バトルオブフラワーズ⑦〜響け、想いを乗せて
「皆様、お仕事ですわよ!」
エリル・メアリアル(孤城の女王・f03064)が猟兵達に声をかけた。
「キマイラフューチャーで現在、大事件が起こっているのはご存じかしら?」
エリルが語るのは、キマイラフューチャーの中枢システムシステム・フラワーズを、オブリビオン・フォーミュラが占拠した事件であった。
「発端はキマイラフューチャーに住むテレビウム達の画面に鍵のマークが現れたことですわ。オブリビオンに狙われる彼らを助けた結果……それがシステム・フラワーズからの救援要請だったことが発覚しましたの」
そして数多くのテレビウムを見事救出した結果、システム・フラワーズへのメンテナンスルートが開いた……とのことだが……。
「なんとそのメンテナンスルートの開放によって、この星が真っ二つに割れたんですわ!」
エリルが興奮気味に語り続ける。そのメンテナンスルートを辿れば、今回の事件の首謀者であるオブリビオン・フォーミュラ、『ドン・フリーダム』へたどり着くことが出来るという。
「けれど、当然オブリビオン達はこのメンテナンスルートを閉じようとしていますし、ルート上には皆様猟兵の侵入を阻もうと、数々のオブリビオンが立ちはだかっていますわ。中枢への侵入の為に、まずはそのオブリビオンを退治しなくてはいけませんの!」
中枢へ向かうには、6つあるザ・ステージと呼ばれる戦場をすべて攻略しなくてはならない。しかも、それぞれのステージには特殊な条件下で戦う必要があるというのだ。
●思い、紡ぎ
「皆様がこれから向かっていただくステージは、ザ・サウンドステージ。そこでは、皆様のお歌を披露していただきますわ!」
エリルが笑顔で猟兵達の顔を見る。そして、一呼吸おいてからルールの説明を始めた。
「この戦場では、戦闘中、常に『自分自身を奮い立たせる歌』を歌い続けなければなりませんわ。これは絶対、ですわよ」
歌わずに行った攻撃では、何故かオブリビオンにダメージが与えられないというのだ。
「自分自身を奮い立たせる歌とはつまり、強い思いを乗せること。秘密を打ち明けたり、恋人への想いを伝えたり……皆様自身の歌、皆様のためだけの歌を歌っていただきたいのですわ! ……あぁ、なんて素敵なのかしら!」
エリルがその情景を思い浮かべて、目を細める。
「その思いは強ければ強いほど、より強い攻撃となって敵へと向けられますわ。皆様が今まで伝えられなかった大切なこと、今だからこそ言えること、今のあなたを支えている強い思い……そんな思いを乗せる戦い。その名も、パッショネイトソング! ですわ!」
エリルがびしっと人差し指を天に突き上げた。
少々の無言のあと、エリルの話が敵の情報へと移る。
「対するオブリビオンは『ギヴ』という、頭がメリーゴーランドになったバレエダンサーのような姿の怪人ですわ」
ギヴは戦場の中央。小高いステージになった場所で猟兵達を待ち受けているという。
「このギヴという怪人は、その場でただ踊るだけ。言葉は喋りませんし、攻撃もほとんど自発的には行ってきませんわ」
けれど……とエリルは付け加える。
「このステージのルールに従わない行動……つまり歌わなかったり、無視して素通りしようとすると猛烈な勢いで攻撃をしてきますの」
この戦場ではルールがすべて、ということだろう。
「それ以外の主な行動としては、皆様が望むのであればユーベルコード製の遊園地に一時的に招待したり、皆様に合わせたプレゼント……といってもユーベルコード製なのでその場限りですけれども……が贈られたりするそうですわね」
これだけ聞けば無害なようにも感じられるが、ギヴもオブリビオンである。思いを乗せた歌とともに攻撃をし、倒さなければならない。そうしなければ、ステージの制圧、ひいてはシステム・フラワーズへの侵入も不可能なのだ。
「人々の楽しい思い出、大切な思い出。そういう思いがギヴは好きなようですわ。ならせめて、そんな暖かい思いを乗せて歌って、怪人の心を響かせてあげてくださいまし。その方が、きっと大きな力にもなりますわ!」
エリルがぐっと拳を握った。
「さぁ、皆様、いってらっしゃいまし。皆様の胸に秘めた思いが、きっとこの世界を救うカギになるのですわっ!!」
そう言って、エリルはグリモアに力を込めた。
グリモアが輝き、映し出されたキマイラフューチャーの街並みからは、遠くより微かに、オルゴールの音が響いていた。
G.Y.
