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病ミ恋ストーキング

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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●ささやかな恋バナ
 アドニスは私が目覚めて髪をとかし身繕いをしたタイミングで、必ずあの広場の四つ辻を通って仕事に行くの。
 アドニスの仕事は家具職人。
 師匠の一番弟子で大物観音開きの箪笥に繊細な飾りの彫り込みは、他の追随を許さないわ。
 領主様もごひいきにされてるんですって、さすが私のアドニスね♪
 ずっとずっとずーーーっと、アドニスを追い掛けて来たの、私。
 色々な町を渡るアドニスをずっとね、追い掛けてきたんだから。
 振り向いて欲しくって――、
 得意な狩りで捌いた動物を家の前に置いたり(傷まないお呪いで九本の蝋燭を立てるのが秘訣)
 愛してるって壁にラブコール☆
 でもこの町でも私の恋を邪魔する奴がいるの。
 女だてらに職人なんてやっているルシアンは、アドニス目当てに決まってるわ。
 赦さない。
 赦さない赦さない。
 赦さない赦さない赦さない。
 赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない。赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない――。

●グリモアベースにて
 わかっていることは本当に少ないと、稿・綴子(奇譚蒐集・f13141)は切り出した。
 グリモア猟兵としては苦汁であろうに、その口元はいつも以上に裂け上がり、瞳も煌々とした好奇の光を孕んでいる。
「これがどうも色恋から発展しての殺傷沙汰ならば至極愉快ではあるがよ、もっと複雑怪奇な関係が転がっているのかもしれぬ。
 まぁちょいと行って、此奴らの“事情”を紐解いて来てくれ給え」
 綴子は斯様に不謹慎極まりない奇譚蒐集家ではあるが、同時に防げる悲劇の回避を願う使命感も一応は持ち合わせている。
「事件が起るのはダークセイヴァーのある町だ。ヴァンパイアの領主が暮らす城下町との行き来は徒歩で可能な範囲である」
 わかりやすく言うならば、大人の足で2時間ほどだ。
「このまま行くと死する不幸な輩は家具職人のアドニスという熊のようにデカい胸板の青年さぁ! 家具を作るノミを首筋にヤられておだぶつ。
 どうも奴は泥酔しておったようでな、顔見知りじゃあなくたってコトは行える」
 皆が現地に行けるのが昼過ぎ、殺害は次の日の深夜に行われる。
「犯行時刻だけ此奴を監禁した所で、結局は別の日に殺される。故に、状況を探りだし根本的な解決が必須である」
 綴子がみたアドニスに絡むのは下記の人物である。
 アドニスの師匠でロブは老年に差し掛かる家具職人。
 ロブの孫のルシアンは13から祖父について修行し、そろそろ10年。
 アドニスに恋する乙女のメアリーは、お年の頃は30後半。強烈なラブコールをアドニスに送る彼女は、風来坊のアドニスが場所を変えるとついていく。
「……一緒に行方不明になる者も出るらしいが、こんなご事情抱えたダークセイヴァーであるからして? まぁ、偶然であろうよ」
 綴子は語りはじめた当初と同じく類いの笑みを浮かべ、指先に浮かぶ鳥籠のドアを開け放ち世界をつなぐ。
「諸君が此奴等の“事情”をどのように推察し手を打つか、其れにより奇譚はどのように様相を変ずるか……嗚呼、胸のワクワクが止らぬよ」


一縷野望
 オープニングをご覧いただきありがとうございます、一縷野です。
 シンプルな筋書きは準備済みで、通常のプレイングでも進めるようにしてあります、
 が、
 このシナリオは『プレイングで事件や設定やらを投げ込んで頂くことで、深みやカオスが増し、恐らくは愉快になります』
(TRPGをご存じな方は「シナリオクラフト」をみんなで遊ぶと言えば通じるでしょうか)
 ただし、どのような設定が付加されようが【1章目の目的:殺人を未然に防ぐ】はクリア可能です。この辺りは普通の依頼と同じとお考えください。

●プレイング
『ご自身のキャラがこのシナリオでどういう風に振る舞うか』に加えて『シナリオNPCや舞台設定などのネタ』をお願いします。

 ストーカーメアリーはこういう理由で追っかけ回してるとか、
 ストーキングされてるアドニスは実はこんな奴とか、
 また、その場限りの嘘で「俺はメアリーに昔憧れてたんだよぅ」とか「私が全てを仕組んで暗躍してるのよ(嘘八百)」とか、

 もう好き勝手に想像の翼を広げた設定を投げ込んで下さい。
 他のPCさんと矛盾してもノープロブレム、一縷野がなんとかします。
 なんとかするので、
 このシナリオは、設定・PCさんの行動共に、アドリブ多めです。

●注意
 斯様にキャラクター崩壊が多発しますのでご理解の上ご参加ください。
 辻褄合わせは頑張りますが、整合性あるストーリーよりはとっちらかったお祭り騒ぎを愉しむシナリオです。

●受理人数について
 各章上限は15人前後を予定してます。
 はやいもの勝ちではないので挑戦者数が上回っていても遠慮無くチャレンジをどうぞ。

●シナリオ運営予定について
 1章目:4月26、27日に執筆予定。
 2章目:4月30日、5月1日、2日に執筆予定(プレイング募集期間は別途広報します)
 3章目:5月7日朝8時半以降よりプレイング募集開始。

 それではご参加お待ちしております。
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第1章 冒険 『ストーカー問題を解決せよ』

POW   :    ストーカーを力づくで追い払う。

SPD   :    ストーカーを説得する。

WIZ   :    適切な相手に相談する。

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

雛月・朔
UC:絡みつく土蜘蛛の糸
服装:現地に合わせる

◆心情
桐箪笥のヤドリガミとして家具職人を志す若者が殺されるのを見過ごすことはできません。また、人の心の闇というのもおおいに興味があります。

◆行動
実は『この世界では珍しい、屈強なアドニスの身体を余すことなく使った最高の家具を作りたい』と思っている人格破綻者のルシアンさんに接触します。

彼女が一人になった時にに接触し、「貴女ではロブやアドニスに一生追いつけない」「あんな作品では領主様に見向きもされない」等、散々に挑発と罵倒を行いUCのトリガーに。

UCで拘束・無力化できたら、じっくりその胸の内に秘めた思いの丈を語っていただきます。えぇ、それはもう存分に。


彩波・いちご
ストーカーですか……まぁ、女性に好かれすぎるというのも怖いもの、って感じでしょうかね?
女難の相には大いに同情しますというか親近感沸きますので、アドニスさんは何とか助けてあげたいところです
あ、好かれる事自体はまんざらでもないんです?アドニスさん

とはいえ、私がいつもの格好(女装)でアドニスさんの警護をしていると、周りに新しい女がいるってことでこっちが狙われそうですけど!
ええ、もう、それで狙われるのなら、ある意味本望ですともさ!

え?
メアリーさんはアドニスさんの家に何度も忍び込んで下着盗んでるとか、着替えやお風呂覗いてるとか、そんなことまでしてたんです?
その代わりに自分の下着おいてくとかマニアックな…


ステラ・アルゲン
そんな……メアリー!
貴女は私にストーカーをしていたのに……!まさか私以外にも同じことをしていたなんて!

恋する乙女メアリー、実はストーカー相手はアドニス以外にもいたのです。それこそ多くの様々な男性や女性も含めて。トキメキを求められるならば誰でも良かったなんて理由

メアリー、私がいけなかったのでしょうか?
貴女の想いには答えられないと言ってしまったばかりに……。
彼女の前に膝を付き、【手をつなぐ】

私をもう一度見てください
貴女が他の誰かをストーカーする姿を見るのはとても悲しいです。
【優しさ】を持って話しかけて【誘惑】
私以外にストーカーなんてしないでください
……貴女の想いには答えられないのは変わりませんが


赫・絲
恋する乙女は30代後半……。
いやいやいや、恋に年齢は関係ないしね。
恋しちゃったものは仕方ないよね。
……いややっぱり乙女はちょっと無理があるんじゃない?

それにしても恋は盲目とはいえ、よくそんなに長い間追いかけられるよねー。
それこそ執念深い借金取りみたい、なーんて。
……もしかしてお金返して欲しくて追いかけすぎて『恋』しちゃったとか?
それならそりゃ追いかけたくもなるよねー。
もしそうなら恋敵は別の借金取りだったりしてー。

ま、ほんとにお金の問題なら親方サンに肩代わりしてもらうとかでお金返したら、
100年の恋も冷めて殺す気失せたりしないかなー。


レガルタ・シャトーモーグ
色恋からの殺人か…
よくある話だな
俺にはよく分からん

とりあえずストーカーのメアリーとやらの部屋に忍び込んで
脅迫ネタ…いや、犯行を思い止まらせる手がかりを探そう

部屋の周囲で張り込んで
彼女が外出したら【鍵開け】で室内に侵入
外は漆黒の共犯者に見張らせ、メアリーが帰って来るなら早々に離脱

黒魔術の儀式の魔法陣だとか
儀式に使用したブツの残骸が散乱した台所だとか
掃除しろよ…とか流石に心の中で突っ込みつつ手がかりを探す
日記があればとりあえず読んでおく
アドニスとの偶然の出会いとか、運命の再会とか妄想日記をうんざりしながら読むからには、何がしかの手がかりが見つかればいいんだがな…


セツ・イサリビ
【アドニスの職人仲間の革職人】
会合で集まった後に飲みに行く程度の付き合い

アドニス? 評判は悪くないな
若いのに家具作りの腕は確かで、真面目に爺さんに学んでる
あいつの工房からノミの音が聞こえない夜は無いくらいだ

ただ最近、様子が妙だったよな
辛気臭い顔でいるから飲みに誘って酔わせてみたら
「見てる」「今も後ろにいる」って、でかい図体の男が青い顔して
ガキが夜に化け物でも見たようなことを言いやがる

で、俺はピンときたのさ
悪霊だな、あれは
俺の家は代々革職人だけどよ
母親の爺さんが対魔の神官だったんだ
俺もその血を継いでるから見ればわかるさ

ここだけの話、あいつ女癖悪くてあちこちで恨み買ってるぞ


涼風・穹
【妄言的な設定】
実はロブが作成している家具には秘密の操作をすれば凶器が飛び出す等の殺人用の機構が仕掛けられている
その為一部の顧客からは絶賛されておりかなりの高額で取引されている
当然、その弟子であるアドニスもそれは知っている

【探索】
まあ俺は流れの武器商人辺りを装っておくか
《贋作者》を使ってダークセイヴァーでも不自然ではない武具を適当に用意してそれらしく立場を装うとするさ

俺が調べるのはアドニスの経済状態と最近の様子だな
泥酔するまで飲むとなるとそれなりの量の酒を飲む必要があるけど酒代はあるのか
一人で飲むなら嫌な事でもあったか、複数で飲むならその理由は?
……実は下戸でした、なんてオチかもしれないけど…


アンリ・オヴォラ
イイオトコセンサーに反応アリ!
てなワ・ケ・で♪

アタシ結構グイグイイク方なの
オバサンはそこで一生アタシと彼のロマンスを見てるといいワ
ハァイアドニス❤

アン、説明するわね
アタシが昔使ってたビューローはロブ爺に作ってもらったんですって
遠くからわざわざね
おうちぐるみのお付き合いってコトよ

そう!これは運命なの!

偶然立ち寄ったお店から丁度出て来るところだった彼とアタシがぶつかって当たり負けた彼にアタシが手を差し伸べた!あの時から!
お爺にも彼をヨロシク(護衛的な意味で)って言われてんだから、公認みたいモンよ

正々堂々ぶつかった事もないクセに
何かあってもアタシが護ってんだから、もうヘンな気は起こさない事ね


レナ・ヴァレンタイン
…非常に頭が痛くなってくる問題だ
昔、殺し合い中に相手に好きだなんだと告白したバカがいると聞いたが、ああやはり「恋する者に正気無し」というやつなのか?

閑話休題
ひとまず下手人メアリーの方を探るか
真面目に人間なのか、その恋慕の暴走を何かに利用されてるのか、人間っぽい振る舞いをしたがるオブリビオンなのか

ユーベルコードで知覚強化
隠形しやすい地形を探り、目立たないように監視
自宅を留守にした隙を狙って家宅捜索
「何故恋敵の方ではなく愛する人の方を?」
「本当に黒魔術使えるから後で生き返らせて私の物にします」
なんて可能性がないとも限らん

「今日からできる恋のおまじない」くらいの子供だましならいいのだがね


影見・輪
へー、ほー、面白いよね、メアリー
てか、アドニスも面白いよね?
彼、気づいててまんざらでもないと思ってるのかな?
メアリーの熱い視線がたまらない、Mっ気ありな男子なのかな?

シリアスな陰謀劇とかは見すぎてお腹いっぱいな鏡ではあるけど
ゴシップネタは嫌いじゃないし、むしろ好物だよ☆

むしろメアリーが過ごす一日を張り付いてていいかな?(説得も追い払う気もない模様
だって、メアリーウォッチング、すごく楽しそうだしね(わっくわく

ウォッチングするなら物陰に隠れてが基本だよね
建物の影なり屋根裏なりゴミ箱なり引き出しの中なりに隠れつつ
【錬成カミヤドリ】で操る鏡ごしに彼女の動きを観察してみるよ

※アドリブ・キャラ崩壊大歓迎☆


タマコ・ヴェストドルフ
メアリーさんについて行きます
彼女はたぶん持っています
わたしが持ってないモノを
えほんの中の王子さまとお姫さまの恋
誰かが言いました
お父様だったか
わたしを虐めた人達のひとりかは憶えていません
汚れたお前はお姫さまにはなれない
そう言って嗤われたような気がします
恋も愛も知りません
誰も教えてくれなかったから
今はオブリビオンを食べればしあわせな(おいしい)ので
それでいいです
でもおなかはすぐ空いてしまうので
メアリーさんは狩りが得意みたいだから
学べることが多いはずです
動物も、人間も、オブリビオンも
狩り方は似ていて
ひとつでも覚えれば
また食べられます
だから覚えないといけません
次のオブリビオンを食べるために


ファン・ティンタン
【SPD】私は猫である、悪質粘着ストーカーを説得する…気はほぼ無い
※アドリブ大歓迎

【異心転身】で自旅団のボス猫に扮し、物語の行く末に寄り添い、(誰にとは言わないけど)『猫語』で語る

『嗚呼、メアリー
彼女は何処でどう道を間違えたのか…
愛する者をその手にかける事ほど罪深く、悲しい事は無い
…というか、歳、考えて?
ン゛ン゛ンっ(咳払い)
―――しかして、その未来は揺らぎの彼方にある可能性の一つに過ぎない
此度は、破滅の未来を打ち消す力をその身に秘めた、数々の猟兵達の物語を御送りすることにしようか―――


…と、思ったのだけれど


誠に残念ながら時間の都合によりダイジェストでお伝えするよ』

(以下、1章の要点をまとめ)


リリカ・ベルリオーズ
恋にも色々な形があると思いますが、行き過ぎた恋、歪んだ恋というのはただの自己満足ではなくて?
まだ恋心を知らないわたくしでも、それくらいは存じております。
…と言いましてもわたくしの浅はかな知識だけでは心もとないので、何方かに相談してみましょうか。
相談出来そうな方がいらっしゃいましたら、色々とお話を伺ってみます。
それと、少し本で読んだことがあるのですが、“こういう方”は相手を好きすぎるが故に殺してしまいたくなる、らしいので、彼が広場の四つ辻を通って仕事へ向かうところを狙って殺害するのではないでしょうか。
ですので、もし可能であれば犯行時刻に、四つ辻で様子を伺ってみます。
…まるで探偵さんみたいですね。


メーアルーナ・レトラント
あのおねーさんは、すてきなこいをしているのですね!
メアにも、メアにもわかるのです!
こいは、しゃくねつ!!

メアは……あのおねーさまをそっと観察するのです!
きっときっと、ふたりのあいだには素敵な出会いがあるはず
おおきな悪党ねずみさんが現れた時に、アドニスさんがさっそうとあらわれてたすけたにちがいないのです!
この前よんだ絵本みたいに…!悪党ねずみさんとノミで戦ったに違いないのです!(ふんすふんす)
そんなことされたら…惚れちゃうのです!!きゃー!

メアは……そんなおねーさまを応援するのです!
おねーさま、がんばってなのです!!
メアはものかげからそっと、そっとみまも……はっ!これは、すとーかーでは!



●ストーカー数珠つなぎ
 南からの風が石畳の上の木の葉を渦巻き踊らせ去っていった。
 ここザガンは、ダークセイヴァー以外を知る者からすればしょぼくれたしけた町であろう。だが、この世界の価値観で言うならば、腹の足し以外の酒や女に金銭を浪費できるここは栄えた歓楽満ちる町なのだ。
 とはいえ、希望のない寒村を飛び出し辿りついた内で成功できるのはほんの一握り。あぶれた者は食いつなぐのがやっとの日銭稼ぎで暮らす日々。仕事内容は口に出来ぬ者も多々。
 さて、
 通常の猫の倍ありそうなご立派でもっふり長毛気味なチャトラ猫が石壁の上で丸まり大あくび。ちなみにこの大猫はファン・ティンタン(天津華・f07547)だ。
 ――私は猫である、悪質粘着ストーカーを説得する……気はほぼ無い。
 にゃんこのおめめの下側に映るは、革袋を担いだ屈強な男。それに一定距離で銀色ラャシャめいた裾をヒラヒラさせてついていく女が1人。
 更に、だ、
 黒髪艶やか深紅の和装が印象的な一見和服女子1名、
 左の三つ編みが印象的な菫の瞳の闊達な女子が1名、
 神秘的無口系なに考えてるか読めない女子が1名、
 この世界ではお目にかかれぬ淡い日だまり色の女子が1名、
 シュガーピンクからちょろりのぞく角と同じ瞳のドールをぎゅってする幼女が1名、
 ……と、ストーカー数珠つなぎ。詳しく言うなら、影見・輪(玻璃鏡・f13299)赫・絲(赤い糸・f00433)タマコ・ヴェストドルフ(Raubtier・f15219)リリカ・ベルリオーズ(アンシャンテ・f12765)メーアルーナ・レトラント(ゆうびんやさん・f12458)の合計5名。
 わー、アドニスさんモテモテ! なぁんてのは幻想でこれみんな『メアリーストーキングし隊』の皆さんである。
「あのおねーさんは、すてきなこいをしているのですね! メアにも、メアにもわかるのです!」
 キラキラおめめのメーアルーナの隣で溜息をつくのはリリカだ。
「恋にも色々な形があると思いますが、行き過ぎた恋、歪んだ恋というのはただの自己満足ではなくて?」
「いやぁ、彼、気づいててまんざらでもなさそうだよ」
 恋心を知らないリリカの純粋な問いかけに輪がしれっと答えた。つまり輪の興味はアドニスに二股(表現への異論は認めます)実際彼の言う通りで、アドニスはメアリーの尾行に気がついているがその横顔には不愉快さは、ない。
「そうなのですか? でも“こういう方”は相手を好きすぎるが故に殺してしまいたくなる、らしいのですが……」
 世界ヤンデレ連盟著『愛し恋しコロシ』にて仕入れた知識はリリカの眉尻を不安で下げる。
 ――愛しすぎて●■スープでドロドロに煮込んで食して一生一緒とかー、
 ――他の女に穢される未来をデリートする為にカッターナイフを首筋にねじ込み現在(いま)に固定とかー、
 他、ヤンデレを語ると夜が明けるので以下略。
「こいは、しゃくねつ!!」
 しゃくねつで煮込めばならきっと美味しいスープができるだろうなぁ。じゅるりってタマコの口元が擬音をたてたのは気のせいじゃあない。
「彼女はたぶん持っています」
「そうだね、あのドレスは相当にお金持ちだね」
 ひょっこり顔を出した絲の指摘に、輪はほうほうと好奇で瞳を弓に変える。
「わたしが持ってないモノを」
「彼女には年を経た風格というか……乙女はちょっと無理があるんじゃない?」
 絲、それは言っちゃだめだ!
「にゃ(……というか、歳、考えて?)」
 猫語凄い、一言でここまで語るファン。しかもわざわざとてとてとメアリーの足元に走って行っての一鳴きである。
『まぁ! 可愛らしい猫ちゃん★アドニスには負けるけどぉ』
 通じてない。
「ふみッ!」
 ぷいっとそっぽむく、そりゃあ筋肉ムキムキあんちゃんと比べられると色々言いたいこともあろうよ。
「えほんの中の王子さまとお姫さまの恋」
 タマコと絲の会話は噛み合わない。だがお姫さまに食いつく少女がいた。
「きっときっと、ふたりのあいだには素敵な出会いがあったはず。おおきな悪党ねずみさんが現れた時に、アドニスさんがさっそうとあらわれてたすけたにちがいないのです!」
「おおきなねずみはメアリーさんを食べようとしたのでしょうか? お腹が空くと不幸せです」
「どうかなー……」
 真面目に悩み出すメーアルーナの脇で「ほら」と絲が指さす先、酒場の女にガーガー怒鳴られても手を振って流し逃げるアドニスとそれにぺこぺこと頭を下げて財布を取り出すメアリーの図。
「へぇえー、借金の後始末ねー」
 輪はニヤニヤとチェシャ猫めいた笑いを貼り付ける。
「やっぱり読み通りだね、あの執念深さは借金取りみたいだなーって」
「じゃあメアリーに愛はないのかい? 予知の殺人は彼の不誠実さに業を煮やして……」
 クイッと首を絞める仕草をしてみせる輪の袖がゆれた。
 猫の前脚パンチ、じゃれじゃれじゃれじゃれ……あー、しばらくお待ち下さい。
「なぁん、にゃおにゃおー(訳:嗚呼、メアリー、彼女は何処でどう道を間違えたのか……愛する者をその手にかける事ほど罪深く、悲しい事は無い)」
「……そうだね、だから止めないといけないね」
 きりっ。
 遠方で更に2軒の店にお金を払ってまわってるメアリーを見据える輪の眼差しと台詞だけはシリアスだ。
 ファンは爪をだしてなかったので袖は綺麗なまんまである、気遣い大事。
 ちっちっちっ。
 絲は指をたててふると片目をとじてしたり顔。
「いや、追いかけてる内に『恋』しちゃったんだよ」
 その間にもタマコはぬるぬるとした足取りでメアリーの跡を追い『恋する乙女』の表情を確かめる。小じわの目立つ30代後半、だがその表情は確かにタマコの持たぬ輝きを有している。
 ――そう「汚れたお前はお姫さまにはなれない」と嘲笑われた自分は決して決して手にすることができぬ輝きを。
 くるり、振り返ったタマコの瞳に浮かんだ『恋』に、両手をグッと握って頷くメーアルーナ。
 恋。
 恋は尊い、何物にも代えがたき情熱。
「メアは、そんなおねーさまの恋を応援するのです!」
 虹色ツインテールの甘い揺らめきを陰に日向に潜ませて全力応援……といったところで、ちいさなゆうびんやさんは気づいてしまう。
「メアはものかげからそっと、そっとみまも……はっ! これは、すとーかーでは!」
 まだ気づかれてないからセーフ!
 ……こんだけ数珠つなぎだと時間の問題かもしれないけど、まぁさておき。

