愛と愉悦と黒焔と
#アルダワ魔法学園
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●胎動
『グルルル……ッ』
迷宮の奥。やたら天井の高いフロアに唸り声が響いている。
唸り声の主が大きな翼を広げると、漆黒の焔がフロアに広がった。
●厄介な迷宮
「アルダワの地下迷宮で厄介なルートが見つかってね。あそこの学生さん達じゃ、色んな意味で手に負えそうにないから、皆で攻略して来て欲しい」
被ったままのフードの上から頭をかく仕草をしながら、ルシル・フューラー(ノーザンエルフ・f03676)は集まった猟兵達に話を切り出した。
「今回の迷宮は、何と言うか面倒なフロアが続いてる」
まず第一のフロア。
「壁も天井も氷に覆われた極寒の空間だよ。猟兵なら何とか耐えられるけれど、学生達じゃ長居したら凍死しかねない」
冷気に満ちたフロアの気温は常に氷点下。
なんならバナナで釘が打てるようになるレベルだ。
「このフロア、扉も鍵穴もない。あるのは、入り口から正面の壁の中央に背中をつけるように佇んでいる氷の女神像、唯一つ」
この女神像が、鍵となる。
「女神像に愛を囁き続けるんだ」
――はい?
「えーと、壁ドンって言うのかい? こう、壁に手をつけて壁に背中をつけた相手に向かって愛を囁く。そう言うシチュエーションの位置関係らしいんだよね?」
わざわざ、部屋の中央ではなく壁の中央に女神像がある理由がそれだ。
「兎に角その『壁ドン』って感じで女神像に愛を囁けば、フロアの温度が標準的な気温に段々と近づいて、氷も溶けて次のフロアへの道が出てくるって寸法だ」
とは言え、最初の1人2人は凍死しかねない状況で愛を囁くの確定。
そんなの猟兵にしか出来ないお仕事です。
「1人2人の囁きじゃ、女神様は満足してくれない。年齢や性別や種族の差なんてものは気にしないみたいだから、皆で頑張って?」
女神の心は広いようで。
だけど愛には飢えてます。
「で、その次のフロアだけどね」
何か言いたげな猟兵達の視線をさらっと流して、ルシルは話を続ける。
「次のフロアは、寒いとか暑いとかはない。普通の空間だよ」
このフロアでは、扉も最初から見えている。
「扉は堅く閉ざされている上に鍵穴ないけど。その前に耳の石像がある」
耳。と言う事は――。
「耳の石像が求める話をして、喜ばせる。それが、先へ進む条件だよ」
またまた口の出番。
「耳の像がどんな言葉を望むかは、毎回変わる。今度は話題も様々だ。都度、台座にあるプレートに文字が浮かび出てくるから、それを確認して欲しい」
恋バナを語らされるかもしれないし、何か物語、或いは過去の話かもしれない。
「ちなみに予知で見えたのだと、『ここでボケて』とか『失敗談プリーズ』とか『ダジャレ5つ』とか――結構、ろくでもない感じのもちらほら見えたよ」
本当に色々あるようだ。
「まあ、そこは寒くないし時間制限もない。じっくり考えることも出来るから、口を上手く使って、頑張って?」
耳は愉悦に飢えている。
「それで、氷の女神と愉悦の耳を抜けた先にはね。竜がいる」
ん?
「黒焔魔竜・ヴェログルス――かつて魔王の元で殺戮を繰り返したという、残忍かつ狡猾な黒竜だ。闇と炎の力を持つ黒焔を操る強敵だよ」
あれ?
もしかして、ボスはガチなやつ?
「そうだよ? だから最初に言ったじゃないか。
『学生さん達じゃ、色んな意味で手に負えそうにない』って」
事も無げに言うと、ルシルは転送の準備に入るのだった。
泰月
泰月(たいげつ)です。
目を通して頂き、ありがとうございます。
久し振りにアルダワ迷宮のシナリオです。
今回は、戦闘は3章のみ。
1、2章は変り種のダンジョンフロアに挑んでいただきます。
1章は、一言で言うなら、壁ドン大会。
極寒のフロアで、女神像に愛を囁くだけのお仕事。
年齢性別種族ノープロブレム。れっつ壁ドン。
ブラック珈琲片手にお待ちしております。
あ、身長小さい方には足場もありますから。
2章は、愉悦を喜ぶ耳の像を喜ばすお仕事。
詳しくは章開始時の導入に記載しますが、
『耳像が望む言葉』の候補を、こちらで幾つか提示します。
その中から選んで頂いても構いませんし、
『耳像が望む言葉』をプレイングで自由に指定して頂いても構いません。
『耳像の望みに対する言葉』が重要です。
3章は、ボス戦です。
普通に強敵です。頑張ってください。
此処だけ空気が違う? 仕方がない、出たんだから。
ではでは、よろしければご参加下さい。
第1章 冒険
『女神像に愛を捧げよ』
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POW : 情熱的に愛をささやく
SPD : 甘く優しく愛をささやく
WIZ : クールに愛をささやく
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●極寒の壁ドン会場
吐く息が白くなる。
サクリ、と砂を踏んだような足音が鳴る。
アルダワの地下迷宮の一角に転移した猟兵達が踏み込んだフロアの床は、薄らと白く染まっていた。
霜だ。空気中の水分が凍って付着したのだろう。
猟兵でも、指先から体が冷えていく。
例えるなら、強力な冷凍庫状態。吹雪いてないから、雪山に比べればナンボかマシだろう。
そんな極寒の空間の一角。壁際に、女神像は佇んでいた。
霜で薄らと白くなりながらも、壁に背中を預けている。
やはり霜が降りている壁を良く見ると、女神像の左右両脇には掌のマークが描かれていた。
ここに壁ドンしてね、と言う事だろう。
壁、冷たそうだなぁ。
とにかく、女神像は待っている。
甘く熱い、愛を囁かれるその時を。
ライヴァルト・ナトゥア
【WIZ】
壁ドンして愛をささやけとはまた、彼女いない歴イコール年齢の俺になんて無茶ぶりをするのか
(女神像の場所へ。足取りは、何気に重い)
感覚としては妹と接する様な感じでいいのだろうか。そもそも俺に女心を分かれというのがのが無理な話だしね
(特にひねりはなく、ちょっと強めに壁ドン。【勇気】を出して)
本当に、お前は俺がいないとてんでダメだな。こんなこともできないんじゃ、先が思いやられるよ
けど、それでもいい。俺がずっとそばにいてやるから。心配するな。どこにも行ったりはしないさ
お前を助けられるのは、俺だけだ
レイ・キャスケット
恋愛経験のないボクだけど今拠点にしているホテルでちょうど恋愛関係のお話で盛り上がっていた所だからね、実にタイムリーだよ
その中でも親友と考えたとびきりの殺し文句が!(ドン
「君の瞳は、夜の海に浮かぶイカ釣り船のようだ…」
……あれ、気のせいかなさっきより少し寒くなったような?
(尚本人は≪付与の羽衣≫の効果により【氷結耐性】が強化されているのでドラゴンのアイスブレスにも耐えれるぞ!)
お気に召さなかったかな?じゃ、じゃぁ次はこれだ!
「貴女の微笑みはあの空に強く輝くよくわかんない星のようだ・・・!」
えっ、これもダメ?おかしいな、ホテルでは(一部の人に)大絶賛だったのに
「BBA結婚してくれ!」
※アドリブ歓迎
レイナ・オトゥール
ふわーー!?かーなーり寒いですね!?
【精霊竜召喚】で炎のドラゴンさんを呼んで、身体をあっためるようにパワーをもらいますよー!
さて、女神像さんに愛を囁くんですね!
私、レイナ・オトゥールも女子だからして、こう、男の子と女の子がこう、ちゃいちゃする本なども、読まなくもないのですよ?
いきます!
(初めは両手で逃がさない様に壁ドン!)
ふふ、可愛い子猫ちゃん?もう逃がさないよ?
ああ、この近さなら君の可愛らしい顔が、その愛らしい瞳と唇が、よく見えるね
(体を寄せながら、片手だけを壁から離し、女神像の頬を撫で、そして顎の方まで持って行き)
あぁ、冷たくなってしまっているね
ボクの愛の炎ならきっと君を温めてあげれれるよ
矢来・夕立
なるほど。女神像を落とせばいいわけですよね。お任せください。
壁ドン。…て、アレですよね?
壁際に対象を追い詰めて、頭―すなわち人体の急所、その横スレスレを狙い、拳ないし腕で打撃を加える。という。精神的な拷問。
このオレの拷問技術がアルダワの魔術機構にどの程度通じ…え? 愛を囁くやつ?
…。イイですけど、色んな意味で寒くなっちゃうな…わかりました。善処します。
【神業・否無】、凍てついた心を《暗殺》。
――オレのものになってくださいよ。イヤなんて言わせませんからね。
年下(推定)の美少年、クール系後輩の強引な愛の言葉。という設定で攻めました。
夢女(神)がコイツを真正面から受け止めて無事で済むと思うなよ。
春霞・遙
女性に愛を囁くのは高校のミュージカル部で男役やって以来なのでちょっと恥ずかしいな。
【悪霊祓いのまじない】に使うハシバミの花言葉は『和解』『交歓』。女性への贈り物としてはいまいちかもしれないけれど、場を温めるには悪くないんじゃないかな。
壁につくのが片手で良いならもう片手を女神像の頬に添えて囁きます。「優しく」「誘惑」する感じでしょうか?
凍りついた貴女(の心)を融かしたい。俯いていないで、麗しいその顔を見せて。
ああ、なんて罪な人だ、貴女の瞳に見つめられたら私はもう逃れられない。
終わったら、他の猟兵の方に見られていたことを改めて認識して、部屋の隅っこに逃げます。恥ずかしくて顔から火が出そう……。
三嶋・友
壁ドンかぁ
ここは日々培っている二次元知識を生かす時!
でも私がやってる時は覗かないでね!?
なんか恥ずかしいし!
…他の人のは見たいけど(ぼそ)
さて、なりきって頑張るとしますか!私は…イケメン!(カッ!とガ〇スの仮面っぽく)
まずは軽く片手をついて瞳を見つめての壁ドンから
…綺麗だね
この冷気は、愛に飢えた君の心?
私が溶かしてあげたいけど…
…誰の愛でも良いなんて、いけない女神様だね?(空いた手で唇そっと抑え)
いいよ、愛してあげる
でも(ドン、ともう片手もついて)
その瞳に、私以外を写すのはもう許さない
私だけを見て、私だけの愛で満たされて?(顔を近づけて耳元で囁き
…うん、無機物相手でも結構恥ずかしいね、これ!?
榎・うさみっち
しゃむい~~~!
耳が凍っちゃう~~!(お耳を掴みながら)
俺のラブパワーでこの氷を溶かせと!任せろ!
足場?ノンノン、俺には必要ないぜ!
✨みわくのうさみっちジェントルメン発動✨
爆発的に増大した戦闘能力により
この寒さへの耐性も高まっているはずだ
多分、きっと
こんな所で一人でどうしたんだお嬢さん
お前が寂しそうにしているから、ほら
お天道様だってこんなに悲しそうだ
逆にお前が笑えば空も笑うってことだ
さぁ、俺に素敵な笑顔を見せてくれ
お前の心の氷が溶けるまで俺がずっと傍にいるから
像相手に一体何をしているんだ俺は
とふと冷静になってしまいそうになるが
紳士たるもの年齢や性別や種族や有機物や無機物で差別はしないんだぜ…!
萩乃谷・硯
まぁ、私などが壁ドンしても良いんですか?(嬉々)
もこもこベンチコートなどを着込みまして、
万全に準備して参りましょうか
手袋だけは我慢します
壁叩く音がこもってしまったら、壁ドンとは言えませんでしょう?
あまり身長がありませんので、
踏み台など使いつつ、頑張ってみましょうか
両手で壁をーーバン!
…あら?意外とドンという音を出すのは難しいですね
壁バンで恐縮です、でも続けます、…女神様
こんな冷えきった壁に身を預けて、霜にまみれて
永久凍土の迷宮に、貴女は囚われなのですね…
今すぐ貴女を、拐っていけたらいいのに…(せつなげ)
だって一緒に此処を出られたら、
温かくて美味しいほかほかごはんでおもてなしできるじゃないですか
荒・烏鵠
わはは、考えたヤツはバカだな!ファンになっちまいそうだ。
まず外套をしっかり着込んで、神宴扇で火の気を操って身に纏い、折り紙で折った手袋をユベコで本物に変えて手に嵌めて。狐の手袋……イヤ今はそれカンケーねーやな。
さーて。
やあお嬢さん、初めまして。こんな寒い所に一人で居るの?誰か大切な人を待っているのかい?それともオレを待っていてくれたのかな。だったらスゲー嬉しいな!
にしてもお嬢さんキレイだね!あ、もしかして言われ慣れてた?やっぱりね!でも、こんな近くで見ても肌とかすべすべ、まさに神の造形、奇跡の美ってヤツだ!
あ、もう時間。たった一時とはいえ、お嬢さんを独り占めできて幸せだったよ。じゃ、またね!
真守・有栖
寒いわね。
…………とっっっても寒いわね!?
いいわ。見てなさい……!
この艶狼ある私が壁どん……?とやらで、女神の心(はぁと)をがぶり!と捉えてあげるんだから……!
壁にどん!と両手を付き、いざ尋常に勝負よ……!
めがみさま、めがみさま
にーらめっこしーましょっ
わーらうとまけよっ
あっぷっぷ……!
懇親の顔芸でもくすりともしてくれないなんて。
全く、つれない女だこと!
もう、そんなに愛の言葉を囁いて欲しいのね?
いいわ。好き好き好き好き好き……
ここで問題よ!
好きの反対ってなーんだ?
嫌い?違うわ……
ぐいっと顔を寄せ、
正解は……接吻(きす)よ。
ほっぺにちゅー。
……決まったわ。
これで氷の女神もめろめろでわふーん!よっ
稿・綴子
【ニュイくんと】
※アドリブ歓迎
ロシアぽいモフモフ完全装備
そんなに寂しいか女神とやら
吾輩の熱い愛の囁きでこれから融かしてやろうぞ
さぁて、壁ドン!(もふっ
もう1回である(もふっ
手袋もふもふ
……
ニュイくん先に壁ドンして氷を剥がしてくれ給え
手をついたら皮がめくれて絶対痛いぞ?
吾輩回復などできぬ!
