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黒の楔

#サイキックハーツ

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#サイキックハーツ


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●予感
「だって、どうしても許せなくて……!」
 その女性は拳を強く握る。
 顔から血の気が引いている。わななく唇。奥歯をぎりりと噛んでいた。
 夜の帳が訪れる頃。とあるカフェの一角にて。照明が絞られていて薄暗い店内で、ふたりの人間が向かい合わせに座っている。
「大丈夫ですよ。『黒』がすべてを終わらせてくれます」
 にたり、と形容するのが相応しい笑みを浮かべ、男はくつくつと喉を鳴らす。
 周囲のざわめきが揺蕩う。会話の詳しいところはよほど近くでないと聞こえない。だから女性と男のやり取りにも、聞き耳を立てる者はいなかった。
「それでは詳しい話を伺いましょう」
 まるで福音を齎すような穏やかさで、男は続ける。

●黒の楔
「……すまない。どうしても放っておけなかったんだ」
 鴻崎・翔(灼滅者の殺人鬼・f43988)は悲痛を隠さずに唇を引き結ぶ。
 今回の舞台はサイキックハーツ。
 曰く、暗殺の請負を行っているダークネス──もとい、オブリビオンがいるという。
 洗脳されているエスパーのひとりが窓口となり、小さなコミュニティを形成しているらしい。そのコミュニティに参加する人間の要件は、強く憎んでいる相手がいるということ。
 寿命以外で死を迎えることがなくなったサイキックハーツにおいて、しかしながら死を望むほどの恨みを抱える人間はいるのだ。殺人や死刑というものが意味をなさない世界において、それは歪みを生み出す基点となる。
 そんな人々から暗殺依頼を引き受け、実行に移す。そうすれば彼らは心酔し、オブリビオンとコミュニティに傾倒する。そして周囲にもそれを勧めようとしてしまうのだ。
 このままコミュニティの規模が大きくなれば手が付けられなくなる。
 故に、止めなければならない。そう翔は言う。
「暗殺を引き受けているのは『黒の会』というらしい。まずはその窓口になっているエスパーに接触する必要がある」
 どうやら、武蔵坂学園の伝手で、窓口になるエスパーは判明しているという。
 しかも暗殺を依頼したいという人間が複数いるということは話が通っていて、接触自体に難はないとか。窓口の男はあるカフェの一角を根城にしているらしく、まずはその男に話を持ち掛けなければならない。
「殺したい人間がいる、そう相談をして欲しいんだ。本来猟兵ならそんなことを頼むわけはないだろう、だから油断を突くのは容易いんじゃないかな」
 もちろん嘘で構わない。人によってはそんなことで、と思われるようなことでも、本人にとって深刻な内容であれば一切問題がないのだ。
 それらしい話で相手の興味を惹き、信じ込ませるように恨みを語ればいい。
 そうすれば暗殺者である『黒』、もとい44位ザ・ナイトに引き合わせてくれる。どうやら複数人同時に案内してくれるらしいが、今回は一般人を巻き込む心配はしなくていい。依頼者はすべて猟兵だ。
「ザ・ナイトは本人にしか理解できない身勝手な『騎士道』に則った『一騎打ち』を遭遇した相手に申し込んでくる。それに応えて畳みかければいい。そんなに強い敵じゃないから、皆の実力があれば問題なく倒せると思うよ」
 それが終われば一息ついて、近くのファミレスに寄って帰ろうか。
 洗脳されていたエスパーたちと一緒に他愛無い団欒を楽しもう。そうすれば平穏に立ち戻るきっかけにもなるだろう。今回参加してくれている猟兵たちの慰労も兼ねているとは言わずとも知れたこと。

 そこまでつらつらと説明をして、翔は視線を地面に落とした。
「わからなくはないんだ。……そう思うくらい、憎まなければ、生きていけない人がいるんだってこと」
 声が軋む。
 戦い続けてきた。綺麗事ばかりで済むほど、優しい世界ではないと知っている。
「だからといってオブリビオンによって命を終わらせるなんてあってはならない。生きている人間同士で結末をつかみ取るべきだ。法整備が追い付いていないとしても、これからのサイキックハーツはそうあればいいと俺は思う」
 ゆっくりと顔を上げて、翔は猟兵たちに向き合う。
「行こう。皆を闇から救うんだ!」


中川沙智
 中川です。
 大変ご無沙汰しております。サイキックハーツ、久し振りです。

●プレイングについて
 各章、プレイング受付期間を設けます。オープニング公開後告知期間を設けて、導入文を掲載した後の受付開始となります。第1章の導入文はオープニング公開日のうちに公開予定・その後受付開始日をお知らせします。
 詳しい受付開始時刻等はマスターページの説明最上部及び中川のX(@nakagawa_TW)にてお知らせします。お手数ですが適宜そちらをご参照くださいますようお願いいたします。
 受付期間外に頂いたプレイングはお返しする可能性がありますのでご了承ください。
 リハビリのため、少数採用でさくさく進める予定です。

●シナリオ構成について
 第1章:カフェでの吐露(日常)
 第2章:44位ザ・ナイト(ボス戦)
 第3章:ファミレスでの休息(日常)
 以上の流れになっています。
 日常章についてはPOW/SPD/WIZの行動・判定例には特にこだわらなくて大丈夫です。ご自由にどうぞ。

●ご参加について
 ご一緒する参加者様がいる場合、必ず「プレイング冒頭」に【相手のお名前】と【相手のID】を明記してください。
 大勢でご参加の場合は【グループ名】で大丈夫ですので、「プレイング冒頭」にはっきり記載してください。
 これが抜けている方は迷子になる(場合によっては同行者様含めプレイングのお返しになる)ことがあります。
 また、プレイングの送信日(朝8時半更新)を合わせていただけるよう、ご協力よろしくお願いいたします。

●その他
 日常章のみの参加も歓迎です。
 第3章についてはお誘いがあれば翔がご一緒します。

 では、皆様のご参加を心からお待ちしております。
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第1章 日常 『繁華街で遊ぼう』

POW   :    面白そうな店を何軒でもハシゴする

SPD   :    馴染みの店を訪れ、遊興に耽る

WIZ   :    落ち着ける店を見つけ、優雅にくつろぐ

イラスト:del

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●夜の訪れ、闇の裾
 チク、タク、チク、タク──。
 実際に音は鳴らないのに、男はゆるりと腕時計の針を眺めている。
 今やスマートウォッチも主流になっているのに、いかにも使い込んだ風情の腕時計だ。男の出で立ちはいたってレトロだった。着古した灰色のスーツの上下、草臥れたワイシャツの襟。ネイビーのストライプのネクタイはきっちりと締められている。短く切り揃えられた髪には白いものがいくつか混じっている。
 中肉中背、どこにでもいる中年男性。
 しかし、男の瞳はどことなく剣呑としていた。
「お待ちしていました」
 男は来訪を悟り、カフェの椅子から立ち上がる。
 一礼。それから相手に椅子を勧めて、己も座り直す。
「……最近は急に寒くなりましたからね。冷えたでしょう」
 窓の外に視線を投げると、ビル群の間に夕陽が沈んだ頃合いだった。
 橙の淵、群青の雲。太陽の光はもうない。これからは夜の時間。ただし星も月も、光をここまで届けやしない。
「さて、お話を伺いましょうか」
 男は浅く顎を引き、相手の言葉を促そうとする。
 相手──猟兵はゆっくりと、口を開いた。
ギュスターヴ・ベルトラン
語る前に祈りを捧げる

…殺してほしいのはオレの父だ

あいつは『妻を愛しすぎて、生まれて来た子供を疎んで暴力する男』ってやつでさ
だから母はオレを連れてあちこち逃げつつ生活してたんだ
…それが火に油注ぐ結果になったが、あのままフランスで生きてたらオレの方が死んでたし、母も殺されてた
最終的に日本で生活するようになったことで逃げ切れたが…こういった情勢だろ
オレが今度こそ父親に殺されてしまうのではないかと、本気で心配してるんだ

いい加減あの執着から母を逃がしたいのもあるが、オレもあいつには恨みがある
だから父を殺してくれ


ロザリオに触れ、内心で思うのは
(…もうオレが殺してるけどな。あいつダークネスに墜ちてたから)



 祈る。
 ギュスターヴ・ベルトラン(我が信仰、依然揺るぎなく・f44004)のサングラスは夜においても影を落とす。絞られた照明に浮かび上がるのは、その端正な顎のラインだ。
「……殺してほしいのはオレの父だ」
 ぽつり、呟く。
 目の前の男は頷いて、ギュスターヴの話の続きを促す。
「あいつは『妻を愛しすぎて、生まれて来た子供を疎んで暴力する男』ってやつでさ」
 だから母は、ギュスターヴを連れて各地を転々と逃げながら生活していた。息子を庇おうとする母心だ。ひたすらに逃げ延びて、そうして。
「……それが火に油注ぐ結果になったが、」
 当時、あのままフランスで生きていたらギュスターヴの方が死んでいたし、母も殺されていただろう。
 最終的に日本に移住したことで逃げ切れたが、昨今の情勢を鑑みると楽観は厳しい。
「オレが今度こそ父親に殺されてしまうのではないかと、本気で心配してるんだ」
 あるいは死ぬよりつらい目に遭わされるのではないか。エスパーであれば寿命以外で死を迎えることはないが、残虐な手口など枚挙にいとまがない。
 いい加減あの執着から母を逃がしたいのもある。
 それに。
「オレもあいつには恨みがある」
 ふと、空気が重くなる。
「だから父を殺してくれ」
 誓いのように、祈りのように。ギュスターヴはロザリオに指を伸ばす。そして相手に気付かれぬように喉を鳴らした。
 もう、オレが殺してるけどな。
 あいつダークネスに堕ちてたから──そんな心の声は誰にも聞こえないのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

有城・雄哉
アドリブ大歓迎

服装はよれよれの長袖Tシャツと擦り切れたジーンズ姿
さらに瞳の色をカラーコンタクトで黒に偽装した上で男に接触
目を血走らせ身を震わせ、歯の隙間から絞り出すような声で訴えよう

聞いてくれ…殺したい人間がいる
僕の家族を…父さんと母さん、そして双子の兄を殺した奴だ

僕が塾から帰ってきたら
台所で父さんと兄さんが血だまりの中に沈んでいて
母さんは…奴に欲望のはけ口にされた後、首を絞められていた
3人とも既に…息がなかった

僕は…家族を奪った犯人が憎い!!
頼む、僕の代わりに、犯人を…っ!(声を詰まらせる)

※雄哉の話は殆ど真実だが、唯一「家族を殺した犯人」のみ嘘
家族殺しの真犯人はダークネスだと判明している



 窓口役の男が座すテーブルに、ひとりの影が差し込んだ。
 よれよれの長袖のTシャツに腕を通し、裾を中心に擦り切れたジーンズを穿いた有城・雄哉(蒼穹の守護者・f43828)は緩慢な動作で椅子に座る。
 眼差しは黒。蒼穹の眸はカラーコンタクトで蓋をして、瞬きをひとつ。そうすれば肩が震えだす。唇もわなないて、ぎりと強く奥歯を噛んだ。
 血走った眼だ。それに一時相手の男が怯んだように見えたのは気のせいだろうか。
 うめき声は寒風の如く。そして地獄を這うかの如く。
「聞いてくれ……殺したい人間がいる」
 はっとした様子の男が「どうぞ、それで?」と促せば、雄哉は苦さを縊り殺すような声音で言う。
「僕の家族を……父さんと母さん、そして双子の兄を殺した奴だ」
 実感に苛烈さが通っているみたいな響きになった。
 鮮烈な記憶。
 こんな夜には不釣り合いなほどの深紅。
 塾帰り。そんなありふれた日常は突如として崩れた。
 玄関のドアを開けた時の空虚な音が耳鳴りとなる。
 台所の、血だまりの赤が眼底にこびりついて離れない。そこに沈んでいたのは父と兄。微塵も動かぬ四肢。そうして──母は彼奴の欲望のはけ口にされた挙句、首を絞められていた。細く白い首についた痕が、ひどく痛々しかった。
 その時には既に、三人とも息絶えていた。
「僕は……」
 雄哉はテーブルの上、強く強く拳を握る。
 筋張り、震える。まるで爪で掌を抉りかねない勢いだ。
「家族を奪った犯人が憎い!!」
 悲痛が迸る。目の前に赤が奔る。
 自然と落としていた視線を上げる。口許を歪ませて、吼えるように告げた。
「頼む、僕の代わりに……!」
 犯人を。
 そう続けたのは自他ともに明白であるのに、息を詰まらせて言葉にならない。渇いた空気が口腔で空回る。その反面瞳には水の膜が張り始める。
「……ええ、ええ。お気持ちはわかりました。確りと『黒』に申し伝えましょう」
 男は気圧されたのか、間を置いて諾々とこうべを垂れた。
 その言葉と姿勢を雄哉は見過ごさない。
 思考回路が冷静に成功を弾き出した。知っている。わかっている。犯人はエスパー──人間ではない。
 彼奴は紛れもない、ダークネスだったから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

