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妖、|儺《な》やらふ

#アヤカシエンパイア #妖大将

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#アヤカシエンパイア
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#妖大将


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「妖どももひとまずは祓ったか」
「里では追儺の儀が行われた頃だろうか」
 ――アヤカシエンパイア。
 かつて「禍津妖大戦」最大の激戦地となった東国では、様々な妖たちが「過去の激戦の記憶」に引き寄せられるように出現している。
 小さく生じた妖の裂け目から出てくる妖を討伐したり、結界の境界の守りを勤めたり、荒れ果てた東国を日々駆け巡る坂東武者たち。
 哨戒に出ていた武者たちの報告によれば辺り一帯の安全が『一時的に』構築された。
 近くの里に逗留する部隊との交替期間は目前となり、束の間の平穏を過ごすことに僅かに思い馳せる。
「里に入るまで気を抜くな。兵糧はもちそうか?」
「きりつめれば……」
 口々に現状のこと、先のことを報告し合いながら移動の準備を行っていく坂東武者たち。
 彼らは術力を持たぬ無能力者だ。
 肉体に妖を憑依させ、戦闘能力を得ている。
 決して妖を侮っているわけではない。気を抜けば妖は自身に牙を向け、呑み込もうとする存在だ。
 彼らが戦場となっていた山を下ろうとしたその時、狼や犬にしては高い動物の遠吠えが山腹を叩いた。
「あれを!」
 一人の武者が示す先。
 そびえ立つ木々の間から流星の如き光群が迫り――彼らの消息はそこで途絶えた。


「アヤカシエンパイアの東国を守護する坂東武者って、みんな知ってる?」
 挨拶もそこそこに、檍原・颯汰(ダークネス「シャドウ」のアリスナイト・f44104)は猟兵たちへと説明を始めた。
「元々は一般人……無能力者の身ではあるんだけど、肉体に妖を憑依させることで他の妖と渡り合う戦闘能力を得た荒武者の集団なんだって」
 家族のため、平和のため、自分のため――生きるため、死ぬため。戦いに身を投じる理由は様々だ。
「それはそれとして、今、広大な山々を見回る坂東武者たちがいるんだけど。彼らが憑依させている妖たちが、『妖大将』の出現によって一気に妖大将の支配下に置かれたみたい」
 故に、憑依させていた武者たちはあっという間に妖大将の洗脳を受けてしまった。
「支配権を奪われるとそうなるよね……妖を憑依するってなかなか大変そう。
 そんなわけで今、坂東武者たちは自我すらも奪い取られて妖大将に従っている状態で、『人を害する人』と成り果てて近くの里に攻め入ろうとしてるんだよね。
 里の人は殺されるし、その人たちの怨念や流血で新たな妖の裂け目が発生することもある――そうなれば結界の綻びはどんどん大きくなっていって、内部崩壊はあっという間だ」
 そうなる前に対処していこう。と颯汰。
「まずは坂東武者たちを無力化していかないとね。撃破するにも、妖大将を討ち取れば彼らの洗脳も解けるから…………可能な限り、殺さないように無力化、してく?」
 どっちでもいいよと颯汰は言った。猟兵としては無力化のほうが望ましいだろう。
 流血で妖の裂け目が発生しても問題だ――猟兵がそう言えば「じゃあそれで」と颯汰の頷きが返ってくる。
「洗脳状態の坂東武者たちとの戦い。そしてリーダー格の坂東武者と戦って無力化すれば、妖大将が出てくると思うよ」
 邪魔な猟兵たちを倒しに。
「坂東武者の多くは『叢雲鬼』を憑依させていて、妖の能力を使って攻撃してくる。
 叢雲鬼は、死んだ人間の今際の際の怨念を凝縮した『怨念の集合体』で、本来は物理攻撃が効きにくい妖なんだけど、今はある意味実体だから物理攻撃が効くからね。対処しやすいかもね?」
 その後は一際強い妖を憑依させた坂東武者との戦い。
 そして黒幕、妖大将との戦いとなるだろう。
「まだお日様がある日中、戦場となる場所は木々がある山腹。勾配もあるから足元に気を付けて」
 淡々と告げた颯汰は「じゃ、健闘を祈るよ」と最後に告げて、猟兵たちを送りだした。


ねこあじ
 おひさしぶりです。
 今回はよろしくお願いします。ねこあじです。

 ……なんか、せつぶん? って思いつつ。
 節分(を終えた)依頼を出そうと思ってたので、こちらで。
 純戦ですね。

 第一章は集団戦。
 妖(叢雲鬼)を憑依させていたため妖大将の支配下に置かれた、坂東武者たちと戦い無力化させていきましょう。

 第二章はボス戦。
 一際強力な妖を憑依させ洗脳されたリーダー格の坂東武者と戦い、無力化させます。

 第三章はボス戦。
 妖大将と戦い、討伐します。

 各章断章あります。
 のんびりペースのシナリオ運営になるかと思います。
 詳細はタグなどにて。
 よろしくお願いします。
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第1章 集団戦 『叢雲鬼』

POW   :    叢雲包み
対象の【全身】を【実体なき雲の如き肉体で包み込ん】で締め上げる。解除されるまで互いに行動不能&対象に【死霊】属性の継続ダメージ。
SPD   :    叢雲無限刃
【肉体を構成する怨念を遺した者達の死因】に密着した「己が武器とみなしたもの」全てを【怨念】で操作し、同時一斉攻撃及び防御に利用できる。
WIZ   :    無尽怨霊波
体内から常に【叢雲の如き無数の怨念】が放出され、自身の体調に応じて、周囲の全員に【恐怖】もしくは【自殺願望】の感情を与える。

イラスト:炭水化物

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 まぼろしを具現化し、自然や新鮮な水すら生み出す平安結界の内部ではあるが、枯れ葉、枯れ枝が積もる冬の山はとても冷え切っていた。
 木々を抜け吹き荒ぶ冬風が猟兵の身を叩く――風は、怖気立つような気配ものせていた。
 その気配と、駆ける複数の足音へと目を向ければ白き霞を纏う坂東武者何人かが山中を走っていくのが見えた。
 集団で動く武者、単騎と、山中に散っていることだろう。

 怨念を凝縮した叢雲鬼を憑依させた坂東武者。
 人里目指し、一心不乱に駆けるその姿は何の因果か、本物の死霊のようだった。
 アレを止めねばならない。
 猟兵もまた追うように駆けた。
鐘射寺・大殺
久しぶりだのう、アヤカシエンパイア!東の地は相変わらず禍々しい妖気に満ちておるわ。

さて、此度の戦は『妖大将』とやらが相手か。まずは板東武者らを一発はたいて、頭を目覚めさせてやらねばのう!
【炎の魔王軍】を呼び出して、里を背にするように布陣。《悪のカリスマ》《大軍指揮》で統率するぞ。時間が許すなら、《拠点構築》で里の守りを固めておく。まずは宮廷魔術師団、《エネルギー弾》《矢弾の雨》で先制攻撃だ!続いて悪魔騎兵団は《武器に魔法を纏う》強化を受けての《騎馬突撃》!悪魔戦士団は《鉄壁》の守りで後衛の防御にあたれぃ!
我輩も螺鈿と共に《切り込み》をかけ、魔剣オメガを《ぶん回し》、兵どもを《鼓舞》してやろう!



 寒々とした冬の空気が、きんと冴え渡っている。
 今は雪は積もっていなくとも寒波が訪れれば一晩にして積雪の地となる山地帯。
「久しぶりだのう、アヤカシエンパイア!」
 魔剣・オメガを携えた鐘射寺・大殺(砕魂の魔王・f36145)が降り立ち、周囲を一瞥。「おお、凍えるほどの空気だな」とやや大仰に呟いた。その含みは『冬』に向けたものではない。
「東の地は相変わらず禍々しい妖気に満ちておるわ」
 普段、魔界とも呼ばれるデビルキングワールドに君臨しているおかげか、一見冷気ともとれる禍々しいそれを容易に感じ取る大殺。
『禍津妖大戦……最大の激戦地として、戦いの爪痕は今だ生々しく――ですな』
 川村クリムゾンの言葉に「そういうことよ」と大殺は応えた。
「此度の戦は『妖大将』とやらが相手らしいぞ。腕が鳴りおるわ」
 敵大将の首を討ちとるは戦の誉れ。だが戦果はそれのみにあらず。
 にやりと笑んだ大殺は、先代魔王より譲り受けた魔剣を掲げた。
 彼の背後には人里。前方には木々がそびえ立つ山。
「まずは板東武者らを一発はたいて、頭を目覚めさせてやらねばのう! ――出でよ! 我が炎の魔王軍!!」
 ユーベルコードを発動し召喚されるは、総勢148名からなる炎の魔王軍。
 大殺が一人立っていた場所に現れた軍は、鎧を鳴らし、槍を打ち鳴らし、腹の底から放つ大音声を放った。
 ――オオオォォォ!!!
 その猛りは寒々しい枝葉を揺るがして山の麓にすさまじい熱量を刻み込んだ。
 力と己の熱でねじ伏せる勢いを持つ大軍を見回し、大殺は再び笑む。
「陛下のお呼びに馳せ参じました!」
「ご命令あらば何なりと!」
 小隊長である悪魔が大殺の指示を伺いに駆けてきて跪いた。
「うむ。少しばかり忙しくなるぞ。工兵たちは急ぎ里の守りを固めよ! 悪魔戦士団は鉄壁の守りで後衛の防御にあたれぃ!」
 次々と出される大殺の作戦指示に、右往左往とする兵は一人もいない。確固たる指示系統が保たれた軍は無駄のない動きでそれぞれ動き出す。

 なだらかだった勾配が麓に近付き急なものとなっていく。
 枯れ落ちた枝葉を踏みしめ駆けていた坂東武者の足は、やや跳躍するものとなり山を駆け下りていく速度は上がる。躊躇が無い。
 彼らの痕跡として残るは叢雲鬼が纏う白き靄。それは紛うことなく、坂東武者と纏う妖の力均衡が崩れ、ヒトが憑かれている証であった。
 ざ、ざざざっ!
 人里で破壊を尽くすのみ。洗脳を受けた坂東武者は周囲を警戒していない。立つ音にも注意を払うことなく突き進めば――その時、冬の空気を掻き消す光弾が一つ、武者の側を掠め抜けていった。
 否、光弾が次々と飛んでくる。
 急勾配にて滞空の最中にあった武者に命中し、吹き飛ばされた武者が雑木に突っ込む。
 エネルギー弾が矢弾の雨となって飛んでくる先制攻撃。
「よし、撃ち方やめい! 続き、悪魔騎兵団! 突撃せよ!」
 ――大殺の命でぴたりと止む宮廷魔術師団のエネルギー弾攻撃。
 そして大地を揺らし坂東武者の群れに向かってくるは、騎兵団の騎馬突撃。
「フハハハハ! 我輩と螺鈿に続けぃ!!」
 青鹿毛の駿馬・螺鈿に騎乗し先頭を駆ける魔王の言葉に、軍の鯨波が広がっていく。
 騎兵にとっての武器は馬そのものだ。その剛脚で叩けばよい。
 その時、質量ある白が出現し魔王軍に迫ってくる。
 坂東武者から放たれた叢雲は質量ある幽の気だ。地吹雪の如く枯れ葉を叩き、舞い上げ――雲は遠くから見れば、優雅に流れゆくもの。だが実態は水滴や氷粒が凝固したもの――雲の如きそれが魔王軍と衝突する。
「騎馬の脚を浚うには良き手合いであろう! だが、相性が悪い!」
 魔剣オメガを振るい、叢雲を斬った大殺が「ゆけ!!」と騎兵団へ告げる。
 彼らは炎の属性を持つ魔王軍。
 魔力を纏う武器と同等の騎馬が、死霊の力を踏み砕き征圧する。
 槍が剣がと翻れば、叢雲を霧散する赫灼の軌跡。
 大殺率いる騎兵が駆け抜けていけば、後には力尽き、無力化された坂東武者たちが転がっていた。
 そこへやってきたのは鉄壁の位置を前へ前へと上げてきた悪魔戦士団の姿。工兵たちが出てきて、転がる坂東武者を縛り上げては突貫工事で作り上げた雑木の檻内へと運んでいくのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

アミリア・ウィスタリア
妖大将……
まるで人々の決意や覚悟を踏み躙ろうとするような存在ですね
あの世界のよう
けれど、ここはそうではないでしょうから

武器と見なしたもの全てを使えるとなれば手数は多いでしょう
それならミラもお手伝いして貰わなくては

可愛い子達。力を貸して?(UC+『護衛蝙蝠』)
完全な暗闇でなくとも木々の影を活かせば
あなたたちの得意な奇襲はできるはずよ
ミラが気を引くから攻撃はお願いね

特に強い一匹だけ傍に控えさせ敵の動きを警戒
基本は回避しつつ、たまに掠めれば深追いしてくれるかしら?
敵がミラに集中している間に蝙蝠達は敵の背後へ
敵が反撃する余裕がないタイミングで一斉攻撃して貰いましょう

大丈夫よ
頑張ってくれてありがとう、皆



 どこからか沢の音がする。
 湿度が高く、冷え切った空気に満たされた山――アミリア・ウィスタリア(綻び夜藤・f38380)が降り立ったこの場所は、陽射しの恩恵もあまり届かないらしい。
 ショールをマフラーの様に巻いて、首元をほこほこと温める。
 さくり、と落ち葉を踏みしめ山中を歩いていくアミリア。
「朝の時間帯や雪が降れば、綺麗な樹氷が見れそうですね」
 秋の色に染まったのち、枯れ葉色となったであろう枝葉を見上げてアミリアはにっこりと微笑む。――アヤカシエンパイア、この世界もきっと、今彼女が住むシルバーレインのように四季折々の風景が楽しめる世界なのだろう。
 アミリアが感じとる彩りの数々はどれもが瑞々しい。生前がセイレーンだったことも関係しているのかもしれない。
 けれどこの世界も――日本全土を「平安結界」で覆ったこの世界は、今だ妖との争いが絶えない。人々の仮初の平穏は脅かされ続けている。
 ふと、故郷へ想いを馳せ、アミリアは一瞬だけ視界を閉じた。
 落ち葉を踏み、何かが駆けてくる音が聞こえた。秩序が無く、獣のようだが重みがある音。
「――妖大将……まるで人々の決意や覚悟を踏み躙ろうとするような存在ですね」
 そう呟いた瞬間、アミリアに向けて一本の矢が飛んでくる。彼女を護衛し、滞空していた翼の呪剣がくるり回転し矢を弾いた。
 言葉なく、だが呼気の荒い坂東武者たちが藪から飛び出してくる。走る足を止め、立ちはだかる存在――猟兵を見据えた。
「ごきげんよう」
 現れた敵群にアミリアはにこりと微笑む。
 一体が刀を持ち迫るなか、ひゅん、と風を切る矢が更に飛んでくる――その射手はいない。
 翼の呪剣は威嚇に切っ先を敵群に向けたまま。夜色の本を開いたアミリアは騎士の盾を虚空に具現化させて再び矢を弾いた。
「……武器と見なしたもの全てを使えるとなれば手数は多いでしょうね」
 飛んでくるのは矢だけではない。石礫も含まれ始めた。
 アミリアの傍に常に控えていた蝙蝠が「チチチチッ」と警戒の鳴き声。
 今度は具現化した虹色の突風で一気に礫を弾き飛ばすアミリア。
 同時に、地面に礎を出現させ、迫る坂東武者の足止めを行う。
 けれども完全に阻害しているわけではない。坂東武者の進みが鈍った瞬間に、アミリアは素早く後退する。――そんな姿を彼らに見せた。
 礫の一つがアミリアを掠め、一瞬怯んだ彼女を坂東武者が追う。
 しゅっ、と護るように翼の呪剣が飛んでいく。だが呪剣に対するは複数の刀だ。
「多勢に無勢……? うふふ、それならミラもお手伝いして貰わなくては、ね」
 呟きは、合図のような引鉄のような。

 ――あの人の様に、上手に出来るかしら。
 そう思いながらアミリアがこの戦場に潜ませたのは、彼女を護衛する蝙蝠たちだ。
『完全な暗闇でなくとも、木々の影を活かせば、あなたたちの得意な奇襲はできるはずよ』
 アミリアの掌に、腕に、肩にと乗った蝙蝠へ優しく言い聞かせたのは、先程。
 一匹、また一匹とアミリアの元からゆるり飛翔し、岩陰に、木陰に、そして木々の上へと隠れ潜んでいく。
『ミラが気を引くから攻撃はお願いね』

 彼女を追いつめんとする敵群の後方から出現するは護衛の蝙蝠たち。挟撃だ。
 ――アミリアが放っていた虹色の突風は、いつしか闇色の風に変化していた。
 乗っていた風から降下する蝙蝠、木陰から飛び立つ蝙蝠。世界と彼女が築いた影から一斉に蝙蝠が放たれ、背後ががら空きとなった坂東武者を襲撃する。
 体当たりや噛みつきで武者の血液と戦意を奪っていく護衛蝙蝠たち。
 小さな闇色の個体が群がる姿は壮観ですらある。
「うっ……」
 力を失くし、ぐらりと体勢を崩す武者。
 倒れる彼らを受け止めたのは蔓草の絨毯だった。
 アミリアが開く本に浮かび具現化した蔓草は対象を捕縛し、容易に動けないようにしていく。
「妖大将を倒すまで、しばらくはそのままで過ごしていてください」
 倒れ伏す彼らに近付いたアミリアは、ふわり淑女の礼。
 そして坂東武者たちがやってきた方角へと向かった。そちらに向かえば、きっとリーダー格の坂東武者がいるだろう。
 その際に合流してくるのは護衛の蝙蝠たち。
 キィキィ、チィチィと鳴きながらアミリアの周囲を飛び回った。
 礫が掠めた場所を心配してくれている。
 優しい子達ね、とアミリアは声を返す。
「大丈夫よ。頑張ってくれてありがとう、皆」
 アミリアが労いの言葉を掛けると、蝙蝠たちは一周大きく飛翔し、警戒のためか再び辺りへ潜むように飛んでいく。
 周囲を魅了し震わせる寵姫の感謝は、何ものにも代え難い報酬だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

