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人身御供の子守歌

#サムライエンパイア

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#サムライエンパイア


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 サムライエンパイアのとある半島。
 その半島の海に面した南部一帯が犬神藩であった。
 四季折々の自然が豊かなその藩で、今、一つの事件が起ころうとしていた。

 薄暗いその場所で、小さな少女が1人。
 抱えた膝に顎を乗せ。
 やがてか細い声が暗闇に響く。

「大地干からび……人々倒れ……。
 雨がとっても乞いしくて……。
 誰もかれもが恵みを望む……。
 雨よ降れ……雨よ降れ……恵みの雨……。
 大地を潤し……命繋ぐ……。
 雨よ降れ……雨よ降れ……もっと降れ……」

 それは――人身御供の子守歌。


「さて、猟兵の皆、集まってくれて感謝する」
 そう言って猟兵達に向き直るは赤い内掛けに艶やかな黒髪をもつ里見・美濃というグリモア猟兵だった。
「皆にはこれよりサムライエンパイアは犬神藩西方の『紫呉村』に向かって貰いたい」
 美濃が言うには、紫呉村ではちょうど紫呉祭という村祭りの真っ最中との事だが、どうやらその祭に関連してオブリビオンの気配が感じられるとの事だった。
「具体的にオブリビオンがどう村に関わっているのか、どんな事件が巻き起ころうとしているのか、その辺りまで予知する事はできなかったのだが、村の影にオブリビオンが存在する事だけは確かだ。だから、皆は村で調査を行ないオブリビオンの手がかりを掴み、最終的にはそのオブリビオンを討伐して貰いたい」
 そこまで言った後、美濃は少しだけ複雑な顔で。
「ただ……予知の中で少々懸念すべき光景を見てな……もし村の人々に不利益……なのか、不幸なのか、とにかく村人たちにとって害になる行動をとった場合、村人たちが猟兵たるお主等を排斥してくる可能性があるようなのだ……具体的にどんな行動が害となるのかは解らぬし、実際にお主等がそんな事をするとは思えぬのだが……」
 念のため、懸念事項として覚えておいて欲しい、と美濃が言う。
「少々厄介な依頼かもしれぬが、皆ならきっとやり遂げてくれると妾は信じておる。皆、無理はせず妾の元に戻って来て欲しい。頼むぞ、猟兵達」


相原あきと
 マスターの相原あきとと申します。
 今回のシナリオは『成功だけなら簡単ですが、ハッピーエンドを目指すと難しい。しかしハッピーエンドを狙うと依頼失敗のリスクが高まる』というような構造となっております。

●紫呉村
 犬神藩西方にある村。山の麓にあり100名前後の村人がいます。
 紫草という草を育てており、その根を原料とした紫の染め物が特産品です。

●紫呉祭
 紫に染めた布で飾りつけられた祭です。
 祭の間は紫草の根から作られた薬なども売られ、紫色の染料が少し練り込まれた紫餅が祭の名物です。

●第1章のプレイングの注意
 紫呉村にはお昼過ぎに到着します。また、紫呉祭の真っ最中です。
 村で何か違和感が無いか情報収集を行ないましょう。
 プレイングは自由です。
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第1章 冒険 『平和な村の違和感』

POW   :    体力が続く限り、村人と交流したり、村を歩き回ったりして地道に調べる。

SPD   :    道具の修繕などをし信頼を得たり、剣舞や手品等の芸で人気を得つつ情報収集する。

WIZ   :    村人達にカマをかける。周囲をよく観察し僅かな変化を見逃さない。

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●第一章予告

大地干からび、人々倒れ。
雨がとっても、乞いしくて。
誰もかれもが、恵みを望む。
雨よ降れ、雨よ降れ、恵みの雨。
大地を潤し、命繋ぐ。
雨よ降れ、雨よ降れ、もっと降れ。

薄暗い闇の中で、少女は一人、歌を謡う。

サムライエンパイア・シナリオ「人身御供の子守歌」
第一章『紫呉祭り』

平和な村で大人たちは笑顔の裏に秘密を隠す……。
蜂蜜院・紫髪
*連携アドリブ歓迎

心情:子守歌にしてはなんとも物悲しく切実じゃのぅ
じゃがいかな事情があろうと幼子に全てを背負わせるのは止めねばな

それに人身御供程不確かな手段はあるまい
ただ【祈り】を捧げるだけの方がまだマシじゃ

村人の非難程度【覚悟】して受けて立とう
只今は…間に合わせるために行動あるのみ!

疑念:薬になり染料になり食す事もできる…か、なんとも都合の良すぎる草じゃ
じゃが今は幼子の安全の方が第一じゃな


行動:【陽炎の術】を使い情報収集に動きます
【優先目標は少女の居場所の特定】とします
【野生の勘】【第六感】に従い村を巡り
居場所そのものが見つかれば最上ですが
基本は知っていそうな人物を目指します


ヴェル・ラルフ
POW
人身御供、ね。…どの世界でもあるんだな、そういうの。ふふ。反吐が出るね?


さて。[コミュ力]と[礼儀作法]を生かして聞き込みをしようかな。旅人のふりをしよう。
紫餅も気になるから、買ってみたいな。
「こんにちは。旅の途中なんだけど、おいしそうな餅だね。名物?」

…こういう食べ物の名物があるのに、雨乞いが必要なのかな。
この祭の由来や、どんなことをするのか聞きたいね。

聞き込み対象は…なるべく、染まってない子どもたちの方がいいけど、分かってない場合もあるし。
僕と、同じくらいの年齢で…表情が、他と違う人でもいないかな。思い詰めた様子とか、ね。


朧・羅華
確かに平和な村ですね

素敵な祭りですね
紫に染められた布とても綺麗で素敵です
村人達に妖艶に微笑み話しかけ
【誘惑】【だまし討ち】【催眠術】
会話し情報を得る

その間に村の隅々になりかあるかと
【黒紫蝶】を放ち
【情報収集】【ハッキング】【撮影】
などして情報を集めてもらう

お帰り、良い子ですね
情報を得た蝶を指に止め、情報を聞き

それを仲良くなった村人にこっそりと聞いてみる


ユーイ・コスモナッツ
・POW
サムライエンパイアの風習には、
未だ慣れないことも多いですが、
お祭りを皆で盛り上げ楽しもうという心は、
きっと万国共通のものでしょう

私はSSWの生まれですが、
育った文化が違くても、
というか、それゆえに気付く違和感もあるはず

そんな目線で
お祭り会場とその周辺を歩き回ります

ありそうなのにないもの、
なさそうなのにあるもの

食べ物、飲み物、出し物、飾り物
街並みや田畑、人々の様子などなど

疑問に感じることがあったら、
誰か村人に訊ねてみましょう
同い年くらいの子がいれば話しやすいなぁ


秋月・信子
・SPD

お祭りですか……小さな村なのに活気があっていいですね
では、私は……村の子供達と遊んで仲良くなる形で情報収集をしようと思います
ですけど、見ず知らずの……よそ者の私を警戒するでしょうから、ボルトアクションライフルをちょっと変わった火縄銃に見立てさせて「猟師さん」とさせて頂き、持ち込んだ石鹸水とストローでシャボン玉を作って子ども達の気を引いてみます
その後は…綾取り、お手玉、折り紙等を教えたりして…はい、こう見えて私得意なんですよ?(えっへん)

…勿論、何も訳もなく子ども達と親しくなるのではありません
大人よりも本質的な情報が聞き出せそうですし…子ども達だからこそ知ってる事があるかもしれませんので


目面・真
【POW】
肝心のオブリビオンの存在は気配だけか。
ならば今は、その虚ろな姿を露わにするのがオレ達の仕事だ。

このまま突っ立っていても埒が明かないな。住人達と話しがしてみたいね。
祭りの真っ最中のようだが、コレはどういう謂われがあるのかな?
この紫の布、染付には何か理由があるのだろう。藍に防虫効果があるのと同様にね。
この染料は食べても害はナイのかな?
オレも幼少期の一時期、畑作をしていたコトがあったので、原料の栽培にも興味があるね。
どこまで聞いてイイのかワカラナイので、聞ける範囲で構わない。

ま、色々と話に付き合ってもらったコトに感謝をして。
イイ酒があるんだ。皆で飲まないか?
せっかくの祭りなんだろう?


斬断・彩萌
飢饉、干ばつは文字通り死活問題。何もせず放っておくとは思えないわね。
ちょっと探りを入れてみましょうか……駆け引きは苦手だし、ここは体力勝負と洒落込むわね。
設定は『隣村から祭りを見に来た』で行こうかな。

挨拶もそこそこに、色んなところを歩いて見て回るわ。
やたら警備が厳重なところ、不自然に人気がないところ、お社や境内なんかも忍び込めそうならやってみる。
村人には極力笑顔で楽しそうな雰囲気で接し、怪しまれないように注意するわね。

村人の気配を察知したら【見切り】で視界から隠れ、万一見つかったら「迷った」で押し通すわ。
【コミュ力】には自信があるの、うまく丸め込んでみせるわよ。

※アドリブ・絡み歓迎


黒玻璃・ミコ
※スライム形態

◆心情
ふむーサムライエンパイアは初めてですが
不穏な気配が感じられますね

◆行動
【WIZ】で判定

私は【医術】や【催眠術】の担い手でもあるので
旅の薬師っぽく行李を降ろし
道端で客を待ちながら違和感を探りましょう

着眼点としては村の人員構成ですかねー
【世界知識】と照らし合わせて
同規模の村と比べて不自然に老人や子供が少なかったりしないか
また村外れに向かってるのに道具や荷物が無かったり
逆に多かったりしないか、この素晴らしい【視力】のつぶらな瞳で観察しましょう
あ……お客さんに不審に思われない様に応対はきちんとしときますよー
(【誘惑】による営業スマイル)

◆補足
アドリブOK、他の猟兵さんとの連携歓迎


月舘・夜彦
祭りに使う飾りの修復や村で提供する食事の手伝いをして情報収集
村人が求めない限り目立つ行為はせず、交流を優先
基本はコミュ力、情報収集を使い、場に応じて技能を活用

祭りは裏方の人手も必要となるでしょう
何か手伝えることがあればお申し付けください
村人に声を掛けていき、調理場があれば訪問
紫餅という物が此の村の名物のようですね
料理には覚えがありまして、是非とも教えて頂きたいです

村人の話を聞き、文明や周囲のやり取りにも聞き耳を使って情報を集めます
馴染んできた頃に此方からも質問を

私は猟兵として犬神藩の復興に従事しております
しかし各地の情報は話のみ、現場の悩みは知らないものです
何か困っている事等はありませんか?


紺屋・霞ノ衣
湊偲(f01703)と参加するよ
祭りってなりゃ楽しむしかないねぇ!
……勿論情報収集だってするさ
湊偲行くよ!

紫色の布の村らしいが、話の通り綺麗な布が飾ってあるねぇ
染色ってやつだろ、食い物にも使えるらしいがそれも食べてみたいもんだ

祭りの楽しみ方は現地の奴に聞くのが一番だ
此処の祭りはどうやって楽しめば良いんだい?
力には自信があるんだ、相撲なり腕相撲なりやるならアタシと湊偲が相手するよ!
そう広くはない村のようだし、暇なら観光案内しておくれよ
初めて来た所なんだから教えて貰わなきゃ

移動の合間に違和感無いように周りを見ておこう
……村の奴がアタシ等を排斥する場合もある、か
知られたくないもんがあるんだろうね


越喜来・湊偲
霞ノ衣姐さん(f01050)と参加します

お祭りを楽しみながら情報を集めていきましょう
紫草っていう植物を使った物が名産の土地なんですね
布を染めたり、薬にも、食べ物にも使えるなんて万能っすね
餅は俺も気になるかなぁ、美味そう
とりあえず実際見て回ってみましょう!

祭り、姐さんはやる気満々っていうか……俺も混ざるんすか!?
俺は競ったりするよりかは餅食べてたいんですけど、まぁいいか
祭りの始まりとか習慣とか色々聞いてみようかな
同じ犬神の土地って言っても色々文化があるみたいですからね

この村にとって紫草は財産なんでしょうね
もしもこれが採れないとなったら……
さり気なく、少し収獲量や時期とか聞いてみましょうか


プリンセラ・プリンセス
「誰ぞ来よ。――調査の時間です」
人格はオフェリー。
商人に変装する。
男装。新人の商人という設定。
目立つ金髪はかつらで誤魔化す。目はUDCアース辺りのカラコンで。
売り物はお酒。酒自体はまぁ美濃姫にお願いするとしよう。
酒を安値で売りながら「コミュ力」「言いくるめ」で情報収集。
酒で口が軽くなるという人物は必ずいるはずだ。
ついでに生まれながらの光も軽く使おう
逆に、祭りだというのに酒を飲まない、飲んでもアガらないというならそれは祭りになにかあるということ。
紫の布の由来も気になるので聞き出そう。
紫草というのも気になる。
よそ者ということで警戒されているかもしれない。「目立たない」よう周囲の気配には気をつける。


冴島・類
不利益か不幸になる行動、ね
大半の益の為に…オブリビオンに従う場合もある
潜むものを探るんだ
慎重に、参りましょう

【SPD】
人形使いの旅芸人を装い潜入
相棒を操り共に舞う剣舞で村人を楽しませ…つつ
村人の年齢、性別など偏りがないか注視

芸の後
にこり愛想よく話しかけ情報収集

地方を回って芸をしながら
各地の言い伝え
祭りの伝承や歌なんかも
芸に生かす為集めてるんですよ

ここのお祭りはあの紫の染め布が目立ちますが
どんな由来なんですか?
染めにも食べ物や薬にも活かせるとは
凄い万能な植物だなあ
など、感心する口調で会話しながら
おかしな反応見せた方がいた場合や
他の猟兵や自分をつける村人がいた場合
UCで式を呼び追跡し探りを入れます


玖篠・迅
犬神藩の西って聞くと外山さん思い出すなあ
娘さんと元気にしてるといいな

紫呉村に入る前に、人目に付きにくいところで式符・朱鳥使うな
村と周辺を調べる2組にわけて
村組は不自然に離れた位置に建ってる家屋とかがないか
周辺組はこの地一帯の自然の状況とか、川の有無を調べてもらう
なんか植物育ててそうな場所とか、群生してるとこを見つけたら教えてな

村に着いたら村人の年齢とか子供の声が聞こえるか気にしつつ、柴草の商品扱ってる店行ってみたい
根が薬にも染料にもなるってすごいと思うんだよな
薬について教えてもらったこともあって、効能とかすごく気になる
いつ頃から作り始めたものかも教えてもらえるかな


カーニンヒェン・ボーゲン
祭りともなれば、活気に満ちておるのでしょう!
…ところで、何かを祝う祭りなのでしょうか?
或いは畏れ崇めるような対象が在るのか。

紫呉祭の見物後、世界知識と手先の器用さを活かして、古びた道具の修繕や衣類の繕いをお受けします。
怪しまれない情報収集が目的ですので、お代は言い値か紫餅で。
中でも傷みの激しい物を持った方、不遇の可能性があると思う方に話をお聞きしたい。
海辺での農作業は困難でしょう。
それをどのように克服したのか、特に雨に関する事などを。

予知にあった贄らしき子の事を探る際は、更に人目に気を配ります。
訊ねるより、目立たぬよう子守唄に聞き耳を立てたり、人目を避けた場所を探ったりして目星をつけましょう。


レイチェル・ケイトリン
村のひとたちからわたしたち猟兵がきらわれちゃう……
そういうことをわたしたちがする……

……けっこうあるんだよね。ダークセイヴァーとかでは。
また、ダークセイヴァーでの事件みたいなかんじなのかな。


えっと、わたしがきになるのは根っこがお薬にもなる紫草かな。

紫草のありかたそのものになにか問題があって、それをオブリビオンがなんとかするかわりに……とかね。

わたしの心の認識能力をたかめる「もとめる心」、そして「医術」の技能もつかって、へんなことがないかみてみるね。

わたし専用のながい「地縛鎖」を「目立たない」ように「地形の利用」もしながら「念動力」でつかって大地から情報もすいあげて、植生の状況とかも確認するの。


レッグ・ワート
懸念は猟兵がついやりそうって事かね。刺激しないよう知らず気付かずの体で慎重に情報収集といこう。……何かしら逃げたげな奴がいたら優先するけど。村人の警戒回避とそいつの情報両方狙えそうならバランスとるぜ。祭りだもんな。

迷彩ドローンは村内立地、人流れがわかる程度に上空待機。祭りと違う人の動き、地形、用水は井戸か川か他かは把握しときたい。そんで俺は布飾り見回って、誰の作とか誰が上手いとか作り方や祭りの年季で村の連中と雑談したり、薬は何に効くのか聞いて買ったりだ。値引きが利くなら道具の修理か力仕事で穴埋めるよ。後は染料や原料を見せて貰えたら上等か。もし触って毒耐性に引っ掛かったら話続けながら分析するさ。


桐・権左衛門
ヴィクトリアと共に行動(f00408)

情報収集かー…任せとき!
誰とでも仲良ぅなれる権ちゃんにはちょちょいのパッパーやで!

紫って上品な紫ならええんやけど、年増に見えてしまう分着こなしが難しいわな
先ずは紫餅やな!食べるもんでは食が進む色ではないけど、美味いかもしれん!
(リスの様にもっちゃもっちゃと食しながら、薬や布には気を留めずただ食べまくる、それはもう昼から店仕舞い迄。毒耐性1もあるから心配なしや)

子供達がいたら餅を餌に近況を質問する
子供は腹芸が出来るんは少ない、気を許したら仲間やと思うてくれる
餅で無理なら遊んでやるでぇ!

鬼ごっこで大人の本気をみせたるでぇぇ(本気のガンダッシュをする同精神年齢)


ジェフリエイル・ロディタ
さあ歌おう。
悩みや隠し事があるのなら気持ちを少し柔らかく。
でなくとも余計な緊張なく輝いて欲しいからね。
気になる反応があれば人が少ない時に聞こうと思う。
心配事でもあるのかい?

村やお祭りの雰囲気に合わせて、
場の層や反応を細やかに確かめながら、
僕はシンフォニック・キュアで何曲か奏でるよ。
彼らに響く曲や内容を探して良い時間になるよう歌いあげるとも。
終わったらお礼を伝えて、人が残ったらリクエストを聞こうかな?
誰かにきかせてあげたい気持ちも歓迎さ!

その後で農地を見に行きたいね。
僕は作物が際どく育つかどうかな土地の出だから興味がある。
とでも言って地質を確かめよう。
紫草以外はどういった作物を育てているのかな。


ヴィクトリア・アイニッヒ
権左衛門(妖怪ケツバット・f04963)と行動。

犬神藩も色々と見て回ってはいますが…この様な催しもあるのですね。
…今の所、不審な所は…あら、ゴンちゃんさん?

…まったくもう。まぁ、ゴンちゃんさんはアレで色々考えている方ですからお任せするとして。
私はその他の所に関して情報を集める事にしましょう。
私の知る紫草から作られる薬は解熱・解毒の薬ですが、それとは効能に違いはあるのか。染め物の売れ行きはどうなのか…
目立つ何かがあれば、姫様にお伝え出来れば特産品として藩復興の一助になるかもしれませんし、ね。

……それはそれとして。
ゴンちゃんさん? 流石に少し、はしゃぎ過ぎですよ?




 すでに春も終わりを迎え、遠くに望む山々にも山桜の薄桃色は無く、梅雨を待つ元気な緑の葉で覆われていた。
 旅人を装えるよう村から少し離れた場所に転移した猟兵達は、村人や商人ぐらいしか通らないであろう未整備の道を歩いて村へ向かう。とは言え、周囲は普通の田畑が広がり視界は決して悪くは無い。
 やがて小さな白い花を割かせる野草を中心に、同じように小さな花弁の草花がたくさん自生してだし、件の村が見えてくる。
「至って平和な村のように見えますが……」
 道に屈み、いくつか小さな草花を撫でるように触れると、黒い尻尾を揺らしながらスッと立ち上がり視線を紫呉村へ向け朧・羅華が呟く。
「きっと、それだけでは無いのでしょうね」
「人身御供、だろうね……」
 僅かに微笑みながらそう口にするはヴェル・ラルフ、ただその微笑みは楽しさから来るものでは無い、夕焼け色の瞳を細め。
「……ふふ。反吐が出るね?」
「そうじゃのぅ……それに、人身御供ほど不確かな手段はあるまい。それならば、ただ祈りを捧げるだけの方がまだマシじゃ」
 ヴェルの言葉に同意し、人身御供の信憑性の無さを断言するは蜂蜜院・紫髪、おっくうそうに肩に掛かってきた綺麗な紫色の髪を背にはらいつつ村を見つめる。
 村の入り口なのだろう、大きな紫の門のような物が立てられており、その向こうには村の中心を走る道に沿ってチラホラと紫の布がたなびくのが見える。少しずつだが祭り囃子のような笛や太鼓の音も聞こえて来て、猟兵達も旅人然と村へと進む。
「お祭り……小さな村なのに活気があっていいですね」
 村の門――紫の布を巻いて紫色に仕立てられていた――を潜りつつ秋月・信子が言えば。
「サムライエンパイアの風習には未だ慣れないことも多いですが、お祭りを皆で盛り上げ楽しもうという心はきっと万国共通のものでしょうね」
 ユーイ・コスモナッツの言葉に信子も「ですね」と同意する。
「とはいえ、肝心のオブリビオンの存在は気配だけだ……オレ達は、その虚ろな姿を露わにするのが目的、皆、仕事に取りかかるぞ」
 大太刀たる義光を左手に持ちつつ目面・真が皆に声を掛ける。
 村は平和で祭りは楽しげで……しかし、この裏には確かに、オブリビオンが存在するのだった……。
 
 猟兵達は不自然に思われないよう数組に別れて(または単独で)、タイミングをずらして紫呉村へと入っていった。そんな中、村の外で皆を一通り笑顔で見送るは玖篠・迅。
 やがて皆が見えなくなってから村から死角になる木陰を見つけ、しゅばばっと印を組む。
 次の瞬間、迅の周囲に赤き鳥の式が出現する、その数――30羽。
 迅は己が《式符・朱鳥》によって呼び出した鳥達を半々に分け指示を出す。片方には村を上空から、もう片方は村の周辺を飛ぶように、と。
 念を込めると30羽の鳥たちが一斉に羽ばたき飛び立つ。
「たのむなー」
 笑顔で手を振り鳥たちを送り出すと、何事も無かったように木陰から出て村へと歩いて行く。整備されていない村までの道と、田畑が続き見晴らしの良い穏やかな風景を見ると、一人娘と共に僻地の開拓に乗り出したある男を思い出す。
「元気にしていると良いけど」
 そう呟く迅の笑みは、今までと違い少しだけ心配するような優しさが含まれていた。


 紫呉村は中央に大きな広場があるようで、村の入り口からそこへ続く道は祭りの本通りのように飾り付けられていた。
 また、村の中央広場に向かって歩いて行く程、村人が家の前で開く露天や、道端で茣蓙を敷きその上に商品を並べている者も増えて行くようだった。
「さすがは祭り、なんと活気に満ちた事か!」
 オールバックの初老の紳士、カーニンヒェン・ボーゲンが数人の猟兵と一緒に村の本通りを歩きつつ大仰に褒めれば、その声を聞いた道端で露天をしていた村人が僅かに笑みを浮かべ、その様子をカーニンヒェンは見逃さず。
「……ところで御仁、今日のこの祭りは、何かを祝う物なのでしょうか?」
 すかさず問いかける。
「ん? ああ、そりゃ雨神様をな、祝うっつーより祭るってわけよ。今年も天気を宜しく、ってな」
「それは畏れ崇めるような……?」
「………………おいおい、そりゃ天気は神さん次第だ、畏れもすれば敬いもするさ」
「確かに。ご享受感謝致します」
 愛帽のシルクハットを取り軽く会釈、道行く猟兵達と合流するカーニンヒェン。
 無論、その会話は他の猟兵も耳をそばだてて聞いており。
「少し、間がありましたね」
「ええ」
 黄朽葉の着物と縞袴姿の少年じみた容姿の冴島・類が、その内面は外面通りでは無いと言うように老成した観察眼で呟けば、カーニンヒェンもコクリと頷く。
 やはり、村人からも何かしら手がかりが掴める可能性がありそうだった。そしてそれは、裏を返せば下手な調査を行なえば村人の反感を買う可能性も示唆しており……。
「不利益か不幸になる行動を取れば……でしょうか。人間は大半の益の為にオブリビオンに従う場合もある……慎重に、参りましょう」
 類の言葉を後に続く数人の猟兵達も無言で肯定するのだった。
「それにしても、この犬神藩も色々と見て回ってはいますがこの様な催しもあるのですね」
 活気に沸く村を見回しながらヴィクトリア・アイニッヒが相棒の桐・権左衛門に声をかける……が、その相棒はすでに列から離れて露店の紫の着物を物色中。
「紫って上品な紫ならええんやけど、年増に見えてしまう分着こなしが難しいわな」
「……まったくもう。ゴンちゃんさんったら」
 はぁ、と溜息を付き猟兵の列を自身も外れ権左衛門を迎えに行くヴィクトリア。
「ゴンちゃんさん、今の所、不審な所は無いようですから……って、ゴンちゃんさん?」
「そうやった! 情報収集せなあかんな……ま、ここはウチに任せとき! 誰とでも仲良ぅなれる権ちゃんにはちょちょいのパッパーやで!」
 手にしていた商品を露天商に返し、ヴィクトリアに手を振り駆けていく権左衛門。
「まぁ、アレで色々考えている方ですからそっちはお任せしますか……」
 そう呟くと、他の猟兵達に自分達は別々に動くと一言言って別方向へと歩いて行く。
「さて、それでは私も村で提供する食事の手伝いでもしてきましょう」
 無論、情報収集がてら、ですが――と言いつつ月舘・夜彦が着物を翻して列を離れれば。
 カーニンヒェンや類も情報を集めるためバラバラに村の中へ散って行くのだった。


