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バトルオブフラワーズ⑦〜イェーガーズ・ミュージカル!

#キマイラフューチャー #戦争 #バトルオブフラワーズ

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 想いと歌が力を織りなす空間。
 なればこそ、そのオブリビオンは自信に満ちた表情で猟兵を待ち受ける。
 高らかに叫べ。力強く響かせろ。
 誰がステージの主役か、示すのは歌声だけだ。

●グリモアベース
「みんな、真っ二つに割れた世界のことはもう聞いているね! じゃあ前略だ!」
 さっそく本題に突入すべしと、グリモア猟兵エルフィ・ティントットが声を張った。
 曰く、今回の戦場は少々特殊なルールに支配されているのだという。
「簡単に言うと……みんなは今回、〝歌で戦う〟ことになる」
 予知によれば、こたび猟兵たちが相手取るオブリビオンはアンマリス・リアルハート。
 破壊的な歌によって多くの猟兵たちを苦しめてきた、はた迷惑な自称プリンセスだ。
「コイツ、歌声の方はなんというか……壊滅的でさ。これが単純に歌のうまさを競う勝負なら余裕で勝てる。でも今回は、ちょっと事情が違うんだ」
 『パッショネイトソング』。
 それが此度の戦場を支配するルールであると、エルフィは告げる。
「アンマリスとの戦いでは、必ず『自分自身を奮い立たせる歌』を歌い続けなきゃいけないんだ。早い話、ミュージカルみたいなものだね!」
 歌を歌わずに行った攻撃は一切の効果を発揮せず、敵にダメージを与えられない。
 そして困ったことに、このアンマリス・リアルハートというオブリビオン、下手を極めたような自分の歌に対する自信だけは限りなく深い。『歌で自分を奮い立たせる』という面においてだけは、彼女は超一流のシンガーなのだ。
「だから、お前たちもアンマリスのやつに負けない強い想いが必要になるよ。大好きな誰かへの想い、秘密の告白、決意の表明……。自分が一番気持ちを込められそうなテーマがいい」
 ミュージカルでも盛り上がり所の定番だろ? とエルフィがウインクを飛ばす。
 アンマリスがそうであるように、歌唱力自体は必ずしも勝負に大きく影響しない。
 歌に想いを乗せる技術として状況を有利に運ぶ材料にはできても、音痴によって不利になることはあり得ない。相手の歌唱力がそもそも最底辺なのだから。
 猟兵たちが歌に込めた想いが強ければ強いほど、攻撃の威力もまた強まるのだ。
「心の声張り上げたら、きっと晴れるさ、暗雲も♪ 愛を叫びて掴めよ勝利♪」
 空中を舞い、それこそミュージカルスターを気取るかのように、朗々と歌うエルフィ。
「大丈夫。お前たちの魂を込めた声で、下手くそな歌なんて吹っ飛ばしちゃえ!」
 気合いを込めるかのように、エルフィが猟兵たちへ向けて小さな拳を突き出す。
 ――君たちの心に、旋律はあるか。


鹿海
毎度お世話になっております、鹿海(かのみ)です。
初めての戦争シナリオです。ドキワクです。
オープニングで詳細を説明しておりますが、今回の要点は3つ。

・必ず『自分自身を奮い立たせる歌』を歌いながら戦わなければならない
・想いの込もった歌であるほど、より強力な攻撃を行える
・想いの強さが全てなので、どんなに歌が下手であっても不利にはならない

思いの丈や、どんな歌を歌うかを「必ず」プレイングにご記載ください。
歌わないと強制的に失敗判定になるため採用ができませんのでご注意を。
それでは、皆さんのグレイテストなショーを楽しみにしております。
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第1章 ボス戦 『アンマリス・リアルハート』

POW   :    歌は自信があるぞ、聞いていけ!
【わりと壊滅的な歌声】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    ダンスは教養、出来て当然だ!
【躍りながら振り回す剣】が命中した対象を切断する。
WIZ   :    私はちゃんとできてる!間違ってるのはそっちだ!
【現実をみないだだっ子モード】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠アンノット・リアルハートです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ユーイ・コスモナッツ
ミュージカルですか?
声楽とバレエは習ったことがあるけれど、
上手ではなかったし、あまり自信はないなあ……
いや、でも、そんなことは言っていられませんね
宇宙騎士ユーイ、心をこめて歌いますっ!

最初は様子見も兼ねて、
剣と盾とで戦います
切り合いながらリズムを取って

♪誓いを盾に
♪誇りを剣に
♪背負うものは軽くない
♪けど!
♪それがぼくの背中支え
♪それがぼくの背中押す

身体と喉が温まってきたら、
反重力シールドに飛び乗って
ユーベルコード【流星の運動方程式】を起動

♪いななけ愛馬
♪闇を貫き正義守るため駆けるのだ
♪流星となって
♪どこまでも

天地無用の高速機動から、
スピードを乗せた突撃槍を一撃!



