●狂える吸血鬼の遊戯
「戦争が終わって日が浅いけど、今度は僕達の世界で事件が発生したみたいだね。今回の事件も、過去の戦争を模したものらしいんだけど……」
残念ながら、自分はまだその頃は銀誓館学園にいなかったので、詳しい話はあまり知らない。それでも一大事には違いないと、穂村・耶子(甘党残念剣士・f35497)は猟兵達に事件の詳細を語り始めた。
「僕達、シルバーレインの世界を故郷に持つ人じゃなくても、『影の城』っていう名前は聞いたことあるんじゃないかな? 僕達の世界では、原初の吸血鬼『伯爵』が使っていたものなんだけど……それが何故かオブリビオンになって復活した挙句、都市を丸ごと覆ってしまったんだ」
なお、本物の伯爵本人は、今現在も中国大陸奥地の伯爵領域で待機している。だが、今回の事件には一切の関与をしておらず、この影の城を支配しているのも伯爵とは関係のないオブリビオンである。
「まあ、そうはいっても、やっぱり吸血鬼の城だからね。中にいるオブリビオンも、全員が吸血鬼だよ」
そんな彼らの目的は、都市の内部にいる人々の抹殺。都市の内部はオブリビオン達が一般人を殺戮することで、強大な存在に進化するためのデスゲームが繰り広げられている。しかも中に囚われた人々は、幻覚によって都市が危険な城に覆われていることは勿論のこと、そもそもデスゲームの存在さえ知らないのである。
「影の城に覆われた街の中は、遊園地のお化け屋敷みたいな感じになっているんだ。中に閉じこめられた人達は、全員が遊園地でお化け屋敷を訪れているっていう催眠術をかけられて、何の疑いもなく楽しんでいるみたいだね」
しかし、残念ながら登場するお化けは全て本物! 狂気によって暴力衝動に支配された従属種のヴァンパイアであり、彼らはお化けに紛れて人々を襲って殺すことで自らの糧とし、どんどん力を高めて行く。
この状況をどうにかするには、影の城に君臨する主を倒す他にない。だが、そのまま戦えば人々も巻き込んでしまうため、お化け屋敷を楽しむふりをしながら、なんとかして危険から遠ざけなければならない。
「閉じこめられている人達が殺されると、それだけで城の中にいるオブリビオンの力も強化されちゃうからね。なんとか避難させるか隔離させるかしないとだけど……影の城の力は物凄く強力だから、催眠術の上書きも難しいんだよね……」
場合によっては、強制的に隔離するのも仕方がないだろうと耶子は続けた。その上で、デスゲームを続ける従属種ヴァンパイア達を退治すれば、影の城の主も姿を現すはずだろうと。
「今回、影の城の主に君臨しているのは、アニーっていう従属種ヴァンパイアだよ。ヨーロッパで起きた人狼戦線の際に、パートナーの貴種ヴァンパイアと一緒に死んでしまったらしいんだけど……彼女だけが、オブリビオンとして復活したみたいなんだ」
なお、アニーは死に際に心が壊れた状態で蘇っており、亡きパートナーの幻影に語りかけるようになっている。その目的はパートナーの復活であり、同時に銀誓館学園への憎しみが最大の原動力にもなっているのだとか。
「従属種ヴァンパイアだけど、今のアニーは貴種を超えて、原初の吸血鬼に匹敵する力を手にしているみたいだね。心が壊れているから碌な会話もできないだろうし、下手に同情心を抱くと却って危険なことになるかもしれないよ」
それだけアニーの恨みは深く、狂った心はあらゆる癒しを拒絶している。彼女にとっての安らぎはパートナーの復活以外に存在せず、それ以外のあらゆる事象に対して怒りと憎しみをぶつけてくる。
色々な意味で危険な相手なので、戦う際は注意して欲しい。そう言って、耶子は猟兵達を、影の城に覆われた都市へと転送した。
雷紋寺音弥
こんにちは、マスターの雷紋寺音弥です。
影の城がオブリビオンとして復活したことで、都市一つを覆い新たな惨劇が起きようとしています。
場内を跋扈するヴァンパイア達の危険なデスゲームを阻止し、城主を倒すことで都市を解放してください。
●第一章(日常)
廃墟系お化け屋敷の探索になりますが、真の目的は一般人の避難や隔離です。
彼らが死ぬと🔴が増え、その分だけ二章以降の敵も強化されてしまいます。
●第二章(集団戦)
『狂気の従属種ヴァンパイア達』との戦闘になります。
力任せに襲い掛かって来るだけですが、先の章で一般人が死亡していると、その分だけ強くなっています。
●第三章(ボス戦)
『従属種ヴァンパイアだった者『アニー』』との戦いになります。
彼女の心は完全に壊れており、もはや元に戻すことはできません。
第1章 日常
『肝試しをしよう』
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POW : 度胸で恐怖を跳ね除ける、大声や迫力で驚かす
SPD : 脅かされそうなポイントを予測する、小道具を使って驚かす
WIZ : オカルト知識で恐怖に勝つ、凝った演技で驚かす
イラスト:十姉妹
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
儀水・芽亜
あの『伯爵』が絡んでいないのは幸いですが、オブリビオン影の城も結構厄介な。
では、影の城の中から人々を救出していきましょうか。
ぼろぼろの黒ローブを持ってナイトメアに「騎乗」。手にアリスランスを持ち骸骨の仮面を着けて、死神の「演技」で「関係者を装う」ようにします。声もボイスチェンジャーで、女性と分からないようにしましょう。
皆さん、次のイベントは大通りです。順路通りに進んでください。死神の言うことを聞かないと、怖いですよ。
万一ヴァンパイアの襲撃があれば、一気に「騎乗突撃」して追い散らし「蹂躙」しましょう。
深追いはしません。市民の安全が第一。今は追い払うだけに留めます。
市民の避難は大丈夫でしょうか?
御鏡・幸四郎
影の城までオブリビオンとして動き出す以上、
いずれは最悪を想定しないといけないかもしれませんね……
(見上げた空に浮かぶ三日月)
何はともあれまずは一般人の避難です。
「それではお願いします」
現れるのはコミカルなお化け姿の雑霊たち。
ここでなら一般人と接触しても問題はないでしょう。
雑霊小隊を三部隊に分けます。
・一般人を脅かして(楽しませて)避難経路へ誘う部隊。
・一般人を吸血鬼から遠ざけるため敵の動向を探る偵察隊。
・避難ルートの障害物撤去、案内板を設置する工作部隊。
自分は一般人に紛れお化けに追われるサクラを演じます。
「随分とカワイイお化けですね。さて逃げましょうか」
「案内板です。出口はこちらのようですよ」
暗都・魎夜
【心情】
伯爵戦争の再現ね
これでも『伯爵』本人が暴れまわるよりは、マシな話だな
【行動】
「かばう」が得意なモーラットを召喚
「索敵」「偵察」で様子を探りながら、「闇に紛れる」で急いで中にいる人を探すぜ
もしお化け……従属種のヴァンパイアと戦闘になるようなら、「グラップル」で撃退だ
人を見つけたら、モーラットを付けて、出口まで案内させるぜ
モーラットが誘導すれば出口を目指してくれるだろう
何かあればキチンと庇えるしな
それを繰り返して、閉じ込められている人を脱出させる
原初の吸血鬼を作るための儀式、『ゲーム』も似たようなやり方だったな
けったくそ悪い
こんなことで、犠牲になるやつは出させてたまるかよ
●恐怖の祭典、再び
伯爵戦争。かつて、銀誓館学園の能力者として戦った者であれば、その凄惨なるデスゲームの記憶は消したくても消せないものである。
原初の吸血鬼に覚醒するための遊戯と称して、多くの者が殺された。結果的に戦いは銀誓館学園の勝利に終わったが、それでも全ての人間を救えたわけではなく、様々な勢力との関係も緊迫した状況になった戦いだ。
「伯爵戦争の再現ね……。これでも『伯爵』本人が暴れまわるよりは、マシな話だな」
伯爵の恐ろしさを知っているからこそ、暗都・魎夜(全てを壊し全てを繋ぐ・f35256)は今回の件も、まだ少しばかりマシなものであると考えていた。ユーベルコードこそ使えないものの、伯爵を名乗る原初の吸血鬼は、不滅の異形でさえ喰らい、そして消滅させてしまう力を持っている。あるいは、当時は原理が解明されていなかっただけで、それこそが伯爵を始めとした原初の吸血鬼が持つユーベルコードなのかもしれない。
どちらにしろ、彼が関わっていないのであれば、欧州に居を構える吸血鬼の強硬派達や、あるいは大陸妖狐とも無関係なのは幸いだった。彼らとて全面的に人類と仲良しごっこをするつもりはないのだろうが、それでも表立って騒ぎを起こさないのであれば、今は静観するのが正義なのだろう。
「あの『伯爵』が絡んでいないのは幸いですが、オブリビオン影の城も結構厄介な……」
もっとも、伯爵不在であっても吸血鬼達のデスゲームが厄介なことに変わりはない。夢を操る儀水・芽亜(共に見る希望の夢/『|夢可有郷《ザナドゥ》』・f35644)にとっては、今も昔も影の城の見せる幻影が危険なことに違いはなかった。
幸せな幻影を見せたまま殺される。それは即ち、まともな避難誘導ができないということだ。そんな中、どこから現れるか分からない吸血鬼に警戒しつつ、全ての人々の安全を守るというのは難しい。否、それ以上に、影の城までオブリビオンとして復活したことが、この世界が再び未知なる脅威に晒されていることを意味しているわけで。
