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ただ、勝利のみが全てを解決する

#クロムキャバリア #戦争モノ

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#クロムキャバリア
#戦争モノ


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●存在=闘争
 ――全不適格人員の処分、完了。
 ――全保有資源の加工及び配布、完了。
 ――全部隊、装備完結。集合完了。

 ――現刻を以て国家概念の軍隊への置換、完了。

 この通告を以て、我が国における全ての活動は一切の例外なくその最終結果が『戦争』に直結する。

 即ち食事とは配給であり、衣服とは軍服であり、住居は塹壕である。
 移動手段とは輸送車であり、玩具とは銃剣であり、伴侶とは小銃である。
 耕作とは砲撃であり、勉学は訓練であり、仕事とは任務である。

 生存とは以て是『戦争』である。

 もはや、我らの故郷だった国土には何もない。
 とうに生命線たるプラントは超過稼働により自壊し、全ての産業、全ての経済活動はとうに停止した。あらゆる資源は麦粒の一つ、ネジの一本すら既に残ってはいない。ただ朽ちた廃墟と不毛の大地と汚染された河川があるだけだ。

 我らに過去はない。全てを打ち捨てた。
 我らに未来はない。これまでのままでは。
 現在だけだ。我らにあるのはいまこの瞬間だけだ。

 故に進め。これまでの郷愁も、屈辱も、忍耐も、もはや不要。
 故に進め。その先にある脅威も、不確かな先行きも考慮に値しない。
 いまこの瞬間をただ戦うべし。

 ――勝利のみが、全てを解決するだろう。


「国民皆兵、国家総力戦体制。その概念は誰よりも熟知しているつもりだったのだがな。しかしたまさか、|文字通り《・・・・》にそれを実現させる国家が現れるとは。そら恐ろしさを通り越して、いっそ賞賛したい気分だ」
 パタリ、と。グリモアベースで猟兵たちを出迎えたフランツィスカ・リュッツオウ(音速越えの叛逆者・f32438)は、半ば皮肉気にそう口火を切ってゆく。背後の移り変わる景色に映し出されたのは、廃墟と見紛う街並み。否、それは真実廃墟であるが、同時に静寂と空虚さに満ちた墓標でもあった。
「さて……まず本題へ入る前に、少しばかり昔話をしよう。事の発端は数十年前に起こった『とある国』での革命だ」
 圧制や弾圧を敷いていた旧体制側が蜂起した市民によって打倒された。よくある話だ、珍しくも無い。ただ問題はその旧体制に属していた者らが、ある程度の戦力を保持したまま逃げ延びたことにある。彼らは比較的自分たち寄りの領土に転がり込むと、そこで再起を図らんとしたのだ。
「この国を仮に『旧体制国』と呼称しよう。正直言って、彼らは保持できた戦力もそれを養う国力も弱小極まりなかった。そうだな、諸君らに分かりやすく例えれば、国家に対しせいぜい県程度の領土を一つだけ保有している。そんなレベルの戦力差だ。正直、そのままでは順当に磨り潰されて終わりだったろう」
 だが、ここで二つの幸運が旧体制側の残党に齎される。一つは革命直後の新体制側に残党を掃討する余力が残されておらず、また戦力・国力的にも喫緊の脅威とは言えなかった為に放置された事。もう一つは国家運営が安定した後も、新体制側が意図的に残党を残すよう動いたことにある。
「自分たちは革命によって国家を奪った。なら、次は自分たちが追われる立場にならないとも限らない。なら、どうするか……答えは前述の通り。内憂に目を向けられぬよう、外患を作り上げた。奴らは今この瞬間も虎視眈々と捲土重来を狙っている、だから一致団結しよう、と。内心、潰そうと思えばいつでも出来るとほくそ笑みながらな」
 それはある意味で効果があった。国内の治安は比較的安定しつつ、防衛名目で軍事予算の確保も容易。ときおり侵入してきた威力偵察と言う名のちょっかいも、都合の良い実戦演習でしかない。活かさず、殺さず。この関係の維持を新体制側は望み、目論見通りこの数十年もの間変わらなかった――。
「……まぁ、そう思っていたのは新体制側だけだったのだが。歴史的な背景ゆえに両国間の交渉チャンネルは当然ながら皆無だったから、それも無理は無いとも言えよう。しかし断絶は恐怖を呼び、恐怖は過剰反応を引き起こす。残党側の内情はそこらの独裁国家も真っ青な有様だったらしい」
 革命当時、逃げ込んだ旧政府関係者やその家族、軍閥勢力に関連企業。確保した土地に対し過剰なまでの人員が雪崩れ込んだ。耕作地も資源も有限であり、プラントこそあったがその産出量も充分とは言えぬ。かと言って、憎き者共に投降するなど許されない。結果、旧体制領土内は慢性的な飢餓、物資不足に喘ぐ事となる。
 当然、不満は溜まってゆく。だが、弱小勢力内で内輪揉めなど起こせば今度こそ破滅だ。それを防ぐ為に、どうするのか。奇しくも、旧体制国の出した答えは新体制側と同じだった。
「我々が不遇を囲っているのは革命と言う反逆を起こした裏切り者のせいだ。いま、この状況の責任は全て向こう側にある。本来我々が得る筈だった繁栄を、奴らは不当に独占している……独裁国家の手垢に塗れた宣伝文句だな。だが、外部からの情報が一切入らない状況下で何年、何十年と其れが煮詰まれば。それ即ち、高純度の狂気と化す」
 前置きが長くなったなと、フランツィスカはそこで漸く本題へと移る。端的に言えば、遂に旧体制国が新体制側の領土へと侵攻を開始したのだ。それも、ただの攻勢ではない。国家と言う基盤を放棄した、自殺的進軍とでも呼べる内容である。
「奴らは国家の持てる資源全てを軍事へと投入した。比喩ではない。文字通り全てだ。人口、資源、工業力、社会体制さえも。彼の者らに育てる赤子や労わるべき老人は居ない。戦えぬ人員は残らず処分したから。明日撒く種も、餌をやる家畜も、掘り出せる鉱物も無い。未来を紡ぐ為の全てを、いまこの闘争の為に消費したのだ」
 もし勝利を得たとしても、その果てに何を得られるのか。戦争とは基本、無産行為である。ただ土地を占領したとして、軍隊がそれを永続的に維持できるかと問われれば否。精々、蝗の如く物資を食い尽くし、次なる場所へとまた進軍を続ける事くらいだ。だからこそ、本来は文民政府による交渉や統治が必要なのだが。
「……勝利を。ただ勝利を。かつての恥辱、これまでの苦渋。それを帳消しにして足る勝利を。連中の頭にはもう、それしか残ってない」
 どんな歴史的背景があろうとも、この凶行を座して待つ訳にはいかぬ。という訳で、今回猟兵たちに求められるのはこの旧体制国軍の殲滅である。彼らは新旧領土の境界にして、唯一の出口たる深い渓谷を目指して進軍中だ。彼らが解き放たれれば津波の如く新体制側の領土に雪崩れ込む以上、ここで食い止める必要があるだろう。
「敵戦力はキャバリアの他、武装した歩兵や車両が随伴しているが、こちらの取り扱いについては諸君らに一任する。相手に非戦闘員は存在しない。全てが兵士だ。例えそれが、つい一か月前までただの市民だったとしてもな……ただ殲滅するのも心苦しいが、さりとて植え付けられた狂気は一朝一夕では晴れない。新体制側に引き渡しても、愉快な結末にはならんだろう……私は諸君らの上官ではない。個々の判断を尊重しよう」
 そこまで含めて厄介だとフランツィスカは愚痴りながら、仲間たちを送り出してゆくのであった。


月見月
 どうも皆さま、月見月でございます。
 ご無沙汰となってしまいましたが、戦争のお時間です。
 という訳で今回の舞台はクロムキャバリアとなります。
 それでは以下補足。

●作戦成功条件
 『旧体制国』軍の殲滅及び進軍阻止。
 ※敵兵の生死は問いません。

●第一章開始状況
 戦場は『旧体制国』と『新体制国』の国境地帯に存在する深い渓谷。両勢力を隔てる唯一の出入り口であり、ここを通り抜けない限り旧体制国軍は数の強みを生かすことが出来ません。なお、新体制国側も渓谷の入り口付近に哨戒基地を設けていますが、基本的に旧体制国側を侮っている為、駐留する戦力は微々たるものです。その為、猟兵の助力が無ければ突破は不可避となります。渓谷は左右が狭く、かつ高度を取ると殲禍炎剣に撃墜される恐れがあります。
 第一章は集団戦、夥しい数の量産型キャバリアとの戦闘です。渓谷内へと突入し、まずは敵戦力を漸減してください。敵軍の主力はキャバリアですが、トラックや兵員輸送車に搭乗した歩兵や、自走砲なども点在しています。ただし、彼らは徴兵された国民の為、数こそ多いですが練度はそれなり程度です。
 第二章、第三章の状況は適宜断章にて補足します。

●プレイング受付について
 断章投下時に告知します。参加人数や繁閑の状況によっては再送をお願いする可能性がありますので、その点を予め御了承頂けますと幸いです。

 どうぞよろしくお願い致します。
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第1章 集団戦 『ELD-QMCV-Gr-21『クリーサ』』

POW   :    RS-GMG-120
【腕部30mm3銃身ガトリング砲 】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    統合戦術情報共有システム(ピュアP2P方式)
レベル×1体の【ELD-QMCV-Gr-21『クリーサ』】を召喚する。[ELD-QMCV-Gr-21『クリーサ』]は【集団運用を前提とした】属性の戦闘能力を持ち、十分な時間があれば城や街を築く。
WIZ   :    オプション兵装パッケージ群[RUBASHKA]
自身の【両腕部の武装 】を【現在の状況に合わせた最適な兵装】に変形する。攻撃力・攻撃回数・射程・装甲・移動力のうち、ひとつを5倍、ひとつを半分にする。

イラスト:Hispol

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●地獄の窯よ、開かれん
 |ソレ《・・》を何かに例えるならば、差し詰め『鉄の津波』と言ったところだろう。
 地形上では隘路だが、普通に行き来する分には決して狭くは無い筈の渓谷。簒奪者たる新体制と落伍者たる旧体制を隔てていたこの境界線はいま、夥しいほどの鉄量に埋め尽くされていた。
 渓谷の入り口付近に設けられた『新体制国』側の哨戒基地へと降り立った猟兵たちは挨拶もそこそこに司令部を間借りするや、不意の大規模侵攻に浮足立つ駐屯兵士たちを尻目に舞い込む情報の精査を始めてゆく。
 旧体制側の大部分を構成するのは量産型キャバリア、ELD-QMCV-Gr-21『クリーサ』。両腕がマニピュレータではなく三連の回転式銃身となっており、汎用的な機能の代わりに強力な火力投射を実現した機種である。
 構造が単純であり、生産や整備も安価かつ簡便。数を揃え、示された方向へ弾丸をばら撒く。一般市民を徴兵したせいで全体的に低下した練度を鑑みれば、最上ではないが最善の選択肢と言えよう。
 その間には随伴歩兵や補給物資を満載した兵員輸送車やトラック、『クリーサ』では難しい面制圧用と思しき自走砲が点在しているのが見えた。自走砲は兎も角、歩兵はいざ戦闘になればキャバリア援護の為に出張ってくる可能性が高い。歴戦の猟兵ならば脅威にもならぬが、どう『取り扱う』かによって行動の自由度は大きく変動するだろう。
 加えて、敵軍集団後方には有力な特機の反応が二機分、確認されている。敵主力の突破に成功すれば、交戦する事になる筈だ。どのような能力を持つのか現時点では不明だが、『旧体制国』側の切り札である事は想像に難くない。
 幸い、予知のお陰もあって『旧体制国』軍はまだ渓谷の半ばを過ぎた辺り。時間的余裕はある。速攻を仕掛けて進軍速度を遅らせるか、はたまた何らかの策を弄して大打撃を与えるか。望めば、哨戒基地に駐機されているキャバリアや装備を引っ張り出す事も可能だ。有効だと思われる手を自由に打ってほしい。
 さぁ、猟兵たちよ。勝利と破滅に憑りつかれた者共を押し留めるのだ。

※MSより
 プレイングは4日(火)8:30~より受付開始。
 第一章は集団戦。渓谷を進む『旧体制国』軍の大部隊を漸減となります。機体性能、操縦者の練度は高いと言い難いですが、兎にも角にも数が非常に多いです。加えて、歩兵を載せた兵員輸送車やや自走砲等の副戦力なども随伴しております。希望する場合には『新体制国』側の哨戒基地からキャバリアや装備を借用する事が可能です。
 それではどうぞよろしくお願い致します。
ノナ・レフティ
そこまでして、勝利を得られたとして、何の意味があるんですか

抵抗する敵は全て排除します
高度が取れず狭くても《翠雨》なら敵の砲弾を回避しつつ接近できるはずです
1発でも当たれば死ぬでしょうが、落ち着いて地形を観察し、遮蔽物を利用しながら進み、敵前衛のキャバリアや車両を荷電粒子砲で破壊します
撃破した敵機は新たな遮蔽物として使えそうです、利用させてもらいながら後続の敵も撃ちましょう
局地戦用機としての性能、発揮してみせます

抵抗せず、投降するのなら撃ちません
でも今回の敵は、勝利の為であれば何でもしてくる、でしょうね
損害を顧みない突撃や自爆を警戒し、緊急時には攻性パルスシールドで迎撃できるよう備えておきます



●国家とは、軍隊とは
 土埃を上げながら整然と進軍するキャバリア、兵員輸送車、自走火砲。途切れる事のないその車列は『国民全員を兵士とした』と言う事前説明を納得させ得る光景だった。それはある意味、壮観と言えよう。しかし、彼らと相対したノナ・レフティ(雨蛙・f45543)の胸中には別の感情が浮かび上がっている。
「国民も、基盤も、未来さえも軍事力へ。そこまでして、勝利を得られたとして……ソレに何の意味があるんですか」
 忠誠を誓うべき国家はとうに亡く、存在理由も定からぬ儘に流離うレプリカント。それがノナだ。そんな彼女の身上を鑑みれば、国の為に身を投げ打つ行為へ敬意を抱いてもおかしくは無い。にも拘らず間逆の感想を抱いてしまうのは、やはり『旧体制国』軍の歪な在り様故か。
「勝利とは到達点ではありません。それを『どう活用するか』が一番の肝です。これでは『ピュロスの勝利』ですらない。なのに、何故」
 歴史的な背景について既に説明は受けている。しかし、それだけで『旧体制国』に蓄積した鬱屈を完全に理解しろと言うのは酷だろう。だが、或いはそう。実際のところ、もしかしたら彼ら自身すらも分かっていないのかもしれない。
「……今は考えていても仕方ありません。猟兵としてこの場に立つのならば、その役目を果たすのみ。抵抗する敵は全て排除します」
 ともあれ事此処に至り、対話で済む相手でも無し。幸い、『旧体制国』軍はまだこちらに気付いていない。奇襲の優位を活かさぬ手は無いとばかりに、ノナは渓谷の断崖に沿って側面へと回り込む。
 全身を推力偏向フィールドで覆った彼女は速度だけならば鉄騎に匹敵していたものの、銃弾の一発でも命中すれば死は免れぬだろう。しかし、それなら当たらなければ良いだけの話だ。当然、少女も勝算あっての行動である。
(狙うべきは敵前衛部隊。キャバリアや車両を破壊することが出来れば、残った残骸が障害となって進軍速度が鈍ります。更に遮蔽物として利用できれば一石二鳥です。局地戦用機としての性能、発揮してみせましょう)
 狭い道を進む車列の先頭と最後尾を初手で撃破し、身動きの取れなくなった中団を確実に殲滅する。待ち伏せで多用されるその戦術を、ノナはこの戦場で再現しようというのだ。果たして、少女は無反動砲を肩へ担ぐや否や、先頭集団目がけて荷電粒子ビームを叩き込む。
『先導機の爆発を確認。直前に発光を認む……|簒奪者ども《・・・・・》の襲撃と推測』
『キャバリアは分隊毎に密集隊形を取れ。歩兵は兵員輸送車より降車。警戒体制へ移行せよ』
 元が銃座じみた機体故か、直撃を受けた機体は呆気なく爆散してゆく。敵軍も襲撃を悟ったようだが、漏れ聞こえる通信内容は異様なほどに平然としていた。浮足立つことも、撃破された僚機を慮る様子もなく、ただ淡々と迎撃行動に移行する。残存機体によるガトリング掃射と、その合間を縫って接近する歩兵の連携戦術だ。
『対象はキャバリアではなく生身と確認。数は1。歩兵戦力での対処を命ずる』
(撃破された操縦者の救出に動く様子がない。『戦闘中だからできない』ではなく、あれはそもそも『するつもりがない』。抵抗せず、大人しく投降するのなら撃ちませんが……今回の敵は、勝利の為であれば何でもしてくる、でしょうね)
 負傷者の救助に人手を割いてくれれば御の字と考えていたのだが、どうやらそう上手くはいかないらしい。それどころか一切の躊躇もなく、スクラップと化した友軍機ごとノナを蜂の巣にせんと銃弾を浴びせかけてくる。この様子では手心を加えるどころか、特攻や自爆の警戒をしなければなるまい。
(……表面上は無感情なのにその実、底冷えするような『何か』を抑え込んでいるような。そんな空恐ろしさを感じます)
 現に今もキャバリアの支援射撃を受けた歩兵部隊が迫りつつあるが、これも誤射の恐れが常に付き纏う。だと言うのに、キャバリアも歩兵も躊躇する素振りが一切なかった。損害を度外視した戦闘行動は、やはり少女には理解しがたいものだ。
 故にノナはいつでも防御用のパルスシールドを発動できるよう準備しながらも、歩兵を蹴散らすと同時に次なる鉄騎を撃破すべく、冷静に照準を合わせてゆくのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

村崎・ゆかり
イクシア(f37891)と

どっちもどっちとしか言いようがない情勢ね。それでも『旧体制国』の方がタチが悪いわ。国の全てを玉砕に注ぎ込もうってんだから。

イクシア、最前線まで連れてってね。
うん、ここでいい。

相対するは、ひとつの『国』。相手にとって不足はなし。
「全力魔法」炎の「属性攻撃」「範囲攻撃」「呪詛」「竜脈使い」で烈焔陣。
峡谷を炎の地獄に変えてあげる。
オブリビオンマシンに精神汚染されたわけでもなく狂気に走るなんて、もう処置無しね。情け容赦は無用。綺麗さっぱり燃え尽きなさい。
イクシアも、余計な情けはかけないようにね。
「オーラ防御」で反撃を防ぎつつ、呪詛の炎で『旧体制国』の軍勢を焼き尽くす。


イクシア・レイブラント
ゆかりさん(f01658)と
かつてはどちらの勢力にも最善を尽くそうとした人たちがいたとは思うけれど。
なんだか、やるせないね。
ゆかりさんを抱きかかえて[推力移動、滑空]で低空飛翔。
ドローンを展開し[情報収集]でゆかりさんの戦術に適した場所を探す。
ゆかりさん、ここでいい?

弾幕を防ぐため、私とゆかりさんの[護衛]としてシールドビットを展開、
【削り抉る電磁嵐】で敵機の動きを鈍らせて[時間稼ぎ】。
その間に烈焔陣で焼き払ってもらう。
わかってる。オブリビオンであろうとなかろうと、
悪意と狂気をもって他者の命や尊厳を踏みにじるというのなら、
それは私たちの敵。
アームドフォートで[砲撃]を行い、敵機を粉砕するよ。



●紫電紅蓮の地獄を征く
『全部隊に警戒警報。薄汚い簒奪者どもが我々の行動に気付いた。断続的な襲撃が予想される』
『進軍速度を上げよ。我らに後退する余地も、帰るべき故国も無い。進め。ただ、進め』
 先陣を切った猟兵の奇襲により、僅かながらに『旧体制国』軍の動きが鈍る。しかし彼らは誰も彼も生じた損害など意にも介さず、依然として渓谷の出口を目指し突き進んでゆく。犠牲も、後退も、生存すらも希求せぬ国家的軍隊。それはさながら、破滅へと自ら突き進むレミングの大群にも思えた。
「旧体制派は自らを追い落とした相手を簒奪者と呼んで。でも、新体制側が革命を起こしたのも国を糺す為で。かつてはどちらの勢力にも、最善を尽くそうとした人たちがいたとは思うけれど。なんだか、やるせないね」
「歴史的な背景を踏まえたとしても、こうなってしまったらもうどっちもどっちとしか言いようがない情勢ね。ただ、それでも『旧体制国』の方がタチが悪いわ。国の全てを玉砕に注ぎ込もうってんだから」
 そんな軍勢を目の当たりにして複雑そうな表情を浮かべるイクシア・レイブラント(翡翠色の機械天使・f37891)に対し、村崎・ゆかり(“|紫蘭《パープリッシュ・オーキッド》”/黒鴉遣い・f01658)は嘆息しながら首を振る。
 始まりこそ、お互いに大義や言い分もあっただろう。だが、それが此度の蛮行を許す理由にはなり得ない。『旧体制国』が取れる選択肢はきっと他にもあったのだ。しかし、ここまで歪みきってしまった以上は、交渉の余地すらも無かった。
 兎にも角にも、彼らは渓谷の通過を最優先としている。もしこの大戦力が解き放たれれば、それらを押し留める手段は『新体制国』は愚か猟兵にも存在しない。故にこそ、いま此処で彼らの足を止め、出来る限り数を減らさねばならぬ。
「……イクシア、最前線まで連れてってね。まずは頭を押さえなきゃ始まらないから」
「うん、分かったよ。ドローンで相手の動きも観察しておくけど、丁度いい場所があったら教えてね?」
 ただ個々の練度は置いておくとして、単純に圧倒的な数と言うのはやはり脅威である。そこで乙女たちは無為無策で挑むのではなく、数少ない優位である『地の利』を活用すべく低空飛行で渓谷内を飛翔してゆく。
 敵軍に捕捉されないように一定の距離を取りつつ、代わりにイクシアの展開したドローン群により刻一刻と変化する敵陣形を把握。ゆかりが狙う作戦に合致する地点を割り出そうとしていた。果たして、機械少女は少しばかり幅の狭くなっている地点を見つけ高度を下げた。
「ゆかりさん、ここでいい?」
「うん、ここでいい……相対するは、ひとつの『国』。相手にとって不足はなし。ただ、下準備を済ませる時間が有るかどうかだけれど、っと!」
 そうして着地した陰陽師は、早々に霊力を練り上げ始める。これだけの鉄量を相手取るには生半可な術式では荷が重い。しかし、強力な業を発動するには相応の刻が必要だ。それを確保し得るかと危惧した直後、彼女のすぐ脇を風切り音が通り過ぎてゆく。
『前方に不審な人物を確認。簒奪者どもの工作員である可能性大』
『歩兵であってもキャバリア級の戦闘能力を発揮する懸念有り。まずはガトリング掃射での排除を試みる』
 二人が降り立った場所は敵軍の進路上である。故に警戒態勢の前衛部隊に発見される可能性は当然あった。『旧体制国』軍は鉄騎で戦列を組ませるや、猟兵目掛けて弾幕を展開。元より接近戦を考慮していない機種である。まずは距離を取って制圧せんという考えだろう。
「そうはさせないよ! シールドビット展開、合わせてエネルギーを急速充電!」
 ゆかり単独であれば回避なり防御なりに意識を割かねばならなかったが、幸いにも頼れる仲間が居てくれた。イクシアは瞬時に反応するや、前面へサイキックエナジーによる障壁を形成。そうして銃撃を凌いでいる間に余剰動力を使って誘導弾を組み上げてゆく。
「FCS、オールグリーン。全弾射出! 幾ら構造が単純だとしても、キャバリアである以上は精密機器に頼っている筈。なら、これは覿面に効くよ!」
 斯くして、放たれた誘導弾の数は千を優に超える。それらは敵前衛部隊の頭上へ飛翔するや、炸裂と共に膨大な熱量と電磁波を撒き散らす。プラズマによる一種のEMP攻撃だ。相手の機種的に厳重な電磁防御など施してはいるまい。そんな予想を裏付けるように、銃撃が止むと同時に鉄騎たちは次々と沈黙していった。
『キャ、キャバリアが動かない……ッ!』
『歩兵部隊、下車。整備兵及び工兵はキャバリアの復旧を急げ。その間、敵対象は歩兵戦力にて対処せよ』
 これには流石の操縦者たちも浮足立つが、一方で部隊を束ねる指揮官は淡々と次の手を命ずる。必要であるとは言え、戦闘の真っ只中で生身の歩兵に修理を命じるなど正気の沙汰ではない。しかし、彼らはそれを是とする組織と化していた。
「オブリビオンマシンの影響も皆無ではないのだろうけれど。それ以上に繰り返されたプロパガンダや歪な歴史観のせいね。精神汚染されたわけでもなく狂気に走るなんて、もう処置無しよ。イクシアも、余計な情けはかけないようにね?」
「わかってる。オブリビオンであろうとなかろうと、悪意と狂気をもって他者の命や尊厳を踏みにじるというのなら……それは私たちの敵」
 端的に言ってしまえば、強固な洗脳とも呼べる。そういう意味では『旧体制国』の|国民《へいし》たちも被害者と言えるのだろう。だが生憎と彼女らは医者でなく、相対する者らも患者ではない。猟兵と兵士と言う関係である以上、交わされるものはただ一つ。捕虜にしたところで救われないのならば、全力以て叩き潰すのもまた慈悲か。
「古の絶陣の一を、我ここに呼び覚まさん。汚濁に染まりし三昧真火よ。天帝の赦しを持って封印より解き放たれ、地上を劫火の海と為せ。疾! 情け容赦は無用。綺麗さっぱり燃え尽きなさい!」
 イクシアの防戦により、ゆかりが準備を整える時間は稼ぐ事が出来た。彼女が祝詞を口遊み、締めの印を結んだ瞬間、練り上げられていた力が結実する。其れは渓谷の大地を割り、噴き上がる夥しい数の火柱。万物を焼き金属を溶かすほどの灼熱は、修理や迎撃に当たっていた兵士たちは無論、鉄の棺桶と化したキャバリアを宣言通り例外なく火葬してゆく。
 機甲生身の区別なきその所業は無慈悲にも見えよう。しかし、彼らを速やかに止める手段がこれしか残されていないのも事実。加えて、相手は歴史的な敗者ではあるが、ただ蹂躙されるだけの弱者でない事を彼女たちは見抜いていたのだ。
「っ!?」
 残骸を舐める業火と揺らめく陽炎の中、イクシアがチカと瞬いた閃光を見つけられたのもそんな心構えのお陰だろう。咄嗟に身を捩って大口径弾を避けながら視線を走らせると、その先にはぎこちない挙動ながらも砲口を向けてくる敵機の姿があった。その足元に転がった黒焦げの遺体を見て、彼女は相手が何をしたのかを悟る。
「まさか、あの業火の中で強引に修理を完了させるなんて……!」
「ええ、本当に……タチが悪いわね」
 電磁パルスに制御回路を灼かれ、高熱で機体を溶解させようとも。前へ、ひたすらに前へ。後退する事は許されず、また端から選択肢にも入っておらず。依然として進み続ける後衛により押し出されるが如く、鉄と人の群れは地獄の中を突き進む。
『……この程度の犠牲がどうした。この程度の痛みがどうした。我々はこれもよりも深い苦渋の底に永らく在ったのだ』
『今度こそ、勝利する。ただそれのみが、全てを解決するのだから』
 漏れ聞こえる無線通信に乗って届く、無機質な言葉。それは祈りの如く、呪詛の如く世界を蝕みながら、解き放たれる瞬間を目指して歩み続けるのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ヴィリー・フランツ
※追加装甲とバリア搭載のヘヴィタイフーンに搭乗
心情:⋯大公国や共和国の連中より救いがねぇ、ここまで来たらもう止められねぇや。
手段:【宇宙海兵強襲部隊】を地上展開、そして最近うちの部隊に新設した対装甲自走砲部隊も随伴させる、これで遠距離からの125mmレールガンでMBTやクリーサを叩き、海兵隊の携帯ロケットでAPC、IFV、レーザーライフルで随伴歩兵を叩ける。
俺は両肩の40mmAAガンで弾幕を張る、歩兵が取り付いたらRS電磁機関短銃『極光』で掃射する、何れにしても足を止めたらレールガンで吹き飛ばしてもらう。
陣形は俺が中央、海兵は左右に配置、自走砲は均等に配備、足りん所は他の猟兵に援護を頼もう。


エドゥアルト・ルーデル
まさにFloodが如く
テーマパークみたいだぜ!テンション上がるでござるなぁ~!

歩兵を1小隊ほど徴集でござる!新兵でいいぞ
狭隘地でござるからなぁ練度の低い奴らで弾使わせる気でござろう…こういうのは砲兵の効力射でまとめて吹き飛ばすのが一番すっきりするでござる

さあ諸君、こちらも地獄を作るぞ
という訳で架空兵器を作って遊ぼ!今日はP1500でござるよ!用があるのは800mm砲でござる…こいつは素敵だ、大好きだ
狭隘地のど真ん中に4.8t榴爆弾をぶち込もうぜ

次弾装填と後続が来る前に前衛の残骸を掃討でござるよ!さあ、歩兵隊諸君前へ
恐慌状態の新兵が辛うじて生き残った敵兵を何度も何度も刺突するのはたまらないなぁ



●火砲に勝る手段無し
『……このタイミングでの侵攻計画露呈は痛恨なれど、損害自体は許容の範囲内に留まる』
『総兵員数ならば、予想される簒奪者どもの常備戦力を超えているのだからな。最悪、|三分の一でも生き残れば《・・・・・・・・・・・》十分だ。それで、勝利できる』
 先に仕掛けた猟兵たちの攻撃は確かに苛烈だった。容赦や手加減などもあり得ない。だと言うのに、『旧体制国』軍は浮足立つことすらなく進軍を続けてゆく。仲間の骸を無慈悲に踏み砕き進むその姿は、死と言う概念を忘却したかの如き有様だった。
『正直、敵兵の生死は問わねぇと聞いた時、珍しく剣呑な物言いだと思ったが……なるほど、実際に相対すると納得ものだな。大公国や共和国の連中より救いがねぇ、ここまで来たらもう止められねぇや』
 ただでさえ重量級な機種にも拘らず、各種追加増設装甲と防御力場発生装置を備えたテンペスト社製キャバリア『HL-T10 ヘヴィタイフーンMk.Ⅹ』。愛機の操縦席から敵軍の姿を見たヴィリー・フランツ(スペースノイドの傭兵であり民間軍事請負会社のCEO・f27848)は、相対した存在が彼の良く知る軍隊とはまた別種の概念であると見抜いていた。
 アレらは軍隊と言う体裁を取ってこそいるが、その根幹は全くの別物だ、と。国家元首が狂気に呑まれた大公国とも、敗北を受け入れられず泥沼の消耗戦へ突き進もうとした共和国とも、似て非なる在り方である。
「Foo~! まさに|Flood《津波》が如く、どっかの赤い国を思わせる光景ですぞ~! まるでテーマパークみたいだぜ! テンション上がるでござるなぁ~! こんだけ派手な馬鹿騒ぎなら、一緒に踊らにゃ損々でござるよ~!」
 一方で真剣な面持ちの傭兵とは対照的に、エドゥアルト・ルーデル(黒髭・f10354)はいつもの如くむさ苦しい髭面にちょっとサイコパス染みた笑みを浮かべていた。一見すると軽薄にしか見えない態度だがその実、目だけは笑っていない。
「……ありゃあ、全員が全員ランボーちまってるようなモンだ。数十年も前の戦争を国全体でトラウマにしてやがる。反省だのなんだのじゃなく、より過激な方向にな。何も終わっちゃいないんだ、ってよ」
『残念ながら、生憎俺たちはカウンセラーの先生じゃないんだ。|痛み止め《モルヒネ》の代わりなんざ、|鉛玉《コレ》くらいしか持ち合わせがない。それにしたって、頭数が足りなさ過ぎる……となれば、だ』
 エドゥアルトの言葉に、ヴィリーは両肩部に装備した連装対空砲を揺らして見せる。敗戦直後の実際に戦った世代ならばいざ知らず、それ以降に生まれた者は伝聞でしか屈辱を知らぬ筈。にも拘らずこのような凶行に走らせた狂気を、生半可な手段で説き伏せる事は不可能だ。彼の言葉通り、強引にでも終わらせてやるしかない。
『……行くぞ、野郎ども。今日は死ぬには良い日だ。出し惜しみもするな。最近うちの部隊に新設した対装甲自走砲部隊も引っ張ってこい』
 果たして、傭兵が増援要請のシグナルを出すや否や、強襲揚陸挺が傍らへと強行着陸。ハッチが開くと同時に完全武装の宇宙海兵隊員が降車し、更には数両の自走砲までもが姿を見せる。
 相手も同種の兵器を保有しているが、この手の兵器は面制圧を主としており、使い方を誤れば味方を巻き込みかねない。そういう意味では、『旧体制国』側より数が少ない猟兵ならばその恐れも低いと言えるだろう。
「ふむふむ、どうやら考える事は同じでござるなぁ。という訳で、拙者も歩兵を1小隊ほど徴集でござる! あ、こっちは新兵でいいぞ。ひとつ、鉄と火の洗礼と洒落込むでござるよ」
 パチリと黒髭もまた指を鳴らせば、数十名ほどの歩兵が集結する。しかし、彼らの所作はヴィリーの呼び出した海兵隊と比べれば数段見劣りしてしまう。エドゥアルトの言葉通り、経験の浅さが見て取れた。一見すると不可解なチョイスだが、彼はこれで良いと怪しげな笑みを浮かべてゆく。
「さてさて、拙者たちだけ火砲が無いのもつまらないでござるし? 場所も狭隘地でござるからなぁ、連中も練度の低い奴らでこっちの弾使わせる気でござろう……となれば、こういうのは砲兵の効力射でまとめて吹き飛ばすのが一番すっきりするでござる」
 ――さあ諸君、こちらも地獄を作るぞ?
 どこぞの戦争狂じみた言動と共に男の背後が歪む。『ソレ』もまた戦争と言う極限下が生んだ狂気の一つ。次の瞬間、歴史に埋もれた荒唐無稽が顕現する。総重量1500トン、全長42m。計画のみで終わった筈の|怪物《モンスター》。
「という訳で、今日の架空兵器を作って遊ぼ!はラントクロイツァー P1500でござるよ!用があるのはこの800mm砲でござる。こいつは素敵だ、大好きだ。市街地なら区画ごと更地に出来る。さぁ、狭隘地のど真ん中に4.8t榴爆弾をぶち込もうぜ☆」
『随分とまた大物を出してきたな。だが、これで連中もこっちが何をするつもりなのか嫌でも悟るだろう。距離を詰められると厄介だ……っと、言った傍からか』
 デカいモノは強いが、同時に目立つ。『旧体制国』軍側の動きを観察していたヴィリーは、敵部隊全体の動きが慌ただしさを増すのに気づいた。鉄騎や歩兵部隊が距離を詰めるべく前に出る一方、後方では停止した自走砲群が砲の仰角を調整し始めている。先手を取って砲撃しつつ、懐に潜り込んでこちらの曲射弾道から逃れようという魂胆だろう。そうはさせまいと、猟兵側もすぐさま動く。
『125mmレールガンは|主力戦車《MBT》やクリーサを始めとする機甲戦力を、海兵隊は携帯ロケットで|装甲兵員輸送車《APC》や|歩兵戦闘車《APC》を、レーザーライフルは随伴歩兵を叩け』
「さぁ、行くでござる行くでござる! Feuer!」
 果たして、砲声が轟いたのは猟兵、『旧体制国』軍双方ともにほぼ同じであった。白煙と轟音が鳴り響く中、一拍の間を置いて断続的な爆発と共に大地が揺さぶられてゆく。海兵隊が操る電磁投射砲の直接射撃が正確に装甲兵器を撃ち抜き、エドゥアルトのP1500が放った榴爆弾により地形ごと派手に耕す。更には駄目押しとばかりに土煙の中へ無誘導弾や光線まで叩き込む念の入れようである。
「うーむ、この威力。絶頂すら覚える……って、うわっとと!? 遅れて連中の砲撃が着弾し始めたでござるよ!」
『一発一発の威力はこっちが上だが、やはり砲の数なら向こうが上手だな。それに、どうやらしぶとい連中も居たらしい』
 悠長に戦果を確認する間もなく、敵自走砲の放った砲弾が一拍遅れで猟兵たちへと襲い掛かり、少なからぬ損害を生じさせてゆく。地面を転げまわる黒髭を横目に見ながら、ヴィリーの視線は飽くまでも敵陣へと向いていた。砲撃後に何が行われるのかなど、問うまでも無い。果たして荒れ果てた大地を強引に踏破しながら、『旧体制国』のキャバリアたちが突撃を敢行する。
 どうやら、ガトリング砲以外の兵装を装備していた機種も居たらしい。彼らは砲の代わりに分厚い盾型装甲が取り付けられており、それで何とか砲撃を耐え切ったようだ。しかし当然、無傷とは言い難い。ほぼ半壊状態だが、その足元には無数の人影が見えた。
「はっ! 装甲兵器の背後に隠れながら歩兵が追従とは、教科書通りの戦術でござるなぁ! さあ、歩兵隊諸君は前へ。次弾装填と後続が来る前に前衛の残骸を掃討でござるよ! こっからは白兵戦の時間ですぞ~!」
 あれだけの砲撃を受けたにも関わらず、『旧体制国』軍の歩兵たちは一切の躊躇なく肉薄してゆく。一方、エドゥアルトは半ば茫然状態の新兵に檄を飛ばすや、彼らを率いて意気揚々と切り込みを掛けた。瞬く間に敵味方が入り乱れ、塹壕戦も斯くやといった泥臭い死闘があちこちで繰り広げられる。
「……恐慌状態の新兵が辛うじて生き残った敵兵を、何度も何度も刺突するのはたまらないなぁ。うん、感動的だ」
『イイ趣味してるな、おい。尤も、悪趣味さではあちらさんも相当だな』
 後方腕組みで新兵たちの戦い振りを見て頷く仲間に若干引きつつも、傭兵は両肩部の対空砲と手持ち式機関短銃で歩兵を掃討してゆく。もし相手がそれで怯めば、左右に展開した自走砲が再び火を噴き一切合切を吹き飛ばす。
 ここまで一方的な展開になれば、普通は多少なりとも勢いが減じるものだ。だがそんな定石を覆し、敵軍は飽くまでも数に任せて押し込まんとしてくる。更には耳朶を打つ再びの風切り音。まさかとヴィリーが頭上へ視線を向ければ、生き残った自走砲が敵味方諸共に砲火を浴びせたのだ。
『……生存とは闘争だ。日常は即ち戦争だ。ならば、何も恐れる必要はない』
『勝利以外は全て、無意味なのだから』
 減る一方の兵器も、補充の利かぬ戦友も、顧みる価値は無い。死体を踏みつけ、残骸を押し退け、味方すらも使い潰す。斯くして、|軍隊《こっか》と言う名の|国家《ぐんたい》はただひたすらにかつて失った勝利のみを希求してゆくのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

フリッツ・バーナー
背筋がゾクゾクする
大気が震える様な|狂気《歓喜》

──だが
〝おお、友よ、このような調べではない!〟
〝もっと心地よい歌を、歓喜に満ち溢れた歌を歌おうではないか!〟
(交響曲第九を口ずさむ)

満願成就の時が遂に来たのだろう?
|彼ら《旧体制国》にとっては、きっと望外の〝歓び〟であることだろう
私からも祝福を送ろう
共にその〝歓喜〟を分かち合おうではないか!