儀水・芽亜
アヤカシエンパイアの方々は、ユーベルコード無しでオブリビオンと相対しているのですね。尊敬に値します。
そんな方々を己が手駒にしようとは、たちの悪いものもいるようで。
いいでしょう。『妖大将』討滅いたしましょう。

まずは傀儡にされた坂東武者の方々を鎮めなければなりませんね。
竪琴を爪弾いて、「全力魔法」夢の「属性攻撃」「範囲攻撃」「楽器演奏」「歌唱」でヒュプノヴォイス。馬も乗り手も、ぐっすりおやすみくださいな。
妖の妖術には「呪詛耐性」「狂気耐性」「霊的防護」で対処しましょう。
その上で演奏に「集中力」を使っていれば、怨念など気にならぬもの。

さあ、皆さん。静かに夢の帳に包まれてください。
後は引き受けました。



「妖を自身に憑依させて戦う坂東武者――アヤカシエンパイアの|方々《一般人》は、ユーベルコード無しでオブリビオンと相対しているのですね」
 アヤカシエンパイアの地へと降り立った儀水・芽亜(共に見る希望の夢/『|夢可有郷《ザナドゥ》』・f35644)は、オブリビオンと戦うこの世界の者へ思い馳せる。
 ユーベルコードの使い手である貴族だけでは到底妖の数に対応できないほどなのだろう。
 戦い赴く者としては一番数が多いであろうサムライ――坂東武者たちが小さな集落や国の遣いとして、前線で妖を憑依させ戦闘能力を得て戦っている。
(「国を守るため、日々を守るため、誰かや自分自身のため――」)
 人それぞれ、戦いに身を置く理由がある。芽亜もそうだったし、今もそうだ。
 無能力者が戦うために得る代償は、大きいものだ。
 この道を選んだ坂東武者へ、尊敬に値する念を抱く芽亜。
「そんな方々を己が手駒にしようとは、たちの悪いものもいるようで」
 竪琴『Playland In Sleeping』の弦をひとつ弾けば、清涼な澄んだ音が冬の山に渡っていく。
 ふ、と吐いた呼気は白く曇った。
「――いいでしょう。『妖大将』、討滅いたしましょう」
 そう呟いた芽亜の、よく音を捉える耳に乱雑な足音が届いたのはこの時。

 ざ、ざざざざ!
 枯れ落ちた枝葉が積もる山の中。
 まずはそれぞれが馬に乗る二人の坂東武者――憑依する妖に洗脳されている彼らは手綱をきちんと操っているわけではなさそうだ。二体の馬脚は揃わず、やや乱れている。
 冬の空気を荒く引き裂く風切りの音。馬の嘶き。
 そこへ流麗な琴の音が響き渡り、ピンと張りつめたその場に揺らぎが起こった。
 馬の速度が落ち、山の急勾配故か乗っていた坂東武者が落馬する。痛みを伴っただろうに、彼らは苦痛の声を上げることなく再び立って走りだそうとした。
 だがその間も琴の音は鳴り止まず、むしろ冷たき空気に放たれた高らかな音はよく響き、木々に反響していく。
 そこへ揺蕩うような美しき歌声。
 音色はそびえ立つ樹木に沿って天に昇るように反響する。
 やがて天上から降ってくるような音色にも聴こえ、一瞬ふらついた坂東武者がそのまま倒れる。
「ぐ……」
「――……すう……」
 倒れた武者から聞こえてきたのは、なんと寝息だった。
(「――馬も乗り手も、ぐっすりおやすみくださいな」)
 藪を遮蔽に奏でられる音楽。
 奏者の芽亜は、首掛け式の蒸気機関式スピーカー、アリアデバイス『ムジカ・マキナ』を介しこの地にヒュプノヴォイスを届ける。
「さあ、眠りの幕に包まれ、意識を手放しましょう」
 馬と乗り手が眠りに落ち、続いてやってくるは自身の足で重たげに、幽鬼のように歩む坂東武者たちだ。
 遠くまで聞こえたであろう微かな琴の音に反応してか、叢雲の如き無数の怨念を放ちながら彼らはやってくる。
 警戒しているのは、彼らに憑依している妖だろう。
 ムジカ・マキナを通す竪琴の音色や芽亜の歌声は、夢への誘いや浄化の力を増幅させ、場を清廉なものへと変化させていく。
「さあ、皆さん。静かに夢の帳に包まれてください」
 無数の怨念を微睡みへと誘い、妖の支配が薄くなった坂東武者たちは芽亜の奏でに抗うこともできず、そのままかくりと力を失くし眠りの世界へ。
 鎮まり給え。眠り給え。
 ――世界は違えど、とこしえの願いはきっとおなじ。
 微睡みうたたねの昼。
 安らかに眠る夜。
 目が覚めれば、昨日と同じようで違う今日。連綿と続く、あたらしい時間。
「――後は引き受けました」
 芽亜は蕩けるような声と琴の音を響かせて。
 静かなる帳を優しく降ろしていく。

成功 🔵​🔵​🔴​

仇死原・アンナ
アドリブ歓迎

寒いな…寒いのは嫌だ…
…この先に憑りつかれた坂東武者達がいる!彼等を救う為にも…
さぁ行くぞ!私は…処刑人…あ…死なせたら駄目だっけ…

精霊馬を召喚し騎乗
戦場を素早く駆け抜けながら悪路を走破し
敵群が放つ雲の如き肉体から逃れながら騎乗突撃で憑りつかれた坂東武者たちを蹴散らそう

…剣を振るえば容易く殺れるが…殺す訳にはいかない
だが痛めつけなければならぬ…赦せよ…!

黄金バットを抜き【ブレイズスマッシュ】を発動
地獄の炎…でなく葬送の炎纏わせ加速したバットを武者達に叩き付け
怪力で吹き飛ばし行動不能にさせて、破邪と浄化の力で妖を消滅させてやろう

バットを振るい戦場を駆け回り坂東武者を救おう…!



 雪は降らずとも、東国の山は深々とした冷たさに満たされていた。
 アヤカシエンパイア――平安結界が施され、民草に仮初の平穏を齎す世は四季折々を告げていく世界。……立春が過ぎたとはいえ、今はまだ冬の気候。仇死原・アンナ(処刑人、獄炎の花嫁、焔の魔女、恐怖の騎士・f09978)の吐く呼気は白く、やや目を伏せていた彼女の視線が上がっていくそれを見遣る。
「……寒いな……寒いのは嫌だ……」
 天高くそびえる木々に邪魔され、陽の恩恵の届かぬ山中。薄暗く、底冷えする寒さだが、ここは燃やすための資源もある。暖も取れそうだ。と、無意識に思考するアンナ。
 何せ、彼女の出身世界であるダークセイヴァーは燃料となる資材を確保するのも一苦労なのだから。
「こんなに寒いのに……」
 と、呟くアンナが見据える先から――山上の方から白い靄がゆらりゆらりと降りてくる。
 ひゅ、と息を呑むような怖気立つ気配。妖である叢雲鬼のものだろう。
 アンナの『心臓』が戦うための鼓動を打った。
「……この先に憑りつかれた坂東武者達がいる!」
 彼女の……かつては止まったそれは今、地獄の炎を宿し燃え続けている。
 燃える心臓は、誰かに向けてアンナの心を傾けさせ、感情を生じさせ、焔で温めた手は救いの手として差し伸べる。
 彼らを救う為にも……――アンナの意志によって霊体である黒鹿毛色の精霊馬が召喚され、彼女は騎乗した。
「さぁ行くぞ……! 私は……処刑人……!」
 蒼炎にも似た手綱を繰れば、山を駆け上らんとする精霊馬。
 白き靄――叢雲鬼の放つ邪気を馬脚で踏み散らし、いざ。
 冷たき空気は全身を叩く鋭い風となる。
 しかし、精霊馬と一体になり山中を駆けるアンナは、ふと何かを忘れているような感覚に陥った。
「……? ……あ……死なせたら駄目だっけ……無力化……」
 今は、処刑は、やすみ。
 確認するようにもごもごと口の中で再確認をするアンナだった。

 枯れ葉が積もった地も、急勾配を造る岩場も駆け上がる精霊馬。霊体の馬脚は悪路に阻まれることなく、適宜精霊としての力が施行されている。
 岩場では土の力を。滑りの激しい箇所では風の力を。
 やがて視界が真っ白に染まる場所へたどり着いた。叢雲広がる場はまるで雲上の様。
「……ここか……」
 アンナがぐっと脚に力籠めれば、意図を読み取った精霊馬の動きが変わる。
 やや馬首を振った駆けの一閃。跳躍の一打。
 精霊馬が行い始めた重量級の踏み込みは、アンナの眼下に広がる叢雲を蹴散らしていく。
 騎馬の本領はその大きな馬体からなる突撃。
 深い深い叢雲を蹴散らしていくと、やがて叢雲の層は薄くなり坂東武者たちの姿が見え隠れし始める。
「……みつけたぞ……」
 叢雲鬼の力を削ぎながらの突撃は、ある程度まとまっていた武者の集団を散り散りにしている。
 各個撃破がしやすい状況へ持ち込んだアンナが手にしたのは黄金のバット。
「……剣を振るえば容易く殺れるが……殺す訳にはいかない……だが……痛めつけなければならぬ……」
 ――赦せよ……!
 ぶんとゴールデン・バットを振れば、アンナの腕からバット全体に炎が噴出した。それは紺碧に輝く葬送の炎。
 旋回すべく馬体を傾ける精霊馬。それに合わせるように、下半身に力を籠めライダーの如く重心移動させたアンナはバットをフルスイング。
 噴出する葬送の炎で加速したゴールデン・バットが炎陣を描く。轟音なる打撃音が坂東武者たちから生じ、彼らが次々と吹き飛ばされた。
「がっ……!」
「ぐっ」
 衝撃に呻いた坂東武者たちががくりと力を失くしていく。
 ネットよろしく鬱蒼とした藪や、木々が坂東武者を受け止めてゆくなか、アンナが放つは二撃目のブレイズスマッシュ。
 燦然と輝く蒼炎はまるで切り裂く天色の如く。
 寒さに満ちる世界に放たれる一刀は破壊を齎す運命を打破するもの。
 怨霊の念に支配された戦場を、駆ける炎が灼く。
 妖大将の支配下に置かれ、坂東武者を操っていた叢雲鬼の力を削いでいくアンナだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

八秦・頼典
●POW


妖をその身に降ろす術故の事件という訳か
本来であれば切磋たゆまぬ鍛錬により妖を使役する坂東武者であるが、こうなってしまえば妖大将の思うがまま
このまま放っておけば、勇ましき荒武者も妖と成り果てるは時間の問題…ま、ボクが派遣されたからにはそうさせないけどね?
本来ならば調査の妨げとなるので身分も階位も伏せるが、京は最前線たる東国にて奮戦するキミらを見捨てはしないと…正一位のボクが、ライデンがここに宣言する

まずはボクの周りを取り囲む妖しき叢雲を『黄竜の風』にて舞い起こした【浄化】の暴風にて祓い見せよう
それらが坂東武者の身体へ戻ろうとする前に…阿近、吽近よ
激しき炎と激流となり、妖らを喰らい尽くせ!



 山中から人里の方へと向かっていく雲の群れが発生していた。
 雲底なき雲粒は落ち葉や藪を押し退けるが如き勢いで流れて下っていく。
 その『叢雲』に紛れ駆けていくのは、妖を憑依させていたがために妖大将の支配下に置かれた坂東武者たちだ。
「妖をその身に降ろす術故の事件という訳か――」
 急勾配となった岩場――ほぼ崖に近い場所へ降り立った八秦・頼典(平安探偵陰陽師ライデン・f42896)は、降りてくる白い靄を見遣り呟いた。
 アヤカシエンパイアに住まう彼は、この世の理を知っている。
 人々の平穏なる暮らし――それは彼らにとっては本物の平和な時間で、けれども理を知る者にとっては仮初の平穏だった。
 頼典は、人々への平穏を齎す「平安結界」を守護する平安貴族であり、そして式神を使役する迦波羅の陰陽師。
 貴族、陰陽師、平安歌人、検非違使など。この世界の結界は様々な者の働きで構築され続けているものだ。
 そして、坂東武者。
「本来であれば切磋たゆまぬ鍛錬により妖を使役する坂東武者であるが、こうなってしまえば妖大将の思うがまま」
 薄暗く、寒く。
 枯れた色の冬山に、白が満ちていく。
 雪ではない。その質量ある白はすべて、叢雲鬼となってしまった怨念たちだ。
「――このまま放っておけば、勇ましき荒武者も妖と成り果てるは時間の問題……」
 頼典がすうっと目を細めた。
 閉じた檜扇を一橋、二橋と開いていけば彼に呼応して、炎の如く猛る毛並みの霊獣と静かなる激流の渦が如き毛並みの霊獣が顕現する。
 獅子と犬に似た二体は頼典から離れず、主とともに上方へ顔を向けた。
 生真面目な霊獣の表情を見て、ふ、と頼典は微笑む。
「……ま、ボクが派遣されたからにはそうさせないけどね?」
 ざざざ! と山を下る人の駆け音が聞こえ、実体ある坂東武者は妖の意識故、躊躇うことなく崖下に向けて飛び降りてくる。
 辺りに流れる妖気、叢雲の層が刹那の緩衝となっていた。
「黄龍の風よ――祓い給え清め給え」
 舞差す動きで檜扇を開いた頼典が吹きすさぶ風を呼ぶ。
 下方から急速に上昇した風は浄化の暴風。
 飛び降りたはずの坂東武者たちは黄龍の風を受けて虚空で体勢を崩す――周囲に蔓延していた死霊の層が散り散りに祓われていく。
「いつもならば調査の妨げとなるので身分も階位も伏せているが――今日は宣言しよう。
 京は、最前線たる東国にて奮戦するキミらを見捨てはしないと……! 正一位のボクが――ライデンがここに宣言する!」
 陰陽術で風に乗せた言の葉が響き渡る。
 鬱蒼とした叢雲群れに強き陽の気が差し、妖の気を相殺していった。
 頼典の陰陽師の力により、憑依していた叢雲鬼が一時的に坂東武者から祓われるなか、風は武者たちを藪の中へと吹き飛ばす。
 坂東武者と憑依状態から祓われる叢雲鬼。彼らの距離が物理的に乖離する。
 実体を無くした妖は憑依主である武者へと戻ろうとする――だが、そこへ押しとどめる暴風。
 逆風が天から放たれ、叢雲鬼を崖下へと叩きつけんとする。
「阿近、吽近よ。今だ! 激しき炎と激流となり、妖らを喰らい尽くせ!」
 頼典の檄に霊獣――阿近と吽近の毛並みが猛る。
 黄龍の風にのった二体が放出する力は、炎龍の如く、水龍の如く、描きは陰陽の如く。
 絡まる二色の力は螺旋となりて、そして大きな竜巻となりて、妖を滅していくのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

鵯村・若葉
敵性存在を利用するというのはやはりリスクが伴います
それでもそれに手を伸ばす気持ちは……わかる気がします
世界や事情は違えど、我々とそう変わらないでしょうから

自分ごときに戦力を割いて頂けるとは
光栄です

締め上げですか
では同じ手を
UCで『捕縛』し無力化を図る
死霊……似たようなものは慣れてまして(『呪詛耐性』『狂気耐性』)
この程度では自分は壊れられません
もっと深く呪わなくては――ねぇ?
茨伝いに妖に直接『呪詛』を叩き込む

坂東武者達の自我が奪われているとは理解しつつも
僅かでも支配に抗う手伝いになればと言葉を紡ぐ(『祈り』)

妖を宿し戦うことを選んだ皆様は
妖に弄ばれ、人々を殺す
そんな未来は――望まないでしょう?



