●梅は咲いたか桜はまだかいな
さかのぼること、帝都櫻大戦の折り。
猟兵への助太刀を買って出たキャンピーくんの世界移動能力により、各世界の強者たちが多くの戦場へと派遣された。そんな彼らの奮戦が実を結び、大戦は見事に猟兵陣営の勝利という形で幕を下ろした。
首塚の一族も、それら協力者たちの一部だ。大戦が終わった今は、サムライエンパイアに帰還――していてしかるべきなのだが、未だに封神武侠界にて足止めされている状態なのだという。
「キャンピーくんの力を借りれれば話は早いんですけど、あの方は行方をくらましてしまいましたからね。困ったものです」
と言いつつ、田丸・多摩(謎の裏方お姐さん・f09034)の表情は大して困ってもいなさそうなノホホンとした微笑ではあるが。
ともあれ、首塚の一族が帰還を果たすには、キャンピーくん抜きで大規模な世界移動を行わなければならず、それには膨大なエネルギーが必要になる。
そして、そのエネルギーをまかなう手段については、もう目処が立っているのだという。
「封神武侠界の『楽浪郡』は、他世界からの物品が流れ着きやすい、極めて気脈の不安定な環境です。そして同時に、瘴気の影響で渾沌化したオブリビオンが生まれることもある土地でもあります」
渾沌化オブリビオンとは、身体の一部が異形化した影響で、グリモア猟兵の予知能力をもってさえ予測不能な攻撃を繰り出せるオブリビオンを指す。当たり前に発生したオブリビオンと比べて、遥かに膨大なエネルギーを有する存在だ。
このオブリビオンを、首塚の一族のユーベルコードである『鎖』で捕縛することで、世界移動を行うエネルギー源にできるのだという。
「そして今回、待望の渾沌化オブリビオンの発生が予知できましたので、猟兵の皆さんに出陣をお願いしたいのです。場所は、とある桜の名所です」
そこは観光地としてそれなりに名の通った場所であるらしく、特に目玉の一つである『千年桜』と呼ばれる大桜は人気のスポットなのだとか。
しかし、その千年桜を中心とした桜林の一帯を、渾沌化オブリビオンによって率いられたオブリビオンの集団が占拠するという予知があった。
取り巻きの集団オブリビオンについては、植物を用いたユーベルコードを使う人型の邪精であるというだけで、これといって特異な強さなり武器なりが付与されているわけではない。
やはり戦力として警戒すべきは、首魁となっている渾沌化オブリビオンだろう。
「見た目は鬼の少年のような姿なのですが、渾沌化の影響で、体の表面に蔓植物が巻き付いているような格好になっているはずです。そもそもが恐るべき仙術の使い手のようですが……渾沌化した後は、仙術に加えて蔓を利用した追加ユーベルコードを繰り出してくると思われます」
とはいえ、現段階ではその追加ユーベルコードの詳細はわからない。あらかじめ対策を立てておくというのは難しいだろうが、少なくとも覚悟だけは抱いた上で挑まねばなるまい。
「それから先ほども申し上げましたが、目的はあくまで渾沌化オブリビオンの捕獲ですので、討伐してしまっては意味がありません。手加減して勝てるかどうか微妙な相手であるところ、恐縮なお願いではありますが……勢い余って殺してしまわないよう、ご注意を」
それから、と多摩は付け加える。
「事が済んだ後には近くの旅館に部屋を取って、首塚の一族の皆様ともどもゆっくりしていただく手はずになっています。花も見頃を迎える時季ですし、良い骨休めになると思いますよ」
大神登良
オープニングをご覧いただき、ありがとうございます。大神登良です。
戦場は、花見の名所という『千年桜』を中心にした桜の林です。オブリビオン出現という緊急事態の最中なので、桜に被害が出たからといって強く責められることはなく、依頼が失敗になるわけではありません。ただ、貴重な観光資源が無事のまま戦いをこなせれば、人々からは感謝されることでしょう。
なお、斎藤・福をはじめとした首塚の一族も同行していますが、直接的に戦闘の役に立つことはないと思ってください。
第一章は、集団オブリビオンとの戦いです。これというギミックはありません。
第二章は、渾沌化したボスオブリビオンとの戦いです。オープニングでも述べられていますが、殺すのではなく弱らせて捕縛することが目的なので、上手に力加減を図ったプレイングをお願いします。
また、渾沌化によってP、S、Wいずれの場合でも、追加で「リプレイ執筆時まで内容を明かさない、秘密のユーベルコード(既存いずれかをアレンジ)」を使ってきます。対策がなければ必ず詰むというほど強力ではありませんが、注意しておいて損はしないでしょう。
第三章は、和風旅館でのんびり過ごします。斎藤・福をはじめ、首塚の一族と共に語らうこともできます。
それでは、皆様のご参加を心よりお待ちしております。
第1章 集団戦
『百花精』
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POW : 咲け、大地覆う侵食の花よ
【植物の種】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を植物で覆い】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
SPD : 咲け、骨肉喰う破壊の花よ
【手足による打撃】で触れた敵に、【打ち込まれた植物の種が体内で成長した事】による内部破壊ダメージを与える。
WIZ : 咲け、身体覆う装具の花よ
戦場全体に【大量の植物】を発生させる。敵にはダメージを、味方には【植物アーマーの装着】による攻撃力と防御力の強化を与える。
イラスト:すねいる
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●繚乱なる邪花
観光名所として名が通っているだけあり、桜林はそこそこに広い。一見して、自生しているにしては木々の配置が整頓されすぎているのが明白なので、それが人工的な植林によって生み出されたものであるのは、容易に想像できた。
花は、三分咲きといったところだろうか。見頃にはまだ早い。満開には、少なく見積もってもあと一週間から二週間程度の時間は必要だろう。
そんな桜林のただ中にあって、まさか花見でもあるまい。
桜林の一角にわらわらと集まっている、人の姿に似ながらにして人とはかけ離れたそれらは、百花精と呼ばれるオブリビオンである。
花を愛し、しかし翻って他の生命の全てを軽んじ蹂躙するという、凶猛なる邪精。およそ、人のある領分に存在してはならぬ者たちが、そこにいた。
ニクロム・チタノ
混沌化したオブリビオンか、なかなか強力そうな相手だね?
でもまずは目の前の敵をどうにかしないとね、反抗の加護あり
護りの蒼焔を纏って飛ばして来た種を燃やして防ぐよ、おっとこれ以上はやらせないよ、重力領域を展開して身動きを封じさせてもらうよ!
トドメは反抗の雷装で殲滅するよ、風光明媚な桜の木に被害が出ないように範囲は調整するけどね
どのみち重力領域に囚われて動けないキミたちに回避の術はないよ!