 村の中央広場では櫓が組まれ、その上では祭囃子を笛で吹く女性と、太鼓を叩きリズムを取る男性が、お揃いの紫の衣装に身を包み、村の祭を盛り上げていた。
 とはいえ、2人はずっと祭囃子を奏でている訳では無く、途中途中に休憩を挟んでいるようで、そんな無音の谷間で何曲か歌を披露するは若草色の瞳を持ち、夏の葉をとかし込んだようなセミロングの髪を片耳にかける吟遊詩人、ジェフリエイル・ロディタだった。
 ポロロン……と竪琴を爪弾き、先ほどまでの祭囃子の雰囲気を壊さぬよう、周囲の村人や旅人の反応を細やかに確かめながら、≪シンフォニック・キュア≫を使いつつ観客たる彼らが共感しやすい曲を選曲しつつ歌いあげる。
「おお――!」
「すげーな、旅人さん!」
「もっと無いのかい?」
 歌い終わると同時に拍手が巻き起こり、話を聞けばアンコールの要望まで。
 ちらりと笛と太鼓の2人に目を向ければ、無言でコクリと頷いてくれ、アンコールの許可を得る。ならば、と。
「解りました、それでは次は輝ける群雄叙事詩の歌でも――」


「話の通り綺麗な布が飾ってあるねぇ! これって染色ってやつよね、食い物にも使えるらしいがそれも食べてみたいもんだ!」
 茣蓙の上に並べられた染め物をしゃがんだまま見つめ、大声でそう露店の店主に話しかけるは二本の捩じれた角を持つ羅刹の女性、紺屋・霞ノ衣だった。
「確か紫草っていう植物を使ってるって話っすよ。布を染めたり、薬にも、食べ物にも使える……なんか万能っすよね」
 そう霞ノ衣に後ろから説明するは弟分の越喜来・湊偲、青い肌に青い髪のキマイラだ。
「おー、兄ちゃん良く知ってるな」
 湊偲の説明を露店長の主人が褒める。
「へぇ……なかなかに面白そうだね、湊偲行くよ! 祭りってなりゃ楽しみながらじゃないと! そうだろう?」
「まぁ、餅は俺も気になるっすけど……」
 さっさと別の場所へ向かう霞ノ衣を追いかけるよう小走りしつつ、湊偲が村人に聞こえないよう霞ノ衣に。
「でも姐さん、情報も集めないと……!」
「もちろん情報収集だってするさ!」
 そう即答する霞ノ衣に「本当っすかねぇ」と疑問を抱きつつ。
「あ、待って下さいっす!」
 と慌てて後を追う湊偲であった。
 2人がいなくなった後、残っていた猟兵に露店の主人が「あんた達、旅人さんかい?」と声をかけられれば。
「ええ、隣村から祭りを見に来たの」
 そう笑顔で答えるは可愛く改造したセーラー服に伊達眼鏡が似合う斬断・彩萌だ。
「そうかい、それじゃあ楽しんで行ってくれ」
「ええ、その予定よ」
 挨拶もそこそこに切り上げ、露店の店主に別れを告げる。
 そうやって村人の誰にも聞こえない位置までやってくると、彩萌と一緒にいた2人の猟兵のうち、銀髪に魅力的な青い瞳を持つ少女――レイチェル・ケイトリンだった。
「しらべかたによっては、村のひとたちからわたしたち猟兵がきらわれちゃう……そういうことをわたしたちがするって話……けっこうあるんだよね。ダークセイヴァーとかでは」
 そう呟くレイチェルの肩をポンと叩き、無骨な2m越えの身長を持つウォーマシン、レッグ・ワートだった。
「懸念は猟兵がついやりそうな何かって事だろうな。とりま、村人を刺激しないよう知らず気付かずのテイで慎重に情報収集といこう。ま、俺は何かしら逃げたげな奴がいたらそっちを優先するが……基本的には村人の警戒回避と人身御供になりそうなヤツの情報、両方狙えそうならバランスで調査するとしよう」
 そうまとめるレッグの言葉に、彩萌とレイチェルも頷くのだった。


「誰ぞ来よ。――調査の時間です」
 そうキーワードを口にすると同時、その雰囲気をガラっと変えるはプリンセラ・プリンセス。
 スッと次に目を開ければ、そこには可憐はプリンセラはおらず、彼女の11番目の姉であるオフェリーの人格が宿る。
 プリンセラ=オフェリーはテキパキと男装し新人商人へとあっと言う間に変装してしまう。
 ――、そんな様子を村の外で見せられていなければ、横に並ぶ人物がプリンセラだとはとても信じられない……と内心で呟くは、プヨンとしたスライム形態の黒玻璃・ミコだ。
 今、プリンセラ=オフェリーとミコは村の中の広場に布を広げ、旅の商人と薬師として売る側で参加していた。
 無論、猟兵として世界からの加護として姿の違和感は隠されているとはいえ、堂々とスライム形態で商売をするミコからすると、美しい金髪もカツラで隠し、その青い瞳もカラコンで偽装するプリンセラの徹底ぶりは、ある意味で尊敬に値するレベルだった。
 医術知識的にサムライエンパイアでも使える漢方系の薬をいくつか行李から取り出し並べたミコと、珍しいお酒を商品として売るプリンセラ=オフェリーでは、そもそも集客力が違うのだが、それにしたって完全に商人になりきっているのをチラと見て、ミコはあまり人が寄ってこないのも問題でしょうか、と独りごちる。
「とはいえ……ふむー、サムライエンパイアは初めてですが、やはり不穏な気配が感じられますね」
 客を待ちつつミコが空を見上げる。雲一つない青空だったが、なぜかいつ雨雲が流れて来てもおかしくないように感じるのはなぜか……無意識の不安だけは、確信のように頭に引っかかり続ける。


 村の中でばらばらに情報収集を行なっているとはいえ、時には情報の共有も必要である。
 村人の目が無い場所で落ち合い、猟兵達は各自が得た情報を交換する。
 ここ、西側にある村の外れ、規則正しく動く水車小屋の影に集まったのは羅華、ユーイ、ヴェル、類の4人だった。
「それで、首尾は如何でした?」
 羅華が聞けば、最初にうーんと腕を組み唸ったのはユーイだ。
「私はスペースシップワールドの生まれだから育った文化が違い過ぎて……でも、それだからこそ気付ける違和感もあると思ってたんですが……」
 そういう目線でお祭りに沸く村の中を歩き回ったが、コレと言って何か決定的な事に気が付く事は無かった。
「ただ、なんか引っかかるのですよね……こう、具体的に何に引っかかったか……までは言葉にできないのですが……」
 何か引っかかると唸るユーイ。
「まあ、いいんじゃないかな。大事な事ならどこかできっと思い出すさ」
 そう悩むユーイを慰めたヴェルが「じゃあ僕が集めた話をするよ」と語り出す。
「僕が聞いた話だと、この紫呉村の祭――紫呉祭は、時雨……雨神様を祭るお祭りのようだね」
 もともと名産に乏しい紫呉村で、染料や薬の材料たる紫草の収穫は、村の生死に直轄する。そして収穫の出来は天気に左右される……故に、雨神様を祭るこの祭りが根付いたとの事だ。
「ただ、村祭りを行なうのは年に一度では無いようだったよ。なんと祭りを行なうのは20周期。つまり20年に1度の割合でこの祭りは行われているらしい」
 天気を気にしている割りには20年に1度という頻度に違和感を感じつつ、ヴェルは「お土産」と紫色の丸い餅を取り出し皆に配る。
「名物の紫餅らしい。ま、ただの丸めた餅に紫の染料を混ぜただけだったけど……」
 皆も紫餅を受け取りひと口食べてみるが、やはりヴェルと同じ感想でしかなかった。
「祭り自体は何か途中で儀式があるわけでも無く、一日中騒いで終わりだと言っていたけど……正直、これには疑問が残るね。どこか詳しく聞いて欲しくなさそうな気配を感じたから」
「それについては私も同意見ですね」
 ヴェルの説明に羅華が同意し、自分の集めた祭の情報もおおむね同じだったと共有する。
「もっとも、詳しく話を聞いて欲しくなさそうだった方が何を隠しているか……それは継続して今も調査中ですが」
 本人がここにいるのに調査中だと断言する羅華に、他も者達は何かしらユーベルコードなり特殊なアイテムなりを使っているのかと予想し、それ以上は聞かなかった。
「どうやら、祭りについての情報は大概同じようだね」
 自分が人形遣いの旅芸人の振りをして集めた情報も、似たようなモノだったと類が言う。
「ただ1つだけ気になった事が……」
 そう類が祭りの情報を収集しつつ、注視していた点について結果報告すると――。
「それ! それですよ! 私の感じていた違和感!!」
 類の報告に大声でユーイが同意する。
 2人の意見が一致する……ならば、それはこの村の秘密に関わる情報に間違いなかった。


 村の広場では笛奏者と太鼓の音と交互に休憩を取りつつ、ジェフリエイルが竪琴を爪弾き歌を歌っていた。
 その歌には悩みや隠し事があるなら、その気持ちを柔らかく砕くように。
 そんな思いを乗せて歌を歌い続けていると、そこに耳を傾ける村人の中で、本当に悩みがありそうな人がジェフリエイルには解って来る。
 ポロン……と竪琴を辞め、ジェフリエイルはその村人へと声をかける。
「何か心配ごとでもあるのかい?」
「な!? お、オレ!?」
「ああ、もし悩みがあるなら僕に話してくれないか?」
 更に村人に近づき至近距離からそうささやく。
「お、オレは………………べ、別に無いよ。あえていうなら紫草の収穫ぐらい、だな」
「おお、件の紫草! それは是非、畑を見させてもらえないかな?」
「え、あ、ああ、それは別に良いけど……」
 その村人は、ジェフリエイルの圧に(輝きに)押されるように畑を見に行く約束を取り付けられるのだった。


「こいつは紫草の根子の部分でな、この辺りじゃ紫根(しこん)って呼ばれてるんだ」
 紫の染料を作る店に入って、その主人と紫の染料について話をするは真とレッグの2人。
 正確には真が「この紫の布、紫色に染めるのには何か理由があるのだろうか?」と店を訪ねた所、すでに染料を買い付けに来て値引き代わりに力仕事を手伝っていたレッグと合流したのだ。
「藍染に比べりゃ、紫根での染め物はそこまで利点はねぇなぁ。日にあたりゃ色落ちするし、防虫効果もいまいちだ」
 店の職人の話に疑問符を浮かべる真。
「それじゃあ……栽培がし易い、とか?」
 幼少期の一時期、畑作をしており原料の栽培にも興味があると伝えると、紫染めの職人がカカッと笑う。
「まぁ、確かに普通の花よりゃ育て易いかもしれねぇが……どんな天候にも強いってわけじゃぁねぇし、そこまでの利点だとは思えねぇな」
「じゃあ……なんで」
 本気で悩む真に、職人はポンと手ぬぐいを放り投げてよこす。
 それはどこまでも上品な紫色をしていた。
「良い色だろう。紫根で染めると一様に紫っつっても艶やかな紫からさっぱりした紫まで往々に職人の意図通りの紫を出す事が出来る……その染め色の振り幅は、紫根ならではだろうな」
「それに、紫、という色自体の商品価値が高い」
 レッグが言うと「その通り」と職人が肯定する。
 紫と言えばサムライエンパイアでは古くより高貴な身分を現す色であり、故に貴重であるのだ。
「お前さんも手伝いありがとうよ、ちょっと待ってな、約束通り染料を分けてやる」
 そうレッグに言うと店の奥へと姿を消す職人。
 その瞬間、真とレッグが未使用の紫の染料を分析する。
「毒性は……ナイ、か」
「ああ、どうやら染料自体は白……と言った所か」


「すごいすごい!」
 10歳前後の子供達に囲まれ、感心と憧れの表情で見つめられるのは信子だった。
 ボトルアクションライフルで、石鹸水とストローで空に飛ばしたシャボン玉を百発百中の精度で撃ち抜いて見せたから、物珍しさに村の子供達が集まって来たのだ。
「あんたの火縄銃、ちょっと変わった形してるのに凄いなぁ」
「いやいや、信子さんの腕が凄いんだって!」
 やがて信子の銃を貸せだの取り合いだのとなって来て、これ以上は危険だと感じた信子は、今度はポケットから綾取りの紐を取り出し、小さな女の子と遊んだり、お手玉や折り紙を取り出し、小さな男の子たちとも一緒に遊ぶ。
 もちろん自分で取り出した遊び道具は、信子はきちんと得意でおり、いつの間にか信子への警戒心は子供達から消えていたのだった。
「(では、そろそろ……)」
 そして信子は、今度はこちらの番……と子供達に質問を行なうのだった。


「こんにちは~……」
 ギギギ~と古い音を立てて神社の境内の扉を開けるは彩萌。
 村人と交渉して情報を得るのは苦手な為、地道に村周りに不自然な所が無いか調べようとし、その上でお社や境内があれば優先的にチェックしようと思つつ見つけたのが、村の東側の外れにあった小さな神社だった。
「失礼しま~す……」
 小声で挨拶しつつ中へと踏み込む。
 次の瞬間、何かの気配を感じて彩萌が薄暗い奥に目を凝らす。
 キュピーンッ!
 大きなつぶらな瞳が2つ、扉を開けて差し込んだ光に反射する。
「ひぇ!?」
 思わず尻餅を付きそうになる彩萌だったが、ニュルンと素早くその尻の下に滑り込んで彩萌を助けるは、奥で目を光らせた当人――ブラックスライムのミコであった。
「な、なんだ、アンタか……驚かせないでよ」
「それはこっちの台詞ですよー、不法侵入が村の人にバレたかと思ったじゃないですか」
 お互い猟兵で良かったと安堵しつつ、ミコと彩萌は中の探索を開始する。
「ここって……紫呉祭で祭っているっていう雨神様を安置していた所だったのかしら?」
「それは違う気がしますよー、これ、見て下さい」
 部屋の中、ミコが指差す(?)方向には半分以上が朽ちているが、何やら古い人形やおもちゃ等が飾られていた。
 朽ち具合からいって10年や20年じゃ足りないだろう……。
「なんで子供の玩具があるのでしょう?」
 ミコの言葉に彩萌も答えられない。
「私としては、ここは飢饉や干ばつ関係の神様か、それで亡くなった人達を慰霊するようなって思ったんだけど……」
「亡くなったのではないでしょうか、子供達が」
「そうかな? それならこんな子供ばかりっておかしいじゃない?」
「……そうですね」
 飢饉や干ばつで村に死者が出たなら、老若男女わけ隔てなく死者が出たはずだ。
 だが、この神社は……まるで子供達だけを……。
 2人はこれ以上ここに手がかりは無いと、再度別の場所を探す為にこの場を後にするのだった。


「いやー、さすが紫餅やな! なんぼでも食べれるで!」
 紫餅屋のテーブルで山盛りの紫餅の前でリスのようにもっちゃもっちゃと食べまくるは権左衛門。
「いい食いっぷりだ! 遠慮なく食ってくれ!」
 30代ぐらいの年齢の店の主人が権左衛門の対面に座って嬉しそうにそう言う。
「権左衛門殿、これは祭りの客に振る舞う餅なのです、多少は遠慮というものを覚えて下さい」
 そこにたすき掛け姿で調理場からやってきた夜彦が釘を刺す。
「ええやん、ええやん、たっくさん作るの手伝ったからこうしておっちゃんも紫餅を振る舞ってくれてるんやし」
「ですから、作るのを手伝ったのは私ですし、道具等を修繕したのはカーニンヒェン殿、権左衛門殿は後からやって来て殆ど……いえ、もう別に良いです。ヴィクトリア殿が居られぬのが惜しまれます」
「おや、このジジイめを呼ばれましたかな?」
 店の前で荷車を修繕していたカーニンヒェンが呼ばれと思ってやってくれば、店の主人が「もう十分だ、お侍さんも爺さんも、遠慮なく紫餅を喰って居ってくれ」と2人もテーブルの席に着かせる。
 もぐもぐもぐ……色が紫なだけで至って普通の丸い餅を食べる3人。
 食べながら夜彦がこの祭りの由来などを聞いたり、どうやって終わるのかを権左衛門が聞いたりする中、カーニンヒェンが「そういえば……」と主人に問う。
「先ほど祭りで祭っているのは雨神様だと聞きましたが、やはり農作業的に雨に問題があったのですかな?」
「ん? ああ、まぁな。だからこそこの紫呉祭よ! これで向こう20年間は安泰ってわけだ」
「ただの祭りにそのような効果が?」
 僅かに目を細め鋭く聞くカーニンヒェン、気が付けば夜彦も耳を傾け、権左衛門も紫餅を食べるのを辞めていた。
 だが、その空気に気づかず店主はあっけらかんと言う。
「そりゃそうだ。じゃなきゃやってないだろう。……まぁ、俺が生まれる前には……っと、いけねぇいけねぇ」
 一瞬、けれど3人の猟兵の目に真剣な光が宿る。


「っしゃあ! これでアタシの5人抜きだね!」
 村の広場に特別に設けられたテーブルに肘をつき、腕相撲の5人抜きを達成した霞ノ衣が「さぁ次はどいつだい!」と次の挑戦者を挑発する。
「姐さん、ここに来た理由……忘れてないっすよね?」
 側に立ちつつツッコミを入れてくる湊偲に対し。
「んな事ぁ解ってるに決まってるだろう。けどね、祭りだってならまずはこの祭りを楽しむ! まずはそれが最優先だ」
「そういうもんっすか?」
「うるさいね、おい皆! こっからはアタシの代わりにコイツがやるよ! 乗せた掛け金はもちろんそのままで良い!」
「って、ちょ、姐さん!? 俺もやるんすか!? 俺、競ったりよりか餅食べたかったんですけど……」
「楽しみな!」
 笑顔で言われ「まぁいいか」と腕相撲大会に参加する事になる湊偲。
 結論から言えば、大きな城下町ならいざ知らず、地方の村の力自慢レベルでは猟兵たる2人に叶う者は居らず、結局霞ノ衣の(後半は湊偲がずっと戦っていたが)勝利となった。
「姉さん、そろそろ……」
「ん? ああ、悪い。アタシはこれからこいつらと呑みに行くから」
「えええ!? ああ、もう、せめて何かしら話ぐらい聞いて下さいね? 俺は俺で勝手に調べに行くんで……」
「ああ、行ってきな!」
 村の屈強な男たちと「今度は呑み比べだ!」と言ってしまう姐を見送る湊偲。


 村で一番の賑わいを見せているのは、今日の祭りの為に店へと改造した空き家で商売する薬屋のようだった。
 もちろん村の特産品は紫の染め物であるし、その原料となる紫の染料こそメインで売りたい物ではあるのだが、この地にわざわざ商売でやってくる者の多くは薬師であり、彼らが求めるのは紫草の根――紫根であった。
 そんな賑わいの店だ、自然、猟兵達もこの店に集まった人数は多い。
「これが紫根ですか……」
「ええ、1年物と2年物とありますが、お勧めは2年物ですね。染料としては変わらないのですが、薬用としては二年物の方が効果が高いですから」
 薬屋の主人が進めるは、旅の商人に扮したプリンセラ=オフェリーだった。お酒の商人だと言う話だったが、特産品で日持ちする薬――紫根にも興味を持ったというプリンセラを、相当に金を持っていると見込んだ店の主人がなんとかして売り込もうとする。
「あの主人さん? 紫草の根が薬にも染料にもなるってすごいと思うんだ……特に薬の方、効能って具体的にはどうなの? この村ではその薬って先祖代々伝わってるのかな?」
「紫根は解熱・解毒剤として効果がありましてな。また紫根と当帰を主薬とした軟膏は火傷、凍傷、ひび、あかぎれ、切り傷に効くと評判ですぞ。私もいつから薬として使われているか解りませんが、戦国時代より前かと……」
 迅の質問に細かく答える店主、どうも嘘を言ってる風でもなく、実際に漢方薬的な感じで効果があるのかもしれない。
 じっとその話を聞いていたヴィクトリアが、自身の知識にある紫草とその根である紫根の効能と相違が無いか頭の中で確認し、薬としては同じものだろうと推測する。
「薬になり染料になり食す事もできる……なんとも都合の良すぎる草じゃと思っておったが……ふむ、漢方か、これはある意味当たりではあるがシロ、と言った所じゃな」
 真実だが自分達が求めるクロに関わるものではなさそうだと紫髪が推測する、疑ってかかっていただけに残念だ。
 そしてそれはレイチェルも同じだった。紫草のあり方そのものに何か問題があり、そこにオブリビオンが介入する事で正常な農作物として採取が可能になっている、そのように良そうしていたのだが……。
「わたしの医術の知識でも、紫根は漢方薬として出てきますし……」
 だが、これだけ村に根差している紫草が、本当に自分達が求めるクロと掠ってすらいないかと問われれば、断言できる程の確証も無く……。
「あ、やっぱり紫草ってこの村の財産なんでしょうね。もしこれが採れないとなったら……」
 後から店にやって来た湊偲が、ふと店主に聞こえるように呟けば。
「おいおいお客さん、怖い事言わないでおくれよ。この草がなくなっちまったらこの村は立ち行かないさ」
「ああ、そうっすよね……ちなみに収穫量や収穫の時期とかって決まってるっすか?」
「収穫はだいたい梅雨前だね。薬用に二年物を作る場合も二度目の梅雨入り前が収穫期さ。まあ、ちょうど今の時期って事だな。収穫量はなぁ……もっと増やせれば良いんだが、なかなか難しくてなぁ」
「増やせないっすか?」
「育ちやすい土地は村の南側だけだからなぁ……」
「そうなのですか? 私の知識だとたしか山とかにも自生できたはずですが……」
 ヴィクトリアが自身が調べておいた紫草の知識と比較し、そう思った事を口に出す。
 その瞬間、店主の空気がピリリと厳しくなり。
「さて、そろそろどれをお買いになるか決まりましたかな?」
 わざとらしくヴィクトリアの言葉を無視し、再び商人たるプリンセラ=オフェリーに向きなおる店主。
 その不自然さに、気づかない猟兵は誰一人いなかったのだった。


「おや、お帰り……良い子ですね」
 戻って来た黒紫蝶を労い、羅華は掴んだ情報の元へと向かう。
 そして辿りつくは村で一番大きな屋敷、漏れ聞いた声に寄れば村長の家のようだった。
 外をぐるりと周り、中の声が漏れ聞こえそうな窓の側に背を持たれさせると黒い狐耳をピンと立たせる。
「……ああ、……だが大丈夫……心配……」
「……二度と……40年……」
「日が沈……わかってる……」
 途切れ途切れだが、今聞いた40年という単語と、先ほど類とユーイの一致した意見を統合するに……。
「おい、あんた! 何してる!!」
「いえ、ちょっと疲れてしまい寄りかかっておりました……大丈夫、心配はいりません」
「心配は……」
 羅華を発見した村人がチラりと窓に視線を向け。
「ここは今日の祭りを仕切ってる村長の家だ。祭りの実務で忙しいので構ってやれないが、どうしても体調がすぐれないなら俺の家に来るか?」
 根はきっと親切なのだろう、そう言ってくれた村人に羅華は「いえ、大丈夫です、ありがとう」と軽く頭を下げ、さっさと村の広場の方へと歩いて行くのだった。


 カーニンヒェンと権左衛門が店を出てからも、夜彦だけは1人紫餅の店を手伝い続けていた。
「お侍さん、もう十分在庫は作ってくれたし、あんたも祭りを楽しんでくれて良いんだぜ?」
「いや、一度手伝うと決めたのでな……もう少しキリが良くなる所までは手伝わせて貰いたい」
「そりゃありがたいが……」
 事実、祭りの名物としての紫餅は、誰かしら村人や旅人が買いに来る。ただ手伝いをしながらでも情報を集めると言う意味では、決して悪くない作業だった。
 そして三時回った頃、店が一息つき店主が自分と夜彦の2人分のお茶を持ってくる。
「かたじけない」
「いやいや、お礼を言いたいのはこっちの方だ。紫餅は……さすがに飽きたか」
 そう言いつつ茶受けに盛られているのは紫餅だ。
 ズズッ……と濃いお茶が染みわたる。店主が言うには祭りが終わった後に自分用に取って置いた濃いお茶だと……。
「そういやお侍さんはどうしてこの村に?」
「私は天下自在符を持つ猟兵でして……」
「天下自在符!? なんと、そりゃ驚いた」
「またこの地、犬神藩の復興にも従事しております……ただ、城下町はともかく地方、各地の情報は伝聞のみ。現場の悩みは実際にその地へ赴き体験せねば解らぬもの」
「はぁ~、そりゃ大変な仕事だ」
「いえ、そう思った事はわりません……そうだ、店主どのも何か困っている事はありませんか? 私で良ければできる限りは致しますよ」
「そりゃあ……いや、ねぇな」
「本当に?」
「ん? あ、ああ……でも、村の子供達が元気にいてくれたら……それに勝るもんは無いってな」
「それはどういう……?」
「言葉のまんまさ。子供達は村の宝だ。何があっても護ってやらにゃいけねぇ……それだけだ」
 世間話の延長の話であった。だが、夜彦には侍でも無いただの村人たる餅屋の店主が、その最後の言葉を吐いた時だけは侍に負けぬ決意や覚悟のような物を含んでいた事を感じ取った。
 なぜ、そこまで強く言うのか……その理由が解らないままに……。


「これが紫草だったのか」
 紫草の農地を見せて欲しいと村人に頼んだジェフリエイルは、村の南側の田畑が広がる場所へとやって来ていた。
「あんた、自生しているただの野草だと思っただろう」
 ジェフリエイルの反応に面白そうに案内してくれた村人が言う
 紫草――その名から花も紫だと思っていたが、実際に咲いているのは小さな白い花だった。
 村の周囲に勝手に自生している小さな白い花を付ける野草……それが紫草だったのだ。
「ま、村の周囲のは勝手に種が飛んで自生してるだけで、ちゃんとした畑はあれだけどな」
 村人が指差す畑は、確かに一面小さな白い花を咲かせた草が整然と列を作って生えていた。明らかに人の手が加わった生え方だった。
「それにしても、この土地はあまり良い土じゃないね」
「あんた、解るのかい?」
 足元の土を手に取り、そう呟いたジェフリエイルに村人が驚く。
「作物が際どく育つかどうかな土地の出だからね。ある程度は」
 事実、ジェフリエイルが手に取ったこの地の土は、乾燥しているのに目が詰まっており硬かった。雨が降っても水はけが悪く、かといって乾けば根を伸ばすには硬すぎる大地だ。水を弾いている田んぼはいざ知らず、普通の作物は育てにくい事この上ないだろう。
「ところで紫草は乾燥にも暑さにも寒さに強い草でな、こんな土地でも立派に育ってくれるんだ」
「それは凄い!」
 紫草の特製に思わず驚くジェフリエイルだが、それと同時にある疑問が頭に浮かぶ。
「でも待ってくれないか。そんなに環境に強いのなら、どうして雨乞いみたいな祭りを?」
「ああ、それは簡単さ。紫草は環境に強いが、唯一ダメなのが大水でね。どんなに立派に育っても2度目の梅雨は越せないほど大量の雨が苦手なんだ。なんとか三年物を作ろうと頑張ったが、どうやっても二度目の梅雨を越えると根が腐っちまってな」
 それはつまり……。
「この紫呉祭は雨乞いでなく、長雨を辞めるようお願いする祭り、というわけだね」
「ああ、その通りだ。雨神様に長雨だけはしないで欲しいと祈るのさ。それさえなけりゃ紫草は強く立派に育ってくれる」
 事前に聞いていた話から、すっかり雨乞いの祭りだと勘違いしていたが、まさか逆だったとは……。
 ジェフリエイルはこの情報がどうオブリビオンに繋がるか見当はつかなかったが、とりあえず皆に共有しようと村へ踵を返すのだった。