●第一楽章:星歌いのコスモノート
 ザ・ステージには必ずしも決まった姿があるわけではない。
 そして此度の〝舞台〟となるのは、まさしく〝舞台〟。
 どこからともなくせり上がった、広々とした劇場のステージ上にて、猟兵とアンマリス・リアルハートは対峙していた。
「さあ、参るがよい……私の歌を引き立てるべき、脇役たちよ!」
「いきなり失礼な人ですね、まったく……!」
 尊大な態度のアンマリスの前へと一歩進み出たのは、ユーイ・コスモナッツ(宇宙騎士・f06690)。正義を胸に抱く者として、この場へ馳せ参じた少女だ。
「ほう……騎士か。果たして私の剣技と歌声に、ついてこれるかな?」
「できるかできないかは関係ありません。宇宙騎士ユーイ、心をこめて歌いますっ!」
 両者ともに得物を構えると同時に、弾き弾かれ激しい打ち合い。
 アンマリスの流麗なターン、剣戟は舞い。
 ユーイの軽やかなステップ、鋭く高い音で盾が歌う。
 今はまだ、切っ先は届かない。
 だがやがて蹴り立つ舞台に打ち合う鉄、やがて生まれる律動[リズム]と律動。
「やるな、ユーイとやら……だが!」
 一進一退の攻防、やがて両者に間合いが生まれた瞬間こそミュージカルのお約束。
「♪お前は勝てない 私には 聞きて惚れろや我が歌声♪」
 当然に唐突に、アンマリスが歌い出す。耳をつんざく、音程殺しの壊滅トーン!
「♪誓いを盾に 誇りを剣に 背負うものは軽くない♪」
 されど音の津波のその中で、溌剌凛々、貫き響くは騎士の歌声。
 一歩も臆さず、剣と盾とを構えたままに、立ち向かう声は高らかに。
「けど!」
 力強い発声に対応するかのような踏み込みが、再びアンマリスの細剣と打ち合う。
 先の丁々発止には見られなかった痺れが自称王女の手を襲う。
 手応え確かに踏み込み強め、いざやユーイが切り込み踊る!
「♪それがぼくの背中支え それがぼくの背中押す♪」
 喉を通して体全体へと熱が行き渡る。
 頬が上気は疲れの故ならず、悦なき軌跡に得物は鳴らず。
 歌うことの、律動を刻むことの根源的な愉しみが、今はユーイを強くする!
「ええい……王女の御前であるぞ、騎士であるなら跪け!」
「跪きません! 屈しません! 私の忠義は、あなたのためにはありません!」
 激しい攻めに痺れを切らし、大振り見舞うはアンマリス。
 これぞ好機と弾ける盾よ、衝撃受け止め押し出されるままに。
 ユーイが踊るは、勢い任せのピルエット。
 回転を生むつま先が舞台を蹴り、すかさず飛び乗る大盾の上。
 装置なくとも舞台は変わり、今や盾上こそがユーイひとりの大舞台!
「♪いななけ愛馬 闇を貫き正義守るため駆けるのだ♪」
 勇ましい転調に、その大盾も……反重力シールドも共振し、地滑り空をも滑りゆく。
 天地無用の機動、描きし軌道は棚引く彗星。落ちゆくときは……。
「♪流星となって どこまでも!♪」
 奏でる楽曲の名は、【流星の運動方程式(フルアクセルシューティングスター)】。
 縦回転と共に眼下のアンマリス目掛けて、手に構えるは戦乙女の名を持つ槍。
 煌めく白銀一条……見えざる五線譜の波に乗り、ユーイが流星となって突貫する!
「フィナーレですっ!」
 律動が温めた体と矛先を、〝情熱の歌〟の名を冠す法則が調律。
 宇宙騎士の槍が切っ先は、今こそアンマリス・リアルハートを捉える!
「ぬううッ!! ……おのれ……敵ながら、何と堂々とした歌か!」
 確かなダメージを負いながらも、同じステージに立つユーイへの賞賛が口をつく。
 観客がいるはずもないのに、どこからともなく響く拍手喝采。
 応えるように、着地したユーイの愛らしいレヴェランスが此度の演目を締め括った

成功 🔵​🔵​🔴​

雨乃森・依音
戦闘なんて以ての外
歌うくらいしか出来ねぇと思ってた俺でも戦えるってのか?
そう、そうか
なら、やってやるしかねぇよな
歌しか脳がねぇ俺だからこそ
それで負けるわけにはいかねぇんだよ!

攻撃手が届かないであろう後方に陣取り
ギターを取り出し掻き鳴らして歌う
自分自身を奮い立たせる歌――だったか?
ならもってこいの歌がある
いいから聴いてけ!

「雨にも負けて、風にも負けて」
この世の有象無象全てに負けたっていい
どん底まで落ちたって
でも、自分のことは自分が一番よくわかってる
なら勝てないわけないだろう?
あとは一歩、そこから踏み出す勇気
そういう弱い自分を奮い立たせる歌だ

これが俺の戦いだ!
希望を仲間に託して
俺はお前を打ち倒す!


