ゴッドゲームオンラインに於いては、ゲーム的な名所と言うものがいくつもある。
レベル上げの名所、風景の名所、それは様々であるが、いずれも名所と言われるだけあって、愛される理由があった。
霊峰洞窟寺院跡ホーディック。
万年雪の降り積もる険しい山脈に位置し、凍り付いた岩山の中に自然生成された洞窟を、巨大な寺院に作り替え、修験道として長らく語り継がれていた歴史が、この世界にはあったのである。
今は昔の話として、魔物の住み着くダンジョンとして冒険者の通うものにもなってしまったが、敬虔な修行僧は今もなお、険しい参道、洞窟寺院跡、そして山頂へ至る岩肌の|登攀《とうはん》路を、試練の一環として荒行に課しているという。
現在では、山一つという規模の大きさから、熱心なプレイヤークランが、洞窟寺院跡に拠点を設けて活動したりと、優良なレベル上げの名所として知られているという。
とくに、年末年始には、日の出を拝もうというプレイヤーも数多く訪れ、肌身を裂くような猛吹雪に晒されながら登攀路を命がけで登るという、特にゲーム的に得られるものがない行事が行われる。
今年もまた、そんな、物好きたちが好き好んで慣例となった雪山登山を終えてくる、そろそろ三が日も過ぎようという時期であった。
「いやー、ゲームの中だってのに、相変わらずここの寒さは骨身に来るなぁ」
「寺院跡の拠点はまだいいほうさ。こうしてセーフゾーンもあるし、火も炊けるし……最近じゃ、豚汁とかお汁粉作ってくれるプレイヤーもいるしさ。山頂なんて、ホントなにもねぇもんな。いっそ、だれか神社でもおっ建ててくれりゃ、有難みも増すんだけどなぁ」
「さすがにそれは、世界観ぶっちぎり過ぎだろ~。それに、立地がね。あの悪環境を、いったい誰が更地にするんだって話だよ。この恒例行事が始まって数年だけど、未だに山頂のレイド片付いてないんだろ?」
「倒せた暁にはさ。最近でもちょくちょく、頑張って挑んでるパーティー居るんだろ。お、そこのあんちゃんも、レイド狙いじゃねぇか? 装備的によ」
『え、僕かい?』
洞窟寺院跡に備えられたセーフゾーン。その焚き火の日の温かな光に、会話するプレイヤーとは毛色の違う装備を携えた青年の姿が照らされる。
見るからに巨大な得物を背に負った、それは金髪の好青年に見えるが、話を振られてにこやかに小首を傾げつつ何とはなしに聞いていた話を頭の中で整える素振りを見せながら、
『ふぅん、つまり、山頂を陣取ってる強敵を倒せばいいわけだ? そいつは──、良いものを持ってるかな?』
背に負った身の丈ほどの巨剣、のような銃器のような不可思議な武器を手にする青年の行動は、それこそ不可思議であったが、ほのかに青い輝きを帯びる重々しい金属の光沢は、いかにも頼もしい。
「見たことない武器だな。だが、なんだか凄そうだ。ああ、レイドボスだったな。そりゃ、パーティ攻略を前提にするんだから、報酬はおいしいだろうさ。なにしろ、ここのクランが長年追い回してるくらいだからなぁ」
『それを聞いて安心したよ。万一外れでも、ここを取る価値は、十分にあるってワケだ──|点火《イグニション》』
「へ?」
巨剣のような武器に取り付けられた大きなシリンダー状の部品が稼働し、刀身全体が眩い光に包まれると、次の瞬間、洞窟寺院跡はセーフゾーンを失う事となった。
「やあ、新年おめでとう。なんだ、簡素過ぎるか? 悪いが、新年早々から仕事だよ。祝っている暇はない」
グリモアベースはその一角、青灰色の板金コートにファーハットがトレードマークのリリィ・リリウムは、新年あけて早々に舞い込んできた騒動の気配を、猟兵たちに報告する。
舞台はゴッドゲームオンライン、ゲーム世界の中でもそれなりに知られた名所、霊峰洞窟寺院跡ホーディック。
「聞くところによると、レベル上げにドロップに、それから新年を祝うイベントに、と。それはまぁ見所の多い名所だそうだ。出身者なら、聞いた事はあるかな? まあ、これ以降聞かなくなるかもしれないが……。
というのも、その寺院跡だが、拠点の為に作られた安全地帯のある最奥部の祭壇跡から山頂へ至る地形が吹き飛んだらしい」
唐突な話のスケールの転調に、いくらかの猟兵は怪訝な顔をせずにはいられない。
なんて、なに? 地形が吹き飛んだ?
「見た限りでは、霊峰の中を通る洞窟寺院跡から、バグプロトコルが何らかの方法で、山頂を消し飛ばした。そうとしか言えない。
大砲のような剣で、斬った。という証言もあるが……そいつはどうやら、天帝騎士団を名乗るようだな。
過去の戦争で、彼らを率いていた王は既に亡い筈だが、残党はしぶとくやって来るらしい。前にもそんなことがあったかな」
ブルーアルカディアで滅んだ屍人帝国の名を今更聞くことになろうとは、多くの猟兵は思うまい。
しかし現に、彼らの一端はバグプロトコルとして、その異常なまでの力を発揮しているらしい。
「にしても、山を斬るほどの力は、強力過ぎるな。奴は──、『蒼き白雷のデミトリウス』は、あの世界で手にしてしまったのかもしれない。『|終末機構群《エンドコンテンツギミック》』その一端を」
新年を祝うムードに似つかわしくない、強力無比な攻撃力は、まさしく世界を破壊してしまいかねないバグそのものと言えよう。
幸いと言っていいのか、デミトリウスは、自らが切り出した山頂を決戦場と定め、自らに挑みに来る者を待ち受けているようだという。
「それを頻繁に使えないのかどうかわからないが、強力過ぎる力を何のリスクもなく使える筈もない。なにかしらの攻略法はある筈だ。
それから、洞窟寺院跡のセーフゾーンは破壊され、風穴があいて、バグプロトコルと化した本来のモンスターも出てくるようだ」
セーフゾーン付近には、まだ撤退しきれていないプレイヤーもいるようで、店を構えていた者たちなどは、安全ではない場所にも拘らず商売を続けている根性のある者も居るようだが、バグプロトコル化したモンスターがやって来るというなら、彼らの為にも片付けておく必要があるだろう。
「彼らを手助けする事にも利点はある。というのも、プレイヤーが販売している『家内安全の御守』は、見た目こそ場違いだが、洞窟寺院跡の素材でクラフトされている。その場に出現するバグプロトコルに対して有効に働いてくれるに違いない。必要なら、彼らを助けつつ、そのご利益にあやかってみるのもいいだろう」
新年イベント限定で配られるという御守は、どうやらバグプロトコルによる攻撃やデバフなど状態異常を無視できる、今回のイベントに於いて破格の効果を発揮するようだ。
もしかしたら、デミトリウスに対しても、効果があるのだろうか。
「新年は、色々とおかしいのが出てくる時期でもある。我々の場合は、それが日常と言えばそうなんだが……まあ、なんだな。あそこは、プレイヤーの作り上げた場所であって、彼らの居場所ではない。
消えるべき騎士は、あるべき場所へ帰してやってほしい」
そうして帽子を脱いで一礼すると、猟兵たちを送り出す準備を始めるのだった。
みろりじ
どうもこんばんは、流浪の文章書き、みろりじと申します。
新年あけましておめでとうございます。謹んで新年の御喜びを申し上げますと共に、今年もぼちぼち、この文章書きめをよろしくお願いいたします。
今回のお話は、毎度おなじみとなりました、自分で作った宿敵を自分で書いていくメアリー・スー物語となっております。
もう天帝騎士団が滅んで結構経ちますが、だって作り損ねたんだもん。やれる限りはやりたいと思います。
今回は、どこかで聞いたような霊峰、どこかで聞いたような洞窟寺院跡を舞台に、新年イベントをやっていたら、なにやら謎の騎士がやってきて、お山の頂を吹き飛ばして居座ってしまったぞ。というお話です。
迷惑なお話ですね。倒してしまいましょう。
今回のシナリオフレームは、集団戦→ボス戦→日常という感じのものを使わせていただいております。
洞窟寺院跡本来のエンカウントモンスターがバグプロトコルと化して襲ってくるのを蹴散らし、ボスのデミトリウスの待ち受ける山頂を目指す感じです。
イベントアイテムを、セーフゾーンだったところに居残っているプレイヤーから貰うことで、戦いを有利に運べるはずです。
配られているアイテムや、豚汁やお汁粉が出てくる時点で、だいたいお察しかと思いますが、ちょっと文化に偏りがあるようですね。
戦闘後は、壊れた拠点を修復したり、新たに作ったりするフラグメントを用意させていただきました。
もうオープニングの時点であちこちぶっ壊されているので、手が空いているようでしたらお手伝いしてあげてください。
また、新たに拠点となりそうなものを作ってもいいかもしれませんね。
今回は、ちょっとだけ断章を書くかもしれませんが、別に無くてもそう変わらない内容になるかと思います。
プレイング受付期間は特に設けず、基本的には頂いた順にリプレイとしてお返ししていく事になるかと思います。
それでは、皆さんと一緒に楽しいリプレイを作ってまいりましょう。
第1章 集団戦
『協力的な人型モンスター』
|
POW : 範囲攻撃魔法を発動します
自身の【立場をPLの味方と定義し、PLからの攻撃】を【一時的に無効化しつつ自分からの攻撃は有効】化して攻撃し、ダメージと【ステータスや装備品、キャラ設定等のバグ化】の状態異常を与える。
SPD : 防御結界を展開します
指定地点からレベルm半径内を【外部からの干渉を防ぐが中はバグ塗れな結界】に変える。内部にいる者は活力(体温・燃料等)を激しく消耗する。
WIZ : 支援魔法を使用します
対象の【ステータスや装備品、キャラ設定等】に【バグ化した魔法の効果でバグった情報】を生やし、戦闘能力を増加する。また、効果発動中は対象の[ステータスや装備品、キャラ設定等]を自在に操作できる。
イラスト:すずや
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
昔々のお話だ。
とある北の国の治める領の一つに、グローアッシュ侯爵の名のつく領土があった。
領地面積は広かったが、年間通して深い雪に包まれる山岳地帯を多く含むため、領民の生活は裕福ではなく、自然環境は厳しいものだった。
雪国を治める貴族は、好戦的な者が多い。
その理由は、自領で賄える資源が少なく、貯えも貴重であり、それをもっとも手っ取り早く手に入れる方法が、他への侵略であったからだ。
そうして武力により領土を広げていった結果が、緩やかな衰退であるならば、それは滑稽だ。
いずれも戦で鳴らしたグローアッシュの貴族たちにとって、貿易や開拓というものは二の次であったが、奪える領土も賄える金も回らなくなれば、そうもいっていられなくなる。
領内の事を考える段になって、求められる能力が変わって来ると、頭角を現すもの、落ちぶれる者も出てくるわけで、その点で言えば、傍系ながら領民との関係性を重視し経営の手腕を見せたデミトリウス・エイリク・グローアッシュは、有能な部類だったと言えるだろう。
ただ、混迷を極めるグローアッシュの中で、ひときわ輝いていたのは、間違いなく叔父上だった。
本家筋の長男ではあったが、妾腹の子という理由で家紋を下げることを許されず、見聞役というこの領地では過酷な職分を課されては、その役目をこなしながらも、ひどい扱いを受け続けてはいたものの、各地を回る役割から、皮肉なことに本家以外からはすこぶる好かれてはいた。
デミトリウスもまた例外ではなく、その溢れ出る才気を一番に見出したと、自慢げに語っている事もあったか。
誰もが叔父上を称賛するものだから、ついには嫌われに嫌われて、曰く付きの最も過酷な領土に押し込められる事となった。
|星の終わりの地《アスタルシア》と呼ばれるその土地には、作物の育たぬ呪われた灰色の雪が降り積もり、開拓は不可能とされていた。
──しかし、叔父上はその地で秘宝を得た。
後になって知ることになるが、追放された者たちを連れて無謀の地の開拓を言い渡された叔父上は、ついに絶望したというが、それが比類なき願望を力にするという異能の発露の切っ掛けとなったと言われている。
得たのではない。自分自身の願望が生み出したのだ。
富と恵みを与える秘宝の出現は、領内を沸かせた。
それさえあれば、いかな不毛の地と言えど、人の住める場所になるし、もしもそれを国に献上すれば莫大な財産を約束されるであろう。
いいや、それさえあれば、国を獲ることも不可能ではない。
後に知ることになるが、叔父上が生み出す秘宝は、決して幸福を招くことはなかった。
それを求める貪欲なる者たちが、はるかに大きな不幸を抱き、渦巻いて、襲い掛かるのだ。
グローアッシュは荒れた。秘宝を巡り、骨肉の争いが巻き起こり、ついに叔父上は決心することになる。
「……お久しぶりです。レオン・グローアッシュ伯」
「寂しい呼び方をしてくれるなよ。俺はもう、グローアッシュじゃない。国の要求を突っぱね、ついには爪弾きの領土で以て独立を宣言したんだ。
今はそう、レオン・アスタルシャというところかな。まあでも、お前には叔父上と呼ばれるのが好きだ。
アラン、よく来てくれたな」
記憶にあった頃よりも、いくらか瘦せたような、少し骨ばったような顔つきだったが、あの頃と変わらず、叔父上は優しく笑い、雪と泥にまみれた小僧を、乱暴に撫でてくれた。
「お前ひとりで来たということは……デミトリウス卿は、亡命に失敗したということか……手が回らず、すまぬ事をした」
「父は、服毒により、自害、されました。僕を、一人で行かせるために……」
「領民と、お前を守るため、一人で悪役を買って出たのだな。あの人のやりそうなことだ」
一人痛みに耐えるかのように、レオン叔父上は瞑目し、僕はその胸の内で声を殺して泣くことしかできなかった。
叔父上の領土とその秘宝。その是非を巡っては、様々な手法がとられた。
武力、懐柔、そのいずれかをも、可能性があったデミトリウス卿が、最初に諸手を上げて降参を表明した。
その責任を取るべく、一族郎党、グローアッシュに非ずとして、自ら毒を煽ったという話は、瞬く間に領内に響き渡った。
しっかりと後任を用意した上で、|灰色の冬の国《アスタルシャ》に口出しすることもなく、責が領民に及ばぬよう、周到に用意された死のシナリオだったが、その中に僕の名前は無かったというわけだ。
今にして思えば、父のやったことには納得がいくような、そうでないような……。ただ、気持ちはわかる。
ここにまで足を運んだのは、今や貴族の名を失った哀れな子供に過ぎない。
「アラン、ここで俺たちと暮らすつもりはあるか? 言っておくが、この国は貧しいぞ。昔のようにはいかない」
「僕も、覚悟をしてここへやってきたつもりです。ただの一兵卒でも構いません。ここに置いてください。そして──」
「みなまで言うな。よし、ならば、そうだな。お前は今日から、俺の身内だ。貧乏国家へようこそ、アラン!