「ほいっと、これで最後や! 鬼の勝ちー!」
「ゴンちゃんずるーい! 大人なのにー!」
「ずるいも何もあるかい! 鬼ごっこは真剣勝負や!」
「いえ、私が言うのもなんですが……さすがにもうちょっと手加減してあげた方がいいかと」
「そうですよゴンちゃんさん、一番小さい子なんてさっきからずっと泣きっぱなしなんですから」
 ジト目で信子とヴィクトリアから見つめらえ、「ウチ、別に間違ってあらへんもん」としゃがみ込み、そこを男の子や女の子に良い子良い子される権左衛門、どちらが子供やら……。
 村の10歳前後の子供達と遊んでいた信子だったが、そこに大量の紫餅を持ってやってきた権左衛門が合流、派手に鬼ごっこする事となり遊んでいる最中に、権左衛門のフルスロットルダッシュを見かねたヴィクトリアが合流し、今現在に至る。
 すでに子供達から紫呉祭の由来や、20年ごとにやる祭りなどの話は聞かされており、意外に子供達からの情報収集は間違っていなかったと信子も権左衛門も確信するも、それ以上については――。
「なぁ、そういえばこの祭り、ただ騒いで神さんにお祈りするだけなん?」
「うん、俺達はそう聞いてるぜ! なんか大人たちは別にやる事とかあるみたいだけど」
 と、なにか肝心な事を聞かされていないようだった。
 逆に言うならやはり大人たちはこの祭りに何かを隠している……人身御供? という推測も成り立つ。
「他に聞かされてない事はありませんか? もしくは禁止されてる事、とか」
 信子がそう聞き方を変えると。
「あ、これは内緒なんだけど……歌の二番以降は歌うなって言われてるんだ、ひひ」
 悪戯っ子な男の子が口を滑らす、それを聞いていた村の女の子たちが「いーけないんだいけないんだ」と指差し指摘すると、悪戯ッ子はプンとそっぽを向いて「別に二番を歌ったわけじゃねーし」と口を尖らす。
「ねぇ、二番の歌詞って?」
「教えてくれませんか?」
「紫餅、好きなだけやるで?」
 3人が聞き捨てならないと悪戯っ子に詰め寄るも、それより早く村の女の子たちの「いーけないんだ」の追及が厳しい。
 この状況で聞き出すのは難しいだろう。
「とりあえず信子さん、ゴンちゃんさん、そろそろ日も暮れますし、他の皆さんと一度合流しましょう。子供達も日が暮れる前に家に帰さないといけませんし」
 一番小さな泣きじゃくっていた子を抱っこしてあやしていたヴィクトリアが仕切り、3人は子供達と別れ他の皆と合流する事にするのだった……。


 レッグが「別をあたって来る」と紫染めの職人の家を出て行った後も、真は1人、職人を手伝い続けていた。
 やがてそこに商人としてプリンセラ=オフェリーがやって来て、売り物として持って来た酒を、試飲と称して次々に職人に飲ませ始める。
 無論、すぐにプリンセラ=オフェリーの作戦を察した真も。
「せっかくの祭りなんだろう? 色々と話に付き合ってもらったコトに感謝をして。かんぱーい! お、これイイ酒だな、皆で飲もう」
「ん、ああ? ま、まぁ、あんたが言うなら……かんぱーい」
 そうして一献二献と杯を傾け、酔いが回り始めた頃に類までが店にやってくる。
「おおおぅ、いらっしゃい、そこにあるの……好きなの、もってけー!」
 完全に酔っぱらった職人に、類は一瞬ギョッとするも、やはりすぐ側に真とプリンセラがいる事にある程度を察して、一緒の席へと座る。
「ねぇ、職人さん、どうしてこの村は紫の布を?」
 プリンセラがおずおずと謙虚に質問すると。
「んあ? 別に大した理由はねーよ。ここいらが元々紫草が群生してたって話だ。深い理由はねーよ」
 二回同じ事を繰り返して言う職人に、プリンセラが畳み込む。
「ねぇ、祭りだからってこんな呑んじゃって良いの?」
「ははは、まーな! 俺には子供もいねーし、問題ねー問題ねー」
 そう話す職人の言葉に、類はピクリと違和感を覚える。
 他の大人が隠したがっている秘密から、この職人は別の場所にいるような……。
 そこで、周囲に他の村人がいない事を確認してから、類は核心に近い質問をする事にする。
「ところで1つ聞いても良いですか?」
「なんだぁ?」
「この村にいは40歳から50歳までの大人が誰一人いないようですが……それはどうしてです?」
 ピクリ、ふらふらだった職人の目が座り、急に口をつぐむ。
 その質問は類とユーイが気が付いた村の違和感だった。もし、これが何かに繋がってるとしたら……。
 スッ、ぶぜんとした表情で職人が立ち上がり、店の奥から貨幣をいくらか掴んでプリンセラへ投げつける。
「帰れ、お前らに売るもんはねぇ」
 これ以上は……と3人もさすがに判断し、紫染め職人の家から出て行く事にするのだった。


 ヴェルは祭りで盛り上がる村の大通りや広場を外し、村の外周付近を歩きながらある人物を探していた。
 それは自分と同じような年齢で、表情が他と違う人……可能なら思いつめたような様子の人など。
 ピンポイントに行って人身御供に選ばれた子が村にいるんじゃないかと推測したのだ。
 だが、いくら村中を歩き回っても、一向にそういった表情の人物と遭遇する事は無く、時間だけが無為に流れて行った……。
「駄目だろ! それを歌っちゃ!」
 唐突に誰かが誰かを叱る声。声音から自分と同じぐらいの男の子が、年下の子を叱責したようなニュアンスだった。
 ヴェルは急ぎ声のした方へと駆けて行くも。
 グイッ!
 この家の向こうから聞こえたと、回り込もうとした時に腕を掴まれ止められる。
 誰だと思えば同じ猟兵たるユーイだった。
「(シッ!)」
 口許に人差し指を当て、ヴェルに静かにするよう促すユーイ。なんとなく察して無言で頷く。
「もしおっとさんやおっかさんに聞かれたら、殴られたって仕方ないんだぞ!?」
「だって、だって……」
 どうやら年上の兄が、年下の妹を叱責しているようだ。
「わかったな? もし今度歌ったりしたら、雨の日に雨神様に連れていかれるぞ?」
「それはやーだー!」
「大丈夫、歌わなければ良いんだ、それに、1番だったら怒られないし、1番だけを歌おう、な」
「う、うん、そうする……」
 お説教が終わったのか、やがて妹の涙声が止む。

「大地干からび、人々倒れ。
 雨がとっても、乞いしくて。
 誰もかれもが、恵みを望む。
 雨よ降れ、雨よ降れ、恵みの雨。
 大地を潤し、命繋ぐ。
 雨よ降れ、雨よ降れ、もっと降れ」

 家の向こうから兄妹の揃った歌声が聞こえ、そのまま遠ざかって行く。
 やがて完全に声が聞こえなくなってから、ヴェルとユーイは頷き合うのだった。


「それは本当なの!?」
「世界知識的に同規模の村と比較してみても、その年代がこの村にはいませんから間違いないかとー」
 驚く彩萌に、冷静にミコが説明する。
 それはこの紫呉村に40~50歳の大人が存在しない様だ、という事実だった。
 村の東の神社を見て回った後、そのままぐるりと村を散策しつつ、ミコがそう結論づけたのだ。
「その見解、間違いないぞ」
 そう言ってそこに合流するのは2m半を越える長身のウォーマシン、レッグだった。
 レッグが言うには村の上を旋回するようドローンを飛ばして観察していたが、確かに40~50代の大人を発見できなかったと言うのだ。
 もちろん、外見から正確な年齢が解るわけじゃないが、それでも複数人がそう言っているのなら、あながち間違った範囲でも無いだろう。
「それと気になる場所も見つけた……一緒に行くか?」

 村の北側の山へと分け入るはレイチェルと紫髪、そして霞ノ衣の3人だった。
「本当にこっちに何かあるのかい?」
 霞ノ衣がレイチェルに聞く。
「はい、なにか……紫根とかでない、なにかが……あるはずです」
 集中して地縛鎖を念動力で操りつつ、細い違和感を辿って山を進む。
「とりあえず、村人たちに気づかれてはおらんようじゃな……」
 いざという時は≪陽炎の術≫を使って1人だけも先へ進むよう2人から言われてる紫髪が呟く。
 無論、3人全員で目的地に辿りつく方が良いに決まっている。
 オブリビオンの危険だって可能性的には無いわけではないのだから……。
「これは……水?」
 レイチェルが、鎖が感知したモノをはっきりと感じとる。
 と、同時。
「もしかして……あれか?」
 霞ノ衣が指差す先、森の中に2階建てぐらいの蔵が見えて来た。
 そうしてレイチェル達3人が蔵へと近づいて行くと、すでに先客がいる事に気が付く。
 それはオールバックの初老の紳士、カーニンヒェン、そして空色の陰陽師服を来た迅であった。
「なんだぁ、すでにそっちが先に――」
 霞ノ衣が声をかけて近づいて行くと、カーニンヒェンと迅が同時に口許へ人差し指を当て黙るようにジェスチャーをする。
「!?」
 慌てて口をつぐむ霞ノ衣。
 そして静かになると同時に、その声が聞こえた。

「大地干からび、人々倒れ。
 雨がとっても、乞いしくて。
 誰もかれもが、恵みを望む。
 雨よ降れ、雨よ降れ、恵みの雨。
 大地を潤し、命繋ぐ。
 雨よ降れ、雨よ降れ、もっと降れ……」

 それは幼い少女の歌声だった。
 まるで自分か誰かに子守歌を歌うかのような声音で、優しく歌を紡いでいく。
「子守歌にしてはなんとも物悲しく切実じゃのぅ」
 紫髪が小さく感想を述べる。

「子供達から、一人を選び。
 雨を呼ぶため、柱立て。
 誰もかれもが、神様すがる。
 雨よ降れ、雨よ降れ、命の雨。
 子供を差し出し、命繋ぐ。
 雨よ降れ、雨よ降れ、もっと降れ……」

 少女の歌声は続き、子守歌は2番へと。
 それは猟兵達が懸念した人身御供を現した歌詞で……。
「(で、どうして2人は先にここへ来れたのじゃ?)」
 歌声を邪魔しないよう紫髪が先に到着していた2人に聞くと。
 2人は歌声や子供の声を辿って探索し、ここに行き付いたと言う。
 なるほど、と納得する紫髪だが、少女の歌はついに3番へ……。

「柱逃げたよ、約束破り。
 雨は止まずに、神怒り。
 誰もかれもが――。

 その時だった。
 ガシャン! ガシャン! ガシャン!
 重たい足音が近づいて来て、草むらをかき分け彩萌とミコ、そしてレッグが姿を現す。

「そこに誰かいるの?」

 歌が止み、蔵の中から歌を歌っていたであろう少女の誰何の声が聞こえる。
 猟兵達は顔を見合わせ。
「ああ、いるよ。きみの歌声が聞こえて……辿って来たらここに、ね」
 代表して迅が返事を返す。

「そう……村の人じゃないの? ここを出るのは日が落ちてからって聞いてたけど……」

 ハッと猟兵達が森の隙間から太陽を望む、すでに時刻は夕刻だ。すぐに日が沈むわけではないが、さりとてゆっくりしている時間も無い。
「歌の少女よ、お主は誰じゃ? ここで何をしておる」
 紫髪が気になっていた事を聞いてみる。

「私は……贄(にえ)って呼ばれてる。私は神様へ嫁ぐために村の人に育てらえたの。今日はやっと嫁ぐ日なのよ。初めてここの外に出られるの……私、とっても嬉しいの」

 邪気の無い純粋な気持ちが乗った言葉が、少女からこちらへ投げかけられてきた。
 もし、少女の言う事が真実なら、この少女は……――。
 もうすぐ日も落ちるが、その前にここにいない猟兵達も、すぐにここへやってくると迅が言う。
 迅達がここを見つけた時、すでに式の鳥を飛ばし村やその周辺にいる猟兵達をここに連れてくるよう手配したというのだ。
 今、猟兵達の目の前には贄と名乗る少女がいる二階建ての倉があった。倉に出口は1つだけ、あとは明り取りの小さな格子窓が上の方にあるだけだった。少女の歌声はその明り取りから洩れていたのだろう。
 そして倉の周囲を四角く囲むように小川が流れていた。山上の限流から流れてきた小川を、倉の前で2つに分け、倉の周囲を左右に流し、再び倉の反対側で合流させそのまま山の中を村へと流れて行っていた。
 倉を四角く囲む小川の水は、どこか不思議な気配を持ち、レイチェルが感じ取った特別な気配はこの水にあったと思われた。
 人身御供の贄の少女。
 小川に囲まれた倉。
 謎の子守歌。
 村人の秘密。
 そして猟兵達は……――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『重要人物との交流』

POW   :    中心人物となる人物の危機を助ける。庇ったり、敵を追い払ったり。

SPD   :    中心人物となる人物が好きな人形やお守りを手作りしプレゼント。

WIZ   :    中心人物となる人物の話し相手になってあげる。

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●第二章予告

 子供達から、一人を選び。
 雨を呼ぶため、柱立て。
 誰もかれもが、神様すがる。
 雨よ降れ、雨よ降れ、命の雨。
 子供を差し出し、命繋ぐ。
 雨よ降れ、雨よ降れ、もっと降れ。

 供物として育てられた少女は、さりとて子守歌を繰り返す。

 サムライエンパイア・シナリオ「人身御供の子守歌」
 第二章『人身御供』

 平和な村を救う為、少女は無邪気にその身を捧げる……。
涼風・穹
人身御供として育てられたのなら生贄の儀式は組織的に長期計画で行われているのか…
もし以前からオブリビオンが関わっているのなら相当根が深そうだな…

【行動】
生贄の儀式に誰が関わっているのか、その目的は?
介入するにしても情報が少なすぎますので贄の少女が命に関わる事態になるまでは隠れて様子見します
いざとなれば《贋作者》で少女の人形を作成して本人とすり替えます
殺される瞬間にすり替えるとか、村人からは贄が死んだと認識されるようにやれれば重畳

時間があれば『スカーレット・タイフーン・エクセレントガンマ』で高くまで飛んで村を周囲の地形ごと俯瞰して、以前大規模な水害等にでも見舞われたような痕跡がないか調べておきます


蜂蜜院・紫髪
*連携アドリブ歓迎

心情:贄とは味気ない、儂の好きな蜂蜜にちなんで蜜と呼んでもいいかの?
あ、蜂蜜とはこれじゃぞ

儂は少女を助けるべきじゃと思うておる
村人の不利益はこの際無視じゃな

推察:村に都合のいい事だけを教えて育てる故に贄か…気になる事もある
3番の続き聞かせて貰えぬかの?

村の祭りの主旨は「雨止め」のはず…じゃが子守歌の中身は2番まで全てが「雨乞い」よの?
先ほど彼女が歌いかけた3番…贄が逃げ神が怒り雨が降り続ける事になったという話じゃな

となれば生贄は雨乞いに必要な存在で逃がすとなれば神…おそらくオブリビオンが暴れ出す
神を倒し解決すれば…雨の降らぬ土地が残り村は立ちいかぬ
そういうことじゃないかのぅ


黒玻璃・ミコ
※スライム形態

◆心情
色々と考えた末の人身御供のつもりなのでしょうが
日照りも水害も黒幕のマッチポンプですよねー

◆行動
【POW】で判定

歌を止めなければ贄となってしまうのでしょうが
この歌が止まれば村人達は異変を察知し
是が非でも儀式を続けようとするに違いありませんよね

村人相手に手荒な真似をするのは本末転倒なの
【医術】による知識が私が【毒使い】で精製した
【催眠術】効果があり成分を水や風に溶かし
念動力に載せて村へと散布し眠りへと誘いましょう
無論、妖の類が居れば其方も無力化してみせましょう

素晴らしい【視力】の瞳で
村の中の配置も観察していたのは伊達ではないのですよ?

◆補足
アドリブOK、他の猟兵さんとの連携歓迎


レイチェル・ケイトリン
もとめる心でわたしの認識力をたかめるよ。

そして女の子とそのまわりのことをしらべてまとめるの。
この事件がおわったあと、おひめさまにみてもらうために。

こういうことがあるなら、ほかにもあるかもしれないの。
こういうことがあるとオブリビオンがへんなことをしやすいしね。

そして犬神藩のちかくには多野藩と狒々堂藩があった場所に魑魅魍魎が、立入禁止にしなきゃいけないほどいるの。

もちろん、まずはこの事件の解決が必要だけど。
そのためにも情報を一生懸命あつめるけど。

でも、そのあとで、犬神藩全体のあぶなさとしておひめさまにかんがえてもらわないといけないとおもうから。

だから、しらべていくね。


ユーイ・コスモナッツ
・POW
そのような野蛮な因習が残っているなんて!
なんとかして止めたい、と考えるのは、
よそ者のエゴでしょうか……

ううん、私は考えるよりも行動だ!
と自分の両頬を叩いて

村の偉い人に、
生贄に差し出すのを中止するよう直談判してみます
罵り責められるのは覚悟の上
最悪殺されるかもしれませんね

それでも私は騎士として、
自分の正義に嘘はつけない
利口なやりかたではないかもしれませんが、
愚かでも正々堂々と
真っ直ぐな気持ちをぶつけてみます

どうしてこのような因習があるのか
そうしなくてはならないのは何故なのか
それを止めるには、なにをどうすれば良いのか

私にできることなら何でもしますよ




「歌の主よ、先ほど自身の事を『贄』と言ったが……」
 蜂蜜院・紫髪が倉の中にいるであろう人身御供の少女へ話しかける。
「うん、そう呼ばれてるから」
「いやいや、贄などという名は味気ない。儂の好きな蜂蜜にちなんで蜜と呼んでも良いかの?」
「いいよー? 『贄』っていうのも今の世話役の人が言ってるだけで、その前は『お前』だったしその前は確か……『娘』だったかな? あ、もしかして新しい世話役の人? あれ? でも私は神様の所に行くから、もう新しい世話役は来ないって言ってたような……」
 何か自分の中で整理できないのかぶつぶつ言い始める少女。
 倉の周りには小川が囲むように流れているが、その幅は1mもなく軽く跳躍できそうだった。紫髪はとりあえず倉の中に入って少女を助けようと――。
「待て」
 跳躍しようとした所、腕を掴まれ止められる。
「何じゃ!」
 腕を振り払い剣呑な声を向ける紫髪。
「いや、強く掴んじまった事は謝る。だが、ちょっと待て」
 それは青い髪に赤い鉢巻きをした青年、涼風・穹だった。
「人身御供として育てられたのなら生贄の儀式は組織的に――村ぐるみで長期計画として行われているのかもしれない……今回の件にもし以前からオブリビオンが関わっているのなら相当根が深そうな案件だ」
「だからと言って少女を――蜜を助けぬ理由にはなるまい」
「それでも、介入するにしても情報が少なすぎる。儀式に誰が関わっていて、その目的が本当に雨神様とやらへの供物なだけなのか、もう少し調べてからでも良いだろう」
「この祭りは日没と共に終わる。すでに日が傾きかかっておる……悠長な事は言っておれんぞ?」
「それは……」
 紫髪の言葉に穹が言葉につまる。
 そこで割って入って来たのはユーイ・コスモナッツだった。
「だったら! 私は村の人に直接聞いてきます!」
「お、おい!」
 穹が止める間もなく、村の方へと走って行くユーイ。
「(人身御供なんて野蛮な因習が残っているなんて……それをなんとしても止めたいと考えるのは、他所者の――私のエゴなのでしょうか……)」
 森の中を、山の斜面を駆け降りながらユーイは思う。
「(ううん、私は考えるより行動だ! 日没まで時間が無いならそれまでに少しでも説得して見せる!)」
 パチン、と自分の両頬を叩きユーイは全速力で村長の家を目指し走る。

 ユーイが去った後の倉の前では、猟兵達が生贄の少女をすぐに助けるかどうかで話し合っていた。
「でもー、村の人達的には色々と考えた末の人身御供のつもりなのでしょうが、日照りも水害も黒幕のマッチポンプですよねー、どう見ても」
 そう呟くはスライム形態でふにふにしている黒玻璃・ミコだ。
 ミコの言う通り、人身御供の裏にはオブリビオンが関わっているのだろう。
 だが、その証拠を掴むなり、オブリビオンが出現するキーを得るにはまだ至っていない……。
 そんな中、冷静に言葉を発するレイチェル・ケイトリンだった。
「それを……おわらせる」
 皆の視線がレイチェルに集まる。
「この地にはまだ魑魅魍魎がすくう場所もある、それらがない世界をめざすためにも、まずはこのじけんを解決し、じょうほうを藩主様にもってかえらないといけないとおもう……」
 レイチェルは誰に言うでもなくそう呟くと。
「だから、今はできるだけしらべてから、動こう?」
 日は暮れだしている、決して時間があるわけではない。
 だが、無いわけでもないのだ。
 猟兵達はレイチェルの言葉にコクリと頷く。
「俺ももう1度調べてくる。少し気になる事もあるしな」
 そう言って穹が愛機スカーレット・タイフーン・エクセレントガンマに飛び乗り、上空から村を見てくると言って飛んで行く。
 ミコも「私もやっておきたい事があるので、ちょっと集中しますね」と言うと、そのままジッと動かなくなるのだった。
 そして、紫髪も「ふぅ……」と大きく深呼吸のように息を吐き、倉を見上げる。
 この倉の中には生贄にされる少女がいるのだ。
 本当はすぐにでも蜜を助けてあげたい……だが、仲間達の手前、時間の許す限りはぎりぎりまでこの事件について整理する事にする。
 幸い、周囲に残った皆も何か考えているのか黙っている、思考の邪魔は無かった。
「(まず、村の祭りの趣旨は『雨止め』のはずじゃな。しかし、子守歌の中身は2番までが全て『雨乞い』よな?)」
 また、先ほど蜜が歌いかけた3番……贄が逃げ神が怒り雨が降り続ける事になったという話だった。
「(となれば生贄は雨乞いに必要な存在で逃がすとなれば神……おそらくオブリビオンが暴れ出す、と解釈できる)」
 神を倒し解決すれば雨の降らぬ土地が残り、生贄を逃がせば神が怒り大雨を降らす。
「(どちらにしても村は立ち行かぬ事にならぬか?)」
 自らの思考の行き付いた先に、決して明るくない未来しかない事に、どうすれば……と考える紫髪であった。



 ばんっ!
 と村長の家の扉を開き、家に上がり込んで行くのはユーイだった。
「な、なんじゃ突然!?」
「お主、村の者では無いな? 出ていけ! 今、祭りの大事な打ち合わせ中だ!」
「よそ者は立ち入り禁止だ!」
 村長の家に集まっていた大人たちが一斉にユーリに出て行くよう声をあげる。
 だが、ユーイは一通り村の大人たちの罵声を聞き。
「私は騎士として! 自分の正義に嘘はつけません!」
「な、なんじゃと!?」
「もちろん、これが利口なやりかたではないのは解っています。愚かな行為だとも……でも、それでも! 私は真っ直ぐな気持ちを皆さんに伝えたい!」
 ユーイのあまりの迫力に場が静まり返る。
 まるで誰もがユーイの言葉を待つかのように……。
 だからユーイも、正々堂々、この場に集まっていた村の大人たちを見つめて問いかける。
「どうして……どうして生贄に差し出すような真似をするのです。今すぐ、そのような残酷な事、中止して下さい」
「なぜ……その事を……!?」
「この村にどうしてそんな因習があるのか、そうしなくてはならない何かがあるのか、皆さんがそれを止めようとしたのに止めれなかったのか……私は何も知りません。だから、教えて下さい。皆さんが本当はどうしたいのか、を」
 ユーイのあまりに率直で実直な物言いに、村長を含め村の大人たちが顔を見合わせる。
 そして代表するように村長が口を開く。
「しかた……ないのじゃよ……――」


「これ、たぶん結界……みたいになってる」
 倉の周囲を流れる小川を調べていたレイチェルがそう呟く。
「結界、じゃと?」
 紫髪の聞き返す言葉にコクリと頷く。
「わたし、魔術とかにはあんまりだけど、わたしの認識力をたかめてしらべたの……倉をかこむ水のながれが、外と内とをくぎっている……かんじがするの」
「ふむ、言われてみれば、じゃな……」
 水の流れはそれだけで境界線となりうる。古来、川は国境などの境目とされ、また流れる水は邪気を通さぬ清廉さを持つとも言われる。神に捧げる人身御供のいる倉を流れる小川で囲ってあるのは神聖さを保つためとも言えるし、この境界線を越える対象を誰かが感知する上での役割なども果たしているのかもしれない。
「危うく不用意に渡るところじゃったな」
「でも、わたらないとあの子はすくえない……」
「……ふむ」
 悩む紫髪とレイチェルの所へ、ピョコンピョコンと跳ねつつスライム形態のミコがやってくる。
「やっと生成できましたー」
「ん? 何をじゃ?」
 問いかければ「眠り薬ですー」とミコがどや顔で告げる。
「何にせよ、村人に気づかれると是が非でも人身御供の儀式を続けようとするに違いありませんよね?」
「それは……そうおもう」
「でも、だからって村人に手荒な真似をしたら本末転倒なの……だから、眠り薬です」
 それはミコの医術、毒術、催眠術の知識を応用して生成した薬だった。
「ただ、この短時間でどうやって村に散布すれば効率が良いか……です」
「それなら良いやり方があるぞ」
 ミコの言葉に答えたのは上空からの声だった。
 ホバーで土煙をあげつつスカーレット・タイフーン・エクセレントガンマで着陸する穹。
「村を上から俯瞰して調べたが、ここいらは川が溢れれば村中が水浸しになるような地形だ。それを利用できないか?」
 穹の言葉にミコは。
「できます。川にながせば水蒸気として眠りの煙として散らせる事ができますから、あとは、念動力で風を動かせば村中に広げられます」
「念動力なら……わたし、てつだえるよ?」
 話を聞いていたレイチェルが手をあげる。
「では私は川に流して水蒸気化させるのに自身の念動力は使いますので、そちらは風の方をお願いします」
「レイチェル、俺のスカーレット・タイフーン・エクセレントガンマに乗るか? 上空からの方が風は操り易いだろう?」
「うん、乗らせてもらうね」


