宵涼みのフルムーン
●月の湖
微かな水音。森に響く梟や虫の鳴き声。
日中の熱を覚えた風が水面を撫でれば、映し出された満月が歪む。
しかし揺らぐ満月は一つだけ。浮かぶ数多の満月は、ゆらりゆらりと水面を揺れた。
闇に染まる水中に、キラキラ輝く星が浮かぶ。
数多の月と、輝く星々。
包まれるこの場は――『月湖』と呼ばれる、聖なる場。
●空と水と、月と星と
「暑い日々が続いていて、すっかり夏って感じですね」
猟兵へと、ラナ・スピラエア(苺色の魔法・f06644)は無邪気に微笑みそう告げた。
日に日に世界は強い熱を帯びていく。四季の巡りは美しいけれど、うだるような暑さは冷たいものを強く欲し、少しでも涼を感じようとしてしまう。
「なので、折角ですから少し涼みに行きませんか?」
嬉しそうに両手を合わせ、彼女は涼への誘いの言葉を述べた。
今回の誘いは夏の夜。
鮮やかな色と生命に満ちた夏の日中も勿論魅力的だが、日中の熱を仄かに帯びた風の吹く、夏の夜もまた違った魅力がある。
場所は美しい星々が瞬き、大きな満月が輝くアックス&ウィザーズの森の中。
風が吹けば木々が揺れる音が響き、虫や梟の声が聞こえる程の自然豊かな場。そんな森の中に、ぽっかりと空いた空間にあるのは大きな湖。
「この湖、近くの住民の皆さんから『月湖』って呼ばれてるんですけど……その名前の通り、お月様が現れるんです!」
キラキラと苺色の瞳を輝かせながら、ラナが嬉しそうに語る通り、この湖には月が浮かぶ。――本物の月は勿論映り込むのだが、それだけでは無い。月のように輝く金色の丸が浮かぶのだ。それも、沢山。
その正体は月が空に浮かぶと同時、月光に惹かれるように現れる水中植物。それらが水面に浮かべば、まるで月が並んでいるかのような景色を作るのだ。
その植物は人が乗っても大丈夫なほど頑丈。微かに水中へと沈むが、足に少し浸かる程度で済むだろう。その葉の上を歩けば、人々は水面を歩くことが出来るのだ。
――それは夜の間だけの、秘密の道。
自然物なので大きさも、浮かぶ間隔も様々で、場所によっては少し飛ばなければいけない場もあるだろう。若い葉はまだ柔らかく、人の重さに耐えられずに沈んでしまうこともある。けれども水に落ちても害は無いので問題は無い。水中は夜の為暗いが、不思議なことに水底から上がる輝く泡がある為思ったよりも視界は悪くは無い。むしろ輝く泡は瞬く星々のようにも見えて、幻想的な景色が広がるだろう。
水面には浮かぶ満月。
水中には瞬く星々。
そして、天には本物の満月と輝く星空。
アックス&ウィザーズ故に、その煌めきは天も地も、負けない程に美しいだろう。
「過ごし方はお好きにどうぞ。自然を傷付けない範囲で、ですけど」
そして、暫く月と星を楽しみ夜も更ける頃にオブリビオンが現れる。
艶やかな黒髪が美しい女性は強力な魔力を持った魔女だ。強い探求心で数多の魔法を操ることが出来るが、そんな彼女が長年追っているのが月の力なのだとか。
「まだまだ未知なところが多いようで……なので、お月様のお話が気になるみたいです」
どんな些細なことでも、研究に繋がるかは分からない。天才故の閃くきっかけもあるだろう。だから各々の持つ、『月』に関係するエピソードを語れば、彼女は話に耳を傾け無力化することが出来るだろう。
強力な魔法を使う隙さえ与えなければ、猟兵達の攻撃で容易く倒す事が可能だ。
「えっと、あんまり深く考えずに楽しんで来て大丈夫です! 折角の夏ですから、楽しんじゃいましょう」
一つ呼吸をした後。楽しそうな笑みを浮かべ、ラナはグリモアを輝かせ、猟兵達を自然溢れる魔法の世界へと送り出す。
一日の中で夏の夜は短い。
けれども永久に続くほどの錯覚を覚える、不思議な時間が刻まれるだろう。
――キラキラ輝くお月様。
――大きな大きな真ん丸は、今宵も静かにお空と水面に浮かんでいる。
公塚杏
こんにちは、公塚杏(きみづか・あんず)です。
『アックス&ウィザーズ』でのお話をお届け致します。
●シナリオの流れ
・1章 日常(月湖)
・2章 ボス戦(『花鳥風月』月の魔女)
●1章について
満月の夜、木々に囲まれた『月湖』と呼ばれる湖。
月が浮かぶと、月光に惹かれたのか水底の植物が水面へと浮かび上がります。
金色の大きな丸をしたその植物はまるで月のよう。
人が数人乗ることが出来るため、水面を歩くことが出来ます。
丸の大きさは様々で、並んでいるところもあれば離れているところも。
若い葉は重さに耐えきれず、落ちてしまうこともあります。色が淡めなので、区別は人によってはつきます。
水中は夜なので暗いですが、星のように光る泡が浮かび続ける為視界には困りません。
特に危険な生物もいない為、水中に落ちたり潜っても問題はありません。
特に過ごし方に決まりは無いので、シチュエーションからお好きに考えて頂いて大丈夫です。
持参すれば飲食も可能です。
●2章について
魔術の探求をする為に生きる魔女。
月の不思議な力に興味を持ち、強い執着があります。
月への探求の為、月に関わるエピソードなど語ると無防備になるでしょう。
●装い
1章のみ参照。特に指定が無ければ言及は致しません。
水着コンテストの装いの場合は、記載頂ければ拝見致します。(○○年水着等分かるように。文章の流れによっては反映出来ない可能性がありますので、ご了承のうえお願いします。リプレイ返却までステータスで該当イラストを活性化しておいて頂けますと、探しやすくて助かります)
●その他
・全体的にお遊びor心情シナリオです。
・同伴者がいる場合、プレイング内に【お相手の名前とID】を。グループの場合は【グループ名】をそれぞれお書きください。記載無い場合ご一緒出来ない可能性があります。
・受付や締め切り等の連絡は、マスターページにて随時行います。受付前に頂きましたプレイングは、基本的にはお返しさせて頂きますのでご注意下さい。
以上。
皆様のご参加、心よりお待ちしております。
第1章 日常
『月湖』
|
POW : 湖の月面に勢いよく乗ってみる
SPD : 湖の月面に恐る恐る乗ってみる
WIZ : 湖の月面を湖の外から眺める
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●月の路
煌めく星々を映す水面。
ちゃぷり、ちゃぷりと風が撫でれば微かな水音が響く。
虫と梟の小さな話し声が聞こえる中、ただ静かにそれらの満月は浮かび上がる。
そうっとその満月へと足を乗せてみれば、足裏に宿る感触は思いのほか柔らかい。微かに沈み、葉の上を滑る水は日中の温もりを微かに感じさせる程よい温度。
素足に触れる柔らかな感触の中、ゆっくりゆっくりと歩んでいけば世界が広がる。
広い水面の上に佇んでいる。ただそれだけなはずなのに、何故か心はざわつくのだ。
夜の間にしか現れない月の路。
この湖の奥には、何があるのだろう――。
囲まれる木々と夜の闇に包まれ、その先は全く見えない。
ただ瞬く星々と煌々と照らす満月だけが、アナタを見守っている。
ガスパール・アーデルハイド
可能なら相棒梟のアデルも同行
月湖……と呼ばれる場所があるらしいな
水面に浮かぶ月の景色かと思ったら
おお、これはスゴイな
満月みたいに浮かんだ植物、
上に乗ることができるらしいが
アデルも体験していくかい?
おれの肩上が良いのなら…そのままで
クルースニクも一応は狼の一族
元々、月夜には浮かれやすいのかもしれないけれど
なんだかいつもより楽しい気分のような
水面を歩いているのも愉快だが
たくさんの月の上に乗れているのも
また不思議な心地がするものだ
まだまだ知らない景色も沢山あるんだなぁと
この月たちと星空の夜を楽しんでいくとしようか
●
月湖――その響きから、水面に浮かぶ月が美しい景色を想像していた。
「おお、これはスゴイな」
けれど実際は、浮かぶ月でも少し違う。黄金のように鮮やかな色合いが、数多湖の上に浮かんでいたのだ。満月の光を浴びてキラキラと輝いているようにも見え、まるで本物の月が沢山浮かんでいるかのようにも思える。
その眩さに灰色の瞳を少し細め、ガスパール・アーデルハイド(護森狼・f44874)は口元を仄かに和らげた。
水面へと近づけば、ちゃぷりと響く水音につい大きな耳を揺らしてしまう。
「上に乗ることができるらしいが、アデルも体験していくかい?」
腕に乗るミミズクのような彼女へと、一つガスパールは問い掛ける。少し鋭さを帯びた彼女の瞳はどこか好奇心に輝いているようにも見えて、ちらりと彼を見て、水面に浮かぶ月を見て――大きな翼をばさりと広げたかと思えば、すいっと水面へと降りた。微かに水面が覆う月の上を、とんとんっと彼女は歩んでいく。
どこか楽しそうな彼女の姿にガスパールはいつもは結んでいることの多い口元を和らげる。そのまま彼女に続くように、自分も一歩踏み出した。
ちゃぷり。
彼の重さに少し月が沈んでいく。先ほどのアデルは体重が軽い故か、ほとんど沈むことは無かった。けれどもガスパール程の大きさを支えるとなれば、少しは沈んでいくのは仕方が無い。同時に足元に流れ込む冷たさを帯びた水に驚いたのか、アデルは少しとんっと跳ねると大きな翼を広げガスパールの肩の上へと戻ってきた。
ごめんと、謝罪の言葉を述べながら彼女の口元を撫でてやれば気持ち良さそうに瞳を閉じる。そのまま動かない様子にガスパールは頷くと、彼は一歩一歩歩みだす。
たわみ、沈み、それでも確かに彼の存在を支えてくれる大きな月。
彼はクルースニクで、一応は狼の一族だ。
(「元々、月夜には浮かれやすいのかもしれないけれど――」)
今日は、なんだかいつもより楽しい気分のような。
水面を歩いているのも愉快だけれど、沢山の月の上に乗れているのも不思議な心地で。一歩一歩進み、湖の中心へと辿り着けば包み込む空気も変わった気がする。
ざわりと風が吹けば、辺りの木々が揺れ、水面が揺らぎ水音が響く。
「まだまだ知らない景色も沢山あるんだなぁ」
それらの自然を肌で感じながら、ガスパールがぽつりと紡げば。アデルは同意をするかのように、ちょんっとそのクチバシで彼の腕を突いてみせる。その反応を嬉しく思いながら、彼はまた新たな月へと飛び移った。
さあ――この月たちと星空の夜を楽しんでいくとしようか。
大成功
🔵🔵🔵
ジョゼ・ビノシュ
アドリブ歓迎
桜木くん(f35324)と、2025年の水着姿で
夜の方が好きだけど、太陽の光も悪くなかった! 桜木くんが忙しくて来れなかったのが残念だけど、やっとお披露目できてうれしいわ。天女みたいって?えへへへ。
うわ、これが…いっぱいの月!これ全部葉っぱなんですって?変わった色。桜木くん、乗りましょう!早く!(自分が先にぽんぽんと移動)
…あ、桜木くんってあんまり足動かさないんだっけ?こっちの方がいいかしら。(念動力で葉を動かして迎えに行く)手を繋いでてあげるね。落ちそうになったら支えてあげるわ!お姫様抱っこだってできるんだから。
そうね、せっかく手繋いてるんだし、踊りましょう。
雨倉・桜木
ジョゼさん(f06140)と。ぼくはいつもの格好で…羽織りは置いていこう、流石に暑い
すまないね、ぼくもコンテスト行きたかったけれどお宿がすっかり繁忙期で
ぼくも、お披露目してもらえて嬉しいよ。みんなの前では控えていたけれど、ふふ、とても綺麗だね
こういった月の光の下だと本当に天女みたいだ
へえ、これが全部葉っぱなのかい?見事な光景だね
流石、ジョゼさんは身軽だね、兎さんのようだ。ああ、すまない、ありがとう、助かる
ぼくはどうにもう、足の使い方が苦手でね(恐る恐ると乗っかって
おお、落ちない、すごい…すごいね、感動した
さ、エスコートには頼りないけれど、ぼくでよければ…夜の散歩といこうか、それとも躍る?
