び止め、天仰ぐ風に晒す首筋。ロカジの肌を割って椎骨の延長のようにぐんと突き出た茎には、鈴生りの黄色が。
 愛らしい花言葉を幾つ持ちながら、こと恋においては不遇なそれは。
「僕の首が、ハハハ、可愛いエニシダに取られてしまうよ」
 ――ああ、あの子のお花だ!
 今にも躍り出さんばかり。すかさず自らの首元へ伸ばされた狼の爪から逃れることができたのも、ロカジのその大仰しい身振り手振りが故の幸運ともいえよう。
「ちょんぎる? ちょんぎる?」
「や、聞く前にちょんぎろうとしてたよねぇ今?」
 いたいしダメ。そう、すこし掠められただけだがじんわり痛みが広がるのだ。
 まるで共に生きているみたいに? ――くっ、と吐息が笑いを帯びたのは、聴きようによれば己への嘲笑。
「第一さ、そちらさんも立派なのが生えてんじゃない」
「アァ……コレは知っている。この前会ったからなァ」
 薬指に花。流した血ですこしばかり紅に染まって尚、白く。
 消えぬ痕を辿りて重なるみたく巻きついた、シロツメクサ。冠にもなる。賢いだろうと得意げに名を口にされ、且つ見せびらかすかの様相で眼前寄せられる花の指輪へ「カカカ! 洒落てるじゃないの」好奇心のまますすーっと伸ばされたロカジの指もぺいっ、すげなく振られて。
「ちょんぎる? この指はダメ」
「あらら。となるともう、いただいちゃっていいのはー……」
 オシャレでいい感じな。あちらの緑だけ、というわけだ。

 いつかの約束ごと食むみたいに。ついに深く噛み切られたエンジの薬指からは、混ざり気のない白色花弁が零れ落ちた。この傷を上塗りしてよいのは、己が牙のみ。
 一を避けられ踏み躙られたとて、執拗とも評せる二で絡む。
 賢い君、すなわち辰砂が勢いも弾んで獣の足首へと結びつく姿は、上向きな主の機嫌が現れた風で。
 翠翁の怒りに触れ、赤々とした鱗の磨かれた表面に若葉が芽吹く。エンジの手の甲にも肌という地を割って、ぴょこぴょこ揃いの芽が飛び出した。……つまりはもう一人にとっては、今がチャンスですという意味に他ならず。
「葉っぱ。お次はなァんだ? 賢い君にも分からない?」
「……それって薬草だとかも生やせるのかい?」
 変化に嬉々とする有様がよく似ていて、飛び込む男などはそこへプラスして商売相手にでも尋ねる口振りと根性。
 あわよくば楽して活用しておこうだなんて――まさかまさか。しーっかり、ロカジが抜き取った長簪の内の刃もその役目は果たしていた。
 ギヂッ!
 狼らに稼がれた一瞬。駆けこんだ足元で緑の蔦を二筋ほど断って、苔をも削ぎ骨まで抜き出れば肌の粟立つ音が立つ。ぽぽこんっと顎からも顔を出した黄色の花はなるほど、随分と殺意が高いようだけれど。
 喉の狭まる閉塞感すら心地好い。
(「この息の詰まる感じ。なつかしいなぁ……」)
 "夢中"になっているときみたいだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

絢辻・幽子
あぁ、骨から花が生えていたのは……そういうこと?
綺麗な花になって終わるのは少し羨ましいけど
……まだ死にたくないわねぇ
おいしいご飯とかお酒、楽しみ足りないし。

私は操作、操る側ですから、操作なんてごめんですよう
花ならば燃やして差し上げましょう
ふふ、それと、お散歩の紐……というか糸をさしあげましょうねぇ
『傷口をえぐる』のは得意ですしついでに『生命力吸収』
も、いたしましょうか。
無機物を操るなら、お人形さんはないないしましょう
駒にされた方へ攻撃はしませんが『オーラ防御』はしますよ

怪我には、申し訳程度の『医術』を

(咲く花はレンテンローズ
のらりくらりとした人を喰った様な女狐
尻尾を汚されると怒る、とても)


夏目・晴夜
ああ、なるほど。生きた肉を野菜に変えてしまえるのですね
すごい能力です、まるで物語に登場する神のようではないですか!
この上なく忌々しいです

「喰う幸福」での高速移動と衝撃波で斬り裂いて【串刺し】にして参ります
確かに私は花のように崇高な存在なのでしょうが、
本当に花にする必要はないと思いますがねえ

一般人と思わしきものは決して傷付けないよう留意
私自身はどの部位が植物化しようが千切れようが気にしません
寧ろ敵に操作されて厄介な事になりそうならば、自らひと思いに千切ります

戦いの最中における判断基準は、私の気に障るか否かです
自分の身体の一部だろうが何だろうが、
このハレルヤの気に障るものは全て消して差し上げますよ




 似たように。なるほどなるほど、と言いたげな瞳をしているのは狼と狐。
 双方ともそこに湛えた好奇の色は褪せず。
「生きた肉を野菜に変えてしまえるのですね。すごい能力です、まるで物語に登場する神のようではないですか!」
「綺麗な花になって終わるのは少し羨ましいけど……まだ死にたくないわねぇ」
 ――この上なく忌々しいです。
 ――おいしいご飯とかお酒、楽しみ足りないし。
 ときた。
 "訪れるかもしれない"己の窮地などこれっぽっちも案じない、のびやかに晴夜がしならせた右の手に青から黒、尾を引いて怨みの霞が靡く。はた、  はた。まるでうつくしい夜の暗幕は、刀揮う軌跡にならって翠翁へ襲い掛かった。
 そうして串刺す風の刃に僅かも遅れず駆ける様こそ、神のようであったかもしれないが。生憎と獣。万物を慈しむなどとくそくらえに踏み荒らされる生まれたての花々は、悲しげに散りばめられ――そこに蟠る嘆きすら力のひとつとなるのだろう。
「うふふ」
 花。ならばどうするかって? 燃やして差し上げるのみ。
 幽子のそれは火遊びを愉しむ女の貌。てんてんと宙へ躍らされた糸は僅かずつ苔に覆われても半端で千切れることはない。何故なら、血よりも濃い赤い糸なんだもの。岩を、蔦を、大木を、悉く障害を一振りに断つ狼の足取りを追いかけて、追い抜く頃。
 絡まり合いいつしかひとつの炎弾と化していた赫ゐ絲が、刃の嵐を飛翔し脱した翠翁の着地、微かな隙をつき叩き込まれた。

 色とりどりの花が、ただ炎の中に溶ける。
 ル、ゥル……押し返される分、踏み出したUDCからは抗議めいた音が上がった。その蹄が荒らされ石の露出した地を蹴って。先までよりも一層色濃く、早送りに芽吹いた緑が晴夜の、幽子の足元までも呑むは直後。
 蹴りゆこうとした次の一歩がどうにも踏み出せず、地面に縫い留められる錯覚――大方、微細な根でも仕込まれたか?
「あら、そんなに大事なお花だったんです?」
「確かに私は花のように崇高な存在なのでしょうが、本当に花にする必要はないと思いますがねえ」
 するり伸び上がる蔦が刀握る指、糸手繰る指に絡めばぎゅちっと音が鳴る。
 ひとりでに動き出す指の先……こわいこわい、などと茶化す声まで似通って。染み付いたうらみつらみに惹かれた風にも、幽子へ向きかけた悪食の切っ先が突如として力無く垂れたのは、使い手たる晴夜が腕の筋を――今は緑を、千切り落としたから。
「まーっ……たく、品がない。そして感性までもない」
 このハレルヤを前にして、腕一本飾ればいいやというその貧相! 気に障るとも。雑に地面へ放られた用無しにはちいさな花が群れている。決してひとり舞台は張れぬ控えめな淡紫、ブルーファンタジア。"永遠"?
 鼻で笑い。刀すらもまた己が獣性を構成する一に過ぎない。どこかの偉人のように念じるだけでごおっ、と、呪詛孕む刃は吹き荒び花の海を割れるのだ。命は疾うに力の苗床でしかなく、今更に緑の付け入る隙間など、あるものか。
 散る、散る。散らされる。 かぶりを振る獣の身が次に覚えたものは、ぐんと引かれる感覚。
「そうねえ。どうしてもと言うなら、お野菜もすこし食べておきましょうか」
 レンテンローズの物思い俯きがちな優美はしかし、手酷い毒を秘めるとはご存知だろうか?
 今はお散歩の紐でもある、赤糸。支配領域を広げんと狼の頭へと伸ばされかけた花実を弾き落としながら、もう一回り炎はぐるん。骨の浮く足首を焦がし二重に絡んだ鋼が強いる"うごいちゃだめよ"は、蔦や枷と比べ物にならずずっと強固。
「悪くないお味ね?」
 突き立てて吸い上げるいのちに、ぽこぽこと肩口から首筋まで咲いた花は瑞々しく揺れて。
 本当にお花になった気持ちよ、なぁんて。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鳳仙寺・夜昂
植物園の現園長さんってとこかね……綺麗とは言い難いな。
……その花……。

オブリビオンに見られた瞬間、腹の中に違和感を覚える。
耐えきれず膝をついて吐き出したものは花の花弁で。
訳が分からないながら咳き込む。

花にされて、さっきの鳥みたいに喰われるんじゃないかとも思う。
……こんなんで、死んでたまるか。

錫杖を支えに【激痛耐性】と【気合い】で無理矢理立ち上がって、
『灰燼拳』(【カウンター】【グラップル】)でぶん殴り。

……花になって死ぬ、なんて、綺麗すぎて俺には合わねえよ。
もっと見るも無残か、あっけないかだろ、死ぬのなんてよ。


※血は桜に。他はお任せ
※絡み・アドリブ歓迎
※部位切断以外ならどんな描写でも大丈夫です


冴木・蜜
…植物か
私に根付く彼女を思い出しますね

視界に翠翁を認めた瞬間
目にキスツスが花開いて
次いで首筋、…それから全身
そこで相手がどんな性質かを察する

…っ、咄嗟に閉じた片目は無事ですけれど
このはらわたを掻き回される感覚は
この花は…、嗚呼 厄介な

ですが
苗床に私を選んだのは失敗です

私は死に到る毒
完全に植物化する前に――体内の彼女が暴れ出す前に
私の毒で融かし尽くします

体内の毒を濃縮し
植物化を食い止めつつ
その上で攻撃力重視の捨て身の『毒血』
範囲攻撃を駆使し、翠翁を毒蜜で絡めとります

無秩序な繁栄は許されない
不要な樹々は枯らさねば

ああ、もう…
貴方の苗床は死守しますから
腹の中で暴れるのは止めてくれませんか


渦雷・ユキテル
混ざり合い咲き誇る花を一瞥
わー、バーゲンセールみたいにごった返してたんですかね

ヌシ様、人が寄り付かなければ放っておいてあげたかったなぁ
此処にぴったりって感じですしー
あ、前足の蔦。あれって筋肉の役割果たしてそう
千切れて骨だけになれば動きにくくなるんじゃありません?
特に動きに支障が出そうな箇所をUCで探って
クランケヴァッフェの【範囲攻撃】で断ち切ります
【属性攻撃】も重ねて切断面を電撃で焼くように

花束なら喜んで受け取りますけど、自分がなるのはお断りです
この身体をちょっとでも変えたなら
舌打ちしてからお仕置きを
大事な貰いものなんですから、さっさと元に戻してください

※絡みアドリブ歓迎
花:アネモネ NG無し


加里生・煙
敵対行動をとるなら、誰かを傷つけるなら、どんなに美しく見えようと、お前も倒すべき敵ってヤツなんだろう?
容赦はしない。最初からアジュアを呼んで真っ向から叩き伏せてやる。
植物の生い茂る空間じゃ、視界が悪くて銃火器はやばそうだ。
やるなら至近距離で確実に一撃当てねぇとな。
撃って、撃って、撃って。花弁を 散らして、散らして、散らして――
…いいな、あんた。死ぬときも 綺麗に死ねそうで。

…っ あ。あ?身体に……これは……赤い…血のような……彼岸花…
……へぇ、俺のことも 綺麗に 殺してくれる、ってか?
オマエじゃぁ、殺されてはやれねェかな。

……なんて、あれ。なんだっけ。何を思ってたんだっけ……?

アドリブ絡みOK




 重ねられた制約が花として散らされる前に、横合い。
 縛られる獣の身へと群青色をした風が吹きつける。
 否。 風として以外捉えられぬ一陣の、それは巨狼の姿をした亡霊であった。
「汚ねぇとは言わないがな。どんなに美しく見えようと、お前も倒すべき敵ってヤツなんだろう?」
 敵対行動をとるなら。
 誰かを傷付けるなら。
 加里生・煙(憑かれ者・f18298)の閉じられた左の瞳から爛々と逢魔が時が滲み出している。薙ぎ倒され、もつれ合って転がる翠翁の、一拍前までは頭があった位置をずっくりと貫いて落とされたのは槍の一刺し。
「ヌシ様、人が寄り付かなければ放っておいてあげたかったんですけどねぇ」
 浴びる血のない点滴台は退屈そうに揺れて。
 それでも首の緑は幾つひっ捌き、梢から飛び降りざまに得物を掴み上げ肩へ担ぐ――速攻を仕掛けるユキテルと、煙とが飄々と翠翁へ相対した。
 裂かれた分厚い深緑のうちからも葉が、花が零れるのみ。
(「……植物か。私に根付く彼女を思い出しますね」)
 獣と二者の立ち回りを見遣り分析をはじめていた筈の蜜の右目。しかし不意に、闇へ閉ざされて。
「これは――」
「っ あ――ぁ?」
 ほぼ同時に煙の声も上がる。攻撃を受けてもいないのに、利き腕から血が流れ出た?
 違う。
 赤い紅い、一輪の彼岸花が咲いたのだ。
 己が首筋に、胸元に違和を感じて蜜は漸く気付く。片目に暗闇が広がったときには知れずいたこちらも、花。 キスツス?
 直ぐにはらわたを掻き回される感覚が襲い、膝が笑った。厄介だ。溶けてしまいそうだ。かたちなく……、だとして。
「どうせです。枯らしてからでも遅くは、ないでしょう?」
「あァ」
 当然であると言いたげに。逆側の手をも添えて照準を持ち直す煙が、構える端から弾丸を見舞う。撃って、散らして、散らして。 そうして届かせるいつもの戦いにはこの程度、すこしの狂いも生じない。
「……いいな、あんた。死ぬときも 綺麗に死ねそうで」
 現場仕込みの射撃術は屈強な精神に後押しされて、花吐く獣の図太い骨一本を吹き飛ばした。
 即座に持ち直す二人のやや後方、がっちりと視線の絡んだ夜昂に至ってはその影響は顕著。
(「ぐぅ……ッ、んだよ、これ」)
 噛み殺し切れぬ嗚咽が喉を通る。かさついて逆撫でされる粘膜がますます嘔吐感を促して、崩れる地面へ膝と手をつき吐き出した内容物は――だが。既にひとの身に収めるべきかたちからはかけ離れていた。
 淡く儚い桜が混じった、  蓮。
「かは、  はァ」

 ……花に、内から、作り変えられている?

「あれれーもしかして早速ユッキー霊園がご入用ですか?」
 果たして同じ責め苦を受けているのか、傍目には涼しげに――すこしも嬉しかないがその手の痛みには慣れてしまって――ユキテルは、流す汗のひとつも落とさず見下ろしている。つんつん、と死体にそうする風に槍の柄でつつく咳き込む知人の肩。
「ンな、わきゃ。ねえだ ろ」
 そ? とそこからすぐに強く取り持ち薙いで花嵐を迎え撃つものだから、バーゲンセールの名残ごとユキテルが巻き上げた土は未だ地を這う夜昂にまで盛大に降りかかる。だから土葬は結構だというのに!
 一種の目晦ましとも働いたそれに息止めへの字に歪む口元。 そうだとも。……こんなんで、死んでたまるか。
 耳の左右を騒々しい風が叫ぶ中、屈めた身のまま杖を支えにせり出して踏み込めば、そもそもの元凶と間近でご対面だ。
「……花になって死ぬ、なんて、綺麗すぎて俺には合わねえよ」
 もっと見るも無残か、あっけないか。
 死などとそんなもの――指が指の役を果たせず取り落とした錫杖は声もなく土へ。だが、ひとの腕はもう一本。掬いあげる角度で打ち付ける左の拳は守る術を放り出した灰燼の一手、完全に緑へと同化しきる前に、 迸れ。
 ゴッ 、
 鈍いこれは、骨が骨を打ち据える音。
 ちょうど互い互いに侵食し合ったかの如く、獣の身には血色の花が。男の拳には薄紅色の花が。ぶわりと広がって元の色を呑んだ。
「っ、へ」
 ざまあみてろ。よろめくも同時、異なる点はといえば、夜昂が身に受けた桜の根は止まず狂ったように急速に張り巡らされること。
 手首、腕、肩と伝ってみっつも数えぬうち首へ。"裏返す"つもりか、皮膚と肉とを内へと引き摺り込まんとするその力。許容範囲を超す痛みを拒み白みはじめる意識……、だったが。
「やばば、鳥さんコースですねそれ」
「――ってえなあ!?」
 それはもう無遠慮に、首の。一応は致命傷とはならぬ骨の上を刺しつける穂先が、ふつんと断ち引き戻す。元・そこそこ重要な血管だったりするのでは? まぁ、遅かれ早かれという話ではある、か。
 やってのけたユキテルは抗議に耳傾ける素振りすらなく、イチカシですよと笑って踊る。から、動き止めるまで泥臭くも続くのだ。
 合間に、深緑へ触れるほど傍まで蜜が跳ね飛んでいて。
 身に数多の植物を宿すものとしての本能的な危機感か。今の今までタールへの接触を避けていた翠翁の蹄が、夜昂へのトドメを狙って急いたか、ここにきてそのやわいからだを貫いて"しまった"。
「……ふふ、」
 ふ――詰まる笑みの微かな振動にもでろでろ零れるものは黒い液体ではなく、出涸らしじみて灰白。死を告げる筈の花は、だが、自らの迎えにはなってくれぬようだ。
 キミのために、咲いて差し上げたのです。苗床として己を選んだことそれ自体が誤りであったと、吐き出され獣へと這い上がり、降りかかる花弁が。
 うつくしいそこに浸された猛毒が告げたなら。

『――――!!』
 手術台の上、麻酔無しに神経をかき乱された患者同然。ぐねんと激しく身を捩っての体当たりが盲いた男を軽々突き飛ばし蔦這う石柱へと打ち付けんとす。すぐに駆けた煙とアジュア――彼の群青の青とは受け止め衝撃を和らげるとともに、正面切って方向を転換。
「あとはこっちでやっとくさ」
「ええ、では……お言葉に甘えて、すこし」
 ともに置き捨てられた言葉はつっけんどんながら、曲がってはいない。ユキテルもまた段々跳びに草木の合間を上下しすりぬけ、煙の逆側を取りて標的へと詰め寄っていた。
 引っ掻き傷程度の浅い傷随所からは、微かながらも花弁がはみ出している。アネモネは、青に紫、赤。本来はうんと綺麗な筈が、あまりに混ざり合い混沌とした色をして。
 ――血だか臓物だかなんだか知らないが。 知己へ向ける愛らしさと打って変わって舌打ち一度、
「大事な貰いものなんですから、さっさと元に戻してください」
 この身体を好き勝手にされることは。苦痛以上の、苦痛だ。 引き絞ったクランケヴァッフェは光迸らせ、まだ距離のあるうちから横へ振るわれて。
 広範囲にスパークし、翠翁の巨体を束の間身じろがせたかと思えばそれは牽制。
「向いてねぇんじゃねぇか? オマエ、殺しによ」
「ほんと。花束を贈るくらいの甲斐性を備えてほしいですよね」
 自分のことも、綺麗に殺してくれるってなら笑える話だったけれど――コイツじゃあ殺されてはやれない。眇めた黒の視線が射貫くに従い銃弾は飛び立ち。
 続けざまに冴えた穂、本命の雷撃が同じ箇所へと炸裂すれば、筋肉にも似た片脚の蔦がまとめて派手に焼き切られた。
 すぐに獣は嘶きて後ろ足で立ち上がり、高所からの踏み潰しに出る。
 銘々に距離を取る中アジュアも賢く、背に乗せた替えの効かぬ憑代の男を後方へとふるい落として盾となった。
 派手に転がり落ちた先でやわい葉に抱かれ、混ざり合うように口元から花を落としながら煙は、くくっ、と乾く笑いを零して。汚れた片手が顔を覆う。
 なんて、――あれ? 今、何を思って。なんだったか、な。

 …………。 炎に、雷にぐすぐすと焦げる紛い物の草花たち。
 剥き出しとなって、更には削れて変色した獣の前肢、骨がギィギィ音を立てる。
 そんな彼らを見送るまま自重に逆らわずずるりと沈んだ蜜のからだは、今や下半分まで液状。ぼやけた視界、黒色の膜の向こうに、透かしたみたいに薄っすらと可憐に花弁が覗く。次々に増える。花にとっては美味いのだろうか? よくもまぁ、躊躇なくこの身へと這い進むものだ。
 毒とはときに離れ難く甘美であるとも云うが――。
(「ああ、もう……貴方の苗床は死守しますから」)
 中で暴れるのはやめてくれ、そう。
 栄養剤なしに騒めく体内の"先住者"を再び寝かしつけるかのように、ゆるやかに腹を撫でる手がまた、花の白に染められる。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

シエナ・リーレイ
【人形館で参加】
アドリブ可

鳥さんいないよぉ……。とシエナは項垂れます。


可愛い鳥さんに会えるという噂を聞き、お友達と共に廃墟を訪れたシエナですが、鳥さんは既にいなくなっていました


皆どうしたの?とシエナは首を傾げます。


鳥さんに会えず意気消沈するシエナですが突然現れた不思議な動物にそれも吹き飛び抑止の声を振り切り突撃します

突撃の最中、何故か転んでしまうシエナ
後ろを振り返れば驚きの表情でシエナを見るお友達の姿があり、よくよく見ればシエナの身体が段々と様々なお花になってきているではありませんか

自身の身に起きた異変に混乱するシエナですが視界がムスカリ、フリージア、黒薔薇の花で埋まると微睡みに堕ちるのでした


シトー・フニョミョール
【人形館で参加】
花に願い事ですか、なかなかロマンチック…なのに水を差すオブビリオンがいたものですね。
今回は仲間もいるから楽勝ですよって、あーっ、さっそくシエナさんが突っ込んでった!?