アラン・アスタルシアン・デミトリウス!」
新たに貰った、親しみ深いその名前で呼ばれたとき、僕の身体に雷が奔ったような、そんな気がしたんだ。
『……ん? 少し騒がしいな。はぁ、煩雑でいけないな、このステータスって言うのは』
切り立った雪山の台地に、一人、くたびれた装備に巨剣を肩に立てかけるように座り込む青年がいた。
整った顔立ちに、伸び放題放置したかのような荒々しい金髪が風雪に嬲られ、高貴な面影が薄れてしまう程、それは粗野な、戦場を駆け抜けた勇士の顔をしていた。
そんな青年、バグプロトコル『蒼き白雷のデミトリウス』が眺めるのは、いわゆるゴッドゲームオンライン上でありふれた一言会話機能。平たく言うと『全チャ』である。
『おい、どうなってる。霊峰には入れないぞ!?』
『それより、見たか? ホーディックの山頂が噴火したみたいに光が噴出したかと思ったら、山の上吹き飛んだぞ!』
『すごい崩落があったらしいっぽい。麓は、地滑りと雪崩でメッチャメチャ。うちも新年のあいさつ回りに行こうと思ったら、足止め喰らってる』
『でもさ、聞いた話、寺院跡に店出してる神社の連中、取り残されてるって話だろ。セーフゾーン壊れても営業してるって、すげぇことしてない?』
『いや、外と分断されてる現状、時間の問題っしょ。ていうか、これバグなの? 巻き込まれた人たち、ご愁傷』
『えーーーーー、やだーーーーー!! 巫女さんの豚汁ッ! 今年こそ、貰えると思ってたのにぃーーーーッ!! やだーーーーーーッ!!』
『おい、全チャ荒らすなって。気持ちはわかるけど』
『皆さんすいませんっ! サバミソさん、今年は諦めましょう! それに、私たちのレベルじゃ無理ですよ』
『やだーーーーーっ!!』
どうやら、霊峰で巻き起こった事件は、それなりにこの世界を騒がしているらしい。
どことなく危機感に欠けるような悲鳴を上げる住人たちに、デミトリウスは苦笑を浮かべる。
『あはは、彼らには悪いことしちゃったかな。でもまぁ、これくらいの雑魚くらいは、乗り越えてこれる連中じゃなきゃ、レア装備は期待できないよねっと』
嫌味のない笑みを浮かべつつ、デミトリウスは不意に近づいてきた敵対MOBの姿をしたモンスターを、事も無げに切り捨てる。
バグプロトコルと化し何者に対しても敵対的な行動をとるようになった洞窟寺院跡に本来登場する魔術師や祈祷師のような人型キャラクターに似た、カテゴリー的にモンスターだが、そのドロップ品を拾い上げると、デミトリウスの手にする巨剣、そのシリンダー部に魔力変換して装填していく。
『やっぱり、ここの連中でも、普段使いくらいにはなるかな。でも、とっておきには程遠いな……』
すでに装填済みのシリンダーのそのスリットにわずかに除く、白硝の欠片を、或は見覚えのある者も居るかもしれない。
「らっしゃい、らっしゃーい! くそぉ、またモンスターだよ! お呼びじゃないんだよっ!!」
「こらこら、巫女さんが、くそなんて言っちゃダメだぞ。新年砲、いけぇ! ……ふぅ、豚汁と残弾はいくら残ってる?」
一方、山頂から降りてきた洞窟寺院跡最奥部は、巨大な風穴があいてしまい、すっかり荒み切ってしまったものの、セーフゾーンがあった頃から店を構えていた、通称『神社』勢が、決して多くは無いリソースを削りながら、モンスターの侵入を辛うじて防いでいた。
どうやら、彼らの配っている御守のおかげで、戦いはだいぶ有利に運べるようだが、それでもバグプロトコルと化した敵の能力は侮れない。
門松を模した臼砲を構えた神主のコスプレ装備に身を包んだ、おめでたい雰囲気のプレイヤーが、売り子の巫女さんに物資の残量を求める。
「新年砲の弾は、暴漢対策用が30発。花火用が15発くらい。豚汁は……材料がもう……」
「クッ、なんてこった……クソ寒いからって、みんなで盛大に食っちまったからなぁ」
「あ、クソって言ったぁ!」
「……ええい、この際、プライドは抜きだ! 誰でもいいから、手伝ってくれ! 御守とかなら、好きに持ってっていいからよ!」
大町・詩乃
【神社猫】
お正月イベントを台無しにしてしまうのはいけませんね。
プレイヤーの皆さんをお救いして、トラブルを解決しましょう。
神社ご希望と有れば事後に往流坐葦牙神社の分社を建ててもいいですし。
今回は本来の戦巫女姿でネフラさんと一緒に参戦し、サバミソさん達と久闊を叙しましょう。
ゲームのしきたりに従って御守りもお借りしますね。
相手の攻撃に対しては、高速詠唱・結界術・範囲攻撃による防御結界で、プレーヤーさん達も含めて護ります。
近接戦闘してくる相手には天耀鏡の盾受けとオーラ防御で防いだり、
心眼・見切り・ダンスで舞うように回避。
《花嵐》で反撃です。
支援魔法で強化しようとも全てを浄化消滅させていきますよ~。
ネフラ・ノーヴァ
【神社猫】
破壊の美は理解できるが、限度を超えては無作法というもの。
彼の者には指導せねばなるまい。
ああ、分社建立の暁には御来光を拝むも良いね。詩乃の運気を分けて頂こう。
まずは魔物を排して安全の確保だ。
サバミソといったか、懐かしい名もある。さて、こちらの事は憶えているかな?
御守りは刺剣の柄頭に結んでおこう。
戦いは先陣を切り、UC染血散花を中心として撹乱を仕掛ける。
浮足立てば皆も戦いやすかろう。
修験道の入り口を表すかのように、霊峰の入り口にはガイドロープとペグが打ち付けてあり、氷の様に険しい岩肌もある程度は歩きやすく舗装されている。
いや、今は過去形にすべきだろう。
今や霊峰の入山は困難を極める。
山頂での騒動を知る者は少なく、ようやく寺院跡で巻き起こった惨事がバグプロトコルによる大爆発のような一撃によるものだったことが、全体チャットを通じて出回り始めたのである。
寺院跡から山頂までの道のりを派手に吹き飛ばした斬撃。
霊峰両断伝説と冗談めかしく語られるこの騒動は、お祭り騒ぎの様相を呈し始めるが、その現場に辿り着けるものはほぼ居ない。
何故ならば、寺院跡へ通じる道のりは件の霊峰両断伝説により生じた地滑りと雪崩により、多数の瓦礫と雪で埋もれてしまい、とても常人の足では登れない状態であった。
それはプレイヤーも同じ。
つまりは、洞窟寺院跡のなかに陣地を構えていた通称神社勢というクランのもとへ、イベントと称して配られるお守りや豚汁、お汁粉などといったGGOにはちょっと珍しい品々を取りに向かう、初詣のプレイヤーの多くは此処で足止めを喰らう事となっていた。
「ううう、豚汁……豚汁……」
「あの、サバミソさん、そんな、泣かなくても……」
「和食に、飢えてるんだ、本当に……寮のご飯、味気なくて」
「メシはモチベに直結するもんなぁ。でも、今年ばっかりは、諦めとき。またバグに遭遇したら、今度こそ命が危ないで」
多くのプレイヤーが雪と瓦礫に埋もれた山道および洞窟へ挑んでは挫折して、来た道を戻っていく中で、なにやら見覚えのある三人組がうなだれていた。
いつしかの冒険でバグプロトコルに遭遇し初クエストにして他に類を見ない経験をすることとなったパーティ。
剣士のリオンと魔法使いサバミソ、そして殴り僧侶のネモであった。
かつて初クエストを何とかこなし、その後も地道に活動を続けて着実に実力を備えていった三人だったが、洞窟寺院跡は、中級者以降のプレイヤーがスキルレベル上げやドロップマラソンなどに用いる場所で、彼らの実力はもうちょっと足りないというところらしい。
だから、もうちょっと頑張れば、ありつけると思ったのだ。豚汁に。
三人は日本人。とりわけ、サバミソは統制機構の方では寮生活の学生で、実家から離れてからと言うもの、食事が味気ないというストレスからGGOを始めたくらいには食べ物には拘りがあった。
特に和食に対する情熱は高いものがあり、この事態に陥った際の落ち込みようは凄まじかった。
「しゃーない。抱擁ブチューくらいしたろか」
「駄目ですよ! ハラスメント行為は、色々と危ないです」
「ほなら、リオン、耳に息でも」
「いや、ですからぁ……」
「ううう、豚汁……巫女さんの、豚汁」
そろそろ鬱陶しくなってきたので、猟兵たちの出番である。
正直な話、直接洞窟寺院跡のほうに乗り込んでもよかったのだが、霊峰入り口がわを選ぶ理由もある。
「皆さん、お久しぶりです」
気落ちする彼らに思わず声をかけたのは、大町・詩乃(|阿斯訶備媛《アシカビヒメ》・f17458)。
そしてその後ろに控えて、聳え立つ霊峰を見上げるのは、ネフラ・ノーヴァ(羊脂玉のクリスタリアン・f04313)。
いずれも彼ら三人の初クエストを手伝ったこともあるため、面識はある。
「あれ、巫女さん……いえ、前は確か、チャイナだったような……」
「まあまあ、細かいことは置いておいて。お元気そうで何よりです」
「サバミソといったか、懐かしい名もある。さて、こちらの事は憶えているかな?」
「忘れたりはしません。お陰様で、まだ剣を握っていられます」
久しく会えなかった友人とでも会うかのように、リオンは目を細める。
かつては、あの平凡な草原で、雑魚モンスターを相手にネフラに剣術を見てもらったり、割とローカルな話もした覚えもあった。
今でも、あの教えは忘れておらず、そしてサトウキビを見かけるたびに薫陶を胸に秘めるのだという。
とまぁ、久闊を叙するのもそこそこに。きゅうかつをじょするって読むらしいですよ!
