#UDCアース
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●除
要らない、と言われた。
しかし必要だ、と言われる。
刃物が身を裂く痛みに叫べば、「痛いはずなどない」と咎められ、ますます痛みが強くなる。
なぜ、なぜと問いかけても、誰もが同じ目で自分を見つめる。
洞のようなまなざし。
――必要だから。
――不要だから。
「お前は切除される」
まだ加わってもいないのに。
「お前は繁栄の礎となる」
まだ幸福もしらぬのに。
痛い、と訴えた。
けれどそんな声は――わたしの声は聞こえないように。
彼らは、わたしを解体、した。
●斯くて猟兵達は
「よぉ、ダーリン、久しぶりじゃねえか」
阿夜訶志・サイカ(ひとでなし・f25924)がニヤニヤと居合わせた猟兵に絡む。
――久しぶりなのはあくまでこの男である。
「どうだ、UDCアースの|面白《怪奇》スポットに行ってみねぇか。あそこは、面白スポットだらけだけどな」
曰く。
UDCアースは日本、某県某市の山奥にある廃墟。
曾て惨劇があった豪邸は、事件の日そのままに放置されている――。
何故かといえば、UDCの隠蔽があったから。
その封を破った何者かが、邪神復活儀式を行おうとしているのだ。
「手つかずで放置されてるから、ひどい有様らしいぜ。何せ|事件当時そのまま《・・・・・・・・》だ」
サイカの唇が皮肉に歪む。咥えた煙草の灰が落ちるのに頓着せず、男は続ける。
「おう、あの場所は、時が止まってやがるらしい。否、ずっとじゃねぇ。儀式にまつわる、その時間、その瞬間をどっかに固定してやがる。ただしらみつぶしにしただけじゃ干渉できねえ、そういうタイプの異空間にな」
――まあ、そんなことはどうでもいい。
サイカはぞんざいに言って、ダーリン達が調べれば済むことだ、と目を細める。
「当時の事件の概要は確か……豪邸で披露宴をしている時に、花嫁が間男に刺されたんだったか? 嘘クセぇだろ……屋敷の調査で真相へ至る証拠を集めれば、儀式場を絞り込んで殴り込めるってわけだ」
曖昧なのは、隠蔽などなどによる影響だ。
結局、現地で調査するのが一番早い。当時のままらしいなら、尚更だ。
「ま、俺様はダーリンの報告を巧い具合に修飾して、そのネタで締め切りを凌ぐってわけだ――期待してるぜ」
……などと自分勝手なことを言って、サイカは説明を打ちきるのであった。
黒塚婁
どうも、黒塚です。
久々のUDCアース。
●段取り
1章で廃墟の調査を行います
2章・3章は乗り込んでバトルです
たいへんシンプル
なおサイカの説明している「事件の概要」は歪めて伝えられたものらしいです。
どれくらいの内容が明らかになるかは調査次第ですが、ざっくりでも先へは行けます。
●プレイングに関して
各章、導入公開後の受付となります。
受付日時はタグでご案内しております。
(何らかの補足がある場合、雑記に追記があるかもしれません)
全員採用はお約束できませんので、ご了承の上、参加いただければ幸いです。
それでは、皆様の活躍を楽しみにしております。
第1章 冒険
『惨劇の館』
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POW : 屋敷の中を歩き回り、UDCを捜し出す。気力と体力のいる作業だ。
SPD : 屋敷の中に異常がないか、確認する。頭よりも、手先の器用さが重要だ。
WIZ : 屋敷の間取りを把握し、効率的に捜す。立体的に建物を把握するには、かなり頭を使うだろう。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●惨劇の屋敷
よくよく聴けば事件があったのは二十年前らしい。
被害者も加害者もはっきりしているのに、妙に不明瞭な事件であったという以外の特異性は――世間的には、なかった。
しかしUDC(アンダーグラウンド・ディフェンス・コープ)的視点においては別だ。
当時恐らく蘇りかけた邪神によって屋敷はすっかり変異している。
その一部。
儀式を行った何処かの空間は。
誰からの干渉も受け入れず、二十年の時を沈黙している。
さて、問題の屋敷。
二階建ての洋館で、山間を拓いて作られた集落の、更に奥地に存在する陸の孤島のような場所にある。
周囲は自生する自然に溢れていた。殊更目立つといえば、夾竹桃が赤と白の花を咲かせつつある。
この二十年、手入れされていないらしいが、荒廃した気配はない。
「時が止まっている証拠です――人を入れるわけにはいかないのは、猟兵の皆さんなら解るかと」
案内してくれたUCD職員が、そっと囁いた。
「内部も似たようなものです。事件当時のまま、家具も内装も朽ちていません。しつらえは、一般的な洋館のそれです。別荘として使用していたようなので、客間が少し多いくらいでしょうか……図面は貰っていますが、私達も調査ができていないのです」
屋敷の持ち主は、代々医療に携わる商いをしていた一族。
名前すら失われているのか、という問い掛けに、UDC職員は苦笑する。
「その通りです。資料から一切が失われているのです――最初から、存在しなかったかのように」
記述はある。黒塗りにもなっていない。
だが、読んだ直後、霞が掛かったように記憶から失われてしまう。
それが二十年放置された所以らしい――。
「猟兵の皆さんですから、問題ないと思いますが、どうかお気を付けて」
グリモア猟兵よりもよほど親切な説明の後、UDC職員は猟兵へと鍵を預けた――。
終夜・嵐吾
【雅嵐】
ふふん、廃墟ではないしの!
なにかおるような気配はまったくないから怖くないの!
…いや、別にわしはおばけの類が怖いわけではないがの!(余裕で尻尾をふる)
荒廃もせず、不気味と言えば不気味…
ひえっ……そ、そのままなんじゃね
い、いやびびってなどおらんよ!ちょっとびっくりはしたがの!(尻尾が下がっている)
迷子?はぐれるならせーちゃんのほうじゃろ
こういう時やばいことやっとるのは主人じゃろ
書斎とかないかの、そのへん探したらなんかありそうじゃが
高そうな壺とか触らんようにしとこ
大きいしの…中になにかおるとか…(のぞきこむ
ひぇっ!?
せ、せーちゃん!お、おどかっ、おどかすでない!!
こ、このマイペースな箱!!!
筧・清史郎
【雅嵐】
ふふ、サイカも面白スポットだと言っていたからな
楽しみだ、と
揺れるらんらんの尻尾を見遣りつつ、わくわく参ろうか
確かに、二十年前から時が止まっているようだな
へちょりとなっている尻尾を、やはりにこにこ見ながらも
びびる友を後目に平然と進んでいく
らんらん、逸れて迷子にならないようにな(微笑み
邪神の儀式がおこなわれた空間、か
ならば、それなりに広い場所だろうか
らんらんはどう思う?
…ふむ、館の主
そう壺を覗く友を見れば、尻尾がゆらゆら
もふってくれと言わんばかりに揺れていたので――もふもふっ
ふふ、今日もらんらんの尻尾は極上の手触りだな
らんらん、あの部屋が書斎のようだ
調査してみようか(微笑みながら、すたすた
●沈黙を破るは
――洋館である。
二十年放置された、しかし、二十年前から朽ちていない、洋館である。
「ふふん、廃墟ではないしの!」
余裕余裕と終夜・嵐吾(灰青・f05366)は耳をきゅっと寄せ、尻尾をふりふり、胸を張って扉の前に立つ。
「なにかおるような気配はまったくないから怖くないの! ……いや、別にわしはおばけの類が怖いわけではないがの!」
ひとりで自白――もとい、今回は楽勝だと主張する嵐吾へ、にこやかな笑みを向け筧・清史郎(桜の君・f00502)は頷く。
「ふふ、サイカも面白スポットだと言っていたからな。楽しみだ」
実際、今、嵐吾の尾は楽しげに揺れているし。
清史郎はどっちに転がっても面白いし――否定する理由はない。
「わくわく参ろうか」
ふんわりと微笑む友に頷き、嵐吾は「じゃあ、開けよ」と鍵を差し込んだ。
ギィ、と重い音がして、扉は開かれた――しかしそれは歳月の齎すものではなく、重い扉が持つ軋みであった。
嵐吾は慎重に玄関をくぐり、清史郎とともに広々とした洋館のホールに立って、ぐるりと周囲を見渡す。
そこはしんと空気こそ冷えていたが、埃臭さも感じない。
活けられた花は瑞々しく、仄かな香りを放っていて、陽に透けたレースのカーテンも真っ白だ。
結婚式の日であったという当時の様子を思わせるのは、清楚ながら華やかな花々ばかりであったが。
「荒廃もせず、不気味と言えば不気味……」
ぽつりと嵐吾が零す。今にもお手伝いさんなり主なりが出迎えてきそうなシチュエーションで、ただ人の気配だけがない。
その違和感に、ぴくぴくと耳が動く。
ほう、と清史郎は感心の声を漏らして、赤い瞳を瞬かせた。
「確かに、二十年前から時が止まっているようだな」
「ひえっ……そ、そのままなんじゃね」
指摘されてしまうと、やっぱりそうかぁ、という不安が擡げ。
そんな精神の機微を示すように、嵐吾の尻尾がくたりと下がる――下がったのだけれど、
「い、いやびびってなどおらんよ! ちょっとびっくりはしたがの!」
ふっふーんと顎をつんと上げ、胸を張る。こわくなんてないですよ~おばけなんていませんからね~、いないよね?