どうやらこいつは見た人を花にするようですね。
それなら見ないようにして、動きはのろそうなので大体の位置からフックをひっかけて足止めしましょう。

て、あれ、身体の中から根が張ってくような感覚が。(身体がひび割れ、花が伸び始め)
しまった、こいつは意識を向けるだけで植物にするやつでした。

腕が、目が、花になって、動け、ない…

(植物化した後、服が土壌になり操られ始める)

アドリブ歓迎、忠誠に関係する花言葉の花だとありがたいです。


ポーラリア・ベル
【人形館で参加 アドリブ歓迎】
 ご飯になったり、飾りになったり、妖精になったりするけれど
今日のあなた(花)はすごいのになっちゃったね。

 わ、皆お花さんになっちゃった!可ぁ愛い!あたし冬だけど枯らさないよう頑張るね
 エーデルワイスの塊が突進すると思うから
【属性攻撃】氷の光で【目つぶし】しながら、サイコキャノンでうまい事躱してみるよ
 攻撃受けても受けなくても、見ちゃったから、鏡に映るね
植物になる前に【氷幻鏡】でポーラもエーデルワイスだよ!
 遘?#縺ッ縺薙%縺?繧って、コアっぽい所に突撃しくっついて、逆に侵食しながら
【属性攻撃】【全力魔法】【捨て身の一撃】で一緒にエーデルワイスの氷オブジェにするよ!


テフラ・カルデラ
【人形館で参加】
アドリブ可

お花に願い事とはとても素敵ですね~♪
それにしても違和感のあるこの植物って…もしかして犠牲者?なんか怖くなってきました…
も…もしかしてこのオブリビオンが?これ以上被害が増える前に退治しましょう!

…ってシエナさんが先走ってる!?ウィザード・ミサイルで後方支援をします!
あ…あれ?シエナさんの身体が…植物に?まさか犠牲者らしき植物もこれに?
そんなこと言っている間にもシトーさんまで植物にされて…
さ…さすがにこれはまず…地面が土壌に…それに足が!?
感覚が…気持ち悪い…やだ…みんなと同じ…植物にされちゃう…
あ…身体中から…花ガ…咲イ…テ…
(テフラの誕生花が咲くとありがたいです)




 お話を耳にして。お花にお願い事だなんてロマンチックだねって年頃の女の子らしく、みんなとはしゃいで。
 それから道中で見かけたかわいい鳥さんを追いかけていた筈なのに、目の前にいるのは、おおきなお馬さん?
「ふぇ……?」
 セキセイさまを見失い意気消沈していた顔をゆっくりと上げるシエナ・リーレイ(年代物の呪殺人形・f04107)。
 そこにあるのはちょうど他の猟兵らの猛追から飛び退いて、天より降り立った翠翁のつめたい瞳だった。ドームの崩れた隙間を潜り抜けた先で不運にも出くわしたのだ。
 背中から一緒に来たひとたちの声がする。
 自分を探し、呼び止める声。
 だが本能的に"彼"をオブリビオンであると察知したからだは弾かれたように飛び出す。
「あなたは」
 正しくは、飛び出そうとして、大きく前へと転んだ。
 打ち据え擦り剥けた鼻から血が零れ――否、 はなびら? 柔らかく落ちたそれを両手で受け止める首が自然傾くも、引き攣る感覚。
「あれ、」
 理解の間も与えられない。間髪入れず、腹を預けていた緑の地面がざわりと波打つ。
 一気に背の伸びた花々はシエナの全身を押さえ込むかたちに広がって、包み閉じて……そのときだった、遅れてシトー・フニョミョール(不思議でおかしなクリスタリアンの従者・f04664)らが駆け付けたのは。
「あーーっ! シエナさんまたそんな突っ走ってぇ!?」
「もおぉ、待ってって言ったのに!」
 テフラ・カルデラ(特殊系ドMウサギキマイラ・f03212)はすぐに炎の魔法を唱えた。ごおと空気を焦がす赤々とした矢は数を増やしながら新緑の獣へ、とともにシエナの身を呑む草花へと迫るものの、今日だけでも散々炎に焼かれたのだろう。強い警戒心で翠翁は身を躱し。
「は……あれ? シエナさん、それって大丈夫なんですか? それに周りの植物……」
 ひとまず彼女へ駈け寄らんとテフラが踏み出した足については、困惑に止まってしまう。
 シエナからの応えはなく。立ち並ぶ気の利いたオブジェもがまるで、人間の姿をしていたものだから。
 ひ、 短く詰まった悲鳴を獣はなんと受け取ったのか。畏れよ、ひとのこよ。言葉を解していたのならばきっと、そうした重みある足取りで一歩。 詰められる距離は、それぞれの脳裏へと警鐘を鳴らした。
「視界に入ったらまずそうです」
 シトーは冷静に。
 テフラの腕を掴んで共に茂みの中へと身を隠す。あれだけの巨体、きっと動きは鈍いに違いないと見越してフック付きワイヤーを構えて潜める息。

 しかし翠翁の"敵意"は邂逅の刹那、既に彼女らへと注がれた後だった。
 ぱり、 ぱりぱり。

 なんだか不思議な音がする。虫が穴を掘るみたい……シトーがふと音の元へと視線を落としたなら、なんと、そこは己の腕だ。
 そしてテフラの。 肌を内側から突き崩すように、芽吹いた緑が押し上げる、音。知覚して漸くやってくる痛み。
 瞬きののちには、青々とした蔦が勢いよく突き出して互いの手と手をきつく繋がせる形状へ捩じれ絡まった。
「――あっ、わ!?」
「あちゃー。あいつはあれでしたか、意識に入るだけでアウトなやつ」
 これにはシトーも悠長に頬を掻いている場合ではないと分かる。
 だって、その薄皮もがぺりりと剥がれてしまうから。
 がくん!!
 後方へと強い力で引き摺り込まれる感覚に、思わず二人は目を瞑る。後ろ頭を打つ土の地面。同時、シトーの眼球があるはずのそこに、瞼を押し上げぽぽぽぽと群生するアキレアが花開く。
 次に、喉。 唇の上。中、次々次々!
「どとどどうしよう、どうすれば……シトーさん、しっかり」
 なんとか動く片手でクリスタリアンに絡む花に蔦を一生懸命に引っ張る少年。
 けれどもそれは、かたちを変えたとはいえ肉体そのものだ。この位置ならばそう、舌か。
「~~ンぐ、うぅ!」
(「いったあぁ……!!」)
 やめてと本来ならば年甲斐なくたつかせてしまっただろう足は既に緑の下。のたうつ彼女に更に蒼褪めテフラは、腕を捨ててでも身を起こし助けを呼びに走ろうとして、気付く。
 足、が。

「わ、皆お花さんになっちゃったんだ! 可ぁ愛い!」
 苦境にひょっこり姿を見せた四人目、フェアリーのポーラリア・ベル(冬告精・f06947)はといえば危機感の欠片もなく。
 笑めばちりんちりんと冬告げのベルを鳴らして皆の周りを一周。
 シエナ。シトー。最後にテフラの健康的な褐色肌を苗床にするは紫のストレプトカーパス、ピンクのクリスマスカクタス、真っ赤な椿――どれも素敵!
 声にシエナの、ひとの見目を留める唯一といっていい右目がくるんと動いた。
 痛みはないのだろうか? 安らかにも映るその姿。
「とっても気に入られちゃったみたい。あたし冬だけど、枯らさないよう頑張るね」
 くすり無邪気に告げ、ポーラリアは振り向きざまに元凶、翠翁に氷の矢を雨霰と見舞う。
 三人を一挙に沈黙させた直後ということもあったろう。やや反応の遅れた、油断を見せていた巨獣の身はうち数本にどっと貫かれ。
 眼窩へ吸い込まれたひとつは、からんころんと小気味よい音色で骨の内を通っていった。
「ふむ? 中もスカスカなのかなぁ」
 ならば、次。
 すこし削ぎ落とせた分のエーデルワイスがふたたび獣に寄り添う前に、打つ手があると冷気を捏ね合わせて氷の鏡が中空へ生成されてゆく。
(「……シエナはお花になっているのですか? と、シエナは不思議に思いました」)
 フェアリーと巨獣との戦いに、自らの身に起きた異変をやっと人形の頭は整理する。
 だとして、もう指すら動かない。
 うつろに巡らせる狭い視界の中で、"お友達"が震えてこちらを見ていた。しずかに幕が下りるように、ムスカリ、紫の薄暗闇がゆっくりと景色を覆う。そしてフリージアの黄。
 最後に黒薔薇。
 微睡みへといざなう花の芳香。
(「あぁ」)
 ぼんやりと霞む思考は、突き詰めたなら酷い酸欠かもしれないが。身を委ねるを好しとして、シエナの意識は己が身を土壌とする花畑の底へ溶け込んでいった。

 氷幻鏡。
「さっ、待ってましたってね!」
 そこへ映した奇跡を自らのものとして再現できるユーベルコード。たちまち獣のものと同じ、白くかわいい小花で覆われたポーラリアは、向かい来る翠翁へ逆に飛び込む。
 その勢いは苛烈。
 加速度的に身を這う植物にも怯まず、時に千切れながら捨て身で脚と骨とを潜り抜け、触れた青白く光る"炉"のようなそこへ霜を纏わせることができて――できた、というのに。
 瞬間。
 視界の外から矢にも劣らず鋭く伸ばされて、四肢へ纏めて絡むものがあった。
「きゃっ!? な――……」
 これは敵の攻撃ではない。仲間の……シトーによるもの。
 当人の意識は既に落ちているらしいが、"乗っ取られた"衣服の端だけが生物めいて蠢いているのだ。巻き取られたちいさなポーラリアのからだは宙吊りに、ぶんぶんと左右に振られ目を回す。
「はーなーしーてー、ここからってところだったのに!」
 次第に妖精の肌という肌にもぽつり、ぽつ。 鱗じみた葉が覗いて。
「だめっ、だ――力が入んない……ポーラリ さ、これ……なんとか、」
 たすけ て。
 氷をこちらへ。テフラ必死の懇願であったが、腹の底から喉奥を突き抜け溢れ咲いた花がついに口を飛び出したなら、次の句は継げられず。
 みんな同じ、植物にされちゃう……?
 涙が頬を伝う。それすら零れる頃には緑の蔦の一本へ。
 虚しくも四人が四人、やがて囚われてしまう。 ――とはいえ。真に救いとなる足音は未だ、絶えてはいなかった。

苦戦 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

真幌・縫
『しーさん(f03940)』と一緒。
木も花も好きだけれど…。
あなたは…優しいだけの緑ではないんだね。
(人の形にも見えるそれに眉を寄せて)

攻撃は【野生の勘】でよけるも敵UCにより足を負傷するとそこには白いマーガレットの花が咲く。
っっっ!
マーガレットは好きだけれどっ…!

植物を纏っているなら炎に弱いかな?
【属性攻撃】で炎を強化【全力魔法】【高速詠唱】でUC【ウィザード・ミサイル】
全部燃やしちゃおう…

戦闘がおわるとすぐにしーさんに駆け寄る。
しーさん、しーさんは怪我してない?
ぬいとサジ太…?…っ!うん!大丈夫だよ!ありがとう!


月藤・紫衣
縫さん(f10334)と一緒に

…あの植物達の枝葉…犠牲者は全て植物へと変じてしまったのですね

【高速詠唱】した風【属性攻撃】の【衝撃波】の魔法を放ちます。
敵の攻撃を【見切り】ながら迫る攻撃は【なぎ払い】ます

敵の攻撃が当たってしまうなら…名の通りに藤でも咲き溢れるのでしょうか…

縫さんを【かばう】ことの出来る位置をキープしつつ
縫さんのUCに合わせて【散花風棘】を放ち暴れまわらぬように足止めします

こちらを心配して来てくださる彼女には心労をかけたくありません…植物となっている所を彼女の視野に入らぬようにして

ありがとうございます、大丈夫ですよ
縫さんとサジ太くんはお怪我ありませんか?




 穏やかではありませんね。
 惨状を前に、ついた息が風に溶ける。
 先に突入したらしき彼女たちも、それにそこの、如何にもなかたちをした植物たちも。

 紫衣が一目にすべてを理解したように、縫もまた眉を寄せていた。
 人間が、植物へ。
「木も花も好きだけれど……。あなたは……優しいだけの緑では、ないんだね」
 繋ぐ手に込められた力が自然強まる。
 無言で首を縦に振り、それを解いたからには背に少女を庇うため一歩前へと、
「そこまでにしていただきましょう」
 解決の道筋はひとつ。芯の通った声で紫衣は空気を震わせ、今にも先達を取り込み殺しかねなかったUDCの意識を己へ引き付けて。のみならず、密やかに含ませた詠唱を衝撃波のかたちとし儘、解き放った。
 色無き刃が翔ける。
 対する翠翁は咆哮を漏らし跳躍。裂かれながらも後方、ドームの屋根まで届かんばかりの高い梢へ跳ね上がった。
 "敵"として完全に視界へ収められたことで、身に訪れる異変は。 予想はできたがやはり――藤か。
(「こうも表に現れられては。己の内を曝されるようで……たのしいものでは、ないな」)
 狂い咲く在り方。痛みはまず胸裡を蝕みて、振り切りすかさず追い縋る手の内で刀が嫌に鳴った。
 それは後方へ置いてきた縫から、距離を取る意味も併せ持っている。
 心労をかけたくない、と、斬月の旋風が崩れた天井の一部ごと巨獣の居着く細枝を叩き落せば、一拍前にその足場を蹴りつけ飛び降りた翠翁が、踏み潰さんばかり体重を乗せ藤纏う男へ迫る。
 だが、こちらはひとりではない。
「これ以上、みんなに痛いことしないで!」
 深緑をぼうと燃え立たせたのは他でもなく、迎え撃つかたちで縫が放った魔法の火矢だ。一本に終わらず、二本三本……夥しい数の矢。それこそ縫物をするときの精密さで、しとどに。
 宙にいるまま体勢を崩された獣は転げ落ち地へ。
「しーさん!」
「――ええ」
 合わせて、次こそ乱れず振るう軌跡は冴え。
 花が帯びる棘よりもずっと鋭く、刀身から零れ落ちるかの如くに並んで進む棘の槍たちがその身を、そして次に逃げを打ちかねない空間を削ぎ落とす。
『……、――!』
 結局はただ骨が草花を帯びているだけに過ぎぬのか。
 新たに露出した深緑の下にも岩石じみた骨が続いているだけ。幼き娘の脅威を見とめた深淵からの眼差しは、身を隠して躱せど中てられたならほんの一瞬ですら、内へ草花を咲かせるには十分で。
「っう……、っ」
 いた、い。足のもっと奥?
 悲鳴を漏らしてはと口元に指を押し付ける縫の手元からサジ太が零れ落ちる。ぽふ、と、やわらかな音がしてその大切が緑に取り込まれそうなことがなにより怖くて、すぐに身を屈め抱き上げた。
 やがて皮膚を割って顔を出すマーガレットの、花。
 やさしい白色。
 好きな花なのに、こんな。
 それでも前で刀を振るうひとのため、炎の矢での支援は絶えさせない。
(「しーさんだけが辛いなんて、そんなのおかしいもん……!」)
 全部、燃やしちゃおう。

 互いに互いへ弱った様を見せたくはないとこれ以上、振り向かず、呼び止めることもなく。
 背中と眼差しだけで信を置き支え合う数分は、他の猟兵が戦線へ流れ込みそれに応戦した翠翁が跳び退ったことで僅かばかりの暇へ繋がる。
「しーさん、しーさんは怪我してない?」
 地を踏む感覚の怪しくなった足を縺れさせながらも、すぐ駆け寄るのは縫の方。
 足音にひとたび瞼を伏せて。紫衣ははらはらと藤を零す衣の前を繕わせ、常のように封じ込め、やんわり微笑んで振り返った。
「ありがとうございます、大丈夫ですよ。縫さんとサジ太くんはお怪我ありませんか?」
「ぬいとサジ太……?」
 もしかして、ばれてしまっている? 思わずちいさく息を呑んでしまう縫だけれど。
「うん! 大丈夫だよ! ありがとう!」
 ね、とめいっぱい男の眼前へ突き出したサジ太がその視界を狭めた。
 いつでもやさしくすてきな理想像として映るように。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

誘名・櫻宵
🌸リル/f10762
アドリブ歓迎
植物:桜

悪くない雰囲気だけど、こうも静かだと不気味ね…
じゃあリルを不安がらせないように
桜に食われないよう気をつけるわ

リル、気をつけて
ああ――植物になってしまうのね
桜はもう十分に咲いているから結構よ

リルを守り庇いながら、衝撃波を込めてなぎ払い植物ごと斬るわ
斬撃には生命力吸収をのせて
第六感で察し見切りと残像で躱すわよ

あたしのリルの尾鰭が月下美人に?!
揺蕩う水中花のようで綺麗だけれどピチピチ尾鰭の方が可愛いの
瞳に咲く桜が邪魔ね
血の代わりに吐き出す花弁

リルの炎にときめくも、踏み込んで全て断ち切る絶華を放つわ

桜にまで妬いてくれるなんて光栄ね
月下美人にあなたは渡さないわ!


リル・ルリ
■櫻宵/f02768
アドリブ歓迎
植物は月下美人

ドームに着いたけれど……すごい、植物
草花に食べられてしまうみたいで少し怖いね
僕の櫻は綺麗な桜の枝角と枝垂れ桜の翼がある木龍だ
けれど彼が桜に呑まれてしまうのは
考えるだけでも恐ろしい

櫻宵
気をつけて
嫌な予感がするんだ

君を守るために歌うよ
【歌唱】には【鼓舞】をのせて
僕を庇おうとした櫻宵ごとオーラ防御で守る、けれど
尾鰭が、月下美人みたいに…
嗚呼
上手く游げず地に落ちて
それでも歌う『恋の歌』
僕の櫻が害される前に、周囲の植物ごと焼き尽す
僕の戀で燃やすから
君は綺麗に斬ってくれ

桜がいつもより咲く君も綺麗だけれど
桜に君が盗られてしまうようで妬くから
ダメ
いつもの櫻が一番だ




 此処は、草花に食べられてしまった世界みたい。
 踏み込んだ瞬間から身を浸していた"嫌な予感"が即座にその姿を現せば、気を付けてと言葉を贈り合うのもほぼ同時。
「悪くない雰囲気だったけど。リルを不安にさせるのは本望じゃないわ。任せて」
「僕も君を守るよ」

 そうして斬り込み引き受けて。

「っ、陰気臭い手ね! 桜はもう十分に咲いているから結構よ」
 翠翁の一瞥がまず前へと立った櫻宵の身を作り変えはじめた。
 ぎち、ち、と腹の奥が手荒に捩じ切られる感覚だ。剪定される枝にでもなったような。しかし皮膚を突き破って生え来るものは新たな一本、二本であって。
 それでも連れる彼のもとまで及びかねない土壌の破壊を優先し、太刀はまず石畳を砕く。もとより疎らに生えていたらしき枯草に比べ、覆う緑は生命力に溢れていた。
(「ひとを苗床にして……、悪趣味ったらない」)
 血を浴びて艶を増す櫻宵にとって、ともすればそれは同族嫌悪に近い感情であったろうか。
 軸が、膝ががくんとブレて前へと揺らぐ。
 しかし後方から鳴り止まぬ鼓舞。澄み切った歌声が、こうしてまた踏みとどまらせて、触れることなくとも我が身を引き上げてくれるから。
「櫻宵!」
「大丈夫。この程度……」
 こみ上げる苦みを吐き捨てても血反吐とは違い花弁が零れるばかり。
 花に呑まれてしまわないで――希う海の彼と共にあるならば、生まれ以上、陸に縛り付けられるわけにはいかない。ぐっと拳の腹で口元を拭う櫻宵は依然迷いなく、息もつかず添わせた指が柄に沈み。
 突進を仕掛けくる翠翁を真正面に捉え、一歩も退かぬ覚悟を以て受け止めた。後ろにはリルがいるのだ。
「食われてなんて、あげないんだから」
「櫻宵、ねぇ櫻宵。どうか無茶はしないで」
 間近にして呪いにも似た花の侵食が一層強まるも、それを分けて薄めて己が身にも貰い受けるような。泳ぎ着いたリルが想い人の背に触れた手は、あわく守護の祈りを結ぶ。
 水中で光が拡散する風に、角の珊瑚も硝子細工めいた鱗もきらきら。巨獣の意識の多くを惹き付けた代わり、花に蝕まれリルは空を自由に泳げず緑の草の上へと堕とされていた。
「リルっ、その花」
「うん。おそろいにはやっぱり……なれないね」
 へにゃりと笑む様は痛みに苦しむ以上にどこか残念そうに。
 櫻宵の髪には常より桃色の濃い、八重咲の桜。
 リルの尾鰭には白く澄んだ。揺蕩う水中花にも映るそれは、月下美人。麗しく咲き続けるには、愛情という名の水が欠かせぬことはよく似ていたやもしれぬとて。
「もう……綺麗だけれど、ピチピチ尾鰭の方が可愛いの。月下美人に、いえ、どんな花にもあなたは渡さないわ!」
「僕だって。桜がいつもより咲く君も綺麗だけれど――」
 いつもの互いがいい。
 それに。桜に君が盗られてしまうようで妬くから、 ダメ。
 嗚呼、このアイで すべてを妬いて、焼いてしまえたら――。
 甘く熱く焦がれる恋の歌。波立つリルの歌声に沸き起こる炎はひときわ強く、想いに満ちて。確かに悉くやきつくすほどに熱いというのに、櫻宵の桜は決して散らさない。
 どころか、寄り添うような。
 桜にまで妬いてくれるなんて光栄、ときめきに自ずから燃えてしまいそう!
「ね、そういうことなの。飾り立ててくれなくてもあたしたちは十分」
 今すぐ駆け寄って抱き起こしてあげたいから、こそ、櫻宵は踏み込んで自らの間合いへ持ち込む。至近。
 ――僕の戀で燃やすから。君は綺麗に斬ってくれ。
 注がれるこころへ、応えるユーベルコードは、絶華。
 太刀筋は見えず。そこを一文字に通るものがあったのだと、伝えるかたちで一拍遅れてエーデルワイスの花が散る。次に緑葉、苔、骨片。
 炎を背負う麗人の姿は春爛漫の盛りであり。
「ひとりがさみしいのだとしても、櫻は僕のすべてだから」
 やっと出逢えた――、譲れない。
 見守る人魚の戀う声色と眼差しもまた、時の止まった籠の中、すぐそこまで近付く季節の移り変わりを予感させた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

矢来・夕立
大きいですね。でもよく燃え…

…。“花になって死ぬ”なんてガラじゃないんですけど。
苦痛。恐怖。違いますね。この殺意の理由は『屈辱』以外にない。
誰の許可を得てオレを花壇にしてくれてるんですか。

【神業・絶刀】。
内臓をやられようが身体は動く。
両脚がダメになるより先に走る。
腕が使えなくなったって、もう片腕がある。
両腕とも?なら口でだって刀を持ってやる。式紙でもなんでも使う。
刃を揮って殺すまで。

潔く散ってやるような生き方はしてません。
まして日陰は綺麗ではない、儚くもない。
だから「“花になって死ぬ”なんてガラじゃない」。
絶対に嫌な死因のトップですね。
“最期の姿が花”なんて。救われたみたいで、反吐が出る。


穂結・神楽耶
…これだけ狂い咲いているといっそ悍ましくてございますね。
自然の猛威といえば聞こえはいいですが…あまりに不自然です。
オブリビオンの能力なのでしょうか。

それでは炎を此処に。
花の世界には不釣り合いなれど効果的なのは確かでしょう。
自然破壊は気が引けますが……
後で誠心誠意整備させて頂きます。何卒ご寛恕を。
援護と目くらましと本命を織り交ぜて確実に削ってゆきましょう。

…さて。
猟兵を植物と化すUCが当たったなら。
仮初でしかない体にはどんな花が咲くのでしょうね。
それすら燃やし尽してしまったら。

──恨み言のひとつでも、聞こえますかね?