詩乃とネフラの狙いは、リオン一行との再会だけではなく、閉ざされた霊峰への道を開くことでもあった。
・ ・ ・
「チッ、そろそろ花火用が弾切れか? やっぱ、イベント用の新年砲じゃ、モンスターを吹っ飛ばすのが精一杯だなぁ! セーフゾーンだったから、攻撃用のアイテムなんて、ほとんどないんだよなぁ! ハハッ、お祭りじゃねぇか、ホントに!」
一方、洞窟寺院跡の方では、取り残されたプレイヤー、通称神社勢が、バグプロトコルと化したモンスターと対峙していた。
神主姿と巫女装束のプレイヤーたちは、いずれもイベント仕様の戦闘用とは程遠い装備しか用意していなかったため、急ごしらえのお祭り装備で戦わざるを得なかった。
ここまで持ちこたえているのは、シンプルに彼らのプレイヤースキルの為せる技であろう。
「でもこれ、一度、モンスター相手に使ってみたかったんだよなぁ! ハハハッ、トラブルに感謝か、コレェ!」
「なんかもう、変なテンションになってない? やっぱ、爆発って、人を変えちゃうんだぁ……。そろそろお玉で戦うの限界なんだけど」
「門松の余りの竹が残ってるだろぉ。槍にでもするっきゃないだろ!」
「ええー、戦時中かっての」
もともと神職でも何でもないプレイヤーに過ぎない彼らの言動は荒いものであったが、自分たちの居場所と定めたところをそう簡単に諦められないのだろう。
愚痴を吐きつつも、その願いは必死そのものであった。
と、そこへ、門松型の臼砲とはまた異なる爆発が、戦局を一変させる。
「入り口側? まさか、ふさがった霊峰を切り開いたやつが居るの!?」
「お待たせしましたーっ!」
洞窟寺院跡の雪崩でふさがった入り口が、勢いよく吹き飛んで、詩乃とネフラがすかさず飛び込んできた。
クリスタリアンのクリーミーなグリーンの髪をした美女と、そして黒髪の、それは、本物の気品を備えたそれは、
「本物の巫女さんだぁーッ!!」
取り合えず場の空気は盛り上がった。
ネットの資料を頼りに見よう見まねで再現した巫女装束と比べ、今の詩乃は祭具まで身に着けた完全戦闘用、戦巫女スタイル。
その完成度、立ち居振る舞い含め、他とは一線を画す。
神社勢と、相対するバグプロトコルとの合間に滑り込むようにして駆けつけるその姿すら、あまりにも着慣れている。様になっている。
感動と言葉にならない悲鳴で、口を抑える神主と巫女さんたちを差し置いて、後続のプレイヤーたちも次々と下層から乗り込んでくる。
この状態でもかなり勝機が見えてきたが、相手はバグプロトコル。猟兵が相手をせねばなるまい。
「お守りをお借りしてもよいでしょうか?」
「は、はい、こんなんでよければ!」
「ネフラさんも」
「ああ。破壊の美は理解できるが、限度を超えては無作法というもの。
彼の者には指導せねばなるまい」
このダンジョン産の素材で作られる『家内安全の御守』は、名前以上の効果がある。
このダンジョンから変質したバグプロトコルの使うあらゆるデバフなどを無効化できるからには、利用しない手はない。
「先陣を切る」
「はい、守りは考えなくてもいいですよ」
「頼もしいな」
残光を引くネフラの鋭い踏み込みが、敵集団を分かつ。
刺剣の柄頭に結び付けたおまもりの小さな鈴がちりりと鳴ると、【染血散花】を描く切っ先が分かったところから血の花を咲かす。
淡い色使いのその後ろ姿を、鮮やかな極彩色が激しく彩ると、渦中のネフラに向かって一斉に魔法攻撃が行われるが──、
「今より此処を桜花舞う佳景といたしましょう。──【花嵐】」
靡く髪に追従する風の如く、燐光を帯びた花弁を引く巫女装束が一人。
その祭具のあちらこちらが光を帯びた花弁、花嵐を描いて、バグプロトコルの構築する魔術のあらゆる効能を、魔法陣をも浄化し打ち消していく。
驚くべきは、疾風と共に吹き荒れる血風の中ですら、舞を踊るように優雅な足運びは、その紅白の装束の一片とて血で汚していない事か。
「さて、最低限、攪乱はできたかな?」
「これはむしろ、ちょっとした攪拌では?」
味方、主にプレイヤーへ向けた結界術などの防御方陣を組みつつ、ネフラの背を守る様に立ち回るその戦いっぷりは息が合っていた。
そのついでにふと目に入ったのは、寺院跡の壁をすっぱりと切り裂いた傷跡。
超巨大なスプーンで掬い取ったかのように、綺麗に山頂まで削り取ったその痕跡は、実にいい具合の坂道にも見える。
山頂へ至る坂道、なんと具合がいいのだろう。
「神社ご希望と有れば、事後に往流坐葦牙神社の分社を建ててもいいかもしれませんねー」
「ああ、分社建立の暁には御来光を拝むも良いね。詩乃の運気を分けて頂こう」
だがひとまずは、ここいらの安全確保をゆうせんである。
意気込みも新たに、二人は現状の敵らへと向き直る。
その気勢は、間違いなくプレイヤーたちにも伝播するものであろう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ユリウス・リウィウス
『天帝騎士団』の連中は、何だってこの世界に現れるんだ? ブルーアルカディアはオブリビオン・フォーミュラが健在だろうに。
まあいい。『家内安全の御守』をくれ。ちょいと奴らを片付けてくる。
龍玉に念を送って、スフィを喚び出そう。エレメンタル・ファンタジアで、ちょいとあいつらを薙ぎ払ってくれ。
帰ったら、いっぱいいいことしてやるからな。
状態異常に特化したような連中だな。まともにやり合いたくない手合いだ。そこでこの『御守』か。
バグが使えなくなれば、大したことのない奴らだな。
女房の術で、跡形もなく消し飛ばされろ。
さてと、せっかくだ。二人で初詣出来る場所は残ってるか?
願掛けするくらいの時間はあるだろ?
びょうびょうと、乾いた風が吹き込んでくる。
洞窟をくりぬいて寺院とした過去の者たちが、この洞窟寺院跡の惨状を見れば、さぞ嘆くことだろう。
最奥の祭壇ごと、山頂へ至る道から先が、超巨大なスプーンでも使ったかのように削り取られていた。
山頂への近道というには、あまりにも雑で、それを可能とするならば、恐ろしく強力な兵器の爪痕であった。
空に島の浮く、あの世界であれば、これもかなりの脅威となろう。
だからこそ、とユリウス・リウィウス(剣の墓標・f00045)は不可思議に思うのだ。
「『天帝騎士団』の連中は、何だってこの世界に現れるんだ? ブルーアルカディアはオブリビオン・フォーミュラが健在だろうに」
天帝騎士団は、ブルーアルカディアにかつて存在した屍人帝国の一つ。そして、その王、冬のアスタルシャは過去の大戦で猟兵たちの手により倒された筈である。
ただ、麾下の騎士たちは、その旗頭を失ってなお、王の意を忘れまいとしているようだ。
ここにあの蒼穹は無い。あろうことか、電子の海の中に、何の因果で現れたというのか。
灰色の雪、全身を無数の天使核に覆われたようなあの威容を、容易に忘れることなど不可能だ。
雪山の洞窟のせいか、それとも再びまた懐かしい名を聞いたためか、底冷えのするような恐怖ともの悲しさを思い出さずにはいられない。
だが、今は、オブリビオン……いや、バグプロトコルと成り果てた騎士崩れを倒しに行かなくてはなるまい。
ずずん、と洞窟内を震動が響く。
「っしゃあ、禁断の新年砲、二度撃ち! なにっ、こいつでも仕留めきれないのか。なんだぁ、この耐久力はっ!?」
「神主ー、お玉壊れたーっ! 新しいの作るから、防衛ヨロ」
「作れるんなら、もう少しましな武器とか作ればいいだろえーっ!」
セーフゾーンを失った祭壇近くのスペースにて、この場に取り残された状態の、この場所を拠点としていたプレイヤーたち、通称神社勢の者たちが、籠城戦のような状態で、瓦礫を盾におめでたい格好をしつつ、門松型の大砲や豚汁をよそうためのお玉などで武装して戦っている。
なかなかおかしな光景だが、そろそろ様子見をしていないで助けてやらねば、バグプロトコルに敗北するようなことがあっては、彼らのジーンアカウントが危ない。
相手をしているのは、どうやらこの寺院跡に元から出現する人型モンスターのようで、祭祀や魔導士のような法衣を纏った虚ろな目をした敵対MOBに見える。
バグプロトコルとなって、挙動や耐久力がだいぶおかしくなっているらしく、彼らの急ごしらえの武器ではまともにダメージを与えられないようである。
「……まあいい。気になることは、直接問い質せば済むことだ。『家内安全の御守』をくれ。ちょいと奴らを片付けてくる」
「おっ、あんたどっから……いや、助かる。その装備から見るに戦闘職だな! いいぜ、こんな御守りでよけりゃ、好きなだけ持ってってくんな!」
騎士甲冑すがたのユリウスの姿は、珍しく歓迎されるところだが、景気のいい江戸っ子口調で言われると妙にむず痒い気持ちになる。
一応、命がけの筈なのだが、どうしてこうプレイヤーの連中はなんだか緊張感に欠けるのだろうか。
まあ、悲壮感をまき散らしながら辛気臭く戦うよりかはましか。
ボロボロになりながらも懸命に戦う姿はそれらしいだけに、奇妙な温度差を背に、ユリウスは前に出る。
早速、進路を妨害するようにバグプロトコル数体に囲まれる形となるが、
『──』
「む、なんだ?」
ユリウスの取り出した龍玉『スフィアドロップ』に奇妙な違和感。
何かがまとわりつき、変質させようとするそれは、魔術の干渉。
しまった、先手を取られたか!
と思った瞬間、まとわりつく術式が何やらありがたい雰囲気の輝きに吹き飛ばされる。
輝いているのは、雑に首に下げておいた『家内安全の御守』だった。
首の前に下げているのに、後光が差すという奇妙な効果が、このダンジョンの素材で作られた破邪の魔術を発揮してバグプロトコルの干渉を防いでいるようだ。
「状態異常か。やりにくい連中のようだが、早速役に立ったな。あらためて、来てくれ──スフィ」
敵の術を打ち破ったその瞬間に、ユーベルコード【星光奔流】が発動、龍玉に念じた通りに、愛しい面影を象った金髪ショートカットの少女の姿と化したそれが、優しく微笑みかけると属性魔法と自然現象を組み合わせた【エレメンタル・ファンタジア】を放つ。
「ちょいとあいつらを薙ぎ払ってくれ。帰ったら、いっぱいいいことしてやるからな」
はにかんだように笑うその姿は、思い描く彼女とよく似ている。
吹き込む雪嵐が、雹となり、吹き荒ぶそれらがあちこちに打ち付けると、火の手が上がる。
どこかの啓示に示された厄災の一つのような自然災害と化したユーベルコードによる攻撃が、バグプロトコルを一斉に薙ぎ払っていった。
「バグが使えなければ、この通りか。大したことはないな」
運良く生き延びた相手を双剣で斬り伏せつつ、ユリウスは周囲を確認する。
そろそろ龍玉の制御できる時間に限界が来るか。
名残惜しげに明滅する少女の面影が、徐々にその形を保てなくなる。
それが崩れてしまう姿は、見るに忍びない。
その手を掴み、優しく口づけると、少女の姿をしていた何かは、輝きを失い元の龍玉へと戻っていった。
「せっかくだ。二人で初詣出来る場所は残ってるか?