敵側の復讐を果たす歓びも
味方の|援軍《猟兵》が駆けつけた事への歓びも
いずれもバルバロッサを駆り立てるに足る歓喜のエネルギーだ

空間を引き裂き現れた機体に触れて一体化
戦場に渦巻く歓喜が、あるいは私自身の歓喜が尽きぬ限り、バルバロッサより放たれる衝撃波は止まらない



●歓喜を喚起せよ
『……先の砲撃までで、どれほど戦力を喪失した?』
『概算で一割強。負傷、中破以上を含めれば更に増えるだろう。なに、それでもまだ八割は残っている。戦闘遂行に支障はない』
『国家の残存人口の二割が消えても、か。だと言うのに恐怖や哀しみが浮かばないのは、やはりあの――』
 戦況は局所的に猟兵が優位に立つも、全体的には一進一退と言ったところか。小国とは言え、国家相当の兵数。倒しても倒しても、行軍の列が途切れる事は無い。その上、兵士たちは異様なまでの平静さを保っている。ある程度の訓練を受けているだろうとは言え、これは一種異様とも言えた。
 だが、それは彼らが無感情である事を意味しない。むしろ逆だ。怯懦を塗り潰すほどの『何か』。そんな胸中に抑圧されているであろう激情の残滓を感じ取ったのか、渓谷内へと足を踏み入れたフリッツ・バーナー(|武器商人《アンダーシャフト》・f41014)は小さく首を傾げる。
「ふむ? 些か違和感のある精神状態に思える。押し殺しているという訳では無いが、さりとて侵攻の熱狂に浮く様子も無い。原因は……最奥部の特機、か」
 戦争狂にして戦争屋、かつ権謀術数にも長ける性分ゆえか。フリッツは敵兵士たちの意識が進行方向とは真逆、彼らの後方へと流れている気配を感じ取る。事前情報に在った二機の特殊機体の内、どちらかが何かしらの精神的作用を齎しているのかもしれない。
「なんであれ、このまま仕掛けても別に問題は無いだろう……だが」
 ――それでは少しばかり、|勿体ない《・・・・》ではないか。
 男の紳士然とした装いを裏切る、愉悦めいた笑み。背筋をゾクゾクさせ、大気が震える様な|狂気《歓喜》こそがこの場に相応しい。故にこそ、フリッツは戦術的な理や利を投げ捨て、ただ感情を煽り掻き立てる為だけに敵軍の眼前へと身を晒す。
「〝おお、友よ、このような調べではない!〟、〝もっと心地よい歌を、歓喜に満ち溢れた歌を歌おうではないか!〟、〝さぁ抱き合おう、幾百万の人々よ! この口づけを世界中へと!〟」
 これまでの武力的な手段とは異なるアプローチ。警戒か、興味か。ほんの僅かにだが敵軍の進行速度が緩む。尤もいつもで攻撃可能なように銃口が向けられている為、安心できる要素など微塵も無かったのだが。それでも、男は何ら臆することなく朗々と言葉を紡ぎゆく。
「数十年にも渡る苦難を耐え忍び、満願成就の時が遂に来たのだろう? |君ら《旧体制国》にとって、この侵攻はきっと望外の〝歓び〟であることだろう。嗚呼、私からも祝福を送ろう……共にその〝歓喜〟を分かち合おうではないか!」
『……簒奪者どもの送り込んだプロパガンダか? 生憎、その手の話はそれこそ|聞き飽きている《・・・・・・・》んでな。構わん、さっさと叩き潰せ』
『だが、歓喜か。ならば、それに相応しい一撃を見舞ってやろう』
 対する『旧体制国』軍の反応は相変わらず渋いものだが、それでも何かしら感ずるところがあったらしい。通常のガトリング砲装備機の代わりに出て来たのは、マニピュレータと実大剣を備えた機種。察するに隊列内へ潜り込まれた際の迎撃機と、其れに対応可能な操縦者の組み合わせか。
 相手は大上段に得物を構え、此方が生身だというのに何の躊躇もなく斬り掛かって来た。瞬く間に影が広がり、巨大な質量が振り下ろされる。直撃すれば即死は不可避。だというのに、フリッツの笑みはますます深みを増していた。
「敵側の復讐を果たす歓びも、味方の|援軍《猟兵》がいまこの瞬間も向かいつつある歓びも……いずれも私が感ずるそれらは」
 ――バルバロッサを駆り立てるに足る歓喜のエネルギーだ。
 鋭く、しかして優雅に。男が指先を振るった刹那、遂に両者が接触する。直撃を確信するキャバリアの操縦者だったが、機体越しに伝わる手応えに違和感を覚える。感じ取れたのは潰れた肉と土の感触ではなく、金属めいた硬質感。其れはまるで、鉄騎の装甲そのものであり。
『待たせてしまったな。さぁ|告《うた》え、バルバロッサ』
『っ!?』
 咄嗟に飛び退こうとしても時すでに遅し。至近距離で巻き起こった衝撃波により機体は吹き飛ばされ、無残にも装甲とフレームが歪みひしゃげる。何が起こったのかと目を見張る敵軍が見たものは、フリッツと一体化しつつある|赤黒の凶機《オブリビオンマシン》の姿。
『もう我慢する必要はない。戦場に渦巻く歓喜が、あるいは私自身の歓喜が尽きぬ限り、止まる事はないのだから』
『っ、撃てぇッ!』
 斯くして暴力的な歓喜の調べと、幾重にも折り重なる銃声が渓谷内を満たしてゆく。その旋律を一身に浴びながら、男は闘争行為に耽溺してゆくのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

メサイア・エルネイジェ
たくさん活躍してたくさんご褒美をいただくのですわ~!
ご褒美はおマグロがよろしいですわ~!

ヴリちゃん!クロムジェノサイダーで参りますわよ~!

あら~!おクリーサがうじゃうじゃですわ~!
余計なのもうじゃうじゃしておりますわ!
さっそく撃ってきましたわ!
ヴリちゃんシールド!
避けられないなら防げばよろしいのですわ!
攻撃が痛いなら痛くないようにしてしまえばよろしいのですわ~!
わたくし天才ですわ~!いぇい!

そんなにお密になられてるとぶっ放したくなってしまいますわ!
ヴリちゃん!ジェノサイドバスt…ん?
なんですの?
おぶっぱしたら谷が崩れて生き埋めになる?
なるほど!ヴリちゃんは賢いですわね!

でもあちらはどんどん迫って来てますわよ?
まるで津波みたいですわ…はっ!
閃きましたわ!
津波を起こせばよろしいのですわ!
おコクピットからよっこらせっと…
無限ストロングチューハイ!
ストゼロの津波で押し流してしまえばよろしいのですわ~!
ちなみにお口から出てきますわ
ヴォエエエェェェー!
お水がないならお酒を飲めばよろしいのですわ~!



●酔わねば渡れぬ世の辛さ
 辛くも戦争屋を退けた『旧体制国』軍だったものの、相応の被害を受けるに至っていた。それは物的な意味だけでなく、精神的にも爪痕を残されたらしい。歓喜と言う感情について、少しばかり考えを巡らせている。
「……歓喜か。そんなモノ、とうに擦り切れている」
「もしも歓喜を得られる瞬間があるとすれば、それはあの簒奪者どもに勝利した時だろう」
 彼らの歴史的背景を考えれば、それが縁遠い概念である事は想像に難くない。狭い国土に人だけは密集し、資源も乏しくプラントの生産能力も貧弱。未来の展望も無く、日々をただ耐えるのみ。
 故にこそ、勝利を求めたのだ。それまでの不遇と苦難を帳消しに出来るほどの『勝利』を。どうやら、先の猟兵の行動は良きにしろ悪しきにしろ、彼らの乏しい情動を掻き立てたらしい。一刻も早く渓谷を抜け本願を遂げんと、行軍速度を上げたところで――。
『さぁ、今回もたくさん活躍してたくさんご褒美をいただくのですわ~! ご褒美はおマグロがよろしいですわ~! 岩ばかりの地形なのできっと石マグロとかですわ~!』
 ある意味で最高に頭ハッピーな手合いが来てしまった。場違いと言うよりジャンル違い、サプライズ忍者ならぬエルネイジェ皇女ことメサイア・エルネイジェ(暴竜皇女・f34656)である。因みに報奨を出してくれそうな『新体制国』側は未だに泡を食って援軍すら寄こさない体たらくなので、お望みの物が貰えるかは未知数である。ねだるな、勝ち取れ。
 尚そんなアーパーな発言とは裏腹に搭乗している機体はただでさえおっかない恐竜型かつ、|追加装甲《ラージシールド》と|圧殺切断機《ギロチンシザー》を装備したゴッリゴリの近接先仕様の為、ギャップのせいで風邪でも引きそうな温度差である。
『あら~! おクリーサがうじゃうじゃですわ~! なんか余計なのもうじゃうじゃしておりますわ! これ全部さっぱりさせてしまって良いのかしら~?』
「とりあえず撃て」
 確かに幸せそうなんだけど、たぶん何か違う。喜びについて詳しくなくても、本能的にアレな感じを悟ったのだろう。『旧体制国』軍はキャバリアを前面に押し出しつつ、後方の自走砲を展開。更には相手が白兵戦型と見るや、ガトリング砲をマニピュレータと実体剣に換装した機種も準備させる徹底ぶりである。
 果たして眼前からは夥しい数の大口径弾が、頭上からは曲射弾道を描いて飛来する徹甲弾が、禍々しき機龍目掛けて浴びせかけられてゆく。個々の機体性能は雲泥の差だが、備える火力は単騎に対して過剰極まりない。しかしそんな脅威を前にしても、メサイアが動じる様子は微塵も無かった。
『あらあらあら、さっそく撃ってきましたわ! それならヴリちゃんシールド! 避けられないなら防げばよろしいのですわ! 攻撃が痛いなら痛くないようにしてしまえばよろしいのですわ~! わたくし天才ですわ~! いぇい!』
 素晴らしい戦術だ。きっと雨が降ったら傘を差すレベルの偉大な発想だろう。それは兎も角として、ただ単に受けるのではなく、瞬時に攻撃の角度や密度を見極めて凌ぐ技術は流石と言ったところか。そうして装甲を打ち据える銃弾砲弾の音にちょっとばかりテンションが上がってしまったらしい。クワッと顎型ユニットを展開するや、内部に搭載された荷電粒子砲を稼働させ始めた。
『そんなにお密になられてるとぶっ放したくなってしまいますわ! お汚い花火にしてやりますわ~! という訳でヴリちゃん! ジェノサイドバスt……ん? なんですの?』
 景気よく敵を吹き飛ばそうとするのだが、その時モニター画面に警告が表示される。そこには攻撃時の予測影響範囲が示されており、端的に言えば『そんなモノを撃ったら左右の岩壁が崩壊し、敵諸共自滅する』との内容であった。
『おぶっぱしたら谷が崩れて生き埋めになる? なるほど、確かに! ヴリちゃんは賢いですわね~! あとで良い子良い子してあげましょう! でも、あちらはどんどん迫って来てますわよ? まるで津波みたいですわ……はっ!』
 操縦者が機体に待ったを掛けられるのはどうなんだと思わないでもないが、|まだ《・・》忠告を無視するほど熱狂に酔ってはいない。しかし、それはそれとして敵群をどうにかしなければならぬ。とは言え、チマチマと白兵戦で潰すのも手間だ。さてどうしたものかと暫し思案する最中、彼女は何かを思いついたらしい。非常に嫌な予感がする。
『閃きましたわ! 津波を起こせばよろしいのですわ! おコクピットからよっこらせっと……テッテレー、無限ストロングチューハイ!』
 案の定やりやがった。メサイアはキンッキンに冷えた度数9%のチューハイを取り出すと、あろうことか戦闘中だと言うのにぐびぐびと呑みだしたのだ。ご丁寧にその様子をオープン回線で生中継しており、敵兵士たちは|皇女《いじょうしゃ》の酒盛りを見せつけられる羽目になる。さて、それで彼女は思いついた妙案とはいったい何なのか、それは。
『ストゼロの津波で押し流してしまえばよろしいのですわ~! カラッカラの渓谷でお水がないなら、お酒を飲めばよろしいのですわ~! ああ、キンッキンに冷えておりますわ〜! ありがたいですわ、犯罪的ですわ! 美味しすぎますわ! お身体に染み込んできやがりますわ!』
「なにしてんだコイツ……」
 いや本当になにやってんだろうね。ただ比喩でも何でもなく、このアマは|本気《マジ》である。だから困っているんだ。機龍の顎ユニットが小刻みに開閉したかと思うや、何かこうキラキラした虹色の液体が吐き出され、宣言通り津波となって敵軍へと襲い掛かってゆく。
『おツマミが無いと酔いの回りがはや、ヴォエエエェェェー!』
「うわ汚ったね!?」
 これにはさしもの『旧体制国』軍も泡を食って後退せざるを得ない。苦渋苦難は覚悟の上だが、これは流石にこう、違うだろう。因みにこれは本当に吐いているのではなく、酒精を媒介とした幻覚術の一種だ。そういう事にしておく。でもこんな事態になるなら、素直に荷電粒子砲を撃っておけば良かったと思うのは間違っているのだろうか。
『吐いたらすっきりしましたわ~! これでまだまだ吞めますわ~! 勝利の前祝ですわ~!』
 斯くしてそんな虹色キラキラな地獄絵図を繰り広げながらも、メサイアは上機嫌に缶チューハイのプルタブを捻り続けるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ミハイル・グレヴィッチ
SIRDとして参加

敵は統制された狂気とでも言うか、この戦いに全てを注ぎ込んでやがる。ここまで来ると最早宗教だな。

戦術的セオリーからして、恐らくキャバリア部隊が突破の先陣、その後に歩兵を載せた装甲車両が雪崩れ込んで戦果拡張、自走砲はそれらの支援、ってところだな。大軍な上、しっかり|諸兵科連合《コンバインド・アームズ》組んでるのは褒めてやるが、裏を返せば獲物は取り放題、ってヤツだな。
そんじゃま、ゲップが出る迄喰らってやるか。

ストーラウスに搭乗して迎撃を行いつつ、タイミングを見計らってUCで渓谷の要所要所の崖に仕掛けたセムテックスを起爆。可能ならばキャバリア部隊と兵員輸送車群の分断を図る。こういうのは、部隊の連携を切り崩してやるのが効果的だ。後は渓谷の狭い地形を利用し、敵キャバリアを迎撃。テルモピュライのスパルタ兵になった気分だぜ。

キャバリアと自走砲を潰せば、後の歩兵は勝手に逃げ出すだろ。尤も、マトモな神経していれば、の話だが。立ち向かってくるなら容赦はしねぇ。まったく、戦争ってのは悲惨だぜ。


灯璃・ファルシュピーゲル
SIRD一員で参加
持参キャバリアで参戦

国家の問題は先ず個人と家庭から…追われた恥は解らなくも無いですが、
本当に再起しかったのなら、まず、武力を捨てても兵士達を大事な人達の元に帰してあげるべきでしたね。

まずは侵攻方向渓谷出口側で壁沿いにて機体を偽装隠蔽し狙撃態勢で待機、敵群がなるべく渓谷の狭い位置に入ったのを視認次第、先頭グループの指揮官機or通信担当を(戦闘知識)で動き・ポジションの取り方から推察し、機体駆動部・頭部を狙撃し、敵部隊の足を鈍らせ、部隊連携を阻害し味方の前衛部隊の動きを狙撃支援(スナイパー)

あるていど敵群の動きが鈍り次第、指定UCにて爆撃要請し、
渓谷左右斜面⇒敵先頭⇒敵後方で順次に誘導爆弾で反復爆撃し、
土砂を被せて動きを制限しつつ、ダメージを確実に与えるよう狙います。

自身は味方と連携しつつ、死角を補うよう狙撃監視支援し、
敵軍の継戦能力が著しく低下した時点で投降してくる様子なら警戒しつつ、保護に当たります。

※アドリブ・絡み歓迎


エルゴ・ルスツァイア
イクスフェルに搭乗

総力戦……懐かしい風だな。
この凶行、如何なる理由だろうと見過ごす訳にはいかない…が、言って止まる程浅い物じゃないだろうな。
……恨んでくれて構わない。

渓谷の崖上よりスモークを射出。同時にECMを展開。
生憎イクスフェルのスラスター推力は低い。高いフレーム強度を活かして岩肌を脚部で削りつつ降下を開始する。

目標を確認。脅威度の高いキャバリアを優先目標に設定。
セーフティ解除。攻撃を開始する!

マルチランチャーよりクラスター弾頭のミサイルを撃ち下ろし、着弾の衝撃が止まないうちにレールチェーンガンで狙撃。
近接兵装も有る事だし、着地後は攪乱に移ろうか。


ラムダ・マルチパーパス
SIRDの皆様方と共に参加

ははぁ、これはまた大軍ですねぇ。さしずめ、敵が七分に地面が三分、と言ったところでしょうか。

わたくしは支援射撃を行い、他の猟兵の皆様方が安心して戦闘に専念できる様敵の自走砲部隊を狙います。

遠距離観測用ドローンや各種レーダー・センサー、敵弾の飛来位置から敵自走砲の位置を特定、UCにて制圧射撃を試みます。

…射撃管制プログラム起動。各種観測データより敵自走砲陣地を|標定《プロット》。射撃方位及び仰角修正。弾種|榴弾《HE》。これより、|対砲迫射撃《カウンター・バッテリー・ファイア》を開始します。

敵自走砲群を壊滅もしくは大打撃を与えたら、順次他の敵に対し突撃破砕射撃を行います。


梶浦・陽臣
●WIZ対応
●絡みあり
●特務情報調査局として参加
「うわぁ、あれだけの数はさすがに初めて見るな……」

渓谷からやってくる旧体制国の軍勢を見て、思わず呟く。
個々の質は兎も角、数だけは今まで経験した戦いの中で一番の多さであった。

「だがあれだけ密集してくれてるんだったら……あれが使えるな。」

早速とある魔剣を生み出す。形状としては剣というより、ところどころに刃の意匠がある管楽器に近いであろうその魔剣。音属性の【魔刃楽器群】だ。

「それじゃあ、リサイタルの始まりだ!」

マウスピースに口をつけ、UC【魔刃楽器群・重低騒音】を発動。
【大声】での【楽器演奏】でもって、重圧効果を加えた【音響攻撃】を軍勢に放つ!



●どれほどの犠牲を払おうとも
『……良くない状況だ。損耗率はまだ何とか許容の範囲内だが、ジリジリと消耗しつつある。もはや我々には今しかないのだ。人も、資源も、補充の当てなどない。勝利する以外にはな』
『あの僅かばかりの領土から一歩も出る事も無く果てるなど、それこそ受け入れられない。我々は報われるべきだ。勝利するべきだ……行軍速度を上げろ。落伍者には構うな。この渓谷を抜ける事だけを優先せよ』
 断続的な猟兵による襲撃を以てしても、『旧体制国』側の残存戦力は依然として膨大だった。しかし、それは持ち得る人的物的資源を全て注ぎ込んだが故のもの。減る事はあっても増える事は無い。加えて今は彼らの望んだ決戦ですらない、単なる前段階の行軍だ。
『例え、道半ばで倒れたとしても|無駄にはならない《・・・・・・・・》』
 渓谷を踏破するまで、あと何度襲撃されるのか。その見通しも立たない以上、もはや時間を掛けてはいられないと判断したのだろう。襲い来る猟兵を迎撃するのではなく、多少の損害を無視して先に進むよう、指揮官階級が全軍へと指示を出す。
「うわぁ、あれだけの数はさすがに初めて見るな……ただ、だからこそこんな身動きの取れない場所に長居をしたくないって気持ちは分かる。尤も、突破なんぞさせてはやれないんだが」
「確かに、これはまた大軍ですねぇ。さしずめ、敵が七分に地面が三分、と言ったところでしょうか。渓谷と言う地形も相まって、まさにすし詰め状態といった有様で」
 渓谷両側に聳え立つ崖面の上。狭く細長い地形を一望できる位置に陣取っていた梶浦・陽臣(魔剣の鞘・f44426)とラムダ・マルチパーパス(ドロイドは電気羊の夢を見たい・f14492)は、揃って呆れ交じりの溜息を零す。
 個々の質は兎も角、量だけならば指折りと言えるだろう。そも、多くの国家では労働人口における兵士の割合は平均して1%台、極端に高くても5%が精々だ。例え小国と言えどもそれを100%にしたら、このような数にもなろう。
『総力戦……懐かしい風だな。尤も、ここまで振り切った勢力も珍しい。この凶行、如何なる理由だろうと見過ごす訳にはいかない……が、言って止まる程浅い物じゃないだろうな。その段階はきっと、敗北した数十年前に過ぎ去った』
 それだけの数を突き動かす狂気を前に、エルゴ・ルスツァイア(|強化継承体《インヘリット・クローン》・f40463)は一抹の寂寥感を滲ませる。だがもし仮に耳を貸す余地があったところで、結果は同じだろう。なにせ、明日を生きる為の子も、土地も、資源も、彼らは全て切り捨て使い潰したのだから。
『ああ。敵は統制された狂気とでも言うか、文字通りこの戦いに全てを注ぎ込んでやがる。ここまで来ると最早宗教だな。普通、上層部も民衆もどこかで建前と本音を使い分けるもんだが。元々あった下地が、オブリビオンマシンの侵食で爆発したのか?』
 カルト相手に対話は不可能だと、二脚戦車の操縦席からミハイル・グレヴィッチ(スェールイ・ヴォルク・f04316)も同意を示す。どこぞの将軍様だの元暗殺者だのが治める国とて、案外民衆は強かなものだ。それを考えれば、『旧体制国』の異様さが推し量れると言うものである。
『国家の問題は先ず個人と家庭から……権力の座を追われた恥は解らなくも無いですが、本当に再起しかったのなら、まず、武力を捨てても兵士達を大事な人達の元に帰してあげるべきでしたね。それこそ、数は力。雌伏を経て民衆の支持を取り戻せれば、また結果も変わったでしょうに』
 他方、仲間たちとはやや離れた位置に乗機を伏せさせ、狙撃レンズ越しに敵陣を観察していた灯璃・ファルシュピーゲル(Jagd hund der bund・f02585)もまた、そんな感想を漏らす。
 残存戦力を率いて脱出し、植民地で雌伏の時を経て返り咲いた例もあるにはある。しかし、それは援軍の当てがあったからこそ。籠城戦もそうだが、救援の見込みがない持久戦ほど悲惨なものは無いだろう。であるならば、一時の恥を忍ぶべしというのも一理あるやもしれぬ。とは言え、全ては後の祭りなのだが。
『さて。戦術的セオリーからして、恐らくキャバリア部隊が戦車代わりに突破の先陣、その後に歩兵を載せた装甲車両が雪崩れ込んで戦果拡張、自走砲はそれらの支援、ってところだな。大軍な上、しっかり|諸兵科連合《コンバインド・アームズ》を組んでるのは褒めてやるが、裏を返せば獲物は取り放題、ってヤツだな』
「地形的に奇襲に必要な迅速さと衝撃力を発揮しがたく、なおかつ遮蔽物に乏しいが故に射線を切って身を隠せない。とは言え、無為無策で突っ込めば数の暴力で磨り潰されてしまいますし……ここはいつも通り、連携戦術と参りましょうか」
 ミハイルの分析にラムダが捕捉を入れつつ、|特務情報調査局《SIRD》の面々は手短に作戦内容を打ち合わせてゆく。得意分野の異なる者らが五人も居るのだ。取れる選択肢は多い。

 斯くして大まかな段取りを共有し終えた後、まず最初に動いたのはエルゴだった。
(生憎イクスフェルのスラスター推力は低いが、代わりにフレーム強度が高い。岩肌を滑り降りる形であれば降下は可能……そちらにもそちらなりの大義と事情がある事は否定しないし、恨んでくれて構わない。だが闘争と言う手段を選んだ以上、これも戦場のならいだ)
 愛機たる『イクスフェル』に搭乗した彼女は崖上より敵隊列目掛けてスモークを散布。周囲一帯を白く染め上げると同時に、|電波妨害装置《ECM》も起動し電子的な目を潰す。そうして視界を奪った上で、彼女は岩壁を削りながら鉄騎による降下を開始してゆく。
『煙幕に電子戦……ッ!? 不味い、この密集した車列で方向感覚を喪えば、容易く連鎖的に衝突事故が発生する』
『止むを得ん。全隊、速度を落とせ。歩兵は降車し、目視で間隔確認と誘導を行え。総員警戒を怠るな、仕掛けてくるぞ!』
 対して、強行突破を目論んでいた『旧体制国』軍もこれには堪らず進軍を鈍らせざるを得ない。こうなればしめたものだ。視界が効かないのはSIRD側も同じだったが、此方からすれば周囲全てが敵である。即ち、当たるを幸いに薙ぎ払うのみ。
『脅威度の高いキャバリアを優先目標に設定。対象位置を再確認。全兵装のセーフティ解除……|攻撃を開始する《エンゲージ》!』
 背部に装備された多目的コンテナのハッチが開くや、内部より拡散誘導弾が放たれる。敵軍上空に差し掛かったそれらは内部に抱えた子弾を放出。周囲に展開していた歩兵ごと装甲戦力を吹き飛ばしてゆく。
『これは、上か! 飛行手段が無い故に我らもこんな渓谷を進むしかなかったと言うのに、奴らは殲禍炎剣が恐ろしくないのか!?』
 そこで漸く、敵軍も頭上を取られた事を悟り砲口を跳ね上げてゆく。ガトリング砲の連射速度は凄まじく、数十数百もの一斉射を浴びればひとたまりも無い。しかしエルゴは冷静にスラスターの推力を切り、更に落下速度を増す事により間一髪で弾幕の雨から逃れる。
 そうして敵陣の真っ只中へ降り立つと、続けざまに機体両腕部にマウントされた砲身を展開。電磁気・火薬複合型のチェーンガンで周囲を薙ぎ払い、手近な鉄騎は高熱刃で黙らせて行く。
『降下地点の確保完了。頭上への攻撃はこちらで抑えます』
『有難てぇ。それじゃあ、ゲップが出る迄喰らってやるか!』
 そうしてエルゴが幾ばくかの空白地帯を作り出し合図を出すや、続けてミハイルの二脚戦車『ストーラウス』が器用に滑り降りてくる。更にそのすぐ背後には二振りの魔剣を携えた陽臣の姿もあり、先行した仲間を孤立させてはならぬと駆けつけていった。
(煙幕で見通し辛いけど、本当に右も左も敵しかいないな。だがこれだけ密集してくれてるんだったら……『アレ』が使えるな)
 仲間が潰してくれたお陰で周囲に見えるキャバリアの数はやや少なめ。それを補うように兵員輸送車から降りた歩兵が展開しつつある。自走砲の類が見当たらないのは射程が異なる故か。携行式ロケット弾などを使えば味方の機甲戦力にも有効打を与えられる以上、たかが歩兵と侮る訳にはいかない。
 彼は手にした魔剣へ魔力を注ぎ込むと、その形状が急速に変化してゆく。それは武具としての剣ではなく、刃の意匠を備えた管楽器と言って良いシルエットであった。青年は様々な属性を帯びた魔剣を作り出す事が出来るのだが、此度の得物が司りしは音。陽臣はおもむろにマウスピースを口元へと引き寄せる。
「それじゃあ1発、派手に鳴らそうか! さぁ、リサイタルの始まりだ!」
 そうして息を吹き込むや、金管特有の重低音が鳴り響く。依然として煙幕に囚われた兵士たちにとって視覚でなく聴覚、即ち無線通信や声でのやり取りが非常に重要だ。しかし、たった一人が出しているとは思えぬ程の大音量は、容易くそれらの通信手段を塗り潰してしまう。
「くっ、なんだこれは。軍楽隊でも連れて来たのか!」
「だが、この煩さでは自分の居場所を喧伝しているようなものだ。すぐに黙らせて……ッ!?」
 だがそれは煙幕の利を殺し、自己の位置を露呈させてしまう恐れも孕んでいる。そんな危惧を裏付けるように敵歩兵が迎撃に動くも、彼らの足取りが急激に鈍ってゆく。終いには歩く事すら儘ならなくなり、何らかの異常に晒されているのは明白だった。
「キャバリアなんかには少しばかり効き目も悪いが、生身の歩兵なら効果覿面だ。それも、大量に居れば居るほどにな!」
『でかした。さぁて、そろそろ俺たちだけじゃなくて、他もおっ始めている頃合いか? いい塩梅の位置に追い込んでくれると助かるんだが』
 その原因は言うまでも無く、青年の奏でる旋律だ。音色に込められた呪いは聞いた者の活力を削ぎ、身動きを封ずる。こうなってしまえばこっちのもの。二脚戦車に搭乗したミハイルは両腕を盾や白兵武装に換装した敵部隊を着実に仕留めつつ、徐々に薄れ始めた煙幕の向こう側へと視線を向けた。主戦場となる此処以外でも、戦端が開かれつつあったのである。

「……おやおや。後方の自走砲部隊が動き始めましたね。ですが、あの様子はもしや」
 まず崖上へと視点を移せば、男たちを見送ったラムダが依然として待機していた。彼女は仲間が切り込みを掛けている間に遠距離観測用ドローンや各種レーダー・センサーを稼働させており、既に自走砲部隊の位置の割り出しを終えていたのだ。
 それらからリアルタイムで送られてくる映像には、それら火砲戦力が砲の仰角調整を行っている様子が映し出されている。明らかな射撃準備動作。だが問題はそれらが狙おうとしている場所には猟兵のみならず、『旧体制国』の戦力も入り乱れていると言う点だった。
「元より倫理観の破綻した集団とは知っていましたが、たまさか味方ごと吹き飛ばすつもりとは。我々一人を殺すのに、その十倍以上の友軍が吹き飛ぶでしょうに……それすらも|必要な犠牲《コラテラルダメージ》と割り切っているのでしょうか?」
 敵が同士討ちしてくれるのなら願ったり叶ったりだが、それで仲間に脅威が及ぶのは見過ごせぬ。幸い、自走砲群が砲撃を開始するまで暫しの猶予が有る。先手を取るならば今しかないと、ラムダは右肩部に装備された120mm口径カノン砲『M19サンダーロア』の照準を合わせゆく。
(……射撃管制プログラム起動。各種観測データより敵自走砲陣地を|標定《プロット》。射撃方位及び仰角修正。弾種|榴弾《HE》。一息に砲撃を叩き込む仕様上、外した場合は報復砲撃の恐れもあります。ですが普段なら兎も角、この渓谷内で迅速な陣地転換はまず難しいでしょう)
 高度な訓練と最新式の自走砲ならば砲撃から撤収までを僅か二分で完了させ、反撃される前に位置情報を隠蔽すると聞く。しかし、この密集した陣形では現在地からの移動も儘なるまい。である以上、歴戦の戦闘機械が狙いを外す事などあり得なかった。
「これより、|対砲迫射撃《カウンター・バッテリー・ファイア》を開始します」
 ――射撃開始。
 果たして、冷酷な宣告と共に榴弾が放たれる。自動給弾装置が唸りを上げ、間断なき砲声と夥しい数の薬きょうが撒き散らされてゆく。甲高い風切り音が遠のいて数秒後、自走砲群陣地から紅蓮を孕んだ黒煙が次々と立ち昇る。
「なんだ、砲撃だと!? いったいどこからだッ!」
「キャバリア部隊は何をやっている? 自走砲部隊を攻撃に晒すなッ!」
 自走砲は火力こそ高いが、反面受けに回ると脆い。それを避けるべく防衛用に鉄騎を招集し防御陣形を構築するも、射程の差は歴然。その上、ラムダもセオリー通り砲撃位置を適宜変更している為、居所を掴むのも至難の業であった。
(さて、隊列後方の砲兵戦力はだいぶ攪乱しましたが、あちらの煙幕効果もだいぶ薄れつつあるようですね。そうなってくると、再び突破を目論む手合いも出てくるとは思いますが)
 そうして敵火砲を着実に潰しつつ、ラムダは他の戦場へチラとアイカメラを向ける。戦場全体を覆っていた煙幕は風や爆発に吹き散らされ、視界が戻りつつあった。こうなれば当初の目論見である強行突破を再度試行する者も現れるだろう。だが、彼女に懸念の表情は無い。
「……まぁ、そちらはそちらでお任せして問題ないでしょうね」

(……来ましたね。数は分隊程度。恐らくは偵察も兼ねた先導役でしょうか)
 斯くして他方、渓谷入り口側の特に幅が狭まった地点。戦闘開始当初から猟狼の名を冠する乗機『JagdSköll』を岩壁沿いに潜ませていた灯璃は、淡い煙幕の中より飛び出す一群を捕捉していた。
 視界を奪われている間に何か仕込まれていないか懸念しているのだろう。排除可能であればそれを取り除き、問題なければ後続を招き入れる魂胆か。しかし、|この後の事《・・・・・》を考えれば、敵の隊列が伸びきってしまう状況は余り好ましくない。
(指揮官機ないし、通信を担当している機体は……恐らくあれですか。動きが他と異なる。取り敢えず一当てしてみましょう)
 進むか、退くか。その判断は当然部隊を率いる指揮官が下すものだ。その判断自体を潰すか、本隊へ報せる手段そのものを断ち切るか。灯璃は明らかに挙動が手慣れている機体へ目星を付けるや、照準を合わせる。
 彼女の主武装は命中精度の高い対装甲車両用機関砲を改造した、|消音装置《サイレンサー》付狙撃ライフル。その物々しい外見に反し、トリガーを作動させた際の感触は極めて滑らかかつ静粛だった。軽い空気音を感じた次の瞬間には、指揮官機は頭部を撃ち抜かれて半壊する。
『っ、砲撃、いや狙撃か!? どこだ、何処に居る!』
『敵の迎撃を、いや、まずはこの情報を伝えるのが……ッ』
 指揮官を倒された事で、『旧体制国』軍の急速な軍拡による悪影響が露呈してゆく。軍隊とは一日にして為らぬもの。だと言うのに一般市民を徴用して頭数のみを揃えた事で、命令には従えども自己判断も儘ならぬ練度の兵士が大量に生まれてしまったのである。結果、残された部下たちは何を優先すべきか分からず、ロクに狙いも付けぬままその場でガトリング砲を乱射することしか出来ない。
(下手な鉄砲でも数を撃てば当たる。流れ弾を貰っても詰まらないですし、混乱している間に駆動系を破壊して無力化してしまいましょう……さて)
 ともあれ、こうなってしまえば良い的だ。流れるような動作で脚部関節を撃ち抜き、残りの機体も全て擱座させてしまう。先頭からの連絡が途絶えたのならば、本隊側も脅威が存在すると判断しどう立ち回るべきか再検討に迫られるはず。
「……そろそろ頃合いですね」
 機は熟した。そう判断した灯璃は仲間への通信回線を開きつつ、別途何がしかの要請を発する。これから戦況は大きく動く。半ば確信めいた予想を抱きながら、彼女は狙撃地点を変えるべく機体を移動させてゆくのであった。

『そうかそうか、良いタイミングだ。よぉし、全員後退しろ。ポイントは既に共有済みだからな、巻き込まれるような下手は打つなよ!』
 狙撃手からの通信を受け取っていたのは、仲間と共に敵陣で暴れ回っていたミハイルであった。彼は敵群の間隙を強引に切り開くと、渓谷出口側へと向けて突破を図る。それに対し相手はまず足の速いキャバリアが追撃に動き、次いでその後を兵員輸送車が追従してゆく。そうなれば必然、両者は速度差から徐々に離れてしまい――。
『ま、こんなもんで良いだろう。さぁ、派手に吹き飛べ』
 刹那、砲撃などとは比べ物にならぬ轟音が響き渡る。と同時に、渓谷両側面の岩壁が爆発し大量の岩石や土砂を降り注がせてゆく。それらは不運な鉄騎や車両を呑み込み叩き潰し、うず高い小山と化して隘路を塞いでいった。
 その正体は傭兵が予め仕込んでいた高性能爆薬による崩壊だ。彼は敵陣へ切り込み注意を引きつけ、頃合いを見て爆薬の設置地点へと後退。起爆し土砂で道を塞ぐことで、目論見通り敵戦力の分断を図ったのだ。
『こ、これでは後続が!? 輸送車ではこの土砂を踏破できんぞ!』
『こういうのは、部隊の連携を切り崩してやるのが効果的だ。歩兵だけでも、機甲戦力だけでも、ってな。いやはや、テルモピュライのスパルタ兵になった気分だぜ』
 奇襲までは予測できても、ここまで念入りな破壊工作は想像し得なかったのだろう。キャバリアたちは背後に生まれた巨大な土砂の壁を振り返り、流石に狼狽した声を漏らす。だが、窮鼠猫を噛むとも言う。追い詰めたとしても決して油断してはならない、のだが。
『どうやら予定通り次も来たようだな。下手をすれば殲禍炎剣の標的にされかねないと言うのに。だが、発揮する火力は砲撃以上だ。頼もしい事この上ない』
 遠雷の如く、低い重低音が耳朶を打つ。今度は何だと狼狽える『旧体制国』軍は元より、予め打ち合わせて内容を知っていたエルゴを始めとする面々も思わず薄く苦笑を浮かべてしまう。彼女が振り返った先に見えたのは、渓谷スレスレの低空へと滑り込んで来る機影。戦闘機とはまた異なるその雄々しきシルエットは、紛れもなく爆撃機のソレであった。
 そう、これこそ先ほど灯璃が仲間への連絡とは別に発していた要請の正体。自立稼働する無人爆撃機による航空支援だ。敵の注目を引き、隘路に押し留め、土砂で分断し、爆撃で仕留める。その総仕上げが訪れようとしていた。
『っ、何をしている! 幸い相手は高度を下げているのだ、ガトリング砲の対空射で撃ち落とせッ!』
『CASorder…course Allgreen,――――― Bombs away』
 渓谷入り口側へ移動してきた仲間と合流しつつ、狙撃手は赤外線誘導による標的の指示を行う。そうはさせじと敵キャバリア部隊も必死に頭上へ向けて弾丸をばら撒くも、航空機が発揮し得る速度は陸上走行の比ではない。斯くして両者の距離は瞬く間に詰まり、巨大な物体が投下される。
『お、おおおおっ――!?』
 大型の誘導弾は敵先頭集団へと吸い込まれるや、中空で炸裂。既に堆積していた土砂諸共に敵軍戦力を木っ端微塵に粉砕してしまう。その威力と規模はこれまでの戦闘の中で最大と言って良い。その上、それだけでは終わらない。
『続けて、渓谷の左右斜面を発破して更なる障害物を形成。その次は敵後方へ爆撃を継続。反復攻撃により戦力を逃すことなく殲滅します』
 繰り返し、繰り返し行われる爆撃は渓谷と言う限られた空間を熱と衝撃で満たしてゆく。拾える無線通信ではノイズと寸断される断末魔に満ちており、崖上に居たラムダからはその惨状がありありと観察できる。必要であれば援護すべく通信を拾い集めていたものの、その必要が無いのは明らかだった。
「……敵ながら流石に同情致しますね、これは。かつて誰かが殲禍炎剣を打ち上げた気持ちが理解できそうな気分です」
『これで戦意を喪失し、投降してくれれば話が早いのですが。警戒すべきではありますが、保護の用意もありますので』
 先の煙幕とは比べ物にならない土煙が濛々と立ち込め、その隙間から炎の緋色が見え隠れする。復讐心が幾ら強かろうと、行動しているのは生身の人間だ。である以上、生存本能からは逃れられぬ筈。どうか折れてくれればと半ば祈る灯璃の言葉に、陽臣は引き攣った表情で首を振る。
「いや、そもそもこの状況でいったい何人が生き残って……ッ!?」
『……人間ってのは案外しぶといもんだ。とは言えキャバリアと自走砲を潰せば、後の歩兵は勝手に逃げ出すだろとは思っていた。尤もそいつは、マトモな神経していれば、の話だがな』
 青年は次の瞬間に視界へ飛び込んで来た光景に思わず絶句し、二脚戦車に搭乗した傭兵も呆れを通して苦笑を浮かべる。彼らが見たものは黒煙の中からゆっくりと姿を見せる『旧体制国』軍の姿。
「……止まれるか。終われるか。こんな場所で、負けたままで」
『だから……勝利しなければならない。本来得るはずだったものを』
 無論、無傷である筈がない。歩兵は全身が埃と血に塗れ傷だらけであり、キャバリアも装甲が紙屑のようにひしゃげている。だが彼らの所作や表情を見れば、それが投降者などではない事が一目瞭然だった。
「こんなになってまで、こいつらは……復讐を、したいのか」
『人間は家畜じゃねぇ。だから虐げられ続けると、どっかで尊厳の帳尻を合わせたがるんだよ。それが数十年分ならこうなるさ。だが、立ち向かってくるなら容赦はしねぇ。まったく、戦争ってのは悲惨だぜ』
 唖然とする陽臣の言葉に、割り切った口調のミハイルが各種武装の照準を合わせ直し、他の仲間たちもそれに倣う。この様子では見かけよりも生き残った敵戦力は多いだろう。斯くして、|特務情報調査局《SIRD》の面々は未だ終わりの見えない戦いへと引き続き身を投じてゆくのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

