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道化の囀りよ、嘆くなかれ

#獣人戦線 #戦後 #幻朧帝国 #【Q】 #ヨーロッパ戦線 #カラス

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「カァー!」
 暗闇の中で響くのはカラスのひと声。その次の瞬間、大きな舞台の中心では、絵の具のバケツをひっくり返したようなシルクハットのカラスを、スポットライトが照らし出す。
 そのカラスの羽毛は、ひと目では種族を見間違えてしまいそうなほどにただ純白。そしてそのどこまでも白い羽毛を、化粧と衣装で不自然に──どこか剽軽で楽しげな色合いで、カラフルに彩っていた。
 カラスのピエロは、小ぶりながら充分に蓄えた純白の羽をゆっくりと広げ、薄桃に染まった嘴を開く。

「紳士淑女の皆さん──ようこそ、シルク・ドゥ・コローネへ!」
 そのカラス、コローネが観客へ呼び掛ければ、観客席からは一斉に歓声が湧き上がり、円形の舞台袖から次々にカラフルな演者が現れ舞台を賑やかす。
 華やかなオープニングを飾りサーカスの公演は幕を上げる。それが悲劇の幕開けとなる等とは──知らぬまま。

 ●

「ヤアヤア、猟兵の皆々サマご機嫌よう!先の戦争はお疲れ様だったね。
 ひと息もふた息も付きたいところだろうけど、揺れ動く世界は待ってくれないからねえ。さっそく一つ、お仕事の時間だよ」
 靴底をカツカツと鳴らしながら猟兵たちの前へ姿を現したバロン・ドロッセルは、手を打ち鳴らし注目を集めると仰々しく両手を広げ高々と声を上げる。

「サア、今回の舞台はヨーロッパ戦線!未だ世界各国で暗躍する幻朧帝国のエージェントが、ターゲットにするのはカラスたちの住まう街だ。
 『逢魔弾道弾』によって、オブリビオン溢れる|異形《フリーク》の街へ変貌させようとしているのさ。恐ろしいねェ」
 そうしてバロンは声を潜め、人相の悪い笑みを浮かべる。影朧兵器『逢魔弾道弾』…それが爆発すれば、この街の全てが『逢魔が辻』へと、オブリビオン溢れる異形の都へと変貌してしまうだろう。
 何としても阻止しなければならなかった。何せ今、このカラスの街には晴れ晴れしい舞台が訪れているのだから。

「この日は、白きカラスの団長が率いる|コローネ一座《シルク・ドゥ・コローネ》の公演日。
 コローネ団長はこの街出身でねェ…小さな大道芸人として駆け出して、今は様々な獣人たちで構成される大サーカスの団長にまで大成したんだよ。
 そんな彼の晴れ晴れしい凱旋となる予定が…ドン!」
 バロンはどこからともなくクラッカーを取り出すと、猟兵たちへ向かって紐を引く。

「一座に潜り込んでいる幻朧帝国のエージェントが、クライマックスで『逢魔弾道弾』を爆破させる。そんな悲劇が待っているんだよ」
 軽快な音から飛び出した紙吹雪とリボンの中でバロンが言葉を続ければ、重苦しい空気が周囲を満たした。
 晴れ舞台が、逢魔弾道弾から飛び出す地獄となるその瞬間に──笑っているのは、オブリビオンだけなのだから。
 バロンはクラッカーを背後に投げ捨てると、再び両手を打ち再び言葉を広げてゆく。

「ネタバラシをするとね。肝心のエージェントは、その歌声で一座の知名度を飛躍させた、黒きカラスの歌姫なんだ。
 美しい歌声を響かせ魅了してきた黒カラス、その正体こそ『機械仕掛けの歌姫マリア』…紛れもなくオブリビオンさ」
 一座の栄光に貢献してきた歌姫の『裏切り』による思いもよらぬ幕引き──それがこの事件の正体であるならば、猟兵にとって重要となるのはどう阻止するのかだろう。

「団長に向かって、急に真実を告げても信じないだろうし…マァ信じたくないもんねェ!
 だから皆々サマは、猟兵であると明かした上でサーカスを思い切り楽しむか、協力することで、ひとまず公演を無事に終わらせてほしいのさ。
 皆々サマの存在だけでもマリアは警戒し、充分な牽制になるだろう」
 なにせ|歌姫《マリア》はサーカスのスターであり、そんな彼女の歌は目玉となる演目のひとつ。猟兵の訪れを察知し雲隠れしたくとも、街の中では些細な行動も注目を集めてしまう。おまけに、彼女は機械仕掛けの身体に改造されているせいで動きも鈍い。猟兵たちの存在を誇示することだけでも行動制限になるだろう。

「そしてね。演者として参加するなら団長や団員の信頼も得られるよ。芸は人なりと言うだろう?
 人生が現れるものらしいからねェ。マリアの真実を伝えたいのであれば…そして、協力を得たいならば、芸を見せ信頼を得ることもオススメだよ」
 信頼を得てカラスたちの協力を得ることができれば、マリアが正体を現したその時、優位に戦えるだろう。だがもちろん、猟兵たちは残酷な真実を伝えないこともできる。晴れ舞台を終えたあと、猟兵たちだけで静かに、人知れず幕を引く…どちらを選ぶにせよ、最悪の悲劇は避けられるだろう。
 バロンは猟兵たちを見渡してから、パチンと指を鳴らした。輝くグリモアが呼び出す重厚な扉を仰々しく差し出せば、開かれる扉が導くのはヨーロッパ戦線。カラスたちの住まう街では、きらびやかな街灯がサーカスに浮かれる街の姿を照らし出していた。

「いってらっしゃい。ひとまず、存分にサーカスを楽しんでくるといい。
 皆々サマの見送る物語が、喜びに満ちている事を祈っているよ」


後ノ塵
 後ノ塵です。はじめまして、あるいはこんにちは。
 獣人戦線での二章構成のシナリオとなります。こちらは「新種族追加」の可能性に関わるシナリオとなり、対象はカラスとなります。
 一章のプレイングは断章公開後から受け付け、二章のプレイング受付開始は後日お知らせ致します。

 一章は日常です。
 観客として、或いは演者としてサーカスを楽しむ章となります。演者として参加すると、サーカスの団長、団員の信頼を得ることができます。マリアについてなど、込み入った話がある場合はぜひ演者としてご参加ください。
 この章の結果が良ければ次章で有利に戦う事ができます。

 二章はボス戦です。
 前章の内容を反映した上で、『機械仕掛けの歌姫マリア』とのボス戦となります。

 皆様のプレイングお待ちしております。奮ってご参加のほど、どうぞよろしくお願いします。
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第1章 日常 『獣人サーカス』

POW   :    自分も参加して観客を楽しませる。

SPD   :    命知らずの技を見て楽しむ。

WIZ   :    数々の奇術を見て楽しむ。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 カァー、と街のそこかしこに響くのは、カラスたちが談笑する楽しげな声。一見なんの変哲もなく見えようが…人口の八割をカラスで満たすこの街は、そこかしこにカラスたちの為の設備や配慮が広がっている。
 例えば、彼らのコミュニケーションを高める為の|拡声器《スピーカー》は、街に住まうのカラスにしか伝わらない暗号めいたローカルな鳴き声を響かせる。今まさに賑わいの真上でカァーと鳴き声を混じえながら知らされる報だって、詳細に聞き取れているのはこの街で育ったカラスだけだ。

 情深く、高い社会性の中にある、カラスたちのあたたかな街。──そこから一度零れ落ちて、舞い戻ったのは、小さな白いカラスの男。けれど、コローネの胸に満ちるのはひたすらに誇らしい気持ちだけだった。
 なにせ、ちっぽけな大道芸人から始まった一座はもう、コローネの小さな身体には余りそうなほど大きな存在となってくれたのだから。

