「――これを、生かしておく理由がどこにあろう?」
深い闇空の中を、更に切り裂くように滑空する影が呟く。
今は飛べる、こうして飛翔出来る。
だが、|それ《・・》は忘れない。
あの屈辱を、この村の祖が犯したその醜き悪逆を。
眼下に転々とある村の灯火は、こちらに気付く様子もなく日常の安寧を照らしている。
「生かし、難い」
心までも、闇より深い黒に染まった存在は、それでも尚己に根付く魂に沿って高らかに吼えた。
「地に這い続ける醜き者共よ! 天上にて我が声を聞け! 我は|百獣族《バルバロイ》『獣騎ワイバーン』――これより、貴様等に我と同じ死に様を与えしものなり!」
凜とした、同時に何者も寄せ付けぬ矜持を宿した声が村中に響き渡った。
平和であった灯火が動揺に揺れる。
「貴様等の祖は、我が誇り高き翼を破った! 我が同族を、一体ずつ大地に引きずり墜としては、屈辱にも大地に縫い付け質に取り、次々にその翼を炎で灼き炙った! 今でも忘れぬ、この皮膜の焦げる匂い、灼け溶ける音!! 忘れぬぞ、忘れるものか――その咎、同じ目を受けて味わうが良い。文字通り、大地を這い回れ! 人間!!」
叫びにも似た猛りと共に、夜であっても尚も際立ち光る夕黄金の羽を一打ちさせる。
巻き起こる禍々しい呪詛を交えた風が、村を駆け抜けた。
「如何に疎ましき人間であれど、抵抗と我と対峙する機会は与えよう。我はしばしの間、ここより一番近しい山頂にて構えようぞ。貴様らが我等と同じ目に遭い、尚も立ち向かえるのであればな!!」
――そうして、悪夢は去った。呪詛と怨念に溢れた風を宿した村を一つ残して。
●グリモアベース
「新しく発見された世界『バハムートキャバリア』にて、オブリビオン『|百獣族《バルバロイ》』によって呪詛に冒された村が発見された」
静かに予知をした情報の全てを伝えたグリモア猟兵、レスティア・ヴァーユはそう告げた。
「そこでは、今、百獣族の呪いによって、村人の『手足指が、少しずつ激痛と共に溶けていく』呪詛が発動している。それは男女子供老人全てを問わず、村人の殆どに発症している状況だ。このままでは村が滅びるのは時間の問題であろう」
淡々と事実を語る。言葉通りであれば、余りにも怖ろしい事実であるが――怖ろしい事実であるからこそ、言葉通りに語らなくてはならないのだ、と。
「呪詛は、それを掛けた百獣族を倒せば解くことが出来る。居場所もある程度把握しているが――まずは先に、村の様子を見てきてもらいたい。まだ話を聞ける村人から、居場所を更に絞り込んでもらっても良いし、治療が出来る存在には――是非、村人の治療も願いたい」
小さく息をついて、予知した猟兵は言葉を続ける。
「そして、呪詛を掛けた百獣族の居場所までは、配下の敵が配置されているのを目にしている。ここで無為な怪我だけはせず――その先の、呪いの主を討ってもらいたい」
最後に、予知の括りとして、猟兵は告げた。
「予測として。|百獣族《バルバロイ》というものは、聖なる決闘を始めとした正々堂々という――騎士道に連なるものを何よりも重んじていた存在だ。もしかすれば『それに乗っ取り正々堂々と高潔に戦う姿』を示し続ければ、敵の心を僅かなりとも動かすことは可能であるかも知れない……それでは、どうかよろしく頼む」
と、予知をした猟兵は、周囲を見渡して。ただ、静かに頭を下げた。
春待ち猫
この度はご閲覧いただきまして、誠に有難うございます。春待ち猫と申します。
今回は、世界『バハムートキャバリア』の三章編成シナリオとなります。どうか宜しくお願い致します!
●シナリオ内容について
冒険・集団戦・ボス戦の三章編成です。
・一章の冒険章は村内探索となります。こちらはオープニングのように、ある程度ご自由に行動して戴いて問題ございません。
・流れは基本オープニングの通りとなりますが、頂戴したプレイング内容により、合間に断章が投入される可能性がございます。章切り替え時に、タグにて告知を行わせていただきます。
●シナリオ進行について
・シナリオの途中章からの参加も大歓迎です!
・基本、まったり進行の予定ですが、参加人数様やスケジュールによりましては、サポート様のお力をお借りしての進行、完結をする可能性もございますので、予めご了承いただければ幸いでございます。
それではどうかよろしくお願い致します。皆様のプレイングを心よりお待ち申し上げております!
第1章 冒険
『村・街を調査せよ』
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POW : 手当たり次第にあちこち回り、調査する
SPD : 何か怪しい所はないか、足を使って調査する
WIZ : 聞き込みなどから情報を整理・推測した上で独自に調査する
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
神田・桃
ここがバハムートキャバリア…過去に人が罪を犯し、その咎を背負って生きる人々の世界…。
百獣族の皆様の憎悪も理解できます、ですが今を生きる人々に罪は無いにも関わらず断罪の刃を振り下ろすというのならば、私のやるべき事は決まっていますわ。
まずは話を聞く前に…村の方達の治療ですわね!
この【時空の調停者】ならば呪詛の進行を撒き戻せるはず、進行の酷い方を優先的に巻き戻していきますわ!
ただの延命でしかないかもしれないですが…その分効果は確実のはず、私もかなりの寿命を削る事になりますが、皆さんの命には代えられませんわ。
ある程度処置が落ち着けばこの辺りの地理や、そこから決闘に使われそうな場所の事を聞いて行きます。
●この命、幾ら削れども
降り立った平原には柔らかな風が吹いていた。
ここは何処までも広がる優しい大地であるかのようにすら思われる。
しかし。視界も然程遠くないところに見える村からは、今その穏やかな風に乗って『敢えて死には至らしめはしない』という深い憎しみの呪詛が、異質な雰囲気として漂っているのがはっきりと伝わってきた。
風からは確かに、この耳に零れ伝わる阿鼻叫喚の地獄が、眼前の村に存在している事を意味していた。
「ここが、『バハムートキャバリア』……過去に人が罪を犯し、その咎を背負って生きる人々の世界……」
神田・桃(滾る鮮血の息吹・f41120)の頬に触れる風は心地良く。だが、運ばれてくる地獄は、過去の怨念を決して忘れることの無い|百獣族《バルバロイ》の憎しみが、惜しみなく波のように溢れ返してきているのが分かる。
桃は、村へと一歩足を向けて、そこに伝わる呻き声、叫び声に惑う事無く、躊躇いも見せることなく足を向けていく。
「……百獣族の皆様の憎悪も理解出来ます、ですが今生きる人々に罪は無いにもかかわらず、断罪の刃を振り下ろすというのならば――私のやるべき事は決まっていますわ」
そこにあるのは静かな決意。そして胸にある確かな覚悟を伴って、桃はしかとした足取りで、数日前までは平穏であった残滓の残る、惨劇の村へと向かっていった。
村の外には、|獣騎《バルバ》ワイバーンが襲来した折りに、その様子を目の当たりにした人々が残っていた――正確には、取り残されていた。
呪詛の予知内容を考えれば、ある程度の予測は付いた。手指の手が溶け始めた人間は恐怖で屋内に飛び込んだ可能性もあるが、当然足指から溶けた人間は自己避難が出来るはずはなく。そして、それを手指が溶け始めた人間は、助ける事も叶わず、捨て置くことしか出来なかったのであろうと。
「これは……っ。まずは話を聞く前に……村の方達の治療ですわね!」
桃は急いで質素な井戸の側にその背を預けてぐったりしている男に、声を掛けた。
「大丈夫ですの!?」
「痛ぇ! 痛ぇよ……ッ!!」
見れば男の靴は、何かが溶け濡れた液体と共に、既に中身を無くしたかのような奇妙な方向に折れ曲がっている。
これは中など確認しない方が、呪詛を掛けられた人の為――そう判断した桃は、村人に己の掌を向けると、躊躇いなく祈りと共に己のユーベルコード【時空の調停者】を発動させた。
カチリと、相手の時間が巻き戻されるイメージ。同時に、激しいまでの時間の逆流が、その掌から桃の身体に限界まで叩き付けられた。
こほっ、と小さな吐息に身体負荷により口の中で血が混じる。桃がその味を感じ取りながらも、集中力を切らさない事しばらく。
「足が……! 足が痛くねぇっ!」
男がまだ信じられないと言わんばかりにゆっくりと立ち上がった。
――時間逆行による、完全修復。しかし、呪詛がある限り、彼が同じ目に遭うのは時間の問題であろう。
だが、呪いの根源を討つ時間までは保つはずだ。
桃は、うっすらと血が滲んだ口元を、手指で気付かれないよう拭い掻き消した。
「他にも重症の方はおられまして!? 手当致しますわ!」
「ああ、ああ! こ、こっちだ! 有難う……有難う……!!」
「こほっ、こほ……!」
「あんた、さっきからずっと皆を手当してた人だよな? 顔真っ青だが、大丈夫か?」
口の中で血の味しかしない。だが――幾ら寿命が削れても、今苦しむ人の命には代えられない。
桃は、こっそり隠れて一人咳き込んでいた所を、桃は慌てて誤魔化しながらゆっくりと振り返った。