 妖大将の支配下に置かれた妖――その妖たちを憑依させていた坂東武者が洗脳され、任務さなかの山中から人里に向かっていた。
 静寂なる山は今や荒々しい足音にかき乱されている。
 人里があるであろう麓を後方にし、鵯村・若葉(無価値の肖像・f42715)は緩やかな勾配ある地を見上げた。
 UDCアースでもよく赴くような奥地だ。
 霧のように怨念混じる白い靄が流れてくるなか件の足音複数を耳に捉える若葉。音が近付いてくるほど靄は濃くなっていくので、妖に操られた坂東武者の位置も近いだろうと検討をつける。
「敵性存在を利用するというのは、やはりリスクが伴います……」
 それでもそれに手を伸ばす気持ちは、わかる気がした。
 UDCアースでもまた、太古から蘇った邪神とその眷属たち相手に立ち向かうため、自らを狂気にさらしながら邪神の力を取り込む組織がある――若葉はその組織の一員だ。
「世界や事情は違えど、我々とそう変わらないでしょうから」
 言わば、明日は我が身というやつだ。
 UDCアース、アヤカシエンパイア。他の世界にも敵の力を利用している勢力は在る。そうせざるをえないほどに、『我々』は非力な存在で、世界の敵は強大なものだった。
 靄の中に複数の影を捉えソレを数えながら、僅かに後方へ移動する若葉。
 冷え冷えとした空気はこの季節だけのものではない。氷粒で構成される雲――叢雲の力は通った場所を霜で覆っていく。
 ぴしりとした気配はそのまま受ければ、若葉をも凍結してしまうだろう。
「……自分ごときに戦力を割いて頂けるとは――光栄です」
 山中というだだ広い戦場に立つ、ちっぽけな存在ともいえる一人を――。
 避ければすむ話だ、と、そう思う。だが猟兵の存在は避けて通れるものでもないのだろう。
 立ち止まった坂東武者たちが死霊の群れを周囲に放った。叢雲の氷粒は質量を増し、周囲を支配下に置かんとする妖の意志で満ちていく。
 だが盤上は妖の気で圧すことはできなかった。
 星銀の光を放つ若葉の影から呪詛纏う影の茨が発生し、浸透させるかのように叢雲の下に広がっていく。
 まるで夜を敷いたような白銀の世界が刹那に築かれる。
「死霊……似たようなものは慣れてまして」
 武者の身体という実体がある以上、大地に触れて立たねばならない妖の存在。介する者が在る敵に触れるのは何とも容易い――日々実体なき邪神を相手にしている若葉は武者たちを影の茨で捕縛していく。
 音もなく人の身を縛り上げていく黒き茨たち。
「この程度では自分は壊れられません。もっと深く呪わなくては――ねぇ?」
 這い動く影の茨とともに放ち乗せられていく若葉の声は、呪詛だ。
 悪意の高みを知るが故に彼の言葉は境界を引き、そのレベルに満たない妖鬼の叢雲を退け、その質を堕とす。
 靄はまるで重力を持ったかのように、少しずつ高度を落としていった。
 靄が薄れ、戦場に現れたのは若葉、坂東武者という人の身を持つ層。
 重みを増した雲の層。
 そして這う影の茨に覆われた地面が見え隠れした。
 武者の顔が見え、若葉は声を通らせる。
「……妖を宿し戦うことを選んだ皆様は、妖に弄ばれ、人々を殺す」
 彼が紡ぐ言葉は未来を想起させるもの――否、想起させられた、もの。洗脳された坂東武者たちが描くはずだった未来は、もはや過去のものとなりつつある。
 若葉の声は否を織り交ぜていた。
「……ぐ……」
「……っぁ……」
 武者たちが呻き、膝をつく。周囲に漂う叢雲を祓うように、さらに嘘絶が場を染め上げていく。
「そんな未来は――望まないでしょう?」
 自我を奪われた坂東武者たちへ向ける言の葉は、僅かでも支配に抗う手伝いとなればと思い紡いだもの。
 誰だって、未来は自身の「意思」で紡いでいきたいものだから――。
 祈るような若葉の声を聞き、妖に洗脳された坂東武者たちが意識を落としていく。
 それは自我を取り戻すための反動。
 憑依させた妖を上回る、彼らの意思が働いた証だった。

成功 🔵​🔵​🔴​

木元・杏
まつりん(祭莉・f16554)と

足場は雪山
うさマーク付の登山ブーツを履いて足場対策
まつりん、武者の方々の場所、わかる?
自然の中の探索はまつりんの方が得意そう

やすらぎ、もしくは郷愁の想いを胸に秘めた者達
妖に惑い駆けているなら、止めねば

【うさみみメイドさんΩ】
メイドさん達、周辺の蔦を早業で編み込み縄を沢山作成
小ささ活かした隠密行動で武者達を先回りし、足元にぴんと張るよう縄で罠を設置してね

灯る陽光からのオーラでわたしとまつりんをオーラ防御し攻撃から身を守り
ちょう頑丈な地引網漁用の網を投げ、武者達を捕縛しよう

少し我慢して
そして貴方達が守るもの、矜恃とするものを思い出して
大丈夫、貴方達は誇り高き坂東武者


木元・祭莉
アンちゃん(f16565)、気を付けて!

冬の山岳地帯、足裏にはスパイクつけて。
姿勢は低く、風上に回り込むように。
灯りは最小限に、五感を研ぎ澄まし、位置を悟られないよう隠密で進もうね。

集団で動いてる武者を標的に、アンちゃんと手分けして。
白炎で仲間に化けたり、足下に幻覚出して穴に落としたり。
ニセ情報で撹乱し、個々に分断して足を止めさせようー。

足止めできたら、優先的に灯りを叩き落とし、集団行動できないように。
アンちゃん担当以外の相手を個別に拳で調伏?していくよ!

意識があると色々放出されるから、気絶させた方がいいかな?
ゴメンね、しばらく寝ててね!
(荷車に投げ込んでおく)(できるだけあったかくして)



「坂東武者……こんなに奥地まできてる……」
 木元・杏(杏世界の真実・f16565)が野営地の跡を眺めながら呟けば、呼気は白となってのぼってゆく。
 ここは人里離れた山中だ。
 アース世界の中でも古き時代風景――日本全土を覆う平安結界があるアヤカシエンパイア。
 奥深き山の地ともなれば、結界の色の濃い人里ある麓とは違い雪も凍った地点もある。
「アンちゃん、ちゃんと足裏にスパイクつけた?」
「ん。だいじょうぶ、まつりん」
 双子の兄である木元・祭莉(銃弾を次から次へと叩き落とすなにかの達人・f16554)からの確認に頷く杏。
 ぴょこ、と軽く上げた足が履いているのはうさマーク付の登山ブーツ。
 見て見て、としてみた杏であったがその相手である祭莉は耳や尻尾、顔をきょろきょろと動かして忙しそうだ。
「まつりん、武者の方々の場所、わかる?」
「――うん、あっちに向かったね」
 祭莉の答えは迷いなきものだった。彼が指差した方向を見て早速向かおうとする杏であったが、祭莉は待ったをかける。
「……んむ? どうしたの、まつりん」
「アンちゃん、そっちそのまま行くとたぶん風下に回っちゃうから、コッチから行こう」
 祭莉の言葉を聞いて、杏はちらりと野営地へ目を遣った。
 荒れた地面を見てかろうじて武者が進んだ方向は分かるけども、祭莉には杏には分からない何かが見えているらしい。
「わかった」
 再びこくりと杏は頷いて、先行する祭莉のあとをついていく。
「……木々が高いね。空も曇ってるから、陽はここまで落ちてこないよ……」
 祭莉の声は息をひそめた小さなものだった。
 灯りをつけよう。と祭莉は言う。彼誰時の螺子を捻れば格子が濃くなり、白焔色の光は絞られた。
 兄に倣って杏も灯る陽光を指ほどのサイズに。花弁がひとひら、零れ落ちた。
「滑って転んで、敵に勘付かれるより、足元は安全にしておいたほうがいいからさ」
 兄の言葉にこくこく頷く杏。自然の中の探索は祭莉の方が得意だ。
 幼い頃をふと思い出す。かくれんぼで遊んだ時、杏は祭莉を見つけられずによくギブアップしたものだ。
 野営地から少しずつ離れて藪の中へ。
 一歩進めばそのぶん、祭莉の気配は少しずつ人狼のものが増していくようで。
 ほんの少しだけ、杏は不安になる。
 兄の狼の耳が動いてはしばらく方向を定めるようにぴたりと止まる。
 そういうしぐさを見ながら、杏は速度のあがっていく祭莉のあとを懸命に追った。
 しばらく歩んだある地点でふと振り返った祭莉の視線は少し鋭くて、けれども杏がちゃんと着いてくるのを確認したならば目尻は和らいだ。
「アンちゃん、あそこ」
「……? …………!」
 と祭莉が指差した数拍後に、杏の耳にも藪を抜けていく足音が聞こえた。
 分かったでしょ? と伝えてくるような銀の瞳色は、母のように悪戯めいた感じで目が細められていて、そして父の色にとてもよく似ていた。
 双子は目を合わせて互いに頷き合う。
「まつりん」
 呼んだ杏が花弁のような暖陽の彩を手のひらに乗せて、祭莉に差し出す。
 まるっと受け取る様に、ぎゅっと妹の手を握った祭莉は、次の瞬間、にぱっと笑んだ。
「――位置を悟られないようにね」
 兄は静かにそう呟いて、藪の中へと消えていった。
「…………」
 ――あっという間に、置いていかれてしまった。
 思わず縋りそうになった手腕を戻し、うさ耳付メイドさん人形のうさみん☆を一瞬ぎゅっと抱きしめて、杏は頷いた。
 手のひらにあったあたたかな花弁は消えていた。きっと兄を護ってくれるはずだ。

 真白が宿る世界で坂東武者たちは連れ立って移動している。
 人里は、きっと憑依させた妖たちも知っている場所だろう。
(「『彼ら』はやすらぎ、もしくは郷愁の想いを胸に秘めた者達…………」)
 杏は坂東武者たちを目にして想う。
 一人一人に意識を向ければ、きっと様々な人生がそこには在る。
 例えば子供の頃に口減らしで売られた者。
 戦に巻き込まれ天涯孤独となった者。
 家族を持つ者。
 きっと皆、生きていくために、その身を代償に妖を宿し戦っている。
 彼らの生死はこれから繋いでいく未来、いろんな可能性が先には満ちている。
(「妖に惑い駆けているなら、止めねば」)

 団体半ばの武者がふいに方向転換をし、後続の武者がつられて同じ方向へ。
 方向転換をし先頭に立った武者が脚を速めれば、後続の武者もまた速歩となった。
 ざんざんざん! と駆ける深沓の音が、突如、一斉に途切れ――刹那に響くは衝撃音。
「ぐあっ!」
「……っ!!」
 苦しそうな呻き声が漏れたその群れの――頭上ともいえる崖上にひょこりと現れる狼耳。
(「掛かった!」)
 白炎で造った幻影武者で一部の坂東武者を分断し、幻影の雪を散らして低崖へと誘いこむ。祭莉の分断計画は大成功だ。
 白楼炎で崖下を満たせば、そこは白き焔の海の如き光景に。
 飛び降りた祭莉は坂東武者が持っていた灯りを消して回ると同時に、如意みたいな棒を首元に叩き込んでいく。
「おじちゃんたち――ゴメンね、しばらく寝ててね!」
 設置した屋台風荷車『木元村』に武者たちを抱えて連れて行って、荷車にも被せられるこたつ毛布を広げて覆う。
「あったかくしておくね」
 できる限り、あたたかな声でそう告げる。
 一度、死霊に洗脳されてしまった武者たちの精神状態はきっと悪いだろうから。
 憂う祭莉は、そのうち目覚める彼らに襲ってくるであろう希死念慮が少しでも祓われているようにと願った。

 一方、進行方向を変えていない武者の集団の行先は少しずつ雪の気配がなくなっていく。
 藪に足を突っ込み進む彼らの足取りもまた迷いなく、そして次の瞬間、先頭の武者の姿が倒れた。
 その武者の足元には蔦で編まれた縄が。
 続く武者が二人ほど倒れ、だが後続の武者たちはその異常事態に淡々と対処する。――倒れた武者を飛び越えたり、避けたりと進んでいくのだ――だが、その時しゅっと小さな何かが虚空を走り抜けていき、ぴんと縄が張られる。
 交差する編み縄に掛かっていく武者たち……否、操る妖が念動力で刀を繰り、すぱりと縄を切った。
「うさみん――」
 杏の声が仕掛けの合図。
 編み縄を抱えたうさみん☆とうさみみメイドさんたちが跳躍すれば、坂東武者たちの頭上には頑丈な地引網漁用の網が広がった。
 人を抑え込むほどの重い網だ。
 念動力で操られる刀も矢も、そして石礫にも覆い被さって叢雲鬼がとる手段を奪う。
「うさみみメイドさんたち、よろしく」
 そう言った杏のうさみみメイドさんΩ――うさみん☆を入れて丁度160体。そのすべてが縄を持ち、網ごと坂東武者を捕縛してがんじがらめにしていく。
「少し我慢して……そして貴方達が守るもの、矜恃とするものを思い出して」
 うさみみメイドさんたちを払おうとする坂東武者と叢雲鬼であったが徐々に身動きはできなくなり、なすすべなく横たわる状態に。
「大丈夫、貴方達は誇り高き坂東武者」
 荒廃した東国を護るサムライ。
 杏の掛ける声は、祈りは、彼らへの敬意に満ちていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

箒星・仄々
家族や仲間、無辜の方々…
皆さんを守ろうと
身を粉にして
一生懸命頑張ってくださっている武者さん達が
その守るべき々を殺めるなんて絶対にダメです
お止めしましょう

揺れる影から召喚したランさんに乗って
一っ飛び

先回りしてすたっと飛び降りて
立ち塞がります

事前に颯汰さんに教えていただいたり
リサーチした
武者さん達の里に伝わる曲を演奏します

桃の弓ではありませんが
破魔や鼓舞の想いを込めた旋律を
武者さん達の心に響かせます
支配されていてもお心は残っているはずですから

武者さん方は妖の支配に抗じようとするでしょう

動きが僅かでも鈍れば
弦を弾いて紡いだ魔力を
光の五線譜として具現化

メロディに乗った揺蕩う五線譜が
坂東武者さん達を吹き飛ばして
山腹に叩きつけて気を失わせます

或いは憑依している叢雲鬼さんのみを
吹き飛ばすこともできるかもしれませんね
その場合は更に集積していた怨念を
バラバラに吹き飛ばして弱体化させて
破魔の音色で浄化していきます

嘗ての犠牲者さんが鬼に変じたのでしょうか
どうぞ海で静かにお休み下さい

次はリーダーの武者さんですね



 妖大将の支配下に置かれた妖たちが、自身を憑依させていた坂東武者を洗脳する――。荒くれ者でもあるサムライの集団は、掛け声などでの意思統一は無く、ただただ人里に害を成さんという意志で歩み進んでいる。
 箒星・仄々(ケットシーのシンフォニア・f07689)の耳に届く、警戒なく一心不乱ともとれる足音は、荒魂赴くまま音のままに乱れていた。
「ランさん、よろしくお願いします」
 仄々がそう声を掛ける存在は、先程揺れる影から召喚したアーモンドアイの雌の目旗魚、ランさんだ。
 背鰭に猫の片手を添えたのを合図にランさんは高度をさらに上げ、足音が連なる方向へひとっとび。
 仄々の眼下には背高の木々と雲海が広がっていた。
(「あれは……叢雲鬼さんの……叢雲でしょうか」)
 一見雪景色のようだ。
 移動はランさんに任せ、仄々は空いた片手に持っていた譜へもう一度目を通した。
 そこに書かれているのは東国に伝わる民謡の数々。竹笛を主旋律にしたもので、琵琶の和音や単音でリズムをとる。
「きっとお祭りや酒宴で奏でられているのでしょうね」
 その様子を想像して仄々は微笑み――そしてきゅっと、ヒゲと共に表情を引き締めた。
「家族や仲間、無辜の方々――……皆さんを守ろうと、身を粉にして一生懸命頑張ってくださっている武者さん達が、その守るべき人々を殺めるなんて絶対にダメです」
 書きつけられた譜を折りたたんで懐に仕舞い、お止めしましょう、と仄々は呟いた。
 その決意はランさんにも伝わったのだろう。
 山中を行く坂東武者たちを見つけたランさんは、高度を落としながらその身を跳ねさせる。
「――はい、行ってきます……!」
 声を掛けて、ランさんの背中から跳躍する仄々。
 その挙動に跳ねた魔法剣からカッツェングロッケの掃鬼の誓いが凛と鳴る。それは始まりの合図。
 澄んだ鈴音から続くは澄んだ弦の音。
 |カッツェンリート《竪琴》の一音と同時にすたっと大地に降り立った仄々は、迫る坂東武者たちへと告げる。
「これ以上の進軍をゆるすことはできません」
 そうして爪弾くは、坂東武者たちの里に伝わる民謡曲。
 きっと宴の始まりに奏でられるのはリズム感の良い陽気な曲。
 その日に収穫された野菜や山菜、干し肉、干し魚。とっておきの地酒。
 彼らの――アヤカシエンパイアでの暮らしを思い描き、自身の魔力と共に仄々は奏でていく。
「う……」
「ぐっ」
 破魔や鼓舞の想いを込めた旋律が操られた坂東武者たちの動きを鈍らせる。
 その中で刀を握り、仄々に一歩、また一歩と近付いてくる武者がいた。
 演奏しながら目を合わせれば彼の瞳は虚ろなもので、仄々の指運はいっそう想いこめるものへ変化する。
(「武者さん達の心に響かせましょう――支配されていても、なお、お心は残っているはずですから」)
 放つ音色と、仄々が心に織り上げていく魔力の譜面。表現するは|ピエトーゾ《情をこめてやさしく》。
「あぁ……っ」
 刹那、坂東武者の動きが鈍った隙を逃さず、仄々は竪琴の弦を弾いた。音が跳ねるように。
 次の瞬間には光の五線譜が仄々を中心に放たれて、坂東武者を吹き飛ばす喝采のファンファーレ。
 ざんっ! だんっ! と藪や山腹に叩きつけられる鈍い打音が、次々に叢雲の海の中で起こった。
 憑依主が受けた衝撃に、妖の憑依状態が解除され、叢雲鬼はさらにその身を白きものへと解いた。
 氷粒でもある叢雲が仄々や周囲を徐々に凍らせていく――妖の気配は最初の場所から動かない。
 仄々の黒い毛がぱりぱりと凍っていく。
「嘗ての犠牲者さんが鬼に変じたのでしょうか……どうぞ骸の海に還り、静かにお休み下さい」
 転調ののちに奏でるは、揺蕩うような鎮魂の曲だった。光の五線譜宿る色はほのかに赤い揺らぎ。
 冷たく強張ってしまった怨念の数々をあたためて溶かすように、白き叢雲を祓っていく破魔の音色。

 徐々に厳かになっていく竪琴の音色は伸びのあるものに。
 やがて天上から降ってくるような曲調へ到達すれば音色は変化する。やわらかく、子守唄をうたうような穏やかなものへ。

 怖気立つような雲海は消え、残されるは倒れ気を失う坂東武者たち。
「次はリーダーの武者さんですね。探さなければ……ランさん」
 と、仄々が声掛ければ、再びランさんが影から出てきて虚空を泳ぎ始める。
 ランさんに騎乗した仄々は空を泳ぐように、坂東武者たちがやってきた方角へ向かうのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 ボス戦 『嵌合体凶禍蟲『三屍蠱』』

POW   :    蜈牙
【あらゆるものを切断する蜈蚣の牙】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD   :    蠆尾
【毒針】が命中した部位に【命と魂を枯らす毒】を流し込み、部位を爆破、もしくはレベル秒間操作する(抵抗は可能)。
WIZ   :    蜘糸
対象のどこかに【強靭な蜘蛛糸】を貼る。剥がされるまで、対象に【強力な伸縮性のある糸】の引き寄せと【神経毒と消化液注入】の威力2倍攻撃が使える。