人形にドンさせ吹き替え
「嗚呼、玻璃色のその身全て奪ってやろうか」
人形の指を顎に
…いま指が凍ったか
「吾輩の体が奪われるのか
良いだろう永久に傍に――」
もふっがしまらないので手袋をぽいっして思い切り壁ドン
ニュイくんと左右から壁ドン
皮が剝けても泣かない
チョコをあぐあぐ食べ女神を見つめる
まぁ硬いであろう像であるからしてな
霧島・ニュイ
【綴子ちゃんと】
*アドリブ歓迎
カジュアル洋服にコート・革手袋
中にはカイロをベタベタベタ
綴子ちゃんの様子を見て
……ウール製手袋かな?
Σえー!?それだけもふもふ完全装備の手袋着用で駄目なの!?
僕だって回復できないよー!!
人形の指がパリッと言ったの聞いて、あ、リサちゃん出さなくて良かったーと思いながら
ぱちぱち拍手
やっぱり口説くなら優しく甘く
当社比2倍の甘さで
「君の美しさに僕は耐え切れないよ…ずっと傍にいて、温めて?」
寒いけど
いいから温かくしてほしいけど
あと、口から砂糖吐きそうだから、チョコ食べて摂取するね
本音を言うなら、なんで良い体してるのに硬いんだろう女神様
そして左右から壁ド……冷たい!!!
鴇沢・哉太
零下の世界の女神様、か
そんなところでひとりだと寂しいよね
だから俺が会いに行ってあげよう
気温低くなりすぎると動き鈍るし
防寒着とかある程度の対策は用意しておこう
女神様に集中出来るようにしないとね
…愛に飢えているの?
そんなに綺麗なのに不思議に思うよ
だって君は人々に愛されたからこそ
そんな姿になったんだろうに
それでも足りない?
いけない子だな
くすり笑みを零して
壁にとん、と手をつこう
やわらかく包み込むように距離を詰めて
視線をその整った顔貌へと注ぐ
寒いままだと凍えてしまうよ
触れていなければかじかんでしまう
それともそれを口実に俺とくっついていたい?
軽口叩いて眦綻ばせる
それならそれで要望を叶えよう
君の願い通りにね
●最初はだあれ
「ふわーー!?」
「しゃむい~~~!」
霜に覆われ凍りついたフロアに響き渡る、レイナ・オトゥール(竜と共に・f11986)と榎・うさみっち(うさみっちゆたんぽは世界を救う・f01902)の声。
「寒いわね」
「そうですねー! かーなーり寒いですね!?」
霜を踏みしめ仁王立ちしたまま頷く真守・有栖(月喰の巫女・f15177)に、レイナは声を大きく返して頷くと、竜を喚ぶ言葉を口ずさむ。
「自然を司りし偉大なる竜の王に願い乞う。我が魔力と想いを糧に御身の炎の力の欠片を貸し与え賜え――現出せよ精霊竜」
レイナが竜の王に願った属性は炎。応えて現れたのは、炎を纏った竜。
「はふぅ……」
その炎の力を直接受け取れたのは、当然、召喚者たるレイナだけだったが。
現出した炎の竜はそこにいるだけで暖に充分な存在。一部の猟兵達が、ずさっと炎の竜の周りに集まったのも、無理からぬ事だろう。
「た、助かる! 耳が凍っちゃうかと思ったぜ!」
「…………とっっっても寒いわね!?」
あんまり防寒に着込んでこなかったうさみっちと、かなり軽装のままで唇紫にしている有栖はいわんや。
「綴子ちゃん、もう少し寄らない? すごいもふもふ着込んでるよね。それはウール製手袋かな? そんなに寒いかな?」
「仕方ないだろう。寒いんだ。ニュイ君こそ、何でそんなカジュアルなコートで平気なんだい? 怪しいね?」
北国かなって言うくらい、もふもふのファーがもこもこな防寒服に身を包んだ稿・綴子(奇譚蒐集・f13141)と、カジュアルな服の上にコート1枚と見せかけて実は中にカイロをベタベタ装備している霧島・ニュイ(霧雲・f12029)が、ポジション争いを繰り広げている。
「気温低くなりすぎると動き鈍るし、女神様に集中出来るようにしないとね」
それなりの防寒着を着込んできている鴇沢・哉太(ルルミナ・f02480)も、微笑を浮かべてちゃっかり火に当たっていた。バーチャルだって寒いもんは寒いのか。
「手袋だけは我慢したので、この暖かさはありがたいですね……」
萩乃谷・硯(心濯・f09734)も、竜の前にちょこんとしゃがみこんで、手袋もしていない手を翳している。
「まあ、こりゃ並大抵の寒さじゃねえからなぁ」
ほとんど焚き火に当たってるみたいになっている光景を笑って眺める荒・烏鵠(古い狐・f14500)の手には、古びた竹扇が広がっていた。
「オレも神宴扇の火の気を操ってないと、外套だけじゃキツイもんなぁ」
烏鵠の手元で仄かな香を立てる扇は、一見では判らぬだろうが五行の力を操る仙具。
名を五行神宴扇と言う。
「ドラゴンさん……しばらく、そのままお願いします」
そんな皆の様子を見たレイナの言葉に、炎竜は無言で首を縦に振った。
さて、そんなほっこり焚き火タイムを味わいに迷宮に来たわけではない。
此処は日常パートではない。冒険パートだ。
「壁ドンかぁ……」
ちゃっかり炎の熱に当たりながら、三嶋・友(孤蝶ノ騎士・f00546)は視線を正面の壁に向けた。そこには、最初からずっと女神像が佇んでいる。
「壁ドンして愛をささやけとはまた、なんて無茶ぶりを……」
ライヴァルト・ナトゥア(巫女の護人・f00051)も、自信がないのか気が重たそうにそちらを見やっていた。
(「日々培っている二次元知識を生かす時! ……とは思うけど、トップバッターはやっぱ注目されそうだよね……」)
(「彼女いない歴イコール年齢の俺にどうしろと……!?」)
友もライヴァルトも、それぞれの理由で最初の1人になれずにいる。
「あの女神像を落とせばいいわけですよね。お任せください」
そんな中、矢来・夕立(影・f14904)は事も無げに淡々と言って、サクリと霜を踏みしめ一歩踏み出す。
「……自信があるんだな?」
「ええ、まあ。壁ドン……て、アレですよね?」
背中からかかったライヴァルトの声に、夕立は足を止めて振り向いて。
「壁際に対象を追い詰めて、頭――すなわち人体の急所、その横スレスレを狙って、拳ないし腕で打撃を加えるという、精神的な拷問」
夕立の口から、なんかすっごい独創的な壁ドンの解釈が返って来た。
「既に壁際に追い詰める段階は整っている。あとは、このオレの拷問技術がアルダワの魔術機構にどの程度通じ――はい?」
ほとんど全員から『んん!?』と少なからず驚いた視線を向けられれば、他人と視線を合わせない夕立でも気づくというもの。
「ええと、壁ドンって、女性に愛を囁く事だよ?」
「え? 愛を囁くやつ?」
春霞・遙(子供のお医者さん・f09880)のツッコミに、夕立が眼鏡の奥で赤い瞳を瞬かせる。
「はあ。イイですけど、色んな意味で寒くなっちゃいますよ」
「私だって、女性に愛を囁くのは高校のミュージカル部で男役やって以来です」
「……俺も自信はさっぱりだ」
ぼやく夕立に、遙とライヴァルトも頷いた。
「あれ? 皆、意外と自信なさげ?」
3人の様子を見て、レイ・キャスケット(一家に一台便利なレイちゃん・f09183)が女神像に向き直る。
「それじゃ、最初に行かせてもらおうかな。ボクも恋愛経験ないんだけど。拠点にしているホテルで、ちょうど恋愛関係のお話で盛り上がっていた所だからね」
今回のフロアは、実にタイムリー。
レイ自身、そう思っていたのだ。
●心が広い言ってもね――レイ
――集めて集めてその身に纏え。
魔力で再現した吹雪を、レイは羽衣と変えてその身に纏う。
「これで冷気対策もよし。親友と考えた、とびきりの殺し文句を聞かせるよ!」
女神像の前に立ったレイは、霜がびっしりの壁に掌をドンッ!
掌に伝わる冷たさを跳ね除け、冷たい空気を吸い込んで――。
「君の瞳は、夜の海に浮かぶイカ釣り船のようだ……」
ヒュゴウッ!
レイの渾身の殺し文句に対する応えは、更に冷たい風。
「……あれ? 気のせいかな? さっきより少し寒くなったような?」
当の本人は高めた氷結耐性でけろっとしてるが、他の猟兵達は寒そうにしている。
「お気に召さなかったかな?」
だが、レイだって殺し文句を1つしか考えてないわけじゃない。
次はこれだ!と、再び冷たい空気を吸い込んで――。
「貴女の微笑みはあの空に強く輝く、よくわかんない星のようだ……!」
ビュォォォッ!
フロアは吹雪に包まれた。
「えっ、これもダメ? おかしいな、ホテルでは大絶賛だったのに」
その大絶賛、一部の人にはって付きますよね!?
『よくわかんない星って……』
「うーん……よし、こうなったらもっと直球で!」
謎の思念のようなものを受けたレイは、すぐに次の手を思いついた。
熟考してきた殺し文句が通じなかったからと言って、引き下がるわけには行かない。何より下げてしまった気温、何とかしなければ。
「BBAけっ――ごっ!?」
『誰がBBAよ、誰が!』
レイが言いかけた瞬間、先の思念のようなものがフロアに響き渡って、同時に吹雪に混じって飛んできた拳大の雪の塊がレイの後頭部に直撃した。
氷という名の物理攻撃が、レイを一撃で叩き伏せる。
正に――女神の鉄拳。
BBAは、その逆鱗に触れてしまったのだろう。
女性に年齢の話題は禁句です。
●いざ尋常に勝負――有栖
「み、みみ、見てなさい……!」
吹雪くフロアの中に響く、有栖の声。
「こ、この艶狼ある私が、壁どん……?とやらで、女神の心(はぁと)をがぶり!と捉えてあげるんだから……!」
がぶりと捉えないと、そろそろ凍えそう。
そんな本音はしれっと隠して、有栖が女神像の前に進む。
そして、両手をどんっ!と壁について――。
「めがみさま、めがみさま。にーらめっこしーましょっ♪
わーらうとまけよっ♪ あっぷっぷ……!」
この時、有栖は美少女感台無しなとても文章に起こせない変顔を披露していたのだが、吹雪いていて見えないのが残念である。
と言うか、どうしてそうなった?
「懇親の顔芸でも、くすりともしてくれないなんて。全く、つれない女――」
『悪かったね!』
女神の鉄拳、再び。
●熱く優しく甘く当社比2倍で――綴子とニュイ
「よし、行こうかニュイ君!」
「え!? ここで!?」
「ここで出る方が面白かろう!」
「あ、うん。まあそれはね……」
悪化した状況の何かが刺さった綴子がニュイをぐいぐいと引っ張って、2人が女神像の前へと向かっていく。
そう言えば、壁ドンは1人ずつでなければならないというルールはなかった。
「そんなに寂しいか女神とやら。吾輩の熱い愛の囁きで、これから融かしてやろうぞ」
『……』
告げても沈黙を守る女神像を綴子は見つめて――壁に、もふっ。
「……もう1回である!」
壁に手袋が、もふっ。
「嗚呼……やはり、手袋がもこもこだと、音が篭ってしまいますよね」
後ろで見守っていた硯が、ぽつりと呟く。
「ならばこうだね!」
それを聞いた綴子は、からくり人形の『狂言回し』を顕わにし、その腕で壁ドン。
「玻璃色のその身全て奪ってやろ――ん?」
綴子の目の前で、女神像の顎にかけた人形の指が、パキパキッと凍り付いていく。
「いま指が凍ったんだが?」
「うん。見てた。女神像すごいね」
(「ああ、リサちゃん出さなくて良かったー」)
胸中で呟きながらパチパチと拍手するニュイに、綴子がくるっと振り向いて。
「ニュイくん、先に壁ドンして氷を剥がしてくれ給え」
容赦ない無茶振りが飛んで来た。
「えー!? 綴子ちゃんには、それだけもふもふ完全装備の手袋があるじゃない」
「湿った手袋はね、凍るのだよ! なに、手をついたら皮がめくれるくらいだ。めくれたら絶対痛いぞ? 吾輩回復などできぬからな!」
「今、痛いって言ったよね? 僕だって回復できないよー!!」
やいのやいのと言い合う2人の間を、更なる冷気が通り過ぎる。
ふと女神像を見ると、何か怒気みたいなものを漂わせている気がした。
「まあ待て待て。少し待たされたくらいで怒るな女神」
「ごめんよ。君が美しいから、素直に直視できなくてね」
咄嗟に女神像に向き直りながら、綴子とニュイは交わした視線だけで頷きあう。
こうなったら、意を決するしかない。
2人同時に、外した手袋を後ろに投げ捨て――女神の左右の壁に掌ドンッ!
「吾輩の体が奪われるのか。良いだろう、永久に傍に――いてやる」
「君の美しさに僕は耐え切れないよ……ずっと傍にいて、温めて?」
壁についた掌から伝わる凍りつく冷たさに耐えて、綴子とニュイは女神像に甘く優しく囁きかけ、見つめる。
「……どうだ、女神よ? 我輩で不満か?」
「……本当に温めてくれないかな?」
収まらぬ冷気を耐えながら、2人はポケットから取り出したチョコをあぐあぐ。
何でチョコ齧ってるのかって?
