シャングリラ☆クライシス㉒〜勇気の一歩
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「集合お疲れ様よ。なんだか凄い相手が出てきたわね」
そう言って猟兵達へと声をかけるチェルシー・キャタモール(うつつ夢・f36420)の顔には、緊張の色が滲んでいる。
「今回は霊神『グラン・グリモア』との戦いをお願いしたいの。彼女が何者かは分からないけれど、とても危険な存在なことだけは分かっているわ。だけど放置もできない以上、みんなの力を貸してほしいの」
『グラン・グリモア』はオブリビオンからも厄災と呼ばれる存在だ。彼女が待つ戦場にはすでに骸の海が広がり、かなり危険な状態になっているらしい。
「戦場に広がった骸の海の影響で、ここでの行動成功率は『10分の1』まで低下させられてしまっているの。何をやってもうまくいかず、苦戦する可能性は高いわ。でも、諦めなければ必ず勝機は掴めるはずよ」
アイドル☆フロンティアにおいては、挫けず頑張るアイドル達の姿は何度も確認されている。彼ら彼女らのように諦めず戦い続ければ、その行動は誰かの心を動かすはずだ。
「みんながひたむきに頑張る姿は、グラン・グリモアにすら影響を与えるの。彼女の心が大きく動く瞬間があれば、その時はグラン・グリモア自身も骸の海の影響を受けるの。つまり、彼女の行動成功率が大きく落ちるのよ」
その瞬間だけは、猟兵とグラン・グリモアの条件は同じとなる。その時に行動を成功させれば、勝利に大きく近づけるはずだ。
「だからみんなには辛くとも、諦めずに正面から立ち向かい続けてほしい。この世界で頑張ってる、アイドルのみんなみたいにね」
永遠を望む存在すら心を動かすような、まっすぐなひたむきさ。
それこそがアイドル☆フロンティアでの勝利を掴む鍵となるはずだ。
「そろそろ出発の時間ね。みんな準備はいいかしら?」
グリモアを掲げつつ、チェルシーは小さく笑う。
「みんなの頑張り、私も応援しているわ。それじゃあ行ってらっしゃい!」
ささかまかまだ
こんにちは、ささかまかまだです。
足を止めない勇気。
このシナリオは「やや難」となります。
●プレイングボーナス
何度失敗しても何度ねじ伏せられても、諦めないでいっしょうけんめいがんばる!
戦場に広がる骸の海の影響で、猟兵の行動成功率は『10分の1』まで低下させられています。
それでも諦めずに頑張れば、いずれ『グラン・グリモア』も心を動かされ、チャンスが生まれます。
その瞬間を目指してひたむきに頑張りましょう。
●霊神『グラン・グリモア』
永遠祭壇に封じられていた厄災のような存在です。
強大な存在ですが、頑張って戦いましょう。
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オープニングが出た時点でプレイングを受付開始します。
シナリオの進行状況などに関しては戦争の詳細ページ、マスターページ等も適宜確認していただければと思います。
また、プレイングの集まり次第で不採用が出てしまうかもしれません。ご了承下さい。
それでは今回もよろしくお願いいたします。
第1章 ボス戦
『霊神『グラン・グリモア』』
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POW : グラングリモア・メモワール
【指先】で触れた対象と同じ戦闘能力を持ち、対象にだけ見える【記憶の化身】を召喚し、1分間対象を襲わせる。
SPD : グラングリモア・ホワイトタイド
レベルm半径内に【骸の海】を放ち、全ての味方を癒し、それ以外の全員にダメージ。
WIZ : グラングリモア・スティルアライブ
【骸の海に沈んだ「過去」】から、対象の【過去を失いたくない】という願いを叶える【オブリビオン】を創造する。[オブリビオン]をうまく使わないと願いは叶わない。
イラスト:稲咲
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
シモーヌ・イルネージュ
ほんと聞いてたとおりにうまくいかないな。
当たらないし、逃げられるし、かすりもしないとか。萎えるね。
でも、この槍を使えるようになるまでには、そんなこと数え切れないくらい繰り返して来たんだ。
当たるまで何度でも挑んでやるよ。