イラスト:もりさわともひろ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は阿部・春親です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ――ケー……ーンン……ッ。

 鋭いキツネのような鳴き声が山中に響き渡ると同時、流星が一つ、天というには近い場所を飛んでいく。
 流星の到達地点は、ゆらりゆらりと歩いていた坂東武者のもと。
 流星の光は何かを告げるように煌めいたのちに消える。その光を受け一瞬輝いたのは、白銀の糸だ。それが坂東武者に絡んでいる――否、方々の木々に向けて繋がってもいる。
 突如、かくりとうなだれた武者がまるでからくり人形であるかのように空に浮き、木々の間を飛翔し始める。
 武者が憑依させていた嵌合体凶禍蟲『三屍蠱』が現れ、人の身を一瞬呑み込んだ。
 妖が身体を伸ばし蜈蚣の牙を剥く。
 蠆尾から毒針があちこちに放たれ――木々や野生動物に突き刺さった。
 ほぼ妖の腹の位置に置いた坂東武者は、強靭な蜘蛛糸で操られているようだ。

 嵌合体凶禍蟲『三屍蠱』。
 蠱毒で生き残った蟲を繋ぎ合わせた様な禍々しい姿を持つ妖。
 ムカデとクモとサソリの特徴を持ち、それらの器官を利用して攻撃してくる。
 今は、猟兵の存在を察知したのか、自身の巣――戦場造りに勤しんでいた。
 妖は、周囲のありとあらゆる生物をも利用する気のようだ。

 蟲毒となっていくかのような戦場に辿り着いた猟兵たちが、次々に足を踏み入れてゆく。
儀水・芽亜
これはまた、禍々しいものが出てきたものですね。どこぞの陰陽師が蠱毒の作成に失敗して、捨てたものでしょうか?
相手が蟲なら、私も虫で相対しましょう。

「全力魔法」「結界術」「マヒ攻撃」「受け流し」「霊的防護」で蝶霊跋扈。
結界を形作る一匹一匹を攻撃したところで、次の蝶が埋めるだけ。そう簡単に破ることは出来ませんよ。
そして鱗粉にはマヒの効果があります。動きが鈍ってきたところで、アリスランスで蜈蚣の頭に「貫通攻撃」を叩き込みましょう。見たところ、頭はひとつ。そこを潰せば。
さあ、大人しく私の蝶の餌食になってください。

取り込まれた武者の方を傷つけないよう、気をつけませんと。


※2倍になるのは、群れる蝶の体長と数



 冷たく、乾いた冬の空気にキシキシ、ギシギシと軋んだ音が鳴り響いている。
 シャアッという鋭い威嚇音は虚空に浮かぶ操られた坂東武者から、そして見えぬ蜘蛛の糸に辿って音が各方面に伝播していることに、鋭く繊細な聴覚を持つ儀水・芽亜は気付いた。
 ピンと張られた糸が細やかに揺れ動き、聞こえるはぞろりぞろりとした蜈蚣の這いずる音。
「これはまた、禍々しいものが出てきたものですね」
 坂東武者を覆うように顕現している妖の姿を見て、芽亜は呟く。
 焔色の腹――体節を持つ蜈蚣、蜘蛛の胴に蠆の尾。
「どこぞの陰陽師が蠱毒の作成に失敗して、捨てたものでしょうか? ……あるいは、この場が『器』の中という揶揄なのかもしれません」
 勝つのは妖か、それとも猟兵と、猟兵が呼びかける武者の意識か。
 周囲に渡る不気味な音を聞きながら、「まあ、そうですね」と芽亜は何てことないようにさらりとした声音で。
 思案する時間は一拍にも満たない。
 先行き見えない戦場の中、滑らかに戦法を選び取るその様子は戦い慣れた者の姿であった。
「相手が蟲なら、私も虫で相対しましょう」

 美しい鴇色の槍を手に、芽亜は謳う。
「漆黒の会堂に我は求めん」
 刹那に夜色を纏った芽亜の衣服が花開く様に広がった。それは黒揚羽の翅であり、芽亜の身体を包むのは黒いゴシック・アンド・ロリータの衣装。
 同時に、大人である彼女の表情はやや幼さを残すものへと変化した。
 アリスランス『ディヴァイン・ユニコーン』を振るえば、フリルがあしらわれた袖口が揺れて、まるで幻想的な手品のように黒揚羽がひらりひらりと舞い出てくる。
 袖口から。スカートの裾から。舞う芽亜の翅から。春告げ色の槍から。
 一匹、一匹が陣を構築していく。
「濁世に満つる、罪に染まりし汚れた生魄どもを喰らい尽くし、栄光なる清浄な世界へと導かんことを――」
 芽亜を源に舞い広がる黒揚羽の数はかたまれば彼女自身を覆い尽くすほど。
 揺れ動き優雅に迫る黒紗の如き蝶へ、三屍蠱の蜈蚣が牙を剥く。蜈蚣の胴をくねらせて下へ斜め上へと多節の動きを披露しては、伸び動く妖の頭部は黒揚羽を次々と捉え牙でかみ砕いた。
「一匹一匹を攻撃したところで、次の蝶が埋めるだけですよ」
 冬の冷たき空気を叩く芽亜の翅。
 繰り返される蝶霊跋蠱に黒揚羽の層は厚く厚く、結界を形作っていく。
 ぱさりと切なき冬を震わせる繊細な羽ばたきは幾つも重ねた麗しき紗の音色。
 まるで魔法陣を描く様に美しき飛翔を魅せる黒揚羽たち。
「そう簡単に破ることは出来ませんよ」
 芽亜を中心に放たれる蝶霊跋蠱は――蝶たちの鱗粉には麻痺の術式が含まれていた。
 戦場全体を渦巻く様に舞う黒揚羽の佳景は、麗しく穏やかな時の経過を思わせる――ひらりはらり。ゆるやかな、その翅の動きに比例してどんどんと鈍るは妖の動き。
 その時、覆う夜の帳の如き場がさあっと拓き放たれる鴇色の流星――否、ディヴァイン・ユニコーンの軌道。
(「見たところ、頭はひとつ。そこを潰せば」)
 螺旋を描いた鴇の流星は妖よりも上空から落ちてくる。蝶たちの優しい感触を纏った芽亜だ。ゴスロリのスカートが蝶たちの働きによって優美に揺蕩う。
 芽亜は一度羽ばたかせた黒揚羽の翅へ冬の空気を含ませる様に。
「さあ、大人しく私の蝶の餌食になってください」
 狙うは坂東武者から離れた蜈蚣の頭部。
 翅が染める夜天のなか、春を思わせる色が蜈蚣の頭へと到達した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

仇死原・アンナ
アドリブ歓迎

…敵!蟲が如き…妖!
あの巨大な蟲を討ち倒し彼の坂東武者を救わねばならぬ…!
さぁ行くぞ…私はその為に来た…私は…処刑人だッ!

餓血刀を抜き振るい敵と相手しよう

餓血刀で妖を斬り付け…糸か!?糸が絡まる…動けん!我が力でも引きちぎる事は出来ぬ…
だが…破る方法はまだある!
懐から拷問具を出し己の身に突き刺し流血
血液から地獄の炎を発火させ範囲攻撃で炎を広めて糸と敵だけを炎で包み焼き尽そう

蟲に耳があるのか分からんが…言った筈だぞ…私は…処刑人だッ!!!

地獄の炎纏う餓血刀を構え【処刑人の一撃】を発動
魔喰と破邪の力で妖のみを斬り付けて装甲破壊と鎧砕きで妖の身を切り捨ててやろう…!

我が血を味わえ…!


鐘射寺・大殺
ぬう、武者が傀儡のように操られておるのか?
あの毒虫が武者の制御を振りほどいて暴れておるようだのう。
ではゆくぞ。兵共は下がっておれ、ここからは我輩一人がやる!
【魔王の鎧装】を発動、身体サイズおよび戦闘力3倍化の
甲冑形態に変化するぞ。フハハハ!毒針も牙も届くまい!
《武器に魔法を纏う》強化を施し、
魔剣オメガと名刀神竜を構え、二刀流を駆使して
毒虫と真っ向からぶつかり合う!膂力で力負けせぬよう、
こちらも手足の数を増やして、甲虫のような姿になるかのう。
ムカデの食らいつきは《ジャストガード》《なぎ払い》で防御。
反撃に《アクセルコンボ》を繰り出し、二刀を《ぶん回し》て
《一刀両断》に叩き斬ってくれるわ!



「……敵! 蟲が如き……妖!」
 嵌合体凶禍蟲『三屍蠱』が造る戦場へと踏み込んだ仇死原・アンナは、木々を足場にぞろりぞろりと動く蟲のような妖の姿を視認する。
 ぶらり揺れるのは坂東武者の姿――それはまるで人質であるかのようにも見えた。
 だが操られている武者自身もまた動く――よく目を凝らせば張られた糸を足場に、次の木々へと跳躍し、妖の蠆尾が不気味な軌道を描く。
 遥か頭上を見上げる猟兵の姿はアンナだけではない。
 ぬう、と隣で声を零したのは鐘射寺・大殺であった。移動する武者と妖の影を注視している。
「武者が傀儡のように操られておるのか? ……あの毒虫が武者の制御を振りほどいて暴れておるようだのう。この世界のサムライとして戦う者とはいえ、あれでは人の身は保たぬのではないか?」
 たかが一つ。されど一人の命。捨て置けるものではない。
 大殺の言葉にこくりと頷くアンナ。
「一刻も速く……あの巨大な蟲を討ち倒し、彼の坂東武者を救わねばならぬ……!」
 アンナはそのためにこの戦いへと赴いた。
 人里を襲撃しようとする妖大将――その手足にアヤカシエンパイアに住まう者を使おうなどと――、
「卑劣極まりない……! アヤカシエンパイアに……ひいては彼の武者に……疾く救済を齎す……! 私は……処刑人だッ!」
 餓血刀を抜刀し、三屍蠱へと向かっていくアンナ。
「うむ、ではゆくぞ。兵共は下がっておれ、ここからは我輩たち猟兵がやる!」
 大殺の命令に炎の魔王軍たちが、蜘蛛糸が張り巡らされている蠱毒の如き戦場の外まで退く。
 その時、大殺の纏うマントがこしょこしょと何かを告げる。
「――ああ、そうであったな。周囲の警戒と時折飛んでいる流星の観測を頼む」
「「はっ」」

 木の幹を利用しての跳躍。
 ピンと張った蜘蛛糸を足掛けにしてアンナは飛ぶように虚空を移動していく。
 鋭い呼気とともに餓血刀の斬撃を放てば、刃は一本二本と目前の糸を裂いて蜈蚣の節へと斬り込まれた。
「……!」
 たかが蜘蛛糸一本、二本。されどそれは妖が排出した妖気含む糸だ。僅かな抵抗を感じ、斬線のズレをアンナは察知する。
 次の瞬間刃に貼り付いた蜘糸が意志を持ったように、くっと餓血刀とアンナの腕を引っ張った。
 攻撃のための滞空の最中、一瞬だけの制御不能。そこへ妖の蜘蛛部からさらなる蜘糸が吐き出され、餓血刀の刀身をぐるぐると巻いてしまう。
 刀から腕。続き、アンナの胴めがけて吐き出される三屍蠱の糸束。
「くっ……!」
 もがくアンナの姿は絡めとられる蝶の如く。粘着性ある蜘糸はアンナの力でも引きちぎることは困難そうだ。
「だが……破る方法はまだある!」
 伸縮性ある糸束を相手に身体を捻ろうとした時、伸ばされた蜘糸が強く下方へと引かれた。
「フハハハ! ありがたく使わせて貰うぞ! 我が常勝不敗の礎となるがよい!」
 くろがね色の甲冑――魔王の鎧装を纏った大殺が鋭い跳躍の足場として糸束を利用する。
 反動での上昇、自由落下という滞空を得たアンナが出来た糸の隙間から懐に指先を差し込み、拷問器具を取り出した。間髪入れずに自身へと突き刺せば、流れる血は瞬時に猛る地獄の炎へと変化する。
 アンナの動きを阻害する蜘糸を掴み、延焼を広げていく。
 再び露わになった餓血刀の刀身は血の如く紅く、阿婆羅血剣の名に相応しい色に染め上げられていた。

「フハハハ! これならば毒針も牙も届くまい!」
 くろがねの魔王の鎧で身体のサイズ、攻撃や防御の力を三倍にした大殺が魔剣・オメガと名刀・神竜による二刀流で三屍蠱へと斬撃を放つ。
 蜈蚣の体節を狙い、由緒ある二刀を振るう。
 途中、アンナの動きを阻害する蜘糸の邪魔するように足場として利用し、蜈蚣の体躯から蠆尾へと鋭角な跳躍。
 蠆の硬い外殻の振り払いに魔剣で応じ、その一撃を起点に空中で方向転換。
「――ちと、足りぬな! こちらも手足を増やして、甲虫のような姿にするかのう!」
 漆黒の鎧が一部割れる。肩部、腰部から甲虫のような腕脚を新たに生やし、背からは真紅の透けた翅。
 自分の体重の100倍の力でものを引っ張る力や、妖の多節の身体に対抗できる膂力を得る大殺。
 その時、滝のような勢いで降下してきた蜈蚣の頭部が大殺に迫る。
 二刀を交差し刹那の盾を作り防御する。アンナの炎で熱され始めた妖の一撃は、防いだ刀剣に火花を散らした。
 圧し出した魔剣で蜈蚣の牙を弾き、神竜を薙ぐ大殺。
 かみ砕かれも叩き落とされもしなかったが、地上は直ぐだ。翅で虚空を叩き体勢を立て直すと、今度は鎧足が大地を抉る。得た遠心と反動は一挙手一投足の勢いへ変換され、大殺の二刀流は勢いを増した。
 彼の回転斬りに仰け反った三屍蠱が天を仰ぐ。そこには――炎纏う阿婆羅血剣を構えたアンナの姿。
「蟲に耳があるのか分からんが……言った筈だぞ……私は……処刑人だッ!!!」
 鋭く重い処刑人の一撃が振り下ろされた。魔喰と破邪の力で妖のみへと放たれる斬撃。
「我が血を味わえ……!」
 阿婆羅血剣が蜈蚣の装甲を砕き、そして妖と繋がる蜘糸は焔を走らせてゆく。
 紅蓮に染まる戦場が視認できる。
 三屍蠱が造った巣に走る炎は螺旋を描いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

木元・祭莉
ボス発見だよ、アンちゃん(f16565)!
虫といえば、焼肉!
え、違う? 毒がヤバイ?
じゃあ毒抜きしてから、炭火焼きかな!

あ、コイツ。
周囲の生き物をうさみん☆みたいに糸で動かす気だ。
じゃあ、糸と周囲をなんとかしよう。

アンちゃん、本体側お願い!
おいらは飛び交う糸を切っていく!
如意みたいな棒を、カチン。
ダッシュで虫の周囲を駆け、演武のように上下前後左右を斬りまくり、毒針を迎撃。
ついでに空中にもお邪魔して包囲網形成。
包囲中心部から移動させず、毒浴びないように、位置取り注意だね♪

ヨシ、全方位包囲おっけー。
鳥籠ならぬムシほーいほーい完成、アンちゃん行くよー!
たまこ、散歩でゴー!
糸も足も胴体も、切り刻め!