●
日中続いたコンテストは、大変盛況に終わった。その賑やかさを想像して、傍らの水面のような装いを纏う彼女へと、雨倉・桜木(花残華・f35324)は唇を開く。
「すまないね、ぼくもコンテスト行きたかったけれどお宿がすっかり繁忙期で」
「夜の方が好きだけど、太陽の光も悪くなかった!」
その謝罪の言葉に、罪悪感を覚えないようにとジョゼ・ビノシュ(アイシイ・アンリアル・f06140)は明るく返す。夕暮れと夜空を抱く彼女にとっては馴染まない陽射しの熱が、今も透き通るそのクリスタリアンの肌に残っているような感覚。
確かにあの賑やかさが楽しかったのも本当だけれど――。
「桜木くんが忙しくて来れなかったのが残念だけど、やっとお披露目できてうれしいわ」
無邪気に、真っ直ぐに彼を見て笑いながらジョゼの言葉に、嘘偽りは無いことがよく分かる。ただ真っ直ぐに伝えてくれる彼女に応えるように、桜木は頷くと。
「ぼくも、お披露目してもらえて嬉しいよ。みんなの前では控えていたけれど、ふふ、とても綺麗だね。こういった月の光の下だと本当に天女みたいだ」
真っ直ぐに彼女を見ながら、素直な想いを言葉にした。
月の光を浴びた月光の髪はキラキラと輝き、水面を映したワンピースと、添えられたリボンが風と共にふわりと揺れる。丸みの帯びたシルエットと長いフリルはまるで海月のようにも想えて、海では無いが水と月の浮かぶこの景色によく合っている。
「えへへへ」
返してくれる彼の言葉に、ジョゼは少し照れくさそうに、けれど嬉しそうに笑みを返す。鮮やかな花模様の上着を脱ぎ、何時もよりも軽装な彼の姿もまた新鮮だけれど。その姿を夕暮れの瞳に映した後、彼女は湖へと一歩一歩素足のまま足を進めた。
ちゃぷり、ちゃぷり――。
近づけばより水の音が強く聞こえる。
闇のように染まる水面だけれど、満月の光が照らすから世界はそれ程暗くはない。そして数多浮かぶ鮮やかな色合いのまん丸は、思ったよりも沢山浮かび上がっている。
「うわ、これが……いっぱいの月! これ全部葉っぱなんですって?」
瞳を大きく見開き、驚きを露にするジョゼ。変わった色合いに不思議に想い、しゃがみ込むとそうっとジョゼはその葉を突いてみる。指先に触れる感覚は確かに生きた植物のそれで、また彼女は不思議そうな溜息を零した。
「へえ、これが全部葉っぱなのかい? 見事な光景だね」
「桜木くん、乗りましょう! 早く!」
関心したように溜息を返す桜木を横目に、ジョゼは軽い足取りでとんっと地を蹴ると月へと飛び移った。その衝撃に微かにたわみ、水へと沈む月の葉。微かに不安がよぎったけれど、しっかりとジョゼの体重を支え水面へと浮かび上がる。柔らかな植物の感触が足裏に伝わってきて、仄かに冷たさを帯びた水と共にどこか心地良さを覚える。
「流石、ジョゼさんは身軽だね、兎さんのようだ」
素直に賛辞の言葉を零しながら――桜木は動けずにいた。足を動かそうにも、上手くいかない。そんな不安が顔に出ていたのだろうか、ジョゼは瞳を瞬くと思い出したように。
「……あ、桜木くんってあんまり足動かさないんだっけ? こっちの方がいいかしら」
そう紡いだ後、彼女が瞳を閉じると同時足元が動き彼の前へと月が移動する。そのまま細い手を差し伸べて、ジョゼは笑みを浮かべる。
「ああ、すまない、ありがとう、助かる。ぼくはどうにもう、足の使い方が苦手でね」
彼女の気遣いと、その笑顔に安堵して桜木は己の手を彼女の手に重ねた。恐る恐る、慣れない足を水面へと伸ばしていく。――そのぎこちなさはきっと、彼が八重紅枝垂桜の精だから。だからこそ、己の足で不安定な場に立つことの感動は一際で。
「おお、落ちない、すごい……すごいね、感動した」
「落ちそうになったら支えてあげるわ! お姫様抱っこだってできるんだから」
柔らかいながらもしっかりと支えてくれる月の葉の頼もしさ。そして、しっかりと手を繋ぎながらも安心させてくれるジョゼの優しさに心が震えるのを感じる。優しいだけで無く頼もしい彼女に笑みを返して、一つ彼は問い掛ける。
「さ、エスコートには頼りないけれど、ぼくでよければ……夜の散歩といこうか、それとも躍る?」
その問い掛けに、重なる大きさの違う手を見てジョゼは笑った。
「そうね、せっかく手繋いてるんだし、踊りましょう」
注ぐ月光はまるでシャンデリアの煌めきのよう。
ステップを踏めば水音が音色のように響き、柔らかくたゆむ足元は心が躍る。
ひらり、ひらりと揺れるジョゼの装いの軌跡が、美しく月に照らされていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
御簾森・藍夜
【朱雨】
…きっと件の魔女は、俺の姿だったかもな
ま、一つのありえた可能性だが
俺はたまたま暗い夜道で手を引いてくれた友がいただけ
そして、その先にお前がいたんだ
全て全てが幸運で、今までの不幸が相殺されたような…きっと、そうなんだ
(誰かさんの影響、と笑う可愛らしい頬をくすぐって
心音が喜んでいるということだけが嬉しい
その背が遠くなり過ぎる前に、自身も踏み出して
今行く(何とか見分け、葉に乗って
…本当だ、美しいな
なんとも気分のいい場所だな、ここは
(目に焼き付ける、の言葉に笑い
なら、もっと印象的な思い出にしよう
(手を引いて、指を絡めて繋ぎ、揺れる狐耳に口付けて
大きくなったじゃないか、ふふ
改めて今年の進学はめでたいな
高校生か…懐かしい
俺は心音が幾つだろうが、どんな背の高さでも構わないんだが—…
ふふ、そうか
(三十路、で笑って
なんだ、おじさんな俺じゃ駄目なのか?ん?
心音、(抱きしめ引き寄せて、隠すように口付けて
お前を置いていくわけがない。寧ろしっかり俺を離さないでいてくれ
この手で、絶対(指を絡めてぎゅっと
楊・暁
【朱雨】
ははっ、こりゃおあつらえ向きだな
意味ありげな笑みを藍夜へ
月だの魔女だの言われたら興味示さねぇわけねぇよな
ま、誰かさんの影響でそれは俺も同じなんだけど
話を黙って聞き
その先に、の言葉に微笑み
相殺?そんだけか?
もっとだろ?とにまり笑い
藍夜の過去も、俺の過去も
お互いのしんどさを理解しあえるためのもんだった…って考えりゃ
そのくらいの人生道行きの駄賃くらい、安いもんだ
夜目は利くから葉の色を見分けて
若い葉以外を足場にひょいひょいと湖を渡り
おーい、藍夜!こっち来てみろ、水中にすげぇ星一杯だぞ!
上手くスマホで撮れる気しねぇな…
…ま、しっかり目に焼き付けとくか
印象的、にはきょとんと
口づけにはにかんで
…今年で漸く高校生か…もっと背ぇ伸びねぇかな
本当ならお前より1つ年上なのに
まだ全然足りねぇ背丈がもどかしい
藍夜の隣に立つなら少しでも格好良くいてぇだろ?