止まったら、アタシがアタシじゃなくなるし。
少しずつ当たるように穂先の軌道を修正して、足回りを調整して。
全く同じ動作をしているわけじゃないし、致命傷もまだ喰らっていない。
試行錯誤しながら、こちらの確率を上げていこう。
アタシが動けるうちには当ててやるよ。
黒槍『新月極光』で挑みつつ、UC【止観一槍】とサイバーアイの動体【視力】で隙を探し出そう。
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黒槍『新月極光』を構え、軽やかな足取りで前へと駆け出す。そのまま霊神との距離を詰め、まずは正面へと突きを放つ。
しかしその穂先は霊神を捉えることはなかった。突きの流れは思わぬ方向へと向い、シモーヌ・イルネージュ(月影の戦士・f38176)は大きく体勢を崩す。
「くっ、本当に上手くいかないな……!」
どうにか体勢を立て直そうとするシモーヌだが、その足元は骸の海に覆われかけていた。足に痛みを感じつつ、どうにか後方へと退避する。
今度は骸の海を踏まないように前進し刺突を行うが、やはり穂先は敵に突き刺さらない。霊神はただその場に佇み、骸の海を流し続けているだけだというのに。
このまま無意味な攻撃を続けることに意味はあるのだろうか。何をやっても上手くいかないのなら、いっそ――。
「……いいや、そんなこと思わない。この槍を使えるようになるまでには、こんなこと数え切れないくらい繰り返してきたんだ」
槍を握る手に力を籠めて、シモーヌは霊神を見据える。相手の攻撃は骸の海のみ、まだ水嵩もそこまで高いわけではなく、すぐに致命傷を喰らう心配はない。
まだ時間があるのなら、アタシ自身が立っているなら、何度だって挑んでやる。
「いつかは絶対に、当てる」
頭は冷静に、心は熱く。月影の戦士は決意と共に、再び攻撃を開始する。
避けられる骸の海は避け、どうしても踏まないといけない場合は最小限の時間で。
シモーヌは何度も敵へと接近し、時には突きを、時には柄による攻撃を試みる。
サイバーアイで相手の動きをよく観察し、深く集中することで思考の時間をより長くする。シモーヌの攻撃はなかなか当たらないが、それでも少しずつ手応えを感じさせるものへと変わってきている。
『その繰り返しに意味はあるの。止まってしまえば、全てが安寧となるのに』
囁くような霊神の声に、シモーヌが返すのは勝ち気な笑み。蓄積するダメージと疲労で額に汗こそ浮かんでいるが、その表情は晴れやかだった。
「止まったりなんかしない。止まったら、アタシがアタシじゃなくなるし。繰り返しの意味は、アタシ自身が掴み取る!」
シモーヌの言葉に霊神の瞳が僅かに揺らぐ。その瞬間、シモーヌが放ったのは完璧に軌道を計算した一撃だ。
黒槍は鋭く霊神を穿ち、確かな手応えがシモーヌの腕に通じる。彼女の諦めず止まらない戦いは、見事に失敗の繰り返しを超え、先へと進んだのだ。
大成功
🔵🔵🔵
栗花落・澪
落下防止に空中戦を封印
心臓が弱いから長引くとキツいけど
僕は絶対に諦めない
だって決めたんだ
過去と決別して、今を大事にして
皆を救って…未来に生きるって
攻撃は頑張って回避しながら
高速詠唱で破魔を乗せた光の矢を指先から連射し
催眠による撹乱と目晦ましも兼ねた浄化攻撃を仕掛けたり
雷魔法を纏わせた伸縮自在の杖で物理攻撃を狙ったり
思いつく事は全部試すね
不発でも暴発しても、何度でも
心臓が痛くても
心だけは…絶対に折らせない
相手が同じ条件になってくれた瞬間
敵意を糧に紅色鎌鼬発動
発動するまで何度でも
発動出来れば鎌を任意増殖
いつもより沢山
失敗数も補えるくらいに
それらを全て魔力で操り
オブリビオンごとまとめて薙ぎ払うね
●
できる限り呼吸を整え、慎重に光の道を踏んで。
栗花落・澪(泡沫の花・f03165)は自身の足で霊神の元へと向かっていた。
今回の戦いにおいて長期戦は避けられない。それは心臓が弱い澪にとって困難な戦いを意味していた。
それでもこの戦いに挑むと決めたのは、絶対に諦めたくなかったから。
進むべき道に立ち塞がるよう浮遊する霊神を見上げ、澪は聖なる杖を握りしめた。
霊神は澪の姿を一瞥すると、自身の隣に不定形のオブリビオンを生み出す。
オブリビオンは澪の元まで跳躍すると、身体の一部を鞭のようにしならせた。
「っ……!」
