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呪いを、あなたに

#UDCアース

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#UDCアース


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●幸福を、あなたに
 その村にはとある風習があった。
 子どもが生まれた時に祝いの品として木彫りの人形を贈るのだ。その人形は子どもがある程度大きくなるまで――幼稚園や保育園に入園するまで、というのが一般的とされる――子どもの【きょうだい】として大切に扱われる。
 その人形が、子どもに降りかかる災厄から身を護ってくれるとされているのだ。
 役目を終えた人形は大切に供養される。これは長く持っておくと厄を受けきれなくなってしまうからだと言われている。
 一説には昔、衛生事情が芳しくなく赤子のうちに流行り病などで亡くなってしまう子供が多かった頃に生まれた風習だという。
 現代でもその風習は残り、当時の人形師の名を冠して「正岡人形」と呼ばれるその木彫り人形も、村の伝統として生き続けている。

 時刻は、夜の七時をまわった頃。
「ただいま。……ああ、浩平は寝ちゃったかな」
 勤めを終えた父親が帰宅した。母親はおくるみに包まれた赤子を抱いている。
「ええ、よく寝ているわ」
「ママの抱っこが落ち着くんだなあ」
「うふふ。ほら、見て。可愛い寝顔」
「ああ、本当だ……」
 父親は赤子の頬を、起こさないようにそっと撫でる。微笑ましい、平和な光景だ。それだけなら何という事もない、有り触れた……。
 けれど何か、何かがおかしい。
 よく眠っているという赤子の目が開いている。その目は瞬きもせず、何を見つめるでもなく、開かれたまま止まっている。なのに父も母も、その事には何の疑問を抱かない。
 柔らかな肌も、ちいさな手も、確かな体温も、そのままなのに。
 赤子は動かない。まるで人形のように。

 ……かた、と音を立て、ベビーベッドの側に置かれた「正岡人形」が揺れた。

●幸せを、あなたに
「……チェンジリング、というものなのでしょうか。人形とヒトがいつの間にか入れ替わっている。そんな事件が起こっているようです」
 人形を抱いた女が言う。彼女はグリモア猟兵の無供華・リア(夢のヤドリギ・f00380)。
「事件が起こったのは、UDCアースの田舎町です。昔から出産祝いとして木彫りの人形を贈る習慣があったとの事でしたが、その人形が赤ちゃんと入れ替わってしまう事件が起きているようです。赤ちゃんが人形のように動かなくなり、人形がまるで何かを訴えかけるように揺れている。なのに村の方々は、誰もその怪異に気がついていないのです」
 物言わぬ赤子に語りかけ、動かぬ口に哺乳瓶を入れて。中のミルクが少しも減っていないのに誰も気づかない。誰も疑問に思わない。そんな光景が、村のあちこちで起きている……。

 平素と変わらぬ薄い笑みを浮かべリアは説明を続ける。
 ――村の風習で贈られる人形は【正岡人形】という名の木彫り人形らしい。今でも村の工房で作られている。少量生産であるためどうしても値が張ってしまうので、最近では市販の人形を代用する人も少なくない。だが他の人形ではその【入れ替わり】は起きていないという。
「少し予知が不確かなのですが……。近頃は自らの敬う【邪神】を復活しようと暗躍しているUDCがいると聞いております。今回の事件もそういった類のものなのかも知れません」
 まずは該当の人形について調べれば、何か手掛かりが見つかるかも知れない。ご足労をおかけします、とリアは告げた。
「古来より呪いの人形などの噂が広まる事も御座いますが、人形たちに罪などないのです。彼らはヒトの想いを込めて作られるだけ。それが善い想いとは限らない、それだけの事です。
 げに恐ろしきは人の心……ですが今回は、善意を込めて作られた人形が不本意な結果をもたらす事になってしまったのですから。とても悲しく、そして赦せない事件です。どうか、彼らを救ってあげてくださいね」
 彼女の抱く人形が、硝子玉の瞳で猟兵達を見つめている―――。


ion
 お世話になっております。ionです。
 人形を愛してやまない彼女の事、出来るものなら自ら赴いて殴りたかったのかも知れない。そんなお話です。

 第一章では人形についての調査を行います。
 うまくいけば第二章、第三章で、今回の事件を起こしたオブリビオン達と戦う事になるでしょう。

 舞台はUDCアース世界のとある田舎町。やや過疎化が進んでいる地域で、だからこそ子供の誕生を祝う古い習慣が今でも大切にされているようです。
 UDC達の野望を阻止できれば人形にされてしまった赤子達も元に戻るだろう……リアの予知にはそう出ております。
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第1章 冒険 『呪いの正岡人形』

POW   :    調査の基本は聞き込み、歩き回る体力や信用を得る態度が大切

SPD   :    人形を手に入れ直接調査、盗むかまたは弟子入りか

WIZ   :    オカルト知識で調べよう、よく似た魔術や儀式を探せ

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🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

霑国・永一
ほぅほぅ、呪いの人形とは実にきな臭い。邪教連中も良くまぁ目敏くこういう風習見つけるもんだなぁ。
値が張るとは言っても換金して儲けるには不向きな感じだし、普通に調査するか

村の工房とやらに盗みに行くとしようか。
過疎とはいっても昼間は人が居そうだしなぁ。夜間に決行だ。夜間が駄目なら昼間でもいいけど、【視力】で見渡しつつ人目には注意か。
【暗視・忍び足・迷彩】を駆使して静かに潜入、人形を見つけたら狂気の奪取を使用したうえで素早く盗ませて貰おうか。
人形手に入れ次第【逃げ足・忍び足】で即撤退だ。長居は無用。
安全な場所で人形を調べるかなぁ
「どのタイミングで人形が呪具と化してるのかだなぁ。呪具にした本人も近くか」


荒・烏鵠
調査の基本は図書館だってルルブ持ったヒトが言ってた。
聞くトコ、結構な歴史を持つ因習みてェだな?なら図書館の民話や文化なンかの本にも少なからず情報が載ってンだろ。

過疎化が進んだ地域だってンなら、図書館や歴史資料館なンかの管理人サンはご老人の可能性が高い。ソチラの方々からも話を聞くぜ。
警戒解くにはシナトに手伝って貰おうかィ。会話の基本は適度な相槌と肯定、時々疑問だ。しっかり腰据えて聞き出してやらァな。

子は宝ッて言うしなァ。この依頼、しっかり解決したいトコだ。


波狼・拓哉
正岡とは…自分は存じ上げないけど有名人なのだろうか…
さてと、こういうときは足を使って調査するのが一番早いや。各家庭に聞いて回ろう。
探偵と言う身分を明かしつつ、この地域の正岡人形とやらの伝説を詳しく知りたいという依頼を貰ってきたということにしよう。…嘘ではないし。
コミュ力を使って人良さそうに聞いて回ろう。いつ頃からあるのか、分かるなら第一人者は誰か、どういう効果が期待できるのか…といった辺りかな。
その後聞けそうなら工房の場所でも言いくるめ使ってでも聞いておこうかな。…いやまぁ何か洗脳とかかもしれないけど一番怪しいし…知り次第足をのばしてみるか。
(アドリブ絡み歓迎)