「影の城までオブリビオンとして動き出す以上、いずれは最悪を想定しないといけないかもしれませんね……」
御鏡・幸四郎(菓子職人は推理する・f35892)が見上げる先には、ぼんやりと三日月が浮かんでいた。雲に隠されてはっきりとは見えないが、幸四郎にはその三日月が、二つに割れて見えることが不気味だった。
あれだけ強固に封印され、二度と蘇らないように始末された無血宰相トビアスでさえ、ドクター・オロチとして全く関係のない世界にて復活していたのだ。それ以外にも、限定的とはいえ『生と死を分かつもの』でさえ復活し、あまつさえ彼の配下であるルールーもまた、別の世界に現れているという情報もある。
そうなれば、遠からず最強の異形である『二つの三日月』が蘇る可能性も否定はできなかった。しかも、その存在が降臨するのは、このシルバーレインの世界であるとも限らない。
生命体ではない『現象そのもの』のオブリビオン化。次元を超えて出現する過去の強敵。銀誓館学園の能力者にとっては抗体ゴーストの出現を意味する言葉であった『カタストロフ』でさえ、その破滅的な現象の一端でしかないと想像させる真の意味でのカタストロフ。
もしかすると、この世界は想像していた以上に、他の世界と密接に関わり、そして色々な物が行き来している場所なのかもしれなかった。来訪者やメガリスの起源から考えても、それは明らかだ。シルバーレインの世界に存在する超常的な存在や現象の多くが、この世界ではないどこかの世界に起源が存在しているのだから。
だが、考えていたところで何も始まらない。世界の謎を突き止めるよりも、未来を悲観することよりも、今は成すべきことがある。
とにかく、まずは少しでも多くの一般人を安全な場所に隔離することが先決だ。それぞれの役割を確認すると、猟兵達は影の城に囚われた人々の安全を確保すべく、幻影に覆われた街へと繰り出して行った。
●本物と偽物の境界
幻影に囚われた人々を、いかにして効率よく誘導するか。自分達だけでは手が足りないのを理解している幸四郎と魎夜は、人手を増やす策に出た。
「何はともあれ、まずは一般人の避難です」
「ああ、そうだな。頼んだぜ、モーラット達!」
幸四郎はコミカルなオバケ姿の雑霊達を、魎夜はモーラットを呼び出すと、それぞれ彼らに指示を出す。人ではなくゴーストの類ではないかという突っ込みは、この状況では野暮だろう。
まずは幸四郎の呼び出した雑霊達が、お化け屋敷のスタッフに扮して人々を驚かせる。なにしろ、本物の霊なのだから、そのリアリティは十分だ。
「うわっ! なんか、凄いの出て来た!?」
「きゃぁっ! 怖ぁい!」
もっとも、人々もそれを楽しんでいるようなので、このままでは彼らを避難させることは難しい。続けて、幸四郎は施設の従業員に扮すると、人々をさも正しい順路に導くかの如く誘導し始めた。
「案内板です。出口はこちらのようですよ」
誘導役の雑霊と共に告げて指を差せば、そこには魎夜が呼び出したモーラット達が跳ねていた。なんとも可愛らしい案内人だが、このお化け屋敷の空間においては数少ない癒しでもある。
「随分とカワイイお化けですね。さて、逃げましょうか」
「は、はい! っていうか、あれマジで可愛いし♪」
モーラット達の愛らしい姿に魅了されたのか、多くの者がスマホ片手に出口を目指して歩き出した。それでも、中には誘導に従わない者もいたのだが、そこは芽亜がしっかりとフォローしていた。
「皆さん、次のイベントは大通りです。順路通りに進んでください。死神の言うことを聞かないと、怖いですよ……」
古びたローブを纏い、骸骨の仮面を身に着けた姿で、ナイトメアに騎乗した芽亜が人々に告げる。所謂、死神騎士というやつだ。声もボイスチェンジャーで変えているので、不気味な機械音声のような感じになっており、なんとも雰囲気のある演出である。
「イベント? だったら、そっちに行った方がいいよね?」
「こんなところで迷って途中退場とか馬鹿みたいだしな。折角だし、イベントを楽しみに行こうぜ」
芽亜に促される形で、人々は本人達の意思とは関係なしに、安全な場所へと向かって歩き出した。これで、とりあえずは安心か。そう思われた矢先……何やら見覚えのないお化けが、人々の群れに向かっているのが目に留まった。
「おい……待てよ」
咄嗟にお化けの頭を掴み、魎夜が強引に放り投げる。こいつは幸四郎が呼び出した雑霊ではない。と、いうことは……この状況で考えられる可能性は一つしかない。
「そちらの好きにはさせません!」
すかさず芽亜が騎乗突撃をブチかましたことで、お化けに扮していた吸血鬼は路地裏へと吹き飛ばされ、逃げて行った。このまま追撃したいところだったが、今は我慢だ。市民の安全を優先しなければならない以上、深追いは厳禁である。
「間一髪でしたね。市民の避難は大丈夫でしょうか?」
「問題ありません。とりあえず、この周辺にいた人々は無事に避難させました」
幸四郎の答えに、芽亜は思わず安堵の溜息を吐く。だが、魎夜は未だ油断せず、緊張の糸を解くこともない。
「けったくそ悪い……。こんなことで、犠牲になるやつは出させてたまるかよ」
自分達だけでは、どう足掻いても全ての人間を避難させられないことを理解しているからだろう。残念ながら、ここから先は他の猟兵達の力に期待する他になさそうだ。しかし、それでも彼らが多くの一般人を避難させたのは確かであり、それにより吸血鬼達の強化を阻めているのもまた紛れもない事実であった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
木霊・ウタ
心情
オブリビオンに命や未来を喰わせやしない
城も含めてまとめて海へ還すぜ
行動
シンプルにいくぜ
火事だーっ!
とサウンドSのよく通る声で
大声で叫ぶ
で地獄の炎を走らせる
任意で消去できるから
実際には建物を燃やしたりしないように
気をつけてるけど
当然、皆は逃げようとするはずだ
実際は都市だから
ホールとか体育館とか
それなりのスペースがあって頑丈な建築物へ
皆が逃げ込めるように
上手く炎を使って誘導するぜ
避難が完了したようなら
建物の周囲を
それなりの高さの炎でぐるりと囲む
これならここから出ていこうとは
思わないだろう
熱いし怖い体験だよな
悪ぃ
ヴァパイア達を海へ還すまで
ちょいと辛抱してくれよな
●地獄の肝試し
影の城に覆われた街の人々を、一斉に同じ方向へ避難させる。どう考えても難しい話であり、一人の力には限界もあった。だからこそ、本来であればお化け屋敷という状況を利用して人々を導く必要があったのだが……木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)はより大量に、かつシンプルに人々を動かす方法を選択した。
「火事だーっ!」
ユーベルコードで炎を放ち、ウタは火事であると叫んだ。当然、炎を前にして火事だと言われれば人間は逃げ出すのが普通だが……問題なのは、それによりパニックに陥る者もいるということである。
「えぇっ! か、火事だって!?」
「うわぁぁぁぁ! に、逃げろぉぉぉぉ!!」
突然、火事であると告げられて、一部の人々は大慌てで好き勝手な方向へ逃げ出して行く。その一方で、今だ怪訝そうにしている者達も多かったが、しかしウタの放った炎を見たことで、ようやく事態を飲み込んだようだ。
「お、おいおい、ちょっと待てよ。避難場所は、そっちじゃなくてこっち……」
ウタの誘導も無視し、人々は自分勝手に判断し逃げて行く。こういう時こそ冷静になれと学校などでは教わるが、実際に実践できる者は極めて少ない。
「煩い! 退け!」
「うわぁぁぁぁん! 怖いよぉぉぉぉ!」
「は、早く助けておくれ! こういう時は、年寄りが優先じゃろうに!」
ウタを押しのけ、関係のない方へ走って行く者。ただ、その場に座って泣き叫ぶ者。自分の立場を利用して、少しでも安全を得ようとする者。様々な者達が好き勝手に動き回り、収集がつかなくなってしまっていた。
極限状態に置かれた場合、人間は己の内に秘めたるエゴが表に出るものだ。誰も彼もが聖人君子で、誰も彼もが冷静な判断が下せるとは限らない。避難誘導をしようにも、まともに話を聞かない者達があちこちへ勝手に逃げ出すので、むしろ人々が散ってしまい一ヶ所に纏められない。
「くそっ! こっちも火の手が回ってやがる!」
「ひぃぃぃぃ! もうダメだぁ! おしまいだぁ!」
仕方なく、ウタは更に火の手を広げることで人々の行く手を阻み、強引に同じ方向へと避難させようとした。一応、それで大半の者は同じ場所を目指して動いてはくれたが、その速度もまたバラバラであり。
「うわわ♪ なんか、すっごいことになってる♪」
「火事のリアル現場とか、これ、動画にしたらメッチャバズるんじゃね?」
中には自分の安全そっちのけで、動画撮影をするような者もいる始末。これはこれで性質が悪く、おまけに避難場所の建物に殺到する人達も、勝手にパニックを拡大させていた。
「おい、俺が先だ!」
「私が先よ! さっさと退いて!」