冴島・類
寿命以外の死が訪れぬようになっても
ひとにはこころがある
其れが、あるからこそ
こういう事がある…
理解はしますが、ね

そこを突き
闇に誘うのは、止めたいと

接触した窓口の彼と
話始めは、依頼内容が良くないことだとわかってる故
落ち着かず、緊張したよに声はひそめ

吐露する動機は…

自身の親しい相手が
家庭事情で心を壊してしまい
弱ったところに
宗教を装った詐欺にかかってしまい
更にぼろぼろになってしまった、と

依頼対象はその詐欺師をと
弱り救いを求め縋ろうとしたのに
糧にする…など
どうしても許せないと

過去、邪教絡みなどで遭遇した
陰惨な事件を思い返し

大切な相手を喰いものにされ…
自身でどうにもできず
他に手がなくてと
手を、求めるように



 かつてサイキックハーツにも、様々な形の死があった。
 そのうち寿命以外の死が訪れるようになっても、ひとにはこころがある。誰もが知って、あるいは想像が及んでいた、突然訪れる死の概念。
「其れが、あるからこそ、こういう事がある……」
 冴島・類(公孫樹・f13398)はふたいろの眸を瞬かせ、苦く唇を引き結んだ。
 ──理解はしますが、ね。
 昏く沈んでしまったこころを突き、闇に誘うことは、止めたい。
 胸裏に落とされた懸念は、目の前の男には届きはしない。
「……」
 そわそわ落ち着かない様子で、類は椅子に座り身動ぎする。
 依頼が決して褒められる内容ではないことが明け透けで、それは男にとって都合が良いのだろう。泰然とした余裕を持った面持ちで、類の様子を窺っていた。
 類は緊張した風情で、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「親しい相手が。家庭事情で心を壊してしまって」
 訥々と語られるのは、痛ましい想いだ。
 以前邪教絡みで関わったことがある陰惨な事件を思い描く。類は歴戦の猟兵だ。様々な事件に関わってきた。勧善懲悪、めでたしめでたし。そんな単純さで終わらない事態に、少なくない数直面してきた。
「弱ったところに宗教を装った詐欺にかかってしまったんだ。ただでさえ悄然としていたのに、輪をかけてぼろぼろになってしまった。目の下の隈、削げた頬。項垂れ地を這うような佇まい。その様子が忘れられない」
 依頼対象はその詐欺師だと、類は言う。
「弱り救いを求め縋ろうとしたのに。まさに神頼みであったのに。それを糧にする……など」
 思い馳せれば言葉が喉に詰まって出てこない。
 呻くように続ける。
 どうしても許せない、と。 
 テーブルの上に乗っていた類の手が震える。それから強く拳を握る。わななく、わななく、怨嗟の訴え。 
 類には大切な人がいる。妻や親友、他の皆も。彼女らが不幸に陥ってしまった時の悲哀を思えば、想像だけで背に冷たいものが差す。ましてやそれを喰いものにされるなど、許されざることだ。
 自身でどうすることも出来ぬ絶望は筆舌に尽くしがたかろう。
「……他に手がなくて」
 自然と視線がテーブルに落ちていた。
 一拍か、それとも永遠か。沈黙が場を支配した後、男が手を伸ばしてきた。まるでそうあって欲しいと願う──男がそう受け取ったかのように。
「承知いたしました。ご心労はいかばかりか」
 類の手に男の手が重ねられる。
 何故だかそれが、不思議と、あたたかいものに感じられたのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オデット・ルヴィエ
窓口が男で良かったわ
許しを請う女の眼差しが、少しは通り易くなるでしょう

大きな声では言えないわ、少し寄っていただきたいの

顔と顔が近付いたら、密やかに殺意を伝える
…殺したい男がいるの、と
嘘と本音を混ぜ込んで、話しの筋は確り通すわ

ずっと目指してきた男がいるの
上司、になるのかしら
何であろうとそつなくこなしてしまう、人望も厚くてね
あんな風になりたいと、純な頃の私は思ったものだわ

でも目指すほどに遠いのよ
努力ならしてきたけれど、私ではあの男に届かない
誰もが言うわ、「凄いね、でもあの男ならもっと」
あの男がいる限り、私は本物になれないの
今は、憎くて憎くて仕方が無いの…!

心中では、小さく詫びる
…どうか許してね、と



 窓口が男でよかったわ。
 オデット・ルヴィエ(月添華・f44315)は胸中でそう独り言ち、目の前の男と対峙する。
 色仕掛けというわけではないが、嫋やかさを演出するのはやりやすい。許しを請う女の方策が、少しは通りやすくなるだろう。
「大きな声では言えないわ、少し寄っていただきたいの」
 オデットは上体を前に倒し、男に顔を寄せようとする。男は一拍遅れて、テーブルの上にやや身を乗り出した。一般的なテーブルを挟んだやり取りよりは、ずっと近い。
 ここで睦言を宣うのは、普通の男女の一幕になろう。
 だが今は違う。吐息の先が重なりそうな距離で、オデットのペリドットの眸が男を捉える。
「……殺したい男がいるの」
 密やかに、言う。
 水銀のように毒を孕んだ殺意。
 本当は嘘と本音が混ざり合っている。だからこそ、そこに幾許かの実感が籠っていたのだろう。男はいつの間にか真剣な眼差しで耳を傾けていた。
 いける。オデットは手応えを感じていた。話の筋を確り通そう。
「ずっと目指してきた男がいるの。上司、になるのかしら」
 思いを馳せる。まなうらに浮かぶ面影。
 オデットは語る。何であろうとそつなくこなしてしまう、人望も厚い彼。あんな風になりたいと、純な頃の己は思ったものだと告げる。羨望と敬意が入り混じり、ぐずぐずに融解してしまうといった風情で。
 眉根を寄せ、困ったように笑みを刷く。
「でも目指すほどに遠いのよ」
 努力は重ねた。泥臭いほどのそれを積み上げようとも、彼には届かない。
「誰もが言うわ、『凄いね、でもあの男ならもっと』とね」
 熱を籠めれば、言葉の先が揺らめいていく。そこにただならぬ感情が生じていると、窓口の男は悟ったのだろう。神妙な面持ちで相槌を打っている。
「あの男がいる限り、私は本物になれないの。今は、憎くて憎くて仕方が無いの……!」
 だから殺したい。
 真直ぐなその想いは、純度が高い分ひたむきだ。オデットが秀麗なかんばせを歪ませるその前に、男は今一度大きく頷いてみせた。
「わかりました。貴女のお気持ち、確かに承りましたよ。確かに『黒』にお伝えしましょう」
 オデットはふと、安堵を滲ませる。
 その様子を引き出したと思っている男が双眸を細めたのを確認し、オデットは淡く笑みを綻ばせた。
 ……どうか許してね。
 その詫びはあくまで心中で。誰の耳にも届かない。オデットだけにしか聞こえない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

天行寺・空
…殺人代行か
人類がエスパーと言う新たな種となり
サイキック以外で死ぬ事はなくなったのだ
当然、起こりうる話だな
…聞けば人の世には『ESP』法とやらがあり
財産刑、及び『心が折れるまで痛みを与え続ける拷問刑』
が明記されているそうだが
それでは納得できぬ者も居るのだな
…我等の様に滅びゆく種でありながら
憎悪の儘に人を殺せば報復の連鎖と言う
終わらない道しか残らぬと考え
私達を殺した者達を許すダークネスも居るのに嘆かわしい事だ
さて、肉体変異で弱々しそうなエスパーに変わり依頼人と接触
友を殺したあるエスパーの殺人を依頼しよう
我が瞳には偽りの憎悪を孕ませ、友を殺した者への憎しみを
蕩々と騙り誑かす
それが私の在り方なのでな



「……殺人代行か」
 天行寺・空(ダークネス「羅刹」の神薙使い・f43969)がふむ、と顎に手を添え思案する。
 人類がエスパーという新たな姿に到達し、寿命やサイキック以外で死ぬことはなくなった。であれば、此度のように殺人を依頼するという事態も起こり得る話だろう。
「……聞けば人の世には『ESP』法とやらがあり。財産刑、及び『心が折れるまで痛みを与え続ける拷問刑』が明記されているそうだが」
 昔とある諮問会議で取り上げられた議題だ。だがそれらの処分では、納得出来ぬ者もいよう。世界が様変わりしてからそれほど長い年月を経たわけではないから、殺人や死刑という概念も、エスパーたちにはしっかりと覚えがある。
 空は眉間に皺を寄せ、知らずため息を吐いた。
「……我等の様に滅びゆく種でありながら」
 瞑目する。そして精神統一を図るかのように、ぽつりぽつりと考えを口にする。
「憎悪の儘に人を殺せば報復の連鎖と言う終わらない道しか残らぬと考え、私達を殺した者達を許すダークネスも居るのに嘆かわしい事だ」
 エスパーにもダークネスにも、多様性があると言ってしまうのは単純だ。
 ただそれがうまく噛み合わないことがあるのもまた事実。すんなりと世界平和が実現しましたとは言い切れないのが、人間社会の難しいところなのだろう。
 さて。
 空はカフェの外、誰の目も届かない死角に立った状態で肉体変異を施す。
 そこに顕現したのは弱々しい様子のエスパーだ。堂々たる体躯のいつもの空とは大きく違う。細い四肢、自信なさげな面立ち。
 カフェのドアをゆっくりと開き、あらかじめ聞いていた席へと足を運ぶ。
「お待ちしておりました」
 空は席に促されるまま、瞳を細める男のいるテーブルにつく。
 しばしの間を置いてから、空は語りだす。友を殺したとあるエスパーへの恨みを。その殺人を、望んでいることを。
 空の眼に燃やす偽りの憎悪。それはただただ苛烈で、落ち着いたカフェの店内とはいかにもそぐわない。
 蕩々と騙り誑かす。
 それが空の在り方なのだ。
 男は何の違和も持たず、耳を傾ける。「承知しました」と返事があるまで、さほど時間はかからなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
嘘は苦手だ
ここは一つ、本当の話をしてやろう

日頃と同じ人懐こい男を演じる
恨みがあるようには見えんか?そりゃあ結構
私が憎むのはこの世でただ一人
実父だけであるからな

奴は酷い男でな
私には腹違いの弟妹が沢山いる
認識しているだけでも片手では足りないし
世界のどこかにもっといるはずだ
その上、実子を実験体か何かだと思っている節もある
私たちは皆、消えない業に苛まれているというわけさ
我ら「きょうだい」の憎悪、引き受けてくれるか?

