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バトルオブフラワーズ⑥〜「お前もまた踊らされるのか！？

作者：波多野志郎

●
　『バトルオブフラワーズ』――それは、キマイラフューチャーの未来を決める新たなる戦いであった。
「……んじゃが、ま、この世界のノリは変わらんらしいの」
　ガングラン・ガーフィールド（ドワーフのパラディン・f00859）は、そういうと解説を始めた。
　今回、みんなに攻略してほしいのは『ダンシングフィーバー』という特殊戦闘ルールが適用さる戦場だ。この戦場の戦闘は、テレビウム・ロックで救出したテレビウムの画面を通して、キマイラフューチャー中に中継される。戦闘中の立ち回りに、ダンスパフォーマンスを披露して視聴者を感動させる事ができれば『フィーバー』が発生、攻撃力が上昇する、というものだ。
「フィーバーが発生しないと、効果が半減してしまうらしい。十分に注意してくれ」
　その戦場、いやさ舞台で待つのは踊るのも踊らされるのも慣れたもの、と豪語するハートブレイク・チョコレート怪人だ……何か、踊る意味が違う気がするのだが。

　ただ、ハートブレイク・チョコレート怪人曰く「今、こここそが俺のバレンタインデーだぜ……」との事。意味はわからないが、その意気込みだけは伝わってくる。実に強敵だ。

「何にせよ、いかに踊りと戦闘を組み合わせて融合させるか？　そのセンスが問われるのは確かじゃろう。そうと理解した上で、挑んでほしい」
　もちろん、一人で踊り戦うのも良し。仲のいい者で組んでチームで踊って、コンボを決めて戦うのも良し。何にせよ、この場で重要なのは場を盛り上げ、フィーバーをいかに発生させるかが重要だ。
「一つ一つの戦いに、キマイラフューチャーの未来がかかっとる。よろしく頼むぞ」
　ガングランは、そう真剣な表情で締めくくった。

第1章 ボス戦 『ハートブレイク・チョコレート怪人』

POW   :    ジェラシックフレイム 【チョコレートの頭部から噴き出す嫉妬の炎 】が命中した対象を燃やす。放たれた【嫉妬の】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。 SPD   :    センチメンタル・ギリチョコワールド 戦闘中に食べた【義理チョコ 】の量と質に応じて【過去の悲しみを糧として】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。 WIZ   :    ジェラシック・ラブイーター 【嫉妬 】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【とろけるチョコの塊】から、高命中力の【愛を食らう触手】を飛ばす。 イラスト：烏鷺山 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●踊り踊られ
　そこは、まさにダンスステージだった。無数の色とりどりのライト、無造作に積み重なったモニターとアンプ――そして、その舞台の上に待ち受ける男……否、漢の姿。
「よく来たな、踊らされし者どもよ」
「バレンタインデー？　あいつならもう死んだで。あいつのことは忘れるんや、えぇな？」
「――――」
　漢――ハートブレイク・チョコレート怪人が、柊・雄鷹（sky jumper・f00985）と無言で拳を重ねる。そこに理屈は、なかった。ただ、わかりあった悲しき男達の心の交流があった……それだけだ。
「ふっ、会い方が違えば友になれたかもしれんな……」
「え？　その調子で行くんですか？」
　ニヒルに笑うハートブレイク・チョコレート怪人に、リヴェンティア・モーヴェマーレ（ポン子2 Ver.4・f00299）は小首を傾げる。これも踊らされていると言うのだろうか？　もちろん、怪人の方だが。
「このステージは文字通りダンスバトルっすかぁ。ダンスなんて戦の後の打ち上げに適当に踊るぐらいしか経験ないっすけど……ま、舞は武に通じるとか言うっすからね、なんとかなるっしょ！」
　タタン、とステージの上でステップを刻み、リンタロウ・ホネハミ（Bones Circus・f00854）が笑う。そして、愛久山・清綱（飛真蛇・f16956）もまた大量のアンプに、エレクトロニック・ダンス・ミュージック――ＥＤＭを爆音で鳴り響かせた。
「さて、ダンスも結構慣れてきたところだ」
「ほう？　いいだろう。アップテンポがお好みらしい」
　ハートブレイク・チョコレート怪人が、警戒に左右の足を舞わせる。スポンジボブ、そう呼ばれるステップを見て、清綱は感心の声を漏らす。
「ほう、色物かと思えば――本格派か」
「当然だ。頭の天辺から爪先まで本格派、それがオレだ」
　怪人の左右の足が、ステップを刻む。その刹那、頭から吹き出した嫉妬の炎をハートブレイク・チョコレート怪人が蹴り込んだ。