●花を裂く迅雷
「……何だ、猟兵か?」
百花精の一人が、冷たい声を発する。それと同時に、たむろする百花精らも、一斉に敵意剥き出しの視線を放つ。
声と視線との対象になったのはニクロム・チタノ(反抗者・f32208)だった。
半面を仮面で覆ったチタノは、オブリビオンたちからの凄まじいまでの敵意にさらされつつ、しかしわずかたりともすくむことはない。彼女の意識はすでに、後に相手取らねばならぬ渾沌化オブリビオンに向いている。この段にあって、百花精らに恐怖など抱いていられないのだ。
にらみ合いは、ほんの数瞬。
「咲け、侵食の花よ!」
一人か複数か知れず、百花精が叫ぶ。同時、百花精らは一斉に右手をチタノへと向けていた。蔓が絡み、毒々しい赤い花の付いた手を。
さらに同時、花の奥から散弾銃めいて種子の弾丸が放たれる。五、六の百花精によって生み出された弾幕は、一瞬で黒雲が出現したかのような光景を生む。呑まれた者を砂より細かな肉片に変えるであろう、暴威の雲だ。
しかし。
「――反攻の加護あり」
【貴女に反抗の竜チタノの加護を(チタノネクサス)】で絞り出された護りの蒼焔が螺旋を描いてチタノの体を包む。圧倒的密度のあった種子の弾幕は、炎の螺旋に触れるや否やことごとくが焼き払われた。
「ぬ……!」
百花精らの顔に、一瞬焦りが浮かぶ。
直に種で撃ち殺すのは難しい。ならば一度、地面を己らの花で埋めて戦闘力を底上げするべきだ。
と、百花精らは手を下に向けた。その判断は正しいといえる――が、遅い。
「これ以上はやらせないよ!」
両腕に雷の刃を纏わせつつ、チタノが駆ける。次の刹那、先頭にいた百花精の左胸をチタノの貫手が刺し貫いた。
「――!?」
百花精は驚愕に目を見開き、そして一拍の後に砂のように崩れ、消え去る。骸の海へ還ったのだ。
「雷をばらまいた方が楽だけど……桜の木に被害は出したくないしね」
ぼそりとつぶやき、チタノは次なる百花精目がけて再び駆けた。
戦いは始まったばかりだ。
大成功
🔵🔵🔵
仇死原・アンナ
アドリブ歓迎
キャンピーくんめ…帰り道を用意しておけと文句を言わねばな…
だがまずは…斎藤福と首塚の一族達を元の世界に戻す為に…
さぁ行くぞ…私は処刑人…!
鉄塊剣と妖刀を抜き振るい敵群と戦おう
鉄塊剣と妖刀で敵群を斬りつけ、植物の種と地から生える植物を切り捨ててゆこう
…切っても切っても植物が生えてくる…しかも速いしみるみる育つ…
だが…相性が悪かったな…貴様等の植物は我が地獄の炎が燃し尽くす!
妖刀で手首を斬りつけ出血させて【ブレイズフレイム】を発動
血液から地獄の炎の発火で植物を焼却し、範囲攻撃で炎を広め敵群を葬り去ろう…!
…止まる訳にはいくまいぞ!私は…処刑人だッ!
●花を呑む炎獄
仇死原・アンナ(処刑人、獄炎の花嫁、焔の魔女、恐怖の騎士・f09978)の出で立ちは、まず異様であるといえ、同時に威容であるともいえた。
右手には、鍔元にアイアンメイデンの頭部らしき意匠の施された巨大な剣。左手には打刀サイズの日本刀。それら二本を一度に持つだけでも大変だし、まして物が斬れるように振り回すなど論外だ――アンナが単なる人間ならばの話だが。
猟兵は生物の枠から外れた存在だ。その体に宿る物理を超越した力は、それらの刀剣を自在に操ることを可能にせしめる。
無論、アンナに対して半包囲陣形を取りつつ対峙する百花精らも、彼女が扱えもしない武器を構えているなどと考えていない。
「油断ならんぞ。緑で地を覆え!」
誰かが号令するなり、百花精らは己のすぐ足元の地面目がけて種子をばらまく。
一呼吸の後、地面に埋まった種子それぞれから膨大な量の蔓が噴出した。あっという間に、薄茶色だった地面が緑一色に染め直される。
が、同じ時の間にアンナは駆け出し、蛙めいた前傾姿勢になりつつ剣を振るっていた。
地面を覆う蔓を、刃が斬り裂く――いや、蔓を斬るというより、それを載せた地面ごとえぐり取り、吹き飛ばすといった方が正しいだろうか。
「な……デタラメな!」
百花精にとっては、蔓に覆われた地は己の力を高める一種の結界である。アンナはそれを承知ゆえに、即座に斬っ払ったのだ。
ただ、百花精は頭数があり、比例して手数がある。アンナの刃は超絶の速度を持ち、超常なるオブリビオンの蔓をも紙くず同然に斬り捨てているが、それでも全てを無力化せしめるには足りない。
「きりがない……!」
歯がみするアンナ目がけ、百花精が一斉に直接種子の弾幕を見舞う。
速い。そして多い。アンナは両手の刀剣を旋風のごとくに振るってそれらを打ち払うが、やはり衆寡の差は埋まらない。剣風を潜り抜けた種子がアンナの腕や肩へ炸裂し、血飛沫が真紅のアジサイめいた光景を生む。
勝利を確信し、百花精らが嘲るように笑う――が、一瞬の後、それらの顔は凍り付いた。
「手間が省けた」
アンナがつぶやくと同時、弾けていた血が【ブレイズ・フレイム】の炎へ変じる。蔓に覆われた地面が炎に触れるなり、一面の緑だったそれは瞬時にして揺らめく赤に塗り変えられていった。
「……我が地獄の炎とは、相性が悪かったようだな」
「な――ぁ!?」
伝播する炎は必然、蔓の絨毯の上に立っていた百花精らにも及ぶ。百花精らは何かしら抵抗を試みたような様子は見せたものの、猛烈な火勢はただの一呼吸の間にそれらを呑んだ。
「私は処刑人……止まりはしない!」
百花精が炭となり灰となって骸の海へ還る様を見やりつつ、アンナは鋼のように鋭く言い放った。
大成功
🔵🔵🔵
仲佐・衣吹(サポート)
キレイなもの、カワイイもの、ぶち壊そうなんて許さないんだから
バトルだって芸術よ。美しく戦いなさい!
お相手するはアタシことネイル
美術好きな女性人格よ
口調はいわゆる女言葉かしら
身のこなしが一番軽いみたいで
接近戦より距離をとってダガーで戦うのが好きよ
よく使う手は
外套を投げつけて囮や目暗ましからの一撃
ルーンソードで戦ってる途中で手放して虚を突き、袖口から隠し武器としてダガー
光属性を付けたルーンカルテを落としといて、タイミングを見て目潰しフラッシュ
こんなところかしらね
アイテムやユーベルコードはお好きに選んでくれていいわ
使えるものは全部使って、華麗に美しく戦いましょ!