●よわみをにぎる
 寒村の藁で吹いた屋根が当り前の世界でレンガの頑丈そうなアパートメントは豊かな証。
 一室の前で針金をちりと鳴らして見せた小柄な少年に、くすみ色のコートの娘は表通りに戻りさり気なく顔を揺らす。
 ……人通り、なし。
 眼鏡越し目配せと同時に、少年の手元で鍵が外れた。
 と、鮮やかに密やかにメアリーの部屋へ侵入を果たしたレガルタ・シャトーモーグ(屍魂の亡影・f04534)とレナ・ヴァレンタイン(ブラッドワンダラー・f00996)だが、入って即壁一面に貼り付けられた男の肖像画の出迎えを受けて目眩に襲われる。
 筆致は非常に稚拙だ。棒のような手足に妙に美化した睫バッキバッキの頭が乗っかっている……なんて観察できる辺り、2人は斥候として非常に優秀。
「全部自分で描いたのか」
 加速する頭痛を堪えるように広げた掌で額を覆うレナの仕草は何処か男性的だ。レガルタは同意を示すように溜めた息を肺腑から吐き出した。
「色恋からの殺人か……よくある話だな」
「そうだな。殺し合いに相手が好きなんだと告白したバカもいるぐらいだからな」
 ――恋する者に正気無し。
「俺にはよく分からん」
「全くだ、わかりたくないな」
 とはいえこの殺人を止めなくてはならない、例え穢いと後ろ指をさされようが、尊い命に代えられるものなどない! ……とか言っとけば家捜しして弱みを握るのもありだ、きっと。
「何故恋敵の方ではなく愛する人の方を?」
 一面のアドニスから本棚に視線を移したレナは背伸びするレガルタを捉える。
「黒魔術、蝋燭9本で腐らない肉が本当だとしたらだが」
 どうだろう。
 台所からぷんと臭う腐肉のかほりは甚だそれは疑問だと告げるが。
「本当に黒魔術使えるから後で生き返らせて私の物にします」
「それほどに執着できるものがあるのは幸せかもしれないな」
 レガルタの言に肩を竦めるレナ。同じ視点で家捜しに入った2人は視線を一瞬絡めたならば、再び本棚の上下段に意識を懲らした。
 さて、上から本を漁るレナは『奇異な書物』に硬直する。無駄に豪華なレースあしらったリボンでグルグル巻き。
 ……レースを解くと呪われそう。
 子供にやらせるよりはと素早く引きほどいたレナは、ぱたりと表紙をひらいた。
「日記か」
 最初と最終ページをまず確認すれば、1年前からはじまり3ヶ月前で終っている。
「読み下しを頼んでいいか?」
「確かに、2人で読むのは無駄だしな」
 始まりは存外淡々としていて、頭痛を起さずにすむと内心のレガルタは日記を手に壁に背中を預ける。
 一方のレナは『ここ3ヶ月内の新たな日記帳』を探し、果たして書斎机の引き出しに眠るそれを発見する。リボンが掛かっていないのは毎日巻くのが面倒だからか。
 隣に座るレナの気配にレガルタは日記から視線を外さぬままで口火を切った。
「なんだか帳簿みたいだ」
 最初の方に並ぶのは日付と金額の羅列、絲の読みを裏付けるものだとは後で知る話。
 頷くレナが表紙をめくった所で、脇の小さな気配が急速に緊迫したものとなる。そしてその理由は、最新の日記を紐解いた彼女もまた同じく知った。

●お前にフルカオス❤ラブ
『メアリーストーキングし隊』またの名を『数珠つなぎラブ★応援隊(ものは言いよう)』の後押しを感じ取ったか、メアリーは内股アイドル走りでタタッと駆けだしていく。波打つ髪の後ろ姿は年齢を巧みに隠す。
『アド……』
「ハァイアドニス❤」
 ドンッ! 出会い頭の交通事故は危険だから気をつけてくださいね。若い頃の反射神経はもうないんですから。
『きゃあ』
 180越えのがっつり肩幅のアンリ・オヴォラ(クレイジーサイコカマー・f08026)に跳ね飛ばされたメアリーは、どんがらとどこぞの路地のゴミ箱に背中からつっこんだ。
「オバサンはそこで一生アタシと彼のロマンスを見てるといいワ」
 さり気なくガッシリと腕を補足する流れは、男を捕まえぶっ殺す手練れのアンリには容易いことである。
 しなだれかかり流し目からのウインクばちこーんに、アドニスは「お、おう」と自分を奮い立たせるように頷いた。
「まぁ……に好かれすぎるというのも怖いものですよね」
 途中暈かさざるを得ないのは赦して欲しい。
 ひょこ。
 あいた左側は逃さない、彩波・いちご(ないしょの土地神様・f00301)は白魚の指をそそっと這わして絹糸藍髪をさらりさら、ゴミ箱から上半身を起すメアリーへと見せつける。
「あらん、怖い思いをしてるのアドニス」
『ああ、いや。そのだなぁ……』
 アドニスからの舐めるような視線が自分に向いたのに、アンリはおやと眉を上げた。
「あら、アドニスもアタシに運命感じてくれたの? 嬉しいわ、アタシね、ロブ爺の作ってくれたビューローを愛用してたの。そう、あなたのし・しょ・う」
 つん、つん、つつん。
 胸元つついくごつい指を前に、いちごはふふーんと何かを悟る。
「あ、好かれる事自体はまんざらでもないんです? アドニスさん」
『君みたいに可愛い子はいつだって歓迎だ……いってぇ!』
 腰を抱こうとした腕は見事にアンリにつねりあげられた。
『ああ、アドニスぅ。今日こそは話しかけようとしたのにぃ……』
「そんな……メアリー!」
 頭にバナナの皮をのっけた妙齢お嬢様は、何処かで聞いたような声に振り返る。
「貴女は私にストーカーをしていたのに……! まさか私以外にも同じことをしていたなんて!」
 海色の瞳を翳らせステラ・アルゲン(流星の騎士・f04503)は、芝居がかった所作で胸に手を宛がい瞳を伏せた。町中に突如現れたキラキラ王子様にメアリーはアッと口元を覆う。
 ……ちょっと待って?! ここすごい性別迷路なんだけど!! なんというか、アンリが1番性別通りに見えるのはどういうことなの?!
『え、あなたはもしかして……嘘よ、もうあれから2年経つのよ?!』
 つまり2年前にステラのような美形男子ないしは女子にストーキングかけてたらしい。
「メアリー、私がいけなかったのでしょうか? 貴女の想いには答えられないと言ってしまったばかりに……」
『ああ、本当にあなたは……』

 ――私が四六時中そばにいたいいたいいたいいたいいたいってお願いしたのを「もう結婚するから」って無下に袖にして、その後『婚約破棄』した銀髪の君なの?

『彼女はいなくなったデショ?』
 ……今さらヤバいって思ったって、もう後の祭りである。

●アドニスの正体?
「ロブ爺にボディーガードを頼まれたから安心してね★」
 なんてアンリに言われてる時刻からしばし後、ロブ爺周辺を探る涼風・穹(人間の探索者・f02404)は、酒場に立ち寄っていた。先程、メアリーが金を払っていた例の店だ。
『あぁ、彼ねぇ……すっごいストレス溜まってるようよ?』
 気怠げな空気を纏い下着に近いキャミソール姿のママは、出したミルクの数倍値打ちのコインを無造作に胸元に放り込む。
 まだ賑わいには遠い時刻、穹の他には仕事をはやく切り上げた職人の一団が呑んでいるだけだ。
「ははぁ、それで放蕩浪費ってわけか」
 ナップザックからはみ出す武具の物々しさと釣り合わぬ青年は『武器商人』と名乗った。
「あいつにゃ料金踏み倒されててな、ここまで追っかけてきたわけなんだが、その金は……」
『彼女が払ってくれるからいいんだけどねぇ』
「でもあの女がストレス源なんだろ?」
「ああ、それだけどな」
 革職人の一群から抜けて酒の追加を頼みに来た青年セツ・イサリビ(Chat noir・f16632)は、アメジストの瞳を細めて足を止める。
「辛気くさい顔しているから飲みに誘って酔わせてみたら吐いた吐いた」
 話をね、と添えるセツと入れ替わり、ママはカウンターの奧に引っ込むと酒瓶をとる。中身は水で薄めたブランデー、舌が肥えていたら飲めたもんじゃあないが、ロクでもない此の世界ならば確り酔える。
「女かい?」
「本当にそれだけなんだろうか」
 まがお。
 真に迫るセツに逆に問いかけられて穹は鼻の頭に皺を寄せた。
 ――見てる。
 ――今も後ろにいる。
「……ってな。でかい図体の男が青い顔してガキが夜に化け物でも見たようなことを言いやがる」
 まるでその場に居合わせたように、セツは捉えどころのない微笑みを浮かべる。絶妙な語り口に、穹はポンポンと丸椅子を叩いて隣に誘い、セツは腰掛けるとテーブルに肘をついて指を組み応じた。
「おかしな話だよな。ストレス源の女に金を出させてなんて、そもそも始まりは?」
「あいつは若いのに家具作りの腕は確かで、真面目に爺さんに学んでるって評判だ」
 こん、とテーブルを叩くセツ、軽妙な音にあわせ穹も頷く。
「……ロブの家具には物騒な噂もつきまとってるがな……曰く、秘密の操作をすれば凶器が飛び出す」
 声を潜める穹へ、セツは近づいてきたママを遠ざけるように準備に時間が掛かりそうなつまみをオーダーしコインを置いた。そうしておいて、同じく他に聞き取りづらい声を響かせる。
「それが聞かれるようなったのは、アドニスがこの町に渡ってきた3ヶ月前からだ」
「! ロブじゃないのか」
「ああ。飛び交ってる名はロブだ。どうしちまったんだとか、まさかとか……な」
 穹は、武器職人の素振りでものの半日で集まった噂のカラクリに腑に落ちた。
 ヴァンパイアに命じられれば逆らえぬこの世界、いつ何時命じられて倫理に反した行いに手を染めさせられるかしれたものではないのは確かだ。それを隠れ蓑にしているアドニス。俄然きな臭くなってきたと鼻を鳴らす穹は渇いた喉をミルクで潤し一息ついた。
「違法の家具作りで長くは一所にいられない。罪の意識からの酒塗れか。メアリーはただただ純粋にストーキングしてるだけ、なのか?」
 純粋にストーキングとかとんだパワーワードだがさておき。
「ストーカーだけであんなに怯えるもんか、俺はピンときたのさ」

 ――悪霊だな、あれは。

 セツは画然と言い切った。
「根拠は」
「俺の家は代々革職人だけどよ、母親の爺さんが対魔の神官だったんだ」
 淀みない。
 胡散臭いなんて言っちゃいけない。
「それは確かな情報なのか? ああ、まぁ家具が死因なら悪霊化もしたくなるだろうな」
 ふむふむと頷き思索へ入る穹を、頬杖ついて興味深げにひとしきり見守ったセツはやがて満足げに席を立つ。陽気にできあがった仲間達に呼ばれたからだ。
「ああそうだ。ここだけの話、あいつ女癖悪くてあちこちで恨み買ってるぞ」
 なんて話が本命である。
「その女たちから逃れる為にあちこち住処を変えてるらしい」
「悪霊は冗談か」
 拗ねたように唇を尖らせる穹へセツはひらり掌返し、
「いいや」
 そう、やっぱこちらが本命。

●犯人はお前だ!
 左に美少女、右にオネエ、実は双方男性をぶら下げて工房に入ってきたアドニスに驚きを隠せないのはルシアンである。ロブ老師は所用で出ているらしい。
『その人たちなによ。いつもと違うじゃないの!』
 つまりメアリーのストーキングバレバレ。
『おやっさんがつけてくれたボディガードだ』
『そんなのあたし聞いてない!』
 キィッと眉を吊り上げるルシアンを、ふふんと煽るように厚い胸板を反らすアンリと完璧スマイルでやっぱり煽っちゃういちご。
『……ッ!』
 後ろで無造作に結んだ金髪の房をぎゅうと握るルシアンは相当な激情家の様子。指が白くなるまでノミを握り込むのを、格子窓の向こうからそっと伺うのは雛月・朔(たんすのおばけ・f01179)その、否、その箪笥である。
 端正で指触りよい桐の細工は戸棚1段引き出し5段の全6段、そんな彼女が家具職人の命が潰えるのを見逃せるわけが、ない。
 うん、例えそれが殺人兵器な家具職人だとしても、だ。
(「そもそも彼女は――」)
 嗚呼、それは本人を前にして暴けばよい。そう腹を固めた朔は時期を待ち、セツが革職人仲間を伴い酒盛りを始めた時刻辺りにそれは訪れた。
 アドニスが席を外し2人の猟兵もそれに付き従う、賑やかさの削げた工房へ待ちかねた朔は踏込んでいく。
「ルシアンさん」
『あんたもアドニスの? 彼は渡さないわよ』
 醜悪に唇をねじ曲げるルシアンの怒りも朔は粛然と受け流す。
「色恋に狂った素振りで目眩ましは通じません――」
『! ……ッ何が言いたいのよ!』
 あやとりのように優雅に指を繰る朔は、ぱたり、と掌をあわせた。
 お望みとあらば――。
「貴女ではロブやアドニスに一生追いつけない」
 ――核心をつこう。
 再び個々にした内の左の指は、アドニスが残した作りかけの家具の端正なまでに狂いのない角をさす。
 す。
 虚空に糸を引くように、水平に動いた指は続けてルシアンの仕事へ向いた。一見するとアドニスに匹敵する丁寧さの中に女性らしい艶も秘められてる……なんて、誤魔化しが散りばめられている。
 が。
「あんな作品では領主様に見向きもされない」
 自らを組み立てた職人の息吹を忘れぬ朔の目は騙せない。その指摘は彼女の劣等感を刺激し、不快感を喚起する。酸欠金魚のように口をぱくつかせ怒りの余り声なき怒号と果てた刹那、女の体は朔の指から無数に伸びる透明な糸に絡め取られた。
『?!』
 朔に痛めつける意図はない、ただ夜が明けるまで拘束しておきたいだけだ。
「……彼は、珍しく希有な屈強な体つきをされてますものね」
 常に餓えるダークセイヴァーではそうそうお目にかかれぬ逞しい腕、筋肉の発達した胸板……数え上げる度、ミイラのように巻き上げられたルシアンの頬が紅潮し染まっていく。
「貴女の作品は、アドニスさんの肉体を得ることで完成する」
『ええ、そうよ。そうしてパパに認めてもらうの』
 稲光が落ちた。
 違う、女が嗤ったのだ。
『あははははははは! 10年修行しても物にならないから止めろって言うの、パパも考え直すはずよ!』
「……」
 きゅい。
 糸が解けぬよう手首でクロスし締め上げれば完成。以後、朔は彼女を柔和な微笑みで包み込む。
『血が渇かぬ内に紅い花を描くわ、宝石より輝く蒼い瞳は鍵穴の飾るわ! この世に1つの逸品よ。だって彼はこの世に一人しかいないんだからぁ……作らせてよぉ』
 不自由な上半身を折って啜り泣き出すルシアンを朔は腕を伸ばして支えた。人情派警部めいた顔して背中をぽふぽふと叩けばますます泣き声は高くなる。
 ――そう、語ればいい。叶わぬ夢(はんざい)を、せめて奇譚と心に残して差し上げよう。
 ……………………。
 あれ、ちょっと待って? 解決しちゃった。もうアドニス死なないよね、これ。
「なぁん」
 彼らの足元に巨体をねじ込み窓抜け現れた猫は一度毛繕いで整えた後で神妙な顔で背筋を伸ばす。
「にゃ、にゃにゃにゃあん、んん、なぁん。にゃ……」
 猫語翻訳。
「――しかして、その未来は揺らぎの彼方にある可能性の一つに過ぎない。
 此度は、破滅の未来を打ち消す力をその身に秘めた、数々の猟兵達の物語を御送りすることにしようか――」
 なんて厳かに……実際はファンにゃんがにゃあにゃあ言ってるだけなんですが、そういう感じで更に次につなげることにする。
 ほら、メアリーの日記もまだ引いたまんまだし、そもそもメアリーが放置プレイだし。
“そう、アドニス殺人事件(阻止成功!)はほんの、先触れ”

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒玻璃・ミコ
※人間形態

◆心情
ほうほう、随分と深く絡み合った関係ですねー
しかし、ミコさんは知っています
亀の甲より年の劫と言う言葉を(ドヤァ)

◆行動
【WIZ】で判定

適切な相手……そう、師匠のロブさんに相談すれば良いのですよ
美少女な私が【催眠術】を交えてちょこーっと【誘惑】しさえすれば
……あら?全然靡く様子がありませんね

よくよく考えてみればアドニスさんに教える時に
やたらと密着したり、長々と手を重ねたりしてましたねー
【第六感】にピーンと来なくとも……おっさんズラブ?
ミコさんは毒は好きですが腐ったのは好きではないので後は放置ですよー
きっとアドニスさんがピンチになれば……

◆補足
アドリブOK、他の猟兵さんとの連携歓迎


マリス・ステラ
【WIZ】メアリーに祝福を

「主よ、憐れみたまえ」

私は巡礼の旅を続けるマリス
人々は"聖なるひと"と謳いますが、私はただ幸いを祈っているにすぎません
しかし、最近は私の秘跡(サクラメント)を受けた男女は永遠に結ばれると噂されています
噂は当然メアリーにも届いていますし、彼女はこの機会を逃さない
彼女は結婚から将来の全て、どう死ぬかまで計画済み

「あなたを私は赦しましょう」

メアリーは幸せになりたいだけ、なんの咎があるでしょう
ルシアンが赦せない?
わかりました、なんとかします
ロブにもアドニスに口添えするよう働きかけます
神は偉大なり

「欲するなら強く求めなさい」

愛をもって暗躍――祝福します
死なないよう【不思議な星】


南雲・海莉
『流離の吟遊詩人、兼踊り子』で振舞うわ

昼間は広場でギター爪弾き、乙女の淡い恋を歌い
夜は酒場で情念を籠めて熱く剣舞を披露するわ

「お酒のお相手はあと5年ほど待ってもらえるかしら?」

酒場のマスターに手数料を少し多めに渡し
「代わりに、新しい歌のネタとして
少し噂話を聞かせていただけないかしら」

マスターや酒場の客の話にも耳を傾けるわ

20年前近く前、鈴蘭の家紋の女領主との身分違いの恋をした妻子持ちの男とか
最近、家具工房で隠し手鏡と隙間が大量に見つかった……のは覗き見用ね(目逸らし

この食器棚もルシアンが作ったのね
細工が見事……
え、鈴蘭の花の文様?

他にも注意引きが必要な場面ならギター片手に手伝うわよ?


ロベリア・エカルラート
●心情
ふふっ……一見すると三角関係の恋愛劇だけど、はてさて
何にしても、こんな美味しい事件を見逃すのは勿体無いよね

さて、少しばかり舞台を引っ掻き回すとしようかな

●行動
舞台となる街に久しぶりに帰ってきた娘で、今は酒場で給仕として働いているよ。
歌が得意で、よくお客さん相手に披露している歌姫(っていう設定で街に溶け込む)

この酒場は、アドニスが仕事が終わった後でよく来るハズ

その様子を見ているであろう2人の前で、ちょっとアドニスに近づいて場面を引っ掻き回そうかな

●技能
歌唱、存在感、誘惑


リンタロウ・ホネハミ
あーあー、病みに病んだおばさんの奇行ってのは目も当てられないっすねぇ
ま、気色悪かろうが仕事は仕事っす
貰った金の分はしっかり働かないとね!