 コローネは誇らしく胸を張りながら、顔を上げて|道化師《ピエロ》に扮する。幾重にも重なる歓迎の声はあまりに心地よく胸に響くせいで、涙が込み上げそうになるけれど…ピエロの涙は、誰かを楽しませる為のもの。自分の為の涙なんて零してはいけないものだ。
 しかもこの街の公演を最後に、歌姫マリアは一座から離れる事が決まっている。幾度となく旅先で芸を交え、その縁からいよいよ一座に席を置くようになってくれたマリア。その思い出を遡れば、コローネ一座として歌を披露した事はさほど多くはないものだ。けれどそれでも、マリアの歌声はコローネと一座にたくさんの喜びをもたらして、一座の名を大きく広める羽ばたきをくれた。
 再び旅の歌姫に戻りたいと希望するマリアを引き留めることはできない。だからこそ、一座のマリアとしての最後の公演を、これまでにない程の──最高のものにしなければならないのだから、団長であるコローネは涙なんか流してはいられない。
 大切な最後の日を、コローネの故郷で迎えることを望んでくれたマリアへ、有終の美を。そしてこの愛しい故郷の観客たちには、心躍る体験と至上の笑顔を。

「ささあ、皆様お立ち会い!」
 白いカラスはこの最高の日に声を張り上げる。歌姫マリアと織り成すステージの始まり、始まり。
フリル・インレアン
ふわぁ、サーカスですか、すごいですね。
ふえ?私もサーカスに参加しろって、アヒルさん。
私にはサーカスは無理ですよ。
そう言うと思って、私には裏方の仕事を手配したって、アヒルさん気が早いですよ。
でも、サーカスの人達の信頼を得るためには頑張らないといけないですし、目立たないならいいかもしれません。
私、頑張ります!
…………そういえば、なんでアヒルさんがヘルメットを渡してきたのかに、すぐ気が付けばよかったです。
裏方の力仕事なんて私にはもっと不向きじゃないですか。


エスト・ファラエナ
カラスさん、お仲間が大勢いらっしゃいますわよ!
これ皆々様カラスなのでしょう? サーカスのためにいらっしゃったのかしら

賑やかな往来ですが、その中でも特に大きな声が聞こえてくるのは、拡声器からですわね
カラスさん、なんと言っているかわかります?……なるほど、住む場所が違えば言葉も違いますわよね
ですが、歌姫マリアさんもここの出身ではないようですし、彼女にまで「猟兵がいる」ことを伝えるためには、普通の言葉の方が都合がよいかもしれません

拡声器、使わせていただきますわね
(息を吸って)ワタシはエスト・ファラエナ
華麗なる乙女、そして猟兵として、サーカスを楽しみに参上しましたのよ!
お手柔らかに、よろしくですわ!



 往来に行き交うそのほとんどが、漆黒のカラス獣人たち──そんな獣人の街へと足を踏み入れたエスト・ファラエナは、肩に伴ったカラスへ明るい声で話しかける。

「カラスさん、お仲間が大勢いらっしゃいますわよ!」
「カァー!」
 エストの肩に乗った一羽のカラスもまた、この街の浮かれた様子に楽しげな声を上げるが、その音色はこの街へ響き渡るカラス獣人たちの音とは全く違うものだ。

『カァー!サーカスは開場中だよ!カァカァー!カァー!』
 街のそこかしこに備え付けられた拡声器がカラス獣人の『声』を響かせる──拡声器を見上げていたエストは布を被った頭を傾けると、思い付いた疑問を相棒へ投げかけた。

「カラスさん、なんと言っているかわかります?」
「カァ、カァー」
 生憎だが──オレには分からないぜ!
 問い掛けられたカラスは軽快にそう返すと、翼をバサバサと羽ばたかせる。カラス獣人たちの鳴き声はこの街で育まれた『別の言葉』とも言える暗号。猟兵の相棒とはいえ、一般的なカラスがその場で解読するのは難があるものだ。

「……なるほど、住む場所が違えば言葉も違いますわよね」
 相棒カラスの解説に、エストは布を被った頭を揺らして納得すると、もう一度拡声器へと頭を上げて思案する。曰く──サーカスの団長コローネはこの街出身という。だが旅芸人でありエージェントである歌姫マリアは別に、ここの出身ではないだろう。ならば彼女にも「猟兵がいる」ことを伝えるのであれば、普通の言葉であるほうがむしろ都合が良い。

 よく見れば、拡声器はどこからでも話せるようにマイクも備え付けられている。エストは柱にもたれ掛かるカラス獣人に上品に会釈すると、マイクを拝借し大きく息を吸い込んだ。乗せる言葉は敵へのアピールであり、カラスたちへの自己紹介だ。

「ワタシはエスト・ファラエナ!
 華麗なる乙女として、そして猟兵として、サーカスを楽しみに参上しましたのよ!
 お手柔らかに、よろしくですわ!」
 流れるように拡声器から響き渡るエストの声に、カラスたちは驚くも──かつての戦争では、猟兵たちの活躍によってこの世界が救われた事はもちろん周知の事実。ワッと広がる歓迎の言葉と歓声はすぐさま伝播して、エストはそのままサーカスの天幕へと導かれてゆく。

 一方その頃、街の広場では一足早くフリル・インレアンが大きな天幕を見上げ息を溢していた。

「ふわぁ…サーカスですか、すごいですね」
 あちこちから聞こえてくるカラス獣人たちの賑やかな声に、楽しげな音楽。本日のサーカスの公演はもうすぐ…となれば、裏では団員たちが忙しなく駆け回っているに違いない。
 ならば、フリルだってぼんやりしてはいられない。早くサーカスに参加しなくっちゃ!周囲の喧騒に負けぬ勢いでアヒルさんがグワッとまくし立てれば、フリルは不思議そうに首を傾げた。

「ふえ?私もサーカスに参加しろって…アヒルさん。私にはサーカスは無理ですよ」
 だが、そんなフリルにもアヒルさんは抜かりがないもの。そういうと思ってたから、裏方の仕事を手配してもらったよ!なんて言いながらフリルの背中をグイグイ押して、あっという間にテント裏へ。

「アヒルさん気が早いですよ!
 でも、サーカスの人達の信頼を得るためには頑張らないといけないですし…目立たないならいいかもしれません…」
 フリルの言葉は上向きの割に、声だけが力なく尻窄みになってゆくが──幸か不幸か、通りがかるのはライオン獣人のサーカス団員だ。

「おっ、アヒルの…ってことは、あんたが手伝いさんか?」
「ふぇっ!ええと、そうです。フリルです」
「助かるぜ!いやぁ人手はいくらあっても助かるからな!でもまぁ、無理はしなくて良いんだぞ」
 近寄りがたい見た目とは裏腹に、気さくな言葉を並べる団員の言葉にフリルは驚き、強張っていた肩の力を抜いた。無理難題や厄介事をフリルに押しつけがちなアヒルさんとは違い、団員は優しい人々なのだろう。と思えば、頑張りたい気持ちも湧いてくる。

「私、頑張ります!」
「おおう!そんだけやる気があれば大丈夫か!頑張ってくれ!」
 満ち溢れるフリルのやる気に、そうしてアヒルさんが差し出すのはヘルメットひとつ。意気揚々とヘルメットを装着したフリルは、ライオン獣人の背中を追い掛けてゆく。…しかし、フリルはすぐに気が付くべきだった。サーカスの裏方仕事なんて、フリルにはもっと不向きであったと──。