マーリス・シェルスカナ
(※アドリブ、他PCとのからみ歓迎)
n~、人形とヒトの入れ替わり、興味の出る神秘デスね。
Meの同業者に人形と言うト、皆Robotを思い浮かんでしまうヨ。
だから本来のDollを見る機会が少なかったデスねェ、Ahaha…。
(宇宙の魔女、乾いた笑いを出しながら)

(調査方針:SPD型)
事件のキーとなる【正岡人形】、売ってないデショウか。
売ってたり手に入れる機会があれバ、何とか人形を手に入れたいネ。
手に入れられれバ、その人形を解析するヨ
oh…バラすわけじゃないヨ、それは人形が可哀そうデス。
Meの『アナライズアンドリプロダクション』を使って
人形に憑いてるモノ~UbelCodeの類とか~を炙り出すのデス。


シャルロット・クリスティア
POW

魂を抜いて、人形に移し入れている……と言うことでしょうか?
まずは仕組みと流通ルートを洗うところですかね。
製造段階でその呪いが付与されているのか、それとも流通しているうちに悪意ある誰かの手に渡ったのか……。
それによって疑う相手も変わってきます。

当人たちが気付いていない様子なら、そうですね……。
人形の風習に興味がある風を装って、『あなたも持っているのか』『どこで買ったのか』あたりから流通経路を追ってみましょう。

取り換え前の人形を買うなりなんなりで手に入れられれば一番いいのですが……
まぁ、そこは可能であれば、ですかね。
手段は余裕があれば、まず調査対象の絞り込みを優先するとしましょう。


月守・咲凛
赤ちゃんを狙うなんて許せないのです!
正岡職人さんのところに行って、人形を作る所を見せてもらう事はできるでしょうか?
普通の、ちょっと良い所の子っぽい感じの服装をして、お行儀良くお願いしに行くのです。
武装ユニットがないと戦闘力もないただの子供ですけど、油断を誘うにはその方が良さそうですし。
今度妹が産まれた時にお願いしに来るかも知れないので見ておきたいのです、とでも言っておくのです。
妹です。弟ではなくぜったい妹なのです。……予定はありませんけど。
流石に見える所で変な事はしないかも知れませんし、こっちには何があるのですか?とかちょっと奥を覗こうとしてみたりして反応を窺ってみましょうか。




(子は宝ッて言うしなァ。この依頼、しっかり解決したいトコだ)
 尾を見せない赤髪の化け狐、荒・烏鵠(古い狐・f14500)は、村の小さな図書館に足を運んでいた。
(調査の基本は図書館だってルルブ持ったヒトが言ってたし)
 図書館にはその地域の文化や習慣にまつわる本もあるものだし、過疎化の進んだ地域の図書館員ならば高齢である可能性も高いだろうと踏んでの事だ。
 案の定、貸出カウンターには白髪の目立つ男性が座っていた。還暦前後といったところか。平日の昼頃と言う事もあり暇を持て余していたようで、烏鵠が訊きたい事があるンだけど、と持ち掛けるとにこにこと応じてくれた。
「正岡人形ってヤツの話を色々聞きたいンだ」
「正岡人形かあ。最近は伝統工芸やなんかで町おこししている自治体も多いって聞いたけんどさ、あれもなんか色を華やかにしたり形を今風にしたりして外部に売り出したらどうかって話も出とったらしいよ。工房は断ったらしいけんど、後継者不足だったりなのは確かだしなあ。作り手がもう俺より老人ばかりでさ、悩んでるらしいね」
「なるほどなァ。むつかしートコだよなァ」
 今回の一件にはそれほど関連がないと思われる話にも、烏鵠は真剣に相槌を打っている。それが会話の基本だと彼はよく心得ているからだ。
 烏鵠の使役する科戸の狐精・シナトが主人の肩に止まっているのに気づいた図書館員は、お前さんのペットかい、可愛いのうと目を細めた。褒められて嬉しいのかシナトがきゅう、と控えめに鳴く。ここでは静かにするというのが判っているんだなあ賢いなあと図書館員はますます笑みを深くする。
「へへ、良かったな、シナト」
「ああ、でもあれなあ。子供の代わりに厄を溜め込んでくれるもんだから、きちんと時期が来たら供養して貰わないとかえってよくないらしいよ。なんでも昔、10歳を超えても正岡人形を家に置いていた子が事故に遭ったって話もあったらしい。ま、偶然だとは思うけんどなあ」
 事故? 烏鵠の黄金色の瞳がぴくりと揺れる。
「どんな事故だったンだ?」
「さあ、それは流石に……俺の生まれる前だったって聞いたような」
 もしかしたら載っているかも、と言って、図書館員は村にまつわる郷土史の本や地方新聞などを検索してくれた。
「サンキュー! 助かるよ」
「なあに、若い人が興味持ってくれるというのは嬉しいからのう」
 笑顔で検索結果のシートを受け取り、烏鵠は書物を探すことにした。


 やはりこういうものは、足を使って調査をするのが一番だろう。
 緑瞳の探偵、波狼・拓哉(ミミクリーサモナー・f04253)は各家庭に聞き込み調査をすることにした。
「探偵さん?」
 手短な古めの一軒家をあたった拓哉は、ドアを開けて出てきたのが若い女性で少し意外に思い……そして彼女がおんぶ紐で赤子をおぶっているのに目を奪われた。
 まさか。だが赤子の様子は正面からはよく見えない。
「正岡人形の伝説を詳しく知りたい、という依頼を受けまして。何かご存知でしたら」
 探偵事務所の名刺を差し出す。女性は特に訝しがる様子もなく受け取った。
「正岡人形なら、うちにもありますよ。ご覧になりますか?」
 嫌な予感は当たるもんだ……。表情には出さずに、拓哉は是非、と頷いた。
 家の中に置いた人形を取りに戻る女性の、背におぶわれた赤子がちらと見えた。ピンクの服を着たおそらく女児は、やはり無表情で固まっていた、ように見えた。
「なんじゃ歩美さん、お客さんかい?」
 家の中からもう一人声がした。老婆の声だ。
「ええ、お義母さん。探偵さんですって。正岡人形について知りたいという事でしたよ」
 歩美と呼ばれた女性が答える。
 ほどなくして人形を持った女性と老婆が出てきた。渡された人形を眺める拓哉に老婆は正岡人形のあらましを語ってくれた。その殆どはグリモア猟兵から聞かされたのと同じであったが――。
「だがお前さん、この人形は確かに厄除けになるが、使い方を間違えちゃあいけないよ。あたしの母が子供の頃だったかねえ、近所の女の子がひとり、川に流されて死んじまったんだ」
「……死んだ?」
「何でもその子が正岡人形を気に入っていて、本当はご供養して貰わなきゃいけないのをずうっと持っていたらしいんだねえ。厄が戻ってきちまっただなんて大人たちが噂していたのを覚えているよ」
「やだお義母さん、縁起でもないですよ」
「ちゃあんと神社に持っていけば何の問題もないさね。ほら、かわいい人形だろう」
 人形そのものには別段変わった様子は見られない。だがこの中に、この子の魂が……。
「……お子さんに、ご利益があるといいですね」
「やっと首が据わった頃なんですよ。すくすく育ってくれるといいなって思っています」
 母親が自慢げに身体の向きを変え、赤子の様子を見せてくれた。きっと本来はとても可愛い、文字通り天使のような赤子なのだろう。けれど今は……。
「ありがとうございました。とても参考になりました」
 瞬きを忘れたガラス玉から目を逸らし、拓哉は頭を下げた。


