スイートチョコレート・ピロートーク!
「ん……大丈夫だべ?」
「はぁ……はぁ……はぁ……だ、だいじょうぶ……だから……少し待ってくれたまえ」
ヒーローズアース、とある休日の夜。汗だくでベッドに横たわるラピーヌ・シュドウエスト(叛逆未遂続きの闇執事ウサギ・f31917)は、笹乃葉・きなこ(キマイラの戦巫女・f03265)の問いかけに息も絶え絶えに応じた。
事情を知らなければ到底大丈夫には見えないが、なんの事はない、情事の後と言うだけだ。ただしきなこの行為は大分激しく、毎回ラピーヌが気絶するまで続くのだが。
――そう、『毎回』だ。クリスマス休暇に『こういう関係』になって以来、2人は休日の度に何かと理由をつけて、こうしてホテルで肌を重ねていた。1月中、珍しくなんの事件もなく平和であったのも、その頻度を加速させた理由の一つではあるが。
そしてその度にきなこは、こうしてラピーヌのお腹がたぷたぷになるまで、欲望のままに貪り続けている。その欲は性欲であると同時に、寂しさを埋めたい、甘えたい、と言う欲でもあるが……流石に負担をかけすぎて少々申し訳ないとは思う。
「ふぅ……いつも言っているだろう、気にしなくて良いって」
「だべか……?」
ようやく呼吸が整ったラピーヌは、身体を起こしながらきなこに微笑む。実際この関係は彼女から求めた――と言うか仕向けた――ものなのだから、否などあろうはずがない。
まあ普段からそういう暗躍ムーブをしているから、何度言ってもいまいち信じて貰えないのだろうが。だが、今更その性格を改める気もない。
「……おっと」
ともあれ心地よい疲労感を覚えたラピーヌは、無意識にベッド脇に手を伸ばし、そして引っ込めた。普段こういう時はそこに煙草の箱があるのだが、きなこといる時は彼女が煙を嫌うので、鞄の中にしまったままなのだ。もちろん、今は取り出す気もない。
とはいえそうなると口寂しくなる……と言うのも、毎度の事なので分かっている。それを見越して予めルームサービスを取っておくのも、すでにお決まりである。
「さ、ともあれせっかく頼んだんだ、食べようじゃないか」
「おお、そうだな、いただくべ」
今日テーブルの上に乗っているのは、バレンタインに合わせた期間限定のチョコレートサービスだ。様々な形のチョコの中から、それぞれ一つを摘んで、口の中に放り込む。
噛み砕けば中から溢れるのは、芳醇な味と香り。それを予想していなかったきなこは、思わず目を丸くする。
「おお……お酒が入ってる?」
「おや、ボンボンショコラは初めてかい?」
ルームサービスの手配をしたのはラピーヌであり、こちらは慣れた様子で舌の上で転がし、ゆっくりと味わっていく。中にウィスキーを、あるいは日本酒やブランデーを混ぜたフィリングを詰めた、上品な大人のチョコレート。
きなこも最初は驚きはしたものの、元よりお酒は割とイケる方だし、フードファイターなのでそもそも食に関しても貪欲だ。そういうものだと理解すれば、頷いてその味を楽しんでいく。
「こういうのは、食べたことないかも。でも、美味しいべ」
「口に合って良かった。うん、でも実際、これはなかなか良い出来だ、限定品で値が張るだけの事はあるね」
激しい情事で疲労した身体に、糖分とアルコールが染み渡るような感覚。酔いには至らない程度にほんのりと火照り、その熱が情事の余韻と混じり合う。
互いに気分も高揚してくると、事後の雑談に興じていく。
「ラピーヌって、ワイン派だっけ?」
「普段はワインだけど、安酒でなければどんなお酒だってイケる口さ」
食べたチョコがワインだったので、それに釣られて質問を投げかけるきなこ。それに応じたラピーヌは、良い気分に任せて酒のうんちくを披露していく。