「賑やかですわ!皆々様、サーカスを楽しみにしておられますのね」
 カラスたちに導かれ、サーカスの天幕で席に付いたエトナは、どこか落ち着き無く周囲を見渡していた。
 猟兵だから、せっかくだからと一等良い席を譲ってもらった事にも、いよいよ始まるサーカスの公演にも、エストの心は高鳴り胸を打つばかりだ。エストの膝の上でやれやれ、なんて大人びた顔をする相棒もどこか落ち着き無く足踏みをしていた。

 そうして思い思いのざわめきに包まれる中で、明るく照らされていた天幕の中には前ぶれなく暗闇が降りてくる。
 夜が息を潜めるように、沈黙の広がる暗闇の中──膨らんだ期待が弾けるように、カラス獣人の声が高々と響き渡る。

「紳士淑女の皆さん──ようこそ、シルク・ドゥ・コローネへ!」
 スポットライトが照らすのはカラフルな白カラスのピエロ。団長コローネの軽快な挨拶に観客は一斉に湧き上がり、そのまま流れるように始まるのは、賑やかで華やかなオープニング。挨拶代わりに団員は入れ替わり立ち替わり、ちょっとした芸を披露しながら現れては捌けてゆき、その合間ではピエロが筆頭となり剽軽な姿を見せて笑わせる。
 息を付く間もない楽しさに、観客はついついのめり込むが、楽しく鮮やかな本番はここからだ。

「ささあ、お次はネコたちによる華麗なブランコにございます!
 皆様、瞬きはお済みですかな?これより始まるのは瞼を盗む技の数々──!」
「聞きまして、カラスさん?ワタシ、瞬きせずにいられるかしら…!」
「カァー?」
 …え、瞼あったっけ?
 布の頭をしげしげと眺めて、そんな事を言いかけたカラスの頬に、エストは素早く両手を添えてぐいっと押しのけ正面を向かせる。

「今はサーカスを楽しむ時間ですわ、カラスさん」
 エストの言葉にカラスは静かに頷いた。乙女の容姿に言及するなんて、言語道断なのだから。

 そうして、ステージには再び暗闇が降りてゆく。ほどなく灯る輝きは──コローネの予告通り、空中を飛び踊るネコ獣人たちの素晴らしい曲芸の数々だろう。

 そして、そんな鮮やかなサーカスのその裏は、また違った喧騒で騒がしくどこか泥臭い。…裏方とはいつだってそういうものだ。

「おい早くライトを切り替えろ!」
「うっわ危な!ボサッとしてたら邪魔だよ!?」
「ふえぇ!すみません…!」
 軽く挨拶に回った時は皆優しそうだった獣人たちも、ショーが始まってしまえば忙しさに気持ちが回らないものとなろう。目まぐるしい忙しさにフリルは目を回すが、もはや目を回してる暇もない。小さな事からちょっとした力仕事なんかもスタートから、否、公演が始まる前から目白押し。もちろん、フリルにできる範疇の手伝いに収まるものだが──想定よりも圧倒的に忙しく、アヒルさん共々駆け回れば、ミスったなー裏方が忙しくて何にも観れないみたい!なんてアヒルさんがテヘペロリ。

「ふぇ、酷いですアヒルさん…」
「ちょっとアナタ、ダベってる暇あるの?」
「ふえ!?えっと、ふえぇ、手は空いてます…!」
「ならこれ持ってって」
 雑に放り投げられたショーの小物を受け取って、フリルとアヒルさんは駆け回る。華やかな裏側では汗水垂らし、どこの誰にもなんとなく粗雑な態度を向けられて、それなのにこっちばっかり気を使う。けれど、頑張るといった手前投げ出すわけにもいかない、なんてところが一番大変とも言えるだろう。

「ナイスタイミング!助かったよ、ありがと!」
「は、はい。ふぇえ、頑張ってください!」
「そっちもねー!」
 けれど──ささやかなお礼の言葉や笑顔で互いに支えられている。華やかなショーの裏方とはいつだって、そういうものだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

禹・黄風
…真実は残酷で、しかし為さねばならぬ事は変わらない。
なるべくなら平穏に、真実は伏せたまま解決したいところですが、さて。

演者として参加。
団長には礼儀正しく挨拶、ただし本命のマリアがオブリビオンだという事だけは伏せた上で。
東方からやってきた猟兵…舞台で紹介して貰うなら旅芸人辺りがよさそうでしょうか。
演目は軽業、如意三節棍で演舞を披露しつつUCも活用して派手な芸を披露しましょう。
西洋の方だと東方の仙術とか勝手に想像とか膨らましてくれそうですし。
マリアには気づいていないふりを、猟兵だと伝えておけば晴れ舞台が終わるまでの牽制になるでしょう。
…正体を勝手に明かさないといいのですが。

※アドリブ絡み等お任せ



 鮮やかに演じられるサーカス。それを舞台袖で見つめていた禹・黄風は微かな吐息をこぼした。なにせ今ここには笑顔が溢れていれど──この彩に溢れる場所は人知れず、脅威に晒されているのだから。

「黄風殿!緊張はしていないかね?」
 黄風が棍を静かに撫でたその時、声をかけてきたのは、先に挨拶を交したばかりの小柄な白カラス…このサーカスの団長だ。舞台仕様にピエロに扮したコローネの姿は、気さくな気性をさらに砕いて陽気にさせているようで黄風の頬もつい緩む。

「お心遣い感謝します。緊張は…そうですね。少しばかり」
「ははは!それなら私と同じだ!なにせ、世界を救った英雄方に芸を披露するどころか、芸をさせるのだからね!」
 そう言ってウィンクをするコローネに黄風は頬を緩ませ笑顔を返した。挨拶の折に、黄風は己の素性やこの地へ訪れた目的をコローネに明かしている。だが、黄風たち猟兵がどんな予知に導かれてここに来たのか──その子細や、特にマリアの正体については口を噤んでいた。
 隠し事があれば自然と振る舞いは硬くもなるもの。だがその硬さは、武人としてではなく芸人として舞台に挑む黄風の緊張なのだと…そう解釈してくれるのは好都合だった。

「なに、英雄方がゲストとして参加してくれるというだけで盛り上がるものだ!
 観客を楽しませるのはもちろんだが…黄風殿にも楽しく演じて貰いたいと思っているよ」
「もちろんです。私も楽しませて頂きます」
「うんうん何よりだ!…それで、だね」
 笑顔を見せながら軽快に言葉を並べていたコローネは、ふいに声を潜めると嘴を己の羽で覆うように隠した。

「…公演は本当にこのまま続けて良いのだね?」
「はい。猟兵の前では敵も動くことはできません。もしも万が一、怪しい動きがあったとしても必ず阻止します」
 不安に揺れる密やかな声へ、黄風は力強く断言する。この晴れ舞台の邪魔をさせない為に、猟兵たちはこの場に集った。ならば、結末を迎えるのはこのサーカスの外に。全ての公演が終わってから、結末へと持っていけば良い。
 不安に揺れていたコローネの眼差しは安堵に変わり、彼はその見目に似合いの笑顔を浮かべる。

「助かるよ!すまないね。本来なら公演を中止しなければならないのに」
「いいえ。徒らに不安を煽ることもないのです。猟兵が守るべきは人と場。人々の心ですから」
「嬉しいよ。私は戦えぬ者だが、気持ちは同じだ」
 固く握手を交せば、いよいよ黄風の出番も差し迫る。その時通り過ぎようとした黒い影にコローネは明るい声で呼び掛けた。