願掛けするくらいの時間はあるだろ?」
「ちょっとした修理は必要だと思うけど、まあ、なんとかなるんじゃねぇかなぁ。今までも何とかしてきたからなぁ」
相変わらず、神社勢の者たちはどこか楽観的で、門松を担ぐ姿は堂に入っているものの、緊張感がない。
この後には、恐らく強敵が待っている筈だが……。
それをどうにかしない事には、修理どころではないのではないか。
苦笑と嘆息。
次に向かうべき場所を、静かに見つめるのだった。
大成功
🔵🔵🔵
政木・朱鞠(サポート)
確かに集団相手の対応は厄介だけど悩む時間が勿体ないし、困っている人をほったらかしにしてたら、あっと言う間に未来が過去に喰い潰され無いように、今は目の前のターゲットを倒すことに集中しないとね…。
死ぬこと以外はかすり傷とまでは言わないけど、ここで退くわけには行かないよね。
戦闘
相手は多勢…手数で押し負けないようにしないとね。
武器は拷問具『荊野鎖』をチョイスして、『咎力封じ』を使用して動きを封じて、【鎧砕き】や【鎧無視攻撃】の技能を使い【傷口をえぐる】でダメージを与える戦法を取ろうかな。
アドリブ連帯歓迎
びょうびょうと風が吹き込む、洞窟寺院跡。
そこへ取り残されたプレイヤーたちを、バグプロトコルが襲う。
応戦しようにも、彼らはいわゆる新年を祝うための装備しかない。
それもその筈、この場所はかつて、彼らプレイヤーが一度は制圧し、セーフゾーンを設けて敵性MOBが入り込まないようにしていた。
多額の資金投入の甲斐あって、洞窟寺院跡の祭壇の間は平和だった筈。
しかしながら、とある騎士の装いをしたバグプロトコルの出現によって、祭壇の間は山頂へと向かう道を一直線に空けられ、破壊されてしまった。
セーフゾーンごと破壊され、今や寒風とモンスターの入り込む場所へとなった祭壇の間は、新年を祝うために集まったプレイヤー、通称神社勢が頑張って攻防を繰り広げていた。
普通の相手ならばひとたまりも無かったところだが、彼らが初詣用に配る予定だった『家内安全の御守』は、このダンジョンで作られた影響か、この地におけるバグプロトコルのデバフを無効化する驚異的な性能を秘めている。
このご利益が働いているうちはなんとか戦えているかもしれないが、忘れないでほしい。
彼らの装備は本来の仕様ではなく、正月花火用の新年砲や、豚汁用のお玉などといった、武器としては最低限の性能しかない。
以上、解説終わり。
そんなこれまでのあらすじをぱぱーっと把握した政木・朱鞠(狐龍の姫忍・f00521)は、世のため人のため、人知れず、悪を断つ。
この洞窟寺院跡に本来登場する敵性MOBが変質した形のバグプロトコルは、いずれも人型を模しており、GGOのロールを借りるならば、彼らはかつてこの寺院に人の出入りがあった頃の高僧であったり、魔術師であったりしたらしい。
「ふぅん、するっていうと……禁欲的な生活に、私はちょっと刺激的なんじゃないかしら?」
ボロボロになった洞窟寺院跡の様相と、ちょっと不似合いな和風の出店の数々をわき目に、なるほど、これらを守りたくて、こんな危険な場所と成り果てた場所に籠城しているのか。と嘆息する。
忍者が前に出て戦うなんて、本来はやるこっちゃない。
だが、初詣のイベントが潰されたのは痛ましい。
一肌脱いでやるべく、朱鞠は手の内に拷問具『茨野鎖』を引く。
棘状のリベットがいくつも穿たれた禍々しい鎖が、手首の捻り一つで生き物のようにうねり、鎌首をもたげるように撓い、敵性MOBにに襲い掛かる。
『──』
何か魔法を唱えたのか、不可思議な魔法陣を展開するバグプロトコルに、手元に違和感を覚える朱鞠。
相手の手足に絡みつく鎖の引っ掛かりが甘い気がする。
相手は法衣のような服装だというのに、棘がうまい事、はまっていないのか。
いや、そういう補助魔法で自己強化しているのか、或は、朱鞠の攻撃力を下げているのか。
どうやらとことんゲームのような補助魔法で、妨害してくるらしい。
「はーん、こっちを弱めて、やらしいんだ~。じゃあ、もっとこっちを見てみなよ。サービスしてあげるからさ?」
相手がこちらを見ているならば、これ幸い。とばかりに、鎖で複数のバグプロトコルを引き付けざまに、視線を集めるとあざとくポーズをきめながら投げキッス!
『っ──!』
何かを投げつけるならば、それは即ち忍者の武器である。たとえそれが、投げキッスであっても同じこと。
【忍法・投げ恋菱】を受けた! と感じた時、それがプログラムで出来た何者かであったとしても、その心臓はときめき、そこから荊の棘がその身を引き裂く。
本来の行動とは異なる、バグという咎を得ているならば、尚の事鋭く。
「やっぱり、ちょっと刺激的過ぎたかな?」
倒れ伏し、光となって消えていくバグプロトコルを見回すと、周囲からも歓声が上がる。
どうやら、プレイヤー側がこの場所を勝ち取ったらしかった。
ひとまず、彼の騎士の登場により変質したバグプロトコルは全滅させたようだが……。
のこすは、あの騎士のみ。
成功
🔵🔵🔴
第2章 ボス戦
『蒼き白雷のデミトリウス』
|
POW : 蒼天砲剣“|白雷《キュアノエイデス》”
自身の【魔力を装填した砲剣】でレベル×100km/hで飛翔し、射程無限・直線上の全てを切断貫通する【雷光の斬撃】を放つ。
SPD : インパルス・イシュタール
【迸る蒼い魔力と砲剣に宿る王の白い魔力】による超音速の【雷撃】で攻撃し、与えたダメージに応じて対象の装甲を破壊する。
WIZ : オーヴァードライヴ・エクスティンクション
自身のユーベルコード5つを装備中の【砲剣】に籠め、24時間、行動毎に[砲剣]から2種類づつ発動できる。
イラスト:カス
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠シルヴィア・スティビウム」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
旅の終わりがあるとすれば、それはどこだろうか──。
銀色の雪の降りしきるあの戦いの中で、みじめな無力感に苛まれたあの時だろうか。
『見事だ……四騎士の長たる私を圧倒せしめる、その名を、聞いておきたい……』
「もう何度も名乗ったよ。どうせお前たちは、無限に蘇るんだろう。あの女王がいる限り」
『蘇るのではない。我々は、あのお方の宇宙から、無限に複製されるに過ぎない。牡羊座の騎士よ。貴公が数多斬り伏せてきたであろう、赤銅の騎士たちも、また私であり、ここに討たれた私も赤銅の騎士ギーラハなり』
「今度のあんたは、いっそう強敵だったよ。真に迫ってたっていう奴だろう? 忌々しい連中さ」
『ならば、また、無限に踏み越えていくのだな』
「……デミトリウスだ。それが、あんたらの帝国を終わらせる者の名前の一つだ」
『フ、フフフ……さらば、デミトリウス。我が強敵よ。また逢おう……』
ちかちかとする銀色の雪の中に、無数の亡骸がうずまっていく。
そんな過去など無かったかのように。
彼らは何の因果で、かの帝国にその身を無限に複製させられるに至ったか。そんなことには興味はないが、ただ、この戦いがいつ終わるのか……王は無事なのか。
それだけが気がかりだった。
全身が重い。
砲剣の使い過ぎで、両耳はおかしくなっているし、左手の感覚はもうない。肺に穴でも開いているのか、いくら息を吸っても、呼吸が整わない。
「アウレリオ……叔父上……どうやら、ここまでみたいだ」
もはや、一歩とて足が進まなくなり、もはや身体中に感じる体温が、周囲の銀色の雪と同じくらいに冷たくなる頃、僕は絶望したのかもしれない。
・ ・ ・
『ううむ、やはり強度に問題がある……現行の冶金技術では、継続戦闘に難があるように思える』
「そうかぁ。アウレリオの知識の中にある物なら、一つくらいは僕の武器にできると思ってたんだけどなぁ。けっこう、知識っていうか、文化に隔たりがあるんだな」
『……君の気持は嬉しい。なれど、お主は剣術も魔術も達者ではないか』
「アウレリオ。君が冗談を言うとは思えないけど、僕なんてまだまださ。星座の名を持つ騎士たちに、僕は一度だって力比べで優位に立ったことはないんだよ。僕と対峙した時、みんなが手加減してくれるのを、知らないとでも思ってるのかい、ええ、天秤座の騎士様?」
『赤獅子殿とならば、よい試合をしていたではないか。万夫不当の剣術家と名高い彼女と渡り合える者を、達者でないとでも?』
「フィオリナさんね。あの人が戦場で勇猛に戦う姿と、僕に稽古をつけてくれる姿が、君には同じに見えるんだな。あの人は、味方に全力を振るえる人じゃないよ」
『どうして、そこまで生き急ぐ。私は、君に死んでほしくないよ。こんなものを作ったとて、君の戦士としての寿命を縮めるだけだ』
「叔父上の力になりたいからだ。もちろん、命を投げ捨てるつもりなんてない。だけど、考えてもみなよ。おb区たちはいずれ、この国に災厄を降り注いでいる元凶とぶち当たる事になる。こんなことができる連中さ。きっとまともじゃない。このまま、ちょっとできる程度のやつが、星座の騎士に肩を並べるなんて、あっちゃいけないんだよ」
「──なら、俺を頼ればいいだろ」
「叔父上!?」
「なんだぁ、変わったモンを考えたなぁ。はぁ、せっかくお前のために剣をこさえてやろうと思っていたんだがな。こういうのが好みか?」
『王よ。デミトリウス卿は、我が故郷を儚んでくれたのです。そして、同時に貪欲でおられる。あらゆる知識から、自分の力に変えられるものを作ろうとしているのです』
「らしいな。なあ、アラン。お前、王にでもなりたいか?」
「違う。僕が頼めば、叔父上はそうするだろう。でも、そうはしたくなかった。叔父上がその力を使う度、不幸が襲う。それに、僕は、僕の力だけで……!」
「はは、お前は本当に可愛げのないところが、可愛いやつさ。たまには叔父らしいことをやらせろよ」
「叔父上!」
『ヌウウッ、これは……! 完璧な出来だ』
「お前にくれてやれるのが、玩具じゃないのが残念だ。だから、訓練で使うんじゃないぞ」
「白い、魔力の奔流……紛れもなく、この武器は、叔父上の魔力が宿ったものだ」
「お前は気にしているみたいだが、アラン。俺はお前の青い魔力が好きだよ。だからなぁ、こいつの名は、キュアノエイデス……『蒼天』というのはどうだ?」
・ ・ ・
『おい、いい加減にしてくれよ』
ごうごうと雪風が吹き荒ぶ、霊峰の頂にて、扁平にならされた大地のようになったその場所に座した騎士デミトリウスは、脳裏に過ぎったヴィジョンを振り払うように声を上げる。
荒れ狂う気圧を遮るものがないこの場所で、その声は周囲に届くほどでもないはずだが。
それでも、まるで幻聴のように聞こえてくる鈴の音は、声に反応したかのようにおさまった。
代わりに、
『気に食わなかった? こういう回想、物語の展開には必要でしょう?』
鈴を転がすような涼やかな少女の声は、果たして誰によるものか。
『走馬灯でも見せているつもりか? おちょくりに来たっていうなら、お前ごともう一つくらい山を吹き飛ばしてもいいんだけどな』
暗雲の中に星を見たかのように、無限に続く雪模様の中をきらきらとした銀色のきらめきが、旋律を奏でるかのように少女の声を象っていく。
『貴重な白硝の欠片を、そんなことに使ってもいいの? 友達がこの世界で残してくれた、貴重な遺品じゃない。大事にしなさいな』
『わからないな。どうして、私兵を使わないんだ? お前なら、無限に作れるはずだろう』
『私が自分の兵隊を使ったら、私がやったことだとバレちゃうじゃない? でも、貴方は天帝騎士団でしょう。都合がいいの。ともかく、貴方は私の話に乗った。そうなった以上は、こうして橋渡しもしてあげたし、有力そうなものは、手に入った訳でしょう?』
『悪いけど、お前を信用したわけじゃない……それから、天帝騎士団の名を、お前の口からは聞きたくないな』
「あらあらごめんなさい。でも、貴方も興味があるんじゃなくて? 神様を作るゲームだなんて、貴方の王様に、よく似ているのではなくて? ウフフフ」
嘲る様な笑いが聞こえた瞬間、デミトリウスは、その肩にかけていた巨大な剣を一薙ぎする。
弾倉に込められた魔力が爆発し、剣閃と化した雷光が空を裂き、雪を降り積もらせる暗雲をも切り裂いた。
それきり、笑い声は消え失せたが、まとわりつくような銀色の煌きは、まだ周囲にいるような気配がした。
『消え失せろ、死神。僕達の敵が、そろそろやってきたみたいだ。邪魔をしないでほしいな』
傍から見れば独り言のような其れと共に、今度こそ得体のしれない気配は居なくなり──、
そして、雷光の迸る騎士、バグプロトコル『蒼き白雷のデミトリウス』だけがそこに居た。
寺院跡のバグプロトコルを片付け、山頂へ到達してきた猟兵たちを、青年の騎士は涼やかな笑みで迎える。
『嘗て、我が王を討ち、我らが同胞を討った猟兵……天使核に匹敵するであろう、その力の源を、所望する』
白い吐息が途切れ、呼気を溜めるのを感じる。
『僕の名は、天帝騎士団、牡羊座の騎士──蒼き白雷のデミトリウス』
青い雷光が全身を迸る。その使い古しの鎧を、青い瞳を、鈍く輝く巨大な砲剣を。
さながらにそれは、青く燃える火のようでもあった。
火と言えば、その手が這う銃把にも似た砲剣の柄に備えられた撃鉄のようなパーツを、デミトリウスは押し上げる。
『──|点火《イグニション》』
ユリウス・リウィウス
ああ、あんたが『天帝騎士団』の残り物か?