「ええ、大丈夫ですわ。それよりも、元気になった方にこの辺りの地理、そこから百獣族の決闘に使われそうな遺跡や名残がありましたら、是非お伺いしたく思われますの」
「ああ、あんたは命の恩人だ! どれだけの恩を尽くしても返しきれねぇよ! 幾らでも聞いてくれ!」
そうして、この辺りは草原地帯であり、近くの百獣族との決闘で使われる事があるとするならば、と。一番近くとは言え相応の距離がある山頂に、遙か昔使われていた|聖なる決闘《トーナメント》の残骸遺跡があることを耳にして、桃はひとつ頷いた。
大成功
🔵🔵🔵
伊澄・響華
アドリブ歓迎
(呪い、ねぇ…)
先祖の罪を子孫に。
恨みの連鎖は何も生み出さないと思うけどね…
これまで数多の返り血に染まってきた加害者側の人間(元殺人鬼)が何言ってるんだか、って自分でも思うけど。
悲しい思いをする人は一人でも減らせるよう、微力ながらお手伝いするわね。
様子を伺いつつ、症状のひどい人を優先的に【櫻眠不覚暁】を発動して眠らせ、現実の痛みを忘れさせると共に破邪の力も込めて呪いの症状を癒していきます。
ついでに眠っている人の夢の中に入って、百獣族に関する情報も聞きましょう。
居場所やそこへのルート、地形や注意点などなど。
わたしはこの地の事はほとんど知らないし、色々と聞かせてくれるとありがたいわね。
●咎の行方
村に入れば悲鳴が聞こえた。激痛に悶える呻き声が、現状を理解出来ない悲鳴が、叫びが、各所随所から老若男女を問わずに響いてくる。
その絶望と怨嗟の声を、伊澄・響華(幻惑の胡蝶・f44099)は聞いていた。
(呪い、ねぇ…)
子々孫々、それどころか末代まで。日本ではよく聞く呪い言葉ではあるが、実際にここまで的確なものを目の当たりにするのは初めてかも知れない、と響華は思う。
先祖の罪を子孫に。だが、ここまで的確すぎれば、より一層露わに思うのだ――『憎しみの連鎖は、何も生み出さない』であろうと。
実際、響華は物心が付く前から施設にいた。両親の事は何も知らない。祖先と言えばその親の親を更に遡る事になる。既に感覚としては挨拶も交わした事も無い、接点が一切無い赤の他人でしかない。
そのような存在の為に、この瞳に映る光景が繰り広げられているのは、あまりにも無惨が過ぎるのでは無いかとすら思うのだ。
何しろ村の、小さな医療院――響華が足を踏み入れた、人の集まるその空間には、もはや犠牲者でない者が『誰一人として』いなかったのだから。
『人差し指が落ちちゃった』と泣き叫ぶ幼い子供の声がする。
既に、片足が膝まで崩れているように見えるが、激痛と共に怖ろしすぎて確認も出来ない女もいる。
皆が一様に、痛みと喪失感と、理不尽と憎しみ恨みを叫んでいた。
本当に――これが、恨みの連鎖だというのならば。ここからは、一体何が生まれるというのだろう。きっと新たな『憎悪』が生まれる事はあっても、その未来には一陣の光すら差す事はないだろう。
(まあ、これまで数多の返り血に染まってきた加害者側の人間が何言ってるんだか、って自分でも思うけど……)
それでも、尚も思ってしまう。思ってしまうほどに酷いのだ。
これは、少なからず人を殺し、親友を殺し――殺される双方の痛みを知った『元殺人鬼』が尚も、と思う程に『不毛で、そして無惨である』と。
「グッ、そちらは旅の方だろうか……? 大変申し訳ないが、今、村は」
傍らで、声が聞こえた。手首を押さえる壮年の男がいる。強い意志を持った目が印象的で、彼がこの村の今の村長なのだという。
話を聞けば、無事である旅人などの手を借りて、呪いが発症した人物をせめて外などではなく一カ所に集めようとしているらしい。
「まだ、死者が出ていないようであるのが唯一の救いだが」
村長が黙った。百獣族が生殺しを狙っていようと、この悲惨な状況下では、何時どうなるか分かったものではないと。
それに響華は躊躇いなく協力を申し出た。
「それなら、微力ながらお手伝いさせてちょうだい――悲しい思いをする人が一人でも減らせるよう」
この状況に、自分の力でどこまで出来るかは分からないが、少なくともこの手に手段があるのならば。
言葉と共に頷いた響華を前に、村長は「すまない、恩に着る」と告げて深く頭を下げた。
症状の酷い人間がこの場に集められているという。確かに、ここにはもう目を覆いたくなるような惨状だけが広がっている。
ならば、自身が使うユーベルコードの発現場所も、ここが最適解になるであろう。発動に伴う対象への傷修復も、何処まで出来るかは分からないが、この状況では最早使わないという選択肢も無い。
そして響華は、均整の取れた己の美を限界まで体現した身体全身から、包み込むような桜花を明瞭に思わせる穏やかな櫻色の気を放った。
それは、清浄なる破邪の力を伴って、上がり続ける悲鳴が聞こえる現実を柔らかに否定し、眼前の悲劇を拒絶し、そして無効化まで可能にして、周囲を安寧の眠りへと誘っていく。
そして、建物内周辺から無惨であった呻き声ひとつ聞こえなくなる、優しい静寂が訪れた。その間に響華は、破邪を乗せて発動されたこの【櫻眠不覚暁】によって、緩和された呪いの傷を可能な限り癒やしていった。
それは、傍らの村長も例外ではなく、相手を静かな眠りへと誘わせていた。せっかくならばとその夢に渡った響華は、夢の中で痛みが消えたと歓喜する村長の姿を見つけ、改めてこの場の事情を聞く事に成功したのだ。
響華がこの地に明るくない旨を伝えると、村長は己の知りうる限りを教えてくれた。
彼自身も村育ちであり村の外には詳しくないが、少なくとも百獣族の宣言した山頂は、村人にとっても地理的に迷う事なく一カ所のみであるということ。そして、そこは|人造竜騎《キャバリア》さえ稼働可能とはいえ、大規模な若干薄暗い巨大な洞穴を通らねばならないこと。
響華はそっと彼を起こす事の無いように、黄金の蝶の残影を残して村長の夢から離れると――静かに、戦場へと向かう準備を始めた。
大成功
🔵🔵🔵
ルキフェル・ドレンテ
新しい世界とやら、新しい装いで散歩するのに丁度良さそうな場所ではないか
あぁM'lady、危ないので火炎放射器の扱いには気をつけて…俺が持とうか?
…ふむ、嫌と
しかし何だ、この村の有様は――実に愉快だ
憎むべき相手の末裔がこのザマならば、呪詛の主とやらはさぞかし胸がすくだろう…
無論、それで怨みは晴れまいが
この世界の人間どもには全く同情の余地がない
這い蹲るのがお似合いだ――
で、どんな気分だ?馬の骨ども
酷く痛むならばその手足切り落としてやろうか?
冗談だ、左様な慈悲をかける義理はない…
喋れるならばその呪詛の主の居場所の心当たりを教えよ
詳細にだ
山頂と言うだけでは探すのに手間なのだ
…倒しに行くのかと?
…さぁ?
●呪詛の咎
転移した先は、目的の村の入り口だった。そこから周囲を見渡せば、建物には傷ひとつ付いていない、たおやかに風になびく一見平和な草原の村が見える。
しかし、村の中は既に地獄の様相を呈していた。呻き声も叫びも大地に響き、何処までも届くかのように錯覚させる。
そのような世界を――とても和やかに、軽やかに歩く二人がいた。
人々の悲鳴は、弾けるシャンパン。溶かされた村人の体の惨劇は、軽く表層を焦がされた肉の香ばしさ。漂う死の気配は新鮮に焼けた魚介類の料理の風合い。
ルキフェル・ドレンテ(宿怨の舞踏・f41304)と|M'lady《ミレディ》と呼ばれる死霊の姫君にしてみれば、これはむしろ二拍で刻まれる少々滑稽な舞曲の風情にすら思われた。
「ふむ、この世界とやら。見れば見るほど、新しい装いで散歩するのに丁度良さそうな場所ではないか」
日常の豪奢にも近しい西洋貴族然とした衣装から一新。二人の今回の出で立ちは、どこかサイバネティクス感のある近未来をモチーフに洗練されたものだった。身体にフィットするが、計算され尽くした造りは動きの一切を阻害しない。M'ladyも日常の白い海のようにたゆたうスカートドレスから一転し、黒のスタイリッシュな装いがとても良く似合っており、どこから出したのか、先端に蒼い火を灯した火炎放射器のようなものを楽しげに抱えている。
「あぁM'lady、危ないので火炎放射器の扱いには気をつけて……俺が持とうか?」
ルキフェルが手を差し伸べると、M'ladyはそれを大事そうに抱えていやいやと首を振った。とても、お気に入りであるらしい。
「……ふむ、嫌と――しかし、それにしても」
いつであっても、M'ladyの拒否は些細なものであってもルキフェルの心に刺さるもの。それに、ふと。ルキフェルがその切なさを変換し矛先を変えたのは、この村人達の光景についてだった。
「何だ、この村の有様は」
逃げる事すら許されなかった人々が手足を指から溶かされ、悲鳴を上げている。地面を這い、逃げても無駄な何かから、少しでも遠ざかろうともがき転がっている。
歩き回り見る限り、百獣族の呪詛は、的確なまでに過去、自分を甚振り殺した人間の子孫だけを的確に襲ったようだった。その証拠に、この土地に偶然流れの商売に来た行商人や、最近遠くから移住してきたという極僅かな人間だけは、この惨劇の中で逆に驚くほど無傷という徹底ぶりだ。
ここまで完璧な復讐の結果を前に。急ぎ他の猟兵達が救助に乗り出す中、
「――実に愉快だ」
ルキフェルは――感嘆を禁じ得なかった。