(魂を抜いて、人形に移し入れている……と言うことでしょうか? 一体何が起こっているのでしょう?)
 金髪の銃使い、シャルロット・クリスティア(ファントム・バレット・f00330)もまた、村の住民たちに聞き込みを行っていた。
「特に村の外に売り出しているものではないんだけど、最近はSNSなんかで噂を聞いて興味を持ってくれる人もちらほらいるみたいね」
 あなたもそんな感じなのかしら、と話題を振られ、シャルロットはええまあ、と曖昧に頷く。
 応じてくれたのは、25歳ほどの若い女性だった。彼女自身はまだ子供を授かる予定はないが、つい先日、友人が子供を授かった時に仲間うちでお金を出し合って人形を贈ったという。
「その人のお子さんは、今もお元気でしょうか? お母さんの方も何か変わった事なんかは」
「実は出産祝いを贈ってからはあまり会っていないのよ。まだ子供が小さいから、夜泣きが酷くて寝不足みたいでね。遊びに行くのは落ち着いてからの方がいいのかなって思ってて。たまにメールを送りあったりはしてるけど。……ああ、そういえばこの間、そのメールに変な事が書いてあったな」
「変な事、ですか?」
 シャルロットの瞳が真剣みを帯びるのを見て、女性はああ大したことじゃないのよ、多分勘違いだから、と両手を振った。
「一応聞かせてもらえますか? 安い買い物じゃないので、実際に買ったり家に置いたりしている人の話を聞いて検討したいんです」
 女性は一瞬迷ったが、ぽつぽつと話し始めた。
「その友達、生まれたばかりの赤ちゃんの他にもう一人、お兄ちゃんがいるのよ。今5歳くらいだったかな。その子が、人形がたまに喋ってる、って言っていたらしいのよね。まあ子供が言っていた事だし、夢と現実がごっちゃになっているだけだと思うけど」
「何て言っていたかわかりますか?」
「『コトリバコ』、だったかな」
 コトリ……小鳥?
「友達も旦那さんも、そんな声は聞こえた事ないって言うし。気のせいだと思うよ」
 なるほど、とシャルロットは表面上は納得してみせる。
「実物を見てみたいのですが、どこで買えますか?」
「正岡人形を作っている工房にショップが併設されているから、そこで買えるわよ」
 女性はメモ帳に地図を書いてくれた。ここからだと歩いてもそうはかからない。
 ありがとうございます、と女性に礼を言い、シャルロッテは工房に向かう事にした。


 ぽわぽわエルフの月守・咲凛(空戦型カラーひよこ・f06652)はお姉さんぶりたいお年頃。自分よりも小さな赤子に危害が加わる事など許せるわけがなかった。
 彼女は武装ユニットを全て外し、育ちの良さそうな女の子の服装で工房に向かった。工房に何かが潜んでいるとしたら危険を伴うが、油断を誘うにはちょうどいいだろう。

「あれ、嬢ちゃんどうしたんだ。お母さんお父さんはいないのかな?」
 咲凛が【作業室】と書かれたドアを開けると、彫刻刀を持った老齢の職人が顔を上げてこちらを見た。
「私、ひとりで来ました。人形を作る所を見せてもらう事ってできますか?」
「ひとりで。参ったなあ……」
 家に連絡した方がいいのだろうか、と職人は迷っているようだった。咲凛は重ねてお願いをする。
「じゃまにならないようにします。今度妹が産まれた時にお願いしに来るかも知れないし、どんな風に作ってるのか見ておきたいのです」
「うーん、じゃあちょっとだけだよ。危ないから離れててね」
「ありがとうございます!」
 ぴょこんと咲凛はお辞儀をして、言われた通りドアの辺りで作業を見学した。
 彫刻刀が木を少しずつ掘り進めていくが、まだまだ人形という形にはほど遠い。すごく大変な作業なのだなあという感想を咲凛は抱いたが、特に変わった所はないように思える。
「妹さんはいつ頃産まれるんだい?」
 手を止めぬまま職人が咲凛に声をかけた。
「あっ、予定はないんです」
「なんだいそりゃ。それじゃ妹か弟かわからないじゃないか」
「ぜったい妹なのですよ!」
「ははは、うちの孫もそんな事言ってたなあ」
 子どもとしては一緒に遊びやすそうな同性の兄弟のほうが嬉しいもんかね、と職人は笑う。
(職人さんは、特にあやしい感じはしないですね……。もっと奥を見てみようかな?)
 咲凛が「こっちを見てみてもいいですか?」と尋ねたのは【関係者以外立ち入り禁止】と書かれたドアだ。子どもの自分なら字が読めずに興味を持っても違和感を感じさせないだろうと判断しての事だった。
「うーん、まあ見るだけならいいよ。迷子になったらいけないから、じいちゃんが付いて行ってもいいかな」
 拍子抜けするほど簡単に職人は応じてくれた。
 職人と一緒に工房の中を見て回ったが、彼が何かを隠している様子は咲凛には感じられなかった。人形には間違いなく怪異が起きているが、製作者は何も知らないようだ……そう彼女は判断する。
「そういえば最近たまに夜中でも鳥が煩かったりするんだよなあ」
「鳥、ですか?」
「そうそう、鳥も進化してたりするのかねえ。都会では夜もカラスが鳴いているらしいし」
 職人のそれは何気ない日常会話だったのだろう。だが咲凛には、妙にそれが気になったのだった……。


「n~、Dollというのはなかなか興味深いデスね。Meの同業者に人形と言うト、Robotを思い浮かんでしまうヨ」
 独特の口調でそう話すのはマーリス・シェルスカナ(宇宙(そら)飛ぶマーリンレディ・f15757)。放浪船で育った宇宙の魔女。
 工房に併設されているショップに辿り着いた彼女は早速、店員に木彫り人形を薦められていた。
「全部手作りだからね、同じように見えても表情が違うもんさ。気に入ったやつを選ぶといいよ」
「なるほどネ」
 人形はUDCアースで発行されている一番高い額の紙幣が何枚か必要となるほどの金額だったが、猟兵としての活動に必要な資金ならば適宜支援が受けられる。人形を見る機会のあまり無かったマーリスは悩みながらも、一番穏やかそうな顔をした人形を手に取った。
「ねぇ店員サン、最近この辺で変わったコトってなかったデスか?」
 会計を済ませながらマーリスは店員に質問をしてみた。
「変わった事? 例えば」
「Umm...…正岡人形についてヘンな事を言う人がいたトカ、工房の周りに怪しい人がいたトカ」
「ああ、たまにはそういうのもいるねえ」
「本当デスか!?」
 マーリスは身を乗り出すが。
「うちは細々とやってるから、正式な取材みたいなのは断ってるんだけど。それで諦めない人なんかがこっそり工房の周りをうろちょろしてたりする事がある」
「そうデスか……」
 そういう事があるなら、実際にオブリビオンの干渉があっても気づかないかも知れない。マーリスは肩を落とす。
 贈り物用なら包んだ方がいいかなと尋ねる店員に、このままで大丈夫ですと告げ、マーリスは店を出た。
「もし、UbelCodeの類ならバ、これデ……」
 人目につかない所まで行くと彼女は術を発動させる。Analyze And Reproduction……それは対象の術を解析し、彼女自身の力とする技。
(――やっぱり、魂を吸収する力と、一般人へ怪奇を怪奇と思わせないようナ、強力な催眠作用があるようネ)
 こんな芸当が出来るのはオブリビオンしかいないだろう。グリモア猟兵は、彼らが邪神を復活させるために暗躍しているのではと言っていたが、その為に子供の魂を集めているというのは考えられないだろうか。
(……あれ?)
 人形の足の裏に、小鳥の足跡のような小さなマークがあるのにマーリスは気付いた。