そうでもしてないと、言葉の甘さに耐え切れそうにないからだ。
「……って言うか、なんで良い体してるのに硬いんだろう、女神様」
「そりゃ硬いであろう。像であるからしてな」
ニュイが漏らした本音に綴子がチョコ齧ったまま頷くと、2人の腕を覆っていた氷と冷気が、ふわっと溶けた。
霜と冷気が吹き荒れていたフロアの様子も、最初に入った時のようなシンと静まり返った状態に戻る。
『眼鏡男子にスタイル褒められた……!』
「え……今のも、愛の囁きになるの?」
「女神め……そう言う意味でも寂しいというのか?」
伝わってきた女神のものらしい思念に、ニュイと綴子が思わず顔を見合わせた。
●いちゃいちゃ実践――レイナ
「成程、女神像さんはいちゃいちゃしたいのですか!」
ならばと進み出たのは、レイナである。
「私、レイナ・オトゥールは田舎育ちではありますが。女子だからして。こう、男の子と女の子がこう、いちゃいちゃする本なども、読まなくもないのですよ?」
レイナの青い瞳が、なんだか輝いているような。
「いきます!」
レイナは両手を伸ばして、女神像の左右の壁をドンッと叩いた。
「ふふ、可愛い子猫ちゃん? もう逃がさないよ?」
例え女神像は動かないとしても、逃げ道を塞ぐのは壁ドンの基本。
「この近さなら君の可愛らしい顔が、その愛らしい瞳と唇が、よく見えるね」
レイナは女神像に顔が触れそうな程に体を寄せると、片手を壁から離した。
竜の炎の力で寒さ対策は万全。こうして触れてても、凍るほどではない。
「あぁ、冷たくなってしまっているね」
女神像の頬を撫でた手を、レイナはそのまま顎の下に滑らせる。
そう、これは――壁ドンからの顎クイの構え。
「ボクの愛の炎ならきっと君を温めてあげられるよ」
『くぅぅっっ!!』
何かこう、悶えてる感じの思念がレイナに伝わってきた。
●復活――レイと有栖
「あいたた……」
後頭部に雪玉食らって倒れてたレイが、ここで復活してきた。
さすが猟兵。意外と平然としている。
「なんだ。直球が意外と効くのね。だったら、さっき言いかけてた事を言うよ!」
まだ少し痛む頭を軽く振って、レイは女神像に向き直る。
「結婚してくれ!」
『……。……ふぁっ!?』
また一段、冷気がふわっと和らいだのを感じて、レイが小さくガッツポーズ。
「好き……」
その時、女神の鉄拳で倒れてた2人目、有栖もゆらりと立ち上がってきた。
「好き好き好き好き好き……ここで問題よ!」
びしっと女神像を指差す有栖。
「好きの反対ってなーんだ?」
『……』
にらめっこの次はなぞなぞ。再び女神像から怒気が滲み出す。
「嫌い? 違うわ」
そんな怒気に怯まず、有栖は女神像にぐっと顔を寄せて――。
「正解は……接吻――キス、よ」
そのまま女神像の頬に、冷え切った唇を寄せた。
『!?』
(「決まったわ……これで、氷の女神もめろめろでわふーん!でしょっ」)
めろめろまでは行かなかったけど、案外クリティカルに入っていたようである。
●妖狐の嗜み――烏鵠
「わはは! なんだあの女神像。考えたヤツはバカだな!」
だが、嫌いじゃない。
ニヤっと笑って、烏鵠が女神像に歩み寄る。
「さーて。手袋……は、こんなもんなら大丈夫だろう」
烏鵠の手に嵌っている手袋は、折り紙で手袋の形に作ったものを【十三術式:九羽狐】によって変化させたもの。
(「これぞ狐の手袋……イヤ今はそれカンケーねーやな」)
やや硬い手袋をしっかりと嵌めながら、烏鵠は女神像の前に立ち。
「やあお嬢さん、初めまして」
壁に手を付けば、ドンッと硬い音が響いた。
「こんな寒い所に一人で居るの? 誰か大切な人を待っているのかい? それともオレを待っていてくれたのかな。だったらスゲー嬉しいな!」
烏鵠はいつもの軽薄な笑みを潜めて、金の瞳をじっと女神像に向ける。
「にしてもお嬢さんキレイだね! もしかして言われ慣れてた? やっぱりね!
でも、こんな近くで見ても肌すべすべ、まさに神の造形、奇跡の美ってヤツだ!」
『そりゃまあ、像の肌はすべすべだろうね♪』
なんて思念を返しながら、女神像の方はまんざらでもないようだ。
またまた、フロアの空気がふわりと柔らかくなる。
「たった一時とはいえ、お嬢さんを独り占めできて幸せだったよ。じゃ、またね!」
その成果に満足した烏鵠は、くるりと女神像に背を向けた。
●高校時代をもう一度――遙
「……もう少し、場を暖めましょうか」
入れ替わりに女神像の前に立った遙の手には、小さな火が灯った枝が握られていた。
それはハシバミの枝。
その火は、夏至の夜を汚す悪しきものを追い払うもの。
その灯は、聖なる炎を消す水の流れを探すもの。
「そしてハシバミの花言葉は、『和解』『交歓』。女性への贈り物としては、いまいちかもしれないけれど……」
遙は女神像の足元に屈んでハシバミの枝を置き、再び立ち上がる。
「凍りついた貴女の心を融かしたい」
枝を置いたのは、両手を空けるため。
「俯いていないで、麗しいその顔を見せて?」
壁に片手を突いた遙は、反対の手を女神像の頬に添える。
「ああ……なんて罪な人だ」
精一杯優しい声色で、誘うように囁きかける。
「貴女の瞳に見つめられたら、私はもう逃れられない」
『うんうん♪』
少々芝居がかってはいるが、遙の壁ドンも女神像は中々お気に召したようである。
「……あ」
なお、枝を拾って振り向いた遙は、そこで他の猟兵達の視線がこちらに向いていた事に気づいてしまう。気づかされてします。
(「うわぁぁぁぁぁぁ、恥ずかしくて顔から火が出そう……!」)
なけなしの体力で壁の隅っこに走った遙は、そこでしばらくうずくまるのだった。
●頑張る兄――ライヴァルト
「そうか……後に回るほど、やりにくく恥ずかしくなるか」
部屋の隅に走っていく遙の様子で、ライヴァルトの覚悟が決まった。
(「妹と接するようにやるか……俺に女心を判れ、というのが無理な話だしね」)
胸中で呟きながら、進む足取りはまだ重いけれど。
すぅっと息を一つ吸い込んで、ライヴァルトは女神像をじっと見据える。
判らないなら、何も捻ることはない。
勇気を出して正面からぶつかるだけだ。
ドンッ!
「本当に、お前は俺がいないとてんでダメだな」
ライヴァルトの掌が、ちょっと強めに壁を叩く。
「こんなこともできないんじゃ、先が思いやられるよ」
ライヴァルトの長身だと、女神像を見下ろす形になる。
「けど、それでもいい。俺がずっとそばにいてやるから。心配するな。どこにも行ったりはしないさ。お前を助けられるのは、俺だけだ」
『妹扱い……これはこれで、イイっ!』
兄貴面も、案外良かったようだ。
●年下(推定)の美少年は暗殺者――夕立
(「年上は通りますか。では、こちらが年下設定では、どうでしょうね?」)
ほとんど足音を立てずに、夕立が女神像の前へと進む。
(「否応無く、死ね」)
胸中で呟いたのは、【神業・否無】の言葉。
殺すのは女神像ではない。その凍て付いた心を殺せばいい。
(「神だろうが夢女。コイツを真正面から受け止めて無事で済むと思うなよ」)
殺す意思を込めて、女神像の横の壁をどんっと叩く。
「――オレのものになってくださいよ。イヤなんて言わせませんからね、先輩」
クール系後輩になりきった夕立は、年下美少年からの強引な愛の言葉という位置づけでの愛を囁いた。
『せんっ……~~!』
(「ま、ウソも方便と言いますしね。」)
二の句が告げなくなった女神像の思念と、また温かくなった空気を浴びながら、夕立は淡々とその前を後にした。
●二代、百年、愛されたから――硯
「ふふ、私などが壁ドンして良い機会があるとは」
続いて女神像に歩み寄った硯は、嬉々とした様子でその前に踏み台を置いている。
きっと、したかったのだろう。壁ドン。
ドンッの音が良く出るよう、手袋を我慢してきたくらいだ。
長く愛されたからこそ、愛したいという願いは、常に硯の中にある。
「それでは失礼して――」
女神像の前に置いた踏み台によいしょと登って、硯は両手を壁に――バンッ!
「あら? 意外とドンという音を出すのは、難しいですね」
壁バンになってしまったことを恐縮しつつ、硯は先を続ける。
「……女神様。こんな冷たい空間に、冷たい壁に身を預けて、霜に塗れて……永久凍土の如き迷宮に、貴女は囚われなのですね……」
せつなげに瞳を細め、硯は女神像に囁く。
「今すぐ貴女を、拐っていけたらいいのに……」
硯の瞳に写る女神像は、この地に囚われた者。その解放を望む理由は――。
「だって一緒に此処を出られたら、温かくて美味しい、ほかほかごはんでおもてなしできるじゃないですか」
『ほかほかごはんでおもてなし……嫁ね!!!!』
「あら? それは……恐縮です」
女神の思念を浴びた硯が、その内容に目を瞬かせながらも一礼する。
フロアの気温は、また少し暖かくなっていた。
●二次元知識を活かす時――友
「私がやってる時は覗かないで欲しいんだけどな!? なんか恥ずかしいし!」
そんな友の願いは、他の猟兵達の生暖かい視線に流された。
「まぁ……そうだよね。私も他の人の見てたもんね……」
恥ずかしさ耐性がない事をちょっぴり悔やみながら、友は色々諦めて前を向いた。
(「私は……イケメン!」)
そう自分に言い聞かせた友が、両目をカッと見開く。
なりきって頑張る。それが友の作戦。
「……凍った壁、綺麗だね。この冷気は、愛に飢えた君の心?」
軽く片手を付く壁ドンから、女神像の瞳を見つめる。
「私が溶かしてあげたいけど……他の人が愛を囁いたのに、あれだけ愛を囁かれてもまだ足りないなんて、いけない女神様だね?」
反論を許さないというように、女神像の唇を空いている手の指で押さえて。
「いいよ、愛してあげる」
そのまま、友は女神像の唇から指を離すと、その手も壁をドンッと付いた。
「でも――その瞳に、私以外を写すのは、もう許さない。私だけを見て、私だけの愛で満たされて?」
耳元に顔を寄せて囁いた友に『くはっ』と奇声みたいな思念が届いて、フロアがまた暖かい方に近づいていく。
「……うん、無機物相手でも結構恥ずかしいね、これ!?」
だが、そこまで言い切ったところで、友も恥ずかしさが限界に達して、逃げるように女神像の前を後にした。
●みわくのジェントル――うさみっち
「俺はイケメン……目覚めろ、俺の中のイケメンのハート!」
自分に言い聞かせるのは、うさみっちも同じだった。
だが、言い聞かせたところでフェアリーの17.2cmと言う小ささは、如何ともしがたい――筈だった。猟兵でなければ。
ピカッとうさみっちの体が輝きを放ち、その源が次第に大きくなっていく。輝きが強くなっているのではない、輝きの元が、である。
そして光が収まった時――うさみっちの姿は、すらりと長い手足を持つ身長180cmのジェントルなウサ耳イケメンになっていた。
これぞ【みわくのうさみっちジェントルメン】の効果。
フェアリーってなんだろう?
「こんな所で一人でどうしたんだお嬢さん」
まだフロアは寒いくらいだったが、それをものともせずに、うさみっちはスタスタと女神像に近づいて――ドンッ!
「お前が寂しそうにしているから、ほら。お天道様だって悲しそうだ」
『ここ、地下だけど?』
「それがどうした? お前が笑えば空も笑うってことだ」
もう普通に返してくるようになった女神像の思念に、うさみっちが笑いかけ――。
「くっ」
唐突に膝を付く。寿命、削ってるしね。
「だ、大丈夫だ。俺に素敵な笑顔を見せてくれれば……それで、俺は大丈夫。お前の心を覆う氷が溶けるまで、俺がずっと傍にいるから」
像相手に、一体何をしているんだ俺は。
うさみっちが一度もそう思わなかったわけではなかったが、表には出さない。
(「紳士たるもの年齢や性別や種族や有機物や無機物で差別はしないんだぜ!」)
『ナイスジェントルメン!』
そんな内心に気づいているような思念が、女神像から発せられた。
●冷たい世界に顕現した理想――哉太
「零下の世界ではなくなったけれど……女神様はまだ、寂しいみたいだね」
フロアを見回し、哉太は穏やかに呟いた。
そうだ。フロアから、凍りそうなほどの冷気はなくなっていたが、まだ先へ続く道が見えてこないのだ。
「そうだよね。こんなところで、ずっとひとりだったんだ。寂しかったよね。愛に飢えているよね?」
微笑を浮かべて、哉太は女神像に歩み寄る。
「――でも、不思議だよ。そんなに綺麗なのに、何でひとりになってしまったのか。だって君は人々に愛されたからこそ、そんな姿になったんだろうに。
愛されたいとか大事にされたいとか、そう望んでいるからこそ、君はそんなに綺麗になれたんだろうに」
とんっ、と硬い音の中に優しさを含ませ、哉太の手が女神像の顔の横の壁を叩く。
「それでも足りない? いけない子だな」
微笑を崩し、くすりと笑みを零して哉太は女神像に更に近寄る。
体が触れるか否かギリギリまで身を寄せて、哉太が視線を注ぐのは女神の顔。
「寒いままだと凍えてしまうよ。触れていなければ、かじかんでしまう。それとも――それを口実に俺とくっついていたい? 」
優しく甘い声音で軽口を叩いた口元を綻ばせれば、桃色の眦も綻ぶ。
『~~~~!!!!』
「望むなら、それならそれで要望を叶えよう。君の願い通りにね。俺は、そのために会いに来たんだから」
悶えてるような思念を女神像から浴びながら、哉太は微笑みを絶やさない。寂しさを抱えていると思うのならば、哉太はそれが石像でも寄り添う事を厭わない。
『それも素敵ね――だけど、君達の望みはこっちでしょ?』
●そして、開けた道
女神像の思念が、猟兵達全員に向けられる。
『堪能させてもらったわ――さあ、先へどうぞ』
その思念が届いた直後、女神像から白い煙が立ち昇る。
そして、氷が溶けるように女神像と後ろの壁が消えて行き――代わりに、迷宮の先へと続く通路が猟兵達の前に現れた。
あの女神像が結局なんだったのかは、きっと、女神のみぞ知る。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
第2章 冒険
『愉悦を喜ぶ耳の間』
|
POW : ソウルフルに熱意を込め歌い話す。
SPD : 論理的に、もしくはテクニカルに歌唱し述べる。
WIZ : 情感豊かに歌い上げ、色褪せぬ思い出の如く語る。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
|
種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●愉悦を喜ぶ耳の間
極寒の女神像フロアを抜けた猟兵達。
その先に伸びていた薄暗い地下迷宮を進むと、やがて大きな扉が現れた。
耳の意匠が描かれた扉が、重たい音を立ててゆっくりと開かれる。
踏み込んだ空間には、聞いていた通り、大人の背丈ほどの耳の像があった。
更に迷宮の奥へと続く扉は、耳の像の向こう。
この耳が、愉悦を望む耳の像、だろう。
耳を喜ばせれば、先へ続く道が開ける。
ふと、耳の像の根元を見ると、手帳ほどのプレートが幾つか打ち込まれていた。
その1つには何も書かれていない。
他のプレートを良く見れば、何か文字が書き込まれている。
――耳の像は例えばこんな愉悦を望むよ。
そんな一文の後に、幾つかの項目が書かれていた。
==============================================================
1『ここでボケて』2『過去の失敗談プリーズ』3『ダジャレ5つ』
4『歌って』5『勇者になりきって口上を』6『推しを語れ』
7『尊い……ってなるもの語って』8『恋バナ』9『ノロケて』
==============================================================
何かろくでもない項目ばかり並んでいる気もするが、これはほんの一例らしい。
他にも様々な項目が出てくる様だ。
何が出て来るのかと見守る猟兵達の前で、何も書かれていなかったプレートの上に、新たな文字が浮かび上がって来た――。
さあ、再び口を開く時間だ。
だが気をつけて。ここにあるのは、耳の像だけなのだから。
ある意味、先の女神のフロアよりも口の勝負と言えるだろう。
==============================================================
※2章のプレイングに必要なのは、
耳の像に『耳像が望む言葉』と『それに対する言葉』です。
『耳像が望む言葉』は、いわばお題です。
上記の1~9はお題のサンプルです。
前述の通り、そこから選んで頂いても、自由指定でもOK。
サンプルから選んで頂く場合は、番号のみでもOKです。
なお、特に4辺りを選んだ場合ですが、
主に著作権方面で大幅マスタリングも有り得ますので、その点はご注意下さい。
POW、SPD、WIZはあまり気にしないでOKです。
==============================================================
荒・烏鵠
【7に見せかけた2、しかも身内の】
尊い、ってコレあれだろ、ネットスラングの方だろ?枕草子の一四五段みたいなアレだよな?