惨たらしい被害を受けている対象がここまで絞られ極めて鋭い。それは絶対的な憎しみの精査の結果である事は間違いないであろう。己の存在の殆どが、M'ladyと憎しみで構成されているようなこの猟兵から見れば、今目に映る光景は『見事』としか言いようがない。
オブリビオンと化してまで憎むべき相手の末裔がこの様ならば、呪詛の主とやらはさぞかし胸がすく思いであろう、そう思わざるを得ないほどの徹底ぶりだ。
だが、ルキフェルは忘れ去った何処かで知っている。子孫に怨みを向けても、その憎しみが晴れる事は無いのだと。むしろ当事者に向ける事が叶ったとしても、絶対に消える事は無いのだ――燻り、そして燃える復讐という焔は、決して。
「うぐ……痛い……痛い……」
この世界の人間の有り様を知れば、この惨禍に同情の余地はない。まさに、地に這い蹲るのが似合いであろうと思いながら、ルキフェルは声の聞こえた地面を転がる村人の一人の傍らに立ち、微かに顎を引き上から軽蔑を籠めた眼差しで見下した。
「で、どんな気分だ? 馬の骨ども」
呻き声以外の返事はない。無事な人間に突如掛けられた言葉がそれでは、何を言われているのか理解も出来ていないのであろう。
「――声が聞こえないほど酷く痛むならば、その手足切り落としてやろうか?」
「ひっ……! た、助けてくれ!!」
ようやくルキフェルという存在が、痛覚で無視出来る存在ではないと判断した村人が、叫び声を上げた。
「冗談だ、左様な慈悲をかける義理はない……喋れるならばその呪詛の主の居場所の心当たりを教えよ」
そう、これならば潔く斬り落としてやった方がまだ痛覚的には慈悲がある。当然、泣きすがる無様を曝されようが『このような存在』にくれてやる慈悲ではないが。
「百獣族なら、向こうの山の、山頂に――」
「詳細にだ。山頂と言うだけでは探すのに手間なのだ」
嗚呼、このようなモノと会話をしなければならないとは、本当にこの呪詛の主は手間を掛けさせてくれる――。
「あ、あんた! 奴を倒しに行ってくれるのか!?」
村人の目と声に、僅かな希望の色が宿る。
ルキフェルは、それを仮面越しに覗く、燃えながらも背筋が凍り付くまでの侮蔑と冷徹を籠めた真紅の瞳で一瞥し、答えた。
「……さぁ?」
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『獣騎スライム』
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POW : メルティングジャンプ
【飛びつき体当たり】を放ち、命中した敵を【自身の体】に包み継続ダメージを与える。自身が【敵に密着】していると威力アップ。
SPD : 液体獣騎
肉体の一部もしくは全部を【スライム】に変異させ、スライムの持つ特性と、狭い隙間に入り込む能力を得る。
WIZ : スライム魔法陣
空中に描いた【魔法陣】から【大量の溶解液】を出現させ、命中した対象の【耐久力と機動性】を奪う。
イラスト:key-chang
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
伊澄・響華
アドリブ歓迎。
ゴールドウィングに乗り周囲を警戒しつつ、洞穴をかっとばしていきます。
「出たわね…いくわよ、ズヴァルトゲール!」
途中で敵に襲われたら、スレイヤーカードからキャバリアを召喚。
オランダ語で黒と黄色を意味する名の機体に搭乗し、迎撃します。
「もう…ローションプレイは嫌いじゃないけど…相手によるわね!」
Kette des Waffeを振り回して接近させないように距離をとって移動しつつ、敵の動きから急所を見極めます。
「そこね。邪魔よ、そろそろ消えなさい!」
【殺気の闇嵐】を発動。深く暗い漆黒の闇の色に物質化した殺気を放って獣騎スライムの急所を切り裂いていきます。
「大丈夫、命までは獲らないから。」
●黒と黄金の慈悲
村に呪いを掛けた敵の元へ向かう為には、山中にて大空洞となっている洞窟を進む必要がある。その情報を他の猟兵にも共有して、伊澄・響華(幻惑の胡蝶・f44099)は村を出て一直線にその山脈の頂点を目指すことにした。
黄金と黒のツートンカラーで塗り分けられた愛車のタンデムバイク『ゴールドウィング・バタフライ』で一気に駆けていく。慣れた運転を前にしてはマシンスペックも重なり、それは細い洞窟の悪路すらも容易に走り抜けた。
そして、一気に視界が開けた先。ひんやりとした静けさ極まる大空洞の中程。この世界独自のヒカリゴケが生えているのか、暗所とは言え予想外に明るい世界で、ライトの光と併せ、警戒と共に注意深くバイクのエンジン音を奔らせた瞬間――響華の暗視能力は、確かに正面に一体の軟体生物の姿を見出した。
警戒していなければ気付かなかった。こちらを待ち伏せるように、同じものが前方左右からも一体ずつ現れる。隠れていれば不意討ちも狙えたであろうものを、敢えてその姿を露わにするとは。
響華は横薙ぎにて滑るようにバイクの足を止めて、相手の姿を見やりながら口にした。
「正面から姿を見せるなんて、少し律儀過ぎない?」
恐らくは、この律儀さが。正直すぎる信念が。逆に今回のような残虐な事件を生んだことを――目の前の存在達は、認識出来ていないに違いない。
「必ず、助っ人として、助けを請われし者が来ると思っていた。我は『|百獣族《バルバロイ》スライム』――彼の『百獣族ワイバーンの盟友』なれば! いざ、尋常に勝負!」
洞窟内に光が零れ、ガシャン、と。無数の金属音が響き渡った。そして――正面には、人間の身では見上げる体高となった三体の獣騎スライムが立ち塞がる。
「出たわね……いくわよ、ズヴァルトゲール!」
敵の襲来は予測の範囲内だ。響華も黄金の胡蝶が端にあしらわれたスレイヤーカードを翻せば、今まで乗っていたバイクの代わりに、名前の通り闇色と黄色を軸に誂えられた、主を彷彿とさせる麗しき女性型の|人造竜騎《キャバリア》が現れた。響華が吸い込まれるように乗り込めば、巨大化した|獣騎《バルバ》の体高とほぼ同等の視野を得る。
そして、人造竜騎でありながら軽やかな動きで距離を取ろうとしたズヴァルトゲールに、追い掛け縋るように獣騎スライムが飛びつきながらの体当たりを仕掛けて来た。あれがスライムの特性を持ったままであるならば、獣騎から流れ散る流動体に触れるのは危険である事は想像に難くない。響華は、咄嗟にVerweigerungをズヴァルトゲール越しに展開し、自身の人造竜騎に触れるそれを拒絶無効化させながら、ダメージの軽減を図りつつ距離を取る事に成功した。
「もう……ローションプレイは嫌いじゃないけど……相手によるわね!」
少々相手は、響華の趣向範囲とはどう考えても言い難い。力強く叩き付けた言葉と共に、追従しようとした他の獣騎スライムを、ズヴァルトゲールの漆黒に染め上げた『悪夢の影』を体現した鎖付きの大鎌Kette des Waffeを大きく旋回させる事で牽制し、その軟体の一部を叩き落とした。
敵の攻撃手段は単調なものだ。だが新しい手段が生まれぬとも限らず、こちらも完全に相手の攻撃がいつまでも無効化出来るとは限らない。消耗戦になる前に片を付けなくてはならない。
そう判断した末。響華は武器の勢いはそのままに下がり、距離を取りつつ敵の様子を観察した。――見れば、流動体部分の攻撃はほぼ無効化されているが、獣騎として甲冑となった部分は修復されていない事に気付く。
「――そこね。邪魔よ、そろそろ消えなさい!」
ズヴァルトゲールから宣告されし、響華の一声が大空洞を打った。
人造竜騎から、明瞭な殺気が夜よりも深く暗く、黒い形となって噴き上がる。響華のユーベルコード【殺気の闇嵐】は、獣騎スライム達を包み込み、身体の支柱となっている甲冑部位を浸蝕し、内部で殺気をそのままに物質化させ、内部から次々と砕け散らせた。
「――グアッ!」
獣騎としての支柱となる部位が砕け、形を保てずスライムとしての流動体部位が露わとなる。現状ならばそのまま仕留めることも可能であっただろう。だが、響華はそれをしなかった。
「大丈夫、命までは獲らないから」
先、目の前の存在は『百獣族ワイバーンの盟友』と名乗った。ならば、力関係はどうあれ、こちらを無為に襲った訳ではないのだと理解する。
そう、村で見たものが憎しみから連なっているものであるならば、それを断ち切るべきものが、負の連鎖を増やすべきではないのだから――。
大成功
🔵🔵🔵
神田・桃
他の方が聞いた話も総合致しますと、呪いの主はおそらく山頂の残骸遺跡にいて、そこへ行く為にはこの洞穴を通る必要があると…、ひとまず参りましょうか。
おそらく正々堂々を旨としているならば、相手は堂々と待ち構えているはず…姿が見えたならカーテシーをしながらごきげんようと挨拶致しましょう。
挨拶が終わればアームドフォートを回避重視に変形させ、いざ!
相手の攻撃は跳びかかり…ですが私は生身、ならば慎重さを活かして足元をくぐれるはず!
回避能力はそのまま速さに直結する、勢いを乗せすれ違いざま関節に細剣で一閃を叩き込み、体勢を崩せればそのまま跳び上がり天井をアームドフォトで殴りつけて崩落によるダメージを狙いますわ!
