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バトルオブフラワーズ⑤〜激走!クロスカントリー!

#キマイラフューチャー #戦争 #バトルオブフラワーズ

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「キマイラフューチャーに異変が発生してるのは知ってるよね? ……って、当然知ってるか。何せ真っ二つに割れてるもんなあ……」
 まさかあんなことになるとは、と、マスク姿の少女がぼやく。彼女は一郷・亞衿(奇譚綴り・f00351)、グリモア猟兵だ。

「簡単に説明しておくと、キマイラフューチャーの各地にある物資供給用端末……俗にコンコン機械とか呼ばれてるアレを統括してるシステムが、オブリビオンたちに占領されちゃったみたいなんだ。で、そのシステム──『システム・フラワーズ』の自動復旧機構的なやつが作動してメンテナンスルートが開放された結果、物理的に世界そのものが開かれて真っ二つになった、っていう……だからまあ、割れたこと自体については特に問題無いんだけど──」

 ──彼女曰く。
 メンテナンスルートの先、目的地たる『システム・フラワーズ』の存在する場所に辿り着くためには、まずはその周囲を守る6つの拠点全てをオブリビオンたちの手から奪い返さねばならないらしい。
 ただ、その拠点たる『ザ・ステージ』の中では何やら不思議な力が働いており、特定のルールに従って行動しないと強制的にその内部から追い出されてしまうとのこと。
「例えばなんだけど、『ザ・ステージ』のひとつに『ザ・ゲームステージ』って言うのがあってさ。その名の通り、ビデオゲームの中みたいになってる場所なんだけど……さっき話した“特定のルール”の関係で、そこではその舞台になってるゲームをクリアするような行動を取って貰う必要があるんだよね。で、ここから本題」
 そう前置きしつつ、亞衿はタブレット端末を取り出す。

「今回皆にお願いしたいのは、『ザ・ゲームステージ』の“レースゲーム”に即したルールの影響下にある場所の攻略。ただ、レースって言っても車とかに乗るんじゃなくて……ええと、マラソンとか障害物競走の方がイメージに近いかな?」
 そう言いながら彼女は端末を操作し、件のレースゲームのコースと思しき画像をタブレット上に表示した。
 少し古い町並みの中、道路、公園、並び立つ家の屋根の上、下水道と思しき水路、果ては誰かの家屋内や庭先のような場所までもがコースとして使用されていることを示しながら、彼女は説明を続ける。
「簡単に言うと、市街地に設定されたコースを走り回って順位を競う、って内容のゲームみたい。道中での妨害もアリで、どちらかと言えばアクションゲームに近い雰囲気かもね」
 『ザ・ゲームステージ』によって課せられた制約からか、ここでは“乗り物を使用することは出来ない”上、派手にコースを破壊することや本来の道程を大幅に無視して進むような真似をすることも出来ない様子ではあるものの、それ以外は基本的にルール無用。
 他者と直接殴り合いするのはもちろんのこと、道端に落ちているアイテムを投げつけて相手を転倒させたり、ユーベルコードを使って妨害を行ったりしても構わないらしい。ゲームのジャンル的には“格闘マラソンレース”といった所だろうか。

「クリアの条件は“猟兵の誰かが一位でゴールする”こと。スタート時点では皆の他にCPUが数体いるだけなんだけど、レースの途中でそのCPUたちが怪人に入れ替わっちゃうみたい。皆と敵とでお互いに激しく妨害し合うことになるとは思うけど、少なくとも皆のうち一人以上は敵を倒すことよりも先へ進むことに専念して。ゲームの主目的はあくまでもレースなんだし、別に相手を倒し切らなくってもいいからね」
 やれそうならやっちゃってもいいけどさ、と補足した後、タブレット端末を仕舞った彼女は右手を翳して四角錐型のグリモアを出現させる。
「ま、要は正々堂々だろうが卑怯千万だろうが“競走”で一位を取ればいいってだけの話。いぇーがーチームの皆、スポーツマンシップに則んなくてもいいから頑張ってね! 応援してる!」

 ほんの少しだけ冗談めかした調子でそう告げた後、彼女は転送されゆく猟兵たちをひらひらと手を振りながら見送った。


生倉かたな
 はじめましての方ははじめまして。そうでない方はお世話になっております。生倉かたなと申します。
 最近は春に運動会を行う小中学校も結構多いそうですね……という訳で、止まらないランナーとなり熱血クロスカントリーに参加、CHiMAIRA MARATHONするシナリオです。