まあ、同じ騎士崩れ同士、楽しくやり合おうじゃねぇか、なあ、おい。
それじゃあ、始めよう。死霊の霧を展開。視界を封じる。
俺は「気配感知」「視力」「見切り」「勝負勘」で霧の中でも問題ないがなぁ。遠距離からの『斬撃』を、霧の中のどこにいるのか当てるのは難しいぞ? その砲剣、あくまで『線』での攻撃なんだろう?
確実に俺を倒したいなら、「恐怖を与える」この霧の中へ入って来いよ。「双剣使い」で相手をしてやる。「生命力吸収」「精神攻撃」の双剣を振るって、追い込むさ。
騎士なら剣で戦わないとなぁ。そうだろ、なあ、おい。
なあ、牡羊座。こんな山を吹っ飛ばして何がしたかったんだ?
「ああ、そうかい……」
山を登り切ると、気流が変わったような気がした。
口をついて出た呟きと共にもれた白い呼気も、その瞬間に巻き取られるかのようにして更に上へと昇って消える。
あれほど降りしきっていた雪が、あれほど吹き荒れていた風が、まるで嘘のように穏やかに、晴れ間と共に山頂の銀世界を陽光に染め上げている。
無論、ユリウス・リウィウスも、暗雲を一薙ぎのもとに切り裂いた一撃を見ていなかったわけではない。
そんなもので物理的に気圧の層が切り取られて消え失せるわけではない。などという理屈は、この際考えない。
この場の空気を感じ取れば、全てに納得がいくのだ。
大気の摩擦を作り出す、湿度と寒気と気流の渦、つまるところ暗雲は全て、こいつを恐れ避けて通ったに過ぎない。
若い、人の目を引くような魅力的な青年だと思った。
だが、それは所詮、見てくれに過ぎぬ。
暗雲を切り裂く暴力を見たからというわけではない。
しかし、目の当たりにすれば、その身の内に比類なき滾りを覚えるのも事実だった。
質素な鎧に、穏やかな表情の中に、包まれているのは、輝かんばかりの暴力。
まさに、名乗る通りの“雷”のような男だ。
まっすぐと射竦められるような重圧に、胸を押されるような気配を覚えつつ、ユリウスは軽やかに嘆息する。
「なるほどな。あんたが『天帝騎士団』の残り物か」
『そうとも。足が遅くてね。置いて行かれた。貴方も、仕える主を持たぬらしい』
ぴり、とすぐ目の前にまで静電気のようなものがはじける気配がする。
踏み込んで数歩。その遠間ですら、あの巨剣は届くというのか。
大技ばかり目にしていたからか、つい獲物の大きさを侮ってしまう。
ユリウスの二刀ならば、その隙を掻い潜れるのではないか。
とんでもない。
初手が浮かばぬ遠間はもとより、踏み込めた先で切り合うにしても、剣が届く未来がうまく浮かばない。
この手合いに慣れている。戦場に立ち続けている。若そうな見た目に騙されてはいけないな。
まさか、騎士を相手に、まっとうに相手取るのが不利に思えるとは、つくづく、あの冬の王に近しいものを感じる。
「まあ、同じ騎士崩れ同士、楽しくやり合おうじゃねぇか、なあ、おい」
『ご期待に沿えれば、嬉しいな』
穏やかな笑みのまま、片手で持つにはあまりに巨大な砲剣へと、魔力が充填され輝きを帯びていくのを見て、ユリウスは舌打ちと共に、ユーベルコードを発現させる。
【死霊の霧】は、死霊術士でもあるユリウスの術の一つ。虐殺された者の怨念を濃い霧として周囲を染め上げる。
黒く冷たい、スモッグのような死霊の霧は、相手を傷つけるだけでなく、その視界を奪う。
『定石だな。魔術の雷でも照らせないみたいだ』
「俺はこの中でも戦えるが、そちらはどうかな?」
山頂の戦闘フィールドを覆う黒い霧。相手が魔法も使うというなら、それで感知できる魔力は、渦巻く死霊のような精神エネルギーに阻害されるはず。
だがしかし、それすら問題無いならない、文字通りの砲台のような武器を持っている相手に、それが通じるだろうか?
そんなものは百も承知だった。
この霧の中ですら、デミトリウスの気配は、特異点のように色濃く感じられる。
隠す気がない程の収束された魔力。雷光。エネルギー。
来る、と思った瞬間には、光が熱を伴って蒼い剣閃となり、横薙ぎに黒霧を裂いていた。
『手ごたえがない。やっぱり、横着はいけないか』
知っていた。それが線の動きにしかならない直線的な攻撃であることは。
しかし、咄嗟に身を伏せていなければ、霧ごと斬り伏せられていたことには違いない。
相手をするなら、霧の中に入らざるを得ないが、そこはユリウスの得意とする舞台。
だというのに、デミトリウスは迷いなく、雷光を纏ったまま霧の中をまっすぐと突っ切って来る。
「くぅっ!!」
とうに抜き放っていた一対の黒剣『|生命喰らい《ライフイーター》』『|魂魄啜り《ソウルサッカー》』で、それを受けるしかなった。
「こっちの位置を、わかってやがったな!」
『動いたからね。霧の中でも、動くのは貴方だけだ』
「なら、そこへ斬撃を飛ばせば済んだ話だ」
『こっちにも制約があるのさ。それに、こっちのほうが好きだろ?』
眩いばかりに青い雷光を纏う、デミトリウスの剣は、その一撃が重たく、片手で受けるにはいささか辛いところがある。
しかしながら、巨剣ごしに笑みを浮かべるその表情に、ユリウスは思わずつられる。
「ふ、騎士なら剣で戦わないとなぁ。そうだろ、なあ、おい」
暗闇の中で、お互いの表情など、ほとんど見えない筈だ。
だがそれでも、経験と勝負勘、積み重ねてきた術の理に、国籍や育ちはそう大差ない。
洗練された技術は、言語や理解をも飛び越えて、嵌る部分に収まる。
死霊の霧、そして魂を啜り、命を喰らう黒剣と切り結ぶだけで、確実にデミトリウスは削り取られているはずだ。
打ち合うだけで有利。
その筈だが、押し合い、へし合うような斬り合いに、お互いに空を裂くような呼気のみを気勢に乗せている事に、どちらが有利とも言い切れないのは、相手が強敵だからか。視界が利かないからなのか。
若くして、こうまで死に物狂いの剣を卓越の領域にまで引き上げた事情。そんなものに興味はない。
ただ、命の取り合いをしている、あさましい斬り合いの中で、無風を感じる程に研ぎ澄まされていく、その瞬間が、ユリウスの乾いた道のりの中で、血の滾りを覚えずにはいられない。
ヴァンパイアの冷たく熱い血潮などではない。己自身と、迷わずに言える、命の熱さ。
潤いを覚える。自身の血だろうか。
それすらも薪に、命を燃やしている。
このひと時が、
手に甘く痺れを齎す、この時間が、
遠い友人と昔語りをしているかのような、居心地の良さを覚えるのも事実だった。
疾うに、そんなものには、疲れ果てていたろうに。
「ハァッ……ハァッ……」
『カ、ハッ、ぐ、ううぅ……』
地を滑るような足音が、がりがりと下がる気配と音と共に、張り詰めた空気がわずかに弛緩するのを伝え。
鳴りやまなかった剣戟にいかれかけた聴覚が、お互いの荒々しい息遣いと、早鐘を打つ己自身の心拍を思い出させる。
周囲の凍り付いたような岩肌と抉れた土、踏み荒らされた泥のような雪は、相変わらず寒々しいというのに、玉の様な汗が吹きだす。
何発入った。何発、入れられた?
