芽吹いて咲いて~きゅん・ときめき探しの秋
ふたりでくるりと一緒に、移ろう季節を楽しく巡ってきたけれど。
再びやって来たのは――すっかり秋めいている10月。
赤に染まるこの季節は、冴島・類(公孫樹・f13398)と城野・いばら(白夜の魔女・f20406)のふたりにとって、特別な結婚記念日でもあるのだから。
そんな記念日のデート、さぁ何処へ行こう、なんて計画を立てつつも話していれば。
知りたいと思ったのは、話題に出たお互いの萌えについて……つまり、相手のきゅん。
だから、デートをしながら探すことにしたのである。
今年のふたりの秋は、そう――きゅん・ときめき探しの秋。
そんなふたりのとっておきの秋を探すのは、沢山の思い出がある桜の世界。
沢山の絆を芽生えさせてくれたこの場所で、二年目を迎える夫婦の縁。
けれど今日は、いつもよりもっと、伸び伸びと楽しむつもり。
夫婦になっても、恋人の時に感じたキラキラの芽は抑えないままに。
そして、はらりひらりと桜花弁たちが舞い降る中。
今回の目的は、きゅん探し……なのだけれど、類はこう思うのだ。
(「僕に恋や愛、想いを芽吹かせてくれた彼女をときめかすのは……自分でありたいから」)
そういった方面が得意でも、自信があるわけでもなくて。
でも――他の誰でもなく、奥さんのすき、の1番でありたい、って。
だからそのためにも、今日はいっぱい知りたいって思う……彼女のきゅんを。
そしていばらも、自分の突発的な案を確りと形に纏めてくれたりだとか。
不慣れなことは先回りしてくれたりとか……そんな頼もしい旦那さんを思うだけでも。
(「リティはね、私にって考えてくれたのが十分、嬉しいの」)
満開の桜さんたちみたいに、ほわり笑顔が咲いちゃうのだけれど。
でも、きゅん探しの秋は、これからが本番。
いや……もうすでに、いばらは彼から、きゅんをもらっているのだ。
(「朝一番から、ときめきをくださったチケットさん」)
わくわく目覚めた枕元にそっと置かれていたのは、観劇のチケット。
だから同じくらい、嬉しいを送りたいって、そう思ったから。
先ずは気合十分、身嗜みを整えて、目一杯のお洒落さんに。
ハーフアップヘアに編み込んだのは、類が巡り会わせてくれたリボン。
彼色に染まった愛しい髪を、ひらりと蝶々が飾って。
仕上げにと掛ける艶やかな魔法は、リップバームの彩り。
いつも守り包んでくれる魔法はそう、旦那さんが贈ってくれた素敵なコ達が掛けてくれるのだ。
そして準備ができれば、いざ出発! なのだけれど。
類もいばらも、それぞれ別々にお出かけ……?
いや、だって今日は何せ、きゅん探しなのだから。
恋人同士な雰囲気も大事にと、類が持ち掛けたのは、こんな提案。
――当日はお洒落してお外で待ち合わせしようか、って。
ということで、立てた記念日デートの予定は、ふたり待ち合わせをした後。
昼は百貨店でお買い物、夜は歌劇を見に行くことにしたから。
気になった演目のチケットもばっちり、彼女の枕元にそっと忍ばせた類であったのだ。
そして、まだ十分に時間はあるのだけれど。
とびきりお洒落したいばらの足は、どうしても速くなってしまう。
だって、よく知っているから。
(「類はきっと待ち合わせ時間に余裕を持って行っている筈」)
だから、遅刻はなくても足早になってしまうし。
そんな彼女の予想通り、観劇もあるし、と。
ジャケットにシャツにパンツ、でもタイは締めないで、ぴしりとしつつも堅すぎない装いをした類は、すでに待ち合わせ場所に。
(「待たせたくないのは勿論だけど」)
早めに到着したのは、それだけではなくて……彼女が誰かに声をかけられるのを防止したいから。
それから彼女を待ちつつも、類はぼんやり考えたりする。
(「軟派されるところを、救出! とか物語でよくあるけど。リティも、ときめいたりするのかな……」)
そんなシチュエーションももしかして、きゅん……?
