狂乱の|雷棲滅鬼悪《ライスメキア》
●雷棲滅鬼悪
ぞわり、と肌が泡立つのを東国を守護する坂東武者の一派、『雷棲滅鬼悪』たちは自覚した。
一体の妖。
その紅の角より発せられる武威は、彼らに憑依した妖すらも強制的に支配下に置くものであるほどに凄まじいものであった。
「これがッ、『妖大将』……!」
「意識を保て! でなければ」
坂東武者『雷棲滅鬼悪』たちは血が滲むほどに歯を食いしばった。
だが、それは到底無駄であった。
彼らほどの強靭な精神力を持つ武者であっても、その身に妖を宿して戦う坂東武者である以上、『妖大将』……即ち、『紅角の鬼姫』の持つ武威と妖力とが、彼らの肉体に憑依する妖を支配下に置くのだ。
「無駄無駄無駄。ぜぇんぶ、むだぁ」
無邪気な笑みを浮かべて『紅角の鬼姫』は笑っていた。
嘲るようであった。
「だって無駄なんだもの。だってどんなに心を強く保ったところで、妖を憑依させて戦う以上、わたくしの前ではぜぇんぶ、むだぁ」
「クッ……させぬぞッ、我ら」
「『世羅腐威無』は屈しない、というのでしょ? それこそ無駄なのよね。だって、『|世羅腐威無《セラフィム》』っていうのは、不完全なものだから。だから、あなた達にだって扱えるし、逆にわたくしにだって扱える。そうでしょう?」
「黙れッ! 我らは人の守護者! それこそが我らの誇り!」
「はぁい、それを手折るのがわたくし、もっとも好きなことなの。だからね?」
次の瞬間、坂東武者『世羅腐威無』たちの体は糸が切れたように動かなくなる。
まるで空中で釣り上げられていたように体が停止し、クスクスと『紅角の鬼姫』の声だけが周囲に満ちていく。
「人を護るもの……だなんて、お笑い草だわ。でも、だからこそ弄りがいがあるのよね。さあ、その誇りとやらと共に『人を害する人』へと成り果てなさい。それこそが人の在るべき姿。妖と戦うより、ずっと人間らしいわ?」
そう言って『紅角の鬼姫』が鋭く伸びた爪を指揮棒のように振るうと、坂東武者『世羅腐威無』たちは、その顔の鬼面を宿し、正しく自我を失った『鬼面の群れ』なって人里を目指し、東国より進撃を開始するのだった――。
●流星の化身
星が流れる。
その煌きは嘗て、大いなる凶兆であった。
「あなたは特別な子。けれど、時としてあなたの存在は争いを呼び込むでしょう。戦いはあなたの宿命。あなたの運命。だから、逃げられない。戦うしかない。それはとても酷なことだけれど、あなたはきっとそれを選んでしまうのでしょうね」
簾の奥にある後光指すような気配……『雷棲滅鬼悪』を率いる止事無き身分の『雷棲滅鬼悪・永流姫』は、そう告げた。
簾の前には一人の男装の麗人が頭を垂れていた。
亜麻色の髪。
黒い瞳には星を宿し、面を上げた顔は凛々しくもあった。
「それが私の役目でございます。戦いを宿命とし、戦いの中で生きていく」
「それを常としてはなりませんよ。『皐月』。きっと、あなたにもいつか平和というものがわかるはず」
「『平安結界』の中にこそ、貴方様のおっしゃられる『平和』とはあるのでございましょう。私はそれを守りたく思います。ですから」
しかし、その言葉は闇に消える。
星が輝くためには闇夜がなければならぬ。
燦然と輝く光を宿すのならば、必ずや対となる闇も抱えなければならない。
そうでなければならない。
揺れ動く悪性と善性とがあるように。
どちらかに傾いては戻るように、人の心を持ち続けるのならば、ただ一つを求めてはならないのだ。
それはきっと人を人ではなくしてしまうものである。
残酷なことだけれど、そうした矛盾を抱えて人は生きて行かねばならない。
懊悩を抱えてこそ、悟りの道を往く事ができるように――。
●アヤカシエンパイア
グリモアベースに集まってきた猟兵たちを迎えたのはナイアルテ・ブーゾヴァ(神月円明・f25860)だった。
「お集まり頂きありがとうございます」
彼女は集まってきた猟兵達を前に一礼する。
そして、此度の事件を告げるのだ。
「『妖大将』と呼ばれるひときわ強力な妖の出現が予知されました。そして、その『妖大将』のありあまる妖力と武威によって坂東武者『世羅腐威無』たちが支配下におかれ、『人を害する人』へと成り果て、東国近隣の人里へと攻め入ろうとしているのです」
それは緊急を要する事態であったことだろう。
だが、どうして彼らが、と思う猟兵もいたはずだ。
「坂東武者は、本来、無能力者なのです。ですが、その肉体に妖を憑依させることで、他の妖と渡り合う戦闘力を得た荒武者。今回は、その性質を『妖大将』に逆手に取られてしまったのです」
ただでさえ、強力な戦闘力でもって東国を守護してきた坂東武者たちが敵に回る、ということなのだ。
見過ごすことはできないが、しかし、なんとも戦いづらいことである。
「彼らは洗脳状態と言ってもいいでしょう。勿論、『妖大将』を討ち取れば、彼らの洗脳も解けます。厳しいことかと思われますが、可能な限り彼らの生命を取らず、無力化していただきたのです」
戦闘力の高い坂東武者『世羅腐威無』たちを相手に、それが何処まで可能なのかはわからない。
が、猟兵たちならば、とナイアルテは願ったのだ。
「また、坂東武者『世羅腐威無』の中には、ひときわ強力な妖と憑依合体している男装の麗人『皐月』さんもいらっしゃいます。彼女の戦いも厳しいものとなるでしょう。そして、これらを退けた先に『妖大将』、『紅角の鬼姫』がいるはずです」
これを打ち倒せば、坂東武者たちいの洗脳は解かれることだろう。
だが、『妖大将』を名乗る強力な妖である。
一筋縄ではいかないだろう。
激戦の予感を感じながら猟兵たちはナイアルテに転移を願い出るだろう。
その言葉に彼女は再び頭を下げ、猟兵達をアヤカシエンパイア、東国の地へと送り出すのだった――。
海鶴
マスターの海鶴です。どうぞよろしくお願いいたします。
アヤカシエンパイアの東国を守護する坂東武者『世羅腐威無』たちが、強力な妖、『妖大将』によって、その身に憑依した妖事支配下におかれてしまう事件が予知されました。
彼らによって東国の人里が蹂躙されることを防ぎ、また彼らの洗脳を解くために戦うシナリオになっております。
●第一章
集団戦です。
『妖大将』の支配下におかれた坂東武者『世羅腐威無』たちとの戦いになります。
彼らは『鬼面の群れ』となって洗脳状態で人里に迫る軍勢となっています。
オープニングで勝たれた通り、彼らを操っている『妖大将』さえ打倒してしまえば、彼らの洗脳は解かれます。
可能な限り彼らを殺さないようにして無力化しましょう。
●第二章
ボス戦です。
坂東武者『世羅腐威無』たちの頭目であった男装の麗人『皐月』が、ひときわ強力な妖を憑依しています。
無論、彼女も『妖大将』によって洗脳されています。
その力は強力無比です。
ですが、彼女に呼びかけるなりして正気を取り戻させようとすれば、もしかしたら一瞬でも正気を取り戻すことができるかもしれません。
●第三章
ボス戦です。
坂東武者『世羅腐威無』たちを操っていた強力な黒幕の妖、『妖大将』との対決です。
彼らを操ることができていた妖力は勿論、その武威は凄まじいものです。
強敵であることは言うまでもないでしょう。
この決戦に勝利することができれば、坂東武者『世羅腐威無』たちの洗脳を解くことができるはずです。
それでは東国を守護する坂東武者たちさえも操ってしまうほどに強力な妖との決戦に挑む皆さんの物語の一片となれますよう、いっぱいがんばります!
第1章 集団戦
『鬼面の群れ』
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POW : 爆裂鬼火
着弾点からレベルm半径内を爆破する【鬼火】を放つ。着弾後、範囲内に【恨みの炎】が現れ継続ダメージを与える。
SPD : 鬼火翔け
【鬼面状の体】から【鬼火】を噴出しながら、レベル×5km/hで直進突撃する。2回まで方向転換可能。
WIZ : 鬼火雨
レベル×5km/hで飛翔しながら、【降り注ぐ鬼火】で「🔵取得数+2回」攻撃する。
イラスト:佐々木なの
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
太刀の切っ先が剣呑な輝きを放っている。
本来なら、その切っ先は妖に向けられるものであった。しかし、今その切っ先は民へと向けられようとしている。
東国守護の要、坂東武者。
先鋭であり、また精鋭。
しかし、今や彼らは『妖大将』の手に落ちた。
望まぬ戦いを、望まぬままに強いられる。
「さあ、生きなさい。思うままに生きなさい。もとより、その力は他者を害するためのもの。護るために使おうなんて、だめなのよ。無駄なの、むだぁ。だから、生きなさい。それがあなた達の本来の姿」
『妖大将』、『紅角の鬼姫』は、そう笑って坂東武者『世羅腐威無』たちを野に放つ。
『鬼面の群れ』と化した坂東武者たちは、その精鋭たる力を持って、本来護るべきものたちを歯牙にかけんと奔るのだった――。
八秦・頼典
●SPD
あれほどの精強ぶりを誇った坂東武者『世羅腐威無』がこうも安々とやられるとは
すると皐月殿の身も…いや、良くない推測はここまでだ
洗脳されているとは言え妖となったが、皐月殿は姿だけでも間に合えばそれで十分
あれ以来顔も合わせていなければ文のやり取りもしてないけど、なぁにボクは京で政務に追われている事となっている
ここに居るのは階位などない一介の陰陽術師…|頼典《ライデン》だからね
幸いながら妖大将さえ討てば世羅腐威無の洗脳が解かれるそうだが、それまで彼らにはおとなしくなって貰うしかない
こちらから仕掛けずともあちらからやって来るのであれば好都合
『憑物祓い』も一時的な効果だろうけど、推し通らせて貰うよ
東国守護。
それは平安結界を護る要でもある。
故に任地に赴く坂東武者に求められるのは、精強であること。
当然、膂力体力知力にてのみあらず。
胆力、精神力においても精強であることが求められるのは、ある種、当然のことであった。
だがしかし、恐るべきは『妖大将』である。
坂東武者の一派『世羅腐威無』であっても、妖を憑依させて戦うのならば、その妖ごと屈服させ洗脳してしまう。
それほどの武威と妖力を宿した『妖大将』の実力は推して測ることができたことだろう。
人里に向かって列なすのは、鬼火。
揺らめく赤い炎。
