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馬県家年始カルタ合戦

#サムライエンパイア #ノベル #陰海月のお正月2025

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#陰海月のお正月2025


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馬県・義透




 一月。睦月。
 陰海月にとってそれはどこかの世界のオブリビオンが一斉に蜂起する、とっても忙しい期間だ。
 なのに、今年は何もなかった。
 ぷしゅぷしゅとシャドーボクシングを除夜の鐘と一緒にやっていた陰海月は束の間の平和を享受してポケーっとしていた。
 そんな時、掌に載せられるサイズの大きさの箱を抱えた義透が霹靂を携えてやって来た。
「陰海月、せっかくですからこれでもやりませんか」
 箱の中身はカルタ。絵の作者さんが、昔読んでもらった絵本の作者さんと同じだったから、おねだりして買ってもらった物だ。
 時々箱から出しては眺めて満足していたが、確かに本来の遊び方はしたことがなかった。
「ぷきゅ、ぷっきゅ!」
 賛成と言わんばかりに反応する陰海月を見て義透は朗らかな笑顔を浮かべながら取札を畳の上に並べ始めた。
「あれ、何をされようとしてるんですか?」
 その音に引き寄せられたかのように居候の幽霊が顔を覗かせる。
「かるたですよ。夏夢殿もやられますか?」
「お、いいですねー。どうかお手柔らかに……」
 おずおずと夏夢が取札の前に腰を下ろす。こうして対戦する相手は一体から二体に増えた。
「ぷきゅー。きゅ!」
 それでも負けないぞー、と陰海月は相手の邪魔にならないようにちょっと身を縮こまらせながら、人が肩を回すように触腕をウネウネと揺らす。いくらゆったりお正月を過ごしていても触腕のキレはそうすぐには鈍らないのだ。
「では始めますよー。いぬ……」
「ここっ!」
 義透が読み始めるとほぼ同時に二匹の間に夏夢が飛び込み、畳を鋭く叩く音と同時に取札が壁に向かって滑っていった。
「『犬も歩けば棒に当たる』、合ってますか!」
「ええ、夏夢殿がまず一点ですね」
 夏夢の動きに陰海月はちょっとびっくりしたが、今度は絶対取るぞと気合を入れ直す。
「わら……」
「ふっ!」
「つき……」
「これだっ!」
 しかし三連続で取られた。霹靂も大きな体で飛び込んだが、札を取った夏夢の脇腹に突っ込んですり抜けて滑っていっただけに終わった。
「夏夢殿なかなかお上手ですね。この間テレビで見た競技かるたの選手みたいです」
「あ、あはは……やってたのかもしれません……」
 感心する義透に夏夢は照れくさそうに頭をかく。そして霹靂が元の位置に戻ってきたところで、次の札を読み上げる。
「たな……」
「クエーッ!」
 一度の失敗でへこたれることなく霹靂が札に飛び込み、その煽りを受けて周囲の札が吹っ飛ばされていく。しかしその中に答えの札はない。
「か、霹靂さんどいてくださいー!」
「ぷっきゅー!!」
 夏夢と陰海月は力を合わせて霹靂を持ち上げようとする。しかし中々ひっくり返らず、霹靂はほんのちょっと浮かされた体の下にあった「たなからぼたもち」の札を右脚で押さえつけた。
「クエッ」
「はい、霹靂の点ですね」
「ぷきゅきゅ……」
 手数には自信があったがまだ一枚も取れていない陰海月は自分の近くにある取札の右上にある平仮名を見直す。
「次行きますよー、ね……」
 一文字目を聞いた途端に夏夢の手が動き出す。しかし目の前でのそりと動き出した存在に気づいて急停止した。
「ぷっきゅ!」
「にゃー」
 その間に陰海月が「ねこにこばん」の札を取って誇らしげに掲げる。それを祝福するように夏夢の行く手に割り込んだ玉福は鳴いた。
「お猫様〜!」
 邪魔をされたものの怒るに怒れない夏夢を尻目に玉福は何事も無かったかのように素通りしていった。
 何はともあれ一点は取れた。続けて取るぞー、と気合を入れる陰海月に微笑ましい視線を送りながら義透は次の札を引いた。
「えび……」
「ぷきゅ!」
 同じ海の仲間の札は譲れない、と陰海月の触腕が鋭く伸び、海老に噛み付いた鯛が描かれた札を押さえつける。そしてそのまま手元に引き寄せて義透へ見せた。
「ええ、『海老で鯛を釣る』ですね。正解です」
 さあ次だと意識を取札に戻すと再び玉福が戻って来た。
 しかし今度は素通りせずに横になると、取札の上をごろごろと転がってぐちゃぐちゃに混ぜてしまった。
 仰向けになりながらこういうハプニングがあった方が面白かろう? と言わんばかりの太々しい表情を見せる玉福の体を霹靂は嘴で優しく挟んで、縁側に連行した。
「にぃー……」
 不服そうな声が聞こえてくるが、あのまま寝転がられているとうっかり潰してしまう可能性がある。当然の隔離であった。
「では気を取り直していきましょうか。かっ……」
「ぷきゅー!」
 さっき見た札だ、と覚えのあった陰海月は勢いよく腕を伸ばすが霹靂の前脚がそれを阻んだ。
「『河童の川流れ』。霹靂、正解です」
「くぅ……さっきから札が取れてません……!」
 スタートダッシュを決めたはずなのにどんどん近づかれていることに夏夢は焦りつつも笑顔である。
 そんな楽しくも真剣なカルタ合戦は蛍嘉が夕飯の準備が出来たことを伝えるまで、使う札を変えながら続いたのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2025年01月30日


挿絵イラスト