アダムルス・アダマンティン
俺は詩神ではないが、神である以上は踊りや音楽には心が踊らされる
人の子らが奏でる歌。捧げる踊り。どれも全て快なるものだ
その歌が力となるならば。一つ、我が聖域にてかつて人の子らに教えた歌を歌い上げよう

吹け、吹け、ふいごを!
吹き上げろ、炎を!
金槌を振りかざし、鉄へと叩きつけろ!
槌を振れ!槌を振れ!火処が弱まるその前に!魂が燃え尽きるよりも早く!
ふいごを吹け!槌を振れ!
さあ、金槌よ!堅い鋼を我に与えたもう!

――刻器神撃
貴様の鉄は、ソールの大槌に耐えられるか
試練をくれてやろう!



●第二楽章:人よ歌え、神よ踊れ
「♪ら゛ら゛ら゛————♪」
 手傷を負えど、アンマリス・リアルハートと驚異の歌声は健在であった。
 真正面から恐るべき音の波に晒される猟兵が、今は二人。
 方や、雨乃森・依音(紫雨・f00642)。
 根っからのミュージシャンである彼にとって、今この場ほど輝ける戦場はない。
「なあお前、名前は!」
 耳をつんざくアンマリスの歌声の中、依音が並び立つ男に呼びかけた。
「……アダムルス」
 男……アダムルス・アダマンティン(“Ⅰ”の忘却・f16418)が、遠雷を想起させるような、騒音の中でも低く通る声で答えた。
「OK、アダムルス。悪いが俺は歌しか能がなくてな。攻撃は託したいんだが……」
「だが、何だ」
 現状を鑑みても、至極当然の前提であるがゆえに、アダムルスは淡々と返す。
 アダムルスは、かの世界より来る正真正銘の神。
 世界を異にするキマイラなる異種族であれ、紛れもなくこの世界における繁栄の徒、すなわち〝人の子〟である以上、必要以上に言葉を交わすのは彼の主義にも反したが。
「これはミュージカルだろ? ただ振るよりも……ひとつ、踊ってみちゃどうだ!」
「……いいだろう!」
 アダムルスが提案に乗った理由は、二つ。
 そもそもこの戦場に敷かれた律令から考えて、依音の提案が合理的であったこと。
 もう一つの理由は至極単純。彼もまた、音楽と踊りを愛しているのである。
 それらは古の時代より、人の子が、愛子が神のために捧げてきた祈りなれば。
 はじめにアダムルスが力強い足踏みを為し、律動を生んだ。
 幾千の観客が為すが如き地鳴りは、ライブの熱気を一人で連れて来たかのよう。
「いいじゃねぇか。ドラムいらずだ!」
 負けじと依音もエレキギターを構える。
 目玉が飛び出るような高級品でもなければ、伝説に語られる逸品でもない。
 だがギタリストであるならば、誰が相手であろうと語る言葉として十二分。
 そこに歌声が乗ったならば、神の心さえ動かしてみせよう。
「それじゃあ行くぜ……【雨にも負けて、風にも負けて(ノーサレンダー)】!」
 この世の有象無象全てに負けようと、雨にも雪にも負けようと。
 敗北と挫折を重ねようと、それでも自分にだけは負けるまい。
 絶望という暗雲に差し込む一筋の光にも似た歌詞が、歌声が。
 アダムルスの地鳴りをもかき消さん勢いで、聴く者の心に入り込んでゆく。
「今を生きる人の子の歌か……ならば俺はひとたび、時を遡ろう!」
 舞台を揺るがしながら、アダムルスもまた大きく息を吸い込み。
 歌声を、轟かせる。

吹け、吹け、ふいごを!
吹き上げろ、炎を!
金槌を振りかざし、鉄へと叩きつけろ!

 アダムルスが歌うは遥かな世の人々に伝えた、原始の歌。
 あるいは楽器すら多くは存在しなかった頃の。
 神や人の、ただ声によって……根源的な命の力によってのみ作り出される、音。
 切なげに啼くエレキギターの音色に、依音の高く澄んだ声。
 地を揺らし雲に轟きをなす、アダムルスの烈々たる歌。
 そしてアンマリスが悦楽のままに歌う、壊滅の音響。
 これは協奏であり、合奏であり……そして、三者をまじえた音の殴り合いだ!
「♪お゛ぉー! 天にまします、我ら゛が神よぉー!!♪」
 アダムルスのそれに対抗してか、アンマリスの曲も讃美歌らしきものへ変じた。
 相変わらず暴力に近い声量と、自信。だが猟兵たちは負けず、退かず。
「歌でだけはな……負けるわけにはいかねぇんだよ!」
 大盛り上がりへ突入した楽曲にアレンジを加え、依音の声がおよそ男声とは思えぬほどの高音域で、アンマリスの歌声を貫いてゆく。
 その本気に応えるように、アダムルスによるいさおしの歩みが軽やかさを帯びる。

槌を振れ!槌を振れ!火処が弱まるその前に!魂が燃え尽きるよりも早く!
ふいごを吹け!槌を振れ!
さあ、金槌よ!堅い鋼を我に与えたもう!

