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バトルオブフラワーズ⑧〜カラフル・ポップ・スイート

#キマイラフューチャー #戦争 #バトルオブフラワーズ

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●あまい狼とビルの森
 ――それは、キマイラフューチャーの街並みを模した巨大なステージ。
 エキセントリックな看板や、不思議なデザインの高層ビルや。やけに鮮やかな空の下、それらのかたちはくっきりと浮かび上がっている。
 ただひとつ、本物の街と違うのは――それらが一面、黒よりなお濃い闇一色に染まっていること。ビル群の輪郭がはっきりしているのは、つまるところそのせいだ。
 その中心に、これもはっきりその姿を露わにしているものがある。
 ましろな毛並みはホワイトチョコレート。楽しげに揺れる尾の先と帽子のトッピングは、ビターチョコレート。
 つぶらな瞳も愛らしく、あまい香りを漂わせる彼は、しかし歴としたオブリビオン。
 その一撃は、ビターチョコよりもなお深い闇に辺りを塗り替えていく。わっふわっふと駆ける彼の白だけが、街並みに眩しく映えていた。

●Paint battle!
「戦争、お疲れさま、だ。……皆、まだ、戦える?」
 大きなペイントローラーをぎゅっと握り締め、トトリ・トートリド(みどりのまもり・f13948)はたどたどしく仲間たちにお願いをする。
 『システム・フラワーズ』の周囲を守る、6つの『ザ・ステージ』。それら全てをオブリビオンから取り戻さないと、目的地である『システム・フラワーズ』には到達できない。
 そのうちのひとつ、今は闇一色に塗り込められた『ザ・ペイントステージ』を制圧するボス――白いお菓子の狼『チョコットキング』を倒して欲しいのだと。
 その名を聞いて力の抜けた仲間たちに、神妙に頷く。
「……もふもふで、ふかふかで、すごく……いい、感じ。だけど、オブリビオン、だから」
 倒さなければならないのだと、そう説いて。
「この場所は……キマイラフューチャーの、街並みに似てる、けど。本物じゃない、から、思う存分……戦える。だいじょうぶ」
 このステージに適用される特殊戦闘ルールは『ヌリツブシバトル』。壁や床を染める『闇のような黒色』の効果が強く働くうちは、猟兵のユーベルコードは、オブリビオンに直接のダメージを与える事が出来ない。一方的に攻撃を受けてしまうのだ。
 その代わり、ユーベルコード、または武器攻撃で染まった床や壁を攻撃すると、その地点をそれぞれの色で上塗りすることができるのだという。
「一定の、範囲……皆の色で、塗り潰せたら、一度だけ、ユーベルコードが使える、はず。オブリビオンを攻撃しても、いいし……その一撃で、もっと広い範囲、一気に染めることも、できる」
 トトリはそのさまを思い描くように、きらきら瞳を輝かせる。
 さらに3分の2まで塗り変えたなら、闇色の地形効果は消滅し、ユーベルコードは本来の力を取り戻す。いつも通りの攻撃を無制限に行えるようになれば――その時こそ、オブリビオンを倒すチャンスだ。
「作戦は、皆に、おまかせ。皆の、ひとりひとりの色、いっぱい、降り注いだら……きっと、あのいやな、黒の力も。すぐに弱まるはず、だから」
 行きたそうにそわそわしつつ、トトリは意を決し、ペイントローラーを振り上げる。
「皆、よろしく、ね。がんばって――いってらっしゃい」
 カラフルに楽しげに遊ぶ光が、猟兵たちを戦場へと送り出した。


五月町
 五月町です。お目に留まりましたらよろしくお願いします。
 一章完結の『バトルオブフラワーズ』の戦争シナリオです。執筆期間の都合上、いつもと違う点がございます。
 以下をご確認の上ご参加ください。

●プレイング期間と採用について
 5月12日20:00〜13日12:00に頂いたプレイングの中から、5〜10名様分を採用して執筆し、14日8:30までにリプレイをお返しする予定です。(※採用は先着順ではありません!)
 この日程でシナリオを結べる範囲での採用しますので、何の問題もない素敵なプレイングであっても、五月町の執筆の都合上、お返しする確率が上がります。
 ご参加いただいた方は『それでも大丈夫!』というお気持ちありと受け取ります。何卒よろしくお願いします。

 また、今回はシリアスなプレイングよりも、【ペイントバトルを全力で楽しんで戦っている】プレイングを優先して採用する予定です。

●戦闘について
 特殊ルールについてはオープニングをご確認ください。
 敵も塗り返してきますので、押し返されれば突如ユーベルコードが使えなくなる場合も考えられます。お気をつけて!
 塗り潰しの『色』については指定いただいても、任せていただいても構いません。アトリエ商品やプレイングに見た人柄などから、一色選ばせていただきます。
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第1章 ボス戦 『チョコットキング』

POW   :    チョコレートテイルズ
【甘味への欲求 】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【巨大な溶けかけのチョコレートの尻尾】から、高命中力の【滑らかトリフチョコ】を飛ばす。
SPD   :    蕩けるチョコボディー
【チョコットキング 】に覚醒して【熱々のチョコボディー】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    超硬化チョコボディー
【 超硬化したチョコボディー】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。

イラスト:笹にゃ うらら

👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠柊・弥生です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

アサノ・ゲッフェンルーク
「自分色に染められるなんて、戦争だけど楽しいね、水鞠さん!」
エレメンタルロッド『泡沫ノ長杖』の気ままな水精霊『水鞠さん』に声をかけて、ステージに飛び込んでいくよ!

自分の【第六感】と【アート】の力を信じて誇って!
ゴッドペインターとして楽しむ心を忘れず
水鞠さんに協力してもらって闇を塗り潰すようにUCを発動!

何にも染まらないはずの黒の色が塗り替わっていく様は
楽しいし魅力的!
黒いクレヨンで塗りつぶした絵を削ると下から虹色の下地が見える
スクラッチアートを思い出すけど、それとはまた違ってていい感じ!

敵への攻撃はしたいけど
私と水鞠さんはより多くの黒を塗り替えることに専念

アドリブ、連携、大歓迎!
色はお任せっ!