咄嗟に光の矢を放って攻撃を退け、なんとか相手との距離を取る。万が一のことを考え翼で飛ぶのは控えているが、その分身体への負担もいつもより大きい。
けれど立ち止まってはいられない。澪は杖に雷魔法を纏わせて、思い切り振りかぶる。すると杖は大きく伸びて、上空の霊神へと迫った。
けれどその攻撃は簡単に避けられてしまう。霊神は表情を変えず、ただ澪のことを見つめていた。
『そんなに苦しそうな顔をして、どうして止まろうとしないの』
霊神の言葉を受け、澪は無意識に顔をしかめていたことに気付いた。
攻撃が当たらない、思うように動けないもどかしさ。締め付けるような心臓の痛み。それらが無意識に澪の表情を険しくさせている。
しかし、澪の心はまっすぐな想いを保ち続けていた。険しい表情を浮かべていても、その視線はいつもと同じように澄んでいる。
「……だって、決めたんだ。過去と決別して、今を大事にして、皆を救って……未来に生きるって」
肩で息をしつつも確かに紡がれた言葉は、不思議とよく響いた。その声に驚いたかのように、霊神は微かに目を見開く。
きっとこの瞬間がチャンスだ。そう直感した澪は手を掲げ、虚空から現れた薄紅色の鎌をしっかりと掴む。
残った魔力を全て籠めて、鎌から放つのはその刃と同じ美しい鎌鼬。
最初の数発は外れた。それでも諦めず、何度も何度も刃を放つ。そのたびに胸を締め付ける痛みがあっても、澪は決して折れなかった。
「ぐっ、絶対、諦めない……!」
澪の頑張りが届いたのか。次に放った刃はオブリビオンを切り裂き、その存在をかき消す。
そして――霊神にも刃は届き、彼女の身体を大きく切り裂いた。
その煌めく刃は、まさに未来を切り拓いたのだ。
大成功
🔵🔵🔵
青梅・仁
【龍影】
人は何度も挫折し、足を止めることもある
でも再起するのは、心から諦めてないからだろう
俺はそれを美しいと思う
……本当はあの子らにもそう伝えたかったんだけど――
お前さんもそーゆー感じ?少年
ふぅん、初志貫徹。偉いな
……眩しい感じ、わかるなあ
|記憶の化身《邪龍》に少しだけ笑う
……未来を拒む気持ちはわからんでもない
でも、案外いい未来だってあるんだぜ?
《斬撃波》が当たらなかろうが一方的に攻撃されようが攻撃は止めない
颯汰くんの放ってくれた突風に乗るようにして再突撃しつつUC
一撃当たったのならそのまま颯汰くんのエネルギー弾が当たるように締め上げる
悪いな霊神
俺は今の方が幸せで
あの子達との未来を望んでんだわ
檍原・颯汰
【龍影】
僕は人じゃないけど
何事も始める時は諦める気は持たずに始めるから、初志貫徹タイプかなー
でも『美しい』というのはわかるよ
ボロボロになっても立ち向かう姿って何か眩しいよね
……とはいえ力をきちんと発揮できないのは中々辛いところだよね
人々の意識体を呑み込もうとする骸の海を払うようにUCを放とう
少しでも未来へ馳せる気持ちが育っていけるように
ついでに青梅さんを突風に乗せて攻撃支援するね!
僕は交通標識でエネルギー弾を
軌道が逸れて不発なら、徐々に鉱竜の風で調整
……過去はもう充分かな
|記憶の化身《シャドウ体》に呟きつつ
今は、自分に出来る、新しい事を知っていきたいね
それはそれとして龍神様の雨って縁起良さそー
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戦場は霊神「グラン・グリモア」が広げた骸の海で満たされ、そこから猟兵達の記憶の欠片が姿を現す。
ざぶん、と波を立てて現れたのは一体の邪龍と一人のシャドウ。彼らの姿を、青梅・仁(鎮魂の龍・f31913)と檍原・颯汰(ダークネス「シャドウ」のアリスナイト・f44104)は遠くを見るように眺めていた。
霊神は猟兵達に語る。世界の時間を全て止めれば、完全と永遠と安寧を取り戻せると。
確かに完全に凪いだ世界なら、もう誰も苦しい思いをしなくてもいいかもしれない。諦めてしまえば、楽かもしれない。
けれどそんな霊神の言葉に対し、仁は首を横に振った。
「人は何度も挫折し、足を止めることもある。でも再起するのは、心から諦めてないからだろう。俺はそれを美しいと思う……な、お前さんもそーゆー感じ? 少年」
本当は、あの子らにもそう伝えたかった。言葉を紡ぐ仁の表情は、やはりここではないどこかを見ているようで。
それでも颯汰は仁の瞳を見つめ、言葉を返す。