 そして。この世界……キマイラフューチャーにおける〝人〟と、異なる世界の神。
 二つの声が、重なる。
「叩きのめされようと、打ちのめされようと!」
「我ら、膝を屈することなし!」

♪敲くがいい、擲るがいい
♪灼かれるほどに、身を焦がすほどに
♪鉄も鋼もより硬く、より強く!

 それは、奇妙な光景であった。
 神世を生きた紛れもない神の原始的な詩歌と、現在[いま]をも越えた未来を生くミュージシャンがかき鳴らすギターの音が。あらゆる意味で交わるはずのない旋律が重なり、調和を生んでいる。
 神話が、人の子と神の交わりを詠うものなれば。
 今ここに歌い上げられるは、紛れもない新たな神話の一篇。
 悠久の時を越えて鍛えあげられた、〝希望〟という名の鍛鉄が歌!
「♪さあ、金槌よ! 堅い鋼を我に与えたもう!」
 アダムルスの掲げた大槌に、まさしく神さえ焼払わんほどの炎が集う。
 依音が歌い、地を踏み、激しいギターリフを見舞うたび、より猛々しく。
 どん底まで落ちようと、地の底、地の獄まで堕とされようと。
「——自分ってやつには、負けるわけにはいかねぇんだ!」
 依音が詞に乗せて伝えるメッセージが、不撓不屈の意思なればこそ。
 トールの大槌が纏う炎……地獄の炎はよりいっそう、煌々と燃え盛る。
 これが試練にも耐えてみよと、人を試すかのように。
 そして雨乃森・依音は、生粋のロックシンガーである。
 本気で伝えたいこと以外、歌おうはずもない。
 巻き起こる地獄の熱波が肌を焼こうと、その声量、落ちることなし。
 弱い自分を奮い立たす術を知っていればこそ、この場の彼はひたすらに強い。
 己を信じ、あと一歩踏み出す勇気を仲間へ託す。
 たとえ火矢の降り注ぐ戦場であったとて、しとど降る雨のように歌い続けるだろう。
 それが、依音という男の戦いなのである!
「♪お゛ぉー! そんな歌、私の゛ォ声で…………♪」
 これに対抗せんとさらに破壊的な大音声を張り上げんとしたアンマリスが目を剥く。
 彼女の歌唱が、自らの耳に届かないのだ。
 まさしく驚異である。
 たたらを踏み抜き地より熱を噴きあげ、降る雨雪までもが混ざり込む混沌なる歌は。
 今やアンマリスの声量すら呑み込むほどの、一大協奏となっていたのだ……!
「お前の歌は」
「貴様の鉄は」
「俺の希望に」
「俺の大槌に」
 フィナーレを踊るギターの音に合わせ、大槌を両手にアダムルスが廻る。
 人の業を焼き尽くす地獄の炎がしかし、艶やかなる円環の軌跡を生む。
 いにしえの神話にも記されることなき、神の舞が。
「「耐えられるか!!」」
 世界に仇なす者を、神代の炎で灼き尽くす!
 さめざめと余韻を残して、ギターの音色がフェードアウトすると共に。
 振り抜かれた槌から放たれた炎は、舞台全てと共に、アンマリスを呑み込んでゆく。
「ぐっ……神と人が、共に歌うなど……そのような光景、夢にも……!!」
 人と神の織り成す、一大叙事詩……ひとたび、ここに終幕。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ユウカ・セレナイト
*アドリブ大歓迎
*歌詞はお任せします!

そう! 歌に上手いも下手も関係ないわ!
そこに魂が籠っているかぎり、あなただって一流の歌い手よ

だからこそ、全身全霊で!
私も応えましょう!

ヴィオラを爪弾きながら私が歌うのは
まだ見ぬ未来へ思いを馳せ、それを守り抜くと誓う歌
なぜなら、私は「全ての思いを未来へと繋ぐ者」だから!
この世界の未来を終わらせない、皆の生きる世界を守り抜く
その思いこそが私の根源、「私」という存在そのもの
だからこそ、この歌は皆へ希望を届けるものであると同時に
私の心をこれ以上なく奮い立たせる歌でもあるの

……私にできることは歌うことだけ
でも、この歌だけは、誰にも負けない自信があるわ!