水心子・真峰(サポート)
水心子真峰、推参
さて、真剣勝負といこうか
太刀のヤドリガミだ
本体は佩いているが抜刀することはない
戦うときは錬成カミヤドリの一振りか
脇差静柄(抜かない/鞘が超硬質)や茶室刀を使うぞ
正面きっての勝負が好みだが、試合ではないからな
乱舞させた複製刀で撹乱、目や足を斬り付け隙ができたところを死角から貫く、束にしたものを周囲で高速回転させ近付いてきた者から殴りつける
相手の頭上や後ろに密かに回り込ませた複製刀で奇襲、残像で目眩まし背後から斬る、なんて手を使う
まあ最後は大体直接斬るがな
それと外来語が苦手だ
氏名や猟兵用語以外は大体平仮名表記になってしまうらしい
なうでやんぐな最近の文化も勉強中だ
インプレッサターボ・フォレストハリアー(サポート)
「いんぷノセリフハコンナ感ジノヒラガナかたかな逆転表記デオ願イスルにゃ」
いかにも機械ぽい抑揚のない平坦口調ですがたぶんかっこいいと思ってるからやってるだけ。
「戦闘ニハ余計ナ感情ハ不要にゃ。いんぷハ機械ダカラにゃ」
敵には深い事情あるかもしれないけど何の感慨もなく戦うがダメージ受けたり敵の非道に怒ったりするといきなり感情豊かな感じになるとか。
「タシカコウイウ時『ますたー』ハコウ言ッテタにゃ。ブッ殺ス、●ぁっく」
選択されたユーベルコードが
キャリバースピン:なるべく多数を巻き込むように相手を誘導してまとめてなぎ倒す
デッドヒートキャリバー:可能なら誰かに乗ってもらう。なるべく多数を巻き込むようにひき逃げ
●鉄の獣、鋼の刃
水心子・真峰(ヤドリガミの剣豪・f05970)の手にある得物は、彼女の本体である太刀――正確には、【錬成カミヤドリ】によってコピーされた複製品である。その銘も、また彼女と同じく水心子真峰。業物だ。
太刀の複製品はその一本ではなく、数十にも及ぶ。それらは刃ですだれを成すようにして真峰を囲っており、また延々と高速度で旋回していた。
刃のすだれは、いわば刃の防壁であった。それというのも先刻から、百花精の集団が真峰目がけ、ひっきりなしに種子の弾丸を浴びせているのである。高速回転する刃は、その無尽蔵とさえ思える弾幕を弾き返していた。
「おのれ、小癪な真似を……!」
真峰を半包囲するような形に展開しつつ、百花精らは悔しげに表情を歪めている。頭数があり、あらゆる角度から弾丸を浴びせようとも、真峰の周囲を隙間なくカバーする防壁を突破できないでいる。
しかし、だからといって状況が真峰に有利なのかといえば、そんなこともない。今のところは防ぎきれているといっても、それは真峰が防御に全神経を使っているためである。前に出て百花精らを斬り伏せるような余裕はない。
どちらにとっても不本意な膠着状態。どちらが「ジリ貧だ」と感じつつ焦りを抱えつつどうにか相手の隙を見つけ出そうと探りつつ、現況の打破を狙っている。
そしてどちらも思う。何かきっかけがないだろうか、と。
そんなようなタイミングで、音が聞こえてくる。
『ぐるるるる』……といった、肉食獣が威嚇する際のうなり声に似た、しかし金属のこすれ合うような音とも混ざり合っているような、異音の連なり。
「――?」
「何だ?」
真峰と百花精らが、ほぼ同時に音の鳴る方へと目を向けた。
だが、そこには何もない。
否、ないはずはない――ただ、『見えない』のだ。見えざる何かがそこにいて、そこから迫り来て、何かをしようとしている。超常存在の感覚によって、そこまでは察知ができる。
「何が……」
怪訝そうにつぶやいた百花精が、次の瞬間に凄まじい衝撃音とともに吹き飛ばされた。
見えざる何かが激突したゆえだろう、というのは知れる。
そして、百花精を吹っ飛ばしたからにはその何かは百花精の敵であり、真峰の味方であり、つまりは猟兵に違いないということだ。
「何だ!?」
百花精が叫ぶ。
叫びつつ周囲を見回すが、やはり見えざる何かは見えないままだ。
「ぐうっ……装具の花で身を覆え!」
誰かが怒鳴るのと同時に、百花精らは次々に、己の身に己で生み出した蔓を巻き付けていった。黒いボディスーツに包まれていた肢体が、一回り大きな緑のシルエットに置き換わっていく。材質が蔓であることを除けば、それは全身甲冑を着込んだ重戦士めいた風情がある。
どごぉっ! と、再びの凄絶な衝撃音。
やはり見えざる何かは百花精の一人に炸裂した。しかし、今度は地面をザリザリと削りつつ両足を踏ん張り、飛ばされることなく留まる。
「あらまあ、急に堅くなったわ!」
「シカモ、重イシぱわーモあっぷシタミタイにゃ」
見えざる何かから発された声は、仲佐・衣吹(多重人格者のマジックナイト・f02831)のものと、とインプレッサターボ・フォレストハリアー(ワールドラリーエクスペリメンタル・f44230)のものだった。
不可視なる様のカラクリは単純だった。ライドキャリバーでるインプレッサターボに衣吹が乗り込み、衣吹の【影も形も(ツヴァイ・クラールハイト)】によって衣吹自身とインプレッサターボとを透明にしていたのだ。
そして、姿を消した両者はインプレッサターボの【デッドヒートキャリバー】による体当たり攻撃を敢行していたわけである。このユーベルコードを使うからには、本来であれば、一目見て脅威とわかるような漆黒の炎を纏っている様が見られるはずなのだが、その炎も衣吹によって透明になっていた。
ただし、姿は消せても音や熱は消せないので、エンジン音などはそのまま聞こえていた。そして。
「……痕跡が、ある……! タイヤ、だ!」
踏ん張った百花精が、荒々しく息を吐きながら言う。
一帯の地面は、百花精の生み出した蔓植物によって、緑の絨毯を敷き詰めたようにびっしりと覆われている。そこに、インプレッサターボの爆走を物語るタイヤ痕が刻まれていた。
「ばれタにゃ」
「ま、しかたないわ。遅かれ早かれよ」
姿を消したまま肩をすくめつつ、衣吹はハンドルをさばく。どうさばいても新たにタイヤ痕が生み出され、彼らの進行方向を示してしまうが、実際この段に至っては気にしていてもしかたのないことではあった。
「わかってれば絶対に避けられるし防げるってモンじゃないでしょ! スピードマックスでブチかましてやるわよ!」
ぎゃりっ! と超高速回転したタイヤが足下の蔓をちぎり、黒炎を纏った鋼鉄(不可視)を突進させる。
地を覆う蔓は、百花精らにとってはある種の感覚器の延長のようなものであって、ちぎられればある程度の触覚めいたものが伝わる。畢竟、それにしっかり注意を向けさえすれば、目には見えずとも衣吹とインプレッサターボの存在を把握することはできる。
しかし、速い。
そして硬く、その体当たりには威力がある。百花精の蔓の鎧も堅牢を誇るとはいえ、当たっても無傷というほどのべらぼうな性能までは有していない。
そして、何だかんだ目に見えないという一点は、紙一重の戦いの中では明暗を分ける一要素たり得る。
「く――!?」
突進を回避しつつ殴りかかりたかったのだろう、百花精。
が、殴りかかられる寸前で急ハンドルを切った衣吹によって、車体は低く滑るようにしつつ曲がる。百花精の拳は衣吹の頭上ギリギリで空を切り、タイヤがスライディングタックルのごとくに百花精の足を薙ぐ。肉と骨の砕ける異音を響かせ、百花精はもんどり打って吹っ飛んだ。
「おのれッ!」
足の鈍った刹那を逃すまいと、他の百花精が襲い掛かる。
いや、襲い掛かろうとした。
しかし、その時にはすでに別に躍り込んで肉迫する影があった。
衣吹とインプレッサターボによって場が引っかき回されたため、膠着から抜け出ることができた真峰である。目には見えていたはずが、意識からは外されていたほんの少しの時間を、真峰は逃がさなかった。
「ようやく伸び伸び剣が振るえる」
「――ッ!」
まずい、と思っただろうことは、百花精の表情で知れる。
しかし百花精がどう動くより先に、真峰が刺突を放っていた。精妙に蔓と蔓の隙を捉えた迅雷の一閃は、百花精の胴を容易く貫いた。
百花精の苦悶の表情が見えたのもほんの数瞬。絶命した百花精はザラリと灰のような有様となって、宙に溶けるようにして骸の海へ還った。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
饗庭・樹斉
桜の名所かー…故郷の世界に咲いてる間にできれば帰還させたいね。
ここの人達の為にも傷付けないよう注意して、オブリビオンを倒しちゃおうか。
できるだけ桜の樹に近づかないよう注意しつつ天雲で応戦。
遠距離攻撃は流れ弾とか怖いから使わないようにしつつ、向こうからこっちに近づいてくるように大きな声で挑発。
向こうの攻撃は手足に触れないよう天雲の刀身部分でガード!