へちょりと下がった尾を愛おしげに見つめた清史郎は、麗しく微笑み。
清史郎にか虚空にか強気の姿勢を見せる嵐吾の前を歩き、進んでいく。
――事前に、図面は見せて貰っていた。
様々な屋敷を見てきた清史郎だが、事件の舞台となるにふさわしく広い。実際こうして玄関ホールを歩いてみると、その広さや天井の高さ――二階までの吹き抜けだった――に、調査の必要性を感じる。
隠し部屋みたいなものは図面ではわからない――あっても、気付けないだろう。
「らんらん、逸れて迷子にならないようにな」
「迷子? はぐれるならせーちゃんのほうじゃろ」
置いていかんでなどと弱音は言わぬ。
いっそ使命感に、きりっと表情が引き締まる。
実際、もし、はぐれて……なんかやらかすのが清史郎だと、嵐吾は思っている――。
はてさて気を取り直し……では何処を調べようかと、清史郎は首を傾いだ。
「邪神の儀式がおこなわれた空間、か……ならば、それなりに広い場所だろうか――らんらんはどう思う?」
「こういう時やばいことやっとるのは主人じゃろ」
少なくとも外部の人間よりは確率が高かろうと嵐吾は言う。
「……ふむ、館の主」
貌をあげた清史郎に、嵐吾もうんと頷いて、灰色の髪を軽く掻き上げた。
「書斎とかないかの、そのへん探したらなんかありそうじゃが――」
何処かのと、部屋を探すついでに、目に付いたお高そうな壺。
なんで金持ちの家って無造作に壺おいてあるんじゃろ――それもなんか華奢なテーブルとかに……お、これは七宝焼き……などと嵐吾は胡乱そうな目つきでそれを見る。
「高そうな壺とか触らんようにしとこ」
――でも、中身がちょっと気になる。
いや、十中八九、空だとは思うのだが、好奇心と、僅かな不安。幸い、嵐吾の身長なら、触らずに中を覗き込めそうである。
「大きいしの……中になにかおるとか……」
そろ~っと爪先立ち、壺の中を覗き込む彼の背で。
ふわっふわと、その好奇心に応じたように尾が揺れている。
壺に気を取られていた彼は、気付かない――その尾に、じっと視線を向けていた清史郎が……すっと手を伸ばしていたことに。
もふっ。
「ひぇっ!?」
突如、尾を何かに触れられ――素っ頓狂な声が出た。
清史郎は、あくまで優しくふわっと触れただけであるが――尾の主としては、油断していた無防備な状態で、不意に触られ、超絶びっくりしたのだ。
それこそ跳び上がるほどに。なんなら、壺をどーんと叩き壊してしまいそうなほどに。
そこをなんとか――嵐吾は壺に手を突きそうなところをぐっと堪え、もふっもふっと尾を撫で続けている清史郎を振り返る。
ばっと身を翻し、両手で尾を庇いながら、嵐吾はもの申す。
「せ、せーちゃん! お、おどかっ、おどかすでない!!」
決して、怯んだ理由は、おばけにふわっと触られたとか、そういう|恐怖《コト》では断じて……ない。
「ふふ、今日もらんらんの尻尾は極上の手触りだな」
しかし犯人は、にこにこと笑ったまま、そう供述しており――。
「せーちゃん!」
もう一声文句を言おうかという嵐吾を前にして、その余裕は崩れない……悪びれない箱である。なにせ本当に悪いときには自重できるから、大丈夫だという謎の最終ラインを守っているから――。
嵐吾越し、不意に彼方へ視線を止めた清史郎が、ん、と呟く。
「らんらん、あの部屋が書斎のようだ。調査してみようか」
「こ、このマイペースな箱!!!」
罵倒は静かな館に、妙な殷々と響いた。
「ところで、あの壺に何か入っていたか、らんらん」
「……いや、空じゃったよ」
匂いもしなかった、眼帯側の頬を撫で――頭を振る。
そして二人が離れた直後。
壺の底から、じわじわと赤い滴が漏れ――テーブルを赤く染めていった……。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
柊・はとり
現場保存の鉄則を守りすぎだろ
物理的に時が止まった事件はさすがに初体験だが
永遠の高校生探偵にはお似合いかもな
まずはざっと館の中を回る
目立つ所で儀式をするとは考え難い
隠し部屋や地下室がありそうな空間がないか
図面と実物を見比べて考える
資料や証拠品探しは鍵のかかった抽斗など
いかにも厳重な所を中心に
資料類の解読にも挑戦する
読んだ直後に記憶が消えるってんなら
学習力と集中力をフル回転させ
瞬間記憶と呪詛耐性で覚えていられる時間を引き延ばす
その間にUCを使用
UCで出せる小説には『ここまでの俺の行動』を記載させておく
一次資料の内容は忘れたとしても
こいつには影響が及ばないかもしれない
推理小説は読まないが…今は撤回だ
梟別・玲頼
この花…夾竹桃って確か毒草
屋敷の主が医療関係ってのと関わりあんのかな
大昔の医療って薬学だし
薬草とか自生してそう
屋敷の中へ
感じるは強い違和感
虫の一匹気配もなさげ?
時間をせき止めたら行き場のない過去が澱んでそうで……見目に反して清浄とは程遠い空気なんだろうな
ま、ここは人海戦術か
蕗葉ノ小人――喚びだしたコロポックルに手分けして貰い、屋敷の隅々まで偵察して貰うぜ
20年前の事件現場や関係有りと思しきものを探させる
発見したり気になる事が有れば速やかにオレまで報告
直接出向いて確かめに行く
小人達の身に何か起きれば感じられるからその場に急行
あの作家先生のネタになるモンありゃ良いが
編集の端くれらしく協力しておくか
●封を破るは
「この花……」
梟別・玲頼(風詠の琥珀・f28577)は植木を見つめて、眉を顰めた。
(「夾竹桃って確か毒草」)
美しくも愛らしい花を咲かせることから好まれるものではある。
だが、この場においては――その不穏な事件が起こった館の周りにあるのは、意味深に感じられる。
話を聴くに、洋館の外側は特に手を付けていないらしいが……。
「屋敷の主が医療関係ってのと関わりあんのかな……大昔の医療って薬学だし、薬草とか自生してそう」
ひとつ覚えておこうと囁き――玲頼は玄関ポーチを潜り、戸を抜けた。
「お」
思わず声が出たのは。
広々とした吹き抜けの玄関ホールで、じっと佇む者の後ろ姿を見たからだ。
柊・はとり(死に損ないのニケ・f25213)は呆れから息を吐き、じろりと周囲を睨めつけていた。
「現場保存の鉄則を守りすぎだろ」
はたして彼の強い眼差し、声音が含むものは、ネガティブであると断言できるものではなかった。
……単に、平時の儘である。
知ってか知らずか、なりゆきのお仲間に、玲頼は尋ねる。
「虫の一匹気配もなさげ?」
「ああ、水も食べ物もそのままのようだが、何も湧いていない」
此所から判断できる限りは、と注釈しつつ、はとりは頷く。
花は咲いている。空気も澄んでいる――清涼ですらある。
けれど、命の気配はない。
だが――否、だからこそ、玲頼はどうしようもない居心地の悪さを覚える。言葉にするのは難しい、空間から拒絶されているかのような。
(「時間をせき止めたら行き場のない過去が澱んでそうで……」)
今も、幾人かの猟兵を受け入れて尚、時間が動く様子も無い――そういう異空間のなかに身を置いている緊張感。
「見目に反して清浄とは程遠い空気だな」
ひとりごちる玲頼の言葉を聴いてか否か。
はとりは軽く、頭を振った。
じっとしていると停滞に巻き込まれるとでも言いたげに。
「物理的に時が止まった事件はさすがに初体験だが――永遠の高校生探偵にはお似合いかもな」
自嘲的な笑みを浮かべるのは――その実、はとりは探偵たることをどれほど倦もうとも……辞められぬのだという事実にだった。
ふむ、と絵になる高校生探偵の姿を一瞥した玲頼は。
「あの作家先生のネタになるモンありゃ良いが――編集の端くれらしく協力しておくか」
肩を竦め、招かれざる客らしく、不敵に微笑んだ。
はとりは館の中を歩き始める。
何処を見ても掃除が行き届いているのは、喜ばしい。
潔癖だからという意味ではなく――痕跡が解りやすいからだ。
「目立つ所で儀式をするとは考え難い……まず間違いなく、隠し部屋や地下室――とは限らないだろうが」
ただの屋敷で隠し部屋を探すのは愚行だろうが、儀式場となる部屋があると断言されているならば、隠し部屋を探したほうが現実的だ。
図面に目を落とせば、地下なら幾らでも可能性があり、隠し階段を仕込めそうなスペースはいくらでもあった。
「……結婚式だったな」
つと、呟く。
ならば人が集まれる場所に違いない。
空間は限られてくるな、と廊下を眺める。
客室も主寝室も二階にあり、玄関ホールからラウンジを経由した宴会用のホールは一階。外観からは見えぬ増築の続きがあるかもしれない。兎に角、二階に隠し部屋がある確率は低そうだ、が。
「だが、手がかりが欲しいな」
目を眇め、呟いた時。
静かに彼の検討を聴いていた玲頼が、よし、と応じる。
「ま、ここは人海戦術か」
温和な笑みを浮かべ……玲頼はそっと妖精コロポックルへと呼びかける。
「蕗の下の小さき人よ、力を貸してくれ」
何処からともなくぽこぽこと現れた百を超えるコロポックルが、館の中で散開する。
「こいつらには一階と二階、分けて探させるけど、オレは下に居るよ。何か発見したら声をかける」
玲頼が琥珀色の視線をはとりに向ければ、相手は「ああ」と応じ、顎に指を当てた。
「なら……書斎は調査中のようだから――主寝室にでも向かってみるか」
そう告げ。
足元から不穏な響きがしないか踏みしめながら階段を登るはとりを見送り、玲頼もホールを進んでいく。
パントリーや厨房なども一階にあり、住み込みの使用人部屋も隣接して存在するようだ。
食材なども当時のまま残されているのだから驚きだ。……とても手に取る気にはなれなかったが。
そんな玲頼の目に度々止まるのは、不自然に活けられた葉であった。
(「シキミの葉――自体は、珍しいものではないけど」)
洋館に。
ハレの日に。
樒を飾る意味自体は、様々あるが……廊下に飾られた華やかな花に比べれば異質に感じる。
そうして宴席のメインとなるホールは、結婚式らしい装いに整えられていた。披露宴ではなく、儀式に装い。しかし、神前式とも教会式ともとれぬ、不思議な形式であった。
祭壇があって、それを正面に椅子がずらりと並べてある。
祭壇には酒と六器と、洋館に似合わぬ添え物が並んでいた。
「どちらかといえば護摩壇に似ている」
ぽつりと零した時……コロポックルが、玲頼の袖を引いた。
つれられていくと、数体のコロポックルが鏡に集まっている――丁度、祭壇の真後ろに設置された鏡。
六尺くらいの姿見。いわゆる戸板程度のサイズのそれが此所に在る意味。
まじまじと眺めてみると、不自然な隙間がいくつかある。ただ鏡を設置するだけなら不要な浮きは、まるで指を掛けろと言わんばかりだ。
「引く? 押す? ――スライドか?」
試してみるも、動かない。
まあ、その程度の単純な構造なら、コロポックル達が開けているだろう。
「最悪叩き壊すとして……」
探偵さんの調査を待つとするか、と玲頼はのんびり呟いた。
さて、主寝室に入ったはとりは、その設えの悪趣味さに目を鋭くした。
黒いカーテン。黒い寝具。
そして、目を引く、物々しい金庫。
表装は恐らく黒漆なのに艶のない、仏壇と見紛うそれ。腕に抱えられそうなほどの、小さな金庫であった。
軽く揺さぶってみれば、かなり重い。金庫なのだから当然だろう。
はとりの直感として、この中は、覗いておきたい。
「鍵は……まあ、掛かってるか」
こういう鍵は誰かが所持していることが多い――主自身か、家令か。鍵が手に入らないなら破るしかないが……金庫を見つめるはとりの袖を、ちょんちょんと何かが突っついた。
「なんだ――鍵束、か」
コロポックルがずいと複数の鍵がかかったそれを差し出している。
受け取ると、一仕事終えたとばかり、コロポックルは消えてしまう。
「こいつの鍵があればいいんだが、最悪壊せばいい――」
何処かで聞いたような言葉が此所でも響く。探偵としてはスマートさに欠くが、この金庫が破壊されて困る者はいないからよいのだ。
幸い、ほどなく金庫の鍵は見つかり、無傷で扉は開かれた。
中には書類。
はとりは大きく息を吐いて、吸う。集中を限界まで高め――外では失われてしまう記述を追う。
……樒の一族。
ありきたりな、不滅を目指す研究者達。
主幹を守るため、枝葉を落とせばいいと――呪われた儀式を行い、繁栄を望む。
儀式場は鏡の奥に。
鏡越しに祭壇を整えよ……そのための手順は云々。
――神に願うならば、真実の祭壇にて、枝払いを行え。
「また、こういう因習じみた話か」
はとりの頬に、思わず苦笑が浮かぶ。
胸くそ悪い人間のエゴによる生贄と、分不相応な願い。
永遠とか不滅とか、何が嬉しいのだろうか――死せる、死せぬ男は嘲り。
その表情を、即座に改める。
「手順は解った。だが、おかしい」
館の扉は、猟兵が開いたはずだ。この手引きに寄れば、儀式場とて容易く開かぬ。
では――今、誰が……一体何が、邪神を復活させようとしているのか。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
シオン・プサルトゥイーリ
無い頭があるのか示して来いと言われて来たが…
夾竹桃、人死にが出た場所にしては誂えが過ぎるか
俺は所詮獣にすぎん。資料より、現場で見れば良い
当時のままというのであれば、花嫁の刺された場所から確認すべきか
20年前であれ血の汚れは残っているだろう
刺されたのか、抉られたのか、医師であれば腑分けも容易いだろう
血の痕跡から当時の状況を探れれば僥倖か
此れが儀式であれば、血を求めてのこともあるだろう
ならば、床の汚れは少ないか…此処で殺す理由も存在したのか?