と言っても、しがない傭兵なオレっちのストーカー対策っつったら
ストーカー本人をのしちまうことぐらいなんすよねぇ
これでも数多の戦場を駆けてきた身、おばさん一人倒すだけの【戦闘知識】はあるんすよ!

……だけどまぁ、こいつの奇行、なんか引っかかるんすよね……
お呪いってのが本当に出来たりするんじゃないっすか?
壁に描いたラブコールは、そのお呪いの一種なんじゃないっすか?
こいつもしかして力を持った呪術師なんじゃないっすか?
そういう得体のしれなさを感じるっすわ……

アドリブ大歓迎


三嶋・友
堅実な捜査は誰かやってくれるから、今回はちょっと創作的な想像から攻めてみようか

アドニスが場所を変える度出る行方不明者…単純にメアリーの犯行とするのはちょっとひねりが足りないよね
実はアドニスがひいきにされているのは、その行方不明者を箪笥に入れて領主に捧げていたからとか!
ところが今回の指定はルシアンで
流石に師匠の孫娘は…と悩んで泥酔していたとか
その場合犯人として考えられるのは…メアリーの嫉妬よりはアドニスの今までの凶行に気づいていた師匠のロブが孫を守る為、とか命令を実行しない事への領主の使いの制裁、とかのがドラマありそう!

あ、事件防止としては人間関係を探りつつ、犯行時刻には近くに潜んで護衛で



●酒場探偵
「タダ働きでいいなんてサ、奇特な子たちね」
「ふふっ、お気に召したらせいぜい高く値段をつけてよね」
 妙齢キャミソールママことオーロラの前に立つのは、目が醒めるような艶やかな髪色の女ロベリア・エカルラート(花言葉は悪意・f00692)と、
「新しい歌のネタになるならどこでだって歌うし踊るわ」
 混ざりけのない闇色髪の娘南雲・海莉(コーリングユウ・f00345)
 扱うお題もメロディも、舞いの売りも……なにからなにまで違う歌謡いのお手並み拝見と、オーロラは真っ赤な口紅を引いた唇をつりあげる。
 店の中には先の革職人の一団、もう少しすればアドニスが来るだろう事は調査済み。あとは猟兵の一団が、なんとなーく身を寄せ合った感じでいる。
 武器商人と革職人に扮した2人が得た情報に、リンタロウ・ホネハミ(Bones Circus・f00854)は身を剥がし頂いた後の鶏手羽骨をがじり。
「で、結局は誰をのしちまえばいいんすかねぇ?」
 病みに病んだおばさんが相手かと思っていたが、どうやらそうもいかないのか。
「三角関係の恋愛劇……そう思ってたんだけど、ひとりが舞台から降りちゃったよね」
『あら、誰の話?』
「ここによく来る彼の話だよ、アドニスって色男」
 ロベリアにが水を向ければオーロラは薄く唇をあけた。
『あぁ、お金で惹きつけようって彼女と師匠の娘のあの子』
 くっくっくと喉を鳴らし酒場女は吐き出した――それって本当に恋なの? なぁんて。少なくともルシアンはアドニスの肉体を欲していただけなので、オーロラの見立ては当たっている。
「うーん……そもそも、予知の犯人ってルシアン“だけ”だったのかな?」
 偏執狂のルシアンが、アドニスの肉体を家具に仕立て上げたい、それ故の犯行だったようだ――その推理自体は三嶋・友(孤蝶ノ騎士・f00546)も否定する気はない。
「……確かに、あいつの奇行、なんか引っ掛かるんすよね……お呪いって、冗談ですましきれないんじゃないかとか」
 家捜し組の読みと同じ結論に至るリンタロウの目の前、空になった水差しをひょいと持ち上げたのは海莉だ。
「最近、家具工房で隠し手鏡と隙間が大量に見つかった……のは覗き見用ね」
 どっかのヤドリガミが「僕じゃないよ」って言いそうな情報だな。
「こほん」
 咳払いし仕切り直し、海莉は続ける。
「20年前近く前、鈴蘭の家紋の領主との身分違いの恋をした女がいたそうよ」
 広場で歌い仕入れた噂、受け継ぐように口ずさむはロベリア。
「毒花鈴蘭」
 壁沿い、寂れた店には不似合いな戸棚の取っ手には鈴蘭が彫り込まれている。
「その領主“どちら”だったのかな?」
 ――人、それともやはりヴァンパイア? 恋愛譚はそれだけで随分と様相を変じてくる。
「へぇ、20年前って言うと、あのおばさんもうら若き乙女ってわけか」
 リンタロウがくつくつ喉を鳴らす。
「…………あ、あれ? アドニスは結構若いから、親子もありえるっすよね」
 しかし2人は髪の色も瞳も体型も何一つ似てはいない。友はにゅっと腕を伸ばしお水を強請った。
「別にさ、加害者が被害者候補だっておかしくないわけだよね?」
 ロベリアにもらった水をこくりと飲み下し、友は戸棚へ紅をちらと配す。

●星の導き★計画運命
「メアリー、こんなに汚れてしまって」
 ステラはメアリーの頭のバナナの皮をつまみあげ避けると、純白手袋に包まれた掌を指しだした。
「お手をどうぞ」
 ステラに似た人の彼女? が“いなくなった”件はとっととぽいってしてな。
「まぁ、夢みたいー!」
 ぎゅうう。
 なんだろうこの怨嗟籠るような縋り付きは、爪までたってる。ステラは気取られぬように緩め柔らかく握りなおしてから、お姫様(妙齢)の腰を支えてダストボックスから救い出す。
「もう一度私を見てくれますか? 私以外にストーカーなんてしないでください」
 その台詞には、意外や意外メアリーの唇はへの字に曲がる。
「……ステラ様は私に捕まってしまうのかしら?」
「――」
 さて、アドニスを害さないように夢中にさせたいわけだが。
「……貴女の想いには答えられないのは変わりませんが」
 こうですか!
「そう、よね」
 でも離れようとしたらギシッて手首握ってくるのなんでなの?
「そもそも私が今こうしてステラ様とお話しているすら夢のようで……」

「――それは、あなたが強く欲したからです」

 ステラが銀の輝きならば、マリス・ステラ(星を宿す者・f03202)は金の輝き。メアリーの視線を受け止めて、彼女は清廉なる祈りを請う、即ち――主よ、憐れみたまえ。
「あなたは……“聖なるひと”ああ、メアリー、私との再会をそんなに望んでくださったんですね」
 喫驚するステラとマリスを見比べて、メアリーはアッと口元を塞いだ。
『まさか“聖なるひと”は本当にいらっしゃった、の?』
「私はただ幸いを祈っているにすぎません」
 …………。
 メタをぶっこむのは良くないとわかってます……でも、言っていいかな?
 きゅうじゅういち。
 きゅうじゅういちって、1の91倍なんですよ。そりゃあ祈れば奇跡ぐらいは余裕で起るんじゃないかな。永遠の縁結びぐらいはぎゅぎゅってやっちゃうんじゃないかな。
 なにしろ91だから。
「メアリーは幸せになりたいだけ、なんの咎があるでしょう。ルシアンが赦せない? わかりました、なんとかします」
 うん、なんとかなったね!
「ロブにもアドニスに口添えするよう働きかけます」
 これまさしく聖なるひと(暗躍もしくは物理)
「ほー、なるほどー」
 鏡は全て知っている。
 上記を輪は化粧直しを気取る乙女の素振り(ただし先程ひっくり返ったゴミ箱の片隅)で、銀盤色づき生き生き動く情景をガン見の上把握。

●おじ❤らぶ
 わかっていることー。
 アドニス借金まみれ。メアリーは元々は借金取りというか、アドニスの金を立て替えて払っていた。
 アドニスがメアリーに女の子の皮矧ぎ指示していた疑惑、黒魔術エッセンス。
 ルシアンは、アドニスの人体使って家具作成してロブ父に認めて欲しい。
(「ほうほう、随分と深く絡み合った関係ですねー」)
 黒玻璃・ミコ(屠竜の魔女・f00148)はメモを見てふむり。しかし聡明なミコさんは悩みません、そう! この人間模様の中心点は、ロブ。亀の甲より年の劫。
 そんなわけでロブを求めて三千里、辿りついたのは材木屋……と言っても、木こりが伐ってきたものがドドンと置かれてるだけの町外れと言う奴である。
 丁度良い、聞き込みうってつけ。
「あのー、この町が初めてで道に迷ってしまってですねー」
 ブラックタール蠢くような不定の輝ききらりな瞳で見つな感じで催眠術。
『そうか。あっちが町中だ』
 はげ頭の親方は丸太の腕でぶんっと指さした。
「1人だと不安です」
 そっと華奢な指で腕にふれ頬をスレスレ猫が懐くように擦り寄り誘惑。この手管で落ちぬ男などいなーい!
 ぶんっ。
 直後、無造作に振り払われてよろけるミコ、見向きもせずに材木の品定めを再開するロブ。
「……アン、アドニスったらぁ、どんどん人が居ない所に行くのね」
『材料の仕入れだ。師匠からの言いつけだから連れ歩いてるだけでだな』
「もぉ! ツンツンなんだからぁ❤あ、ロブお爺だわ」
 きゃっと手を振るアンリへロブが向けた視線が熱い……ってか暑苦しい。更に隣のアドニスに至っては灼熱だ――こいはしゃくねつ、ある少女の明言である。
『ああ、アドニス来たのか。いいのが入ってるぞ』
 これだと差し出す丸太、ごつい指の位置がめっちゃ不自然でアンリの親指を擦りアドニスの胸板にごつりと触れる。
『……っ、すまん』
『いえ、師匠どうかしましたか?』
 浅く焼けた肌は照れた林檎の頬だって隠しちゃうんだぜ。
(「ま……」)
 さすがアンリ、速攻で気づく。目配せを受けたミコもごくりと喉を鳴らし、わかっていると返す。
 おっさんズラブ❤ただし片想い。この微妙にむずがゆい空間へ、煌めく星が降り立った。
「まぁ皆さんお揃いですか」
 なんとかしにきたマリスは、場のパワーバランスを把握せんと猟兵仲間を含めて顔色を伺う。
 そわそわ38歳はしっかりついてきているぞ。ちなみに材木屋の屋根にわざとらしくあるゴザがもぞもぞしているのは、輪がストーカー……あー、げふんげふん、情報収集して仲間への共有を行う為ですね!
 ロブ→アドニス。
 アンリ→アドニス。
 メアリー→アドニス。
 以上、輪手帳に記す。
(「アドニスの→ってどうなんだろう」)
 輪はじーっとアドニスを見つめて考える。どうもこの男の気持ちが見えない。
「ま、正々堂々ぶつかった事もないクセに! また追い掛けてんの?」
『あんた、まだアドニスにつきまとってんの?!』
 デカくて皮剥がしがいありそうだなーなんて内心はこの場の誰ひとりとして知ろう良しも、ない。
「何かあってもアタシが護ってんだから、もうヘンな気は起こさない事ね」
 アンリは腕組みふふんと鼻息荒く見下ろした。おっとー? それを見つめるロブの視線が険しいぞ?!
「成程、よく分りました」
 しゃなりと進み出たマリスはまずはアンリを見つめる。
「アンリはアドニスを護りたいのですね。そしてアドニスはロブの弟子、いつもいつだって一緒ですね」
 神の愛の元にロブとアンリの手をつながせる、全てはメアリーの欲する所を叶える為。
「これで護れます」
 猟兵へだって容赦しない。
 ――ところでアドニスを脅かしてるのはメアリーさんだったのでは?
 こっそりこっそりアドニスを心配してつけていたリリカは、現場の四つ辻を無事通過してほっと安堵したのも束の間、今の状況は……あん、しん?
「あの……」
 きょろきょろ。
 この中で1番相談できそうな人は誰だろうと、柔らかなルビーの瞳は求め彷徨う。
 年の功のロブはずらぶきゅんきゅんで舞い上がっている。
 メアリーはマリスを拝んでいる。
 ……アドニスが1番冷静そうだが、そもそもアドニスの身の安全を確保したいのにそれを本人に相談するのはどうなんだろうか。
「恋心が行き過ぎて起る悲劇は、回避……されたのでしょうか?」
 リリカが選んだのは果たしてミコであった。
 ミコは腕を組んでふむと大仰に頷いた。
「恋の花がパッパと咲いてるようですし、大人ならこう言うのでしょうね」
 ――呑もう。あ、当然未成年はちゃんとミルクですよー。

●借金塗れ
「うーん……なんでメアリーがお金出せるんだろう。やっぱ騙してるのかなー」
 その脇で壁に凭れて腕組みする絲のメモには、先程メアリーが『借金返済』で立ち寄った三軒の店が記されていた。

 酒場(店主はオーロラという30~40代の女性)
 仕立屋(50代母と20代娘の店)
 宝飾雑貨店(年齢不詳の老父)

 酒場はともかく下2つのラインナップにメーアルーナの瞳はきらっきらっだ!
「キラキラ宝石でかざりつけたドレスを仕立てて『プレゼントだよ』なんて……きゃー、それってプロポーズなのです!」
「お財布はメアリーなんだけよね、どうなのそれって感じ」
 食いものにされてるアラフォー独身。
「おねーさまは騙されているのですか?」
 しょぼーんとするメーアルーナの脇から、するりと姿を現わしたタマコは絲の紙をじーっと見据える。
「……って、なに?」
「メアリーさんは狩りが得意みたいです」
「は、確かにお届け物をしょっちゅうしていたと予知にありました」
 お届け物の内容が、皮を剥がれた動物の肉に9本の蝋燭での腐敗止めだったわけだが。
「動物も、人間も、オブリビオンも、狩り方は似ていて――」
 ひとつでも覚えればまた食べられる。しかしタマコの目の前で今の所メアリーは狩りをしてくれなかった。
「ナイフを差し入れてくるり、剥がすのは技術がいるでしょう」
「………………人間も、動物だとは言うけど」
 その思考を絲は慌てて「いやいやいや」と手を振って否定する。仕立屋さんは普通は動物の皮を使うよ、人間の皮なんて使わないってば!
「……使わないよね?」
 否定したかった。でも、暗澹とした面持ちで2人の仲間がリボンのかかった日記帳を持って現れた時点で絲の儚い願いは呆気なく叩きつぶされた。

 以下回想シーン――。
「やはり、お風呂を覗いていたようですね」
 いつの間にやら忍び込んでいたいちごが覗き込み、サラサラ藍髪がレガルタとレナの頬を撫でた。
「オマケに、下着を盗んでその代わりに自分の下着おいてくとかマニアックな……」
 こめかみを押さえる手には証拠の女性下着が握られている。いちごが持ってるとおかしくないが、実はおかしい。
「ここですね。……7月6日、今日は暑い、灼熱の太陽の下で汗にまみれたアドニスもセクシーね。そんな彼は水風呂、通りすがりの小川で」
「「音読はよせ」」
 げし。
 2人から日記を押しつけられてきゅいっと黙って正座のいちごを背に、気を取り直してページをつきあわせる。
「3ヶ月前、まだ別の町に居た頃だ」
“今日は、金髪碧眼の女。彼女は穢らわしきアドニスへの媚びと共に外側を取り去られる。これで彼女は真の人間になれる”
「……初めては8ヶ月前だ。そっちの町の前の前だな」

 レガルタはレナといちごに話した内容ここで今一度繰り返す。
「日記によると、その日の深夜、彼女の部屋の前に女性の死体が投げ出されていたそうだ、手紙と一緒にな」
 手紙は定規を宛がい書かれたような不自然な文字で、非常に持って回った装飾的な表現でこう記されていた。
“彼女の死は必定。アドニスという正を生かす為の負。負の彼女らを浄化する方法はただひとつ、穢らわしき皮と身を綺麗に分けよ。しくじってはならぬ、アドニスの魂を削減し補われてしまう”
「つまり、アドニスさんは身を食べ補うということですね」
 タマコ、日記はそこまでは言ってないぞ。
 あたたかみ増す季節、冬へと引き摺り戻すように冷え込む一同の周囲。人形に代わり一抱えもある本を抱えててけてけと走る背景のメーアルーナだけが彩り鮮やかに見える程にモノクロトーン。
「ちょっと待ってよ、それなに?」
「宝石と雑貨のお店に、おねーさまへのお届け物を頼まれたのです。差出人はないしょだなんて、ロマンティックな照れ屋さんなのです」
 絲の質問にえへんと胸を反らすちいさなゆうびんやさんが掲げたのは――“黒魔術概論”
 贈り主はアドニスだろうと予想はできるが、小さな少女の夢を壊さない為に口を噤む面々。
 ちなみに、たった1歳年長なだけのレガルタへは配慮のハの字もないのはさておきな。

●ここまでの情報を組み合わせれば真実は明白なのか?
 オーロラが下がった所で友と海莉は並んで鈴蘭の掘られた棚を見つめていた。
 相当古い作品で作者は不詳。アドニスの手によるかと訪ねたら一笑に付された、そんな新しいわけないでしょ? と。
「おいおい、お嬢ちゃん方よぉ、そーんなに見てたら姉妹で領主様んとこに嫁入りしちまうぜぇ?」
 遠目にはよく似た黒髪東洋人な見目の2人を勝手に姉妹とみたのは、1番年かさで60手前の革職人だ。
「これにゃあ入らねえがよお、俺っちのガキから若い頃は領主が大枚叩いてお気に入りの家具を作らせてぇ、そんなかに女詰め込んで贈りつけたのよ」
 溜まらぬ酒臭さがぶちまけられて口元を覆う2人の奧から、ひょこりと顔を出したのはリンタロウである。成人男子であり、こういう手合いとのつきあいも一度や二度じゃ聞かない彼は、爪楊枝のように細い魚の骨を揺らして笑う。
「領主様って、結構なアレなご趣味でいらっしゃるっすか? だって鈴蘭の毒に殺られて死んじゃうっすよ」
 例えばアドニスが理由があり年を取らぬ見目ならば? あの男は家具に武器を仕込めるのだ。
「おいおいおい、そりゃあないべ。開け閉めする度に毒かぶっちゃあおちおち服の着替えもできねぇだろ」
 かけたカマは一笑に付された。

 貝殻ラメを縫い込んだとっておきのドレスに衣替えたオーロラがカウンターにしな垂れる、今宵は何時もより遙かに賑やかであった。
 海莉がギターを弾き奏でるは、切ない泣きの入る何処か胸が締め付けられるメロディライン。ロベリアは愛しているのと求め請う女を舞い演ず、そうやってどんな仮面も身につけてみせる。例えば――。
「お兄さん、あなたの瞳の海は何を映すの。私も一緒に泳がせてよ」
 ミコ達と酒場に現れたアドニスへ一直線に濃密に行きずり愛を語るぐらいには。
(「この恋は私には濃くて重たいわ」)
 そして嘘だ。
 海莉は音から淡さを消してロベリアにあわせる。濃密な感情を抱き続ける義兄への音は此処では見せない聞かせない。
「で、悔しくないんっすか?」
 グラスを持ってメアリーのテーブルに居座ってぬけぬけと吐く浅黒い肌の青年。マリスのサクラメントを施されてなお離れた場所から見る女へ、リンタロウは下世話な関心を隠しもしない。
「あの人、若くて綺麗っすよねー……殺したい?」
 ボソリと耳元で囁かれれば、
『いいえ』
 メアリーはハッキリこう続けた。
『彼女の死は必定よ』
 眼前では、オーロラに囃し立てられたロゼリアが、胸元から取り出した派手な羽根扇を揺らしアカペラで歌い出したばかりだ。
「ははっ、怖いなぁ……黒魔術でっすか?」
 皿のように見開かれたメアリーの瞳をリンタロウは覗き込む。そこに演技が混ざっておらぬかを濾しあげて、根っこを見定める。
(「………………怯んだフリじゃあないっすね」)
 そもそも彼女が日記を仕込んでミスリードするかというと、そんな相手がいない。猟兵達が調査で彼らに関わったのは、彼女にとっては予期せぬことだ。
 待っている間、2人がもってきてくれた日記に目を通しリンタロウは、ただの金貸しだった女が恋に狂っていった過程を今一度重ね合わせてみる。
 狩猟の民たる彼女は親が偶然に見つけた宝飾物をヴァンパイアに献上し富を得た。皮を剥いだ肉を与えるのは、純粋な好意だった。
「――でも、彼が欲したのはその見事な皮剥ぎの腕だけだった」
 もう目を覚ます時間だと友は一瞬浮かべた憐憫を素早く消す。
「そうですよね、アドニスさん」
 持ち上げた面でアドニスを見据える。
 ぱちりと瞳を瞬くアドニスへ、猟兵達はじわりじわりと距離を詰める。
「数多の村にて行方不明者を家具で殺し、どういった理由かはわからないけれども……皮を剥がせた」
「今の領主の趣味っすかー?」
 リンタロウの指摘には黙秘権を貫くつもりらしい。
 お喋りを止める他の客を環の外に、呆気にとられた様子のオーロラはロベリアが腕を引き外に出した。
「次の候補はルシアンね」
 海莉の台詞にミコはそおっとロブの様子を伺う。さぁ、愛の天秤は娘へと彼へとどちらへ傾くのか?
『……どういうことなんだ、アドニス。ルシアンの様子がおかしいのはお前のせいなのか?!』
『違うよ、爺さん。アンタが俺に現を抜かすからさ』
(「アドニスさん、滅茶苦茶毒夫ですねー」)
 ほのぼのおっさんずラブが一転、暗黒ドロドロ恋愛劇にクラスチェンジである。
「大方『家具を見せてやる』なんて誘って殺人兵器に入れるつもりだったんでしょ?」
 ――起らなかった殺人を語る必要はないけれど、家具に使いたいルシアンが返り討ちにするのが猟兵達が関わらなければの既定路線だったのだ。
 アドニスにとって女は捧げ物。
 いや、そもそも彼が『人』にあたたかな感情を持つことがあるのだろうか?