静海・終
おやおや、真っ黒、にございますねえ
黒すぎると涙が見えなくなりますねえ、どこでございますかあ?
なんて、それでは悲劇を、塗りつぶしましょう

黒は青白く染めあげましょう
手当たり次第、ドラゴンランスの涙と一緒にステージを駆け巡る
街を好き勝手染めるというのもなかなかわくわくいたしますね!
狼よりもたくさん塗ることに集中していきましょう
ついでなので可愛い猫でもかきましょう
前よりは進化しましたね、まだちょっと邪神にみえますけど、えぇ
こちらからも仕掛けられるようになったなら狼を穿ちます
真っ黒にする悪い子はお仕置きでございますね

涙、その狼チョコレートはかじって食べては…
ええっと…美味しかったら食べていいです、たぶん


ユキ・スノーバー
カラーリングに親近感湧くんだけど、敵さんなのが残念だなぁ…
黒を鈍らせるなら、白で薄くしちゃうぞーっ!勝負勝負っ(アイスピックぶんぶんっ)
ぼく自体が小さいから、敵が不利になってる事に気が付けない様
死角になりがちな、塗り難い細かい所もカバー出来る様動くねっ
平面の移動は(よいしょ)大きめのローラーに乗って、華吹雪の勢いでぴゅーっとダッシュして染めて
止まったり、カーブする時にアイスピックを地面とか壁にこっつんってして
方向転換しつつ更に染め(べちゃん)
…時々スピード出過ぎちゃっても、繰り返せば上手く出来ると思うっ!
高い所から壁染め出来そうなら、クライミングとロープワーク駆使してどーんといっちゃうぞーっ♪


アルバ・アルフライラ
黒は我が彩を引き立てる故嫌いではない
然し――宝石の真なる美は極彩の中でこそ映えるものだ

ちまちま塗り潰すなぞ性に合わぬ
業の行使が可能になれば魔方陣より【暴虐たる贋槍】を召喚
我が槍にはこういった使い道もあるでな
叶う限り広範に、黒が多い場所を狙い降り注がせる事で黒を塗り潰してくれよう
ふふん、我ながら見事な仕事ぶりではないか
さてさて、次なる黒き地は何処だ?
…塗り絵の類で燥ぐ齢ではなかろうに
年甲斐もなく本気を出してしまいそうだ

充分に黒の力が弱まったならば本領発揮である
あざとい姿に騙される私ではない故な
我が魔術で超硬化した獣の注意を逸らし、屠ってくれようぞ
我が魔力の前に平伏すが良い

(従者、敵以外には敬語)


ヴォルフガング・ディーツェ
【SPD】
部屋を、壁を、思うままの色に染め上げる…小さいころ、一度はやってみたいと思っていた事がまさか叶うなんて、ね!

【ガジェットショータイム】で作り上げる武器は…勿論、ペンキ塗りにも使う巨大な刷毛!

ダメージが通りやすくなる三分の二ラインを目指し、牽制攻撃も織り混ぜて相手を撹乱しながら実行

塗り潰す色は大事な家族の色
妹の瞳のカーマインレッド、息子と娘のセレスティアルブルー

離れていたって、何時だって一緒だから
オレにいつでも勇気をくれる色だから

だから誇らしい笑顔で、見ているキマヒュの人達も笑えるように、飛んだり跳ねたりくるくる回って染め上げよう!

わんこにはちょっと心痛むけど、刷毛フルスイングで対応!


クラリス・ノワール
絡み連携、アドリブ歓迎

黒しか無い街とか見ると
トラウマな思い出が浮かんできちゃいそうですが
今からここが鮮やかな色に変わると思えば、楽しく思えてきたのです!

使うのはバウントボディ
UCで色を塗るなら、全身に作用するこれなら
クラリスのどこが触れても綺麗に変わるのかもって思うのです!

ゴムみたいに壁や床、色んな所を跳ね回ってバラバラに色を付けるのです
ワンちゃんの塗り返し対策、【おびき寄せ】られたら…ってのもありますが
クラリスの触れた所が、黒から鮮やかなピンクに変わっていくなんて
自分が綺麗な色を生んだみたいで、すごく嬉しいのですよ!

あ、ピンクを生み続けて、攻撃が通る様になったら
死角から一撃くらわせるのですよ


ブク・リョウ
わかったのさ!
とにかく塗り潰せばいいんだね!

よーし、いくよ相棒!
[絡繰の見た夢]で相棒(からくり人形)を台車に変形させて
床を蹴りながら進んだら
ちゃんと染まってくれるかな…?
染まらなそうなら[鉄屑の舞踏]で
花びらをたくさん踊らせて
どばっと塗っちゃおう!

他の猟兵さんと塗る場所が被らないようにしつつ
時々、高い場所から全体を見渡してみて
まだ塗ってなかったり
敵に塗り返されてるところへ全力疾走!
なるべく丁寧に、かつ迅速に
を心掛けるのさ。

地形効果が薄れたら
敵めがけて[鉄屑の舞踏]で攻撃。
敵が遠かったら塗りに専念するね。

色々試行錯誤して、みんなでこの街を
闇色からカラフルに染め上げるのさ!
(色お任せします)


荒久根・ジジ
ヌリツブシバトル?
中々たのしそーじゃん!
ボクはコックだけどこーみえて
絵心はちょっとあるんだぞー
本来はラテアートとかが専門だけどねっ

今回はこれっきゃないでしょ
グラフィティスプラッシュでどんどん書き換えてくよ
塗り替えられるし自分の色の場所に立てばパワーアップ!
うーん合理的
色はチョコとボクの羽っ毛に合わせてミント色にしよう
爽やかなフレーバーもつけちゃえば皆の気分もアゲられるかな?

3分の2までは塗り替え重視
効果が消えたら即反撃
塗り替えた色の上で力を貯めて
毒を乗せたナイフで2回攻撃
傷口も抉っちゃうよ!

ま、楽しそうなんていったけど
ホントはちょっと怒ってるからね
ボクの故郷をそー簡単に
奪わせたりはしないよ!


フェレス・エルラーブンダ
……。

なんだあれは
斬って、裂いて、それでおわ……、ちがう?

