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バトルオブフラワーズ⑧〜それは艶めくショコラのように

#キマイラフューチャー #戦争 #バトルオブフラワーズ

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●コーティング
 キマイラフューチャーの街並みを模したステージで、一頭の犬が転がっている。
 それは、散歩中に気分が上がった飼い犬が地面に体を擦り付ける様に似ているが――実際はそんな微笑ましい動作とは、程遠いものだった。
 犬が転がった地点が、まるでチョコレートにコーティングされたかのように、黒く塗り潰されているのだ。
 背の高い建物には飛びかかり、尻尾を叩きつけて、それでも届かないなら黒い地面を引っ掻いて黒い飛沫をひっかける。

「わっふ」

 そうして完成するのは、ビターチョコの精巧な細工じみた黒い街並み。
 かすかに甘い香りのする街の真ん中に座り込み、オブリビオン『チョコットキング』は満足そうな鳴き声を上げた。

●色彩豊かに
「惑星がまっぷたつになるなんてすごいわ! キマイラフューチャーって、本当に楽しいところなのね!」

 オリヴィエ・ベルジェ(飛び跳ねる橄欖・f05788)が、心底から楽しげにグリモアをかざしている。投影されたキマイラフューチャーの現状を見て、色々とテンションがあがっているのだろう。
 が、集まった猟兵達の視線を感じたらしく、慌てて投影していた画像を切り替えて、猟兵の方へと向き直った。
「え、ええと。集まってくれてありがとう、みんな。色々な説明は資料を見てもらうこととして……今回はメンテナンスルートの一つに向かってほしいの」
 猟兵たちが向かうのは、開かれたメンテナンスルートの一つ――『ザ・ペイントステージ』と呼ばれる場所だ。
 キマイラフューチャーの街並みを模して作成されたステージなのだが、奇妙なことに床や壁が闇のような黒色に染まっているという。
「このステージには特殊なルールが設定してあって、この黒い部分ではユーベルコードが使えなくなっちゃうみたいなの」
 オリヴィエが資料を広げつつ説明したのは、『ヌリツブシバトル』と名付けられた法則だ。
 黒い領域はオブリビオンの領域。その範囲では、猟兵は如何なる手段でもオブリビオンにダメージを与えることができず、一方的に攻撃を受けてしまうらしい。
 オブリビオン優位で厄介極まりないルールだが、当然対抗策もある。猟兵の『色』で、黒い領域を塗り潰してやるのだ。
「地面や壁とか、黒い部分めがけてユーベルコードを使ったり、武器で攻撃すれば、みんなの好きな色で塗り替えることができるわ。どんどん塗っていってね!」
 いわば、少し変わった陣取り合戦と言えよう。色も猟兵が望んだ色が現れるので、好みの色で戦場を彩ってやるのだ。

 無事に一定以上の範囲を塗りつぶす事に成功すると、一度だけ、本来のユーベルコードでオブリビオンを攻撃する事が可能になる。
 この時あえて攻撃せず、ユーベルコードを用いてより広範囲を一気に塗りつぶす『スーパー塗りつぶし攻撃』を選択することもできる。つまり、味方の攻撃可能な範囲を増やす支援だ。
 というのも、戦場の3分の2以上を猟兵達の色で埋め尽くせば、本来のユーベルコードによる攻撃を無制限に使えるようになる。そうすれば一気に決着をつける事だって夢ではない。
 だが、オブリビオンも当然抵抗してくる。黒い部分が減っていると分かったら、攻撃がてら色を塗り替えそうとしてくるし、そうでなくても色塗りの妨害をしてくる可能性だってある。。
 その上でどんな戦法を取り、立ち回るか――それは猟兵達の自由だ。

「それじゃあ、ちょっと大変かもしれないけど……頑張ってね! いってらっしゃい!」
 元気よく手を振り、オリヴィエは猟兵達を送り出した。


すずのほし
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 こんにちは、すずのほしです。
 初めての戦争シナリオですが、よろしくお願いします。

 ●

 OPにも記載がある通り、シナリオ開始直後では敵に一切ダメージを与えられない状態です。
 その状況を打破するために、様々なUCや武器で地面や壁を攻撃して、猟兵の色でステージを染めていってください。
 その後に、オブリビオンへの攻撃か、広範囲を塗りつぶす『スーパー塗りつぶし攻撃』が可能となります。

