煉獄の蓋を開くもの
――燃える。すべてが燃えていく。
「ぎゃはははは! 楽しいねえ!」
人々が、街が、そして島そのものが、炎の中に消えていく。
あらゆるもの焼き尽くす炎の嵐の中で、シャイターンたちが踊り狂っていた。
「グラビティ・チェインは結構集まったね。これぐらいあればヒュパティア様も問題なく封印を解けるかしら」
「まーね。……まったく忌々しい。あんな場所にさえ押し込まれなければ、ヒュパティア様であればすぐにどうにかできたものを」
タールのような翼を持つ褐色の悪魔たちが目を向けた先には、噴煙を上げる巨大な火山が鎮座していた。
「ほんとにね。そんじゃ必要量は確保したなら……次はお楽しみよね」
「ええ、この辺りの島すべてを焼き尽くして、殺して殺しまくって、グラビティ・チェインを根こそぎ刈り取っちゃいましょ!」
女たちはけらけらと高く笑いあう。
――そして。火山が大きく揺れ。
機械の身を持つ邪悪が復活する。
「はっはっは、お主ら元気かのう? 今回はケルベロスディバイドに向かってもらい、とあるデウスエクスを討伐してもらいたい」
グリモアベースにて、笑い声を上げながら御形・菘(邪神様のお通りだ・f12350)が説明を始めた。
菘がぱちんと指を鳴らすと、巨大な立体スクリーンが浮かび上がる。
画面に映し出されたのは巨大な茶色い山だ。その火口には、赤い灼熱のマグマが溜まっている。
「太平洋にあるハワイの、キラウエアという山だ。火山として世界的に有名らしいな?
およそ十数年ほど前に、人類が力を結集させて決死の覚悟で倒そうとした、……そして滅ぼしきれず、どうにかこの火口の溶岩の中に封印しかせざるをえなかった強大なデウスエクスが、今も封印を解こうと頑張っておる」
火山の溶岩の中など、およそ地球上でも最も過酷な環境の一つなのは間違いない。しかしそんな場所でも健在だというのだから恐ろしい。
「そいつの名前は『ヒュパティア・アレクサンドリア』。十二剣神『黄道神ゾディアック』配下のダモクレスだ。
時間をかけてついに封印解除の方法を解析したヒュパティアは、眷属たちに命令して復活の儀式を行おうとしておる」
儀式遂行のためにデウスエクスたちはグラビティ・チェインを欲している。そのために地球人たちの大量殺戮を引き起こそうとしているわけで、人命に大いに被害を出した上で強大なヒュパティアに復活までされるなど、許すわけにはいかない。
「ほら、封印解除の方法のイメージとしては……縄で身体を雁字搦めに拘束されておるが、こことここをカットすれば容易く抜けられるというのを判明させた。で、縄を斬るためのハサミがグラビティ・チェインとゆーわけだ」
ぱちんと再び菘が指を鳴らすと画像が変わり、火山が遠くに見える市街が写し出された。
「お主らはまず現地に向かい、眷属であるシャイターンたちと戦ってほしいのだが、今回のミッションには制限がある。あくまでも、街まで侵攻してきたところを迎撃せねばならん」
本来であれば襲撃が予想される島の街の住人たちは事前に避難させるべきし、そもそもシャイターンたちは街から離れた地点で叩くのが上策だ。
だがシャイターンたちの目標は『より多くの人間を殺すこと』。襲撃の時点で標的の数が少なそう、あるいは猟兵たちが攻めてくるのであれば、いったん逃走してハワイの別の島へと向かってしまうだろう。島々の間には深い海があり、追いかけるにも一苦労だ。
「シャイターンどもも猟兵に攻撃を仕掛けられた状況にまでなったら殺戮を優先はせんし、戦闘に入り次第すぐに民間人には速やかに避難をしてもらう。だが、敗北はすなわち大被害の発生だと心得ておいてくれ」
くれぐれも負けてはくれるなよ? と菘は念を押す。
「で、シャイターンどもを殲滅したら復活目前のヒュパティアの元へ向かうのだが、その前にお願いしたいことがある。
なんせバトった相手は炎の使い手だ。戦闘によって建造物へ火災の被害が出てしまうのはどうしても仕方がないが、ある程度の消火活動を手伝ってくれんかのう?」
火災は燃え広がっていくほどに完全な消火が困難になる。初期段階である程度火の勢いを削いでおけば、後は現地のケルベロスや住民たちでも鎮火は可能だろう。
「民間人の避難は完了しているであろうから、人命救助については考えんでもよい。お主らそれぞれで消火の方針は選んでくれて構わんよ」
完全消火までは狙わずにより広い区域の火災の勢いを弱める、特に炎上が激しい建物を完全消火させる、燃えて今にも崩壊しそうな建物を保全したままで消火だけする、街の周囲の森への延焼を防ぐなど、やり方は色々とあるだろう。
消火活動を進めたら、最後はキラウエア火山にてヒュパティア・アレクサンドリアとの決戦となる。
「グラビティ・チェインが不足していても、一応復活はできる。ハサミを用意できなかったから、身体を拘束してる縄は思い切り無理矢理引き千切った……という感じになるかのう。おまけにマグマの中に長いこと沈められておったから既にダメージがでかい。
それでも普通の強敵ぐらいの強さだと考えてくれ」
遮る物は何もない場所での、熱い戦いとなることだろう。
「さて、心の準備はできたかのう? お主らの作戦の成功を信じておるよ。それでは行ってくるがよい!」
高笑いとともに菘のグリモアが輝く。そして猟兵たちはハワイへと送り出されるのだった。
雨森
OPをご覧いただきありがとうございます。雨森です。
今回はケルベルスディバイドのハワイ、キラウエアにて。過去に人類に封印されたデウスエクスの復活計画を阻止し、不完全な状態で復活したものを討伐します。
●第一章
市街での集団戦です。
麓の街に下り、殺戮を行おうとしている『炎と略奪のシャイターン』を迎撃、殲滅しましょう。
●第二章
冒険です。
先の戦闘の余波で周囲に市街やその周囲の森林に火災が発生しているので、消火を行ってください。
●第三章
キラウエア火山でのボス戦です。
完全復活は阻止されたものの、弱体化しながらも復活した『ヒュパティア・アレクサンドリア』を討伐してください。
●|ポジション《決戦配備》について
全章において|ポジション《決戦配備》の使用が可能です。必要であればプレイングに記載してください。
それでは、素敵なプレイングをお待ちしております。
第1章 集団戦
『炎と略奪のシャイターン』
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POW : シャイターン炎舞
高速で旋回する【シャイターンの炎の渦】を召喚する。極めて強大な焼却攻撃だが、常に【炎神の舞】を捧げていないと制御不能に陥る。
SPD : 炎槍突き
【炎の槍】が近接範囲の対象に絶対命中する。元々の命中率が低いと威力減。
WIZ : 炎猟犬
レベル×1個の【猟犬】の炎を放つ。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる。
イラスト:愛弥
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
フリル・インレアン
ふええ、シャイターンさんです。
火事は大変ですので、今のうちから雨を降らせて被害を抑えておきましょう。
恋?物語なら炎の猟犬さんにも効果はバツグンな筈です。
ふえ?雨が強すぎるですか?