●礼節は決意と共に
寿命という命を惜しみなく使い人々を癒やす。神田・桃(滾る鮮血の息吹・f41120)の手により時間を巻き戻す事で、呪詛は解けずとも完全に犠牲者を元の姿に引き戻すという術は、一時的にながらも、人々に絶対的な安心感を生み出した。
裏で吐血して尚、表では治療の手を休めない。その桃の姿は、猟兵特有の世界に溶け込む特性を以て背中の羽が見えなかろうと、恐らく村の人々には天使の如く映っていたに違いない。
苦しみ続ける人々の治療を終えてしばらく。桃は無事に傷を癒やせた人々から、飛び立ったとされる百獣族の明確な拠在地点、ならびに同じ依頼に加わっていた猟兵から、そこまでの道筋や懸念点等の情報を得る事が出来た。
「他の方の聞いた話も総合致しますと――呪いの主はおそらく山頂の残骸遺跡にいて、そこへ行く為には大空洞となる洞穴を通る必要があると……」
実際、いつまでも村に滞在している訳にもいかない事は分かっていた。
呪いはこの村――ひいては住んでいる一族の全員に掛かっている。治療は出来ても、再発は免れない。そうなればこちらの寿命を削る消耗戦になるだけだ。
「では――ひとまず参りましょうか」
ならば、こちらも打って出るしかないであろう。桃は村を出て辿り着いた先。ひとつ、心を決めて山の裾野に広がる洞窟内へと足を踏み入れていった。
桃は、洞窟を歩きながら考えていた。予知によれば百獣族は『騎士道に連なるものを何よりも重んじていた』という。
それならば、魔力の影響でも受けているのであろうヒカリゴケにより、予想していた以上に視野の明るい洞窟内とはいえ、更に隠れての不意討ち等は――。
「人間側の助太刀を頼まれたものと見受けられる! 我は『百獣族ワイバーン』の盟友、百獣族『獣騎スライム』である!」
――そう、決して。考えられはしない、と。
姿を見せると同時に、その姿を獣騎と変形し、名乗りを上げた数機の獣騎スライム。
「ごきげんよう」
それに対し、桃はその身長差に臆する事無く。優雅に鮮やかなピンクのロングスカートの両端を摘まみ、淑女らしく可憐に膝を曲げてのカーテシーをひとつしてみせた。
「私の名前は、神田・桃と申しますわ。目的は――村の呪いを解いていただくこと。そのひとつでございますの」
桃の鈴を鳴らすような声音が、それでもはっきりとした意志と共に大空洞の獣騎スライムの元へと届く。
水を打ったような静寂が、場を打った。
獣騎スライムの一体から言葉が発せられる。
「敵の助っ人とはいえ、生身の少女を甚振るには堪えぬ。今、ここより退けば、無益な争いも避けられよう。見逃すという選択はある」
それを受け止め、静かに落ち着き払った静かな眼差しで桃は答えた。
「……いいえ。村には真に、何の罪も無い方々が今も苦しんでおられますわ。それを見捨てる事こそ私の思いに――いえ、『道』に反する、というもの」
「……互いに譲らぬ、か。良いだろう、正々堂々と力にて決着を!」
桃の言葉を受けて、獣騎スライムの口上が高らかに帰結を示す。
そして桃が、華やかな宝石のあしらわれた、繊細ながらも麗しく輝く細剣プリマステラを構えた。それと同時に、携行型装備の固定砲台アームドフォートが、ユーベルコードにより、より回避型への構造へと変形を果たす。
「いざっ!」
それを待ち構えていたかのうように、掛け声と共に、体高5メートル程の獣騎スライムが、桃に流動体を奔らせながら、全身を活かしながらの飛びつきタックルを仕掛けて来た。
より大きな個体もある獣騎の中、少なくともこれは獣騎にしては小さい部類に入る。しかし、それでも実質的な大きさは人造竜騎と同規模。ましてや猟兵である生身の桃に直撃しようものならば、衝撃だけでも昏倒で済めばまだ良い方であるに違いない。
しかし、だからこそ――勝機がある。
桃は、相手の重量ある飛び掛かりを、回避力を上げた己のアームドフォートの機動力で華麗に躱すと、体勢を崩した相手の股下を、針の穴を通すように繊細ながらも全力で駆け抜けた。
一瞬、桃の姿を見失い虚を突かれた獣騎スライムが、動揺し辺りを見渡す。
しかし、そこに駆け抜けざまに入れたプリマステラの一撃が、遅れた閃光と共に相手の甲冑部分にあたる足下の関節を爆破させ、罅と共に鈍く砕け散らした。
「――何ッ!?」
敵が状況を理解出来ないままに狼狽える。桃は駆け抜けた勢いを止めること無く、片膝を砕いた獣騎スライムの身体へと、上昇させた回避速度の勢いをそのままに、全力で跳躍し獣騎の甲冑部分の上に駆け上がった。
そして、
「お受けなさいませ!!」
甲冑上部にて目に入る至近距離――この大空洞の天井に向けて、桃は自身が装備していたアームドフォートで殴りつけ、砲台の弾丸を撃ち放ち全力で叩き付けた。
瞬間、激しい爆発音と共に、天井岩盤が大きく揺れる。
同時に、崩れ始めた崩落は膝を砕かれた以外の獣騎スライムをも巻き込んで、山のような大量の土砂を伴い、その場を一斉に埋め尽くした――。
大成功
🔵🔵🔵
サンディ・ノックス
【無明】
治療なんてできないし
さっさと原因を殺して村人を助けるか
お前達は何?
行く手を阻むなら殺すよ
それにしても
騎士道を謳いながら憎い気持ちが抑えられないと呪うオブリビオンとか意味がわからない
また骸の海で歪んで意味不明になってる系かな
全く骸の海は碌なことをしない
勝手に想像して勝手に苛ついているから
目的地への行く手を阻む敵への対応も雑だ
黒水晶を使わないのがせめてもの「騎士道」を謳う者達への情け
暴食の大剣で敵のユーベルコードを打ち消しながら黙々と先へ行く
ルキフェルさんがいい感じに燃やしてくれるから快適だね
それにしても彼はどうしてついてきてくれたんだろう
帰ることを俺がどうこう言わないと知ってるはずなのに
ルキフェル・ドレンテ
【無明】
…おや、何だ馬の骨
俺は今から帰還するところだが…元凶を斃しに?
酔狂な
…俺も行く
退け、馬の骨未満の塵どもめ
俺は機嫌が麗しくないし、貴様らの有様には反吐が出そうだ
人類に恨みがあるのなら、わざわざ骸の海より戻って己の仇討ちを目論むのなら、何が騎士道だ、ふざけたことを——
…まぁ、所詮はどうでも良いことだ
左様な温い呪詛しか知らぬ貴様らにこの呪詛はさぞ辛かろう
骸の海に返すことすら癪である
燃え落ちろ
M’ladyにオーラ防御を纏わせながら馬の骨のやや後方から支援
溶解液ごと焼却して馬の骨の行く手を遮るモノから燃やす
通り道を開けてもらったところで悠々と進もうか
馬の骨が危険な目に遭わぬよう見守っておかねば…
●その滅殺に光無く
柔らかな茶色の髪を風に揺らし、少しだけ村を歩いて様子を見たサンディ・ノックス(調和する白と黒・f03274)の答えは極めて明確だった。
「治療なんてできないし、」
『さっさと原因を殺して村人を助けるか』――呼吸するように浮かび上がったその思い。
それはサンディの生き方や精神を考えれば、心の天秤としては揺れるまでも無く容易に傾くものだった。
憎しみであろうが、怨みであろうが、子孫などという当事者でも無い人々がこのような目に遭う道理は何処にも無い。サンディは不快に歪めた眉根からよせる瞳に『訳が分からない』という色を映して、即時その原因がいる山頂へ向かう準備を始めた。
支度を整え、村を出る。その時、サンディは己の目に一組の男女を見出した。ルキフェル・ドレンテ(宿怨の舞踏・f41304)と、共にあるM'ladyの姿。サンディはその旧知でもある相手に声を掛けた。
「あ、ルキフェルさん」
「……おや、何だ馬の骨」
先程まで、なぶっていた村人など既に意識からはどこ吹く風。少し茫洋としていたルキフェルは、サンディの姿に僅かに瞳を大きく開けた。
「俺は今から帰還するところだが……」
ルキフェルは、サンディの武器の取り回しさを優先している遠出の出で立ちを目に、ふむと考える仕草を見せる。
「元凶を斃しに?」
「そう、早く片付けなくっちゃ。それじゃ、俺行くね」
ルキフェルがこの依頼に来た目的というのも、サンディにしてみれば予測の範囲ながらに想定が付いて――それ故に引き留める理由も無い。しかし、小さく挨拶をして立ち去ろうとしたサンディにルキフェルが声を掛けた。
「酔狂な……俺も行く」
「え?」
「あそこの山の山頂であったな――どうした、早く向かうぞ」
「あ……あ、うんっ」
グリモアベースの転移場所とは反対方向。踵を返してひとつ見える巨大な山岳に向けて早足で歩き始めたルキフェルに、慌ててサンディが歩幅を合わせて追い掛けた。
途中にある大空洞には、既に猟兵達の激しい交戦の跡が見受けられた。それでも尚も広く、二人とM'ladyが歩く分には然程困ることなく足を進めていく。
「M'lady、道が少し悪いから足下には気をつけて――」
サンディが気持ち先を歩き、そっとルキフェルがM'ladyをエスコートしながら、道なき道ながらも順調に進む――矢先、先導していたサンディが足を止めた。
「お前達は何?」
サンディの背中越しに、ルキフェルもそれを目に留める。目の前の軟体生物――と呼ぶには、ほぼ液状とも呼べる物体は洞窟生息のモンスターとも思える存在であるが。