「仕方がなかったんじゃ……」
 ユーイに向かって村長が狂いげに発言する。
「話して下さい。私にできることなら何でもしますから」
 ユーイの言葉にコクリと頷き。
「40年前の悲劇を繰り返させるわけにはいかんのじゃ……あの時、わし等は選択を誤った。供養の為、東に社を建てたがそんな物では誰も納得しなかった……旅人さんよ、すまんがそれ以上は言えん。だから、悪い事は言わない、何も気づかなかった事にして、早々にこの村から立ち去るのじゃ……」
「言ったじゃないですか、私にその選択――」
 そこまで言った時だった。白い水蒸気のような煙が家の隙間から入り込み、視界さえ白に奪うように充満する。
 ガクン、と意識を持って行かれそうになる感覚。だがユーリは踏みとどまり村長の家から飛び出す。
「(これは……眠り薬? なっ!? これは村中が……!?)」
 村が真っ白な眠り薬の煙に覆われていた。
 クライマックスに近づいていた祭囃子も、気が付けば音がしなくなっている。
 いや、祭囃子だけでない、村中の音がなくなっていた。
 たぶん、村人全てが眠ったのだろう。
 ユーリは村長達を強引に起こすべきか逡巡する。だが、眠らせるだけのやり方を鑑みれば、これはきっと仲間の仕業だろう。
 なら、まずは40年前の悲劇との話を他の猟兵達に伝えるべきか……と、ユーリは村人を起こすのを辞めるのだった。


 木々の上から村の様子を見ていたミコがするすると落ちて来て。
「たぶん、これで村人たちは全員夢の中です」
 ミコの言葉に、残っていた紫髪が「ふぅ」と息を吐く。
 正直、この行動が吉と出るか凶と出るかは今の所判断がつかないが……。
「そう言えば北の山が笠をかぶってるみたいな雲を抱いてましたが……何かの予兆でしょうか?」
「笠雲じゃな……良く見えたの?」
「目は良いんです」
 どドヤるスライム状態のミコ。
「雨……か」
 と呟き、紫髪はふと聞いておきたかったが忘れていた事を想い出す。
「蜜、蜜、聞こえるじゃろうか?」
 倉の中の少女に外から語り掛ける。
「なにー? そろそろ神様の所に行く時間ー?」
「いや、それはまだじゃ……それより先ほどの歌、子守歌の3番をもう一度最初から歌って貰えぬじゃろうか?」
 そう、先ほどは途中で途切れてしまったが、紫髪は歌の続きが気になっていたのだった。
「いいよー」
 倉の中から少女の声が聞こえ、やがて可憐な声が歌い出す。

「柱逃げたよ、約束破り。

 雨は止まずに、神怒り。

 誰もかれもが、子供を失くす。

 雨よ降れ、雨よ降れ、嘆きの雨。

 大人は後悔、命繋ぐ。

 雨よ降れ、雨よ降れ、もっと降れ」

 全てを歌い終えて少女が「これでいいのー?」と聞いてくる。
 そして、念のために確認すると子守歌に4番は無いと言う。
 猟兵達はその歌詞を聞いて……そして……――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

目面・真
【POW】

初めて外へ出られたのか。それはさぞかし嬉しかろう。
セミ、という生き物がいる。そいつも生まれてから地面の下の何も見えないところで長い間暮らしているんだ。
キミの喜びは、外へ出られたコトか、それとも贄として命を散らすコトか。

村の成人達の行動が気になるな。探れるようなら笄を使ってでも探し出してやる。
向こうから来るようなら、気絶させる等の最低限の武力行使に留めよう。
贄の少女の安否を最優先に行動だ。
可能なら世界は斯く分かたれりで攻撃を遮断する。最終手段だが。
間違いなく予想外の場所から襲撃されるはずだ。油断無きよう。

地面を飛び立ったセミの命は短い。キミにはそうあって欲しくはナイな。


桐・権左衛門
ヴィクトリアと共に行動(f00408)WIZ使用

やっぱり子供が重要やった訳やな!ウチの思った通りやで!
ちょっと…ほんのちょっと!遊び過ぎただけやで!(theどや顔)



誰かが犠牲の上での村なんて無くなった方がええわ
自分や知り合いの子供やったらどないすんねん
納得するん?阿呆らしいでけったくそ悪い話やな

小川に囲まれた倉も気になるで
こないな立地は山上の限流からの小川が雨で増水したら一発で蔵が大惨事や…
長雨があかんのに贄で雨乞いせんとあかん…

長雨を辞めるようお願いする祭りってのはここが理由ちゃうのん?

中心人物や村の連中から
・これが村の為
・子供達の未来の為
・仕方ないじゃないか
とか言い出したらシバキ倒すで


プリンセラ・プリンセス
プリンセラ表。
贄の少女を救いたいと思う。
だが贄の少女を救うことはおそらく村の破滅を意味すると兄達は言う。
贄を求めるオブリビオンを倒しても同じ。
「なんとかする方法は……あるのですか? ――――また美濃姫にご負担をおかけしてしまいますわね」
方策は他の兄姉達が出してくれた。
書くのは手紙。出すのは美濃姫。
これまでの状況とこれからの状況予測。
その上で問う。復興中の犬神藩で定住できる場所がないか。
例えば今は猟兵の手を使っている金鉱山。
西の土地の開拓村。
復興中の今だからこそできる移住策。復興が終わってしまえば行く所はなくなってしまう。
故郷を捨てさせる以上、村人の説得は難しいがやらねばならない。


ヴィクトリア・アイニッヒ
権左衛門(妖怪ケツバット・f04963)と行動。

その地の文化、価値観について意見を押し付けたくは無いのですが…生贄という風習だけは、容認出来ません。
子供を生贄とするという行為は、未来の可能性を潰すという事。より良い未来を掴む可能性を自ら消す愚行です。
…止めなければ。そして裏に潜む何者かを、見つけなければなりませんね。

しかし、何を調べれば良いものか。
村人を起こすは悪手でしょうし、贄とされる子が何かを知っているとも思えませんし。
…水に纏わる子守唄、小川の源流、北の山…
少し、気になりますね。先行して、探ってみましょうか。
空振りになる可能性もありますけど…ゴンちゃんさんに、助力をお願いしましょう。


秋月・信子
・SPD

やはり……わらべ歌の2番目は…それなら……
「それなら…助けるって?はっ、私は別に止めないわ。でも、贄が居なくなってもきっと滞りなく儀式を行うべく変わりの生贄をその場で作るかもよ…例えば、昼に貴方とじゃれ合った子供達の誰か、とかね?」
夕暮れの斜陽が作り出す自身の影が喋ると、それは私と姿が瓜二つの『姉』と呼ぶ存在に象った
でも、それを見過ごすだなんて…
「だから、早まるな…って言ってるのよ。私はここで見張って村の連中が来たら教えるからそれまで好きにしてなさい。…折り紙、得意なんでしょ?」
…ありがとう姉さん
ささやかな…【破魔】と【呪詛耐性】の【祈り】を込めた…折り紙のお守りをプレゼントしてみます


月舘・夜彦
暫し少女の護衛とは言わず少し話をさせて貰いましょう
此の地のオブリビオンが彼等の神であろうとも倒さねばなりません
私達は原因を察しながらも、彼等から直接話を聞いていない
……せめて彼女を知らねばなりません

歌の意味を知っても知らずとも、己の運命を理解している
全く恐怖が無いのは彼女が生まれた時より先を定められていた事なのでしょう
そして村の者達は何も知らぬ子供に「贄」と名付け、神に命を捧げる者として
彼女を認識しているのならば……私は決して認める訳にはいかない
罪の意識があろうとも、その覚悟があろうとも
悲劇を繰り返さない為に作る代償
「それ」に永遠はありません
後悔は軈て、綻びを生むのですから

覚悟は、しております


紺屋・霞ノ衣
湊偲(f01703)と参加するよ

例の神様の場所が特定出来ないか探しに行くとしようか
雑魚が湧いてたんならぶっ倒す
神様の手下かもしれないし追跡するかね
この際、村人でも良いから聞き込み

しかし、やっと見つけた子供の名前が「贄」だぁ……?
腹立つねぇ、人の名前に付けるものかよ
腹立つのはそれだけじゃない
祭り、あんなに楽しそうにしてた奴等なのに真っ黒だ

わかってるさ、そいつ等だって楽しくてやってるわけじゃない
大雨降っても駄目、雨が降らなくても駄目
この先20年40年、村を生かす為にやる

事情は分かってもアタシは神様を殺すよ
贄がもしも自分の家族なら、友達なら……アタシは絶対に許さない
他人に命をやったりなんかしない


越喜来・湊偲
霞ノ衣姐さん(f01050)と参加します

倉の周辺を巡回して警備
近くに神様の手がかりが無いかO・Oも使って調べましょう

神様はオブリビオンとしても情報が少なすぎです
村の皆は話してくれそうに無いから何か見つけられればいいんですけど
……姐さんがすげーピリピリしてて怖い、めっちゃ怖い
気持ちは分かりますけどね

何も知らないからって生贄に出して良いなんて思えないし
あんな風に無邪気に笑う子がこれから死ぬなんて思いたくないです
でも……俺達が神様を殺したら、村がやっていけなくなる
俺はその責任を背負いたいって思います
他に何か作物作れないかとか名物を考えるとか
誰かの犠牲も無く生きられるように
嫌われても、絶対やりたいです


羅賀・乙来
村の人達は眠ってしまったようだけど村長あたりは起こした方が良いかな
彼等を眠らせても、この先が変わるわけではない
今後彼等がどうするか考える必要があるだろうね

僕達は神様に関する者……恐らくはオブリビオンを倒すだろう
いいかい、人柱作った時点で今の君達に幸せは無い
生贄を設けて神様のご機嫌取りをしたつもりだろうけど、それは呪いでもある
己が平穏の為に命を捧げる呪いだ
喜んでやっていないと、この村から出るつもりもないと
全て愛しい村の為と言うならば、その愛しい村から生まれた子を何故手放す

人は神様の為に在るんじゃない
何も無い地でさえ耕して人を集めて集落を作る
それが村や国になると言うのに君達は何を恐れているのだろう


玖篠・迅
東の社に40年前
…子守歌はその時を歌ったもので、雨乞いの歌になってるのかな

倉周りの小川だけど、気配とか結界の起点に力の流れがどうなってるかを地縛鎖に「第六感」とかで調べてみる
倉周りだけなら分岐点と合流地点に何か仕掛けがありそうだけど…
後、川の上流に危険がないか調べに行きたい
水関係だし、式符・天水で蛟たちと一緒に行くな
山に笠雲がかかってるみたいだし、川が溢れて村に流れる事にならないといいんだけどなあ

倉から離れる前に中の子に
どこにいる、どんな神さまのとこへ嫁ぐのか
世話役の人が居るって言ってたけど、今は村に戻っていないのか
普段、世話役の人とどんな風に過ごしていたのか
を簡単にでも聞いておきたいな


カーニンヒェン・ボーゲン
贄の娘をどうすべきか…悩みました。
けれど、違う。まずは村が救われる方法を考えなければ。

村の歴史を知る術はないでしょうか。
神社や有権者の書庫を当たります。
引き続き目立たず、鍵開けを駆使。
非合法な侵入となるやもですが、致し方ありません。

まずは村に何が起きたのか。
そしてそれを齎したのがどういう存在で、村人がどのような決断をしたのか。
「神」を名乗るモノなれば一方的な約束事を結んでおるやも。
それだけならば、供物は必要ない。
本当に必要なのは雨を凌ぐ知恵です。
己の持つ世界知識、地形の利用法やロープワークで、畑の在り方や水路の改良案を提供できないでしょうか。
先の事に怯えるならば、これまでと何かを変えてみねば!


斬断・彩萌
ふぅん、結界。面倒ね、Oracleでちょいちょいっと突いてみようかしら。
何、神託の名を冠するお前なら多少の事では壊れないわよ。そもそも実態無いんだし。

●WIZ
贄となった少女と話をするわ。
あなたはいつから、どうして選ばれたか、教えてもらったことはある?
オブリビオンの力をもってすればわざわざ貴方一人や一定年代を選ばなくても、村人程度なら一気に喰らいつくせそうなのに……そこがどーにも解せないのよね。

あとはまぁ、あんまり話し相手もいなかっただろーし、世間話でもしようかな。
世界の話を知って、この檻の外を感じられるように……もう少し待っててね。


冴島・類
40年程前にこの村に風習を課したオブリビオンが
子供達の命を奪ったのかな

水操る力があれば
川に力を感じるだろうし
…恐れを与え雨を使い
子の命と作物の環境を失うよりは
と思わせたのか

でも
倒したから干ばつが起こるとは思いづらい
寧ろ其れすら操られている可能性も

山でも育つはずの紫草が
南側にのみ育ちやすいことも気になる

彼女も村人皆も助けたい心を胸に
少女に柔らかく話しかけ
蜜ちゃん
君が今日向かう先は…
どこか、知っているかい?
山ではないのかな

川の水の元
北の山や雲を調べに行きたい
自身も向かう気で
先に近くに鳥がいれば動物会話で話しかけ
山に何があるか知らぬか問い
UCの式を付け視界を借り
雲付近を見せてくれぬか頼み

※連携等歓迎


レッグ・ワート
なるほどなあ。こういうのほっとかない奴多いだろ。

俺はバイクで村の方へ。水関係でごたついても村や畑がしのげるように、ゴッドスピードライド使った上で防盾をドリルに形状変換して治水工事。とりま村や畑に直撃させず、溢れても村側にそう留まらないようにいきたいんだよ。昔の大水の話でも聞ければ参考に出来るが起きるかこれ。万一子供を狙ってくる水だったらまず集めて守り易く。
川幅や深さ弄りや脇道作り、村内や周りに水の逃げ場や道。掘った手応えや聞いた話、村と周りの地形に合わせてドローンで様子見ながら打つ手の演算かける。深堀過ぎたらアンカーで戻るわ。祭りの時に紫草についても知れたし、畑の水捌けも良くしたいけどな。


ジェフリエイル・ロディタ
そうしないと村が立ち行かないというのはよくあるね。
僕も似たような事情で魔物のいる外に出たものさ。

散らばるなら僕のエコーリングで送り出そう。
どういった方向を気に掛けるのであれ、
被害を止めたいのは皆似たようなものだと思うからね。
より輝く助けになれば嬉しいよ。

僕は村へ行って村の人を少うしずつ起こそうかな。
先ずは落ち着いて貰って、誰が動いているのかを話して。
数年おきにひらいたって良いただ楽しいものへと
紫呉祭をかえるために。昔何があったのかをきこう。
その後エコーリングで元気な人手を増やして広い所に集まるなり、
念の為避難を始めるなりしようか。
もし移動するなら。かつて被害が無かった場所の、近くへ。




 夕日が周囲を赤く染める中、子守歌の3番の歌詞を聞いた猟兵達が倉の前で立ち尽くす。ある者は拳を握り振るわせ、ある者は沈痛に俯き、ある者は思考に没頭する。
 重くなっていく空気……そんな中。
「やっぱり子供が重要やった訳やな! ウチの思った通りやで!」
 その空気を取っ払うかのように陽気に声を張る桐・権左衛門。
「ゴンちゃんさんは、ずっと遊んでただけ――」
 権左衛門の相棒たるヴィクトリア・アイニッヒが冷静にツッコミを入れようとするのに言葉を被せるように。
「ちょっと! ほんのちょっと遊び過ぎただけやで!」
 権左衛門が着崩した花魁風の着物を翻しどや顔する。
 だが、そのまま倉の方を向き直り皆に背を向けると。
「さて、皆がさっきの歌詞聞いてどう思ったかは知らん……けど、ウチ個人の意見を言わせて貰えれば、誰かが犠牲の上で成り立つ村なんて無くなった方がええ。自分や知り合いの子供やったらどないすんねん。納得するん? 阿呆らしい! けったくそ悪い話や」
「そうですね」
 権左衛門の背をポンと叩き、ヴィクトリアが横に並ぶ。
「この地の文化、価値観について意見を押し付けたくは無いのですが……私も生贄という風習だけは、容認出来ません。子供を生贄とするという行為は、未来の可能性を潰すという事。より良い未来を掴む可能性を自ら消す愚行ですから」
 と、村の行為に2人が否定的な意見を真っ先に発言すると。
「仲間がアタシと同じ考えでホッとしたよ……っ本当に、ね」
 そう同意してくるのは紺屋・霞ノ衣。
「だいたい、やっと見つけた子供の名前が『贄』だぁ……? 腹立つ、人の名前に付けるものかよ」
「姐さん……」
 話しながら怒りのボルテージが上がっていくのが解るだけに、弟分の越喜来・湊偲は恐る恐る、だ。だが、霞ノ衣は今度は湊偲に向かって。
「腹立つのはそれだけじゃない! 祭り、あんなに楽しそうにしてた奴等なのに……その腹ん中は真っ黒だ!」
「姐さん、俺に、言われても……」
「……わかってるさ、そいつ等だって楽しくてやってるわけじゃない。大雨降っても駄目、雨が降らなくても駄目、この先二十年、四十年、村を生かす為にやる……やってるって事はね……」
「姐……さん……?」
 バシンッ、と胸の前で掌に拳を打ち付け、ふぅぅ……と大きく息を吐く。
 やがてスッと倉ではなく森の、北の山の方を向き。
「村の事情は分かっても……アタシは神様を殺すよ。湊偲」
「は、はいっす!」
 動物的な勘か、この倉にその神とやらがいるわけではないと感じ取り、霞ノ衣は森の中へと分け入っていく。その後を慌てて湊偲が追い――。
「ゴンちゃんさん、ここは任せて良いでしょうか?」
「ん? ああ、もちろん」
「それでは、私はあっちを調べます………裏に潜む何者かを見つけ、この愚行を止めなければ」
 権左衛門と頷き合い、ヴィクトリアも山を調べに霞ノ衣と湊偲を追って姿を消す。
 そんな中、自身の心の内にて多くの兄姉達と想いにて言葉を交わすはプリンセラ・プリンセス。
「(贄の少女を救いたい……)」
 そう思いを伝えるプリンセラに対し、それは村の破滅を意味すると兄姉達が諭す。
「(なら、オブリビオンさえ倒せば……)」
 それが唯一の希望だろうと言うプリンセラに、兄姉達が首を横に振り、例え倒したとしても同じ事、だと語りかけてくる。
「(そんな……でも、でも私は……)」
 必死に何か手は無いかと考えるプリンセラに、兄姉達はそれを見守るようにただただ黙る。だが、彼ら彼女らは決してプリンセラを見限っている訳ではない、逆だ。必死のプリンセラは気付いていないが、彼女の兄姉達はじっと待つかのように見守っていて……――。
 同じように、夕暮れの斜陽が作り出す自身の影を見つめるは秋月・信子だった。
「(やはり……わらべ歌の2番目は……それなら……)」
 想いを胸の中で言葉にすると、自身が見つめる影がしゃべり出す。
『それなら……助けるって? はっ、私は別に止めないわ。でも、贄が居なくなってもきっと滞りなく儀式を行うべく変わりの生贄をその場で作るかもよ……例えば、昼に貴方とじゃれ合った子供達の誰か、とかね?』
 自身の影に色が付く。それは信子と姿が瓜二つの『姉』と呼ぶ存在。
「(でも、それを見過ごすだなんて……)」
『だから、早まるな……って言ってるのよ。私はここで見張って村の連中が来たら教えるからそれまで好きにしてなさい。……折り紙、得意なんでしょ?』
 ハッと気がつく。
 同時、自身の見つめていた影は元の影に戻っていた。
「(……ありがとう姉さん)」
 心の中で礼を言い、クッと信子は倉を見上げる。
 この中にいる少女はきっと必要としている、自分にできる事を、少女にやってあげられる事を……。
 信子がそう倉を見つめたその時、一瞬だけ信子の影が再び色を持ち『姉』になり、信子の事を信じるよう微笑み、再び黒い影へと戻ったのだった……。

 猟兵達の意見を纏めると、人身御供に捧げられる少女を助ける、という点においては異論が無いようだった。
「此の地のオブリビオンが村人達にとっての神であろうとも、倒さねばならぬ事に変わりはありません。私達は原因を察しながらも村人達から直接話を聞いていない……せめて、彼女については知らねばならないと、私は思います」
 夕日に染まる赤い倉を見つめつつ月舘・夜彦が言う。
 夜彦の束ねた長い髪が風に揺れ、僅かな間が開くもそれを否定する者はいない。
 猟兵達は倉の扉がある面へとまわる。扉の前も小川が流れそこに橋らしき物は無い。小川は倉の周りだけ、水の流れる部分が石垣で補強してあり簡単に崩れないようにしてあった。
 よく見れば扉の前のこちら側とあちら側だけ、何度も人が跳躍して着地したような跡が残っている。世話役という村人が食事などを運ぶ際に、板などを使わず跳躍して小川を越えて倉側に渡っていた事が窺い知れた。
 小川は1mも無い。渡ろうか、と先頭にいた夜彦が跳躍しようとした時、スッと手で制した冴島・類が小川の側にしゃがみ。
「あの村には四十代の村人が一人もいなかった……たぶん、四十年程前にこの村に風習を課したオブリビオンが当時の子供達の命を奪ったのだと思う……そうやってオブリビオンは、恐れを与え、雨を使い……」
 小川を見つめて言う類の推理は当たっているだろうと数人の猟兵達も頷く、思い当たる節があったのだ。
「オブリビオンは村人達の心に大きな傷を付けた。そして村人達は思ったんだ……子の命と作物の環境を失うよりは……と」
 類の言葉に、しかし毅然とした声で夜彦が返す。
「村人に罪の意識があろうとも、人身御供を捧げる覚悟があろうとも、悲劇を繰り返さない為に作る代償――ソレに永遠などありません。後悔はやがて綻びを生むのですから」
「そうだね……でも、オブリビオンを倒したら干ばつが起こるかと言われれば、その確証は無い。寧ろ其れすら操られている可能性も……ふむ」
 話ながら小川の水面ぎりぎりまで手を近づけていた類が、何かを察したように手を引っ込め。
「僕たちが追うオブリビオンは、水を操る力がありそうだね」
 この小川に力を感じる、と類は言う。
「こないな立地は山上の源流からの小川が雨で増水したら一発で倉が大惨事や……と思っとったが、どちらかと言うと呪式的な役割かい」
「みたいだね」
 権左衛門の言葉に類が頷き、そうしてこの場にいる猟兵達の中で術に長けた者へと道を譲るのだった。


 生け贄を容認する村などどうなっても良い……そういう意見が大多数を占める中、そんな村でも救う必要がある、と考える猟兵が数人、少女が閉じ込められている村はずれの倉から村に向かって走っていた。
「贄の娘をどうするべきか……正直、悩みました。けれど、違う。まずは村が救われる方法を考えなければ」
 シルクハットを手で押さえつつカーニンヒェン・ボーゲンが言えば、すぐ横を走る輝かしい男――ジェフリエイル・ロディタも頷きながら。
「そうだね……村人達からしたら、そうしないと村が立ち行かないというのはよく解る。僕も似たような事情で魔物のいる外に出たものさ」
 と、うんうん、と肯定しながら言う。
「なるほどなあ。こういうのほっとかない奴多いだろって思ったが……。やれやれ、村の方を気遣うのも十分いるじゃねーか、ある意味安心したぜ」
 宇宙バイクで併走するレッグ・ワートも村に向かうその1人だった。人身御供の少女については皆が対処するだろうと思い、自身は村へと戻ることにしたが、さてはて自分と同じ事を考える猟兵がそれなりにいた事が驚きでもあり、ほっと胸をなで下ろす結果でもある。
「先に行かないのかね、レッグ・ワート殿。そのバイクで本気を出せば爺どもなど置いてきぼりにできましょう?」
「そうだよ、先に行くなら僕のエコーリングで送り出すよ?」
 カーニンヒェンとジェフリエイルが、レッグに気を遣わないで良いと促すも。
「いや、せっかく複数いるんだ、足並みは揃えた方が良い」
 とレッグが連携を優先したいと言うので2人は納得するしかない。
「そういえば、村の人達は眠ってしまったようだけど……村長あたりは起こした方が良いかな?」
 村に向かった最後の1人、羅賀・乙来が3人に問う。
 すでに村全体を覆った睡眠の霧は晴れ、後にはその場で居眠りを続ける村人たちが残っていた。たぶん、こちらから起こしたり、大きな音を立てれば村人は目覚めるだろう。
「そうですね……村長の家などである程度情報を得てから起こしましょう。直接聞いた方が効率が良い情報もありましょう」
 カーニンヒェンの言葉に皆が頷く。
「彼らがこのまま寝ていたとしても、それでこの村の未来が変わる事は無い……彼らには今後どうするのか考えてもらう必要があるだろうね」
 乙来が呟き、3人は無言で村へと急ぎ走るのだった……。


 倉の前、小川の結界を解除する為に前に出るは陰陽師たる玖篠・迅。小川の分岐点と合流地点を重点的に、力の流れがどうなっているのか、術者の気配があるのはどこか、その中でも重点的な場所は……と、自縛鎖を使って調査を開始する。
 だが、その横を手ぶらな感じでふらふらと近寄って来るは斬断・彩萌。
「ふぅん、結界。面倒ね、Oracleでちょいちょいっと突いてみようかしら」
 Oracle――それは神託の名を冠す、精神力を実体化させた剣である。
「生身より良いかな……うん、おねがい」
 迅にも促され、彩萌がOracleで小川の水を差す。そもそも実体の無い刃だ、この程度で何か変化が訪れるとは思わないが……。
「それで、なにか解った?」
「だいたいね……」
 彩萌に促され、迅が説明する。
「この小川の結界は倉へ近寄らせない為の防壁とかではないね。小川に罹っている術は簡単な感知魔法と言った所……かな」
 つまり、小川を跳躍して倉に渡る事に関しては何ら制約は無いが、小川を越えあたりで誰かに感知される可能性がある……という事だった。
「とりあえず、どこまで出来るか解らないけど、この結界を解除しておくよ」
 迅が小川の分岐点と合流点で何やら呪を唱え、ザクッ、ザクッ、と式符を埋めこみ解呪を試みたのだった。