こんにちは。G.Y.です。
現在戦争中のバトルオブフラワーズ。
その一場面となるシナリオを描かせていただきます。
今回の舞台は『ザ・サウンドステージ』。相対する相手はギヴと呼ばれるオブリビオンになります。
●特殊ルールについて
・自分を奮い立たせるような思いを込めた歌を歌いながら攻撃してください。
・歌と共に、必ず攻撃方法もプレイングに記載しましょう。
・どんなジャンルで、どんなテンポの歌なのかも記載があると楽しいかもしれません。
・歌の上手い下手は関係ありません。思いが大切です。しかし、歌の上手さなどがプレイングに書かれていると面白くなるかもしれません。
・現実に存在する歌詞をプレイングに記載することは絶対にやめてください。
●オブリビオンについて
ルールにさえ従えば、基本的に直接的な攻撃はほぼ行ってきません。
ただし、通常の戦闘ルールに従い、選択したユーベルコードの能力値に対するリアクションは行ってきます。
ほとんどの場合は無害ですが、キャラの過去によっては精神攻撃になってしまう場合もあるかもしれません。その場合は対処方法も書いておくと、より盛り上がるかもしれません。
それでは、皆さんの美しいプレイングをお待ちしております!
第1章 ボス戦
『ギヴ』
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POW : あそんであげる
小さな【メリーゴーランド】に触れた抵抗しない対象を吸い込む。中はユーベルコード製の【遊園地】で、いつでも外に出られる。
SPD : しあわせになあれ
いま戦っている対象に有効な【すてきなプレゼント】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
WIZ : ……わすれちゃったの?
自身が戦闘で瀕死になると【楽しかった思い出】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
イラスト:棘ナツ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠コルチェ・ウーパニャン」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ギュンター・マウ
歌いながらならば、普段の俺の手段と変わらないから有り難ぇな
俺は小さいから、なるべく声の届く所
高い位置を陣取れたら良い
【歌唱】の為に深呼吸し
オブリビオンへのありったけの【呪詛】を込めて【曖の詩】を
低く、力強く、小さきものは唄う
「御前に夢はあるか?」
「それは思い描くだけの夢か?」
「実現するのを待つだけじゃ駄目だ」
「奇跡も起こすために動かねばならない」
「願ってやるよ、あんたの死合わせ(幸せ)を」
「未来を作る為に、今を踏み台にするんだ」
「だから奇跡を願えよ」
…今の俺に言い聞かせたい事を歌に乗せて
あぁ、目を瞑りたいさ、未来なんて視えないのに
ジャンル:ダブステップ
重低音が響くユーロビート系
歌声で殴ります
ザ・サウンドステージの一角に、ギヴはいた。ステージの上で、ただただ踊りながら、猟兵達を待つ。
そんな様子をギュンター・マウ(淀む滂沱・f14608)は上空から眺めていた。
「歌いながらならば、普段の俺の手段と変わらないから有り難ぇな」
小さいギュンターは、自らの声が届くような工夫を、と跳び回ると、突如周辺を取り囲むようにスピーカーが隆起してくる。向きは全て、ギヴの立つステージだ。
その中央からマイクが落ちてくる。それを手に取ると、ギヴがこちらに視線を向けていることが直感できた。
ギュンターはこのステージの対戦者とみなされたのだ。
