テレビウム・ロック!〜鍵を握る者たち〜
ヴィーはごくありふれたテレビウムの少年である。
テレビウムとしてごく平均的な体躯、平均的な解像度、平均的なファッション。
取り立てて変わったところを持ち合わせておらず、かといってそんな自分に悩んだり大きな不満を抱くこともない、やっぱり平均的な生を送っている。
だからこそ、ヴィーは自分の顔にたくさんの「?」を浮かべたくて仕方なかった。
だというのに、顔に浮かび続けるのは、謎めいた鍵の映像ばかり。
こんなにも、疑問がやまないというのに。
「さあ……賭けをしようか、ボーイ。君が我々に捕まるか、捕まらないか!」
「だ、ダメだよ! 僕の年齢で賭け事すると怒られるんだよ!」
スロットマシン型の怪人の群れが、じわじわと包囲網を狭めてくる。
……一体なぜ、自分が怪人などに追われる羽目になっているのか、見当がつかない。
ヴィー少年は、やはり平均的に怪人を恐れ、逃げ惑うばかり。
当たり前だが、怪人に捕まってロクな目に遭うはずがない。
そして少年は、平均的にキマイラフューチャーらしい肝っ玉の持ち主だったので。
「あわわわ……僕……これから一体、どうなっちゃうのーー!?」
「ええい、怯えながら自撮りで配信を始めるんじゃあない!!」
ちょっぴり、このスリリングな状況を楽しみつつもあるのだった。
●グリモアベース
「だからといって緊急事態であることに変わりはないのだけれどね!」
グリモア猟兵、エルフィ・ティントットがいたって真剣な表情で告げる。
「もう聞いてるかもしれないけど……今、キマイラフューチャーのあちこちでテレビウムが怪人に追われる事件が起きているんだ」
今回グリモアベースに集結してもらったのも例外ではない。
追われているテレビウムたちの共通事項はひとつ。
全員そろって、顔のモニターに「鍵」らしき映像が浮かび続けていること。
「理由はわからないけど、怪人たちは全力をあげて『鍵』の映像が浮かんだテレビウムを捕まえようとしてるみたいだ。……あまりいい予感はしないだろう?」
同時多発的に発生する、テレビウムたちの異変。
果たしてそれは何らかの前兆なのか、あるいは……。
「……ま。どっちみち、市民が怪人に追われてるって時点で見過ごす手はないのさ!」
透明な翅をぱたつかせながら、エルフィが握り拳を作って力説してみせる。
予知で垣間見えた範囲だけでも、怪人の追撃は相当にしつこいものだったという。
おそらくは休みなしの連戦が予想される。
「キマイラフューチャーのみんなにとって、お前たちはヒーローなんだ。いつものようにビシッと助けて、ビシッとサインでもねだられてきておくれ!」
事の雲行きはさておき、猟兵たちを不要に緊張させぬようにとウインクをまじえ、エルフィが満面の笑みを浮かべてみせるのだった。
鹿海
お世話になっております。鹿海(かのみ)です。
いわゆる全体シナリオを出すのは初めてなのでちょっぴり緊張しております。
さて、いろいろ謎めいた状況になっておりますが、やることは至ってシンプル。
「次々現れる怪人をぶっ倒す」のみです。
明るく楽しく騒がしく怪人どもを叩きのめしましょう。
追われているヴィー少年は配信も行なっているので、ついでに画面の向こうのアピールとかしても楽しいかもしれません。
要するにおおむねいつものキマイラフューチャーです。
なお今回はなるべく迅速な完結を目指すため
プレイングの採用数は必要最低限にとどまる可能性が高いです。
ご理解のほど、よろしくお願い致します。
第1章 集団戦
『スロットマシン怪人』
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POW : プレジャー・プリーズ
自身の【刹那的な楽しみ】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。
SPD : スリーセブン・スラッシャー
【頭部のスロットをフル回転しての連続攻撃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ : ロスト・ロケット
自身の装備武器に【遺失技術製のロケットエンジン】を搭載し、破壊力を増加する。
イラスト:風馳カイ
👑7
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
所はビル群の立ち並ぶ、街のど真ん中。
怪人たちの出現により、今や住人たちは全員建物に逃げ隠れている。
「えっ、うわー!? 生猟兵だ、生猟兵だー! すごーい!!」
一方、転移してきた君たちを目にして、にわかにヴィー少年が騒ぎ出す。
映像は依然として鍵のままだが、飛んで跳ねての仕草が感激を表現していた。
「おのれ、やはり現れたか猟兵……!」
スロットマシン怪人の集団がリールを勢いよく回転させ、やはり激情を表す。
この状況で怪人と猟兵が出会ってしまった以上、一触即発。
無辜のテレビウムを守るべく……いざ戦え、猟兵!
「やっほーみんな! 今日は『気分はヒロイン!? 猟兵と怪人に取り合われてみた』を生配信していくよー! あ、見てよ見てよこの顔の鍵映像、イカすでしょー!?」
……当の無辜のテレビウムはたいそう呑気な有様だったが。
あのたくましさなら、戦闘中の防衛を意識する必要もないだろう。
龍之・彌冶久
おう、何やら騒がしいな。
祭りか?違う。
ふむ、まあいいさ。
耄碌した爺には些か荷が重いやもだが、なんとかするとも。
ああ、少し退いてろテレビ小僧。
なに、すぐ終わる。
【SPD】
それにしてもなんとも珍妙な手合いだ。
今回の巻藁はなんとも馬鹿でかい玩具だな。
では、いざ。
此度の『十束』は『霆脈』よりひと紡ぎ刃を賜ろうか。
幸い雷の類には事欠かぬ世界であるらしい。
(属性攻撃:電気)
『阿頼耶の構え』。
敵が何するものぞ。
【早業】で瞬く間に間合いを詰め【交叉(カウンター)】【早斬り(クイックドロウ)】で後の先の抜刀、居合抜き。
文字通り、刹那の間も無し。
なあ、すぐ終わったろう?