ふしぎないきものに渡されたのは、大量のいろだった

自分のいろ
黒い毛
鈍色のそら
それしか知らない

もらったいろ
『これで、好き放題塗り潰せ』と
示された黒に、面食らってしまったけれど

錆びたバケツに満たしたいろに、尾っぽを浸す
あとはただ、駆けるだけ
そうすれば、軌跡が闇を塗り替えるから

しらないいろがある
しらない景色がある

なぜだろう
胸が高鳴って、体が軽い
やめどきがわからなくて
どこまでもどこまでも塗り続けた

追い縋る毛玉に刃が届くようになったなら
棘檻で甘ったるい鎧ごと斬り刻む

じゃまするな
ぜんぶ塗り終わったところがみたい

身体中いろに塗れて
一時、夜のいろを忘れた


キトリ・フローエ
嵐吾(f05366)と!

すごいわ、思っていたよりもずっと真っ黒
でも、カラフルで鮮やかなこの世界に、こんな黒は似合わないわ!

さあベル、黒くて寂しいこの世界に
あなたの花をいっぱい咲かせてちょうだい!
空色の花嵐で広範囲を一気に塗りつぶすわ

もふもふもチョコレートも好きだけど、オブリビオンはお断り!
それに嵐吾の尻尾のほうがもふもふだし
嵐吾が作ってくれるチョコレートのほうが絶対に美味しいって
あたし、知ってるもの!

高速詠唱と2回攻撃も繰り返しつつステージ内を飛び回って
狼が塗り変えてくるよりも早くたくさん塗ってあげる
世界に色が戻ったら、全力でもう一度、やっちゃって、ベル!
狼にあたしとベルの全力、叩きつけるわ!


リオ・フェンブロー
システム・フラワーズに到達しなければ、ですか
後悔を恐れ、進むのを止めるほどもう愚かなつもりありません
全力を尽くしましょう

不思議な光景ですね
闇のような黒色も、宇宙の闇を思えば慣れたもの
ー…いえ、こんなに甘い香りはありませんでしたが

色彩を描け、アンサラー
魔力を回し、遠距離への砲撃を
他の猟兵と塗りつぶす範囲が被らぬように
空中戦を駆使し、協力を

攻撃のタイミングでは、広範囲を染め援護を
えぇ、お任せください
砲撃には自信があるのですよ

それに……えぇ、結局、少しばかりはしゃいでいるのですよ
放つ一撃が破壊でなく、世界にただ、色を添えるなど
世界は驚きに満ちている
だからこそ、失うわけにはいきません

アレンジ歓迎


終夜・嵐吾
キトリ(f02354)にくっついていく

ほんに黒いの…
ここまで黒いならすぐ塗り替えられそうな気もするの
なんにせよ、わしはキトリについていく!

キトリが世界を塗り替えていく
その様を傍らで見られることの、幸せよ
わしもう何もしなくていい? そうはいかんか
では主よ、少し目覚めてその姿を変えておくれ

キトリ…!ようわかってくれとる!
わしの尻尾の方がもふもふじゃし!
いくらでもチョコでもケーキでもなんでもつくるぞい!
この戦い終われば、美味しい物を沢山振るまわせておくれ
もちろん、もうひとりと一匹、誘ってな

キトリと一緒にぬりつつ、それを邪魔すべくワン公がでてきたなら
わしのすべてをもって防ごう
キトリの邪魔は、させんよ



●0
「すごいわ、思っていたよりもずっと真っ黒」
 乳白色と青色の、柔くも鮮やかな彩りを纏ったキトリ・フローエ(星導・f02354)は、星を零したような翅を憤りに羽戦かせ、辺りをぐるりと見渡している。
 カラフルで鮮やかな色に満ちた世界――キマイラフューチャー。黒だって決して悪くはないけれど、やはりこの世界には似合わない。
 憤慨するフェアリーを肩に乗せた終夜・嵐吾(灰青・f05366)は、ほんに黒いの、と小さく首肯して、
「じゃが、ここまで黒いならすぐ塗り替えられそうな気もするの」
「そうね、前向きでいい意見だわ! さあベル、あなたの出番よ!」
 キトリの傍らを巡る精霊が、纏う花ごと身を震わせた。それだけで心は繋がり、きらきらと集まった澄んだ光は花蔦絡む杖をなす。
「黒くて寂しいこの世界に、あなたの花をいっぱい咲かせてちょうだい!」
 青と白、溢れ出すはふたいろの花弁。それは煌めく風とともに大通りを吹き抜けて、触れた闇色を浄化するかのように透き通る青に取り込んでいく。
 目の覚めるようなその光景に、嵐吾は唇を緩めた。キトリが世界を塗り替えていく――そのさまを傍らで見られることの、なんと幸せなこと。
「わしもう何もしなくていい?」
「らーんーごー?」
 腰に手を当て、目の前で睨みつけるキトリにははと笑って、
「そうはいかんか。では主よ、頽れよ――少し目覚めて、その姿を変えておくれ」
 眼窩の虚に、億劫そうな諾、の気配があった。それは過ぎ来た季節の花々にかたちをかえ、キトリの操る天嵐に並んで駆け抜けていく。
 花弁は色とりどりに、けれど傍らの壁に触れれば、闇を引き剥がしていくその色もまた、青。少し彩度の低いそれは、鮮やかなキトリの青と引き立て合うようだ。

 見下ろす街は、巨大な黒いキャンバス。わくわくと胸を駆け上ってくる楽しさに、ヴォルフガング・ディーツェ(咎狼・f09192)は鮮やかな紅の瞳を輝かせる。
 思い返す童心はもう、数十年も昔のことではあるけれど――部屋を、壁を、思うままの色に染め上げてみたい、そんな許されない望みが此処では、叶う。こんな巨大な『ステージ』で!
「――そういう訳だからさ、水を差さないでもらえるかな」
「わふっ!?」
 闇色の街を塗り替えるべく奮戦する仲間のもとへ、駆けゆこうとする白い甘味の獣、チョコットキング。その背へひらり降り立つまでに、ヴォルフガングは両手に掲げる巨大なガジェットを召喚する。
「あはは、なるほど――このステージなら当然、だよね!」
 蒸気機関によるインク噴射機能を搭載した、巨大な刷毛。滲む色は今は敵を傷つけることはできないと、分かってはいるけれど。
「あっちばっかり見ているとさ、足許掬われちゃうよ? なんて」
「わうっ……がうう!」
 振り下ろした刷毛の先が、獣ごと地面を叩く。瞬間、弾け散った色は鮮やかな紅――ごく僅かに紫をはらむ強い赤は、見慣れた色。大切な妹の瞳のいろだ。
「真っ白な毛並みが台無しかな? 案外いい男ぶりかもしれないけど、どう?」
「がう……!」
 ぷしゅうっ、と全身から蒸気を放出した瞬間、甘い匂いが辺りに強く立ち込める。狼の体に滾る熱が、その身を作るチョコレートを熱々に溶かす。途端、帯びる力が跳ね上がったのをヴォルフガングは感じた。
「怒ったぞ、ってこと?」
 戦意につい心が湧く。ヴォルフガングの攻撃はまだ通らない。けれどこうして引き付ける間に、闇色の封印も解かれると信じているから、
(「――頼んだよ、みんな」)
 今はまだ闇に包まれたビルの森を、縦横無尽に躍る。