 ギィン、イィィ……散りゆく音が鳴り止むまでにもう幾度も骨の身と刀は打ち合って、草花が、ごうごうと朱殷に躍る炎が跳ねる。
 これだけ狂い咲いているといっそ悍ましくてございますね――荒らされた足元は二者のうちヤドリガミの側、神楽耶が口にした感想をすっかり過去のものとしていた。
 予見通りにオブリビオンの能力なのだろう。
 馬にも似たUDCが嘶いて地を踏む度に新たな草花が石を、鉄を、柱を這う。
 それが己の足首を捉うものなら敢えての大振りが地面もろとも削いで。
「後で誠心誠意整備させて頂きます。何卒ご寛恕を」
「やっぱりよく燃えますね」
 ……ぽふんっ。
 眺むのみで未だ手は出していない。いないというのに夕立までもが憤って湧く根に巻き取られるのは、まるで下手な冗談のようでもあった。暴れすぎなのでは?
「"花になって死ぬ"なんてガラじゃないんですけど」
 苦痛。恐怖。 そのどれでもなく、"屈辱"。殺意の出処をそれと定め、握る雷花の機嫌も斜め。
 更にはこの趣味の悪い力が誘うは同士討ち、ともなれば。
 次の一瞬に拝めるのは、刀を首へ突きつけ合うあまりに無益な図。
「でしたら、こんな死に方は?」
「御免被ります」
 誰得ですか? ――珍しくまったく同じ答えを胸に抱いた女はすこし、笑ったろうか。
 一切の逡巡なく、首筋から僅かに逸らして互い互いに肩口より断ち切る腕が根をも絶やし。
 翠翁の思惑とは恐らく、死よりも漠然と。愚かな人間同士争え、程度のものだったのだろう。故に抵抗はまるでなく、砂糖菓子に楊枝を通すときみたくすべらか。
 そうして支配を抜けた腕から花が吹き零れる様子に、
「血だったら死んでますかね」
「血ですよ。だってこんなにも、熱い」
 黒と赤。 夕立が、神楽耶が、二人して逆の手に得物を掴み上げ向ける切っ先は毛を逆立てる翠翁へ。
 思い立ったが吉日とも云う。
 本日、ただちに――お礼参りとゆこう。

 舞い飛ぶ炎弾の道筋に傍迷惑な土壌が焼き払われる。
 熱し、砕けた石片を巻き込んでの災害のようだ! だが害をなす宛は敵意のみ。すくなくとも、この場では。乱れ撃たれる紅と紅との間に身を滑らせ、駆ける夕立が零した白花の数枚こそ呑まれてはいるが。血? 骨? 臓腑? なんだって構いやしない。
 どうぞ燃やして。
「"最期の姿が花"なんて」
 救われたみたいで、反吐が出る。
 から。
 矢来・夕立という存在の定義のため、  忍ばせた翼有す式神らは緑巻かれるまえひとりでに飛び立ち、翠翁の鼻先へまとわりついた。
 その微かな間、先に辿り着くは神霊の祀り火。
「それにしても……燃やし尽くしてしまわずとも、燃えているだなんて。ご親切な方」
 朱色をしたユリグルマは、炎の一部と化して腕とひとのこころのあるべき場所で揺れている。恨み言は爆ぜる火の粉が連れてゆくから、しずか。
 ずっと、しずかだ。
 巨獣が大きく足踏みして身を守らんと風を立てる。数秒あれば彼はすべて跳ね除け宙へ飛び立つことだってできた。 しかし。
 帯びた緑が仇となったか、たんたんと無口に刺し埋められる"特製"手裏剣の雨は容易く抜けない。例えばこうして揮い手、夕立が足場にし駆け上ったって、そう。
「――――、」
 咥えた脇差が翻す隻腕に収まり。 赤の、花に侵されぬ昏い双眸の、影が、落ちた。
 振り下ろされる白刃は、翠翁の首筋のみならず頭蓋へもひとつめの罅を刻んで。

 しかし人間、片側を喪えばバランスの崩れるものらしい。
 暴れる翠翁が繰り出した頭突きは綺麗にみぞおちへ入らんとしていて、手厚くしかし手荒く差し込まれた爆風がなかったのなら、腕のもう一本か腹の大穴から花がこんにちはしていたやもしれない。
「お早いお帰りでしたね」
「まあ。独り占めも波風立ちそうですし」
 神楽耶は尚も燃やす気らしい。あの罅から脳天を蒸し焼くか? ちらと見上げる横顔はどうだ、悔悟そのものが姿を得たにしては随分と、  。
 手をつき上体を起こす夕立。さしたる情動がなくとも人間でしかない腕は、いたいと五月蠅く震えた。潔くは散りたがらず。
 内より蠢く蔦に押し広げられ、当分塞がらぬであろう肩口からぼたぼたぼた音立て梔子が塊で落ちて。
 日陰は綺麗でも儚くもない。忌々しいほど己とかけ離れたように映ったけれど。こうして炎熱に染め上げられれば――血だというのも、頷ける。
 靴底で踏み躙ってしまえば黙することなど容易い様も。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

オズ・ケストナー
アヤカ(f01194)と

骨…
あの花も見た、と斧構え

足から崩そうと切りかかる
つなぎ目はこわれやすいはずと関節を狙い

誰かが操られる姿を見て
体が思い通りにならない感覚があったら
すぐ武器を手放し蹴り飛ばす
アヤカはぜったいに傷つけない
足が向かうなら
関節を逆に折り不能にしてでも止める

解除されたら
【ガジェットショータイム】
弾の装填が不要な魔法銃

アヤカに視線を
だいじょうぶ?と

アヤカに守られている
わたしも
守りたい
銃を限界まで打ち続ける覚悟

ああ、あの出口にむかってのびてる花はぜんぶ
ひと、だ

まだ助かるかも
はやくたおそう

*バラ
おとうさんが育てていた
帽子につけてくれた
家を出るときには荒れてしまっていた花
もう戻れない庭の


浮世・綾華
オズ(f01136)と

攻撃を受けても指先くらい動かせるだろ
絡繰ル指で操るのは鍵刀
早業で素早くフェイントで間を縫う様に攻撃をかわす

映った己の花に一瞬目を見開くも
躊躇いなく一番侵された場所を切り落とす
操られるくらいなら

向けられた視線
痛ましい姿にも想いは隠して
(今はお前の強さを信じるしかない)

それでもオズの花が綺麗だったから
我が儘でも一片ですら失われて欲しくないと願って
向かう攻撃を食い止めるように咎力封じを展開

(助かる、かねえ)
思えど頷く
倒すことには変わりないと

*千日紅
好きだと言えぬ花
愛した籠の鳥が主に捧げられていた花
彼女があまりにも愛しげに撫でるから
(本当はその花になれたらと
なりたいと、俺は――)




 びゅんっと風切り音を立てて一度目、戦斧に鍵刀をぼろぼろになった巨獣の足へと叩きつけたときに異変は起きる。
 オズと綾華、それぞれにモノへ逆戻りしたかの錯覚。
 足元からじわり伝い伸びてきた根がまさに、鮮やかに花開いた瞬間だった。
「この、花は」
 ――おとうさんが育てていた?

 奇跡の色なんだって笑った。よく似合うって、二色、やさしい手で隣り合わせに帽子へつけてくれた薔薇。
 荒れてしまった、もう戻れない庭の。
「っ」
 想い出に、緑に操られひとりでに動き出す足をオズは叱咤する。それでも止まらないから、なら、選ぶ手はひとつ――ガギッとかたい音は人の身ではないことを告げ。
 全力で己の膝へ叩きつけた組み変わりはじめるガジェットの銃床が、関節を破壊した。
(「アヤカはぜったいに傷つけない」)
 崩れ落ちるからだ、形成された銃口で狙うは翠翁。茨が指へ伝うまでに、必ず。

 ハレーションを起こす思考。
 今日も好きだと言えなかった。明日も、きっと明後日も。
 愛と捧げられた千日紅をいとおしげに撫でて、しあわせに囚われ、君は美しく綻ぶ。
 本当はその花に。なれたなら、なりたいと、俺は。
 千日褪せぬ想い。
 千日褪せぬ――、  。

「――アヤカぁ!」
「……ぁ、は。 れ、オズ」
 いたのか――じゃあない。
 このまま花になれたとて、貴女はもはやいないのに。
 はっきりと瞬いた綾華の瞳に青年が齎す光は射す。与えられた手指は、それを掴む自由を知るはずだ。
 わるいと呟きすぐに。 蔓延る葉、好まぬ、愛らしい小花ごと斬り落とすのは片手首の先。
 己で己の首を絞めるなんざ馬鹿げている。確保された気道にヒュッと喉は鳴って、咳き込みながらも引き戻し絡繰る鍵刀はそのまま翠翁へ。
「おたく。お節介な、真似。……してくれてんなよ」
 痛ましくも強い友のさま。信じてこそ、骨の軋むほどきつく握りしめる五指。
 幾本もの刃は針山をつくるときのように、ひたすらに神の身へ降り注いだ。
『――!!』
 穴を増やしながら獣が咆える。
 逃げを打とうとした足元、更にと躍らせるは重ねてオズが撃ち出す弾丸。ひとらしく二本足で立つことを意識せずに済むというのはある意味では楽だ。最大限に指先にだけ意識を集中し関節を狙えば、ぺきぱきと砕ける骨片が音楽を奏でて。
「……、綺麗なお花をありがとう」
 言いたかったひとに届けられなかった言の葉を、今更。

 よかった、んだよね。
 綾華へと呼び掛けて散らしてしまうことを一瞬迷った、オズもいた。
 自らにとってこの花がいつかの"大切"であるように、きっと、綾華にとっても。だがそのいのちと天秤にかけたとき、いま、ともにあることを選んでほしかった。――選びたかったのだ。
 よかったんだ。
「ほらオズ、前見とけ? 目は特にやられてねーだろ?」
「っえ」
 砂土蹴り上げ人形へと向きかけた翠翁の足取り、その横っ腹へ目一杯に叩き込んだ鍵束が巨体を横倒しに転げさせる。ヤドリガミが浮かべる笑みは常通りの余裕。
 己の防御用として残す複製のひとつもなく。我儘に過ぎぬと自負していようと、オズの花が綺麗だったから。一片ですら失われて欲しくないと願う綾華の想いの多くはなにより雄弁に、行動へ現れていた。
「もっ もちろん! 今のわたしはがんなーだからね、ここぞでばしっと決めるのさ」
 まもられた一瞬を無駄にせず、ありったけ注ぐ銃撃の雨!
 滾る蒸気に塗装が剥がれても、引き金を引ける限り。人差し指が飛んだって中指で。綾華が重ね掛けた呪縛が尚も翠翁を押しとどめたなら、やがて土煙の晴れたそこには散り散りの白き花弁と骨だけになった前肢がふたつ落ちていた。
 二人と、そしてこれまでの幾つもが掴み取った成果。
 よろり。 頼りなげに樹上から落ちた獣の影が揺れる。
 "彼"が尚も動けているのはエーデルワイスをはじめとした植物が齎す力、いわば限界の先に過ぎない。大きく傾いた戦況、ちらとオズが見遣る先には――。
「まだ、助かるかも。はやくたおそう」
「……ん」
 望まずその協力者、こと植物と化した者たちの姿。
(「助かる、かねえ」)
 思えど頷く綾華。同じだけ眩しくはあれないが、彼と戦うこの今が、結果として扉の先へと繋がるのならばそれでいい。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ノ・ノ
白い花…(拾った花いじりつつ)
アレが花咲かせてた元凶ってやつかちら?
緑化運動過激派かいね
まぁ、ボクちんは死人と地球環境には興味ナイんれすよん
ほなら環境破壊させてもらおかの

他の猟兵(特に思い入れの深い花が咲いている方)の様子を見て、咲いた花が自分の本質に近いなんて事ァあるかしらねと
アー、花に興味はないけども、自身の本質ってもんには興味あるにぇ
一発くらい、喰らっておこうか
オイラにも『いいお花』咲かせておくれよ

敵の攻撃に合わせて、UCを発動
スプリンクラーばりに黒液の散布サービス

自分の花見て
ンー、何の花かさっぱど分かんね(摘んでもぐもぐ)
悪ィね鹿さん
アンタの花、味もしニャいわ

(花の種類等お任せします)


ルル・ミール
出口に伸びる花の枝のかたち
一部のひとたちにとって今も名所
言の種綴り

もしかして、まさかって怖いことがいっぱい浮かびますけど
今は怖いよりも勇気が大事です!
だって、ここに来てた人達、これから来る人達
どちらも助けるのが猟兵のお仕事ですからね!

「あの日の絆」でゴリラ先生を召喚
先生のパワーと牙は凄いんですからね!
先生にお願いするだけじゃなくって私も風属性の全力魔法で援護
敵が植物を操るなら、集中して他の植物を風で纏めてお外へポイ
…誰かかもしれない花は、避けないとですね
もし私の腕が植物になっても、指や、もう片っぽの腕が動くなら続けますよー
だって私も猟兵なので!
これっぽっちじゃ、止まりませんからね!




 ニチャチャ! とはノノの、恐らくは引き続き笑い声。
「景気よく燃えてまんなぁ! ケッコーケッコー、あてくしハデハデはスキですぜ」
 死人と地球環境には興味ナイし。拾った白い小花からも、眼前におわす緑化運動過激派が元凶と分かる。
 口笛でも吹きそうなタールのあちこちには曰く、"いいお花"が既に贈られていた。
 移り気な紫陽花。
 咲く場所によってその色を変えるのならば、いつかはだれをも真似せずに、ハッピーカラフルノノ様になれるのかしら?
「なぁんか想像つかんネ!」
「うーん、でもかわいいお花ですっ」
 この花は果たして本質にでも近いのか。
 ナイナイ尽くし、"自分らしい"を追い求めるノノには興味があった――ちょうどにっこり返したルルだなんて、どうだ。桜に向日葵、秋桜、待雪草の四季セット。
「チミのソリャにゃあに? すーぱー豪華!」
「えっへへー、ちょっと欲張りさんになっちゃいましたかね? 世界にはすてきなものが多くって!」
 頭をぺちっとして振り向けば上下する蛇尻尾といっしょに小花たちが揺れる。
 これこそがキマイラ娘の本質といえばまさしく。
 ブラックタールとはすこし異なる意味で、これからも歩きゆく世界を柔軟に取り込んで。身に集めて、恋をして。
 明くる日に訪れたならまた別な花を咲かせそうな可能性を、二人は醸していた。

 でもこれ、ちょっと痛いですよね? みたいな間が空いて。
 翠翁の突進も視界の端に映れば、鑑賞会は一時休止。
「あとでチョッピシおくれよ」
「もっちもちです!」
 二人は同時に"力"を奔らせる。
 とはいえノノのそれは避ける攻めるでもなく。飛び込んで、ぱあんと気持ちよい音立ててはじけ飛ぶところからはじまった。
 ええぇっ!? となったルルに向けてか、間近まで散ったノノが手っぽいものをひらひらして。
 これでよし……? それもそのはず、直後、スプリンクラーよろしく頭から黒色体液を被ってしまった深緑が大きく燃え上がったのだ。
 緑は骨の白へ、煤を帯び黒ずんでいた骨ならより黒く。
 それをむんずと掴む毛むくじゃらはちょっと茶色。
 茶色?
 とは、ゴリラの剛腕だった。
 想い出詰まるノートの一頁と見比べ「うむっ」と頷く召喚主・ルル。やっぱり相も変わらずすてき!
「お願いします、先生!」
 ガァァァ、と、巨獣顔負けの咆哮をあげるゴリラ先生。応えたのか。分からない。分からないが踏み込みは強く、真っ向から翠翁と取っ組み合う。
 それを"おれのおしえとおりにやれ、おまえはつよいごりら"と受け止めた藤紫はキラリ。強さと優しさ、そして賢さ――! 繰り出すはドラミング……ではなく全力の、風。
(「花が、みなさんが元に戻らなかったら、なんて……怖いことがいっぱい浮かびますけど」)
 今は怖いよりも勇気が大事だと、教えがなくともルルは花で軋む指をも動かせる。 知っている。
 猟兵がなにをすべきか!
 嵐はUDCの力の源と思わしき植物を、割れた天蓋や壁の合間から外へと押し出してゆく。
 そんな娘の意図を察したか。燻ぶりながらもいっときゴリラのハグを抜けた巨獣は狙いをルルへ変え、逆巻く風に突っ込みながら進む。エーデルワイスがはらはら落ちて。
 身の内でチクリと棘が傷んで。
 けれどもルルは譲らない。背に庇うは犠牲者と思わしき緑。風よ強く、吹いて、
 だって、――だって。
「私も猟兵なので! ……これっぽっちじゃ、止まりませんからね!」

「アッツイきみのー、瞳にカンパイくれてやろー」
 その合間へ。
 なにやら唱えノノがノノを投げたことで、もひとつオマケにぱあんと弾けたアツいノノ。先の業火をまともに味わった翠翁としてはなんとか逃れたいところであるが――。
 傾き埋まった言の種綴り看板に"効果には個人差があります"の赤注釈が映えるように、そううまい話はない。
『!!!!』
 酷く燃え立つ。
 脇をタールはずるずる這って、そういや、と言いたげに自ずから撒き散らした紫陽花をひとひら摘み上げる。
 見る。 食べる。 もにもに。
「……ンー。何の花かさっぱど分かんね」
 悪ィね鹿さん。アンタの花、味もしニャいわ。
 なんか他にもナイ? 到底応えられる状況ではない、巨獣の足取りがぐらつき乱れたところを、猛然とゴリラ先生が殴りつけていった――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

イェルクロルト・レイン
【バッカス】
込み上げる嘔吐感に耐えきれず、吐き出すは赤い曼珠沙華
心臓の彼岸花が咲き誇る。皮膚を突き破り、男の半身を覆うよに

気味が悪い
咲き誇る傍から無遠慮に獣の腕で握りつぶして
なんだって花に蝕まれなきゃなんねえんだ
多少痛くとも構わない、それぐらいで泣き叫ぶ心は持ち合わせちゃいない

燃やし尽くそう、全て
死者に贈る華なんて、おれには必要ない
おれは、"生きて"いるんだから

どんな状況でさえも猛る炎は衰えず、
――例え共の花さえ燃やし尽くそうとも
満身創痍の獣にも似て、白き炎を繰り薙ぎ払おう


クロエ・アルページュ
【バッカス】
それぞれの異変を目にし、自身をみれば
関節の隙間を縫い咲く真紅の薔薇と絡みつく茨
あら、あらこれは苗床、というものでしょうか
情熱的な求愛ではございますが
わたくし既に『お父様』から一番の愛を頂いておりますので
貴方の気持ちにはわたくしの処刑(祝福)をもってお答えさせて貰いますわ
赤い薔薇は、好みではありませんの

燭台を振れば炎が伝い邪魔になる花を燃やす
よつろ、千切れば貴女の綺麗な顔に傷がつきますわ
女優は顔を大事にするものでしょう?
罪なのは、花ではなく、そこに在る新緑の獣

炎の使い手が多いことで
攻撃手が動きやすいよう、邪魔なものは焼き払い援護を
獣のように荒ぶるルトなど回復が必要なら癒しの光を


クレム・クラウベル
【バッカス】
絡め取る様に片腕を覆う月下香
じわりと侵蝕される感触。噎せ返る様な花の香りにただ顔を顰めて
花になると言えば詩的なものだが
そんな小奇麗なものではないな、とても

皆随分鮮やかになったことで、とも言ってはいられないな
……あまり燃やしすぎると自分の身まで焦げるぞ、ルト
とは言え相手も植物を纏う身ならば火自体は有効だろう
淡々と読み上げた祈りの火は翠翁へ向けて
命に満ち溢れてることは悪くないが
だが他者を侵し喰らうなら
斯様に横暴な芽吹きであるならば、摘み取らねばなるまい
翠翁の身体を這う草花を幾らか焼き払ったなら
焼け残った身へ向けて引き金を
緑は土へ。過去は過去へ
命も今も犯す権利はもうない、還るが良い


四辻路・よつろ
【バッカス】
顔の半分を覆うように
頭から咲き誇るは大輪の真っ白な芍薬
死体から生まれたと言われる女に似合いの花

ねぇ、千切っても大丈夫かしらこの花
やっぱり血が出る?
でも片目まで隠れた状態では戦いづらいわ
元来、花とは誰かに愛でられる為の物ではあるけれど――
この花はあまり気乗りしないわね
まあ、私なんかが言えた義理ではないけれど