「子どもいるんです! 子どもを先に通してください!」
「いやだぁぁぁぁ! 焼け死にたくなぃぃぃぃ!!」
自分が助かればそれでいいと考える者達が建物の入り口に押し寄せた結果、却って流れが阻害されてしまっていた。パニック状態の群集心理を甘く見た結果だ。とにかく人払いをすればいいだけの状況ならまだしも、危険な吸血鬼がうろつく場所で、誘導手段を失ってしまうような退避方法は相性が悪過ぎた。
そんな中、逃げ惑う人々の合間を縫って、ふらふらと近づいて行く黒い影。それが人間ではないことを察した時は既に遅く、影は混乱意乗じて逃げ遅れた人々の背後に回り込んでいた。
「……がっ!? な、なん……で……」
「ひぃっ! 血、血だ! 血だぁぁぁぁ!」
突如として血の海に倒れる人々。見れば、その後ろには、外套を纏いお化け屋敷のモンスターに扮した従属種ヴァンパイアの姿があった。
「ヒャハハハハ! こんなにゾロゾロ集まって、建物の入り口に詰まってるとか、てめぇらモーラットかよ! 笑わせてくれるぜぇ!」
血の付いたナイフを持ったヴァンパイアが、外套を脱ぎ捨て声高に叫ぶ。恐らくは、この城の中で力を得ようと徘徊していた従属種なのだろう。実力的にはそこまで高い相手ではないが、しかし既に見えざる狂気に心の奥底まで侵食されているのか、自分のことを最初から最強だと勘違いしていた。
「俺様は最強なんだぁ! そして、こいつらの血でもっと最強になれる……つまり、俺様は無敵ってことなんだよぉ!!」
意味不明な最強理論を叫ぶ従属種ヴァンパイアだったが、その理屈に付き合ってやる義理はない。
「逃げろ! 早く!」
人々に建物の奥へ逃げるよう指示し、ウタは炎を狂った従属種へと向ける。それでも人々は我先にと押し合うことを止めなかったが、幸いにして新たな犠牲が出ることはなかった。炎の直撃を受けた従属種の男は、たったそれだけで一瞬にして全身が燃え上がってしまったのだから。
「ぎゃぁぁぁぁっ! そんな馬鹿なぁ! 俺様は最強……最強のはずだぁぁぁぁぁ!!」
炎に包まれ灰と化して行く従属種ヴァンパイア。やはり、戦闘力としては最低レベルの個体だったらしく、この一撃だけで完全に燃え尽き消滅してしまったのは救いだった。
「くそっ……守り切れなかったか……」
そんな従属種の成れの果てを横目に、ウタは歯噛みしながら拳を握った。一度に纏めて人々を動かすことばかりに気を取られ、闇に紛れて襲い掛かって来る吸血鬼の危険性を考えていなかった。
「悪ぃ……ヴァパイア達を海へ還すまで、ちょいと辛抱してくれよな」
人々の逃げ込んだ建物を、ウタは炎の壁で囲い込む。これで、当面は建物から誰かが出て来ることもなければ、吸血鬼が建物の中に押し入ることもない。
だが、その安全が保障されるのも、建物内の酸素が続く限りの話であろう。燃料を使うか、それとも念力で燃やすかに関係なく、炎が燃えれば周囲の酸素が消費される。建物を炎の壁で覆った以上、壁の外だけでなく内にある酸素も消費され、いずれ内部にいる者達は酸欠で倒れてしまうことになる。気体が燃えて発生する二酸化炭素は下方に集まるので、建物の天井を覆っていなくとも新しい酸素は都合よく入っては来ない……人々が冷静さを取り戻し、上を目指して逃げない限りは。
酸欠で人々が倒れる前に、なんとしても影の城を攻略しなければならなかった。犠牲者こそ最低限に抑え込むことはできたが、ウタに残された時間は決して余裕のあるものとはいえなかった。
成功
🔵🔵🔴
酒井森・興和
同胞の敗北、死別した大事な相方、銀誓館への復讐心か
学園の洗脳…もとい現代教育前の自分とタブってしまうな
まあ僕もその頃には銀誓館の徒
彼女の仇敵なのだね
でも街の人間が屠られる謂れはなかろうし
UCと【気配感知と集中力】で敵の手薄な箇所を探し【結界術で目立たない】域を作り隔離
【狩猟】応用で人間も探し
娘とはぐれたので捜すのを手伝って欲しい嘘で
または暗い場所で迷う人を【暗視】で先導し従業員のフリで
人間を【言いくるめ、おびき寄せ、救助活動】、隔離域へ誘導
時には強引に【気絶攻撃で運搬】、叩くより【薬品調合】で気絶して貰う
人数がある時はカードからロバのコニーを呼び運んで貰おう
隔離所で人の気を引いてくれそうだしな
山吹・慧
これはあの忌まわしき狂気のゲームの再現という事でしょうか。
あのゲームにおいては一般の方々のみならず、
銀誓館の能力者も命を落としました……。
あれの再現などあってはなりませんよ。
とりあえず徘徊するお化けのオブリビオンを倒して、
安全な避難所を確保しましょう。
そして催眠術をかけられた一般人の方々には
「刃物を持った不審者がうろついているそうです。
安全な場所に避難して下さい」
と言って、誘導する事で隔離しましょう。
従わない人には眉間に軽い【衝撃波】を放つ事で
眠ってもらいます。
避難所には【地形の利用】によって【認識阻害】となる
【迷彩】を施しておきましょう。
●地獄の再来を阻止せよ
影の城に覆われた街で行われる死のゲーム。かつて北海道で起きた惨劇を知る者であれば、それに嫌悪感を示すのは当然のこと。
「これは、あの忌まわしき狂気のゲームの再現という事でしょうか。あのゲームにおいては一般の方々のみならず、銀誓館の能力者も命を落としました……」
あんな地獄の再現などあってはならない。これ以上、誰も殺させてはならないと奮起する山吹・慧(人間の玄武拳士・f35371)だったが、しかし元銀誓館学園の能力者も一枚岩とは限らないわけで。
「同胞の敗北、死別した大事な相方、銀誓館への復讐心か……」
学園で受けた現代教育前の自分とアニーの姿を重ねつつも、酒井森・興和(朱纏・f37018)はそれ以上の同情心を抱くのを止めた。どの道、アニーからすれば自分も仇敵なのである。加えて、彼女が力を得るために、多くの人々が虐殺されるのを見過ごす趣味もない。
「とりあえず、誘導は可能な限り僕の方でやっておくよ」
「では、こちらは一人でも多くの吸血鬼を倒すことにします」
二手に分かれ、まずは興和が誘導に回った。ある時は迷子を探す親を演じたかと思えば、またある時は従業員を装って安全地帯へと人々を導く。安全な場所の確保にしても、土蜘蛛の一族であり鋏角衆である興和にとっては、安全な巣を結界によって作ることなど造作もない。
その一方で、慧はゲームとして人々を狩ろうとしている従属種ヴァンパイア達を探していたが、ほんの僅かな末端の雑魚を除いては、殆ど遭遇することはなかった。
(「思ったよりも数が少ない? いえ……それよりも、獲物になる者がいないからでしょうか?」)
既に他の猟兵達が、人々の避難の大半を終えていたことが幸いしていたのだろう。狂った従属種達は獲物の姿が見当たらず、困惑している可能性もある。
もっとも、犠牲が皆無ではない以上、ここで気を抜くわけにはいかない。吸血鬼の姿が見当たらないのであれば好都合。逃げ遅れた者達を少しでも安全な場所に誘導し、その際に邪魔して来る敵を倒した方が早いかもしれない。
見れば、未だ興和の誘導にも従わず、ふらふらと歩いているバカップルの姿があった。一応、この場所が危険であることを伝え、安全な場所へと向かってもらおうと思ったのだが……やはりというか、この状況で誘導に従っていない時点で、彼らの頭の中身はお察しだった。
「すみません。刃物を持った不審者がうろついているそうです。安全な場所に避難して下さい」
従業員に扮して告げる慧だったが、脳みそお花畑なバカップルどもは、鼻で笑い飛ばすだけである。ともすれば、これも何かの演出なのだろうと言い始め、全く話を聞いてくれない。現に何人かの人間が吸血鬼の犠牲になっている以上、慧の言っていることもあながち嘘ではないのだが。
「はぁ? もしかして、これもイベントってやつ?」
「きゃ~、こわぁい♪ ゆみか、刺されちゃうかもぉ💕」
ああ、こりゃダメだ。こいつらホラー映画などで、真っ先に殺されるタイプの人間である。そんな連中が今まで生き残って来たことの方が不思議であり、これではいつ死んでもおかしくはない。
こうなれば、あまり使いたくはなかったが強硬策を取る他にないだろう。慧は軽い衝撃波を男の額に当て、彼のことを気絶させる。すると、それを遠間から見ていたのか、興和もまた女の方に当て身を食らわせ、気絶させることで動きを止めた
「後は、僕のコニーに運ばせよう。説明が面倒な時は、気絶させて運んだ方が早そうだ」
「それでは、拠点にはこちらで迷彩措置を施しておきますね」
少しばかり乱暴な方法だが仕方がないと苦笑して、慧は興和が呼び出したロバのコニーにバカップルを乗せた。その上で、興和の作っておいた巣に迷彩措置を施しておけば、そう簡単に発見されることはないはずだ。
これで、後は獲物の見当たらなくなった従属種達が、こぞって焙り出されてくれれば良いのだが。その時こそ、自分達の本領が発揮される時であると、慧と興和は油断なく辺りに意識を集中させた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『狂気の従属種ヴァンパイア達』
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POW : 吸血噛み付き