他の場所は、夜の追跡者で血の匂いを辿る
要として置かれているものは無いか
儀式であれば位置も重要とされるが
花嫁の命は元より、婚礼の日までであったのか
要らぬ命、か
●毒を煽ったのは
シオン・プサルトゥイーリ(利刃・f41121)は館の前で、すっと目を細めた。
「無い頭があるのか示して来いと言われて来たが……」
買い主とでもいうべき男の、試すような笑みを思い出しかけ、軽く頭を振って……再び、見据える。何もせずとも鋭い双眸。昏い赤が見つめるのは……。
――彼にとって、規模といい外観といい、この洋館は物珍しいものではない。
同時に何か価値を見出す存在でもない。
シオンの目を引いたのは――その周囲を彩る、赤と白の夾竹桃。
「夾竹桃、人死にが出た場所にしては誂えが過ぎるか――」
計らぬ美しさと、謀ったような不穏な存在感。
少なくとも館の外は、時間が経過している場所だというのに、二十の季節が巡れど、枯れず劣らず堂々と咲いている。
それもまた作為的である。
場に呼ばれる、場が作られる――儀式というのは、そういう些細な条件すべてに意味を持たせるものだ。
……などと考えてみたところで、詮無きこと。シオンは投げ遣りに息を吐いて、一歩踏み出す。
そもそも、館に踏み込むまえに、あれこれ推測を立てるのは己の仕事ではない。
「――俺は所詮獣にすぎん。資料より、現場で見れば良い」
要するに、現場で鼻を利かせればいいのだ。
事件の詳細は曖昧だが、その曖昧をベースに捜査するしかあるまい。
記録に寄れば花嫁の刺された現場は控室、となっていた。
といっても、着替えなどの準備は終わっており、家族や友人と一緒に居たところを、ぐさりとやられたということになっている。
「当時のままというのであれば、血の汚れも残っているだろう」
――やたら潔癖な空間なのが気に障ったか、シオンは眉間に少しだけ皺を寄せた。
血の匂いを辿ろうにも、それを掻き消すような花の香り。
控室へと入ってみれば、そこには立派な鏡台があり。
銀のゴブレットが置かれていた。
皮肉な取り合わせだと感じながら――シオンは膝を折る。足元を観察するためだ。さらりと長い琥珀の髪が肩を滑り落ちていくが、気にする様子もなく床へと視線を走らせた。
絨毯敷きの床は、よく掃除されている。
アイボリーの絨毯は地味だが、様々な色を浮き上がらせる。たとえば血痕などは――流石に隠しようもないだろう。
(「刺されたのか、抉られたのか――医師であれば腑分けも容易いだろう」)
鏡台の足元、ぽつりと小さな染みがあった。一滴だけ垂れてしまった……という雰囲気の汚れ。
血だろうか――暫し考え、違うと考える。ふわりと香るのは、甘い匂い。この部屋に花はない。きわめて人工的な匂いだった。
「毒」
呟いた時、飼い主の得意げな笑声が聞こえた気がした。
あえて銀杯に注がれた、ワインのような赤い毒。飲み干した花嫁はどうなったか――わかるはずもない。しかし、この匂いは証拠と呼べよう。
「——行け」
短くシオンが命じると、影が伸びた。とろりと黒い流体が宙に浮いて、鷲の輪郭をとると、空気をぱんと打って飛ぶ。
匂いを辿れ。
告げる必要さえ無く、それはそれを為す。五感を共有する存在だからだ。
端的にいえば、それは自然にホールへ向かい、先程コロポックル達が示した鏡の元に向かう。
そこまで床には一滴の染みもなく。
死の香りもしなかった。不自然なほどの静謐。
それこそが、殺人現場が時を止めているという事実を前に、最大の違和感である。
立ち上がり……つと、シオンは、鏡台に微笑んでいる女の姿を幻視する。何の貌もない、漠然としたイメージだ。今日という日を喜び迎え、どんな心地で銀の杯を握ったのだろう。
「――花嫁の命は元より、婚礼の日までであったのか」
……考えたところで、なんの感慨も湧かなかった。
想像すら及ばぬ――武人らしく伸ばした背筋で、彼には少々手狭な控室を、美しい頤で一瞥して。
「要らぬ命、か」
一族から切除された男は。自嘲の笑みすら、零さなかった。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『黒死天女』
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POW : これならば、あの御方も喜ばれましょう
【唇や手など自分の肉体や、花の羽衣】が命中した部位にレベル×1個の【漆黒】を刻み、その部位の使用と回復が困難な状態にする。
SPD : あなたは選ばれました
【唇や手など自分の肉体や、花の羽衣】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を生命力を奪う黒色に侵し】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
WIZ : 全て送りましょう、あの御方に贈りましょう
【唇】から【童歌のような、同族以外は聞き取れぬ呪言】を放ち、【肉体から急速に生命活動力を奪う事】により対象の動きを一時的に封じる。
イラスト:香
👑11
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
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●待っていたものは
「どうだ、らんらん。何か見つかったか」
清史郎の問い掛けに、机をごそごそ探っていた嵐吾は「んー」と声を出す。
「ありそうで、なさそうな……せーちゃんはなんか見つけたの」
「そうだな……怪しい資料ばかりだな」
書斎を探る二人は、莫大な情報量のまえに、どれが本命なのかと途方に暮れる。
「こういうのは勘で決めよ」
「適当でも場は開くとサイカがいっていたしな――おや」
開き直って、すっくと立ち上がった嵐吾の近くで、ぱさりと何かが落ちた。
それを清史郎は躊躇いなく拾って、ふむ、と呟く。
「薬袋のようだな」
「毒じゃったりして」
「ははは、らんらんは鋭いな――そんな気がするぞ」
はとりは己の行動を書き留めた小説を読み返す。
推理小説は読まない――というポリシーを曲げて、ユーベルコードで作り上げた一時的な記録を確認するのは、報告書を認識できなくなるという問題への対処だ。
もっとも、今のところ問題はなさそうだ。
「これは……館は時間が止まってるから、かもな」
外に持ち出せば、集中力も努力も、なかったことと消えるのかもしれない。
「でも、隠す意味はないよな。事件そのものは漏れてるし……一族郎党、消えてるし」
玲頼が首を傾いだ。
消されてしまうにしても、何もかも手遅れだ。たとえ間違った内容にしても――現実、この樒の一族とやらは、ひとりの女性の死とともに二十年前に滅んでしまったようなものだ。
「……消えたわけでは、ないのか」
はとりが双眸を細めた。目の前の鏡はびくともしない。
「――失礼」
低い声音が呼びかける。刹那、黒鞘が鳴って、刀が走った。
シオンが抜刀し、鏡へと斜めに斬り上げる――耳障りな音は一瞬で消え……静かな嘆息とともに姿勢を正したシオンの腰で鍔鳴りが響く。
「やはり『死なねば』開かないか」
本気を出せば壊せそうだが、と彼は呟く。その手には、銀杯がある。
「えぇ……せーちゃん、やっぱそういう展開かの」
嫌そうな声が響く。うなだれた尾を揺らし、嵐吾が隣の男に問いかければ、清史郎は微笑み「そのようだな」と薬の袋を振って見せた。
しかし毒を呷る必要は無いとばかり――猟兵達が揃ったことで、鏡は自然と落下した。
はとりが呟く。
「名前、儀式の方法、銀杯、毒。ふん、|揃った《・・・》ってことか」
条件は満たしたと空間が認めた。
※
鏡の向こうには、鏡写しの光景があった。
ホールに、祭壇。
その中央には何かが寝そべり、その四肢の先に影が蹲っている。
それは、過去の残影――猟兵達は咄嗟に察し……同時に、中央に寝そべる何かは、違うと見た。
――それはまだ生きている。
白いドレスに、真っ赤な四肢を投げ出して、それでもまだ、それは生きて……ぶつぶつと朱色の唇を動かしている。
「神は供物を選びませぬ」
不意に――澄んだ声が聞こえた。
ホールの天井、美しいシャンデリアの近くに、白い女が袂を翻して、愛おしげに抱く玉を撫でる。
「嬉しきこと。またひとつ、捧げ物がありましょうや」
するりと床へ滑り降り、黒死天女は微笑む。
「よりよき依り代を作るために。よりよき末を産むために。わたくし達は契約を結びました」
花の羽衣を揺らして、天女は嘯く。
「時間はかかりましたが……こうして結実しようとしている――さあ、その肉体を宝珠に捧げてくださりませ」
にっこりと。
花のように笑う天女から、漆黒の帯が伸び――容赦なく、猟兵達に襲いかかってきた。
終夜・嵐吾
【雅嵐】
!?(なんかおるとびっくりしつつおばけか!?とびびったものの違うと認識して)
あれはおばけじゃないの!(強気の尻尾)
ふふん、さくっとやっつけてしま…ふぎゃ!