「おおマリア!客入りを見に来たのかね?」
「…ええ。そちらの方は」
「猟兵の黄風と申します。場を借りて芸を披露させていただきます」
「各地を回っているそうなんだが、なんとサーカスに飛び入り参加してくれるんだ。素敵だろう!」
「まあ…素敵なサプライズですね」
「そうだろう、そうだろう!」
 するりと言葉を並べたコローネは黄風へウィンクをすると、マリアと親しげに談笑しながら去ってゆく。
 華やかな舞台の裏に潜む真実は残酷で──しかし為さねばならぬ事は変わらない。
 そうして、いよいよ黄風の出番は訪れる。

「特別なこの日に特別なサプライズを!
 東方から出でたる英雄が、皆様に仙術を御覧にいれましょう──!」
 歓迎の拍手に迎えられながら、如意三節棍を携えた黄風はスポットライトに照らされる。
 一礼の後に三節棍を構えると、呼吸を深め丹田に気を集めて煉ってゆき、最も高まるその瞬間に勁を発する。

「ハアァッ!」
 勁は文字通り大気を震わせる。静まり返るステージの上で、黄風はゆるやかに動き出す──自然を感じ、自然に気を一致させる。柔らかに円を描く動きは徐々に大きく広がりその速度を増してゆく。静から動へ、木々から風へ。
 緩急をつけながら演じられるその演舞は、まるで空を飛び交う不可視の敵と戦っているかのよう。天地を失わせる動きはまさしく仙術──息を呑むばかりの観客にはきっとそう見えていることだろう。
 数々の技を魅せ、不可視の敵を打ち落としてきた黄風の視線が天を見上げ、虎の巨体が音もなく飛び上がる。次の瞬間、振り下ろされる三節棍によって不可視の敵は落とされた。

「──ありがとうございました」
 黄風が一礼を終えれば、遅れて我に返ったように千切れんばかりの喝采が贈られる。深々と礼を返しながら、黄風は舞台袖へ視線を向けた。

「なるべくなら平穏に、真実は伏せたまま解決したいところですが…さて」
 後はマリアの動き次第。正体を勝手に明かさなければ良いが…複数の猟兵たちの目がある中で無謀な事は選べまいか。
 舞台袖からこちらを伺うマリアの姿に、黄風は僅かに目を細めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

葛城・時人
相棒の陸井(f35296)と

戦争で既に疲弊したこの世界で
これ以上の嘆きは要らない
テロなんか絶対許さない
護るべきを護る為に此処へ

幸い俺達は猟兵
「UCで魅せる事出来るよね」
相棒も同じ考えで一致した

二人で団長に俺達の技で花を添えたい旨を伝え
俺のククルカン見せて
「これと相棒の黒龍が舞い踊るとかどうかな?」

了解を得られたら出番まではこっそり監視はするよ
団員達には後で俺達、歌姫のサイン欲しいんだよとか
前振りもしておくね

舞台は音楽に合わせて
二匹でとんぼ返りとかじゃれ合うとか
いけそうなら双方騎乗して
武器の打ち合わせ等の猟兵らしい行動もね

きっと彼女には十二分に抑止力になると思う
公演の邪魔は最後まで絶対させないよ


凶月・陸井
相棒の時人(f35294)と

あれだけの戦いがあった後なんだ
この世界に笑顔が溢れる機会を
絶対に護り通す

それに猟兵としての身を明かし
その上で彼らの公演の一員として
演者として凱旋を盛り上げたい
「あぁ、俺達向きだよ」

その上で何を使うかと考えたけど
此処は相棒の提案に乗ろうか
俺はこれをって言ってから
少し小さめの文字で墨の黒龍を
相棒は白燐蟲を見せて
「実際はもっと大きくで魅せるよ」
これでOKが貰えたら良しだ

後は相棒と一緒に敵の監視だけど
これはあくまで様子見程度だ
団員達にちょっと話は聞くけどね

後は幕が開いて始まって
音楽に合わせて呼び出した白と黒が空を舞う
相棒とも武器を合わせて
「さあさあ皆さんお立合い、ってな」



 永きに渡る戦争の歴史が、人々の嘆きを形作ってきた獣人戦線。人々の営みはどれほど疲弊の中にあっただろう──けれど獣人世界大戦は猟兵たちの手によって完勝を迎え、ようやく世界には多くの笑顔が溢れる機会が訪れようとしていた。

「せっかくの大舞台に、俺達の技で花を添えたいんだ」
「もちろん大歓迎だとも!」
 そうして大きな決意と意気込みを胸に、団長のコローネの前へと挑んだ葛城・時人の売り込みは──思わぬ滑らかさで快諾される。思わず相棒の凶月・陸井と顔を合わせて瞬きを交わすが、聞けば先んじてサーカスへ演者として参加したいと申し出た猟兵がいたという。それなら話が早いのも頷けよう。ならばあとは肝心の演目の内容だ。

「俺の|白燐蟲《ククルカン》と相棒の黒龍が舞い踊るとかどうかな」
「実際はもっと大きくで魅せるよ」
「ほほう!これは迫力のあるものになりそうだ!」
 時人が小さな白燐蟲を呼び出し陸井が筆で小さな黒龍を書き出して、小さなリハーサルを披露すればコローネは笑顔で拍手を贈る。

「ううむ…ぜひ音楽でも盛り上げたいものだが…こちらの団員が演奏できる曲でも対応できるかね?」
「任せて!あ、でも事前に曲を聞けるなら聞けると嬉しいよ」
「流石にぶっつけ本番じゃ不安もあるからな」
「おおー!頼もしくて助かるよ!
 なに、うちには楽団員もいるのだが、自由なものでね。ちょっと即興も入ると思うんだが…」
 そうして熱を帯びた声色のコローネと、他の団員共々打ち合わせを進めていけば、演目のプログラムについての話も恙無く。
 その後には挨拶がてらサーカス団員たちに声をかけて回っているうち、マリアの様子を伺うこともできたのは僥倖だった。ここにはそれとなく複数の猟兵たちが散っている上に、聞けばマリアも本番を間近に忙しないのは他の団員と同じく。

「実は俺達、歌姫のサインが欲しいんだけど…」
 そんな話も振っておけば、団員たちからは二人がマリアを視線で追い掛ける事に、違和感も抱かれることもなかった。見て取れる忙しさを前に、ついついサイン一つも憚れて、タイミングを見計らう控えめな猟兵たち…きっとそんな印象だろう。
 そうしていればマリアが無謀なことを画策する暇もありはせず、あっという間に二人の出番は訪れる。

 時人と陸井はいよいよ、華やかな彩に溢れるサーカスの舞台袖から天幕を見上げる。この街の人々にも、サーカスに訪れた人々にも、嘆きはもう必要ない。護るべきを護る──その為に此処へ訪れた二人のすべきことは決まっている。

「俺達のユーベルコードなら魅せる事も出来るよね」
「あぁ、俺達向きだよ」
 並び立つ相棒と顔を合わせれば、二人の顔には楽し気な笑顔が浮かぶ。護るために…今、この華やかなサーカスに贈るのは、とびきり魅力的な彩りだけだ。

「ささあ!次なるは白と黒の織り成す摩訶不思議!
 世界を救いし英雄たちの、宙を踊る大立ち回り──!」
 暗転したステージでパーカッションがリズムを刻み、シンバルが響く。高らかに奏でるラッパの音に合わせて、眩しく輝くステージへ。

「輝けるその白き翼もて征けククルカン!」
「さぁ、その黒き身で空を駆けろ。昇龍」
 膨らむ音楽の中から飛び出すのは、光り輝く純白の翼の蛇と水墨画のような濃淡の黒龍。
 激しくうねる動の蛇と、涼やかに舞う静の龍。その色も存在もどこか対照的な蛇と龍はぐるりとめぐり、音色の緩急に合わせてじゃれ合うように長い体を絡ませながら宙を踊り円を描く。