噛み付きが命中した部位を捕食し、【生命力やエネルギー】を得る。
SPD : ローリングバッシュ
【目にも止まらぬ速さで回転しながら突撃し】【チェーンソー剣や】【鎖付き棘鉄球】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ : ジャンクトラップ
自身からレベルm半径内の無機物を【鋭く尖った刃の飛び出す殺人トラップ】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
イラスト:安子
👑11
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●狂える従属種
影の城に覆われた街の中は、恐ろしい程に静まり返っていた。本来であれば、楽しい幻を見せられたままゲームの獲物にされるはずだった一般人達。彼らの多くが安全な場所に隔離されたことで、目に付く場所からは人の姿が消えていた。
もっとも、それは獲物を求めて徘徊する狂気の従属種ヴァンパイア達からすれば面白くない話だ。人間を狩れば狩る程に強くなれるという話だったのに、狩るための獲物がいないのでは話にならない。
「ウゥ……ァァァァ……」
「殺ス! 殺ス殺ス殺ス! 皆殺シダァ!!」
僅かな獲物を求めて猟兵達の前に続々と集まって来る従属種ヴァンパイア達。彼らは全て、見えざる狂気に侵されたことで、狂ってしまった者達だ。
「お前達の血をくれよぉ……。そうすれば、俺はもっと強くなれるんだよぉ……」
「フフフ……僕の中にこんな素晴らしい力があったなんて! この力を使って、僕は新世界の神になってやるんだ!」
完全に正気を失っている者から、おかしな妄想を拗らせている者まで狂い方は様々だったが、彼らに共通することがひとつだけある。
それは、彼らはもう決して元には戻れないということだ。そもそも、オブリビオンとして蘇った時点で狂っていたということは、狂った状態で蘇ったということ。つまり、最初から狂っているのがデフォルトなので、彼らには救いなど存在しない。
生死に限らず救われぬとは、なんとも因果な話である。しかし、下手な情けをかければ、やられるのはこちらだ。彼らが一般人の隠れている場所を突き止める前に、残らずご退場願うことにしよう。
酒井森・興和
…さて我等は銀誓館に屈伏された少数派の来訪者
彼等の復讐心も見えざる狂気にまみれる様子も身に覚えが…
ふむ
いちいち過去に関連付けるのは僕の悪癖だな
昔を忘却するのが怖くてね
あなた達に同情したのではないんだ
目視が難しいなら【第六感と気配感知】で直撃を避ける
三砂を振り抜き【重量攻撃のカウンター】で【なぎ払う】
息が有る無しに関わらず肉塊にした【敵を盾にする】事で次の被弾から身を守る
鉄球等に三砂が搦め捕られたら【怪力】
で敵ごと振り地に叩きつけ
敵がある程度近接に来たらUC使い攻撃
目や喉、武器を持つ手を狙い撃つ
吸血される前に弱った敵から確実に倒す
僕は兵役の鋏角衆
あなた達の様な敵兵を狩る事が本来のお役目だからねえ
●狂気を狩る者
力を持ち、あるいは力を与えられていながらも、その力を使いこなせぬままに飲み込まれ、狂気へと陥ってしまった者達。それは人間だけでなく、来訪者と呼ばれる異種族達にも同様に現れる症状だ。
「……さて、我等は銀誓館に屈伏された少数派の来訪者。彼等の復讐心も見えざる狂気にまみれる様子も身に覚えが……」
何から何まで自分達の一族と似ていると思った酒井森・興和(朱纏・f37018)だったが、直ぐにあれこれと考えるのを止めた。
「ふむ、いちいち過去に関連付けるのは僕の悪癖だな。昔を忘却するのが怖くてね。あなた達に同情したのではないんだ」
そう言って、興和は静かに三砂を構える。興和が生まれたのは700年以上も昔の話だが、それでも自分が封印されていた時に比べて世界は随分と変わったし、封印が解かれてからも変わり続けている。
そんな中、古い価値観に縛られた自分までもが変革の波に飲まれそうになることに、違和感を抱かなかったわけではない。だが、それでも生きて行くためには、時に割り切ることも重要だ。そのためには、目の前に現れる障害を排除しなければならないということも理解はしている。
「……八相、獲刺」
指先で八つの点を描き、興和は毒性の鋼糸を展開する。それにも関わらず無謀にも突っ込んで来る者達もいたが、そういう連中は一瞬にして身体がバラバラに斬り刻まれた。
「テメェ……やってくれるじゃねぇかよぉぉぉぉ!」
「殺ス! 殺ス! 殺ス! 殺ス!」
少しばかり理性が残っている者や、あるいは卓越した戦闘本能を持つ者は鋼糸を避けて突っ込んで来るが、それもまた興和の知るところでもある。真正面から飛び込んで来た者には、容赦なく三砂を振り抜いて頭を叩き割り、それで倒れた相手の亡骸を盾にすることで、続く敵の攻撃を受け止める。盾代わりの死体がチェーンソー剣で両断されれば早々に放り投げ、噴き出す鮮血さえも目潰しに使う。
「ぐぁっ! て、てめぇ!」
「クソガァァァァ! その武器、邪魔なんだよォ!」
突然、鎖付きの鉄球を投げつけて来る者が現れ、興和の三砂が搦め捕られた。だが、興和は何ら慌てることなく持ち前の怪力で引き寄せると、反対に鉄球ごと相手を振り回し、別の敵に叩きつけた。
「ぎゃぁっ!」
「ぐげっ!?」
首がおかしな方向に曲がったまま、複数の従属種ヴァンパイア達が纏めて吹っ飛んで行く。そこを逃さず、興和は広がり続ける毒の鋼糸で獲物を絡め取り、そのまま情け容赦なく締めあげて行く。
「あ……がが……」
「か、身体が……ちぎれ……ぐふっ!?」
食い込む糸から毒が注ぎ込まれ、場合によっては関節を切断され、敵はそれぞれに息絶えた。同じ『成り損ない』でありながら、しかし興和の方があらゆる面で、圧倒的に戦闘力が上だった。
「僕は兵役の鋏角衆。あなた達の様な敵兵を狩る事が本来のお役目だからねえ」
狂気に任せて暴れるだけの存在とは、元から戦いにおける技量が違うのだ。哀れな従属種達は恨みと呪いの言葉を吐きながらも、その頭が狂った状態のまま、骸の海へと沈んで行った。
大成功
🔵🔵🔵
儀水・芽亜
原初どころか貴種ですらないあなた方が、最強になるですか。夢物語ですらない、つまらない妄想ですね。
本当の夢がどれほど貴重かも分からない愚か者たち。ここであなた方を終わらせて差し上げます。
「全力魔法」麻痺の「属性攻撃」「範囲攻撃」「精神攻撃」「マヒ攻撃」「オーラ防御」「霊的防護」で蝶霊跋扈。
この黒揚羽の群れに不用意に踏み込めば、あなた方は身体が痺れ、やがて意識も失い、死に至ります。
知性の無い相手にこそ有用なんですよ、これ。
吸血噛み付きには、同じく追撃効果のブラストヴォイスでお相手してもよかったかもしれませんね。
一般人の被害が出ない以上、時間は私の味方です。
吸血鬼の数が減ったら、打って出ましょう。
●悪夢を狩る黒揚羽
デスゲームの犠牲者達を生贄とし、貴種をも超えた原初に匹敵する力を持つ。なんとも壮大な話であるが、しかし影の城の力を使えば不可能ではない。
思えば、あの北海道で起きた戦争の際も、そのようなことを口にして人々を殺すことに何の躊躇いも持たない吸血鬼達がたくさんいた。だが、それも今となっては昔の話。銀誓館学園の能力者達によって、彼らは残らず撃退されて、その目的もまた露と消えてしまったのだから。
「原初どころか貴種ですらないあなた方が、最強になるですか。夢物語ですらない、つまらない妄想ですね」
あの時の再現であるならば、もはや恐れるに足らずであると儀水・芽亜(共に見る希望の夢/『|夢可有郷《ザナドゥ》』・f35644)は言い切った。それでも、狂った状態で復活した従属種達には、芽亜の言葉を理解するだけの理性もない。
「殺ス……殺ス……殺ス……」
「フハハハハ! 俺様は最強! 最強になるんだぁ!!」
恐ろしいを通り越して、今の彼らの姿は滑稽ですらあった。だからこそ、この戦いを長引かせてはいけないと、芽亜は早々に切り札を切った。
「本当の夢がどれほど貴重かも分からない愚か者たち。ここであなた方を終わらせて差し上げます」
背中に黒揚羽の翅を展開し、芽亜の姿が15歳時のそれに代わる。彼女自身が死と隣り合わせに在りながら、最も輝いていた時代の姿へと。
「グァァァァァ!!」
「ヒャハハハハ! それがどうしたぁ!!」
そんな芽亜に真正面から突っ込んで行く従属種達だったが、彼らは全て、芽亜の周りで渦巻く黒揚羽の群れにより意識を奪われていった。それでも、中には強引に突破して来ようとする者もいるが、しかし体格差の関係で容易に噛みつくことさえできないようだ。
「……ふんっ!」
縋るようにして現れた従属種の顔面を、芽亜は情け容赦なく蹴り飛ばす。今の彼女はユーベルコードの力によって、従来の2倍の身の丈を誇っている。その体格差を利用して蹴り上げれば、弱った従属種など敵ではない。
「一般人の被害が出ない以上、時間は私の味方です。そろそろ、こちらから仕掛けさせていただきましょうか?」
もう、待っているだけの時間は終わったと、芽亜は黒揚羽を従えたまま従属種達の群れに飛び込んで行った。渦巻く黒い群翅は周囲の従属種達を根こそぎ飲み込み、そして次々と無力化して行ったのであった。