おいで、鈴丸。と足元の狼とは別に、太刀を持った巨躯の男を新たに呼ぶ

さて、狩りをしましょう
私が死体の花嫁ならばお前は墓守
守ってちょうだい、あの獣から

忠実なしもべは無言で頷き、光のない瞳で獣を睨めつけ刀を抜く




 ただでさえ煩わしい空だってのに、なんだ? イェルクロルトはこみ上げる嘔吐感が朝の気怠さ由来のものではなくなっていることを、本能で分かっていた。
 は、と、俯く吐息が熱を帯びて零れ落ち。
 それに終わらずほろほろ吐き出されたのが、赤々とした曼殊沙華――死人花。
 呼び合うように心臓が締め付けられる。心臓の、そこに居着く彼岸の花が。
「グ、 う゛ぅ」
 唸る声も獣のそれ。はたして掻いた爪が抉り裂いたが先か、"作り変えられてしまった"が先か。
 ――皮膚を、衣服を突き破り胸元から顔を出した真紅はたちまちに男の半身を這い覆ってゆく。
「ルト、……なるほど」
 その肩を揺すり正気を確かめるクレム。が、己の片腕にも花が。絡め取って咲き添う月下香、科としては揃いのヒガンバナであれど、こちらは嫌に白く。
 噎せ返るほどに香りながら、ふぁさりとやわらかく花弁が開ききった。
 痛みは鈍く。
「花になると言えば詩的なものだが。そんな小奇麗なものではないな、とても」
 だとして、侵蝕される感触は到底、花見とよろこび捨て置けるものではない。クレムが顔を顰める横でぽんっと気の抜けた音がした。
 よつろだ。
 よつろの頭半分、それはもう洒落た帽子の如くに麗しく咲き誇った真っ白な芍薬! 大輪のそれは死体から生まれたと云われる女に似合いの?
「邪魔ね」
 片目にかかるひとひらを摘まみ上げる指。そうすることでいっときクリアになった視界では、イェルクロルトの完全に獣化した手指が次々に懐く赤を引き千切り、そうして握り潰していた。
「ッ……くそが。なんだって花に蝕まれなきゃなんねえんだ」
 気味が悪い。
 痛みなど知れたことか。その程度で泣き叫ぶ心もこの通り、持ち合わせちゃいないのだから。
「まぁ、痛くはないの? ダメですわよルト、ふらりと倒れてしまいそう」
 ただでさえ低血圧の極みそうな彼のこと、案じてみせるクロエもまた。困った風にあわい薄紅の頬へ手を添える、往年の少女然とした仕草でぎしりと関節が鳴くものだから不思議に思えば、隙間縫い咲く茨に真紅の薔薇を見ることができる。
「あら、あら。これは揃って苗床、というものでしょうか」
「皆随分鮮やかになったことで。……とも言ってはいられないか」
 クレムの口振りは平静と。得物へと伸ばす指もそうだ、徐に滑らせる十字短剣は己が肩口へと突き立てる。植物に奪われたところでなにをし出すか分からない、現に無意識に戦慄きはじめた指を殺すべく、不確定要素は摘む。
 本来なら肉と骨があるであろうそこはさくり、軽い音を立てて裂けた。
 自傷に走る男衆、横目によつろは。
「そう。案外千切っても大丈夫なの」
「よつろ、千切れば貴女の綺麗な顔に傷がつきますわ。女優は顔を大事にするものでしょう?」
 引く指に力を込めてみたものの。
 ――罪なのは、花ではなく、そこに在る新緑の獣。 促すクロエの声がより早く耳を打ったから、淀んだ視線を、上げた。

 ねえ貴方、情熱的な求愛ではございますが。
 例えるならそれは、ひだまりの庭園に降り立った小鳥の囀りだろうか。とても愛らしくミレナリィドールは翠翁へ言葉を降らす。
 既に前肢も失いあちこち焦げ砕けた獣。白の花弁がひたひた覆うから綺麗に映るけれど、壊れてしまったものがうつくしくは戻らないこと、人形だって知っている。
「わたくし既に"お父様"から一番の愛を頂いておりますので。貴方の気持ちにはわたくしの処刑をもってお答えさせて貰いますわ」
 処刑――祝福。裁判が終わればはじまるものは。
 赤い薔薇は、好みではありませんの……ふふふと口元を覆い隠す淑やかな手の振れで握った燭台に焔が灯って、煌々。
 散って花よりも輝いた火の粉は女の身を縛す花々を焼き落とした。だれにも、なににも触れられてはならないのだから。
 片目が隠れたままではその灯すら翳るものの。どうやら自らの一部まで焦がしていってくれたらしく、ぐーぱーと遊ぶよつろの指は足元の狼の頭を撫ぜた。うん。常通りの手触り。
「奇遇ね、私もこの花はあまり気乗りしないわ」
 元来、花とは誰かに愛でられる為の物ではあるけれど――。
 まあ、己なんかが言えた義理でも。
「おいで、鈴丸」
 虚空へ語り掛ける。霞が俄かに輪郭を得てすぐに、そこには太刀を持った巨躯の男。望めばなんでもしてくれるひと。いまは死霊。
 ダンと草花散らせ視界の端、飛び出す赤毛狼は巨獣へと喰らいつかんばかり、帯びた白炎を間近に叩きつける。白花をこそぎ落とすのはもはや炎以上に爪だ。
 それほど至近に、ぎちと鳴るほど奥歯を噛んで。 濁る双つ月が光る。
「失せろ」
「――さて、狩りをしましょう。あれよりも上手くやってちょうだい」
 私が死体の花嫁ならばお前は墓守。守って、と、よつろから鈴丸への命令はどこかあどけなくも。"眼"の役割を任すにも適任だ、無言で首肯するどこぞの狼と対照的に光ない瞳は獣を睨めつけて、ゆっくりと刀を、抜いた。
 舌打ちはイェルクロルト。
 その太刀風に縺れる足を取られ身を転がしたことが、翠翁の後ろ蹴りから結果として救われたようなかたちとなったからではない。いや、多少は。
 尚更に勢いづいて咲きはじめた曼珠沙華もそう、死の概念と同列に名を並べられることに底知れぬ苛立ちを憶えることが余程。
「死者に贈る華なんて、おれには必要ない」 
 おれは、"生きて"いるんだから。
 だから。 掻き乱す全て燃やし尽くすため、呑んで深きへ沈めるため、炎はごうごうと狂い背丈を伸ばす。刃に裂かれ続けざま巻かれた巨獣が大きく飛び退くも遅い。
「……あまり燃やしすぎると自分の身まで焦げるぞ、ルト」
 声も届いているのだか。
 ともすれば脅えた手負いの獣の如し――こうしたときの彼を引き留めるよりも、共にと揮う腕を選び。有効打と見たクレムが読んだ祈りの火、それも混ざり合っては炎はより広く、深緑獣の着地先までをも覆っていた。
『――、――――?』
「命に満ち溢れてることは悪くないが」
 他者を侵し喰らうなら、斯様に横暴な芽吹きであるならば。摘み取らねばなるまい。そこに私情は介在せず、執行人の貌をして男はしずかに"祝福"の輪へと加わった。

「なんだかのおまつりのよう!」
 華やいでクロエが声を上げる。あちらもこちらも炎、如何にも大罪人向け。
 白の合間に放たれた紅蓮はもっと上品に、そうして容赦なく、逃れ出んとす巨獣をひとつきに猛火へ。磔へ、転がし戻す。
 今やさしく手を伸ばせば毛を逆立てられてしまいそうだから、荒ぶる狼への癒しは紛れて飛ばす程度。
(「ルトったら。苦しげでしてよ、貴方自身の思うより」)
 ぴちょん、
 ぴちょん。
 降る雨粒はすこしずつ大きくなっている。
 それらが重なるを撃って通すほど精密に、ロス・アルゼンタムのシルバーバレット――緑は土へ。過去は過去へ。
「命も今も犯す権利はもうない、還るが良い」
 狼へ降りかからんとす二重の災厄を弾く。
 うちひとつ、すっかりただの罅割れ骸骨と化したUDCの頭部を背中側へぐんねりと曲げさせて。余りある力で貫通した弾丸は、祈り乗せ種の代わりに地面深くへ突き立った。
 首が元の位置へ戻るまでの暇、待ってあげるほど正道を歩むものもいない。
 互いに互いを一瞥に伏すよつろ、イェルクロルト。
 こんな日には古傷がじくじくなく。だが殴る先はここで違えることなく。
 振り落とされた使いの一閃が格子の隙間から覗く曇天を割って、もげかけの胴周辺の骨をすっ飛ばし。
 ……猛る白き穢れの炎は衰えず。 夥しく赤の絡んだ心の臓でなにかが焦げる音がしたとて、生前を繰り返す一つ覚えのように四肢を軋ませ狼は、屍肉は、儘、薙ぎ払った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

隠・イド
耀子様、ほら見てください
私、植物になりましたよ
ふふ、面白いですね

あまり無い経験に子供のようにはしゃぎ
観賞植物ごっこに勤しむ

ふざけてるのではなく動けませんので
耀子様、斬っては頂けませんか?

しかし、ふ…くく、

いえ、駆動音を鳴らしながら植物を刈る《クサナギ》の姿があまりに滑稽で
《シバカリ》にでも改名しては如何でしょう?

おっと、それは恐ろしい
斬られた足を事もなげに再生し

ちまちま切り刻むのも面倒だ
だったらこうする方が早い

《模倣者》にて手榴弾やら火炎放射器など食べた事のある重火器を片っ端から複製し、敵を燃やす

燃やした先から再生とは面倒くさい
でしたらこれはどうでしょう?

最後はミサイルを複製し、脳天に突き刺す


花剣・耀子
イドくん(f14583)と

イドくんは何を遊んでいる――わけでは、ないのね?
楽しそうだし良いかしら。
きみの心配はしないけれど、……そう。
ヒトのかたちの植物は、そういうことなの。

未だ息のあるヒトが居るなら、巻き込まないように。
今は、敵を優先しましょう。

動けないなら先に言いなさいな。
行動を阻害している植物を切断。
チェーンソーとしての役目を全うしているなら充分だわ。
笑って動くと余計なところまで斬れるわよ。

目に付く限りを斬り果たせば、いつかは終わる。
植物化の法則が掴めたら、なるべく意識下に入らないよう。
自分から零れたものも邪魔になるなら斬りながら立ち回りましょう。

最終的に、アレが斃せるならそれで良いわ。




 口の中が真っ赤。
 腹からにょきり伸び出た怪物の顎みたいな植物、シャークティースのハエトリソウの。閉じては開く。
「耀子様」
 肩から腕を辿るモラネンシスなんて、花の無い緑ではあるが薔薇のように優美。他にも他にもびっしり多彩、斑点模様をしていたり、どことなくそのすべてが毒々しくはあるが。
 ほら耀子様、と追加で呼び掛けたところで漸く射貫くほどに青の瞳が振り返ってくれた。まさに現在進行形でUDCを相手取っている彼女が。
「イドくんは何を遊んでいるの」
「見てください。私、植物になりましたよ」
 ふふふ、面白いですね。はしゃぐ長躯が本当にただはしゃいだだけならば刃以て考えたものの、見るに、這い廻る植物は"攻撃を受けている"証らしい。
 耀子はひとたび己が眼鏡を押し上げて。
「――わけでは、ないのね? きみの心配はしないけれど、……そう。ヒトのかたちの植物は、そういうことなの」
「そのようでございます。耀子様も髪に綺麗なものが増えておられますね」
 お腹が空いておいでです? 多くが可憐な白に赤い実も交えた苺の花だったものだから、微笑ましいとでも続けそうな従者のひとり遊びをそこそこに放置してチェーンソーは獣の脚を跳ね返す。
「別に。 楽しそうでなによりよ」
 青紫した都忘れは鮮やかに一輪だけ。だけれどこちらは、己が頭を見ることの叶わぬ女は勿論、ヤドリガミには名すらも分からなかったのだ。
「ところでこれが中々、実のところ動けませんので。斬っては頂けませんか?」
「それを一番先に言いなさいな」
 すぱんっ。
 あくまで"敵"から視線外さず、薙いだついでのように断ち斬られるイドの足。そこに張り巡らされていたなんだか知れぬ蔦たちごとしおれ地面へ溶ければ、なにやらくつくつ含み笑う持ち主。
「いえ、駆動音を鳴らしながら植物を刈る《クサナギ》の姿があまりに滑稽で。《シバカリ》にでも改名しては如何でしょう?」
「チェーンソーとしての役目を全うしているなら充分だわ。笑って動くと余計なところまで斬れるわよ」
 それとも斬り損ねたかしら? ドルルルと地の底這う音で出力が一段階上げられた様に形式ばった礼の言葉を口にする頃には、真新しいパーツでにんげんらしさは補われていた。

「いやはやしかし、生命力の強い――と云いましょうか」
 あの花。 面倒くさい。
 刻んでも刻んでもしつこく纏わるエーデルワイス。
 でしたらこれは如何とぱっちん、イドが指鳴らせば現れ出るのは火炎放射器、の、複製。お役立ちのそれを主へ差し出さぬのは花剣たる娘の最大効率が何かを知っているためである。
「最終的に、アレが斃せるならそれで良いわ」
 目に付く限りを斬り果たせば、いつかは終わる。
 万物に共通する法則と信じてやまない耀子が邁進と刃をとめることもまた、ない。
「道理です」
 流れる風にイドは後方援護のかたちを買って出て、トリガーを引いたなら燃え立つ燃料の悪臭までもが精巧に本物だ。咲いた果実を惜しむこともなく振り落としながらその炎のアーチを潜り、足捌き鈍りて顔面から焼かれる巨獣の懐を取るのが耀子。
 誰かが開いてくれた胸部に収まる宝石めいた塊へ振り絞る機械剣、それが"核"であろうとなかろうと。触れ合わせた刹那に砕ける限りを撒き散らし。
 ギャリギャリと増して漂う焦げ臭さ、投げ込まれたピンの外れた手榴弾を剣風で打ち上げることでより深くへと届かせる。

 細長く白煙を引き連れ。
 反撃に転じられるまえに軽やか抜け出した女の背でどでかい花火が上がる数瞬差。曰く、またまたハエ同然に小花が寄り集まろうとするのが見えたので。
「次のマイブームは火遊びですって?」
「ふふ――たしかに。うつくしい炎かとは思いますよ、人類の叡智の結晶として」
 いかにもモノがモノをニンゲンのように褒め称えてみせた! ぱっくり割れ砕けた獣の頭蓋は骨より花弁、スローモーション、追撃ミサイルの爆心地となり枯れた地面の上へ落ちてゆく。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
出口へ傾く植物
白き花
もし考察が正しいとすれば
流石に笑えん事になりそうだ
…やれ呆れる程楽観的だな、ジジ

眼前に展開するは触媒たる宝石達
ジジが獣の注意を逸らす間に、可能な限り魔力を注ぎ威力を上げる
たとえ抱えられようと的は外さぬ
行使した【妖精の戯れ】で、獣の注意をジジから逸らさねば

従者の身を蝕む植物――ああ、全く
…痴れ者が誰の許しを得ての仕打ちか?
抑え込む激情を渾身の魔力として獣を穿つ
植物に蝕まれようと気丈に耐えるジジの手前
恥を晒す訳にはいかぬ

――それでももしも、万一
我が身が花となり自由を奪われんとすれば
変換された植物を燃やし無理矢理でも支配から逃れよう
…こら、そんな顔するでない


ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と
…は
その時は御明察と笑ってくれる故、心配無用
俺なりの信用だ

駆けるついでに視界塞ぐ蔦葉を黒剣で斬り払い
鬱陶しい苦痛に用いるは【封牙】
おい師父、焼くのは止せ
攻撃を掻い潜り、耐え、土壌となる無機物を破壊出来れば
師本体を抱え飛ぶ
後で治す故、辛抱してくれ

勝手に喰い荒らすな
身を侵す棘の蔦も、強い芳香も鬱陶しい
花など、名など知りたくもない
その蕾が開く前に
傷口から噴き出る蔦もろとも邪魔だと引き千切る
苗床など御免被る
根で地に縛られるよりは余程マシだ

一瞬の目眩ましに虚空へと残像刻んで翔け
緑の獣、その背に届いたなら
師の術に合わせ骨ごと打ち砕いてくれよう

その体なら花を手向ける手間も要らぬだろう


静海・終
新緑の獣、見上げるそれは新しい命に侵された髑髏
ひどくちぐはぐなもの、けれどもどこか美しい
その花の名前はなんだったろうか

緑を燃やすのは心苦しいものですが火葬いたしましょう
居てはならぬモノでございますからねえ
巨体の足を鋼糸でからめ動きを封じてから槍で穿ち燃やす
不意に痛む槍持つ腕に目を向ける
茨が皮膚を破り巻き付いている痛みは喉も締め付けている
おやまあ、と他人事のように思いながら槍が握れるか確認
呼吸も出来る、それならば再び蒼槍を握る
涙、私ちょっとチクチクするかもしれませんがご容赦下さいませねえ
この身の腕が捥げようが目が潰れ様が壊さねばならない
悲劇を殺すために
その思いは何処からくるのかは知らないけれど


ヴラディラウス・アルデバラン
緑の獣、か
広がる景色や骨のみの部位を有す緑の獣に何処か既視感を覚えるも、ただそれだけ
何時も通り、敵は斬るのみ

剣を手に、動きを読みながら接敵。容赦無く振るう
植物化を目にしても、この精神が揺らぐことはない

臓腑、特に消化器官はほぼ炎に犯されている我が身
果たしてそれを受けたならばどうなるか、など知る由もないが、臆することはなく
避けれるならば避け。避けれずとも耐えるのみ
何があろうとも醜態だけは晒すまい

頑丈な木々や、獣の身体すら利用して
蹴って駆け、或は跳べば。急所や、攻撃や防御の要となっている部位を狙い一閃

当然、猟兵の動きも良く見ておこう
隙を作る、或は隙が生まれたところに攻撃を差し込むのは戦いの基本故にな




 ――――。
 ――。

 巨獣のからだは呪いに毒に蝕まれてスカスカになっていた。
 度重なる炎に焦がされ、骨の色は黒が近い。切り傷は数え切れぬほど。爆発に巻き込まれ前に続いてもげた後ろ脚、開いた頭頂からは、半壊した胸部の塊がぽんやり灯って消える間隔ではくはくと花が零される。
 うつくしい長髪のようだった白花はもう何度散らされたものか分からず。
 その度に咲かせて、咲かせて、咲かせて。
 枯れ果てた大地へ緑を呼んで。

 それもここまで。
 ぽこぽこぽこっ! いままでのどの一瞬よりも盛大にエーデルワイスは骨の身を飾り立て。ひしゃげた胴だけで宙に浮いている物体は馬とももはや呼べず、終はいつしか言葉なく見上げていた。
(「何がそこまで駆り立てるのか。彼を、」)
 そして私を――、 まもなく訪れるであろうおわりに侵されたひどくちぐはぐな、けれどもどこか美しい髑髏を瞳に収め、終の槍は撓まず散らすを選ぶ。
 花の名を知るよりも、ただ、悲劇を殺すために。
 海竜が水飛沫を上げたのか。雨粒がその切っ先に弾けたのか。
 束の間の煌めきにヴラディラウス・アルデバラン(冬来たる・f13849)のうつくしき剣の軌跡が連なり。緑の獣――……どこか既視感を覚えたとて、そこに感傷は不要。
「そら。理外れし春もそこまでだ」
 やさしく降り落ちる白花の吹雪を裂きて、在るべき冬へと導かん。
 半分は風に吹き上げられる形で、一時ドーム天井まで浮き上がっていた獣が真っ逆さまに近い角度で急降下してきたところを、そうして二人がクロスさせることとなる槍と剣とを以て受け止めた。
 次なるつくりものの緑が若葉をつけはじめた足元を深く抉り、踵埋もれさせながら体は後方へと滑る。あれほどに崩れようと前へ進む力こそは見上げたもの、か。
 それはヴラディラウスが幾度も相手取ってきた我武者羅に戦う者の姿。夢見て望み、望まれ。最期にはみなこの剣の塵。手元、ちきちき叫ぶ金属音を踏み入る足で鍔まで滑らせ、拮抗に生まれる礫で臓腑覆う薄皮一部が裂けたとき、
「見せるがいい。無欲を気取る弱者よりは、よほど興も乗る」
 傷口からあふれでるは花園の緑でなく地獄の炎。 ――すこしばかり口の端を上げ。尊大なる王の如く女騎士は、嘶きて怯んだ巨獣の身を押し返した。
 次へと繋ぐのだ。
「あぁ……」
 間髪入れず、俄かに出来た空間へと引き戻した槍を体全てで当たって捻じ入れる終。不知火は、土と緑をも海と変え。
「そうですね。望むかたちでの世界とは、勝者の側にしかやって参りませんから」
 何方にとっての悲劇がよりふさわしいエンディングか――零距離に"内側"へと注いだそれはジュッと短く音立て、骨を青白い色へと照らしだす。
 二色の炎が爛々と躍って散って。
 後退せんと骨軋ませ捩るならば逃しはしない、ヴラディラウスの手によって、イスティルと銘受けし凍てつく刃が続けざまに叩き込まれた。

 急激な温度変化に、獣が身に纏わった小花はひといきにその輝きを失った。
 翠翁の"意識"は明らかに鈍くなっている。
 敵でしかない猟兵の身へと花開くまでに、これほどのラグがあるからして。
「は。どうやら御明察だったな」
「……やれ呆れる程楽観的だな、ジジ」
 最中へと舞い込んだ黒と青の風、ジャハルにアルバ。動物を植物へ――術士の予測は現実となり、ぽこぽこ目出度い音で芽吹く緑。挑戦的な笑みと口振りこそ軽い冗句のそれであれ、不吉を感じ取れば後先なく主より前へ身を盾とした従者は筋金入りの。
「俺なりの信用だ」
 強く地を蹴る竜のそこからの早駆けは、"盾"へ生じた異変の大きさへ気付いて呆れ声が本当に乱れる前に。こころまで守れずしてなにが、……思わぬわけではない。
 一歩ごと、身の内に突き立つかの植物の牙に抗うべく肉体が様変わりしてゆく。ひとの手で裂く枯れ葉。鱗を帯びし手で断つ枝。 完全に、竜種と化した手で折る幹。
 障害を斬り捨てながら引き抜いて、勢い叩きつけるちかいの刃は緑葉巻き上げて爆ぜた。
『――!!』
「勝手に、喰い荒らすな」
 吹き飛ぶ翠翁がぐわんと顔を向け、胸に腕にとどっと湧き出る棘の蔦も芳香もいっしょくた引き千切る竜の爪。開ききらぬ蕾のままに仮初のいのち断たれた針が、口惜しげにも指を刺せど。
 花など、名など知りたくもない――根で地に縛られるよりは余程マシだ。