十分誘えたらUC起動、色々奪ってぼんやりしてる隙に一気に斬ってくね!
敵数多いなら幸運もそれなりに稼げるだろうし、上手くいけばラッキーにも桜は無傷…って事もあるかもね。
攻撃する時は桜の近くにいる、桜を攻撃しそうな個体を優先的に叩くよ!
※アドリブ等お任せ
●乱れる徒花
「桜か……」
周囲の桜林に一瞬視線を巡らせ、饗庭・樹斉(沈黙の黄雪晃・f44066)はつぶやく。
桜や花見といえば、首塚の一族の故郷であるサムライエンパイアは本場といっていい環境だろう。楽浪郡の桜でも見応えはあるだろうが、同じ花盛りの桜であれば、親しみ深い故郷のそれが見られた方が嬉しいに違いあるまい。
花見のできるうちに、彼らには帰還して欲しい。ついでに、こちらの桜にも傷は付けたくない。こちらの桜は桜で、花見を楽しみにしている人々は多かろうから。
樹斉がまず考えたのは、流れ弾の怖い遠距離攻撃は良くないだろうということ。また、近接戦であっても余波が怖いので、桜の近くで戦うのも避けるべきだということ。
ゆえに、百花精らを桜林から引き離したい。
「花や葉っぱがどれだけあったって、僕を殺すことなんてできないぞ!」
樹斉が百花精に怒鳴ると、大半の百花精は、少々ムッとしたような表情を浮かべつつも、特にこれというリアクションはない。あるいは少々疑り深い者なら、「何かの罠か」とでも思ったかもしれない。
が、中には血の気の多い者もある。
「獣の分際で……生意気なッ!」
憤怒の表情を浮かべた百花精の一人が、拳を握りしめつつ突出する。
「あ? おい!」
脇にいた百花精が制止しようとするが、怒った百花精は止まらない。
普段の彼女たちなら、このような足並みの乱れはまず見られないはずだった。しかし、樹斉の【縁崩し(ディスコネクト)】の呪言によって思考力と連携力を奪われている今は違う。
突出した百花精が殴りかかってくるのを、樹斉は大剣の刀身を盾として防ぐ。百花精の拳には、敵を破壊する植物の種子が仕込まれた蔓が巻き付けられているが、樹斉愛用の天雲の刀身に植え付けられるようなものでもない。
「ふっ!」
百花精をいなし、逆らわずに身を捻りながら横薙ぎの一閃を見舞う。逆上して動作の精度が下がったせいだろうか、その胴体を捉えて両断するのは思いの外簡単だった。
「な、何だあいつは!?」
「止めろ!」
仲間を討たれた他の百花精らが、次から次に樹斉へと殺到してくる。
それは、思考力等を奪っていることだし動けなくなろだろうと樹斉にとっては、意外な光景ではあった。しかし、連携も何もなく浮き足だって突っかかってくるだけの百花精らの有様は、いくら人数で劣るといっても脅威には感じられなかった。
続けざまに四、五も斬り伏せたろうか。いつの間にか、周囲から百花精の姿は消え失せていた。
成功
🔵🔵🔴
第2章 ボス戦
『双子の少年道士・朱陰』
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POW : 火生土・火転土陣
【無数の火の玉】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【に陣を形成し】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
SPD : 土剋水・無尽土鎧
【強固な岩石の鎧】を召喚装着し、無敵になる。ただし視覚外からの攻撃は回避不能となり、防御力も適用されない。
WIZ : 陰陽太極反転召喚
【水行と木行の術を使う白髪青服の少年道士】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
イラスト:pico
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠レテイシャ・マグナカルタ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●邪仙小鬼
桜林の中、頭一つ抜けて背が高い一本――千年桜は、それ相応に目立つ。
その根元に、あからさまに不機嫌そうに爪をかじっている少年の姿が認められる。
「ムカつくなぁ……何なんだ、お前らは……!」
面構えだけを見れば、いっそ少女的なまでに愛らしく整った、美貌の類であるといえる。ただ、頭に主張強く生えた双角、それに彼を取り巻くように浮遊する数十もの鬼火が、彼がただの人間でないことを示している。
「ここは僕の縄張りなんだよ。人間だろうが妖獣だろうが猟兵だろうが、勝手に入ってくる奴はブチ殺してやるよ!」
双眸が烈火のように輝き、全身に巻き付いた蔓が魔物の触手のように妖しく蠢いた。
それが、朱陰。この場の支配者として君臨している、渾沌化オブリビオンの姿であった。
~~~~~
木生火・縛仇爆蔓(【降魔点穴】アレンジ)
【鞭のように振るった蔓による縛撃】が命中した部位に【火属性の仙気】を流し込み、部位を爆破、もしくはレベル秒間操作する(抵抗は可能)。
ニクロム・チタノ
いくら桜がきれいだからって独り占めはいけないよ、まあそれはいいとして…悪いけど捕まってもらうよ!
まずはゴルディウスをチャクラムに変形させての投擲で様子を見るかな?
岩石を鎧にして弾き反すなんてなかなかやるね、そしてこの蔓が説明にあった追加ユーベルコードだね?
なら、沈め超重力の海底に
いくら無敵の防御力を手に入れてもこの超重力の前では身動き一つとれないよ!
伸ばして来た蔓も重力に捕まって地面にめり込んで使い物にならないね?