せーちゃんいきなりはわしもびびるからの!
言いようから、どうやらわしらを生贄にしたいようじゃな
しかし生贄に…(ちらりと横をみて)
せーちゃんが??
せーちゃんは生贄をとるほうじゃろ…(絶対やっとる顔しとる)
わしはもふもふ尻尾じゃからな~(もふもふ)
せーちゃんとじゃれとる場合じゃなかったの
ふあっ!?え、遠慮なく攻撃してくる…こ、この箱!
眼帯はずし、虚、手伝ってとお願い
その腕を借りて敵も一緒に切り裂いてしまおう
黒か、虚の黒の方がもっと綺麗じゃよ
筧・清史郎
【雅嵐】
びびっていたかと思えば、どやったりと
色々忙しい友は微笑ましく、動くお耳や尻尾をガン見しながら
おばけさんではないのか?
おばけさんは好きなので少し残念だが
まぁ、害を成すモノならば何であれ、斬るのみだからな
(強気尻尾しれっともふりつつ
そういえば、生贄にはなった事はないな
未体験な事にはとても興味はあるが
ふふ、勿論、生贄にした事は……どうだろうか(にこにこ
確かに、らんらんの尻尾は極上のもふもふだ(もふもふ
おばけさんでないならば、斬ってしまおうか
敵の攻撃はひらり回避しつつ、桜嵐で斬ったり吹き飛ばそう
当たらなければ何も問題はない
友も桜嵐の渦中にいるが、まぁ大丈夫だろう
ふふ、生贄にしようとしてないぞ?
●戯れに
緊張の中、隠された空間を進み――曰くありげな祭壇に、おそろしい雰囲気の何者かがおり……近づくことを阻むように、突然、すぅ~っと出てきた黒死天女たち。
尻尾を丸め、おっかなびっくり、筧・清史郎(桜の君・f00502)の後ろを――清史郎がずんずんと進んでいってしまうだけだ――終夜・嵐吾(灰青・f05366)は、その瞬間、びくっと身を竦ませた。
「!?」
絶句し――尾と耳を逆立てて、全身で驚いた。
何せ、白くて、ふわりと広がる服を着ている。重力に逆らい宙に浮いて、美しく笑っている……。
だがしかし、猟兵だから、解る。
あれは――おばけではない。
理解した刹那、嵐吾の耳と尾がしゃきんと立つ。そして、得意げに揺らす。
「あれはおばけじゃないの!」
急に背筋を伸ばし、胸を反らし、怖くないと全身でアピールする友を、清史郎は微笑み見つめる。
ビビったり、ドヤったり。
長い付き合いだが、らんらんは面白いな――と春のように温かな眼差しで、耳と尾がぱたぱた動いているのを見つめる。
「おばけさんではないのか? おばけさんは好きなので少し残念だが――まぁ、害を成すモノならば何であれ、斬るのみだからな」
そうじゃそうじゃと、嵐吾も気勢のままに清史郎の隣、否その一歩前へと進む。
――そう、得意げな尻尾が目の前で、揺れている。
じっと見つめる視線に気付かず、嵐吾が天女を見据えた瞬間。
「ふふん、さくっとやっつけてしま……ふぎゃ!」
急に尻尾に何かが触れて、嵐吾が悲鳴をあげる。
尾を庇うように清史郎をばっと振り返って、睨む。
「せーちゃんいきなりはわしもびびるからの!」
尻尾が突然もふられる――それは嵐吾にとって、傍目の微笑ましい光景とは違い、かなりの刺激があるのだ。
「ふふ、らんらん、余裕だな」
「なにを……っ!」
柔和に怒りを受け流す清史郎の様子にますます眦を上げた嵐吾だが、すぐに気付く。
天女らが手を伸ばし、迫ってくる。
「さぁさ、おいでませ」
「力に満ちたあなた方なら、きっと素晴らしい――」
声音は凜と澄んで愛らしいが、響きはほの暗い。
迫る衣や、白い腕を慣れた調子で二人は潜り抜け、背を合わせる。
「言いようから、どうやらわしらを生贄にしたいようじゃな」
「そういえば、生贄にはなった事はないな」
表に不敵な笑みを載せ皮肉ると、どうにものんびりとした返答が来た。
何事も経験、とか思ってないだろうか――。
「未体験な事にはとても興味はある」
思ってた。
……とはいえ。
「しかし生贄に……」
思わず嵐吾は清史郎へと顔を向ける。目つきが、じとりと細まったのは仕方ない。
「せーちゃんが?? せーちゃんは生贄をとるほうじゃろ……」
絶対やっとる顔しとる、と言外に。
「ふふ、勿論、生贄にした事は……どうだろうか」
「この箱!」
にっこり慈愛に満ちた微笑みで小首を傾げる清史郎に、嵐吾は思わず噴き出した。
「らんらんは危ないな? 生贄の経験は?」
「さての~」
からからと笑って、ふくよかな尻尾を清史郎のほうに向ける。
さっきと違ってご機嫌だ、と清史郎は更に笑みを深め、意を得たように、尻尾を撫でる。
「わしはもふもふ尻尾じゃからな~」
「確かに、らんらんの尻尾は極上のもふもふだ」
手触りを楽しむ清史郎越しに敵の姿を見、嵐吾は表情を改める。
「せーちゃんとじゃれとる場合じゃなかったの」
果たして、同じように敵の再びの接近を認めた清史郎は。
表情も居ずまいもそのままに――ただ彼の腰あたりで、鞘鳴りに似た小さな音がした。
「おばけさんでないならば、斬ってしまおうか――……巻き起これ、桜嵐」
桜の意匠が凝らされた蒼き刀が抜き放たれるや、桜吹雪が奔る。
花弁を纏う刀身が、白く弧を描いた、先。
疾風と行く剣風が無防備に身を晒す天女の身体を、無情に撫で斬る。
ぱっと散るは鮮血か、清史郎の紡いだ桜花か。
小さな悲鳴を上げながら崩れ落ちていく天女の影から、花の羽衣が覆い被さるように広がった。
とんと床を蹴って後ろへと跳びながら、衝撃波でそれを退け、花弁の中で清史郎は愉しげに笑った。
「当たらなければ何も問題はない」
丁度ここはダンスホールだと、思う儘に、跳ねて、駆けて。
抜刀するや否や蒼い着物を翻し、好きに暴れ出した友は、息も吐かせぬ斬撃の檻で天女を囲う。
その戦いっぷりは見事の一言、なのだが――。
「ふあっ!? え、遠慮なく攻撃してくる……こ、この箱!」
中央に残された嵐吾のことは、気にしなかった。
らんらんは大丈夫だろう、という信頼なのか、雑なのか解らぬ感覚で、逃げろとも避けろとも言わず、際どいところへ剣風を奔らせる。
焦る嵐吾を見ても尚、清史郎の手加減はなく……。
「――ふふ、生贄にしようとしてないぞ?」
駘蕩とした調子も、変わらなかった。
「おぼえとれよ!」
今度こそ本気で、箱、と詰って、目頭のほうから眼帯を指で押し上げる――顕わになるは、瞼に封じられた右目。
そして、何処からともなく花の香りが揺蕩う。
「虚、手伝って――戯れに、喰らえよ」
彼の白い頬に、つうと黒い涙が零れた。
それは刹那に消え……嵐吾の身体を這う黒き茨となって、右腕に集う――束ね、括り、獣の腕に。伸びた爪は、凶悪に鉤を巻く。
刹那に表情を消した嵐吾が、髪を躍らせ、天女を張り倒すように腕を払う。
伸びた爪が、その首元を一文字に掻き裂く。
あ、と唇を動かした天女が、それでも腕を差し出し、ひらりと衣を巻き付けんとする。
腕も身体も躱したが、ふわりと躍った灰色の……柔らかな髪の一房が触れた。
瞬時に漆黒に染まっていくそれを一瞥し、嵐吾の口元が不敵にほころぶ。
「黒か、虚の黒の方がもっと綺麗じゃよ」
鋭く爪振り下ろし、次に迫る天女を縦に裂く。触れた瞬間、相手が絶命していれば、問題はなさそうだ。
俊敏に敵の間を擦り抜ける嵐吾を見つめ……清史郎が真剣に、告げる。
「らんらん、尻尾は死守するのだぞ」
「せーちゃんはもう黙っとって!」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
梟別・玲頼
鏡の中の異空間ってか
あそこに見えるのは花嫁…いや、邪神の依代に――なりかけ?
残念ながらオレも神の依代みたいなモンだ
この肉体は私のもの故、捧げてやる道理はあらず…ってな
天女を近付けさせやしねぇ
逆風の障壁――伸びてくる黒は風のバリアで弾き
小刀構え空を斬って真空刃飛ばし、ダーツの様に矢羽根投げつけ風矢交えて敵の行動を読みつつ阻止
動ける限りは止めてみせる
一族繁栄の為の呪術が逆に郎党全て消え失せてる辺り、どっか契約内容に不備があったんだろ、どうせ
人間に利を与えんと拐かし利用するなぞ、よくある悪神の遣り口
そも人の贄を求める様な神に頼らなきゃ保てねぇ家なんてその程度って事だろ
結実前に摘むぜ?