……ま、とうに死んでることは伏せるが
そうでなくても、こんな奴らには頼まんよ
己の手で縊り殺してやらねば気が済まないし――ふはは
……殺して楽にしてやることを望むほど、この恨みは浅くないのでな



 ニルズヘッグ・ニヴルヘイム(伐竜・f01811)は嘘が苦手だ。
「? どうした?」
「いえ……穏やかな物腰の方だと思いまして」
 実直な感想だったのだろう。男は気張らずニルズヘッグと向き直る。その姿を見て、ニルズヘッグは唇の端を上げた。人懐っこい笑みに対し、男もまたにこやかな表情だ。
 身に覚えのないことをつらつらと弄することは出来そうにない。だから──ここは一つ、本当の話をしてやろう。
「恨みがあるようには見えんか? そりゃあ結構」
 不意に、静寂が漂う。
 一拍置いてニルズヘッグは影を落とす。
「私が憎むのはこの世でただ一人、実父だけであるからな」
 冴えた空気が場を支配する。男が背筋を正すのを気に留めず、ニルズヘッグは続ける。
「奴は酷い男でな。私には腹違いの弟妹が沢山いる」
 認識しているだけでも片手では足りない。探せば、世界のどこかにもっといるはずだ。文字通りの意味で数えきれない。
 瞼を下ろせば苦もなく思い描ける情景。
 昏い怨嗟。
 こんなところで要約して話すには、あまりにも根深く重い感情。それらすべてを吐き出すつもりは毛頭ないが、上辺をなぞることは非常に容易かった。
「その上、実子を実験体か何かだと思っている節もある」
 さらりと言ってのけるから、男は「実験体、ですか」と鸚鵡返しをする。ニルズヘッグは浅く首肯した。
「私たちは皆、消えない業に苛まれているというわけさ」
 ゆっくりと瞼を上げれば、ニルズヘッグの瞳の奥が笑っていない。鋭く射貫くは彼奴の輪郭。
「我ら『きょうだい』の憎悪、引き受けてくれるか?」
「ええ。……ええ、確かに承りました」
 男は何の違和も抱かず頷いた。
 鷹揚な態度のニルズヘッグの怨恨は、ぱっと見が朗らかに見えるだけに深いものと思われたのだろう。あながちそれも間違っていないあたり、質が悪い。
 剣呑な眼差しで男を見遣り、ニルズヘッグは膝の上で爪を立てる。陰鬱を葬るのに似た所作は、テーブルの下で行われているため男には見えていない。
「……ま、とうに死んでることは伏せるが」
 その呟きは口中にて横たわる。
 そうでなくても、男やそのコミュニティの連中には頼まない。尤も、他の人間であっても同様だ。己の手で縊り殺してやらねば気が済まないし──。
 ふはは、と喉の奥で笑みを飼い慣らす。
 誰の耳にも届かない。ニルズヘッグの脳裏でだけ描かれる物語。
「……殺して楽にしてやることを望むほど、この恨みは浅くないのでな」
 胸の奥で囁いたなら音にならない。夜に紛れて、その果てを見据えるのみ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カーバンクル・スカルン
……対象は私の祖父。自分勝手な理由から私を後継者候補から外し、権力闘争とは関係ない親戚の家へ養子に出した憎き相手。

寿命でしか死なない相手をどうやって|殺す《・・》のか、そのノウハウもぜひとも見せてもらいたいね。

……実際のところそこまで恨んではないがね?
自分勝手な理由、とは騙すために言ったが、当時の「家業」から考えれば私のような致命的な弱点を持ってるのを後継者候補に入れ続けるわけにはいかない。むしろ入れていたら「なんであいつが」と不和の原因にもなる。それは当主として避けるべき当然の事柄だ。

さてさて……この世界にはいない、とっくのとうにくたばってる相手をどうやって殺すのか……本当に見ものだね?



 カーバンクル・スカルン(クリスタリアンの懲罰騎士・f12355)が椅子に座れば、灰鉄柘榴石の髪がさらりと揺れる。
 凛とした風情で男と相対すれば、男も「お聞かせください」とカーバンクルに話を促した。
「……対象は私の祖父」
 空気が張り詰める。
 カーバンクルは話し始める。眼底に焼き付いているその面影に思い馳せ、出来得る限り切実に聞こえるよう声を潜めた。
「自分勝手な理由から私を後継者候補から外し、権力闘争とは関係ない親戚の家へ養子に出した憎き相手。どうしても、許せない」
 緊迫感を醸し出せば、男はゆるりと顎を引く。諾意を示す所作だ。
「寿命でしか死なない相手をどうやって|殺す《・・》のか、そのノウハウもぜひとも見せてもらいたいね」
「そうでしょう、耳を疑う話でしょう。我々からは離れていった殺すという概念……『黒』であれば、今や縁遠くなった殺人を果たすことが可能なのです。『黒』に直接お引き合わせしますから、楽しみにお待ちください」
 どうやら男はカーバンクルを|一般人《エスパー》だと思い込んでいるらしい。男自身が暗殺を経て『黒』に心酔しているためだ。殺しに興味を持っていると思わせることで、上手いこと関心をひくことに成功している。
 今回の暗殺がいかに素晴らしいものかを饒舌に語りだす様子を見て、カーバンクルは内心苦笑した。
(……実際のところそこまで恨んではないがね?)
 心の声は音にならない。
 自分勝手な理由、とは騙すための方便だ。
 当時の『家業』から考えれば、カーバンクルのような致命的な弱点を持つ者を後継者候補に入れ続けるわけにはいかないのだ。むしろいつまでも候補に挙げていれば、『何故あいつが』と不和を呼び起こす原因ともなる。それを当主であった祖父は避けるべきだった。当然のことだった。
 故に、権力闘争の輪から外れた、外されたことに一定の理解は示していた。
(さてさて……この世界にはいない、とっくのとうにくたばってる相手をどうやって殺すのか……本当に見ものだね?)
 それはいっそ純粋な関心であった。
 見ることが叶うなら見せてみろ。そんな心境ですらあった。
 夜は長い。黒に染め行く時間は、これからだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

天宮・黒斗
昔は復讐の為に生きていたから、気持ちが分からないわけじゃない
法整備は多分あと4、5年かかる。もう少し待って欲しいけど……
まあ、今は復活ダークネス……オブリビオンを倒す前段階といくか

最初は丁寧に、徐々に口調が荒くなる感じで演技しつつ話す
「依頼したいのは……両親です」
両親はダークネスを信奉していた。ある程度物心ついた時には、私はいわゆる虐待を受けていた
闇堕ちさせ、主人の戦力として捧げようとしてたんだと思う
今はそのダークネスも居ないらしいけど、洗脳されてたからって扱いで、両親は野放しだ
「許せない。私の人生を滅茶苦茶にして、のうのうと生きてるなんて……!」

半分は嘘だけどな。信じて貰えれば何だって良いさ



 胸の上に手を乗せれば確かな鼓動の気配がした。
 天宮・黒斗(黒の残滓・f44136)は思いを馳せる。昔は復讐のために生きていたから、憎悪に駆られる気持ちがわからないわけではない。現段階での法整備も完璧とは言い難いだろう。もう少し、待って欲しいのが正直なところだ。
「まあ、今は復活ダークネス……オブリビオンを倒す前段階といくか」
 前を見据える。
 背筋を伸ばす。
 凛とした風情だ。黒斗は男がついているテーブルに向かい、椅子に腰かける。視線を流せば、男は「話を伺いましょう」と黒斗を促した。
「依頼したいのは……両親です」
 最初は丁寧に。静かな海に踏み入るような心地で、黒斗はぽつりぽつりと言葉を零し始めた。
 切実さを滲ませながら説明する。
 両親はダークネスを信奉していた。ある程度物心ついた時には、黒斗はいわゆる虐待を受けていた。毒親と言ってしまうには、あまりに関係性は複雑に過ぎた。
 闇堕ちさせ、主人の戦力として捧げようとしてたのだ──そう思えば、知らず爪が掌の内側にめり込む。
「今はその相手もいないらしいけど、洗脳されてたからって扱いで、両親は野放しだ」
 黒斗の語気が強くなっていく。
 徐々に熱が籠っていく。肩が震えた。声が怒気を孕んで、吼えるように言い切った。
「許せない。私の人生を滅茶苦茶にして、のうのうと生きてるなんて……!」
 闇堕ちの暗澹を知っている。
 だからか、人の弱さも知っていた。そのぎりぎりの淵で手をかける不安定さも。そこから生じた闇の色が、どれだけ濃いものかということも、また。
「……お気持ち、拝察します。大丈夫ですよ。『黒』が良きようにしてくれます」
 男が黒斗の顔色をうかがいながら告げる。その様子を見定めて、赤の眸を眇めた。
 半分は嘘だ。
 ただ、信じてもらえれば何だって良い。嘘は方便とはよく言ったものだが、手札は有効活用するに限る。
 夜はこれから更けていく。
 黒斗は口を開こうとする。具体的な話を聞かせてください、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​

荻島・宝
殺す、…なんて激情は一度しか抱いたことはないかな、俺は
もう随分前にヴァンパイアにね
あの頃を思い出して対応しようか

最初は珈琲でも飲んで、落ち着いた様子を見せながら
段々と震えとか、カップを置く音を立てたり、
怒りの演出を加えていこうか

「もう随分前に、家族を殺した奴がいるんだ」
「ようやく犯人を突き止めた。でも、今やみんなエスパーだ。殺せなくなってしまった」
「苦しんだ弟の代わりに、アイツにも同じ痛みを…死を与えてやりたい」
「生きてる価値もない。あんな奴、殺してやりたい」

長年の恨みって体を装うよ
感情を隠すのは、幼稚園で働き始めてから上手くなった
感情の変化に聡いんだよね、子供って
こんな言葉、聞かせられないな



 殺す。
 たった三音が鋭さを持つ。そんな激情を、荻島・宝(誠心・f44439)は一度しか抱いたことがない。
「……忘れるような、過去じゃない」
 昔、ヴァンパイア相手の話だ。あの頃を思い出して対応すれば、何の違和も苦もないことは明白だった。
「もう随分前に、家族を殺した奴がいるんだ」
 だから宝は穏やかに話し始める。
 テーブル越しに、男と向かい合わせに座って。供された珈琲はゆるやかに湯気を立ち上らせている。
 探して、探して、幾年の月日が流れたのだと語ろうか。
「ようやく犯人を突き止めた。でも、今やみんなエスパーだ。殺せなくなってしまった」
 カップに伸ばしかけた指が震えた。それを叱咤するように口を引き結び、取っ手を持つ。
 夜色の水面に映る影はいったい誰のものだろう。
 吐息が熱を帯びる。宝は声を絞り出す。
「苦しんだ弟の代わりに、アイツにも同じ痛みを……死を与えてやりたい」
 顔を上げた時には怒気を孕んだ眼差しをしている。
 目の前に赤が迸った気がした。
「生きてる価値もない。あんな奴、殺してやりたい」
 悲痛に似た叫びは只管に強い。
 珈琲を飲もうか迷って、口をつけずにカップをソーサーに戻す。思いの外大きな音が鳴ったが、それを気にする余裕はないとばかりに歯噛みした。
 沸騰する憎悪。
 積年の恨み。傍から見ればそう見えただろう。
 男は宝を宥めるように手を伸ばし、大丈夫ですよと頷いてみせる。
「あなたの気持ちはよくわかりました。おつらかったでしょう。僕もそうだったからわかります……『黒』にお引き合わせしますので、どうぞご安心ください」
 男はすっかり感情移入したようで、宝を疑う素振りはまったく感じられない。
 その時、ふと。
 感慨が喉で潰れた気配がする。
 ──感情を隠すのは、幼稚園で働き始めてから上手くなった。
 冷静に思考が回っていく。慕ってくれる子供たちの様子が目に浮かぶ。子供とて幼いだけでしっかりとした観察眼を持っている。こんな風にしていても、本質を見抜いてしまうだろう。
 感情の変化に聡いんだよね、子供って。
 そう思いを馳せて、宝は内心苦笑した。今のこんな言葉、とてもじゃないが聞かせられるものではなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『44位ザ・ナイト』

POW   :    騎士道一直線
【殺人衝動】を込めた武器で対象を貫く。対象が何らかの強化を得ていた場合、追加で【致死毒】の状態異常を与える。
SPD   :    貫通殺
【ナイトスピア】を構える。発動中は攻撃できないが、正面からの全攻撃を【槍受け】で必ず防御し、【カウンター突き】で反撃できる。
WIZ   :    決闘の達人
自身の【戦闘能力】を、最も近接する対象と同値にする。対象が変わらない限り、自身の[戦闘能力]のみ徐々に上昇する。