そう思っていれば、ぱちりと一瞬だけ瞳を瞬かせる類。
だって、声を掛けられることを心配していたのに――声を掛けているのは、いばらの方であったのだから。
そして、転んでしまった子を起こしてあげた後、元気づけて送り出す姿を見れば、類は思う。
困っていそうなアリスを見つけ、話しかけて手を差し伸べる姿は、彼女らしいなって。
それから、手助けをせんと自然と歩み出して手を振れば、思わずそっと瞳を細める。
そんな自分を見つけて、ぱっと笑顔が咲くのも、好きな瞬間だし。
待合せデートは久しぶりって、嬉しくなって――どーん、と。
そのまま飛び込んできた、最高に可愛くお洒落してくれている彼女にも。
それに、受け止めると信頼してくれてるのも、嬉しくて。
しっかりと抱きとめれば、お互い顔を見合わせて。
お互いまたひとつ感じるきゅんに、笑い合う。
そして待ち合わせもばっちり、ふたり出逢えれば。
並んで歩いてやって来たのは、沢山のきゅんが見つかりそうな、賑やかな百貨店。
「夜までは時間があるし、のんびりお買い物しよう」
「ええ。この世界でのお買い物も一年振りね。和と洋が仲良しなデザインがとっても素敵」
「ん、ここは和洋どちらも見れていいよね」
そんなお喋りに花を咲かせながらも足を運んだのは、服飾品の階。
それから類は、こう訊いてみる。
「好き探し、だからさ……奥さんはどんな装いが好みだい?」
いばらはそんな問いかけに、ふと考えてみて。
ぱっと思ったのは、黄色と白が印象的な、勤めに駆けやすいと言う衣装。
「はじめてあなたに出逢った時の和装が浮かんだの」
そんな彼女の唇から紡がれる声に耳傾けたなら。
……成る程出会った時の装いかぁ、なんて思った類であったのだけれど。
「それから……リティとのデート用にって仕立ててくれた赤いコートさんの衣装。ダンスを頼もしくリードしてくれたフォーマル衣装に、忘れてはいけない婚約記念と婚儀の際の和洋の結婚衣装、それにお家でリラックスなパーカー姿やお揃いで揃えた衣装も、リティのとくべつって想えて外せない」
次々挙がる奥さん好みの装いを聞けば、じわじわり耳も赤くなってしまうというのに。
容赦なく類は、とどめのきゅんをさされてしまう。
「つまりは、つまるところは……あなたの全部がすき」
「んんっ……い、いや」
それから、顔まで赤く染まってしまいながらも、こう返すのがやっと。
「……好みから外れてなかったなら嬉しい、です」
「類が袖を通したいと思ったコで、自由に過ごしている姿がほっとするのよ」
いばらはそうきょろりと巡らせていた視線を彼へと戻して。
彼の好きがいっぱいありすぎるから、新たなきゅんを探すために告げる。
「新しくお迎えした眼鏡さんの様に、挑戦してみたいを知りたいかも」
「挑戦してみたいのかぁ……もこもこにっと、とか?」
類はそう首を傾けてから、今度はお返しを。
「あ、僕のは一つで十分だし、君の冬服色々見ようよ」
「えっ……私の?」
――どんなリティにきゅんか、沢山伝えないとね! と。
気合を入れて目論むのはそう、色々な奥さんを見たい企み。
けれど、思った以上になかなか奥さんは手ごわくて。
「選んでくれるのは嬉しいけど、予定してなかったから……試着はしても、お迎えするなら一着かなぁ……!」
夜もあるのだからと念を押されれば、えぇーと唇尖らせてしまう類。
それから、すぐ傍にいる彼女をちらり。
(「上から下までひと揃えしたかったのがばれたか?」)
一方のいばらも、密かに思う。
(「だってお任せしたら、お洋服が積み上げられかねないもの」)
それから……自身のより大切なコの物をって考えるのは、似た者夫婦なのかしら、なんて。
いや、似たもの夫婦でもあるのかもしれないけれど。
(「それともこれが惚れた弱みと言うやつかしら」)
やっぱり同じように彼をちらり、似た者同士。
そんな、互いのきゅんの攻防も楽しく繰り広げながらも。
(「じゃあ、袴とかにも合わせやすい着物とかがいいかな」)
そう検討していた、類だけれど。
刹那、思わず大きく瞳を見開いてしまう。
「あ、ドキドキを探したいなら、旦那さんに下着を選んでもらいなさいって、お喋り鏡のマダム・リリーが言っていたのよ」
「……!? っっ」
思わず咽せてしまった、まだむからのそんな提案に。
それから、当の奥さんを見遣れば。
「肌着なら、何着あっても困らないわ」
「夫婦だから、問題はない……のか」
色々と意識していなさそうな様子に、ぽつりと紡ぐけれど。
でも、予想外の方向からの動悸はすぐには止まらなくて。
息を整えつつも、思うのだった。
(「激しい戦闘時より動揺している気が」)
きゅんを通り越して、ドキドキばくばく、なのです。
そんな旦那さんの言葉や様子に、今度はいばらが瞳を瞬かせて。
(「……夫婦でも、問題なコトがあるなんて」)
……ときめきより先にその問題を知るべきではと、焦る旦那さんの横で唸る嫁二年生であった。
でも、そんなところもまた、彼女の好きなところであるから。
類は何とか気持ちを落ち着かせながらも、こう返す。