 ――そしてまた、別の区画で。
「ヌリツブシバトル? 中々たのしそーじゃん!」
 鮫歯をにやっと覗かせて、荒久根・ジジ(ビザールイーター・f05679)は闇一色に染まった街へ降り立った。ふんわりと色とりどりに、パステルカラーで彩られた少女のような娘の姿は、重苦しい街並みに軽やかさを添えるよう。
 しゃかしゃかと苦もなくホイップする大量の食用ペイントは、いつもはピンクのラズベリーフレーバー。けれど今日は――羽っ毛と同じ、軽やかなミントグリーンに染まっている。
「今回はこれっきゃないでしょ! さあ、どんどん描き換えてくよ!」
 振り下ろした泡立て器から飛んだひとかたまりが、闇一色の道路に直撃する。ぴしゃっとポップに弾け散ったそこは、きらきらと魔力を帯びて、全面にその色を広げていく。
 そして途端にふんわり、風に漂うミントの香り。あまく焦げたチョコレートの残り香を、ビターに爽やかに拭い去っていく。
「うーん、いい匂い! これで皆の気分もアゲられるかな?」
 ――もっと、もっと! 自分色のエリアに力を貰って、ミント色ホイップを手早く大きな絞り袋に詰めたら、今度は壁へ。
「ふふふん、ボクはコックだけど、こーみえて絵心はちょっとあるんだぞー! 本来はラテアートとかが専門だけどねっ」
 思うまま望むままに走らせる甘い彩りが描き出すものは、砂糖細工のような額のトレードマーク、蜘蛛の巣に――尖った耳のかわいいデフォルメ蝙蝠、大きな目玉。イースターで描き慣れたキノコやウサギと、ガーリーなモチーフも忘れずに。
 誇る腕前に違わずに描かれていく壁の絵は、ミントカラーの一色とは思われないほど楽しく華やかに、黒い壁面を彩っていく。
 『闇』一色、黒しかない戦場。味気なく彩りなく、無味乾燥なそのさまは、クラリス・ノワール(ブラックタールの新米絵描き・f07934)の心に影持つ思い出を呼び起こさせはしたけれど――仲間が施していく色彩に励まされ、少女はくるくると縦に巻かれた髪をぶるっと振った。きらり、漆黒の瞳が煌めく。
「ううん、今からここがもっと鮮やかな色に変わると思えば、楽しく思えてきたのです!」
「うん、その意気その意気ー! さ、キミの色も見せて!」
 ジジの笑顔にまず一歩、踏み出した足が強く黒色の床を蹴れば、弾力を得たブラックタールの体は高く高く、戦場を見下ろす高さまでクラリスを至らせる。
「さあ、いきますよ!」
 弾む勢いのままに。落下する先はビルの壁面、そこにたんっと両手を衝けば、ふわりと咲くのは鮮やかなピンク。はっと目を瞠る間もなく弾き飛ばされて、次の壁を捉えた足もまた、少女らしい華やかな彩りを染めつける。
「わあ、綺麗……! これがクラリスの色なのですね!」
 楽しくて楽しくて、身体は弾む。今度は背中から、今度は体全体で――ぶつかる度に闇を塗り替え、咲いていく色、色。漆黒のひといろを纏う自分の体が、こんな綺麗な色を生む。色なき世界に生まれた子には、それがたまらなく嬉しくて、幸せで。
「わふう……!」
「あっ、来ましたね、ワンちゃん! 負けませんよ!」
 ――染め変えられた色に憤慨して飛び込んできた獣は、一応狼である。それはそれとして。
 ぶつかっては飛び出す軌道にその獣、チョコットキングを捉えながら、クラリスは素早く確実に自分の色を増やしていく。体を溶かして力を高めた獣の尾が、戦場もろともクラリスを再びの黒に染めようとしても――こわくない。ここで自分が惹き付ける間に、仲間たちはこの憂鬱なステージに、華やかな色をどんどん増やしていくのだ。