木元・杏
まつりん(祭莉・f16554)と

憑依された坂東武者さんはお腹の辺り
出来る限り無傷で救出したい
まつりん、むし、平気?
わたしは……へ、平気
揚げたら多分美味しいと思えば、大丈夫
ん、行こう

うさみん☆、たまこに乗っかり指示を出し動いてこ
目標は武者の救出、狙うは縛る糸

わたしは身軽になった身できっと蟲達と見合い、幅広の大剣にした灯る陽光を構えて蟲本体へ
まつりんの動きと合わせて攪乱するよう地を蹴り動き、尾の毒の直撃を回避する
避けれない毒は耐性で耐えよう
…ん、調理前の毒抜きと思えば、平気

動きを止めずに死角に入り素早く懐刀を抜き【鎌鼬】
殻の合間を狙い投げつける

動きが鈍ったところに大剣でべしっと追い討ちしよう



 先の猟兵の放った炎が、戦場へ張り巡らされた糸を辿り駆けていく。
 冬の空気が刹那に暖まり、それが目印となったのか次にここへ駆けてきたのは木元・祭莉。
 あーっ! と声を上げた。
「ボス発見だよ、アンちゃん! もう焼肉になっちゃってるカモ!?」
「ま、まつりん、まつりん。あの虫は毒がある。きっと。ぜったい」
 食べごろ逃しちゃうかも!? という豪胆な祭莉の様子に、ふるふる、ふるふるふると首を振ったのは木元・杏だ。
「え~、毒ありそ? 毒はヤバイかな? ワンチャン、ぴりぴりスパイスに…………」
 ふるふると最早全身震動並みの拒否を示す杏。だが、これだけは聞かねば。双子といえども許容範囲の違いはある。
「まつりん、もしかして、むし、平気?」
「うん、へーきへーき。あの虫、毒抜きしてから、炭火焼きがいっかな?? ムカデの部位とかさー」
 はわわ、とした表情で杏は兄を見た。
「牛肉の、カルビの一部分はムカデと呼ばれる。希少部位…………」
 お肉好きな杏は焼肉のガチな知識を披露して拒否感を紛らわせた。『ムカデは牛一頭から1キロほどしか取れません』――いつぞやに読んだ焼肉の本の文章を脳内で読み上げる。
 何だか励まされて、ごくりと杏の喉が鳴った。
「わたしは……わたしも……へ、平気。あれも揚げたら多分美味しいと思えば、大丈夫」
 ガチな蜈蚣を見上げて、そして蜈蚣と蜘蛛の部位に在る坂東武者の姿を見て、こくり。
「ムカデは、ニガウマらしいね! じゃ~行こっか」
「ん、行こう」
 ムカデはムカデでもムカデ違いなものが二人の間で色々と錯綜するなか、木元家の双子は妖・三屍蠱に向かって駆けだした。

 燃え落ちる蜘糸を視認し、それを避けるようにうさみみ付メイドさん人形『うさみん☆』を跳躍させる杏。人形遣いである彼女は直ぐに自身とうさみん☆を繋ぐものに引っ掛かりを覚えた。
「まつりん」
 ぴぃぃんっと張られた糸に阻害され、うさみん☆が体勢を一瞬崩す。杏の呼びかけに、そして弛んだジャンプとなってしまったうさみん☆を見た祭莉は「あ」と呟いた。三屍蠱を――その周囲を注視する。
「コイツ。周囲の生き物をうさみん☆みたいに糸で動かす気だ……」
 山には小動物たちが住んでいる。
 祭莉の言葉を証明するかの如く。放たれた毒針は山鼠を操り、祭莉たちを追い始めたかと思えば一匹、また一匹と爆発した。
 それを見て祭莉は嫌そうに顔を顰める。
 蜘蛛の末端から排出される蜘糸と蠆尾から放たれる毒針――刹那、毒針が小さな金属音を立てて弾かれた。祭莉だ。如意みたいな棒を捻るように振った彼は、伸びたそれをカチッ! と固定する。
「アンちゃん、本体側お願い! おいらは飛び交う糸を切っていく!」
 真っ直ぐに走っていた祭莉が僅かに方向転換。弧を描くように走っていく。
 棒の突きから先端をぐるりと回し糸を絡めとる祭莉。僅かに引いて、続き大振りの払い。剥がされる蜘蛛糸の手応えは確かに。
 下段へと向けた振りは大地を抉りつつも突如棒の先は跳ね上がった。キンッと弾かれた毒針が上空で散る。
 駆けながら披露される祭莉の棒術は演武のよう。
 逆手順手と棒を繰るなかで、彼の真意は未来に据えられている。
 猟兵を狙いうねる蜈蚣の頭部をジャンプ台にして、高く跳躍。
 ぽこんと蜈蚣の頭を叩いて、くるりと回転した祭莉は如意みたいな棒を振って空中で方向転換した。

 小さな金属音が断続的に聞こえ始めると同時に、阻害されていたうさみん☆が戦線に復帰し軽やかに虚空を駆けだした。自動化されたうさみん☆との繋がりを解き、人形の着地をたまこ任せる。
「よろしくね、たまこ。目標は武者の救出、狙うは縛る糸」
『コケッ!!』
 力強いたまことその背に騎乗したうさみん☆――ばさあっと羽撃ち、天をゆく。
 祭莉とは逆の方向へ、杏は曲線を描く駆けに。
 蠆尾も蜘蛛糸も蜈蚣の頭部も流動的だ。先に敵懐に入った祭莉へと蠆尾は向いている。
 小鼠は虚空をゆくうさみん☆たちを追うことを止め、蠆尾の毒針を弾く祭莉は追わずに杏の後を着いてくる。
 威嚇のためか後方で連続する爆発音。ヂチィッ! という鼠の悲鳴が杏の耳に届いた。
「……三屍蠱、操るのはやめて」
 駆けの速度をやや緩めての踏み込み。杏は幅広の大剣にした灯る陽光で蜘蛛足を叩き斬る。
 ずんっ、と三屍蠱の体勢が崩れて虚空に張った糸が幾つか解けた。
 蠆尾の先端が瞬時に杏の方を向き毒針を放つ。灯る陽光を盾のように使うか、薙ぎ払うか――。一拍もない判断ののち杏が取った手は後者だ。毒針を払いながら地を強く蹴り飛び退く。暖陽の彩が防御の膜を作り上げた。春を謳う、帯のように。
 複数の毒針は退け、けれども通過してきた毒針が杏に突き刺さる。
 流し込まれる毒は内部で爆破したのか、瞬時に杏の腕は赤く染まった。どくどくと血潮が灼けるように熱されている。それでも杏は足を――動きを止めない。
「……ん、調理前の毒抜きと思えば、平気」
 飛び退いた時の着地は新たな一歩の軸となり、三屍蠱を圧す。

「ヨシ、全方位包囲おっけー。鳥籠ならぬムシほーいほーい完成~! アンちゃーん、行くよー!!!」
 響いた祭莉の声に「ん!」と杏は強く、声を張った。
 合図の応えとともに顕現するは祭莉のユーベルコード『Tamako's Walk』。
「たまこ、散歩でゴー! 糸も足も胴体も、切り刻め!」
 出現するニワトリ型カマイタチにより今まで祭莉が刻んだ軌道があらわになる。
 翼を広げ滑空するニワトリ、跳躍するニワトリが三屍蠱を斬り刻んでいく。
 先程ぽこんと叩いた蜈蚣の頭にもニワトリ型カマイタチ――これは零距離で叩き割り落とす勢いのカマイタチとなり、四方八方、それ以上の多方面からの攻撃で三屍蠱の体勢が一気に崩れた。
 天を仰いだ蠆尾がしゅるりと力を失くし落下する一瞬。作られた無防備な隙を逃さず、死角から迫った杏はうさ印の護身刀を放った。
 投擲した素早く鋭い一撃が三屍蠱の体節の間に突き刺さる。其処は坂東武者の頭上部分。武者を覆う殻が砕ける。
 うさみん☆もまた周囲を斬り払い、たまこが弱体化した殻を突いた。
 さらには間断なく迫る杏が大剣で薙ぎ払えば、三屍蠱の巨大な体躯を揺るがす衝撃。暖陽の彩たる花弁が戦場に舞う。

 幾ばくも経たぬ刻のうちに祓われるであろう妖、未来への紡ぎを歩む生ある者。
 蠱毒たる戦場――まるでパンドラの箱の底のように、花弁は希望あるものに見えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鵯村・若葉
蠱毒の集積体のような妖
強力なそれを宿し戦えるほどの武者だからこそ
部隊長格なのでしょう
そんな人を人質扱いとは
……気に入らない

蜘蛛糸に引き寄せられるなら距離が詰めやすい
敢えて躱さず神経毒と消化液は『毒耐性』『激痛耐性』で耐え
坂東武者に向けUC

操られ、守るべき者を殺めるのはお嫌でしょう?
あなただけではなく、部下がそうなるのも
あなたは否定しなければ
誇りある坂東武者ならばどうか抗って

言葉を掛けたら蜘蛛糸は用済み
全ての『武器に呪詛を纏う』
『穢剣』で糸を断ち一撃入れ
『空中機動』で距離を取りつつ坂東武者に繋がる糸も切る

自由時間は終わりです
大人しく坂東武者の力に戻りなさい
盾を失った妖に『鳴月』で『呪殺弾』を放つ



 妖が張り巡らせていた蜘蛛糸を猟兵たちが切断していく。
 それによって操られる坂東武者の動きが制御され始め、武者の身体を覆うように顕現している嵌合体凶禍蟲『三屍蠱』は新たな蜘蛛糸を排出しだす。
 木々と妖の蜘蛛部分とを繋ぐ糸。放出の勢いにはらりと舞うは白銀の残滓。虚空に粘着性のある蜘蛛糸が振り子のような落ち方で降り始めた。
「まるで灰雪のようですね」
 状況が違えば、和やかな話題のきっかけともなるだろう所感を述べる鵯村・若葉であったが、端的なその声は、その視線は、三屍蠱と武者を捉えたままだ。
(「蠱毒の集積体のような妖だ――」)
 上体部は体節が多く機動力のある蜈蚣、腹に重く糸が詰まっているような蜘蛛、多方面へと毒針を放つ蠆。到着時、同じ戦場に在る猟兵との戦いが目に入ったが、三屍蠱はそれぞれの種に応じた挙動を見せている。
「三個体分……なんと難儀な。ですが、強力なそれを宿し戦えるほどの武者だからこそ、彼は部隊長格なのでしょう」
 調伏するには相応の能力が必要そうだ。今まで三屍蠱を憑依させ戦ってきたこの坂東武者へ、若葉は敬意を抱く。
「そんな人を人質扱いとは」
 ……気に入らない。
 言葉を呟き零しながら一度拳を作れば、覆夜がぎゅと締まった。

 灰雪のように落ちてくる敵の蜘蛛糸を若葉は避けない。
 新たに三屍蠱から放たれた『蜘糸』は、まるで対の存在を捉えたように真っ直ぐに若葉に貼り付いた糸へと向かってきた。
 自身を庇うような挙動で片腕を絡めとらせる。
(「蜘蛛糸に引き寄せられるなら距離が詰めやすくなる――」)
 利用するまでだ。
 強力な伸縮性のある糸に引っ張られるのを感知すると同時に、隠影の魔術を起動し若葉は跳躍した。虚空で糸が弛むその一瞬で体勢を整える。
 シャアッと鋭く高い三屍蠱の声と大きな蜘蛛の口器が迫る――若葉は穢剣を抜いた。眼前には操られた坂東武者の姿。彼は抜き身の刀を持っていた。
 自由が利かない片腕はそのままに。坂東武者の刀を穢剣で受ける。
 常ならば弾けるだろう防御の振りだが、妖の力が乗った武者の斬撃を捌くことは難しい。
 振り切られた武者の刀は若葉の身を傷つける。武者の刀が、そして傷口にすかさず張られた蜘蛛糸が若葉の身体に神経毒を注入した。
 だが彼はそれを振り払わない。
 寧ろ捕縛する糸を引っ張り、妖の身体を足場にして自身を敵の身の上で固定した。
 こちらとは目を合わせない、虚ろな目の坂東武者へぐっと身を寄せる。
「操られ、守るべき者を殺めるのはお嫌でしょう?」
 蜘蛛糸を染めてゆく若葉の血。
 妖の気に満ちた場に、甘美にも感じる血の気配が入り混じる。それに乗じて呪言は放たれた。
「あなただけではなく、部下がそうなるのも――『あなたは否定しなければ』」
 若葉は武者に言の葉を落とす。
 この落葉が武者の土壌となることを願って。武者を取り巻くものへの一手となることを願って。
「誇りある坂東武者ならばどうか、抗って」
「……………」
 武者の呼気が僅かに変ずる。
 だがそれを見届ける時間もあまり残されてはいない。神経毒が入り、その毒に侵された部分にはもう消化液の注入も始まっていることだろう。
 耐性がなければ体内に巡るのは灼ける激痛だったろうことを察しつつ、若葉は穢剣を振るった。
 ぶつり、とした手応えを認めながら自身に絡まる蜘蛛糸を払って場から飛び退く。
 次いで武者の身から伸びる糸も断ち切れば、体勢を崩した坂東武者が地面へと落ちていった。妖もまた同じように自由落下の軌道。
 ……ギチギチギチッ!
 蜘蛛と蜈蚣の口器が耳を劈く軋み音をあげた。
 若葉はホルスターから黒色の拳銃を抜き、悔しげな妖に向ける。
 敵が着地した瞬間、若葉もまた降りる――そこには樹木を刹那の足場にする暗殺靴。
「自由時間は終わりです。大人しく坂東武者の力に戻りなさい」
 操る妖の力を削ぐべく放たれる呪殺弾。銃声は鳴る神月の如き響きとして戦場に渡り、三屍蠱の声をかき消すのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

八秦・頼典
●SPD

外法の果てに生まれし妖のようだが…ボクの見立てでは上尸・中尸・下尸の三尸が繋がりあったようにも思える風貌だ
遠くに聞こえしは恐らく…此度の元凶となった妖大将か
まるでボク達が哀れな姿となった板東武者の姿に驚く様を愉しんでいるようにも聞こえたが、妖の思い通りにならないと此処に証明致そう

まずは蠆尾の毒針だが、ボクの霊力を纏わせた檜扇をひらりと仰ぎ、如何なる物も【侵入阻止】する【結界術】を張り巡らそう
毒針が効かねば巨躯をもってして破壊に掛かろうが…そこがボクの狙いさ
オン、『倶利迦羅の黒龍!』

蠱毒厭魅を更に強めようとしたのだろうが、そうなれば不浄さも強まる
浄炎にて鋼の如き蜘蛛の糸をも燃やし尽くすよ



 ズン、と地上に落とされた嵌合体凶禍蟲『三屍蠱』の震動が戦場に重く響く。
 千切れた複数の糸と蠆尾が虚空に踊る――自由に動き回る蠆尾と蜈蚣を支えるのは、でっぷりとした腹を持つ蜘蛛の脚だ。
「――外法の果てに生まれし妖のようだが……ボクの見立てでは、上尸・中尸・下尸の三尸が繋がりあったようにも思える風貌だ」
 平安貴族であり迦波羅の陰陽師でもある八秦・頼典は目を細め、三屍蠱を見遣る。
 ここに来るまでに聞こえた獣の声は恐らくは妖大将。三屍蠱が里に向かって動かぬあたり、此処で猟兵を迎え撃つ命でも受けたのだろう。
 頼典が観察していると、再び狐のような声が天を翔けていく。
 パチン。と霊力を通した檜扇を鳴らして、少々走った妖の気配を祓う頼典。
「幸い、ここには力ある猟兵たちが在る。顕現した|三尸《あやかし》を消遣するのも困難ではない。獣の声を肴に庚申待と征こうではないか」
 ねえ? と陰陽師の呼気が三屍蠱を誘う。『宴の場』は妖に操られた坂東武者が調えている。
 庚申待は皆で共に一夜を明かすものだ――己の裡から破ろうとしてくるモノに抗うために。
「まるでボク達が哀れな姿となった板東武者の姿に驚く様を愉しんでいるようにも聞こえたが、妖の思い通りにならないということを此処に証明致そう」

 頼典目掛けて、そして周囲の木々を抜けていくように蠆尾から放たれる毒針。
 霊力を纏わせた檜扇を開けば、彼の霊力が盾となり毒針を虚空に留めた。ひらり扇を舞いへと泳がせれば毒針が頼典の前から退けられた。
 そのまま桜花弁ひとひらが落ちていくように扇を舞わせれば、山の色がわずかに色味を増す――翡翠が宿る結界術が構築され、数拍遅れて爆発音が複数辺りに響き渡った。
 術を通し伝わってくる振動――山鼠や小鳥などの小動物が操られて特攻してきたのだ。命が無駄に失われ、頼典は僅かに眉を寄せた。
 手向けにでもなればと花鳥風月を愛でる句を呟く。彼の言霊と愛でる詠に女性はほろろと酔ってくれるものだが、それ紡げるのはアヤカシエンパイアで四季を巡るありのままの自然があるからこそ。
 三屍蠱の蜈蚣がぐるりと動き、仲間の猟兵へ向かっていく――蠆尾は頼典一人に狙い定めたようだ。
 集中する数多の毒針が放たれて、応じるように頼典が前面の結界を強化する。
 防衛一方の姿勢を見せる陰陽師にしびれを切らしたのか蜘蛛の脚が頼典に向かって這いだした。
 三体分。ぐらりと意思を違う蜈蚣の首が揺れて、そこから動くなとでも言っているかのように間断なく放たれる蠆の毒針。
「ノウマク・サンマンダバザラダン――」
 ようやく同胎の意を汲んだのだろう。頼典に向かって蜈蚣の頭が地上を流れていくように鋭く動き、口器が開かれた。
 『意』は既に此処に在り、『口』は真言を唱えながら、頼典の『身』は不動明王が描かれた剣型の形代と縁結ぶ。
「オン、倶利迦羅の黒龍!」
 瞬間、構えた剣型の形代から放たれるは智剣の化身たる黒龍『倶利伽羅龍王』。
 迫る蜈蚣と頭突きあい、戦場を揺るがす凄まじい衝撃音が起こる。
 返す刀の如く黒龍は蜈蚣の胴を天に向かって叩き上げ、次の瞬間、蜈蚣を芯に火柱が立った。
 妖を焼き尽くさんと蜘蛛、そして蠆尾へと延焼していく炎はあらゆる不浄を焼き清める迦楼羅炎。
 ギャギャ、ギャッ……!
 ギイイィィー……!
 これはたまらぬとばかりに三屍蠱がのたうち回る。
「蠱毒厭魅を更に強めようとしたのだろうが、そうなれば不浄さも強まる」
 浄化の炎は延々と続くかのよう。
(「浄炎にて鋼の如き蜘蛛の糸をも燃やし尽くせば――」)
 未来を見通すように、頼典が思考したその時。
 操る妖の憑依が外れて即座に結界術と黒龍の炎に守られた坂東武者が、はっと一瞬我に返った挙動を行った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

箒星・仄々
流星も気になりますけれど
今は武者さんをお助けすることに専念です

竪琴で再び
武者さん達の里に伝わる曲を奏でて
魔力を練り上げていきます

蜘蛛の糸は視認しづらいですけれども
風の魔力を操作して
広がるメロディをエコーのようにすれば
蜘蛛糸の位置も動きも丸わかりですよ♪

ささっと避けたり
水の魔力を一点集中させた激流の盾で受けたり
風の魔力を激風として吹き飛ばしたりします

蜘蛛糸を回避しざま
魔力の矢で上半身を集中的に攻撃です

そう、これは牽制です
火の粉や水飛沫、様々な音が
三屍蠱さんの感覚を奪っているその機に
腹部へと放たれた風の矢が
蜘蛛糸をカマイタチで切断し武者さんを解放します

もし完全な解放が無理でも
少しでも三屍蠱さんのお腹から離れて下されば
御の字です
これで巻き添えにしなくて済みます

今度こそ全身を包囲攻撃して倒します

由縁は判りませんが
元々蠱毒や呪術によって生まれた存在なのだとしたら
憐れに思います
海でお休み下さい

戦闘後
武者さんのご無事を確認しましたら
鎮魂曲を奏でて静かな眠りを願います


アミリア・ウィスタリア
巣作りをして自らに有利な戦場を作るとは……
見た目で敵を判断してはいけませんが
蟲とは思えない思考ですね
流石妖……というべきでしょうか

毒針を打たれているというのなら
野生動物なども操られているのかもしれませんね
『le ciel』を開き針を防ぎつつ
野生動物などは空色の蝙蝠たちに鎮静化して貰いましょう
命と魂を枯らす毒を打たれているとはいえ
できるだけとどめは刺さないであげて?