イラスト:astk

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●夜の巡り、黒の鉾
 案内役の男に導かれて、猟兵たちはカフェの勝手口から路地裏へと向かう。
 ビル群の合間を縫って歩けば、人気のない放棄領域らしい場所に抜けた。開けた場所で立ち回りに難はなさそうだ。周囲に人の気配はない。
 そう、『人』の気配はない。
「待っていたぞ」
 ダークネス──オブリビオンだ。
 黒い鎧に身を包み、巨大な黒槍を掲げている。話に聞く『44位ザ・ナイト』である。
 相対を確認したのだろう。「皆、問題ありません。あとはよろしくお願いします」と言って、男は踵を返して去っていった。
「その憎悪、確かに私が受け取った」
 呵呵と豪放に笑うザ・ナイトから夥しく放出される殺気、そして血の匂い。
「さあ、殺しに行くとしよう」
 月光が槍の穂先に弾かれ、鈍く光る。
 開戦だ。猟兵たちは夜の地面を、強く蹴る。
天行寺・空
…ふむ
こうあっさりと案内されるとは、拍子抜けだな
『肉体変異』を使って先程案内人に告げた容姿に変化し
殺しに来たら迎え撃つつもりだったが…
この状況では謀る意味も無しか
肉体変異解除しながらUC+鬼の手
鬼神と化した腕で先ずは一撃を叩き込む
他の猟兵達がいるならば結果術を使用し彼等も守ろう
敵からの攻撃は武器受け+鉄壁+オーラ防御で受け止め
鬼神化した腕で反撃する
…何故、私が貴様達に敵対し人を守るかか?
私達ダークネスの『生者』達の中には
灼滅者に自らのサイキックハーツを託し
未来の可能性を遺した者達がいた
なればその未来を託され
未来を歩む者達への『過去』たる|貴様《オブリビオン》達の狼藉を
私は見逃す訳には行かぬのだ


フェル・オオヤマ
・心境
復讐したいという意思は否定はしない…
だが!お前がやろうとしてるのは義憤ではなく己の欲を満たすための殺戮に過ぎない!
そんなのは【騎士道】に反する!

・戦闘
[月光刃ヘイル]とビームシールドを装備!
敵の攻撃を回避したり捌きつつ[我竜・月閃氷刃]を発動
攻撃を空振ったフリをしながら攻撃の準備!
正面からの攻撃を防ぐというのであれば…正面を向いてないタイミングで氷の斬撃と月光刃を放つ!

殺したい相手?そうだね…目の前にいるザ・ナイト!お前だ!

味方を庇える時は庇いつつ反撃を仕掛けます
【盾受け/かばう/激痛耐性/一刀両断/切断/2回攻撃/氷結攻撃/騎士道/矜持を示す】の技能を使用

他キャラとの連携・アドリブ歓迎



「……ふむ」
 窓口の男が路地裏を抜けて往く姿を眺め、天行寺・空は目を眇める。
 こうもあっさり案内されるとは。空としては、正直拍子抜けだ。もっと訝しがられると思ったし、手こずる可能性を危惧していた。
 本来であれば先程窓口の男に告げた容姿に変化し、殺しに来たところを返り討ちにするつもりだったが。
 こうなれば謀る意味もない。
 空は闇に紛れて肉体変異を解除する。
「さあ、殺しに行くとしよう」
 ザ・ナイトがそう言ったその時、空は一足飛びで相手に肉薄した。
 相手の反応を待つつもりなどない。空は己の片腕を異形巨大化させ、真直ぐな正拳突きを繰り出した。意表を突かれたのか、ザ・ナイトの肩口に一撃が入る。
 続けざまに空が振り翳したのは鈍い月光が差す錫杖。
 一歩踏み込み、身を反転させて殴打を叩き込む。ザ・ナイトは踏みとどまり、夜に覇気を吐いた。
「騎士道に則らぬ不意打ちとは、卑怯な……!」
 ザ・ナイトは黒槍にを振り回し、空に吶喊してくる。
 反撃の用意は出来ている。空が錫杖を構えたその時。
 滑り込んできたのは両義宿手だ。エネルギーの盾を展開し、槍の一手を弾き飛ばす。じんと腕が痺れたが耐えられぬものではない。
「卑怯だなんて、どの口が言っているんだか」
 前に進み出たのはフェル・オオヤマ(氷焔操る紅の竜姫士・f40802)だ。
 ザ・ナイトに依頼した人々の、復讐したいという意思を否定はしない。
 だが。
「お前がやろうとしてるのは義憤ではなく己の欲を満たすための殺戮に過ぎない!」
 フェルが月光の太刀を差し向ければ、夜風に冷気がたなびいた。
「そんなのは【騎士道】に反する!」
「ぬかせ!!」
 ここで、ザ・ナイトが不覚を取ったのは、空とフェルふたりを同時に相手取ったことだ。
 一騎打ちを信条とするが故に、どちらを標的にすべきか迷いが生じる。一瞬の間だ。だが、フェルにとってはそれで十分だった。
「月閃氷刃!」
 蒼銀の刀身がザ・ナイトの喉元の寸前を薙ぐ。切っ先は虚空を裂く。空振りか。空のみならず、その場にいた猟兵の誰もがそう思った。
「!?」
 閃く青光。月光刃の斬撃が死角から射出された。
 そちらが本命だ。ザ・ナイトは正面からの攻撃ではないため咄嗟に反応出来ない。敵の首の後ろを抉り、氷結が奔る。
「……何故だ……」
 ザ・ナイトが呻きながらナイトスピアを構えた。次の攻撃が真正面からのものであればカウンターを食らうだろうが、フェルの初撃としては上等だろう。
「殺したい相手がいるのではないのか。それに」
 黒騎士が睨みつけるのは空だ。
「お前は『同類』のはずだ。何故邪魔立てする」
「……私が貴様達に敵対し人を守る理由か?」
 同類呼ばわりされ、空は唇を引き結ぶ。
「私達ダークネスの『生者』達の中には、灼滅者に自らのサイキックハーツを託し、未来の可能性を遺した者達がいた」
 空に過るのは逡巡だ。
 思いを馳せる。己が残虐非道なダークネスとは異なる性質を持つとは理解している。培った日々の果てに確かな信頼関係があり、その上で明日を見据えると決めている。
「なればその未来を託され、未来を歩む者達への『過去』たる|貴様《オブリビオン》達の狼藉を、私は見逃す訳には行かぬのだ」
 力強い声音だ。揺るがぬ信念を感じさせる響きになった。
 鬼神化した腕を振るい、改めて空はザ・ナイトと相対する。
 その様子を見ていたフェルは口の端を上げた。そして、先程のザ・ナイトの言葉を反芻する。
「殺したい相手?」
 腰を落として月光の太刀を構え直し、高らかにフェルは言う。
「そうだね……目の前にいるザ・ナイト! お前だ!」
 そして空とフェルは今一度、地面を蹴った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

カーバンクル・スカルン
ええ、「黒」とやらの実力見せていただきましょう。ちなみに私の復讐相手がいたのはスペースシップワールドの……何? ふざけるな? 空想ではなくちゃんとした場所を言え? ……ああ、異世界出張は出来ないんだあんたは。

なーんだ、期待して損した。不死の相手をも殺せる復讐代行、って聞いてたから|同業者《・・・》としてその手腕を見たかったんだけどなぁ。……なら嘘つきの競合相手は潰させてもらおうか。

暗殺者を名乗っといて正々堂々勝負とは、色々と矛盾してて面白いね。いいよ、乗ってあげる。

携えていたカタリナの車輪を投げてわざと直撃させ、その重量と衝撃で動けなくさせたところを超巨大金槌で強襲しましょ。



 ザ・ナイトは一歩下がって黒槍を構え直す。
「私を舐めるな。目にもの見せてくれよう」
「ええ、『黒』とやらの実力見せていただきましょう」
 カーバンクル・スカルンは顔色ひとつ変えず平然と宣う。
 己のユーベルコードの特性を理解しているが故に、出来るだけ長めに会話を試みようとした。
 例えばそう、復讐相手のことなんかを。
「ちなみに私の復讐相手がいたのはスペースシップワールドの……」
「スペースシップワールド? 何だそれは」
 低く唸るようなザ・ナイトの声。カーバンクルはつい片眉を上げてしまう。
 そんなカーバンクルを意に介さず、ザ・ナイトは不快感をあらわにした。
「何を言っている。空想ではなく、この世に在り得る場所を指定しろ」
「まるでふざけてるって言いたげなことを言うね……ああ、ああ、異世界出張は出来ないんだあんたは」
 いっそ戸惑いすら感じさせるザ・ナイトの振る舞い。
 カーバンクルが苦笑を漏らすのも致し方なかろう。落胆すらした。
 辟易をため息に乗せて、カーバンクルは頬を掻く。
「なーんだ、期待して損した。不死の相手をも殺せる復讐代行、って聞いてたから|同業者《・・・》としてその手腕を見たかったんだけどなぁ」
 カーバンクルはやれやれと言いたげだ。
 その後──ふと、沈黙が落ちる。
「……なら嘘つきの競合相手は潰させてもらおうか」
 身長ほどもある鋭い針が生えた巨大な車輪を従えて、カーバンクルは凛と前を向く。
 ザ・ナイトもまた正面を睨み付けた。
「潰されるわけもない。さあ、かかってこい」
「暗殺者を名乗っといて正々堂々勝負とは、色々と矛盾してて面白いね。いいよ、乗ってあげる」
 その時。
 星の光が瞬いた気がした。
 先手を打つのに成功する。攻撃に出たのはカーバンクルだった。カタリナの車輪を投擲すれば、疾く馳せる。その速さは会話の長さに準じて勢いを増し、あっという間に直撃させた。
 だがザ・ナイトは槍受けでその衝撃を凌ぐ。ダメージを負わせることは出来ない。すかさずカウンター突きに転じようとする。
 が、しかし。そこに衝撃が入っていたのだろう。
 即座に動くことが出来ずにいるザ・ナイト目掛けて、カーバンクルはこれまた背丈ほどある巨大な金槌を持ち、走り出す。金槌の重さを感じさせない速度だった。
 そして上段から一気に振り下ろし、潰そうとした。
 強い強い、一撃になった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オデット・ルヴィエ
ええ、殺しましょう
残念ながら、貴方をね

共に戦う仲間を見渡し比較、私が弱者ならば近接する
まだまだ修行中の身
味方にも有利に事が運ぶのなら、どうぞコピーなさって?

強化を最小限に抑えるために、短期決戦目指して集中砲火
髪留めや服を飾る全ての触媒から『水華火』

空を彩る花火みたいで、素敵でしょう?
五感麻痺のオマケ付きなの
特に音が途絶するのは、戦闘に措いては致命的ではない?

