14
罪名、無力。

#UDCアース

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#UDCアース


0




●罪状
 少年は弱かった。
 尊敬でき頼もしい父。厳しくも優しい母。生意気だがかわいい妹に、犬のポチ。
 みんないっしょが当たり前すぎて、別れなんて想像したこともない。
 だから――ぺしゃんこに畳まれた前部座席にも、すぐ隣にいた筈の存在がかたいアスファルトへ投げ出されたことも、まだ信じちゃいなかった。
 指の一本動かずにただ、目と鼻の先に迫った天井を見つめる。そこへ手が。淡いブルーをした、割れた窓に張り付く手があった。

 水色の少女は弱かった。
『ああ……痛いですよね。ごめんなさい、かわいそう、ごめんなさい』
 硝子玉めいて澄んだ瞳にはたちまち涙の膜。蛇のようにぐねっと曲げた指を窓の内へ滑り込ませては首へ絡む。やわく、締める。
 離れ離れは、いやでしょう。その荒い呼吸の安らぐまで。
『家族って、やっぱり、すてき』
 座席の前でふたりぶん潰れてひとつになった肉塊は、けれど最期まで想い合った証であるかのよう。
 だからわたしも、みんなも、ぜったいに"おにいちゃん"を――。
 たっと駆け出す少女は炎の中へ。高温に曝されたタールのからだはとろとろ崩れて、あーあ、どこまで歩けるかな。

 なりそこないの青年は、中でもとりわけ弱かった。
 ひとをころせと命を受けた。その日が来たとついに思った。怖くて、頭の中がぐつぐつ煮えて熱いから、吐き出したくて指を伸ばす。助けてほしかった。助けてあげたかった。
 だがとっくにひとのものではなくなった手には肉なんてくっついておらず、開いたつもりでかしゃんと鳴り、光線を吐くだけ。
『嫌、だ……』
 "おわり"を告げにきた世話係ごと、一列に並んだ車体の半分がごっそり消し飛ぶ。幼子の頭が吹き飛ぶ。飛ぶ、飛ぶ――本当にひとは脆い。
 フロントガラス越しに目が合う。驚愕に見開かれたそれは誰かの……記憶の隅に眠るよく知った色に似ていて、
『イヤだああァァァ!!!』
 火の回った車が次から次へと爆ぜ、だれかがだれかへ祈り紡いだ別れの言葉までも掻き消した。
 さようならも――あいしてるも。

 罪名、無力。
 君たちにはなにも救えない。
 救えないんだよ。


「まだ、救える命があります」
 ビル街のど真ん中を貫く高速道路上にて、UDCが暴走している。
 数は一。邪教団と思わしき関係者が多数。そして、巻き込まれた無辜の命は数知れず。
 現場は酷い混乱状態にある。
 爆炎が止まず、光が弾け、現在進行形で死が蔓延。猟兵とて飛び込んだならば無事では済まない。だが、ニュイ・ミヴ(新約・f02077)は覚悟を問うことはしない。
「人命救助、それから教団の目論見の阻止……原因の摘み取りとやっていただくことはたくさんあります。しかし時間はそうありません」
 数秒の間を空けて、すぐに転送ははじまった。
 次に目を開けたなら狂騒の中。瞼の裏で光の明滅が強まるにつれ、案内役の声は遠のいてゆく。
「ひとの……形をしているようでした。いえ。ひとでした。ですが今はひとではありません。UDC、この世界の敵なのです」
 だからこのおしゃべりは、蛇足。これから屠る相手が如何なる運命に翻弄された存在だとしても――止めることができると、信じています。ただ結ぶ。

 イェーガー。あなたがたなら。


zino
 ご覧いただきありがとうございます。
 zinoと申します。よろしくお願いいたします。
 今回は、力無きものの待つUDCアースへとご案内いたします。

●流れ
 第1章:冒険(高速道路)
 第2章:集団戦(泥人)
 第3章:ボス戦(繰り返される絶望『シリウス』)

●第1章について
 時間帯は夜。ギラギラ眩しいビル街、高速道路上。
 邪教徒集団の仕業とみられる渋滞が発生。
 動ける民間人が逆走や車を乗り捨て逃げようとして、更なる事故に繋がっています。
 邪教徒や民間人から死傷者多数。また、邪教徒は立往生する民間人を手当たり次第に供物にしています。
 邪教徒を含め一般人の生死は成否に影響しません。立ち回りはご自由に。
 なお第1章段階では道が混みあい過ぎているため、どんなに急いでもボスの元までは辿り着けません。視界不良、敵の妨害も想定されます。

●その他
 第1章は【4/27(土)08:30~プレイング受付。同日13:00時点で参加者様数が8名以上なら受付終了】予定です。
 以降のスケジュール等はマスターページにてお知らせいたします。お手数となりますが、ご確認いただけますと幸いです。
 全体的に痛い、救いの無い描写が濃くなる見込みです。猟兵の負傷時も同様に。どうぞご承知おきください。
 セリフや心情、結果に関わること以外で大事にしたい/避けたいこだわり等、プレイングにて添えていただけましたら可能な範囲で執筆の参考とさせていただきます。
175




第1章 冒険 『フロントライン・ハイウェイズ』

POW   :    力こそパワー!火力に物を言わせて車両もろともブッ倒す

SPD   :    速さこそ正義!車両の合間を素早く進み、死角から倒す

WIZ   :    知力こそ最強!乗り捨てられた車両や敵の装備を利用して倒す

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



『……ガ、』
 ぺた、ぺた。
 ぺたぺたぺた! ふらりとして影が踏み出せば、いくつもの足音がそれを取り囲んで駆け寄った。どれもがはだしだ。片や肌色、片や水色……。
『おにいちゃん! だめだよ、今日は暴れちゃだめな日っ』
『お薬がすぐに届くからね、届くからだいじょうぶだよ、だいじょうぶ……だいじょ』
 言葉の途中で水色のからだがぶつんと千切れ落ちる。高密度の粒子は生み出す断面すらうつくしく、囲いの中央で頭を抱える男の腕に輝いていた。
 ころす。
 ころして。ころしたくない。ころせば。たくさん。かれらが……、彼らが来たなら。
 待ち人を想いなりそこないはひとり。幽鬼の如くに炎の中、佇む。

 もはや敵も味方もないのだろう。
 閃光が走れば、ライオットシールド一枚構えただけの信者たちまで玩具か紙切れのように薙ぎ払われてゆく。
「まったく、初陣を前に暴走だなんて。アイツ一匹にどんだけの手間と金をかけてやったと思――がッあぁァ!」
「こんなもんでどうにかなるかっつうの……処理班はまだ到着しないのか!?」
 嘗て、神の怒りに触れることを雷に例えたものがいた。
 ならばこの光景こそがそうなのか。
 超常の力は車数台まとめて貫き、燃料タンクから漏れたオイルと混ざり合えばまた激しく火柱を上げさせる。
「オイ、そこらへんの車からエサつかまえて食わせとけ! 人殺ししたくて気が立ってんだ、ありゃ」
「やめて……やめてよぉ! こんなところで死にたくないッッ!!」
 不運にも足止めを食らった只人は逃げ場もなく、信者の手により車から引き摺り出されては即席の供物として投げ出される。
 柔い肉がいくら積み重なったところで、風除けにもならぬというのに。
天之涯・夕凪
可能であるなら、まだ生きている方で、供物にされそうな方の保護と救出を優先に
信者の方々は…それでも、命を奪うわけにはいかないでしょう
気絶させて動きを止めます
攻撃は私の身を盾に
激痛耐性で何とか堪えながら、巻き込まれた方々にこれ以上被害は増やさない…決して

「何か」に襲われている人々の方も、猟兵の何方かが向かってくれると信じて
可能な限り人命を救えるよう動きます
それに必要ならば、この手も足も、身も粉になっても構いません
ーーまぁ、それは言葉の綾ですけれど
けれど、この決意は戯れではありませんよ

人であった彼に、何が起きたのか私は知りませんが…それでも、人に、世界に、害を成す存在となってしまったならば、私は、


冴木・蜜
まだ救えるというのなら
私はこの手を伸ばしましょう
この身が犠牲になろうとも


障害物があれば
状況に合わせ体を液状化しつつ
車両や瓦礫の間を素早く這って突破
目につく限りの一般人を救います

自力で動ける一般人は安全な場所へ誘導
車に閉じ込められている人が居れば
こじ開けて逃がしましょう

邪教徒に引き摺られそうになっている一般人がいれば
間に割り入って庇い
引き剥がした上で逃がします
邪教徒が抵抗するようでしたら
麻酔薬を打ち込んで黙らせましょう

――自分で蒔いた種でしょう
貴方がたが責任をとれば宜しい

…と、言いたい所なんですが
流石に目の前で死なれると寝覚めが悪い
武器の類いを取り上げてから
手が回る範囲で安全な場所に放り出します


狭筵・桜人
あーあ。地獄絵図。
どれが邪教徒でどれが民間人です?

エレクトロレギオンを展開。
狭くしてごめんなさいねえ。
レギオン全機を逃げ惑う民間人の防護用物理障壁と誘導に回します。
UDCの気配を探り反対方向へ押しやるように避難させましょう。
車下りてー頭低くしてー。さあさあ歩いて歩いて!

私は邪教徒による民間人への危害の制止。
エサやりご苦労様でーす。
妨害は【見切り】で回避。
どれが誰だかわかりませんけど人間なら
胸ぐら掴んで“直視”。【呪詛】で無力化。
急ぎなのでちょっと乱暴にいきますね!

ああもう。
いっそ全部片付けてしまえば視界もクリアになりそうですがー……
倫理的に、ねえ?ンッフフ!
今日も地道に人助けとまいりましょう。



 到着するなりこの黒煙に轟音だ。
 猟兵同士の連携も楽ではないだろう。世界と隔てられた瞳の内で冷静に状況を分析しながらも、天之涯・夕凪(動かない振子・f06065)は仕事をこなす。
「歩けますか?」
「は、はい……あのっ、三つほど前に親戚の車が走ってたんです! いっしょにキャンプに行こうって言って、それで」
 肩を貸して起き上がらせた青年が声を詰まらせるのに、頷いて応える。
 可能な限り、人命を。それが夕凪が自らに課した命。
「お任せを」
 震える背を押す声は決して波立てない。そうして歩むべき先を示せば外套を翻し、見据える先、煙の内へと身を浸して。
 その脇を低く跳ね飛んでゆく黒があった。
 正確には足はない。冴木・蜜(天賦の薬・f15222)は溶かしたタールの体で車体の合間を潜り抜け、瓦礫の壁をも乗り越える。時に炎に引かれても、零す液体を呼び止めもせず最短距離を突き進む理由はただ"救う"ため。
 ……まだ救えるというのなら。
(「私はこの手を伸ばしましょう。この身が犠牲になろうとも」)
 罪滅ぼしに身を焦がし。

 熱に炙られた標識が途中からポッキリ折れて降ってきて。
 いま目の前で潰されたあれやそれやは、はたして邪教徒なんだか民間人なんだか?
「あーあ。地獄絵図。そろそろ見分ける装置か何か開発してくんないですかねぇ、本部も」
 数歩先の惨状に飛び退くこともせず、うんと伸びをする狭筵・桜人(不実の標・f15055)。すっかり嗅ぎ慣れた混沌の空気は危機感を与えてくれやしないけれど、まぁ、仕事は仕事。
「とりあえずー、少ないよりか多い方が誤魔化し効きますか」
 間違って民間人を取りこぼしました、よりは邪教徒も拾い上げました。が、きっと評点も高いに違いない。大体が単純な足し引きで動いているからこそ、この男の行動は早い。
 桃色の髪が柔らかく爆風に揺れ、次には呼び出した機械の起こす風に乱れる。飛び立つ小型兵器はエレクトロレギオン。
「狭くしてごめんなさいねえ」
 くい、と顎で指すしぐさに倣い二列に編隊を組んだ彼らは、桜人の側へ一目散に駆けてくるひとの群れを飛び越える。その瞬間だ、光線が空を灼いたのは。
 ――バヂッ!
 迸る熱量は柔肉を飛び散らせたか?
 否。飛び散ることになったのは機械のからだ。物理障壁として働いた使い捨てはへろへろ墜落し、破片が恨めしそうにも飛んでくるのをひょいと避けて桜人は周囲を窺う。
「そこの車。下りてー頭低くしてー。さあさあ歩いて歩いて!」
 指でかつんと窓硝子を叩けば、転げ出るように飛び出してゆく男の姿を見送って。戻した視線の先に、人だかりを見た。

「いたっ……いたい! はなしてっ!!」
「るせえ精々役立って死ね!」
 バリケードの如くに横倒しにされたワゴン車から引き摺り出される女、掴む男。疑うまでもなく邪教徒犯行の現場。周囲には先につまみ出されたらしき人間が膝を折って頭を垂れていて……男、老婆、子ども。家族連れだ。
 愛する者の危機を前に何故逆らわない?
 逆らえないのだ。両手両足を折られてしまっては、その場でのたうつくらいしか。
「どうしてこんな……僕たちは、ただ……」
「どうして? 俺が聞きてぇよ、被害者なんだこっちだって」
 力任せに放り投げられた女の体が宙を滑る。
 頭からアスファルトへ――。
「――自分で蒔いた種でしょう。貴方がたが責任をとれば宜しい」
 しかし、衝撃は訪れない。
 ぶつかった筈の地面がぐるんと波打ってかたちを変えたから。整ったなら女をその両腕に抱き留める姿となって身を起こす、闇色の存在を白衣が縁どった。蜜の、声はしんしんと。
「なっ……」
 なんだこいつ、も化け物、も聞き飽きた。
 触手の一部で間近に伸ばされたままの腕を巻き取って、すぐさま首まで伝うタールの目指すところは早急に贈る終わり――と言いたい所だが。
「眠っていただきます」
 流石に目の前で死なれると寝覚めが悪い。
 電灯にきらめく注射針。ズ、と、首筋に打ち込む麻酔薬が抵抗の暇も与えず昏倒させるまでが数秒の間の早業であった。
「ヒッ」
「もう一匹逃げ出してやがったのか!?」
 共に取り囲んでいた邪教徒には同じだけ早く混乱が広がる。護身用だろうか、懐から取り出したハンドガンの口が一斉に蜜を向く。
 狙いが自らに逸れた。それでいい――蜜のからだがそのとき、鏖殺ではなく抱えた人命を守るため防御の形へ移ろいだのは別な人影を視界に収めていたから。
 バンッ、  ガッ、 衝撃音は大まかに二度。
 いや、もう一度。銃を撃った側である筈の信者たちが、どさりと倒れ伏した音。
「間に合い、ましたか」
 息を吐く――駆け付けた夕凪の手には鈍器としても優秀な白き機関銃が抱えられていた。引き金を引くだけで容易く命を奪うだけの力を有しながら、その暴虐を良しとしない。
 足元に転がる頭からは意識を飛ばしたのみ、同じに墜ちては仕様がない。誓いは常に胸底を蝕む。
 残りについては……、
「やあやあ、エサやりご苦労様でーす」
 桜人の仕業。捻り上げ無理やり自分の方を向かせた信者の腕をぽいっと捨てて、浴びせた呪詛には知らんぷり。無害ですよって朗らか笑んでは、蹴り転がして顔を覗く足に容赦なし。
 あー、やっぱり見分けがつかない。いっそ全部片付けてしまえば視界もクリアになりそう、などと表情変わらず思考巡らすピンク頭の横に膝をついて、ダンピールは怪我人の容態を確かめる。
「……お父さんを支えていけそうですか」
「が、がんばる……がんばります」
 中学に上がるくらいの年頃だろうか、身を縮めるばかりであった少年はしかとその銀色を見返した。蜜がそっと下ろしてやった女もふらついて傍へ歩み寄ると、老婆の手を取り引き上げ。
「あなたたちは、一体」
「さて。どのように思っていただいても結構ですが……ここはまだ危険です」
 言うが早いか前方からの飛来物を受け止めて蜜の一部が千切れ飛ぶ。
 べっ、と地面に張り付いたそれは泡立ちながら溶けてしまうので、長持ちはしませんよ、との一言はジョークとしては気が利いていた。もっとも端から損傷は覚悟の上。最後の一滴までその身を使い潰すのだろうけれど。
 ついで程度に体外へ排出された弾丸がひとつころころと、渋る父母の靴先まで転がる。
「で、でも……その、怪我」
「構わず――行って!」
 声を上げたのは夕凪だ。
 瞳に眩い光を見とめ、迷わず前へ運んだ体を盾として数台奥の車が吹き飛びこの場まで撫ぜつけた爆風を阻む。
 打ち立てた銃が支え、混じる大粒の礫が肩を、横腹を抉っていった。遅れて鮮血がその風に散り、自分たちの服をも点々と染めてからすぐ"此処にいても邪魔でしかない"と悟った只人は引き返してゆく。
「はーやれやれ。さ、今日も地道に人助けとまいりましょう」
「……ええ」
 桜人のエレクトロレギオンが展開される。先は長い。――この身も粉になって構わない、言葉の綾と暈せど決意は戯れではなく、休むつもりのない夕凪は炎で揺らぐ道の先を思った。
 あの、泣き喚くかの荒々しい力が"彼"の。
(「人であった彼に、何が起きたのか私は知りませんが……」)
 それでも、人に、世界に、害を成す存在となってしまったならば、
 私は、

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

穂結・神楽耶
【アドリブ・連携・負傷歓迎】
炎の向こう、怨嗟と嘆き。
似た風景を知っています。
届かぬ無力がありました。
そう、弱かったわたくし。

今は届きます。
たとえ、全てをすくえるかみさまになれなくても。
伸ばしたこの手で、救える命があるのだから。

要救助者を片端から保護・治療。
ひとまずの安全を確保した場所を作ってまず落ち着かせます。
冷静になられた方から少人数グループを作り、近くの避難経路へ行って頂きます。

…もどかしいですね。けれど大それたことができぬ人の身ではこのようなことしかできません。
けれどお願い。
生きて。



 炎の向こう、怨嗟と嘆き。
 似た風景を、知っている。

「おかーさん、どこ? どうしたの?」
 駆け回っては避難経路を示していた穂結・神楽耶(思惟の刃・f15297)が炎の中、次に耳にしたのは、幼子の声だった。
 見れば呆然と立ち尽くす少女。そして、ひっくり返って燃え立つ車が一台。
「これは」
 だけではない。その車に半ば押し潰される形で女がひとり。辛うじて自由の利く上体を起こして、足音の主を見上げる瞳に既に力はない。
「その子だけでも、どうか」
「……、何を仰るんです? お母様ですか、お子様が悲しみます。さぁ、お手を」
 降りかかる火の粉からまず子を遠ざけながら、僅かに戦慄いた指を神楽耶は伸ばす。一歩、二歩。肌を舐める熱に怯むことなく前へ。すぐにあの車を退けて――。

 幾度もこの日を。次こそはこの手を。
 弱きは過去。今は届く。 届くはず。

 悲壮に笑んで落ち着かせんとする娘へ母である女は「ありがとう」とだけ呟き、ゆっくり首を振った。
 同時、どっ、と車体から炎が弾け、二人の間を遮る壁となる。
「あぁ、アァァ……」
 覚悟したところで死の恐怖にひとの心は耐えきれず。"炎の向こう"へ溶けた声が濁って震えた刹那、神楽耶の中で何かがふつんと切れた。
 一も二もなく駆け寄って黄金色に躍る業火へ右腕を突っ込む。爆発がもう一度、
 ……届いて、

「――――とどけえぇぇ!!」

 先で、たしかに肉に、指先が触れたのだ。
 引き抜いたそこには肘より先がくっついていなかったというだけで。
 ぽた、ぽた。 黒油のように雫を落とす断面はぐっちゃり吹き飛ばされた痕跡。爆風か。よくわかる。しっている。この分では、ひとの肉体はもう――……。
 こうして炎はいつも無慈悲に、神楽耶から意義を奪うのだから。
 肩口まで焼き爛れた腕よりずっといたむものは。
 食いしばった歯の隙間から落胆が零れる。
 そのとき光で両目の潰れた幼子の手が宙を彷徨いながら、俯く女の目元へぺたりと触れた。
「おねーちゃんも、どこかいたいの?」
「……いいえ。 いいえ、痛くなど……痛みなど、ありませんよ」
 母の死など知り得ぬ無邪気。
 その軽い体を抱いて立ち上がると、ヤドリガミの唇は苦悶の吐息を抑え込みちいさく唄を口ずさむ。
 この子の傷が癒えるまで、守る務めを託されたならば最後まで。
 背で炎が勢いを増す。誰の叫びももう聞こえない。そうだ、この手はかみではない。救えた命の尊さはこんなにも重い。 あぁ……けれど、どちらへ行けば。
「生きて、くださいね」
 生きて。
 お願い。

成功 🔵​🔵​🔴​

ジャハル・アルムリフ
同じ人間を「選ぶ」か
随分と思い上がった連中だな

<視力>用い人工灯に惑わされぬ様
急を要す場と力の必要な箇所を優先
距離がある場合は【竜眼】にて強制阻止
近くにいる他猟兵とも連携を意識
必要あらば自ら盾となるも厭わない

壊れた無人の車も一般人の盾
または邪魔となるなら移動や破壊の一助を
混雑で進めぬ時は車上からか
短距離を飛行し上から向かう

供物と放られそうな一般人を見つけ次第
信者を掴んで引き倒し
同じ信者に向け投げ飛ばして気絶させる等、無力化を狙う
まだ騒ぐなら恐怖を与え黙らせる
積極的に命こそ奪わんが、それ以外の容赦は一切しない

煩い
贄にされぬだけ幸運だと思え

一般人は他猟兵のいる方へと促し、預け


*如何なる描写もお任せ


セロ・アルコイリス
楽しく、ねェんだよなァ
楽しくねーんですよ
あー、なんでしょうこのココロ
(いつもの笑みすら浮かべられなくて、)

人命優先、癒すよりも窮地から救い出す
傷付いたっていい、人形はヒトの形代なんです
『かばう』『ダッシュ』『早業』
避難させる必要がありゃ、
【突風】でとにかく高速道路から下ろす
質より数、癒しは任せます

邪教徒と判明次第ダガーの柄握り込んだ拳で一発殴る
速度乗せりゃある程度効くでしょ
狂気やら悪意やらは盗めなくても、
戦意くらい奪えりゃいいんですが
ま、無辜のヒトからおれへ悪意を奪うのでもいいや『盗み攻撃』
……コイツらも守るべきヒトなのか、迷うところではありますが

※アドリブ歓迎


エンジ・カラカ
あーあー、滑稽だ。これがヒトだ。
自分の身が一番かわいくてかわいくて仕方がないンだ。知っている。
コレはよーく知っている。
いとおしいネェ…

にげろにげろ。遠くへにげろ。
車が邪魔、ビルの灯りも邪魔、賢い君賢い君
アァ……それから白と黒の仔竜、非常食の空木と黒鳶
道を拓こう。辿り着くための道を。

助けれそうなヤツは助ける?
コレはどっちでも
自慢の目も耳も鼻も今回ばかりは効きそうにない
白と黒、何か変わったことがあれば知らせてくれ
コレの足はまだまだ健在ダ。
妨害があろうものなら避けてみせるサ

邪魔者はどーこだ。
出て来いよ。あーそーぽ。


境・花世
こんな景色を一体何度見ただろう
弱いからだいじなものを奪われる――
いつもそうだね、此の世界は

混乱のなかを素早く駆け抜け、
車はジャンプで飛び越えて
信者たちの凶行を止めにいこう
物理で妨害しながら目を合わせ、
催眠術で邪教徒同士が食い合うように仕向ける
そんなに崇めるものがあるなら、
自分が贄になってあげたらいいよ

一ヶ所片付いたら次、また次へ
悲鳴の聞こえる方へ早業で駆けつける
合間に催眠でとろかした信者へ問うて
すこしでも彼等の真の企みを聞くことができたなら

……ああ、穏やかで混沌とした骸の海へ行くより
ここの方がずっと地獄絵図みたいだ
別にかなしいわけじゃない
ただ、それが事実だと知っているだけ


※アドリブ絡み大歓迎



 ギャリギャリギャリ!!!