早くしねぇとお前が三十路になっちまう
…絶対格好良いだろうけど
渋み増しちまったら益々追いつけねぇじゃねぇか
口付けに微笑み返し
…勿論、永遠に一緒だ
手を握り返す
●
空には輝く星々と大きな月。
地には、闇深い水面に浮かぶ数多の月。
「ははっ、こりゃおあつらえ向きだな」
この景色を前に、楊・暁(うたかたの花・f36185)は意味ありげな笑みを浮かべると、傍らの彼を見上げた。鮮やかな瞳に映る彼は、静かに瞳を細める。
月だの魔女だの言われたら、興味を示さない訳がない。まあそれは――誰かさんの影響で暁も同じなのだけれど。そう彼が語れば、御簾森・藍夜(雨の濫觴・f35359)は彼の柔らかな頬をくすぐった。
月に焦がれ、月を求める魔女。
それは――。
「……きっと件の魔女は、俺の姿だったかもな」
ふっと小さく笑みを零し、藍夜はそう紡ぐ。それはあくまで、一つのありえた可能性の話だが。けれど藍夜には、たまたま暗い夜道で手を引いてくれる友がいた。そして、その先に『お前』がいた。ピンク色の瞳の、少しずつ表情を増やしていく彼が。
「全て全てが幸運で、今までの不幸が相殺されたような……きっと、そうなんだ」
近しい存在を認識し、改めて己の今を想う藍夜。降り積もった不を覆い隠すような、幸の積み重ねを感じれば、胸が苦しくなる。
ぎゅっと胸元で手のひらを握りしめ、唇を結ぶ藍夜。そんな彼を前に――。
「相殺? そんだけか?」
暁はきょとんと、瞳を見開きそう零した。
その後「もっとだろ?」とにまりと笑う、悪戯な表情は何とも彼らしい。こんな表情も出せるようになったと想えば、嬉しくもなってしまうのだ。
藍夜の過去。暁の過去。
お互いのしんどさを理解し合える為のものだったなんて――。
「……って考えりゃ。そのくらいの人生道行きの駄賃くらい、安いもんだ」
耳を尾を揺らし、からりとした口調で彼はそう紡ぐと、ひょいっと身軽な身体で湖の上を飛んでいく。妖狐故か夜目が利く彼は、難なく数多の月葉から丈夫なものを選び湖の奥へ奥へと進んで行き。
「おーい、藍夜! こっち来てみろ、水中にすげぇ星一杯だぞ!」
遠く遠く、湖の中央から彼を手招いた。
そんな彼の、『心音』が喜んでいると云うだけが嬉しくて。藍夜の胸を温もりが満たしていく。その背が遠くなりすぎる前に、追いつこうと歩んでいた足をまた一歩前へ。
「行く」
彼の手招きに答えようと、先ほどよりも一歩の速度を速めるけれど。彼ほど夜目が利くわけでは無いから、その足取りの慎重さは変わらない。目を凝らし、微かな色の変化を探りながらなんとか暁の元へと辿り着いた。
そして並んで水中を見遣れば――ぷくりぷくりと、光の泡が上がっていく。
「……本当だ、美しいな」
暁の先ほどの誘いの言葉が、まだ耳に残っている。
美しいものを共有出来る喜びを感じながら、藍夜はじいっと水面を見つめていた。
「上手くスマホで撮れる気しねぇな……。……ま、しっかり目に焼き付けとくか」
人類の叡智をもってしてもこの闇の中の煌めきは捉えられない。真っ暗な画面に一つ溜息を零すけれど、暁はただ真っ直ぐな言葉を零すだけ。
そんな彼の言葉に、藍夜はつい小さな笑い声を零していた。
目に、記憶に。この景色を焼き付けるのなら――。
「なら、もっと印象的な思い出にしよう」
「え……、」
彼の言葉と共に、するりと重なる指先。疑問を言葉にするよりも先、引かれた手により近付いた距離のまま、揺れる漆黒の狐耳へと触れる熱。
ぴくり、暁の耳が揺れた。
不意の事に瞳を瞬いたけれど、その熱は心地良くて。そのまま彼は笑みを零す。
そのままじっと、直ぐ傍に立つ藍夜を見上げれば――その距離は、確かに縮まったのだけれど。まだまだある20センチ近い差に、むうっと唇を尖らせた。
「……今年で漸く高校生か……もっと背ぇ伸びねぇかな」
ぽんっと己の頭に手を当て、暁は語る。
彼は本来は26歳だが、運命の糸症候群で今のような姿をしている。だから本当ならば藍夜よりも年上だという、もどかしさがあるのだ。
高校生としては小さいほうでは無い事も、相手があまりにも長身すぎる事も分かっている。分かっているけれど、納得は出来ないからもどかしいのだ。
「大きくなったじゃないか、ふふ」
余裕のある笑みを零す彼の姿を見れば、またもだもだと心がざわめく。進学がめでたいと言って貰えれば嬉しい気持ちもあるから、複雑なものだ。そんな複雑そうな彼の表情を瞳に映し、藍夜はどこか不思議そうに小首を傾げ。
「俺は心音が幾つだろうが、どんな背の高さでも構わないんだが――……」
そんな、真っ直ぐな言葉を唇から零した。
その言葉は嬉しい。嬉しいけれど。それでも――。
「藍夜の隣に立つなら少しでも格好良くいてぇだろ? 早くしねぇとお前が三十路になっちまう」
じっと見上げるその眼差しは強く、強い暁の意思を感じる。
あと4年で訪れるその日は、先が長いのか短いのか、それは分からない。けれどその日は確実に訪れて、その瞬間も隣に居るのだと云う自信はある。
だからこそその日を想えば、絶対に藍夜は格好良い事は分かるのだ。けれども渋みが増してしまえば、ただでさえ症候群のハンデがあるのに益々追いつけなくなってしまう。
そんな焦りを露にする彼の姿に、藍夜は小さく笑った。
「なんだ、おじさんな俺じゃ駄目なのか? ん?」
悪戯に問い掛ければ、暁はぷるぷると首を振るう。そのまま彼の身体を引き寄せて、そっとその耳元へと言葉を零す。
――心音。
それは世界でただ一人しか知らない、暁の本名。
彼の声で紡がれる度に、嬉しさが満ちていく。
「お前を置いていくわけがない。寧ろしっかり俺を離さないでいてくれ」
――この手で、絶対。
きゅっと指が絡まれば、夏夜の風の中二人の熱が伝わってくる。その温もりに心地よさそうに瞳を閉じて、静かに暁は笑うと。
「……勿論、永遠に一緒だ」
ぽつり、隣に居る彼にだけ聞こえる小さな声で、そう零した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
霑国・永一
メノン(f12134)と
空に星々が沢山輝くのは当たり前だけど、満月がいっぱいなのは驚いたなぁ。
いいねぇ……鏡花水月では終わらないならば、今宵は月を盗めるかもだ。
さぁてメノン、月渡りを愉しもうじゃあないか!
うーん、足下も空も情緒あっていいなぁ。こうして散歩だけでも……ん?
(次に踏もうとする葉が若いのに気付き、落ちないように下がろうとし)
えっ……?
(普通に進んだメノンに咄嗟に腕を掴まれ、一瞬の判断でぐるんとメノンを上側に回すも揃って落下する)
……いやぁ参ったなぁ。無事かい?
(メノンを片腕で抱き寄せながら水面に顔を出して笑う)
あっはっは、どうやら無事みたいで何よりさぁ! ……?
(いつも通りの飄々とした言葉と態度で返すも、自身に違和感がある。具体的には些か鼓動が早い。メノンと目が合えば)
満月よりも……
(無意識に言い掛けて、ハッと止める。そっと目を逸らして謎のモヤモヤを残しつつも水から出て葉によって水が溜まっている場所へ歩めば、突如水を両手で掬ってメノンへ飛ばす)
隙あり!不意打ちは得意なのさぁ!
メノン・メルヴォルド
永一さん(f01542)と
2025水着
ね、とってもキレイで不思議な景色なの
月の上を歩くって、ステキ
永一さんの言葉を聞けば、くすくす悪戯っぽく笑む
ん、1つくらいお月様を独り占めしたくなっちゃうのよ
わ…歩くと少し沈む、のね
足元がふかふかして面白いの
永一さん(名を呼んで、見てとばかりに間隔のある葉を、ぴょん!
ふふっ、ちょっと危なかったけれど、渡れたでしょう?
光の道のお散歩、楽しい、ね(次の一歩を踏み出し
…えっ?
深く沈み込む葉と身体に、思わず手を伸ばす
そこからは、まるでスローモーション
月と、光る飛沫と、永一さんに直接触れる体温と
2人で落ちた水中はとてもキラキラしていて
…っ、ご、ごめんなさい、ワタシっ!
抱き寄せられ、ドキドキする鼓動を意識しながら
ビックリ、しちゃった
ん?
言いかけた言葉に首を傾げ
一瞬視線を追いかける
いつもと違う“何か”を互いに感じつつも、月の水面に溶けていくようで
すっかり濡れてビショビショになっちゃった、ね
!?