アヒルさん、何を言っているんですか?
このぐらいないと火は消えませんよ。
キラウエア火山の麓、とある都市に炎と略奪のシャイターンが踏み入る。街の人々は、訓練されたかのように整然と、しかし焦りながら避難を始めていた。
「あはは! せいぜい頑張って逃げな!」
「私らは優しいからねえ、どこで消し炭になるかは選ばせてあげるよ。……犬たちから逃げられたらね!」
弱者たちを嘲笑しながらシャイターンが炎を放つ。炎は無数に分裂して、それぞれが大きな猟犬の形をとった。
『ウオォォーーーンッ!』
「さあ行きな!」
空気を劈く咆哮を上げながら、炎の猟犬は人々へと襲い掛かる!
……かに思われた、その直後。
「ふええ、シャイターンさんです。火事は大変ですので、今のうちから雨を降らせて被害を抑えておきましょう」
――ザーーーーッ!!
「うわっ、何だこの雨は!?」
突如として降り出した大雨。
確かにハワイは現在雨季のシーズンだ。熱帯特有のスコールが降ることはあるが、しかしそれにしても唐突に過ぎる。
バケツをひっくり返したような、なんて比喩すら生易しい。まさに滝の水の落下点のような豪雨。
人間など容易に焼き殺せる、猟犬の火勢が萎んでいく。そしてシャイターンたちからすれば、犬の心配をする以前に自分たちの視界がゼロになり何もできない状況に陥っていた。
「ふええ、良かった。炎の猟犬さんたちに雨の効果はバツグンです」
混乱するシャイターンたちを、ビルの陰から観察しているフリル・インレアン(大きな|帽子の物語《👒 🦆 》はまだ終わらない・f19557)。彼女こそがこの豪雨を生んだ元凶である。
フリルは雨合羽を着こんでこっそりと潜んでいる。そんな彼女が頭に被ったフードの中からアヒルさんが顔を覗かせた。
「ふえ? 雨が強すぎるですか?」
たしかに、周囲の状況はえらいことになっている。道路は川のようになり、まるで洪水の被害を受けたかのよう。車ですらも押し流されていきそうなほどだ。
とはいえ。
「アヒルさん、何を言っているんですか。……見てください、このぐらいないと火は消えませんよ」
フリルが視線を逸らせず見つめる先には、豪雨の瀑布の中ですらなおも光り続ける、赤い炎の数々。
「……アヒルさん、決して大きな声は出さないでくださいね」
我慢比べのように、雨と炎はぶつかり続けるのだった。
成功
🔵🔵🔴
レラ・フロート
ケルベロスからDIVIDEへ。
ポジション効果はメディックを要請
民間人の速やかな避難の助けをお願いします!
私は、必ず負けませんからっ
……デウスエクスの戦いは生存の為のものでしょう?
殺戮を楽しんでいるんじゃないっ!
勇気を胸に、それを怒りに変えて先制攻撃で切り込み、
集団敵をエネルギー充填させた剣でなぎ払い敵陣を崩します
敵の炎が身を焦がす前に動きを止めず剣を振るい
遠くの敵は斬撃波を放ち仕留めていくね
相手の強大な焼却攻撃には、予備動作の舞いがあるはず
タイミングを見切り、カウンターを合わせる形で
必殺の《雷穿》を叩き込み、戦場を制しますね
自分が不死だからって殺戮を楽しむ相手は大嫌い。
徹底的にやっつけますッ!
街の特定地点では大雨が降っている頃、また別の地点で。
「あっちは大変そうねえ……あら?」
黒雲の下、おそらくは仲間が大変な目に遭っているであろうことを冷笑するシャイターンたち。そんな彼女たちが見つけたのは、交通を塞ぐように道路の真ん中にせり出してきた壁だった。
頑丈で分厚いそれは、何か――つまり|敵《デウスエクス》だ――の侵攻を、ほんの一時でも阻むためであることは明白だった。
「なるほど、この先に人間どもが居るわね。障害物のある鬼ごっこも歓迎よ」
壁の先に存在する気配を感じ、シャイターンはにんまりと笑う。
狩りを始めんとする彼女たちの前に、一人のレプリカントが立ちはだかる。
「……何故なの?」
沸々と、レラ・フロート(守護者見習い・f40937)は問う。
「デウスエクスの戦いは、生存の為のものでしょう?」
例えばもし、自分が、家族が、仲間が生きていくために他者の命を奪うのは、果たして正しいことなのか。良いことなのか。当たり前の葛藤などからはあまりにも遠くにある所業。
「そんなのは生きていくための最低限で大前提じゃないの。でもやっぱりさ、長く生きていくには心に潤いも必要じゃない? あ、潤滑油かな。ねえ、レプリカントのお嬢さん?」
……噛み締めた奥歯が鈍く鳴るのを、レラは自覚した。
「違う! ……殺戮を、楽しんでいるんじゃないっ!」
背後の壁のその向こう側は、未だ民間人の避難が完了していない地点。
必ず負けぬと誓い。胸に抱く勇気を、怒りへと変え……レラは敵へと斬り込んでいく!