マイクのスイッチを入れると、歌うと心に決めていた歌に合わせたサウンドがステージ中に響き始めた。
「なるほど、いたれりつくせりじゃねえか」
ずっしりと腹に響くような重低音。そこに電子楽器によるうねるようなメロディが乗せられ、ギュンターは深呼吸をした。
そして――。
「御前に夢はあるか?」
小さい身体からは想像のつかないほどの低く、力強い歌声。
「それは思い描くだけの夢か?」
その歌声には、オブリビオンへの呪詛がありったけ込められている。
「実現するのを待つだけじゃ駄目だ」
だがその詩は今を生きるギュンター自身への呪詛をも込めた、自らを突き動かすための歌でもあった。
「奇跡も起こすために動かねばならない」
ギヴは、その姿とはやや不釣り合いなサウンドの中で、怪人なりの踊りをによってその歌を受け入れていた。
「願ってやるよ、あんたの死合わせ(幸せ)を」
その言葉に、ギヴの鼓動がどくん、と高鳴った。足がもつれ、よろりとバランスを崩す。
「未来を作る為に、今を踏み台にするんだ」
ギュンターの瞳に映る光景は、過去への憂いばかり。未来を視ることなど出来ないと一人で皮肉りながらも、本心では未来を想い、描きたいと願っているようであった。
「だから奇跡を願えよ」
歌声と重なる重い、重い音がギヴに響いた。
ギヴは頭のメリーゴーランドをギュンターへと差し出した。
触れれば遊園地へと誘う力を持つが、ギュンターは首を横に振って応える。
暗い過去をまやかしの喜びで塗りつぶすことは出来ない、自らが『今』を踏み越えていくしかないのだ、と、彼は自信の歌で表現していた。
ギヴもまた、それを理解していたのだろう。だから、ただ静かに体勢を立て直し、再び踊り始めるのであった。
成功
🔵🔵🔴
栗花落・澪
悪いけど
僕には貴方の攻撃は
効きそうにないんだよね
これ以上なにも要らない
だって
今が一番楽しくて幸せだから!
♪
出口の見えない鳥籠に
囚われた幼い金糸雀の
奏でる音色は主の為に
僕の心を繋ぎ止める為に
♪
氷の【属性攻撃、全力魔法】で足止め兼攻撃
【催眠歌唱】で紡ぐのは過去への想い
子守唄のように【優しい祈り】を込め
眠りに誘う【誘惑の音】
やがて、過去は今へ
♪
差し伸べられた掌に
救い出された籠の鳥
暗く冷たい道の先に
見つけたのは暖かな陽だまり
奪われたもの
手放したもの
取り戻した
明るい未来
奏でる音色は誰かのために
僕の心の望むままに
♪
★どこにでもある花園を足場に精製
演出も兼ねた【指定UC】
【破魔】を宿した花弁を歌唱で操り斬撃
「悪いけど、僕には貴方の攻撃は効きそうにないんだよね」
そう言いながら、天使の羽根を生やした少女……いや、少年が降り立った。
女性と見まごう程可愛らしい顔つきの彼は栗花落・澪(泡沫の花・f03165)。ギヴを前にしてにこりと微笑む。すると、澪の立った床がせりあがり、周囲の照明が突然落ちる。
直後、幾重ものスポットライトが、澪だけを照らし出した。澪は胸に手を当てて、静かに歌いだす。
「出口の見えない鳥籠に――」
どこか寂しさを感じさせる、ピアノのメロディ。それに乗せる声変りをしていない少年のソプラノボイスはか弱く、悲しげだった。
「囚われた幼い金糸雀の」
ステージから冷たい風が吹き、ギヴへと向けられる。ギヴはその歌声に足を止めながら、冷たく輝く風を一身に受ける。
「奏でる音色は主の為に」
一転、澪の歌声が優しく心地よいものへと変わっていく。
「僕の心を繋ぎ止める為に」
祈りを込めた優しい音色は、自らの過去への想いを詩へと紡いだ、子守歌のようであった。
歌声が止み、スポットライトも一つ、一つと消えていく。そして最後にはか細い一筋の光だけが、澪を照らすのみとなっていた。
俯いた澪は、しっかりと芯の通った声で語りだした。
「これ以上なにも要らない。だって……」