いつか、その不意打ちを避けちゃうのよ
思いっきりバシャバシャと水を掛け返して
●
瞬く星々は満天で、浮かぶ月は――。
「空に星々が沢山輝くのは当たり前だけど、満月がいっぱいなのは驚いたなぁ」
視界に広がる『金色』に、霑国・永一(盗みの名SAN値・f01542)は素直に眼鏡の奥の瞳を見開き吐息を零す。
ふわりと吹く風は、水気を帯びつつも日中の熱を仄かに孕む。その風が吹けばふわりと揺れる、視界に映る鮮やかで優美な青の色。まるで紫陽花のように色が移り変わる、人魚姫のような彼女から、くすくすと小さな笑い声が漏れていた。
「ね、とってもキレイで不思議な景色なの。月の上を歩くって、ステキ」
煌めく緑色の瞳に美しい金を映しながら彼女――メノン・メルヴォルド(wander and wander・f12134)は素直な言葉を唇から零す。月光に照らされた彼女を眩しそうに見ながら、ゆるりと永一は笑みを零すと。
「いいねぇ……鏡花水月では終わらないならば、今宵は月を盗めるかもだ」
「ん、1つくらいお月様を独り占めしたくなっちゃうのよ」
何時もの彼らしい言葉に、メノンは小さな笑い声を重ねながらそう紡ぐ。少しだけ悪戯な色を宿しているのは、彼の言葉に重ねるから。
「さぁてメノン、月渡りを愉しもうじゃあないか!」
彼の誘いの言葉に頷いて、二人並んで一歩を踏み出せば。
とぷん。
足裏に伝わる水面の浮遊感と月草の柔らかさ。重さを感じ微かに沈み一瞬身構えたけれど、葉は少し沈むので耐えてくれている。恐る恐る一歩一歩と踏み出せば、沈んで浮かんでを繰り返しながらも確かに体重を支えてくれている。
その微かな感覚がどこか心地良くなってきて。メノンは小さく微笑むと――。
「永一さん」
彼の名を呼び、月のような金色の瞳をじっと見ると――ひとつ、笑みを零しそのままぴょんっと軽やかに飛ぶ。
ひらり、ひらり人魚の尾のようなパレオが月光に照らされ揺れ動く。
その一連の動きを永一はただ見つめていた。たんっと素足を着いたのは葉の淵近くて。ほんの少しバランスを崩したけれど、慌ててバランスを取るメノン。そのまま彼女はくるりと振り返ると、少し自慢げな笑みを零した。
「ふふっ、ちょっと危なかったけれど、渡れたでしょう?」
どう? と問い掛けるような彼女に、永一はすごいと素直に賛辞を贈る。その言葉に嬉しそうに笑う彼女の元へと、永一もひょいっと軽い足取りで飛び近付いた。
同じ葉に二人で乗れば、沈む深さも深くなる。
足を流れる水は、日中の温もりを抱きつつも確かに熱を奪っていく。柔らかくも心地良いその足元を見て、輝く空を見て――永一は瞳を細めた。
「うーん、足下も空も情緒あっていいなぁ。こうして散歩だけでも……ん?」
視界の奥の次の道程、並ぶ葉に微かな違和感を感じる永一。その違和感は葉の色が、微かに淡くまだ若いのだと気付き、踏み出した足を止め一歩下がろうとしたけれど――。
「光の道のお散歩、楽しい、ね」
「えっ……?」
立ち止まった隣に気付かずに、楽しそうに先を歩むメノンの姿に彼は瞳を見開いた。
次の葉へと細い足が着く。
体重が移り、ちゃぷりと水音が響き、そのまま足が、沈んでいく。
「あれ……?」
予想していなかった身体の沈み込みに、メノンは瞳を見開いた。咄嗟に振り向き、手を伸ばせば――永一がその手を取り、力強く引いてくれた。
引き上げるのは無理だと、瞬時に判断する永一。それならば、と勢いよく身体を引くとぐるりとメノンを上側に回し自らの身体を水面へと向ける。
互いに傾く身体。
水面に触れたかと思えば大きな飛沫が舞い、注ぐ月光に煌めいている。
――全ての動きがスローモーションのように、メノンの瞳に焼き付いた。
そのまま身体を覆う水の冷たさと、耳に流れ込む水中の音色。けれども、冷たいはずなのに身体は妙に熱くて――彼の体温を直に感じ、どくんと心臓が跳ねる。
星空のように輝く水中はとても綺麗だと思うのに。何故だろう、落ち着かないのは。
ぷくぷくと泡が浮かぶのに合わせるように、ぐいっと力強く永一は互いの身体を引き水面へと顔を出す。
再び聞こえるのは、梟と虫の音色。風が濡れた肌を撫で、突然のことに二人の呼吸は乱れている。けれども直ぐ傍で瞳を交し合うと、永一は笑みを浮かべ――。
「……いやぁ参ったなぁ。無事かい?」
何時ものような飄々とした態度で、そう問い掛けた。
何があったのか、理解が出来ずに幾度か瞳を瞬くメノン。ぽたぽたと髪から落ちる雫は水面に波紋を作り、今自分が水の中にいるのだと意識させる。
「……っ、ご、ごめんなさい、ワタシっ!」
状況を理解するとメノンは慌てて彼を見上げた。交わる視線の近さに、心が跳ねる。
(「――ビックリ、しちゃった」)
今も身体に回された大きな片腕の熱が、肌に溶けいくよう。水の中だからこそ、その熱を強く感じるようで心臓が跳ねるのを止められない。
「あっはっは、どうやら無事みたいで何よりさぁ! ……?」
そんな動揺をする彼女とは違い、永一は努めて平静を保っている――かと思いきや、彼の心も違和感がある。何故だろう、と一瞬思うけれど己に問い掛ければ直ぐに解る。何時もより、些か鼓動が早いのだ。
どくん、どくん。
早いだけでない、強く強く跳ねる鼓動。
これは何なのかと疑問に思いながら、腕の中の彼女の大きな瞳と目が合い――。
「満月よりも……」
彼の唇から零れたその言葉は無意識で、その先は聞こえなかった。否、意識して止めたのだ。それ以上はダメだと、想ったから。
慌てて視線を逸らし、空の月を見つめる永一の様子にメノンは首を傾げる。
「ん?」
何時もと違う『何か』を互いに感じている。
曖昧な空気の中、メノンが不思議そうに瞳を瞬いた後、彼と同じ月へと視線を向けた時――パシャリと、冷たい雫が音と共に降ってきた。
「!?」
「隙あり! 不意打ちは得意なのさぁ!」
何時の間にやら葉の上へ上がっていた永一が、葉に溜まっている水をすくいメノンへと飛ばしていた。月光を浴びてキラキラと輝くその雫が降れば、彼女の姿を照らしている。
彼の行動は何時もの慣れ親しんだもの。だったら、彼女が返す行動も何時もと同じ。
「いつか、その不意打ちを避けちゃうのよ」
水の量なら水中にいるこちらのほうが多いと言わんばかりに、大きな水飛沫と共に彼の足元へと水を掛けていく。
楽しそうに笑うその顔は、何時もと同じ二人の姿。
ちゃぷりと波打つ静かな湖。
肌の熱を奪う夜の水だけれど。
先ほどまで触れていたその熱だけは、何故か強く残っていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ルーシー・ブルーベル
【月光】2025年の水着
最近は夜も暑いのね
ゆぇパパはいつも涼し気なお顔しているけれど、暑くはない?
あら、ふふー!ルーシーも大丈夫よ
今出ているのはお月様だもの
でもパパの心配はちょっと嬉しくて
つい傍へ寄ってしまおうっと
湖にあんなにお月様がいくつも!
周りにいっぱい、星が煌めいて映っていて……
この水面のお月様と星はいつも一緒なのね、何だか嬉しい
えへへへ……うん、そう、同じ!
お月様を歩けるというのなら、行かない理由はないわ
足を下ろして、ちょっと沈んだ時はドキドキするけれど
パパ、こっちこっち!……わっ?
小さなお月様を踏んでしまって、落ち――と、
なる所をパパが抱えて下さって
ありがとう、パパ
葉っぱ、折れて無いといいのだけど
うん、あっちに行きましょうか!
暫しのお散歩を楽しんで
ねえパパ
私、お水の中にも入ってみたいな
だってほら、一緒になら夜の水中も怖くないし!
大丈夫よ、ぎゅってしているから
水の中に潜ればひんやり心地いい
見上げると煌めく泡、そして
此処にもあったね、星とお月様
うん、……うん
一緒に見れて、良かった
朧・ユェー
【月光】2024年の水着
そうですねぇ
ん?おや、大丈夫ですよ
夜なので日は無いがこの暑さ
ルーシーちゃんが熱中症になってはいけないので少しでも涼しくなる為に日傘をさして彼女の方へ
水筒も持ってきてるので水分補給はしっかりとしないとですね
月の光で浮かぶ植物とは珍しいですね
まん丸で本当に月の様
沢山お月様がありますね
星も傍に、月と星はいつも一緒
僕の月とルーシーちゃんの星と一緒ですね
月の上を歩く、そんな発想は無かったですが
ルーシーちゃん、気をつけて下さいね?
乗りたい時は僕も一緒に…
おやおや、言ってるそばから
彼女の嬉しそうにはしゃぐ姿にふふっと微笑んで
その子はまだ幼い葉…
葉が沈む前にひょいと両手で彼女を抱き上げる
沈んでしまいましたね
小さいのと大きいが一緒にくっついてる子達はどうでしょうか
まるで親子の様ですよ?
水の中に?おやおや、天使の我儘なら仕方ないですねぇ
しっかり捕まって下さいね
そのまま一緒に水の中へ
こちらにも大きな月と寄り添う小さな星がありましたね
優しく頭を撫でて
穏やかなこの時間をずっと一緒に
●
ふわりと夜風が肌を撫でる。
じりじりと肌を焼くほどの熱は無いけれど、日中の熱を吸収した世界は夏を感じる。
「最近は夜も暑いのね。ゆぇパパはいつも涼し気なお顔しているけれど、暑くはない?」
ルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)はくるりと後ろを振り返ると、この夜の中涼しげな顔をする朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)へと問い掛けた。彼は大丈夫だと微笑みながら、そっと彼女の元へ歩み寄ると手にしていた日傘を差す。
今は夜ではあるが、少しでも彼女が涼しくなるようにとの親心。彼よりも身長の低い彼女は、地面の抱く熱を直接感じやすいのも心配の理由。
「あら、ふふー! ルーシーも大丈夫よ」
そんな優しい父の行動が嬉しくて、ルーシーの頬は緩んでしまう。今出ているのはお月様だから、日傘は無くても大丈夫だろうけれど――その心配の気持ちが心地良く、応えるようにぴょんっと軽く跳ねて彼との距離を詰めた。
夜風が吹けば、ルーシーの淡い金の髪が揺れ、夕暮れ時を思わせる水着が揺れる。夜の闇の中その鮮やかな色合いは幻想的で、愛しい娘の姿にユェーは思わず瞳を細めた。
陽射しは無くても水分補給はしっかりと、そんな父らしい過保護な言葉を零しつつも、彼らは並び湖の傍へと歩んでいく。さくり、さくりと草を踏む音色の先には――。
「湖にあんなにお月様がいくつも!」
「月の光で浮かぶ植物とは珍しいですね」
水に歪む月の他、浮かび上がる月は数多あり、湖全体に並んでいる。月光を浴びると水中から姿を現すと云うその生体は不思議で、ユェーも思わず感嘆の吐息を零す。
「周りにいっぱい、星が煌めいて映っていて……、この水面のお月様と星はいつも一緒なのね、何だか嬉しい」
キラキラ輝く水中の光る泡と、天に煌めく満天の星々は同じように美しい。けれども空とは違い、この水中の月は常に満月で、その姿で星と寄り添うのだ。
――星も傍に、月と星はいつも一緒。
「僕の月とルーシーちゃんの星と一緒ですね」
それはまるで……とユェーが零せば、ルーシーの瞳が星を宿したように煌めいた。頬が僅かに染まったのは暑さでは無い。彼が同じ事を考えてくれた事が、嬉しかったから。
「えへへへ……うん、そう、同じ!」
嬉しさを表情でも、言葉でも表現しようと溢れさせれば、ユェーはそんな彼女の姿に幸せそうに笑む。――彼女と同じで嬉しいのは、彼だって同じだから。
そのまま二人は数多の月を見て、顔を見合わせる。
「ルーシーちゃん、気をつけて下さいね? 乗りたい時は僕も一緒に……」
彼女がそわそわとしだしたのに感づいた彼は、心配そうに声を掛ける。危険な存在はいないと聞いているけれど、夜の水辺はやはり親としては心配なもの。小柄な彼女にとっては、水深も大丈夫かと不安は尽きない。
けれど、彼女の興味を応援したい。だからユェーが一緒にと零したとほぼ同時、ルーシーはすぐ隣に立つ彼の手をきゅっと握り、そうっと葉の上へと足を伸ばした。
とぷ。
微かな水音と共に、体重を掛けていけば月草は沈んでいく。
足に触れる水が深くなっていくのにドキドキとルーシーの鼓動は早くなる。そうっとそうっと、彼女の両足をしっかりと支えてくれる姿を見守った後、ユェーも同じ葉へとその身を預けた。
とぷん。
ルーシーよりも重い人に葉はまた少し沈んだが、意外にも安定してしっかり支えてくれている。二人は手を繋いだまま笑みを浮かべ合うと――。
「パパ、こっちこっち! ……わっ?」
「その子はまだ幼い葉……」
安心し、はしゃぎながらルーシーが月の路を進んで行く。けれどもその途中、少し小さな葉へと足を伸ばした時、微かに淡い色だとユェーが忠告したが遅かった。
足を乗せたと同時、耐えきれずに沈む葉。
傾げる小さな身体に、流れるように滑る金の髪。ひらりと夕焼けの軌跡がユェーの瞳に焼き付く中、ルーシーの青い左目が驚きで見開かれる。
――危ない!