それこそが『鬼面の群れ』と化した『世羅腐威無』たちであった。
「……」
言葉はない。
あるのは、ただ『人を害する人』へと成り果てた暴力のみ。
そんな彼らの列を見やり、八秦・頼典(平安探偵陰陽師ライデン・f42896)は息を呑む。
「あれほどの精強ぶりを誇った坂東武者『世羅腐威無』がこうも安々とやられるとは」
確かに逼迫した事態であろう。
坂東武者としての膂力であれば、民草の抵抗などまるでそよ風。
容易く切り捨て、有無を言わさず暴力でもって踏みにじることは想像に難くない。
しかし、頼典の心配事はまだあったのだ。
坂東武者の一派『世羅腐威無』の頭目である男装の麗人『皐月』。
彼女の身も危うい。
「いや、良くない推測はここまでだ」
洗脳されている可能性は高いだろう。
京にて面倒事に巻き込んでしまったことから、彼女と顔合わせや文のやり取りはない。
それは己の階位にも由来しているところであるが、頼典は息を吐き出す。
なんともらしくない思考だ。
であれば、今一度己の思考を改める必要がある。
確かに己は階位を駆け上がった。
その頂点に立っていると言ってもいい。階位の高さは自由とは程遠い。
「けれど、ここにいるのは階位などない一介の陰陽術師…‥|頼典《ライデン》だからね」
ならば、何も問題はない。
そういうように檜扇を手にした頼典は、迫る『鬼面の群れ』を見やる。
顔を覆う鬼面は恐ろしい。
だがしかし、頼典は笑うだろう。
生命を奪う理由などない。彼らはただ洗脳されているだけだ。であるのならば、まやかし、術、いずれかはわからないが、『妖大将』を打倒してしまえばいいのだ。
それまでの間、彼らには大人しくしてもらうしかない。
「ボクとしては手荒な真似はしたくないのだけど……精強なる『世羅腐威無』たちよ。仕方ない、で済ませてくれるね?」
憑物祓い(ツキモノバライ)。
檜扇より放たれた無明の霊気が一気に迫る『鬼面の群れ』へと放たれる。
それは彼らを操る強大な妖力のみを払うように吹き荒れ、その身を打ち据える。
「……ッ!」
「……強大すぎる妖力、か。なるほど。邪悪なる妖力だけを祓うユーベルコードでも完全に洗脳を解くことはできない、か。なら、推し通らせて貰うよ」
ならば、と頼典は『鬼面の群れ』をかき分けるようにして手にした檜扇より溢れる霊気ととともに切り開き、その奥に構えるであろう『妖大将』を目指して突き進むのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
賤木・下臈
既に敵の親玉の方に向かった方もおられるようですな。ならばこの|下臈《げろう》はここに控えて、人里の守りに徹しましょう。人々の髪の毛一筋たりとも、損なわせはいたしませぬ。私には髪の毛ないけど。それはともかく、ここはお任せ下され。
「G. E. R. O. U. ACT1」――【賤しき者たちの|下臈《げろ》い幽玄夢想】発動。
鬼面の方々、人里を目指しているのなら、どうぞおいでなさい。こちらにありますよ。そちらにもありますよ。あそこにも、こちらにも。右を見ても人里、左を見ても人里、前に後ろに、上に下に。遥か彼方にも、貴方の隣にも人里。1%の確率でゴリラ里が混じっているので、ぜひ探してみてくだされ。
ぴかりと輝くはユーベルコードの光。
そして、その光を受けてさらに輝くのは、賤木・下臈(おいしいクッキーです・f45205)のスキンヘッドであった。
眼前には迫る『鬼面の群れ』。
憑依に用いる妖ごと『妖大将』によって掌握された坂東武者たちが人里目指して進みゆく様は、あまりにも恐ろしい光景であった。
本来ならば、護るべき人に刀の切っ先を向ける。
それがどんなに悪辣なことであるのかを下臈は知っている。
勿論、それが坂東武者たちの望むことではないことも理解している。全ては『妖大将』が、その有り余る妖力と武威を持って彼らを洗脳しているからだ。
「であれば、この|下臈《げろう》にお任せあれ!」
既に『鬼面の群れ』を突破して『妖大将』へとめがけて走っていった猟兵もいる。
ならば、己がすべきことはなんだ。
簡単な話だ。
敵を打ち倒すだけが戦いではない。
ましてや、洗脳された坂東武者たち。彼らの生命を奪うことでもない。
「これより先は一歩たりとて。否、人々の髪の毛一筋たりとも、損なわせはいたしませぬ」
ぴかり、とまた彼のつるりとした頭髪無き天頂部が煌めくようであった。
「……」
しかし、その天頂部を目指して降り注ぐのは『鬼面の群れ』が放つ鬼火であった。
凄まじい炎。
それを受けて下臈は、不敵に笑む。
「G. E. R. O. U. ACT1(ゲロウ・アクト・ワン)――賤しき者たちの下臈い幽玄の夢想……鬼面の方々、人里を目指しているのなら、どうぞおいでなさい」
鬼火のゆらめきの中に人里が見える。
いずれもが平安結界の中にある平和な光景である。
『鬼面の群れ』は、その平穏なる光に誘われるようにして、進みゆく。
だが、進めど進めど辿り着くことはできない。
そればかりか、あちこちにまるで幻のように平和な光景が広がっていくのだ。
「どうなされたか。あちらにも、こちらにも。右を見ても、左を見ても、人里はありましょうに」
下臈は笑いながら、手囃子を打ち鳴らす。
「前に後ろに、上に下に。ほら、御覧なさい。はるか彼方にも、貴方の隣にも人里がありましょう」
彼のユーベルコードは不条理でナンセンスな夢でもって『鬼面の群れ』たちを取り囲む。
それは幻影の檻である。
『鬼面の群れ』が人里を求めるのならば、彼が見せるユーベルコードの夢は、永遠に届かぬ場所。
「あ、1%の確率でゴリラの里が混じっているので、是非探してみてくだされ」
そんなものあってたまるか、と平素ならば坂東武者たちも思ったかも知れない。
だが今の彼らは洗脳された状態。
知恵を持って、この不条理を突破することもできたかもしれない。
「ですが、どうにもできないでしょうな。たただた人里を襲うためだけに洗脳された貴方がたでは」
そう、彼らに意志はない。
故に不条理を踏破する知恵もない。
どれだけ強大な力を持っていようとも、これを防ぐて手立てはあるのだ。
ぴかりと下臈は、その天頂をまたきらめかせ、炎のゆらめきの中で手を合わせるのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
薄翅・静漓
誰も傷つけたくないのなら
人を守ると決めたのなら
それを果たすと誓ったのなら
彼らの心はまだ抗っているのでしょう
鬼火を避けながら駆け、進路を先回り
護符装束《月隠》の袖を引きちぎり
『捕縛』の技能を込めた《想月符》を発動
『鬼面の群れ』を捕らえ
さらに『破邪』の力を込めた結界術で封じ込める
元凶を討つまで、拘束させてもらうわ
あなた達には心がある
捻じ曲げられた意思に立ち向かうことも
きっと、できるわ
傷つけられたくないという思いは、傷つけないという誓いに変わるだろう。
人は転化しつづける。
変わり続ける。
どんな悲しみに暮れても、立ち上がる力を持つのなら、坂東武者『世羅腐威無』たちは、己が心を揺らしながら人を守るために己が身を捧げるだろう。
それは誓いだ。
降り注ぐ恨みの炎。
鬼火が周囲に撒き散らされている。
煌々と立ち上る炎。
それに照らされて、白刃が煌めいていた。
「……」
しかし、坂東武者『世羅腐威無』たちは語らない。
ただ、その表情を隠す『鬼面の群れ』となって人里を目指す。
人を護る人から人を害する人へと成り果てたのは、『妖大将』の武威と妖力故である。
「彼らの心はまだ抗っているのでしょう」
遅々とした『鬼面の群れ』の歩み。
それを認めて、薄翅・静漓(水月の巫女・f40688)は理解した。
誰も傷つけたくない。
人を守る。
それを果たすと誓った彼らの心が、まだ鬼面の奥で揺らめいているように思えてえならなかったのだ。
鬼火が荒ぶ中を駆け抜け、静漓は『鬼面の群れ』の前に飛び出す。
己が護符装束の袖を握りしめ、引きちぎる。
袖は護符へと変貌し、己が魔力を込めたユーベルコードへと変わる。
「きっとできるわ。まだ遅くない。一つも。まだ失われていないもの」
静漓は手にした想月符(ソウゲツフ)を『鬼面の群れ』へと投げつけた。
空にひらりと舞う護符は光を放ち、『鬼面の群れ』を囲うようにして結界を張り巡らせる。
炎と共に叩きつけられる太刀。
しかし、その太刀は結界を破壊するに至らない。それほどまでに静漓のユーベルコードによって強化された結界は堅牢であった。
如何に彼らが鍛えられた坂東武者であろうとも、これを蹴破るようにして人里へと進むことはできない。
彼らが望まないはずのことを成さしめるのが『妖大将』の武威と妖力だというのならば、静漓の結界は、それを阻むものだ。
そして、同時に彼らの心をも護るものだ。
「……」
「そこで大人しくしていて。元凶を討つ、その時まで」
「……」
言葉はない。
けれど、静漓は感じていた。
「あなた達には心がある」
結界の中、炎が吹き荒れている。
我が身を灼くような炎は、彼らの良心故であろう。他者を護ると決めたものが、他者を害する存在に堕した。
それを許せぬからこそ、炎は彼らの身を灼くのだ。
「たとえ、捻じ曲げられた意志であっても立ち向かうことができる。それが人の良心というものよ。だから、あなたたちは」
自分を許すことも、きっとできる。
静漓はそう願うようにして結界の中で荒れ狂う炎に背を向ける。
まだ間に合う。
その一心で戦場を駆け抜ける。
元凶たる『妖大将』。これを打倒してこそ、彼らの矜持は守られるのだから――。
大成功
🔵🔵🔵
ブラミエ・トゥカーズ
人を狂わせ害為すのが妖怪の本分ではあるが
ただでさえ少ない人を減らされてはこの世界の同類達が困るであろうな。
故に邪魔をさせてもらうとしよう
吸血鬼にして病であるため火に極端に弱い
余では彼奴等を相手取るのは面倒であるし、貴公等に任せよう。
狂い暴れる人間を相手するのは得意であろう?
騎士団を召喚
浄化属性にて妖の力を焼き尽くす
只の人に戻ればそれらは庇護対象となる
力を減らした武者達には攻撃しない
この世界の人間が少数派で追い込まれている事を理解している為
時折、誤射と嘯く狙い撃ちがブラミエに刺さる
痛熱い
彼らは人に害する邪悪を見逃さない
それが自分たちを呼んだものであろうとも
貴公等?
今回は余も同じ目的であるぞ?