喉の奥が粗い息で乾き、頭が下がろうとする。考えを放棄しようとするのを、理性が押し戻す。
無理やり整える呼吸が、ユリウスとデミトリウスに、獣のような低い呻きを吐かせる。
「なあ、牡羊座。こんな山を吹っ飛ばして何がしたかったんだ?」
『ここに、倒すべき敵がいると知れれば……あなた達のような者が来るだろう』
「建前だろう?」
『そうかもしれない……そうさ。ただの、憂さ晴らしっていうのもあるかな』
若い騎士の、その気配が再び増大するのを感じる。
燃える。その気配を感じながら、ユリウスもまた、息を整え、肩の調子をみる。
なんだっていい。もう一度、打ち合えるなら。
「なら、もう少しだけ付き合ってもらうぜ」
『嬉しいなぁ……!』
大成功
🔵🔵🔵
ミランダ・モニカ(サポート)
『アタシに任せな!』
『アンタの人生を面白おかしくしてやるよ!』
煙管(仕込み銃)のヤドリガミ
戦場傭兵×クレリック、71歳の女
口調は「アタシ、呼び捨て、だね、だよ、~かい?」
あらゆる世界に関わり人脈とコネを結ぶ事を目的に突撃猟兵してるよ
傭兵として闘い、シスターとして祈り、義賊としてお宝を奪う
一番大事なのは義理人情さ
何事もプライド持ってやるよ
戦闘は徒手空拳メイン
銃で補う
カードは不意打ち
UCは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動するよ
一般人にも他の猟兵にも迷惑をかける行為はしない
依頼成功のためでも公序良俗に反する行動はしない
後はお任せ
アレンジ連携歓迎
宜しく頼むよ
一面の銀世界。
霊峰と名高い。というか、そう名付けられて久しい、という設定のダンジョンのその頂上に、今は日の光が差す。
ゴッドゲームオンラインのダンジョンの、その設定の中では、この霊峰の山には悪鬼が住まい、その巨大なオーガが霊峰に吹雪を巻き起こしていた。
雪男とも、雪山に挑み続けた修羅とも噂されていたオーガと、長年戦いを繰り広げ、討伐はできずとも、その怒り、猛りを鎮めることで、霊峰の吹雪は大厄災には至らない。
いつしか、霊峰の頂上へ至る洞窟には寺院が構えられ、多くの修験者がオーガに挑み、散っていったとも言われている。
今や伝承を残すのみであり、洞窟の寺院もその名残を残すのみ。
オーガの正体は、そこへ至ったプレイヤーによって解き明かされるのを待つこととなっていた。
筈だったのだが。
盛大なレイドバトルを想定されていた筈のオーガの正体は、この世界に流れ流れ着いたバグプロトコルの手により、その地形ごと消し飛ばされてしまった。
オーガそのものも、そして吹雪を呼ぶという伝承も、霊峰の頂上ごと……。
少年の面影を僅かに残すが、歴戦を思わせる煤けたような鎧を着込んだ青年。
だがしかし、ミランダ・モニカ(マザーズロザリオ・f05823)が目にしたところ、それは一瞬で納得に足りた。
なるほど、霊峰両断伝説とは、この若者の事。
『ご老体、それ以上先に進むことは、おすすめできない』
本来は心優しいのであろう、その青年──バグプロトコル『蒼き白雷のデミトリウス』が、鋭い視線を送る。
老体というのは気遣いか、それとも侮りか、迷うところだった。
ミランダは己の年の功を利用することはあっても、自らを年寄りと思ったことはないからというのもあった。
しかしながら、本来の温和さと同時に、こちらを十分に警戒して、その身の丈ほどもある巨大な砲剣を構える姿には、迎え撃つ仕草も十分に感じ取れたからだ。
「なんだい、お若いの。そんな身空でシケた顔を、おしでないよ」
『まるで聖職者のような事をおっしゃる』
「見えないかい? アタシゃ、これでもシスターだよ」
『なるほど。しかし、それというには、戦の匂いをさせ過ぎている。この場所に巡礼の儀式は、潰えて久しいと聞くけど……それが目的では、ないのでしょう、シスター』
腰だめに、重たく構える拳。無手にて、その両の拳を構えるのみで、年嵩と共に積んだ筋肉と上背は、重たいと評するに値する。
対して、かしこまる様な口調に反し、涼やかな笑みと共に、巨剣で迎え撃つ姿勢。
「ミランダだ。名乗んな、風来坊」
『今は、ただの、デミトリウス……!』
遠間にて、いや、狩りに肉薄したとて、あの巨剣を素手で貫くことは難しい。
しかしながら、不可能を可能にするのが、依頼を請け負った傭兵というべきもの。
どの間合いにいたとしても、あの砲剣と呼ばれる武器は、すべてを貫く雷光を発して、風景ごと切り裂くだろう。
霊峰両断伝説は、決して誇張ではない。
だが、どのような行動にも、起こりと言うものがある。
素手で真正面から立ち向かうしかないと、その馬鹿正直さを、真に受けるバカは存在する。
なぜならば、彼は騎士だからだ。
あらゆる外道も、非道も、真正面から突き崩せるという自負がある。
驕りを貫き通せるほどの自負が、盛り上がるミランダの体格の、その半身に構えた影に隠れた拳銃の不意打ちを、剣閃の僅か手前に挟み込まれた。
『なん、と!?』
「付いてこれるか、小僧ォ!!」
僅かな、ほんのわずかな、銃弾一発分、それだけ切っ先が逸れたのみで、身を翻しながら吶喊するミランダは雷光をすり抜ける。
だが、そこは歴戦の騎士デミトリウスも、拳の間合いに入る前に切っ先を修正、改めてミランダを迎え撃つ。
琥珀炎のオーラを纏いながら打ち込む拳と、デミトリウスの巨剣の刃が肩を斬り付けるのは、ほぼ同時。
「ぬううあぁ!!」
『く、なんという、気迫……!』
お互いに弾かれつつ、しかし山をも両断しかねない一撃を、拳一つで攻略して見せたこの一合は、十分に驚嘆を買った。
ただし、ミランダの片腕はだらりと下がっていたが。
『シスター・ミランダ。今は、その肩書が信じがたい』
「なんでシスターなんかやってるかってぇ? 人生を楽しむためさ。アンタの人生も面白おかしくしてやるよ!」
成功
🔵🔵🔴
大町・詩乃
【神社猫】
とても速くて強そうな騎士様ですね💦
ネフラさんならともかく、私では付いていけなさそうです…💡
付いていけないなら、向こうから来てもらいましょう。
水の属性攻撃・結界術・高速詠唱により絶縁体である『純水の防御壁』を展開。
武器巨大化した天耀鏡による盾受けと合わせて【雷撃】を防ぎましょう。
その上でネコミミを装着し、第六感・心眼・見切りでタイミングをとらえて「こっち来るニャン♪」と【猫招きの術】発動。
予想外の干渉で態勢が乱れた所をネフラさんに攻撃して頂きます。
勿論、私も多重詠唱・高速詠唱・神罰・光と雷の属性攻撃による極大の神雷を招来。
スナイパー・貫通攻撃でデミトリウスさんを撃ち抜きますよ!
ネフラ・ノーヴァ
【神社猫】
騎士殿、蒼き白雷か。ではこちらは宝石人の剣士、赤き白脂とでも名乗ろう。
先制、電激血壊を発動、剣には剣を。速さを競い合わせる。
しかし此度は一対一の決闘ではない。詩乃の猫招きで生じた刹那に有効打を狙う。
次いで詩乃が攻撃をしやすいよう挑発して動き回る。
首尾よくいけば詩乃の可愛らしい作戦を評しよう。
冒険者らにもネコミミ巫女は好評ではないかな?
かつて、ここには伝承があった。
メタいお話をすれば、それはレイドバトルのための、いわばこの霊峰の頂に君臨していたボスモンスターの設定なのだが、そんなものは、山ごと吹き飛ばされてしまった。
曰く、吹雪を呼ぶイエティ。
曰く、京都は大江山に住まうあの有名な鬼によく似たオーガ。
曰く、雪山なのに朱雀だったり、世界の始まりからいる霜の巨人。
憶測は、憶測の域を出なかった。
だって、レイドに挑むプレイヤーの攻略情報も、スクショも、何もかもがご破算になる出来事が起こってしまったのだ。
吹雪の中で、巨大な正体すらつかめないボスキャラと、継続ダメージと凍結状態をなんとかしながら対処しなくてはならない。
だがしかし──、抉られて平らかになった扁平な稜線にわずかな名残を残すばかりの山頂には、レイドボスはおろか、このステージギミックであるはずの猛吹雪すらも、暗雲ごと無くなっているのだ。
一面の銀世界の中で、ぎらぎらと陽の光を照り返す雪原と氷塊の輝く中で、いっそ、その青年はみすぼらしくすら映った。
実戦を長く長く、装備がくたびれて交換すらおぼつかなくなるほど続けたらしい歴戦を示す煤けた装備と、そうは思えぬほど状態を保った巨剣。
天帝騎士団の手には、常に、かの冬の王から賜った幻想武装があるというが、もしそうならば、拳銃のようなシリンダーを備えた異形の剣こそがそうなのだろう。
だが問題なのはそれだけではない。
目の当たりにするだけで、静かに気さくにすら見える自然体の立ち姿ですら、内蔵する存在感の、その密度を感じる。
迸る蒼い雷が、周囲に火花を咲かせる。
あふれ出る魔力の余剰が、彼自身の秘めたる力を示しているかのようだった。
「強敵だな」
「あんなに巨大な剣を、軽々と……見た目以上に、素早く、そして強そうです」
【神社猫】の名のもとに集った二人、ネフラ・ノーヴァと、大町詩乃は、その存在感の重みに既視感を覚える。
なるほど、確かに、あの騎士団の圧力を感じる。
清廉な気概とは裏腹に、その存在は、世界をも破壊してしまいかねない。
正攻法で真正面から、というには、騎士と言うものほど厄介なものはいまい。
その為だけに邁進し続け、いかなる非道をも、同じ土俵に上げてしまう。正道の怪物。
まして、彼が手にしている砲剣と真正面から正対しようものなら、この場所をくりぬいたのと同じように、焼かれてしまいかねない。
猟兵なればこそ、といいたいところだが、ここは一計を案じなくてはなるまい。
「ネフラさんならともかく、私ではついていけなさそうです……」
弱気に肩を落とす詩乃だが、直後にぴこーんと何かを思いついたかのように手を打ち、おもむろに袂からネコミミカチューシャを取り出し装着。
『それは、こちらの油断を誘っているつもり?』
「いえいえ、こちらの事はお構いなく」
小首を傾げるデミトリウスに構わず、詩乃は猫耳を装着したまま結界術を展開。
高速で組み上げられる水の結界は、雷を扱うデミトリウスに対しては愚策かに見えるが、巨大化させた天耀鏡で防御を固める姿勢を見せると、デミトリウスが鼻を鳴らす。
『アウレリオに聞いたことがある。不純物一切を取り除いた純水には、電気は通らない。それも一種の絶縁体であると』
「よくご存じですね。さすが、この属性は専門なのでしょうか?」
『やれることが少なくってね。いろいろ勉強したもんさ。君は……お世話になった人に、似てるな。神事を司る役割なんだろう? ……貴女方の神に、その花を手折る無礼を許してほしい』
巨剣から迸る白の雷。デミトリウス本人から沸き立つ青い雷。
高密度の魔力が織り上げる雷は、果たして自然発生による雷に勝るものだろうか。
あろうことか、ここでも彼は、詩乃の防御膜を、真正面から突き破ろうという構えのようだ。
「待たれよ、騎士殿。詩乃は、あー……今回は応援だ。貴様の相手は、私が勤めようではないか。及ばずながらな」
その前に、ネフラが立ちはだかる。
ふわふわと綿毛のように積もった雪が、吹き抜ける風に乳白色を含む緑の髪を揺らすとともに舞う。
抜き放つ刺剣の切っ先が、まっすぐとデミトリウスの方へ向く。
『ずいぶんな名乗りもあったものだ。しかし、その傲慢さも、実力に裏打ちされたものとみれば、納得できる』
「光栄だな。騎士殿、蒼き白雷か。ではこちらは宝石人の剣士、赤き白脂とでも名乗ろう」
『僕に合わせてくれなくてもいいんだけどな。……ならば、王の白雷、見せよう!』
加速するのはほとんど同時。
爆裂するような踏み込みで、足元の氷塊と化した地面が砕け、爆ぜる。
【電激血壊】により浮かぶ超電導性の血紋。体内電気の流動速度を極限まで高め、圧を、流れを、神速の域にまで至らしめる。
白い陶器の如き肌や、玉髄のような瞳に赤熱したかのような流動する血液の赤が浮かび、銀糸の如き刺剣の切っ先が跳ねる。
『──、』
「っ! ふっ!」
声ならぬ声、呼気の鋭さのみが、内なる雷と、迸る二色の雷光との狭間で交錯する。
弾ける火花は雷撃による空気の擦過によるものか、剣戟によるものか。
沸騰し、蒸発しかねない血液。いや、或は、気体を越えてプラズマ化しているのかもしれない。
極超音速の剣が、体格さ、重量差を埋めて、技巧の合間に揺れる。
かち合う戟の音色は、もはや金属のそれではなく、打ち合う金属から漏れ出る技巧の余波が衝撃となって、周囲の雪原を弾き、爆ぜる。
『これほどの、技、速さ、今までに出会ったことがなかったな……だが、引き下がるわけにはいかないんだよ……! |点火《イグニション》』
「来るか──!」
激しい打ち合いの最中に、砲剣の撃鉄が押し上げられる気配。
空気の密度が増して、質量すら感じるような重圧は高まる一方だが、そこへ──、唐突に気の抜ける声が差し込まれる。