レラの選んだ作戦は実にシンプル。愚直にして渾身の突進だった。
「――せいっ!」
自慢の剣に想いを乗せて、全力で薙ぎ払う。
「ぐうっ! ……まだまだあ!」
「ええっ!?」
シャイターンたちが生み出していた炎の渦の数々が四散する。しかし発生した熱まで消滅するわけではない。レラは身を炙る熱に怯まず敵を見据えた。
「ちっ、やるねえ。……だけど!」
初撃に対する反応が乱れたと、レラは見切った。逃げ腰になる者、ただ茫然とした者……その中でレラが標的として選んだのは、怒りを見せ即座に反撃を選ぼうとした者。
戦場を制するために、敵の心を制する。
再び渦を呼び出そうと舞い始める一人のシャイターン。それは今この瞬間、咄嗟の反撃のために|敵《レラ》の至近で行っても構わない動作ではなかった。
「ひっさーつ!」
振り切った剣の勢いを殺さず更に回し、身を捻り突きの機動へと変化させる。
「雷、穿ッ!!」
突くというよりも、貫く。剣の切っ先はあっさりとシャイターンの胴へ突き刺さる。
「自分が不死だからって、殺戮を楽しむ相手は大嫌い。徹底的にやっつけますッ!」
気炎を上げ、レラは周囲のシャイターンを睨みつける!
大成功
🔵🔵🔵
天宮・紫苑
アドリブ・連携:可
地元と違って色々派手になりやすいですね。
「でも、人の救助・防衛……やることは大差はないですね」
協力を得られるというのは助かりますね。
ポジションはメディックで、民間人の避難をお願いします。
私は、その間に敵を殲滅してしまいましょう。
「シャイターンでしたか、グラビティ・チェインは渡しませんよ」
戦闘に入ったら即座にUCを使用。
戦闘終了まで解除はしません。
UCで敵から【生命力吸収】しながら、【闇に紛れる】ように【忍び足】で行動し、
近くの相手や隙を見せた相手を優先して、一撃入れては少し距離をとり、再び攻撃を仕掛けて行きます。
「一人たりとも逃しません」
「ここで仕留めます」
月隠・新月
敵の襲撃がわかっても事前の避難はできないとは、ままならないものですね。
決戦配備・メディックを要請します。民間人の避難支援をお願いします。
敵は強力な炎の渦を召喚するようですが、制御するためには常に踊っていなければならないとのこと。【黒焔獄鎖】で敵を鎖で繋いで、舞を阻害できないでしょうか。
地獄の魔力は炎に似ていますから、敵の炎に紛れて攻撃すればある程度は命中しやすくなるのではないでしょうか。
制御を失った炎の渦がそのまま消えてくれればいいのですが……残るようであれば喰らっておきましょう(【魔喰】【火炎耐性】)
制御権を奪えれば、炎の渦を利用して敵を攻撃することもできそうです(【魔力吸収】【魔力制御】)
人影の消えた街中には、悲鳴のようなサイレンが高らかに鳴り続けている。
「ふーん、人間どもはうまいこと逃げているんだ。どっかに逃げ遅れたのは居ないかしら?」
シャイターンの放った火が、そこかしこの建造物にぶち当たる。直撃を受けたビルは理不尽なほどにあっさりと燃え上がった。
……シャイターンたちは知る由もなかったが、街に響くサイレンには符丁が組み込んであった。
危険がどの方向から来ているのか、どちらへどんな経路を使って逃げれば良いか……もし、例えば矢印やアナウンスで避難方向を示していたら、敵はそれをが追ってくるかもしれない。そんな懸念への対策。
敵には分からない音の組み合わせによるメッセージで、サイレンは民間人が安全に逃げられる手段を周知していた。すべては敵の襲来に備え続けているケルベルスディバイド世界の人々の、常日頃からの訓練の賜物である。
大都市を丸ごと巻き込む連携に、天宮・紫苑(人間の魔剣士・f35977)は思わず関心してしまった。|地元《シルバーレイン》とは真逆、全世界を巻き込んだ協力体制というのは、実にスケールが大きくて派手だ。
それはそれとして。どこの世界においても、そういった中で己の為せる事というのは決まっている。
「人の救助・防衛……やることに大差はないですね」
「ええ、ですがありがたいです。当たり前のように手を差し出してもらえて」
「それはまあ、本当に当たり前ですから」
紫苑の呟きに感謝の意で返すのは、ディバイド世界の能力者である月隠・新月(獣の盟約・f41111)。新月の姿形は、なんとはなく紫苑に故郷の使役ゴーストの方のケルベロスを思い起こさせていた。
「事前避難ができないとはままなりませんが、俺やあなた、そして皆で協力して、速やかに事態を収束させましょう」
「ええ、一人たりとも逃しません。殲滅します」
紫苑の生み出した闇が、急速に周囲へと広がっていく。
紫苑も自分の身も、その中へするりと溶け込むのを確認した新月は、一声咆えてシャイターンたちへと迫っていった。
「ちっ、見えづらいねえ!」
炎の渦が轟々と闇を照らす。炎が、暗闇に対して相性が悪いはずがない。
……別の攻め手を使う者が、他に居なければの話ではあるが。
――ゴオアッ!