「……なんだあれは」
 斬って、裂いて、それで終わりじゃない戦い?
 依頼を伝えたシャーマンズゴーストの前で瞬いたフェレス・エルラーブンダ(夜目・f00338)の瞳は、闇色の街に立ってまた、ぱちぱちと瞬いた。
 不自然なほどに暗い街だ。全ての光を吸い込んでしまう、全ての力を吸い込んでしまう――不安を煽る闇の黒色。衝動に駆られるまま駆けて、駆けて、傍らに大量の色を操る仲間たちを認めながら、フェレスは思い出す。
 攻撃すれば、それぞれの色で染まると言った。けれど、
(「それぞれの色って……なんだ。自分のいろ……」)
 黒い毛、鈍色のそら。夜の色。フェレスはそれしか知らない――知らないと、思っていたけれど。
 柔い心を守るため、柔い体を守るため。全身に仕込んだ刃を解き放ちながら、駆ける、駆ける。振り返った後ろに、進むべき進路に、突き立った刃たちが弾けて、消える。そこに生まれた色は、
(「……この色、しってる。あの、草原の――」)
 鮮やかな若草の色は、花咲き乱れる春の野に満ちていたもの。けれど、自分で描き出す景色はただ新しく、飛び込んでくる仲間の彩りも初めて目にするものばかり。
 気づけば夢中で駆けていた。体が軽いのは何故なのか、胸が跳ねるのは何故なのか、わからない。たっぷりと塗られた緑が外套を汚し、尾を汚して、それでも衝動に任せて、駆ける。尾に含まれた色が、もうひとすじの軌跡を並べていく。
「おやおや、こちらはまだまだ真っ黒、にございますねえ」
 首を傾げつつ、静海・終(剥れた鱗・f00289)はにっこりと、
「黒すぎると涙が見えなくなりますねえ、どこでございますかあ?」
「ギャギャッ……!」
 あんまりだ! と非難する傍らの小さな黒竜にふふっと笑い、冗談でございますよとその喉を撫でて。
「それでは、いつもの通りに参りましょうか。――悲劇を、共に」
 ビルの森の頂から、滑るように駆け降りるふたつの影は一瞬でひとつに溶ける。掲げた終の掌に滑り込むいのちが槍をなすけれど、
「壊すのは後からにいたしましょうね。まずは、その色を」
 白々と揺らぐ青を穂に灯す、篝火めいたその槍を。落下の衝撃殺すように闇色のビルの壁へと突き立てれば、刻まれる傷痕にたちまちひらめく、色。
 亀裂から吹き上がる炎は、隠しきれない昂揚の熱にかえって冴え渡り、墨より深く無粋な色一面を一瞬で炎で埋め尽くす。
「焼きチョコレート……となれば美味でもありそうですが。この色は美味しくありませんので」
 塗り替えてしまいましょう、とひとこと告げた途端、炎は一面を塗り染める青白へ。おや! と振り仰ぎ、終は笑う。
「我ながら見事な出来栄え」
 お見事、と微笑んだリオ・フェンブロー(鈍色の鷹・f14030)。眼差しは戦場を冷静に見つめながら、意識は彼方へ――さらにこの先の戦場へ向かっていた。
「システム・フラワーズに到達しなければ、ですか」
 目指すならば絶対の勝利を。けれどそこに至らぬ後悔を恐れ、歩みを止めるほど愚かなつもりももうないと。決意はリオの青の瞳の底に沈んで、仲間にそうと悟らせる表層までは浮かんではこない。
 ただ全力をと駆け出せば、視界に入るのは黒、ただひと色のみ。光を照り返すこともなく、輝く星もない――空を見上げさえしなければ、それは完全なる闇だった。
「……不思議な光景ですね。宇宙の闇を思えば慣れたものですが」
 だがリオの知るそれは、他を許さぬ澱んだ闇などではない。空を蹴り、リオは高みへ駆け上る。目指すのは、効率よく広範囲を視界に収めることのできる開けた一点。
 ああ、ここならば。至ったのはやはり闇色に染まったままのビルの上。頂くらいはという妥協もなく、一片の塗り残しなく染まったそこに、リオはいっそ感嘆する。
「話に聞く限りでは、随分と微笑ましい姿の獣ということでしたが……この徹底ぶりは見事なものですね」
 戦に立つならそうでなければ。そしてそうであってこそ、全力で手向かう相手となろう。
 瞳が冴える。一切の容赦が声音から消える。
「――色彩を描け、アンサラー」
 一切の色を持たない、漆黒のアームドフォートの一斉掃射。虚空を駆け抜ける軌道が色を帯びる。リオの瞳に似る、そして纏う装備に走るひと色にも似るそれは、胸に微かな感情の動きを生じさせたけれど――一面に染め広がれば深くも鮮やかなその彩りに、綻んだ瞳がそれを感じさせない。
 そう、これは戦争だ。ひとつの失策が、ひとつの敗北が、情勢を翻してしまうかもしれない戦いのさなか。ではあるのだけれど、
「自分色に染められるなんて、楽しいね、水毬さん!」
 さすがキマイラフューチャー! アサノ・ゲッフェンルーク(白耀の魔筆士・f00499)の心の水底から、衝動がこぽこぽと泡のように浮かんでくる。
 そんな心を描く色は? 闇色の地面に花の紋描き、その中心に水模る杖『泡沫ノ長杖』を突き立てる。流れるように大きな水の花と化したそれから、ふるりと身を震わせ現れるのは、水の精霊『水毬さん』。主人の周りを飛び回り、それはもちろん、と笑み震う。
 ――精霊と魔法に親しむ神秘、世界に飛び込む好奇心。きらきら輝くあなたの瞳の、
「わあ、アメジストの紫色……!」
 発光した花が一瞬で空に散り放たれる。戦場の魔力がその魔法に付した色は、あどけなくもミステリアスな紫色。
 彩りは放射状に闇を駆け抜け、鮮やかな紫の花を戦場に描きつける。

 キマイラフューチャーの町並みを、細部に渡るまで緻密に模したこの『ザ・ペイントステージ』。
 大通りに巨大ビルの壁と、仲間たちが広い範囲を一挙に華やかに彩っていく中、
「黒を鈍らせるなら、白で薄くしちゃうぞーっ!」
 えいえいおーっ! 元気のいいユキ・スノーバー(しろくま・f06201)の声が響き渡るのは、大通りから一歩踏み込んだ裏通り。
 狭くて、暗い。けれどそれは、裏通りのせいではない。本物のここだって、本当はきっと鮮やかな色にあふれる場所なのだろうけれど、
「こんな黒ばっかりじゃ、気持ちも重くなっちゃうよね。細かいところは小さいぼくにお任せなんだよーっ!」
 自ら告げた小さなからだで、引き込んだのは大きなローラー。その上によいしょと乗って――ひんやり冷たい猛吹雪を地面めがけて逆噴射!
「いけいけーっ! ふふっ、早いはやーい!」
 パワフルな華吹雪を動力に、猛スピードで駆け出すローラーの上を楽しげにユキは駆ける。とことこぱたぱたと忙しく足を動かし、右に寄って、左に寄って。角度を変えて、余すところなく。
 仲間たちの奮戦する大通りに比べたら、それは控えめに見えたかもしれない。けれど、『誰も来ない目立たない通り』は着実に、ユキの色でその範囲を広げていく。
 あっちへ行ったりこっちへ行ったり、ごちゃごちゃと不思議な交差を繰り返す町並みで、細い路地に塗られていく白はまるで魔法陣を描くよう。
 ――封じられたユーベルコードの攻撃力が解き放たれるときが、じわじわと近づいてくる。