 小川を跳躍し倉の前へと辿りついた猟兵達は、その両開きの門をグググッと押し開く。
 そうして倉の中に入ってみれば、すぐにもう1つの扉があり、そこには大きな錠前がかかっていた。
「私が――」
 キンッと銀光一閃、夜彦が居合いのように刀で錠前を斬る。
 ゴトリ、重い音を立てて2つに別れた錠前が転がった。
 ギギギッと内側の扉を開くと、そこはシンプルに何も無い部屋が広がっていた。
 部屋にあるのは昼食時に使ったであろう皿と、部屋の奥からジッとこちらを見つめてくる7~8歳の少女だった。
 何年もずっと日に当たらず育ったせいか、少女は異常に白い肌と闇に適応しているのか、異様に瞳孔の開いた瞳だった。猟兵達が僅かに逡巡している間に、少女はトテトテと近寄って来て。
「あなたが新しい世話役の人? それともこっちの人?」
 と小首をかしげて聞いてくる。近くで見れば簡易的な白い着物も少女の肌も決して汚れてはいない。神への捧げものとして着物も常に洗濯した物を与えられ、少女自身も濡れた布などで拭かたりして清潔さを保たれていたようだ。
 猟兵達は自分達が新しい世話役では無い事を伝えつつ、少女に質問する。
「ねぇ、きみの事は蜜って呼んで良いんだっけ?」
「うん、さっき新しい世話役の人がそう言ってたよ」
「いや、俺達は別に世話役じゃないんだが……」
 迅がどう説明するかと悩むが、とりあえず名前を『贄』とは呼びたくないので、その辺りはあやふやなまま進める事にする。
「蜜、きみはこれからどこにいる、どんな神様のところへ嫁ぐのか、知っているかい?」
「神様がどこにいるのかはわからないけど、ここを出て少し行った所に祭壇っていうのがあるから、今日はそこに行って神様が来るのを待ってるの。そうすれば神様の方からやって来てくれるから」
「それは世話役の人が? その人は今は村なの?」
「うん、教えてくれた。その人が今どこにいるか? 解らないわ、お昼ご飯の時にここから出て行ったから」
 迅の質問になんら疑いも無くスラスラと答えてくる蜜。
 人を疑うという事すら教えられず育てられたのか(教える必要がなかったか)、猟兵達に対しても蜜は好意的だった。迅は他にも彼女が世話役の人とどう過ごして来たか聞き出すも、どうやら必要最低限の接触しかなかったようで、しかも蜜の話によればだいたい1年ごとに世話役は交代されるとの事だった。
「ねぇ、あなたはいつから、どうして人身御供役に選ばれたか、教えてもらったことはある?」
 今度は彩萌が少女に質問する。
「いつから?……わからない、私はずっとここにいるし。それに、私は神様の元に嫁ぐために育てられたの」
「……そう、なのね」
 僅かに表情を曇らせて彩萌が頷く。
 蜜は純粋だった。たぶん物心付く頃からこの倉の中で育てられ、必要最低限の知識と情報と、そして何より神に捧げられる事が当たり前だという知識を刷り込まれたのだろう。蜜が自らの口で人身御供となる運命を何一つ疑問に思わず口にするのがその証拠だ。
 そしてそれ故に彩萌は理解する。オブリビオンの力をもってすればわざわざ少女一人や一定年代を選ばなくても、村人程度なら一気に喰らいつくせそうなものだ……それが少女一人の人身御供に拘っている理由、それはつまりオブリビオンに指示された事でなく、村人がそうする事でオブリビオンから逃れられると考えての事だったのだろう。
 それはあまりに……残酷な事実だった。
「蜜ちゃん、君が今日向かう先……さっき言ってた『霊場』がどこにあるか、知ってるかい? 山の中かな?」
 蜜と話していると、村人の皆も助けたいと思っていた気持ちが揺らぎそうになるのを類は感じつつ、蜜に問いかける。だが、蜜は「ううん」と首を横に振る。
「だって、私はここから一歩も外に出た事が無いんだもの。今日は初めて外に出られるって聞いて朝からとっても嬉しかったの、機嫌が良かったから何度も子守歌を歌っちゃった♪」
「そう、あの子守歌は誰から?」
「何年か前の世話役の人から教えてもらったの。あの歌を歌ってると楽しくなるの、歌って素敵よね!」
「その歌の意味は知っていますか?」
 子守歌の話になり、今度は夜彦が少女に問う。しゃがんで視線を少女に合わせた夜彦に、蜜は嬉しそうに「もちろん!」と答え、自身が雨神様に嫁ぐ事で村の大人達が救われる、もし嫁がなければ村の子供達が死んでしまう、という意味だと朗らかに説明してくれた。たぶんこれも世話役が教えた事なのだろう。問題は神に嫁ぐ意味……いや嫁いで死ぬという事が、とても素晴らしい事だと歪められて教わり、それを信じ切っている所だろう。
「(やはり、全く恐怖が無いのは彼女が生まれた時より先を定められていた事なのでしょう。歌の意味を知っていても、己の運命を理解していても、それがどういう事か正しく教わっていないのなら……)」
「どうしたの? 嬉しい事なのに……どうしてそんな顔するの?」
 蜜の小さな手がしゃがんでる夜彦の頬に触れる。
「いや、なんでもありません、心配してくれてありがとうございます」
「どういたしまして」
 自身の内面を隠すよう夜彦が少女に微笑めば、少女はその内心を知らず笑顔で返事を返してくる。
「(村の者達は何も知らぬ子供に『贄』と名付けるだけでは飽き足らず、神に命を捧げる者として彼女に歪んだ認識を刷り込み……このような事、私は、私は決して認める訳にはいかない!)」
 少女の頭を撫で立ち上がった夜彦は、その厳しい顔を見られまいと少女に背を向ける。自分の覚悟は……決まった。
「とりあえず、そろそろ時間だし僕達と一緒に外に出ようか?」
「本当! 私ずっと楽しみにしてたの! わーい♪」
 類に促され飛び跳ねるように外に走って行く蜜。だが――。
「ひゃっ!?」
 倉の外に飛び出した蜜が悲鳴を上げる。
 何があった!? と緊張が走り、猟兵達は一斉に倉の外に出ると。
「あははははっ、すごい! つめたーい! ねぇ見て見て! すごいすごい!」
 蜜は倉を囲む小川の中で膝まで浸かった状態ではしゃいでいた。
 ザバッと類が少女の両脇を掴んで小川から引き揚げ、陸地へと下ろす。
「慌てちゃ駄目だよ?」
「でも、私、外に出たの初めてだから! 嬉しくって!!」
「そうか……本当に外に出たのが初めてなんだな。それはさぞかし嬉しかろう」
 目面・真が蜜を見つめて思わず呟く。だが、少女はその呟きを聞き逃さず。
「うん! とっても嬉しい!」
 満面の笑みを向けてくる。
 真もその笑みにどこか苦笑するように、その藍色の長い髪が地面につくのも厭わず、少女と視線を合わせる為にしゃがむと。
「蜜、と言ったな。この外の世界には『セミ』という生き物がいる。そいつは生まれてからずっと地面の下の何も見えないところで長い間暮らしているんだ」
「じゃあそのセミっていうのも、外に出られた時はきっと嬉しくって嬉しくって大変よね、私がそうだもの♪」
「そうかもしれない……それで、キミの喜びは外へ出られたコトか? それとも、神に嫁ぎ贄として命を散らすコトか?」
「それはもち――……」
 真は同じ高さで蜜の目を見て話していた。そして少女が神の元へ行く事だと即答しようとし、その言葉を飲み込み迷ったのに気が付く。彼女は迷ったのだ、初めて外の世界に出て、何より素晴らしい事だと教わっていた神へ嫁ぐという知識が、現実の世界の楽しさを実感し揺らいだのだ。
「せっかくだし、少し森の中を歩きながら世間話でもしようか?」
 彩萌が少女の肩に手を置き提案する。「霊場に行くの?」と聞いてくる蜜に「まぁそんなところ」と返しつつ。
「外の世界はすごいでしょ? でも、もっともっと凄いのよ、この世界は、ね」
「そうなのー?」
 そうやって猟兵達は少女と世間話をしつつ、倉のあった場所から離れる事にしたのだった。


 夜になる前の村の家など、たとえ村長の家であっても閂棒が立てかけられない限り、家に鍵などはかかっておらず入り放題であった。もちろん、村長達は他の猟兵が放った眠り薬が聞いてるのか、床に倒れるようにして寝入っていた。
 カーニンヒェンは非合法なやりかたですが致し方ありません、と心の中で自分を納得させつつ、村長の家を物色し戸棚の中から鍵付きの箱を発見、そのまま一度だけ寝ている村長を拝み、さっさと鍵を解除する。
「村の歴史を知る何かが入っていると良いのですが……おお、これは」
「何かあったか?」
 ヌッと2m半もの身長たるレッグが部屋に入って来る。
「ええ、やはり伝承を書き起こした物がありました……これです」
 カーニンヒェンが先ほど箱に入っていた物――巻物を広げる。
 乙来もやってきて村長宅へと来た3人で巻物に書いてある事を読んでみる。
 そこには紫呉村と雨神様の関係がつづられていた。
 今から40年前のある日、当時、すでに雨神様へ人身御供を送る儀式は行われていたらしい。ただ、40年前の儀式の日は、20年周期で記憶が薄れて来ていた事もあり村人全員の意見として子供を人身御供に出す事を辞めたと記されていた。だが、それは間違いだった……儀式当日、人身御供が無いと解った雨神様が、山から大量の雨と共に現れ村を襲い、その神の使者達が当時10歳以下だった村の子供の全てを攫っていったと言う。
 その後、村の東に子供達を伴う社を作り、誘拐された子供達が隙だった玩具等の備えたが、結局子供達が戻ってくる事は無かったと言う。
 そしてその悲劇を繰り返さないようにと20年前は村から1人の子供を神へ捧げ、しかし村から子供を出す事にはやはり抵抗があり、次の儀式(今回)には身寄りのない捨て子を村で買い、人身御供として育てる計画を思い付いた、これなら村人の誰もが文句を言わない円満な解決法だ……と記載されていた。
 その他にも人身御供の子供には名前を付けない事、世話役は1年交代の事、子供に教えて良い事と教えてはいけない事(例えば神様の元へ行く事は素晴らしい事だと教える等)、この計画は子供には秘密である事、など細かい部分も記載されていた。
 パタン。
 読み終わり、カーニンヒェンが巻物を元あった箱へと戻す。
「神を名乗るモノが一方的な約束事を結んでおるやもと思ったのですが……その点においては不明なまま、ですか……もしかしたら供物は必要無いという可能性に賭けたかったですね……」
「供物を捧げなかった時の事をもっと詳しく聞きたいもんだ、村長を起こすぞ?」
 レッグの声を否定する者はおらず、寝ていた村長を椅子に座らせ揺すって目覚めさせる。
「ん、んん……な、なんだ、お前達は!?」
 慌てる村長の前にずいっと乙来が立ち。
「先に言っておくよ。僕達は雨神様……オブリビオンを倒すだろう」
「なん……じゃと!?」
「それに爺目らの仲間が、今頃生贄の少女を救い出しているでしょう」
「なっ!? それはどういう!」
 さらに動揺する村長に対し、言葉を続けるカーニンヒェン。
「本当に必要なのは雨を凌ぐ知恵です。生贄が無ければ大雨となるのでしょう? 40年前、当時の事を教えて頂けますか?」
「それは……」
 口ごもる村長、だが再び乙来が前に立ち。
「いいかい、人柱作った時点で今の君達に幸せは無い。生贄を設けて神様のご機嫌取りをしたつもりだろうけど、それは呪いでもある。それは己が平穏の為に命を捧げる呪いだ。喜んでやっていないと、この村から出るつもりもないと、全て愛しい村の為と言うならば、その愛しい村から生まれた子達に……君達は君達と同じ呪いを課すのかい?」
「………………」
「呪いは、どこかで断ち切らねばならないんだ」

 乙来の説教が効いたのか村長は40年前の大雨の事を覚えている限り教えてくれた。その情報をもとにレッグが村を周る。
「大水が来ても村や畑がしのげるように治水工事をするっきゃなねーわな」
 宇宙バイクをドルル形態に変形させ、強引に山から下りてくる水が畑や家に直撃しないよう大きな溝を掘って行くレッグ。川幅や深さを弄り、水の流れる脇道作り、村内や周りに水の逃げ場を作って行く。
「とりま直撃させなきゃ、なんとかなるだろ」
 一方でカーニンヒェンは乙来と共に村長に地形の利用法やロープワーク等での畑のあり方や水路の改良案の知識を教え込んでいた。もし、今回を乗りきったとしても村長達村人にはその先があるからだ。
「村長!」
「村長はいるか!」
 村長の家の外から村人の声が聞こえ、カーニンヒェンと乙来からいろいろ教わっていた村長が慌てて家の外に出ると、ジェフリエイルを筆頭に20人余りの村人が集まっていた。
「僕も聞いたよ。昔何があったのか……ね。その上で僕達が神様を殺す事も、人身御供を助ける事も話した。あとはもう雨からこの村を守るしかないってわけだ」
 ジェフリエイルの歌の効果か、集まった村人たちはそこまで混乱はしてないようだった。ただ、それはパニックを起こしていないだけで誰もがその顔に恐怖を引きつらせている。
「皆、もう今更雨神様への儀式は間に合わん」
 村長が今にも消えそうな夕日を見つめてそう断言する。人身御供を取り返す事も、今から儀式の霊場に連れて行く事も、時間的に敵わないだろう……と。
「急げ、子供達を一カ所――ここに連れ来るのじゃ、そして、なんとしても護るのだ」
 村長の言葉に何を優先すべきか明確になり、村人たちが一斉に散って行く。
「村長、子供達をここに集める利点は?」
 ジェフリエイルが聞けば。
「外では雨が降って来る。かといって子供達全員を入れられる家は儂の家しかない」
 村長の言葉に猟兵達は頷く、いざとなったら自分達が守る事になるだろう、と。
 レッグが無言でドローンを飛ばす、村長の話なら生贄が無いと解れば雨神様とやらは子供を狙ってくるだろう。
 つまり、ここが最終防衛地点となるのだ。


「しかし、何を調べれば良いものか……」
 ヴィクトリアが森を歩きながら呟く、一緒に山や森の捜索に出ているのは霞ノ衣と、その弟分の湊偲だが、霞ノ衣は生贄の少女の話を知ってからピリピリしており、中々話しかけづらい。
 それは弟分の湊偲も同じようで。
「神様はオブリビオンとしても情報が少なすぎです。村の皆は話してくれそうに無いから何か見つけられればいいんですけど……」
 と、さっきからヴィクトリアに話しかけてくる方が多い。
「そうですね……」
 と言いつつ、今まであった事を頭の中で整理するヴィクトリア。
「(……水に纏わる子守唄、小川の源流、北の山……)」
 すっ、と脚を止めて2人に言う。
「空振りになる可能性もありますけど……小川の源流を調べ、そのまま北の山頂を調べましょう」

「≪O・O≫(オルキヌスオルカ)……シャチのショーの始まりっすよ」
 小川の源流を辿る為に倉に続く小川の上流へとやってきた所で、湊偲が巨大なシャチを小川に召喚する。無論、小川の川幅の方が小さく、シャチはノソノソとその上を身体を引きづるように更に上流へと登っていく。
「湊偲、あれでいざという時、役に立つんだろうね」
「だ、大丈夫っすよ、いざとなったら機敏に動くっすから」
「だと良いけどね」
 ピリピリしたまま返す霞ノ衣に、湊偲がヴィクトリアに近づき小声で。
「……姐さんがすげーピリピリしてて怖いっす、めっちゃ怖いっす」
「気持ちは……解ります」
「そりゃあ、俺だって……」
 そうして3人は小川の上流へ上流へと進んでいくのだった。


 猟兵達が倉から離れるように人身御供の少女を連れて移動する中、プリンセラはずっとなんとかする方法を考え続けていた。
 だが、どんなに考えても中々妙案という物は思い付かない。
 自分に出来る事を1つ1つ思い出し、1つ1つ潰していく。
 何か、自分にできる何かしらがきっと役に立つはず、妙案に繋がるはず、と信じて……。
 兄や姉は何も言ってくれない。きっと思い付かないのだろう、なればやはり自分が……。
 ふと、この依頼に送り出してくれた美濃姫の姿が思い起こされる。
 信じて送り出してくれた……なのに自分は。
 そう思った瞬間、プリンセラは何かが思考の端に引っかかったように感じる。
 それが何か……。
「そう、です……私は1人じゃない」
 自身の胸に手を置き、兄姉達に自分が思い付いた案を伝えれば、兄姉達は次々にその案を補強し、補填し、具体化してくれた。まるでプリンセラが自身で気が付くのを待っていたかのように。
「また美濃姫にご負担をおかけしてしまいますわね」
 だが信頼できる仲間や友人を頼る事の何が行けないのか……微笑むプリンセラ。
 荷物のなかから手紙を取り出し、プリンセラは迷いなくサラサラと何か書くのだった。

『気を付けて!』
 背後――自身の影からの誰何の声に、信子が誰より早く反応し少女――蜜の前に飛び出すと背に庇うようにしてハンドガンを構える。
「出てきて……来ないなら撃つ」
 さらに信子の横に立つように真が大太刀をすらりと抜き、同じく蜜を背後に庇う。
「ま、待ってくれ!」
「村の者です!」
「刃をお納め下せぇ!」
 それは紫呉村の村人だった、中には祭の最中に見た顔もある。30代の男女3人だ。子供を守る為に村長の家に子供を置きに走った大人達のうち片親が山に入って来たのだが、信子達はそれを知る由は無く……。
「襲撃に来たのなら無駄だ。それでも来るなら最低限の武力行使は行わせてもらう」
 真が大太刀を鞘に納めないまま言うと。
「ち、違うんだ、俺達はあんた達と話し合いに来たんだ」
「そうよ。お願いします、今からでも遅くない、その子を霊場に連れて行って下さい!」
「でないと……オラ達の子供達が殺されちまう!?」
 キョトンとする蜜、静まり帰る猟兵達、必死に懇願してくる村人達。
 空気だけが重くなっていく中、一歩前に踏み出したのは権左衛門だった。
「一つ教えてや……長雨があかんのに贄で雨乞いせんとあかん、長雨を辞めるようお願いする祭りってのはここが理由ちゃうのん?」
 権左衛門の問いに村人たちは顔を見合わせてから。
「そ、その通りだ。20年ごととはいえ、村の子供を差し出す事を悲しんだ歌がその歌詞だから」
「で、でも今は違うんです、村の子供を差しださなくとも、人買いから買った子を差し出す事になったので……」
「んだ、誰も不幸にならねー。でも、お前さん方がその子ば連れて行ってしめぇば、オラ達の子供達がみんな雨神様に連れてかれてまう!」
 次の瞬間。
 ドッ、ガッ、バキッ!
 猟兵達が一瞬のうちに3人の村人を気絶させる。
 無論、気絶に留めたのは猟兵たる自分達の自制心の賜物だろう。
 そしてその行為を、その場の誰もが止められなかった。
 それとも、止めなくなかった……か。


 小川の源流が湧き出る場所には、一枚の平らい大きな岩があった。
 その岩の周囲をしめ縄で囲ってある所を見ると、ここが生贄を捧げる霊場なのだろう。
 すでに夕日は落ち、山の中暗くなっていた。
 木々の隙間から北の山頂を見れば、いつの間にか笠雲が大きく広がり夜空の星灯りを覆っている。
「本来なら、ここにあの少女を……」
 霊場の岩を見つめながらヴィクトリアが言う。
「俺、思うんすけど……あの子が何も知らないからって、生贄に出して良いなんて思えないっす。あんな風に無邪気に笑う子がこれから死ぬなんて思いたくないし……。でも、俺達が神様を殺したら、村がやっていけなくなるんじゃないかって思うと……」
 次の言葉をどうするか迷うかのような湊偲に、ヴィクトリアが淡々と。
「それでも、私達はオブリビオンを倒さなければなりません」
「そうっすよね……だったら、俺はその責任を背負いたいって思います。他に何か作物作れないかとか、名物を考えるとか、この後もこの村が誰かの犠牲も無く生きられるように……例えその原因を作った自分が、村人たちに嫌われても……俺、絶対やりたいです」
 いつになく真剣に呟く湊偲の言葉に、霞ノ衣が背中をドンッと叩く。
「そういう覚悟も、悪くないかもしれないね」
「姐さん……」
 と、そこで源流のところで待機していた巨大なシャチが『ヴオッ』と咆え下流を向く。
「ああ、待って、敵じゃないよ」
 そこにやって来たのは迅だ。1人でなく≪式符・天水≫で呼び出した蛟たちを護衛に歩いてくる。
「山に笠雲がかかっていたみたいだから、川が溢れて村に流れる事にならないかと上流を確認しに来たんだ」
「確かに……いつ振ってもおかしくない空ですね」
 ヴィクトリアが暗い雲の覆われている空を見上げて言うと。
「振って来そう……ではなくて、狙って振り出す、可能性が出て来たよ」
 別方向からの声に皆が振り向けば、それは村に向かった類だった。聞けば念のために霊場を確認しに来たと言う。
「個人的に、山でも育つはずの紫草が、村の南側の平地のみにある事も気になって調べてたんだけど……」
 鳥や動物からの聞き込みや、ここに来るまでの自身の調査でかつては山にも生えていたが、どうも40年前に大雨が降ってから生えなくなったようだった。実は事前に村長達にも聞いたのだが、結果は同じだった。
 そうすると、村人への嫌がらせか40年前にオブリビオンがわざと山では紫草が生えないよう雨で細工をした可能性もあった。
 類はそれ以外にも村で聞いた真実を語る。40年前の出来事も、生贄を人買いから買う事で村に被害が出ないようにした事も、全て……。
「東の社の件……そっか、子守歌はその時を歌ったもので、雨乞いの歌になってるのは生贄に取らないで欲しいって思いからなのかな」
 迅が子守歌について呟くと。
「贄がもしも自分の家族なら、友達なら……アタシは絶対に許さない。他人に命をやったりなんかしない――そう思ってたけど……だからって人買いから!」
 バキッ、霞ノ衣が近くの木を殴りつける。
 活き場の無い怒りと悲しみが類から話を聞いた猟兵達にのしかかる。
 その時だった。
 心の涙を具現化したように、空からポツリポツリと雨が降り始めたのだ。
 それはすぐにザーザーと勢いを増し、さすがに木の下に雨宿りしに逃げ込もうと皆が思い。
「姐さん?」
 その場を離れようとする皆と違い、たった1人、霞ノ衣がその場から動かず、弟分の湊偲が声をかける。
「今のアタシは機嫌が悪いんでね……」
 獰猛な牙をのぞかせるように霞ノ衣の口の端がニッと上がる。
 大雨の中、湊偲のシャチがぐるりと霊場の方を向き、迅の蛟たちが危険を知らせる咆哮をあげる。
 その時には皆さすがに気が付いていた。
 霊場の平たい岩の上、雨で出来た水たまりから数人の人影が盛り上がって行くのを。
『トモダチ……トモダチはどこ……』
『新しく向かえに来たのに……』
『おぎゃー、おぎゃー、おぎゃー』
 水人形のような怪物はどれも小さな子供や赤ん坊のような姿だった。
 だが、猟兵達には一目でわかる、これがオブリビオンの眷属達だと。
「神様じゃぁなさそうだね……けど、雑魚だからって容赦はできないよ。――ぶっ倒す!」


「気づきましたか」
 3人の村人が意識を取り戻すと、目の前にいはプリンセラがいる。
 周囲に他の猟兵はおらず、どうやら3人の意識を戻したのもプリンセラらしかった。
「い、痛た……」
「私達は何も間違っちゃ……」
「なして、なしてわかってくれねぇだ……」
 三人が言い訳じみた事言う中、プリンセラは「今、どの問答に応える気はありません」とピシャリと言う。
「今、この犬神藩は復興中の藩です。しかし復興が終われば移住などは難しくなってしまう……逆に言えば今なら移住なども自由に出来ます。先ほどの仲間の行為は見ましたね、あなた方が何を言った所で私達は止まりません。でも、その代わりには提案はします」
「提案?」
「ええ……」
 そこで一呼吸し、プリンセラは続きを口にする。
「故郷を捨てる覚悟は、ありますか?」


 ザァ、と突然降り始めた雨は、すぐに勢いを増し大雨となる。
「わぁ、何これ! 凄い凄い!」
 生まれた初めての雨に蜜だけがキャイキャイとはしゃぐが、猟兵達はそうもいかない。
 先ほどまで蜜と世間話をしていた彩萌は、はしゃぐ蜜の肩を掴み自分に抱き寄せ、権左衛門と夜彦は彩萌と蜜を守るよう左右を警戒する。
「蜜、さっき話したセミの話だが……地面を飛び立ったセミの命は短いんだ。オレは、キミにそうなって欲しくはナイし、そうさせるつもりもナイ」
 ゆっくり大太刀を引き抜く真。
 キョトンとする蜜の前に信子がしゃがんで何かを握らせる。
「これは?」
「ささやかな……私達皆の祈りを込めたお守り。濡らさないようしっかり持っててくれる?」
「くれるの?」
「ええ」
 信子が頷けば、蜜は満面の笑みで「絶対濡らさない!」とぎゅっと握る。
 あれは折り紙で作ったお守りだ、あんなに握ったら潰れてしまう……と思いつつ、蜜の素直さに思わず笑みが浮かぶ信子、だが、すぐにその笑みは真剣な表情へと変わる。
『トモダチ……トモダチはどこ……』
『新しく向かえに来たのに……』
『おぎゃー、おぎゃー、おぎゃー』
 大雨の中、できた水たまりから水人形のような怪物はむくりむくりと起き上がる。
 そのどれもが小さな子供や赤ん坊のような姿だった。
 まるで、今まで犠牲になって来た人身御供の子供達のように……。