その想いにユェーは咄嗟に繋いでいた手を引き、彼女を引き上げるとそのまま抱き上げた。小さな身体の無事を確かめるように、じっとその顔を見れば。
「ありがとう、パパ」
じっと彼の月の瞳を見上げながら、お礼を述べる少女は無事な事がよく分かる。
ユェーは安堵の息を零して彼女の頭を撫でた。何よりも、誰よりも安心する温度に触れれば、ルーシーの驚きに逸っていた鼓動は段々と落ち着いてくる。
そのまま彼女は彼の腕の中、今さっき踏んだ葉のあった場所を振り返った。
「葉っぱ、折れて無いといいのだけど」
先ほど踏んだ子は沈んでしまい、その姿は見えない。自分の危険よりも植物に対して心優しい子の言葉に、ユェーはまた頭を撫でてやるときっと大丈夫だと零した。
「小さいのと大きいが一緒にくっついてる子達はどうでしょうか。まるで親子の様ですよ?」
「うん、あっちに行きましょうか!」
こっちならば大丈夫と、しっかりと色味を確認したユェーが導けば二人はまた手を繋いで、一緒に月の路を歩んでいく。
水気を帯びた風が二人を撫で、水音と共に耳に届く虫と梟の音色が心地良い。
湖の奥へ奥へと進んで行けば――広い世界に、ただ二人と夜空しか存在しない錯覚が。
「ねえパパ。私、お水の中にも入ってみたいな」
だから、だろうか。好奇心が抑えられなくて、ルーシーはユェーを見上げながら一つの可愛らしい我儘を零した。
一人ならば、夜の水中は怖い。
けれど今は、世界で一番頼もしいパパと一緒だ。だから怖くないと素直に紡げば、ユェーの口元は緩んでしまう。
心配ではあるけれど、確かに今は自分がいるのだ。
「おやおや、天使の我儘なら仕方ないですねぇ。しっかり捕まって下さいね」
「大丈夫よ、ぎゅってしているから」
小さな身体を抱き締めれば、彼女も離れないようにとしっかりくっついてくれる。互いの熱を感じながら目を合わせ、頷き合うと――そのまま水中へと落ちていく。
小さな飛沫が上がり、ぷくぷくと泡が上がっていく。
身体を包み込むのは水の冷たさ。日中の熱を微かに帯びた水中は冷たすぎず、けれども夏の空気に火照った身体を心地良く冷やしてくれる。
ぷくぷくと口元から泡を生み出しながら――瞳を開けてみれば、そこは煌めく泡達が。
(「此処にもあったね、星とお月様」)
(「こちらにも大きな月と寄り添う小さな星がありましたね」)
瞳に映る情景に、二人同じことを想う。
水の中で言葉には出来ずとも、目を合わせれば何となくそれを察して――嬉しくて互いの口元には小さな笑みが咲く。
ぷくぷく生まれる泡の中、そっと彼女の頭を撫でれば心地良さそうに瞳を細めた。
この景色を、この穏やかな時間を――ずっと一緒に。
その願いもまた、重なっただろう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
櫟・陽里
エリシャ(f03249)に手を差し出し
散歩しようと提案
ただ手を繋いで歩くだけで嬉しいし
地上を知ってそこそこ時間は経過したけど
ここまでの絶景なかなか拝めるもんじゃ無い
湖畔の神秘的な風景が
エリシャの清楚な美貌を引き立てて
尊…
なんて見惚れつつ
俺も良いとこ見せたいから先導を心掛ける
あの光る水面を歩いてみよう
ジャンプが必要なら手を引いてアシスト
先行して受け止めるとか、なんなら抱き上げて飛んだっていい
自信あるよ、ライダーであり続けるためにトレーニングしてるからさ!
エリシャの作ってくれる食事はいつだって最高だ!
何味かなー!なんて言いながら
俺もコーヒーの準備に入る
宇宙生活してた頃は料理なんてホント縁が無くてさ?
でもこのプレゼントのドリッパーをきっかけに自分で作る面白さに気づいたよ
練習してるんだけどマジで毎回味が違うんだ
待っててな、真剣にやるから!
粉の分量からお湯の温度からキリッと集中力で作業
抽出を見守りながらの会話の時間が心地良い
潜ってみたいと思ってた!
知らない世界に挑戦する時、隣にいてくれるなら幸せだ
エリシャ・パルティエル
陽里(f05640)と一緒に夜の散歩
空の月も綺麗だけど
湖に浮かぶ月も素敵ね
差し出された手に嬉しくなって手を伸ばして
世界にはまだあたしたちの知らない美しい景色があるのよ
陽里と一緒に見れて嬉しいわ
これ植物なのね
確かこの上を歩けるって…
ブーツを脱いで素足で月の上に
あら、陽里がエスコートしてくれるの?
まるで月の上をお散歩してるみたい
この距離、ジャンプできるかしら…
え、さすがにあたしを抱えて飛ぶのは…きゃっ!
頼もしい姿と距離感に頬を染めて
さすが陽里ね
散歩を楽しんだ後は
湖の畔で休憩を
サンドイッチとクッキーを作って来たの
コーヒーに合う自信作よ
宇宙食は機能性重視だものね
コーヒーが豆を挽いて作られてるって知った時びっくりしたんじゃない?
陽里の淹れてくれるコーヒーとっても楽しみにしてきたのよ
キャンプ用ケトルとバーナーでお湯を沸かして
ドリッパーがコーヒーを抽出する時間も
辺りの音に耳を澄ませてこの自然を満喫するわ
水の中も星が瞬いてるみたい…
ね、あとで潜ってみる?
水着持ってきたの
きっと素敵な景色が待っているはずよ
●
空から注ぎ込む光が水面に反射し、空に浮かぶ月が水面に映る。風が吹き水面が揺れれば、映る月はその姿を歪ませるが――歪まない月も、数多浮かんでいる。
「空の月も綺麗だけど、湖に浮かぶ月も素敵ね」
瞳に移る情景に溜息を零しながら、エリシャ・パルティエル(暁の星・f03249)はそう紡いだ。口元に咲く笑みは柔らかく、そんな彼女を見つめながら――。
「散歩しよう」
櫟・陽里(スターライダー ヒカリ・f05640)は彼女へと手を差し伸べながら零した。
彼の言葉に嬉しそうに頷きを返し、大きな手に自身の細い手を重ねる。日中の熱を孕む風が吹いても、繋いだ手の熱の心地良さは変わらない。
その熱を感じたまま、世界を見渡せばより強く心に響くから不思議なもの。
「地上を知ってそこそこ時間は経過したけど、ここまでの絶景なかなか拝めるもんじゃ無い」
宙の世界しか知らなかった彼も、猟兵として生きる中数多の世界を知り、数多の景色を見てきた。その経験の中でも、こんなにも幻想的な情景が生きている事が不思議で、自然と溜息が零れてしまう。
彼のその言葉が、行動が嬉しくて。エリシャは嬉しそうに瞳を細めた。――彼が、自分の世界を気に入ってくれたことが心から嬉しい。新たなこの世界の魅力を知ってくれたことが、嬉しい。
「世界にはまだあたしたちの知らない美しい景色があるのよ」
――陽里と一緒に見れて嬉しいわ。
ふわりと笑みを零しながらそう紡ぐエリシャ。夜風に揺れる金の髪。月明かりに煌めく金色の瞳。――神秘的な情景に佇む彼女があまりにも綺麗で、陽里は思わず息を呑んだ。
(「尊……」)
彼女に見惚れたからか、頬が熱を帯びるのが分かる。けれど彼は良いところを見せたいと云う想いから、優しく手を引きながら先導していく。
「これ植物なのね」
湖の近くへと辿り着けば、数多の月が湖面に浮かぶ。今にも月光と共に輝きそうだけれど、それは生きる葉である。よく見れば葉脈もしっかりあるようで、エリシャは覗き込んだ後、ブーツを脱ぎ素足でそうっと葉の上へと足を下した。
柔い感覚が足裏に伝わり、体重を預ければ葉が沈んでいく。一瞬の不安を感じたが、繋いだ手の先の陽里が強く握ってくれた。それはしっかりと支えると伝えるかのようで、安堵した彼女はそのまま体重を預ける。
葉は揺れ、少し沈むが一定のところで二人の身を支えてくれた。意外なことに安定感はあり、薄っすらと葉の表面を満たす水に足を浸ける感覚が心地良く感じる。
ほっと安堵の吐息を零すエリシャ。そのまま二人は月の上を歩んでいく。ちゃぷりと、水音を立てながら水気を含んだ風が肌を撫でる。
「まるで月の上をお散歩してるみたい。この距離、ジャンプできるかしら……」
並ぶ月の間隔が開いている。先へ行くには渡らないといけないが――合間に見える水中の闇に、エリシャの瞳には不安が滲む。
すると、陽里が彼女の手を引いた。
ふわりと浮く身体。彼の太い腕がエリシャの身体を支える。
「え、さすがにあたしを抱えて飛ぶのは……きゃっ!」
あまりに自然な流れに、エリシャは戸惑いつつも彼へとその身を預けたまま――陽里は軽々と飛んでみせ、離れた先の月葉へと着地した。
彼は衝撃に沈む葉の様子を見るように俯いたが、幾度か揺れながらもしっかりと二人を支えてくれるその葉に安堵し、腕の中のエリシャを見る。
「……さすが陽里ね」
頼もしさと距離感に頬を染めながら、ぽつりとエリシャは言葉を零した。夜風が吹けば、その声はしっかりと陽里の耳へと届き――彼はライダーであり続ける為に、トレーニングしてるからと自信に溢れた笑みを返した。
そのまま月の上を歩き、向こう側へと辿り着けば二人腰を下ろす。
「サンドイッチとクッキーを作って来たの。コーヒーに合う自信作よ」
「エリシャの作ってくれる食事はいつだって最高だ!」
バスケットから覗く色鮮やかなサンドイッチに、目を輝かせる陽里。どんな味かと、想像するだけでワクワクして、まるで少年のように嬉しそう。そんな彼の様子に、エリシャはつい小さな笑みを零してしまう。
「宇宙生活してた頃は料理なんてホント縁が無くてさ?」
「宇宙食は機能性重視だものね」
広い世界の中の狭い世界。限られた生活だったあの日とは違い、こんなにも広い世界で、数多の味を楽しむことが出来る。――愛しい人の手作りならば尚の事嬉しい。
だから、彼は料理のお礼にドリッパーを取り出し、コーヒーを用意する。
「でもこのプレゼントのドリッパーをきっかけに自分で作る面白さに気づいたよ。練習してるんだけどマジで毎回味が違うんだ」
挽き方や蒸らし加減だけでなく、水やその日の温度でも味わいは変わってくるだろう。何度試してもこれだという至高の一杯は難しく、奥が深いと実感する。