 アドニスは、死ななかった。
 さて、アドニスとヴァンパイア領主はつながっているようだが、彼が死ななかったということはその糸を追えばいい……のか?

 猟兵達の疑問に答えるようにアドニスは高らかに笑いだす。
『俺を殺すか、罪人と。やめておけ……お目こぼしいただけなくなるぜ? 俺のいない町なぞ価値がないと、眷属の大群を差し向けるだろうよ!』

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『素敵なドレス』

POW   :    街を歩き回って情報収集、不審な建物を調べる

SPD   :    住民に聞き込み調査、犯人の痕跡を探す

WIZ   :    被害者の関連性を探す、次の事件を予測

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


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2章目の募集は追加文章投稿後で、5月7日以降です。
準備ができましたら、改めて雑記などで広報させていただきます。
今しばらくお待ちください。
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 確かに、メアリーは拗らせていた。
 彼女の恋愛感情は常に重たく相手に絡みつく。
 相手の少しの親切から「自分も好かれている」と醸造された思い込み故に彼女の周囲から男は消えた。
 そんな彼女を、惚れられた側が操作するのは容易かったことだろう。どんな異常な行為とて彼女は疑わず、自分が見たいだけの真実の中で生きる。
 事態を紐解いた結果、ヴァンパイア領主とつながる糸を握っていたのはメアリーにストーキングされていたアドニスだ。
 ――トンだ瓢箪から駒である。
 彼の手口はこうだ。
 好青年の素振りで(時にメアリーにストーカーされている被害者としての気弱さも滲ませて)女を引っ掛ける。
 やがて女は消える。
 ほぼ同時に『全身の皮を剥がれた正体不明の遺体』が黒魔術の儀式めいた魔法陣と共にアドニスの家の前に現れる。
 町に居づらくなったていで町を出る、メアリーも当然ついていく。
 そうやって幾つかの村を巡ってから、彼は近辺でも栄えるこの待ちにやってきた。女たちからはいだ革を携えて。
 そこには某かの「目的」があるのではなかろうか?

 ――さて、話を現場に戻そうか。
 アドニスは自分がヴァンパイアの駒と認めた上で、いけしゃあしゃあと町の住民を人質に取った。そこには妙な確信が滲んでいる。
 つまり、彼以外にも領主に繋がる存在がいるのだ。
 逆にこうとも推測できる。
『様々な土地を移動してきたアドニスにとって、彼に便宜を図り協力するこの町は特別だ』
 猟兵達は、遠巻きにする町人たちへ騒動が酒の席の悪ふざけと通るようにこの場をなぁなぁに流す。
 アドニスがその気なら、一端は泳がせようという判断だ。
 ――早急に協力者の尻尾をつかみ、御領主様とやらを引き摺りだしてやろうではないか!


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 長らくお待たせして大変申し訳ありませんでした。第2章目を開始いたします。
 プレイングの募集は【6月2日午前8時45分】からとなります。

◆補足
 2章目は通常の調査シナリオとなります。
 アドニスにとってここは領主につながる『特別』の町なのは確定です。
 彼が企んでいたことを把握する、協力者の尻尾をつかむ……などで、領主への道をつけてください。


◆聞き込みに行ける場所
 酒場(店主はオーロラという30~40代の女性)
 仕立屋(50代母と20代娘の店)
 宝飾雑貨店(年齢不詳の老父)

※また1章目に登場していた人物全てに接触可能です
※聞き込み以外にも、とりたい行動があればどうぞ


◆リプレイについて
 1章目とは違い、個別ないしは接触相手の同じPCさんを一緒に描写する形式となります。
 

 調査シナリオではありますが、1章目のノリで楽しく気軽にきていただいてももちろんOKです。
 それではご参加お待ちしております。

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彩波・いちご
黒幕がアドニスさんの方だったとは
女難に悩む部分で親近感沸いていたのに…

ともあれメアリーさんに会いに行きましょうか
彼女のモノらしき下着がまだ手元にあるわけですし(1章で流れのまま持ってきた)

「とりあえずこちらお返しします」
もうこの時点でカオスになりますけどね……他の人に見られたらどんな絵面なのか
とにかく聞きたいのは、この街でのアドニスの様子を根掘り葉掘り
ストーカーなんだから彼の特別もよく知っているはず…たぶん
彼に近付く女には詳しそうですけど、彼に近付く男とかもいるんじゃないです?
誘惑しつつ尋問です

あとできれば彼女の拗らせ愛を止めたいというか終わらせたいというか
私に矛先向いても困りますけどね?




 鼻の穴を膨らまし出て行ったアドニス、抜け目なく席を立ち尾行に入った猟兵数名と同じくメアリーは即座に席を立った。レッツストーキング!
「待って下さい!」
 彩波・いちご(ないしょの土地神様・f00301)は全身タックルの勢いでメアリーの腕をひっつかみ引き止めた。
 アドニスに人質にされたら厄介だ。メアリー嬢はそりゃあ喜んで殺されちゃうんだろうから。
「私、メアリーさんにお返ししなくてはいけないものがあるんです」
 ちらちらとアドニスが出て行ったドアに視線を送り落ち着きなく体を揺らすメアリーへ、いちごはぴろっと恥ずかし女性下着を見せる。
「なっ……なんであなたが私の……を持ってるのよッ」
 そりゃビビるな。
「アドニスさんのお部屋で見つけました。お返しします」
 拍子抜けする程にあっさり手渡し、傍目カオスなど気にせずいちごは世間話めいた口ぶりで切り出した。
「メアリーさんはアドニスさんを誰よりもご存じですよね?」
「…………え、ええ! 勿論よ!」
 声にハリがない。
 先程のアドニスの台詞は相手をしていた猟兵達へのもので、彼女を含めた居合わせた町人は全て把握しているわけではない。ただ明らかに通常とは違った振る舞いはわかっている。
 俯くメアリーへ冷えた水をさしだして、いちごは労りの眼差し。
「あなた、私が好きなの?」
「…………」
 間。
 拗らせ愛を終らせたいとは思ってるけどー、自分にラブが向いちゃうのは避けたい。そんないちごの乙女心じゃない、男心??
(「ほら、私は事件が解決したらここに来ることはなくなりますしー」)
 でもいる間に重いラブビーム(波動砲級)が来るのも避けておきたい。
「色々な場所にいるアドニスさんをずっと追い掛けて来たんですよね。同じようにストーキ……移動してきた人とか、メアリーさんのライバルって思い当たりはないですか?」
 問われればメアリーの眉間に深々とした皺が走った。言わずとも鷹揚に語る表情。
「いるわ! この町に辿りついた時に確信したの。アドニスにいつも手紙を寄越してた泥棒猫はここにいるって!」
「なるほど、この町に住んでいたんですね」
「そおなの! だって、手紙に染みた潮風がこの町に漂うのと同じだもの」
 ――手紙に染みこんだ香りだなんて鼻が効く犬だってかぎ分けるは無理だろう。だが、メアリーならやりかねない。
「メアリーさんの心を脅かす内容だったんですか?」
 覗き見してるの前提の質問である。まぁメアリーなら以下略。

「“お父様はドレスをご所望、材料を送りなさい”ですって!」

 アドニスがメアリーに人の皮を剥がせていた、その事実と照らし合わせて今度はいちごの眉根が寄る番だった。
「お父様……という言い方をするって、アドニスさんの身内の方……でしょうか?」
 その問いかけにメアリーは、あっと喫驚に目を見開いた。どうやらそういう発想はなかった模様。
 いちごは深追いせずに話を変えた。
「ドレスということは仕立屋さんに材料は送られていたんでしょうかねー」
「ええ、仕立屋には相当ツケてたみたいで、私が全部立て替えたわ」
 ……これは仕立屋に調査にまわった仲間の情報が待たれるぞ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒玻璃・ミコ
※美少女形態

◆心情
ふーむ、開けて吃驚玉手箱ですねー
まさかアドニスさんの方が吸血鬼の共犯者とは……

◆行動
【WIZ】で判定です
師匠のロブさんから更に情報を引き出しますよー

師弟かつ深ーい関係なのですからクロではないにしろ
もう少し込み入った事情を知ってる可能性は多いにありますよね
割とストーカー染みた行動で弟子の動きは把握してそうですよねー

今ならロブさんは動揺してそうですから頃合いを見計らって
【医術】に秀でた知識による【毒使い】で
口が軽くなるど…薬を調合して
【催眠術】交じりの私のトークで心当たりを吐いて頂きましょう
そうすれば次なる事件を予想出来るかもしれませんしね

◆補足
他の猟兵さんとの連携、アドリブ歓迎




 開けて喫驚玉手箱。
 いちごによるメアリーの足止めを皮切りに、嘔に興じていた仲間が再び喉を震わし空気を宥めてくれたし“聖なるひと”も手際良く酒席を整えてくれた。それらお膳立てを活かし、黒玻璃・ミコ(屠竜の魔女・f00148)はロブのテーブルにつく。
「ボトルごといただいていいですかー?」
「そりゃあくれるもんくれるなら」
 ミコが未成年だろうがためらいなく色をつけた金をふんだくったオーロラは、水と氷とマドラーの水割り手作りセットを誂えてカウンターへと戻る。
 弟子アドニスにラブのロブから徹底的に聴取するつもりのミコにとって、水割り手作りセットは好都合極まりない。
「ロブさん、呑みましょう」
 チャカチャカとロブ好みの水割りを作り……あれ、今なんか粉末を入れなかったか? まぁいいや、ミコ自身は良い子のミルクを手に、
「かんぱーい」
「はぁ……」
 あわせたグラスに浮かない顔のロブのへの字口が浮かぶ。
 ――そのへの字口は、直後から不思議なぐらい滑らかに解けることとなる。
 最初は若き弟子への道ならぬ恋路への愚痴や、亡くなった妻や娘ルシアンへの後ろめたさ。
(「あったんですねー、罪悪感」)
 泣きが入ったタイミングで、確かな医学知識に裏付けられた体に悪影響を残さないお薬を入れてくるくるくるくる。
「なぁんだか白いな」
「ミルク割りです」
「……ミルクくさい赤子だったルシアンももう年頃か。なんだって娘と男をとり合ってんだ……はぁ。それもこれもアドニスが腕がいいからだ」
 娘さんは彼の肉体(材料)にしか興味がなかったとは言わないでおくのはミコの優しさだ。
 さて、
 聞き出した所によると、アドニスは住み込みだが帰らない日もあるらしい。
「大抵はここで酔いつぶれてんだよ」
「オーロラさんにホの字なんでしょうか?」
「ないないない……何歳差があると思ってんだよ、親子ほど離れてるぜ」
 ロブ、自分のことをあげる棚はふんだんに持っている。さすが家具職人だ。
「アドニスさんを弟子としてとったきっかけはあったんですか? 彼、流れ者ですよねー?」
「奴ぁこの町じゃあ、名前はチラホラ出てたんだよ。ここ……」
 と、カウンターをノックして続ける。
「酒場でも腕のいい家具職人がこの町出身だとか聞いたっけなぁ。だからあいつが来た時にそうかそうかと雇ったんだ」
「へぇ、アドニスさんってこの町で生まれた人なんですかー?」
 話の流れ通りに相づちを打ったら、ロブはいやいやと手を振った。
「ワシぁ生まれてからずっとこの町だが、あいつを見たことはない。大人になって顔が変わったかわからんがー……」
 ――ここで重要なのは『酒場で腕の良いアドニスという職人がいたと聞いた』点だ。
「いつ頃、誰から聞いたんですかー?」
「さぁてなぁ、話自体はチラチラ数年前から話題になってたし……誰から…………」
 薬の効果で根掘り葉掘りへの嫌悪感は0、ロブは記憶を掘り返すように額を抑えて低く唸る。
「だぁれだったか印象に残ってないなぁ。たまに小咄で出てたぐらいだし……ワシから話を聞いたという奴もいるだろう」
(「話をさりげなくばらまきやすいのは……」)
 ママのオーロラをチラ見した後、ミコはアドニスが借金を作っていた店の面々が酒場にくるのかも確認する。
 女所帯の仕立屋はこないが、宝飾屋の老人はちょくちょく顔をみせるという返答を得た。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雛月・朔
アドニスに領主の影、ですか。

逆にアドニスの命を狙っていたルシアンは、アドニスの直接の協力者ではないかも?縛ったままの彼女にもう一度会いに行って話を聞いてみますか。

『ご加減はいかがですかルシアンさん?取引をしませんか?もし貴女が領主様への忠誠心よりもアドニスへの執着心が強いならば、私に領主様の情報を教えていただけませんか?代わりに私はもう貴女の邪魔はしないと約束します』
まぁアドニスを泳がせる前提で動いている以上、ここでルシアンを解き放つわけにもいかないので情報を貰えても、
『邪魔はしないとは言いましたが解放するとは言っていません。ではもう少し大人しくしていてくだないな』と言って情報だけ貰います。




 アドニスを素材と見ていたルシアン。彼女が認めて欲しい対象の父親も部外者確定と聞き取ったなら、雛月・朔(たんすのおばけ・f01179)は酒場を忍び足で辞した。
 ルシアンの動機からは“仲間割れ”の匂いはしない。割れるような“仲”ではないなら、有用な情報を喋ってくれるやもしれぬ。

 家具工房にて朔を出迎えたのは、繭玉の如く巻き付いた糸と散々格闘し敗北にやさぐれた女であった。
「ご加減はいかがですかルシアンさん?」
「さいっあく!」
 ぎとり。
 下から睨み据える眼差しも何処吹く風で受け流す。
「取引をしませんか? もし貴女が領主様への忠誠心よりもアドニスへの執着心が強いならば、私に領主様の情報を教えていただけませんか?」
 糸に身を委ね脱力した女は考えをまとめるように黙る。
「アンタは何をしてくれるのよ」
「私はもう貴女の邪魔はしないと約束します」
 爽やかに返す朔へすかさずルシアンは体を揺すって訴えた。
「……ならほどいて」
「まずはお話を頂かないと」
 押し問答しばし、折れたのはルシアンの方であった。
「領主様は家具を求めてらっしゃるんですよね?」
「家具、ね……パパから話は聞いた?」
 朔は頭を振る。
「家具をおさめてらっしゃるんですよね、お父さんは」
 この世界、領主に逆らえば死あるのみ。ロブが深い事情を知らず従ってきたのは頷ける。
「そして貴女はお父さんに認めて欲しかった。だからといって“人の肉体を利用する”なんて外法を受け入れてもらえると思ったんですか?」
 猟奇的な発想は異常だ。それが父親に評価されると考えるに至った根拠はなんだ?誰かが吹き込んだのか? それとも……?
「あははははははは!」
 朔の思惑など知らずに、ルシアンは先程の壊れた高笑いを再び響かせる。

「――だってパパはママを家具にして領主様に献上したんだもの!」

 坐りきったルシアンの瞳は、先程のロブの正常な人柄とは著しく齟齬を来たしている。
「それはルシアンさんがおいくつの時ですか?」
「赤ちゃんの頃よ」
 見て憶えたのではないのなら、誰かが吹き込んだ可能性がある。
「領主様は人の体をパーツとしてお好みなの。街の人は誰でも知ってるわ」
 おぞましい話をケロリと吐き出すルシアンとロブのマトモな感性がやはり繋がらない。
「いつだったかパパはお酒にしこたま酔っ払った時に零したの、領主様にママを捧げたって!」
(「それは妻を領主に召し上げられたってことですよね」)
 その解釈の感性は、むしろ惚れた娘の皮をメアリーに剥がさせたアドニスに近しい。
 ――更には領主の好みに、近しい。
「……」
 朔は背筋がゾッと粟立つのを感じた。
「……お母さんはどんな方だったんですか?」
 ただ召し上げられただけなのか、それとも??
 赤子の頃に生き別れたことを聞くのは酷かという気遣いも、うっそりと睫を伏せた彼女には無用の長物。
「パパは一番腕がよかったから婿入りしたの。だからあたしはむしろ正統な跡継ぎ候補。なのに、パパはアドニスを……ッ! 赦せないわ、あんな男に乗っ取らせるなんて。だからあたしがアドニスを材料にして腕を知らしめるのっ!」
 当然次にでてくる台詞は「ほどけ」だが、朔は既にこの場にいない。
「騙したわねぇええ!」
 夜の工房に女のヒステリックな金切り声だけがこだまするのである。

大成功 🔵​🔵​🔵​

赫・絲
アドニスも、領主への手がかりを失わなかったっていう意味では死ななくてよかったけど、報いは受けて然るべきじゃない?
随分高を括ってるみたいだけど、自分のした事は全て返ってくるものだよ

とりあえず領主に繋がる情報を探さないとねー
宝飾雑貨店なら家具の飾りに使ったりとかで、日常的にアドニスが訪れてても不自然ではなさそう
メアリー以外で誰か一緒に来てなかったか、とか、普段何を買って行っていたか、とか聞いてみようかな
店主サンが協力者そのものの場合もあるし、不審な様子は見逃さないようにしないとね

それにしても領主サマってどんな外見なんだろうね
案外、ひっそり町人に混じってたりして
その方がアドニスとも接触しやすそうだし



●宝飾店にて
 家具職人ロブの妻でありルシアンの母が領主に取り上げられていた、ルシアンの年格好からすると二十数年前と推測できる。
 宝飾雑貨店の店主は老人だから街の古い話にも通じてそうだ。またアドニスの依頼で黒魔術の本を取り寄せていたのも判明している。
 叩けば色々と出てきそうだと、赫・絲(赤い糸・f00433)がくぐった閉店間際の店内、肥え太った老人は疎ましげに椅子から立ちもしない。
 絲は気にせずに赤い宝石に指を伸ばすと天井に翳した。
(「ガラス玉か……確かに、こんな老人の店で金目の物を置いておくのは危険だよね」)
 他にもディスプレイされているのは悉く偽物である。
 そもそもこのような商売が成り立つ程、ここは豊かで余裕のある世界ではないはずだ。しかし老人からはみすぼらしさは見受けられない。
「店主サン、お得意様用の特別な商品だけど、そろそろ買ってもらえなりそうだよー」
「………………すみませんねぇ、最近耳がとんと遠くって」
 台詞に反して禿げ上がった側頭部がじっとりと汗で滲む、わかりやすすぎだ。
「アドニスが胡散臭い黒魔術の本を届けさせたの、それが最後の仕事だと思った方がいいよ」
 ちいさな配達人の猟兵嬢は、先程きちりとお仕事をすませていた。まぁそれでつながりバレバレだったわけですが。
 絲はガラス玉を戻して、飄々とした態度で世間話の如く続けた。
「彼が領主サマにつながってるのはわかってるよ。この街の一部は豊かだが影でどれだけの人が涙してるんだろうね」
 アドニスは報いは受けて然るべきだとの内心が滲んだか、飄々とした中にも剣呑さが潜む。それを気取って店主は卑屈に視線を逸らした。
「圧政から解放された街の噂を聞いたことはない?」
 ――ああそうさ、我らは猟兵。オブビリオンを恐れず立ち向かうモノ。
 ゆるゆる日常ごとの軽やかさで様々な事件解決に手をつけ解決してきた絲から、物言うより明白な“何か”が滲む。
 老人は大きく溜息をついて、先手を打つように「ワシはなんも知らん」と頭を振った。
「領主サマってどんな外見なんだろうね」
「会ったことはないぞい」
「案外、ひっそり町人に混じってたりして」
「……ゾッとしないわい」
 注意深く表情を観察し、今の間が『もし街に潜んでいたら』との想像が産んだものだと絲は理解する。つまり、彼は領主に会ったことがない。
 更なる根掘り葉掘りに対し『金払いの良いアドニスの言うが侭に、家具飾りの宝飾物や先の黒魔術の本を取り寄せていた』のだと、逃げ腰で素直に吐いた。
「それはいつからだい?」
「ここ数年ですかいね」
「アドニスがここにくる前からなのは確かなんだね」
 頷く老人へ、絲は質問の切り口を変える。
「ロブの奥さんが領主サマに召し上げられたって本当?」
「彼女は今のルシアンぐらいの年で領主様の元に行ったよ。家具の中に娘を入れてって話が、作る者ごと連れて行かれたと囁かれたもんだ」
 ルシアンの見目は20代前半、その母親がもし生きていれば50手前。
(「メアリーは……年齢的にはありえちゃうけどさすがにないのかなぁ。外からの手紙を盗み見ている状況がおかしくなるし」)
 彼女はそんな小細工ができるタチではないのは明白だし、ヤンデレで隠すならば猟兵達が何をしようが敵視して情報収集の邪魔をした方が効率的だ。
「どんな人だったのかな?」
「この街で生まれ育っていつも父親の家具工房に出入りしとったぐらいしか知らんわい。仕立屋の母親の方が幼なじみじゃったからそいつに聞くがよい」

大成功 🔵​🔵​🔵​

影見・輪
アドニス泳がせるなら、尾行してストーカーの続きするよ
可能なら【錬成カミヤドリ】も再度使おうかな

彼自身が協力者に直接接触することはないだろうけど
彼の行動の中に協力者を匂わせるような情報があるかもしれない
あと、彼を完全にフリーにしておくわけにもいかないからその監視も兼ねとくね

それにつけてもアドニスの感情ってどこにあるんだろうね?
(調査と趣味を兼ねてアドニス周りの人間関係メモメモ)

「アドニス→ヴァンパイア領主」になるのかな?
すべての女性の革は領主様のために、とか?