そしてさっき弾いたチャクラムは空中で巨大な鉄塊に変形して超重力のまま頭上に落下するよ
鎧が砕けた、死角からの攻撃には脆いみたいだね?
このまま弱らせて捕獲させてもらうね、悪く思わないでよ
●重力の牙
ひょう! と鋭い風切り音を鳴らしつつ、緑の蔓が迫る。
ニクロム・チタノ(反抗者・f32208)は右手を振るった。握られているのは、チャクラムらしき輪状の刃物である。
火花を散らし、蔓の先端が弾かれる――斬り飛ばされることはなく。
「これが説明にあったユーベルコード……」
ニクロムは小さくつぶやいた。蔓が見た目通りの強度であればチャクラムの刃で斬れないはずはないのだが。
「そんなナマクラで、何ができるってのさ!」
朱陰は嘲笑混じりに叫びつつ、蔓をカウボーイよろしく頭上で振り回す。
その蔓が己に向かって伸びるより前に、ニクロムはチャクラムを鋭く投擲する。飛燕の速さもって、朱陰に刃が迫る。
「無駄だってば!」
朱陰はその場を動かない。動かないが、その全身を一瞬だけ土煙が包んだかに見えた。その一瞬が過ぎた後、朱陰は黄土色の全身鎧に包まれていた。鎧――というよりは、適当な大きさの岩石をそのまま体にへばりつけたかのような無骨さだが。
キッ、と軽い擦過音が響き、チャクラムが上方に弾かれる。朱陰本体はもちろん、鎧にもかすり傷一つ刻まれていない。
「ね?」
勝ち誇ったような朱陰の声。
しかし、ニクロムにとっては想定通りの出来事が起きたに過ぎない。
「沈め――」
ニクロムの頭上から、巨大な墨の一滴が落ちたような。
そんな風に、漆黒の波紋が広がるようにして【重力の海(グラビティエリア)】が拡大した。力場に呑まれた蔓は急激に速度を失い、縫い付けられるように地面へと落下する。
なお凄まじいのは、鎧に包まれた朱陰自身だ。巌のごとき見目の通りそれなりの重量があったらしく、倍々になった自重はそれだけで地面を陥没せしめるほどだった。
「な、ん――?」
片膝を突いた姿勢でうめく、朱陰。
しかしそれだけでは終わらない。ニクロムの本命は、今し方上に弾かれていたチャクラムだ。魔力による変形が可能なそれは、弾かれた次の瞬間、朱陰の死角にてつらら状の塊へと変じていた。
畢竟、超重力の波に呑まれた金属塊は凄まじい速度で落下し、前のめりになっていた朱陰の背中を痛打した。
「うぁっ!?」
途端、鎧の背中、肩、胸へ掛けて大きな亀裂が刻まれた。正面は無敵の堅牢さを誇る【土剋水・無尽土鎧】だが、死角からの攻撃にはそうではないらしい。
「このまま弱らせて、捕獲させてもらう。悪く思わないでよ」
「クソ……生意気言いやがって!」
ニクロムの淡泊な視線と朱陰の苛烈な眼光が交錯し、火花が散った。
大成功
🔵🔵🔵
大豪傑・麗刃(サポート)
一人称『わたし』『麗ちゃん』
どんなシリアスでも一度はネタをやりたいのだ!ダジャレ、奇怪な言動、一発ギャグ、パロ、メタ等何でもよい。状況が悪化する行為はやらない(変態的衝動時等必要な場合を除く)
超シリアスのためギャグ絶対ダメというならシリアスオンリーもできなくはないがその時は頭痛が痛くなるのだ(強調表現としての二重表現肯定派)
一応根は武人なので強敵相手の戦いには心昂る一面もある。ユーベルコードによってはそうならない場合もあるが。
ユーベルコードが
近接系:何も考えず正面から真っ向勝負挑む
遠距離系:射程距離ギリギリから一方的に攻撃狙い
ギャグ系:お手数かけますがなんとかお願いします!
それ以外:まー適当に
ネッド・アロナックス(サポート)
めずらしい そざいはある?
なければ じょうほうを しいれて かえろうかな!
(※セリフはひらがな+カタカナ+空白で話します)
探し物や調べ物は楽しくて得意だよ
"くらげほうき"や"ゆきソリ"で空を飛んだり泳いだりしてヒトや物も運ぶよ
戦闘はサポートに回ることが多いかな
手強い敵は基本隠れながら隙を作って逃げる!
"クリーピングコイン"で物をひっかけて飛ばしたり
"しろくじら"の歌で余所見をさせたりね
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し多少の怪我は厭わず積極的に行動します
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません
また例え依頼の成功のためでも公序良俗に反する行動はしません
あとはおまかせ
よろしくおねがいします!
●突発寄席八丁荒らし
「やあやあ、満員御礼! 皆様、お集まり頂きましてありがとうございますなのだ!」
大豪傑・麗刃(26歳児・f01156)が嘘くさいまでの満面の笑みを浮かべつつ、張りのある声で言う。麗刃の服装は着流しの長着に紋付きの羽織という、いわゆる真打ちの落語家の正装のような装束であった。まあ、紋付きの紋のデザインがニコちゃんマークという、微妙にふざけた代物ではあったが。
ともあれ麗刃は、千年桜の手前にいつの間にか設置されていた座布団に座ると、ペン、と己の額を扇子で叩いた。
「えー、毎度バカバカしい話を一席。麗ちゃんこの前、珍しいお肉も置いてるっていう焼き肉屋さんに行ったのだ。それで、猪鍋と馬刺しを注文して、どっちがおいしいか比べてみたのだ。うまかったのだ」
「わー」
ぱちぱち、と拍手をしたのは、麗刃のほど近くで体育座りしていたネッド・アロナックス(ガムゴム人の冒険商人・f41694)である。
ちなみに今の麗刃の小咄は「美味かった」と「馬勝った」を掛けた高等ユーモアなのだが、喝采しているのは――というか、そもそも聴衆をやっているのはネッドのみである。
それでも麗刃はめげるどころかさらにテンションが上がったようで、もう一段声を明るくして続けた。
「麗ちゃんこの前、家の庭が草ボーボーになってるのに気が付いたのだ。そこで、久々に庭の手入れをすることにしたのだ。そしたら、草に紛れて犬のウンチが落っこちてたのだ。くさかったのだ」
「やんややんや」
ネッドが再び拍手喝采を贈る。
ちなみに今の麗刃の小咄は「臭かった」と「草刈った」を掛けた高等ユーモアなのだが以下略。
「……ふう。たくさんしゃべったから、ちょっと喉が渇いたのだ」
喉に手をやりつつ麗刃がぼやくと、ネッドがすすっと進み出てきた。
どこからどうやって取り出したものか、その手には氷水の入ったグラスを載せたお盆があった。
「おいしいおみずあるよ」
「おお! ありがたく頂戴するのだ!」
麗刃はグラスを受け取り、一気に飲んだ。
これという味のない、まさに水という感じの水。しかし、何か不思議とスッキリするような香りというか、喉の奥まで透き通っていくような清らかさが感じられる。
「ンーッ、爽やかになるオールウェイズ!」
麗刃は両目をキラキラと輝かせつつ、ジュースのCMのようなポーズを決めた。
「よーし、喉も回復したことだしもう一丁! 布団が吹っ飛ん――」
「うるさぁいっ!」
怒鳴り声と同時、緑の鞭めいた何かが空気を切り裂きつつ飛来する。
蔓の鞭。無論、それを振るったのは朱陰だ。【木生火・縛仇爆蔓】の蔓は麗刃の顔面をぐるぐる巻きに縛り上げたかと思ったら、そのまま蔓自体を爆弾と成して爆発した。
どごぉん!