カグヤ・アルトニウス
○疫病鼠

この「狂気」は一種の「パニック」で感染するので新体制国に到達する前に食い止めたい…です
本来は記憶操作等で穏便に防ぐべきですけど、今回に限っては存在自体が脅威なので渓谷ごと削り取る事にします

アドリブ歓迎

(乗機)
マルミアドワーズ

(行動)
まずは、渓谷入口に移動
次いで渓谷内の味方に退避指示を発令
射線上に味方がいなくなったら渓谷よりやや大きめにトゥインクル・スターのゲート群を展開しUCを発動…

恐らく、この一射で地形ごと全てが渓谷ごと抉り取られ、運良く耐え切ったとしても時空間の槍によって渓谷の反対側に押し出される事になりますね
…まあ、普通はクロムキャバリアにおいてこの出力で撃つ事は無いのですけどね



●輝く聖槍、爆ぜ消える命
 高度な連携と強力な戦力を誇る猟兵部隊による、用意周到な殲滅戦。その戦果は凄まじく、それまで消耗しながらも辛うじて纏まった戦力を温存していた『旧体制国』軍は無視出来ぬ程の損害を被っていた。無事な兵員や兵器など存在せず、大なり小なりダメージを負っている。
『迫撃砲に爆破工作、更には航空機による重爆撃。ああ、多少の妨害はあると覚悟はしていた。だがまさかここまで苛烈とはな。全く以て見誤ったものよ』
『半数近くが戦闘不能にも関わらず、未だ渓谷の出口は遠い……だが、それがどうした。枯れ果てた故郷に帰るのか。打つ手なしと天を仰いで立ち止まるのか。そんなのは認めない。最期まで敗者であったなど、断じて』
 だがそれでも、軍勢は止まらない。合理性をかなぐり捨てた、強迫観念染みた勝利への執着。本来であれば撤退を選んで然るべき惨状を前に、渓谷内へと足を踏み入れたカグヤ・アルトニウス(とある辺境の|私掠宇宙海賊《プライベーティア》・f04065)は眉根を顰めゆく。
「この『狂気』はきっと一種の『|狂奔《パニック》』で、目の当たりにした誰かに感染する……だから新体制国に到達する前に食い止めたい、です」
 良きにしろ、悪しきにしろ。突き抜けた『何か』は周囲へと伝播し、影響を及ぼす。確かに敵軍は大きく数を減らしている。しかし誰かひとりでも渓谷を抜けて人里へと辿り着けば、いったいどうなるか。かつて或る思想家を輸出した結果、数十年後に世界情勢が一変した例を見ても分かると言うものだ。
「本来は記憶操作等で穏便に防ぐべきですけど、今回に限っては彼らの存在自体が脅威。心苦しいですが、渓谷ごと削り取る事にします。一人たりとも、逃しはしません」
 もはや、事此処に至りては選択の余地も無し。カグヤは全長約15mを誇る大型の探索用機動艇を呼び出すや、手早くその操縦席へと身体を滑り込ませてゆく。さっと計器類へと視線を走らせれば、幸いにも周囲に味方の反応は無い。居れば居たで連携が取れただろうが、これから行うことを考えれば巻き込む心配をする必要がないと言って良いか。
(射線上から退避して貰う手間が省けましたね。やや大きめにトゥインクル・スターのゲート群を展開して、と)
 カグヤが機体に搭載されたシステムを起動すると、周辺一帯の時空間が歪曲。異なる空間同士を繋げ合わせる事により、必中必殺の一撃への布石を一つ一つ仕込んでゆく。同時に艦載砲の照準を敵群へと定め、着実なる手順を経て不確定要素を排除する。
『ゲート展開、時空間位置補正、ロンゴミニアド出力補正…完了、転送位置確定、発射準備完了……恐らく、この一射で地形全てが渓谷ごと抉り取られ、運良く耐え切ったとしても渓谷の反対側に押し出される事になりますね。まあ、普通はクロムキャバリアにおいてこの出力で撃つ事は無いのですけど』
 螺旋を描く槍と化した疑似世界を投射する事により、射線上の存在全てを消滅させる必滅の聖槍。例え完全な状態の『旧体制国』軍であっても、耐え凌ぐのは至難の業であろう。しかし、その物々しい準備動作は敵軍に攻撃の予兆を察知させ、ほんの数秒ながらも、行動する猶予を与えてしまう。
『今度は何だ。もう、何が来ても驚かんぞ……尤も、ただ呆けてそれを座視するつもりはない』
『どうせ死ぬに変わりなければ、せめて一矢報いてやろう。少なくとも、負けたままにはなるまいよ』
 果たして砲撃の直前、数機のキャバリアが吶喊して来た。ガトリング砲を乱射してくるも、今さらその程度では砲撃を止める事など出来ない。だがその姿に不吉な予感を感じ取ったカグヤはトリガーを押し込まんとする寸前、彼らが何をしようとしているのかを悟る。
『オオオオオォッ!』
『まさか、これは……いえ、いきます!』
 回避も防御も捨て去った捨て身の突撃。そして、機体各所に搭載された四角や丸い容器の数々。それらに描かれた弾薬や燃料と言う文字を目の当たりにし、相手の狙いが命を投げ打った自爆特攻だと見抜いたのだ。
 果たして、艦載砲を放つと同時に至近距離で幾つもの鉄騎が紅蓮の華と散り消える。その直後、同時に起動した聖槍の一投が敵陣目掛けて振り下ろされるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

イザリス・アルセイン
旧きは新しきに淘汰されるのがあるべき定めだと私は考えている
今日もまたこうして命が代謝されてゆくのだろう
おっと、勘違いしないでくれたまえよ
私はギガス・ゴライアの実戦データを得る口実を探していただけだ
一研究者としてね
これから討伐される彼らを憂うつもりも、新旧体制のどちらにも口を挟むつもりもないよ
私が求めるのは戦いの舞台だ

さて、私はギガス・ゴライア・リダクトで行くとしよう

素晴らしい数だ
国家総力戦体制を敷いたのは虚勢ではないらしい
お陰で多数の敵との戦闘データが嫌というほど取れそうだ

地形的に真正面から砲撃を受ける事になるだろうね
ではパルスシールド限界駆動だ
悠々と前進しよう
シールドが無くとも、30ミリの弾ではアダマンチウムの装甲は抜けないがね

戦術は前進あるのみだ
火器は必要ない
あらゆる攻撃をハイパーパルスシールドと装甲で弾き返し、障害は踏み潰す
そのための巨躯と重量だ
道を封鎖するようにして進めば、取り溢しもないだろう

ギガス・ゴライアは戦場を蹂躙するために作られた機体だ
リダクトモデルでもそれは変わらないよ



●進歩とは進み歩む事なれば
『特攻とはまた、随分と命を張ったものよ……しかし、ああそうだ。我々に明日は無い。だが|次ならある《・・・・・》。それを想えば、命など惜しくは無い』
『その通り。まだ終わらない……このままでは、終われない』
 同胞の犠牲により、辛くも首の皮一枚で事態を凌いだ『旧体制国』軍。しかし、全滅の憂き目こそ免れたものの、戦力は当初より大きく落ち込んでいる。その状態でもそこらの戦闘部隊を超える規模を残しているのだから、元々の数の膨大さが推し量れると言うものだろう。加えて、何かしらの確信が彼らの士気を支えているらしかった。
「旧弊、新興……旧きは新しきに淘汰されるのがあるべき定めだと私は考えている。生命も、国家も、技術も。たゆまぬ適応と進化を繰り返しているのだから。故に今日もまた、こうして命が代謝されてゆくのだろう」
 そして、そんな『旧体制国』軍の様子を遠巻きに眺める者が居た。それはどこか気怠げな雰囲気を纏った女。イザリス・アルセイン(機械神への反逆者・f44962)は誰に言い訳するとでもなく、独白を口にしてゆく。
「おっと、勘違いしないでくれたまえよ。私はギガス・ゴライアの実戦データを得る口実を探していただけだ。只の一研究者としてね? これから討伐される彼らを憂うつもりも、新旧体制のどちらにも口を挟むつもりもないよ。人道も政治も門外漢さ」
 ――私が求めるのは|戦い《じっけん》の舞台だ。
 イザリスは兵士ではない。いま告げた通り、或る軍産複合企業体に属する研究畑の人間だ。人道がどうこう、新旧の大義名分がなんだと、そんなものに興味は無い。己の導き出した理論と組み上げた成果がどのような数値を示すのか。ただそれだけである。
「さて……私はギガス・ゴライア・リダクトで行くとしよう。丁度、比較データも取れそうだ」
 斯くして、彼女が此度選択した機体は黒鉄の機龍。奇しくもどっかの狂人、いや酔っ払い、もとい皇女が駆る乗機と酷似した姿。それもその筈、これはかの国で製造されたキャバリアの輸出仕様なのだ。いやしかし、似たような機種なのに乗り手が違うだけでこうも雰囲気が変わるのか。重ね重ね、温度差で風邪を引きそうである。
『些か目減りしてしまっているのは残念だが、それでも依然として素晴らしい数だ。これも元の母数ゆえだろう。国家総力戦体制を敷いたのは虚勢ではないらしい……お陰で多数の敵との戦闘データが嫌というほど取れそうだ』
 ともあれ、操縦席へと身体を滑り込ませたイザリスは改めて敵軍の陣容を把握してゆく。幸い、と言って良いのかはやや疑問だが、キャバリアのみならず自走砲や歩兵部隊もまだ健在だ。彼女は敵の多さに薄く笑みすら浮かべながら、悠然と機体を前進させる。
 一方、この機体の巨躯は非常に目立つ。その上、先に同系統機でやらかした者が居る為、『旧体制国』軍も迫り来るシルエットを視認した途端、俄かに警戒レベルを引き上げるのが見えた。まぁ、この反応も無理あるまい。
『ッ、あれは……自走砲、砲撃準備! 何かされる前に仕留めろッ!』
『キャバリア部隊も残弾は気にするな! これ以上の屈辱なぞ御免被る……ッ』
 間髪入れずに砲声が響き渡り、濃密な火線が機龍へと集中してゆく。それらを装甲で耐え凌ぐのも悪くは無かったが、此度の戦闘に際して色々と装備を詰め込んで来ていた。折角の機会なのだ、それらを試さぬ手は無い。
『では、先ずはパルスシールドを限界駆動だ。シールドが無くとも、30ミリの弾ではアダマンチウムの装甲は抜けないがね。過負荷までの耐久性能を調べるとしよう。手加減などせず、存分に撃ってくれ給えよ』
 機体を中心として球形上に展開されるエネルギー障壁。唸りを上げる銃弾も、至近距離で炸裂する砲弾も、半透明の力場を突き破る事が出来ない。ただ表層に細波の如き波紋を生み出すばかりだ。そうしてジリジリと、だが着実に彼我の距離が縮まってゆく。
『奴め、なんだ……ただ進んでいるだけじゃないか。攻撃するつもりがないのか?』
(……火器は必要ない。戦術は前進あるのみだ。今はとりあえず、それだけで事足りる)
 すぐ間近まで迫っていると言うのに、自発的に仕掛けてくる様子の無い相手に敵兵士は不可解さを覚える。しかし、彼らはすぐにそれが大きな勘違いであると思い知らされた。パルスとは短時間に幾度も繰り返される大きな電気の流れであり、衝撃電流とも呼ぶ。
 そう、電流だ。一見すると薄い膜の如き見た目だが、その実態は剥き出しの高圧電線のようなもの。それにキャバリアと言う精密機器、或いは水分を多分に含む人体が触れた場合、いったいどうなるか。初歩的な化学の問題である。
『ま、不味い!? 後退だ、後退しろッ!』
『いかん、自走砲の撤収がまだ……ぐわあああっ!』
 それが勝利に繋がるのならば、彼らは幾らでも命を投げ出そう。だが、これは違う。文字通り、飛んで火に入る夏の虫。紫電を迸らせる障壁に接触した瞬間、バチリと耳障りな音と共に機体が爆ぜ飛ぶ。触れてはならぬ。そう悟った『旧体制国』軍が慌てて後退しようとするが、一度組んだ陣形を崩すのは言うほど容易い事ではなかった。
 流れるように、とは程遠い。どこかが遅れれば瞬く間に澱みとなり、停滞と栓塞を生み出す。仮に左右へ避けたくとも、ここは渓谷のど真ん中。逃れる先などありはしない。ましてや言うまでも無く、眼前に活路を見出す事も不可能。幸運にもパルスシールドの内部へ潜り込めたとしても、機体そのものの装甲を突破する手段がない。
『道を封鎖するようにして進めば、取り溢しもないだろう。そのための巨躯と重量……ギガス・ゴライアは戦場を蹂躙するために作られた機体だ。例えリダクトモデルでもそれは変わらないよ』
『お、のれぇ……! 身動きの取れない兵器は放棄しろ、踏破可能なら同胞の屍を超えてでも下がれ! キャバリアを温存する事が最優先だ、歩兵には構うな!』
 斯くして、生まれるのは地獄絵図。押し合いへし合い装甲兵器同士が不協和音を奏で、それに挟まれた生身の兵士が断末魔すら上げられずに絶命する。辛うじて動ける鉄騎はそれらを足場とし、距離を取らんと藻掻き足掻く。
 ややもすれば、敵ながら同情したくなる光景だ。だが操縦席に収まったイザリスの目に映るのは、モニターに表示される観測結果やデータの文字列のみ。斯くして、動力限界を迎えるその瞬間まで、電磁力場を展開した機龍は悠然と渓谷を歩み進むのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ワタツミ・ラジアータ
もう少し早く知っていれば良い商売相手になったかもしれませんが、既に聞く耳はなさそうですわね。
旧体制側相手には商売は難しいと判断

新体制に敵物資を回収する許可を一応は取る
取れなくても無視するが
ジャンク屋として書き入れ時と判断
侵略機海として食事時と認識
自身のキャバリアに龍機型外装を装備し敵正面から殲滅と資源回収とバイキングを目論む

さてさて、集め放題に食べ放題ですわ。
しかもわざわざ追加までしてくださるとは上げ膳据え膳とはまさにこのことですわね
敵集団の中に吶喊、目につくキャバリアや兵器を捕食する
築かれた城や街も同様
キャバリアも良いですけれど建築物も偶には良いものですわね

食べれば食べるほど外装から生える砲塔は増え破損個所も砲塔に置き換わり、敵を壊し、さらにそれを捕食し続ける

生身の人間には全く興味はない
巻き込まれようが逃げようが気にしない
生身でない人間がいたら多少目こぼしはする

アレンジその他いろいろ歓迎



●無価値なるもの、余すことなく
『……これで兵数は一割以下にまで減少か。しかしそれ以上に致命的なのは物資面だ。明日どころか、今日の食事にすら事欠こう』
『今日を生き残れたら、な。ともあれ、糧秣、医薬品、衣服、弾薬、装備、補修部品、電子機器。一気に喪失しないよう、分散して運搬をさせていたのだが。ここまで蹂躙されれば、ロクに残っているまい』
 巨神の蹂躙を辛くも逃れた『旧体制国』だったものの、いよいよ以て追い詰められつつあった。ただでさえ目減りしていた兵員は当初の数を大きく下回り、通常であればとっくに全滅相当の有様。
 更には乾坤一擲を賭して根こそぎ持ち出してきた物資もまた、戦闘の余波を受けて吹き飛んでいる。自らの故郷を破棄したことで輸送車に乗せ随伴させていたのだが、それが完全に裏目に出た形だ。
『だが、遅かれ早かれこうなるとは思っていた。資源がなければ、奪うだけだ。その権利が我々には、ある』
『ふむ……物資不足、と。もう少し早く知っていれば良い商売相手になったかもしれませんが、既に聞く耳はなさそうですわね。仮にそうでなくとも、こちらも商売人である以上は略奪前提の方々をお客様とは見做せませんわ』
 そんな相手に商品を高値で売りつけるのが商売の醍醐味である一方、端から代金を払う気の無い相手では交渉もへったくれもない。どうやら商機はなさそうだと、ワタツミ・ラジアータ(Radiation ScrapSea・f31308)は詰まらなさそうに眼を細めゆく。それに、と。彼女は敵軍から視線を外し、惨憺たる渓谷内を見渡す。
『資源がないとは、また妙な物言いでございますわね。こんなにも散らばっていると言うのに。新体制国側からも一応は回収許可も頂けましたし、ジャンク屋としては絶好の書き入れ時ですわ』
 国家間の確執には露ほども興味がない一方、国一つ分の資源を丸ごと回収できるとなればワタツミが出張らぬ理由がない。渓谷内へと踏み込む前に目敏く『新体制国』軍の駐屯地へ話を通し、脅威の排除と引き換えに兵器の鹵獲やスクラップの回収許可を取り付けていたのである。
 この機械仕掛けの女神からすればキャバリアの残骸も、未だ炎上している自走砲も、飛び散った兵員輸送車の部品も、みな等しく御馳走だ。常の白くのっぺりとした鉄騎に、今回は物々しい龍機型外装を装備していることからも本気度が伺える。手を抜くつもりは無いが、内心は選り取り見取りのバイキングと言った気分だろう。
『成る程。何処の誰だかは知らんが、お前がハイエナ気取りの|漁り屋《スカヴェンジャー》だと言う事は分かった。随分と舐めてくれる』
『掠め取られるくらいならば、全て使い潰してくれよう。我々はずっと、本来享受すべき権利を奪われてきた……これ以上、奪わせるものかよ』
 対して、猟兵の物言いは様々な意味で『旧体制国』軍兵士たちの地雷を踏み抜くものだったらしい。みすみす渡してなるものかと、稼働可能な機体を根こそぎ動員して戦列を組み迎撃態勢を整える。尤も、ワタツミには元から人心を慮る機能なぞ無いに等しい。敵意殺意を向けられたところでどこ吹く風だ。
『さてさて、集め放題に食べ放題ですわ。しかもわざわざ追加までしてくださるとは上げ膳据え膳とはまさにこのことですわね。どれも良い塩梅に|ダメージが入って《火が通って》いるようですし』
『食あたりにでもさせてやろうか……ッ!』
 威勢の良い言葉とは裏腹に、敵軍が次にとった動きはある意味で堅実だった。彼らはこれまでの戦闘により、彼我の戦力差を嫌と言うほどに思い知らされている。加えて、強みで合った数の利はご覧の有様だ。故に軽々しく飛び出すのではなく、損壊した装甲兵器や散々に掘り返された地形を利用し、簡易的な防御陣地を構築。徹底抗戦の構えを示す。
『食あたり、ですか。どうかご心配なく……』
 ――皆様からの御馳走は、無駄には致しませんわ。
 しかし、そうした行為が通用するのは相手が同じ人間ならの話だ。残念ながら、侵略機海にとっては何をどうしようが単なるエサにしか見えない。果たして、龍を模した鉄騎が躊躇うことなく敵中へと吶喊してゆく。その獣じみた動きは正しく捕食者のソレ。途端に浴びせかけられるガトリング砲弾に装甲を削り取られようが、意に介する事はない。何故なら、補充の宛てなぞ周りに幾らでも転がっているのだから。
 バキリ、と。顎型ユニットを開いて躍りかかるや、遮蔽物ごと敵機の装甲へと食らいつき引き千切る。幾重にも噛み合った内部の歯車機構が回転率を上げ、破砕機の如く金属を砕き、咀嚼してゆく。『旧体制国』軍側も容赦なく味方ごと攻撃を叩き込むが、損傷する端から再生してしまう。
『キャバリアも良いですけれど、建築物も偶には良いものですわね。手持ちの資源を根こそぎ使用したせいか、元素の構成比も微妙に異なっていますし』
 まるで具材や産地を当てる美食家の如く、ワタツミは暢気にそんな事を口走る。そも、再三繰り返している通りこれは彼女にとって戦闘ではないのかもしれない。食事であり、仕入れであり、商機でもあるのだろう。
 だが、ジャンク屋ではなく猟兵としての役目も忘れてはいない。摂取した資源の余剰分を回して組み上げたのは、躯体より突き出た無数の砲塔。まるで出来の悪いオブジェの様に乱立しながらも、それらはグリグリと動き敵キャバリアを打ち抜いてゆく。
『ば、化け物め……こいつは簒奪者どもの手先じゃない。もっと厄介なナニかだ!?』
 『旧体制国』軍にとって幸運だったのは、この侵略機海が無機物にしか興味が無かった事だ。幸運にも脱出できた兵士までどうこうしようと言うつもりはなかったのだから。そして同時に不運だったのも、無機物にしか興味が無かった事だ。咀嚼する機体の操縦席にまだパイロットが残っていたとしても、気にしなかったのだから。
 もし仮に機械改造を施された者が居れば多少のお目溢しも期待できただろうが、どうやら『旧体制国』ではメジャーでなかったらしい。となれば、ワタツミが手と口を止める理由は存在しなかった。
『さて……お残しはお行儀が悪いですわね?』
 斯くして無尽蔵の食欲を満たすべく、機械仕掛けの女神は摂取可能な無機物が尽きるまで、捕食と破壊の終わりなきサイクルを繰り返してゆくのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 ボス戦 『人蔵愛憎喚造機・ファーニスニーファ』

POW   :    殺意鋳造
全身に【溜め込み続けた数百人分の殺意の黒い目】を帯び、戦場内全ての敵の行動を【呪殺ホーミングレーザー弾幕】で妨害可能になる。成功するとダメージと移動阻止。
SPD   :    憤怒鍛造
【溜め込み続けた憤怒】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【畳んだ両腕を怪力無双の両巨腕】に変化させ、殺傷力を増す。
WIZ   :    狂気製造
自身の【溜め込み続けた狂気】を代償に、【身長5mの発狂松明人間達】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【燃え爛れる肉片と肢体】で戦う。

イラスト:100

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は廿鸚・久枝です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●怨讐の逝きつく先
 ――『旧体制国』軍、全滅。
 これは被害判定上の話ではない。文字通り、指揮官から兵卒に至るまでの全て。動員したキャバリア、兵員輸送車、自走砲と言った装甲兵器全て。根こそぎ持ち込んできたあらゆる物資、その全て。
 例え県や州レベルの規模しかなかったとしても、その労働人口とイコールの人間が完全に消失した。兵器の残骸すらも或る猟兵により綺麗さっぱり回収されており、夥しい数の骸と抉り取られた地形のみが戦闘の凄惨さを伝えている。
 もし仮にこの惨状を見た者が居れば、何故ここまでと口にするかもしれない。なにも、ここまで徹底的に磨り潰す必要があったのかと。その問いに対し、砲火を交えた猟兵たちはきっと『是』であると断言するだろう。
 そも、『旧体制国』軍に撤退と言う選択肢は無かった。彼ら自身が故郷からあらゆる資源を搾り取り、もはや何も残っていなかったのだから。彼らに降伏や投降と言う選択肢も無かった。これまで『敗北』し続けて来た者たちは、これ以上の屈辱を受け入れる事など出来なかったのだから。
 故にこそ、残された選択肢は徹底的な殲滅のみであったのだ。

 しかし、その脅威は猟兵たちの手によって断たれた。渓谷を埋め尽くす軍勢も、もはや過去の存在である。だが、戦場に集った者らが緊張を緩める事は無い。彼らは事前説明の内容を、或いは戦闘中に見聞きした敵兵の言葉を鮮明に記憶していた。
 ――敵軍集団後方に有力な特機の反応を二機分確認。
 果たして警戒を続けていた猟兵らは、遠方にうっすらとした影を見つける。始めはぼんやりとしたシルエットでしかなかったが、急速に接近する『ソレ』の輪郭が鮮明さを得るにつれ、異常さを嫌が応にも理解してしまう。
 平均な鉄騎より遥かに巨大で、おおよそ兵器とは思えぬ異形の『何か』。装甲車を思わせる巨大な基部に、幾つも連結したクレーンじみたアームユニット。そして、その先端に取り付けられし能面。其れは前衛的な芸術品とも、子供が出鱈目に繋ぎ合わせた玩具にも思えた。
 ――ザ、ザザ、ザザザ、ザ…………
 穴を三つ開けただけの能面が猟兵たちを見下ろし、口に相当する穴からノイズ交じりのスピーカー音が聞こえて来る。すわ『新体制国』に対する恨み節か、それとも音響攻撃か、プロパガンダか。次の瞬間に聞こえて来た内容は、当たらずとも遠からずと言ったところであった。

 『ひもじい』『なぜ、こんな生活を送らねばならない』『あの時、勝利さえしていれば』『食料を寄こせ』『我々は悪くない』『戦争だ、戦争だ』『使えぬ赤子、老人は処分せよ』『反対は許されない』『おなかすいた』『殺せ』『大丈夫だ』『この絶望すらも糧になる』『勝利すれば取り返せる』『雪辱を果たせる』『本来得るべき繁栄を』『勝利を』『勝利を』『勝利を』。

 幾十、幾百、幾千もの折り重なった声、声、声。それは嘆きであり、怨嗟であり、怒りであり、切望であった。これは単なる兵器ではない。『旧体制国』の国民たちが数十年に渡って蓄積させてきたあらゆる負の感情、その集積装置。
 徴兵された新兵なのに恐怖を感じない訳である。そんなものは、此処に放り込んだのから。自らの死を恐れない訳である。斃れた後も報復する術はあると知っていたのだから。そうして様々な感情を垂れ流しながら、異形機は基部の車体前方より突如として業火を放つ。
 灼熱が倒れ伏した兵士たちの骸を呑み込んだ次の瞬間、驚くべき光景が現れる。まるで目を覚ましたかのように燃え盛る死体が起き上がり、ふらふらと歩き始めたのだ。死体たちの相貌は炎に覆われ、直視する事は叶わない。しかし、誰もが直感した。その視線は確実に自分たちへ向けられている、と。

 ――『我々』『は』『必ず』『勝利』『する』。

 異形機のスピーカーより告げられしは、徹底なる抗戦の遺志。死してなお諦めぬ怨嗟を止める術など、一つしか無いだろう。
 さぁ、猟兵たちよ。旧き者らの肉体、命のみならず、昏き遺志すらも断ち切るのだ。

※MSより
 プレイング受付は14日(金)朝8:30~より開始。
 第二章はボス戦、『旧体制国』の国民たちの思念を取り込んだ巨大な異形機との決戦となります。巨大な機体だけはなく、周囲を炎に包まれた死体がさ迷い歩いています。単体でキャバリアを破壊する程の力はありませんが、放置していると寄り集まり、数の暴力で脅威となるでしょう。(WIZ選択肢を選んだ場合は別途、それらが巨大な松明人間へと変じます)
 再送をお願いする可能性が高い為、恐れ入りますがその際はご協力いただけますと幸いです。
 それではどうぞよろしくお願い致します。
カグヤ・アルトニウス
○餌

アドリブ歓迎

まあ、ここまでは想定内ですね
国家レベルでこういった事をする場合、何らかの「切札」を用意する物ですけど、これはその為の「餌」の可能性がありますね
では、その「餌」を貪るのは旧体制の妖か現政府の闇か…本当の脅威を退ける迄は負けられません


(乗機)
ホワイト・レクイエム(乗換)

(行動)
まずは、抉られた峡谷を利用して間合いをとって全周囲からソードオブビクトリーのビームカノンモード×6で本体を、トゥインクル・スターのゲートから放つ多連装ロケット(吹雪弾/属性攻撃:吹雪)でレーザーを減衰しつつ周囲の死体を削りに掛かります
そして、腕を出したらUCで迎え撃ちます

まあ、当たれば結構削れそうですけどね…



●七虹と憎黒
 それまで夥しい数の敵兵士と装甲兵器で埋め尽くされていた渓谷が、いまは全く別種の光景へと変貌していた。松明の如く燃え盛りながら彷徨う骸たち。そして、その中央に鎮座する巨大かつ異形なる鉄騎。無機質な軍隊ではなく、どこかおどろおどろしい景色ではあるが、対するカグヤに動揺の色は無かった。
『……まあ、ここまでは想定内ですね。国家レベルでこういった事をする場合、何らかの「切札」を用意する物ですけど、これはその為の「餌」の可能性がありますね。大駒をこれみよがしに見せびらかし、本命はまた別にあると言うのは定番ですから』
 彼の脳裏に過ぎるのは、存在を推定されているもう一つの特機について。眼前の異形機がこのタイミングで出て来たのは分かる。アレは損害が増えれば増えるほどに力を増す手合いだ。故に全力が出せる状況を狙っていたのだろう。
 しかし、残る一機はどうなのか。友軍が壊滅の危機に晒されている最中も出てくることは無く、今この瞬間とて周囲に気配を感じない。どこか遠方で高みの見物でもしているのか、はたまた何かしらの謀略でも巡らせているのか。意図の分からぬ不気味さが感じられる。
『では、その「餌」を貪るのは旧体制の妖か、現政府の闇か、はたまた全くの別物か……本当の脅威を退ける迄は負けられません』
 真相がどうあれ、眼前の機体は片手間でいなせるような相手ではない。あれこれと考えるのは後。どのみち、これを倒せば自ずと答えは得られよう。カグヤはそれまで搭乗していた機動艇から降りるや、すぐ傍らに出現したキャバリアへと乗り換えてゆく。
『敵』『敵だ』『倒せ』『勝利の為に』
 白銀の装甲を纏いし『ホワイト・レクイエム』。その存在を脅威と見たか、はたまた単に目に付いただけか。異形機は折り畳まれていた両腕を展開。一瞬のうちにその質量を増大させるや、白銀機を叩き潰さんと拳を振るう。
(馬鹿正直に殴り合う必要はありません……ここは間合いをとって全周囲からソードオブビクトリーのビームカノンモードで本体を削ります!)
 それに付き合ってやるほど、猟兵もお人よしではない。紙一重で攻撃を避けつつ、一定の距離を保ちながら七基一組の念動兵器による射撃戦を図る。更には異空間内の兵器庫から多連装ロケット弾を射出。弾頭内に搭載した冷媒が空気と接触するや、氷の結晶と化して降り注ぐ。吹雪と化したそれらは周囲に蠢く焼死体たちを凍てつかせ、勢いを減じさせていった。
(動き回ってさえいれば、あの死体たちはそこまで脅威ではありません……ただ、本体は流石に硬いですね。あの巨躯は伊達ではないと。ビームカノンで埒が明かないとなれば、やはりこちらも奥の手を出さざるを得ませんか)
 一方、異形はこちらの攻撃を意にも介さず踏み込んできており、絶え間なく繰り出される拳撃によって機体が軋みを上げる。このままでは早晩、致命的な一撃を貰うだろう。なればと、カグヤは慎重に相手の動きを見極めてゆく。幸いにも異形機の動きに洗練された技術は無く、ただ嚇怒に突き動かされるままの荒々しい暴れっぷりだ。
『報いだ』『我々の苦渋を知れ』『寄こせ、全部寄こせ』
(一撃でも当たれば、結構削られそうですけどね……ですが、リスクを嫌って勝てる相手でもなさそうです)
 タイミングを見誤れば痛打は免れない。至近距離を通り過ぎる鉄柱の如き剛腕に内心冷や汗を覚えながら、両腕の動きを細かく観察する。それと同時に自機の腕部に霊力を集中。限界まで練り上げた末、振り下ろされた巨拳を紙一重で交わした、次の瞬間。
『これは……一度抜けば止める術は無いですけど、覚悟は如何ですか?』
 七色の輝線がどす黒い怨嗟の集合体へと叩き込まれる。浄化の力を纏った虹と、熾火の如く消える事のない復讐の炎。それらは鬩ぎ合い、鍔迫り合い、互いの力を相殺し合い、そして。
『ッ!?』
『おおお』『オオオオオ』『あぁああッ!?』
 行き場を失ったエネルギーの奔流は、爆発と共に双方を吹き飛ばすのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

村崎・ゆかり
イクシア(f37891)と

最低。吐き気がしそう。
数十年分の数百万人分の怨念を機械が溜め込むか。
たとえオブリビオンマシンでなくても、そんな代物は捨て置けない。
やるよ、イクシア。

敵が単騎なら、大仰な術式は不要ね。
「全力魔法」「精神攻撃」「法力攻撃」「破魔」「破邪」で返りの風。
あなたがこれまで垂れ流してきた呪詛を返すわ。因果応報。無意味な希望を断たれて絶望に沈め。

防御は「結界術」「オーラ防御」に「呪詛耐性」「狂気耐性」「環境耐性」「霊的防護」「浄化」「侵入阻止」を乗せ、糸状結界の防衛線を張る。
イクシアにも糸状結界付与。松明の始末は任せた!

あなた達の怨念とあたし達の「覚悟」、どちらが強いか証明する!