 オープニング文中の通り“乗り物の使用は不可”とさせて頂きますが(レガリアスシューズ等は普通に使って貰って構いません)、それ以外は“競走”の範疇を超えない程度なら何をしてもOKですのでお気軽にご参加頂ければ幸いです。

 それでは、よろしくお願いいたします。
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第1章 集団戦 『ナンバーワンズ』

POW   :    ナンバーワン怪人・ウェポン
【ナンバーワン兵器】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    トロフィー怪人・ジェノサイド
【トロフィー攻撃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ   :    金メダル怪人・リフレクション
対象のユーベルコードに対し【金メダル】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。

イラスト:まめのきなこ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

黒城・魅夜
ルール無用というのなら、簡単。
時を止めてその隙にゴールしてしまえばいいわけです。

とはいえ、さすがにコースのすべてを走りきるまで時を止めているのは無理ですから……
いつ時を止めるか、そのタイミングが重要になりそうですね。

しばらくは様子を見つつ、直接走破していきましょう。
『ロープワーク』『早業』で鎖を街中の看板や街灯、ビルの壁などに次々に撃ちこみ、障害など無視して空中を渡っていきます。
ルール無用なのですものね。
まあ、ルートを大幅に逸れないようにはしますけれど。

時を見計らって時を吸血しその進行を止め、ゴールへと踊り込みましょう。
止まった時の中に怪人どもがいたら……
まあ、ついでに始末していきましょうか。


筒石・トオル
乗り物以外にも速く移動出来る装備はあるけど、それだと敵に目を付けられそうなんで、僕は真面目に走って競争しようと思う。その方が逆に妨害が少なく速く進めるかも。
ただ少なくても妨害はあるだろうから『オーラ防御』『毒・火炎・雷撃・氷結・呪術耐性』防御を、『フェイント』『武器受け』『第六感』回避率を上げておく。
それでも防ぎきれない場合のみ、UCでゴールに近い位置へ移動する。
攻撃を回避しつつ先へ…これってズルじゃないよね?僕的には妨害より余程マシな行為だと思うんだ。

転んでも傷付けられてもゴールを目指すよ。
こう見えて負けず嫌いだからね。


マユラ・エリアル
ふーむしかし、星が真っ二つに割れるとはな……
この展開は予測できなかった

でもありの格闘マラソンレースか
なかなか楽しそうじゃないか
やるからには1位を狙ってダッシュだな
とはいえ多少ルールはあるか……
ルールを守って楽しくマラソン!という奴だな

さてやはり勝つには自分の得意なフィールドにするのが一番だな
【氷塊召喚】をコースに使用しながら地形を氷に覆う事にしよう
その上をスケートの要領でスイスイ進んでやろう
その上で私が通った後ろにはその辺にある物を散乱させておいて、妨害工作だ
ツルッツルに滑りながら苦戦すると良い

あとは兎に角道を氷で覆いながらトップを目指そう
まあ最悪、誰かが1位になれば良いんだしな

アドリブ等歓迎


ニレ・スコラスチカ
真っ二つ…真っ二つ?
それってものすごくまずいのでは?黙示録なのでは?
異端の主を倒して元に戻しましょう。一刻も早く。

勝利条件は「猟兵の誰かが一位でゴールする」ことでしたね。ならば一位になるのはわたしでなくてもいい。先頭集団の少し後ろを走り、妨害寄りに動きます。

もっと言えば、敵を倒す必要もない。ユーベルコード、【磔刑】を使用してCPUと異端が入れ替わったそばから壁や道に磔にしてしまいしょう。
相殺のユーベルコードを持つ金メダルの異端には最優先で対処したいですね。妨害を妨害されないよう、単純に【怪力】で蹴り飛ばしてコースアウトさせます。

【アドリブ・連携歓迎】


主・役
【UC】

レースゲーってかランゲーね。にゃふふー、こういうのならえにっちゃんの得意分野だよ、お任せあれ☆
ランゲーアバターで【シックスセンス】で効率的なコースを読み、【スタントパーソン】によるフリーランニングアクションで妨害すら足場に変えてゴールを目指すよ☆アシストありがとー♪
足場に出きない系妨害は【タダヒョイト】回避するか【イーター】で喰らってしまおう。
妨害ありだし【仙剣刃姫】で自分の足場に使えて怪人の足止めに使える障害物を要所要所に設置するよ、この目的なら雑な造りの方が返って足止めに有効とみた。