 彼女は店に戻り、このマークには何か意味があるのかを店員に尋ねたが。
「マーク? はて、どれの事だろう」
 と店員は首を傾げるばかり。催眠の作用した一般人に見えないのならば、これこそがオブリビオンの干渉の証なのではないか。
 マーリスは店内に並べられた他の人形を見た。どの人形にも、小鳥の足跡が浮かんでいた。


(値が張るといっても換金できるもんでも無さそうだし、普通に調査するか)
 夜の闇に紛れるようにして、この世界で生まれた多重人格者、霑国・永一(盗みの名SAN値・f01542)は工房に向かっていた。普通に調査とはいっても、それは彼流の「普通」である。
 工房は古民家を改修したものであるらしい。職人は高齢の者が多く人手不足が心配されているらしいと、先に調査に向かった猟兵が言っていた。ならば万一見つかってもやりようがあるというものだろう……。
 入口には鍵がかかっていたが、ぐるりと周ってみれば窓の鍵がひとつ開いていた。不用心だなぁと口中で呟き、音もたてずに侵入する。
 入った先は、どうやら人形を保管しておく倉庫らしい。暗がりに無数の人形が並べられているのは肝が冷えるような光景であったが、永一は動揺せず『盗み至る狂気の奪取』を行使しひとつを掴み取った。

「さて」
 工房の窓から外に出て撤退しながら、永一は腕の中の人形をちらと見た。
 赤子の厄除けという事もあり、正岡人形自体も赤子の形をしているようだ。木で作られたそれは実際の新生児よりはやや小さいが、ずっしりと重い。「これ」はまだ誰の魂も奪っていない、只の人形の筈だ。だがどうにも不気味に感じられるのは事件のためなのか。それとももうこれは呪具と化しているのか――。
「まさおかにんぎょうのことをかぎまわっているのはきみたちなの?」
 背後から声を浴びせかけられ、永一は弾かれたように後ろを振り向く。だがそこには何もいない……。
 いや、いた。それはあまりに小さくて、初めは視界に入らなかったのだ。
 ピィ、と丸っこいフォームのインコが立っている。愛くるしい、庇護欲をそそられるような外見のそいつが、喋っている。
「じゃしんさまをふっかつさせるために、ちからをあつめていたんだ。じゅんすいなあかちゃんのたましいが、ひつようなんだよ。あともうちょっとだったのに、じゃまをするの?」
「お前さんが、人形に仕掛けをしたのかな?」
「じゃしんさまに、もらったちからだよ。にんぎょうにぼくのあしあとをつけておくとね、ちかくにいるあかちゃんのたましいをすいとっちゃうの。それに、おとなたちはたましいのなくなったあかちゃんを、ほんものだっておもいこむんだ。でも、きみたちには、きかないんだね」
 手元の人形に視線を落とすと、確かに人形の足裏に小鳥の足跡が刻まれていた。
 インコがピィ、と鳴くと、どこからか同じような外見の仲間がわらわらとやってきた。
「ぼくらのじゃま、するなら、ゆるさないよ」
「それは、俺達も一緒だねぇ」
 UDCの気配を察した他の猟兵達が駆け付けるのを感じながら、永一も敵を迎え撃つ構えを取る。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『セキセイさま』

POW   :    ガブリジャス
【嘴で噛み付くこと】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    あわだまおいしい
戦闘中に食べた【あわだま】の量と質に応じて【全身の羽毛】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
WIZ   :    セキセイまみれ
【沢山のセキセイインコ】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。

イラスト:橡こりす

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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

霑国・永一
ご丁寧に種明かしまでしてくれたという事は感謝しようか。君に力を与えた邪神様とやらの事も教えて貰いたいところだけど、もう会話は終わりか、残念。見た目が愛くるしいだけに心が痛むなぁ(棒)

狂気の予知を使用。
敵の思考を読み、【ダッシュ・フェイント・逃げ足】なども駆使しつつ、攻撃を回避、ついでに銃撃を叩き込みまくって攻めていく。
相手があわだまを食べて強化をしようという思考が読めたら銃撃で妨害もするようにする。
倒すつもりではやるものの、他の猟兵が来るまでの時間稼ぎが主。
「いけないなぁ。戦闘中に食事なんて行儀が悪い鳥だ。これは躾けてやらないとねぇ。ほら、素敵な羽毛が穴だらけになりたくなければ大人しく頼むよ」


荒・烏鵠
@WIZ
あーらら……コラまたオッソロしいマスコットですコト。
マ、そっちがその気ならそーするまでサ。

量が多くても体は大きくないようで。ならいっくらでもやりようはあらァ。
カモーンご夫妻、いっちょ大津波のち水竜巻と参りましょーヤ。
空を飛ぼうが関係ねェ。蛇の如き水流が追いかけて巻き込むゼ。翼濡れてッと飛べねーだろ?ハーイ生身で洗濯機体験数十羽様ご案内ーィ!

子供を害するヤツってキライなのよねー。惜しくもないヤツを亡くしたぜ。


マーリス・シェルスカナ
何やら胸騒ぎがして来て見たラ、喋る丸っこいインコの様なBirdが沢山群がってきたネ。普通に見たらCute…な筈なの二、Dollに呪いをかけてくるなんてちょっと怖くて…神秘的ですネ。

…可能なら研究用に一羽オ持ち帰リ…って冗談デスYo!Evilの手先は流石にMeには飼い切れないネ!

(WIZ型)
あの嘴はちょっと痛そうネ…、啄まれない様二間合いを取って攻撃するヨ!
ミーに近づこうとしたら『アステロイドスプラッシュ・プログラム』で、周囲の敵を攻撃して空から地上から近づかれないようにするヨ!


虚偽・うつろぎ
アドリブ連携等ご自由にどぞー


それは突如として現れた

そう 我こそが う つ ろ ぎ

ただ 自爆 するだけの 存在である

何かいきなり颯爽と現れ

何かいきなり颯爽と自爆し

何かあっという間に退場する

そんな自爆バカ


技能:捨て身の一撃もりもりのジャベリンモードによる自爆
作戦も何もない
ただ突貫し自爆するだけなのである


月守・咲凛
夜はちょっと眠いですけど……一気に目が覚めました。
わるい小鳥さんなのですね!赤ちゃんを狙うなんて許せません!
小鳥さんは好きなのですけど、流石に人の命を狙う小鳥さんは保護対象外なのです。
あわだまを食べようとしていたら食べようとしているあわだまごと、火線砲のビームで撃ち抜いていきましょう。
味方を巻き込まなそうなタイミングを見計らって、シマエナガ先輩を召喚です。鳥格の違いを見せつけてあげるのです!