 地面を削りながら爆走するオープンのスポーツカー。大金持ちも貧乏も死の前には等しく平等。立派であったろう車の塗装は剥げ、焦げ、運転席で目を血走らせる男は今ただひとつのものだけを望む。
 しにたくない。
 俺だけでもたすけてくれ!!
 故に、眼前続く道を徒歩で逃げる人間など障害物に過ぎない。何人も巻き込んだタイヤの回りは悪く、異音と振動が伝わるけれど知ったことか。またふたり、子の手を引いて駆ける男を跳ね飛ばすべくヘッドライトが照らし出した――。
「……は、」
 だが瞬間、浮いたのは自分の体だ。
 次いで衝撃! べこんと凹むボンネット、もげるタイヤ、操作の利かぬ車体は向きを変え両脇に備えられた防音壁に突っ込んでゆく。ぶつかり壁を崩して弾け飛ぶ、その終わりを車内で迎えずに済んだのは。
 ハンドルを握りしめた手が引き剥がされるほどの力の強さで、宙に引き摺り出された男を――否、引き摺り出した男をジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)はしずかに見下ろす。
「殺す気か」
 背後では、爆風に煽られながらも父子の足取りは止まず遠のいて。
 翼持つ男は切り裂くように煙の合間を縫って、真っすぐに己の活かしどころを探していた。あと数秒遅れていたら。……襟首を掴み上げるのと逆の拳には、あまりに強く車体を殴りつけたから血が滲んでいる――ジャハルは短く息を吐き。
 行け、と言い捨てて手を緩めればべしゃりと尻餅をつき、腰を抜かした男が這い進む。
 それを一瞥しただけでより多くのためと両翼を広げ、ドラゴニアンは先へ。
 ――拳だけではない。
 ここまで切り抜けるため手荒に扱った翼、体のあちこちには傷が開いて赤黒い液体を滴らせていた。この痛みが、印。
(「師父を置いてきて正解だった」)
 頑丈なつくりだというのに口うるさい誰かの姿を思い浮かべる度、"間違っていない"と風を掴む力は強かに。
 対向車線にて、その影と並走する色は艶やかに紅。
 こちらは翼など持たずとも、ひしゃげた車の屋根を足場として軽やか跳ねる。境・花世(*葬・f11024)。乱される美しき長髪を気にも留めず、またひとつ。
 こんな景色を一体何度見ただろう。
「弱いからだいじなものを奪われる――いつもそうだね、此の世界は」
 前方から転がり来る人間だか何だか分からぬ塊を瞳に映しても、もう。涙するほどに幼くもなく、乾けど右目の八重牡丹は麗しく咲き続けている。
「道の端に寄って走って、真ん中は危ないよ! そこ……」
 声を、目一杯に飛ばして走り抜けていたときだ。
 地域柄か夜の色彩もあってか、大概黒髪が多い眼下の頭の中にひときわ目立つ白。ふわりと揺れる青の布、頬に描かれた一色のハート。
「セロ」
 手元を見つめこちらへは背を向けた、そのひとの名を呼ぶ。
 振り仰ぐ顔はやはり知ったもの。
「――どうも」
 ただ、どこか翳りを帯びていたけれど。く、と反射みたくに口角こそは上がれど眉間の皺はかたまったように張り付いていた。
 足を止めた花世の鮮やかな色をした瞳は、やけに目立って男の細首に走った刀傷にこそまたたく。戦いにおいて油断するような手合いではないと知っている、では。
「セロ? どうしたの、その」
「あぁ。こいつは……」
 答えの間に意識の外で、端の焼けたマフラーを引き上げるセロの手が首元と口元を隠す。本当に隠したかったのはどちら。彼女はどちらを不審がる。 うまく、笑えていない?
 ――まさか。
「ご心配なく、ですよ。しかしまったく、酷いモンですね。熱いったならない」
 溶けちまいますなんて声が茶化して。帯びたまじないの効力は確かなもの、決して熱くなどない筈だ。それでも口から零れ落ちる世間話はつらつら、自らを掻き立てる見知らぬ"ココロ"を拒むようにも。
 その横顔に花世はそれ以上何も言わず、ただ頷いた。

 ――時は少しばかり遡り。
 セロという名のミレナリィドールが負った傷は他でもない、力無き命のためだった。
「ってめぇどこから、」
「……楽しく、ねェんだよなァ」
 振り下ろされたあとのナイフにむざむざ身を割り込ませる人間がどこにいる?
 こういうときは怯えて足が動かないか。誰かが殺されている間にこれ幸いと逃げるべきだろう。
 だが、この男は裂かれる代わりと突き出した"牙"の底でたじろぐ邪教徒へと一撃まで入れてみせた。至近からの強打。ゴッ、と手応えは確か、すこし上の高さにあったフード頭がぐらり自分の横へ堕ちてゆくのを視界に収め、へたりこむ只人を背にしたまま。囲う信者たちを流し見ては。
「楽しくねーんですよ」
 繰り返して手の内の刃を跳ねさせるのだ。
「なんっ、なんでまだ喋ってやがる……」
「あー、なんでしょうこのココロ。ねえ。教えちゃくれません?」
 一方的に踏み出す一歩。 詰めた分だけ後ずさる邪教徒を追って歩んだなら"盗み"は完了。散り散りに逃げてゆくアレらを追うよりもセロが優先したいのは、人命だ。
 振り返り、縮こまる肩へそっと触れようと伸ばした手は――しかし平手に強く跳ね上げられて。
「ッあ、ああああ!! やめて、ころさないで……!」
 錯乱した娘の悲鳴が続く。
 胸元に大事に守っていたであろう子犬を投げ捨てて、ズタズタに破れたワンピースを引きずり転げ逃げてゆく女。見送るセロは首の傷よりずっと痺れる指を開いて、握って。
 開いて。
 触れるバウンドしたちいさな毛玉は主と違って何の抵抗も寄越さないけれど、なんだ。――もう死んでいるじゃないか。

 ああ、滑稽。これがヒト。
 自分の身が一番かわいくてかわいくて仕方がない。知っている、と、エンジ・カラカ(六月・f06959)はふるさとでも眺むかのように退屈そうな面持ちのまま。
「コレはよーく知っている。いとおしいネェ……」
 くありとあくびを噛み殺したのは、舞い来る土埃がおいしくないから。
 そも肉片なんかも混ざり込んでいるものだから、べっちゃべちゃ靴音が鳴ってそれすら煩い。ただでさえ自慢の目も耳も鼻もお留守番をくらっているというのに、不快指数だだ上がりというもの。
「おもしろいものはどーこだ? 邪魔者でもいい。あーそーぼ」
 呼び声に声を返したのは間近を飛ぶ仔竜が二匹。
 エンジの煤けた髪を啄んで、引っ張って。すこし先で黒煙を上げる車を示す。
 その彼らの羽ばたきが煙をかき混ぜるものだから、くしゅんと鼻がむず痒い。不意に足を向ける先を変えた闇に馴染みすぎる肩へと全力でぶつかりながら駆け行く人間の必死な姿にも、よろめくだけで男は笑い。
「にげろにげろ。遠くへにげろ」
 狼が来るぞ。
 ――にげない子は、食べてしまおう。
「ギッ」
「!? な、」
 しゅる、と煙を割って伸ばされた赤い糸はきっと、首に絡むその瞬間まで見えやしなかっただろう。賢い君。糸は狼男の元、頼もしい相棒こと辰砂から伸びる処刑の報せだ。
 ちょうど崩れた車の陰にて身を潜めていた信者は引き摺り倒され、アスファルト上で下手なバタ足。
 突然にもがき始めた仲間の姿を唖然と見下ろす――なんて余裕もないのは、次の瞬間に衝撃波を受けて弾き上げられた車体が頭を削っていったから。
「ギャああァァ!!」
「道を開けろ」
 地面に落ちる竜翼の影。ジャハルが被害の程を確かめもしないのは同じ猟兵の先手を見抜いていてこそ、速度緩めず低空翔ける男を追う風が邪魔な諸々をさらってゆく。
 命こそ奪いはしないが、容赦は一切しない。はじめに決めた信条を違えず吹き荒ぶドラゴニアンは進行方向より撃ち込まれた光線を僅かな身の傾きで潜り抜けた。翼にまたひとつ穴が。それでも眼差しを向ける先は傷付いた自身のからだではない、見上げてくる幾つもの信者の瞳だ。
 引き摺り下ろせ――!
 俺の耳が――!
「煩い。贄にされぬだけ幸運だと思え」
 同じ人間を"選ぶ"などと――宿した呪詛は更なる恐怖を与え、彼らの身をその場へ縛り付けて。
 みみ。みみ。
「これ?」
 一時的に晴らされた煙の向こう、肉片を摘まみ上げるエンジの指はひらひら。ほれ、と放り投げたそこへすぐさま喰らいつくのは赤い瞳をした彼の連れだというのだから救えない。
 そも、救う気も?
「いいんだよなあ、コレはどっちでも」
「あ、ぁ……ァ」
「――ねぇ」
 似つかわしくないほど澄んだ囀りは花世のもの。そして彼女もまた、呪われし瞳の持ち主であった。
 すこしお話をしようか、そう声こそ穏やかに咲ってみせ屈みこむ。信者の腕を掴む。引き上げる、
 やさしく……目が合ったならば薫り、引き摺り込むは蟲毒めいて甘く甘い花獄の底だというのに。
「教えて、君たちは何故こんなことをしているの?」
「な、ぜ……? そりゃ上の命令で、」
 思考を侵食されているとも知らず開くその口許へやわく人差し指が触れた。時間がない。大事なところだけを。告げずとも男の首は自然縦に振れ、アイツは――と。
「シリウスは高い金払ってラボから買い上げたんだ。対猟兵駆逐兵器の試作だなんだって言ってたか、でも猟兵なんて滅多に現れねえだろ? そこで普段使いできるよう未完成品に慈悲をかけて俺たちの神を"教えて"やったってのにあのザマだぜ? 上はコアだけでも回収しろっつってよぉ。なぁ、だから俺たちは被害者で……」

「そう。ありがとう――それじゃあね」
 そんなに崇めるものがあるなら、自分が贄になってあげたらいいよ。
 一声。花世が視線を巡らせたならば、脅かす毒はまた別の効能を孕む。同士討ち。絡めた先のひとつひとつを"敵"と見立てさせる催眠術の一種。
「ぁ……? おまえ、その手のナイフはなんだ? どうして俺に向けている!?」
「おまえこそ銃を持ってるじゃないか!」
 ひとときばかり静けさに浸されていた空間は、たちどころに騒がしくなる。膝についた泥を払って、花咲く女はまた歩みをはじめた。
 ああ。……ああ、穏やかで混沌とした骸の海へ行くより、ここの方がずっと地獄絵図みたいだ。
 別にかなしいわけじゃない。ただ、それが事実だと知っているだけ。
 ……後に残されたのは愚かに惨めに血を繁吹かせ合う邪教徒の姿と。
 それを見下ろしてご機嫌に上体を揺らす狼男のみ。
 それらもまた、弾けた閃光の中、滲む風に溶け込んで――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月守・咲凛
アドリブ連携被弾OK

ダメ!
アジサイユニットを飛ばして、盾にされた人を守ります。
邪教徒は許せませんけど、今は1人でも多く助けなきゃ。邪教徒でも敵に攻撃されていたら守ります。
飛ばしたアジサイユニットをそのまま浮遊させて、敵の攻撃を防ぐ盾として使います。
自分が少々のダメージを受けても人命、特に子供優先です。邪教徒に構っている余裕はあまりないので邪教徒も守りますけど、攻撃されるとは考えてもいないので邪教徒には無警戒です。

盾で防ぎきれなさそうな敵の攻撃は、ユーベルコードの水弾で撃ち落としていきます。


花剣・耀子
今、あたしにできること。

道を開けること。
居合わせた一般人の救助。
ひいては邪教徒の殲滅。
五体については、剣が振れて前へ進めたらそれで良い。

ゆきましょう。

先を目指して走るわ。
まだ動こうとする車は止まるように斬って、
ヒトの閉じ込められている車も開けるように斬って。
物理的な障害は極力なくしていくように。
この状況で、邪教徒を見逃す理由もないわね。
行き会ったら斬り捨てるわ。

できるだけ普通のヒトは助けたいけれど、治療や運搬には向かないのよ。
自力で動けるなら退避して貰い、負傷者は居所が判るようにしていきましょう。

代わりに、ヒトが留まれるよう周囲の危険は叶う限り排除するわ。
あたしはあたしが出来る仕事をするのよ。


須藤・莉亜
「大変な事になってるねぇ。どうしたもんかな?」
…まあ、やる事は変わらないか。敵は殺す。一般人の救助は他の人に任せよう。

眷属の腐蝕竜さんを召喚し、空から敵を殺そう。
Ladyに血を捧げて強化し、目に付いた敵を狙撃。悪魔の見えざる手を放ってぶん殴るのもやっとこうかな。
高速道路上の敵を一人残らず腐蝕竜さんの餌にする気で殺し尽くそう。
…おっと、クールに行かないとね。
まあ、派手にどんぱちしてれば、敵の注意もこっちに向くでしょ。

「さてさて、僕の“敵さん”はどこにいるのかな?」


渦雷・ユキテル
殺人的な大渋滞ですねー。
的っていうより、何人かはもう手遅れか。
ま、妨害されなければ逃げられる状態の人もいるでしょうし
あたしは救助より邪教徒の始末を優先して動きますよ。

クロックアップ・スピードで速度を上げて邪教徒への接近を試みます。
合間か、車の上を通っちゃってもいいかもですね。
接近後は【クイックドロウ】で素早く射撃。
視界良好とはいえない状況ですし、狙うのは胴にしておきましょう。
銃弾による引火の危険性はないと思いますけどー、
燃料が大量に漏れてる場所では念のため
クランケヴァッフェでの【串刺し】に切り替えます。

何事においても無理のない範囲で。
これ以上傷が増えるの、いやですもん。

※アドリブ、絡み歓迎




 逃げも隠れも、喚きもせず。
 道端で悠長にお電話に興じるローブ姿のあやしさときたら、相当なものだったとも。
「ホンモノだ、猟兵が――イェーガーが来たんだよ!! 至急応援を……」
「お呼びですかぁ?」
 故にこうして"見つかってしまう"。
 特別製のクランケヴァッフェはよくしなる。渦雷・ユキテル(Jupiter・f16385)の一突きで捻じ込まれた先端は黒い腹を破って裂いて。見目は可憐な女のものだというのに、如何せんその力は。
 声にもならぬ叫びと血を吐き頽れる体の上をとっとと跨ぎ、ユキテルが踏み潰す通信機からはノイズが零れた。
 ジ、ジー……数ハ、 ジ……場所ハ。
 浮かせて、繰り返し押し付けた靴底でへし折って。
「黒一色なんて激ダサ。 うーん、それにしても殺人的な大渋滞ですねー」
 愛らしくスカートを揺らしてくるり見遣る先では、自らが作り上げた死屍累々が転がっている。
 こう見えて仕事はしっかりこなすタイプであるから、無闇に火薬を用いて爆発を招くことなどせずに粛々とこなしてきたわけだ、お掃除を。血濡れた点滴台から垂れる雫が足跡そのものであるように。
 道中、手遅れも何人も見た。
 だからってこうして摘み取る他に、ナニができるわけでもないけれど。
「私の後ろを逃げてください!」
 そんな手遅れを今以上増やしたくないと近くで戦うものがもうひとり。月守・咲凛(空戦型カラーひよこ・f06652)はちいさな腕と背のウイングを一杯に伸ばして、円盤状の遠隔操作武装ユニット群……通称・アジサイユニットを駆っていた。
 立派な刃が輝くそれを、今は矛ではなく盾として。
 助ける命を、選びたくなんかない。邪教徒は許せないと強く思うと同時に、少女の心は淀みなく悉くを守るため。車体の陰からこちらを窺う黒ずくめと目が合えど、民間人へ牙剥かぬのなら――――ふと。
「あれは」
 近付く光は車のライト? 違う、レーザー!
 視認と着弾はほぼ同時。咄嗟に動かしたアジサイの幾つもが一度に砕け散り、それでも殺しきれぬ力がその場で弾け、衝撃波となり襲い掛かった。もともと、自らよりも他者の守りを厚くしていたから、
「! ぅ、あっ」
 誰より強く弾かれた咲凛の本来軽い体は地面を滑って、トラックにぶつかり止まる。ガッ、ギ。 纏うユニットの欠ける音が耳に痛くて、それよりも――ハッとして振り返る後方で同じように体勢を崩された人間が、震える瞳で咲凛を見つめていた。
「た。たす――たすけて、」
「…………」
 いつも、いつも。
 呼ぶ声が空へ急がせる。熱を上げる機甲の翼は狂わず機能して、心からの願いを叶えるべく開かれた。もちろん、私が。
「守ります、から」
 二撃目、ずっと前方より襲い来る光の奔流に恐れず、傷の走る両手をかざす。
 直撃コース。 だからこそ捉えやすい。
 ユーベルコード、ナミダの雨音――撃ち出した水弾は豪速で空渡り、雷光と交わって刹那、互いに拡散した。光を閉じ込めた水の粒は雨のように。
 黒煙を裂いた光景は上から見下ろしていてもうつくしいもので、「お」と須藤・莉亜(メランコリッパー・f00277)も瞬きの数を増やす。
「もやもやしててイマイチ見え辛いしねぇ、へー。あのへんに仲間がいるんだ」
 力の源が知った仲の少女であると見て取って、足をぱたぱた。
 ぱたぱた? そうとも。莉亜は召喚した眷属、腐蝕竜の背にて狙撃姿勢にあるのだから。血を吸いに吸った対物ライフルLadyもすっかり準備万端。
 狙うタイミングは煙の晴らされた瞬間が一番いい。
 今だとか。
「はい、さよなら」
 放つ。 止まぬ熱風で微妙に上振れした弾丸であったが、大口径の破壊力は少々の誤差など捻じ伏せて盾持つシルエットの上体を吹き飛ばしていった。突き抜けた着弾地点が抉れ、巻き上がる破片が周囲の肉も傷付ける。蹲ったどれが何かなどよーく見えないが、そのへんはご愛敬ということで。
 ああ。 他にも例えば、あんな風な。

 振るったつるぎが散らせるものは。
 煙。花。血、 命。
 花剣・耀子(Tempest・f12822)の起こした剣風が途を拓く。たったいま斬り下ろした車が女の背後で上下二つに分かれて転がった。
 強烈なスピンを見せながら十数メートル、赤々とした液体とともに吐き出されてくるものの衣服は黒く揃いのローブ、恐らくは邪教の徒。
 負傷者を向かわせる手筈である坂へ近付いたのだから加減は不要。もしも同じ民間人だとして、暴走車に轢殺される最期など誰が望むというのか。
 誰だって、生きたい。生かしたい。
 身の内を流るは心当たりがないほど褪めた血でもない。それでも。
「あたしはあたしが出来る仕事を」
 するの。
 伏した瞳でか細く届く苦悶も怨嗟を振り解き、耀子が駆けつけた場がちょうどユキテルらの元であった。
 水弾に銃撃――爆撃? 激しい攻撃は目を引いて、邪教徒の捨て置けぬ"脅威"となっていたらしい。
「クソッ、こっちがアイツの世話で手一杯ってときに……!!」
「私たちの計画をぶっ潰そうたってそうはいかないんだから! 潰れんのはアンタたちよ!」
 彼らの嘆きももっともだ。
 一切の遠慮なく、集まったならこれ幸いとスナイパーは引き金を引くのだから。
 もーらい。
 撃ち込まれる銃弾と、オマケの横殴り。不可視の拳は上空から叩きつけられた悪魔の見えざる手、あらゆる手を以て腐蝕竜さんの餌にしちゃおうと述べる莉亜の殺意は如何ほどか。
「そのまま殺し尽くして……おっと、クールに行かないとね」
 ちょっと一服と男が煙草を引っ張り出していると、一風異なる音が耳に。
 パラパラパラ――次第に近付くそれは、闇夜に溶け込む黒色のヘリが発するものだった。
 結局のところ人生など運次第では? 一理ある。不運とするならば、がんばって飛んできたらしい鉄の塊がこの血濡れた巨大な眷属と似たような高さを飛んでしまったことか。
 ぺいっ、と煩わしそうに尻尾が撃つだけで、プロペラをぎゅるぎゅるに狂わせながら斜めに滑落してゆくのが運命。
「なにいまの? なんか当たったー?」
 莉亜の問いには腐蝕竜まで首をかしげる始末。まっいっか、と再びスコープを覗いて。
 さてさて、僕の"敵さん"はどこにいるのかな?

 ……そうして叩き落されたヘリが、地上にて派手に爆発を起こすのは直後。
「――ダメ!」
「っ」
 集められるだけ集めた咲凛のアジサイユニットと、手近の少女を抱きかかえ地に伏せる耀子。
 瞬間の判断が多くのものを衝撃から庇い抜き、命をこちら側へ留めることができた。
「空が光ったときはこうして伏せるのよ。いいわね。……さ、行って」
 こくりと頷く肩を押して、見送り、耀子は立ち上がる。背の花は焼け、血と混じりその彩を増していた。
 自力で動く足のあるものへは必要以上に手を貸すつもりはなかった。が、いつか救えなかったものをひとときだけ重ね見ていたのやもしれない――などと。
「いやね」
 本当に、いや。
 目を眩ますほどの眩い光がそうさせる。道の先。斬って終わらせるべきを改めて見定め、辿り着くため花剣は吹き抜けるのみ。
 足元、そば。死に損ないて砂利を掻くひとの手に突き立てた刃が、魂を間引き。
「止めろ、ここで止めろォ!」
「シールド!」
 陰から飛び出してきた邪教徒の手で半透明の盾が一斉に構えられる。
 薄い抗いだ。押し込むような一閃のもとに断ち切って、屈んだローブの頭を踏み越え、着地した靴裏にぬかるむ血だまりを跳ね上げて。
(「ゆきましょう」)
 耀子の後に、粉々バラされたポリカーボネートが舞った。
 キラキラと硝子の如くに降る欠片が僅かに暈した視界。踏み入る人影は一ではなく、二――ユキテル。そこに何かがいると脳が理解したとて、クロックアップ・スピードの世界についてこられる只人はいない。
 転んだ幼子たちへ伸べる咲凛の手。今の隙に、せめてこのガキを、とその背を狙う腕の数本。
 それらが届くよりずっと早く。瞬き以下の間に詰めた距離でユキテルが振るう槍めいた得物がいち、に、さん。 "まとめて"と認識できる速度で愚者の群れを薙ぎ倒した。
 やっと振り返された刃は、強化人間の肉を掠めもせず宙を撫でる。そうしてナイフが立てた風、やわらかく捲れ上がった服の下に隠れた痛々しい手術痕と、
「あは」
 見ました?
 ちゃ、  なんて冗談みたく軽い音で胸元へ押し付けるCry&92のつめたい銃口。

 ぱあんっ。

 揮い手たるユキテルは、弾みで傾ぐ体に手を振った。
「かわいい体でしょう? なら分かってくれますよね、これ以上傷が増えるのいやだって」
 敵意を燃やしながら蠢くものは、どうやら他には居なくなったらしい。
 その凄惨へ。満足げに瞳を細めたのち、たっ、と躍る足取りで先行く背を追って。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​


「――処理班が墜ちたぁ!?」
 ヘリの爆発炎上はその規模以上に信者たちの動揺を誘っていた。
 猟兵が現れたとの情報こそ入っているが、その数も不明。
 信心の浅いものに関しては命の方が惜しくなったか、逃げ出そうとして……しかし八方塞がりとはこのこと。飛び降りる? この高さから?
『お薬が……とどかなくなったの?』
『おにいちゃんを、置いていくの?』
 家族を?
 水色と肌色がマーブル状態の少女たちは人間の混乱に顔を見合わせる。
 なにができるかな。なにかできるかな。
 先に飛び出していった妹たちもひとりも戻らないけれど、できることといえば、結局。
『わたしたちに任せてね、おとうさん』
『ここで待っていてね、おかあさん』
 爪を噛んで身を屈める信者の背に、ぺたぺたと触れた。
「……ああ、ああ! 行ってくれるのかい、おまえたち」
「いいかい、猟兵はとっても怖いやつらだ。ひとの命なんてなんとも思っちゃいない。やつらに殺されてみろ、天国なんて行けなくなるぞ」
 ――だから殺せ。
 その言葉を疑いもせず、こくりと頷いてちいさな背中は跳ねてゆく。
 見送った側はひとつ息をついて。
「車に乗れ。あいつらがぶつかってるうちに脇を抜けて逃げる、どうせ数分と持ちやしねぇ」
「ハッ。あのねえ、悪人みたいなツラをしないでよ。ここで私たちが死ぬことは神も望んでいない……ね? だからこれは正しい行いさ」

 そうとも。

 選ばれたもの、使う素質のあるもの、力あるもの。
 生き残るべきが誰かなんて、この世界で今更、考えるまでもないだろう?
コノハ・ライゼ
混乱の酷い中心部へと向かうヨ
爆発やらは『オーラ防御』で凌ぎ『激痛耐性』で耐え一刻も早く

【彩雨】呼び出し
炎勢の強い所、燃料タンク、エンジン付近から凍らせ爆発、延焼を食い止めてくネ
教団員と思しき人間は速やかに判断し
その服等を付近の車や壁へと串刺しにしその場へ縫い付ける
邪魔立てすンなら知ったこっちゃない
勝手にヒトを巻き込む前に自分が供物になりなヨ
――後は、てめぇのカミサマに祈るんだな

足止めされているヒトらへは
爆発や攻撃から守るよう彩雨を氷の壁とし降らせ
その隙に避難するよう声掛けてく
子連れや老人、怪我人へは手を貸してネ
戻れば必ず非常口や出口があるから、高速道路から離れて
後は、オレらに任せてちょうだい


絢辻・幽子
あぁ、いやだ。いやだ。
地獄の底みたい。
自分の信じた神への供物なら自分がなればいいのに
それがしあわせでしょう、
信じた神の一部になれるのだから。

「目立たない」を、利用しましょう
幽霊の幽子ちゃんですから。なぁんて
車と車の間をぬって
そうっと信者を糸で「おびき寄せ」捕まえましょう
基本的には無駄な殺生はしない方針ですけど
幽ちゃん、優しいので

ねぇ、あなたは供物を捧げました?