ヴィー少年の構えたデバイスが最初に姿を捉えたのは……いや。知らずのうちに捉えていたのは、超然とした佇まいの、一人の男だった。
「おう、何やら騒がしいな。祭りか?」
さながら飄々と舞い込んだ風のように、男はいつの間にか其処に立っていた。
青い瞳をゆっくりと動かし、異形の怪人たちを数える。
「……違うのか。気の流れが淀んでいるとは思ったが」
一斉に頭部のリールを回転させ始めるスロット怪人たち。いまだかつて目にしたことのない珍妙な絵面ながら、そこに明確な敵意があることだけは容易に看取できる。
「飛んで火にいる夏の虫とはこのことだな、猟兵! さあ賭けるがいい……我らと貴様ら、どちらが勝者となるかをな!」
いきり立つ怪人たちのリールが「7・7・7」を示した瞬間、超連続攻撃が発動する。
幾度となくこの世界に出現した存在なればその性質はある程度一般市民にも知れ渡っており、戦況を見届けんとするヴィーが慌てた様子を見せるのも無理はない。あまりにも、多勢に無勢だ。
「今度の巻藁は、なんとも馬鹿でかい玩具だな」
他方、男はただ小さく嘆息し、ちらりとヴィーへ視線を向ける。
「ああ、少し退いてろテレビ小僧。なに、すぐに終わる」
わずかな眼球の動きで敵の数と位置とを把握したならば、得物たる光刃に手を添え、音もなく構える。
怪人たちのリールが、回転を止め。
転瞬。
光刃が煌めき、【阿頼耶の構え】は解き放たれる。
無数の怪人たちの間を駆け抜ける霹靂。電光石火という表現すら能わない。なぜならそこに残光も余韻もありはしない。ただ〝結果〟だけが残っている。
三つの「7」を示すはずだったリールは全て「DEATH」のマークで停止していた。
鈍い音を立てて一斉に怪人たちが崩れ落ちてゆく。
ただ一体だけが、起こった出来事を理解できず、混乱のために「7・7・BAR」などと不揃いにリールを止めたまま立ち尽くしていた。
何せ、かの男は元いた位置から一歩も動いていないようにしか見えない。
その居合いを、誰一人として視認できていない。
「おや」
残った怪人を目にして、これはしまったと男が首を捻る。予想外の大苦戦である。
刹那のうちにすべて片付く算段だったのだが。
・・・・・・・
まさか、もうひと刹那もかかってしまうとは。
「ちと、鈍ったか」
〝後片付け〟を済ませた男が肩を鳴らした。
見慣れぬ世界、踏み慣れぬ土地ゆえの失敗だろうかと眉を潜める。
どうあれ、男の剣閃を目にした者は彼が不満げである理由を解せまい。
それほどの、業前だった。
ふと男の視界に唖然とした様子のヴィーが映る。画面には鍵しか表示されてないというのに、呆気に取られて目を丸くしているのが見て取れるかのようだ。
「……なあ、すぐ終わったろう?」
悪戯っぽい声に、少年も我に返る。興奮冷めやらぬ声で名を問われたならば。
龍之・彌冶久(斬刃・f17363)は薄く笑い、その名を告げてみせるのだった。
苦戦
🔵🔴🔴
怪人の一群を全滅させたところで、再びスロットの回転する音が響く。
どこからともなく次々に現れる、新たなスロットマシン怪人たち。
どうやら怪人側も、そう簡単に包囲網を解くつもりはないようだ。
……ならば最後の一体まで、倒し尽くすのみである!
レムナント・ノア
ひ弱なテレビウムチャンを狙うとは卑怯でしてよ!
成敗して差し上げますわ! ……タマちゃん(ライオン)が!
ライオンライドでゴーゴーです!
テレビウムチャンたらこの様子を配信しているのでしょう?
ライオンってSNS映えしますものねーオホホホ!
【先制攻撃】【だまし討ち】でカメラにバッチリ映り込みましてよ!
スロットが回り出したらタマちゃんの機動力を生かして
【敵を盾にする】位置に回り込みますわ。
アアッ下から撮ると写真写りが良くありませんのよ。
斜め右上から綺麗に撮ってくださいな。加工アプリもお願いしますわね!
ヒロインはわたくしの役目ですけれど
今日ばかりは譲って差し上げてもよろしくってよ!!
オホホホ!オホホホホ!
「ひ弱なテレビウムチャンを狙うなんて卑怯でしてよ! 成敗して差し上げますわ……タマちゃんが!!」
タマちゃんこと4mに迫ろうかという巨体を誇る黄金色のライオンに跨り、レムナント・ノア(おてんば・f07798)が高らかに宣言する。
そのレムナントが枯れ木のように細長い手足の妖怪じみた体躯であるため、スロットマシン怪人のみならずヴィーまでもが怯んでいた。
「んもう、失礼しちゃいますわね!」
プンプンとレムナントが頬を膨らます間にも、気を取り直した怪人が包囲網を形成。
だが数の利を活かして包囲を狙ってくるなら、むしろ好都合。
スロットのリールが回転を始めた瞬間、タマちゃんが跳んだ。都市を飾るネオンライトに照らされ、黄金の鬣に彩られたレムナントのシルエットが煌めく。着地した先は包囲網の一翼を担うスロット怪人たちの真後ろ。
「バ、バカ、早く回転を止めろ!」
「無茶を言うな、一度発動したら止まらな……ぬおおおおッ!?」
哀れなるかな、スロットの結果は大当たり[ジャックポット]。祝いとばかりに放たれた味方の超連続攻撃は最後まで余すことなく、一翼の怪人たちを壊滅させてゆく。
「オホホホホ、見事なお手並みでしょう!?」
雅さと怪鳥のような威圧感を伴うレムナントの高笑い。遠巻きに見守っていた少年ことヴィーもカメラを構えたまま硬直せざるを得ない。
「アアッ下から撮ると写真写りが良くありませんのよ! 斜め右上から綺麗に撮ってくださいな、そこがわたくしのベストアングルですの!」
「無理です!!」
参考までにヴィーの身長は約30cm。レムナントとの差はおよそ160cmである。
「もう、仕方ないですわね……でしたら加工アプリでしっかりバエさせてくださいな! 守られるヒロインの座、今だけは譲って差し上げますわ!」
味方を半壊させた残りの怪人たちが後方から不意打ちを狙うも、命中は能わない。
タマちゃんの背を蹴り飛び上がったレムナントが、空中で弧を描き、スロット怪人の上へと音もなく優雅に着地してみせる。
「残念。そういうのは、わたくしの方が一枚上手でしてよ?」
タマちゃん……黄金のライオン。【ライオンライド】によって呼び出された獅子は単体でもなるほど高い戦闘力を発揮しよう。だが、かのユーベルコードの本領はライオンと主人……双方の戦闘力が強化されることにある。
「乱暴者さんには……メッ、ですわよ」
軽く屈み、スロットの頂点に位置するランプへとかわいらしいデコピンを一撃。
それだけでスロット全体へと激しい震動が響き渡り、リールが狂ったように回転を始め……手当たり次第に近くの怪人を攻撃してゆく!
「オホホ、鬼さんこちらですわー!」
怪人から怪人へ、しゃなりしゃなりと花道を歩くようにレムナントが跳び移る。
「おのれちょこまかと……だが捉えたぞ!」
やがて華麗に跳び回るレムナントへ一矢報いんと、一体の怪人が上方を向き。
「……ぎゃあっ!?」
視界の外から突っ込んできたタマちゃんによる力任せの体当たりを見舞われ、たちまち粉砕されていった。
「オホホホ! 高嶺の花ばかり見上げていては、大事なものを見落としましてよー!!」
再びタマちゃんの背へ降り立ったレムナントが前髪をしゃなりとかき上げると同時に、まとめてスクラップとなった怪人たちが次々と地面に崩れ落ちてゆくのであった。
成功
🔵🔵🔴
ロカロカ・ペルペンテュッティ
テレビウムの皆さんに何が起こっているのか?