「えと……可愛い寝巻き姿でも、どれすあっぷした大人っぽい姿も。僕も、どんなリティでも好きだし。君の身を守り包むものだから……系統より、まずリティの着心地の良いの、が嬉しいかな?」
「着心地の良い物、たしかにそれは大事ね。またあなたの肌襦袢さんも繕いたいから、肌着屋さんも覗きたいわ」
いばらもそうこくりと頷いて、まずは着物や反物が並ぶ店へ。
それから、マダム・リリーが教えてくれた通りに……あなたはどっちが好き? なんて。
悩んだ下着の最終選考、旦那さんに訊ねてみれば。
何だかとても、擽ったく思ってしまう類だけれど。
「僕は……こっちの方が好き、かな」
嘘はつけないから、こそり……彼女にだけの、ナイショの耳うちを。
そんな、ふたりで選んだ着物や反物、最終選考で旦那さんが選んでくれた下着に、シャギーの毛糸に――と。
やっぱり荷物は多めになったけれど。
「荷物は大きな物を僕が」
荷物を持ってくれる彼にお礼を言いつつ、いばらはとっても満足気。
勿論、抱えるほどのきゅんを探せて、類だって同じ気持ち。
それから買い物の後はいよいよ、ときめきをくれたチケットさんの出番。
そんなチケットさんが導く先の劇場で、ふたり楽しむ歌劇の演目は、真実の愛を知る物語。
呪いで姿を変えられてしまった王子と、彼のもとで奉公することになった芯の強い娘。
ふたりが恋に落ち、真実の愛を知る――そのようなお話なのだという。
そしてわくわく心躍らせる中、幕が上がれば。
舞台を鑑賞しつつも、いばらは思う。
歌や衣装も馴染みがあって聴き易くて、それに。
(「姿が変わってしまった王子さんと、器物や擬人から人型を得た私達」)
何だか親近感があって……不思議の国にも伝わる物語にも似ている、って。
歌にのせて、舞台で踊る登場人物や器物たち。そして紡がれていく物語を眺め、美しいしらべに聴き惚れつつ、類も思い出す。
なんだか、ありすの世の愉快な仲間さんみたいだと――隣の横顔に視線をやりながら。
そしていばらは、恋の物語は沢山は読んだことは無くて。
(「アリスラビリンスの王子さんとお姫さんのように、歌を通して交わせば特別になるのだと思っていた」)
あの頃は、そう思っていたのだけれど。
……そう言えば、と思い返すのは、すぐ隣にいる自分の王子さんのこと。
(「類は一目惚れはないって言っていた」)
だから、いばらは知れたのだ――恋のカタチは皆其々ね、って。
いや、恋の物語では一目惚れの話も多くて、それはぴんとこなかった類なのだけれど。
(「この話は……解るな」)
ふたりで今観ている物語は、そう思うことも多くて。
素敵なハーモニーにゆらりココロ躍らせて、楽し気に曲に身を委ねている様子の彼女を見れば、そっと瞳を細める。
(「歌劇は好みにあったかな、よかった」)
そしてそう思いながらも類は、感じるのだった。
ふと、かたちも種も異なる互いが出会って――今、番っている得難さを。
いばらも、劇で交わされる言葉の意味を考えて、想像してみる。
時々――それが類だったら、って。
それから、考えて、想像して、思い出しながらも。
(「そうしてね、ときめき探しで改めて気付いたの」)
これまで数え切れないくらい、たくさんいっぱい。
感じてきた、きゅんの理由を。
(「リティはあなたの眼差しに、とても、どうしようもなく惹かれているんだって」)
きっと、あなたが荒屋の皆に微笑んでいた……はじめてあったあの時から、って。
類も、己の内側から滲むいろを、その想いを、改めてはっきりと自覚する。
(「自分と違う、いきいき真っ直ぐな心根の輝きに魅せられる感覚。強さに惹かれ、弱さを知れば守りたくなる」)
そしてそれは――きっとどんな形になろうと変わらない、と。
娘の真実の愛によって魔法が解けた元獣の王子が結ばれて、薔薇咲くお城で幸せそうに踊るラストシーンを眺めながら。
それから歌劇を鑑賞し終え、帰路に着く頃には。
類も、もう気づいている――きゅんを咲かせる、ときめきの根に。
だから、類は伸ばした手と手を繋いで。
曲を思い返しながらその手を揺らせば、合わせて聞こえてくる旋律。
いばらは、獣王子さんとレディが交し合っていた歌を鼻ずさみながらも。
彼が教えてくれた、自分達の恋物語を思い、紡ぐ。
「ときめきのお勉強は今後も必要だろうけれど。私達らしい、も大切に」
ふたりだけの特別……今日もいっぱい探せた、きゅんの気持ちを、大事にしたいって。
そして類も、心を彩るいっぱいの想いを言の葉にする。
「僕はね……ありすが好きで、花たちや仲間お歌も好きで。自分のも、ひとのすきも大事にしてるリティの、可愛いだけじゃなく、格好いい」
心が滲み咲く笑顔に――きゅん、なんだなって、と。
感じたときめきのまま、好きをぎゅっとたくさん込めて。
見つめる瞳を柔く細め、笑みながら。
「これからも、育てていこうね」
「ええ、これからも二人で葉枝を伸ばして往きましょうね」
ふたり並んで、家に帰るべく、ハートの花びらたちがひらり舞う中を歩き出す。
ときめき探しの秋に見つけた、いっぱいのきゅんと一緒に。
成功
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