それは、明瞭なまでにはっきりと名乗りを上げた。
「我等は、この山頂に座する翼『百獣族ワイバーン』の盟友『百獣族スライム』! これ以上の領域、通すことは罷り成らん! 引き下がられよ!」
閃光が前方から数カ所迸る。激しい機械音と共に、そこにはルキフェルとサンディの身長を大幅に超える巨躯『獣騎スライム』が現れた。
「盟友――?」
口上を耳にしたルキフェルの眼から、苛立ちとも怒りとも取れる炎が一瞬湧き立ち、それを瞳に宿して獣騎スライムを忌々しげに睨め付けた。
「退け、馬の骨未満の塵どもめ。俺は機嫌が麗しくないし、貴様らの有様には反吐が出そうだ」
「何っ!? 貴様! 貴様に何の権利があって我らを愚弄するか!!」
ルキフェルの心に、闇が蟠る。
『人類に恨みがあるのなら』
どうして、このような無きに等しいまどろっこしい真似をするのか。
『わざわざ骸の海より戻って己の仇討ちを目論むのなら』
何故、その対象者は当事者ですらないのか。
――心に浮かぶ、そのどれもが。あまりに他に手段がなかったとしても。
「何が『騎士道』だ、ふざけたことを――」
獣騎スライムを目にして、同時に何処をも見ていない――否、『自分の心を見ていた』ルキフェルの瞳が零れ落とすように光を宿した。
オブリビオンと化して、尚この程度のものなのか。復讐に、憎いと、叫んで、尚、この程度。
『嗚呼、疎ましい――何もかも何もかも!!』
瞳の光が溶岩のように滾る。何もかもが、自分の憎しみとは、程遠く。そして生ぬるく、余りにもあまりにも、疎ましい。
ルキフェルの心から、声なき声が迸る。
偶然か否か、サンディがそれを合図とするように、叫びをまるで受け止め受け入れたかのように。静かに、獣騎スライムへと宣告した。
「――行く手を阻むなら殺すよ」
「聞く耳持たずか――! 人間に与するその態度! 屠れるものなら、屠ってみせよ!!」
高らかに叫ぶ獣騎スライム。
そうして、二人の戦いは幕を開けた。
サンディが敵に向かい、躊躇いなく駆け出していく。
獣騎スライムが、こちらを複数体で取り囲もうとしつつも、中央に集中しようとする合間に、隙を見て身体を変形させ、硬質の甲冑部分を叩き付けようとする獣騎スライムの攻撃を、サンディは完全に見切って躱した。
大空洞の鍾乳石を一部砕く破壊力。サンディはその衝撃を目に、暗夜の剣を構えながらも、想像にも似た思考を巡らせずにはいられなかった。
何しろ――騎士道を謳っておきながら、同時に憎い気持ちが抑えられないと、末裔とはいえほぼ無関係な人間を呪う『百獣族とかいう、オブリビオン』――その概念も感情も、一切理解が出来ないのだ。
(また骸の海で歪んで意味不明になってる系かな……全く骸の海は碌なことをしない)
サンディの胸に明瞭なまでの苛立ちが沸き起こる。
今回の主原因とも言える存在は別におり、こちらは進行の妨げになるだけだ。正直に言えば、相手をするのも面倒だが、全ての敵の意識がこちらに向いている以上、振り切る事は不可能だ。サンディは相手の攻撃を、見かけからは想像もつかない超人的な力を交えて受け流す。
「隙あり――! ぎゃあ!!」
同時に、サンディはこちらの隙を狙った敵をおびき寄せ、その相手の攻撃を自身の背後から迫っていた他の獣騎へと狙い澄まして叩き付けた。
獣騎の体高からすれば、遥かに小柄な人間の身体は非常に捉えがたい。獣騎スライムはサンディの俊敏な動きを捉えるべく、こちらを狙う個体数だけ現れた魔法陣から大量の溶解液を溢れさせようとした。
「――」
自身の『悪意』を露わにした黒水晶を攻撃手段として扱わないのは、仮にも『騎士道』を謳い掲げている者達へのせめてもの情けであろう。
サンディはそれを冷徹なまでに目に留めて、己のユーベルコードを発現させ、現出した大剣で次々と魔法陣を貫き撃ち壊す事で相殺させていった。
「貴様も構えよ!」
サンディの後方に控える形となったルキフェルにも、獣騎スライムより声が飛んだ。構えもしない相手とはやり合えない、その旨がありありと伝わりルキフェルは、嘆息を隠しきれない。
――何処までも、何処までも、温い。
当然、憎しみによる孤独の共有など、薄気味悪い事は考えていない。
だが――。
「……まぁ、所詮はどうでも良いことだ」
そうして、浮かびかけた思考を、ルキフェルは放棄した。
少なくとも、目の前に対峙する相手に。その価値も資格も見出せない事だけは分かったのだから。
M'ladyが万一、巻き添えを受けないようにオーラによる防御壁を巡らせる。同時に、ルキフェルは、前方にて見かけによらぬ修羅の如き戦いを見せ、相手を斬り壊していくサンディの姿を目にしていた。
その視線に、M'ladyが不思議そうにルキフェルを目にすれば、「ふむ」と本人も少し思案に耽る。
「あれは少し、否、少なからず我が身を省みない戦いをするからな……」
「いつまで眼前の相手を無視するつもりか!」
獣騎スライムが怒り、生み出した魔法陣から大量の溶解液を噴出させる。
「考え事の邪魔を――下らん」
断じる一言。ルキフェルが、手を前に突き出す。
そのたったひとつの仕草で放たれた無数の焔が、眼前にいる全ての獣騎スライムを地獄の炎で包み込んだ。
「ふん、騎士道だ――? そのような事に拘っている間はまだ、温い。左様な温い呪詛しか知らぬ貴様らに、この呪詛はさぞ辛かろう」
絶叫が上がる。こちらまで狙いを定めた魔法陣も容赦無く砕きながら、炎が獣騎スライムを焼き尽くしていく。
「骸の海に返すことすら癪である。燃え落ちろ」
サンディの苛立ちと共に雑とも言える八つ当たり気味に散らしていた敵が、獄炎に包まれ灰にもならずに熔け消える。
(ルキフェルさんがいい感じに燃やしてくれるから快適だね)
今のルキフェルの一手で、戦闘にもかなりの余裕が出来た。最初は一人で切り抜けようとしていた場であるから非常にこの手助けは勝手が良い。
だが、そこにふと『彼はどうしてついて来てくれたのだろう』という疑念は浮かぶ。
基本的にルキフェルは、例外も多いがM'ladyを中心に己のしたいことを主軸とする。引き受けた依頼を途中で放棄する事もあるが、その類についての是非をサンディがどうこう言わないのは、ルキフェルも良く知っているはずだ。
考えながら斬り捨てていく。切り開くべき障害はもはや紙よりも脆かった。
開かれた通り道を、M'ladyと連れ合い、ゆったりとした足取りでルキフェルが歩く。
前方には露払いというよりは、既に塵払いの様相を呈してきた戦いをするサンディの後ろ姿があった。
次の戦いが、これほど軽率なまでにとんとん拍子に進むとは思えない。
――なれば『目の前の、馬の骨が危険な目に遭わぬよう見守っておかねば……』と心の何処か、そのような思いに駆られながら歩みを進めて行った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『獣騎ワイバーン』
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POW : ワイバーンテイル
【尻尾】で虚空を薙いだ地点から、任意のタイミングで、切断力を持ち敵に向かって飛ぶ【衝撃波】を射出できる。
SPD : ワイバーンスパイク
【飛竜の翼】によりレベル×100km/hで飛翔し、【装甲の厚さ】×【対象との速度差】に比例した激突ダメージを与える。
WIZ : ワイバーンブレス
【口腔】から、着弾地点で爆発する【火炎弾】を連射する。爆発は敵にダメージを、地形には【炎上】効果を与える。
イラスト:もりさわともひろ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
こうして、山頂までの道のりは切り開かれた。
今までの猟兵の活躍は、同じ戦いの中でも明らかに異なるものだった。
ある者は慈悲を見せ、ある者は礼節を示し、ある者達は滅殺によって。全てが違う道筋により血路を開いた。
それら全てを、村を流れた風に乗った声と、大空洞内から響いた全ての音を拾って理解した『獣騎ワイバーン』は己の眼を見開き鋭い眼光を伴わせ、その巨大な翼をゆっくりと打ち広げて猟兵達を待ち受けた。
ルキフェル・ドレンテ
【無明】
ほう……何やら馬の骨は義憤に駆られているらしい、悪人のくせに
…ふーむ、全く理解に苦しむな
おい、蜥蜴
我が名はルキフェル・ドレンテ
生前騎士をしていた者だ
馬の骨はああ言ったが、俺は貴様を何だかんだで善良な騎士だと理解した
相手を間違えながらでもあくまで仕返しを目論む程度の倫理はあるし、決闘の行儀も心得ている
見事だ
だから貴様は今ここで再び死ぬのだ、愚か者
わざわざ骸の海から戻って行儀良く仕返しだなどと笑止、八つ当たりとはこうするものだ
馬の骨は炎が苦手だったか
火炎弾は彼も含めてオーラ防御で護りつ、UCの呪詛の炎で焼却を
——貴様、良い度胸ではないか
この俺に炎で挑んで来ようなど
サンディ・ノックス
【無明】
やあ、殺しに来たよ
正々堂々の勝負ができると思ったの?