 客席の目前まで迫り、ダイナミックに飛び回る巨大な白と黒に観客は揃って息を呑む──だが、まだこれだけでは終わらない。蛇と龍はひとつ大きく宙返りをしてみせると首を伸ばし地へもたげ、背にそれぞれの猟兵が飛び乗った。

「さあさあ皆さんお立合い、ってな」
 揃いの衣装をはためかせ、二人は互いに武器を構えて大立ち回りを繰り広げる。激しさを増す音楽に背中を押されながら、すれ違いざまに武器を重ね打ち合えば、鋭い剣戟が音楽に色を添える。

 舞い踊るように披露するのは卓越した闘いの技──数多の世界を渡り歩いてきた猟兵としての姿。寸分違わず重なる呼吸の中で、幾度も白刃を煌めかせる。紙一重で避けて打ち合い、寄れば引いてまた刃を打ち鳴らす。それは二人が互いを信頼し、進んできた歩みの数々──。

 シンバルが再び大きく鳴り響き、武器を構えた二人の猟兵は蛇と龍の背を飛び出した。観客が揃って驚きの声を上げたと同時に、ステージは暗闇に包まれる。巨大な気配だけが蠢く中で、音楽は静かに潜めゆき沈黙が訪れる。
 ひと呼吸の後、スポットライトが明るく照らすのはステージの中心──白蛇と黒龍の姿は嘘のように消え去り、時人と陸井の二人の猟兵だけが、涼し気な笑顔を浮かべて両手を広げていた。

「ワアアァ──!」
 堰を切ったように歓声と喝采が溢れサーカスの天幕に満ちてゆく。二人はぐるりと観客を見渡しながら何度も会釈を返し、とめどなく贈られる賞賛を受け止めた。今この場で所狭しと溢れている彩りは、この世界に似合いの笑顔という花だ。

「公演の邪魔は最後まで絶対させないよ」
「ああ。絶対に護り通す」
 サーカスの演目もほどなく終幕──己の出番を間近に舞台から背を向けるマリアの姿に、二人は静かに拳を突き合わせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『機械仕掛けの歌姫マリア』

POW   :    アリア「我が血肉は怒りの炎に焼き裂かれ」
【胸に埋め込まれた拡声器】から【戦場全体に響き渡る歌声】を放ち、敵及び周辺地形を爆発炎上させる。寿命を削ると、威力と範囲を増加可能。
SPD   :    アリア「いざ行かん、怒りに震え身を任せ」
【自身の喉】から、戦場全体に「敵味方を識別する【荒ぶる歌声】」を放ち、ダメージと【混乱とバーサーク】の状態異常を与える。
WIZ   :    アリア「止まるまいぞ、鉄を纏う古強者よ」
自身の歌う「【アリア「止まるまいぞ、鉄を纏う古強者よ」】」を聞いた味方全ての負傷・疲労・状態異常を癒すが、回復量の5分の1を自身が受ける。

イラスト:SA糖

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は仇死原・アンナです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 そうして──猟兵たちの監視下の中では、エージェントであるマリアも思うようには動けぬままに。華やかなサーカスが平穏な楽しさであっという間に過ぎてゆけば、いつの間にか最後の演目を迎えていた。
 楽しい時間を名残惜しむ間もなく、今日の最後を飾るのは──この舞台を最後に、このサーカスから去ってゆく歌姫マリアだ。
 スポットライトを浴びながら、コローネは笑顔で観客席をぐるりと見渡す。どこもかしこも笑顔ばかり…寂しさは胸に積もっていても、コローネの顔に涙は滲まない。恵まれた縁に紡がれて辿り着いたこの舞台は、このサーカスの公演の中で最も素晴らしいものなのだから。

「この晴れの日を、我が故郷で迎えられる事を嬉しく思います。名残惜しくなりますが、次の演目で本日のサーカスは最後となります。
 それでは皆様。ご清聴ください──歌姫マリアの祝福の歌を!」
 暗闇の中、観客は期待に染まり静まる。雲の切れ間から月が姿を覗かせるように、淡いライトの中で照らされるのはマリアの姿。両手を広げる歌姫は数多の期待を受け止めながら、高らかに歌い上げる。この世界に、この街に…|祝福あれ《・・・・》と──。

 そうして歌姫が贈る祝福の歌へ、観客の賞賛は惜しみなく。鳴りやまぬ拍手と冷めぬ興奮は再演を望むけれど、歌姫や猟兵との共演は今日限り。エンドロールのように演者一同が舞台へあがり、花吹雪が舞い踊る。

「ありがとうございました!シルク・ドゥ・コローネの公演でまたお会いしましょう!
 カァー、カァー、カカァー!」
 鳴り止まぬ歓声と喝采の中で、サーカスの幕は下りてゆく。観客たちは幾度もサーカスの天幕を振り返りながら、素晴らしい日だったと口々に囁き家路についてゆく。そしてそのサーカスの舞台裏では──舞台の上とは一転して、いよいよ涙を滲ませたコローネが色とりどりの大きな花束をマリアに差し出していた。

「最高の歌声をありがとう、マリア。寂しくなるけれど、私たちは素晴らしいこの今日と、最高の歌姫である君の事を忘れないよ」
「…ありがとう、コローネ。私も…今日を忘れないわ」
「さあ湿っぽいのも程ほどにしようか。これから全員で打ち上げといこう。私の奢りでね!」
「やったー!」
「コローネ団長ったら太っ腹ー!」
 笑顔を溢れさせるサーカス団員たちは、予知に語られた悲劇など知る由もない。こうしてコローネの輝かしい凱旋と街の平穏は、猟兵たちによって守られたのだ──。

 サーカスの賑やかさを引きずっているのか、街はどれほど夜が更けてもどこもかしこも酒場に明かりが灯っていた。…だからこそ、出歩くには少しばかり気を配らねばならなかった。
 マリアは忍び足で路地をゆく。日頃から酒の場をそれとなく嫌煙していたお陰で、送別会を兼ねた宴から抜け出しても咎められることはなかった。うっかり顔を合わせた団員たちに、マリアがいない理由を繕うことを頼んでおいた事も、多少は時間稼ぎになるだろう。
 だが急がねばならない。この地には何人もの猟兵が目を光らせている。猟兵たちがマリアの動きに勘付く前に、全ての終わりを迎えなければ──。

 マリアは夜に潜みながら、ひと気のなくなったサーカスの舞台へと舞い戻る。|都合良く《・・・・》今ここには誰もいないのだから、狂わされた予定の帳尻を合わせる絶好のチャンスだった。
 誰もいないサーカスの舞台を突っ切って、通り抜けようとしていたマリアはふいに足を止めた。コローネの奢りだからと団員がこぞって連れ出されたのは事実だ。けれど──本当に誰一人も、いないことがあるのだろうか?