「人は神様の為に在るんじゃない。何も無い地でさえ耕して人を集めて集落を作る、それが村や国になると言うのに……君達は何を恐れているのだろう」
 乙来が村長の家の中で子供達を抱きしめながら震える大人達に向かって問う。
 だが、その問いは乙来のような高い視点を持つ者だから理解できる物であり、ここに集まった今日や明日の事で精一杯な村人たちにとって、理解するのは難しい事だった。もし理解できるようになるには、きっとこの藩がもっと豊かで村人たちに余裕が出来てからだろう。
「まぁ今回は僕達がなんとかするから……紫呉祭も20年ごとじゃなく数年おきに開いたって良いただ楽しい祭にするのも悪くないと思うんだ」
 ジェフリエイルが今後の明るい未来を想像すると良い、と提案するが、村人たちにとっては今日、雨神様の祟りの方が恐ろしいのか、ギュッと子供達を抱きしめる手に力が入るのみだった。
 やれやれとジェスチャーのジェフリエイル。
 いつの間にか外は大雨が降り始めたらしく、家の中まで激しい雨音が響いてくる。
 だが、その時だ。

 トントン。

 家の扉がノックされる。
 違和感。ノックの音が響く瞬間だけ雨音も消えたような……。
 村人なら勝手に入って来るだろう、別に閂はかかっていない。
 カーニンヒェンとレッグが村人達を守るよう数歩前に出る。
 その瞬間。
 バキンッ!!!
 扉が外から破壊され、ビョウビョウと雨風が吹き込んでくる。
 そして、先ほどまで扉があった場所には紫色の着物を着た……ずぶ濡れの女性が1人。
「あ、あ、あ、雨神様!?」
 村長が叫び村人たちから悲鳴が漏れる。
『どうして……約束を破ったの……みんな、楽しみにしてたのに……』
 雨神様が呟くと同時、その足元――水たまりから水で出来た少年や少女、赤子の眷属が出現する。
『じゃあ……今回は、いっぱい連れて行くね……?』
 雨神様はずぶ濡れの髪の下でニヤリと笑みを浮かべ、そう呟くのだった。


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●三章のプレイング受付期間
 第三章はプレイング受付期間を下記の通り指定させて頂きます。
『5月20日(月)8:30より5月22日(水)22:00まで』
 予定外の事が起こった場合はお手紙にてご相談させて頂きます。
 プレイング受付期間外にプレイングを投稿された場合、採用できない可能性が高いです。

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成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『雨に濡れる少女』

POW   :    永久に乾かぬ雨
自身が戦闘で瀕死になると【悲しみの涙が凝固した妖魔】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
SPD   :    涙雨
【悲しみと恐怖】の感情を爆発させる事により、感情の強さに比例して、自身の身体サイズと戦闘能力が増大する。
WIZ   :    尽きぬ雨
【雨の洪水】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。

イラスト:るひの

👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠春日・陽子です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


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●三章のプレイング受付期間
 第三章はプレイング受付期間を下記の通り指定させて頂きます。
『5月20日(月)8:30より5月22日(水)22:00まで』
 予定外の事が起こった場合はお手紙にてご相談させて頂きます。
 プレイング受付期間外にプレイングを投稿された場合、採用できない可能性が高いです。

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黒玻璃・ミコ
※スライム形態

◆心情
あぁ、単なる祟り神ではなく神隠しの性質も併せ持つオブリビオンでしたか
私としたことが読み違えていましたね
まぁ、先走りした件も含めて微力を尽くさせて頂きましょう

◆行動
【黒竜の恩寵】で防御力UPです

戦闘にかまけて肝心要の子供達が攫われては困りますからね
高揚させ判断力を低下させる【催眠術】の様な【毒使い】
【念動力】でオブリビオンの元に飛ばし
【おびき寄せ】て注意を惹き付けますよ

狭い屋敷内ですが【地形の利用】と【拠点防衛】に精通し
卓越した【第六感】の持ち主である私が守り切ってみせましょう
守護役が役目を全うすれば他の方が心置きなく戦えますからねー

◆補足
他の猟兵さんとの連携、アドリブ歓迎


ユーイ・コスモナッツ
全てのモノゴトに優先順位をつけて、
何かを守るために、何かを犠牲にする
取捨選択の繰り返し
それが生きていくということ

紫呉村の人達も、
守りたいものを守るために、
この選択をするしかなかったのでしょう

だけどやっぱり、そんな選択は認められない
戦いましょう、守るために!
オブリビオンを倒して、
蜜を、村を、信じる正義を守ってみせる!

反重力シールドの足回りを活かして、
まずは村人の安全を確保します
村人のほうへと向かうオブリビオンを
シールドバッシュで突き飛ばしたり、
巻き添えをくわない位置まで離脱させたりと遊撃的に

機をみて垂直上昇
じゅうぶんに高度を取ったら、
【彗星の重力加速度】で急降下攻撃!
正義の鉄槌、受けてみなさいっ


蜂蜜院・紫髪
*連携アドリブ歓迎

心情:うむやはり人の愚行は分かりやすいのぅ
誰も不幸にならぬ手法とはちゃんちゃらおかしい話じゃ
蜜の事に見て見ぬ振りをしておるだけではないか
論ずるに値せんわ

じゃがしかし…狙われるのが子供では仕方がない
子らのためじゃ何とかするかの

水気は苦手なんじゃがなぁ

行動:まず護衛対象が分かれている事が守りにくくなる原因と考え
蜜を村へ合流させる事を提案します
自分は水気の強い敵には相性が悪いですが
【挑発】し【おびき寄せ】【誘惑】逃がすための【時間稼ぎ】を行います
狐火を主とし護衛人形での【武器受け】【かばう】でできるだけ戦います


プリンセラ・プリンセス
戦闘には参加せず村人の説得に回る。
人格はプリンセラのままで脳内助言を受けつつたどたどしく。

移住を提案する。
・オブリビオンを倒すことで天候の安定は今後見込めなくなる
・そうなれば村は立ち行かなくなる
・その過程で口減らしなどで20年に一度ではなく子供などが死ぬ
・故郷を捨てなければならない辛さはわかる
・幸い紫草は雨以外には強い。ならば西の開拓地でも栽培は可能では?
・天候もそちらのほうが安定するはず。現在は年貢の徴収もない。
・移住の際の護衛などは猟兵が引き受ける
・藩主の美濃姫も了承済みである(ぼかす)
・なによりここにいれば生贄にされた娘が化けて出るかも(オブリビオン化)
と、理屈と情の両面から説得する。


涼風・穹
こうなってくると穏便な解決方法は諦めるしかなさそうだな…
……そうなるとまあ、まずは…
姫さんごめんなさい姫さんごめんなさい(以下十回程度繰り返し)
謝罪終了、それじゃやるとしますかね

【内心】
……まあ、他人よりも身内が大切、というのは当たり前の考え方なんだろうし、責められるようなものでもないだろうさ…
犠牲にされる方にしてみればたまったもんじゃないだろうけどな…

……まさかとは思うけど、雨神様とやらは以前の人身御供の子供がオブリビオンになった、なんてオチじゃないだろうな…?

【行動】
取り合えず《贋作者》で村長宅を覆うように金属壁を作り出し眷属を防ぐ防壁にして、防げている間に『風牙』で眷属達を片っ端から斬る


冴島・類
己が内など控えてましたが

地も人も
犠牲ありきでの策は
奪う側の裁量で幾らでもぶれる
感情論以上に
下策だよ

戦闘は
瓜江操り残像交えたフェイントで注意引き
破魔の力込めた薙ぎ払いで攻撃
味方や村人への攻撃は庇い
悲しみの波は炎で食い
浄化と反撃を

霊場の眷属と撃破後
優先順と距離から
蜜の元へ

誰かの為に君が行かないと
と教わったんだね
でも…僕は世界を見て笑った
君と友達になりたい
初めてを知って欲しい
何方も、を探すから
生きたいと願って良いんだ

村へ
子と村人守る為
かみ断ちに

村人達は誤ったかもしれない
けど
責める権利は
僕らにはない

あるのは
原因滅し
共に道考える時間と力

連れて行かせない
1人たりとも

地は清め耕し
繋いで行けるはずだ
人が在れば


紺屋・霞ノ衣
湊偲(f01703)と参加

親玉登場って訳かい
こっちから出向く手間が省けたのは良しだ
相手が子供だから如何した、寂しくて人を引き寄せたから如何した
奴はオブリビオンで、人を殺しまくって、まだまだ殺そうとしてるんだ
アタシが絶対に許さない

湊偲、優しいあんたの事だから辛いんだろう
無理に前は出なくていい、その代わり村の奴等を頼んだよ
こいつ等は生かして、罪を償わなきゃならない

基本は2回攻撃と怪力で攻撃
雨が降ってきたら、その場で武器で受け止めつつオーラ防御で対処
雨が治まった隙を見てカウンターで斬り込んで捨て身の一撃
妖魔を召喚したら貪り喰らう狼で包囲して一気に狩る
アタシも範囲攻撃で一緒に攻撃をして倒していくよ


越喜来・湊偲
霞ノ衣姐さん(f01050)と参加

オブリビオンが子供なんて……それに周囲のも
俺達に子供達を殺せって事なんですか
犠牲になっていった子供達を、村の奴等みたいに俺達が殺すんですか

姐さんに言われた通り、村人に此処から逃げるように指示
攻撃が向かいそうなら庇って、武器で受け止めて防ぎます
向かって来る奴にはマヒ攻撃を付与した槍で反撃

全力魔法と高速詠唱、属性攻撃は水
自然現象は雨のエレメンタル・ファンタジア
集まった雨雲にて破魔の雨を降らせる

雨って恵みの雨とも言うでしょう
時には人を苦しめる時もあるけれど、雨は恵みを齎してくれるんです
苦しみしか齎さない神様は、神様なんかじゃないんだ
……こんな悲しい事、終わらせるんだ


月舘・夜彦
彼女達から悲しみを感じる
重く、暗く……寂しさを纏い、縋る想いが伝わる
戦わずして、彼女達を解放する事は出来ぬ
……私は、迷わない

巨大化、力の増大により残像・見切りより躱し
躱せないものは武器で受け止め、斬り返す
妖魔は早業にて抜刀し薙ぎ払う
苦しまぬ様、なるべくは一閃で終わらせる
雨はこれだけ接近していれば躱す事は不可能
痛み等、彼女達に比べれば大した物では無い

貴女が人々の命を奪った事は赦されるものではない
命を捧げようとする村の人々の行為も同じだ
命を奪った者は、責任を背負わなければならない
……それは私も同じ

だからこそ、約束しよう
同じ悲しみを持つ者を作らない事を

彼女等の安らかな眠りを願う
雨は、軈て止むのだから


羅賀・乙来
小さな子供が雨神様とは、ねぇ

妖魔降ろし、姿を白龍へ
龍は水の力を司るものに対抗させて貰おう
……何処まで対応出来るか分からないがね

霊符と手裏剣に破魔の力の与え、念動力で飛ばして2回攻撃
妖魔の召喚は全力魔法と早業を併せて一掃
敵からの攻撃は見切りで回避、雨の洪水はオーラ防御で凌ごう
この状況で直に受ける人も居そうだから、その人を巻くようにして防ごう

僕は昔、一方的に神と崇められていてね
やる事全てを神に委ねる人々に嫌気が差した
人はそれが居なくたって生きていけるのにね
僕は停滞をする者を嫌う

神と呼ばれ与えられた餌を貪る者も
神と思い込んで抗う事を諦める者も

でも、変わろうとする者は好きだ
君達は、そうであって欲しいな


斬断・彩萌
いっぱいどころか、一人だって連れて行かせやしないわよ!

●WIZ
『光楼』と『陰楼』を二挺拳銃に込めて【2回攻撃】
味方の動きに気を取られている間を狙って、背後や側面から撃つ
ここぞという時には『陰楼』で憂鬱な気分にさせてあげる
ほらほら、梅雨の時期には早いけどあなたにはピッタリじゃない?

洪水対策:
銃は念弾だからまぁ水没してもいいんだけど、服が濡れるのはダルいわね。
雨ってんだから上から来るでしょうし……Book of breezeを広範囲に展開して傘代わりにするわ。
ま、これもサイキックエナジー製だし濡れたくらいじゃどーってことないでしょ。帰ったらちゃんと手入れするから許して!

※アドリブ・絡み歓迎


桐・権左衛門
プリンセラ・プリンセスの手伝いサポートに回る

戦闘には参加せずに村人を説得に東奔西走する

自分の子供やなかったら、他人の子供を犠牲にして生き延びる
そんな親の背中を見て育つ子供は捻くれるんちゃう?少なくとも真っ正直な性格には育たんで

毎日笑って過ごせへんし、心から笑えるんかいな?

プリンセラはんの言う通りこの土地に固執することなく故郷を捨てる覚悟があるんならこんな場所棄ててしまえばええ

移住するとなると不安もよーけある、食い扶持や仕事も不安かもしれへんけどそんなもんは死ぬ気になればなんとでもなるわ

美濃ちゃんなら何とかしてくれるし、ウチも商人の伝手ならある。
(得意の口八丁、拡大解釈を使い対話に徹する)


カーニンヒェン・ボーゲン
広範囲の攻撃は厄介ですな…。
オーラ防御の範囲を広げ、建物の補強か直接の盾として雨を凌ぎたい。
「絶対にそこから出てはなりませんよ」
必ず、守りますから。

自身はその外側に。
雨神の本体と思しきモノと対峙し、その場から遠ざけたい。
紫草の自生していない斜面がありましたな。そちらか、遠くへ行けずとも村の広場までへでも。

戦力が整うまでは、何としても守りを優先します。
敵わねば、真の姿となることも念頭に。
銀毛の大狼ですな。極力人前は遠慮したいのですが、惜しむは人命です。
村人から少女を引き離す、或いは目を惹き付ける為に。
獣の【近接斬撃武器】とは則ち、爪と牙。
人身であれば太刀を以て。
UC:剣刃一閃にてお相手します。


目面・真
生贄を攫って水害を見逃す代わりに、村人には生贄を用意させる。
村人は罪悪感に駆られて閉鎖的になり、バケモノは長い間定期的に生贄にありつける。
ナルホド、こんな誰も彼もを悪しくするシステムをよく考えたモノだ。
これを無力の民に押し付けたオマエには相応の処罰が必要だな。その姿に油断するオレではナイぞ。

村人達の被害を最小限に留めるよう立ち回る。脅迫を受けた彼等に罪はナイ。
できれば逃げ道を用意して逃がす。水害が起きても無事なように高台へ逃げるんだ!

アームドフォートで武装して砲撃だ。コレで済めばありがたいんだが。
近接してきたら大太刀で、フェイントと2回攻撃で幻惑して斬撃。
絶対零度の爆轟で雨もろとも凍らせよう。


ヴィクトリア・アイニッヒ
生贄の霊場となるはずの場にいるはずのオブリビオンは居らず眷属のみ、とは…
…いけない、すぐに村に戻らなければ。敵は既に動いています!

邪魔をする眷属は光剣で動きを封じる程度。
最優先するべきは、村への帰還と仲間の猟兵との合流。
大本命を討たねば、人も、村も、守れません。

村に戻り次第、『雨に濡れる少女』との戦闘に参戦。
太陽を象徴とする主への祈りの言葉と共に、雨雲を切り裂く様に光剣を投擲。
援護射撃に徹し、味方の動きをサポートする。

寂しさ、それを埋める行為。その事自体を否定する事は出来ません。
ですが、こんな…命を弄ぶ様な行いは、断じて見過ごすわけにはいきません。
…主よ。傲慢なるこの悪意を祓う輝きを、此処に!


秋月・信子
・SPD&真の姿開放

姉さん…【救助活動】で子供たちを安全な場所に避難させてください
私の顔を知っていますけど、あまりキツイことは言わないでくださいね?
それと念の為に持ち込んだヘビーマシンガンは広場隅の木箱に隠しています
それを使って…子供たちのいる場所を【拠点防御】して子供たちを奪いに来る雨神の眷属を撃退してください

恐らく…雨が止まないと眷属は幾らでも無限に湧き出るでしょう
なので…私は…雨神を討ちに行きます

決意を秘めた蒼く輝く瞳が闇夜を切り裂く
イメージした魔弾は、悪夢と雨雲を【吹き飛ばし】晴れ上げさせる陽光の【属性攻撃】
ずぶ濡れになりながらも村を駆けます
子供たちの未来の為に…

※アドリブ大歓迎です


玖篠・迅
霊場に眷属だけって事は雨神様は村に行ってるか
もし村に行く人がいたら「破魔」を込めた護符を子供達に渡すのを頼む
色んな思いがある村だけど、子供達に非はないと思うんだ

眷属は霊符で牽制して、式符・天水で蛟たちに雨を止めるか弱めるかやってもらう
蛟たちに「破魔」を付与しても雨に干渉できない時は、霊場に変化がない事確認してから村に急ぐ
…この地に神様は本当にいたのかな
20年毎の約束を守る雨神様は最初の頃の贄だったとかないよな

結果がどうなっても山の保水量とか水の湧き出る箇所を地縛鎖とか地脈の流れ見て調べたい
柴草が山にないのは水が多くて根が腐りやすくなったとか?
もし山から水を引くことができたら状況も変わらないかな


ジェフリエイル・ロディタ
僕が祈るのは命の無事。
そして彼女達が再び、或いは初めて海に還ること。
お嬢さん、君に雨神とは別の名前はあるかい?

僕は子守歌を奏でつつ、念動力で人々を守ろう。
タイミング諸々のよしあしは第六感が足しになると良いけれど。
敵のコードが来ると家が危ういならコールフを歌うよ。

眷属に縁ある村人達は社から品々を持って来て欲しい。
個があるなら今以上の渡し時は無いさ。
その場合は呼びかけの際に密かに演奏で雨音を除けるか試すよ。
個が無いなら、今や雨神様が声形を使っているのみという訳。
後は前回の子を探して、抱えるのが悲しみでも恨みでも、
あれば気持ちをちゃんと聞いた上で伝えたい。
それでも、ここにいる子達は君が繋いだ命だと。


レッグ・ワート
――おいおい、新しく連れてかなくたって十分多いだろ。飽きたなら昔の奴はちゃんと放してやってんだろうな。

情報収集狙いでドローンは外待機。必要なら俺の視覚情報を外の連中にホロ提示して活かして貰うのもアリかね。複製した鉄骨はドローンと合わせた知覚範囲の屋内外に振り分け。屋内じゃ並べて子供優先で村人載せて、水連中が届き難い位置まで浮かせる。届かれても跳ぶよう声かけての一回転で落とせるかね。村人落ちそうになったら予備鉄骨や糸で掬うわ。そんで外の分は必要な時の動く足場。雨の勢いによっては家の屋根や壁にしたり流れ削りにかかったりだ。
もし水勢が鉄骨で遊びたいってんなら他の準備や到着待ちの間付き合ってもいいぜ。




 降り始めた雨は激しく、一瞬にして小川の源流にあった一枚岩の上に水たまりを形作る。
 そして――。
『トモダチ……トモダチはどこ……』
 水たまりから起き上がるように水人形な子供達が立ち上がる。1人、2人、3人……気がつけば10人ほどだろうか。中には泣き声を上げる赤子の水人形もいた。その子供達は誰もが村人程度の簡素な衣服か、そうでなければ儀式めいた服を着ている子供の2種類しかいなかった。その理由は……。
 すでに日は落ち当たりは暗い森の中、雨音に混じって子供達の怨念めいた声が響き渡る。
「この子達……もしかして犠牲になった子供達なんじゃ……」
 すでに戦闘態勢に入って皆の前に立つ紺屋・霞ノ衣に、弟分の越喜来・湊偲が問う。
「そうかもしれないね……それに、もしかしたらこいつらを支配してるオブリビオンも……」
 雨に打たれたまま背中越しに答える霞ノ衣の答えは、湊偲だけでなくこの場にいる者皆が思っていた事だった。ただ、だれも口には出したくなかっただけで……。
「それじゃあ……俺達に、俺達に子供達を殺せって事なんですか!? 犠牲になっていった子供達を! 村の奴等みたいに俺達が殺すんですか!!」
「相手はオブリビオンだ。オブリビオンは……倒すに決まってるだろう」
 静かに、押し殺した声で霞ノ衣が答える。
「そんな……」
 まるで湊偲の心情が影響したかのように召喚してあった巨大なシャチが足下の水たまりに溶けるよう送還され消えていく。
 誰も湊偲に声を掛けず、しかし一枚岩の上に出現した水人形の子供達は、そんな事は関係ないとばかりにジワリジワリとこちらへ近寄って――。
 と、ジッと周囲を観察していたヴィクトリア・アイニッヒがハッと気がつく。
 ――生贄の霊場となるはずの場にいるはずのオブリビオンは居らず眷属のみ、とは…
…――。
「いけない、すぐに村か、あの少女のいた倉に戻らなければ! 敵は既に動いています!」
 つまり、本体たるオブリビオンは別の場所に現れているのだろう、と。
 瞬間、バッと霞ノ衣が右手を水平に振り水人形の子供達を通せんぼし。
「ここはアタシが引き受ける」
「眷属とは言え結構な数だよ?」
 冴島・類が事実を確認するように言うも、霞ノ衣はニヤリと獰猛な笑みを浮かべ「無用だよ」と一言。
「そう……わかった。なら僕も残ろう」
「じゃあ俺も残るよ、この場でやってみたい事もあるしね」
 類が霞ノ衣の右に並べば、今度は左側に蛟たちを従えた玖篠・迅が並ぶ。
「あんた等……ふっ、物好きだね」
「だね」
「まったく」
 類と迅も水人形達に相対し戦闘態勢へと入る。
「湊偲! 優しいあんたの事だ、辛いんだろう? すぐにこいつらと戦えとは言わない……その代わり村の奴等を頼んだよ」
 霞ノ衣の言葉に、湊偲はこくりと頷き。
「待って、これを――」
 迅がヴィクトリアと湊偲に向かって札を投げる、パシリと2人が受け取れば破魔の力が込められた護符だった。
「色んな思いがある村だけど、子供達に非は無いと思うんだ。だから……それを子供達に渡して欲しい!」
「わかりました! 行きましょう湊偲さん。大本命を討たねば、人も、村も、守れません」
 そう言い走り出すヴィクトリアを追い、湊偲は一度だけその場に残る判断をした3人を振り返り、その背に目で礼をすると急ぎ山を降りていくのだった。


 猟兵達の作戦によって紫呉村全体が眠りに落ちたのは、決して悪手では無かった。なぜならもし村人が起きていた場合、人身御供の贄が逃げ雨神様に捧げられていないと知った場合、村の大人達が我が子可愛さに一致団結し「贄を取り戻そう」と猟兵達へと襲いかかっていたかもしれないからだ。
 だが、先ほど言った通り村全体が眠りに付く事で最悪の事態は免れた。
 さらにジェフリエイル・ロディタが情報収集の為に起こした大人20人によって、今、村長の家には村の子供達全員が集められている。老男女入り混じった20名では、贄を取り戻す為に猟兵達へ反抗するには少なく、そして贄の代わりに村の子供を攫いに来た雨神様は、先の事情通りこの村長の家を襲撃する道しか残っていなかった。
「まさかこんな事になるなんてね」
「いやいや、結果的にここを守れば良いわけですから、とても良い仕事をなさったと思いますよ?」
 カーニンヒェン・ボーゲンがそうフォローすると、照れたようにジェフリエイルが苦笑いする。
『どうして……約束を破ったの……みんな、楽しみにしてたのに……』
 声の主に向き直れば、村長の家の玄関――戸はすでに壊され無い――の向こう、雨に打たれるままの紫の着物を着た少女オブリビオンが呟いていた。
 その足元、水たまりからは水で出来た少年や少女、赤子が声を出しながら動きだし、その様子を見ていた村人達からも「雨神様……」とずぶ濡れ少女の雨神様を畏れ敬う言葉が出る……。
「あんな小さな子供が雨神様とは、ねぇ」
 言いつつ覚悟を決める羅賀・乙来。いくら守るべきはここだけで良いとはいえ、たった4人で守るには敵が多勢すぎる。だから……。
「≪妖魔降ろし≫」
 呟き、次の瞬間、乙来はなんとも神々しい白竜へとその姿を変える。
「りゅ、龍だ……!?」
「龍神様……!?」
 村人たちが白龍となった乙来に似たような何かを感じたのか、どこか畏怖に近い感情をぶつけてくる。
「(そうか……君達には、僕がそう見えるか……)」
 村長の家の中でとぐろを巻くように浮く白龍に、僅かながら水神様や水人形達が躊躇。
 その隙を見逃さず、ジェフリエイフが村人の――特に大人達に向かって言う。
「あなた達の中で勇気のある者はいるかい? 村の東にある社に収めた品々を持ってくる勇気がある者は?」
「それはどういう……?」
「言葉の通りさ。雨神様は僕達が引きつける。その間に東の社から取って来て欲しいんだ。もしかしたら……今以上の渡し時は無いんじゃないか、とね」
 目の前に『死』という現実が迫っている為か、村人達が最後まで言わずとジェフリエイルの言いたい事を理解する。雨神様やその配下の水人形達はここにいる子供達を狙ってきている。今なら裏口から出て東の社へ向かう事も可能だろう。村の中も襲われない可能性も高い。しかし、それはあくまで可能性であって絶対ではない。
「無理にとは言わない……けれど、少しでも村での行いに疑問を持っていた人がいるなら……」
「オラが行く!」
「俺もだ!」
 二十代後半ぐらいの男が2人手を挙げる。周囲の村人が驚くも、2人はその手を振り払い立ち上がると。
「東の社に安置してある玩具とかを取ってくれば良いんだな」
「その役目、俺達が何とかする」
 2人の男たちにジェフリエイルはコクリと頷き、こっそりと2人を裏口から逃がすジェフリエイル。
 果たしてこの行動が吉と出るか無駄になるか……。
 その際、裏口から逃げ出したのは2人の村人だけではなかった、複数機のドローン(レッグ・ワートのドローンだ)も一緒に外へ飛び出していたのだ。
 耐水加工も施されている特別なレッグのドローンが外に出て、上空から村長宅周辺を確認すれば、やはり雨神様とその眷属達は家の正面に集まっていた。だが、それも束の間今だけだろう、少しずつだが水たまりから起き上がるよう生まれる水人形達がじわじわと脇へと回り込むよう増えてきているのが確認できる。
 それに雨が叩きつける村長の家の屋根の上にも、何体か水人形が起き上がろうとしているのが見て取れた。
「前後左右に上からも……となれば、こんな古い作りの家屋、下だって危険か」
 ドローンから視界を戻すと、レッグは居間の中央に寄り固まる村人達の足元へと意識を集中させ、そして――。
「準備完了……複製開始する」
「な、なんだ!?」
「床かが!?」
「硬い何かに……押し上げられ!?」
 説明が無かった為村人達が一瞬パニックになるが「心配するな、下からの攻撃に備えただけだ」とのレッグの言葉に誰もが押し黙る。
 レッグは村人達の足元(居間の中央の床の上)に鉄骨の応用で、広げた分厚い鉄板を複製したのだ。さらに分厚さも鉄骨並にしてあれば、隙間ない鉄板だ、これで水人形達が床下から回って来ても村人を下から奇襲する事は出来ないだろう。
「子供達は特に中央に集めとけ、できるだけ周囲は大人が守るんだ」
 レッグの言葉に村人達が子供を中央に寄せ固まり出す。だが、それでも完璧じゃない事はレッグ自身が理解していた。
「あとは上からの奇襲をどう防ぐか……か」
「そこは爺にお任せを」
 レッグのささやきにカーニンヒェンがそう答えると、さっそく村人達に掌を受け意識を集中。
「はっ!」
 短い気合いと共にブンッとオーラの防御幕がドーム型に村人達の左右と上方向に展開される。
「敵は広範囲に散って来る厄介な相手、しかし、これで多少は防げるでしょう」
「確かにな」
 カーニンヒェンの技にレッグも頷く、そして――。
「皆さん、絶対にそこから出てはなりませんよ?」
 カーニンヒェンの言葉に村人達がただただ頷き。
「良い返事です。その代わり、絶対に守ってみせますとも」
 村人達に背を向けるよう、雨神様達と相対するカーニンヒェン。
 と、その時だ、村の上空に飛ばしたドローンと視界を共有するレッグが、ここに駆け付ける心強い仲間の気配を感知する。それは――。