非在・究子
【SPD】
う、歌で戦うのか?
そ、それも、思いのこもった歌?
な、なかなか難しいな……
う、うーん。

ぐっ、ぐぐっ……こ、こうなったら、し、仕方ない。
……げ、現実なんて、く、クソゲーだっていう、思いと……それでも、ここで、生きていく、しかないって、思いをぶつける。

ぎ、きひひっ。
け、けーき付に、こ、この『SSR確定ガチャチケット』も、つ、使って、い、衣装ガチャをひ、ひいて、やる。
ど、どんな装備が、出ても、そ、それを着て、歌って、踊って、やるから、な。
……なっ……こ、これを着て、歌って、踊れって、い、言うのか?
や、やっぱり、現実は、く、クソゲーだ!
(何を引くかはお任せしたく。自棄っぱちで歌って踊ります)



●第三楽章:未来と現実[いま]のシンフォニー
 聴覚を縊り殺すばかりの歌唱力にまじえ、披露するアンマリスの麗しいダンス。
 歌と踊りのあまりの釣り合わなさは、見る者にめまいを起こさせそうであった。
「う、うわ……運営、ば、バランス調整しろよ……」
 両目を覆い隠す緑髪と共に、両目で耳をも塞ぐのは非在・究子(非実在少女Q・f14901)。
 ふくよかな体型と口籠るような口調と相まって、いささか暗めの印象である。
「あの歌……すごいわ! 本気の気持ちが籠ってるもの!」
「えぇ……」
 対して耳を塞ぐどころか、両手を組んで銀月の瞳を輝かせながら聞き入る少女。
 呆れる究子を横目に、ユウカ・セレナイト(すべての夢見る者たちへの賛歌・f13797)はいかなる形であれども、音の楽しみに聞き惚れるのだ。
「負けてられないわ、究子。私たちも歌うわよ!」
「えぇ…………」
 猟兵たちは事前に顔を合わせ、互いに名乗る程度の自己紹介は済んでいた。
 テンションについてゆけない究子を置き去りに、まずユウカが楽器を構える。
 ユウカの得物は飴色のヴィオラ。
 ヤドリガミである彼女自身を織り成す旋律の匣。

♪まぶたを閉じれば 浮かぶ明日
♪まぶたをひらけば 知らぬ明日
♪予想もつかない 私たちの未来

 独奏、そして独唱。
 アンマリスの大音声を、ユウカの紡ぐ柔らかな音色が押しのけてゆく。
 高らかに歌い上げる、未来への讃美歌。
 世界を存続させる、いまだ見ぬ誰かの明日を守り抜くという誓い。
 言わばそれは、「全ての思いを未来へと繋ぐ者」たる、ユウカ自身の歌。
 【未来を紡ぐ者たちへの譚歌(ミライヘツムグセンリツ)】。
 かのアンマリスでさえ、思うところあってかその音色に目を細める。
 即興で織りなされる歌詞の途切れ目に、ヴィオラの音だけが流れ出し。
 ユウカとアンマリスの視線が、揃って究子へと集中する。
 さあアナタの、お前の思いを込めた歌とはいかなるものかと視線で問いかける。
「うえぇっ、む、無茶振り!? ぐっ、ぐぐっ……こ、こうなったら、し、仕方ない……」
 もはやどうにでもなれ、どんな装備が出てもそれで歌って踊ってやる。
 決意を共に取り出したるは【SSR確定ガチャチケット(ヤクソクサレタショウリノチケ)】……きっとこの場にふさわしい衣装をもたらすはず。
 とりあえず形から入ればどうにかなるのだ。
 だってRPGでも、ジョブチェンジするときはまず衣装とか変わるから!
 結果、引き当てた衣装はといえば。
「……なっ……こ、これを着て、歌って、踊れって、い、言うのか?」
 ふりふり、ふわふわ、さながらミュージカルの主役、ヒロインが纏うようなドレス。
 それはもう、この舞台にあってはまさしくSSR、とびっきりの衣装であろうが。
「ど、どちくしょー! や、やっぱり現実は、く、クソゲーだ!!」
 しかしこうなれば究子もヤケである。
 一瞬で着替えを済ませ、体型からは想像できないほど俊敏にターン、アンドポーズ。
 武器たるゲームウェポンをスタンドつきのマイクへと変貌させて。
 まさしくミュージカル特有、どこからともなく流れ始める伴奏に合わせ体を揺らし。
 いざ高らかに、声を張り上げる!

♪だったら、歌を歌ってやる[Sing a Song]!
♪赤恥さらして[Shame]、体を揺らせ[Shake]!
♪罠[Trap]にハマってタップ[Tap]を刻んで
♪こんなクソゲー[Crap]、拍手[Clap]一つも飛びはしない!

 ところがどうしたことか。
 衣装のもたらす力と、今ここに展開される、誰もが歌って踊れるミュージカル時空。
 双方が掛け合わさった結果、即興の歌に任せて究子が力強くステップと韻を踏む。
 言葉にどもり躓かぬように、一節一節の力強い発声を為す。
 流麗に奏でるユウカに対し、さながら究子は勇猛果敢な戦うプリンセス。
「ぎ、ぎひひっ……ぎゃ、逆に楽しくなってきたかも……」
 ヤケクソ混じりではあるが、やはりミュージカルには笑顔が似合い。
 やるじゃないの、とウインクを飛ばすユウカに究子も下手くそなそれを返す。

♪現実[いま]を踏み越え、つながる未来、きたるは希望

 ユウカが言祝ぐ、未来の肯定。

♪現実[いま]に打ち付け、痛むつま先、リアルはクソゲー!