それを探る必要もありますが、
先ずは危機にさらされている方をお助けしなければなりませんね。
【WIZ】
スロットの怪人ですか。
敵の数は多いようですから、こちらも数で応じましょうか。
標本番号008《踊る焔の針刺し》、彼らの力を借りるとします。
地霊の声を聞いて周囲の状況を把握し(地形の利用)、
群れの一部で敵を翻弄し、追い立て、
隙を見せたところで祭礼呪具の力(属性攻撃)を注いだ
灼熱の一刺しを見舞いましょう。
ちょうど、コインの出口やスロットの隙間もあるようですから……蜂を潜り込ませるにはちょうどいいでしょう。
余さず、内から焔で焼き清めるとしましょう。
轟々と燃焼させていた推進剤が底を尽き、二体のスロットマシン怪人たちが停止する。
迷路のように入り組んだ路地で幾度も壁に激突し、肉体……もとい筐体もあちこちが凹んでいる。
だが、助かった。損傷が軽微な方の個体……怪人Aが、安堵の息をつく。
「よし……ここまで来れば、もう大丈夫だ!」
本来なら武器とするべきロケットエンジンの装備が幸いしたらしい。
一時はどうなることかと思ったが、どうにか〝アレ〟を撒くことができた。
「逃げ切ったのは、俺たちだけか……」
狭い路地に二体のスロットマシン怪人が並んでいるのはどこかシュールさを感じさせる光景だが、当事者の声音は震え、一切の余裕などない。
「今回は相手が悪すぎた、このまま撤退を……?」
共に逃げてきた怪人Bを振り返る怪人Aだが、返事がない。
いつもならここで、趣味の悪いジョークの一つも飛んでくるはずなのだが。
「おいどうした、返事を……」
やはり返答はなく、代わりとばかりに怪人Bのリールが勢いよく回転を始める。
やがてリールが停止すると共に表示された図柄は「BURN・BURN・BURN」。
見事なまでの大当たりに、排出口から一斉に〝景品〟が飛び出してゆく。
筐体へ潜り込み、その内側を焔で清め尽くした……燃え盛る炎で出来た、無数の蜂が。
「ひいいぃっ!?」
途端に内側から噴き上がった猛炎で、音を立てて怪人Bの筐体が焼け落ちてゆく。
「くそっ、くそっ、どうしてこんなところまで……!」
背を向け、怪人Aが逃げ出そうとするも……ひと刺しを終えた蜂たちはまるで役目ごと燃え尽きたかのように、その場で消え去っていった。
「……助かった、のか?」
だが再びの安堵も、束の間。
怪人Aのリールが……勢いよく、回転を始める。
「ま、待て……なぜだ! 俺はレバーを引いてなんか……!!」
明滅する頭部のランプも、回転するリールも、自分の体だというのに止められない。
とうに失ったはずの心臓が焼け落ちそうになる感覚に襲われる。
嫌が応にも理解せざるを得ない。自分の中に、無数の〝何か〟がいる。
やがて、回転を止めたリールが揃えた図柄は。
「BURN・BURN・BURN」だった。
蜂によって清められたのは、何もただ二体だけではない。
戦場に集まっていた他のスロット怪人たちもまた同じように蜂に潜り込まれては、次々と立ち上る炎に包まれてスクラップとなってゆく。
あかあかと燃えたぎる体を持つ無数の蜂は、名を【標本番号008《踊る焔の針刺し》(スペシメンゼロゼロハチ・ダンシングフレイムビー)】という。
ロカロカ・ペルペンテュッティ(《標本集》・f00198)がその身に宿す武器であり、 UDCであり、そして友でもある。
「逃げ場はありませんよ」
耳障りなほどの羽音が響く中でも、ロカロカの声が生き残った怪人へとはっきり届く。
灼熱の群れが織りなす鎧に守られているというのに、浅黒い肌は僅かも焼け焦げない。
「ちくしょう……何なんだ……何なんだ、お前は!?」
スロットによる攻撃を敢行しようにも、残った怪人のレバーは既に燃え落ちていた。
ぺたりぺたりと、羽音に紛れそうなはずの足音が怪人にはやはり確と聞こえる。
やがて少年の手が、ゆっくりとかざされ。
「お行き、踊り猛り、燃え盛り、刺して尽きるモノ達」
身を焦がす灼熱の中、怪人が最期に目にしたものは。
紅蓮の蜂によって煌々と照らされ浮かび上がる、禍々しいタトゥーであった。
大成功
🔵🔵🔵
レフティ・リトルキャット
※詠唱省略・アドリブOK
【キャットダンス♪】
にゃ!たくさん集まってきたのにゃあ!
放送されてるみたいだし折角だから、みんなでリズミカルにダンスを踊るにゃよ♪
先ずは準備に僕は子猫に変身しつつミュージックエナジーを開放、何故か音楽が鳴り響く戦場に変えてるにゃね。
そして髭感知で敵の動きを見切り、踊るように敵の攻撃を肉球や爪で受け流し、5代目様の力を借りて一緒に躍らせるにゃあ。
攻撃?それならくるっと回って同士討ちでもすると良いにゃよ♪時にはダンスのリズムを変えて疲弊させるにゃね。
止まらない攻撃とダンス、最後まで踊れるのは誰かにゃ?
いよいよもって増援も底をついてきたとみえるスロットマシン怪人。
かくなる上は、もはや破れかぶれ。
「せめてそのテレビウムのガキだけでも捕まえろ!」
外見ではさっぱり判別がつかないが、リーダー格らしい個体が叫ぶと同時にすべての怪人がいっせいにヴィーだけに狙いを定める。
威嚇するかのような激しい足音が地を踏みしめ、タップし、リズムを作る。
リールの回転する音が楽器となり、生まれ出でるミュージカル。流れるような自然さで、怪人たちは揃いも揃ってダンスを始めていた。
「お、おい何をやって……うおお、体が勝手に踊り出すぅ!?」
混乱を諌めようとしたリーダー格ですら、知らぬ間に刻む楽しげなステップ。
「にゃあん♪」
戦いの場に不似合いな愛らしい鳴き声は、怪人たちから見て下方よりのもの。
どこからともなく音楽が鳴り響き【キャットダンス♪】に辺りが支配される中、子猫に姿を変えたレフティ・リトルキャット(フェアリーのリトルキャット・f15935)がすました足取りで怪人たちの足元をすり抜けてゆく。
「あ……あの子猫だ! あの子猫をやるんだ、お前たち!」
事態に気づいたリーダー格が指示をくだすも、誰も彼も思い通りに体が動かない。
どころか、子猫……レフティを狙えば狙おうとするほど、いっそう翻弄されるばかり。
スリーセブンの斬撃が放たれようと、髭の動きが微細な空気振動を感知し、怪人たちの不恰好なステップよりずっと軽やかにこれを回避……どころか。
「にゃあっ」
踊りというのは、こうやるんだにゃ……とでもアドバイスしてみせるかのように。
肉球のひと叩きでもって、レフティが怪人の足取りをちょいと調整してやる。
——お一人様より、みんなペアで踊った方がお似合いだにゃあ?