 ※色はプレイングで指定いただければ、その色で塗らせていただきます。指定がない場合は髪色か瞳の色のどちらか、すずのほしの独断で描写します。
 ※「黒」色はオブリビオンの色なので、それ以外の色でお願いします。

 その他の戦争のルールなどは、専用のページをご確認ください。
 それでは皆様のご参加、お待ちしております。
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第1章 ボス戦 『チョコットキング』

POW   :    チョコレートテイルズ
【甘味への欲求 】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【巨大な溶けかけのチョコレートの尻尾】から、高命中力の【滑らかトリフチョコ】を飛ばす。
SPD   :    蕩けるチョコボディー
【チョコットキング 】に覚醒して【熱々のチョコボディー】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    超硬化チョコボディー
【 超硬化したチョコボディー】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。

イラスト:笹にゃ うらら

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠柊・弥生です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

指矩・在真
ひゃー、こう黒で塗り潰されちゃうと……なんかばっちぃ……
どうせならもっときれいな色を使ってよー……

まぁ、このまま放置してたら危ないって話だし!
ボクは青で塗り潰ししていくよ
チョコットキングから距離があって黒く塗られているところを優先的に『早業』『範囲攻撃』『属性攻撃』で電撃攻撃しちゃおう
やられる前にやればいいって何かで読んだよ!

もしスーパー塗り潰し攻撃が出来そうなら【エレクトロレギオン】でどーんっといこう!
部隊をいくつかに分けて離れたところを塗り潰せたら反撃リスクも少なそう

『目立たない』ように動きたいけど、攻撃されそうになったら『見切り』で回避しながら『ダッシュ』で逃げる!

絡みアドリブ等大歓迎


筒石・トオル
色はオレンジで。
最初の内は武器でも塗りつぶせるっぽいんで、熱線銃で塗りつぶしていくよ。
【早業】【2回攻撃】【範囲攻撃】で兎に角たくさんの範囲を塗りつぶす。

後半ではUC【極楽鳥花嵐】で『スーパー塗りつぶし攻撃』をする。
オレンジ色にしたのはこの花をイメージしてのもの。
花弁が舞うように一気に塗りつぶせたら楽しいだろうな。


ラヴ・フェイタリティ
【アドリブ絡み歓迎】
本職のラヴ様にヌリツブシバトルを挑むたぁふてぇ野郎だ。故郷の隠れタウンで鍛えたゴッドペインターの腕前、見せてやらァ!
ユーベルコード発動、【プチラヴカンパニー】!こいつらはラヴ様のプチコピーであり、同じ装備を持っている!ヌリツブシバトルは相手より多くの領域を奪うことが肝心、つまり必要なのは一点への攻撃力ではなくより浅く広い攻撃!手数を増やせるこいつはまさにうってつけだぜ!とはいえ増やすのに時間がかかるんだけどな…。隠れてひたすら絵を描いてるぜ。
敵が襲い掛かってきた?やれ!プチラヴども!かみ殺される前に自爆しろ!自分から巻き込まれに来るなら世話ねぇなオブ公!



 そのペイントステージは、見事なまでに漆黒に塗り潰されていた。
 街を埋め尽くす黒が光沢を放っていて、ほんのりと甘い香りが漂うのは、この区画を担当する『チョコットキング』の趣味に他ならない。
 精巧なチョコレート細工じみた街並み。背の高い建物の上に転送された猟兵達は、広い道路で思う存分転がり、一匹だけで気ままに遊んでいる白い犬を見下ろしていた。
 