「こっちに来るニャン♪」
『っ!?』
それは、この場において、まったく意識の外側に逸れていた、詩乃による、ちょっと恥ずかしげな鳴き声、いや、萌え声、ASMR? まあとにかく、それだけで気が抜けるような騎士ではない。
意識が削がれたのは、詩乃の声と共に発生した、【猫招きの術】により掻いた空を削り取るその一手。
それにより削り取られた時限断層が、間合いに致命的なずれを生じさせた。
そのずれは、攻撃を修正する一瞬の隙を作るに十分であった。
「手の内は、こちらにもある──、雷電の如き神速。これぞ、力」
度重なる打ち合い、歴戦ながら傷一つない幻想武器。そんなものと打ち合っていたネフラの剣の切っ先はついに折れてしまう。
が、もとより彼女の剣は、いくら折れても再生する。
極限まで体内電気を収束し、その瞬間に切っ先に集まった超電導は、折れた切っ先をレールガンの如く射出せしめる。
『チィッ、其方が本命か!? だが、受けて見せる!』
砲剣の魔力が、山を断つ膨大な雷光が、超電磁砲とかち合う。
拮抗する輝き、迸る雷光。
みしりみしりと、軋む足元。姿勢を維持する他に何もできなくなったところで、今度こそ、デミトリウスは己の敗北を悟った。
『……やられたな。最初から、この状況に持ち込むのが策だったわけだ』
彼は今こそ、頭上に雷雲が渦巻くのを見た。
詩乃は、最初から防御に徹していた。それと共に、一撃を加える準備もしていたのだ。
その本性は神であり、超自然的な通力を用いて、神の御業を繰る。
そうしてネフラのタイミングに合わせて、神雷を落とす算段だった。
「いいえ、そこまで止められるのは、計算外だったんですよ」
『そうか。じゃあ、僕の勝ちかな?』
「……いいえ」
『参ったなぁ』
そして、曙光のような輝きを何倍にも一瞬に留めて増幅したかのような、まぶしい閃光が周囲を照らしたかと思えば、一切の音が置き去りにされた。
吹き荒ぶ風も、岩塊や氷塊が砕け散る音も、騎士がその剣を取り落とす音さえも。
最後まで足掻き、そして騎士はついに、天を仰ぎ見るかのように立ち尽くし、やがてその人影も、雷光の彼方に掻き消えた。
そして、風の音色が耳朶に帰ってくる頃、立ち尽くしていたままの猟兵たちは、誰かの歓声で我に返る。
敵の圧力はもはや感じない。
そこには、穏やかに晴れた、常よりも低くなった霊峰の白い世界だけが佇み──、
バグプロトコルの消滅を喜ぶプレイヤーたちが、どかどかと押し寄せる騒がしさが、白い静けさを忘れ去れるかのようにやって来るのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 日常
『拠点を作ろう』
|
POW : 拠点設置型の武装を多数建造し、特殊クエストに備える
SPD : 生産設備を強化し、建築や合成の効率をアップさせる
WIZ : 自分好みの素敵な空間を作り上げる
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
バグプロトコルは去った。
しかしながら、彼の者が残した傷跡は、その消滅を確認してもなお、まざまざと残っている。
霊峰はその登頂を蒸発し、消し飛ばされて、扁平な台地を残すこととなり、その手前の洞窟寺院跡は、相変わらず風通しがいい状態になってしまった。
セーフゾーンは破壊されたままであり、遠からず、こちらを拠点としていたプレイヤーの苦労は再び訪れることとなろう。
しかしながら、彼らを長年悩ませていた目の上のたんこぶ、レイドボスの存在もまた、消し去られた状態であるため、周囲の安全はひとまずは保障されているとも言える。
「いやぁ、しかしまぁ、綺麗に吹っ飛ばされたもんだなぁ。いい見晴らしだよなぁ」
いち早く、丸裸になった山頂の、さながら決戦のバトルフィールドめいた大地にくり出したのは、通称神社勢と呼ばれるクランの責任者と思しき、神主姿のコスプレのプレイヤーであった。
雪山のてっぺんなので、防寒装備として毛皮のストールつきの上着を羽織っているせいか、成人式で暴れるよろしくない新成人めいた変な迫力がある。
「ねー、神主ー。いっそのこと、拠点こっちに移さない? ここって、マジいいポイントだと思うんだよね。ほら、神社とかおっ建てるのにさ」
神主と共に寺院跡で籠城戦に駆り出されていた巫女装束のプレイヤーは、巫女にあるまじき口の悪さだが、生産ビルドで戦う羽目になった肝っ玉ゆえのものである。
その提案に、神主は表情を明るくするのも一瞬の事。すっかり弾切れの門松型花火射出兵器、新年砲をどっかと雪原に下ろすと、難しそうに腕組みして首がねじ切れんばかりに懊悩する。
「うーん、しかしなぁ。この騒動で、我が神社勢の私財は、めでたくすっからかんなんだよぉー。今年は景気づけに一杯用意しちゃったからなぁ」
「まあまあ、少しずつでもやろうよ。ちょーっとばかし、クソ寒いけどさ」
「うーん、そうだな。それと、巫女ちゃん。巫女さんがクソなんて言っちゃダメだぞ」
そんな二人のもとへ、駆けつけるのは、新年イベントを楽しみにしていた他のプレイヤーたち。
「助けに来たぜ、みんなーっ! って、もう終わってんのか! あー、悔しいなー、俺が居たら、あっという間に解決してたろうになー、もーなー!」
「お前、バグにビビってただろ。山が燃えて一番騒いでたじゃねぇか」
「それよか、神社勢、ここにセーフゾーン作るんだって? カンパすんよー!」
「俺も俺も、毎日来るよー、巫女ちゃんに会いに」
新たな冒険、新たなバグ。それらにもめげず、この楽園のようなゲームにのめり込むプレイヤーたち。
猟兵である君たちは、そんな彼らのささやかな営みに、ちょっぴり貢献してあげてもいい。
ユリウス・リウィウス
妻のスフィ(f02074)と
黒のロングコートに黒のスラックス、黒ブーツで。
妻の晴れ着を褒めながら、一緒に並んで明るい建築作業を見守る。
ふん、元気なことだなぁ、なあ、おい。
人手を提供しようと思えば出来るが、神社に死穢はまずかろう。俺らは、休憩所で完成を待つとするか。食えるもの、何か残ってるか、なあ、おい?
ふん、スキットルに酒を入れてきてよかったぜ。
一口呷って、スフィに口を向け飲むか尋ねる。言っておくが、強いぞ、これ。
早回しのように神社が出来ていくな。仕切ってる巫女の差配が上手いのかね。
完成したら、月遅れの初詣だ。願い事はもちろん、今年もスフィと楽しい日々を送れますように。これしかねぇだろがよ。
リリスフィア・スターライト
夫のユリウス(f00045)と。
バディペットの銀猫のリンフォースとも一緒だね。
私は白いコート姿でかな。
一緒に建築作業を見守るよ。うん、順調みたいだね。
巫女さん達の元気さに負けてはいられないかな。
猫の手も借りたいとは言うけれど、
本当に手伝わせる訳にもいかないし
モーラット呼びも人手にはならないよね。
(銀猫を撫でながら)
ユリウスも撫でてみる?
私も大人になったしお酒を飲んでみようかな。
大丈夫、大丈夫…っと本当に強いお酒だね。
一瞬で身体も温まってきたよ。
でもこれなら飲めそうかな。
神社もうすぐ完成かな。
巫女さんの采配も大したものだね。
私もユリウスと楽しい日々が送れますようにかな。
(銀猫も尻尾を振っている)
戦士の激情、雷雲のような闘気は今や消え失せ、凍えるばかりだった霊峰の山頂には、からりと晴れた天気のもとでエネルギッシュに動き回る者たちの活気で溢れていた。
霊峰で巻き起こったバグプロトコル騒ぎ。憩いの場を目指していたセーフゾーンは崩壊し、モンスターが入り込むようになった。
新年早々、それを祝うイベントの真っ最中だったこのダンジョンは、それはもう紛糾を呼んだものだが、解決に向かう今こそが、お祭りの最盛期と言っても過言ではない。
地滑りと雪崩によって霊峰から締め出しを食らっていたプレイヤーが、今や遅しと押し寄せているのだ。
それで、今は何をしているかというと、バグプロトコルによって形状が変わったままになった山頂に、せっかくだからセーフゾーンを兼ねた社を建てようという話が持ち上がったのであった。
新年も忙しかろうに、そんなことなどお構いなしにプレイヤーたちは持ち寄りの資材や、建築系スキルなどを駆使して、新たなセーフゾーン……もとい、神社勢を中心とした社製作に精を出している。
ごっつい西洋鎧や武者鎧姿、明らかに宗派が違いそうな聖職者やらが、雑多に入り乱れながら、扁平に抉れた山頂の足場を削っては整えて、測量や図案をやりとりしながら、ああでもないこうでもないと意見を交わす光景は、ちょっと異質だが、あの戦いの張り詰めた空気とは全く異なる温かみに溢れている。
てきぱき働く者もいれば、イベントと聞いてただ様子を見に来た物見遊山もちらほら。
ユリウス・リウィウスと、リリスフィア・スターライト(プリズムジョーカー・f02074)もまた、その一団に混じって、新たな建築物が出来上がるさまを見守る野次馬の一角であった。
「ふん、元気なことだなぁ、なあ、おい」
黒いロングコートに黒のスラックス、黒のブーツと、全身を黒で統一したような今の姿は、騎士甲冑に身を固めた姿よりもいっそのこと黒騎士っぽいが、これまでの戦いに貢献した姿とは似つかない。
つまりはまぁ、妻と一緒に完全に観戦モードで休憩スペースに陣取っているだけなのだが、
「手伝ってあげなくていいかな?」
「ああ、しかしなぁ……」
リリスフィアは、いつも一緒の銀猫リンフォースを白いコートの胸元にだっこしながら、ユリウスの顔を見上げる。
ユリウスとしても、人手を提供するのは吝かではないものの、彼が扱える人手というのは死霊術士によるアンデッドだったりするので、ちょっと縁起が悪いのではないかと懸念してしまう。
困ったように笑う姿は、戦場の厳しいユリウスの表情とは明らかに険が入っておらず、穏やかなものだった。
しかしながら、神社勢という連中は、それなりにイベントを続けてきたためだろうか、なかなか他のプレイヤーたちにも愛されているらしい。
ほとんどは物見遊山のプレイヤーばかりで、建築中の社を見物しては帰っていく中、少しでも貢献しようと色々ものを届けに来る生産プレイヤーの姿も後を絶たないようだ。
「冷えるな。なにか、食べる物とか残ってないのか、なあ、おい」
バグプロトコルと化したモンスターと交戦していた頃を知っているユリウスは、籠城戦のような状況でも豚汁を兵糧にして戦っていたのを思い出す。
山頂は晴れているとはいえ、真冬の環境設定がされている霊峰は、周囲に万年雪が積もり、抉れた足元も岩塊に見えるような氷の層が多かったりする程度には冷え込む場所である。
元から無いのと、あったことを知っている身としては、欲目が出てしまうのも無理からぬこと。
しかしながら、図々しいお願いをするというのも、なんだかなぁ。
懐寂しいユリウスの、その懐には、極限状態でも血流を滾らせるための酒の入ったスキットルくらいしかない。
この寒い状況で一口呷ると、嚥下する喉奥からかあっと火が灯ったように血流を感じる。
「スフィ、飲むか?」
「お酒? そっか、飲めるようになったんだった」
「言っとくが、強いぞ、これ」
「大丈夫、大丈夫……っと本当に強いお酒だね」
スキットルを渡され、小さな口をつけると、その顔がぽっと上気するのがリリスフィア自身にもわかった。
一瞬で身体が温まる。と相好を崩せば、それはそれでちょっと心配。とばかりにリリスフィアの肩を抱く。
なにー、猫が恋しくなった? と抱きすくめる銀猫をそっと差し出そうとするその姿、まさに夫婦の乳繰り合い。
仲睦まじい姿を、周囲の野次馬も見て見ぬふりをするか、他所でやってくれよ……と肩を落とすものなど、さまざま。
そうこうしている間にも、神社の社は、整地から基礎工事から骨組みまで、とんとんと軽快にまるで早回しのように出来上がっていく。
「神主ー、農家のダンフォース、ダンフォースを覚えてます?」
「ちょ、ちょっとまって、今ちょっと大黒柱てきなやつを支えて、え、ダンフォース? エビ漁の?」
「いや、農家の。差し入れにお餅いっぱい貰ったよ。今年もお善哉だせるよ! バカほど嬉しい」
「ええーっ、餅がないからって頑なに備蓄を出そうとしなかったお汁粉の封印がついに解けられるのかーっ!! あ、巫女ちゃん、バカなんて言っちゃいけないぞ」
「お善哉」
「お汁粉」
「お善哉」
黙々とした作業風景だけでなく、中心となっている神社勢の者たちは、話をすれば二言目にはコントのようなやり取りをはじめるため、なんだかんだで現場を見ていて飽きない。
こうした軽快で明るい人柄が、彼らを引き寄せ引っ張っているのかもしれない。
微笑ましさでは、ユリウスとリリスフィアの間柄にも負けないだろうか?