レナータ・バルダーヌ
えっ?レースゲームって、キャラクターを操作するのではなくわたし自身が走るんですか?
走るのは苦手なんですけど……。

み、皆さん速いです……!
仕方ありません、奥の手です!
【ブレイズソニックトレイル】を応用して、走りながら後方に炎を噴射して加速します。
どんなに加速しても【念動力】で強引に方向転換すれば、コーナリングも完璧です。
追い抜いたオブリビオンさんも追いかけてくるオブリビオンさんも、背後に立ったら全員、噴射した炎が残す軌跡で焼いてしまいましょう。

あっ…やっぱりというか、どう考えても足が追いつきません……!
少しくらい浮いてもいいですよね……?





 転移され終えた猟兵たちが辺りを見回すと、そこは学校らしき建物の目前だった。
 開かれた門扉の辺りに“きまいら大運動会”という立て看板が立てられ、何やらカラフルな旗がロープに多数吊り下げられるようにして掲げられているのを見るに、この『ザ・ゲームステージ』は運動会の競技を模したシチュエーションで行われるものであるらしい。
 上空へと視線を向ければ、そこには青天が広がっており──その空の向こう、はるか遠くに、割れたキマイラフューチャーの片割れの姿がうっすらと見えた。

「……しかし、星が真っ二つに割れるとはな。流石にこの展開は予測できなかった……」
「空気の心配等はしなくても良い様子ですが……改めて眺めてみると面妖な光景ですね」
 マユラ・エリアル(氷刃の行方・f01439)が少し遠い目をしながらした呟きに、黒城・魅夜(悪夢の滴・f03522)が応じた。慮るような声音でニレ・スコラスチカ(旧教会の異端審問官・f02691)も言葉を紡ぐ。
「民草の戸惑いもきっと大きいでしょうし、異端の主を倒して元に戻しましょう。一刻も早く」

 そう話し合う三人の傍ら、見るからに走るのが苦手です、という風貌をしたサイキッカーの少女──レナータ・バルダーヌ(復讐の輪廻・f13031)は不安げに呟く。
「こ、このレースゲームって、わたしたち自身が走るんですか……? その、キャラクターを操作するのではなくて……」
 少しおどおどとした様子で自身無さげな表情を浮かべる包帯まみれの姿をした彼女へ向け、己が身に憑依させたアバターの具合を確認するようにして軽くストレッチを行っていた主・役(エクストリームアーティスト・f05138)がピースサインを送って見せた。
「レースゲーってかランゲーね。大丈夫、こういうのならえにっちゃんの得意分野だよ! お任せあれ☆」
 自信ありげにしている役の背に、少し離れた場所で周囲の様子を伺うようにしていた筒石・トオル(多重人格者のマジックナイト・f04677)が声を掛ける。
「……やる気があるのはいいことだと思うけど、派手に動けば敵に目を付けられる可能性が高くなる。目立てば目立った分だけ、妨害も多くなるだろうね」
 僕は真面目に走らせて貰うよ、と、あくまでも冷静な調子で彼が言った直後、何処かからファンファーレのような音が流れ出した。そろそろレースが開始する時間らしい。

 泥人形めいた姿のCPUらしき存在がスタートラインに並び始めたのを見、全六名の猟兵たちもそちらへと向かう。
「わたしたちの勝利条件は、“猟兵の誰かが一位でゴールする”こと。わたしは妨害に回りますから、誰かに突出して頂いても構いませんよ」
 先程の話を聞いていたらしきニレが確認の意を含ませつつそう言葉を投げかけ、マユラと魅夜がそれに続いた。
「個人的には、やるからには一位を狙いたい所ではあるが……ともあれ、共に頑張ろうじゃないか。“ルールを守って楽しくマラソン!”という奴だ」
「……と言っても、ルール無用という話ですけれどね」

 最初から全力で先頭を突っ走る気概の者、目立たぬよう力を抑えつつ様子見を目論む者、あるいはチーム全体での勝利のため妨害に勤しむ目算の者。
 様々な思惑が交錯する中、レース開始の時間がやって来る。



