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ふたりが空に灯す秋祭

#UDCアース #ノベル #猟兵達の秋祭り2024

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#猟兵達の秋祭り2024


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キリカ・リクサール



黒城・魅夜




 秋祭りの空は、鬼灯の色に染まっていく。
 さながら心に期待を灯すように。
 草花が待ちわびた瞬間の為に色づくように。
 夕暮の色彩は物静かにも柔らかく、ひとの思いを映しているのだ。
 だからこそ。
「今晩は。キリカさん?」
 キリカ・リクサール(人間の戦場傭兵・f03333)は微笑んだ。
 可愛らしい仮面を被った夜色の乙女。
 その声を聞けば誰かは分かる。
 けれど、悪戯に弾ませる声に首を傾げて見せたのだ。
 楽しんでいるなら、情なく袖に振るなんてナンセンス。
 相手の見せたい舞台を共に楽しむことこそ、大切な存在へと触れるということ。
「ふふ、私ですよ」
 間違う筈などない存在。
 隠せる筈のない相手。
 分かっていてもお茶目をとめられない黒城・魅夜(悪夢の滴・f03522も、くすりと笑ってみせた。
「似合いませんか? こんな可愛いお面は」
 お面を外して素顔を見せる魅夜に、キリカは軽やかに云う。
「いいや、素敵だと思うよ。だが、魅夜の姿を隠すには足りないな」
 キリカの指先が魅夜に触れ、お面を遠のけさせる。
「……ああ、どんなお面であれ、仮面であれ、魅夜の美しさを隠すのなら、それはあまり嬉しくはない」
 私は魅夜の顔が見たいのだと。
 その笑顔を見て、幸せを感じたいのだと。
「月の美しさを覆い隠す雲を、誰が愛しいと思えるだろう?」
「叢雲が月の綺麗さをより映えさせるとしても?」
「だとしても、月を望む心は変わらないよ」
 だからこそと、手を重ねていくキリカと魅夜。
 祭り囃子の聞こえる中、ふたりのリズムで歩み出す。
「最近は戦争で忙しかったけど、こうやって魅夜と祭りに来ることができて良かったよ」
 世界の存続をかけた大きな戦争もあつた。
 だからこそ、傍にいたい相手と穏やかな時を、楽しい時間を過ごすのだ。
「たまには羽を伸ばしてもいいですよね。特に……キリカさんとご一緒ならね、ふふ」
「ああ、勿論。魅夜がどれほどに羽を伸ばしても大丈夫なように、私がエスコートしてみせるさ」
 詠うように紡ぐキリカの姿を見つめて、魅夜も続ける。
「そう云うキリカさんは新しい浴衣姿ですね、よくお似合いですよ」
 白い生地に楚々とした紫の花が咲くキリカの浴衣姿。
 楚々として静かであり、クールなキリカの美貌を飾っている。
「いつもと違う髪型も新しい魅力を発見した気がしますよ」
 或いは、そんな何時もとは違う特別を魅夜の為に見せてくれたのか。
 そう感じて魅夜はくすくすと嬉しそうに笑い、歩を進めていく。
 祭りの賑やかさは、花を揺らす風そのもの。
 魅夜とキリカの心を揺らす、秋祭りの活気にふたりは頬を緩めた。