イクシア・レイブラント
ゆかりさん(f01658)
あの機体、戦場の兵士たちだけでなく
戦えない一般市民の怨念まで取り込んでいる。
境遇は察する。でも。
自分たちが不幸だからといって他を傷つける権利が生じると思い込むのは身勝手極まりない。

ゆかりさんの呼びかけに静かに頷き、エクスターミネイターを展開、
松明人間を巻き込んでファーニスニーファに【ジャッジメントレイ】を掃射。
すかさず[推力移動]で飛び込み、大型フォースブレイドを[武器巨大化]させて[なぎ払い]。
防御面は自身の[霊的防護、呪詛耐性、狂気耐性、邪心耐性]に加えて
ゆかりさんの結界がある。
物理攻撃は[戦闘演算、空中機動]を駆使して回避。
私たちの信念を以て、ここで破壊する。



●絡め取り、断ち切るべし
 ズゥゥン……、と。巨大な地響きと共に異形機の巨躯が渓谷内へ倒れ伏す。派手な光景ではあるが、その見た目ほどダメージは大きくあるまい。浄化の輝き一度浴びた程度で祓いきれるほど、『旧体制国』が蓄積させた怨嗟は軽くなかった。
『やられた』『酷い』『いつまでこんな境遇を』『まだだ』
「……最低。見ているだけで吐き気がしそう。数十年分の、数百万人分の怨念を機械が溜め込むか。ある意味、キャバリアを形代にした祟り神のようなもの。例えオブリビオンマシンでなくても、そんな代物は捨て置けない」
 両腕のマニピュレータを掻き動かし、まるで這うように藻掻く異形機の姿を目の当たりにして、ゆかりは嫌悪感も露に眉根を顰めゆく。それも無理は無いだろう。単なる外見や言動だけではない。呪術に通ずる者だからこそ、その内部より滲み出る醜悪さを肌身で感じ取れてしまうのだ。
「そうか。あの機体、戦場の兵士たちだけでなく、戦えない一般市民の怨念まで取り込んでいる。それも、数十年の間に斃れていった人たちの分まで。強いられた苦渋や、日々の境遇は察するよ。でも……」
 十年ひと昔、況や数十年もの年月をや。人が生まれ、寿命を迎えるには十分すぎる時間。無論、伝え聞く状況では天寿を迎えられた者がどれほど居たのか、推察するに余りあった。確かにその苦難には同情しよう。だがしかし、とイクシアは首を振る。
「だとしても、自分たちが不幸だからといって他を傷つける権利が生じると思い込むのは、余りにも身勝手極まりない。『新体制国』側だって、きっと当時を知る人も数えるほどしか……歴史的な問題と言ってしまえば、それまでだけれど」
「それこそ『だとしても』だわ。やるよ、イクシア」
 例え過去に何があったとしても、重要なのは今これから何が引き起こされようとしているのかについてだ。友人の迷いを断ち切るようにゆかりは立ち向かうことを促し、イクシアもまたその言葉へ静かに頷きを返す。
 人型機械は彼女の身の丈ほどもある大型砲を脇で抱え込むように構え、照準を異形機へと定めゆく。一方の陰陽師は霊力を束ねるや、それを細長い糸状へと変形させる。ちらと視線を周囲へ向ければ、ゆらゆらと幽鬼の如く燃える骸がにじり寄りつつあった。
「敵が単騎なら、大仰な術式は不要ね。周囲の燃え盛る死体たちも囲まれれば脅威だけれど、逆に言えばそれにさえ気を付ければ問題ないわ」
「突破口は私が開くから、後ろはお願い……鎧装騎兵イクシア、交戦を開始する!」
 果たして、まず先手を打ったのはイクシア。彼女は手にしたアームドフォートへエネルギーを注ぎ込むや、全周囲へ向けて極光を放つ。それは彼女たちを取り囲む屍人を押し返すと同時に、その光量で異形機の視界を焼き付かせることで此方の動きを隠蔽。そのまま一気に飛び出すと、敵機の懐へ飛び込んでゆく。
(……予想通り、キャバリアクラスなら兎も角、人間相手だとサイズ差が大きすぎて動きに追従し切れていない。こちらも一気に削り切るのは難しいけれど、このままであれば直撃を受ける心配は無し)
 それと同時にイクシアは得物を大型砲から念動剣へ持ち変えると、刀身を巨大化させての白兵戦に持ち込む。間近で見る異形機の姿は幾重にも組み合わさったフレームも相まって、聳え立つ鉄塔を思わせる。
 持ち前の推力でそれらを足場代わりとしながら、彼女は身動ぎする躯体へ斬撃を叩き込んでゆく。向こうが人ならば、こちらは羽虫と言ったサイズ感。一撃でも当たれば致命打は免れないが、逆に機械的な可動域では猟兵の動きを捉える事も難しい。
『馬鹿にしている』『見下すな』『焼け』『炎を、肉を、骨を』
 そんなもどかしさに苛立ちを覚えたのだろう。能面じみた頭部から呪詛が吐き出されると、周囲に蠢いていた屍人たちの動きが目に見えて変わりゆく。それまで無秩序に彷徨っていたソレらは幾つかの塊となるや、次の瞬間、全高五メートルほどの巨躯へと変貌する。
 それはさながら、生贄を抱えて燃え盛る|檻籠の巨人《ウィッカーマン》。松明人間は肉の燃える嫌な匂いを振りまきながら、限界以上の可動域を以てイクシアを捉えんと殺到。骨や腱の砕ける音、脂を舐める炎の熱が至近距離で迫り、堪らず顔を顰めてしまう、が。
「……急急如律令! 邪術左道によりて来たりしものどもよ。汝らの牙は主の喉に! 汝らの爪は主の心の臓に! 因と果は報い応じるものなれば! 疾く去ね!」
 その動きが突如として鈍り始める。何事かと目を凝らせば、先程ゆかりが編み上げていた霊力の糸がまるで蜘蛛の巣が如く渓谷に張り巡らされていた。邪霊の侵入を防ぐ結界であると同時に、呪詛を跳ね返す呪い返しの術。怨嗟の念を燃料として動く松明人間には正に効果覿面だ。
「あなたがこれまで垂れ流してきた呪詛を返すわ。因果応報よ。かつて他人に害され、今度は仕返しに災いを振りまこうとしている。そんな連鎖は見過ごせない。無意味な希望を断たれて、絶望に沈め。イクシア、松明の始末は任せた!」
 松明人間たちの維持に注力しているのか、異形機自体は戦闘行動を停止している。ならばこれ幸いにとそちらも糸状結界で身動きを封じると、差し当っての脅威を排除するよう陰陽師は仲間へと叫ぶ。相手が身動きを取れないのと同じように、ゆかりもまた松明人間の捕縛に手いっぱいだったのだ。
(何百年モノの怨霊と比べれば格落ちするけれど、塵も積もればなんとやら。数もそうだけれど、いったいどれ程の怨嗟を注ぎ込んだのかしらね……!)
 『旧体制国』がどんな日々を送っていたのかは分からぬが、結界の糸を通して伝わってくる感情は昏く、何よりも濃密だった。笑う門には福来るとは良く言うが、その逆も然り。陰気は悪縁を招き寄せ、更なる不幸を生むもの。コレは彼らによって報復の希望であると同時に、絶望の元凶でもあったのだろう。
『縛るな』『押し留めるな』『我らにまだ、あの穴倉に居ろと言うのか』
 一方、松明人間たちは鎧装騎兵を捉えるよりもまず、この邪魔な結界を張る陰陽師を排除すべきだと判断したらしい。結界の排斥力を強引に突破しながら、ゆかりへと手を伸ばし――。
「そうは、させない……ッ!」
 その腕が半ばより切断された。任された以上はその役目を果たして見せると、イクシアがすかさず反応したのである。よくよく見れば、彼女の身体にもゆかりの紡いだ糸状結界が巻かれていた。敵には破邪を、味方には加護を。これならば松明人間も恐れるに足りぬと、鎧装騎兵はそのまま燃え盛る骸を寸刻みに切り捨て、元の人間大の死体へと還してゆく。
『恨みは消えぬ』『得るべき富を手に入れるまで』『じゃまをするな』
 次々と操っていた松明人間が撃破され、そちらの維持に集中しなくて良くなったのだろう。業を煮やした異形機は強引に結界糸を引き千切りながら、少女たちへと襲い掛かる。だが彼女たちもまた、一歩も引くつもりなど無く。
「数も、時間も関係ない。私たちの信念を以て、ここで破壊する」
「あなた達の怨念とあたし達の『覚悟』、どちらが強いか証明する!」
 果たして、二つの意志と数多なる憎悪は双方一歩も引くことなく、真っ向から激突してゆくのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ノナ・レフティ
こんなことができるくらいなら、他にも選べる道が
……もう、ないんですね

敵の大型機を破壊します
誘導性能の高いレーザーを撃ち続けられたら長くは耐えられません、《翠雨》で回避しつつ接近を試みます
歩く死体は遮蔽物として扱い、大型機への接近のために役立ってもらいましょう
敵機に肉薄したところで攻性パルスシールド発動、続けて荷電粒子砲を撃ち込み畳み掛けます
自機の損傷など気にせずレーザーを撃ってきそうですが、距離を空けたら再接近が難しくなるだけ、離れるつもりはありません
至近距離からの攻撃を継続して押し切ります

無傷で切り抜けられる状況ではなさそうですが、最大火力は温存したいです
まだ1機、倒すべき敵がいますから


ヴィリー・フランツ
※手持ちをRS一六式自動騎兵歩槍に換装。
心情:恨み恨まれ数十年ってか、あんなのが国に取り憑いた時点で死人同然だったんだろうな。
手段:【海兵降下装甲小隊第46機動部隊】を5機召喚、アセンブリも同装備で良いだろ。
3機は俺とエレメントを組め、残りは|死人《デッドマン》を機関砲で掃討しろ、塵は塵にだ。
自走砲は後方からあの気持ち悪い特機を砲撃、死人が前線を突破して殺到したら12.7mmで掃除しとけ。
む?レーザーに当たると動けんか、だがコチラは元々足を止めての撃ち合いを想定してる、反撃の40mmAAガンと30mm騎兵歩槍で蜂の巣にしてやる、増加装甲とバリアで防御増々の機体、お前さんの恨みで貫けるか?



●何を見据え求めるか
『消えぬ』『晴れぬ』『勝利を得るまでは』『決して』
 巨大な異形機が雑音交じりの恨み節を垂れ流す。見た目こそアンバランスで粗末だが、単なる物理的な要素以上の頑健さを見せている。その理由が何なのか、猟兵たちは嫌が応にも思い知らされていた。
 恨み辛みとは決して削ぎ落とせぬ汚れの様なものだ。受けた恩は三日で忘れようとも、刻まれた仇は末代まで覚えているのが人間と言うものである。ましてや、それが国家規模。それが数十年。もうどちらに大義があるのかも関係ない。
「こんなことができるくらいなら、他にも選べる道が……いえ。もう、ないんですね。だから、投降しようとする兵士が誰も居なかった」
『恨み恨まれ数十年ってか、あんなのが国に取り憑いた時点で死人同然だったんだろうな。|回帰不能点《ポイント・オブ・ノーリターン》はとっくに通り過ぎた。ありゃもう、軍と言うより災害か何かと考えた方が良い。こっちの精神衛生的にもな』
 ある意味で痛ましい姿だ。複雑気な表情を浮かべるノナへ、ヴィリーもまたやるせないように首を振る。かたや、奉ずるべき国を亡くし。片や、戦場を流離う傭兵稼業。国家運営の是非を論ずる立場にはないが、その行く末の一つが『こう』だと目の当たりにし、流石に思うところがあったようだ。
『敵編成は化け物染みた巨大キャバリアに、人間松明と化した夥しい数の|死人《デッドマン》。脅威度で言えば圧倒的に前者だが、可燃物がそこらじゅうで動き回っているのも厄介か……よし。海兵降下装甲小隊|第46機動部隊《ヘルウォールズ》、仕事の時間だ』
 どう立ち回るにせよ、頭数が居るに越したことはあるまい。傭兵は麾下の戦力を招集。五機のヘヴィタイフーンMkⅩがそれに応じて馳せ参じる。元々が重装型の機種の為、搭載可能な兵装も豊富。近中遠、どの間合いでも対応可能な装備で身を固めていた。
「……私は別方向からあの大型機へ接近できないか試します。機動力で後れを取るつもりはありませんが、やはりキャバリアと生身では歩調も合わせにくいでしょう。幸い、紛れ込める障害物には事欠きませんので」
 一方でノナは先の戦闘時同様、自らの全身を推力偏向フィールドで覆ってゆく。あの異形なる鉄騎こそ非常に巨大だが、それ以外は銃火器も持っていない歩兵だけだと考えれば、先程よりも立ち回りやすいか。尤も、その全てが火達磨状態なので油断は禁物である。
「それにあれだけの巨体です。距離を取るよりも懐に飛び込んでしまった方がまだ安全でしょう。死体を使役しているのも、もしかしたら近接防御の代わりとしているのかもしれません」
『成る程、趣味は悪いが一応は考えているのか。なら、三機は俺とエレメントを組んで大物狙い。残りは友軍歩兵が肉薄しやすいよう、死人を機関砲で掃討しろ。塵は塵に、だ』
 お互いの特性は異なれど、組み合わせ次第では幾らでも手を考え付くものだ。少女が回り込むべく迂回を開始するのと同時に、傭兵の命令を受けた重装機が渓谷を埋め尽くす屍たちへと鉛弾を浴びせてゆく。防護ベストすら消失した生身でそれに耐え切れるはずも無く、血飛沫の代わりに火の粉を散らしながら爆散する。
(歩く死体は遮蔽物として扱い、大型機への接近のために役立ってもらいましょう。ですが、近づき過ぎも禁物。一体でも抱き着かれれば、そのまま火達磨になって仲間入りです)
 下手に空を飛べばすぐさま発見されてしまう。故にノナは敵群の隙間を縫うように疾駆してゆく。左右から延ばされる手を掻い潜り、一瞬たりとも足を止める事無く前へ。だが、チラと進行方向を確かめた際、彼女の背筋にゾクリと悪寒が駆け抜ける。
『こども』『もう居ない』『殺したから』『どうして』
「ッ……!?」
 ジッ、と。能面染みた頭部が、ぽっかりと開いた黒い三つの穴が、確かに猟兵へ視線を向けていた。機械に対してこう表現するのは些か奇妙だが、恐ろしく勘が鋭いと言えよう。目に当たる伽藍洞の穴、その奥底がうっすらと燐光を放つ。何か仕掛けてくる。対処すべきか、このまま距離を詰めるべきか。判断に迫られた、その時。
『戦闘中に余所見とは良い度胸だ。自走砲は後方からあの気持ち悪い特機を砲撃して、無理やりにでも視線をこっちへ向けさせろ。死人が前線を突破して殺到したら12.7mmで掃除しとけ』
 薄汚れた白い能面が横殴りに揺さぶられる。側頭部へ迫撃砲弾が直撃し、炸裂したのだ。ぐるりと異形機が頭部を巡らせれば、ヴィリー率いる重装機部隊が間髪入れずに火線を集中。援護も兼ねて重機関銃で屍人の群れも押し返す。
 脅威度を比較し、まずはこちらから黙らせるべきだと判断したのだろう。能面の眼窩にあたる穴が一瞬瞬いたかと思うや、どす黒い光線が第46機動部隊を襲う。予想に反して、高熱等は検知されない。しかしその一方、モニター画面や計器類は途端に多種多様な異常とエラーを吐き出し始め、機体の制御も覚束なくなる。
『む、バランサーに誤差? このレーザーに当たると動けんか……だが、コチラは元々足を止めての撃ち合いを想定してる。反撃の40mmAAガンと30mm騎兵歩槍で蜂の巣にしてやろう。増加装甲とバリアで防御増々の機体、お前さんの恨みで貫けるか?』
 とは言え、彼らの駆るヘヴィタイフーンは専ら拠点守備などに使用される機種だ。そのため、動けなくなったところで戦闘自体に大きな支障は無い。多少の不調もなんのその、手動やアナログ方式も併用し、固定砲台として引き続き火力を投射してゆく。
(……あちらに意識が向いたおかげで、私に対する圧力が弱まった。なら、このまま一気に仕掛けます)
 こうなってしまえば、ノナの行く手を阻むものは何もない。彼女は異形機を射程圏内へ捉えるや、攻性パルスシールドを発動しつつ無反動砲を肩に担ぐ。狙うべきは脆弱な個所。即ち基部の車輪や履帯、関節部といった装甲で覆えず、それでいて重量負荷の掛かりやすい部分。
 少女は素早く狙いをつけると、躊躇うことなくトリガーを押し込む。刹那、白百合色の荷電粒子が迸り、着弾個所を融解させる。相手の巨躯に比べればまだ微々たる範囲だが、蟻の一穴で千丈の堤も崩れ落ちるもの。彼女は攻撃後に離脱するのではなく、その場に踏み止まって砲撃を継続せんと考えていた。
(自機の損傷など気にせずレーザーを撃ってきそうですが、距離を空けたら再接近が難しくなるだけ、離れるつもりはありません。無傷で切り抜けられる状況ではなさそうですが、限界まで畳みかけます……!)
 これには堪らず傭兵部隊から視線を外し、少女を見下ろす異形機。間髪入れずに放たれた追尾式レーザーを振り切りながら、ノナは敵機に纏わりつくように動き回り、出来る限り目星をつけていた目標を破壊せんとする。
『子供を戦場へ』『やはり連中は悪辣』『我々は適切に処分を』
 その最中に頭上のスピーカーから漏れ聞こえる言葉は、断片的ながらも悍ましい内容。改めて周囲を盗み見れば、彷徨う人間松明はどれも成人に準ずる背丈ばかり。子供や老人をどう『処分』したのかなど、わざわざ知りたくも無かった。
「この大型機は確実に破壊したいですが……最大火力は温存したいです。まだ1機、倒すべき敵がいますから」
『なに、他にも駆けつけている連中が居るからな。仕事はきっちり果たすが、無理は必要ねぇ。兵士と違って、命を拾って帰るのが傭兵だ』
 歩き回る死体の数を減らし、異形機へ着実に損傷を与える。いまはそれだけで十二分だろう。斯くして少女と傭兵は自らの攻勢限界を見極めながら、可能な限りのダメージを与えてゆくのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

カシム・ディーン
機神搭乗
……こいつは地獄か
もうこんなの見たくなかったんだがな…
「ご主人サマ…もうここには怨念しかないよ…」
仕方ねーよ
止まれなかったんだろ
もう…勝っても何も残らねー…救いがねーな…
UC発動中
【戦闘知識・情報収集・視力】
敵機と松明人間の状態と状況を解析

そして彼らが奪われたもの

【空中戦・念動力・弾幕・属性攻撃・浄化】
速足で駆けるもの発動
超絶速度で飛び回り念動光弾を叩き込み松明人間達ごとその動きを封じて
竜眼魔弾発動
心光浄化属性を込めた弾丸の弾幕を展開
敵機と松明人間達に等しく叩き込み
焼きまんじゅうやおっきりこみとかひもかわうどんとか水沢うどんとか美味しいご飯の記憶を叩き込みつつその怨念や狂気の浄化を試みる

悔恨と怨念……そいつを晴らしてやることはもうできねぇ
ならせめて…もう少し気分良く眠らせてやるよ…
もう何もする必要はねぇよ
お前らはもう終わったんだ
…………もう終わらせたかったんだろ?
だからお前らは全てを捨てた
耐えられなかったんだろう?

【二回攻撃・切断】
浄化属性を込めた鎌剣での超連続斬撃

だから……眠れ



●怨み、晴れる時は
 どうして、こんな事になってしまったのか。どこかで立ち止まり、顧みるタイミングは無かったのか。そんな『|もしも《イフ》』を考え出せば切りがない。問題はいま、この瞬間に起こっていることについて。
 燃え尽きた黒焦げの骸を横目に、ゆっくりと渓谷の出口を目指して進む人間松明の群れ。その中心で能面染みた頭部を小刻みに動かす異形機。白銀の神機に搭乗し戦場へと駆けつけたカシム・ディーン(小さな竜眼・f12217)は、その現実離れした光景を前に痛むような独白を零す。
『敗北して、夢も希望も無いまま狭い領土に引き籠り。恨み辛みだけを蓄積させて、その果てに赤子や老人すらも手に掛けて……ああ、こいつが地獄か。もう、こんなの見たくなかったんだがな』
『ご主人サマ……もうここには怨念しかないよ。一応、同じキャバリアと言う括りだから分かる。アレに意志なんてない。あれは、ただの』
 機体の人格たる少女もまた、半ば怯えたように操縦者の言葉に頷く。何百、何千、何万。それだけの感情が混ざり合って、個々の意識を保てるはずなど無い。一つ一つは違う色の絵の具も、それを纏めて一緒くたにすればどうなるか。出来上がるのは彩りも何もないどす黒さのみ。端的に言えば、あの異形機の裡はそんな有様なのだろう。
『仕方ねーよ。例え我に返ったところで、止まれなかったんだろ。もう……勝っても何も残らねー……どう立ち回っても、救いがねーな』
 諦念を溜息と共に吐き出しながら操縦モニターへ視線を落とせば、少女の言葉を裏付ける数値や結果が躍っている。周囲に蠢く焼死体からは生体反応を検出できず、異形機に至っては分析結果がエラーを吐く始末。重ね重ね、まともではない。
(勝利、勝利、勝利、ね。得たいと願ったもの……そして、彼らが奪われたもの。まぁ、半分当て推量でしかないけどな)
 そうこうしているうちに、燃え盛る骸が再び集合してゆく。互いの肉を押し付け、複雑に絡み合い、瞬く間に人間大から鉄騎へ匹敵するサイズに変貌する。この状態でも炎は燃え続けており、当然ながら通常の物理現象では収まるまい。
『切った張ったの肉弾戦は最後の手段だな。アレと取っ組み合いをすれば、恐らくタダじゃ済まねぇ……それで良いよな、メルシー?』
『……うん。それが良いかな、ご主人サマ。あの中に引きずり込まれるのはきっと、苦しいから』
 方針は決まった。ならば後は行動あるのみだ。こちらに襲い掛かって来る松明人間たちを前に、カシムは冷静に機体に搭載された加速装置を起動。静止状態から瞬時に最高速度まで引き上げるや、包囲網を突破して速やかに距離を取った。
(高度を取れば攻撃される心配は無いが、その場合はまず間違いなく殲禍炎剣に叩き落とされる。かと言って左右は断崖絶壁、後退したら渓谷を突破される可能性が大、と。まずは足を止めるのが最優先だな)
 渓谷は巨大なものだが、キャバリアで機動戦をするにはやや手狭である。なればと、盗賊は機体周囲へ光弾を形成。それらの弾幕を以て松明人間たちを押し留めてゆく。しかし着弾こそしているものの、そこまで有効打になっている様子には見えない。
 やはり松明人間が纏う炎は彼ら自身の呪詛を燃料として燃え盛っているのだろう。それが結果的に魔術的な効力を半減させている可能性は大いにある。しかしカシムはそれに不快感を示すどころか、相手がこちらの攻撃を避けない様子に確信を抱く。
『ちょっと試したいことがあるんだ。メルシーも手伝ってくれるか?』
『もっちろんだよ、ご主人サマ!』
 ほんの僅かに口角を上げながら尋ねると、返ってくるのは青年に合わせて調子を上げてくれる少女の声。彼は再び数百を超える魔力弾を生み出すと、今度は松明人間のみならず本体である異形機にまでも狙いを定め、放つ。
 一方の松明人間側も先の被弾を受け、そこまで警戒する必要はないと判断したのだろう。襲い来るそれらを防ぐ素振りも無く真っ向から受け止め、そのまま逃げ回る白銀機を捉えようとする、のだが。
『な、んだ?』『これは』『りょう、り』『なぜ?』
 不意に彼らの動きが停止する。立ち止まり、頭や体を揺らしてゆく。だが、ダメージを受けた訳ではない。どちらかと言えば、その反応は困惑だ。猟兵の放った魔力弾により、どす黒い怨嗟の中へ新たな感情が投じられた。果たして、その正体とは。
『焼きまんじゅうやおっきりこみとか、ひもかわうどんとか水沢うどんとか。知らない料理ばかりだろうけど、どれも美味しそうだろ?』
 料理の記憶。カシム自身が食べて来た、美味しいと思えたもの。チョイスが未開扱いされがちな土地の名物ばかりなのかは謎だが、何もふざけている訳では無い。人が抱く不満の大半は衣食住に関わる内容が大半。とりわけ、食うや食わずの恨みは大きいものだ。現物を食わせてやる事は出来ないが、代わりにその記憶を共有する事で少しでも浄化を試みたかったのである。
『雨風を凌げる場所がないのも、襤褸しか切れないのも辛いけどよ。自分で言ってたろ。「ひもじい」「食料を寄こせ」「おなかすいた」って。腹を満たせないのが、一番堪えるもんな』
 異形機が姿を見せた際に吐いた言葉を、盗賊は耳聡く記憶していたのだ。だからこそ、この奇策とも呼べる一手を打った。その結果は御覧の通り。先ほどまでの暴れっぷりが嘘のように、松明人間は棒立ちと化している。
『あったかい』『騙されるな、こんなもの』『だが、これも』
『悔恨と怨念……そいつを晴らしてやることはもうできねぇ。だけど、最後の最後まで敗者で終わらせるのも忍びない。ならせめて……もう少し気分良く眠らせてやるよ。もう何もする必要はねぇよ。お前らはもう終わったんだ』
 ――もう終わらせたかったんだろ?
 葛藤の言葉を吐く異形機や松明人間へ、青年はそう問いかける。そも、仮に此度の侵攻が成功していたとして、『旧体制国』に先は無い。衰退の一途を辿ってゆく現状に耐え切れず、未来を捨てて、いまだけを追い求めた。せめて最後に徒花を咲かせん、と。きっと、その結果がこれなのだ。
 白銀の神機は鎌剣を大きく振り被る。それは罪人の首を断つ処刑者とも、或いは死者を導く冥神にも思えた。得物を振り下ろす寸前、カシムは一瞬だけ目を瞑り、そして。
『だから、もう……眠れ』
 目にも止まらぬ、超高速の連続斬撃。それらは松明人間たちの頸を断ち落とすや、元の骸として葬ってやるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

エドゥアルト・ルーデル
死んでも燃え続けるとか永久機関でござるじゃん!それ燃料にすりゃ永遠に闘争できただろ!

引き続き新兵を率いて戦場へGO!君達はああいうシケた思考しちゃダメだぞ
という訳で戦場での心得!エンジョイ&エキサイティング!忘れちゃだめだよ
理解ったら燃えてる奴らを殲滅しなさい殺せなかったらお前ら仲間に入れて貰えるでござろう

あのデカい|前衛芸術《粗大ゴミ》野郎はまあ…適当に処しとけばいいだろ
近接しかしなさそうだし脆そうな所見てグラビティで爆破だ!関節ゴッツァン!足まわりゴッツァン!ゴッツァン!ゴッツァン!ゴッツァン!
今は新兵共の奮闘が見たいんだよ!生と死の狭間で足掻く姿は生の映画を観ているようなモンだからよ…



●ありふれた地獄
『終わらない』『消えない』『このままでは』
 数度に渡る猟兵との戦闘によって頭数こそ着実に減っているものの、『旧体制国』の積み重なった怨嗟を完全に晴らす事は未だ出来ない。異形の敵機は能面染みた頭部から恨み節を垂れ流しながら、憎悪の炎を灯す屍人たちを引き連れ行軍してゆく。その光景は正にこの世の地獄と言って良い有様なのだが。
「死んでも燃え続けるとか永久機関でござるじゃん! それあれば永遠に闘争できただろ! え、なに? その為には数十年規模の苦境と万単位の生贄が必要? アッハイ。まぁそれはそれとして、君達はああいうシケた思考しちゃダメだぞ?」
 地獄の様な戦場なぞ見飽きているとばかりに、エドゥアルトの調子はいつもと変わらなかった。引き続き指揮下にある新兵たちは、そんな上官の様子を頼もしくも恐ろし気に見つめている。巨砲が轟く中で大軍勢を殲滅したと思ったら、今度は呪殺してくる能面や燃え盛る歩行死体の相手をさせられるのだ。幾ら何でも状況の高低差が激しすぎる。
「という訳で戦場での心得! エンジョイ&エキサイティング! そういうの、忘れちゃだめだよ。理解ったらさっさと燃えてる奴らを殲滅しなさい。安心するでござる、殺せなかったらお前らも仲間に入れて貰えるでござろう」
 どっちが悪役なのか分かったものではない指示を叩きつけながら、黒髭はガンギマリな笑顔で新兵たちを戦場へと蹴り出してゆく。まぁ実際のところ、単純な脅威度で言えば先ほどよりかは低かった。
 何故なら銃火器を使う訳でもなく、走る訳でもなく、ウィルスが感染する訳でもない。ただ、ちょっぴり燃えているだけだ。尤もそうした冷静な観察が出来ないが故に新兵であり、彼らは半泣きになりながら焼死体を懸命に迎撃している。
「さて、と。あのデカい|前衛芸術《粗大ゴミ》野郎はまあ……適当に処しておけばいいだろ。プロパガンダですらない恨み節なんぞを相手にする気はないでござるよ。どしたん話聞こうかと声を掛けるのは、相手がおんにゃの子の時だけですぞ」
 新兵たちに関しては屍人の相手をさせておけば良い。問題はその中央に鎮座している巨大な異形機なのだが、エドゥアルトの反応は淡白なものだ。クソの様な戦場にはごみの様な罵詈雑言が付き物。そんなものにいちいち耳を傾けていては、傭兵なぞやっては行けぬと言う事か。
「さっきは目が粒子砲、もとい目から呪殺光線を出してたようだが、それ以外に遠距離武器は無し、と。よーし、それなら近接しかしなさそうだし、脆そうな所を見つめてグラビティで爆破だ!」
 先の巨砲でまた吹き飛ばしてやっても良かったが、同じ戦法を使っていても芸がない。よりスマートな方法で攻略してやろうと視線を向け、意識を集中させてゆく。それと同時に魔力や霊力とも異なる力が収束し、そして。
「関節ゴッツァン! 足まわりゴッツァン! ゴッツァン! ゴッツァン! ゴッツァン! よくもまぁ、そんな小学生の図画工作めいた設計にしたでござるなぁ。破綻した設計の妥当な末路ってヤツを見せてやるでござるよ!」
 脆弱な関節部や基部の車輪部分が立て続けに爆発した。半ばオカルトに足を突っ込んでいる機体とは言え、物理的な躯体を持つ以上は物理現象から逃れられぬ。先行した仲間も狙っていたが、負荷の掛かる個所に損傷を蓄積されてやればいずれ身動きも取れなくなるはずだ。
「今は負け犬の遠吠えじゃなくって、新兵共の奮闘が見たいんだよ! 拙者にとって、生と死の狭間で足掻く姿は生の映画を観ているようなモンだからよ……」
『邪悪だ』『おぞましい』『ここで仕留めなければ』
 やっていることは非常に的確なのに、口から垂れ流す言葉は畜生のソレである。これにはさしもの異形機も見過ごせないと考えたのか、軋みを上げる躯体を強引に稼働させ、巨大化させたマニピュレータアームで殴り掛かって来る。
「上等でござるよ、死にてぇ奴だけ、掛かって来い! もう死んでるでござるけどな!」
 斯くして、怨霊VS職業『腐れ外道』with新兵部隊というB級映画も真っ青な対決が繰り広げられるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メサイア・エルネイジェ
あら~!でっけぇのが出てまいりましたわ!
どうせならでっけぇおマグロの方がよろしかったですわ~!
なにやら沢山お喋りしておりますわねぇ
お腹が空いておりますの?
わたくしもお腹が空いてきましたわ~!
早く終わらせておマグロをたくさんいただきたいのですわ~!
わたくしにおマグロをお寄越しになって~!

お亡くなりになられた方々がメラメラしておりますわ~!
すんげぇ数ですわ!
わたくし両手で数えきれない数は分かりませんわ~!
どんどん集まってきますわ!
ヴリちゃん尻尾ではっ倒すのですわ!

おレーザーがいっぱい飛んできましたわ!
引き付けてからサイドブースターで逆の方向にドヒャアですわ!
アンカークローをおシュート!
おキャッチしたらすっ飛んで行きますわよ~!
張り付いたらわたくしのターンですわ~!
ヴリちゃんクロー!ヴリちゃん噛み付き!
ぶんぶんされても一度噛み付いたら離れませんのよ~!
シールドおパンチ!バチボコにぶん殴りですわ!
とどめにチカライズパワー!どすこい!
吹っ飛ばしてひっくり返った亀ちゃんみたいにしてさしあげますわ~!



●ド三流にして超一流
『度し難い』『このような連中に遅れを取るなど』『やはり我らこそ正しい』
 ギチリ、ガチリ、と。異形機の関節部や車輪機構が嫌な不協和音を奏でゆく。構造上どうしても脆弱な個所を集中的に攻められたと言うのは勿論あるが、それ以上にド畜生な性格の傭兵を目の当たりにしたせいだろう。零れ落ちる怨嗟の言葉は自らの正当性を確信しているらしかった。
 だが相対した者がどんな腐れ外道と言えども、その事実が『旧体制国』の行おうとする行為に大義を持たせる訳では無い。悪行は悪行、侵略は侵略。どう取り繕おうが騙せるのは自分のみである。繰り返すが、立ちはだかる猟兵がどんな者であろうともだ。そう――。
『あら~! なんだかでっけぇのが出てまいりましたわ! どうせならお面よりもでっけぇおマグロの方がよろしかったですわ~! 今日は大漁ですわ~!』
 それが例え、既に馬鹿みたいな量の酒缶を空にした酔っ払いであろうとも、だ。異形機と相対したメサイアはすっかり酔いどれ気分だった。ただ飽くまでも酔い潰れていない点が厄介である。何故かって? 酔っ払いに絡まれた経験があるならそれが答えだ。
『にしても、なにやら沢山お喋りしておりますわねぇ。お腹が空いておりますの? わたくしもお腹が空いてきましたわ~! 早く終わらせておマグロをたくさんいただきたいのですわ~! おツマミが無くて寂しいですわ~! わたくしにおマグロをお寄越しになって~!』
『酒カス』『ざんねんなこ』『皇女の姿か? これが……』
 ああほらもう、なんか表情もクソも無い筈の能面がすっごく微妙そうな雰囲気を醸し出している。彼らからすれば何不自由なく育った王族の皇女なぞ憎むべき対象だが、これはきっとこれは羨むべき対象じゃない。どっちかと言うとそう、憐れみの対象か。
 ただまぁ、そんな異形機の感情とは関係なしに人間松明たちが巨大な機龍へとにじり寄ってゆく。彼らに生前の知識はない。ただ本能の代わりに怨讐の念で突き動かされる存在である。燃え盛りながら歩く無数の死体と言うのはホラーも真っ青な光景だが、その程度で動じるメサイアではない。
『お亡くなりになられた方々がメラメラしておりますわ~! すんげぇ数ですわ! わたくし両手で数えきれない数は分かりませんわ~! どんどん集まってきますわ! でもなんだか誕生日ケーキの蝋燭みたいでエモいですわ~! でも自分がファイヤーされるのはごめんですわ~!』
 ちょっとは動じて欲しいものだが、両手以上の数は数えられないんだから仕方がない。いや仕方なくないが? 人間松明が幾ら集まろうとも機龍を壊せるとは思えないものの、愛機が死体塗れになるのは流石にちょっぴり嫌だったのだろう。メサイアは機体全体を旋回させると、尻尾型ユニットでごっそりと屍人の群れを吹き飛ばす。
『やはりてきはてき』『このような者が恵まれるなど』『愚かしい』
 これには流石の異形機も見過ごせないと判断したのか。俄かに虚ろな眼窩から怪しげな輝きを発するや、ドス黒い怨念の籠った呪殺レーザーを解き放つ。冷静に考えて、こんなのが為政者である状況に理不尽さを覚えたのだろう。これに関しては彼らが正しい。切っても切れぬ悪縁が如く追尾してくるソレを振り切るのは、通常であれば難しい、が。
『おレーザーがいっぱい飛んできましたわ! なんだかとってもエンガチョな雰囲気ですので……引き付けてからサイドブースターで逆の方向にドヒャアですわ! さらにアンカークローをおシュート!』
 幸か不幸かこの皇女、キャバリアの操縦にかけては一角の技量を持っていた。徐々に加速しながら命中するギリギリを見極め、着弾寸前に急制動掛けて回避。紙一重で窮地を脱すると同時に両腕の有線式鉤爪を射出し、異形機へと絡ませるやそのままワイヤーを巻き上げる事で一気に距離を詰めてゆく。
 そしてトンチキな言動で忘れがちだが、彼女の駆る『ヴリドラ』の性能は紛れもなく|ガチ《・・》だ。特にこの|格闘戦特化仕様《クロムジェノサイダー》はことインファイトではその外見通りの暴威を発揮するだろう。斯くして相手の懐へと飛び込んだメサイアは、不敵な笑みを浮かべて見せる。
『ふっふっふ、張り付いたらわたくしのターンですわ~! ヴリちゃんクロー! ヴリちゃん噛み付き! ヴリちゃん尻尾にもういっぱつクロー! 連打連打連打ですわ~!』
 副腕で保持した|圧殺切断機《ギロチンシザー》でフレームを断ち切り、鋭い牙を備えた|粉砕噛牙《バイトファング》で食らい付き、|破壊棘尾《クラッシャーテイル》で打ちのめす。単なる酔っ払いかと思えばとんでもない。戦い振りだけで言えば剣呑凶悪な暴君そのものだ。
『だましたな』『無能を装ったか』『この卑怯者めが』
 その余りの豹変ぶりに、異形機に宿る怨嗟たちは今までの立ち振る舞いが彼らの油断を誘う為の演技だと考えたらしい。ただ残念ながら、あのアル中な言動はメサイアの素である。なお、誰にとって残念なのかは皇国の最重要機密である。
『ぶんぶんされても一度噛み付いたら離れませんのよ~! まるですっぽんみたいですわ~! 爬虫類なのできっとヴリちゃんの親戚に違いありませんわね~! ほらほらシールドおパンチ! バチボコにぶん殴りですわ!』
 堪らず異形機が再び呪殺レーザーを放つも、移動できなければする必要が無くなれば良いとばかりに機龍は装甲へ牙を突き立て、密着距離をキープ。振り回されようが追撃を食らおうが絶対に離さず、それどころか逆により暴れ狂う。暴力こそが全てを解決すると言うモットーの面目躍如である。コイツ本当に皇女か?
『さぁ、トドメですわ! 吹っ飛ばしてひっくり返った亀ちゃんみたいにしてさしあげますわ~! とどめにチカライズパワー! どすこい!』
『なぜコレの』『治める国が』『滅びていないんだ』
 それはきっと世界の神秘とかそんな感じだろう。機龍は敵機に嚙みついたまま地面を踏みしめるや、驚くべき事に頸部の力を使って強引に相手の巨躯を持ち上げる。余りの重量に大地を踏み砕きながらも、メサイアは器用にも絶妙なバランスを維持し、そして。
『そぉい!』
 まるでゴミ箱に空き缶を投げ込むが如く、異形の鉄騎を勢いよく投擲してゆくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フリッツ・バーナー
嗚呼、なお諦めず、只管に、勝利を渇望するか
……素敵だ
(湧き上がる歓喜を噛み締める)

バルバロッサとの一体化を完了させ、機体背部の推進機構を翼の如く広げて飛翔する
土埃を巻き上げ、松明人間達の傍を煽るように飛び抜ける
戦場を大回りし、あの敵特機を目掛け螺旋を描く様に接近
外周を飛ぶ際、砂埃に紛れて幾つか発信機を落としておく
敵機の真上へ急上昇し、下を向いて、機体の口腔部を開放する
口腔に集約したエネルギーが衝撃波として
両肩部の武装からは拡散レーザーが放たれる

〝我々は炎のように酔いしれて、崇高なる領域へと踏み入らん〟
我が|抱擁《歓喜》を、バルバロッサの|口付け《衝撃》を受け取り給え



●歓喜の刻、来たれり
『度し難い』『我らの悲願が』『あのような巫山戯た者に』
 地響きを上げて地面を転がった異形の鉄騎。地面を這うように立ち上がりながら、怨嗟の声を垂れ流してゆく。まぁ、その気持ちは分からんでもない。あんなネジの外れた皇族に良いように弄ばれては屈辱だろう。
 しかし、そのような目に遭いながらも耐え切っている耐久性には目を見張るものがあった。だがそれも機体の成り立ちを考えれば、設計の優秀さよりも籠められた執念の賜物か。その有様を見たフリッツは我知らずに歯を噛み締め、歓喜に歪みかける頬を抑え込まざるを得ない。
『嗚呼。軍勢は消え果て、同胞らがみな燃え盛る骸と化してもなお諦めず、只管に、勝利を渇望するか……素敵だ』
 多くの猟兵が『旧体制国』の行為に否定や怒り、同情を抱く事が多い中、男はほぼ唯一その選択に肯定を示していた。尤も、それがただ単純に相手の言い分を認める事でないのは先の交戦を見ても明らかなのだが。既に己のキャバリアと完全融合を果たしたフリッツは、屈辱に苛立つ敵機を見上げゆく。
『修復に時間が』『同胞らに任せろ』『まだ復讐を諦めていなければ』
 対して、いくら頑丈とは言え流石に即戦闘へ移るのはリスクがあると見たらしい。異形機は基部の装甲車全面、火炎放射器を起動させ更なる熱量を撒き散らすや、其れを浴びた人間松明たちの炎がより一層大きくなり、瞬く間に巨大な人型へと変貌していった。
(ふむ、あの巨人たちと戦うのも悪くは無いが……折角の機会だ、より派手に行こう)
 そちらを相手にする選択肢も有ったが、やはり本命はあの異形機だ。フリッツは背面の推進器を翼のように使って低空を飛翔するや、大きく弧を描くように戦場を迂回する事で巨人たちを回避する。その際、有機的な羽の羽搏きによって砂塵が舞い上がり、巨人たちの火勢がほんの少しだけ弱まったらしい。
 それを挑発と受け取ったのか、自意識の乏しい巨人たちが猟兵を捕縛せんと追い縋ってゆく。機動力に関しては優越している一方、この戦場は狭い渓谷内だ。移動可能な範囲は限定され、不用意に高度を上げれば待っているのは殲禍炎剣による撃墜である。
(ふふ……そろそろ頃合いか)
 事実、何度か捕縛されそうな危うい場面があった。しかし、操縦席に収まったフリットは危機感を覚えるどころか、敵の勢いに笑みを浮かべる始末だ。そんな鬼ごっこじみた機動戦を続けて暫しの後、不意に男の動きが変わる。突如として速度を上げるや否や、一息の内に異形機の直上を取った。
『馬鹿な真似を』『それでは動けまい』『待ち構えよう』
 だが、それは撃ち落とされるかされないかのギリギリ。そして降りる場所が下にしかない以上、男に残されたのは敵中への降下のみ。尤も、彼は上にも下にも行くつもりなど無かった。この一手、この位置へと陣取った時点で既に策は成っていたのだから。
『〝我々は炎のように酔いしれて、崇高なる領域へと踏み入らん〟、〝歓喜は矮小なる者にも与えられ、智天使は神の前に立つ〟……我が|抱擁《歓喜》を、バルバロッサの|口付け《衝撃》を受け取り給え』
 機体口腔部にエネルギーが集約され、両肩部の兵装が怪しく輝く。と同時に異形機や巨人たちの周囲で何かが中空へと跳ね上がる。その正体は先ほどフリッツが旋回軌道を取った際、砂塵に紛れて散布しておいた発信機だ。それらは敵対者を囲い込む檻にして、必滅の一撃を叩き込む道標。こうなればもう、避ける事も防ぐことも叶わぬ。
『ふふ、ははは、ふははははははははッ!』
 遂に堪えきれず、喉奥より湧き上がる哄笑。その調べと共に、必殺の一撃が愚かしくもいじましき反抗者たち、その残骸へと降り注ぐのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