視線の代わりに交差しあうリールとリール……互いに向けて放たれる、熱烈なるスリーセブンスラッシャー! ワルツと呼ぶには激しすぎる熱情が、怪人を同士討ちに誘う。
「おのれ小癪な……だが段々このリズムにも慣れてきたぞ、さあお前たち!」
またもやリーダー格が、高らかに叫ぶも。
「今こそ反撃に……転じ……おおおおぉぉぉっ!?」
どこからともなく鳴り響いていた音楽が唐突に転調し、ステップの速度が狂う。思うさまに体が動かない、ただそれだけの事実が怪人たちを次第に疲弊させてゆく。
「にゃあ、にゃあ、にゃあっ!」
レフティもまた、ただスロット怪人たちを疲弊させるばかりではない。
この場を調律するのが彼である以上、リズムに乗っての攻撃など朝飯前。
突然の転調に混乱する怪人たちの足元をすり抜け、リールへレバーへ爪の一撃!
「おのれ……たかが、子猫一匹にいぃ!!」
つまりはその侮りが、スロット怪人たちの敗因だ。
たかがでもなければ、ただの子猫でもない。
レフティ・リトルキャットは、猫であり、妖精であり……そして、猟兵である。
音楽が鳴り止んだとき、その場で踊り続けているのはもはやレフティのみ。
最後の決めポーズとばかりに、ほんの一瞬、フェアリーへと姿を変えて。
「……以上。5代目様のお力による、妖精の宴でしたにゃ!」
カメラを構え続けるヴィー少年と、画面の向こうの視聴者へ向けて一礼。
たちまち、生放送の再生数とコメント数が跳ね上がったのは言うまでもあるまい。
成功
🔵🔵🔴
第2章 集団戦
『自称『ウコンソフトクリーム』怪人』
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POW : たべられません
【硬化させた頭部を回転させること】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD : それじゃないプリ!!
【自分を排泄物扱いした相手に連続攻撃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ : 芳醇な香り
【頭部】から【奇妙なニオイ】を放ち、【困惑】により対象の動きを一時的に封じる。
イラスト:笹にゃ うらら
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
猟兵たちと共に、ヴィーが走る。
彼の頭部モニターに街の特定地点を示す地図が表示されたのは、スロットマシン怪人たちを全滅させた直後のことであった。
やはり、これが何を意味するのかは分からない。
「ここへ行かなければならない」という不明の意思だけが、少年を突き動かす。
だがやはり、これを許さぬ存在がある。
「おっと……残念ながら、ここで行き止まりプリ!」
道路のど真ん中を塞ぐように、新たな怪人の集団が現れる。
コーンから両手両脚を生やし、トイレットペーパーと棒切れによる万全の装備。
とぐろを巻くのはまぎれもない💩ウコン💩のソフトクリーム。
「プリップリップリッ……ここで我らに出会ったのがウンの尽き!」
思わず足を止めて怯むヴィー。
その様子を目にしてか、💩ウコン💩特有のニオイを放ちながら怪人たちが笑う。
「一日に二度も怪人に出会うとは思わなかったプリか? ソフトクリームよりずうっと柔らかくて甘い考えプリね!」
彼らは『自称『ウコンソフトクリーム』怪人』。
その名の通り、💩ウコン味💩のソフトクリームを自称する恐るべき敵である。
「…………」
「おやおや。どうやらウコンの威光の前に言葉を失ってるようプリねえ?」
コーンの上で、💩ウコン💩ソフトクリームが楽しそうに揺れる。
……おそらく、猟兵諸君とて。
ヴィーが唖然とする理由も。モニターに表情を映すことはできずとも、何が言いたいのかをはっきり理解することができただろう。
深呼吸のような音ひとつを挟んで、少年が、叫ぶ。
さん、はい。
「ウンコだーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」
龍之・彌冶久
いやはや参った、鈍ったな俺も。
やはり耄碌なんてするもんじゃない……錆び落としをせねばなるまい。
うむ、先の運動で少し感覚も戻ったし……もう少し勘を取り戻したいな。
【POW】
おうそこな奴、丁度いい、硬そうだなお前。
精々斬るに丁度良い巻藁になれ。
紡ぐは"濔脈"より一刃。
後腐れなく水に流れ還れ。……うむ、何となくお前にはこれが良いと思う。
【阿僧祇の構え】。
さて、昔を思い出すか。
――刃を掲げ
握る腕は力まず、されど緩まず
揺蕩う水の如く。
ただ無の境地で刀を落すように。
もの"脈"の流れに逆らわぬままに刃を通してく。
(属性攻撃:水 + 攻撃力(切断力)特化)
……うむ、またつまらぬものを斬ってしまった。
「よくもウンコ呼ばわりしてくれたプリね……絶対許さないプリ!」
「ウンコじゃん! だってどんな角度から見てもウンコじゃん!!」
ヴィーの叫びが響き渡った直後、怪人たちが一斉に糞害……もとい憤慨した。
生意気な糞餓鬼を懲らしめんと、じりじりと小さなテレビウムへ迫る。
しかし無論……これを許す、猟兵たちではない。
「いやはや参った、鈍ったな俺も」
ヴィーへと迫らんとする怪人たちの前に、龍之・彌冶久が〝いた〟。
太陽がそこにあれば、空は青く日が差し。
雨雲がそこにあれば、雨粒が地面を打つ。
ならば彌冶久がそこに居るのも、不変にして普遍の節理。
そうとでも謂わねばならぬほど至極当然のように……彼は、〝いた〟。
先の戦いでの、彼に言わせれば耄碌した太刀筋を思い、不満げに唇を尖らせながら。
「よう、また会ったなテレビ小僧。ちと下がってな」
彌冶久がヴィーを下がらせたところで、ようやく怪人たちが我に返った。
「な……何奴プリ! 我らの邪魔をするプリか!」
結果として数拍も反応を遅らし、自称ウコンソフトらがぷりぷりと憤る。
威嚇とばかりに頭部が高速回転を始めるが、同時に頭部が硬化を果たしてもいるおかげで、飛沫が飛び散るようなよろしくない絵面は発生していない。
「プリプリプリ……寄らば、このウコンヘッドの犠牲になってもらうプリ!」
なるほど高い硬度と目にも留まらぬ回転速度はもはやドリルのそれに近く、触れれば到底無傷では済むまい。ふざけた振る舞いだが、これらも紛れもなくオブリビオン。
「おう、丁度いい。硬そうだなお前」
だというのに、むしろ好都合とばかりに彌冶久が薄く口の端を吊り上げる。
「精々斬るに丁度良い巻藁になれ」
肉の全てを削ぎ落とさんと、金属のそれにも似た甲高い回転音が迫る。
至近こそが敵の間合い、距離を置けば容易に回避が適おう。
だが、彌冶久は下がらない。そも、必要が無い。
得物を掲げ、心は静水の如く。
視界に映す全てが、泥濘に囚われたかのような緩慢な動きに変じゆく。
事もない。此れは、彌冶久の間合いでもある。ならば利は強者に傾くのみ。
【阿僧祇の構え】が、堰を切る。
振り下ろされるでなく、振り抜かれるでなく。刃が落ちる様は、水滴にも似る。
雨垂れが岩をも穿つなら、濔脈の流れに断てぬものはない。
彌冶久の視界に移ろう時が元に戻った瞬間、全てはもう終わっている。
「あれ——?」
それこそ「するり」と、音もなく。
コーンで出来た怪人たちの体に、切れ目が生まれ。
切れ目より生じた透き通る水がかれらを包み込み、溶かしてゆく。
「そんなっ……ウコンは難水溶性なのに!」
「ああ、けれどもなんだか……けれどもなんだか!」
「流されてくようなこの感覚が」
「どこかとっても、しっくりきてしまうプリー!!」
水脈に呑まれ、汚れも穢れも跡形もなし。
まとめて真二つに割れた怪人の群れが、骸の海へと流れ落ちていった。
「……うむ、またつまらぬものを斬ってしまった」
鷹揚に頷き、彌冶久が満足げに納刀する。
彼奴等が蕩けるソフトクリームを自称すればこそ、水流れに「つまる」ことなし。
おあとがよろしいようで。
成功
🔵🔵🔴
レフティ・リトルキャット
※詠唱省略・アドリブOK
【バッドラックキャット】
……次に怪人と出会うことがあれば、11代目様の力を借りようと思ってたけど、コレやっちゃって大丈夫なのかにゃあ?