「さあ参りましょう。いろいろな屋台が大賑わいですね」
 祭りといえばまずは屋台。
 魅夜の黒い双眸が楽しそうにひとつ、ひとつの出店を捉えていく。
「大丈夫、屋台も祭りも逃げたりはしないさ。フフ……」
 眺めるだけで楽しそうな魅夜の様子に釣られて、キリカもまた心が暖かくなる。
 胸の底で柔らかな弾力は、さながら互いを抱きしめるかのよう。
 きゅっ、と指先を絡めて相手の存在を感じながら、昔ながらの屋台を見て回っていく。
 昔ながらのタコ焼きやお好み焼きに、最近人気のチーズドッグやいちご飴。
 いいや食べ物だけではない。くじ引きに射的。如何にもお祭りの雰囲気を楽しむ屋台が並ぶ通りを歩いて行く。
「そうだな。ひとつ、楽しんでいこうじゃないか」
 キリカが指を伸ばしたのは射的の店だ。
 浴衣姿の美女が玩具の銃を取れば、屋台の店主も囃すようにと明るい声を向ける。
 祭りを楽しむキリカが銃を扱うプロフェッショナルであるなど、想像が付かないのだ。
 あくまで美しい令嬢がふたり、並んで祭りの雰囲気に浸っている。
「ふふ、キリカさんは本職なのですから、あまり荒稼ぎをしてはダメですよ」
「さあ、どうだろうね。何事も、こんな明るく浮かれた雰囲気の中では何時ものようにとは行かないさ」
 キリカが射的をすれば、当たるのはキャラメル箱やスーパーボールのようなハズレ景品ばかり。
 いいや、それもご愛敬。何かが当たるだけで、楽しいというもの。
「……魅夜が欲しいというものがあれば、取ってみせるが」
 キリカの切れ長の眸を向けられて、魅夜はまたくすりと笑う。
「いいえ。大きな景品を取って、キリカさんと手を繋げなくなるのは悲しいですから」
「ふむ、確かにだな。……なら、このあたりにしようか」
「ええ。それより、ほら、美味しそうな匂いがあの辺りから」
「やれやれ、お祭りの賑やかさには叶わないな。君の為にという贈り物より、食べ物を選ぶなんて。花より団子とは、その場の雰囲気でこそという事かな」
「もう、キリカさん。涼しい秋となりましたし、食欲がわくのも当然のことではありませんか」
 そういいながら屋台に並ぶものをひとつ、ひとつと口にしていく魅夜。
「やきそば、イカ焼き、とうもろこし、ホットドッグ……」
 ふわふわのわた飴は甘い匂いを漂わせ、林檎飴が誘うように真っ赤な色を見せている。
「一人ではとても食べきれませんね」
 魅夜が頬に指先をあてて云う通り、ひとりではどうしても食べきることなんて出来ないだろう。
 でも、今はふたり。
「違うものを買って、お互いに一口ずつ分け合いませんか?」
「いいね。お祭りならではだ」
 そういってふたりでひとつずつ、別々のものを買っていく。
 そうして分け合うの言葉通り。
「はい……あーん」
 魅夜は手元にあった焼きそばを、キリカの口元へと運ぶ。
「ん、あーん……」
 魅夜の可愛らしい顔を見ながら、キリカも一口と食べて、頬を綻ばせた。
「フム、久々に食べたが……美味いな。出来立てだからかな?」
 それとも、魅夜のお陰だろうか。
 ならお返しをしなければと、魅夜は手に持っていたホットドッグを魅夜の口元へと。
「「じゃあ、私からも。あーん」
「ふふ。楽しいですね、まるで子供みたいで……」
 そういいながら、ひとくち、ひとくちと互いに食べさせ合う魅夜とキリカ。
 屋台だから美味しいのではない。
 ふたりだから、美味しくて嬉しいのだと。
 祭りの喧噪の中、確かに聞こえるふたりの笑い声ばかりに心を寄せた。
 唇と舌で味わうのは、お互いを思い合う緩やかな日常の幸せ。
 見つめるのは、互いの眸に浮かぶ喜びばかり。
 現実ではなく夢を食むように。








 祭りの道を、大きな御輿が練り歩く。
 人々の熱気と楽しさ。
 祈りと感謝を捧げる、美しく、華々しく、まるで陽光のようなその姿。
「あら……お神輿ですか」
 魅夜はキリカの浴衣の袖をくいくいと引っ張り、その場から離れようとしてしまう。
「派手で華やかですが、神様の乗り物なのですよね……」
 魅了は思う。自分とは余りに遠く、相容れないものなのだろう。
 ひとの祈りや願いを受け止める、神聖なる存在。
「少しだけ離れて見物しませんか」
 絢爛に輝く御輿は、それこそダンピールたる魅夜の苦手とするものかもしれない。
「フフッ、大丈夫さ。それじゃあ二人で一緒にここで見ていようか」
 優しく包み込むようなキリカの視線に、魅夜はひとつ咳払いをしてみせる。
「こほん、その、私はダンピールの悪霊、闇の眷属ですので、神聖なものは……」
 そこまで云って、ふるふると首を左右に振るう魅夜。
「いえ別に苦手とか言うわけではありませんよ、ぜんぜん」
 魅夜の負けず嫌いの意地っ張りを見て、愛おしそうにとキリカは見つめる。
 キリカの長い指先が、夜帳めいた魅夜の長い髪をそっと掬い、撫でる。
「ああ、勿論。ああして祈りという夢をかけれる御輿と、夜と夢を司る魅夜。似ているようで、異なるふたつ。どちらがより優れているかは口にする必要もない」
 キリカは魅夜の顔の傍でゆっくりと息を吐いて、続ける。
「今ばかりは美しい魅夜が遠のいてあげなければ、あの御輿の華々しい美しさも霞んでしまう。夜の美しさと、陽の華やかさ。それは共にはあれないからね」
「お上手ですね。……ええ、勿論、その通りで、今日という祭りの日ばかりは……」
 魅夜とキリカは、ふたりきりの落ち着いた夕闇の中で過ごした。
 