熟して腐る前にな
シオン・プサルトゥイーリ
供物、か
俺の血は、貴様とて腐らせるだろう
口輪を外し、頳燼を抜く
獣の狩りだ。牙を隠す理由もあるまい
天女であろうが、存在しているのであれば首を落とすのみ
近接にて仕掛ける。前に出、併せて対の断章で灰の衣を纏う
我が身は炎から遠く、薪にもなれず。朽ちた灰に過ぎん
感知を鈍らせても永遠ではあるまい
彼奴の間合へ踏みこみ、早々に刃を届かせる
悪いが、俺は無作法な男でな
反撃は致命傷であれば躱すが他は構わん
刃を鈍にされるわけにはいかないからな。腕で庇う
だが、貴様もこの灰の衣に触れるだろう
……謀であったか、九度で飲み干したか
嘗ての花嫁が何を思ってその杯を飲み干したかは俺が計るべきではないのだろう
ただ、貴様を斬るだけだ
●冷徹に
「鏡の中の異空間ってか」
同時に実際に作られてもいる空間でもあるのか、と梟別・玲頼(風詠の琥珀・f28577)は、ふう、と息を吐く。
一族の妄執といえば一言で片付くが。
「あそこに見えるのは花嫁……いや、邪神の依代に――なりかけ?」
黒死天女へ……否、祭壇へ向け、苦虫をかみつぶしたような表情を向け――猛禽に類するにふさわしく、琥珀色の瞳を眇めた。
そんな男のほど近く、静かな影が一歩前へ踏み込んだ。
「供物、か――俺の血は、貴様とて腐らせるだろう」
にこりともせず、シオン・プサルトゥイーリ(利刃・f41121)は吐き捨て――否、口輪の奥で、僅かに笑みを滲ませた。
そして、ゆっくりと。慣れた様子で口輪を外した。
抜き払った黒剣の切っ先で、ゆるく鋼の弧を描き、静かに構える。
それは、朱き焔より生まれ、紅よりも深く……血を啜ってきた、シオンの牙だ。
「獣の狩りだ。牙を隠す理由もあるまい」
ニィ、と。唇を歪ませる。
「獣のような御仁だ」
やれやれ、と玲頼は肩を竦める――その一言に含まれる洒落っ気は、果たして誰か気付いただろうか。
少なくとも天女達は、美しいかんばせを、童女のような微笑みに染めて、二人へと手を伸ばす。
「猛々しい方。なれど美しい方。くださいませ。捧げませ」
くすくすと笑いながら誘う姿は、いっそ淫靡ですらある……が、ただ、贄と欲するだけ。
「残念ながらオレも神の依代みたいなモンだ」
玲頼は殊の外軽い調子で告げ、風を呼ぶ。
「この肉体は私のもの故、捧げてやる道理はあらず……ってな」
「ふふ、なれば、よりふさわしい」
天女は微笑みを深める。
平行線のやりとりに業を煮やしたわけでもなく――手綱も、口輪からも解き放たれた猟犬が……己が務めを果たすように、黒衣を翻し馳せていた。
「天女であろうが、存在しているのであれば首を落とすのみ――」
淡淡と謳う声の余韻が、天女の耳朶に届く時。
「我が身は炎から遠く、薪にもなれず。朽ちた灰に過ぎん」
呪われし白き灰の衣に包まれたシオンが、天女の頤に刃を滑らせる。
灰神楽が舞うように、軽やかに。重躯の剣士が細い頸を断つ。
朱の霧が立ちこめる中、シオンは髪を靡かせ、一躍で前へ馳せる。
ぱかりと首根に赤い口を開いた天女が、何事か唇を動かして、縋るように手を差し出す。朱に染まった花の羽衣が、触れるより先に距離を置く。
「悪いが、俺は無作法な男でな」
崩れ落ちる肢体には目もくれぬ。
既にシオンの注意は他の天女に向けられている。
命に別状がなければどうでもいいが、剣に触れられるわけにはいかない――みすみす、相手の腕の中に収まるつもりはないのだ。
威圧的ではなくとも確実に迫り来る天女を押し返すべく、玲頼は風を全身に纏わせ、障壁と放つ。
「――逆巻く風よ、悪しき動きを阻み拒め」
怯んだ天女らへと振るう小刀は、鎌鼬を帯びて。
短く振るった剣戟は、遙かに大きな剣風となって、並びの天女を薙ぎ裂いた。
次々上がる小さな悲鳴にも、表情ひとつ変えずに玲頼は更に矢羽根で射貫く。
衣を地に縫い止め、華奢な躰へととどめの斬撃を振り下ろす。梟のように鋭く、風とともに駆け、背後より迫る気配から距離をとれば、突如と白刃が落ちて、その細腕ごと首を断ちきる剛刀が烟る。
シオンが其処に在ると解るのは、布擦れの音と、熱量のみ。
しかし其れを解った時には、冷たい刃が無情に通り過ぎた後である。
だのに、その剣を握らぬほうの腕が、漆黒に染まっていた。
「――だが、貴様も触れた」
ただ一言。片腕を縛ることに成功しようと、その生命力をぐんと啜り……片腕で操る黒剣は更に冴えた。
ひゅう、と渦巻く風に守られながら、玲頼はちらりと祭壇を見た。
その状態は変わっていない。
横たわるなにか。四方の影。
認識できないだけなのか――そういうものなのか。
どちらであっても正常とは言い難い光景を横目に、邪神な、と呟く。
「一族繁栄の為の呪術が逆に郎党全て消え失せてる辺り、どっか契約内容に不備があったんだろ、どうせ」
「ふふふ……」
玲頼の悪態に、天女は笑う。
彼女達が愛しく抱くのは、彼女達の宝玉である。そんなものが召喚されているのだ――此所に降りる邪神が、真っ当に繁栄を約束するわけがない。
他者のことに興味をしめさぬシオンが、ぽつりと零す。
「……謀であったか、九度で飲み干したか」
少なくとも、そんなものと契りを交わそうとしたはずはないだろう。
ましてや毒杯を望んで煽ったとは思えぬ。
「嘗ての花嫁が何を思ってその杯を飲み干したかは俺が計るべきではないのだろう」
いずれも、シオンにはどうでもよいことだった。
時を戻す術など知らぬ。もう何を尽くそうと|手遅れ《・・・》なのだと、感覚が告げる。
ゆえに。否――なんであろうとも。
「――ただ、貴様を斬るだけだ」
重い剣が、その重みを報せず斜めに走る。
腕も、衣も、剣をなまくらに変える術の前に、首を狙い続ける制限のなかで――シオンは赤い瞳を輝かせ、躍る。
片や、玲頼は――。
「どうでございましょう」
「はて、どうでございましたでしょう」
「どうでもよいことでございます」
囀るような囁きを、風で吹き飛ばすように矢羽根を次々に放つ。
白い衣を引き裂いて、白い影を無惨に射貫く。そのまま、前へと加速した。玲頼のうなじに掛かる髪が、尾羽のように広がる――。
「人間に利を与えんと拐かし利用するなぞ、よくある悪神の遣り口――そも人の贄を求める様な神に頼らなきゃ保てねぇ家なんてその程度って事だろ」
大きく身を翻し、小刀を逆手に、天女へ振るう。
「結実前に摘むぜ? ――熟して腐る前にな」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
柊・はとり
花嫁…?
まさか二十年このままでここに?
樒の一族ってのは柊一族よりタチ悪いかもな
柊には棘があるが魔除けの木でもある
俺達は守るのが性分なんだよ、曲がりなりにもな
女は生きてる…が
俺の独断で助けるのは尚早か
おいあんた平気か
聞き耳と唇の解読で呟きの内容が解るといいが
天女の方は無論お断りだ
連戦を考え消耗は避けたいが
それはコキュートスが許さない
今一番マシなUCを選ぶ
基本は偽神兵器の剣技で単純に切断を狙う
敵が飛ぶなら偽翼で空中浮遊
目的はカウンターでの強烈な反撃だ
防御は捨て攻撃や生命力吸収を喰らう度に封印を解除
苦痛をこめた切り込みで一気に凍結させ
早期決着を目指す
はぁ…はぁ…
不滅なんて碌なもんじゃない
解らないか?