「わあ!」
ネッドが驚いて目を点にする中、もうもうたる黒煙が麗刃の頭部を包む――いや、包むべき頭はすでに消し飛んでいるかもしれない。渾沌化オブリビオンのユーベルコードともなれば威力は凄まじく、超常存在たる猟兵といえどただで済むはずがない。
――二秒ほど置いて、煙が晴れる。
と、麗刃は頭をモサモサしたアフロヘアに変え、顔全体を煤まみれにしつつも、無事だった。
「あー、水飲んでなかったら即死だったのだ」
実は、実際その通りだったりする。
麗刃の飲んだ水は、ネッドの【こだわりのお水(オーポターブル・スペシャリテ)】であり、自動回復能力に加えて爆破耐性も獲得していた。別に、単なるギャグ補正だけで生き延びているわけではない。
そんな麗刃の様を見た朱陰は、怒りのボルテージをさらに上げた。
「ふざけんなクソが! ちゃんと死んどけよ、オマエぇっ!」
今度は幾条もの蔓をいっぺんに操りつつ、金切り声めいて叫ぶ。
「むう、当たっても死にはしないけど死ぬほど痛いので、嫌なのだ」
「にげる?」
「そうするのだ」
ネッドの言葉にうなずいた麗刃は、全速力でダッシュする。ネッドもまた、それに遅れずして駆け出した。
「待て、こらぁ!」
朱陰の罵声と、蔓の鞭が地面を叩く音、さらに爆発音などが背後から鳴り響くが、猟兵二人はそれらをかえりみることなく走り続ける。
反撃の一手も返す余裕のない状況に、ネッドは少々不安を覚えた。
「にげてるだけでいいのかな?」
「大丈夫なのだ。今は、時間稼ぎも大事な戦略なのだ」
麗刃が断言する。
その言もまた真である。首塚の一族のユーベルコードである鎖は非常に強力な反面、発動までに時間が掛かるという致命的な弱点を抱える。麗刃が【わたしのネタを聞け】によって朱陰の動きを鈍らせたのは、その弱点を補うための猶予をもたらすためのものだったのである。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
仇死原・アンナ
アドリブ歓迎
あれが敵か…
悪いが貴様に処される訳にはいかんのだ…
さぁ行くぞ…私は処刑人……と死なせては駄目か…!
地獄の炎を身に纏い妖刀抜き振るい敵と相手しよう
敵が召喚した道士には地獄の炎の範囲攻撃で炎を広めて水と火の術を抑え込もう
そして振るう蔓の攻撃は気配感知で察し妖刀の早業で切り捨てよう
火を流し込まれようが地獄の炎の回復力と再生力で傷を癒そう
相性が悪かったな…生かして捕まえるという仕事も私と相性が悪いが…!
鎖の鞭振るいロープワークで召喚した道士を捕縛し【太陽を飲み込む闇の蛇】を発動
道士を焼却し圧殺しながら鞭を怪力で振るい回し道士を敵に叩きつけて吹き飛ばしてやろう…!
これにて御用だ…なんてな……
饗庭・樹斉
…縄張りとか好き勝手言ってるけどここはこの地の人たちの場所だよね?
迷惑客は出禁!
とっ捕まえて皆の花見を守らないと!
桜の位置や首塚の一族の人たちの隠れてる位置は常時確認、攻撃に巻き込ませぬよう注意。
結界術で障壁的な結界を張って直接捕まらないよう防御しつつわざと正面から攻めて首塚の一族の人達のいる場所から意識を逸らすね。
UC起動して明晰な思考力とか奪えば周囲への注意も疎かになるだろうし。
岩石の鎧に対して適度に攻めて効かない…的な演技しつつ首塚の一族の人たちに対し敵が背を向けるように移動。
いい具合の位置に来たら天雲思いっきり叩きつけ後退させ合図、死角からの鎖のUCで捕縛狙うよ!
※アドリブ絡み等お任せ
●鉄鎖の奔流
「何だよ。苦戦してるんじゃん、朱陰」
不意に、戦場に新たな声が闖入してきた。
声の方に視線をやれば、青い中華風の道服を着た白髪の少年がいる。顔は朱陰に似ているような、そうでもないような感じ――だが、纏った空気感は異様なほどに似ている。他者を踏みつけにすることに一切の躊躇がない、幼く尊大な超越者の気配だ。
朱陰は不機嫌そうに白髪の少年を一瞥すると、噛み付くように言う。
「うるさいな。いいから手伝えよ」
「はいはい、わかってるってば」
ねっとりとした笑みを浮かべ、少年が頭上に手をかざす。
途端、その周囲に青と白の入り混じった球体が十かそこら、出現する。その道に心得のある者が見れば、水の仙気を練り上げて作った気弾の類だとわかるだろう。
「はい、死んでね」
水の気弾は転瞬、水色のレーサービームのごとくに変じる。超速度の鋒矢の群れが一斉に狙ったのは、仇死原・アンナ(処刑人、獄炎の花嫁、焔の魔女、恐怖の騎士・f09978)だった。
「ぬ……!」
アンナは両手で妖刀を握り直し、峰を左肩に添えるように身を捻った。全身から噴出した地獄めいた漆黒の炎が刀身へと伝播する。
次の刹那、薙ぎ払うような一閃を振るう。刃の軌跡に沿って、苛烈な炎波が生み出される。水の鋒矢ことごとくが炎に呑まれ、じゅあ! と激しい音を鳴らす――が、消えてなくなりはしない。
細くなり、威力は大幅に減衰したものの、鋒矢はアンナの体中に突き刺さった。
「ぐっ……!」
「水剋火って知ってる? 凄い炎だけど、僕の水とは相性が悪かったみたいだね」
馬鹿にするように、少年は言った。
体中を刺されたといって、浅い。アンナにしてみれば大したダメージではない。とはいえ、押し負けているのは事実だった。
ジリ貧だろうか、とも思う。
しかし。
「じゃあこっちは、直で本体を叩かせてもらうよ!」
鋭く言いつつ、少年を無視して朱陰へと駆けていく影がある。大剣を担いだ饗庭・樹斉(沈黙の黄雪晃・f44066)だった。
「あ――?」
少年が唖然とするが、彼が何をするよりも前に樹斉は朱陰に肉迫し、大剣を袈裟懸けに振り下ろしていた。
だが、それまで朱陰がただ黙って突っ立っているわけはない。
「僕なら簡単に叩けるとでも思ったのか!?」
朱陰の全身は【土剋水・無尽土鎧】によって人型の岩石のようなシルエットになっていた。樹斉の袈裟斬りに対して荒っぽく雑に腕を振り回し、拳だか腕だかわからない岩塊を叩きつけて刃を弾き飛ばした。
大きくつんのめった樹斉だったが、すぐに大剣を切り返して横殴りの斬撃を繰り出し、朱陰の腕と噛み合わせて鍔迫り合いのような格好になった。
「迷惑なお客は、花見会場から追い出さなきゃいけないよね」
目鼻の先にまで互いの顔が近寄った状態で、樹斉は言う。と、朱陰は怒りに満ちた双眸をさらに剣呑に光らせつつ、がなり立てた。
「客だって!? 僕の縄張りだって言ってるだろ!」
「勝手に言ってるだけでしょ? 元々はここの人らの土地なんだから」
「それこそ人間が勝手に言ってるだけだろうが!」
罵声に反応するように、土気の鎧の表面に巻き付いていた蔓の鞭が、独りでにしなって八方から樹斉を叩きにいった。
「う……!」
剣を振るって防ぐのは間に合わない。樹斉は己の身を包むように結界のバリアを張り、直撃を防ぐ――いや防ごうとしたのだが、蔓にねじ込まれた火気の爆発は、樹斉の結界を破壊してなお余りある威力を持っていた。
必然、余った爆風は樹斉自身に叩きつけられる。
「うわぁっ!」