「わかったのさ! とにかく塗り潰せばいいんだね!」
 空色の瞳をきらりと輝かせ、ブク・リョウ(廃品回収者・f08681)は闇色の道を駆け出した。
「よーし、いくよ相棒!」
 ――♪
 辺りを色彩が彩るよりも早く、元くるみ割り人形の相棒が彩る歌声は、出発のベル。ぷしゅぷしゅと組み上がる蒸気機関、この『ステージ』で相棒の絡繰人形が見る夢は――ブクとともに駆ける、堅牢な作りのレトロな台車。
 大きな瞳が受ける風に乾かないよう、すちゃっとゴーグルを装着。素早く飛び乗ったブクは片足で地を蹴り、風をきって闇の中を進んでいく。強く蹴り出す一歩ごとに、高まった力を帯びて蹴られた地面が波紋のように色を広げていく。
 ブクのそれは、穏やかで軽妙であたたかな心を映す、橙色。
「へえ、これがおれの色か……ん?」
「わあーっ、ブクさんきれいな色ーっ! そっちよろしくねーっ」
「おっと、ユキくん。そっちもよろしくなのさ、気をつけて」
 しゅばーっと後ろに猛吹雪を放ちながら入れ違いに駆け行くローラーに――もとい、その上に乗った小さなユキに声を掛け、あの動力はなかなかいいねえ、とひっそり血を騒がせながら。
「ああ、ごめんよ相棒、ユーはもちろん素敵なのさ、言うまでもなく」
 掴んだバーを穏やかにぽんと撫でれば、絡繰人形も奮起する。
 狙って駆けるは、未だ塗られていないエリア。ユキの白が途切れた場所が彼方に見える。
「よし、まずはあの先から塗っちゃおう。仕事は丁寧に、かつ迅速にを心掛けるのさ!」
 暖かな色を確実に増やしつつ、塗り替えるべきエリアを目指す。

●2/3
「こういう仕事には進捗を把握するのも大事なのさ。うーん、あの辺がまだ足りてない……かな?」
 ビルの屋上を飛ぶように駆け抜けながら、ブクは状況を確認している。
 色の拮抗は五分と五分、『闇のような黒色』の胸塞ぐような重さはだいぶ和らぎつつあった。体に巡る力の具合から、そろそろ一撃お見舞いできそうな頃合いかと察しがついて、
「よーし、この辺でひとつ一気に染め上げるのさ」
 戦いの音はおそらく、この真下。緊張感のない真っ白な生きものが、おそらくそこで懸命に闇を塗り返しているのだろう。それなら、
「そら、咲いた、裂いた――どばっと派手に塗っちゃおう!」
 鉄屑を組み上げたような、鉄屑そのもののような。形状し難いその武器を高く掲げたなら、ブクに大切に扱われてきたそのひとつひとつはぶわり、たちまち分解されて空に躍る。
 地上に向かい、まっすぐ落ち行く鉄屑の花弁は、広範囲に突き刺さる。途端にぶわり――花咲くように広がった色を見下ろして、成功成功、とブクは笑う。わふーん……! と遠い悲鳴が聞こえたような、聞こえなかったような。
「よしよし、この調子だね。みんなでこの街をカラフルに染め上げるのさ!」

 ――さて、その遥か下方で。
「わふーん……!」
「わあ、すごい! ふふ、辺り一面橙色だ」
 闇色の地面もろともに橙に染まったチョコットキングの悲しげな声に、ヴォルフガングはくすりと笑う。
「ん、もう頃合いかな? こっちも、いつまでも力封じられたままじゃないってこと」
「きゃうん!」
 思いきり刷毛を振り抜く。一面に飛び散る洋紅色とともに、吹き飛ばされた狼の姿を見てしまうと、
(「うーん、やっぱりちょっとは心痛むけど」)
 なにしろ見た目だけは罪のない姿をしているのだ。ちくりと胸を苛む罪悪感を、けれど目の前の彩りが塗り替えてくれる。
 妹の瞳のカーマインレッド。そしてここには描かれないけれど、心を染める子供たちの色、セレスティアルブルー。
 離れていても何時だって共にある、自分に勇気をくれる色だ。
「……ふふ、ごめん。やっぱりキミは倒さないと」
 迷いを振り払い、ヴォルフガングは笑う。
 観衆こそこの地にはないけれど、目にした者があれば誰しも、その姿に笑みを浮かべただろう。
 壁を蹴り、高く跳んで、獣の頭上をくるりと巡る。翔けるように、踊るように――華やかな戦いを。
「さあ、もうひと色咲かせよう!」
 この街には闇色なんて似合わないから。

「――黒も嫌いではないがな」
 塗り変えるその色を知らしめる前に、自らの持つ宝石の色彩を風に躍らせ、アルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)はふわりとステージに降り立った。
 美しき黒は他の彩りを、ことにアルバの持つ輝石の鮮鋭さを引き立てる。故に黒は、嫌いではない――けれど。
「それ無くば輝けぬというのも甚だ不本意。宝石の真なる美は、極彩の中でこそ映えるものだ」
 スターサファイアの瞳に叡智が煌めいた。紡ぐ詠唱は鮮やかに風を染め、剣呑なる好戦の気に長い髪を踊らせる。広げた腕、虚空に描く魔方陣に撚り上げられ、槍と化した風は、その数、百をゆうに超える。
 ちまちま塗り潰すなど性に合わない――華やかに、絢爛に!
「暴虐たる贋槍よ、荒れ狂え。星の一つも見当たらぬ闇色の地を、我が色で攻めたてよ!」
 駆け抜けるそれは光をはらみ、巨大な建物の一面へ次々に突き刺さる。
 賢者の杖に突かれた地脈に、滾々と溢れ出す泉のように。闇に穿たれた楔のようなそれらのもとから、サファイアの青が唐突に湧き出でる。
 視界を広く塞ぐ闇色をひといきに染め上げた、そのさまにふとアルバは微笑んだ。
「ふふん、我ながら見事な仕事ぶりではないか」
 視線巡らせ、視界に闇色を探し、はたと気づく。――塗り絵の類に燥ぐ齢でもなかろうに、この昂揚はどうだろう?
「――年甲斐もなく本気を出してしまいそうだ」
 その瞳は、子供のように楽しんでいた。