 ボールと呼ぶには些か大きいが。
 地に叩きつけられ骨片落としつバウンドしたUDCを歓迎するは、周囲へ焼け残った残骸の合間に張り巡らされた鋼糸のネット。
「いっちょあがり、ってやつでございますねえ」
 それから串刺す蒼の槍……落とし穴の罠が宙にあるかのようだ! もがき抜け出た背なら極寒がなぞる。撫で斬りに、即座に身を翻してヴラディラウスの纏う鎧がひややかに鳴った。
 金属の合間にはナスタチウム――血染めの騎士――が覗いている。だが燃え立つ地獄は花を愛でず、花もまたそれを避け。そもそもが女の虚にはもはや、護るべき血肉など存在していやしない。
「遠いな。痛みなどとは」
 二撃目が瞬く間に閃いた。尾骨を飛ばされ随分とやせ細りながらもぐねんとのたうち反転、もはや蛇の一種じみて、空すべる翠翁は大口を開けアルバへ矛先を変える。
 その身を縛す色濃い緑を目敏く捉えたのだ。
 宙へ展開した宝石群は魔法の触媒、みなが巨獣の意識を引く間に注げた魔力は覆う根に蔦の妨害が入り、八分ほどといったところか。
「ほう、肥えた目をしている。と、……褒めてやらんこともないが」
 多少拙い。
 解き放つ妖精の戯れに弾いて逸らせどあまりに巨大。加えて自由の効かぬ、地へ縫い付けられた状態では他に――。
「く、 」
 ――燃やすか。
 欠けたとて繋ぎ直せば足る身、脚を縛り腹まで走る蔦へするりと炎添わせたとき、
「焼くのは止せ」
 伸ばされたジャハルの腕がアルバを狭き空へとかっさらう。
 地上にて、間際まで迫っていた翠翁のからだを弾き上げたのは横合いに振るわれし片手剣。オブリビオンといえ獣の瞳は二つしかなく、また視覚外からの強襲に耐えられる余力はもう、どこにもなかった。
「敵前に隙を晒すとは、戦いの基本すら知らぬか」
 渡り歩いた崩れた石柱から飛び降り、仕掛けしヴラディラウスの周囲に氷雪が滲む。滲ませたのは炎。 水を思わす、揺蕩う。
「涙、私ちょっとチクチクするかもしれませんがご容赦下さいませねえ」
 これを終えればおやつにでもしましょうか。ざざざざ、と魚の骨みたくに指先から腕の付け根まで、茨が等間隔で突き出しているというのに。
 否。止まらず、首元まで。
 喉をも締め付けられて。が、紡ぐ終の他人事めいた微笑みはひとつとして崩れず、また蒼槍もそれに応えるかのように力の入りの強まる手から、決して零れ落ちはしない。

 そうして。
 空から煌めく魔法弾が援護射撃として次々撃ち込まれるのは師弟の共同作業。常より必要とあらば身を砕くを是とする男である所為もあったろう、クリスタリアンの繊細な脚に阻み損ねた花の燃え痕が痛ましいが。
「……後で治す故、辛抱してくれ」
「おまえ。 お前はー……こら、そんな顔するでない」
 言いあぐね胸元でも叩こうかとしたときだ、ごっそり抉れ向こう側が見えかねないジャハルのそこに、アルバが気付くのは。どれほどの花がそこにあった?
 どれほど、痛んだ?
「……、……痴れ者が誰の許しを得ての仕打ちか?」
 弟子が己が身を危険にさらすほど護れるものと守れぬものの乖離は進み、ある種のそれは悪循環。憤りは獣へ向ければよいのか。未だ不甲斐のない我が身か。
 しかし生ずひずみとも呼べるこの激情を、力へと変換したならぱ。
「――望み通りに枯れ果てよ」
 恐らくはアルバにとって、残り二分を優に補う最上の魔法ともなる。
 手の内の宝石にピシリと罅が走り。
 ごおっ! 炎とも風とも、水ともまた別のなにかとも。込められた属性は一路、混ざり合い吹き荒れて翠翁の身を消し飛ばしながら閉じ込める。
 嵐の最中へと踏み込むには身投げの覚悟が必要?
 ことジャハルにはもはや不要。

「緑の獣、終いだ」

 宝石のひとを手放し血同様に花弁を撒き散らしながら、一直線に飛び入って"目"の中心へ突き抜ける翼。両手にすでに振り抜いた影なる剣。
 身動きのとれぬ翠翁のまっくらな瞳と交錯、宙から地面まで縦真二つに通し下ろせば――ぽんっ、と、血豆の弾けたてのひらへさいごに咲いた花は手向けのようだった。
 サファイアスター。
 ひとときばかりの。

 すっかりちいさくなった神が崩れる。
 あわい地響きにひら、ひら、戦いの痕跡は舞い立って。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『願掛け』

POW   :    しっかり想いを込める

SPD   :    手短にあっさり済ませる

WIZ   :    深く物思いにふける

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 破れて穴の広がった天蓋から、さあさあと雨が降る。
 戦い抜いた猟兵のからだから、はらはらと花が散る。

 一命をとりとめた只人の体からも。或いはずー……っと昔から、立つ支えとしていた花実は去りてふっと力なく頽れ、紙片のうえ横たわる肉体。次に目を覚ましてしまうならば、固くその手に握りしめたまま変わらぬ種の存在に笑うのか、嘆くのか。
 未だ知れずとも。
 だれもが、入園券の代わりに、おなじものを持っている筈だ。
 花咲く幻がすべて失せてしまわぬうちに、すこし歩くもいい。
 翠翁が幾重にも上塗りしていた植物とそのなれ果ての燃え滓が姿を消すほどに、恐らくは本来の足場、砕けた石畳や黒土は姿を覗かせて。
 雲間からドームの最奥にまぁるく差した光のもと。ひっそりと。ほんの僅か。
 現に揺れる、褪せぬひとひらに出逢えたなら。

 "諦めきれずにいる願いを、叶えよう"。
 "伝えられなかった想いを、届けよう"。

 ――めぐる季節に、咲くことをゆるされるのは枯れずいるものだけ。
 そんなことは誰しも分かっている。
 けれどもどうして己が"そう"となれるのか、分からぬから死すとも死ねずこころ綴る花々の、此処はまるで――――。
二月・雪
▼雪ちゃん、指にお花が咲いたままだよ。大丈夫?
盾にするなら人形でよかったのに、無茶ばっかりだ。

▽からだの花はもう消えた。小指のこれもすぐ散るさ。
さあ花を探しに行くぞ。咲いていてもいなくても、また種を埋めよう。

▼昔、ここで「言の種綴り」をしたときさ
俺「雪ちゃんと結婚してずっと一緒にいられますように」って書いたんだ。
花が咲く頃叶いますなのに、気が早いよね。
ふたりで紙片と種を埋める。願い事は「ずっとこのまま」
ごめんねも一緒に埋めよう。

▽本当に気が早い。その頃は私もお前も生徒だったろう。
けど結果として叶っているから成功だな。
ふたりで紙片と種を埋める。昔も今も、言伝は「一緒にいきたい」と決めているんだ。




 楽園。

「雪ちゃん、指にお花が咲いたままだよ。大丈夫?」
「からだの花はもう消えた。小指のこれもすぐ散るさ」
 無茶ばかり。人形を盾にすればよかったのにと膨れる二月の声を制して、雪は草を掻き分けてゆく。先ほど二月が探していたあたり。いつかの花なら、ちょうどこのあたり――目星をつけることはできても。
 そこには雨を吸いどろりとした。
 掘り返された墓のように捲れた。
 黒い土があるのみで、だが、男が嘆くより早く雪がその手を引いた。
「また埋めよう」
 繋ぐ手が共にひとつの種を握る。今だってふたりでいるのだから、なにも変わらないと。

 遠く――おもいでを手繰り寄せるひとの眼差しをして、二月は昔話をはじめる。嘗て、ここで言の種綴りをしたときのこと。
「俺ね。"雪ちゃんと結婚してずっと一緒にいられますように"って書いたんだ」
 花が咲く頃叶いますなのに、気が早いよね。次第にそれは色の薄いつくりもの同然整った面立ちから、ぬくもりの感じられるはにかみ笑いへ。触れる肌の熱の有無だとか。どうだってよくなるくらい。
 土に開いた穴を広げていた雪もすこしだけ視線を上げた。その頃は私もお前も生徒だったろう。本当に気が早い――言って、
「けど結果として叶っているから、成功だな」
 小指のとなりできらめく揃いのリングを撫ぜる。
 忘れてなどいない。
 一言一句、そう、たしかにふたりは"結ばれている"から。
「それで、願い事は変わっていないのか?」
「もちろん。あっ、でも折角ならずっとずーっとって、欲張っちゃおうかな?」
 どちらにせよ変わり映えのない内容に次、笑んだのは女の側だ。
 ひとつを半分に断って。永遠を誓い合う届へそうするみたく、それぞれにちいさく文字を書き込んだ紙片を土へ伏せる。
 "ずっとこのまま"。
 "一緒にいきたい"。
 小指の赤が零れて。種を落として蓋を閉じたなら、 静寂。

「そのからだでは風邪を引くな。帰ろう」
「うん。……うん」
 ちいさく添えた"ごめんね"。
 ほんの僅か俯いた男の肩を抱くようにして、またふたり、影がひとつへ溶けあうほどに寄り添いあって歩いてゆく。確信があった。此度の花こそは、きっと――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ナギ・クーカルカ
人格《ナギ》
彼女が目を醒ます。閉ざされていた眸が世界をみる。それとも。
世界が彼女の夢に、うまれたのかしら。
どちらでも、いいの。

纏めていた髪は、降ろされ。黒い衣装は白へと表情を変える。小雨、しとしと降る銀の糸に似た、細い絹の髪を揺らして歩く。

蛹の中まで入り込んできた滲むような痛みに、誘われて。目覚めたのはかつて育った温室のような場所。
あなたが連れてきてくれたのですね。
名前など知らない。きっと名前すら無い。声も聞こえないけれど。胸に咲いた花が、あなたに似ている事は知っています。

手向ける想いはひとつだけ。
母が唯一愛せなかった生き物を。
人という種を愛していくと。
母よ、あなたに誓います。




 やわらかな雨に打たれて緑の淵へ佇むそのとき。覚えた久方ぶりのここちよい微睡み。
 ナギはそれを、彼女の。《ナギ》のめざめであると知覚していた。
 閉ざされていた眸が世界をみる。
 それとも。
 ――世界が彼女の夢に、うまれたのかしら。
(「どちらでも、いいの」)
 事実は小説よりも――感歎のうちに伏せられた琥珀。くたりと力の抜け一歩を踏み外した靴底。華やかに纏め上げられていた長髪はほどけ肩を流れ、途端にまじないが解けたかのように、美しき黒のレースは白へと染め変えられて。
 雨粒が絹糸を、銀のあわい光透かす髪の一本いっぽんを伝い落ちてゆく。それが足元に弾ける頃にはすべてが色を移ろわせ。
 《ナギ》は、そうして己の脚で土の大地を踏んだ。

「ここは……」
 蛹の中まで入り込んできた滲む痛みに、誘われて。目覚めた場所は、まるでかつて育った温室のよう。"わたし"の世界。もうずっと昔に背を向けたはずだったのに。
 蜘蛛糸が、花が揺れる風に自然へ溶けこむ足取りで娘は、そう、年若き娘同然にふわりふわりとスカートを遊ばせて庭を歩み。
「――あなたが連れてきてくれたのですね」
 胸に咲いた大輪の花へ、しなやかな指先を触れる。
 既に散りはじめたそれ。さいごのひとひらまで魅せるそれ。 ――名前など知らない。きっと名前すら無い。声も聞こえないけれど。"あなた"に似ていることは知っている、それ。
 ほんのりあたたかなのは、この身のいのちが放つ熱か。受けた生の証。
 ゆるく握り込んだ同じ手には言の種。
 淑女より託された白色のままの紙片。
 そうっと腰を下ろして濡れた土へ指伸ばすその仕草は、喪に服し、こうべを垂れて墓前に語り掛ける様にも似ていた。

 しとやかに。
 雨が降り続くうちは、種の別なく誰しもが濡れそぼつ草花のように俯いていられる。
 ひとを真似て綴りて、遠く彼方まで手向ける想いは、ひとつだけ。
 母が唯一愛せなかった生き物を。
「"人という種を愛していく"と――母よ、あなたに誓います」

 醒めてしまった。
 世界はこんなにも、うつくしかったのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エンジ・カラカ
薬指の白を掻きむしり、引っこ抜く。
だってだって、いらないンだ。
これだけしか無かったら花冠は作れない。

アァ……アァ……言葉が出ない。
種はある。何の種?知らないなァ……。
願い事?そんなモノは無いなァ……。
ネクロオーブを転がして願いを思い浮かべてみた。

真っ白。真っ白。
アァ……そうだ。まそほ、まそほ、賢い君の賢い鳥
身体の紋章から現れる炎の君。
お前の願いは何?

そうかそうかアオイトリを起こしたいカ
そうか。

傷の塞がらない薬指
賢い君はお腹いっぱいなのに参った参った。
アァ……、願いが思い浮かばない。
この種も食べてしまおうカ。
そしたらもーっと綺麗な花が咲いて願いが思い浮かぶかもしれないネェ。




 不躾に薬指へと生えた白を掻きむしる。引っこ抜く。
 だってだって、花冠をつくるにも足りぬなら腹を満たすにも足りぬ。エンジにとって"いらない"ものは如何に可憐であろうとも等しく塵と変わらない。
 それらを撒けば即席の花畑。
 座り込むエンジは、ネクロオーブを転がしてそこに映る自身を見た。
 願いを見た。
 なにも映り込みやしないと知って。
(「アァ……アァ……言葉が出ない」)
 ほら真っ白。

「アァ……そうだ。 まそほ、まそほ、賢い君の賢い鳥」
 語り掛ける先は自身の身に刻まれた紋章。
 呼応してぶわりと溢れる炎はすぐに鳥の姿を象った。ふわ、ふわり、尾が微風にたなびく。主へ降りかかる雨を弾く。
 首の周りをゆるやかに一周して襟巻状になるそれへ手を触れながら、ちいさく引けば鳥と狼の視線が絡んだ。
「お前の願いは何?」
 嘴が開閉するも、音を意味あるものとして拾えたのはエンジだけ。
 "アオイトリを起こしたい"。そうかそうかと首肯する男は転がるオーブをもう一度覗く。
「そうか」
 繰り返す。 しかし、手の内の種は地面へ零れていかなかった。
 ――花が咲く頃に叶う?
 それがどれほどの年月を要するものか。枯れた世界を根城とする身にとっては、まるで果てしないことのように思えたから。

 その願いは持ってゆくことにする。
 毒の鳥がしきりに啄むので、花弁を零し続けていたらしい左手薬指へと漸く意識が戻った。気が付けばあちこち花だらけ。
「食べるカ?」
 しかしいざ寄せてみたなら首を振られる始末。火の粉が熱い。賢い君は腹一杯だというのに参った参った――人間のそれへ戻りかけているのだろう。今は薄紅に染まった花弁のいくつかを、舌に乗せ腹に戻して。
 ついでにひょいと種も口へ。
 噛み砕かずにひと呑み。
「ふゥん。こうすると、綺麗な花が咲いてもっとイイ願いが思い浮かぶかもしれないのにネェ」
 叶えるにもずっと確実であると酔った――楽しげな色を孕んだ笑いで身を起こす頃には、花畑もすっかり姿を消していた。
 夢幻に同じ。
 自らから芽吹いたはずの願いの数々は、結局のところ、ひとつも味なんてしなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夏目・晴夜
願いが叶うって本当でしょうか
いやまあ信じませんけども

私は実は、死ぬのが少し怖いです
どう足掻いても長くは生きられないのが少しだけ怖い

どうせ長生きできないのなら
命を更に縮めてでも自分の好きなように褒められるように生きて
それで早く死んで死の恐怖から早く解放されたい
だけども死ぬのは、まだほんの少しだけ怖いです

なので綴る願いは一言
死ぬのがもっと怖くなくなりますように

全く、何しているんでしょうね
この至高たるハレルヤにはそぐわない馬鹿馬鹿しい事を
こんな紙切れも、微塵も芽の出ていない種も、ほんのひとつまみ程度の恐怖も
私に相応しくないものは全て埋め捨てて帰ります

さて、また敵を存分に屠れる楽しい日々に戻りますかね




 さくり。さくり、踏みしめる地で立つ微かな音。

 晴夜の足跡に添うように青紫のちいさな花が落ちている。還って巡ることもなく、ひとつずつ、ただ世界から消えゆく様は儚くも。"そういうもの"だから、誰にも止められない。
 願いが叶うなどと本当だろうか。
 ――信じませんけども。
「私は実は、死ぬのが少し怖いです。どう足掻いても長くは生きられないのが少しだけ」
 怖い、と、呟きは傍に誰も居ぬからこそ雨と同じのささやかで降る。
 口振りにおそれはなかった。
 あきらめがあった。
 そのあきらめよりずっと仄かに、ねがいがあった。
「どうせ長生きできないのなら、なんて、合理的で賢い選択でしょう?」
 命を更に縮めてでも好きなように、褒められるように生きて、死んで。死の恐怖からの解放はきっと甘美で――そのときやっと、本当にすべてを手に入れるのだと――、神を想う人々みたく信じていたいのに。
(「だけども死ぬのは、まだほんの少しだけ怖いです」)
 迷うのはひとだから。
 撓まぬこの足取りに認めたくはない一面を確かに引き連れている。

 だから、
 やがて歩を止めた人狼の少年は、歩きながら綴っていた所為だろうか……そうに違いない、不格好によれて雨粒に滲んだ紙片へ記す想いごと、種を埋める。

 "死ぬのがもっと怖くなくなりますように"。

 土を撫でつけた手が赤黒く汚れていた。
「ふっ……全く、何しているんでしょうね」
 至高たるハレルヤにはそぐわない馬鹿馬鹿しい事を――。
 笑うのはひとだから。
 誰に会う予感もしないのに、目深に帽子を引き下げんとして今日は留守だったことを思い出して。代わりに触れた獣耳を八つ当たりのように引っ張ると、重い腰を上げる。
 はらはらと小花が落ちてきた。
 踏みしめて土へ混ぜ、帰路へ。
 紙切れも、微塵も芽の出ていない種も、ほんのひとつまみ程度の恐怖も。相応しくないものはすべて埋め捨てて帰るのだ。
 敵を存分に屠れる楽しい日々へ――しかし少年は聡かった。
 この願いばかりは己すべてを土へ埋めたとて叶う筈がないのだと知っている。
 筆で綴るにも憚れる、より別なひとつをこそ埋められずに。已まない。 どうせまた、明日からも。

大成功 🔵​🔵​🔵​

冴木・蜜
花咲く幻の残る廃植物園を歩き回り
懐の種を植える場所を探しましょうか

幻の花々が群れて咲く場所に朝顔の種を
今は亡き友人への言伝を添え植えましょう

書こうと思えば
いくらでも長く書けてしまうので
言伝は一つだけ
「私は変わらずに生きています」と
ただその一言を 種に添えましょう
…だから心配しないで下さいね

…それにしても
身体の花は殆ど枯れましたが
右目のものは妙にしぶといですね

ぼんやり嘆いていたら
右目の花を食い潰すように
体内UDCが右目に花開く

…自己主張が激しすぎでは?
そんな主張せずとも私の毒の身を苗床にする樹なんて
貴女以外に居な…っいた、た
ちょっと
物思いに耽っていたのに
人のはらわたで暴れないでもらえます?




 この種を。言伝を埋めるならばどの場所がいいだろう。
 きっと陽の当たる場所がいい。

 蜜は、未だ形成したばかりの水っぽい音を立てる二本足でゆっくりと歩む。瞼をひとたび伏せたときから、随分と時間が経っているように感じられた。
 辿り着いた先は幻の花々が群れ咲く一地点。
 やがて空虚に孤独になるとして、今だけはさみしくないそこ。
「……雨水も入ってくるようですし、きっと快適でしょう」
 微かばかり手のうちの種へ笑む。今は亡き友人へそうする風に。朝顔とともに綴ったひとつは、"私は変わらずに生きています"。
 ――だから心配しないで下さいね。
 いくらでも浮かんでは消えた話したいこと、押し包めた一文は頼りなげに揺れる筆跡だった。逆に化けて出てしまうのでは、と、ちいさく肩が揺れてしまうくらい。

 望むかたちで出てきてはくれないことも十二分に分かっているけれど――。
「あぁ……それにしても」
 息をついたのは一仕事終えた達成感からではなく、花。
 咲いた花のほとんどは枯れたというのに妙にしぶとい右目のひとつ。キスツスに、土濡れた指先で触れようとしたときだ、ぐわんと身を内から引っ張られる"馴染みの"感覚がしてその一輪が引き摺り込まれたのは。
 ぽんっ。
 眼窩から入れ替わりに飛び出し、うつくしく咲きそろう花こそが"先住者"。
「――――。自己主張が激しすぎでは? そんな主張せずとも私の毒の身を苗床にする樹なんて、貴女以外に居な……」
 ぽぽぽっ。
 やっと人らしく模ったはずの腹までも内から叩かれる。混ぜられる。残り微かな招かれざる花弁が散る、散る。これは裂かれるコース。
「っいた、 た。ちょっと」
 物思いに耽っていたのに、人のはらわたで暴れないでもらえます?
 ――注文は通らずに。
 思わず折って屈めた身のそばで、手放したものとよく似た種の朝顔が、淡い光を零して揺れていた。

 付き合いの長い花に願いを聴いてもらうというのが、既にこれほどまで難しいのだ。
 それをよく知る男が土の下へ埋めたのは、誰に届かずとも己がまたひとり歩みゆくための特効薬。
 願いよりもずっと微かな――ささやかで、切実な、祈りに他ならない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

絢辻・幽子
SPD

やあね、尻尾が濡れちゃう
でもまぁ、今日は許してあげましょう。

私の手の中のこの子は、ここでどう育ち
どう咲き誇り、どう枯れてゆくのか
私はそれを知る事はできませんけど。
もしかしたら、枯れちゃうかもしれないしねえ?
……それでも土の栄養になり他の花の糧になり、
ぐるぐると回って、廻っていくのね、きっと。

さて、願えば叶うかしら、どうかしらねぇ
欲深い私の願いをあなたが背負えるかしら?
そうね……
私のせいで死んだあの子にごめんねって
伝えて。

なぁんて、ね。
嘘、よ。私にそんな綺麗な心はないわあ。

(のらりくらりとした人を喰った様な女狐
種は鬼灯。)




 ゆうらり、ゆらり。けぶる朝霞に女は揺れる。
 ふさりとした豊かな毛並みの自慢の尾は花にこそ蝕まれることはなかったが、今になって、雨粒をいくつ乗せていた。
 やあね。はじめそう呟いたものの、今日は許してあげることにしたのだ。
(「恵みの雨なんでしょうし。多分」)
 見渡す最中、疎らに咲く"本物"の花々。
 自らの手のうちの種はここでどう育ち、どう咲き誇り、どう枯れてゆくのか。
 知ることはできないけれど。
「いーい? 長生きの秘訣はね、おねえさんのようにおおらかな心で日々を過ごすことよ」
 つんとつつくだけで容易く四方へ散って逃げゆく臆病だ。
 てのひらから零れたところで丁度いい。
 埋めてしまおう――、掘り返す必要もなく窪んだ土へ残りを落とした。