 究子が叫ぶ、現在の否定。
 生を謳歌する上では、ポジティヴもネガティヴも避けては通れまい。
 すべて生の必須要素なれば、両者の歌が、演奏が重なるは必然!
「ならばそのクソゲーなる現実、このアンマリス・リアルハートに譲る気はないか!」
「「お断り!!」」
 歌の合間の間奏に、歯切れよく小気味よく言葉の応酬。
 それまたミュージカルの醍醐味なれば、振るう剣にも傷ひとつなし。
 ユウカの弓が放つ衝撃波が、迫る剣戟と拮抗し。
 究子のマイクスタンドが、刃と鍔競り合えども押し返す!
 律動に任せて体踊らせば、満ちて満ちゆく見知らぬ力。
 どこからともなく聞こえる旋律に、足も体も自然に動く。

♪願うほどに繋がる未来
♪夢見るほどに輝く明日
♪語り讃えましょう、私たちの世界!

 なおもユウカが歌い上げるは、希望の唄。
 飴色の音色が舞台に煌めきをもたらし、不明の伴奏は主役たるヴィオラを引き立てるべく、愛しいひとに寄り添うような静けさを帯びてゆく。
「ほざけ! 何もかも忘れたお前たちが、夢などと……!」
 その歌詞は、アンマリスにとって琴線に触れるものがあったか。
「♪語らせはせぬ、夢などと 私は忘れじの王女 夢見ぬゆえに人は忘るる♪」
 やはりぐにゃぐにゃに描いた五線譜上を狂い飛ぶような歌声ではあるが。
 語調に込められたわずかな怒気は真摯ゆえに、この空間で力を増す。
 だがしかし、もはや律動に乗っているのは彼女だけではないのだ。
 姿も見えぬ楽団の先陣を切るユウカに斬りかかるアンマリス。
 その前に立ちはだかるのは究子……いや、プリンセス・Q!

♪ろくでもない、ままならない、それでもここで生きるっきゃない!
♪生きて[Live]、歌って[Live]、ワンナップ[Lives]!

 体を回してマイクを回して、世界を回して巡って廻る!
 小気味良く決めたターンの勢いに任せ、振り回されたマイクスタンドが澄んだ金属音を立ててアンマリスの剣を弾き飛ばした。
 高まり切ったボルテージ、己を極限まで奮い立たす心からの歌が両者の力を高める。
 その隙を逃さず、最高潮に達したユウカのメロディが衝撃波を生み出す。
 武器も取り落とし、二人の奏でる旋律の渦の中、アンマリスにこれを防ぐ術はない。
「ぐぬうっ……!」
 肌にドレスに傷を負い、かの王女は未だ倒れず。
 それでも紛れもないダメージが、その身に蓄積されてゆく。
「今の華麗なダンス……とっても素敵よ究子。本当のお姫様みたいね!」
「ぼ、ボクみたいなのが、ひ、ヒロインとか……に、ニッチすぎだろ……」
 照れ臭さか生来のネガティブさか、ユウカのまっすぐな称賛から目を逸らす究子。
「それに、アンマリス……アナタの歌も一流よ! 魂の籠った、素晴らしい歌!」
「……うむ。当然であろう! 私の歌声、よくよく覚えておくがよいぞ!」
 ユウカにとっては上手いも下手も関係ない……なれば称賛はアンマリスにも向く。
 あちらも敵であれど、歌を褒められれば悪い気はしないらしい。
 ダメージを食いしばりながらも、不敵に笑ってみせる。
 何より、彼女たちの記憶に、自身の歌が、己が刻まれることが……。
「い、いや、あの歌声はない……」
 ……冷静にボソッとツッコミを入れ、ただのいい話に留めぬも究子の性分。
 事実、あの破壊的な歌の被害をこれ以上広めるわけにはいかぬのだ。
「でも、ごめんなさい。私、歌でだけは負けるつもりはないから!」
 そして惜しみなき喝采を他者へ送れども、ユウカはミュージシャンである。
 奏者としての、歌い手としてのプライドがその胸でいつも静かに燃えている。
 すぐさま再開したミュージックが、再び彼女らを音の海に誘う。
「ひ、ひい……う、歌と踊りって、超疲れる……!!」
 他方、音に乗りつつも、ちょっぴり音を上げたくなる究子であった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アンノット・リアルハート
私にとっては妹だけど、向こうからしたら死んだ人間の複製体
だけど、アンノットとして、思いを全部伝えないとね

UCを発動。アンマリスの攻撃を光のベールと【武器受け】で防ぎながら、歌に乗せて思いを伝えます

♪貴女を残して、先に行ってしまってごめんなさい
♪私達の国を、帰る場所を作ろうとしてくれてありがとう
♪方法は褒められたものじゃないけれど、実はちょっとだけ嬉しかった