●dance!　dance!　dance!
　ドォ！！　と蹴り込んだ嫉妬の炎が炸裂する。その炎を飛び越えて、高鷲・諒一朗（ミルザム・f17861）がステージの上を舞った。
「ダンスなら任せてくれよお、ってな！　スカイダンサーの真髄を見せてやらぁ！」
　ＥＤＭに交じるのは、フラメンコだ。熱い風を感じさせるフラメンコのメロディに乗って、諒一朗が長い手足を振り回すようにハートブレイク・チョコレート怪人に放った。諒一朗とフロントバックにダンスをシャッフルした怪人の蹴りが、空中で連続で激突する！
「車輪で拘束させてもらうわよ」
　そこにカーバンクル・スカルン（クリスタリアンの咎人殺し・f12355）が、超巨大金槌を剣に見立てた剣舞で混じっていく。針があちこちについた巨大な車輪、カタリナの車輪をカーバンクルは投げ放つが、それをハートブレイク・チョコレート怪人はバク宙で回避する。
「おおっと、そいつは喰らわないぜ？　本命チョコ以外はお断りDA！」
「踊るのも踊らされるのも慣れたもの？　へぇ？　上の次元を見せてあげるわよ！」
　雨霧・結（雪の足音・f06365）の足元から、ビキビキビキ――！　とステージが凍っていく。そこに生まれたのは、スケート場だ。結が、恭しく虚空へ右手を差し出すと一礼。氷上を滑り出した。
　ジャンプと共に高速回転。左手を差し出しながら右足を上げ左足だけで８の字に旋回、優しい笑顔を虚空に向ける――その見事なスケーティングに、だが、ハートブレイク・チョコレート怪人が戦慄した。
「ば、馬鹿な！？　見える、何かと、何かと踊っている……だと……！？」
「え？？　見えないですか？　めっちゃ恋人（空気）と手繋いでますけど？？」
　リフティングのポーズで滑りながら、いい笑顔を見せる結に怪人は電撃に打たれたように言った。
「こ、こいつ……まさかエア恋人と踊る、だと！　そもそのスケートのペアが恋人と限らなくて？　とかツッコミが無粋に感じるほどの……！？　ありえん、どれほどのレベルに到達すれば他者に存在を感じさせるほどのエア恋人を生み出せるというのだ！？」
「は？　【手をつなぐ】技能100ですけど？」
「どうして、そんな無駄な技能をそこまで積み重ねた！？」
　確かに上の次元だった――斜めにだが。
　結のエア恋人とのアイスダンスに、愕然として動きを止めたハートブレイク・チョコレート怪人へ清綱はランニングマン・Tステップを駆使し滑るように踏み込み、斬りかかった。
「隙有りだ」
「ぐ！？」
　チョコレートの体を斬られ、ハートブレイク・チョコレート怪人は正気に返る。いや、狂気に返るというべきか。
「そこまでの覚悟を持って踊らされるというなら、オレも相応の覚悟で挑もう！」
「何言ってるか、もうわかんねーっすよ？」
　ガリ、と蝙蝠の骨を食べながら、リンタロウがブレイクダンスを披露する。下からの連続蹴りを、ハートブレイク・チョコレート怪人は同じくブレイクダンスで返した。蹴りと蹴りが火花を散らし、ステージ場を移動していく――。
「お前らー！　出番やでーっ！！」
「みんな、あつまれー♪」
　雄鷹の周囲に燕、雀、鳩、鶏、鴉型の精霊が、リヴェンティアの足元にカラくんを真ん中に仲間達が集まってくる。
　モニターには、無数の観客達の顔が映っていく。ダンスステージは、まさに流れるミュージックと共に加速していった――。

●とくにかくにも、踊り抜け！
　熱狂が、そのステージにはあった。踊りながらの攻防は、ただの戦いではない。自己主張を兼ねた、存在証明だ。人々の心に熱を焼き付けていくように、互いが相手を白熱させていく――！