 パァン、という紙火薬の炸裂音。スタートの合図であるその号砲の音が辺りに響き渡ったのとほぼ同時に、選手たちは一斉に駆け出した──は、いいものの。
 曖昧な造形をしたCPUたちの数はいつの間にやら猟兵たちの倍程にも膨れ上がっており、スタート直後はまさに団子状態といった様相を呈していた。

 群集の間を縫うようにして一足先に飛び出したのは、役だ。先の忠告など何のそのといった様子で彼女は先頭へと躍り出ると、即座に『仙剣刃姫』を発動する。
 直後、彼女が通り過ぎた道からにょきにょきと何かが生えてきた。シンプルな作りではあるもののこの場に似合った形をしたそれの正体は、俗にランゲームと呼ばれるタイプのゲームでも良く見かける物品──ご存知、ハードルだ。
 突然出現したその仕様外の障害の存在に反応出来ず、彼女に追走するようにしていたCPUはそのまま派手にすっ転んだ。さらにその後続のCPUたち数体がそのごたごたに巻き込まれ足止めを食っているのを横目で見やり、彼女は満足げにほくそ笑む。
「にゃふふー、バトルゲーマーの本領ここにありってね♪ ……って、おっとぉっ!?」

 後ろから飛んできた棒状の何かをとっさに身を捩るようにして回避し、内心冷や汗をかきつつ彼女は首だけで後ろを振り返った。
 自身と同じく集団を脱した他の猟兵たちやCPUたちの後方を見れば、そこには先程自身が転ばせた相手と思しきCPUたちの姿。今もなお突出した状態にある彼女を狙い、CPUたちは道すがらに拾った鉄アレイやら木刀やらスイカやらを投げ放ち──直後、役の許に投擲されたアイテムの雨あられが殺到した。
「よ、よーし来いっ☆ このえにっちゃんのアクションスタントについてこれるかなぁーっ!」
 ほんの少し自棄気味にそう叫びつつ、粗雑な障壁を作って防御したり飛んできた物品を掴んで投げ返したりしながら彼女はコースを駆け抜けていく。すると、程無くしてその前方に順路を示す矢印が姿を現した。
 玄関の開け放たれた民家の中へ進むよう指し示すそれを横目で見やりつつ、彼女は何度目かに生成した壁を蹴るようにして進路を変えるとそのまま民家の中へと突入していった。それに続くようにして、玄関の扉が開け放たれた家の中へと群集がどかどかとなだれ込んで行く──



 ──卓袱台やら何やらが散乱した民家を横切り、そのまま庭へ。再び配置されていた矢印が指示する所によれば、庭の塀をよじ登りその先の屋根の上を進まなければならないらしい。
 めちゃくちゃなコース設定ではあるものの、ここは『ザ・ゲームステージ』。その荒唐無稽さはある意味いかにもゲームらしいとも感じられる──が、走らされる方としてはたまったものではないのも確かだ。

「み、皆さん速いです……!」
 屋根の上という視界の開けた場所に辿り着き、最後尾付近を走っていたレナータは前方へと視線をやる。先のごたごたに半ば巻き込まれてしまった彼女の目には、先頭集団の姿は大分遠くにあるように見えた。
「……仕方ありません、奥の手です!」
 他の猟兵たちと協力し合うにせよ、これ以上離れてしまってはそれも難しい。彼女は決心したようにして一人呟くと、ユーベルコードを発動した。レナータの全身がオーラに包まれると共に、彼女の背から噴出した炎が羽を形作る──身体の欠損した部位を補うブレイズキャリバーの炎により翼を取り戻した彼女は、その炎の翼をさらに変形させていく。

(この間の傷が、開きませんように……!)
 心中でそう一人ごちつつ、その翼を戦闘機めいた形状にした彼女は、きっ、と前方を見据えた。
「……行きますっ!」
 そう宣言した直後。翼から噴射された炎によってロケットのように急発進を果たし、彼女は先程まで立っていた場所からすっ飛ぶようにしていなくなった。



 並び立つ屋根の終端付近。前方にいる猟兵たちへと向け投擲攻撃を行っていたCPUたちが、物凄い勢いで背後からやって来た何かとすれ違い──そして黒焦げになり、そのままその場で崩れ落ちた。
 道筋に焦げ跡を残しながら尚も猛烈な勢いで屋根の上を駆けるのは、炎の翼を展開したレナータだ。

