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クリスマスも近づく頃合いに、グラース・アムレット(ルーイヒ・ファルベ・f30082)は宿の中で考え事をしていた。
今年のクリスマスカードはどうしようかな。身近な人への感謝を伝えるために、良さげなものがあるといいのだけど。
考え続けて思い至ったのは、アルダワの学園に通う友人の話だ。なんでもあの世界には、魔法仕掛けの贈り物がたくさんあるらしい。
せっかくだから見に行ってみようかな。けれど一人で向かうのも少し――そうだ、あの人を誘ってみるのはどうだろうか。
グラースは早速メールの準備を進める。送り先に選んだのは、最近仲良くしたいと思っている相手だ。
『こんにちは。若葉さん、よかったらアルダワのクリスマスマーケットに一緒に行ってみませんか?』
手早くメールを書き上げると、えいや、と送信する。それから返事が帰ってくるまで、それほど時間はかからなかった。
同時刻、UDCアースにて。
(……おや)
鵯村・若葉(無価値の肖像・f42715)はメールアプリの通知に気づき、スマートフォンを操作していた。
メールの中身を確認し、若葉は小さく微笑む。最近仲良くしたいと思っていたグラースから、一緒にアルダワに行こうと誘われたのだから。
けれど嬉しい気持ちと同時に、ちょっとした疑問も浮かぶ。それを含めて、若葉は返信を書き上げた。
『お疲れ様です、アムレットさん。クリスマスマーケットですか? お誘いは嬉しいのですが……何故自分に?』
送信すれば、すぐに返事が返ってきた。若葉もその内容に納得し、すぐに返事を送る。
『私たちの生まれた世界は違いますが、どちらの日本もアメリカもグリーティングカードの風習はありますよね。だから、違和感ないかと』
『なるほど。そういうお考えでしたか。言われてみれば違和感はありませんね。グリーティングカード探し、自分も同行させてください』
『ありがとうございます。でしたらお互いの都合の良い日に――』
それから何度かメールをやり取りし、約束の日を決める。
二人でアルダワに向かうのは、クリスマスの直前となった。
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そして、約束の日がやってきた。
蒸気のランプや魔法の灯りが灯されているおかげで、曇り空の下でも周囲が明るい。行き交う人々の表情も輝いているようだ。
自分たちの生まれ育った故郷とはまったく違う光景に、グラースも若葉も目を奪われていた。
「ふふ、凄いですね。あっちの屋台は機械仕掛けでしょうか。楽しい光景です」
「そうですね。スチームパンクな漫画などを思い出す景色で……初めて来ましたが、ワクワクします」
グラースは弾むように足を進め、若葉はその背を楽しそうに眺める。
このまま散策していても楽しいが、二人には目的もあった。
「グリーティングカードを買うなら、雑貨屋でしょうか?」
「郵便局の出張所なんかもあるかもしれません。郵便屋って、いろいろやってますから」
「アムレットさん、詳しそうですね」
「ええ、故郷でも仕事をお手伝いしたことがあって……」
軽く雑談もしつつ、二人が探すのは魔法のグリーティングカード。それぞれが目星をつけた店を巡れば、さまざまなものを見ることができた。
「若葉さん、これ可愛いですよ」
最初にグラースが手に取ったのは、シマエナガを模した愛らしいカードだ。
「おや可愛らしい……なんだか親分を思い出しますね」
「ふふ、私もです。あ、このカードにもちゃんと魔法がかけられているんですよ」
ぱらりとカードを開けば、そこから飛び立つのは魔法のシマエナガ。小さな鳥は軽く周囲を飛び回り、雪のようにふわりと消えた。
「なるほど、これが魔法と……こちらもそうでしょうか」
若葉は側にあったクリスマスらしい絵柄のカードを手に取り、早速開く。すると周囲に魔法の雪が降り注ぎ、幻のサンタが飛んでいった。
「わぁ、そちらも綺麗ですね」
「こういうのもありますね」
次に若葉が選んだのはツリーを模したカードだ。開くと中から大きなツリーが飛び出し、その周囲をトナカイが駆けていく。
「……なかなか迫力がありました。魔法でなければできない作りですね」
「子どもとか喜びそうですね。あ、子どもといえば……」
グラースが手に取ったのは魔法仕掛けではなく、機械仕掛けのカードだった。開くとクリスマスの音楽が流れ、心を和ませてくれる。
「小さい時に、こういうカードを貰って、ずっと聴いてたことがあったんです。なんだか懐かしくて」
「素敵な思い出ですね。アムレットさんにカードを送った方も、きっと喜んでいらっしゃったと思います」
「そうですね……きっとそうだったと思います」
響く音色を楽しみつつ、小さく微笑むグラース。彼女の様子を見て、若葉も目を細めていた。
それから数件店を巡り、グラースはいくつかのカードを購入していく。これはお友達に、これはお世話になったあの人に――そんな風に送る相手を考えれば、手に取るカードは自然と決まった。