「コーヒーが豆を挽いて作られてるって知った時びっくりしたんじゃない?」
真剣な眼差しで粉の分量を量る彼を眺めながら、今までの彼を想い尋ねれば。彼は初めてコーヒーに触れたあの日を思い出しながら頷いた。
キャンプ用ケトルとバーナーでお湯を沸かす時間さえも、愛おしいと思えるのは――。
これもまた、宇宙を出たから知る事が出来た世界の広さ。
「陽里の淹れてくれるコーヒーとっても楽しみにしてきたのよ」
ぷくぷくと泡が上がる様を眺めながら、嬉しそうに微笑むエリシャ。そんな君に素晴らしい一杯を贈りたいと、陽里は尚強く想う。
コーヒーの抽出が始まれば、ふわりと広がるコーヒーの芳しい香り。
ゆっくり、ゆっくりと――美味しくなる未来を君と待つ時間が心地良いのは二人共。耳を澄ませば木々の揺れる音が、水面の音が、虫や梟の声が、心地良い。
闇に染まる水中へと視線を映せば、そこは天に輝く星に負けぬほど輝いていて、今にも吸い込まれてしまいそう。
「ね、あとで潜ってみる?」
きっと素敵な景色が待っているはずだと、エリシャが微笑めば陽里は嬉しそうに笑う。
「潜ってみたいと思ってた!」
だって――知らない世界に挑戦する時、隣にいてくれるなら幸せだ。
まずは、この一杯を頂こう。
こぽこぽとマグカップへとコーヒーが注がれる音が響けば、芳しい香りがより広がる。
夏夜の風に乗る湯気へと視線を送った後――二人は乾杯と、カップを合わせた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『『花鳥風月』月の魔女』
|
POW : 花鳥風月・万物引力
レベル分の1秒で【重力操作で、Lv×1㎞の彼方まで敵自身】を発射できる。
SPD : 静かな月海
非戦闘行為に没頭している間、自身の【周囲に影響は無いが、自身】が【戦闘行為に没頭している間、光が身体を包み】、外部からの攻撃を遮断し、生命維持も不要になる。
WIZ : クォーク・スターシューター
レベル×5本の【軌道上の周囲に重力異常の影響を与える、星】属性の【、影響下の物体を粉々に粉砕する、小さな星】を放つ。
イラスト:香
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「アララギ・イチイ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●月に魅入られた魔女
煌々と世界を照らす満月はそのままに。
その光に影が生まれたかと思えば、夜空に満ちたこの地へと一人の魔女がやってくる。
慣れた様子で箒を操り、ふわりと優雅に水辺へと降り立つ彼女こそが月の魔女。
艶やかな黒髪。陶器のような真白の肌。闇に溶け込む程の黒衣だが、所々あしらわれた金色の細工がキラリと煌めき、その存在を主張する。
『……ここにも、月があるわ』
空に輝く月を、湖面に並ぶ月を、順に眺め彼女は吐息を零した。
月に魅入られ、月を研究する偉大なる魔女。
その研究は人では想像出来ないほど、長い時なのかもしれない。
人生の全てを掛けても尚、月への探求心は尽きないから不思議なもの。
それ程までに――何故、月に惹かれるのだろう。
この想いは自分だけなのだろうか。
何故、こんなにも視線を奪うのだろうか。
数多の疑問が満ちる中、彼女はただ静かに月を眺めている。
――この時間を、邪魔する者には容赦しないと語るように、その姿に隙は無かった。
霑国・永一
メノン(f12134)と
やぁこんばんは月の魔女。実にお月見日和だねぇ
多くの人にとって手が届かない。だからこそ美しいままの月に魅了されるのは皆同じかもねぇ
竹取物語でも月の人であるかぐや姫を皆が求めたけど届かなかったし
とはいえ身近で月を楽しめる文化は人の間でもしっかり根付いてるものだよ
俺としてはお月見泥棒ってイベントが好みかな?
ああ、勿論用意する側なら皆を惹き付けるお菓子を沢山置くさぁ!
メノンも何かあるかい?
お月見泥棒っていうのはこのような月夜に合法的に盗める素敵なイベントさぁ!
(盗むのは本来お菓子だけど。隙を見て狂気の平和で相手の攻撃遮断能力は潰しておこう)
(メノンに視線を返し)任せたよ女神様?
メノン・メルヴォルド
永一さん(f01542)と
ふふ、お月見泥棒?
こっそり盗むために、永一さんもお菓子を用意してくれるの?
それは期待しちゃうのよ
ん、ワタシもアナタにとても興味があったの
月の魔女
何かに魅入られ探求する…きっとワタシ達の根本は似ているかもしれない
魔法を扱う者にとって
月にまつわるお話は、知っている、かしら?
月光と精霊のチカラを借りて魔女の王となった女神のお話
語りながら手にしたロッドへ『チカラ』を注ぐ
アナタには見える、かしら?
だから満月の夜は精霊達も騒がしいのよ
チラッと永一さんを見てから魔女へ向けて彗星を放つ
戦闘後
もう、永一さんったら…突然あんなことを言うから、手元が狂っちゃうかと思ったの(ぽふぽふ腕を叩く
●
「やぁこんばんは月の魔女。実にお月見日和だねぇ」
油断無く立つ美しいヒトへと、一歩近付きながら霑国・永一は紡ぐ。
言葉と動作に、魔女はちらりと一瞬永一をその金色の瞳で捉えたが、直ぐに視線は天と水辺の月へと戻っていく。そんな、こちらに興味が無さそうな彼女の姿は想定内。
そう、月は多くの人にとって手が届かない。だからこそ美しいままの月に魅了されるのは、皆同じかもしれない。
古の伝承である月の人である姫を、皆が求めたけれど届かなかったように――。
けれども、憧れだけで無く。身近で月を楽しめる文化は、人の間でも根付いている。
「俺としてはお月見泥棒ってイベントが好みかな?」
「ふふ、お月見泥棒? こっそり盗むために、永一さんもお菓子を用意してくれるの?」
何時ものように飄々とした様子で語る永一のその言葉に、メノン・メルヴォルドは面白そうだとくすくすと笑い声を零した。
「ああ、勿論用意する側なら皆を惹き付けるお菓子を沢山置くさぁ!」
その声に永一は振り返ると、メノンに向け笑みと共にそう続けた。その言葉に「期待しちゃうのよ」と紡ぐ無邪気な彼女へと、何かあるかい? と永一が問い掛ければメノンは瞳を一つ瞬き、永一から視線を魔女へと移し唇を開く。
「ん、ワタシもアナタにとても興味があったの」
声を掛けても、視線を向けてもこちらに興味を持ってくれない月の魔女。そう、彼女が興味を持つのは月にのみ。月の話に耳を傾けても、語る者はどうでも良いと瞳が語る。
何かに魅入られ探求する……きっとメノン達の根本は似ているかもしれない。
それは、魔法を扱う者としての根本が。
「月にまつわるお話は、知っている、かしら? 月光と精霊のチカラを借りて魔女の王となった女神のお話」
『……いえ。新しい、月の伝承ね』
メノンの問い掛けに初めてこちらへ言葉を返す魔女。首を振り、杖を握りながらもこちらの続きの言葉を待っている。
メノンは続きを語ろうかと――精霊の宿る杖へと、『チカラ』を注ぎながら唇を開こうとするが、割って入るように腕を伸ばしながら、永一が言葉を零す。
「お月見泥棒っていうのはこのような月夜に合法的に盗める素敵なイベントさぁ!」
先ほどの彼のお話の続きを語りながらも、その腕から放たれた衝撃は魔女の強大な力を遮断する。――本来ならばお菓子を盗むイベントだけれど、今日は特別だ。
しかし彼の技はただ阻害するだけ。傷は無く、ただ立ちつくす美しき彼女の事は――。
「任せたよ女神様?」
振り返り、彼の眼鏡の奥の瞳はメノンの緑色の瞳と交わる。
「アナタには見える、かしら? だから満月の夜は精霊達も騒がしいのよ」
その笑みと言葉に、メノンはとくんと大きく鼓動が強く跳ねるのを感じながら――溜めた力を解き放つように、神殺しの彗星を放った。
暫し後、魔女を確かに倒し骸の海へと送った後。
「もう、永一さんったら……突然あんなことを言うから、手元が狂っちゃうかと思ったの」
メノンは戦闘中の永一の言葉について、ぽふぽふと軽く握った拳で彼の腕を叩きながら頬を膨らませてみせた。
そんな彼女の様子に永一は何時ものようにただ笑っている。
跳ねた鼓動は少し落ち着いたけれど、思い出せばまた頬が熱くなる気がした。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
エリシャ・パルティエル
陽里(f05640)と魔女に語り掛けるわ
月の魅力に惹かれてしまう気持ちはわかるわ
猟兵になって色々な世界に行ったけれど
月の美しさは変わらない…ううん、世界ごとに魅力が違うのよね
そうね、月は地球の傍に
こうして見上げるものだと思ってたけど…
陽里は宇宙船から眺めるものだったの?
あたしは宇宙からの月の景色も好きよ
こんな風景が見られるなんて思わなかったもの
月の思い出と言えば
カクリヨの割れた月かしら
あの世界には一年中真夜中で満月のすすき野があるのよ
戦争の時にお月様が割れてね…
そこから恐るべき超巨大なカタストロフの幼生が生まれようとしてたのよ
研究を邪魔する気はないけれど…
最終的には骸の海に還ってもらわないとね
櫟・陽里
念のためエリシャ(f03249)を守れるような立ち位置で
月って衛星だろ、決まった軌道をなぞる必ず帰ってくる星だ
宇宙の貨物船界隈では無事帰るって願掛けしたりするよ
でも宇宙船から観るのは近すぎかな
冷たくてザラっとした印象
その生物が拒まれるような絶対的な雰囲気も魅力の一面ではあるけど
今日のこの距離で観た方が断然良い
適正な距離、異文化を分かり合う会話
俺の月知識は今日最高値を更新した!
割れるとか何か生まれるとかあの世界らしいよな
月で兎が料理してる世界線の彼方に辿り着けそうだ!