「なっ……炎!?」
闇の先から伸びてきた黒い炎が――少なくとその瞬間、彼女たちはそう認識した――、シャイターンに接触した瞬間、ドカンと盛大に爆ぜる。
「動っ、けない! おのれえ!」
悪を許さぬ峻烈な炎は鎖へと転じ、シャイターンの身を強く戒める。
そして激しく身じろぐシャイターンの背に、闇に紛れ忍び足で接近していた紫苑が無言で|大太刀《闇纏》で斬撃を浴びせた。
「……」
感情を見せず、一足で闇の中へと引く紫苑。
「待ちな!」
怒りの声が空しく響き、辺りは暗くなっていく。……制御のためのシャイターンの踊りが絶えたため、炎の輪がめちゃくちゃな動きと勢いでどこかへと向かっていってしまった。
「そのまま消えてくれたらよかったのですが、残ってしまいましたか」
周囲の建物へ飛んだらよろしくない。新月は、炎の輪に飛び掛かり喰らいつく。
「……実に不味い」
制御権を奪えるものでもなさそうだと判断して、新月は勢いよく輪を噛み千切った。
炎は消え、広がる闇だけがただ残る。
あとは極めて迅速な作業であった。
「やめろ……やめろーーっ!」
「……」
堅実に、冷徹に、徹底的に。
シャイターンたちはここで仕留めると定めた紫苑は、闇から現れ、斬っては闇へと消え。拘束されたシャイターンたちを静かに排除していくのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 冒険
『消火活動』
|
POW : 周囲の可燃物を破壊する
SPD : 一般人の避難誘導を手伝う
WIZ : 水や薬品を用いて消火する
|
種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
シャイターンの排除は完了したが、都市中に響き渡る警報のサイレンはまだ鳴り止まない。
街中では様々な場所で建物が燃え、シャイターンたちの進撃路であった街の周囲の森にもそこかしこで煙が上がっている。
復活間近の敵を倒すべく急ぐことは必要だが、その前にほんの少しの時間だけでも、消火のために手を貸してほしい。
フリル・インレアン
さて、このまま雨を降らせ続けて火事の消火です。
ふえ?私の雨はいつもやり過ぎって、そんな事ないと思いますよ、アヒルさん。
さっきはシャイターンさんがいたから強かっただけです。
今度の恋?物語はちゃんと加減します。
…………ふええ!?やっぱり強過ぎてます。
どうしてですか?
ふえ、私に恋の加減ができる訳がないって。
ふええ、言い返せないです。
それじゃあ、どうすればいいんですか?
使うタイミングと発動の時間をアヒルさんの指示に合わせればいいんですね。
ふええ、これがアヒルさんの恋の駆け引きですか。
すごく大人な感じがするのは何故でしょう?
「さて、それではこのまま雨を降らせ続けて火事の消火です」
ビルの陰に隠れてシャイターンたちを迎撃したフリル・インレアン(大きな|帽子の物語《👒 🦆 》はまだ終わらない・f19557)は、雨を降らせたままで別の場所へと移動を始めた。
雨を降らせることができる範囲は決して狭くはないが、もちろん都市全体をカバーできるほどではない。またそもそも降雨の範囲を任意で操作する類の力でもないのだから、火災が激しそうな場所を探して動くことにしたのだ。
「……とはいえ、どちらに向かいましょう」
フリルが自分が降らせているのだが、とにかく今は雨が激しくて視界が悪い。音も中々うるさいので、騒がしそうな場所などと目星をつけるのは難しそうだ。
「ふえ? 私の雨はいつもやり過ぎって、そんな事ないと思いますよ、アヒルさん」
アヒルさんも苦言を呈するが、フリルは気にしない。先ほどはシャイターンと戦闘を行ったから限界まで雨を強くしたのであって、ならば調整をすればよいだけだ。
「今度の恋?物語はちゃんと加減します。……、…………ふええ!?」
降雨を加減しようとするフリル。だが雨は弱まらない。
「ど、どうしてですか? え、えーい!」
あたふたしながら何とか雨を弱めようとするが……どうしても調整ができない。凄まじい大雨がフリルの周囲で振り続ける。
お陰で少なくともフリルの視界内には火災は見えないが、昇華されている範囲どの程度まで先に広がっているかは不明な状況だ。
「ふえ、私に恋の加減ができる訳がないって。……ふええ、言い返せないです」
土砂降りの雨の中、自分の出した声すら聞こえづらいような状況で、アヒルさんのお小言が心に痛い。雨に打たれて身も心もびしょびしょだ。
それではどうすれば良いのかとアヒルさんに問うたら、アヒルさんが指示を出してくれるとのこと。
「ふええ、使うタイミングと発動の時間を、指示に合わせればいいんですね」
効果があるのかと多少疑問に思うが、他に手立てが無いのも間違いない。
アヒルさんの指示に従い、フリルが降雨の制御を行うと……。
みるみるうちに、普通の雨程度に収まっていく。まさににわか雨があっという間に弱まったかのよう。
自分だけと一体何が違うのだろう? 空を見上げ目を見開く。
「ふええ、これがアヒルさんの恋の駆け引きですか。なんだか、すごく大人な感じがするのは何故でしょう?」
フリルのそんな疑問に、同じく空を見上げたアヒルさんは黙して何も語らないのであった。
大成功
🔵🔵🔵
月隠・新月
シャイターンを退けても炎は残りますね。やはり火は厄介です。
ここの人々の住処がこれ以上損なわれるのは避けたいですね。
俺は延焼を抑えるよう立ち回りましょう。
【ブランクオベリスク】に水の魔力を纏わせて(【武器に魔法を纏う】)、火が燃え広がりそうな場所に展開しましょう。