澪が顔を上げる。そこにはすべての悲しみを吹き飛ばすような笑顔があった。
「今が一番楽しくて幸せだから!」
ぱあっとステージ全体が明るくなっていく。澪の足元から色とりどりの花々が広がり、花の甘い香りが満ちる。
「差し伸べられた掌に、救い出された籠の鳥」
明るく、優しい曲調だ。そこに、聴くものを包み込むような、幸せに満ちた歌声が乗って響く。
「暗く冷たい道の先に、見つけたのは暖かな陽だまり♪」
澪を中心に風が吹き、足元の花から散った花びらが舞い上がる。
「奪われたもの、手放したもの、取り戻した――」
歌に合わせるように花弁が風に乗って、ギヴを囲う。
「明るい未来」
花弁が、ギヴの身体を切り裂いた。ギヴはただ静かに、その攻撃すらも歌の一部であるかのように受け入れている。
ギヴの手から、淡い光が宿る。光は何かを形作るように瞬いたが、やがて何も起こらずに消えてしまった。澪の思い出を映し出そうとしたが、今こそが一番幸せな彼に、見せる思い出は不要だと考えたのかもしれない。
「奏でる音色は誰かのために――」
澪が手を差し出し、天に掲げる。そして再び、自らの胸に当てた。
「僕の心の望むままに――!」
その一言とともに、曲がおさまった。澪の表情は、達成感と幸福感に満ちている。
その強い思いは、きっとギヴにも響いていたはずだ。
成功
🔵🔵🔴
ジェラルド・マドック
演奏家に憧れて父と喧嘩し家出した過去有り
大切な思い出か…
夢のために家出はしたけど家族の思い出は今でも心の灯火になってるよ
ギヴ、昔語りに付き合ってくれる?
サウンドウェポンをギターに展開してUC攻撃
衝撃波で敵UC対策
仕事で食べていける程の歌
父は厳しく子供の未来を決めつける人だった
でもそれは彼が出自で苦労して
子供に同じ苦しみを味わわないでほしかったから
言うことを聞かなかった時は酷く怒られたし
家出してまだ帰れずにいるけど
でも彼が与えてくれたものは俺の糧になっている
彼が指し示したレールから外れたけれど
彼の生き方を否定してる訳じゃないんだ
父さん母さん愛してるよ
俺が成長して大きくなってもいつも尊敬してるんだ
続いてステージに降り立ったのは、ジェラルド・マドック(しがない演奏家・f01674)という青年であった。
ギヴと相対しながら、今までの出来事を反芻する。
「大切な思い出か……」
ジェラルドの立つ足場がせりあがり、ステージへと姿を変えた。
彼は、自身が16歳だった頃を思い出しながら、サウンドウェポンをギターへと変える。
軽く弦を弾く。いくつかのペグを軽く巻き、調律をしながらジェラルドはギヴへと向き直った。
「ギヴ。昔語りに付き合ってくれる?」
そうしてジェラルドはぽろり、ぽろりとゆっくり、ギターを弾き始めた。
彼は、まるで語るように自らのことを語り始めた。
イギリスの平凡な街で生を受け、子供の頃は親から厳しく育てられた。
未来を決め付け、こうあるべきだ、と子供であるジェラルドに説き、そうあらねばならない、とジェラルドを縛り付けようとした。
「でもそれは彼が出自で苦労して」
不器用ではあったが、父なりの親心であったのだろう。愛するからこそ、同じ苦しみを味わわせたくないからこそ、彼の父は子供にそういう態度を取り続けた。
「言う事を聞かなかった時は酷く怒られた」
演奏家に憧れ、自分もそうあろうと誓ったとき、父は大きく反発した。言い争いになって、ジェラルドは家を出た。その時の顔が脳裏に浮かび、ジェラルドは目を瞑る。
それでもジェラルドは語り続ける。その言葉を乗せたギターは静かだが、はっきりとした旋律を奏で続けていた。
その音がステージで逆巻き、音の刃となってギヴへと放たれた。深い、深い愛で満たされた優しい刃だ。ギヴはそれを受け止め、撫でられたような風を受ける。