これまでの思いを歌いきり、相手が体勢を崩したら、今度はこれからの思いを歌いあげ隙を見て武器で攻撃します
♪楽しい夢はもうおしまい
♪巡る流星が貴女を待ってる
♪ばいばいエニス。もしまた私と出会えたら、その時は友達として、一緒に歌を歌いましょう



●最終楽章:忘国に捧ぐデュエット

 幕が上がった物語は、いつかどこかで閉じなければならない。
 夢はいずれ醒め、泡沫と消えゆく。
 舞台上で対峙するのは、二人の姫君。
 アンノット・リアルハート(忘国虚肯のお姫さま・f00851)と、アンマリス・リアルハート。同じ姓を冠する二人。同じ銀糸をなびかす二人。
 月下に咲くアヤメにも似た色の瞳もまた。
 だが、そこに宿す感情は対極的とも言うべきものであった。
「……まだ、生きていたのか」
 はじめに言葉を発したのは、アンマリスだ。
 どこか震えるような声色は、少なくとも再会を祝す喜色ではない。
「うん。……もう、夢から覚める時間だよ」
 対してアンノットは、ただまっすぐ愛しい〝妹〟と向き合う。
 彼女は、アンノット・リアルハートであってアンノット・リアルハートではない。
 誰もが愛した、亡き王国の姫君……その複製体。
 アンノットから見れば眼前に立つのは、紛れもない、共に過ごした記憶を持つ妹。
 だが、アンマリスからしてみれば。
「覚めるだと!? その結果、私たちの国はどうなった! 私はどうなった!」
 もうどこにもないはずの姉の姿を、声を持つ存在。
 国民たちの理想が生んだ夢。自分たちが……本当の姉が、決して歩めなかった道。
 憎々しげに歯を食いしばり、アンマリスが剣を構える。
「♪我は王女 民草がため 国がため 我が刃は紡ぐ 無窮の夢♪」
 やはり壊滅的な歌唱力と声量だが、祖国に捧ぐ勇壮な歌がアンマリスを奮い立たす。
 容赦のない剣戟は彼女がアンノットを愛する〝姉〟とは認識していない証左だろう。
 万感を込めた歌は、細剣の一撃にさえ鉄槌を振るうが如き重みを与える。
 両手に構えた槍で全てを受け止めながら、それでもアンノットは妹を見つめる。
「♪忘れさせはせぬ この痛み 忘れさせはせぬ 我が誇り♪」
 ――ああ、やっぱり。やっぱり、あなたは、ずっと。
 どんなに孤独だっただろう。どんなに心細かっただろう。
 あらゆる意味において〝アンノット〟は、彼女の……妹の側にいられなかった。
 不滅の願いを込めた名をもって生まれながら、それを果たすことができなかった。
 だからせめて、今できることは。

♪貴方を残して 先に行ってしまってごめんなさい

 それは震える手を、そっと握ってあげるかのような。
 温かな枕元で語り聞かす子守唄のような、柔らかく、慈愛に満ちた歌声。
「違う! お前ではない! 私を残したのは、〝お前〟では……!」
 姉と同じ姿をした〝姉〟が、彼女の言葉を語ろうとしている。
 その事実を許せないとでも言うかのように、アンマリスが剣の振りを早めた。
 だがアンノットの歌声によって淡く優しい光のベールが生まれるたび、その勢いは受け流され、どこへともなく溶け落ちてゆく。
 【王家の星よ、我が身を燃やして命を救え(サルヴァツィオーネ・アンノット)】。忘れられた国の祝福が、今なおアンノットの身を焦がし、そして守っているのだ。

♪私達の国を 帰る場所を作ろうとしてくれてありがとう

 あのか細い体に、どれほどの重責を背負ってきたのだろうか。
 誰よりも皆を想って、その責務を果たしてきた、もう一人の王女。
 他の何者も知り得ない彼女の戦いを……アンノットだけが、知っている。
 心地よいまどろみの底から這い出し、失われた過去の化身となってでもアンマリスは忘国の再生を願った。誰が信じなくとも。王女の名を自称だと思われようとも。
 ただもう一度、故国へ帰るために。
 王女は、この世界に仇なす怪物に成り下がった。

♪方法は褒められたものじゃないけれど 実はちょっとだけ嬉しかった

 アンノットが紡ぐのは、詩句ではない。詩歌ではない。
 ただありのままの言葉を、ありのまま浮かんだメロディに乗せる。
 彼女が歩んできた〝これまで〟の歌。
 飾り立てることもなく、両の掌に乗せた贈り物を、唇が知っている。
 穏やかにアンノットが歩み寄る度、アンマリスは攻勢を弱め、後ずさってゆく。
「やめろ……その声で歌うな……!」
 穏やかに歌うアンノットとは対照的に、アンマリスはまさしく必死であった。
 現実から目を逸らし、得意げなステップも捨て去り、癇癪を起こした子供のように剣を振り回す。だが、その唇は今、歌を織りなしておらず、もはや刃は届かない。