波狼・拓哉
正岡は関係ないのか…気になるし後で個人的に調べてでも見るかな。
さてそれじゃあ、行きなミミック。掴んで投擲して全て炭へと還そうか。あわだまだろうとインコだろうと纏めて燃やし尽くせば利用もできないだろ?あ、周りは気を付けてね。無差別だし。
自分は衝撃波込めた弾で援護射撃したりしてサポートに。狙えそうなら嘴一点狙いとかして武器落としも狙ってみるかな。
(アドリブ絡み歓迎)


ルベル・ノウフィル
wiz
鳥さんがいっぱいではありませんか!
ふわふわのもこもこでございますナ、可愛らしい。えっ、敵さんなのです?

防御🌸
僕は狼ですよ?鳥さんには負けませんとも。
オーラを巡らせて鳥さんたちから身を守ります

UC🌸しゃよう
【沢山のふわふわ猫さん】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象(敵さん)を攻撃する。

遊びに来たわけではなくちゃんと助太刀に来たのでございます。(キリッ)
ご覧ください、これが僕の妖刀…ブンブン振り回して鞘に納めます。(見せただけであった)
猫さんにはご飯も用意してございますぞ!

猫さんたちが楽しそうに戯れておりますナ。
僕は尻尾をパタパタさせて一緒になって駆け回ります、わぅ。




「ご丁寧に種明かしまでしてくれたという事は感謝しようか」
 増えたインコ達に油断なく目線を配りながら、霑国・永一(盗みの名SAN値・f01542)は呟く。
「きみたちをけしちゃえばもんだいないもの。まずはきみをけしてから、ほかのひともけしてあげる」
「そうか。なら君に力を与えた邪神様とやらの事も教えて貰いたいところだけど……」
 視線は逸らさぬまま腰に手を遣る。ホルスターから取り出したのは旧ソ連産のものに酷似した拳銃。
「もう会話は終わりか、残念」
 地を蹴る。走り出したと同時に撃った銃弾が一羽を穿ち、ピィピィとけたたましい鳴き声が響く。
 可愛らしい嘴がぐわと開き、銃を持つ腕を噛み千切ろうとするのをすんでの所で躱し、永一は尚も駆ける。
 自分一人で仕留めきれるとは思えない。ならば他の仲間が到着するまでの時間稼ぎに尽力しよう。
 と。群れに群れるインコ達の真ん中が、突如爆ぜた。けたたましい轟音。爆発は炎を噴騰させる。
「……な」
 何が起こったんだと永一は目をしばたかせる。一瞬、ひらがなの「う」が視界をよぎった気がしたが、あれは気のせいだっただろうか。
 いや、気のせいではない。それは正真正銘「うつろぎ」の為せる技。
 ブラックタールである彼は己の本質である文字を体現し、邪神を喰らうために颯爽と現れ、そして颯爽と自爆する。名の通りうつろい行く不確かな存在。
 それはうつろぎ。名を虚偽・うつろぎ(名状しやすきもの・f01139)と言う。
 だが彼は既に自爆し退場してしまった。故に永一はその事を知らない。
 爆発から一瞬遅れて他の猟兵達も駆けつけてきた。
「何やら胸騒ぎがして来て見たラ、喋る丸っこいインコの様なBirdが沢山群がってきたネ」
 飛来したのは無数の星々。召喚したのは大きな三角帽子がトレードマークの魔女、マーリス・シェルスカナ(宇宙(そら)飛ぶマーリンレディ・f15757)。
「普通に見たらCute…な筈なの二、Dollに呪いをかけてくるなんてちょっと怖くて…神秘的ですネ」
「夜はちょっと眠いですけど……一気に目が覚めました」
 普段はもうベッドに入る時間。6歳の月守・咲凛(空戦型カラーひよこ・f06652)も武装ユニットを展開させる。
「わるい小鳥さんなのですね! 赤ちゃんを狙うなんて許せません!」
「あーらら……コラまたオッソロしいマスコットですコト」
 飄々とした口調で言うのは荒・烏鵠(古い狐・f14500)。豊かな髪を尾のように括った、尾を見せぬ妖狐。
「マ、そっちがその気ならそーするまでサ」
「正岡は関係ないのか……気になるし後で個人的に調べてでも見るかな」
 そう呟くのは波狼・拓哉(ミミクリーサモナー・f04253)。人形の由来になったという人物が気になっていたものの、アテが外れたのかと首を振り。
「まあ、まずは目の前の事を片付けてから、だね」
 ねえミミック、と傍らの相棒に声をかければ、宝箱のような生命体が同調するように口をカプカプさせる。
「鳥さんがいっぱいではありませんか!」
 キラキラと瞳を輝かせるのは人狼の少年、ルベル・ノウフィル(星守の杖・f05873)。
「ふわふわのもこもこでございますナ、なんとも可愛らし……えっ、敵さんなのです?」
 ならば仕方ないと妖刀「墨染」を抜く。
 斯くして総勢7名の猟兵が集まった。
 ちなみに、自爆し退場したと思われたうつろぎもいつの間にか復活し加わっている。


「遊びに来たわけではなく、ちゃんと助太刀に来たのでございますよ」
 キリッと効果音が付きそうなキメ顔でルベルは墨染を振るう。薙ぐように払い、斬り落とし、鮮やかにクルクル回してから鞘に納める。完璧な殺陣であった。
 完璧であったが―――それだけだった。無論インコ達にはなんのダメージも与えていない。
「すきだらけのこがいるよ!」
 鶴の一声ならぬインコの一声、隙だらけと思われるルベルを埋め尽くさんばかりのインコ達が現れて襲い掛かる。
「僕は狼ですよ? 鳥さんには負けませんとも」
 ふふんと微笑み身に纏うオーラでそれを防御した少年は。
「でも、その技は良いですね。可愛らしい鳥さんには、可愛らしい猫さんでお相手致しましょうぞ!」
 ルベルが両手を大きく掲げると、大きさも品種も様々な猫たちが大量に現れて視界を埋め尽くす。
 本能的な恐怖を感じたのかインコ達の顔が引きつる。動く獲物を見つけた猫たちはにゃーんと飛びかかった。
 まんまるぽよぽよのインコ達は途端に猫のおもちゃにされぴよぴよ転がされてしまう。
「うつろぎジャベリン……稲妻の如く疾走し……!」
 無数の黒い手が韋駄天の速さで突進、転がったインコを触手のようにがっちりと絡め取り。
「そして、やっぱり自爆する!!」
 爆風が上がる。その後には捕らえられたインコもうつろぎも、跡形もなく消え失せていた。