梶浦・陽臣
●SPD対応
●SIRDとして参加
「俺でもわかるくらいに、怨念としか言えないほどの思念が集まってるな……」
「一番怖いのは、人間って聞いたことはあるが……これを見ちまうと、あながち間違いでもないと思っちまうな。」
「とはいえ、大本はただの機械だ。なら、幾らでも潰せる方法はある!」

雷魔錬剣を生み出し、UC【電光石火】を発動。チャージを行い、雷属性の全体【属性攻撃】を行う。その際チャージをして増えた分の攻撃対象を、ファーニスニーファの各部位に的を絞ることで、【部位破壊】も狙う。その際、電流による電気ショートも狙い、相手の動きを抑えつつ大ダメージが出るように狙う。

相手の攻撃は、【軽業】で往なしたり、【幻影魔剣】を複数生み出して、【自動防御】と【受け流し】でカバーして対処する。


ミハイル・グレヴィッチ
SIRDとして参加

ふん、死んでからも祖国の為に戦う、ってか?まったく、仕事熱心なヤツらだぜ。
そっちがその気なら、こちらとしても相手してやらなきゃ失礼ってモンだ。特にあの機体を徹底的に叩き潰してやらねぇとな。

恐らく、あの悪趣味な仮面付けた機体が周囲の連中をコントロールしてやがるな。少なくともあのツラを潰せば、周りは大人しくなる筈だ。
RPGを持って、射程内まで遮蔽物を伝いながら移動。取り巻きの数は多いが、まぁ他の連中が何とかしてくれるだろ。
射程内に入ったら、UCを使用して敵の機体を攻撃。狙うのは、あのふざけたプロパカンダ流している能面の部分だ。

(RPGを能面に照準しながら)ったく、全体主義の極みだな。あの能面が抜かしてる事は、昔軍の特殊部隊や傭兵だった時に散々嫌と言う程聞かされたぜ。そしてそれが大抵、嘘っぱちだったって事もな。戦死した連中を無理矢理戦わせる程、意味も価値もねぇ。第一、戦死者に対しての冒涜だぜ。その間抜けヅラの口から、二度と戯言喋れない様デカいの叩き込んでやる。覚悟しやがれ。


灯璃・ファルシュピーゲル
SIRD一員で参加

継続して自機参加

呪詛兵器の類ですかね、邪教連中も使ってましたが…指導部があんな物を使う様では、勝利が欲しいというより集団自決に寂しいから付き合ってほしいだけのようにしか見えないですね…

言いつつ、近接する味方前衛よりやや下がり戦闘範囲全体を監視するよう戦闘用意。敵本体を有効射程に捉え次第、指定UCで呪詛発信源らしき能面の口と車体基部の砲火口を即応狙撃し、攻撃手段の妨害を狙い味方前衛の攻撃を支援するとともに、極力戦場全体を監視し味方の死角をカバーするよう動きます

敵が巨腕の形成の兆候を見せたら、機械でも生物でも筋は脆弱でしょうから
腕部関節を集中射撃し破壊を狙います

※アドリブ絡み歓迎


ラムダ・マルチパーパス
SIRDの皆様方と共に参加

敵は|正体不明機《アンノウン》1、敵歩兵――と表現していいものかわかりませんが――周囲に多数。
ここまでくると最早怨霊と言うべきか亡霊と言うべきか。恐らく、中心になっているあの機体を撃破するのが最適解でしょうね。

という訳で、周囲に大量にいると思しき燃えるゾンビの様な歩兵をUCにて掃射。敵の機体を他の皆様が直接攻撃できる様に、火力を一点に集中して突破口の啓開を試みます。

(敵を掃射しながら)…何と言いますか、敵ながら哀れですね。死んでもあの狂ってるとしか思えないドクトリンを強要されるとは。わたくしAIなので神とかは信じていませんが…願わくば死んでも戦う彼らに、魂の安らぎを…


エルゴ・ルスツァイア
【SIRD】
イクスフェルに搭乗
相互に連携

思念を取り込んだ? ひとつに纏めたのか? 厄介な事を……そんな姿じゃ勝利したとして、その後は如何する。

接近されないよう異形機を中心に円を描いて移動しつつ、異形機と炎上死体の双方にレールチェーンガンの砲撃【スナイパー】を継続。シールドを展開しておき【装甲展開】【盾受け】レーザー対策とする。

実体が有るのなら壊せる。…死者の念か…恨みの力は強いと聞くが本当だな。……そろそろ眠れ。

熱圧力弾頭換装完了。纏めて爆風消火といこうか!


寺内・美月
アドリブ・連携歓迎
SIRD共同
・当初は【銀龍覚醒一次】にて騎乗し前進し、松明人間を蹴散らしながら前進する。敵主力の格納した腕が両巨腕に変化した瞬間に指定UCを発動し、自らは全速力にて敵主力の懐に突入する
・懐に侵入後は基部と上半身フレームを破壊して移動能力を失わせ、味方主力の攻撃を通しやすくする。状況が許すならばレーザー射出口や巨腕を破壊したい
・馬は【銀龍覚醒二次甲】にて銀色の龍として覚醒、独自判断にて戦闘を続行させる。殲禍炎剣を射撃されない高度を飛行させつつ、全速力の風圧で松明人間を吹き飛ばしたり、ホーミングレーザーを威圧で防げるか試す。この際、味方主力が支援を必要とするならばこれを援護する



●集団とは斯くあるべし
『何故邪魔をする』『これは正当な権利だ』『ただ、勝利さえあれば』
 度重なる攻撃は少しずつ、だが着実に異形機の耐久力を削りつつある。しかしその上でなお、依然としてその内部に溜め込まれた怨讐が晴れる気配はない。寧ろ機体の損傷度に比例し、更に濃く昏くなっているようにも思えた。いまこの瞬間に受ける屈辱すらも糧としているのだろう。人間松明と化した死体たちも幾分か数を減らしているものの、半壊状態となっても動いているのだから、その恨みの凄まじさが分かろうと言うものだ。
「敵は|正体不明機《アンノウン》1、敵歩兵――と表現していいものかわかりませんが――周囲に多数。ここまでくると最早怨霊と言うべきか亡霊と言うべきか。恐らく、中心になっているあの機体を撃破するのが最適解でしょうね」
『呪詛兵器の類でしょう。以前に交戦した邪教連中も似たような機体を使ってましたが……指導部があんな物を使う様では、勝利が欲しいというより集団自決に寂しいから付き合ってほしいだけのようにしか見えないですね……』
 その地獄としか呼べぬ惨状を冷静に観察していたラムダの推察に、灯璃が苦々しさを滲ませながら肯定を返す。数十年もの年月、数千数万にも及ぶ国民の恨み辛みを吸収し、『新体制国』へと叩き返す報復兵器。確かに強力だろうが、普通はその前提条件を考えれば使用を躊躇う存在である。狙撃手の感想は至極尤もだが、事はもはや理屈の問題ではないのだろう。
「俺でもわかるくらいに、怨念としか言えないほどの思念が集まってる……幽霊や化け物より、一番怖いのは人間だってどこかで聞いたことはあるが。これを見ちまうと、それもあながち間違いでもないと思っちまうな」
 本来、国家や軍とは理性の象徴である筈だ。だがそれも、ボタンを一つ掛け間違えればこうなってしまう。その紛れもない事実を前に、陽臣は背筋に冷たいものを感じてゆく。それは先の圧倒的な物量を目の当たりにした時とはまた別種の、畏れとも呼ぶべき感情であった。そんな青年の傍らでは、どうやらエルゴも似たような感覚も感じているらしい。
『国民、いや兵士たちの思念を取り込んだ? キャバリアを器として、ひとつに纏めたのか? 厄介な事を……そんな姿じゃ勝利したとして、その後は如何する。勝ったところで何も残らないだろう』
 『旧体制国』の目的自体は単純明快だ。即ち、最終的な勝利を。数十年にも渡って『敗北し続けた』歴史を贖うだけの勝利が欲しい。字面の意味は理解しながらも、彼女は納得しかねると首を振る。仮に勝ちを得たところで帰る故国も無く、主体である住民も亡く、紡ぐ明日も無い。仮に残るとすれば新たな憎悪と火種だけだ。
「……そんな事は全員、承知の上に違いあるまい。軍人とは勝利する事こそが至上命題だ。極論、戦後の事は政治の領分。そういう意味では確かに国民皆兵とは言い得て妙だろう。勝利とは手段ではなく、目的であり到達点なのだからな」
 しかし、SIRDの新たな援軍として駆けつけて来た寺内・美月(霊軍統べし|黒衣《学生服》の帥・f02790)は、敵軍の心境を幾ばくかは読み解くことが出来たらしい。武官の存在意義は作戦目的の達成であり、その結果をどう活用するか考えるのは文民の仕事である。ただでさえ硬直的な軍事国家だと言うのに上から下まで軍隊組織に置換してしまえば、思考プロセスがそちらに寄るのも無理はなかった。
「ふん、死んでからも祖国の為に戦う、ってか? お次は七生報国とでも言いだすつもりかよ。まったく、仕事熱心なヤツらだぜ。そっちがその気なら、こちらとしても相手してやらなきゃ失礼ってモンだ。特にあの機体を徹底的に叩き潰してやらねぇとな」
 死んでも勝ちたいと口にするものは多いが、実際にそれを実行すれば狂人である。況や、それが国家単位でをや。見上げた忠義と称えるべきか、見下げ果てた凶行と蔑むべきか。どちらにせよ継戦の意志があるなら相手をしてやると、ミハイルは二脚戦車から降りて堂々と生身で相対してゆく。
「そう、だな。大本はただの機械だ。得体の知れない何かじゃない。なら、幾らでも潰せる方法はある!」
「ああ。十中八九、あの悪趣味な仮面付けた機体が周囲の連中をコントロールしてやがるな。少なくともあのツラを潰せば、周りは大人しくなる筈だ」
 そんな傭兵の挑発的な物言いを受け、陽臣も戦意を奮い立たせる。オカルト的な側面を除いてしまえば極論、大型キャバリアとそれを取り巻く暴徒のようなもの。携行火器だの自走砲だのが無い分、考えるべき事は寧ろ少ない。対して、|特務情報調査局《SIRD》側の頭数は一人増えて六人。戦術的な選択肢は更に広がったと言えよう。

「兎にも角にも、まずはあの機体へ近づく為の道を切り開くのが先決。その為にも、周囲を埋め尽くすゾンビのような歩兵を掃討しなければなりませんね?」
 そうして、六人の中で一番最初に開戦の火蓋を切ったのはラムダ。彼女はまず本体である異形機よりも、そこへ至る為の障害となる人間松明たちの排除に主眼を置いてゆく。単体では然したる脅威ではないが、やはり数の暴力は厄介だ。その上、その全てが高熱を発しているのだから始末が悪い。彼女のように身体を装甲で鎧っていなければ、掻い潜るだけでも消耗は不可避だろう。ミハイルは信頼を籠めてコンと拳で戦機の装甲を叩く。
「バーベキューになるのは御免なんでな。派手に吹き飛ばしてくれ」
「ええ、お任せを。M19サンダーロア、MkⅦ スマッシャー、連装マルチ・ランチャー……それにM45ブリムストーンも。個々の戦闘力は兎も角、数が数です。投射可能な火力を選んで損害を被ってもつまらないですし、出し惜しみは無しで参りましょう」
 先ほど敵軍を釣瓶撃ちにした120mmカノン砲に加え、極めて高い連射性能を誇る50口径チェーンガン、多様な弾種を使用可能な擲弾発射機と四連装式の大型誘導弾。ラムダは自身が保有する火器全ての使用制限を解除し、射角や照準の調整を開始する。
 それと同時に人間松明たちの分布や密集具合、排除した場合に生じる間隙を素早く計算。何処にどの武装をどれだけ叩き込めば最大の戦果を挙げられるのか、速やかに割り出してゆく。
「|射撃統制システム《FCS》オール・グリーン。射撃モード・フルファイア。全兵装照準完了……」
 ――斉射開始。
 果たして次の瞬間、単騎で発揮可能とは思えぬ程の火力が敵群目掛けて解き放たれた。榴弾や迫撃砲弾が放物線を描いて降り注ぎ、チェーンガンの吐き出す弾丸は余りの連射速度により途切れぬ事無く一条の線を描くほど。更に四発のミサイルはそれぞれが別々の方向へと飛翔するや、着弾と共に燃え盛る骸を天高く巻き上げる。
 一見すれば混沌とした荒々しい破壊の渦にしか見えないがその実、全ては計算し尽くされた一手。一点に集中させた火力は極めてか細いながらも、異形機へと続く突破口を抉じ開ける事に成功していたのだ。
「砲兵が叩いたのならば、次は間髪入れずに切り込むが定石だ。加えて、それが迅速かつ衝撃力を伴うものであれば最上……であるならば、やはり騎兵突撃こそが相応しいか」
 しかし、そうして作り出した間欠も次なる楔を打ち込まなければ、未だ蠢く人間松明によってすぐさま塞がれてしまうだろう。そうなればまた事態は振出しに戻ってしまう。そうはさせじと動いたのは美月だった。
 武官は銀色がかった軍馬に跨り、右手には白鞘の軍刀を、左手で高らかに軍旗を掲げながら、堂々とした単騎駆けを敢行してゆく。騎兵による突撃は古来より多くの戦場で戦況を決定付けて来た。人体より遥かに重い筋肉の塊が、時速数十キロの速さで突っ込んでくるのだ。その威力たるや、まさに鎧袖一触と言えよう。
(このまま懐まで飛び込んでしまいたいが……そう易々と突破を許すほど、相手も甘くはないか)
 突入経路を押し広げながらすれ違い様に松明人間の頸を切り落とす美月だったが、その一方で彼は油断なく異形機の動きを常に視界の端へと捉え続けていた。その注意深さのお陰だろうか。鉄騎の能面が如き頭部、その虚ろな眼窩が怪しく瞬いた時、彼は素早く馬首を巡らせ回避機動を取る。
『死は終わりではない』『力となる』『報復の、復讐の』
 刹那、幾百人分もの殺意を縒り合わせたどす黒い光線が放たれてゆく。それはまるで獲物を狙う蛇が如くうねり、のたうち、進路上の屍人たちすら呑み込みながら猟兵へと迫る。その動きには同胞に対する情など微塵もない。あるのはただ、敵対する者をねじ伏せたいと言う『勝利への欲求』のみ。
『……同胞の死すらも勝利の為、か。勝ちたい勝ちたいと盛んに口にするが、それはいったい「誰が」勝利する事を意味しているのやら。まぁ、死しても思念がその機体に宿るのならば、残された肉体に頓着する理由もないのだろうが』
 あと数手で呪詛が武官へ命中する。そのギリギリのタイミングで待ったを掛けたのは、エルゴによるインターセプトであった。彼女は両者の間へと割って入るや、機体各部に搭載された拡張式の防楯を展開。自らが攻撃を受け止める事で仲間を逃れさせる。
 尤も、異形機の攻撃が齎すのは物理的な損傷だけではない。如何なる原理か、機体を制御するシステムが次々とエラーを訴え始め、俄かに彼女の駆る鉄騎の挙動が鈍ってゆく。特にセンサー系の不調が酷く、表示される数値が意味の分からぬ文字の羅列へと置き換わってしまう。
(探知性能の優秀さが仇になった、とは思いたくないな。怨念だの霊体だのを感知する機能なぞ、端からないと言うのに。次からはそちら方面の対策もと考えるのはしょせん泥縄か)
 下手に動きたくはないが、足を止めてしまえば相手の思う壺だ。エルゴは不調をきたす愛機を巧みに操り、異形機を中心として円を描くように旋回。一定の距離を保ちつつ、電磁気・火薬複合型のチェーンガンから弾丸を浴びせかける。照準回りも微妙なズレが発生しているものの、それをリアルタイムで補正しながら射撃を続けるのは流石と言うべきだろう。
 とは言え、それで敵機が止まるかはまた別問題。無数の弾丸を浴びながらも、能面に空いた虚ろな眼窩がゆっくりとエルゴの『イクスフェル』を捉える。先ほどは凌げたものの、今の状態を鑑みると二撃目を防げるかは正直怪しいところだ。しかし彼女は危機感を覚えるどころか、寧ろ不敵な笑みを浮かべて見せた。
『我らの報復から逃れる術はない』『あきらめろ』『敗北を味わえ』
『残念だが……生憎、こちらにはちゃんと生きている仲間が居るんだ』
 鳴り響く甲高い銃声は、一拍の間を置いて二度。一度目は能面の右目に当たる穴へと吸い込まれ、脆弱な内部機構を蹂躙しながら大きく仰け反らせる。そして二度目は異形機の基部を構成する装甲車部分、その先端に備え付けられた火炎放射機構を撃ち抜き、内部燃料を誘爆させた。正確極まりない狙撃だが、それを為したのはエルゴではない。では誰だと残った左目を巡らせた異形機が見つけたのは、特務情報調査局陣の後方に陣取った一機のキャバリア。
『……見つかりましたか。可能であればもう一方の目も無力化しておきたかったところですが、機先を制することが出来たので一先ずは上出来でしょう』
 それが誰かなど、今さら確かめるまでもない。狙撃用に大きく拡大された能面染みた頭部、その表層に穿たれた穴より立ち昇る煙の量から、灯璃は自らの与えたダメージを推し測ってゆく。
 彼女は持ち前の狙撃技術を十全に活かすべく後方へと陣取り、機を窺いながら戦場全体を俯瞰していたのだ。大火力の斉射に騎兵の斬り込み、そして付かず離れずの遊撃。派手な動きがあれば、当然ながらそちらへ意識を引っ張られるもの。異形機の注意が目の前の脅威に掛かり切りとなったタイミングを見計らい、狙い澄ました一撃で撃ち抜いたのである。
(それにこの状況なら、彼我の距離はあってないようなもの……加えて、狙撃手に気付けたとしても遠距離攻撃の要である眼の能力は半減し、距離を詰めようにもそれが出来る状況でもなし。数の利があるのは、何もそちらだけではありませんよ?)
 敵は元よりあの巨躯である。高い技量を持つ狙撃手ならば外す恐れは少ない。だが彼女は念には念を入れ、前線を張る仲間たちのセンサー類から自機へと情報を共有。より命中精度を引き上げていたのである。
 更に位置が露呈したのも決してマイナスではなかった。寧ろこの場合は逆だ。相手は常に意識外からの攻撃を気にしなくてはならなくなる。だがそんな片手間の状態で対処できるほど、SIRDの面々も甘くはない。戦友の目を借り、己の腕前を貸す。互いを切り捨てる『旧体制国』軍とは真逆の戦い方と言えよう。
『身体も、命も』『国も、戦友も』『犠牲とするに惜しくはない』
 尤もそれを見て何かを感じ入るようであれば、そもそもこんな有様になどなってはいないか。呪殺が叶わぬと悟った異形機はより物理的な方法へと攻撃手段を変更する。即ち、巨大化させたアームによる白兵戦だ。半壊状態と化した基部の装甲車両を強引に駆動させ、周囲の松明人間を轢き潰しながら猟兵を排除せんと腕を振り上げてゆく。
「……その有様には多少の同情も覚えたけどよ。そいつはちょっと頂けないな。形振り構わないって言っても、やっぱり限度があるだろ?」
 強引に振り下ろされた、文字通りの鉄拳。しかしそれは大地を砕くどころか、地面に触れる事すら叶わない。土砂を抉り取る感触の代わりに伝わったのは、小さくも鋭き刃の食い込み。生身で攻撃を受け止めてみせた陽臣は全身が軋みを上げる不快な音を聞きながらも、そう不敵に告げて見せた。
「そっちから近づいてきてくれて助かった。チャージする時間はあのゾンビもどきを突破する途中に幾らでもあったが、肝心の近づく手段が無かったからな。言ったろ? ただの機械なら、いくらでも潰せる方法はあるってな」
 ――奔れ、稲妻ぁッ!
 次の瞬間、地より天へと雷撃が迸りゆく。それは膨張した空気が破裂する音を伴いながら、異形機のアームを通じて躯体全体へと迸る。如何に『旧体制国』民の怨嗟と憎悪で駆動するとは言え、キャバリアと言う枠組みに組み込まれている以上は物理法則からは逃れられぬ。斯くして、敵機の動きが俄かに鈍り始めた。
「よーし、良い感じに動きが止まりやがったな。それじゃあ周囲の取り巻きも減った事だし、そのふざけたプロパガンダを垂れ流している能面を吹き飛ばしてやろうか!」
 内部の回路やケーブル類が焼き切れているのだろう。それは見たミハイルは今が好機とさらに距離を詰めんと試みる。彼が肩に担ぐ|携行式対戦車擲弾発射器《Ручной Противотанковый Гранатомёт》は旧式ながらも今なお使われ続けている傑作兵器だ。最新式の戦車相手には分が悪いが、半壊状態の頭部相手なら威力は十二分。傭兵は光学照準器越しに狙いを定めるも、依然として無事な側の眼が彼を見下ろしている事に気付く。
『まだだ』『まだ』『この程度で終わるものか』
「うぉっと、あぶねぇ!?」
 次の瞬間、彼目掛けて漆黒の呪殺光が放たれる。咄嗟に地面を転がって避けたと思ったのも束の間、次の瞬間には強引に駆動させた巨大アームが男目掛けて振り下ろされた。これも間一髪で直撃は回避したが、すぐそばの地面が粉砕され、無数の礫が全身へと浴びせかけられてしまう。
 しかし、その一方で強引な駆動が祟ったのか、関節部からは紫電が迸り、バラバラと細かなパーツが零れ落ちてゆく。他人を使い潰し、自身も擦り減らし。それでもなお『勝利』のみを追い求める姿に、後方で人間松明を処理していたラムダが同情交じりの呟きを零す。
「……何と言いますか、敵ながら哀れですね。死んでもあの狂ってるとしか思えないドクトリンを強要されるとは。まぁ、彼らからすればそこまでする価値があると、心の底から信じているのでしょうけれど」
 彼らの背景事情を鑑みれば、確かに恨み辛みは尽きぬだろう。しかし、それだけで戦局を打破出来れば苦労はない。戦争するにも人が、物資が、兵器が必要なのだ。それを全て『いま』この瞬間のみに投じた彼らはもう、ただ擦り減るだけの一方。死体とて、例外ではなかった。
「わたくしAIなので神とかは信じていませんが……願わくば死んでも戦う彼らに、せめて魂の安らぎを」
 |戦う為の機械《ウォーマシン》として実感は出来ずとも、その概念を理解する事は出来た。故にこそ、ラムダはただ静かに祈る。そして彼らを真に眠らせてやるには、やはり怨嗟の集積装置たるあの異形機を潰さねばならぬ。
『どうやらミハイルさんは頭部狙いの様ですし、それならばこちらはアームの関節部を狙いましょうか。機械でも生物でも、筋が脆弱なのは同じでしょうから』
 そんな戦況の趨勢を観察していた灯璃は距離があっても仲間たちの意図を読み取り、瞬時に狙いを変えてゆく。的が大きい頭部と比べ関節部は遥かに小さい。その上、今も自壊覚悟で暴れ回っているのだ。例え仲間たちと視覚情報を共有していたとしても並大抵の事ではなかった。
(例え、どれほど困難であろうとも……後ろを任されたからには成し遂げて見せましょう)
 だが、なまじ人の遺志を介在させたのが仇となる。システム的な乱数機動では無い以上、どうしても挙動に『癖』が出るものだ。狙撃手は短時間の観察からそれを割り出すや、躊躇うことなく引き金を押し込む。
 刹那、鳴り響く銃声。狙撃の成否はその僅か半秒後に示された。バラリと撒き散らされる部品と、一拍の間を置いて落下する破断したアーム先端部。灯璃は見事に関節部を撃ち抜き、敵の戦闘能力を更に削る事に成功したのだ。
『我々はひとつではない』『我々は我々だ』『死してなお、な』
 有効な攻撃手段を一つずつ潰された異形機は、なればと今度は松明人間たちを嗾けてゆく。繰り返すようだが戦闘力は低い代わりに数は多い。同時に敵機の内部から奇怪な音が聞こえており、恐らくは肉壁で時間を稼いでいるうちに応急修理を図っているのだろう。
『簡易的ながらも自己修復機能でもあるのか? 死者の念か……恨みの力は強いと聞くが本当だな。もしそうであれば厄介だが、さきほど陽臣が言った通り、実体が有るのなら壊せる……そろそろ眠れ』
 だが、相手が散らばっていた有象無象を一か所に集めてくれるのなら寧ろ好都合。一網打尽にしてやると、エルゴはそれまで行っていた掃討射撃を止め、背部多目的コンテナを起動。敵群のやや頭上目掛けて発射する。搭載された弾頭は数多ある種類の中で一際凶悪なものだ。
『熱圧力弾頭、換装完了。さぁ、纏めて爆風消火といこうか!』
 サーモバリック。複数種の反応物質を混合させる事による、瞬間的な大規模爆発を引き起こす兵器だ。昇華、崩壊、爆鳴気の三段階を経るそれは一瞬、全ての音を消し去ってしまう。だが次の瞬間には猛烈な熱量と膨れ上がった空気による衝撃が周囲一帯へと撒き散らされ、人間松明は愚か異形機の巨躯すら揺るがせていった。
『お、おお』『ォォオ』『止まる、ものかッ』
 しかし、手負いの獣はなんとやら。損傷など意に介さぬか如く、装甲を融解させた異形機の暴れ具合はより激しさを増してゆく。通常のキャバリアでも厄介なのに、この相手はそれを遥かに凌駕するサイズを誇っている。がむしゃらに荒れ狂うだけでも非常に厄介、だが。
「ここまで追い込まれてもなお、戦意が折れる様子もないか。その精神力だけは敵ながら評価に値しよう。残敵の相手は任せる。こちらはそのまま、敵本体を叩く」
「この暴れっぷりは凄まじいが、だからといって俺たちも退くつもりはないんでな。寧ろ追い込まれているのなら、ここできっちりカタをつけさせて貰おうか!」
 異形機周辺の人間松明が消滅したことでフリーとなった美月と陽臣が、一気に戦況を押し切るべく攻勢へと転じる。武官はそれまで騎乗していた軍馬より降り、徒歩での切り込みを敢行しつつ、真の姿である銀の龍へと転身したブロズに周辺警戒を任せてゆく。
 一方の魔剣使いは再充電の時間を得られたことにより、刀身が纏う帯電量はの以前比ではない。加えて先ほどは攻撃を真っ向から受けた止めたものの、今度は身のこなしや幻影を纏わせた魔剣を鍛造する事により、回避や受け流す方向へとシフトしていた。
(頭部や腕部にはある程度のダメージが蓄積しているが、基部の装甲車は火炎放射口を潰された程度でまだ浅い。攻撃能力だけでなく、機動力も確実に潰しておこう)
 そうして相手の懐へと飛び込んだ美月は巨躯を支える装甲車へと刃を走らせてゆく。本来、常人にそんな真似は不可能だが、今の彼ならば可能だ。全身を覆う黒白の殺気。大和魂と軍人勅諭的精神、闘戦経的武士道と生命の躍動。ある種の精神論を極限まで研ぎ澄ました身体能力により、まるで鋼板を障子紙の如く切り裂き、内部機構ごと斬断していった。
「機械の可動域は人間ほど柔軟じゃない。足回りさえ止まればあとはどうとでも、ってな? さぁて、今度こそ完全に動きを止めてみせる! 受けきれるものなら、耐え切ってみせろ!」
 下半身が止まれば後は上半身だ。左右上下より迫り来る巨大な腕を紙一重で回避しながら、陽臣は敵の躯体を足場に駆け昇る。目指すは先ほど灯璃が撃ち抜いたアームの先端部。そこは内部ケーブルが露出しており、外側からでなく内部へ直接雷撃を流し込むことが出来た。
 果たして、不安定どころではない足場を踏破した青年は、一切の躊躇なく魔剣の先端を敵機の腕先へと突き立てる。切っ先がワイヤーの切断面へ触れた瞬間、バチンと言う破裂音が立て続けに鳴り響くと同時に、糸の切れた人形の如く異形機の動きが停止してゆく。制御系が高電圧に耐え切れず、一斉にショートしたのだ。
『何故、邪魔をする』『被害者は我々だ』『勝利でそれを贖って、何が――』
「……ったく、全体主義の極みだな。|あの能面《おまえ》が抜かしてる事は、昔軍の特殊部隊や傭兵だった時に散々嫌と言う程聞かされたぜ。そしてそれが大抵、嘘っぱちだったって事もな。そりゃそうさ、誰だって都合の悪い事をいう訳がねぇ」
 身動きは取れず、自機周辺の人間松明も一掃され、異形の鉄騎はせめてもの抵抗としてノイズ交じりの抗弁を垂れ流す。我々が正義で、相手が悪だ。大義名分はこちらにある。この行為は正当なもので。そんな下らないお為ごかしは聞き飽きたと、ミハイルは吐き捨てた。
 『新体制国』への侵攻計画が具体的にいつから始まったのか。それを知る術はない。だが五、六十年もすれば人生一回り、国家の構成員なぞそっくり入れ替わってしまう。本当に彼らの怨嗟は本物なのか。それとも、プロパガンダによって醸成された張り子の偽物なのか。しかし、事此処に至ってはもはやどうでもよい。
『|国家《・・》としての総意である』『多くは望んでいない』『ただ一度だけ……』
「せめて勝利を、ってか? 戦死した連中を無理矢理戦わせる程、意味も価値もねぇ。第一、戦死者に対しての冒涜だぜ。そんなモン、良く言い繕っても相打ちが精々さ。その間抜けヅラの口から、二度と戯言を喋れない様デカいの叩き込んでやる」
 もはや、男の次の行動を阻む要素は存在せず、そしてこれ以上の繰り言に耳を貸す気も無かった。彼は今度こそ、対戦車擲弾の照準を半壊状態の能面へと合わせてゆく。仲間たちが作り出してくれたこの好機において、目標を外す事などまず在り得ず……。
「――覚悟しやがれ、|クソ野郎ども《хуесос》」
 果たして、残るもう一つの眼窩ごと、能面を吹き飛ばしてゆくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ワタツミ・ラジアータ
キャバリアから降り、レプリカント体で相対する
珍しい機体に興味

遺志を機械に込め純粋になられた皆様の先を見たい思いはありますが、残念ながら今後の商売相手を害されては困るのわけでございますわ。

殺意を正面から受ける
兵器としての呪詛なためダメージも移動阻止も回避できない
製造された機械の役目《機能》を発揮させたい想いも少しある
その機能を使用させないという思考はない

試作死神再現機《お姉さま》なら気に入りそうな機能ではありますが、私の趣味ではありませんわね。
でも、その役目を果たそうとする仕様には共感いたしますわ。
だから、ノイズ《痛み》少なく壊れてくださいませ。

自身の躰、キャバリア、外装、先に食べた資材などの一部を消費し自身の腕を巨大な砲塔を創り直す

魔除けや安らぎの効果がある対呪詛属性を込めた宝石状砲弾を使う
全ての遺志を浄化できるとは思っていないが機体はそのまま込められた燃料の一部を解放することで敵機能の低下を狙う

例え今朝造られ、明日には朽ちる運命であっても
私はその様を見送りますわ。

色々アレンジ歓迎



●同胞に敬意と同情を捧ぐ
『そんな』『酷い』『また屈辱を』『ゆるさない』
 全身を余すところなく打ち据えられ、更には能面染みた頭部すらも吹き飛ばされた。白く不気味な装甲版が剥がれ落ちる事で、その内部の悍ましい様子が白日の下に晒されてゆく。それを端的に表現すれば黒い肉、或いは寄り集まった蛆。憎悪の具現化とも死者の骸ともつかぬそれは、一目見た者の嫌悪感を掻き立てるものだ。尤も、これを目撃したのが尋常なる精神構造の持ち主なら、だが。
「珍しい機体ですわね? 遺志を機械に込め純粋になられた皆様の先を見たい思いはありますが、この世は先立つものがあってこそ。残念ながら今後の商売相手を害されては困るのわけでございますわ」
 案の定、ワタツミの意識に先立つのは興味の色。生身の存在を路傍の小石としか認識しない一方、純粋な機械生命体に関しては好印象を頂いていると言う事か。しかし、だからと言って手を抜くかどうかは別問題。先ほど回収した膨大な資源は『旧体制国』の装備だが、大元を糺せば『新体制国』のものだ。それをどこまで高く売りつけるか、あるいは別の国家へ流すのか。どのみち、相手が居なければ成り立たないのだ。
 ワタツミは徐に大仰な外装を脱ぎ捨てると、本体である人型の姿で相対する。彼我のサイズ差は更に開き、なおかつ尋常でない殺意が一心に猟兵へと注がれてゆく。当然ながら、それは単なる思念ではない。視線を向けた相手を蝕み、身動きを封じてゆく呪詛の眼差しだ。
(どのような目的であれ、『そう在れかし』と鍛造された以上は機械の|役目《機能》を発揮させて差し上げませんとね? これが単純なオカルトでしたら、こうはいきませんでしたわ)
 そもそもの大前提として、ワタツミには攻撃を防ぐ気も回避する気も無かった。ただせめて、作られた目的を僅かばかりでも果たさせてやりたい。それは敵意でも殺意でもなく、強いて言えば同情心か。ともあれこれで移動する事が叶わなくなったものの、機神にとってはさしてマイナスでもなかった。彼女はじっと、注がれる視線をただ無感情に見つめ返す。
「|試作死神再現機《お姉さま》なら気に入りそうな機能ではありますが、私の趣味ではありませんわね。でも、その役目を果たそうとする仕様には共感いたしますわ。だからせめて、|ノイズ《痛み》少なく壊れてくださいませ。幸い、使える資源は幾らでもありますので」
 猟兵はその場より一歩も動かぬまま、シルエットを俄かに増大させてゆく。自身の躰、キャバリア、先ほど|回収し《たべ》た数多の金属物質。それらを投じた巨大な腕と、備え付けられた砲塔。巨大な敵機にも伍する兵装をほんの数瞬の内に作り上げて見せたのだ。
 しかし、これも相応の代償が求められる一手である。この兵装に投じた物資は戦闘終了後、完全に消滅してしまう。即ち、せっかく集めた戦利品がパーとなってしまうのだ。何も集めた全てを投じた訳では無いだろうが、消えてしまうのはいったい何割か。その一点だけを見ても、ワタツミが相手を単なる有象無象とは見ていない事が分かった。
『それは我らの』『おのれ、奪ったのか』『また、また!』
 尤も、異形機に宿る怨嗟たちはそれを敬意どころか侮辱と受け取ったらしい。まぁ、彼らは数十年に渡って奪われ続けた。口にした言葉通り『またか』と嚇怒するのも無理はない。より一層、頭部の黒い粘液肉塊が激しく波打ち、無数の小さな瞳がワタツミを睨む。
 更に一層、全身へ掛かる重量が増大してゆく。常人であれば潰されてもおかしくはない過負荷だが、猟兵は相変わらず涼しい顔である。寧ろ、予想よりも中々強力だと微かに驚きを滲ませるほどだ。
(そうですねぇ。単なる砲弾では効果も薄いでしょうし、魔除けや安らぎの効果がある対呪詛属性を籠めたいところですわ……以外にも、その手のお守りを抱えていた兵士の皆様も少なくなかったようですわね?)
 腕や砲が自前なら、砲弾だって彼女のお手製である。機神は回収していた資源の中からほんの僅かでも退魔の力を帯びた物品を選別。それらを押し固める事で宝石状の砲弾が形成されていった。
 無論、ワタツミとてこの一撃で籠められた怨念を全て取り除けるとは考えていない。寧ろ逆。松明人間があそこまで派手に燃えているのだ、異形機も燃えるのが丁度良い塩梅と言えるだろう。
「見捨てられた残骸達よ。私が命じましょう――謳いなさい。叫びなさい。ただ々々有る儘を示しなさい。それが造られた物としての存在使命であれば」
 果たして、昏く輝く輝石砲弾は真っ直ぐに異形機の顔面へ吸い込まれてゆく。それが粘つく物体に触れた瞬間、まるで火のついたコールタールの如く黒々とした炎が燃え盛ってゆく。これには流石にたまらぬと、異形機は千切れたアームで頭部を擦るも、火勢が衰える様子は微塵も無かった。それはそうだろう。着火したのは猟兵の一手なれど、その燃料は他ならぬ彼ら自身が溜め込んだ怨嗟なのだから。
『ぐ、お』『熱い、熱い!?』『よくも、貴様ッ』
「例え今朝造られ、明日には朽ちる運命であっても。無慈悲と表されようと、機械のように淡々だと言われようとも……私はその様を見送りますわ」
 故に、これはワタツミなりの葬送か。彼女は依然として身悶えする異形機を見上げながら、ゆっくりと慇懃に腰を折ってゆくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

イザリス・アルセイン
健全な軍なら撤退するところだろうけど、死者の行軍とはね
まるで悪夢の光景だ
到底まともじゃない
だが…亡霊だとか呪いだとかの類にも、ギガス・ゴライアの暴威は有効か否か?
テストする価値は大いにある
それにこんな状況、ただの戦場ではそうそう巡り会えないだろうからね