そンならネタはあらァ。
オレサマにゃ弟分が二人居てサ、どっちも今やリッパになったモンだが、昔は色々抜けててなァ。その片っぽの話だ。
ヤツはオラトリオなンだが、初めて翼の手入れをするッてなってナ。しかし元人間にゃ不慣れも不慣れ、時間掛けりゃァかけるほどボサボサ。
最終的には半泣きになってオレを頼ってきてさ。
この時点で大分かわいかったが、「ソレ魔力で出来てっから消して出し直せば綺麗になるぜ」ッて教えてやったときのあの顔ったら……っ!
いやーホントかわいかった!胸キュンしちゃったぜ、アハハ!
●翼持つ弟分
「さーて。何が出て来んだぁ? ん……『尊い……ってなるもの語って』?」
耳の像の根元にあるプレートに浮かんだ一文を見て、荒・烏鵠が内心首を傾げる。
(「この尊いって……コレあれだよな? ネットスラングの方だろ? そう言うの、この世界にもあるのかよ」)
烏鵠が、その類の話題を目にしてそう感じたのは、UDCアースにてアクセサリーショップを営んでいるからだろう。
他にも、UDCアースでは知られた古典随筆の一四五段みたいな、とも思ったが、その辺りは脇に置いておく。
(「ま、どこの世界も『人間』は意外と変わんねェのかもなァ」)
などと胸中で呟いて、烏鵠は像に向き直り、口を開いた。
「オレサマにゃ弟分が居るんだ。2人サ。どっちも今や、リッパになったモンだが――昔は色々抜けててなァ」
軽薄な口振りの中に、烏鵠の声はどこか懐かしむような色が混じっていた。
「その片割れの話サ。ヤツはオラトリオなンだが――ある日、初めて翼の手入れをするッて言い出してナ。ああ、オラトリオってのは人間から生まれる連中でよ」
オラトリオ。
背中に翼、髪に花を持つその種族は、最初は人間として生まれるが、何らかの神秘体験と共に覚醒するとされている。
「ま、元人間にゃ不慣れも不慣れ。時間掛けりゃァかけるほどボサボサ。最終的にゃ半泣きになってオレを頼ってきてさ――あの時の顔は大分かわいかったなァ」
それまでなかった翼なのだ。
さもあらん。
「続きがあって――ンァ?」
話を続けようとした烏鵠の前で、お題が浮かんでいたプレートが再び光を放つ。
光が収まった時、浮かんでいる文字が変わっていた。
『それ、身内の失敗談だよね? 言っちゃって大丈夫?』
烏鵠の話に悪意の類がないのは、耳の像を含めて聞いた全員が判っている筈だ。
とは言え、当人抜きでどうかと言えば――人によるだろう。
「ま、その頃のヤツはホントかわいかったのサ! 胸キュンだったぜ、アハハ!」
軽薄そうな口調は変えず、烏鵠は笑って話を終えた。
成功
🔵🔵🔴
矢来・夕立
――最近憤っていること。なるほど。
こんなに美少年なのにモテない。
いや、いや。殴る前に聞いてください。顔がイイのは事実でしょう。問題はそこじゃない。
オレは別の世界から今の世界、UDCアースへ移住する前に『人は見た目が九割』と聞いて「こりゃあもろたで!!」と思ってスキップで異世界転送されてきたわけですよ。
ところがどっこい会う人合う人に「モテない」だの「童貞」だの「矢来くんって顔だけだよね」だのお前らがオレの何を知ってるんだ。モテないことか。モテないことしか知らないくせに人のこと好き勝手モテないモテない言いやがって
…やめていいですか?
※他の方の話に再現画像が必要ならUCで再現CGメーカーを担当します
●ある意味健全
「さっさと済ませましょうか」
次に進み出た矢来・夕立の視線の先で、耳の像の根元のプレートが輝きを放ち、文字が浮かび上がる。
「――最近憤っていること。なるほど」
洒落っ気のないフレームレスの伊達眼鏡を直し、夕立は迷わず口を開いた。
「こんなに美少年なのにモテない」
フロアの空気が、こう、何とも言えない雰囲気になる。
『顔見えないし。と言うか、自分で言う?』
「いや、顔がイイのは事実でしょう? 問題はそこじゃない」
耳の像の根元に浮かんだツッコミ染みた文字にさらりと返し、夕立は再び口を開く。
「オレは今いる世界に、別の世界から移住したんですがね。移住する前に、『人は見た目が九割』と聞いて――こう思ったんです。
こりゃあもろたで!! と。ええ、スキップで異世界転送されてきたわけですよ」
もろたで、とそこだけ訛ったり、スキップで転送された辺り、本当だろうか。夕立と言う男の口癖を考えると、ウソの可能性がないとは――まあ、その切なげな話しぶりに耳の像も聞き入ってるのだ。この際、真実かどうかは問題ではないのだろう。
「ところがどっこい。会う人会う人が――こんな始末」
夕立の手から、千代紙で折った人型が零れ落ちる。
瞬く間に巨大化し、再現CGのブルーマンのような人型となったそれらが。
『モテない』
口を開く。
『○○』
次々に。
『矢来くんって顔だけだよね』
口々に。
「お前らがオレの何を知ってるんだ――モテないことか。モテないことしか知らないくせに、人のこと好き勝手モテないモテない言いやがって」
夕立の口から出続けるマシンガントークならぬ、マシンガン愚痴。
「――やめていいですか?」
人型での再現を、頑張りすぎたか、さすがに喋り疲れたか。
ぽつりと零す夕立はまだ17歳である。
その視線の先で、また像の根元のプレートが輝きを放って浮かぶ文字が変わった。
『魔法使いになる前に何とかなるといいね』
「この耳、殺していいですかね?」
伊達眼鏡の奥に殺意を滲ませ、それでも最後の理性で振り向いた夕立が、他の猟兵達に全力で止められたのは言うまでもないだろう。
大成功
🔵🔵🔵
レイナ・オトゥール
6
推し!つまり私の一番好きな子たちを紹介すればいいんですね!
(ドラゴンランスの)皆変身解除ですよ!
この子たちが私の友達で推しのドラゴンさん達です!
ウィルは優しくて一番友達思いで一番頑張る子
アイリスはお澄ましさんだけど実はさびしがり屋でツンデレさん
クリスティアはクールビューティーだけど実はとっても包容力のあるお姉さんで
オーディスはのんびり屋さんですけど皆を守るって気持ちがとっても強いお兄さん
フィニアはとっても力持ちのとっこーたいちょーで
リーゼはみんなをビシってまとめてくれるっこいいお姉さんで
ディーナはとっても明るいムードメイカーで
あああ、語りつくせないですけど
皆とっても格好良くて可愛いんです!!
●共にある竜
――推しを語れ。
「さて、私は何を話せば良いのですかー?」
わくわくと覗き込んだレイナ・オトゥールの目に映ったお題は、その一言だった。
「推し! つまり私の一番好きな子たちを紹介すればいいんですね! 語っていいんですね!」
青い瞳を輝かせ、レイナは愛用の各種ドラゴンランスを並べる。
ランスと言っても、形状は様々だ。
斧槍。剣。盾。ハンマー。篭手。弓に、鞭の柄。
「この子たちが私の友達で推しのドラゴンさん達です!」
並べられた武器達は、一斉に本来の姿であるドラゴンに戻る。
「ウィルは優しくて、一番友達思いで、一番頑張る子」
まずレイナが両手で抱えたのは、子犬ほどの流麗な水竜。
レイナにとって一番の、そして始まりの友達。
「アイリスはお澄ましさんだけど実はさびしがり屋でツンデレさん」
ぺちぺちぺち。
小さく鳴った音は、子猫ほどの氷竜が何か言いたげにレイナの足を尾で叩いたもの。
「クリスティアはクールビューティーだけど実はとっても包容力のあるお姉さんで」
そんな氷竜より一回り大きい、猫程の晶竜はレイナからの評価に満足気に頷き。
「オーディスはのんびり屋さんですけど皆を守るって気持ちがとっても強いお兄さん」
レイナが背中を撫でた中型犬ほどの地竜は、この中では一番大きいだろうか。
「フィニアはとっても力持ちのとっこーたいちょー」
特攻隊長。
そう評された子犬ほどの炎竜は、成程。レイナの周りを忙しなくグルグルしている。
――と、それを窘めるように光を帯びた尾が炎竜に巻きついた。
「リーゼはみんなをビシってまとめてくれる、かっこいいお姉さん」
光を帯びた尾を伸ばしたのは、レイナの足元にじっとしている猫ほどの光竜だ。
「ディーナはとっても明るいムードメイカーで……」
水竜を放したレイナが、今度は兎ほどの風竜を抱きかかえる。
「もうですね。語りつくせないですけど、皆とっても格好良くて可愛いんです!!」
力説するレイナの前で、プレートが淡い光を放ち新たな文字が浮かび上がって来た。
『竜の姿は見えないけれど、推しっぷりは伝わってきた。仲良くね!』
大成功
🔵🔵🔵
春霞・遙
9 うちの患者さんたち凄く可愛いよっていうのでもいいですか?
予定日より早く生まれたりして入院した子たち。生きるために一生懸命な姿も勿論素敵なんですけど、退院前にはベッドで手足パタパタさせてさ、オムツ丸出しで寝てたり、寝てる時に撫でるとモゾモゾしたりぐーっと伸びたり、授乳の時間に看護師さんに哺乳瓶くわえさせてもらってる時にはおっきいお目目で看護師さん見つめながら力一杯もぐもぐしてて、飲みきる頃には力が抜けてうとうとして。どんな姿も可愛いったらないんです。あーもう、早く退院させてお母さんと一緒に生活させてあげたいなぁ。
え、と、私が好きなもの語っちゃったけど、別に聞いて愉悦にはならないです、かね。
●未来へ続く命に惚れて
――ノロケて。
「ノロケ……え、ノロケって、惚気の事ですか?」
プレートに浮かんだお題を見やり、春霞・遙はニ、三度目を瞬かせる。
「ノロケれば良いんですよね?」
だが、遙が迷った様な素振りを見せてのも短い時間だった。
「え、と。私が好きなもの語っちゃっても、いいんですかね? 聞いても愉悦にはならないです、かね?」
先の竜談義でも良かったことを考えれば、大丈夫そうだが――。
『とりあえず喋ろう。話はそれからだ』
見像の根元のプレートに、話を促す文字が浮かび上がったのを見て、遙は不安気にしながらも、一度大きく息を吸い込んで再び口を開く。
「それじゃあ、ええと。うちの患者さん達、凄く可愛いよって言う話なんですけど。あ、患者さんと言うのは、赤子なんですよ」
それは遙の猟兵としてではない仕事。
子供のお医者さん。
その中でも、特に予定日より早く生まれたりして、入院している子達の事だ。
「皆、生きるために一生懸命なんです。そんな姿も勿論素敵なんですけど。退院が近くなっている子達は、ベッドで手足パタパタさせてさ、オムツ丸出しで寝てたり」
正に表情を綻ばせ、遙の話は続く。
「寝てる時に撫でるとモゾモゾしたりぐーっと伸びたり」
口に出した仕草を思い出したのか、遙の表情が更に緩んでいく。
「授乳の時間に看護師さんに哺乳瓶咥えさせてもらってる時には、おっきいお目目で看護師さん見つめながら力一杯もぐもぐしてて、飲み切る頃には力抜けて、うとうとして」
ろくに息もつかずに話し続けていた遙は、そこで、ほぅと一つ息を吐く。
「とにかく、どんな姿も可愛いったらないんですよ」
すっかり頬の緩んだ顔で、それでも遙は耳の像に向き直る。
「もうね、早く退院させてあげて、お母さんと一緒に生活させてあげたいなぁ」
母親の元に、子供を返せるその日を思い浮かべて、遙の表情が更に緩む。その声に、放し始める前の不安さはなくなっていた。
『ノロケではないけれど、イイ話だからヨシ!』
だからだろう。耳の像の反応も悪くなかった。
成功
🔵🔵🔴
九泉・伽
6
※アドリブ歓迎
好きになったばっかの上もう二度と新イベントは拝めなさそうだけど今一番の推しを語るね
彼女を一言で語るとクールビューティー
もうさ、触れると物理的に凍っちゃうから常人は攻略不可
でも彼女は愛されたい
台座用意する心遣いとかさり気なさすぎて通じない切なさもいい
特にキュンってくるとこなんだけど
――実は俗物
もうさ、壁ドンからの愛ならなんでも刺さっちゃう
ギャップ萌えどころじゃねえよ
「良い体してる」からキラキラ強引口説き文句に身もだえ可愛い
果ては姉も嫁もOKで百合いけんの?
それで良いのかお前女神だろ?!