「ひゃー……本当に全部真っ黒だ……」
 げんなりとした声で犬を、そして街を眺めているのは指矩・在真(クリエイトボーイ・f13191)だ。あらゆる場所が黒一色で塗りたくられた惨状に、何の面白さも感じられないのだろう。
 指矩の興味を刺激するほのかな甘い香りも、汚らしさすら抱いてしまう漆黒の前には、どことなく嘘くさく感じられた。これが本物のチョコレートなら指矩も別の方面でやる気を出したものだが、あくまでもチョコレートらしい香りを放っているだけの、正体不明な黒い塗料だ。見せかけの甘味に用はない。
 そもそもの話、どうせ塗るならもっと綺麗な色を使ってほしい。何事も、特に食事は彩りがあってこそ素敵だと思えるのに。そう不満を露わにする隣で、ラヴ・フェイタリティ(怪奇!地下世界の落ちものメインヒロイン!・f17338)は強く頷く。
「ああそうさ、こんな節操なく塗っちまって……浪漫もへったくれもねえってやつだ」
 黒一色で塗られた世界など、ゴッドペインターとして――それ以上にラヴの感性として認められるようなものではない。せっかく街並みを再現した巨大な"カンヴァス"があるというのに、なんて勿体無い事をしているのだろうか。
「第一、本職のラヴ様にヌリツブシバトルを挑むたぁふてぇ野郎だ。お前もそう思うだろ?」
 そんな風いきなり話題を振られて、少し離れた場所で街を見ていた筒石・トオル(多重人格者のマジックナイト・f04677)の肩が大きく跳ねた。
 いきなり話しかけてきて、何か裏があるのでは。底知れない意図があるのでは。そんな疑いと緊張の籠もった眼差しがラヴを捉え、そして泳ぐ。黙ったままなのは恐らく良くないが、初対面の者相手にどう答えればいいのか分からないといった様子だ。
「……いや、よく分からないよ」
 数秒の逡巡の後、一定の距離を保ったまま、目をそらして返す筒石。人見知りの激しい猫を思わせる態度と仕草だが、ラヴはさして気にした風もなく、金槌が取り付けられた絵筆を取り出して、振り回した。
「ま、とにかくだ。本物のヌリツブシバトルってやつ、オブ公に見せてやろうぜ!」

 
 ●
 
「このあたりに、チョコットキングはいないー……かな?」
 飛び込んだステージの中、きょろきょろと辺りを見渡して安全を確認してから、指矩は黒い壁へと小さな手をかざす。
 掌に生み出されたのは、球状の蒼白の雷。ただの球体だった塊は指矩の手の先で光の網へと姿を変えて、稲光と共に放たれた。
 攻撃やユーベルコードがヌリツブシとして判定されるステージで、彼が塗り潰しの手段として取ったのは、最も得意とする雷の魔法による範囲攻撃だ。
「(こういうのって、やられる前にやればいいんだよね!)」
 目が眩む閃光が周囲一体を焼いても、電子の魔術師は止まらない。黒を見つけた先へ手を伸ばして雷を放ちつつ、黒く艶めく街へと繰り出していく。
 雷の網で広範囲を覆い、黒い街を雷と同じ青へ塗り潰す。塗り漏らしを見たなら、即座に"網"を束ねて"糸"に変えて、狙い澄ました雷撃をそこへと見舞う。足元の黒い床はステップを踏み、靴裏に魔術を発動させて青に塗り替える。
 自分にしか聞こえない音楽を楽しむように、軽やかな足取りで漆黒の平面に青空を生み出していく。
 そんな風に色塗りを繰り返せば、十分足らずで指矩の周りは青地に黒い塗り残しが所々に交じる空間と化していた。これだけ塗ればいいだろう。そう思ってユーベルコードの用意をしようとした指矩の耳に、靴とは違う硬い物体が床を叩く音が届く。
「もういい感じかなって思ったんだけどなー」
 発生源の方を向けば、もったりとした毛並みを逆立てて、あまり怖くない顔つきでこちらを睨みつけているオブリビオンと目があってしまった。
 だが、こちらも迎撃の用意はできている。色の塗り具合は十分だ。ユーベルコードは一回だけだが、通常通りの効力を発揮することだろう。
 指矩が取った行動は――。
「それいけ、僕の兵器たち! 手分けしてやるよー!」
 大量の小型兵器を召喚して、オブリビオンへ向かっていくことだった。
 それを敵対行為と受け取ったチョコットキングの体が硬質化して、真正面から指矩の軍全を迎え撃たんと前足が振り下ろされる。
 単純だが、速度と膂力が乗った強烈な攻だ。
「よいしょーっと!」
 そんな重い前足の一撃を間一髪で避けて、チョコットキングの脇をすり抜ける。ただ抜けるだけではなく、自分が先ほどまでいた場所に機械兵器の小隊を残して。迎撃用のビットを展開する機械兵器が叩き壊されても、指矩の足と周辺の黒い地形に攻撃を仕掛ける機械兵は止まらない。
 最初からオブリビオンとやり合うつもりなどない。まずは戦うための基盤をしっかりと作るところからだ。
「それじゃあ、あとはよろしくね!」
 撹乱としてビットを飛び交わせる機械兵と、すばやく飛び回るビットを執拗に叩き潰そうと暴れるオブリビオンへと爽やかに告げて、電脳魔術師はその場を離れる。
 チョコットキングへの囮として残ってもらいながら色を塗る部隊、別の場所に向かわせる部隊。それとは別に、自分と行動を共にする十数体の機械兵を引き連れて、黒い世界に青を振りまくべく、指矩は次なる区画を目指して走っていった。
 