『鬼面の群れ』が東国の荒野を往く。
それは坂東武者『世羅腐威無』たちの面に浮かぶ奇妙な鬼面。
本来であれば、妖を身に憑依させて戦う坂東武者たちの精神力は凄まじきものである。溢れる力を御しうるのは、知力体力のみにて非ず。
強靭な精神力でもって彼らは妖を制御していた。
だが、それほどの精神力でもってしても、『妖大将』の武威と妖力に抗うことはできなかった。
本来ならば人を護る人である彼らが、今や人を害する人へと変貌してしまったのだ。
「人を狂わせ害為すのが妖怪の本分ではあるが」
ブラミエ・トゥカーズ(《妖怪》ヴァンパイア・f27968)は、御伽噺の吸血鬼である。
その本分は、彼女の語る通りであろう。
しかし、ブラミエは息を吐き出した。
この平安結界の中に住まう人々は、僅かだ。
世界の規模で見れば、遥かに少ない。
だからこそ、ブラミエは息を吐き出した。
吸血鬼は人の血を吸う。
となれば、当然、人を搾取するだけで良い訳がない。
少なくとも共存という形を取らねば、共倒れも良いところである。
このアヤカシエンパイアはただでさえ人が少ない。仮にこの世界に彼女の同類となる吸血鬼がいるのならば、迷惑千万というものであろう。
「故に邪魔させてもらうとしよう」
しかしながら、降り注ぐ鬼火。
なるほど、とブラミエは思っただろう。
如何に『妖大将』によって狂わされているとは言え、妖を撃滅する職務である坂東武者。
此方の急所というものを心得ているようだった。
吸血鬼にして病。
それがブラミエである。ならばこそ、火は浄化の力。極端に弱いと言ってもいい。
「余では彼奴らを相手取るのは面倒であるし、貴公らに任せよう」
ユーベルコードにブラミエの瞳が輝く。
「恐るべき人よ。愛しき無知よ。己の善にて邪を蹂躙する正しき者よ。怨敵共よ、魔女狩りを始めるが良い。汚れた敵は此処にいるぞ」
歪曲伝承・魔女狩りの灯(セイギトキョウフノナノモトニ)。
詠唱と共に現れるのは、松明を掲げた騎士団。
「……」
互いに無言のまま対峙する坂東武者『世羅腐威無』と騎士団。
睨みあうようにして対峙しているのは、互いに技量というものが拮抗しているからであろう。
「狂い暴れる人間を相手するのは得意であろう?」
ブラミエの指先が指揮棒のように振るわれた瞬間、騎士団が荒野を駆ける。
静かなものだった。
聞こえるのは、互いの鎧がこすれる音ばかり。
彼らは声を発しない。
揺らめく炎は互いに交錯するように行き交い、その力をぶつけ合うようにして火花を散らす。
空を舞う火矢が何故かブラミエにも注ぐ。
「……余も貴公らにとっては同じ、か」
誤射であると嘯くような所作を騎士団は見せた。
なるほど、己もそうなのか、とブラミエは肩を竦める。
騎士団は人に害する邪悪を見逃さない。たとえ、それが己達を呼び寄せた存在であっても、だ。
「貴公ら? 今回は余も同じ目的であるぞ?」
そう呟く。
けれど、注ぐ火矢が答えだった。
ブラミエは薄く笑みを浮かべながら、さっさと元凶を打倒さねばいつまでたっても誤射はやまぬと肩をすくめて進むのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
鹿村・トーゴ
憑き物が元で操られるって降魔忍のオレには他人事じゃねーな
武者殿らの生きる理由を自分等で潰させるとかむごい奴
まァ敵は鬼の姫様らしーが…
オレも鬼の端くれとは言え
暇潰しか趣味で血に飢えた悪業楽しむよーな連中とは一戦交えこそすれお仲間には成れなさそ
【野生の勘、視力、聞き耳】敵の鬼火を躱し被弾でも【激痛耐性】
手裏剣を【投擲】浅い傷をつけUC仕込を行うと共に敵の気を引きUC射程に【おびき寄せ】
飛ぶ敵は【念動力】で掴み取りクナイで手傷を負わせUC行使
さあ
こうなりゃ千鳥庭の獲物
動けぬよう打ち気絶させ櫛羅で麻痺【毒使い】服同士を【ロープワーク】で結び拘束
念押しに【催眠術】援軍が来るまで動くなよ、と囁く
アドリブ可
「まったく、他人事じゃねーな」
鹿村・トーゴ(鄙の伏鳥・f14519)は荒野を往く。
目にするのは、鬼火荒ぶ戦場だった。
坂東武者『世羅腐威無』たち、『鬼面の群れ』。彼らはもとより、妖を身に憑依させることによって無能力者でありながら戦う力を得た存在だ。
その力の源たる妖を『妖大将』によって強制的に従えさせられ、人を守る人から、人を害する人へと堕したのだ。
トーゴもまた魔を降ろして戦う忍び。
他人事ではない。
仮に魔を御する敵がいたのならば、己の身も彼らと同じように操られてしまうのかもしれない。
そして何よりだ。
ことが済めば、坂東武者たちに訪れるのは絶望だ。
坂東武者が何故戦うのかなど言うまでもない。
彼らは民草を護るために妖を御して戦う。その理由を己が手で潰させる。
「そんなのあんまりじゃねーか。むごいの一言だ」
元凶たる『妖大将』は鬼姫であるらしいが、トーゴは己が鬼の端くれであることを自覚して息を吐き出した。
「暇つぶしか趣味で血に飢えた悪行楽しむよーな連中とは、一戦交えこそすれ、お仲間になれなさそうだ。そうだ。そうに決まってる」
降り注ぐ鬼火の中をトーゴは奔る。
肌を焼く炎は、ジリジリとした痛みを彼に与えたが、それでもトーゴは走る。
手にしたクナイには、毒が仕込んである。
「……」
「ちょっと悪いが、千鳥庭(チドリノニワ)の餌食になってもらおーじゃねーの」
飛びかかるようにして『鬼面の群れ』がトーゴに迫る。
振るわれる太刀の白刃の煌きをトーゴは既のところで躱して、すれ違いざまにクナイで斬りつける。
浅い。
だが、もとより命を奪うつもりはないのだ。
トーゴの目的は己のクナイに塗られた三半規管を狂わせる毒を坂東武者たちに叩き込むことだ。
即効性のある毒は、すぐさま坂東武者の三半規管を狂わせ、ぐらりと体を傾けさせる。
揺れる体躯。
暫くまともには動けまい。
「……」
「大人しくしてなって。かすり傷なんだからさ」
トーゴは軽く坂東武者の背を押すように突き飛ばす。
揺れた体躯が地面に倒れ伏せば、もう立ち上がることはできないだろう。さらに撒菱をばらまいて、トーゴは手を振る。
「おっと、これ以上先には進まないでくれよな」
そう、あくまで時間稼ぎだ。
彼らの命を奪うまでもないことであるし、徒に傷つけられる者が出てほしくもない。
であるのならば、トーゴは己のユーベルコードでもって坂東武者たちを足止めする。
「そういうわけだからさ、暫くそこで大人しくしといてくれよなー」
己たちが元凶を打ち倒すその時まで――。
大成功
🔵🔵🔵
朱鷺透・小枝子
鵺との戦い以来でしょうか?久しき、世羅腐威無。九郎殿。
遺憾ですが吹き越えさせて頂きます!!
『豪風無常贋』己が【闘争心】を燃やして破魔の鉄大団扇を振るい、
【浄化】の超暴風雨で鬼火を【吹き飛ばし】、洗脳状態にある坂東武者達を浄化の風で【なぎ払い】その力を減じさせ、動きを鈍らせ、駆け進む!
意思無きを壊せ!望まぬを強いる戯言を壊せ!!破壊を為せ!!
朱鷺透小枝子!!!
鉄大団扇を振るい風を起こし、戦い進みながら、
【|呪詛《怨念》】込めた黒鎖鉄杭を【念動力】で操り【追撃】
あらゆる障害を貫通し、肉体を傷つけず、坂東武者達の中にある妖としての精神、そこに巣食う妖大将の影響を破壊します!
久しい、と朱鷺透・小枝子(亡国の戦塵・f29924)は思っただろう。
坂東武者の一派『世羅腐威無』。
その中の一人に彼女は見覚えがあった。
とは言え、その顔は『鬼面の群れ』によって覆われている。彼らの身はもとより無能力者。本来ならば、妖と戦う術などない。
だが、彼らは練磨された精神力でもって妖を御して、その身に憑依させて戦う。
それこそが坂東武者の真髄。
けれど、今まさに『妖大将』の圧倒的な武威と妖力とによって、彼らは身に宿した妖ごと従えさせられちえるのだ。
「『鵺』との戦い以来でしょうか? 久しき『九郎』殿」
「……」
小枝子の言葉に『鬼面の群れ』は応えない。
手にした白刃に炎が宿され、振りかぶられる。
戦うしかない。
小枝子はもとより、それしかできな。器用な真似などできるという自負もない。
こんな戦い、望んでいないが、それしかできないというのなら。
「遺憾ですが、吹き越えさせて頂きます!!」
小枝子の人口魔眼が炎を噴出させる。
己が闘争心が燃え、ユーベルコードに煌めく。
荒れ狂い、壊す豪風無常贋(ウィンドペネトレイター)。
手にした鉄扇を扇げば、超暴風雨が戦場の荒野に荒ぶ。
これを操るのが小枝子のユーベルコードであった。
己が怨念によって、眼の前の障害たる鬼火を吹き飛ばし、さらに浄化の力を宿した暴風で坂東武者『世羅腐威無』たちを打ち据える。
「……」
「見事な鍛錬……ですが、その意思無きを壊します!! 望まぬを強いる戯言を壊します!! 破壊を為すのは!! この自分!! 朱鷺透・小枝子であります!!!」
訴えかけるような声であった。
巨大な鉄扇を振るう小枝子は、荒れ狂う風と共に鬼火を吹き飛ばし、『世羅腐威無』を打ち据える。
太刀に受け止められた鉄扇が火花を散らす。
ぎりぎりと揺れる互いの腕。
「『九郎』殿、その無念、しかと!」
弾かれる太刀。
持ち上げられた太刀によってがら空きになった胴へと小枝子は鉄扇の一撃を叩き込む。
それは肉体を傷つける一撃ではない。
彼女のユーベルコードは肉体ではなく、その精神を叩く。
坂東武者たちに宿る妖。
その妖を従える『妖大将』の武威と妖力。これのみを破壊するために小枝子は鉄扇を振り抜いて坂東武者『世羅腐威無』を打ち据える。
破壊する。
その悪意を。
それだけが小枝子のできることだった。
「『妖大将』、なにするものぞ! であります!」
吹き飛ばされた坂東武者『九郎』が立ち上がろうとして、しかし、力を失ったように倒れ伏す。
未だ『妖大将』の影響力は凄まじいものである。
だが、無力化はできる。
「後は、打ち倒すのみ――!」
大成功
🔵🔵🔵
ステラ・タタリクス
|エイル様《主人様》の!!
香りがしまぁぁぁぁぁぁすっ!!
はいっ、メイド参上ですっ
エイル様が困難に際した時に支えるのがメイドの役目でございます
えっ、私の存在が困難?
誰がやべーメイドですか
とまぁ、お約束はこの辺にしまして
『ニゲル・プラティヌム』を構えつつ銃で太刀を受け流し
『世羅腐威無』――セラフィムですか
ならば、貴方がたの力そのものは|青《善》でも|赤《悪》でもないのでしょう
それを『|手繰る者《皐月様》』によって如何様にでもなり
だからこそ貴方がたは『人の良心』で以て力を為している
望まぬ力で『赤』に振れようとも
それを律する力が外にあるならば
戻ってこれるのが人の『力』です
ご助力しましょう
せーの!
エイル様の!香りがしまぁぁぁぁぁすっ!!
っていうか、皆さんは皐月様の香りが気になったりしないのかぁぁぁぁ!!
あ、ダメですよ、無理強いは!!
ですが!欲望は!本来こう使うもの!!
とまぁ|ドン引き《麻痺》したところを打撃による気絶攻撃
えっ?作戦ですよ作戦
本気でそんな事思っているなんてそんな
誰がやべーメイドですか
「|『エイル』様《主人様》の!! 香りがしまぁぁぁぁぁすっ!!」
それはいつものやつであった。
テイク・ワン、とも言うだろう。
「はいっ、メイド参上ですっ」
ステラ・タタリクス(紫苑・f33899)は、荒野を埋め尽くす鬼火の炎を前にして一人叫ぶ。
あまりにも逼迫した戦場に似つかわしい叫びであったが、今更である。
「『エイル』様が困難に際した時に支えるのがメイドの役目でございます。今更ですね!」
困難というのならば、押しかけメイドも困難のうちに入るのではないだろうか? 入らない? 入る?
「誰がやべーメイドですか」
お約束というやつである。
手にした二丁拳銃を構え、坂東武者『世羅腐威無』たちが変じた『鬼面の群れ』とステラは対峙する。
「……」
ゆらりと揺れる『鬼面の群れ』。
彼らはもとより無能力者。
本来ならば妖と戦う術を保たぬ者たち。けれど、彼らは鍛え上げた精神力と肉体とでもって妖を御している。
憑依した妖に流されることなく、人を守る人としての矜持を持ってこれまで戦ってきたのだ。
だが、圧倒的な武威と妖力を持ち得る『妖大将』によって彼らは狂わされ、人里へと攻め込もうとしているのだ。
「『世羅腐威無』――『セラフィム』ですか。ならば、貴方がたの力そのものは、|青《善性》でも|赤《悪性》でもないのでしょう」
揺れる心。
良心を得るからこそ、人は時の流れすら追い抜かすように生を謳歌する。
「それを『|手繰る者《皐月様》』によって如何様にでもなり、だからこそ貴方がたは『人の良心』で以て力を為している」
振るわれる鬼火。
炎が苛烈なる勢いでもってステラを取り囲む。
熱が彼女の肌を灼くだろう。
けれど、彼女は息を吸い込んだ。
武威と妖力によって悪性にふれることがあったとしても、それを律する力もまた存在している。
天秤のように秤にかけられた善性。
悪性が如何に重たくなるのだとしても、人は意思の力でこれを元に戻す事ができる。
「であれば、ご助力しましょう」
吸い込んだ息。
吐き出されたのではなく、吸い込んだ息。
それはステラのできる精一杯であった。
「せーの!」
吐き出す。
己の腹の底に溜まったもの全てを吐き出すような勢いでステラはテイク・ツーを敢行する。
「『エイル』様の! 香りがしまぁぁぁぁぁすっ!! っていうか、皆さんは『皐月』様の香りが気になったりしないのかぁぁぁぁ!!」
その咆哮というか、叫びに坂東武者たちは、ビク、と体を震わせた。
声量に驚いたのではない。
ステラの欲望全開の叫びに思わず身をすくませたのだ。
当然と言えば当然である。
「あっ、だめですよ、無理強いは!!」
そういう問題でもない。
困惑が戦場を満たしていく。
これが、押しかけメイドの本気(マワリトノニンシキノチガイ)というものであった。
あまりにもガンギマリであった。
「わかっておりますよ。皆様の心の奥底にある欲望。煮えたぎる欲望。それがあることは」
一緒にしないでいただきたいところである。
しかしながら、ステラは続ける。
「ですが! 欲望は! 本来こう使うもの!!」
そうだろうか?