でも決して尻軽じゃない
そりゃ像だし、殴打凶器できるぐらいにゃ重たい
女神像
俺も口説けばよかったなぁ
●口説きたかった推し
――推しを語れ。
「よし来た」
怠そうに耳の像の前まで出て行った九泉・伽(Pray to my God・f11786)は、プレートに浮かんだその文字を見た瞬間、赤い瞳を輝かせた。
「今一番の推しを語るね。好きになったばっかの上に、もう二度と新イベントは拝めなさそうだけど」
『推しに時間は関係ない』
「その通りだ。彼女を一言で語ると、クールビューティー」
プレートに新たに浮かんだ文字に同意し、伽は話を始めた。
「もうさ、触れると物理的に凍っちゃうから常人は攻略不可」
周りで見守っていた猟兵の何人かが、伽が言わんとしている『クールビューティー』の事を察したようで『あっ』って顔になる。人形の指を凍らされた黒髪の少女は、黙ってほくそ笑んでいた。
「でも彼女は愛されたい。台座用意する心遣いとか、さり気なさすぎて通じない切なさもいい」
耳の像は判っているのかいないのか。
特にプレートを変化させることなく、伽の話に耳を傾けている。
「俺が特にキュンってくるとこなんだけどねぇ――実は俗物」
先のフロアで雪玉の物理食らった2人が、思わず後ろを振り向く。
大丈夫、何も飛んできてない。
「BBAとかつれない女って言われりゃ物理で鉄拳制裁。そんな見た目通りにお堅い女かと思わせて、壁ドンからの愛なら何でも刺さっちゃうって。
『良い体してる』からキラキラ強引口説き文句に身悶え。可愛い。ド直球やらキスに動揺したかと思えば、果ては妹ポジも姉ポジもいけて嫁もOKで百合もいけんの?」
『――え、待って待って、もしかして!?』
今更そんな文字が耳の像のプレートに浮かび上がって来たのだが、伽の話はもう止まらない。
「ギャップ萌えどころじゃねえよ。それで良いのかお前女神だろ?!
でも決して尻軽じゃない。そりゃ像だし。肌すべすべでも、殴打凶器できるぐらいにゃ重たい」
もうおわかりだろう。
耳の像も判っているだろう。
「俗物の女神像……俺も口説けばよかったなぁ」
――はぁぁ。
心底残念そうに、伽の口から大きな溜息が零れる。
『腹痛い。腹ないけど。でもあれでいいの?』
耳の像の根元のプレートには、そんな文字が浮かび上がっていた。
成功
🔵🔵🔴
レイ・キャスケット
恋バナとかのろけとか出ても語れることないんだけどなぁ
変なのでないようにお願いします!って像の前に立ってプレートに浮かび上がる言葉は
『過去の失敗談』
失敗談ってだけならそれなりにあるんだけど、しょうもない失敗語っても納得してもらえないかもねぇ
こ、これはあんまり他の人に聞かれたくないから像に耳打ちでもいいのかな?
とある旅行先での出来事
露天風呂に先客でのかわいい子がいました
年齢はボクと同じくらいだったかな?気さくな子だったから話に花が咲いてね?長風呂でのぼせ気味になってきたからそろそろ出ようかって一緒にお湯から出たんだよ、そしたらね
その子、男の子でした
混浴なら混浴ってどっかに書いといて…
※アドリブ推奨
●ホット・スプリング・ハプニング
(「何を言っても攻撃されそうにないのは、ちょっと安心」)
さっきの話で後頭部にくらった痛みを思い出しちゃったレイ・キャスケットが、耳の像の前に出る。
「さてと。変なお題出ないようにお願いします!」
だって恋バナとかノロケとか出てきても、語れることないし。
両手を合わせて拝むレイに出てきたお題は――過去の失敗談。
「失敗談、かぁ。それなりにあるんだけど……」
記憶を探りながら、レイは考える。あまりしょうもない失敗を語っても、像が納得してくれなければ意味がないのだとしたら。
「こ、これさ。あんまり他の人に聞かれたくないから……耳打ちでもいいかな?」
『オッケー』
「か、軽いわね……」
プレートに浮かんできた文字を見やりつつ、レイは耳の像の前に膝を付くと口元を覆った両手を耳の像に当てて話をし始めた。
「これは、とある旅行先での出来事なんだけど。露天風呂に行ったら、先客でかわいい子が入っていたんだ」
それ自体は、何も珍しいことではない。
だからレイもその時、何も違和感を持たなかったのだろう。
「年齢はボクと同じくらいだったかな? 気さくな子でね。話に花が咲いてね?
話し込んでる内にかなり長風呂になってさ。のぼせ気味になってきたと思ったから、そろそろ出ようかって言って……一緒にお風呂から出たんだよ」
そこで言葉を切って、レイは一度大きく息を吸い込む。
「で、お湯から出たらね。わかったの――その子、男の子でした」
その時の色々を思い出してしまったのか。レイの顔は赤くなっている。
「濁り湯だったからお風呂から出るまで、色々見えてなかったの! 不可抗力だよ!」
そのタイミングで発覚したと言う事は――つまりそう言う事なのだろう。
さもあらん。
「混浴なら混浴ってどっかに書いといて欲しかった……」
顔を赤くしたまま項垂れるレイの視線の先で、耳の像のプレートが輝きを放ち、浮かび上がる文字が変化する。
『本当に混浴だった? 男湯女湯入れ替わりパターンだったりしない』
「耳のクセに何でそんなに温泉に詳しいの!!」
妙に食いついてきた像に、レイは顔を真赤にしたまま思わずツッコミ入れていた。
大成功
🔵🔵🔵
ライヴァルト・ナトゥア
さて、お題は、っと
『好きな異性のタイプを語れ』
うん、そうきたか
(困り顔でため息を一つ)
なんでこう回答に困る問いを出してくるかな、、、
俺のタイプなぁ。強いて言うならば、まず俺と話が合う事、一緒にいて苦にならない子がいいな
それから俺よりか身長は低いほうがいい。まぁ、そんなにいないとは思うが一応
他には、明るくて情熱的な子が好みかな
と、この位でいいか?正直理想なんて未だによくわからないんだ
逆に言えば、多分これから俺が好きになる人が俺のタイプなんだろうと思うよ
●いつか出逢う誰かかも知れぬ
――好きな異性のタイプを語れ。
「うん……そうきたか」
耳の像の根元のプレートに浮かんだ文字を見て、ライヴァルト・ナトゥアは困ったように眉を潜めてはっきりと溜息を吐いた。
(「何でこう、回答に困る問いを出してくるかな……」)
彼女いない歴イコール年齢なライヴァルトにとっては、また答えがすらすらと出てこないお題にぶち当たってしまったわけで。
「そうだなぁ。俺のタイプ」
困り顔のまま腕を組んで、ライヴァルトはしばし考え込んで。
「強いて言うならば、まず俺と話が合う事。一緒にいて苦にならない子がいいな」
耳の像に向けて、そんな答えを告げた。
所詮、迷宮の仕掛け。必ずしも真実を語る必要もないだろうが――それなれそれでと適当に答えられないのは、性分だろう。
「それから、俺よりか身長は低いほうがいい。まぁ、そんなにいないとは思うが一応」
ちなみに、ライヴァルトの身長は190センチを越えている。
そんなにはいないも何も、今このフロアにいるの、耳の像含めても誰もライヴァルトより背が高い人いなかったりするのだが。
「他に挙げるなら……そうだな。明るくて情熱的な子が好みかな」
そこまで言うと、ライヴァルトは他にないかと、しばし黙考に至り――。
「この位でいいか? 正直理想なんて、未だによくわからないんだ」
耳には見えないだろうが、軽く諸手を上げて話題が尽きたと像に告げる。
すると像の根元のプレートが光を放って、新たな文字が浮かんできた。
『良き。恋愛は理想のみで語るものでもなかろう』
それを見たライヴァルトが、目を瞬かせ――。
「それもそうだ。多分これから俺が好きになる人が、俺のタイプなんだろうな」
納得したように頷き、耳の像の前から離れるライヴァルトの顔は、もう困り顔ではなくなっていた。
成功
🔵🔵🔴
榎・うさみっち
耳が描かれた扉…これぞ「壁に耳あり」ってやつだな!
6:
「推し」という言葉がこんなに浸透したのは割と最近な気がする
遡ればこれは三次元アイドルファンが使っていた言葉で…
-閑話休題-
俺の推し食べ物『抹茶スイーツ』について!
抹茶はもともと茶菓子と一緒に頂く飲み物だったが
抹茶自体をお菓子の味に、しかも洋菓子にも
使おうと最初に考えた人は天才じゃなかろうか?
程良いほろ苦さと甘味が抜群の相性を誇り
ただ甘いだけじゃないのでいくらでも食べられそうな魅力がある
味だけでなく深緑の見た目もポイント高い
例えば色とりどりのフルーツパフェも素敵だが
小豆や白玉などシンプルな材料で構成された
抹茶パフェの佇まい…実に上品で美しい!
●侘び寂びの味
――推しを語れ。
何回目だろう、このお題出るの。
ランダムって事になってるけどね。そうしといてくれ。
「そもそも『推し』という言葉がこんなに世に浸透したの、割と最近な気がするぜ」
何回目かのそのお題を見た榎・うさみっちはと言うと、耳の像の前にちょこんと座り込んで『推し』と言う言葉そのものについて語りだしていた。
「遡れば、これは三次元アイドルファンが使っていた言葉で……」
「うん? 呼んだ?」
そんな声に振り向いたうさみっちの青い目が、桃色の瞳と目があった。
専用チャンネル持ってる人、いたね。
「猟兵って層が厚いよな!」
閑話休題。
「俺の推しは『抹茶スイーツ』だ!」
『さっきの話なんだったの?』
耳の像のプレートにそんなツッコミが浮かぶくらい、うさみっちの話はさっきの推し云々全く関係ない方向に進んでいた。
「まあ聞けよ。抹茶は元々、茶菓子と一緒に頂く飲み物だったんだ。その抹茶自体をお菓子の味に、しかも洋菓子」
『洋菓子?』
「ええと、元々その国にあった菓子じゃなく他国の菓子な。その味にも使おうと考えた人は、天才じゃなかろうかと、俺は思うわけだ」
耳の像がプレートで聞き返すのに逃さず反応しつつ、うさみっちの抹茶トークは止まらない。
「まず飲み物としての抹茶は、ほろ苦いもんだ。それをお菓子に使った場合、そのほろ苦さが程良いものになり、更に甘味とは抜群の相性を誇るんだぜ。甘さの中に苦みが加わる事で、いくらでも食べられそうな魅力ある味になるんだ」
いくらでも食べたら、カロリーは……うん。
「味だけじゃないぜ。抹茶を使ってこそでる深緑の見た目もポイント高いんだ。クリームの白ともあずきの黒とも、絶妙に合う色合いなんだよ。クリームに抹茶を混ぜると、それはそれで淡い緑になってだな……」
うさみっちの言わんとするところは、所謂、侘び寂びの概念に通じるものだったかもしれない。侘び寂びの侘び自体、起源は茶の湯と言う説もある。
「色とりどりのフルーツパフェも素敵だが、小豆や白玉などシンプルな材料で構成された抹茶パフェの佇まい……実に上品で美しい!」
『食わせろ。耳なのは判ってるが』
まあ、うさみっち自身、単純に抹茶スイーツが好きなのだろう。
そしてそれは、耳の像にも充分過ぎるほどに伝わったようである。
大成功
🔵🔵🔵
鴇沢・哉太
ふむ、とプレートを眺めながら首傾げ
ご要望とあらば別にどれでも構わないんだけど
一応これでも本職だからね
4の文字を指先で辿り
カウントを刻んだら歌を紡ごう
軽く手拍子をして他の猟兵へと視線を流す
さあご一緒にと言わんばかりに
歌うは俺の持ち歌
マイナーだからね、知ってる人はいないと思うけど
アップテンポで明るい曲だし
アカペラでも十分聞かせられると思うよ
大事なものを失って視線が落ちている子に
顔を上げてごらんと呼びかける歌
軽やかに甘く
それでいて澄み渡るようなテノールで
背を包み込むように
そして背を押すように囁く
春が終わり夏が来るよ
泣き顔なんて似合わないから
ほら
君の優しい笑顔を見せて
耳の像にも心を、愛を籠めて捧げよう
●Sing a Song
「呼ばれた気がしたからね。そろそろ、と思って」
それが当然と、一切の躊躇なく。鴇沢・哉太が耳の像の前に進み出る。
「ご要望とあらば別にどれでも構わないんだけど……」
お題の例を眺め、ふむ、と首を傾げる哉太の前で、像の根元のプレートが光出す。そこに浮かび上がったお題は――歌って。
「俺にこれが出るんだ。いいよ。一応、これでも本職だからね。持ち歌くらい、いつでも歌えないとな」
哉太は柔らかくも何処か挑戦的な笑みを浮かべて、その短い文字を指先でなぞる。
地下迷宮には、楽器も、マイクもない。
だが――哉太はシンガーソングライターだ。
(「問題ない。だって俺の声がある」)
その穏やかな笑みと物腰の下に隠れた、不遜な自信。
哉太が歌う気になったなら、そこがステージ。
「アップテンポで明るい曲だし、アカペラでも十分聞かせられると思うよ」
すっと背筋を伸ばした哉太の靴底が、コン、コンと乾いた音でリズムを刻み始める。
そのリズムに軽い手拍子を合わせながら『さあご一緒に』と言わんばかりに他の猟兵達へと視線を流すのは、シンガーソングライターとしての性か。
(「マイナーだからね。知ってる人はいないと思うけど――知って貰えばいい」)
「それじゃあ、聞いてくれ。耳の像に、心を、愛を籠めて捧げよう」
3、2、1。
刻むカウントに呼吸を合わせ、哉太の喉が歌を紡ぎ出す。
――春が終わり夏が来るよ♪
淡い笑みは崩さず、甘い声を軽やかに。
――泣き顔なんて似合わないから♪
響く歌声は、澄み渡るようなテノール。
――俯いてないで、ほら♪
――君の優しい笑顔を見せて♪
囁くようなウィスパーボイスは、背を包み込むように。そして背を押すように。
大事なものを失って視線が落ちている子に、顔を上げてごらんと呼びかける歌。
ここが迷宮である事を思わせぬ歌声。場所がどこであれ、相手が耳だけの像であれ、求められるならば哉太は朗々と一曲、歌い上げた。
「……とまあ、こんなところだよ。どうだったかな?」
『っはー………』
像、言葉もなし、と。
大成功
🔵🔵🔵
霧島・ニュイ
【綴子ちゃんと】6
僕の推しはねー……とにかく、でっかいの
弾力がありすぎるのがたまに傷なんだけど、とにかくでっかいし、もぎたてが最高
洗脳はされなかったけどすっかり推し
ちょっと綴子ちゃん物騒だよー。怖いなあ。血は飲むものであって楽しむものじゃないし!