大成功
🔵🔵🔵
山吹・慧
彼らは死してもまた骸の海から甦る……。
ならばいつの日かその因果の鎖を断つのが
猟兵の役目なのかもしれませんね。
【功夫】と【グラップル】の技術を駆使して、
クラッシュ49と浄黒による接近戦を仕掛けていきましょう。
敵の位置と動きは【気功法】により気を感じ取る事で把握。
攻撃には【ジャストガード】と【受け流し】で
対応し、噛み付きに対しては【集中力】による
【カウンター】を放って反撃します。
そして機を見て【リミッター解除】した
【空震脚】を放ち纏めて攻撃。
残った敵には引導を渡していきましょう。
せめていつの日かその狂気から解放される事を
祈りましょうか。
暗都・魎夜
【心情】
ここの主と同じ、従属種ヴァンパイアのオブリビオンってことか
それだけならまだしも、狂ったところまで同じ連中を集めているらしい
とは言え、パワーも能力も油断すると、こっちがやられそうだ
早いところ、片さねえとな
【戦闘】
さて、こっちの攻撃の準備は整った
後はこっちの方が狩り出す時間だぜ
「悪目立ち」してオブリビオンの前に姿を見せて、UCの詠唱を開始
「地形の利用」で突撃しづらいものの多い路地を行き、「ジャンプ」「ダッシュ」で戦場を移動
直接的な攻撃は「心眼」「見切り」で回避
チャージが溜まったら「高速詠唱」「全力魔法」「電撃」のUCで焼き払う
避難に失敗してたらと思うと、ゾッとするな、こいつらの様子見てると
御鏡・幸四郎
如何に力が強くなったとしても、活かせなければ意味は無い。
もうそんなこともわからなくなっているのですね。
変わることのない|オブリビオン《過去の再現》の性に虚しさを覚えながら、
従属種たちに向かいます。
ガンナイフは懐中に納め、無造作に歩み寄ります。
相手が無手となれば、侮って突っ込んでくるでしょう。
それが狙いとも気付かずに。
僅かな動作で攻撃をすかし、カウンターを叩き込みます。
可能であれば、他の敵に突っ込ませる、嚙みつきの盾にするなどで、
複数を一度に相手取ります。
貴方たちはいずれまた蘇ってくるのかもしれませんね。
その時は、今日この日に刻まれた敗北を一緒に思い出すでしょう。
……覚えていれば、の話ですが。
●終わらない狂気
その身に狂気を宿したまま、狂った存在として再現されてしまった従属種ヴァンパイアのオブリビオン達。彼らは恐ろしい存在ではあるが、しかし猟兵達はともすれば、そんな彼らに憐れみさえ覚えた。
「ここの主と同じ、従属種ヴァンパイアのオブリビオンってことか。それだけならまだしも、狂ったところまで同じとはな……」
「如何に力が強くなったとしても、活かせなければ意味は無い。もう、そんなこともわからなくなっているのですね」
暗都・魎夜(全てを壊し全てを繋ぐ・f35256)や御鏡・幸四郎(菓子職人は推理する・f35892)のような元・銀誓館学園の生徒であった者達からすれば、今の彼らの姿は見るに耐えないものである。それは、同じく銀の雨が降る時代を駆け抜けた、山吹・慧(人間の玄武拳士・f35371)にとっても同様だ。
「彼らは死してもまた骸の海から甦る……。ならば、いつの日かその因果の鎖を断つのが、猟兵の役目なのかもしれませんね」
そう、慧が呟いたところで、周囲を取り囲む従属種達が一斉に襲い掛かってきた。もっとも、力任せに暴れるだけの存在など、今の彼らにとっては容易く退けられる相手である。
「この程度の修羅場は、いくらでも経験していますよ」
何も考えずに真正面から突っ込んでくる従属種達を、まずは慧が的確なカウンターで仕留めて行く。耐久力だけはあるのか、倒されても倒されても従属種達は起き上がってくるが、これはあくまで時間稼ぎだ。
「では、こちらも行かせてもらいましょうか」
慧の意図を察したのか、幸四郎もまた敢えてガンナイフを納めたままの姿で無防備に敵の前へ歩いて行った。当然、そんなことをすれば標的になるだけだが、チャンスとばかりに飛び込んで来た従属種を、幸四郎は軽々と掴んで投げ飛ばした。
「押さば引け、引かば押せ。このような戦い方は、今の貴方達にはできないでしょう」
相手の勢いをも利用して投げる返し技だ。勢い余ってそのまま大地に叩き伏せられた従属種は、それだけで赤い染みとなって消滅して行く。強引に噛みついて来る者はやはり力を受け流して別の敵集団に衝突させ、倒した敵の亡骸は盾としても利用する。
そうして二人が時間を稼いでくれたことで、いよいよ魎夜も準備が整ったようだ。
「さて、こっちの攻撃の準備は整った。後はこっちの方が狩り出す時間だぜ!」
大地を蹴って高々と跳躍すれば、魎夜は敵集団のド真ん中に着地した。当然、そんなことをすれば多勢に無勢でやられてしまう気もするが……彼の攻撃方法を考えると、むしろ囲まれていた方が都合がいい。
「待たせたな、これでも喰らえ!」
チャージを終えた回転動力炉から、魎夜は強烈な電撃を全方位に放つ。発動に時間を要するのが欠点だが、このユーベルコードは多数を一度に相手取る時にこそ最大限に効果を発揮する。
「アギャァァァァッ!!」
およそ、人の物とは思えない狂った悲鳴を上げながら、従属種達は次々と消滅して行った。中には果敢に鎖付きの鉄球を放ってくる者もいたが、魎夜を前にしてはそれさえも無意味。鎖を巻き付けたところで、その鎖を媒体に強烈な電撃によって身体を焼かれるだけである。
「ひぎぃぃぃぃ! 冗談じゃねぇぇぇぇ!」
「くそぉ! もっと生贄をたくさん食らって……お前達を倒すのは、その後だぁ!」
狂いながらも少しばかりの理性を残していた者達は、状況不利と判断して逃げ出した。しかし、そんな彼らの背に向けて、慧は情け容赦なく掌を構え。
「……ちょっと退いてもらいましょうか」
足を踏みしめ放つのは、空間ごと吹き飛ばす衝撃波。あいつらを逃したら、どうせ碌なことに成りはしない。ならが、ここで残らず殲滅することが、後の憂いを断つことにもなる。
「がぁぁぁぁっ!!」
「嫌だぁぁぁぁ! 俺は最強に……最強になるんだぁ!!」
さすがに、空間ごと消滅させるような攻撃には成す術もなかったのか、従属種達は欠片も残さず消え去ってしまった。後に残されたのは、影の城によって中世風の城のような外観と化した、誰もいない街だけである。
「避難に失敗してたらと思うと、ゾッとするな、こいつらの様子見てると……」
敵を片付けた魎夜が、先程の従属種達の様子を思い出して口にする。これだけ狂った連中だ。獲物として狩りやすい存在が近くにいれば、猟兵を無視してそちらに襲いかかり、大惨事になっていただろう。
「貴方たちは、いずれまた蘇ってくるのかもしれませんね。その時は、今日この日に刻まれた敗北を一緒に思い出すでしょう。……覚えていれば、の話ですが」
消滅してしまった従属種達に、幸四郎は静かに告げる。もっとも、その言葉が彼らに届くこともなければ、彼らが今日の戦いを思い出すこともない。
オブリビオンは一部の例外を除き、骸の海に還った時点で現世での記憶もリセットされる。彼らはあくまで、過去の一部が現世に染み出したもの。再現される時の状態が決まっているが故に、その肉体だけでなく精神もまた、永遠に救われることはないのである。
狂った状態で復活した者は、骸の海に戻ったところで狂ったままだ。どんな祈りも慰めも、彼らを狂気の運命からは解放できない。オブリビオンになってしまった以上、彼らは再びこの世界に顕現し……そして、その時は同様に狂ったまま、今日という日も思い出せないのだ。
「ならば……せめて、いつの日かその狂気から解放される事を祈りましょうか」
今の自分達にできるのは、これが精一杯なのだと慧は続けた。だが、いつの日にか、本当に骸の海を消し去って、過去が未来を破壊しない運命と繋がれるかもしれない。
その時こそ、彼らもまた狂気から解放されるのだろう。今はそう信じて戦うことだけが、望まぬ復活をさせられた従属種達への手向けになるのかもしれなかった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
木霊・ウタ
心情
救いようがないとは可哀想にな
ま、過去の化身だからしょうがない
狂気を癒してはやれないけど
せめてとっとと海へと還してやるぜ
戦闘
全身に地獄の炎を纏って素手で戦う
体から噴出させた地獄の炎の勢いで
瞬時に間合を詰めたり距離を取ったり
回避したりしながら
その勢いと
更に拳や蹴り、体当たり自体も爆炎で加速させ
速く鋭い攻撃で翻弄してやるぜ
従属種らの肉体を
炎纏った拳が
その熱量で瞬時に灰に変えて丸く抉ったり
ヒートナイフの如く手刀で断ち切ったり
蹴り飛ばしたところから延焼せさせて
火達磨したりするぜ
ちょいとしたモンだろ
もしチェンソーや棘鉄球に当たっても
そこから噴出する炎が
得物を過熱や溶解させて使い物にならなくしたり
従属種自身を紅蓮に包んで
こちらの攻撃につながる機会とする
負傷は物質化した炎で補ってすぐに反撃だ
噛みつかれたても同じだ
噴き出す炎が
従属種の顔面や口腔を焼き
そのまま体の内側に延焼して
内部から燃やし尽くす
捕食する暇なんてないぜ?