水の魔力や【属性攻撃】で炎が広がるのを防げば、火の手が回るのを抑えられるのではないでしょうか。
ただ、全てのオベリスクに火災を抑えるだけの魔力を付与するのは、独力では難しい。俺の力が至らず不甲斐ない限りですが、力添えをお願いします。
決戦配備・キャスターを要請します。魔法陣展開等でオベリスクに纏わせた水の魔力を増幅してもらえると助かります。
月隠・新月(獣の盟約・f41111)の眼前には、燃え広がる街並みが広がっていた。
見渡す限りの街路樹はさながら松明のように燃え上がり、ビルの窓からは炎が噴き出し、炎撃の余波で道路のアスファルトは変形し……。
「やはり火は厄介です」
シャイターンを退けたことで、苛烈な炎輪はあっさりと霧散した。しかし物質に着いた火は当然ながら残り続け、そしてどんどんと広がっていく。
「ここの人々の住処が、これ以上損なわれるのは避けたいですね」
それは誰にとっても喜ばしいことではない。新月は延焼を抑える方針で動き始めた。
「来れ」
下層階が燃えている高いビルの屋上に立ち、見下ろしながら厳かに一声。
視界内の地上の其処彼処から生えてきたのは、白石の四角柱だ。
新月が火が燃え広がりそうな地点へ重点的に生み出した柱の数は、百を易々と超える。そんな石柱の表面が、ジワリと水気を帯びていく。――新月の魔力によって、水の魔力を付与されたのだ。
灼熱地獄と化していた場の温度が一気に下がり、火の勢いは弱まっていく。
が、残念ながら完全に火が消えるほどではない。新月の全力の魔力を以てしても、全てのオベリスクに業火を消滅させるほどの魔力を付与することは極めて困難であった。
――もちろんそれは、ただ独力では難しいというだけの話である。
「俺の力が至らず不甲斐ない限りですが、力添えをお願いします」
消火は、人命救助は、まさか独りで行うものではない。今この都市には、デウスエクスの襲撃の報を受け、それこそ全世界から支援が入ってきている。
だから、そんな寄せられる応援の矢印の先のひとつを、このオベリスクたちへと集中させる。
「……おお」
オベリスクの表面、長く広い|空白《ブランク》へと刻まれていくどこかの様式の魔法文様の構造を、新月は読み解けなかった。
だが発生する事象は容易に予測ができる。
みるみるうちに水の魔力の増幅を受けた石柱は潤み、そしてあたかも噴水のように水を吹き出し始める。まるで巨大なスプリンクラーだと、新月は少々不謹慎な発想をしてしまった。
「助かります」
もちろん眺めているだけではない。新月は魔術の基部であるオベリスクが崩壊しないようにと集中し、魔力を制御するのであった。
大成功
🔵🔵🔵
天宮・紫苑
アドリブ・連携:可
私にできる消火活動は……。
「破壊消火ぐらいですね」
この後が控えていますが、やれるだけやりましょう。
「森の対処に向かいますか」
すでに燃えている方から燃え移らないようにある程度の幅の木々を伐採していきます。
決戦配備はジャマーで、延焼速度を抑えるために水を撒きつつ、
延焼を妨害するのに効果的な伐採箇所を上空から調べてもらいます。
木々の伐採方法ですが、UCを使って【切断】し、適度な大きさに切り分けたら、
【怪力】でもって燃えないように投げ捨てます。
「少しでも被害が減ると良いのですが……」
燃え広がりつつある火災を前にした天宮・紫苑(人間の魔剣士・f35977)の逡巡は、ほんの一瞬であった。
「まだこの後が控えていますが、やれるだけやりましょう」
くるりと踵を返し、都市の中心から離れる方向へと脇目も降らず駆ける。
もちろん逃走するだとか、火災を無視して復活かけているなデウスエクスの首魁を倒しに向かうわけではない。
「……支援を。都市の周縁部の森で、最も火災が激しい場所を教えて下さい」
道すがらケルベロスたちに頼む。
合流したヘリコプターの道案内を受け、紫苑は激しく燃え広がる森の火災現場へと到着した。
「私にできる消火活動は……破壊消火ぐらいですね」
闇を用いて人命救助、というのは多分に難しい。闇で消火もできなくはない……かもしれないが、紫苑としては剣を振るう方が今は早い。
「……フッ!」
いかにも南国らしい外見をした、紫苑には樹種の名前が分からない大木を一太刀で斬り倒す。
「倒れるぞ、……などと叫ぶ必要もありませんか」
元より周りに人はいない。倒れてゆく木の真下に入り、見上げて数度剣を振るう。生木を、しかも空中に浮いているものをあっさりと薪のように斬り分けられるのは、ひとえに紫苑の剣の技量の高さゆえである。
適度な大きさに分割された木の欠片を、火災からは遠ざけるように投げ捨てる。
空を見上げると、上空には引き続きヘリコプターがホバリングしていた。延焼を防ぐのに効果的な伐採箇所の情報を紫苑に示しているのだ。
「まるで江戸時代の町火消のようですね。外国にもそういう組織はあったのでしょうか」
ただ闇雲に木を斬っても意味がない。すでに発生している火が無事な木々に燃え移らないように計画的に、植生の空白地帯を作る必要がある。そのためには上空からの眼は必須である。
「少しでも被害が減ると良いのですが……」
燃えてしまった部分は仕方がないが、これ以上は延焼箇所が広がらないようにと。紫苑は一心に木々を斬り倒していくのだった。
大成功
🔵🔵🔵
レラ・フロート
ケルベロスからDIVIDEへ
ポジション効果は引き続きメディックを要請
復活間近の強大な敵は勿論気になるよ
でも、燃える街を、苦しむ人々をそのままにするのなら
それは私の目指すケルベロスじゃない
DIVEDEと、共に作戦にあたる仲間と協力し
避難誘導を手伝っていきますね
火が燃えているのなら怪力を生かし