赤くて大きな彼女を知って、別の学校でも赤に目が行って、この世界には赤が足りないんだよ!!
そんな目で見ないでよー!(かじるトマトに手を伸ばす)
推し:トマト
うんうん♪(わくわくと聞いてたが本人の恋バナじゃないことに気づく)
…強烈な愛だねえ
彼女が幸せになるには、水と油が一つになるが如く凄くかかり…
それはとてもとてもお似合いの二人だねえ。いいなぁ
(ぱちぱち)
稿・綴子
【ニュイくんと】
8
ほほう、大きく弾力があるのがお好みとな
もぐと真っ赤に染まるではないか!よいぞ吾輩好みの噺になってきた
…貴様、洗脳済みではないか
憐れみの眼差しでトマト囓る
では恋愛譚を
村娘に焦がれる男がおった
だが嫁にもらおうにも家がわからぬ
更に悪い虫と書いて夫と読むがおったら話にならぬ
どうすれば良い?
簡単である
娘以外は冥土逝き
斯くして男は夜ごと訪ねては斬って捌いて…
なんだい此処からが面白いのに
では仕方ない鋏屋娘の恋愛譚
切れ味鋭く何でもかんでも切って候
しかし良縁更には男と妾の首も切ってしまうのだ
ん?2人ともおるぞと【虚構召喚】
おお!確かに此奴らがくっつけば更なる恋バナ花盛り
では捏造する、しばし待て
●混ぜるな危険
「耳の像よ。まだ満足し切るなよ? 舞台は半ば過ぎと言ったところだぞ」
「大丈夫みたいだよ。ほら、光ってる」
あれだけのガチなパフォーマンスの後でも、稿・綴子と霧島・ニュイは平然と耳の像の前に出てきた。
――推しを語れ。
――恋バナ。
そんな2人の前に出されたお題が、こちらである。
「綴子ちゃん、どっちにする?」
「恋愛譚」
「じゃあ僕が推しか」
今度は分担で揉めるようなこともなく。
「僕の推しはねー……とにかく、でっかいの」
まずニュイが、推しに付いて口を開き始める。
「弾力がありすぎるのがたまに傷なんだけど、とにかくでっかいし、もぎたてが最高」
「ほほう、大きく弾力があるのがお好みとな」
大きく弾力のあるなにか。
さて、ニュイの推しが何なのか、これだけでおわかりだろうか。
「もぎたては瑞々しい赤でねぇ」
「もぐと真っ赤に染まるとな! よいぞ吾輩好みの噺になってきた」
『え、なんの話? ホラー?』
綴子はニュイに相槌を打っているが、耳の像は判ってなさそうだ。
「赤くて大きな彼女を知って、別の学校でも赤に目が行って、この世界には赤が足りないんだよ!!」
「……彼女? ニュイくん、それは何の噺なのだ?」
「トマトだよ?」
なお、邪神的なやばいヤツです。
「洗脳はされなかったけどすっかり推し」
「ニュイくん……貴様、洗脳済みではないか」
笑顔で告げるニュイに、憐れみの眼差しを向ける綴子の手には、何故か赤い果実。
「そんな目で見ないでよー!」
「ええい、トマトを奪おうとするな。やはり正気を失っておるんじゃないかね!?」
綴子の齧るトマトに、ニュイが手を伸ばし奪おうとする。
『トマトが彼女? トマト修羅場?』
トマト取り合う2人の横で、耳の像の根元にそんな文字が浮かび上がっていた。
閑話休題。
「では恋愛譚を聞かせてやろう」
口の周りのトマトを拭いながら、綴子が語り手に回る。
「とある村娘に焦がれる男がおった。焦がれるというか、もう惚れておる」
「うんうん♪」
トマトをとれずちょっとしょんぼりしてたニュイだが、わくわくと話に耳を傾ける。
「だが嫁にもらおうにも家がわからぬ。更に『悪い虫』と書いて『夫と読む』者がおったら話にならぬ。どうすれば良い?」
『それ思いっきり横恋慕!』
耳の像のプレートに浮かぶ突っ込み、綴子は勿論スルーである。
「簡単である。娘以外は冥土逝き。斯くして男は夜ごと訪ねては斬って捌いて……」
「あ、綴子ちゃんの恋バナじゃないんだ。っていうか物騒だよー。怖いなあ。血は飲むものであって楽しむものじゃないし!」
恋愛譚って言うかこのまま行くと殺人事件になりそうな綴子の話に、ニュイがやんわりとツッコミに回る。
「なんだい此処からが面白いのに。では仕方ない。鋏屋娘の恋愛譚にしようかね」
「鋏屋……」
もうその肩書きの時点で嫌な予感がしているニュイの勘は、当たっていた。
「なぁに。切れ味鋭く何でもかんでも切ってしまう鋏さ。あまりに切れ過ぎて良縁、更には男と妾の首も切ってしまうのだ――あんな風になぁ」
綴子が指差す先で、暗殺者の千代紙の人形の首がぽろりぽろりと落ちていく。
再現CGならぬ再現紙芝居。いつの間にか打ち合わせてたらしい。
「やっぱり物騒……どちらも強烈な愛だねえ。鋏の彼女が幸せになるには、水と油が1つになるが如く凄く時間かかりそう」
「ん? 待てよ? 2人ともおるぞ」
ニュイの一言でふと気づいた綴子が【虚構召喚】で喚び出したのは、『娘以外は冥土行き男』と『首切り鋏娘』であった。
「此奴らがくっつけば更なる恋バナ、血塗れ花盛り間違いなし」
「これはとてもとてもお似合いの二人だねえ。いいなぁ」
「いっそ、トマトも混ぜるか?」
「……ありかも」
「よし。では捏造する故、しばし待て」
ニュイはぱちぱちと拍手を鳴らして頷き、綴子がしれっとトマトを混ぜるとか捏造とか口走り話を組み立てにかかる。
そもそも、冥土行き男と鋏娘。果たしてどちらが【殺人犯】で、どちらが【魑魅魍魎】の役として喚ばれたのやら。どちらもどちらになり得るやばみ。
『あ、もう充分です。混ぜるな危険。止まって? 止まろう?』
そんな事は露と気にせず盛り上がる2人の横で、耳の像の根元のプレートには、そんな文字が浮かんでいた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
真守・有栖
お題は『推しを語れ→???』ね!
???って何よ?まぁ、いいわ。
私が推すのは……ずばり“私”よ!!!
才色兼狼たる真守・有栖の魅力をたーっぷり語ってあげる!
えぇ、私はとっっっても狼よ!狼なの!
賢狼・猛狼・迅速・美狼……一言では語り尽くせぬこの狼っぷり……!
ふふん。あまりの狼に言葉も出ないようね!……耳しかないわね?
わほん!いいわ。私が如何に狼かを聞かせてあげる!
お耳を失礼。せぇーの……
わぉぉおおおぉおおぉぉん……!!!
どう?愛くるしくも気高き絶妙な遠吠えは……!
たった一吠えでお耳を悦ばせてしまったわ。全く、罪作りな狼ですこと!
じゃ、次ね!次は私が如何に(以下略
お題『推しを語れ→やっぱりボケて』
●狼を音で表現せよ
「え? 何よこれ」
耳の像の前に立った真守・有栖が、プレートに浮かんだ文字を見て驚いたような声を上げる。
――推しを語れ→???
そこに浮かんでいたお題は、これまでにない形式だったからだ。
「???って何よ? まぁ、いいわ」
有栖は後半を見なかった事にして、口を開く。
前半だけなら、語るのは容易い。
「私が推すのは……ずばり“私”よ!!!」
今日も有栖は自信に満ちていた。
見栄っ張り。そうとも言う。だが、見栄も貫けば自信になる。
「才色兼狼たる真守・有栖の魅力をたーっぷり語ってあげる! えぇ、私は狼よ! とっっっても狼よ! 狼なの!」
この場で、何一つ物怖じする事無く『有栖自身』の事を語れているそれは、紛う事なき自信であった。
「ただの狼じゃないわよ。賢狼、猛狼、迅狼、美狼……もう一言では語り尽くせぬ、この狼っぷり……! あまりの狼に言葉も出ないようね!」
とは言え、この狼アピール。言葉だけでは難しい。ふわっふわな尻尾をぶんぶん振ってみせても像は耳だ。見えてない。
「……そう言えば、耳しかないんだったわね? わほん! いいわ。私が如何に狼かを聞かせてあげる!」
反応がないくらいで、めげる有栖じゃない。
「お耳を失礼。せぇーの……」
耳の像をがっしりと両手で掴んで、大きく息を吸い込む。また前に他の猟兵がやったように何か囁こうと言うのか?
いいや、その真逆だった。
わぉぉおおおぉおおぉぉん!!!
有栖が響かせたのは遠吠えだった。
その残響が小さくなっていく中、反応を示してきたプレートが、有栖の足元で淡い輝きを放ち出した。
「ふふん。たった一吠えで、お耳を悦ばせてしまったようね。罪作りな狼ですこと……ええと、なになに……?」
自信はあっても反応は気になるもの。
プレートを覗き込んだ有栖の目に、飛び込んできた言葉とは。
『犬の鳴き真似、上手ですね』
「ええっ!? そんな、愛くるしくも気高き絶妙な遠吠えだったでしょう……!?」
ここで1つ、種明かし。
有栖が遠吠えする直前にも、プレートに浮かんだお題が変化していたのだ。
推しを語れ→やっぱりボケて――と。
耳の像の何かがおかしくなっていたのだろうか。だとしても、そこに当たる辺りの空回りっぷりもまた、有栖であろう。
大成功
🔵🔵🔵
三嶋・友
6
え?何?推しとか語っちゃって良いの?
私二次元に関しては語り出したら止まらないよ?
沢山いるから誰を語るかは迷う所ではあるんだけど…!
んー
今回は私の最惚キャラについて語っちゃおうかな!
主人公のライバルで荒野を渡る女賞金稼ぎなんだけどね!すっごい格好良いんだー!結構傍若無人で無茶苦茶もやるんだけど、一本芯が通っててびしっと正論言ったりとか!元々は病弱な文学少女だったんだけど、そこがまた良いよね!自分の好きなものと大好きな自分自身に嘘をつかない!終盤で一度も振り向かないまま主人公と背中合わせで語り合う所なんかもうライバルの理想形だよね!(一息
って、え、待ってよ
私まだ全然語り足りないんだけどー!?
●わかる人にはわかっちゃうからね
「どーした? 壊れちゃった? 大丈夫?」
コンコンと軽く耳の像を叩く三嶋・友の足元で、耳の像のプレートが輝きを放つ。
そこに浮かび上る新たなお題。
――推しを語れ。
直ったようだけど、またか。
「よし! 推し、語っちゃっていいんだね?」
だが、友は瞳を輝かせていた。
「私二次元に関しては語り出したら止まらないよ?」
友は所謂オタクである。
普段は語る相手を選んでいるし、一般人の前ではちゃんと抑えているけれど。
それが、抑えているものを語ってよいと言われたのだ。
しかも、相手は迷宮の仕掛け。
抑える必要ないよね。
「推し沢山いるから、誰を語るかは迷う所ではあるんだけど……!」
多分、頷ける人は他にもいると思う。
ここに居るかは別にして。
「よし、決めた! 今回は私の最惚キャラについて語っちゃおう!」
そして友はイイ笑顔を浮かべると、すぅっと息を吸い込んで――。
「その子は荒野を渡る女賞金稼ぎ。主人公のライバルなんだけどね、すっごい格好良いんだー! 結構傍若無人で無茶苦茶もやるんだけど、一本芯が通っててびしっと正論言ったりしてさ! 元々は病弱な文学少女だったんだけど、そこがまた良いよね! 自分の好きなものと大好きな自分自身に嘘をつかない! 終盤で一度も振り向かないまま主人公と背中合わせで語り合う所なんかもうライバルの理想形だよね!」
ここまで一息で語りやがった。
「ふぅ……でね、でね。その子――おや?」
呼吸を整え、再び語り始めようとした友の足元で、耳の像の根元のプレートが輝き出していた。新たな何かが浮かび上がる兆候である。
『オッケー、推しっぷりは充分伝わった』
「え、待ってよ。私まだ、全然語り足りないんだけどー!?」
まさかの耳の像からの巻きに、友が憮然と言い返すが。
『これ以上は色々と拙そうなので』
像の根元には、今度はそんな文字が浮かんでいた。
大成功
🔵🔵🔵
萩乃谷・硯
尊い…と言われたことはありますが
自分でそうと語るのは気恥ずかしい
百年愛された、ある筆の物語
書道家親子二代に渡り、大切に愛された筆がありました
筆としての寿命を超えても
手入れ手直し、繰り返して永く永く
筆は主が大好きでした
でも時が過ぎ、二代目の主が老いて病に倒れると
別れを悟り、筆は無力を悲しみました
するとその時出逢って百年
奇跡は起き、筆は人の姿と命を得たのです
愛してくれてありがとう、と一生懸命伝えました
でも微笑んだのを最期に、主は天へ旅立って
筆は一人になりました
筆は深く悲しんで
でも百年、とても幸せだったから
自分も人を愛したい、幸せにしたいと願って生きています
これは今も続く物語
…お気に召しましたか?
