Ausrüstungsaktualisierung
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世界を彷徨う孤高のヒーローを目指し、伊角・紫(野良妖狐・f31991)は今日も己に磨きをかけようと研鑽の日々を送っていた。
それというのもここ最近は敗北を重ねてしまっており、このままではいけないとあれやこれやとやる気の空回りの日々。
闇雲にトレーニングをしたところで良い汗をかく程度でレベルアップにつながっているとも思えない。
身体にフィットしたトレーニング用スーツを脱ぎ捨てシャワールームへと駆け込んだ。
熱いお湯を全身に浴び雌らしい肉体を流れていく心地よい雫。
それをいきなり冷水に切り替え気合を入れなおすと頭からバスタオルだけを被り浴室を後にした。
張りのいい乳房や引き締まった腰から臀部への魅惑のラインを流れ行く水滴がその魔性の色気をさらに醸し出している。
そんな紫は部屋に脱ぎ散らかしてしまったスーツなどを見てピクリと眉をゆがめた。
「そういえば最近は装備の更新を怠っていたんだよね」
数々の戦いを潜り抜け消耗を繰り返すヒーローにとっての必需品がどれもこれもボロボロになっていることに気づいたのだ。
(そういえばこのスーツも何回も破壊されてしまって修理するのも限界だね)
そうと決まれば話は早い。
さっそく紫はジーンズを手に取り下着も穿かずにそれに足を通していく。
ダボダボの黒いTシャツを着るもその下にはブラジャーすら着用しない無防備なその服装。
もしかしたら通行人に気づかれるかもしれないその破廉恥な恰好のまま街へと繰り出すその顔には興奮の色が見てとれていた。
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訪れた怪しげな商店の奥で眼鏡をかけたエルフの店主が満面の笑顔を浮かべたままカウンターの上に並べられていくヒーロー用の装備の数々。
それらを基にして紫専用にオーダーメイドしていくのが一番手っ取り早いと思ったわけなのだが。
「このスーツ……きっつぃ」
「こ、これでもまだダメ? これは胸の部分だけちゃんと採寸しないとダメっぽいかも」
紫の豊かに育ち切った|乳房《バスト》は生半可なスーツではサイズが合わないらしく結局は特注品に頼るしかなさそうだ。
ヒーロースーツ『ダークフォックス』に使われている素材はボディラインを完全に魅せつける一級品で、“着用者の意思に呼応”して形状を変化させる潜入にも便利な一品。
紫が望めばどのような身体にフィットする範囲でどのような形状にも変化可能というのが素晴らしい。
次に胸の先端をガードするニップルガードも通常の物では安易に破られてしまい今まで数々の敗北の原因になってしまっていた。
だからこそこの性欲を抑さえつける呪符『色欲封印符』が便利かもしれない。
張っている間は敏感すぎる性感帯をガードし性欲を押さえつける役目を果たす神聖なる呪符だ。
問題は剥がした時に溜め込んでいた反動が一気にくるというものだが、依頼中に剥がされなければどうということはないはず。
妖力銃「阿」
紫の作り出す「陽の気」を込めた特別製の弾丸を放つ回転式拳銃。
紫の妖力次第でより物理的な破壊力をさらに高める改造が施されるはずだ。
妖力銃「吽」
こちらは紫の作り出す「陰の気」を込めた弾丸を撃ち出す回転式拳銃。
妖力により霊的な対象を撃ち抜ける相手が実体を持たない場合に重宝する武器だ。
妖力銃「阿吽」
「阿」「吽」を霊的結合で合体させ妖力弾を爆発的に撃ち出す事ができる強力な大型銃器。
紫の胎内で作り出された淫気によってその真価を発揮するが、その気をためるためには……。
「……微妙に色々引っかかるんだけど?」
「……気ノセイジャナイカナナイカナ?」
じとりと店主を睨む紫、だがこの改造を施せばもっとこの武器も活躍してくれるに違いない。
「修行して“淫気”を身にまとうのもいいかもですよ。全身の強化や防御力も格段に上がるでしょうし……なによりタフになれますね」
「粘り強くなれるのは大歓迎なんだけど、どこで修行するのか気になるとこだよねそれ」
達人ともなれば身にまとった気を手足のように使いこなす者もいるという。その高みに紫も登ることができるのだろうか。
「それとこちらが“魔鈴”という隠密能力を高める鈴ですよ……極めれば装着していても音が鳴らないとか」
そう言って差し出されたのはピアスに黄金色の鈴が取り付けられたごく普通の品に見える物だ。
装着部位は人それぞれだろうが、これを装着していても熟練の者ともなると鳴らさず行動できるようになるらしい。
集中力が乱れると動くたびに鈴の音が鳴ってしまう諸刃の剣のようだ。
「これは……手袋と靴?」
「妖力を流し込むことで壁や天井に張り付くことができる便利グッズですよ。妖力が不安定にでもならないかぎりヒーローらしく何処でもポーズがとれちゃいますね」
もしかすると妖力が暴走したりしていると張り付いたまま動けないとかもありえるなと紫は静かに頷いた。
「それとこれがディスプレイサービーストの皮で出来てる|ストリーキングマント《透明マント》ですよ。これを被ることで透明になれますよ♪」
「……すごく便利そうなんだけど、なんでそこで含み笑いしてるんだよ!?」
店主が勧めてきたきたマントを手に取るも何も変化はない。もしかして名前だけの詐欺商品かなにかなのだろうか?
「……他の装備を全部脱がないと透明になれないのだけが欠点ですね!」
「それ裸マントになれって意味なんだよっ!?」
赤面しながらマントを手に取る紫、効果は素敵なのだがどうにもリスクのほうが高いような気もする。
潜入に便利といえば便利なのだが……。
「あとはこの“刻戻しの印”という名の海中時計ですね。中の時計の針を回すことで自分を子供の頃に変化させるマジックアイテムですね」
「あ……それは便利そうかも? でも何で売れ残ってるのだよ……なんか埃かぶってるけど」
店主が棚から出してきた懐中時計は埃が軽くかぶっていて長らく売れ残っていたようだ。
なんというかまた変な反動でもあるような気がしないでもない。
「子供に戻って自制心無くなったらそれはもう大変ですよね♪」
「なんで実感こもってるんだよ……」
ビクリと胸を震わせ紫は一歩退いた。
子供の頃に戻されるのは肉体なのだろうか? それともまさか精神だけが子供の頃に戻ってしまうのだろうか?
これは何となく事故の予感がする……どれもこれも微妙に怪しさ満点な品物ばかりで買って帰っていいものか悩んでしまう。
「あれ……これは何だかお手軽そうだね?」
「それに目がいくとはお目が高い! それは秘薬デッカデッカ、飲めば身体が巨大化する魔法の薬ですよ♪」
ため息交じりにテーブルの片隅に置いてあった薬瓶を手に取ると店主は目を輝かせグイグイと顔を寄せてきた。
どうやら売りつける気満々のようなのだがさて。
「……っで、これを飲んだ時の欠点は?」
「巨大化するのは自分だけなんで、すっぽんぽんのまま巨大化しちゃいますねー♪」
眼鏡を輝かせ鼻血まで噴いてる店主の顔にめり込む紫の右ストレート。
そんな物を飲んだら外を歩けなくなるでしょうがと思いながらも別の使い道はないだろうかとつい考えてしまう自分に驚く。
今日のところは一度出直そう……なんだかヤバい物ばかり買ってしまいそうな自分を落ち着けないと。
後ろ髪を引かれながら紫は真っ赤に染まる頬を抑え店を後にしたのだった。
成功
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