なんの罪もないヒトに耐え難い苦痛を与えた時点でお前は悪になった
仕返しの対象が本人でないのは筋が通らないよ
当事者を呪うなら応援してあげたのに
淡々と告げながら心中は穏やかではない
だって俺の半身である悪意も似たようなことをしてるから
ある集落の人々に殺された獣の無念を人類すべてにぶつけたいと
――故に俺は悪なのさ
暗夜の剣を囮に隠し武器から全力でUCを放つ
与えた傷に追撃して消耗させよう
竜の攻撃は癖を見切りダッシュして回避
一度は被弾することになるけど痛がってなんてやるもんか
ルキフェルさんに守られて正直びっくりだけど嬉しい
短く礼を述べて戦いを続けるよ
●弱者の悪
大空洞を抜けた先、それは星の輝く夜だった。
夜でも、ひんやりとした静かな風が吹く。
山頂でも清々しく爽やかに流れる空気の中、その風に相応しい表情でサンディ・ノックス(調和する白と黒・f03274)は微笑み告げた。
「やあ、殺しに来たよ」
全てを目にしていた獣騎ワイバーンは、サンディと彼に伴うルキフェル・ドレンテ(宿怨の舞踏・f41304)を目に、憎しみにも近く、その遠くの禍星よりも輝く瞳でふたりを射殺さんとばかりに睨め付けた。
「よくも。よくも、我が同胞まで! 更には人間までをも甚振る姿を、声を、我は耳にしていた。我に並びし義の道から外れた外道共が! 勝負せん。焼き尽くしてくれるわ!」
「――むしろ。……何でお前が、ここで正々堂々の勝負ができると思ったの?」
サンディが微笑みを浮かべていた表情に、ふと怒りと侮蔑を滲ませ口にする。
「なんの罪もないヒトに耐え難い苦痛を与えた時点でお前は悪になった」
「……」
「仕返しの対象が本人でないのは筋が通らないよ――当事者を呪うなら応援してあげたのに」
サンディの言葉に、獣騎ワイバーンは嫌悪を露わにした瞳のぎらつきを僅かに落とすのが目に見えた。その様子に、百獣族というものが、オブリビオンでありながら義を尊ぶというのは事実であるらしい事が窺える。無言の言葉は肯定の理解であることも。
同時に、敵に向けている苛立ちすら窺えるサンディの言葉に、ルキフェルは興味深いとも不可思議とも言える瞳で、それを目にしていた。
どうやら、呼称『馬の骨』――サンディは、珍しく表に出す程の義憤に駆られているようである、と。だが同時にルキフェルは理解している。サンディとて『決してそのような善人の類では無い』という事実を。
故に。その事象に、全く以て理解に苦しむと微かに首を傾げながら、ルキフェルは一歩、獣騎ワイバーンへと足を進め、言葉を続けようとするサンディの斜め前に立ち、敵へと向き合い対峙した。
「おい、蜥蜴」
「蜥蜴、であると――! この天翔る百獣族ワイバーンを前にしながら!」
相手が、前脚を鋭く大地に叩き付けその爪で削り取る。
しかし、その瞬間ルキフェルは察した。
この場に於いて、目の前の存在が、種族を名乗りながら対話が可能な知性を以て尚、己の固有名詞を名乗らないと言うことは。
「――貴様、どうせ己の名乗る名を忘れ落としたのであろう? 我が名はルキフェル・ドレンテ。生前騎士をしていた者だ」
「――……」
それに獣騎ワイバーンは言葉を止めた。相手固有の名乗りに、種族で応えるのは礼に失する。しかし言葉通り、この獣騎ワイバーンは己の名前すら失ったのだと察せられるには十分な長さの沈黙がその場に落ちた。
代わりに、瞳に宿す憎しみは消えずとも、今、戦闘の意欲を見せずにルキフェルの言葉を正面から受ける様子。それに名を名乗らぬ事を咎めず、ルキフェルは続けた。
「馬の骨はああ言ったが、俺は貴様を何だかんだで善良な騎士だと理解した。相手を間違えながらでもあくまで仕返しを目論む程度の倫理はあるし、決闘の行儀も心得ている――見事だ」
語られる言葉に、獣騎ワイバーンが耳を傾ける。それが、
「だから――貴様は今ここで再び死ぬのだ、愚か者」
致命的な隙になった事に気付くのも遅れて。
その視界から、ルキフェルにより死角になっていたサンディが飛び出し、黒に朱を交えた暗夜の剣を抜き、一気に相手との距離を詰める。
「卑怯な!!」
獣騎ワイバーンが吼え、振り下ろされたサンディの暗夜の剣を前脚部位の爪で防ぐ。
しかし、それすら相手の気を引くための囮でしかない。
本命は即座に鞘から引き抜いた黒の短剣、玉桂の小刀。
サンディはそれに渾身の力で己のユーベルコード【解放・宵】を解き放ち、攻撃強化により命中率を跳ね上げ、その獣騎の関節に刃を突き込み力一杯捻り込んだ。
「グアアアッ!!」
獣騎ワイバーンが絶叫を迸らせる。
「わざわざ骸の海から戻って行儀良く仕返しだなどと笑止、八つ当たりとはこうするものだ」
その光景を、憐れとも、当然ともするように。
それに相応しい無表情を携えながら。ルキフェルはそう告げて、サンディの姿を捉えながら、ただ敵の姿を凝視した。
一方、最初の静かな語り口から、不意討ちで攻撃を仕掛けたサンディも、その胸中は決して穏やかとも凪打ったものでも無かった。
獣騎ワイバーンの行動は、サンディにとっても他人事ではない。――己の中にある、自分の半身『悪意』は語る。調和した上で尚、否、だからこそ。その心は躊躇いなく訴えるのだ。
己の、悪意にとっての『お父様』と呼ぶべき存在が、集落の人々によって殺された無念を。世界全てが一瞬で塗り替えられたその『獣』の無念を、全人類にぶつけたい――と。ひたすらにそう叫んでは、無辜の人々を殺し続けて来た瞬間と同じように。
今、その現象と同じ事をこの敵は行っている。
サンディの口端が、大きく歪み上げられた――なればこそ『故に、自分は悪なのだ』と。
そこには、疑いも戸惑いも躊躇いも、存在してはいなかった。
捻り埋め込んだ玉桂の小刀を引き抜き、もう一度身を退く相手を追い掛ける。そして、身体を巡っているオイルのようにエネルギー体が滲んだ箇所を、更に狙って刃を突き立て真横に引き裂いた。
連続して上がる獣騎ワイバーンの叫び声。
鋼の鱗の隙間を狙う一撃を振り払うように、その尾が弧を凪いだ。
負傷している分だけ行動も多少は単調となるであろうと認識し、サンディが敵の尾の一撃を回避した、先。安堵の隙を突いて、その尻尾が辿った虚空の軌跡から殺意が生まれた。
「――!」
咄嗟にサンディは己の身に防御オーラを巡らせながら、全力で向いていた方向そのままに駆け抜ける。本能が訴えた。そこに状況を確認する暇も、身を翻す暇も無いのだと――刹那、尻尾の動きと完全に一致した型の衝撃波が、空気諸共サンディが直前までいた居場所を切り裂き、その一部がサンディのオーラ防御すらも破り肩腕までも巻き込み切り裂いた。
「……」
避けられない被弾であった。限界まで軽減したものの、見るだけでも痛みが走りそうな傷に、サンディは敢えて気合いで表情すら表に出さずに呑み込んで相手を睨み付ける。
「汝ら、更に再度我らに傷を付けてただで済むと思うなかれ!!」
獣騎ワイバーンが、ついに翼を打ち広げた。そして、巨躯の背後ブースターに力場を発生させ一気に上空にまで飛翔する。同時に、大きく開かれた口から周囲の温度を一気に跳ね上げるような熱と共に、無数の火炎弾を大地に向けて叩き付けた。
それは、飛翔手段のないサンディには躱すことしか出来ず。着弾地点は尚残る業火に呑み込まれ、見る間にその逃げ場を失っていく。
「……」
サンディの不利は明らかだ。それを目にしたルキフェルは、即座に彼の傍らに寄り、自身の力で黒とも赤とも付かない、地獄の具現を思わせるオーラの壁で周囲を包み、火炎の着弾を防ぐ。だが、これも敵の猛攻を防ぐには一時の防御でしかないであろう。
――それを見越して、ルキフェルは自分の力で、自らの防御壁ごと燃えさかる敵の炎を、己の呪詛で呑み込んだ。
ユーベルコード【獄炎の第八曲・改】――それは、ダイヤモンドすら輝きごと呑み込み溶かす溢れんばかりに生まれた地獄の炎。複数による合体強化と任意消失を可能とした火炎は、獣騎ワイバーンの炎を巻き込み、呑み込んでは次々と相殺、否、逆に敵の炎すら燃え尽くさせるようにして消していく。
「え……」
「何をぼさっとしている、馬の骨。幾ら空を飛ぼうが、それこそ撃ち落とせば良い。まだ戦えよう?」
「あ――うんっ。ありがとう!」
戦闘続行。サンディが武器を力強く構え直し、相手を睨み付ける。
「汝、邪魔をするか――!!」
獣騎ワイバーンが再び口腔から、憎しみに染まる紅蓮の炎を滾り迸らせる。
ルキフェルは、静かにそれを見ていた。侮蔑でもなく、そこには何の表情も浮かべずに。
ただ、感情には――それに勝る憎悪だけを携えて。
「——貴様、良い度胸ではないか」
手にしていたステッキ、velut Lunaの宝珠が光り輝く。ユーベルコードによって生み出された、個数にして百五十を優に超えた炎は、相手の火炎を打ち消しまだ余りある程――呪詛と言う名の憎しみは、溢れんばかりにこの場に漂う。
「この俺に炎で挑んで来ようなど」
一瞬にして、全ての炎がルキフェルの正面に集い、それは地獄の一光景を再現する。
そして放たれる、互いの憎しみをぶつけ合う一撃。
それは、相殺を繰り返した後――放たれた相手の火炎弾の全てを打ち消し、獣騎ワイバーンを業火の中に呑み込んだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ヘルゲ・ルンドグレン
これが猟兵とグリモアの力……事件の救援にすぐに駆けつけることができるなんて!
出遅れましたが、このヘルゲ・ルンドグレン!
これより助太刀致します!
相棒たる人造竜騎ウロボロスを駆り、正々堂々と名乗りを上げて挑むわ!
飛行する相手への対処はこれ!
【高速詠唱】から【火炎蛇】を発動!
狙うのはその翼、炎の蛇で翼を締め上げて速度を抑えるわ!
速度が落ちれば、耐えられる筈……激突ダメージは【竜騎用魔法障壁】による【魔法防御】で受け止めて耐え切ってみせる!
また飛び立つまで少しでも長く拘束を続けて、火炎ダメージを与えるわ。
貴方の憎しみは御尤も!
だけど、それを今を生きる人たちにぶつけるのを許すわけにはいかないのよ!