「街を好き勝手染めるというのも、なかなかわくわくいたしますね!」
 ねえ涙、と躍らせた槍の一閃が、また一面を青白に染める。――ふむ、と一考、
「ついでなので可愛い猫でもかきましょう。ええ、狼や犬よりは猫の方が
 ――壁面に青い炎で描く槍の穂が、少し鈍る。涙? と訊ねたその声が、たちまち綻んだ。
「ヤキモチとは可愛いですねえ。勿論、貴方は猫にも勝る相棒ですよ」
 途端になめらかさを取り戻す槍のキレ。しかし、絵心までとはいかないようで。
「……前よりは進化しましたね、まだちょっと邪神に見えますけど、えぇ」
 猫として描いたのだから猫である。が、
「わっふ……!?」
「おや」
 それを見たチョコットキングのつぶらな眼が、気の毒そうに揺れた。気がした。
「わっふうん……」
「正直な眼差しをありがとうございます。ええ、真っ黒にする悪い子はお仕置きでございますね」
 怒ってなどおりませんよ? と涙に微笑んで。その声の温度に震え上がった竜槍は、透き通るほどに過熱する。
「きゃん!」
 その声が悲壮を誘っても、終の笑みは揺るぎない。躍り穿つ一尖に、チョコレートの甘く焦げる匂いがじゅっと漂って、
「あ、涙、その狼チョコレートはかじって食べては……」
 小竜に戻った涙に齧られて、きゃうんきゃうん、と鳴きながらチョコットキングが逃げていく。
 はて、竜にチョコレートは大丈夫だったろうか。まあおそらく大丈夫だろう。根拠はないけれど。
「ええっと……美味しかったら食べていいです、たぶん」
 終の頭の上、チョコレートをもぐもぐしていた涙がギャウッと満足げに鳴いた。

●Colorful pop future
 毬のように弾き出されるまま、高く跳んだクラリスの瞳が煌めく。
「すごい――すごい、綺麗なのです! 楽しい色でいっぱい……!」
 幾通りもの青色に、赤、緑、そして自分のピンク。脈絡のない色彩はこの街にはとても似合っていた。
「闇一色の街よりずっといいのです! ……あっ、そうです! ワンちゃん、甘いにおいのあなたには、きっとこの色もお似合いなのですよ!」
 次の着地点は獣の足許――つまり。
「わふー!?」
 跳ね返るに任せ、獣の下からどーん、と弾き飛ばすクラリス。吹き飛ばされたチョコットキングの懐には、鮮やかなピンク色。
「ストロベリーチョコ、なんてどうですか!?」
 少女らしい無邪気さで笑えば、
「わー、いいね! じゃあミントチョコレートもどうかな?」
「くぅんっ!」
 起き上がろうとする狼の鼻先に、ぺしゃっとぶつかるミントの香り。放たれた食用ペイントは、ふわり羽っ毛を揺らして戦場に飛び込んだジジから。
「――ようこそ、待ってたよ! さてと、どう料理しちゃおう?」
 まるでビターなチョコレート。甘く悪戯な笑みの消えないジジの顔に、ひとひらの剣呑が混じる。
「チョコレートに飽きたら、痺れるアクセントはいかが? ……なんてね!」
「わふっ……!」
 めいっぱいカラフルに飾りつけたリボン。ひらりひらひら、躍る色に紛れて襲いかかる、プラスチックナイフの斬撃。仲間の穿った傷めがけ、ジジはさらに切り広げる一撃を重ねていく。まるでお菓子を切り分けるように、優雅に――けれど獰猛に。
「ま、楽しそうなんていったけど。ホントはちょっと怒ってるからね、ボク」
「きゅっ、きゅうーん……」
 鳴いたってダメ! と窘めて、ミントカラーの上で躍る。染め直させたりしない、ここはもうジジの領域だ。
「偽物の街だって、ここはキマフュなんだ。オブリビオンに譲ってなんかあげない――ボクの故郷を、そー簡単に奪わせたりはしないよ!」
 連なるナイフの襲撃に、たまらず逃げ出すチョコットキング。
「はっ、だめなのです! 逃がしません!」
 空中に躍る身で止めに入ったクラリスの耳に、急激に近づいてくる声がある。
「わーっ、よけてよけてーっ!」
 曲がり角にこっつん、ひっかけたアイスピックを支えに、勢いよくステージを駆け抜けるローラーの軌道がぐりん! と変わる。ふーっと溜息をひとつ、ユキはなんとかローラーを停止させる。
「ごめんねーっ、ありがとー! ……あっ、チョコットキング! 見つけたんだよーっ」
「……わふっ!?」
 白い獣は思わず飛び上がって――逆方向へと駆け出した!
 大きな尻尾が闇を塗りたくっていくそばから、猛スピードで追い縋ってくる大きなローラー。その上には、お気に入りのアイスピックをぶんぶん、白く塗り返すターボな華吹雪を操るユキ。
「きゅううん……!?」
「うーん、カラーリングに親近感湧くんだけど、敵さんなのが残念だなぁ……」
 とっとこ追いかけながら、ちょっぴりかわいそうにも思えるけれど。
 これはオブリビオン――キマイラフューチャーを陥れるものたちの眷属なのだ。
「よおーしっ、まてまてーっ、勝負勝負っ!」
 次のカーブはスピード落として、その次の直線は猛ダッシュ。元気よく、ちょっとおとなしくと振り分けるアイスピックに、ローラーは自在に速度を変える。
「うん、だいぶうまくなってきたんだよ。この調子で全部塗りなおしちゃうぞーっ!」
「きゃう――ん!!」
 追走するユキのおかげで、闇色のエリアの広がりは抑えられている。むしろその元気に、チョコットキングはちょっぴり逃げ腰だ。
「じゃまするな、毛玉」
 甘ったるい匂いと闇の色を叩きつけようとした尾に、フェレスが飛び掛かる。近寄らせない、自分にだけじゃない。皆と染めた、このカラフルなステージにも。
 奔る刃がチョコレートの体を捉える。戦い躍るうち、気付けば自分も初めて知る色たちに塗れていて、あの夜の底で見ていた色を、これまでの自分を包む彩りを忘れている。けれど、まだ足りない――もっと見たいのだ。
「ぜんぶ塗り終わったところがみたい。だから――じゃまするな」
 もう一度言い放ち、跳ねる狼の背に飛び乗って、フェレスはそこにも眩しい緑を叩きつけた。
 やめどきがわからない。そんな昂りを『楽しい』と呼ぶことを、まだ知らないままに。