吹き飛ばされた樹斉は、背中と頭を地面にしたたかに打ちつけた。目の奥から鼻に掛けて焦げた鉄の臭いが通り抜け、意識が飛びかける。
しかし樹斉はぐるりと身を翻し、立て膝の格好で身構えた。
「粘るなぁ――でも、弱いヤツは結局死ぬしかないんだよ!」
朱陰が蔓の鞭を振るい、樹斉へと殺到させる。
が、それと同時か一瞬早いか、白くて黒い何かの塊が朱陰の横っ腹に叩きつけられた。
「ごはっ!?」
全くの不意打ちに朱陰が目を丸くする。
目をやれば、塊と見えたのは何やら黒い鎖で雁字がらめにされた白髪の少年だった。樹斉に気を取られた一瞬の隙に、アンナの【太陽を飲み込む闇の蛇(アポピスグラップル)】で捕らえられていたのである。
「お前、何やって――!」
苛立ったように言う朱陰だが、この時点で彼自身もまた注意を逸らしてはならぬ対象から注意を逸らしてしまっていることに、気が付いていない。
「今だ!」
樹斉が叫ぶのとほぼ同時。
朱陰の背後側から、十数本の鎖が飛来する。気配に気付いて朱陰が振り向いた時には、それらの鎖はもう朱陰へと巻き付いていた。
「な――?」
鎖は、首塚の一族のものである。桜林に潜みつつユーベルコードの準備をしていた彼らが常に朱陰の死角に入るよう、猟兵らは巧みに立ち回っていたのである。
渾沌化した朱陰がどれほど強力といって、首塚の一族の鎖に捕らわれてしまった後に抜け出せるほどの力はない。
「クソが! 放せ! 放しやがれ!」
「……無駄だ」
朱陰がじたばたともがいているところ、ゆっくりと歩み寄ってきたアンナが、冷淡に見下ろしながら言う。
「処刑人の私には、生け捕りにせよというのは相性の悪い仕事だったが……何とかなるものだな。これにて御用……だ」
「ぐ――」
アンナを睨みながらまだ何か言おうとした朱陰だったが、口や顔にまで首塚の一族の鎖が巻き付けられ、声も発せなくなった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 日常
『和室で憩いのひと時を』
|
POW : 修行に良さそうな広間の片隅を見つけ、ひたすら心身の鍛錬に打ち込むことで心身の充実感を味わう
SPD : 普段から愛用している武装の手入れや補修をしながら精神を統一させることで安らぎを得る
WIZ : 旅籠のお料理に舌鼓を打ち、サムライエンパイアならではの料理について学んでみる
イラスト:かわち
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●遊山
帰還した猟兵たち及び首塚の一族は、街の人々から歓待を受けた。
状況が状況なだけに、観光資源である桜林にも多少の被害は出るだろうと予測されていたが、事が済んでみれば目玉の千年桜はほぼ無傷、他の桜の損傷もおおよそ無視できる範囲内だった。これは地元で観光業を営む人々にとっては、望外と称しても良いレベルの朗報である。
ともなれば、その立役者らの凱旋に人々が沸き立つのも自然のことではあった。
「少々面映ゆいですね。我々はそこまでのことをしたわけではないのに」
斎藤・福は戸惑ったような苦笑を浮かべてはいたものの、悪い気がしているわけではなさげであった。
何にせよ、見頃を迎えつつある桜の見物が存分にできる旅館は、すでに貸し切りで押さえられている。猟兵に首塚の一族を含めれば大所帯であるものの、全員がゆっくりできるだけのスペースは十二分に確保されている。
今しばらくは戦いを忘れ、骨を休めても罰は当たるまい。
饗庭・樹斉
無事生け捕りにできてよかったー!
これでまた一歩帰還に近づいて…結構捕まえてるんじゃない?
もうちょっとかなー…まあ今日の所はゆっくりしてまた明日から頑張りましょー!
そんな訳で旅館でのんびりと。
こんな風にゆっくりなんて久しぶりだなー…あ、お団子とかお茶とかできたら準備して頂きます。
よかったら首塚の一族の人達にも声かけてお話したり。
もう半年ぐらいになるけどこちらの生活にも慣れてきちゃったりするのかな…当然故郷が恋しいんだとは思うけども。
渾沌化オブリビオンがもっとポンポン見つかって捕まえられればいいんだけど難しい…けど僕もできるだけ力貸すから、帰れるまで頑張りましょー!と励ましたり。
※アドリブ等お任せ
●サムライエンパイアの風は遠く
旅館は、和風――サムライエンパイアのような様式の木造建築だった。封神武侠界では滅多に見られるものではないのだが、異世界からの漂流物の多い楽浪郡という土地ならではといえるだろう。
また、サムライエンパイア風なのは旅館一軒だけではなく、一帯の街並み全体にも及んでいた。レトロな温泉街、あるいは時代劇の撮影用のセットのような風情である。
「この光景見てたら、故郷を思い出したりするのかな……」
割り当てられた部屋でだらんと足を投げ出しつつ、饗庭・樹斉(沈黙の黄雪晃・f44066)はつぶやいた。
樹斉の頭に浮かんでいるのは、首塚の一族のことだった。
彼らが封神武侠界で足止めされてから、およそ半年ほども経過しているだろうか。なるべく不自由がないように生活はサポートされているはずだが、それでも故郷を恋しく思う気持ちは募っていることだろう。
「あとちょっとだと思うんだけどなー。もっと渾沌化オブリビオンがポンポン出てきたら……いや、それはそれで問題かな?」
渾沌化したオブリビオンは通常より遥かに強力な個体なので、頻繁に発見されるような事態なんぞになれば、被害がどれほど甚大になるやらわからない。
首塚の一族のことを思えば早いところ出現すれば良いともいえ、平穏のためには出てきてくれるなとも思う。ジレンマである。
「……まあ、今はゆっくりするか」
開放された窓から見える桜を眺めつつ、樹斉は座卓の上にある団子へと手を伸ばした。花見の季節を意識したのだろう、赤、白、緑の花見団子である。
貸し切りゆえに部屋は選びたい放題だったが、より優れた景観の楽しめる部屋は猟兵に優先的にあてがわれた。戦闘の面で主に骨を折ったのは猟兵たちということで、斎藤・福や首塚の一族が遠慮したためだ。
景勝と名高い桜を見物しつつ、のんびりと団子と茶を嗜む。これほどくつろげる時間を過ごすのは、樹斉には久々のことであった。
戦いの日々はまだ続く。が、頑張るのは差し当たり、明日からでもいいだろう。
大成功
🔵🔵🔵
ニクロム・チタノ
無事に事件も解決してなによりだね、旅館の窓からは大きな桜が見れてとてもきれいだ
姉妹達と桜を窓から眺めながら美味しいごはん、いただきます
ごはんの後は妖刀の手入れをしないとね、命を預ける相棒だし何より反抗の竜チタノにもらった大切な猟兵の証だからね
反抗の後にはきっと今日みたいな平穏な一日が待っているはずさ、だからこそ、次の反抗にもチタノの加護と導きがありますように
仇死原・アンナ
アドリブ歓迎
…終わったね
…なんだかお腹が空いてきたな
…ご飯…あるかな…
これが|侍の世界《サムライエンパイア》のご飯…
見た目は素朴だが…美味しい…戦ったあとだから尚更…
…ご飯のお替わり…いいかな…?