 さらさら。
 ちいさな鬼灯の粒は、眠れぬ千夜を誤魔化す薬か握りしめて粉になってしまった夢の残滓のよう。
 きっと枯れたあとにも……たとえ花開かずとも、土の栄養になり他の花の糧になり、ぐるぐると回って、廻って。
「さて。 欲深い私の願いを、あなたが背負えるかしら?」
 その終に行き着く先が同じならば、言伝は叶う?
 願いは――。
「そうね……」
 私のせいで死んだあの子に"ごめんね"って。
 ――伝えて。

 樹上から零れた雫が血の気の褪せた頬にぴちょんと跳ねる。 なぁんて、ね、数拍ののちに幽子が紡いだ声もまた飄々と嘯く調子で跳ねていた。
「嘘、よ。私にそんな綺麗な心はないわあ」
 この手で括らねばならなかったすべてが生きる糧であったとするならば、拭う爪先はそれらの命の分も艶々、朝露に光る花のようで。腰を上げたとき、ドレスの裾はうんと雨水を吸って重くなっている。
 だから踏み出した次の一歩、らしくもなく泥濘にとられたこともそう、仕様のないこと。
 ――地の底から引く手がもしもあるのならば、この眼に映してみたいものだ。
「……そうしたら糸でも垂らしてあげるのだけど」
 妖狐の女が肩越しに振り返った地面は、この場に満ちる戦いも願いも想いすらなにも知らぬ貌をして、ただ。静まり返っている。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鳳仙寺・夜昂
……ほんとに埋められるかと思ったわ。
その辺の樹か壁にでも寄りかかり、ぐったりしつつ。
痛くはないがただただしんどい。

(傍の地面をふと見下ろすと紫色のオダマキの花)
……咲いてるもんなんだなあ、普通の花も。
俺は花の名前も何も分かんねえけど。

諦めきれずにいる願い。
伝えられなかった想い。
難しいよな。諦めないことも、伝えることも。

……まあ、そうだな、俺に諦めたくないことがあるとしたら。
まだ死にたくねーってことかね。
泥臭くてもまだ生きていたい。今は。

晩飯は何にすっかね……鶏かな。唐揚げがいい。


※絡み・アドリブ歓迎です


渦雷・ユキテル
肌打つ雨が嫌じゃないのはユベコの影響残ってるんですかね
それとも哀愁めいた思い込み。少しずつ元に戻ってきてますし
花みたいになんて、死ぬ前から他のものになろうだなんて、
……そんなの馬鹿みたいですよ

アネモネ。球根のイメージありましたけど、種ってこんななんだ
ぱらぱらと種を撒き。つくづく縁深いです
外に出られたら見てみたいって、むかし『彼』に話した花
結局ふたりでは見られなかった花。今はまだ。でもいつかは。
込める願い、伝えたい想いは――

やっぱりやーめた
花に託すほど遠くにはいない筈
それに自分の願いくらい自分で叶えます
だから、ね。
あなたは咲きたいように咲いて下さい

白いままの紙片をポイと捨て

※絡み・アドリブ歓迎




「……ほんとに埋められるかと思ったわ」
 疲れを感じさせぬ旺盛さで奥へ跳ねゆくユキテルを、片手払って見送ったのち。
 ぐったり石壁に背を預ければそのまま半ばずり落ちる夜昂。痛みこそ失せたものの、ただただしんどい。当然だろう、身を内から捏ね回されるような体験、金を積まれたって二度とはお断りだ。
 土の香りが強い。首の置き場も定まらず、だらんと横向かせた視界の端にふと。 紫が。
 それは小花だった。名前も知らぬいくつか。
「……咲いてるもんなんだなあ、普通の花も」
 気付いたからには踏みたくもなく、そろり傍から靴を退けてやる。何も分からねど誰かの身から零れたものでもないのだろう、しかと土に根を張る様は。
 それは果たしてなにかの成就か。
 諦めきれずにいる願い。 伝えられなかった想い。
(「難しいよな。諦めないことも、伝えることも」)
 花がうつくしく咲いた頃に、同じ想いを抱き続けていること。曲がらぬようにと自らを貫き通すこと――けれども、次こそは。神仏にすら願掛けせずとも果たす気で、握る拳を確かめる五指。
 弱弱しくも血が通って力の入る限り。
「諦めたくは、ねえよなあ」
 生きること。
 泥臭くてもまだ生きていたい。今は。

「花みたいになんて、死ぬ前から他のものになろうだなんて、」
 ……そんなの、馬鹿みたい。
 肌を打っては伝いて落ちる雨が、今日は嫌じゃないのは、咲かせた花の影響?
 それとも哀愁めいた思い込み。ずっと――むかしから、見てみたかった花だから。
「ふたりで、って、もっとちゃんと言っておけばよかったですかね」
 願い叶って外へと出られた。でも隣には、  ……涙が伝うわけでもないのに雫が目に入って、手首のうちで拭おうとしたから、ぽろぽろと代わりに種が零れた。
 同じ花、いずれアネモネとして花開くであろう種は、ぽつんとユキテルの足元にだけ残っている。
「そんなにさみしそうにしないで。いつかは、咲けますよ」
 あなたもあたしも。
 込める願い、伝えたい想いは――。

 やっぱりやーめた。

 軽く土だけ被せてやって、言葉は被せない。ユキテルが放った白のままの紙片はすぐに浅い水たまりへと浸かり沈んでいった。
 花に託すほど遠くにはいない筈。
「それに自分の願いくらい自分で叶えます。だから、ね」
 ――あなたは咲きたいように咲いて下さい。
 いつか"彼"とふたり、訪れたとき、きっとなによりうつくしく。ほら、綺麗でしょうと笑う女はだれよりさいわいの中――ねがいで縁取る未来に瞳瞬いたならば、あとは見届けるまでもない。
 足音という足音もなく。
 不意に眼前へ降り立つ人の影。暗がりが更に黒くなったから、瞼を押し上げるは夜昂。
「んあ。お前か……やたら早えけどどうした」
 ぼんやり目を擦ったその腕がぐんと引かれる。
 掴んだ側、ユキテルの足は早速出口へ向いていた。
「もー、女の子に時間の話なんて失礼ですよぉ? ほらお夕飯! 食べさせてくれるんでしたよね?」
「はぁっ!? んな話してたかよ」
 女の子とは云うが、引く腕の力、これが存外強いのだ。
 傷が開きそうで苦む笑い。或いは、賑やかしい夜の予感に滲む笑い。先行く背にしつこく張り付いたままの花弁を払うついでの体で、また同じく己の足で歩む者として、手を剥がせばその隣へと夜昂は並んだ。
「ったく……献立はもう決まってっからな。唐揚げに」
「わぁい。ふふ、荷物持ちくらいなら手伝ってあげますよー」

 何をも埋め棄てず、抱えながら遠のく声。
 二人の行先を見守るように、ちいさく手を振るように、夢を叶えたオダマキの花が揺れていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シエナ・リーレイ
【Wiz】
アドリブ可

不思議な夢だったなぁ。とシエナは呟きます。

不思議なお馬さんによりお花畑にされ微睡みに堕ちたシエナ
微睡みの中でシエナは夢を見ていました

夢の中でシエナは可笑しな歌が響く森を彷徨います
途中、歌を歌う獣のような植物と遊び『お友達』にしたり、酷く焦った様子の八人組と出会いながらも無事に森を出たところで目覚めました


夢から目覚め廃墟を去る途中
シエナはふと、夢の中で聞いた歌を口ずさみ始めます

すると、シエナの身体から蔦が生えて絡み合い、夢で遊んだ獣になったではありませんか
予想外の事態に驚くシエナですが直ぐに立ち直ると獣と共に帰路につくのでした

あれは夢じゃなかったの?とシエナは首を傾げます。


シトー・フニョミョール
WIZ判定・アドリブ歓迎

いやぁ、ひどい目にあったんぬ。皆とははぐれちゃったし、なんだか中途半端な形に戻ってるんぬ(体半分を埋め尽くすアキレアの花、足は根が張ってて動けない)

しかしこうしてのんびりしてみるのも悪くないんぬ。元々マスターが作り上げた子の身体、朽ちて土にかえって、マスターを喜ばせる花になるなら――なんて、そんなことしても残念がるでしょうね。

さてさて雨も降って来た。雨が気持ちいいってのはあんまりない感覚ですね。植物の要素が残ってるからでしょうか。
そうですね、願掛けするなら――。
「マスターや皆といつも通り愉快に過ごせますように」でしょうかね。

あ、通りかかった人には手でも振りますよ。




 べっ……たり口から鼻から覆っていたアキレアが引っ込んで、漸く胸いっぱいに酸素を取り込めるというもの。
 手をついてなんとか上体を起こすシトー。しかし足の方は根が張ったままときた。
「いやぁ、ひどい目にあったんぬ。皆とははぐれちゃったし、なんだか中途半端な形に戻ってるんぬ」
 腕立ての姿勢は分と続かず、べしゃりとぬかるむ地面へ逆戻り。
 拍子で転げ出た紙片と種に、そういえばここまで足を運んだ理由が思い出される心地だ。
「願いでも言わないと帰してくれないトラップ、だったり?」
 ――ぬっぬっぬっ! 笑う余裕はある、と自らへ言い聞かせるかのひとりごと。
 とはいえ悪いばかりでもない。
 転がって空を見上げる姿勢となれば、曇天から零れてきた雫が半身を埋め尽くしたままのアキレアを濡らしてゆく。雨が気持ちいいなんてあまりない感覚、味わえたり。
(「元々マスターが作り上げたこの身体、朽ちて土にかえって、マスターを喜ばせる花になるなら――」)
 センチメンタルになるもよし……なんて、そんなことしても残念がると知れていた。
 石の体であってこその自分。価値もまた。いいところ探しはすぐに終了、指を伸ばして摘まみ上げた種へひとつだけ願いを言い含める。
 もっと願うに相応しいこと。
 "マスターや皆といつも通り愉快に過ごせますように"。
 手元もよく見えないけれども、これだけはちゃんと土の下へ埋めておこう。

 ……不思議な夢だったなぁ。
「と、シエナは呟きます」
 馬みたいなUDCに花畑にされたことも夢のようだったけれど。もうひとつ、そうして堕ちた微睡みの中で見た夢のこと。
 シエナはその夢のうちで可笑しな歌が響く森をひとり彷徨っていた。
 ――誰がお歌をうたっているの?
 ――誰かがわたしを呼んでいる?
 鬱蒼とした草木を潜り抜けてずーっと歩いた先、深緑の馬とはまた異なる、現れた獣のような植物が歌い手であったなら"お友達"になってとせがんで。
 酷く焦った様子の八人組と出会ったときは、きょとんと首を傾げたのだった。
 そうして無事に森を抜けたところで今、目が覚めたということになる。
「シエナも本当におうちに帰りましょう。と、シエナはさよならします」
 さよなら――やわらかい緑の褥を後にして。
 しばらく進んだときだ。
 自らの唇から音が零れていることに気付いたのは。

(「この歌は」)
 夢の中で聴いた歌?
 ら、らら、るらら――――♪
 はじめて音にするはずのそれをすらすらと口にできる不思議。まだ夢の続きかと疑うもその途端、からだから垂れたままだった蔦が絡み合ってひとつの獣を形作ったのだから、もっとびっくりして目は覚めてしまった。
「あなたは? と、シエナは尋ねます」
『――♪ ――――』
 返るのは音ばかり。
 あれは夢じゃなかったの? それでも雨水を吸い過ぎては傷んでしまう。ずっと此処で佇んでいるわけにもいかなくて、ヤドリガミの娘はぴょんと跳ねる獣の後を追うようにして帰路へつく。
 これが魔法ならとけるまでは"お友達"。おしゃべりなら、帰ってからでも。

 茂る植物をいくつか挟んだ向こうに知己の姿。
 ふらりと覚束ぬ足取りのあれは――共に来たはずの、シエナか。
「あぁ、シエナさん。おーい……って、またどっかでトラブらないといいけど」
 手を振れど一瞥もくれず去りゆく少女にほうと溜め息。なんだか見掛けぬ獣に懐かれていたようだが。
 いまは植物としての生を満喫しますか。シトーのそうした思考はやはり諦めがよく、自由の効く腕を枕にして瞼を閉じたならば、もう暫し願い通りの夢に浸かることができただろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

穂結・神楽耶
【いつも】矢来様/f14904

先ほど壊してしまった辺りの修繕作業を行います。
…スコップとかあるんでしょうか。なかったら手作業ですね。
時間はかかりますが仕方ありません。気持ちはこもるのでは。恐らく。
手伝うつもり、ありません?

……驚いた。
わたくしが一方的に友達だと思ってたんじゃなかったんですね。
よかった。
たとえいつか別れる道でも、今そうであることとは矛盾しませんから。
だから、それまでは。
その時が来るまでは。
友人と呼びます。

花に託す必要もない。
折れたって忘れてやりませんから。
改めて、よろしくお願いしますね。──夕立さん?
…ちょっと恥ずかしいですね、これ。


矢来・夕立
【いつもの】穂結さん/f15297

咲くまで待つとかまだるっこしい。普通に言やいいんですよ。

穂結さんとは絶対に分かり合えません。
あなたの理想は理解不能です。
どうしたって訣別するときが来る。同じ目線を持てないんだから。
それでも、あなたたちと馬鹿やって、何だかんだで楽しいのは――
――…友達ってやつだから、でしょうか。

手伝いませんけど。

…理解不能か。誰が相手でも「理解する」なんて傲慢なのに。
伝えたい思いや言葉だって、言わなきゃ届かない。言ってもらわなきゃわからない。
…「いつもの」が「いつまでも」通じるわけがない。甘えですよね。
親愛も信頼も、自分の言葉でなきゃ、いつかホントにウソになっちゃうんですから。




 炎が消えた道の端。錆びたスコップが石を、土を撫でている。
 派手に壊した周辺の修繕作業を申し出たのは誰に乞われたからではなく、神楽耶が自ら望んだことだった。この場所が誰かの心の拠り所であると、ものに宿る魂を信じてこその時間の使い方。
 元より廃墟。打ち棄てられた抜け殻。ともすれば、それは徒労だったかもしれない。
 しかし夕立が口を挟むことはなく。
 同時に、手を出すこともなかった。

「そこそこ時間がかかりそうですけれど。手伝うつもり、ありません?」
「見ての通り両手が塞がってまして」
 ほら。
 開いて示す手にはなにも入っちゃいないが、この男が言い出せばなにかある風に感じさせる空白。
 そもそもこの答え、知っていた女もまた尋ねておきながら構わずに手を進める次第。
(「大体、咲くまで待つとかまだるっこしい。普通に言やいいんですよ」)
 俺は、  と、息苦しさのない浸す沈黙を次に切ったのは夕立。
「穂結さんとは絶対に分かり合えません。あなたの理想は理解不能です」
 朽ちたものへこころ傾けたところでなんになる。
 誰かのためと我先に傷付いたところで、なんに。
 それでも、あなたたちと馬鹿やって、何だかんだで楽しいのは――。
「――……友達ってやつだから、でしょうか」
「……。そこは言い切りではなく?」
 まるで平静に返すも、道具扱う神楽耶の手は分かりやすく止まってしまって。実際――驚いた。
 一方的に友であると認めていたつもりだったから。でもよかった、一拍ののち続ける女の口振りに安堵は滲み。
「たとえいつか別れる道でも、今そうであることとは矛盾しませんから」
 だから、それまでは。
 その時が来るまでは。
「友人と呼びます」
 ――それは戦いを前にして堂々と打ち立てる、なにかの宣誓めいていた。
 受け取る側の仏頂面と、己の片腕に爪を立てる様子なんかも言い知れぬなにかに耐えるかのような。
(「……理解不能か。誰が相手でも"理解する"なんて傲慢なのに」)
 伝えたい思いや言葉だって、言わなくては届かない。言ってもらわなくてはわからない――"いつもの"が"いつまでも"通じるわけがない。親愛も信頼も、自分の言葉でなくては、いつか本当に。嘘に。
「ご自由に」
 若しくは己のうちにいつからか巣食っていたらしい、甘えを殺すかのような。

 直後。
 眼前へ差し伸ばされるのは世間一般の友が聞いて呆れる、つい先刻千切りあった右手というのだから。
「なんですこれ」
「強いていえば、折れたって忘れてやりません、というのろいでしょうか? 改めて、よろしくお願いしますね。――夕立さん?」
 花に託す必要もなく。友好の証といえばこれ――どこまでも"人間好きの"女!
 払いのけるに容易い。傾いだ視界から常通り除外するにも。
「は」
 しかし、吐息は笑いのかたちをなぞっていて。
 どうせ己が血肉の腕の変じたものだというのならば。最後に一輪、転げ落ちてまだぬくい梔子を、その焼けた指先へと降らせて天邪鬼な握手とするのだ。

 それこそ花咲いた様子で綻ぶ神楽耶。
「……ちょっと恥ずかしいですね、これ」
「進んで自害したようなもんでしょうに。 ちなみにここまでのは、――」
 夕立がその生にあって、どうにも斜に構えてしまうのはもはや反射であった。
 防衛本能とも。偽りではないと付け足しかけたとき、スコップが石畳をずらす音ががつんと阻む。 携える、女がくすくすと笑う。
「分かってますって。伊達に長く騙されてはいませんよ」
 ――もしかすると気付かぬ間に。
 雁字搦めに自縛して鎧うウソは頬を滑るこの雨の如くにすこしずつ、すこしずつだけ、流れ落ちてしまっていたようだ。

 いつもの距離で佇むほどに、白と朱、よく似たふたつの花はいつしか消えていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

浮世・綾華
オズ(f01136)と

「――オズ」

歩けるかとは聞かなかった
歩けなさそうだと、そっと片手に忍ばせる鍵
絶対此方の心配をすると分かっているからこそこっそりと
綻ぶ花、壊れた脚に柔く触れる

ああ、そうか、お前は
「――オズ。俺はヒトじゃないから、大丈夫なんだよ」
“これ”が平気なら

それでも意思を尊重し手を離す
そして手に持つ鍵をひょいと揺らした
お前の為の技なのにとは告げず
困ったように笑い
動く片手でそっと頭を撫で

分かる
大切な人には傷ついて欲しくない
でも、心も同じなら
俺はオズの
その優しい心ごと守りたいんだ

大切なものが増えていく程に
薄れゆくあの人への想い

届くだろうか
俺が貴女に捧ぐ
最初で最後の花

(彼岸でも、笑っていて)


オズ・ケストナー
アヤカ(f01194)と

顔上げ

アヤカ、手っ
わかってた
たたかえばケガをすることだってある
わかってる

でも人形の体と違って
とれたものはどうやったらなおせるんだろう
ハンカチで傷口を縛ろうと手を伸ばすけど
アヤカの手が先に触れて

あたたかい

アヤカ
だめだよ、自分の手をなおして

…カギ?
ヤドリガミ
理解しても首を横に振る
傷口はふさがるまで痛いはずだから

(こまらせちゃった
でも、アヤカが痛いのはやだよ)
撫でる手に甘えるように頭を寄せ

アヤカが治れば
ありがとう
なおしてくれたのにだめっていってごめんね

(わたしの言葉は
いつかわたしが持っていくよ
だからここには埋めない

わたしの願いは
アヤカの言葉がたいせつなだれかに届きますように)




 歩けるかとは尋ねなかったのは、目の前のひとが困ったように笑うのが知れていたから。
 綾華が片手に忍ばせた、癒しの役目を持つ鍵が音もなく振れて。
「――オズ」
 声を落とせば肩を跳ねさせるそのひと……顔を上げたオズと目が合う。
「アヤカ、手っ」
 案じる声。
 どちらがより重篤な傷か。人間に置き換えたならば分かりやすくとも、ふたりがふたりしてモノ。痛みを知る、こころ持つモノなのだから勝手が難しい。
 片膝をついたヤドリガミは浅く首を振ってミレナリィドールの砕けた膝へ、そこに綻ぶ花へとやわく手を重ねる。
「大したことねぇさ。さ、帰ろう」
「だってひどい傷……」
 オズが間近に見るは取れた手首の断面、その痛々しさ。たたかえばケガをすることだってある――わかっていたのに、塞ぎ方すら人形には想像もできない。ぜったいすごく痛いのだと、傷口を縛ろうとしてハンカチは宙でぴたり。触れてくれた手が、確かに血の通うあたたかさで――。
「アヤカ。 だめだよ、自分の手をなおして」
 その熱が失われかねないという"恐怖"にオズのそれは、いつになく強い語調となっていたろうか。
 真正面に受け止めたなら、困り笑いに歪んでしまうのは綾華の側。
 ああ、そうか、お前は。
「――オズ。俺はヒトじゃないから、大丈夫なんだよ」
 "これ"が平気なら。

 さらさら音を立てて、綾華の指が隠していた鍵を揺らす。
 ヤドリガミ。
 それでも、と、オズが前のめりに睨みあいだって辞さぬと上体折ったとき。
 低くなった頭へぽふんと重ねられたのは、鍵持つ手そのものだった。
 ――大切なひとには傷ついて欲しくない。分かるからこそ、心もまた同様であるからこそ、撫でてくしゃり、乱す髪越しにどこまで上手に伝えられるか分からなくても。
「俺はオズの、その優しい心ごと守りたいんだ」
 接触を契機に治癒ははじまる。
 互いの身にもたらされる力だって、オズにとってもまたやさしいばかり。
「ずるい」
(「こまらせちゃった。でも、アヤカが痛いのはやだよ」)
 自分も同じ気持ちなのだとぐいぐい押し付ける頭は子猫が甘える仕草にも似ていたし、あどけない抗議のようでもあった。
「ふは、 そう言うなって。これでおあいこだ。ほら」
 もう立てるな、尋ねる代わりやがて少年の望み通り綺麗に元通り、綾華の差し出す手。
 取ったオズの膝も傷ひとつ残らずに。ありがとう、となおしてくれたのにだめっていってごめん、をもごもご呟いたなら、次にはやんわり拳をつくる手が元気づけるみたく肩を叩いた。
 そこには今や花でも鍵でもなくちいさな種が握られていて。この地に根を張る言い伝えが、ふたりの歩みをいま一度限り引き留める。

 大切なものが増えていく程に、薄れゆくあの人への想い。
 ――届くだろうか。俺が貴女に捧ぐ、最初で最後の、花。
(「"彼岸でも、笑っていて"」)
 しずかに……。
 白、紫。赤から様変わり、黒く土に馴染んだ手で墓を撫ぜて。綾華が紙片と種とへ想いを託す頃、オズは彼がつめたく凍えてしまわぬように、さっきは渡せなかったハンカチで傘のつとめをしていた。
 胸に抱くものはここへ埋めずに、いつか。自らで持っていくと決めていて。
 ずっと早くに込めた願いは、"アヤカの言葉がたいせつなだれかに届きますように"。
(「きっと、叶うよ」)
 すこし濡れてしまう。
 つくりものの腕に跳ねる雨粒のぴちょぴちょと元気な音だけが大きく聞こえて――けれどこの雨は、世界は、だからこそさみしくはないのだと青年が空を見上げるまでをただ、隣で待っている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月藤・紫衣
縫さん(f10334)に同行いたします。

…身の内から藤になんて……おや?
ふふ、これは縫さんのおかげでしょうか…ありがとうございます。

隣で鼻歌のようにUCを…彼女も傷付きましたから。
願いを書いた紙片と種を、でしたか……紙片のこともありますし、すずらんでも咲いてくれるといいのですが。
縫さんのお願いにはちょっと驚きましたが…。

ええ、もちろん。
縫さんとのお出掛けはとても和やかで楽しい一時ですから。

祈る縫さんを見つつ、紙片へ綴った私の願いは胸の内へ。
…どうか、この可愛らしい友人へ幸せが訪れますように、と。

さて、縫さん。
ちょうどいい機会ですから、このまま少し散策してどんな花が咲いているか見て帰りませんか?