戦闘後
ギターで鎮魂曲を奏でる
海で安らかに
心静かに眠れるといいな
●狂者に安らぎなし
狂った状態で再現されれば、もはや元には戻れない。なぜなら、元から狂っていることにされるため、あらゆる手段を以てしても彼らの狂気は癒せない。
「救いようがないとは可哀想にな。ま、過去の化身だからしょうがない」
もはや手の施しようがないと、木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)も割り切った。あの従属種達に対して自分ができることは、早急に骸の海へと還すことだけなのだから。
「ウォォォォォ!」
「貴様ノ! 血ヲ! 寄コセェェェェ!!」
力を渇望するが故に心が壊れた者達が、真っ先にウタへと向かってくる。もっとも、あまりに直線的かつ隙だらけな攻撃なので、目を凝らさなくとも普通に避けられる程度のものだ。
「おっと、そうは行かないぜ!」
掴みかかられる瞬間、ウタは自らの身体から炎を噴出し、その反動で後ろに飛んだ。従属種達の攻撃が空を切り、バランスを失って態勢を崩す。そこを逃さず、ウタは一気に間合いを詰めると、今度は炎を纏った拳や蹴りで敵を容赦なく溶断して行く。
「……がっ!?」
ある者は、真正面から胸板を貫かれ、心臓を焼かれる形で絶命した。
「がぁぁぁぁっ! お、俺様の……腕がぁぁぁぁっ!」
強引に掴みかかろうとした者は、炎を纏った手刀で両腕を溶断されてしまった。
「ウォォォォ! 殺シテヤル! 殺シテヤ……ッ!?」
それでも狂気に任せて飛び込めば、今度は炎を纏った蹴りによって身体を焼かれながら吹き飛ばされる。オブリビオンとして復活したとはいえ、それでも彼らはあくまで、かつて銀誓館学園の者達によって討伐された存在の再現でしかない。元学園の能力者は勿論のこと、今現在の猟兵達からしても、そこまで強い相手ではないのだ。
「オラァァァァッ! これならどうだぁぁぁぁっ!」
ならば、炎に触れなければ良かろうと、狂気の侵食度合いが低い者達が一斉に鎖付鉄球を投げつけて来た。
だが、それが何の気休めになるだろうか。金属というものは、熱を伝えやすい性質を持っている。ウタの身体を覆う炎の温度を考えれば、その熱は瞬く間に鎖を通して従属種達の手に伝わってしまうわけで。
「ぎゃぁっ! 熱ぃっ! 熱ぃぃぃぃっ!」
「手、手が溶けてやがる! あぁ……俺の手がぁぁぁぁっ!!」
熱さから鎖を手放そうにも、熱で皮膚が溶かされ貼り付いてしまっているのでどうにもならない。やがて、伝わる熱量が人体の発火点を超えてしまえば、後は勝手に腕から燃えて行くだけである。
「オォォォォッ!!」
それでも、何体かの従属種は鎖を引きずりながら、ウタの血を啜ることで傷を回復しようと考えていた。しかし、腕に張り付いた鎖のせいで、彼らは普段のように動けない。強力な武器が、一転して足枷となったわけである。俊敏性の失われた従属種など、今のウタにとっては何ら恐れることのない相手だ。
「もらった……ごほぉぉぉぉっ!?」
正面に突き出された手を飲み込むようか形で腕に喰らい付いたと思った瞬間、その従属種の顔面から地獄の炎が吹き上がった。全身のどこからでも炎を出せる者の腕に噛み付けば、当然のことながら腕から出る炎で内から焼かれる。いかに強靭な生命力を持つ吸血鬼でも、内部から身体を焼かれれば話は別だ。
「あ……がぁ……」
「お、俺は……最強に……なるはずだった……のに……」
やがて、周囲の従属種達が全て灰と化したところで、ウタはギターを取り出し鎮魂曲を奏でた。狂った者達であったとしても、せめて骸の海で心静かに眠れればと考えて。
もっとも、そんな彼の祈りでさえも、狂気に侵された従属種達にはどこまで意味があったかは分からない。狂った状態の過去が再現されたのだとすれば、彼らは骸の海に戻っても狂ったままだ。そして、再び現世に戻って来ても、やはり狂ったままなのである。
永遠に終わらない狂気のループ。そこから彼らを救い出すための方法は存在しない。猟兵達にできることは、せめて彼らがこれ以上人々を傷つけないよう、新たな悲劇を生み出さないようにするだけだ。無限の狂気に囚われてしまった者達には、もはや願いも祈りも慰めも、全てが虚無に過ぎないのだから。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『従属種ヴァンパイアだった者『アニー』』
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POW : お姉様はここにいて、今も微笑んでいるわ。
【原初の吸血鬼 】に変身する。変身後の強さは自身の持つ【セリーヌお姉様は生きているという思い込み】に比例し、[セリーヌお姉様は生きているという思い込み]が損なわれると急速に弱体化する。
SPD : セリーヌお姉様の血が、私に……。ハ、アハハハ!
【お姉様と自分の死】を思い出し、【絶望の闇】を生やした【原初の吸血鬼】形態に変身する。毎行動時、敵味方問わずランダムな対象を合計10回攻撃する。
WIZ : これで儀式は成功……。誰も私たちを引き裂けない!
自身の【幻覚であるセリーヌお姉様の爪 】で自殺すると、無敵の【狂気のゲーム】が成功して【原初の吸血鬼】に変身する。ただしレベル秒後に仮死状態となり、翌日に蘇生する。
イラスト:塒ひぷの
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠天日・叶恵」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●狂愛の果てに
狂った従属種達を退けると、途端に周囲の空気が一変した。
今までになく冷たい空気が辺りを支配し、恐るべき敵の到来を告げる。暗闇の中から現れたのは、その瞳から光を失った女吸血鬼。
「あなた達ね……私のゲームを邪魔するのは……」
かつて従属種ヴァンパイアだった者。アニーと名乗る吸血鬼の心は、既に壊れてしまっていた。今の彼女は、肥大化する姉への想いを暴走させたモンスター。だが、その姉も既に過去の戦争で倒されて存在はしていない。それでも、時に姉が傍にいて微笑んでくれていると信じてしまうほどに、アニーの心は病んでいた。
「また、奪うというの? また、引き裂くというの? あの時みたいに……また、私から全てを奪おうというの?」
アニーの中にあるのは、かつて自分の姉を奪った者に対する怒りと復讐。故に、自分と姉の中を引き裂く者がいるならば、殺してでも願いを成就させる。
「許さない……私は、お姉さまと永遠に一緒にいるの……。だから……それを邪魔する者は許さない……」
アニーの生きる糧は、姉との時間を永遠にすること。そのためであれば、彼女は何ら手段を選ばない。どれだけ多くの命を犠牲にしようと、どれだけ周りで誰かが苦しもうと、姉さえ傍にいてくれれば構わない。
「私は死んで、無限の暗闇に落ちた……。あそこには、セリーナお姉様はいなかった……でも!」
こうして姉と再開できたのだからこそ、もう二度と失うわけにはいかないと、アニーは狂った笑みを浮かべながら語る。彼女に見えている姉が狂気の果てに生み出された幻想であったとしても、それを本当に姉だと思って疑わない程に、彼女の心は狂っていた。
「お姉様と私の永遠……邪魔をするなら、誰であっても排除してあげるわ! アハハハハハハハハ!!」
狂笑と共に、アニーの周囲に紅い霧が広がって行く。従属種の限界を超え、貴種をも凌駕する力を得たオブリビオン。狂気に支配された彼女を止めるのに言葉は要らない。狂った女の狂ったゲームを終わらせるためには、一切の情けを抱くことなく、彼女を殲滅する他にないのだから。
山吹・慧
今の彼女にとって幻影であっても
姉と共にある事が幸福であるならば、
それもまた良いのかもしれませんね……。
骸の海に帰って頂く事にかわりはありませんが。
闘気による【オーラ防御】を展開。
敵の攻撃を【ジャストガード】と【受け流し】で
凌ぎながら【功夫】の打撃で攻めていきましょう。
やはり原初の吸血鬼の力は恐るべきものですね……。
何としてもこの場で終わらせねば……。
敵がUCを使用したならば、こちらは【気功法】で
敵の気を読んで行動を把握し【玄武の真眼】を発動。
【リミッター解除】した【カウンター】で反撃しましょう。
せめて今はお姉様と共に眠って下さい……。
御鏡・幸四郎
アニーの姿は自分にもあり得たかもしれない未来。
自分がそうならずにすんだのは、黄泉返った姉のおかげ。
「それは本当に貴女のお姉さんなのですか?
幻想では無いのですか?」
原初化したアニーの攻撃を捌くことに徹しながら声をかけ、
逆上するように誘導します。
「貴女に笑いかけたり、共に戦ったり」
「それは、貴女の望み通りの光景でしたか」
姉がアニーの思った通りの行動しかとらないのであれば、
それが彼女自身の想像である証明。
生きている者は、決して思った通りには動かない。
「貴女の大切な姉はもういないのです。アニー」
相手の力を利してのカウンターを一閃。
姉を大切に思うのなら、貴女は一人で立たねばならなかったのです、アニー。
●怒りの吸血姫
偽りの幻想に縋り、しかしどこかで偽りだと気付いてもいるのだろうか。より強大な力を手に入れ、失われた姉の存在を絶対のものにしようとするアニーの姿は、御鏡・幸四郎(菓子職人は推理する・f35892)にとって、どこか過去の自分と重なるものがあった。
アニーの姿は、幸四郎にとってもあり得たかもしれない未来。彼が狂わずに住んだのは、スケルトンとして黄泉返った姉のおかげでもある。
「それは本当に貴女のお姉さんなのですか? 幻想では無いのですか?」
姉が生きていると信じて疑わないアニーに対し、幸四郎は残酷な現実を告げるようにして問い掛ける。もっとも、その程度の言葉で己の信じている世界を疑うようなアニーではない。
「何を馬鹿なことを……。お姉様はここにいて、今も微笑んでいるわ」
そう言って虚空を指差すアニーだったが、そこには当然の事ながら何もない。だが、それでもアニーには見えているのだろう。彼女はそれだけを糧に自らを原初の吸血鬼へと変え、そして目の前の敵を排除すべく襲い掛かってくる。
(「今の彼女にとって幻影であっても、姉と共にある事が幸福であるならば、それもまた良いのかもしれませんね……」)