みなよ、坂東武者のみんなもドン引きしている。
あまりのことに硬直しているではないか。
まあ、気絶していると言ってもいいぐらいのドン引きであった。誰もが、そんな恐れ多い事考えたこともない、といった様子であった。
「誰がやべーメイドですか」
言ってないが、言っているようなものなので、否定はしない。
「これも作戦ってやつですよ、作戦。本気で思っているなんてそんな」
良い訳めいたことを呟いながら、ステラは硬直する坂東武者たちの合間をするすると抜けていく。
やばすぎるメイドの叫び。
それは、おそらく『妖大将』の武威と妖力すら凌駕するものであった。
やばすぎる。
「誰がやべーメイドですか」
三度目であるが、否定はできないでしょう――。
大成功
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第2章 ボス戦
『天狗』
|
POW : 箒星
【流星の如く輝く霊力】によりレベル×100km/hで飛翔し、【スピード】×【加速時間】に比例した激突ダメージを与える。
SPD : 輝く星焔
高速で旋回する【星の如く輝く狐火】を召喚する。極めて強大な焼却攻撃だが、常に【天狗(アマツキツネ)が鳴き声】を捧げていないと制御不能に陥る。
WIZ : 天狗流星
レベル秒間、毎秒1回づつ、着弾地点から半径1m以内の全てを消滅させる【狐尾型の星光】を放つ。発動後は中止不能。
イラスト:須田デジタル
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
流星は星々の海を往く。
暗闇の帳を切り裂くように尾を引きながら。
それは瞬く星のように常にそこに存在しているものではなく、消えゆく残滓を残すものであった。
「……私は」
坂東武者『世羅腐威無』を率いていた男装の麗人『皐月』は、亜麻色の髪を揺らし、その黒い瞳に星を写す。
手繰るは力。
漲るも力。
彼女の五体に宿りし力は、『天狗』――『アマキツネ』、『流星の化身』と呼ばれた妖の力。
それは『凶兆を告げるもの』。
流星の力を手繰るは、因果か運命か。
いずれにせよ。
「戦う。『平和』とは戦い、勝ち取らねばならないものであるから。『戦いに際しては心に平和を』、星の輝きの影には、戦えぬ者を庇う」
男装の麗人『皐月』に宿りし妖が力を発露するように、彼女の体を覆っていく。
それは一匹の狐めいた姿であった。
だが、その体躯は白き毛並みと蒼き炎を噴出させる『九』尾。
「我が心に悪性あれば、これを抑える善性あり」
大地を踏みしめるは、一匹の獣。
『天狗』は示す。
流星の行き先を。
そして、狂わされた心は、その力を本来とは真逆に震わせるように、青く、青く炎を噴出させるのだった――。
鹿村・トーゴ
以前この世界で白い狐見た時も今も
ちょっと神々しさを感じてる
皐月殿に面識は無いが先の武者達の頭目だとか
オレらの世の平和って守ってくものだけど
この世の平和は勝ち取るもの、か
真っ直ぐな御仁なんだろねェ…良くも悪くも
けど此処でその人柄を偲んでも意味は無し
今はあの御仁を狐から人に戻さなきゃな
敵の速さは目より【野生の勘と聞き耳で追跡】しギリでも躱す
が、UC発動の為にまず一撃入れなきゃ
初手、二手と躱し頃を見て腹を決め【捨て身の一撃でカウンター】
外さぬよう【念動力で投擲】した棒手裏剣を撃ちUCへ繋ぐ
星天狗の刹那を獲れ隠形鬼
御仁を瞬間でも鎮めて他の猟兵のための隙を作れたら
アンタを慕う猟兵も居るだろしさ
アドリブ可
一匹の獣。
それは星の輝きを宿しながら、どこか狂っていた。
煌めくはユーベルコードの輝き。
九尾より放たれた光は戦場に光の跡を刻み込む。
鹿村・トーゴ(鄙の伏鳥・f14519)は、「速い」と理解した瞬間、その体躯が己へと突進してきていることに気がついた。
野生の勘だけでは恐らく反応すらできなかっただろう。
風を切る音。
それすら凌駕する速度で迫る『天狗』の突進。
その一撃を既で躱したのは、直撃を避けたというだけだった。
衝撃波がトーゴの身を打ち据える。
強烈な痛みに胸が圧迫されるようだった。
呼気が漏れ、痛みが走り抜けるより先にトーゴは大地を蹴った。
以前見た白い狐。
それと今とが同じなのかはわからないが、しかし神々しさすら感じさせるようであった。
『天狗』――『アマキツネ』とも読む妖を宿した坂東武者の頭目『皐月』の一撃は、トーゴをして直撃を避けることしかできなかった。
面識はないが、頭目だけ合って流石の力だと言わざるを得ない。
「オレらの世の平和って守っていくものだけど、この世の平和は勝ち取るもの、か」
その通りだというように『天狗』は大地を踏みしめた。
瞬間、トーゴの身を打ち据える一撃。
呻く。
「真っ直ぐな御仁なんだろうねェ……良くも悪くも。けど」
そう、その人柄を理解したところで今は意味がない。
真っ直ぐだからこそ狂わされた力は、他者を傷つけるものにしかならない。戻さねばならない。それが今のトーゴにできることだったからだ。
「来ると解っていたのなら!」
迫る『天狗』の速さは目でやっと追えるほどのものだった。
腹を決める。
直撃を避けることしかできないのなら、躱すことをやめれば必ず己の体に当たる、ということだ。
であるのならば、禍言を込めた棒手裏剣を握りしめる。
腰だめに構えたトーゴは突進してくる『天狗』と真っ向からぶつかる。
これまでの比ではない痛みが見に走り抜ける。
「ぐうっ……“降りて隠形呼ぶ細声の糸を辿れや爪月の”……」
呼子針(ヨブコノハリ)の一撃。
初撃が当たらなければ、次なる一撃も当たらない。
人知を越えた速度を『天狗』が出すというのならば、張り合っては意味がない。
トーゴは己が身を捨て身として初撃を打ち込み、そして次なる一手を絆ぐ。
「アンタを慕う猟兵もいるだろう。これは、それに繋げた一手でしかないのかもしれない。けれど……追って貫け隠形鬼!」
『天狗』の体を縫い留めるようにして放たれる毒針は、まるで楔のように、その四肢を大地とに縫い留めた――。
大成功
🔵🔵🔵
ブラミエ・トゥカーズ
人とは己の平和のために、敵を見つけ、殺し、捕らえ、支配する最も貪欲で恐るべき存在と余は信仰している
貴公も本来ならばそうなのであろうが
故に残念で憐れであるな
箒星は避けず砕け霧になる
星外の迷い星如きでは余は滅ぼせぬぞ?
かつて星を支配した竜共を滅ぼした大災厄すら余を滅ぼせなかったわけであるしな?
皐月の人の意思が弱まっているため妖怪として全力を行使できる
貴公が人としてその力を振るうならば余は退治されていであろうが、その様ではな?
悪も善もない命を害するモノとして生まれた最下等の生き物の恐ろしさを知るが良い
獣でも理解できる飢えと死の恐怖を与える
さぁ、死から逃げろ、隠れろ、諦めろ。
獣でもその程度は出来よう?
ブラミエ・トゥカーズ(《妖怪》ヴァンパイア・f27968)にとって、人間とは天敵である。
人間にとっても己は畏怖すべき存在であるが、しかし天敵ではない。
人間は克服していく。
恐怖すらも踏み越える個体が現れ、それを標として後続の人間は歩んでいく。人間はそれを轍と呼ぶだろうし、軌跡とも呼ぶだろう。
「人は己の平和のために、敵を見つけ、殺し、捕らえ、支配する最も貪欲で恐るべき存在であると余は信仰している」
ブラミエにとって、確かに天敵である人間。
けれど、彼女は信仰と言った。
人間とはかくあるべしではなく、そうであると確信を持ち、如何にかする必要などない存在だと覚えている。
対峙する坂東武者の頭目『皐月』。
彼女もまたブラミエにとって『そうであった』はずなのだ。
だが、ブラミエは憐れみでもって『天狗』を見やる。
『妖大将』の武威と妖力によって憑依した妖ごと屈服させられた『皐月』。それは本来の彼女とは程遠いものであった。
ブラミエは、それ故に憐れんだのだ。
「残念だ。本来の貴公であったのならば、余など何の問題にもならなかっただろうに」
「『戦いに際しては心に平和を』、それだけが」
「戦う理由だった、と」
四肢を大地と縫い留めていた毒針ごと引き抜いた『天狗』は凄まじい速度で戦場を駆け抜ける。
その突進の一撃はブラミエの体へと激突し、その体躯を吹き飛ば……すことはなかった。
ブラミエの体は霧へと変貌する。
一瞬のことだった。
まるで流星の如き一撃にブラミエの体躯は砕けて霧へと変じる。
「――ッ!」
手応えなどないのだろう、『天狗』は訝しむような表情を一瞬浮かべた。
「星外の迷い星如きでは余は滅ぼせぬぞ?」
霧へと変じたブラミエは笑うでもなく、ただ事実を告げるように『天狗』を空より見下ろしていた。
「かつて星を支配した竜共を滅ぼした大厄災すら余を滅ぼせなかったわけであるしな?」
『天狗』は妖だ。
人間ではない。
であれば、ブラミエは恐れる必要はなかった。
敵として妖を見る必要すらなかった。
そう、対峙したのが人間としての『皐月』であったのならば、ブラミエは退治される運命であったことだろう。
しかし、『妖大将』によって狂わされた妖では、吸血鬼は殺せない。
虞が妖怪を強くするのならば。
「その様ではな? できぬまい。悪も善もない生命を害するモノとして生まれた最下等の生き物の恐ろしさを知るが良い」
霧が『天狗』の体躯に触れた瞬間、その身より吸い上げるのは血潮であった。
与えるは、飢餓と狂乱を与える伝染病。
獣でも理解できる飢えによる死の恐怖。
ぶるりと震えた獣の体躯にブラミエは霧へと変貌した己が顔でもって笑った。
「さぁ、死から逃げろ、隠れろ、諦めろ。獣でもその程度は出来よう?」
人間としての力が弱まった坂東武者など恐れるに足りない。
ブラミエは、根源的な恐怖の象徴として、災厄伝承・赤き死の夜宴(ウタゲハアサヒガノボルマデ)にて霧に『天狗』を取り囲むのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
薄翅・静漓
強く、眩い――まるで生命の炎
あなたは、操られていても己を律しているのね
『オーラ防御/結界術』を展開し、攻撃を耐える
――気を抜けば、焼き尽くされてしまう
それでも逃げない
正気を失った彼女の心を、少しでも癒やすために
未熟で揺らぐ、不確かで脆い人の心
けれど、完全でないからこそ変わることができる
迷い、傷つきながらも、可能性は広がり続ける
それは『無限』の力を秘めているということ
戦うことしかできなくなってしまえば
世界を救えても、人は救えない
それはあまりにも悲しいことだから
だから、あなたは戦うだけの存在になってはいけない
あなたはまだ――変われる
どうか、人を救う人に
死に瀕した時に生命の炎は燃え盛る。
死に向かいながら、死より逃れるために生命は輝く。全くもって矛盾している。
死ぬために生きているのに、死を恐れる。死を遠ざけたいと思う。
けれど、そこに良し悪しはない。
あるのは理だけだった。
故に知性ある生命は、吠えたけるようにして生命を燃やす。
その煌きを『天狗』は放っていた。
強く、まばゆく。
「――まるで、生命の炎」
薄翅・静漓(水月の巫女・f40688)は、そのさまを見やり、思わず呟いていた。
星の輝を放つ妖、『天狗』。
それを身に宿した坂東武者の頭目『皐月』。
『妖大将』の武威と妖力によって狂わされて尚、その輝きには目を奪われるようであった。
「あなたは、操られていても己を律しているのね」
「――」
叫び声が響く。
それは弱々しいものだった。
溢れる狐火が静漓へと迫る。弱々しい叫び声は、『皐月』が『妖大将』の武威と妖力に抗っているからだろう。
威力が減ぜられていてなお、この威力である。
結界とオーラで身を守る静漓の肌を焼く一撃。
強烈な一撃に静漓は骨身が軋むのを感じただろう。気を抜けば、一瞬で焼き尽くされてしまうと理解していた。
それでも静漓は逃げない。
なぜなら、正気を失い、狂わされた『皐月』の心を少しでも癒やさねばならないと思っていたからだ。
「人の心は揺れ動き続ける。善性をもって生まれてきても悪性に染まる。悪性を宿しながらも善性に寄り添い、そうなりたいと願う。そうであって欲しいと願い続ける。それこそが」
「良心だと、人の心の強さだと言いたいのね」
未熟で揺らぐ、不確かで脆い人の心。
けれど、それは言い換えれば、変わっていけるということだ。
決まっていないことだからこそ、これから決めていけるように、変わる事ができる可能性を秘めている。
「迷い、傷つきながらも、可能性は広がり続ける。それは『無限』を秘めているということ」
静漓の瞳がユーベルコードに輝く。
『妖大将』の武威と妖力によって狂わされた『皐月』の精神世界に、もうひとりの静漓が降り立つ。
見回せば、それは星々の世界だった。
どこを見ても星空。
数多に輝く星は、一体如何なるものであっただろうか。
亜麻色の髪が揺れたのを静漓は見ただろう。
「戦うことしかできなくなってしまえば、世界を救えても、人は救えない」
「戦って勝利することしかできない」
「そうね。それはあまりにも悲しいことだから」
「それしかできない」
「だから、あなたは戦うだけの存在になってはいけない」
静漓は、その揺れる亜麻色の髪に触れる。
それは精神世界に触れた掌だった。
「あなたはまだ――変われる」
静漓は力強く言葉を放った。
戦い、勝利する。
それしかなかったものに、何を願うのか。平和を求めれば争いを行うしかない。けれど、それは連綿と続く連鎖でしかないのだ。
抽象的でもいい。
なんだっていい。
静漓は、その手を力強く握りしめた。
道行きは誰にもわからない。けれど、願いは祈りだ。
一つの祈りがすべてを変えるとは思えない。
けれど。
「どうか、人を救う人に」
この手の力は拳を握りしめるためではなく、誰かに差し伸べるために。
静漓は目を見開いた。
咆哮が轟いていた。
『天狗』の叫び声。
立ち上る炎は、天に昇る――。
大成功
🔵🔵🔵
ステラ・タタリクス
皐月様、いらっしゃいましたか
なんと因果に縛られたお姿なのか……
『戦いに際しては心に平和を』
貴女さまは平和を求めて戦うのに、戦いの中でしか居られない
残滓……エイル様の存在はどこまで世界に傷痕を刻むのでしょう?