生放送には放送事故がつきものにゃよね、11代目様の力を借りて
不吉なオーラを纏った子猫に変身し、髭感知で動きを見切り、肉球や爪で受け流したり、オーラを気弾の様に放って応戦するのにゃあ。
11代目様の真価は、運勢操作:不幸。
防御や攻撃の際に、全身に纏った不吉なオーラに触れた敵を不幸にし、敵にとっての「不幸な出来事」を起こして攻撃していくにゃよ。
🔴の取得数で不幸度も高まった、バッドラックタイムにゃけど……ホントに放送できそうかにゃ?
「にー」
か細いひと鳴きを携えて戦場に躍り出た小さな影を目にして、自称ウコンソフトクリーム怪人たちが揃いも揃って目を丸くする。
「こんなところに子猫……? ……さてはこいつも猟兵プリね!」
流石にそこはオブリビオンと言うべきか、正体はすぐさま察される。
だからといって、子猫すなわちレフティ・リトルキャットには何の不都合もない。
悪臭にいささか不愉快そうにフレーメン反応を起こしながらも、怪人たちが見舞う棒切れ攻撃に硬化した頭部を回転させてのドリル攻撃、すべてを回避。
髭は微細に危機を感知し、軽やかな身のこなしで飛び上がるたび、肉球や爪が怪人たちのコーン……つまりは胴部を、そっと〝撫ぜて〟ゆく。
「プリプリプリ……所詮は子猫の攻撃、痛くも痒くもなっ!?」
攻撃そのものに、大したダメージはないはずだった。
だが子猫に触れられた途端、どす黒いオーラが自らに染み込んでゆくのを、触れられた怪人たちがもれなく感じ取った。
それと共に。ふわふわとした真白い毛並みを揺らすその子猫が……なぜか一瞬、不吉という不吉をその背に負った、禍々しい黒猫に見えたのだ。
もっとも、怪人たちの認識は決して誤っていたわけでもない。
「たかが子猫一匹に何を手こずってるプリ! さっさと一撃で……ギャー!?」
最初に、気合を入れるために威勢良く一歩を踏み出した怪人が不運にも緩んでいたマンホールの蓋を踏み抜き、哀れにも落下していった。
「わ、我が同胞ながらなんて間抜けな……プリャア!?」
続けざま、突発的な強風により飛んできた巨大看板が数体の怪人を押し潰す。
「な、何プリか……この強烈な悪寒は……!?」
一刻一秒ごとに不運が見舞い、次々に怪人たちを戦闘不能としてゆく。
彼らは知らない。レフティが「11代目様」と呼ぶ、偉大な猫の力を。
他者の運勢を操作し、どん底にまで貶める、恐るべき力を。
「なあん」
愛くるしい子猫のひと鳴きが。肉球を地面に吸い付かせて歩く様が、怪人たちからすれば今はどんな猛獣よりも恐ろしく感じられる。
子猫を……レフティを取り囲み袋叩きにせんとしていた彼らは今や、じりじりと迫る彼に追い立てられる身。
「まるで、我らのウンというウンが吸い取られてゆくような……!」
次は雷にでも打たれるのでは。鉄骨でも降るのでは。
疑心暗鬼に駆られ、空を見上げた怪人の足が……ぐにりと、何かを踏みつけた。
「う……ウワアアアア! 犬のフンだアアアァァァァッ!!」
犬のフンを踏んでしまった怪人が刹那の間に存在の痕跡すら残さず消滅する。
そう……彼らは「自称」ウコンソフトクリーム怪人。
ウコンソフトクリームであり、断じてウンコなどではないことをアイデンティティとする彼ら。つまりウコンソフトクリームでなければ、己ではない。
そんな存在が犬のフンを踏むことで、一部分でもそれと同化してしまった現実が自己存在の否定に繋がり、怪人を構成する因果律が崩壊してしまったのだ……!
恐るべき不運の力に、怪人たちは誰もが戦慄せざるを得ない。
「——にゃあん」
レフティからすれば、ヴィー少年が構えたデバイスの向こうにいる視聴者に向けた、「怖いものを見せてごめんね」の意を込めた愛くるしい鳴き声とて。
怪人たちをさらなる恐怖に陥れるには、十二分な役割を果たすのであった……。
ヴィー少年の生放送、その視聴者、コメントの推移にあえて直接は触れるまい。
だが、あえて迂遠に言うなら、他人の不幸は蜜の味。
相手が怪人であるなら、いっそうのこと——。
大成功
🔵🔵🔵
レムナント・ノア
オホホホ。タマちゃんはお昼寝の時間ですので帰りましたわ。
……。
…………イ。
イ、
イヤァァーーーーーーーーッ!!!!
あ、アレはUNC(UN-CO)!!
お下品な怪人はわたくしにふさわしくありませんわ!!!
えいえい松ぼっくり!
こっちへこないでくださいな!!
ポケットにもう一個入ってたので【二回攻撃】
テレビウムチャンちょっとトイレの消臭剤持ってませんこと?
におい! わたくしこのにおいが許せませんわ!
あっちへ【目潰し】! そっちへ【吹き飛ばし】!
ばっちいので当然【敵を盾にする】ですわ!
もう敵じゃなくても良いので当たりたくありませんのよ!!
退治後はバケツで水をざざーっとやります!
流れてお行きなさい!
黄金のライオンことタマちゃんがお昼寝に帰ったため、主のレムナント・ノアはといえば、当然たった一人でかの怪人たちと対峙することになる。
かぐわしいニオイを放つ、自称ウコンソフトクリーム怪人たちと。
「イ……」
鼻腔をつくニオイと敵の形状に、レムナントが思わず肩を抱く。
「イヤァァーーーーーーーーッ!!!! UNCじゃありませんの!!」
「い、言ったプリね! 此の期に及んでまだ言うプリね!!