あとは仕立屋の娘と実は恋仲で
母娘および街を領主から守るために革狩りの旅に出てたとか?

本当に男性好きってんならまぁ、それはそれでアリだけどね


タマコ・ヴェストドルフ
仕立屋に行きます
こういうことは苦手です
お父様(ヴァンパイア)に似た臭いがするか
しないかくらいしかわかりません
人の皮を使うなら仕立屋かもしれない
そのくらいの動機で臭いを嗅ぎに行きます
「貴女達がアドニスの協力者ですか?」

その後はアドニスの近くにいます
彼からはお父様と似た臭いがします
わたしがオブリビオンを食べるのは
オブリビオンを食べても誰にも叱られないからです
人間よりオブリビオンの方が栄養(愛)が多いというのもあります
ただ彼を食べても誰もわたしを叱らないと思います
だから彼を食べて(殺して)いいと言われた時のために
彼の近くにいて
いつでも彼を食べられるように付いて行きます
臭いがするので見失いません


ステラ・アルゲン
まさかアドニスがああいった人物だったとは。本当に予想も付きませんでしたね。
さて、ヴァンバイアたる領主との繋がりを見つけないといけません。
彼は領主お気に入りの家具職人だった。なので領主に家具を献上していたことでしょう。その家具の運びを手伝っていた人がいるはずです。
運び屋……馬車の所有者……そのあたりの情報を探りに聞き込みにいってみましょうか。【情報収集】【コミュ力】

女性相手の聞き込みなら任せてください。
ちょっと口説くように【誘惑】して話を聞いてみますから。

(アドリブOK)


ファン・ティンタン
【SPD】すーぱーぱわーだいぶ
アドリブ大歓迎

(ここまでの相関図を爪でがりがりと地面に書きながら整理中)


……
………???

『わたしは かんぜんに りかいした !

つまり、アドニスを拷問にかければいいんだね
なーんだ、私もなんでそんな簡単な事に気付かなかったんだろうね
では―――やろうか』

ネコは生まれながらの【毒使い】である
鋭い爪には雑菌、一掻きから破傷風で人を殺める事など容易いのだ

『ただ死なれても困るから今回は致死毒使わないけどね
代わりに、強力な自白剤をくらえ!』

【残像】さえ残る【早業】で強襲
もっふりお腹に含ませた薬を、アドニスの顔面へボディーアタックで嗅がせにいく

……あ。猫のままじゃ言葉が通じないや


レガルタ・シャトーモーグ
協力者を探すのか…
女性の皮を集めた後の行動、一番に思い浮かぶのは品物の納品先だろう
仕立て屋か宝飾店が怪しいが…

とりあえずは仕立て屋の張り込みに行く
流石に、領主とやらが市井の店までわざわざ買いに来るとは思えない
なので、領主の館へ納品に行くのを尾行しよう

視えざりし屍の招聘で共犯者を喚び
交代で店の周囲を見張ることにする
店から荷物を持って出かける者がいれば尾行
1人が家に残っている場合は共犯者に家を見張らせる
特に夜に出歩く者には注意して
暗視で視界を確保しつつ気づかれない様に屋根の上などからこっそり追いかけていく
もし配下らしき雑魚が居た場合も、こちらが見つからない限りは隠密を優先


セツ・イサリビ
【霊感のある革職人】
行先は仕立屋
革仕立ての腕を売り込みに

なあ、この辺に『ある』って噂を聞いたんだ
牛に羊に馬に豚、あらゆる革を縫ってきた
仔山羊の革はいい、柔らかくてしなやかで扱いやすい
だけど足りない
違う革に触れたい
薄くて繊細で、しなやかでよく伸びる、彩色や細工が映える特別な革を

知っているぜ
この町に『ある』んだろう?
女たちと俺の勘がここだと言っている
(賄賂の宝石の革袋置き)
「ここに無いなら『どこ』に行けばいい?」囁き


【目立たない】からの【存在感】でマッド革職人を装い
仕立屋から宝飾店の繋ぎも見込んで


アンリ・オヴォラ
アタシは引き続きこっち
見張りも兼ねて
変に離れても不自然でしょ
…ヤダ、ほんとよ?

アドニス、アンタ悪い男ね~
ま、男はそれくらいが丁度いいのよ❤
この村の事なんて知ったこっちゃないし、一生アタシの手元に置くのもいいわね
なーんてね

ねーえアドニス、アタシ、アンタの作った家具がみたいワ
ぜーんぶよ
作りかけのやつも見せて頂戴
仕掛けがあるなら動かして
ホント、腕の良さと人格って比例しないわ

いい感じに褒めたりくっついたりしながら、
その(剥いだ)革何に使うの?
次はどんなものを献上するつもりなの?
って探ってみるわ
メリットがあるからこそ協力する人がいるんでしょ

…この世界じゃ、生きていけるってだけで協力するに値するんだけどネ


三嶋・友
なんかものっそ濃い人間関係見てたらコレ、猟兵含めた全員を傍から眺めてた方が面白いんじゃない?なんて気がちょっと…って、いやいやいやいや!
…こほん
犠牲者が実際に出ている訳だし、ヴァンパイアを放っておく訳にはいかないよね
ドタバタしたけど、何気に結構凄惨な事件だし
って、言ってもどこから調査したら良いかなぁ

んー、悪霊でも調べてみよっか
アドニスがメアリーや女の恨みくらいで怯える筈がない
でも領主に繋がる協力者に見張られて、なら解らなくもないし
今も後ろに…って、その時その場にいたのは、誰?
革職人か、ママか、他の誰かか
聞き込みや、幻影の蝶を召喚しての潜入もしつつ革職人たちを調べてみる
関係なければそれで良いしね


メーアルーナ・レトラント
むー、アドニスさんはわるいひとなのですね
そんなわるいひとをしんじちゃってるメアリーさん…
たすけてあげねばなりません!

メアは仕立て屋さんに!

おようふく!どうやって作るのです?
もしかして最近珍しい発注があったり……と尋ねてみるのです

メアが思うに、きっときっと…かくれているヴァンパイアは
伝説のお洋服を作ろうと、してるのです…!
でもその材料がひとのかわ、なんてメアはこわくてぜったい、つくれませんー!
そんなのより、メアはレースとかフリルとかふわふわのきらきらのおようふくのほうが好きなのです!

だから、そういうのをつくろうとしている気配がないか…仕立て屋さんを調査なのです!
あっ、このおようふくかわいい…!



●仕立屋にて
「成程、仕立屋が断然臭くなったわけだ」
 セツ・イサリビ(Chat noir・f16632)は、宝飾店から出てきた絲からの話をかいつまみ瞳を眇める。
 酒場を出てからの同行者は淡い薄紅の髪をふわりさらり風に遊ばせる二人の少女だ。
「こういうことは苦手です。お父様(ヴァンパイア)に似た臭いがするかしないかくらいしかわかりません」
 雲烟過眼なるタマコ・ヴェストドルフ(Raubtier・f15219)の横顔へ、ぴょこりと頭を傾けて覗き込むのはメーアルーナ・レトラント(ゆうびんやさん・f12458)
「でもでも、それがじゅうようなのではないのですか? だっておてがみには“おとうさま”とかかれていたのです!」
“お父様はドレスをご所望、材料を送りなさい”
 メアリーが盗み見たアドニスに届いた手紙は、この街から送られていた。
 この“お父様”に該当しそうな年格好の男性で関係者はロブか宝飾店の男かだが、仲間が探った中身からシロと断定して間違いない。
「その趣味は“領主様”にこそお似合いだ」

 仕立屋『ミザの店』のショウウィンドウには丁寧な手仕事のドレスが艶やかに咲き誇る。とてもとても庶民には手は届くまい。
 レガルタ・シャトーモーグ(屍魂の亡影・f04534)の小柄な姿が裏口にまわるのを尻目に、セツは大きく扉をあけメーアルーナは元気よく店内に駆け込んだ。
「おもてのドレスがおしゃれさんなのですー、あれもうりものなのですか?」
 タマコは自分の影があやしく揺らめきブレているのに気づくも形より“レガルタの者”と悟り、影のうごめきを隠すようにランタンの前に位置取った。
「あら、いらっしゃいませ。こんな夜分に賑やかなことね」
 小太りの中年女がミゼだろう。年齢も顔立ちも共通点のない3人の関係を値踏みし、即座に大口客ではないと計上したならば、愛想の良さは本当に表面だけになった。
「母さん、そろそろ……あ、いらっしゃいませ」
 痩せて若くしたミゼそっくりな娘は、母を促すように奧へ視線を向け促す。
 下がりかけたミゼの前へタマコは足音なく回り込んだ。ルシアンの母親の情報を持っているのは娘ではないから去られては困る。
「おようふく! どうやってつくるのです?」
 合わせてメーアルーナも指を組みきらっきらの瞳で反対側に乗り出し完全に移動を封じた。
「あのドレスをつくったのは、おばさまですか? それともおねーさんですか? おやこがっさくですか? おかーさんとつくれるなんて、あこがれます」
「なあ、この辺に『ある』って噂を聞いたんだ」
「……ま!」
 単刀直入上等と、セツは革袋の口を解いて中身を見せる。それらイミテーションは、先程絲がつまみ上げたガラス玉より遙かに豪華な輝き。中年女の瞳もギラリ輝きを増した。
「牛に羊に馬に豚、あらゆる革を縫ってきた。仔山羊の革はいい、柔らかくてしなやかで扱いやすい」
 ――だけど足りない。
 セツの掠れた声が渇望を如実に物語る。
「ははぁ、あんた革職人かい」
 セツの手を確認しようと腕を伸ばすミゼは上機嫌だ、しかしそれを肘でつつく娘は時間を気にして落ち着かないし、怯えが瞳を濡らしている。
「革職人とだけであれというならば、そう言いたいところだが」
 飾られたドレスをなぞる、嗚呼、これは普通の布だ。だからセツはわざとらしく落胆してみせる。
「聞こえない」
「何がだい? 言ってごらんよ坊や」
 ガマガエルめいた低い嗤いに、セツは仕立屋母子にだけ聞こえる吐息を響かせる。
「人という獣の嘆きが、聞こえない。獣の啼き声は生憎とわからない」
「……なっ?! あなた一体ッ」
 顔面蒼白な娘が壁に凭れ込んだ音までレガルタは共犯者を通じて把握していた。少年自身は表口と裏口が一挙に視界に入る屋根の上。
(「娘の焦りは『納品』の時間に遅れるから、そして“商品”にも後ろめたさを感じているようだな」)
 ふわり。
 マントが足元に満月を描く。馬車の動きはなかろうかと街全体を見渡した少年は、把握できる近隣では見とれないのを確認し、再び室内のやりとりへ意識を向けた。

●馬車を出す者は?
 取引に馬車が使われているはず――そう推測を立てたステラ・アルゲン(流星の騎士・f04503)は、アドニス退出と同時に街へ出て聞き込みを重ねていた。
(「ヴァンパイアたる領主に家具を献上していたならば、そのような大物は人の手のみでは移動は難しいはずです」)
 昼間にロブが立ち寄った材木屋から辿りついた内一番古い家から当たることにした。
「……もうやっておらんよ」
 出てきた老人は、ステラの問いに疎ましさ隠さずにドアを閉めかける。
「それでは過去はされていたのですね?」
 体を割り込ませて食い下がるもあくまで礼儀正しさを佚しない丁重な振る舞いに、老人はギョロリと目を剥いた。
「お願いします。今は少しでも手がかりが欲しいのです」
「…………領主につながってどうする」
「この街は、豊かな方も沢山いらっしゃいます。けれども、やはり苦しさや理不尽は当り前ではありませんか? 本当はそうあってはならないはずです」
 濁りなど欠片もない蒼は夜闇だろうが構わず輝く。その眩しさに老人は呻くと、一旦室内へと下がった。
 すぐに現れた手には古びた椅子がある。彼は腰掛けるとおもむろに話し出した。
「もう20年以上前になる。友人の妻をお届けした、後味の悪い最後の仕事だった」
 ロブの妻が召し上げられた時のことだろう。
「跡を継いだ息子は、領主の怒りに触れて殺された。嫁がパーティに呼ばれたが断わったせいでな。結局は嫁も連れて行かれたし死に損だ。バカな奴め……」
 息子を蔑む声音の中、慟哭めいたノイズが混じるのに気づくも、追求はされたくないと老人は語る代わりに顔を逸らした。
「また仕事に戻ったが年だからな、孫が17になったら馬車は譲った」
 そして人差し指で×を作って唇に宛がう。
 領主の住処も、殺された息子夫婦への本当の気持ちも、もらすつもりはないという意思表示にステラは嘆息をもらす。
「もう領主がらみの仕事もしとらん、俺に話せることはない」
「……ありがとうございました。夜分遅くに失礼しました」
 食い下がるのは諦めて来た時と同じく礼儀正しく頭を下げる。
「ああ、帰ってくれ」
 不意に立ち上がった老人は、ステラの肩をどんと押すと素早く扉を閉めた。
 予想外の無礼にステラの型良い眉が寄るも、すぐに足元を撫で落ちる紙切れに気づきおやと丸められた。

●再びの仕立屋
「違う革に触れたい。薄くて繊細で、しなやかでよく伸びる、彩色や細工が映える特別な革を……」
 セツが陶然とした口ぶりで囁けば、むっちりと肉で膨らんだ女の指がその手首を掴み品定め。
「ははぁ、アンタは正直職人としちゃあなっちゃいないんだね」
 まるで話を変えるような口ぶりだ。
 でも、
 実は全く変わっていない。下卑た瞳はセツの端正さの中に潜む狂気を見出し釘付けなのだから。
「きゃあ!」
 シュガーピンクの頭を抱えてしゃがみ込み、ぷるぷると震えるメーアルーナへ、仕立屋の娘は中途半端に腕を差し伸べてまごついた。
「でんせつになりそうなすばらしいおようふく! やっぱりそうなのですね……」
 指の間から覗く幼い瞳はあからさまな怯えをセツへ向けた。
「その材料がひとのかわ、なんてメアはこわくてぜったい、つくれませんー!」
 無垢と無邪気さは演技力なんてものを遙かに凌駕するもんだと、セツはいっそ可笑しい内心を隠すのに一苦労だ。
「母さん!」
「モーア、お前は使いにいっといで!」
「は、はい」
 子鹿めいた頼りない足音が遠ざかる方角へ瞳孔を併走させて把握し戻す。そうしてタマコは未だ震えるメーアルーナの傍へとしゃがみ込んだ。
「大丈夫ですか?」
「……そんなのより、メアはレースとかフリルとかふわふわのきらきらのおようふくのほうが好きなのです!」
 カタカタプルプル、わざと音をたてるように震える少女は片目を閉じた。
 タマコもまた片目を細めてから音も無く立ち、いつでも出て行けるよう後ろ手にドアに掌をあてる。
 娘をつけるか? 否、それは恐らく屋根の上の仲間が担ってくれる。であれば自分は――。
(「全てを引き出し、同じ匂いのする彼の元へ向かうこと」)
 ぱしり。
 肌が弾かれる渇いた響きは、ミゼがセツの手を離した音だ。
「でも、アンタみたいな目をしてた奴は知ってるよ。ラムと一緒だ、さぞや領主様のお気に召すだろうねぇ!」
「ほう、その人のことをお聞きしたい。伝説の革を扱ったのだろう?」
 離れた指に膨らんだ革袋を握らせれば、ミゼの目尻が欲深さ露わに下がった。
「あっはっは、あの子は家具だよ。腕は正直三流、でも花嫁修業におさまる子じゃあなかったさぁ! そして今はご依頼主様だよ? 失礼しないようにねぇ?」
 建前だけ恐れて見せて、ミゼは狂気に近しい幼友達の事を語り出す。この女もまた、同類の狂いを孕む女だ。
 曰く。
 武器が仕込まれた家具なんてものをこさえたのは少女時代のラムだ。それとて父の作った箪笥をあければクロスボウの矢が飛び出す仕掛けのみで、当時は物騒な悪戯だと済まされた。
 だが彼女の父、先代の家具職人はラムの修行を禁じ装飾を彫り込むことだけを赦した。
「なんで鈴蘭なの? って聞いたら毒花だからだってさ」
 ゲラゲラと笑うミゼの前で「さかばでみたのです」とこっそり囁くメーアルーナ。
「その家具とやらは街でも使われてるのかい?」
「バカをお言いよ! お高くって手がでやしないよ! 領主様やそのお知り合いの別の領の主様の元へ行くのさ」
 ミゼはだらしなく椅子にもたれ掛ると横柄な態度で続ける。
「まぁそれでさぁ……昔、あの子が作った『人殺し』家具をお聞きになった領主様からお呼びが掛かってねぇ。ラムは乳飲み子抱えて身動きできない、どうにかこうにかと拝み倒して父親が代わりに行ったのさ」
 ――でも、あのラムが子供ができたぐらいで落ち着くわきゃあない。
 秘密裏に領主と通じ、武器の仕込みを完成させろと命じられた。
 女は父の様子を見に行くと夫に断わっては足繁く通い、その仕掛けを仕上げた。
「ラムの親父は殺された。仕上げたばかりの家具に仕掛けられた“それ”でねぇ。ご丁寧に一旦帰されたラムは、後日“召し上げられた”ってわけ」
 ラムという女について、そこまで聞き出せた所で気配を殺したタマコは仕立屋を出た。一方のメーアルーナは既に取り返しのつかぬ母よりは娘の方が心配だった。
(「あのおねーさんは、まだ戻れるのではないでしょうか」)
 母親と違い、殺された人の怨念が籠る革ではなくて、哀しみの聞こえない布地で身につければ心が楽しく幸せになるお洋服を作れるはずだ。
「メアはおとどけものをおもいだしたのです」
 からりんと響くドアベルに気を惹かれぬよう、セツはミゼの視界を自分で埋め尽くす。
「ようやく見つけた。俺を満たしてくれるのだろう?」
 革。
「ああ勿論さ」
 革。
 短く二文字囁き合って含み笑い。

●領主様のお館への納品ルート
 仕立屋娘のモーアは一抱えある巨大な包みを抱え、裏口からレガルタの視界に現れた。
 翼を広げた鴉は大人よりは小柄だ。常に夜の風を丸く受け止めたマント靡かせ屋根の上を滑り歩く姿は闇に融ける鴉と言っても相違ない。
 モーアの歩みは広い通りへ向いている。大荷物を載せる馬車と落ち合うと当たりをつけて、子供は危なげなく次に乗り移る屋根へ向け、飛翔。
 その間も“彼”を通じて仕立屋マダムと夫と子を捨て領主の元に走ったラムの話が入ってくる。
 ――ずっと心の底に沈めざるを得なかった“秘密”を、幼なじみと同じ狂気を帯びた仲間を見つけたのだ、そりゃあ話は尽きぬだろう。
 全てはセツに踊らされているとは気づかずにミゼは警戒心など皆無で様々な話を暴露する。
「ラムの使いが寄越す“革”は、そりゃあ艶やかでしなやかで縫い甲斐あるものさぁ。ここ最近は革の質もあがって万々歳」
 だがこの関係がはじまったのは実はまだ数年。仕立屋の夫が生きていた頃は、昔なじみでまっとうなドレスを請け負っていた程度だったという。
 レガルタは話を吟味する。
(「ここ最近の時期は、メアリーがアドニスをつけ回しはじめた時期に一致するな」)
 日記の内容と相違ない点は、ラムとアドニスが繋がっていた裏付けとなる。
 さて、狂った女は、ヴァンパイアが倒れたならば職もはけ口も喪うのだろう。
(「では、未来ある若い娘は?」)
 モーアの息子と言っても通じそうな幼いレガルタの思考は、渇いた人生に投げ込まれ歩いてきたが故にやけに老成している。
 だからモーアの行き先を淡々と憂いた。それはメーアルーナと同じ優しさだが、湧き出る源はこんなにも違う。
 そのモーアだが、大通りの曲がり角に止る一頭立ての馬車を見出すと足を速めた。レガルタは彼女の意識が御者の若者へ向いたのを確認し、屋根を踏みきった。
「……モーア、何故きみが?! 女将さんは?」
「ママはお客様がいらっしゃって……それに知ってるでしょう? 私だって縫ってるわ」
 瞠目する若者へモーアは唇を噛みしめた。俯いて顔を見合わせようともしないが、抱きしめ合う程に近い距離で寄り添っている。
「……」
 苦悩を前に言葉を探すレガルタの上を越えて、
「愛する人へ顔をあげられないのなら、もう止めませんか?」
 ステラが張りのある声を響かせた。先程老人が“落していった”紙切れを大切そうに裏返し文面を見せ続ける。
「おじい様もとてもとてもご心配されています。あなたが領主の元に出入りしているのを。ご両親のように殺されるかもしれないと」
「ッ! はは」
 御者はステラへ悪辣な表情で切り返した。
「依頼を断わりゃ殺されるに決まってるだろ?! この街で領主様に直接お目通りしてしまったら、金はたらふく貰えるが逆らえなくもなるんだよ!」
 ……その表情は、わざとらしく作ったモノにしか見えない。
「逆らいたいのですね」
「……う」
「あの、彼にはうちの店から届け物をお願いしているだけです」
 彼を庇うようにモーアは硬い表情で進み出る。
「うちの店が契約しているだけ。彼は悪くないわ。こ、こんなのなら、もうあなたにお仕事頼めないし馬車を変えるよう母さんに言うわ。これっきりよ」