「むむむ、なかなかやるんだね」
 仲間の消えた方向を睨みながら、一匹のセキセイさまが言う。
「でも、これなら……」
 どうだ、と言いかけたインコの嘴を銃弾が直撃する。ぽろりと落ちたのは自己強化の力を込めたあわだま。
「いけないなぁ。戦闘中に食事なんて行儀が悪い鳥だ」
 眼鏡の奥で、銃口よりも冷たい視線がインコを見つめている。だが永一の口元にはいつもと変わらず薄い笑みが浮かんだままで。
「躾けてやらないとねぇ。ほら、素敵な羽毛を穴だらけにはしたくないだろう?」
「ピ……!」
「おおッと、逃げンなよ?」
 ちいさな翼を翻したインコを烏鵠の神符が狙う。量は多くても体は大きくない。ならばやりようはいくらでもあると彼が紡いだ技は。
「『暝神に帰依し奉る。浮石を踏みて木葉を沈め、辿りて来たれ老椿』……カモーンご夫妻ッ!」
 世にも美しい濡女が現れ水を撒く、世にも強大な牛鬼が現れ水を巻く。自在に水を操る妖怪たちの作り上げた蛇の如き水竜巻が、飛んで逃げる鳥たちを容赦なく巻き込んでいく。
「ハーイ生身で洗濯機体験数十羽様ご案内ーィ!」
 翼濡れてッと飛べねーだろ? ぱちんと烏鵠がウインクしたのと同時に水流はより細く疾く、まるでインコ達を締め上げるようにぎりぎりととぐろを巻く。
「ぼくは、ぼくたちは、まだまけるわけにはいかないんだよ!」
 それでも足掻いてあわだまをもごもごしようとするセキセイさまの口元を、無慈悲な火線砲【ハナシグレ】と【シュンリン】が撃ち抜いた。
「小鳥さんは好きなのですけど、流石に人の命を狙うコトリさんは保護対象外なのです!」
 咲凛が再度ユニットを展開させる。セキセイさまがひるんでいる隙に正確にクリーンヒットさせた。
 羽が濡れてぐったり地面に転がるインコ達を、宇宙の魔女はしげしげと眺め。
「……なかなか、興味深い存在デスね。可能なら、研究用に一羽オ持ち帰り……」
「だめですよっ、逃げたら大変なことになります!」
「アハハ、冗談デスYo! 流石に、Evilの手先はMeには飼いきれないネ!」
 慌てて制止する咲凛に笑ってみせながら、マーリスは魔術を展開させる。
「あの嘴に啄まれないうち二、攻撃しちゃうヨ! ……Meteoriteにご注意デス!」
 ……AsteroidSplash・Program。彼女の操る電脳空間により再現された疑似小惑星帯が飛来し、身動きの取れないインコを押しつぶし、蹂躙する。
 それでも生き残ったインコが一羽、諦めずにあわだまを口にしようとするのを。目にとめた拓哉が、そうはさせないよと衝撃弾で撃ち落とした。
「やれやれ、キリが無さそうだね。ひとつずつ撃ち落とすよりはまとめて燃やしちゃったほうがいいかな」
 拓哉が相棒に視線を落とせば、足のついたその箱がぴょんと跳ねる。
「それじゃあ、行きなミミック。周りには気を付けてね」
 蓋を掴んで投擲したミミックが炎を纏う。放物線を描き飛んでいくそれは陽炎であり、ミミックであり、拓哉でもあった。偽正・炎精陽炎(フォーマルハウト・ミラージュ)。それはすべてを呑み込み、炭へと還すべく荒れ狂う。
 炎が、吼えた。
「鳥格の違いを見せつけてあげるのです!」
 セキセイインコさんも可愛いけどもっと素敵な大先輩がいるのです! 咲凛が呼んだのは巨大なシマエナガ。ずしん、と地面を揺らしながら飛来し、セキセイさまに負けないつぶらな瞳から無慈悲なビームを放つ。
「やっちゃうのですー!」
 シマエナガ先輩はぐるり周りながら極太ビーム。途端に先輩の半径40メートルは地獄絵図と化した。強い。
 そんな先輩が周りを焼き尽した頃に訪れたのは黒き混沌。
「そう、我こそが、う・つ・ろ・ぎ!」
 何の脈絡もなく復活したうつろぎが何の脈絡もなく爆発し、勝利へのごり押しと演出を担当したという。


「う、う……」
 爆発と劫火が収まったその場所で。
 奇跡的にというべきか、一羽だけ生き残ったインコがよろよろと上体を起こす。
「子供を害するヤツってキライなのよねー。惜しくもないヤツらを亡くしたぜ」
 後はお前だけだと、烏鵠がインコを見下ろした。その口元にはいつも通りの軽薄ともいえる弧を浮かべているが、その目は一切笑っていない。
「これで君の野望も潰えた。君たちが信仰する邪神は、もう復活しない」
 歩を進めたのは拓哉だ。再度、相棒のミミックに炎を纏わせて。
「君を倒せばすべてが終わる。さあ、もう一度化け焦がしな、ミミック……!」
 だが、炎が最後の一羽を呑み込むよりも早く。
「じゃしんさま、ぼくのたましいをつかって!」
 ひときわ高く、満身創痍から絞り出した逼迫した声で、オブリビオン・セキセイさまが哭いた。
 途端にその丸い体は禍々しいオーラを纏い、掻き消えてしまう。
「何事デスか!?」
 油断なく周囲を窺うマーリスをはじめとした猟兵達は、どこからか少女の声を聞いた。まだ幼さの残る声が、抑揚のない声で呟いている。
「イッポウ……ニホウ……サンポウ……シッポウ」
 暗闇から突如現れたように、着物を着た少女が歩み寄ってくる。
「ゴホウ……ロッポウ……チッポウ……あともう少しだったのに。もう少しで魂は私の元に来て、呪いは成就された。まずは人形の中の子供の魂が。次は子どもを産んだ母親が。やがてすべての女や子供が。『私』の呪いを受けて、そして一族は潰える、筈だったのに。こんな不完全な復活では、時間がかかってしまうわ」
 赤い着物を纏った白い白い手が箱を抱いている。その上には、まるで人形のような長い黒髪と、生気のない少女の顔がある―――。
「あの子は……」
 図書館で文献を読んでいた烏鵠がそンな、と呟いた。あの子は、間違いない。何十年も昔に川でおぼれ死んだという女の子だ。新聞に小さく載っていた。その子が正岡人形を気に入って10歳になっても手放さなかった為、やれ人形の厄が還ってきただの、やれ呪いであるだのと根も葉もない噂が立ったという。両親は遠くへ転居したか自殺したかで、一時期は人形の伝統の存続も危うかったとされている。
 全くの偶然なのか、本当に呪いなどというものがあるのか、それとも当時からUDCの干渉が存在していたのか。それは烏鵠や他の猟兵達には知る由もない。ひとつ言える事は。
「その女の子の姿を借りて、復活した……てェことだな」
「貴方は、誰なのです?」
 警戒を込めてぴんと耳を立て、ルベルが問う。
「私は、コトリバコ」
「コトリバコ……」
 永一が呟く。この世界に生まれた彼は、その名を都市伝説として聞いた事がある。落ち延びた者が見逃してもらう代わりにともたらした、女と子供を殺して子孫を絶やさせる呪いの箱。今も効力の残るものがどこかに現存しているという……。
「都市伝説。噂話。そういうものの形を取って、蘇るものもいるのかな」
「WomenとChildrenを呪い殺すハコ、デスか。どおりであのGirlに遭ってから、ヘンな感じがすると思ったネ」
「奇遇ですナ、僕もなのです」
「はい……でも」
 女性であるマーリスと、子供であるルベル、そしてその両方を満たす咲凛は、先ほどから腹部に不快な痛みを感じていた。特に咲凛のそれは強く、額には脂汗が滲む。
 けれどもと痛みを堪え前を見据える。ここで自分達が負ける訳にはいかない。
「赤ちゃんや小さい子を狙うなんて、許せないのです!」
 ユニットの展開音が、戦闘開始の合図となった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『『都市伝説』コトリバコ』