あなたが毒を使うのならば
ミラもある種の毒を使いましょうか――
薬は使い方によっては毒になりますもの
あなたが思考する妖ならその思考を崩してしまいましょうね
『翼の呪剣』に『おまじない』を纏わせ
妖の身に突き刺しましょう
少しでも傷が付いたのなら追い打ちをかけるようにUC

他を盾にし生き延びるつもりですか?
そんな必要はないでしょう?
あなたは坂東武者の方の力の源
その役目を果たせないのなら討たれるべき妖なんですから!

『精神汚染』し相手の動きが鈍ったところに
空色の蝙蝠達と『護衛蝙蝠』を放ち『生命力吸収』
蠱毒の生命力……たくさん奪えそうですね?



 ぶつり、ぶつりと戦場に張り巡らされた蜘蛛糸が切断され、さらには焔を伴い渦を巻く。
 蜘蛛の前肢が坂東武者を守るように一歩、また一歩を進み始めた。砕かれた体節から体液を流しながら蜈蚣の頭が左右に振られた。
 ギ、ギ、ギ……!
 蟲の口器が軋みの音を上げて、猟兵たちが放つ音の波を相殺していく。
「巣作りをして自らに有利な戦場を作るとは――……見た目で敵を判断してはいけませんが蟲とは思えない思考ですね」
 アミリア・ウィスタリアが見る戦場――倒れそうで倒れぬ胆力がそこには在った。
「流石は妖……というべきでしょうか。もしかしたら武者の方の粘り強さが活かされているのかもしれませんね」
 どう思いますか? とアミリアが問うた先には箒星・仄々の姿。
「サムライである彼らはお強い方々ですので、アミリアさんの見立てで間違いないかと。妖の体力、そして武者さんの胆力、どちらも作用してそうです。――引き剝がさねばいけませんね」
 仄々の言葉に「そうですね」とアミリアは頷く。
「流星も気になりますけれど、今は武者さんをお助けすることに専念しましょう」
「はいっ」
 キリリと竪琴を構え告げた仄々と、気合の入った返事で応じたアミリアがle cielを手にする。
 一見は、小さき者と儚き者――だが宿す気概は勇ましく。そんな猟兵二人が嵌合体凶禍蟲『三屍蠱』と対峙する。

 どこか懐かしさを覚える民謡曲が仄々の竪琴で奏でられる。
 聴いたことのないメロディだったが、流麗な竪琴の音色は此処が戦場だというのに聴く者を揺さぶり癒す力があるようにアミリアには思えた。魔力が宿っているのだろう。
(「武者の方々はこの曲を知っているのでしょうね」)
 ~♪♪ ~♪
 民が好み奏でる曲は単調らしく、アミリアもすぐに音色を捉えることができた。少しばかり口遊み、彼我の距離をリズムではかる。蟲の蠆尾が動いた。
 蠆尾から毒針が連続的に放たれ、地面、そして自身へと向かってきた毒針を防ぐべくle cielを開けば目前に広がる青の空。
 魔力を籠めれば逢魔が刻の色となった傘が、色が宿す逸話のように妖の毒針を吸い込んだ――否、毒針を掴み出てくる複数の空色の蝙蝠たち。
「お願いね」
 頼りにしているわ。と少し甘やかなアミリアの声に従い、魔法の蝙蝠たちが方々へと飛んでいく。草叢で妖に操られた山鼠を見つければその身を掴んで戦場を離れるように飛んでいき、小鳥の特攻には三体の蝙蝠が翼を広げて邪魔をする。
 それでも虚空で二つ、三つと爆破音が続く――小さい命が失われた瞬間。
「命と魂を枯らす毒を打たれているとはいえ、できるだけとどめは刺さないであげて?」
 蝙蝠たちにそう命じ、自身は毒針を介して放たれる妖の力を阻害すべく動く。アミリアは翼の呪剣に祈りを籠め、放った。
 翼の呪剣は裁く光条のように鋭く真っ直ぐ飛び、蜈蚣と蜘蛛の間に突き刺さる。
「あなたが毒を使うのならば、ミラもある種の毒を使いましょうか――」
 祈りから生じた光がしっとりとした空気を呼び込み、戦場には花の香りがするソーダ水の雨が降り始めた。
「薬は使い方によっては毒になりますもの……あなたが思考する妖なら、その思考を崩してしまいましょうね」
 ソーダ水の雨が草や木々の葉に当たってぱらぱら、ぱたぱたと音を紡いだ。セイレーンの祈りの音色が自然界へと浸透していく。

 延焼に燃え尽きていく蜘蛛の糸――その向こうに糸の反射――新しい蜘蛛糸が張られているのに気付き、仄々の目はくりくりとしたものに。
 猫の目では捉えきれない無数の細い糸。
 その時、仄々に向かって三屍蠱の蜘蛛腹が動いた。
 仄々は演奏と共に練り上げていた水の魔力を瞬時に前面に展開させ、敵の一撃を激流の盾で押し流す。
 ざあっ! と山中に出現する水流。清らかな魔力の流れは新たな魔力の流れを生み出す――そう、風だ。
 ポロロン♪ と竪琴を爪弾いて次の曲へと切り替えた仄々は、たっぷりと音の魔力を含ませて風を周囲へと広げていく。翠色の魔力が蜘蛛糸に触れれば、その位置を仄々は捉えることができた。
 かすかに感じる空気の変化などもキャッチできるほど繊細な猫のひげが、ぴくんと揺れ動く。
 仄々目掛けて放たれた蜘糸の束も、手にとるように分かった。
 アミリアに放たれた毒針のように間断なくやってくる蜘糸をひらりひらりと避けて。
「にゃんぱらりっ!」
 くるんと虚空で一回転した仄々がトリニティ・ブラストを発動する。
 竪琴の音色と共に飛翔する炎と水の魔力の矢。
 ぼろぼろな体節となった蜈蚣をまぶすように向けるは火の粉たっぷりの炎の矢。蜘蛛へは蜘蛛が溺れるくらいに束にした水の矢を。
 水矢に圧された翼の呪剣が三屍蠱を貫いた。
 バチバチッ、バシャン! 三屍蠱に当たって砕け散る矢は、それぞれの属性の音を放つ。
「これは――牽制です」
 仄々がそう告げるや否や彼の指は弦の上を滑り、より高く、響き渡る音が放たれた。
 それは風の魔力を方々に集束させる琴の音。
 素早く地を這い斬り上げた一刀は風のカマイタチ。丁寧に魔力を練り狙い定めたそれは坂東武者を操る蜘蛛糸を切断した。
(「少しでも三屍蠱さんのお腹から離れて下されば御の字です!」)
「これで巻き添えにしなくて済みます!」
『ギギッ……!』
 仄々の畳みかける攻撃に苦しみ、最後の手段とばかりに蠆尾から毒針が一本、坂東武者に向かって射出される。
 しかし、妖の思惑を阻害し弾くのはアミリアの翼の呪剣。
 あらあら、とアミリアは呟いた。
「その方も盾にし生き延びるつもりですか? そんな必要はないでしょう? あなたは坂東武者の方の力の源」
『グ……ギィ……』
 ソーダ水の雨から香り揺蕩うようにも聞こえてくるアミリアの声。魂人となる前の……生前の種・セイレーンの力はソーダ水と共に。
 仄々の展開する風の魔力がその声色を増幅させてゆく。
「その役目を果たせないのなら討たれるべき妖なんですから!」
 アミリアの声を受けて飛翔し攻めるは、夜空色となった蝙蝠と護衛蝙蝠。
 キィキィ、ギィギィ! と鳴いて三屍蠱を襲撃する。喰らわれゆくのは妖の力と生命力だ。
「蠱毒の生命力……たくさん奪えそうですね?」
 戻ってきた翼の呪剣をぱしりと掴み、凛と立つアミリアはにこりと笑んだ。


 仲間の猟兵から渡された毛布で坂東武者の身体を包みながら、仄々は呟く。
「由縁は判りませんが、元々蠱毒や呪術によって生まれた存在なのだとしたら憐れに思いますね……」
 蝙蝠たちに力喰われる妖の力がどんどんと小さくなっていく――きっとこのまま骸の海へと還っていくのだろう。
「海でお休みください」
 妖へ、そして無力化され気を失った坂東武者が少しでも癒されるようにと鎮魂曲を奏でる仄々。
 今日、毒針で命失われた小さき動物たち。
 疲弊し、起きれば焦燥に駆られるだろう武者たち。
 操られた妖たち。
 彼らに、静かな曲を送る――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『天狗』

POW   :    箒星
【流星の如く輝く霊力】によりレベル×100km/hで飛翔し、【スピード】×【加速時間】に比例した激突ダメージを与える。
SPD   :    輝く星焔
高速で旋回する【星の如く輝く狐火】を召喚する。極めて強大な焼却攻撃だが、常に【天狗(アマツキツネ)が鳴き声】を捧げていないと制御不能に陥る。
WIZ   :    天狗流星
レベル秒間、毎秒1回づつ、着弾地点から半径1m以内の全てを消滅させる【狐尾型の星光】を放つ。発動後は中止不能。

イラスト:須田デジタル

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 憑依させた妖に操られていた坂東武者たちを無力化した猟兵たち。
 その時、彼らの頭上に暗雲がたちこめ、その雲から尾を引く流星が降り、虚空に星々が輝き始める。
 直後響き渡った獣の声――「狐みたいな鳴き声」だと、耳が敏い猟兵が告げる。
 暗雲から降る流星と共に蒼焔を伴う雲……否、蒼に染まる真白な九尾の尾がゆらり降りてきた。
『山ノ麓にも辿リ着かぬ、トハ、役立たずにも程ガある――』
 妖大将である|天狗《アマツキツネ》が一瞬遠くを見て、毛布に坂東武者がいる真下へと視線を向けた。
『『妖の裂け目』モ作れぬ、トハ、犠牲とナル血肉が、やはり、此処デハ足りぬ。ならば我ガ里ヘ行き、里ノ憑依者ニ捕らわれた妖ヲ調達せねば……』
 天を翔ける天狗は再び坂東武者と妖を調達し、高みの見物を決め込む心算なのだろう。
「その前ニ」
 と、天狗は地上にある猟兵たちを見遣った。
 ゆるりゆるりと天上の生き物であるかのように、降りてくる。

『邪魔者デしかない、オ前たちヲ殺しテみようか。大きな妖の裂け目ガ、どれ程の穢れでできるのか……知りたい』

 降りてきた天狗がたんっと跳躍し、『シャアアァッ!!!』と威嚇の声を渡らせた。
 三屍蠱が支配していた戦場の妖気が、今度は天狗の妖霊力に塗り替えられていく。
『崇めよ崇メヨ崇めよ!! 我は流星の化身であり、凶兆を告げるもの!!!』
 災厄を振り撒くものなり!

 天狗の口上と殺気を受けながらも、猟兵たちは既に戦闘態勢へと入っていた。
 敵は空飛ぶ狐の妖。
 坂東武者の肉体に憑依した妖すらもその武威と妖力で支配下に置いてしまう強大な敵・妖大将を討滅せんと、猟兵たちが動き出した。
儀水・芽亜
見栄えこそ煌びやかですが、その心栄えは邪悪そのもの。この世界の妖は討滅する以外にありませんね。

飛び回る相手なら、弓矢で撃ち落とすまで。
『驟雨の弓』を引き、「全力魔法」「範囲攻撃」光の「属性攻撃」「破魔」「浄化」「対空攻撃」「矢弾の雨」で光輝の雨。
天高く放った矢が高空で分裂し、光の雨となって一帯に降り注ぎます。この攻撃の密度をすり抜けるのは難儀ですからね。

突撃してきたら「対空防御」で動きを読んで「見切り」、身をかわしましょう。
ただ突っ込んでくるだけなら猪も同然と挑発して、「逃亡阻止」します。気位が高そうな分、効果が見込めそうです。
また突っ込んできますか? 今度は「カウンター」で弓を射込みますよ。


仇死原・アンナ
アドリブ歓迎

…星…否、妖!
あの忌まわしい輝きが妖大将…討ち倒すべき敵!
武者達を救い貴様を倒す為に私はここに来たのだ!
さぁ行くぞ!我が名はアンナ!処刑人が娘也!

餓血刀を抜き振るい敵と相手しよう
敵が召喚する星焔を餓血刀で斬り払いながら接近しよう

狐火による焼却は己の肉体を地獄の炎で纏わせ
オーラ防御と火炎耐性の加護を得て火を吹き飛ばし回復力で傷を再生しよう

喧しいぞ狗め…その口を閉じてやる…!
鎖の鞭振るいロープワークで片足を絡めとり【咎力封じ】を発動
懐から拷問具を投げつけ敵を拘束し攻撃と行動を妨害

動けぬ敵を素早く餓血刀で突き刺し
魔喰の力と地獄の炎纏う血液攻撃で焼却しよう

星の様に煌々と輝き燃え尽きろッ…!



 星のきらめきを宿す真白な狐尾を振り回し、天狗が跳躍する。虚空も地であるかのような連続した跳躍。
 空を駆ける天狗は直ぐに流星の如きスピードへと加速し、猟兵の周囲に光が翔けだした。
 甲高い狐の鳴き声や、空を灼く星の轟音が幾拍か遅れて飛び交い、猟兵たちを囲っていく。
 止まぬ鳴き声に生じるは輝く狐火だ。元より制御は考えられていないのだろう。放たれた狐火はそのまま間断なき攻撃として振り撒かれ、放っておけば戦場は炎に包まれてしまうだろう。
「……星……否、妖! ――あの忌まわしい輝きが妖大将……討ち倒すべき敵!」
 仇死原・アンナが阿婆羅血剣を抜き振るい、迫る星焔を斬り払った。
 美しき斬線を描いた餓血刀の威力は周囲に斬撃波を齎し、残滓となった狐火を完全にかき消す。
「見栄えこそ煌びやかですが、その心栄えは邪悪そのもの。この世界の妖は討滅する以外にありませんね」
 軌跡を描く流星の光すらをも祓うアンナの一刀を見ながら儀水・芽亜は言う。その手には神器『驟雨の弓』。
 芽亜の言葉にアンナは頷いた。戦場を広く見る――。
「武者達を救い貴様を倒す為に私は――私たちはここに来たのだ! さぁ行くぞ! 我が名はアンナ!」
 死の舞踏会場へと赴くように、アンナの踏み込みは重々しくされど次足は飛び立つ鳥の如く軽やかに。
「処刑人が娘也!」
 処刑人の仮面を被り、天翔ける天狗に接近すべく駆け出した。

 アンナの餓血刀から生じる斬撃波は熱を持ち、残滓の光満ちる空に軌道を残す。
 四方八方へと放たれるそれを時折避けるように天狗は飛翔していた。
「アンナさんのおかげで目で妖を追うことも可能ですね。飛び回る相手なら、弓矢で撃ち落とすまで」
 驟雨の弓を引く芽亜――だが彼女の瞳が捉えているのは妖単体のみではなく、広範囲。空そのものだ。
 響き渡る狐の声があちらこちらへと反響する。
 広い視野をもって芽亜は音を拾う、斬撃波の跡を拾う、刹那刹那に僅かに方向転換していく敵の軌道を拾う。
(「ここ、ですね」)
 脳内で俯瞰的に描きあげたのは戦場の図面。
 狙った空の一点目掛けて、驟雨の弓から矢を放った。天上に昇る一筋は天狗が描く流星とは違い、強き一本の金の彩り。
 天高く放った芽亜の矢は高空で分裂し、瞬間的に大きな光条となったそれはさらに分裂していく。
 芽亜の存分に籠めた魔力、破魔と浄化の祈りが籠められた一矢から広がった光はまるで魔法陣のように天を覆っている。
 そこへ一気に降り注ぎ始めたのは光の雨だ。
 密度の高い光の雨は遠方から見れば光の渦、否、光の瀑布の如き光景となっているだろう。
 避ける場所を失った天狗に見事複数の光の矢が着弾し、『ギャッ!』という獣の悲鳴。
「光の雨よ。天上より降り注ぎ、彼の者を地を這う者へ。不浄の一切を討ち滅ぼさん」
 流星が堕ちる。
 再び驟雨の弓を引き、芽亜が一射。
『忌々シキ! 喰らいて血花を咲かせてやろうぞ』
 堕ちた流星がするりと弧を描いて低空飛行へと移る。天狗が迫りゆくは打撃を与えた芽亜だ。
「――」
 妖に見せつけるように。一瞬、強張るように動きを止めてみせた芽亜は、一歩二歩と後退――存分に引きつけて身をかわす。
「ただただ、突っ込んでくるだけなら猪も同然ですよ」
 大きく横跳びした芽亜が過ぎゆく妖に向けてそう挑発すれば、ぎろりと天狗の目が彼女へと向けられた。
『猪に非ず。我は――……!?』
「喧しいぞ狗め……その口を閉じてやる……!」
 天狗を追いながら瞬時に芽亜の背後へ回ったアンナが鎖の鞭を振るう。
 視線を芽亜に向ける天狗からしてみれば死角を突かれた。
『グッ……!』
 迫る鉄球を咄嗟に避けた天狗が体勢を崩し、半ば放られるように虚空に上がった脚を捉えるは鎖の鞭だ。
 順手逆手と鎖の鞭を巧みに操ったアンナが妖の片脚を絡めとり、アンナはその懐から赤錆びた拷問具たちを放つ。
 自身の手に覆う、鎖の鞭柄となる部分を返せば妖の巨体が一瞬浮上する。
 更なる拘束具が天狗に巻きつき、手枷、狗轡が自在ともいえる軌道で飛び妖を捕らえた。
 無様で無防備な姿を見せた天狗へ突き刺さるは芽亜の矢。
 破魔と浄化の力がじわりと毒のように天狗を灼き始めんとする――そこへ勢いと威力を備えた牙の如き刺突が、巨大な天狗の身を震わせた。
 紅い刀身を伝い放たれるはアンナの魔喰の力と地獄の炎。
 天狗の体内に満ちる霊力が潰れぐしゃぐしゃになる音が、獣の咆哮と共に放たれた。
 鎖縛された獣には突き刺さったままの光の矢。そして真白な毛並みを嬲りながら妖の体上に広がっていくは地獄の炎。
「星の様に煌々と輝き燃え尽きろッ……!」
 阿婆羅血剣を抜きながら吐かれるアンナの声。腕と刀身と、そして天狗の傷口を繋ぐは地獄の焔。
 天狗の纏う真白や蒼といった美しき星々の輝きが、凶星のようなものを宿した瞬間であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

木元・杏
まつりん(祭莉・f16554)と

まつりん、白狐
…白狐と白狼、どちらが強い?
ふふ、わたしにはわかる。「まつりん」が一番強い

幅広の大剣にした灯る陽光から桜色のオーラ放出
その桜の防御で狐火を受け流す
けどずっとは保てないだろうから、UC【うさみみメイドさんΩ】
数と小ささはやはり臨機応変に動きやすい
皆、逃げ足と早業を狐火を回避し、ジャンプで白狐の顔面に飛び込み鳴き声の捧げを妨げて

狐火が乱雑な動きになればわたしも動くチャンス
突如接近する狐火を第六感で察知し回避しながらも、狙うは白狐の青い目
狙い定めて大剣をぶん投げる

目を潰せなくてもまつりんが近接する隙はきっと作れる
人の意を操るは卑怯
骸の海で反省してきて


木元・祭莉
アンちゃん(f16565)、今度こそボスかな!?