 サーカスの天幕はなんの気配もない──不自然なほどに。マリアの胸に違和感が風船のように膨らんだその時、スポットライトがマリアを照らした。

「く…っ!!」
 不意を付く眩しさにマリアは瞳を覆い歯噛みする。演目の為に舞台へ上がる時とは、観客から向けられる羨望と期待の眼差しなどとは全く違う──機械仕掛けの歌姫マリアに今注がれているのは、猟兵たちの敵意だ。

 いつ気付かれたのか。まさか──最初から?
 けれど問答をしている暇などはなく、なりふり構ってもいられない。マリアは両手を振り乱すと衣装を引き裂き己の本性を明らかとする。
 胸元から現れるのは花のような拡声器。機械仕掛けの体に潜む音響兵器が響かせるのは、サーカスの舞台で披露した高らかな歌声などではなく、耳障りなノイズの混ざった不協和音。
 不協和音が不吉なメロディを響かせる中、マリアはひび割れた喉を震わせる──煩わしい猟兵たちに、|災いあれ《・・・・》と。
禹・黄風
華やかな凱旋は守られ街もまだ平和なまま。
後は手早く、被害の内容に悪しきオブリビオンを倒しましょう。
…舞台の裏の騒ぎなど気づかれないのが一番でしょうから。

気を練り上げオーラとして纏い高めつつUC起動、宙を舞って敵の攻撃を回避しましょう。
先程の舞台での演武とは違った軽業、とくとご覧あれ。
向こうのアリアは仲間を癒すものでしょうが…このたった一人の状況ではそれもあまり効果はないでしょう。
拡声器からの音響攻撃や内蔵兵器等で攻撃してくるでしょうが、オーラで直撃を防ぎつつ飛翔回避して三節棍の一撃を拡声器に叩き込みましょうか。
できるだけ舞台や天幕に被害及ばぬよう守りながら戦いたいですね。

※アドリブ絡み等お任せ



 観客のない舞台にたったひとり。サーカスの歌姫としてではなく──オブリビオンとして、スポットライトの下でその正体を現した機械仕掛けの歌姫マリア。…その姿に、禹・黄風は静かにコローネの顔を思い浮かべる。
 華やかな凱旋の公演は守られ、街もまだ平和なまま。ならば彼の美しい思い出を汚すことなく、真の終幕を隠し通し終わらせる事は、猟兵からの餞となるだろう。

「…舞台の裏の騒ぎなど気づかれないのが一番でしょうから」
 黄風は小さく言葉を吐き出すと、鋭い眼差しをマリアへ向ける。ただ悪しきオブリビオンを倒す猟兵として──黄風もまた、この観客のない舞台へ登場する。

「先程の舞台での演武とは違った軽業、とくとご覧あれ」
 オブリビオンにも、無人の観客席にも一礼は不要。黄風は間髪入れずに如意三節棍を構えると、深い呼吸の中で気を煉りあげてゆく。
 ライトに照らされるマリアの姿に、ひと際禍々しく浮かび上がる拡声器。舞台へ上がった敵対者にマリアはひび割れた音を震わせて──ノイズ混じりの不協和音と交差するメロディは、音速の弾丸となって吐き出される。

「──!!」
 拡声器から放たれる不可視の弾丸に、黄風は足裏から勁を発し跳躍すると、その巨体で軽々と空中を舞う。
 ひび割れたスタッカートは黄風へ絶え間なく襲いかかるも、軽身功によって空中を縦横無尽に飛び回る姿を捕らえることはできない。

「自然を感じ、自然に気を一致させる――そうすれば、この通り」
 いくら不可視の弾丸を放とうとも、天地を失わせる黄風の動きに付いてゆくのは至難の業だ。そして黄風は空中を駆けながら、サーカスの設備にも目を配る。この天幕も舞台もサーカスの財産だ。何も悟らせずに事を収めるには設備や備品のひとつとて壊されるわけにはいかないのだから。

 時に流れ弾を気のオーラで防ぎながら、黄風はマリアの声が途切れるタイミングを狙って、徐々に距離を詰めてゆく。マリアの攻撃は声を糧に放つもの…その体が機械に改造し尽くされていようとも、マリアがどれほどの歌姫であろうとも、呼吸に攻撃の隙間はできる。
 黄風は攻撃の僅かな隙間を縫い進み──空中を飛翔すると一気に距離を詰め、三節棍を振り抜いた。

「そこです!」
 狙いはひとつ、マリアの胸元に咲く拡声器。マリアの防御は間に合わず、三節棍の打撃が拡声器に命中し甲高い音が不協和音を途切れさせた。

「ぐぅっ…止まるまいぞ、鉄を纏う古強者よ──!」
 強烈な一撃にたじろぎ膝を付くマリアは、すぐさま癒しのアリアを歌い奏でるが──その力は自陣の兵がいてこそ、真価を発揮するもの。己の傷を僅かに癒そうとも、たった一人の舞台では観客無き歌姫のアリアは、どこにも届くことはない。

 マリアの胸元の拡声器には大きな亀裂が走る。けれど、そのオブリビオンは割れ欠けた花をかばいながらも立ち上がる。
 音響兵器は途切れた不協和音を奏で、マリアは再び喉を震わせる。黄風も警戒を強め再び三節棍を構える──この災いの演目は、まだ終わってはいないのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リカルド・マスケラス(サポート)
『正義のヒーローの登場っすよ~』
装着者の外見 オレンジの瞳 藍色の髪
基本は宇宙バイクに乗ったお面だが、現地のNPCから身体を借りることもある
NPCに憑依(ダメージはリカルドが請け負う)して戦わせたりも可能

接近戦で戦う場合は鎖鎌や鎖分銅の【ロープワーク】による攻撃がメインだが、プロレスっぽい格闘技や忍者っぽい技もいける
遠距離戦では宇宙バイク内臓の武装による射撃攻撃やキャバリアによる【結界術】
その他状況によって魔術による【属性攻撃】や【破魔】等使用。

猟兵や戦闘力のあるNPCには【跳梁白狐】で無敵状態を付与できる。

基本的にチャラい上辺ですが、人々の笑顔のため、依頼自体には真面目に取り組みます



「正義のヒーローの登場っすよ~」
 宇宙バイクのエンジンを唸らせて、次に舞台へ上がるのはリカルド・マスケラス──と、その装着者だ。軽薄そうに薄ら笑いを携えたリカルドは、しかしキリリと装着者の表情を引き締める。
 猟兵からの一撃を食らってもなお、機械仕掛けの歌姫マリアは未だその膝を折ることはなく…それどころか、更なる敵意を燃え滾らせているのだから。

 己の負傷など顧みず、マリアは喉を震わせる。ただ目の前の敵を屠り、この街へ災いを齎す──その為に。

「猟兵に、この街に災いを──我が血肉は怒りの炎に焼き裂かれ!」
 割れ欠けた花の拡声器から響きわたるのは怒りのアリア。この舞台も天幕も、すべてを焼き尽くす火炎がくすぶり弾けさせれば、リカルドの装着者の顔にも焦りが浮かぶ。

「うわわっ!?」
 旅のサーカスの設備は組み立てや解体が円滑な分、耐久性などには期待ができない代物だ。耐火性の素材は使っていようが、オブリビオンの炎ではひとたまりもないだろう。リカルドは焦ってバイクを走らせながら、首を振って延焼を何度も見渡し、けれどすぐさま装着者にニヤリと殊勝な笑みを浮かべさせた。

「なーんちゃって。攻撃は無駄っす。全て己自身に返るんすから」
 リカルドが装着者のオレンジ色の瞳を怪しく輝かせマリアを凝視すれば、その機械仕掛けの体からは激しい火炎が吹き上がった。漆黒のドレスが炎に焼かれ、驚くマリアは歌を止めて炎を振り払う。
 忍法・鏡魔眼の術…敵意を反射し自滅に導く視線は更に、場に散った炎を揺らめかせながら集束させてゆく。

「何も燃やさせやしないっすよ!皆の笑顔を守るのが猟兵っすから!」
 リカルドはバイクで観客席へと駆け上がると、エンジンを吹かしジャンプする。宇宙バイクが向かうのは、舞台の空中に浮かび上がるアリアの火球。

「っ…!!」
 火球を押し付けながら、念動力を纏ったバイクの体当たりがマリアを襲う。
 嘆きの終焉などこの街には似合わない──破滅を迎えるのはマリアだけだ。このサーカスに似合うのは、観客の楽しげな笑顔だけなのだから。

成功 🔵​🔵​🔴​

フリル・インレアン
ふええアヒルさん、なんで私はみなさんが打ち上げに行っている間もお片付けしなければいけないんですか?
しかも、灯も付けちゃ駄目で物音も立てたら駄目って、何時間もかかってしまいますよ。
ふえ?大仕事と応援もすぐ来るからそれまでに舞台の邪魔になるものは片付けておけって、いったい何が始まるんですか?
ふわ!?眩しいです。
あれは歌姫のマリアさんに、この気配は猟兵のみなさんですね。
ふえ?最後の大仕事は逢魔弾道弾の解体ですか?