仲間に被弾することが無い様に、常時戦闘配置や動線の把握に努める
連携大事に

世界毎に、事情は様々ね
今日のこれも、氷山の一角なのでしょう
だけど、何とかしようと立ち向かえる者がいる
微力ながら、私も力を貸すわ。私の世界の危機に助力して貰った様にね



 ──さあ、殺しに行くとしよう。
 そんなザ・ナイトの言葉を受けて、オデット・ルヴィエは艶やかに唇の端を上げる。
「ええ、殺しましょう」
 一歩、二歩と近付く間、夜風にオデットの髪が靡く。
「残念ながら、貴方をね」
 疾駆したのは、他の猟兵の仲間だ。
 正面から、あるいは側面や背面から縦横無尽に攻撃を重ねる。
 仲間の力量を鋭く見定めて、オデットはザ・ナイトの眼前にひらりと舞い降りた。
 己はまだまだ修行中の身。
 味方にも有利に事が運ぶのなら。
「どうぞコピーなさって?」
 その声に促されるように、ザ・ナイトは闇夜に黒の覇気を吐く。気配が変わる。オデットの戦闘能力を写し取ったのだと、理解が及ぶ。
 とはいえザ・ナイト自身の戦闘能力のみ徐々に上昇していくから、短期決戦を狙わねばならない。
 呼吸を整える。そして魔力を迸らせた。髪飾りやチョーカー、各所の装飾品に嵌め込まれた翡翠石が淡く光を灯す。
「汝は戦場の空に咲く華」
 まじないのように呟いて手を振るえば、翡翠石から百を超える数の水泡がザ・ナイトに襲い掛かる。
 着弾した瞬間、派手に爆発する。
 幾つも、幾つも。闇に在って眩いほどに咲き誇る水の花。花と言っても美しいだけではなく、まさに爆弾だ。黒い鎧を何度も穿ち破裂する。
「空を彩る花火みたいで、素敵でしょう?」
 うっとりと嘯くオデットに、体力を削られたザ・ナイトは何か言い募ろうとして──その腕が止まった。まるで眩暈を起こすかのようによろりと巨体が揺らぐ。
「五感麻痺のオマケ付きなの」
 特に音が途絶するのは、戦闘に措いては致命的だ。複数名の猟兵が奔走する戦場であるのだから尚の事。
 オデットは視線を流して仲間の様子を見る。どうやら被弾している様子はない。
 他にも味方を庇うよう意識していた猟兵はいたが、この戦場において特に連携を重んじていたのはオデットだった。彼女の空気を読む力、気遣い、すべてが戦局を良いほうに押し流していく。
 ビル群の向こうには星空が広がっている。
 サイキックハーツも人々が息衝いている。他の特殊な世界と比べるとごくごく平凡でもあり、だからこそ歪みが見えやすいのかもしれない。今日のこれも氷山の一角なのだろう。
「世界毎に、事情は様々ね」
 ザ・ナイトを見据え、オデットは囁いた。
 けれど、何かしようと立ち向かえる者がいる。
 水を操りながらオデットは仲間たちに宣言するように告げた。
「微力ながら、私も力を貸すわ。私の世界の危機に助力して貰った様にね」

大成功 🔵​🔵​🔵​

有城・雄哉
【SPD】
アドリブ大歓迎

…44位ザ・ナイト
確か、守るべきものを定め、その対象を『守るための』戦いでこそ最大の力を発揮するという…六六六人衆だったか?
まあ、|復活ダークネス《オブリビオン》となった今、その信念は歪んでいるかもしれないけど
…いや、今回のような形式でかろうじて体裁は保っているのか?
何にせよ、貴様はここで灼滅する

貫通殺は正面以外から仕掛ければ防御されないか?
ザ・ナイトが則る『騎士道』が身勝手なものならば
俺も素直に応じてやる義理はないな
漆黒に変化させたバトルオーラを両手に纏い
指定UC発動後、正面から攻撃すると見せかけ、懐に潜り込みながら背後に回り込み
殺傷力の増した拳で、背中から勢いよく胴を貫いてやる
万が一カウンター突きが来たら両手で受け流そう

ザ・ナイト
貴様が依頼を受けてエスパー達を暗殺するように
俺もエスパー達から依頼を受けて、ダークネスを、オブリビオンを狩っている
繋ぎの男に話した内容はほぼ真実だが、家族を殺したのは『ダークネス』だ
最初から、俺は貴様の暗殺目的で潜り込んでいたのさ



 夜に踏み入った有城・雄哉は、目の前のザ・ナイトを見て眉根を寄せる。
 知識と記憶を辿ろうとする。
「確か、守るべきものを定め、その対象を『守るための』戦いでこそ最大の力を発揮するという……六六六人衆だったか?」
 とはいえ|復活ダークネス《オブリビオン》となった今、既にその信念は歪んでいるのかもしれないが。
 今回のような形式では辛うじて体裁は保っているのだろうか──そこまで考えて、雄哉は浅くかぶりを振った。
 そんなことは些末事だ。思い馳せても仕方がない。
 確かなことはひとつだけ。
「何にせよ、貴様はここで灼滅する」
 雄哉が言い切ると、雄哉の全身から漆黒の閃光が迸った。それが両手に集約され、更に黒さを増す。
 それを見てザ・ナイトはナイトスピアを構えた。奔る殺気。間合いを確実に把握しているその様子は、真正面から攻撃を仕掛ければすかさず反撃を食らうだろう。
 であれば。
 正面以外から仕掛ければいい。
「ザ・ナイトが則る『騎士道』が身勝手なものならば、俺も素直に応じてやる義理はないな」
 ならば往こう。
 雄哉は軽く足踏みした後、走り出す。
 ザ・ナイトが黒槍を身体の前に構えているのを尻目に、ふと体重を乗せて低く屈む。
 懐に滑り込んだのだ。そこから身を反転させて背面を狙う。
 狙う。
 狙う。
 胴を狙う。
 雄哉が拳を振り抜けば、黒い鎧を打ち付けた音が夜に響いた。まさに打撃、という言葉そのものを表すような威力だった。
「チイッ……!」
 ザ・ナイトの舌打ちが聞こえる。背後からの急襲に咄嗟に反応出来ていないようだ。身を翻して雄哉に向き直った頃には、雄哉は既に距離を取っている。カウンター突きは放たれない。鋭い眼差しで前を見据える雄哉は、敵に大きくダメージが入った事実を正確に理解していた。
「ザ・ナイト」
 夜風に紛れぬ力強い声だ。
「貴様が依頼を受けてエスパー達を暗殺するように、俺もエスパー達から依頼を受けて、ダークネスを、オブリビオンを狩っている」
 雄哉は攻撃姿勢を崩さない。それでいて、冷静な口振りで続ける。
「繋ぎの男に話した内容はほぼ真実だが、家族を殺したのは『ダークネス』だ」
 記憶の底に沈めていた欠片のひとつひとつを紐づけるように言う。
 だから。
「最初から、俺は貴様の暗殺目的で潜り込んでいたのさ」
「抜かせ……!」
 黒い槍を頭上で大きく回転させ、それから穂先を雄哉に向ける。
 殺す側の余裕を持っていたザ・ナイトが、ここで初めて殺される側の懸念を持ったのだろう。
 それでいい。惑いなどない。殺してやろう。
 戦いはこれからだ。雄哉は地面を蹴り、再び一撃を食らわせようと疾く馳せた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

冴島・類
あった事件
想像した本当の感情混じりの嘘
黒に引き合わしてもらう為の手段としたが…
手に残った温度の主も
縋る想いを知っているからなんだろうか
だとしても、だが

相対したら演技の必要ないな
すみません
それ
僕はやはりあなたに託したくないので
きゃんせる願えます?
まぁ、効かぬだろうが

戦いになり鴻崎さんの情報通り
一騎打ちをとなれば、応え

槍の長さや甲冑からしても
正面から力押しは不利かと
枯れ尾花構え機をはかると見せ

実際は、見切った槍の射程より僅か外から
風の力込めた薙ぎ払い放ち
相手からは外し、受けさせるのでなく
風で引き寄せ構えの体勢を崩したい

崩した隙に、一気に踏み込み
すれ違い様
側面から槍持つ腕
鎧の隙間狙い破魔の力込め斬る



 あった事件。
 想像した本当の感情混ざりの嘘。
 決して単純ではないそれらを、オブリビオンに引き合わせてもらうための手段としたが──冴島・類は闇夜に小さく息を吐く。
 予知の案内の時に『洗脳されている』と聞いていた。かの男はザ・ナイトの殺しの思惑に心酔しているのだろう。縋って救われた思いがあったのかもしれない。
 手に残ったぬくもりを、もう片方の手で包む。
 だとしても、だが。
 類は顔を上げて歩を進める。
 ザ・ナイトと相対する。もはや演技の必要はない。
 だから困ったように眉が垂れた。
「すみません、それ」
 示したのは、男から移譲されたであろう憎悪と殺意だ。
「僕はやはりあなたに託したくないので、きゃんせる願えます?」
 柔らかい物腰と口調に面食らったのか一瞬の間を置いた後、ザ・ナイトはこちらを睨み付けてくる。
「何を言う。痛めつけるだけではまだ足りぬ怨嗟を抱えていたのではないか」
 向こうもはいそうですかと受け取るつもりはないらしい。まぁ、効かぬだろうとは思っていたため、類はさほど意に介さない。
「なれば、一対一での勝負といくぞ」
 ザ・ナイトは黒槍の穂先を類に差し向ける。
 他の猟兵たちには連携して攻撃を畳みかける者もいたようだが、類は情報の通り一騎打ちを望まれるなら応えるつもりだった。
 銀杏色の組紐飾りの付いた短刀を抜き払うと、月光が冴え冴えと刀身を煌かせる。
 槍の間合いや甲冑の防御力を鑑みれば、正面からの力押しはそもそも不利だ。故に類はじりじりと距離を測る。緊張感が張り詰める。一触即発。それを破ったのは、類だ。
「──!!」
 ザ・ナイトが咄嗟に身構えた直後、不意を突かれて息を呑む気配があった。
 それは枯れ尾花による薙ぎ払いの軌跡上に旋風が巻き起こったから。
 見切った槍の射程より僅かに外だ。敢えて直撃させず、つまりは受け止め反撃させるのではなく、引き寄せることで体勢を崩すことを狙う。狙い通りザ・ナイトはたたらを踏み、明らかな隙を生じさせた。
 それを類は見過ごさない。
 体勢を低くして大きく踏み込み、刃先の狙いを定める。
 すれ違いざま。
 黒い体躯の側面。
 槍持つ腕。
 鎧の継ぎ目を目指し今度こそ薙ぎ斬る。
 破魔の焔が雄叫びのように盛る。裂く。一気に抜き払うと、ザ・ナイトはたまらず唸り声を上げた。
 金属ではなく肉を斬った手応えだ。類は臆さず身を反転させ、相手の背面を取る。
 まだ夜は長い。
 しかしいつかは明けることを、類は実感として知っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

荻島・宝
カウンターが来ちゃうけど、
承知で俺自身は正面から妖の槍で仕掛けるよ
強化はせず、妖の槍でユーベルコードは使わない
WOKシールドだけは展開して、
カウンター突きを弾きながら、言葉と穂先で引き付ける
敵正面位置を維持しながらね

君も得物、槍なんだ
奇遇だね、俺もずっと槍
『義経』っていうんだ

意識が俺に向いて、俺を狙うその間、
俺は概ね君の正面にいられる
正面からの攻撃は全て君の槍で防御されてしまうけど、
背後からならどうだろうね?