「あぁ、単なる祟り神ではなく神隠しの性質も併せ持つオブリビオンでしたか、私としたことが読み違えていましたね……そしてあなたが、黒幕の雨神様、ですか」
 黒いスライムが村長の家の前に到着し、入り口付近に立つずぶ濡れの紫着物の少女を睨みつける。
『邪魔……しないで……私は……トモダチを連れに来た、だけ……』
 黒玻璃・ミコの方を振り返り、たどたどしくそう伝える雨神様。
「紫呉村の人達も、守りたいものを守るために、この選択をするしかなかったのでしょうが……だけどやっぱり、そんな選択は認められない。戦いましょう、守るために!」
 ミコに並び、ミコと一緒にここに戻って来たユーイ・コスモナッツが嘶く天馬の紋章が刻まれた白銀の剣――クレストソードを抜き放ち宣言すると、水神様はミコとレーイを敵だと認識したのか、ふらりと手を挙げ、同時、二人の周辺の足元に出来た水たまりから水人形達が1人、2人と次々に起き上がって来る。
「ミコさん!」
「はい、やるしかないですね……まぁ、先走りした件も含め、微力を尽くさせて頂きましょう」
 そう言いミコが印を切りつつ呪を唱える。
「いあいあはすたあ……拘束制御術式解放。黒き混沌より目覚めなさい、第壱の竜よ!」

 ミコやユーイが駆けつけたのと同時、村長の家の上空へ到着した涼風・穹は、愛機スカーレット・タイフーン・エクセレントガンマに乗りホバリングしつつ状況を確認していた。
 眼下に見える村長の家、正面にはボス格だろうオブリビオンの少女がおり、その眷属らしき水人形の子供達が次々に家を囲もうとしてるのが見える。
「こうなってくると穏便な解決方法は諦めるしかなさそうだな……そうなるとまあ、まずは……姫さんごめんなさい姫さんごめんなさい」
 自身に言い聞かせるよう何度も繰り返し。
「よし、謝罪終了、それじゃやるとしますか」
 穹はホバリングするバイクの上に仁王立ちとなると大雨に打たれつつも意識を深く集中、イメージを掘り下げ……次の瞬間、カッと目を見開き。
「投影!!!」
 村長宅の1辺より少し大きめの分厚い金属の壁が、地中よりズズズズズッと出現していく。
 やがて1面に大きな壁が立ち上がったと思うと、今度はその逆側にも同じ金属壁が、さらにもう1面にも同じく壁が……と正面以外の3面に金属壁が立ち上がる。
「最後だ……集中しろ、俺」
 その声と共に、4枚目の板が出現、それは3枚の板の天辺に重なるよう地面と平行に、村長宅の屋根の上を覆うように1枚の金属板が被せられる。つまり4枚の巨大な金属壁で村長宅の正面以外(左右と背後と上)を覆うような形にしたのだ。
「はぁ……はぁ……はぁ……こ、これで、敵が襲撃してくる方向を、少しは絞れたかな……」
 流石の巨大物体を4連発で作成し、疲労を隠せない穹。
「疲れてている所悪いが、もう一仕事できそうか?」
 そこに声をかけて来る誰か。穹が見れば同じく宇宙バイクに跨り横にホバリングしているレッグだった。
「レグか……もう一仕事? それよりお前、家の中にいたんじゃ……?」
「ドローンで穹の狙いが解って慌てて裏口から飛び出して来たんだ。ま、これなら変な場所から奇襲される事もないだろうからな、中は他の仲間に任せて来た」
「そう……んで、もう一仕事って?」
「村人2人が東の社に向かってる、もしかしたら切り札になるかもしれん、その2人を護衛しに行く。俺とお前のバイク持ちが2人に協力すれば、往復の時間も短縮できるしな」
 淡々と言うウォーマシンに、すこしへばり気味だった穹は「わかった」と短く告げ、やるしかないかと再び気合いを入れてバイクのエンジンをふかす穹であった。


 ズシャッ、と水を斬り裂く感触のまま、水人形の少女を斬り裂くは月舘・夜彦の愛刀夜禱だ。
 パシャンと音を立てて再び水たまりへと戻る少女から、僅かに漏れ聞こえた悲痛な声は、刃を振るった夜彦の表情を曇らせる。
「月舘殿?」
 察し、心配するよう蜂蜜院・紫髪が声をかける。
「斬れば斬る程、彼女達から悲しみを感じる……重く、暗く……寂しさを纏い、縋る想いが……」
 苦しそうに呟く夜彦だが、蜜を守りつつ移動する紫髪達の先陣を切る夜彦が、その刃を振るう事を辞める事はできず、再び襲い掛かって来た水人形の子供を一刀のもと斬り伏せる。
「ですが、戦わずして彼女達を解放する事は出来ぬ……解っている。解っているのです。だから……私は迷わない」
 刃を振るい血糊ならぬ水人形の水を刃から払い再び構える夜彦。
 だが、さすがに人身御供の少女である蜜を連れているだけあり、周囲から起き上がり向かってくる水人形の数が少しずつ増えつつあった。それをいち早く察した紫髪が皆に提案する。
「あの歌の通りなら雨神様は村を――村の子供を襲いに行っているはずじゃ。今、わしらが苦労しているのは護衛対象が分かれている事が原因じゃ、まずは蜜を連れて村に向かい合流を果たすべきじゃろう?」
 つまり何人かがここの足止めをし、その隙に数人で一気に村まで向かう……という提案だ。
「悪くない。村へはオレが」
「私も行きます」
 迷わず即座に目面・真と秋月・信子が同意し。
「なら、ウチはちょぴっとだけ別行動させて貰います」
「どこへ行くのじゃ?」
 別行動を申し出た桐・権左衛門に紫髪が問えば。
「少々……女の勘が、ね」
 真剣なまなざしで別方向を見すえる権左衛門に何かを感じ取ったのか「わかった、そっちは任せよう」と納得する紫髪。
「なら私はここで敵を引きつけるよ」
「私もそうしましょう」
 殿で戦っていた斬断・彩萌がそう言えば、同じく夜彦も残ると宣言する。
「その代わし、村の子供達の方は任せるわよ! こいつらには一人だって連れて行かせやしないわ!」
「了承じゃ!」
 彩萌の言葉に強く頷くと、紫髪は蜜の手を握り「走るぞ」と言い。
 瞬後、村への方角に沸いた水人形を夜彦が叩き斬り――「今です!」
 先頭は真、次いで蜜の手を引く紫髪、殿は信子、4人が一気に飛び出し、蜜に釣られるように動こうとする水人形達と夜彦と彩萌が押しとどめる。
「ダ~メ、あんた達の相手は私達よ?」
「ええ、その通りです」


「そりゃ、どうしようもなくなっちまったら仕方ないが……」
「でも、私達は別に何も……」
「んだんだ、村を捨てるなんて簡単な事でねぇだ……」
 プリンセラ・プリンセスの「故郷を捨てる覚悟は」の問いかけに、3人の村人は決して良い返事を寄越さなかった。だが、即答という訳でもないことに、村人達自身もこの村の状況が決して正常ではない事を理解している証拠だった。なら……、そう思って更に説得しようとしたプリンセラだったが、急に振っていた雨が激しくなりだし、集中して説得することが難しくなる。プリンセラの集中力が……というより、聞く側の村人達が勝手に恐慌し始めたのだ。
「ど、どうしたのですか!?」
 村人達の恐れ具合にプリンセラの方が心配になる。
「雨神様に見つかったんだ……急に、雨が強くなってきた……」
「でも、でも私達は何も悪い事……」
「ひゃあああっ! あ、あ、あ、あそこに何かいるべ!?」
 村人が指差した先、大雨により溜まった水からゆらりと何かが立ち上がる。
 それはその一カ所だけではなかったプリンセラや村人達を発見したかのように、周囲に1人、また1人と水人形が立ち上がる、そのどれもが少年や少女の姿をした年若い子供達だった。
「これは……皆さん、山を降りて村へ逃げましょう」
 プリンセラがいち早く決断し3人を促す。慌てて走り出す3人、だが夜の山道でしかも大雨の中だ、早く降りるにも限界がある。たいして追ってくるのはオブリビオンの眷属、追いつかれるのは目に見えていた。
「(誰を頼れば……)」
 状況を打開する為に誰に頼れば良いか兄や姉を思い浮かべるプリンセラだったが、村人を守りつつ敵も倒しつつとやる事が多過ぎる――どうすれば……そう思った、その時だ。
 跳躍するように村人へと襲い来る水人形の1体、その攻撃を横合いかた飛び出してきた青い肌の青年が青い鱗を纏った長槍で防ぎ防御する。
 同時、雨音に負けじと浪々と響き渡る祝詞。
「主の威光よ、悪意を祓い給え! ──神威の光剣よ!」
 ズババッ! と雨を斬り裂き光の刃が追撃せんとする水人形達の足をとどめる。
「あなた方!」
 プリンセラと村人達を守るよう現れたのは湊偲とヴィクトリアだった。
「できれば……倒したくないっす。だから、早くここから逃げましょう」
「ええ、優先すべきは村にいるであろう雨神様とやらです、とはいえ、大丈夫でしたかプリンセラさん?」
「はい、ありがとう、助かりました」
 どうやら村に向かう途中に戦闘の気配を察して駆けつけたという2人にプリンセラが礼を言い――その、時、だ。
 お辞儀をしたプリンセラの背後に跳躍してこちらに飛んで来る水子の赤ちゃんが1体、ヴィクトリアと湊偲の目に入る。プリンセラの影になって気が付かなかった1体だった。
 だが、その赤子は横から何か細い枝のような物で殴られ吹っ飛んでいく。
「2人だけやないでー、権ちゃんも登場や」
「権左衛門さん!?」
「ゴンちゃんさん!?」
 プリンセラとヴィクトリアが驚く。
「まーたプリンセラはんが1人で無茶な事になってるよーな気がしてな」
「こ、今回は不可抗力です」
 前に無茶をして権左衛門に助けられた事もあるプリンセラが、少し口をとがらせつつも「でも、ありがとうございます、助かりました」と素直に礼を言う。
「とりあえず4人もおれば村人3人を護衛しながらでも村に辿りつけるやろう、行くで、皆?」


『トモダチ……トモダチはどこ……』
『オギャー、オギャー……』
『お兄さん、お姉さん、新しい子はどこ……?』
 水人形達が少年や少女の声で語り掛けてくる。そこに込められた意志は悪意ではなく純粋に何かを求めるような意志……ずっと1人だった子が、やっと友達を得て感じた喜びと、友達を得られない悲しみ。
 夜彦と彩萌は移動と反撃を繰り返しながら水人形の子供達と戦い続けていた。
 ある程度距離を置いた所で夜彦が反転、水人形達に突撃し近接攻撃を繰り出し、その夜彦を援護するよう、または夜彦の攻撃で隙が出来た相手のトドメを刺すよう彩萌が二挺拳銃を撃ちこんでいく。そうしてある程度戦い、夜彦が囲まれそうになる前に離脱、再び距離を取ってから再び同じことを……その繰り返しだ。
「苦しまぬ様、なるべくは一閃で終わらせる」
 そして、いい加減鬼ごっこにも飽きて来た頃、水人形の追撃者も3体まで減っておりここが片付け時だ、と夜彦が気合いを入れ直し3体に突っ込む。
 それは少年と少女、そして赤子の水人形だった。
 少年が抱き付こうと走り込んでくるのを居合一閃、宣言通り1撃で終わらせる夜彦。
 崩れ落ちる少年の向こう側で、両手を付き出し何かを放とうとしている水人形の少女。
 だが、なにかが放たれる直前、その胸に彩萌の弾丸を撃ち込まれ。
「陰楼で憂鬱な気分にさせようかと込めてたけど……直前に光楼に変えておいたわ。最後ぐらい明るく、逝きなさい」
 一瞬だけ光輝き、すぐにパシャンと弾けて消える少女。
『オギャー、オギャー……』
 最後に残った1体は赤ん坊であった。泣き声と共に感情を爆発させ、ハイハイしてくる赤ん坊が少しずつ巨大化していく。
『アアアーッ!』
 今や3mは越えた赤ん坊が、その手で押しつぶそうと夜彦を、手で――。
 ズンッ!
 水人形の手が夜彦を潰そうと上から来た時、夜彦はそれを受け切る覚悟を決めていた。
 衝撃と共にぬかるむ大地に両足がめり込む。
「アンタ! 大丈夫なの!?」
 慌てて彩萌が声をかけると。
「痛み等……この子達に比べれば、大した物では無い」
 ズバンッ!
 そこから強引に押しつぶして来た手すら真一文字に斬り裂き、一気に赤子も両断する夜彦。
『オギャー……』
 最後に一声泣いてそのままパシャンと水に戻る……。
 周囲にやっと水人形がいなくなり、雨が少しだけ小雨に代わった気がした。
 小さくなった雨音の中、さらに小さな声で夜彦が呟く。
「すまない……」
 その呟きが聞こえなかったか、それとも聞こえないふりをしたのか、彩萌は無言で背を向け村へ向かって走り出す。
 夜彦もまたそれ以上は言わず、刃を鞘に納め、黙々と村へと走り出したのだった……。


 宇宙バイクを駆るレッグと穹に拾われ、村の東の外れにある小さな神社へと到着した村人2人は、そそくさと神社の社の扉を開け中へと入って行く。
 同じくバイクを降りレッグと穹も入っていると、そこには古い玩具や人形などが沢山置かれていた。
 それらを急いで袋詰めする村人2人を手伝いながら、思っていた事を穹がレグに尋ねる。
「なあレグ……まさかとは思うけど、雨神様とやらは以前の人身御供の子供がオブリビオンになった、なんてオチじゃないだろうな……?」
「どうだろうな……俺には解らん」
「さっき、チラっと見たが……あの紫色の着物……」
「どうなんだ?」
 レッグが無遠慮に村人2人へ話を振る。
 だが、2人はフルフルと首を横に振って否定する。
「正直、解りません……俺もこいつも、まだ二十代ですし、村の祭りは20年周期、たくさんの犠牲が出たのが40年前の祭だってのは聞いてましたが、それより前がどうだったかまでは詳しい資料が残ってなかったので……」
「……ただ、可能性は否定できません。俺達には……」
 そう2人目の村人も俯きながら言う。
 ここに来るまでバイクの上で簡単に話を聞いた所、2人のうち1人は3年前の世話係だったらしい、その時、純粋無垢な贄の少女を、ずっと騙しているようで心苦しく今でも罪悪感に囚われていたと言う。
 もう1人の村人は2年前に娘が生まれ、すくすくと成長する我が子を見るに、人身御供の少女が自分の娘だったらとの妄想をする度に発狂しそうになっていた、と言ってくれた。
 2人とも決してこの祭りの裏で行われていた行為が正しいとは思っていなかった、と。
 しかし、それを止めるだけの勇気も無かった、という事らしい。
「申し訳ありません、旅人様方……都合の良い事を言ってる事は解ってます。でも、やっぱり、もしあの子を救えるのなら……救って欲しいんです」
「俺もです。子供が生まれるまでは、他所から買って来た子供なんだし、と割り切ってました。でも、いざ自分に子供が出来たら……そんな風に、割りきれなくなって……」
 玩具を詰めつつ謝る2人に、レッグは機械的な声のまま淡々と告げる。
「謝る相手が違うんじゃねーか?」
 ビクリ、と2人の身体が僅かに跳ね、雨音に消されそうな小声で「はい」と村人達が頷く。
 やがて、社内の玩具や人形をあらかた詰め終わり、そのまま4人は村長の家に戻る為に社の扉を出て外へ……。
「おいレグ、こいつぁベリーハードだろ?」
 社から出ると何かを感じ取ったのか、社前の水たまりや村中の水たまりから1人、また1人と水人形の子供が起き上がりつつあった。これだけの数の中、突破して村長の家へ向かう必要がある、という事だ。
「こいつら2人を置いて行けば、ハードモードぐらいにはなるぞ?」
 レッグの言葉に一瞬言葉が詰まる村人2人、だが、すぐに「それも仕方ないか」と諦めるような表所となり、すかさずレッグが「冗談だ」と、そして――。
「逃がし屋の、俺の本気の見せどころだな」
「それなら、俺のスカーレット・タイフーン・エクセレントガンマも本気を出さないといけないな」
 レッグと穹がお互いを見つめニヤリと笑う。
「しっかり捕まってろ」
「荷物を落とすなよ」
「はい!」
「わかりました!」
 2人の猟兵の鬼気迫る感じに、村人2人がそれぞれ萎縮しつつ返事をし、バイクの後ろに乗り運転手の腰に手を回し、もう片方の手で玩具を詰めた袋を落とさぬよう握りしめる。
 今や完全に実体化した水人形達。
 宇宙バイクに跨りエンジンをタイミングを合わせるようにふかし……。
「レディ――」
「GOッ!!!」


「あんた達、狩りの時間だよ!」
 霞ノ衣が青毛狼の群れを召喚し、水人形達を襲い掛からせる。
 狼1匹が水人形1体を抑え、身動きが取れなくなった所を霞ノ衣が飛びかかり握り潰し、斬り裂き、殴り飛ばす――霞ノ衣の近接攻撃がすぐに連撃に繋がる距離に狼たちが水人形を誘導するからこそできる芸当だった。
「そっちは大丈夫かい?」
 霞ノ衣が声を向ければ、十指に繋いだ赤糸で操る濡羽色の髪持つ絡繰人形が雨の中を舞うように戦っていた。それは類が繰る人形――瓜江。影に添い、共に戦場を駆ける半身。
 水人形の子供達の攻撃を類自身は回避し、絡繰人形はまるで生きているかのように回避され体勢を崩した水人形を次々に屠って行く。
「へぇ、たいしたもんだ」
 死角から襲い掛かって来る水人形に青毛狼が襲い掛かり、大地に抑え込んだ所を霞ノ衣が倒れ込むようにトドメを刺す。
「それは僕の台詞だよ」
 苦笑いするよう霞ノ衣に答える類。でも――とすぐに表情を引き締め。
「誰も連れては行かせない……1人たりとも。だからこそ、ここに時間はかけられない」
「いや、もう終わりだぜ? 2人が激しすぎるんだよ」
 召喚した蛟の1体に乗って上空から全体を見渡しつつ、残りの蛟たちと霊符で2人の援護をしていた迅が降りて来て言う。
「そういえば、さっきので最後みたいだね」
 呆気ないと狼たちを送還しつつ霞ノ衣が一息つく。
「それじゃあ僕達も村へ向かおうか」
 そういう類を「ちょっとだけ待ってくれないか」と迅が止める。
「試してみたい事があってさ」
 そう言って霊場たる一枚岩の上に立つと、迅は召喚していた蛟たちを次々に合体、1体にその力を集約した所でさらに印を切り破魔の力を付与。
「雨を止めてくれ!」
 迅の言葉と共に暗雲広がる天へと蛟が昇り、分厚い雲の中に消えた所で一度だけ空がカッと輝く。
 数瞬だけ雨が止み、しかしそれだけだった。
 再びザーザーと土砂降りの雨が降り始める。
「霊場って言われてるけど、ここにそんな力は無い……のか。もうちょっとで止められる感じがしたんだけどな」
 迅が召喚する蛟は水気を操る。最大の力で放てば雨雲すら吹き飛ばせるかと思ったが……。
 もっと具体的に『雨』や『雨雲』を操る龍なら、一撃で退けられたかもしれないが……今は、仕方がない。
「ごめん、時間を取った。でも、一番厚い雨雲がどこかは副次的だけど把握したから、そこを目指そう」
「そいつはどこなんだい?」
「村長の家、だね」
 霞ノ衣の問いにそう迅が答え。
「行こう、子と村人守る為……かみ断ちに」
 類の言葉に2人も頷き、3人は急ぎ山を降りるよう駆けるのだった。


 紫呉村のあちこちから水人形の子供達が立ち上がり、村長の家へと集まって来る。
 家自体は穹の施した厚い金属板の囲みにより、正面からしか入り込む事ができない為、防衛する、という意味ではかなりやり易かったが……。
「問題は数ですね……」
 ミコが水人形の子を黒竜の爪で斬り裂き、パシャンと無力化しつつ呟く。
 ユーイもまた反重力シールドの足回りを活かし、村長の家に向かう水人形たちを片っ端から吹き飛ばし続け、その都度パシャンパシャンと敵が消滅する音が聞こえる。
 だが、2人は集まって来る水人形にばかり気を向けているわけでなく。
「ミコさん! オブリビオンを!」
「またですね……いきますよ!」
 ユーイの注意にミコがオブリビオンの少女を見て見れば、再び家の中に侵入しようと歩を踏み出した所だった。
「させませんよ」
 ミコが雨の中でも効果の落ちない毒をオブリビオンの少女に放つ、それはこちらにおびき寄せる催眠効果付きの特別な奴だった。
 何度目か、オブリビオンの少女が振り返り、その注意が2人へ向く。
 だが、大変なのはここからだ。オブリビオンの少女の注意が向くと同時、水人形達の攻撃が散発的なものから連携するかのような強烈な物に一時的に強化されるのだ。
 先ほどまではまだ捌けていたが、今の水人形の数では……。
 そのミコの予想は悪い方に的中し、敵の攻撃を捌けなくなってきた2人はじょじょに追い詰められ、ピタリ、気が付けば背中合わせなぐらい近づき、囲まれていた。
「これはピンチでしょうか」
「それでも、私は騎士として最後まで戦います」
 ぎりり、と2人が覚悟を決めた――その瞬間。

 ボッ、ボボボボボボッ!!!

 無数の炎が水人形達へと着弾し、直撃した物はそのままジュワァと蒸発し、そうでない水人形も苦悶の声をあげ体勢が崩れる。
「今のうちじゃ!」
 かけられた声にミコとユーイが敵の囲みを脱出する。
「どうやら、間に合ったようじゃな」
 それは紫髪だった。先ほどの多数の炎は彼女が放った狐火だったのだろう。
 助かりました、とお礼を言いつつ状況を説明するミコとユーイ。
 紫髪達は人身御供の少女、蜜を連れているとはいえ、真と信子もおり戦力は増強されたとみて良かった。
 しかし――。
「蜜を連れ家の中の子供達に合流させるには、あのオブリビオンの横をすり抜ける必要がある……周囲の眷属達の数を考えると、もう少し人数が欲しいな」
 冷静な真の指摘は的を得ていた。誰も反論しないのがその証拠だろう。
 だが、蜜を連れたまま戦い続けるのは足手まとい以外の何者でも無く、戦力として考えるなら大幅にダウンした状態で戦う事になる……それはあまりに下策だ。
「数が多過ぎるのじゃな……」
「おそらく……雨が止まないと眷属は幾らでも無限に湧き出るでしょう」
 信子の言葉に、そうなんじゃないか、と思っていた皆が頷く。だが、信子が続けて口にした言葉は皆の予想外の物だった。
「――なので私は……雨を討ちに行きます。ですので、ここは皆さんにお任せします」
「ええ!?」
「正気か!? さっき言ったばかりだろう、もう少し人数がいれば……と、それなのに別行動を取るのか」
 真が信じられないと言った風に信子に詰め寄るが。
「大丈夫、人数は減らしません……私の中に居る私、お願い、力を貸して!」
 言葉と共に信子の背後にもう1人の信子が現れる。いや、もう1人と言うには僅かに違いがあり、その瞳だけは青い信子と違い赤かった。
「姉さん……子供達をお願いします」
『ええ、任せなさい』
 信子の言葉に任せろと返事をするもう一人の信子――姉、言葉のニュアンスからして別人な性格なのが解る。
「何か考えがあるんですね」
 ミコの言葉に信子が頷き。
「なら、そちらは任せます」
「そうじゃな、信じあえるのも猟兵の利点じゃ」
「お任せします!」
 ミコと紫髪とユーイが信子に言い。
「人も減ってないしな……解った、任せる」
 真も頷く。
「お姉ちゃん……?」
 ギュッとお守りの折り紙を握りしめた蜜が心配そうに見上げてくるのを、信子はしゃがみ視線を合わせると。
「大丈夫です、心配しないで下さい。またあとで会いましょう」
 ギュッと抱きしめ。
「うん、わかったよ」
「良い子です」
 そう言って離すと、今度は姉に向かって。
「姉さん、念のために持ち込んだ……子供達を奪いに来る雨神の眷属を撃退して下さい。それと、村の人達にあまりキツイこと、言わないで下さいね?」
『わぁってるって』
 ヒラヒラと手に平で頷き、そのまま行って来いのジェスチャーに切り替える姉に、コクリとだけ頷き信子は村の中へと走って行った。時折聞こえるハンドガンの銃声だけが、信子が水人形達を牽制している証だろうとこちらに教えてくれる。
『さて、私も戦力補強の為にちょっと行くわ』
 そう言って広場の端へと走り出す信子の姉、勝手な事を! と思いつつも人数的に家へ強行突入するのは難しい現状、ここで固まって家に向かう水人形達を1体でも減らすのが上策か……と考えを切り替える猟兵達。
 だが……。

 ゾクリ。

 誰かの視線、冷たいような、悲しいような、それでいて『待っていた』と言うような……。
 皆が一斉にそちらを見る。
 それはずぶ濡れのまま村長の家の前で立つ紫色の着物を着た少女だった。
『見ぃつけた……』
 激しい雨音の中でも、遠く離れていても、なぜかそのオブリビオンの声は聞こえた。
 ズサッ!!!
 瞬後、まるで軍隊のように水人形達が一斉に蜜の方へと身体を向ける。
 蜜を中心に紫髪、真、ミコ、ユーイで四方を守るも、これだけの数に一斉に攻められたら……。
 じわりじわり、等間隔に距離を詰めてくる水人形達。
 これはさすがにまずいか……と思った、その時だ。

「寂しさ、それを埋める行為。その事自体を否定する事は出来ません。ですが、こんな……命を弄ぶ様な行いは、断じて見過ごすわけにはいきません……主よ。傲慢なるこの悪意を祓う輝きを、此処に!」

 轟っ!!!