異世界では月が辿る道すら1つじゃないってのが最高の気付き
過去は過去に戻るべきって主義だから戦う
骸の海に最新情報を持ち帰れるといいな
●
月の魅力――それに惹かれてしまう気持ちは分かると、エリシャ・パルティエルは素直に想う。彼女は猟兵になり、様々な世界を渡った。此処、魔法と竜の世界に浮かぶ見慣れた月も勿論美しいが。
「月の美しさは変わらない……ううん、世界ごとに魅力が違うのよね」
今まで渡った数多の世界に浮かんでいた月の美しさを思い出すように、瞳を瞼で隠しながら彼女は零す。毎夜傍で照らすけれど、決して届かないその神秘性に惹かれる。
「月って衛星だろ、決まった軌道をなぞる必ず帰ってくる星だ」
けれど櫟・陽里の感想は、少し違っていた。
それは彼が常に宇宙から、数多の星々を見ていたからの視点。生まれる世界が変われば、同じモノの見え方も捉え方も変わる。それが猟兵ならではの交流である。
「そうね、月は地球の傍に。こうして見上げるものだと思ってたけど……陽里は宇宙船から眺めるものだったの?」
彼の言葉にエリシャは口元に手を当て、改め気付いたように瞳を瞬いた後問い掛ける。どの世界よりもきっと月に近しい彼は、一体どうしていたのかが気になったから。
「宇宙の貨物船界隈では無事帰るって願掛けしたりするよ」
守るような位置取りのまま、彼女を振り返りその眼差しをしっかりと見返しながら、あの日を思い出しながら陽里は紡いだ。でも、宇宙船から観るのは近すぎかな。冷たくてザラっとした印象。そんな感想が生まれるのも、彼の見てきた視点だからなのだろうか。
「その生物が拒まれるような絶対的な雰囲気も魅力の一面ではあるけど、今日のこの距離で観た方が断然良い」
適正な距離、異文化を分かり合う会話。俺の月知識は今日最高値を更新した!
決して届かない月へと手を伸ばしながら、陽里は語る。
見えなかったからこそ、惹かれるものもあるのだろうか。彼の言葉にエリシャは今の景色と、かつて見た星の海から見た景色を重ねると。
「あたしは宇宙からの月の景色も好きよ」
――こんな風景が見られるなんて思わなかったもの。
あの夢とも思える不思議な景色を想い、一つ零す。
そのままはたと、思い出し瞳を瞬いた。
「月の思い出と言えば、カクリヨの割れた月かしら」
月から連想したのは幽世の世界。いつだって大きな月が浮かぶ不思議な不思議な、追憶の集う世界。一年中真夜中で、満月に輝くすすき野の景色はきっと魔女も気に入る筈。
「戦争の時にお月様が割れてね……」
「割れるとか何か生まれるとかあの世界らしいよな」
もう随分と遠い過去の記憶を言葉にすれば、陽里も頷きながら言葉を続ける。
「月で兎が料理してる世界線の彼方に辿り着けそうだ!」
異世界では月が辿る道すら1つじゃないってのが最高の気付き。それが宇宙から、宇宙船から出た彼の辿り着いた感想だった。
恐るべき存在が生まれようとした――詳しい事はきっと猟兵では無い魔女には分からないことだけれど、月から不思議な存在が生まれるという事には強い興味を持った様子。
『……そう、アナタ方は私の知らない月を知っているのね』
どこか愛おしそうに紡ぐ魔女。けれども杖をずっと握りしめている様子から、敵意は残っていることが分かる。だからエリシャも、陽里も、見逃すことは出来ないのだ。
「研究を邪魔する気はないけれど……」
「骸の海に最新情報を持ち帰れるといいな」
月に魅入られる気持ちは分かるけれども、これが猟兵としての使命だから。
彼等の裁きの光条と射撃が、確かに彼女の身体を打ち抜いた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
御簾森・藍夜
【朱雨】
何故、か…あー、うーん…何故と問われると…何故だろうな?
(心音の声にハッと
あぁいや、すまん
改めて問われれば、月光の魔女となった今では分からん
…きっとアンタも俺も、手の届かないものが欲しかったのさUC
さて、月語りを始めよう。幕引きまで、この夜は終わらないさ
一般的—…とは言わないが、月における魔力的な力は満ち潮と引き潮に関連しており引力の関係から人の体から心を引き出し月へ近付けるなんて迷信の一説がある
まぁ、俺は夜彩の狐に抜かれたがな
だがネイティブアメリカンが気付いたように色の移ろいを以って人の心へ視覚から訴えかける唯一の光たる満月は、強いだろう
ましてこうして夜ともなれば、視覚へ情報を伝えるための光は月光か星光か―…原初の人間の選択肢とは限られていただろう
古来から月に洗脳されていたのかもな、俺もアンタも
俺はアンタのようにたまたま幸運にもギリギリ一閃は越えなかった。月光を手に入れ、そして—俺だけの夜は手中にいる(心音を抱きしめ
この夜が美しいうちに
どうか、アンタの手に入れた月の一つの結論を
楊・暁
【朱雨】
月の魔女…
藍夜が本物であっちが偽物――なんて言う気は更々ねぇ
ただ、同じもんに強ぇ興味を持つ敵対同士が対峙する状況は
そわそわするけど、どんな話が出るのか少し期待感もある
お前、月の話、興味あるんだろ?
なら、うってつけの奴がいるぞ。――なぁ?藍夜
同じく月に惹かれる者として、ひとつ話してやったらどうだ?
へぇ、心を引き出――馬鹿…!
途中でさりげなく挟まれた惚気に、淡く照れながら小さく睨み
想い出話が来るかと思いきや、思いっきり学術的な話で
こういうところは真面目なんだよな、なんて内心思いつつ
抱きしめられたら照れよりも愛おしさが勝って抱擁を受け入れて
それを言ったら、俺の“月”はお前だろ?
どんなに昏い夜でも俺を|照らし《安らげ》てくれる、俺だけの月
俺達、月の綺麗な秋の夜に初めて出逢ったんだ
…お互い、ほんの数時間の会話ですぐに惹かれ合ったのも
月のお陰かもしれねぇな
そうだな。お前の話も聞いてみてぇ
…決着つけるのは、それからでも遅くはねぇだろ
穏便に終わるのなら俺からは何もしねぇが
必要ならUCと愛刀で戦闘
●
――何故、月に惹かれるのだろう。
(「何故、か……あー、うーん……何故と問われると……何故だろうな?」)
彼女の一人問うた言葉に、御簾森・藍夜は少し困ったように首を僅かに傾げてみせる。
「お前、月の話、興味あるんだろ? なら、うってつけの奴がいるぞ」
――なぁ? 藍夜。
傍らの彼に名を呼ばれれば、藍夜ははっとし意識を現実へと戻す。
視線を下へと落とせば、楊・暁と目が合う。その鮮やかな花のような瞳はどこか好奇心に満ちている気がして、藍夜は少し不思議そうに瞳を瞬く。
――月の魔女。それは暁にとっても耳に馴染む名である。
彼が本物で、目の前の彼女は偽物。――そんな事を言う気は無い。けれども、同じものに強い興味を持つ者同士が敵対している事は確かだ。それならば、どんな話が出るのかと期待に瞳を輝かせてしまうのは仕方が無いのかもしれない。
「同じく月に惹かれる者として、ひとつ話してやったらどうだ?」
彼が何かを考えていた事を察した暁は、改めて彼へとそう言葉を掛けた。目の前の彼女はじっとこちらを見て、藍夜が唇を開くのを待っている。
こちらを見上げる暁を見て、じっと待つ彼女を見て。藍夜は考えるように瞳を細め、口元に手を当てる。
――改めて問われれば、月光の魔女となった今では分からん。
「……きっとアンタも俺も、手の届かないものが欲しかったのさ」
小さく笑った後。彼が呪文を唱えれば、世界が変わる。
そこは万斛の月来香花開く、満月昇る明けない夜。
同じ夜なのに、違う夜の世界。同じ満月なのに、永久に消えぬ満月の世界。初めて触れる月の世界に、魔女は杖を構えつつも研究対象としての好奇心を隠せぬ様子。大きな帽子のツバから金色の瞳を覗かせ、世界を見渡した。
「さて、月語りを始めよう。幕引きまで、この夜は終わらないさ」
にやりと、どこか得意げに藍夜は笑う。
彼だって、空に月に。幾度も挫折しかけながらも研究を重ねたのだ。きっと、月への好奇心は誰よりも目の前の彼女と同じ筈。
一般的――……とは言わないが、月における魔力的な力は満ち潮と引き潮に関連しており、引力の関係から人の体から心を引き出し月へ近付けるなんて迷信の一説がある。
「まぁ、俺は夜彩の狐に抜かれたがな」
「へぇ、心を引き出――馬鹿……!」
大きな耳をぴくりと動かしながら、興味深げに聞いていた暁だが。突然藍夜から零れた言葉に、顔を淡く染めながらその腕を軽く叩きじろりとにらむ。
その軽い衝撃も、真っ直ぐに向けられた眼差しにもどこか満足そうに笑う藍夜に、暁は尚もにらみつつも、少し予想外の話に驚き尾を揺らしていた。
月に関わる彼の昔話が聞けるかと思ったのだが、予想外にも学術的な話で。
(「こういうところは真面目なんだよな」)
少し残念な気もするけれど、彼らしい一面でもあり彼の姿から目が離せない。
じっと藍夜に注がれる、ピンクの瞳と金の瞳。
彼は一つ笑みを零すと唇を開き、尚も言葉を零していく。
ネイティブアメリカンが気付いたように、色の移ろいを以って人の心へ視覚から訴えかける唯一の光たる満月は、強いだろう。ましてこうして夜ともなれば、視覚へ情報を伝えるための光は月光か星光か――……原初の人間の選択肢とは限られていたことだろう。
「古来から月に洗脳されていたのかもな、俺もアンタも」
淡々と語りながら、じっと目の前の彼女を見て藍夜は笑う。
生まれたその時から浮かび、世界を見下ろす月に惹かれたのはもう初めからなのかもしれない。けれども藍夜は、魔女のように一線を越えることは無かった。それはたまたまの幸運で、本当にギリギリのところだった。
だって彼は、月光を手に入れて――。
「そして――俺だけの夜は手中にいる」
じっと彼を見上げながら静かに言葉に耳を傾けていた暁へと大きな腕を伸ばすと、その身を抱き寄せた。夜に熱が奪われていく肌は微かに冷えていて、触れ合えばじわりと温もりが伝わっていく。
不意に訪れたその温もりに、暁は少し驚いたように瞳を見開いた。けれどもその温もりと彼の言葉に、照れよりも愛おしさが勝り暁は素直に受け入れる。
藍夜にとって夜が自分ならば――。
「それを言ったら、俺の『月』はお前だろ?」
そう、零す。
どんなに昏い夜でも、藍夜を照らし安らぎをくれる暁だけの月。
「俺達、月の綺麗な秋の夜に初めて出逢ったんだ」
あの日の事は、今も鮮明に思い出せる。
ほんの数時間の会話で、お互い惹かれ合ったのだが――それもまた、月のお陰かもしれないと、今ならば想う。だから暁にとっても、月は大切な存在だ。
月と云う存在を学術的に分解し、理解することもその奥に眠る神秘に触れるようで美しい。その幻想的で神秘的な存在と共に残る、思い出もまた美しい。
それならば――彼女は?