●百年愛された、ある筆の物語
ここではない別の世界の話。
とある書道家の家では、親から子へ、二代に渡り大切に愛された筆がありました。
とは言え、筆を箱にしまわれているような事はなく。
筆として使い手入れを怠らず、それでも寿命を超えたら手直しを施して。
長く長く――本当に永く。
筆は書道家に使われ続けました。
筆は、主が大好きでした。
けれど、筆は直して使う事が出来ても、人はそうはいきません。
時が過ぎて、二代目の主も歳を重ねて。
やがては老いて、病に倒れることとなってしまいました。
それもまた、その人の寿命と言えるかもしれません。
けれども、大切な主との別れを悟った筆は、何も出来ない己の無力を悲しみました。
そんな折に――主が逝く前に、筆が先代に出逢い使われ続けて百年の日を迎えて、人の姿と命を得たのは、正に奇跡と言えるのではないでしょうか。
「愛してくれてありがとう」
得たばかりの仮初の体で、筆は一生懸命伝えました。
もう声も出せなかったのか――微笑んだのを最期に、主はその生涯を閉じました。
書道家は天へと旅立ち、筆は1人になりました。
人の姿で出逢えたその日が、別れの日となってしまい、筆は深く悲しみました。
でも、やがて思い出します。
大切に愛を持って使い続けてくれた、とても幸せだった百年を。
そして――最期の微笑みを。
そう。主は人の姿を得た筆に驚くでも疑うでもなく、ただ微笑んでくれたのです。
もう声も出せなかっただけかもしれません。
けれども、あの微笑みは。親が子に向けるような微笑は。
宝物のような記憶の最後の一欠片として、筆の中に確りと残っています。
「そして筆は、自分も人を愛したい、幸せにしたいと願って生きています」
そこまで語り終えて、萩乃谷・硯はほぅと小さく息を吐く。
「これは今も、これからも続く物語です……お気に召しましたか?」
気恥ずかしそうにしながらも、愛おしそうに、大切な思い出をゆっくりと振り返りながら語っていた硯が、耳の像に問いかける。
すると、だ。
――尊い……ってなるもの語って。
そんなお題が浮かんでいたプレートが、輝きを放ち。
『目があったら泣いてた』
そんな文字が、光が収まった後に浮かんでいた。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『黒焔魔竜・ヴェログルス』
|
POW : 禍ツ黒焔ノ息吹
【広範囲高威力の禍々しい黒焔の息吹】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を黒き焔が燃やし尽くし】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
SPD : 生ヲ貪リ喰ラウ黒キ焔蛇
レベル×5本の【命中したら徐々に体を蝕んでいく、炎/闇】属性の【高い追尾性を誇る禍々しい黒焔の蛇】を放つ。
WIZ : 憤怒スル黒竜ノ纏焔
全身を【怒り】に応じて大きく燃え上がる【漆黒の炎】で覆い、自身が敵から受けた【負傷と火炎】と【自身の怒りの度合】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
イラスト:小日向 マキナ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「龍ヶ崎・紅音」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●愛と愉悦が隠していたもの
『思っても見なかった愉悦もあった。堪能させてもらったよ』
そんな文字が耳の像の根元に浮かび上がると同時に、その後ろの扉が輝きを放つ。
耳の像の根元のプレートと同じ仕組みか。
何か、まだ伝える事でもあると言うのだろうか。
『この先に、強い怒りを感じる。そこにいる者は、怒りを糧とすると思われる。だが、愛と愉悦を確かめた者達ならば、その怒りに負ける事もないだろう』
浮かんだその文章に――猟兵達は首を傾げたり、顔を見合わせたりした。
アルダワの地下迷宮は、その様相が何時変わるか判らない場所の筈だ。フロアボスとなった災魔が、組み替えているからと言われている。
けれども。これでは、まるで――。
ゴウン、ゴウン。
重たい音を立てて、耳の像の後ろの扉がゆっくりと開かれる。
そこから伸びるのは、真っ直ぐな一本道。
これならば道に迷う事はない。迷わせる必要もないという事でもあるか。
程なく見えてきたのは、牢獄を思わせる無骨な鈍色の扉。鉄か、鋼だろうか。
その扉の向こうは、これまでよりも天井の高い、広大なフロアだった。
そしてそこに飛び込むと同時に、猟兵達は異常な熱を感じていた。
『キタカ……』
一段高い台座から、猟兵達を睥睨するのは漆黒の竜。
その体にも広げた翼にも、揺らめく闇のような黒焔を纏いし者。
黒焔魔竜・ヴェログルス。
『愛ダノ愉悦ダノハ、我ハ嫌イデナ。ソウ言ウモノヲ通ッテキタ輩ニナラ、我ハ大イニ怒リヲ覚エラレルダロウ!』
つまり、こう言う事だ。
ヴェログルスは自分の怒りの糧にする為に、道中のフロアを選んだ。己を討ちに来るものを返り討ちにする為に。
だが、迷宮のフロアの方も、利用されると知りつつその怒りに対抗できるものを選ぶかの様なものになっていたのは――まるで迷宮の意思?
そう言う事も、あるかも知れない。何故なら此処は、災魔を封じる為の場所だ。
とは言え確かめる術は既になく、そしてそんな暇もない。
『来ルガイイ――焼キ尽クシテクレル!!!』
漆黒の翼を広げ、ヴェログルスが上げた咆哮が、フロアを震わせた。
ライヴァルト・ナトゥア
わぁお、これは随分とでっかいのが来たな
何はともあれ、自己紹介から始めようか。自分を墓場に送り返す相手の名前くらいは知っておきたいだろうしね
俺はライヴァルト。新進気鋭のキマイラの戦士だ。よろしく!そしてくたばれ!
(いうが早いか突っ込んでいく。蛇に対しては鎌で斬り払って対処する【第六感】【2回攻撃】【フェイント】で巧みに攻撃を捌きつつ【ダッシュ】【ジャンプ】【空中戦】で駆け回る)
図体がデカいとやっぱり遅いもんだな
(時折【目立たない】で別の猟兵へ視線誘導しつつ、最高のポジションを確保)
封印限定解除、いうこと聞けよ、天狼サン!
(いつになく強い抵抗を感じるが、気合いでねじ伏せる)
その首、頂くよ!
レイ・キャスケット
はぁ…なんか禍々しい見た目の割にはやってることが回りくどくて小物臭いけど大丈夫?【挑発】
って、火に油を注いじゃったかも?
あんな強力そうなドラゴン相手だとヒーラーはいた方がいいよね
延焼する黒い焔や蛇に氷の光の二種類の【属性攻撃】魔法を使い分けて対処しつつ積もるダメージは≪ダン・デ・ライオン≫で回復して回るね
ブレスの直撃は【ダッシュ】で回避、余波は【火炎耐性】で耐える
自分自身が攻撃を受けないようにするのは支援戦闘の基本だと思うんだよね
なるべく直接攻撃は受けないようにヴェログルスからは距離をとってみんなの支援をしたいね
うーん…それにしても迷宮のギミックとのギャップがあまりにも激しすぎる…
榎・うさみっち
ぴゃーー!?聞いてたとはいえガチでヤバそうなのが出た!!
やだやだ俺もう帰るぅー!!えっ、やっぱダメ?
あいつの攻撃喰らったら真っ黒コゲになりそうだな!
まずは喰らわないようにするぜ!
【しんそくのうさみっちエスケープ】発動!
超強化した技能【見切り】で敵の攻撃の前動作や軌道を見極め
【逃げ足】【ダッシュ】(+気合い!)で高速で避けたり
【残像】を大量発生させて敵の攻撃対象をそらしたりするぜ!
避けつつうさみっちばずーかやかっこいいワイヤーで敵の行動の妨害
飛んでくる蛇を撃ち落としたりワイヤーで弾いたり
水入りゆたんぽをばずーかで連続発射してあいつの炎にぶっかけてやるぜ!
完全鎮火は出来ないだろうけどチリツモだ!
荒・烏鵠
影のある美少年サン(f14904)と併せだ。
@WIZで、ド派手に行くぜ。
《高速詠唱》で【牛ノ淵】、視界を奪う大津波。開幕ブッパはロマン。
その裏で《早業》、美少年に『シナト』を預け《目立たない属性》の札を貼る。
美少年が影に紛れてる間、オレは二人分のユベコを引き受ける。
挑発しながら《逃げ》まわりつつ、激流水槍氷盾氷弾などで攻撃。
相手が怒り狂った辺りで致命傷を避けつつ一発もらい、【牛ノ淵】解除。
絶体絶命!なーんて“嘘ですよ”。
シナトが操るのは風と音。炎からも矢来サンを守れるサ。
「やーい非リア!ンなキレてっとハゲ……もうハゲてた!」
「化かし合いで狐に勝てるかよ。千年はえーわ!」
矢来・夕立
化け狐さん/f14500と
ひとつ言っときますけど、全部ネタですからね?
火だのなんだのは昔からあやかしの領分で、人間技とは程遠い。
その辺は化け狐さんの【十三術式:牛ノ淵】に任せます。
それと、彼から子狐の精霊を預かっています。シナトさんでしたっけ?
音を消せる(演出)ってイイですね。《忍び足》が捗る。
あちらが派手に立ち回ってくれるぶん、こちらもスキを《見切り》やすい。
…《暗殺》【神業・否無】。
これだけ御膳立てして頂いてるんですから、多少燃えようが構いません。押し込みます。
シナトさんを道連れにはできないんで、お帰り頂いて大丈夫ですよ。
暗殺に二度目はない。
殺せなければ普通の白兵戦に移行するだけです。
萩乃谷・硯
まあ、随分な怒り様ですね
カルシウムでも足りないのでしょうか
ああ、いえ、挑発しているわけではありません
いろいろと楽しませていただいた迷宮でしたので、
温度差に少々驚きました
最後まで滞りなく、
皆様と気持ちよく帰還するといたしましょう
後方にて、戦闘支援を重視して立ち回ります
手には大筆、筆先には魔力
攻撃は『語義顕現・雷』にて遠距離攻撃を主体に
自分を含め、広い範囲への黒焔の攻撃が放たれた際、
合わせて放つ雷で、相殺を試みられればと思います
強力な攻撃直後の隙が無防備で一番大きいもの
私なりの支援で、皆様の攻手へ繋ぎたく思います
消耗激しい方には『語義顕現・癒』にて回復を
主力とはいきませんが
皆様をお守り出来ます様に
春霞・遙
あんなものを愛と呼んで良いのか知りませんけどね?そんな些細な幸せに嫉妬して憤怒しているのであれば、囁いてあげましょうか。なんてね、冗談ですよ。
そんな冗談で余計に怒らせてどうするのかって、不思議でしょう?そんな他者の疑問を糧とする者もいるんです。ほら、久しぶりの食事ですよ。
触手の群れを操って竜の攻撃から味方を守ったり、竜を攻撃したりします。
防具の「火炎耐性」も「呪詛耐性」も怒り狂った炎には役立たないかもしれないので攻撃は回避するか触手に身代わりになってもらいたいたいです。
盾代わりにしたらまた触手が怒るかもしれないけれど、疑問の感情さえ喰わせられれば落ち着いてくれるかなって。
真守・有栖
愛と愉悦と狼で魔竜退治よ!
いざ尋常に勝負!
魔竜さん魔竜さん
にーらめっこしーましょっ
笑うとがぶり!よっ
わっふっふ!
かーらーのー!
ほっぺにちゅー……届かないわね
ならば投げ接吻(きっす)よ!ちゅっ
ふふん。決まったわ!
……って、あぢぢぢ!?
し、尻尾が燃えるー!?
ふーふー。わぅう……艶狼たる私の魅力が伝わらないなんて!
これだからでっかい蜥蜴は……!(がるる
けれど。私に目が眩んで隙だらけね!
さぁ、私が囮狼になってる間に反撃よ!皆、ほんっっっとに頼んだわよ!?
皆を巻き込まぬように必死で逃げ回り、わっふっふ→接吻で笑撃と悩殺を繰り返すわ!
狼の一念(天丼)竜をも貫く、はず!
無視されたら、がぶり!と薙刀で反撃よっ
●嗤う魔竜、挑む者達
「わぁお、これは随分とでっかいのが出て来たな」
響いた咆哮で揺れたフロアの上で平然とヴェログルスを見上げて、ライヴァルト・ナトゥアが面白がるような声を上げる。
「ぴゃーー!?」
その一方で、何ともしまらない悲鳴も上がった。
「聞いてたとはいえガチでヤバそうなのが出た!! やだやだ俺もう帰るぅー!!」
冷や汗たらたらの榎・うさみっちが、くるっと反転したその時だ。
『クハハハハハッ!』
ヴェログルスが嗤ったのは。
『逃ゲルカ、矮小ナ者ドモ。ヨカロウ。今逃ゲレバ見逃シテヤル』
その言葉が、逆に重石になるとは、ヴェログルスは思っても見なかったのだろう。
「やっぱダメ? あいつの攻撃喰らったら、真っ黒コゲになりそうだぜ?」
「うん。確かに強力そうなドラゴンだけど、ヒーラーはボクがいるから」
まだヴェログルスに背中を向けたまま、ぶーんとホバリングしてるうさみっちを宥めるように、レイ・キャスケットが笑顔で告げる。
「ええ。此処まで来たのですから、最後まで滞りなく、皆様と気持ちよく帰還するといたしましょう?」
大筆を手にした萩乃谷・硯も安心させるように笑顔で告げれば、うさみっちもくるっとヴェログルスに向き直った。
『逃ゲヌカ。矮小ナ分際デ――愛ダノ愉悦ダノデイイ気ニナッタカ』
「さて。あんなものを愛と呼んで良いのか知りませんけどね?」
憎たらしげに呻くヴェログルスを見上げ、春霞・遙が声を上げる。
「そんな些細な幸せに、嫉妬して、憤怒するのであれば、囁いてあげましょうか」
『ツクヅク不愉快ナ者ドモダナ!』
遙がいつもの穏やかさを隠して告げた冗談に、ヴェログルスが怒りを顕わにする。
「なんてね、冗談ですよ」
『舐めているのか?』
それを冗談と明かすと、ヴェログルスの怒りに火を注ぐことにもなったが、その声の中に別の感情があったのを認めて、遙が小さく笑みを浮かべる。
「はぁ……」
その様を見て、レイが盛大に溜息を吐く。
「禍々しい見た目の割に、やってることが回りくどくて小物臭いけど? 大丈夫?」
『我ヲ小物ト嘲ルカ!』
「あれ? もっと火に油を注いじゃったかも?」
「何で怒らせてんだー!?」
レイの挑発でヴェログルスの体から漆黒の炎が燃え上がるのをみて、うさみっちが思わず声を上げる。
「あらあら。随分な怒り様ですね。カルシウムでも足りないのでしょうか」
その隣で、硯が目を丸くしてそんな事を言っていた。
「……おい」
「ああ、いえ。私は挑発しているわけではありません。ただ、これまでの迷宮との温度差に少々驚きまして……」
うさみっちのもの言いたげな視線に、硯は微笑む口元を手で隠して告げる。
『……』
そのやり取りに、ヴェログルスはもう言葉もなく、漆黒の炎を燃え上がらせる。
「暝神に帰依し奉る。浮石を踏みて木葉を沈め、辿りて来たれ老椿」
そこに響くは荒・烏鵠の声。一息で紡いだ言葉が術となる。
烏鵠の両隣に現れる、二体の水の妖し――濡女と牛鬼。
「ハハッ! どうせ挑発するなら、ド派手に行こうじゃん!」
烏鵠の合図で濡女が生み出した大量の水を、牛鬼が操る。
広がりながら猛然と放たれた水が、地下の迷宮にあって、忽然と生じた大津波がヴェログルスを飲み込んだ。
ドバシャアッ!