一方若葉はカードを眺めているものの、なかなか購入までは踏み切れない。普段あまり行かない人混みに来たのも相まってか、どこかぼんやりしている様子だ。
「……若葉さん、大丈夫ですか?」
「ああ、すいません。時間がかかってしまいそうで」
「時間なら気にしないでください。まだまだ余裕がありますから」
若葉を安心させるよう、グラースはニッコリと笑う。彼女の気遣いが伝わる笑顔に、若葉も少し肩の力を抜いていた。
「ありがとうございます……アムレットさんはどのようにカードを選んでいるのでしょうか」
雪の結晶を模したカードを眺めつつ、小さく首を傾げる若葉。グラースは唇に指を添え、一緒に首を傾げた。
「そうですね。やっぱり相手が楽しんでくれそうなもの、でしょうか」
「なるほど、相手を強く意識すると」
「はい。大切な人に想いを伝えたい、そんな気持ちで選べば大丈夫だと思います」
グラースの返答に、若葉は目を伏せる。その様子から、彼の真剣さがよく伝わってきていた。
「……大切な人に、想いを……。そう思えるアムレットさんは優しい方ですね」
「いろんな人に、そういう気持ちを教えてもらったんです。もちろん、今日一緒に来てくれた若葉さんからも」
「そう言っていただけるのは嬉しいです。ですが……」
若葉は無意識に拳を握っていた。グラースはその様子に気づきつつ、必要以上に言葉を向けない。ただ静かに、若葉の言葉を待っていた。
若葉もグラースの思いを感じ、意を決して言葉を紡ぐ。
「……自分にも、贈りたい人は、いる、けれど……自分が贈って……迷惑に、思われないでしょうか」
「……迷惑、にはならないんじゃないかしら?」
グラースの返答に若葉は顔を上げ、彼女の顔をじっと見る。グラースの様子はいつもと変わらないように見えた。
「深く考えると宗教的な意味合いもあったりしますが、近年は挨拶がわりでライトな使い方をされているような……だから、きっと迷惑になることなんてないですよ」
「あ、いえ、そういう意味ではなくて……」
「あら、そうでした? ごめんなさいね。でも、日本にも似たような風習がありますよね。そんな感じで考えれば、きっと大丈夫かと。ほら、これを見てください」
グラースは手近なカードを手に取り、笑顔と共にその中身を見せる。
Merry Christmas and a Happy New Year――年の瀬と新年の双方を祝う言葉は、普遍的で嬉しいものだ。
「挨拶ということは……年賀状のような感じでしょうか? 確かに、それなら……」
二人で言葉を交わしていれば、若葉の表情も和らいでいく。グラースの気遣いにも背中を押されているようで、胸の奥が暖かかった。
「アドバイスいただきありがとうございます。少し、勇気を出してみようかと思います……こちらのカードにしましょうか」
若葉が選んだのは、夜空を模したカードだ。チラチラと雪が降っていて、時折魔法の星が降り注ぐ仕掛けだ。
「受け取った方の願いが叶うと良いな……と、思いまして」
「素敵ですね! きっと相手の方も喜んでくれますよ」
グラースの反応に安堵し、若葉は早速カードを購入する。
こうして二人で無事に買い物を終えれば、次に向かうのはカフェ街だ。
「実はリスカードさんからのお勧めカフェを聞いておきました。ケーキがとても華やかで美味しいのだとか……」
「おお……さすがのサーチ力ですね。少し冷えてきましたし、温かいものも飲みたかったんです」
共通の友人の話題で盛り上がりつつ、二人は目的のカフェへと向かう。
美味しいケーキと温かな飲み物があれば、前からしたかった『推し活』の話題だって大盛りあがりだろう。これから何を話そうか、なんて考えつつグラースは歩を進める。
その最中、ふと若葉が足を止め――じっとグラースを見つめた。
「ああ、カフェに向かう前に。アムレットさんも、どうぞ」
「え、若葉さん、いつの間に……?」
驚くグラースの目が捉えたのは、若葉が差し出したカード。丁寧な字で、今日のお礼が記されている。
「――今後ともよろしくお願いいたします」
「ありがとうございます。私の方こそ、よろしくお願いします……と、こちらもどうぞ」
グラースもまた差し出すのは、感謝を伝えるメッセージカード。若葉は少しだけ目を丸くして、すぐに微笑んだ。
「ふふ、ありがとうございます……考えていることは同じでしたね」
「ええ、とっても嬉しいです。こうやって、気持ちを送りあえるのはありがたいことですね」
互いのカードを大切に懐に仕舞って、二人はまた進んでいく。
ありがとうを伝えることも、受け取ることも、こんなに温かくて嬉しくて。
きっとこの気持ちを他のみんなにも伝えたい。どう伝えるか、話し合ってみようか。
同じ温かさを抱えた二人は、まだまだ楽しい時間を過ごしていくのだった。
成功
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