●峻厳に
こういう隠し通路や、手記、儀式の祭具を見る度に、またかという溜息が零れる。
いつもの、唾棄すべき、あの展開――生前、死後、幾度となく見てきた事件現場を思い、柊・はとり(死に損ないのニケ・f25213)は青の双眸を眇めた。
その眉間に皺が刻まれたのは、ホールに入ってすぐのこと。
鏡の向こうにあった何も無い祭壇と異なり、そこに横たわる者がいると、はっきり視認した時だ。
「花嫁……? まさか二十年このままでここに?」
――声音には、驚きと疑念が宿る。
なるほど、この屋敷は時間を止めているという。それが邪神の望むところか、一族の望むところか、アクシデントに過ぎないのか……。
いや、重要なのは、そんなことではない――はとりは裡で呟く。
断片的に得ている情報を考えるに。
妄執から端を発したことにしても――何故、それを血を継がぬ女が負わねばならぬ。
「樒の一族ってのは柊一族よりタチ悪いかもな」
そう、吐き捨てた。
事件はもう解決している。
当人らの証言が聞けぬだけ――どうせ裁く相手も、もういないのだから、それすらどうでもいい。
(「女は生きてる……が――俺の独断で助けるのは尚早か」)
「おいあんた平気か」
「…………」
言葉は聞こえない――認識できないのかもしれない。
四方の影は動かず蹲っている。はとりも、黒死天女も、他の猟兵だれにも反応は示さない。
だが、ひとつ。はっきりと、彼は感じ取った。唇を読んで、はとり自身が声に起こす。
『痛い』
深く息を吐いて、彼は瞼を閉ざし……静かに開いた。
「ああ、わかった」
届かぬ声に、囁きかける。
あとは、いつも通り。事件を、事件にせず終わらせる――。
氷の大剣を構え、黒死天女へ睨みを利かせる。
「柊には棘があるが魔除けの木でもある――俺達は守るのが性分なんだよ、曲がりなりにもな」
告げる声音は、太々しく。しかし信念を貫く者に自然に宿る真摯な響きがあった。
探偵として、猟兵として、人として……邪神を降ろさせは、せぬ。
一族の繁栄という独善に、毒果を結ばせぬ。
「聡明なかた」
「頑強なかた」
その肉体なら、よき糧となりましょう――天女らは、皆そっくりな貌で微笑みかける。
「はっ、どんな名探偵を作りたいんだか」
片頬を笑みに歪めた。呪い尽くしのはとりの肉体を望むなど、悪趣味としか言いようがない。
天女へ投げた悪態へ、びくりと掌に伝わる何かがあったが……いつも煩い剣は、神妙に口を噤んでいた。
はとりはコキュートスの基本思考を知らない。
天女が腕を伸ばす。柔らかな花の羽衣が愛らしく翻る。彼女らは宙に浮いているが、はとりが偽翼で飛ぶほどの高さではない。
「――来い」
シンプルに呼ばって、前へと踏み切る。
両手で柄を支え、大剣を振るう――成長しない高校生探偵の肉体であるが、筋力はある。コキュートスの演算も手伝って、無駄のない軌道と身体捌きで、天女の手首を断ち切る。
呆気ない――が、油断はしない。
見る間に、したたり落ちた鮮血が、落ちた白い掌が、地面に漆黒を広げていく。
しくしくと啜り泣くような声音が耳朶を打つ。
振り払うように、はとりは片手で大剣を薙ぐ。
ぎしりと筋肉がひずんで、神経を灼く疼痛が、はとりを苛んだ。敢えて、漆黒を踏みにじる。じわりと抜けていく生命力に、膝から崩れ落ちそうになる。
だが、それをすべて、一撃必殺のバフに換算する。
相変わらず最低最悪な……偽神兵器『コキュートス』の使用者の苦痛をエネルギーに変換するというバグ。
しかし、命を賭けるよりは、マシなユーベルコード。
天女は前座に過ぎぬ。後にはより強力な邪神が控えているのだ――できれば、消耗は避けたい。
だが、はとりの持つ|武器《・・》は、いずれも彼の命を代償に求めるものばかり――だからこそ、消耗も長期戦も望めない。
直接触れられることだけ避けて、はとりは気力の限り、苦痛の応酬に耐えた。
己が剣を振るって削り、天女の羽衣に生命力を奪い返され。
苦痛の度に封印解除を重ねた今、睫の先が凍るほどの冷気をコキュートスは放つ。
何が忌々しいかといえば、その冷気は、はとりをも苛む。それがまた力に換算されるのだから、バグというやつは滅茶苦茶である。
「はぁ……いい加減、終わらせるぞ」
告げる先は、敵か、コキュートスか。
大きく身体を撓らせ、横一閃に薙ぎ払う。天女らは胴から断ち切られながら、凍りつく――僅かな驚きに瞠目した表情の氷像を、一瞥し。
崩れ落ちかけ……それを、片膝で耐える。
「はぁ……はぁ……」
粗く息を吐きながら、はとりは祭壇を睨んだ。なあ、と向けた声は、思いの外、柔らかかった。
「不滅なんて碌なもんじゃない――解らないか?」
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『禍罪・擬坊』
|
POW : 鉾
【周囲の古樹を暴走させ、のたうつ根】による近接攻撃の威力をX倍にする。ただし効果発動中は命中力がX分の1になる。
SPD : 朦
【邪神を抑えられなくなり支配された姿】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
WIZ : 楙
【人々を守りたい一心で山神としての神域】を展開し、レベルm半径内の全員を高速治癒する。ただし1分以上治癒された者は【邪神の力に侵食され、放置すると何れ発狂】して死ぬ。
イラスト:のはずく
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「榛・琴莉」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●残影
黒死天女が次々と倒れて、消えていく。
その姿は白から黒へ――漆黒の靄と化して、祭壇へ集まる。
四つの影が、動き出す。
必死に平伏するように。
怯え、苦しむように。
「助けて」
そして、その中央に伏した白いドレスの花嫁は――二十年前から変わらぬ美貌を歪めて、告げる。
その姿に、一切の欠損はなかった。
だが耐えがたい苦痛に身を捩れず、永遠に縫い止められているかのように、動けない――。
「なんでもいい! どんな形でもいい! こいつらを殺して、永遠に滅ぼして――!」
花嫁の口から迸ったのは、怨みのことば。
――これはおそらく、二十年間、幾度となく繰り返された幻影。
成し遂げられ、樒の一族は消え……しかし、彼女は知らず、永遠に苦痛の瞬間にある。
手記によれば、樒の一族は不滅の悲願のため、山地に屋敷を建てた。
そこは曾て山神信仰の土地であった……そして、そこに縁づく娘を嫁に迎え、神を降ろそうとした。
麻痺毒を飲ませ、生きたままに、四肢を切除していく。
いずれ胴を、臓器を、そうして切り落としていきながらも『生きている』という状態を作り出すこと――そんな悪魔のような術式に、かの一族は取り憑かれていたのだ。
――医学の礎となれるならば、好みを切るも焼くも覚悟の上だった。
けれど、まさか、おまえの肉体など要らぬと、切り捨てられるとは思いも寄らなかった。
花嫁は絶望の中、神を呼んだ。
それが齎した結果は、一族が望んだものではなかったが、当然のことである。
「滅んでしまえ!」
純白の花嫁衣装、その中央が真っ赤に染まる。
肉が裂け、血と臓腑が爆ぜ、怒りに似た花嫁の絶叫とともに、邪神が降りる。
女の肉の檻を破って、禍罪・擬坊……古においても――かつては山の神であったものを依り代に、儀式を介して降ろされた邪神。
今此所に降りたものは、由来を失い、ただ邪神と化した何か、である。
花嫁の命を代償に、降り立った滅び。
「――!」
神は、言葉なき言葉で怒る。
おそらくは花嫁の怒りを。
おそらくは顕現の怒りを。
おそらくは、此岸のすべてへの怒りを……――。
終夜・嵐吾
【雅嵐】
んん、すぷらった~
肉が裂けてぱーんとなるとは痛そうじゃな…(お腹さすりつつ)
せーちゃんは箱じゃしな、ないじゃろね
? びびったりせんよ
おばけじゃないしの……い、いやわしはおばけが怖いわけではないがの!(尻尾ゆらしつつ)
邪神がおりたなら倒すまで
せーちゃんが邪神に?
…それ誰も止められんのでは。いやふわもこと甘味を与えればなんとか…
いやそもそもなってはならんよ
せーちゃん、やるんじゃよ
虚には美しい花びらになってもらお
無差別というが、せーちゃんなら上手に避けるじゃろう
故意にねらったりはせんし
根っこを花びらで斬り裂くように
ぐぬっ、狙ってはおらんというのに的確にわしを…!
やはりわかっておるじゃろ!
筧・清史郎
【雅嵐】
肉が避けてぱーんというのも、なったことがないな
経験のないことは興味深いが
やはり痛いのか、そうか
ふふ、らんらんは怖気づいているのか?
楽し気に煽ってみつつも
では、お化けさんとはまたの機会にお喋りしようか、らんらん
もふもふ尻尾の動きに、にこにこ
邪神か、怒りに満ちている
俺も硯箱に宿った一種の付喪神だが
あのように邪神となることもあるのだろうか
だが箱の俺には、そもそも怒りの感情がわからないな
ああ、鎮めようか
虚の花弁とじゃれるように舞っては避けてみせながらも
のたうつ根には無闇に近づかず、攻撃の軌道を見切り避け
機を逃さず、桜嵐の刃と衝撃波を見舞ってやろう
ふふ、俺もいつもわざと狙ってはいないぞ、らんらん
●華と躍る
禍罪・擬坊が片翼を広げる――その白い身体は、鮮血にまみれていたが、するすると血は足元の遺骸に吸い込まれていく。
「んん、すぷらった~」
終夜・嵐吾(灰青・f05366)は耳を伏せ、尾がぷるぷると震えた。
「肉が裂けてぱーんとなるとは痛そうじゃな……」
言って、腹をさする。
「肉が避けてぱーんというのも、なったことがないな……経験のないことは興味深いが――やはり痛いのか、そうか」
そんな友の様子に首を傾げ、筧・清史郎(桜の君・f00502)が言う。
「腹が裂けるんじゃよ」
痛いだろう、と嵐吾の琥珀の眼差しが語るのを、「刺したり切られたりとは違うか」と清史郎は未だ暢気に受け止める。
そんな様子に、ふう、と嘆息し、
「せーちゃんは箱じゃしな、ないじゃろね」
「ならば、らんらんはあるのか」
「さいわい、ないの~」
答えながら、また想像してしまった、と腹をさする嵐吾に。
清史郎はふんわり笑って、問いかける。
「ふふ、らんらんは怖気づいているのか?」
敢えて煽るような声音――それに、はてな、と首を傾げた嵐吾は。
「? びびったりせんよ――おばけじゃないしの……い、いやわしはおばけが怖いわけではないがの!」