ふええ、爆発炎上って燃えちゃうじゃないですか。
えっと、こうなったら叩けば治るの魔法で拡声器のコードを切断してしまいましょう。



 時は少し遡って──。

「ふええアヒルさん、なんで私はみなさんが打ち上げに行っている間もお片付けしなければいけないんですか?」
 サーカスから人の全てが出払っている中、フリル・インレアンはアヒルさんに引き止められ、一人と一羽でサーカスに寂しく残り。|ものすごく《・・・・・》静かに、いそいそお片付けに励んでいた。

「しかも、灯も付けちゃ駄目で物音も立てたら駄目って、何時間もかかってしまいますよ」
 フリルは蟻のような囁きでヒソヒソ抗議。けれど、アヒルさんは裏方はそれくらいできて当然!と突っぱねる。とはいえアヒルさんは鬼ではない。フリルに全部任せるつもりはないよと補足してくれる。

「ふえ?大仕事と応援もすぐ来るからそれまでに舞台の邪魔になるものは片付けておけって、いったい何が始まるんですか?」
 さてなんでしょう。大事なところはしらばっくれながら、アヒルさんは物音を立てないよう注意深く慎重に、そして厳しくフリルを監視する。フリルは仕方なく指示に従っていそいそ。うっかり物音を立てないように、舞台や観客席から邪魔になりそうな、とりわけ燃えそうなものをすっかり片付けたり、|怪しそうな《・・・・・》ところを徹底的に整頓してゆく。
 どれほど時間が過ぎたのか。そのうち舞台へ近付く気配が一つ。フリルは不思議そうに顔を上げ、アヒルさんは急いでスポットライトのスイッチを入れた。

「ふわ!?」
 思わぬ眩しさにフリルは声を上げる。舞台の上で照らされるのは狼狽する歌姫マリア──気付けばいつの間にか、周囲は他の猟兵たちの剣呑な気配が満ちていた。だがただならぬ空気に戸惑う暇はない…大仕事の時間だ!

「ふえ?最後の大仕事は逢魔弾道弾の解体ですか?」
 マリアが皆とドンパチしてる隙にフリルは仕事を片付けなきゃ!アヒルさんに急かされて、物音なんて気にせず急ぐのは、昼の懸命なお手伝いと夜の静かな捜索によって暴き出した、放ったらかしの逢魔弾道弾の在り処。マリアが公演の最後に|起動する《サプライズ》予定だったもの。マリアの足では猟兵たちと敵対している今起動する余裕はなくとも、念には念を入れるのができる裏方だ。

「斜め45度から叩けばいいんですね?」
 そうしてフリルは叩けば治るの魔法。サイキックの平手打ちは真っ二つに切断する。派手な音にマリアが異変に気付いても時既に遅し…逢魔弾道弾はもう機能を失っている。

「おのれ邪魔を…ッ我が血肉は怒りの炎に焼き裂かれ──!」
 激高するマリアの拡声器から響き渡るのは怒りのアリア。サーカスのあちこちがくすぶり始めてフリルは大慌て。

「ふええ、爆発炎上って燃えちゃうじゃないですか!」
 アヒルさんは身を挺して鎮火に急ぎ、フリルは舞台に向かって飛び出しマリアの元へ。
 歌を広げるマリアへフリルは再びサイキックの平手打ち。それは電子機器に止めを刺す叩けば治るの魔法。拡声器のコードを切断すれば、アリアは途絶えて炎は掻き消えてゆく。サーカスを炎上なんてさせない──だって舞台を守るのは、裏方のお仕事なのだから!

大成功 🔵​🔵​🔵​

葛城・時人
相棒の陸井(f35296)と

事此処に至ったら是非はないだろうけど
俺は一度は聞きたいんだ
「諦めて立ち去る事は出来ないかな?」
って

帝国に従うのは信念か人質でも取られているか
裏切りは難しいだろうけどそれでも

無理なら残念だよと呟いて戦闘行動に入ろう

天幕は壊したくないから
可能な限り肉薄し彼女だけ狙うよ

陸井の黒龍に上手く飛び乗ったり攻撃を躱しながら
彼女の間近にたどり着く

彼女自身の動きは鈍くとも激烈な攻撃が来るし
傷も負うだろうけど
それでも正面から彼女を真っ直ぐ見て
「君の企みは成就させない」
命還光を詠唱する

「安心して…?此処の人達には何も言わないよ」
君は歌姫のまま逝けばいい

「君の歌は本当に素晴らしかったよ…」


凶月・陸井
相棒の時人(f35294)と

俺も思う所は沢山ある
あれだけの喝采と団長やサーカスの人々の笑顔
時人が問いかけたくなるのも当たり前だ
「あの場の空気は、本物だったからな」

だからこそ、言葉をかけるのは相棒に任せて
俺はいつでも力を振るえるように警戒を
言葉以外での返答があるなら俺が止める
「できれば、言葉で返してほしかったよ」

サーカスにも傷をつけさせるつもりはない
交渉決裂と同時に黒龍で突っ込み
狙いを俺の方へ絞らせるように舞う
さっきの演目を見ていたから
黒龍の力は良く分かるだろうからね
「ほら、俺はこっちだぞ」

早さで翻弄しながら足場になるよう飛び
時人の光と共に、俺の刃を振るって幕引きを
「ここで、静かに終わらせよう」



 舞台上で、機械仕掛けの体を暴いたマリア。猟兵たちとの戦いの中で、幾度となく負傷を負ったその姿には、もう歌姫としての面影はなく。そして逢魔弾道弾無き今、エージェントとしての役目ももはや果たすことはできなくなっていた。
 けれどマリアは喉を震わせ、ぎこちなく癒しのアリアを歌い奏でる。僅かばかりに己の傷を癒やし、猟兵たちの前に立ち塞がる。その姿は間違いなく──災いを振りまくオブリビオンと言えるもの。

 事此処に至ったら是非はない──。
 マリアがオブリビオンである事も、この街を滅ぼそうとしていた事も、変えようのない事実でしかない。けれど葛城・時人は、もはや歌姫ではなくなったマリアの姿を真っ直ぐに見据えて、足を一歩前へ踏み出した。

「諦めて立ち去る事は出来ないかな?」
 悲しげに眉を下げた時人からは、苦々しい言葉が溢れだした。時人はどうしても聞かずにはいられない。華々しいサーカスの公演の最中、あれだけの喝采に、団長やサーカスの人々の笑顔の中に、マリアは確かに立っていたのだから。

「あの場の空気は、本物だったからな」
 時人と並び立つ凶月・陸井もまた眼鏡を指先で押して、相棒の言葉に小さく頷いた。あれほどの光景を見た後となれば…コローネや団員たちと並び立つマリアの姿を思い浮かべれば。いくらでも思う所があるのは、陸井も同じだった。
 マリアの事を何も知らぬままを良しとして、武器を掲げることを時人は選べない。ならば陸井もまた、時人のその選択を尊重したいのだから。