逃げれず危機が迫っている一般人がいれば手助けはしましょう
非常用階段が高速道路にはあるはず、だけど
見つかれば解放しましょうか、一応ね

(のらりくらり人を食ったような女狐
子どもが死ぬ、悲しむのが苦手
そのため手にかけようとする人に容赦ない)



 高速の入口側から進み中心に近付くにつれ、被害のほどは色濃くなっていた。
 焦げ臭さだけで窒息しかねない。ただそれは常人の場合であって、コノハ・ライゼ(空々・f03130)のように気を手繰れるものなら話が変わる。
 纏わりつかんとす粘着いた空気を突き抜け、振り撒く水晶の針がいやに平和な街灯りを反射してクリアな音を奏でる――彩雨。
 氷の性質を有した雨は燻ぶる炎を鎮めていった。
「動けるヒトは周りの子連れ、老人、怪我人へ手を貸してネ! 戻れば必ず出口があるから、気をしっかり持って」
 後は、オレらに任せてちょうだい。
 力強くも落ち着いた声色は、夢だと信じ込みたくなる非日常の中にあってどのように耳へ届いたろうか。これも夢の続き? もしかして既にあの世? だが、瓦礫を押しのけ引き起こしてくれる男の手こそ確かなかたちを持っていて、
「……かみさまですか?」
「――ふはっ」
 あんな気まぐれと一緒にしてもらっては困る! 喋る元気があるなら走った、そうべしり肩を押して妖狐は逆へと再び駆けだす。
 なによりこの身はニセモノ。溶けた鉄に触れて色付いた手の紅、その痛みすら他人事めいているように。
 けれども尚ひらひらと、絹のストールは翼の如くにはためく。
 ああ――あの、淡く架かる虹。
 よく知っているものの、今ばかりはひとりがいい。目立たず闇に溶け込むにはこれが最良であるし、なにより、知人に見せても恥ずかしくない見目か尻尾の艶が気になるし。それだけ。
(「いやだ。いやだ。 ――地獄の底みたい」)
 それだけ、の筈。
 絢辻・幽子(幽々・f04449)の面持ちは大概の場合曇っているとして。こちらは神よりは幽霊にでも近いか、助けた命から指さされる自分を想像して口元に笑みを浮かべる余裕はまだあった。
「……神を裏切るわけにはいかない」
「あんな器におろすから……」
 すり抜けて渡る車の合間からひそひそ声がしたのなら、五指に結わえた糸が躍る。刃も重みもないけれど、術は心得ていて。まずはみ出た手首を引く。次に傾いた肩を括る。そうして我が身を庇う術がなくなってから、きりきりと首に絡める。
 低い車体を跳び越えて落とす影、信者二人が身を隠していた背の高いワゴンの壁に取り付く風に姿を現した女の姿はともすれば、何より蜘蛛に似ていたろう。

「ねぇ、あなたは供物を捧げました?」

 首が、締まっている。傍には子どもものの靴が不揃いに転がっている。女狐はわらう。声が、息が――――かくんと"落ちて"背にしていたフロントドアをずり下がる頭二つ分。
 ゴッ。 打ち合わせ、左右に弾き合うとそのまま地で一度きり跳ねて目を覚まさない。殺してはいない。多分ね、きっと。
「幽ちゃん、優しいので」
 糸を解いて着地するとちいさくカラフルな靴を拾い上げ、ひょこり。車の向こうを覗けば、ロープで標識やら中央分離帯の防護柵やらに縛り付けられガタガタもがいているおちびさんらの姿があった。
「惨いことをしますよねぇ……自分の信じた神への供物なら自分がなればいいのに」
「ったくだ。勝手にヒトを巻き込む前に、ネェ」
 それがしあわせでしょう、信じた神の一部になれるのだから――昏い幽子の呟きに重なった声はコノハ。
 同時にタンッタン、と小気味良く続いた音は彼が車体に針を突き刺す音。僅かばかりくぐもっていた理由はといえば、布を一枚通していたから。
「やめっ、」
「――後は、てめぇのカミサマに祈るんだな」
 そこらの車へ丁寧に縫い付けてやった信者が救いを求めて指を伸ばす。それを冷ややかに打ち払って、袖口から零れた銃をも遠くへ蹴り飛ばし、コノハはただ子どもたちの手を取った。
 ぱち、瞬いた幽子もふわんと尻尾を揺らして駆け足でご一緒。煤けたって染まったって毛並みは綺麗なまま。
「いいんですか、コノちゃん。逃げちゃうかもですよ」
「こんなのの死に際この子たちに見せんの、かわいそーデショ?」
 言えてます、なんて。 数人の子どもはそれからすぐ靴も履かせてもらい、縛めを解かれるや否や頼もしき二人の大人に飛びつくのだった。

 こんなにも力を、心を寄せても無常、その中には既に事切れた体もあって。
 軽くなった塊を横たえる度、拝めもしない"救いの主"の存在は遠のいてゆく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

オルハ・オランシュ
死が蔓延している場所だからこそ、
巻き込まないために一人で来たわけだけど……
これはちょっと想像以上だね
私も無傷では帰れないかな

邪教徒の生死は気にも留めない
私が助けるのは民間人だけ
車から引きずり出そうとする汚い手を斬りつけて、
彼らの命を散らさないように
痛い?……自分達で蒔いた種でしょ
供物が必要ならあんた達がなればいいよ
無関係の人を巻き込むなんて、最低

事故の連鎖もどうにかしなきゃいけないか
槍で車を破壊できないかな?
閃光はさすがに【武器受け】じゃ凌げそうもないから
【見切り】を狙って
間に合わなかったら……まぁ、命が無事ならなんとかなるよね

とても信じられないけど
かつては人だった、のかな
……早く解放しなきゃ



 ひとりを選んだ。
 だから、傷付けたくないものを傷付けることなんてない。

 傷付いたって、傷付く顔も見ずに済む。
 決意こそがオルハ・オランシュ(アトリア・f00497)の体を軽くしていた。
(「とても信じられないけど、かつては人だった、のかな。……早く解放しなきゃ」)
 "彼"による破壊の痕、想像以上の臭気。赤、灰、黒、果肉たっぷりぐるぐるに混ざったジャム。避難の障害となりそうなものは破壊しながら走っているうち、周囲の地面には加えて、水色をした液体が目立ちはじめる。
「近い、ね」
 残滓だとてひとのものではない何かを感じ取り、ぴんと立った獣耳は揺れる。轟音の中でも助けを呼ぶ声を聞き逃しはしたくなかったのだ。
 こうして。
「逃げろ!!」
「あなたっ――」
 家族連れ。身を隠しもせず飛び出るオルハは、互いに想い合う彼らを車から引き摺り出さんとしていた信者の腕を斬りつける。
 すぱんっ。冴えた太刀筋に肉は飛んで、落ちた先で地面をより汚した頃にはもう片腕が血を吸った穂先に抉られていた。
「イっ  いギィ……ッ!?」
「痛い? ……自分達で蒔いた種でしょ。供物が必要ならあんた達がなればいいよ」
 無関係の人を巻き込むなんて、最低。
 ぽつりと言い捨てた一言は己の心奥をも波立てる。それに気付かぬふりをして、次なる呼び声にオルハが振り返ったとき。
 たちこめる煙が稲妻に瞬いた。
 オブリビオンの攻撃!
 只人が身を丸めたところで無事で済むわけがないだろう、タンと踏み切ったのはほぼ無意識、父の手により先に車から逃がされていた母子を。
 庇ったのだ、損得抜きに。

「ぁ、ッぐ」
 体当たって共に転がり込む。ジッと焼ける音が先、次に熱、そして痛み。
 スカートをスリットみたくに焦がし裂きながら。オルハの右の膝から腿にかけて、大穴が開いていた。
「あ……」
「はなれて!」
 彼方で追撃が光った。無差別にしては的確なことで――惑う手を押しのけ娘はすぐに身を起こす、そうとして、片足にうまく力が入らない。
 歩けなくとも翼がある。翼がなくとも腕がある。腕がなくとも……私には。
 迫る閃光、  動け――!

 ほんの一瞬、一瞬だ。見極め、広げた翼が荒れる風を掴んで浮かし、上体をレーザーの道筋から逸らした。しかし片腕片翼は持っていかれるか。
 衝撃を覚悟して、けれど片目を眇めるのみ、槍を握る手に力を込め闘志を絶やさぬオルハの眼前、
 弾ける光が真白く染め上げる刹那、
 飛び入る水色があった。

成功 🔵​🔵​🔴​

黒江・イサカ
やあ、地獄だな
風情がないよ
特にそこらにいる――…盾持ってる奴
殺しは自分でやるもんさ

車の隙間、上、場所はいろいろあるね
この騒ぎなら僕は【目立たない】だろうし、頭上なり背後なり盾の死角を頂こう
ああ、…たくさん殺せそうだな
人助けをしようなんて思わないけど、
車から引きずりだそうとしてるときなんて隙だらけなんだよね
正しくごっつぁんゴール いただきます

折畳ナイフは便利なんだ
持ち歩きも易いし、静かだし、たくさん持てるし
駄目になったら捨てよう 駄目になるまでしよう
死角からひと刺し
死んだって気付く前に、死んで
恐怖から逃がしてあげよう

…なんだか、呼ばれてる気がするんだ
救ってあげるから、ほおらもっと呼んでごらん


矢来・夕立
邪教徒の殲滅に専念します。
混乱してるなら丁度いい。《忍び足》で一番都合のいい場所に潜り込めます。
《聞き耳》や《暗視》も使っていきましょう。

平素通り《暗殺》するわけですが、一人ずつ殺して回るのでは効率が悪い。
移動も容易ではないですからね。
一回の攻撃で複数の敵を《串刺し》にできる、【一番都合のいい場所】を探していました。
槍を投げる。刀の形で戻ってくる。また投げる。その繰り返し。文字通り投げやり。
一般人を巻き込む可能性はあります。オレはそこを考慮しません。嫌なら代替案を出してください。納得できれば乗りますので。

人助けはやりたいひとに任せます。邪魔をするほど無粋ではないし。興味もないし。




 爆音悲鳴怒号諸々がうるさいから、靴音なんてかわいいもんだ。
 一足ごとに軋ませる鋼板のルーフ。地獄地獄、風情がない。特にそう、盾を構えてぼくたちはしぬつもりもてをよごすつもりもないでーすって顔をした、
「君だよ君。殺しは自分でやるもんさ」
 いただきます、で舞い降り様に斬りつける肩と後頭部との間。つまりは首、噴き出す赤のほか成果を見届けずに次のひと跳びで別な屋根を渡り歩くのは"視えて"いるもので。
 遅れて響くきゃあっと甲高い女の叫びは、己の腕を荒っぽく掴んでいたはずの人殺しがいきなり人殺されたから。
 黒江・イサカ(青年・f04949)としては、背後でひとだったものが倒れ込む音も含めカウント追加のSEに同じ。いまのでいくつ? 数え忘れなし。上々!
 進路、こちらを向く半透明な盾なら飛び降りの勢いのまま足蹴に捻じ伏せる。直前まで足場にしていたワゴンの高さは十分に衝撃をプラスしてくれて、受け流しきれずごろごろ跳ね転がっていく体のそばに着地し刃で縫い留めてあげるおもいやりも忘れない。
「危ない、落ちちゃうよ」
 防音壁が割れてしまっているから、一歩間違えば数十メートル真っ逆さまだ! 思わぬ命拾いにはっ、と、息を呑んだ信者へ次の瞬間贈られるものはより確実な死であるけれど。
 覗き込むようなイサカはもっと体を折って。さっくり、顎の付け根へ差し入れてやる別なナイフがぐるりと輪を描く。
「ね。こわくないね」
 恐怖から逃がしてあげよう。 ――ささやきは慈愛に似て。笑みに帽子が影を落とすから、ひととき、好みの神でも重ね見ているといい。
 かぽかぽ漏れる返事はもちろん"ありがとう"? 脂で落ちた切れ味を見て取って、その一本はプレゼントする気前の良さで男がまた物陰に消えるまでを、もうすこし上、半ばで折れた標識から矢来・夕立(影・f14904)は見ていた。
 見ようとしたというより、見えた。どんな薄暮れにも見失えようのない黒。
「     、」
 空気だけ揺らして。一瞬交わって思えた視線を反芻する胸の内、夕立の手元では槍だか刀だかが行ったり来たり。面白いことにこちらの得物は飛び立っては一切合切串刺せて、てのひらにあっては従順だ。
「ガッッ どこッ、から!?」
「クソ、なにも見えない……!」
 こうしてざっくりざっくりまとめて数人ずつ。 文字通り、投げやり。
 大まかな方向頼りに空間を反撃の銃弾が削ってゆくけれど、裂くは煙のみ。既に音もなく地を踏んでいた少年の指から刀絶は羽ばたいた後。
 黒煙の向こうでドッと鈍い音を上げさせ、利口に手元へと戻り来た一振りを前へ翳した五指にとらう。あまりにも単調な殺しはともすれば民間人をも巻き込んでいるやもしれないが、これが案外。
 イサカの獲物に手を出すことはせずいたから、生きたそれらをある種オトリとしての目印に用いていた彼の思惑も相まって「っぽい」ものは近くにすらいなかったように思う。
 上方にいたうちに人間の位置は記憶している。
 強襲を仕掛けて発った黒の背を襲わんと追う不届き者にまず槍の雨を。
「まぁ、鬼ごっこであのひとに勝てるとも思いませんけどね」
 かくれんぼだって、そこらのやつには。
 自身の位置がバレたなら、転がる車をひとふたブチ抜くだけで目眩ましの炎に黒煙を盛り盛りに追加してくれるのだから、資源が豊富なこの地球に感謝したいきもちだとも――弾き上げた車体がまたいくつかを巻き込んで転がっていった。 脳内広げた紙に印す赤バッテン。
「うっ、げほ! ゲェッ、ゲ」
「何人いる…………何人いんだよォ!!!」
 百撃ちゃ一くらい、の思考停止で吐き出された弾のひとつが頬をピッと掠めようと、夕立の眼差しはサービスで跳ねもしない。身を低く踏み込んで、視界不良の中での同士討ちを避けてか親切にも横一列に並んでくれた信者の脇へぬうっと顔を出し、
「となりととなりの方も殺人鬼ですよ」
 ウソですか?
 騙り騙りて振り上げた槍、踏みしめた軸足がきゅぅっと心地よく鳴き、最期の最後で疑心暗鬼に瞳曇らせた土手っ腹におそろいの風穴を贈ってやるのだ。

 互いの存在を見とめながらも、遊戯みたくにただでは交えない。
 たのしみは、

「たくさん殺したの、うんと褒めてくれるだろうなぁ」
 真新しいナイフを指の腹でたどるイサカ。それも数秒後には真っ赤。
 そうして、この死の途もとい渋滞を抜けた先で鉢合わせたなら「やあ、君かい」なぁんて偶然か必然めかした挨拶をするのだろう。
 それにしても。
 なんて必死な呼び声なのか。進む果てから嘆きの熱風が吹きつけて、自然と眦はゆるむ。
 ――救ってあげるから、ほおらもっと呼んでごらん。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

荒・烏鵠
あらヤダ、またニンゲンが同士討ちなさってらっしゃる。いけませんねェ、ヒトの嫌がる事はしちゃいけないって教わらなかったのカシラー。
マ、オレはむしろ進んでやる方なんだが!

近くの車の上に上り、牛鬼ご夫妻を召喚。奥方によって大量の水を高速道路に流し、旦那によって一般人を水上に持ち上げ、信者を高速道路から外に落とす。
高速道路って、たいてい高い場所にあるよナ。マ、悪運が強ければ助かるダロ。その後に他の猟兵サン方に殺られッかもしれねーけど、それはそれだ。

大量の水でUDCを押し流し防ぎつつ、火災を消し、一般人をケガしないように水でおおよそ安全な場所まで運ぶ。
正念場だ、オレも妖力渡すからガンバってくれやご夫妻!



 鷲掴まれた黒髪。子の泣き声。血を引き伸ばしたタイヤ跡。焦げた肉の山、山、山。
 ……金の瞳に映す、すべてを。
「いけませんねェ、ヒトの嫌がる事はしちゃいけないって教わらなかったのカシラー」
 あらヤダ、またニンゲンが同士討ち――などと逸らさず直視し続けて。

 荒・烏鵠(古い狐・f14500)は人間が好きだ。
 好きだからこそどんなことを喜ぶだとか、厭うだとか。てのひらで転がす風に噛み分けることもできる。長い年月のうちそうなってしまった、と評する方が正しいのやもしれぬが。
 ひょいひょい軽い身のこなしで随分と奥まで渡り来た男は乗り捨てられたトラックの荷台から見渡して、ふむと感慨深げに頷けば、手を。 打ち鳴らす。
「マ、オレはむしろ進んでやる方なんだが! 正念場だ、ご夫妻」
 はじめの合図。
 十三術式:牛ノ淵。暝神に帰依し奉る――その唇が紡ぎおとす祝詞の一音一音に誘われた如くに、ちょうど男の立つ車体を持ち上げるかたちで間欠泉じみて水の柱が打ち立った。
「トばしてんね奥方ァ! と、旦那ッ」
 頼むと烏鵠が告げるまでもなく、噴水状に四方へ水はあふれ出す。ちょっとした火山噴火の水版のような勢いでざばざばと死線に燃え立つ炎を塗り潰して、噴き上げられたトラックが再び地へ落つ頃には盛られた水の塊がクッションと化して受け止めた。
 自然災害、それもまた人間の天敵であろうが――。
 この水は自然界のものではなく、妖怪のもたらすまじないの一種だ。そして、人間に親しむ妖狐が揮い念じたならば。術者の無事を確認した瞬間弾けた波は、陸地で起きた突然の洪水へ同様に目を白黒させる只人のもとへと走った。
「ひッッ」
「わ、わたっ わたしおよげな――……」
 意思持つ波が押し上げる先を選り分ける。民間人は水上へ。邪教の徒は道路下へ。
 何十メートルあるかって?
「悪運が強ければ助かるダロ? ステキな旅をお楽しみくださーいってナ!」
「――あああァァァァ!?」
 性能限界最高速度で逆走してきていた一台もまた、烏鵠の手が振られるままハンドルを取られ滝落としよろしく夜空へ投げ出されていった。尾灯がチカチカ、ビル灯りと同じに眩しく断末魔代わり。
 ずっと下方に広がる日常においては人間の本能というべきか、巻き込みを恐れての避難が進んでいたためそう案ずることはないだろう。
 猟兵のように、誰もが勇敢に手を差し伸べられるわけではない。 ――皮肉な話だとして。
「ッしおそーじ完了。あとはチャチャッと運んでくンな」
 それでいいと烏鵠は妖力を惜しみなく注ぐ。
 すくい上げた民間人を後方まで移動させ、それから暫く。しゅるるると水が逆巻き逆再生の様相で足元まで戻ったとき男の両脇には濡女と牛鬼、二者の妖怪が控えていた。

 ぷくん。
 時を同じくして。血や油の洗われたばかりの地面が淡いブルーに泡立ち。

 ぷく、 ぷくぷく。
『おとうさん。おかあさん。あなた。とってもなかよしなんですね』
 すてき。
 少女の声がしたかと思えば、ぬるり。盛り上がった水色はひとのかたちを取る。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『泥人』

POW   :    痛いのはやめてくださいぃ…………
見えない【透明な体組織 】を放ち、遠距離の対象を攻撃する。遠隔地の物を掴んで動かしたり、精密に操作する事も可能。
SPD   :    悪いことはダメです!!
【空回る正義感 】【空回る責任感】【悪人の嘘を真に受けた純粋さ】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
WIZ   :    誰か助けて!!
戦闘用の、自身と同じ強さの【お友達 】と【ご近所さん】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 わたしも、家族がたいせつです。
 ぷくぷくぷくぷく。 少女たちは皆似たような姿をしている。

『ごめんね……ごめんな、さ……おにいちゃ、わるくない  の よ』
『おはなしをね、……いっぱい くれた、やさしいひとよ』
 兄をわるものにしないため。
 さながら家族を想い身を投げ出して見えた翼持つキマイラの娘を庇い、吹き飛んだ個体は、それだけ言い残しぐずぐずと地面に溶けていった。

『あなたたちも、あぶないよ。おうちへかえった方がいいよ。おにいちゃん、とってもつよいの』
『もしかして、家族が天国にいるの? それならね、わたしたちでも連れていってあげられるよ』
 兄をよわむしにしないため。
 引いてはその妹である自分たちもと、立ち塞がる姿に怯えはなく。

『どうして、おにいちゃんを探しているの?』
『つれていかないで。つれていかないで』
 兄をなきひとにしないため。
 望むものは家族のしあわせ。自分たちの力で暴走を止められるとまだ信じている。


 各々が各々の手の届く範囲のいのちを救い終えたときだ。
 あちらこちら、もぞもぞたくさん。猟兵の前へと滲み出したそれらは泥人。
 実験生物、ただの駒。家族ごっこが大好きな、無力無知無辜ないない尽し。

 どうやら。道を開けてはくれないらしい。
荒・烏鵠
@WIZ
申し訳ねェがそーゆーワケにもいかんのよネー、こっちもお仕事ですし。
マ、アレだ。先に天国で待ってなさいナ。『おにいちゃん』もすぐ送ってあげッからサ。
常世の国にて幸せにおなりな。

つーわけでおいでませウサギサン、あの子たちを蹴り砕け。
避けられたらキック当たったトコの重力増しときゃァ、その体じゃ立てンくなるだろ。
オレはオレでシナトの風に、水気に剋つ土気を混ぜて、竜巻や風刃で攻撃しますよッと。

自分の手が届く範囲は理解してるンでね、届かないならすぱっと切り捨てるさ。水に映ったブドウを取ろうとして、自分まで落ちてりゃ世話ねェや。
アア、水に映ったのは肉だっけ? マ、いいか。どっちでも救えんよ。


月守・咲凛
あなた達は……他の人達がどんな目にあったか見えていないのですか……?
救えなかった人達を視界の片隅に見て、怒りを込めて泥人達を見ます。
あの人達を、仕方ない犠牲だと言うのなら、あなた達は……敵です!
傷ついた人が居なかったら絆されて騙されていたかも知れませんが既に口先で騙される状態ではありません。
敵だと断じたからには遠慮はしません。ボスの攻撃を警戒してアジサイユニットは一般人の守りに回しているので、敵はガトリングと、火線砲のビームで撃ち抜いていきましょう。
今は急いでいるのです。あなた達に構ってる暇はないのです!
ある程度道が開けたら、ユーベルコードで変形させた武装ユニットを腰に装備して一気に抜けます。


須藤・莉亜
「この子達が敵さんねぇ…。ねぇ、僕は君らのお兄さんに用があるんだ。通してくれない?」
まあ、通してくれないなら、優しく殺して先に進むだけだけど。

先ずは暴食蝙蝠のUCを使って、敵さん達を霧で覆う。僕は無数の蝙蝠に姿を変えて、霧の中の敵さん達を片っ端から全力で【吸血】して【生命力吸収】。

僕の【吸血】テクで、痛みもなく一瞬で全てを抜き取ってあげよう。眠るように安らかに死ねるよ…たぶんね。

「じゃあ、おやすみ。良い夢見れると良いね。」
僕が敵さんにちっとでも優しくするなんて滅多にないことなんだよ?




 ぷ ぷく。

 少女――未満の泥人が訴えを繰り返さんと口を開くが、その胴から上をまるごと吹き飛ばす光の速度の方がずっと早かった。
 彼女たちにとって後方からではなく、前方。兄のものではなく、
「あなた達は……他の人達がどんな目にあったか見えていないのですか……?」
 咲凛。搭載した砲口が、薄明るく粒子を纏っている。キュイイ、イイ――再充填の音は次第に高まり最終通告のように。
『どんな?』
 ゆっくりと視線を巡らせる水色。
 周囲には、もはや逃げる意味もなくなった塊がぱらぱらと散っていた。
 溶けもしない。人間だったもの。
 彼女の"兄"とやらが巻き起こした殺戮。傷付いたひとがいなかったなら絆されていたかもしれないけれど、ここに来るまで目に、背にしてきた絶望の数々を裏切れるほど戦を知らぬわけでもない。
 むしろ、たった数年の生にそればかりを知って――咲凛は。
「仕方ない犠牲だと言うのなら、あなた達は……敵です!」
「この子達が敵さんねぇ……。ねぇ、僕は君らのお兄さんに用があるんだ」
 通してくれない? 重ねる莉亜は覇気のない声。
 されどこの問いかけはおねがいなどでは決してない。めいれいであり、あいさつだ。
『ごめんなさい。でも、だめ……です』
 答えを待たず青年の、ダンピールの肉体がゆらりと解れる。ごしと身をこする泥人。どこかしらで連動しているのか、一体のその動作がうつったかのように数体がごしごし。そうして目を開いてもそこにあった莉亜の姿はどこにもなく。
 いや。莉亜のみではなく咲凛も? そもそも世界が真っ黒で。
「なら、優しく殺してあげよう」
 それでも――声が。
 耳元すぐ近くでしたから見遣れば、眼前まで迫った蝙蝠が笑うかの如く娘へ牙を剥いた。
『きゃっ』
 暴食蝙蝠。無数のそれらも、同時に漏れ広がり視覚を狂わせた黒霧も莉亜の力の一。欲張りな不吉の使いは泥人の肌深くまで抉って羽音を鳴らす。
 何匹も、何匹も。罪故に食い荒らされる無間獄――――、暗中にふと一筋、光は射した。
『! おに、』
「いちゃんじゃァなくて申し訳ねェが。マ、アレだ。先に天国で待ってなさいナ」
 射した? 違う。何かが飛び来る神速が、一時的に散らす霧の向こうに街灯りを見せたのだ。ずっと遠い、望んだ。あたたかな夜。
 声色こそ親しげに……十三術式、砕キ兎。
 お仕事だからと烏鵠は。想い人もすぐ送るからと烏鵠は。
「常世の国にて幸せにおなり」
 "人間の敵"を零さず屠る。

 ――喚び出されし巨躯の妖怪兎。その力漲る飛び蹴りが崩れやすいからだを一列に吹き飛ばす。バウンドすら許されず、宙にいる間に四散した片をさらにさらにと砕いてゆく熱。
「加減は、しません」
 光噴かせる火線砲、に終わらず咲凛の腕部装甲が音を立て、露出させたガトリングの砲身を回す。ガガガガガガ!! ――黒霧を割って断続的に吐き出される暴力が泥人のからだへと、水面に撃ち込んだときみたく波紋を立てながら、とぷり。 沈んで。
『あっ』
『ぇ』
 一瞬にして自分の胴にたくさん生まれた穴を手で触って確かめんとする泥人。だが見れば、手も穴だらけ。
『……ぅ?』
 いた、  いたい?
 いたい!! ひっくと喉が引き攣るも、そも喉自体に災厄が喰らいついている。
 だが蝙蝠と変じた莉亜の牙は獰猛に尖ると裏腹、痛みよりも安楽を運んでいた。
(「眠るように安らかに死ねるよ。たぶん……ね」)
 一息に抜き取るいのちの源が、ふっ、と。強張りかけたからだから意識を抜けさせて崩す。
 抱きとめる腕はここにない。
 もうどこにも、ないけれど。
「そら、ウエへ行くなら身は軽くしといたのがイイぜ」
 その必要も失せるくらい、地を舐めあげて科戸の風は強くさらう。水気に剋つ土気、烏鵠が吹かせる陰陽の力に身を切り刻まれた泥人たちはすっかり抱き合い縮こまるしかなくなってしまって。
 それでも、それでも。
 猟兵の視線が、靴先が道の奥へと向こうものなら、細まった足を叱咤して。
『い……いや、だめ、だめぇ!』
 スライム状の体組織を空間へ放射状に広げるものの。
 風刃に断つ烏鵠はもちろん、曲芸飛行よろしく身を捻った回転、振り払って飛び出す咲凛をも押し止められず。
「――あなた達に構ってる暇はないのです!」
 奔る戦意に呼応し剥がれ落ち、組み換わってゆく武装は腰へ。突貫に向く戦闘機の体を成す。
 駆動音が唸り声に似て響けばグンと、推進力を増しこの場を突き抜ける様はちいさくとも鎧装騎兵。鋼の翼とユニットから放射される粒子の熱量とが裁断機にかけたようにすとんすとん、触れる端から焼き切れるタールを跳ね上げて。
「ヒュウ」
 ハデなこッて! 陽彩をした烏鵠の長髪も勢い増した暴風に巻かれる。はらり零れた懐刀代わりの棒苦無を慣れた様子で指遊んで手に取りて、オマケでついてきた礫やらゲルを叩き落としつつ続いて駆けゆく足元で、先ほど人間のため披露した水の残りが音を立てた。
(「どうせはじめから届かないンだ」)
 水。そこに映ったブドウを取ろうとして自分まで落ちるなんてのはウン年前に学習済、手が届く範囲は理解している。故にすぱっと切り捨て済の存在へ感傷らしい感傷もなく、――しかしひとつ。
「なァ、水に映ったのは肉だっけ?」
『ぅ……あ、ゥ』
 マ、どっちでも救えんよ。 当然返らぬ答えにも、耄碌しちったワなどとひそめ笑いを落として飄逸。
 彼女と彼の通り道、ただの液体溜まりになってしまった水色のそれ。 ぱちり。 もぞり。 自らの身に起きた異変が分からぬらしく、立ち上がろうとしたのかもしれない頭のひとつだけが、ひとの身へ舞い戻った莉亜の足元にこてんと転がって。
「他の子とはぐれちゃうよ。……おやすみ。良い夢見れると良いね」
 僕が敵さんにちっとでも優しくするなんて、滅多にないことなんだよ?
 枕元で眠りにつかせる風な。屈んだ男がぽんと手を置くと、彼女もまたぐずり水へ還る。血だかなんだか知れぬ液体は見た目通り、終わりまでひとつもおいしくなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エンジ・カラカ
家族、家族。
アァ……家族。コレと家族になるカ?
おにーちゃんって呼んでもイイ
ドコに行く?この屍だらけの道を行く?
そうだそうだコレの家族は賢いンだ。
そしてちょっとだけ手のかかる。
どうだ、興味があるカ?
残念だがその話はココまでダ。

だってココにいるンだ。紹介しよう、賢い君に白黒の仔竜。
ホントはもう一人いるケド最近ずっとおねむなンだよなァ……。
家族はヒトの形をしているとは限らないだろう?
家族の話は咆哮に乗せる

属性攻撃は君の毒
つまらないごっこ遊びもココで終わり
先に進みたいンだ。退いてくれ。


狭筵・桜人
あぶない。
確かにここはあぶないですね。

私が死んでしまったら私の家族はきっと悲しむでしょう。
お父さんにお母さん、おじいちゃんおばあちゃんと
兄姉弟妹イヌネコヒツジリスキリン……
キリンて日本で飼えましたっけ?ま、いいや。

あなたたちのおにいちゃんはとっても強いんですよね。
ああこわい、私じゃ手も足も出ないだろうし。
でもちゃんとお仕事しないと怒られてしまう……。

ねえ、私はどうすればいいと思います?
やっぱここらで……――点数。稼いどくべきですよね?