いや、夫婦という空気感とはまた違うのだろうか。
「あの二人、面白いね。もうすぐに完成かな?」
「なんだかんだで、差配がうまいのかもな。完成したら、月遅れの初詣だ」
「願い事は決まった?」
「もちろん、今年もスフィと楽しい日々を送れますように。これしかねぇだろがよ」
「私も。ユリウスと、楽しい日々が送れますようにかな」
肩を寄せ合って擽り合うようなやり取りを交わしていると、銀猫が尻尾を腕の中で振って存在を主張する。
「リンフォースの事も忘れてないよ」
明るく笑うと、それぞれの白い息が混じり合うようにして風に乗って流れていく。
これからの家族の行く先を祝福しているかのようであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
大町・詩乃
【神社猫】
私達もお手伝いいたしますよ~。
神社を造営するとの事ですから、きちんとした建物の方が良いですよね~。
《神使集結》で人型の眷属神さん達を召喚し、往流坐葦牙神社を少し小さくした形の神社を造営してもらいます。
詩乃がGGOで得た資材などのアイテムもお出しします。
また、プレイヤーの皆さんが持ち寄った資材等も活用させて頂きますね。
祭神が決まっていないのでしたら、私の神社でお祭りしている阿斯訶備媛では如何でしょうか?面倒見良いですよ♪と提案いたします。
あと神主や巫女としての簡単なレクチャーも実施。
あとは材料さえあれば豚汁を作って、皆さんに振舞いますよ。
これで新年らしいおめでたいイベントに出来たかな?
ネフラ・ノーヴァ
【神社猫】
うむ、此処に建てるなら神社が相応しいだろう。今にも雅楽の音が聞こえて来そうなものを。
とはいえ建築だのクラフトだのはビギナーゆえ、冒険者達と共に色々指導賜ろう。
ああ、御守りも作ろうか? 針を通すのは得意だ。
この寒さに豚汁の温かさは身に沁み渡る。フフ、冒険者の旺盛な食欲であっという間に無くなりそうだ。
丹塗りの鳥居に日の出を迎えれば、さぞ美しかろう。運のステータスも上がるだろうね。
真冬の山、それも万年雪の降り積もるような、それなりの標高を備える霊峰などと称されている山である。
そんなところに碌な装備もなく挑んだら死ぬ。
というのは、あくまでも常識的な範疇のお話で、ゲームの世界ということもあり、ある程度のデフォルメはなされているらしい。
そもそも、プレイヤーはいずれも戦士の素養を持つらしい、屈強な冒険者になれる資質を備えている。ゲームとはそういうものだ。
それに、レイドボス、そしてバグプロトコルの存在無き今、扁平に抉り取られたロケーションは、なにかしらの建造物を作るのにうってつけの、いわゆる物足りなさを思わせるのだ。
数々のトラブル、そして年始というものすごい忙しい時期に定例行事として行えない鬱憤もあり、この場へ苦労して足を踏み入れたプレイヤーたちの心は一つにまとまっていた。
主に奮闘していた神社勢は、バグプロトコル化したモンスターとの戦いもあってか、山頂へ踏み込んだプレイヤーたちの中では最も疲弊していたものの、ちゃんと年始のイベントを完走したいという気持ちは誰よりも強かったろう。
ネタコンセプト装備とて、完遂を待たずして脱ぎ去ることに、神主も巫女さんも躊躇があるのである。
「取り合えず、整地とかもだけど、参道整えなきゃだろー。ピッケルとスコップだなー」
「木材だけじゃだめだろォ? 石材とォ……おーい、和系のアレコレ、研究してた奴いたよなァ。連絡つくかねェ……ウィス飛ばしてみるけどさァ……」
建築系のクラフトスキルを所持しているらしい、熟練のいわゆる職人プレイヤーたちが、寄り集って、あーでもないこーでもない、と会議を繰り広げる中、その他、野次馬含むプレイヤーたちも、何かやれることはないかとウロウロしている光景は、みんなファンタジー装備なのもあって、なかなかお祭りじみたものがあった。
とてもじゃないが、数刻前までバグプロトコルとの死闘を繰り広げた現場とは思えなかったが、その空気のぬくもりを感じる事が許される当事者たちは、顔を見合わせて積極的にかかわりに行こうとするのであった。
「私達もお手伝いいたしますよ~」
大町詩乃。そして、ネフラ・ノーヴァの二人は、雷光と共に消え去ったバグプロトコルとの戦いの余韻もほどほどに、賑わいだした山頂の開拓に一口二口噛みつく気満々である。
「うむ、此処に建てるなら神社が相応しいだろう。今にも雅楽の音が聞こえて来そうなものを」
「おおっ、本物の巫女さん。それに、聖剣士の姐さんだ!」
閉ざされた霊峰を開放した二人は、ちょっとした有名人になっていたが、微妙に役職を勘違いしているのは、このゲームの仕様上というのもあるのだろう。
聖剣士は、装甲を薄くすればするほどダメージが上昇するというGGO特有のジョブの一つである。一応ね!
「とはいえ、建築だのクラフトだのは専門外だ。よければ、教えてほしい。御守とかならできないこともないがな。針を通すのは得意だ」
「姐さんの戦いぶりなら、納得だよ。そうだ、うってつけのシゴトがありますぜ」
神社関連の神事や儀礼的なあれこれ。それは詩乃のいわば専門ではあるのだが、その点でいうとネフラのやれることはあまりない。
剣士としての技量、典雅さを得るほどまでに磨き上げたそれが、今の状況にどれほど貢献できるものか。
だが、三人寄れば文殊の知恵というのか、プロジェクトに参加するプレイヤーたちはその場のノリも手伝ってか、嫌な顔どころかわざとらしい三下演技をこなしつつ作業を回してくる。
山頂には、神社建造に必要なスペースを確保するために、邪魔になる岩塊や氷塊などのスゴクカタイオブジェクトがいっぱいあるそうで、特別なピッケルを用いるのが常だが、クラフトスキルを持たぬ者にとっては、物理ダメージの方が通りがいいらしい。
つまりは、ネフラの破壊力が求められている仕事であった。
「ふむ……しかし、いいのだろうか。物を壊すことしかやっていない気がするが」
「いやいや、助かりますわ、姐さん。あ、その大岩、できれば石碑にしたいんで、ちょっと平面が残る感じでややってほしいんすけど……」
「なるほど、やってみよう……ふんっ!」
建築風景らしからぬ物騒な破砕音が山々に響くのを背景に、一方の詩乃はというと──、
「どうかな。神社なんて作った事ないから、昔の資料とか頑張って拾ってきて参考にしたんだけど……やっぱり、本職の方の意見があると助かる」
「ふむふむ、だいたいの間取りは把握しました。では、こちらも助っ人を招集いたしましょう」
詩乃は、この世界ではもはや数少ない専門家の一人として知識を振る舞うほか、【神使集結】により眷属神を呼び寄せることで、大幅な時間短縮も試みるのであった。
とはいえ、様式などの心得があるほかは、建築の専門家というわけでもないので、図面を参考に、詩乃が居を構えている往流坐葦牙神社の造りを簡素に、小さくした感じのものに落ち着いたようだ。
神使を呼び寄せたのも、その辺りの整備や補修に普段から尽力してもらっているというのもあった。
「おお、神の使いじゃあ~。ありがたや~」
「ふふふ、皆さん楽しげでいい雰囲気ですね~。あ、素材は足りてますか? こちらからも、GGOで手に入れた資材を提供いたしますけど」
「マジすか。たすかるー! こっちも、いろいろ手を回してるんだけど、ここまで持ってくるのが、まず大変で……」
色々と重宝される中で、ん? GGO以外のどこで資材を手に入れるんだろうと疑問に思う者もいたようだが、細かいことは色々とスルーする。
今はただ、目的のためにあれこれとみんなで奔走するのが、お祭りめいた楽しさがあるのだ。
「おーい、漆やら漆喰やら……和系の素材、持てるだけ持ってきたぞー。あと、増援もー!」
「おっせぇよー、待ってたぜ! お、農家のダンフォース! ダンフォース、覚えてたか!」
「うーっす、色々食材切れたとか全チャで言ってたから、餅とか野菜とか持ってきたよ~」
「神降臨。エビは、焼いたエビ。雑煮には必要だろ」
「どこの田舎だよ? 雑煮は汁粉だろ」
「はぁ? マジかなぐり捨てんぞ」
続々と増えてくるプレイヤー。そしてその誰もが、神社勢の新たな拠点を祝っているかのようだった。
そうして、多くの温かな手助けの甲斐あって、日がそろそろ傾くかという時間には、立派な建物が造営と相成った。
シンプルな社をこぢんまりと……という当初の予定はどこかへすっ飛び、小さいながらに凝った本殿とそれを囲う塀を兼ねる見上げるほどの拝殿。それを頂く参道は綺麗に整地され、磨き抜かれた石畳が几帳面に敷き詰められ道を成し、フラットに均されている。
脇には雪山にどうやって再現したのか手水舎、お守りや破魔矢などを販売したり待合場を兼ねた授与所、奥には宝物殿と社務所。
それだけでもうやり過ぎ感はあるのだが、周囲にはまた門と塀が作られ、下りに至る石段との繋ぎには、大きな赤鳥居が構えられ、いよいよ洞窟寺院跡よりも目立つことになってしまった。
だがしかし、それを行った者たちの様相は、一様に晴れやかであった。
「あのぉ~シノさん。散々手伝ってもらって難なんですけど」
「はいなんでしょう。この際だから、私にできる事なら、いっぱい手伝っちゃいますよ~」
粗方の大きな建造が片付いたあたりで、詩乃は巫女さんと一緒になって、提供された食材で改めて豚汁を作りはじめ、手伝ってくれた有志たちに振る舞おうと奮闘していた。
そんな中、
「私って、ぶっちゃけると、ただの料理中心のプレイヤーで、巫女さんなんてやったことないんですよ。そりゃ、GGOはモンスター出るから、戦うのもやるけど……巫女さんやるのは、神主に誘われてノリでやってるってのが大きくて……それで、その」
「あ、なるほど~! そっちの方面も、レクチャーが必要ということですね! 簡単でよければ、是非」
「や、やったぁー! バリ嬉しいです~」
時々変になる巫女さんの口調も、この期に及んでは、ちょっと可愛らしく思えてきた詩乃は、ほっこり気分でプレイヤーたちに豚汁を振る舞っていく。
その列の中に、ネフラも混じっていた。
「おやまあ、ネフラさんもお疲れさまでした」
「うむ。……この寒さに豚汁の温かさは身に沁み渡る。フフ、冒険者の旺盛な食欲であっという間に無くなりそうだね」
「作り甲斐がありますよ。ふふふ」
「時に、ここの神社は、何を奉るんだろうか?」
「……そういえば、そういうの、全然考えずに、ノリでやってたなぁ……ちょっと、神主ー」
神社に一番必要そうなものが、完成を目前に欠落している事に気付いた巫女さんが、知らぬ間に大地主になりつつある神主を呼びに行く傍ら、猟兵の二人は顔を見合わせる。
「ここは、詩乃がまた人肌脱ぐべきではないかな? 阿斯訶備媛どの」
「関わってしまった以上、それも吝かではありませんね~。まあまあ、面倒見はいい神さまらしいですから」
ニヤリと笑いかけるネフラに対し、自分自身を『わたし、わたし』と指さしながらニコニコ笑う詩乃。
これで、彼らにとって、いい新年イベントになったろうか。
バグプロトコルの乱入で、色々なものが変わり、傷跡を残していったが、それでもへこたれず、傷跡すら楽しみに塗り替えていく逞しさ。
それを感じながら、視界の端に堂々と聳える赤い鳥居ごしに、傾き始める陽の光を眩しげに見やる二人であった。
ちなみに、余談ではあるが、
いずれ誰の目にも、プレイヤーにも忘れ去られるかもしれないが、この神社の、この場所を切り開いた者として、ネフラたちが切り出した石碑には、かの蒼き白雷の名が刻まれていたという。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