水を運んで消化を手伝います
エネルギー充填した斬撃波を見舞い
吹き飛ばせればいいんだけど
逃げ惑う人々がいれば助けますよ
崩れる建物に巻き込まれそうな人があれば
身を挺してでも庇います
落ち着きを取り戻すように笑顔を向けますね
もう大丈夫です!ケルベロスは、
常に応援して下さる皆さんと共にいます
侵略者には決して負けませんから
「バケツ、いただきます!」
「お願いします」
レラ・フロート(守護者見習い・f40937)は懸命に消火活動を行っていた。
ケルベロスによって臨時に組織された特殊消防隊から渡されたのは、実際には水の入ったバケツではなく、もっと巨大な物体。ビルの屋上にある貯水槽のようなタンクを怪力で持ち上げ、消防車が易々と入れないような場所へと飛び上がって水をぶちまける。
「えーいっ! ……早くしないと」
復活間近の強大な敵は勿論気になるから、早急に駆け付けたい。焦りは感じるが、その前にもっと大切なことがある。
「燃える街を、苦しむ人々をそのままにするのなら。……それは、私の目指すケルベロスじゃない」
己の根源の部分が衝き動かす。貴い命を守るというその選択を、悔やむはずがない。
それに救いなのは、レラの奮闘により、先の戦闘の余波による直接の犠牲者は出ていないことだ。つまり救助の頑張り次第では、これからの火災による犠牲者を出すことを防ぐのも可能なのである。
「あちらの方はあまり燃えてないね。向こうは……煙が激しい」
消火のついでに高所から周囲を見渡し、各所のリアルタイムな火災状況を目視確認して、地上の消防隊に伝える。
「地上からでは見えませんが、南側は数キロ先に火災の勢いが強い地点があります。南方向への避難は避けましょう」
「了解です」
消防隊へと情報を伝達し、レラは次の場所へと消火に向かう。あれこれと考えるよりもまず行動だ。
「――丸ごと、消し飛べっ!」
時には、焼け落ちる寸前の建物を斬撃で消し飛ばし。
「大丈夫ですか!」
時には、崩れそうな建物の中へと突撃し、身を挺して人々庇って助け出す。
「わたしが来たからにはもう安心ですよ。目を閉じたまましがみついていて下さい」
懸命なその姿に、その笑顔に、どれほどの人が励まされ、心安らいだことだろうか……!
「もう大丈夫です! ケルベロスは、常に応援して下さる皆さんと共にいます」
侵略者には決して負けぬと宣言し頑張るレラの姿は、被災した人々を大いに勇気づけるのだった。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『ヒュパティア・アレクサンドリア』
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POW : 思考を放棄する前にまず考えよ
戦場内を【演算速度と理論と答弁が支配する学術的】世界に交換する。この世界は「【暴力行為禁止】の法則」を持ち、違反者は行動成功率が低下する。
SPD : 対猟兵運命観測機
【未来予測】【運命固定】【時空操作】と【概念防護】【物理防護】【属性防護】を組み合わせた独自の技能「【絶対防衛システム】」を使用する。技能レベルは「自分のレベル×10」。
WIZ : 恒星間重砲撃支援要請
戦場にレベル×5本の【物質分解弾頭搭載FTLミサイル】が降り注ぎ、敵味方の区別無く、より【ダモクレスに対し脅威である】対象を優先して攻撃する。
イラスト:櫻 ゆうか
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「ユキト・エルクード」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「……忌々しいこと」
キラウエアの噴火口の中より現れ出でたヒュパティア・アレクサンドリアは、滑らかな顔に僅かも変えずに呟く。明らかに怒りを含んだ声だった。
その身は深く傷つき――高熱によって金属の身が融解させられ――、動きにも精彩はなくなっている。
文字通り、我が身を削ってまで無理矢理封印を破ったことは、ヒュパティアにとってそこまで問題ではない。グラビティ・チェインの供給が為されず、だからこその力押しでの封印解除。想定の中ではおよそ最悪の展開ではあるが、当初の目的は達成された。
許せないのは、作戦を実行したシャイターンたちが無能であったこと。そしてケルベロスの、猟兵たちの抵抗が激しかったこと。
ヒュパティアはあらゆる可能性を計算し、予測し、未来を導き出す。
今回の作戦の経緯、失敗は予測されうるものであったが、それが納得できるかはまた別問題だ。
「まずは猟兵たちを迎撃、殲滅。以降、改めて私がグラビティ・チェインを集めるとしましょう」
今のヒュパティアは万全の状態からは程遠いが、それでも襲撃者たちを倒しきれる。彼女はそう演算した。自分が負ける未来など、少しも考えていない。
ならば、その未来が決して訪れないことを、猟兵は示してやらなくてはならない。
フリル・インレアン
ふえ?演算速度と理論と答弁が支配する学術的世界ですか?
‥‥‥さっぱり分かりませんよ。
どうしましょう、アヒルさん。
ふえ!?アヒルさんが思考停止してます。
どうしましょう、というより私もそろそろ限界です。
‥‥‥あ、そういえば困ったときは叩けば治るってアヒルさんが言ってました。
あははは、斜め45度から叩くといいらしいですね。
ふえ?あの後どうなったのか全然覚えてません。
私がしようとしたことは失敗に終わったのですか?
やっぱりそうですよね。
ふえ?治そうとすることに失敗して逆に壊してしまったのですか?
これでよかったのでしょうか?