「意外だけど、良い日本酒は白ワインによく似ているから、ライスワインとも呼ばれていてね」
「ほーん」
きなことしてはそこまでの話はあまり興味がないので、軽くそれを流してしまうが。次の一粒を口に含んで、ウィスキーの味に舌鼓を打っていく。
(「こういう組み合わせもありかー。その気になればおらにも出来るべか?」)
「そうそう、日本酒と言えばね――」
その間にもラピーヌは一方的にうんちく語りを続けて、きなこはチョコをゆったり味わいつつも、ふーんとかへーとか適当な相槌を打つ。一見して噛み合っていないようにも見える会話だが、お互いにそれを不快とは思わない。
普段はラピーヌがもったいぶって博識をひけらかし、きなこがそれを鬱陶しそうに聞き流す……と言うのが常だが、今はお互いに分かっていてやっている。ラピーヌの語りは情事で重くなった頭を働かせるための、軽い運動のようなもの。そしてきなこはその声を心地よく聞き流す事で、欲望に滾っていた心をゆったりとリラックスさせていく。
「日本酒かぁ。そういえば、UDCアースに日本酒が入った生チョコがあるんだべ」
「へぇ?」
そして耳に流れる言葉の断片から、時折きなこの方からも話題を振ったりする。興味深げに食いつくラピーヌに、なんとなく思いつくままに言葉を紡ぐきなこ。
「今度、食べに行ね?」
「おっと、これは嬉しいお誘いだね。是非、今度の休日にでも」
以前から一緒に遊びに出かける事もあったが、最近はその頻度も多くなった。もちろんその後にこうしてホテルに足を運ぶのも、含めてのことだ。まあ、日によっては最初からホテルと言う事もあるが。
「まあ、次の休日が予定通り来るかどうかわからないのが、この仕事の辛い所だけどね」
「だべなぁ……ふぁ」
次回の約束を取り付けた事で、為すべき事は為した、と言う気になったのだろう。軽くその口元を手で抑え、小さく欠伸するきなこ。
元より情事の後で疲れていたし、そこにアルコールが染み渡った事もある。あとは単純に、たくさん食べてお腹いっぱいになったせいもある。フードファイターだけあって、きなこの食べる量は多い。
ラピーヌの方が、チョコを食べるより舌を回す方を優先したのもあるが。
「チョコをおつまみに……ワインを飲んだりするだべかぁ……」
「そうだね……と、眠いなら、寝ても構わないよ? んっ……」
少々まぶたが重くなって来たきなこの様子を見て、そう声をかけるラピーヌ。そんな彼女もアルコールが回ってきたのか、漏れそうになる欠伸を噛み殺す。
そもそも疲労と言う意味では、一度気絶までしていたラピーヌの方がよっぽど疲れている。もちろん不快ではない、心地よい疲れだが。
「だべ、なぁ……それじゃあ……」
ラピーヌの言葉に頷いたきなこは、小さく頷くと、ベッドに身体を横倒す。自らの脚を抱えるように丸くなるのは、キマイラらしい、獣のような眠り方だ。目を閉じると、その呼吸が徐々にゆっくりになっていく。
「おやすみ……だべ……」
「ああ、おやすみ……さて、ボクも寝るとしようか」
そう言ったラピーヌは、きなこの隣に横になると、その手を伸ばして丸くなったきなこを優しく抱いた。さながら抱き枕にするかのようだが、きなこの方もそれを拒む事なく、受け入れていく。そうして相手に求められるのは、悪い気分ではない。
腕の中で安らかに寝息を立て始めたきなこを、優しい手付きで軽く撫でるラピーヌ。こうして寝顔を見ているのも良いが、流石に瞼の方が落ちてきた。
あとは、部屋に2つ重なった寝息が響いて。2月の夜は、こうしてゆっくりと更けていく。
成功
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