炎の死者は蹂躙していけばいい
巨躯の身動きひとつ、尻尾の一振りで、塵を箒で掃くようにね
しかもアダマンチウムの装甲は環境の影響に耐性を持つ
簡単に焼かれるほど脆弱ではないよ

問題は奇妙奇天烈な戦闘車輌型キャバリアだ
大型機同士、背丈は五分といったところかな?
質量ではどうだろう?
格闘戦で臨みたいところだが、足を止めるホーミングレーザーが煩わしいね
では腕部と背部のビームキャノンで砲撃戦に持ち込もう
敵の攻勢が鈍れば、ロケットブースターの加速で一気に接近する
体当たりで体制を崩し、クローで追撃、喉元に食らい付いて噛砕しよう
万が一、相手が何らかの戦術意図を抱いていたとしても、力尽くで破綻させてしまえばいい
本来ギガス・ゴライアはそういったキャバリアなのだよ



●幕引きと、そして
『なぜ』『どうして』『我らは勝てぬ』
 渓谷内部は悲惨を通り越して、もはやいっそ物寂しいと言う有様だった。あれだけ居た人間松明はもう数えるほど。肝心の異形機に関しても能面染みた頭部は粉砕され、内部には満ちた悍ましい粘液が脈動しゆく。接近戦用のアームも火炎放射器を備えた基部装甲車も、無事な個所など一つも無い。正に満身創痍と言った有様である。
『健全な軍なら撤退するところだろうけど、死者の行軍とはね。いや、そもそも撤退する先も自分の手で絶ったのだったか? どちらにせよ、まるで悪夢の光景だ。到底まともじゃない』
 そんな敵の様子を端的に表せば、イザリスの斯くの如き言葉になろう。合理性も、理屈も、全てをかなぐり捨てた望み。『勝ちたい』。その一点のみを追い求めた結果がコレだ。もはやわざわざ手を下さずともに、早晩自壊するに違いない。しかしもしそうだったとしても、彼女には止められぬ理由があった。
『だが……亡霊だとか呪いだとかの類にも、ギガス・ゴライアの暴威は有効か否か? テストする価値は大いにある。それにこんな状況、ただの戦場ではそうそう巡り会えないだろうからね。悪いけれど、実験に付き合って貰おう』
 もしいまこの機会を逃せば、次に似たような機種と巡り合えるのはいつになるかも分からない。故にこそ、この場で試してみる必要があったのだ。まぁどのみち、倒すべき相手である事には変わらないと、イザリスも己を納得させてゆく。
 斯くして、彼女はゆっくりと巨なる暴君を前へ進ませる。それは攻撃行動ですらない、単なる移動行為。にも拘らず大地を踏みしめるごとに残り少ない炎の死者は踏み潰され、尻尾の一振りはまるで箒でも掃くが如く人間松明の火を吹き消す。幾らキャバリアには有効打を与えられないとはいえ、ここまで無造作に蹂躙されると同情すら覚えてしまう。
(まぁ正直、あの燃える死体はそこまで重要じゃない。問題は奇妙奇天烈な戦闘車輌型キャバリアだ。大型機同士、背丈は五分といったところかな? 質量ではどうだろう? 能面状の頭部や基部こそ頑丈そうだけれど、フレーム自体はほぼ骨組みだけだ)
 しかし、彼女の本命はやはりあの異形機だ。全高に関してはほぼ同じ程度か、やや相手の方が高いか。一方、重さならばイザリスの駆る機龍に分がありそうだ。可能であれば実際に組み合って確かめたいところだったが、そう何事も思い通りに事が運ぶとは限らない。
『終わらない』『終われない』『こんなことでは』
 悠然と歩を進めていた機龍だったが、不意にその動きがつんのめるようにして止まる。研究員がコンソールパネルへと視線を落とすと、先ほどまでは影も形も無かったはずのエラーや異常報告が画面上に踊っていた。
(格闘戦で臨みたいところだが、足を止めるホーミングレーザーが煩わしいね。ただ、出来ない事に拘泥していても意味はない。腕部と背部のビームキャノンで砲撃戦に持ち込もう。先ずはそれで一当てし、反応を収集できれば上出来かな)
 これが呪殺光線による移動阻害かと得心を得つつも、こうなってしまえば仕方がない。研究員は機体各所に搭載された各種光学兵装を起動。一切の躊躇なく、黒い肉に覆われた頭部へと光線を叩き込む。呪殺光線はやはり目を基点としている。である以上、それを潰せば移動阻害の呪詛も弱まると踏んでの事だ。
 果たして、その推察はどうやら間違っていなかったらしい。小は牽制用から大は艦砲クラスまで、威力と速射性を両立した砲撃戦により、相手は視線を向ける事すら儘ならなくなる。同時に機体が発するエラーの量も急速に減少するへ至り、イザリスは背面のロケットブースターを瞬時に点火。膨大な推力に任せて一気に距離を詰め切ってゆく。
『ああだこうだと蘊蓄を垂れてしまい済まないがね? この機体コンセプトの真価は強襲の際に最も発揮される。力押しによる強引な戦線突破。敵の思惑を根底から破綻させる事で状況を支配するのだよ』
『なにを』『単なる力押しか』『ぬ、うぅう!?』
 そうして彼我の間がゼロになった瞬間、研究員は今度こそ白兵戦へと持ち込む事に成功する。体当たりからの尾の一撃により、ぶつかり合ったお互いの機体が不協和音を奏で、縺れるように倒れ込む。それは図らずもマウントポジションと化す。この好機を逃すまいと、猟兵は機龍の顎部接近戦用牙を展開。喉元へと食らい付いた。
『とまぁ御覧の通り、万が一相手が何らかの戦術意図を抱いていたとしても、こうして力尽くで食い破ってしまえばいい。本来ギガス・ゴライアはそういったキャバリアなのだよ。どうだい、可能であれば意見を聞かせて欲しいのだが』
『ふざけ』『離せ』『おぉおおッ!』
 こうなってしまえば、異常に大きな頭部が逆に仇となる。異形機が首を巡らせて機龍に視線を向けようとしても、角度的に視界内へ収める事が出来ないのだ。こうなってしまってはもう、後は頸部を食い千切られるのを待つのみの筈、だったのだが。
『『『おオォォおおぉオオおッ!!』』』
 これが火事場の馬鹿力とでも言うべきか。関節部の可動域限界を超え、半ば圧し折れている状態で強引に頭部を回し、強引に機龍を捉えたのである。頭部を覆う粘ついた黒い肉が蠢き、再び機体がエラーを吐き始めた。異形機が限界を迎えるか、それとも機龍が完全に機能を停止するか。チキンレース染みた凌ぎ合いにイザリスは危機感どころか満足気な笑みすら浮かべ、そして。
『ありがとう……良いデータが取れた。君たちの怨嗟とやらは、実験データとして記録され、末永く活かされるだろう』
 バキリ、と。遂にその異形機の頭部を食い千切り、完全に沈黙させてゆくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『スカルモルド』

POW   :    バイ・スタンダーⅧ
レベルm半径内の敵全てを、幾何学模様を描き複雑に飛翔する、レベル×10本の【クリスタルビット・コンテナ】で包囲攻撃する。
SPD   :    インフニティ・エイト・ガンサイト
【アサルトライフル】を向けた対象に、【銃撃】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ   :    水地比
対象のユーベルコードに対し【プラズマブレイドの斬撃】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。

イラスト:落葉

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ナイアルテ・ブーゾヴァです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●誰でもなく、ただ国家と
 ――バキリ、と。
 頭部を食い千切られた異形の鉄騎が、遂に沈黙する。散々垂れ流されてきたノイズ交じりの怨嗟も途絶え、荒れ狂っていた躯体が動く事も無い。周囲を見渡せばもう、この戦場には生者も死者も存在しなかった。
 猟兵たちは引き続き警戒を続けながらも、ふと疑問に思う。ここからいったい、どんな手を打つ心算なのか、と。先ほどの異形機は納得こそしかねるがまだ理解は出来るコンセプトだった。切り捨てた国民、動員した徴用兵の思念を凝縮し叩き返す報復的決戦兵器。成る程、確かに脅威であったことは認めよう。
 しかし、問題は事前説明に在ったもう一体の特殊機体について。兵も、兵器も壊滅したこの状況から何をしようと言うのか。そもそも、本当にそんな戦力は存在するのか。何かしらの欺瞞、誤情報なのではないか。気を緩めるような真似はしないが、どうしてもそんな疑念が脳裏を過ってしまう。
 しかし、幸運にも――或いは、不運にも――その懸念は杞憂となった。

『国民も、国土も、財産も、全て失われた? 否……まだ、私が居る』

 大地に倒れ伏していた異形機の巨大な躯体。その半壊状態のフレームが内側より爆散する。咄嗟に臨戦態勢を整えた猟兵たちの視界に飛び込んで来たのは、土煙の中からゆっくりと姿を見せる墨色のキャバリア。
 もしもそちら方面に詳しい者が居ればその機体が『|黒騎士《スカルモルド》』と同型の機種であると分かるだろう。強力なキャバリアである『熾盛』、のデッドコピー品である『熾煌』……を更に模倣改造したと言う、『旧体制国』の厳しい懐事情と技術力が垣間見える機体だ。
 尤も、だからと言って粗製乱造品だと断じるのは早計だ。近距離においてはプラズマブレイドを、遠距離ではアサルトライフルによる精密射撃を、そして結晶体ビットによるオールレンジ攻撃など、あらゆる距離において隙が無い。
 そして、それに加えて。
『この操縦席こそが領土だ。外郭装甲が国境で、武装こそが軍事力であり、私が唯一にして絶対の国民であり主権者である。つまり、我が国は|まだ存在している《・・・・・・・・》。である以上、作戦は恙なく遂行されねばならない。私の勝利は国家の勝利だ。総意にして悲願だ』
 あの異形機の中に納まっていた機体である。額面通りのスペックである筈がなかった。外見こそ先に交戦した鉄騎の如き異形さはないものの、滲み出る威圧感は寧ろこちらの方が上。正確言えば、より濃縮されているとでも言うべきか。操縦者一つとってもそうだ。幾らキャバリアの内部に居たとはいえ、あの激戦の中で無傷のまま居られる筈がない。
 そもそも、お前は『何』なのか。思わず猟兵がそう疑問を口にすると、黒騎士は少しばかり首を捻る。それは意図を理解できないのではなく、どう答えるべきか思案しているらしい。数瞬の後、相手は男とも、女とも、老人とも、子供とも、或いはそのどれとも異なる声音で答えた。
『……|誰でもない《ノー・マン》。|顔は無い《ノー・マン》。|人ではない《ノー・マン》』
 ――|私がこそ国家だ《・・・・・・・》。
 数多の人々を押し固めた能面ではなく、人ならざる顔無し。はっきり言って、言葉は理解できるが会話の中身は支離滅裂と言って良い。だが唯一明確な事は、相手が交戦意思を、ひいては『新体制国』への侵攻を諦めていないと言う事実のみ。そして、それさえ分かれば十分だった。
 さぁ、猟兵たちよ。永きに渡る妄執に終止符を打ってくれ。

※MSより
 プレイング受付は27日(木)8:30~より受付開始。
 第三章はボス戦、黒騎士スカルモルドとの決戦です。今回は特殊なギミックは無く、小細工なしの実力勝負となります。機体サイズこそ小さいですが先の異形機よりも小回りが利き、堅実ながらも対応力があります。なお、操縦者の生死に関しては引き続き問いません。そもそも存在しているのか、生きているのかも含めて詳細は不明です。
 恐れ入りますがご参加人数的にまた再送のお願いをさせて頂くかと思いますので、恐れ入りますがその際はご協力頂けますと幸いです。
 引き続き、どうぞよろしくお願い致します。
カグヤ・アルトニウス
〇悪霊退散

アドリブ歓迎

要するに、アレは「国家を鋳型として作った祟り神」にして「限られた知識の中で作られた最強の姿」…ですね
故に、今回は精神攻撃・浄化を主体に戦うというよりも弔う事にします

(乗機)
ホワイト・レクイエム

(行動)
まずは、ソードオブビクトリーに【浄化】と【神罰】の力をヤサカから引き出して付与し、UCを発動して「祀り」を始めます

バイ・スタンダーの大群は連続テレポートとアブソリュートウォールによる【残像】・【迷彩】の合わせ技で惑わしつつ距離を詰めて無効化します
後は、ソードオブビクトリーのソードモード・ハンドガンモードの切り替えによる【剣舞】の連続攻撃と背後の一基による追撃で攻勢を仕掛けます



●清め、祓い、鎮め
(ふむ……要するに、アレは『国家を鋳型として作った祟り神』にして『限られた知識の中で作られた最強の姿』……ですかね? あの大仰しい機体から出て来たのであれば、見た目通りのような真っ当な存在などではないはず)
 崩れ落ちた異形機の残骸を、まるで玉座の如く足場としている黒騎士。その姿を注意深く観察しながら、カグヤはそんな考察を立てていた。そもそもとして、操縦席に人が収まっているのかさえ怪しいところだ。まぁ、白か黒かで言えば真っ黒だろうが。
『故に……今回は精神攻撃・浄化を主体に戦うというよりも弔う事にします。古来より、荒ぶる神は崇め奉り、鎮めるものですから』
 そんな漆黒の騎士に相対するは白銀の鎮魂者だった。機体の周囲へ七基一組の念動兵装を展開。と同時に操縦者たるカグヤの腕に嵌めた紅蒼一対の勾玉より力を引き出してゆく。それは浄化と神罰。怨嗟を祓い清め、悪しきを打ち据えるもの。その権能を周囲に侍らせる刃へと付与する事で、彼は決戦に臨む準備を整える。
『ふむ、なにやら面白い事をしようとしているのか? よい、よい。|国家《わたし》を出迎える殊勝さは評価しよう。だが、些か数が足らんな』
 一方、その様子を見ていた黒騎士も動いた。両肩部に搭載されたコンテナ上部がスライドするや、内部より薄青色の結晶体が飛び出してくる。その数は百や二百では到底きかず、千は優に超えている。一つ一つのサイズでは猟兵の念動兵装の方が遥かに大きいが、数の差はそれを容易く凌駕するだろう。
 だが、数の暴力ならば先ほど嫌と言うほど見たばかりだ。いまさらその程度で臆すつもりなど毛頭なし。カグヤは機体全体へ時空間を歪曲させる力場を纏わせるや、先手を取るべく動いた。
『ダイダロスの本領……見せてあげましょう』
『精々踊るが良い。|国家《わたし》の勝利を彩ってみせよ!』
 猟兵がその場より飛び出すのから一瞬の間を置いて、結晶体もその動きに反応。複雑な幾何学模様を描くことで四方八方天地を問わず、空間そのものを埋め尽くすように白銀の鉄騎へと殺到する。
 右でも左でも、どこを向こうとも結晶体が迫る。これでは回避は不可能、せめて防御態勢が取れるか否か。そんな窮地に陥りながらも、カグヤは冷静に距離を詰める事だけを考え、そして。
『……ほう』
 つい一瞬先まで青年の居た場所を、あらゆる角度から結晶が貫いた。その光景を見た黒騎士は思わず関心の声を漏らす。だが、自分の戦果に酔い痴れているのではない。一瞬のうちに白銀機が包囲網を抜け出した事に小さく驚いていたのだ。
『どんな絡繰りを使ったのかね?』
『生憎、手妻を教える気はありませんので』
 黒騎士が振り返った先には、いつの間にか視覚へと回り込んでいたカグヤの姿があった。種を明かせば、空間同士の位相を繋げる事で、疑似的ながらも空間跳躍をやってのけたのだ。尤も、完全に無傷とは言い難い。みれば装甲のあちこちが削り取られ、浅からぬ損傷には装甲に埋まった結晶体も見える。
『ただ……退屈させるもありません』
『ははは、良いぞ!』
 彼は追従させていた念動兵装を手に取ると一つは刃に、一つはハンドガンへと変形させ、攻勢を掛けてゆく。距離を詰めてしまえば結晶体もおいそれと使えないと踏んでの事だが、相手もまた同じように光刃と突撃銃を構えるや、望むところだと受けて立つ。
 時にぶつかり合い、時に距離を保ちながら、幾度と無く繰り広げられる激突の数々。それは正にカグヤの言った通り、剣舞の如き流麗さすら感じさせる。斯くして両者はお互い一歩も引くことなく、刃と刃を交え行くのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

村崎・ゆかり
イクシア(f37891)と

『朕は国家なり』ってわけ?
農林水産業、各種工業、サービス業も存在しない、一人きりの国。立法・行政・司法はどうなってるの? 国家の血液である資金が、どこをどう流れてるか教えてよ。
なんか冷めちゃった。本当の国民と国土の全てを犠牲に永らえてるのは、狂人が一人だけ。
こんなの終わりにしよう。

機甲式『GPD-311迦利』を足場に、偶神兵装『鎧装豪腕』に「オーラ防御」をかけて盾にして、禁鞭を振るう。本来はkm単位の範囲攻撃用宝貝だけど、今はあなたのためだけに使ってあげる。
唯々只管に「衝撃波」伴う赤い鞭で「なぎ払い」叩きのめす。
あなたはもう前にも後ろにも行けない。行き先は骸の海だけ。


イクシア・レイブラント
ゆかりさん(f01658)と
これで終わったね…無念も嘆きもあの機体と一緒に葬られた。
日本だと手の付けられない怨霊は祀ることで大人しくさせるんだっけ。
あとで墓標でも持ってきて、突き刺しておく?
そうね。あれはただの抜け殻。もう何も残ってはいない。
災禍の残り火、片付けよう。

敵の射撃に対しては[瞬間思考力、弾道計算]を行い、最適な[空中機動]ルートを算出。
シールドビットを[護衛]のように追従させて[推力移動、滑空]で敵の懐まで接近して
【決戦武装、解放】。
大型フォースブレイドを[武器巨大化]させて[空中戦、なぎ払い]。
ゆかりさんの迦利にも[情報伝達]でデータを送ってアシストするよ。



●一つと二人
『……目新しさはあった。ああ、そうとも。|国家《わたし》はずっと、お前たちの戦い振りを見て来た。兵が踏み潰される様を、砲が吹き飛ぶ様を、悲願の器が斃れる様を。故に生半可な手妻が通じるとは思わんことだ』
 自らを国家と称するなど、通常であれば傲慢とすら言えぬ大言壮語だ。だが、先陣を切った猟兵を危うげなく凌いで見せたその戦い振りは確かに侮れるものではないだろう。悠然と次なる敵手を待ち構える黒騎士を前に、ゆかりは不快気に眉根を顰めゆく。
「国民皆兵制に破滅的な全体主義、そして最後は『朕は国家なり』ってわけ? 農林水産業、各種工業、サービス業も存在しない、一人きりの国。ねぇ、立法や行政、司法はどうなってるの? 国家の血液である資金が、どこをどう流れてるか教えてよ」
『法とは即ち|国家《わたし》の意志、財産はこの身と機体が全て。なに、|国家《わたし》は|国家《わたし》だ。食料も資源も、必要に応じて|略奪《ぼうえき》すれば事足りる』
 半ば以上に皮肉を混ぜた言葉に対し、顔無き誰かは堂々と、しかし些か外れた内容の答えを返す。そも、本当に人であるかも分からぬ存在だ。食事だの娯楽だのを必要とするのかも怪しい。これまでの兵士や異形機には大なり小なり『生々しさ』があったものの、此度の相手から逆に寒々しい空虚さを感じてしまう。
「……呆れを通り越して、なんか冷めちゃった。本当の国民と国土の全てを犠牲に永らえてるのは、狂人が一人だけ。幾ら何でも報われないでしょ」
「うん。ある意味、『旧体制国』との戦いは終わったね……無念も嘆きも、あの機体と一緒に葬られた。日本だと手の付けられない怨霊は祀ることで大人しくさせるんだっけ。あとで墓標でも持ってきて、突き刺しておく?」
 眼前の敵機をこれまで戦ってきた相手と同列に見做さないゆかり。そんな仲間の物言いに、イクシアもまた暗に同意を示しゆく。操縦席に収まった存在が何で、散っていった大多数が何を期待していたのかは定からぬ。だが、先に斃れた者らを差し置いて自らが国家だと宣うその姿勢は、確かに癪に障るものだ。
「それも良いかもしれないわね。それじゃあイクシア、こんなの終わりにしよう。ここからは後始末の時間よ」
「そうね。あれはただの抜け殻。もう何も残ってはいない。差し詰め、中に収めるべき想いも消え去った、伽藍洞の器かな……災禍の残り火、片付けよう」
 先のプロパガンダじみた恨み言以上に、聞いていても意味のない言葉だろう。終止符を打つべく乙女たちは三度動き出す。ゆかりはこちらを観察していたのならばと、それまで温存していた逆三角形型の機甲式『GPD-311迦利』を招き寄せ足場とする。更には呪符に封じていた一対の巨大な籠手状の式神『鎧装豪腕』を展開。それらに強固な霊力を纏わせると同時に、自身は赤い鞭を手にすることで攻防の備えを整えてゆく。
 他方、イクシアもまた周囲に念動操作式のシールドビットを浮遊させながら、両手持ちの大型フォースブレイドを構えた。彼女はジリと彼我の距離を測りつつ、脳内で相手の動きをシミュレートする。機体性能自体はスタンダートだが、何をしてくるかは実際のところ未知数だ。
『まずは見にでも徹するつもりか? |国家《わたし》ばかりがそちらの事を知ると言うのも確かに不公平だろう。それでは有難く先手を献上されてやるとしよう』
 別に譲ってやった訳では無いのだが、牽強付会もまた国家の性か。黒騎士はおもむろにアサルトライフルの銃口を突きつけると、躊躇なくトリガーを引く。物言い自体が気に食わないが射撃の技量自体は高いらしく、立て続けに放たれた弾丸は吸い込まれるように猟兵目掛けて飛翔する。
『お生憎さま、勝手に手の内を晒してくれるなら願ったり叶ったりよ』
『弾速、連射性能、威力、弾道特性……それらの情報さえ得られれば!』
 尤も、猟兵たちとてこれまでの激戦を潜り抜けて来た猛者たちであり、二人も例外ではない。音速を超える対キャバリア用徹甲弾頭は彼女らの頭ほどもあったが、陰陽師は一対の籠手を巧みに操り耐久ギリギリで受け流し、鎧装騎兵は数枚のビットを犠牲にして軌道を逸らす。
 多少の手傷は負ってしまったものの、代わりに武装性能は大まかにだが割り出せた。情報さえあれば動けると、間髪入れずに後の先を取ったのはイクシア。彼女は残ったシールドビットを追従させつつ、鋭角的な空中機動を以て懐へ飛び込まんとする。
『少々すばしっこいが、|国家《わたし》の|監視《め》からは逃れられぬと相場が決まっていよう!』
 照準を付けさせないよう最適な軌道を選んでいるにも関わらず、着実に射撃を命中させるのは一体如何なる手妻なのか。銃声が一発轟く度に彼女の身を守る障壁が削り取られ、距離が詰まるにつれてその損耗速度も加速してゆく。このままでは辿り着く前に本体を撃ち落とされてしまうと危惧しかけた、その時。
「……本来はkm単位の範囲攻撃用宝貝だけど、今はあなたのためだけに使ってあげる。それにほら、そのお陰でここからでも届くのだしね?」
 戦場を一陣の紅い旋風が駆け抜ける。それは仲間を狙っていた弾丸は無論、射手である黒騎士にまで到達。アサルトライフルをかち上げると共に、本体すらも強かに打ち据えてしまう。攻撃の主であるゆかりの手に握られていたのは、一本の赤い鞭だ。
 その正体は神仙により鍛造された宝貝の一つ。彼女の言葉通り、本来はそのどこまでも伸びる鞭本体により広範囲を纏めて薙ぎ払う事を主眼に置いているが、使い手の技量次第であればこの様な使い方も可能である。
「あなたはもう前にも後ろにも行けない。行き先は骸の海だけよ……我は汝の主なり。全てを打ちすえ砕く絶対の力よ、世界にその威を示せ! 疾!」
 斯くして、陰陽師は黒騎士を滅多打ちにしてゆく。一見すると荒々しいものの、間に居る仲間を僅かも巻き込んでいないのは流石と言えよう。これには堪らず敵機もプラズマブレイドを使って防御を試みるが、その前にイクシアが距離を詰め切った。
「此処まで来れば……リミッター解除。決戦武装、ファイナル・モード。もう、出し惜しみは無し!」
 視界いっぱいに広がる漆黒の鉄騎。手にした得物は十分に大型だが、相手の巨躯を鎧う装甲を食い破るには些か足りぬ。なればと、彼女は手にした得物の出力制限を解く。その瞬間、迸るエネルギーが巨大な光の刃を形成。一瞬にして、キャバリア相手にも有効打を為し得るサイズへと変貌する。
『撃ち落とす、いや、ここは白兵戦装で……む!?』
「そうはさせないわよ!」
 それを脅威と見た顔無しは手持ちの兵装で応戦しようとするが、すかさずゆかりが鞭を振るってマニピュレータを絡め取り、防ぐことを許さない。斯くしてがら空きになった胴体部へと斬撃が叩き込まれ、そして。
『これは厄介だな! 同盟できる相手が居ないのも|国家《わたし》の辛さよ!』
「……いいえ。あなたは人でなければ、国でもない。|ひとでなし《ノー・マン》だよ」
 眩いばかりの白光で漆黒の装甲を染め上げながら、深々とした斬傷を刻み込む事に成功するのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ヴィリー・フランツ
※熟練操縦士で基本性能上昇
心情:破綻した国家の妥当な末路だな、さっさとくたばれ。
手段:「海兵隊とヘルウォールズは後退、あの狂ったAIは俺が|DELETE《デリート》する」
流石にワンサイドゲームにはならんか、何時も通りの戦い方に戻るぞ。
AAガンと騎兵歩槍で射撃しながら接近、敵のビットを含めた攻撃は増加装甲とフォートレスアーマーで受け止める。
ショートレンジ迄接近出来たらスパイクシールドを構えて突貫、シールドアタックの後に二の矢としてバーンマチェーテを抜刀し斬りつける。
距離を離す場合はAAガンを乱射、予備弾薬もあるから早々には弾切れせんとは思うが、弾が切れたらパージして身軽になってから攻撃再開する。



●ただ、常の如く
『|人でなし《ノー・マン》? ああ、そうだ。そうだとも。当然ではないか。|国家《わたし》は|国家《わたし》なのだから』
 装甲表面に深々と刻まれた斬傷を、黒騎士はマニピュレータの指先で器用に撫でる。一歩間違えば操縦席を直撃してもおかしくない位置だったが、相手に動揺の色は微塵もない。やはり、其処に収まっているのは言葉通り人ならざる何かなのか。
『最終局面でお出しされるラスボスがコレかよ……海兵隊とヘルウォールズは後退。任務遂行、ご苦労だった。後は任せてくれ。あの狂ったAIは俺が|DELETE《デリート》する』
 ヴィリーの場合、顔無き何かを人工知能と判断したらしい。それまで随伴させていた部隊を撤収させつつ、傭兵は単騎で敵機と相対する。相手もまた独りで、先の異形機と比べればまだ小さい。
 しかし、滲み出る威圧感はこれまでの中で一番濃密だ。確実を期す為ならば、数に任せて挑む方が確実だろう。それでも、彼は他人の手を借りる気にはなれなかった。テンペスト社製重装甲量産機『HL-T10 ヘヴィタイフーンMk.Ⅹ』ならば、単体でも後れを取る心配も無いはず。
『代表でも、王様でも、大統領でも無い。我は国家そのもの、か。ああ、破綻した国家の妥当な末路だな、さっさとくたばれ。こんな与太のダシに使われる連中が不憫でならん』
『|国家《わたし》の定義がお気に召さないかね? だが、こちらもはいそうですかと頷く事は出来んよ……そうすれば、|我が国《・・・》は本当に消滅してしまうだろう?』
 猟兵にとっては忌々しい主張でも、相手からすれば国家の連続性を維持する為の苦肉の策か。どこか醒めた物言いと共に、黒騎士はクリスタルビットを展開。重装機の手数に対抗せんとする。
「流石にワンサイドゲームにはならんか……となれば、何時も通りの戦い方に戻るぞ。火器管制システムオンライン、センサー・駆動関係異常無し、全システムオールグリーン。小細工は無しだ、順当に真正面から磨り潰す」
 斯くして、動いたのは両者ほぼ同時。手持ち式の騎兵歩槍と両肩部40mm連装対空砲を撃ち放ちながら距離を詰める傭兵に対し、顔無しはその前に無数のビットで削り切らんと試みる。途端に破砕音と金属音が鳴り響き、結晶体の破片と空薬莢が辺りへと降り注いでゆく。
(まだだ、焦るなよ俺。この機体なら多少のダメージなんざ屁でもねぇ。ただ頑丈な代わりに足回りは鈍重だ……仕留められるギリギリまで詰めたいところだが)
 追加で装備した分厚い増加装甲と機体各所に設置された斥力場発生装置、そして手持ち式のスパイクシールド。三重の守りは極めて強固だが、操縦桿を通して伝わってくるガリガリと言う感触は嫌が応にも男の集中力を削っていった。
 チラとモニター画面を盗み見れば、機体フレームの耐久度と各種兵装の残弾数も急速に減りつつある。予備弾薬も当然備えてはいるが、再装填の僅かな隙も晒したくはない。である以上、仕掛ける機を見極めねばならぬ。
(あと五歩、四……三、二。イチ、いまッ!)
『むっ!?』
 果たして、ギリギリの間合いを見計らったヴィリーはデッドウェイトとなる空弾倉をパージ。撃ち切ったアサルトライフルすらも投棄し、鋭い突起を前面に備えた盾で体当たりを仕掛けてゆく。相手も咄嗟に後退して衝撃を逃がしつつ、プラズマブレイドを展開。そのまま白兵戦に対応せんとする、が。
『言ったろ、小細工は無しだってよ。派手さも要らねぇ……テメェみたいな虚仮脅しには、真っ当な手が一番効くってな!』
 既に傭兵は騎兵歩槍の代わりに赤熱化していた山刀を抜き放っていた。始めからそのつもりだった者と反射的に対応した者、どちらが早いかなど論ずるまでもない。果たして、黒騎士の肩口目掛け、灼熱の刃先が全力で叩きつけられるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

エドゥアルト・ルーデル
おうお前ら、国家を滅ぼせるなんて滅多にできないでござるよ!これから一生自慢できるぜ!

とりあえず新兵共も戦わせるがそのままじゃ蹴散らされて終わりなので対戦車ミサイルなりを持って隠蔽せさせるでござるヨ
適時撃っとけ!普通は当たらないが拙者が足を止めてやる

銃なんて必要ねぇぜ!敵の斬撃を体術で避けながらナイフ一本で斬りかかっていけ!バラバラに解体してやるぜ!野郎ぶっ殺してやる!
なぜ生身で避けられるのかって?残念だったな…|UC《トリック》でござるよ!
この|紳士《プリミティブな衝動》的なUCは強化系なので相殺も何もないでござる!
そもそも政治なんかどうでも良いんじゃ!爆発するように生きろ!理不尽に死ね!



●最も|変態《プリミティブ》なやり方
『……一歩間違えば、頭部をかち割られていた。ゾッとしない話だが、同時に無意味な行為でもある。トップが消えてもなお動き続けるのが、|国家《わたし》の利点。そうだろう?』
 肩部装甲から胴体部へ深々と刻まれた傷跡。言葉通り、あと少しでもズレていたら頭部ユニットは真っ二つだったろう。だがそんな危機的状況にもかかわらず、顔無しの言葉はどこか他人事めいていた。自らを国家と自認する以上は、生死の価値観もどこか歪んでいるのかもしれない。単なる狂人か、はたまた国家存続を願う愛国者か。
「おうお前ら、国家を滅ぼせるなんて滅多にできないでござるよ! これから一生自慢できるぜ! 初陣の戦場が此処で本当にラッキーだったでござるなぁ!」
 尤も、エドゥアルトからすればそんな相手もレアなトロフィー程度の存在に過ぎなかった。高級将校だの将軍だのと言った手合いはたまに遭遇するが、たまさか国家そのものが出張って来る機会などそうは無い。皮肉でも何でもなく、良かったなぁと髭面の男は新兵たちへニッコリと微笑む。
「まぁ、だからと言ってノコノコ近づいて行っても逆に蹴散らされるだけでござるからな。おらっ、取り敢えず物陰に隠れて対戦車ミサイルでも適時撃っとけ! 普通は当たらないが拙者が足を止めてやる。有難く感謝するでござるよ」
 流石にここまで来て無駄死にさせるのも忍びなかったか。傭兵は新兵たちに対装甲武器を持たせて遮蔽物の陰へ叩き込むと、徐に黒騎士へと向き直る。生身対鉄騎。通常であればその戦力差は隔絶しているが、エドゥアルトは余裕綽々と言った様子だ。
「へ、へへへ……銃なんて必要ねぇぜ! 新兵も必要ねぇや。誰がてめぇなんか、てめぇなんか怖かねぇ! 野郎ぶっ殺してやる!」
 いや余裕と言うよりも悍ましい何かだコレ。どこかで聞いた全編名言集を口走りながら、言葉通り火器を放り投げて代わりに一振りのナイフを抜き放つ。無謀に思えると言うかセリフ的には負けフラグが立ちまくっているのだが、不思議と妙な説得感が立ち振る舞いより滲み出ていた。
『新兵を慮って自ら前に出るか。トップが消えても動き続けるのは軍隊も|国家《わたし》も同じ……その行いには敵ながら敬意を表そう』
「そんな上等なモンじゃないでござるよ。そう……これは最も|肉体的《フィジカル》で、最も|紳士的《プリミティブ》で、そして最も|嗜好的《フェティッシュ》なやり方と言うだけですぞ」
 ――バラバラに解体してやるぜ!
 そんなどっちが悪役だか分からない叫びと共に、エドゥアルトは光刃を構えた黒騎士へと躍り掛かってゆく。相手はこの男が指揮官的な役割をこなしつつも、切った張ったも不得手ではないと見抜いていた。故にこそ、生身であっても油断するつもりはなかったのだが。
「デュフフフ! ドゥフフフ! ゲヒヒヒヒ!」
 黒髭の|変態《プリミティブ》さは敵の予想を遥かに上回り、或いは斜め下回っていたのだ。決して超人的な訳では無い。だがまるでゴキブリの如き生き汚さは攻撃の尽くを紙一重で避け、足止めと言う役割を確かに果たして見せたのである。
「なぜ生身で避けられるのかって? 残念だったな……トリックでござるよ! こんなんじゃあご立派な機体もただのカカシですな!」
『これはまさか、新兵を隠れ蓑にここまで実力を隠していたのか?』
 半ばギャグマンガに片足を突っ込んでいる相手に道理を求めてはいけない。正に変態的な機動で敵機を駆け上ったエドゥアルトは頭頂部まで至るや否や、手にしたナイフでアイカメラや各種センサー類をズタズタに引き裂いてしまう。そうして相手の目を奪うと、男は一切の躊躇なく宙空へと身を投げ出す。
「そもそも政治なんかどうでも良いんじゃ! 爆発するように生きろ! 理不尽に死ね! さぁ新兵ども、|手柄首《ボーナス》ゲットの時間でござる!」
 間髪入れずに叩き込まれるは、機を窺っていた新兵たちによる対戦車ミサイルの一斉射。飽くまでも部下を立てながら、エドゥアルトは吹き飛ぶ敵機の上半身を満足気に眺めゆくのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ワタツミ・ラジアータ
良いですわね。
国家の代表、威信、技術の粋を極めた機体というのは多々ありますが、
数多の遺志を集めて国という機能そのものの機体というのは想像できませんでしたわ。

でも、残念ながら今は敵同士、こちらの勝利のためにお相手致しますわ。
キャバリアに乗り相対、悪食歯車と鉄骨の唄は一度使っているため相殺される

ならば相殺しきれないほどの物量でお相手致しましょう
UCにて自身と同じ量産機を召喚する
量産機:キャバリアサイズ、赤いドレス、回遊する金魚、白銀の鉤爪、他者を見下した笑みを浮かべる
似てはいるがそれぞれ属性の異なる攻撃を行い相殺に対抗
自身も真の姿になる:量産機と同じ形
食の好みだけ微妙に違う
中には彼の機体に惚れこむような悪趣味もいるかもしれない

