|柳《やなぎ・》・|依月《いつき》(ただのオカルト好きの大学生・f43523)の元へ、舞い込んできた話は、単純に一つ。
「噂話?」
誰もが持つ情報媒体スマホ――その中でもSNSで呟かれた"一定の"言葉が消えている。
運営削除なら仕方がない。自動削除は有り得る。
「ああ……|クリーピーパスタ《copypasta》系か」
世界中にある創作物のそれでもあるが、偶発的に生まれるものではない。おそらくは投稿元は内容が不気味過ぎたのだろう。もしくは、都市伝説自体に、|自分《深淵》を見つめたものだと意識を持って都市伝説自体に干渉されたのかもしれない。
「次々失踪されたらそこに"居る"と証明しているようなものだろ」
依月が聞いた話を元に、調べてみるとその存在はゲームの主人公関連の|都市伝説《クリーピーパスタ》。多種多様であり、本来のキャラ性からかけ離れた残虐的な行動と言動で殺戮を繰り出してくる様は、夢も希望もありはしない。
「多種多様なことは認知の角度がいくらでもあるということ……しかし逆に、認知されたい媒体というものだけは共通だ」
スマホ。一昔前の携帯電話。
あらゆるSNS、匿名ネット掲示板。
呟くだけで誰かは"視る"。
そこに"ある"と物語は語られる姿を導線に、殺しの道を歩き出す。
「だが……」
ネット関連である以上、存在を駆逐する――認知されないように罠を貼ることは不可能だ。
逆に誘発を誘うことも、成功率は低いだろう。
討伐対象は、ダークネス――タタリガミ。
たとえどんな姿をしていたとしても、スマホの所持は間違いない。呟きが消えているのは対象が自分の補強に喰らい続けているからだろう。
「こういうのは、最初に関連話を始めた存在が元凶ってパターンか?」
*
ネットの情報網を駆使して、失踪した該当者の数と地域を割り出した。☓☓学園近郊に、事件多発は重なっていて、コンパスで丸を描けば全ての丸が一箇所に重なっている。
「此処かな、じゃあ……」
都市伝説の話を、現地でしよう。
SNSで突然呟くのだ。
"クリーピーパスタ"って知ってる?
"ドコに行けばあえるのかな?"
"最近一番人気で、知られている噺がいいんだけど"
当然アカウントは偽名であり、新規の使い捨てアカウント。
口調もそれとなく偽ったモノを依月は投稿した。
「……お?」
三十秒と経たずに誰かが反応した。
『いますぐあいにいくよ』
「"噺、聞かせてくれると助かります"」
当たり障りなく反応すると、更に返信がくる。
『どんなゲームがすき?どんな残酷な死に様をみたい?死にたい?好きなキャラクターは何?無惨に死死死死死』
ズズズズと殺意が周囲を埋め尽くしていく。空間侵食系で世界から、語られる都市伝説の姿を貼り付けたタタリガミが姿を表すではないか。おぞましいほどに漆黒の依月よりも大柄な人型が立ち上がる。深淵がごとき暗き中に赤々と瞳だけがギラついている。
否。ギラつくのは目だけではない。その体に刻まれた文字、模様、そして皮膚までもが赤く不気味な光を放っている。まるで世界中のSNSや掲示板から、悪意や狂気だけを抽出して形にしたような姿だった。依月は仕込み番傘を手に、にやりと笑みを浮かべた。
「おっと、随分と積極的だね。でも、俺が好きなのは『噺』であって、ゲームのキャラじゃないんだよな」
『ではそちらはこちらで引き取ろう。なあ?クリスティーヌ……』
タタリガミの声ではない。依月が声の主を探そうとした途端、周囲は血塗られたオペラ座に塗りつぶされていき、殺戮劇の主演へとドコからともなくスポットライトが当たる。
『死は我の|愛《舞台》の中にあってこそ』
彼は、かつて存在したダークネス『59位オペラ座の怪人』――六六六人衆の一人。
「奪い合いって奴?」
そういうや否や、『59位のオペラ座の怪人』がクリスティーヌと呼んだ女性型マネキンの大声にもまさる慟哭を、番傘を器用にくるりと廻し妖力を込めて攻撃を防ぐ。意識を朦朧とさせる声ではあるが、緩衝材代わりに間に差し向ければ話は変わる。
『美しきクリスティーヌは求める。そして我も、求めるのだ!』
「そうかい。求める者が多いのは、否定することじゃないかな」
言葉遊びにはちょっと詳しい依月による、認めるべきは蒐集の方向性。
これはそう簡単に出会わない。放置しても死人が、失踪者が増え続けるだけであり、六六六人衆の一人である彼に渡してしまえば、殺戮のレベルは段違いで上がるだろう。殺戮のための宴が、毎日、何度も繰り返されることがすぐに予想できた。
「あーでも……君はその都市伝説を"作品"としてしか興味がないわけだ。価値をわかってないねえ」
『何……?』
「そいつは、お前の舞台で殺されるための道具じゃない。ネットの海を彷徨い、誰かに見つけてもらうのを待ってた、ただの噂話だ。物語には、結末が必要なんだよ」
怪人の攻撃をかわしながら依月はタタリガミに近づくと、威勢の良さはどこかへ吹き飛び怯えていた。依月から距離を取ろうとするものの、逃げられないと立ちすくんでいるかのよう。
「お前の噺はお前のものであるべきだ。今なら俺が守ってやる」
自身と,武装を電子のノイズで覆い、視覚嗅覚での感知を不可能へと至らしめる。
「探しても無駄だよ。じゃあね」
さり気なく、電子ノイズで覆われた手で静かに怪人へと触れて、冷静な判断力を奪い――タタリガミを連れて依月は現場を後にする。冷静な判断力を奪われた怪人とクリスティーヌの慟哭が、あらゆる方面に響き渡っているが、今度はあれが別の"噂"へと至ることだろう。
こちらを見つけることは不可能だ――404 not found.
怪人の作った「血塗られたオペラ座」を、タタリガミがお返しにと塗りつぶし返す。此処は主人公などいない。主人公は残酷な死の運命から逃れられない。腕が、臓器が正しい個数あると思うな。這い寄る牙が、殺意が。こちらの目を見返した存在が、死するまで"物語"を続けよう。
都市伝説に触れた貴方が愛する死と自身を別つまで。
「ああいうの、たまにあるよな」
お前、どうする?タタリガミへ問いかければ、出会ったのも縁と無言で見返してくるばかりだった。殺しにこようという殺意は見当たらない。
「お前の噺は、どこにも消えない。俺が管理していて良いならな」
蒐集されるならば、失踪の噂は時間経過で消えていく。数ある噂はこうして誰かの手によって情報社会の中に解けていく。ただの脅威しかない都市伝説も、『物語』としてオカルトの枷を嵌めるならば――誰かにとっての好む"噺"へといつか至るはずである。
こうして偶然にも都市伝説は、依月に見つかり認知されるに至ったのだから。
成功
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