よく分かりません。
――「強い」という表現には、様々な意味が含まれている。
ダモクレスであるヒュパティア・アレクサンドリアの強みは、物理的なものとは限らない。機械生命である彼女の強さは、圧倒的な計算速度。あるいは賢さとでも呼べるものであった。
つまり、である。
「……ふ、ふえ? 演算速度と、理論と、答弁が支配する、学術的世界ですか?」
フリル・インレアン(大きな|帽子の物語《👒 🦆 》はまだ終わらない・f19557)にとっては完全に想定外の強さであったわけだ。
「お前に問おう、如何にして私を攻撃するのか」
「ふええ……」
文字通りどうすれば良いのか、フリルにはさっぱり分からない。
このまま論戦に負けたら、ひょっとして自分がダメージを受けるのか。暴力である攻撃は行動の成功率が下がるだけ、決して絶対失敗とはならないはず。ならば当たると信じて賭けに出るか。
マグマの余熱で高熱を発しながらフリルに詰め寄るヒュパティアの姿は、威容を発しているとしかフリルには感じられない。
「ど、どうしましょう、アヒルさん……ふえ!?」
救いの手をアヒルさんに求めるも、肝心のアヒルさんも|思考停止《フリーズ》状態に陥っている。そうなってしまったらアヒルさんはただの可愛いアヒルさんだ。
「そんな、どうしましょう……というより、私もそろそろ限界です」
ぐるぐる、ぐるぐると、答えの出せない思考が回り回り……。
「――あ、そういえば」
ぷつりと、フリルは閃いた。
困った時は機械は叩けば直ると、アヒルさんは言っていた。
「あはははは、そうですね。そうしましょう」
「……何だ!?」
「斜め45度から叩くと、いいらしいですね」
だから、思考停止したフリルはそうした。
「……ふえ?」
気づくと、フリルは戦場でただ立ち尽くしていた。
「ぐ……ううっ!」
その足元には、ヒュパティアが呻きながら倒れている。
ヒュパティアという機械を直そうと考えた所までは覚えているが、その後どうなったかは全く覚えていない。
自分がしようとしたことはやはり失敗に終わったのか、と肩を落とすフリル。しかし、アヒルさんはそれを否定する。
「ふえ? 直そうとすることに失敗して、逆に壊してしまったのですか? それで良かった、のですか? え、ヒュパティアは怒っているだろうから早く逃げるんですか」
アヒルさんがそう言うのならば、実際にそうなのだろう。……というより、そう信じるしかない。
なんだか納得のいかないながらも、フリルは急いで戦場を離脱するのだった。
大成功
🔵🔵🔵
月隠・新月
あのダモクレス、万全の状態ではなくとも随分と強力な敵のようです。過去に封印するしかなかったというだけのことはありますね。
奴が弱っている今、ここで倒さなければ。
計算と予測が得意なダモクレスが、戦場を演算速度がものを言う世界にするとは厄介な。
【霧重無貌】で自身の存在を隠し、奴に近づきたいですね。ある程度近づければ|生命力《エネルギー》を奪うことができるでしょう。
暴力行為は禁止されているようですが……朧の魔力は生命力を奪う性質があるだけですし、俺も奴に近づいただけです。暴力には当たらないでしょう。
……まあ、半ば屁理屈ではありますが、敵が作るのは理論と答弁が支配する世界。試してみる価値はあるでしょう。
「おや」
ヒュパティア・アレクサンドリアの知覚が、霧の発生を観測する。
ハワイの気候だとか時間帯だとか、そんな要素を考える必要はない。当然ながら自然現象ではないのだから。
みるみるうちに濃くなり、朧になる視界。すでに数メートル先も見通せない薄暗さとなっている。
「となると、次の対応策を決める方が良い」
ヒュパティアは早々と索敵を放棄する判断を下し、迎撃へと意識を回した。いくら自分が万全ではないとしても、各種センサー類が敵を発見できないはずがない。ならばそういう能力であると考えるのが適切だろう。
「さて、どういう手段で来る」
ヒュパティアは、あらゆる攻撃の可能性を演算する。
――計算と予測が得意なダモクレスが、戦場を演算速度がものを言う世界にするとは厄介な……。
声は出さず心中のみで感心するのは、霧を発生させた月隠・新月(獣の盟約・f41111)だ。
息を潜め、朧に沈む。猟犬のように。
なるほど一般的な強者とはまったく強さの質が異なり、ヒュパティアは本当に戦いづらい。焦る様子など少しも見せない、霧に包まれながらも冷静に待ち構えるその姿勢は、それが彼女にとって最善の行動であるからそうするというだけのこと。きっと何ら疑いもしていない。
そんな圧倒的余裕を見せる態度が、過去には封印するしかなかった強力なダモクレスであるという事実を新月に痛感させた。
とはいえ、それでもヒュパティアは今は弱っている状態。今ここで倒す必要がある。
だからこそ、新月は試す価値のある行動に出た。
「……」
音を立てないよう徹底的に注意しながら、自身の存在を隠す霧の中をヒュパティアに接近していく。
ただし、近づくだけだ。攻撃を仕掛けるつもりはない。
そしてそれなりに近づき、身を伏せてぴたりと止まる。
――そのまま、ただ、時間だけが過ぎる。
「……どういうことだ? まさか!」
待ち構えていたヒュパティアが焦れるが、違和感に気づいた。いやに身体が重い。
金属の身には傷がつき、疲労感が身に広がっている――つまり、この霧自体が攻撃なのだ!
「おのれ!」
ヒュパティアの誤算は、当初から攻勢を選んでいた猟兵が、持久戦のような戦法を突然採ったことだろう。だから読み違えたのだ。
しかし別におかしなことではない。猟兵たちはある意味で各個人が独立勢力であり、どんな戦い方をするはそれぞれの自由なのだから。たまたま新月が選んだのがそうであったというだけだ。
もっとも、新月自身もある意味では賭けに出ていたのだが。
――暴力行為は禁止されているようですが……朧の魔力は生命力を奪う性質があるだけですし、俺も奴に近づいただけです。暴力には当たらないでしょう。
ただの屁理屈かもしれない。だが生み出されているのは理論と答弁が支配する世界だ。そして理屈としてそれは通り、結果が生まれた。
焦ったヒュパティアは霧の発生源を探して回る。
新月は、決してヒュパティアに見つからないよう気をつけながら、つかず離れずの距離を取り続けるのだった。
大成功
🔵🔵🔵
天宮・紫苑
アドリブ・連携:可
弱体化した状態で、これ程とは……。
「よく封印できたものですね」
まぁ、いくら厄介な相手とはいえ倒せない相手ではありません。
今のうちに、しっかり仕留めてしまいましょう。
決戦配備はスナイパーで、長距離ミサイルなどで相手への遠距離攻撃をお願いします。
相手の意識が少しでも逸れてくれれば多少は楽になりますからね。
「ここで確実に仕留めます」
戦闘では、相手のUCに最大限の注意を払いながら接近します。
相手への攻撃よりも、相手のUCを私のUCで相殺することを優先し、集中します。
相手のUCを相殺し、距離を詰め、攻撃します。
相手のUCを喰らわないことを第一に行動です。
「ミサイルだって斬ってみせます」
レラ・フロート
1体にして凄まじい力を持つ強大なダモクレス
支援機だった私とは格が違いますね
でもあなたは、命の尊さを知っていますか
ケルベロスからDIVEDEへ
ポジション効果はクラッシャーを
これで今回の任務は最後、全開でいきますっ!