「でもモーアおねーさんだって、ほんとうはこわい材料をぬいたくないはずなのです!」

 小さな歩幅で必死に駆けてきたメーアルーナはそこまで言い切った所でけほけほ咳き込んだ。レガルタが僅かに浮かべた心配を感じとって「だいじょうぶなのです」とにっこり。そんなやりとりに暖まった胸においた手をステラはモーアへ差し伸べる。
「確かに領主の圧政が払われなければ絵に描いた餅でしょう。その絵を現実にするため、私達は来ました」
「それは為される。領主は倒れる。その後の人生を考えた方がいい」
 清幽さすら感じさせる淡々としたレガルタの口調の語りをステラが引き取った。
「……おふたりを危険には晒さないと約束します。だから領主の元へ連れていってください。無理ならば住まいを教えていただけるだけでも構わない」
 搾取される側は、口々に領主の強大さを語った。しかし猟兵がそのようなことで怯む訳がない。幾ばくかのやりとりの後、先に折れたのは御者の方であった。
「案内はできる。だが領主様は、最近住処を留守にされているようだ」
 3人は視線を交わし頷いた。
 予知がこの街を指したのだ、辿れる糸は存在している筈である――むしろ、ヴァンパイアは街に潜んでいる、かもしれない。
「わかった。ならば、怪しまれぬよう商品は運ぶ方がいいな」
 あらかた話の終わった仕立屋から“共犯者”を呼び戻しつけたのはレガルタ。
 御者は覚悟を定めたようだ。だがモーラは未だ迷いと罪悪の中にいる。
「この子達の言う通りです、親が狂っているからと言って、モーラまで従う必要はないと思います」
 馬車に“商品”を乗せた娘は嗚咽を漏らした、荷台から崩れそうになるのをステラは抱きかかえ支える。
「お店には、こわくないかわいいアクセサリーだってありました。あれはモーアおねーさんが作ったのですよね? メアはしってます、ぬいめがすこしおおきかったのです」
 そこまで言って失言だったかと、あっと掌をあてがうメーアルーナへモーアはくすりとようやく微笑んだ。モーアの顔色が色付いたのに、御者はようやく胸を撫で下ろす。
「僕は行きます。モーラが家に帰れるまでお願いします」
「はい、メアにおまかせなのです」
「道中お気をつけて」
「少しでもいつもと様子が違ったら逃げるんだ」
 3人はそれぞれの言葉で請け負うと、モーラを支え馬車を見送るのであった。

●アドニスの心
 ――時間はアドニスが酒場を出てすぐである。
「アドニス」
 アンリ・オヴォラ(クレイジーサイコカマー・f08026)は仕草はしゃなり、しかし1歩1歩は素早く大股という相反する歩調を難なくこなし追いつくと、躊躇いなく男の腕を取った。
「アドニス、アンタ悪い男ね~。ま、男はそれくらいが丁度いいのよ❤」
「……」
「この村の事なんて知ったこっちゃないし、一生アタシの手元に置くのもいいわね」
 先程の酒場でのふてぶてしさは鳴りを潜め、アンリの露悪さ滲む笑みを流し見てから周囲を落ち着きなく見回すのみ。
 以後、アンリが「家具を見たい」と猫撫で声を出しても反応は鈍い。鬱陶しがられるならばわかるが、心ここにあらずと言ったところだ。
(「なにかしらね。今のこの男からは職人の気概が伝わってこないわ」)
 人間の皮を剥がせて捧げていたろうにその狂気もなく、然りとて家具職人として認められたいという欲望もない。ルシアンの方が家具作りに対しての情熱は根深くも強い。数々の犯罪も彼女が犯したという方が納得がいくぐらいだ。
「ふうん……」
 つまらなさあからさま。
 家具工房で男の仕事ぶりから洗い出すつもりだったが徒労に終わりそうだ。
「……アンタ、この世界で生きていく為に手を汚したんでしょ?」
 道を阻み立ちふさがる大柄な体躯に、アドニスは投げ捨てるように口元だけで笑った。滲むのは自分に向く嘲り、それでいて怯えたように周囲を見回している。
 もはや呆れを隠さずに、掴んだ肩を惹き寄せる。唇が当たりそう? だがアンリには甘さもなにもない。
「メアリーを騙し、なんの罪もない女の革を剥いでまでして――アンタ、何がやりたかったのヨ?」
 この腐りきった世界で生き抜くという目的も、快楽を得るという不道徳な欲すら感じられない男を揺さぶるも、腐った魚のような瞳は時折何処かへ恐怖を映すだけだ。
「今更何に怯えてるの」
 どんなに長く沈黙されようがアンリは待つ腹づもりだ。つまり、裏を返せば絡みつく蛇の如く絶対に逃がさないということである。

 大柄な男達の邂逅は気をつけなくても目測可能だ。だから三嶋・友(孤蝶ノ騎士・f00546)は、彼らから一旦視線を外して勿体つけた仕草で半分におった紙をひらいた。紙上には、散らばる名前と一面に波及する矢印。
「……なんかものっそ人間関係濃すぎ」
 猟兵含めてね、という心の声はナイナイして、家具職人父娘からの情報を書き足した。
「それにつけてもアドニスの感情ってどこにあるんだろうね?」
「ぬるりと現れるよね」
 ふふりと口元を緩める背後の影見・輪(玻璃鏡・f13299)へも見えるように紙を翳し、友は問いかけには首傾け考えるこむ。
「…………アドニスが贔屓にされてるのって、行方不明者を箪笥に入れて捧げていたから、と思ってたんだけど。むしろ殺して革を剥いでた、と。どちらにしてもそんな犯罪を犯す軸になる感情かぁ」
「そう。功名心とは見えなかったんだよね。家具職人としての大成を望んでいるようには見えなくて」
「確かにね」
 アンリの指摘はもっともだと頷いた。
「なぁん」
 ぽてぽてぽて。
 くすんだキャラメル色のトラ猫の肉球ソフトタッチ。膝に伸び上がるファン・ティンタン(天津華・f07547)の催促に、友は地面に相関図を置きしゃがんだ。ファンも合わせてエジプト座り前脚尻尾マフラーくるん。
「あぁ、ここだけどー……」
「にゃ?」
 友は紙を隣に置いてルシアンとアドニスの間に線を書き足して『タネちがいの姉弟?』とカリカリ。
 ファンにゃんこの瞳孔パッカリ。
 ……、
 …………、
 …………………???
 つーてんつーてんつーてん。
 猫爪で、領主とルシアン母をつなぐ線の中央から点線を伸ばしアドニスへつなぐ。
「器用だね」
 友も輪も同じ意見だ。手紙の出所は領主の妻に近しい立ち位置にいる女であり、もっと言うとアドニスの母ではなかろうか?
「前時代的な推理小説めいてきたけどね」
 友が自分の紙に書き足す眼下で、豊かな尻尾が膨らみぴぴぴぴーん! と、立った!
「にゃぁん(わたしは かんぜんに りかいした !)」
 ――つまり、アドニスを拷問にかければいいんだね。
 けものの目がマジだ。
「あぁ、アドニスの所に行くの? だったら気をつけて欲しい事があるんだけど、彼が怯えてる影に……」
 むふーっと鼻息荒く漏らし、猫は弾丸のようにダッシュ。
 猫の脚は、はやい。
 耳が後方に向いてたから、きっと聞いてくれている……と、いいな、と友は内心思いつつ、またしばし相関図を眺めるのである。

●紙上の母君
 アドニスとアンリの睨み合いはそれこそ長く、時刻は仕立屋で娘が抜け出た頃と同じ刻に至っていた。
 ――にゃんこ は まずは様子見することに した!
 ぎらりん研いだ爪をぺろりと舐めて、屋根の上で背をかがめてことの成り行きを見守るつもりだ。猫だけどお預けできるぜ。
 そして、友と輪もゴミ箱から腐った果物の皮が臭ってこようが構わずに身を寄せしゃがみ、更にメモ書きに視線を向かわせる。
「ルシアンがアドニスの革を使いたいって言ってたし、これって母親の血っぽいよね」
 ロブ妻ことラムさん業が深すぎである。
「ありそうなのは、母親に認めて欲しいとかー……?」
 まだ予想の範疇でしかなくて輪はアンリに伝えてはいないが、もっふり尻尾のにゃんこが爪を持って知らせるのも遠くはないだろうとも考えている。
「匂いが薄まりました」
 そして、別の情報を得た彼女は至って静かに訪れた。
 仕立屋マダムのミザより語られたラムの人となりを携えて、タマコは輪と友の背後からアドニスへ向けてくんと鼻を鳴らし僅かに眉を下げる。
「彼からはお父様と似た臭いがしていたのですが……」
 違った?
 ラムという女のパーソナリティと煮え切らず不安げなアドニスを見比べて、友は切りそろえた黒髪をしゃらり鳴らし振り返る。
「自分の匂いってわからないものよね」
「? ……臭いますか?」
 友の台詞にくんくんと袖口を嗅ぐタマコを前に、輪もアーモンド型の紅を瞬かせ成程と頷いた。
「彼の場合は“お母様”だね」
 そんな3人の娘さんたち(実はひとりは違うが置いといて)の視界を斜めに切り裂いて、ミルクティ色のもふもふがアドニスへと飛びかかる。
 バリィ! もふっ★
 外を歩く猫の鋭い爪には雑菌という毒がみっちり、対象にBS破傷風も容易いのだ!
(「ただ死なれても困るから今回は致死毒使わないけどね。代わりに、強力な自白剤をくらえ!」)
 お腹に染みこませたお薬を嗅がせる、傍目にはもっふもふの長毛猫が顔面アタックとか、一部の人にはなんという幸せ拷問。
「にゃ、にゃにゃにゃあにゃあああにゃぁにゃ!」
 ――しかし猫語である(かわいい&通じない)
 ふかふかの下でポカーンと口をあけるアドニスは何を吐けばいいのやらとやや恍惚。ファンを抱え剥がしたら出てきた顔にアンリは鼻を鳴らした。
「あら、お薬食らった方が感情豊かじゃないの、アドニスったら」
「お口が軽くなったようだし、色々聞き出そうか」
 立ち上がり裾についた土埃を優雅に払い輪は進み出る。
「仕立屋のお嬢さんと実は恋仲で、守る為に革狩りの旅に出てた……『はい』か『いいえ』か」
「いいえ、だな。仕立屋の娘は馬車屋のクローリーを釣り上げてくれたな」
 この場の皆が知ろう良しもないが、丁度仕立屋娘のモーラとクローリーが仲間達との説得を受け入れている頃だ。
「やはり外れか」
 輪は袖に手を入れしたり顔。
「…………」
 やりとりの間、友はアドニスが落ち着きなくソワソワしていた理由を探し視線を巡らせる。
(「アドニスの今の怯えと酒場で『手出しができない』って自身は、領主に繋がる協力者に見張られてるってことじゃないかな」)
 悪霊の噂はまんざら嘘でもないとしたら? 領主なら、一部の猟兵達が使いこなすような“影”をつけるなんて芸当もできるやもしれぬ。この街で一挙手一投足をタイムラグなく把握されるとしたら内心穏やかではない。その“影”はアドニスからは知覚できぬだろう、が、猟兵の友からならば見破れる可能性は高い。
 友の様子に意図を悟ったアンリは毒を食らわば皿までと口角を猛々しく持ち上げる。
「アドニス、これからの態度が可愛げあるなら、アンタのことはアタシが守ってあげるワ❤ ……怖いんでしょ」
「お母様が。それともお父様がいつでも見てらっしゃるとでもお母様に言われてる?」
 反対側から続きを引き取る輪の台詞に、タマコはぱちりと瞳を瞬いた。
「そうですか、あなたを食べると叱られそうですね」
 アドニスはオブリビオンでは、ない。
 彼の母であるラムも恐らくは、違う。
 ……けれども、ラムはタマコが定義する人間より栄養(愛)に満ちてはいそうだ。
 そして、タマコの言外の意図を悟ったアドニスは、投げやりな薄ら笑いを浮かべる。
「あんたら多勢に無勢とでも思ってるか? まぁ俺がどうこうできる人数じゃあないのは確かだ。だが父様の前じゃあ人間の数なんて“無”だ」
 語尾が震えていることにアンリはますます笑みを深め、おろした左指に漆黒に刃をするりと滑り生やした。
「安心して、守るって言ったでしょ」
 ごくりと鳴る男の喉に向けてのアンリのウインクは凄絶という表現が一等相応しい。
「お父さんが怖いんだね」
 死角を極力潰すように立ち位置をずらす輪の背後で、幻想の光輪纏う蝶々が羽ばたく。だが蝶は即座に猫にハンティング……された?
「フーッ!」
 実際は、蝶がまとわりつく“影”へと前脚一薙ぎ、友が見出し蝶で印をつけた黒幕のお使いをファンがこの場から始末したのだ。
 朝が来ない街、然れど、この件の夜は明ける――照らしてみせるという宣戦布告である。
「アラ、猫ちゃんにいいところもってかれちゃったわね」
 大仰に肩を竦めるアンリの脇から小柄な友がひょっこりと顔を覗かせる。
「ほっとした顔……じゃないか。なんだか全てなくなっちゃった感じかな」
「こっちの排除を頼める“お父様”でもないんだね」
 空を向いた男の顎が冬色の吐息を零すが如く揺れた、それは嗚咽にも似た震えだ。
「にゃ」
 友に抱き上げられたファンは、とすっと前脚をアドニスの肩に置き短く鳴いた。獣の細い瞳孔は「楽になってしまえ」とでも言いたげだ。
 雑に投げ出されたようなアドニスに、タマコは“自分の匂いと同じ”との意図をひっそりと理解する。
 愛が、足りない。彼も自分もお腹が空いてからっぽだ。
「……なんで俺は怖いんだろうなぁ」
 あれだけ女を騙して手をかけて、その時には一切心がゆらがなかったというのに。
 怖いのは、死?
 ……死、だろうか。
 …………そもそも、自分は生きているのか?
「この街に来てから、お母様には会えたのかい?」
 輪の問いかけにアドニスは道ばたにしゃがみ込むと力なく首を横に振った。
 以後、糸が切れた凧のようにフラフラフワフワとした口ぶりでアドニスは質問に答えた。もはや嘘を混ぜ込む理由もずるがしこさも、ない。

 両親の顔は覚えておらず、物心ついた頃には育て親の職人の元にいた。
 定期的に母から届けられる手紙だけが繋がりであり、その手紙の言うことならばなんでも従ってここまで生きてきた。
 ……アドニスは“母”以外に価値を見いだせなかった、そのように手紙や育て親に誘導されていたのだろうと話からは窺えた。育て親もヴァンパイアの息が掛かっており、逆らえるわけがなかったのだろう。
 アドニスは、手紙の“母”が様々な外道な行いを命じてくるのも躊躇わずに従った。
 母の手紙はまるでアドニスの日常を見ているかの如く労い褒めてくれたから、ますます彼は手紙に従った。
 比べる親など知らなかったから、そうやって愛情を受け取った。
 指示はこの街に来てからも変わらずの手紙ごし。仕立屋マダムのミゼからの接触があり、納品された革を縫い長く母の手で仕事を得ていたと聞いた。
「ロブが俺に色目をつかった時は嬉しかったなぁ。“ああ、俺は母さんに似てるんだ”って」
 壊れて音が割れたような高笑いには喜色はない。ただただ、無。
「……でも、何かがおかしいんだ。母さんはこの街にいるはずなのに、近づけているはずなのに……! どうして、母さんは会ってくれないんだろう」
 シャツの胸元を握りしめ絞り出された声は迷子のように不安に充ち満ちている。
「ぼくはがんばったのに……すごくがんばったのに………………ぼくは、まだ言うことがちゃんと聞けてないのかなぁ……」
 こつり、と。
 頭を覆い項垂れるアドニスから見て酒場側の方角の石畳を、何者かの踵が叩く。
「……」
 踵の持ち主の姿に、猟兵達は過剰な警戒はしまい事の成り行きを見守る――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

南雲・海莉
人外を盾に、非道を開き直るんじゃないわよ
後腐れ無く街の人に突き出せるようにしてあげる

けど『人を家具に仕立てる』とか『殺人兵器』とか
『人の皮を剥ぐ』とか言うトンだ発想が
普通に生きてる人間にできる訳無いのよね
着想元を遡るとしたら――『女性を家具に詰めた』領主様、かしら

工房に行く人にその可能性は伝えつつ
私は領主様について
酒場でもう少し聞き込みするわ
これまでにここで集めた情報をもう少し踏み込んでね

少し、歌い疲れたかしら
オーロラさん、お水少し分けてもらえませんか?
……相手が領主につながってる可能性も考慮しつつ探るわ

「希望も絶望も歌に紡げる
できるなら希望をこの街中に響かせたい」
これ以上の犠牲は防いでみせる


マリス・ステラ
【WIZ】酒場でお酒を飲みます

「主よ、憐れみたまえ」

『祈り』を捧げたのはつい昨日の筈なのに、なんだか一ヶ月は経っている気持ちです
そんな錯覚は前に並ぶカクテルグラスの山のせいではありません

「自分だけは大丈夫、そんな人たちから犠牲なってきた筈なのに」

熱い吐息を漏らしてグラスを前に、オーロラに次を求める
一緒のメアリーは既に潰れています

「どなたかご一緒に飲みませんか?」

しゃなりとした『存在感』で"敵"を『おびき寄せ』る

「酒に真理ありと言います」

酒に酔えば、誰もが 隠した秘密や欲望を曝け出す

【親愛なる世界へ】を使用
あとは『祈り』ましょう
神は言いました、奇跡は起きると
神の恩寵で『祈り』のレベルは440です


涼風・穹
……もう何がなんだか…
取り合えずあんなのがお気に入りだというヴァンパイア領主が悪趣味なのは分かった

酒場のママさんにでも話を聞いてみようかね
領主の協力者なら金はあるだろうし、この世界での娯楽といえば酒だろう
仕事内容と比べて羽振りが良いとか、最近急に金回りが良くなった方とかいれば紹介して欲しいんだけど…

口実は武器商人として見栄えのする類の高い武器を買ってくれそうな方を探しているとしておくさ
紹介料代わりに《贋作者》で模造したどこぞの(以前戦った)ヴァンパイアが使っていた成金趣味な武器でも渡してみるか

後は酒場の客全員に酒を奢るお大尽の真似事でもして、酒で舌の滑りが良くなった方々からも話を聞いてみるか…



●まだ素顔を見せぬ酒場にて
「人外を盾に、非道を開き直るんじゃないわよ」
 アドニスが出て行った直後、酒場でメロディのせせらぎを止めた南雲・海莉(コーリングユウ・f00345)が思わず零した悪態。それは最もだと涼風・穹(人間の探索者・f02404)は感ずるものの、水を所望することで鎮めた。
 調査で仲間達は次々酒場を後にしており、残った少数の者の挙動は目を惹く。
 そもそも『凶器が飛び出す家具』の話は穹が探り出した。さぁ誰が作り上げたのやらと考えを巡らせる。
 あとは『家具に入れられ領主に嫁入り』という物騒な話が、ざっと20年ほど前に囁かれていたと、老年前の革職人が言ってもいた。
 それらへの嫌悪は海莉の胸をムカつかせる。未成年の彼女は知ることはできぬが、まるで安酒を無理矢理飲んで起した悪酔いのようなもんだ。
 一方、いちごが伝達役として外に出たのと入れ替わり、メアリーの前に腰掛けたのは“聖なるひと”マリス・ステラ(星を宿す者・f03202)である。
「ああ、私はどうすれば良いのでしょう」
 答える代わりに聖人はカクテルグラスを目の前に置き勧める。
 もう彼女から搾り取れる情報はなさそうだ。であれば酒で潰してしまった方が安全と読んだのだ。
 酒場に残った彼らは噂話に興じつつ、雑多な面々の相手をする酒場主人オーロラの身があくのを待つ。
(「ふむ……ミコの言う通り、中々にオーロラは食わせものかもしれないな」)
 もし彼女が敵側の関係者だとしたら、こちらが情報収集に動いているのを早々に悟られるのは悪手だ。酒場の客が人質に取られると厄介なことこの上ない。
 何しろ、人の革剥いで――なんて悪趣味な代物がお気に入りのヴァンパイアやその関係者である。なにをされるかわかったものではない。
 そして客からすれば、初めて逢った猟兵達よりはオーロラの言うことを信じるに決まっている。
 ならば、
「なぁ、この街は随分と羽振りが良さそうだ。これを買い取っちゃあくれないかい?」
 穹は袋から、七色に輝く飛びきり目を惹きヴァンパイアの自慢のタネになりそうな大ぶりの刀剣を取りだしカウンターへとのせた。
「アンタ何言ってんのよぉ。ここは酒しかでないわよ」
「それでいいんだよ。今夜はここに来る奴にタダ酒を飲ませてやってくれ」
 眉をひそめるオーロラへ穹はぐいと身を乗り出しわざとらしく声を潜める。
「……領主様に献上したなら、この店の憶えもよくなるぜ。たまにゃあ女以外の武器だってお望みだろう」
 今度は嫌悪を抑えこみ、海莉はカウンター内に入り込むと安価で栓の開いている瓶をかき集める。胡乱げなオーロラの視線に一瞬むぅと頬を膨らませるも、ちらりと刀剣に視線をくれて、
「……歓楽街を流れて相応に見聞きしてるわ。あれは“これぐらい”でもらえるなら本当に安い代物よ」
 確かにアルコールだから傷みはしないが味も落ちた代物たちとの交換ならば騙されても笑い話で済むと、オーロラは肩を竦めた。
「こちらはいただいてもよろしいでしょうか?」
 金色の輝きの聖なる人は、答えを聞く前からグラスの中に色よい余り酒を入れて慣れた手つきでマドラーをまわす。
「ああ、俺の奢りだ」
 オーロラより先に穹が答える、つまり、なし崩し宴会の開始である。

