チョコレート・アステロイド・クライシス
ヒーローズアースの広大な宇宙。この星の海には未だ知られざる文明があり、時にそれは、宇宙からの侵略者として姿を現す。
今日、夢ヶ枝・るこる(豊饒の使徒・夢・f10980)が宇宙に出向いたのも、そんな侵略者……のようなもの? を迎え撃つためであった。
「――なるほど、聞いた通りですねぇ」
『そうでしょう? あんなもの、地球に近づける訳にはいかないわぁ』
祭器の通信越しに聞こえるのは、この世界の豊穣の女神の一柱、ミノルス。牛角と豊満な肉体を持つ彼女はるこるが崇める女神とは別の存在だが、かつて知り合い、友誼を結んだ相手でもある。
そんな彼女の依頼を受けたるこるが観測したのは、巨大な……巨大すぎる、チョコの小惑星であった。
「あれが、『不死の怪物』の残滓を取り込んでしまったチョコレート、と?」
『ええ。通常の手段での破壊は不可能よぉ』
不死の怪物は古の時代、神々に封印され、生命創造の礎となった。だがその残滓が宇宙へと逃れ、そしてチョコと融合して新たな怪物を生み出してしまったらしい。
そして困った事に、不死の怪物の殺し方は現在でも発見されていないのだ。
『ただチョコである以上、食べれば封じる事ができるわぁ……食べられればだけどぉ』
「なるほど、それで私が呼ばれたのですねぇ」
当たり前の話だが、小惑星サイズのチョコを食べ切る事など出来ない……普通は。だがるこるは、豊穣の女神の使徒として、規格外の食欲――を通り越した何かを賜っている。
確かに、この危機を解決出来るのは彼女しかいないだろう。
「わかりました、ではいただいてみますぅ」
『ええ、お願いねぇ』
ミノルスにそう告げたるこるは、早速小惑星へと近づいていく。スペースシップワールド製の宇宙服と女神の加護で、宇宙空間でも問題ない。
すると小惑星は触手を伸ばし、るこるを迎え撃ってきて。
「むぐっ……」
『大丈夫――そうねぇ!?』
いや、触手と思ったのは液体のチョコだ。食べられたい願望を持つチョコが、自分を食べてくれる存在に気づき、無理やり口の中に流れ込んできたのである。
常人なら一瞬で破裂してしまいそうな量だが、るこるは音を立てて飲み干し、その分だけ身体を膨らませていく。
『……いや改めて、おかしくないかしらぁ?』
「むぐむぐ」
ミノルスの当然の疑問に、しかしチョコを呑み続けるるこるは答えられない。山ほど大きくなろうとも、『味が一辺倒なのが辛いですねぇ』ぐらいにしか考えていないが。
『……本当に大丈夫なのぉ?』
「ええ、大丈夫ですよぉ」
そうしてあっさりと小惑星を飲み干し、ミノルスの問いかけにも、平然と頷きを返するこる。いや、もう首が胸に埋もれて頷けないけれど。
『同じ豊穣の女神として、言いたいことはあるけど……それどころじゃないのよねぇ』
「と、申しますと?」
そんな状況でミノルスは、だがすぐに深刻そうに声音を切り替える。そしてこちらの祭器へと、一つの映像を送って来た。
『……どうやら、小惑星は1つじゃなかったようなのぉ』
「そのようですねぇ」
そこに映し出されるのは、チョコの小惑星『群』。どうやら不死の怪物の残滓は、増殖成長していたらしい。
数え切れないほどの小惑星が、地球に向かって接近している。一つでも辿り着けば、大きな被害を出しかねない。
「まあ、全部いただきましょうかぁ」
『流石にあの量はあなたでも食べられ――るのぉ!?』
若干の戦慄を含んだ声を上げるミノルスに、平然とした態度で頷くるこる。まあ正直あのくらいの量なら、最近は割と。
『まあ、助かる……んだけど、あと、できれば地球から遠ざかって貰えると……』
「ああ、そうですねぇ」
申し訳なさそうなミノルスの言葉に、なるほどと納得するるこる。確かにこの数を食べて膨らむと、るこるの重力で大災害が起きかねない。
「わかりましたぁ。では行ってきますねぇ」
『ごめんなさいねぇ』
そうしてるこるは地球から離れ、チョコの小惑星群に向かっていく。そしてそれらの小惑星を吸収、いや吸引してどんどん大きくなっていくるこるの姿を、ミノルスはただただ呆然と見守るのだった。
「……なんだ、ありゃ?」
太陽系から離れた、外宇宙の一角。アスリートアースに戻るために広大な宇宙を旅するサッカー・フォーミュラ『エル・ティグレ』は、地球大の球体が2つ繋がったような妙な惑星を見つけ、首を傾げた。
「うわ、甘っ! なんだこりゃ!」
近づいて見ればひどく甘ったるい大気を纏っており、思わず顔を顰めて離れていくティグレ。だが強大なフォーミュラである彼女さえ、その正体に気づく事はなかった。
もし彼女が地表付近に近づいていれば、惑星から飛び出した小さな頭部を見つけたはずなのだが。
「いつになったら痩せますかねぇ……」
祭器の通信圏外まで流され、宇宙漂流をはじめて早一週間。いつもよりたくさん食べたせいか、元に戻るのにも時間がかかりそうだ――。
成功
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