 囲みの一角の水人形が数体突如、虚空から現れた光の剣に貫かれてパシャンを弾ける。
 さらに――。
「──神威の光剣よ!」
 追撃とばかりに空から無数の光剣が更に降り注ぎ、その一角にいた水人形達が全てを刺し貫かれ動きを止める。
「大丈夫か!?」
 そこに現れたのは湊偲達だった。光剣を放ったヴィクトリア、それに村人3人を保護し連れて来たプリンセラに、殿を守っていた権左衛門の4人&3人だ。
 ふと、紫髪が重みを感じ見て見れば、自分の服の裾を握る蜜がいた。
「よく、そんな3人も連れてここまで……」
 ミコが驚くように聞けば。村人達には破魔の札を渡しており、それのおかげで攻撃が村人に向かった際に致命傷にならないよう護ってくれた、との事だった。
「その札はあと何枚残ってる?」
「迅から貰ったのが……あと5枚だな」
 真剣な表情で湊偲が言うと。
「なら蜜に2枚、村人に1枚ずつ持たせよう。その上で村長の家の中に突っ込む。これが最後のチャンスだろう」
 テキパキと真が決断し作戦を言う。
 蜜と村人3人を護衛して家に逃げ込むのは紫髪、プリンセラ、権左衛門、ミコの4人。道を切り開くは真と湊偲、外から集まって来る水人形達の牽制役はヴィクトリアとユーイ、と指示が出され、即座に皆が頷く。悠長に考察している時間は無いのだ。
 ダラララララッ!
 雨音を消すようなガトリングの音と共に、その重たい銃を持った信子の姉が駆けつける。
「さぁ、誰を援護すれば良いんだい?」
 皆が頷き作戦を決行する。
「今この時だけで良い……雨に、破魔の力を!」
 湊偲がここから村長の家までのルートに振る雨を、オブリビオンから一時的に支配権を奪い破魔の力を付与。
「脅迫を受けていた彼等に罪はナイ。ちゃんと3人も護れよ……行け!」
 真がアームドフォートで砲撃しルート上の水人形達を倒し、紫髪達に合図を出したのだった。


 ゴロゴロゴロ……!
 まるで頭から飛び込んでくるかのように数人の猟兵達と村人3人が村長の家の中へと飛び込んでくる。
 すでに雨神様の足元から定期的に生まれる水人形達を、家内で子供と村人達を守りながら戦っていた白龍と化した乙来とジェフリエイルは驚くも、子供の1人が「危ない!」と叫ぶ。
 振り返れば横をすり抜け突入した中に蜜がいた事を感じ取ったのか、ずっと入り口付近にいた雨神様が一気に跳躍して迫って来ていたのだ。
「させません!」
 ガッ!
 とそれを防いだのは美しい刀身の刀――老兎を構えたカーニンヒェンだった。
『邪魔……しないで……』
「そういうわけにはまいりません、申し訳ないですが」
 斬るより吹き飛ばす方を優先に、左右より後方へバックステップさせるよう、カーニンヒェンは刃を操り雨神様たる少女を家の玄関へと追いやって行く。
 その戦い方は老獪なカーニンヒェンならではで、致命傷を狙ってこないその技に、オブリビオンも踏み込む事が出来ずに少しずつ後退していく。
『うう……なんで……』
「それは、爺めが守りを優先して戦っているからでございますよ。無論、いざという時は真の姿も……と思っておりましたが、倒す必要が無い戦い方なら何通りとありますので」
 刃を振るいつつ優雅にお辞儀さえ入れ込むカーニンヒェンの戦い方に、そして少しずつ贄の少女から引き離されていく様子に、雨神様が少しだけ口をへの字に曲げだす……。
 そして、その背後では――。
「どうしてこの子を! あんた達がそんな事をしなけりゃ!!!」
 蜜を村人に合流させた紫髪に、子供を抱えた女性が食って掛かる。
 今にも水人形や雨神様に殺される、または子供を連れ去られる恐怖をずっと感じていて、今もガタガタと震えているのを見るに、感情を抑えていた紐が蜜を見た事で緩んだのだろう。
 だが、その様子に紫髪は同情の瞳すら向けず、冷たく言い放つ。
「やはり人の愚行は分かりやすいのぅ……わしらが蜜を助け何だら何じゃ? 言うてみよ」
「そ、そりゃもちろん、村もこんな事にならなかったし、誰も不幸にならずにすんだに決まってる!」
「ふん、誰も不幸にならぬとはちゃんちゃらおかしい話じゃ。この子を――蜜の事を見て見ぬ振りをしておるだけではないか」
「それは……!?」
「論ずるに値せん。じゃが……」
 そう言って紫髪は女性が抱える子の頭を撫で。
「子供達には罪はない。子供らのためじゃ……あとはわしらが何とかする、安心せい」
 自身の子を守ると言ってくれたことに、その女性はそれ以上何も言えなくなり泣き崩れる。
 その様子を不思議そうに見ていた蜜だったが、その中に前に世話役だった人もいたのだろう、パァと顔を輝かせてその人に抱き付き笑顔を見せる。無論、抱き付かれた方は複雑な表情だったが……。
 戦いは守るべき者達を一カ所にまとめた事で、猟兵達はずいぶんと戦いやすくなった。
 さらにここで戦う人数も当初に比べて段違いに増え、ここぞとばかりに攻勢に転じる猟兵達。
 そんな中、皆で固まりあっている村人達に向けて、特に村長の前へとやってきたプリンセラが言う。
「な、なんじゃ」
「今だからこそ……その、話しておくべき話が、あります」
 兄姉達からの脳内助言を受けつつたどたどしく言葉を紡ぐプリンセラ。
「ここで私達があのオブリビオン……雨神様を倒すことで、この村の天候の安定は今後見込めなくなります」
「!?」
「そして、そうなれば、この村は立ち行かなくなる。なります、よね?」
「む、無論じゃ、お主等、それを解っていて雨神様を!」
「はい……だから、倒す前の今、こうやってお話しているんです。本当に、倒して良いか、どうか、を聞く為に」
「馬鹿な……なら、倒さないでくれと頼めば、倒さないでくれるというのか?」
「その場合、村の子供達が犠牲になります……私達は、蜜さんを、渡すつもりはありませんので」
 冷たく言い放つプリンセラ、脳内の助言でハッタリも重要だと説かれる。
「そして……もし今回、子供達を差し出し今後20年の天候を願っても、ここまで村に大雨が降り続いては……たぶん、復興の過程で……その、口減らしなどでもっと……そう、20年に一度ではなく、もっといっぱい子供などが死ぬと思います」
 ショックを受ける村長、さらにプリンセラの言葉を聞く生贄を差し出すべきだと内心で思っていた大人達。
「それでは……わし等にとって、もう、選ぶ道など……」
「それでも、決断して欲しいのです」
 断言するプリンセラの横に権座衛門が並び立ち、村長へ声をかける。
「自分の子供やなかったら、他人の子供を犠牲にしてでも生き延びる……そんな親の背中を見て育つ子供は捻くれるんちゃう? 少なくとも真っ正直な性格には育たんで?」
「それは……」
「あんたらこの40年、本気で毎日笑って過ごしたんかいな? 心から笑えたんかいな?」
 村長がふと周りの村人達を見回り、その誰もが目を逸らす。
 決断は決まっている、そしてそれをいう役目も……。
 村長はプリンセラに頭を下げ。
「頼む、雨神様の呪縛から、わしらを、この村を、解き放ってくれぃ」
 プリンセラがそれに頷き、権左衛門が大声で皆にそれを伝える。
「話はまとまったみたいですね」
 家内で水人形達が近寄ってこないよう戦っていたミコが言い。
「水気は苦手なんじゃがなぁ……それじゃあ、神様退治と行くかのぅ」
 にやりと紫髪も笑みを浮かべる。
 ちょうどその時だった、外の気配が僅かに変わり――。
 外まで押し返させれていた雨神様が、横合いから何かが強烈なスピードで2つぶつかり吹き飛んでいった。
 屋内から見ていると、玄関口の雨神様が急に横に消えた感じだ。
 そして入れ替わるように家の中へ駈け込んでくるのは2人の村人と穹とレッグ。
 そう、雨神様に突っ込んだのは2人の宇宙バイクだった。
「持って来たぞ」
「こっちもだ」
 村人2人が東の社から持って来た40年前の玩具を広げる。
 瞬間、雨音が急に静かになったかのように小雨に代わり、そして家の中に次々と水人形の子供達が入って来る。
 猟兵達はその水人形の子供達を、なぜか、攻撃する気が起きなかった……。
 そして猟兵達や村人の見る前で、家に入って来た水人形の子供が、広げられた玩具からお気に入りを持ち上げ、ぎゅっと抱きしめたり、それで遊んだりを始め……。
「あんた……まさか、三郎かい?」
「私の、私の赤ちゃん……!!」
 40年前に子供を攫われた人がたまたまいたのか、2人ほど大人の村人が玩具で遊ぶ水人形の子供と赤ちゃんに寄りそう。思わず危険だと止めそうになるも、漂う空気感から思わず手を止め――そしてそれは正しく、水人形の身体のままだが親に甘えるように子供と赤子が村人に懐く。
 それはまるで伝搬するように他の水人形の子供達にも伝わって、外の戦いでも水人形の子供達が次々に立ち尽くし、その場で戦闘を放棄し始める。
「成功……した、のか?」
 来る前に攻撃を食らったのか、ボロボロになりつつ倒れたままだった穹が顔を上げる。
 だが、その瞬間。
 ザザザザザーーーッ!
 外に振る雨が急激に強くなる。同時、立ち尽くしていた水人形の子供達が再び戦闘態勢に入り猟兵達へと襲い掛かって来る。家の中でも玩具で遊ぶ水人形の子供達は変わらずだが、それ以外の子供達は再び攻撃を開始し、乙来が慌てて破魔の力を与えた手裏剣を操り牽制、カーニンヒェンも太刀の峰にて攻撃してくる水人形を弾き飛ばす。
「どうやら子供達の支配権を雨の力で取り戻そうとしてるようだね……なら、僕が出来るのはたった1つだ」
 そう言ってジェフリエイルは蜜が謡っていた子守歌を歌い出す。
 そこに込めるは命の無事。
 そして水人形となったかつての村の子供達、またはここ以外で生贄になった子供達が再び、或いは初めて海に還ることを願う。
『やめ……て……邪魔……しないで……』
 玄関口まで戻って来た雨神様が頭を抑えるようジェフリエイルを非難する。
「お嬢さん、君に雨神とは別の名前はあるかい?」
『私……わたしは……シグ……レ……あああああああああっ!?』
 何かを追い払うように頭を抱え蹲る雨神様。
 ジェフリエイルの子守歌が再び響き、今後は雨神様でなく水人形の子供達が意識を取り戻していく。
 それはかつての村の子供達に始まり、そこから他の子へと伝搬していく。
「なあ神様とやら、新しく連れてかなくたっていいだろ。そろそろ皆を、ちゃんと放してやってくれ」
 穹と同じくボロボロのレッグが言うと同時、パシャンパシャンと水人形の子供達が次々に弾け、なにか淡い光が雨を降らす空へと、その雲より上へと登って行く。
「さ、三郎……」
「私の……」
 かつて紫呉村で連れ去れ、今再び出会えた子供達も、自身の親へと笑いかけ、そのまま光となって屋根の上へと消えて行った。

『させない……許さない……わたしの、私のトモダチを……返してよーーーっ!!!』
 村長の家の前、膝を付いたまま雨神様が絶叫する。
 同時、その身体から大量の水が吹き上がっていく、まるで、天に上った子供達を再び捕まえようとするかのように!
「蒼の瞬きはそよ風の如く、翠の囁きは霞の様に……Book of breeze」
 突如響き渡った声と共に、大量の水を防ぐ壁のように天に巨大な本が出現する。
 それは光を集約したサイキックエナジーの結晶、彩萌の魔本であった。
「傘代わりにって考えてたけど、この使い方は逆だったわ」
 どうやらクライマックスには間に合ったようね、と彩萌が言えば。
「貴女が人々の命を奪った事は赦されるものではない」
 雨神様の前には刀を抜いた夜彦が立っていた。
「命を捧げようとする村の人々の行為も貴女と同じ。命を奪った者は、責任を背負わなければならない……そしてそれは私も同じこと」
『何……を……』
「だからこそ、約束しよう。同じ悲しみを持つ者を作らない事を」
 納刀、集中、一閃。
 刹那の抜刀術≪静風≫が雨神様の胴を上下に分断する。
『嫌……嫌だよ……みんないかないで……戻って来て……』
 それでも身体が水で出来ているせいか、雨神様たる少女は上半身だけで天を仰ぐ。


 雨が小雨にかわった頃、信子は1人、祭りで使われていた櫓の上、その屋根の上へと登っていた。
 ずっと、ずっと集中していた。目を閉じたまま、この場所で。
 先ほどやっと雨が小雨にかわり、チャンスだと何かが自分へ知らせる。
 ゆっくり、両手でハンドガンを握り空へと狙いを定める。
 イメージするは悪夢と雨雲を吹き飛ばす力。
 青空と陽光の力。
 込めるは決意。
 そして――。
 ゆっくりと目を開ける。
 信子の瞳が蒼く輝き、その輝きが闇夜を斬り裂く。
「お願い……力を貸して……」
 今ここにない姉が自分に重なるよう手を添えてくれた感触を感じ。

 バンッ。

 引き金を引き、瞬後――。
 天に昇る1発の弾丸にどこからか蛟たるが螺旋を描くよう寄り添い……そして。


 天に竜が昇った時、周囲の雲を吹き飛ばしたかのように、円が広がるように雨雲が吹き飛び空は青い色を取り戻す。
『いったい……何が……どうして……』
 呆然と空を眺めるのも数瞬、雨神様は最後の力を振り絞り再び自身から大量の水を噴出させる、今度は子供達を引き戻す為ではない、再び空へと届き雨雲を再生させる為の力だ。
 だが――。
「もうやめろ――」

 ピッキンッ!!!

 真の声と共に空へ届く前に水柱が氷へと変わる。
 それは真の≪絶対零度の爆轟(アイス・レイド)≫の効果を応用したものだった。
「生贄を攫って水害を見逃す代わりに、村人には生贄を用意させる。村人は罪悪感に駆られて閉鎖的になり、お前は長い間定期的に生贄に――友達を得る事ができる。こんな誰も彼もを悪しくするシステムをよく考えたモノだ。これを無力の民に押し付けたオマエには相応の処罰が必要だ」
 真が手を振ると同時、空中に出来上がった氷の柱が爆音と共に砕けちり、キラキラと氷のカケラを雪のように降らす。
『あ……あああ……!?』
 這って逃げようする雨神様の両手が、バクリと2匹の蛟によって押さえつけられる。
 それなら! と思い分離させられた下半身を見れば、いつのまにか炎に包まれ燃えていた。
「……この地に神様は本当にいたのかな。もしかしてキミは、一番最初に犠牲になった子じゃないの?」
「だとしたら、彼女を責める権利は僕らにはない。村人達を責める権利も」
 迅と類が少し悲しそうに呟く。やっと山から村に到着したと思えば、まさかこんな事になっているとは……。
「権利なんかなくたって関係ないさ。相手が子供だから如何した、寂しくて人を引き寄せたから如何した、この子はオブリビオンで、人を殺しまくって、放っておけばまだまだ殺そうとするだろう……だから、アタシは許さない」
 大地から引きはがすように地面すれすれのアッパーで雨神様を殴り飛ばす霞ノ衣。
 武器を使わず素手で行われたその一撃で、再び大地に仰向けに倒れるオブリビオン。
 その瞳に移るのは雨雲の無い晴れ渡った空。
『そうだ……私は……』
 見つめる青空に黒い点が浮かび、それが少しずつ近づいてくる。
 それは垂直上昇したユーイだった。
 誰かがやらねばならない、なら、それをやれるのは正義と信じ、騎士としての道を行く自分の務めだ。

 ドンッ!!!

 ≪彗星の重力加速度(コメットストライク)≫!
 急降下による突撃で、雨神様たる少女は霧散し、消滅した。
「正義の鉄槌……です」
 その言葉を絞り出すユーイの声は、どこか……。


 夜が明け、村の惨状を確認すると眠ったままだった他の村人達や、外で眠り雨で起きた村人――ほぼ全員が慌てて家に逃げ込んだ人達への被害は無かった。
 だが、眠っていた中には40年前に被害にあった人達も多く、夜の出来事を聞き、その大人達は子供が好きだった玩具を抱きしめ泣き崩れるのだった……。
 そして、守り切った子供達を抱きしめ安堵する親たちと、ばつが悪そうに蜜のことをチラ見する村人達。
 事情を聴く為、村の広場に集められたそんな村人達の前に、霞ノ衣が弟分を押し出す。
「あ、姐さん!?」
「言いたい事、あるんだろう。ただし、こいつ等は生きて罪を償わなきゃならない、そこんとこは解ってるね?」
「当たり前でっすよ」
 いつもなやり取りをしつつ、ザッと前に出た湊偲に、村人達が注目する。
「あの……俺、あんまりこういうの得意じゃないっすけど……その、雨って恵みの雨とも言うでしょう? 時には人を苦しめる時もあるけれど、雨は恵みを齎してくれるんです」
 とつとつと懸命に話す湊偲。
「だから、その……苦しみしか齎さない神様は、神様なんかじゃないんだって……だから、こんな悲しい事、人身御供なんて仕来たりは、もうこれを最後に、終わらせて欲しい」
 湊偲の言葉は村人の誰の胸にも深く突き刺さる。
 誰だってこれが正しいとは思っていなかったのだ。
 だが、それを止める事も、止めようと言える者もいなかった。
 そうして何年、何十年、目を背けたまま時間だけが過ぎて行ったのだ。
「犠牲にされる方にしてみればたまったもんじゃないだろうけど……まあ、他人よりも身内が大切、というのは当たり前の考え方なんだろうし、これ以上あんた達を責めはしないよ」
 押し黙る村人達を見て穹が言う。
 それ以上、村人達に声をかける猟兵はいなかった。
「(村の人だっていっぱい悩んでいっぱい考えて、それでもその手段しかなかったんですよね……)」
 村人達に背を向け去って行く霞ノ衣たちに交じり、ミコはまだ俯く村人達を振り向き見つめる。
 誰が悪かったのか、それとも、誰も悪くなかったのか。
 その答えは、誰にも出す事ができなかった……。


 村で戦ったこともあり大雨に見舞われた紫呉村の農作物はほぼほぼ駄目になっていた。
 唯一残っていたのはレッグが事前にドリル等で側溝を掘り、なんとか守った紫草の畑の一部だけだ。
 山の方も診て回った迅の報告によれば、そちらも土に含まれる水が多かったのか、紫草は1本も生えていなかったという。
 そして、そんな村人達へとプリンセラが話し出す。
「みなさん、この村を捨てましょう。故郷を捨てなければならない辛さはわかります。でも、先ほど言った通り紫草の一部は残っています。とはいえこの村での栽培はもう難しいでしょう。そうなれば、別の場所へ移住し、紫草を育てるしかないと思います」
 プリンセラの提案に、集められた村人全員がざわざわする。
「幸い紫草は雨以外には強い。ならば西の開拓地でも栽培は可能だと思います。天候もそちらのほうが安定するはずですし、今は――少なくとも今年は年貢の徴収もない。移住の際の護衛なども私達が引き受けますし、この藩の藩主様もすでに了承済みです」
 プリンセラの言葉には一部未確認の部分もあるが、たぶんそれが却下される事は無いだろうとの自信もある。
 故に今は村人達を不安がらせないよう断言する必要があるのだ。
「せや、プリンセラはんの言う通りこの土地に固執することなく故郷を捨てる覚悟があるんなら、こんな場所棄ててしまえばええ。移住するとなると不安もよーけある、食い扶持や仕事も不安かもしれへんけどそんなもんは死ぬ気になればなんとでもなるわ」
 プリンセラの肩に手を置き、権座衛門が笑いながら村人達を励ます。一緒にいるヴィクトリアもにこりと微笑み村人達を安心させる。
 そうして移住の方向でまとまって行く中、プリンセラの脳内会議である言葉を言うように、と……。
 プリンセラが少しだけ不承不承、もちろんすぐに毅然とした顔で言うのだが。
「1つ言い忘れてましたが……ここにいれば生贄にされた子や、雨神様たるあの娘が再び化けて出るかもしれませんよ?」
 そして紫呉村の村人達は、この地を捨て新たな場所で新しく生きて行く事を決めたのだった。
「どうやら話はまとまったようですね」
 そこにやって来るはカーニンヒェンと乙来、村長宅に集められた村人達にとっては最初から最後までずっと自分達を守ってくれた誰より信頼できる2人だ。もちろん、村長にとっても。
「一つだけ、言ってもいいかな?」
 その為に連れて来た、というようにカーニンヒェンが道を開け、乙来が村人達に向かって言う。
「僕は昔、一方的に神と崇められていてね……あの姿を見た人なら納得してくれると思うけど」
 含め、昨夜守った村人達がごくりと唾をのみ込む。
「でも、いつの日かやる事全てを神に委ねる人々に嫌気が差した……人はそれが居なくたって生きていけるのにね」
 乙来はそこで一度言葉を切り、間を置いて再び話し出す。
「僕は停滞をする者が嫌いだ。神と呼ばれ与えられた餌を貪る者も、神と思い込んで抗う事を諦める者も。でも、変わろうとする者は好きだ。だから……君達は、そうであって欲しい」
 乙来に会釈する村人達に背を向け去って行く乙来に、途中で合流したユーイが言う。
「大丈夫だと思います。全てのモノゴトに優先順位をつけて、何かを守るために、何かを犠牲にする、取捨選択の繰り返し……それが生きていくということですから。きっとあの人達は、もう……」


 山に流れる小川の源流、大きな一枚岩の上に簡易的な祠が作られていた。
「あの子が最初の子だったとして……僕はあの子に伝えたい、キミが犠牲となりつないだ命は、あの村の子達はこれからも生きて行く事になったよ、と」
 ジェフリエイルがそう言い祠に花を添え。「そうね」と短く言い彩萌も同じく花を添える。
 そんな花の中、1つの折り紙がソッと置かれる。
 それは信子の作ったお守りだ。
「子供達の未来の為に……」
「彼女等の安らかな眠りを願おう」
 手を合わせていた夜彦がそう言い目を開ける。
 空は昨日の土砂降りが嘘のように晴れ続けている。
 夜彦があの時、彼女がやったように空へ手を伸ばし呟く。
「雨は、やがて止むのだから」


 蜜の処遇はとりあえずこの地の代官に任せるという事になった。少なくとも紫呉村の村人達と一緒に移住させる案は不安が残るのでありえなく、またこの地の代官は悪くない人らしいので天下自在符を持つ猟兵達からの相談なら無碍にはしないだろう、との結論だった。
「行っちゃうの?」
 猟兵達を見つめて言う蜜、その表情も声も全力で寂しさを物語っていた。
「悪いな、これがオレ達の仕事なんだ……」
 真の言葉にしゅんとうつむく蜜。
 そんな蜜の手を取りその手の上にチョコンと小瓶が乗せられる。
 見上げれば紫髪だった。
「蜜、お主の名はわしが好きな蜂蜜から取ったのじゃ。蜂蜜とはこれの事じゃ、餞別代りに蜜にやろう」
 ぎゅっと蜂蜜の小瓶を握りしめる蜜に、紫髪はしゃがんで視線を焦ると。
「無くなったら手紙を出すがよい、ちゃんと届けてあげるからのぅ」
「本当!?」
「うむ」
 ギュッと抱き付いてくる蜜の頭を撫でてやり、ゆっくりと離す。
 だが、蜜の表情は晴れない。
 寂しさ以外にも不安があるのだろうと類が察し、同じように視線を合わせ。
「誰かの為に君が行かないと、と教わったんだね。そしてそれ以外の生き方を君は知らず不安に思っている」
 類の言葉にコクリと頷く蜜。
 そんな蜜に類は微笑み。
「でもね……僕は世界を見て笑った君と友達になりたい。初めてを知って欲しい、何方も、を探すから、生きたいと願って良いんだ。僕と……友達になってくれるかい?」
 それは生きる目標だった。
「うん♪ 友達になりたい! 私、世界を見るよ! 始めてを知るよ! いっぱいいっぱい探すから! だから、その時は」
「ああ、友達になろう」
 笑い合う類と蜜、そんな蜜の頭に手を乗せ真が言う。
「オレは昨日、キミをセミに例えたが……それは訂正する」
 真の事を見上げてくる蜜を見つめ返し。
「人は何にだってなれる。これからキミが何になるかはキミが決めろ。そしていつか、オレ達に教えてくれ」
 その言葉に、蜜は満面の笑みで元気よく「うん」と頷くのであった……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年05月24日


挿絵イラスト