指先にナイフをあてて血を一滴。UC発動。
猟兵?適当に避けてください。

無垢と無知は同義ですね。無辜でもあるのでしょう。
なら身を呈したのは無償の愛?
フフ。気持ち悪い。


矢来・夕立
そうですか。お兄さんが。オレにもいましたよ、兄がひとり。
…もう死んでしまいましたけど。
いまのあなたたちは、…そうした悲しい結末を止めようとしてるんですね。

――よし。これで三秒は稼げるな。ひとりひとりもしっかり見られる。

ウソですよ。

《だまし討ち》【紙技・冬幸守】。
急所は…人体と同じでしょうか?
全部殺すのは厳しいかな…特に弱っているものを狙って、数を減らしていきましょう。
たった一匹の生き残りが戦況を覆すこともあります。

あなたたちはお兄さんとやらを守れない。救えない。だって止めてすらやれないんでしょう。
弱いから。
無力ってのはほんとに罪ですね。害悪ともいう。
無罪にしろ、殺されるには十分な理由になる。


黒江・イサカ
僕を呼んでたのは君たちかい?
それとも、そのおにいちゃんなのかな
…ああ、そうか そうか だからか

つれていったりしないよ
君たちのお願い、僕が全部叶えてあげる
おにいちゃんも、それとお嬢さんたち全員も
みんな一緒に同じ場所にいけるなら、
…それならさみしくないし、しあわせだね?

さあ、全員殺そうか 張り切ろうね たくさんいるから
出来るだけ多く、僕が
怖がらせたくないし、痛い思いもさせたくない
急所、ちゃんと刺すね
届かないなら投げてでも
ナイフはあげるよ、僕と君との証明だ
だから、明日が来るみたいに、死んで

「やあ、君かい」
そんな挨拶をする暇はあるかな
彼も殺してるんだろうな、ずるいな
僕に手も足も4本あればよかったのにな



『そうなの……あなたも、おにいちゃんが?』
『とってもたくさん家族がいるの、すてきね』

 ?

「ええ。ひとり。……もう死んでしまいましたけど」
「お父さんにお母さん、おじいちゃんおばあちゃんと兄姉弟妹イヌネコヒツジリスキリン……私が死んでしまったら私の家族はきっと悲しむでしょう。もう涙で街中洪水です、洪水」

 ??

 この世には嘘も方便という言葉がある。力の有無によらず、生き抜くための大事なスキルだ。
 夕立と桜人はそのことをよ~~く理解していた。もっとも、どこまでが嘘だかは、
「いまのあなたたちは、……そうした悲しい結末を止めようとしてるんですね」
「あなたたちのおにいちゃんはとっても強いんですよね。ああこわい、私じゃ手も足も出ないだろうし」
 眼差しに潜める殺意、後ろ手に隠すナイフ、
『わかって、くれるの?』
『かえって、くれるの?』
 ――見抜けぬ側が"罪"なのか。
 三秒、どころかずっと続けることもできそうなおしゃべりに終止符を打つ側は胸裡で真っ赤な舌を出す。
 罪だとも。
 その無力。
「ウソですよ」
 害悪ですら、ある。縁起の良さは名前だけ、放たれた冬幸守――蝙蝠の式神は夕立が瞳に収めていた泥をたちまち覆って喰らう。
 もごご、なにか喋ろうと焦るお口もチャック。
 でもちゃんとお仕事しないと怒られてしまう、とすこし離れた位置で困った風に"話し込む"を続けていた桜人はといえば。
「わぁどうしよう! 紙? 蝙蝠? がひとを食べちゃってますよ」
 握ったナイフで傍に飛ぶ蝙蝠をえいえい! すかすか。純粋培養故かこの男の意図が読めぬらしく、泥人のいくつかは逃げる足をも止めて様子を窺う。桜人は、彼女たちのまんまるおめめをじぃと見つめ。
「ねえ、私はどうすればいいと思います?」
 やっぱここらで……――点数。稼いどくべきですよね?
 にこり、手元、寝かせた刃の進みに沿って指先の肉に朱が滲む。そうして波状に膨れ上がり空気を淀ませる血霧が黒目線めいて顔を隠す刹那まで、貼り付けたように笑みは人好きのする明るさのまま。
 夕立の式を避けるため、桜人の近くまで走っていたものが"それ"にまず呑まれる。
『ひ、ィ』
 流動体の身にしんと浸透した禍はぼこぼこ沸々泡立てて、マグマがそうなる具合に内から弾けさせた。
 ぽんっ。
『い』
 ぱぁっ。
『ッあァア、あああああ!』
 崩れたからだを元に戻そうとしても崩壊に追いつけない。やがて心身を保っていられず自壊をはじめる彼女らを、食べ頃として群がる蝙蝠が散らしていった――心などもとよりあるかは置いておくとして。速やかなる死を。
「たった一匹でも殖えますし、二、三と」
「ですです、お片付けはしっかりと」
 悶え苦しむ泥人が醜く跳ねまわる、蝙蝠は飛ぶ、霧は赤い、音も色も香もなにもかもを混沌の中に。

 そうした種のお祭り騒ぎに誘われてくるものといえば決まって、
「アァ……楽しンでるなァ……」
 似たような手合いであることも自明。
 ひょこり顔を覗かせるエンジは、もともと青い肌を一層青くしている泥人を次に見た。へたり込んで立てない彼女の手を取って引っ張り上げる。
 家族? 家族。
『あ、ぁ』
「家族。コレと家族になるカ?」
 ――おにーちゃんって呼んでもイイ。ドコに行く? この屍だらけの道を行く?
 随分と饒舌に人語を吐いて間近に映す瞳ははたして、そういったものを愛でるときの光を湛えていたろうか。
 当人だって知れはせず、半分溶けた足を縺れさせる泥を引き摺りずるずると。
『わたし、は、』
「そうだそうだコレの家族は賢いンだ。そしてちょっとだけ手のかかる」
 どうだ、興味があるカ? 横へ振られかけて見えた水色頭を両手で包み込むようにして自分の方を向かせた、そのエンジの纏う襤褸切れからころりふわりと転がり出るのが自慢の彼ら――一方は家族と書いて非常食だけれど。
「紹介しよう、賢い君に白黒の仔竜。ホントはもう一人いるケド最近ずっとおねむなンだよなァ……」
 クァ、と愛想よく鳴いてみせる一匹。辰砂だって今日もキラキラに眩しいし、女の子だって大好きなはずだ。この赤が。
 だというのに視線を落とした泥人の面持ちが晴れぬのにエンジは逆側へ首を傾ぎ。
「家族はヒトの形をしているとは限らないだろう?」
 もっともーっとタノシイ話をしてやろう――告げて相棒との馴れ初めだとか彼らの味だとか、いっぱいのなかよし思い出を詰めに詰めた人狼咆哮はとりわけ毒々しく響いたとも!
 音の波がつかまえていた頭から周囲から一息に薙ぐ。水色、水色。まるで敷きたてカーペット。
 好き勝手飛び散らせるものだから、血霧の撒かれた場所と混ざってできた紫エリアがこれまた毒でしかない色味。
「はじめて役立ったんですけど、これ。やぁゴミも取っとくもんですね」
 支給品の耳栓だかをぺーいと捨てる桜人だって、もうちょっとくらい眺めていたかったというのに。無垢と無知は同義として、無辜でもあるらしい彼女たちが。身を呈して無償の愛とやらを見せるところ。
「フフ。気持ち悪い」
 思い出し笑い。もっと近くで見てみたかったのに、なぁ。

 つまらないごっこ遊びも終わり。
「先に進みたいンだ。退いてくれ」
 すっかり飽きた様子で元家族に致死性の宝石片を振り撒かせるエンジ。夕立はさめざめと見遣り、
「脆いですね、ご家族。妹か姉か知りませんけど」
『ううぅ、ぐうううぅ…………っ』
「あなたたちはお兄さんとやらも守れない。救えない。だって止めてすらやれないんでしょう」
 そう、弱いから。
 無罪にしろ殺されるには十分な理由になる。見下げる夕立の衣から離れた式はひとりきり俯く泥人の頭にとまって。
『……どうすれば、強くなんて』
「簡単ですよ」
 たくさん殺すんです。これから殺す相手へと一言アドバイスをくれてやる夕立は律儀であったかもしれないが、それ以上にひとごろしだった。頷きひとつ、だけで。
 きゅっと拳を握った泥人の手は直後、蝙蝠の翼に裂かれてしまうし間置かず首も落ちてゆく。
 繰り返しすぎて乱れて擦り切れたビデオテープのような光景。 それでも尚もう一度、と再生する価値があるのは。

 遠くに近くに聞き親しんだ式神の羽音。
 彼も殺してるんだろうな、ずるいな。僕に手も足も四本あればよかったのにな――。
『あれ……』
『どうしたの? みんな、』
 対峙していた――イサカにとっては向き合っていたに過ぎない――泥人たちが、イサカと同じ方角を見てたじろいだ色を滲ませる。まったく細い肩だ。首だって風で折れちゃいそう。だから男はそっと歩み寄り。
「怖がらないで大丈夫。僕は君たちのお願い、全部叶えてあげるよ」
 つれていったりしない。囁く。
 夕暮れの公園でまた明日、って指切りするみたいに穏やかな声が。からだを跳ねさせて、小鹿ちゃんな反応をする少女らに注がれた。
「おにいちゃんも、それとお嬢さんたち全員も。みんな一緒に同じ場所にいけるなら、……それならさみしくないし、しあわせだね?」
『いっしょ……?』
『でも。おかあさんは、あなたたちに殺されちゃうとばらばらだって』
 くすり微笑ってイサカは魔法の秘密道具を見せてあげるかのようにナイフを手指で揺らした。
 はじめは一本。するする、スライドさせればあら不思議。彼女らの頭では数え切れないほどたくさん!
「特別なんだ」
 僕はね。
 投げた二刃は瞬きの間にトントンと柔らかい眉間に突き立った。ともに飛びゆく踏み込みの速さ、ちょっぴり離れて惚け顔でいる子の胸を次に貫けば、反転して隣の子は口元にあてられた腕ごと落とす。
 ――到底足りもしない抗う力を補う代償として、からだを溶かしはじめる子がいれば。
「痛そうだ、やめておきなよ」
 滴り落ちた頭のかたちを戻す親切の口振りに斬り上げたナイフが形を整え眠らせて。
 どこまでもやさしく。全員。できるだけ多く、僕が。
『あっ……だれか!! たすけっ』
 ひとつ残念なのは、悲痛な叫びを上げさせなくては殖えないし。
 殖えなくては増えないし。ってことくらい?
『たす』
「難儀だなぁ」
 ほうと息をついて結果、すぐに恐怖を消してやるため背面から刃は深々埋められる。きっかり首の根。だって約束したもの――イサカは努めて誠実に事を終えた。
「ナイフはあげるよ、僕と君との証明だ」
 終えたのだ。
 来ぬ明日に涙する暇すら与えぬほど。
 呼び声はだれの? カウントは十分? それではそろそろ答え合わせといこう。心同然躍る刃でつくりあげた道のつづき、足音へ半身振り向いた赤い瞳のそのひとへゆるく絡める眼差しのいろは。
「やあ、君かい」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

オルハ・オランシュ
ヨハン/f05367と

地へ手を伸ばしてももう何も掴めない
あ……あの子、私を、庇って……!?

近寄る人影には目を疑う
ヨハン!?どうして?
困ったな
危険だからこそ彼に声を掛けず単身乗り込んだはずなのに
一人で頑張るどころか結局助けられてる
……でも、心強い
あたたかく感じるのは魔法の効果じゃなくて
彼が触れてくれているからで

手を借りて立ち上がる
ごめんなさい。ありがとう、ヨハン
力を借りていい?

範囲攻撃はせず、狙いは一人ずつ
与える苦痛は最小限に留めるよう急所を穿ちたい

ヨハンへの攻撃の兆候を確認したらこちらに気を引く
ねぇ
君達のお兄ちゃんは優しい人なんでしょ
私の弟も優しかったの
きょうだいって、唯一無二の存在だよね……


ヨハン・グレイン
オルハさん/f00497と

別に。興味ないんですけどね
知らない者がいくら死のうが殺されようが
見えないところではいくらだってある事ですし

……ただ、あなたは別だ
俺の知らないところで傷付いていて欲しくないんですよ

不得手ではあるが治癒の魔法を施す
触れて、存在を確かめるように
――ああ、まったく。心配するなんて柄じゃないのに
手を取り立たせて

いいですよ、手伝いましょう
あなたの意に沿うようにします
屠るなら一撃だ

蠢闇黒から闇を這わせ繰る
人と急所が同じなら首を落とす
分からなければ大凡急所と思われる箇所を全て穿つ

俺から掛ける言葉はない

兄のため、家族のため?
独り善がりに他者に死を与えるなら
お前達も殺されて文句は言えまい




 ぷくぷく。ぷく。

 いま。
「あの子――私を……庇って!?」
 目の前で消し飛んだ泥人。からだはすぐに溶けてしまい、地に触れる手はなにも掴めない。
 あまりにも突然だったから。
 次に近寄る人影が想い人の姿をしていることにも、とても驚いてしまって。唇がその名を紡ぐまで三度、音も欠けて息が零れて……やっと、
「ヨハン……、どうして」
 やっと。
 自分の名を呼んでくれた。――ああ、まったく。心配するなんて柄じゃないのに。ヨハン・グレイン(闇揺・f05367)は我知らず大きくなる歩幅で座り込むオルハのかたわらへ。
 触れる肩口。辿って、てのひら。それこそが一連の出来事はまぼろしではなく、うつつなのだと互いへ信じさせてくれる熱だった。
「別に。興味ないんですけどね。知らない者がいくら死のうが殺されようが」
 この喋りだってそう。
 誰にとってひんやりでも、オルハにとってはあたたかな。見えないところでいくらだってあることだ――つらつら声は吐きながら、ヨハンがつい半ばで舌打ちしてしまいそうなのは見つめる足の傷の深さ。また無茶を。
 ただ、と、僅かな沈黙のあと。
「……あなたは別だ。俺の知らないところで傷付いていて欲しくないんですよ」
「――っ」
 オルハの息が不意に乱れたのは、言葉かやわく触れられた傷口にか。熱が収まったとも増したともいえぬ心地ながら、刺すような痛みは注がれた魔力にいくらか和らいだような。
「ないよりはマシ、程度ですが。立てますね」
「ぁ、うん……」
 手を取って立たせられれば、自然と距離は開くからオルハが伏す眼差しの違和は減る。
 ……困ったな。
 危険だからこそ、だった。傷付いて欲しくない、なんて考えは同じに決まっていて――頑張るどころか今回も彼に助けられて。けれど浮いては沈むどの感情よりも、心強さが今は大きくて。
「ごめんなさい。ありがとう、ヨハン」
 大きいから。その源であると知る手を握り返し顔を上げたオルハがまっすぐ問う、力を借りていい?
 返る声はすべてを言い含めて伝う、あなたの意に沿うように。

 共に。

 フィロ・ガスタ。吹く術を与えられ、嵐は再び炎を薙ぐ。
 苦痛は最小限に――穿つ、急所。
「首を」
「うん」
 ここに飼われた泥人たちは、一定以上からだが崩れるか首を断てば大概止まるようにできているらしい。ヨハンの黒闇もはじめは一度に剣山の如く全身を貫き探っていたが、狙いが定まるにつれ殲滅速度も上がる。とんとノックをするように軽く、かるく、首のみ落とせば。
 ……断末魔も聞こえない。
『やっ、おにいちゃん……!』
『い、いたいよ? いたいのするよ!』
 脅しではないと突き出される水色の手。何も起こらぬかに見えて、一拍遅れてヨハンの近くで潰れた車が持ち上がる。サイキッカーの能力に似ているか。だとして、
「させないっ」
 死角を補い合う二人の連携を打ち崩すことは叶わない。傷口が多少開くも厭わずオルハが投擲した三叉槍の鋭い鉤爪は、泥人ごと車を通してはねのける。
 外れたタイヤがてんてんと暴れ、それに轢かれる程度で型崩れする少女たちだ。
『おに……』
「ねぇ」
 君達のお兄ちゃんは優しい人なんでしょ。私の弟も、優しかったの。 ――繰り返し吐露される兄への想い。叶えるべきではない願い。つと過去形の響きで囁きを落としたオルハへと、未だヨハンを映して見えていたいくつもの瞳が向く。
『かぞく』
『あなたはどうしてこんな、ところにいるの?』
 彼らを置いて、戦火の中に。弟と離れ、天国でも地獄でもない此処に。二つの意味を孕んでいたであろう疑問は純で、だからこそ娘の心に雨雲を誘う。 けれども。
「話さなくていい」
 いいですよ、オルハさん。そうもっと耳触りのよい声が。ヨハンの呼んだ闇の刃が、耳も口もくっついた頭二つを斜めに斬り落とした。
 ヨハンには泥人の関心を引く話も、同情し掛ける言葉もひとつとしてない。
 ――兄のため、家族のため?
 独り善がりに他者に死を与えるなら、殺されて文句は言えまい――と。
「ここで終わるんですから」
 抉って裂いた、その溶け際に呼び出されたおともだち。
 彼女らが完全にひとのかたちを取る前に藍と緑、二人が同時に閃かせた刃と刃で、望まれぬ連鎖をも断ち切って。

「きょうだいって、唯一無二の存在だよね……」
 ぽつり。
 今度こそ屍の他なにもなくなった足元。
 それでも隣にはこんなにも近く、互いが在る。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
幽ちゃん(f04449)と

離れ離れはヤだよねぇ、そりゃそっかー

暫し考え「やっぱ焼いちゃうのが一番かな」
言うや否や【月焔】呼び出し周囲に向け放ち牽制
『高速詠唱』からの『2回攻撃』で弱った個体から狙っていく
幽ちゃんが追い込んでくれるならその後は一体ずつへ確実に撃ち込んで
近接した個体には最大威力の焔を掌に纏い
『傷口をえぐる』よう直接捩じ込もうか

オレにゃ家族とか分かんねぇケド
それでも残されたモノってのがあるから退けねぇの、だから簡単なコト
強い方が、生き残る

……ナルホド、ごっこ遊びにゃ終わりがねぇとか
幽ちゃんの言葉に神妙な顔をしたのは一瞬
安心して、寂しくないようちゃあんと同じトコに送ってあげるからさ


絢辻・幽子
コノちゃん(f03130)と

焼いちゃうなら、私も手伝いましょうか

細かい所はコノちゃんにおまかせで
狐火で囲んであげましょうねぇ
……あれよねあれ、牧羊犬の気持ち
お友達とかご近所さんを召喚したようなら
妹ちゃんをちゃんと狙っていきましょう
飛んで来たり、逃げようとする個体は蜘蛛の糸で対処
もしくは「盾受け」で

ふふ。あら、コノちゃん奇遇ね
私もよくわからないわ、えぇ、よくわからない

あぁ、でもそうね……
昔、あなたみたいな優しい子に拾われた事があるの
でも、燃やされちゃったわ、最期
家族ごっこはね、いつか終わるのよ
なぁんて。

あなたが行く場所は天国かしらね?
(のらりくらりとした人を喰ったような女狐)



 逃げようとしているのだか、向かい来ようとしているのだか。もしかすると本人にだって分かっていない。
 間近に見るほどに、そんな顔だった。
 とろとろと突き出された水色の腕を逆に掴みて捻り上げるコノハ。
「ハイハイ、お嬢ちゃんはコッチだヨ」
「あら? まあ、この爆音にはだしだと足音が聞こえ辛いですねぇ」
 そして、三体まとめて赤糸で縛り上げ道の中央へと投げ転がす幽子。

 数分前、泥人の訴えを無言で眺めたのちコノハが言ったのだ。
「離れ離れはヤだよねぇ、そりゃそっかー」
 からの。
「やっぱ焼いちゃうのが一番かな」
 を。
 そうして言い終わらぬうち男が呼び出した狐火は、あたり転がる骸にその月白の色味もあり人魂のようでいて。
「焼いちゃうなら、私も手伝いましょうか」
 拡散、放射状に駆け広がる月焔の輪をぴょいとひと跳び。
 ひとつ返事に乗った女狐の灯す業火もまた、幼子の理不尽に過ぎる死を目の当たりにして、いささか気が立っていたのやもしれない。

 故に狐二匹は焚火の最中というわけであり――。
「……あれよねあれ、牧羊犬の気持ち」
 明々囲い込んだ狐火群の中で膝を抱える泥人の群れ、という図式が完成していた。こんな場に自ずから名乗り出ておいて、彼女らはどうやらあまり炎が得意ではないらしい。次第に狭める炎の囲いに焦がされては、泣き声をあげ蹲る。
 その涙に駆け付けたご近所さんも結局のところ泥人に過ぎず、どうだろう。
 内から引き摺り込むコノハの腕が炎をくぐらせた刹那、どろり溶かされて跡形しかなくなってしまう。
『ッ』
 息を呑んだ別個体。
 不可視の体組織にて掴み上げた折れて転がる標識は、十分な凶器となる。ただそれも適切な使い手がいてこそ。 更には、――相手次第。
「こーら。それは投げるものじゃありません」
 ぺっしなさい。幽子が這わせた蜘蛛糸が足首を巻き取り投槍のフォームを完全に崩して。
 二本目が腕をくくり上げれば、三本目はなく強く叩きつける炎塊がどっと背を押し炎へと躍らせた。
 かろんかろん……取りこぼされた鉄の立てる音はむなしく、恥も外聞もなし狂い叫んで暴れる死に際を眼前映した泥人は思わず後ずさる。
 だが一歩きり。
 直後にはその中身のないからだは片手に掴み上げられ、地を離れた足裏が空を蹴った。
 煙に霞み己を見下ろす、青く冷めた瞳は鮮やかなくせ色無き灰にも感じられて。
『はなっ、して! おにいちゃん! おにいちゃん……』
 がぶりと脅威たるコノハの手に噛みついたつもりらしいが、歯もないタールはずるり皮膚のうえ滑るのみ。
 与え得るは擽ったさ程度――どころではない、その皮膚が突如としてごうごうと燃え立つもので直火焼き。
「あーあ、牙くらいありゃよかったのに。……親の怠慢だネ」
 それはコノハが己が手へ纏わせる熱持たぬ焔だった。
 まず喉が焼けたものだから叫び声が上がることはない。もがく手足、落とす端から蒸発する粘性の涙粒と、鬼か悪魔かひとでなしを見つめる瞳だけがそこにある。
『やめてえええ!! その子しんじゃう、しんじゃうよ!』
「オレにゃ家族とか分かんねぇケド。それでも残されたモノってのがあるから退けねぇの」
 ぽかぽかと背を殴られる感触……否、風の揺れだけで届きもしていなかったかもしれない。もはや動かぬ手の内の彼女ごと振り向きざま、叩き込む拳は水色同士を爆発同然に弾けさせた。
 だから簡単なコト。"このせかい"は、
『――ァ』
「強い方が、生き残る」

 燃え、溶け、混ざりあって垂れる青。
 彼女たちが逆立ちしても及ばぬ強者へ残せた痕跡はといえばこの色だけだというのだから結局、そんなものだ。
 それすらすぐ、次へと迸る白炎に溶かされて。
『あ、ぁ、あなたたちなんかに、地獄のひとで、家族の大切さもしらないくせに……!』
『どいて! ぜったいに負けないっ』
 炎の囲いの中央、足掻きをみせる泥人数人。
 そんな抵抗などはじめから眼中にないかのように眉ひとつ動かさず……"家族"。 ふふ、と幽子の尾は久方ぶり、熱風にあおられる以外で揺れた。
「コノちゃん奇遇。私もよくわからないわ、えぇ、よくわからない」
 糸が走る。
「あぁ、でもそうね……昔、あなたみたいな優しい子に拾われた事があるの」
 さして声を張るわけでもない。呟きは、平素通りにぼそぼそと。
 しかし幽子が落とした「でも」の続き。
 燃やされちゃったわ、最期――その言葉が意味を伴って口遊まれた瞬間、糸が捕らえ。いままで以上に大きく禍々しい狐火が女の視線向く先へと放たれていた。
「天国はさぞ綺麗なのでしょうね?」
 はたんと膨らんで広がり、それからゆっくり垂れた己が尾を撫ぜる女は消し飛んだ一塊から、二の句を迷った風に目の合う男へ巡らせ悪戯ぽく笑み。
「家族ごっこはね、いつか終わるのよ。なぁんて」
「……ナルホド、ごっこ遊びにゃ終わりがねぇとか」
 はらはらと散り降る灰は泥人のものではない。
 彼女らは弔いに用いるための死体も残らない。
 確実に、一撃で屠るようにしてきた――コノハは歩み寄ってもう泣きじゃくる他になにもできない生き残りの前へ立つ。
「安心して、寂しくないようちゃあんと同じトコに送ってあげるからさ」
 ここ十数分、握り潰す側へ立ってからはじめて浮かべた笑みに、偽りは。
 いずれの色を混ぜ含めてあったとして泣き止み顔を上げさせるだけの彩があったのだから。きっと――なかったのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

冴木・蜜
家族の幸せ、ですか
幼少の記憶は殆どない私ですが
それでも大切な存在はいます

嘗て投獄された身である私にも
手を差し伸べてくれたあの人
私の孤独を癒してくれたあの人

血の繋がりも無ければ種族も違いますが
寄り添ってくれる彼は――ええ、家族のような関係なのでしょう
だから
貴女の家族のために殉じたい気持ちを
理解できないわけではない

それでも
貴女がたの兄の手をこれ以上汚させないため
これ以上殺させないために
私は貴女がたを越えていく

己の毒を限界まで濃縮した上で『耽溺』
その首に手をかけ締め上げて
融けた己の毒腕で
その命を融かす

せめて苦しまぬように
眠る様に逝けたなら
どうか、幸せなゆめうつつに溺れていて


渦雷・ユキテル
ああ、"助けて"あげなきゃ。
似た境遇の子には優しくするって決めてるんです。

泥人へと微笑み【言いくるめ】
自分は、ずっと一緒に育った子――家族とはぐれちゃったんです。
離れ離れになるのは寂しいですよね。
大切な人とお別れするのは嫌ですよね。

でも大丈夫。
あなた達もおにいちゃんも、
みんな同じところへ連れて行ってあげますから。
いつまでも一緒に。いつまでも幸せに。
ね、信じてくれますか?