 ばたばたと手足を動かしながら屋根の上を走る彼女の姿は、傍から見れば少しコミカルな様子に見えなくもない。だが、実際の所彼女は必死だ。
「あ、あっ──や、やっぱりというかどう考えても足が追いつきませんーっ!!」
 彼女が発動したユーベルコード『ブレイズソニックトレイル』は、本来であれば超音速飛行が可能な程に加速することが可能な技だ。多少出力を抑えめにしようとも、地に足を着けたままでまともに使い続けられるような代物では当然無い。
(……少しくらいなら、浮いてもいいですよね……?)
 誰かに言い訳するようにしながら、彼女は屋根の上を駆けるのではなく跳ねるようにして移動するべく、屋根の端で軽く片足を踏み込んでから跳躍し──

「──あれ?」

 跳躍した彼女の進む先に、連立する家々の屋根の姿は無かった。空中から眼下を見やれば、前方には先を走っていた猟兵仲間たちやCPUたちの影。どうやら先の屋根を最後に、屋根の上から道路上へとコースが戻ったらしい。
「え、えぇーーーっ!?」
 慌てながらも彼女は何とか空中で体勢を整え、そのまま地面へと着地を果たした。前につんのめって転びそうになるのを何とか念動力を駆使して堪え、彼女は恐る恐る、といった様子で後ろを振り返る。
 屋根のあった場所から、距離にして数十メートル程。誰がどう見ても多少浮いているのを通り越して盛大に飛翔するような状態となってしまったことに気付き、レナータの顔がさっと青褪める──が、しかし。
 彼女のその心配を余所に、数秒経っても『ザ・ゲームステージ』から誰かが追い出されるようなことは無かった。



「……なんだ、あんなに無茶をしても大丈夫なのか」
 空をかっ飛んで自身の少しだけ後ろに着地したレナータの姿を見やり、宣言通りここまで真面目に走り続けていたトオルがほんの少しだけ憮然とした態度で言った。
「まあ、コースを無視したりしている訳ではありませんものね……」
 離れた位置で並走するようにしていた魅夜は曖昧な調子でそれに応じつつ、周囲、そして前後を走るCPUたちの様子を伺う。あまり目立たないように気をつけていたのもあってか、あるいは先頭を走る猟兵たちが他のCPUたちの注目を集めているためか、彼女たちは現状目立った妨害らしい妨害を他のCPUから受けていない状態にあった。

 橋を渡り、水路を横目に真っ直ぐ進むと、チェックポイントと書かれた三角コーンの姿が二人の視界に飛び込んでくる。
「中間地点のようですね。今のところ順調ですけれど、そろそろ──」
 魅夜がそう声をかけた、丁度その瞬間。
 ざざっ、と、突然ノイズのような音が響いたかと思うと、二人に程近い場所に居るにも拘らず我関せずといった調子でひた走っていたCPUの姿が一瞬ブレるようにして揺らめき──直後、CPUは金色に輝くトロフィーを頭部に据えた怪人へと変貌した。
「──ああ、ちょうど来たみたいだ!」

 それまでの様子とはうって変わったようにして──事実周囲に対する認識が先程までとは変わってしまっているらしき元CPUの怪人が急に殴り掛かって来たのを、トオルは瞬時に取り出したルーンソードで切り払うようにしながら回避する。
 大きく飛びずさったトロフィー怪人へ鈎付きの鎖を放ち、魅夜は怪人を鎖で絡め取るとそのまま水路へと叩き込む。彼女は続けて前方で振り返りつつある別の怪人へと向け攻撃を放とうとしたが、待って、と傍らから声が投げ掛けられたのを耳にしてその動きを中断した。
「僕の方は自分で何とかする。先に行った人達の補佐を!」
「では、そのように。お気をつけて!」
 眼鏡へと片手を伸ばし何やら周囲の状況を探っているらしきトオルへと頷きを返し、魅夜は鎖を振るい行く先の敵を排除しながら飛ぶようにして先へと向かう──