ホイホイ天狗? 化けキツネでしょ??
アヤカシはセイメイ世代だからなー。だからかー。(謎の納得)
ん。木元村在住、白狼・木元祭莉。
いざ、お相手仕る!

宙を舞う相手は、引き摺り落とすのがセオリーなんだけど。
かなり速いね。捕まえにくそう。
うーん。じゃあ囮作戦かな?

白影さん、うんと伸びて!
出たり引いたり、的を散らしてね。
おいらは腰だめに構え、迎撃体勢。

囮はおいら自身。
どんなルートを通っても、最終到達地点はココ。
つまり、近付いてきたら掴まえる。シンプル。
狙いは、アンちゃんが潰した目。
急所だけ守って、カウンター一撃で落とす!

置いてきた武者さんが風邪引く前に帰ろ♪



『流星たる我を御そうとするなど笑止……!』
 凶星のように赤焔の輝きを宿し始めた妖大将・天狗は猟兵たちに向けて吠えた。
 渡る声の響きには空を震わす禍々しさが含まれている。
「まつりん、白狐」
 うさ耳付メイドさん人形を抱っこして、ぴしりと敵を指差す木元・杏。
「アンちゃん、今度こそボスかな!? アレがおじさんたちを操っていた黒幕ってやつだよね?」
 ふさふさふわふわの狼耳をピンと立てて、天狗の声をよく聴くは木元・祭莉。
 祭莉の声に「ん」と杏は頷いて手を降ろした。指差し確認、終わり。
 堕ちてきた流星は再び飛び立たんとして狐声の牽制音を放つ。猟兵が宿らせた赤焔を覆い隠す、蒼白き輝き。
 白の強いその眩い輝きに杏は身近の白炎を連想しながら、兄に向けて言う。
「|天狗《アマツキツネ》って言うんだって」
「天狗? 化けキツネでしょ?? ホイホイされちゃったキツネ。略してホイホイ?」
 あれ? この響き、何かを思い出すね???
 と、祭莉はほいほいとまた呟いた。
 そうして何かを思い出したのか、「あ」と呟いてにっこり笑顔を浮かべた。
「アヤカシはセイメイ世代だからなー。だからかー」
 ぞわぞわするねぇ、なんて言うのんびりした祭莉の声にひっそり滲んだのは嫌悪だろうか。
 魔軍将「安倍晴明」を連想し、そして清明が暗躍し施す秘術『|白炎換界陣《びゃくえんかんかいじん》』の事件の数々を思い出す。
 流星の如く輝く霊力を放ちながら再び空を翔けはじめる天狗の姿を木元家の双子は見上げて。
 身軽な跳躍から空飛ぶ天狗となった狐は、大地を駆ける者たちを居丈高に見下ろす。
『今ひとたび、吹き飛ばしてやろうぞ!』
 あの流星が堕ちてきたら、きっと大地はひとたまりもないだろう。飛ぶ妖が齎す衝撃を受け止めるのは大地――この世界を生きる者だ。
 ならば、その威力を滅し、力ある者が相殺しよう。
 ね、と杏は祭莉に問う。
「……白狐と白狼、どちらが強い?」
 ふふ、と杏は微笑んだ。
「わたしにはわかる。「まつりん」が一番強い」
 妹が寄せる絶対的信頼を感じ、祭莉は再び笑顔になる。今度はおひさまのように晴れ晴れしく。
「ん。行こ、アンちゃん! 木元村在住、白狼・木元祭莉。――いざ、お相手仕る!」

 ケー……ンンッ……――!
 狐の声が虚空にぐるぐると響き渡っていく。
 その方角を捉えるも、音速は光速には敵わない。思わず聴き取りに動いてしまう狼耳をやや伏せて、祭莉は天を見据えた。
 荒野を見渡すが如く、視界にて戦場を広く広く捉える。
「宙を舞う相手は、引き摺り落とすのがセオリーなんだけど。かなり速いね。捕まえにくそう」
 そう言っている間にも天狗は態勢整わぬ祭莉の近くを過ぎていく。その威力は周囲の木々を砕き、土埃を巻き起こして、大地を削っていた。
 狙いをつけて飛び掛かったとしても吹き飛ばされたり、こちらの一撃が減衰したりしてしまう。
 動き回る相手に必殺の一撃を与えるのは難しいことだ。
「うーん。じゃあ囮作戦かな? ねえ、どう思うー?」
 と、祭莉が声掛けたのは気が付けば足元にいる、白いアイツだ。「コケケ」とした鳴き声すら幻聴として届きそうなアイツの気配。
 祭莉の影から伸びていく白影がざあっと大地を駆けて行った。

 天狗が捧げる声に合わせ放たれるは輝く星焔。
 元より制御する気の無さそうな敵の狐火は無造作に辺りに撒き散らされていく。
 幅広の大剣にした灯る陽光を下段に構えた杏が、自身の周囲に――盾のように繭のように、鞠のように桜色のオーラを咲かせる。満開だ。
 いつも杏が抱えたり傍に在るうさみん☆の姿は今はない。
 天狗の動き――否、迫る星焔を金の瞳で捉えながら、杏は僅かに灯る陽光の柄を回す。当然に連動する刃部分が僅かに翻ったその瞬間、桜花弁が送り出され敵の狐火を相殺した。
 喧しく狐声が渡り続ける戦場はたくさんの狐火が出現し、間断なく火雨となって振り注ぐ。
 杏が大剣を振れば暖陽の彩が花弁の如く舞散り、流水の如くまろやかに天に向けて昇らせた桜色のオーラが花筏を作り上げた。刹那に幻視されるは桜花の龍だ。
 天狗の焔を喰らうように流れ、狐火の輝きを堕としていく。
 灯る陽光を幾度か斬り上げて、焔の熱で歪む虚空を清浄にしていく杏。
 同時にジャンプしたうさみみメイドさんが天狗の顔面に飛び込んで体当たり。
『ヌ!?』
 思わず鳴き声を途切れさせ、うさみん☆を振り払う天狗であったが、襲ってくるうさみん☆の数は複数――うさみみメイドさんの群れを叩き払い、回避する天狗。
『小癪な!』
 吠えた声が再び捧げるものへと変化する。制御され操られる狐火に撃たれ焼け落ちるうさみみメイドさん人形たち。
 複製とはいえその光景に心が痛む――だが特攻するうさみん☆たちの姿の数々は、無造作に見えても軍隊のように統制されていた。
 回避する天狗の飛翔を、操る。
 一度上昇した天狗がうさみん☆たちを振り切り急旋回。そのまま真っ直ぐ真下へ――杏に向かって降下してくる。
 共に、一吠に送り出される星焔。
 その大地に咲くは糸括。
『それで隠レタつもりかっ!?』
 纏まる桜色のオーラが解くように放たれれば、起こるのは花吹雪だ。その中心から跳び上がってきたのはうさみん☆。ぐるりと回転する人形の蹴撃が天狗の鼻先を他方へ向かわせ、ぐにゃりと天狗の身体が揺らいだ。
 ぶれる視界に、天狗の目が見開かれる。

 ――そこに突き刺さるは投擲された白銀の大剣。

「人の意を操るは卑怯。骸の海で反省してきて」
 巨体である白狐の青い目から白銀の輝きが生えたなか、獣の苦悶の悲鳴が戦場に響き渡った。
 その獣声は杏の声をかき消したが、彼女の願いは貫通を齎す。流れ込む桜花の気。青目は白銀に塗りつぶされた。
『おのれオノレおのれェェッ!!!』
 怨嗟の声をあげてうさみん☆を追い始める天狗。星焔は散り、だんっと地に降りて大地を削るように飛翔し始めた。
「うさみん☆、バトンタッチ!」
 主の声を受け、うさみん☆の複製たちは共に走り始めた白い影へ次々と飛び乗り、その身を覆い隠させる。
 大地が削られて凹凸が形成されていく戦場。時には広がる白い絵の具のように、時には立体的にめんどりの形を成して白い影は戦場を走る。
 『気が付けば足元にいる、白いアイツ』もとい『たまこ』が向かうのは、いつだって木元家の双子が居る先。
 白影に投影されたたまこの性質は、当然そのまま、祭莉に向けられるものも在る。
 本能が獲物(?)に向ける自然の摂理。
 高々に石礫が積まれゆく戦場。祭莉の姿が見えなくとも、白影は祭莉のもとへ。
 めんどりの白影は岩場を利用し刹那の飛翔。広げた白翼はばたばたと動き、獲物と化した白影を追いかけて天狗もまた跳躍した。
「どんなルートを通っても、最終到達地点はココだよね……」
 うへぇと呟いた祭莉の目は天狗を捉え、かつ言葉は主に白いアイツに向けられている。
『!』
 石礫の影に在るは腰だめに構えた祭莉の姿。彼は跳躍に伸びた天狗の前脚を掻い潜り、自身の間合いへ引き込む。祭莉が放つは天狗の鼻先目掛けての掌底。
 くっと弾くように手首を捻れば、眼前に広がるは天狗の横顔。白銀に染まった獣の瞳。
 一拍も置かずに、全身のバネを使い撃つ祭莉の狼拳。その拳にはまるはアンバーナックル。
「近付いてきたら掴まえる。シンプルだよね――」
 接近した敵に放つ超高速かつ大威力の一撃。
 妖大将の潰れた目に叩き込まれる灰燼拳が唸る。

 世界を穢す獣を撃つ打音は、天狗を通して波打つように骸の海へと渡った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アミリア・ウィスタリア
妖大将というから、もっと恐ろしいかと思えば……
うふふ、可愛い狐さんでしたね

崇めよ、だなんて
自分から言ってしまっては台無しです
恐れ崇められたいのであれば相応の振る舞いをしなくては!(無自覚の『悪のカリスマ』『威圧』)

狐尾型の星光は危険ですから
『結界術』で周囲に飛ばないよう守りつつ
放たれそうになったら蝙蝠達に『不意打ち』で邪魔して貰いましょう

それにしてもとっても綺麗な毛並み
コートにしたいくらいです!
妖から作るコートは防御も強そう……
上手に作れるかしら?

暴れては駄目ですよ
折角の綺麗な身体が傷ついてしまいます(UC)
身を任せてくだされば良いのです
ほら、目を閉じて?
『翼の呪剣』で『解体』を試みましょうね


八秦・頼典
●POW

遠からん者は音に聞けとな遠吠えと空を切り裂く流星でもしや…と思ったけど、やはり|禍ツ星《アマツキツネ》が件の妖大将か
稲荷神を拝礼する八秦の一族としては崇め奉るのは山々だけど、こうも悪辣たる妖狐となれば退治は必定
それに約束したしね…正一位の名に懸け、誰一人とて見捨てはしないと

さ、上手く挑発できたかな?
ここまで居丈高で尊大ならばボクに目掛けて流星の如き疾さで仕掛けて来ようが、まずは相手の様子見を
弁慶を相手取り翻弄する牛若丸が如く【ジャンプ】と【空中機動】にて躱し、流星の軌道を読んだらばまた躱すと見せかけ…『霊剣鳴神』
虚から迸る眩き【閃光】
軌道が反れたのに合わせ、この速度を利用して流し斬りさ



『小癪な存在ドモめ!』
 |天狗《アマツキツネ》が攻撃してくる猟兵たちを威嚇する。
『我は流星の化身であり、凶兆を告げるもの!!!』
 天狗の吠声に含まれる妖気。それを祓うように檜扇をぱちりと閉じた八秦・頼典は「ふむ」と呟いた。
「遠からん者は音に聞け――とな。遠吠えと空を切り裂く流星でもしや……と思ったけど、やはり|禍ツ星《アマツキツネ》が件の『妖大将』か」
「まあ、声で妖大将の正体が分かっていたのですか?」
 頼典の言葉へ打って響いたのはアミリア・ウィスタリアの声だ。
「名乗りの前口上というものだよ。"遠くにいる者はいまから大声で名乗るからよく聞いておけ、近くにいるなら目でもよく見よ"。いざ剣を交わす前に、自身の身分や権威、主張や正当性を述べていくものだけれど――」
「律義なのですね。あまり利口とは思えないのですが、相対する立場から見れば、分かりやすくしてくださるのはありがたいかもしれません」
 明るい鈴の音のようなアミリアの声に、頼典は「確かに」と苦笑した。
「妖大将というから、もっと恐ろしいかと思えば……うふふ、可愛い狐さんでしたね! ……あっ、狐さんならこれは逆にお利口さんと褒めるべきところですね」
 猟兵の凶星たる地獄の炎に焼かれ、片目を潰された天狗ではあったが、まだ耳はよく聞こえている。
 頼典とアミリアの会話に『人間どもめ! 猟兵ドモメ!!!』と天狗はブチ切れていた。
 天から降ってきた天狗流星が木々をなぎ倒し着弾する戦場。
『我は崇められるべき存在! 其方らは血祭りだ! 万里に渡る妖の裂け目となるがよい!』
「あらあら……崇めよ、だなんて。自分から言ってしまっては台無しですよ」
 めっですよ。と腰に手を当て、アミリアは一度だけ指を振る。僅かに手のひらを掲げ、柔く伸ばされた指先に一匹の蝙蝠が降りてきた。
 キィと蝙蝠が鳴けば意を得たりというように他の蝙蝠たちが飛び立つ。
「ねえ、あなた」
 アミリアは謳うように天狗へと声掛けた。獣性である天狗を見据えた瞳は、一瞬だけ、敵を対等のものであると認め苛烈な色を宿し睥睨した。
「ミラが教えて差し上げます――恐れ崇められたいのであれば相応の振る舞いをしなくては!」
 アミリアがそう言った瞬間、天狗流星から狐尾型の星光が放たれるも、その輝きは蝙蝠たちが広げる闇夜があっという間に覆い掻き消していく。
 周囲の全てを消滅させるはずの星光――発動から自動的に発生する光は、既に天狗の制御下から離れた力だ。
 天狗流星へ遣る彼女の蠱惑的な視線は、あらゆるものを調伏させていく。
 眩い流星在る戦場は夜がやってきたように昏さを増していった。闇夜の力を扱いやすいように、木々の枝葉は天を隠し、風は雲を呼ぶ。
 自然の力が、山の気配が濃厚となっていく。
「――稲荷神を拝礼する八秦の一族としては、崇め奉るのは山々だけど、こうも悪辣たる妖狐となれば退治は必定」
 放った妖気を封じられ、自ら動き出した天狗へ言うは頼典だ。
「神使にも値しない――それに約束したしね……正一位の名に懸け、誰一人とて見捨てはしない、と」
 頼典の、陰陽師の霊力宿る言の葉はアヤカシエンパイアの妖に響くもの。
 流星の如く駆け出した天狗は挑発に応えんと頼典のもとへ。
『疾ク!』
 天狗の身から――九尾から残滓の星屑が軌道を描き、アミリアの蝙蝠たちが形成する夜の帳に映えた。
 戦場でありながら幻想的な光景を目にしたアミリアは微笑む。
「それにしてもとっても綺麗な毛並み……コートにしたいくらいですね」
 そう言って片手に持つは翼の呪剣だ。
「妖から作るコートは防御も強そう……上手に作れるかしら?」
 アミリアが翼の呪剣を放った空では、頼典が弁慶を相手取り翻弄する牛若丸が如く跳躍を重ねていた。
 迦波羅の秘術を用いた跳躍は翡翠色の霊力を迹に残す。清廉たる迹は追いやすい目印にもなるのだろう。釣られた天狗が頼典の軌道をなぞっていく。
 天高く至った頼典が――空を見上げる体勢を突如翻した。急転回した彼の身は僅かに真横へ流れ、在った場所を天狗が駆け抜けんと到達する。
「居丈高で尊大――その気が仇となったようだね」
 頼典が放つは剣状に練気させた霊気の剣。
 上昇する獣の勢いに向かい、彼の降下の勢いと共にするは流れ斬り。
 虚から迸る眩き閃光は雷鳴を伴い周囲に轟いた。
「霊剣鳴神。妖大将、ボクがその罪禍を斬り悪性を祓い給う」
 骸の海香る刹那の邂逅を抜けた頼典が虚空で振り向きざまに剣を投擲すれば、追撃の霊剣は落雷となり天狗を撃った。
『ギャウゥッ!!!』
 雷電に圧され天狗の首を突き刺さったのは、翼の呪剣。
 ずぷり、と雷気を迸らせ星屑を溢れさせながら、呪剣は獣を貫こうと敵の身へと入っていく。ゆっくり、ゆっくり。
『ギャオォォン!!!』
 天から墜ちながら天狗はのたうち回る。
「暴れては駄目ですよ? 折角の綺麗な身体が傷ついてしまいます」
 優しく蠱惑的にアミリアは語り掛ける。堕ちた流星が大地にクレーターを作るなか、頼典が近くに着地する。
「身を任せてくだされば良いのです。ほら、目を閉じて?」
『グ、グ……ッ』
 薄ら微笑むアミリアが含ませるはユーベルコード、自我崩壊のメルトだ。天狗の四肢が宙を掻く。
「これだけの巨躯だ。尾の一本、二本……否、三本頂こうか」
「うふふ、『解体』をお手伝いいただけるのですか?」
「女性の願いとあらば」
 揶揄るように意を交わす頼典とアミリア。その声は言葉は霞のようだった。
 目前の報酬などどうでもよく思っていることが、互いに手にとるように分かる。貴族的な笑みが交差する。
「踏み躙ろうとしたその報いは、受けましょう?」
 アヤカシエンパイアの人々――坂東武者の決意や覚悟を、一時的とはいえ砕いた妖大将へ通される刃の数々は冷たく、熱かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鐘射寺・大殺
うむ、あやつが妖大将とやらか!九の尾をもつ白狐、大将の名に恥じぬ威容だのう。あの者の討伐を以て、此度の遠征の締めくくりとする。ゆくぞ川村、力を貸せ!