さらりと躱し……躱してから、掘った墓穴を埋めるように、必死に言葉を重ね、ぶんぶんと尾を振る。
それは、心なしか、太い。
ふっくらした尾は眼福だと清史郎は花が綻ぶように笑った。
「では、お化けさんとはまたの機会にお喋りしようか、らんらん」
「そ、そう。またの!」
そうやって無駄に言質を与える――清史郎はにっこりと笑ったまま。
目の前で、擬坊が怒りの声をあげる。再誕を呪う、怨嗟の声だ。
どんな降り方であれ、それは来た。目の前で力を振るおうとしている――なれば。
「邪神がおりたなら倒すまで――」
囁く嵐吾に、怯えの影はない。その横顔は、不遜な笑みに彩られていた。
「邪神か、怒りに満ちている……」
呟いて、清史郎は、ふと過った言葉を続ける。
「俺も硯箱に宿った一種の付喪神だが、あのように邪神となることもあるのだろうか」
昏い感情を宿して顕現すれば。
可能性としては、ある。
はァ、と奇妙な声をあげたのは友である。隻眼を半眼に、嵐吾は清史郎を見る。
「せーちゃんが邪神に? ……それ誰も止められんのでは。いやふわもこと甘味を与えればなんとか……」
ぶつぶつと考える。
この箱が邪神になったら、絶対面倒くさい。
可能性すら考えたくない。一度為ると、気紛れに行ったり来たりしそうじゃし。
そんな独り言が口に出てたか、或いは察したか、ただのマイペースか。
清史郎は想像力の限界とばかり、頭を振った。
「だが箱の俺には、そもそも怒りの感情がわからないな」
「いやそもそもなってはならんよ」
世のため人のため――ヤドリガミでいてくれと。いや、そもそも邪神になってはいけない。
ふ、と零れた息は、笑みを孕む。気が抜けた――肩の力が抜けた嵐吾は、窘めるように、切り替えるように促す。
「せーちゃん、やるんじゃよ」
「ああ、鎮めようか」
果たして友も柄に手をかけ、穏やかに頷いた。
二人の戦意をうけてか、擬坊の周囲が変様する。
めきめきと音を立てて樹木の根が壁をつき壊し、暴れ出す――それを一瞥した、眼帯を外したままの嵐吾は。
伏せた右目の奥に在る虚に、願う。
「――頽れよ」
囁きに答えたのは、数々の花びら。
芍薬の花冠がほどけて零れ落ちる――否、舞い上がる。紅に白に、様々な色彩を花吹雪に変えて、擬坊へと襲いかかる。
その花嵐は、ふわふわとおぼつかなく、無軌道に。
敵に動きを読ませぬように躍る。
結果、清史郎も巻き込むことになる、が。
(「せーちゃんなら上手に避けるじゃろう」)
実際、清史郎は、虚の紡ぐ花びらに微笑みを深め、戯れるように駆け――。
「巻き起これ、桜嵐」
抜刀する。
青ざめた鋼の残像は、桜花を纏い、縦に、横に、幾重に重ねて放たれる。
音も無く奔った剣風は、擬坊の周囲を守るように跳ね上がった根を断ち切り、その頼りない身体にも朱を刻む。
嵐吾が道を拓き、清史郎が繋いだ――しかし。
ずずず、と次なる根が地面からゆっくり頭をもたげ、二人を狙って暴れ回る。
「怒っているようだぞ、らんらん」
「せーちゃん、邪神は最初からおこじゃったよ」
二人は戯けながら、近づく根をそれぞれに斬り落とし、それぞれに敵と距離をとる。
奇しくも、挟んで対峙するように――。
虚、と嵐吾が呼びかければ、花吹雪は烈しく、花弁を部屋中に撒き散らす。
それは清史郎の着物の端を引っ掛けたり、髪を乱す猛々しいものであったが、決して彼に危害を加えるものではない。
ふっと口元をほころばせた清史郎が大きく剣を振り上げた。
芍薬の花弁を躱すように、ひとつ、ふたつと跳躍しながら、斬撃を奔らせる。
それは鞭のように撓って襲いかかる根を断ちつつ、その向こうまで飛んでいく。
そして……ぎゃっ、と声がした。
「ぐぬっ、狙ってはおらんというのに的確にわしを……!」
尻尾をぴたりと身体にくっつけ、転がるように前へと跳ねた嵐吾が、清史郎を睨めつける。
「偶然だ」
清史郎はしれっと言う。だが、その剣が薙ぎ、払い、と動く度、嵐吾の前髪やら裾やらがぴっと切れる。
無論、ふたりの中央にいる擬坊にも同じく疵が刻まれているのだが……。
「やはりわかっておるじゃろ!」
何故、敵の操る根だけでなく、仲間の攻撃からも翻弄されねばならぬのか。
抗議する嵐吾に、清史郎は静かに笑う。
「ふふ、俺もいつもわざと狙ってはいないぞ、らんらん」
「ねらったりせんし!」
も、とはなんだ、も、とは――。
「そんなことより、らんらん。機がきたぞ」
「っ、この箱は――!」
おぼえておけよ、と何度目かわからぬ悪態を吐きつつ、花弁を一気に擬坊へと集中する。ざくざくと裂ける根から、樹液がこぼれ、甘いにおいがする。
ねっとりとした雨の中を、桜花ととともに清史郎は潜り抜け――下段より振り上げた刃は、荒れ狂う邪神の身体に深々と疵を刻んだ――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
シオン・プサルトゥイーリ
悲願、か。何時の世も、宿願とは血を呼ぶものだな
全て斬り伏せるには、俺のようなものでも役立つだろう
我が身に遺った詩編の最後
頳燼を抜き、近接で勝負をしかける
相手の動きを注視し、引き摺られる前に、正面から踏み込み刃を突き出す
胴を穿てば僥倖だが……拘りはせん
……暴走か、それが貴様の鉾か
古樹の動きには注意しよう。威力はあるようだが、命中は然程か
足元には十分注意し、追い縋る根があれば返し刀で受けとめる
己の負傷は気にしない
神が相手なのだろう? これほど苛烈な戦場は久方ぶりだ
だが、血に溺れはせん。愚鈍な獣と雇い主殿に言われても困るのでな
追撃の機があれば残撃にて
この身は刃
ただ全てを断ち切ろう
仕舞いだ。——眠れ
●夜を齎す
「悲願、か」
シオン・プサルトゥイーリ(利刃・f41121)は薄い唇を皮肉で彩る。
「――何時の世も、宿願とは血を呼ぶものだな」
その良し悪しを、彼は語らぬ。
勝者のみが良しとなる――そんな世界を生き、敗者に身を落としたからこそ。
ただ燻る駄犬にあらずと証明するために、シオンは剣の柄に手をかけた。
「全て斬り伏せるには、俺のようなものでも役立つだろう」
――斬り伏せるだけならば不足とは言わせぬ。
淡淡と告げる言葉の裏に、伎への矜持を匂わせ、鞘を放る。
「我が身に遺った詩編の最後」
囁く低音を置き去りに、長く艶やかな琥珀の髪を波打たせ、ダンピールは奔る。
「呪われしも狩人の刻——我が、狩りを見よ」
朱殷を思わせる反りは啜ってきた血の色か。
翼を撃ち、狂う神へと目にも止まらぬ速さで距離を詰めると、迷う事無く刺突する。
狙うは、胴。
よくよく見れば、部屋中に蔓延る根こそ暴れ回るが、禍罪・擬坊自身はあまり動かぬ。
それを刺し貫くことなど、本来のシオンからすれば容易なことであったが……。
その結果を拒否するかのように、空間が歪む。神を守る薄い結界のようなものだろうか――或いは、無意識に距離を誤認させる現象の類か。
シオンの突きは、神の胴を掠める位置で、表面を裂くに留まる。
(「……拘りはせん」)
息を止め、衝動の促す儘に刀を返す。
角度を変えた斬撃が、神の胴を抉ろうとするを、撓る根が受け止めた。
ぴしり、と跳ねたそれがシオンの頬を弾く。
鋼のようなそれが、彼の白い頬に朱線を刻む――なれど、シオンは双眸を細めた。
「……暴走か、それが貴様の鉾か」
呟く声に、愉悦の色はなかったか。
己を阻む強力なそれへ、彼は流麗な身体捌きで剣を振り薙ぐ。
剣閃は真っ直ぐに、無駄を知らぬ。艶やかな軌跡を描いた。
シオンは舞うように軽やかに後ろへ跳躍し、自分を追い回す根を、徹底的に斬り飛ばす。
根から匂う、土と血の臭い。
「不完全でも、神は神か」
ふっと、息を零した。
表情を動かしたかどうか、解らぬ程度の些細な変化――しかし、シオンは間違いなく笑っていた。
「これほど苛烈な戦場は久方ぶりだ」
血が勝手に昂揚する。継いだ伎と、継いだ血統。そして積み重ねた習練……狩人として、猟犬として。獲物を追うのは、本能を刺激される。
根で包みこもうかという怒濤の猛攻が、まとめて降ってくる。威力は高いが、狙いは甘い。それを解消すべく、物量で押し潰そうという考えか。
すぅ、と息を吸って吐いて。シオンは膝を溜めた。
「――だが、血に溺れはせん。愚鈍な獣と雇い主殿に言われても困るのでな」
刹那、眸の熱が冷める。平静の彼のように。
無造作に構えたシオンの剣が、その切っ先が、ゆっくりと下がって――男はぐっと身を屈め、限界まで根を引き付け、跳んだ。
爆発に巻き込まれたように、根が吹き飛ぶ。
ねばつく樹液が血液の代わりに迸るを置き去りに、シオンは再び擬坊の前へと躍り掛かっていた。今度は、その身を守る結界をも突き破ろうという渾身の斬撃とともに。
「この身は刃。ただ全てを断ち切ろう」
告げる声は朗々と。鞭痕を残す頬でシオンは笑う。
不思議と穏やかでさえあった。
擬坊は近くで見れば、ひどく貧弱だ。力によってねじくれた身体が痛々しい。
シオンは憐憫を憶えない。
感情を動かすくらいなら、剣で応える。
神速の一刀は、今度こそ、邪神の胴を……脇腹を貫く。白い衣に、たちまち鮮血が滲み出す。
ぐっと押し込む刃の手応えは、確かに肉を抉っている。
躊躇わずシオンは手首を捻って、更に深く、刃を埋めた。そして。
「仕舞いだ。――眠れ」
擬坊にしか届かぬ声で、囁いた。
大成功
🔵🔵🔵
柊・はとり
…
ここは俺の生まれた地球じゃない
彼女を助けられた可能性は
どこにも存在してなかった
そこら辺は割り切ってる方だが
他人とはとても思えない
おいクソ剣
俺に何か言う事ないか
『ERROR:柊はとりは犯人であってはならない』
『ERROR:貴方は貴方以外を殺してはならない』
…解ってんじゃねえかよ
謝る気はゼロみたいだが
UC使用
味方は巻き込まないようにし邪神だけ見る
遅れて来た探偵は無力だが
被害者にならなってやるよ
あんたの気が済むまでな
どれ程の苦痛を味わったか解るから
俺から攻撃する気はない
秒数はコキュートスに数えさせ
1分以上回復を受けないように
牽制の斬撃波だけ放っておく
理性なき犯人と化した敵が
いくら俺を痛めつけようが
互いに回復させ合うだけだ
この殺人がいつどうやって終わるかは
探偵も犯人も被害者も知らない
だが…
俺も同じ痛みを味わっていることが
彼女に伝わると信じたいし
遠からず同じ考えに至ると思いたい
気が済んだり躊躇うような様子が見えたら
その瞬間一気に叩き切る
怒りは自ら鎮めないと不幸なだけだ
二十年はかからなきゃいいがな
梟別・玲頼
|山の神《キムンカムイ》は人に恵みを齎す半面、危険な存在に成り易いってのは内地のも変わらねぇな