素直な子には弾丸を。
できるだけ苦しませず、怖がらせないように。
動きを止めない子にはサイキックブラスト
複数人いれば更に【範囲攻撃】で一度足止め
どのみち結果が同じなら、手早く楽に、
希望を持って逝ってほしいんですよ。

※アドリブ絡み歓迎


クレム・クラウベル
例え悪者ではなかったのだとしても
引き起こされた悲劇の責任は、負うべき者が負わなければいけない
そうしてそれを負うには、……残念だが、お前たちでは足りないだろう
だってお前たちは、こんなにも脆く、無力だ

……家族、か
共に居られるだけで幸せだったよ
戯れに言葉を紡ぐ。今は無いものの話
当たり前の日常。日の射さぬ薄闇の中で確かな陽だまりだった
大切だった。愛おしかった
だからお前たちの大切も知っている
それでも、

行かねばならない、俺たちは
大人しく引きはしないだろう
邪魔になる個体は祈りの火で包み燃やす
極力早く、苦しまず燃え尽きるように躊躇わず

彼岸でならば
在るだけで排されることもあるまい
向こうではせめて、安らかに



 救いと名付けられた死とは、誰のためにあるのだろう。

 常ならば鐘に似てカツンと打ち鳴らす靴の音が聞こえないのは、血の海の上を歩くから。
「例え悪者ではなかったのだとしても。引き起こされた悲劇の責任は、負うべき者が負わなければいけない」
 言って聞かせるように凪いだ響きであった。クレム・クラウベル(paidir・f03413)はそれから、自分と……並ぶ泥人の後方にもずっと続く爪痕を見据える。
「そうしてそれを負うには、……残念だが、お前たちでは足りないだろう」
 炎に溶け落ちた水色溜まり。
 その脆さ、無力を靴裏に踏みしめては――ひとつ思い出話を。
「家族といったか。……共に居られるだけで幸せだったよ」
 当たり前の日常。日の射さぬ薄闇の中で確かな陽だまり。
 大切だった、愛おしかった――既に喪ったものの話。故にと眼前の少女たちの抗いへも理解を示すけれど、踏み出す足取りがすこしのブレもなかったからだろうか。泥人は順々に首を傾げ、
『たいせつ、を』
『なくしても。あなたは、なんともないの?』
 およそ飾らぬ疑問をぶつける。
 否定。肯定。 ――どちらもなくともまた一歩。
「この通り足は残っているものでな」
 行かねばならぬゆえんとして。うっすらとひそめた吐息に掠れかけの聖句が乗る。
 儘、クレムの手元。零れては辿り来た足跡に白き火の粉が散った。泥人だったもののひとつめを褪せさせながら。

 もたらす側の? もたらされる側の? その誰かを掬えずいた側の?

 家族の幸せ。幼少期の記憶がかすれた蜜であっても、その言葉が意味すところが何かは分かる。
 絶望の淵、投獄された身へ差し伸べられた手。
 孤独を癒してくれた――血の繋がりもなければ種族も違う、あの人のくれる幸せこそをそう呼ぶのだと。
「……ですので、理解できぬわけではありません。家族のため殉じたいとの生き方も、気持ちも」
『じゃあ』
 薬のにおいの染み付いた白衣がはたはた揺れるから、泥人は不思議そうに男を見ていた。
 同族であると気付いた風はない。せんせい、とあどけなく問う声が掛かるのを、首を振る蜜は拒むようにも。 だとして。続きを。
「殺すということは貴女がたの兄の手が汚れるということ。これ以上汚させないため、私はここにいます」
 苦しむのはもう十分です。貴女も、彼も――。
 染め上がって久しい手を生やしたまま願うなんて、滑稽な話だろうか?

 永劫の安寧を終わりまで信じていられたのなら。

 ――ああ。
 "助けて"あげなきゃ。
「こんばんは」
 ユキテルはゆっくりと両手を広げて歩み出た。その手はどうしてかうつくしいかたちをしていた。
 おはなしにしか聞いたことのない猟兵の姿を、窺い見る青緑をした瞳が揺れる。
『……かえって』
「帰りたくても、帰るところがないの」
 だからあなた達を見ていると、羨ましくなっちゃいました。そっと淡色の眦は追想に和らいで、はにかむように微笑ってみせるのだ。群れる泥人の視線がそこに滲むかなしみに集まった。……ところなんて云うけれど、それは潰してやった研究所なんかでは決してない。ただ、ただ。思い馳せる横顔。
「自分は、ずっと一緒に育った子――家族とはぐれちゃったんです」
『家族と……?』
 そう、と続けるユキテルの声を阻むものはおらず。
 離れ離れになるのは寂しい。大切な人とお別れするのは嫌。
 ですよね、と紡いで問いかける一言ずつは未発達な泥人たちのこころを整理するものでもあった。
 縦へ揺れる彼女らの首。もしかしてこのひとは、わかってくれる? おにいちゃんを助けてくれるのかも――或いはやさしく語られる自慢の家族について、もっとおはなしを聞きたかったのかもしれない。簡単に届くほど近くまで寄ってきた水色頭のひとつを「でも大丈夫」とひとの手は撫ぜて。
「あなた達もおにいちゃんも、みんな同じところへ連れて行ってあげますから」
 いつまでも一緒に。いつまでも幸せに。
 ――ね、信じてくれますか?
 顔を見合わせる泥人たち。家族の役に立っていなくなった良い子は天国へ、猟兵に殺されてしまうような悪い子は地獄へ。ちいさな脳にそれだけ教えられてきたけれど。
『いたいのは、いやなのよ』
『やくにたてないのも、いや』
『でも……ほんとうはね。みんなでなら、どこへだっていいの』
 たらりと腕に力無く、かみさまのような光を見上げた。

 どんな弱さをも幸福と呼べたのに。

 クレムを。 蜜を。 ユキテルを。
 はらりと金糸が顔にかかり、"彼"は笑みを深めたろうか。頷くかわりに撃鉄が音を立てる。
 零距離。丁寧に贈られた弾丸は水色の額をすうと通り抜けて次の子へ、次の子へ。共に連れ立つみたいに、そのための証みたいに一撃のうち。似た境遇の子には優しくすると決めていた。痛いのは嫌、誰だって嫌、
「……分かりますから、心配いりませんよ」
 希望を抱いたままに眠りへ。
 いざなう腕は二本と尽きず。
「すこしだけ暗くなるかもしれません、手をつないではいかがでしょう」
 骨張った蜜の手は少女の首へ。
 段々と目の前が暗くなってゆくときの仄暗いやすらぎを知っているだろうか? 触れたそこから伝える限界濃度の麻酔毒はそれと似た、微睡みの幻覚を融かすが如く引き起こす。ずいぶんとやさしい、しかし確定的な死をも男は身の内に飼っていた。
 ――自分が今どんな顔をしているか分からない。だが責を投げ出しはせず、力を込める指、膝を折る少女の水色へほたりと落ちた黒色すら毒を強めるだけなれど。
(「どうか――幸せなゆめうつつに溺れていて」)
 指の一本動けなくなるまでのわずかなひととき、泥人は隣にいた泥人の手を握る。そうして苦しくないよと笑ったのかもしれず、待ってるねと勇気づけたのかもしれず。 いずれにせよ、そこまで。
 銃弾と毒蜜の手向けへゆっくりと身をとろけさせ崩れ落ちるいくつものからだは、間もなく満ち満ちた祈りの火が呑んだ。
 灯すように照らすように、そして消えぬようにこんこんと白く湧き出る浄化は導く。在るだけで排されることなどない、彼岸まで。
「向こうではせめて、安らかに」
 クレムは数え切れぬほど紡いできたそれを別れの言葉とする。祓魔師よりも聖職者めいて、神の所在を知らねども、まるで彼らがいとし子へそうするように同じだけの祈りを込める。それきり、水色が身を起こすことはなく。
 赤く濡れた地が洗われるから、誰も彼もが解き放たれる雲の上にいるかの光景だった。
(「ふしぎだね」)
 どうせ得てしまうのだったら、こんな力が欲しかった――もしもなんて夢見る初心でもないけれど。いまこのとき我が身を抱く自由も、追えぬ理由もいまのユキテルにはあって、誰にも見えぬ白炎のうち数秒限り目を瞑る。
 しずかに、しずかに。
 等しくすべてを送るまで炎は絶えはしなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ペチカ・ロティカ
置いていかれたくないのなら、追うべきだったの?

重ねるのはかつて所有者だった彼の姿
もうどこにもいない、天国なんてあるはずもない
それを追って、ペチカはどこに行けばよかったの?

それでもペチカはただひとつ知っているの
あなたたちの願いや想いは、ペチカの願いではないってことを

あれを止められると思うなら、向き合う方向を間違えている
家族が一緒にいるべきだと思うなら、いっしょに逝けばいい
――「あなたが」それを、のぞむのならば。
この地獄みたいな炎ごと、
とろとろの意思を叩き潰して飲みこんで
あれまで至る道を作るべく。

墓標しかない道でもいい
もしもそこに誰もいなくても
それでも進むと、自分で決めたのだから


ジャハル・アルムリフ
中身はまるで子供とは
否、子供故か

…家族が大事か
兄とやらが、いなくなるのは嫌か
俺の家族は血も繋がらぬ一人のみだが
煩い程に危険から遠ざけたがる
物好きで話し好きな魔法使いだが
俺も、その方を守り抜くつもりだ
…お前達の兄は、家族に手を汚させ死地に送るのか

【うつろわぬ焔】を用い
命中させるのみならず街灯や倒れた車、道路上へ延焼させ
炎そのもの、或いは陽炎や煙に触れた
見えぬ[体組織]の軌道を読みやすくし
他猟兵への一助とも

離れがたいほどに家族なら
形をなくしても一つになれようさ
水色のしずくに触れ生命力吸収
どの願いも聞けぬ故、恨みごとも先に受け取ってゆこう

余計な世話も無用
実の家族には然るべき時に向こうで詫びる故


天之涯・夕凪
いいえ、連れて行きます
貴女方も同様に

(一度だけ、目を伏せて)

本当に強い兄ならば、貴女方が庇う必要はないでしょう
本当に優しいなら、きっと、この惨状は彼にとって苦しいでしょう
連れて行きます、一人残らず
貴女も、彼も、オブリビオンは…一人残らず、還るべきなのですよ
家族、天国、或いは別の名の付く場所へ

ガトリングガン「白菫」でUCを発動
彼のレーザーで散らされる前に、彼女たちを一掃します
出来れば痛みを感じる前に――エゴですかね
でも、出来れば苦しむことなく
自身の傷は厭いません
これも、エゴ

家族の話は、ひとつだけ
私にも妹がいるんです
貴女方のお兄さんの代わりにはならないでしょうけれど…これで、おはなしは、おしまい


花剣・耀子
時間が惜しいわね。
大きな傷だけ包帯を巻いて、他はそのまま。
いたみがあれば、あたしはあたしの所在を見失わない。
流されないように。ここで起きたことを思い出せ。

おにいちゃん。……家族なの。そう。
生憎、あたしに家族はいないの。
そう呼んでいたヒトも、なぞらえるヒトも、もういない。
でも、関係性に名前を付けられなくたって、
いちど触れた情が捨てがたいことは、知っているわ。

……、だけど。それがどうかしたかしら。
守りたいのなら阻んでみせなさい。
あたしは、なにがあろうと押し通る。
それだけよ。

すべて斬り果たして、道を開けるわ。
言い残したいことがあるなら聞きましょう。
黄泉路を渡るまで、その声を連れて行ってあげるわ。




 ぷくぷくぷくぷく ぷく。

 いいえ。
 ひとつ目の否定は早かった。
 つれていかないでと繰り返される懇願へ、夕立が絞り出した声だった。
『どうして? おにいちゃん、』
「……家族が大事か」
 ふたつ目の問いはごく静かに。
 途端に痛ましさを増す幼子の声を阻むように、ジャハルは口を開く。
 こくり頷いた青緑が縋りつくように向けられる。見返す男の双眸は闇に遠くの炎を揺らがせるのみ。不要な感情の受け皿として湛えるスペースを置かず、しかし求められずとも音無く燃やし。
 俺にも一人。そう、血も繋がらぬ唯一のみを家族として数え上げた。
「煩い程に危険から遠ざけたがる、な。物好きで話し好きな魔法使いだが、俺も、その方を守り抜くつもりだ」
 欠けやすいあのからだはともすれば酷く脆く映るくせ。
 幾多の戦場共にして、望みを叶えるだけの力を高めてきた。筈とよほどに頑強な竜人の拳が握るのは、ゆるぎない忠義であって。 ――家族とは、つまりは一方通行のものではないと。
「……お前達の兄は、家族に手を汚させ死地に送るのか」
「本当に強い兄ならば、貴女方が庇う必要はないでしょう。本当に優しいなら、きっと、この惨状は彼にとって苦しいでしょう」
 継いだ言葉の先、伏していた星彩のまなこを今一度合わせたならば燃え立つように真紅。ヴァンパイアへの、血統覚醒。
 だからと夕凪が前へ構える機関銃はいつしか翼めいて軽く。
 ガシャン、  祈る女の像は支え合う夕凪とともに彼女たちへ向き合う。白菫。纏う色はどこまでも白く、この戦火の中でも染まり切らぬ所有者の心のよう。
 そして、祈る暇もなく儚くなった人々の声の代弁者として。
「貴女も、彼も、オブリビオンは……一人残らず、還るべきなのですよ」
 ――ガガガガガガ!!
 連れて行く。そのために、唸りを上げて吐く雨霰。
『きゃぁ』
『わっ  あっ?』
 燃えて銃身が熱を宿す。抱えた腕が焼けそうだとて、いま、手放す選択肢は夕凪の頭のどこにもなかった。真祖の瞳がもつれる足を、逃げ場求め泳ぐ視線を手に取るように見抜きて銃弾を見舞わせてゆく。
 未来予知などとは別な純然たる戦の素養。無駄玉のひとつなく弾けさせる肉塊は馴染みある血の赤ではなく淡いブルー。それがすこし、顔にも出さずとも、夕凪にとって救いだった。
『や――……』
「恐れるのなら目を瞑っていろ」
 結末は変わらぬと定まっているからこそ。ジャハルの五指はもう開かれて、なにより遠くの待ち人を傷付けぬためだけに薙がれる。
 見目以上に鋭利な爪痕が五筋宙に刻まれたとき、膨れ上がる風が触れぬ先まで水色を散らした。その横一文字の愚直へ連なる縦の軌跡。
 みっつ目は、言葉ならぬ一筋の剣閃だった。
「生憎、あたしに家族はいないの。そう呼んでいたヒトも、なぞらえるヒトも、もういない」
 それでも。関係性に名前を付けられなくたって、いちど触れた情が捨てがたいことは、知っている。
 相容れぬ立ち位置にある泥人にこころを認めたうえで、花嵐の体現、耀子が翳す力は。
「だけど」
 変わらない。生み出した風刃が雑にくくりつけた程度の包帯をはためかせれば、引き攣れる背の傷が存在を主張する。こうあるべきが正しい。――寡黙に。
「それがどうかしたかしら。守りたいのなら阻んでみせなさい」
 "敵"として至極当然の道理を述べ、白き刃の嵐が死屍累々を積み上げ翔ける。
 真隣のひとりがさらわれて瞬きをしているうちにその隣も。
 また隣も……誰にも止められぬテンペスト。 断ち切られる最中にのこった家族のため、ほつれるからだを編んで放出された不可視の手は数十に及び、猟兵へ一様に襲い掛かる。
 首とはいわない。腕の一本。指の一本。爪のひとかけ。
 なんでもいいから報いたい――!!!

「還れ」

 報いたかった、けれど。
 迎えるかたちで一息に吐かれた眩い猛火はこんじきをした竜の息吹、無慈悲にも悉く体組織を焼き払いながら一辺を舐め上げる。
 ぐずぐずの燃え滓が揮い手の靴先にへばりつく。蹴って散らすこともできたそれを屠ったものと同じ指に触れ、
「離れがたいほどに家族なら。形をなくしても一つになれようさ」
 誰へともなく呟いたジャハルの手にとろりといのちが溶け落ちた。
 天国への誘いをも無用と突き返し、聞けぬばかりの願いの中、恨みごとの一でも憶えていようと――受け容れる手指はとっくに傷だらけだというのに。
 然るべき時まで。

 一番にあたためてあげたかったひとを失ってしまったとする。
 そのあとに得る力なんて、どうして意味があるのだろうか?
 置いていかれたくないのなら――。
(「追うべきだったの?」)
 圧倒的劣勢にも抗いと呼べぬ抗いを続ける泥人。天国を信じる無垢な。
 ペチカ・ロティカ(幻燈記・f01228)が重ね見るのは自身と、かつて自身の所有者だった、"彼"の姿。
 もうどこにもいない、天国なんてあるはずもない。それを追って、ペチカはどこに行けばよかったの?
 心の中で反芻していた筈の想いは、いつしかひととして得た口からぽつぽつと零れ落ちていた。
 ひとりの泥人がこう言う。
『天国をしらないの?』
 ひとりの泥人がこう言う。
『かわいそう。かわいそう、案内するよ』
 近しい背丈の水色がペチカのそばに顔を覗かせる。
 ――けれどもそんなもの、娘の手元でとくとくと音を立てて燃ゆる地獄が掻き消した。
「いらない」
 ただひとつ知っているから。彼女たちの願い、想いは、ペチカの願いではないということ。
 踊り零れだす藍が水色を喰らう。
 かわいいアンティークランタン、いつか彼がやさしく撫ぜてくれたてのひらの熱を忘れられずに。
 もう一度と乞うみたいに――とめどなく。
 夜明け色した業火は足元へ、ジャハルの齎す黄金と上質な絵の具みたくあわさって羊の逃げ場を完全なまでに奪った。
 つくり出されたステージに湧かすは花の宴。
 凶刃だとてその冴えのみが右往左往する罪なき魂に行先を示す。
「踊りの経験は? どうせだからすこし楽しんでいきなさい」
 見世物にしては"華"は散り散り、戦い向きの耀子の剣舞がとんとんと刎ねて落とすうち頭を抱えて蹲ってしまう個体は、白き女神が手を引き連れ出した。
「……ご一緒させていただきます」
 夕凪のもとで雨みたいに音を鳴らす薬莢がダンス・ミュージック――鎮魂曲代わり。
 どうあっても歴然とした力量差。
 疎らに余った泥人たちは、ただ立ち尽くすだけに見えた。

 ――あきらめるの?

 ひとりきりのヤドリガミはこう言う。
「それならペチカははじめるの」
 兄とやらを止められるつもりだとしても、家族いっしょにいたいとしても、ここにはぐれているのは間違いだ。
 願いを叶えるものは天の使いに限らない。
「――"あなたが"それを、のぞむのならば」
 囁き。煌めく火の粉はねあげて。ごうと波打つ炎の海は天の国どころか地の獄の門を開けた風。
 呑んだタールを連れながら、勢い強めて燃え広がって、そのまままっすぐ。道はどこへ続くのか。
 決まっている。至るまで。
 墓標すら灰にかえして。もしもそこに誰もいなくても。それでも進むと――自分で決めたのだから。
 対峙していた泥人がつまさきから順にちいさくなってゆく。
「言い残したいことがあるなら聞きましょう」
 胴から上だけになってしがみつくからだに刃を添えながら、耀子は促す。
 あとほんの僅か横へと手を引いたなら毀れる脆い命。それは、剣に生く女の気まぐれだったろうか。それとも。 ぽつ、ぽつ。水音は耳へ届く。
『ぉ、に……おね、が』
 たすけて  あげて。
 弱くて弱くてもらってばかりでなにもしてあげられなかった。たくさん殺されてもだめ、止めることなんてできやしない、なにひとつ守ってあげられない――無力。 絡む腕の力だけ、いままでのどの攻撃よりもずっと必死に力強く。
 た けてあげ て、たす て。ありが  とう。あ して る。
 既に炎にとろけたはずの幾つもが声を揃える。しずくを身に収めたとき伝わってきていた想いとまるで同じ願い――うらみのひとひらすらなく。そうと知れるからジャハルは飛び立つ。
「確かに受け取った」
 届かぬ彼方まで伝えるに似てその翼が起こす風が尚も炎を盛り立てた。
 ごうごう、溶け込んで髪を引く炎が手だとするなら夕凪はその小指を握り返したか。
「言い忘れていましたが、私にも妹がいるんです。貴女方のお兄さんの代わりにはならないでしょうけれど……」
 これで、おはなしは、おしまい。
 空を仰ぎ、天まで焦がさん高さの焔を映し。いずこか知れぬ還る先を祈るは心内でのみ、竜に続く夕凪。炎に沈むよう消えたあとのペチカ。
 しがみついていた水色の手ももうどこにもない。それでも耀子は手にした刀で斬り払ってから駆けだすのだ。一度きり、答えとして。
「黄泉路を渡るまで、連れて行ってあげるわ」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

君ヶ依・飛白
(あれが、かぞくなのか……?)
兄を護らんと立ちふさがる少女達に
肉体(飛白)が動揺して動きが鈍る
それに舌打ちしたい気分で叱咤する

馬鹿げた家族ごっこだ
そうして迷って、あれでまたどれだけ奪われる?
手前がヒーローに成りたいなら、そんな迷いは邪魔なだけだ

展開する70体の機械兵器
時にバリケードに【時間を稼ぐ】
車にクランケヴァッフェを接続、【メカニック】修理
かろうじて動く程度で問題ない
残る兵器を足場に道を作りアクセル全開
仲間を前方に運ぶべく(状況次第用途変更
操縦は魔法制御、脱出は機械兵器頼み

これだから、オレはヒーローなんて嫌なんだ
救いたいもんなんか、持つべきじゃない
(―それでもおれは、ヒーローになりたいよ)


穂結・神楽耶
【アドリブ・連携・負傷歓迎】

器物に宿った魂は、ひとと同じ天国に行けると思いますか?

たくさん、たくさん。大事な人がいたのです。
遠い昔に燃え尽きて、みんな灰になってしまいました。
けれどわたくし、モノなので。
きっと壊れたところで無に還るだけなのでしょう。
それでももし、皆様と同じ場所に行けるなら……

語りかけ、同情を惹き、負傷の身さえ利用して引き付けて。
【朱殷再燃】《だまし討ち》。
諸とも蒸発してしまえ。

悪意なく、敵意なく。
けれど既に人ならざる皆様へ。
差し伸べる手は炎に塗れ。
だから真実、すくえない。

─嗚呼、酷い無力。


セロ・アルコイリス
花世に声を掛けてもらったから、息をひとつ
いつもどおりの笑顔取り戻して
……まだなんか違います?