ですが、決して貴女さまはひとりではないのです
ええ、主人が道を誤ろうとするならば、それを嗜めるのもメイドの役目
貴女さまの望まぬ力は私が潰してみせましょう!
というか、『九』尾……
憂国学徒兵……いえ、ノイン様?
『皐月様』の存在を考えるなら……こちらの味方と考えるべきですか
『最悪』はなさそうです
では、想いを叩きつけるとしましょう!!
【アウルム・ラエティティア】
歌いましょう、謳いましょう
生命の埒外である|私《猟兵》が
生命を謳うなどおかしな話ではありますが
生命を賛える歌を
そのような『|運命《さだめ》』に生まれようとも、抗っていいのだと
悪性と善性に揺らぐ心が『人』を作るのだと
盛る熾火は確かに平和へ繋がっているのだと
私が謳いましょう
その星の光が貴女さまの叫びならば
歌声で相殺してみせましょう!
生きる、と
『天狗』は咆哮する。
それは『妖大将』によって狂わされたが故か。それとも、憑依した男装の麗人『皐月』のうちにある心が叫んだのか。
いずれにしても、打倒さなければならない敵であることに代わりはない。
「『皐月』様、いらっしゃいましたか」
ステラ・タタリクス(紫苑・f33899)は、立ちふさがる。
咆哮によって迸る炎は、青色。
鮮烈な青い炎は、ステラの身に降り注ぐ。
しかし、ステラは痛みに喘ぐでもなく、悲しげな瞳を『天狗』へと向けていた。
「なんと因果に縛られたお姿なのか……」
『戦いに際しては心に平和を』
その言葉の意味を今一度ステラは噛みしめるようだった。
平和を求めて戦うのに、戦いの中にしか存在できない。
勝ち得たはずの平和すら、次なる争いの火種にしかならぬ現実を突きつけられ続ける心は、どれだけ叫んだのだろうか。
今まさに上がる叫びが証明しているようであった。
己が主人と定める『エイル』の残滓はどこまで世界に傷跡を刻むものなのか。
ステラには測りかねていた。
けれど、ステラは思う。
「ですが、決して貴女様はひとりではないのです」
いつだってそうだったように。
一人きりで戦うことなどなかった。
孤独ではなかったのだ。
だからこそ、ステラは頷く。
「ええ、主人が道を誤ろうとするならば、それを嗜めるのもメイドの役目。貴女様の望まぬ力は、私が潰してみせましょう!」
吹き荒れる九尾の炎。
身を打ち据える痛みにステラは顔をしかめることもなく踏み出す。
九尾。
それが示すのは、数であった。
『憂国学徒兵』――『ハイランダー・ナイン』。
最初の九人。
そして、『ノイン』。
示す言葉は断片的。
男装の麗人『皐月』が身に憑依させる妖が『天狗』であったことは運命であったのだろうか。
「善悪の彼岸に、私は立つ。どちらにも行けるが、どちらにも行けない。私は、どこまで行っても」
「孤独ではないと申し上げました! であれば!」
あの力、あの妖事態に善悪はない。
ただ、『妖大将』によって狂わされているだけなのだ。
そう、ステラは己の思いを叩きつけるだけでいい。
「いま、此処に在れる喜びを歌に――アウルム・ラエティティア!」
迸る歌声は衝撃を以て『天狗』の生み出した苛烈なる炎を吹き飛ばす。
「歌いましょう、謳いましょう。それは讃歌。生命を讃えるのは、生命の埒外にある|私《猟兵》しかありません。だからこそ!」
それが尊ばれるべきものであるとステラは知っている。
慈悲と慈愛のあり方を示す。
それでも得られぬ平和を求めることを『ケルビム』は讃える。
そして、謳うのは『セラフィム』なのだ。
今、この施錠に満ちるのは『生命賛歌』。
幸あれと叫ぶように、渦中にありながら喜び望む声が響き渡る。
猟兵である己が謳うなど、とステラは思ったかもしれない。
どんな存在にも|運命《さだめ》は煌めく。
けれど、その運命に抗うことができるのもまた、生命の輝きなのだ。
「悪性と善性に揺らぐ心が『人』を作るのだと、盛る熾火葉確かに平和に繋がっているのだと、この私が謳いましょう。他の誰でもない。この私が!」
炎は巻き上げられる。
天頂に上った炎を追うように。
それは星のようだった。
「あの星の光が、貴女様の叫びならば!」
どんな生命だって輝く。
「生きることは、戦うこと。貴女様は問いかけ続けなければならないのです。何故生きるのか、生きる喜びとは何か。問い続けるからこそ、人は止まらぬ時の歩みの中で、自らの揺れる心の支点を知るのです!」
荒れ狂う炎すら吹き飛ばす歌声は、高らかに響いた――。
大成功
🔵🔵🔵
朱鷺透・小枝子
来い、夜天叢雲剣。
黒鎖で破魔の鉄大団扇と『夜天叢雲剣』を繋ぎ相互の力を増幅。
……平和は脆い。勝ち取った直後の平和など最たるもの。
悪天候:暴風雷雨を降ろし【浄化】の霊威で戦場全体を襲い、
天狗の狐火を減じながら、メガスラスター【推力移動】
【闘争心】の豪風霊威纏う大団扇で狐火を【受け流し】天狗へ肉薄!
夜天叢雲剣を妖体に突き立て|浄化《破壊》の霊威を注ぎ込む!
故にこそ!その平和は守り、育くんでいかねばならない!!
聞こえているか皐月殿!!だから、壊れろ!!!
【念動力】黒鎖を伸ばし【ロープワーク】
離れぬよう拘束して己が【呪詛】も込めて破壊霊威をねじ込み、
【追撃】の雷を落として霊威継続ダメージを重ねる!!
「来い」
それは短い言葉だった。
戦場の空に昇る炎は、星へと変わる。
されど、未だ地にありし『天狗』の炎は吹き荒れていた。
「――」
叫び声は、男装の麗人『皐月』の心の叫びか。
望まぬ戦い。望まぬ力。望まぬ結末。
いずれにしても、朱鷺透・小枝子(亡国の戦塵・f29924)は躊躇わなかった。
もとより、己にできる事は破壊することのみ。
破壊の権化は、己を理解していた。
黒い鎖と鉄扇がつながり、そして退魔の神器、夜天叢雲剣(ヤテンムラクモノツルギ)と一体化する。
相互の力を増幅させるユーベルコードの煌きが燃え盛る人口魔眼の内側より溢れ出すようだった。
「……平和は脆い。勝ち取った直後の平和など最たるもの」
尊いもの。
大切なもの。
失いたくないもの。
そのいずれもが、いつだって柔らかく傷つきやすいものだということを小枝子は、嫌と言うほど理解していた。
だからこそ、だ。
暴風雷雨が吹きすさぶ中に、小枝子は立つ。
空に昇る光の元、『天狗』の放つ炎を鎮火せしめるように、浄化の雨を降りしきらせたのだ。
「故にこそ!」
踏み出す。
小枝子は躊躇わない。
鎮火したとは言え、『天狗』の炎は凄まじい。
苛烈なる勢いと共に小枝子に襲いかかる狐火は、彼女の身を灼くだろう。
痛みなど彼女には些末なことだった。
それ以上にしなければならないことが、彼女にはあったのだ。
手にした剣、『夜天天叢雲剣』を手に走る。
「その平和を守り、育んでいかねばならない!!」
そう、守り育てること。
破壊しかできぬ己にはできぬことを『皐月』はできるはずだ。
勝利者にしかなれぬ力であっても、それでもと願い続けたからこそ、今の今まで戦ってこれたのだ。
「平和は、私の後にしか生まれない。私は、それを」
「守れないと言うか。育てられないと言うか! 違うだろう!」
小枝子は叫ぶ。確かに、平和は争いの前段階でしかないのかもしれない。
壊されて初めて平和を実感できるのが人の性だというのならば、愚かしいと言うほかないのかも知れない。けれど、それでもと小枝子は思うのだ。
人の愚かしさだけが争いを生むのではない。
賢しさもまた争いを生むのだ。
「聞こえているか『皐月』殿!! だから、壊れろ!!! その宿命ごと、壊せッ!!!」
小枝子は叫び、黒鎖を飛ばし、『天狗』の体を引き寄せる。
炎と己の呪詛とが激突する。
雷が降り注ぎ、その最中に炎と剣とが激突する。
それは苛烈なる嵐。
雷が轟き、しかして、空の星は瞬き続ける――。
大成功
🔵🔵🔵
八秦・頼典
●POW
やはり…いや、間に合ったかと言うべきかな?
世羅腐威無と違って皐月殿の自我はまだ残っている…けども、それがやり辛くさせている
…さて、化かすのはここまでにしてくれるかな?
生憎だけど、皐月殿はそんな言葉をボクに投げかけない
何故かって?
色々とあった仲だからね
普段は温厚なボクも思わず声を荒げてしまいそうに心が震えてしまったけど、皐月殿が人質同然となっていれば尚更だ
天狗からすれば、妖大将の思惑を考えればまさにそうなんだけど…ボクは美しき麗人を傷つける趣味はなくてね
天狗に支配された皐月殿の攻撃を牛若丸にでもなった気分で、のらりくらりと躱しつつ【此の世に不可思議など有り得ない】と頭を掻きながら思案しよう
…やっぱりこれかな?