敵背後の影を選んで【影の槍】射出
妖の槍で正面攻撃も続けるけれど、
影の槍へ振り向く様なら対象の影を都度変える
本命の攻撃はカウンターさせないよ

変幻自在の立ち回り、ってね
だって俺の槍は義経だから



 荻島・宝は戦況を見定めている。
 ビル群の間にある広場だ。夜とは言えど月と星で明るい。故に建物や人物の影も色濃く差していた。
「……カウンターが来ちゃうけど」
 宝はぽつりと呟いて、とん、と地面を蹴る。
 真正面から馳せる、馳せる。手にした槍でザ・ナイトを穿とうとする。だがその寸前にザ・ナイトは身体の前に黒槍を構えると、宝の攻撃を弾き飛ばした。そこからザ・ナイトはすかさず撃ち込んでくる。
 重い一撃だ。
 だが宝はエネルギー障壁の盾を生じさせる。軌道を逸らし、その反撃を辛うじて凌ぐ。
 あらかじめカウンター突きを覚悟して対策をしていたことで、直撃は免れたのだ。そのしたたかさにザ・ナイトは目を見開いている。
「君も得物、槍なんだ」
 夜より尚黒いザ・ナイトの槍。
 それを見遣り、相変わらず正面の位置を維持しながら宝は続ける。
「奇遇だね、俺もずっと槍」
 名前は『義経』っていうんだ。そう告げれば、ザ・ナイトに狼狽の気配が過る。他の猟兵たちが如何に死角から攻めるかを腐心していたため、こうして向き合われることに戸惑っているのかもしれない。一騎打ちを信条としているにも関わらず、だ。
 ザ・ナイトの傷も浅くはない。
 看過する必要はない。
「意識が俺に向いて、俺を狙うその間、俺は概ね君の正面にいられる」
 宝は透徹した声で、語り掛ける。
「正面からの攻撃は全て君の槍で防御されてしまうけど、」
 ──背後からならどうだろうね?
 ザ・ナイトが息を呑んだ。
 その時にはもう遅い。宝が空いた手でくん、と糸を引くように指を曲げれば、ザ・ナイトの後方に伸びた影から刃が放出される。振り向く間もなく、ザ・ナイトの背を影が幾重にも切り刻む。
「ぐっ……!」
 ザ・ナイトは槍を強く握り振り返ろうとすれど、はたと気付いて歯噛みしていた。このまま正面にいる宝を無視することは出来ない。だが、影に背を向けたままだと無防備に抉られる。
「気がそぞろなのは感心しないな」
 宝は一足飛びでザ・ナイトの懐まで滑り込むと槍の一撃を見舞う。再び弾かれるも、ザ・ナイトが反撃をすると大きな隙が生まれる。そして影で攻め立てる。その繰り返し。多少の傷は承知の上で、それでも尚、確実にダメージを蓄積する上手い作戦だった。
「変幻自在の立ち回り、ってね。だって俺の槍は義経だから」
 八艘飛びを思い浮かべて、宝の口元は緩やかな弧を描く。
 もう一押しだ。
 そう感じた宝は視線を流した。真直ぐに伸びている、とある猟兵の影のほうへ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
応とも、殺しに行こう――貴様をな

成程、一騎打ちがお得意であるとは本当らしい
構えに隙はない――相手が術師でなければな
見えず聞こえず捉えられない、背後から迫る【欺瞞の鏃】に反応出来たら大したものだ
構えを解くならば呪詛の天幕と氷の防壁で応じよう
六六六人衆といったな。殺しが好きらしいじゃあないか
であらば相手がしやすい
貴様を恨み憎む死者が呪詛の刃の切れ味を増して、私の味方をしてくれる

他者の手で恨みを晴らして心が軽くなるのは一時のみ
じきに己を蝕む呪毒になるものよ
嫌というほど見て来た末路を無為に世にばら撒くわけにはいかん
ここらで死んでおくと良い
貴様が利用しようとした、「憎悪」の切れ味を味わいながらな



 ──さあ、殺しに行くとしよう。
 その言葉が空虚に思えるようになるまでそう時間はかからなかった。
 だから、ニルズヘッグ・ニヴルヘイムは喉を鳴らす。
「応とも、殺しに行こう──貴様をな」
 地面にニルズヘッグの影が長く伸びる。月は徐々に中天へと向かっていく。
 明らかに追い詰められているザ・ナイトだが、戦意は失われていないらしい。黒槍を構えてニルズヘッグを睨み付けてくる。
 その堂々たる居住まい。成程、一騎打ちがお得意であるとは本当らしい。
 構えに隙はない──相手が術師でなければ。
 知覚の外から襲い来る鏃に反応出来たら大したものだ。ニルズヘッグが双眸を細めたその時、呪詛を纏う刃がザ・ナイトの背中を刺突する。一騎打ちではあるのだ。その攻撃が、真正面に限らなかっただけで。
 見えず聞こえず捉えられない衝撃に、ザ・ナイトは呻く。
 守りに徹したなら不利になると判断したのか、ザ・ナイトは掛け声と共に駆けだした。殺人衝動を糧として、体重を乗せて突きを繰り出してくる。
 ニルズヘッグは表情を変えず、呪詛を交え生成した氷の防壁で防御する。罅割れる音、しかし割れぬ砕けぬ。呪詛の天幕を下ろすまでもなかった。
「六六六人衆といったな。殺しが好きらしいじゃあないか」
 であらば相手がしやすい。
「貴様を恨み憎む死者が呪詛の刃の切れ味を増して、私の味方をしてくれる」
 呪詛の扱いはニルズヘッグが得意とするところだ。闇に堕ちる瀬戸際、あるいは堕ちた後。その昏さを知っている。
 そう、ザ・ナイトは憎悪を引き受け暗殺の代行をしていたが、殺された側の怨念を考えに入れたことはなかったはずだ。死という概念が己の眼前に迫っている、それはどんな心地だろう。もっとも、ニルズヘッグにはそれを鑑みる必要はないのだが。
 攻撃の手を緩めるつもりなど毛頭ない。
 故にニルズヘッグの刃は只管に馳せる。呪詛の焔がザ・ナイトの傷口から溢れて燃える。ザ・ナイトが怨嗟の絶叫を上げ始める。その間にも猟兵たちの攻勢は揺るがず、次々と戦局を決定付けていく。
「他者の手で恨みを晴らして心が軽くなるのは一時のみ、じきに己を蝕む呪毒になるものよ」
 呪詛を手繰り寄せながらニルズヘッグは言う。
 嫌というほど見てきた末路を、無為に世にばら撒くわけにはいかない。
「ここらで死んでおくと良い」
 ──貴様が利用しようとした、『憎悪』の切れ味を味わいながらな。
 刃が黒の鎧を貫く。
 呪詛の断末魔が夜に響く。
 夜に闇に黒に、崩れて滅んで消えていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『ファミレスに行こう!』

POW   :    ハンバーグやステーキでがっつり!

SPD   :    サラダやパスタであっさり!

WIZ   :    甘~いスイーツの食べ放題!

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●夜の果て、闇の尾鰭
 黒の残滓を置き去りにして、猟兵たちは光灯るほうへ歩き出す。
 誰ともなく立ち寄ったのはあるファミレスだ。
 やや遅い時間帯だが客はそれなりに入っている。ただ、猟兵たちが座れる程度の席数は十分確保できそうだ。
 洗脳が解けたエスパーたちも立ち寄っているらしい。憔悴した様子、安堵した様子、不安げな様子。過る思いは様々だろうが、腹ごなしをしてから明日へ向かうことが出来たらいい。
「……和食とか、いいかな」
 メニューを見ながら鴻崎・翔は頭を捻っている。
 こういう時にスパッと決められる性分ではないため、何を食べるか決めかねているらしい。
 じゃあ、自分は何を食べるとしようか。
 一般的なメニューは数多く取り揃えられていて、季節限定のものもある。思い思いのものを注文して、あたたかさを補充していこう。明日へ続く道行きのために、エネルギーをチャージ出来るように。
フェル・オオヤマ
可能であれば翔さんとご一緒に

・心境及び行動
それじゃあ私は甘いチョコパフェでも食べようかな。

ふぅ…今回も誰一人欠ける事なく無事に戦い終えれたね。
私が復讐を否定しない理由?そうね…
|私が元々いた世界《ケルベロスブレイドの世界》でも家族や大切な人の仇討ちのため戦うって知り合いもいたからね…
そして私自身も…幼い頃に家族と…そして第二の親とも言える師匠が敵に襲われて殺された
復讐したいとも思ったさ。だけども当時戦う力を持たなかった私自身の不甲斐なさへの怒りが強かったね…。

誰だって、生きてる限りは明日は必ずやって来る。どんなに辛くても
生きるのを諦め無ければいい事も来るはずだよ

他キャラとの連携・アドリブ歓迎



 賑わいの最中、店員が運んできたのはチョコレートパフェだ。
 底には砕いたビスケットとアーモンド。ほんのりビターなチョコレートクリームにチョコレートとバニラのアイス。トッピングには生チョコを配している、この時期限定のスペシャルパフェらしい。
 そのパフェがフェル・オオヤマに供されると、自然と笑顔が綻ぶ。
 正面に座るのは鴻崎・翔だ。ドリンクバーのコーヒーを飲んでいる翔に、フェルは言う。
「ふぅ……今回も誰一人欠ける事なく無事に戦い終えれたね」
「ああ。皆のおかげだ。本当にありがとう」
 そこで一拍置いて、翔はおずおずと尋ねてくる。
「……君が復讐を否定しないのは、どうしてなんだ?」
「え?」
「あ、いや。たまたま耳にして、気になって……」
 偶然戦闘の折に聞こえてきた「復讐したいという意思は否定はしない」という言葉。それが気にかかっていたらしく、翔はことりと首を傾げた。もちろん返答を無理強いするつもりはなさそうだが。
「そうね……」
 今度はフェルが一拍間を置く番だった。
 ただし考えは纏まっていたから、すべらかに声は流れ出す。
「|私が元々いた世界《ケルベロスブレイドの世界》でも、家族や大切な人の仇討ちのため戦うって知り合いもいたからね……」
 思い描くは当時の日々。重ねた想いがあった、痛みもあった。
 フェルは自分の手のひらをじっと見つめる。
「そして私自身も……幼い頃に家族と……そして第二の親とも言える師匠が敵に襲われて殺された」
 強く握り拳を作る。
 ファミレス店内の喧騒が遠く感じる。
 それでもフェルは言葉を差し出す。苦い笑みを噛み砕いて。
「復讐したいとも思ったさ。だけども当時戦う力を持たなかった私自身の不甲斐なさへの怒りが強かったね……」
 逡巡する。そう、復讐を否定しないのは、同じような立場に立ったことがあったから。
 気持ちがわかるなんて言い方は陳腐だし言いたくはない。ただ知っている。昏い感情を知っている。
 だが、その先の感情もまた、知っている。
「誰だって、生きてる限りは明日は必ずやって来る。どんなに辛くても、生きるのを諦め無ければいい事も来るはずだよ」
「……そうだな」
 翔は頷いて、小さく笑みを刷いた。それから「パフェ、アイスが溶けそうだ」と言ったから、フェルは慌ててパフェの攻略に挑んだのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
一件落着であるな!
サラダがあればそれを頼もうか
後はシーフードを何か……ボンゴレビアンコとかあるだろうか

さて、人間の機微を読み取るのは得意だ
観察は欠かさぬとも
絶望的な顔をしている奴がいりゃあ話を聞いてやるが
まァ誰にとっても踏み込まれたくない話題ではあろうし、皆何とかなりそうであれば様子を窺うに留めよう

憎悪と怒りから目を逸らし生きて来て
助けを借りて何とかそいつと向き合えるようになってようやく
穏やかな心で生きられる場所を手に入れた
私のような奴でも幸福になれるんだから、ここにいる奴らだって何とかなるさ

生きてりゃあ良いことはある。何たって世界は愛と希望に満ちているからなァ
例え誰もが信じまいと、必ずな!



「一件落着であるな!」
 ニルズヘッグ・ニヴルヘイムはファミレスの一角でからりと笑う。
 メニューのタブレットを手にして、ふむと料理を流し見る。
 海老とアボカドのサラダとボンゴレビアンコを注文する。写真に映る海老もアサリも大きくて、これは期待が膨らむというもの。
 ニルズヘッグは周囲を見渡す。
 さて、人間の機微を読み取るのは得意だ。
 観察は欠かさない。顔ぶれを見遣ると、悄然としている人間がちらほら見受けられる。予知で聞いていたように悔恨に震えている者はあまりいない。どちらかというと呆然としているというか、途方に暮れている人が多いようだ。当たり前か、復讐の手段が断たれたのだから。
 しばし思索に耽った後、ニルズヘッグの足は立ち上がる気配を見せない。
 絶望的な顔をしている者がいれば話は聞いてやるが、誰もが立ち入るような隙を見せているようには思えなかった。今は何も言わないで欲しいと考えているように感じた、というのが正確だろうか。
 まァ誰にとっても踏み込まれたくない話題ではあろうし──とは、予感めいた事実に違いない。
 季節柄あたたかいものを食べ飲みしている人も多い。身体の内側から熱を感じる時間を経ることもきっと大事だ。だから、様子を窺うに留めよう。
 視線を引き戻し、窓の外へと向ける。
 深まる夜に、行き交う熱帯魚めいた車のランプ。ちかちかと弾かれる、光。
 ニルズヘッグの腹の底にも人間らしい温度がある。
 苦しさの只中から前に進んだ末に今がある。
 憎悪と怒りから目を逸らし生きて来て、助けを借りて何とかそれと向き合えるようになって。ようやく、穏やかな心で生きられる場所を手に入れた。
「私のような奴でも幸福になれるんだから、ここにいる奴らだって何とかなるさ」
 経験者談。それは、人々に対しての願いでもあった。
 ひとりでは辿り着けなかった場所ではあるが、それでいいのだ。仙人よろしく悟りを開くわけでもなし、いつか出逢える、信じるに値する誰かがきっと彼らの力になってくれるはず。
「生きてりゃあ良いことはある。何たって世界は愛と希望に満ちているからなァ。例え誰もが信じまいと、必ずな!」
 大丈夫だ。
 他でもない、ニルズヘッグが信じている。
 ちょうどその時、ニルズヘッグの望んだシーフードがテーブルの上に鎮座した。豊かな海の幸は艶々と、食べてもらえるのを心待ちにしているようだ。
 軽く喉を鳴らす。人が生きる糧が今目の前にある。
 ニルズヘッグはパスタをフォークに絡め、口に運んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

荻島・宝
うーん、腹は空いてるけど…
ファミレスって、選択肢多くて永遠に迷えるよね…

鴻崎くん、良かったら一緒しない?
迷うなら取り敢えずサラダバーかスープバーかドリンクバー頼んで、
食べながらじっくりメニューを選ぶ時間作るっていうの、どう?