 ──チェックポイントの先、公園らしきエリア。

 周囲から無尽蔵に投げつけられるトロフィーを木の陰に隠れたり壁を作ったりして何とか避け続けながら、役が誰に言うでもなく非難の声を上げる。
「だっ──弾幕ゲーだよこれ! そうと知ってればえにっちゃん別のアバター憑依させたんだけどっ!? この前そういうのやったばっかりだし!!」
「おお、何だかすごいことになっちゃったな……と、言ってる場合でもないか。CPUが姿を変じさせたのなら、敵の数そのものには限りがあるはずなんだが」
 役に追いついたマユラはそう言いつつ、自身目掛けて飛来してきたトロフィーを右腕の巨大な鉤爪付きガントレットを振るって弾き飛ばした。彼女は飛んできた元の方向へと視線を向けたが、公園内に並び立つ木々の合間から時折顔を覗かせる怪人たちの総数はもはやよく解らない状態だ。

 新たなトロフィーを投擲せんとしている怪人へ、びゅん、と逆に三本の骨釘を投げつけ、うち二本を命中させて怪人を文字通りの意味で地面に釘付けにしたニレが二人へと声を掛ける。
「状況的に敵を倒し切る必要こそ無いですが、動き回られると少し面倒ですね。一応、今ので三体目です」
「ふーむ……時にニレ、そして“えにっちゃん”とやら。スケートは好きか?」
 突然の問いにほんの少しだけ面食らうも、意図を察したらしきニレが言葉を返した。
「ああ、えっと……ここは背の高い木々もありますから、お好きにどうぞ」
「なになに、スケート? もちろん得意だよ! スポーツのことなら何でもえにっちゃんにおまかせ☆」
 突然の問いに戸惑う様子もなく、しかし意図を察さないままごく普通の日常会話としてその質問を認識したらしき役もそう回答する。

「そうか。では、遠慮なく行かせて貰おう──『氷塊召喚(コール・アイスブロック)』ッ!」
 ごく真面目な表情をその顔に浮かべたまま、マユラは再び右腕を振るった。ガントレットに嵌まった宝珠から氷の魔力が放たれ、彼女の前方に氷塊が飛ぶ。
「おっと、地に足をつけていない方が良いぞ。それ、ジャンプだ!」
「えっ──うん! ジャーンプっ☆」
 突然声をかけられ半ばノリに任せて役が跳躍した直後、投射された氷塊が地に落下する──と、たちまち辺りの地面が氷で覆われていった。

 掛け声と共に自身も跳躍していたマユラは氷の上に降り立つと、そのまますいすいと氷上を滑り始める。
 彼女が周囲に視線を巡らせると、木々の向こうには足元を取られ転倒する怪人たち──と、自身に並走するようにして滑る役の姿があった。
「にゃふふー。ふつーに進むのにも飽きてきてたところだし、ステージ変更ならどんとこいだよ!」
「ほう? なら、この先の水路もこのまま凍らせてしまうとしようか」
 マユラが三度右腕を振り翳し、前方へと氷塊を投射せんと構えを取る。
 その姿を見、これ以上足元を悪くされ続けては敵わないとばかりに木々の間から金メダルのような頭部を持つ新たな怪人が飛び出してきた……の、だが。

 ひゅん、と風斬り音が鳴った直後、黒い影が二人の目前を横切った。
 己の持つ相殺能力を発動するどころか猟兵たちの前に立ち塞がることすら叶わず、金メダル怪人はきりもみ回転をしながら何処かへ吹っ飛んで行く。

 一体何が起こったのか、とほんの少し戸惑いを見せた二人の頭上から、ニレの声が響く。
「……滑りながら進むつもりなら、金メダルの異端には十分気をつけてください。無効化されると厄介です」
 彼女はそう言いつつ、片手に持った鋸状の武器を前方へと投げた。先と同じような風斬り音が鳴り、前方の木に食い込んだ鋸の柄から伸びる赤黒い紐に引き寄せられるようにしてニレの体が空中を舞う──その様子を見るに、先の怪人はニレが木々を飛び移りながら放った蹴りなり体当たりなりを受け何処かへ弾き飛ばされてしまったということらしい。

 先の宣言通り妨害に注力している仲間へと手を上げるようにして応じ、改めてマユラは氷塊を放った。
 コース後半の主軸に据えられていた水路の障害はどんどん凍結して行き、次第にただの滑る道へとその姿を変えていく──