 ●
 街へ降り立ったラヴが真っ先に行ったのは、黒い地面に思うままの色を乗せる事でも、壁に色鮮やかな飛沫を飛ばすことでもなく、重たい筆で地面に絵を書くことだった。。
「いくぞプチラヴども、仕事の時間だオラァ!!」
『ハーイヨロコンデ!』
 ラヴの振るう絵筆が最後の線を書き終えると同時に、ラヴ本人を小さくデフォルメした外見の生物が飛び出してくる。【プチラヴカンパニー】で召喚されたコピー体だ。
 このバトルで大事なのは、相手より多くの領域を奪うこと。故に求められるのは、特定の狭い範囲に叩き込まれる火力や一点だけを狙う高精度の命中力ではない。
「(欲しいのは――より浅く、広い攻撃。手数を増やせるこいつは、まさにこの状況にうってつけってやつだ!)」
 自身と同じ金槌付き絵筆を持つコピーに命じて、街を塗り潰させる。ヌリツブシバトルは数が勝負なのだ。
 これで増やすのが楽なら言うことはないのだが。裏道に入り込んで身を隠し、ラヴはひたすら手を動かしてコピーを次々と生み出していく。街を彩るのはプチラブコピーの役目だ。
「っと、おいでなすったな?」
 かちゃり、と。靴でも杖でもない、軽くて硬いものが地面を叩く音に、ラヴは体を起こして向き直る。
 ラブが隠れていた裏道に入り込んできたチョコットキングが、甘ったるいチョコレートの香りと殺意を漂わせてゴッドペインターを睨みつけている。何だか機嫌が悪そうに見えるのは、つい先程まで散々指矩の機械兵器に翻弄され続けていたせいなのだが、ラヴが知ったことではないし、もし知ったとしても「だからどうした」レベルの話である。
 それ以上に稀代の隠れゴッドペインターが気になるのは、塗ったばかりの赤茶色の地面に、肉球型の黒い跡がついていることだ。もったいねえ事しやがる。ラヴの口がへの字に曲がった。
 だが、思うことは相手も同じだろう。せっかくの黒い街並みを崩す猟兵に、チョコットキングは牙を剥きながらにじり寄る。それなりにおっかない様相になったオブリビオンと相対して、ラブは慌てて逃げるどころか、余裕の笑みを浮かべていた。
「はっはー! このラヴ様」
『ヒャッハー!』『スッゾコラー!』『サンズノカワ渡るぞテメー!』
 主人の命令を受けて、数体のプチラブが果敢にチョコットキングへ向かっていく。何やら不思議な叫び声をあげているが、そういった性質のユーベルコードなのだ。
 駆け寄ってくるコピー体。それらを真っ白な腹で押し潰そうと飛び掛かったチョコットキングの体が、僅かに浮かんでから大地に伏せる。
「ダメージは通らなくっても脅かしにはなるだろ? 自分から巻き込まれに来るなら世話ねぇな!」
 地面に寝そべったチョコットキングの腹の下には、何もいない。正確には、潰される寸前に自爆させられたのだ。ついでとばかりに、コピーが持っていた塗料が衝撃で撒き散らされて、オブリビオンの白い毛……じみたホワイトチョコのボディに、カラフルなマーブル模様をプレゼントしていく。
 もちろん周辺にもマーブルな飛沫が飛び散らせて、黒の領域を減らす事も忘れない。態勢を整えるチョコットキングにコピーをけしかけて、ラヴ本人は戦闘に巻き込まれないように、路地へするりと入り込む。
「あとでじっくり遊んでやるからな! あばよオブ公!」
 自前の絵筆を黒い壁に押し付けて、自身の瞳と同じぶどう色の軌跡を残しながら、ラヴは高笑いを上げて戦場から離れていった。
 