学生時代よく来てたなー
お金なかったから、ドリンクバーだけで大分粘ったりしてた
今とやってることあんま変わらないか(笑
鴻崎くんは?学生時代どうだった?

実は俺、鴻崎くんのこと知ってたよ!
武蔵坂は学生数多かったけど、
鴻崎くんは目立つ…違うな、目を惹いてた、か
話してみたいと思ってたんだ

話に夢中になってれば、
いつの間にかサラダで結構腹膨れてる…
んー、でも
動いた後だしね、やっぱ肉行こう!



「うーん、腹は空いてるけど……」
 メニューのタブレットを何度かスワイプして、手が止まる。
「ファミレスって、選択肢多くて永遠に迷えるよね……」
 困り果てた荻島・宝は天井を仰ぐ。生憎視界に入るのは、照明の光だけだ。
 その時、隣り合った席からため息が聞こえた。ふと視線を向けてみると、翔が肩を落として眉根を寄せている。
「……もしかして、注文に迷ってる?」
 声に出してしまったから、あ、と宝が気付いた時にはもう遅い。
 ばちりと目が合って、数拍の間。それから翔はゆっくりと頷いた。どうやら図星だったらしい。
 その神妙な様子がおかしくて、宝は相好を崩す。
「鴻崎くん、良かったら一緒しない?」
 誘い文句は軽やかに。
 今度は瞬いた翔に、宝は続ける。
「迷うなら取り敢えずサラダバーかスープバーかドリンクバー頼んで、食べながらじっくりメニューを選ぶ時間作るっていうの、どう?」
「え、いいのか……?」
「もちろん」
 躊躇いを挟んだのは控えめな翔の性分ゆえだろう。だからこそ、宝から寄せてもらえた厚意に「ありがとう」と諾意を示す。
 そしてふたりは連れ立ってドリンクバーの前へ。グラスに注がれる飲み物を見れば、何となしに学生時代を思い出す。さっき注文を終えておいたし、サラダも一緒に選んでしまおうか。
「学生時代よく来てたなー。お金なかったから、ドリンクバーだけで大分粘ったりしてた」
 今とやってることあんま変わらないと、笑い飛ばしながらもしみじみと呟く宝。学生時代も今は昔、というやつだ。
 サラダとグラスを手にテーブルに戻り、今度は向かい合わせで座る。
 周囲のざわめきは過去への入り江だ。
「鴻崎くんは? 学生時代どうだった?」
「俺は、そうだな……図書室とかにいることが多かった気がする」
 どうやらファミレスに来る機会があまりなかったらしい。だからこうして一緒に過ごせて嬉しいんだ、というのは翔の紛れもない本音である。
 同じ武蔵坂学園の生徒だった身だ。自然と思い出話に花が咲く。戦いと日常。記憶を手繰って引き寄せて、不意に宝は内緒話の風情で囁いた。
「実は俺、鴻崎くんのこと知ってたよ!」
「えっ」
 翔が目を見開く。拒否感があるわけではなく、純粋な吃驚を表す反応だった。
 ここだけの話ね、と宝は口の端を上げる。
「武蔵坂は学生数多かったけど、鴻崎くんは目立つ……違うな、目を惹いてた、か」
 宝はかつてに思いを馳せる。翔が教室の前に立っていた姿を、見かけた人はいたかもしれない。きっと宝もその中のひとり。
 居住まいを正して、宝は真心を差し出すように告げた。
「話してみたいと思ってたんだ」
 その声があんまり優しいものだから、漂う空気も穏やかだ。
「……嬉しいよ」
 気恥ずかしさで眦に朱を差しながら、翔は眼鏡越しの双眸を細めた。
「昔はそんな機会がなかったけれど……これから話してもらえると、俺は嬉しい」
 そうしてどのくらい語り合っただろう。
 ふと、宝は胃の上に手を置いた。話に夢中になっているうちに、いつの間にかサラダで結構腹が膨れている。胸がいっぱいというのもあるからかもしれない。
 だったら他の料理はいいや、と考えかけたところで、思い直す。
「んー、でも。動いた後だしね、やっぱ肉行こう!」
 タブレットのメニュー一覧を指差して、宝は明るく笑みを浮かべた。
「……俺もそうしようかな」
 普段は魚を選びがちなんだけれどたまにはいいかも、という打ち明け話は、翔が幾らか宝に心を開いた証だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルノルト・クラヴリー
オデット(f44315)と

オデットからの誘いは珍しい
ファミレスというのは意外だったが

何か隠している様子はいつものこと
隠す必要もないのにな
想いが、いつも声や笑顔に透けるんだ
彼女なりの駆け引きなんだろう、可愛いものだ
俺は、逆に敢えて視線を重ねて言おう
お前が請うなら、多少忙しかろうと俺は来るぞ?

照れが伝われば、悪戯心が顔を出す
見つめるな?何故?美人は見ていたいものだろう
負け?何に?
追うほど隠れるオデットが愛らしくて、自然と笑みが深くなる

現れたメニューの壁は、相棒の幼竜が超えていく
ハンバーグか。フィーはあの肉の柔らかさに夢中でな
仕返しとばかりフィーと結託する様子まで愛らしい
結局は、俺が彼女に夢中なんだ


オデット・ルヴィエ
アルノルト(f12400)と

メニューに並ぶ、見慣れない名前に苦笑い
何事も経験、だけれど
異世界の食事情にはまだ明るくないの
だから来てくれてありがとうアルノー、助かったわ
忙しくはなかったかしら?

「逢いたかった」とは言わないわ
伝える沢山の本音の中に潜ませるだけでいい
頼りにはするけど、素直に甘えるのは気恥ずかしいの
…だからお願い、そう真っ直ぐ見つめないで
私の負けよ、…あまりからかわないで
熱持つ顔をメニューで隠して、視線から逃げるわ

ねえ、どれがオススメ?…あら、どうしたのフィー?
メニューの壁を乗り越えて来た可愛い竜は、ハンバーグをご所望みたい
いいわ、アルノーなんて放っておいて、一緒に食べましょ?フィー



 彼女からの誘いは珍しい。
 そもそも行先がファミレスというのも意外だ。出身世界がアックス&ウィザーズであることを鑑みれば、尚の事。
 思惟を巡らせて、アルノルト・クラヴリー(華烈・f12400)は向かい合わせの席に座るオデット・ルヴィエに視線を向ける。
 当のオデットはメニューに並ぶ、見慣れない名前に苦笑いしている。
 洋食はまだわかるが、和食の類は未知数だ。例えば黒酢あんかけとは何だろう。写真を見ても想像が及ばないものも多く、ますますオデットの頭を悩ませる。
「何事も経験、だけれど。異世界の食事情にはまだ明るくないの」
 困ったように眉を下げて、オデットはアルノルトを見つめた。
「だから来てくれてありがとうアルノー、助かったわ。忙しくはなかったかしら?」
 言葉は滑らかに届けられただろうか。
 籠められた想いがある。声が熱を孕む。それを気取られまいとして、建前や理由を構築するのだ。
 言わない。言えない。『逢いたかった』なんて。
 ただ嘘偽りを呈するつもりもなかった。この気持ちは、伝える沢山の本音の中に潜ませるだけでいい。頼りにはするけど、素直に甘えるのは気恥ずかしいの──そうしてオデットはその花かんばせに薄く笑みを刷く。
 だからお願い。
「……そう真っ直ぐ見つめないで」
 奥ゆかしくも気恥ずかしそうな響き。そこに想いが透けている。だからこそ、意図的に何かを隠しているのだと、アルノルトはすぐに察してしまう。
 隠す必要もないのに。甘えてくれていいのに。そんな風に、いつだってアルノルトは考えている。
 アルノルトの視線が、オデットの長い睫毛を撫でた。
 きっとこれは彼女なりの駆け引きなのだろう、可愛いものだ。思い馳せるたびに、アルノルトの胸裏に優しい灯りが燈る。こちらも敢えてと見据えようとした。睫毛を持ち上げるように視線を結んで、重ねて。「さっき俺の繁忙を気にしていたが」と言い置いて、それから。
「お前が請うなら、多少忙しかろうと俺は来るぞ?」
 駆け引きから程遠いそれは、やけに甘い声音になった。
 オデットは身を竦めてしまう。もちろん嫌な感情故ではなく、むしろ。じわじわと寄せる温度は漣のよう。それがオデットの顔を火照らせるまで、そう時間はかからなかった。
「それに見つめるなとは? 何故? 美人は見ていたいものだろう」
 悪戯心がひょっこりと芽吹く。テーブルに頬杖をついて、アルノルトはオデットの顔を覗き込もうとする。まるでにらめっこをするような風情。沈黙に耐えきれなくなったのは、オデットのほう。
 降参だ。オデットは両の手のひらをアルノルトに向ける。
「私の負けよ、……あまりからかわないで」
 手で現況を遮ることが出来ないと察したオデットが持ったのは、大きいサイズのメニュー表だ。熱持つ顔を隠して、アルノルトの視線から逃げようとする。
「負け? 何に?」
 なのにアルノルトは攻め手を緩めたりはしなかった。唇が弧を描いている。オデットはいよいよ身を縮ませてしまったが、それすらも愛らしい。アルノルトの笑みが一層深まるのも、致し方ないところなのだ。
「ねえ、どれがオススメ? ………」
 メニューを差し向け、どうにか声を絞り出して尋ねて、オデットが話を逸らそうとした時だった。
 ひらりとテーブルに降り立った影。
「……あら、どうしたのフィー?」
 アルノルトの相棒の幼竜・フィーだ。青い翼を広げて、オデットとメニューの間に滑り込む。
 一緒にメニューを眺める格好になった。興味深げにきょろきょろと見遣り、フィーが爪先で指したのはハンバーグのプレート。どうやらこれをご所望らしい。
「ハンバーグか。フィーはあの肉の柔らかさに夢中でな」
「いいわ、アルノーなんて放っておいて、一緒に食べましょ? フィー」
 被せるように言い放って、オデットはつんと澄まし顔。意趣返しめいた振る舞いに、アルノルトはただ緑の眸を細めるのみ。そうやってフィーと結託する様子まで愛らしい。
 そう。
 ──結局は、俺が彼女に夢中なんだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

カーバンクル・スカルン
ドリンクバーのドリンク片手に今後の指針を失って茫然自失の男の前に座ろうか。

……あいつとんだ詐欺師野郎だったよ。そんなはずはないって? 残念ながらそういう風に見せつける手はごまんとある。あなたがいなくなった後にむくっと起き上がらせて二度と会わないほど遠くに行かせたり整形させたりすればいい。……ここで本当に殺してたとは言わない。あくまであいつは詐欺師だったと押し切る。