「れ～っつ！　だんしんぐふぃ～ば～♪」

　リヴェンティアがぽんぽんを持って元気よく掛け声を上げると、サングラスをかけたハムスター――カラくんを中心に、小動物達が横一列に並んだ。小動物達が軽快なステップ、それに合わせてリヴェンティアがぽんぽんを振るえば、花びらと共に暗器が舞った。
「ん～～ちゃっちゃ♪」
　一見楽しげな、その実暗器飛び交う危険なステージで、ハートブレイク・チョコレート怪人も共に踊る、踊る、踊る。しかし、女性と小動物という組み合わせの前に、子供を中心に一部大人の視線を奪われていく！
「く、あざとい真似を――」
　そう怪人が叫んだ瞬間、小動物達がそこに折り重なり一本の橋を作る。その上をカラくんが駆け上がると、ハートブレイク・チョコレート怪人の顎を小さな蹴りが打ち抜いた。
「ぐ！？」
　――そう、この小動物自体がリヴェンティアの武器なのだ。怪人はたまらず、バク転で間合いを開けた。
「ダンスってとっても楽しい気持ち♪」
「きょ、凶悪な！」
　心の底から言ってるのが特に、と羞恥心がぶっ飛んでいるリヴェンティアは楽しげに踊り続けた。
「そう、ワイには『御鳥番衆』がおる。やから何も寂しいないんや……羽毛が最高やって辞書にも太字で載ってんや……！」
　パパン！　と手拍子を打ちながら、雄鷹が『御鳥番衆』を放つ。ヒュバババババババババババババッ！　と燕、雀、鳩、鶏、鴉型の精霊が、次々とハートブレイク・チョコレート怪人へと襲いかかった。
「ぐ、お……！　友よ、そんなに寂しかったのか」
「やめ、やめろォ！！　同情はあかんやろ、なぁ！？」
　動物に癒やしを求めた寂しい人扱いに、雄鷹が文句を言った瞬間だ。バキン！　と結の薄紅六花（ブリザード・ブロッサム）がハートブレイク・チョコレート怪人が凍て付く斬撃波に切り裂かれ、凍りついた。
「どう？　ハートブレイクしないつよい情熱（パッション）は？　嫉妬の炎は『薄紅六花』で凍らせたげるわ」
　ええ笑顔でエア恋人とスピンする結が、ふと舞い散る羽に気付いた。
「あれ？　空から羽が……雄鷹さん！？」
「今気づいたけど、あそこで華麗に１人で踊ってるの結ちゃんちゃうんか？　結ちゃんが１人……ん！？　まさかのエア恋人！？　すごい、すごすぎるで結ちゃん……！　やっべ涙止まれへん、すごすぎる」
　男だって、泣いていい時だってある。例えば、今とか。
「ちょ、やだ、え？　見た？　見ちゃった？　お酒飲みに拉致ろ！　帰さないぞ？」
「せやな……今度美味い酒、一緒に飲みに行こな……」
　そんな男二人のやり取りを尻目に、動いたのはカーバンクルだ。
「振りかぶって思いっ切り……打つ！」
　カタリナの車輪でハートブレイク・チョコレート怪人を拘束したカーバンクルは、超巨大金槌の柄を利用して横回転――舞うような動きで、金槌の打撃で吹き飛ばした。クルクルクルと見事な回転で吹き飛ばされるハートブレイク・チョコレート怪人に、カーバンクルは告げた。
「後はお願いね！」
「お任せを！」
　音楽に合わせ、清綱が跳躍。今刀を大上段から振り落とす勢いを利用して、縦回転の斬撃でハートブレイク・チョコレート怪人を大きく切り裂いた。それに加え、自分が用意したミュージックだからこそ、曲と曲の間に斬撃音を音合せしての会心の一撃だ。

「ぐ、は……ま、だまだあああああああああああああああああ！！」

　しかし、ハートブレイク・チョコレート怪人は諦めない。カーバンクルのカタリナの車輪を利用して、スピンスピンスピン。なおも踊り、踊らされ続ける！
「おっどろうぜえー！　ってなあ！」
「盛り上がってきたっすねぇ！！」
　上から狼のように襲いかかるのは諒一朗、下から滑り込むのはリンタロウだ。諒一朗の金狼ステップによる軽快なステップによる蹴撃と、リンタロウの這うようなブレイクダンスの蹴り――上下から挟撃されたハートブレイク・チョコレート怪人は、ついに蹴り砕かれた。

「ち……甘くは、ないか……」

　どこかやり遂げた、否、踊りきった漢の顔でハートブレイク・チョコレート怪人は砕かれていく。モニターから、キマイラフューチャーで観戦していた観客達がドッと沸いた。
「以上、"骨喰"リンタロウのダンスでしたー！　あ、用心棒や傭兵をお求めの際は是非声かけてくださいっすね！」
　リンタロウは、営業活動を忘れない。猟兵達は観客のアンコールに答え、熱気が収まるまで踊り続けたのだった……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2019年05月11日