取り出すは皐月殿より頂いた笛…五月雨の龍笛
ボクは恋多き君
取り繕った軽い言葉よりも、この方が皐月殿を心を震わせるかなってね
天狗が媚珠の伝説みたいに皐月殿の身体より分離しかけた隙を狙い、狐のみを霊剣『鳴神』で斬るよ
キミの敗因は…皐月殿と初めて出会った時よりもボクの心を震わせたことさ
「やはり……いや、間に合ったか、と言うべきかな?」
空には炎の星。
天に昇る炎は、それ自体が力の発露であった。
『天狗』――この場合は『アマキツネ』と呼ぶのが相応しいか。
八秦・頼典(平安探偵陰陽師ライデン・f42896)は、男装の麗人『皐月』が身に憑依させる妖の力の強大さを知る。
坂東武者『世羅腐威無』の頭目である彼女であれば、ある種当然の力であるとも言えただろう。
しかし、坂東武者たちと違って『皐月』の意志めいたものが未だに残っている……いや、表出していると言うほうが正しいか。
それが、頼典にはどうにもやりづらいと思わせるものであった。
「……さて、化かすのは此処までにしてくれるかな?」
「『戦いに際しては心に平和を』。私は善悪の彼岸に立っている。揺れ動く心は、必要ない。私は戦いしか呼び込めない」
その言葉に頼典は、息を吐き出した。
『天狗』、キツネとは言え、最早聞く必要はなかった。
「生憎だけど、『皐月』殿はそんな言葉をボクに投げかけない」
何故か、と問われるまでもない。
色々とあったからだ。
そして、それは余人の知るところではない。だからこそ、頼典の心は震えていた。
心を狂わせる『妖大将』の妖力。
温厚であると頼典は己を知る。
怒ることなどめったにない。だが、それでも声が上ずってしまったのは、己の心が今震えているからだ。
『皐月』は言ってしまえば、人質だ。
『妖大将』は此処まで計算づくだったのだろうか? そうであったのならば、見事というほかない。
狂わされた坂東武者たちを猟兵たちはなるべく止めるしかない。
殺さずに、というのならば、逆に彼らが窮地に陥れられるのは当然の結果であったからだ。
「ボクはね、麗しき麗人を傷つける趣味はなくてね」
迫る『天狗』の突進は、あまりにも速い。
躱しきれるものではない。
直撃を避けることができても、衝撃波が頼典の身を打ち据える。骨身を軋ませ、臓腑を打ち据える痛みが走り抜ける。
まるで牛若丸のように、とはいいかなかったが、こういう者は気分だ。
体が痛みを訴えていても、関係ない。
こういう時は、さらりと笑うものだと頼典はわかっていた。
故に彼は頭をかきむしる。
「此の世に不可思議など有り得ない。あるのは必然だけだ」
ただ打ち据えるだけで勝負がつくのならば、こんなに容易いことはない。
あの空に浮かぶ炎の星が証明している。
あれは『皐月』の力の発露であろう。猟兵たちの呼びかけに応じて、あの天に上った炎の星は光を強めていっているのだ。
「なら、これかな?」
頼典は懐から取り出すのは、頂いた龍笛。
己は恋多き君。
取り繕った言葉は、偽りになる。
なら、と頼典は笑む。
言葉紡ぐよりも、歌を届けるよりも、何よりも。
奏でる。
掻きむしっていた頭から手を離し、龍笛に息を吹き込む。
己の思いを届けるには、音色がちょうどいい。
炎の星は益々、熾盛する。
「やはり、そうか。であれば」
頼典は踏み込む。
手にしたのは、霊剣『鳴神』。振るう斬撃は、炎の星と『天狗』との間を斬り裂くように振るわれ、その身を狂わせた妖力を断ち切るのだ。
そして、地に落ちんとする『皐月』の体を頼典は抱えて、着地する。
見上げた先にあったのは、紅角の煌きであった。
「むだぁ、と思っていたのだけれど? なんともお行儀のいいこと。誰一人として武者を殺すこともなかったのは、あなた達を舐めていた証拠かしら?」
『妖大将』、『紅角の鬼姫』が笑っていた。
「キミの敗因は……『皐月』殿と初めて出会った時より、ボクの心を震わせたことさ」
頼典は、元凶を睨めつける。
震えた心は偽れない。
なら、後はどうするべきかなど、言うまでもなかった――。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『紅角の鬼姫』
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POW : 紅角の鬼戯
【角が輝く間、妖気】を放つ。他のユーベルコードと同時に使用でき、【鬼の力を開放する】効果によってその成功率を高める。
SPD : 黒扇乱舞
【鬼の力を操ること】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【鋭い風の刃を放つ扇】で攻撃する。
WIZ : 黒液の滅腕
自身の身体部位ひとつを【黒い液状の鬼の腕】に変異させ、その特性を活かした様々な行動が可能となる。
イラスト:nitaka
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠薄翅・静漓」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
『妖大将』、『紅角の鬼姫』が笑っていた。
天にある炎の星は昇天し、消えた。
「あれが欲しかったのだけれど。まあ、しようがないわよねぇ。なら、もう片割れを狙うのが常ってものよね?」
彼女の狙いは、あくまで力そのものだった。
『天狗』を武威と妖力とで操っていたのは、副次的なもの。
猟兵が、『天狗』ごと男装の麗人『皐月』を殺してしまったのならば、むしろ、それこそが彼女の目論見を達成させるものであったからだ。
だが、その目論見はつゆと消えた。
「はぁ……でもまあ、いいわ。あなた達猟兵を排除できれば、もう片割れも簡単に縊ることができる。なにせ、あの片割れを護る武者は力を喪ったのだからぁ」
彼女は笑っていた。
こと、この状況に至ってなお、己の敗北はないとせせら笑うのだ。
そして、ぞぶり、と彼女の体の奥から溢れ出すのは、黒色の液状の如き偉業の腕部。
鬼の腕と、黒色の腕。
二対の腕を持ちながら、彼女はまだ足りないと言ったのだ。
「あともう一対。それさえあれば、あまねく全ての生命を縊り、我が物とすることができるの。だから、わたくしは」
無邪気に笑む。
「その『熾天』が欲しいの。だって、美しいんだもの。美しいものは、美しいものの傍にあるべきよね? そうよね?」
己こそが、それに相応しい。
己こそが、美しい。
そういうように『紅角の鬼姫』は、首を傾げた。
「なら、よこしなさいな、『それ』を。わたくしにこそ相応しい、星なのだわ、それは――」
八秦・頼典
●SPD
『熾天』か、なるほどね
わざわざ自供してくれて手間が省けたよ
妖大将…いや、紅角の鬼姫よ
この言葉を知っているかい?
…過ぎたる力は身を滅ぼす、と
キミの力では到底扱いきれない…まぁ、|妖《オブリビオン》にとってその身を引き替えに世界を破滅に導ければなんだろうけどさ
さて、まだ目覚めぬ皐月殿を御守りしながら妖退治と参ろう
手負いの身が堪えるけど、笛を吹くのは問題ない
皐月殿の心身に害を及ぼすかもとさっきは奏でなかった『妖祓の調べ』…これで悪しき鬼の力を阻害させて貰うよ
…ああ、確かにボクは女性を傷つける趣味はないと言った
けど、彼らはどうかな?
阿近に吽近よ… 【浄化】の牙をもってして紅角の鬼姫に喰らい付け
『熾天』の片割れ。
それが男装の麗人『皐月』であるというのならば、八秦・頼典(平安探偵陰陽師ライデン・f42896)は益々もって渡すわけにはいかぬと『妖大将』の前に立つ。
「『熾天』か、なるほどね」
「わかったかしら? なら、わたくしに『それ』を渡してちょうだい? 簡単なことでしょう?」
『妖大将』、『紅角の鬼姫』は微笑んだ。
別に無理矢理奪うこともできたが、それは優雅さに欠けると言わんばかりであった。
美しい己が優雅さに欠ける行いをするなど、それは彼女の美意識が許しはしない。美しきものには力が宿る。
それが世の理であると彼女は自負をもって尊大なる態度を頼典に向けていた。
「わざわざ自供してくれて手間が省けたよ」
「だったら、なぁに?」
頼典の態度が気に食わなかったのだろう。
ざわりと周囲の大気が揺らぐほどの妖力が溢れ出している。
びりびりと肌を突き刺すような気配。
見た目以上の武威を『紅角の鬼姫』は宿している。それを頼典は痛いほど理解しただろう。
「『妖大将』……いや、『紅角の鬼姫』よ。この言葉を知っているかい?」
「なによ」
「……過ぎたる力は身を滅ぼす、と」
「……わたくしには、余る力だとでも?」
「そのとおりだ。キミの力では到底扱い切れない……」
瞬間、頼典の頬を斬り裂くのは、風の刃であった。
凄まじい速度。
一瞬にして扇が振るわれ、風の刃を生み出すほどの鬼の力。
頼典は退くわけにはいかなかった。
己が退けば、気を失っている『皐月』を守れない。
確かに妖にとっては、この世界など滅べばいいだけのことである。膨大な力に耐えられなくても、身一つ引き換えにして破滅を世界にも足らせるのならば、それで良しとするのかもしれない。
だが、猟兵は多くを守らねばならない。
頼典は己が身が手負いであること、守らねばならないものがあること、それらが多く己の手足に枷するものだと理解していた。
だが、それでも頼典は手にした龍笛を奏でる。
「誰が、扱えないですって? このわたくしが、扱えぬ力などないのだわ!」
吹き荒れる風の刃。
まるで嵐だ。
それが頼典を散り散りに切り裂かんと迫っている。
だが、彼の瞳はユーベルコードに輝いていた。五月雨の龍笛。
放たれるは、心を震わせるほどの迫力ある音色。
かと思えば、軽やかに旋律が走り、風の刃を縫って『紅角の鬼姫』へと迫る。
「いいや、届くさ。それに……」
「あなたは女性を傷つける趣味はないのでしょう? だったら、その言葉、違えないことね!」
「ああ、そのとおりだ。だが、彼らはどうかな?」
音色は、悪しき心を打ち据える。
そして、その瞳を曇らせるのだ。音色の彼方に走るは、燃え盛る炎と激流の渦を持つ霊獣。
『阿近』と『吽近』。
二匹の牙が風の刃を縫う旋律と共に『紅角の鬼姫』へと迫り、その身を交差するように袈裟懸けに斬り裂くのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
朱鷺透・小枝子
壊れろ。
壊れろ、壊れろ、壊れろ
火尖鎗型抗体兵器二鎗を呼び出し、
【呪詛】吐き。意思を敵の破壊のみに絞り【闘争心】を燃やして、
あまねく生命と敵対せし火尖鎗型抗体兵器の呪いと同調して、
纏う劫火霊障の熱風で風の刃を【焼却吹き飛ばし】
火尖鎗を振るい回し『黒壊胎』鎗から劫火と破壊呪詛物質の黒い粘液を、
己が闘争心、意思と霊物質を贄とした燃え盛る大津波を鬼姫へ高速発射!
壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ
【念動力】黒粘液を薪に燃え盛る劫火と黒粘液を操り、
鬼姫の肉体を呪い壊し、その異形腕を焼き壊し【継戦能力】火尖鎗型抗体兵器より劫火を追加吹き込み火力を更に引き上げる!
壊れろ!!!!
それは呪詛のようであった。
「壊れろ」
それは呪詛そのものであった。
「壊れろ、壊れろ、壊れろ」
一つ覚えのような声に『妖大将』、『紅角の鬼姫』は己が身に刻まれた傷を抑えながら、しかし、ぞぶりと溢れ出した黒色の液体で身を覆った。
「これは美しくないからやりたくなかったのだけれど、ああ、でも」
彼女は身を覆う黒色の液体で鬼の腕を生み出し、扇を握りしめた。
迫るは破壊の権化。
「なんて醜いのかしら。その顔」
「壊れろ、壊れろ、壊れろ」
ただただ言葉を発する朱鷺透・小枝子(亡国の戦塵・f29924)の迫る姿に彼女は唾棄すべき存在を見つけたように吐き捨てた。
けれど、小枝子は止まらない。
たとえ、風の刃が嵐のように彼女の身を切り裂くのだとしても、止まらない。
燃えるは闘争心。
その意志は敵を……即ち、妖を破壊することのみに絞りきっていた。
故に吹き荒れるは、二振りの槍。
抗体兵器である二振りが、風の刃と打ち合って火花を散らす。
噴出した炎で受け止めた風の刃が散る。
しかし、しかしである。
溢れる嵐の刃は、次なる一撃を小枝子に叩き込んだ。
吹き飛ばす事ができないほどの圧倒的な風の刃の物量と威力。吹き飛ばすつもりで噴出させた霊障すらも風が切り裂いて、小枝子の身を斬りつける。
血潮が飛ぶ。
飛沫となって飛んだ朱色の珠。
のけぞるような小枝子の体躯が、しかし前のめりに踏み出した。
「壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ」
「ほんっとう、怖気が走るわぁ。一つ覚えが何よ、その程度でぇ!」
振るう扇。
『紅角の鬼姫』は、黒色の液体の腕を奮って、さらなる風の刃を嵐となして小枝子を取り囲んだ。
だが、次の瞬間、小枝子が咆哮する。
「るぅうううああああああああ!!!!!!」
刃の嵐の中にユーベルコードの輝きが灯る。
それは小枝子の手にした二振りの抗体兵器より噴出した破壊呪詛物質の黒い粘液。
奇しくも『紅角の鬼姫』と同じく黒色の液体が迸るようにして放たれ、弾丸のように風の刃を打ち返していくのだ。
「な、なによ、こいつ……!」
「壊れろ!!!」
小枝子は踏み込み、己が黒壊胎(クロフルイド)を念動力でもやし、劫火と共に『紅角の鬼姫』へと踏み込んだ。
そう、小枝子が吐き出せるのは、呪いだけだ。
破壊することしかできない存在には、それしかできない。
吹き荒れるようにして黒色の粘液が念動力によって生み出された劫火を、さらに立ち上らせる。
燃え上がるようにして火柱が天を衝く。
「くっ……こんなばっかみたいな、火力出したところで……当たらなければ意味ない。むだぁ!」
「壊れろ!!!!」
小枝子は構わなかった。
抗体兵器の切っ先が手繰る劫火が二振りの槍によって渦を巻き、竜巻の如き螺旋となり『紅角の鬼姫』へと叩きつけられる。
底上げされた火力の一撃は、小枝子ごと『紅角の鬼姫』を巻き込み、炎の渦の中に飲み込むのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
鹿村・トーゴ
鬼姫のお出ましか
先の武者達や皐月殿と何やら因縁が?それともたまたま欲しいものあったのか
先からの面子に面識は無いが
姫サマは凶悪で強い倒すべき敵てのはオレにも解る
攻撃を捌き接近しUCを至近から撃ち込むと決め
この妖力…姫サマはその紅い角が御自慢かい?