「この夜が美しいうちに。どうか、アンタの手に入れた月の一つの結論を」
「そうだな。お前の話も聞いてみてぇ。……決着つけるのは、それからでも遅くはねぇだろ」
互いが月への想いを語り、区切りをつけるように深く呼吸を零した後。男二人は次は彼女の月への想いをじっと待つ。
自身に向けられるピンクと黒の瞳。月のような金色の瞳でしっかりと見返した後、彼女は少し俯くと、己の心と向き合うかのように瞳を瞼で隠した。
『そうね……月のエネルギーを御話ししましょうか。この世界では――……』
彼女の唇から零れるのは、魔女が長年の研究で得た知識の欠片。
それは竜と魔法の世界ならではの魔術的な御話で、藍夜の語る月とも違う力を含む。
だから、だろうか。
その魔女の言葉の続きをもっと聞きたいと思ってしまうのは。
あと少し、少しだけ――この常夜の世界は、終わらない。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ルーシー・ブルーベル
【月光】
ごきげんよう、佳い夜ね。魔女さん
あなたも月がお好きなのね
ルーシーもね、お月様が大好きなの
ルーシーの居る所は常夜の世界で、お月様が居るのは当たり前なの
辛い時も、嬉しい時も、
死んでしまいたい程哀しい時も
ずうっと空から見守ってくれているでしょう?
見ていると、とても心が落ち着くわ
……ただ
見ているだけじゃないのって思っていた事もあるの
触れられないし、
触れてもくれないって
でも今は、温かいお月様が一緒よ
パパの瞳を見て?とても綺麗なお月様色でしょう?
ゆぇパパがパパになって下さって、気づいた事があるの
ルーシーはお月様を親代わりの様に思っていたのだって
せめて自分をずっと見守ってくれるヒトが居ると思いたかったのね
嘗ての親代わりで、今は父親を想起させてくれるモノ
だからルーシーはお月様、大好きなのよ
パパのお月様の話
その理由を知っているから苦しくなる
けど、以前の事とはいえ
好きではないと、パパが自分のお気持ちを言えていることに安心した
好きを好きと言える事にも
ええ、ゆぇパパを、『月』を愛しているわ
私のお月さま
朧・ユェー
【月光】
月の魔女
月に興味を持ち、月に心惹かれる魔女さんですか
月、月はそうですね
正直昔は好きではありませんでした。
真っ赤に染まる月を知っていますか?
見た目は美しいですが、僕にとっては哀しい月
真っ赤な色は血に染まった色
あの日、僕が血に染めた人達の色
あの色を見ると僕が僕ではなくなる
血が欲しくなり、暴走しそうになる
そんな月が怖くて見たくは無かった
『ユェー』は月の名前
その名も好きにはなれなかった
でも、あの館で皆さんで出逢い
僕を迎えてくれた
どんな僕、月でも大丈夫だと言ってくれる
そしてルーシーちゃん、娘と出逢った
彼女は今の様にこの瞳を綺麗だと言ってくれた
月は僕みたいだと
その月が大好きだと言ってくれた
父親の様に月が見守ってくれていると
『ユェー』を愛していると
見上げる月が恐怖の対象から好意へと変わった
嗚呼、こんなにも月を愛してくれる子がいてくれるかと
だから今は月を好きだ
彼女は月に寄り添う小さな星
星を見守り護る月が僕
だから月『ユェー』を今は愛している
天使の娘が一番愛してくれるから
僕も愛しているよ
僕のお星様
●
月の光の中、キラリと月と星の装飾が煌めく。
(「月の魔女。月に興味を持ち、月に心惹かれる魔女さんですか」)
夜の闇の中、数多の夜空の飾りを抱く細身の女性を瞳に映しながら、朧・ユェーが瞳を細めれば。隣に立っていた少女が、一歩前へと進み出る。
「ごきげんよう、佳い夜ね。魔女さん」
穏やかな笑みを浮かべ、ルーシー・ブルーベルは挨拶の後丁寧なお辞儀をした。それは友好的な合図。だって――彼女もルーシーも、月が好きな者同士だから。
一つ、呼吸をして。
ルーシーは蕾を開くように唇を開き、言の葉を零す。
「ルーシーの居る所は常夜の世界で、お月様が居るのは当たり前なの」
彼女の生まれは常夜の世界。この世界のオブリビオンである魔女には細かな事は分からないかもしれないが、だからこそ少女は自身が見た景色がどんなものだったかを、精一杯伝えようと胸元で手を握りながら言葉を零していく。
辛い時も、嬉しい時も、――そして、死んでしまいたい程哀しい時も。
ずっと空から見守ってくれている。そんな月は、見ているととても心が落ち着いた。
「……ただ、見ているだけじゃないのって思っていた事もあるの」
視線を落とし、きゅっと握っていた手に力を込め少女は言葉に影を落とす。
何時だって見守ってくれる月は優しいけれど、触れられないし、触れてもくれない。
どこまで遠く遠く、そこに居る存在だったけれど――。
「でも今は、温かいお月様が一緒よ」
顔を上げ、にっこりと笑顔を零すと彼女はユェーの白いパーカーの裾を握った。ユェーは一つ瞳を瞬いた後、それが合図かのように一歩前へと出てルーシーに並ぶ。そんな彼にまた笑みを零すと、彼女は父を見上げながら唇を開いた。
「パパの瞳を見て? とても綺麗なお月様色でしょう?」
眼鏡の奥に光る瞳には、確かに輝く優しい金色。
それは魔女と同じ金色だけれど、そこに滲む優しさはずっとずっと温かくて。何時だってルーシーを優しく見守って、支えてくれる愛おしい色。
「ゆぇパパがパパになって下さって、気づいた事があるの。ルーシーはお月様を親代わりの様に思っていたのだって」
何時だって見守ってくれたお月様に、触れたいと、触れて欲しいと思ったその感情にも納得がいった。――だって、それは幼い彼女が得ることは出来なかったモノだから。
だから、せめて自分をずっと見守ってくれるヒト居ると思いたかったのだ。それは今よりもずっとずっと幼かった彼女の、願望から生まれた感情であろう。
ルーシーにとって、月はかつての親代わりで、今は父親を想起させてくれるモノ。
「だからルーシーはお月様、大好きなのよ」
愛おしそうに瞳を細め、心からの言葉を零すルーシー。
空に浮かぶ満月を見て、ユェーの瞳を見て。少女は「ふふ」と小さく笑った。
するりと白い裾から、彼女の小さな手が離れるとユェーは手を取り繋ぎ合う。小さな彼女が好きだと言ってくれた。その事が嬉しくて、胸が温かくなる。
月――それはユェーにとっても、深い深い複雑な過去が宿るモノ。
「……月、月はそうですね。正直昔は好きではありませんでした」
ふう、っと深い吐息の後、彼は己の心を零しだす。
真っ赤に染まる月を知っていますか?
彼の問い掛けに、魔女は『ブラッドムーンかしら?』と己の知識を紐解いていく。その言葉にどこか哀し気な笑みを零し、曖昧な表情のまま彼は言葉を紡いでいく。
赤い月――見た目は美しいが、彼にとっては哀しい月である。
真っ赤な色は血に染まった色。
あの日、僕が地に染めた人達の色。
――まだ、覚えている。
あの空気も。あの匂いも。あの温度も。
あの色を見ると、ユェーがユェーでは無くなるようで。血が欲しくなり、暴走しそうになるのだ。そんな月が怖くて、見たくは無いと思っていた。
『ユェー』……彼に刻まれたこの名もまた、月の名前。それも重なり、あの日の彼は月が好きでは無かった。
「でも、あの館で皆さんで出逢い。僕を迎えてくれた。どんな僕、月でも大丈夫だと言ってくれる。そしてルーシーちゃん、娘と出逢った。彼女は今の様にこの瞳を綺麗だと言ってくれた」
閉ざされた常夜の世界から出て、数多の人との出逢いがあった。温かな親を知らぬ二人が出逢い、親子として絆を紡ぎ互いの存在を大切に想った。
彼女は、月はユェーみたいだと。その月が大好きだと今も言ってくれた。
父親のように月が見守ってくれていると。『ユェー』を愛していると。
それがどんなに嬉しくて、心が震えただろう。
彼女の言葉から、見上げる月が恐怖の対象から好意へと変わった。
――嗚呼、こんなにも月を愛してくれる子がいてくれるかと。
「だから今は月を好きだ」
穏やかな笑みで確かに紡いだ彼のその表情に、ルーシーは安心したように笑顔を零す。
彼の唇から零れる彼の過去は、ルーシーも知っている。その理由も、彼の心も語ってくれたからこそ。改めて紡がれるその言葉たちに胸が苦しくなったけれど――好きでは無いと。そして、好きを好きと言えることも。彼が、自身の気持ちを言葉に出来ていることに安心して、つい繋いだ手をきゅっと強めてしまった。
(「よかった……」)
あの日のパパから、前へと進めているのだろう。
「ええ、ゆぇパパを、『月』を愛しているわ。私のお月さま」
美しく煌めく優しい月は、何時だってルーシーを見守ってくれる。優しさも、温もりも、安心も。幼い彼女が望んでいた全てをくれた優しいお月さまへと潤んだ瞳でルーシーがそう紡げば、ユェーは愛おしそうに瞳を細めた。
彼女は月に寄り添う小さな星。
星を見守り護る月が僕。
だから月『ユェー』を今は愛している。
「天使の娘が一番愛してくれるから。僕も愛しているよ」
――僕のお星様。
互いの顔が見えやすいようにと、膝をつき娘の顔を覗き込みながらユェーは語る。
月を愛せる――そう零せる事もまた、二人にとっては『今』の証。
世界を照らす優しいお月様は、今日も二人に寄り添うのだ。
彼等の深い愛の御話に、魔女はどこか満足そうに微笑んで――その隙に注ぐ誰かの力で、月と共に居られる世界へと旅立つのだろう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