頭のメリーゴーランドは回り続け、触れれば子供なら誰もが憧れるような世界へと誘われる。満たされることのなかった子供時代の記憶を癒すことも出来たであろうが、ジェラルドには不要であった。
「家出してまだ帰れずにいるけれど……」
子供の頃の思い出、厳しかった父との思い出は、決して辛いだけのものではなかったからだ。
今、ジェラルドは父の指示したレールを外れ、自らの足で、自らの道を歩んでいる。だが、それはあてつけでも、否定でもない。
「彼が与えてくれたものは、俺の糧になっている」
まさに今、その糧の上に立って、ジェラルドは歌を紡いでいるのだから。
「父さん母さん、愛しているよ」
ジェラルドがギターの音を止める。
「俺が成長して大きくなっても、いつも尊敬してるんだ」
もう一度、ギターがぽろりと鳴った。
「付き合ってくれてありがとう。ギヴ」
ギヴは一切返答しないまま、傷を負った身体で、ただ静かに身体を揺らしていた。
成功
🔵🔵🔴
知念・ダニエル
一発歌えばいいんすね、簡単な事っす
(いつものマイクを手に、静かに語り始め)
俺は永遠の旅人
両親も知らなければ、故郷の世界も、付けられた本当の名前も知らない
唯一の手がかりは一冊の手帳
これには『とある騎士』の事が書かれている
どうやら俺にはその騎士の血が流れているらしい
俺は何処の誰なのか、騎士とは何なのか
それを探す為に戦い、旅をしている
目印もなく果てしない砂漠をひたすら歩き続けているが、
それでも俺は、旅を止めないよ
共に歩む友人達と、俺達の足跡が残る限りは
楽しい思い出は、旅の途中でいっぱい出来たっす
その思い出を糧に、そして目的の為に、俺は『今』を生きるっす
アンタに飛ばした炎の熱さが、その証明っすよ
ギヴは踊り続ける。ギヴは何も言わない。
そこにいるだけで猟兵達の脚を止める。それだけが、ギヴのオブリビオンとしての役目のように思えた。
「一発歌えばいいんすね、簡単なことっす」
そんなギヴを前に知念・ダニエル(黄昏冥土・f00007)は自前のマイクを取り出した。
ステージがせりあがり、ダニエルはすぅ、と静かに息を吸った。
「俺は永遠の旅人」
語るように、静かに歌が始まった。歌い出しに合わせピアノの演奏が始まると、どこか寂しさを感じさせる。
彼は生まれ故郷を知らない。そればかりか自らの本名すら知らず、数多の世界を渡り歩いてきた。
そんな彼と、彼自身の過去を結びつけるものが、一つだけあった。
「唯一の手掛かりは、一冊の手帳」
ダニエルが手帳を取り出した。何度も何度も読み返した手帳の、中でも一番癖のついたページを開く。
そこに書かれていたのは、『とある騎士』の名だと言う。
「どうやら俺にはその騎士の血が流れているらしい」
そう言って、ダニエルは手帳を閉じた。
「俺は何処の誰なのか、騎士とは何なのか。それを探す為に戦い、旅をしている」
ダニエルがほんの少し顔を上げた。スポットライトに照らされて、目を細める。
「目印もなく果てしない砂漠をひたすら歩き続けているが……」
それは途方もない旅だ。いつ辿り着くとも知れない、果てのない旅だ。
「それでも」
曲調が少しずつ壮大なものへと変わり始めた。
「俺は、旅を止めないよ」
ダニエルの周囲に火が灯る。その炎は音符へと形を変える。
「共に歩む友人達と、俺達の足跡が残る限りは――!」
炎がギヴへと飛んでいく。ギヴはその炎を受け、身体を焦がす。
燃える音符の炎の中で、ギヴの手から思い出を映す光が淡く放たれた。
「楽しい思い出は、旅の途中でいっぱい出来たっす」
歩み続けてきたからこそ見つけた思い出が生まれ、ダニエルの目に映る。
彼の旅の目的は故郷を探すこと。だが、この旅は目的の為だけにあるのではない。
「その思い出を糧に、そして目的の為に、俺は『今』を生きるっす」
そう、彼が旅を続けて出来た思い出が、今の彼を彼たらしめているのだ。