気配や妖気を【追跡、野生の勘】で他UC等で飛来する扇攻撃や鬼腕を躱し又は
自分の進路上ならば羅刹の膂力とクナイで【武器受け、受け流すかカウンター】に手裏剣を【念動力】で擲ち強引に進路を開く
姫の煽りや攻撃も【激痛耐性】で凌ぐ
ふん
悪辣でも強い敵は好きさ
まァ羅刹の悪癖かね?
さあ勝負
接近しながら練り上げたUCを拳とクナイに乗せ
至近から角もぶち壊す気で撃つ
アドリブ可
それは偶然か必然か。
鹿村・トーゴ(鄙の伏鳥・f14519)にはわからなかった。
けれど、そうした因縁はいつだっていくつもが連なり紡がれ、一束になって因果へとつながるのだということを彼は知っていた。
男装の麗人『皐月』。
坂東武者『世羅腐威無』。
そして、『妖大将』、『紅角の鬼姫』。
いくつのもの因縁が紡がれたのならば、それはもう運命というしかなかった。
「あんたの欲しいものっていうのは、一体なんだったんだ、結局のところ」
「それも知りもしないで、わたくしの邪魔をしているっていうの? 小賢しいったらないわね?」
吹き荒れる炎を振りほどくようにして扇を奮って『紅角の鬼姫』は忌々しげにトーゴを見やる。
彼女の身は先んじた猟兵達によって傷ついている。
しかし、鬼の力はまだ健在であった。
ぞぶりと身寄り溢れ出す異形の黒色の液体が鬼の手を形成し、紅の角が煌めいた。
「小賢しいが賢しいがどうでもいいよ。どうあっても姫サマは凶悪で強い。倒すべき敵だってことはオレにだって解るんだから」
「そういうのを小賢しいっていのよ! わたくしに歯向かおうなんて、むだぁ」
振るわれた黒色の液体の鬼の手が扇を振るう。
凄まじい風が吹き荒れ、刃となってトーゴの体を斬り裂く。
明らかに力が底上げされている。
血潮が飛沫となって飛ぶ中、トーゴは顔をしかめながらも前に進む。
あの紅角。
光り輝いているのは、鬼のちからの発露であるだろう。
吹き荒れる風に乗った妖力が凄まじい。
であるのならば、トーゴは前に前にと踏み出す。
「愚直っていうのは、愚かしいってことでしょう? そんな愚かなあなたにはぁ」
風の刃がが渦を巻き、トーゴを取り囲むようにして荒れ狂う。
「おろかでも前に進むことができるんならさ!」
骨身がきしみあげるほどの音を立てて、トーゴは己の体躯の筋肉を駆動させる。
投げはなったクナイが風の刃を含んだ竜巻を穿った。
道がないなら作ればいい。
それだけのことだ。
強引だなんだと言っても、結局これは力と力とのぶつけ合いだ。
「なっ……なんて、野蛮なことを。強引がすぎるのではなくて!?」
「ふんっ」
トーゴは走る。
道はできた。なら進むだけなのだ。
悪辣でもなんでも強い敵は好きだ。心が踊る。どうしたって高揚してしまうものなのだ。これが羅刹の悪癖だというのならば、その通りだ。
けれど、それでもトーゴは、己の中の羅刹を否定しない。
ユーベルコードに彼の瞳が煌めいていた。
「さあ、勝負」
練り上げられた空気を纏う拳が『紅角の鬼姫』へと迫る。
下から振り抜かれるクナイを彼女は既のところで躱していた。だが、のけぞるようにして身を反らした彼女が見たのは、トーゴの振り下ろされる拳だった。
クナイはブラフ。
そして、振るわれるは超圧縮された空気の鉄槌。
「“視ずの鳥其の嘴は此の指す先に” …穿て大鉄嘴」
空嘴(カラバシ)。
ユーベルコードの一撃が『紅角の鬼姫』の光り輝く双角が一つをへし折るように叩きつけられ、砕けた紅の破片が宙に舞うのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
ブラミエ・トゥカーズ
初めまして、異界の姫君よ。
一応、鬼の名を冠するモノとして挨拶だけはしておこうか。
他所のこと故、余が文句を言うのは筋違いではあるが、人を減らされてはこの世界の同類達の行き場がなくなるのでな?
人を護られせてもらうぞ?
鬼であり、先ほどまでの戦闘でダメージがあるため操られ扇を避けられない
鬼の器が壊れる
真の姿
手枷足枷を嵌めた中世風村娘の型に凝縮した”猟兵になった”ウイルスの集合体
星ばかり求めて近くが見えない阿呆に良い薬をくれてやるぞ。
ウイルスは形状を変化させながら鬼姫を襲う
ただのウイルスとなったので鬼の属性は無くなっている
実態のサイズは肉眼では見えないほど極小のため視認はできなくなる
てめぇが何から成った鬼かなんて興味はねぇが、わしは最も古い生命の敵の一つだぞ。
この世界の物が言えねぇ同類《病原菌・ウイルス》共に代わっててめぇを闇殺してやろう。
只々増殖し、只々殺す。
それは星が生み出した星に住む生命を縊り、我が物とすることを定められた最弱最小最悪の軍勢
たかが妖怪一匹程度でわしらを殺せるわけねぇよ?
紅の双角の片割れが砕ける。
散る破片は美しくとも、『妖大将』、『紅角の鬼姫』の形相は恐ろしく歪んでいた。
己の美しさを彼女は誇っていた。
それが欠けたことへの怒りに彼女は、その歪めた表情を浮かべていた。
「許せっ、ない! このわたくしのっ! 美しい角を……角を砕くなんてッ!!!」
怒り狂う感情は、激情そのものだった。
渦巻く妖力が実態を持って膨れ上がり、手にした扇が、轟々と風を生み出しては周囲に溢れ出させていた。
そんな風の音が響き渡る中、ブラミエ・トゥカーズ(《妖怪》ヴァンパイア・f27968)は立っていた。
「はじめまして、異界の姫君よ」
それは慇懃無礼極まりない挨拶であった。
鬼の名を冠するモノとして挨拶だけはしておこうという形程度のものでしかなかったのだ。
よそ事であっても、己が口出すするのも文句を言うのも筋違いであるという自覚はある。
だが、『紅角の鬼姫』が平安結界を破り、人を思うままに喰らうのであれば話は別だ。
人を減らされるということは、ブラミエにとって同類たちの行き場がなくなるということであった。
故に彼女は肩を竦めるに肩を僅かに釣り上げて『紅角の鬼姫』へと告げる。
「人を護らせてもらうぞ?」
「いちいち、カンに触るものいいよねぇ? それって、まるでわたくしよりあなたのほうが上、とでも言っているように聞こえるのだけどぉ!!」
轟々と震える風と共に刃が形成され、ブラミエへと襲いかかる。
それを彼女は躱す余裕などなかった。
切り裂かれる体躯。
「全く口程にもないわねぇ! ほんっと、むだぁ!」
「……そうか」
ブラミエは切り裂かれた体躯と共に己の鬼の器が壊れるのを感じただろう。
だが、同時に彼女の姿が変貌する。
手枷、足枷がいつの間に彼女の身に加えられていた。いつのまに、と思う暇もなかっただろう。
その姿はまるで中世時代にありし村娘そのものであったからだ。
「みすぼらしい姿ぁ。それで一体なんなのよ。そんな平凡凡庸極まりない姿で、このわたくしと張り合おうっていうのぉ?」
「星ばかり求めて近くが視えていない阿呆に良い薬をくれてやろう」
村娘の姿は、即座に変わる。
それは、狂乱の病を纏う狼。
大地を疾駆し、風の刃すら躱して一気に『紅角の鬼姫』へと襲いかかる。
すでにブラミエの体は吸血鬼としての属性はない。
あるのはウィルスとしての特性のみ。
故に、集合体である狼の体躯が如何に風の刃で斬り裂くのだとしても、寸断されたように視えて、刃がただ隙間を通り抜けただけにしか過ぎないのだ。
とは言え、それを『紅角の鬼姫』が認識できるわけがない。
肉眼では見ることもできぬほど極小。
だが、小さいことが弱いことには繋がらない。
「てめぇが何から成った鬼かなんて興味はねぇが、わしは最も古い生命の敵の一つだぞ」
「なによ、なによ、なによ! これ! なんで切り裂けないのよ!」
伝承解放・悪しき風と共に来たるモノ(トリプルドロンチェンジ)。
そう、それは風と共に常にあるもの。
故に風なる邪。
「この世界の物が言えねぇ|同類《ウィルス》共に代わって、てめぇを闇殺してやろう」
ただ、増殖する。
ただ、殺す。
それが病原気としての本懐。
それは星が生み出した星に住む生命を縊り、我が物とすることを定められた最弱最小最悪の軍勢。
ブラミエは個ではない。
それを見誤った時点で『紅角の鬼姫』に勝機はない。
風纏う狼の一撃が『紅角の鬼姫』の体を蝕む。
それは恐るべき力であった。
「たかが妖怪一匹程度でわしらを殺せるわけねぇよ?」
ブラミエは、そう呟き、強靭なる鬼の体躯を蝕みながら風に乗って『紅角の鬼姫』の体躯を徐々に蝕んでいくのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
ステラ・タタリクス
皐月様、良かった
元に戻られたようですね
……善悪の彼岸に立つ――きっと
クロムキャバリアより|漂流《ドリフト》した時の
フュンフ・エイル様もこのような気持ちだったのでしょうね
揺れ動く心が必要ない、など悲しい事を言わないでくださいませ
貴女さまは今、『生きている』のです
貴女さまの存在が戦いを引き寄せるのだとしても
貴女さまの存在が厭われる必要など無いのです
っていうかぁ、メイドはどこでも付いて行きますけどぉ!!
アッハイ慣れてないことはやめます
さてと
随分と欲張りな|赤《悪性》ですね?
3対の腕――ふむ、セラフィム・エイル?
完全なる悪性を得て、あまねく全ての生命を縊り殺しますか
ただの|絡繰り《機械》と変わりませんね?
だからこそ、|熾天《セラフィム》の力は
貴方ごときにはもったいないと知りなさい!!
一撃で決めます!
今注ぎ込める限界まで使って
【トニトゥルス・ルークス・グラディウス】
天駆ける流星にいつか辿り着く
この雷光は熾天の光に決して飲み込まれない
私の意思!
さぁまとめてぶった斬ってさしあげます!