あぁ、首塚の一族達…そして彼女は斎藤福…確か彼の地の将軍の育ての親…だったかな?
彼女を見ていると…なんだか…甘やかされたい気持ちになるけど…我慢しよう…
先の戦いではお世話になったね…ありがとう…
あなた達が元の世界に戻れるのはいつの日かはわからぬが…
元の世界に戻れることを願っています…
…え、なでなで?あぁその…甘やかされるのは…恥ずかしいので…御免なさい…
…恐ろしいお方だった…斎藤福…さすが将軍の乳母…
●また来る明日に
旅館の二階の一角にある大広間は、障子の窓を開けると、ちょうど良く山肌に広がる桜林を一望することができる。もちろん、最大の目玉である千年桜もだ。
この素晴らしい景色を楽しみつつ宴席を設けるのが、この大広間の使い道というわけである。
そういうわけで、旅館の夕食は猟兵と首塚の一族がこの大広間に大集合し、全員で一緒に夜桜を楽しみながら、ということになった。
「結構な数の灯籠を配しているようですね」
外を眺めやりつつ、斎藤・福が言った。
彼女の言葉の通り、桜林のあちこちに灯籠が置かれ、明々と灯が灯っている。月と星の明かりとも相まった明るさは、真昼のようにとまではいかないまでも、花を愛でるにはまず充分な程度には桜林を照らしてくれている。
「奮発したことでしょう」
「いえ……まあ」
福に話を振られた仲居が、曖昧に笑う。
とはいえ、ごまかしようもない。新たに灯籠そのものを設置するにせよ、灯火のために油や薪を調達するにせよ、無料であるはずはない。それをここまでの明るさを実現させられるほどにとなれば、かなりのコストを要したのは明白だ。
しかし、仲居は笑みを浮かべつつ、言う。
「妖獣を退治してくださった皆様がご覧になる夜桜ですから、なるべく美しい姿をご用意しなければと思いまして。まあ、またここが賑わうようになれば、すぐに取り戻せますよ」
強がりではなく、実際その通りではあるのだろう。ついでに、今回のゴタゴタも桜林に箔が付くエピソードとなって、宣伝に利用できるという算段もあるのかもしれない。
「ありがとう。本当に、とてもきれいだ」
外に目をやりつつ、ニクロム・チタノ(反抗者・f32208)は言った。
星月夜と灯籠の明かりに照らされた桜林の中でも、千年桜は一段頭抜けた存在感を放っている。あれが戦いの中でへし折れるなどという事態にならずに良かった……と、ニクロムは心から思っていた。
「さあさあ、当旅館の自慢は桜だけではありませんよ」
弾むような声で、仲居は言った。
「骨折りを頂いた皆様のため、特に腕によりを掛けました。どうぞご笑味くださいませ」
何だかんだ、激しい戦いによって大いにカロリーを消費した直後であるからには当然のこととして、仇死原・アンナ(処刑人、獄炎の花嫁、焔の魔女、恐怖の騎士・f09978)は空腹だった。
そこへ来て丹精の込められたお膳を提供されるともなれば、自然、食は進む。
サクラマスの塩焼き。サクラマスの身が口の中でホロホロと崩れ、旨味と塩辛さが互いを引き立て合いつつ口内を支配する。
タラの芽の天ぷら。添えられた粗塩をまぶした衣をサクリと噛み破ると、タラの芽の独特なコクと塩味とが絶妙なハーモニーを奏でる。
「……あ」
ふと気付くと、アンナの茶碗は空になっていた。まだ腹は五分かそこらである。
「あの……お代わり、いいだろうか」
その辺の仲居を呼ぶつもりで、アンナは声を上げた――が。
「お任せを」
「えっ?」
ひょいとアンナの茶碗を奪ったのは、斎藤・福だった。客であるはずの彼女は、いつの間にやら給仕する側に回っていた。
「ちょ……何をしているんだ?」
「いえ。おもてなしを一方的に受けるだけというのが、どうにも居心地が悪く感じてしまいまして」
「ええ……将軍の育ての親ともあろう立場の方が……?」
「そうなのです。そもそもが人の世話を焼くのが好きな性分なものですから」
茶碗に白飯を大盛りにして、福はアンナへと渡した。
「そ、そうか……まあ、我々も先の戦いではお世話になったからな」
一緒くたに語って良いことかどうかは微妙なところだが、恐らくベクトルとしては似通った方向を向いている事柄であろう。
「けど、上様も今やすっかり大人になってしまわれて、お世話する機会などはめっきり減ったのですよね」
と言いつつ、福は不意に目を輝かせながら、アンナをじっと見つめてきた。
「どうですか、猟兵殿。この度はお疲れでしょうし、私を母と思って甘えてはみませんか?」
「え!? あ、いや、私は結構……甘やかされるのは、恥ずかしいので……」
狼狽しながら、アンナは身を仰け反らせた。
宴席がお開きとなって自分の部屋へと戻ったニクロムは、寝る前に愛刀の手入れをすることにした。満腹になるまで美味な食事を堪能し、まぶたは大分重たくなっていたが、こればかりは欠かすわけにはいかなかった。
反抗の妖刀。命を預ける相棒であり、己が猟兵であるという証明でもある。
猟兵であるからには、世界の崩壊に抗って戦わなければならないと、ニクロムは考えていた。そして同時に、戦いの後には平穏が待っているとも、信じていた。
「……次の反抗にも、チタノの加護と導きがありますように」
ニクロムのそれは祈りであり、誓いでもあった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