妖よ、戦いの前にこれだけは伝えておくぞ。
……我ら悪魔は、妖より強い!悪魔こそこの地上で最強の種族なのだ!!妖大将といえど、この魔王大殺の前では塵に等しき存在よ。ひれ伏すがいい!!

と、大将ならここまで言われて黙っていられる訳がない。力で捩じ伏せにくるだろう。そこにカウンターの一撃をお見舞いしてくれるわ!
川村の力を借りて空に飛び上がり、《空中戦》を開始!高速で飛び回りつつ《武器に魔法を纏う》強化を施して力を溜め、奴の『箒星』のタイミングに合わせて魔剣オメガで奥義『砕魂』を放つ!渾身の《斬撃波》で《一刀両断》にしてくれるわ!沈めぃ!!


箒星・仄々
何とも禍々しいお姿と邪悪なお心で
妖大将というのも頷けます
海へ導くべき方だと改めて確信しました

竪琴で三度
武者さん達の里に伝わる曲を奏でて
魔力を練り上げていきます

光の尾をたなびかせながら空を駆ける様は
本当に箒星のようですけれど
その輝きは悪意が生むものなのですよね
正しく凶星です

妖の裂け目なんて作らせません
もちろん里にも行かせやしません
その想いと誓いを乗せて
音楽の力を解き放ちます

四方に広がるメロディが
光の五線譜として実体化すれば
それに絡め取られた天狗さんは
宙に縫い付けられたように
動けなくなるでしょう
緊急停止です

にっちもさっちもいかず
きっと罵詈雑言を喚き散らす天狗さんを尻目に
炎や水や風の魔力を乗せて演奏を続ければ
鮮やかな紅蒼翠の輝きが
天狗さんの霊力のそれを駆逐し、塗り潰して
海へと還していきます

戦闘後も演奏を続けて
天狗さんの静かな眠りを祈ります

武者さん方が目を覚ましたら
里まで付き添います

先程の演奏の時
光の音符で癒しましたけれども
妖さんに操られた後ですからね
ご無理はなさいませんように


鵯村・若葉
妖大将、流星の化身、災厄を振り撒くもの――大層な名前ばかりで
その割に随分と余裕がないように見受けられる
あなたが狩られる妖であることは変わらないからでしょうか?

三屍蠱に傷つけられた腕は呪瘡包帯『Rob-bandage』で軽く処置してありますが
獣相手に誤魔化せるとは思っていません
おいでなさい
包帯を解き『挑発』

血肉を求めていましたね
どうぞ溺れてください(UC)
この血を口にして尚、鳴き声を上げ続ける判断力を残せると良いですね?
いくら強力な攻撃でも制御不能になってしまえば自滅にも繋がりかねない
制御を失った狐火が自身にも当たることを覚悟で
包帯で『捕縛』し『贄血』も追加して『誘惑』『血液攻撃』
逃がしはしません(『捨て身の一撃』)

ところで流星の化身でしたか
――では、これは何でしょう【併用UC:星嵐夜】
言の葉と妖星の『呪詛』で天狗の身を壊しつつ『精神汚染』
流星の化身と名乗りながら星を操ることもできぬあなたが
意のままに妖や人間を動かそうだなんて
――笑えますね
『武器に呪詛を纏』った『穢剣』で『傷口をえぐる』




 巨体の九尾が猟兵の手で欠損していく――残った目を開き、獣の咆哮をあげた|天狗《アマツキツネ》から尾の一つがさらにはじけ飛んだ。
 散らされた、流星の如く輝く霊力が戦場を満たしていく。
『おのれオノレおのれ!!!! 凶兆を齎シ災厄を振り撒くもの――我を調伏しようとは、身ノ程も知らぬ愚カ者たちめ!』
 残された尾の一つを代償に、戦いのための霊力を纏った天狗が足掻くように四肢を動かせば空は天狗の味方をした。
 天が地であるかのように駆け昇ってゆく天狗の姿を猟兵たちは視認する。
「さすがは妖大将とやらを称する者! 九の尾をもつ白狐、大将の名に恥じぬ威容だのう!」
 今までにも振るってきた魔剣・オメガをやや身を屈めるように一度納め、赤きマントを前身頃へと半ば垂らしながら鐘射寺・大殺は言う。声に在るは高揚感。
 妖大将の言葉に、むむっと猫の目を細めたのは箒星・仄々だ。
 天狗が翔けることで発生し始めた風に、帽子のつばや羽根が嬲られる。とても嫌な匂いのする風だった。
「何とも禍々しいお姿と邪悪なお心で――妖大将というのも頷けます。……骸の海へ導くべき方だと、改めて確信しました」
 そう呟いた仄々は、きゅっと猫の口を締めた。
「妖大将、流星の化身、災厄を振り撒くもの――大層な名前ばかりで。……その割に、随分と余裕がないように見受けられますね」
 そう言った鵯村・若葉の声は呪力を帯びていて、威容と表現された件の妖を降しに掛かる。
「『あなた』が狩られる妖であることは変わらないからでしょうか?」
「威勢が良いのぉ」
 くくっと大殺の笑いが漏れた。これは双方への感想だ。
 若葉の言の葉が幻想的で天災ともとられる戦場に零れれば、水を差された天狗の吠声が猛る。数多に出現しゆく狐火が満天となるまでそう時間は掛からないだろう。
「戦場での不測の対処――その采配は其方に任せてもよいか?」
 信頼が感じ取れる大殺の声は、まさしく王たりうるもの。
 少し面白く感じたのか、若葉が返した礼は恭しい。
「あの者の討伐を以て、此度の遠征の締めくくりとする。ゆくぞ川村、力を貸せ!」
 大殺が告げれば、彼の赤きマント――川村クリムゾンの「はっ!」とひれ伏したかのような返答。上部から裾へと下ってく返答の響きと共に膨大な魔力がマントに流れた。
 川村クリムゾン――魔王家伝来の生きた赤マントは代々の魔王に従い、苦楽を共にそして生死を見てきた。そこには幾つもの死線があったことだろう。
 『彼』を扱うにふさわしき魔王の力――大殺が魔力撃てば、響くように呼応するマントはあっという間に主の身を天上へと導いた。
「妖よ、戦いの前にこれだけは伝えておくぞ」
 妖大将を見下ろし、刹那の滞空に放つ大殺の口上。
「……我ら悪魔は、妖より強い! 悪魔こそこの地上で最強の種族なのだ!! 妖大将といえど、この魔王大殺の前では塵に等しき存在よ。ひれ伏すがいい!!!」
『小童メ!!』
 目を吊り上げ上昇した天狗と魔剣を抜き放った大殺。双方の輝きがぶつかり合い、衝撃波が円状に拡がった。
 勇ましく飛翔する彼らの姿を見て、仄々が送り出すのは竪琴の一音。
「これは武者さん達の里に伝わる曲です。楯と鉾、太刀を抜いて舞う曲ですが、この場にふさわしい武曲にもなりますね……!」
 流麗な音を響かせる竪琴から放たれたのは『急』に値する拍子。
 アヤカシエンパイアで楽しまれている楽曲は、貴族社会から流れてきたものも多く序・破・急の拍子を基本に構築されている。武者たちの里……特に武者自身が鼓舞として使っている曲を仄々は披露する。
(「憑依させた妖を抑え、今までも、これからも頑張っていく武者さんたちへ――」)
 彼らの心は、きっと猟兵たちと共にここに在る。
 仄々から祈り奉じるような気持ちが伝わってきて、ふ、と若葉も思わず薄く微笑んだ。
 天高く響くは大殺の勇ましい声――その身は焔色を纏い、音よりも先の未来をゆく。
 カッツェンリートの奏でで鼓舞しながら自身の魔力も練り上げていく仄々。
 若葉にとっては声も音も紡ぐものだ。絶望的な未来へ変化を齎すもの。
 妖大将と洗脳された妖。世界を害なすそれらを一時的に留め、猟兵が介入できたのは坂東武者の存在があるからこそ。
 行動の一手一手もまた未来に向かって何かを紡いでいくものだ。
 腕に巻きつけていた若葉の呪瘡包帯、Rob-bandageが解かれていく。
 露わになったのは三屍蠱の攻撃を受けた傷。
 圧迫していた包帯がなくなれば、再び傷は開く。流れ出すのは人ならざる者にとって甘美な血だ。
「――おいでなさい」
 怪異酩酊と共に、天に向けて声で誘えば高ぶった天狗の鳴き声が落ちてくる。瞬く間に急降下した天狗の鼻先が若葉を叩き上げた。
 苛立つままに誘われた獣の牙が腕に触れたのを確認し、起動させた隠影で彼我の距離を作る。血道が刹那に結ばれた。
「血肉を求めていましたね――どうぞ、溺れてください」
 淡々と、天狗に告げる若葉。
「この血を口にして尚、鳴き声を上げ続ける判断力を残せると良いですね?」

 抑えねば、という妖の大将としての理性が砕けていく瞬間であった。


「フハハハハ!! これより我輩たちが御すは理性なき妖獣!」
 それも最大限まで敵意を引き上げた本能の塊だ。
 甘美な血に酩酊し、暗殺靴で細やかに軌道を変える若葉を追う天狗は、大回りに突っ込んでくる大殺にも対処する。
 理性を失くした妖大将は、咄嗟の対処で衝撃を抑えている。大殺や若葉の動きに振り回され、自身の生存に繋がる防御は取らないままだ。つまりは隙だらけ。
 高速で飛び回る大殺の剣は魔力を纏い始め、発生する黒と赤の靄色が流星の如き軌道を描いた。
 魔王の残した魔力残滓を喰らい無限に伸びていくは若葉の贄血で染めた呪瘡包帯。天狗に巻き付いては蜥蜴のしっぽ切りのように跡を残し、再行動を得ていく。
「――光の尾をたなびかせながら空を駆ける様は本当に箒星のようですけれど、その輝きは悪意が生むものなのですよね。正しく、凶星です――」
 アヤカシエンパイアを滅ぼしに導く|妖《オブリビオン》。
 |天《世界》で輝けば、それは今を生きるものたちにとっての凶星となる。
「妖の裂け目なんて作らせません」
 練り上げた魔力を、ポロロン♪ と音色に乗せれば、仄々を中心に地面に金の魔法陣が描かれていく。
 それは円状の譜面となっていて、炎や水、風の魔力色の音符が配置されていった。
 龍笛のような奏でを伝える風、サーフドラムのような音色の水、炎は歌声を披露するように爆ぜる。
 激しい空中戦が広げられる天に向けて、流麗に――黄金色の龍のように――顕現し昇っていくは光の五線譜。
「もちろん里にも行かせやしません」
 仄々が聴いてきた音楽、演奏する人々の声や想い、今まで経験したすべてが曲へと変換されゆくシャンテ・フェスティヴァル。
 オーケストラの如く放たれゆく音楽に応じ、光の五線譜が格子を作るように天狗の動きを阻害していく。
 敵の細やかな動きを封じてゆく呪瘡包帯、飛翔をかすみ網のように制限する光の五線譜。
 譜面から発生する音は鮮やかな紅や蒼、翠の輝きが視認された。仄々の魔力が天狗の持つ凶つ輝きを塗り替えていく。
『――オ゛オオォ゛ォ゛ォォ!!!』
 天狗の瞳は先の猟兵の焔色に染まり、刻まれ続けた傷から尽きた星火が零れ落ちていく。
 満天に輝いていた、制御不能に陥った狐火が次々と墜ちていく戦場。
 それを払いながら、若葉は猟兵が齎したたくさんの光を内包し暴れ飛び回る天狗を見る。
「ところで、あなたは流星の化身でしたか」
 今の姿は流星と呼ぶには……と、彼の揶揄ませた声はゆらぎ含むもの。次いで楽しそうに問う。
「――では、これは何でしょう」
 怪異酩酊のなか、併用される力は夜を展開する力。
 星嵐夜の訪れは星々を美しく流していく――その中には狐火の姿もあった。
「|祈りましょう《呪いましょう》。
 ……流星の化身と名乗りながら星を操ることもできぬあなたが、意のままに妖や人間を動かそうだなんて」
 天狗の身に譜面の線が刻まれて、凶星の数々が零れ墜ちていく。敵の体液ともとれるそれを掬い軌道を変えて流していくのは若葉。今や、天狗の『輝く星焔』は彼の意のままとなっている。
 その時、何かに横っ面を叩かれたように天狗が急旋回した。さらされた首に投擲された穢剣が突き刺さる。
「――笑えますね」
 と呟いた若葉の声は、天狗の悲鳴にかき消された。仰け反り、天へ還るように上昇していく天狗の姿。
 身を巨体から縮ませながらも加速する天狗の行く先に、魔剣オメガを構えた大殺が降下してくる。
「一度でも大将を名乗った貴様を逃すわけには行かぬ!」
『オオ゛ァァァ゛………!!!!』
 言語能力を失くした獣の咆哮。
 残された片目は狂気に侵され、もはや大殺を――猟兵をその瞳に映していない。
 川村クリムゾンが「今ですぞ!」と告げるが如く、マントから魔力を噴射させた。
「フハハハハ! 貴様は特別に、代々伝わる奥義で屠ってくれるわ!」
 直下する魔王・大殺が繰り出すは、魔王家奥義『砕魂』。
「光栄に思え!!」
 魔剣から放たれる渾身の斬撃波が、天狗の鼻先を、額を――凶星の身体を真っ二つに切断する。
「沈めぃ!!」
 必殺技を決めた大殺の声に応ずるは、高貴ある狐の声――ではなく、今や濁り尽くした轟き。

 轟音がふつりと消えたのが、それが天狗の声だという証左であった。


 山中を震わす音が消えても戦場に残り続けるのは仄々の竪琴の音色だ。
 天狗の静かな眠りを祈る鎮魂歌。

 倒木に座っての|演奏《祈り》を終えた仄々は、ジャンプするようにぴょんと立って「坂東武者さんたちを里へ送り届けましょう」と猟兵たちに呼びかけた。
 毛布に包まれた坂東武者のリーダー、そして山中に散る坂東武者たちへ声を掛けて治療をして。
 戦後処理も忙しい。
「ふむ。歩けぬものは魔王軍の者が運んでいこう」
 簡易的な担架をあっという間に作り上げた大殺の部下が、えっほえっほと坂東武者を運び山を下っていく。
「人手があるのはよいことですね。――こちらの方もよろしくお願いします」
 魔王軍の悪魔に声掛けて、武者たちの様子を見て回る若葉。必要ならば手当も施す。
「若葉さんの星銀の光と、私の光の音符で身体は癒されているでしょうけど、妖さんに操られた後でしょうからね。無理はなさいませんよう」
 仄々が武者たちに声掛けていく。
 心尽くして、山中をあちらこちらへと駆けていく黒いケットシー。
 手厚い献身に、ほっと安堵するのは坂東武者たちだけではない。戦場を共にした猟兵たちも同じ安堵を抱く。
 恐らくは、ほとんどの武者は心打ち砕かれることなく、次の戦いへと赴いていくことだろう。
 それは彼らの矜持で、生き方で、献身だ。
 戦いに身を置く猟兵にも、その心はとてもよく理解できる。
 戦後のケアに心身は救われる面もある――。

「先の魔王軍で防衛も厚く構築したからな。しばらくは妖の侵入もなかろう。養生に専念せよ」
 魔王の言葉が武者と里の者に伝えられていく。
 民草への指示は大殺に任せ、一歩下がった若葉は「箒星様」と声を掛けた。
「お疲れさまでした」
 深々とした礼とともに告げられた労いの言葉に、仄々は一瞬きょとんとした表情。
 真っ黒の毛並みは、今は土埃にまみれてしまっている。
 若葉も大殺も、似たようなものだ。
「――はい、若葉さんも。お疲れさまでした!」
 微笑んでそう答えて、ふと、仄々は里を見回した。
 あちこちで立ち昇っている煙は、お湯を沸かしたり、米を炊いたりとしているものだろう。
 人々の声が猫の耳に聞こえ届く。
 心の底から安堵させる響きの数々は、癒しだ。
「……この里が、妖に操られた坂東武者に襲撃されなくてよかったです」
 しみじみと呟いた仄々の言葉に、猟兵たちは頷くのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2025年03月23日


挿絵イラスト