 逃げ惑うチョコットキングによって、僅かではあるが再び散らされていく闇の色。アサノは少し迷い、そしてもう一度杖を握り直した。
 攻撃も担いたい。けれど、もう二度とあの闇に、皆のユーベルコードが封じられないように、
「色塗りは任せて! みんなの色の力、私たちが守ってみせるから……!」
 それもまた戦いなのだ。甘い匂いが染めつけた闇に水の杖を走らせていけば、仲間たちの笑顔が返る。
 ひときわ大きく、鮮やかに。緻密に、美しく咲く花を!
 跳ねて、踊って。闇を削いで紡がれる描線は、闇の下から宝物の色を露わにしていくよう。
「ふふ、まるでスクラッチアートみたい! でも、もっときれいにできるよね、水毬さんっ」
 その中心に、全身の魔力を込めて。突き立てた杖は描線に溶け、闇を突き破り水の花を咲かせる。
 そして飛び散る雫の花弁は、アサノの瞳の色に。チョコレートの甘い香りよりももっと甘やかな紫の花が、仲間の足場に広がって。
「少しでも広く、少しでも多く、私たちの色で染め変えちゃおう!」
 まだまだ足りない。もっともっと鮮やかに。わずかな闇に花を咲かせに、アサノと水毬さんは駆けていく。
 あの花もきれいね――と目を細めつつ、キトリは現れたチョコットキングにびっと杖の先を突きつけた。
「もふもふもチョコレートも好きだけど、オブリビオンはお断り! 嵐吾の尻尾の方がもふもふだし、嵐吾が作ってくれるチョコレートのほうが絶対に美味しいって、あたし、知ってるもの!」
「わっふ……!?」
 なんてことを!
 ――そう、つぶらな瞳が言っている気がした。その一方で、
「キトリ……! ようわかってくれとる!」
 途端に蕩ける嵐吾のまなざし。そうじゃそうじゃ、わしの尻尾の方がもふもふじゃし――と煽られて、ますます尻尾の下がるチョコットキング。
「いくらでも、チョコでもケーキでも、なんでもつくるぞい!」
「もう、嵐吾! わかってるから、ちょっと落ち着いて……!」
 ちょっと恥ずかしそうなキトリににこにこしつつ、その声は不意に柔く凪ぐ。
「この戦い終われば、美味しい物を沢山振るまわせておくれ。もちろん、もうひとりと一匹、誘ってな」
「ええ、もちろん! それならなおさら、早く倒さなくちゃね」
 前を向くふたりの前に、いつしかぷんぷんと怒りの熱を放ち、力を高めているチョコットキング。その突撃を受けたなら、小さなキトリはひとたまりもないだろう。だが、
「! 嵐吾!」
「気安いの、ワン公。――キトリの邪魔は、させんよ」
 叩きつける前脚を受け止めたのは、嵐吾。拮抗する力が敗れぬうちに、とにこり、キトリを振り返る。
「さ、今じゃ。キトリの色を紡いでおくれ」
「……わかったわ!」
 倒れはしない、持ち堪えてくれるという信頼がある。耐える嵐吾から視線を離し、キトリは戦場を駆け巡る。
「全力でもう一度、やっちゃって、ベル!」
 小さな精霊と、小さなフェアリーのすべてを籠めて。解き放つ青の花嵐は、塗り返された闇色を、そして獣そのものの色さえも翻していく。

「……さて、頃合いか」
 戦場を彩る猟兵の色によって、弱まった闇の気配。身を巡る魔力の出力が明らかに変化したのがアルバには分かる。
 確かめるように掌を開いては閉じ、開いては閉じる。――今なら、十全で紡げる筈だ。
 十色を帯びた戦場に、甘い香りと闇を携え駆けてくる獣。見た目ばかりは愛らしいそれを、星彩を帯びた瞳がきりりと狙い定める。笑む唇に乗せる詠唱は魔方陣を、そして再び風のうねりを喚んで、大きな大きな的を目掛けて駆け抜けていく。
「客人のもてなし一つなっておらぬ。その無作法、御身に贖わせよう。さあ、存分に屠ってくれようぞ」
 ――ひれ伏せ、と。
 その一言に、風を編んだ矢は高らかに舞い上がり、自在に駆けるあまい狼を上空から射留めていく。
「わふ……!」
 撃ち抜かれるそばからふるふる震わせる、柔らかそうな毛並み。それは頑なな硬度を得て、それ以上を穿たせまいとするけれど――アルバの魔力がそれに勝った。柔ければ吸い込まれるように、硬ければ砕くように、風の贋槍は容赦なく白い獣を地に貼りつける。
 きゅうううん――と、哀れを誘う声が辺りに響き渡る。それは多少、仲間の心を揺らしはするのだけれど、
「そのようなあざとい姿に騙される私ではない故な。……ふん、美を解さぬ無粋を恥じよ」
 アルバの瞳の星が、その声に揺れることはない。抗い暴れる大きな尾が、びたびたと容赦なくあの闇を塗り返しているのを見知っているから。
「宇宙の闇を模るにしても、これでは少々甘すぎますね」
 そんなつもりはないのでしょうがと苦笑を零し、リオは跳躍する。先刻までよりは仲間に近い、二階建ての建物の屋上。そこを立ち位置と定め、アームドフォートを巡らせる。色に染まった獣を誘導し、駆け抜けるアルバが視線を投げた。――今です、と。
「えぇ、お任せください。砲撃には自信があるのですよ」
 応えた声には僅かに喜色が滲んでいた。
 放つ一撃が破壊でなく、世界にただ、色を添える。――そんな戦いがあるのだという事実に、つまるところ自分は少しだけはしゃいでいるのだ。
 そんな事実にもまた苦笑して、リオはあまい獣を狙い定める。
「知らないことばかりです。世界は驚きに満ちている……このキマイラフューチャーも」
 だからこそ、失うわけにはいかないのだと。
 鮮やかな青の掃射にせつなげな鳴き声が響いても、その心は揺らぎはしない。
 そうして、悪足掻きのように染め付けた最後の闇を、リオの一射が忽ちのうちに染め変える。
 深く鮮やかな青に染まった通りの果てで、チョコレートの甘い香りも幼気な敵意も、カラフルに弾けて――消えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年05月15日


挿絵イラスト