此の期に及んでいるのは怪人たちの方なのだが、それはさておき。
「お下品な怪人はわたくしにふさわしくありませんわ!! テレビウムチャンちょっとトイレの消臭剤持ってませんこと!? におい! わたくしこのにおいが許せませんわ!」
「それ持ち歩いてる人は希少です!!」
もっともすぎるツッコミを返しながら、テレビウムチャンことヴィー少年がかなり遠くから返事を返した。彼もまた、ウコンソフト怪人たちには近寄りたくないらしい。
「許さんプリ……健康食品としても大人気なウコンを、UNCなどと!」
「きぃーっ! ばっちいですわね、近寄らないでくださいな! えい、松ぼっくりシュート! 松ぼっくりシュート!!」
「や、やめるプリ! 地味に痛い攻撃はやめるプリ!!
指先一本も触れたくない意思表明とばかりに、レムナントのしなやかな手脚を活かした無駄に美しいフォームで次々と投擲されてゆく【松ぼっくり】。
猟兵の力をもってすればこれもまた立派なユーベルコード。
人間で言えば額のあたりであろう部分に直撃を食らった個体のたぶんきっとおそらくソフトクリームであろう頭部が無残に飛散する。
「右近座衛門ーー!!」
散りゆく戦友の名を呼ぶ、怪人の慟哭。
まさしくこれこそ、ポケットに入っていた松ぼっくりをついでに連続で投げることにより、抵抗力を失った物質に完全なる衝撃を伝導させる……二重の松ぼっくり。
クリーンヒットすれば、もはや「地味に痛い」では済まないのだ。
「人をUNC扱いした上によくも仲間を……許せんプリってギャー目がー!?」
「オホホ、戦いはもう始まっておりますのよ! てい! 松ぼっくりてい!!」
セリフの間はなんだかんだで攻撃が当たらなかったりするような約束もおてんばさんには通用しないのである。レムナントの松ぼっくりが容赦なく怪人の目を潰す!
しかし黙ってやられたままでいる怪人たちでもない。
自分たちを排泄物呼ばわりした怨敵への怒りを燃やし、いざや超連続攻撃を仕掛けんと一斉に攻勢、レムナントへと踏み込まんとした。
……踏み込まんとは、したのだ。
「プリャッ、足が滑っ……!?」
当然の帰結として……松ぼっくりを投げれば、跳ね返ったそれが、地面に落ちる。
固い殻は踏んづければ相応に痛く、また姿勢は崩れることになる。
ここでおさらい。
自称ウコンソフトクリーム怪人たちは己を排泄物扱いした相手に超連続攻撃を仕掛けるが……一度発動したが最後。途中で中止することは、できないのである。
「ちょっ、敵はこっちじゃな……プリャアアアアアッ!!」
気をつけよう、ウコンは急には止まれない。
あとはUN……ウコンでウコンを洗う、壮絶な味方同士の潰し合いが幕を開き。
そしてやがて、閉じるばかりである。
「オホホホホ……計算通りですわ! さあ流れてお行きなさい!!」
やはりかの怪人たちには水洗がお似合い、使った道路は綺麗にお片づけ。
レムナントがバケツで水を放りに放れば、もはや怪人の痕跡はどこにも残らなかった。
「……アレ、どこから取り出したんだろう……」
松ぼっくりやらバケツやらに向けたヴィーのツッコミは、やはり遠く離れているがゆえ、誰の耳にも届くことはないのであった。
成功
🔵🔵🔴
第3章 ボス戦
『アンマリス・リアルハート』
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POW : 歌は自信があるぞ、聞いていけ!
【わりと壊滅的な歌声】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD : ダンスは教養、出来て当然だ!
【躍りながら振り回す剣】が命中した対象を切断する。
WIZ : 私はちゃんとできてる!間違ってるのはそっちだ!
【現実をみないだだっ子モード】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
イラスト:さとみ
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠アンノット・リアルハート」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ヴィーのモニターに表示された地点は、何の変哲もないスケートパークであった。
普段は多くのストリートキマイラで賑わう場所も、今は閑散としている。怪人出現の報を受け、一般の住民たちは避難済みなのだろう。
やがて言葉もなく、ヴィーがパークの中心部にまで歩いていったかと思えば。
……突如、彼のモニターから激しい光が放たれ始める!
眩いばかりの光量は程なくして鎮まってゆくが、少年は何かに取り憑かれたかのように言葉を失い、配信を行なっていた大事なデバイスさえ地に放り出している。
「おやおや……胸に燃ゆる使命の灯[ひ]に導かれて来てみれば」
事態を把握し切るより前に、パーク内に設置されたクォーターパイプの頂点に降り立つ一人の女がある。高貴な黒ドレスに身を包んだ、姫君を思わせる装い。
「あの光……そういうことか。このアンマリス・リアルハート、すべてを理解したぞ」
アンマリスと名乗った女が、妖艶な仕草で指先を唇に添える。整った顔立ちのためもあり、その振る舞いはさながら都市に咲いた大輪の花。
理解した……つまりこの女は、テレビウムを見舞った怪現象の正体を知っている?
猟兵たちが、一斉に身構えるより前に。
「……これは私へのスポットライト! ここで一曲歌っていけということなのだな!!」
違う、そうじゃない。
素っ頓狂な結論はしかし曲げられることなく。加えて運の悪いことに、ヴィーの落としたデバイスが偶然にも彼女をカメラに捉えていた現実が勘違いを加速させる。
「よかろう……実はちょうど新曲が仕上がったのだ。聴いてゆくがいい!」
手に持った剣を逆手に、柄頭をマイク代わりとして……アンマリスが、絶叫した。
いや違う。歌い出した。歌っているはずなのだ。
だが壊滅的な音程と破壊的な声量が、歌声を音波兵器へと変えてしまっている!
この女、大輪の花ではあっても薔薇ではなくラフレシアとかそっち系統だ!!
モニターから光を放っていたヴィーも、凄惨な歌声によって痙攣を始めている。
今すぐに、この歌を……アンマリス・リアルハートを止めなくては!
レムナント・ノア
そちらが歌ならこちらはバイオリンで対抗しますわ!!
お嬢様の手習いとあなどらないでくださいな!
わたくしが前に躍り出て【存在感】を見せつけている隙に
テレビウムチャンを避難させてくださるかしら!
くださらない? オホホ。隅に寄せときましょう。
ンフフフ~♪
ギィィァーキコギギギガガガゴォォォーボォォォー!!!
(バイオリンの音色)
わたくし漲って参りましたわ!!
キィィーーブォゴゴゴキリキリキキ……ンフフフ~♪
(弾き語りの音色)
音楽バトルと見せかけて【先制攻撃】【だまし討ち】
最後はあの騒音女に向けてバイオリンを投げつけます!!
そぉい!!
ダンスですって?
オホホホホ! 良くってよ!!
一曲ご一緒して差し上げますわ!
音楽は国境を越えると言うが……時には人に生死の狭間すら越えさせるらしい。
アンマリス・リアルハートの歌声は、控えめに言って壊滅的であった。
「……む?」
すっかり乗地になって二番へ突入しようとしたところで、歌声が中断される。
スポットライトとして扱っていたはずのヴィーが、視界から消えてしまったためだ。
代わりに、嫌が応にも目に入ってくる細長い手脚を誇る異様な体躯。
「オホホホホ、ご機嫌よう!」
ヴィーを隅っこの方に寄せて躍り出た、レムナント・ノアその人である。
クォーターパイプに立つアンマリスへと挑戦的な視線を投げかけ、高らかに笑う。
「ほう、そなた……」
アンマリスが関心を引かれたのは、何も190cmを上回る骨ばった体から繰り出されるお嬢様言葉が強烈だったからではない。レムナントの手には、バイオリンがあった。
つまりこれより始まるのは、ボーカルとバイオリンによるフリースタイルバトル!