「『皐月』様、良かった」
憑依した妖ごと『妖大将』に操られていた男装の麗人『皐月』の無事を知ったステラ・タタリクス(紫苑・f33899)は息を吐き出した。
未だ『妖大将』、『紅角の鬼姫』は健在。
であれば、まだ予断を許さぬ状況ではあるが、しかし一つの関心事に片がついたことをステラは安堵するのだ。
善悪の彼岸。
それはきっと、とステラは思うのだ。
彼女が主人と仰ぐ存在。
彼が漂流した時もまた、同じ気持ちだったのかもしれない。
揺れ動く心が必要ないなどと、それは悲しいことだとステラは思った。
『皐月』は確かに片割れかも知れないし、残滓であるかもしれない。
けれど、生きているのだ。
たとえ、その存在が戦いを引き寄せるのだとしても、彼女の存在が厭われる必要などないのだ。
いつだって彼女はそう思っている。
主人と仰ぐのならばこそ、その後に続くのが本分である。
「っていうかぁ、メイドはどこまでも付いて行きますけどぉ!!」
慣れないことはやらないほうがいい。
ステラは『皐月』の身を案じるあまり、不慣れなことをしていた。
けれど、それでも本心だ。
彼女の身が無事であるといことが、他の何よりもステラの心を落ち着かせていた。
たとえ、対峙するのが圧倒的な武威と妖力を持ち得る『妖大将』なのだとしても、臆する理由にはならなかったのだ。
「このわたくしが、なんでここまで追い詰められるっていうのよ。いえ、追い詰められているなんて思うこと事態間違っているじゃあないの! だって、わたくしは美しいのよ。美しいってことは全てに優先されるべきことでしょうが!」
咆哮する『紅角の鬼姫』は、その瞳を輝かせ、また砕かれ片割れとなった双角を紅く輝かせていた。
吹き荒れる風。
刃となった風が嵐のようにステラへと迫っていた。
「ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、このわたくしのために用意された美しいもの! それを手にするのが何においても優先されるべきなのよぉ!」
「これまた随分と欲張りな|赤《悪性》ですね?」
ステラは、黒色の液体が一対の腕部となって、風を扇で生み出しているのを見た。
二対の腕。
それでは足りないと彼女は言っていた。
三対の腕。
「――ふむ、『セラフィム・エイル』を模倣しようというのでしょうか。完全なる悪性を得て、あまねく全ての命を縊り殺しますか。そうであったのなら、ただの|絡繰り《機械》と変わりませんね?」
「だったらなんだっていうのよ。絡繰りだろうとなんだろうと、美しいものは、それだけで勝ちがあるのよぉ」
「だからこそ、|『熾天』《セラフィム》の力は、貴方ごときにはもったいないと知りなさい!!」
「誰がぁ!」
荒れ狂うようにしてステラへと迫る風の刃。
まるで竜巻のように風の刃が連なり、ステラへと迫っている。
時間は掛けられない。
一撃。
そう、一撃だ、とステラは己が瞳をユーベルコードに輝かせる。
「天使核、コネクト」
構える。
己が胸に抱く天使核と直結した剣の柄が燃える。
燃え盛るように膨れ上がったエネルギーは、刀身を形成し、迸る雷光の剣へと変貌せしめるのだ。
「トニトゥルス・ルークス・グラディウス……天駆ける流星にいつか辿り着く」
「できるわけないでしょう! あなた程度がぁ!」
「いいえ、どれだけ言われようとも。この雷光は『熾天』の光に決して飲み込まれない私の意志!」
往くのだ。
追いかけ続けるのだ。
その意志がある限り、彼女は立ち止まらない。
力に溺れるのでもなく、力を欲するのでもなく、ただ、その傍にありたいという願いだけが、彼女を邁進させる原動力なのだ。
「ばかみたいな、そんなことで、わたくしを阻むなんて! そんなことがあっていいわけがないわ!」
迫る竜巻をステラは雷光の剣で両断する――のみならず、『紅角の鬼姫』へと剣が迫る。
「まとめてぶった斬ってさしあげます!」
「な、なによ! なんでそんなことが……!!」
「できるのです! やるやらないではなく、やる! それだけなのです!」
振り降ろされた雷光は、轟音を立て『紅角の鬼姫』の体を打ち据えた――。
大成功
🔵🔵🔵
朱鷺透・小枝子
自分を奔らせるのは、雷棲滅鬼悪達の無念。
壊せ。敵を、壊し尽せ。
【継戦能力】『禍戦・壊帰萌』
火尖鎗型抗体兵器二振りを持ち、
己ごと燃やす様に劫火の霊障を滾らせ、戦闘続行。
壊せ。燃やし尽くせ。ただそれだけを為せ。
劫火の炎を推進力に、風の刃を|喰らいながら《黄泉返りながら》駆け進む。
阻む黒液の滅腕に火尖鎗型抗体兵器を突き立て、発火。
無尽蔵に増幅させた怨念を鎗に吸い上げさせ、火力を上げて蒸発させに掛かる。槍を手放し騎兵刀を持ってそうして前に進む。
進んで、進んで、その先にある鬼の首を叩き斬るまで!!
強引にでも寄って、騎兵刀でそっ首を断ち切る!
雷光迸る戦場を走る。
ただ、ひたすらに走った。
朱鷺透・小枝子(亡国の戦塵・f29924)の体を走らせているのは、無念であった。
護るべきを護れず。
ただ相対すべき敵の走狗へと成り果てた無念。
それを小枝子は己が胸に拾っては叩き込むように一歩を踏み出していた。
その無念は晴らされなければならないし、また叩きつけねばならなかった。少なくとも小枝子はそう思っていたし、そうしなければならないと信じて疑わなかった。
「壊せ。敵を、壊し尽くせ」
たとえ、風の刃が己の五体を切り裂き、その血潮が散るのだとしても、小枝子は躊躇わない。
痛み程度で小枝子が止まるわけがない。
ただ壊すという一念のみが彼女を直走らせていたのだ。
「な、なによ、ほんとうになんなのよ、こいつら! わたくしの美しさがわからないっていうの? あの星は、わたくしにこそ相応しいっていうのに!」
『紅角の鬼姫』は狂乱するように扇を振るった。
片割れとなった紅角が煌き、生み出される風の刃は、それまでの比ではない。
だが、それでも小枝子は手にした二振りの抗体兵器たる槍を手に、己すらも燃やすかのような劫火を滾らせて嵐へと突っ込む。
「壊せ。燃やし尽くせ」
ただそれだけだ。
それだけのために己の存在はあるのだというように小枝子は劫火を推進力に変えて、さらには風の刃すらも喰らう。
身に満ちた風。
臓腑を内側から斬り裂くように荒れ狂う風すらも小枝子は取り込み、噴出する炎と共に風の刃たる嵐を切り裂きて『紅角の鬼姫』へと盲信する。
「し、っつこいわねぇ!!」
ぞぶりと溢れ出した黒色の液体の鬼の腕が小枝子を押さえつける。
大地に叩きつけられた小枝子の体が砕け、ひしゃげる。
だが、突き立てられた槍から噴出した炎が押さえつけた黒色の液体ごと、小枝子を跳ね上げさせた。
「ッッ、こいつ!」
「壊せ!!」
進む。
進む。阻む物があるのだとしても、それを押しのけてでも進む。
それは強引極まりない突進であった。
無謀無策というやつであったかもしれないが、もとより、この小枝子という猟兵に策というものは小細工と一緒であった。
性に合わない。
であれば、彼女は愚直にすぎる。
ただ進むことだけ。
ただ壊すことだけ。
それをイコールで結んで、ただ行うだけなのだ。
目指すは、鬼の首。
「壊して、壊して、壊して、その先を」
「なんでこいつ、死なないのよ!!」
絶叫が聞こえる。
だが、当然だ。小枝子は悪霊なのだ。もとより死んでいるのなら、死など無意味。己の怨念と『世羅腐威無』の無念を無尽蔵に増幅させ、己が手にした槍の出力を底上げしたのだ。
振るわれる槍の斬撃。
その一撃がついに『紅角の鬼姫』の首を両断し、小枝子はその身より炎を噴出させ、嵐の如き風を吹き飛ばした――。
大成功
🔵🔵🔵
薄翅・静漓
一度、息を吸い、静かに吐く
胸の奥で渦巻く感情を、そっと鎮めるように
私は、まだ知らないことばかり
けれど、それでも知っているの
生命を縊り戦い続けて壊れてしまった、あの姿を
――人造竜騎《エイル》
あなた、あれをなぞるつもりなの
それがどれほど残酷なことか、知っていながら
『熾天』――あれがどれほど美しく見えたとしても
運命に抗う者を嘲笑った者に、手にする資格はない
あれはきっと、祈りに近いもの
痛みも悲しみも、すべてを引き受ける覚悟をした者だけが持つもの
私は、放つ
心のオーラを滾らせ、光の矢に変えて
炎を纏い、目も眩むほどの輝きを迸らせて
風よりも速く、妖気を裂き、貫けと
……あなたは、もう此処へは戻れない
どれほど足掻いても、無駄よ
さようなら――『紅角の鬼姫』
「ああ、もう、なによ、なによ!! やってられないわ、こんなの!」
両断されて飛んだ首を黒い液体が腕のように飛び、掴んだ。
『紅角の鬼姫』の首は確かに寸断された。
だが、その声は確かに彼女の宙を舞った首から響いていたのだ。
掴まれた首の根本と胴が黒色の液体で縫合するように繋がる。
「どいつもこいつも、わたくしの邪魔ばかり! 苛立つわぁ、ほんとうに! あれこそわたくしに相応しい星なの。『熾天』とはそういうものなの。それを、よくも邪魔ばかり」
その言葉に薄翅・静漓(水月の巫女・f40688)は一度、息を吸い、静かに吐き出した。
胸の奥で渦巻く感情が荒れ狂うのを鎮めるためであった。
あれを、あの星を美しいものとしか『紅角の鬼姫』は見ていなかった。
その本質を知ろうともせず、ただ美しいとしか言わなかった。
美しさとは一元的なものではない。
数多の要素が組み合わさり、混ぜ合わさり、混沌めいたものの中から磨かれて生み出されたものこそが美しさなのだ。
時にそれは、多角的に見れば美しさとは言えないものでもあったかもしれない。
「私は、まだ知らないことばかり」
「だったら、黙っていなさいよ。すっこんでいないさいよ。邪魔ばかりして!」
「けれど、それでも知っているの」
静漓の言葉に『紅角の鬼姫』は苛立つように扇を振るった。
生み出された風の刃は鋭く、静漓の体を斬り裂くだろう。
「生命を縊り戦い続けて壊れてしまった、あの姿を」
人造竜騎『エイル』。
それが静漓の胸の奥で渦巻く感情の一端であったし、正体でもあった。
あれを美しいと言った。
何も見ずに、知らずに、それを美しいとただ一元的に言い切った存在を静漓は、許せないと思ったのだろう。
だからこそ、胸の奥で激情が渦巻く。
鎮めた心はまた波浪の様を見せる。
「あなた、あれをなぞるつもりなの。それがどれほど残酷なことか、知っていながら」
「だから何よ。奪うのが生命の本質でしょう。それがどうだっていうのよ。残酷? 当たり前でしょう。世界はこんなにも残酷なの。わたくしが何よりも美しいのと同じようにね!」
静漓は息を飲み込んだ。
「『熾天』――あれがどれほど美しく見えたとしても、運命に抗う者を嘲笑った者に、手にする資格はない」
「あるわよ、資格は! わたくしが美しい、それだけが理由よ!」
風の刃が荒れ狂い、静漓を取り囲む。
嵐は光すら遮断するようだった。
静漓は胸に手を当てる。
あの炎の星は、祈りだ。
願いは祈りに昇華する。
痛みも悲しみも、全てを引き受ける覚悟をしたものだけが持てるもの。
この胸の波浪は、きっと、そのためにある。
「私は、放つ」
心のオーラを滾らせる。
胸に触れた手が離れると同時に、光の矢が引き抜かれるようにして生み出されていく。
「何がよ! そんな矢程度、わたくしの風がぁッ!!」
確かに強烈な風だ。
矢の一射では心許ない。
けれど静漓は構わない。炎を纏い、目も眩むほどの輝きを迸らせる光の矢。
風よりも速く、妖気を裂き、貫けと念じる。
「……あなたは、もう此処へは戻れない」
「できるわけないでしょうっ、そんなこと! この美しいわたくしなのよ。全ての美しいものを、この手の中に収めるためにはねぇ!」
力が必要なのだ。
みなぎるように黒色の液体が鬼の腕を形成し、荒れ狂う風の刃を極大にまで形成し静漓へと叩きつける。
だが、静漓の瞳はユーベルコードにきらめいていた。
放たれた矢は、刹那。
放たれた瞬間には、『あの光のように』、『紅角の鬼姫』の胸を穿ち、けれど、そのまま天頂へと奔る。
「な、な、な……!? なんで!? なんで、わたくしが、射抜かれて……いや、それよりも、これ!!」
静漓の放った光の矢は、天頂にありし炎の星へと突き進む。
矢に固定された『紅角の鬼姫』の背に迫るのは、炎の星、『熾天』。
藻掻き、矢を抜こうとする彼女に静漓は見上げ、静かに告げた。
「どれだけ足掻いても、無駄よ」
静漓は指差す。
どれだけ速いのだとしても、力強いのだとしても、『あの光のように』はできない。
炎をまとった矢は吸い込まれるように『紅角の鬼姫』を炎の星へと叩き込んだ。
絶叫が聞こえる。
滅びゆく者の声。
それを背に静漓は静かに呟いた。
「さようなら――『紅角の鬼姫』」
得ようとしたものは得られない。
そして、輝ける星は彼女の放った一射と共に虚空に消えた。
その先に何があるのかはわからないけれど。
願いは祈りに昇華する。
その光の軌跡は、また何処かへと繋がっていくのだから――。
大成功
🔵🔵🔵
最終結果:成功
完成日:2025年04月05日
宿敵
『紅角の鬼姫』
を撃破!
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