偽りの幸福に身を委ねるアニーへ、山吹・慧(人間の玄武拳士・f35371)はどこか憐れむような視線を向けた。無論、それでアニーを見逃す理由になるはずもなく、彼女を骸の海へと還すことに変わりはないのだが。
「お姉様と私の中を引き裂く者は、誰であっても許さない! お姉様を否定する者は、私が全て殺してあげる……」
原初の力を最大限にまで発揮したアニーは、その身体能力だけを武器に、幸四郎と慧へ襲い掛かってきた。およそ、洗練されているとは言い難い動き。だが、それでも圧倒的なスピードとパワーは侮れるものではなく、瞬く間に二人は防戦一方へと追い込まれて行く。
「アハハハハハハ!! 死ね、死ね、死ねぇぇぇぇっ!!」
その細腕からは想像できない程に、今のアニーの攻撃は凄まじい威力を持っていた。まともに食らえば肉が抉られ、一撃で心臓を掴み出されてしまうかもしれない。数多の戦場を駆け抜けて来た猟兵でさえ、時に戦慄させる程の力を持っているのである。
「やはり、原初の吸血鬼の力は恐るべきものですね……。何としてもこの場で終わらせねば……」
得意の功夫で応戦するも、慧は身を守ることで精一杯。攻撃を受け流そうにも、闘気の防御を一瞬でも緩めたが最後、強引にパワーだけで押し切られてしまう。ましてや、生身の身体で受けるしかない幸四郎では、急所への攻撃を避けるだけで限界である。
「アハハハハハハ! 恐れるがいい、人間ども! 私とお姉様の絆は、どこまでも永遠なのよ1」
鮮血が迸る中、アニーはますます力を増して行く。彼女が姉の生存を強く信じれば信じる程に、彼女もまたどこまでも強くなる。
「それは本当に貴女のお姉さんなのですか? 幻想では無いのですか?」
ならば、その強化を少しでも弱めようと、幸四郎はアニーに問い掛け続けた。当然、アニーはそれに対しても自信を持って否定してくるのだが、しかし幸四郎も諦めない。
「貴女に笑いかけたり、共に戦ったり……それは、貴女の望み通りの光景でしたか?」
自分の思い通りにしか動かないもの。それは都合の良い妄想の産物でしかなく、それこそがアニーの姉が幻想である証明にもなる。生者は決して、誰かの思い通りに動くことはないのだ。もし、そのような者がいるのであれば……それはもはや生者ではなく、傀儡人形と変わりがない。
「貴女の大切な姉はもういないのです。アニー」
「……っ! だ、黙れぇぇぇぇっ!! 私の……私のお姉様を、否定するなぁぁぁぁっ!!」
完全に逆上したアニーが、幸四郎の心臓を狙って手刀を繰り出してきた。だが、幸四郎はその攻撃に微かな揺らぎも感じていた。ほんの僅かでも疑念を抱けば、アニーの強化は瞬く間に解除され弱体化に転じる。その綻びを見つけた今こそ、反撃を食らわせるチャンスでもある。
「押さば引け、引かば押せ……姉を大切に思うのなら、貴女は一人で立たねばならなかったのです、アニー」
誰かに一方的に執着するのではなく、互いに個人として自立し、そして認め合うこと。それこそが真の愛情だと告げ、幸四郎は強烈なカウンターをお見舞いする。その一撃はアニーの顔面を的確に捉え、そして凄まじい勢いで壁際まで吹き飛ばした。
「あ……あぁぁぁぁ……」
自分の顔から滴り落ちる鮮血を見て驚愕するアニー。それは全て彼女の血だったが、しかし彼女自身には別の物に見えているようで。
「セリーヌお姉様の血が、私に……。ハ、アハハハ!」
狂ったことで失われていた記憶の断片。それを微かに取り戻したからだろうか。姉と自分の死を思い出したアニーは、その身を凄まじいスピードで絶望の色へと包んで行く。闇に染まった身体からは絶望の色そのものな翼が生え、より強力な原初の吸血鬼へと変貌して行く。
「……殺す! 殺してやる! お姉様を殺した者は、皆……!!」
涙と血の混ざったままの顔で、アニーは更に狂気を加速させて行った。それはそのまま彼女の力となり、あらゆる存在を否定し、拒絶するための糧となる。絶望の闇は全て殺気に昇華され、今のアニーには敵味方という概念さえも存在しない。
「死ねぇぇぇぇ! 私とお姉様以外は、全てが敵だぁぁぁぁぁっ!!」
爆発したアニーの怒りは世界の全てに向けられて、彼女は無差別に全ての存在を攻撃対象と見做し暴れ始めた。その、あまりに凶暴過ぎる行動に危機感を抱いたのだろうか。闇が全て解放される前に、慧は危険を承知でアニーの懐へ飛び込むと、そのままアニーの身体に強烈な掌底を叩き込んだ。
「その一手は通用しませんッ!」
攻防一体になれるユーベルコードを使用すれば、カウンターで反撃することなど造作もない。再び強烈な攻撃を食らったことで、アニーの身体は更に盛大に吹き飛んで、もはや立ち上がれないだろうと思われた。
「せめて今は、お姉様と共に眠って下さい……」
それは、慧の口から出た何気ない死者への追悼。いつもの戦いであれば、それで全てが終わった……はずだった。
「……る……な……」
だが、本来ならば終わっていなければならないはずのに。立ち上がれるはずなどないのに。
「ふざけるな……ふざけるな! ふざけるな! ふざけるなぁぁぁぁぁっ!!」
なんと、アニーは黒き翼を広げ、強引に立ち上がったのだ。その瞳に燃えるは復讐の念。その顔に浮かぶのは憤怒の表情。
「安らかな眠りなんて……そんなもの、|骸の海《あそこ》にはなかったわ! |骸の海《あそこ》にお姉様はいなかったの! それなのに……また、私に孤独の中での苦しみを与えるというの!? また、私に独りで苦しめというの!?」
今、アニーを動かしているのは怒りだ。本来であれば追悼になる言葉さえ、アニーにとっては地獄の宣告。彼女にとっては自分の死よりも、姉と引き離されることの方が恐ろしい。たとえそれが、幻想の中にしか存在しない姉であったとしてもである。
「うぁぁぁぁぁっ! お前達、絶対に殺してやるぅぅぅぅっ!!」
今までにない速度で、アニーが一気に距離を詰めてきた。あまりに殺気に、幸四郎と慧は咄嗟に反撃を繰り出しアニーの攻撃を阻もうとする。先程のように、カウンターは美しく決まり、そのまま顔面を粉砕されてアニーは倒される……かに思われたのだが。
「ぁぁぁぁぁっ! 死ねぇぇぇぇっ!!」
なんと、アニーは己のパワーだけで強引に踏み留まり、反対に二人の首を締めてきた。攻撃を先に当てたのは幸四郎と慧だ。つまり、アニーも少なくないダメージを負っているはずなのだが、それでも彼女は自らの身体を敢えて犠牲にすることで、敵対者を排除する方を選んだのである。
「……っ! これは……」
「少し、拙いですね……」
このままでは首の骨を折られてしまう。仕方なく、二人は再びアニーの顔面を殴り、少しばかり怯んだところを狙って今度は胸元を蹴り飛ばした。それにより、なんとか離脱はできたものの、事態は思っていた以上に深刻だった。
「どうやら、絶対に踏み抜いてはならない何かを踏んでしまったようですね……」
「まったく……どこまでも厄介な相手です」
怒りに捕らわれた今のアニーに、常識というものは通用しない。絶望から原初の吸血鬼の力を引き出せるようになったアニーは、まさしく影の城の主に相応しい存在として覚醒しつつあった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
儀水・芽亜
...Ash to ash, dust to dust.
喪われたものは、どうやっても取り戻せません。死者は大人しく骸の海で眠っていてください。
「歌唱」「楽器演奏」「歌魔法」「全力魔法」哀切の「属性攻撃」「郷愁を誘う」で、歌曲「栄光の王」を歌いましょう。
原初の吸血鬼に堕ちた彼の|婢《はしため》の視界を輝く光で封じ、その攻撃を狙いがつけられないようにします。
聴覚は私の歌で封じますよ。
皆さん、攻撃を封じるのはお任せを。当たらない攻撃はただ無意味です。
私の歌が続いている間に、どうか決着をつけてあげてください。
死んでなお続く悪い夢は、ここで終わりに致しましょう。よろしくお願いします。
これにて幕引きです。
酒井森・興和
ああ本当に
あなたの言う事全て我が身の出来事と似て
その妄執に縋る気持ちは痛い程解る
だが単に似た境遇の敵というだけの事
…いや
身内の死を認めた感情の鈍い僕より
姉の居る幸せの為に苦しむあなたの方がつらかろう
鋏角衆が原初の吸血鬼と対面するとはね
一撃喰らえば半死人にされるだろう
【覚悟し落ち着き】敵の攻撃を躱し【集中力と気配感知で受け流す】
速さや動きを【追跡、第六感】でタイミング見計らい【早業】で一気に接近しUCで攻撃
三砂でも怪力を全開し【重量攻撃、急所突き】
あなたは女でたった1人だが容赦出来ない強敵だ
姉君の声も姿も僕には解らないが
死後もあなたを護りたいのは本当だろうね
敵を動揺させたいが刺激しすぎは控えよう
暗都・魎夜
【心情】
この場所で、原初の吸血鬼ってのはまずかったな
こちとら、10何年も『伯爵』を倒せるように鍛えている身でね
負けてやるわけには行かないのさ
「行くぜ、イグニッション!」
【戦闘】
完全に正気を喪ってるな……
骸の海に囚われて、「お姉さま」に会えなくなったことはマジに同情するぜ
せめて、苦しまないように終わらせてやる
UCを発動して「心眼」「見切り」で攻撃を回避
「『原初の吸血鬼』の力は百も承知だ」
「リミッター解除」「限界突破」した「斬撃波」で攻撃
「絶望の闇ごと、断ち切らせてもらうぜ。あんたとお姉さまのためにもな」
いずれ骸の海が消えた時、本当のお姉さまに会えることを祈っているぜ
●血界戦線
姉の死を悟り、そして受け入れることのできなかったアニーは、今や完全に狂気と怒りに飲まれながら、その力を加速度的に肥大化させつつあった。
放っておけば、その力はもはや誰にも止められなくなるだろう。それほどまでに、彼女の姉に対する想いは強いのだ。これ以上、下手に彼女を刺激することがあれば、本当に取り返しの付かないことになるかもしれない。
「ああ本当に、あなたの言う事全て我が身の出来事と似て、その妄執に縋る気持ちは痛い程解る」
そんなアニーに、酒井森・興和(朱纏・f37018)は少しばかりの同情を覚える。彼もまた、人ではなく人を食らう側の存在であったことに違いはない。そして、一族郎党を失い人の世に吸収されかけ、しかし完全に適応できなかった者でもある。