「ラ(↑)ラ(↓)ラ(↑)〜、麗しぃ(↑)のォ(→)〜♪」
再開したアンマリスの歌声……と呼ぶことが音楽への侮辱になりそうな、音程という音程を片っ端から屠殺するかのような絶叫。
対して、レムナントはといえば。
「ンフフフ〜♪」
しなやかな指先で弓を手繰り、たおやかに弦を撫ぜるたび。
——ギィィァーキコギギギガガガゴォォォーボォォォー!!!
……黒板を全力で引っ掻くかのような音が、パーク内に響き渡る。
ここに、壊滅的な歌と殲滅的な演奏による、悪夢のセッションが幕を開けた——。
「そなた(↑)の〜(⬇️↘➡️P)、あー(↘⬅️↙⬇️↘➡️↙P)いィ〜(↑)♪」
超必殺技クラスとでも呼ぶべき、アンマリスの、歌とは呼びたくない何か。
「わたくし漲って参りましたわ!!」
合わせてますますボルテージを上げてゆく、レムナントの、演奏から程遠い何か。
ある意味ではあまりに完璧に調和した、両者のセッションは。
「……と見せかけてそぉいっ!!」
レムナントによる不意打ち気味のバイオリン投擲によって、終わりを告げた。
「あ痛ぁ!!」
スコーンとこれまでで一番綺麗な音を立てて、アンマリスにバイオリンが直撃する。
「ええい何をするか貴様、これからがラスサビというところに!」
「オホホホ、テレビウムチャンを苦しめる騒音公害を止めただけでしてよ!」
「な、何だと!? 私はちゃんとできている! 下手くそはそなたの方であろう!」
「あら、やるつもりですの!?」
「上等だ、この下郎め!」
「下郎でなく淑女ですわ!!」
「「キィィィィッ!!」」
歯を軋ませるかのような二人の甲高い声が、やけに美しいハーモニーを生んだ。
ちょっと隅の方に追いやったヴィーも光を放ちながらひきつけを起こしている。死にかけの虫のような有様をあまり長時間放っておくわけにもいかないだろう。
そして、数分間に渡るキャットファイトの末。
「ハア、ハア……よかろう……ならば次は、ダンスバトルだ!」
「オ、オホホホ……! 良くってよ! 一曲ご一緒して差し上げますわ!」
「これより始まる舞踏会……田舎者が恥をかいても知らぬぞ?」
「あなたこそ……わたくしのステップにハンケチを噛む準備をしておきなさいな」
音楽は国境を越えると言うが……時には世界をも越え、人を繋ぐらしい。
聞く者の聴力を破壊するかの如き地獄のセッションは、いつしか両者の間に女の友情らしきものを生んでいた。
アンマリスが剣を、応えるようにレムナントがバイオリンの弓を得物として構える。
鼓膜を滅ぼす狂騒は、剣舞となれば麗麗たる協奏へと変じてゆくのであった。
成功
🔵🔵🔴
坂上・貞信
やれやれ、知った声もする上に、
いつにも増して騒がしいと思えば……
聴衆の表情も見ず、独りよがりな歌が
ここまで聞くに堪えないとはねえ。
僕の知っているロックンローラーは、
観客たちと共に歌うようにしていた。
そうあるべきとは言わないが、
君の歌に愛はない。
……知らないけど、多分ね。
さて、歌には聞こえどもそこは歌。
最低限の敬意を払って銃声でかき消す
野暮な真似は止しておこう。
【属性攻撃】で氷の壁を張り、
少しは歌声を……緩和出来たら良いねえ。
ヴィーくん大丈夫かな。
稼いだ時間で姫君のブレスの合間を【見切り】、
そこに合わせて剣刃一閃を打ち込む。
次の公演は変わった君を見たいものだね。
「知った声もする上に、いつにも増して騒がしいと思えば」
駆けつけた坂上・貞信(バーチャル無能軍人・f00110)が、再びステージたるクォーターパイプ上で歌唱を始めたアンマリス・リアルハートを見上げる。
バーチャルキャラクターとして、キマイラフューチャーには馴染みがある。
その故か、日常がろくでもない騒音に侵される様に内心で眉をひそめる貞信。
拍手も歓声も飛ばぬ中、堂々と二曲目に突入する図太さだけは賞賛に値するが。
「ロックと呼ぶにも、人の心への寄り添いが足りないね」
大騒音の中でも、しかし貞信は涼しい笑みを浮かべた相貌を崩さない。
彼にとって歌とは、音楽とは、少なからず他者の心を動かすものという認識なれば。
心を動かさない独りよがりな歌によって、どうして表情を変えられよう。
「君の歌には、愛がない。……たぶんね」
愛なるものを知らぬ、〝設定〟された生命。それでも、重ねた学習から、周囲の人々との関わりで得た知識から類推することは可能だ。
耳をつんざく大音声の中でも、目を閉じてみれば、一人の少女の演奏が耳朶に響く。
必ずしも上手とは言い切れない歌とギター。
しかし演奏者自身ならず、それを聴く周囲の人々にも、笑顔が満ちる光景。
「それじゃあ、ロックンロールとゆこうか」
どれほど聞くに堪えないものであろうが、歌は歌。銃声でかき消すのは無粋だ。
腰に差した刀を抜き放てば、刃は玲瓏に歌い、軌跡が氷の壁を作り出す。
もはや意識の有無も不明だが、倒れたままモニターから光を放ち続けるヴィーを少しでもあの音波攻撃から守らんとしてのものだ。
「おや、私のステージを美しく飾り立てようというわけか? 殊勝な心がけだ!」
都合の良い解釈をしながら、アンマリスの歌がサビへと突入してゆく。
極めてアップテンポ……であると判断するのも困難なほど音程が狂いに狂っているが、とにかく激しい曲調なのは間違いない。ならば、そこに隙が生まれる。
氷壁の後ろで呼吸を整える貞信の狙いは、そこだ。
流石に敵はオブリビオン。表情に表れないとはいえ、ぴりぴりと肌を刺激する音の波も激しい耳鳴りも、着実に貞信を蝕んでいる。
聴力のステータスはもう1ヘルツの音も拾いたくないと悲鳴をあげているが、わずかな間隙を見出すためにこそ、いっそう耳を澄ませなければならない。
(……ああ、本当に)
どれほど破壊的な歌声であれ……研ぎ澄ました貞信の感覚は、理解する。
(本当に君は、楽しんで歌っているんだね)
きっと彼女に悪意はないのだ。
誰にもブレーキをかけられないまま、自信だけが肥大化してしまった。
他者を介在させないままに、心を育んでしまった。
もし彼女が……自分がそうできたように、多くの人々との交友を持てたなら。
(……なんて。過去の存在に対して考えるのは、詩人すぎるかな)
もとよりすべて、経験則からの推測。薄く笑ったまま、再び刀に手をかけ。
ただ一瞬の静寂を……ブレス音を聞き逃すことなく、貞信が薄氷より躍り出る。
まさしく一呼吸する間に、ステージ上のアンマリスへ肉薄。
「おい、ステージへの侵入はご法度……!」
「申し訳ない、観客に急患が出てしまったからね」
やはり涼しい顔で告げると共に、【剣刃一閃】。
「今日の公演は、お開きだ」
アンマリスが身構えるより前に、透き通った音でもって、必殺の一刀が踊る。
それはアンマリスでさえ再度の呼吸を……歌を忘れてしまうほどの、瞬く間の旋律。
歯を食いしばるでも憎々しげに睨むでもなく、唖然としてアンマリスが膝をつく。
「次の公演は、変わった君を見たいものだね」
泰然たる態度を保ったまま、貞信の静かな激励が、静かに空気を震わせた。
成功
🔵🔵🔴
レフティ・リトルキャット
※詠唱省略・アドリブOK
【肉球で語る】
……にゃっ?!今一瞬飛んでたのにゃ…!