「帝国を裏切るのは難しいだろうけど…それでも、踏み止まることはできるんじゃないかな?」
 何も返さぬまま目を伏せるマリアに、時人は言葉を連ねる。帝国に従うのは何かの信念なのか。それとも或いは人質でも取られているか。何か『踏み止まる』余地があるのならば──時人は武器も構えずに、空っぽの手のひらをマリアへ差し出す。二人の護るべきこの街の笑顔はきっと…祝福をくれた歌姫が再びこの街を訪れることを、きっと望んでいるのだから。

「…ふ、ふふ」
 だがそんな時人に、マリアは小さな笑みを零した。それはどこか悲しげな響きの──そして、微かに邪悪さが滲む笑い声。陸井が眼鏡の奥の眼差しを鋭く光らせ、自身の武器に指を伸ばしかけた次の瞬間。マリアは微笑みを浮かべた顔を上げ、喉を鋭く震わせた。

「──っ!」
 ひび割れ千切れ、壊れかけた拡声器から放たれるのは不可視の音の弾。驚く時人の前に陸井が素早く割って入り、空中に筆を走らせ昇龍の文字を描けば、間一髪のところで黒龍が時人への攻撃を阻んだ。

「できれば、言葉で返してほしかったよ」
 寂しげにそう零した陸井は、小さく頭を振ってすぐさま頭を切り替える。追い詰められて自暴自棄となってしまったのか、オブリビオンは巨大な黒龍を前にしてもおかしそうに自虐的に笑い、ノイズまみれの不協和音を奏でるばかり。確かなものは強い敵意のみならば──こちらも相応に迎え撃つだけだ。

「さぁ、その黒き身で空を駆けろ。昇龍!」
 陸井は武器を構え黒龍と共に向かう。不安定なマリアの攻撃にサーカスの設備を傷つけさせるつもりはない。攻撃を振り払い、時に黒龍のその身で受け止めながら陸井は黒龍と共に空中を舞う。

「ほら、俺はこっちだぞ」
 昼の舞台で充分に黒龍の力を見せていた事は功を奏した。迫る脅威にマリアは黒龍と陸井を注視して、声の限り攻撃を繰り出してくる。

「…残念だよ」
 とぐろを描きながら空中を舞いゆく黒龍の影で、時人は小さく呟く。彼女の道はどこで違えてしまったのか。痛ましくも見える機械仕掛けのその姿に、連なる思いはあれど──交わる事が叶わぬならば。
 時人は何も掴めなかったその手に、強く己の武器を握りしめる。目前へ迫る長い尾に飛び乗り、時人は濃淡の背を駆け出した。

 マリアの動き自体は鈍く、壊れかけた攻撃も不安定に揺れているが、音による攻撃は広い範囲を誇るもの。連戦に負傷も疲弊もある筈だが、勢いを失うどころかそれは激しさを増してゆく。
 陸井は黒龍の速さで巧みにマリアの狙いを翻弄しながら、攻撃の僅かな隙間を縫い進み、徐々に距離を詰めてゆく。
 しかし近付けば近付くほどに、全てを回避するのは難しくなるもの。激しい攻撃を受け止める黒龍が体を大きくうならせ、流れ弾を避けきれずに食らった時人はよろめく。そのまま黒龍の背から滑り落ちそうになった時人の腕を、寸前の所で陸井が掴んで引き寄せる。二人は眼差しを重ねて頷く。護る為には──まだ、立ち止まるわけにはいかない。

 ──歌え、歌え。
 喉を震わす機械仕掛けの心臓に、囁き響く音がある。かつての戦場で癒やしを歌った、それは忘れ失った遠い過去。この身に刻まれている記憶は、幾度となく敵兵に死を齎したこと。そして幾度となく、燃え盛る戦場に変えたこと。
 歌え、歌え、高らかに。あまねく命に、|祝福《災い》あれ──。

 翼を広げ、マリアは歌う。ぎこちなく動くそれはまるで、螺子の足りない壊れかけのオルゴールのようだった。
 不自然に音が飛び、耳障りなノイズが歌声を浸食する。けれど災いを齎す黒き天使は鳴り止まぬ。敵は、もう目の前に迫っているのだから。

 呼吸の隙間に、攻撃が途切れたその時、二人はマリアの目前へと辿り着く。
 マリアの瞳はもはや二人の猟兵を捉えてはおらず、災いを齎す音響兵器そのものと化している──それでも、二人は正面から|マリアを《・・・・》真っ直ぐ見据える。

「君の企みは成就させない」
 時人は強く決意を声に乗せ、命還光を詠唱する。時人に応える代わりに、音響兵器からは割れた音が空気を劈く。
 だが激烈な攻撃にも退く事はなく、陸井は時人と共に黒龍の頭を駆け上がり、刃を振り上げる。

「ここで、静かに終わらせよう」
「安心して…?此処の人達には何も言わないよ」
 相棒と共に放つ一撃は、輝きを纏う光の軌跡。観客のないこの舞台に、静かなる幕引きを──。


「お世話になりました、団長」
「いやいや、こちらの台詞だよ!しかも、何事もなく終わったんだろう?
 ありがとう、さすが英雄方だ!君たちと出会えたことを私は光栄に思うよ!」
 すっかり解体されたサーカスの天幕の前で、一張羅に見を包んだコローネは、時人と陸井の手を交互に握り大きく腕を振る。
 サーカスの裏舞台は暗闇の中で全てを終えて──この街はもちろん、サーカスの天幕にも被害はひとつとしてない。強いて言えば、マリアは皆が寝静まっている間になんの言伝もなく消えてしまった…それだけだった。

「旅芸人てのは、なんとも水臭い連中ばかりだからね。
 マリアも度々、何にも言わずに姿を消すことがあったし…ま、いつもの事だよ!」
 けれどそれすら、コローネにとっては慣れているものらしい。何を訝しむこともなく快活に笑ってみせるコローネは、けれどほんの少しだけ寂しそうな眼差しを空へと向ける。
 真実をひた隠すと決め全てを夜の暗闇に閉した以上、猟兵たちには──時人にも陸井にも、寂しげなコローネにかけられる言葉はなく。
 言葉に詰まる二人に、コローネはふとある事を思い出した。

「そうだ。マリアのサインは貰えたのかね?」
「え、っと」
「貰い損ねたんだったな、時人」
「…うん。そうなんだ」
「はっはっは!英雄方といっても、なかなかシャイだね!」
 コローネは大きな声を上げて、楽しそうに笑ってみせる。

「団長ー、ちょっといいー?」
「おお、今行くよ!どこかでまた巡り合えればサインを頼むと良い。マリアのサインは傑作なんだよ!
 もちろん、我がシルク・ドゥ・コローネともまた会える事を願っているよ!」
 団員に呼ばれたコローネは、そうして自分の居場所に小走りで向かってゆく。その後ろ姿になんの陰りもないのは、残酷な真実の一切を知らせなかったからこそだ。これから先のこの世界で、コローネも、このサーカスも、変わらず笑顔を増やし続けるのだろう。

 ──暗がりを知るのは猟兵だけで良い。
 この世界に刻まれるマリアの記憶。それは、数々の舞台でサーカスと共に観客の心を震わせ、世界に笑顔を描いた歌姫としてのものなのだから。

「君の歌は本当に素晴らしかったよ…」
 時人はただ、空へ囁く。光の軌跡がマリアへと命中し、眩い光が舞台を包んだあの時。彼女はきっと、微笑んでいたのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2025年06月26日


挿絵イラスト