さて……お仕事の話をしようか。どうせ私が最後の依頼主なわけないでしょう?
私も殺せるわけではないが、死なせてほしいと思わせるだけの傷を与えることは出来る。代行してやるよ。

あ、でも今ある分だけだよ? 新規も受け付けてたらキリないからね。



 ファミレスのドリンクバーは、チープだが親しみやすい。
 カーバンクル・スカルンはグラスに飲み物を満たして、店内を闊歩する。行先は、案内人となった男がいる席だ。カーバンクルが椅子に座って見遣ると、男は悄然としていた。茫然自失と言うのが正しいか。何にせよ暗殺を至上のものとして振る舞ってきた──それ故に人にも標榜していた──であろう男にしてみれば、蜘蛛の糸を断たれたような感覚であろう。
「……あいつとんだ詐欺師野郎だったよ」
 カーバンクルが呟けば、男はテーブルに落としていた視線を上げた。
 困惑を隠さぬ男は、狼狽そのままに首を横に振る。悲愴な面持ちで「そんなはずはない」と言い募って来た。
 それを見てカーバンクルは深く息を吐く。
「残念ながらそういう風に見せつける手はごまんとある。あなたがいなくなった後にむくっと起き上がらせて二度と会わないほど遠くに行かせたり整形させたりすればいい」
 冷徹で怜悧な物言いだ。
 思い当たる節があったのだろう。
「……でも、あの人は、あいつが肌身離さずつけていた腕時計を渡してきた。証拠だと言って」
「息を引き取る瞬間を見たわけじゃないんでしょう?」
 押し黙る男。それを澄ました顔で見つめるカーバンクル。
 言わない。
 ここで本当に殺していたとは、言わない。あくまでザ・ナイトが詐欺師であったと押し切る。
 俯瞰するように様子を見て、カーバンクルは口に運んでいたグラスをことり、テーブルに置いた。
「さて……お仕事の話をしようか」
 カーバンクルの声音が一段低くなり、視線の鋭さも増す。
 だがふと一瞬間を置いて、笑みを零す。
「どうせ私が最後の依頼主なわけないでしょう?」
 私も殺せるわけではないが、死なせてほしいと思わせるだけの傷を与えることは出来る。
 ──代行してやるよ。
 はたから見ても、男がぴしゃりと背筋を伸ばしたのがわかる。そこでカーバンクルは「言っておくけど」と言葉を付け足した。
「あ、でも今ある分だけだよ? 新規も受け付けてたらキリないからね」
 さあどうすると問うのも無粋なのかもしれないが。
 今宵はどうやら時間もたっぷりあるようだ。
 夜が明けるにはまだ遠い。じっくりと耳を傾けることにしよう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

冴島・類
※アドリブ等自由に歓迎

無事、『黒』を止め切ることができたなら
肌寒くなって来た季節
この時間は冷えるな…
聞いてたふぁみれすに寄っていこうか

灯に導かれ店に入り

案内下さった鴻崎さんの姿見かけたら
つい、声をかけてしまうかも
お疲れ様です、鴻崎さんも腹ごなしです?

迷ってるようなら
普段はどんなものが好きなのです?とか聞いたり
自分も季節の品からはじまる品書きを開き
ふむふむ

…豚汁みたいな汁物が良いかと思ったが
しちゅーやどりあ?もあったかそうだなぁ
どちらかにしようかと
人の選択も、参考になれば

あとは…
どりんくばーってのも楽しそうですねぇ

えすぱーさんを見かけたら
…寂しさや、落ち着かなさも
腹が満ち温まって、和らげば良いが



 夜のざわめきに温度が染み渡る頃合い。
 無事、『黒』を止め切ることが出来た。その安堵ゆえか、肌寒い季節になって来たからか、無性にぬくもりが恋しい。
「この時間は冷えるな……」
 北風に肩を窄めて、入口の灯に導かれるように歩を向ける。冴島・類は白くならない吐息を噛みしめ、曰くの『ふぁみれす』に寄ることにした。
 空いている席へどうぞ、と言われ、類は店内をぐるりと見渡す。
 すると予知の際に会った顔を発見し、思わずそちらへと近寄った。翔だ。類はつい声をかけてしまう。
「お疲れ様です、鴻崎さんも腹ごなしです?」
「ああ。……ええと、冴島さん、だったかな?」
 お疲れ様でした。そう言って、どちらともなく会釈をする。席が混みあってきたこともあり、よければと翔が促せば、類もお言葉に甘えてと向かいの席に座る。
 翔はメニューのタブレットを見ながら思案顔。
 何を頼むか迷っているのか一目瞭然だ。ひとりでメニューを独占していたことに遅れて気付き、翔がメニューを類に手渡そうとする。
「普段はどんなものが好きなのです?」
 類が見ていて大丈夫ですよと言うように尋ねるから、翔は照れくさそうに頬を掻いた。
「野菜とか、魚とか。さっぱりしたものを選びがちで……あ、今はシーズンメニューがあるみたいだ」
 結局ふたりで覗き込むようにメニューを眺める。類も季節限定の品揃えを見て、ふむふむと顎に手を添え首傾げ。
 こうして他愛無い時間を楽しむのもいいものだ。
 だからふたりとも自然と心は弾んでいた。
「……豚汁みたいな汁物が良いですね。しちゅーやどりあ?もあったかそうだなぁ」
 寒さが肌に刺す季節だから、身体の芯からあたたまれるものがいい。
 どちらかにしようと、類はメニューの画像を指で辿る。すると翔がある一点を示した。
「クラムチャウダーも美味しそうだ。野菜もいろいろ入っているみたいだし……どうだろう」
 どうやら南瓜やさつまいもがサイコロ状になったものが入っている秋仕様。
「いいですね。それを試してみようかな」
 目にも楽しいそれを、類は選んでみることにした。今日という日に試してみるのは悪くないと素直に思えたから。翔と視線がかち合えば、はにかむような笑みが転がる。
 注文を終えて、供されるまでしばらくかかるだろう。
 落ちる沈黙。それを味わうのもきっと良いけれども。
「あとは……どりんくばーってのも楽しそうですねぇ」
 興味を覗かせた類に、賛成とばかりに翔も立ち上がる。
「よければ一緒に行かないか?」
「ぜひ」
 実はあまり慣れていないんだと打ち明ける翔は、誰かと一緒に向かいたいというのも正直なところなのかもしれない。それを快諾した類は、一緒に世間話をしながらドリンクバーの前に移動する。
 そんな折だ。
 隣でコーヒーを入れている人間──エスパーを見た。
「…………ああ」
 言葉未満の音が小さく零れる。
 憔悴した横顔。揺れる瞳。震える肩。
 寂しさや、落ち着かなさも。腹が満ち温まって、和らげば良い。
 見つめているうち、コーヒーの芳しい香りが類の鼻腔を擽った。あたたかな気配。それを見て、類は顎を引いた。
「どうかしたのか……?」
「今行きますよ」
 踵を返していた翔の声に、類も一歩を踏み出した。誰もがそうして前を見据えることが叶えばいい。
 闇の影は遠ざかった。
 降る降る、夜に星が降る。

大成功 🔵​🔵​🔵​

有城・雄哉
鴻崎先輩同行希望
アドリブ大歓迎

エスパー達の今の想いを、直接言葉で聞きたいな
彼らが少しでも吐き出して、前を向くきっかけにしてくれれば、それでいい

…でも、その上で強く復讐を望む人もいるだろう
その相手がエスパーでなく、ダークネスや|復活ダークネス《オブリビオン》なら、法の範疇外になるからなおさらだ

僕はダークネスを狩る狩人だ
もし、本当にそうなら、僕が復讐に手を貸す
ただ、復讐を成し遂げた後のことは考えておいたほうがいいかな
…自分自身の復讐も、成し遂げていないけどね

鴻崎先輩、相席よろしいでしょうか

僕はコーヒーだけでいいです
何か食べようという気にはなれないので

ESP法制諮問会議で世界の在り方を決めた身としては
今回の一件は複雑です
灼滅者とダークネス、そして|復活ダークネス《オブリビオン》は現行法では裁けないから

でも、|復活ダークネス《オブリビオン》が各所でエスパーを不幸にし続けるなら
僕は何と言われようとも|復活ダークネス《オブリビオン》を狩り続けます
…この世界からひとつでも脅威を、哀しみを減らしたいから



「今までの行動が無為に終わったとしても……許せない気持ちは消えないんです」
 エスパーのひとりが呟いた声が、テーブルに落ちる。
 耳を傾けていた有城・雄哉は目を眇める。そして言葉を受け止める。今回の事態に遭遇したエスパーたちの想いを直接聞きたいと願ったのは雄哉自身だった。彼らが少しでも吐き出して、前を向くきっかけにしてくれれば、それでいい。
 漂う沈黙。
 ファミレスの喧騒がBGMとして遠く聞こえる。
 余すところなく吐露したとしても、その底に残るものがある人もいる。
 今回の事件を通じてわかったことだが、今話しているエスパーの復讐相手はエスパーではなかった。オブリビオンだった。雄哉は歯噛みせざるを得ない。相手がダークネスや|復活ダークネス《オブリビオン》であれば、法の範疇外になることを知っているからだ。
「僕はダークネスを狩る狩人だ」
 純然たる事実を目の前に提示する。
 今までひた走って来た記憶。それは永劫これからも続くだろう。それを忌避したことはない。それこそが、雄哉の在り方そのものだった。
 雄哉は真直ぐにエスパーを見据えて、続ける。
「もし、本当にそうなら、僕が復讐に手を貸す」
 言葉が空気に沈めば、エスパーが縋るように手を伸ばした。
「本当ですか?」
「ただ、復讐を成し遂げた後のことは考えておいたほうがいいかな」
 雄哉の提言は粛々と、誠実に。
 エスパーは意表を突かれたようで言葉を失い、テーブルに視線を落とす。復讐の向こうに何があるのか、当事者でなければわからない。誰とも共有できないものだ。雄哉のそれが、そうであるように。
 雄哉は自分自身の復讐も成し遂げていない。
 そのいつかを追いかけて、これからも生きるのだろう。
「鴻崎先輩、相席よろしいでしょうか」
 エスパーと別れてから、雄哉はドリンクバーで淹れたコーヒーを手に翔に歩み寄る。何か食べようという気にはなれなかったから、それ以上の注文はしない。
 どうぞと翔が向かいの席を促せば、雄哉は腰を下ろした。
 窓の外、人々の営みによる光が錯綜する。
 闇は深い。だがその傍らにはいつも光がある。どちらにも身を窶すのが人間だから、一概に何が正義かなどと言えるはずもない。
「ESP法制諮問会議で世界の在り方を決めた身としては、今回の一件は複雑です」
 ため息交じりの声は、確かな憂慮を孕んでいる。
 雄哉はかつての記憶を紐解いていく。教室の一角にて皆で話し合ったことを、思い出す。
「灼滅者とダークネス、そして|復活ダークネス《オブリビオン》は現行法では裁けないから」
「俺はその会議に出席していなかったけれど……直接ESPに関わらないところに関しては、難しいところもあるんだろうな」
 雄哉の懸念を、翔も引き継いで語る。
 今回のような事態は ESPに関する問題には含まれない一面もある。少なくともエスパーの手には余る。
 だから、動かねばならない。雄哉はそう考えている。
「でも、|復活ダークネス《オブリビオン》が各所でエスパーを不幸にし続けるなら、僕は何と言われようとも|復活ダークネス《オブリビオン》を狩り続けます」
 力強い言説だ。
 混じりけも揺らぎもない言葉を差し出して、雄哉は感慨を噛みしめて呟いた。
「……この世界からひとつでも脅威を、哀しみを減らしたいから」
「そうだな。俺も、応援しているよ。俺も負けじと頑張らないとな」
 誓いに似た決意だった。
 そうして再び走り出すのだ。闇の果てに掴みとれるもの、それを求めて。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2024年11月19日


挿絵イラスト