罪の無い『家族』を殺して、あんた達は『家族』を護るんですね
……違うか
護る力も無いことが、罪、なんでしたっけ
ならおれもあんたも、──同罪だ

研究の果て、ヒトのなり損ない、ママゴト上手
あんまり似てて笑えてきますよ(自分に)
家族、家族ね
居るわけねーんですよ、おれ達なんかに

容赦無し、ダガーで斬る
喚ばれた『お友達』は無視、泥人を減らす
負傷は気にしない
レーザーに飛び込むあんたなら判るでしょ?
護るためならいいんですよ、別に

……家族ね
なって欲しいなって、祈ったヒトなら、むかし、居ましたけど

※アドリブ、共闘歓迎


境・花世
世界はどうしたって理不尽で、
救えるものも掬えないものもあって
――だけど、わたしは、

やさしい化け物に対峙しながら
真っ直ぐに振り翳す死刑宣告

なんにもわるくなくたって、
今を生きているもの以外は
ここにいてはいけないんだよ

はらはら扇から零れ落ちる花びらで
彼女たちを残酷に切り裂いてゆく
けれどつめたい墓標の代わりに
柔らかな手向けの花を添えるように

伝う涙も呑み込む終りの海へ
みんなで行って待っておいで
――淋しくないよ、だいじょうぶ
きみのおにいちゃんもきっと
おんなじ場所に送ってあげる

どんなに哀れでも、ひとの方が醜くても
救うべき手を違えたりしない
この力は、此岸を護るためにある

※アドリブ絡み大歓迎



 金に夜明け。うつくしい彩の最中を切り裂き染め変え、燃え立つ炎は悔悟の濁り。
 間近に見開かれた青緑色をすりぬけて刀は。
「わたくしは、なにに見えますか」
 カチカチと。笑った。

 などと――モノが笑うわけがないだろう?
 振るうひとの身の震えが伝わっただけだ。当人ですら気付かぬのは前だけ見据えているから。焼け爛れた腕をも塗り潰す自前の業火がじりじりと深く身を食むために、神楽耶に痛みという枷は最早なく。
「たくさん、たくさん。大事な人がいたのです」
 交わった風でいて胡乱な瞳は泥人など映していない。
「遠い昔に燃え尽きて、みんな灰になってしまいました」
 霞を払うような、なんてことのない所作でからっぽの御魂を払う。
「ねぇ、」
 足元、纏わりつく溶けかけた手指の数多は肌色をして見えるのだ。
 掴み上げるに似て下段へと薙いだ軌跡は炎纏いて、血だまりに等しい海へより深く沈ませるのみ。
 次々。
 次々次々次つぎ――。
「器物に宿った魂は、ひとと同じ天国に行けると思いますか?」
 悪意なく、敵意なく。けれど既に人ならざる皆様へ、と微笑み差し伸べる、この殺戮が神楽耶の"手"であった。
『いっ、いやぁ!』
「同じ、同じですよ。わたくしも皆様と同じ場所に行きたいだけなのです」
 こないでと突き出された腕、触れる"手"がつなぐ風に、目一杯伸ばされた指の間から丁寧に裂いた。
 押し込む力が薄いからだを真二つに割り、切っ先でアスファルトを重く抉るまでが秒。
 蜘蛛の巣状に走った地の罅と、ほろほろ朽ちて崩れるヤドリガミの右腕。かろん、落ちる一振りに跳ねあがったのは黒々とした灰。静寂に、ほうと零れる息だけ生き物めいて漆の黒髪を揺らす。
 ほら。
「……教えてはくださらないくせに」

 真実、すくえない。
 ――嗚呼、酷い無力。

 他方。
(「あれが、かぞくなのか……?」)
 君ヶ依・飛白(エキノコックス・f09529)の目の前にも腕を広げて立ち塞がる泥人の姿があって。
 ……兄のため?
 力になりたい一心で、炎の渦を掻い潜ってきたちいさな体が次に踏み出す一歩を迷う。
 しかし彼女らはすべてに怯えた様子で体組織を飛ばし来る、
「っ!」
 から、飛白も絡め取られてしまう筈だった――その弱さを否と撥ねつける相棒がいなかったなら。
 "馬鹿げた家族ごっこだ"。
 真横に、少年の体を力強く跳ね飛ばさせて彼のヒーローマスクは叱咤する。
「そうして迷って、あれでまたどれだけ奪われる? 手前がヒーローに成りたいなら、そんな迷いは邪魔なだけだ」
 傾けた耳を削るほど近くなにかが過っていった。背後で車に穴でも開いたかの衝撃音! そうして一層、チリッ、と空間を焦がすは宿主へ息もつかさず飛白――もといマスク、君ヶ依が呼びつけ展開した無数の機械兵器の羽音。
(「でも、」)
 自分の口が吐き出した言葉に波立つ少年の思考は、目に見えぬ弾丸めいた襲撃と盾として打ち合わせられた小型機械が織りなす爆音に遮られる。
 ――!!
 間近で弾けた炎に圧されでんぐり返しに地面を滑る子ぎつねの体を、とんと押しとどめてくれたのは見知ったひとの手だった。
「やや、ふっかふかが台無しですよ」
「飛白も来ていたんだ。一緒に行こう、ほら立って」
 セロに花世。
 片手ずつを引かれ身を起こす飛白はちょっとバツが悪そうながら「たすかった」ぺこりと耳を垂らして。花世が扇を開く隣、なんのと笑うセロの面はすっかりいつも通りに朗らか。
 いつも通り。
 パチンと封を解き逆の手に抜き放つダガーには自らが映っていた。 駆ける。
 ちがわない。
 半狂乱の泥人が投げ遣るなにかの肉塊をまず断った。 踏み越える。
 これでいい。
「罪の無い"家族"を殺して、あんた達は"家族"を護るんですね」
 振り下ろす。
 ――迎え撃つ石礫に大きくその肩は抉れたというのに、太刀筋はお情けで逸れてもやらず急所を捉えていた。肉を捌くによく向いた、武骨な一振り。
『ヒ』
「……違うか。護る力も無いことが、罪、なんでしたっけ」
 喰らわれて泥人はからだを保っていられない。
 ピピッと煮えた熱さの水色飛沫が頬へ。ブルーのハート? それはなんだか"    "そうだ。
「ならおれもあんたも、――同罪だ」

 研究の果て、ヒトのなり損ない、ママゴト上手。
 あんまり似てて笑えてきますよ、とセロの喉は言葉通りにくつくつ音を鳴らしたものの、ひとりもいっしょに笑ってくれやしない。
 これは"たのしい"で合っているのに?
『おにい……イヤ、』
『だっ たすけて! みんな、みんな゛ぁ!』
 間髪入れずぐるりと男の周囲一周分、すうと通った刃に切り倒された水色がぱたぱた、つくりものに似合いの規則正しい輪を描いて後方へ頽れて。
 助けを呼ぶ。家族を呼ぶ。誰も来ない、当然だ。かぞくなんてどこにも、
「居るわけねーんですよ、おれ達なんかに」
 ふっ――、と。
 焼け焦げた世界へ薄紅の花弁が舞う。
(「世界はどうしたって理不尽で、救えるものも掬えないものもあって」)
 その来たる先では、嫋やかに春の淡さを溶かし込んだ扇が風に遊んでいた。
 花世。
 こんなにもうつくしく彩っておいて、敷いた桃色を踏みゆくのもまた自分の足に他ならない。
 だけれど目は背けずに、逃げ回る水色たちを包みこむよう残酷に花弁は切り裂いた。
「なんにもわるくなくたって、今を生きているもの以外はここにいてはいけないんだよ」
 ひたと顔を口を覆うから、彼女たちの間に悲鳴で恐怖が伝播することはなく。
 ただ冬に草木が自然と雪の下へ埋もれるほどの静けさで、ひとつ。またひとつと膝を折ってゆく。その残酷を、或いは慈悲。
 柔らかさだけがしんしんと。
「みんなで行って待っておいで――淋しくないよ、だいじょうぶ」
 きみのおにいちゃんもきっと、おんなじ場所に送ってあげる。
 ゆらぐ淡色の水面、降り積もる花弁は約束も涙もなにもかもを受け止めて静謐に。骸の海へと流れ着くまでの安息を祈る、花筏として贈られた。
 ひとひらを視界の端に。いや、巻き込んで一緒くたに引き寄せ。
 もぞりと蠢いていた最後の首へ、セロの手向けは鋼のとどめ。
「……家族ね」
 なって欲しいなって、祈ったヒトなら、むかし、居ましたけど。
 ともに落とした"過去"は炎に掻き消え、誰の胸にも残すことはない。ひとつ息をつけば何もかも元通りに、踵を返した人形を迎えるのはあたたかな家ではないとして。
「乗りな」
 キキッとタイヤ音も危うく、いつの間にやらメカニックたる飛白の手で"つかいきり"に組み上げられていた廃車だった。 助手席で薄紅に色付いたままの花世が手を振る。
「そこの彼ー、ってね! ひとっ飛びだ、しっかりつかまって」
「っはは……飛白、運転できんですか?」
 声に、なにやら己の頭をこんと叩いて見せる運転席の狐。舌噛むぞの忠告もそこそこに炎の海を覆うよう一筋、ざあざあ編隊を組んで宙に道を作り出す彼の機械兵器たち。

 ――ドオンッ!!

 アクセルを踏み込んだとき車体を押し出す力は、ほぼほぼ炎の噴射頼りに等しかった。
 眩い火の粉! ぐんと体を背もたれに押し付けられる重力!
 オブリビオンのレーザーが真下を通過、炎這う地とは異なり未だ明けぬ夜へと放り出されるような感覚にも、花世が座席へ添える手へ込めた力は決して怯えによるものではない。
 確かめる。芯まで知らせる。
 今にも溢れ満ちそうな決意の所在を。どんなに哀れでも、ひとの方が醜くても……辿った先、掴むものを違えはしない。
 己が力は、此岸を護るためにあるのだと。
 ぐら、と一瞬足された揺れは。
 いつしか追いついていた炎――神楽耶が残骸を段々に駆け上って、風巻くようにボンネットを足場とし先へ跳んだので。
 壊れたところで無へ還るだけに違いない。顧みぬ傷に罅がヤドリガミの、元々尋ねる気などなかった思想を儘滲ませるようだった。
 しかして赤が彩るからこそ笑みに翳りなく。
「お先に失礼いたします。露払いはしておきましたので」
「そいつはドーモです、ご武運を」
 笑って返したセロも同様。
 荒天の只中を飛ぶような。吹き荒ぶ礫にぼっこぼこ殴りつけられる度、誰のものだか分からぬ血が飛沫をあげては降りかかる。そもそも飛白のふわりとした毛並みだって赤と水色にべったりだ。絶望、痛み、叶わなかった約束……力無き己への自責。
 諸々の香に狐はすんと鼻を鳴らす。
「これだから、オレはヒーローなんて嫌なんだ。救いたいもんなんか、持つべきじゃない」
 ――それでもおれは、ヒーローになりたいよ。 ふたつの心を瞳に灯し。
 タイヤが踏みしめ軋ませる急ごしらえのレール、進む下方には幾人もの猟兵が窺えた。
 寄り集まってまるで同じ結末を望むようでいて皆々。

 それならもうと手をはなす。
 それでもなおと手をのばす。

 胸裡抱える想いこそ銘々。
 けれども足は何故だろう、此処にあれと重しのように譲らない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『『繰り返される絶望』シリウス』

POW   :    切断
【右腕の単分子ブレード 】が命中した対象を切断する。
SPD   :    衝撃
【右腕の単分子ブレードにより衝撃波 】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    光線
【右腕の単分子ブレード 】を向けた対象に、【レーザー】でダメージを与える。命中率が高い。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はクネウス・ウィギンシティです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 ぺた。
 はじめは驚いたとも。妹だって紹介されたのに、その肌が水色をしていたし。

 ぺた。
 部屋が埋もれてしまうくらいたくさんいるんだ。

 ぺた。
 こっちは目の前で家族を失ったばかりだったっていうのに。

 ぺた。
 突き放したって纏わりついて。あれもこれもと知りたがるから毎日毎日うるさくて。

 ぺた。
 いつからだろう。
 ……おにいちゃんって呼んでくれる声、うれしくなったの。

『みん、  ナ』
 どこへ。
 どこに。 ひどくあたまがいたい。
 はだしの青年は焼けるアスファルトに足裏を焦がしながら歩いていた。
 周囲の惨状にこころが痛む。一体誰が。自分の力はなんのための力なのだろう。
 死にかけの身を助けてもらって、やっとここまで。次こそ誰かの命を守れるのならとつらい勉強も乗り越えたのに。 だれがこんな。
 思いに耽るうち、ふと、歩む先に見慣れた色のひとを見つける。
『アァ、しんパい……』
 したんだよ。
 声を掛けた瞬間ぷつんと千切れ飛んでしまったけれど。
 同時、そこで暴虐を働く"猟兵という敵"を瞳が捉えたとき、青年の朧気だった表情はまっさらに消し飛んで。
『ァ』
 イェーガー……イェーガー? イェーガー。イェーガー!
 イェーガー!!!
 まもりたいならころさなきゃ。

 直線。予備動作ゼロ。
 対猟兵駆逐兵器・シリウスが放つ光線は視覚情報から消去されていた妹分の残滓を次々に呑み込みながら、つくりだされた炎の壁を割って、怨敵へと迸る。
荒・烏鵠
@WIZ
《視力》《聞き耳》《逃げ足》駆使してウェルカムレーザー回避!

よォお兄ちゃん。随分とノロいお出迎えで!アンタが来るのが遅かったせいで妹サンたち、みーンな死んじまったぜ!
理不尽だな?腹立たしいな?イイコト教えてしんぜよう!
――世界は基本、理不尽だ。

アーララ、怒らせちまったかァ?
ケッケッケ!

多分コレで向こうはオレばッか狙うだろ。《逃げ足》駆使したり、ユベコ使ってばらまいた神符と位置交換したりしながら逃げ回るから、その隙に他のガチ攻撃できる猟兵サン、ガンバ!
いざとなったら撃ってきたビーム反転させッか、当たる前にオレと敵サンの位置交換すッかして敵サンに自滅してもらわァ。
前線向いてねーのよ、オレ。


須藤・莉亜
飛んでくるレーザーは【見切り】と【第六感】で回避。避けきれないようなら、悪魔の見えざる手で【武器受け】。
「いきなりぶっ放してくるとはねぇ。…ちっと髪が焦げちゃったじゃん。」
今度はこっちから行かせてもらうよ。

懐から腐蝕竜さんの血が入った瓶を取り出して、それを一気に煽って竜血摂取のUCを発動。スピードと反応速度を上げて戦う。

一気に敵さんに接近して懐に潜り込み、大鎌でぶった斬っていく。それに合わせて悪魔の見えざる手で敵さんの首狙いで攻撃。
深紅で拘束してからの【吸血】ももちろん狙っとく。

防御は悪魔の見えざる手で【武器受け】、【見切り】で回避。UCの効果ですぐに体は再生するけど、なるべく避けとこう。


エンジ・カラカ
あーあー、愉快だ愉快だ。
お前が親玉カ。ヒトの形はしているケド、ヒトじゃあない。

賢い君、賢い君、アイツをヤるか?
妹、コレの記憶には無いモノばかりだ。本当はあるかもしれないケド今はどーでもイイ
鼻も目も耳もなーんにも役に立たない。帰りたい。
アァ……妹を食って元気でもでるのカ?おかしいネェ…。

賢い君はコレを食って元気になるもんなァ。
行こう行こう、おわりは目前。
始まりも目前ダ。

薬指の傷を噛み切り賢い君に注ぎ込む。
トドメは他人任せ、そうだいつものように抑えに回ろう
いつもより少しだけ足が重い気がするなァ…
耳も目もやられてるとこうも動きづらいのカ
どこかの誰かサン、合図をやるからヤってくれ


月守・咲凛
死体?とは言え平気で巻き込むのですね……。あの泥人の方がまだ情があったのです。
攻撃を見切って躱しながら、ユニットスコールから通常モードに戻ってビームチェーンソーで斬撃です。
味方の攻撃に合わせて後ろに飛びながら腰のビーム砲で援護射撃して避けにくくしてやりましょう。
まだ、あなたの攻撃で死にそうになっている、助けられる人が残されているかも知れないのです!
咲凛にとっては、彼はただ敵であってそれ以上でもそれ以下でもありません。いま消えそうな命を救う事の方がよほど大事です。ただ、無力だとは思いませんけど。



「――来ます!」
「熱烈歓迎アリガトーてなァ!」
 先を飛ぶ咲凛がスラスターの出力を上げて垂直方向へ跳ぶように加速したなら、烏鵠は待ってましたとでも言いたげに口角を上げ、横跳びに体を転がして真っ白に焦がし通る光から身を躱す。
 ついた片手と片膝をバネにたんと地を蹴って、一層の踏み込みで駆けだすまでが獣の反応速度。同じ獰猛を宿した双眸には、呆然と立ち尽くしてこちらを見る男の姿を捉えていた。
 即座に散開した猟兵はそれぞれに得物を構える。
「うわまぶし」
 やや後方では莉亜が呼びつけた悪魔の見えざる手、こと不可視の巨腕が光線を殴りつけた。滑り込ませたといっていいか。ジジッ、ジ、と拮抗する音を発しながら互いに霧散したところで、潜り抜けたダンピールは寝ぐせが大変自由な髪をはたはた揺らした。
 焦げたにおい。懐を漁る。
「いきなりぶっ放してくるとはねぇ。……ちっと髪が焦げちゃったじゃん」
 今度はこっちから行かせてもらうよ。そうして引っ張り出した小瓶の上部を飛び来る石礫で雑に割り、一息に煽って。……禍々しい赤紫をしたこの液体は?
『アアアァァ!!』
「アァ……妹を食って元気でもでるのカ? おかしいネェ……」
 ヒトの形をしているけれどヒトじゃあない親玉。
 牙を立ててエンジが噛み切った薬指もまた赤々とした色を零す。光の中、巻き上げられた水色を見分けていた人狼の声は"愉快"と言いたげに浮ついた。
 それに、妹。
(「コレの記憶には無いモノばかりだ。本当はあるかもしれないケド」)
 今はどーでもイイ――おわりもはじまりも目前に。

 凛と咲く花の紫をも湛えた白銀が、流れ星となって降った。
『ッ!』
「死体とは言え平気で巻き込むのですね。あの泥人の方がまだ情があったのです」
 刃の形状を持つ光同士が弾き合う――或いは惹き合うキィィィと高い音が散る。片や受けるシリウスの右腕、片や直上から装備分の重みを乗せて咲凛が振り下ろしたムラサメ、身の丈を超えるビームチェーンソー。
『ゥ――アァ!!』
 いなしきれずに肩を抉られるシリウスが火花を零し、大振りに少女を押し返せば。
「っく」
 振り飛ばされた咲凛はユニットから噴き付ける粒子にて地面スレスレで体を跳ね上げ、アイススケートの銀盤へスピンの輪を刻むようにくるんくるんとアスファルトを削りながら姿勢を制御。降下に際して解除していたユニットがファンネルじみて彼女に続き舞い落ち、傍らへ付き従った。
 そこへと追い縋る追撃を防いだ……結果的に防ぐことになったのは流る似た具合な色の長髪と、呪われし血飲みの大鎌であって。
「やぁ」
 ユーベルコード、竜血摂取。
 腐蝕竜の血を飲んだ莉亜の身体能力は飛躍的に高まっていた。機械によって高機動を果たす二者の間合いに出遅れることなく飛び込んだ、白く空間ごと抉り取る一閃。
 二撃目を取りやめ腕を引くシリウスであったが間に合わず、胴が端から削り取られる。ジッと火花が増して血かオイルか分からぬ液体が飛沫を上げたなら、ぺろり舌なめずりをする莉亜はまさしくダンピールの顔つきであったとも。
「おや、人間と変わんないね?」
 とはいえ経口摂取の必要はない。鎌と共有する味覚は味の程を伝えてくれて、そこにさっきの子のは――と所感を付け加えかけたなら、防御よりも光線が飛んだ。
 纏う巨腕と、引き抜いてぐるんと回す鎌で弾き散らした莉亜の髪が追加で数本焦げる。ついでに肉も削ぎ落としたから、左手を抉れた腹に添えるシリウスの顔色はよろしくない。 ――それはもともとだったか?
『ミンな、を、ドコへやッタ……!!』
 今しがた己が目で見たはずの結末を問いただそうとする姿ですら、こんなになっても人間らしくある。
 とっ、と、増えた足元は烏鵠。
「よォお兄ちゃん。随分とノロいお出迎えで! アンタが来るのが遅かったせいで妹サンたち、みーンな死んじまったぜ!」
『……?』
「理不尽だな? 腹立たしいな? イイコト教えてしんぜよう!」

 ――世界は基本、理不尽だ。

 こう言い放ってやった次に人間が取ってくる行動?
 もちろん悲嘆憎悪憤怒絶望ウソだと願うわずかな希望――全部全部ひっくるめた、暴力。分かっているからこそ、備えは十全。ドウゾ狙ってくださいナ。
 莉亜の跳躍に、いちまいの符と変わる烏鵠の輪郭、あたり一辺を引き裂いた光溢れさせる衝撃波はコンマ秒ずつもズレていなかっただろう。
 ぽんっ!
 離れた位置からまやかしめいて飛び出した妖狐は二本の指を頭の上にかざして「よ!」。十三術式、猿回シ。レーザー回避の最中、そこらにばら撒いてきた神符との位置交換を可能とする術だった。
『…………』
「アーララ、怒らせちまったかァ?」
 ケッケッケ! 笑い声も場にそぐわぬほど賑やかしく、だがシリウスにはその一点、三日月みたく金に光るまなこを声無く見つめている暇はない。 なかったのだが。
「おにーちゃんならコレが代わっておいた。アァ、となるとお前もコレのおにーちゃん?」
「大家族だ、なかよくしよう」
 "ごはん"を終えたばかりの賢い君と血飲み子は実に元気。
 いつしか張り巡らされていた鱗片煌めく赤い糸。四肢に絡むそれがピンと張って動きを抑制されている状況に気付くとともに、逆側の胴へと穿たれる鎌と首とを捉う透明の太指。
『カッ、――』
 直に血だって吸えそうな間近、莉亜の頭には二本角。牙を覗かせたなら、人体の仕組みを組み替えて捻じ曲がった機人の右腕がくるしい首を厭うて上方へ光を撃ち出すものだから、次は金色が数本はらはら。ヒョイと軽く引いた身を莉亜は竦めてみせるけれど。
「凶暴だなぁ」
 どっちが! 十分に沈ませた鎌を引っ捌く男。ぐるぐると、ふしぎなつくりをした生物への糸遊びを楽しむ男。エンジにとってこの狩りの手法は慣れたものだったが、今日はなんだか足が重い気もする。
「"ニオウ"もんなァ……"ウルサイ"し、大家族は違うなァ」
 シリウスの足元に中空。
 エンジが見ているのはそうしたなにもないはずの空間。目も染みてきたなどと眇めるが、これは獲物を目の前にしたときの捕食者の眼差しに他ならない。
『ッ゛ううウ! どけェ!』
「退きませんし、引きません……! まだ、あなたの攻撃で死にそうになっている、助けられる人が残されているかも知れないのです!」
 一度に糸を断ち切らんと空を滑るブレード、その軸をブレさせたのはエンジらの後方から撃ち出された咲凛のビームだ。
 少女の瞳と同じように、砲口に集う光が煌めく。
 咲凛にとって眼前、害悪振り撒く男はただの、敵。
 それ以上でもそれ以下でもない。いま手の届くどこかで消えそうな命を救うことの方がよほど大事だから――譲りはしない!
 高速かつ連続で撃ち出される光線は糸が断ててもシリウスの肉体をその場へ押しとどめ、ともすれば押し込みもして大きな隙をつくりだして。
「ピカピカ、チカチカ。分けてもらおう、なァ、賢い君」
 欲しいほしい。賛同する風に、辰砂から放出された鮮やかな鱗の群れは、ふらついた半機械人間の足元をたちまちすくい上げ転がさせる。
 ぐっ、と、肘でぬかるむ地を叩いてシリウスは低く唸り声を上げた。それとも機械の駆動音だったろうか? 狼男は喉を鳴らし。
「うれしくないカ? みィんな一緒、ほらソコにもココにも」
『……ア、ァ?』
 人差し指でゆー……っくりと、赤青マーブルになっている地面を辿った。シリウスの瞳がほぼ無意識にそれをなぞる。
 エンジの合図、目配せはそんな遊びの中に潜められたごく微かなものでありながら、烏鵠と彼の契約相手は意を汲んで。
「なァ、もう生きてたくもなくなったろ?」
 "みとめてしまった"のだろうか?
 青年の右腕から膨れ上がる光は意識して猟兵個人を狙ったにしては随分と、大味な。
 暴れ狂う絶望の奔流。
 白む視界に次は逃げも隠れもせずに烏鵠の囁きはちいさく落ちた。その肩、宮司――コビトガラゴの姿を取った霊が袖を振る。笏を振る。
 途端に光の軌道が"裏返る"。立ち並ぶ猟兵たちの衣を、髪を撫ぜ揺らすだけで熱線はぐるんとまっすぐ使い手の元へ突き進み、
『――――!!!』
 ――ただ、無力だとは思いませんけど。
 ひとつの手向けであったかもしれぬ咲凛の言葉をも何もかも、すべての音をかき消して炸裂した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヨハン・グレイン
オルハさん/f00497 と

舌打ちひとつ。
敵にくれてやる感傷はそれだけで終いだ。

もう人に戻ることはないのでしょう。
それならやる事は一つだ。
命を絶ち切り眠らせる。出来るだけ早い方がいい。

道は開きます。
振り返ることなく、駆けてください。

彼女の身の防御のみに注力する。
行く手を遮る泥人がいれば首を落とす
蠢く混沌でシリウスを視、
彼女への攻撃の予兆があれば防ぐことを第一に
こちらの身の守りは最低限で構わない

妹どもと、
それから……家族と。
同じ場所にいくといい。

俺達に出来ることはした
それだけで十分なのだと
彼女に言葉を掛けるなら、それだけ


オルハ・オランシュ
ヨハン(f05367)と

さっきの子達も、この人だってそう
家族を守りたいって気持ちに突き動かされてるんだよね
……可哀想

うん、もうきっと戻れない
さっきの子達だけじゃなくて本物の家族も待ってるんだし、
眠らせてあげよう
力を合わせて、ね

私への攻撃が尽く無効化されてるのがわかる
この怪我で心配掛けちゃったんだろうな……
でも、護りたいのは私だって同じ!
シリウスが誰を狙っているのかよく見て、
対象がヨハンだったらシリウスの腕を裂いて阻害するよ

切り開いてくれた道を駆けて【早業】で【2回攻撃】を放つ
見切らせないよ
早く片を付けなきゃ
この人のためにできるのはそれだけだもの

……庇ってくれた子の姿を思い出す
恩返し、できたかな


コノハ・ライゼ
幽ちゃん(f04449)と

ねぇ、一番の罪ってナンだろね
隣の同類に問うた所で
何ひとつ軽くなりはしないか、と地を蹴って

「柘榴」の刃を肌に滑らせ【紅牙】展開し接敵
反撃は『オーラ防御』と『激痛耐性』で凌ぎ敵へと喰らい付く
刻んだ傷を何度も抉り、その度に生命を啜って受けた傷を補修

糸繰る人の声に
お裾分けシマショウか?なんて笑い

反撃に『カウンター』での『捨て身の一撃』
代償に体が少し位持ってかれたって安いモノ
その身を離さぬよう牙で抑え込み、砕く勢いで

あの子達はアンタと一緒がいいンだってさ
アンタは、誰と一緒がイイの
守るのにそんな顔で楽しい?

ま、約束しちゃったし
跡形なく、喰われて
したらもう殺さなくても、いいンだから


絢辻・幽子
コノちゃん(f03130)と

あなたの、本当の家族は
今あなたが無関係の人を無差別に殺める姿を
悲しむと思うけど。……なぁんて

でも、そうね
まもりたいなら、ころしてみなさいな。

糸と絡繰りのヒトノコで拘束を試みましょうか
攻撃をくらうようなら「激痛耐性」で耐えましょう
……痛いの嫌いなのよねぇ
でも、無差別攻撃が収まれば少しは楽よね
コノちゃんのその、がぶがぶするのって楽しそ
おいしい?
ちょっとした好奇心。
凄いわねぇ…怪我したら申し訳程度には治すわよ、終わったらね。

優しいあなたは、本当の家族の所に還るべきと、思うわ。

(のらりくらりとした人を喰ったような女狐)



 まばゆく齎された、それが青年の二度目の死。

→reboot.