 ──三人に少し遅れるようにして、木々や水路の両脇に立つ街灯に鎖を打ち込みながら魅夜が飛び行く。そしてそのすぐ後ろをトオルが追い、そのさらに後をレナータが進む。
 先を急ぐべく時折炎を噴射しながら進むレナータが通った後のコース上は氷が溶けべちゃべちゃになってしまっており、路面は最悪の一言に尽きる状態と化してしまっている。例え取り残された怪人たちが猟兵たちより後ろに何人控えていようとも、この状況では今から追い上げることは到底不可能だろう。

「CPUや怪人たちからより、味方陣営から受けた妨害の方が多かったような気がするよ……」
 凍った水路を抜けたトオルは溜息混じりにそう呟きながら、道中に掲示されていた矢印に従って左折する──数百メートル程の距離もある長い直線の先には、スタート地点でありゴール地点でもある学校の姿があった。
 百数メートル先で何やら乱闘じみた混戦が行われている様子を見、彼は再び息を吐いた。頑張って走ればもしかしたらあの集団に追いつけるかも知れないが、今からあの中に入ってもみくちゃにされると思うと正直気が重い。勝ちたくない訳では決して無いのだが。
 仕方ないとばかりに気合いを入れ、彼は走り出し──
「……そうだ。一応、やってみるだけの価値はあるかな?」

 ──走りつつも彼は『オルタナティブ・ダブル』を発動し、視線の先にもう一人の自分を出現させた。
 先程自分たちがスタートラインとして使用した、そして今はゴールラインに転用されているその白線のすぐ傍である、その場所へと。



 白線の傍に姿を現すや否や、もう一人のトオルは躊躇無くラインを踏み越えた……が、何も起こらない。

「ダメか。チェックポイントを通ったのは“僕”じゃないからね……」
 何となく予想はついていたものの、残念には違いない。少し気落ちしたものの、彼は思案する。
 何も起こりはしなかった。それは逆に言えば、『ザ・ゲームステージ』によってもう一人の彼の存在が否定されるようなことも発生していないということだ。ならば、と思い直した彼は、一度姿を消し──混沌としている集団の程近く、ゴールラインに近い側に、再度出現した。



 ゴールへと向かってそのまま駆け出した“もう一人の自分”の姿に混乱している様子の先頭集団を見やり、後を追うトオルは不敵に笑った。この状況では一位を取ることこそ他の猟兵に任せなければならないものの、何もかも全てを完全に他者の任せきりにするのは彼の負けず嫌いな性分が許さなかったのだ。
 それが幻影めいた存在だとも気付かないまま、生き残りの怪人たちは一歩先を進む少年猟兵を標的に据えなおし、結果として団子になってしまっていた状況は打ち破られる──そして。

「時よ脈打つ血を流せ、汝は無敵無傷にあらぬもの──」
 そして、その瞬間を待っていた一人の猟兵が高らかに宣言した。
「──『我が白き牙に喘ぎ悶えよ時の花嫁(ザイン・ウント・ツアイト)』!!」

 霊力や生命力を吸う力を有するダンピール“黒城・魅夜”の持つユーベルコード、『我が白き牙に喘ぎ悶えよ時の花嫁』。
 それは『時』という概念を吸血することにより、ごく限られた時間ながら周囲の時の流れを己が支配下に置く能力である。

 先に見た少女猟兵の──炎の翼を生やして空を飛んだレナータの姿を脳裏に思い浮かべつつ、魅夜はほぼ止まっているかの如くゆっくりと流れる時の流れの中でただ独り思案する。
(私はルートを逸れたりしては居ないし、テレポートをしたりしてコースを無視している訳でも無い。あくまでも、“常人には視認出来ない程の超速度で移動しているだけ”──ならば!)
 ならば、決して反則ではない。そう確信を抱きつつ、魅夜は散会した集団の間を縫うようにして走り抜け、ついでのようにしてすれ違った怪人たちへと致命打を与えながら尚も駆け抜け──

 ──パァン、という紙火薬の炸裂音が、再び辺りに響き渡った。
 周囲の怪人たちが突然霧散して困惑する猟兵たちの視線の先で、ふふ、と、魅夜が静かに笑った。



 開始時のそれとは異なった音色の、勝者を称えるファンファーレが辺りに鳴り響く。
 戦争はまだまだ続くが、ひとまずこのステージのクリアは無事に為されたのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年05月05日


挿絵イラスト