真幌・縫
『しーさん(f03940)』と。
しーさんは大丈夫って言ったけどちょっとだけ心配だから…お歌を歌うよ。
UC【あなたを癒す歌】
しーさんの前で歌うのは初めてだけどきっとUCだってばれちゃうね。

お花の種を植えながらお願い事。
この種はどんな花を咲かせるんだろう?マーガレットだって普通に咲けばちゃんと愛でてあげられる。
お願い事は秘密の方がいいんだけれど…。
これは口にした方がいいお願い事かもしれない…
「しーさん、また何処かにお出かけしようね♪」

しーさんはお願い事するんだろうか…でもきっとそれは縫が聞かない方がいいんだろう。
しーさんのお願い事が叶いますように♪
ただ祈らせて。




 ――身の内から藤になんて。
 幾分か肌へと戻れど、歩むたびかさかさと臓腑が音立て擦れ合う感覚は未だ新しい。紫衣の視線が我知らずまた落ちかけていたとき、耳へと届いたのは穏やかな歌声。
 すぐ傍ら。
 縫が、歌い上げるヒーリングソングはその名通りのユーベルコード。はじめて耳にするものであれ、そこに含まれる癒しの力は紫衣を勘付かせるに十分だった。
「…………、おや? ふふ、これは縫さんのおかげでしょうか」
 花にこじ開けられた溝を埋めるみたいに深く、音が染みわたって。土を踏みしめる感覚もずっと近くに感じられる。
 案の定心配させてしまっていた――けれども。ありがとうございますと微笑む紫衣の頬からは、いつしか雨滴とは別にうっすら滲んでいた脂汗も消え去っていた。
(「よかった」)
 大丈夫だと返ってきてからもちょっとだけ気がかりで、時折その横顔を盗み見ていた縫としてはほっとこころのやわらぐばかり。紫衣の唇が次に紡ぐのが同様にやすらぎもたらす音であったならば、一層の。
 それは子守唄のようにやさしい鼻歌だった。
「しーさん。お願い事、していこうね」
「あぁ……願いを書いた紙片と種を、でしたね」
 くいと幼子が手を引く。
 あわい紫がうち深くへ戻ったとて、男は流るる花にも似て望まれるまま寄り添って。

 このあたりにしましょうか。
 選んだのは嘗てマスコットであったのだろう、花を生やした人間大動物フィギュアが半壊して横たわるそこ。
「うん。さみしくないように……、元気に咲いてあげて」
 ちいさな両手いっぱいにやわらかな土を掬って、とさとさと落とす縫。この種はどんな花を咲かせるのだろう? 自分へ咲いてたちまち散ってしまったマーガレット。かわいそうな彼らも、普通に咲いたならちゃんと愛でてあげられたのに。
 背中越しに見守る視線を感じれば、あのね、と繋げて。
「お願い事は秘密の方がいいんだけれど、叶えてくれると思うから。 "しーさん、また何処かにお出かけしようね♪"」
 これには紫衣もぱちくり。
 もう土の下へ埋もれてしまった彼女の紙片とその笑顔とを交互に見つめ。そんなことで――よかったのかと問うのはやめて、同じやわさで微笑み返した。 はらり、薄紫の花弁が零れ。
「ええ、もちろん。縫さんとのお出掛けはとても和やかで楽しい一時ですから」
「えへへっ、やったぁ」
 お願いが先に叶っちゃうと、お花さんはどうなっちゃうのかな?
 はたと気付いて思案げな様子までも愛らしい少女へ、綻ぶ藤の眼差し。綺麗に咲くことが約束されたようなものかもしれませんね、と、隣に屈みこむ男は花の生へ想いを馳せる。
 すずらんでも咲いてくれると好いと思った。
 てのひらの種を埋めて。 口には出さぬ願掛けは、どうか。"この可愛らしい友人へ幸せが訪れますように"。

 翼ねこぐるみ、サジ太といっしょに目を瞑って手を合わせてしっかりおいのり!
 縫は、紫衣の願いがなんであるかを尋ねることはついにしなかった。
 彼のそれが叶うようにと強く、ただ、祈るだけ。
「――さて、縫さん。ちょうどいい機会ですから、このまま少し散策してどんな花が咲いているか見て帰りませんか?」
「! うんうん、たくさん頑張ったんだもん、ゆっくりしていくのに賛成だよ」
 ぴょこん! 立ち上がる少女の姿は危うげなくすっかり常通り。でもふわんとした夢心地の足取りもまた常通りだから、転ばぬようにとおおきな手が差し出された。
 まぼろしの花々の手招きに応じて、さぁ、どこまで歩こう。
 ゆったりと、ふたつ、願いを叶える第一歩。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
■櫻宵/f02768
アドリブ歓迎

小雨が心地よい
未だ尾鰭は月下美人のままで泳ぐことが出来ない
僕は陸では無力だ
しょげていたら櫻宵が抱っこしてくれた
照れと喜びに身を寄せる

嗚呼
八重桜の咲いた君も綺麗
触れれば一雫
雨粒が堕ちてまるで桜雨

抱えられて
朽ちた庭園を進む
掌の中には芽吹かぬ種
僕の戀は芽吹き花咲いたけれど
芽吹かず散る花もきっと多い

僕達が咲かせた『花』(愛)は散らさない
大切に想い(水)を与え育もう
明確な実を結ぶ事がないからこそ
一心に君への愛を歌う

ん?
朽ちた花園にあっても
僕の櫻は素敵だと思ってね

枯らせはしない
どれだけ季節が巡っても
この花だけは

褪せぬひとひらは君だから
僕の櫻
今日も綺麗に咲いてるね

だいすきだよ


誘名・櫻宵
🌸リル/f10762
アドリブ歓迎

あたし桜の木龍だけどこんな桜が咲いたのは初めて

泳げないならあたしが抱っこするわ
桜雨が零れたならば
あなたの指先で受けとめて

月下美人咲かせる美しい人魚を抱えて歩く
儚い戀
その言葉を秘めた月下美人
抱く愛を
2人紡いだ戀を
儚くなんて散らせないわ

朽ちた花も夢幻の花も等しく美しい
けど1番はリルよ
あたしには芽吹かぬと思っていた種が芽吹いたのだから
大切に想い守るのは当然よ
からせたくないの
この愛だけは

リルの視線を感じどうしたの?と声掛ければ
可愛い応えに笑顔が咲いて
こうやって
想い重ねて咲かせていきましょ

美しく咲いていられるのはリルがいてくれるから
ええ
大好きよ
ずっとあたしの隣を游いでて




 尾鰭はまだ戻らなくて。
 陸では己は無力だと、しょげていた人魚のからだを抱き上げてくれたのは春咲くさくらの腕だった。

 ……小雨が心地好い。
 すこしだけ恥じらって、けれどそれ以上に喜んで。櫻宵へとからだを寄せたリルは、ゆっくりと地を踏みながら歩くリズムを共に味わっている。
「櫻宵、手はつかれてはいない?」
「いつももーっとゴツい太刀振り回してるでしょ? いいのよ、絶対に落とすなんてしないんだから。甘えてなさいな」
 それにすこしの重みがあって、離さず離れず寄り添い合っているという実感こそが落ち着いて。
 鼓動のはやさを少し緩めたようなそれは安息。とろりと瞼が重くなったなら、眠っていてもいいわとこのひとは鮮やかに笑うのだろうけれど――。
 リルのてのひらには芽吹かぬ種。
 見渡す廃園にも同じように、土と風の中で花と出会えず散りゆくいのちのいくつあったことか。
(「僕達が咲かせた"花"――"愛"は散らさない。大切に、水――想いを与え育もう」)
 二人以外、ほかの誰へ誓うものでもない。
 明確な実を結ぶことがないからこそ、一心に。君への愛を歌うと心の深くに根を張る想い。そんなリルの視界に焦がれる色が増したのは、決してまぼろしではなくて。
 はらり、はらはら。 竜人の落とす、嗚呼――桜雨。
「あら、目に入っちゃわないかしら」
「大丈夫。目に入れたって痛くもないし……ふふ、八重桜の咲いた君も綺麗」
 腕に抱かれて。こんなあたたかに揺れるかご、しあわせでしかなくて。触れる指先でなぞればやさしく一層降り積むいとしの花弁へ尾鰭、はたんと揺れる硝子細工へと移り変わりはじめた月下美人はその度に、甘く優しく香り立つ。
 儚い戀。
 秘められた花言葉。
 佳人薄命などと知れたことか。抱く愛、ふたり紡いだ戀。儚くなど散らせるつもりは毛頭ないと無意識に櫻宵の抱き込む力は強まっていたのだろう、花霞をじ、と人魚の薄花桜が覗き込む。
「……リル。どうしたの?」
「ん? 朽ちた花園にあっても、僕の櫻は素敵だと思ってね」
 ――もしかしてどこか痛かった?
 過った心配をよそに両の指を合わせてくすりと綻ぶかんばせが、等しくすてきな朽ちた花も夢幻の花も及ばぬほど、うつくしく。 いとおしく。
 心よりの笑顔をくれる。
「当然よ、あなたの花ですもの。こうやって、想い重ねて咲かせていきましょ」
 己だってそうだ。芽吹かぬと思っていた種が芽を出して、育ち、注がれる愛を疑う必要のないよろこびを知った――美しく咲いていられるのはリルがいてくれるから。
 大切に想い守ることに理屈など要らず、刻に逆らわず散れよとの摂理すらすべて断ち切ってしまえる。

 からせたくないの、この愛だけは。
 枯らせはしない。どれだけ季節が巡っても、この花だけは。

 さくり、  二人分の重みで刻みつける足跡はきっと雨水にもそう流せず。
 やがて余分な花が失せて、失せたはずだというのに櫻宵の角では満開の見頃。
 リルの手からいつしか種とともに零れたまぼろしたちが薫風にさらわれても、――褪せぬひとひらは君だから。
「僕の櫻、今日も綺麗に咲いてるね。だいすきだよ」
「ええ。 ――大好きよ。ずっとあたしの隣を游いでて」

 ふたり、願い想いてうすべに、千年桜。
 いついつまでも、八千代の春に咲き誇れ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルル・ミール
解除後
少し歩いて、出会ったものを覚えてから言の種綴り

アビさん(f11247)アビさん
あのですね、私、将来の夢が賢者なんです
ちっちゃい頃読んだ絵本にそれはそれは素敵にときめく賢者さんが…
ハッいけません
これは長くなっちゃいます

だからお願いごとは「賢者に近づけますように」
何がどうなったら賢者かは、まだわからな…勉強中
それに、花が咲く間も咲いた後も、色んな世界の色んなものを知りたいです
いつぞやのホットケーキみたいに素敵に美味しい出会いが待ってるなら
こう願うのがお得かなぁって(土ぽふぽふ

いつ咲いていつ枯れるかわからないですけど
ここがたくさんのお花でいっぱいになったら
それも、まだ知らないときめきの予感です




 散策をはじめたルルがまず出会った"はてな"は、茂みからはみ出す、ふさふさ黒白毛玉だった。
 もしや現地の珍しい……!? とどっきりしたのは束の間、次に顔を出したのが知った生物であったから。

「アビさんアビさん。あのですね、私、将来の夢が賢者なんです」
 犬のようで犬でないキマイラがそうして二人、てくてく歩いている。ノート片手のルルに名を呼ばれた男は、ぱち、と視線を下げて。
「賢者」
「です! ちっちゃい頃読んだ絵本に、それはそれは素敵にときめく賢者さんが……」
「絵本」
「はい! もうとってもすごくバイブルな、……ハッいけませんこれは長くなっちゃいます」
 びたっ! ルルが自らの口を両手で塞げば、ゆるい笑いが降った。そりゃすごそうだ、と、延々先を促さんばかりの口振りであったのできっと英断。
 五秒くらい足元の小石を眺めてむにゃむにゃしていた少女は、やがて意を決したように歩を止めて。右手に握りしめていたもの――言の種――を開いて見つめた。 だから、
「だから。お願いごとは"賢者に近づけますように"、と」
 何がどうなったら賢者かは、まだわからな……勉強中ですが。呟いてはしゃがんで、つんつん土いじりをはじめるのだ。
 アビの尾がちょうど箒みたいにその、除けた土を自然戻しにかかってくるのでちょっと引っ張ったら本体も屈み覗いてくる。
「でっかい夢っぽい。賢者っつうとー、色んなもん知ってるひと?」
「女はどどんだとお祖母ちゃんも言っていました! ……そうですね。それもきっと。花が咲く間も咲いた後も、色んな世界の色んなものを知りたいです」
 ふむんと元気に胸を張ってルルは、丁寧に四つ折りに畳んだ紙と種とを底へ置く。
 土をひとかけ、ふたかけ。
「いつぞやのホットケーキみたいに素敵に美味しい出会いが待ってるなら、こう願うのがお得かなぁって」
 そうしてやさしく、よろしくを告げるように盛った土をぽふぽふ。

 ――あのホットケーキ……パンケーキ?
「え。それ俺もなりたい」
「えっ」
 なんだかアビもぽふぽふしたり周りの石やらを「成長の邪魔くない?」で掘りはじめたあたりで、ルルの待ったの手が伸びる。
「アビさんはアビさんで夢があったのでは……?」
「うーん。なんかパッとしなくて? そういや紙持ってきてねえや」
 へらぁとした手は種だけ持ち余していたらしく、ルルの種からすこし離れたあたりへぽいっ。倍プッシュ、抜けた声が続けばふふふと笑ってしまうのはルルの方。
 いつ咲いて、いつ枯れるか。分からなくとも、皆の手で思い思いに撒かれる種の数年後。明るい未来を思い描くのはなにより早くて鮮明で、わくわく、たのしくなってしまって!
「ここがたくさんのお花でいっぱいになるのも、まだ知らないときめきの予感――ですね?」
「ルルさんてプロいね」
 ときめき探しのプロ。
 希望色きらめく瞳でこそ見える景色もある。同じ場所を指してやれ墓だと語っていた男は、カラフルなきのこを見つけ土も払わぬまましゅばばばっと絵具に手を伸ばす娘を、ふしぎないきものにそうするようにじぃと眺めていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
罅走る手の中、種を慈雨が濡らす
暫し見詰め、緩く握る

全ての命は種から生まれると云う
私よりも小さかったお前すら斯様なデカブツになるのだ
何ら不思議な事はないさ
等と、嘗ての従者が過っては毀れる笑声

種を植えるに適した場所
太陽の恩恵を賜り易い聖域
獣が咲かせた花とは異なるそれを見つけたならば
愛しげに花弁を撫で――此処にしよう
僅か離れた大地へ埋もれる種を見詰める
…やれ、ジジらしい大物に育ちそうだな

守りたかった願いは疾うに潰えた
守るべき願いを託すには…ややこそばゆい
そうさな…ならば声なき声で託けよう
我が片割れが、いつ迄も従者の元で輝きを損ねぬよう
どうか見届ける迄枯れてくれるな?
――頼んだぞ


ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と
おちる雫に身を晒し
種を預ける場所を探す

こんなものから花が咲くなど
考えてみれば不思議な話だな、師父
…。…そうだな
見目から毒舌が想像できぬようにな


…明るい、良い場所だな
ああ、主に似てしぶとく咲いてくれよう
自身は師の近くの黒土、差したひかりの僅か外側に
赤黒く汚れた手から種を還す
おまえには悪いが

胸の虚までも少しずつ洗ってゆく
雨の生まれるところを仰いで
もしも、こんな影の中で
血の染んだ種と土でも
何時か花を咲かせてくれるというのなら

願いなど届けも叶えもされる資格のない身でも
土に埋める位は許されようか
聞こえようと、聞こえまいと構わない

…尊き石が、永く、ながく褪せぬよう
かの花の傍、光あれと




 天とを遮る硝子を縫ってさあさあ迷い込む慈雨。
 幾分広くなった空。射す光が点々と招いて続く様は、その価値を知るものにしか視えぬ道筋のようで。
「――此処にしよう」
「……明るい、良い場所だな」
 はじめに歩を緩めたのはアルバ。聖域に佇む聖人の如くに、その輝石の指が愛おしむやわさで先住の花を撫でたとき。
 決定にすこしの異論もなくジャハルは応じる。こうしたときの男の判断に間違いはなく、また、偽る必要もなかった。

 率先して土へ穴を掘りはじめ、そばへ転がした種を竜人が一瞥。黒い粒はまだ何の色も持たない。路傍の石みたくに凸凹として、ちいさくて、軽くて。
「こんなものから花が咲くなど。考えてみれば不思議な話だな、師父」
 しかし、罅の走る手のうちには雨を浴びた種がいのちの輝きみせて。
 暫し見つめたアルバが緩く握った。たしかに想い、込めるように。
「全ての命は種から生まれると云う。私よりも小さかったお前すら斯様なデカブツになるのだ、何ら不思議な事はないさ」
「……。……そうだな。見目から毒舌が想像できぬようにな」
 面持ち動じず神妙な声が返るものの、嘗ての従者を思い返しての闊達な笑い声には遠く霞む。
 まったく、自由なひとだ。
 自由なようでいて――否。
「このくらいでいいか」
「待て、せめてこの程度は掘っておけ。ジジらしい大物に育った場合に如何する」
 敵や岩石を砕くのとは勝手が違うのだ。柔い土に触れて多少遠慮がちなジャハルの爪に、アルバが示してみせた自らの分の穴は随分と大きく……、
「竜でも生やす心算らしい」
「お前のものをぱくりと喰ろうてしまいかねんな。どれ……、ふふ、そうまで用心するとは」
 ちらり視線を流した先は、近くとはいえ幾らか離れた穴。
 アルバにしてみれば微笑ましさの増すそれも、「植えるぞ」と澄まし顔のジャハルの胸裡では意味が。ひかりの僅か外側、影に在りて添うを望む性質が滲んでいた。
(「おまえには悪いが」)
 種に告げては赤黒く汚れた手より土へ。
 ――……もしも。
 雨が生まれては伝う空、仰げば胸の虚をも洗われる心地がして。
(「もしも、こんな影の中で。血の染んだ種と土でも、何時か花を咲かせてくれるというのなら」)
 願いなど届けも叶えもされる資格のない身でも、土に埋める位は許されようか。
「……"尊き石が、永く、ながく褪せぬよう"」
 かの花の傍、光あれと。
 疚しいことのひとつない。聞こえようと聞こえまいと構わぬと竜人が念じた願い、うっすら――瞳を伏せて開いてとして、アルバもまた種を手放していた。
 守りたかった願いは疾うに潰えた。
 守るべき願いを託すには……ややこそばゆい。故に、声無き声にて。
(「"我が片割れが、いつ迄も従者の元で輝きを損ねぬよう"。どうか見届ける迄枯れてくれるな?」)
 ――頼んだぞ。
 一声、染み入るように雨とともに土へと落ちれば。
 今日とて互いを守り抜いた手を土へついたのも、立ち上がったのも、きっとほぼ同時だった。

「さてジジよ。まるで枯れる気がせんな」
「ああ、主に似てしぶとく咲いてくれよう」
 帰る道は同じ。
 朽ちた景色にも失せぬ意義、導、  ――永劫などと。遠きものと知って真摯な貌で希うのは、この今、その存在をこころに触れているから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

静海・終
雨を見上げて目を細め心地の良い水滴に笑う
未だ茨が首を絞める
苦しさと痛みを感じながらもそれを甘んじて受ける

涙、貴方が傷つきますからおやめなさい
茨を心配そうに噛みつき引きちぎろうとするような海竜をなだめる
不満げな事を察すると手にある種を見ては少し考えて
私の願い事は私で叶えます故
そうですねえ、涙にこの種をさしあげましょう
涙はどんなお願いを…おやつじゃありませんので食べないでくださいね
受け取ったそれに関心を示した涙を撫でる
この道はいつかきっと叶うはずなのだ
己を裏切らずに行けば必ず
他の力などで近道の出来るものではないのだ
そう、思いながら種を植えた竜が何を願ったかを静かに眺めた




 終が空を見上げたそのとき、空もまた、終を見下ろしていたらしい。
 いつも通り。
 タイミングよく落ちてきた雨滴は焦がしてしまいそうな瞳をすこしだけ逸れて頬へと。熱いはずもなく、冷たすぎず。魚の身に馴染む恵み。
 首に絡んだ茨は尚も肉を食むけれど。
 苦しさ、痛み。どちらともを甘んじて受け入れるは破壊者としての使命のようでもあった。

 かしかしと耳のほど近くで音がして。涙、そう、やさしい呼び掛けで音立てる主――ドラゴンランスから姿を解いた海竜の黒曜に似た鱗へ添える手。
「貴方が傷つきますからおやめなさい」
 苦しみをなんとかして消してみせようと噛みついて引き千切らんとする献身、いとおしく思えど望まぬのはこちらも同じだ。
 数度目の呼び掛けにも未だ不服とみえる牙との間に差し込みかけた指。意識を移したところでそういえば思い至った、種――願い事の活用法。
「そうですねえ、涙にこの種をさしあげましょう。特別なものですよ、涙のお願いをなんでも聴いてくださるそうです。……おやつじゃありませんので食べないでくださいね」
 忠告があと数秒遅れていたら怪しいところであった。
 口で受け取りかけて寸でで尾に巻くかたちに、涙が一転、頬の水滴なぞってするりと大地へ降りてゆくのを撫ぜる手で送り出す終。
(「私の願い事は、私で叶えます故」)
 この道はいつかきっと叶うはずなのだ――己を裏切らずに行けば必ず。
 他の力などで近道の出来るものでは、ないのだ。