 体中から光を零しながら、音もなく身を起こすシリウス。
 そのどうあっても只人と遠のいた有様に、舌打ちをしたのはヨハンであって。
「……家族を、守りたいって気持ちに突き動かされてるんだよね」
「もう人に戻ることはないのでしょう。それならやる事は一つだ」
 散った泥人を眼前にしたときと同じ――隣り合うオルハの呟きにかわいそうと痛む心を掬い上げたなら、ヨハンは背を押す言葉をひとつ。"前"は彼女の場所なのだから。
「道は開きます。振り返ることなく、駆けてください」
 うん、と広がる未だやわらかな少女の翼に風を。
「さっきの子達だけじゃなくて本物の家族も待ってるんだし、眠らせてあげよう。力を合わせて、ね」
 闇を孕んでいたとしても、なにより強い追い風として。

 ――ねぇ、一番の罪ってナンだろね。
 問は結局胸の内。
 足蹴にして駆けだす風にも。コノハの手の甲に繁吹いた血は己で線引いたもの、柘榴めいたナイフの色艶を更にと増させ。キーとして貌を変じさせる先の形状はまさに、牙。
 迫る殺意に迎撃のレーザーが放たれる。
 も、コノハのすぐ脇を滑るように追い抜いた赤糸が直前にてシリウスの右腕を引いていた。
「あなたの、本当の家族は。今、あなたが無関係の人を無差別に殺める姿を悲しむと思うけど」
 舵は戯れに、なぁんて、と暈す幽子の手に。
 女狐は、逸らしたことで自身の顔の真横を通り抜けることとなった光にも動じずのでも、そうね、
「まもりたいなら、ころしてみなさいな」
 ふぅわりと――続けた。

『イェーガー』
 シリウスの首が向く。オルハへ。コノハへ。
 束の間視線だけ交え前衛を担う二人は攻撃の狙いを二分させるべく左右へ飛び退き、スピードこそは緩めない。なにせ、
「触れられると思うなよ」
「ごーごーコノちゃん、ふふふ」
 頼もしい後衛がいるもので。
 熱線を掻い潜り、相殺し、中距離まで詰めたとき機械の腕が前へではなく横へ構えられる。斬り払いからの衝撃波、範囲攻撃の予兆とみたヨハンは双眸に力を込め。
 蠢く混沌――炎が縁取るシリウスの影がより一層濃くなったかと思えば次の瞬間、横へと薙ぐブレードと食い合わせる形でぼこぼこと黒闇が噴き立った。
『グ、』
「そのまま――沈め」
 ぐん! 重力が何倍にもなったみたく下へと絡め取られる右腕。隙など一瞬あればいい。ここは既にオルハの間合いだ。
「もらった」
 まずは一撃、
『ナッ……!?』
 これで二撃!
 若くして熟達した二段突きは、サイボーグの反応速度でも完璧に捉えられはせず。胴にまた穴が増え、ぐっと地面を蹴り上げシリウスが身を捻ろうとした片足、それがなぜだか動かない。
 見下ろせば、目玉を失った水色の――……否。
 もとより目玉など持たぬ球体関節人形の素体。
「ご家族だとでも思って、遊んであげてはいかが?」
 ころりと幽子が微笑んで。
 しかし硬直した男の回避は二重の意味で失敗と終わり、新たに噴き出した赤黒い液体がばしゃばしゃ人形を似つかぬ色へ染め替えてからやっと、目を見開いて蹴り飛ばした。
『…………は、ハ』
「優しいあなたは、本当の家族の所に還るべきと、思うわ」
 続く言の葉は穏やかに。
 やさしさ。 たしかにそれは――ときに弱さともなる。
 侵入を許せば死はすぐ傍らへ。
 なめらかな表面をした極薄の黒刃を赤々とした牙の身がなぞる。互いの力がそうして削り合ったのはほんの瞬きの間、更に前へと踏み込んだ揮い手、コノハが均衡を崩す。
 ギギッ、 無理に抜けさせた柘榴はシリウスの腹の真中に喰らいついていた。遅れて彼の刃はコノハの脇腹を。得物の長さの都合上、調子よく横へと引かれたら真っ二つ――分かっておきながら。
「あの子達はアンタと一緒がいいンだってさ。アンタは、誰と一緒がイイの」
 守るのにそんな顔で楽しい?
 ……笑みさせ浮かべてみせるのだから、この男は。

『ッッッヒトゴロシがッ、かたルなァ!』

 灯る怨嗟にふっと一息、とはいえ無策の死にたがりとは別。敢えて捻じ込む手元、目一杯にぶつける肩で押し出すようにしてコノハが僅かに稼いだ距離を、即座に潜り込んだ幽子の赤糸が巻き取ってゆく。
 進めんとするシリウスの膂力と、戻さんとする幽子の咎力封じとの勝負。
「んーん、ムキムキには……別になりたくないのですけど、ねぇっ」
「任せて、つなげる!」
 指先に全神経を注ぎ、拮抗してみせる女狐の助け舟となったのはオルハと愛槍だ。
 そしてこの状況は少女にとっての助け船でもあった。眼前の"敵"に手一杯なシリウスへどっ、と、からだ全てで体当たるウェイカトリアイナの一押し。コノハの長躯も遮蔽の役割を果たしていたろう。
『、がぁハッ』
 吹き飛ばされる最中、獣の腹から引き抜かれた赤く濡れる刃に光が纏わったならば、即断。
「芸が無いと言っている」
 影より膨れ上がる暗色の闇が輝きを呑んだ。
 常にみている。 言葉以上に戦いぶりが表すヨハンの胸裡、敵対者にとっては動き辛いものであり、味方――特にオルハにとってはそれと真逆。
(「こんなに守ってくれて……、怪我で心配掛けちゃったんだろうな……」)
 でも!
 目指すところは同じだと、素早く引き戻した次の一手は後衛へとブレた照準を狂わすように機械の腕――"彼"の、何もかもを取り零した腕――へと薙がれて。
「私は、護るよ」
「ま、約束しちゃったし。跡形なく、喰われて」
 ぼたぼたと胴の三分の一ほどから流れ出るもので血だまりを深めながらも、むしろその傷口をも己が刃で辿ってコノハの紅牙。
 したらもう殺さなくても、いいンだから。
 掠れ吐いた音は労いか溜め息めいて……いずれにせよ引き走らせた咬み傷は食い散らかすに近いものであった。そうして食事した分は失ったコノハの血肉、糧となる弱肉強食の縮図。
 ぱっくり右腕の装甲から左胸にかけてを"開かれた"シリウスがはじめて自ずから後退って、顔へありあり狼狽の色を浮かべた。
『ク、そ……』
「妹どもと、それから……家族と。同じ場所にいくといい」
 積み重なる傷に刃毀れを起こしながらも力一杯に持ち上がりかけたブレード。影より縫い付け、はたんと地へ向かせ光線を撃たせるヨハンの目に狂いはない。冷静に戦況を分析しているからこそ、シリウスの。屠るべきUDCの消耗の大きさが知れる。
 光が収束するまで、微かばかりの静寂。

「終わったら縫い縫いしましょうね。ところでコノちゃん、あのがぶがぶするのっておいしい?」
「いや麻酔ナシはチョット……、ああ、お裾分けシマショウか?」
 自力で幾分傷を癒えさせたコノハの力へと、興味示す幽子も同族の笑う声もまだいけるの証。
 オルハの胸に去来するものはといえば、兄のすばらしさを語りながら自分を庇って散った、あの。
「恩返し、できてるかな」
 常ならば押し黙っておくような、ほんのひとりごとだったかもしれない。
 けれど。このまま俺達に出来ることをするだけだと、十分だと届く、ヨハンの飾らぬ答えが耳に心に凪をくれる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

狭筵・桜人
うわ、危な。ひょっとして怒らせちゃいました?
ま、やることは変わりませんね。
特攻?白兵戦?そういうのはおっかない人達に任せます。

エレクトロレギオンを再展開。砲撃と防衛に二分。
特に衝撃波の予兆があれば敵に近い味方を
【かばう】使い捨ての壁に数を回しますね。

万が一、泥人の生き残りがいたら【零距離射撃】で処理。
一撃で壊さないように注意しておにいちゃんの気を惹きましょうか。
そのまま【敵を盾にする】ので。その隙にお願いしますねえ。
怪我はまあ、生きてればノーカンです。

無力だから守れない?守れなかったから無力?
その辺の順序はわかりません。
私は捨てられるものしか持ち歩かない主義なので。
何故って?弱いからですよ。


穂結・神楽耶
炎の壁に複製の太刀を重ね、簡易の盾として防御。
おそらくこれだけでは間に合わないので、壊れる前に射線から飛び退きましょう。

以後も一定の距離を保ちながら複製の太刀を『援護射撃』と飛ばし、不意打つための目眩ましとし、盾や刃と成します。
この腕では、本体とはいえ握ることも儘ならないですからね。

ええ、その通り。
敵は大事なものを容赦なく奪っていく。
だから守るためには排除しなければならない。
何にも間違っていません。

それができなかったモノから言うことがあるとすれば。
力無きあなた(わたくし)が全部悪い。
守りたいすべてを守れない、そんな自分が何より悪い。

まるで歪な鏡を見ているよう。
嗚呼…本当に、なんて世界。


矢来・夕立
黒江さん/f04949へ
数を数えてる間は人殺しとして下の下です。

【紙技・彩宝】。銀紙で鏡の盾を複数枚。光線はコレで空へ散らします。

どれくらい身体が残ってるんでしょうか。妹さん。
式紙で寄せ集めて《敵を盾にする》くらいはできます?
見知ったひとの無惨な姿って、結構な隙を作り出せる。
その手の隙は一瞬でも十分です。《だまし討ち》《暗殺》。

あっちが何をしてくるかわからないので…部位破壊に徹する方向で動きます。まず右腕かな。
泥の盾が通じなくて、真正面からやりあって死にかけても、あとで治してもらうアテはあります。

トドメはほら、刺したがってる方がいるので。状況が味方すればの話ですが。
―救ってあげたらどうですか?


黒江・イサカ
ねえ、夕立/f14904。何人殺してきたの?
…君がそう答えるだろうってことはわかってたけど
じゃああれ、僕のね

妹さんがた、君のこと心配してたよ
僕にもお兄ちゃんがいたからさ、その気持ちはわかる
だから彼女たちのお手伝いを買って出たわけだ

つまり、ちょっとしたきょうだい喧嘩だね

レーザーとか衝撃波が脅威になるほど距離は取らない
生き物には越えれば死ぬラインってのがあるんだ
それを一歩、彼に踏み越えさせればいい
僕の目はそれを見るのが得意でね
糸、みたいなね ロマンチックでしょ
【誘惑】【見切り】【早業】
君、向いてないよ こんなこと

さあおいで、おにいちゃん
守りたいなら今度こそ自分の脚で、妹のところまでいかなくちゃ



 するどく齎された、それが青年の三度目の死。

→r@b-0t.

 ぺた。

 足音が。
「ねえ、夕立。何人殺してきたの?」
「数を数えてる間は人殺しとして下の下です」
 そして風切り音に次ぐ光が。
「じゃああれ、僕のね」
「――うわ、危な」
 奔れば、舞い込むように姿をみせたヤドリガミが呼ぶ刃の群れが、連なる機械仕掛けの戦闘員が、一度にそこら中を賑わす。
 神楽耶と桜人の武装が盾としての機能を果たして消し飛ぶのは一瞬、しかし飛び込むにも飛び退くにも有用な暇として誰もに働いた。
「ひょっとして怒らせちゃいました? カルシウム足りてます?」
 イサカへ何かしら答えた夕立の声を塗り潰してこわごわとしてみせた桜人は、とはいえポケット突っ込んだ手が取り出すのはカルシウムバーなどではなく、次の指示。
 灼かれた分のエレクトロレギオンを手慣れた様子で再展開、半数で割って砲撃と防衛へと担当を二分させていた。ふよふよと、少年だけでなく近場の猟兵の周囲に漂い射線を遮る機械兵器。
『イェー……ガ……』
「いやいや私それ本業じゃないので」
 もっとしっくりくる方々がいるじゃないですか――と。
 雑談混じり射撃は、戦いの余波で脆くなったアスファルトを崩しながら逃げ場を埋めるようにシリウスまで。
 いる?
 みたいな顔で視線を巡らせたのは誰だったろう。少なくとも、神楽耶には己の力への強い自負……とは決して称せぬ自責があった。だが。故に。「ここに」と短く示し。
「敵は大事なものを容赦なく奪っていく。だから守るためには排除しなければならない。何にも間違っていません」
 ただ"彼"の敵として。両手を束ねてやっと持ち上がる切っ先を向けて。
 撃ち出す、神を象ったはずの抜き身の刃もが些か――長きにわたり度し難い熱に曝され、脆くなっていたとて。

 大部分人間の姿かたちを保っていたって、絶え間なく降り注ぐ攻撃に容赦の二文字はない。シリウスが振り絞る光線も衝撃波ももっぱらそれらとの相殺に駆り出されていて、さらには。
「ちょうど暇だったので助かります」
 "抜けた"としても三つ目の壁。
 花も朧に銀雲浮かべた真四角、が形どった、鏡。紙技・彩宝を以て夕立の翳す鏡の盾が数枚、光線に対して抜群の防御力を持っていた。
 映し込んだ光を空へと逸らして散らす。
 焼き切れ解れる度に同じものを懐から抜き取る様はマジシャンかなにかのようで。
『うン、うん、ジャマ……だナ』
 ほつり。 傷を増やしながらも身を前へ傾け、一息に踏み込む素振りをみせるシリウス。
 ところが止まぬ力の応酬を器用にもぐるりと回り込み、ときに掻い潜ったイサカが一拍早くその懐へ。
「妹さんがた、君のこと心配してたよ」
 僕にもお兄ちゃんがいたからさ、気持ちはわかる。だから彼女たちのお手伝いを買って出たわけだ。
 と。
 刃を持った方と逆側でとんと冷えた肌へ手をつく。
「つまり、ちょっとしたきょうだい喧嘩だね」
 定めた一点をどぷりと抉り裂けば。
『ギッ、ぃ』
 先の猟兵の攻撃で開かれていたシリウスの胸元、肉と骨の下、より深くが露わとなる。
 ちょうど人間の心臓の位置には、コードに繋がれて青々と煌めくコアがあった。被検体の瞳のように!
即座に膝蹴りが繰り出されたなら添えていた片手を滑らせててのひらで受け止め、イサカは弾みでバックステップ。
 入れ替わりに空いた直線を翔けてしとど叩き込まれるのが、朱に濡れし結ノ太刀。の、複製。
 本体こそ振れねど、守勢に回らぬのならこのまま穴だらけにしてしまわんとす怨念じみた圧で。
「苦しいですか。けれど、力無きあなたが全部悪い」
 ――わたくしが。
「守りたいすべてを守れない、そんな自分が何より悪い」
 ――果たせないこの身こそが。
 疎ましいと――――モノが言の葉を刻むなら、刃にて。
 いつしか守りをかなぐり捨てている神楽耶の攻勢。
 "友人"という枠組みに収められた夕立がすべきことはなんだろう?
 どうということはなく、であるからこそ、粛々と。あっちの塊、そっちの塊……ものづくりに使えそうなパーツの選別と。 再構築。
「大体でどうぞ。もともとそんな具合でしたし」
 いつの間に零れ落ちていたのか、夕立の周りをテコテコと歩く白いヒトガタ。亡霊のようでもあるがただの式、気儘に吹き飛ばされつつ彼らが寄せ集めていたものは泥人の水色をした塊だった。
「おやぁ? 気が合いますねえ、探してたんですよそれ」
「同業でしたっけ」
「まさか! しがないアルバイターです」
 笑う桜人がとんと肩を蹴れば、誰よりも敵のそば、崩れ落ちながらシリウスの前へと突き出される泥人もどき。
 見知ったひとの無惨な姿は、結構な隙を作り出せる――はたして彼らの目論見は当たり。
 こうして放課後の教室で歓談中のようでいて間近にまで迫っていたブレードの振り下ろしを、一呼吸ほどの間は止めさせた。
『ぁ……? な、』

「ホンモノでしたよ、数分前まで」
 ズッ……と。
 泥の塊へと先に刃を沈ませたのは、夕立だっただろうか。それともシリウスだっただろうか。
 突き抜けた向こうで金属の砕ける響きと手応え。こちら側では、――さて、元々赤く黒く染め上がっていたものでどれが自分の傷なのやら。
『ッ!!』
 半壊したシリウスの右腕が急激に振動を増してかまいたちを纏いはじめる。だが、泥壁の恩恵を受けたものはひとりにあらず。
「アッハハ、そんなに上手にできてました? でも残念だ。おにいちゃんは自分可愛さに殺してしまった、か」
 ショックに自刃するならお手伝いと言わんばかり、横から吹き付ける台風じみて襲い掛かった防衛レギオン群はひととき爆弾へ。
 衝突時の烈しさで自壊するレベルにて、夕立から引き剥がしながらシリウスの横っ面をぶん殴っていった。
「無力だから守れない? 守れなかったから無力? その辺の順序はわかりません」
 衝撃でもげた諸々の塊を浴びながら、桜人は見下げる。
「私は捨てられるものしか持ち歩かない主義なので」
 何故って? 弱いからですよ。

「――救ってあげたらどうですか?」
 夕立が声で繋いだ先の人物はすぐ真隣を踏み切ったあとだ。
「君、向いてないよ こんなこと」
 イサカの手で。 倒れ伏す直前、シリウスのボロボロな肉体は抱き留められ。
 ずっと前から決まっていたことのように、なんの違和感もなく、ナイフは哀れな青年の左胸そばへ吸い込まれた。
『カ、a』
「さあおいで、おにいちゃん」
 守りたいなら今度こそ自分の脚で、妹のところまでいかなくちゃ。
 たった二人きりにだけ声の伝わるほどの間近。埋まって見えない、見る必要のない手元ではパキンペキン、届かぬ瓶の中の硝子玉をやっと砕くことが出来たときような清涼な調べ。
『a――あアァぁaァァaaaa』
「ふ」
 とれかけの右腕は戦慄くも上がらない……おしまいに、バチバチと火花がイサカを焦がす。
 これだとまだ"死なない"。
 平然と微笑み湛えて。絡んだ瞳の青が苦しみなく抜け落ちてゆくのを、とてもうつくしいものを愛でるように、イサカは見つめていた。
 間もなくして大きく爆炎が噴き出す瞬間。
 背をぐいと後方へ引く不意の力はだからこそ抗えぬものであり、いや、どこかで分かっていたろうか。こうしてまた死線が遠のくこと。
「夕立ー?」
 返事はない。代わりにイサカの背中から紙製の蝙蝠が数匹ばたばた飛び立つ、主の元へ。
「ねえ?」
「…………。高得点ボーナスでしょうか。もう何回か殺せそうでよかったですね、あれ」
 式神と自分は別の生き物ですみたいな顔しちゃって、刀が帯びた血を振る彼の。

 言う通り!
 自らの胸元から噴き出した炎に焼け爛れながら、絶えず低く高く演算の音を零して、なりそこないは折れそうに反り返った上体をぐんねりと持ち上げている。二本足で確かに大地を踏んで。
 猛火に包まれた"無力"のかたち。
(「歪な鏡を、見ているよう」)
 まるで業。死せど消えぬ、生まれど消えぬ、嗚呼――本当に、なんて世界。
 みとめた刹那に神楽耶がどっと、あの……、シリウスと呼ぼうか。手元より射出して、彼へと突き立て貫いた複製が三振り。
 似たもの同士な刃で弾かれたものが三振り。巻く炎に包まれ朽ち落ちたところで、去りし人と同じ肌で熱を知ることは終ぞ叶わなかったけれど。
『ゥaa……rrアa』
「泣かないで。ほら一緒にいよう、君のさいごまで」
 擦る足音がいかにも生きているので、イサカの手の内では、このために残されたナイフが希望めいて華やいだ音を鳴らす。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セロ・アルコイリス
まもりたいのにころすのか、あんたは
あんたが消したのがなんなのか、よく見やがれ
心配、したんじゃねェのか
(なんか、腹がむかむかする)

基本的にはダガーで前衛、仲間を『かばう』位置取りで
腕が切れたりしたら、あーあ。(痛くないわけじゃないけれど、多少は『激痛耐性』が効くかな)
なら魔法をメインで【暴風雨】
炎が他の方の邪魔になるなら消すし、
それを利用する方がいるなら消さねーように気を付けます

息をひとつ吐いて
おにいちゃん
痛いですか、
……みんな痛かったんですよ
弱さは罪ですね
でもさ
護れるモンの方が少ねーんですよ、実際


※アドリブ・共闘歓迎


ジャハル・アルムリフ
先程のタール達とは異なるが、どこか印象が似ている
なら、もはや取り戻せぬものの
もしもを問うは無為であろうと呑む

お前が兄か
…「妹」たちも、お前を大層慕っていたぞ

【怨鎖】を用い
怪力にて繋いだ鎖を引き、距離を詰める
切断攻撃はオーラ防御の他
シリウスの体を蹴り飛ばすか
鎖を巻いた腕で受けるなどして耐える
例え斬られたとしても止まる気はない
引き寄せ体勢を崩し、あるいは急に放り出し
他の猟兵が攻める為の隙を作る

立ち上がるなら残る生命力も浚ってゆく
そら、ここにいるぞ
例え家族ごっこでも
お前たちには確かな繋がりだったのだろう
今度はいつまでも傍にいてやるがいいさ

帰るべき所で待ってくれているだろうよ
…本当の家族なら


君ヶ依・飛白
ここまで来ると材料も録にねーか…
正真正銘、身体”ひとつ”だ― よこせよ、相棒

クランケヴァッフェはUDCの強化外装
そいつでマスクと肉体を接続、正しく”ひとつ”に。
意識が混ざる前、体(飛白)が嫌そうにしてたのは黙殺

走らせるコードは回避も仲間の存在も、織り込み済みのプログラム
【フェイント】混ぜて、かわされても即時追撃
ジェノサイド―それは必ず敵を砕くための演算
より確実に殺すため
―本命の刃はオレじゃない
選択肢を潰して絞られた未来の先
必ず穿たれる。それは、仲間の刃によって

家族の形は守ってやるよ
おんなじとこで、妹が待ってるぞ。
…そうやってエゴを押し付けるのがヒーロー、なんだろ。


境・花世
炎に巻かれた戦場で
猟兵たちは赤く染まって、
わたしもきっとそんな色だね
誰の血かなんてもうわからないほど
怨讐、絶望、一体幾つ重ねて

わたしたちを殺したい?
だけどごめんね、きっとそれは叶わない

敵の光線が出る瞬間を見定めて、
早業で避けながら駆けていく
近くにきみが居るなら必ず庇おう
家族じゃなくても、愛じゃなくても
護るくらいはできるから

射程距離に近付けたなら、
記憶消去銃でシリウスの眸を狙う
痛惜に動きを止めたその隙に連射を重ね
彼女たちへの約束通りに送ってあげよう

ほんとうは力なんてなくたって、
守れなくたって、果たせなくたって
誰かが笑ってくれたなら
――ねえ、罪は、誰のものだったの

答えのない問いごと貫く、終りの一撃


ペチカ・ロティカ
家族は一緒がいいんだって
”だれか”―― 少女たちがのぞんだこと。

ペチカと似ているようで、でも何もかもが同じじゃない
だから、どこにもいけない、ペチカにはわからない。
……けれど。
あなたもそうだというなら、ちゃんと送ってあげるから。

影から引きずり出した墓標を振るい
交わる武器は切断されても、影のごとくもとかたちへ
肉体の損傷は炎で補って
”だれかの”のぞみを届ける為に

行き先は照らしてあげる。
おんなじ場所……その場所を、ペチカは知らないけれど。
だからその先は、自分で歩くのよ。

―― ペチカもちゃんと、ひとりでも。歩くから。



 やさしく齎された、それが青年の四度目の死。

→%'o#6t!

 後に残ったのは歪な器としての兵器。
 そこらへと今一度積み上げられていた泥人の塊を一絡げに斬り捨てながら、ただ殺したがりなだけの――ソレが、跳ね飛んで詰めてきた間合いを飛び退く一同。
「まもりたいのにころすのか、あんたは」
 わからない。
 人間よりも人形に近く見える無機質なコレは、もう"兄"ではない?
「あんたが消してるのがなんなのか、よく見やがれ。……心配、したんじゃねェのか」
 理解できる言語での答えもない。
 腹の底がむかむかする、そう形容する他ない感覚がセロの中でわだかまる。――携えた牙で或いは一端に触れられるのか。
 必要最低限だけ身を引いて、すぐさま斬り込む盗人の衣が翻る。誰より大きく震えた"体"を自らの手で抓るように飛白は律し。
「ここまで来ると材料も録にねーか……正真正銘、身体"ひとつ"だ」
 ――よこせよ、相棒。
 その指がマスクまでたどったなら、しゅるるる、と、植物が建物を侵食するように。錆びが鉄を覆うように。クランケヴァッフェが身に纏わって、マスクと肉体とを完全にリンクさせる。
 にぎ、 五指の感覚も良好。
 頷いたまだちいさな子どもの姿をした彼も、誰もが手と手に武器を取り合い、赤に染まった戦場だ。
 花世だって宙返りをこなした手に包み持つのは散華のための銃。 怨讐、絶望。一体幾つ重ねてやってきて。
「わたしたちを殺したい? だけどごめんね、きっとそれは叶わない」
 ここにもうひとつ数えるべく。
 色付いたシリウスの、唯一、罪なども知らぬかの色をした薄氷のまなこを見つめながら。

『rRRoぉ  s』
 一時は骨まで剥き出しになっていた右腕を、今はコードが血管めいて蠢いた。
 セロのナイフと三拍子限りのペアみたくに弾き合っては擦れ違い、合間を縫いて空からの急襲を成した竜の爪がそこへ降る。
(「先程のタール達とは異なるが、どこか印象が似ている」)
 もしも、  ていたら。束の間の逡巡に無為を排除し、ジャハルが選ぶのは多くの言伝の中からひとつだけ。
「……"妹"たちも、お前を大層慕っていたぞ」
 ぎょろ、と、兵器の双つ目が蠢き。思考をブチ抜いた斬り返しの刃が構えられるも宙滑るより、お留守なことになっている二本足を出の迅さと戦い向いた身のこなしで蹴り抜いたジャハルに軍配が上がる。
『ィも、uとo』
「家族は一緒がいいんだって」
 ――跳ね転がって、転がされて。たくさんの死と一緒くたになって。
 地面を舐めた頭上。かろり。ランタンの足音はかろやかに、ペチカ。
 だれか。 名も持たぬ少女たちの最期の望みをもくべた炎はちろちろと、泥だらけに見上げる元青年の汚れた顔を照らす。
 ペチカと似ているようで、でも何もかもが同じじゃないあの子たち。
 どこにもいけない、ペチカにはわからない。……けれど。
「あなたもそうだというなら、ちゃんと送ってあげるから」
 ズズ、 ゾ、  ……――ズ、
 愛らしく隣へ屈んだもみじ型の手が、へたんとついて触れていた地でなにかを掴み上げた。
 肉塊? 炭屑? 魔物?
 いずれにもなり得て、いずれでもない。 宿した獄炎が今も燃え立つ十字。娘の影、ずっと奥深くから抜き取られたそれは、ひとつの墓標であった。
『rぼeeくの』
「そう」
 すこし手首の角度を捻るだけでいい。
 身を起こしざまにペチカが斬り上げた鉄塊の剣は、ぅるんと空間を縦半月に開いては、シリウスの首元や頭部の装甲を一度に溶かし落としてゆく。
 巻き上げられて瞬間だけ、夢うつつのようなかんばせでシリウスは宙を漂う。
 いつからか先の無くなった左腕、刃物になって随分と経つ右腕で、自由に、穏やかに、空を掻くようでもあった。
 その夢想ごと。
 眩い閃光は微睡みに伏せられかけた青の片目を撃ち抜いた。
『Gggぅr――r 、ぅう?』
「眠たくなってきたかな。ならね、いい。約束までもうすこしだ」
 もつれる足でてんてんと躍ってから傾く男へは贈り主、花世が声を。
 忘葬。女の銃、緘黙が届ける苦痛とは明日への夢の他に、昨日までの記憶をも蝕むのだ。

 きみがわらう。
 だいじ、な    ものが、あったんだ。
 だれにだって。ころしたくしにたくない。そのための力が  ぼくだよね?