「僕は人じゃないけど、何事も始める時は諦める気は持たずに始めるから、初志貫徹タイプかなー。でも『美しい』というのはわかるよ」
「ふぅん、初志貫徹。偉いな」
「なんていうか、ボロボロになっても立ち向かう姿って何か眩しいから。そういうのが良いなって思って」
「……眩しい感じ、わかるなあ」
片や竜の神、片やダークネス。ヒトとは違い、けれどヒトとは切っても切れない存在だからこそ、誰かの眩しさを尊く思う。きっと、二人の抱く気持ちにも重なる部分はある。
その気持ちを示すべく、二人は記憶の化身に小さく笑みを向ける。
「……未来を拒む気持ちはわからんでもない。でも、案外いい未来だってあるんだぜ?」
「力をきちんと発揮できないのは中々辛そうだけど……でも、諦めずにやってみよー」
二人の言葉を拒絶するかのように、記憶の化身達が攻撃の姿勢を見せる。すかさず猟兵達も構えを取った。
「とりあえず、様子見してみよっか」
颯汰は交通標識を構え、迫る敵へとエネルギー弾を撃ち込む。しかしその攻撃は化身に当たることはなく、ただ骸の海に水飛沫を立てた。
仁も衝撃波を放って応戦するが、やはり攻撃は上手く当たらない。普段通りの行動が上手くいかないことは、なんだかもどかしいし、苦しい。
「なるほど、こんな感じか。なかなか嫌になるな……かといって、やめる気もないが」
「ちょっと工夫してみよう。さあ、ところにより磁気嵐がくるよ」
仁の衝撃波に重ねるよう、颯汰が生み出すのは吹きすさぶ磁気の風。突風は骸の海を薙ぎ払い、周囲の空気を大きく入れ替えた。
そうすれば、もどかしい気持ちも晴れる気がして。この風は、未来へ馳せる気持ちの背中を押してくれるはずだから。
「颯汰くん、その風借りるぜ!」
「分かった。青梅さん、思いっきり乗っちゃって!」
颯汰の起こした嵐に乗るよう、仁が大きく飛び上がる。直後、彼の身体は巨大な海水の龍と化して、勢いよく戦場を突き進みだした。
仁の周囲には雨雲が巻き起こり、そこから降り注ぐ雨は骸の海を押し流す。その光景は荒れ狂う嵐のようでいて、どこか神々しさも感じさせた。
「わ、龍神様の雨って縁起良さそー」
「そう言ってくれて嬉しいな。それじゃあ、本当に縁起の良い雨にしていこうか!」
吹きすさぶ嵐は多くのものを壊すかもしれない。けれどそこから新しい芽が出て、未来へと繋がっていくものだ。
颯汰の起こす風は霊神のリボンを舞い踊らせ、仁の降らせる雨は霊神の頬を濡らす。
その瞬間――彼女の瞳が大きく見開かれた。それど同時に記憶の化身の動きが鈍る。
仁はすかさず敵の元へと飛び込み、化身も霊神もまとめて押さえつける。そのまま視線を霊神へと向け、浮かべるのは明朗な笑顔。
「悪いな霊神。俺は今の方が幸せで、あの子達との未来を望んでんだわ」
一方颯汰は記憶の化身、特にシャドウの方に視線を向ける。彼へ向けて交通標識を構えつつ、じっと相手の顔を見つめていた。
「……過去はもう充分かな。今は、自分に出来る、新しい事を知っていきたいね」
数百年生きた竜神と、まだヒトの世界に降り立ったばかりのダークネス。二人の生きてきた時間の長さはまったく違うが――それでも、未来のことを考えているのは一緒。
これからも誰かと生きたい。新しいことを知っていきたい。時に辛いこともあるだろうけど、その先には何かが待っているはずだから。
「それじゃあ、俺達は先へ行かせてもらうぜ」
「まだまだこれからだからねー」
過去との決別を現すよう、仁は力強く雨を降らせ、その雨に乗じるように颯汰の放つエネルギー弾も降る。
煌めく光は化身を吹き飛ばし、霊神を撃ち抜く。嵐が通り抜けていった先には、未来へ進む道だけが残るのだった。
大成功
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紫・藍
あや~。
思い通りに歌えない。
この感覚、とってもとっても懐かしいのでっす。
一つ一つ積み上げて今の藍ちゃんくんに至りまっしたからねー!
グラン・グリモアのお嬢さん、初心を思い出させてくださりありがとなのでっすよー!
でもそれは、過去のままいたいというわけではないのでっす。
過去を想い、懐かしみ、愛するのは。
過去の先である今の藍ちゃんくんだからこそなのでっす。
時が過ぎ、変わり、老いる。
藍ちゃんくんもいずれ老いるでしょう。
今のようには歌えなくなるでしょう。
それでいいのでっす!