●魔導騎士
グリモアベースの転移先より、全力で飛翔する。それでも自身の同世界を長距離移動するよりも遥かに早く。
そして到着した現場は、既に紅蓮の炎によって夜の空を激しく焦がし続ける戦場だった。
だが続いている交戦の軌跡こそが、今、ヘルゲ・ルンドグレン(魔導騎士・f44787)の間に合った証左である事を告げている。
「出遅れましたが、このヘルゲ・ルンドグレン! これより助太刀致します! ――行くわよ、|相棒《ウロボロス》!!」
架空生物『無限・永遠の円環を示す蛇』――そちらをモチーフにした人造竜騎ウロボロスに騎乗し駆り立てて。ヘルゲは、純然たるこの世界の血を流す存在、この世界に在りし騎士として、獣騎ワイバーンの前に立ち塞がった。
「我が名はヘルゲ・ルンドグレン! この世界の人間が犯した鋼の咎を引き……なれど! ここに騎士道の誇りを掲げ継ぎし者なり!!」
高らかに、何よりも力強く。この業火燃え立つ戦場に名乗り謳い上げられたヘルゲの声。
それを受けて。他の猟兵により傷付けられた傷から小さな爆発を起こしている、眼前の百獣族ワイバーンは、地に落ちて蹲る憎しみに溢れ鋭くぎらつく、狂気に近づいている眼差しを、ほんの僅か苛烈なまでの意志で力ずくで抑えこみ。その色に理知を宿して鋼よりも打ち響く硬質な言葉で応えた。
「なれば――今、貴を『正当な挑戦者』として認めん。いざ、今度こそ尋常なる勝負を!」
こちらが人造竜騎に乗った体高五メートルを優に超える、まさしく巨躯と呼ぶに相応しい獣騎ワイバーンが、再び背後ブースターに熱を宿す赤光を噴き上げ上空へと飛翔した。
「させないっ!!」
空を得手とする敵は、地上にいる時とは戦闘手段があまりにも大きく異なる。だがしかし、それ故に殆どの敵は低地にいる存在に対して、得手であると同時にその特有の戦い方があるものだ。この場合は先のような炎による遠距離攻撃か、或いは金属の鱗で硬く己の身を覆い弾丸とした、突進攻撃。
それを裏打ちするように。敵は翼を一打ちすると、大空を裂き切るようにこちらに向かって猛スピードで滑空して来た。
「それなら、これでっ!!」
ヘルゲは急ぎ、溢れんばかりの魔力を竜騎用魔力回路ラインに一気に注ぎ叩き込む。
『炎ノ邪なる蛇よ、猛き炎を以て彼の者を束縛せしめん。我が命じる通りに、熾烈なる炎の輪にて彼の者を縛りしめよ!』
唱える魔術はウロボロスを介しての高速詠唱言語。それはぎりぎり敵の先手を取る形で、確かな形とする事に成功する――発現したユーベルコード【|火炎蛇《フレイムスナーク》】は、敵の機動性の核とも言える翼を、現出した炎の大蛇によって激しく絡め取り、一気に強く締め上げた。
「小癪な!!」
獣騎ワイバーンの速度が一気に、失墜近くまで落とされ掛ける。互いを行動停止にする拘束力は、容赦無く相手の行動に制限を掛けた。
しかし、それでも尚も止まらぬ勢いに、ヘルゲは即座にウロボロスに搭載されている魔力石に意識を向けて、先に繋いだ回路を経由し己の魔力をバリアと成し、急ぎ人造竜騎へと展開させた。
「耐えて! ウロボロス!!」
獣騎ワイバーンの、威力を落として尚激しい衝突力と、竜騎用魔法障壁がぶつかり合う。焔噴き上げる炎の大蛇は、敵の翼を焼き焦がしながら、それでも尚相手が止まることはない。
「……このような、焼かれ方であれば。我が翼も、一族も報われたであろうに!! 人間――否、貴公ヘルゲ・ルンドグレンよ!!」
「貴方の憎しみは御尤も! だけど、それを今を生きる人たちにぶつけるのを許すわけにはいかないのよ!」
消して退かぬという意図を露わにする獣騎ワイバーンの立てる激しいブースター音。敵の勢い自体はかなり削げたが――瞬間、それに合わせて、激しい音を立てて魔法障壁に罅が入る。
「させないんだからっ!!」
是が非でも、ここで抑える。意を決したヘルゲは、防御壁と相手を拘束して維持し続ける炎の大蛇の双方に己の魔力出力を跳ね上げた。
そして、ヘルゲの炎の大蛇が消え、ウロボロスの障壁が粉々に砕ける代わりに。突撃はm弾け逸れ人造竜騎への直撃を免れ――獣騎ワイバーンは己の翼の装甲と皮膜を大きく焦がして、本来の飛翔能力の大半を失いながら上空に留まり、無言で猟兵達を見下ろした――。
大成功
🔵🔵🔵
伊澄・響華
アドリブ歓迎
さすが飛竜というだけあって、速度はなかなかのものね。
あの勢いで激突されたらちょっと痛いかも。
でも、逆にそこが狙い目!
相手が直線で攻撃してくるよう、後方が開けた場所で後ろに向けて直進飛行。
正面から突撃してくる飛竜との相対速度を落としつつ、前髪の隙間から見つけた獣機の【崩壊開始点】に向け、激突の直前に鋭い無数の針状にしたPresence of ExterminationとKette des Waffeによる斬撃を放ち、装甲を破壊しつつ、Verweigerungを展開し突撃を受け流します。
ねぇ、そろそろ終わりにしない?
これ以上続けても、誰も幸せにはならないわよ。
願いを込めて語り掛けます。
●手放せなかったもの
空を一体の|獣騎《バルバ》が星の如く翔ける。
翼に猟兵から過去の怨みと同じ焼け痕を負って尚も飛翔を止めないそれは、思考と共に地上近くに滞空していた伊澄・響華(幻惑の胡蝶・f44099)が搭乗する人造竜騎ズヴァルトゲールの至近を威嚇するように翔け抜けた。
「我は、まだ負けぬ! 次に決闘に立つのは誰だ!? 勝負せよ、無辜なる人間どもの代理人!!」
「――さすが飛竜というだけあって、速度はなかなかのものね。あの勢いで激突されたらちょっと痛いかも」
コクピットの中で、響華が外に零さぬよう、静かに呟きを落とした。
先程から響華は、この燃えさかる山頂の立地を見ていた。
山頂は、高くはないが岩に囲まれ、既に火炎で地上では居られる場所すら限られている。ズヴァルトゲールに飛翔能力があるという事は、今回に於いては極めて幸いと言えた。
「ならば、こちらから指定するまで! 勝負だ、そこの闇に金輝く|人造竜騎《キャバリア》!」
そしてついに、対象がこちらに向けられる。
思考時間はここまで――否、今自身のいるこの場所に向かって来るのを。響華はずっと、待っていたのだから。
ぎりぎりその巨躯が通り抜けられる、距離幅のある左右に荒れた岩山で挟まれた空間。遠くから響華の存在を捕捉した獣騎ワイバーンが、その場をズヴァルトゲール目掛けて一直線に飛来してくる。
その速度は他の猟兵達の攻撃を受け、落ちながらにして尚速い。
ズヴァルトゲールは相手に背を向ける事なく、一気に後方に飛翔する。敵の装甲を乗せたあの速度で直撃されれば、女性型の華奢な類となるズヴァルトゲールでは大破も免れないだろう。
だが、今は『相手自身すらも軌道変更の出来ないその速度』こそ、
「――逆に、そこが狙い目!」
こちらも後方に向かい飛翔し、あくまで相対的な速度だけを落として、相手を視野に捉えやすくする。
相手はこちらを捕捉、旋回移動は不能な地形。
――刹那。敵が近づく衝撃に揺れた響華の前髪から、モニタ越しの視界に入れていた獣騎ワイバーンの姿に、無数の光り輝く点が見えた。
【|崩壊開始点《ホロウ・ポイント》】――発動した響華の能力で得た視界が、次の瞬間には、そのまま認識モニタとして人造竜騎に反映される。
獣騎の翼に灯る無数の光点。胴体に深く一筋に並ぶ光の配列。それは、全てを穿てば相手を殺し破壊出来る、滅びを知らせる告死の輝き。
響華は、呼吸する間もなく近づく相手に臆する事なく、ズヴァルトゲールの周囲に射干玉色の漆黒に染め上げ物質化した殺意を湧き立たせ。共に手にした闇を構える。
「――!?」
敵は異変に気付いても、その速度が己の勢いを止める事を許さない。
直撃まで、三秒、二秒。
一秒。
岩山の枷を抜けた先、拓けた空間でも軌道修正の儘ならない敵の前方に。
ズヴァルトゲールの正面に展開された、黒く細長い針状へ姿を変えた数多無数の殺気『Presence of Extermination』と、闇に染め上げた漆黒の大鎌『Kette des Waffe』の斬撃が、一斉に敵の崩壊開始点を打ち砕いた。
「グ――ッ!!」
獣騎ワイバーンの金属装甲が無数の爆発を起こす。しかし、敵の動きは止まらない。それどころか、避けられないのであればと、更にブースターによる衝突の加速を増してズヴァルトゲールへと特攻する。
「――」
その動きを予測していた響華は、旨に一瞬の沈痛さを秘めて。己の気のひとつである『Verweigerung』をズヴァルトゲール越しに発動させた。
認識が乱され、確実に捉えたと思っていたであろう獣騎ワイバーンの攻撃が逸れる。
同時に硬質に展開されたオーラが、相手による突撃を逃さず全て受け流していた。
ひとつ、獣騎ワイバーンから大きな爆発が起きる。
受け流した敵が傍らをすり抜け、火炎弾の炎上が収まりつつある焼け焦げた地に、それは蹌踉けるように不時着する。
「ねぇ、そろそろ終わりにしない? ――これ以上続けても、誰も幸せにはならないわよ」
願いの中に、祈りにも近いものを寄せて。響華は静かに、黒煙を上げ動かない獣騎ワイバーンに問い掛けた。
しかし、響華には。その答えすらも分かっていたような気がしていた。
「まだ、だ。まだ、終われぬ……終われぬ! 我は、この存在消え果てるまで! 今、身体が燃える以上に、あの時受けた我が身を灼く憎しみを! 終わらせる訳にはいかんのだ!!」
それでも、次の瞬間。響華は確かに、その言葉を耳にしたのだ。
『……この戦いが。己にもたらす水の如き清々しさを……憎しみ消すまで、どうして手放すことが出来ようか』――と。
この戦いがあればこそ――言外の意志を伴い、獣騎ワイバーンが惨たらしいまでに焼け焦げた翼を、高らかに広げ羽ばたく。
「我は、最後まで……動かず地に墜ちるまで、この羽ばたきを止めはしない! 止めて見せよ、決闘の挑戦者!!」
大成功
🔵🔵🔵
神田・桃
ここが山頂ですわね。
相手は飛行能力持ちとの事ですが、さてどうしましょうか…あら、あれは…!