ギヴから生まれる楽しい思い出は、その多くが旅の記憶。ダニエルはそれを見て、一層思いを強くする。
「アンタに飛ばした炎の熱さが、その証明っすよ」
渦巻く炎が強さを増した。その強さこそが、ダニエルの旅の意味そのものであった。
大成功
🔵🔵🔵
世母都・かんろ
ああ、こわい
けれど何もしないほうが、もっと恐ろしい
わたしの声が、届くなら
歌うのは恋の別れのうた、さみしく優しい愛のうた
♪
醒めるような青の日に
いのちは別たれて
どうしてあなたが見えないの
ここにいるよと笑ってみせて
わかっているよ
泣いてなどいられないと
あなた、ここに居なくても
わたし、生きていくの
ひとり、それでも生きていくの
笑って生きていくの
♪
楽しかった思い出に
母の笑みが蘇る
ねぇギヴ
まぼろしをありがとう
あなたはわたしと同じで、さみしいね
のろいを込めた歌で
手にした杖を竜巻へと変換
花弁ごと、跡形もなくいのちを散らして
回転木馬の踊り子とお別れを
【歌唱、呪詛】
※やや無口、歌声だけが少女のように伸びやかで透明
現実と向き合うことは恐ろしい。過去の辛い思い出は立ち上がることを躊躇わせる。
(けれど何もしない方が、もっと恐ろしい)
その青年、世母都・かんろ(秋霖・f18159)はステージに立ちながら、ギヴに向き合った。
その顔と白い肌、愛らしい服装は少女のようだが、その高い背と体つきが、わずかに違和感を与える。
彼にとって今の身体は、過去の自分の憧れからは程遠い。低くなった声が苦手で、喋ることも少なくなった。
それでも、生きていかねばならないのだ。
(歌うのは恋の別れのうた、さみしく優しい愛のうた……)
ステージがせりあがる。かんろはその中央で、静かに、静かに歌い始めた。
「醒めるような青の日に いのちは別たれて」
スポットライトが鮮やかな青で照らす。かんろの声は美しく、のびやかで澄んだソプラノだ。歌声だけは過去と変わらずに、今もまだ共にある。
「どうしてあなたが見えないの ここにいるよと笑ってみせて」
かんろは空を見上げる。そこにはライトの光だけ。思い浮かべた人の笑顔は目に見えない。
(――あぁ)
過去の記憶とは、恐ろしい。
自らの歌声とこみ上げる感情に、かんろは身を震わせた。
――その時。
ギヴのメリーゴーランドから淡い光が漏れ出した。光はかんろの二人を包むように、メリーゴーランドの動きに合わせて回転する。
光が、幻を映し出す。映し出されていたのは、かんろの楽しかった思い出だ。その光景に、母の笑みが蘇る。
かんろはギヴへと向き直る。そして、中断しかけた歌を再び紡ぎ始めた。
「わかっているよ」
泣いてなどいられない。と。
そう歌いながら、かんろが携えた杖に力を込めた。
「あなた、ここに居なくても わたし、生きていくの」
杖が変化し、竜巻へと形を変える。
「ひとり、それでも生きていくの」
竜巻に、歌が込められる。呪いを込めた歌が竜巻をより強く、大きくしていく。
「笑って生きていくの」
竜巻がギヴを飲み込んだ。
ギヴは既に力を失いつつあった。抵抗する様子もなく竜巻に巻き上げられ、全身にヒビが入る。
それを見上げて、かんろは歌い続ける。
(ねぇギヴ)
その歌には、目の前で朽ちてゆこうとするオブリビオンにも向けられた思いが込められていた。
(まぼろしをありがとう。あなたはわたしと同じで、さみしいね)
歌が終わり、竜巻が晴れた。
カラリと落ちる杖の側には、ギブのメリーゴーランドの一部が転がっていた。中にはオルゴールの構造が露出している。
崩れたオルゴールは、コロン、コロンと小さく音が響かせながら、風に乗って塵となって消えていった。
その静かな音は、かんろの行く道を祈るかのようであった。
こうして、一つの戦いが幕を閉じた。
大成功
🔵🔵🔵