それがいいのでっす!
その日、その時の藍ちゃんくんにしか歌えない歌がある!
上手い下手ではないのでっす!
どの歌も藍ちゃんくんにとって誇らしい歌なのでっす!
それでは皆様――お嬢さんだってご一緒に!
藍ちゃんくんでっすよー!
完全。永遠。安寧。それらの対義語こそ、変革を歌い終焉に笑う愚か姫!
|アイドル《歌》を滅ぼし、わくわくを否定し、過去を永遠にしようとしたその心に変革を!
愛してくださるお嬢さんに。
初めて知る藍を、届けに来たのでっす!
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声を張り上げようとしても、思ったような音が出ない。音程はズレるし、お腹に上手く力は入らないし、なんだかリズムもへんてこだ。
いつものように歌おうとして失敗して――それでも紫・藍(変革を歌い、終焉に笑え、愚か姫・f01052)は、嘆いたりしていなかった。
「この感覚、とってもとっても懐かしいのでっす」
思い出すのは、歌を練習し始めたばかりのこと。最初はこんな風に、上手くいかないことだらけだった。
けれどそれに挫けず、一つひとつを積み上げて。そうして藍は、目指す藍ドルの姿に近づいていったのだ。
「グラン・グリモアのお嬢さん、初心を思い出させてくださりありがとなのでっすよー!」
『どうして私に感謝するの? 過去の心を思い出したのなら、そこで止まった方が楽になるのに』
藍の明るい言葉に対し、霊神が返すのは疑問、それから諦観。彼女の言葉に、藍は小さく首を横に振った。
「過去のままいたいというわけではないのでっす。過去を想い、懐かしみ、愛するのは、過去の先である今の藍ちゃんくんだからこそなのでっす」
歌い始めた頃の自分が、今の自分を見たら驚くだろう。そう思えるのは、ここまで藍が努力してきたからこそ。
きっと未来の自分だって、今の自分を見てそう思うはずだ。たとえそれが、老いて歌えなくなった自分だとしても。
「藍ちゃんくんもいずれ歳を取るのです。きっといつか、今のようには歌えなくなるでしょう」
『それなら、もう歌わなくても、』
「いいえ、違うのでっす。それでいいのでっす! それがいいのでっす!」
藍の堂々とした言葉に霊神の瞳が揺らぐ。その動揺を示すかのように、彼女の足元からは骸の海が広がった。
骸の海は藍の足を撫で、鋭い痛みを与える。けれど藍はやっぱり笑っていた。だって――素敵な未来のことを考えるのは、楽しいから。
「老いたとしても、その日、その時の藍ちゃんくんにしか歌えない歌がある! 上手い下手ではないのでっす! どの歌も藍ちゃんくんにとって誇らしい歌なのでっす!」
もっと成長した自分はどんな歌を歌うだろう? お爺さんになった時にはどんな声を紡げるだろう?
考えるほど楽しくて、今すぐ歌いたくなってしまう。そう、この場にいる人みんなと一緒に!
「それでは皆様――お嬢さんだってご一緒に! 藍ちゃんくんでっすよー!」
霊神の提示する完全。永遠。安寧。その対極にいるのが紫・藍、つまり変革を歌い終焉に笑う愚か姫!
藍は思うままに歌を歌い、骸の海も気にせずステップを踏む。最初は上手く歌えずとも、何度も何度も声を重ねて。
|アイドル《歌》を滅ぼし、わくわくを否定し、過去を永遠にしようとした神様、彼女の心に変革を。
すべてを愛するからこそ、齎されようとした終焉を笑い飛ばして。
藍はただただ歌を歌う。初心を思い出し、成長の軌跡を思い、未来を願って。
その声に合わせるよう、戦場に揺らめくのはサイリウム。光の波は藍だけでなく、霊神すらも包みこんでいた。
「愛してくださるお嬢さんに、初めて知る藍を、届けに来たのでっす!」
光の海の上で藍は笑う。気づけばその声はいつものように、いつも以上に強く響いている。
霊神も言葉を失い、ただただ音と光の波に身を委ねていた。彼女の求める安寧とは真逆の、変わり続ける波に。
それこそが、何よりの答えなのだろう。霊神は抵抗することなく光の中に身を沈め、そのまま消え去る。
そんな彼女へ向け、藍は大きく手を振った。今度はきっと――また違う歌を、届けに来るから。
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猟兵達は困難を乗り越え、霊神に自らの意思を示した。
皆の諦めない心は失敗を乗り越え、見事に霊神へと届いたのだ。
大成功
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