『う UU UウゥゥaaA!?』
 いたいいた いたい!!!!
 片手に頭を抱えやけっぱちに振り回されたブレードが、いくつかの追撃を打ち落としつつすぐに衝撃の波を呼び。空気を震わせ伝い広がる直前、一番に舞い込み、己の身と刃を盾と投げ打ち合わせてみせるものがいた。
「セロ!」
 引き留める代償にウソみたく軽々肩から先、片腕が飛ぶ。
「――ッ、はは。……あーあ」
 セロに備わった痛覚は目の奥の奥でチカリと危険信号を出す。だとして、所詮はつくりもの。知らぬ存ぜぬとそれを踏み越えるのはずっと簡単で――。
 先ほどまで腹の中を占めていたナニかよりは、ずっと。
「汲もう」
 人形のからだを押しのける形で詰めたジャハルが噛ませる自らの腕で、続く勢い落ちた振り下ろしを食い止めれば、ギィと音も五月蠅く。そのまま腕力だけで押し返す。
 鱗のような籠手の欠片が剥がれ落ち流る紅、だが。
「容易く通せるとは思うな」
 竜の血珠は凶星であった。
 赤黒く降りかかったなら爆ぜシリウスの前面を次々に削り、よろめきて後退させる。のみならず、鎖だ。 刻んでやった新たな傷口とジャハルの腕とが赤黒の鎖で繋がされていて。
「識っててよかった、ってな、このコトで」
 跳び退るに窮し突っ張った鎖を重たく鳴らすUDCへ、一筋。
 吹ける風に絶え間なく零れるセロの色が乗ったかと思えば、そこに透明の水が混ざった。幾筋も幾筋も、途端に増した風雨は荒れる矢であり間近の獲物へ突き立つ。ウィザードとしてのトルメンタ。
 ……血だまりに零れ落ちた彼のナイフがからんと滑るのを飛白の足がはっしと止めて。
「ったくなんてことしやがる。……またアイツが夢見んだろ」
 これは、後で。
 やることやった後。
 強化外装に覆われきった少年の身はひと跳びに嵐の烈しさと同化した。過程で黙殺した体の主の惑いが届かぬほど、強く。

 ドゴオッ!!
 小細工は抜き。 一段二段と大きい矢を演じ叩きつけられた蹴撃は、子ぎつねの体格をいっとき忘れさせるほどの重量。
『ギgg』
 半ば足場ごとブッ飛ばされ――足、腕、剥き出しの配線を軋ませシリウスは鎖をも引き返す獣じみた跳躍力で後方へ。溢れた熱線は地面を削りながら首をもたげ、空を指す角度へと。
 これはちょうどセロの立つラインにあたる。
(「ヒトが傷付かず済むならそれで――」)
 瞬きの間に掴めるほどにまで迫った光。この瞬間ですら、無益な回避より有益な一打をとセロは魔法制御に集中していた。かまわない。"楽"と近しい安堵をも。
 だが、しっての通り人間のココロとは複雑なもので。そんな人形を突き飛ばす細腕は真横から伸びる。
「なっ」
 大食らいのレーザーがばさりとさらっていったのはその手のひとつと、艶やかな赤毛のひと房。
 やがて収束した光の中には花世が立っていた。
「ってて……これでおあいこ、だね」
「――にしてんですか」
 仲間として。貰いっぱなしは性に合わないと真っ赤な片手をひらつかせ花世は、それに。
 記憶消去銃の引き金をカチリと浅く鳴らしてみせた。
「一本あれば十分。そうは思わない?」
 二人、合わせたならば二本。
 全員分ならば何十本にも。力の差を束ねて覆すという、人間らしい戦い様?
「えぇ、ええ。やってやりますよ、もちろん」
 すべて理解ったとは云えない。だが、炎の中をひとり駆け巡っていた数十分前とはまた似て非なる笑みで眉を下げたセロの左手は風を掴む。水を編む。
 力は――、
 牙は尚もその餓えを褪せさせず、百を超す矢のかたちを得て宙を翔け飛んだ。
 満足げに。追走する一路、花世が追い行く景色の中には飛白がいる。
 いま、自分が一番に役立てることを。
 二人がシリウスを引き付けてくれた時間。ヒーローに憧れる狐少年はジャハル、ペチカによる攻勢に加わって立派に"役割"をこなしていたのだ。いまこの時、確かに。
「どうしたキョーダイ、もうお疲れか?」
 すべてを明け渡したこれは彼本来の力とは呼べないかもしれない。
 だが彼ら合わせてを君ヶ依・飛白と呼ぶのならば。
『Gうuuう!』
「こいつも――とっときな、っ!」
 叩きつけた拳に、ひとつの間違いもない。
 休む間を与えぬ連撃はかち合うブレードへ、足へ、胴へ。二度、三度、四度……シリウスをついにのけ反らせる。砕いたのだ。 託すべく。

「――そら。ここにいるぞ」
「行き先は照らしてあげる」

 魂の在り処。行きて帰る場所。 目に見えない不確か。
 引き絞る鎖で迎え。荒らし、抉る以外の意義をも抱えジャハルの五指が突き出されれば。
 引き裂かれる度に失せぬ影で継ぎ足して、薪をくべ、ペチカが躍らせるのははじめよりずっと激しく燃え盛る十字剣。
『aあ』
 ほぼ機能を停止した青年の片目から、瞳を構成していた結晶体がとろとろ零れている。
 空を掴むかの覚束ぬ一振りを肘打ちて逃した竜人は、旅立ちに枷となりそうな、腹の中に覗く蒼褪めたコードを一息に引き千切った。
 招く風に、"妹"を連れた同じ側の手で――、例え家族ごっこでも。
「お前たちには確かな繋がりだったのだろう。今度はいつまでも、傍にいてやるがいいさ」
 汚れきった白髪がかくんと頷いて見えたのは、他でもない。
 深々と差し込まれた過去殺し。
 だれか――少女らと同じくらいに幼い手指は、裂けてちいさな炎を零してもやっぱり、こんなときまで嘆かずに震えずにきっと似てはいなかった。
 先ほどとは逆になって見上げている。
 おんなじ場所……その場所を、ペチカは知らないけれど。

 突き立てた墓標から指を離した。
「だからその先は、自分で歩くのよ」
 ――ペチカもちゃんと、ひとりでも。歩くから。
 ペチカ。

 崩れゆくひとかけにも余さず火を添わす。
「帰るべき所で待ってくれているだろうよ」
 ……本当の家族なら。
 ジャハル。

 限界を訴える身体、荒い呼吸にも浮かぶは微かな、笑み。
「家族の形は守ってやるよ。おんなじとこで、妹が待ってるぞ」
 ……そうやってエゴを押し付けるのがヒーロー、なんだろ。
 飛白。

 積み重なる、傷だらけの言の葉たち。
 セロは息をひとつ吐いた。おにいちゃん、 零す声色にはナニが滲んでいたろうか。
 千切れて裂けた互いのからだ。
「痛いですか、……みんな痛かったんですよ」
 今日、目にしてきたいくつもの骸とさして違いのないような。いたい。こわい。かなしい。さみしい。シリウスの眼窩は今やなんのココロも灯さない。
 暗闇を、見遣って間近に二度目の淑やかな発砲音。 花の香。
「弱さは罪ですね。でもさ、護れるモンの方が少ねーんですよ、実際」
「――ねえ、罪は、誰のものだったの」
 ほんとうは力なんてなくたって、守れなくたって、果たせなくたって。
 誰かが笑ってくれたなら。

 花世は、返る答えなどないことを知っていた。
 自らもまたそれを持たぬことを。
 故に三度目、撃ち抜く光は額へ。続けざまに叩き込まれたすべてがすべて、物言わぬまま。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

冴木・蜜
我々の存在が彼のような存在を産んだのなら
幕引きもやはり我々がしなければならない

限界まで体内の毒を濃縮
他の猟兵や残った泥人に攻撃するシリウスの前に
身を捻じ込んで庇います

ああ、液体の身体でも勿論痛みはありますし
痛いのは決して得意ではないのですけれど
彼女達と約束しましたから
貴方の手をこれ以上汚させないと

私のこの毒の身を切り裂いた刃の腕に
攻撃力重視の捨て身の『毒血』
私はただ触れるだけで良い

これ以上、貴方が他を傷つけぬ様に
その刃を融かします

私を追撃するようなら
敢えて躱しません
裂かれて飛び散った肉体さえも使って
傷痕に毒を塗り込んであげましょう

さあ
もう休みましょう
貴方の家族が――彼女が待っています


渦雷・ユキテル
大切な人の為にその他大勢を犠牲にするのって
そんなに悪いことですかね?

んー、予備動作なしか。
接近時はクロックアップ・スピード。
ある程度フェイントかけてジグザグに走っていきましょ。
近付けたら一度サイキックブラストで行動妨害。

妹さん、先に連れていきましたよ。
みんなでなら、どこへだっていいのって、そう言ってました。

お話しようとは言いません。あたしが勝手に喋るだけ。
電撃の【属性攻撃】を込めたクランケヴァッフェを構えて、振るって、
ころしあい。

ガワは自力じゃ変えられないけど。
何者で在りたいかは自分でも決められると思いますよ。
あの子たちのおにいちゃんでいたいって望むなら、
きっと貴方はあなたのままでいられます。


天之涯・夕凪
そう、守りたいから、殺さなきゃ
あなたは自分と自分の家族を
私達は未来とこの世界の人々を
守るために殺し合う
それが、互いの宿業だから

白菫を盾に真っ向から突撃
なるべく前に出て駆け、他の方の盾となるように
痛みは激痛耐性で耐え、可能な限り前進します
ダメージの蓄積で前進が厳しい場合は、自分の血で一時的にUCを発動し、耐久力等を上昇。尚、前へ

接敵できたら、眼鏡を外し
改めて彼の血と業を以て、捨て身でUCを発動します
「妹さん達が、貴方を待っていますよ」
さぁ、同じ場所へお還りなさい
そして出来れば――今度こそ無粋の入らない場所で、心安らかに

貴方の罪も弱さも、痛みも、涙さえ、私が“いただきます”
どうか、彼らに救済を


クレム・クラウベル
望んだわけでもなかったのだろう
端からそうしようとしたわけでも
されど制御のままならない無力さが命を奪い取った
……罪を問いはしない。だが、看過も出来ない
幕引きを。これ以上を奪う前に

右腕の動きに注視し攻撃を予測、見切りを
大技後、次手まで隙がある様子ならそこを積極的に狙い一雫の銀を撃ち込む
……いっそ無力で、なにも持たないままであれば良かったのだろうかな
無力でも、人のままでいたならば
力を得ても上手に振るうことも出来ない
その在り方はただ……憐れだ

もう、疲れただろう
読み上げた言葉、巻き起こる白炎は彼女たちと同じ場所へ送る為の導
眠るなら送ろう、彼の岸辺へと
往くと 良い。皆、待ってる


花剣・耀子
ああ。
あれが、『おにいちゃん』なのね。

征くわ。

彼我の距離は未だ遠い。
機械剣のトリガーを引いて加速の補助。
瓦礫も衝撃波も斬り払い、真っ直ぐに距離を詰めましょう。
あたしに気を惹けるならそれで良い。
辿り着く前の致命傷だけは避けるようにして、
剣の、声の、届く場所まで。

言伝があるのよ。

『たすけて』
『ありがとう』
『あいしてる』

それと

『たすけてあげて』

死をたすけだなんて言わないわ。
死にたくないなら抗いなさいな。
誰にだって、その権利がある。

あなたは確かに、誰かの心を救ったわ。
それはきっと無力とは言わないけれど。
ここは戦場で、力があれば残り、なければ消える。それだけのこと。

ねえ。
あなたは、どこへいきたかったの。



 はかなく齎された、それが化物の五度目の死。

→r$%&9-?

 やさしい。  なつかしい。
 だれ  だっけ。
 あのひ ぼくをたすけてくれた ひと たち。

 ぼくしか たすけてくれなかっ た。

『どうして』
 いつもすこしだけ、遅い。
 蓄積し、砕かれたものを"何重もに上書きされた憎しみの記録"。
 ――頭部をはじめ全身を大きく損傷したサイボーグだったもの、これも、一応はシリウスと呼ぼうか。
 開いた穴から漏れ出るものが意味を持つ言葉に聴こえることがあるとすれば、ただの錯覚に過ぎない。垂れ下がったコードをもたつく脚の支えにして立ち上がってみせるのも、幻覚といえばそれまで。だがこちらに関しては現実的な脅威だ。
 カスカスに綻びたラボ自慢の単分子ブレード。油の切れた音で持ち上げられたそれをいち早く察知して、耀子が携える機械剣のトリガーを押し込む。 パチンと指の鳴る音も。
 ああ。
 あれが、"おにいちゃん"なのね。
「征くわ」
「ですね」
 ウェポンエンジン・ヤクモによる瞬間的な加速補助。踏み込みの反動で砕けたアスファルト片、それだけで凶器となりそうな風の中に並走してみせるひとならざる力はユキテル。
 ジグザグのコースで詰める距離、相手に撃たせてやった回数は精々二発。
 その二発に関しても、一発は真っ向勝負の耀子が剣の塵と断ち裂いて、もう一発は純白の機関銃を盾にするという大胆な前進で夕凪が散らしていた。
 こちらは到底無傷とはいかない。
 が、守りたいものがあるから。
 "彼"は自分自身と家族を、"私達"は未来とこの世界の人々を。――そう。守りたいから、殺さなきゃ。互いの宿業であると頭には弁えて、踏み出す次の歩みはより強かに。
「もうすぐ、手が届く……届かせますから」
 一途に望みて身を砕いているとも映る男を視界の端に、蜜は僅かに頭を垂れた。誰かが傷付く様は忍びない。この身を使ってくれたなら――ともすっかり既に染み付いた泥めいた観念に。
 それから、待ち受けるあのなれの果て。
(「我々の存在が彼のような存在を産んだのなら、幕引きもやはり我々がしなければならない」)
 ふつ……と、タールの肌が粟立つのは風の起こす波に、震えでなければ武者震いでもない。
 限界まで濃縮されきった体内の毒が、時の訪れを報せるのだ。
『あたらないや。やっぱり強いな』
「……随分と遅くなったな」
 夕凪の陰となっていたクレムは、二度の攻撃の合間に計算することさえできた。奴の一発は自分の二発だろう、と。
 そしてここからがその有効射程だ。
 望んだわけでも、端からそうしようとしたわけでもなかったのであろう、末路。
「制御のままならない無力さが命を奪い取った……罪を問いはしない。だが、看過も出来ない」
 式をはじめるために込める、銀の弾丸には死を。浄化を。祈りを。
 幕引きを。これ以上を奪う前に。

『イェーガー。本当はずっと、憧れていました』
 火を噴いて押し出された一発目、真っすぐに向かい来るそれを、シリウスのブレードが反射の動きで撫ぜ斬る。
 左右に割れても定めの如く喰らいつく銀を結局は、頭からいくらか逸らすことに成功したくらい。彼の両肩はぐずぐずと抉れてゆく。
 繋いだ最中に飛び込んでいた影はふたつ。
「大切な人の為にその他大勢を犠牲にするのって、そんなに悪いことですかね?」
 ひとつは既に頭上を飛び越えていた。
 まるで友へとそうする風に。ユキテルが背にたんと触れたてのひら。
 契機に、バヂッと光を散らしたのはシリウスの力――ではなく、サイキックブラスト。ユキテルのものとなった身体へいつか"植え付けられた力"。
 感電による衝撃以上に面喰らった様子でサイボーグが揺れる。突き出された形で停止した右の腕、最早ただの刃としては玩具にもならぬそれを引っ掛けゆく電動の歯は容赦なく弾き下ろしていった。
「思ったより、軽い剣ね」
 宙へ蝶の絵姿を描く軌跡に耀子が鮮やか翻す刃が、エンジン音も高らかに骨剥きだしの胴を真横へと引き裂き唸る。
 硬い地面に埋められたブレードの先、数拍遅れで放たれた熱線は足元を焼くのみ。結果的に後続の助けともなって、地を蹴りそれぞれに飛び退いた二つ頭の合間へと。
『……驚いた。つくりものでもなれるんだ。僕も、同じものになれると思っていました』
「……いっそ無力で、なにも持たないままであれば良かったのだろうかな」
 無力でも、人のままでいたならば――三を数えるクレムの銀が潜り抜けた。
 シリウスはギィと音を立てて片方だけ残った瞳を瞬いている。キィィ、ギィ、キ、腕からは音が上がるものの光が収束する前に、
「その在り方はただ……憐れだ」
 ガインッ! 割れた頭蓋から白い粉が飛び散る。
 巻く嵐の只中、銀月は眩く揺れず大地にあって。のた……のた、身を起こす鉄屑の動作はこそ酷く緩慢だが、どこにプログラムされているのだろう、右腕の先だけ別な生命体じみてぐねんと回る。
 衝撃波。
 見て取った刹那、ともすればそれより早く、押し込むよう身を捻じ込んで蜜の一手。
「……、どうぞ。お好きなだけ裂いていただいて結構」
 ぽた。 はた、はた。
 右腕そのものを半ば取り込むこの行為を只のうつくしき自己犠牲と侮ることなかれ。
 "毒の血"は既に侵食をはじめている。
『強く。それどころか、僕ならひとりも取りこぼさないとすら』
 痛いのは決して得意では、ない。泰然と気丈な振る舞いと別に、刃が進むごとに蜜のからだは足元から溶けはじめている。 それでは何故?
 触れさせるだけでいい。この方法がより確実に"誰も傷付かず済む"と、知ってしまっているから。
「彼女達と約束しましたから。貴方の手をこれ以上汚させないと」
 囁きひとつ、生じた空間は溶けて縮んだ青年の頭ひとつ分。
 カッ、 滑り落ちた眼鏡は彼のものではなく。
「お探ししました。妹さん達が、貴方を待っていますよ」
 "仮面を取り払えど"冴えた双眸は、変わらず一心にシリウスを見ている。
 罪業。
 果たして夕凪の胸裡で、それは何を指したのだろう。疾うに叶っていたらしいユーベルコードは降りかかる蜜の断片をも捉え、スティグマの疼きを伴って完成された。
「さぁ、同じ場所へお還りなさい」
 貴方の罪も弱さも、痛みも、涙さえ、私が"いただきます"。
 深々と吸血鬼の牙が立てられるに似て、触れた先の器官が血を吐いて溶け落ちる。すぐに蜜を蹴り引き抜かれて応戦に駆り出されたシリウスの右腕であったが、どうだろう。
 人体をそのまま用いていた部位はもちろん、機械パーツまでもが腐り落ちたか姿形を変えている。
 薙いだはいいが接合部も度重なる酷使とでガタがきていて、ぺらり。
 引き千切られる? ――貪り食われる、が、近いか。
 そも斬りつけられたとて喰らい果たすつもりでいた夕凪が掻っ捌いたことで、勢い余って回転したシリウスの首は逆の方向を向いた。辛うじて繋いでいるのは骨ではない。コードの束。

 四度。
 神の代行者を思わす銀十字揺れ、翳した月から与えられしひとしずくは、庇いに伸びた左腕の骨ごとうち一等に太かった管を穿ち貫く。
 脚力頼り、よたついて跳ね逃げる鉄屑の姿は、力持たぬ人々が慌てふためく地獄をぶり返させる。
『かわいい子たちでしょう? みんなで施設の中をね、散歩するのと。おしゃべりと。車でのお出掛けがぼくの楽しみでした。……もう、あえないんだなぁ』
「言伝があるのよ」
 だとしてこの場に集ったものの心ははじめから既に決まっていた。
 耀子は剣を突きつけ己が存在を示しながら、炎の渦中、耳にしたままを声とする。

『たすけて』
『ありがとう』
『あいしてる』

 それと。

『たすけてあげて』

 それはこれほどまでに命削り合う音に満ちていた世界へ、はじめて訪れた静寂だったやもしれない。凛と満つ響きに、共に言葉を受け取ったものは首を縦へ振る。
「死をたすけだなんて言わないわ。死にたくないなら抗いなさいな」
 誰にだって、その権利がある――信念滲む女の言にもまた、横へ振るものもいないように。
 戦いの中、それぞれのすくいのかたちがあった。
 すくえぬものもすくわぬものも。
 いつも通りに。
『……うれしいな。さみしいな。謝りたいな』
「妹さん、先に連れていきましたよ」
 ぶおんと風裂いてユキテルがクランケヴァッフェを回し持つ。ブラッディ&ブランディ。さよならしましょう、言外に。
 血濡れた点滴台の有様は束の間以上、シリウスの視線を引き付けた。或いは恐怖。或いは期待。或いは……、
「みんなでなら、どこへだっていいのって、そう言ってました」
 未だ電気を帯びる手を介して、ひとり以上の力で繰り出したユキテルのひと突きにはよく似た光が揺れていて。
 閃光はひと、ふた。ころしあいの間合いに、少女を護ったのは受け継いだ雷が織り成す二本の手。
 押し切り――多くの猟兵が重ねに重ねた傷。
 右腕、なりそこないをシリウスたらしめた源をついに根元まで砕けさせる。
『……本当ですか?』
「さあ。もう休みましょう」
 貴方の家族が――彼女が待っています。
 ブラックタール、蜜の声色は穏やか。腕を押さえて膝をつく鉄屑の傍らへ這い進み、チカチカと朧な明滅繰り返す瞳へ触れた。誰もを救える夢見た薬であるかの如く。
 とろり。
 とうとう真っ暗に落ちた彼の世界で、唯一存在する手までもが殺しの術であったとて。
『信じてもいいですか?』
「今度こそ無粋の入らない場所で、心安らかに」
 四散したブレードの欠片。尚も握りしめんとす左腕の骨がかつかつと地を擦るのは、夕凪が止めた。オブリビオンであったとて、あまりに見てはいられなかった。
 どうか、彼らに救済を。
 願いは力と結実し、自らこそを血濡れた業に溶け込ませひとすくい、半身を喰らってしまえばどこかから吹き付けた熱風が軽くなった鉄屑を運ぶ。
 落ちた先ではあたたかい熱が受け止めてくれた。
「もう、疲れただろう」
 神父様の言葉、いつかひとりだけ、受け取り損ねたときのこと。
 思い出せない鉄屑はクレムが読み上げる祈りへただ静かに聞き入るように、かぎろいの白き炎へ溶かされてゆく。
 迷わずに辿り着けるための導として。眠るなら送ろう、彼の岸辺へ――。
「往くと 良い。皆、待ってる」

『みなさんはやっぱり、イェーガーですね。でも……ぼく、弱いから』
 足音も立てず。
 お別れにもうひとつ、いいですか。
「ガワは自力じゃ変えられないけど。何者で在りたいかは自分でも決められると思いますよ」
 歩み寄ったユキテルは己の腕を摩った。
 抱くその身でしか言えぬ手向けに、進めた槍の穂先は首の、楔であるコードを断つ。
「あの子たちのおにいちゃんでいたいって望むなら、きっと貴方はあなたのままでいられます」
 ぽーん、と。
 羨む風に跳ねた頭部はユキテルにぶつかる前、耀子の一振りが打ち落ろした。
 最後まで彼の抗いとして両のまなこにて見とめ。
「あなたは確かに、誰かの心を救ったわ」
 無力だとは口にせずにひたと添わせる刃。
 ここは戦場で、力があれば残り、なければ消える。それだけのことと、幾つの仕事の中のひとつに過ぎぬとも、このひととき真摯に向き合い。
 歪んだ塊はころり上を向いた。 あぁ、とても暗い。
『ひとがしぬのも じぶんがなくなるのも』
 ――ねえ。
 あなたは、どこへいきたかったの。
『どうしてもね、どうしても    こわいんです』
 無機質にピーと聞こえるだけの末期の吐息、掻き消し吹いた花散らしの駆動音を皮切りに。
 剣に刀、槍、ナイフ、弾丸に糸もあれば炎や雷、水、闇もある。
 幾多の手。手によって、約束に重ね来た  は果たされ。
 そしてこれが。
 たしかに齎された、鉄屑のさいごの。

 やさしい言葉。しあわせ。おいのり。大事なひとと、ずっといられる場所。
 生きてきてはじめてかもってくらい、たくさんのひとにたくさんのことをもらったけれど。
 ぼくの、手で――てにいれたかったなあ。

『フ。 f……ふ、  ff』
 残骸がもぞりと動いた。
 気がしただけ。

 そうしてイェーガー! あなたがたは今日も世界の敵に勝利した。
 なにかを守れただろうか? 救えただろうか? そんなつもりもなかっただろうか。
 この夜が明けるまでの僅かでいい。
 罪などまるでしらぬ貌して、だれよりも幸福そうにわらっておくれ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年05月08日


挿絵イラスト