POW   :    カゴメ、カゴメ
全身を【囲む様に子供の霊を召喚、内部を安全領域】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
SPD   :    そして皆いなくなった
【コトリバコから敵対者を追尾する無数の小鳥】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    【常時発動型UC】子取りの箱
【自身から半径レベル三乗mの一般の女性、子】【供を対象に寿命を奪い衰弱させる状態異常を】【付与。また、奪った寿命でレベルを上げる事】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。

イラスト:ALEC

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はアララギ・イチイです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ルベル・ノウフィル
wiz
僕は早業と捨て身の一撃が得意でございます

猫さんは可愛かったです
しかし僕は腹痛ナウ
痛悼の共鳴鏡刃を開幕で投げましょう
僕が痛みを感じるほど刃は鋭さを増すのでございますよ
攻撃は最大の防御、なのです

というわけでUC写夭
【常時発動型UC】子取りの箱
【自身から半径レベル三乗mの全てを対象に】
【使用中の敵UCを全解除し、他敵UCの新規発動を】
【禁ずる。また、敵から過去に受けた味方全員の痛み】
で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。攻撃力を重視

今度は彩花を投げましょう。
怨念には怨念です

そういえば、僕は救いにきたのですよ
これで救えたのでしょうか?
そうであれば、よいのですけれど


月守・咲凛
おなか……痛いです……。ぐるんってなりそうです……。
お腹の中を掻き回されているみたいに痛いですけど、赤ちゃん達を、家族の所に帰すためなのです……!
痛みで視界が歪みますけどそんな事も言っていられません、お姉ちゃんは負けないものなのです。動けるうちに全力で攻撃しておかないと。
空中から全力でユーベルコードを撃ち込みますけど、射撃の反動には耐えられそうにないので身体がブレても狙いに問題ないミサイルをメインで使っていきます。
体力が尽きたら後はアジサイユニットを盾として飛ばして味方を援護していきます。
動ける間は……みんなを守るのです……。


マーリス・シェルスカナ
(※アドリブ、他PCとのからみ歓迎)

WomenとChildrenだけを狙って子孫を絶やす呪い…、このままだとMeが死ぬ以外にMeが子孫が残せない状態二…?
Oh No、それはダメです!まだ(社会的に)成人してないのデスから!
(電脳空間展開しながら構える)

(方針:WIZ)
呪いのある状態では不利ですネ。特にあの咲凛って子、このままだととても危険デス。…この不快なUbelCode、一時的にでも相殺できないカシラ。

Meは無理に攻勢に出ず、『アナライズアンドリプロダクション』で
この呪い(UbelCode)の解析と、相殺策(プログラム)を用意しマス!
皆が攻勢に出るチャンスを、Meが何としても作るヨ!


霑国・永一
これはまた有名なものがオブリビオンとなったもんだねぇ。
自我を持った呪いの具現というわけだ。興味深くあるけど、仕事はしなきゃだ。任せるよ、《俺》
『ハハハハッ!相手が女子供でも、俺様は容赦しねぇからなッ!』

肉体主導権全て戦闘狂人格に渡した真の姿のうえで狂気の戦鬼を発動
【ダッシュ・逃げ足・見切り】入れて高速移動をしつつコトリバコの死角に回り、衝撃波を叩き込む。
自身を追ってきた小鳥は高速移動で逃げつつ、ある程度纏まったら衝撃波で消し飛ばす
また、戦闘中にコトリバコに接近できたのなら、手に持ってる箱を【盗み・盗み攻撃】にて奪い取る。そして破壊or遠くへポイ捨て
「悪ぃが、俺様は子守りは出来ねぇんだよ!」


波狼・拓哉
都市伝説か…やっかいだなぁ。さてさて現状見て最適解だしますかっと。
んーあれは箱の方が本体…なのかな?普通に撃っても多分防がれるだろうし…さて化け撃ちなミミック。撃ち倒しにいこうか。小鳥が面倒そうだし何とか相殺しにかかろう。無理そうならその身を盾にしてくれ。
自分は衝撃波込めた弾でミミックと一緒に小鳥の相殺を。隙を見て箱に撃ち込んで武器落としを狙ってみよう。物理的に浮いているとかじゃ無ければ腕に撃ち込めば衝撃波通じて落とせる…はず。物理的浮いていたらどうしようもないし、そのまま箱に撃ち込んでやろう。
(アドリブ絡み歓迎)


虚偽・うつろぎ
自 爆 一 択

た だ 自 爆 す る の み

う つ ろ ぎ で す

突 如 現 れ 無 慈 悲 に 自 爆

う つ ろ ぎ で す

た っ た 一 度 の 自 爆 に 全 て を 賭 け る

う つ ろ ぎ で す

そ し て 後 は 消 え 行 く の み

う つ ろ ぎ で す



技能:捨て身の一撃でのトッカンモードによる自爆
命中率を重視




「都市伝説か……やっかいだなぁ」
 どこかのんびりとした口調で言うのは波狼・拓哉(ミミクリーサモナー・f04253)。探偵に必要なのは忍耐力と判断力だ。こなすべき仕事が身辺調査だろうがUDC退治だろうがそれは変わらない。
「さてさて、現状見て最適解出しますかっ」
「猫さんは可愛かったです。しかし僕は腹痛ナウ。……ですが」
 痛みに顔をしかめながらもルベル・ノウフィル(星守の杖・f05873)が短刀『痛悼の共鳴鏡刃』を投擲する。
「攻撃は最大の防御、なのです!」
 刃に潜む死霊は所有者の傷を好み力を増す。つまり今は絶好の機会。箱持つ少女は跳躍しそれを躱すが、直撃を免れた筈の腕から着物と同じ赤が散る。
 それでも彼女の茫洋たる瞳は色を変える事無く、虚ろな表情を猟兵達に向けるのみ。ふわりと長い裾を舞わせ。
「呪いで死ぬのは苦しいわよ。他の大人たちと一緒に、今すぐに死んだ方が、ずっと楽」
 箱から飛び出した無数の小鳥の幻影が、その場にいたすべての猟兵達に襲い掛かった。衝撃と同時に、背筋がぞくりとするような感覚が降りかかる。恐怖、焦燥、絶望……。
「痛い……です……。お腹、ぐるんってなりそうです……でも」
 内外から襲い掛かる痛みに崩れ落ちそうになる身体を奮い立たせ、月守・咲凛(空戦型カラーひよこ・f06652)が声を絞り出す。
「赤ちゃん達を、家族の所に還すためなのです……お姉ちゃんは、負けないものなのです!」
「このままだと、Meが死ぬ以外にMeが子孫を残せない状態二……?」
 マーリス・シェルスカナ(宇宙(そら)飛ぶマーリンレディ・f15757)も気力を振り絞り、電脳空間を展開させる。
「Oh No、それはダメです! まだMeは成人していないのデスから!」
 マーリスの側で、ゆらり、と夜の闇が揺れた。いや、それは闇ではなく、タール状の生命体……もっとはっきり言えば、虚偽・うつろぎ(名状しやすきもの・f01139)であったかも知れない。
 だが『それ』はまだ気配を隠している。まだ己がすべてを賭けるべき時ではない、と。
「自我を持った呪いの具現という訳だ。興味深くはあるけどね……」
 それでも仕事はしなきゃだ、と霑国・永一(盗みの名SAN値・f01542)の金瞳が鈍く光り。
「任せるよ、《俺》」
 内に潜む『もうひとり』に声を掛けた瞬間、永一の表情が変わる。
 素性の掴みにくい薄い笑みが粗暴に歪み、瞳はぎろりと少女を睨みつけた。
「ハハハハハッ! 相手が女子供でも、『俺様』は容赦しねぇからなッ!」