尤もアンタは|悪神《ウェンカムイ》に呑み込まれたとも言えるのか
――いや、まだ途中だな
花嫁は救えずとも、僅かでもアンタが神で在る内に
オレが、私が出来る精一杯を
祈リシ森ノ守護
風を纏いカムイとしての力解き放ち半人半鳥たる真の姿へ
宙を舞い飛び、根の攻撃は離れながら暴風の結界にて防ぐ
合間を縫う様に矢羽根を放ち、風操り生み出す真空刃で古樹を切り刻めれば
忘れられし神は狂う、もしくは力喪い消える
凍った時に幽閉された貴殿は消える事無く狂気のみを増したか
遠き地にて忘れられし一羽として、私も解らぬ事は無い
神とは人の想いに当てられ易き存在…邪なる想いであれど
その怒りは私が受け止める
花嫁を絶望に沈め、貴殿を喚び出した愚かな者は最早おらぬ
行き場の無きその思いを力の限り解き放て
それで貴殿の気が済むなれば
防ぎながら削り、向こうが力使い果たすまで耐え抜いてみせる
頃合い見て接近し蹴爪で本体に攻撃を
神送りの儀として成し遂げるとしよう
●人と神
「……」
柊・はとり(死に損ないのニケ・f25213)は、すぅっと、眸を細める。
目の前に見たその終焉を。
助けてといった女性を。
その上に佇み、傷付きながらも未だ荒ぶる神の存在と。
順番に見つめる――認知する時間は凍ったように静かだが、これがたった数秒のことであるということも、はとりは認識している。
(「ここは俺の生まれた地球じゃない」)
うちに零れる言葉。
彼も彼女も地球の、日本の生まれだろうが、一方はアポカリプスヘル、一方はUDCアース。薄皮一枚の差。なれど絶対に越えられぬ境界。
花嫁は二十年前に殺されている。
事件は終わっている。
その状態が異界に保存されていようと、|高校生探偵《・・・・・》に覆せるものか。
「彼女を助けられた可能性はどこにも存在してなかった……そこら辺は割り切ってる方だが」
そっと眼鏡を指で押し上げる。俯いた覚えは無いのだが。
「他人とはとても思えない」
――切除された花嫁は、邪神に生ったか。
苦しみ続ける禍罪・擬坊へと視線を預け……はとりは、剣の柄を堅く握った。
そのように、まず花嫁の亡骸を見つめた者がいれば――。
梟別・玲頼(風詠の琥珀・f28577)は、視線をあげる。
相も変わらず、祭壇の上に浮いて……苦しそうに片翼を動かす、禍罪・擬坊を見つめていた。
「|山の神《キムンカムイ》は人に恵みを齎す半面、危険な存在に成り易いってのは内地のも変わらねぇな」
琥珀色の眼差しは、鋭く……なれど、同情に満ちていた。
土地神というもののうつろいやすさ。
まつろわぬがゆえに、変貌してしまう理を見せつけられ……玲頼という青年の中にある、シマフクロウ・コタンクルカムイ「レラ」は、溜息を零す。
「尤もアンタは|悪神《ウェンカムイ》に呑み込まれたとも言えるのか――いや、まだ途中だな」
もがき、苦しみながら。
末の子を守ろう、祝福しようという葛藤がある。
「花嫁は救えずとも、僅かでもアンタが神で在る内に」
――少なくとも、レラはその意思を感じ取った。
だから。
「オレが、私が出来る精一杯を」
告げるや、片腕を払う。刹那、彼を中心に凄まじい風が渦巻き、彼の両腕は翼に、両脚は猛禽のそれに変わる。
半人半鳥たる真の姿で、レラは飛び立つ。
突風を遮るのは、根であった。
擬坊の世界であることを示すような、太く、縦横無尽な根は、音速を遙かに凌駕するカムイを捉えんと網を張る。
なれど、耳鳴りのような音とともに、根はすべてバラバラになる――。
嘴のようなマスクの下、レラは唇を引き結ぶ。不用意に近づくつもりはなかった……まあ、室内という制限された世界ゆえ、身じろぎひとつで、敵に突進してしまうというのもあるが。
両翼を振るい、矢羽根を放てば、根を越えて後ろの神の四肢で朱霞が上がる。
しかし、と思う。
猟兵が幾度となく致命傷を与えてきて、弱っているにも関わらず、この空間に揺らぎはない。根の数は増えて、明らかに暴走している。
終焉は近い。近いのに、何処か、それが永遠に続くような……二十年を固定してきた怨念のようなものが、此所に至って、まだ存在しているような。
「神は人に思われ在るもの……鏡のようなもの――であるならば」
低く、レラは呟いた。
事切れた花嫁。|彼女は本当に、舞台を降りたのか《・・・・・・・・・・・・・・・》。
果たして空で激しく斬り結び始めた頃。
はとりは、じっと黙っている大剣に、冷ややかな問いを投げた。
「おいクソ剣。俺に何か言う事ないか」
果たしてAIというものは素直なシステムで、ひとに問いかけられれば、きちんと解をもつ。
『ERROR:柊はとりは犯人であってはならない』
『ERROR:貴方は貴方以外を殺してはならない』
求める解を。
求めていなくとも、唯一無二の合理的な可能性を、突きつける。
はとりは浅く笑って――無論、自嘲と嘲笑で――自認し、承認された、己の定義を肯定する。それでいい、と。
「……解ってんじゃねえかよ。謝る気はゼロみたいだが」
柊はとりは探偵だ。
犯人にはなれない。だが――。
「遅れて来た探偵は無力だが、被害者にならなってやるよ――あんたの気が済むまでな」
|被害者にならば、なれる《・・・・・・・・・・・》。
幾度となく犯人に鏖殺されてきた探偵どもがいるだろう。
ただ、|今日は《・・・》、死ぬつもりはなかったが――。
はとりは、鋭く敵を睨める。
見つめられた擬坊の身体が、たちまち癒えていく。しかし、疵を癒やしながら、それの様子は、明確に変じた。
「仕切り直しだ、邪神――いや、犯人」
呼びかけるや、根が走る。
はとりの四肢を、無数の根が打ち据え、痛々しい痕を刻んでいく。そんな表現では温い、あまりにも醜い疵であったが……不意に、元の擬坊に戻った瞬間、今度ははとりの疵が癒えていく。
「神域……」
呟いたのはレラだ。息が詰まりそうなほど澄み切った清浄な空気が室内を一掃し、レラも、仲間も、傷が癒えていく。
だが、それは今は山神ではない――邪神なのだ。
ありえぬ力を行使した代償は、歪んだ豊穣を与えられた側に起こる。
「コキュートス」
『……15、14……』
コキュートスがカウントするのは、邪神の力に侵食されるタイムリミット。
それがゼロを数える前に、はとりは大剣を構え、一度だけ振るう――敵を傷つけるためではなく、その意識を此方に引き戻すための牽制。或いは、妨害か。
神域が消え、再び、擬坊の張り巡らせた根が躍る。
「お前が……あんたが、どれ程の苦痛を味わったか解るから、俺から攻撃する気はない」
好きなだけ復讐するがいい、と彼は淡淡とした声音で言い放つ。
そう、なんてこともない。
ただ、永遠に繰り返すだけだ。
癒やし癒やされ、あの日を永遠に。
すべてを呪い、すべてを壊せと願った花嫁が、望む限り。
「この殺人がいつどうやって終わるかは、探偵も犯人も被害者も知らない」
堂々巡りを続けたければ、続ければ良い。
投げ遣りになったわけではない証に、はとりの表情は、真摯なものであった。
(「だが……」)
はとりは。
今、彼が同じ痛みを味わっていると、彼女に伝わると信じている。
今すぐでなくても何れ気付くと、信じている。
――信頼であった。
花嫁は苦痛の中を絶望した。その絶望からこんな事態まで引き起こしたのだ。
事件に関係の無いはとりを巻き込んでいることに、いずれ気付く。
「怒りは自ら鎮めないと不幸なだけだ――二十年はかからなきゃいいがな」
事も無げに言って――むしろ、薄く笑ったはとりに、更なる根が襲いかかる。
ああ、溜息を零したのは、レラだ。
――人の心を慰めるには。荒れ狂う御霊を慰めるには、それは順当な手段かもしれない。
はとりの献身は、誰にも到底真似できぬ。
――彼とて何にでも、このような戦法は選ばぬだろう。それだけの覚悟があるならば、完遂させてやりたい。
だが、相手は神でもある。我慢比べをしていい相手には思えなかった。
はとりは、人に語りかけている……ならば、降ろされた神に語りかけるのは己の役割だと、レラは表情を改めた。
ぶん、と己に向かって撓る根を、風の刃で斬り裂いて、声を風に乗せる。
「忘れられし神は狂う、もしくは力喪い消える」
肩を入れ、高度を調整する。はとりの視界に入らぬように、この超速飛翔を捉えられるかどうかはあるが、擬坊を挟んで相対せぬように、根を斬って、言葉を紡ぐ。
「凍った時に幽閉された貴殿は消える事無く狂気のみを増したか――遠き地にて忘れられし一羽として、私も解らぬ事は無い」
考えてみれば、わかるのだ――力を喪い、死にかけた苦しさ。
そして玲頼も、死に瀕して、神を受け入れた者だ。
風を切り飛びながら、遠き日の、しかし忘れ得ぬ始まりの日を思い出し、レラは語りかけ続ける。
「神とは人の想いに当てられ易き存在……邪なる想いであれど」
根が、翼を打った。
レラは鋭い痛みに顔をしかめる。しかし、戦い始めた時の勢いはなかった。はとりとのやりとりによる混乱が、神の力を薄めているらしい。
「その怒りは私が受け止める。花嫁を絶望に沈め、貴殿を喚び出した愚かな者は最早おらぬ」
言葉とともに、風を激しく打ち出す。
根がふわっと吹き飛ばされたことであいた空間へ滑り込み、彼は擬坊の横顔に叫ぶ。
「行き場の無きその思いを力の限り解き放て――それで貴殿の気が済むなれば!」
うるさい! わずらわしい!
叫ぶような根の猛攻が、レラを襲う。すべての根を集め、物量で押し潰そうという渾身の一撃であった。
レラは風をとがらせ――貫く。
根のトンネルを潜り抜けるような、長い長い掘削であった。 だが止まらず突き抜け――くるりと転回した刹那、神域が満ちた。
しかしそれもすぐに途切れ、再び根が、暴れる。
はとりは身動ぎひとつせず、神を見つめ続ける。ただ、口を開く。
「あんたは、つまらない殺しで不幸になるべき人じゃない」
振り上げられていた根が――すべて止まった。
そして、擬坊本人は、震え出す。
「あ、あァ……」
己の肩を抱き、苦しみ葛藤するその姿に、二人はそれぞれ、終わったと確信して……動く。
はとりは大剣を躊躇いなく振り上げ、レラは両翼を叩きつけ、神へと滑空する。
コキュートスの一閃は、擬坊を袈裟斬りに、疵からその身を凍りつかせていき――横から飛来したレラの蹴爪は、その氷像を粉砕した。
直後、風を巻き上げ……細氷を舞わせる。
きらきらと輝く空間を羽撃いて、カムイは目を伏せ、囁いた。
「これが私の――神送りの儀だ」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