ごきげんよう、ワイバーンさん。
本日は村の方々の代理として私達猟兵がお相手させて頂きますわ。
私、神田 桃とこの…都合よく落ちていたグリフォンキャバリアで!
操作の方はアームドフォトを接続して人造竜騎もアームドフォトと定義する事で無理やり行っているので大丈夫ですわ。
今回の件に関して色々語ろうと思えば語れますが…ここまで来た以上最早言葉は不要!
私のすべてをぶつけさせて頂きますわ!
願わくば、この聖なる決闘で今度は貴方が納得できる形で終われる様に。
それでは、竜騎を防御力特化形態に変形させ…いざ!
こちらも飛行は出来ますがそれでも追いつくのは至難の業。
なのでまずは防御に徹しますわ!
衝撃波を凌いでいればその内しびれを切らして突っ込んでくるかもしれません、ですがそれこそ好機!
すかさず竜騎から飛び出し、アームズフォトで強引に竜騎を振り回し、竜騎を武器として殴りつけて差しあげます!
言ったはずですわ、全てをぶつけると!
●終幕
「ここが山頂ですわね」
神田・桃(滾る鮮血の息吹・f41120)が目にしたものは、地上戦での苛烈な戦闘を極めた末に、空中戦へともつれ込んだ戦場だった。
最初に激昂を伴った獣騎ワイバーンの射出した火炎弾のブレスは、未だ各所にて、ぼろぼろになった決闘場の跡地から星光る夜空へと、大地を赫々と染め上げている。
「見れば、やはり相手は飛行能力持ちのようですが、さてどうしましょうか……」
桃も自らに飛翔手段を用いてない事もあり、空中戦そのものに特性がある訳ではない。地上で迎撃する手段もあるが、未だ地上に燻る炎がそれは悪手だと告げている。
「……あら、あれは……!」
その最中――桃はそのような状況下で、あるものを見つけ出した。
炎の中に、取り残された一体の人造竜騎――グリフォンキャバリア。火に囲まれ、直ぐに逃げ道も断たれようとする世界の中で、それに取り囲まれる人造竜騎を見た時、桃の心には『これ以外に無い』という思いが浮かんだのだ。
無傷でありながら、何故このようなところに落ちているのか。それすら分からない。
しかし桃は、これで退かねば、その路すらも炎に消えるであろう道を自分から駆け込んで、グリフォンキャバリアに自身のアームドフォートを稼働させつつ駆け寄った。
これに乗る事が出来れば、勝機がある。むしろ唯一の勝機ともなり得る存在。
さっそく、桃は己の携行型固定砲台であるアームドフォートに無理矢理接続し、強制操作を試みようとする――だが、幾ら己の装備している固定砲台とはいえ、アームドフォートは、特殊技能を付与の為に強化改造をしている訳ではない。
ある意味、それ以上でもそれ以下でも無い純粋な装備に、この世界の|人造竜騎《キャバリア》に強制制御力を求めるのは不可能に近く。
背後には火の手が上がった。
「困りますの! お願いしますわっ、動いてくださいませ!!」
今ならば、ユーベルコードを使えば一人で脱出出来る。だが、桃はそれをよしとしなかった。
胸が痛み苦しく、口端を朱に染め上げながら激しく叫び上げる。瞬間、目の前の人造竜騎は――その呼び声にこそ、答えたのだ。
パッチが開く。それは恭しく、客人を招き入れるように――。
そして、『決闘の代理人』の気配を感じ取って。獣騎ワイバーンが姿を現した。漆黒の天頂より、あちこちに爆破痕を散らす体躯八メートル以上の巨躯と、憎しみから付随する様々な思いを伴って。
「ごきげんよう、ワイバーンさん。本日は村の方々の代理として私達猟兵がお相手させて頂きますわ」
桃はそれに優雅なカーテシーをひとつ。
「――我は。百獣族、獣騎ワイバーンなり。挑戦者、名を名乗られよ」
「私は神田 桃。そして此度は、この……都合良く落ちていたグリフォンキャバリアで!」
場の紹介としては少し苦しかったが、何しろ他に説明のしようも無かったのであるから仕方なし、と桃が若干の動揺の傍らにそう告げた時、獣騎ワイバーンは、不思議そうにそのグリフォンキャバリアを目にして、今までの盛りなど嘘のような声音で答えた。
「都合……? ああ、それは――以前、我を討ちに来た騎士の人造竜騎ではないか。……それの主はそいつを乗り捨てた。我が前にしてそれを置き捨てた後、決闘から這々の体で逃げようとしていたのでな。地を這う虫に相応しく踏み潰したわ」
語られたのは、この事件の影に隠れた、とあるひとつの因果。
「憐れなり人間よ、その忌まわしくも人造竜騎の惨たらしきこと――せめて、貴公のような存在に搭乗され、破壊と共に本懐全うされるのが、その人造竜騎も本望というものだろうな」
「……今回の件に関して色々語ろうと思えば語れますが……ここまで来た以上最早言葉は不要! 私のすべてをぶつけさせて頂きますわ!」
歯車は、取り返しの付かないところまで狂っていた。
なれば、と獣騎ワイバーンを目にして桃は思うのだ。
――『願わくば、この聖なる決闘で、今度は貴方が納得できる形で終われる様に』と――。
グリフォンキャバリアに搭乗し、桃はコクピットに自分のアームドフォートを接続するつもりであった。最初は、これで制御システムを乗っ取るつもりでもあったのだが――ずっと愛用としているその接続を試みようとした途端、まるでグリフォンキャバリアは搭乗者の意図を完全に読み通したかのように、そのコンソールモニタが光り輝き、周囲の光景を実際の目に映すかのように具現化させた。
「これで、問題なさそうですわね……」
そして人造竜騎にむけて、己のユーベルコード【タクティカル・トランスフォーム】により、その防御力を跳ね上げる。飛翔による回避性が非常に高いグリフォンキャバリアをこれ以上早くすれば、桃本人も正式な乗り手では無い以上、耐えられる確信がない上に――敵はどのみち『それ以上に速い』のだ。
ならば、動かない。それはひとつの最適解たり得るものだ。
敵は、煙を上げ続けるぼろぼろの翼となって尚も更に速く上空へと跳ね上がる。こちらは敢えて機動性の高い、遮蔽物も目立つ低空へと構えた。
敵は今以上の被弾を避ける構えなのか、宙空を移動しながら虚空を切り裂く尾から任意発生させる衝撃波をこちらに叩き付けてくる。
重力以外による負荷以外、まるで意のままにグリフォンキャバリアを駆る桃は、それを岩山の遮蔽で威力を削り、或いはこちらの速度そのままに華麗に躱し切る。
「えぇい! 小賢しい真似をする!!」
繰り返し。衝撃波はほぼ当たる事無く、こちらに当たったとしても掠り傷程度の軽度爆発。敵の破損度を見た時、長期戦になれば間違いなく墜ちるのは相手であろう。
ならば――。
「直接仕留めるまで!」
敵自ら、こちらに距離を縮めて滑空してくるのは必然であり、
「来ますわ。良いですわね……?」
桃の言葉から、コクピット内が全肯定を示すように全面緑色に光り輝く。それと同時に、グリフォンキャバリアが桃の搭乗していたパッチを勢い良く開け放った。
桃が人造竜騎から飛び出し、己のアームドフォートと、そしてグリフォンキャバリアの推進力の力を借りて、半ば強引に思われる程の威力で自分の乗っていた人造竜騎を掴み、更に振り回し。
こちらに特攻してきた獣騎ワイバーンに向けて、殴りつけるように全力で叩き付けた。
「なん――ッ!!」
「言ったはずですわ、全てをぶつけると!」
そもそも普通の人間では、獣騎ワイバーンを相手にして体格的に相手にするのは、局地的に秀でる一点がない限りあまりにも無謀――それを顧みれば、今の桃にとって対抗しうる力量は。このグリフォンキャバリア、これだけだったのだ。
相手は速度を乗せた突撃、その軌道を変えることも回避することも侭ならない。
そこに対抗する五メートルの機体をぶつけられては。
獣騎と人造竜騎同士の、激しい連鎖爆発音が響き渡った。
『ありがとう』――そう聞こえた言葉は、どこから。そして、誰からのものだったのか。
少なくとも、何もかも。全てにおいて、無念しか無かったこの依頼に、確かな終止符が打たれた事だけは間違い無い。
桃は、静かにため息をついた。そして、全てが消えた先に向けて、粛然と佇まいを正したカーテシーをひとつ。
悲劇は、ここに。ようやく終わりを告げたのだ――。
成功
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