♪誰よりも責任感の強かったあなた 誰よりもみんなを愛したあなた

 刃がその身を掠めようとも、アンノットの歩みは、止まることはなく。

♪ありがとう 私のかわいい妹

 伝えきれなかった言葉に旋律を与え。
 そして彼女が歩んでゆく〝これから〟の歌へと、転調してゆく。
 長い……長い時間をかけて積み上げてきた想いを、歌に乗せて。

♪楽しい夢は もうおしまい

「覚めない……覚めてなるものか!」
 この戦場を支配する法則から。
 そしてアンマリスがアンマリス・リアルハートである所以から考えたとしても。
 歌うことをやめてしまった時点で、アンマリスに勝機はなかった。
 奏でる旋律に乗せて振るわれたアンノットの槍が、細剣を弾き飛ばす。

♪巡る流星が あなたを待ってる

 そこに敵意はなく、けれど振るう矛先に迷いもない。
 いかな美辞麗句で飾り立てようとも、これは戦い。
 体勢を崩した相手の決定的な隙が、見逃されるはずもなく。
 突き立てられたアンノットの槍が、アンマリス・リアルハートを貫いた。



 骸の海に打ち捨てられた過去から染み出した、世界の異常。
 連綿と続きゆく未来の礎として、人の記憶から消え去った存在。
 忘れられた、過去。
 だからこそ彼らは忘却[オブリビオン]と呼ばれる。
「誰も……誰もだ!」
 もはや立ち上がる余力もなく、崩れ落ちたアンマリスが絶叫する。
「誰も私たちの国を覚えていない! 誰も私を覚えていない! 誰も……」
 歌ですらなくなったアンマリスの言葉が、感情の濁流となって溢れ出す。
 言葉と共に双眸が滂沱の想いによって歪み、唇が噛み締められる。
「誰も、お姉さまを覚えてない……ッ!」
 まっすぐに……眼前の姉を見上げる、忘国の王女は。
 今や、ひとりの少女の……ただひとりの妹の、弱々しい面持ちとなっていた。
 漆黒のドレスは破れ、今のアンマリスを構成する全てがこぼれ落ちてゆく。
 悪意なかれ、憎まれることなかれと、祝福を込めて生まれ落ちた愛しい妹。
「もういいの。もうそんなに、頑張らなくていいんだよ」
 たとえ作り物であろうとも、アンノットの記憶が彼女への愛を物語る。
 優しい歌を紡いだまま、屈んだアンノットの両腕が、そっと妹を抱きしめる。
「星を見上げるたび、きっとあなたを思い出すわ。私だけは、絶対に忘れない」
 星々は巡る。たとえ動いていないように見える彼方の星とて、少しずつ。
 ひとは夜空に……星に見守られながら、夢を見る。
 だから、たとえ誰もかの国を夢に想うことがなくなったとしても。
 夜空に瞬く星たちと同じところへ、行くことができたなら。
「……お姉さま……」
 アンマリスの呼びかけは、果たして〝誰〟に向けられたものであったろうか。
 ただ確かなことは、彼女が自らを抱きしめるアンノットの胸に、顔を埋めたこと。
 そしてゆっくりと。
 どちらからともなく歌い始めた音色が、重なったこと。

♪愛すべき 私たちの国
♪愛すべき 私たちの夢

 アンマリスの歌声は、やはり調子外れで、下手くそで。
 けれど、これまで彼女が歌ったどんな歌より、想いが込められた。
 何をも壊さない、ただの、やさしい歌。

♪忘れないで どうか
♪忘れないよ いつも

 姉妹でありながら、姉妹ではありえない二人。
 重なる声の、たったひとときのデュエットは。

♪忘れないよ ずっと

 やがて、ソロへ。
 両腕の中の温もりは、泡沫と消え。
 舞台上に立っているのは、もはやアンノットただ一人であった。

♪ばいばいエニス もしまた私と出会えたら

 でも、これは明るく楽しい、ミュージカルなのだから……涙の結末は似合わない。
 立ち上がったアンノットの顔に、悲観はなく。
 今や彼女のほか知ることはないであろう、愛する妹の名前とともに。

♪その時は友達として 一緒に歌を歌いましょう

 未来を織り成す希望と笑顔に満ちた、唄を歌う。
 美味しいものを食べて、友達と話して、夜は星を見上げて、明日も元気に過ごす。
 些細で愛おしい、ささやかな〝夢〟を携えて。
 アンノット・リアルハートは、誰かが夢見た未来を生きてゆく。



 忘れられた国があった。
 忘れられた王女がいた。
 今はもはや、誰も彼女を夢に見ない。
 それでも彼女は、歌い続けた。
 愛した自分を、愛した国を、愛した人を、誰かの記憶に刻み込むために。
 だからもし彼女を振り返るならば、せめてこんな、優しい詩句を紡ごう。

 むかしむかし、夢見るふしぎな王国に。
 歌と踊りがたいそう好きな王女さまが――……

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年05月04日
宿敵 『アンマリス・リアルハート』 を撃破!


挿絵イラスト