●待てば海路の日和あり
 話しかけてもオーロラはさわり話そこそこに席を立つ。街の数少ない娯楽の店主だ、多忙さは確かに自然である。しかし隙を見せない疑わしさともとれる。
 一方、降って湧いた奢り酒に常連客はすっかり気を許した。

『ロブの妻でルシアンの母は領主の愛人……いや、妻だ』
『領主の催す舞踏会に大切な“商品”を納品する仕立屋に逆らっちゃあこの街では生きていけない』
『舞踏会は近隣領主が招待される。たまに美しい街娘や人妻が取り立てられるが、彼女たちは帰ってこない』

 すっかりお口の緩んだ彼らの噂話は、朔やいちご、ミコがそれぞれのチームから聞き出した情報でもってより確実に裏付けを得ていく。
 人革ドレス――海莉のむかつきはいよいよ頂点に達し、それは酔っ払いへ渡す水を置く音が派手に跳ねたのにも現れている。
「ぞっとしないわね。街から領主の好きに取り立てられた人達が着せられるなんて」
「…………いんや。着るのはラム様さ」
 あの娘は狂っていたと水を飲まずとも冷めた酔いで囁く客。海莉は椅子を引くとオーロラから客が死角になるように座った。
 何故だろう、オーロラについて問うても皆は通り一遍“酒場のママ”としか答えないのだ。
 そして、若い客は変わらぬが、中年以上の客は寄り酒を煽って話をはぐらかす。
 三者三様、猟兵達はオーロラへの警戒心を強める。
 最初に動いたのは穹だ。奢り主という立場を活かし中年男の肩を派手に叩きタダ酒に預かる面々へも笑いかける。
「俺は宿がなくてね。なぁあんた、泊めてくれないかい? ここは新品の酒を出さねぇから家で飲み直そうぜ」
 金のつまった革袋を海莉に投げて穹は男達を店の外へ押し出して行く。
「――……自分だけは大丈夫、そんな人たちから犠牲なってきた筈なのに」
 桜色に頬を染めるステラにて潰したメアリーの前から離れ、海莉が持ち出してきた酒瓶を千鳥足の男へ受け渡し、更なる客の退出を促した。
「ご一緒に飲みませんか?」
 憐れな羊たちがジンギスカンとならぬようオーロラの真ん前に陣取って。
 一方の穹は店の外で景気の良いことを2、3嘯いて、店内の男達をまとめつれ去って行った。
 店に残るのは酔いつぶれたメアリーだけだ。介抱の素振りでガードにつく海莉の真横、
 がばりっ!
 ゾンビのようにノータイムで上体を起したメアリーは彷徨う視線でステラを探す。
「あ、あにょぉ~」
 祈りの力が4倍以上に増した……あーむしろそれは過小に聞こえるか、440という叶えない側がむしろ「奇跡力ないんじゃないの」って後ろ指をさされちゃうような……とはいえ、粛然とそこにあり決して神を語らぬ巫女のステラは、幸せを祈ったメアリーの元へ再び歩みよった。
「あらしはぁ、あどにしゅ幸せがいいのれすよ~」
 てにおはが抜けている。でも彼女の場合はそれでも意味が充分通る。
「ええ、確かに昼間にはそう願いましたね」
 確か91で祈り、願いは一部叶いました。
 グラスの水を喉に通し酔いを遠ざけるメアリーの目つきだが、今までの中で一番落ち着いているように見受けられる。故に、改めてステラは真正面に腰掛けた。
「アドニスのお母様……手紙はお母様だったのね」
 酔いつぶれながらもアドニス関連はしっかりと聞いていたメアリーは、彼が母に冷遇されるであろうことまでも嗅ぎ取っている。
「あなたの幸せはアドニスの幸せなのですね……メアリー、あなたが幸せを求めることは間違いではありません」
 主よ憐れみたまえ。
「あ、たしは……アドニス」
 愛し人の名を呼べば、もう私は幸せなのだ。私の幸せはあなたに『依』って『存』在する。
 酔いなど忘れたように駆けだしていくメアリーを見送ったステラと、もう一般人を入れぬとドアを閉め切った海莉はオーロラを見据える。
「酒に真理ありと言います。しかしあなたは、酒の使徒とありながら一滴もそれを口になさらなかった」
 材料は揃った。
 海莉は心でページをめくるように情報を精査した後、声をあげた。
「あの鈴蘭は、あなたが彫ったのね。オーロラさん、いいえ……ラムさん。ねぇ、ヴァンパイアのそばは楽しかった?」
「あなたが隠されてきた欲望は、既に白日の下に晒されています」
 ラムは自ら命を絶つような繊細なメンタリティではなかろう。今の課題は如何にこの女を陥落し無力化するかである。
 領主への道筋は領主様宅へ“ドレス”を納品する馬車から辿れる。しかし長年領主の連れ合いとしてヴァンパイアに等しい残酷さを身につけた……否、生まれながらにして壊れた倫理観のこの女をどう扱うか。
 そんな内心を知ってか知らずか、髪をかきあげて柘榴めいた瞳でオーロラは2人を見据えた。
 そうして漏れたのは嘆息塗れの笑いだ――嗚呼それは、今、路傍で母の愛を向けられないのだと絶望しているアドニスに何処までも何処までもよく似ている。
 紛れもない、ふたりは親子である。
「そうね、ここにいれば知れると思ったわ」
 オーロラは髪の束を握りしめて、この街の裏側を暴き出した者達へ、まるで願うように続けた。
「お酒が好きなのかしら? それとも人が生み出すざわめき? 豪奢で望みの侭に誂えたドレスを着て踊るのが何よりの楽しみだった癖に、ここにいるのも止めなかった、彼女は」

 ラムという女の秘密も解き明かしてくれよ、そう願うように――。

 握られた髪束は肌を引き攣らせる。くりぬかれたように瞳や唇の部分がたわんだところで彼は手を離し、そおっと宝物を扱うように寵愛注いだ女の“デスマスク”を剥がした。
「なぁ、教えてはくれないか。どうして人は死んでしまうのだい? 全てを曝け出し華咲いたラムの願いをなんだって叶えるのが生き甲斐だった。なのに……」
 白い肌の男は繰り返す、どうして、どうして、と。
 そう囁く度に、彼の周囲の物品がはじけ飛び塵芥となりて散っていく。

「ラムがいない街は存在してはならないのだ。かつてのパーティも日々のささやかな潤いも、なにもかもなにもかも、私からは永久に去ってしまったのだから!!」

●終劇直前の幕間
 蹲るアドニスの傍に立ったのは、酒場から全力で走り酔いもさめきったメアリーであった。
「アドニス」
 疲れを仕舞い込むと芝居がかった所作で両腕を広げ恍惚と共に口元に弧を描く。
「今まで黙っていてごめんなさい。私がママよ」
 真実ではないと、この場にいる誰もが気づいている。
「ふふふ、すっごく年が離れてるのに恋だなんておかしいでしょ? それはね、私があなたのママだから、だからずっと見てたの!」
 そして騙せていないと知りてなお、メアリーは絵空事を続けるのである。
 愛する人が叶わぬ思慕に狂い壊れそうであり、深い病みを伴う恋慕をずっとずっと抱いてきたメアリーは自己の損壊を身に染みて知っている。
 ――だから、愛しい彼が壊れないように、その為ならばなんだって、する。
「あなたをお腹を痛めて産んだ夜を忘れないわ。手紙だって、私が書いて忍ばせていたのよ。私はいつだってあなたの後ろにいたの。一緒よ、だからアドニスは幸せなのよ。そんな顔しないで」
 危うく口走りかけた――“そんなお母さんは殺してあげるわ”と。だから慌てて「私がママよ」という台詞で塗りつぶす。
 そんなメアリーを見透かしてアドニスは短く上体を揺すって嗤った。
「俺の母さんはもっと美人だよ」
 ……そのまま、メアリーに縋り付くように頭を埋めながら。
 決して望んだ者ではなかったけれども、顧みるという表現からは大幅に逸脱した愛を注いでくれる女は、確かにずっといてくれた。
 穴埋めだ、間に合わせだ。
 それでもぽかりとあいてしまっている空洞を今はただただ満たしたい。

 ――。
 さぁて、この男は全てが終わったら裁かれ未来なんてなさそうである。
 ヴァンパイアが法のこの世で、彼はとても忠実な下僕。
 だが、彼の主人はあとしばらく後にこの世界から消え去ってしまう。何しろ猟兵達がここにいるわけだから。
 ――。

 間奏曲が流れる粗末な芝居は、唐突にスポットライトを奪われた。
 奪ったのは、酒場という“愛しい彼女”の根城を壊し、更には“人間だった頃の彼女”を育んだ街を無に帰さんとすアドニスの主人であり父親だ。
 そして、此度の討伐対象でも、ある。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『ミスト・ヴァーミリオン』

POW   :     ヴァーミリオンミスト
対象の攻撃を軽減する【朱き霧】に変身しつつ、【万物を犯す強酸の霧】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
SPD   :    ディアボリックウェイブ
【霧化した体より放つ瘴気の波濤】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を穢し尽くして】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
WIZ   :    トキシックミスト
見えない【猛毒の霧となった体】を放ち、遠距離の対象を攻撃する。遠隔地の物を掴んで動かしたり、精密に操作する事も可能。

イラスト:緑葉カヨ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠天御鏡・百々です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 
(3章目の受付は【7月18日以降】を予定しております。
 受付開始の際には追加の章を投稿後、改めて広報いたします。
 今しばらくお待ちください)
●綴じていれば、唯幸いであった
 そう宣ったヴァンパイアは、眼下の街にいるラムの息子へ特別な感慨なぞないと言いたげに、紅の雨を降らせた。
 じゅうと、焼けたパンプティングが甘く蕩けるように液状化する石畳を前に、饒舌なるメアリーが固まる様はさながら失敗作のアイスキャンディ。
 傍らのアドニスは、投げやりな感情と共に知る。はじめから母や父かどうかすらわからぬヴァンパイアの男から、自分は人として数えられていなかったのだ、と。
「「報われない」」
 ラムを亡くした支配者と、顔を覆う哀れな職人――その声は、ひどくひどく酷似している。

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●マスターより補足
ミストは元酒場の上空に浮遊し街を無秩序に破壊しようとしていますが、猟兵が攻撃を仕掛ければ排除すべく戦闘に入ります。
猟兵の皆さんは、2章で街のどこにいても(また参加されていなくても)即座に戦闘を仕掛けられます。
屋根の上を足場に戦うことになりますが、やってみたいアクションや演出などあればご自由にどうぞ!

戦闘後、住民に言葉をかけられる旨をプレイングに記載された場合は、〆の章にての描写となります。
また、戦闘のみの方よりも戦闘シーンの描写は控えめとなりますこと、ご了承ください。
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南雲・海莉
……私とは相性が悪すぎる
でも気を惹くぐらいなら
(懐から種を取り出す)

「世界に仇為すなら
不条理だと叫びたいなら
私達を見なさい
私達は猟兵
あんたの想い人を寿命で連れ去った、そんな世界から選ばれ、代わりに歪みを正す者
つまり『正しく』あんたの敵」

演技と歌唱で培った声量で声掛けつつ
UCで火と風、ヤドリギの属性の魔力を宿した種を飛ばし、爆発させる
斬撃には強くても熱と爆風は殺しきれないはず
そして街からこちらへと意識を向けさせられたら幸いよ

誰かを愛するって事は、何も譲れないって事ね
私もこの戦いを譲れない
人としてすら死ねない犠牲者を、これ以上増やさせない
私はひとを守る
その先の来世でしか会えない大切な人達の為に!


三嶋・友
質の悪い悲劇か悪趣味な喜劇か
親の狂気に翻弄されたアドニスもある意味被害者なのかな
してきた事はとてもじゃないけど許せないし、擁護もしない
裁くのだって私じゃない、けど
この場だけはアドニスもメアリーも守っておく

さぁてそこでお嘆きの領主サマ
報われたいと仰るならお望みのままに
貴方にふさわしいのはコレだよ!(二刀を構え)
多くの人を苦しめた『報い』はしっかり受けて貰う!
一番報われないのは犠牲になってきた人達なんだから…!

風の魔法を駆使して屋根を駆けつつ怯まず斬りつけていく

霧?凍ってしまえば同じでしょ
(氷の魔力を込めた宝石を展開、晶花に氷の魔力をこめる)
凍れ凍れ全てよ凍れッ!
ヴィート・イース・ストルム!!


涼風・穹
上空にいるヴァンパイアと地上にいる人間というのは、お互いの立ち位置というか目線を暗示しているみたいだな…
……さて、相手の能力は俺とは相性が悪そうだけどやるしかない、か…

酒盛りをしていた家から封を開けていない酒瓶片手に飛び出すとそのまま《天駆》で空中を駈けてヴァンパイアへと向かっていきながら酒瓶を投げつけます
そこのつまらなそうにしているあんた、一本奢るぜ

まあ酒瓶ごとき目眩ましにもならないとは思いますがそのままヴァンパイアよりも高くまで飛んで上から『風牙』で斬りつけます
調子に乗って上から人様を見下しているような相手は物理的に地面に叩き落とすまでだ
ついでに地獄まで落ちる羽目になるかもしれないけどな?




 立ちこめる霧は目隠しし一寸の先を考える判断能力を奪う。そうして人は不安から錯迷に陥る。
 では、その霧が毒々しく生臭い血の色をしていればどうだろうか? 更には霧が浸潤した部分は、生物無生物関係なく形を潰し溶かしてしまう。
 迷いの先、見えるものが死への恐怖――抗えぬ人々に認知させてはならぬ、そう判断した瞬間に、南雲・海莉(コーリングユウ・f00345)の喉を伝って溢れるモノ、あり。
「世界に仇為すなら、不条理だと叫びたいなら、私達を見なさい」
 嘔だ。
 酒場での嘔声はざわめきに馴染み愉楽を喚起するものであった、が、同じ声が紡明らかなる主張を伴った旋律に、ミストは一瞬オーロラのように気怠く気さくな女の貌で笑って見せた。
 だが終息の気配一切なき霧、海莉はそんなことはわかっていたと握りしめた拳を振りかぶる。
「私達は猟兵」
 指先をなぞり離れ往く塊は霧が一番濃くなる場所へくるりくるりと巡り飛んでいく。一方で海莉の瞳は折れぬ鋼鉄めいた堅さと真っ直ぐさでミストを見つめ続けている。
 さぁ、聞くがいい。この嘔は、あんたの為だけに謳われる。
「あんたの想い人を寿命で連れ去った、そんな世界から選ばれ、代わりに歪みを正す者」
 握った分だけ籠められた焔が咲き風の翼を得て四方八方に飛び回る、明確なる力は曖昧模糊が身上の霧を吹き飛ばす。霧が消されぽかりと開いた空間の落下地点は、平穏無事な町並み。そこにつまづくように現れたのはアドニスとメアリーだ。
(「質の悪い悲劇か悪趣味な喜劇か……」)
 2人を安全地帯へ突き飛ばし庇った三嶋・友(孤蝶ノ騎士・f00546)は、瞳と口元に宿る呆れを隠しもしない。
 傍らで蹲るアドニスもある意味被害者なのかもしれない。しかし侵した罪は赦されざる類いで天秤を傾ける。ただし、天秤の持ち手は自分ではないと、友はまたそれもわかっている。だから今は、2人を護り彼を討つのみ。
「ここに霧を寄せないようにはするけど、もしもの時は……」
『ちゃんと逃げて』という台詞が飲み込まれ、
「私か、助けに来た人の指示に従って」
 自分の手が届かなくても必ず気に留める仲間がいる筈だ。
 さらなるヤドリギの種の爆散により赫の祓われた空を見上げ片手をあげれば、白銀の蝶逹が残り滓を消し尽くし環の形でさらなる安全地帯を広げて飛ぶ。
「わかったわ」
 浄化を済ませた蝶の群れを踵につれて駆け上がっていく友の背に、震えるメアリーの声が届いた。
「さてと……」
 酒場の残骸の中から無事だった酒瓶を肩に引っ掛けて現れたのは涼風・穹(人間の探索者・f02404)だ。
 改めて彼は飲み客を連れ出した後だったので人的被害のなかった安堵で頬を緩めた。飲み客らは今も奢り酒を引っ掛け宴会中、穹が抜け出ても誰も気づきやしなかった。
 それは、本当に幸いなことだ。
 幸いの侭にすませる為には、頭上で驕り高ぶり他者をひねり潰すのを屁とも思わぬ奴を排除するのが絶対条件だ。
 きゅっと靴紐を引っ張り結ぶと、穹は真向かいの壁へ蹴りかかりその勢いで体を反転、三角飛びの要領で剥き出しになった酒場の梁を更なる目的地に据えた。
 はらりはらり、
 自分の踵を浴びて、赫に蝕まれていた壁が食べ損ねたパイ菓子の如く崩れ質量失い消え去ったのを眼下に、
「……私が否定する世界に選ばれたのがお前達か」
 尊大なヴァンパイアの声が段階を経て大きくなるのを感じ、穹は足元直下に身を潜めた。屋根の上のミストを挟んだ先には、片手では蝶を収束し剣と為し反対の手は腰に宛がう友が同じく身をかがめ飛び出す機会をうかがっている。
「それはつまり『無価値』だととうことだ」
 その答えは海莉の想定の範囲内、そして彼女が目指すのは――目くらまし。
「そうよ、つまり『正しく』あんたの敵」
 ――さぁ、世界への憤懣をこちらに向けよ!
「はははは! 正しいのに敵なのか! 巫山戯た言葉遊び、さすがは歌姫だな!」
 地上へ無秩序に降っていた霧がミストの躰へと収束し眼から海莉へ射出される。それは彼女の狙い通り、種を握った拳は今は何も持たず、ただただ近い未来の衝撃と痛みを堪えるべく固く鎖すのみ。
 しかし痛みは一向に海莉を襲わず、代わりにガラスの砕ける音と酒場でかいだ濃密な安っぽいアルコールの臭いが立ちこめた。
「そこのつまらなそうにしているあんた……」
 アンダースローのフォームで唇の端を持ち上げる穹の姿は、酒浸しになったミストが知覚した瞬間、かき消えた。
「一本奢るぜ」
 静かに吠え猛る声は上昇、夜しかない空を背に穹の文字を名とす男は風となり振りかぶった刃を吸血鬼の脳天めがけて叩きおろす。
「ははっ! お喋り男め」
 騙り売った偽物ではない真実の武器を、ミストは容易げに手のひらで受け止めた。刃を吸い込み斬られた傷も霧と変わり溢れ吸血鬼の力を高めていく。
 が、穹の口元は、笑ったまんま。
 その頬を掠める蝶が、ひとり。
「さぁてお嘆きの領主サマ、報われたいと仰るならお望みのままに」
 立ち上がり無防備となった胴体にまずは一閃、懐に飛び込んだ友は孤蝶をねじ込み、後ろ手に隠した片方の一振りに腕を路にして凍えを流し込む。
「……貴方にふさわしいのはコレだよ!」
 世界に詫びろ。
 報われず散った命に懺悔せよ。
 薄紅から蒼白に変じた刃で串刺し、伝わる冷気に指の皮が剥がれてもなお友は魔力を尖らせ氷を注ぎ続ける。
「凍れ凍れ全てよ凍れッ! ヴィート・イース・ストルム!!」
 微細な霧が無理矢理に粒と凍らされ落ちた。霜めいた音で海莉の足で踏まれるそれは無力で無為だ。夜に黒髪なびかせ駆け込んでくる仲間をまなじりに引っ掛けて、穹はミストの肩を蹴り宙返り。
「俺の刃を見下して、そうやって誰も彼も見下して来たんだろう?」
 海莉への霧を外させて、友の刃をより効果的に命中させる、全ては俺の狙い通りだとする彼に自慢という気負いは、ない。
「物理的に叩き落としてやる……ってその前に地獄まで落ちる羽目になりそうだな」
 心臓の位置、海莉が押しつけた手のひらが爆砕した。
「誰かを愛するって事は、何も譲れないって事ね」
 ぬぐった嘆きに唇を噛みしめて、
「人としてすら死ねない犠牲者を、これ以上増やさせない、私はひとを守る……その先の来世でしか会えない大切な人達の為に!」
 この世界でもはや亡くなってしまった人、伸ばした腕が届かなかった大切な、ひと……。
「犠牲を産んできたあんたに未来はないってこと」
 クロスした腕から鋏のように生えるのは根っこからの白銀と染められし白銀。友はヴァンパイアの腹に十字の斬り疵を刻みつけた、灼けた痕と凍った痕の温度の全く違う傷跡を。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒玻璃・ミコ
※美少女形態

◆心情
何と言いますか、人間関係が混沌の極致にありますが
ヴァンパイアを倒せば丸く収まる筈です
・・・収まりますよね?