 太陽も完全に落ちて、祭りの熱気も消えていく。
 余韻めいた静けさの中、ただ歩いていたキリカと魅夜。
 まだ終わりたくはない。
 まだこの時を終わらせたくない。
 もっと大切な絆を、記憶をと求めてしまう。
 そんなふたりが見つけたのは沢山の小さな光の集う場所だった。
「おや、あれは何だろうね」
 そう口にするキリカに釣られて魅夜も向かえば、大きな橋のかかる川沿いで、人々が集まっていた。
 何をしているのでしょうかと魅夜が尋ねれば、このお祭りの最後のイベントなのだという。
「まあ、ランタン飛ばし?」
 色鮮やかなランタンを飛ばし、平和を祈り、点へと願いを届けるのだという。
 何時はじまったのかは分からない。
 もしかしたら、本来のお祭りとは別のものかもしれない。
 だが、こういう夜に溶け込む姿こそ、キリカと魅夜には相応しいのかもしれない。
 先ほどまでの賑やかな熱気も、嫌いではないけれど。
「では、私たちも参加してみようか」
「ええ、そうしてみましょう。出会いも、きっと縁ですから」
 穏やかに目配せをして、ランタンという小さな光へと手を伸ばし合う。
 魅夜とキリカには、そんな夜の裡に浮かぶ光こそ似合うのかもしれない。
 月や星たちのようなものが。
 夢のように広がる、思いこそが。
「風流で、ロマンティックですね」
 ふたりには似合うかもしれないと、願いを託すランタンを選び始めるふたり。
 輝かしい光は、どうしても似合わない。
 陽光の中、花畑で微笑む姿こそ素晴らしいというひともいるだろう。
 でも、それが全てではない。
 夜の静寂の中、微かに届く音や光に、耳を澄ませて心を傾ける事とて、とても大切なものだから。
「フフ、とてもいい思い出になりそうだね」
 まるで川を飛びゆく蛍の光を見つけるようだと、キリカは魅夜の柔らかな笑顔を見つめていた。
 魅夜に似合うランタンはどんなものだろう。
 艶やかな黒い眸と髪に似合う、月のように白くものだろうか。
 そんなことを思っていれば、魅夜が選んだランタンは紫色のもの。
「キリカさん。これは……まるでキリカさんの髪の色に似ていて、なんだか、好きです」
「……ああ、それはとても嬉しいね」
「手放したくない色ですけれど、夜空に私の願いを託して飛ばすのなら、この色がいいです」
 まるで心を捧げるのなら、貴女がいいと。
 そう告げる乙女の色に寄り添うように、キリカも黒い縁取りをされたランタンを手にとる。
「ふたりのランタンが、離れないように。何かの紐で結んでしまおうか」
「それもいいかもしれませんね、キリカさん」
「フフフ、そんなことをしなくても、離れないかもしれないがね」
「いいえ。触れあい続けることが大事なんですから。離れたいと知っても、傍にいたいと告げ続けることが大切」
 ふるりと首を振って、魅夜が囁く。
「この光が、決して過去に呑まれたりしませんように」
「ああ。この色が、ふたりの思いが、願う未来へと届くように」
 誰も見たことのない、幸せの宙まで届けと。
 黒と紫の紐で結んだランタンが飛んでいく。
 真っ暗な夜空には月もなければ星もない。
 いいや、だからこそと飛びゆくランタン達は、それ自体がまるで夜空に輝く星たちのようだった。
「凄いな……集めた夜空の星たちが、また空へと帰っていくようだ」
 ふわり、ふわりと緩やかに流れる星の光。
 ひとの手から、ひとの心と祈りを乗せて、遙か遠くまでとゆくのだ。
「あのランタンはどこまで登っていくのでしょうね」
 夜色の双眸にランタンの光を映して、魅夜が囁く。
「月や星に恋しても手が届かない……そんな切ない明りなのでしょうか」
いいや、そんなことはない。
「私は……」
 そんな事はなかったのだと、魅夜はキリカの横顔を見て、手を繋ぐ。
 こんなに近い存在。
 でも、もっと傍にあって欲しいひと。
 優しく握り返された手を持ち上げ、重なる掌にそっと頬を触れさせて。
「届きました、ふふ……」
魅夜は夢のように囁く。
 現に叶った夢として、キリカに想いを告げる。
「フフッ、届いたね」
 こんなにも近いのだからと。
 ふたりの重ねた手に、キリカは唇を重ねた。
 言葉は無用。
 静かな夜に、息と想いを溶かせてゆく。
 ふたりが、ひとつになるまで。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年10月27日


挿絵イラスト