 ●
 
「……そろそろ頃合いかな」
 己を取り囲む色彩を見渡して、筒石はブラスターを放つ手を止める。初対面だった他の猟兵からあえて離れて、ステージの範囲ギリギリの場所からじわじわと攻めていった筒石の仕事ぶりは、なかなかのものだった。
 オブリビオンの領域たる黒と、筒石が塗ったオレンジのコントラスト。ブラスターで撃ち出された熱線が様々な場所で弾けて、黒一色の地上に陽が差したような、そんな感想すら抱かせてしまう明るい世界が広がっている。
 それなりの範囲が筒石の橙で染まっているが、周辺にオブリビオンの気配はない。というより、獣の咆哮だとか、よく分からない叫びと爆発音が遠くの方から聞こえていて、ついでに青い雷がビルの間から垣間見える。
「あれ全部、さっきの猟兵さんたち……なのかな?」
 だとしたら、見た目通りにとても元気のいい人々なのだろう。自分には色々と真似できそうにない。
 ともあれ、オブリビオンはあの賑やかな方面の対応で大変忙しいようだ。筒石もそれなりに音を発している自覚はあるが、あれらと比べるとまだ静かな方だと言える。故にオブリビオンの方も、まさかここでひっそりと、自分の領域を潰している者がいるなど思っていないだろう。
 そのオブリビオンが来そうにない、今が好機。視界の先に広がる黒い世界を見つめて、ここまでずっと色を塗り続けていた愛銃を掲げる。ほんの暫くの間だが、別れの時だ。
「――遥かな眠りの旅へ誘え」
 唱え終わると同時に、手にした銃が無数の鳥に姿を変えて、飛び立った。
 否、飛び立つのは鳥ではない。空に羽ばたいたのは、極楽鳥花の異名を持つストレリチアの花だ。【極楽鳥花嵐】で変じた武器が鮮やかな橙の花弁として一斉に飛翔し、筒石の周囲へと散っていく。
 舞い飛ぶ花が行き着くのは、未だ残り続ける黒い領域。無辺の闇に輝きを添えるべく、花々は漆黒へ吸い込まれた。ただ吸い込まれて消えるのではなく、黒い領域をオレンジに塗り替える。
 視界の先に広がる黒にも極楽鳥花は飛んでいき、そこも南国を連想させる明るい橙色へと染め上げていった。
 リゾート地に相応しい色合いの鳥が飛び交う、陽気な雰囲気の大地。その光景に、今まで引き結ばれていた筒石の口元が、ふ、と緩む。
「うん。……思った通りだったね」
 視界を埋め尽くす花嵐のように、この黒い部分を花に埋めて一気に塗り潰せたなら、どんなに楽しいだろう。
 自分の考えていた通りの結果を見て、自分に与えられた役目を果たせた事への安堵を交えた、満足げな息を吐いた。
 が、すぐに気持ちを引き締めて、手元で再び銃を形作る花を握り締める。まだ黒い部分は残っているのだから、ここで止まっていい理由はない。己のやるべき事を心の中で呟いて、少年は黒の中へ飛び込んでいった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

オルト・クロフォード
【色:エメラルドグリーン】

……ようやく状況を飲み込めたゾ。いやホントに思考回路がフリーズしたからナ……世界が割れるとハ……凄いというよりそノ、驚きだゾ……

さテ、ユーベルコードや武器で塗りつぶしていくのカ……それでは【フリージング・ロングハンドソーズ】を建物や床に満遍なく放つカ。
オブリビオンが抵抗して動こうとしたら、その周りにも剣を突き立て行動範囲を狭めることを試みるゾ。

攻撃可能になったら同ユーベルコードで攻撃ダ。敵を【串刺し】にして動きを封じるゾ。
世界の危機という非常事態でなければ和めたかもしれないガ……心を鬼にしテ、ダ。その動キ、封じさせてもらウ。氷の刃でその熱も冷めるだろウ。


レパル・リオン
熱々のチョコボディー!?
おいしそう!!!
おっと、ここはフードバトルステージじゃなかったわね…

とにかく地面を踏みつけながらダッシュ!何となく壁に向かってジャンプ!そして衝撃波が出るくらいの勢いでパンチ!その勢いで塗りまくっていくわ!色はあたしのイメージカラー!そう、太陽のようなオレンジよ!