「俺様がぶち殺してやるぜ!! せいぜい愉しませなァッッッ!!!」
 永一の身体に宿る『誰か』が駆ける。死角を狙い容赦なく叩きこまれた衝撃波が少女を抉り、揺らす。
「……乱暴ね」
 死を告げる小鳥が舞う。永一に襲い掛かるそれを、宇宙戦艦に化けたミミックが撃ち落とした。
「乱暴なのはどっちかな、全く」
 よくやった、と相棒をぽんと叩く探偵。
「……礼は言わねえぞ」
「はい。まずは彼女を倒さないと、ですね」
 突き放してもなお人の好い笑みを返す拓哉に、もう一人の永一は調子が狂うぜと舌打ちひとつ。
「おなか……搔き回されているみたいです……。でも、動けるうちに、頑張らないと!」
 武装ユニットのプログラムを開放し、咲凛が空中から一斉射撃を放つ。放たれたミサイルの雨は的確にターゲットを追尾するが、射撃の度に咲凛の身体が不自然にブレているのをマーリスは見逃さなかった。
「あの咲凛って子、このままだととても危険デス。この不快なUbelCode、なんとか一時的にでも相殺できないカシラ」
 展開した電磁空間を用いて、彼女は辺りに充満した『呪い』を解析し続けていた。腹部の傷みはまるで自分の中に何かが棲みついて暴れているかのような不快感を伴っている。痛みは判断力を鈍らせ、今すぐにこれを振り払いたいという攻撃衝動を湧き上がらせる。しかしそれは今の自分の役目ではないと、マーリスは理性で耐え続けた。
「待ってて……Meが何としてもチャンスを作るヨ!」
「無駄な事を……」
「そんな事は御座いませんよ。貴女のその力、僕も拝借致しましょう」
 ルベルは少女の配下にも用いた術を再び発動させた。『写夭』は『小鳥の箱』を盗み、彼女から受けた痛みの分だけルベルの殺傷力を上げる。怨念返しによる痛みの無効化はほんの一瞬だった。けれども今は、それで十分。
「怨念には怨念です。貴女が、そして貴女の呪いが強大なほど、この刃は鋭くなるのでございます」
 死霊の札転じた生奪の刃が放物線を描いて少女へ飛ぶ。手元の箱目掛けて飛んできたそれを、少女は庇うように身を丸めてその背で受けた。
「ぁあっ……!」
 よろめきながらも踏みとどまり、箱から小鳥を呼ぶ彼女を見つめ。
「……あれは、箱の方が本体……なのかな?」
 ガチィ、と歯を食いしばって小鳥の猛襲を受け止めるミミックの傍らで、拓哉が呟けば。
「コトリバコ、っつーんだから、そうなんだろ」
 衝撃波でそれらを撃ち落としながら、今更かよと言わんばかりに『永一』が吐き棄てた。


「それが判ったんなら、やるこたぁひとつだ」
「そうですね。不自由なく動けるのは俺達だけみたいですし」
 成人男性二人が目配せをし合い、逆方向へ走り出した。
「解析終了ヨ! 多分、ずっとは無理デスが……お返しするのデス!」
 マーリスの声が戦場に響き渡る。Analyze And Reproduction……戦場を覆いつくすほどに展開した電脳空間から吐き出されたプログラムが、身を焦がすような少女の呪いを掻き消していく。信じられない、と虚ろだった瞳にはじめて驚愕の色が浮かぶ。
「なぜ、この程度で私の力が……!」
「こんな苦しい呪いを、赤ちゃんや小さい子にまで使おうとしていたんですね。許せないのです!」
 いつもの力を振り戻した咲凛の『コード・アクセラレーター』が作動する。弾丸は先ほどよりも更に容赦なく、更なる正確さを以て地上に降り注ぐ。
「それが私。私は血と、死体と、怨念を込めた者。私は呪いそのもの」
 鳥が宙を翔け、弾丸を撃ち落としていく。最後の弾丸を撃ち落とした鳥達が咲凛を狙う。小柄な体躯に見合わぬ獰猛な嘴が、柔らかな肌を噛み千切ろうと、一斉に開かれる――。
 だが、それが届くよりも先に、『うつろぎ』が動いた。ゆらり平仮名が揺れたと思いきや、それは猛烈な速さで少女へ迫っていた。
 … … た っ た 一 度 の 自 爆 に 全 て を 賭 け る 。
 それは、傍目にはただの突貫でしかない。だがそれは彼の持てる全ての技量と、そして何よりも信念を賭した究極の一撃。
 絶対防御の術を持つ少女がそれを行使するよりも速く、影が届いた。
 灼熱が、轟音が、爆ぜる。閃光が視界を灼き、爆炎が闇夜を焦がす。
「『私』じゃ、ないだろう」
 黒煙をかぎ分ける様に、拓哉が駆ける。炎の中でもなお赤く昏い彼女を目がけて。
「君はその箱が自由に動き回るための付随物でしかなかったんだから」
「戯言を……あっ!」
 手にしたカラフルなモデルガンから衝撃波が叩きこまれた。少女の小さな手から箱が弾き飛ばされ、開いた蓋から干からびた何かが零れ落ちる。
 それが伝承通りなら子供の指であった事を、普段の永一ならば気づいたであろう。
 だが今の彼にそんな事は無意味だった。彼はそれを破壊するためだけにここに居るのだから。
「悪ぃが、俺様は子守りは出来ねぇんだよ!」
 だからさっさと消えな――暴虐の波動が、中身のなくなった箱を粉々に粉砕した。
「そんな、私は……私?」
 あとに残ったのはただの少女。いや、そうではない。彼女を蘇らせた『本体』さえ失ったそれは、最早少女ですらなく、骸の海に還るだけの、何者でもない存在。
「そういえば、僕は救いに来たのですよ」
 ルベルは闇の刃を握りしめる。世の理不尽を嘆くその一振りが、彼女の手向けに相応しいのかは、誰にもわからない。けれど。
 一撃が、少女の幻影に届く。
 貫いたそこから、彼女の姿ははらりはらりとほどけるように消えていった。
「―――これで救えたのでしょうか?」
 そうであれば、よいのですけど。
 そう呟き終わる頃には、彼女の姿は朝焼けの光の中に消えていた。


 ―――とある村の、とある家で。
 ふぇ、とむずがるように泣きだした赤子を、微笑ましそうに見つめる男女二人がいた。
「あ、浩平が起きた」
「あら、もうちょっと寝ててくれても良かったのに」
「パパとお話したかったんだよねー。あっほら、泣いてたのにもう笑ってる」
「パパの顔が面白かったんじゃないの」
「なんだよそれ。そんな事ないよな、なっ浩平」
 最近声を出して笑う事が出来るようになった赤子は、両親のやり取りの様子が面白かったのかキャッキャと笑い続けている。
 そんな、ありふれた幸せな光景が、村のあちこちに戻っていた……。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年05月02日


挿絵イラスト