ここは初代様の力でいけるかにゃあ?
髭感知で動きを見切り、バックダンサー役を演じたりして近づき
再び歌い出そうとする瞬間に肉球タッチ、初代様の力、一分間相当の会話を一瞬で済ませる念話で一分間歌った気分にさせて、一分巻くのにゃ!(音声スキップ)
上手くいったなら精神爆破の副作用で肉球中毒者に変わってしまうぐらいに、どんどん肉球プッシュで歌をスキップしていくにゃよ!
……念話の形でもレフティは聞き続けることになるけど、生よりも念話の方がまだ被害が少ないにゃよね?きっと…だといいにゃあ
猟兵たちとの戦いを経て、いよいよアンマリスの歌にも疲れが表出してきた。
一方、見方を変えるとただでさえ無惨な歌声が、疲れによる掠れなどによっていっそう調子外れで破滅的なものになってもいるのだが。
そして優れた聴覚故か、手酷く被害を受けていた毛玉がここにもひとり。
「……にゃっ!?」
子猫に姿を変えたまま気絶しそうになっていたレフティ・リトルキャットが、すんでのところで意識を取り戻す。
(あ、危ないところだったのにゃ……あの歌、放っておくわけにはいかないにゃ!)
見ればヴィーのモニターはいよいよもって、近くこともままならないほど激しい光をあたりに投げかけるようになっている。時間経過につれて強くなる発光。何かが起きようとしているのは間違いない。ならば……あの少年を、守りきらねば。
ダメージによってアンマリスもハイになっているのか、接近そのものには手間取ることはなかった。……騒音が近づき、耳への負担が増えるという障害を除けば。
どうやってリズムを取ればいいのかも分からない音程爆発四散ミュージックの中で、それでもめいっぱいライブを楽しむ子猫を装いながらアンマリスの足元へ跳ぶ。
いよいよもって真上から響き渡る音の暴力に耳と体がひしゃげそうになる。
(初代様……力をお貸しくださいにゃ!)
だが、レフティの背には、内には、先祖代々の力を受け継いだ者の責がある。
こんなところで倒れるつもりなど、毛の先ほどもない。
歌をやめろと言って通じる相手ではない。ならば……【肉球で語る】のみ!
ぺたり。
前脚を伸ばし、アンマリスの足元に肉球で触れる。
言葉にすれば、それだけの行動だ。
だがレフティの肉球が対象に触れた途端、両者は周囲に流れる時間から断絶される。
わずか一瞬のうちに約1分間の念話を行いながら、相手の精神を爆破させる強烈なユーベルコード……それが【肉球で語る】ことの正体。
……だが、事この場においては、敵との念話は諸刃の剣。
両者の声だけが響く精神世界での対話ということは、レフティはただひとり、至近距離で丸1分間アンマリスの歌の直撃を受け続けるも同然。
覚悟の上なれど、いざ念話が発動するや、音の暴風雨に全身の毛が逆立ちそうになる。
びりびりと鼓膜が張り裂けてゆくような感覚に襲われてゆくのがわかる。
暴力的な音圧の歌詞だけは切ないラブソングに、涙の代わりに冷や汗が全身を伝う。
精神世界であっても、相応の痛みが襲い来ることに間違いはない。
たった1分が、数十分にも引き延ばされるかのような苦痛。
……やがて、念話の時間が切れ、ついに解放される時が……。
(——まだにゃ!)
訪れた瞬間、再度肉球でもってアンマリスの足元に触れる。
それこそ観客たるレフティの心すら破壊しそうな地獄のワンマンライブ特等席へ、臆せず何度でも飛び込んでゆく。
現実ではものの数秒だが、繰り返しの肉球対話によって精神世界では幾分もが流れる。
つまりこれは〝巻き〟だ。
体感で数分間に渡って歌い続けた感覚を与えることによって、歌をスキップさせる。
周囲の被害を最小限に抑えつつ、敵の精神だけを削りきらんとしているのだ。
並の精神力の持ち主なら、精神爆破の副作用によってとうに肉球中毒者へと変じている……それでもまだ倒れないのは、アンマリスの矜持か。
5度目か6度目かの念話を終え、レフティの精神も磨耗しきった頃。
……歌が、止まった。
白く美しい毛並みをぐっしょりと汗で濡らしながら、レフティが顔をあげる。
どこか澄んだ目をしたまま、力なく項垂れるアンマリスの顔が、そこにあった。
「そなた」
掠れ切った声が、レフティの耳に届く。
「……心地良い。ひとときであったぞ」
それは、精神を破壊し尽くされたがゆえの認識の混乱だったのだろうか。
或いは最後までアンマリスの歌を聴き切ったレフティへの、心よりの感謝だろうか。
「最後に、肉球を……」
真実は知れず。
白い子猫へと指先を伸ばしたのを最期に、アンマリスは泡となり、消えて行った。
だが、どうあれ。
(……こっちはもう、こりごりだけどにゃ……)
レフティは己の身も心も挺することで、すべてを守り切ったのだ。
ようやくもって、日向ぼっこの一つでもしながら憩うことができる。
ぐったりと倒れ込んで後方を見やれば、いつの間にかヴィーのモニターから放たれる光も収まり切っており、モニターに映った鍵のマークも消えていた。
一体あの現象は……この一連の事件は、何だったのだろうか?
……そんな疑問符が浮かんだ瞬間のことであった。
アンマリスが歌っていたクォーターパイプから。
パーク内に設置されたレール、ボウル、コース、あらゆる建造物から。
あまつさえ、遠方のビルからさえも。
まるで建物たち自身が語りかけてきているかのように、声が響き出したのは。
●
『システム・フラワーズより緊急救援要請』
『全自動物資供給機構『システム・フラワーズ』に、侵入者あり』
『テレビウム・ロックの解除数が多ければ多いほど、開放されるメンテナンスルートは増加する。至急の救援を請う』
『システム・フラワーズより緊急救援要請——』
大成功
🔵🔵🔵
最終結果:成功
完成日:2019年04月26日
宿敵
『アンマリス・リアルハート』
を撃破!
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