よーっし!だいぶ塗れたわね!それじゃ、おまちかね…
いっただっきまーーす!!(ガチキマイラ発動、かなりどデカい獅子の頭でチョコットキングにかぶりつく)


水瀬・和奏
判定:POW

まずはペイント弾を充填した武器を大量に準備してフルバースト・マキシマム
【一斉発射】による【範囲攻撃】で一気に大量の面積を塗り潰します
塗り潰した場所には、敵が色を塗り直しに来たら起爆するよう塗料を詰めた地雷を置いて【時間稼ぎ】
なるべく塗り替えされる面積を減らすようにします

攻撃が通るようになったらガンラック・ガールで直接攻撃
チャンスはそう多くないでしょうから、命中重視で攻撃しつつ
【一斉射撃】で確実に仕留めます

チョコ攻撃は【気合い】で我慢します…!
…終わったら買いに行きましょう、ええ



 自爆音やら何やらの音が響き、鮮烈な雷光と極楽鳥花の飛び交うステージに、三人の猟兵が潜んでいた。
 
「あのオブリビオンって熱々のチョコボディーなんだよね!? あああ、おいしそう~!」
 レパル・リオン(魔法猟兵イェーガー・レパル・f15574)の視界には、遠くのカラフルな地面の上で転がる白い塊。ふわふわの毛に見せかけた、真っ白いチョコットキングの興味津々だ。両頬に手を当てて、熱っぽい視線を送る。意識せずとも尻尾がぶんぶんと動き回り、それが彼女の期待の高さと高揚を伺わせていた。
 だが、ここはペイントステージ。たとえ美味しそうなものがあっても、食には一切関係がないのだ。いけないいけない、とレパルはぷるぷると首を振る。
「わかる気がします。なんだかお腹がすきますね、このステージ」
 気を取り直しているレパルに、水瀬・和奏(重装型戦闘人形・f06753)が困り笑顔を浮かべて同意を示した。体を機械兵のものに改造されていても、彼女はまだ17歳。学校の帰り道に立ち寄ったカフェで、人気のケーキを頬張る姿が似合うお年頃だ。
 せめて、ステージ全体に漂う――幾らか薄れた甘い香りさえなければ、そこまで心揺れることもないというのに。後で買いに行こうか、どうしようか。そんな事を考える水瀬を現実に引き戻したのは、カラフルな工芸菓子めいた街並みを見つめて微動だにしない青年に、レパルが呼びかけた声だった。
「ところでオルトちゃん大丈夫? かちんかちんになってるよ?」
「あ、ああ……ようやく状況が飲み込めたところダ」
 袖を引かれたオルト・クロフォード(クロックワーク・オートマトン・f01477)がぎこちなく頷く。実はキマイラフューチャーに起こった事態への驚愕で、心と頭がうまく追いついていなかったのだ。猟兵として様々な世界に赴いてきたが、自ら真っ二つになる世界は未経験である。
「まさか世界が割れるとハ……二人ハ、驚かないのカ?」
「まあキマイラフューチャーだからね!」
「私も驚きましたが……キマイラフューチャーですしね」
 片や見上げて、片や見下ろして互いに顔を合わせて頷き合う少女二人に、オルトの思考回路の動きが再び鈍くなった。何故彼女らは『世界が割れる』という異常事態に、割とすんなり適応しているのだろう。自分が融通きかないだけなのか、猟兵にとっては些細な事なのか、それとも彼女らの言うように『世界が割れても、キマイラフューチャーでは当たり前』だったりするのか。
「(いヤ、いけなイ。これ以上考えてはいけないものだナ、これハ)」
 自分の思索が熱を帯び始めた事に気づき、オルトは無理やり思考を打ち切った。少なくともすぐ答えが出そうなものではないし、この問題はあまり深く考えてしまうと、当分自分が再起動できなくなってしまう気がする。
 今はフリーズしている暇などない、ヌリツブシバトルに勝利してオブリビオンを倒さなければいけないのだ。
「……さテ、私達も行こウ。キマイラフューチャーニ、一刻も早い平和ヲ」
 己に言い聞かせるように呟いたオルトは、時計の短針を模したナイフを取り出して、未だ黒い部分が残り続けるへと飛び出していった。
 