貴女《私》達、もうすこし真面目に働いてくださいませ。

もし、この戦で生き残ったのであれば、機体《国》の立て直しと拡張の投資には相談に乗りますわ。

例え撃墜され壊れても機能停止しない限り、私達《機神》はやり直せるのですから。

投資する素材は遥か遠い未来で自身の一部になるわけだが



●十機十色の取引
『……新兵か。新たな人員か。全く、羨ましいものだ。|国家《わたし》には望むべくもない存在なのだから。ああ、|国家《わたし》は常に孤独にして孤高な存在なれば!』
 濛々と立ち込める爆炎の中から、漆黒の機影が姿を見せる。対装甲兵器用ミサイルの直撃を受けてもなお健在である点は特筆に値するだろう。しかしその一方、一歩間違えれば撃墜されていてもおかしくは無かった。
 にも拘らず、顔無しの言葉はどこか他人事めいたもの。それは狂人故の余裕か、それとも死に縁遠い存在だからなのか。個ではなく、飽くまで国家としてのスタンスを崩さない。
「自らの自認意識が国家そのもの……良いですわね。国家の代表、威信、技術の粋を極めた機体というのは多々ありますが、数多の遺志を集めて国という機能そのものの機体というのは想像できませんでしたわ」
 だが少なくとも、生身でない事さえ分かればワタツミ的には問題ないらしい。先ほどの異形機同様、彼女の声音には親近感の色が見て取れた。先ほどの相手は無数の個を塗り固めた存在だったが、此度の相手は言うなれば特定の顔を持たぬ全。単なる常人とは確かに異なる精神性を持つだろう、が。
「……でも、残念ながら今は敵同士。こちらの勝利のためにお相手致しますわ」
『性急だな。商人ならば|取引《ぼうえき》の一つくらい行ってもバチはあたるまい』
「どちらが太いお得意先様になるか、改めて説明する必要がございますかね?」
 顔無しの軽口をいなしつつも、機神の演算回路は取るべき戦術を導かんと高速で稼働していた。手の内を読まれていると言うのは実に厄介だ。同じ技を繰り出して通用する程、容易い性格もしてはいまい。
(悪食歯車と鉄骨の唄は一度使っているため、高確率で相殺される……ならば、相殺しきれないほどの物量でお相手致しましょう)
 ワタツミは演算を終えると、再び外装を招き寄せて融合。相手と同じ目線に立つや否や、そっと緩く手を開いてゆく。緒戦で回収した金属資源量と、先の異形機戦で消費した分。それらの差し引き残量を割り出しながら、彼女はそっと|起動コード《のりと》を口遊む。
『|機海起動《舞台を此処に築きたり》、|量産機製造工程実行《我は我らにして我らもまた我なり》、|神勅系侵略実行開始《仰ぎ見よ。永遠たる舞を》』
 くるり、と。ワタツミがその場で身を回転させると、その外見が劇的に変化する。機械的な外装は有機的な女の相貌へと変わり、酷薄な笑みを浮かべながら紅色のドレスが翻りゆく。白銀色の爪先からは発条仕掛けの金魚が揺蕩い始め、凶悪さと優美さが奇妙な両立を果たしていた。
 しかし、変化はそれだけに留まらない。瞬きするとシルエットが二つに増え、次は四つに、そして八つに。瞬く間に数が増え、気が付いた時にはもう、その数は百と五十を超えていた。手持ちの資材を注ぎ込み、この場で自身と瓜二つの同型量産機を作り上げて見せたのだ。
『……全く、羨ましいな。|同盟国《なかま》を自ら作り出せるとは。孤独な|国家《わたし》とは大違いだ。|植民地《どれい》だの|属国《かべ》ならば簡単なのだが』
『まぁ、|ダモクレス《わたし》たちとはそういう存在ですので。ただ、そちらが思っているほど、纏まりがあるものでもありませんわ。便利ではありますが、便利遣いなどとてもとても』
 友邦など望むべくもない立場からすれば、自己増殖で戦力を増やせる手段は魅力的に映るのだろう。尤も、候補として挙がる関係性がどれも不平等な内容なのが、国家としての歪さを感じさせる。一方で当の機神はそんなに良いものではないと首を振ってみせた。
『謙遜も度が過ぎれば嫌味になるぞ。だが、こうも数の差が生じてはこちらも悠長にはしていられん。幸い、対多数の立ち回りはお前たちが散々見せてくれたからな……有難く参考とさせて貰おう』
 ある意味、立場が逆転したと言える状況だ。それに対し、黒騎士は攻略方法ならば身に染みて学ばされたと返しながら突撃銃とプラズマブレイドを展開。臆することなく切り込みを掛けてゆく。決して足を止めず、囲まれる前に一当てしてまた次へ。深追いはせず、踏み込み過ぎたと判断すれば即座に距離を取る。成る程、確かに理に適った立ち回りだが。
『むっ……!』
 問題は個々の戦力が『旧体制国』側のソレとは比べ物にならないと言う点か。否、それを踏まえた上でも黒騎士の実力は優越しているものの、量産機の性能が一機一機で微妙に異なるのだ。
 基本的な設計や思考回路は同じだが、ある個体は電流を操ったかと思えば、別の個体は分解能力を見せ、また他だと切断や圧壊と言った攻撃を仕掛けてくる。加えて、攻撃の積極性も十機十色。積極的に捕食を仕掛けてくる者も居れば、興味なしで事務的な個体、あまつえさえ黒騎士に協力する素振りを見せる機体すら出る始末だった。
『成る程……確かに個性的だな。|協調要請《がいこう》は複雑怪奇と言うが、自身が作り上げた存在ですらこれとは。やはり、武力を以て従わせるのがシンプルで手っ取り早いと思ってしまう』
『……|貴女《私》達、もうすこし真面目に働いてくださいませ。お見苦しいところを見せてしまいましたわ。ただ、その機体に惚れ込んでいる者も居るのも事実、と』
 良くも悪くもやりにくい。食の好みと言う最も読み難い要素は対応速度を鈍らせ、結果として黒騎士を生き永らえさせると同時に、無用の損傷を着実に蓄積させている。それを格好のつかない事だと恥じつつも、生半可な手合いなら普通は質と量で押し切れるはずだった。
 それでも資源に分解されてない点は素直に賞賛すべきか。生身ならば兎も角、ワタツミは自身と同じ無機質な存在にはやや寛容な傾向がある。彼女はチラと犇めく同胞らへ視線を流すと、僅かばかりの仏心を見せた。
『もしも……万が一、この戦で生き残ったのであれば。|機体《国》の立て直しと拡張の投資には相談に乗りますわ。例え撃墜され壊れても、機能停止しない限り私達《機神》はやり直せるのですから』
『自身で身も守れぬ弱国は取引の場にすら立てぬ。成る程、真理だ。ならば骨の一つでも拾って貰えるよう、精々暴れさせて貰おうか!』
 ワタツミが相手を自らと同じ存在だと認めるのは破格な対応と言えよう。敵ながらもそう言われて悪い気分はしないらしく、黒騎士は増々発奮して激しい戦い振りを見せてゆく。その様子を観察しながら、彼女は酷薄な笑みを浮かべる。
(まぁ……投資する素材は遥か遠い未来で私の一部になるわけですけれども)
 タダで何かを施す訳も無し。商人である以上、投資に対する回収は不可分の流れだ。機神はそんな強かな計算を脳裏で弾きながら、顔無しと同胞の戦いを見守ってゆくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ケーカク・スレッド
アドリブ、連携大歓迎です。

人が死ぬ時は、肉体的な死と忘れ去られた時の二つと言います。僕たちがこの機体を葬り記憶することが、失われた命、魂たちの救いになるように祈ります。

【スペクタ・プログラムゴーレム】と【霊素竜】を召喚。また、僕はノーチラス級階差機兵〈バベル〉に搭乗し、装備を狙撃用のライフル<SWD-25>へ換装。後方からの狙撃でゴーレムと竜、必要ならばほかの猟兵たちも援護しましょう。
召喚のデメリットとして僕自身は攻撃できません。なので、狙撃は蒸気端末【LMM】の代理操縦に任せましょう。これでデメリットを踏み倒します。文字通り、僕は攻撃していないのですから。



●二度目の死
『……打算もあろう。損得勘定もあろう。だが、対等な取引相手と見做されるのは気分が良い。|国家《わたし》の為す事は他者から見れば無謀であり、ただ歴史の奔流に磨り潰される愚者と打ち捨てられかねないのだから』
 これまで相対した者の殆どが、|顔無し《ノー・マン》に対して否定的だった。故に、敵ながら取引の可能な対象であると認められたのが嬉しかったらしい。率直に言って、『旧体制国』に勝機は無かろう。このままであれば猟兵に討ち果たされ、憎むべき『新体制国』に取り込まれてお終いだ。
 だからこそ、自らの存在が記憶された事に意味を見出していたのかもしれない。そんな敵機の様子を見たケーカク・スレッド(人間のガジェッティア・f45568)は、一抹の同情心を抱きゆく。
(人が死ぬ時は、肉体的な死と忘れ去られた時の二つと言います。彼らは既に前者を経てしまっている。もしもこのまま敗戦国として歴史の中に消えてしまえば、彼らは本当の死を迎えてしまう……)
 『旧体制国』の選択や行為は勿論、許す事など出来ない。しかし、この数十年間で強いられてきた彼らの苦難までも切り捨ててしまう事は、幾ら何でも無情に過ぎる。ならばせめて、相対した自分たちだけでも覚えておこう。それがこの局面において、彼を戦場へと駆けつけさせた理由だった。
(……せめて僕たちがこの機体を葬り記憶することが、失われた命、魂たちの救いになるように祈ります)
 斯くして、青年は懐から二枚の|穿孔紙片《パンチカード》を取り出すや、蒸気式端末へとそれをセット。予め刻み込まれた術式を発動させてゆく。解凍された情報は魔力と共に実像を結び、無機質な巨人と霊的元素で構成された竜を召喚する。
 加えて、生身のまま臨むのはリスクが大きいと考えたのだろう。持ち込んでいた二脚機へと搭乗し、装備させていた狙撃用ライフルの照準を合わせてゆく。飽くまでも前衛は召喚した存在に任せ、自身は後方指揮に専念するつもりか。
『ノーチラス級階差機兵〈バベル〉、起動完了。スペクタ・プログラムゴーレムと霊素竜の維持に掛かり切りとなってしまいますが、これならば生身よりも安全でしょう。手を抜くつもりは毛頭ありませんが……その一挙手一投足、全てを記憶させて頂きます』
『ここに来て新手か。残念だ、他の連中であればまだ手の内も分かっていたものを。まぁ良い。腹の探り合いも|戦闘《がいこう》の常。自らの価値を証明がてらに、手札を暴いてやろう』
 黒騎士は数少ない優位点である情報的アドバンテージを活かせぬことを残念がるが、それで臆する気配はない。プラズマブレイドの刀身を展開するや、巨人と竜へ斬り掛かってゆく。果たして、瞬く間に両者が熾烈な応酬を交わし始めた。
 地上では巨人が頑強さを活かして敵機を押し留め、その隙に上空から竜が襲い掛かる。手堅い連携攻撃だが、対する黒騎士も初見ながらそれに良く対応してゆく。眼前の巨人を蹴り飛ばしつつ、頭上から繰り出される顎や爪を光刃で払い除けたのだ。戦況は一進一退、ややもすれば相手側の方が優勢か。
『ふむ、やはり後方の機体は宣言通り行動できないらしい。隙を突いて直接叩くと言う選択肢も有るが、背後を晒すのも軽率だ。先ずは確実にこの二体を片付けてしまおう』
 加えて、黒騎士はケーカクが戦闘に参加できない事を見抜いていた。このまま押し切れそうな状況で無理をする必要はないと、継続して眼前の巨人と竜を相手取る。確かに顔無しの読みは正しい。そう、青年は動くことが出来ない――。
『……ええ、その通りです。なので、狙撃は蒸気端末【LMM】の代理操縦に任せましょう』
 次の瞬間、一発の銃声が鳴り響き、黒騎士の装甲を穿つ。ハッと相手が二脚機を見やれば、狙撃用ライフルの銃口から硝煙が立ち昇っていた。ケーカクが敢えて自身が動けないと口にしたのは一種のブラフ。彼は蒸気端末で予め設定していた操作指示により、最適なタイミングで狙撃を成功させたのだ。
『これでデメリットを踏み倒せます。文字通り、僕は攻撃していないのですからね?』
『全く……どいつもこいつも、奥の手の一つや二つは当然持っているか!』
 二対一で不利でも、三対一になればまた話は変わってくる。斯くしてケーカクは自らの指を一本も動かす事なく、戦闘に参加して見せるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

メサイア・エルネイジェ
真っ黒いのが出てきましたわ!
あれをお成敗いたせばクロマグロをいただけるに違いありませんわ!
あと一息ですわよ~!
わたくしのおマグロが待っておりますわ~!

バシバシ撃ってきましたわ!
そんなのに当たりませんわ~!
サイドブースターで右に左にキャバぴょいキャバぴょい!
うー!キャバだっち!
…めっちゃ当たりますわ~!
全然避けられませんわ~!
はっ!
閃きましたわ!
避けられないなら!
避けなければいいのですわ~!
わたくし天才ですわ~!いぇい!
シールドでおガードするのですわ!
亀ちゃんみたいになりますのよ~!
ただのおライフルなら楽勝ですわ~!
好きなだけお撃ちになられたらよろしいのですわ!
おほほほ!

おガードしながら近付くのですわ!
追い付けなくても大丈夫ですわ!
アンカークローでおキャッチ!
ぐいぐい引っ張って無理矢理近付けるのですわ~!
引き寄せたらわたくしがやり返す番ですわ~!
リベンジギロチン!
ギロチンシザーでちょっきんちょっきんして差し上げますわ~!
おだるまさんみたいになってコロコロ転がってしまえばよろしいのですわ~!



●国と国との距離感とは
『……敵に認められるのは良い。だが、情けを掛けられる事はある種の屈辱だろう。それは明確に|国家《わたし》を格下と見做しているからだ。受け入れられるはずも無い』
 猟兵と黒騎士の実力差は率直に言って対等ではない。やはり、数は力である。個の実力で勝っていても、こうも連戦を強いられれば消耗は蓄積してゆく。だが、見下されることは我慢ならぬと拒絶の態度を見せた。それはこれまで、『旧体制国』が散々に舐めて来た辛酸なのだ。だから、そう……。
『あら~、でっかくて不気味な能面の次は真っ黒いのが出てきましたわ! あれをお成敗いたせばクロマグロをいただけるに違いありませんわ! だって同じ黒なんですもの、きっと親戚に違いありませんわ! あと一息ですわよ~! わたくしのおマグロが待っておりますわ~!』
『うん、コレにだけは絶対に負けられない』
 この酒とマグロの事しか頭にない|頭皇女《メサイア》に敗北するなど末代までの恥だ。死んでも死にきれないと言うのはこういう状況の事を差すのだろう。とは言え、このトンチキ過ぎる言動に油断も出来ないと黒騎士は歯噛みする。何の因果か、この女の操縦技術|だけは《・・・》一級品なのだ。
『だが、先の戦闘で機体性能は把握できている。完全な白兵近接仕様……接近されると厄介だが、逆に言えば距離を取りさえすれば危険度は大きく下がる。悪いが、まともに相手をするつもりはない』
 斯くして、黒騎士は全力で後退しながら突撃小銃を連射してゆく。装甲は貫徹できないが、関節部を狙っていることから撃破よりも撃退を主眼に置いていることが分かる。その立ち回りからはあらゆる意味で関わり合いになりたくないと言う意識がありありと滲んでいた。
『バシバシ撃ってきましたわ! でもそんなのに当たりませんわ~! 先程と同じようにサイドブースターでどひゃあしてみせますわ~! キャバぴょいキャバぴょい! うー! キャバだっち!』
 相も変わらずトチ狂った言動を叫びながら、機龍の両脇に搭載された推進器を全力稼働。攻撃を避けつつ距離を詰めんと試みる。先ほどの異形機戦でも使用した戦術だ。故に今回も上手くいくかと思われた、が。
『……めっちゃ当たりますわ~! 全然避けられませんわ~! こんなのおかしいですわ~! どうかお待ちになって~! |殴り合い《がいこう》希望ですわ~! 首脳部同士、お話ししましょう~?』
『いやぁ、国家同士は適度な距離感を保った方が健全かと思うがね!』
 先程とは敵機体の性能が余りにも違い過ぎた。機体を左右に振っても黒騎士の銃撃は悉くが機龍へと命中し、関節部から火花が飛び散る。また相手の機動力も基部が装甲車だった異形機とは異なり、小回りが利く事この上ない。回避機動でロスする分、どんどんと彼我の距離が開いてゆく。このままでは一方的に嬲られて御終いだ。
『はっ! そうですわ、閃きましたわ!』
(無言で更に距離を取る黒騎士)
 とそこでまた、メサイアの頭上に電球が灯る。その言葉を聞いた瞬間、引き撃ちに徹していた黒騎士が背中を晒す愚も承知の上で全力の逃走を図り始めた。このセリフが飛び出てロクな目に遭った試しがないとトラウマになっているのだろう。極めて正しい反応だ。
『避けられないなら! 避けなければいいのですわ~! わたくし天才ですわ~! いぇい! シールドでおガードするのですわ! 亀ちゃんみたいになりますのよ~!』
『おうそれさっきも見たぞ???』
 メサイアが選んだのは単純明快、分厚い装甲と追加防循によるゴリ押しだった。緒戦の集団戦闘時にも使用した手である。閃いたと言うか、これは思い出したと言う形ではなかろうか。だが、メサイアにそんな詳しい定義を求めてはいけない。何故ならとっくにもう三歩以上歩いてしまっているのだから。
『ただのおライフルなら楽勝ですわ~! 好きなだけお撃ちになられたらよろしいのですわ! 全部カキーンと跳ね返しますわ~! おほほほ!』
 しかし実際問題、これほどやられて厄介な戦術も無い。黒騎士の手持ち火力で装甲を貫けそうなのはプラズマブレイドくらいだが、そうなると必然的に白兵戦を挑まざるを得なくなる。正直、それだけは避けたい。
 だが逃げ回ったとしても、背後からこの鉄の塊が迫ってくるのである。その心理的な重圧は非常に大きかった。ジリジリと着かず離れずで振り切れない。回避を捨て去った結果、運動性の差を縮めてみせたのだ。
『追い付けなくても大丈夫ですわ! アンカークローでおキャッチ! ぐいぐい引っ張って無理矢理近付けるのですわ~! なんだかスムーズにできますわ~! まるでついさっきもしたみたいですわ~!』
 そうして暫し追いかけっこを続けた後、鉄騎の機動を見切ったメサイアは鈎爪付のワイヤーを射出。黒騎士の装甲へ引っ掛けるや、そのまま質量差を活かして強引に引き摺り寄せてゆく。相手も突撃小銃を乱射して引き剥がそうとするが、もはやその程度では止まらない。
『引き寄せたらわたくしがやり返す番ですわ~! リベンジギロチン! ギロチンシザーでちょっきんちょっきんして差し上げますわ~! おだるまさんみたいになってコロコロ転がってしまえばよろしいのですわ~!』
『本当になんなんだコイツ!? ダルマ宣告とか皇女が一番言っちゃいけないセリフだろうが! 皇族など辞めていっそ傭兵生活でもしてみれば……いや、これを野に放つのは危険すぎるッ』
 瞬く間に両者の距離はゼロとなり、巨大な|圧殺切断機《ギロチンシザー》が遂に黒騎士の四肢を捉えた。ギリギリと装甲が凹み、フレームが不快な軋みを上げてゆく。鉄騎も藻掻くものの、正に万力の如き圧力が捉えて離さない。このままではメサイアの宣言通り、手足を捥がれて継戦能力が喪失するのも時間の問題だった、が。
『事此処に至っては白兵云々など言ってはいられん! ええい、|国交断絶だ《はなせ》!』
『ああ、ご褒美のクロマグロが行ってしまいますわ~!』
 土壇場でプラズマブレイドを展開。強引に拘束から脱するや、もう付き合いきれぬと踵を返してゆく。跳ね除けられた皇女はと言うと相も変わらずご褒美をねだる始末。斯くして、玩具を取り上げられた赤ちゃんの如き悲鳴が渓谷に木霊するのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カシム・ディーン
機神搭乗
ADDS発動
…ディー…これがお前の初陣だ
相手は黒騎士…間違いなく強敵であり…全ての命を燃やして唯滅ぶために進軍を続ける…|国《・》だ
「…かーさま…悲しい…とても…(DDに乗り涙する白髪のレプリカント少女)」
ああ…唯勝つために…明日さえ捨てたんだ
だから…止めて…眠らせるぞ
「うん…!」

その熾火…鎮めてやる

【情報収集・視力・戦闘知識】
敵機の能力と動き
武装の性能を冷徹に把握しDテレサと情報共有

【属性攻撃・迷彩】

光水属性を己達の機体に付与
光学迷彩で存在を隠し水の障壁で熱源や音も隠蔽

【空中戦・弾幕・二回攻撃・切断】
Dテレサ
「これが…わたしと…DDの…力…!」
Dスワロウランペイジ発動
超絶速度且つ予測不能の多角的な動きからの弾幕でビットの迎撃と共に突撃しての斬撃攻撃

カシム
「ご主人サマ☆ディーちゃんが活路を開いてくれたぞ☆」
わーってる!

飛び回りながら念動光弾をDテレサと合わせて打ち込みその動きを制限させ

鎌剣による連続斬撃で電撃を注ぎ込み蹂躙し

【盗み攻撃】
UC発動
その機体に乗る誰か?をつかみ取る!



●初陣と終わりゆく者
『……アレにだけは負けるわけにはいかない。|国家《わたし》の沽券に係わるからな。ああ、やはり勝利だ。勝利こそが全てを解決する』
 辛くもイかれた皇女の攻勢を凌ぎ切った黒騎士は、勝利への執念を新たにしてしまったらしい。躯体フレームのあちこちは歪み、損傷は蓄積しているものの、依然として戦闘能力に支障は無かった。念のため機体状態を調べるべく走査プログラムを走らせる敵機を前に、白銀の機神へ搭乗したカシムはそっと傍らへ声を掛けてゆく。
『………ディー、これがお前の初陣だ。相手は黒騎士。一機しか居ないが、間違いなく強敵であり……全ての命を燃やして唯滅ぶために進軍を続ける、|国《・》そのものだ』
 彼のすぐ隣にはもう一機のキャバリアが姿を見せていた。こちらも銀を基調とした機体だが、青年の搭乗する|機神《メルクリウス》と異なり各所で薄っすらと輝く蒼色が目を惹く。
 その名はアークレイズ・|DD《ディナディーン》。彼らの娘とも言うべき生体ユニット、ディーン・テレサの為に誂えられた専用機である。その操縦席では白髪の幼い少女が、目尻に涙を溜めながら漆黒の騎士を見つめていた。
『……かーさま……あれは、悲しい。とても……』
『ああ。唯勝つために、明日さえ捨てたんだ。いま、この瞬間の為だけに、全てを賭した。だけど、それを実行させる訳にはいかない。だから……止めて、眠らせるぞ』
『うん……!』
 先の言葉通り、少女は今回が初陣だった。数度の戦闘を経て既に手負いとは言え、決して油断など出来ない相手である。戦闘に参加させて経験を積ませつつ、敗戦国の亡霊を討つ。容易い内容では無いが、それをこなさなければならないのは猟兵の辛いところだ。
『その熾火……鎮めてやる』
 ともあれ、先手を取って主導権を握るか、先ずは見に徹するべきか。悩ましいところである。だが戦闘に不慣れな娘を連れている以上、いきなり吶喊するのはリスクが大きいだろう。故にカシムは黒騎士の状態や戦術に関する情報収集に徹する事に決めた。
『一番厄介なのはあの結晶体状のビットだな。一斉に襲い掛かられたら防ぎ切るのに骨が折れる……ディー、機体に光学迷彩と水の障壁を施しておこう。さっきのオカルト染みた怨念と違い、こっちは飽くまでも通常のキャバリアがベースの筈だからな』
 機体チェックを終えたのか、黒騎士の肩部コンテナからクリスタルを模した誘導兵器群が射出され、周囲へと展開し始めている。千を優に超えるそれらに襲い掛かられては、流石に無傷では凌げまい。故にカシムは光の反射を歪める事で機体のシルエットを隠し、同時に水壁で排熱や駆動音を消す事でセンサー類での感知を妨げてゆく。
『ふむ、やや消極的な手だな。だが、退いた分だけ踏み入るのが国家間交渉の定石。手を出してこないと言うのならば、有難く先手を頂くとしよう。なに、空間全てを攻撃で満たしてしまえば、見えようが見えまいが関係あるまい』
 一方の黒騎士はそんな猟兵側の様子を好機と見たのだろう。つい先ほどまで二機が居た場所目掛け、結晶体のビットを差し向けてゆく。複雑な幾何学模様を描く軌跡が残像を残しながら飛翔。例え空振りになったとしても現在地点を予測し、文字通り空間そのものをお虱潰しに塗り潰してしまう。
『単純な物量で押し切るつもりか。もしも迎撃すれば、その時点でこっちの居場所もバレると。単純だが、それだけに面倒だな……! ディー、大丈夫かディー?』
 機体を巧みに操り、カシムは津波の如く押し寄せる誘導兵器群を回避してゆく。だが、やはり数が数である。避け切れず被弾するに至り、青年は止むを得ず鎌剣を振るってビットを撃墜していった。
 しかし、それにより更なる結晶体が機神へと殺到。加速度的に損傷が増大してしまう。自分たちでこの有様なのだ。初実戦の娘は更なる苦境に陥っているのではないかと危惧し、咄嗟に声を掛ける、が。
『……これが……わたしと、DDの、力……!』
『なんだ、この機体は。先ほどまでと動きが違い過ぎるッ!』
 視線の先では、良い意味で予想を裏切る光景が繰り広げられていた。完全に機体を掌握した少女が、物理法則を無視した超絶機動で殺到するビット群を悠々と振り切っていたのだ。更には迫り来るそれらを切って捨てるどころか、本体である黒騎士へと吶喊。そのまますれ違い様に斬撃を叩き込むほどである。
『わー、すごーい♪ ご主人サマ☆ ディーちゃんが活路を開いてくれたぞ☆』
『っ、わーってる! こっちもいくぞ!』
 思わず呆気に取られそうになるカシムだったが、機体から発せられる言葉に我を取り戻す。どうやら、当初考えていたあれやこれやは杞憂だったらしい。気を取り直した青年も鎌剣を振るって戦闘へと参加してゆく。
 二機は流石の連携と言った所だが、ときおり念動式の光弾を織り交ぜて牽制しているのはやはり経験の差ゆえだろう。対する黒騎士はそれまでとは打って変わった猟兵側の攻勢により、防戦に回らざるを得なくなる。
『先ほどまでの振る舞いは|国家《わたし》を欺く欺瞞工作か? だが、片方はまだまだ粗削りだ。受けに回りさえすれば、このまま凌ぎ切る事も……』
『おっと、そうはいかないぜ? |顔がない《ノー・マン》、だったか。ツラの一つも見れないのは少しばかり寂しいもんだ。という訳で……万物の根源よ。我が手に全てを奪う力を示せ!』
 守勢に徹していれば致命打を受ける恐れはない。そうして反撃の機を窺う顔無しに対し、カシムが動いた。彼の本業は盗賊。であるならここは一つ、顔無しの面を盗み見るのも一興か。彼は攻勢を娘に任せつつ、自身は隙を見計らって敵機の操縦席へと手を伸ばし、そして。
『…………ッ、こいつは!?』
『言っただろう。私は|誰でもない《ノー・マン》とな』
 指先が空を切る。盗みの技術を見抜かれたのか、それともそもそも盗むべき存在が端から居なかったのか。そんな曖昧な感触に目を剥くカシムに対して、興味本位の代償だと黒騎士はプラズマブレイドの一閃で機神のマニピュレータを断ち落とさんとし――。
『かーさま、あぶない!』
『っと!? すまん、助かったディー!』
 咄嗟に娘が機体ごと引き戻してくれたことにより、間一髪で窮地を脱っすることに成功した。そうして二機はいったん仕切り直すべく、後退して距離を取る。カシムは娘の成長具合に微苦笑を浮かべながらも、先ほど指先に感じた空虚さを思い出し、眉根を顰めゆくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

イザリス・アルセイン
おや、中にキャバリアを隠し持っていたとはね
ワンマンアーミーならぬワンマンネイションかい?
これは大きく出たね
それだけの自信を持たせる根拠があると見える
だから遊び心を出すつもりはないよ
つまらないやり方で排除させてもらうとしよう

スカルモルドの武装の構成は、プラズマブレイドとアサルトライフルにクリスタルビットか
しかもビットはコンテナ格納式で一度に多数を展開可能となっている
ライフルもシンプルだが狙いが研ぎ澄まされている
ギガス・ゴライアの図体では回避は不可能だろう
だが…火力は相応と思える
少なくともそのライフルが艦砲並の威力を発揮するとは考えにくい
ともすれば、アダマンチウム装甲を貫くには些か力不足ではないかな?
関節部を精密に狙われるのは想定内だ
だからこそのハイパーパルスシールドによる全方位防御だよ

しかし機動性は脅威だ
小回りの効かないギガス・ゴライアでは翻弄されてしまう
ここは焦らず、時間を掛けて荷電粒子充填をメガビームキャノンに行おう
直撃を狙う必要はない
爆風でも十分な致命傷を与えられるだろうからね



●遊びなく、ただ冷徹に
『……「私」が「誰か」など、問うたところで詮無い話だ。|国家《わたし》は|国家《わたし》だ。それ以上でも以下でもない。この操縦席に収まる存在が何者であろうとも、為すべき事は何一つ変わらないのだから』
 顔無しはゆっくりと、マニピュレータの指先でコックピットハッチを撫ぜゆく。頭部はかち割られ、肩口や胴体には深々と斬傷が刻まれている。だが、操縦席回りだけは辛うじて無傷。それは己が何であるかを絶対に知られまいとする意志のようにも思えた。
『ふむ、まさか中にキャバリアを隠し持っていたとは。歪な設計だが、確かにあれだけ大きければ構造的な余地もあるだろう。しかし、ワンマンアーミーならぬワンマンネイションかい? これはまた大きく出たね』
 そんな黒騎士と相対するイザリスは、研究者らしく相手の在り様について興味深そうに考察していた。先の異形機は合理性も何もない仕様だったが、その分だけ空間的な遊びもあったのだろう。
 だが一方、機能的な面での繋がりは見受けられない。良くも悪くも、この黒騎士は真っ当な設計の代物だ。しかし同時に、自らを国家と称するだけ自信を齎しているのがこの機体ならば話も変わってくる。
『どうやら、それだけの自信を持たせるだけの根拠があると見える。だから、今回に関しては遊び心を出すつもりはないよ。悪いが、つまらないやり方で排除させてもらうとしよう』
 ズシン、と。地響きを轟かせながら巨大な機龍が黒騎士の前へと歩み出る。例えどんな機能を持っていたとしても、イザリス自身が手を加えたこの機体が後れを取るとは考えていない。しかし、性能面で言えば手の内はほぼ抜かれてしまっていた。それは少しばかり面白くないと、彼女はモニター画面に視線を走らせてゆく。
(スカルモルドの武装の構成は、プラズマブレイドとアサルトライフルにクリスタルビットか。しかもビットはコンテナ格納式で一度に多数を展開可能。ライフルもシンプルだが照準制度が研ぎ澄まされている上、プラズマブレイドの出力も悪くない……突出した機能は無い反面、どれも手堅い設計だな)
 幸い、先に交戦してくれた仲間のお陰で黒騎士の武装や能力もほぼ割れていた。原型機の劣化模倣品だとされているが、それでも性能水準は並みの量産型以上。不確定要素である使い手の技量を加味したとしても、攻守走共に揃った良い機種だ。
(どの武装を使用されても、ギガス・ゴライアの図体では回避は不可能だろう。だが……火力は相応と思える。少なくとも、あのライフルが艦砲並の威力を発揮するとは考えにくい。ともすれば、アダマンチウム装甲を貫くには些か力不足ではないかな?)
 尤も、それは通常機の範疇であればの話だ。イザリスの駆る機龍は汎用性を損なう代わりに、火力と防御面を大きく特化させている。キャバリアの手持ち式突撃銃程度の口径では、装甲の貫徹は望めないはず。実際問題、観測データがその推測を裏付けていた。
『先ほどの頭がおかしい女の機体と似ているが、こちらはアレほどの運動性は無かったはず。瞬間的な加速は脅威だが……みすみす接近戦を仕掛けてやる義理もあるまい。|国家《わたし》は勝利を望むが、それ以上に敗北も厭うのでね』
 よほど同系統の機種に、或いはその操縦者にトラウマがあるのか。黒騎士は一定の距離を取りつつ、機龍の周囲を旋回。脚部を始めとする関節部へと銃弾を叩き込んでゆく。その威力は決して高いとは言い難いが、イザリスの読み通り命中精度は極め高く、針の穴を通すような狙撃を苦もなくこなして見せる。
(関節部を精密に狙われるのは想定内だ。巨躯は誇るべき点だが、その分だけ的も大きくなってしまうからね。だからこそのハイパーパルスシールドによる全方位防御だよ。同じ装備で芸がないと言われそうだが、それだけ有効でもあるのさ)
 それに対し、機龍は先の集団戦でも使用した電磁力場を全周囲に展開。装甲だけではカバーしきれない脆弱部の防護を行う。仮にこの障壁を抜けたとしても弾道は狂い、弾速も大きく減じてしまうだろう。懸念すべきは過負荷だけだか、鉄騎一体のみでそれほどの負荷を掛けられるはずも無し。
(唯一警戒すべきは、やはりプラズマブレイドかな。あの出力ならパルスシールドと装甲、どちらも突破可能だろう。加えて、元々の機動性も脅威だ。小回りの効かないギガス・ゴライアでは翻弄されてしまう)
 もしも相手が白兵戦に切り替えた場合、プラズマブレイドなら有効打となり得る。その上、サイズ差と機動性を活かした一撃離脱戦法に徹された場合、機龍の武装で黒騎士を捉えるのは至難の業だろう。無論やりようはあるし、負けるつもりも毛頭ない。だが、その戦術に気付かれたら非常に面倒ではあった。
『このシールドを突破するには単発だと難しい。同じ地点に連続して命中させるか、いっそビットで飽和させるか……全く、決め手がないと言うのはもどかしいものだ。そちらもそれほどの巨躯を誇示しているのだ。守ってばかりでは埒が開かんぞ!』
 幸い、黒騎士はまだ飽くまで距離を取っての戦闘にこだわっているらしい。安い挑発も通信機越しに聞こえてくるが、それに乗ってやる気なぞない。宣言通り、遊びは無しだ。イザリスもまた有効打を検討した結果、ある結論に辿り着く。
『……そんなにこちらから仕掛けて欲しいのなら、お望み通りにしてあげよう。尤も、時間はそちらの敵となるがね?』
 そう宣告するや否や、機龍の装甲表面に光のラインが走る。その正体はエネルギーの奔流。向かう先にあるのは背面に搭載された推進器一体型の荷電粒子砲だった。それが何を意味するのか、黒騎士もまた嫌が応にも理解してしまう。
『貴様、周囲一帯を吹き飛ばす気か!?』
『ああ。そんな状態の機体だ、直撃を狙う必要はない。爆風でも十分な致命傷を与えられるだろうからね。尤も、兵装へのエネルギー充填と並行して照準補正を行っている。時間を掛けるほどに威力と照準精度は増す。言っただろう、時間は私の味方だよ?』
 これには堪らず黒騎士も狂ったように突撃小銃を乱射するも、それらは悉く電磁力場に防がれてしまう。なれば結晶体ビットだと無数に展開したそれらを突撃させるが結果は同じ。幾つかはシールドを突破したものの、その程度の数では機龍の身動ぎ一つで叩き落とされてしまった。
『く、おのれぇ……ッ!』
 斯くなる上は、充填が完了する前に忌避していた白兵戦を仕掛ける他に無し。黒騎士はプラズマブレイドの刀身を展開し、突撃と共に電磁障壁を突破。そのまま守りの内側へ入ると、背面の荷電粒子砲を目指す。こうなればもう、機龍では鉄騎を止める事は難しいと踏んでいた、のだが。
『……時間制限を掛けられると、人は途端に慌て出す。そういう時ほど、冷静にならなくてはいけないのにね? どうやら、君もまだまだ人間らしさが残っていたようだ』
 そうした心理的焦燥感もまた、イザリスの掌の内だったらしい。これみよがしに危機感を煽り、泡を食った敵を仕留める。その狙いにまんまと嵌められた黒騎士は、至近距離で放たれた荷電粒子砲が放つ暴力的な熱と光に呑まれ、罵倒一つ上げる間もなく、吹き飛ばされてゆくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ミハイル・グレヴィッチ
SIRDとして参加

聞いたか、おい。マシンの分際で、朕は国家なり、だとよ。ルイ14世もビックリだぜ。過去に王族は何度か相手した事あったが国自身が挑んでくるのは初めてだ。俺ら猟兵も出世したモンだぜ。そんじゃ、メインデッシュに取り掛かるとしようか。
こっちも全力で相手してやる。|巨神《エリュシオン》に搭乗し迎え撃つ。

(エリュシオンに向け)さて、手荒く楽しいお仕事の時間だ。今回も頼むぜ、|相棒《ナパールニク》!

UCの戦女神の盾を発動し、回避力を上げ敵機に追従し、攻撃を行う。
…ふん、動きは速いが、以前戦ったハイネマンって|戦争狂《ウォーモンガー》に比べりゃ、大した事ねぇ。

敵機の動きが鈍ったチャンスを狙い、UCの冥界神の槍を発動、敵機をアダマースで串刺しにしてやる。

…手前は何か誤解してるみてぇだから、冥途の土産に教えてやる。国家ってのはあくまで方便だ。国家の為に国民がある訳ではなく、国民の為に国家は存在する。だから国民全てが死に絶えちまった手前は、存在する意義も価値もねぇんだよ。とっとと消滅しやがれ!


寺内・美月
アドリブ・連携歓迎
SIRD共同
・自身はSIRD主力と共に前進し、銀龍は撤収させる
・自動操縦の〖フロンティヌス〗に前衛を務めさせる。アサルトライフルによる直接射撃には〖大盾〗を、ビットによる射撃には〖ホーミングレーザー〗を自動的に運用させ、指定UCの発動に適した位置まで前進
・適宜適切な位置にて当初【完全統制射撃】を発動。大盾の周囲に120mm火砲を展開して全力運用、敵機のアサルトライフルによる近距離火力を圧倒・牽制し、近接UC発動までの接近に寄与する
・火力でアサルトライフルを破壊した後、指定UCを発動して近接攻撃。ビットコンテナを斬り落として敵の遠距離武装を沈黙させると共に、余力がある場合は残りの武装を破壊する
・プラズマブレイドにて斬りかかられた際は【黒鞘レーザー】で火力による牽制を図り、打撃力に余裕があれば上記のように武装を破壊する


ラムダ・マルチパーパス
SIRDの皆様方と共に参加

これはまた何と言うか、執念もここに極まれり、という感じですねぇ。そもそも国家の定義とは、一定の領土とそこに居住する人々からなり、統治組織を持つ政治的共同体。 主権・領土・人民の三要素から成り立つ筈なのですが…国土も国民も全て失った時点で、既に国家とは名ばかり。これはもうテロリストと大差ないかと。

さて、まずはあのオブリビオンマシンの動きを低下させましょう。UCを使用しアンカーを慎重に狙い射出。ある意味同じマシンですので、動きを読むのは難しくあっても、不可能ではありませんから。

今までその任務と対象の都合上、主に直接攻撃を行って来ましたが、こういった搦め手も得意なのですよ?


エルゴ・ルスツァイア
【SIRD】
イクスフェルに搭乗
アドリブ・連携歓迎

一人となっても、国民には変わらないか……まあ、理解する必要は無い。少なくとも今は。

ダミーを展開し、連携して迎撃戦闘を開始。ビットコンテナへの迎撃の手数を増やす。捌ききれない場合はイニシャルシールドを緊急展開して被害を抑える。
目標の隙を見てダミーを多方向から一斉に突撃させ、味方の盾となりつつ持てる兵装の全弾を叩き込む。
銃身が焼け付いてもいい。多少の損害は気にしている場合じゃない、それすら囮にして|確実な一撃《スナイパー》を打ち込もう。

どうか安らかに…。


梶浦・陽臣
●WIZ対応
●SIRDとして参戦
「正統派ロボットって感じの機体だな……あぁいうのは単純に強いって相場が決まってるもんだ。」
「あの結晶みたいな無線兵器が厄介そうだな……俺はあれを対処することにしようか!」
「行けっ、幻影魔剣!あの結晶体を撃ち落とせ!!」

UC【幻影魔剣全射出】を発動。
自身の周囲数mにレベル×5本の浮遊する【幻影魔剣】を生み出す。
全ての【幻影魔剣】で、スカルモルドの結晶体ビットに対して【自動射撃】による迎撃を行い、スカルモルド本体も攻撃する。

相手の攻撃に対しては、手元に生み出した【鋼刃魔剣】で【受け流し】や、【軽業】による軽快な動きで避け、それに対して【カウンター】の斬撃を繰り出す。


灯璃・ファルシュピーゲル
SIRD一員で密に連携

なるほど、巨人の中枢、煮詰まり切った呪いその物といったところでしょうか…

まずは指定UCで黒霧を敵周囲に展開、何にせよ単機になった以上死角は大きくなりますし、霧でそれを助長すれば味方の攻撃もしやすくなるかなと。
更に、敵味方の動きを監視しつつ、能力強化を得て巨躯の群狼達を黒霧に紛れて四方より適宜に襲い掛からせ、仲間が敵の死角突きやすい様に支援しつつ、自身も集中狙撃により敵の武器を持つ腕と推進装置の破壊を狙い戦う

国は飽くまで其処に属する人々が不自由なく日常を楽しんで送っていくための枠組みです、そんな"初歩的な仕事"もできないで国家を名乗ること自体片腹痛いですよ?