◆行動
万物を侵す酸でも私の魔力による【念動力】は溶かせませんよね
軽やかに跳躍したら宙に浮かび【空中戦】を挑みましょう

【鎧無視】し、避ける場も与えない【範囲攻撃】である
【黒竜の遊戯】でお邪魔虫は捩じり切ってしまいましょう
【毒耐性】がある私にとっては比較的組し易いですね

・・・なのでロブさんの老いたる恋の行方が
どうなるのか【視力】の良いお目々で確認しましょう
大丈夫、まだ可能性はあります
何事も諦めたらそこで終わりですから(無責任な発言)

◆補足
他の猟兵さんとの連携、アドリブOK


ファン・ティンタン
【WIZ】汚物は消毒
※多大にアレンジ可

まいったね…話がまったく見えてこないよ(脳筋)
てか、なんだろうねこの吸血鬼、とりあえず焼いておこうか

【哀怨鬼焔】で自身の周囲に【呪詛】の紫炎を纏うため、【千呪鏡『イミナ』】へ【力溜め】を始めておく
吸血鬼って自分語り多そうだし、話を聞いてあげればテキトーに【時間稼ぎ】出来そうかな?

…さて、広範囲に広がる霧状の身体は厄介だけれど
それって逆に、延焼面積が大幅に広がるってこと

それに私―――結構、【毒耐性】の自信あるからね?

見えない霧の毒を身を持って感知したらイミナに任せて紫炎を纏う
仮に私が操られようとも発動はイミナ任せ、【カウンター】気味に敵を焼き焦がしてあげよう


アンリ・オヴォラ
アナタ、まさかただの人間を愛しただなんてつまんない事言ってないでしょうね
ガッカリよ、何もかもね
でも…そうね
アナタが消えた街で、罪深い人間達がどうなるのかだけは、見る価値がありそうだワ

とっととカタ付けなきゃね
街がチョコレートになっちゃう
アタシもこんな事で命を削りたくないの
この姿、嫌いじゃないんだけどネ

霧になっても赤いなら見失う事はなさそうネ
強酸は衝撃波で薙ぎ払うけど、吸い込んだりしないように見切っていかないと
暗殺技術やフェイント、残像の素早さを駆使して近付くわよ
霧のままでもいいけど、体が戻る瞬間に串刺しにして抉ってあげる
何度でもね

アドニス達に危害が及ばないように気を付けはするわ
一応、約束したもの




 にゃあん。
 一鳴き後にふかりとした毛並みの獣は輪郭から解け、ファン・ティンタン(天津華・f07547)の姿が現れた。
「まいったね……話がまったく見えてこないよ」
「何と言いますか、人間関係が混沌の極致にありますが」
 一方、こちらは最初からラストまで可憐な少女の姿でお送りしておりますな黒玻璃・ミコ(屠竜の魔女・f00148)である。
 携えた護刀で肩をぽんぽんと叩くファンと、赤いマフラーごしの唇をもごもごさせるミコは、夜なのに自分の手元が翳るのにそれぞれ瞬いた。
「つまんなくてガッカリな話よ。吸血鬼がただの人間を愛したなんて」
 陰の正体は大柄なアンリ・オヴォラ(クレイジーサイコカマー・f08026)だ。
「ヒッ!」
 手の甲を伝い漆黒の剣が音もなく生えるのを至近で目の当たりにしたメアリーはギョッとあとずさるが、三人の猟兵は気にした風もない。
「つまり、あの吸血鬼、焼けばいいということか」
「そうですね、ヴァンパイアを倒せば丸く収まる筈です」
 腰に手をあて自信満々に言い切ったミコだが、
「……収まりますよね?」
 確認しても、アンリは肩を竦めるだけだった!
「上にいるのが面倒なのよね、三文役者の分際で高台舞台に立つなんて」
 なんて返しつつの霧を薙ぎ払う切っ先は仲間のギリギリを掠めた。いや、彼女らが避けねば当たっていたが、それぐらい躱すのは織り込み済み。故にアンリは迷い0でアドニス達の身の安全を優先できたのだ。
「まぁ、もっと詳しく聞きたいな。更に言えば上にいようが面倒ではないし」
 再び猫に変じたファンは、霧に毛皮を焦がされるのも厭わずに狭い足場に飛び乗りあがっていく。
「それもそうですね、舞台に登場しちゃいましょう」
 よいしょ、と傍らの瓦礫を持ち上げてぽいっ。落下の法則を無視してミコの頭の横で留まる瓦礫にジャンプして飛び乗ると、抱えた瓦礫を更に上に投げつけひょいひょい、猫の後を追う。
「あら、便利でいいわね。はい、アンタたちはここに隠れてなさい、しばらくは保つわ」
 当面は融け落ちぬレンガの影にアドニス達を引き込むと、アンリはよじ登ろうと天井に手をかける。しかし砂糖菓子のように脆く砕け、彼らの安全地帯をフイにしそうだと気づきタメイキ。
「とっととカタ付けなきゃね」
 全身の血を集積したように禍々しく瞳が変じる、まるで頭上で嘆きを語る人ならざるアレのように。
「街がチョコレートになっちゃう」
 命の削れる音を刻む心臓に拳をあてて地面を蹴った。メアリー達の耳に残るのは、コウモリの羽ばたきめいた音と、今までと変わらぬアンリの独特のしゃべり方。

「で、彼女をどう愛していたんだ?」
 刀疵から吹き出す霧を四方にまき散らすミストの背後、再び姿を戻したファンが世間話のように切り出した。
(「時間稼ぎが必要なんて、アタシと相性悪いワ」)
 ファンが下げ持つ千呪鏡『イミナ』の周囲を伝う紫炎を前に、アンリは波打つ髪を指に巻き付け肩を竦めた。
「攻めちゃっていいですよね?」
 事後報告。
 伸びやかにバネの如く飛びかかったミコの軌跡はこの夜の闇の中でもなお深く、黒く、昏い。
「ラムかい? あれは明らかに“違って”いた」
 現れた新客に振り返るミストは実体を霧に融かし喜色満面、挨拶代わりに紅い毒を浴びせてくる。進み出たアンリが逞しい腕を盾にして貌を庇い、直角に構えたPlaisirで風圧ものともせずに薙ぎ払った。
「耐性には自信がある、割と平気(なはず)だ」
「私も大丈夫ですよ?」
 実はこの見た目お嬢さん方は、猛毒を凌ぎきる能力に非常に長けているのだ。
「そうは言ってもっ……ね?」
 霧とヴァンパイアを行ったり来たりする獲物の至近でワザと消した気配を緩め姿を現したアンリ、その刃は虚空を刻んだ。
 狙いにくいと音がする程奥歯を噛んで悔しがる様に、霧に籠もるミストの口元が誇らしげに裂けあがる。
「違っていたって、随分とまた……」
 一方、降り注ぐ紅霧にもミコの笑顔は欠片も曇らない、毒が着弾する箇所は自動的に漆黒の艶やかな肌になり、ふよん、と持ち上がってはゼリーのように包み霧のダメージを消し去っていく。
「趣味を解する女だったよ。同族より余興を知る」
「怖がらなかったのか?」
 熱を孕む鏡を携えるもファンのあいた側の瞳は淡々とし、口ぶりも涼しげな平常運行。
「私をかい? ああ、ラムは恐れたさ」
 ミコは素早く下がり隙を伺うアンリの横顔をちらりと流し見た。そうして読み取った某かはおくびにも出さずにとぼけた声音で会話を続ける。
「え、怖がったんですか?」
「ああ恐れ、命乞いをし、自分の父を手に掛けた」
 屋根の上も煮とけた鍋の中身めいてきた。チョコフォンデュなら甘くておいしいが、ケーキの代わりに人間が突き刺されて一緒くたなんて洒落にもならない。
「あら、どこが違っているのよ。アンタが十把一絡げにする“人間”じゃないの」
 話の間も緩急つけ攻撃を繰り出すアンリは頬の薄皮に漸く届いた腕を引き、顎を持ち上げる。吐かれる息は荒く命の削減を物語る。
 勿論、隠さないのは誘い水。
 余裕綽々で相手をしてやっている、そんな空気は充分に醸造叶った。
 だからかミコは、眼下の二人と目の良い視界に入ってきたアドニスを探すロブの姿へ一瞬気持ちが向く。
(「ロブさんの恋は前途多難ですかねぇ」)
 今は心でエールを送るのが精一杯。
「なんだか要領を得ない話ですよねぇ」
 直後アンリの貼った伏線回収の口火を切る。
「全て演技だったのだ。彼女は後に語ったからな、能力のない父を葬り去りたかったのだと」
 この世界が、とてもとても刺激がなくてつまらないのだ、と。
 そう言えばラムは、ずっとつまらないままだった、か。
「ラムにこの世の全ての享楽を与えた。あの女は笑ったが……それが嘘かもしれないと。いや……嘘だったに、違いない」
「そうなんですかぁ」
 嘆き顔を覆ったミストは、ギョッと面をあげた。漆黒の触手が無遠慮に掴んだあれやこれやを投げつけはじめたからだ。
 周辺に瓦礫は無数に存在している。つまり、黒竜の玩具はつきることなく、無限。
 吸血鬼は霧に変じきることで難を逃れんと試みるが、これは猟兵たちの思う壺!
 至近に来た透明により、深い蝕みと痛みを感じたファンは、ここぞとばかりに全身から紫の炎を解き放つ。
 それはあたかもミストという雪が融け、ファンという桜が咲くが如く――桜が綺麗なのは、血を吸い咲いているからだとは、まことしやかに語られる。
 ファンの苦痛を触媒にイナミは炎で“透明”を逃さぬと、それはそれは丁重に正確に灼きあげた。
「結局は嘘をつかれていたのか? ……本当にややこしい」
 実体なきものが焦げる得も言われぬ異臭にすら、綴ざされた側のファンの瞼は震えもしない。
 だがミストの本体へは夥しい損傷が伝わった。霧の中、制御できず密度を増したと同時、
 ……ぞぐり。
 前屈みで躰全体が一振りの剣のように、アンリがつきだした腕の先は吸血鬼の実体を見事現世に縫い止めた。
「……ぐッ」
「アンタの言う通りだわ、ホント騙されやすいのネ。アタシのことナマクラ刀だって舐めてたでしょ」
 ――残念、全部演技(フェイント)だったの。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

マリス・ステラ
【WIZ】他の猟兵と共闘します

「主よ、憐れみたまえ」

『祈り』を捧げると星辰の片目に光が灯る
全身から放つ光は『オーラ防御』の星の輝きと星が煌めく『カウンター』

「ヴァーミリオン一族、その名は聞いたことがあります」

とても強い力を持つ吸血鬼
しかし、たとえ困難でも諦める理由にはなりません

弓で『援護射撃』放つ矢は流星の如く
負傷者は『かばう』

「アドニスとメアリー、他の全ての人達も幸せになりたかっただけ。何の咎があるでしょう」

私は全てを赦し、あなたに魂の救済を

【神に愛されし者】を使用

空中戦から無数の星の輝きを光線として『一斉発射』

愛の『属性攻撃』は高高度からの体当たり

私は神を叱咤する
完結させる時は今なんです!


影見・輪
アドニスとメアリーを敵の攻撃から護ることを中心に動くよ
戦闘の流れ弾などあれば、可能な限り【見切り】【かばう】を駆使し安全確保する
敵が仲間の排除に意識を向けたところで被害少ないところへ避難させることを試みるね

余力あるようなら、敵への射程範囲内へ移動
「誘」使用し【援護射撃】で攻撃支援を行う
必要応じて【鏡映しの闇】使用し、カウンター攻撃も試みてみるね

確かに報われないねぇ
けど、父親の歪んだ愛情のとばっちりで、命を落とすのも面白くもない話だと思うけど
様々に想うこともあるだろうけど、とりあえず今は、もう少し生きてみてもいいんじゃない?
きっかけはどうあれ、繋がった縁はあるから、二人で生きるのも悪くないかもね


タマコ・ヴェストドルフ
ああ、やっとごはんが来ました
あのごはんもお父様に似ています
あれを食べればあの時みたいに満たされるはずです
だから、いただきます(血統覚醒)

噛み応えのないごはんです
東方の神さまは霞を食べるそうですが
わたしはそれでは満たされません
1番と10番を楔にすれば
すこしは形になるでしょうか
肌がヒリヒリするのは
おなかがキリキリするのにくらべれば
きもちわるくありません
食べたものを刻印で
とけた部分にかえてごはんをつづけます
霧になってすこしづつしか食べられなくても
黒いのを振るって
食べつくすまで食べつづければいいだけです
たくさん食べられることはすてきです
あなたはお父様にとてもよく似ているから
とてもおいしく食べられます




「ああ、やっとごはんが来ました」
 確かに確かに、現在の貫かれたミストはこれからチョコフォンデュに浸けられるミニケーキと大差ない。
 すんっと愛らしく鼻を鳴らしたタマコ・ヴェストドルフ(Raubtier・f15219)は、種族的にも父に似たミストの瞳の辺りに指を這いずらせる。
 めかくし遊びなんてあどけない手つきで、だがそれとは異なる禍々しい何かに包まれた少女は、捕食という同化行為を開始した。

 屋根の上よりの悲鳴は自らの世界が終焉るおぞましさを孕む。それが父と見る男の声だと悟ったか、アドニスは頑なな仕草で耳を塞ぎとうとう蹲ってしまった。
 憐れみと慈しみを灯すマリス・ステラ(星を宿す者・f03202)は、指を祈りの形に組み瞼をおろした。
 星は、隠れる。
 しかし祈りの愛は、常に他者の為にある。
「アドニスとメアリー、他の全ての人達も幸せになりたかっただけ。何の咎があるでしょう」
 ミストがタマコを引きはがそうと足掻く余波で溢れる霧は、マリスが放つ薄紅桜の形の光にて抹消された。
「ここは任せてもらえるかい?」
 以前、教会にて共に人々へ関わり仕事をした影見・輪(玻璃鏡・f13299)は、マリスの敬虔なる神への祈りと行動原理を熟知している。
 輪の翳した手のひらからは、全てを映し映しすぎたが故に闇色と化した銀板が顕現する。闇はマリスの光から仕事を引き継ぐように入れ替わり、アドニスとメアリーの守護となった。
「彼へも祈りたいんだろう?」
 紅の視線で扇ぐ先にいる彼へ。
 マリスは輪の気遣いへ柔らかに微笑み返し、そしてこの場にてもう一度だけ、祈る。
「主よ、憐れみたまえ」
 アドニス、メアリー、そして輪を――どうか、どうか。
 瞳から溢れ出た星の輝きは神からの愛情。瞬く間に傍らに来なさいと言わんばかりの賜り物は、マリスを屋根の上に導くことなど児戯に等しい。

 霧であれば猛毒。
 生物無生物、辺り構わず容赦なく蝕み無に帰す。ラムを愛し、ラムに応えられなかった自分すら。
 だが、だが!
「噛み応えのないごはんです」
 タマコの柔らかな顔面にはミストの爪がめり込み著しい損傷を与えているはずなのだ、にも関わらず、
 ひたり、ぺたり。
 タマコの左から滑り出た湾曲刀は融けるそばから再生を図り、故に少女の形をした『   』は愛らしいままである。
「東方の神さまは霞を食べるそうですが、わたしはそれでは満たされません」
 右側からの歪曲刀が天を踊ったならば、そこに現れしは神に身を捧ぐ敬虔なる聖者マリス。
 これはとても皮肉な絵面だ。
 無神論を語るバチカルを繰るモノと、愛と星を司り聖なる使徒の邂逅――だが、共闘が裏切られることは決して起こりえない。彼らは皮肉となる立ち位置であると同時に猟兵でもあるのだから。
「ヴァーミリオン一族、その名は聞いたことがあります」
 眼差しは吸血鬼へ注いだままで、マリスは矢を番え引き絞り彼方へと解き放った。夜空に残る蝶の隙間を縫い散らされる桜の花びらは、粗末な家から焼き出され赤子胸の下に庇い蹲る母の傍らに霧の浄化を果たした上で着弾する。
「強い力を持つ吸血鬼の一族。此度のあなたは愛し、故に愛を疑うことを知り苦悩している」
「愛……」
 その単語に呼応して、タマコのかんばせが持ちあがった。
 唇の端から引きずる赤い糸はぬぐわれずその声は相変わらず抑揚を佚してるが、聞く者に渇望と諦観をありありと感じさせる。
 小指に絡む赤い糸は、運命の絆。
 だが、タマコの唇から伝う粘る赤い糸はあっさり途絶え、満たされぬおなかはキリキリと痛みを訴えてくる。
 ああ、たべなくちゃ。
「……たべ、なくちゃ」
 小さな唇は再び開き、ラムの名を呼ぶ吸血鬼の小指へむしゃぶりついた。
 ぺきり、ぽきりぽきり。
 愛を、
 愛を愛を、
 愛を、くれないのなら、お父様と同じく私を愛してくれないのなら、霞ではなく物質で私を満たして。

 堕つる霧を桜連れた矢が消し去ったのに安堵するのもつかの間、輪は再び頭上が悲鳴に染められるのを感じ取った。傍らに視線を戻せば、耳も心も鎖すアドニスの手をメアリーは包みこみ続けるのが映る。
「危ない――……」
 しゃがむ二人に覆い被さって背中に霧を浴びた輪は、唇をぼそりと音もなく蠢かせる。同時に瞳は今受けた闇色に染まり、写し取った情をそのままの形で霧と返す。
「……」
 何処までも哀れな闇であれ、生じた目の前の可能性を護る為だ、輪は迷わず跳ね返した。
「ぎゃぁっ!」
 たべものの、悲鳴。
 突如、紅い水をびしゃりと浴びせられたような衝撃に襲われても、タマコはもいだ腕を放さずにむしゃぶりついている。
 刺激はヒリヒリと更に肌を灼くであろうと予測できた。だから負傷に備えたが、刀傷に沿って肉体の解体が始まっている男だけが苦悩にのたうつだけだった。
「ミスト・ヴァーミリオン」
 この物語の幕を引く時は今だと悟りマリスはその名を穏やかに、呼んだ。
「ああ、ラム、ラムは……どこだぁ……?」
 霧になることすら忘れた男の瞳にはもはやかつて愛した女しか映らない、否、最初から最後まで彼の瞳に映っているのは愛しのラムだけだ。
「ラム……赦してくれ……」
「私は全てを赦します」
 ヘドロのように融かされた屋根に触れずに虚空を歩き傍らへ。マリスが霧の中に両腕を差し込めば、猛毒の霧は塗りつぶされ光色に染めかえされていく。
「ラ、ム……」
「あなたに魂の救済を」
 マリスの指が頬を包みこみ星辰は今ミストにだけ向けられている。
「……」
 吸血鬼の『ら』の形に開かれた唇は歓喜を如実に物語っていた。それを見たタマコは彼の四肢を喰らったはずなのに酷い飢餓に苛まれる。
「1番」
 10番は何故か呼ぶ気持ちになれず、だが1番はとても敬虔なる仕事を全うした。ミストの“残り”を突き刺し主の元へと差し出したのだ。
「すべて、いただきます」
 最後まで残さず食べ尽くします。

 ――悲鳴が止んだ。
 それはアドニスが望んだ報われ方は、今後永遠にもたらされないということでも、ある。
「……終わったよ。もう大丈夫だよ」
 未だに終焉を悟れぬ彼らを落ちつかせるように、輪は着物の裾を祓い丁寧な所作でしゃがむと口火を切った。
「でも、はじまりでもある」
 罪を犯した二人に果たして未来があるのかと問われれば、その闇は自分に色濃く救いがたい色で写るのだろう。
 それでも、輪の喉からは真っ直ぐな言葉が音得て二人を赤以外で彩らんと試みる。
「とりあえず今は、もう少し生きてみてもいいんじゃない?」
 怖々と耳から手を外したアドニスの唇が戦慄き瞳は水を帯びた。
「生きていても、いい……ですか…………」
 殺された人やそれにつながる人々は赦しはしないかもしれない。
「きっかけはどうあれ、繋がった縁はあるから、二人で生きるのも悪くないかもね」
 鏡は鏡。
 闇すら呑み込み映し出す彼は率直にそう告げ立ち上がる。

「……私は、アドニスを愛してるわ」
 この世界から去る猟兵達が聞いたのは、病みの色が削げ落ちた恋するだけの女の台詞であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年09月24日


挿絵イラスト