ド派手に鳴った水音に紛れて、動き出すは暗殺者。
(「シナト、預けたぜ――美少年サン」)
(「子狐さん預かりましたよ――化け狐さん」)
交わした視線で意思を交わし、矢来・夕立は音もなくその場を離れていく。火だの水だのを操るのは、昔からあやかしの領分。
人間技とは程遠い領域は任せて、夕立はひとの領分で出来る事をする為に、しばしその身を影とし潜む事を選ぶ。
『矮小ナル者ドモガ……!』
怒りに呻くヴェログルスの体から、蒸気が立ち昇る。
浴びた水が、蒸発しているのだ。
「ライヴァルトだ。新進気鋭のキマイラの戦士」
蒸気を上げるその姿に、ライヴァルトが己の名を告げる。
『?』
「さっきから矮小、矮小って言ってるけど。自分を墓場に送り返す相手の名前くらいは知っておきたいだろうと思ってね」
告げながら、ライヴァルトはランタンと一体化した大鎌を右手に構える。
「そうね、名乗りは大事ね!」
それを見た真守・有栖も薙刀を手に一歩進み出て。
「真守・有栖! 魔竜を倒す愛と愉悦の狼よ! いざ尋常に勝負!」
ビシッと指差し、有栖が言い放つ。
「ま、よろしくはしてもしなくてもいいぜ――くたばれ!」
直後、ライヴァルトが言うなり駆け出した。
●焔、蛇となりて
『墓場ニ行クノハ貴様ラダ! 灰トナレ!』
黒炎まとう翼をバサリと広げて、ヴェログルスが浮かび上がる。
その背中から、禍々しい黒焔が吹き上がっている。
まるで蔦が枝分かれするように幾重にも別れていく黒焔の先端は、蛇の頭部を模した形を取っていた。
「この程度!」
ヒュンッ!
ライヴァルトの振るった大鎌が、風を切る音を立て続けに鳴らして、飛来した黒キ焔蛇をすべて斬り裂いた。
「この程度じゃ俺達を灰にするなんて――っ!!」
ヴェログルスに言い放とうとしたところで、ライヴァルトは第六感が告げた予感に従ってもう一度大鎌をなぎ払った。
斬られた傍から繋がりかけていた焔蛇が、再び斬り裂かれる。
『クハハハ! 焔蛇ヲ斬レルト思ッタカ。ソラ、ドンドンイクゾ』
ヴェログルスの背中から、翼から。
放たれる、焔蛇。
焔蛇。
焔蛇。
「キリがない!」
跳び上がっても追尾してくる焔蛇を、ライヴァルトは着地を待たずに空中で大鎌を振るって斬り落とす。
このままでは、間合いを詰めるのはままならぬ。
だが、ライヴァルトは慌てず、次に向かってきた焔蛇を斬り払った。小さい事を積み上げて行くのは、ライヴァルトの得手である。
それに――1人で戦っているのではないのだから。
「うさみっちばずーか、くらいやがれ!」
そこにひびく声と、ぽんっとバズーカにしてはやや軽い音。
うさみっちの構えた砲口から飛び出したのは――刀を持ったうさみっち。
「次っ!」
ぽんっ。せみっち。
「次っ!」
ぽんっ。ゆたんぽならぬ、うさみっち水たんぽ。
次々と、色んなうさみっちシリーズが飛び出してはヴェログルスの焔蛇に当たってじゅっと溶けていく。
『……目障リダッ!』
「ぴぎゃっ! こっちきたー!?」
ヴェログルスが放った焔蛇がうさみっちに向かっていく。焔の牙が突き立てられ――そう見えた瞬間。
シュッ!
その小さな姿が消えた。
「こっちだぜー! うぉっ!?」
シュッ!
「へへっ! 残像だ!」
シュッ!
焔蛇が、うさみっちの逃げ足についていけないでいる。
この異様とも言える逃げっぷりの正体は【しんそくのうさみっちエスケープ】。
焔蛇の軌道を見切り、逃れきる高速機動。
ヴェログルスの目が追いつかない程の凄まじいスピードだが――その速度、逃げ足でしか発揮されなかったりするわけで。
「水たんぽ、撃つべし、撃つべし! チリツモの精神で撃つべし!」
攻撃は他の猟兵が頑張ってくれないかなー、なんて思いながら、うさみっちは八の字飛行したり実は必死に飛び回っている状態である。
そしてもう1人。
「魔竜さん魔竜さん!」
完全には切り払えぬと知りながらも焔蛇を切り払い、その空隙から有栖がヴェログルスを見上げていた。
「にーらめっこしーましょっ! 笑うとがぶり!よっ――わっふっふ!」
『……』
何を始めるかと思えば、またにらめっこである。
「かーらーのー! ほっぺ――は届かないから、投げ接吻(きっす)よ!」
ちゅっ、と。
本当に投げキッスを飛ばす有栖。
『………』
「ふふん。決まっ――って、あぢぢぢ!? し、尻尾が燃えるー!?」
そんな事をしている間に、有栖の尻尾に焔蛇ががぶりと噛み付いて炎上させていた。
「艶狼たる私の魅力が伝わらないなんて、これだからでっかい蜥蜴は……あぢぢぢ!」
また新たな焔蛇が、尻尾にがぶり。
だけどこれも、有栖の計画の内だ。
「私に蛇を向かわせた分、隙が生まれてる筈! 私が囮狼になってる間に反撃よ!」
口に出したら、割と台無しだけどね。
「皆、ほんっっっとに頼んだわよ!?」
変顔と投キッスを必死に繰り返しながら、有栖はその身を囮とし続けた。
「――あなたに宿せ、ボクの華」
ふわふわふわ、ふわり。
レイの掌に、淡い純白に光り輝くタンポポの綿毛が生まれる。
――ダン・デ・ライオン。
綿毛はふわりと風に舞うように飛んで、焔蛇に焼かれる仲間の元へと飛んでいく。
「うん、ヒーラーするとは言ったけど。こんな無茶する人がいるとは」
尻尾を焼かれ続ける有栖は言うに及ばず。
焔蛇を切り払って隙とベストな位置を伺っているライヴァルトも。高速で逃げ回っているうさみっちだって。焔蛇に当たってしまう事もなくはないわけで。
戦線が崩壊していないのは、レイのお陰と言えた。
『エエイ、羽虫ノ様ニ鬱陶シイ! ワッフワッフト鬱陶シイ!』
そんな中、ヴェログルスが、苛立ちに満ちた声を上げる。
17センチ程度なのに捕まえられぬ、うさみっち。
そして謎の愛嬌を振りまき囮の役目をこなす有栖。
どちらも、ヴェログルスにしてみれば理解の及ばぬ行動だ。
取るに足らない筈の者達が、碌な攻撃をするでもないのに己に向かってくるなどと。
『貴様ラ――ナンナノダ!? 我ガ恐ロシクハナイノカ?』
「ああ、いい疑問の感情ですよ、それ。そろそろ、頂きましょう」
ヴェログルスが抱いたその感情に反応して、ずるりと動き出す遙の触手。
「余計に怒らせたり、意味不明な行動もあり、不思議でしょう? そんな他者の疑問を糧とする者もいるんです」
告げる紫の手には、いつの間にか蠢く塊があった。
「ほら、久しぶりの食事ですよ」
謎を喰らう紫の触手の塊を遙がぶん投げると、それらは空中で解けて、幾つもの触手となってヴェログルスに降り注いで、その燃える体に巻きついていく。
『コノ程度! 我ガ焔デ焼キ尽クシテクレル!!!』
「あらら。やっぱり焼かれちゃいますか」
ヴェログルスの纏う漆黒の炎が、纏わりついた触手を焼き焦がしていくのを、遙はあまり慌てずに眺めていた。
そのくらいは、予想の範囲だ。
ヴェログルスが怒れば怒るほど、その身に纏う漆黒の炎は燃え上がるのだから。
「やーい非リア! ンなキレてっとハゲ……もうハゲてるか!」
触手を焼く為にヴェログルスが強めた怒りを見逃さず、烏鵠が濡女が生み出した水を牛鬼に槍と変えさせて――矢の様に投じるは水の槍。
「闇と炎なら――氷と光でどう!」
レイも回復の合間を縫って光り輝く氷柱を放つ。
水や氷はヴェログルスには届かずとも、当たった焔蛇を消滅させるには充分だった。
「よし――これなら、ここからなら。狙える」
焔蛇の空隙。そこから、ライヴァルトがヴェログルスを見据えて、獣のそれになっている左手を振りかぶる。
「過去、未来、現在。その総てを斬り払おう。万象一切、塵すら残さぬ一閃にて」
それは、封じられた獣の力の一端を使う業。
「封印限定解除! 言うこと聞けよ、天狼サン! 万象断裁せし蒼爪の一閃!」
いつになく強く感じる抵抗を抑え込んで、ライヴァルトは左腕を薙ぎ払った。
万象全てを断裁する巨大な天狼の爪が、焔蛇とその根源たる焔ごと大半を斬り払い、ヴェログルスの2つの翼すらも断ち、斬り飛ばす。
『グォァァアァァァ!?』
翼を失なったヴェログルスは、重力に引かれて落ちていった。
●禍ツ黒焔の後に
『グッ……グヌヌヌヌッ!』
背中から落ちたヴェログルスがゆっくりと起き上がり、ガチン、ガチンッと牙を打ち鳴らす。
その口腔の奥で、ボコリと音が鳴っていた。
「あれは――」
膨らむ竜の喉に気づいた硯が、大筆・永劫をぎゅっと握る。
『面倒だ。逃げる場所など与えずに、全て焼き尽くしてくれよう!』
ズンッと地面に降り立ち告げるヴェログルスの喉元で燃え上がるは、禍ツ黒焔。目に付く一帯を焼き払う、禍ツ黒焔ノ息吹。
「写しの筆よ、空裂く光を――語義顕現・雷」
竜の口から漆黒の炎が溢れる直前、硯の永劫が虚空に一文字、描いていた。
『穿』と。
文字が明滅し、何もなかった空間に無数の雷電が生じる。
雷は、焔よりも速い。
ヴェログルスの息吹に合わせて放たれた雷は黒焔よりも速くに広がり、火花を散らしながらも網の様に黒焔を押さえ込んでいた。
『ナンダト!? ソンナ細イ雷デ』
見た目の勢いは、確かに黒焔の方が強そうではある。
だが硯の雷には、破魔の力も幾らか込められていた。ヴェログルスの息吹を完全に相殺するには足りなくとも、拡散を防ぐくらいなら――。
「また疑問を感じましたね――ほら、また食事ですよ」
そしてその現象にヴェログルスが抱いた感情を見逃さず、遙が再び触手の塊を放つ。
黒焔の真っ只中に。
(「盾にしたようなものだよね。後で触手が怒るかもしれないけれど……疑問の感情を結構食べさせられたから、それで良しとしてくれるかな」)
そんな事を胸中で呟きながら、遙は触手が焼かれるのを眺めている。
「よし、ここだ! 濡女、牛鬼!」
黒焔と雷がせめぎ合う中、烏鵠が水妖達に指示の声を上げる。
『そうそうさせるか! 術者から先に焼いてくれる!』
だが――水が放たれる前に、まだ僅かに残っていた焔蛇が烏鵠に牙を立てた。そのたった一撃それだけで、濡女と牛鬼がただの水に還って消える。
「しまっ――!」
烏鵠のその声と顔に、息吹を吐き続けるヴェログルスがほくそ笑む。
「なーんて“嘘ですよ”」
「ええ、ウソですよ」
嘘と告げる声は2つ。
ヴェログルスの眼前と、背中から。
『ッ!?』
己の背中に登らせるまでの接近を許していた事に気づいて、ヴェログルスが思わず息吹を中断して振り向く。
未だ怒りで燃え上がる黒焔残るそこには、夕立がさも当然と立っていた。
「ここまで来れれば充分です。お帰り頂いて大丈夫ですよ」
夕立の肩には、子狐の様に見えるものが乗っていた。
きゅうと一声鳴いて、子狐――風と音を操る風の精霊シナトが、風と変わる。
足音はおろか、衣擦れ1つ、呼吸の音すらも気づかせずに夕立がここまでヴェログルスに接近できたのは、この支援あってこそ。
『ナン……ダ、ナンダ、貴様ハ! イツカラ、ソコニ、ココニイル!』
「化かし合いで狐に勝てるかよ。千年はえーわ!」
戻ってきたシナトを杖に戻しながら、狼狽るヴェログルスに烏鵠がニヤリと告げる。
「さて。それじゃ殺します――否応無く、死ね」
そして夕立は、死を告げる。
上の階で女神像に告げた時とはまるで違う。
清冽なる殺意の篭った夕立の死の宣告は、竜ですら、背筋にゾクリと走らせる。
(「これだけ御膳立てして頂いてるんですから、多少燃えようが構いません」)
まだ残る黒焔の熱を構う事無く、夕立は片手をヴェログルスの首に回して、残る片手を腰の刀の柄にかける。
スラリと鞘から抜き放つは、斬魔の脇指。
銘を雷花という。穿の一文字より放たれていた雷電が収まったそこに抜かれしは、雷の花を銘に持つ刃。
それを振るう業は、神業・否無。
イナナキ。されど嘶くほどの音もなく、僅かに空を切る音だけ鳴らして。夕立の刃が竜の喉笛に突き立てられた。
『ゴッ……バ、バカナ……ソンナ、矮小ナ刃デ』
「派手に立ち回ってる間も、ずっと見てましたから。それに、暗殺は一度で仕留めなければもう、暗殺たり得ないんですよ」
淡々と告げて、夕立が雷花の刃を捩じって、引き抜く。
ヴェログルスの巨体から、焔が消えてゆっくりと崩れ落ちていった。
「なんとか……なりましたね」
火傷で赤くなった手で、永劫を落とさぬように握り締め、硯はそれを見守る。
雷を放つ字を支え続けたその手は、黒焔の熱にさらされ続けていた。
「ほら、手を見せて――皆にも」
硯の手にダン・デ・ライオンの綿毛の光を当てながら、レイは他の仲間にも綿毛を飛ばしていく。治療で済む範囲で済んだのは、猟兵だったからなのは間違いないだろう。
「本当、迷宮のギミックとのギャップがあまりにも激しすぎるよ……」
「そうですね。途中は、いろいろと楽しませていただきました」
『……』
仲間の治療をしながら呟いたレイとその言葉に頷いた硯は、どこからか困ったような思念を感じた気がしたが。
この迷宮に動いているものは、もう猟兵達だけだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