「……いや、身内の死を認めた感情の鈍い僕より、姉の居る幸せの為に苦しむあなたの方がつらかろう」
それでも、やはりアニーの方が辛い境遇にあるのだろうと、興和は最大限の理解を示した。無論、この程度でアニーの怒りが静まるとも思ってはいないが、それでも必要以上に怒らせるよりはマシである。
「下手な同情なんて要らないわ! だったら、どうして私とお姉様の幸せを壊そうとするの!?」
案の定、アニーには姉しか見えておらず、興和の心境を理解するだけの余裕もない。ならば、その答えは力で示してやろうと、暗都・魎夜(全てを壊し全てを繋ぐ・f35256)が前に出た。
「こちとら、十何年も『伯爵』を倒せるように鍛えている身でね。負けてやるわけには行かないのさ」
つまりは、これも宿敵を倒すための過程に過ぎない。それが魎夜の口から出た答えだ。原初の吸血鬼であるならば、戦う理由はそれだけで良い。
「……Ash to ash, dust to dust。喪われたものは、どうやっても取り戻せません。死者は大人しく骸の海で眠っていてください」
そして、最後は儀水・芽亜(共に見る希望の夢/『|夢可有郷《ザナドゥ》』・f35644)が改めて現実を告げたところで、それが戦いの合図となる。姉の存在を否定されること。それを何よりも嫌うアニーは、怒りのままに猟兵達へと最後の戦いを挑んできた。
●狂った愛の終焉
怒りで我を失っているとはいえ、それでもアニーは強かった。
「鋏角衆が原初の吸血鬼と対面するとはね……」
凄まじいパワーで襲い掛かってくるアニーに、さすがの興和も防戦一方にならざるを得ない。彼も怪力の持ち主ではあるが、今のアニーはそれ以上。一撃でも攻撃を食らったが最後、そのまま身体をバラバラにされる未来しかない。
「完全に正気を喪ってるな……。骸の海に囚われて、『お姉さま』に会えなくなったことはマジに同情するぜ」
同じく攻撃を回避しながらも、魎夜もまた改めてアニーの力に驚愕していた。
オブリビオンとして復活したのはアニーだけ。それはつまり、骸の海に還ったところで、そこにも彼女の姉がいないことを意味している。
だからこそ、彼女は幻想に縋るのだろう。そして、ともすればその妄想を完全に具現化し、自らの理想を叶えようとする。そうすることでしか、今の彼女は満たされないのだ。進むも地獄、戻るも地獄なのであれば、先に進む以外に道はないのだから。
「アハハハハハ! 私のお姉様を否定するなら、こんな世界は間違っているの! だったら、そんな世界は私が壊してあげるわ! 全て! この手で!」
肥大化する憎悪は完全にアニーを飲み込んで、彼女はついに世界を破壊する衝動にまで身を委ねてしまっていた。底知れぬ力に、オブリビオンの破壊本能が共鳴した結果だろうか。だが、それでも猟兵達が未だ致命傷を受けていないのは、芽亜の力が大きかった。
「〽天が開き 声が響く これは わたしの愛する子よ 天に向かい 声をあげて 私は喜び歌う」
彼女の歌声は敵の視界を封じ、そして味方の行動をも強化する。それに加え、各々が徹底して回避にリソースを費やせば、いかにアニーが強大な原初の吸血鬼になろうと関係ない。
「皆さん、攻撃を封じるのはお任せを。当たらない攻撃はただ無意味です」
アニーを翻弄することに集中し、芽亜は攻撃を他の二人に任せた。現状では、これが裁量の策だ。案の定、アニーは攻撃を当てられないことに苛立って、ますます凶暴性を増して行く。
「な、何故? 何故、私の攻撃が当たらないの!?」
「知らねえのか? 銀誓館の能力者に一度見せた技は通じねえよ」
繰り出された爪を軽々と避け、魎夜が告げた。原初の吸血鬼の力は百も承知。だからこそ、油断せず一撃に賭ける。その戦い方は悪い物ではなかったが、アニーは魎夜の口から出た『銀誓館』という言葉を聞き逃さなかった。
「銀誓館……ですって? フフ……アハハハハハ! アハハハハハハハハハ!!」
突然、狂ったように笑い出すアニー。いったい、何が起きたのか。彼女の瞳は今まで以上の闇に染まり、絶望の翼が再び背中から姿を現し。
「ようやく見つけたわ、銀誓館の能力者! お前達を殺すことで、私のお姉様は救われる!!」
かつて、自分の愛する者を殺した相手の名前を忘れるはずもない。アニーが特に憎んでいるのは、銀誓館学園の能力者達。それは今も変わっておらず、その憎しみもまた彼女の生きる糧なのだ。
「ぉぉぉぉぉぉっ! 死ねぇぇぇぇぇっ!!」
限界まで強化された今のアニーが繰り出す攻撃は、芽亜の歌を以てしても回避は困難かもしれなかった。このままでは、魎夜が一方的に蹂躙され殺されてしまう。さすがに、これは見過ごせなかったのか、魎夜と入れ替わる形で今度は興和が割って入った。
「あなたは女でたった一人だが、容赦出来ない強敵だ……」
持ち前の怪力で強引に三砂を支えながら、興和は辛うじてアニーの攻撃を受けきった。その上で、改めてアニーに告げる。姉がいると思うのであれば、きっとそこにいるのだと。それは儚い夢かもしれないが、それでも否定するだけの権利も自分は持ち合わせていないのだと。
「姉君の声も姿も僕には解らないが……死後もあなたを護りたいのは本当だろうね」
だが、それでも戦いに手は抜かないと興和は宣言した。なぜなら、元から互いを真に理解し合うのは不可能なのだから。影の城を使って人々を喰らわんとする以上、それを阻止するのも能力者の役目なのだからと。
「銀誓館……銀誓館……お前達が、お姉様ぉぉぉぉぉぉっ!」
そんな興和の言葉が果たしてどこまで聞こえていたのか、狂ったアニーは一向に暴れることを止めようとはしない。やはり、銀誓館学園の能力者達を前にしてしまうと、彼女の中の怒りが抑えられないのだろう。
「絶望の闇ごと、断ち切らせてもらうぜ。あんたとお姉さまのためにもな」
魎夜の放った斬撃波がアニーの黒き翼を切り落とし、続け様に放たれた興和の攻撃が、力任せにアニーの身体を蹂躙して行く。さすがのアニーも、目に見えて動きが鈍くなってきた。もう少しで勝てると確信する猟兵達であったが……しかし、最後まで勝負の行方は分からないものだ。
「アハハハハハ! こうなったら……もう、最後の手段を使うしかないわ!」
追い詰められたアニーは、なんと自らを影の城の生贄とした。幻影でしかない姉の爪で、自らを殺させることによって。一見、それは無謀な自殺にしか思えない行動だったが、それこそが彼女の最後に残していた切り札でもある。
「これで儀式は成功……。誰も私たちを引き裂けない!」
「あれは……いけません! 直ぐに離れてください!」
迂闊に追撃すればやられるだけだと察し、芽亜が慌てて他の二人を止めた。案の定、その考えは正しく、死んだはずのアニーは再び原初の吸血鬼として猟兵達の前に君臨していた。
「アハハハハハ! もはや、私に恐れるものはないわ! だって、お姉様がずっと傍にいてくれるのだから!」
変身を終えたことで、アニーの傷は全て回復していた。それだけでない。今の彼女は、文字通り『無敵』だ。故に、どれだけ的確に攻撃を当てようと、彼女は怯む素振りさえ見せない。
「いやはや、これは参ったねえ……」
「ちっ……! 自分を生贄にしてゲームを強引に成立させるとか、さすがに反則だろ!」
底知れぬアニーの力に、いよいよ興和や魎夜でさえ押され始める。反撃の糸口が掴めぬまま、芽亜の歌に頼って攻撃を避け続けるしかない。もっとも、そんな絶望的な状況にありながら、それでも芽亜は僅かな可能性に賭けていた。
(「もう少し……もう少し、辛抱してください」)
チャンスは必ず訪れる。今は、それを願って耐えるしかない。果たして、そのチャンスとやらは、意外と早く到来した。アニーがゲームを成立させてから数分後……なんと、彼女はまるで糸の切れた人形の如く唐突に倒れ伏し、そのまま動かなくなってしまったのである。
「力尽きた……にしては、随分と唐突だねえ」
「変身のし過ぎで、身体が限界だったのか? いや、原初の吸血鬼が、そんな柔なはずねぇよな?」
呆気にとられる興和と魎夜の二人。しかし、これは芽亜の狙っていた通りでもある。
強引にゲームを成立させたが最後、アニーが活動できるのは数分間のみ。その間に全ての猟兵を始末できなければ、その後は仮死状態になってしまう。
強力なユーベルコードは、それに伴い代償も生じてしまうものだ。そこを突かれた時点で、アニーは既に敗北していた。時間さえ稼げてしまえば、後は仮死状態となった無抵抗のアニーに止めを刺すだけである。
「死んでなお続く悪い夢は、ここで終わりに致しましょう。皆さん……よろしくお願いします」
狂った遊戯を終わらせるべく芽亜が告げれば、興和と魎夜も無言で頷き、眠っているアニーに非情の一撃を加えた。全てを終わらせ、在るべき場所へと彼女を還すために。その結果、彼女から更に恨まれることになろうとも構わない。オブリビオンである以上、この世界で好き勝手させるわけには行かないのだから。
「……これにて幕引きです」
消滅して行くアニーの姿を確認し、芽亜が淡々と告げる。気がつけば、影の城もまた綺麗に消えて、美しい夜空が猟兵達の前に顔を出している。
「いやはや、恐ろしい相手だったねえ」
軽く溜息を吐き、身体を伸ばす興和。妄執に捕らわれた者は厄介だが、それを力に変えてくる存在はより厄介だ。
「……いずれ骸の海が消えた時、本当のお姉さまに会えることを祈っているぜ」
最後に、魎夜はその言葉を、アニーに向けての手向けとした。骸の海が消えたところで、アニーが姉に会えると決まったわけではないのだが……それでも、考えようによってはアニーもまた犠牲者なのだ。望まぬ形で蘇らされ、そして永遠に愛する者が戻らない、手の届く距離に存在しないという苦痛を、延々と味わうことになってしまった
。狂った相手でも、その点だけは同情できる部分だった。
斯くして危険な遊戯は終わりを告げ、街には再び平穏が舞い戻る。だが、これはあくまで脅威の一つに過ぎないもの。第二の猟兵であるアーカイブ。彼らが二つの三日月をも回収しているという、はじまりの猟兵の言葉を信じるならば……この世界にとって最大の脅威であった存在が、再び銀誓館の能力者達の前に姿を見せることも、そう遠い日のことではないのかもしれないのだから。
大成功
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