 しんと見遣る先では海竜が器用に種を転がしている。
 なにを願ったものか――しきりにこちらを窺うあたり、笑みが零れてしまうのも仕様のないこと。
「本降りになってしまっても良いくらい、深くにしておくのをおすすめいたしますよ」
 傍にて覗き込んでみれば甘噛みで終の袖は引かれて。
 やれやれと困ったような、それ以上にやわらいだ面持ちで袖をまくり上げてみせる男は手に入れたひとときの平穏。
 その尊さを、こうしてまたひとつ、守るべきものとして大切に記憶する。

大成功 🔵​🔵​🔵​

イェルクロルト・レイン
【バッカス】
解けるを待ついとまも無く潰す
逸る鼓動は少しばかり落ち着いたようで、その分どっと疲れが押し寄せ
聞こえた言葉にやるは視線だけ
花の種ももはや共に握り潰して冷たい瓦礫に身を預ける

願いなんて自分勝手で
誰かの願いは他の誰かの弊害になりうる
全員の願いが叶うだなんて、夢の中でもなきゃムリだ
ならば、己が願いが誰かを喰い殺す前に
自分で

カミサマに願ったって叶いやしねーよ
願う何かが無い方が、幸せかもな
降る雨を厭うように陰へと入り目を閉じる
それよりも眠くて仕方がないんだ


クロエ・アルページュ
【バッカス】

炭となっていく真紅の薔薇を払い
よつろに咲く花も肌が傷つかぬよう、ちりりと燃やし手伝う

人はそんなに何を願うのでしょう
祝福を願われば微笑み
問われれば場しのぎのように想うことを口にする
わたくしは、クロエという存在の本当の願いなど知らないのだから

種は、そっと埋めますわ
願うものはなくとも花に罪はありませんもの

ルト、よつろ、クレム
ぐるりと見渡せばいつもの顔
神に、誰かに願いを乞うことはなさそうで
そうか、そんな彼らだから一緒に此処へと――そう
…ふふ、もっと強欲的な方が生きやすいこともありますでしょうに
そろって不器用な方たちね

えぇ…その何かを見つけるためにも
まだまだ三人には色々付き合ってもらいますわ


クレム・クラウベル
【バッカス】
事が終われば元通り
片腕に僅か残り香だけを残滓に花は散り跡形もなく
落ち着いたか? ルト
疲れたなら寝てても良いぞ、……帰り道くらいなら担いでやる

俺はただ、願っても叶えてなど貰えなかったから
そういうのはもう信じていない
(神様など、信じていない)
……それだけだ
紫煙が燻れば思い出したように自身も煙草を一本
火は相変わらず罰当たりに使う祈りのそれ

掌に転がした種は柔らかな土の上へ返す
願いなど注がずとも、どうせ花は咲く
こんな場所なら尚の事、放っておいてもよく育つことだろう
願いも大差などないさ
手を掛けずとも叶うものは叶い、叶わぬものは萎れて終わり
どうせ、そんなものだ


四辻路・よつろ
【バッカス】
はらはらと自然に崩れ落ちていく花弁を
早く取れろとばかりに己の手でも千切っていく
多少の傷みなど、今更だ



私、願い事は自力でどうにかするタイプなのと言って
手にした種は遠く、なるべく遠くへ飛ぶようにと勢いよく投げ
興味ない、顔で煙草に火を


誰かの代わりにと作られた人形の問に曖昧に笑い
――さてね、生きてれば色々あるもの
あなたにも何か見つかると良いわね、クロエ


地面の上へ落ちたのか
それとも芽吹くことのない石の上に転がってしまったのか
種の行く末が分からなければ喜びも、落胆も生まれまい

だから、いつまでもこんな日々が続きますようにという
子供みたいな在りきたりな願いの結末は、ずっと、知らないでいられる




 もとから燃え滓同然に黒かったのか、それとも紅だったのか。
 解けはじめた花の魔法、なんて云えば聞こえはいいが、邪魔でしかないそれをイェルクロルトの手は終わりまで潰していた。半ば血肉に戻っている。その根本をこそ疎むように。
 逸る鼓動は幾分落ち着いた――弱まったとも。押し寄せた疲れにふらつく身体は驚異の去った今となって諫める者はおらず、つめたい瓦礫が抱き留める。
 ひとのものに近付いた指の隙間から、花弁に混じって裂けた種が零れていった。
「落ち着いたか? ルト。疲れたなら寝てても良いぞ、……帰り道くらいなら担いでやる」
「…………」
 クレムの片腕に生えていた月下香は僅かな残り香のみを残滓として、跡形もなく。声掛けにも、同じように朝の眩しさにすっかり沈んだ月の金が向けられるのみ。
 千切るといえば、よつろについても性急だった。
 はらはら、自然に消えるをよしとせず花よりずっと白い指が引く。すこし痛む気もした。今更、痛むものもない気もした。彼女の意を汲み抑えられた火の粉が揺れ、触れ、ちりりと端を焦がし加勢してゆく。
「清々した」
「傷が残りませんように、お祈りしておきませんと」
 形式ばったクロエの炎だ。自らの身から灰になった真紅の薔薇を払ってしまえばたちまち黒土に紛れ込んで、ひとつも芽吹かぬ花のように、はじめからなにもなかったみたい。
 いのり。ねがい。

 ――――人は、そんなに何を願うのでしょう?

 人形の縁を滑り堕つ塵。過ぎしひとびとの手。
 呟きは、茫洋として空気に溶けた。
 祝福を願われば微笑み。問われれば場しのぎのように想うことを口にする。わたくし――姿を象っただけの伽藍洞は、クロエという存在の本当の願いなど知らないのだから。
「――さてね、生きてれば色々あるもの。あなたにも何か見つかると良いわね、クロエ」
 曖昧に笑うよつろ。
 同じ口で、指で、「それに」と勢いよく振りかぶって、
「人間にも色々いるし。 私、願い事は自力でどうにかするタイプなの」
 ぽーんと遠く、なるべく遠くへと放られた種は薄れゆく草木を突っ切って向こう側まで。顛末にまるで興味もないかおで――煙草へ火を点けた。
 湿気かけた煙が雨にも逆らい白く気儘に立ち昇る。
 鼻腔をくすぐる。好かぬ匂いと降り続く雨に顔を反らして、狼は瓦礫を崩し転がり込むようにその奥へ。
 花が咲いている。咲いている、跡があった、既に萎れてしまっているけれど。真向いで活き活きと緑のままをした、もうひとつの糧とでもなったと?
(「願いなんて自分勝手だ」)
 誰かの願いは他の誰かの弊害になりうる。全員の願いが叶うだなんて、夢の中でもなきゃムリだ。
 ならば、己が願いが誰かを喰い殺す前に。
 ――自分で。
 死んでいるくせ生きているつもりのひとつを靴裏で散らしつ座ってしまえば、息を吐く。やっとまともな酸素が吸えた気がした。
「カミサマに願ったって叶いやしねーよ。願う何かが無い方が、幸せかもな」
 珍しく局所的とはいえ意見が合ったとでも云えるか、隙間から零れるイェルクロルトの尾を無言でよつろが見下ろしていたときクレムも首を縦に振って。
 燻ぶる紫煙に思い出したように引き出した煙草。指の戦慄きは疾うに止み。
「揃ってらしいな。俺はただ、願っても叶えてなど貰えなかったから。そういうのはもう信じていない」
 神様など、信じていない。
「……それだけだ」
 捧ぐ信仰はここ一日と絞らずどこへやら。ふわり。零れるそれこそ残りかす、置き去りの月白、罰当たりな祈りの火がそこへ灯ったなら、二筋目となり景色を霞めはじめた。

 叶わず枯れた花々への鎮魂などとは程遠く、生きるものたちが、自らへの慰みのためだけ吹かす煙。
 視えもしない他者へ委ねることへ、抱いてしまう虚しさへいくつ否定が重ねられようと、願いそのものを知らぬ存ぜぬと断ち切れるものはひとりもいないらしい。
 それも人?
 それが人。
 けれど、面々をぐるりと見渡すクロエの胸裡には納得が落ちた。
 乞いはしない、しかし空にもなれない、そんな彼らだから一緒に此処へと――そう。
「……ふふ、もっと強欲的な方が生きやすいこともありますでしょうに」
 そろって不器用な方たちね。
 いつものように完成された愛嬌で笑う。表立つ是非もなくクレムは俄かに肩を竦めてみせると数歩あゆんでぬかるむ土の上、やわらかなそこへ種のみをかえす。
 紙片はいつだったか火へくべた。
 雨垂れと光との合わさる僅かな一地点。こんな場所なら尚のこと、放っておいても、願いなど注がずとも、何れ花は咲くのだから。
「願いも大差などないさ。手を掛けずとも叶うものは叶い、叶わぬものは萎れて終わり――どうせ、そんなものだ」
「見つかる前に幻滅しちゃったんじゃない? 願いってものに」
 煙を吐くついで、伏し目に見遣るよつろが挟めば人形の首はふるふる左右へ。
 いいえ。
「いいえ、わたくし俄然興味が湧きましたの! 何か……、その何かを見つけるためにも、まだまだ三人には色々付き合ってもらいますわ」
「お手柔らかに頼む、とでも言っておこうか」
 次はいくらか感情の分かりやすく渋々、同じだけ悠々と返すクレムのしかし荒くはない手つきを真似るように、傍らへ屈んだクロエは種をそっと埋めた。
 土は思っていたよりあたたかで。うつくしい手指が汚れてしまうこと、厭う誰かも居はしない。願うものはなくとも花に罪はないと、努めてやさしく寝かしつける。声は、イェルクロルトの垂れた耳にも届いていたけれど、閉じた目を開くつもりは最早ない。
 今日みたくどうせ引き摺っていかれる"先"が見えていたし。それよりもなによりも、眠くて仕方がないんだ。
 ――明日をも知れぬ身で覚えてしまった予感を光として噛み砕くこともせず、放り出して丸まって……それは傍から見れば死んでいると変わらぬしずかな寝顔であったろう。
 手慣れた様子で回収したクレムが零れた灰に燻ぶる火を擦り消せば、帰路へつく合図となる。
「置いていってもしぶとく育つわよ、多分。それ」
「ふっ……どうだろうな」
 翳る灰紫もとんとん、と、品のよい器へ燃え殻を崩して仕舞って。
 おしまい。燃え尽きるまでを手のうちに見送るからこうなる。
 よつろが捨てた――撒いた種は果たして、土の上へと落ちたのか。それとも芽吹くことのない石の上に転がってしまったのか?
「手始めにこのあとはカフェテラスへ……あら。よつろ、なにか楽しいことでもございまして?」
「たのしい? ワンちゃんがおねんねしたからじゃないかしら」
 風が湖を撫でる程度のごく微かな笑みだ。
 向ける靴先は確かめるためではなく、ゆっくりと、遠く離れてゆく。行く末が分からなければ喜びも、落胆もまた生まれまい。
 だから、"いつまでもこんな日々が続きますように"という子供みたいな――在りきたりな願いの結末は、ずっと、知らないでいられる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

隠・イド
耀子様/f12822

お風邪を召されますよ
と手製の傘を差し
自分も屈む

確か願掛けをするのでしたか

ほう、そういった趣向も有りなのですね

私は何か願うとでもしましょうか、伝える相手も浮かばないですし

そうですか?
私、こう見えて物は大事にする方ですのに
にこにこ微笑む

私の願いなど昔からひとつですよ
と自分も種を植えながら願掛けを

『世界平和』

人々の笑顔が守れるなら、それに勝る幸せはございません

かつて、彼女に溢した願いとはまるで異なる
あの時の事などもう忘れてしまったかのように



埋めたのは偽物の種
ただの肉片
芽吹く事など無いのだが

他意はなく

単純に
願掛けなど下らぬ余興だと思っているだけ

願いとは
自分の手によって叶えるものだ


花剣・耀子
イドくん(f14583)と

花々は髪に付けたまま。
柔く降る雨を気にする風もなく、
手の中に遊ばせるのは朝顔の種。
……この程度で風邪なんてひかないわよ。有り難う。

花は好きだし、願掛けは嫌いじゃないのよ。
でも、今日のは言伝の方。

イドくんが無くさず持っているのは、ちょっと意外ね。
きみの願い事は決まっているのではなかったの。
増えたり変わったりしたのかしら。

昔から、と。
そう前置かれた内容は、春先からすら違うもの。

――、そう。
それが本心なら、別に良いのよ。

目を逸らす。
あたしが口を出す筋ではない。
道具の模範解答を寂しく思うのは、ヒトの傲慢だわ。


小さく畳んだ紙片と種を埋める。
これは自分との約束事。

『みつかった?』




 空からの雫はとどまる気配を見せず。
 耀子はまるで気にした素振りなく、戦地にてそうであるかの如くにその霧雨を裂いて歩む。女の髪に咲いたまま育ちも枯れもしない花々は、約束されたおわりの前にも、どこかうれしそうだった。
「お風邪を召されますよ」
「……この程度で風邪なんてひかないわよ。有り難う」
 従者の、道具としての甲斐甲斐しさは抜かりなく。イドが差した文字通り手製の傘は主の身を覆うとともに、一応はヒトらしく、自らの身をも庇った。自分で自分を? ――滑稽な図。
 願掛け。 耀子のてのひらから時折覗く種に漸くだ、このお散歩の主旨を思い返したのは。
「花は好きだし、願掛けは嫌いじゃないのよ」
 でも、今日のは言伝の方だと種はこぼされる。
 朝顔だった。
 うつくしい花だ。誰にも愛される――"もしも"咲いたのなら。
 そういった趣向も有りなのですね。イドは土の上ちいさく跳ね動かなくなった粒を感慨なく見下ろし、しかし声ばかり楽しげに、懐から取り出すものを似たようにひょいと植える。
「私は何か願うとでもしましょうか、伝える相手も浮かばないですし」
「イドくんが無くさず持っているのは、ちょっと意外ね。きみの願い事は決まっているのではなかったの」
 私、こう見えて物は大事にする方ですのに――、と、増えたり変わったりしたのかしら。
 にこり微笑向けたイドに対して耀子の問いはストレート。
 だから使いは貼り付けたほどに満点の笑み保つまま、同時に眉を上げ下げするという些か不可思議な繋ぎで驚きの意思表示をしてみせた。
 テンプレート……またまた、とでもお道化る風な。
「私の願いなど昔からひとつですよ。"世界平和"。人々の笑顔が守れるなら、それに勝る幸せはございません」
 そうして息吐くみたくすらすらと。
 嘗て溢した願いとはまるで異なるひとつを口にする、もうさっぱり忘れてしまったかのように。ほんのちょっと出入口で目にした具合な、多くに望まれるものをさもありなんと"学習"。
 紳士然とした着衣の汚れも厭わず、はたまたどうだってよく、故なく泥をいじる男の顔から先に視線を外したのは耀子。
 昔から? 春先からすら違うというのに。
「――、そう。それが本心なら、別に良いのよ」
 口を出す筋ではないと、思った。…………その答えを選ばせる側だ。
(「道具の模範解答を寂しく思うのは、ヒトの傲慢だわ」)

 いつか、壊してしまったものが二度と"元"へ戻ったためしがないのと変わらない。
 肩を滑る毛先からは花弁が落ちてきて、誘われるように指を伸ばせば、小さく畳んだ紙片と種とをそこへ共に埋める。
 "みつかった?"
 ――自分との約束事。胸裡限りで呟いたなら、傍ら、従者の視線が僅かばかり浮つく肌感覚。横目に見たところで真逆の彩が交わって。
「……きみに願うつもりはないから」
「あぁ、それは――残念です。お食事程度でしたら今この場でもお出しできたのですが」
 力不足を痛感いたします、なんてつとめて切なげに眉を寄せる男の肩を押して。支えに役立てたともいえるか。
 すべて終えたと去るときの耀子はいつもはやい。
 立ち止まりも振り返りもせぬと知っているから、イドは残る"本物"の種をもすべて呑んだ。
 埋めたのはレプリカ、ただの肉片。芽吹くことのない身の一部。そこに他意はなく、単純に――願掛けなど下らぬ余興に過ぎぬから。
(「願いとは、自分の手によって叶えるものだ」)
 叶えるためにと己を求め、手にするものたち。
 この身こそが行き着く先。 尽きぬひとの、数多の願いの体現なれば。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴラディラウス・アルデバラン
墓か
さて、己の死に様に夢を見ているわけではない
死ぬ時は死ぬ。夢想など下らん

とはいえ。死の淵から蘇ったこの身は、何故今もこうして動いておるのだろうな
感傷ではあらねど流石に不思議に思わなくもない
幹を背に、現に戻りし生命や
己自身とは正反対に、未だ夢を見ているらしきその花を見る

我が身に咲いた花。此れに意味があろうとなかろうと、どうでも良いことではあるが
名など知ろうと。気紛れ起こす可能性も

言の種綴りの種、周りに咲く花
これらの正体(種)も何であろうかと、ふと
もし近くに書持つ者あれば興味示すも、なければ態々探しもしない、その程度の

切り捨てるでも良いが
決意する場としてなら悪くもない
以前よりの決意、願いを埋める




 死ぬときは死ぬ。
 夢想など下らん。
 己が死に様に夢を見ているわけではない――ひとたび、死にすら見放されたのだ。何故今もこうして動いているのか。痛む心のあるわけでもなく、しかし、些か不思議に思わぬこともない。
 眼前には現へ戻りし生命、己自身と正反対に未だ夢を見ているらしき花。
 戦火の熱去りて、こうして静けさの中に浸されたならば――。

 枯れ木の幹に背を凭れ、ヴラディラウスがひとり。
 胸元より千切れ落ちた金赤の花一輪をくるりと指先に弄んでいたとき。
「めずらしい、お花ですね。金蓮花ですか」
 今にも消え入りそうな女の声が掛かった。
 俄かに視線を上げ見遣る土の褥。……ちょうど意識を取り戻したのだろう。上体のみを起こして、こちらを見つめる瞳と線で結ばれる。
「ふん。それがこの花の名か」
 名を知ったところで、意味があるとも思えない。あるとすれば呪い怨み事の類か――花などと、散らす側であることの方がずっと多かったから。
 黙するヴラディラウスになにを感じ取ったのか。女はふらつきながらもゆっくりと立ち上がり、しかしまだ身体は出口へ向いていない。
 何だ、と、短く問う。
 おめでとうございます、と、ちいさく返る。
「……あなたの種は、咲いたのですね」
 夢は叶いましたか。

 女騎士が「否」を応えたのは、どちらに対してだったろう。
 そもそもが埋めてすらいない種は、台詞があってやっと懐の存在を思い返したほどだ。
「之は戯れに過ぎん」
 声も半端に、俯きて去ってゆく只人の背へ。
 お前は如何なのだ、などと呼び止める馬鹿げた真似をしないのは、やぶれたものの歩みを知っているために。傷口を押さえている。この場合ならば胸。塞いだところで、零れ落ちるものは止められぬというのに。
 あそこまでして、求むるものがいま尚、己にあるか。
「切り捨てるでも良いが、な」
 あると――確かとする場としてなら悪くもない。
 ヴラディラウスは腰を上げる。歩む、一挙のたびに花が零れてゆく。亡霊には真似できぬ足跡を刻んで。

 土深く埋めるは以前よりの決意、願い。
 死しても褪せぬ熱だ。軋む五体の然れど動く限り、魂のみ墓へと呉れてやる気はさらさらなくとも。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロカジ・ミナイ
エンジくんはどこ行ったかねぇ…?
まぁいいや、どっかで穴でも掘ってるんでしょ
僕はここに
しゃがんで

ああ、僕はね、お願いとかイベントとかっていうより
アビくんがお墓って言ってたのが印象深くってさ

萎れたお花を土に埋めて
ちっさくてやわらかいお山をつくってね
「また咲きますように」
願うのはいつだってひとつさ
それで、咲いて枯れたらまた願う
咲かなかったら、それもまた願えばいい
だからお花ちゃんはずっとずっとキレイなのさ




 墓。

 その、グリモア猟兵の物言いが印象深かった。イベントやお願いなんかってより、ロカジにはずっと。
 狼男とははぐれてしまったが、もとより互いにそうしたサガ。ふらりと真逆の方向へ気が向くなんてしょっちゅうだから、もしもあのまま花人間になってたって、どっかで穴でも掘ってるんでしょの一言で済ませてしまえる。
「ここはぼーくの」
 雨を蹴るみたいに、るんるんと進んでしゃがみこんだロカジの手には種などない。
 墓に埋めるものといえば、決まっている。

 息をしなくなって久しい――萎れ切った花が、両手に収まる分だけ。
 それも石だったり鉄だったりの上に落ちていたものを好んで拾い上げてきた。自力じゃどこへもいけない彼ら。穴だらけの土に傷を広げて、寝かせて、ちっさくてやわらかなお山をつくって。
「"また咲きますように"」
 一言。
 願うのはいつだってひとつ。
 揃えた膝に両肘ついて、頬を手と手に包んだならば浮くのは、首を洗って洗って洗いすぎて首のみになっても待ち望んだ子へ注ぐよなとろりとした笑み。ロカジは待つことが得意であったし、待つ苦しみを忘れることも、また。
「咲いたってまた枯れちゃうかもー……って君のそれは思ってる顔だ? そのときは簡単さ、また願うだけ」
 ――そもそも咲かなかったら?
 傍から見たならひとりとは思えぬ快活さを以て笑い声を立てる男。くつくつ、それからいいかい、と人差し指ですこしずつ穴を埋めながら。
「咲かなかったら、それもまた願えばいい。だからお花ちゃんはずっとずっとキレイなのさ」
 ね。 すっかり土の下へと埋めてしまったのならいよいよ完全にひとりごと。
 そうやって継ぎ足して継ぎ足したものは、同じいのちだと云える? ロカジは所謂"まっとう"ではないから、そんな些細気にしない。嗚呼、気にしたところで。

「またね」
 ぱた、と手を叩く。合わすか組むか真似たまま、ちょっとだけなら瞑目すらしてあげる。
 土に消える瞬間、見つめ合った顔がすこしでも"僕で"すくわれたような色をしていたから、それでいいのだ。


 すべてすべての言の葉が届いたかのような、うつくしいまぼろし――"過去"は消え失せて。
 花々は。いつか花となるやもしれぬすべては、多くのこころがそうであるように、物言わずその日を待っている。
 明日は咲けるだろうか?
 来月は。
 来年は、その先は――。

 ひとの姿を取り戻してしまったのなら、もうここにはいられない。
 必要がない。知ることが叶うのは、涙雨に打たれようと"未来"を歩むものだけだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年06月05日


挿絵イラスト