アドリブ絡み歓迎



●国家の定義とは
『我ながら、随分と酷い有様になったものだ。金が無く、資源が無く、余裕すら失われた。そして、それらを生み出す人ももはや居ない。だが、それがどうしたと。どのような状況になったとしても、|国家《わたし》は存続し続ける……そういうものだろう、世の中と言うものは。故に、敗北は無い』
 既に黒騎士は満身創痍と言った様子だ。通常であれば、戦意が折れても不思議ではない。にも拘らず。垂れ流される言葉の数々は異形機のプロパガンダとはまた違った異常さを孕んでいた。損傷が蓄積しているとは言え、依然として戦闘能力事態も健在である。
 その上、まだ勝利を諦めてはいない。飽くまでも己は国家であり、その勝利が『旧体制国』としての勝利に繋がるのだと信じて疑っていなかった。その尊大すぎる自己認識に、思わずミハイルはヒュウと口笛を吹く。
「……聞いたか、おい。マシンの分際で、朕は国家なり、だとよ。ルイ14世もビックリだぜ。裸の王様だって、あいつと比べればまだマシだろうな」
「確かにこれはまた何と言うか、執念もここに極まれり、という感じですねぇ」
 どうやら、ラムダも似たような感想を抱いたらしい。相槌を打つ声音には呆れの色が見て取れる。第一、黒騎士が説く国家の定義にはかなり無理があると、彼女は己のデータベースに記録された情報をそらんじて見せた。
「そもそも国家の定義とは、一定の領土とそこに居住する人々からなり、統治組織を持つ政治的共同体。主権・領土・人民の三要素から成り立つ筈なのですが……国土も国民も全て失った時点で、既に国家とは名ばかり。これはもうテロリストと大差ないかと」
『だが、一人となっても国民には変わらないか。最期の一兵まで戦い抜く。国家を軍隊に置換した国家らしいと言えば、確かにらしい結論だが……まあ、理解する必要は無い。少なくとも今は』
 これを国家と言ってしまえば、住宅地なぞ小国家群に早変わりだ。幾ら何でも牽強付会に過ぎるとラムダが断じる一方、エルゴは僅かながらも共感を覚えそうになり思わず首を振る。国家機能を軍隊に置き換え、国民感情すらも報復兵器と化した集団の行きつく先と思えば、ある意味では妥当と言えるかもしれない。
『なるほど。あの異形然とした巨人の中枢から現れた機体である以上、存在自体が煮詰まり切った呪いその物といったところでしょうか……単なる狂人であれ、思念であれ、AIであれ、放置しておいて良い代物ではありませんね』
 数にしてたった一機、そのサイズも先の異形機と比べるべくもない。それだけ見れば国家的脅威と呼べるかは甚だ疑問だ。しかし視点を変えれば、一つの国家が持ち得るリソース全てを凝縮した存在だとも言えた。その正体が何であろうが此処で完全に討ち果たす必要があると、灯璃は狙撃銃へ新たな弾薬を送り込みながらそう確信する。
「まぁ、見た目からして正統派ロボットって感じの機体だからな……あぁいうのは単純に強いって相場が決まってるもんだ。奇を衒わない、小細工無しの真っ当な戦い方ってのが、ある意味で一番厄介だろうぜ」
「それが王道と言うものだろう。国も土地も失った存在の行きついた戦術が其れとは、些か皮肉が過ぎるがな。定石には定石で対抗するしかあるまい。フロンティヌスを前に出す。キャバリアにはやはりキャバリアをぶつけるべきだ」
 先の異形機に感じられた異様な能力こそないものの、汎用性と言う点ではあの黒騎士に軍配が上がるだろう。特異な機能と引き換えに隙も大きかった先ほどの敵機と比べ、付け入る隙が乏しいと陽臣と美月は分析していた。どんな属性の魔剣を鍛造すべきか思案する青年の横では、武官が自律稼働する鉄騎を前線へ押し出し壁としてゆく。
『友邦なき|国家《わたし》と連携も厚き小集団。|国家《わたし》が|国家《わたし》である事を加味しても些か分が悪いが……幸いそちらの手の内も、それぞれの役割も割れている。ならば、切り崩せぬ道理もあるまい』
 そんな十人十色な反応を何気ない様子で観察しながら、顔無しは機体に搭載された兵装を展開。突撃小銃には新たな弾倉が叩き込まれ、プラズマブレイドは暴力的な輝きを放ち、更には夥しい数の結晶体が幾何学的な軌道を描き出す。これを突破するのは相応に骨が折れそうだ。

「……過去に王族は何度か相手した事あったが、国自身が挑んでくるのは初めてだ。俺ら猟兵も出世したモンだぜ。そんじゃ、そろそろメインデッシュに取り掛かるとしようか。こっちも全力で相手してやる。|巨神《エリュシオン》に搭乗し迎え撃つぞ」
「やっぱり、あの結晶みたいな無線兵器が厄介そうだな……迂闊に近づいたら細切れにされそうだ。よし、それなら俺はあれを対処することにしようか!」
 大群も討ち破った。怨念の集積装置も破壊した。ならば例え国家が相手でも渡り合って見せようと、ミハイルはそれまで温存していた超大型キャバリアへと乗り込み、陽臣もまた自らの為すべき事を見定めてゆく。
 とは言え、いきなり仕掛けるのは些か以上に無謀が過ぎよう。真っ当な戦術が強いのは認めるが、それはただ真正面から挑む事を意味しない。絡め手もまた立派な戦術であると動いたのは灯璃とエルゴであった。
『単騎で挑む気概は認めますが、些か無謀とも言えますね。国際政治だろうと戦場であろうと、孤立した者から狙われると教育して差し上げましょう』
『ダミーコア、オンライン。複製分隊D1からD4まで展開。黒霧を利用して位置情報を欺瞞……火力こそ出せないが、検出される反応は装備も含めて全くの同一だ。目視に頼れない状況でどこまで見抜けるか?』
 ジワリ、と。狙撃手の周囲から墨の如き漆黒の霧が滲んでゆく。それは一見すると単なる煙幕にも思えるが、発揮される明度は恐ろしく低い。光すら逃さぬ暗闇は光学系のセンサーを機能不全に陥らせるだろう。その上、黒霧の中には蠢く何かの気配も存在していた。
 漆黒に紛れて行動するのは四つの機影。それはエルゴの駆る鉄騎と瓜二つの外見をしており、センサー上の数値でも差異はない。だが、その正体は精巧な囮用ダミーだ。尤も、性能的にも全く同じ為、張り子の虎と侮れば痛い目を見よう。
『目晦まし、か。単純だがそれ故に厄介だ。尤も、対処法が無い訳では無い。友邦なき|国家《わたし》にとって、周囲全てが即ち敵。である以上、目についたものを片端から殲滅していけば事足りる』
 漆黒の霧で視界を奪い、囮で注意を逸らす。黒騎士からすれば厄介な一手だったが、それも友軍誤射の恐れが無いのであれば効果も半減すると断じる。事実、相手は死角より迫るダミー機体へ手慣れた様子で弾丸を叩き込み撃退してゆく。
 周囲の結晶体を維持したままでこれなのだ。敵機はまだまだ余力を残していると言えよう。となれば、更なる一手が必要だった。幸い、仲間であるSIRDの面々ならば情報共有によって視覚系のハンデを背負う心配も無い。
「寄らば斬り、動けば撃つと。さて、視界を奪うだけでは不十分ならば、あのオブリビオンマシンの動きを低下させましょう。ある意味同じマシンですので、挙動を読むのは難しくあっても、不可能ではありませんから」
 そうして第三の矢として動いたのはラムダ。彼女は暗闇に溶けた黒騎士の装甲を見定めると、マニピュレータから『何か』を投擲した。当然、相手もまた目敏くそれを察知し、光刃を振るう、が。
『これは……アンカー? |国家《わたし》の身動きでも封じようと言うのか。しかし、この状況下では悪手だろう。折角こちらの視界を奪ったと言うのに、みすみす自らの居場所を教えるとは』
 途中で軌道を変えた其れはマニピュレータにクルリと巻き付き絡め取る。見れば、正体は有線ワイヤー式のアンカーだった。片腕を封じられたのは厄介だが、アンカー自体に爆薬などが仕掛けられている様子もない。ただ機動力を封じるだけなら、些か以上に地味な一手だ。
 顔無しは逆にこれを好機と捉える。当然ながら、このアンカーを辿った先には猟兵が居るはず。黒霧で視界を封じられている敵機にとって、これ以上分かりやすい目印もあるまい。これ幸いにと、ワイヤーの先へ結晶体を差し向けてゆく。
「おっと、そうはいかないぜ? 手数だったらこっちも負けちゃいないからな。行けっ、幻影魔剣! あの結晶体を撃ち落とせ!!」
 しかし、それを受けて陽臣がすかさずカバーに入る。青年は先の宣告通り、結晶体ビットへ対処すべく動いたのだ。彼は魔力を収束させるや、実に八百近い魔剣を鍛造。特定の属性が籠められていない『無』属性の魔剣だが、シンプルな分だけ数を揃えやすいのだろう。
 魔剣と結晶体は互いを狙って空中で衝突し合い、甲高い破砕音を響かせてゆく。技量や手数で言えばやや黒騎士の方が上。お互いに数をすり減らしているが、その消耗具合は陽臣側の方が徐々に大きくなる。このままでは押し切られるのも時間の問題だと思われた、が。
『なんだ……ビットの動きが鈍い?』
 徐々にその差が縮まってゆく。陽臣が黒騎士の動きに適応したと言うのもあるが、それ以上に結晶体の反応速度が目に見えて落ちていたのだ。何故かと機体のシステムをチェックした顔無しは、制御システムがウィルスに侵されている事に気付く。いったいどこから侵入を許したのかと思考を巡らせるも、思い当たる原因など一つしか無い。
『ただ動きを封じるだけでも悪くはありませんでしたが、折角の有線接触を可能とする機会ですから。今までその任務と対象の都合上、主に直接攻撃を行って来ましたが、こういった搦め手も得意なのですよ?』
 それは依然としてマニピュレータを封じるラムダ。彼女は物理的な動きに制約を掛けただけではない。有線を解して直接機体システムへウィルスを流し込むことで、ソフト面にも異常を齎したのだ。
 これまでの彼女は砲火力による支援をメインに立ち回っており、黒騎士にもその印象が強く刻み込まれていた筈。戦機はそれを逆手に取る事で、鉄騎の行動的自由度を大きく縛る事に成功したのである。
「今が好機だな……フロンティヌス、前へ。所定の位置まで前進後、完全統制射撃を実施。目標の破壊及び無力化を狙うべし」
『さて、手荒く楽しいお仕事の時間だ。今回も頼むぜ、|相棒《ナパールニク》! 見た目通りの鈍重な機体じゃないってことを教えてやれ!』
 こうなればもう猟兵側の攻め時だ。美月は前衛役として待機させていた鉄騎を前へと押し出しながら、大楯越しに120mm火砲を展開。|装弾筒付翼安定徹甲弾《APFSDS》の連続砲撃によって相手の装甲を穿ちつつ、更に距離を詰めんとする。
 その横では巨大な念動剣を構えた巨神が背面のブースターへと点火。その外見からは想像もつかない加速力により、こちらも彼我の間合いを瞬く間に縮めてゆく。黒騎士も咄嗟に残った結晶体や無事な方の腕に握られた突撃小銃を差し向けてくるが、その程度の火力で止められるほど甘くはない。
『足を止めれば不味い事態になりそうだ。|国家《わたし》が通常の国家と異なり、身軽なのは好材料か。尤も、この邪魔くさいアンカーとウィルスさえ無ければの話だがな!』
 足を止めての殴り合いは不利だと悟ったのだろう。黒騎士はラムダの放ったアンカーを光刃で断ち切りつつ距離を取らんと試みる。しかし、注ぎ込まれたウィルスを無力化するには暫しの時を要し、それまでは思うような機動を取ることは困難であろう。
『……ふん、文字通り片手落ちの状態でもよく動くもんだ。だが、以前に戦ったハイネマンって|戦争狂《ウォーモンガー》に比べりゃ大したことねぇ。国を自認するのは構わねぇが、戦争するのは所詮人間だ。情熱ってもんが足りねぇな!』
 巨体が故に運動性はそれなりだが、ブースターの大推力に裏打ちされた加速力は折り紙付き。そのまま間合いを詰めるや否や、ミハイルは念動剣で黒騎士を串刺しにしてしまう。操縦席こそ狙いはずらされたが、そう簡単には抜け出せぬだろう。
 確かに相手は強い。だが集団を突き動かす狂気、溜め込まれた濃密な怨嗟、そして何よりも闘争に賭ける熱量と言う点では劣っている。端的に言えば空虚か。言葉こそ勇ましいが、中身が伴っていないのだ。
「|士気《モラル》の問題、か。ようは気持ちと言ってしまえばそれまでだが、極限状態における影響は馬鹿には出来ないものだ。しかし|欺瞞宣伝《プロパガンダ》も周囲に聞かせる分にはまだ良いだろうが……自らを騙しきるには不十分だろう」
 その手の言葉は騙るものであって、自分自身へ向けるべきものではない。建前を建前と知ったまま信じられる者なぞ居ないからだ。そういう意味では確かに空言に過ぎないと、美月は断じてゆく。
 彼は仲間が敵機を射止めているうちに接近。腰に佩いた双刀の封印を解くや、すらりと鞘走らせる。第一目標は手にした突撃小銃、第二目標は肩部ビットコンテナ。遠距離兵装を無力化する事を優先としていた。
『依然として細かな操作は叶わない……だが、裏を返せば大雑把ならば動かせると言う事だ。無論、|国家《わたし》も相応の損害を覚悟する必要があるだろう。だが、これも|必要な犠牲《コラテラルダメージ》と言うものだ』
 このままでは為すがままに蹂躙されてしまう。であるならば、多少のリスクは呑んででも猟兵側に手傷を負わせようと言う狙いなのだろう。黒騎士は周囲の結晶体ビットを強引に動かし、己諸共に武官と巨神を殲滅せんと試みる。
 少なくとも鉄騎と生身ならば、耐久力の差からダメージレースには勝てると踏んだのか。ミハイルも巻き添えを食らわぬよう機体を後退させつつも、しかしてニヤリと笑みを浮かべていた。損耗を前提とした作戦は愚策だが、敵のみならず仲間も必要とあらばそれを躊躇わぬと知っていたからだ。
『身を切る覚悟は悪かねぇけどよ。こっちだって、多少の損害は織り込み済みだ。なぁ?』
『ああ、そうだ。残念だが、巻き込むのならばダミー相手にして貰おう。こういった無茶を利かせられるのもデコイの特権だからな。ついでだ、残弾も全てくれてやる』
 斯くして、両者の間へグイと割り込む影がある。それはエルゴが操作するダミー機たちだ。半壊状態のそれらは自らを肉壁として結晶体を受け止め、仲間が行動可能な猶予を作り出す。限界を迎え圧壊する同型機を視界内に収めながらも、彼女は冷静にチェーンガンの照準を合わせゆく。
(銃身が焼け付いてもいい。もうこれで終わりなら、後の事を考える必要もない。多少の損害は気にせず、崩壊する機体すら囮にして|確実な一撃《スナイパー》を打ち込もう)
 ――せめて、安らかに。
 独りきりの|国家《だれか》。敵ながらその在り様に一抹の憐憫を抱いていたエルゴは、そんな祈りにも似た感傷を小さく口遊みながら、トリガーを引き絞る。高速供給される弾丸は黒騎士の全身を穿ち、遂には突撃小銃の機関部へと滑り込むことで故障を誘発させた。
「保有火器の無力化に成功したか。ならばこのまま、次目標を狙う」
 ――繊月と司霊、両刀の第一次封印を解除。
 美月は火花を散らす銃火器を横目に、漆黒の装甲を駆け上がる。右肩部に搭載された結晶体ビット用のコンテナへ狙い定めると、手にした白刃を閃かせた。右手の銀刃でハッチを切り開き、続く黒刀による刺突が内部に詰まった誘導兵器を抉り取ってゆく。流れるような連撃によってそれらは破壊され、内側より爆ぜ吹き飛ぶ。
『ぬ、ぅぅ……!? まだだ、まだもう一基残っている! |国家《わたし》がそう簡単に滅びるものか!』
 だがそのタイミングでようやく、機体の制御を完全に取り戻したのだろう。たたらを踏みながらも高熱の光刃を展開し、美月を強引に引き剥がす。強固な鞘で咄嗟に直撃を防ぐものの、至近距離で浴びせられた熱量は馬鹿にならず、武官もまた止む無く距離を取らざるを得ない。
 しかし体制を立て直す隙は与えぬと、黒騎士はそのまま追撃を敢行。残った左肩部のコンテナより結晶体ビットを再展開し、戦闘の主導権を取り返そうとする。尤も、相手と違いSIRDの面々は単独で挑んでいるのではない。すかさず陽臣とラムダが入れ替わるようにカバーへと入った。
「剣で挑まれたのなら負けられないな。例えプラズマだろうが、相手が国家だろうが、俺の魔剣を折れるとは思うなよ!」
「流石に二度もウィルスを受け付けるほど、そちらも間抜けではないと思いますが。アンカーで物理的に拘束する事自体は依然として有効に違いありません。こうして存在をちらつかせるだけでも厄介でしょう?」
 先ほど無数に生み出した幻影魔剣とは異なり、今の青年が握る得物は片刃の魔剣が一振りのみ。先ほど同様に属性も込められていない無骨な一本だが、硬度と切れ味に関しては鍛造可能な魔剣の中でも一級品だ。例え超高熱の光刃と打ち合ったとて、競り負けるつもりはなかった。
 更には戦機もまた、別方向からアンカーを射出し牽制する。仮に再度プログラムを攻撃したとしても、今度は瞬時に対処されてしまうだろう。だがそれを抜きにしても、四肢の稼働を封じられるのは脅威に違いない。
『|国家《わたし》は敗れてはならない。敗れる筈がない。|国家《わたし》は|国家《こっか》なのだ。ただの国民よりも、軍集団よりもなお、強大なる存在なのだ。|国家《わたし》が居る限り|国家《こっか》は存続し続けるのだから……!』
『わたしだ国家だと、さっきから随分と喧しい……手前は何か誤解してるみてぇだから、冥途の土産に教えてやる』
 プラズマブレイドを振り下ろすも陽臣の鋼剣にいなされ、攻勢を強めようとしてもすかさず飛んでくるラムダのアンカーが注意を削ぐ。そちらに意識を向ければ、斬撃が叩き込まれ装甲にまた傷跡が刻まれる。人数差を鑑みてもなお精彩を欠く動きだ。物理的だけでなく、精神的にも追い詰められているのかもしれない。
 なればと、駄目押しの言葉を紡ぐのはミハイル。散々、|欺瞞宣伝《プロパガンダ》を口走って来たのは相手の方である。ここらで一つ、言い返したところで罰も当たるまい。傭兵は念動剣を構えた巨神で相対しながら、続きを紡いでゆく。
『国家ってのはあくまで方便だ。国家の為に国民がある訳ではなく、国民の為に国家は存在する。その逆じゃあない。個人じゃどうしようも出来ない問題を集団の力で解決し、以て全体の利益を追求する……まぁ、これも飽くまで一側面だがな。だけど、大きく間違っちゃいないと思うぜ?』
 国家の成り立ちは様々だが、その構成要素として複数の人間、即ち国民の存在は絶対である。その中での意思決定手段がどうであれ、罷り間違っても個人がその要件を満たす事はない。どれだけ建前を言い繕うとも、それだけは絶対に変わらないとミハイルは断言した。加えて、黒霧の維持に努めていた灯璃もまた、捕捉の言葉を以て援護射撃を為す。
『国は飽くまで其処に属する人々が不自由なく、日常を楽しんで送っていくための枠組みです。最大多数の最大幸福、いわゆる功利主義と言う概念ですね。そんな"初歩的な仕事"もできないで国家を名乗ること自体片腹痛いですよ?』
『だから国民全てが死に絶えちまった手前は、存在する意義も価値もねぇんだよ。惨めったらしくしがみついてないで、とっとと消滅しやがれ!』
 先ほどは連携の都合で中断してしまったが、今度はもう離しはしないと、傭兵は巨神の念動剣を再び繰り出す。その刺突が直撃すれば、今度こそ黒騎士の機体フレームは破断してしまうだろう。だが、相手も二度は同じ手を食わぬとプラズマブレイドで応戦。熾烈な鍔競り合いを繰り広げる。
『……光が眩ければ眩いほど、闇もまた濃度を増す。先刻は視界を奪うことに主眼を置いていましたが、今度は手加減無しです。Sammeln! Praesentiert das Gewehr! 仕事の時間だ、|狼達≪Kamerad≫』
 二つの刃がぶつかり合うことで生じる、暴力的なまでの閃光。狙撃手の周囲に漂う漆黒を塗り潰すほどの光量は同時に濃密な陰も生み出してゆく。それらは獰猛な|狩人≪オオカミ≫の群れと化し、死角から手負いの獲物へと牙を突き立てた。
 鉄騎に伍する程の巨躯を誇る群狼が着実に黒騎士の耐久力を削ると同時に、灯璃もまた狙撃銃を構えゆく。狙いは今まさに友軍機と鎬を削っているプラズマブレイド、およびそれを保持するマニピュレータである。刹那、放たれた弾丸が関節部へと命中。火花を散らしながら、ガクンと黒騎士が押し戻されてしまう。
『国民が全て死に絶えた? 初歩的な仕事も出来ない? ……|だからどうした≪・・・・・・・≫』
 バチバチと機体フレームから紫電が瞬き、ジリジリと黒騎士は後退を余儀なくされた。武装の大半を喪失し、半壊状態でありながらも踏み止まる姿は凄絶と言って良い。その姿からはそれまで吐いてきた空虚な言葉とはまた異なる、ある意味で生々しい感情が滲んでいる。
『|国家《わたし》は|国家《わたし》であると、「私」自身がそう決めた。多くの国民もそう信任した。既に存在せずとも、既に意志は示されたのだ。である以上、|他国《たにん》が内政干渉してくれるな』
 例え、どれだけ歪んでいようとも。例え、どれほど救いが無かろうとも。『旧体制国』の抱く望みはたった一つだけ。それが全てを解決すると信じるが故に、その為にはどんな建前だろうとも、恥も外聞もなく使い倒すと端から決めていたのだ。
 ――ただ、勝利を。
 その遺志は斃れた無数の国民も、怨嗟の集積装置も、たった独り残された|誰か《ノー・マン》も変わらない。最期までその解決策を追い求める黒騎士は、ただ戦場と化した渓谷に立ち続けるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フリッツ・バーナー
最後の一兵まで余さず|蹂躙する《平らげる》
これほどの|殲滅戦《フルコース》を堪能できる機会もそうそう無い
嗚呼、まさしく狂気とは、倫理というしがらみから解放された祝福
さあ、次なる手並みを見せてくれ
|赤黒の狂気《無上の歓喜》が御相手しよう

バルバロッサの口腔が再び開く
機体内部の『ODE/AN-DIE-FREUDE』が励起し、自身の心臓のように鼓動するのが感じられる
〝おお歓喜よ、麗しき天上の輝きよ、遥か楽園の乙女達よ!〟
放たれた衝撃波は……斬撃により相殺された
なんだそれは
どこまで私を歓ばせてくれるというのだ!
踊り上がる様な歓喜が動力源を更に高鳴らせる
溢れたエネルギーを『GÖTZ-VON/BERLICHINGEN』へ回し、両腕部を活性化させ剣の如く尖らせる
どうせ一瞬で相殺されるなら、選択UCを牽制代わりに連発
湧き立つ歓喜のままに吶喊
白兵戦を仕掛けよう

嗚呼、これほど歓ばしい事があるか
貴様もそうだろう? 最後の一兵となる者よ
〝さあ、共に歓呼の声を合わせよ〟
〝それが出来ぬなら、全てを諦め立ち去るがよい〟



●最後の歓喜を奏でる為に
『……誰も彼も、実に手強い。これらを相手に勝ちを拾うのは万に一つの目も無いだろう。嗚呼、しかしだからこそ! 勝利した暁には|国家《わたし》の苦渋を贖える筈だ』
 黒騎士との交戦回数は既に十度を超え、二桁以上の猟兵が刃を交えている。その結果、黒騎士はもはや半壊状態と言って良い有様まで追い詰められていた。装甲版はひしゃげ、機体フレームは歪み、武装すらもその機能を喪失しているものも多い。
 鉄騎は曲がった銃身を予備部品と交換し、故障排除手順を実施。辛うじて発射可能な状態まで回復させると、次はプラズマブレイドの刀身を展開し動作に問題ないか確認してゆく。こんな状態になっても尚、否、こんな状態だからこそ相手はより勝利を渇望する。苦渋など嘗め尽くした。いまさら多少の苦境がどうしたというのか。まるで、そう言わんばかりだ。
『数多の軍勢を、蓄積された怨嗟を、そして最後の一兵までも余さず|蹂躙する《平らげる》。これほどの|殲滅戦《フルコース》を堪能できる機会もそうそう無い。これが国家を相手取ると言う事か。嗚呼、まさしく狂気とは、倫理というしがらみから解放された祝福か』
 常識的な者ならば、そろそろ終わってくれと願うかもしれない。だが、フリッツは違う。彼は依然として勝ちを諦めぬ|顔無し《ノー・マン》の姿を言祝いでいた。お互い、此処まで行きついてしまったのだ。ならば最後まで止まることなく駆け抜けよう。そう願い、誘い、促してゆく。
『さあ、次なる手並みを見せてくれ。お互い、出し惜しむような真似は無粋と言うものだろう。こちらは|赤黒の狂気《無上の歓喜》が御相手しよう』
『戦争屋か。全く、実に惜しいものだ。今から此方に着けば、より地獄の様な戦いに臨める……と、今さら言っても詮無い事か』
 紳士然とした口調を維持しながらも、言葉尻に滲む熱は恋焦がれる乙女のようだ。黒騎士はそんなに戦争が好きならばと寝返りを打診しかけるも、意味がないと途中で打ち切る。眼前の男がいまこの場における闘争を見逃すかと問われれば、否であると悟ったが故に。
『ふふ、そういう訳だ。相互理解が進んで非常に喜ばしい。さぁ、闘争を続けよう!』
 斯くして、まずはフリッツが先に仕掛けゆく。彼は自らの乗機背面に搭載された飛翔ユニットを展開。三次元的な機動を以て、敵機の周囲を旋回し始める。搭乗者の歓喜を感知したのか、胸部装甲の隙間から『ODE/AN-DIE-FREUDE』の怪しい輝きが漏れ出し、鼓動の如く脈動していた。
『〝おお歓喜よ、麗しき天上の輝きよ、遥か楽園の乙女達よ!〟、〝我々は熱情のように酔いしれん!〟』
 それは攻撃と言うよりも、抑えきれぬ衝動の発露か。バルバロッサの口腔が開かれるや否や、内部より強烈な衝撃波が解き放たれる。それは異形機戦で痛打を与えた一撃と同じだが、この最終局面に際してその威力は先ほどよりも増大していた。ダメージの蓄積した機体へ直撃すれば、崩壊は免れないだろう、が。
『それは先ほど見させて貰った。衝撃も所詮、空気を媒介として伝播するもの……ならば、大気を熱で搔き乱せば威力も分散する。そうだろう?』
 プラズマブレイドの一閃がそれを相殺する。攻撃原理を一度見ていたが故に、対処法をすぐに導き出すことが出来たのだ。ジジ、と青白い光刃が明滅しゆく。それは言外に『貴様の手の内はこれが全てか』と問いかけていた。
『なんだ、それは。どこまで私を歓ばせてくれるというのだ! 〝世界は接吻と葡萄の木と、死の試練を受けし無二の友を与えてくれた〟。〝全ての善なる者も全ての罪なる者も、自然が咲かせし薔薇の路を辿る〟……おお、ならば私も奮起せねばな!』
 明らかな挑発行動だったが、寧ろフリッツからすれば望外の喜びと言った所だろう。萎れた花を摘み取るのではなく、未だ牙を剥く気概がある敵手なのだ。その事実が彼の歓喜を更に増大させ、踊り上がるような気持ちが動力源をますます高鳴らせる。
 そうして発生した余剰エネルギーを男は機体全体へと回してゆく。両腕部へと収束したそれらは棘の様な装甲をより鋭利な形へと変形させ、まるで一振りの剣が如く研ぎ澄ましていった。それは先の言葉の如く、まるで薔薇の棘のようだ。
『どうせ相殺されようとも、歌い上げずにはいられない! どうして湧き上がる歓喜を抑えられようか! どうか踊って欲しい、最後の瞬間まで!』
『前言撤回だ、このような手合いに首輪は付けられん。喉笛を食い千切られるのが落ちだろう!』
 フリッツは先ほどの衝撃波を連射しながら、黒騎士の懐目掛けて吶喊してゆく。それらは変わらず相殺されてしまうが、逆に言えば光刃による迎撃と言う行動を強制させることが出来た。そうなれば、男の接近を止める余裕などありはしない。
 果たしてお互いを間合いに捉えた瞬間、両者は手にした得物を眼前の鉄騎目掛けて叩きつけ合う。無傷で切り抜ける事は不可能だと悟っている黒騎士は無論の事、優勢な側であるフリッツですら半ば回避や防御を放棄している。純粋な闘争にそのような行為は無粋だと言わんばかりの立ち回りだ。その言葉を裏付けるかの如く、男は高笑いと共に叫ぶ。
『嗚呼、これほど歓ばしい事があるか。貴様もそうだろう? 最後の一兵となる者よ。〝さあ、共に歓呼の声を合わせよ〟、〝心を分かち合う魂が居る者は喜びに歌うべし〟……〝もしそれが出来ぬなら、全てを諦めこの輪より立ち去るがよい〟』
 ――いま、|輪の中《せかい》の中に居るのは我々だけだ!
 機体に蓄積するダメージは元より、口腔より放つ衝撃波も使い過ぎれば同化したフリットの寿命すら燃やし尽くすだろう。しかし、そんな事は関係なかった。いまこの瞬間の闘争こそが全て。
 斯くして、戦争屋はこの至高の歓喜を余すことなく味わい尽くすべく、ただひたすらに闘争へ耽溺してゆくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ノナ・レフティ
認められません
貴方という国は、もう存在していない

敵を、怨念を滅却します
クリスタルビット、数も厄介ですし単純な攻撃以外の用途にも使われそうです、突破する必要があります
《翠雨》の加速だけでは難しい、敵がビットの多くを防御に集中させた瞬間に合わせて、私の最大火力を叩き込みましょう
対大型目標エネルギー榴弾、イルマタル装填
発射しビットを一掃、突破口が開けたら続けて射撃
猟兵は私だけじゃない、命中させて敵の機能を少しでも削げれば、必ず倒せます
脅威と見てビットの攻撃を集中してくるかもしれませんが、私だって小回りが利きますし、そう簡単に当たりはしません
全て回避できず幾つか当たっても射撃可能なら問題ないです、任務を遂行します

貴方は国家でもなく、誰でもなく、存在しないものです
だから、どうか、終わってください



●勝利者と敗残者
 黒騎士の機体はもはや無事な個所など一つも無い。躯体そのものは愚か、武装すらも半ば故障しており、いつ作動不能になってもおかしくはなかった。唯一、例外があるとすればコックピットか。そこだけはまるで明かされるのを拒むかの如く、多少の傷が刻まれているだけでほぼ無傷だ。
『……何故、誰も彼も邪魔をするのか。敗北し続けた者が勝利する機会を欲しているだけだろう。何故、|国家《わたし》を否定するのか。この操縦席に収まる者が何であれ、貴様らには関係がないと言うのに』
 そんな有様になってまで、顔無き『何か』は立つ。ただ、過去の屈辱を贖う為に。それに足る勝利を得んが為に。飽くまでも自らは国家であると抗弁し、存在としての連続性を保つことが使命だと叫ぶ。国家から軍隊に、軍隊から怨嗟に、そして怨嗟から|国家《ノー・マン》に。その主張に凄絶な感情が宿っているのは認める、が。
「それでも……認められません。他の方々が既に何度も告げていますが、改めて言わせて貰います。貴方という国は、もう存在していない。此処に居るのは、そう主張する『誰か』に過ぎません」
 それでも尚、ノナは否を突きつける。繰り返しとなるが、彼女は国家と言うものを知らなかった。誕生した時点で忠誠を誓うべき存在は消失していたのだから。故に国家とはこうだという確たる定義を述べる事は難しいかもしれない。
 しかし、だとしても分かる。コレは違う、と。こんなものを国家と認めるべきではないと。ノナは無反動砲のエネルギー残量を再度確認しながら、肩に担いだ得物の砲口を鉄騎へと差し向ける。それは明確な否定の意思表示。
「故にいま、此処で……敵を、怨念を滅却します」
『|国家《わたし》はまだ、終わってなどいないッ!』
 対する顔無しは当然ながら激昂する。だがズタボロの機体では白兵戦は愚か、突撃銃の照準を定める事すら困難だ。故に遠隔式で操作可能な結晶体型ビットを選択。辛うじて残っていた左肩部のコンテナから残機を全て射出し、少女へと差し向けてゆく。
(クリスタルビット……数も厄介ですし、単純な攻撃以外の用途にも使われそうです。一基一基は小さいとはいえ、それは飽くまでもキャバリア基準。生身にとっては十分な脅威である以上、何とか突破する必要があります)
 開戦当初と比べるべくも無いが、それでも三桁を超える数が展開している。黒騎士本体を討つにはこれらを乗り越えねばなるまい。ノナの『NL-03Kラヴィーニ収束荷電粒子砲』は確かに強力だが、これほどの数を一網打尽にするのは至難の業だ。
(こうも分散していては埒が開きません。一か所に集中させるには……あれしかありませんね)
 ザっと周囲に視線を走らせた少女は覚悟を決めるや、なんと初手で黒騎士目掛け無反動砲を放つ。しかし彼我の距離が開いている為、命中する前に敵機はビットを自身の前面へと展開。易々と砲撃を防いでしまう。返す刀とばかりに結晶体が襲い掛かり少なくない手傷を負うも、それでも少女は二度三度と砲撃を繰り返してゆく。
『なんだ、やけにこちらを狙うではないか。もし手負いと侮っているのならば、それは大きな過ちだ。見縊ってくれるな!』
 無駄な事だと顔無しは断じるが、褐色の肌を朱に染めながらもノナが攻撃の手を休める事は無い。そうして幾度目かも分からぬ砲撃を経て機が熟したと見た猟兵は、敵に悟られぬようそっと無反動砲へ何がしかのカートリッジを装填。再び同じように砲撃を放ち――。
『なに!? まさか、この局面まで使わずにいたのか……ッ』
 刹那、これまでとは比べ物にならぬほど強烈な光条が結晶体群を薙ぎ払う。その正体は1カートリッジにつき一発のみ発射可能な対大型目標エネルギー榴弾『イルマタル』。弾数に限りのある其れを、少女は今の今まで温存し続けていたのだ。
 ノナは対集団、異形機戦でも同じ装備、同じ異能を使用し続けていた。故にそれ以外の手がないと黒騎士は判断していたのだが、そんな先入観が見事に裏切られた形となる。斯くして防御用に密集させていたビットは纏めて吹き飛び、生じた間隙の中を少女が駆け抜けてゆく。
「……私だけだったら例えイルマタルがあったとしても、きっと物量差ですり潰されたでしょう。でも、此処に集った猟兵は私だけじゃない。少しずつ、着実に機能を削ってくれたお陰で、この好機へと辿り着けました」
 辛うじて残存していた結晶体を慌てて差し向けてくるが、ここまで数が減ればもう問題はない。全身を覆った推力偏向フィールドによる機動力で強引に振り切り、そのままノナは黒騎士へと取り付いた。奇しくも、その場所は唯一無事であるコックピット。彼女はそっと、砲口を操縦席と外界を隔てるハッチへ突きつける。
「私たちは国家ではありません。同一の組織ですらない。たまたま、この戦場に集っただけの猟兵です。ですが個の力を束ねたからこそ、貴方たちの侵攻を防ぐことが出来ました……一人きりだったら、不可能だった」
『…………』
 もはやこうなってしまってはクリスタルビットも勿論、アサルトライフルも、プラズマブレイドも間に合わない。攻撃を繰り出すよりも先に、少女がトリガーを押し込む方が早いだろう。沈黙はせめてもの抵抗か。猟兵は顔も知らぬ『誰か』へと、最後の言葉を告げてゆく。
「改めて伝えます。貴方は国家でもなく、誰でもなく、存在しないものです。だから、どうかもう……」
 ――終わってください。
 その宣告と共に、白百合色の光線が操縦席を覆う装甲版を撃ち貫いた。一瞬の静寂の後、内部から爆発音と共に炎が溢れ出し、遂に限界を迎えた機体フレームごと吹き飛んでゆく。巻き込まれぬよう咄嗟に飛び退るノナだったが、その刹那、轟音に交じって小さな囁きが届いた気がした。
 その内容を反芻した彼女の表情に浮かんだのは、苦笑とも呆れともつかぬ感情。だが、それも無理は無いだろう。何故なら、その囁きとは。
 ――次こそは、|我々《・・》が勝利する。
 そんな、諦めの悪い言葉だったのだから。

 ともあれ、此処に『旧体制国』は完全に消滅した。渓谷を埋め尽くすほどの大軍勢や兵器群も、怨嗟を溜め込んだ異形の能面も、自らを国家と称する顔無き黒騎士も、もう存在しない。あれほどの戦力を渓谷から一歩も出すことなく対処して見せたのは、流石と言えるだろう。
 今後、『新体制国』がどのような対応を行うかは未知数である。何があったのかを調査し今後の反省に生かすか、はたまた臭いものは蓋をして忘れ去ってしまうか。国の方針に流れ者の猟兵が口を挟める機会などそうは無い。それこそ、戦争にでもならなければ。
 他に出来る事と言えば……覚えておくことくらいか。かつて数十年にも及ぶ苦難に喘ぎ、その果てに未来も故郷もかなぐり捨てて、勝利のみを求めた国家があったと。それが彼らにとって幾ばくの慰めになるかも分からぬが、それこそ勝利者の特権と言うものだろう。
 斯くして猟兵たちは一つの国家の終わりを見届けると、それぞれの戻るべき場所へと帰還を果たしてゆくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2025年12月07日


挿絵イラスト