勇気を胸にエネルギー充填しての切り込み!
間合いを詰めたら離れずに攻撃を続けていくよ
時には剣より内側に入り、怪力と功夫を生かした素手攻撃で押す
UCを使われる前に消耗を重ねるし
使われ行動成功率が下がったたとしてもそのまま倒しきる形で
流れる血潮と涙の熱さを
向けられる笑顔がくれる力を知らない者に、
ケルベロスは負けない!
最後は絆攻撃!想いを込めた《閃光烈波》を
叩き込み勝利を掴んでみせるんだから!
「あなたは」
「ふむ?」
「あなたは、命の尊さを知っていますか?」
ヒュパティア・アレクサンドリアに対して、レラ・フロート(守護者見習い・f40937)はほとんど思わず問うてしまった。
相対すれば、嫌というほど理解できる。一体にして凄まじき力を持つ強大なるダモクレスと、支援機であったレプリカントの自分。なまじ根幹はほぼ同族だからこそ、格の違いが分かってしまうのだ。
だからこそ、彼女が何を考えているのか、その一端を知りたいとふと願い……。
「思索や分析をする価値がない。興味のない事象だ」
……決定的な断絶を見るのだった。
「敵の大物なんて、誰も彼も大概そんなものですよ」
レラの傍に立つ天宮・紫苑(人間の魔剣士・f35977)が溜息を吐く。あまりにも面白くない予想通りの回答だ。
「ことここに至って、理解をしようなど無駄なこと……確実に仕留めましょう」
「……ええ!」
レラと紫苑は、武器を抜いた。
青空を切り裂くように光の尾を曳きながら、無数の弾が飛んでくるのをヒュパティアは察知する。
「砲撃か」
軌道を分析――海上の戦艦群や、ハワイの各都市からの長距離砲撃。
「邪魔だな」
普段のヒュパティアであれば直撃してもまったく痛くも痒くないのだが、弱体化している今は攻撃を受けると少々都合が悪い。それに、この砲撃支援は本命ではなく……。
「全開でいきますっ!」
「いくら厄介な相手とはいえ、倒せない相手ではありません」
これが任務の最後と、気合十分の両名が襲い掛かってくるのだから。
「お返しだ」
ゆえにお返しとばかりに、ヒュパティアもミサイルの雨を天空より降らせた。
剣林弾雨とはまさに今の状況のことか。
暴力が禁じられた領域の中、互いに砲撃が当たる可能性は低くなってはいる。だがそもそも確率がゼロではないという時点であまりに危険すぎる。
紫苑は最大限の注意を払いながら、ヒュパティアとの距離を真正面から詰めていく。
対するヒュパティアの動きはめちゃくちゃのように見えるが、数秒後にはすべて砲撃を回避するためであったと分かる。まるで未来を予知したかのよう――実際に演算で行動の最適解を弾き出したのだ。
「よく封印できたものですね」
上方に気配を感じ、即座に一閃。自分を狙っていたミサイルが両断された音のみを耳で確認しつつ、意識はヒュパティアから逸らさない。弱体化した状態でこれ程であれば、本来の強さは果たしていかなるものか。
闇を纏う紫苑の斬撃を、ヒュパティアは腕で防ぐ。
「しかしそれでも……人類はやはり強いものです」
「根拠ふぁ不明」
「それはつまり、力を合わせることができるから! えーいっ!」
「――!!」
――金属が拉げる、甲高い破音。
振り向くと、ヒュパティアの胴に、エネルギーを充填しきったレラの剣がめり込んでいた。
うまくいく可能性がどれだけ低くても、皆で協力して、連携して、力を合わせて。
そして、決して負けるものかと勇気を胸に抱き。
「流れる血潮と涙の熱さを、向けられる笑顔がくれる力を知らない者に、……ケルベロスは負けない!」
「無根拠な、ただの感情論だ」
「でしょうね。だからこそ、あなたには永遠に分からない!」
迫る殴打をレラは剣で打ち返し、そのまま殴り返す。
冷静だとか計算だとか、そんなものからはどこまで遠い世界。
「力を合わせていると、言いましたよ」
「この……」
そんな中でヒュパティアはレラにだけ専念することはできない。そう、この場には紫苑も居るし、自分を狙ってくるミサイルにも対応しなくてはならない。ヒュパティアたった独りで。
斬撃が、殴打が、ヒュパティアの身体を斬り、砕いていく。
破壊が止まらない。
そして。
「――わたしの想いをありったけ、この光に込めた! めいっぱい、持っていけーっ!」
「やめろ、こんなのは計算外だ……!」
絆の力が込められたあまりにも眩い閃光が、ヒュパティアを消滅させる。
……光が消えた後には、もう、何も残らず。宿痾のように地球に潜み続けた強大なデウスエクスは、完全に消滅していた。
それがたとえいずれ蘇生するものであっても、当面の脅威は取り除かれたのであった。
大成功
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