 ●
 
「では、ここ一帯の制圧と行きましょうか」
 黒一色の世界を前に、水瀬は大量の武器を展開する。普段弾を装填している銃器ではなく、染色用のペイント弾を装填したものだ。まだ一点集中の火力は必要ではない。ならば行うのは、広範囲に塗料を撒き散らせる非殺傷の弾だ。
 一呼吸置いて行われるのは、【フルバースト・マキシマム】による全武装の一斉掃射。水瀬が用意した様々なペイント弾が弾速で放たれて、壁や地面に大輪の花を咲かせていく。
 吹き荒れるペイント弾の嵐の中、桃色の影が橙の軌跡を残して走り抜けた。
「和奏ちゃんすごいすごい、あたしも負けないんだからね!」
 桃色の影――レパルが銃撃に負けない程の大きな声で宣言しつつ、飛びついた壁を殴りつける。周囲をオレンジに染め上げる衝撃波を生み出して、その勢いでペイント弾の射線から退いて再び跳躍。大地を力強く踏んで色を塗っていった。
 見方によっては、ふかふかしたピンクの塊が縦横無尽にじゃれついている風にも見えるが、彼女が行く手に見える壁を殴って大地を蹴るたびに、『じゃれている』では済まない震動と音が響き渡る
 そんな風に空へ踊る少女の間を縫って、色のない透明な剣がステージに降り注いだ。
 歯車の意匠が施された長剣が突き立ち、雪が水に融けるようにさらりと消える。突き立っていた場所に残るのは、輝かしい海を思わせるエメラルドグリーンだ。
「塗り残しハ、こちらで対処すル。存分に塗るといイ」
 独特な語尾でぎこちなく声をかけるのはオルトだ。短剣を翳して、氷の属性を集めて放つ。ペイント銃や衝撃による塗り残しを潰して、ここを確実に猟兵のものとするべく、青年は無数の長剣を操る。
 ペイント弾の色彩と陽気なオレンジ。明るく染まった間を埋める南海の色を、三人で広げていった。
 
 順調に自分たちの色を広げる時間。それを遮ったのは、少しだけ強くなったチョコレート臭と、割り込んできた色塗りを咎める犬の鳴き声だった。
「えー、まだ塗ってるのに。でも、来たからには相手しないとね!」
 四肢に力を込めて飛びついていた壁から離れて、レパルがキリッとした表情で現れた乱入者を見据える。レパルとしては、ここでカッコよく決めるつもりだったが、現れたオブリビオン『チョコットキング』が、事前に聞いていた情報と少しだけ違う姿をしていることに、ほんの少しだけ首を傾げてしまった。
 というのも、白い犬の姿をしているはずのオブリビオン、体のあちこちが白と黒以外の色で彩られた混沌とした色の生物と化しているのだ。ここに来るまで、一体どんな攻撃を潜り抜けてきたのだろう。強いチョコレート臭と犬じみたフォルム、トレードマークのシルクハットがなければ、新種のオブリビオンが現れたかと勘違いするかもしれない。
 それでも、ホワイトチョコの毛に埋もれた顔に皺を寄せて、怒りの形相で猟兵達を睨みつける姿は中々迫力がある。黒い塗料を垂らして歩く姿が合わされば、この犬もまた『骸の海』より還ってきた怪物なのだと再認識させるには十分だった。
 塗装の手を止めて警戒する猟兵へ、オブリビオンが一歩踏み出す。
 同時に、オブリビオンの足元で塗料の塊が爆発した。きゃん、と不意を打たれて驚いた鳴き声が上がる。
「……私たちが何の対策もしていないと思いましたか?」
 踏み入って色を塗り替えすというなら、どうぞご自由に。自分たちが色を塗ってオブリビオンの領域を減らしているのだから、当然奪い返しにくる事だってありえる。それを見据えて、こっそり自分が塗った場所に塗料を詰めた地雷を設置しておいたのだが、うまくいったらしい。
 後ずさりしたチョコットキングは、うろうろとその場を彷徨った後、猟兵へ向けて大きく尻尾を振り回す。
「こ、これは……!?」
「チョコね、すっごくおたかそーなチョコの香り!」
「人の欲求に訴えかけるとハ、なんて恐ろしい攻撃ヲ……!」
 そうしてやってくるのは、ふわふわ漂うチョコレートの香り。ステージ全体に蔓延る嘘くさいものとは違う、上品で蠱惑的な食欲をそそる芳香に、水瀬の心がぐらりと傾ぐ。この戦いが終わったら私、近所のケーキ屋さんで――という夢も膨らんできた。
 だが、誘惑に流されるのは危険だ。なびきかけた自分の心を張り倒して、仲間たちが甘味に戦意を挫かれる前に、気合を込めて叫ぶ。
「あ、甘い物はもうお腹いっぱいです! 今の私は、しょっぱいものがほしい気分ですから!」
「くぅん……!?」
 誘惑を振り切った言葉に、チョコットキングが意外そうかつ悲しげに鼻を鳴らした。実質的な『チョコいらない』宣言に、精神的なダメージが入ったと見える。
「目標を確認、安全装置解除。……射撃始めます」
 ショックを受けるオブリビオンに、格納されていた機関銃を向ける。ペイント弾が詰まった非殺傷兵器は当分不要だ。チャンスを逃すまいと、内部の弾倉を空にする勢いで【ガンラック・ガール】による一斉射撃を開始した。
 この一撃で確実に痛打を与えるために、命中精度を重視した弾雨。銃弾に追われて逃げるオブリビオンが、水瀬の塗った床に降り立つ。やはり起爆した地雷に、オブリビオンが驚愕以外の鳴き声と共に転がった。
「……あら?」
 あれも殺傷力は殆ど無い地雷だと言うのに、どういうことか。まさかと思った水瀬がオブリビオンに機関銃で追い討ちをかければ、斑模様のオブリビオンは明確に攻撃を避ける。避けきれなかった銃撃に体を穿たれて、正真正銘の悲鳴が上がった。
「おやおや、これはもしかしなくても~……あたしたちが超有利ってことね!」
 どう見ても無効化できていない攻撃。もう効かないなら、銃撃を気にせず踏み込んでくれば良いものの、普通に回避行動を取った意味。オブリビオンの無敵性は、完全に消え去っていた
 今もなお、自分たちの色を増やすために広域を塗り潰す事に専念する猟兵達と、この区画に集った三人の働き。それらが合わさった事で、ザ・ペイントステージにおける最大の難点――『攻撃できる回数の上限』が取り払われたのだ。
 そうとなれば、もう力配分であれこれ考える必要はない。逃げを打とうとするオブリビオンを見て、オルトは真っ先に動いた。
「逃がすものカ。お前の動キ、封じさせてもらウ……!」
 短剣を振り下ろすと同時に放たれる【フリージング・ロングハンドソーズ】。態勢を立て直す間も、ここを離れて色を塗る暇ももう与えないと、オブリビオンを取り囲む檻として剣を突き立てる。
「……! させるカ!」
 どうにかしてこの場を脱出しようと、どろりと溶け始めたオブリビオンの体にさらなる玻璃が撃ち込まれた。愛玩動物じみた見た目のオブリビオンを刺し貫くというのは、なかなか良心が痛むものだが、今は世界の危機だ。心を鬼にして、蕩けるチョコボディーへの変生を禁じるべく、氷針で縫い留めた。
 物理的に冷やされて固まるチョコレート製のオブリビオンに、オルトは緩やかに笑みを浮かべる。
「氷の刃デ、その熱も冷めるだろウ。……レパル!」
「はいはーい! それじゃあお待ちかねの……」
 名を呼ばれた少女が再び地面より飛び上がり、オブリビオンの背後に立つ建物の壁を蹴って、氷を溶かそうと踏ん張るオブリビオンへと襲いかかる。
「いっただっきま――っす!!」
 何事もいただきますは大事であると、元気のいい挨拶がステージに響く。【ガチキマイラ】で変形した獅子の頭が、チョコットキングの体に思い切りかぶりついた。
 外側は氷でひんやりと。それでいて中は溶けかけのチョコレートで熱々とろとろ。何とも不思議な食感を残して、ケーキの上に乗った砂糖菓子が齧られて削れていくように、チョコットキングの体は消滅していった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年05月10日


挿絵イラスト